「ヒカルのチェス」(262)

「ヒカルのチェス」(262)

「Chess」2012年1月号(1/7)

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ミハイル・タリ記念大会

記 スティーブ・ギディンズ

 最終戦に入るときアロニアンは単独首位だった。カールセンに半点差をつけていて、二人とも最終局は黒番だった。アロニアンは「無名の男」こと「ネポ」と順当に引き分けた。一方カールセンが黒でナカムラを負かすことはほとんど予想されていなかった。しかしノルウェー選手はこの1年は米国選手にとって「天敵」のようになっていて、順当に予想を覆した。


終局が間近で(大会も)、ボデーランゲージからどういうことなのかが容易に想像がつく。カールセンは非常にリラックスしてナカムラは投了も考えている。

第9回戦
H.ナカムラ – M.カールセン
后印防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6

 「勝ちを目指して指す必要があった。クイーン翼インディアンは勝つために指すのには変な方法だが、少なくともクイーン翼ギャンビットよりは少し引き分けになりにくい。」(カールセン)

4.g3 Ba6 5.Qc2 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2

 「二人とも布局で何をやっているのかあまり分かっていなかったのではないか思う。」(カールセン)

7…c6 8.O-O d5 9.Ne5 Nfd7 10.cxd5 cxd5 11.Bf4 Nxe5 12.dxe5

 「これはある定跡手順に非常によく似ている。それは白が優勢とされているが対局中はとてもそう思えなかった。」(カールセン)

12…O-O 13.Rd1

 「ここでのまやかしの一つはもし 13.Nc3 なら 13…Nc6 14.Nxd5 Nd4 15.Nxe7+ Qxe7 でほぼ互角になることである。」(カールセン)16.Qa4 Nxe2+ 17.Kh1 Nxf4 18.Bxa8 Bxf1 19.Qxf4

「黒の方が少し良いかもしれない。」(カールセン)

13…Bb7

 これが最善手のようである。カールセンは 13…Nd7 を避けた。「とんでもない読み間違をしていなければ 13…Nd7 は 14.e4 Rc8 15.Nc3 d4 16.Rxd4 となって明らかに白が少し優勢な定跡手順のようになる。」(カールセン)

14.Nd2

 14.e4 は 14…d4 15.Nd2 d3 16.Qc3 Na6 となって「黒がうまくやっているように見える。」(カールセン)

14…Nc6

15.Nf3?

 「15.Nf3 が単なるポカなのかわざとポーンを見捨てたのか確信はなかったが、どちらにしても白は単に 15.h4 と指した方が良かったと思う。もっとも黒が比較的楽だと思う。」(カールセン)

15…g5!

 「自分が何か見落としているのかまたあまり確信がなかった。それでも 15…g5 と指さなければ自分のチェスが指せないと考えていた。だからそうやるしかなかった。実際白がどのように確かな代償を得ることができるのか分からない。」(カールセン)

16.Be3 g4 17.Nd4 Nxe5 18.Bh6 Re8 19.e4 Bc5

 「19…Bc5 が必要だったかは分からないが非常に魅力的な手だった。ここでは白は互角にしようとだけしている。」(カールセン)

20.Nb3

 20.exd5 は 20…Qf6 21.Bf4 Bxd5 22.Bxd5 exd5 で黒が良い。

20…Rc8

 20…Qf6 には 21.Nxc5 bxc5 22.Bf4 dxe4 23.Bxe4 Nf3+ 24.Kg2 Bxe4 25.Qxe4

「で白がほぼ問題ないと思う。」(カールセン)フリッツはそれでも 25…Qxb2 で黒の方が良いとしている。

21.Nxc5

 「この手は悪い。白はd5の方を取るべきだった。」(カールセン)しかし 21.exd5 のあとフリッツは 21…Bd6! 22.Qd2 exd5 23.Bxd5 Nf3+ 24.Bxf3 Bxf3

という返し技で黒が優勢になると指摘した。25.Qxd6?? には 25…Re1+! が要点である。

21…Rxc5 22.Qa4 Bc6 23.Qd4 Qf6 24.Bf4 dxe4 25.Bxe4

 「もちろんここではもう黒がほとんど勝勢である。」(カールセン)

25…Nf3+

 25…Bxe4 なら 26.Qxe4 Nf3+ 27.Kg2 Qf5 となる。「しかしf3の地点にナイトよりもビショップを残す方が良いと思った。」(カールセン)

26.Bxf3 Qxd4

 26…e5 は「白が間違えてくれれば面白いことになる。」(カールセン)しかし 26.Bxc6 exd4 27.Bxe8 で白が優勢である。「これがなければ 26…e5 は非常に良い手になるところだった。」(カールセン)

27.Rxd4 Bxf3 28.Rd7

 「黒はもう技術的に勝ちである。」(カールセン)

28…Rd5

 「この手はそれほど自信がなかった。」(カールセン)しかしあとで彼は「28…Rd5 でほぼ一本道で勝ちだと思った」と言った。28…e5 は 29.Be3 Rd5 30.Rxd5 Bxd5 となり「黒が勝勢だと思う」(カールセン)

29.Rxd5 exd5

 異色ビショップはどうなのか?「こちらがポーン得で主導権もある。もちろん異色ビショップは問題だが白は持ちこたえられないと思った。」(カールセン)

30.Be3 Re4 31.Re1 d4 32.Bd2 Rxe1+ 33.Bxe1 Be2

 ルーク同士の交換は少し怖そうだ。つまりパスポーンが1個しかなくもう1個も作れそうにないので、純粋の異色ビショップ収局のように引き分けになりそうだからである。しかしカールセンが指摘したように「白キングは閉じ込められている」ので白の困難に輪をかけている。

34.f4

 「これしかチャンスはない。」

34…gxf3e.p. 35.Bf2 d3 36.Be1 Kg7 37.Kf2 Kf6 38.Ke3 Kf5

39.h3

 カールセンによるとこう指す必要がある。39.h4 は 39…Kg4 40.Kf2 Bd1 41.Bd2 Bc2 42.Bf4 Bb1 43.a3 b5 44.Bd2 Bc2 45.Be3 a6 46.Bd2 Bb3 47.Bf4 Bd5 48.Bd2 Be4 49.Be3 Kf5

となって黒キングがクイーン翼に侵入する。「それで勝勢だと思った。」(カールセン)

39…h5 40.Bd2 Bf1 41.Be1

 41.h4 は黒キングをg4の地点に侵入させる。また 41.Kxf3 は 41…Bxh3 42.Ke3 Bf1 43.Kf2 Be2

となって「黒にとってまったく自明である。」(カールセン)44.Ke3 Kg4 45.Kf2「白の助かる可能性は全然ない。」(カールセン)

41…Bxh3 42.Kxd3

 42.Kxf3 は 42…Bf1 43.Bd2 Be2+ 44.Kf2 Kg4 となって前の変化と同様である。

42…Bf1+ 43.Ke3 Kg4 44.Kf2 Bb5

 「クイーン翼のポーンはどれも交換させたくなかった。」(カールセン)

45.Bc3 Bc6 46.Be5 b5 47.Bb8 a6 48.Bc7 f5 49.b3?!

 「黒にとっては完全に自明になった。」(カールセン)しかしいずれにしてもここでは白にしのぎはない。49.a3 は 49…Bd7 50.Bd6 f4! 51.gxf4 Bf5!

となってhポーンで勝負がつく。例えば 52.Bc5 Kxf4 53.Kg1 h4 54.Bf2 h3 55.Kh2 Ke4 56.Kg3 Bg4

で白の負けになる。

49…Bd5 50.Bd6 f4!

 これは前と同じ狙い筋である。hポーンをパスポーンにするのは堤を崩す蟻の穴である。

51.gxf4 h4 52.f5 Kxf5 53.Ke3

 53.a4 は 53…Bxb3 54.axb5 axb5 55.Kxf3 Bd5+ となって2ポーンの間隔が広すぎる。

53…Kg4 54.Kf2 h3 55.Ke3 Be4 56.Kf2 Bb1 57.a3

 57.a4 なら 57…b4 58.a5 Be4 59.Kg1 Bd5 で黒の勝ちになる。

57…Ba2 58.b4 Bf7 0-1

 黒キングはクイーン翼に進軍してa3のポーンを取ることができる。

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(この号続く)

2012年03月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス3

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