2017年04月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(472)

「Chess」2017年2月号(4/4)

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次の一手

中級向け

第15問 H.ナカムラ – V.クラムニク
ロンドン・チェスクラシック、2016年
 黒番で引き分け

解答 1…Nf7!(1…Ke8? は 2.Ke5 Nb7 3.f6 Kf8 4.Kf5 Ke8 5.e7 Kf7 6.Ke5 で黒がどうしようもない手詰まりになり失敗)2.Kg6(白は黒をステイルメイトにするしかない。2.e7+ は 2…Ke8 3.Ke6 Nh6 のあと 4.f6 Nf7 でせき止められるか 4.Kd6 Nxf5+ 5.Kxc6 Nxd4+ で全面的な清算になる)2…Nd8 3.Kf6 Nf7! 4.exf7 ½ – ½

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(この号終わり)

2017年04月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(238)

「Chess Life」1999年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49]

 黒番では意欲的に指したくないなら相手の指す手をただまねしてみてはどうか。閉鎖的な布局では急戦よりもゆっくりした駒組みが普通なので魅力的な作戦になることがよくある。しかしこのやり方は 1.e4 に対しては実行が難しい。

 そもそも黒は対称になるように 1…e5 と応じなければならない。さらにその後は比較的開放的な局面になるので白は速攻する機会に恵まれる。これは黒が「自分のこと」をすれば良いというのでなく白の狙いをたえず警戒しなければならないということを意味する。過去100年以上の間黒が比較的長い間白のまねをすることができたまともな布局が一つだけあった。それが4ナイト試合である。本稿では次の手順を用いて最新の定跡の進展を紹介する。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6

 両者とも周知の「ビショップよりナイトを先に」という原則に従っていて、ナイトを最もよく働く地点に置いた。定跡および実戦におけるこの局面の重要性は、ぺトロフ防御(2…Nf6)がしばしば現れることによって高まっている。白が主手順(3.Nxe5 と 3.d4)を避けて 3.Nc3 と指した時黒は対称形の 3…Nc6 と指すしかない。

4.Bb5

 本譜の手で4ナイト試合が確定する。この布局は「慎重派のルイロペス」ともみなすことができる。白のeポーンを 3.Nc3 と守ってから初めて白枡ビショップをb5に出してe5の地点を間接的に攻撃した。これは白の圧力の強さがルイロペスよりも劣るということを意味するが、黒もある種の反撃の機会がなくなる。

 4ナイト試合の初期には黒の通常の応手は 4…Bb4 で、白が少しの優勢を保持した。しかし第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインの 4…Nd4 が白から4ナイト試合の楽しみのほとんどを奪い去った。一流選手たちは白枡ビショップをa4やc4に引くのは好結果をもたらすことができないと即断した。だから白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 と指すよりなく、ほとんど互角になった。

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2017年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(471)

「Chess」2017年2月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

 初戦に続き第6回戦の負けはナカムラにとって二度目の打撃だったに違いないが、立ち直りも早く翌日には同じ戦型で雪辱した。

H.ナカムラ – M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 Bb7

 バシエ=ラグラーブは自分もナカムラもこれまで得意としていた 13…g5?! を避けた。

14.Bg2

 盤上でも通信戦でも色々な手が試されてきた。しかしこの手以外で白が対角斜筋を争うことができるとは信じがたい。

14…Rc8

 誰が黒かを考えればこの手は研究手に違いない。しかしほかの作戦も探求されてきた。

 a)2013ロードスでの欧州クラブ杯のアゴポフ対パリサー戦で私は 14…g5!? と指し、15.f5(15.h4!? は2012年フランス団体選手権戦のナイディッチュ対グリイェフ戦で指されたが、15…gxf4 16.g5 Ne5 17.Qxf4 Nh5 18.Qd2 と進み、ここで黒が 18…Nc4 からナイトを働かせたら優勢だっただろう)15…e5 16.Nb3 Rc8 17.Qe2 h5! 18.h3 Nb6 となり好調だった。

 b)14…d5!? はナイドルフ戦法の狙い筋で、アゴポフ戦の解説で書いたように時間を使って読んだ。ナカムラが指させようとしたのにラグラーブが避けたのは白の研究を警戒したのだろう。しかし2013年通信戦でのシュプレーマン対ロシェ戦では 15.e5(15.exd5 Nxd5 16.Nf5 が必殺のように見えるが実際は 16…Rc8! 17.Nxe7 Kxe7 で黒は大して悪くない)15…Ne4 16.Nxe4 dxe4 17.Qe2 Nc5 18.Kb1 Na4! 19.Be1(19.Bxe4? には 19…Bxa3!)19…O-O 20.h4 Rfd8 で黒がクイーン翼で白に対抗できた。

15.Kb1

 15.h4!? には 15…e5! と突かれ 16.Nf5?! に 16…Bxe4! と来られる。しかし本譜はキングが少し安全になったので今度こそhポーン突きがある。

15…g5

 急所の反発で、2手前よりもはるかに良いタイミングと思われる。

16.Qh3!?

 2016年テプリツェでのカンマザルプ対ソロドブニチェンコ戦では 16.f5? e5 17.Nb3 Nxe4! 18.Nxe4 Qxc2+ 19.Ka2 Bxe4 20.Qxe4 Qxf2 21.Rhf1 Qb6 となって白は2ポーンの代償が十分でなかった。一方 16.h4 はほとんど通信戦の世界でだけ試されてきた。本筋と思われるのは 16…Rg8(16…gxf4 17.g5 Ne5 18.Qxf4 Nfd7 19.Bf3 は盤面を支配している白が少なくとも少し優勢のはずである)17.hxg5(17.fxg5 Ne5 18.Qf4 hxg5 19.hxg5 Nfxg4 20.Bh4 Qd8 21.Nf3 Qb6 22.Nxe5 Nxe5 23.Bf2!? も指されていて、gポーンをくれてやって代わりに黒キングに対し長期に圧力をかける)17…hxg5 18.f5 e5 19.Nb3 で黒が戦術的にうまくいかなくなっていた。2014年通信戦でのモロゾフ対V.ポポフ戦は以下 19…Nxe4? 20.Nxe4 Qxc2+ 21.Ka2 Bxe4 22.Qxe4 Qxf2 23.Rc1 Rxc1 24.Qa8+ Bd8 25.Rxc1 Ke7 26.Rc8 と進み、白の大駒と白枡での攻撃が強力すぎる。しかし 19…a5! 20.Qe2 Bc6 がいくらか改良手順でこれまでのところ黒がだいぶ健闘している。

16…Nc5?

 これはバシエ=ラグラーブが愛用のナイドルフ戦法で研究負けした本大会2度目の不運な新手だった。

 16…Rg8? 17.e5! dxe5 18.fxe5 Nxe5 19.Bg3 Bxg2 20.Qxg2 は黒にとって非常に怖い(E.モスカレンコ対V.ポポフ、通信戦、2013年)。しかし退却気味の 16…Nh7! が通信戦で選ばれた手で、これまでのところ4局全部で引き分けになっている。黒は単にh列から圧力を抜き去り、17.f5(17.e5!? Bxg2 18.Qxg2 gxf4 19.exd6 Bxd6 20.Rhe1 Be5! は列を比較的閉鎖的なままにして黒にとって問題なさそうだし、17.Qxh6?! Bf6 18.Nxe6? fxe6 19.Qg6+ Kd8 20.Bd4 gxf4 は何も恐れるところがない)17…e5 18.Nb3 Nhf6 19.Rhe1 a5 は黒の反撃がちょうどいい時に始まる。

17.Rhe1

 この手はe4のポーンを守り、e4-e5 突きと Nf5 を準備し、17…gxf4 18.g5! Nfd7 19.g6 となることを期待している。

17…h5

18.Nf5!

 ナカムラはやらずにいられなかった。だが 18.fxg5!? Nxg4 19.Bg3 Ne5 20.Rf1 で白駒の陣容を良くする方がはるかに強力だったかもしれない。

18…Ncxe4

 明らかにこれが黒の当てにしていた手だった。黒が危機を脱するわけではないがほかに何があるだろうか。例えば 18…exf5 は 19.exf5 Bxg2(19…Nxg4 20.Bd4 f6 21.fxg5)20.Qxg2 gxf4 21.g5 Rg8 22.Bd4 Kd8 23.Bxc5 Qxc5 24.Qe2 となって、駒の見返りに白の主導権がとてつもなく大きくなり始める。

19.Bxe4 Nxe4 20.Bd4 Rg8 21.Nxe7

 急所の守り駒を取り払い黒の困難さを際立たせた。

21…Kxe7

 黒は 21…hxg4 22.Qxg4 Nxc3+ 23.Bxc3 Qxe7 といきたいところだが 24.Bb4! で具合が悪く 24…Rc6 には 25.h4 と来られる。

23.gxh5 gxf4 24.Qh4+ Kf8 25.Ka1 b4

25.Nxe4

 これでも十分だが 25.h6! の方がはるかに強烈だっただろう。25…bxc3 26.h7 e5 27.hxg8=Q+ Kxg8 28.Qh6 で黒キングの裸が命取りになる。

25…Bxe4 26.Rxe4 Qxc2 27.Ree1

 27.Rde1! bxa3(27…Rg2 28.Rxe6!)28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 なら完全に黒を粉砕していたというのがシリコンのご託宣である。しかしやはりナカムラが全部台無しにしたということではない。

27…bxa3

 27…Rg2 28.Qxf4 e5 という変化は白の駒得が最終的に物を言い 29.Qh6+ Kg8 30.Rc1 Qf5 31.Rxc8+ Qxc8 32.Rc1 Qd7 33.Bf2 bxa3 34.bxa3 となる。

28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 Rg5!

 バシエ=ラグラーブは手の見えるのが何よりも取り柄である。白がルークを取れば千日手になる。

30.Qxd6+! Kg8 31.Rg1 Qa4+ 32.Ba3

 32.Kb1!? Qc2+ 33.Ka2 Qa4+ 34.Qa3 Qxa3+ 35.Kxa3(白がクイーンをa3に引き戻す前にキングを移動させたのはこのためだった)が強手だった。

32…Rxg1?

 白を勝たせてしまった、それも格好良く。32…Kh7! 33.Rxg5 Rd8 ならまだ戦いが続いただろう。またしても黒クイーンはタブーで、代わりに 34.Rg7+! Kh6 35.Rd4 Qxd4+ 36.Qxd4 Rxd4 37.Rxf7 Kxh5 38.Bb2 なら白の勝勢のはずだが、技術的に難しい課題が少し残っていることも明らかである。

33.Rxg1+ Kh7 34.Qd3+ Kh6 35.Rg6+! Kxh5 36.Rg1 f5 37.Qf3+ 1-0

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(この号続く)

2017年04月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(237)

「Chess Life」1999年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

アリョーヒン防御 4…g6 戦法 [B04]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第13局、1972年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 この番勝負までフィッシャーはアリョーヒン防御を5回(1970年パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナルでの3回を含む)採用していたが、相手はいつも世界級の棋力よりずっと下だった。スパスキーにとってこの防御のために特に準備する特別な理由はなかった。

 4ポーン攻撃(4.c4 Nb6 5.f4)はアリョーヒン防御を「咎め」ようとする昔からの手法だったが、特段の成果がなかった。だから1972年当時はすでに本譜の手が現代式の手法になっていた。白は少し陣地が広いので指しやすくなり、黒にはこれといった反撃の糸口を与えない。

4…g6

 フィッシャーは既にこの二流の戦型をブラウン対フィッシャー戦(ロビニ/ザグレブ)で用いていて、大激戦の末98手で引き分けに持ち込んだ。本局でも意図した効果がいかんなく発揮された。スパスキーは対策を用意しておらず意表を突かれた。次のアリョーヒン防御(第19局)ではフィッシャーは通常の 4…Bg4 に戻った。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7 7.Nbd2?!

 黒の6手目の局面は1972年当時はそれほど分析されていなかった。それでも実戦のぎこちない手はスパスキーも気にいっていないはずだった。現代の布局定跡によると白の最も効果的な手法は、まず 7.a4 a5 と突き合ってから 8.Qe2 で作戦の用意をするか 8.Ng5 ですぐに作戦を始めるかである。

7…O-O 8.h3?!

 白の前手の唯一理にかなった点は、黒の …Bg4 に白が h2-h3 と突きf3で切ってきた時にナイトで取り返すことである。だから本譜の手は 7.Nbd2 の意図を否定している。通常の 8.O-O が適切だった。

8…a5! 9.a4?!

 黒はキング翼の展開を完了したあと、白のキング翼ビショップの位置につけ込もうとしてクイーン翼で動き出した。スパスキーの「手拍子」の応手でaポーンが弱点になった。代わりに 9.c3、9.a3 あるいはたぶん 9.Nc4 でもまだましだった。

9…dxe5 10.dxe5 Na6! 11.O-O Nc5 12.Qe2 Qe8

 この手に 13.Qb5? は 13…Qxb5 14.axb5 Bf5 から 15…a4 で受けにならないので、白はaポーンを取られるのを避けられない。

13.Ne4 Nbxa4 14.Bxa4 Nxa4 15.Re1 Nb6 16.Bd2 a4 17.Bg5 h6 18.Bh4

 白は完全に1ポーン損になっている。白の希望は黒陣に食い込んでいるeポーンのせいで中央が少し広い優位が将来のキング翼攻撃の根幹を成すことである。黒が断固とした指し方を続けていけば、白のチャンスはほんのわずかだと思う。18…Bd7 や 18…Be6 が良さそうである。残念ながら第7局のようにフィッシャーの指し方は真剣さが足りなかった。その結果としてこの番勝負の最長手数となり波乱万丈の内容となった。スパスキーが69手目でポカを出したので黒がようやく勝った。完全な解説は『チェス新報』第14巻第165局か数ある対局集のどれかを読んで欲しい。残りの指し手を解説記号付きで掲げる。

18…Bf5?! 19.g4!? Be6?! 20.Nd4 Bc4 21.Qd2 Qd7 22.Rad1 Rfe8 23.f4 Bd5 24.Nc5 Qc8 25.Qc3? e6 26.Kh2 Nd7 27.Nd3 c5 28.Nb5 Qc6 29.Nd6 Qxd6 30.exd6 Bxc3 31.bxc3 f6 32.g5 hxg5?! 33.fxg5 f5 34.Bg3 Kf7?! 35.Ne5+ Nxe5 36.Bxe5 b5 37.Rf1 Rh8?! 38.Bf6! a3 39.Rf4 a2 40.c4 Bxc4 41.d7 Bd5 42.Kg3 Ra3+ 43.c3 Rha8 44.Rh4 e5! 45.Rh7+ Ke6 46.Re7+ Kd6 47.Rxe5 Rxc3+ 48.Kf2 Rc2+ 49.Ke1 Kxd7 50.Rexd5+ Kc6 51.Rd6+ Kb7 52.Rd7+ Ka6 53.R7d2 Rxd2 54.Kxd2 b4 55.h4! Kb5 56.h5 c4 57.Ra1 gxh5 58.g6 h4 59.g7 h3 60.Be7! Rg8 61.Bf8 h2 62.Kc2 Kc6 63.Rd1! b3+ 64.Kc3 h1=Q! 65.Rxh1 Kd5 66.Kb2 f4 67.Rd1+ Ke4 68.Rc1 Kd3 69.Rd1+?? Ke2 70.Rc1 f3 71.Bc5 Rxg7 72.Rxc4 Rd7! 73.Re4+ Kf1 74.Bd4 f2 白投了

 結論 アリョーヒン防御の 4…g6 戦法は今でも通用する。

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2017年04月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(470)

「Chess」2017年2月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第6回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6

 遅延毒入りポーン戦法は相変わらず 6.Bg5 の試金石となっている。b2を間接的に守るカルアナの応手は最高峰のレベルでは普通の選択である[訳注 9.a3 Qxb2?? 10.Na4]。

9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4

13…g5?!

 このような局面ではよくある着想で、白のキング翼のポーンの形を破壊しe5の地点の支配をもくろんでいる。しかしここでの黒陣には荷が重すぎたかもしれない。代わりの手は 13…Bb7 だが、次の回戦のナカムラ対バシエ=ラグラーブ戦で分かるようにそれでも黒にとってほとんど安泰とはいかない。

14.h4 gxf4 15.Be2 b4!?

 新手だが、互角にするのに十分というわけではない。代わりに 15…Rg8 は2016年スタバンゲルでのギリ対バシエ=ラグラーブ戦の手で、本誌2016年6月号の12ページに出ているように 16.g5! hxg5 17.hxg5 Rxg5 18.Rh8+ Rg8 19.Rxg8+ Nxg8 20.Qg2 Ngf6 21.e5! が 21…Bb7 22.Nxe6! の一発に基づいたきわめて危険な手だった。

16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5

 これが黒の読み筋だった。しかしカルアナは次の手をかなり速く指した。彼はあとで 21.Nf5 から先の局面は見えていたが、これまで見た黒の「最も惨めな局面」の一つなのであまり読んでいなかったと明かした。

19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5

 オーレ!チェスエンジンはこの手の強力さが分かるのにしばらく時間がかかるかもしれないが、クイーンの犠牲はこの上ない強手だった。白のナイトが盤の中央を支配し、黒キングはどこへ隠れるのだろうか。

21…Rb8?

 黒は白ナイトの一つを消しておかなければならなかった。21…Bxf5 22.Bxf5 Rb8 で黒は陣形が悪くてもまだまだ戦える。

22.Nxf6+ Qxf6 23.Rxd6

 悪い手ではないが白はここできれいな勝ちを逃していた。23.Nxd6+ Kf8 24.Bf5!! この軽妙手でf列が長く閉鎖されたままになるので、白がf列を支配し黒を完全に受け無しにする。例えば 24…Rg8(24…Bxf5 なら 25.Nxf5 Rd8 26.Rxd8+ Qxd8 27.Bc5+ Ke8 28.Ng7+ Kd7 29.Rd1+

と単純化して白勝ちの收局になる)25.Bc5 Be6 26.Rhf1 Kg7 27.Bxe6 Qxe6 28.Nf5+ Kh7 29.Rd6

でh6へのX線が決め手になる。

23…Be6 24.Rhd1

 カルアナは中央志向の方針を信頼した。しかし 24.Be3!? で 24…h5 25.Bg5 Qg6 26.Rhd1 から詰みを狙った方がずっと強力だったかもしれない。

24…O-O 25.h5!

 黒キングはg8にいてさえ安全とはほど遠い。白のこの手は誰が黒枡の支配者かを黒に思い起こさせている。

25…Qg5+?

 黒はg4のビショップを取るわけにいかないのでこの手はやけくその感じがする。しかしそうは言ってもマシンのように 25…Rfe8! 26.Bh4 Qh5 と卑屈に指すことのできる人間がどれだけいるだろうか。

26.Be3 Qf6 27.Nxh6+ Kh8 28.Bf5

 ここで初めてビショップがf列を閉鎖した。28.Nxf7+ Rxf7 29.Rxe6 も相当強力だっただろう。

28…Qe7? 29.b5?!

 カルアナはこの手に 29…axb5 と取ってくればその時こそf7に切り込むつもりだったに違いない。しかしすぐに 29.Nxf7+! Qxf7 30.Rxe6 Qxh5 31.Rh6+ Qxh6 32.Bxh6 とやっていけば2ビショップがとてつもなく強いので、なぜこう指さなかったのか不可解である。

29…Qe8?!

30.Nxf7+!

 ついにやった。30…Bxf7 と取ると 31.Rh6+ Kg8 32.Rg1+ で黒キングがたちまち処刑される。

30…Rxf7 31.Rxe6 Qxb5 32.Rh6+ 1-0

 32…Kg8 33.Rg1+ Rg7 34.Be6+ Kf8 35.Rh8+ Ke7 36.Rxg7 Kxe6 37.Rh6# で一巻の終わりである。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(236)

「Chess Life」1999年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第11局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Nb3 Qa3 10.Bxf6! gxf6 11.Be2!

 白の10手目と11手目は局面に対する主眼の正しい手段である。fポーンを二重にさせることにより黒のキング翼に根本的な弱点を生じさせ、キング翼ビショップはh5に行ってf7の地点に狙いをつける用意をしている。これらの要素に白の展開の優位(展開している小駒が白の3個に対し黒は無し)が加わって白には犠牲にしたポーンの代償が楽々とある。

11…h5

 すぐに白のキング翼ビショップをh5の地点に来させないようにするのは要を得ている。しかし 11…Nc6 と展開するのも同じくらい良い手である。重要な実戦例はショート対カスパロフ戦(世界選手権戦第4局、1993年)で、12.O-O Bd7 13.Kh1 h5 14.Nd1 Rc8 15.Ne3 Qb4 16.c3 Qxe4 17.Bd3 Qa4 18.Nc4 Rc7 19.Nb6 Qa3 と進み、ここでカスパロフは実戦の 20.Rae1?! の代わりに 20.Qe3 Ne7 21.Nc4 Nd5 22.Qa7 の方が良く「代償があった」と指摘した。もちろん白は 20.Nc4 Qa4 21.Nb6 と指せば引き分けにもできる。

12.O-O Nc6

 黒はショート対カスパロフ戦(リガ、1995年)のように 12…Nd7 と指してもよく、13.Kh1 h4 14.h3 Be7 15.Rad1 b6 16.Qe3 Bb7 17.f5 Rc8 18.fxe6 fxe6 19.Bg4 Qb2! 20.Rd3 f5! 21.Rb1 Qxb1+ 22.Nxb1 fxg4 23.hxg4 と進んで混戦ながらいい勝負だろう。

13.Kh1 Bd7 14.Nb1!

14…Qb4?!

 後に 14…Qb2! が良く白は 15.Nc3 と手を戻すよりないと結論づけられた。それなら黒は 15…Qa3! と引き白にまた態度を決めさせる。勝つために最も有望なのは 16.Qe3 である。タリ対ブラウン戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)で白はすぐに 14.Qe3 と指した。このねじり合いの局面はいい勝負である。紆余曲折を経てその試合は43手目で引き分けに終わった。

15.Qe3 d5?

 黒はクイーンが困難に陥っていると認識していた。しかし実戦の手はうまくいかず黒は盤上至る所で弱点を抱えてそれに対する見返りがなかった。ここでは 15…Ne7 と指さなければならなかった。

16.exd5 Ne7 17.c4 Nf5 18.Qd3 h4 19.Bg4!

 これで見え見えの …Ng3+ が防がれ、黒陣は風前の灯火である。試合は次のように終わった。

19…Nd6 20.N1d2 f5?! 21.a3 Qb6? 22.c5 Qb5 23.Qc3 fxg4?! 24.a4 h3?! 25.axb5 hxg2+ 26.Kxg2 Rh3 27.Qf6 Nf5 28.c6 Bc8 29.dxe6 fxe6 30.Rfe1 Be7 31.Rxe6 黒投了

 結論 野心的なフィッシャー毒入りポーン戦法は現在でも通用し、9.Nb3 の変化に対する彼の手法も同様である。

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カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(469)

「Chess」2017年2月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック

H.ナカムラ – W.ソー
第1回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3

 グリューンフェルト防御はナカムラにとって意外だったかもしれない。しかし黒が引き分けでも大満足な時にわざわざクイーン翼ギャンビット拒否を指さなければならない理由は何もない。おまけにグリューンフェルト防御は昔からソーの得意戦法の一つだった。そしてベイクアーンゼーではエリヤノフ相手に、「究極の手」コンテストでは当のナカムラ相手に連採していた。2016年セントルイスでのナカムラ対ソー戦(ブリッツ)でははるかに激しい戦型になり 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.Nb5 Qd7 11.Kb1 Rd8 12.d5 a6 13.Nc3 Qe8 14.Qc1 Na5 15.h4 と進んで、既に白が突撃ラッパを吹き鳴らし勝ちきった。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3 c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2

 アナトリー・カルポフは白番で中央を完全に支配したままにするこのようなシステムを好んでいた。ここで黒の一番よく指される手は 9…Qa5 で、クイーン同士の交換になるかもしれない。しかしソーの好んだはるかに一般的でない手は、時にアーナンド、スビドレル、それにバシエ=ラグラーブによって用いられた変化でもあった。

9…e5!? 10.d5

 ここは勝負所のような感じだが、ナカムラは結構早く指した。2016年ビールでのスビドレル対バシエ=ラグラーブ戦(快速)では 10.dxe5 Qxd2+ 11.Kxd2 Rd8+ 12.Kc2 Bd7 13.f4 Bc6 と進み 14.Bd3?? には 14…Ba4+! があるので黒がポーンを取り返すことができた。

10…Nd7 11.c4!?

 この手は新手だが、生中継の観戦者たちはまだ両者の研究範囲なのかと疑っていた。以前は 11.Bd3 f5 12.Bg5 Nf6 13.c4 が指されていたが、ストゥパク対ライロ戦(スービック湾、2016年)では 13…fxe4 14.Bc2 Bf5 15.Ne2 h6 16.Be3 Ng4! 17.h3 Nxe3 18.Qxe3 Bf6 と進んで黒には何の問題もなかった。

11…f5 12.Bg5 Nf6

 黒の直前の2手は筋道立った手で、白は 13.Bd3 と指してストゥパク対ライロ戦に戻るしかないように思われる。しかしナカムラはまだ早指しを続けていて、早すぎるほどだった。

13.Ne2?? Nxe4!

 これは初歩的な手筋で、ナカムラはいったい何を見損じたのだろうか。明らかなことは彼の研究に穴があったに違いないということだけである。

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1 b6 18.Bb4 Ba6

 白はなんとかポーンを取り返した。しかし朗報はここまでである。黒は双ビショップを保持し、陣形的に優り、それにキングがはるかに安全である。最高峰のチェスでは試合はもうほとんど終わっていて、あとはナカムラの味わったに違いない苦悩を想像することができるだけである。

19.f4 Rc8

 白の最大の弱点であるc4に目をつけているが、20.c5 と突いてくれば 20…Rd7 21.d6 bxc5 22.Rxc5 Re8 と強引にe列に転じる用意がある。

20.fxe5 Bxe5 21.Rf3 Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4

 白は突破口を見出そうとしているが、自陣が撃破された。

23…Rd7 24.a4 Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8! 29.Bb4 Re8 0-1

 確かに異色ビショップなのだが、長くは続かない。だから早すぎる投了でなかったのは確かだ。30.Rxe8+ Kxe8 のあと 31.Bd2 でビショップ交換の3ポーン損の收局になるのを避けることができる。しかし 31…Re4+ 32.Kf2 Re2+ で結局ビショップ同士がなくなる。


ヒカル・ナカムラは同国の2選手に手痛い敗北を喫したが、それでも立派な’+1’で終えた

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(この号続く)

2017年04月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(235)

「Chess Life」1999年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 本誌1998年4月号では1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の布局を回顧する手始めとして、1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局を取り上げた。今回は 1.e4 に対するフィッシャーの黒番の最初の3局を取り上げることにする。

 本稿の私の目的は二つある。一つは世界チャンピオン25周年のフィッシャーを祝福することで、もう一つはあの時以来布局に起こった重要な進展を示すことである。あの番勝負の布局すべてについて随時取上げていくようにしたい。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第7局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 この戦法はポーンが毒入りでもないのにどういうわけか「毒入りポーン」戦法と名付けられている。黒の最も野心的で危険な選択肢で、2、3手もの手数をかけてbポーンを取りに行く。この手を世に知らしめたのはフィッシャーなので、少なくとも「フィッシャーの毒入りポーン」戦法と呼んでしかるべきである。

8.Qd2

 スパスキーは白番の第3局と第5局で負けたので早く雪辱したかった。彼がシチリア防御ナイドルフ戦法全般と特にこの戦法を研究してきたに違いないことは疑いない。危険性の少ない応手を望む者は 8.Nb3 と指すことができ、本誌1996年6月号の本稿で解説した。

8…Qxb2 9.Nb3

 本局以前でも現在でも主手順の戦型は 9.Rb1 から始まる。全般的な構想は白駒に包囲されている黒クイーンの位置につけ込むことである。すぐの狙いとしては 10.a3 から 11.Ra2 がある。

9…Qa3! 10.Bd3

 このビショップにとってはうれしい地点でなく、ここからはほとんどすることがないしd列での見通しもなくなっている。スパスキーは第11局で正しい手段を見つけた。それについては次局で取り上げる。

10…Be7!

 以前の 10…Nbd7 と比べてこの新手は重要である。ビショップが展開したので黒キングの安全性が増している。

11.O-O h6! 12.Bh4?!

 フィッシャーはこの型にはまったビショップ引きについてよく研究していた。後にタリ対ザイド戦(ソ連、1973年)で攻撃の巨匠は 12.Bxf6 Bxf6 13.e5! dxe5 14.Ne4 Nd7 15.f5! exf5 16.Rxf5 Be7! 17.Bc4 Nf6 18.Rxe5 と指して十分な代償を得た(しかしそれを超えることはなかった!)。

12…Nxe4 13.Nxe4 Bxh4 14.f5

 この手と少し先の手までは変化の余地がある。しかしグランドマスターたちは本局以降それらの変化を使わなかったので、あまり有望でないと判断されているのだろう。

14…exf5! 15.Bb5+?! axb5 16.Nxd6+ Kf8!

 16…Ke7?? は 17.Nxb5 Qa6 18.Qb4+ で敗勢になる[訳注 18…Kf6 で互角のようです]。

17.Nxc8 Nc6 18.Nd6

 18.Qd7 も白にとって満足できない。18…g6! 19.Qxb7 Qa6! 20.Qxa6 Rxa6 から 21…Kg7 で黒勝勢の收局になる。

18…Rd8

 黒は戦力得を固める用意をした。しかし不均衡な局面では細心の注意を払わなければ勝ちに持っていけない。フィッシャーの指し手は安易に流れて、スパスキーはかろうじて引き分けに逃れることができた。詳しい解説は『チェス新報』第14巻第502局やこの世界選手権戦についての多くの良書を参照して欲しい。

19.Nxb5 Qe7 20.Qf4 g6 21.a4 Bg5?! 22.Qc4 Be3+ 23.Kh1 f4 24.g3 g5 25.Rae1 Qb4 26.Qxb4+ Nxb4 27.Re2 Kg7 28.Na5 b6 29.Nc4 Nd5 30.Ncd6 Bc5?! 31.Nb7 Rc8? 32.c4! Ne3 33.Rf3 Nxc4 34.gxf4 g4 35.Rd3 h5 36.h3! Na5 37.N7d6 Bxd6 38.Nxd6 Rc1+ 39.Kg2 Nc4 40.Ne8+ Kg6 41.h4! f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5?! 44.Ng7+ Kxf4 45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4 Rc1+ 48.Kh2 Rc2+ 49.Kg1 引き分け

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2017年04月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3