2017年06月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(481)

「British Chess Magazine」2017年6月号(1/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

アレクサンドル・グリシュク – ヒカル・ナカムラ
2017年モスクワFIDEグランプリ第8回戦

18…Nf6

 白のc列での圧迫と黒のc7の出遅れポーンのために白には申し分のない代償がある。グリシュクの次の手は黒にこれらの問題をたった1手で解消させるので説明がつかない。

19.Ra6??

 19.Rac1 なら黒は長いこと苦しんだ。

19…c5

 この手は見つけにくい手だったのだろうか?

20.dxc5 Qc8

 チェスエンジンによれば 20…Rc7 の方が良かったが、実戦の手でも十分である。

21.Rc6 Rc7 22.Rxc7 Qxc7 23.c6 a5 24.Rc1 h6 ½-½

 黒にはパスbポーンができ、白は進展を図ることができない。

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(この号続く)

2017年06月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(247)

「Chess Life」1999年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局

 急に初手にナイト・ポーンを突いてみたくなったらどうなるだろうか。可能性としては4手考えられるが、一番良い手から一番悪い手の順でそれぞれざっと見てみることにする。

Ⅰ)1.g3

 良い布局の指し方は中央の支配を目指し、中央に向かって駒を展開し、キャッスリングによってキングを安全にすることから成る。1.g3 はこれらの目標すべてを助長し欠陥がないので、布局の完璧な5手の一つに入ることは確かである(ほかの4手は 1.e4、1.d4、1.c4 それに 1.Nf3)。

 1.g3 は消極的に見えるけれども次に 2.Bg2 と指せば白は中央の重要なe4とd5の地点を支配し、3.Nf3 のあとはキャッスリングの用意が整う。3.Nf3 の代わりに 3.c4 から 4.Nc3 と指せば中央への影響力をもっと増すことができる。1…Nf6 または 1…d5 に対し白がすぐに 2.Nf3 と指せば、レーティ布局か逆キング翼インディアンに移行する公算が大きい。したがって理論的に 1.g3 は融通性がありかつ欠点がないことが分かる。

 実戦例として独立した戦型を参考に供する。黒はすぐに …e7-e5 と …d7-d5 を突き、白はそう指させる。約80年前なら叱られた指し方だったろうが、今はより良く知られている。さらには時の流れでこれらの手順の理解が深まっている。『チェス布局大成A』の初版(1979年)では4行と16脚注だったが、1996年版では4行と24脚注になった。世界級の戦略家のGMローマン・ジンジハシビリは 1.g3 の第一級の実践者である。

キング翼フィアンケット布局 [A00]
白 GMラリー・クリスチャンセン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ローンパイン、1981年

1.g3 e5 2.Bg2 d5 3.d3 c6

 互角を目指す観点からは本筋の展開の 3…Nf6 が最善手である。コルチノイは本譜の手でそれ以上を得ようとしている。つまり中央で優位に立ちたいのである。それはともかくリバス対イリェスカス戦(スペイン、1993年)で指されたような 3…c5?! は指しすぎである。4.e4! Nf6 5.Nc3! d4 6.Nce2 Nc6 7.f4! Bd6 8.Nf3 O-O 9.O-O Bd7 10.Kh1 Rc8 11.c3! dxc3 12.bxc3 Bg4 と進んだとき、時機尚早の 13.d4? でなく普通に 13.Rb1 または 13.h3 と指していたら白が楽に優勢になっていた。

4.Nf3 Nd7 5.O-O Bd6 6.Nc3

 もちろん 6.c4 と黒の中央に挑むのも主眼の手である。代わりにクリスチャンセンは上述の仕掛ける方を選んだ。

6…Ne7 7.e4 d4 8.Ne2 h6 9.Nd2 Nb6 10.f4!

 d4の土台を切り崩す。

10…f6 11.fxe5 fxe5 12.c3! dxc3

 戦略的には気の進まない手だが、12…c5?! では 13.a4! と突かれて黒が白枡で弱くなる(13…a5 14.Qb3)。

13.bxc3 Be6 14.Nf3 O-O 15.Be3 Rf6 16.a4

 白の優勢は大きくはないが明らかである。中央での影響力に優り、クイーン翼で圧力をかけ、孤立eポーンを標的にしている。

16…Qc7 17.a5 Nd7 18.d4 Rd8 19.Qa4 Qb8 20.dxe5?!

 この正当な理由のない圧力解消で黒が互角にすることができた。終局までの手順は次のとおりである。

20…Nxe5 21.Nxe5 Bxe5 22.Nd4 Bf7 23.Qb4 Bd6 24.Qb2 Rxf1+ 25.Rxf1 Bc5 26.Kh1 b6 27.axb6 axb6 28.Bf4 Qc8 29.Nb3 Bd6 30.Bxd6 Rxd6 31.Nd4 Rg6 32.Nf5 Nxf5 33.exf5 Rf6 34.Qxb6 Rxf5 35.Rxf5 引き分け

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2017年06月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(480)

「Chess Life」2017年6月号(1/1)

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米国選手権戦

GMヒカル・ナカムラ(2867)
GMアレクサンドル・オニシュク(2747)
2017年米国選手権戦第9回戦、ミズーリ州セントルイス、2017年4月7日

 27.Nd2 の局面

27…Qf4

 オニシュクは複雑なクイーン翼ギャンビットで優位に立っているように見える。h列の支配、働きの良いクイーン、それに堅固な陣形のおかげで白の潜在的に強力な中央のポーンを十分に相殺している。しかしナカムラが証明するように事は全然明白でない。

28.e6! gxf5

 28…fxe6 と取るのは 29.fxg6 と取られてgポーン突きにどう守るのか非常に悩ましい。

29.exf7 Be6! 30.Rf1 Qxg4 31.Nf3

 白は駒の働きがポーンの代償になっている。

31…Rg2 32.d5 cxd5

33.Nxd5?

 これはナカムラらしからぬ失着だった。33.Qe5! Qg7 34.Rg1! は見つけづらい手だが、防御の難しい手でもある。白はfポーンの威力を生かしている。想定される手順は 34…Rxg1 35.Rxg1 Qxe5 36.Nxe5 Rf8 37.Nxd5!!

で、次の手順で分かるように白の代償はたんまりある。37…Bxd5(37…Nxd5 38.Nd7+! Bxd7?[38…Kc8 39.Nxf8 Bxf7]39.Rg8)38.Nd7+

33…Qg7! 34.Nc3 Qxf7

 黒はこの手で白の最後の望みを消し去り、2ポーン得である。以下はまだ難解だがオニシュクは優れた技術を見せつけた。

35.Qe5 Re8 36.Qd6 Qf8 37.Nb5 Qxd6 38.Nxd6 Rh8 39.Rh1 Rxh1 40.Rxh1 Rg8 41.Nd4 f4 42.Rh6 Bc8 43.Nxc4 Nd5 44.Kc2 Rd8 45.Rd6 Rxd6 46.Nxd6 Bh3 47.a3 Kc7 48.Ne4 a5 49.Nd2 b6 50.Kd3 Bg2 51.Nc2 Ne7 52.b4 a4 53.Nd4 Kd7 54.Ke2 Bd5 55.Nb5 Kc6 56.Nc3 b5 57.Kd3 Nf5 58.Nd1 Kd6 59.Nc3 Bc6 60.Nce4+ Ke7 61.Ng5 Kf6 62.Nge4+ Ke7 63.Ng5 Bg2 64.Nge4 Ke6 65.Nf2 Kd5 66.Nd1 Nd6 67.Nf2 Nc4 68.Nxc4 Bf1+ 69.Kc3 Bxc4 70.Nh3 Ke4 71.Kd2 Be6 72.Ng5+ Kd5 73.Nf3 Bg4 74.Nh4 Ke4 75.Ke1 Ke3 白投了


米国選手権4回優勝のGMヒカル・ナカムラはカルアナと共に決定戦進出にわずか半点及ばなかった

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2017年06月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(246)

「Chess Life」1999年6月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)(再掲)

 B2)ハイェス対カパブランカ(ニューヨーク、1916年)

5.e5

 この手から始まる手順はマカッチョン戦法に疑問を付す唯一の手段である。ハイェスの指し方は非常に現代風である。

 しかしカパブランカの考え方は違う。「私は 5.exd5 が最善だと思うが、本譜の手に賛成する考えは多い。しかし白が採用した戦型そのものには賛成が多いわけではない。」

 カパブランカはどちらの手順を批判しているのだろうか。実際のところハイェスは15手目まで完璧に指している。

5…h6 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3! Ne4 8.Qg4

 白の戦略は黒陣の黒枡の弱点と黒キングの不安定な位置とにつけ込むことに基づいている。現代の定跡では 8…g6 が黒の最善の受けと考えられている。カパブランカはキングの位置が悪くなっても黒枡をもっとよく支配できる別の手を選んだ。

8…Kf8 9.Bc1!?

 白は黒枡戦略を続けている。しかし現代の定跡ではすぐに 9.h4! c5 10.Rh3 と動いていくことによってしか明らかな優勢は得られないとしている。

9…c5

 カパブランカの解説「…Qa5 を見せて白の Ba3 を防いだ。白の直前の手がまったくの手損で、単に自陣を弱めただけであることが明らかになった。」

 彼の言っていることは誤りもいいところである。黒は互角にしたいならていねいに指さなければならない。

10.Bd3 Qa5?!

 ゲーザ・マローツィは 10…Nxc3 11.dxc5 Qa5 12.Bd2 Qa4 によってのみ黒が互角になることを望めるとやっとのことで見つけた。

11.Ne2 cxd4 12.O-O dxc3 13.Bxe4 dxe4 14.Qxe4 Nc6

 カパブランカはここでは非常に楽観視していた。「・・・黒の勝ち試合とはまだ言えない。しかし局面が優位に立っていることは確かで、その理由としてポーン得に加えて、白のeポーンが当たりになっている・・・」

 実際は白の展開の優位と黒キングの位置の悪さという動的な要因のために白がはっきり優勢である。

15.Rd1!

 この好手には目的がいくつもある。黒のクイーン翼の展開を妨げ、唯一の素通し列を占拠し、キング翼に転回する位置にいる。

 それなのにカパブランカは何もほめていない。「この手は戦略的には正しくない。というのは駒をクイーン翼に片寄らせることにより、黒の防御が完全に整う前に白が黒のキング翼に決然と攻撃を仕掛けることのできるかもしれない機会を失うからである。」しかし注意すべきはカパブランカが白の指し手の改良に何も触れていないことである。

15…g6

16.f4?

 白の手がおかしくなり始めたのはここからである。1907年(!)のドゥラス対オラント戦(カルロビバリ)で既に動的な指し方が現れていた。16.Bf4! Ne7(16…Kg7 は 17.Rd3 Nb4 18.Rxc3 Bd7 19.Rb3! Na6 20.Be3 Bc6 21.Qf4[黒枡戦略!]21…Qd8 22.Rd3 Qe7 23.c4![クロバンス対グリゴリアン、ソ連、1972年]で良くない。白が何の犠牲も払わずに陣地が広く駒がよく働いているのに対し、黒はf6とh6に弱点を抱えている。棋譜と解説は『チェス新報』第14巻第232局に載っている)17.Rd6! Nd5 18.Be3 Kg7 19.Qh4! Qc7 20.Rd1 b6 21.R1xd5! exd5 22.Qf6+ 白の攻撃が強力で、決まっているかもしれない。

 本譜の手の問題は白が展開のために1手損しているだけでなく、キング翼へのビショップの利きを損なっていることである。

16…Kg7 17.Be3?!

 カパブランカが白は 17.a4! から 18.Ba3 でビショップをよく利く斜筋につけるべきであると指摘しているのはどんぴしゃりである。

17…Ne7! 18.Bf2 Nd5 19.Rd3 Bd7 20.Nd4 Rac8 21.Rg3 Kh7 22.h4 Rhg8 23.h5

 この局面は判断が難しい。カパブランカは「白の攻撃は無いに等しい」と断言しているが、私には黒の指し手が難しいように思われる。しかしカパブランカは相手の以降の指し手に寛容で「25手目からはハイェスの快勝だった」と言っている。

 收局までの指し手を主にカパブランカの解説に基づいて記号を付けて挙げておく。

23…Qb4?! 24.Rh3 f5?! 25.exf6e.p. Nxf6 26.hxg6+ Rxg6 27.Rxh6+ Kxh6 28.Nf5+ exf5 29.Qxb4 Rcg8?! 30.g3 Bc6 31.Rd1 Kh5? 32.Rd6 Be4? 33.Qxc3 Nd5 34.Rxg6 Kxg6 35.Qe5 Kf7 36.c4 Re8 37.Qb2 Nf6 38.Bd4 Rh8 39.Qb5 Rh1+ 40.Kf2 a6 41.Qb6 Rh2+ 42.Ke1 Nd7 43.Qd6 Bc6 44.g4! fxg4 45.f5 Rh1+ 46.Kd2 Ke8 47.f6 Rh7 48.Qe6+ Kf8 49.Be3 Rf7 50.Bh6+ Kg8 51.Bg7! g3 52.Ke2 g2 53.Kf2 Nf8 54.Qg4 Nd7 55.Kg1 a5 56.a4! Bxa4 57.Qh3 Rxf6 58.Bxf6 Nxf6 59.Qxg2+ Kf8 60.Qxb7 Be8 61.Qb6 Ke7 62.Qxa5 Nd7 63.Kf2 Bf7 64.Ke3 Kd6 65.Kd4 Kc6 66.Qf5 黒投了

 最後に今回のちょっとした寄り道を拙著の『How to be a Complete Tournament Player』からのアドバイスを引用して締めくくりたい。「グランドマスターが口先だけでしたり言ったりすることを額面どおりに受け取ってはいけない。必ずチェスの棋理に合っていることを確認すること!

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2017年06月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(479)

「British Chess Magazine」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

ナカムラの不覚

 ナカムラは大会が始まってからずっとやや集中力を欠いていたようだった。しかしついに覚醒して本来のチェスを指し始めて対オニシュク戦では勝勢の局面になった。だが彼らしくもなく読み損じをして重大な結果を招くことになった。

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・オニシュク
2017年米国選手権戦第9回戦、セントルイス

 黒の31手目の手番でこの局面だった。

31…Rg2?!

 ここでは 31…R2h7 で局面を動的に均衡させておく方が良かった。

32.d5?!

 ナカムラは最善手の機会を逃した。実戦の手は白に取って重要な手だがナカムラの読みは正確さを欠いていたようである。

 32.Qe5! Qg7(32…Rf8 33.Qd6 Rxf7 34.Ne5 Qg8 35.d5! cxd5 36.Nxf7 Qxf7 37.Nxd5

白の勝つ可能性が非常に高い)33.Rg1 Qxe5 34.Nxe5 Rxg1 35.Rxg1 Rf8 36.Na4!

黒の問題は最下段の弱さのためにf7のポーンを取ることができないことである。36…b6 37.Rg6 Rxf7(37…Bxf7 38.Rf6)38.Nxc6+! 白はいずれ交換得になるがその前にまず重要なポーンを取る。38…Kc8(38…Kb7 39.Nd8+)39.Rg8+ Kd7 40.Ne5+ Ke7 41.Nxf7 Kxf7 42.Rg1±

これで白は勝つ可能性が十分にある。

32…cxd5 33.Nxd5?

 ここでもやはり 33.Qe5! が急所の手だが、効果は前の手の時より劣る。33…Qg7 34.Rg1 Qxe5 35.Nxe5 Rxg1 36.Rxg1 Rf8

が想定され

A)37.Ne2!? は変な感じの手だが 37…a6 38.Nd4 Ka7 39.Rg6 Bxf7 40.Rf6 Ne8 41.Rxf7(41.Rxf5 Nd6 42.Rf6 Ne4 43.Rxf7 Rxf7 44.Nxf7 b5

これは 41.Rxf7 の手順と似ている)41…Rxf7 42.Nxf7 b5 43.Nxf5 Kb6

チェスエンジンの形勢判断はまったくの引き分けだが、私には意外だった。しかしたぶん正しいのだろう。

B)37.Nxd5 Nxd5 38.Nd7+ Kc8 39.Nxf8 Bxf7 40.Rg7 Be8 41.Ne6

白は安全勝ちを目指して長いこと指すことができる。

33…Qg7!

 ナカムラの見落としたのはこの手だった。そして非常に高くついた。黒がすぐに負けないための手はこれしかないのだからなおさら意外である。さらに悪いことにはまったく形勢が逆転して勝ちにいくのは黒の方である。

 代わりに 33…Bxd5? なら 34.Rxd5 Nxd5 35.Qe5+、33…Nxd5? なら 34.Qe5+、33…Bxf7? なら 34.Nxc7 である。

34.Nc3 Qxf7 35.Qe5 Re8

 黒は2ポーン得で、優勢から最後には勝ちきった。もっとも白には負けを逃れる機会があった。まったくナカムラらしからぬ試合だった。


7局連続引き分けのナカムラ

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(この号終わり)

2017年06月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(245)

「Chess Life」1999年6月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)

 マカッチョン戦法はクラシカルの 3…Nf6 とビナベルの 3…Bb4 とを組み合わせたものである。私の考えではそのような交配がうまくいくことは滅多にない。それでもこの戦法は危険であり、白は布局定跡をよく知っていなければならない。カパブランカは著書の中で2局取り上げていて、1局は白で、もう一局は黒で指している。

 B1)カパブランカ対ズノスコ=ボロフスキー(サンクトペテルブルク、1913年)

5.exd5

 カパブランカ「この試合の当時は 5.e5 が主流だった。しかし私は本譜の手の方が強力だと考えていたし今でもそうである。」

 しかしなぜより強力なのだろうか。d5で交換することにより白は中央での優位を放棄し黒の白枡ビショップを自由にしてやっている。すなわち明らかな 5…exd5! のあと局面は交換戦法(3.exd5 exd5 4.Nc3 Nf6 5.Bg5 Bb4)に移行して、白の優位はほんのわずかである。終局までの手順は次のとおりである(形勢記号はカパブランカの解説を基にしている)。

5…Qxd5?! 6.Bxf6 Bxc3+ 7.bxc3 gxf6 8.Nf3 b6 9.Qd2 Bb7 10.Be2 Nd7 11.c4 Qf5 12.O-O-O! O-O-O 13.Qe3 Rhg8 14.g3 Qa5? 15.Rd3! Kb8 16.Rhd1 Qf5 17.Nh4 Qg5 18.f4 Qg7 19.Bf3 Rge8 20.Bxb7 Kxb7 21.c5! c6 22.Nf3 Qf8 23.Nd2? bxc5 24.Nc4 Nb6 25.Na5+ Ka8 26.dxc5 Nd5 27.Qd4 Rc8 28.c4?! e5! 29.Qg1 e4 30.cxd5 exd3 31.d6 Re2 32.d7 Rc2+ 33.Kb1 Rb8+ 34.Nb3 Qe7 35.Rxd3? Re2 36.Qd4 Rd8 37.Qa4 Qe4 38.Qa6 Kb8! 39.Kc1 Rxd7 40.Nd4 Re1+ 白投了

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2017年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(478)

「Chess」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

G.カームスキー – H.ナカムラ
ロンドンシステム、2017年米国選手権戦、セントルイス

1.d4 Nf6 2.Nf3

 カームスキーは旧来の手順に忠実である。今日では白はすぐに 2.Bf4 と指すことが多い。最近サイモン・ウィリアムズがチェスベース社から出した自分のDVDで扱ったのがこれである。

2…e6 3.Bf4 d5 4.e3 c5 5.c3 Nc6 6.Nbd2

6…cxd4

 この手は時機尚早でない。それは黒が次に関連した手を用意しているからである。しかし主流手順は 6…Bd6 7.Bg3 O-O であって、ここで 8.Bd3 なら普通だが最近は 8.Bb5!? が大流行で、黒がフィアンケットして速やかに展開を完了するのを防いでいる。

7.exd4 Nh5!?

 これはロンドン・チェスクラシックでのウェズリー・ソーの着想である。

8.Be3 Bd6 9.Ne5 g6 10.g4!?

 大胆な新手が出た。

10…Ng7 11.h4!

 黒のフィアンケットされたナイトとキング翼に対処するためにポーンを犠牲にする。

11…Nxe5 12.dxe5 Bxe5 13.Nf3 Bf6 14.h5

 既に白の狙いは重大になっていて、ナカムラは攻撃を受ける可能性のある方面にキャッスリングを余儀なくされた。

14…O-O 15.Qd2

15…d4!

 この判断は素晴らしかった。15…b6 だと 16.O-O-O Bb7 17.Bd4 となって黒キングの居心地があまり良くない。そこでナカムラは得したポーンを返して最後の駒を動けるようにしいくらか働くようにした。

16.cxd4

 16.Bxd4 e5! 17.Bc5 という変化もあるが、17…Bxg4 18.Bxf8 Bxf3! 19.Qxd8 Bxd8 20.Rh3 Nxh5 となって黒には交換損の代償が十分ある。

16…b6 17.hxg6 fxg6 18.Ne5 Bb7 19.Rh3 Rc8 20.Be2 Bg2 21.Rg3 Bd5 22.Rh3 Bg2 23.Rg3 Be4

 黒がキング翼で最悪の事態を乗り切ったのが明らかになった。しかし千日手を避けることはできても形勢は良いわけではない。

24.Rc1 Qd6 25.a3 Rxc1+ 26.Qxc1 Bxe5 27.dxe5 Qxe5 28.Qd2 Bd5 29.Bd4

 カームスキーがポーンを犠牲にした核心が明確になってきた。g7に逼塞(ひっそく)したナイトと比べて白の黒枡ビショップはモンスターになっていて、黒には全然有利さがない。

29…Qe4 30.f3 Qf4 ½-½

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(この号終わり)

2017年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(244)

「Chess Life」1999年6月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法

 時の流れで多くの評価が変わってきたことはほとんど驚くに当たらない。しかし特に印象深いのはわざわざ何の説明や証明もせずに戦法や手順について強く意見を言うことだった。何の証明も与えられていない技術的なことについての強い言明を受け入れることは誰にとっても非常に危険である。1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 という手順で始まるフランス防御の重要定跡から実戦例を3局紹介する。

 A)3…dxe4 4.Nxe4 Nd7 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6(C10)

 ルビンシュタイン戦法(3…dxe4)は黒が劣った中央を押しつけられる一方で白は小駒を働きの良い地点に展開できるので現在では人気がない。ここからはカパブランカ対ブランコ戦(ハバナ、1913年)の手順を追う。カパブランカはこの試合を「大局観に基づいた指し方の好例」と呼んでいる(彼の本の83ページ目)。

7.Ne5

 カパブランカはこの手を次のように解説している。「この手は才能のあるベネズエラのアマ選手のM.アヤラに初めて教えられた。目的はこの戦型で黒の通常の展開となる …b6 のあとクイーン翼ビショップをb7に展開するのを防ぐことである。

 しかしそれが唯一展開された駒をまた動かす理由になるのだろうか。答えは明らかに「いいえ」である。黒がほぼ互角に達するのに必要なことは普通に単刀直入に展開することだけである。布局大成(Encyclopedia of Chess Openings)C(1981年)では次の手順を載せて互角としている。7…Be7 8.Bg5 O-O 9.Bd3 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5

 最善手は意外でもなんでもなく展開する 7.Bd3! で、主手順は次のとおりである。7…c5 8.dxc5 Bxc5 9.O-O O-O 10.Bg5 h6 11.Bh4 Be7 12.Qe2 Qc7 13.Rad1 Rd8 14.Ne5(白は展開が完了してここで初めてこの手を指す)14…b6 15.Rfe1 Bb7 16.c4 中央がより広いのと黒のキング翼に対する圧力とで白が楽に優勢になっている(GMフォークトの1994年の解説による)。

 しかし実戦はカパブランカが次のように快勝した。

7…Bd6?! 8.Qf3 c6?! 9.c3 O-O 10.Bg5 Be7 11.Bd3 Ne8?! 12.Qh3 f5 13.Bxe7 Qxe7 14.O-O Rf6 15.Rfe1 Nd6 16.Re2 Bd7 17.Rae1 Re8 18.c4 Nf7 19.d5! Nxe5 20.Rxe5 g6 21.Qh4 Kg7 22.Qd4 c5 23.Qc3 b6?! 24.dxe6 Bc8 25.Be2! Bxe6 26.Bf3 Kf7 27.Bd5 Qd6 28.Qe3 Re7 29.Qh6 Kg8 30.h4! a6 31.h5 f4 32.hxg6 hxg6 33.Rxe6 黒投了

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2017年06月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(477)

「Chess Life」2017年4月号(1/1)

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トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMロバート・ヘス

二ムゾ・インディアン防御 (E21)
GMロマン・エドワール(FIDE2613、フランス)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2785、米国)
マスターズ、第10回戦、ジブラルタル、イングランド、2017年1月28日

1.d4

 この初手は全然驚くに当たらない。1.e4 も 1.c4 も指すエドワールは第9回戦で伝説のナイジェル・ショートにやや変わった二ムゾ・インディアン防御で快勝していた。しかしこの試合における彼の布局選択は郷愁に触発されたというよりも慎重さによるもののようだった。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 O-O 5.Bg5

 代わりに 5.e3 は意欲で劣っても堅実である。

5…c5!

 ナカムラは戦闘意欲満々だった。もちろん 5…d5(5…h6 も同様)は自然な手であるが、白は簡明に 6.cxd5 exd5 7.e3 と指すことができ、ここで 7…c5 は複雑化するが黒の好むたぐいの戦いではない。

6.Rc1

 エドワールはポーン戦よりも駒戦の方を選んだ。

6…h6 7.Bh4

 ビショップを切るのは何の得にもならない。7.Bxf6 Qxf6 で黒は悪くない。展開で先行しているので陣地が少し狭いのを適切に補っている。

7…cxd4 8.Nxd4 d5 9.e3?

 この悪手は即座にナカムラに咎められ黒の主導権が強大になった。代わりに 9.cxd5 は 9…exd5 で黒に孤立ポーンを生じさせる目的だが、黒は 9…g5!? 10.Bg3 Qxd5 ですきの多いキング翼を犠牲に駒の動きが良くなる。この手順が指されることは非常にまれなので、一定の評価が得られる前にはさらに実戦による検証が必要である。11.e3 は本筋の手だが黒にa2のポーンをかすめ取られる。このポーン取りの決断は白が展開を完了するのですぐに恐ろしいことになるかもしれない。自分のキングの周りが薄い時には駒をキングの近くに置いておきたいのが普通で、aポーンを取るのはこの過程をさらに遅らせることになる。戦力の不均衡は実戦的には下位者に有利に働く。白の作戦は黒の作戦よりもはるかに自然になる。もし黒がかっさらわなければたとえクイーン同士が交換になっても白陣の方が伸びすぎていない分優っている。徹底的な分析が必要であるが、この種の局面はナカムラならどちらを持っても指せると想像される。

9…e5 10.Nf3

 10.Nb3 とこちらに引くのは 10…g5 11.Bg3 Nc6 で良くない。アニシュ・ギリは2016年のタリ記念大会でリー・チャオを黒でこてんぱんにした。

10…d4!

 たった1ポーンの代価にナカムラは中央を打ち破った。世界最強の一人に白で立ち向かってたった10手で自分のキングに避難所が全然ないという事態を想像してみるとよい。

11.exd4 exd4 12.Nxd4?!

 戦力得だがキングが危険にさらされている時は、多くの場合クイーン交換を誘うのが賢明である。黒は交換を避けようとすると手数がかかることがある。12.Qxd4 Qe7+ 13.Be2 g5 なら戦いが続く。途中白があくまで 13.Qe3 と交換を迫ると、黒は 13…Qxe3+ 14.fxe3 Nxe4 と白のポーン陣形を乱して大満足である。c3で駒を取ることになれば白には3個の孤立ポーンが残される。15.Be7 をおとりにすれば話は別だが、それでも黒は駒の動きが非常に良く、白は互角を維持できれば幸運である。(ルークでチェックするのは第一感だが、黒は …g7-g5 と突くのに苦労することになる。例えば 12…Re8+ 13.Be2 Qe7 14.Qd2 g5[ほかの 14…Bg4 のような手はゆっくりしすぎている。白は 15.a3 と突き黒の攻撃は頓挫する。]なら 15.Bxg5 と取ることができ、白は千日手で引き分けにできるし、駒の代わりに3ポーンを得るのみならず永続する圧力をかけることもできる。いろいろな可能性を考え合わせれば 15…hxg5 16.Qxg5 Kh8 17.O-O のような手順は白として確かに不満でない。)

12…Qb6

 これはルークのためにd8の地点を空け、白駒をさらに不調和にさせる。既に思わしい手がないエドワールは一貫性のある方の手を選んだ。

13.Nf3

 13.Nb3 とこちらに引くのは良くない。それは駒は中央にある方が良いからではなく、クイーンがd1-a4の斜筋を通って逃げるのが制約を受けるからである。さらにはこのナイトは黒が …a7-a5-a4 と突いていってナイトを仮住居から追い払うのを助長するかもしれない。一方で 13.a3 突きは黒に有利な一連の交換を招く。というのは 13…Rd8 14.Bxf6 Qxf6 15.axb4 Rxd4 16.Qf3 Qxf3 17.gxf3 Nc6 となって白はポーン得を維持できないからである。

13…Rd8 14.Qc2

 エドワールのこの手も正着である。14.Qb3 ならナカムラには巧妙な応手があった。14…g5 15.Bg3 Ne4 16.Be2 Bf5 17.O-O で少なくとも読んでいる最中には白キングがうまく逃げたように見える。キングは確かにより安全な場所を見つけたが、クイーンはそうでない。17…Nc5! でクイーンの逃げ場がなく、白は女王を助けるために戦力損をしなければならない。

14…g5 15.Bg3 Nc6 16.Bd3

 残念ながら 16.Be2 は見え見えの 16…g4 でまずいことになり白がつぶれる。今度は …Nd4 という跳び込みがある。

16…g4

17.Nh4!

 この決断は賞賛に値する。というのは大多数はナイトを端に置くのを恐れるだろうからである。しかし 17.Nd2 だと 17…Qd4 を招きd列にとてつもない圧力がかかる。たとえ白が 18.Nde4 のような手で大きな戦力損を免れたとしても困難は残る。盤に駒を配置して分析してみるとよい。

17…Bf8

 このビショップはb4に長居しすぎた。f8に引っ込んでh6のポーンを守ったが釘付けを続けることはできた。考え方は正しかったがやり方が間違っていた。17…Ba5! がやはり …Nb4 を狙い、同時に黒ナイトがe4に行けるままである。想定される 18.Qb1 Qd4 19.Be2 Ne4 20.O-O は 20…Nd2 でクイーンとルークの両当たりになる。17…Ba5 には 18.a3 が必要かもしれないが、b3の地点がゆるんで黒ナイトがそこに行けるようになる。

18.Qb1 Re8+

 白は釘付けに耐えきれないのでキングをよろけさせる。

19.Kf1 Be6 20.h3?

 あんなに強防を続けてきたエドワールに失着が出たのは残念だった。この手が無能なルークのためにh列を開けようとしているのは分かるが、反動が厳しすぎた。白には 20.Nf5 という強手があった。次はe3に戻る。最良の防御は(一時的な)攻撃であることが時たまある。

20…Nh5 21.Ne4

 ここでの 21.Nf5 は前手のせいで白に回復不可能な害をもたらす。各所に地雷があり、面白い例を一つだけあげてみる。21…Nxg3+ 22.Nxg3 Ne5 23.Nd5 Bxd5 24.cxd5 Bc5 25.Ne4 Bxf2! 26.Nxf2 g3 27.Ne4 Nc4!!

これで白陣が壊滅する。

21…Nxg3+

 21…f5?! は勝利を目前にしてころりと負けるたぐいの余計な手である。そんな必要は全然ない。

22.Nxg3 Rad8 23.hxg4 Ne5 24.Be2

24…Bxg4?!

 24…Nxg4 なら白はビショップを切らなければならない。25.Bxg4 Bxg4 は黒の得点だが、それよりもずっと良い戦術があった。白の最下段につけ込む 24…Bxc4! 25.Rxc4(25.Bxc4 は 25…Nxc4 26.Rxc4 Rd2 27.Rf4 Qxb2

で最下段での詰みのために白クイーンが取られる)25…Nxc4 26.Bxc4 Qxb2!

がそれで、白は試合を長引かせるためだけにビショップをf7で切らなければならない。黒の戦力得がものを言うはずである。

25.Bxg4??

 この手は黒を勝たせたので大悪手記号を付けなければならない。25.f3 がはるかに頑強な手で、黒が勝ちへの明快な道筋を見つけるのは難しい。そもそもあるのだろうか。

25…Nxg4 26.Qc2

 26.Qf5 は必然を遅らせるだけである。例えば 26…Qd4 27.Qf3 Nxf2! 28.Qxf2 Qd1+! 29.Rxd1 Rxd1+ で簡単に黒の勝ちになる。

26…Bb4 27.c5

 27.Nf3 は受けになっておらず、27…Rd2 で白クイーンのf2への利きを遮断される。

27…Qa6+ 28.Kg1

28…Be1

 28…Re1+ の方が白の最下段を守る最後の駒を除去するのではるかに強力だった。しかしこの時点ではもう大した問題ではなかった。

29.Rh3

 29.Ne4 は 29…Rxe4 30.Qxe4 Bxf2# で詰みになる。

29…Bxf2+ 30.Kh1 Re1+ 31.Rxe1 Bxe1 32.Nf3 Nf2+ 33.Kh2 Nxh3 34.Nxe1 Ng5 35.Qc3 Qg6 0-1

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(この号終わり)

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