2017年07月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(483)

「British Chess Magazine」2017年7月号(1/1)

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第5回ノルウェーチェス大会

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
第5回ノルウェーチェス大会、2017年、スタバンゲル、第9回戦

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 カルアナはナイドルフ戦法の白番で多くの問題を抱えていた。2013年から2016年の間に正規の持ち時間の試合で一流どころを相手に9敗(!)していた。興味深いことにそれらのいずれもイギリス攻撃だった。6,Bg5 に転向するとたちまち結果が良くなった。昨年はロンドンの大会でナカムラを負かし、今度はスタバンゲルでも負かした。

6.Bg5 e6 7.f4

7…Qb6

 ロンドン大会の有名な試合は次のように進んだ。7…h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 g5 14.h4 gxf4 15.Be2 b4 16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5 19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5! … 1-0(32手)F.カルアナ(2823)対H.ナカムラ(2779)、ロンドン、2016年

8.Qd3

 この手は今日では滅多に指されない。しかしカルアナにはある構想があった。

8…Qxb2 9.Rb1 Qa3 10.f5 Be7 11.fxe6 fxe6 12.Be2 Qa5 13.Bd2 Qc7 14.g4 h6

15.Rg1

 これがカルアナの新手だった。ここからナカムラの連続長考が始まった。

 ここでは 15.Qh3 が最もよく指される手だが、黒は何の問題もない。

15…Bd7

 20分の長考。

16.g5 hxg5 17.Rxg5

17…Nc6

 30分超の長考。カルアナはこの手に驚いた。というのは黒は負けないようにするためには22手目で非常に難解な手順を見つけなければならないことを知っていたからで、ナカムラが研究済みだったか対局中に読んでいたか確信はなかった。

 カルアナは 17…Rh7 を中心に研究していた。以下は想定手順の一端である。18.Bg4 Nxg4 19.e5! Rx2(19…Bxg5? 20.Qxh7)20.Qg6+ Kd8 21.Rxg4 Nc6 22.Qxg7 これは大乱戦である。17…Kf8? は 18.e5! で黒の危険が露呈する。18…dxe5 19.Qg6 Rh7 20.Ne4 白の攻撃が止まらず、チェスエンジンは次のような例をあげている。20…Nxe4 21.Qxh7 Nxg5 22.Qh8+ Kf7 23.Bh5+ g6 24.Bxg5 Qc3+ 25.Kf1 Bxg5 26.Qh7+ Ke8 27.Qxg6+ Ke7 28.Qxg5+ Kd6 29.Ne2 Qh3+ 30.Ke1 Qf5 31.Qd8 さらに 17…Rg8? は黒にg7のポーンを守る選択の余地がないことを示している。18.e5! dxe5 19.Ne4! exd4(19…Nxe4 20.Bh5+ g6 21.Rxg6 Bh4+ 22.Rg3+ Ke7 23.Qxe4 Bxg3+ 24.hxg3 白の攻め合い勝ち)20.Nxf6+ Bxf6 21.Bh5+ Kd8 22.Ba5 Nc6 23.Bxc7+ Kxc7 24.Rc5 まだ混沌としているが白が勝つはずである。

18.Rxg7 O-O-O

 18…Rxh2? でも 18…Ne5? でも 19.Qg3

19.Ncb5 axb5 20.Nxb5 Ne5 21.Nxc7 Nxd3+ 22.cxd3

22…Ng8?

 さらに21分使ってこの手が指された。だからナカムラはこの手順を研究していたわけではなく、読みで正解手順を見つけていたわけでもなかった。黒にはほかに有力な手が一つ(とてつもなく見つけるのが難しい)と実戦の手よりはましな手が一つあった。

 22…Rh7 は人間らしい手だった。23.Rxh7 Nxh7 24.Na8 Bh4+ 25.Kd1 Ba4+ 26.Kc1 Bc6 27.Nb6+ Kc7 28.Ba5 Rg8 黒にいくらか代償がある。22…Rxh2! が最善手だが 23.Rxe7 Rh1+ 24.Bf1 Rf8! を見つけるのが難しい。白は駒得を維持できない。25.Nxe6 Bxe6 26.Rc1+ Kb8 27.Bh6(27.Rxe6?! は 27…Ng4 で白が困っている)27…Rxh6 28.Rxe6 Rh1 29.Kd2 Nxe4+ 30.dxe4 Rfxf1 これは引き分けである。

23.Na8

 23.Ba5 Rxh2 24.Kd2 の方が直接的だが、カルアナの指した手でも十分である。このあとは 24…Rf8 25.Rc1 Bc6 26.Nxe6 Rff2 27.Nd4 となる。

23…Kb8

 23…Rxh2 は 24.Nb6+ Kc7 25.Nxd7 Kxd7 26.Be3 Kc8 27.Kd2 で黒は四方八方からの白の攻撃を受け切れない。27…Re8 28.Bf4 Rh8 29.Bg4 という具合。

24.Nb6 Bc6 25.Bf4

 26.Nc4 を狙っている。

25…e5

 25…Bf6 は 26.Rg2 Bc3+ 27.Kd1 で白がはっきりポーン得。

26.Bg3

 白は得しているhポーンをしっかり守った。黒には代償が全然ない。白が陣容をまとめれば黒の負けが確定する。

26…Bf6 27.Rf7 Be8 28.Rf8 Bg7 29.Rf2 Ne7 30.Bg4

 この手の狙いは Rfb2 で、そうなれば白の駒がすべて配置が良くなる。

30…Nc6 31.Rfb2 Nd4 32.Nd5 b5 33.a4 Bh6 34.axb5 Rg8 35.h3 Kb7 36.Ne7 Rf8 37.Nc6 Bxc6 38.bxc6+ Kxc6 39.Bf2

 白には詰みの狙いがあるので黒はf2のビショップを取らざるを得ない。しかしそれは必然を先延ばししただけである。

39…Rxf2 40.Kxf2 Rf8+ 41.Kg2 Be3 42.Rb8 Rxb8 43.Rxb8

 ナカムラはこの敗勢の局面で59手まで指し続けた…

1-0

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(この号終わり)

2017年07月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(253)

「Chess Life」1999年10月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

A)イギリス布局 A28(続き)

 しかし次の試合においては白は単純ながら強力な新手を繰り出した。

イギリス布局 [A28]
白 GMマイケル・ロード
黒 GMアレクサンドル・イワノフ
首都ワシントン、1998年

1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4 5.d3! Nxf3+

 実戦の手は白クイーンを好所に来させるが、ほかにeポーンを守る適当な方法がない。例えば 5…d6 6.Nxd4 exd4 7.Ne2 c5 では白が中央で優位に立っているのに対し黒は中央のポーン陣形のために黒枡ビショップが働かない。

6.Qxf3 d6 7.h3! Be7 8.Be3 O-O

 黒は 8…c5 と突いて白の次の手を防ぐべきだと思う。たとえ白があとでd5の地点を制する機会とクイーンが働く可能性で通常の布局の有利を保持するとしてもである。

9.d4! c6 10.Be2 Qb6

 10…Be6 で小駒の展開を完了する方が理にかなっている。黒は本譜の手で白キングがクイーン翼に不安を抱えることを期待しているようである。しかし実際はそうはならない。

11.O-O-O Qa5 12.Qg3 Re8 13.f4 Bf8?!

 黒は危険を覚悟で展開を無視し続けている。13…exd4 14.Bxd4 Be6 と指さなければいけなかった。

14.fxe5 dxe5 15.Rhf1 exd4?

 黒は反撃を夢見ているが、白の十分に展開した駒のために筋を開けるのは自殺行為である。15…Nd7 か 15…Kh8 なら受かる見込みがある。

16.Bxd4 Nxe4 17.Nxe4 Rxe4

18.Bc3!

 この軽妙手がうまい手だった。18…Qxa2 と取ってくれば 19.Rxf7! Kxf7 20.Qf3+ Kg8 21.Qxe4 で黒は次の 22.Bd3(21…g6 22.Qe5)にどうしようもない。

18…Qb6 19.c5! Qxc5 20.Rd8 g6

 20…Qe3+ はクイーン翼が展開できていないので 21.Qxe3 Rxe3 22.Bb4 で負けてしまう。

21.Bd3 Re6 22.Qc7 Re7 23.Rxf8+ Kxf8 24.Qd8+ Re8 25.Rxf7+! Kxf7 26.Qf6+ 黒投了

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2017年07月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(252)

「Chess Life」1999年10月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手

 世界中で大会の開催が爆発的に増える中チェスの科学的研究全体が急速に進んでいるに違いないと考えられる。ほとんどの場合これは布局での新発見である。今回は白による新手を取り上げる。そして次回は黒による新手を取り上げる。

 『チェス新報』の発行者たちは同誌に初めて掲載された実戦の手を新手とみなしている。これは妥当な定義と思われる。

 しかし私の議論では意味のある新手に限ることにする。すなわち好手に違いないか悪手ではあり得ない手、または後日の研究のおかげで見かけよりは良い手のことである。ここではそれぞれの群から一例を取り上げる。

A)イギリス布局 A28
1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4

 4.e4 の意図は黒枡をいくらか弱める犠牲をこうむっても中央でのポーンの力を強めることである。黒の最も安全な応手は 4…Bb4 と考えられていて、かなり閉鎖的な局面になってくる。4…Nd4 の意図は白が 4.g3 と突く戦型でよく知られている。その戦型ではこことちょうど同じように黒が一組のナイトを交換することにより局面を単純化することを目指す。

 シェル対ソコロフ戦(ヘルシンキ、1992年)では黒は(4.e4 Nd4)5.Nxe5 Nxe4 6.Nxe4 Qe7 7.Bd3 Qxe5 8.O-O Ne6 9.Re1 d5 10.cxd5 Qxd5 11.Bc2 Be7 12.d3 O-O 13.Be3 c5 14.Bb3 Qf5 で互角の形勢を達成した。

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2017年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(251)

「Chess Life」1999年8月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅳ)1.g4?(グロープ攻撃)

 どうしてスイスのIMアンリ・グロープが自分の名前を明らかに劣った布局に結びつけて欲しかったのか私にはよく分からない。この手の良い面はポーンが中央に隣接したf5の地点に利いていて、g5に進めばf6の黒ナイトを追い払うことができることである。しかし悪い面は計り知れない。キング翼の極度の弱体化は未来永劫に続く。

 もちろんこれは 1.g4 をすぐに咎められるということを意味しない。実際1980年代の短い期間ながらイギリスのIMマイケル・バズマンはイギリスの一流どころを相手にこれで好成績をあげた。それは相手が彼を断固「とっちめ」なければならないと思い込んでいたためだった。棋理に合った展開と中央の態勢とに沿って指すようになって初めて、キング翼の弱点(h4、f4)が中盤戦で表面化し白は指す楽しさがなくなった。

 上等の手なら 1…c6、1…c5、1…d6、1…e6、1…e5 および 1…g6 のどれでも良い。白からの唯一のはめ手がこれである。

1…d5 2.Bg2 Bxg4?

 2…c6、2…e5、2…e6 それに 2…g6 のどれでも良い。

3.c4! c6 4.cxd5

 黒は中央のポーンが1個少なくなりその代償も不十分になる。前例が2局ある。

A)4…Nf6 5.Nc3 e5 6.dxe6e.p. Bxe6 7.d4 Nbd7 8.e4 Nb6 9.Nge2

 ケレス対ニーマン(通信戦、1934~35年)。白の優勢は明らか。

B)4…cxd5 5.Qb3 Nc6?!

 5…Qc7?! 6.Nc3! e6?? は 7.Qa4+ でビショップが取られる。まだましなのは 5…Nf6 である。

6.Bxd5 e6 7.Qxb7 exd5 8.Qxc6+ Bd7 9.Qxd5 Nf6 10.Qe5+ Be7 11.Nc3 O-O 12.d3 Bc6 13.f3 Bd6 14.Qg5 h6 15.Qh4

 フリッツ対ボゴリュボフ(ドイツ、1932年)。黒は2ポーン損の代償が十分でない。

 私は 1.g4? にどう指すか。実はまだこの手を指されたことがない。大会でも、非公式戦でも、ブリッツ戦でも、快速戦(10秒)でも。お手軽版としては「Modern Chess Openings 第12版」(1982年)に載っている次の手順が良さそうである。1…d5 2.Bg2 c6 3.h3 e6 4.d3 Bd6 5.Nf3 Ne7 6.e4 Na6 形勢は互角である。

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2017年07月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(250)

「Chess Life」1999年8月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)(続き)

B)キング翼インディアン防御の優位型を目指す

ポーランド布局 [A01]
白 シドニー・バーンスタイン
黒 エドマー・メドニス
米国選手権戦、1959年

1.b4 a5!? 2.b5 e5 3.Bb2 d6 4.e4?

 高等な戦略からはこれは敗着である。そのわけは黒がいずれ重要なc5の地点を完全に支配するからである。加えてc4の地点が恒久的な穴になる。正着は 4.e3 Nf6 5.Nf3 g6 6.Be2 Bg7 7.O-O Nbd7 8.d4 O-O でいい勝負だろう。

4…Nf6 5.Nc3 g6 6.d4 Nbd7 7.Nf3 exd4 8.Nxd4 Bg7 9.g3 O-O 10.Bg2 Re8 11.O-O Nb6! 12.Rb1 Ng4 13.a4 Qg5 14.h3 Ne5

 たとえ白がうまく展開しているように見えても、c4とc5の恒久的な弱点には何も代償がない。本譜の意欲的な手の代わりに安全で本手の 14…Nf6 にはすきがない。たぶん今ならそう指すだろうが40年前はそれ以上を望んだ。しかし客観的には本譜の手には何も危険性がない。

15.Bc1

 白は 14.f4?! で駒を取れるが、15…Qxg3 16.fxe5 Bxh3! 17.Qf3 Qxg2+ 18.Qxg2 Bxg2 19.Kxg2 Bxe5 で黒が3ポーンを得て十分に代償がとれているのに対し白には弱点が残ったままである。総合すると黒がはっきり優勢である。だから白は防御態勢を整えなければならないが、長い目で見ればそれでも不十分である。

15…Qf6 16.Rb3 Ned7! 17.Nde2 Nc5 18.Ra3 Nc4 19.Ra2 Be6 20.Nd5 Bxd5 21.exd5 Re7!

 黒は唯一の素通し列を奪い取る用意ができていて、それゆえに理論的に勝ちの局面になっている。私の技量ではそれで十分だった。

22.h4 h6 23.Bd2 Nxd2 24.Qxd2 Rae8 25.Nf4 b6 26.c4 h5 27.Nh3 Qc3! 28.Qxd3 Bxc3 29.Bf3 Ne4 30.Bxe4 Rxe4 31.Rc2 Bg7 32.Nf4 Rd4 33.Rb1 Ree4 34.f3 Rxc4 35.Rbc1 Rxc2 36.Rxc2 Rxa4 37.Rxc7 Rb4 38.Rc8+ Bf8 39.Nh3 Kg7 40.Ng5 Be7 41.Ne4 f5 42.Nd2 Rxb5 43.Rc7 Kf6 44.g4 Rxd5 45.g5+ Ke6 46.Nf1 a4 47.Ne3 Rc5 48.Ra7 Ra5 49.Rb7 a3 50.Rxb6 a2 51.Nc2 Rc5 52.Nd4+ Kd5 53.Nb3 Rc3 白投了

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2017年07月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(249)

「Chess Life」1999年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)

 これは中途半端な手のように思われる。確かに黒枡ビショップは絶好の斜筋につくし、このポーンは副次的に中央のc5の地点に利いている。白の期待は黒がぼやぼやしてただでクイーン翼に立派なポーン陣形を築かせてくれることである。しかし残念ながらbポーンが守られていない状態なので、黒には積極策に出られる二通りの可能性がある。

A)迅速な展開を目指す
1…e5 2.Bb2 Bxb4! 3.Bxe5 Nf6 4.c4 O-O

5.Nf3

 白はできるだけ急いでキング翼の展開を目指すべきである。5.e3?! は劣っていて、5…d5 6.cxd5 Nxd5 7.Nf3 Re8 8.Be2?(8.Bb2 の方が良いが 8…Nf4! 9.Qc2 Nc6 でやはり黒が良い)8…Rxe5! 9.Nxe5 Qf6 10.f4 Nxe3(リンクビスト対ソレンフォルス、通信戦、1975年)のあと10手で黒の勝ちになった。

5…Nc6 6.Bb2 d5 7.cxd5 Nxd5 8.g3

 このあとは 9.Bg2 から 10.O-O でほぼ互角になる(『チェス布局大成A』、1966年)。

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2017年07月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(482)

「British Chess Magazine」2017年6月号(2/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

ヒカル・ナカムラ – ピョートル・スビドレル
2017年モスクワFIDEグランプリ第9回戦

35.Re4 ½-½

 ここで引き分けを提案するとはナカムラも勇気があるものだ。「栄光は勇者に微笑む」を地でいった。実際スビドレルが受諾した時は「してやったり」という気持ちだったに違いない。

 35.Re4 Rh1 のあと白は実際は困っている。スビドレルがこれに気づかなかったとは驚くしかない。35…Rh1 はそれほどたいした手ではない。黒はこの局面からずっといつまでも指し続けることができ、もし勝てばスビドレルは同点2位になってもっとグランプリ得点が増えるので、本戦進出の可能性がずっと高まっただろう。36.Qd2(36.Kd2 は 36…a4 37.Kc2 Rh3 から38…Qf6)36…a4 37.Qc3+ Qf6! 白はb2が弱いのでクイーン交換に応じられない。しかし黒は単にキングがよけても(37…Kh7)よい。38.Re7 b5!

白は風前の灯である。

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(この号終わり)

2017年07月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(248)

「Chess Life」1999年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅱ)1.b3(ラーセン布局)

 これは 1.g3 のクイーン翼版である。2.Bb2 のあと白からd4とe5の地点に十分に圧力がかかる。1960年代後半と1970年代前半にベント・ラーセンは 1.b3 で好成績をあげて、その結果彼の名がつけられた。しかし定跡がとことん研究されて 1.b3 は 1.g3 よりも次の二つの理由により少し劣ることが分かってきた。

 1)キング翼キャッスリングを準備することによってキングを安全にするということに寄与しない(この布局ではクイーン翼キャッスリングは気乗りしない)。

 2)f4 突きはキングの状態が弱くなるので、e5にさらに圧力をかけることが難しい。白は何も狙っていないので、黒には 1…c5、1…d5 それに 1…Nf6 など理にかなった応手がいろいろある。最も本筋でよく指されるのは白の黒枡ビショップの潜在力を減殺させる 1…e5 で、実戦例にはこれを取り上げる。

ラーセン布局 [A01]
白 GMベント・ラーセン
黒 GMボリス・スパスキー
ソ連対全世界戦、1970年

1.b3 e5 2.Bb2 Nc6 3.c4

 クイーン翼を展開し続けるのは以前は主手順だったが、現在の定跡では白もキング翼の展開をする方が良いと考えられている。3.e3 Nf6 4.Bb5 のあとの最近の重要な実戦例を2局紹介する。

 1)4…d6 5.Ne2 g6 6.d4 Bg7 7.dxe5 Nd7 8.Bxc6 bxc6 9.f4! dxe5 10.O-O O-O 11.Ng3 f5 12.Nd2 Qe7 13.Qe2 Nb6 14.Nf3 exf4 15.Bxg7 Kxg7 16.exf4 Qxe2 17.Nxe2(スロボドヤン対ファン・デル・シュテレン、ドイツ、1998年)白はポーン陣形に優っているので、收局で楽に少し優勢になる。

 2)4…Bd6 5.Nf3 e4 6.Nh4 O-O 7.O-O Be5 8.Bxe5 Nxe5 9.f4! exf3e.p. 10.Nxf3 Qe7 11.Nc3 d5 12.Qe1 c5 13.Qh4 Ng6 14.Qg3 c4 15.Nd4!!(ミハレフスキー対アブルーフ、ラマット・アビブ、1998年)白はf列で攻撃の可能性があるので少し有望である。この熱戦については『チェス新報』第72巻第1局のミハレフスキーの解説を参照されたい。

3…Nf6 4.Nf3

 より安全で本筋の手には 4.g3、4.Nc3 それに 4.e3 がある。ラーセンはいつものように恐れることなくもっと上を望んでいる。

4…e4 5.Nd4 Bc5 6.Nxc6 dxc6 7.e3 Bf5 8.Qc2

 この手の目的は私には分からない。展開の 8.Nc3 なら何の問題もない。

8…Qe7 9.Be2 O-O-O

 ここが勝負の分かれ目だった。黒は駒を効率的、積極的、そして好所に展開してきた。それでも白がここで普通に 10.Nc3 と指していたら、私には特に悪いところは見当たらない。たぶん黒はほんのわずか優勢だろう。たぶんいい勝負だろう。代わりにラルセンは展開を無視してキング翼を弱める過ちを犯した。そしてスパスキーに鮮やかに咎められた。

10.f4?? Ng4! 11.g3? h5 12.h3 h4! 13.hxg4 hxg3! 14.Rg1 Rh1!! 15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 白投了

 18.Bxf1 と取っても 18…Bxg4+ 19.Kc1 Qe1+ 20.Qd1 Qxd1# で詰まされる。黒の一連の決定的な手筋が決まったのは、白がクイーン翼の駒の展開を怠ったからである。

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2017年07月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3