2017年10月の記事一覧

布局の探究(277)

「Chess Life」2000年10月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

4)6…Bf5 7.e3 e6 (D13)

 歴史的にはこれが主手順だが、黒が引き分けるために大変苦労するのでほとんど人気がなくなった。しかし白が安易に考えて指せば大きな失望を味わうだろう。

4a)8.Bd3??!
スケンブリス対トーレ(ルツェルン・オリンピアード、1982年)D14

 本局の時点でスケンブリスはまだIMだった。そしてオリンピアードでギリシャチームの主将として指していた。世界級のグランドマスターと引き分けになれば大満足と言えた。しかし何が起こったと思う?

8…Bxd3 9.Qxd3 Be7 10.h3?! O-O 11.O-O Nd7!

 黒は優良ビショップを保持していて、白が 10.h3?! で手損をしたのに乗じてf6のナイトをクイーン翼で使うために移動させた。

12.Rac1 Nb6 13.Qe2?! Rc8 14.Ne5?! Nxe5 15.Bxe5 Nc4 16.Bf4 Qa5

 白はさらに手損を重ねた。そして黒はクイーン翼で明らかに主導権を握っている。

17.b3 Ba3! 18.Rc2 Nb6 19.Nb1 Rxc2 20.Qxc2 Rc8 21.Qe2 Bb4 22.Qb2 Qa6! 23.a3 Bf8 24.Rc1 Qd3! 25.Rxc8 Nxc8 26.Nd2 Nd6 27.a4?!

 黒の駒は盤上を席巻している。白にために推奨するような良い手は何もない。それでも「不良」ビショップを黒のナイトと交換するのは絶対手だった。

27…Nf5 28.Nf3 Qd1+ 29.Kh2 Bb4 30.Ng1 a6! 31.g4 Ne7 32.Ne2 Bd2! 33.Ng1 Nc6 34.Bc7 Nb4 35.Ba5 Nc2! 36.Bxd2 Qxd2 37.Kg3 Nxe3 38.Qa3 Nd1 39.Nf3 Qxf2+ 40.Kf4 g5+ 白投了

4b)8.Qb3
セイラワン対ノゲイラス(バルセロナ、1989年)D14

 この手と 8.Bb5 が黒に取って最も厄介な手である。セイラワンは本譜の手を危険だが厳密には戦略的な武器に育て上げた。私は精神的に交換戦法に最も近いと思っている。8…Qb6 は 9.Qxb6 axb6 10.a3 で黒に孤立二重bポーンの代償が何もないので黒の応手は基本的に決まっている。

8…Bb4 9.Bb5 Qe7

 すぐに 9…O-O 10.O-O Bxc3 11.Qxc3 Rc8 と指す方がわずかに良いが、それでも黒は互角とは程遠い。

10.Ne5! Rc8 11.Nxc6 bxc6 12.Ba6 Rd8 13.a3 Bd6 14.Qb7! Qxb7 15.Bxb7 Kd7 16.Ba6! Bxf4 17.exf4 Kd6 18.b4 h6 19.h4

 白は黒枡で大きく締め付け(c5とe5の地点が最も重要)、ビショップの働きに優り、c6の地点を標的にする可能性がある。セイラワンによると黒はここで 19…g5! と突いて黒枡での締め付けの一部を食い破る必要がある。もちろん白の優勢は明らかなままであるが。実戦では黒は盤上至る所で一方的に押しつぶされた。みごとな「どのように」は次のように行われた。

19…Rb8?! 20.Rc1 Rb6 21.Be2 Ra8 22.Na4 Rbb8 23.Ba6! Nd7 24.Kd2 Nb6 25.Nb2 Nd7 26.Na4 Nb6 27.Nc5 Nc4+!? 28.Bxc4 dxc4 29.Rxc4 a5 30.bxa5 Rb2+ 31.Ke3 Rxa5 32.Ra1 Kd5 33.Rc3 f6 34.a4 Rb4 35.f3! h5 36.Rac1 Kd6 37.Rg1 Ra7 38.g4 hxg4 39.fxg4 Bh7 40.h5 Rb2 41.Kf3! Rh2 42.Re3 Bg8 43.Ne4+ Kc7 44.Nf2! Rxa4 45.Kg3 Rxf2 46.Kxf2 Rxd4 47.Kg3 Kd6 48.Ra1! 黒投了

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2017年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(276)

「Chess Life」2000年10月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

1)6…e6 (D13)

 重要で堅固な戦型だがとても魅力的とは言えない。黒は「何もかも」安全に守ったが、自分の白枡ビショップを死蔵し白の白枡ビショップには絶好の利き筋を与える犠牲を払っている。私の見立てでは黒は互角に到達するために非常に注意深く根気強い防御者でなければならない。

7.e3 Be7!

 中央のポーン陣形から白の優良ビショップは白枡ビショップになり黒は黒枡ビショップになる。これは中央のポーンと同じ色のビショップは良さそうに見えて実際はほとんどすることがないというように動ける可能性がひどく制限されるからである。だから通常の状況ではどちらも「優良」ビショップを残したがる。

8.Bd3 O-O 9.h3 Bd7 10.O-O Qb6 11.a3!

 この手は 11…Qxb2?? を 12.Na4 によって防ぎb4の地点に利かしている。黒の見通しは芳しくない。クリンガー対スミスロフ戦(パルマ・デ・マヨルカ、1989年)でオーストリアの若いGMは優勢から勝ちきるのに何の困難もなかった。クリンガーは『チェス新報』第48巻第498局で本局を解説しているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

11…Rfc8 12.Qe2 Be8 13.Rac1 Na5 14.Rc2 Qd8?! 15.Nd2 Nc6 16.Rfc1 h6 17.b4 a5 18.b5 Na7 19.Ndb1! b6 20.a4 Bd6 21.Qf3 Rab8 22.Nd2! Bxf4 23.Qxf4 Rb7 24.g4! Nh7 25.Nf3 Ng5 26.Nxg5 hxg5?! 27.Qe5 Bd7 28.e4! f6 29.Qd6 dxe4 30.Bxe4 Rbb8 31.d5 e5 32.Nd1 Rxc2 33.Rxc2 Rc8 34.Ne3 Rxc2 35.Bxc2 Nc8 36.Qb8 Qf8 37.Bf5 Qe8 38.Qc7! 黒投了

2)6…a6
ミロフ対M.グレビッチ(ポラニツァ・ズドルイ、1999年)D14

 理にかなった予防の手。すぐの 6.Bg5 の戦型で白の白枡ビショップはb5の地点が最良なので、黒はその可能性を閉ざしたが、1手の犠牲も大きい。

7.Rc1 Bf5 8.e3 Rc8 9.Be2!

 キング翼ビショップは展開する必要があるがc4、b5そしてa6には行けない。一方 9.Bd3 は優良ビショップを黒の不良ビショップと交換してしまう。だから控えめの本譜の手が正着となる。

9…e6 10.O-O Bd6

 6…a6 に1手かけたので黒は普通なら良い手の 10…Be7 を避けて、本手の戦略的に少し劣る局面を選んだ。

11.Bxd6 Qxd6 12.Na4

 GMミハイル・グレビッチは本局を解説した『チェス新報』第76巻第347局で次の本筋を指摘している。12.Qb3 Rc7 13.Na4 Nd7 14.Nc5 Nxc5 15.Rxc5 Bg4 16.Rfc1 O-O 17.Qb6 Bxf3 18.Bxf3 Rd7 19.Bd1! c列での圧力のために白には通常の優勢が保証されている。早い …a6 突きで黒のクイーン翼の黒枡が弱体化していることにも注意が必要である。

12…O-O 13.Nc5 Rc7 14.Qb3 Qe7

 黒は円滑にb7の地点を守り、中央での反撃の用意をした。グレビッチ(FIDE2543!)は並外れた正確さで最終的に互角にすることができた。

15.Rc3 Bg4 16.h3 Bxf3 17.Bxf3 e5! 18.Qa4 exd4 19.exd4 Na7! 20.Re3 Qd6 21.Qd1 Nc6 22.Rc3 Rfc8 23.Bg4 Nxg4 24.Qxg4 h5! 25.Qxh5 Nxd4 26.Rd1! Rxc5 27.Rxd4 Rxc3 28.bxc3 Rxc3 29.g3 g6! 30.Qxd5 Qxd5 引き分け

3)6…Ne4
ツェイトリン対ウェルズ(パッサウ、1998年)D13

 これが黒の断然野心的な手法である。黒は対称な戦型で既に1手遅れであるけれども同じ駒を二度動かすことにした。

7.e3!

 本手の展開がチェスの風船を破裂させる手段である。7.Nd2?! が気になるがブラト二―対ローティエ(オーストリア、1999年)戦では 7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.e4 dxe4 10.Nxe4 Bg7 11.Qd2 Qd5! でさっそく黒が優勢になった。

7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.Bb5! Bg7

 黒は 9…Qa5 でも 9…Bd7 でも 10.Qb3! と応じられるのでクイーン翼のポーン陣形の弱体化はやむを得ない。

10.Ne5 Bd7 11.Bxc6! Bxc6 12.Nxc6 bxc6 13.O-O Qa5 14.Qb3 O-O 15.Rfc1 Rfe8 16.Rab1

 白駒はクイーン翼を支配している。中央で動く黒の試みはやぶへびになるが、満足な作戦は存在しない。全容にわたる分析は『チェス新報』第72巻第346局のツェイトリンの解説を参照して欲しい。形勢判断記号をいくつか付けて終局までの手順を示す。

16…e5 17.dxe5 Bxe5 18.Bxe5 Rxe5 19.Qb7 Rae8 20.Qxc6 Qxa2 21.Ra1! Qb2 22.Rd1 Qe2 23.h3 R8e6 24.Qa8+ Re8 25.Qxa7 Rg5 26.Qd7! Ree5 27.Rd4! Ref5 28.Rf4 Kg7 29.Qa7 h5 30.Qd4+ Kh7 31.Ra8 Qe1+ 32.Kh2 黒投了

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2017年10月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(275)

「Chess Life」2000年10月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?

 1994年9月号の本稿ではフランス防御の交換戦法における白の可能性を論じた。dポーン布局の選手のために同様のことをするのが公平かもしれない。選んだのはスラブ防御交換戦法 D13・D14である。

 これが始まりの局面である。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5

 中央でポーンが交換されて対称な局面になった結果、白の優位は手番であることだけである。スラブ防御交換戦法を指すことをもくろんでいる人のために次の忠告をつけ加えておきたい。

 (a)それを目指すなら手順をもてあそばないですぐに 3.cxd5 と指すこと。

 もし白がこの交換を遅らせ少し後で交換スラブの良型版になれることを希望または期待して 3.Nc3 や 3.Nf3 と指すと、黒はどちらの場合も 3…dxc4 でそれを挫折させることができる。これらの戦型はかなり複雑で、不用意な白は容易に困難に陥ってしまうことがある。

 (b)確実に引き分けにする目的で交換戦法を指さないこと。

 黒陣は展開の容易さとポーン陣形の良形の観点から欠点がないので、白のどんな日和見的指し方も容易に黒に主導権が渡る可能性がある。(1994年9月号の本稿で同様のことを指摘した。)

 主手順はたいてい次のように進む。

4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4

 白陣には実にほれぼれとしてしまう。しっかりした中央、最良の地点の両ナイト、素通し斜筋上の黒枡ビショップ。もちろん黒にも潜在的に同じ可能性がある!

 従来黒が好んでいたのは 6…Bf5 だった。しかし互角への黒の道筋は骨の折れるものだった。そこで近年対称形を崩す試みがいろいろと模索された。最初に重要な変化を三つ考察し、そのあと 6…Bf5 を分析する。

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2017年10月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(274)

「Chess Life」2000年8月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性(続き)

イギリス布局 [A25]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMプレドラグ・ニコリッチ
ベイクアーンゼー、1995年

1.c4 e5 2.g3 Nc6 3.Bg2 g6 4.e3 Bg7 5.Ne2 d6 6.Nbc3

 陣形の観点からはこの布局は逆閉鎖シチリア防御とみなすことができる。しかし布局での1手の差は大きな意味を持ち、単にイギリス布局と呼ぶのが最も正確である。ここで黒には 6…Nge7 や 6…f5 などいくつかの選択肢がある。しかしよく見かけるのは大胆な 6…h5!? である。

 どうしてか。結局のところ白陣はかなり迫力に欠けるのだから、どうして黒は攻勢をかける側に立ってはいけないのか。いや、黒はそうできる。それでも白は理にかなった布局の原則に沿って指してきたので、恐れる客観的な理由は何もない。実際白は安全に 7.h4 と応じることができ、通常のわずかな布局の有利を期待することができる。しかし白は「側面攻撃には中央での反撃が最良の策」という周知の原則に従うこともできる。そして選んだ手は…

7.d4! exd4

 黒はすぐに 7…h4 と突くこともできるが、白は 8.d5 と陣地を広げて通常の有利さを確保することができる。

8.exd4

 中央に向かって取り返すのが本手だが、8.Nxd4 でも良いかもしれない。このような戦型のどれでも互角にしたことを証明しなければならないのは黒である。

8…h4 9.Be3 Kf8 10.Qd2 Bf5

 本譜の手はセイラワンが『チェス新報』第62巻第21局の自戦解説で指摘しているように黒のキング翼ナイトから通常の地点(10…Nge7 から 11…Nf5)を奪っている。白はキングが容易にクイーン翼に安全な所を見つけることができるので、明らかにキング翼での安全を気にする必要はない。

11.Nf4 Qd7 12.O-O-O Re8 13.f3! g5?!

 白は好手で有利が広がった。展開に優り、中央で有利な態勢で、決定的な 14.g4 突きの狙いさえある。セイラワンは 13…hxg3 14.hxg3 Rxh1 が黒の最善の受けだと考えている。それでももちろん 15.Bxh1 で白の優勢は明らかである。

 代わりに黒はキング翼を弱めて形勢を悪化させた。

14.Nfd5 Na5 15.b3 c6 16.Nb4 hxg3 17.hxg3 Rxh1 18.Rxh1

 黒のhポーンの単騎出撃がやぶへびだったことにはほとんど疑いがない。白は盤上至る所で大いに優勢である。それでも局面はかなり閉鎖的なままで黒に迫るのはそれほど容易でない。以降の指し手は本題と特に関係ないので、いくつかの形勢判断記号を付けるにとどめることにする。セイラワンのすぐれた分析が『チェス新報』第62巻第21局に載っているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…f6 19.g4 Bg6 20.Bf1 d5! 21.c5 b6 22.Bd3 Ne7 23.Nc2 Kf7 24.Ne2! Rh8 25.Rxh8 Bxh8 26.Ng3 Bg7 27.Bxg6+ Nxg6 28.Nf5 Nb7 29.Qh2 Ne7 30.Qb8?! Nxf5 31.gxf5 Bf8 32.b4 Be7 33.Bf2 b5 34.Bg3 a5 35.Bc7 axb4? 36.Qxb7 Bd8 37.Nxb4 Bxc7 38.Kb2 Qe7 39.Qxc6 Ba5 40.Qxd5+ Kg7 41.Nc2 黒投了

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2017年10月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(273)

「Chess Life」2000年8月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性

 hポーンの戦略上の重要性は閉鎖布局に最もよく現れる。目的はキングを脅かすことよりも、陣地を広げること、および/または要所を支配することである。イギリス布局は中央が中心舞台でなく本質的に側面布局なのでhポーン気違いのお気に入りである。そこで二つの重要な戦型を選んでみた。見られるとおりここでも「hポーン」は弱点となる可能性のある攻撃先が必要である。それはg6やg3の地点である。

イギリス布局 [A16]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ベイクアーンゼー、1983年

1.c4 Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.g3 g6 5.Bg2 Nb6

 白の5手目の後は擬似グリューンフェルト防御の状況になっていて、黒のd5のナイトはb6に後退するかc3で交換するかを選ばなければならない。どちらも主流手順と考えられる。5…Nxc3 6.bxc3 Bg7 でも白は 7.h4!? と突いていける。

6.h4!? h6

 この応手は戦略的に正しい。白は 7.h5 と突かせてくれるのなら黒のキング翼をひどく制限することになる。一方「自動的な」6…h5 はg5の地点が恒久的な弱点として残ることになる。本譜の手のあと 7.h5 は 7…g5 と軽く受け流せる。

7.d3 Bg7

 マルサレク対サボン戦(ワルシャワ、1969年)に関連してGMエドゥワルド・グフェルトは 7…Nc6 8.h5 g5 9.f4 gxf4 10.gxf4 Rg8 を指摘し「形勢不明」とした。

8.Be3 N8d7 9.a4!?

 この攻撃的なポーン突きは当時の新手だった。セイラワンはクイーン翼で盛り上がりたがっているが、代償はb4の地点の弱体化である。以前は 9.Nf3 が指された。コルチノイは 9…a5?! でクイーン翼に根本的な弱点を作るよりも中央に目を向けた。

9…Nf6! 10.a5 Nbd5 11.Bd4!?

 白はポーン陣形をいくらか犠牲にして意欲的なやり方を続け、クイーン翼で主導権を持てるような收局を選んだ。11.Bd2 なら通常の中盤戦になりたぶん白がわずかに優勢だっただろう。

11…Nf4! 12.gxf4 Qxd4 13.Qa4+ Qxa4 14.Rxa4 Rb8 15.Nf3 O-O 16.O-O Be6 17.d4 c6

 堅実が黒に取って適切である。『チェス新報』第35巻第18局で本局を解説したGMマタノビッチは、17…Rfc8 18.Ne5 c5?! で反撃に努めるのは 19.d5 Bd7 20.Rc4 で白が優勢になると指摘している。

18.e3 Rfc8

 局面は動的に均衡がとれていて、白は広さの優位が陣形の不利を補っている。特に白のhポーンは慢性的な弱点になっている。両選手とも偉大な戦士で、最後は若い方が勝った。主にマタノビッチの解説に基づいた形勢記号を付けて終局までの手順を示す。

19.b4?! Bd7?! 20.Ne5 Be8 21.Ra2 e6 22.Ne4 Nxe4 23.Bxe4 Bf8 24.Rb1 Be7 25.Nf3 Rc7 26.Kg2 a6 27.Kg3 b6 28.Ne5 Kg7 29.Nd3 Bd6 30.Kg2! f6? 31.Rba1 bxa5 32.Rxa5 Bxb4 33.Rxa6 Be7 34.Kg3 Rb3 35.Ra7 Rxa7 36.Rxa7 Kf8 37.Ra8 Kf7 38.h5 gxh5 39.Bf3 Rb5?? 40.Rxe8! 黒投了

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カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(272)

「Chess Life」2000年8月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン

 20年以上前デンマークのGMベント・ラーセンはシドニー・フリードのRHM出版から「hポーンの戦術的戦略的重要性」という題名の本を出版する予定だった。この本は実際には書かれることがなかったし、私もラーセンが収集したに違いない膨大な調査の情報を持ち合わせていない。それでもこの表題は重要であり、本稿で簡潔に取り上げるのにふさわしい。実戦ではhポーンはキングがキャッスリングしていようとまだ中央列に踏みとどまっていようとキングへの近さゆえにはるかに重要性を帯びている。

戦術上の重要性

 早い戦術が意味を持つにはhポーンに攻撃目標が必要で、黒が 1.e4 への防御として 1…g6 を採用した場合が重要である。

現代防御 B06

1.e4 g6 2.d4

 「血気にはやる」攻撃好きならすぐに 2.h4 と指すことができる。それに対して黒には理にかなった応手が二つある。

 1)2…h5 は 3.h5 を防いでいるがキング翼を恒久的に弱めている犠牲を払っている。リーゴ対クリスティアンセン戦(ハンガリー、1985年)では白は次の手から猛攻をかけた。3.Bc4 Nf6 4.Nc3 c6 5.e5 d5 6.exf6 dxc4 7.Qe2 Be6 8.Nh3! exf6 9.Nf4 Qd6 10.d3! cxd3 11.Nxd3 Be7 12.Ne4 Qd8 13.Nf4 O-O?! 14.Nxe6 fxe6 15.g4! そして次のように締めくくった。15…hxg4 16.Qxg4 Qa5+ 17.Bd2 Qf5 18.Qg2 Qh5 19.f3 Nd7 20.O-O-O Ne5 21.Rh3 Rad8 22.Rg1 Kg7 23.Rg3 Rxd2 24.Qxd2 Nxf3 25.Rxg6+ Kh7 26.Nxf6+! Bxf6 27.Qd7+ Kh8 28.Rxf6 黒投了 IMチェルナが『チェス新報』第40巻第144局でこの試合を詳しく解説している。

 2)2…d5! は本筋に思われる。白は展開を無視して攻撃にはやったので、中央での反撃が主眼の対処法になるからである。参考になる前例は2局ある。(a)3.h5? は的外れである。ホンフィ対バダース戦(ブダペスト、1976年)で白は何の見返りもなくポーン損のままだった。3…dxe4 4.hxg6 fxg6 5.Nc3 Nf6 6.Nh3 Nc6 7.Ng5 Bf5 8.Bb5 Bg7(b)3.exd5 Qxd5 4.Nc3 Qa5 5.h5 Bg7 6.Bc4 Nc6 ここまではデイビーズ対ズィスク戦(ブダペスト、1987年)で、『チェス新報』第43巻第141局ではここで 7.Nge2 が推奨され「形勢不明」と判断されている。そのとおりだが、実戦では白が銃剣攻撃を貫徹した。

2…Bg7

 黒が白の早い h2-h4 突きの厳しさの可能性を 2…d6 によって和らげるには(3.h4 Nf6)、「真正現代防御」の 1…g6 から 2…Bg7 という手順の最大の融通性を犠牲にすることによってのみ可能である。

3.h4!?

 私の考えではもし白が早く h2-h4 と突くつもりなら、ここがちょうど良い機会である。というのはe4とd4の並びは白にまっとうな展開を保証し、白には黒の手に対処する良い選択肢があるからである。4.h5 は本物の「狙い」で、黒の理にかなった応手は三通りある。

 1)3…c5 4.d5 h5 5.d6!?(5.Nh3 か 5.Nf3 なら普通である)5…Nf6 6.Nc3 O-O 7.Nh3 Nc6 8.Ng5 b6 9.f3 Bb7 10.Be3 Nd4! 11.Nb5 Nxb5 12.Bxb5 a6 これはムラトフ対ラズバエフ戦(ソ連、1978年)で、チェス布局大成B(1984年)では互角となっている。

 2)3…d54.e5 および 4.exd5 Qxd5 5.Be3 または 5.c3 となるが実戦での検証が必要である。

 3)3…h5 4.Bg5 d6 はホルト対キーン戦(レイキャビク、1972年)に移行する。黒はキング翼の弱さのためにずっと苦戦を強いられた。5.c3 d5 6.Nd2 dxe4 7.Nxe4 Nf6 8.Nxf6+ exf6 9.Be3 O-O 10.Bd3 Nc6 11.Ne2 Ne7 12.Qd2 Bf5 13.Bc4 Be4 14.f3 Bc6 15.Bh6 Re8 16.Kf2! Nf5 17.Bf4 GMホルトは54手で勝ちをもぎ取り、『チェス新報』第13巻第159局で詳細に解説している。

 結論 このような早いhポーン突きは私の趣味に合わないが、速攻が好きで膨大な研究をいとわない人にとっては指せる戦法である。

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カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(271)

「Chess Life」2000年6月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

総攻撃を見据えて
クイーン翼ギャンビット受諾 [D20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMビシュワーナターン・アーナンド
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4

 ずいぶん前は(20年!)この手は黒の応手のために布局の悪手だと考えられていた。そして正着は 3…e5 を防ぐ 3.Nf3 だけだとされていた。現在は白が長期のポーンの犠牲を覚悟している限り問題ないことが知られている。カスパロフにとっては全然問題ない。

3…e5 4.Nf3 exd4 5.Bxc4 Nc6 6.O-O Be6 7.Bb5 Bc5 8.Nbd2 Qd6!? 9.e5 Qd5 10.Ng5 O-O-O 11.Bc4 Qd7

 カスパロフは 11…Qxe5!? は 12.Nxe6 fxe6 13.Re1 Qf6 14.Ne4 Qf8 で形勢不明になると解説している。アーナンドは「安全」な本譜を選んだが、このあと分かるように黒にとっては全然安全でない。

12.Nxe6 fxe6

13.b4!!

 当然だ。黒キングはクイーン翼にいるのに、なぜそちらでまたポーンをくれてやって素通し列を作るのか?カスパロフは 13…Bxb4 なら 14.Qb3 Re8 15.Rb1 b6 16.Ne4 で黒が危険になると分析している。たぶんGMエリズバル・ウリラーバの指摘するように 13…Bb6?! 14.a4 d3! で列を閉鎖しておくのが取るべき策だった。

13…Nxb4 14.Qb3 Nd5 15.Ne4 Bb6 16.a4 a5 17.Nd6+! Kb8 18.Bxd5 exd5 19.Bd2!

 この手は 20.Bxa5 を狙っている。だから黒はナイトを取って運を天に任せた。

19…cxd6 20.Qxb6 dxe5 21.f4!!

 黒はポーン得だが、カスパロフは断固として盤面全体で黒陣の切り崩しを続ける。

21…Nf6 22.fxe5 Ne4 23.Bxa5

23…d3!

 ここは勝負所である。カスパロフは 24.Qd4! のあとの詳細極まる分析を示し、両者が最善を尽くせば白が勝つとしている。この分析やほかの参考になる多くの変化については『チェス新報』第75巻第348局を参照して欲しい。時間切迫から(ここでは無理からぬことだが)カスパロフは別の手を選びアーナンドは引き分けに逃げることができた。

24.e6?! Qd6 25.Qxd6+ Rxd6 26.e7 Rf6! 27.Rxf6 Nxf6 28.Rd1 Re8 29.Bb4 引き分け

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2017年10月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(270)

「Chess Life」2000年6月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

乱戦を目指す
ぺトロフ防御 [C42]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMアレクセイ・シロフ
リナレス、2000年

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Bd6

 このマーシャル戦法はかつては廃れていたが、主要な手順が戦略的に深く理解されたことに助長されて1980年代の中頃に復活した。今ではぺトロフ防御の主流手順の一部になっている。14手目までは比較的すらすらと進む。

7.O-O O-O 8.c4 c6 9.cxd5 cxd5 10.Nc3 Nxc3 11.bxc3 Bg4 12.Rb1 Nd7 13.h3 Bh5 14.Rb5 Nb6

15.c4!?

 15.a4 のようなお決まりの手順なら黒は 15…a6 16.Rb1 Rb8 でクイーン翼を安泰にすることができ堅陣になる。だからカスパロフは積極的な本譜の手で打って出た。乱戦にはなるがかなり深く研究されていて、シロフの応手は問題がない。黒の手は決まっている。

15…Bxf3 16.Qxf3 dxc4 17.Bc2 Qd7 18.a4 g6! 19.Bd2!

 白はキング翼とb列のポーンに対して攻撃の見通しがある。この試合は第1回戦で指された。第3回戦でアーナンドはシロフに対し 19.Be3 と変化したが、シロフは用意ができていて 19…Rac8 20.Rfb1 c3! 21.a5 Nc4 で互角にした。その試合は黒のシロフが結局41手で勝った。

19…c3!

 この手には筋が通っている。つまり自分の強みとなっているもの(cポーン!)を利用してすぐに素通しとなるc列で反撃を目指すということである。以降の手順には両GMの好調さが表れている。

20.Bxc3 Rac8 21.Be4 Rc4 22.Rbb1 Rxa4 23.Bxb7 Ra3! 24.Rfc1 Qc7 25.Ra1 Rb8 26.Be4 Rb3 27.Bd2 Bh2+ 28.Kh1 Rxf3 29.Rxc7 Rxf2 30.Kxh2 Rxd2 31.Raxa7 Nc8??

 不運にもこの手にはひどい見損じがあった。31…Rxd4! 32.Rxf7 Rxe4 33.Rg7+ なら白はチェックの千日手にするしかなかった。実戦は黒がナイトを失い負けた。

32.Rab7 Rxb7 33.Rxc8+ Kg7 34.Bxb7 Rxd4 35.g4! h5 36.g5! h4 37.Rc7 Rf4 38.Bc8 Rf2+ 39.Kg1 Rf4 40.Kg2 Kf8 41.Bg4 Kg7 42.Rc5 Kf8 43.Bf3 Kg7 44.Kf2 Ra4 45.Ke3 Ra3+ 46.Kf4 Ra4+ 47.Ke5 Ra3 48.Bd5! Re3+ 49.Kf4 Rd3 50.Bc4 Rd7 51.Rc6 Re7 52.Rf6 黒投了

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2017年10月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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