世界のチェス雑誌から(167)

世界のチェス雑誌から(167)

「The British Chess Magazine」2011年7月号(1/1)

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チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

 カザンでの挑戦者決定競技会におけるクラムニク対ラジャーボフのブリッツによる決定戦で起きた対局時計の故障に関連した質問をいくつか受けた。

時計が故障したらどうなるのか

 チェスの規則はきわめて明快で、審判が証拠となるものはすべて用いて可能な限り適切な時間に時計を設定し直して試合を続行することになっている。

 『6.10a 明らかな不具合がなければ時計に表示されているものはすべて正しいとみなされる。明らかに不具合のある対局時計は交換しなければならない。審判は時計を交換し、代わりの時計に設定する時間を決める際には最善の判断を行なう。』

 通常は対局者は問題が発生する前に時計の表示をほぼ覚えていて、認識に大きな違いがなければ適切に折り合いがつけられる。特別な状況では対局者同士で経過した時間を折半しなければならないかもしれない。上述の試合では、最初は試合を見守っていた審判によって記憶に基づいて時計が再設定された。しかしロシア語の大会規則を探している間にまた時間が経過した。この間にビデオおよび/または実況中継から正確な時間が判明し代わりの時計に設定された。面白いのはサッカーで判定に機器の使用が議論されているこの時代に、対局再開に手間取ったのでかろうじてビデオの証拠が用いられたことである。

 チェスではビデオの証拠を採用すべきだろうか。ブリッツ試合や時間がほとんどなくて多くの手数を指さなければならないときには、時計が試合の結果にかなりの役割を果たす。そのような状況では問題が起こったかどうかを決めるために時計を止めることは試合の流れを大きく乱してしまい、私の考えでは行なうべきではない。よくあるようにビデオの証拠はあまりはっきりしたものでない状況では特に間違ったやり方である(例えば1966年のFIFAワールドカップ決勝ではいまだに議論になっている)。大会では「タッチムーブ」や駒を動かす前に別の駒に触ったかについて争いになることがある。伸ばした手が審判の視界をさえぎることはよくあり、駒に本当に触れたか手がすぐそばまでいっただけかを判定するのは無理である。審判が確信がある場合だけ介入すべきである。そのような場合カメラがかなり異なった角度から撮影しているのでなければ、ビデオでも違反行為を確認することはできない可能性が高い。これは私の経験だが、相手選手が申し立てをしたら私がそれを支持しただろうが、私の方から介入するほどの確信はなかったことがある。同様に「タッチムーブ」の申し立てを自信を持って却下したことがあった。そのときは駒に触っていないことに確信があり、相手がそう思った理由についても分かっていた。私は申し立てがなされたらビデオを証拠として用いる可能性を排除しない。裁定委員会はすべての証拠を考慮する時間があるのが普通でそれに基づいて判断を下す。時計の問題に戻るとリバプールでの英国選手権戦で火災報知器が鳴ったとき愚かにも時計を止めて建物から非難するようにアナウンスした。2試合の選手たちがそれに従ったが時計の設定をし忘れて建物から離れた。もしもう一度火災報知器が鳴るか停電したら今度は時計を一時停止にするように言うだろう。

 この場合に該当する規則は6.13項である。不測の事態が起こっておよび/または駒を元の状態に戻さなければならない場合は、審判は最善の判断を尽くして時計の時間を決めなければならない。必要ならば時計の手数表示も調整しなければならない。

 時計が一時停止になっていなければ審判は中断時間を動いている時計から引かなければならない。問題のあった場合の一つでは一方の対局者が2、3手ごとに時間を記録していた。そこで審判はこれを使って時間の算定をした。他の停止された時計では両対局者がおよその時間に同意した。両対局者が合意できなかったら、両対局者とできれば隣の対局者の証言に基づいて時間を決める必要がある。幸いにもこの試合中断は対局の非常に早い段階だったので、時計の設定はもっと遅い段階で起こった場合よりも深刻でなかった。

 別の時計の問題はこうだった。規定手数に達しかどうかというちょっとした問題の生じた試合に呼ばれたことがある。両対局者は黒が必要な手数に達したことには同意していた。しかし白は先手がもう1手指さなければならないと主張していた。私はちょっといたずらっぽくどちらが初手を指したのかと聞いた。白はためらうことなく自分だと言った。それから私はどの時点で黒が2手連続して指したのかと聞いた。白は最初は当惑しそれからすぐに赤面して平謝りに謝った。

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(この号終わり)

2012年03月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

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