チェス布局の指し方[10]

チェス布局の指し方[10]

第2章 ポーンの重要性

フィリドール「ポーンはチェスの魂である」

 自分のポーンの扱い方をある程度理解したり敵の歩兵に対する正しい対処法をある程度知っているのでなければ誰もチェス布局の複雑さの習得は期待できない。ポーンは骨の構造、即ち盤上の骨格を成し、自分のポーンが弱ければ自陣が全体的に病んでいるかもしれない。一方自分のポーンが強ければ恐らく自陣が全体的に健全で元気であろう。

 布局から生じるポーンの形で駒の働きが決まってくるかもしれない。弱いポーンの守りに汲々とすることになるかもしれないし、不本意な地点にいるポーンによって自分の駒が動きを阻害されることが起こるかもしれない。さらに言えば弱い地点のような要因はポーンの形しだいである。

 これからこの最も重要な分野を系統的に調べていくことにしよう。

2.1 ポーンの弱点

 ポーンはかなり異なる二つの方面で弱くなる。即ち守りにおいて弱くなるし攻めでも弱くなる(「静的」および「動的」弱点が通常の用語である)。まず守りに弱いポーンを考えてみよう。ポーンはチェス駒の中で最も動きが少ない。だからポーンに当たりがかかっている時、攻撃している駒の利きからよけることが非常に困難なことがある。危険にさらされているポーンを守る最も経済的な方法は別のポーンで守ることである。駒で守るのは守る役目を負わされた駒の動きが損なわれることになる。

 他のポーンで守れないポーンは疑念の目で見るべきである。つまり潜在的な弱点になるかもしれないのである。このような弱点の見本は孤立ポーンと出遅れポーンである。両隣の列の味方のポーンがなくなったポーンが「孤立」ポーンで、両隣の列の味方のポーンが進みすぎてそれらから守られなくなったポーンが「出遅れ」ポーンである。

 もちろん前の段落の説明はせいぜい役に立つ一般論である。孤立または出遅れポーンが本当に弱いかどうかは盤上の駒配置全体に依存している。本書の布局を読んだり並べたりしていくうちに孤立dポーンが強力な攻撃の道具になる局面の例に出くわすだろう(特にクイーン翼ギャンビット受諾で)。シチリア防御でも黒が早期に …e5 と突いて出遅れdポーンを甘受しながら白軍がこの欠陥につけ込む態勢にないために黒の指しやすい局面になるいくつかの戦型がある。しかしこれらは原則というより例外である。読者は次の顕著な例でポーンの弱点がどれほど深刻になる可能性があるか納得するはずである。

 図16(黒番)

 この局面は1925年バーデン=バーデンでのジョージ・トマス卿対アリョーヒン戦に現れた。目立つ特徴は白の二つのポーンの弱点、即ち孤立aポーンと出遅れcポーンである。これらは次々に白陣の全体的な崩壊につながった。白駒は守りの地点を占めるように強いられている。特に白のビショップは教会の大黒柱というより栄光あるポーンになっている。勝利への過程は手数がかかるが最終的な結果について何の疑いもないのは白が一度としてほんのわずかな活動の余地も許されなかったからである。図から試合は次のように決着がついた。1…Qd5 2.Qe3 Qb5 3.Qd2 Rd5 4.h3 e6 5.Re1 Qa4 6.Ra1 b5

7.Qd1 Rc4 8.Qb3 Rd6 9.Kh2 Ra6 10.Rff1 Be7 11.Kh1 Rcc6

(これは …Qc4、…Ra4 そして …Rca6 と駒を組み換える作戦である。その後は白のaポーンが守れなくなる。この狙いのため白はすぐにクイーン交換を強いられる)12.Rfb1 Bh4 13.Rf1 Qc4 14.Qxc4 Rxc4 15.a3 Be7 16.Rfb1 Bd6

17.g3 Kf8 18.Kg2 Ke7 19.Kf2 Kd7 20.Ke2 Kc6 21.Ra2 Rca4

22.Rba1 Kd5 23.Kd3 R6a5 24.Bc1 a6 25.Bb2 h5

(白のすべての駒が縛り付けられているのでキング翼に新たな弱点を作らせるのはたやすい。狙いは …h4 である)26.h4 f6 27.Bc1 e5

(白陣がついに崩壊する)28.fxe5 fxe5 29.Bb2 exd4 30.cxd4 b4 31.axb4 Rxa2 32.bxa5 Rxb2 白投了

 この実例はポーンの弱点が比較的長く持続することをよく説明している。即ちそういう弱点がいったん現れれば根絶することは難しいのである。図16で示された局面で黒はすぐに戦力を得する手段はないけれども決定的な優勢に立っている。白は弱いポーンを絶えず守る必要があるために完全な守勢に追い込まれ黒は意のままに態勢を強化することができる。

(この章続く)

2010年05月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: チェス布局の指し方

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