「ヒカルのチェス」(166)

「ヒカルのチェス」(166)

「British Chess Magazine」2010年1月号(3/3)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第5回戦(12月13日)

 ヒカル・ナカムラとルーク・マクシェーンとの試合は観客に関する限り期待に違わぬ好取組で実際そうなった。ルークはキング翼インディアン防御の …Na6 戦法を堅持することにした。マグヌス戦ではそれで負けたが今度は勇気が報いられた。2勝目をあげただけでなくこの回の名局賞の1千ユーロももらった。ルークの指し回しが良かったが、ヒカルの戦い振りにも多くの賞賛が与えられる。

第5回戦
□ヒカル・ナカムラ
■ルーク・マクシェーン
キング翼インディアン防御 [E94]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 7.O-O Na6

8.Be3

 第2回戦のマクシェーンとの試合でカールセンは 8.Re1 を選択した。

8…Ng4 9.Bg5 Qe8 10.c5!?

 これで局面が不均衡になり確実に型にはまったキッド(King’s Indian Defense)の試合にならなくなる。

10…exd4 11.Nd5

11…Be6

 2005年イェーテボリでのナバラ対マクシェーン戦では 11…Nxc5 12.Nxc7 Qxe4 13.Re1 Rb8 14.Bc4 Qf5 15.Be7

と進み白の勝ちに終わった。

12.Be7!?

 これもヒカル・ナカムラの思い切った勝負手だった。恐らく 12.Bxa6 Bxd5 13.exd5 bxa6 14.cxd6 cxd6 15.Nxd4 Qd7

を読んで十分でないと判断したのだろう。チェスエンジンは好みの局面のようだが白が指せる局面かどうかは怪しい。

12…Bxd5 13.Bxf8 Qxf8 14.exd5 dxc5

 黒はルークを取らせてナイトと2ポーンを得た。駒割はまったく均衡がとれている。

15.Qb3 Rb8 16.Rfe1 Qd6

17.h3

 白はクイーン翼の黒のポーン全部を警戒しなければならない。例えば 17.Bc4? は 17…b5! と突かれ 18.Bxb5 と取ると 18…c6 19.dxc6 Nc7 20.a4 a6

でビショップが取られる。17.Qa4!? がクイーン翼のポーン突きを制止するための抜け目のない手かもしれない。

17…Nf6 18.Bxa6

 この手のあと黒が少し押し気味である。たぶん白は 18.a3 のようなそれほど形を決めない手を指すべきだった。

18…Qxa6 19.Rac1 Bf8 20.Ne5 Qb6 21.Qf3 Qd6

22.g4?!

 たぶんこの手は指し過ぎである。22.Nd3!? がもっと慎重な手で黒のクイーン翼のポーンを抑止する。以下 22…b6 23.b4 Nxd5 24.bxc5 bxc5 25.Rxc5 Nf4 26.Rec1

で白が指せそうである。

22…Bh6!

 黒は重要な黒枡を握った。いつかポーンをd2の地点に進ませる夢さえある。

23.Rc2 Re8 24.Rce2 Rf8 25.Nc4 Qxd5 26.Qxf6

26…Bg7!?

 たぶんこの手はすぐに 26…Qxc4 と取る手より優る。その手は 27.Re8 とされ例えば 27…Qxa2? と欲張ると 28.g5! Bg7 29.Rxf8+ Bxf8 30.Re8

となって 31.Qe7 からの詰みに受けがない。

27.Qh4

 27.Qf4 の方が良いだろうがそれでも黒には 27…Qxc4 28.b3 Qd5 29.Qxc7 d3 30.Re7 Bc3

という手順があって勝ちになるだろう。

27…Qxc4 28.Re8 Qd5 29.Rxf8+ Bxf8 30.Re8 Kg7

31.g5

 白にとって非常に困難な状況になり始めた。31.Qd8 Qxd8 32.Rxd8 と指すこともできたが長期的には実戦と似たり寄ったりかもしれない。

31…Qd6

 これで黒はキングの防御態勢を完了しクイーン翼ポーンの進攻に注意を向けることができる。

32.Kf1 b5 33.Ke1

 白はキングを使って敵ポーンの前進を止めたがっている。

33…c4 34.Qe4 c5 35.h4 c3 36.bxc3 dxc3 37.Qe5+

 難しい決断だがたぶん最善だろう。

37…Qxe5+ 38.Rxe5 a5 39.Kd1 a4 40.a3 b4 41.Kc2

41…h6!

 この手の意味は単にキングにh7の地点を用意しビショップをg7に上げて …b3+ とできるようにすることである。

42.Rd5?

 42.Re8 Bd6 43.Ra8 の方が実戦より黒にもっと課題を与えられた。

42…hxg5 43.hxg5 Kh7

44.Rd7

 ここでの要点は 44.axb4 cxb4 45.Ra5 b3+ 46.Kxc3

とすると 46…Bb4+! で白の負けになるということである。ビショップを取るとbポーンが昇格する。

44…Bg7!

 f7のポーンを取られて自分で釘付けの形になることはbポーンをもう一枡進ませる機会に比べて物の数ではない。

45.Rxf7 b3+ 46.Kb1 Kg8 47.Ra7 Bd4 48.Rxa4

48…Kf7!

 48…Bxf2? はたった1手の差だが大違いである。49.Re4 でも 49.Rc4 でもうまくいかない。黒は進展を図ることができず白のaポーンが前進を始めるとおおごとになる。

49.Ra6

 49.Ra7+ は 49…Ke6 50.Rb7 c4 で黒の密集軍は無敵である。例えば 51.Rc7 Kd5 52.Rd7+ Ke4

で黒キングが詰みにひと役買う。

49…Be5 50.Ra4

 ルークは …c2+ から …Bf4+ という大きな狙いを止めなければならないがそのために黒キングを侵入させてしまう。

50…Ke6 51.Rh4 Kd5 52.a4 c4

53.Rh1

 53.a5 c2+ 54.Kc1 Bd6 はご臨終である。

53…c2+ 54.Kc1 c3

 黒の狙いはポーンを昇格させることでなくビショップで詰めることである。白は詰み筋の両方の斜筋を押さえることができない。

55.Rh4 Bd6 0-1

 あと2手で詰む。ルーク・マクシェーンはこの試合で1千ユーロの名局賞をもらった。恐らくキング翼インディアン防御は大丈夫なのだろう・・・

第6回戦(12月14日)

 デービド・ハウエルとヒカル・ナカムラは33手目までに盤上から駒のほとんどが飛び散ったあと引き分けた。黒番のナカムラはキング翼で反撃に努めたがハウエルは頑強に抵抗し引き分けの異色ビショップ収局になった。

 残り1試合を残しての成績はカールセン12/18、クラムニク11、マクシェーン7、アダムズとハウエル6、ナカムラ5、ショート4だった。最終戦で(ナイジェル・ショート相手の黒番)カールセンは優勝を絶対確実にするためにはまだ勝つ必要があった。ウラジミル・クラムニクがヒカル・ナカムラ相手の黒番で勝てば引き分けでは十分でないからである。だから3-1-0の得点方式の採用は大会の緊張感を最後まで維持するのに役立った。

第7回戦(12月15日)

 激闘の大会にふさわしく優勝の行方は最後の試合が終わった時に決まった。最初に終わったのはナカムラ対クラムニク戦だった。両選手は勝つために大いに努力した。クラムニクはルークを切ってビショップと2ポーンを取り白キングに対する狙いも得た。しかし米国選手は持ちこたえ両選手は最終的に手を繰り返して引き分けにした。二人ともロンドンでの最終結果にはすこし不満だろうが大会を大きく盛り上げた二人の役割は賞賛に値する。

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(この号終わり)

2010年05月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス

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