チェス布局の指し方[2]

チェス布局の指し方[2]

第1章 展開と戦術(続き)

1.2 主導権

 「主導権」という用語はチェスの本で繰り返し用いられる。この言葉が何を意味しなぜそんなに重要なのかを考えてみよう。試合の始まりでは白が手番なので優位に立っている。手番の優位はよくテニスのサーブの優位にたとえられてきた。しかしトップクラスのテニスでサーブがほぼ90%の割合でゲームポイントを得るのに対して、白の優位はマスターの試合で約32%の勝ちにしか結びつかない(黒の勝ちは大体22%で引き分けは46%である)。これらの数字により白の平均的な有利さはほぼ55対45と表される。

 主導権の一つの明白な特性は黒が白と同じ手を不正でない限り指していくといずれ白が圧倒的に優勢になるということである。もう少しわざとらしくない議論をすると対称な局面はほとんどの場合手番の方が有利である。この法則の唯一の例外は収局で起こるがここでは採り上げない。

 対称な局面を続けるのは望ましくないので黒は通常は最初の2手のうちに対称を解消する。黒の手はどれも白の展開の作戦に対し何らかの対処をすべきである。もし黒の布局の戦略が成功すればば白の主導権を無効にするか、もっとうまくいけば白から主導権を奪い取ることになる。もし黒が失敗すれば白は主導権を生かして攻撃を加え戦力を得するかはっきりした大局上の優位を得ることになる。

 どちらに主導権があるかはどうしたら分かるのだろうか。この問題は見かけほど単純でない。というのはよく主導権を一連の簡単にかわせる狙いと混同している選手が多いからである。実際は経験を積んだ選手だけが主導権が架空(一時的)なのか本当なのかを判断できるのである。

 主導権そのものは具体的な有利ではない。その価値は他の種類の有利と引き換えにできることにある。例えば戦力、攻撃または有利な収局とである。布局の原則について説明している時に有利な収局のことにまで議論が及ぶのはおそらく読者にとって理屈に合わないと思われることだろう。しかしチェスの布局の本に「・・・で収局は黒が有利である」というような文章が見られるのはきわめて普通のことである。実際ルイロペスの交換戦法は白が主導権を用いて早くも4手目から有利な収局を目指す好例である(5.3を参照)。

 主導権をめぐる戦いは布局での基本的な主題の一つである。白は1手の優位(つまり先手)を持って指し始め戦力を展開している間にこの優位を維持しさらには増大するように努める。したがって駒を好所に展開するのみならずできるだけ迅速に展開するのは最も大切である。チェス布局の科学的な研究がまだ始まっていなかった19世紀には展開の速度は非常に重要であると広くみなされていたので選手たちは大きな主導権を得るために喜んで戦力を犠牲にしていた。ムツィオ・ギャンビット(3.1を参照)はこの主題に沿った例である。白はまずポーン、次にナイトを犠牲にして展開に大差をつける。

 先手を正しく用い駒を迅速に展開し大切な主導権を敵に渡さないようにしたい人のための指針となる一般原則は一つしかない。布局では同じ駒を2度動かすな。これはがんじがらめの規則というよりも一つの原則である。その理由は簡単に分かる。それはもし既に動かした駒をまた動かせば他の駒を動かすのに使えたはずの手を無駄にしたことになるからである。もちろんこの原則には例外も数多い。ある駒が当たりになっていればその駒を動かさなければならないかもしれない。当たりにしている駒が初めて動いた駒ならば、敵の展開がそれによって促進されこちらの当たりにされた駒は動かしても展開に役立たないのでこちらの手損になるかもしれない。一方当たりにしている駒が既に動いたことのある駒ならば、こちらの手損にならないかもしれない。

(この章続く)

2010年03月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: チェス布局の指し方

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