チェス布局の指し方[6]

チェス布局の指し方[6]

第1章 展開と戦術(続き)

1.6 ビショップの展開

 ビショップは動きが大きいおかげで展開にも色々な可能性がある。g5/g4またはb5/b4の位置では敵のキングまたはクイーンに対してナイトを釘付けにする。このような釘付けはその価値がかなり変動する。ある時は敵を守勢(古典的な例はルイロペスにおける白の 3.Bb5)に追い込むのに役立つかもしれないし、ある時は次の例のように敵に側面攻撃の弾みをつけるのに役立たせてしまうかもしれない。

 図8(黒番)

 白の直前の手は 7.Bg5 で、クイーンに対し黒ナイトを釘付けにしたところである。 7…h6 8.Bh4 白がビショップをf4に引けば 8…g5 でやはり白のキング翼に対する黒の襲撃に弾みがつく。8.Bxf6 は何の代償も引き出せずに黒に双ビショップの優位を与えてしまう。 8…Bg7 9.e4 g5 10.Bg3 Nh5

 図9(白番)

 黒の7手目と9手目はキング翼攻撃の準備である。白のc1のビショップは黒のポーン突きによってキング翼に追い込まれ交換される(黒の最後の手に注目)寸前である。白はこのように双ビショップの優位を与えたが、それによって弱体化した黒のキング翼につけこめることを期待している。これから分かってくるが、キング翼における黒の示威行動はgポーンとhポーンがさらに前進できる可能性があるので黒にとってうまくいく。この局面はマスターの実戦に少しだが現れている。実戦によれば黒のここからの攻撃は非常に強力なので既に大いに優勢である。

 ここからはあるマスターの実戦の手順をたどる。読者はほとんどの指し手の要点を理解しなくてもよい。この実戦例の目的は白がキャッスリングした後いかに容易に黒の攻撃態勢が構築されたかを説明し、先手で進んだポーンによって攻撃が行なわれる部分を示すことである。11.Bb5+ Kf8(キング翼のルークは攻撃に用いるためにh列においておく必要があるので黒はキャッスリングの権利がなくなることは気にしない)12.Be2(白の最善の手は 12.e5 とギャンビットすることである。この手は黒がキングを安全にすることができる前に中央を開けさせる)12…Nxg3 13.hxg3 Nd7 14.Nd2 Qe7 15.g4(黒ポーンの前進を止めることを期待した)15…a6 16.a4 Bd4!

(白キングの周りに圧力を加え、17…Qf6 としてf2での詰みと 18…Bxc3 19.bxc3 Qxc3 によるポーン得の可能性を準備している)17.O-O Nf6 18.Nc4 h5!

(これで攻撃が本格的に始まり短手数で試合が終わる)19.gxh5(白が 19.Nb6 hxg4 20.Nxa8 で駒得しようとすると 20…Qe5 で詰まされる)19…g4 20.Ne3 Nxh5(白はどうすることもできない。黒は 21…Qh4 と 21…Ng3 を狙っている)21.Bxg4 Qh4 22.g3 Nxg3 23.Kg2 Nxf1 24.Kxf1 Bxe3

ここで白が投了した。

 この攻撃がうまくいったのは白キングがf8で安全で、白が 12.e5! で筋を開けて黒キングの位置に付け込む機会を逃がしていたからである。もし既にキャッスリングしていたら …h6 から …g5 と突く贅沢はできそうにない。なぜなら自分のキングが薄くなって危険だからである。おおざっぱな指針として Bg5 による釘付けは敵キングが既にキング翼に位置していたら有利になる公算が大きいということができる。クイーン翼についても同じことが言える。

 Bg5 による釘付けの他の側面についてはナイトの展開の節で議論ないしは言及した。

 c4またはf4にいるビショップはh2/a2からb8/g8への斜筋に利きを及ぼしている。eポーン布局ではc4に展開したビショップはこの利きが効果的であることが多い。その理由はf2/f7の弱点の節で明らかになる。dポーン布局ではビショップがf4に展開するのはそれほど見かけない。それは相手のキングがクイーン翼にキャッスリングしない限りh2からb8への斜筋はそれほど重要でないからである。

 キング翼ビショップをc4に展開する時にはこのビショップを …Na5 で攻撃する手が相手の有利になるか(または将来そうなるか)どうかを考える必要がある。チェスでの最も基本的な質問の場合のように答えは局面の正確な特性により、何にでも当てはまる答えはできない。しかしこのような局面で相手の …Na5 の得失を見極めようとする時に自問してみるとよい二つの問いを挙げることはできる。

 (1)ビショップがd3またはe2に下がったとき相手のa5のナイトが良い位置にいるといえるかどうか。後でこのナイトがc4の地点に行けるのでなければ、答えはほとんど常に「いえない」。なぜならそうでなければナイトは元来たc6の地点に戻るしかないからである。シチリア防御から生じる多くの局面でまず …b5、…Rc8、…Qc7 のどれかまたは全部でc4の地点を支配してナイトをそこに置くことは可能となる。その場合でもc4のナイトがほとんど何も役立たないというのは時折起こることである。

 (2)ビショップがb3に下がった場合 …Nxb3 による交換でどちらかが優勢になるか。通常この交換で一方の選手が双ビショップの優位を手に入れる。他方はaポーンでナイトを取り返すことによりa列が自分の方にだけ素通しになって敵のaポーンに圧力をかけることになると共に、クイーン翼のルークを Ra4 で中原やキング翼に素早く回す可能性が生じる。これらの要因はどちらも交換の短期的な効果と合わせて考えなければならない。その時初めて正確な評価が可能となる。

 ほとんどの場合強手となるもっと重要な反撃は「両当たり仕掛け」として知られる戦術の手段で、通常は黒によって用いられる。両当たり仕掛けは手始めに次の図で示されるような配置が必要である。

 図10(黒番)

 黒のdポーンがd7にあるかd6にあるかは重要ではなく黒は …Nxe4! と指す。白が Nxe4 と取れば黒は「捨てた」駒を …d5 でビショップとナイトの両取りにして取り返す。両当たり仕掛けの着想は敵の中原の清算に結びついている。白は中原の4地点に2個のポーンがあり、2個の駒で中原を支えている。両当たりの捌きが完了すると白にはポーンの1個と駒の1個が交換されている。白の中原の支配は大きく縮小した。実戦で効果的な両当たり仕掛けの次の例はグランドマスター同士のリュボエビッチ対ドナー戦である。この試合は次のように始まった。1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Bc4 Nxe4!

 図11(白番)

 黒に両取り仕掛けをされた場合白のとるべき道は二つに一つである。それは前述の例題にあるようにナイトで取るか、まず黒キングの状態を弱めておくかである。本局でリュボエビッチがとった方針は二番目の方であった。6.Bxf7+ Kxf7 7.Nxe4

これで駒割が互角に戻った。しかし黒には双ビショップの優位があり白の中原は2手前ほど強力でない。黒の方から見てこの応酬の唯一の不利な点はキングが明らかに不安定なことである。しかしこの問題点は造作なく解決できる。実戦は次のように続いた。7…Re8 8.Nf3 Kg8 9.O-O Nd7 10.c3 b6 11.Qb3+ e6 12.Nfg5 Nf8

これで白に優位はない。

 e3またはd3にいるビショップは通常は攻撃を恐れることなく中原を支援することができる。3段目にいるビショップが一番よく攻撃されるのはg4に跳んできた敵のナイトによってである。通常は …Ng4 から …Nxe3 という手順は f3 または h3 によって防ぐ。しかし時にはこの捌きをやらせることがある。それは …Nxe3 のあと fxe3 と取り返すとポーン中原が強化され、少なくともビショップをナイトと交換した「損」に見合った代償となるからである。白はシチリア防御のカン/タイマノフ防御(第6章参照)で両方のビショップを三段目に展開することがよくある。

 ビショップを3段目に展開する一つの指針、実際には行動規範とも言うべきものは「まだ動いていないeまたはdポーンの前の3段目にビショップを展開するな」である。中央列のポーンは中原を占拠したり支援を加えたり、駒の展開のために進路を開けたりするために自由に動けるようにすべきである。

 e2/e7とd2/d7は通常は守りのためにビショップが占める位置である。これはそのようなビショップの利きが3段目のナイトによって制限されるためでもある。この「規則」に対する最も有名な例外はシチリア防御の多くの戦型で見られる。そこでは白のe2のビショップが中盤で攻撃と防御の両用によく用いられる。例えばドラゴン戦法(第6章)では白の 7.Be2 がe3のビショップを攻撃してくる黒の …Ng4 を防ぎ、あとで g4 突きを支援する。

(この章続く)

2010年04月05日 コメントは受け付けていません。

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