2016年05月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(424)

「Chess Life」2016年3月号(2/2)

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実戦的收局

GMダニエル・ナローディツキー

第2問 レイティング2000レベル
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2786)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2793)
世界チーム選手権戦、2013年

 白の手番

解答

 3.Nxb6 は悲劇的必然とつい決めてかかりやすいが、真実のかけらもない。39.axb5! a4 40.Nc5!! ナイトとパスポーンの関係はどうなんだ?40…a3 40…bxc5 は 41.b6 a3 42.b7 a2 43.b8=Q+ でクイーン昇格がチェックになる 41.Nb3 ポーンがしっかり止められ勝負がついた 41…a2 42.Ke3 Kf7 43.Kd4 Ke7 44.e4 e5+ 45.fxe5 Ke6 46.Na1 fxe5+ 47.Kc3 g5 48.Kb2 gxh4 49.gxh4 Kd6 50.Nb3 黒投了

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(この号終わり)

2016年05月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(190)

「Chess Life」1997年9月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法

 前回は黒のための堅実な布局の特徴について論じ、1.e4 に対する私の選択肢を紹介した。繰り返すと、堅実な布局は中央での影響の強さ、小駒の自由な展開、安全なキング、それに陣形の弱点はあっても最小限という特徴を備えていなければならない。今回は閉鎖型布局の 1.d4、1.c4 それに 1.Nf3 に対する私の推奨を紹介する。さらに、同じような中央の陣形をもつ防御をあえて提唱する。プロでない選手にとっては布局定跡の研究にかけられる時間は限られている。だからそのような得意戦法は研究時間を節約するとともに、関連する戦略要素をより深く理解することにつながっていく。

白が 1.d4 と指す
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

 百年ほど前の布局定跡では 1.d4 に対する最善の応手はクイーン翼ギャンビット拒否であると考えられていて、具体的な戦型は黒がd5の地点を適切に保持する戦法だった。オーソドックス戦法の絶頂期は1927年カパブランカ対アリョーヒンの世界選手権戦だった。カパブランカが黒番の17局のすべてでそれを採用したのも驚くにはあたらなかっただろう。しかし攻撃の天才のアリョーヒンは 1.d4 に対処しなければならなかった16局のうち15局で採用した。

 現在の一流GMのうち一貫して信奉してきたのはウクライナのGMアレクサンドル・ベリヤフスキーだった。ドイツの代表的なチェス雑誌『Schach』の1997年4月号でベリヤフスキーは盤上で「GMの中で最も妥協を潔しとしない」と評されている。そのとおりであるが 1.d4 に対しては堅実な布局を好んでいる。そこで実戦例として次の試合を選んだ。

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2016年05月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(423)

「Chess Life」2016年3月号(1/2)

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ロンドン・チェスクラシック

ジョン・ソーンダース

スラブ防御 [D11]
GMマグヌス・カールセン(FIDE2834、ノルウェー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2793、米国)
ロンドン・チェスクラシック第7回戦、ロンドン、2015年12月11日

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bg4 5.h3 Bh5 6.cxd5

 「交換スラブだって?」我々のほとんどはこの手を見た時そう思っていたに違いない。しかしそれと同時にカールセンが好調な時に無味乾燥な局面でどうすることができるのか皆で目撃することになった。彼はこれまで長い間本調子でなかったからだ。

6…cxd5 7.Nc3 e6 8.g4 Bg6 9.Ne5 Nfd7 10.Nxg6 hxg6 11.Bg2 Nc6 12.e4 dxe4 13.Nxe4 Bb4+ 14.Nc3 Nb6 15.O-O

15…O-O

 黒は 15…Nxd4!? 16.Bxb7 Rxh3 と指すこともできるが、たぶん少し危険だろう。

16.d5 exd5 17.Nxd5 Bc5 18.Nc3 Bd4 19.Qf3 Qf6 20.Qxf6 Bxf6

 多くの人が引き分けになると思い始めていたことだろう。

21.Bf4 Rad8 22.Rad1 Bxc3

 残りのビショップをナイトと交換するのは危うい。しかしそれは対局後だから言えることであって、その時は良さそうな手に見えた。

23.bxc3 Na4 24.c4 Nc3 25.Rd2 Rxd2 26.Bxd2 Ne2+ 27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4 Rd7 32.Bc5 Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 というわけで收局の基本的な構図ができ上がった。2ナイトに対し2ビショップは黒の防御陣に何らかの弱点がある場合に限り有利である。たとえ弱点があっても我々弱者には見えない。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5 gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5 Ke7 45.Bf4 a6

 「不要な手」(カールセン)

46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5

 これでカールセンの作戦の輪郭が明らかになってきた。hポーンを黒のgポーンと交換し、キングをg7に行かせてf7のポーンに圧力をかけるのがそれである。しかしそれなら黒ナイトがお互いを守り、しかも狙いを少し作り出すことができるのではないか?まだ勝てる作戦には見えない。

52…Nf6 53.h6 Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+

 ん・・・繰り返しで引き分けか?

56.Kh4

 いや、まだまだ。

56…gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4

60.Be4

 60.Bxb7? と取ると 60…Nxf5+ 61.Kh7 Nxd6 62.cxd6 Kd7 63.Bxa6 Kxd6 で簡単に引き分けになる。

60…Nf2 61.Bb1

 進展を図るにはこの手しかない。もちろんfポーンは保持しなければならない。

61…Ng4 62.Bf4 f6

 たぶん悪手だろう。いずれにせよカールセンはそう思った。しかしナカムラは受けを見つけるのに苦労していて、正着を見つけるのは非常に難しくなり苦悶はナカムラの顔にありありと出ていた。

63.Be4 Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7!

66…Nd3!

 ナカムラは最善の受けを見つけた。代わりに 66…Nxf5+ と取る手は 67.Kxf6 Nd4 68.c6 Nxc6 69.Bxc6+ Kd8 70.Ke6 Nd3 71.Bd6 で見込みがない。

67.Kxf6!

 カールセンは残りたった2分の考慮時間(と30秒の毎手加算)で再燃焼した。駒を捨ててfポーンの進路を空け、黒の2ナイトも麻痺させている。しかし無数の変化も読んでおく必要があった。

67…Nxf4

 67…Nxc5 は 68.Bd5! で黒は応手に窮する。

68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+

71…Kf8?

 ナカムラが悪手の方を選んだので解説室では観戦していたノルウェー人の一団から歓声が上がった。71…Kg6! ならカールセンが勝てるかどうかはまったく予断を許さなかった。ここまでうまく守ってきたのにナカムラにとっては悲劇だった。チェスエンジンはカールセンが勝つ手段は一つしかないとのご託宣だった。はたして彼は見つけることができるだろうか。

72.Ke4!!

 やった!72.Kd6? はハズレで、e2のナイトを守りから解放してやることになる。72…Nc3! 73.c6 Nxc6+ 74.Bxc6 Kf7 75.Bd5+ Ke8 となって白は勝てない。

72…Nc2

 72…Ke8 は 73.Ke3 でナイトが完全に麻痺してしまう。73…Kf8 74.Bc4 Ke8 75.Bxe2 Ne6 76.Bh5+ Kd8 77.c6 で白の勝ちになる。

73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3!

 駒を取り返す非常に気持ちのよい手である。

75…Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 黒投了

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(189)

「Chess Life」1997年7月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

ぺトロフ防御[C42-C43]

1.e4 e5

 カロカン派の選手の方が 1…c6 ゆえに目的を遂げるのが容易である。これに対しぺトロフ防御に達するためには黒は手始めに 2.Nc3、2.Bc4、2.d4 それに野心的なキング翼ギャンビット(2.f4)を知っておかなければならない。それでも黒にはそれらのすべてに優秀な防御法がある。しかし白のほかの3手目に加えてこれらの布局について学ぶことは時間を要する。私の推測ではぺトロフ派は定跡を覚えその進歩についていくためにカロカン派よりも2倍の時間を費やす必要がある。

2.Nf3 Nf6

 黒はe5のポーンを守るよりも、白が黒に対してしたいことを白に対してすることを狙っている。もちろん白はかなり開けた局面で黒よりいつも1手先行することになる。黒にとって良い知らせは展開とポーン陣形に関して全体的に欠陥がないことである。

3.Nxe5

 25年ほど前にぺトロフ防御が大会でまたよく指されるようになって以来、本譜の手が主流手順になっている。黒が知っておかなければならないほかの手は次のとおりである。

 (1)3.Bc4 Nxe4 4.Nc3 ここで黒は 4…Nd6 や 4…Nf6、またはポーン食い逃げの 4…Nxc3 5.dxc3 f6 でも互角にできる。白の代償は不十分である。

 (2)3.Nc3 黒は 3…Nc6 と対称形に応じることができ、白に 4.Bb5 で4ナイト布局か 4.d4 でスコットランド試合かの選択肢を与える。非対称の 3…Bb4 も本筋の手で、かなり学習量が少なくて済む。

 (3)3.d4 は準主流手順である。私の推奨する主流手順の精神からすれば、黒は 3…Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Nd7 6.Nxd7 Bxd7 7.O-O Be7 と指し進めて差し支えない。最近の重要な実戦例はJ.ポルガー対ユスーポフ戦(ウィーン、1996年)で、8.c4 Nf6 9.Nc3 Be6 10.c5 Qd7 11.Bf4 O-O 12.Re1 Rfe8 13.h3 c6 14.b4 Bf5 15.Re5 Bg6 16.Qf3 Bd8! 17.Rxe8+ Nxe8 18.Rd1 Nc7 19.Be5 Ne6 20.Bxg6 hxg6 21.a4 Bc7 22.Bxc7 Nxc7 と進み合意の引き分けになった。黒の指し方は堅実そのものである。

3…d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4(C42)

 白はさもなくば対称形にしてわずかな有利を求めることもできる。

 (1)5.d3 Nf6 6.d4 d5 7.Bd3 フランス防御の交換戦法に移行した(1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Nf6 5.Bd3)。

 (2)5.Qe2 Qe7 6.d3 Nf6 7.Bg5 黒は白の手を侮ってはならない。しかしGMティグラン・ぺトロシアン流の 7…Qxe2+ 8.Bxe2 Be7 9.Nc3 c6 10.O-O-O Na6 から …Nc7 で互角になる。

5…d5 6.Bd3 Nc6

 GMフランク・マーシャルの大胆な 6…Bd6 はこの10年で復権して、時には黒の主流手順にさえなった。しかし「堅実な戦型」と呼ぶわけにはいかない。白側の選手たちは積極的な捨て駒で強力な主導権を得てきたからである。

7.O-O Be7 8.c4 Nb4!?

 ごく最近の実戦経験によるとこの危なそうな飛び跳ねはお決まりの 8…Nf6 よりも黒に完全な互角をもたらすことができることが分かってきた。重要な実戦例を2局紹介する。

 (1)9.cxd5 Nxd3 10.Qxd3 Qxd5 11.Re1 Bf5 12.Nc3 Nxc3 13.Qxc3 Be6! 14.Re5 Qc6! 15.Qe1 O-O-O 16.Bg5 Bxg5 17.Nxg5 Rhe8 18.Rc1 Qd7 19.Nxe6 Rxe6 20.Rxe6 fxe6! 21.Qe5 c6 22.g3 Qxd4 23.Qxe6+ Kc7 グロサル対パバソビッチ(マリボル、1996年)互角の局面である。

 (2)9.Be2 O-O 10.Nc3 Be6 11.Be3 Bf5 12.Rc1 dxc4 13.Bxc4 c6 14.Ne5 Nxc3 15.bxc3 Nd5 16.Qf3 Be6 17.Bd2 f6 18.Nd3 Qd7 19.Rfe1 Bd6 20.h3 Bf7(黒は堅実そのものである)21.Bb3 Rae8 22.Qg4 Rxe1+ 23.Rxe1 Rd8 24.Qxd7 Rxd7 25.Ne5 Bxe5 26.dxe5 fxe5 27.Rxe5 Nf6! トパロフ対イワンチュク(ノブゴロド、1996年)白には何も有利なところがない。

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2016年05月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(422)

「Chess」2016年3月号(2/2)

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ジブラルタル・オープン大会(続き)

 優勝決定戦の4局でもバシエ=ラグラーブとナカムラは決着をつけることができなかった。しかし一番勝負のそれも黒番とあっては米国選手に賭けない手はない。ナカムラは実戦的な指し方がさえわたり、最後は相手の見損じで終わった。

M.バシエ=ラグラーブ – H.ナカムラ
優勝決定戦一番勝負

 優勝のためには引き分けるだけでよい黒は余裕綽々である。これがバシエ=ラグラーブの捨て身の指し方の要因になったのかもしれない。

39.Qxd6!?

 チェスベースがいみじくも言ったように「白の攻撃は幻である」。

39…Qxe1+ 40.Kg2 Qc3

 これで黒枡は完全に守られている。

41.Ne5 Qc7 0-1

 ナカムラはやっとのことで2連覇を成し遂げた。


ジブラルタルの生中継は大会期間中なんと百万人の視聴者を集めた。

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(この号終わり)

2016年05月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(188)

「Chess Life」1997年7月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

カロカン防御[B10-B19](続き)

1.e4 c6 2.d4 d5

(B)突き越し戦法 3.e5 Bf5 (B12)

 ここが突き越し戦法の眼目の出発点になる。フランス防御と違って黒は自分の連鎖ポーンの外へクイーン翼ビショップを展開させることができたので、歴史的にカロカン防御に対するこの突き越しは無害という評判だった。

4.Nf3!

 しかしGMナイジェル・ショートが白の本来の有望さを見せつけた1990年代初めには評価が変わり始めた。彼が明らかにしたのは黒のクイーン翼ビショップは好所に展開されたように見えるけれども白に対して何もできず、この展開と …c5 突きとに要した手数のために白が有利な中央を安全に守ることができるということだった。このため白は盤の両翼で黒を締めつける可能性が得られる。

 実際白のほかの作戦は定跡では無害とされている。

 (1)4.Bd3 Bxd3 5.Qxd3 e6 6.f4 Qa5+ 7.c3 Qa6! 白がクイーン同士を交換しようとしまいと、黒にとって形勢は完全に互角である。働きの悪いクイーン翼ビショップを消したし、…c5 と突いて有力な反撃が見込める。

 (2)4.h4 h5 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 7.Nf3 Qa5+ 8.Nbd2 Qa6 これはスパスキー対ラルセン戦(ブゴイノ、1982年)で、4.h4 h5 の挿入は無意味で黒がうまくやっている。

 (3)4.Nc3 e6 5.g4 Bg6 6.Nge2 は1980年代にGMジョン・ナンによって推奨された激しい作戦である。白はキング翼を大きく弱めたので、黒の主眼の 6…c5 から起こる乱戦を詳しく研究しておいた方がよい。

4…e6 5.Be2 c5 6.O-O

 ここからはシロフ対カルポフ戦(ラス・パルマス、1994年)の手順を追う。

 この試合でGMカルポフは白が指し手に積極性を欠けば、黒が容易に白の作戦をすべてほごにできることを示した。そこで白側は 6.Be3 を試し始めて、早く筋を開けようとしている。これまでのところ 6…Ne7 と 6…Nd7 のどちらも満足できる手ごたえを得ている。

6…Nc6 7.c3 cxd4 8.cxd4 Nge7 9.a3?!

 本局の内容に懲りて白は展開の 9.Nc3 に目を向けたが、9…Nc8! でやはり何の有利さも得られなかった。(1)ヘラーシュ対エピシン戦(マルモー、1994年)では 10.Be3 Nb6 11.Na4 Be7 12.Rc1 Nxa4 13.Qxa4 O-O 14.a3 a6 15.b4 a5! 16.b5 Nb8 17.Rc3 Nd7 18.Rfc1 Nb6 と進んで黒にとって楽な局面だった。(2)ビレラ対モレノ戦(ハバナ、1996年)では 10.Bg5 Be7 11.Bxe7 Qxe7 12.Na4 O-O 13.Rc1 Bg4! と進んで互角の形勢だった。黒は自分の「なまけ」ビショップを白のキング翼のナイトまたはビショップと交換するのは大歓迎である。

9…Nc8!

 この構想は素晴らしかった。このナイトは「反展開」されているように見えるが、a7またはb6を経由してクイーン翼で役立てることができる。それと同時にe7の地点が黒のビショップのために空いたので、黒は都合の良い時にキャッスリングすることができる。GMカルポフは本誌(1994年10月号42ページ)で黒の布局の指し方を微に入り細にわたって解説した。カロカン防御の信奉者は皆彼の教えを研究するとよい。

10.Nbd2 Be7 11.b3 a5! 12.Bb2 N8a7 13.Re1 O-O 14.Nf1 Rc8!

 クイーン翼ルークの通常の居場所はc8で、クイーンはb6である。GMカルポフは自分の手順の理由を次のように解説している。「クイーンをd8に置くことによりh4の地点に利かせ、白がキング翼で進攻するのを防いでいる。」今さらながら非常に明快である。

15.Ng3 Bg6 16.Qd2 Qb6 17.Bd1 Rc7! 18.h4 h6 19.Re2?!

 黒はクイーン翼で仕掛けていく用意ができていて、白の唯一の希望はキング翼である。GMシロフは防御を攻撃準備と組み合わせようとするが、遅きに失した。だからすぐに 19.Qf4 と指すのが当を得ていた。

19…Rfc8 20.Qf4 Nb8! 21.Re3 Nb5 22.Ne2 Nd7 23.Nh2 Rc6! 24.Ng4 Qd8! 25.Rh3 Qf8!!

 攻防ここに極まれり。GMカルポフは『チェス新報』第60巻第128局で本局を詳解している。ぜひ隅から隅まで読んでみて欲しい。黒の指し手は完璧で白にまったく付け入るすきを与えなかった。

26.a4 Na3! 27.Bxa3 Bxa3 28.Rg3 h5 29.Ne3 Bb2! 30.Ra2 Bc1! 31.Qg5 Qb4 32.Nf4?! Bxe3 33.fxe3 Rc1! 34.Nxg6 Rxd1+ 35.Kh2 fxg6 36.Qxg6 Qe7 37.Rf2?! Qxh4+ 38.Rh3 Qxf2 白投了

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カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(421)

「Chess」2016年3月号(1/2)

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ジブラルタル・オープン大会

H.ナカムラ – A.グプタ
第9回戦

 形勢はほぼ均衡を保っている。グプタは交換損の代償にポーンと主導権を得たが、どのようにしたら代償を生かせるだろうか。

23…Na4

 白キングめがけて新たな駒を繰り出したがナカムラにうまくとがめられた。ここでは大切な攻め駒を交換してしまうことになるけれども 23…Bxf1 24.Rxf1 exf3 が最善だったかもしれない。

24.Nf4 Qd6 25.Nxd3 exd3 26.Bxd3!

 これが眼目の手で、黒は完全に戦力損になる。

26…Qb6

 26…Qxd3 なら 27.Qe6+。

27.Bc2 1-0

 次は Bb3+ がある。

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(187)

「Chess Life」1997年7月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

カロカン防御[B10-B19]

1.e4 c6 2.d4 d5

 カロカン防御の戦略の要点は 3.exd5 に 3…cxd5 と応じることができるので、中央での発言力を減らす危険をおかすことなく黒が白のeポーンに挑むことができるということである。非GMの試合で断然人気のある二つの主流戦法は 3.Nc3(主流手順)と 3.e5(突き越し戦法)である。これらを順に取り上げる。

(A)主流手順 3.Nc3 (B15-B19)
3…dxe4 4.Nxe4 Bf5

 この手はあらゆる点で理にかなっている。クイーン翼ビショップが中央の絶好の斜筋に先手で展開された。黒はこのあと …e7-e6 と突いてd5の地点を過剰防御しキング翼ビショップを展開する用意をする。

 25年ほど前はこの手は堅実で人気のある手段だった。例えばGMアナトリー・カルポフは1973年にボリス・スパスキーとの挑戦者決定番勝負準決勝でこの手で1勝3引き分けをあげた。現在のところGMの実戦では 4…Nd7 の方がより巧妙で複雑になることがあるので多く見られる。それでも純粋な堅実さゆえに 4…Bf5 に優るものはない。

5.Ng3 Bg6 6.h4

 この手は攻撃には当たらず、キング翼で陣地を拡張する手段である。わずかな有利を獲得する可能性が最もある。ほかの手もある。

 (1)6.Nf3 Nd7 7.Bd3 e6 8.O-O Ngf6 9.c4 Be7 10.b3 O-O 11.Bb2 Qb6 12.Bxg6 hxg6 13.Re1 Rfe8 14.Qc2 c5 15.a3 a5 16.dxc5 Nxc5 17.Rab1 Red8 18.Bd4 Qc6 これはスパスキー対ポルティッシュ戦(モントリオール、1979年)で、互角の形勢だった。

 (2)6.Bc4 e6 7.N1e2 Nf6 8.Nf4 Bd6 9.Bb3 Qc7 10.Qf3 Nbd7 11.h4 e5 12.Nxg6 hxg6 13.Be3 O-O-O 14.O-O-O exd4 15.Bxd4 Nc5 15.Bxf6 Bf4+ 17.Kb1 gxf6 いい勝負である(GMボレスラフスキーの分析)。

 (3)6.N1e2 Nf6 7.Nf4 e5 8.Nxg6 hxg6 9.dxe5 Qa5+ 10.Bd2 Qxe5+ 11.Qe2 Qxe2+ 12.Bxe2 Nbd7 13.O-O-O Bc5 14.f4 O-O 15.f5 gxf5 16.Nxf5 Rfe8 17.Bf3 g6 18.Nh6+ Kg7 19.Ng4 Nxg4 20.Bxg4 Ne5 21.Be2 f6 これはチェスコフスキー対バギロフ戦(ルボフ、1978年)で、e5のナイトが強力なのでいい勝負である。

6…h6 7.Nf3 Nd7!

 白が先手で Ne5 と指すのを防ぐことは役に立つ。しかもd7はクイーン翼ナイトの自然な居場所である。

8.h5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Qc7

 黒は Bf4 を防ぎつつクイーン翼キャッスリングの用意をした。この戦型の経験則は、黒は白と同じ側にキャッスリングすべしということである。だから白がキャッスリングするのを待ちそれから真似をするのがよい。

11.Bd2 e6 12.O-O-O Ngf6 13.Ne4

 白はこの手で最も働いていない Ng3 を戦いに投入した。これは白の主手順になっている。以前はすぐに 13.Qe2 O-O-O 14.Ne5 Nb6 15.Ba5 と動くのが好まれた。しかし 15…Rd5 16.Bxb6 axb6 17.f4 Rd8! 18.Kb1 Bd6 19.c3 Rhe8 20.Nf1 b5 21.Ne3 Bf8(22.g4 Nd5)で黒陣は相変わらず非常に堅固である。

13…O-O-O 14.g3 Nxe4 15.Qxe4 Bd6 16.c4 Rhe8 17.Kb1

 17.c5 は 17…Bf8 18.Bf4 Qa5 19.Kb1 Nf6 20.Qe5 Nd7 で何事もない。

17…c5 18.Bc3 Nf6

 黒は全戦力を中央に向けてスムーズに展開した。そして白の中央に対する反撃を始めている。完全な互角は目前である。白の応手は次のとおりである。

 (1)19.Qc2 cxd4 20.Bxd4 Bc5 21.Bxf6(21.Be5 Qc6 は黒が非常に楽である)21…gxf6 22.Nh2 f5 23.Nf3 a6 24.Qe2 Bf8! これはチャンドラー対バギロフ戦(ベルリン、1994年)で、動的に互角である。黒はe4の地点を支配し、…Bg7 のあとはa1-h8の斜筋の支配により白の優勢なポーン陣形の代償を得ている。

 (2)19.Qe2
 (a)19…Qc6? 20.Rh4! Bc7 21.Ne5 Bxe5 22.Qxe5 Rd7 23.Rc1! cxd4 24.Bxd4 b6 ここまではド・ファーミアン対アディアント戦(サンフランシスコ、1987年)で、GMアディアントの分析によると 25.Qf4! Red8 26.Bxf6 gxf6 27.Qxh6 Rd1 28.Qe3 で白が明らかに優勢になる。

 (b)19…Bf8! 20.Rh4 Kb8 21.Ne5 Ka8! 22.Qf3 cxd4 23.Rhxd4 Rxd4 24.Rxd4 Bd6 互角(25.Nxf7? Bc5!)

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2016年05月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2