2016年09月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(442)

「British Chess Magazine」2016年5月号(3/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ヒカル・ナカムラ – べセリン・トパロフ
世界選手権挑戦者決定大会第7回戦、モスクワ、2016年

1.Rg5!

 もちろん 1.Rxd1? は駄目で、1…Ng4+ 2.Kh3 Nxf2+ 3.Kh2 Qh3+ 4.Kg1 Qg2# までとなる。1.Re4 も(なんとしても …Ng4+ を止めるため)1…Nxe4 2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 Nf6 4.h5 Nxh5 5.Qxf7 Nf6 -/+ で悪い。

1…Ne4

 もちろんここでの 1…Ng4+ は 2.Rxg4 で負けになる。

2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 1-0

 これで 3…Qf1 は 4.Qxf3 で詰みの狙いにならない。

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(この号続く)

2016年09月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(208)

「Chess Life」1998年2月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る(続き)

(2)4…dxc6

 この手は指せる手だが、人気では 4…bxc6 に遠く及ばない。理由はもっともである。(1)白はどちらにキャッスリングすることもできる。クイーン翼にキャッスリングすれば黒のいくらかぜい弱なキング翼を攻撃する見通しが開ける。(2)局面は閉鎖的なままになるのでキャッスリングを急ぐ理由はなく、白はまず小駒の展開を完了することができる。(3)白はキング翼にキャッスリングすることになっても、役に立たない Re1 を指さないのでA2よりも1手早くなっている。だからA2と比べると黒が動けない2重ポーンの陣形の十分な代償を得るのははるかに難しい。これらの点は次の試合によく表れている。

ユダシン対ピグソフ(ケメロボ、1995年)
5.d3!

 白は小駒の効率的な展開を始めた。5…Bg4 を恐れない理由は、6.h3 Bxf3 7.Qxf3 となり黒が二重ポーンの代償となる効果的な双ビショップを得ることが期待できなくなるからである。

5…Bg7 6.Nc3 Nf6

 中央に十分な影響力を保持するためには将来 …e5 と突くことが避けられない。この時点で黒は白がキング翼キャッスリングに甘んじて黒キングに対する危険性を減らすことをまだ期待できる。

7.Be3 Nd7 8.Qd2 h6

 ビショップ同士の交換はキング翼の黒枡を弱めることになるので、それを防ぐことは役に立つ。それでもすぐに黒はf5にできる新たな弱点を心配しなければならない。

9.O-O-O! e5 10.h4 Qe7 11.h5! g5 12.Ne2 b6 13.Ng3 Nf6 14.Nh2 Be6 15.Qc3 Qd7! 16.f3 O-O 17.Nhf1! Ne8 18.Bf2 Nc7?!

 白は直前の手で Ne3 と Ngf5 でf5の地点を占拠する意図を示していた。だから黒のナイトはd6に行くべきだった。

19.Kb1 Nb5 20.Qe1 Rfd8 21.Ne3 Nd4?!

 依然として 21…Nd6 が適切である。

22.c3 Nb5 23.Ngf5 f6

 ここが勝負所だった。GMユダシンが指摘したように、正しい手順は 24.Nxg7! Kxg7 25.g3 で、f4 突きからの攻撃が強力になる。実戦は黒が黒枡ビショップを保持できる。そうすればいつか双ビショップが防御では障壁となり攻撃では敵を悩ませる。GMユダシンはこの熱戦を『チェス新報』第65巻第164局で詳細に解説している。残りの手順は要点を記号で示すだけにする。

24.g3?! Qf7! 25.a3 Bf8! 26.Qe2 Nd6 27.f4 exf4 28.gxf4 Nxf5 29.exf5 Bd7 30.Qf3 Re8 31.Bg3 Rad8 32.fxg5 fxg5?! 33.Rhf1 Kh8 34.Ng4 Qd5! 35.Qxd5 cxd5 36.Nf6?! Re7 37.Nxd5 Rf7 38.Be5+ Bg7 39.f6 Bf8 40.Ne3 Ba4 41.Rd2 Kg8 42.d4 Be8! 43.Kc2 Ba4+ 44.b3 Be8 45.d5 b5 46.c4 bxc4 47.bxc4 Rb7! 48.Rh2 Kf7 49.Rhh1 Ba4+ 50.Kd2 Re8 51.Bc3 Bd7 52.Rhg1 Bd6! 53.Ng4 Bxg4 54.Rxg4 Be5 55.Bxe5 引き分け

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2016年09月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(441)

「British Chess Magazine」2016年5月号(2/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMアンドルー・マーティン

ヒカル・ナカムラ – ビシー・アーナンド
世界選手権挑戦者決定大会第12回戦、モスクワ、2016年

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5

5…e4

 アーナンドはすぐに局面を険しくした。ここではポーンをくれてやることもできる。5…O-O!? 6.Nxb4 Nxb4 7.Nxe5(7.d3 の方が慎重な手で双ビショップに期待する)7…Qe7 8.d4 d6 9.Nf3(9.Nd3 d5 10.cxd5 Qe4 11.f3 Nxd3+ 12.Qxd3 Qxd3 13.exd3 Nxd5)9…Bf5 黒は十分な代償を得ている。

6.Nh4

 ナイトが挑発的に端に跳ねた。白は適時に f2-f3 または d2-d3 と突いて戦いに引き戻すつもりである。…g7-g5 と突かれてこのナイトが簡単に取られるのにも注意しなければならない。既に非常に奇妙な局面になっている。

6…O-O 7.Bg2 d6

 7…Re8 8.O-O d6 9.d3 exd3 10.Qxd3 Nxd5 11.cxd5 Ne5 なら黒がしっかりしていてやれそうである。

8.a3

 8.Nxf6+ Qxf6 9.Bxe4 Re8 はナカムラの事前研究では危険すぎるようだったに違いない。確かに黒駒の動きが非常に良い。
(a)10.Bg2 Bg4
(b)10.Bf3 Bh3
(c)10.Bxc6 bxc6 11.O-O Bg4 12.f3 Bh3 13.Rf2 Qd4! 14.Ng2(14.Qc2 Rxe2;14.d3 Bc5)14…Bxg2 15.Kxg2 Bc5 16.Rf1 Qxc4

8…Bc5 9.O-O Re8 10.e3!?

 これは新手で、明らかにコンピュータによる研究の成果だった。白は黒に …g7-g5 と突く手を与え、黒はそう突く。

10…g5

 これはアーナンドの自信たっぷりの手で、どちらが支配者なのかを見せつけようとしている。10…Be6 でも良さそうである。11.Nxf6+ Qxf6 12.Bxe4 Bxc4(12…g5 13.Ng2(13.Qf3 Qxf3 14.Nxf3 Bxc4 15.d3 Rxe4 16.dxc4 Rxc4 17.Nxg5 Ne5)13…Bxc4)13.Bxh7+ Kxh7 14.Qc2+ Kg8 15.Qxc4 g5∞ どちらでも黒は布局の課題を解決しているようである。

11.b4 Bb6

 11…gxh4 と取る手もありそうで、その意味は 12.bxc5(12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Ne5 14.bxc5 Bg4)12…dxc5 でd5のナイトが当たりになっているということである。13.Bb2 Nxd5 14.cxd5 Qxd5 15.d3 h3! 16.Bxe4 Rxe4 17.dxe4 Qxe4 18.f3 Qxe3+ 19.Kh1 Bf5 20.Qe1 Qxe1 21.Raxe1 c4 -/+

12.Bb2 Nxd5

 12…Ne5 は 13.Nxf6+ Qxf6 14.f4! で急に白の方がうんと良くなる。14…exf3e.p. 15.Nxf3 Nxf3+ 16.Qxf3 Qxf3 17.Bxf3 c6 18.a4 a5(18…a6)19.b5

13.cxd5

13…Nd4!?

 明らかにアーナンドは白の強硬策と正面から渡り合うために長考していた。13…Nd4 もやはり好戦的な手法だった。黒は強制的に対角斜筋をふさごうとしている。ナカムラは 13…Ne5 が事前研究の焦点で、14.f4! を考えていたと語った。怖そうな手だが、14…Nc4! 15.Bc3 gxh4 16.Qe2 Nxe3 17.dxe3 Qe7= となりそうである。だから結局 13…Ne5 の方が良かったいうことになるだろう。

14.d3!

 14.Bxd4 Bxd4 15.exd4 gxh4 16.Qc2 f5 17.Rac1 Qf6 18.Qxc7 f4 は主導権が入れ替わるので、とても白の望むところではない。

14…gxh4 15.dxe4 Ne6 16.dxe6 Rxe6 17.e5!

 これは非常にいい手である。黒キングは周りが薄いので防御が心もとない。

17…hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 +/-

 局面が一段落して白の優勢が明白となった。そしてナカムラがそのまま勝った。

20…h5

 20…Bg4 は単純に 21.Bxb7! と応じられる。ポーンを取らないという手はない。21…Rad8(21…Re8 22.Qc3 f6 23.Bg2)22.Qc3 f6 23.Rac1 +/-

21.Rad1 Rh6

 21…Be6 22.Qc3 Kh7 23.Rxd6 cxd6 24.Bxb7 Rg8 25.Qd3+ Bf5(25…Kh6 26.Qxd6 h4 27.Kg2)26.Be4 +/- も 21…Kf8 22.Rxd6 cxd6 23.Qd3 Qg6 24.Be4 f5 25.Bg2 a5 26.Rd1 axb4 27.axb4 Ke7 +/- もアーナンドとしては指しきれなかったようである。しかしルークをそっぽへ行かせるのは負けを早めた。

22.Rd5! Qe7 23.Qc4

23…Bg4

 23…Be6 24.Qf4 Rg6 25.Rxh5。23…c6 24.Re5 Be6 25.Qf4 Rg6 26.Be4。

24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0


ナカムラはアーナンドの世界選手権再々挑戦の望みををくじいた

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(この号続く)

2016年09月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(207)

「Chess Life」1998年2月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る

 この約5年もの間すぐ取るのが白の一番の選択肢だった。きっかけは疑いなくフィッシャーが1992年にボリス・スパスキーとの番勝負でその手を用いて好結果をあげたからである(第11局は見事な勝利で、第13局は引き分け)。チェス自体の理由も明快である。白は確実に黒に二重ポーンを作らせ、すぐに黒の取り方を知ることにより自分の最良と考える陣形を選ぶことができる。しかし同様の融通性のある考え方は黒の選択にも当てはまる。c6で取り返した後白がどうくるかが分かる。全体的には研究と創造性の余地が大いにある。黒の取り返し方を(A)と同じ順で考える。

(1)4…bxc6

 GMスパスキーは2局ともこう取り返した。私はこの手が黒の最も好結果をもたらす手法だと思う。eポーンが元々の位置にいるので黒にはd6とf6の地点に弱点を抱えていない。さらには中央に向かっての主眼の取り返しで黒の中央が強化され、白が中央を開放するように指してきた場合には双ビショップを活用する見込みができる。

 ここからは実戦の手を見ていく。

シュルスキス対スビドレル(ヨーロッパ団体選手権戦、プーラ、1997年)
5.O-O Bg7 6.Re1 Nh6!

 このナイトの展開は …f6 と相まってGMスパスキーによって第13局で初めて指された。その意図はポーン陣形を堅くしまったものにして、白がポーンを突いてきても何もとっかかりを与えず無効にできることである。

7.c3 O-O 8.d4

 白は自分で中央を広げるために黒の二重ポーンと「交換」する。今ではこの局面にかなりの定跡がある。

8…cxd4 9.cxd4 d6 10.Nc3 f6

 ここまでの手はとりたてて言うこともなかった。どちらも望んだポーン/小駒の配置に達した。黒の陣形はハリネズミ陣形を模したようなものである。三段目より先には何も突きでていないが、黒陣のすべての地点は目が行き届いている。さらに黒の双ビショップは紛れもなく将来性が潜在的にある。白には妥当な作戦が多いが、以下はそのうちの二つである。

(a)11.Qa4 Qb6 12.Nd2 Nf7 13.Nc4 Qa6 14.Be3 Qxa4 15.Nxa4 f5 16.exf5(16.f3! の方が良く白が少し優勢-GMマツロビッチ)16…Bxf5 17.Rac1 Rfc8 18.Na5 Bd7 19.b3 Rab8 黒は楽に互角になっていて45手で引き分けた(フィッシャー対スパスキー、1992年、番勝負第13局)。

(b)11.b3 Bd7 12.Bb2 Nf7 13.Qc2 Rc8 14.h3 Qc7 15.Rad1 Rfe8 16.Qd2 Qa5 17.d5 cxd5 18.exd5 Bh6 19.Qd4(ルブレフスキー対スビドレル、ロシア、1996年)この試合は36手で引き分けになったが、白は陣地が広いので少し有利のはずである。

11.Be3

 白は 11.h3 と1手かけることなく白枡ビショップを中央の最良の地点に展開できれば望ましい。黒は反発し局勢は険しくなった。GMスルスキスは黒が 11…d5 や 11…f5 と中央で動くと 12.h3 と応じられ、黒が自陣側に弱点を作り出しているので白が楽に少し優勢になると指摘している。

11…Ng4!? 12.Bd2 Bd7 13.Qc2 Qb6 14.Rad1 Rac8 15.Bc1 Qb7 16.e5! fxe5 17.h3! Nh6 18.dxe5 Bxh3

 代わりに 18…Bf5 は 19.Qe2 d5 20.Be3 Kh8 のあと 21.Na4 でも 21.Bc5 でも白が危なげなく優勢になる(GMスルスキス)。

19.Bxh6 Bxh6 20.gxh3 Rxf3 21.exd6 exd6 22.Rxd6 Bf8

 22…Rxh3?! とポーンをかすめ取るのは危険すぎる。23.Ne4! とこられ 23…c5? には 24.Rd7! がある(GMスルスキス)。

23.Rd3 Rxd3 24.Qxd3 Qf7 引き分け

 両対局者とも持ち時間が少なくなっていて、半点で満足した。GMスルスキスは両者の最善の手順を 25.Ne4! Kh8! 26.b3 と示して白が少し優勢とした。本局は『チェス新報』第69巻第137局でGMスルスキスが全手順を詳細に解説している。

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2016年09月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(440)

「British Chess Magazine」2016年5月号(1/4)

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世界選手権挑戦者決定大会

GMニック・パート

セルゲイ・カリャーキン – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2 d5 8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3

10…Nbd7

 カリャーキン自身はこの挑戦者決定大会で黒でカルアナ、ギリそして当のナカムラ相手に3局とも 10…Re8 と指してすべて引き分けに終わった。

11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8

 ここでは …Rc8 から …c5 と突く方が自然な作戦に思われる。

13.Ne5 Bb7 14.Bc1

 カリャーキンがビショップをb2に振り向け直したのはこの局面の優れた理解の表れだった。

14…Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3

 16.Nb5 もあり、16…Bf8 17.Rac1 c5 18.dxc5 bxc5 19.e3 となれば少し優勢である。

16…a6 17.Ne2

17…c5?!

 大局観の争いの局面で攻撃型の選手の直面する問題はしばしば早まって打って出るということで、それがここで起こった。挑戦者決定大会がすべてに優先するのだから、キング翼インディアン防御やオランダ防御のような切るか切られるかがナカムラにもっとふさわしかったのではと思う。客観的には 17…c6 が望ましく、黒は少し劣勢であっても堅実だった。

18.dxc5

 18.Nc4!? は魅力的に見える。そのあと 18…Bf8 19.dxc5 Nxc5 20.Nf4 Rc8 21.Qf5 Nce4 22.Bxf6 Nxf6 23.Nxd5 Bxd5 24.Bxd5 と進めば白はポーン得になる。それでも勝ちにつなげるのはそれほど容易でない。

18…Nxc5

 代わりに 18…bxc5 と取るのは 19.Nc4! Be7 20.Rd2 で黒の中央が圧力で崩壊しそうだから良くない。しかし本譜では黒には孤立dポーンが残された。この局面では一般的に白の希望は二組の小駒を交換して黒の動きを押さえdポーンの弱点を際立たせることである。これに対して孤立dポーンの側は駒をすべて盤上に残すことを目指すべきである。

19.Nd3 Nce4

 カリャーキンはゆっくり自陣を整備してしだいに駒の働きを良くしながら、陣形の優位で優勢になれることを期待している。

20.Rac1 Rc8 21.Qb1 Qe7 22.Bd4 Rxc1

 この交換は白を利するはずだが、白からc8で交換することができるので黒としては避けることが難しいだろう。ここで私が黒ならもちろん自分からこのような交換はしたくない。

23.Rxc1 b5 24.b4

 たぶん黒は …b6-b5 でなく …Nd7 と指すべきだったろうが、どのみちdポーンがd5で立ち往生しているので白枡ビショップは働かない。

24…Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1

 カリャーキンは当たり障りのない指し方をしていて、一本道の手順に入らずに圧力を強めて相手の悪手を待とうとしている。

26…Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

29…Nxg3??

 これはとんでもないなポカだったが、どのみちナカムラは重圧を受けていた。代わりに 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 なら黒はまだ苦戦だが少なくとも致命傷は負っていなかった。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

34.Rc7!

 f7とc7の両当たりになっている。ナカムラほどの実力者がこんな手を見落とすことがあるとは驚くしかない。しかしやはり彼はゆっくりした受けに大局観を発揮するような選手ではなく、着眼は攻撃に向きがちである。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1

 38…Rxf2 と取っても 39.Bxd3 Rf3 40.Bc2 と白に強硬にこられて、黒はポーンを多く取り返すのが困難である。例えば 40…Rxg3+ 41.Kf2 Rxa3 42.Bxf5+ Kg8 43.Bg6 Kf8 44.Rf7+ Kg8 45.Re7

となって Re8 での詰みが避けられない。全体的にカリャーキンが大局観で危なげなく勝った。


カリャーキンはナカムラに勝って好調な出だしとなった。

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(206)

「Chess Life」1998年2月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(2)6…dxc6

 本譜の手のあとの局面は黒にとって 6…bxc6 のあとの局面よりかなり指しやすい。その理由は次のとおりである。(1)黒のクイーンもd4に利いているので白が d2-d4 と突くのはもっと困難になっている。(2)たとえ白が d2-d4 と突けても黒のクイーン翼のポーン陣形は …c5xd4 のあと a7-b7-c6 となって欠陥がなくなる。(3)黒の白枡ビショップの正常な斜筋はすでに開通している。(4)黒は例えばナイトをd4に据えることにより重要なd4の地点を支配する可能性が高い。

 黒はc5のポーンが弱体化しないように気をつけるべきである。特に気をつけるべきことは …b6 と突いて守っても十分でないかもしれないことで、白は狙い筋の a2-a4-a5 突きでその地点を弱めることができる。ここからは次の試合の手順を追う。

デグラーブ対メドニス(メス、1989年)
7.d3 Qe7!

 この手には目的が二つあり(1)すぐの要点はc5とe5で起こるどんな戦術もそれらの地点を守る、または過剰に守る、ことにより防ぐことであり(2)もっと長期的にはd8の地点をナイトまたはキング翼ルークのために空けることである。

8.Nbd2 Nh6!

 半閉鎖的な局面ではナイトのために好所を見つけることが大切である。黒のナイトにとってそれはe6の地点にあたり、f7からd8を通って到達できる。

9.a4

 中央で何かが起こる見通しはないので白は局面を閉鎖的に保ってc5の地点の確保に期待することもできるし、クイーン翼で列を素通しにさせることもできる。典型的な例はヤンサ対シュナイダー戦(スカーラ、1980年)である。9.a3 f6 10.b4 cxb4! 11.axb4 O-O 12.Bb2 Rd8 13.Bc3 Nf7 14.Nc4 Be6 15.Qe2 Nd6! 16.Nxd6 Qxd6 17.Qe3 a6 18.Rab1 Rd7 19.Nd2 ここで黒は 19…Bf8?! で黒枡ビショップを遊ばせてしまう代わりに、普通に 19…Rc8 と指していたら問題なかった。

9…O-O 10.Nc4 f6 11.a5 Nf7 12.Be3 Nd8! 13.Nfd2 Ne6 14.Nb3 Rd8 15.Ra4 Bd7

 c5の地点が安全でキング翼ルークが最良の地点にいるので白枡ビショップを展開する時機である。

16.Qd2 Be8 17.Qc3 Bf7 18.Nbd2

 私はこの手の狙いが b4 突きで動く余地を作ることだと気がつかなかった。それを 18…Bf8! で防いでおくべきで、黒は陣地が広く(二重ポーンのおかげで!)好調だった。白が解放を成し遂げれば形勢が動的に均衡がとれる可能性がある。持ち時間が少なくなって両対局者は手を繰り返して引き分けにした。

18…Qc7 19.b4! cxb4 20.Rxb4 Bf8 21.Rb2 Nd4 22.Na3 Qe7 23.Nac4 Qc7 24.Kh1 Rab8 25.Ra1 Nb5 26.Qb3 Nd4 27.Qc3 Nb5 28.Qb3 Nd4 引き分け

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2016年09月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(439)

「Chess Life」2016年5月号(3/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

ルイロペス・ベルリン防御(C65)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMレボン・アロニアン(FIDE2746、アルメニア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第5回戦、2016年2月15日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 Be6 7.O-O Bd6 8.d4 Nd7 9.dxe5 Nxe5 10.Nxe5 Bxe5 11.f4 Qd4+ 12.Kh1 Bd6 13.Qe2 O-O-O 14.f5 Bd7 15.Nf3 Qa4 16.b3 Qa5 17.Bd2 Bb4 18.Bxb4 Qxb4 19.Qf2 b6 20.Ng5 Qe7 21.f6 gxf6 22.Qxf6 Qxf6 23.Rxf6 Be8 24.Nxf7 Bxf7 25.Rxf7 Rd2 26.Rc1 Rg8 27.Rg1 Rxc2 28.Rxh7

 形勢はナカムラの優勢だったが、ここでは正確に指せば時間で少し負けていてもアロニアンが反撃で十分引き分けにできたはずだった。しかしギリはブリッツでナカムラと対戦することの問題を次のように説明した。「厄介な相手だ。たぶん彼のポカのせいでこちらの勝勢になっているのに認めようとしない。まるで何事もなかったように指してくる。そして彼は1手ごとに3秒増す。彼は1秒で指すのにこちらは4秒か5秒で指す。」

28…Rxa2?

 28…Rg4!! なら白のgポーンを十分長く押しとどめて形勢を持ちこたえさせる。白が h3 と突いてこのルークをどかそうとすれば …Rxe4 から …Re2 で厄介なことになる。

29.g4! Ra5

 これでは白ポーンが止まらないが、29…Rf8 30.g5 Rff2 ではhポーンがh2に居続ければ何の狙いもなく、白はgポーンを突き進め続けることができる。

30.h4 Re5 31.g5 Rxe4 32.g6 Ree8 33.h5 a5 34.g7 Kb7 35.Rh6 Re5 36.Rh8 Rxg7 37.Rxg7 b5 38.Rg3 c5 39.h6 Rh5+ 40.Kg2 c4 41.bxc4 b4 42.Rh3 Rg5+ 43.Kf3 b3 44.Kf4 a4 45.Kxg5 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

左から右へ(括弧内は最終得点)GMヒカル・ナカムラ(10½)、GMアニシュ・ギリ(5½)、GMアレクセイ・シロフ(3½)、GMビスワーナターン・アーナンド(10½)、GMウラジーミル・クラムニク(9½)、GMレボン・アロニアン(5½)

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(205)

「Chess Life」1998年2月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(1)6…bxc6

 中央に向かって取り返すのが昔からの鉄則である。しかし私の考えではここでは意欲的すぎる。黒はeポーンを突いてしまっているのでf6とd6が潜在的な弱点になっているし、aポーンは孤立していて弱点になるかもしれず、白枡ビショップの展開は遅れている。実戦例として次の試合を取り上げる。

スミスロフ対Zsu.ポルガー(モナコ、1994年)
7.c3!

 白は展開でだいぶ先行しているので、中央を開放したい。二重ポーンの弱点に長期的な戦略でつけ込もうとするよりもGMスミスロフは動的に対処することを目指す。

7…Ne7 8.d4 cxd4 9.cxd4 exd4 10.Nxd4 O-O 11.Nc3 Bb7

 黒は …d5 と突く用意をした。確かに理にかなったやり方である。明らかにマカリチェフ対クラセンコフ戦(モスクワ、1992年)は黒にとって不満足だった。11…Rb8?! 12.Nb3! d5?! 13.Be3! dxe4 14.Bc5 Rb7 15.Nxe4 Bxb2 16.Nd4! 肉弾戦の詳細については『チェス新報』第55巻第177局を参照されたい。

12.Bg5 h6 13.Bh4 g5 14.Bg3 d5 15.exd5 Nxd5 16.Ne4! Re8 17.Nf5! Bc8 18.Nxg7 Kxg7 19.Qd4+ f6 20.Nd6 Rxe1+ 21.Rxe1

 黒の努力の結果はd5の好所のナイトとa7、c6、f5それにキング翼という具合に盤上全体に渡る恒久的な弱点である。黒陣はもちろん敗勢でないが、非常に指しにくい。実戦ではこのような局面はほとんどの場合負けになる。残りの手順は若干の形勢記号をつけて示す。GMスミスロフはこの試合を『チェス新報』第61巻第174局で詳細に解説している。

21…Bd7 22.h4! Qg8! 23.Ne4 Qe6 24.f3 Qf5 25.b4! a6 26.a3 g4 27.Nd6 Qg6 28.f4 h5 29.Rc1 Kh7 30.f5 Qg8 31.Qc5 Qb8 32.Qd4 Kg7 33.Kh2 Qb6 34.Rc5! Qd8 35.a4 Qe7 36.Rc1 Qe3 37.Qxe3 Nxe3 38.Bf2 Nd5? 39.Bc5 Rb8 40.Re1! Kg8 41.Re4 Kg7 42.Kg3 Rh8 43.Kf2 Rb8 44.g3 Kg8 45.Ke1 Kg7 46.Kd2 Kg8 47.Kd3 Kg7 48.Kc4! Ra8 49.Bf2 Kf8 50.Bc5 Kg7 51.Be3 Rb8 52.Kc5! Kg8 53.Bh6 Ra8 54.Bd2! Ra7 55.Re2! Ra8 56.b5! axb5 57.axb5 cxb5 58.Kxd5 Ra2 59.Kc5 Rb2 60.Re7 Rc2+ 61.Kb4 Bxf5 62.Bh6 黒投了

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2016年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(438)

「Chess Life」2016年5月号(2/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

欠陥のため引き分けへ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2801、ロシア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第3回戦、2016年2月14日

 ナカムラは窮地に立たされていたが、クラムニクの圧力を強める手段には思わぬ欠陥があった。

35…f5?!

 ここは 35…Rg2+! 36.Kh3 Ra2! 37.Nc4 Ng2! と指す方が良く少なくとも1ポーンが取れる。

36.Nc4! f4+ 37.Kh3 Rf2 38.Nxe5 Nf1

 これがクラムニクの読み筋だったが、ナカムラは黒の交換得のあと全くの形勢不明であることまで見通していた。

39.Rxf1! Rxf1 40.Kg2 Ra1 41.Ng6 Ra2+ 42.Kg1 Ra1+ 43.Kg2 Ra2+ 44.Kg1

44…Kf7?

 勝利への細い道筋は考えにくい 44…Ra7! 45.Nxf4 Rf7 46.Nxh5 g6! 47.Ng3 Rxf3 48.Kg2 Rf4 49.Kh3 Kh7 という手順にあった。

ここで白には適当な手がなく1ポーンをあきらめなければならない。そのあと手数はかかるが黒の勝ちは確実である。

45.Nxf4 g6 46.Ng2! Kf6 47.Kh2 Ke5 48.Kg3

 これで白には何も問題がないが、クラムニクはなかなかあきらめきれない。

48…Ra1 49.Nf4 Kd4 50.Kg2 Ra2+ 51.Kg3 Ra1 52.Kg2 Ra8 53.Kf2 Ra6 54.Ne2+ Ke5 55.Kg3 Rf6 56.Kf2 Rf8 57.Kg3 Rf7 58.Kf2 Ra7 59.Kg3 Ra8 60.Nf4 Rg8 61.Ne2 g5 62.hxg5 Rxg5+ 63.Kh4 Rg2 64.Ng3 Rh2+ 65.Kg5 h4 66.f4+ Ke6 67.Nf5 h3 68.Kg4 Rh1 69.Ng3 Rh2 70.e5 Rf2 71.Ne4 Rg2+ 72.Kxh3 合意の引き分け

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(この号続く)

2016年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6