2016年08月の記事一覧

布局の探究(204)

「Chess Life」1998年2月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン

 前2回では二重ポーンができるのを許容できるかどうかの判断基準、または逆に相手に二重ポーンを作らせるかどうかを決める際に使う判断基準を示した。最優先の判断基準は二重ポーンにどうしても付きまとう弱点をしのぐ十分な代償を得なければならないということである。特に黒はこのことにこだわる必要がある。

 二重ポーンのあれこれを論じるための手段として、シチリア防御の人気があり定跡で重要な戦法を選んだ。

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5

 表面的にはこの手はシチリア防御に対する積極的な攻撃の開始のように見える。もっともこれがうまくいくのは 3…Qb6 や 3…Qa5 のような弱い受けに対して、または黒が例えば 3…e6 4.O-O Nge7 で単刀直入の展開をわざと避ける場合だけである。

 黒の最も普通の応手について説明する。

3…g6

 黒はキング翼の小駒を展開し、陣形に対する狙いの Bxc6 を無視している。白の方はすぐにc6での取りを決めることもできるし後にすることもできる。

(A)白が取るのを後にする
4.O-O Bg7 5.Re1

 これがかねてからの手法である。白はキング翼の戦力の展開を完了し、先へ進む前に黒がどんなやり方で来るかを見極めようとしている。黒の高級な応手は 5…Nf6 と 5…e5 の二つである。後者は二重ポーンができるので(私が指したい方の手である!)、それを取り上げる。

5…e5

 黒は近い将来の白の中央でのいかなる動きも未然に防ぎ、キング翼ナイトをe7に支障なく展開する用意をしている。白がどんな有利でも期待するならここで取らなければならない。

6.Bxc6

 黒はどちらのポーンでも容易に取り返すことができるが、どちらもいくらか不如意な二重ポーンになる。どちらで取り返した方が良いのだろうか。

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2016年08月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(437)

「Chess Life」2016年5月号(1/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇

GMイアン・ロジャーズ

フランス防御突き越し戦法 (C02)
GMアレクセイ・シロフ(FIDE2682、ラトビア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
チューリヒ・チェスチャレンジ第2回戦、2016年2月13日

1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5 c5 4.c3 Nc6 5.Nf3 Qb6 6.a3 Nh6 7.b4 cxd4 8.Bxh6 gxh6 9.cxd4 Bd7 10.Ra2 Rg8 11.h3 h5 12.g3 h4 13.g4 Be7 14.Be2 f6 15.b5 Nd8 16.Qd3 Rg7 17.Nc3 Nf7 18.O-O h5 19.Na4 Qd8 20.exf6 Bxf6 21.Nc5 hxg4 22.hxg4 b6 23.Nxd7 Qxd7 24.Kh1 Rc8 25.Rc2 Rxc2 26.Qxc2 Nd6 27.Ne5 Bxe5 28.dxe5 Ne4 29.Kg2 Nc5 30.Rh1 Qe7 31.Qc1 Rh7 32.Qe3 Qg7 33.Rc1 Qf8 34.a4 Rf7

 シロフはもう残り2、3分しか残っていなかったのに対し、ナカムラは20分くらい残っていた。

35.f3?!

 この手は慎重すぎた。白は 35.a5! で 36.axb6 から 37.Ra1 を狙うのが良かった。シロフは 35…h3+!? を恐れたに違いないが、36.Kg1! h2+ 37.Kg2! で、すぐにh2のポーンを Rh1 でからめ取ることができる。

35…Rf4! 36.Rxc5?

 白はパニックに陥った。36.Rh1 Qh6 37.Qf2 なら均衡を保っていたはずだった。

36…bxc5 37.a5 h3+!

38.Kg3?

 38.Kxh3? と取れないことは 38…Qh6+ 39.Kg2 Rxg4+ 40.Kf2 Rg2+ から明らかだったが、シロフにとっては 38.Kh2! でも事態はもっと厳しかった。38…Rb4 39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって白ポーンが何かできるよりも前に黒の攻撃がやってくる。

38…h2! 白投了

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(この号続く)

2016年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(203)

「Chess Life」1997年12月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局(続き)

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(2)1.d4 d5 2.Nc3 Nf6 3.Bg5 (D01)

 この手は無害そうに見えるが白が本質を知っていればそれほど無害ではない戦法の一つである。基本的に白は黒のdポーンに従来の c4 突きで挑むのではなく、駒中心の戦いとポーン陣形を重視する。白が 4.Bxf6 で黒に二重ポーンを作らせるのを狙っているので、黒はこれにどう対処するのかを決めなければならない。注意すべきは白が 3…e6 に 4.e4 と応じてフランス防御に移行できることである。3.Nc3 に 3…Nf6 と指すフランス防御の使い手のみが 3…e6 と指すことができる。以下では三つの戦型を簡潔に解説する。

 (a)3…c6 4.Bxf6 exf6

 代わりに 4…gxf6?! は白に 5.e4! で有利に局面を開放される。本譜の手のあとはバーガー対ヘンリー戦(ニューヨーク、1983年)の手順を追う。

5.e3 f5 6.Bd3 g6 7.Nce2! Nd7 8.Nf3 Bd6 9.c4 dxc4 10.Bxc4 Qe7 11.O-O Nb6 12.Bb3 Be6 13.Nc3 Rd8 14.Qc2 O-O

 『チェス布局大成D』(1987年改訂版)はこの局面を互角と判断している。黒が二重ポーンの代償に何を得ているか私には不明である。

 (b)3…Bf5 4.Bxf6 exf6 5.e3 c6 6.Bd3 Bxd3 7.Qxd3 Bb4 8.Nge2 O-O 9.O-O Nd7 10.e4 dxe4 11.Nxe4 Re8 12.a3 Bf8 13.b4 f5 14.Nd2 a5 15.c3 g6

 この局面(レンジェル対コラーロフ、ケチケメート、1962年)も同大成で互角と判定されている。しかし白はポーン陣形(クイーン翼の無傷の多数派ポーン)の優位で少なくともいくらか優勢ではないだろうか。

 (c)3…Nbd7!

 この10年でこの完璧な手がGMたちの唯一の選択肢になってきた。その理由は簡単である。二重ポーンを受け入れる必要性がまったくない時にどうして受け入れるのかということである。実戦例としてスミスロフ対グフェルト戦(ニューヨーク・オープン、1989年)を取り上げる。

4.Nf3 g6 5.Qd3 Bg7 6.e4 dxe4 7.Nxe4 O-O 8.Nxf6+ Nxf6 9.Be2 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5 12.O-O Be6 13.Qd4 Qa5 14.a3 h6! 15.Bxf6

 GMエドワルド・グフェルトの考えではこれが白にとって最善手である。というのは 15.Bh4 なら 15…Nd5! で、15.Bf4 なら 15…Nd5! 16.Be5 f6! 17.Bg3 Bf7 から 18…e5 で、黒が中央の優位のために優勢になるからである。

15…Bxf6 16.Qe3 Bg7 17.Nd4 Bd5

 黒は双ビショップとキズのない陣形のためにわずかに展望に優る。もちろんeポーンは毒入りである。18.Qxe7?? Rfe8 19.Qd7 Bxd4 20.cxd4 Rxe2 21.b4 Qd8! で黒の駒得になる。ここでGMワシリー・スミスロフは 18.Rfd1?! と指してはっきり形勢を損じ、48手目でなんとか引き分けにした。GMグフェルトは代わりに 18.Rad1 で白の不利を最小限にとどめることを推奨している。『チェス新報』第47巻第448局にGMグフェルトの詳細な解説が載っている。

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2016年08月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(436)

「Chess」2016年5月号(5/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

H.ナカムラ – V.アーナンド
第12回戦、イギリス布局

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5 e4 6.Nh4 O-O 7.Bg2 d6 8.a3 Bc5 9.O-O Re8 10.e3 g5!?

 この手は客観的には成立するが、相手が早指しできて明らかにまだ研究範囲なので危うい方針だった。

11.b4 Bb6 12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Nd4?

 盤上での閃きで指したようだが、単なる悪手だった。コンピュータの 13…Ne5 でかなり形勢不明である。もっともナカムラは後でこの局面を詳細に研究済みだと認めた。

11.d3 gxh4 12.dxe4 Ne6 13.dxe6 Rxe6

 黒陣はガタガタである。そしてナカムラは簡単にかたをつけた。

17.e5 hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 h5 21.Rad1 Rh6 22.Rd5 Qe7 23.Qc4 Bg4 24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

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布局の探究(202)

「Chess Life」1997年12月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局

 矛盾しているように聞こえるかもしれないが閉鎖布局では黒には二重ポーンを受け入れることによって自分のポーン陣形を乱す必要性も潜在力もいっそう少ない。初期の段階で白は 1.e4 布局よりも迫ってこないので、どうして黒が二重ポーンを受け入れるべき必要があるのだろうか。答えはそんな必要などあるはずがないである。これを二つの実戦例で説明する。

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(1)1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 (D35)

 g1のナイトの展開を遅らせたおかげで白は 7.Bd3 で白枡ビショップを働かせる用意ができている。黒は 7…Be7 と展開してこれを甘受するしかない。しかしときどきそれに飽き足らない黒は

6…Bf5?!

と指し

7.Qf3! Bg6 8.Bxf6

とやり込められる。

 黒が中盤戦に踏みとどまろうと收局にしようと愚形の孤立二重ポーンの代償はない。

(a)8…gxf6 9.Qd1! Qb6 10.Qd2 Na6 11.Nf3 O-O-O 12.a3 Nc7 13.b4 Ne8 14.Be2 Nd6 15.Qa2!(ぺトロシアン対バルツァ、ブダペスト、1955年)黒の反撃の試みはすべてGMぺトロシアンによって防がれ、黒の見通しは暗いままである。

(b)8…Qxf6 9.Qxf6 gxf6 10.Kd2!(收局でのキングの中央志向!)10…Nd7 11.Bd3 Bd6 12.h4 h5 13.Nge2 これはゲレル対デ・グレイフ戦(ハバナ、1963年)で、白は弱点が何もなく黒の弱点につけ込む楽しみがある。

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2016年08月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(435)

「Chess」2016年5月号(4/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第8回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4 Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1 bxa2+ 19.Ka1

 敵ポーンを自分のキングの前に置いておく手段は周知の防御手段である。そしてここではうまくいった。黒は敵キングに対する筋を素通しにすることができない。その一方で反対翼ではf6ポーンが敵ポーンとぶつかっているので白がg列を素通しにすることができる。

19…Bxf5 20.exf5 a3 21.b3 Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2 fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

 好手。ルークを単にg5の当たりの位置からはずし、Bxc5 から Ne4 を狙っている。

25…e4

 あきらめの心境。

26.Bxc5 Bxc5

 26…exd3 は 27.Qg4 で白が勝つ。

27.Nxe4 Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 1-0

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(この号続く)

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布局の探究(201)

「Chess Life」1997年12月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

カロカン防御 (B10-B19)

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Nf6!? 5.Nxf6+

 私の考えでは「典型的な」カロカン選手は安全で堅実な 4…Bf5 か 4…Nd7 の方を好むはずである。GMカルポフは若い頃は 4…Bf5 が好きだったが、現在は 4…Nd7 に傾倒している。本譜の手は-何の理由もなく-二通りの二重ポーンを受け入れる。それぞれの黒の可能性について簡潔に説明する。

(1)5…exf6 (B15)

 黒はキング翼で静的な二重ポーンを作ることにより、クイーン翼で健全な4ポーン対3ポーンの優位を自発的に白に与えた。代償として両方のビショップの容易な展開とf6ポーンのe5への利きに期待を寄せている。これは根本的な不利益の割には取るに足りないように思われる。私の思い出せる限りではFIDE世界チャンピオンのカルポフは白番のすべてで勝っている。白がどのように好局を危なげのない指し方で達成できるかの好例は西村裕之対ミルコビッチ戦(ケチケメート、1996年)で、IMスロボダン・ミルコビッチが『チェス新報』第66巻第100局で解説している。

6.Nf3 Bd6 7.Be3 O-O 8.Qd2 Be6 9.Be2 Nd7 10.c4 Re8 11.O-O Nf8 12.Rfd1 Ng6

 ここで白は 13.d5 cxd5 14.Nd4 と早まって黒に 14…Qb8! と十分な反撃を許した。IMミルコビッチは代わりに戦端を開く前に 13.Rac1! で最後の駒を戦闘に投入して d5 突きのタイミングを見計らうのが良いと言った。そうすれば白は楽に優位に立ち、黒は劣ったポーン陣形の代償がどこにも見当たらない。

(2)5…gxf6 (B16)

 これは非常に大胆な手である。黒は乱戦に持ち込む目的で自分のキング翼を根本的に弱めた。gポーンがfポーンになって中央がわずかに強化されたこととg列(そしてたぶんh列)が白キングに脅威を与える見込みとに代償を求めなければならない。黒の暗黙の考えは、クイーン翼にキャッスリングして、白が黒を捕まえる前に黒が白を捕まえようとすることにある。GMダビド・ブロンシュテインやGMベント・ラルセンのような恐れ知らずの闘士はこの戦型の信奉者に属していた。gポーンで取り返す方が 5…exf6 よりもずっと現実的に理にかなっていると思う。そう、黒ははるかに多くの危険を背負うが、潜在力もある。最近の典型的な実戦例はニールセン対ツェイトリン戦(ヘースティングズ/オープン、1994/95年)である。

6.c3 Bf5 7.Nf3 Qc7 8.g3 e6 9.Bg2 Nd7 10.Qe2 O-O-O 11.Nh4 Bg6 12.O-O Bd6 13.Rd1 Rhe8 14.a4 f5 15.b4 e5 16.d5!

 両者は見込みのある個所で攻撃している。黒はここで 16…cxd5?! でやらずもがなの危険を冒した。これに対しては 17.Bxd5 でも実戦のように 17.Rxd5 でも白の狙いが危険になってくる。後にGMミハイル・ツェイトリンは 16…c5! でクイーン翼をできるだけ閉鎖しておくように努めるのが良かったと言った。そうすれば白は非常に不均衡な局面でわずかに優勢にすぎない。

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2016年08月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(434)

「Chess」2016年5月号(3/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

 第6回戦のアロニアン対ナカムラ戦は7時間以上かかった。アロニアンがさえた指し回しでナカムラを下したが、終局はスキャンダルとは言わないまでもだいぶ物議をかもした。

 アロニアンはずっと優勢で、とっくに勝っていたかもしれない。しかしとうとうこの局面に到達し客観的には 74…Ra4 で引き分けである。この場面の生中継は一見の価値がある(ユーチューブで簡単に見つけることができる)。ナカムラはしばらく考えてから手を伸ばし、動かすつもりであるかのようにはっきりと自分のキングをつかんだが、すぐにそれを離した。

 それから両対局者の間で聞き取れない言葉のやり取りがあり、アロニアンの憤慨した身振り手振りのいくつかが続いた。アロニアンの態度は明らかに「おい、それはないだろ」というようなことを言っていることを示していた。そして管理者が二人に近づいてきてナカムラに話しかけ、敗着となる 74…Kf8 を指した。

 ナカムラは先にキングに触ったかどうか聞きキングを動かす手を回避しようとしているようだった。アロニアンはビデオからもっともなことに、ナカムラがキングを動かすように主張し審判も同意した。ナカムラの反応は少し指して投了した時握手を拒否してさっさと立ち去り、義務の対局後の記者会見にも出ないことだった。このことのために後日賞金の10%を没収された。

 アロニアンはこの出来事を話題にすることを拒んだ。しかし次の第7回戦後の奇妙なインタビューでナカムラはこともあろうに「あれは大したことじゃない…たぶんキングに1秒か2秒触ったんだろう」と言った。そしてキングに触ったのは故意か偶然かと聞かれて何とでもとれる「たぶんその中間だろう」と答えた。そして困惑したのは「レボンはチェスのことを問題にするのじゃなくてあの時彼のちょっと言ったことからすると個人間の問題にしようとしているように感じられたことだ」とも言った。

 なにはともあれ残念な出来事で、ナカムラは「マイナス2」になり優勝の望みはもうほとんどなくなった。

役者ナカムラ

 上図の局面で黒は引き分けるためにはルークをa4に動かす必要があったが

ナカムラは明らかに 74…Kf8 と引くつもりで自分のキングに触った。

 アロニアンは駒の位置を直したというナカムラの言い訳に、そんな風には受け取れないというそぶりをした。

 ナカムラのオスカー賞級のとぼけた顔つき。審判が呼ばれて、ナカムラは結局自分のキングを動かさざるを得なかった。

 ナカムラは即刻投了し、相手と握手をせず対局後のインタビューにも出席せずに対局場を立ち去った。この行為で賞金の10%に相当する約2千ポンドの罰金を科せられた。

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(この号続く)

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布局の探究(200)

「Chess Life」1997年12月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

シチリア防御リヒター=ラウゼル攻撃 (B60-B69)

 主流手順の出発局面に至る手順は次のとおりである。

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bg5 e6 7.Qd2

 ここから三通りの手順/変化を考える。最初の二つでは黒に代償がないが、三番目では代償がある。

(1)7…h6?! (B63)

 この黒枡ビショップに対するすぐの応手打診は1950年代後半にGMボトビニクによって推奨された。結果は芳しくなかった。最近の改良の試みでも駄目だった。そのわけはすぐに分かる。

8.Bf6 gxf6

 黒は二重ポーンを受け入れなければならない。8…Qxf6? と取るのは 9.Ndb5 Qd8 10.O-O-O でdポーンが落ちるので駄目である。しかし本譜は黒が丸々1手費やして二重ポーンを受け入れたという結果になっている。その上 7…h6 には二つの二次的欠点もある。黒のキング翼はポーンがh7でなくh6にあることにより弱体化している。それによりキング翼にキャッスリングするのは非常に考えづらく、…Bh6 による潜在的な戦術の可能性もなくなっている。これらすべてが黒にとっては重荷で、開放局面では耐えられない。典型的な手順は次のようである。

9.O-O-O a6 10.f4 Bd7 11.Kb1 Qb6 12.Nb3! O-O-O 13.Be2 Kb8

 代わりに 13…h5 はケレス対ボトビニク戦(モスクワ、1956年)で初めて指されたが改良になっていなかった。14.Rhf1 Na5 15.Rf3! Nxb3 16.axb3 Kb8 17.Na4 Qa7 18.f5! で白が断然良かった。

13.Bh5 Rh7 14.Rhf1 Bc8 15.Qe2

 白の優勢は明らかである。

 黒は縮こまっていて弱点の見返りが何もない。ここまでの手順はアルマーシ対ダムリャノビッチ戦(チャチャク、1996年)で、GMゾルターン・アルマーシは『チェス新報』第68巻第175局で本局を詳解している。

(2)7…a6 8.O-O-O h6 (B66)

 ここ数年の間この戦型は国際棋戦で盛んに指されるようになった。その理由は白のg5のビショップが下がらなければならないからである。9.Bxf6?! は 9…Qxf6 が安全で好形だし、9.Bh4 は 9…Nxe4! でポーンが犠牲になり疑問手とされる。初期の頃(40年くらい前)は 9.Bf4 が当然だと考えられていたが、今では次の手が当たり前になってきた。

9.Be3

 このビショップはここがきわめて安全である。

9…Ng4?!

 これは良さそうな手に見えるが、白には次のような戦術があった。

10.Nxc6! bxc6 11.Bc5! Qg5

 黒はこの手でやや不利な收局に入るのが最善である。11…Bb7 でも收局になるが 12.h3 dxc5 13.Qxd8+ Rxd8 14.Rxd8+ Kxd8 15.hxg4 で良くない(スミスロフ対ボトビニク、世界選手権戦、1957年)。黒は乱れたクイーン翼のポーンの代償がなかった。

12.Qxg5 hxg5 13.Be2! e5 14.h3 dxc5 15.Bxg4 c4 16.Na4! Bxg4 17.hxg4 Rxh1 18.Rxh1 Rb8

 黒はここでも二つの二重ポーンの代償がない。参考になるビートリンシュ対ブドフスキー戦(ソ連、1975年)で白は黒にクイーン翼の二重ポーンを解消させたが、そこに恒久的に分裂した弱いポーンが残る犠牲を払わせた。その試合は『チェス新報』第20巻第432局でGMアイバルス・ギプスリスが詳細に解説している。白は次のように勝った。19.c3! Rb5 20.Kc2 f6 21.f3 Be7 22.b4! cxb3+e.p. 23.axb3 Kf7 24.Nb2 Ra5 25.Na4 Rb5 26.Ra1! Rb8 27.Nb2 Rh8 28.Rxa6 Rh2 29.b4! Rxg2+ 30.Kb3 Ke8 31.Rxc6 Kd7 32.b5 Rf2 33.Nc3 Rxf3 34.Nb6+ Ke8 35.Nd5 Rf1 36.Re6 黒投了

(3)7…a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5 10.Bxf6 (B67)

 本譜の手は黒の攻撃的な戦型に対する白の対策として人気が出てきた。白はこれにより目的を二つも達成する。

 (1)白のeポーンに対する圧力がなくなった。そして(2)黒に二重ポーンができた。というのは 10…Qxf6?! は 11.e5! dxe5 12.Ndxb5! で白が明らかに優勢であることが分かっているからである。

10…gxf6

 これが 9…b5 戦型の最も普通の出発点である。白が通常の布局の優位を保っていないと考える理由は何もない。しかし黒の二重ポーンの代償は適切である。中央の地点に対する支配が増し、双ビショップは局面が開ければ潜在的な威力となり、黒枡ビショップはf8からe7、g7またはh6のいずれへでも行けるので最も融通性のある地点にいる。もちろん悪い知らせは黒の中央が本質的に不安定であるということで、ずっとe5および/またはf5突きを警戒しなければならない。状況はシチリア防御のほとんどとちょうど同じである。つまり危険も機会もある。ぴったりの例はウェイツキン対メドニス戦(リノ、1996年)である。私はその試合を『Inside Chess』誌1997年第3号4ページ(詳解)と『チェス新報』第68巻第190局で解説した。ここでは解説記号をいくつか付けるにとどめる。11.Kb1 Qb6 12.Nxc6 Bxc6 13.Bd3 b4! 14.Ne2 h5! 15.Rhf1 a5 16.c3! Rb8! 17.Nd4 Bd7 18.Bc4 Rc8 19.Qd3 bxc3 20.b3 a4 21.Qxc3 axb3 22.axb3 h4!? 23.f5! Bg7 24.Qd3 Ke7 25.fxe6 fxe6 26.e5!! Rxc4!! 27.exd6+ Kf7 28.Qxc4 Rc8! 29.Qd3 Ra8! 30.Rxf6+!? Bxf6 31.Qh7+ Kf8 32.Qxd7 Bxd4 33.Rf1+ Kg8 34.Qxe6+ Kh8 35.Qh6+ Kg8 36.Qg5+ Bg7 37.Qd5+ Kh7 38.Qe4+ Kh6! 39.Qxh4+ Kg6 40.Qe4+ Kh6 引き分け。白は千日手にするしかない。

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