2017年09月の記事一覧

布局の探究(269)

「Chess Life」2000年6月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

側面での主眼の突き捨て
二ムゾインディアン防御 [E20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMナイジェル・ショート
サラエボ、1999年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.g3

 カスパロフは1985・86年カルポフとの世界選手権戦でこの戦型を採用して大成功を収め、それ以来おりおり使っている。ショートは評価の高い防御を選んだがカスパロフはいつものことながら一歩先を行っている。

5…O-O 6.Bg2 cxd4 7.Nxd4 d5 8.cxd5 Nxd5 9.Bd2 Bxc3

 双ビショップを放棄するのを避ける 9…Nxc3 10.bxc3 Be7 の方がよく指されている。しかしショートはナイトで封鎖する面白い新手を用意していた。

10.bxc3 Nb6!? 11.Be3 Nd5!? 12.Qd2 Nd7 13.Bg5! Qc7

14.Nb5!

 すべてはポーンの突き捨てでc列を素通しにすることにより主導権を握るための確固たる作戦の一環である。カスパロフは通常の方法ではうまくいかないことを明らかにしている。2例を示すと、まず 14.e4?! は 14…N5b6 で黒のクイーンとナイトが白の割れたクイーン翼ポーンに入り込んでくる。次に 14.Bxd5?! は 14…exd5 15.Nf5 f6 16.Ne7+ Kh8 17.Nxd5 Qc6 18.Be3 Ne5! 19.O-O Nc4 20.Qd4 Rd8 21.Ne7 Rxd4 22.Nxc6 Re4 となって黒がいくらか優勢である。

14…Qc5 15.c4!! Qxc4 16.Rb1 N7b6! 17.O-O

 これが白の想定していた局面である。ポーンの代償として白にはb列とc列に活動的なルーク、黒陣の各所に利くビショップ、黒陣側の好所にいるナイトがあり、すべての駒が十分に展開している。ここで黒が 17…Bd7 と展開を完了すれば、カスパロフは 18.Rfc1 Qa4 19.Nd6 h6 20.e4! hxg5 21.exd5 exd5 22.Qxg5 Qxa2 23.h4 で白の攻撃が危険なものとなると読んでいた。しょせん危険は避けられないのでショートは困難を顧みず駒得することにした。ここから数手の間両者は秘術を尽くす。

17…h6! 18.Bxh6! gxh6 19.e4! Ne7! 20.Rfc1 Qa4 21.Qxh6 Bd7!

 21…Ng6? は負けになる手だが、その証明には31行の分析「しか」要しない。カスパロフがこの試合の分析にかけた労力は並外れている。それを参考にするとよい(『チェス新報』第75巻第466局)。

22.Rc5 Ng6 23.Rg5! Qc2! 24.Na3! Qd3! 25.h4

 カスパロフはこの手を選んだことに飽き足らず、25.Rb3! に46行の分析を費やしていた。黒の防御がより一層大変になるが、両者が最善を尽くせば引き分けが妥当な結果である。このあとは双方の時間切迫で指し手が乱れた。いずれにしても両GMは内容を誇ってよい。終局までの手順をあげておく。

25…Qxa3 26.h5? Qe7 27.e5 Be8! 28.Be4 f5 29.exf6e.p. Rxf6 30.hxg6 Qg7?! 31.Qh7+! Kf8 32.Qh4 Rc8? 33.Rh5 Bxg6 34.Rh8+ Kf7 35.Rxc8 Nxc8 36.Rxb7+ Ne7 37.Bxg6+ Qxg6 38.Qb4 Qf5 39.Qxe7+ Kg6 40.Qh7+ 黒投了

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2017年09月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(268)

「Chess Life」2000年6月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

中央での主眼の突き捨て
クイーン翼ギャンビット受諾 [D27]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMワシリー・イワンチュク
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 e6 4.e3 c5 5.Bxc4 a6 6.O-O Nf6 7.Bb3 Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1 O-O 11.a3

 局面は典型的な孤立dポーンの形になっている。白の影響力に優る中央と駒の積極的な展開はdポーンの孤立を補っている。実戦の手には二つの目的がある。それは …b5 から …b4 に備えて白ナイトが現在の位置にとどまることと、クイーンが …Nb4 に煩わされることなくd3に行けるようにすることである。カスパロフは白の可能性はキング翼にあると判断していた。

11…Na5 12.Bc2! b5

13.d5!

 これは重要な新手である。ありきたりの 13.Qd3 では黒に 13…Bb7 で陣形を整える余裕を与える。ソコロフ対ハンセン戦(マルメ、1998年)では 14.Bg5 g6 15.Ne5 Rc8 16.Rad1 Nc4 17.Nxc4 bxc4 18.Qh3 Nd5 19.Bh6 Re8 20.Ne4 Qb6 21.Bc1 f5 22.Nc3 Bf6 と進んで互角だった。

 この突き捨てが成立するのは黒のクイーン翼の展開が完了していないからで、白駒は迅速に黒キングへの攻撃に移れる。カスパロフは黒がd5のポーンを取った場合の簡潔な分析を示している。「13…exd5 14.Qd3 は代償あり。13…Nxd5 14.Nxd5 exd5(14…Qxd5?? 15.Qxd5 exd5 16.Rxe7 で白の駒得。e1のルークの働きに注目すること)15.Qd3 g6 16.Bh6 Re8 17.Qc3 f6 18.Nd4 白に代償あり」

 つけ加えるなら白の優勢は明らかである。

13…Nc4

 14.dxe6 は今のところ狙いになっていないので、イワンチュクはこの間にクイーン翼ナイトを中央方面に持ってきた。しかしカスパロフは不安定なナイトの揺さぶり方をやってみせた。後にクラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)で黒は 13…Re8 と変化したがうまくいかなかった。クラムニクがその試合を『チェス新報』第75巻第360局で詳解しているので参照して欲しい。

14.Qd3! Re8

 14…Nb6 の余裕はない。15.Ng5! Nbxd5(15…h6 16.Nh7)16.Nxh7 Re8 17.Nxf6+ Nxf6 18.Qh3 で白が大きく優勢になる(カスパロフ)。

15.a4!

 よくあるように白は作戦を成功させるためには盤面全体を使わなければならない。カスパロフの示すところでは一本調子の 15.Ng5?! では 15…exd5! 16.Nxh7 g6 17.Nxf6+ Bxf6 18.Rxe8+ Qxe8 19.Nxd5 Qe1+ 20.Qf1 Qxf1+ 21.Kxf1 Bxb2 でうまくいかない。

15…exd5 16.axb5 a5 17.b3 Nd6 18.Nd4 Bb7 19.f3!

 局面の様相は大きく変わった。それでも有利な要素はすべて白の方にある。中央の支配、大駒と小駒の活発な働き、黒陣の枡の支配、そして黒は白陣から締め出されている。カスパロフは順当に勝ちを収め、『チェス新報』第75巻第359局に詳細な分析を載せている。終局までの手順はいくつかの形勢記号を付けて示すにとどめる。

19…Rc8 20.Na4! Bf8 21.Bg5 g6 22.Qd2 Rxe1+ 23.Rxe1 Nde8 24.Re2! Bb4 25.Qe3 Rc7 26.Bd3 Re7 27.Qc1 Rxe2 28.Bxe2 Qe7?! 29.Qe3! Qxe3+ 30.Bxe3 Nd7 31.Nc6! Bxc6 32.bxc6 Nb8 33.Bb6 Bd6 34.Nc3 Bc7 35.Bf2?! d4 36.Nd5 黒時間切れ負け

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2017年09月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(267)

「Chess Life」2000年6月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て

 世界チャンピオンたちは皆棋風が異なっている。それでもアレクサンドル・アリョーヒンとガリー・カスパロフとの間には多くの類似点が見受けられる。チェスへの飽くなき情熱、布局の新手のたゆまぬ探求、自分の実戦の深い分析、dポーン布局でもeポーン布局でも同等に指す棋力、そして主導権を得るための積極的な姿勢は両チャンピオンに共通する特質である。ここではカスパロフの主導権のつかみ方に的をしぼる。

 誰でもただで何かが得られたらうれしい。カスパロフが傑出しているのは主導権を得るために進んで戦力を犠牲にするところにある。

 私はよく冗談で元世界チャンピオンのミハイル・タリは3回のチェックのためにルークを犠牲にすることをためらわず、5回のチェックならクイーンを犠牲にすることをためらわないと言った。しかしカスパロフはタリとは違う。彼ははるかに実際的だ。しかし主導権を得るためにポーンを犠牲にするのは彼が定常的に払う代価である。

 4種類のポーンの突き捨てを例示し、うまくいくために必要な条件をそれぞれ説明することにする。

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2017年09月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(266)

「Chess Life」2000年4月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

シチリア防御 [B62]
白 マルセル・マルティネス
黒 GMアレックス・イェルモリンスキー
シカゴ、1999年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6

 シチリア防御が1930年代初めに受け入れられ始めた時にはこのナイト跳ねが主流だった。理論的にはまったく申し分のない手である。cポーンが既にc5にあって重要な中央のd4の地点に利いているので、クイーン翼ナイトをこの理想的な地点に持って来ることは完全に首肯される。

 しかし時の流れはほかの手の普及ももたらした。それらは 2…d6 または 2…e6 と突くことが必要か(例えばナイドルフ戦法にするには 2…d6)、何らかの融通性のある手が必要である。

3.d4

 これが断然よく指される戦型である。白は筋を開けることにより迅速にすべての小駒を展開して黒キングに対する積極的な作戦を開始することができる。

3…cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6

 GMジョン・ナンはこの局面をまったく直観的に「クラシカル戦法」と名付けた。それは非常に重要で人気があり筋が通っていて、1930年代初めにさかのぼるからである。

 布局の原則の高度な観点からは両者とも成すべきことは全部やっている。4個のナイトは申し分のない地点にいて、ポーン陣形には欠陥がなく、両者ともビショップの展開の手順とやり方を決めることができる。白には高等な二通りのポーン突きもある。6.f4 はe5の地点に利き、6.g3 はキング翼ビショップをg2に展開することができる。

 しかし圧倒的に多いのはビショップをすぐに動かす手である。それぞれの特徴は次のとおりである。

A.クイーン翼ビショップの展開

 1.6.Bg5 は断然よく指される。すぐに黒のキング翼ににらみを利かしている。

 2.6.Be3 はそれに次ぐ戦型で、6…Ng4 から乱戦になる。

 3.6.Bf4?? と 6.Bd2?? は駒損になる。

B.キング翼ビショップの展開

 1.6.Be2 はさりげなく堅実な手である。二つの重要な斜筋に利きキング翼キャッスリングの準備になっている。

 2.6.Bc4 はボビー・フィッシャーによってよみがえり、黒のキング翼に対する危険な攻撃兵器になった。

 3.6.Bb5 は実際よりもはるかに危険である。当然の 6…Bd7 のあとは二組の小駒が交換になり白の攻撃の見通しが最小限になりそうである。

6.Bg5 e6 7.Bb5

 リヒター攻撃の従来の手法は 7.Qd2 から 8.O-O-O である。私の考えではこの方が本譜より強力である。

7…Qb6!? 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5?!

 これは大胆不敵な作戦だが準備不足で成功しない。イェルモリンスキーは着実に対処した。彼の解説は『チェス新報』第76巻第196局を参照して欲しい。終局までの手順をイェルモリンスキーの分析による記号をいくつか付けてあげておく。

9…exd5 10.exd5 a6 11.Bxc6+ bxc6 12.Qe2+ Be6! 13.Nxe6 fxe6 14.Qxe6+ Be7 15.O-O?! Kf8 16.Rfe1 Re8 17.Re3 Rg8! 18.Rae1 cxd5 19.Qf5? Rg7 20.Qxd5 Qxb2 白投了

 結論 「ビショップよりナイトを先に出せ」は簡単で役に立つ原則である。そして驚くほどよく当てはまる。もしどうしたらよいか迷ったときは従った方が良い。

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2017年09月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(265)

「Chess Life」2000年4月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

スラブ防御 [D19]
白 GMアレックス・イェルモリンスキー
黒 GMエドマー・メドニス
ナショナル・オープン、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 c6 3.d4 d5 4.Nc3

 GMの対局によくあることだがレーティ布局(1.Nf3、2.c4)から始まった試合が「通常の」dポーン布局に移行した。白は両ナイトを迅速に理想の地点に展開し、黒はキング翼ナイトだけを理想の地点に展開している。黒のクイーン翼ナイトはポーンがc6にいるのでそこへ行けない。

4…dxc4

 黒はスラブ防御の主手順を選んだ。このポーン取りは楽に取り返すために白は1手かけなければならないだけでなくクイーン翼を弱めなければならないことにより首肯される。

5.a4 Bf5 6.e3

 どの点からも申し分のない手。白は Bxc4 でスムーズにポーンを取り戻す。10年くらい前に元世界チャンピオンのアナトリー・カルポフが指すようになったおかげで「布局の原則に背く」6.Ne5 がほとんど同じくらい一般的になった。それでも白が 6.Ne5 を指しこなすにはより広く深い理解が必要であることに注意を喚起しなければならない。これが当を得ているのは 6.e3 が「申し分ない」のに対し、6.Ne5 は具体的な手順に基づいているからである。

6…e6 7.Bxc4 Bb4

 黒の5手目と7手目は重要な中央のe4の地点をめぐって戦いが行われることを示している。だからキング翼ビショップの好所はb4の地点しかない。

8.O-O O-O 9.Qe2

 両者のキングはキャッスリングによって安全な地点に移動した。白は本譜の手で e3-e4 突きを準備している。多くの分析により黒は 9…Ne4?! によってそれを防ぐことができないことが明らかになっている。というのは 10.Bd3! によって白の優勢の度合いが通常よりも大きくなるからである。一例は 10…Nxc3 11.bxc3 Bxc3 12.Rb1 である。

9…Nbd7!

 黒はこれぞという手が見当たらないので順当に小駒の展開を完了させた。クイーン翼ナイトの最適の位置は理論上はc6だが、d7は次善の位置に当たる。そこからは中央の一番重要なe5の地点と次に重要なc5の地点に利いている。

10.e4 Bg6

 黒には 11…Bxc3 からeポーンを取る狙いがある。

11.Bd3

 すぐに 11.e5 と突く手もある。本譜の手で白のdポーンとeポーンは中央の重要な地点すべてに利いていて、見るからに完璧なポーン中央になっている。黒は中央で反撃を図る必要があり、周知の手段は…

11…Bh5!

 狙いは 12…e5 で、12.Bf4 でこれを防げば 12…Re8 で狙いを復活させて 13.e5 と突かせる。

12.e5 Nd5 13.Ne4

 イェルモリンスキーはこの戦型を以前に指したことがあり好結果を出している。黒が通常どおり 13…Be7 と指せば白は普通に少し優勢である。しかし私はどういうわけか戦型を混同していて、引き分けるのに大いに苦労した。

13…c5?! 14.Bg5 Qa5 15.Bb5 Nb8! 16.Nxc5 Bxc5 17.dxc5 a6 18.Bd2 Qc7 19.Bd3 Bxf3! 20.Qxf3 Qxe5 21.b4 Nc6 22.Rab1 Qd4! 23.Qe4 Qxe4 24.Bxe4 Rfd8 25.b5 axb5 26.axb5 Ne5 27.Rfc1?! f5! 28.Bxd5 Rxd5 29.Be3 f4! 30.Bxf4 Nd3 31.Rc4 Nxf4 32.Rxf4 Rxc5 引き分け

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2017年09月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(264)

「Chess Life」2000年4月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

イギリス布局 [A29]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMボリス・グリコ
米国選手権戦準決勝、1999年

1.c4 e5 2.Nc3

 閉鎖布局では普通はcポーンを活用するのが望ましい。だからすぐに 1.Nc3 と指すのはその可能性が失われる欠点がある。(ここでのように)2手目で展開するのは非の打ち所がない。ついでに付言しておくとすぐに 1.Nf3 と指すのは欠点がない。早く 1.f4 と突くのはキング翼を弱める不利があり滅多に用いられないからである。

2…Nf6

 申し分なし。2…Nc6 も同じく良い手だが、白に 3.g3 から 4.Bg2 でd5の地点を支配する選択権を与えることになる。

3.Nf3 Nc6 4.g3

 ナイトがまったく申し分なく展開されたので白は次にビショップを展開すべきである。クイーン翼ビショップの展開のためには 4.d3 や 4.d4 が理にかなっている。現在のところキング翼ビショップを最初に展開する方が普通である。本譜の手はもっと多く見られる。「フィアンケットされた」ビショップが中央のe4とd5の地点をにらむことになる。5.d4 と突くための 4.e3 も良い手である。

4…Bb4

 黒枡ビショップが元々の利き筋に沿って展開できるようにeポーンが斜筋を通したので、こう指すべきである。ほかの手はA.4…Be7 は守勢すぎ、B.4…Bd6?! はdポーンをふさぎ、C.4…Bc5 は中央の斜筋につけて魅力的だが展望がほとんどない。おまけに 5.Nxe5! Bxf2+ 6.Kxf2 Nxe5 7.e4 c5 8.d4! で白が中央の広さで大きく優勢になる。

 だから黒枡ビショップをb4につけるのが圧倒的多数のGMのお気に入りになった。このビショップは都合の良い時に白のポーンを二重にする用意があるので厄介である。

5.Bg2 O-O 6.O-O Re8 7.Nd5!?

 もちろん布局の原則は「布局の早い段階では同じ駒を2度動かすな」と明言している。しかし白は 7…e4 という不快な狙いに直面していて、7.d3 は 7…Bxc3 8.bxc3 e4 で乱戦になる。

 このナイト跳ねには洗練された戦略の目的もある。それは黒の黒枡ビショップをb4で「遊び駒」と化すことである。

7…Bc5 8.d3 Nxd5 9.cxd5 Nd4 10.Nd2!

 等価交換の 10.Nxd4 は黒に取って痛くも痒くもない。本譜の手は 7.Nd5!? と似た考え方に基づいている。つまり黒のd4のナイトの将来性をなくすことである。

10…d6 11.e3 Nf5 12.Nc4 a6 13.b3 Ne7 14.Bb2

 小駒の展開の最終工程ははクイーン翼ビショップの面倒を見ることである。白はフィアンケットし、黒はビショップを斜筋につける前に待つことにした。

 白は駒の展開の融通性に優り、d5ポーンのおかげで陣地がわずかに広い。それゆえに少し優勢である。GMヤセル・セイラワンは『Inside Chess』(2000年1月号53~54ページ)でこの試合を徹底的に解説したので読んでみて欲しい。終局までの手順をセイラワンの分析を基にした記号を付けて示す。

14…b5 15.d4! exd4 16.exd4 Bb6! 17.Nxb6 cxb6 18.Re1 Bb7 19.Qh5 Qd7 20.Re2 f5?? 21.Rae1 g6 22.Qg5? Nxd5 23.g4 Rxe2 引き分け

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布局の探究(263)

「Chess Life」2000年4月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に

 初心者向けの本では布局の指し方の原則(「大ざっぱな指針」)をいくつか示すのが普通である。これらの原則の有用性は主にその本の時代と読者に対する著者の興味とによる。1999年6月号の本稿ではJ.R.カパブランカの「ビショップより先にナイトを出せ」という金言に賛意を表した。今回はこの役に立つ「大ざっぱな指針」についてもっと詳しく論じてみたい。

 明白で全般的な原則に基づく単純な事実は、布局の早い段階で4個のナイトの理想の位置(地点)は分かっているということである。これらの地点を次図に示す。

 それぞれのナイトに着目すれば以下のことが分かる。

 1.布局では中央の支配が非常に大事なので、それぞれのナイトは中央の地点を最大限支配している。すなわちc3とf6のナイトはe4とd5の地点を、c6とf3のナイトはd4とe5の地点を支配している。

 2.これらの地点からそれぞれのナイトは可能な最多の8地点を支配している。最大限の効果のために最も大切な中央の2地点が含まれている。ナイトは短射程の駒なので、できるだけ多くの働きをしなければならない。(ビショップは最高13地点に利き、ルークは14地点、クイーンは27地点に利く。)

 もちろんナイトをc3とf3、c6とf6に置くこと自体は重要でない。また、チェスでは一般的にそうなのだが、白は黒よりもナイトを理想の地点につける見通しが優っている。

 以下では閉鎖布局から2局と開放布局から1局を例として取り上げて原則と優先度について解説する。

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布局の探究(262)

「Chess Life」2000年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

アリョーヒン防御 [B05]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第19局、レイキャビク

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3 Bg4

 傍流の 4…g6 はうまくいき(この第13局での貴重な勝利は本誌1999年2月号22ページを参照)、フィッシャーは主流手順に切り換えた。本譜の手はこの局面での本筋の手である。黒の目的は白の伸びすぎ気味のeポーンの土台を崩すことで、キング翼ナイトの釘付けはそのために役立つ。

5.Be2 e6 6.O-O Be7 7.h3 Bh5 8.c4 Nb6 9.Nc3 O-O 10.Be3

 白はよどみなく小駒の展開を完了し中央でかなり優位に立っている。黒は普通の手段ではうまくいかない。例えば 10…dxe5?! は 11.Nxe5 Bxe2 12.Qxe2 で白の中央が安泰で展開で優っている。一方 10…Nc6?! は 11.exd6 cxd6 12.d5! exd5 13.Nxd5 で白のポーンの形が良くしかも広い。

 黒を持って指す方は白陣の唯一弱点となる可能性はc4の地点であることを学んだ。そこで・・・

10…d5! 11.c5 Bxf3! 12.Bxf3

 白は27年以上の努力にもかかわらずフィッシャーの防御を打ち破れなかった。だから主流は 12…Nc4? を防ぐ 12.gxf3 になった。そうくれば 13.Bxc4 dxc4 14.Qa4 で貴重なポーンが取れる。12…Nc8 13.f4 Nc6 なら 14.b4 でも 14.f5 exf5 15.Bf3 でも白に通常の布局の有利さがある。

12…Nc4 13.b3!

 後には 13.Bf4 と 13.b4 が詳細に追究された。白は働いていない黒枡ビショップがなくなるのは歓迎すべきである。

13…Nxe3 14.fxe3 b6!

 フィッシャーはクイーン翼で動的な反撃を始めた。一方スパスキーは新しくできたeポーンを用いて黒の中央に挑んでいく。終局まで二人の偉大なチャンピオンの指し方は最高水準をいっている。14…Nc6 も良い手でいずれ互角になる。

15.e4! c6 16.b4 bxc5 17.bxc5 Qa5! 18.Nxd5!

 スパスキーは 18…exd5? 19.exd5 で強力なポーン横隊ができることを期待している。フィッシャーはそんなことを許す気はさらさらなく、次の手をすぐに指した。

18…Bg5! 19.Bh5!

 白のナイトは下がる所がない。そこで展開の優位を生かして黒キングに対し直接攻撃を開始した。

19…cxd5 20.Bxf7+! Rxf7 21.Rxf7 Qd2!!

 黒は反撃が必要である。21…Kxf7?? 22.Qh5+ も 21…Be3+ 22.Kh2 Kxf7 23.Qh5+ Ke7 24.Rf1 も白の勝ちになる。本譜の手のあと白はクイーンの交換を避けることができない。22.Qf3? は 22…Qxd4+ 23.Kh2 Qxe5+ 24.g3 Qb2+!(ロバート・バーン)で負けになるからである。

22.Qxd2 Bxd2 23.Raf1 Nc6

 中盤戦の乱闘が落ち着き、局面は不均衡な收局にさしかかった。両者の戦力を比較してみるにはちょうどいい頃である。黒の小駒2個に対して白にはルークと2ポーンがある。だから半ポーンほど有利である。しかし白の中央のポーン群は黒のビショップに脅かされている。

 白が最も有望なのは 24.Rc7 で、黒は注意を要する。24…Nxd4? と取ると 25.Rff7 Be3+ 26.Kh1 Bh6 27.g4 Rf8 28.Rfd7 Nf3 29.exd5 exd5 30.e6 Re8 31.Rxa7 d4 32.c6 で投了になってしまう(ファン・デル・グラフト対プリンス、通信戦、1986年)。

 黒の最も堅実な受けは 24…Nd8! 25.Re7 Nc6 で白は次のように進展が図れない。26.Rxe6 Nxd4 27.Re7 Be3+ 28.Kh1 dxe4 29.Rff7 Ne6!(バーンとネイによる)

23.exd5

 
 このあとの手もまだまだ面白いがフィッシャーは何者をも寄せつけない。詳細はバーンとネイの本か、『チェス新報』第14巻第168局を読んで欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

24…exd5 25.Rd7 Be3+ 26.Kh1 Bxd4 27.e6 Be5! 28.Rxd5 Re8 29.Re1 Rxe6 30.Rd6! Kf7! 31.Rxc6 Rxc6 32.Rxe5 Kf6 33.Rd5 Ke6 34.Rh5 h6 35.Kh2 Ra6 36.c6! Rxc6 37.Ra5 a6 38.Kg3 Kf6 39.Kf3 Rc3+ 40.Kf2 Rc2+ 引き分け

 結論 4…Bg4 は堅実な本筋の手で、12.Bxf3 のあとの黒の指し手は依然として洗練されている。

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2017年09月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(261)

「Chess Life」2000年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

ピルツ防御 [B09]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第17局、レイキャビク

1.e4 d6 2.d4 g6 3.Nc3 Nf6 4.f4 Bg7 5.Nf3

 ちょっとした手順の違いはあったが(通常の 2…Nf6 でなく 2…g6)、主流手順のオーストリア攻撃(4.f4)の出発点に来た。ピルツ防御は実際のところフィッシャーの指す戦法の中では非常に珍しい。1972年の番勝負では唯一の試合で、1992年の番勝負では1局も現れなかった。

5…c5

 1972年時点で断然主流手順だったのは堅実な 5…O-O だった。しかしフィッシャーはすぐに中央で反撃することを目指しもっと動的な手を選んだ。時の経過と共にフィッシャーの手法もよく指されるようになった。

6.dxc5

 この手は本筋で堅実である。6.Bb5+ Bd7 7.e5 も同じくらい人気がありもっと乱戦になる。

6…Qa5 7.Bd3 Qxc5 8.Qe2 O-O 9.Be3 Qa5 10.O-O Bg4!

 フィッシャーは世界選手権戦のためにこの定跡に新手を用意していた。従来の 10…Nc6?! は 11.h3! と突かれて黒の白枡ビショップに好所がなくなる。それと同時に白はg4の地点を支配するのでこれまでに十分実証されているようにキング翼での展望がこの上なく良くなる。

 フィッシャーの新手は働きの劣る小駒を交換によりなくすことができるだけでなく、d4の地点に挑むことができる。金の指輪にも等しい。

11.Rad1

 スパスキーは受ける必要に迫られて完全に筋の通った手段を考え出した。それはd5の地点とd列とを支配することである。しかしこのような作戦は手がかかりすぎて、優勢に結びつくには無理がある。20年以上もの間主流手順は 11.h3 Bxf3 12.Qxf3 Nc6 13.a3 Nd7 14.Bd2 Qb6+ 15.Kh1 Nc5 16.Rab1 Nxd3 17.cxd3 f5 となっている。白はキング翼での攻撃の見通しがあるので少し優勢である。

11…Nc6 12.Bc4 Nh5 13.Bb3

 後にスパスキーは 13.Rd5 から 14.Rg5 を指摘した。本譜の手のあと黒はキング翼がいくらか弱体化するのと引き換えにクイーン翼のポーンをかすめ取る。

13…Bxc3 14.bxc3 Qxc3 15.f5

15…Nf6

 フィッシャーはナイトを中央に引き戻した。2、3か月後黒は 15…Na5 16.Bd4 Qc7 17.h3 Nxb3 18.cxb3 ですぐに白のキング翼ビショップを消去する方を選び(グリゴリッチ対ホルト、スコピエ・オリンピアード、1972年)、62手で勝った。この局面は判断が難しいままである。

16.h3 Bxf3 17.Qxf3 Na5 18.Rd3 Qc7 19.Bh6 Nxb3 20.cxb3 Qc5+ 21.Kh1 Qe5?!

 この手には異論が出た。GMロバート・バーンとIMイボ・ネイは彼等の名著の『Both Sides of the Chessboard』で 21…Rfc8 22.g4 Qe5 23.fxg6 hxg6 で黒が優勢と分析している。代わりにフィッシャーは絶好のナイトの戦略的な安全性とルークに対する好形ポーンを信頼している。終局までの手順は次のとおりである。

22.Bxf8 Rxf8 23.Re3 Rc8 24.fxg6 hxg6 25.Qf4 Qxf4 26.Rxf4 Nd7 27.Rf2 Ne5 28.Kh2 Rc1 29.Ree2 Nc6! 30.Rc2 Re1 31.Rfe2 Ra1 32.Kg3 Kg7 33.Rcd2 Rf1 34.Rf2 Re1 35.Rfe2 Rf1 36.Re3 a6 37.Rc3 Re1 38.Rc4 Rf1 39.Rdc2 Ra1 40.Rf2 Re1 41.Rfc2 g5 42.Rc1 Re2 43.R1c2 Re1 44.Rc1 Re2 45.R1c2 引き分け

 結論 5…c5 と 10…Bg4 は時の試練に耐えてきた。

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2017年09月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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