2017年11月の記事一覧

布局の探究(286)

「Chess Life」2002年1月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局(続き)

3)1.e4 e5 2.Bc4 Nf6! 3.d3 c6 4.Nf3 d5 5.Bb3(再掲)

A.5…Nbd7

 黒はeポーンをしっかり守ったが、クイーン翼ビショップの利きをふさぎdポーンの守りを邪魔している。コンケスト対シフエンテス戦(オロト、1994年)で白はこれに次のようにつけ込んだ。6.O-O Bd6 7.exd5! Nxd5(7…cxd5?! は 8.Nc3 で黒がd5の地点に問題を抱える)8.Nbd2 O-O 9.Re1 Re8 10.Ne4 Bf8 11.Bd2 b6?(シフエンテスによれば 11…h6 と守らなければいけなかった)12.d4! Bb7 13.c4 N5f6 14.Nxf6+ Qxf6 15.dxe5 Nxe5 16.Rxe5! Rxe5 17.Bc3 Bd6 18.c5! bxc5 19.Nxe5 Bxe5 20.Qd7 白の勝ちに終わった。

B.5…dxe4

 これはホンフィ対ルカーチュ戦(ハンガリー、1975年)のように 6.Ng5 Be6 7.Bxe6 fxe6 8.Nxe4! Nxe4 9.dxe4 Qxd1+ 10.Kxd1 で望んでもいない收局になる。黒は弱い孤立eポーンの代償が何もない。

C.5…a5

 カスパロフ対バレエフ戦(リナレス、1993年)で黒はこの手で白のキング翼ビショップが厄介なことになるだろうと考えたが、全然そんなことはなかった。6.Nc3! Bb4 7.a3 Bxc3+ 8.bxc3 Nbd7 9.exd5! Nxd5(カスパロフによれば 9…cxd5?! は 10.O-O O-O 11.Re1 でもっと悪い)10.O-O O-O 11.Re1 Re8 12.c4! Ne7 13.Ng5 h6 14.Ne4 a4 15.Ba2 c5 16.Nd6 Rf8 17.c3! Ng6 18.Bb1! Nf6 19.Nxc8 Qxc8 20.Qf3 双ビショップ、中央の地点の完全な支配、それに黒陣の本質的なすき間の多さのため白に通常の有利さがあった。カスパロフが34手で勝った。『チェス新報』第57巻第299局にカスパロフの詳細な解説が載っている。

D.5…Bb4+

 この手の意図は 6…d4 で 6.Nc3 を妨げることである。しかし 6.c3 でも 6.Bd2 でも白にとって役に立つ手で有効な1手である。好例はユダシン対アルテルマン戦(イスラエル、1994年)で、6.c3 Bd6 7.Bg5 Be6 8.Nbd2 Nbd7 9.d4! exd4 10.exd5! Bxd5 11.Bxd5 cxd5 12.Nxd4 と進んだ。黒の孤立ポーンのせいで白が楽に優勢になっている。GMユダシンがそのまま67手で勝った。『チェス新報』第62巻第332局にユダシンの解説が載っている。

E.5…Bd6

アダムズ対クラムニク(ティルブルフ、1998年)

 これが 4…d5 5.Bb3 の戦型で黒の人気断トツの作戦である。難なくeポーンを守りキャッスリングの用意をしている。

6.Nc3! dxe4

 気は進まないがそれでも最善手である。代わりに 6…d4?! は白のキング翼ビショップの斜筋を通し、黒のキング翼ビショップの可能性を削ぐ。6…Be6 も 7.Bg5 でd5の地点にすぐに圧力がかかるので望ましくない。

7.Ng5 O-O 8.Ncxe4 Nxe4 9.Nxe4 Bf5 10.Qf3 Bxe4

 戦略の理解が並外れているクラムニクは双ビショップをすぐに放棄してもささいな代価だと見通していた。実際ゲオルギエフ対アルテルマン戦(レックリングハウゼン、1998年)で白は 10…Bg6 11.h4! Bxe4 12.dxe4 Nd7 13.c3 Nc5 14.Bc2 でキング翼に有益な広さを得た。

11.dxe4 Nd7 12.c3 a5!

 GMアルテルマンによると本譜の手は 12…Nc5 13.Bc2 a5 の改良で、白が少し優勢である。

13.a4

 これでは黒がクイーン翼のポーンを動員することができる。だからすぐに 13.O-O!? の方が有望で、aポーンを気にする必要はなかった。

13…Nc5 14.Bc2 b5 15.O-O Qc7 16.Rd1 Rab8 17.axb5 cxb5 18.g3 b4 19.cxb4 Rxb4 20.Bd2 Rxb2 引き分け

 21.Bxa5 で確かに互角の形勢である。しかし注目すべきは後日クラムニクが 4…d5 の作戦を避けたことである。それが次局である。

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2017年11月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(285)

「Chess Life」2002年1月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局

 チェスの定跡はナイル川のように容赦なく進み、その跡には耕すべき畑が残される。チェスの永遠の原則に忠実である限り結果は実りあるものとなる。

 ビショップ布局(1.e4 e5 2.Bc4)は優に100年以上の歴史があるのに、この20年でやっとGMたちの高い信頼を勝ち得た。今回はこの一般に過小評価されている布局の基本原則を取り上げることにする。

1.e4 e5 2.Bc4

 初心者でさえ白の2手目の意味はすぐに理解することができる。キング翼ビショップが黒陣の最弱点であるf7の地点に狙いをつけている。

2…Nf6!

 好手記号を付けたのはまったく申し分のない手だからである。このナイトは最良の地点に位置してe4の地点に圧力をかけ、白クイーンがf3やh5の地点に来る可能性を妨害している。

 GMたちは対称形の 2…Bc5 を信頼してこなかった。というのは開放局面では相手より1手遅いということは常に危険だからである。白はアマチュアっぽい 3.Qh5 や 3.Qg4 でさえ好結果だった。

3.d3

 これが現代流の戦略である。白はキング翼ビショップとeポーンを守り、クイーン翼ビショップの斜筋を開けている。攻撃的な 3.d4!? のかなりの量の定跡が20世紀の前半から存在している。ほとんどの評価は白が捨てたポーンの代償を完全に得ることができないということである。

 本譜の手に対し布局定跡では黒の作戦として4とおり考えられている。

1)3…d5?! は開戦が早すぎる。ドルマートフ対チェーホフ戦(ソ連選手権戦、1981年)で黒は次のように報いを受けた。4.exd5 Nxd5 5.Nf3 Nc6 6.O-O Be7 7.Re1 Nb6 8.Bb3! Bg4!? 9.h3 Bh5 10.g4! Bg6 11.Nxe5 Nxe5 12.Rxe5 O-O そして実戦の 13.Nc3 でもGMチェーホフの指摘する 13.Nd2 でも黒はポーンの代償が十分でない。

2)3…Bc5 4.Nf3 d6 は対称形の穏やかな戦型で、白が通常のわずかな有利を保持している。5.c3 O-O 6.Bb3 Nbd7 7.h3 a6 8.Nbd2 Ba7 ここでボリス・ゲリファントは 9.Nf1! Nc5 10.Bc2 d5 11.Qe2 を推奨している。このあと白は g2-g4、Ng3 そして Bg5 で黒のキング翼に狙いをつける。

3)3…c6 4.Nf3 d5 5.Bb3

 表面的には黒陣はまったく順調のように見える。何といっても中央で優位に立っている。しかし別の面では中央がいくらか圧力を受け、白が展開で先行している。実際黒は極度に注意深くしなければならない。ここでは選択肢が5手ある。

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2017年11月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(284)

「Chess Life」2001年3月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6! 8.Be2! Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5(再掲)

11.O-O

 古きは新しきなり!この「自然な」手は1970年代と1980年代初めには普通だった。それが変わったのは1980年代のカルポフ対カスパロフの世界選手権戦で、両者により 11.b4!? が奥深く探求された。黒はすぐに 11…c5 と突いて有効な反撃をするのがより困難になると考えられていた。それにもかかわらず主流手順は長いこと 11…c5 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qc2 だった。カルポフ対カスパロフ戦(1984/85年、第39局)では 16…Rfd8 で白がわずかに優勢だった。カスパロフ対カルポフ戦(1984/85年、第42局)では 16…Rfc8 で黒が最終的に互角にした。

 それはともかく 11.O-O に戻る。この何の変哲もない佳手は新たな探求の展望を提供し続けている。

11…Qe7

 この手はどの点からも非がない。クイーンがe列を見張り、f8のルークのためにd8の地点を空けた。しかしのちにニコリッチ対ショート戦(ベイクアーンゼー、2000年)で黒は控えめな 11…c6 でも互角にした。12.Qc2 Re8 13.Rad1 Na6 14.Rfe1 g6 15.Bxa6 Bxa6 16.e4 Bg7 17.exd5 Rxe1+ 18.Rxe1 cxd5 19.Ne5 Bb7 20.Re3 Qc7

12.Qb3 Rd8 13.Rfd1 c6 14.Bf1

 この新手はピケット対ベリャフスキー戦(ブゴイノ、1999年)に初めて現れた。白はのちに中央で …c6-c5、…d5-d4 と突かれた場合の危険に備えてビショップを引っ込め、黒がクイーン翼で展開する作戦を待っている。ニコリッチ対ベリヤフスキー戦(レイキャビク、1991年)で白は 14.a4 と突いたがほとんど成果がなかった。

14…Na6

 これはショートの改良手である。上述のピケット対ベリャフスキー戦で黒は駒を有効に連係させることが全然できなかった。14…Bc8?! 15.g3! Bg4 16.Bg2 Nd7 17.Rac1 Rac8 18.Ne2! Nf8 19.h3 Bf5 20.Nf4 g6 21.Qa4! Bg7 22.b4! 黒陣に対する圧力が続いている。

15.Rd2

 この手と次の手はちぐはぐである。ピケットは 15.g3 Nc7 16.Bg2 Rab8 17.Rac1 Ne6 18.Rd2 のように展開することを示唆している。

15…Nc7 16.a4 Ne6

 ショートは 16…c5!? 17.dxc5 bxc5 18.Qxb7 Bxc3 19.bxc3 Rdb8 20.Qc6 Rb6 21.Qxa8+ Nxa8 22.Rxd5 Nc7 という戦術を指摘して、形勢不明としている。

17.a5

 白はこう突かなかった方が良かったと思う。この手はaポーンを弱め黒のクイーン翼を固めさせている。

17…b5 18.Qa2 a6 19.Rc1?

 これが敗着になった。ほぼ互角への最後の可能性は 19.Ne2! Rac8 20.Rc1 だった(ショート)。

19…c5!

 黒駒が急に元気いっぱいになった。20.g3 c4 ならまだしもだったが、白は水門を開けた。

20.dxc5? d4! 21.Nxd4 Bxd4! 22.exd4 Nxd4 23.Kh1

 白クイーンは傍観者になっているが、黒の4駒は白キングに狙いをつけている。ショートは鮮やかに締めくくった。

23…Nf3!! 24.Rxd8+

 ショートは『チェス新報』第77巻第444局で次のためになる手順をあげている。24.Rdd1 Qg5! 25.Ne2 Qh4! 26.gxf3 Qxf2 27.Bg2 Bxf3 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Kg1 Qxe2

24…Rxd8 25.c6 Bxc6 26.Ne2 Qh4! 27.gxf3 Qxf2 28.Nf4

 楽しい戦術の好きな人のためにショートは次の変化もあげている。28.Rxc6 Qxf1+ 29.Ng1 Rd1 30.Rg6 Qxf3+ 31.Rg2 Qe4! 32.b3 Rxg1+ 33.Kxg1 Qe1#

28…Bxf3+ 29.Bg2 Rd2 30.Rg1 Be4! 白投了

 次に 31…Qxf4 で黒の楽勝である。

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2017年11月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(283)

「Chess Life」2001年3月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6!(再掲)

クイーン翼ギャンビット拒否タルタコーベル戦法 [D58]
白 GMミゲル・イリェスカス
黒 GMナイジェル・ショート
パンプローナ、1999/2000年

8.Be2!

 経験という名の素晴らしいトレーナーのおかげで本譜の手が白に大人気の手になった。白は黒の次の手が 8…Bb7 であることを「知っている」ので、それに備えた。

 有力な変化を以下にあげる。

 1)8.cxd5 約50年間これが主流手順だった。その意図は黒のクイーン翼にすぐに圧力をかけることである。白の潜在力はフィッシャー対スパスキー戦(レイキャビク、1972年、24番勝負第6局)に顕著に表れている。8…Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Bb5 a6? 15.dxc5 bxc5 16.O-O Ra7 17.Be2 Nd7 18.Nd4! このあとフィッシャーが41手目で勝った。しかしその後まもなくGMゲレルが 14…Qb7! 15.dxc5 bxc5 16.Rxc5 Rxc5 17.Qxc5 Na6! で問題ないことを示した。

 2)8.Bd3 は白の展開が順調になる。しかしそれは黒も同じことである。最近の実戦例のシャバロフ対ベリャフスキー戦(ロサンゼルス、1999年)は 8…Bb7 9.O-O Nbd7 10.Bg3 c5 11.cxd5 Nxd5! 12.Rc1 N7f6! 13.Qe2 cxd4 14.exd4 Rc8 15.Ne5 Bb4! で互角だった(53手で黒の勝ち)。完全な棋譜は『チェス新報』第77巻第440局にGMベリャフスキーの解説付きで出ている。

 3)8.Qb3 はd5の地点に圧力をかけて良さそうに見える。しかしクイーンがb3に行くべきだと知っていると言うには早すぎることが分かってきた。黒は 8…Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 Re8 が堅実である。

 4)8.Rc1 はすぐにc列に圧力をかけることを目指している。しかし黒は好形なのでそれを十分無効にできる。例えばユスーポフ対カルポフ戦(ブゴイノ、1986年)は 8…Bb7 9.Be2 dxc4 10.Bxc4 Nbd7 11.O-O c5 12.Qe2 a6 13.a4 cxd4 14.Nxd4 Nc5 15.Rfd1 Qe8 16.Bg3 Nfe4 17.Nxe4 Nxe4 18.Be5 Bf6! と進んで互角だった。

 5)8.Bxf6 はGMビクトル・コルチノイの洗練された戦略構想で、白のナイトが黒のビショップより優位に立つ中央のポーン陣形を目指すものである。しかし1手早いということが分かっている。なぜなら 8…Bxf6 9.cxd5 exd5 10.Be2(10.Bd2 や 10.Bd3 もある)のあと黒は 10…Be6! と指すからである。定跡によればこの白枡ビショップはb7よりもe6の方がこれからよく働くことが明らかになっている。結果として黒は容易に互角にできる。

8…Bb7

 7…b6 の当然の継続手である。しかしここで白はコルチノイの構想を有利な状況で実行する。

9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5

 GMの試合ではこのようにポーンで取り返す手しか見たことがない。実際 10…Bxd5?! と取ると白は中央で大きく優位に立ち、黒は 7…b6 と突いてしまったせいでクイーン翼に弱点が残る。

 両者の戦略目標は次のようになる。

 1)は敏捷なナイト、ビショップ、それにクイーンがよってたかってd5の地点に圧力をかける。黒が …c7-c6 と突いて守ることを余儀なくされれば、白枡ビショップが閉じ込められクイーン翼にさらに弱点ができる。さらには中央で e3-e4 と突く仕掛けが白からの危険な攻撃の始まりになるかもしれない。

 2)は白の作戦を妨げることに努め、双ビショップと連係させていつか …c7(または …c6)-c5 突きで反撃する可能性に期待をかける。

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2017年11月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(282)

「Chess Life」2001年3月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御

 この連載の前篇ではクイーン翼ギャンビット受諾を論じた。今回は対極にあるクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御を取り上げる。この名前は100年以上もの歴史的起源に由来する。つまり最善手と見なされていたがゆえに「オーソドックス」なのである。

1.d4 d5 2.c4 e6

 これはどの点からも本手である。すなわち重要なd5の拠点を守りキング翼の展開を可能にしている。しかし黒にはよく起こることだが残念ながら欠点もある。それは白枡ビショップが閉じ込められることである。これに代わる有力な手はスラブ防御(2…c6)で、クイーン翼ビショップの斜筋を開けたままにするがキング翼の展開は遅れる。さらには白枡ビショップが代償なしに好所に展開するのはそもそも容易でない。

 上記の手順は「標準版」である。手順の科学では両者とも指し始めに融通性がある。例えば『チェス新報』第77巻(2000年発行)ではD58という戦型記号に5局の全棋譜が掲載され、そのどれもが 1.d4 d5 2.c4 e6! という手順で始まっていない

3.Nc3

 d5の地点に圧力をかけるこの本筋の展開の手は白の最強手と考えられるに違いない。しかし白はよく 1.Nf3 や 1.c4 と指したり2手目に Nf3 と指したりするので、g1のナイトがb1のナイトより先に展開される局面になることも多い。

3…Be7!

 GM間では現在のところこれがクイーン翼ギャンビット拒否(オーソドックス)に到達する唯一の正着だとみなされている。どこが洗練されているのかというと、3…Nf6 では 4.cxd5! exd5 5.Bg5! c6 6.Qc2 Be7 7.e3 Nbd7 8.Bd3 O-O 9.Nf3 Re8 10.O-O Nf8 で白にとってクイーン翼ギャンビット拒否交換戦法の望ましい版になるからである。このあとは 11.Rab1(少数派攻撃の準備)または 11.h3(…Bg4 の防ぎ)で白からの圧力が厄介なものとなる。

 本譜の手は 4.Bg5 を防ぎ、d5の地点を楽に守る手を稼ぐので交換戦法を骨抜きにすることになる。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6!

 ここでも手順のあやがある。GMたちは 5…O-O 6.e3 h6 よりもすぐにこう指すのを学んだ。その理由は 7.Bxf6 Bxf6 のあと …h7-h6 突きで黒の陣形がゆるんでいるので、白はクイーン翼にキャッスリングし黒のキング翼を攻撃する戦型を選ぶことができるからというものである。本譜の手のあとなら 6.Bxf6 にさほどの利点はない。なぜなら黒はまだキングがどちらに行くか明示していないからである。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6!

 容易に分かるように黒は白枡ビショップをうまく展開できれば、楽に調和のとれた防御態勢になる。それで1920年代初めにGMサベリ・タルタコーベルはこのビショップをフィアンケットする構想を思いついた。時がたちほかの戦型もいろいろ登場したが、これが現在のところGM間でゆうに90%以上を占めている。だから模範局としてこれを選んだ。

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2017年11月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(281)

「Chess Life」2000年12月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

D.1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6! 7.Bb3! Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1(再掲)

 だから明白な 10…O-O は必然として、当然の 11.a3 のあと黒には理にかなった手が2手ある。

 A)11…Na5 は白ビショップを追い払いa8-h1の斜筋を通そうとしている。12.Bc2 b5 13.d5! 白は黒の白枡ビショップの活動を防ぐために積極的に動く必要がある。黒がポーン捨てを受諾するのは危険である。13…exd5 14.Qd3(カスパロフ)も 13…Nxd5 14.Nxd5 exd5 15.Qd3! も白が黒のキング翼をにらみe列を制圧する。カスパロフ対イワンチュク戦(リナレス、1999年)では黒は 13…Nc4(『チェス新報』第75巻第359局を参照)と指し、クラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)では 13…Re8(同第75巻第360局を参照)と指した。どちらにしても黒は細心の注意を払って受ける必要がある。

 B.11…b5 はナイトを中央付近に置いたままにする。ツェサルスキー対ジルバーマン戦(テルアビブ、2000年)では 12.d5?! Nxd5 13.Nxd5 exd5 14.Bxd5 Bb7 と進んで黒が好調だった。ジルバーマンは代わりの 12.Qd3 Bb7 13.Bc2 g6 14.Bh6 Re8 15.Rad1 を推奨し「主導権がある」としている。

10…Na5

 次の世界チャンピオンになるクラムニクは『チェス新報』第76巻第370局でこの手に疑問手の記号を付けていた。正着でないことはそのとおりだが、次の手の方が重大な誤りだった。

11.Bc2 b5?

 いつものカルポフならこの手でキャッスリングをするところである。しかしここでは既存の定跡を信用して報いを受けた。

12.d5!

 これが誤りの証明である。先例の 12.a3 Bb7 13.Bg5 O-O と 12.a4 b4 13.Ne4 Bb7 14.Nc5 Bxc5 15.dxc5(フィリポフ対エストラーダ・ニエト、リナレス、1998年)では互角の形勢だった。

12…b4

 この手は食指が動かないが、クラムニクは 12…exd5 13.Bg5! でも 12…Nxd5 13.Nxd5 Qxd5 14.Bd2! でも白がはっきり優勢になると指摘している。

13.Ba4+ Kf8

 気が進まないのは 13…Bd7 14.dxe6 fxe6 15.Bxd7+ も同じで、黒はeポーンを失う羽目になる。本譜の手のあとクラムニクは黒キングの位置の悪さに巧妙につけ込んだ。

14.Bf4! bxc3

 14…exd5 なら 15.Ne2、14…Nh5 なら 15.Ne2! Qxd5 16.Bc7!(クラムニク)。

15.d6 Nd5

 黒はなんとか流れを変えようとしている。15…cxb2 は 16.dxe7+ Kxe7 17.Qc2 Bd7 18.Qxb2 Bxa4 19.Qa3+ で黒キングが薄すぎる(クラムニク)。

16.dxe7+ Qxe7 17.Be5 Bb7 18.bxc3 Rd8

 クラムニクによれば 18…Nc4 19.Qd4 Nxe5 20.Nxe5 Rd8 の方が黒の防御が少しだけ楽になる。

19.Nd4

 黒の負けが決まった。19…Nxc3 なら 20.Qg4! Rg8 21.Nxe6+ Qxe6 22.Qb4+ Qe7 23.Bxc3 で黒は受けなしになる(クラムニク)。

 終局までの手順は次のとおりである。

19…Nc4 20.Bxg7+! Kxg7 21.Nf5+ exf5 22.Rxe7 Nxe7 23.Qe2! Ng6 24.Qxc4 Rd2 25.Bb3 Bd5 26.Qxa6 Rd8 27.Bxd5 R8xd5 28.h3 Ne5 29.a4 f4 30.a5 f3 31.Qb7 fxg2 32.a6 黒投了

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カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(280)

「Chess Life」2000年12月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6!(再掲)

 A.7.dxc5 はまったく無害というわけではない。1992年のフィッシャー対スパスキーの番勝負でボリス・スパスキーは4局でこれを用いボビー・フィッシャーは互角にするのに苦労した。一例は第18局で、7…Qxd1 8.Rxd1 Bxc5 9.Nbd2 O-O 10.a3 b5 11.Be2 Bb7 12.b4 Be7 13.Bb2 Nbd7 14.Rac1 Rfc8 15.Nb3 Rxc1 16.Rxc1 Rc8 17.Rxc8+ Bxc8 18.Nfd4 Nb8 19.Bf3 Kf8 20.Na5 と進んで黒のクイーン翼の弱点のために白の優勢はわずかだが悩ましかった。

 B.7.a4 は1960年代と1970年代が絶頂期だったが、もちろん現在でも信奉者はいる。その意図は明らかで、…b5 突きを防ぐことである。もっとも代価も否定できず、1手損しクイーン翼が弱体化する。イフコフ対ゲオルギウ戦(ハンブルク、1965年)が典型的な手順で、7…Nc6 8.Qe2 cxd4 9.Rd1 Be7 10.exd4 O-O 11.Nc3 Nb4 12.Ne5 Bd7 13.Bf4 Be8 14.Bg5 Rc8 15.Bb3 Bc6 16.Nxc6 Rxc6 17.Bxf6 Bxf6 18.d5 exd5 19.Nxd5 Nxd5 20.Bxd5 Rd6 21.Bxb7 a5 で異色ビショップのため互角が確実なはずである。

 C.7.Qe2 はほんの数年前までよく指されていた。主手順は相当深く研究されている。最近のクラムニク対トパロフ戦(FIDE世界選手権戦、1999年)では新手が披露された。7…Nc6 8.Rd1 b5 9.d5!? exd5 10.Bxd5 Nxd5 11.e4 Bd6 12.exd5+ Ne7 13.a4 b4 14.Nbd2 O-O 15.Nc4 Re8 16.Bg5 a5 17.Re1 Ba6 18.Qe4 Bxc4 19.Qxc4 Qc7 20.Bxe7 Bxe7 ほぼ互角で早々と引き分けに終わった。

 D.7.Bb3! これが現在大流行していて、勝手に好手記号を付けておいた。この洗練された着想で白は黒の …b7-b5 で当たりのビショップを引く必要がない代わりにどのように応じるか決めることができる。例えばすぐに 7…b5 と突くのは 8.a4! b4 9.Nbd2 Bb7 10.e4! cxd4 11.e5 Nfd7 12.Nc4 Nc6 13.Bg5 Qc7 14.Rc1 Nc5 15.Ba2 Ne4 16.Bh4 g5 17.Bb1!(トレグボフ対ブリネル、ポーランド、1999年)でたぶん時機尚早である。黒は盤上のあちこちに弱点を抱え、展開で大きく遅れている。白が順当に31手で勝った。『チェス新報』第75巻第357局にトレグボフの分析があるので読んでみて欲しい。

 だから黒側の選手の大部分はまず展開に集中し …b7-b5 突きは遅らせるようになった。クラムニク対カルポフ戦(フランクフルト、1999年)は次のように進んだ。

7…Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1

 黒はここで注意がいる。何といっても白は展開に優り、中央で優位に立ち、e1のルークは d4-d5 突きを支援する位置にある。黒はキングがまだ中央列にいるのできわめて危険な状況である。

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2017年11月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(279)

「Chess Life」2000年12月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3(再掲)

3…Nf6

 白にとってとまったく同様に黒にとっても言うところのない手である。ほとんどの場合 3…a6 とすぐにクイーン翼で動いていっても本手順に合流するだけである。ほかの手も大したことはない。

 しかし黒にとってしてはならないことは欲張って 3…b5?! とポーンにしがみつこうとすることである。それは 4.a4! c6 5.e3! Qb6 6.axb5! cxb5 7.Ne5!(7.b3! cxb3 8.Qxb3 でもよく、ポーンを取り返しながら中央が絶好形になる)7…Bb7 8.b3! cxb3 9.Qxb3 で成立しない。黒はbポーンを失い展開と中央で劣勢に苦しむ、とはGMタイマノフの分析である。

4.e3

 これでやすやすとポーンを取り返すことができる。攻撃好きなら 4.Nc3 でそれ以上を目指すことができ、4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 でポーンの犠牲を策する。これはビクトル・コルチノイらが時折好んでいた。そのあとの局面はすぐに険しい乱戦になる。

 しかし 4.Nc3 をもくろむなら黒が裏をかく可能性を知っておかなければならない。つまり 4…c6 で局面はスラブ防御に変化する(1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4)。白はこれに備えておくべきである。

4…e6

 わたしはこの手からの戦型の方が黒に取って有望であるとみている。4…Bg4 と白枡ビショップの展開を図る方が魅力的に見えるかもしれないが、実際のところは黒の反撃の可能性は乏しく、中央での劣勢は長く続く。

5.Bxc4 c5!

 この手で黒の中央での反攻が始まる。これに対し白はキャッスリングでキング翼の展開を完了するのが良い。

6.O-O a6!

 クギャ拒否における黒の見通しはこの手にかかっている。好機に …b7-b5 と突いたあとはすぐに …Bb7 と構えるかもしれない。チェス布局大成D(1998年)では白の応手を8手考慮しているが、そのうちの4手は取るに足りないように思われるので無視する。残りのうち3手は簡単に取り上げ最後の1手は完全な棋譜を載せる。

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2017年11月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(278)

「Chess Life」2000年12月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か

 真の2大古典布局といえば開放試合の熱愛者のルイロペスと閉鎖的な局面の方を好む者たちのクイーン翼ギャンビットである。どちらも100年以上もの間時の試練に耐えてきた。

 今回と次回はクイーン翼ギャンビットの正反対の受諾と拒否オーソドックス防御を簡潔に見ていくことにする。「クイーン翼ギャンビット」という名称は誤称である。というのは本物のギャンビットではないからである。すなわち黒は「捨てられた」ポーンにしがみつくことはできない。

クイーン翼ギャンビット受諾

 次が通常の手順である。

1.d4 d5 2.c4 dxc4

 1…d5 で両者ともdポーンを2枡突いて強力な中央を目指しているように見える。しかし白が黒のdポーンを攻撃し始めるやいなや、黒は「ちぇっ、わざわざこれを守る気など起こらない、白のcポーンと交換してやる」ことに決める。

 黒の作戦の劇的な変更は二つの重大な結果をひき起こす。

 1.自分の第一級の中央ポーンを白の準中央ポーンと交換することにより黒は恒久的に中央が劣勢になった。布局と中盤戦初めでは盤上の最も重要な個所は中央なので、白はしばらくは通常の有利さを期待することができる。

 2.黒はクイーン翼で反撃を模索しなければならない。これにはクイーン翼のポーンを動員する必要がある。

3.Nf3

 1970年代中頃までこの自然な本手が唯一の正着とみなされていた。その論理は …e7-e5 突きによる中央での反撃を防いでいるからというものであった。それまでは 3.e4 と 3.e3 は劣った手と考えられていた。というのは 3…e5 のあと 4.dxe5 と取る手が白に何ももたらさないからである。ところが今では 3.e3 e5 4.Bxc4! でも 3.e4 e5 4.Nf3! でも白が通常の優勢を得る可能性があると分かってきた。

 それでも 3.Nf3 は実際に完全無欠の手で、最も人気のある手であり続けている。

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