2016年10月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(446)

「Chess」2016年6月号(3/5)

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米国選手権戦(続き)

ジョン・ヘンダーソン

H.ナカムラ – V.アコビアン
第7回戦、ぺトロフ防御

1.e4 e5

 アコビアンは得意のフランス防御を回避した。おそらくナカムラの十分研究した手順にはまるのを恐れたのだろう。しかし地雷原にはまり込むことになるとは知るよしもなかった。

2.Nf3 Nf6

 2000年ロンドンでのクラムニク対カスパロフの世界選手権戦でベルリンの「壁」防御が復活するまでは、ぺトロフ防御が攻撃的な相手の出鼻をくじくために黒番の選手の採用していた恐るべき引き分け手段だった。そしてそれはベルリン防御以前の1990年代後半に私がベイクアーンゼーとリナレスでの多くの最高峰大会の記者室で耐えていたように、ペンキが乾くのを眺めている退屈さのチェス版だった。今日ではぺトロフ防御はベルリン防御と比べるとシチリア防御ナイドルフ戦法の方にずっと近い。

3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Be7 7.O-O Nc6 8.c4 Nb4 9.Be2 O-O 10.Nc3 Bf5 11.a3 Nxc3 12.bxc3 Nc6 13.Re1 Re8

 ここでは1990年代後半に戻ったも同然だった。この手まではぺトロフ防御の良く知られ実戦で指されてきた手順である。

14.Ra2!?

 実はこの珍しい手はナカムラとサム・シャンクランドが2014年トロムセ・オリンピアードの期間に深く研究していたものだった。そして実際シャンクランドは嬉しくてたまらずナカムラの後を追って対局場の「告白部屋」に行った。ナカムラの告白によるとシャンクランドと研究した「爆弾」にアコビアンがやって来たということだが、シャンクランドによると自分の分析をナカムラが全部盗んだとウインクして主張した。

14…Na5 15.cxd5 Qxd5 16.Rb2 c6

 これがここでの最善の応手のようである。2014年米国選手権戦でのシャンクランド対ロブソン戦でロブソンは 16…a6 と指したが、17.Ne5 Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Nc6 21.Qb2 Nxe5 22.Rxe5 Rxe5 23.Rxe5

と進んで白が優勢だった。もっとも試合は30手で引き分けに終わった。しかし 19.Rbe2 の代わりに 19.Ra2!? なら白がもっと有望かもしれないとの指摘がある。

17.Ne5!

 ナイトがe5を占拠するのはこの焦点のはっきりしない局面で黒にとって最も厄介な手である。代わりに 17.Qa4 は 17…Qd8 18.c4 Bf6 19.Be3 b6 となって黒が好調で、2007年エリスタでのカシムジャーノフ対ゲルファント戦では黒が52手で勝った。

17…Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Be6

 すぐに 20…f6? は 21.Nc4! の一発で負ける。だからアコビアンはまず 20…Be6 と指した。

21.Be4

21…Rad8?!

 ここが勝負所だったかもしれない。アコビアンはルークを中央に配置する手を選んだ。たぶん 21…f6 はナカムラの強烈な攻撃にしてやられるかもしれないと恐れたのだろう。しかしe5のナイトは圧倒的な拠点で途方もない駒になるので、21…f6 は最善の選択肢かもしれない。だから問題は 21…f6 に対して白にはどんな手があるのかということである。

 22.Qb1(22.Nf3 と引き下がれば 22…Bf7 でe列でルークの総交換が余儀なく、黒がポーン得の收局になる)22…fxe5 23.Bxh7+ Kf8(黒が戦力得にしがみつきたいならこれが最善の手のようである。23…Kh8 は 24.Bg6 Nc4 25.Bxe8 Rxe8 26.Qxb7 Bd5 27.dxe5 Qe6 28.f4 a5 29.Rf2!

となって、白がポーンをf5に突いてキング翼を広げる手を狙う。しかし長期的には黒のパスaポーンへの対処が悩みの種になるだろう)24.dxe5 Qc5 25.Bg6 Kg8

となれば、私には引き分けのために戦う以外白にどんな手があるか分からない。

22.Qb1!

 これで黒は圧倒的なナイトを絶好のe5の拠点から決してどかせることができなくなった。そしてこれがアコビアンにとって多くの頭痛の種となる。

22…g6 23.f4 c5

 アコビアンは圧倒的なe5のナイトの土台をなんとかして揺さぶろうとしなければならない。

24.f5 cxd4?

 アコビアンのこの手には批判的な者が多かった。しかし彼はナカムラのナイトをe5からすぐに追い払う適切な応手を指さなかったあとはたぶんもう引き返せなくなっていたのだろう。そしてほかの手もどれもあまり良くないことにも気づいていたのだろう。例えば 24…Bb3 ならナカムラにはキング翼の急襲の見込みが出てくる。25.Bd3! Qc7(受けづらい Nc4! を避けようとする 25…Rf8? は 26.fxg6 hxg6 27.Re3! から Rg3 が来れば黒キングに対する攻撃が決まる)26.Qc1! からクイーンがh6に行って攻撃が決まる。ふむふむ…アコビアンが突然ナカムラの狙い筋に気づいた時の彼の胸中をたぶん想像できるだろう。

25.fxe6 Rxe6 26.Nxf7!

 黒陣は壊滅した。アコビアンはたぶん以前に勇気を出してこのナイトをe5の拠点から 21…f6 で追い払わなかったことで自分を叱責していたことだろう。

26…Kxf7 27.Bd5

 もっと辛辣な手は 27.Qa2! だったがナカムラの手も同様に速く勝つ。

27…Qxd5 28.Rxe6 dxc3 29.R6e5 Qd4+ 30.Kh1 b6

 もちろんアコビアンのキングがf7の荒地でうろうろしている危険な状態でなければ、收局で勝つのに十分な戦力がある。しかしここでは收局の見通しはただのとっぴな夢想にすぎない。

31.Qa2+ Kg7 32.Re7+ Kh6 33.Qf7

33…Nc4

 黒にはもう受けがない。33…Rh8 なら 34.Rd7 で黒クイーンが要のg7の守りから追い払われ、34…Qc4 35.Qg7+ Kg5 36.Re5+ Kg4 37.Qf6 ですぐに詰む。

34.Qxh7+ Kg5 35.R7e6 Qd3 36.h4+ Kf4 37.Qh6+ 1-0

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(この号続く)

2016年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(212)

「Chess Life」1998年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御ヒューブナー戦法 [E41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第5局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.e3

 白がルビンシュタイン戦法を指したいなら正確な手順は 4.e3 が先である。黒は本譜のような手順を選ぶかもしれず、それなら白はキング翼ナイトをe2に展開したいかもしれない。

5…Nc6 6.Bd3 Bxc3+ 7.bxc3 d6

 ここがドイツのGMロベルト・ヒューブナーにちなんで名付けられたヒューブナー戦法の出発点である。この局面を戦略的に正しく扱う手法を最初に明らかにしたのは彼である。黒は 4.a3 と突かれないのに自分からビショップをc3で交換したので、まるまる一手遅れでゼーミッシュ戦法を指しているように見える。しかし戦略の重大な違いは、白はキング翼ナイトを早くf3に展開させたために、キング翼で活発に活動を始める際にfポーンを迅速に動員してeポーンを支援することができなくなっているということである。

 スパスキーは白の中央が完璧な局面を指すことにひいでていて、それをもたらしてくれる変化を選ぶ。それほどきびしくないやり方は 8.Nd2 と 8.O-O である。

8.e4 e5 9.d5 Ne7!

 ここでもゼーミッシュ戦法とヒューブナー戦法の決定的な違いがある。前者ではクイーン翼ナイトがa5に行ってc4ポーンに圧力をかけるのに対し、後者では中央とキング翼での作戦のためにそのナイトが必要である。

10.Nh4 h6! 11.f4 Ng6!!

 この手は白のキング翼での動きを完全に止めてしまう。黒は二重gポーンを受け入れ、白に保護パスdポーンを作らせるが、白のビショップ、特に白枡ビショップがほとんど働かないポーン陣形を作り上げる。その結果できる局面は定跡ではほとんど互角だが、黒の方が駒を活動させる機会が多いので指しやすい。

 スパスキーは明らかに素通し列ができるのを期待していた。11…exf4?! なら 12.Bxf4 g5? 13.e5! Ng4 14.e6 Nf6 15.O-O! で白の攻撃がすぐに止まらなくなる。

12.Nxg6 fxg6 13.fxe5?!

 この取りは遅らせて後日スパスキー対ホルト戦(ティルブルフ、1979年)で指されたようにルークを使う方が良かった。13.O-O O-O 14.Rb1 b6 15.Rb2 Qe7 16.h3 Bd7 17.f5! gxf5 18.exf5 e4 でいい勝負である。フィッシャーの素晴らしい構想に直面してスパスキーは時間を浪費しさらにポーンの弱点を作った。

13…dxe5 14.Be3?! b6 15.O-O O-O 16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5!

 フィッシャーは弱点のa4とe4のポーンに対する作戦をf列での動きと絡ませ、白が一瞬のすきを見せた時に敵陣を突破した。

21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 白投了

結論 ヒューブナー戦法は今でもそのまま通用する。フィッシャーの変化の指し方は最新である。

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2016年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(445)

「Chess」2016年6月号(2/5)

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米国選手権戦

ジョン・ヘンダーソン

F.カルアナ – H.ナカムラ
第4回戦、シチリア防御・ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5 8.a4 Nc6 9.Bc4

 シチリア防御の本手順の9手目でもう未知の海に入った。a4 と …h5 の突き合いがあるソージンもどきになっている。しかしどちらがその余分の1手を有効に生かせるだろうか。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5

 11…Na5 とこちらに跳ねる手もあったが、ナカムラはたぶんカルアナが単純に 12.Bd3 と引いてから Nb3 と指してくるのを恐れたのだろう。このナイトは少なくともe5から中央の拠点を占拠し白が Bd3 でビショップを温存する考えを否定している。

12.Bb3 Bd7 13.f4

 布局でfポーンを2回突くのはカルアナの非常手段のように見える。しかし事実はナカムラに …Rc8 から …Nc4 で楽に互角にさせるわけにはいかなかったので、これが最善の選択だった。そのために思い切った手段が必要で、カルアナがすぐに正しい戦略変更をしたことは褒められる。

13…Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3 Qc5!

 これはシチリア防御らしい好手である。クイーンを黒枡で働かせて白のクイーンとナイトを釘付けにしている。

16.Rad1 g6?!

 この手は疑問手に見えるだけでなくはっきり疑問手である。もしシチリア防御の権威のフィッシャーとカスパロフが我々に教えたことがあったとすれば、シチリア防御では黒は精力的に指す必要があるということだった。だから切ったはったをやる必要がある。代わりにエンジンは 16…O-O-O でキングを保護しルークを結合しd7のビショップを守る(白の狙い筋の e5 突きからd列で空き攻撃の可能性があった)ことを要求していた。

 しかし人間の側も激しくいくらか一本道の 16…Ng4!? 17.Qd3 Bf6(安全策は 17…Rd8 18.h3 Nf6 19.Rfe1 O-O 20.Qf3! で、陣地の広い白が少し優勢である)18.e5! dxe5 19.Nxe6! Bxe6 20.Bxe6 を要求していた。局面は難解でどちらに転ぶか分からないが、シチリア防御のこんな激しい戦型に典型的なように、駒の大量交換になり緊張が緩和されることがよくある。20…Rd8 21.Bd7+ Kf8 22.Qf3 Qc7 23.Bf5(23.Bxg4 は 23…hxg4 24.Rxd8+ Bxd8! 25.Qxg4 Rh4! で良くなく、やはり局面が落ち着くと引き分けに向かう)23…exf4 24.Nd5 Qe5! 25.Nxf6 Rxd1 26.Rxd1 Nxf6 27.Qxb7 Qxf5 28.Rd8+ Ne8 29.Qb4+ Kg8 30.Rxe8+ Kh7 31.Qe4 Qxe4 32.Rxe4 Rd8 33.Kg1 Rd2 34.Rc4

ですぐに引き分けになる。

17.Qe2 O-O-O 18.f5!

 これでソージンビショップもどきはb3-f7の斜筋の開通を得て活気づく。

18…e5 19.Nf3 gxf5 20.Ng5 f4

 ナカムラが試合を続けるにはこれしかない。急に白の小駒がすべて生気を得たので一手でも間違えれば終わってしまう。

21.Rd3

 この手はルークを …Bg4 の釘付けの狙いから外しただけでなく、Nd5 から Rc3 も狙っている。

21…Kb8

 その通り、Rc3 の狙いにナカムラもびびった。しかしナカムラは戦力損の十分な代償を得られるだろうか?

22.Nxf7 h4 23.Nxh8 Rxh8 24.Qf2

24…Qb4?

 24…Qa5! なら黒がもっと抵抗できただろう。実戦と同じく 25.Nd5 なら 25…Nxe4! 26.Qb6(26.Qe2?? は Ng3+! 27.hxg3 hxg3+ 28.Kg1 Qd8! で白が詰まされる)26…Bd8! で黒の勝ちになる。代わりに白は 25.Qe1 と指さなければならず、黒はしのげるだけの十分な代償があるようである。クイーンがb4に行った間違いはすぐにナカムラにはね返る。

25.Nd5 Nxd5 26.Bxd5 Bxa4

 良くない手だが、少なくとも当座は Rb3 という大きな狙いを防いでいる。

27.Ra3!

 しかし今度はカルアナはこれを見つけた。単に c3 から b3 でビショップを取る手を狙っている。

27…h3 28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 1-0

 ここでは白はルークの丸得になっているので、ナカムラは投了した。そしてそれと共にタイトル連覇ができなくなったことを認めた彼のボディーランゲージも見られた。


レッド・ブルのCMに出ている男がファビアノ・カルアナ戦で投了しそれと共に米国選手権防衛の希望がほとんどついえたことをボディーランゲージは余すところなく物語っていた。

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(この号続く)

2016年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(211)

「Chess Life」1998年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

現代ベノニ防御 [A77]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第3局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3

 2-0とリードのスパスキーは 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否または 3…Bb4+ のボゴ・インディアン防御の比較的静穏な戦型を期待した。代わりにフィッシャーは挑戦状をたたきつけた。

3…c5 4.d5

 挑戦受諾!試合はここからベノニの荒海に入っていく。4.Nc3(4…cxd4 でイギリス布局)または 4.e3(4…d5 でクイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御)なら静海になる。

4…exd5 5.cxd5 d6 6.Nc3 g6

 ここで既にベノニの特徴的な輪郭が見られる。つまり黒のeポーンと白のcポーンが交換されているので白は中央で優位に立つ可能性がある。だから白の通常の活動領域はキング翼になり、黒はクイーン翼になる。ここで 7.e4 なら普通の手である。

7.Nd2

 このナイトの絶好の地点は一般にd2で、そこからe4ににらみを利かしc4に跳ぶこともできる。しかしこんなに早くd2にナイトを置く利点は特にない。黒が正確に応じるという逆説的な結果をもたらし、白は11目で軽率な手を指した。

7…Nbd7

 黒はクイーン翼ナイトをどこに置くかという決定を遅らせ普通に 7…Bg7 と指すべきだった。

8.e4 Bg7 9.Be2 O-O 10.O-O Re8

 この局面は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.e4 g6 7.Nf3 Bg7 8.Be2 O-O 9.O-O Re8 10.Nd2 Nbd7 からできることが最も多い。しかし現在の常識(そして1972年でもそうだった)では、クイーン翼ナイトの最良の経路はクライドマン対フィッシャー戦(ネタニヤ、1968年)やナイドルフ対フィッシャー戦(ハバナ・オリンピアード、1966年)のように 10…Na6 から 11…Nc7 である。グリゴリッチ対フィッシャー戦(パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナル、1970年)でフィッシャーは 10…Nbd7 と手を変えていて、スパスキーは図の局面を研究しているはずだった。

 ここでの正確な作戦は 11.a4! で、クイーン翼の陣地を広げ、早い …b5 突きを防いでキング翼ナイトがc4に安定した居場所を確保できるようにする。

11.Qc2 Nh5!?

 我々は結果的にこの手が勝着になったことを知っている。この大胆な手に対してスパスキーは長考したが(30分!)、局面に対応した正しい対策を見つけられなかった。のちに実戦でもっと単純な 11…Ne5! で黒がもっと容易に理論的な互角になれることが明らかにされた。

12.Bxh5 gxh5 13.Nc4 Ne5 14.Ne3 Qh4 15.Bd2

 その後正しい手順と作戦は 15.Ne2! Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Ng3! Be5 18.Bd2 であることが発見された。白キングは安全で、黒がgポーンをg6からg4へ行進させたことによりf5とh5に弱点ができている。

15…Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Bf4 Qf6 18.g3?

 本譜の手により白のキング翼の白枡に本質的な弱点が生じ、フィッシャーはダイナミックに完璧につけ込んでいく。白は 18.Bg3 と指す必要があり(18…h5?! 19.Nb5!)、形勢不明だった。たぶんいい勝負だろう。残りの手順は記号をいくつか付けて示す。

18…Bd7! 19.a4 b6 20.Rfe1 a6 21.Re2 b5! 22.Rae1 Qg6 23.b3 Re7! 24.Qd3 Rb8 25.axb5 axb5 26.b4 c4 27.Qd2 Rbe8 28.Re3 h5! 29.R3e2 Kh7 30.Re3 Kg8 31.R3e2 Bxc3 32.Qxc3 Rxe4 33.Rxe4 Rxe4 34.Rxe4 Qxe4 35.Bh6 Qg6 36.Bc1 Qb1! 37.Kf1 Bf5 38.Ke2 Qe4+ 39.Qe3 Qc2+ 40.Qd2 Qb3! 41.Qd4?! Bd3+ 白投了

結論 ベノニは生きている。黒の指し方の改良には微調整が必要なだけである。

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2016年10月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(444)

「Chess」2016年6月号(1/5)

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究極のブリッツ決戦

IMマルコム・ペイン

 セントルイスでの二日間の試合の模様は素晴らしい実況生中継で放映され、カスパロフは直感が全然鈍っていないことを見せつけた。ポカをしたのは実戦からちょっと遠ざかっていたためだった。全18試合で3個のナイトをポカで失ったが、それでもウェズリー・ソーに続いて3位だった。

成績 ナカムラ 11/18、ソー 10、カスパロフ 9½、 カルアナ 5½

H.ナカムラ – G.カスパロフ
究極のブリッツ決戦、セントルイス、2016年、現代ベノニ防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 これはグリューンフェルト防御を避けるための流行の手順で、カスパロフはその戦いを避けベノニに持って行く。

3…c5 4.d5 d6 5.Nc3 e6 6.e4 Bg7 7.Nge2 exd5 8.cxd5 a6 9.a4 Nbd7 10.Ng3 h5 11.Be2 h4 12.Nf1

12…Nh5

 これはいかにもカスパロフらしい手である。何よりもまず駒を働かせることが最優先で、キャッスリングさえも後回しである。12…O-O 13.Bg5 h3 と指すこともできた。

13.Be3 f5 14.exf5 gxf5 15.Nd2

 15.f4!? と 15.g4!? もある手である。

15…Ne5

 15…O-O 16.f4 Re8! 17.Bxh5(17.Nc4 なら 17…Nb6 18.Nxb6 Rxe3!?)17…Rxe3+ の方がずっと良かったかもしれない。

16.f4 Ng4 17.Nc4 O-O 18.O-O

18…Ng3!?

 黒は 18…Nxe3 19.Nxe3 Re8(19…Qe7 20.Bxh5 Qxe3+ 21.Kh1 Bd7 も黒が良さそうである)20.Nxf5 Bxf5 21.Bxh5 Bd4+ で手がいろいろあり優勢である。しかしカスパロフは捨て駒の誘惑に抗しきれなかった。

19.hxg3 hxg3 20.Bxg4 fxg4 21.Ne4!

 この手はナイトを犠牲にしてg3のポーンを取る用意である。代わりに 21.Re1 は 21…Qh4 22.Ne2 Qh2+ 23.Kf1 Qh1+ 24.Bg1 Bd4 となって、たとえコンピュータが好んでもかなりひどそうである。ブリッツではこれはほとんど自殺行為に等しい。

21…Qh4 22.Nxg3 Qxg3 23.Qe1!

 クイーンは交換しなければならない。23.Nxd6?? は 23…Qxe3+ 24.Kh2 Rf6 で負けてしまう。

23…Qxe1 24.Raxe1 Bd7?!

 24…Rf6 が最善手だった。25.Nb6 なら 25…Rb8 で黒が良い。

25.Nxd6 Bxa4 26.Bxc5 b6 27.Ba3

 白は 27.Bxb6 Rfb8 28.Bc5 Rxb2 を避けた。

27…Bb3

28.Kh2

 28.f5!? Bxd5 29.Rf4! と指すのも強い手だった。ここでカスパロフは反撃に転じる。

28…Bxd5 29.Kg3 b5 30.Rd1 Ba2!? 31.Kxg4 Rab8

 クイーン翼ポーンを突き進める黒の作戦はブリッツでは指しやすい。それと比べると白ポーンは動きにくそうだが形勢はまだナカムラの方が良い。

32.Bc5 b4 33.Rd2 a5 34.Ra1 b3

35.Re1?

 35.Rad1 なら黒はa2で生き埋めのビショップを嘆くところだった。

35…Rxf4+!

 何年ものブランクにもかかわらずカスパロフは相変わらず鋭い。

36.Kxf4 Bh6+ 37.Kg4 Bxd2 38.Re7 Bb4 39.Bxb4 Rxb4+ 40.Kg5 Bb1 41.Ra7 a4 42.Ne8 Kf8 43.Nf6 Rd4 44.g4 Rd2 45.Rxa4 Rxb2 46.Rb4 Kf7 47.Nd5 Rd2 48.Rb7+ Kf8 49.Rb8+ Kf7 ½-½

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(210)

「Chess Life」1998年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御 [E56]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第1局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5

 この時点では布局はクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法である。

4.Nc3 Bb4

 4…Be7 なら普通である。黒は本譜の手でクイーン翼ギャンビット拒否のラゴージン戦法にもっていった。フィッシャーは1950年代からクイーン翼ギャンビット拒否をひいきにしていたが、結果はまあまあにすぎなかった。ここで白の最強の手順は 5.cxd5 exd5 6.Bg5 である。代わりにスパスキーは二ムゾインディアン防御と対する方を好んだ。

5.e3 O-O 6.Bd3 c5 7.O-O Nc6 8.a3

 1950年代から1960年代にかけてこの手がルビンシュタイン戦法の中で最も人気があった。両者とも展開が棋理にかない中央に地歩を占めている。キング翼ビショップの位置を除いてまったく対称で、黒のビショップは白陣の側に入っていていくらか不安定である。先手の利に加えてこの要素が白の通常の有利さの基礎になっている。

8…Ba5

 これは傍流手順で、主流手順は 8…Bxc3 と 8…dxc4 9.Bxc4 cxd4 である。本譜の手のあと白は 9.cxd5 exd5 10.dxc5 で通常よりも優勢の度合いを少し大きくすることができる。しかし指し分けでもタイトル防衛の有利さと避けられない「第1局目のプレッシャー」とから、スパスキーは以前に用いてうまくいった穏やかな手順を選択した。

9.Ne2 dxc4 10.Bxc4 Bb6?!

 これは気まぐれすぎる手である。10…cxd4 ならほぼ互角になる。11.exd4 には 11…h6 でe2のナイトが守勢の位置にいるために、白には孤立dポーンのもたらす陣地の広さの優位を生かす見通しがない。

11.dxc5! Qxd1 12.Rxd1 Bxc5 13.b4 Be7 14.Bb2 Bd7

 フィッシャーの選んだ手は最善手だった。以前の対局のスパスキー対クロギウス戦(ソ連選手権戦、1958年)では黒は 14…b6?! 15.Nf4 Bb7 16.Ng5 Nd8 17.Rac1 h6 18.Ngxe6! でたちまち大苦戦に陥った。

 白は上図から展開の優位を生かして(ボトビニクの指摘のように)15.e4! と指すことができ、15…Rfd8 16.e5 Ne8 17.Ng3 Nc7 18.Ne4 で広さで大きく優位に立ち楽に危なげのない優勢になるところだった。白がこの好機を逃して收局は対称かつ互角になった。

15.Rac1?! Rfd8 16.Ned4 Nxd4 17.Nxd4 Ba4 18.Bb3 Bxb3 19.Nxb3 Rxd1+ 20.Rxd1 Rc8 21.Kf1 Kf8 22.Ke2 Ne4 23.Rc1 Rxc1 24.Bxc1 f6 25.Na5 Nd6 26.Kd3 Bd8 27.Nc4 Bc7 28.Nxd6 Bxd6 29.b5 Bxh2??

 試合がこの手まで引き分けと宣告されなかった理由はただ一つ、両者とも引き分けを提案する側になりたくなかったからである。本譜の手はフィッシャーの大見損じで、ビショップが逃げることができると考えていた。すぐに生じた收局は1972年に徹底的に分析された。黒は超完璧に指せば引き分けにできるようである。しかしフィッシャーは気落ちし、受けを間違い負けてしまった。残りの手順には記号を少し付けるにとどめる。

30.g3 h5 31.Ke2 h4 32.Kf3 Ke7 33.Kg2 hxg3 34.fxg3 Bxg3 35.Kxg3 Kd6 36.a4 Kd5 37.Ba3 Ke4? 38.Bc5! a6 39.b6 f5 40.Kh4! f4?? 41.exf4 Kxf4 42.Kh5! Kf5 43.Be3! Ke4 44.Bf2 Kf5 45.Bh4! e5 46.Bg5 e4 47.Be3 Kf6 48.Kg4 Ke5 49.Kg5 Kd5 50.Kf5 a5 51.Bf2! g5 52.Kxg5 Kc4 53.Kf5 Kb4 54.Kxe4! Kxa4 55.Kd5 Kb5 56.Kd6 黒投了

結論 主流手順はまだ変わらない。第一級の 8…Bxc3 と 8…dxc4 が 8…Ba5 よりも好まれている。

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2016年10月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(443)

「British Chess Magazine」2016年5月号(4/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年

1.Rg3! e4

 黒は誘いのすきに引っかからなかった。1…Qxd3 2.Qxd3 Nxd3 3.Ne4 で 4.Rxd3 と交換得の 4.Nf6+ の両狙いがある。

2.Bxc5 Bxc5

 2…exd3 には 3.Qg4! でビショップ同士の交換からg7のポーンを取る狙いがある。

3.Nxe4

 3.Rdg1 Bf8 4.dxe4 でも良い。

3…Bd6 4.Rh3 Be5 5.d4 Bf6 6.Rg1 Rb8 7.Kxa2 Bh4 8.Rg4

8…Qd5

 8…Be7 には 9.Rxg7+ の強手があり 9…Kxg7 10.Qg4+ Kh8 11.Qh5 Bh4 12.Rxh4 Qe7 13.f6 で勝勢になる。

9.c4 1-0

 b3ポーンに対する狙いを消す一方 9…Qxf5 には単に 10.Rgxh4 で勝ちになる。

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(この号終わり)

2016年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(209)

「Chess Life」1998年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 1950年代後半から1972年ボリス・スパスキーとの世界選手権戦までの指し盛りにボビー・フィッシャーは布局に関して世界でも一流の大家と認められていた。彼の偉大な勝利の25周年に当たり、彼の得意だった布局/戦法が時の試練に耐えたかを検証することは意味のあることに思われる。この25年間に情報が大膨張したことは疑いない。これが達人の布局遺産にどれほどの影響を与えたのだろうか?かつての世界選手権戦の様相をGMフィッシャーの側から検証しよう。まずは…

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番

 スパスキーが初手に 1.d4 を指したのは第1、3、5、9局の4局である。成績は 1½ – 2½ で、その中には第1局の幸運な勝利もある。第10局まで 3½ – 6½ と負け越したので、あとは 1.e4 に転じた。

 上記の4局でフィッシャーは二ムゾインディアン防御を2局(うち1局は別手順からの転移)、ベノニ防御を1局、クイーン翼ギャンビット拒否の準タラッシュ戦法を1局指した。それらを指された順に紹介する。

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2016年10月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3