名著の残念訳(5)

名著の残念訳(5)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

06 小さな見落とし 024ページ
『対戦相手より1手先まで読んでいると考えてコンビネーションを放つ。』

英文『Thinking he has seen one move further than his adversary, he provokes a combination.』

provoke は「・・・を刺激して(・・・)させる」という意味だから、フィッシャーにコンビネーションをさせたので、コンビネーションを放ったのはフィッシャーの方である(39.Rxe6)。

試訳「対戦相手より1手先まで読んでいると考えてフィッシャーのコンビネーションを誘った。」

14 多すぎた新手 063ページ
『13手目に現れる新手の評価が疑わしい変化。』

英文『An innovation whose dubious merit appears on move 13.』

この訳文は An innovation appears on move 13. が骨格で、innovation を whose dubious merit が修飾していると考えているようである。しかしそうだとすると whose dubious merit という関係詞節には動詞が存在しなくなる。そんな構文はあり得ない。An innovation with dubious merit appears on move 13. か An innovation which has dubious merit appears on move 13. なら構文的には間違いはない。
この英文は本体の主語と動詞が省略されている。それを補うと次のようになる。
This(10.Be2) is an innovation whose dubious merit appears on move 13.
This is an innovation が本体で、whose dubious merit appears on move 13 が innovation を修飾している。
10.Be2 は2年ほど前にケレスが指しているのでこの時点では新手とは言えない。だから innovation は「ケレス新手(2年前にケレスの指した新手)」というほどの意味だろう(前局では 10…h6 だったので、本局の 10…b5 は新手になるはずである)。当時は新手といっても今ほど速く知れ渡ることはなかた。だから新鮮味はあったと思われる。新手は何らかの merit を収めなければ意味がないので、13.exf6!? は 10.Be2 の成否をかけた手だったはずである。

試訳「この新手の疑わしい真価は13手目に現れる。」

17 惜しい失敗 081ページ
『ほとんどのゲームで、フィッシャーはタリのように指した。しかし、心配ご無用。タリはフィッシャーのようには防御せず、唯一無二の負けない反撃を見つけるから!』

「ほとんどのゲームで」とあるが、フィッシャーはそんなに何局もタリのように指していたのだろうか?

英文『Almost all game Fischer played in Tal style. But all his trouble was in vain because Tal did not defend in Fischer style – instead he found the one and only saving counterchance!』

目的語が倒置されているので普通の順序に直して考えると Fischer played almost all game in Tal style. となる。game に複数形の s がついていないので all は一つの game の最初から終わりまですべてということである。

試訳「試合の間ほとんどずっとフィッシャーはタリのように指した。しかし彼の苦労はすべて無駄だった。なぜならタリはフィッシャーのように守らなかったからだ。代わりに唯一無二のしのぎの反撃を見つけ出した!」

2011年07月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 名著の残念訳

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