「ヒカルのチェス」(225)

「ヒカルのチェス」(225)

「Chess Life」2011年4月号(1/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる

米国の最強選手が今や世界の一流選手に

GMイアン・ロジャーズ
写真 キャシー・ロジャーズ

 3年前ヒカル・ナカムラはベイクアーンゼーのグランドマスターB級大会への対局招待を断り、もっと楽なジブラルタルオープンへの参加を選んで批判されたことがあった。彼は米国チャンピオンとしては一流の大会に招待されるべきだと思っていた。それにこのティーンエージャーはオランダの海沿いの町の凍てつく天気にも気乗りがしなかった。

 2年後ナカムラはベイクアーンゼーでの一流の大会で世界の最強者たちと伍して戦い、立派な4位の成績を収めていた。

 もうナカムラは批評家によって単なるブリッツの専門家あるいはうぬぼれが才能を上回っている若者としてけなされなくなっていた。

 2010年をとおしてナカムラの成績は上昇を続けた。ロンドンクラシックとモスクワでのタリ記念では優勝者たちからわずか半点差に迫る成績で、世界の10傑に仲間入りした。しかし超一流大会での優勝には届かないままだった。

 今までは。

 2011年1月ベイクアーンゼーでの伝統の第73回大会の主催者はタタ製鉄を新スポンサーに迎え、世界のレイティング4傑を-10年ぶりに-呼び集めることができた。マグヌス・カールセン、ビスワーナターン・アーナンド、レボン・アロニアン、それにウラジーミル・クラムニクの4人である。

 これらの4強による優勝争いは熾烈になることが予想された。しかしこの一群はナカムラによって粉砕された。

 ナカムラは初戦から突っ走り、肩を並べることができたのは世界チャンピオンのアーナンドだけだった。

 第8回戦でカールセンに惨敗したあとでさえ、急にカールセン、アロニアンそれにクラムニクが一団となって迫ってきたけれどもアーナンドと共に首位に留まっていた。しかし彼が第10回戦と11回戦に勝って逃げ切りを図ったとき誰も彼と並ぶことができず、米国選手のグランドスラムにおける初優勝が決まった。

 アーナンドは結局わずか半点差でナカムラに及ばなかったが、ナカムラの優勝はとても価値があると認めた。「ナカムラはここで最高のチェスを指した。そして定跡の選択も特に優れていた。」

 今は無くなったニューヨークタイムズ紙の「ギャンビット」というブログで、ガリー・カスパロフはもっと熱烈にナカムラの優勝を米国人の記録した最高の優勝になぞらえたと引用されている。「フィッシャーは世界チャンピオンをおさえて大会に優勝したことがなかった。・・・マーシャルは1904年にケンブリッジスプリングズでラスカーを押さえた。・・・だからカパブランカを米国選手に含めなければ、ナカムラと匹敵する米国人の大会優勝は1895年ヘースティングズでのピルズベリーまでさかのぼると思う。」

 カスパロフの歴史の類推は大げさすぎるようである。近年は大会で負かすべき相手はアーナンドでなくカールセンになってきている。それに米国選手のガータ・カームスキーが厳しいワールドカップで優勝したのは2007年にさかのぼれば済む話である。それでもあの出場選手の顔ぶれで優勝するのはそれだけで偉業である。

 ナカムラ自身は自分の成績についてもっと控え目で、世界の超一流と本当に肩を並べた証とみなしている。「今年の目標はレイティング2800に届くことだった。もう半分来た。」

ナカムラの棋歴

1987年 日本の枚方市にうまれる

1989年 家族と共に米国に移り住む

1998年 米国のレイティング試合でグランドマスターに勝った米国最年少選手になる

2003年 ボビー・フィッシャーの長年の記録を破り、グランドマスター称号を獲得した米国最年少選手になる

2004年 リビアでのFIDE勝ち抜き方式世界選手権戦で第4回戦まで進出

2004年 米国選手権戦で優勝

2006年 インターネット「弾丸」(1分試合)の世界最強選手に認定される

2006年 トリノオリンピアードで米国チーム銅メダル

2008年 ジブラルタルマスターズで優勝

2009年 米国選手権戦で2度目の優勝

2009年 サンセバスティアンでピョートル・スビドレルとアナトリー・カルポフをおさえて第18水準の文化都市大会に優勝

2010年 トルコでの世界団体選手権戦で第1席の金メダルリスト

2010年 アムステルダムでのNH老練対若者大会で若者の1位

2011年 1月のFIDEレイティング表で最上位10人に入る

2011年 ベイクアーンゼーで世界最強4人をおさえて優勝

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(この号続く)

2011年07月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス2

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