2015年12月の記事一覧

布局の探究(169)

「Chess Life」1996年11月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 B.小駒がルークよりも働ける局面にするために交換損をする

 そのような局面を生じさせるに当たっては、明らかに世界級のグランドマスターたちはその他の我々よりも手慣れている。プロチェス協会の世界チャンピオンのガリー・カスパロフによる次の試合の指し回しは最も示唆に富み参考になる。

シチリア防御スベシュニコフ戦法 [B33]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMアレクセイ・シロフ
ホルゲン、1994年

1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Ndb5 d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 9.Na3

 この手は 11.Bxf6 を伴って当節の好まれる指し方になっている。白はd5の地点を確固として支配し、黒のクイーン翼を攻撃する展望ができ、その一方で 9.Bxf6 gxf6 10.Na3 b5 から …f5 で可能となる黒の反撃の可能性を最小限にとどめている。

9…b5 10.Nd5 Be7 11.Bxf6 Bxf6 12.c3 Bb7 13.Nc2 Nb8 14.a4 bxa4 15.Rxa4 Nd7 16.Rb4!? Nc5?!

 黒はこの時点でナイトを活動的な地点に捌いたことに満足していたに違いない。しかしまざまざと覚醒させられることになる。GMカスパロフは『チェス新報』第61巻の自戦解説で 16…Rb8 を黒の最善手としている。

17.Rxb7!! Nxb7 18.b4!

 この交換損は次のような要因を基にしている。1.白はa列からd列までの重要な白枡を完全に支配することになる。2.d5の白ナイトは脅かされることなく周りを支配することになる。3.このナイトは黒のキング翼ルークよりも将来性がある。4.黒のナイトは働ける地点を見つけるのに困難を極める。5.黒のdポーンがこのようにしっかりせき止められているので、白はポーン得しているのも同然である。というのは白がクイーン翼でパスポーンを作ることが期待できるのに対し、d列からh列までの数で上回る黒のポーンは障害で止められている。それにもかかわらず上記の要因を活用することは全然たやすいことではない。カスパロフの指し方は比類ないお手本である。

18…Bg5 19.Na3! O-O 20.Nc4 a5 21.Bd3 axb4 22.cxb4 Qb8 23.h4!

 ビショップを守り一方のc1-h6の斜筋に行かせるか、d8に行かせて黒ナイトに重要な地点を使わせなくさせる。

23…Bh6 24.Ncb6! Ra2 25.O-O Rd2 26.Qf3 Qa7 27.Nd7 Nd8?

 これで黒の負けが決まった。カスパロフは両者の最善の手順をあげている。27…Ra8! 28.N7b6! Rf8! 29.Bb5! Nd8 30.Nd7 Ne6 31.Ne7+! Kh8 32.Nxf8 Qxe7 33.Nxe6 Qxe6 34.Bc6 これで白がわずかに優勢である。

28.Nxf8 Kxf8 29.b5! Qa3 30.Qf5!! Ke8 31.Bc4 Rc2 32.Qxh7! Rxc4 33.Qg8+ Kd7 34.Nb6+ Ke7 35.Nxc4 Qc5 36.Ra1! Qd4 37.Ra3! Bc1 38.Ne3! 黒投了

 独創性、力強さ、そして実行とまったく完璧だった。カスパロフの全解説は『チェス新報』第61巻第178局に載っている。

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2015年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(402)

「British Chess Magazine」2015年10月号(1/1)

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棋譜のデパート

IMアンドルー・マーティン

 1989年にキング翼インディアン防御についての本を書いたが、その時でさえ局面の完全な理解なくしてマル・デル・プラタ戦法と戦う愚を警告しておいた。25年前には多くの定跡が蓄積されていた。今日ではどうだろうか。

□W.ソー
■H.ナカムラ

第3回シンクフィールド杯、2015年
キング翼インディアン防御マル・デル・プラタ戦法 [E99]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.f3 f5 11.Be3 f4 12.Bf2 g5 13.Nd3 Ng6 14.c5 Nf6 15.Rc1 Rf7

 ここまでは主流手順の一つである。ここで白の選択肢は 16.a4 か本譜の手である。白は自分のキングの天井が陥没する前に、クイーン翼で何か成果をあげ黒を守勢に立たせることができるかどうかが問題である。ソーは見るからに快速戦のように手を進めてきた。彼の新構想がこの先にある。

16.Kh1 h5 17.cxd6

 2014年ビルバオでのA.シロフ対E.バクロ戦でシロフはソーよりも適切な瞬間にd6で交換した。17.Nb5 g4(17…a6!? 18.Na3 g4 19.Nc4 は形勢不明)18.cxd6 違いは白が Qc2 でc7に侵入できるということである。18…cxd6 19.Qc2 g3 20.Nc7! この戦型の非常に面白い実戦例になった。20…Rxc7 21.Qxc7 Qxc7 22.Rxc7 gxf2 23.Rfc1± 1-0(46手)

17…cxd6 18.Nb5

 18.Qc2!? もある。

18…a6 19.Na3

 19.Na7 Bd7 20.Qb3 g4 は2015年リガでのG.キャルタンソン対V.コバレフ戦で、このあと 21.Rc3 g3 22.Bg1 のようにこの戦型の典型的な局面になった。22…gxh2 23.Bf2 h4 24.Qxb7 Nh5 でたぶん黒の方が良いだろう。

19…b5!

 この手は白のクイーン翼攻撃を遅らせる。白がa3のナイトを転進させる手数を利用してナカムラは敵キングの打倒に向かう。

20.Rc6

 白は本当に何かを狙っているのだろうか。白はどういう狙いを狙おうとしているのだろうか。

20…g4 21.Qc2 Qf8 22.Rc1 Bd7 23.Rc7

 ソーは完全に黒の攻撃を過小評価しているように見える。白には本手が 23.Nb4 と 23.Rb6 の二通りあった。

23…Bh6 24.Be1 h4 25.fxg4 f3

 この種の手は何も目新しいものではないが、それでも引きつけられる。ナカムラはポーンをくれてやって駒で黒陣を撃破する。

26.gxf3 Nxe4

27.Rd1?

 27…Rxf3 と指させるのは良くない。

 27.Rxd7 でも 27…Rxf3! の強手が成立する。28.Nf2(28.Bxf3 は 28…Qxf3+ 29.Qg2 Qxd3 30.Rd1 Bd2!! 31.Bxd2 Nf4

から白キングが詰まされる)28…Rxf2 29.Bxf2 Nxf2+ 30.Kg1 Nh3+ 31.Kh1 e4 32.Rf1 Nf2+ 33.Kg1 Be3 34.Qc3 Bc5 -+

 だから 27.Nc5! が良い。たぶんこれがいくらかでも紛れさせる唯一の機会だった。27…dxc5 28.Rxd7 Rxd7 29.Qxe4 Bxc1 30.Qxg6+ Rg7 31.Qe6+ Qf7 32.Qc6

もちろんこれでも黒の方が断然良い。

27…Rxf3! 28.Rxd7

 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Qg2 Bxg4 -+。

28…Rf1+ 29.Kg2

29…Be3!

 すごい手で白陣に乱入した。細かいことを言えば 29…h3+ 30.Kxh3 Rf2 が一番良くて、白を瞬殺する。31.Bxf2 Qxf2 32.Nxf2 Nf4+ 33.Kh4 Bg5# こんな終わり方があろうとは。

30.Bg3

 白には受けがなかった。30.Bf2 でも 30…Rxf2+ 31.Nxf2 Qxf2+ 32.Kh1 Bf4 33.Bf1 Qe3 で …Nf2 を狙われて白はどうしようもない。

30…hxg3 31.Rxf1 Nh4+ 32.Kh3 Qh6

 してやったり。あとは黒キングを詰めるだけである。

33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6

37…Rf6+!

 巧みな手だが、これが唯一の手段ではない。37…Nf7 でも 38.Kf5(38.Rxf7 Qg5#)38…Nh8+ 39.Ke6 Qf6# の3手詰みになる。

38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5# 0-1

 観戦者の喜ぶチェスだった。ナカムラの攻撃が冴えわたったが、9.Ne1 の戦型をめぐる激しい戦いが続くのは間違いない。

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(この号終わり)

2015年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(168)

「Chess Life」1996年11月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

2.組織的な戦略に努める(続き)

 この項と姉妹に当たる事例は、一方がルークを犠牲にしたように思われるがどうも交換損にすぎないような状況である。

ピルツ防御 [B09]
白 GMエドマー・メドニス
黒 GMラースロー・バダース
ブダペスト、1976年

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Nf3 O-O 6.Bd3 Na6 7.e5 Nd7 8.Ne4 Nb4?!

 黒の意欲的な作戦は失敗に終わる。8…dxe5 または 8…c5 と指すべきだった。

9.Be2 Nb6 10.c3 Bf5 11.Nfg5! d5?! 12.Ng3!! Nc2+ 13.Kf2 Nxa1 14.Nxf5 gxf5 15.Bd3!

 これが 12.Ng3!! を読んでいたときに想定していた局面である。黒の弱体化したキング翼に対し白の攻撃が非常に強力になることは明らかである。さらには黒ナイトが生還できない公算が非常に大きいので、犠牲が交換損にすぎないことはほとんど確かだと考えていた。対局中私の考えていた主手順は 15…e6 16.g4 h6 17.gxf5!! で、黒には選択肢が二つある。

(1)17…hxg5 18.f6! Bxf6 19.Qh5 Re8 20.fxg5!! Bg7 21.Ke2! Re7 22.Rf1 Kf8 23.g6 Ke8 24.h4 実戦的には白は戦力損でなくて楽勝になる[訳注 24…gxf6 で黒優勢のようなので、正着は 24.Bg5 です]。

(2)17…exf5 18.Qh5 hxg5 19.Bxf5 Re8 20.Rg1! f6 21.e6 Qe7 22.fxg5! Nc4 23.gxf6 Qxf6 24.Qh7+ Kf8 25.Rxg7 Qxg7 26.Bh6 これで詰みになる。

15…h6 16.Bxf5! e6

 16…hxg5 は 17.Qh5 Re8 18.e6! ですぐに詰む。

17.Bh7+ Kh8 18.Bb1! f5?!

 実戦的には 18…Qe7 19.Qd3 f5 20.exf6e.p. Bxf6 21.Nxe6 にかけてみるしかなかった。白は既に2ポーンを取り、攻撃が強力で、a1のナイトを取ったあとは戦力得にもなる。それでも白は本譜よりも苦労する。

19.Nxe6 Qe7 20.Nxf8 Rxf8 21.Bd3! c5 22.Be3 cxd4 23.cxd4 Nc4 24.Qxa1 Nxe3 25.Kxe3 b5 26.Qd1 a6 27.g3 Qf7 28.Qc2 h5 29.Rc1 h4 30.Qg2 hxg3 31.hxg3 黒投了

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2015年12月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(401)

「Chess」2015年10月号(3/3)

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セントルイスからの收局名局

H.ナカムラ – A.グリシュク
シンクフィールド杯、2015年

 強力なeポーンと詰みの狙いのために黒はf5で2回交換しなければならない。

60…Bxf5+ 61.Qxf5 Qxf5+ 62.Rxf5 Kg7

 この手もほぼ必須である。しかしここで白はルークを侵入させる前にビショップでのチェックを狙う。

63.Bg3 h6 64.Be5+ Kh7 65.Rf7+ Kg6 66.Rf8 Kh7 67.Bf4!

 黒のナイトはまだ動けない。そしてポーンが落ち始める。

67…a5 68.Bxh6! a4 69.Be3 a3 70.Bxc5 a2 71.Bd4

 aポーンはこれ以上進めず、ここからグリシュクはナイトを行ったり来たりさせることに頼らなければならなかった。

71…Nc7 72.Ba1 Ne8 73.c5 Nc7 74.c6 Ne8 75.Kh4!

 最後の駒が戦いに参加する。

75…Nc7 76.Kh5 Ne8 77.c7! 1-0

 ナカムラは相変わらず正確で、最後の駒をジグソーパズルにはめた。77…Nxc7 78.Rf7+ から詰みになる。

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(この号終わり)

2015年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(167)

「Chess Life」1996年11月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

2.組織的な戦略に努める

 グリューンフェルト防御交換戦法の主流手順(D89)は1950年に初めて登場し、ゆうに30年以上も指され続けていて次のように始まる。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O cxd4 11.cxd4 Bg4 12.f3 Na5 13.Bd3 Be6 14.d5 Bxa1 15.Qxa1 f6

 白は以下の考慮の下に完全な交換損を敢行した。

 1.黒はフィアンケットされていたキング翼ビショップがなくなったので、キング翼が恒久的に弱体化した。

 2.局面が開けてくれば白の双ビショップがチームを組んで強力な攻撃を行うことができるかもしれない。

 3.白は中央で優勢である。

 4.黒ナイトは盤端にいる。

 それにもかかわらず黒陣は全体的に健全で、「交換得は交換得」である。現在の定跡の評価は、完璧に指せば動的に互角となっている。以下の2局にはこの局面の本質がよく出ている。

 a.16.Bh6?!
 バガニアン対ムーヒン(モスクワ、1972年)

 この手はルークを働きの劣るe8に追いやる戦略上の考えなら結構だ。疑問符を付けたのは、白がキング翼を直接攻撃する意図で指しているからである。白陣はそれほど強くなく黒陣はそれほど弱くないので、無理攻めはうまくいかない。

16…Re8 17.h4?! Bf7 18.Nf4 Rc8 19.Kh1 Qc7 20.Qe1 Nc4

 黒は唯一の素通し列を支配し、盤端のナイトを戦いに復帰させた。

21.Qg3 b5 22.Re1 a6 23.e5!? Nxe5 24.Bf5 Kh8! 25.h5?

 白は欲を出して損する羽目になる。GMティグラン・ぺトロシアンによれば 25.Bxc8 Qxc8 で白の不利はほんのわずかだった。

25…g5 26.Nh3 Bxd5 27.Nxg5 e6! 28.Nxh7 exf5 29.Nxf6 Nxf3!! 30.Bg7+ Qxg7 31.Qxg7+ Kxg7 32.Nxe8+ Kf8 33.h6 Bg8! 白投了

 hポーンは止められ、白は駒の丸損に終わる。

 b.16.Rb1
 ファラゴー対ニコライーディス(ブダペスト、1994年)

 これがこの局面での現代の対処法である。白は黒キングに対する一次元的な攻撃よりも、すべての戦線での可能性を追い求める。

16…b6 17.Bh6 Re8 18.Qd4 Bf7! 19.Bb5 e5 20.Qd3

 20.Qf2 もあり、アタリク対ニコライーディス戦(ハニア、1994年)では 20…Re7 21.f4! で混戦だった。

20…Re7 21.Bd2! Nb7 22.Bb4 Nc5 23.Qd2 Qd6 24.Nc3 Be8 25.Bf1 Rc7! 26.h3 Kg7 27.a4 Bd7!

 27…a6 と突くと 28.a5! でc5のナイトが不安定になるので、黒は何も弱点を作らないようにしている。

28.Nb5 Bxb5 29.axb5 Rf8! 30.Rc1 Rff7! 31.Qe3 Rfe7 引き分け

 白が優勢だが、黒は非常に堅固で交換得にもなっている。局面を開放するのはやぶへびになる公算が大きいので、引き分けは妥当である。

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2015年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(400)

「Chess」2015年10月号(2/3)

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第3回シンクフィールド杯

H.ナカムラ – L.アロニアン
第7回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.a4

 この反マーシャルはかつてカスパロフが好んで用いていた。アロニアンは自分のトレードマークとなっている手で応じた。

8…b4 9.d4 d6 10.dxe5 dxe5 11.Qxd8 Rxd8 12.Nbd2

 白の期待は黒のクイーン翼の弱点が露わになることである。しかし白だってクイーン翼に問題をいくつか抱えている。特に黒ナイトが適時にa5に来れば、またはd4に来てさえそうである。

12…h6 13.Bc4

 13.a5?! は …Na5 なんて考えをきっぱりと排除する。しかし本誌2013年11月号で見たのと同様に2015年セントルイスのカールセン対アロニアン戦でも 13…Bc5 14.Bc4 Ng4 15.Re2 Be6! 16.Be6 fxe6 17.h3 Nf6 18.Re1 Rab8 19.Nc4 Rb5 となって黒が非常に楽だった。

13…Bd6 14.a5 Re8 15.Bd3 Nd7

16.b3

 ちょうどカールセンのようにナカムラはクイーン翼の展開に少し問題を抱えている。変化するなら 16.Nb3 だが 16…Nc5 17.Nxc5(または 17.Be3 Nxd3 18.cxd3 Be6 19.Nfd2 Nb8! から …Nd7)17…Bxc5 18.Be3 Bxe3 19.fxe3 Be6 となれば黒が好調のはずである。

16…Nc5 17.Bc4 Be6 18.Bb2 f6

 黒は堅陣なのでかなり指しやすい。対照的に白は良い作戦を見つけるのがまったく容易でない。定跡ではa6とb4のポーンが分離していて「弱点」になるかもしれないとしている。しかしクイーン翼での大きな弱点はやはり白のあのa5ポーンのようである。アロニアンはここからそれを攻撃目標にしていく。

19.Bxe6+ Rxe6 20.Nc4 Rb8 21.Nfd2 Rb5

22.Ra2?!

 ひどい形だ。白ルークは守りに縛り付けられては面白くない。ナカムラは 22.Nf1! でナイトをd5に派遣するようにし、22…Nd4 には冷静に 23.Rac1 と応じておくべきだった。代わりに 22…Nb7 23.Nfe3 Nbxa5 の方が重大だが、ちょうどカールセン対アロニアン戦のように例えば 23.Red1 Nxc4 24.Nxc4 a5 25.Rd5 でポーンを取れば白は自由度や反撃が広がる。

22…Nb7 23.Rea1

 これでaポーンは安全だが、d4の空所はこれまでにもまして目立ってくる。

23…Bc5 24.Kf1 Re7 25.Ke2 Rd7 26.Nf1 Bd4 27.Nfe3 Bxe3!

 閉鎖的な局面では白のかなり不活発なビショップよりもナイトの方が有利なので、この交換は良い判断である。

28.Nxe3 Kf7 29.f3 Ke6

 黒は駒の配置を改善し続けている。黒は優勢だが、白の守勢であっても堅固な陣形に問題を突きつけようとするなら自分のナイトをうまく捌かなければならない。

30.g4 Nc5 31.Nc4 Ke7 32.Bc1 Ne6 33.Be3 Ncd4+!

 この手は確かに白の不良ビショップをなくさせるが、ほかに進展の図りようがない。

34.Kf2 Ng5

35.Bxg5?!

 これまたひどい手だが、たぶん米国ナンバーワンは中央の方へ取り返してくるとしか考えなかったのだろう。代わりに 35.Bxd4 なら 35…Rxd4 36.h4 Ne6 37.Rb2 Nf4 38.Rbb1 となって少し憂鬱だが持ちこたえているかもしれない。

35…fxg5! 36.Rd1 Ke6 37.Rd3 Rf7 38.Ra1

38…Rb8!

f3に生じさせた白の弱点の追及を続けている。38…Nxc2?! では 39.Rad1 とされて 39…Nd4 に 40.Nxe5! があるので白を解放させてしまう。

39.Rad1?

 非常に奇妙な手だが、たぶんナカムラは何か見損じが続いていたのだろう。白はじっくりと 39.Rf1 Rbf8 40.Kg3 と受けるべきだった。

39…Rbf8 40.Nxe5

 この手で当面は戦力の均衡が保てるが、局面を本当に救うことにはならない。まだ相当に悲観的な局勢だが、40.Nd2 Nxc2 41.Rc1 Nd4 42.Rc5 とやってみる方が良かった。

40…Kxe5 41.Rxd4 Rxf3+

42.Ke2

 この手のあと黒ルークがなだれ込んでくる。しかし 42.Kg1 でも 42…Rf1+! 43.Kg2(43.Rxf1? Rxf1+ 44.Kxf1 Kxd4 は自明のポーン收局である)43…R8f2+ 44.Kg3 Rxc2! で同じことである。

42…Rf2+ 43.Ke1 Rf1+ 44.Ke2 R8f2+ 45.Ke3 Rf3+ 46.Ke2 R1f2+ 47.Ke1 Rxh2 48.Rd5+

48…Kf4!

 アロニアンが最後の罠(48…Kxe4? は 49.R1d4+ Ke3 50.Rd3+ で千日手)に引っかからなかったので終わりは近い。

49.R1d4 Kxg4 50.Rc5 Rg3 51.Kf1 Rc3 0-1


米国ナンバーワンのヒカル・ナカムラにとっては最高の大会とはならなかったが、惨敗ともほど遠かった。レイティングを2点上げてトパロフとアーナンドを追い越し棋歴最高の世界第2位に到達した。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2015年12月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

布局の探究(166)

「Chess Life」1996年11月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

1.戦術的に激しく攻める(続き)

 次の実戦例ではもっと複雑な状況が見られる。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B90]
白 GMボビー・フィッシャー
黒 GMミゲル・ナイドルフ
バルナ、1962年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.h3

 GMフィッシャーは1960年代初めにこの手で短かったが好成績をあげた。

6…b5!? 7.Nd5!? Bb7?!

最善手は 7…Nxe4! – フィッシャー

8.Nxf6+ gxf6 9.c4! bxc4?

 9…b4(フィッシャー)または 9…Bxe4 10.cxb5 Bg7 11.Qg4 Bg6 12.Nf5 O-O と指す方が良い – ロシア1962年版年鑑

10.Bxc4 Bxe4 11.O-O d5 12.Re1! e5

 GMフィッシャーは『My 60 Memorable Games』(第40局)でこの試合を徹底的に分析している。本譜の手のほかに変化として6手をとりあげている。そのうちの2手(12…Rg8 と 12…h5)では 13.Rxe4! を手始めに白が勝つとしている。

13.Qa4+! Nd7 14.Rxe4!

 7.Nd5!? からフィッシャーは序盤を派手に指してきた。黒の最も働いている小駒はクイーン翼ビショップだった。急所のd5とf5の地点を守り、g2の地点をにらんで攻撃の見通しもあった。白の交換損の結果黒は白枡に大きな問題を抱え、キングは不安定で、白のキング翼ビショップまたはナイトは黒のキング翼ルークよりも働く可能性を秘めている。フィッシャーがこれらの要因を見事に利用してみせた。

14…dxe4 15.Nf5! Bc5 16.Ng7+! Ke7 17.Nf5+ Ke8 18.Be3!

 白は16手目と17手目で黒のキャッスリングを防いだ。そして本譜の手で黒の残りの働いている小駒を交換によりなくす。

18…Bxe3 19.fxe3 Qb6 20.Rd1 Ra7 21.Rd6! Qd8 22.Qb3 Qc7 23.Bxf7+ Kd8 24.Be6 黒投了

 ナイドルフはこれ以上苦しみを味わいたくなかった。フィッシャーは次の手順を想定している。24…Rb7 25.Qa4 Qc8 26.Qa5+ Ke8 27.Qxa6 Kd8 28.Bxd7 Rxd7 29.Rxd7+ Qxd7 30.Qxf6+ Kc7 31.Qxe5+ Kb6 32.Qxh8 黒のキング翼ルークの唯一の役目は32手目で取られることだけであった!

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2015年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(399)

「Chess」2015年10月号(1/3)

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定跡の動向

W.ソー – H.ナカムラ
シンクフィールド杯、セントルイス、2015年
キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.f3 f5 11.Be3 f4 12.Bf2 g5 13.Nd3 Ng6 14.c5 Nf6 15.Rc1 Rf7

16.Kh1

 これは先受けの手である。2011年ドルトムントでのマイヤー対ナカムラ戦では 16.a4 Bf8(16…h5 17.a5 g4 が用意していた改良手だったのかもしれない)17.a5 h5 18.cxd6 cxd6 19.Nb5 g4 20.Nxa7 Bd7 21.Qb3 g3 22.Bb6 で黒が苦戦に陥った。

16…h5

17.cxd6

 2014年ビルバオでのシロフ対バクロ戦では 17.Nb5 g4 18.cxd6 cxd6 19.Qc2!? g3?!(判断の誤り。黒はいつものようにポーンを見捨てて 19…Ne8 20.Nxa7 Bd7 と指すべきだった)20.Nc7! Rxc7 21.Qxc7 Qxc7 22.Rxc7 gxf2 23.Rfc1 Bd7 24.Rxb7 と進んで、白ルークが黒の小駒よりよく働いた。

17…cxd6 18.Nb5 a6 19.Na3

 ソーはこの新手を即座に指した。次の手もそうである。しかし機械を信頼しすぎていて、あの有名になったクラムニク対レーコーの世界選手権戦を思い起こさせる。

19…b5 20.Rc6 g4 21.Qc2 Qf8 22.Rc1 Bd7

23.Rc7?!

 ここに至るまでにはソーも相当時間を使っていた。しかし 23.Nb4 の方がはるかに強手だった。アニシュ・ギリは「ここで白の手番なら Rc6 と引く手を考える」と皮肉った。

23…Bh6 24.Be1 h4

 ナカムラは真のキング翼インディアン流に全速で突っ走り続けている。事態は既に白にとっていくらかまずくなっているが、ここでは本気で 25.Qd1 のような手でキング翼を支えることに努めなければならなかった。そして 25…h3 とくるなら形は悪くても 26.gxh3 Nh4 27.Bf1 と指す[訳注 27.Bxh4 とただ取りできるようです]。ソーの選んだ手にはキング翼インディアンの根本の理解がかなり足りないことが窺える。

25.fxg4?! f3! 26.gxf3 Nxe4!

 食い破った。

27.Rd1?

 f1でのチェックがあるのでこのナイトは取れない(27.fxe4 Rf1+ 28.Kg2 Be3 でまったく不本意な 29.Bg3 を強制される)。同様に 27.Rxd7 も 27…Rxf3! 28.Bxf3? Qxf3+ 29.Qg2 Qxd3 となって黒にとってやはりこの上ない態勢になる。30.Rd1 には驚愕の 30…Bd2!! があり、31.Bxd2 なら(または 31.Rxd2 なら 31…Nxd2 32.Bxd2 h3 で駒が完全にそっぽに行く)31…Nf4 32.Be1 Nf2+! 33.Qxf2 Qe4+ 34.Kg1 Nh3+ 35.Kf1 Nxf2 36.Bxf2 Qxg4 となって白のルークが両当たりになる。

27…Rxf3 28.Rxd7 Rf1+ 29.Kg2

29…Be3

観戦中に我が編集長が見つけた 29…h3+! 30.Kxh3 Rf2 の方がはるかに冷静だった。この手の良い点は 31.Bxf2(31.Nxf2 でも 31…Nf4+ 32.Kh4 Bg5#)31…Qxf2!! 32.Nxf2 Nf4+ 33.Kh4 Bg5# となることである。

30.Bg3

 30.Bxf1? は 30…h3+ 31.Kxh3 Qf3+ 32.Bg3 Ng5# なのでこの手は何よりもやってみる価値がある。

30…hxg3! 31.Rxf1 Nh4+ 32.Kh3 Qh6

 キングがこんな有様では白のルーク得は何の助けにもならない。

33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6 Rf6+ 38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5# 0-1

 ナカムラの力強い指し方が光った。現代のキング翼インディアンの名局としてきっと残るだろう。

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(この号続く)

2015年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(165)

「Chess Life」1996年11月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損

 交換損とはルークを切ってビショップまたはナイトと交換することを意味する。ルークと小駒に関する正確な戦力比はルーク=小駒+1½ポーンである。

 もちろん半ポーンなどというものはない。しかしこの等式を用いれば、交換損をする側が見返りにポーンも得ればその結果の戦力比をもっと良く理解することができる。すなわち(1)1ポーンを得れば、犠牲にした戦力はわずか半ポーンである。(2)2ポーンを得れば戦力を犠牲にしたどころか半ポーンの戦力をしたことになる。今のところ戦力比についてだけ言っていることに留意してほしい。

 次のような結果が達成できる時には、交換損をすることを考えてみるべきである。

 (1)攻撃するに際し重要な受け駒を取り除ける。

 (2)攻撃されるに際し重要な攻め駒を取り除ける。

 (3)小駒がルークよりも働くような局面にできる。

 今回は白が交換損をする可能性を考える。次回は黒の「大義」を考える。本稿は布局の段階に重きを置いているので、序盤の段階では白は(2)を気にする必要はない。

 A.攻撃するに際し交換損をする

 攻撃は戦術的に激しく攻めたり組織的な戦略に努めたりする形で現れることがある。それらを順に考える。

1.戦術的に激しく攻める

シチリア防御ロッソリーモ戦法 [B31]
白 GMアナトリー・ルティコフ
黒 GMエブゲニー・エルメンコフ
アルベナ、1976年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 g6 4.O-O Bg7 5.c3 Nf6 6.d4!? cxd4 7.cxd4 Nxe4 8.d5 Nd6 9.Na3 Ne5?!

 白のポーン損の代償ははっきりしない。しかし本譜の手のあと白は展開で手得する。正着は 9…Nb4 である。

10.Nxe5 Bxe5 11.Re1 Nxb5?

 当然 11…Bf6 と引くところだった。

12.Rxe5 f6

13.Nxb5! fxe5 14.d6

 白は交換損をして黒の唯一展開していた小駒を盤上から消した。この小駒はきわめて重要なd6とc7の地点を守る役目も果たしていた。黒は敗勢になった。14…exd6 と取ると 15.Nxd6+ Kf8 16.Bh6+ Kg8 17.Qd5# までとなる。

14…O-O 15.Bg5! Qb6 16.dxe7 Qxb5 17.exf8=Q+ Kxf8 18.Qd6+ Kg8 19.Bh6 黒投了

 19…Kf7 と受けても 20.Rd1 で黒は 21.Qf8+ からの詰みを防げない。例えば 20…Qb6 21.Qf8+ Ke6 22.Bg5 d5 23.Qf6+ Kd7 24.Qf7+! Kc6 25.Qd5+ Kc7 26.Bd8+ Kb8 27.Qxe5+ Qd6 28.Qxd6# までとなる。このようなことは何も驚くべきことではない。なぜなら交換損をした局面で白はすべての駒を用いているのに対し、黒はクイーン翼のルークとビショップが単なる傍観者となっているからである。

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2015年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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