2017年08月の記事一覧

布局の探究(260)

「Chess Life」2000年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練

 本誌1998年4月号は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキーの布局を振り返る第一歩だった。そこでは 1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局について論じた。1999年2月号では 1.e4 に対するフィッシャーの黒番を取り上げた。今回はその続きである。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B99]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第15局、レイキャビク

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Be7

 本局の開始時点でフィッシャーは3点リードしていた。だから第11局で手痛い負けを喫した過激な 7…Qb6 を避けるのはまったく賢明である。実戦的には本譜の手の後は非常に不均衡な局面で黒にも勝つ可能性が大いにある。

 戦いの戦略としてはまずある程度展開を行なっておき、そのあとで …b5 を手始めにクイーン翼で反撃に努める。

8.Qf3 Qc7 9.O-O-O Nbd7 10.Bd3

 白は小駒の展開を完了したので次にはキング翼ルークをe1に回して Nc3-d5 の狙い筋を含みに中央から作戦を始める。これは白の最も過激な作戦である。

 当時だけでなく現在でも主手順は 10.g4 b5 11.Bxf6 Nxf6 12.g5 Nd7 13.f5 で、黒は完璧に受ければ互角の形勢になる。

10…b5 11.Rhe1 Bb7 12.Qg3

 クイーンを黒の白枡ビショップの利き筋からはずすことにより白にはいつか e4-e5 と仕掛ける機会ができた。さらにはぜい弱になるかもしれないg7の地点にも「目をつけて」いる。

 すぐに 12.Nd5!? と指すこともできる。12…Nxd5(12…exd5 は 13.Nf5! があるので危なすぎる)13.exd5 Bxg5 のあとは 14.Rxe6+?!(1999年ユーゴスラビアでのミトロバノフ対ぺトロビッチ戦でうまくいかなかった)でなく、イリンチッチとぺトロビッチが『チェス新報』第75巻第247局で推奨している 14.fxg5 Ne5 15.Qh3 Bxd5 16.g6! で代償がある。

12…O-O-O

 この手はうまくいったとは言えないが、17手目と18手目には改善の可能性がある。重要な変化は 12…b4!? である。主手順は 13.Nd5! exd5! 14.exd5 Kd8 15.Qe3 Nb6 16.Nf5 Nbxd5 17.Qd4 Bf8 18.Be4 Kc8 19.Nxg7 Nxe4 20.Ne8 Qc5 21.Qxh8 Ne3 22.Re2 Nc3(コールベーヤー対トムチャク、バーデンバーデン、1987年)で、『チェス布局大成B』は「外交的に」この局面を「形勢不明」と判定している。

13.Bxf6! Nxf6

 こう取り返すしかない。13…Bxf6? と 13…gxf6? 14.Qg7(14…Rdf8 15.Nxe6!)はどちらも黒が指しように困る。

14.Qxg7 Rdf8 15.Qg3 b4 16.Na4 Rhg8 17.Qf2 Nd7

 有力な変化は 17…Qa5 18.b3 d5!? 19.e5 Ne4 20.Bxe4 dxe4 21.g3 Rd8 で、GMアイバルス・ギプスリスは形勢不明としている。

18.Kb1

 ここは勝負所である。黒はGMビクトル・コルチノイの推奨するようにすぐに 18…Nc5! 19.Nxc5 dxc5 20.Nf3 c4! と打って出なければならない。そうなれば有望な代償がある。実戦はフィッシャーが白に陣容を固めポーン得を確定させる余裕を与えた。以降の指し手は面白いが、お互い神経質になって悪手が相次いだ。詳細は『チェス新報』第14巻第507局のGMスベトザール・グリゴリッチの解説を参照して欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…Kb8? 19.c3! Nc5 20.Bc2 bxc3 21.Nxc3 Bf6 22.g3 h5 23.e5 dxe5 24.fxe5 Bh8! 25.Nf3 Rd8 26.Rxd8+ Rxd8 27.Ng5 Bxe5 28.Qxf7 Rd7 29.Qxh5? Bxc3 30.bxc3 Qb6+ 31.Kc1?! Qa5 32.Qh8+ Ka7 33.a4 Nd3+ 34.Bxd3 Rxd3 35.Kc2 Rd5 36.Re4! Rd8 37.Qg7 Qf5 38.Kb3 Qd5+? 39.Ka3 Qd2 40.Rb4 Qc1+ 41.Rb2 Qa1+ 42.Ra2 Qc1+ 43.Rb2 Qa1+ 引き分け

 結論 黒の主手順は今でも立派に通用する。12…O-O-O と 12…b4 のどちらが良いのかはもっと実戦が必要である。

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2017年08月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(259)

「Chess Life」1999年12月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

B.4ナイト防御ルビンシュタイン戦法 C48
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Nd4

 第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインによって現代の大会に導入されたとき、この戦型は安全に引き分けるのに良いとみなされていた。白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 と指すしかないと決めてかかられたからだった。しかし時の流れと共に白は黒のd4のナイトを無視できることが明らかになってきた。(温故知新の 4…Bb4 の最新情報については1999年4月号の本稿を参照されたい)

5.Ba4!?(アダムズ対クラムニク、リナレス、1999年)

 このルイロペス式のビショップ引きは白に多くの新風を吹き込んだ。5…Nxf3+ 6.Qxf3 は黒にとって十分に満足できるものではないので、黒のeポーンに対する当たりは対処がそれほど容易でないことが分かる。例えば 6…Bb4 7.Ne2! O-O 8.c3 Ba5 9.d3! d5 10.Bg5 は白駒の方がずっと調和がとれている。

5…c6!

 最近の大会におけるかなりの実戦によって分かってきたことは、黒は白の白枡ビショップを働かせないようにしeポーンにはかかわらないようにすべきであるということである。簡単に言えば動的に反撃するのが正しいやり方である。

6.Nxe5 d6 7.Nd3

 この古い戦型がどれほど「新しい」かをちょっと言っておくと、初めて指されたのはモブセシアン対ラリッチ戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)である。それまでは 7.Nf3 が指されていて、7…Bg4 8.d3 d5 9.Be3 Nxf3+ 10.gxf3 Bh5! で黒が完全にポーンの代償を得ていた。

7…b5!

 私の見解ではこの手から始まる埋葬戦略が黒の最も効果的な作戦である。

8.Bb3 a5 9.a3

 このよくあるとは言い難い局面で黒の選択した手はよくある手とは言い難い。『チェス新報』第74巻第345局で解説のGMモブセシアンはほかに黒の考えられる2手を調べている。(1)9…Nxb3 10.cxb3 Be7 11.O-O O-O 12.Nf4(2)9…Ba6 10.Ba2! どちらの場合も黒はポーンの代償が十分でない。

9…d5!

 この重要な新手は黒の動的な手法の表れである。黒は白のキング翼を攻撃する準備をしているので、クイーン翼ビショップはc8-h3の斜筋に置いたままにすべきである。白が中央を開放するのは無謀である。クラムニクの分析によると 10.exd5?! Bd6! 11.O-O O-O 12.dxc6? Bxh2+! 13.Kxh2 Ng4+ 14.Kg3 Nf5+! 15.Kxg4 Qh4+ 16.Kf3 Nd4+ 17.Ke3 Re8+ のあとは即詰みになる。

 だから白は局面を閉鎖的にしておく必要がある。しかしそのためにキング翼ビショップが死んだ状態になる。

10.e5 Ne4 11.O-O Nc5

 これは堅実な作戦で、キング翼ビショップが効率的に展開できる。白のキング翼ビショップが働いていないので、黒にはポーンの代償が十分にある。クラムニクはもっと意欲的な手として 11…Qh4 と 11…h5 を指摘している。

12.Nxc5 Bxc5 13.Kh1 O-O 14.Ne2?!

 クラムニクはこの手を無駄手と批判し、14.d3 Re8 15.Bf4 と展開する手を推奨している。黒はそのあと 15…Nxb3 16.cxb3 Bd4 からの互角を選択することもできるし、15…f6!? 16.exf6 Qxf6 でそれ以上を目指すこともできる。

14…a4! 15.Ba2 f6 16.Nxd4

 GMアダムズはわずかに不利でも堅実な局面に甘んじた。16.exf6!? と実利に走るのはクラムニクの分析によると 16…Bg4!? 17.f3 Nxf3! 18.fxg7! Rf5 19.gxf3 Bxf3+ 20.Rxf3 Rxf3 で乱戦になり「形勢不明」と判断している。

16…Bxd4 17.c3 Bxe5 18.d4 Bb8 19.Bb1 Ra7!

 ポーン陣形と駒の展開はかなり似通っているが、例外は黒のクイーン翼ルークの活用が容易なことで、このため黒が少し優勢である。このあともまだいろいろな手があるが、本稿の目的とは離れるので形勢記号をいくつか添えて手順だけを示す。クラムニクは本局を『チェス新報』第75巻第298局で紹介しているので、読者は参照されたい。

20.Qf3?! g5! 21.Qh5 Qe8! 22.Qxe8 Rxe8 23.Bd3 Bg4 24.Bd2 Be2 25.Rfe1 Rae7 26.Bf5! Kg7 27.Kg1 h5 28.g3 Bd6 29.Be3 Bg4 30.Bd3 Bf3 31.Bd2 Be4 32.Bxe4 Rxe4?! 33.Rxe4 Rxe4 34.Re1 g4 35.Kg2 f5 36.f3 Rxe1 37.Bxe1 f4 38.Bd2 fxg3 39.hxg3 Kg6 40.fxg4 hxg4 41.Bf4! Be7 42.Kf2 c5 43.dxc5 Bxc5+ 44.Be3! Be6 45.Bf4 Bc5+ 引き分け

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2017年08月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(258)

「Chess Life」1999年12月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

A.シチリア防御 B45(続き)
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6 6.Nxc6 bxc6 7.e5 Nd5 8.Ne4
(再掲)

(3)8…Bb7!
カスパロフ対レーコー(リナレス、1999年)

 この手はペーテル・レーコーのトレーナーでハンガリー人のGMアンドラース・アドルヤーンが創案し発展させた優秀な新手である。その着想は本筋の見事さにある。黒は働いていないビショップを重要な中央の斜筋に沿って配置につける用意をしている。もちろん作戦を成功させるためには具体的な手順も必要である。以下の解説では『チェス新報』第75巻第167局のレーコーの解説のいくつかを参考にさせてもらった。

9.Be2 c5 10.O-O Qc7 11.Nd6+

 ここに 8…Bb7! の第一の真価が表れている。黒にe5のポーン取りを狙われていたが、11.c4 では 11…Ne3! 12.Bxe3 Bxe4 で互角の形勢になる。

11…Bxd6 12.exd6 Qc6 13.f3!

 白はg2での詰みに対処しなければならなかった(13.c4? Nc3!)。13.Bf3 には 13…c4! で白の白枡ビショップはほとんど働かない。本譜の手に対して黒は白の c2-c4 突きを防ぐことによりd5の強力なナイトを維持しなければならない。

13…c4! 14.Qd4 O-O! 15.Bxc4 Qxd6 16.Bb3

 2か月ほどしてスビドレル対イリェスカス戦(ドス・エルマーナス、1999年)ではいくつかの工夫があった。16.Rd1 Rfc8 17.Bd3 Qb6 18.Qxb6 Nxb6 19.a4 a5! 20.Be3 Nd5 21.Bd2 Nb6 22.b3 d5 23.Bb5 d4! 24.Bf4 Nd5 25.Be5 Rxc2 26.Bxd4 引き分け

16…Qb6 17.Rd1 Rfc8 18.Qxb6 Nxb6 19.a4

 ここでは双ビショップとクイーン翼の多数派ポーンのために白がわずかに優勢であるとみなされるに違いない。黒は中央列での優勢と半素通しc列が役に立ってくる。後知恵になるが黒の正着は白のaポーンに侵攻されるのを防ぐ 19…a5! だった。

19…d5?! 20.a5 Nc4 21.a6! Bc6 22.Bxc4 dxc4 23.Be3 Bd5 24.Ra5 Rc6

 異色ビショップはここでは白の方にだけ味方している。というのは白のビショップが黒のルークをaポーンの守りに縛りつけているのに対し、黒のビショップは何も白の脅威になっていないからである。実戦の手の代わりにレーコーは反撃を1手早める 24…f6 を指摘した。

25.Rda1 f6 26.h4 Kf7 27.Kf2 Rc7 28.Rb5 Rd8 29.Raa5 Ke7 30.Kg3 h5 31.b4! cxb3e.p. 32.cxb3 Rg8!

 局面はかなり激化した。白はクイーン翼でパスポーンを作る態勢ができている。19歳のハンガリーのGMはキング翼での反撃を見据えている。両選手とも残り時間が少なかった。レーコーは『チェス新報』第75巻第167局で以降の指し手を詳細に解説している。終局までのみごとな手順は以下のとおりである(形勢記号を少し付けておいた)。

33.Rc5 Rd7 34.b4! g5! 35.Rc2 g4 36.Kf2 g3+! 37.Ke1 e5! 38.Rd2 Rgd8 39.Rc5 Ke6 40.b5 Rb8 41.Rd3 Rbd8 42.Rd2 Rb8 43.Rd3 Rbd8 44.b6 axb6 45.Rb5 Bc4 46.Rxb6+ Kf5 47.Rxd7 Rxd7 48.a7 引き分け

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2017年08月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(257)

「Chess Life」1999年12月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手

 前回は白の「理にかなった」布局の新手を二つ紹介した。今回は黒の場合を取り上げる。

 黒は不利を背負って指し始めるので、好手の新着想を考えだすことを含めすべてがより困難である。特に 1.e4 の布局では黒は「新構想」が早々と失敗に終わらないようにことのほか注意を払わなければならない。世界級の選手による非常に理にかなった二つの重要な新手を選んでみた。

A.シチリア防御 B45
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6

 黒は無理のない融通性のある陣形を採用している。ナイトはそれぞれ最良の地点に展開し、1枡だけ進んだeポーンはd5の地点を過剰に守るとともにキング翼ビショップが展開できるようにしている。それと同時にこれからの作戦で不必要な危険を冒すのを避けるようにしている。白の最も普通の応手の 6.Ndb5 のあと黒は 6…Bb4 と指してもよいし、6…d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 でスベシュニコフ戦法に移行してもよい。

 しかし黒の展開には潜在的な欠陥がある。それは重要なe5の地点を守る配慮が足りないということである。このため白は次のような積極策をとることができる。

6.Nxc6 bxc6

 代わりに 6…dxc6?! と取るのは 7.Qxd8+ Kxd8 8.e5!(8…Nd5 には 9.Ne4、8…Nd7 には 9.f4)で展望のない收局になる。

8.e5 Nd5 9.Ne4

 白の作戦は次の3点を骨子にしている。(1)e5のポーンは黒陣を圧迫しd6の地点の潜在的な弱点を際立たせている。(2)c2-c4 突きは中央にいる黒のナイトをそっぽに追いやる。(3)黒の白枡ビショップは戦いに加わるのが難しい。まず黒の最も普通の2手を取り上げ、そのあと面白い新手を紹介する。

 (1)8…f5 は無理矢理締めつけを破るやり方だが、黒枡の弱体化と双ビショップの放棄という代価も払う。白が少しだがはっきりした優勢になるのは確かである。ツェイトリン対S.ドルマートフ戦(ソ連、1977年)は 9.exf6e.p. Nxf6 10.Nd6+ Bxd6 11.Qxd6 Qb6 12.Bd3 c5 13.Bf4! Bb7 14.O-O Rc8 15.Rfe1 と進んだ。

 (2)8…Qc7 は従来の手法である。黒は白のキング翼のポーン陣形をゆるめさせてから反撃をさぐる。主眼の実戦例にはシロフ対クラセンコフ戦(ポラニツァ・ズドルイ、1998年)がある。9.f4 Qb6 10.c4!? Bb4+ 11.Ke2 f5 12.Nf2 Ba6 13.Kf3 Ne7 14.Be3 Bc5 15.Bxc5 Qxc5 16.Qd6! Qb6 17.b3 c5 18.Be2 Rc8 19.Rhd1 Rc7 20.Ke3! 陣地の広さと黒枡の支配で白に通常の有利さがある。シロフが56手で勝った。『チェス新報』第73巻第221局にシロフの解説がある。

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2017年08月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(256)

「Chess Life」1999年10月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

イギリス布局 [A17]
白 GMブランコ・ダムリャノビッチ
黒 GMアンドレイ・ソコロフ
ユーゴスラビア、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!? h6

 f6のナイトが第一級の中央の地点を保持できるようにするのはもちろん完全に筋が通っている。しかし負の面も明らかである。キング翼のポーン陣形の弱体化は、g4-g5 突きでg列を素通しにされる危険性のためにキング翼キャッスリングが排除されることを意味する。

5.Rg1 d5

 やはりまた大いに理にかなっている。有力な変化は

 1)5…c5 6.h4 Nc6 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng8 9.g6 f5 10.a3 Ba5(シャバロフ対カークリンス、フィラデルフィア、1998年)グリコによれば白はここで 11.b4! cxb4 12.Nb5 でわずかな有利を保持できる。

 2)5…b6 6.h4 Bb7 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ne4 9.Qc2 Nxc3 10.dxc3 Bd6 11.Be3 Nc6 実戦はここで不注意な 12.Nd2?! Bh2! のために黒が少し優勢になったが(ファン・ベリー対ティマン、ベイクアーンゼー、1999年、29手で黒の勝ち)、普通に 12.O-O-O なら形勢不明かたぶん互角の局面だった。

 3)5…d6 6.h4 e5 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng4 9.Nd5 Bc5 10.d4 Bb6 11.Nxb6 axb6(ズビャーギンセフ対ベンジャミン、フローニンゲン、1997年)クラセンコフは形勢不明の局面と判断している。

6.a3 Be7 7.d4 Nbd7

 7…Ne4 も本筋で、8.Qc2 Nxc3 9.Qxc3 Nd7 10.Bg2 となった時トゥクマコフ対シュナイダー戦(ドネツク、1998年)では疑問手の 10…O-O?! のために 11.g5! と突かれる手が生じたが(実戦では白が 11.Bh1 と引いても優勢だった)、黒は冷徹に 10…c6 と指すべきだった(トゥクマコフ)。

8.cxd5 Nxd5

 8…exd5 でも 9.h4 c6 10.Qc2 Nf8 11.g5 hxg5 12.hxg5 Ng4 13.e4 dxe4 14.Qxe4 f5 15.gxf6e.p. Nxf6 16.Qe2! で白がわずかに優勢である(トゥクマコフ)。

9.e4 Nxc3 10.bxc3 c5 11.Bd3 cxd4 12.cxd4 b5!

 黒はどこかを支配する必要がある。白が中央とキング翼で広いので、唯一の領域はクイーン翼である。

13.g5 hxg5 14.Bxg5 Bxg5 15.Rxg5 Rxh2! 16.Ke2! Rh7 17.Qg1 g6 18.Bxb5 Rb8 19.a4 a6 20.Bd3 Rb2+ 21.Ke3

 白はキングが十分安全で、中央で優位に立っているためにわずかな優勢が続く。しかし局面は極端に不均衡で、どちらにとっても最善の手順を見つけるのがとてつもなく難しくなっている。詳細については『チェス新報』第73巻第15局のダムリャノビッチの分析を参照されたい。

21…Qf6 22.Rc1 Bb7 23.Rb1

 黒はここでルークを全部交換して白の中央の重要性を減殺することができる。ダムリャノビッチは 23.Qg3 からナイトをc4に捌いていく方が強い指し方だったと考えている。

23…Rxb1 24.Qxb1 Rh3! 25.Rg3 Rxg3 26.fxg3 Bc8 27.Qf1

 この手は黒を自由にさせる。 27.Qc2! Qd8 28.Qc6 a5 29.Bb5 ならまだなんとか圧力を保持できた。

27…e5! 28.Qa1 Qb6 29.Qc3 exd4+ 20.Qxd4 引き分け

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2017年08月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

頓馬

第194回チェスネット競技会 8月号

正解はこちら。

(8月21日にこっそり修正されました。何のお詫びも断り書きもありません。人間としての常識を疑います。)

2017年08月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

「ヒカルのチェス」(485)

「British Chess Magazine」2017年8月号(1/1)

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2017年グランドチェスツアー・パリ大会


2017年グランドチェスツアー・パリ大会、ブリッツ第16回戦

75.Rf5

 ここでは黒の勝勢である。しかしチェスエンジンの示す「-15」ほど簡単明瞭なわけではない。

75…Kg2?

 これでは引き分けになる。

 75…f2+ 76.Kd2 Rh2!(次に …Kg1 と指し白ルークによるチェックには …Rg2 とする狙い)77.Rg5 Rh1!(手詰まりにさせた)78.Kd1 Rg1 79.Rf5 Kg2+ これで黒の勝ち。

76.Ke3 f2+ 77.Ke2

 ここであり得ないようなことが起こった。

77…f1=N??

 「ビショップはナイトより強し」だからビショップに昇格させる方が良かった。

 77…f1=B+ 78.Rxf1 Rxh5 両者とも望むならもう少し気のすむだけ指すことができる。

78.Rf2+!

 黒は完全にこの手を見落としていた。しかしそもそもナイトに昇格させて勝てると考えていたのだろうか。それともユーモアのセンスを見せたかったのだろうか。はたまた誤って別の駒をf1に置いたのだろうか。

78…Kg1 79.Rxf1+ Kg2 80.Rf2+ Kg1 81.Rf5

 何という変わりようか。敗勢の局面からこの局面だ。それでもまだ引き分けで、比較的容易である。しかし前局のカールセンの試合のように流れは明らかに白の方にある。

81…Ra3

 どうしてhポーンを進ませるのだろう。この手は全然意味がない。

 白キングが3段目を渡れなくする 81…Kg2 が最も簡明だった。

82.h6 Rh3 83.Rf6 Kh2 84.Kf2 Rh4

 前と同様に 84…Kh1 なら引き分けである。本譜は白キングが1段前に進むがそれでも引き分けである。

85.Kf3 Kh3 86.Rg6

86…Ra4?

 この手は負けになる。しかしマメデャロフは最初の機会を生かせなかった。ここからは黒が白のポーンを進ませた81手目からの繰り返しである。

 86…Kh2 なら白が何も進展を図れなかった。

87.h7?

 マメデャロフは繰り返しによりポーンを進めるが、勝ちを逃している。

 87.Rg1! Kh2 88..Rg4 で白の勝ちだった。

87…Rh4 88.Rg7

88…Rh6??

 ナカムラは白キングを進ませないことの重要性をまったく理解していなかった。

 88…Kh2 なら白が進展したにもかかわらず依然として引き分けだった。

89.Kf4 Kh4 90.Kf5 Rh5+ 91.Kg6 Kg4 92.Kf7+ 1-0

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(255)

「Chess Life」1999年10月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!?(再掲)

イギリス布局 [A17]
白 GMバジム・ズビャーギンセフ
黒 GMイェルン・ビケット
ティルブルフ、1998年

4…d5

 すぐに反撃を目指すのがどの点からも主眼の指し方である。4…Bxc3 と取るのは 5.dxc3 d6 6.g5 Nfd7 7.Bg2 e5 8.Be3 Qe7 9.Nd2 f5 10.gxf6e.p. Nxf6 11.Ne4 Nxe4 12.Bxe4 Nd7 13.Qd3 Nf6 14.Bg5 Qf7 15.Bxf6(クラセンコフ対ロブロン、スービック湾、1998年)で白がはっきり優勢になった(15…gxf6? 16.c5! のあと白が36手で勝った)。クラセンコフは黒の改良手として 15…Qxf6 16.Bxh7 Be6 を指摘しポーンの相応な代償があるとしている。クラセンコフ対ボグダノフスキー戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)では 4…d6 5.g5 Nfd7 6.Qc2 Nc6 7.a3 Bxc3 8.Qxc3 e5 9.b4 Qe7 10.Bb2 Nb6 11.b5 Nd8 12.a4 Bg4 13.Bg2 Rc8?!(ボグダノフスキーは改良手として 13…a5! を指摘している)14.d4 と進み、白が展開の優位と陣地の広さで通常の布局の優勢を得た。

 そのほかにも自然な手として 4…O-O がある。この手についてロシアのGMセルゲイ・イオノフは 5.g5 Ne8 から 6…d5 に注意を喚起している。実戦による検証が必要なことは明らだが、まずキングを比較的安全な状態にしてから中央での反撃を始める着想は理にかなっている。

5.g5 Ne4 6.h4!

 ズビャーギンセフは以前に指された 6.Qa4+ Nc6 7.Nxe4 dxe4 8.Ne5 e3! 9.fxe3 Qxg5 10.Nf3 よりこの新手の方が優ると考えている。クラセンコフ対ガルシア戦(フローニンゲン、1997年)では黒が 10…Qe7? と重大な無駄手を指した(白が30手で勝った)。クラセンコフは改良手として積極的な 10…Qf6 や 10…Qh6 をあげている。

6…Nc6 7.Qc2 f5 8.gxf6e.p.

 後日の研究では 8.d3! Nxc3 9.bxc3 Bd6 10.cxd5 exd5 11.Bg2 で引き締まったポーン陣形を保つことにより通常の有利さを保持することができた。

8…Nxf6 9.a3 Bxc3 10.dxc3 Qe7 11.Bg5 Bd7 12.O-O-O

 白はまず 12.cxd5! exd5 を決めてから初めて 13.O-O-O と指すべきだった。実戦は黒のポーン取りが有効な手になった。

12…dxc4 13.h5 O-O-O 14.h6 Rhg8 15.Bh3 gxh6 16.Bh4! Rdf8 17.Nd2 Qf7 18.Nxc4 e5! 19.Bxd7+ Nxd7 20.Ne3

 この不均衡な局面はいい勝負で、黒が正着の 20…Rg6! を指せばそれが続く(ズビャーギンセフ)。しかし黒はすぐに乱れ始めた。詳細な分析は『チェス新報』第74巻第15局のズビャーギンセフの解説を参照されたい。

20…Nc5?! 21.Nd5 Nd7 22.Qd3 Qf5? 23.e4 Qe6 24.b4! Rf7?? 25.Qc4 a6 26.Nb6+ 黒投了

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2017年08月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(484)

「Chess」2017年8月号(1/1)

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次の一手

第13問 中級向け
W.ソー – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 白の手番

第18問 上級向け
S.マメジャロフ – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 黒の手番で引き分け

解答

第13問 1.Nf6!(これでも良いが、クイーン同士の対峙を生かす 1.Nxg7! の方がはるかに強力だった。1…Rxa1 なら 2.Nxe8 Rxc1 3.Nf6 で必殺の両狙いがある) 1…Qd8 2.Qf5!? g6?(白は捨て駒の必要がなくなった。しかし 2…gxf6 でも 3.Bxf6+ Ng7 4.Qg5 Qd7 5.Rg1 でやはり交換得になる。5…Rxf2+ 6.Kg3 Qe6 7.Kxf2 Qxe3+ 8.Kg2 Qe2+ 9.Kh1 Qf3+ 10.Qg2) 3.Nxe8+ Rxa1 4.Qxf7 1-0

第18問 1…Kh2!(これは方向違いのように感じられるかもしれないが、黒のルークは理想的な位置にいて白ポーンの背後から白キングを抑止している。ナカムラは 1…Ra4?? と指したが、2.Rg1! Kh2 3.Rg4 とこられたら白キングが自由になり勝負がついていた) 2.Kf2(白ルークが横に動けば黒キングがh3に戻ってくるだけ) 2…Rh3!(ただし 2…Kh3? には 3.Kg1!) 3.Kf1(3.Ra6 は 3…Rh4 4.Kf3 Kh3 5.Ra1 Kh2 で白キングが酩酊状態) 3…Rf3+ 4.Ke2 Rf8 黒はキングをh列で上下させていれば引き分けにできる

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(この号終わり)

2017年08月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(254)

「Chess Life」1999年10月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

 この局面は国際大会で大流行している。白はdポーンとeポーンを突くのを遅らせることにより黒が白の意図を推測するのを難しくさせながら自分の選択肢を広げたままにしている。その一方で黒はキング翼の小駒を最も働きのある地点に展開することに努めて勝つ見込みを高めている。

 上記の手順は最も一般的なものである。1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 Bb4 と 1.c4 e6 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Bb4 もよく見かける。1997年12月まで白の十分信頼できると考えられる応手は 4.Qc2 と 4.Qb3 だけだった。どちらの場合も要点は白がクイーンで取り返すことによりc3に二重ポーンができるのを避けることである。

 しかしFIDE勝ち抜き世界選手権(フローニンゲン、1997年)でチェス界は次の驚くべき新手に遭遇した。

4.g4!?

 どんな普通のチェス選手でも最初の反応は「これがチェスだって?」のはずである。正直に言うとこんな手は考えたこともなかった。ついでに言えば弱い選手が指したのなら私はたぶん「明らかに彼はまともなチェスが分かっていないな!」とでもつぶやいただろう。

 しかしレイティング2600超のGMたちがこのように指し始めると、この手には何かあるに違いなく、それが何であるかを理解するのは我々しだいである。この手の論理は次のようなものではないかと思う。3…Bb4 と指された時の白陣は中央のポーン陣形の融通性が最大になっている。だから白はdポーンにもeポーンにもあまり早く手をつけたくない。黒がすぐにキング翼にキャッスリングすることもはっきりしている。それはそうとしてまず中央を支配することなく黒キングに迫るにはどうしたらよいか?

 その答えはg列での銃剣攻撃である。白の中央は(控え目に言えば)全然開かれていないので、そこで黒の反撃が成功する危険性は最小限である(側面攻撃には中央での反撃が最善という原則を思い起こすこと)。だから白はすぐに中央で滅茶苦茶にされる心配なく側面攻撃に出ることができる。

 実のところ 4.g4!? を試す予定は私には今のところない。私の棋風には滅茶苦茶すぎる。それでも時の試練に耐える可能性は十分あると思う。

 知られている黒の応手は少なくとも5手である。主眼の2手の 4…d5 と 4…h6 は実戦の棋譜を完全に示し、ほかの3手は簡単に触れることにする。

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2017年08月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3