世界のチェス雑誌から(118)

世界のチェス雑誌から(118)

「Chess」2010年11月号(17/21)

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ハンティ・マンシースク(続き)

第9回戦 9月30日

 ウクライナには良い出来事と悪い出来事があった。悪い出来事はイワンチュクが負けたことだった。しかし良い出来事はそれでもアゼルバイジャンに勝ったので大したことがなかったことだった。シャフリヤル・マメジャロフがイワンチュクの 6½/7 の疾走を止めた男だが、この愛想のよいウクライナ選手のとてつもない実効レイティングを3000台のどこかからそれより少し下に落としただけだった。ザハル・エフィメンコのこれまた素晴らしい指し回しがチームに勝利をもたらした。ウクライナに続く上位5戦はすべて1勝で決着がついた。ロシア1、フランス、イスラエル、中国、米国がそれぞれアルメニア、グルジア、ハンガリー、キューバ、ブルガリアに勝った。
 イングランドの相手はロシア3だった。どちらも同じくらいの強さだから2-2の結果は意外でなかった。しかし戦いは激しかった。最上位2局が引き分けに終わり、デイビド・ハウエルが経験豊富なルブレフスキーに負けた。それでガーウェインが1点を取るために奮闘することになった。彼がそれを成し遂げたのは偉大だった。その試合は非常に長手数だが大変参考になる。

解説 ガーウェイン・ジョーンズ
第9回戦 イングランド対ロシア3
G・ジョーンズ - N・カバノフ
スコットランド試合

 ヤコベンコ(2726)、モティレフ(2694)、ルブレフスキー(2683)が最上位3席だったので、弱いつながりになっているたった2500のGMを破壊するのが自分の役目になった・・・

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.Nxd4 Bc5 5.Nxc6 Qf6 6.Qf3

 変な戦型だがここ6年ほど非常に流行するようになった。白の期待は二重fポーンが中原の支配とg列での活動に大きく役立つようになることである。一方二重cポーンは黒にとって大きな問題になり、弱いaポーンとc5の地点は特にそうである。

6…bxc6

 このごろは黒がクイーンを交換するのを遅らせるようになった。この戦型の前例は 6…Qxf3 7.gxf3 bxc6 8.Be3 Bxe3 9.fxe3 Ne7 10.Nc3 d6 11.Rg1 O-O 12.f4 f5 13.Bc4+ Kh8

14.e5!-この着想を実際に本局で使う場面が見られる-14…dxe5 15.O-O-O Ng6 16.Rd3

で、2006年サンセバスティアンでのバルマナ・カント(2284)対ハリクリシュナ(2682)ではここでレイティングがはるか上のインドのGM(黒)が 16…exf4?? とポカを指し 17.Rxg6! とただ取りされた。17…hxg6 と取ると 18.exf4 で Rd3-h3# の詰みが防げない。

7.Nd2 d6 8.Nb3 Bb6 9.Bd2

 定常的にこれを用いる有力選手はセルゲイ・ルブレフスキーで、その彼が私の対戦相手の隣に座って興味深そうに見ているのはかなり気持ちが悪かった。

9…Qxf3

 黒はキング翼の展開を図るためにはクイーンを交換しなければならない。9…Qxb2? は 10.Bc3 Qxc2 11.Bxg7 で良くない。

10.gxf3 Ne7 11.a4

 ビショップを捕獲する狙いで …a7-a5 突きを誘っている。そうなれば黒はa5の地点に恒久的な弱点を抱える。

11…a5 12.Be3

 この手は相手の研究範囲に入っていなかったが、状況は別にどうということもない。ビショップ同士を交換する方が黒枡を標的にしやすくなるので都合がよい。最近の実戦ではほとんど常に 12.Rg1 が指されているが、黒はしょせんキャッスリングしたいのでその方が良いとは思えない。12…O-O 13.Be3 の局面はルブレフスキーが今年非常に強い相手に3回指している。イナルキエフには勝ち、ナイディッチュとは長手数の末2局引き分けているが、どの試合でも相応に優勢だった。

12…Bxe3 13.fxe3 O-O 14.O-O-O

 これがこの戦型の典型的な局面で、私なら白の方を持ちたい。黒は駒を働かせるのに苦労し、a5のポーンをいつまでも守ることを強いられる。一方白はg列をルークで占拠し f3-f4 から e4-e5 と指すことができる。これはチーム戦としては良いやり方だと思う。白は負ける可能性がほとんどなく長い間黒を悩ませることができ、他の試合の進み具合を見ることができる。

14…f6

 この手はe6の地点を弱めるので私は好まない。もっとも他に良い応手を見つけるのはそう容易でない。14…f5 は 15.e5! dxe5 16.Bc4+ で実戦よりこちらが1手早くなる。

15.Nd4

 e6の地点を標的にしている。

15…f5 16.e5!

 これはこの戦型の重要な手段である。白は1ポーンの犠牲で非常に重要なc5の拠点と素通しのd列を得る。黒は白枡ビショップをどう展開させるのかという大きな問題も抱えている。

16…dxe5 17.Bc4+ Kh8 18.Nb3

 この局面は前述のハリクリシュナの試合に非常に似ている。こちらのナイトはb3の好所にいるが、黒は少し手得している。黒が何もしなければ、白は f3-f4 と突いてc8のビショップを閉じ込める。だから黒は次のように指さなければならない。

18…f4 19.exf4 exf4 20.Rhe1

 しかしポーンの犠牲の代償はここで明らかである。中央を完全に制圧し、ポーンの形に優り、たぶんa5のポーンを取り返せる。

20…Nf5

 20…Ng6 ならa5のポーンを守れるだろうが、21.Nd4 Bd7 22.Be6 Be8 23.Bg4 Rf7 24.Ne6

となって、白が局面を完全に制する。黒は駒の協調に本当に苦労することになる。

21.Re5 Nd6

 このナイトはe3が好所のように見えるが、21…Ne3 22.Rd4 となると空を切り、黒は最下段の詰みに用心しなければならない。

22.Bd3

 22.Rd4 も強そうな手である。

22…g6

23.Nxa5

 私のe5のルークの方がa8のルークより強力だと判断したが、23.Rxa5 Rxa5 24.Nxa5 c5 25.Re1 Bf5 26.Re5 と指す方が分かりやすかった。

23…Bh3 24.Kd2

 f3のポーンを守るためにキングの移動を始めた。

24…Rfe8 25.Rde1 Bg2 26.Rxe8+ Nxe8 27.Nxc6

27…Nd6

 27…Bxf3 は 28.Be4 Bxe4 29.Rxe4 g5 30.b3 となって、aポーンがなかなか止めにくいのと白駒の方がはるかに動きが良いので、白が勝つはずである。

28.Bb5?!

 時間が少なくなってきて、これがa4ポーンとナイトの両方を守りルークを働かせる余裕を得るうまい手段だと考えた。しかし 28.a5 の方がずっと簡単だった。28…Bxf3 なら 29.Nd4 Bd5 30.b4 で、白の駒の連係が完璧でパスaポーンを突いていく単純な狙いがあり白が勝つはずである。

28…Bxf3 29.Re7 Bg2 30.Ne5 Rf8 31.Ke1 f3

32.Ng4?!

 30手ほどの間積み重ねてきた優位のほとんどがこれで吹き飛んだ。代わりに 32.Kf2! が危険そうに見えても黒には進展を図る手段がない。例えば 32…Ne4+ 33.Kg1 Bh3 34.Nxf3 は白が明らかに優勢である。

32…c6!

 カバノフはa4のポーンを守っているビショップを押し返して反攻に出てきた。

33.Bd3 Rf4 34.Re6

 34.a5 Rxg4 35.a6 でも指せるだろうが、時間切迫の時に読むべき手ではないであろう。

34…Nf7

 34…Rxg4 35.Rxd6 Rxa4 36.Kf2 なら黒が1ポーン得になるが、g2のビショップが閉じ込められているような状態でキング翼のどこかに行くのには手数がかかるので、まだ白が有望である。その間にクイーン翼の白ポーンが駆け抜けるだろう。面白いことにここではコンピュータも白の方を良しとしている。

35.Nf2 Rxa4 36.Rxc6 Ne5 37.Rc5 Nxd3+ 38.Nxd3 Rh4 34.b4

39…Bh3

 カバノフは突然h2ポーンの毒に気づいた。39…Rxh2 なら 40.Nf2! Rh4 41.c4 となって黒はクイーン翼のポーンの突進を防ぐことができない。

40.b5 Bf5

 指定手数に達して明白な優勢も回復することができた。もっとも黒は引き分けをもぎ取ることができるはずである。周りの対局を見回すと上位2局は引き分けに終わっていて、デイビドはルブレフスキーに屈していた。だからチーム戦を引き分けるためには私が勝たなければならなかった。プレッシャーがかかっていた。

41.Nf2

 41.Rc3!? という手もあるが、41…Rxh2 42.b6 Re2+ 43.Kf1 Be4 44.Nf2 Bb7 45.Rc7 Ba6 46.Nd3 Re8 47.Kf2 Re6 48.b7 Bxb7 49.Rxb7 Re2+ 50.Kxf3 Rxc2

で引き分けに終わそうである。

41…Rb4 42.Kd2 Kg7 43.Ke3 Kf6 44.Kxf3

 一時的にまたポーン得になった。

44…Ke7 45.c3 Rb3 46.Kf4 Rb2

47.Nd1

 47.Ke3 は 47…Kd6 48.Rc6+ Ke5 49.c4 Rb3+ となって、黒の駒がよく働きh2ポーンをまた犠牲にしなければならないので、良い手だとは思えなかった。

47…Rxh2 48.b6

 たぶん 48.c4 の方が客観的に見て良かったのだろうが、黒が最善手を指していけばたぶん引き分けにできる感じがする。

48…Rh4+ 49.Kf3!?

 我々はまた時間切迫に陥った。40手目で追加された30分は長持ちしなかった。そしてここでf3がこちらのキングにとって最も紛らわしい地点だと判断した。そしてそれが図に当たった。

49…Kd6??

 これは私の次の手を見落とした。黒は 49…Rh3+ と指すべきで次のように引き分けに持ち込める。50.Kf2(50.Kf4 は 50…Rh4+ 51.Ke5 Re4+ 52.Kd5 Re6 53.Rc7+ Kd8 54.Rxh7 Rxb6

となって、白はまだしばらく指し続けることができるが黒はあまり苦労なく守れるはずである)50…Rh2+ 51.Kg1 Rd2 52.Ne3 Rb2 53.Nd5+ Kd6 54.Nb4 Be4

白キングが働いていない状態ということは勝つ可能性が事実上ないということである。

50.Nf2!!

 この手を見つけたときは、特に時間に追われていた時だっただけに、本当に嬉しかった。相手の顔が曇った。ビショップもルークもbポーンのクイーン昇格を止めるのに間に合わない。

50…Kxc5 51.b7 Rc4 52.b8=Q Rxc3+ 53.Kf4 h5

 というわけで局面は技術的な段階に至った。黒はクイーンの代わりにルークと2ポーンを得ているが駒割として十分ではない。しかし白はポーンがないので勝つのは大変である。

54.Ne4+

 黒は長い目で見ればキング翼のポーンを保つことができないだろうからこれが一番簡単に勝つ手段だと考えた。しかしコンピュータは 54.Qc7+ でナイトを盤上に残す方がずっと強い手だと指摘した。例えば 54…Kb4 55.Qb6+ Kc4 56.Nd1 Rb3 57.Qa6+ Kb4 58.Ne3 Bd3 59.Nd5+ Kc5 60.Qa7+ Kxd5 61.Qf7+

でルークが素抜きにあう。コンピュータなら見つけるのは簡単だが、時間が少なくて勝たなければならない時はこのような手順は見つけるのは難しい。

54…Bxe4 55.Kxe4 Rc4+ 56.Ke5 Rg4

 黒はルークとポーンがお互い守りあって要塞を作ろうとしている。そこでこちらの勝つための作戦は黒を手詰まりに陥れることで、そうなれば黒はキング翼の戦力の一つを守られていない状態にしなければならなくなる。第一段階は黒キングを盤端に追いやることである。唯一の心配は50手規則だった。

57.Qb2

 黒キングをルークとキング翼ポーンに合流させれば要塞が完成するのでそうさせるわけにはいかない。

57…Kc4 58.Qc2+ Kb4 59.Kd5 Rg5+ 60.Kc6 Rg4 61.Kb6 Ka3 62.Kc5 Rg5+ 63.Kc6 Rg4 64.Qb1

 目標1の完了。

64…Rc4+ 65.Kd5 Rg4

 キングがチェックされない地点を見つけなければならない。それで白キングはキング翼へ急ぐ。

66.Ke5 Rg5+ 67.Ke6 Rg4 68.Kf6

 黒の手詰まりである。黒は態勢を悪くしなければならない。

68…Rg3

 これでルークが守られていないことを利用してg6ポーンを取ることができる。68…Ka4 も筋が通っているが、このキングをa8の地点まで押し込めることができる。黒キングが盤の中央を越せば黒は4段目に沿ってチェックすることができないので詰みの狙いを作り出すことができる。見本の手順は 69.Qb2 Ka5 70.Qb3 Ka6 71.Ke5 Ka5 72.Kd5 Ka6 73.Kc6

で、黒は詰みが防げない。

69.Qa1+ Kb3 70.Qd1+ Kc4 71.Qe2+ Kb3 72.Qd1+ Kc4 73.Qe2+

 30秒でも非常に貴重な時間を増やすために手を繰り返した。

73…Kb3 74.Qb5+ Kc2 75.Qc6+ Kd2 76.Qd6+ Rd3 77.Qf4+ Kc3 78.Kxg6

 これでポーンが落ちた。23手で済んだ。

78…Rd5

 黒はh5のポーンも長く持たせられない。

79.Kf6 Kd3 80.Ke6 Rd4 81.Qf3+ Kc4 82,Qxh5

 ここからの黒の防御は最強ではなかったが、いずれにしてもこの収局をつい最近勉強していたのは幸いだった。

82…Kd3 83.Qc5 Ke4 84.Qf5+ Ke3 85.Ke5

 これで黒の駒は後退を強いられる。

85…Rd3 86.Qf4+ Ke2 87.Ke4 Rd2 88.Qf3+ Ke1

89.Qh5

 89.Ke3?? は言語道断で、89…Rd3+! とされるとこれまでの粒々辛苦が水の泡になってしまう。

89…Kf2 90.Qh1 Re2+ 91.Kf4 Rd2

 ここからの手順は非常に面白い。白は単に黒の駒をクイーン翼に追い立てていき、黒は枡がなくなる。

92.Qh2+ Ke1 93.Qg1+ Ke2 94.Ke4 Rc2 95.Qg2+ Kd1 96.Qf1+ Kd2 97.Kd4 Rb2 98.Qf2+ Kc1 99.Qe1+ Kc2 100.Kc4 Ra2 101.Qe2+ Kb1 102.Qd1+ Kb2 103.Kb4 Ra8 104.Qe2+ 1-0

 105.Qf1+ から 106.Qg2+ でルークが取られるのでカバノフは投了した。これでチームは引き分けになった。


イングランドチームで最も活躍したガーウェイン・ジョーンズは2回の持ち時間延長まで試合をした。彼は最高の試合だったと思っている。非常に長手数になったが布局、中盤、収局とも参考になる。

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(この号続く)

2011年04月20日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

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