2016年06月の記事一覧

布局の探究(195)

「Chess Life」1997年11月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

二ムゾインディアン防御(E20-59)
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

(A)ゼーミッシュ戦法
4.a3 Bxc3+ 5.bxc3(E24-29)

 ゼーミッシュ戦法は最も首尾一貫した作戦である。白は丸々1手損してのポーン陣形を黒に「破壊」させる。

 白の期待する代償は自分の中央が強化された(bポーンがcポーンになった)ことと、中盤戦の戦いに向けて自分の駒とポーンの最適な配置についてかなり自由が利くことである。

 それでも「ただで」1手損したことは軽々しく考えるべきでない。GMアナトリー・カルポフは1978年出版の名著『My Best Games』の自戦解説の中でこの問題を申し分なく論じていた。「閉鎖局面では1手損は大したことがないと言われてきた。もちろん開放局面ではもっと高くつく。しかしこのような局面でさえ手は損すべきでない」(82ページ)。GMたちも同じ考え方だし、アルトゥール・ユスーポフを別にしてゼーミッシュ戦法を信奉するGMはほとんどいない。

 しかしこの戦法は白が1手損をする「余裕」があることにより成立している。面白い実戦例はユスーポフ対カルポフ戦(ロンドン、1989年、番勝負第3局)である。5…c5 6.e3 O-O 7.Bd3 Nc6(E29 に転移)8.Ne2 b6 9.e4 Ne8 10.O-O Ba6 11.f4 f5 12.Ng3 g6 13.Be3 Nd6! 14.exf5 Nxc4 15.Bxc4 Bxc4 16.fxg6!? Bxf1 17.Qh5 Qe7 18.Rxf1

 たぶん白には交換損の代償があるが、それでもカルポフは61手で勝ちきった。『チェス新報』第48巻第713局にGMザイツェフの詳細な解説がある。

(B)ルビンステイン戦法
4.e3(E40-59)

 この戦法は1920年代に登場して以来ずっと「最新」である。白は二ムゾインディアン防御が退治できないことを認め、自分のキング翼を効果的に展開することに専心する。ここからは代表的な三通りの変化を分析する。

(1)4…Bxc3+ 5.bxc3(E40)
クリスチャンセン対アナスタシアン(エレバン・オリンピアード、1996年)

 ここでアナスタシアン(本対局時点でFIDE2550)は丸々1手損して白に二重ポーンを作らせた。黒はそんなことをしていることはできないはずである。クリスチャンセンは「擬似ゼーミッシュ」戦法では1手得がことのほか役に立つことを実証した。

 c3での「自発的」交換が白を利する理由にはポーン陣形もある。aポーンがa3にあればb3の地点は白ポーンによって守られていない。局面によっては、例えば黒がナイトをa5に進めたとすれば、このことは重要性を帯びることがある。

5…c5 6.Bd3 Nc6 7.Ne2 d6 8.O-O e5 9.e4 O-O 10.f3 b6 11.d5 Ne7 12.Ng3

 ゼーミッシュ型の局面で重要なことはキング翼ナイトをe2に展開することで、それによりg3から攻撃に参加できfポーンも行く手を遮ぎられない。白は陣地が広く黒に反撃策が欠けているので通常よりも布局の優勢の度合いが大きい。GMクリスチャンセンによれば黒の最善の受けは 12…Kh8 から 13…g6 と構えることだった。

12…Ng6?! 13.Nf5! Nf4

 13…Bxf5?! は良くなく、14.exf5 Ne7 15.g4 で白の先頭のfポーンが黒のキング翼を押さえつけ白のキング翼ビショップの筋が通る。これらすべてが来たるべきキング翼攻撃をはるかに危険なものにする。

14.Bc2 g6 15.Nh6+ Kg7 16.g3! Kxh6 17.gxf4 Kg7?! 18.fxe5 dxe5 19.f4!

 キング翼攻撃開始の用意ができ、黒は防御の踏ん張りが足りずあっけなく負けた。変化の詳細については『チェス新報』第67巻第622局のGMクリスチャンセンの解説を参照されたい。

19…exf4?! 20.Bxf4 Bh3?! 21.Bg5! Bxf1?! 22.e5! Nxd5 23.Bxd8 Bxc4 24.Bh4 Rae8 25.Qg4 b5 26.Re1 Bxa2 27.Qd7 Re6 28.Qxa7 Bc4 29.Qxc5 Nxc3 30.Bf5! Ra6 31.Bc8 黒投了

(2)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.Bd3 Bxc3+(E41)

 白がキング翼ナイトを早くf3に展開したので、黒はこれにつけ込んで白ナイトが場違いとなるようなゼーミッシュ型の局面を目指す。数多くの実戦によりこのような状況では黒は1手損しても構わないことが分かってきた。この戦型はドイツのGMロベルト・ヒューブナーが研究・開発したので彼の名前が付けられているのは当然である。主眼の本手順は次のとおりである。

7.bxc3 d6 8.e4 e5 9.d5 Ne7 10.Nh4 h6 11.f4 Ng6! 12.Nxg6 fxg6 13.fxe5 dxe5 14.Be3 b6 15.O-O O-O

(スパスキー対フィッシャー、レイキャビク、1972年、世界選手権戦第5局)この不均衡な局面はいい勝負である。それでもGMフィッシャーは27手で勝った。

16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5! 21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5! 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4! 27.Qc2? Bxa4! 白投了

(3)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.a3?!(E26)

 これまでの分析からこの時点での本譜の手は非常に不適切であることが明らかなはずである。6…Bxc3+ 7.bxc3 の局面は白が1手損のヒューブナー戦法か、白ナイトが場違いのゼーミッシュ戦法と考えることができる。強化された中央の代償は不十分なのでこのような状況で 6.a3 と突いてはいけない!

******************************

2016年06月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(428)

「Chess」2016年4月号(4/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

V.アーナンド – H.ナカムラ
第9回戦(ブリッツ)

 黒は強引にキング翼攻撃を仕掛けようとしたせいでかなり苦戦に陥っている。実際白の次の手からは一つの結果しか想像できない。しかしこれはブリッツ戦であることをやはり思い起こすべきである。

22.f6! gxf6 23.Nxg4 Qxg4 24.Qxf6?!

 この手は一発を食らう。だから 24.Bh6 と指す方が良かった。

24…Bxg3! 25.Kh1

25…Bh4!?

 この手は危険だが、ナカムラは 25…Qh4 26.Qxh4 Bxh4 27.Bh6 Ng6 28.Bxf8 Rxf8 で交換損の局面を引き分けにしようとするよりも、局面を活気あるままにしておきたかった。

26.Bxh7+! Kxh7 27.Qh6+ Kg8 28.Rg1

 これで黒はクイーンを失うが、代わりにルークとナイトを得て戦いを続行することができる。少なくとも当面は。

28…Qxg1+ 29.Kxg1 Ng6

30.Bf4

 30.Bg5! の方が簡明で強力だった。30…Bxg5 なら 31.Qxg5 Rae8 32.h4 でよい。

30…Bf6 31.Be5?!

 これは黒に要塞のようなものを作らせるお手伝いだった。代わりに 31.Rf1 なら白にまだ勝ちがあったはずだった。31…Bg7 なら 32.Qg5 Nxf4 33.Qxf4 Rae8 34.Qc7 でよい。

31…Bxe5 32.dxe5 Rae8

33.Kh1?!

 ここで白は 33.h4! を見つけ出す必要があり、勝利を収めていただろう。例えば 33…Nxe5 なら 34.Kh1 Re6 35.Qg5+ Kh7 36.Rg1 Ng6 37.h5 Rh8 38.Qf5! Kg7 39.Rg2! で結局黒ナイトは助からない。

33…Rxe5 34.Rg1 Rfe8 35.Rxg6+

 はるかに危険な 35.h4!? も可能だったが、アーナンドは何度も勝ちを逃してきたことを悟って引き分けでけりをつけた。

35…fxg6 36.Qxg6+ Kh8 ½-½

*****************************

(この号終わり)

2016年06月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(194)

「Chess Life」1997年11月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?

 二重ポーンは評判が悪い。弱いというのがもっぱらのうわさだ。これにはかなりの真実がある。実際二重ポーンはポーン陣形の慢性的な弱点の表れである。ポーン構造がますます重要な役割を果たす段階に試合が進むにつれて、二重ポーンがあることはいよいよ重大な負債になる。これは二重ポーンの弱みが收局でさらに顕著になり、キングとポーンの收局では死の前兆となり得ることを意味している。

 しかし通常は布局の始めと收局との間にはかなりの隔たりがある。だから布局で相手がこちらのポーンを二重にする可能性について偏執狂になる必要はないし、相手陣に二重ポーンをこしらえる目的に躍起となる必要もない。正しい方針は次のとおりである。

 二重ポーンは代償がないなら受け入れるな。最も普通に得られる代償は中央の強化と展開の手得である。

 布局で一般に言えることだが白は黒よりも二重ポーンを受け入れる余裕がある。本稿では白が二重ポーンとなる 1.d4 布局を2局および 1.e4 布局を2局取り上げる。次回は黒の場合を取り上げる。

******************************

2016年06月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(427)

「Chess」2016年4月号(3/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.ギリ – H.ナカムラ
第6回戦(ブリッツ)

40.Nf3

 これでは釘付けされて動きにくくなる。40.Bxf5 Nxf5 41.Qe2 の方がはるかに強手で、41…Nxd4 と取ってくるなら(41…Qxd4 なら 42.Qxe6)42.Qh5 Nf5 43.Nf3 で黒ビショップを取ることができる。

40…Be4 41.Rg2

 これで黒は単にf4のポーンを取るか(そうすべき)、それ以上を求めて指すことさえできる。白は 41.Rf1 Ng6 42.Kg1 で釘付けをはずした方が良かったかもしれない。

41…Ng6!? 42.Kg1?

 これは完全につぶれる。ギリは 42.f5 exf5 43.Bh5 を見つけなければいけなかった。それなら白の方がまだ好調だった。

42…Nxf4 43.Rd2? Nxh3+ 0-1

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(193)

「Chess Life」1997年9月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.Nf3、2.g3 と指す
レーティ・システム (A11)

1.Nf3 d5

 黒がクイーン翼ギャンビット拒否で対処できる限り、本譜の手は完全無欠である。2.d4 には 2…Nf6、2.c4 には 2…e6 で自分の主力戦法に移行できる。

2.g3 c6!

 もちろん黒はここで 2…e6 の戦型を選ぶこともできる。しかし私はまずクイーン翼ビショップを連鎖ポーンの外に出しそれから …e6 と突くことにより黒がもっとうまくやることができると考えている。白が黒に最初から圧力をかけるのを避ける戦型を選択しているので、黒にはこれといった危険なしにもっと意欲的な陣形にする余裕がある。

3.Bg2 Bg4! 4.b3 Nd7 5.Bb2 Ngf6 6.O-O e6 7.d3 Bd6 8.Nbd2 O-O 9.c4

 両者とも小駒がよく連係を保って展開され、ポーン陣形にも弱点がない。白は中央でもっと影響力を強める必要がある。これはcポーンを2枡進めることにより成し遂げることができる。9.Qe1 から 10.e4 もあるが本譜の手の方が普通である。ここからの指し手はヒクル対M.グレビッチ戦(ジャカルタ、1996年)を追う。

9…Re8 10.Qc2 e5! 11.e4

 これは判断の分かれる手である。この手は将来の …e5-e4 をやらせないが、キング翼ビショップを殺しd4の地点を恒久的に弱めるという代価を払っている。GMグレビッチはここからその両方の要素に巧妙につけ込んだ。私ならもっと融通性のある 11.Re1 を選ぶ。

11…dxe4 12.dxe4 a5 13.Nh4 Bc5! 14.h3 Bh5

 h3 で応手を聞かれたらh5に引くかf3で交換するかのどちらかであるというのがこの戦型の大ざっばな指針である。代わりに 14…Be6?! と引くと、15.Ndf3! とされてeポーンを守る問題がすぐに起こる。もちろん白の13手目はf3での交換を防いでいる。しかし黒のクイーン翼ビショップの利きが増すという犠牲を払っている。

15.Nf5 Qb6 16.Rae1 Rad8 17.Nb1?!

 この手は 18.Nc3 から 19.Na4 と指す意図だが、その余裕はない。17.a3 と予防する方が良かった。

17…Bb4!

 ここで白は 18.Nc3 と指すべきだが、18…Nc5! で黒駒の方が働きがよくいくらか優勢である。残りの手順は記号を付けるだけにとどめる。グレビッチは『チェス新報』第68巻第6局で本局を詳しく解説している。

18.Re3?! Nf8 19.Rd3 Rxd3 20.Qxd3 N6d7 21.Na3?! Rd8 22.Bc1 Ne6 23.g4 Bg6 24.Nc2 Bc5 25.Qg3 Qc7 26.a3 Nf4 27.Re1 Nf6 28.Bf1 Qb6 29.Qf3 Ne6 30.Kg2 Nd7 31.Rd1 Ndf8! 32.Rxd8 Qxd8 33.b4 axb4 34.axb4 Be7 35.Qd3 Qc7 36.Nxe7+ Qxe7 37.c5 Nf4+ 38.Bxf4 exf4 39.f3 Qh4 40.Kg1 h5! 41.Qd2 Ne6 42.Qf2 Qf6 43.Ne1 Qc3 44.Nd3 Nd4 45.Kh1 hxg4 46.hxg4 f6! 47.Nxf4 Bf7 48.Kg2 Nc2! 49.Nh3 Ne3+ 50.Kh2 g5 51.Be2 Be6! 52.Qg3 Qxb4 53.Qd6 Kf7 54.Qc7+ Kg6 55.e5?! Qb2! 56.Ng1 Qxe5+ 57.Qxe5 fxe5 58.Kg3 Kf6 59.Kf2 Nd5 60.Bd1 Nf4 白投了

******************************

2016年06月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(426)

「Chess」2016年4月号(2/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.シロフ – H.ナカムラ
第2回戦

 黒は不均衡な局面のフランス防御突き越し戦法に対しわずかな優勢を保ってきた。しかし 36.Rh1 なら大方の見るところ引き分けだろう。例えば 36…d4 37.Qf2 Qg7 38.Rxh4 Qxe5 35.Rh5 である。代わりにシロフはクイーン翼の早くからの制圧を生かす手段を見つけた。しかし反対翼での黒の手段を過小評価していた。

36.Rxc5? bxc5 37.a5 h3+ 38.Kg3?

 白は黒ポーンを突き進ませるわけにはいかない。しかし 38.Kh2 Rb4 はなおさら悪い。39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって黒の攻撃が白のクイーン翼での切り札をはるかに上回る。

38…h2! 0-1

 39.Kxh2(39.Qc1 Qh8 40.Qh1 Qxe5 も同じく見込みがない)39…Qh6+ で次に空きチェックで白クイーンを素抜かれるので投了はやむを得ない。

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年06月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(192)

「Chess Life」1997年9月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.c4 と指す
イギリス布局に対する 1…e6(A13)

 黒はクイーン翼ギャンビット拒否で文句のない限り、1…e6 は申し分がなく最大の融通性がある。この手に対し 2.d4 なら 2…d5 だし、2.Nc3 でも 2…d5 で白は 3.d4 と突くしかない。2.e4 なら黒はフランス防御交換戦法の楽な局面に到達する(2…d5 3.exd5 exd5 4.d4)。その局面についてはサント=ロマン対シャケード戦(カンヌ、1997年)で解説した(本誌1997年6月号52ページ)。

2.Nf3 d5 3.b3

 cポーンを守ることにより …dxc4 でカタロニア布局が排除され、局面はイギリス布局の様相が濃くなる。黒は …Nf6 を遅らせているので、ここからの指し手には良い選択肢が二つある。それほど研究されていない方が好きなら次のように指してよい。

(A)3…Be7 4.Bb2 Bf6

 ここで 5.Bxf6 Nxf6 は黒が楽にキング翼の小駒の展開を完了してしまうので感心しない。マカロフ対ギオルガゼ戦(ポドリスク、1992年)で白は 5.d4 で黒のキング翼ビショップを押さえこむことにした。5…Ne7 6.Nbd2 O-O 7.e4 g6 で局面は形勢判断が難しく、55手で引き分けに終わった。この試合はマカロフが『チェス新報』第57巻第7局で解説している。その後GMギオルガゼは積極的な 5…dxc4 6.bxc4 c5! に着目した。意欲的な 7.e4?! cxd4 8.e5? は 8…Bxe5 9.Nxe5 Qa5+ でうまくいかない。

5.Qc2 Bxb2 6.Qxb2 Nf6 7.e3 O-O 8.d4 Nbd7 9.Nc3 Qe7

 黒は中央で 10…dxc4 から 11…e5 で仕掛けていく用意ができた。白はおそらく中央の争点を解消するしかなく、中央での影響力はほぼ互角になる。

10.cxd5 exd5 11.g3 c6 12.Bg2 Ne4 13.O-O Ndf6 14.b4 Bf5

 本譜の手順はプサーヒス対セルペル戦(ノボシビルスク、1993年)である。白は少数派攻撃を始めたが、黒は中央がしっかりしたまま展開が完了し、どんな危険性も最小限に抑えている。

15.Rfc1 a6 16.a4 Nxc3 17.Rxc3 Ne4 18.Rcc1 Nd6

 いい勝負になっている。

(B)3…Nf6 4.Bb2 Bd6!?

 黒の3手目はまともだが、次の手はe5の地点を争う意欲的な手段である。ここの手順はグリコ対スベシュニコフ戦(ビール・インターゾーナル、1993年)を追っている。

5.g3 O-O 6.Bg2 b6 7.O-O Bb7 8.Nc3 a6

 黒はキング翼ビショップをd6に置いたままクイーンがe7の好所に行ってもよいようにした。

9.d4 Nbd7 10.Qc2 Qe7 11.Rad1 Ne4 12.e3

 ここでスベシュニコフはe5の地点とキング翼を弱める 12…f5?! の代わりに、単純に 12…Nxc3 と取る方が良かったと言っている。確かに 13.Bxc3 Nf6 または 13…c5 でいい勝負のようである。

******************************

2016年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(425)

「Chess」2016年4月号(1/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ

H.ナカムラ – L.アロニアン
仮順位付けブリッツ

18.Bxh6!

 時に水爆とあだ名される男はけっして一発を逃さない。

18…Nxc3

 黒はこれにより戦力損を避けられる。18…gxh6? と取ると 19.Bxd5 Qxd5? 20.Nf6+ で大損になる。

19.Nxc3 gxh6 20.Ne4

 アロニアンにとっては不運なことにこのナイトは戻ってくることができ、ぼろぼろのキング翼の防御は白の攻撃的な次の手で一層ぼろぼろに見える。

20…Be7 21.Nh2!

21…Nd4?

 黒にも拠点があるが、ここから自陣が崩壊する。最後のチャンスは 21…Qf5 22.Ng4 Qg6 23.Re3 Kf8 で頑強に守ることだった。

22.Ng4

 気づいてみれば両方の浮いているポーンをうまく守ることができなくなっている。終わりは近い。

22…Kg7 23.Nxe5 Qf5 24.Ng3 Qg5 25.Nxf7 Qg6 26.Nxd8 Bxd8 27.Rxe8 1-0

*****************************

(この号続く)

2016年06月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(191)

「Chess Life」1997年9月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.d4 と指す(続き)
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

クイーン翼ギャンビット拒否 [D58]
オーソドックス、タルタコーベル戦法
白 GMレオニド・ユルタイェフ
黒 GMアレクサンドル・ベリャーフスキー
エレバン、1996年

1.d4 d5 2.c4 e6

 この手には二つの着想がかかわっている。理解しやすいのはd5の地点を守ることで、それほど理解されていないのは非対称を確立することである。スラブ防御(1.d4 d5 2.c4 c6)と異なり白は 3.cxd5 で対称形にできないので、これにより黒の勝つ見通しが増す。

3.Nc3 Be7!

 「手順の妙」(本誌1996年9月号)でなぜ普通に見える 3…Nf6 よりもこの手の方が正しい手順なのかについてかなり詳しく説明した。3…Nf6 なら白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法の有望版に行ける。しかし本譜の手ではそれが不可能で、白は 4.cxd5 exd5 5.Bf4 で満足するか、通常の小駒の展開を続けなければならない。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6

 黒がタルタコーベル戦法を目指しているなら、すぐにクイーン翼ビショップに挑戦するのが最も正確な手法である。その意味は 6.Bxf6 Bxf6 10.e4 が無害であることである。ウラジミロフ対ホルモフ戦(レニングラード、1967年)では 7…dxe4 8.Nxe4 Nc6 9.Nxf6+ Qxf6 10.Qd2 Bd7 11.Qe3 O-O-O! 12.Be2 Rhe8 13.O-O Kb8 と進み、黒は無理のない展開で互角の形勢だった。そして白がビショップを切らなければクイーン翼ビショップは働きの劣る斜筋に追いやられ、黒のhポーンは Qc2 と Bd3 のバッテリーに脅かされない。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6

 ここがタルタコーベル戦法の出発点で、過去70年にわたって黒の最も人気のある手法だった。黒に唯一ある真の戦略上の問題はクイーン翼ビショップの利きが乏しいことなので、中央に向けて理にかなった 8…Bb7 でその問題を解決することを策している。白がありきたりに手を進めれば、黒には何の問題もない。例えば 8.Bd3 Bb7 9.O-O Nbd7 10.Qe2 c5 11.Rfd1 Ne4 ならほぼ互角である。

 だから白は 7…b6 によって生じた黒のクイーン翼のわずかな弱体化につけ込むよう努めなければならない。

8.Be2

 20年以上に渡って本譜の落ち着いた手が最も人気のある手になっていて、主手順は 8…Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5 exd5 11.b4 である。中央を固定するのは二つの着想による。すなわち(1)黒のビショップの利きを減らし、(2)黒のdポーンに圧力をかけて例えば …c7-c6 のような新たなポーンの弱点を生じさせる。黒の通常の応手は 11…c5 だが、完全な互角は期待薄である。最近の実戦例のエピシン対ルゴボイ戦(サンクトペテルブルク、1996年)は 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qd2 Rfd8 17.Rfc1 Rab8 18.a4 と進んで白の圧力が続いた。

 歴史的には白の主流手順は 8.cxd5 Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Be2 だったが、数多くの研究により 14…Qb7 15.dxc5 bxc5 16.O-O Qb6 でも 14…a5 15.O-O Qa7 でも黒が捌けることが示された。どちらの場合もいい勝負である。

 本局に見られるベリャーフスキーの作戦成功により、このあと同年に世界チャンピオンのカルポフは 8.Qb3 Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 と指した。そして 11…c6 12.Bd3 Bc8 13.O-O Bg4 14.Ne2 と進んで白がわずかに優勢だった(カルポフ対ベリャーフスキー、ユーゴスラビア、1996年、1-0、62手)。カルポフは本局を『チェス新報』第68巻第403局で解説している。黒がもっと堅実に指すなら 12…Na6 13.O-O Nc7 である(ドゥルギー対オウラフソン、モスクワ、1989年)。

8…dxc4!?

 中央の形を決めることにより黒はクイーン翼ビショップに絶好の中央斜筋が得られることを保証した。もっとも白の広さの優位は少し増した。それでも黒陣はクイーン翼ビショップが 8…Bb7 9.Bxf6 から 10.cxd5 で閉じ込められるよりは指しやすいはずである。もちろん本譜の手は 8.Bd3 に対しても同じく指すことができる。どちらの場合も白は最初にキング翼ビショップを動かしてからc4ポーンを取り返すことにより手損をさせられる。

9.Bxc4

 ベリャーフスキーは 9.Ne5 Bb7 10.Bf3 なら 10…Nd5 で黒がうまく反撃できると指摘している。

9…Bb7 10.O-O Ne4 11.Bxe7

 白は 11.Bg3 でもっと難解な戦いに持ち込むことができ、それなら黒の最も正確な応手はたぶん 11…Bd6 である。

11…Qxe7 12.Nxe4 Bxe4 13.Rc1 Rd8 14.Bd3

 白はクイーン翼ルークのためにc列を素通しにし、黒の働いているビショップと交換することにより黒のクイーン翼のわずかな白枡の弱点にすぐにつけ込むことができることを期待している。ほかに有力な手としては

(1)14.Ne5 Nd7 15.Bd3 Bxd3 16.Nc6 Qe8 17.Qxd3 Nc5! 互角の形勢(ベリャーフスキー)

(2)14.Be2 c5 15.Nd2 Bd5 16.dxc5 bxc5 17.Qc2 Nd7 黒のb列での活動が孤立cポーンの代償となるはずである(ポルティッシュ対スパスキー、メキシコ、1980年、第10局)。

14…Bxd3 15.Qxd3 c5 16.Ne5

 16.Qa3 でも黒は 16…Nd7 17.Rfd1 Kf8 で圧力をはねつける。

16…Qb7 17.b4!?

 落ち着いた局面のもとでキルギスタンのGMは攻撃に打って出ることにした。その意図は 17…cxb4 18.f4 で白は中央が安定し、邪魔されずに黒のキング翼を目指すことができるというものである。しかしベリャーフスキーは注意深い指し方で白を寄せつけない。

17…cxd4! 18.exd4!?

 堅実策は 18.Rc4 Rd5 19.Rxd4 Rxd4 20.Qxd4 で、ここでベリャーフスキーは 20…Nc6 21.Qe4 Rc8 22.Rd1(22.Rc1?? は 22…Nxe5! で負ける)22…Nd8! 23.Qxb7 Nxb7 24.h4 Rc7 で互角になるとしている。

18…Nd7 19.Nc6 Re8 20.f4 Nf6

 白のナイトは確かにc6の好所を占めている。しかし全体的に黒陣はすきがなく堅固である。白はここで 21.b5 と突くべきで、私は動的に互角と判断する。

21.f5?! Qd7 22.fxe6 Rxe6 23.b5 Rae8

 急に黒駒の働きが目立ち始めた。注意深く指さなければならないのは白の方である。

24.Qf5 Qd6 25.Rcd1

 ベリャーフスキーによると白は 25.a4 Re2 26.Rf2 でほぼ互角を保持できた。

25…Re2 26.a4 a6 27.d5?

 ここが 27.Rf2 の最後の機会だった。ここから黒が優勢になった。

27…axb5 28.axb5 Rb2 29.Rde1 Rxe1 30.Rxe1 g6 31.Qf3 Kg7! 32.Ne7?! Qc5+ 白投了

 33.Kh1 なら 33…Qxe7 34.Rxe7 Rb1+ で最下段がまずいし、33.Qe3 なら 33…Qxe3+ 34.Rxe3 Rb1+ 35.Kf2 Ng4+ でナイトによる両当たりにはまる。

******************************

2016年06月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2