2016年03月の記事一覧

布局の探究(182)

「Chess Life」1997年6月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃(続き)

(1)カロカン防御交換戦法 B13

1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5 4.Bd3 Nc6 5.c3 Nf6 6.Bf4 Bg4 7.Qb3 Qd7! 8.Nd2 e6 9.Ngf3 Bxf3! 10.Nxf3 Bd6!

 黒の7手目、9手目、そして10手目からなるシステムは交換戦法に対処する最も効果的な手段であると確信している。戦術の第一の要点は魅力的に見える 11.Ne5?! が 11…Qc7! のためにうまくいかないことである。白はキング翼ビショップとナイトの態勢が非常に悪いので互角になれば幸運である。

11.Bxd6 Qxd6 12.O-O

 戦術の第二の要点は 12.Qxb7 が 12…Rb8 13.Qa6 O-O のために何にもならないことである。例えば 14.Bb5 Rb6 15.Qa4 Ne7 16.O-O Qb8! 17.Bd3 Rxb2 18.Rab1 Rxb1 19.Rxb1 Qc7 で互角の形勢になる。

12…O-O 13.Rae1 Rab8 14.Ne5 b5

 これからの戦闘の舞台が整った。白はe5の拠点を利用してキング翼で攻撃するのに対し、黒はクイーン翼で少数派攻撃により反撃する。やはりすぐの戦術は黒にとって危険でない。15.Bxb5 は 15…Nxd4! 16.cxd4 a6 によって逆ねじを食わされ、黒が駒を取り返して良い態勢になる。

15.Re3

 このあとはセメニウク対シャカロフ戦(ソ連、1981年)の手順を追う。白は躊躇せずに攻撃を開始する。重要な変化は 15.a3 a5! をさしはさむことで(最も一貫性のある継続手。スパークス対ジーゲル戦[1996年全国高校選手権]では 15…Rfc8 16.f4 a5 17.f5 b4 18.Nxc6 Rxc6 19.cxb4!? axb4 20.fxe6 fxe6 21.a4 Rc7 22.Rf3? Qb6! で黒が優勢だった。しかし白は 22.a5! と指すのが良く、形勢は不明である)、このあとは

 (a)16.Bxb5 Na7 17.a4 Nxb5 18.axb5 Qb6 は互角。

 (b)16.Re3 Rfc8 17.Qd1 b4 18.axb4 axb4 19.Rfe1 bxc3 20.bxc3 Qd8 21.Rh3 g6 はランカ対カスパロフ戦(ソ連、1977年)で、GMカスパロフは黒が少し優勢と判断している。

 (c)16.f4 b4 17.axb4 axb4 18.Qd1 bxc3 19.bxc3 g6?! 20.Re3 Nd7 21.Qe1 Ncxe5?! 22.fxe5 はベンジャミン対クリスチャンセン戦(米国選手権戦、1981年)で、白がいくらか優勢だったが、途中(b)のように 19…Rfc8! が本筋の手だった。

15…b4 16.Qc2 Rfc8 17.Qe2 bxc3 18.bxc3 Qd8!

 このクイーンはb6またはa5で働かせることができ、局面によっては …Nxe5 が良い手となるかもしれない。この試合の詳しい分析は『チェス新報』第32巻第184局のカスパロフとシャカロフの解説を読んで欲しい。

19.Rh3 g6 20.f4 Ne7 21.Qe1?

 この手はゆっくりしすぎている。カスパロフとシャカロフは代わりに 21.g4!? Rxc3 22.Qe1 を推奨して「白に代償あり」としている。それはたぶん本当だろうが、それでも黒陣は代わりに 21…Rc7 で十分しっかりしている。

21…h5! 22.Kh1

 白がこのような手を指させられる時はいつでも、黒の少数派攻撃が成功している。このあとは黒がクイーン翼を乗っ取り難なく勝った。

22…Rb2 23.a4 Kg7 24.Rg1 Nf5 25.Qa1 Qb6 26.a5 Qb3 27.Bxf5 exf5 28.Nd3 Ra2 29.Qf1 Ne4! 30.Nc1 Qc2 31.Rf3 Rxa5 32.Qe1 Ra1 33.h3 Rxc3 34.Rxc3 Qxc3 35.Qxc3 Nxc3 36.Kh2 a5 37.Re1 a4 白投了

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2016年03月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(415)

「Chess Life」2016年1月号(3/4)

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第2回大富豪チェス大会(続き)

 しかし幸運はまだナカムラの方にあった。同じ組の決定的な最終戦でバレエフもまたポカをしてクイーンが捕まる手順に行かなければならなかった(ビショップが取られるのを避けるため)。ナカムラは11手で勝って、本大会2番目に短い手数の試合になった。

dポーン布局 [D02]
GMエブゲニー・バレエフ(2664)
GMヒカル・ナカムラ(2884)
第2回大富豪チェスオープン(準決勝進出決定第3局)、ネバダ州ラスベガス
2015年10月12日

1.Nf3 d5 2.d4 c6 3.Bf4 Qb6 4.b3 Nf6 5.e3 Nh5 6.Bg5 h6 7.Bh4 Nd7

8.Ne5? Nxe5 9.Qxh5

 9.dxe5 は 9…Qb4+ でビショップを取られる。

9…Ng4 10.Bg3 g6 11.Qh4 Bg7 白投了

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(この号続く)

2016年03月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(181)

「Chess Life」1997年6月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃

 前回は少数派攻撃の意味するところを説明し、白の最も重要な応用であるクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法の交換戦法を紹介した。簡単に復習すると、少数派攻撃とはポーンの数で劣る方の翼で自分のポーンを突き進めることである。それは本質的に戦略的な手段であり、それゆえに普通はキングのいない側でのポーン突きにだけ適用される用語である。そして最も普通の目的は相手のポーン陣形に弱点を生じさせることである。

 黒はいつも展開で白より1手遅れているので、黒の少数派攻撃は前回の白の実戦例の少数派攻撃ほど危険なものとはならない。白の少数派攻撃と異なり黒のほとんどの少数派攻撃は 1.e4 布局で起こる。その始まりの特徴的なポーン陣形は次図に示されるとおりである。

 主眼のポーン陣形

 黒はしょせん黒なので、中央で …f6 から …e5 と動く見通しは明るくない。だから …b5 から …b4 とする少数派攻撃で満足しなければならない。黒による参考になる実戦例を4局紹介する。

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2016年03月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(414)

「Chess Life」2016年1月号(2/4)

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第2回大富豪チェス大会(続き)

 6/7の3人のグランドマスター、レ、アレックス・レンダーマン、それにヤンイー・ユーが準決勝に進出した。GMエブゲニー・バレエフはGMサム・シャンクランドとの優勢の試合を勝っていれば4人目の準決勝進出者になり、ナカムラは9手目引き分けの賭けが功を奏さず準決勝進出を逃すところだった。
 しかしバレエフは引き分けに終わったため、ナカムラとマクシェーンを含む5½/7の9人のグランドマスターと共に、最後の席を争うことになった。この一団の中にはソー、いくつか引き分けに甘んじてきたカルアナ、それに第3回戦での不戦敗から盛り返したカームスキーがいた。イスラエルのGMギル・ポピルスキーが辞退してU2550賞金の決定戦に自動的に回ったので人数は9人に減った。選手は米国チェス連盟のレイティングにより4人の組と5人の組に分けられた。

 ナカムラは有利な組に入った。カルアナはソーと同じ組で、ナカムラはカームスキー、バレエフ、それにセルゲイ・アザロフと対戦することになった。盤上の優勢はまたもや奇妙な事態の変化で消えた。カームスキーは決定戦の2局目のナカムラ戦でポカでビショップを丸損した。しかしナカムラは勝ちきれず引き分けに落ち着いた。カームスキーは引き分けににっこりし、ナカムラは思わぬ事態の「急転」に信じられないというように頭を振っていた。

急転直下

GMヒカル・ナカムラ(2884)
GMガータ・カームスキー(2752)
第2回大富豪チェスオープン(準決勝進出決定第2局)、ネバダ州ラスベガス
2015年10月11日

 黒の手番

24…Rxb2? 25.Rxb2 Qxb2 26.Rb1!

 黒は 26.f4 とくると読んでいたのだろう。それなら 26…f6 27.fxe5 fxe5 28.Qe3 Rxf1+ 29.Bxf1 Nf6 で黒が駒の代わりに3ポーンを得て好調である。

26…Qa3 27.f4 f6 28.Rxb7 Nd3 29.Nf3 Ra8 30.Kh2 Nxf4 31.g5 Nh5 32.gxf6+ Nhxf6 33.Rb1 Nh6 34.Qxc4 Nf5 35.Nd4 Ne3 36.Qb4 Qxb4 37.Rxb4 Rc8 38.Nc6 Nxg2 39.Kxg2 Nxd5 40.Nxd5 Rxc6 41.Rb7 Rc5 42.Nf4 Kf7 43.h4 引き分け合意

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(この号続く)

2016年03月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(180)

「Chess Life」1997年3月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

主眼の收局

白 エバンズ
黒 オプサール
ドゥブロブニク・オリンピアード、1950年

 黒が40手目を指した局面

 18歳のラリー・エバンズは1950年にユーゴスラビアのドゥブロブニクで開催されたオリンピアードの米国チームの中で高勝率をあげた(10試合で8勝2分!)。ノルウェーのハーコン・オプサールとの試合ではクイーン翼ギャンビットの交換戦法で少数派攻撃を完璧に実行した。つまり黒のcポーンを出遅れにさせ、駒交換でキング翼における黒の攻撃の可能性をなくし、それに続いて收局でc6の弱点に技術的につけ込んだ。

41.Nc5+ Kf6

 ここだけでなく後でも「ナイトの旅行」が行われ、41…Kd6 なら 42.Rd7# までとなる。ナイトは静的なポーン陣形の弱点につけ込むのが得意で、将来の(とは言っても1951年!)米国チャンピオンとグランドマスターはこれを完璧に見せつけた。

42.Nd7+ Ke6 43.Nf8+ Kf6 44.Nh7+ Ke6 45.Ng5+ Kd6

 45…Kf6? は Rf7 での詰みを防ぐために黒ナイトがe7に縛りつけられるのでもっと悪い。そしてサーバ・ブコビッチが立派な大会誌で白が勝つことを示した。46.f3! Ra2+ 47.Kf1! Ra1+ 48.Ke2 Ra2+ 49.Kd1! Rxh2 50.e4! dxe4 51.fxe4 Rh4 52.e5+ Kf5 53.Rxe7

46.Rb7 f6

 46…f5 なら 47.Rb8! から黒のキング翼に侵入して決まる。

47.Nh7 Ke6 48.Nf8+ Kf7

 48…Kd7?? はもちろんあの 49.Rd7# である。

49.Nxg6 Kxg6 50.Rxe7

 この結果白勝ちのルークとポーンの收局になる。得しているポーンは二重fポーンであっても、hポーンを取るためのおとりとして使えるので十分役に立つ。詳しい解説はGMラリー・エバンズの名著『New Ideas in Chess』を読んで欲しい。この本は1958年にピットマン社から初版が出版され、1994年にドーバー出版から再版された(71~72ページを参照)。残りの指し手は次のとおりである。

50…Kf5 51.Rc7 Rc1 52.Rc8 Kg6 53.Kg3 Rc2 54.h4 Kf5 55.Rh8 Kg6 56.f5+ Kxf5 57.Rxh5+ Kg6 58.Rh8 Kf5 59.Rg8! Rc1 60.Kg2 Ra1 61.h5 Ra7 62.Rg3 Rh7 63.Rh3 Kg5 64.Kf3 Rh6 65.Rh1! Kf5 66.Kg3 Kg5 67.Rh4 Kf5 68.Rf4+ Kg5 69.Rg4+! Kf5 70.Kh4 Rh8 71.Rg7 Ra8 72.h6 Ra1 73.Rg3 Rh1+ 74.Rh3 Rg1 75.Rf3+! Kg6 76.Rg3+ Rxg3 77.Kxg3! Kxh6 78.Kg4 Kg6 79.Kf4 Kg7 80.Kf5 Kf7 81.f3! 黒投了

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2016年03月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(413)

「Chess Life」2016年1月号(1/4)

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第2回大富豪チェス大会

FMアリサ・メレヒナ

 ベトナムの第一人者のリエムは5連勝し第6回戦でナカムラと引き分けて、「大富豪の月曜」決定戦に進出する一群の先頭に立った。大会の最終日には上位4人が快速戦を戦って優勝者を決め、残りの選手たちは第8回戦と第9回戦を戦う。

引き分けだって?

 第6回戦が終わって首位のリエムのすぐあとに8人のグランドマスターが5/6で続き、その中にはナカムラとルーク・マクシェーンがいて両者は第7回戦で対戦した。「大富豪の月曜」に進出する戦いでは対局者間にゲーム理論の状況ができ上がった。そのようなパズルに対する通常の解は選手たちが協力することである。チェスではこれは引き分けることにほかならない。

 大富豪チェスでは対局者たちが30手より前に引き分けに合意することを許さないという規則を導入していたにもかかわらず、ナカムラとマクシェーンはモーリスが「水も漏らさぬ」と考えた規則の数少ない抜け穴の一つを見つけたようだった。両者はナイドルフ・シチリア(6.Be3)の9手目でにっちもさっちもいかない状況に陥った。いろいろな理由で二人とも手を変えたくなかった。GMデイビド・スマードンは経済の観点からこの状況を分析して、実際は両選手が引き分けを回避することが経済的な利益に沿うと結論づけた(彼の分析は www.davidsmerdon.com/?p=1757 を参照)。

 スマードンによるとナカムラは決定戦でソーとカルアナと対決するよりも優勝する可能性が高かったし、マクシェーンはナカムラを含めた決定戦のための決定戦を避けるために指し続けるべきだった。しかし対局後の両者のインタビューによれば両者とも指し続ける方が危険が大きいと確信していた。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B90]
GMルーク・マクシェーン(2797)
GMヒカル・ナカムラ(2884)
第2回大富豪チェスオープン第7回戦、ネバダ州ラスベガス
2015年10月11日

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be3 Ng4

 マクシェーンはこの大会の第5回戦でヤクビエッチの 5…e5 に勝っていたので、それを知っているナカムラはその戦型に行きたくなかった。

7.Bc1

 激しい手順の 7.Bg5 h6 8.Bh4 g5 9.Bg3 もあるけれども、マクシェーンは危険をとることに気が進まなかった。そして次のように語っていた。「自分のやっていることは分かっていなければならない。このような局面に行くつもりなら、そして自分のしていることが分かっていないなら、とんでもない。向こう見ずな危険をおかすことは自分にとって必ずしも必要ない。Bc1 と指したが引き分けを期待していなかったことは確かだ。8.Be3 と指したとき彼がまた 8…Ng4 と指すかは全然見当がつかなかった。」

7…Nf6 8.Be3 Ng4 9.Bc1 合意の引き分け

 ナカムラによるとここでの唯一受け入れられる非「疑問」手はナイトをf6に引くことである。

 定跡の観点からの正しい方針に関係なく、この引き分けは大会規則に対する直接的な挑戦だった。モーリス・アシュリーは戦うチェスを助長するために設けられた反引き分け規則を選手が出し抜くことに明らかにがっかりしていた。大富豪チェスの前提は激烈なチェスを見せることであるが、それが手早いグランドマスター引き分けで、またはアシュリーが呼ぶように「試合のキズ」で無効にされた。

 大富豪チェスに特有の規則では、対局者は制限手数をかわすために30手までに手を繰り返してはいけないが、詰みや戦力損につながる場合は指し続けることを強制されない。しかしFIDEの規則ではこのような状況での引き分けは許容されている。解決策はどちらの規則を原則とするかだった。

 これは試合そのものよりも込み入った問題になった。試合は全体で12分しか続かなかったが、妥当さの判定には90分以上かかった。アシュリーは判定を下す前に本大会の主任審判で国際審判のフランシスコ・グアダルーペ、世界中の審判、当該選手、それに選手代表の意見を聞いた。

 モーリスは個人的には引き分けを憎悪していたが、結局は認めた。彼がこの問題について強く感じていたのはこうだった。「チェスのプロは手短な引き分けがこのスポーツに計り知れない害となることに気づかなければならないと思う。スポンサーと観戦者を遠ざけ、最良でも臆病、最悪では選手による共謀の感じさえある。ナカムラとマクシェーンのような二人の一流の闘士がしたことが問題でなく、大会の状況でこれが最善だと考えたことが問題なのでもない。私はテレビ・プロデューサー、関心を持つ政治家、それに平均的な愛好家に話したことがあるが、彼等は皆チェスが対局者の好きなときに打ち切ることができることに対し、真のスポーツと呼べるという考えに目を白黒させるか嘲笑する。」

 主催者のエイミー・リーはこう付け加える。「私はチェスを指さないが、このようなことがスポーツで起こることがあるなら、大金を拠出することに興味を持つスポンサーはいなくなることは想像に難くない。」

 選手の立場からカルアナは次のように言った。「すべての選手が高い参加費を払い旅費と宿泊費を自分で払わなければならない大会では、さっさと引き分けにすべきでないとはどの選手にもとても言えない。特に大会の状況を考えたときに引き分けが戦略的に得策ならば。」

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(179)

「Chess Life」1997年3月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

白がナイトをe2に展開する

クイーン翼ギャンビット拒否交換戦法 [D36]
白 GMビクトル・ガブリコフ
黒 FMオリバー・ズッター
ベルン、1995年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 O-O 7.Bd3 c6 8.Qc2 Nbd7 9.Nge2

 白はキング翼ナイトの素早い展開を遅らせたので、ここでf3とe2のどちらへ展開するかを選択することができる。e2への展開の正当づけは二通りある。A)f3 から e4 と突いて中央を盛り上げるのがやりやすい。そしてB)黒の …Bg4 の潜在力が本質的に無害なので、白は h3 に1手費やす必要がない。しかしe2のナイトはf3のナイトより働きが劣るので、GMの実戦ではf3のナイトの方がよく指される。

9…Re8 10.O-O Nf8 11.Rab1 a5

 黒はこの手によりaポーン同士を交換する意図を表明している。11…Ne4、11…Be6、11…Nh5、11…Ng6 そして 11…Ng4 も自然な手である。どの場合でも白は布局での通常の有利さを保持している。

12.a3 Ng6 13.b4 axb4 14.axb4 Ng4 15.Bxe7 Qxe7 16.h3 Nh6?!

 これはぜいたくな作戦である。黒はd8-h4の斜筋をクイーンのために開けておくために、ナイトを恒久的に遊ばせておくつもりである。比較的劣勢の側からこういうことをするのはめったに成功しない。通常の手は 16…Nf6 で、GMガブリコフが『チェス新報』第65巻で指摘したように黒はすぐの 17.b5 を 17…c5! で撃退することができる。

17.Ng3 Qg5?

 そしてこれが敗着になった。g5のクイーンは強力に見えるけれども、このあと何も狙いがない。正着はc6の地点を守る 17…Qf6 で、18…Nh4 から 19…Bxh3 の戦術に期待をかけ 20.gxh3 なら 20…Qf3 で勝ちになる。

18.b5 Nh4 19.bxc6 bxc6 20.Nce2! Qf6 21.Rb6

 白は全面的に成功を収めている。展開は完了し、キング翼は強固になり、黒のcポーンは慢性的な弱点になり、c6とh7の両当たりでポーン得が確実になっている。黒はポーン損を甘受しなければならない。21…Bxh3? 22.gxh3 Qf3 は 23.Nf4 で成立しない。

21…Bd7 22.Bxh7+ Kh8 23.Bd3 g5 24.e4! Bxh3

 24…g4 は 25.e5! Qg5 26.hxg4 Nxg4 21.Qc1! でうまくいかない(ガブリコフ)。

25.Qxc6

 この安全第一の手は実戦的に良い選択である。クイーンを盤上から消し、ポーン得は変わらない。しかし後にGMガブリコフは 25.Rxc6! から始まるもっと確実で理論的な勝ち筋を示した。25…Re6 26.exd5! Rxc6(26…Bxg2 なら 27.dxe6 Nf3+ 28.Kxg2 Nh4+ 29.Kg1 Nf3+ 30.Kh1 g4 31.Rc8+ Ng8 32.Nf5)27.Qxc6 Qxc6 28.dxc6 Bxg2 29.Rc1

25…Qxc6 26.Rxc6 Bxg2?!

 黒はこれで戦力損がひどくなりなすところなく負ける。26…Re6 27.Rxe6 Bxe6 と指さなければならないところだが、それでも引き分けの見通しは暗い。

27.Rxh6+ Kg7 28.Rxh4 Bxf1 29.Rg4 Bxe2 30.Bxe2 dxe4 31.Rxg5+ Kf8 32.Nf5 Re6 33.Bc4 Rg6 34.Rxg6 fxg6 35.Ne3 Rd8 36.d5 Ke7 37.Bf1 Kf6 38.Bh3 Ke5 39.Be6 Kd4 40.Kg2 Rf8 41.Kg3 Kc5 42.Ng4 Kd6 43.Kg2 Rf3 44.Kf1 Ra3 45.Ke2 Rb3 46.Bf7 Rf3 47.Be6 Ra3 48.Nh6! Ke5 49.Nf7+ Kf6 50.Nd6 Ra2+ 51.Ke3 Ke5 52.Nc4+ Kf6 53.Bg4 Rc2 54.Be2 Kf5 55.d6 Ra2 56.d7 Ra8 57.Na5 黒投了

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カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(412)

「British Chess Magazine」2015年12月号(1/1)

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棋譜のデパート

IMアンドルー・マーティン

□A.ストゥコピン
■H.ナカムラ

大富豪オープン、ラスベガス、2015年
フランス防御マカッチョン戦法 [C12]

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Bb4 5.e5 h6 6.Bh4

 白がこのまれな手を指したピルズベリー対ラスカー戦の時代に戻った。この戦型に毒針があることは間違いなく、ストゥーコピンはナカムラのすきをつくことを期待したのかもしれない。

6…g5 7.Bg3 Ne4 8.Nge2

 両者とも陣形に問題を抱えているのでいい勝負である。

8…h5

 黒は 8…f5 9.f3 Nxg3 10.hxg3 でも指せそうで、形勢はまったくの不明である。10…Bd7(10…b6 11.a3 Bf8 12.g4!)11.a3 Bxc3+ 12.Nxc3 Nc6 13.f4(13.g4 fxg4 14.Bd3 gxf3 15.Qxf3 Qe7 16.Bg6+ Kd8 17.O-O-O も形勢判断が難しい)13…g4 14.Qd2 Qe7 15.Nd1 O-O-O = V.オニシュク対S.ボルコフ、アル・アイン、2014年

 8…c5 ならいつものフランス防御の応手で、9.a3 Bxc3+ 10.Nxc3 Qa5 11.Qd3 Nc6 12.dxc5 Bd7 13.O-O-O Nxc3 14.Qxc3 Qxc3 15.bxc3 Rc8 16.f3 Na5 となって黒陣はしっかりしている。

9.f3 Nxg3 10.hxg3 Bd7 11.Qd2 Be7

12.g4?!

 この手がf1のビショップの大義の助けになるのかは分からない。だからたぶん 12.f4 の方が良かっただろう。それでも黒の黒枡ビショップは潜在的に強力である。12.f4 c5 13.dxc5 Nc6 14.Nd4 Nxd4 15.Qxd4 Rc8 16.O-O-O Bxc5 17.Qd3 Qc7 18.Be2 h4 は2010年FICGS電子メールでのD.フラーチェク対J.キッパー戦だが、黒の方がわずかに優勢である。

12…h4!

 私なら黒の方を持ちたい。e7の強力なビショップのおかげで黒の可能性の方が大きい。白が自分の有利になるように局面を開放するのに苦労するのに対し、黒は …c7-c5! ですぐに反撃を開始できる。

13.g3 c5 14.gxh4

14…Nc6

 ナカムラがどうして 14…Rxh4 15.Rxh4 gxh4 16.f4 と指さなかったのかは理解に苦しむ。たぶん 16…Nc6 17.dxc5 Qa5 18.O-O-O O-O-O が気に入らなかったのだろう。

15.Qe3?

 白は 15.h5 でh列をふさがなければならない。そうしなかったのでたちまち苦戦に陥った。

15…Qb8! 16.O-O-O

 ここで 16.h5 は 16…a6 で白の中央が崩壊寸前になる。

16…cxd4 17.Nxd4 Qxe5 18.Qxe5 Nxe5 19.h5 a6 20.Bd3 Bc5

 黒はポーンを取り返し、中央のポーンを好きなように突き進める楽な作戦がある。白はほとんどすることがないので黒は余裕がある。

21.Nce2 O-O-O

 21…Kf8 22.c3 Kg7 の方がもっと効果的だったかもしれない。

22.c3 Rdg8 23.Bc2 Rh6 24.Rhe1 Rf6 25.Ng1 Nc6 26.Rf1 Kc7 27.Kb1 Ne5 28.a4 Kd8

 この手までの10手ほどの間黒は巧妙に圧力をかけて白がいかにどうしようもないかを示す意図で捌いてきた。白は均衡を保つためだけに指し続けるのは非常に面白くないものである。

29.b3 Ke7 30.Nge2 b5! 31.b4

 31.axb5 と取るのは 31…Bxb5 32.Nxb5(32.Rfe1 Nxf3 33.Nxf3 Rxf3 34.Nd4 Bxd4 35.cxd4 Rc8 36.Rd2 Rg3 -+)32…axb5 でf3のポーンが落ちるのを見るばかりである。

31…Bxd4 32.Nxd4 bxa4 33.Rde1 Kd6 34.Kb2 Bb5 0-1

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(178)

「Chess Life」1997年3月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

戦場はすべて盤面全体

クイーン翼ギャンビット拒否交換戦法 [D36]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMダニエル・カンポラ
サン・ニコラス、番勝負、1994年

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 O-O 7.Bd3 Nbd7 8.Nf3 c6 9.Qc2 Re8 10.O-O Nf8 11.h3 Be6

 黒はクイーン翼ビショップをこの控えめな地点に配置して小駒の展開を完了し、あとで例えば …Bxh3 を狙うことにより白のキング翼を攻撃することに役立てることができることを期待している。白は次の既定の交換により少数派攻撃の開始を急ぐ。

12.Bxf6! Bxf6 13.b4 Rc8

 黒は 13…a6 14.a4 をさしはさむことを避けることにより、盤上にaポーンを残したいと言っている。この手の具体的な意味は 14.b5 に 14…c5! と応じられるようにすることである。それでもやはり黒の最も有望な手法は、同様の局面でデンマークのGMラルス・ボ・ハンセンが用いたように(11…g6 12.Bxf6 Bxf6 13.b4 Be7)、キング翼攻撃のために 13…Be7! を手始めに小駒を再展開することである。参考のために『チェス新報』第62巻第448局のニコリッチ対ハンセン戦(ベイクアーンゼー、1995年)をGMハンセンが解説しているので読んで欲しい。

14.Na4! Rc7 15.Rac1 Be7! 16.Qb1!

 クイーン翼ルークを展開したあとGMカルポフはクイーンの位置を改善した。重要なb1-h7の斜筋に残したまま主眼のb5突きを助ける。f1のルークは防御の目的に必要となった場合に備えて自陣内に残してある。

16…Bd6 17.b5 Qf6 18.bxc6 bxc6 19.Nh2 Qh4 20.Bf5!

 この手は明らかに矛盾している。つまるところ白の白枡ビショップは黒のより働いていると前に言ったではないか。しかし白の最終目的は黒に危険なキング翼攻撃をさせないことにある。本譜の手は黒のクイーン翼ビショップを交換でなくすことによりh3への狙いをなくしてこの目的を推し進めている。

20…Qh5 21.Bxe6 Nxe6 22.Nf3! f5

 この手は危なっかしい。黒は攻撃にのめり込んで重大な弱点(例えばe5の地点)をさらけ出している。GMカルポフは『チェス新報』第62巻第447局の解説でこの局面での堅実な対処法は 22…Ng5 で、23.Nxg5 Qxg5 24.Nc5 と進めば白の優勢はほんのわずかであると指摘している。

23.Rc3! Nd8?

 手が一貫していない。良くも悪くも 23…f4 と突かなければならない。GMカルポフは 24.Re1 でも 24.e4 でも白がわずかな優勢を保持していると分析している。

24.Nc5 Bxc5 25.Rxc5 Ne6 26.Rc3 f4 27.e4! h6?!

 この手は局面のために何もしていない。27…dxe4 28.Qxe4 Qd5 が多分最善手だが、29.Re1 で白の優勢は明らかである。白の働きの良い駒は黒陣の至る所に強い圧力をかけている(29…Qxa2? なら 30.Ng5 で白の勝ち)。本譜の手のあとGMカルポフは楽々と勝った。もう何も言う所はない。

28.Re1! Rce7 29.Rxc6! dxe4 30.Rxe4 Qd5 31.Rc3 Qf5 32.Qe1 Qd5 33.Kh1! Qd6 34.Qd2 Ng5 35.Rxe7 Qxe7 36.Qxf4 Qb4 37.Nxg5! hxg5 38.Qd2 g4 39.hxg4 黒投了

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2016年03月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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