2015年06月の記事一覧

后印防御の指し方(099)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 10.Ne5 の局面

 この局面で白は半素通しc列を利用することにより黒のcポーンを攻撃できるようになることを期待している。もしそのポーンがc5に進めば白は適時に dxc5 と取り半素通しになったd列を利用して黒のdポーンを攻撃することを考えている。しかし黒は …Re8 から …Bd6 のような手で半素通しe列で反撃することができるので、大きな不安を抱えてそのような将来に立ち向かう必要はない。

8.O-O d5 9.Bc3

 このビショップはいつかは再配置しなければならなかった。今こそその時である。変化は次のとおりである。

 9.cxd5? は 9…cxd5! で、d5の黒ポーンがしっかり守られていて白のg2のビショップが中盤戦に向けて特に好位置というわけではなくなるので、黒がわずかに優勢である。それと同時にa6の黒ビショップに絶好の素通し斜筋ができる。

 9.Nc3? は 9…dxc4 でポーン損になる。これに対する白の最善手は 10.Ne5 である。この手は 10…Qxd4 を期待していて 11.Nxc6! でかなりの戦力得になる。しかし 10…Bb7 11.bxc4 のあと黒は何の咎めもなく 11…Qxd4 と取ることができる。

 9.Ne5 は 9.Bc3 と同じくらい良い手である。予想手順は 9…O-O(9…dxc4 は 10.Nxc6! で戦力損になるので不可)10.Bc3(ここでは 10…dxc4 が本当の狙いになっていた)10…Nfd7 11.Nxd7 Nxd7 12.Nd2 Rc8 である。

 12…Rc8 の局面

(この章続く)

2015年06月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(098)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲)

7.Bg2

 代わりに 7.Nc3 なら(狙い筋の 8.d5 突きの狙い)、黒は 7…c6 と突くのがよく、後述する主手順の 8.Bg2 d5 に移行する。

 7.Nc3 c6 のあと別の狙い筋の 8.e4 突きは黒にとって危険でない。なぜならすぐに中央で 8…d5 と突き返すことができるからで、9.e5 なら 9…Ne4! 10.Nxe4?(10.Bd3 または 10.Qc2 の方が良い)10…dxe4 11.Ng1(ほかに行きようがない)11…Qxd4 で黒は少なくともポーン得になる。この変化は白は可能なら e2-e4 と突くべしという一般原則に対する例外である。その理由は白のビショップが場違いのd2にいることによる。上図で白の后翼ビショップがd2でなくb2にいる局面を想像すると、7.Nc3 c6 8.e4 d5 9.e5 Ne4 10.Nxe4 dxe4 と同じ手順をたどったとき 11.Nd2! で白がbポーンを失うのではなく黒がeポーンを失うことになる。

 7.Nc3 に対し 7…Bb7 は白の d4-d5 突きを防ぐ手段として少し不十分である。ポポフ対オーンシュテイン戦では 8.Bg2 c5?(8…O-O 9.O-O Ne4 と指す方が良い)9.d5 exd5 10.Nh4! と進んで白がポーンを取り返し優勢になった。このあとの手順については実戦例3を参照されたい。

7…c6

 黒は …d7-d5 突きの用意をしていて、cxd5 には …cxd5 と取れるようにしている。

 すぐに 7…d5 と突いてもまったくかまわない。8.Ne5 と来るなら 8…c6 9.O-O と応じて、本譜の 9.Bc3 の解説中の1変化と同じになる。白は黒が …c6 を省略したことにつけ込みたいならば 8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Ne5 と指すことができる。

 10.Ne5 の局面

(この章続く)

后印防御の指し方(097)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 14.Re2 の局面

 黒はdポーンを白のeポーンと交換したあとは、后翼ビショップが白のcポーンを攻撃するのにもうそのdポーンの助けに頼ることができない。だからこのビショップはもっと役に立つ斜筋に再展開された。

 それにもかかわらず形勢は白が少し優勢である。このあとのポーン同士の交換のあと后翼でポーンが3対2の多数派になる。キングがいるのとは反対の翼でパスポーンができる(要するに「外側」パスポーン)可能性が生じたので、長期的に有利である。相手のキングは外側パスポーンが8段目に到達するのを防ぐのに十分近くないことがよくあるので、このようなポーンは特に危険である。もちろん上図の局面からポーンを昇格させる見通しはずっと先のことなので、黒はそれを防ぐのに必要な手段を講じるのは間に合うはずである。それでも白が外側パスポーンを得るかもしれない可能性があるので、少なくとも黒は警戒を要するはずである。

(この章続く)

2015年06月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(096)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 11…cxb3 の局面

 黒はビショップと引き換えに4ポーンを得ている。どちらが優勢かは誰にも分からない。この手順はロシアンルーレットの心酔者にしか推奨できない!

 ウールマン対スミスロフ戦では 5…d5 6.Bg2 Bb4+ に不自然な 7.Nfd2? が指された。実戦例2では白がどのように罰せられたかが見られる。

6.Bd2

 これがチェックに対する最善の手段である。本章で前述した 4…Bb4+ の解説と比べてみるとよい。

6…Be7!

 これはこの布局で柔軟な着想を必要とする別の例である。黒はビショップをe7に配置するのに2手かけたことにより1手「浪費」している。しかし白は后翼ビショップを一時的に劣った地点に行かされたのでこれは正当化される。白が b2-b3 と突けばa1-h8の斜筋はこのビショップの最も効果的な居場所である。白はまだその斜筋に行かせることができるが(例えば Bc3)、自分も1手費やす手損をしなければならず黒の手損を打ち消しにしてやることになる。

 本譜の手の代わりに 6…Bxd2+ と取っても悪くはないが、白をもう少し自由にしてやる。次のように進みそうである。7.Nbxd2 d5 8.Bg2 O-O 9.O-O Nbd7 10.Re1 c5 11.e4! dxe4 12.Nxe4 Nxe4 13.Rxe4 Bb7! 14.Re2

 14.Re2 の局面

(この章続く)

「ヒカルのチェス」(376)

「Chess」2015年4月号(3/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

(クリックすると全体が表示されます)

H.ナカムラ – F.カルアナ
快速戦、第1回戦

 快速戦でさえ40手目が勝負の分かれ目となることがある。黒は交換損だが、白のキング翼の大きな割れ目のおかげで引き分けの可能性がないことはない。

40…Qb8?

 黒は 40…Qh8! を見逃した。これに対して 41.Qa7 とくるなら 41…Qh4 42.Rf1 Bd6 で、43.Qxb6?? は 43…Qf2! で白の方が負けてしまうので何も進展が図れない。

41.g5!

 陣地の拡張が決め手になった。

41…Bxh2 42.Rg4 Bd6 43.Rh4

 白はポーンを失ったがそれにもまして重要なことはルークが戦闘に加わったことで、カルアナはここから防御が効かなくなった。

43…h2 44.Qf1 Qa8 45.Kg2 Qb7 46.Qe1 Qa8 47.Re4 Qh8 48.Qh4 Qxh4 49.Rxh4 f6 50.gxf6+ Kxf6 51.Rh7 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

ヒカル・ナカムラ(左から5人目)は今年を派手な2大会連続優勝で飾った。最初はジブラルタル・オープン、そして今度はチューリヒ・チェスチャレンジだ。

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(この号続く)

2015年06月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(095)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 11…Bxc5 の局面

 この局面はいい勝負である。両者とも展開を完了しc列とd列を活用するように努めるのがよい。

 それでは主手順に戻る。

5.b3

 これが白の最も形を決めないcポーンの守り方である。后翼ナイトとクイーンをどこに展開するかは保留にしている。

5…Bb4+

 これまで考察してきたいろいろな戦型のように、ここでも 5…d5 は良い手である。通常は 6.Bg2 Bb4+ 7.Bd2 Be7 で主手順に戻る。しかし両者とも変化することができる。白は 6.Nbd2 と指すことができ、前述の戦型BとCで生じたのと似た局面になる。しかし 6.Qc2 はここでは緩い手となる。なぜなら 6…dxc4 7.bxc4 c5! で黒のcポーンと白のdポーンの交換により白のcポーンが孤立し攻撃にさらされるからである。

 5…d5 6.Bg2 のあと黒が冒険してみたいなら 6…dxc4 と指すことができ、7.Ne5 Bb4+! 8.Bd2 Qxd4 9.Bxb4 Qxa1 10.Bc3 Qxa2 11.Bxa8 cxb3 で大乱戦に突入する。

 11…cxb3 の局面

(この章続く)

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カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(094)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 5.Nbd2 の局面

 白はcポーンを守ると同時に再び e2-e4 突きを狙っている。いつものように 5…d5 は黒の本手だが、5…Bb4 と 5…c5 も非常に良い手である。5…d5 に対する白の最も安全な応手は 6.Qc2 で、戦型Bに移行する。しかし代わりに一時的なポーンの犠牲の 6.Bg2 で挑戦することもできる。黒は 6…dxc4 で挑戦を受けて立つ(安全に 6…Be7 と指して、戦型Bと似ているがまったく同じというわけではない局面にすることもできる)。そして 7.Ne5 で黒の后翼ルークが当たりになり、7…Nd5 が唯一の受けで、8.Nexc4 で白がポーンを取り戻す(しかし 8.Ndxc4 では駄目で、8…f6! でどちらかのナイトが取られる)。生じる局面は諸刃の剣である。白は e2-e4 突きで圧倒的なポーン中原を築くことができるかもしれないが、その際dポーンが弱体化しすぎないように注意しなければならない。そのあとは 8…Be7 9.O-O(9.e4 は 9…Nb4 で白のdポーンが落ちる)9…O-O 10.Qc2 c5 11.dxc5 Bxc5 と進むだろう。

 11…Bxc5 の局面

(この章続く)

2015年06月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(142)

「Chess Life」1996年1月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅳ.1.Nf3 b6

 黒はもちろん先に 1…Nf6 と指してから 2…b6 と突くことにより白の次の手を防ぐことができる。これは『チェス新報』の記号ではA17の型の閉鎖システムになるが、ここではまったく別の話である。

2.e4 Bb7 3.Nc3 クラムニク対エールベスト(モスクワ・オリンピアード、1994年) [B00]

3…e6

 代わりに黒は 3…c5 で疑似シチリア防御に向かうことができる。しかし本譜の手は「b6選手」にとって一番の選択肢になっている。

4.d4 Bb4 5.Bd3 Nf6

 たぶんこの手は意欲的すぎる。5…Ne7! で 6…O-O から 7…f5 と指す手は考えてみる価値があった。

6.Bg5!

 得たりやおう。黒が反撃してくるので白は中央の優位を生かすために迅速な展開が必要である。6.e5 は 6…Nd5 7.Bd2 Nxc3 8.bxc3 Be7 9.O-O c5 で、6.Qe2 も 6…d5! 7.exd5 Nxd5 8.Bd2 Nxc3 9.bxc3 Be7 でどうということもなく、黒が互角にしている。

6…h6 7.Bxf6 Qxf6 8.O-O Bxc3 9.bxc3 d5

 この手はうまくいかない。しかし 9…d6 もダウトフ対ケンギス戦(ダウガフピルス、1989年)で白の強力な攻撃を喫した。10.Nd2! e5 11.f4! exd4 12.e5 dxe5 13.fxe5! Qg5 14.Nf3 Qe3+ 15.Kh1 『チェス新報』第48巻第151局を参照。

10.exd5! Bxd5 11.Ne5 O-O 12.Qh5 Qd8 13.c4 Bb7 14.d5! Qd6 15.Rae1

 白は駒のすべてを守りの不十分な黒キングに向けている。白の攻撃の見通しのすべてについては『チェス新報』第62巻第86局のGMクラムニクの解説を参照されたい。

15…exd5 16.Qf5 g6 17.Qh3 Kg7 18.Nxf7! Kxf7 19.Qxh6 Rg8

 ここは正念場である。白は 20.Re3! で勝てる。GMクラムニクの示した主手順は 20…Nd7 21.Qh7+ Kf8 22.Rf3+ Nf6 23.Bxg6 Qe6 24.cxd5! Bxd5 25.Qh6+ Ke7 26.Re3 Ne4 27.Qh7+ Kd6 28.Bxe4 である。

20.f4? Nd7!

 白の逸機で黒はちょうど受けが間に合った。

21.f5 Rh8! 22.fxg6+ Kg8 23.Qf4 Qxf4 引き分け

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2015年06月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

后印防御の指し方(093)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 8…c5 の局面

 この戦型の多くの局面のように黒の后翼ビショップはa6-f1の斜筋に展望があり、白の王翼ビショップはh1-a8の斜筋に展望がある。中央でのポーン交換はいつか必ずおこり、両者は適切な時機を判断しなければならない。局面は緊迫していていい勝負である。いつものようにうまく指した方に勝利がほほ笑む。

 C:5.Nbd2

 5.Nbd2 の局面

(この章続く)

后印防御の指し方(092)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 5.Qc2 の局面

 この手が 5.Qa4 に優るのは、白クイーンがより中央に近く位置しすぐに 6.e4 と突く狙いがある点である。5.Qc2 の欠点は …d7-d5 を防いでいないということである。だから黒は 5…d5! と突く。この手は e2-e4 突きを防ぎc4に圧力をかけている。黒はこのdポーンを白のcポーンと交換してa6のビショップの利きが延びることを期待している。だから 6.cxd5? は黒の注文どおりである。6…exd5 のあとa6のビショップは白のeポーンを脅かし、黒はあとでルークをe8に回して白が親切にも半素通しにしてくれた列に圧力をかける機会にも恵まれる。5…d5! のあとは 6.Nbd2 Be7 7.Bg2 O-O 8.O-O c5 と進むだろう。

 8…c5 の局面

(この章続く)

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カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(091)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 8…Qb6 の局面

 ポーンと引き換えに黒は駒の働きが非常に良くなった。…Nc6、…Bb4、…O-O、…Rfc8 そして …Rab8 のような手で后翼に戦力を集中させることができる。そのあとは適当な攻撃目標を選ぶことができるが、それは白がどう防御態勢を布くかによって白のb、dまたはeポーンのどれになるかが決まってくるかもしれない。上図の局面で白のポーン得が黒の攻撃的な陣形と釣り合っているので、客観的にはほぼいい勝負だろう。しかし実戦ではこの局面から指し続けると黒の方が非常に成績が良い傾向がある。たぶんこれはほとんどの選手が受けるよりも攻める方が容易であることによるものだろう。実戦例1のトゥクマコフ対グリコ戦は白の受けが正確さを欠けば黒が何を達成することができるかの一例となっている。

 B:5.Qc2

 5.Qc2 の局面

(この章続く)

后印防御の指し方(090)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 9.Kxg2 の局面

 局面はほぼいい勝負である。両者とも相手から過度の干渉を受けることなく展開を完了することができる。白はc4のポーンにより少し陣地が広いが、黒は十分反撃できるはずである。典型的な試合(ファン・スヘルティンハ対ケレス、ベーバベイク、1964年)は次のように進んだ。9…Bc5 10.Nf3 O-O 11.Nc3 Nc6 12.Bg5 h6 13.Bxf6 Qxf6 14.Rad1 Rfd8 15.Qc2 Nb4 16.Qb1 Nc6 ここで両対局者は引き分けに合意した!もちろん敵対行為の放棄は時機尚早だった。しかし二人の強豪選手が最終局面を十分均衡がとれていて引き分けが順当な結果と考えていたわけではない。

 5…c6 これは 5…c5 よりも意欲的な手である。黒の希望は …b6-b5 と突いてそこでのポーン交換のあと …b5-b4 と突いて、自分の后翼ビショップのためにa6-f1の斜筋を恒久的に素通しにすることである。このあとは 6.Nc3(…b6-b5 を思いとどまらせるため)6…b5!(たとえポーンを犠牲にしても断固作戦をやり遂げる)7.cxb5 cxb5 8.Nxb5 Qb6 と進みそうである。

 8…Qb6 の局面

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(375)

「Chess」2015年4月号(2/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

 ナカムラは 2½/3 でこのまま逃げ切るように思われたが、天王山の対決となった次の第4回戦では完全に圧倒され引きずり落とされた。

V.アーナンド – H.ナカムラ
第4回戦、クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7 4.Nf3 Nf6 5.Bf4 O-O 6.e3 Nbd7 7.c5 Nh5

 ナカムラの最大の敵カールセンは昨年のアーナンドとの番勝負第3局でクラムニク愛用のこの手を指さず 7…c6 と指して負け酷評された。

8.Bd3 Nxf4 9.exf4 b6 10.b4 a5 11.a3 c6 12.O-O Qc7

 このような陣形は二ムゾインディアンからも生じる(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 O-O 5.Nge2 d5 6.a3 Bd6 7.c5 Be7 8.b4 など)。そして近年は多くのグランドマスターの試合でその耐久性が示されている。黒が非常に堅固であることは疑いないが、明らかなことは白が陣地の広さの利から何かを絞り出すことができるとアーナンドがまだ信じているのがありありだということである。

13.g3 Ba6 14.Re1 Bf6

15.Kg2!?

 新手。アーナンドは急がずに陣形を少し改善する手を指し、その間黒がどのようにルークを展開するのか見るために手待ちした。ナカムラ自身も2010年アムステルダムでのナカムラ対ニールセン戦で 15.Bc2 Bc4 16.Qd2 Ra7 17.Ne5 axb4 18.axb4 bxc5 19.bxc5 Nxe5 20.fxe5 Be7 21.Rab1 Rfa8 22.Rb4 Bd8 と指して成果が得られなかった。

15…Bxd3

 ナカムラも陣形を変えるよりも手待ちで満足している。しかし 15…bxc5!? 16.bxc5 Nxc5 のあとアーナンドが何を考えていたのか見るのも面白かっただろう。そのあと 17.Bxh7+ Kxh7 18.dxc5 Rab8(18…Bxc3 は 19.Ng5+ Kg8 20.Qc2! で白が駒を取り返して優勢になる)19.Ne5 Kg8 なら黒が問題ないはずだろうが、白は 17.dxc5!? Bxc3 18.Bxh7+ Kh8 19.Bc2 と勝負手(または深く研究してきた手)を指したかもしれない。その意図は 19…g6 20.Re3 Bxa1 21.Qxa1+ Kg8 22.h4! で交換損の代わりに攻撃を非常に強力にすることである。

16.Qxd3 Rfb8 17.h4!

 白は役に立つ広さを確保した。クラムニクならあまり苦労せずに黒側を守ることができるだろうが、そうでない者はたとえナカムラのような世界級の選手にとってさえ容易でない。

17…Qa7

 黒はまだ融通性がある。しかし 17…bxc5!? 18.bxc5 a4 と強く指して少なくともb3に拠点をもたらすこともできた。

18.Ne2 g6 19.Rab1 axb4 20.axb4 Qa2

 ナカムラはa列を手に入れたが、アーナンドは黒が実際にはそれで大したことができないことを分かっている。その間に白はほかの7列で事を進めることができる。

21.Rec1!

 白はあわてて 21.b5 と突かないようにしながら圧力を強めた。そう突くと 21…bxc5(21…Rc8!? も可能で 22.Rec1 なら 22…bxc5 23.dxc5 cxb5 24.c6 Nb6)22.bxc6 c4 23.Qd1 Nb6 24.Ne5 Qa6 となって、cポーンがいつか落ちるのでたぶん黒は問題ないだろう。

21…bxc5

 21…Ra3? は 22.Qd1! で白の直前の手のために黒クイーンが動けないので非常に具合が悪いことになる。

22.bxc5 h5

 キング翼を閉鎖的にしたが、ナカムラほどの積極派の選手ならもうすでに別の布局を選んでいればと思ったに違いない。ここで 22…Ra3 は1手前よりも好機だっただろう。もっとも 23.Rxb8+ Nxb8 24.Qd1 Qb3 25.Qxb3 Rxb3 26.Ra1 で白がまだ優勢を保持したままで好調である。

23.Ne5

 ついに白が前進を図る時が来た。c6とg6の地点をにらむことにより交換を強制している。

23…Nxe5 24.fxe5

24…Bg7?

 ナカムラは判断を誤った。彼は明らかに不快さを感じていたが、24…Bd8! を見つけることができたはずだった。そして 25.Nf4 とくれば 25…Kg7 26.Qd1 Qa7 と応じる。しかしこれとてもそんなに快適な受けではない。例えば 27.Nh3 Qc7 28.Rxb8 Rxb8 29.Ra1 Rb5 30.g4! となれば黒キングに対する圧力が大きくなり始める。

25.Rb6 Rc8

 万全ではないが、25…Rxb6 26.cxb6 で白にとてつもないパスポーンを作らせるわけにはいかなかった。

26.Nc3 Qa7 27.Rcb1

 白にとって夢のような局面になっている。黒は右往左往する以外ほとんど何もできず、その間ひたすら白がクイーン翼で突破することもできず反対翼で強力な攻撃をしかけることもできないことを願うばかりである。

27…Qd7 28.R1b4!

 アーナンドは急がない。本譜の手は素通し列で三重駒のもくろみを可能にするものだが、決して実際にそうすることが必要なわけではない。

28…Bh6 29.Na4

 29.Qb1?! なら 29…Bd2! で黒の受けが楽になったところだが、このナイトは喜び勇んでb6に降下する。

29…Qd8 30.Ra6!

 これも好手だった。白は一組のルークを交換して残りの3駒の動く余地を作り、クイーン翼で黒の2個の受け駒を圧倒するのが希望である。

30…Kg7 31.Rb7 Rxa6 32.Qxa6 g5

 捨て鉢の手だが、黒は駒を1個損しているような状態ではほかに何もできないだろう。

33.Qe2!

 人間ならではの落ち着いた手。カルポフならこの手と試合全体を誇りとしただろう。代わりに 33.hxg5 Qxg5! 34.Rxf7+ Kxf7 35.Qxc8 Qg4 でもまだ勝勢だが、黒に不必要に反撃を与える必要はない。

33…g4

 言いなりだが、33…gxh4 34.Qxh5 とさせるわけにはいかなかった。そして 34…Rc7 なら 35.Rxc7 Qxc7 36.Qg4+ Kf8 37.Qxh4 となって、ポーン得でクイーンとナイトによる伝説的な攻撃態勢になる。

34.Qa6 Qg8

 ナカムラはクイーンを働かせる手段を見つけた。非凡な手だが形勢挽回には至らない。もっと頑強な受けは 34…Rc7 35.Qb6 Rc8 だが、36.Qa7 Ra8! 37.Rxf7+ Kg6 38.Qb7 Rb8 39.Qe7 Qxe7 40.Rxe7 Kf5 41.Nc3 となって、黒が持ちこたえるとは到底思えない。

35.Nb6 Rf8 36.Nd7 Qh7

 これが黒の狙い筋だったが、アーナンドはすべて掌握していた。

37.Nxf8 Qe4+ 38.Kh2 Kxf8 39.Rb8+ Kg7 40.Qc8 Kg6 41.Qh8! 1-0

 黒にとって不運にできていて 41…Qf3 42.Rg8+ Kf5 43.Qh7# までとなる。

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(この号続く)

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后印防御の指し方(089)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 5.Qa4 の局面

 この手には目的がいっぱいある。cポーンを守るほかにも、…Bb4+ を防ぎ、さしあたって …d7-d5 突きを抑止し(d7のポーンが釘付けになっている)、黒の后翼ナイトをa6のビショップの守りに縛りつけている。この手の欠点はa4の白クイーンの役割が主として後ろ向きということである。このクイーンは端的に言ってこの地点にふさわしくない。中央のもっと影響力を発揮できる地点がふさわしい。d1なら d4-d5 突きを支援できるし、c2なら e2-e4 突きを支援できる。黒には 5.Qa4 に対し良い応手が二つある。

 5…c5 后印防御の特質の一つはその融通性である。試合の早期に中央ポーンを突くのを控えることにより、黒はあとで色々なポーンの突き方の選択肢を保留している。4…Ba6 の戦型では通常は …d7-d5 が最も適切なポーン突きだが、この局面では不可能なので黒は予備の作戦の …c7-c5 に頼る。

 そして 6.d5? は中央の支配を奪い取ろうという賢い手だが、6…exd5 7.cxd5 Bb7(7…Nxd5 は 8.Qe4+ で白の駒得になる)でいまくいかず白は進攻したポーンを支援することができない。8.Nc3 Nxd5 9.Qe4+ は 9…Qe7 という手段があって失敗するし、8.e4 は 8…Qe7 9.Bd3 Nxd5 または 9…Bxd5 と応じられる。

 だから想定される手順は次のようになるだろう。6.Bg2 Bb7!(これも后印防御の融通性の表れである。白は対角斜筋を支配しようとしていた。例えば 6…Be7? なら 7.Ne5! である)7.O-O cxd4 8.Nxd4(7…cxd4 の局面は 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Bb7 5.Bg2 c5 6.O-O cxd4 の局面と同じである(第2章を参照)。ただし白クイーンがd1でなくa4にいて、黒がビショップをb7に行かせるのに2手かけている。しかし白クイーンのa4への「展開」は実際は欠点となっている。というのは白はここで Qxd4 と指せないので、一般に黒を楽にさせる白枡ビショップ同士の交換を避けられないからである)8…Bxg2 9.Kxg2

 9.Kxg2 の局面

(この章続く)

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后印防御の指し方(088)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲)

 后印防御の初期の頃には 4…Ba6 は奇異で、断じてまともに受け取ってはいけない手と見なされていた。この手を無視させた論拠はおおよそ次のようなものだった。

 1.完全に良好でもっと長いa8-h1の斜筋があるのに、どうして后翼ビショップをa6-f1の斜筋に展開するのだろうか。

 2.さらにb7のビショップは后印防御で常に急所となるd5とe4の地点を支配している。a6ではそうならない。

 3.4…Ba6 が白のcポーンを当たりにしているのは確かだが、簡単に守れるポーンを攻撃することにどんな意味があるのか。

 次に反論を見てみよう。

 1.もちろんa8-h1の斜筋は重要である。しかしそれが唯一の斜筋というわけではない。a6のビショップはc4のポーンを当たりにしているだけでなく、e2の白ポーンも攻撃目標になるかもしれない。ビショップは多くの布局で最長斜筋に展開することができる。しかしそのような展開ができるからといってそれが最善ということにはならない。多くのことがほかの駒がどのように展開されているか、そして相手が自陣側で何をしているかということにかかっている。

 2.黒はd5とe4の地点を厳重に見張っていなければならない。それは本当である。しかし当面白はこれらのどの地点もポーンで占拠することを狙っていない。5.d5 は 5…Bxc4 でポーンを取られるし、5.e4 は 5…Nxe4 と取られる。事が順調に運べば黒は后翼ビショップの支援なしに(…d7-d5 のような手によって)これらの急所の地点を十分支配していけるかもしれない。

 3.白にはcポーンの妥当な守り方が4手もあるけれども、これから見るようにそのどれも少し欠点がある。だから 4…Ba6 には少なくともいくらか嫌がらせの価値がある。

 以上の反論には次のように付け加えることができる。黒のビショップは最終的にa6の地点にいるものと決まっているわけでは決してない。いつでもb7に戻ることができる。たとえそれにより(最悪の場合)1手損しても、その間に白陣に決定的な混乱を引き起こしたかもしれない。

 現在のところこれらの反論は少なくとも成り立っている。4…Ba6 は 4…Bb7 に代わる完全に満足な手と一般にみなされている。

 4…Ba6 の戦型における白の全般的な戦略は、黒のビショップがa6でそっぽにいることを示そうとすることである。白は安全に d4-d5 または e2-e4 と突くことができれば、通常はこの目的を達成することになる。これらの手はそれほど重要なので、機会があればたとえその時点で駒の展開が完了していなくても突くべきである。

 もちろん黒の戦略には白が有利な状況で d4-d5 または e2-e4 と突くのを防ぐことも含まれている。しかしこの作戦は決して完全に後ろ向きのものではない。a6のビショップが威力の源であることを示すことも希望している。もし状況が黒の有利に進めば、それは白のg2のビショップが場違いであるということかもしれない。もしそのビショップが黒のa6のビショップを無効にするためにf1に戻らされれば、黒は実際に心理的に勝ったことになり、たぶん非常に大きなものとなるだろう。

 4…Ba6 のあと白はcポーンを守らなければならない。5.Bg2 は 5…Bxc4 6.Ne5(ビショップとルークの両当たり)6…d5? 7.Nxc4 を期待した罠だが、黒に単に 6…Bd5 と指されると完全なポーン得となって白の裏目に出る。

 主手順で解説する 5.b3 に加えて、白のcポーンの守り方には妥当な手段が三通りある。

 A:5.Qa4

 5.Qa4 の局面

(この章続く)

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后印防御の指し方(087)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 10.O-O の局面

 この局面はいい勝負である。白は自陣の4段目のポーンが黒の1個に対し2個ありe5に攻撃的なナイトがいるので広さで少し優勢である。しかし黒は陣形が堅固なので、…Nfd7 のような手で白の前進したナイトの交換を図り …c7-c5 で中央で打って出ることにより白の一時的な優勢を無効にできるはずである。

 全体的な結論としては 4…Bb4+ は悪手ではないが、白の最善手(5.Bd2!)に対しては互角の見込みを維持するのにいくらか苦労する。だから 4…Bb7 または 4…Ba6 の方が良いと考えられる。4…Bb7 は前章で取り上げた。ここでは 4…Ba6 を取り上げる。

4…Ba6

(この章続く)

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布局の探究(141)

「Chess Life」1996年1月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅲ.1.c4 b6 [A10]

 黒の 1…b6 はたぶん真のイギリス布局の使い手にとってもっとも厄介な手である。彼らは通常の手順の戦略的な捌きが好きだし自分の好むdポーン布局に移行するのを好むからである。ここではそのどちらの可能性もない。代わりに 2.d4 は戦型Ⅱに移行するし、2.Nf3 Bb7 3.g3 は黒が 3…Bxf3!? 4.exf3 c5 5.d4 Nc6! でd4の地点を争って指すことができる。キング対プラスケット戦(ロンドン、1991年)の参考になる試合は 6.d5 Nd4 7.Be3 Nf5 8.Bd2 g6 9.Bc3 Bg7 10.Bxg7 Nxg7 11.f4 Nh6 12.Bh3 O-O 13.Nd2 e6 14.Nf3 Qf6 15.Rb1 d6 16.dxe6 Qe7! 17.O-O fxe6 18.Re1 Nhf5 19.Qe2 Rae8 20.Qd2 Qf6 と進んだ。ほぼいい勝負で、両者はここで合意の引き分けにした。

2.e4

 この手はセルペル対イェルモリンスキー戦(世界チーム選手権戦、ルツェルン、1993年)で指された。白は黒のクイーン翼ビショップの斜筋をさえぎってからキング翼を展開する。最初に 2.Nc3 と指しても同じことになる。

2…Bb7 3.Nc3 e6 4.Nf3 Bb4 5.Qb3

 この手は本局の前までは高く評価されていた。しかしGMイェルモリンスキーは手損となることを明らかにする。だから 5.Bd3 と展開することが必要である。もっとも黒は 5…Ne7! 6.O-O O-O 7.Re1 f5! で何の問題にも出会っていない。特に参考になる戦略上の誤りはここで 8.e5? と突く手で、ヒューブナー対マイルズ戦(バート・ラウターベルク、1977年)では 8…Ng6 9.Bf1 Bxf3! 10.Qxf3 Nc6 と進んで黒が優勢だった。

5…Na6! 6.Be2

 代わりに 6.a3 は 6…Nc5! という手筋を食らう。D.クラムリング対シュスラー戦(スウェーデン、1993年)は 7.Qc2(7.Qxb4?? は 7…a5 8.Qb5 Bc6 でクイーンが捕まる)7…Bxc3 8.Qxc3 Nxe4 9.Qxg7 Qf6 10.Qxf6 Ngxf6 11.d3 Nd6 12.Be2 Ke7 でほぼ互角だった。「安全な」6.d3 のあとリュボエビッチ対ファン・デル・ビール(アムステルダム、1988年)で黒は 6…f5! 7.exf5 Bxf3 8.gxf3 exf5 で反撃できた(『チェス新報』第46巻第9局を参照)。

6…Ne7 7.O-O O-O 8.d3 Ng6

 GMセルペルはもっときつい 8…f5!? 9.e5 f4 に注意を喚起し形勢不明としている。

9.Bd2 d6 10.a3?!

 ここでもこの手は戦術上の問題に遭遇する。すぐに 10.Qc2 ならほぼ互角の形勢のはずである。

10…Nc5! 11.Qc2 Bxc3 12.Bxc3 f5!

 黒は中央とキング翼に主導権を持っていてそのため少し優勢である。残りは記号をいくつか付けるにとどめる。完全な解説は『チェス新報』第59巻第5局のGMセルペルの解説を参照されたい。

13.exf5 Rxf5 14.d4 Ne4 15.Bd3 Ng5! 16.Nxg5 Qxg5 17.Be4 Bxe4 18.Qxe4 Re8 19.Rae1 Nf4 20.g3 d5! 21.cxd5 Nxd5 22.f4 Qg4 23.Bd2 h5 24.Qf3 Qxf3 25.Rxf3 g5! 26.Rf2 g4 27.Rfe2 Kf7 28.Rc1 Rh8? 29.Rc6! Re8 30.Kg2 Re7 31.Re1 a5 32.b4 axb4 33.axb4 Nf6 34.Re5! Rxe5 35.dxe5 Ne4 36.Be1 Kg6 37.Kf1 Kf5 38.Ke2 Rd7 39.Ke3 Rd1 40.Ke2 Rd7 41.Ke3 Rd1 引き分け

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2015年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(086)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 4…Bb4+ 5.Bd2

 これが 4…Bb4+ に対する白の最善の応手である。黒には可能な応手が四つあるが、そのどれでも白がほんのわずか優勢になる。

 5…a5 この手は白が 6.Bxb4? で黒に二重bポーンを作らせることに誘惑されればうまくいく。6…axb4 のあと黒のb4のポーンは …c7-c5、…Nc6 それに …Qe7 によって支えられるので本当は弱くない。実際のところこのポーンは白の后翼を押さえ込む効果を発揮していて、特に白の后翼ナイトが最適の地点のc3に行くのを防いでいる。さらに半素通しa列も黒の役に立つかもしれない。

 5…a5 の問題は白がこのaポーンを完全に無視して 6.Nc3! から 7.Bg2 そして 8.O-O と指すことができることにある。この手順中 6.Nc3! が 5.Nc3 に当てはまった不利益をこうむらないのは、ここでは后翼ナイトが釘付けになっていなくて黒が …Ne4 と指せないからである。5…a5 6.Nc3! のあとは后翼防御の多くのほかの局面に似た局面になる。しかし重要な相違点は …a7-a5 突きがほとんど無駄な見当違いの手になっていることである。だから白の見通しの方が少し良い。

 5…Qe7 この手も 5…a5 と同様に白が義理堅く 6.Bxb4 と取ってくれる場合のみうまくいく。6…Qxb4+ のあと白は気に入らない2手から選択しなければならない。7.Nbd2 なら 7…Qxb2 と取られて白には犠牲にしたポーンの具体的な代償がない。7.Qd2 なら 7…Qxd2+ 8.Nbxd2 となってクイーン同士の早い交換のために白には布局で優勢になる見通しがほとんどない。黒は 7…Qxc4 と取ることもでき、白が損したポーンの代わりに得たものを見つけることは難しい。

 6.Bxb4 の代わりに白は 6.Nc3 と指してe7の黒クイーンがあまり役に立たないようにさせるのが良い。6.Bg2 でキャッスリングの用意をするのも良い手である。黒はクイーンがビショップの引き場所のe7をふさいでいるので、いつか …Bxc3 と取らされてビショップとナイトとに対する双ビショップの少しの有利を白に譲ることになりそうである。

 5…Be7 この手損(ビショップが1手で行けた所に2手かけて行った)は白が 6.b3? と指してくれるなら、黒が 6…Ba6 で本譜に移行できるので正しいことになる。代わりに白は 6.Nc3! と指すのが良く、6…Ba6 に 7.e4! と突いてf1のビショップでcポーンを守ることができる。7.e4 のあと白は強力な中央ポーンにより優勢が保障される。后印防御ではいつものことだが白は無事に e2-e4 と突ければ好調である。

 5…Be7 6.Nc3 のあとの黒の最善手は 7.e4 を防ぐ 6…Bb7 である。7.Bg2 のあと局面は第2章で分析した戦型に移行するが、白が「ただで」Bd2 と指した点だけは違っている。この手はいくつかの点で役に立っていて、白がルークを迅速にc1に置くためにc2の地点を空けている。白がいくらか優勢である。

 5…Bxd2+ これが黒の最善手である。6.Qxd2 のあと(6.Nbxd2 は黒が 6…Ba6? と指してくれるなら 7.e4! と突けてよいが、黒は 6…Bb7 で e2-e4 突きを防ぐことにより満足できる局面にすることができる)、想定手順は 6…Ba6 7.b3 d5 8.Bg2! c6 (8…dxc4 は 9.Ne5! で 10.Bxa8 の狙いが非常に受けづらい)9.Ne5 O-O 10.O-O である。

 10.O-O の局面

(この章続く)

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后印防御の指し方(085)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 4…Bb4+ 5.Nbd2

 5.Nc3 と同じようにこの手も白が自ら后翼ナイトを釘付けにするという小さな欠点を抱えている。5.Nc3 と異なるのは二重ポーンをかかえるという危険は冒していないことである。

 5.Nbd2 のあと黒には不満のない局面を得る手段がいくつもある。その中でも 5…O-O と 5…Ba6 は単純な展開の手であり、5…c5 はすぐに中央に打って出るもっと積極的な手である。5.Nbd2 に対する黒の最も信頼できる対抗手段として著者らが推奨する手は 5…Bb7 である。白は 6.Bg2 と応じるのが良く、第2章で分析した 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Bb7 5.Bg2 Bb4+ 6.Nbd2 の局面に移行する。

 黒は 5.Nbd2 に対する良い応手がいくつかあるけれども、何でも良いという誤った思い込みに陥ってはいけない。5…d5?? のあと賭けに出ているのは黒の方だけである!白は 6.Qa4+! と指し 6…Nc6 に 7.Ne5! で駒得になる(7.Qxc6+ は 7…Bd7 でクイーンを脱出させるのに苦労するのでもっと複雑になる)。

 C:5.Bd2!

 4…Bb4+ 5.Bd2

(この章続く)

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后印防御の指し方(084)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 4…Bb4+ 5.Nc3

 この手は黒の注文どおりである。第一に白は自ら釘付けにかかり、少なくともしばらくは后翼ナイトが完全に動けなくなる。第二に白は …Bxc3+ に bxc3 と応じることにより二重cポーンが攻撃目標にされる危険を冒している。これらの不都合のどちらも破滅を招くほどではない。特に白は代償として双ビショップが得られるからであるが、黒は布局から指しやすい局面になるのに困難がないはずである。しかし黒は …Bxc3+ を急ぐべきでない。この釘付けは役に立ち、交換(またはビショップ引き)が有利な結果をもたらすまで維持すべきである。

 5.Nc3 のあと黒は 5…O-O、5…Bb7 または 5…Ba6 のような単純な展開の手で理にかなった局面にすることができる。しかし本書ではもっと積極的に 5…Ne4 で 6…Nxc3 から戦力得を狙うことを推奨する。もし白が 6.Bd2 と守れば、黒は 6…Nxd2 と取ってビショップとナイトに対する双ビショップのわずかな優位を手にすることができる。また、白が 6.Qc2 と守れば、6…Bb7 7.Bg2 f5 8.O-O Nxc3 9.bxc3 Be7 と進んで黒の有望な局面になるかもしれない。白の二重cポーンは弱体化するかもしれず、黒は要所のe4の地点(后印防御ではいつも重要な地点である)をしっかり支配している。

 B:5.Nbd2

 4…Bb4+ 5.Nbd2

(この章続く)

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后印防御の指し方(083)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン(続き)

(再掲) 4…Bb4+ の局面

 黒が 1…Nf6 から 2…e6 と指し始める戦型でb4は黒の王翼ビショップの最も適した地点になることがよくある。実際 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 のあと 3…Bb4 は明らかに黒の最善手である(これは二印防御の手順で、本書の範囲外である)。后印防御では白は Nf3 と展開し、黒が …Bb4+ と指してもこのビショップがc3の白ナイトを釘付けにすることのないようになっている。たとえそうであっても …Bb4+ は悪い手ではない。なぜなら黒の王翼ビショップは好所に展開し、チェックを受ける必要がないならば選択しないかもしれない地点に白の后翼ナイトまたは后翼ビショップを来させるからである。4…Bb4+ のあと白にはチェックを受ける手段が三通りあり、順番に分析していく。

 A:5.Nc3

 4…Bb4+ 5.Nc3

(この章続く)

2015年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(082)

第3章 王翼ビショップのフィアンケット 黒の攻勢 レイモンド・キーン

 第2章ではフィアンケット戦法における黒の最も普通の4手目の 4…Bb7 を取り上げた。この章では黒のもっと攻撃的な手の 4…Bb4+ と 4…Ba6 とを分析する。主として注意を傾けるのはより独立的な意味を持つ 4…Ba6 である。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3

 主手順の 4…Ba6 を論じる前に 4…Bb4+ を簡単に見ておこう。

 4…Bb4+ の局面

(この章続く)

2015年06月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(374)

「Chess」2015年4月号(1/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ

(クリックすると拡大されます)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.h3 e5 7.Nde2 h5!?

 本誌で以前にこの先受けの強手にはお目にかかったことがある。

8.g3

 これが最新型である。2012年の後半ではまだ 8.Bg5 が主流で、8…Be6 9.Bxf6 Qxf6 10.Nd5 Qd8 11.Nec3 Nd7(11…g6!? の方がずっと正確かもしれない)12.Bc4 g6 13.a4 Bh6 14.a5 Rc8 15.Ba2 O-O 16.O-O Kg7 で両者とも長期的な切り札にかけることができた。これは2012年ロンドンでのアーナンド対ナカムラ戦で、非常に難解な收局になって引き分けに終わった。本誌2013年2月号のデイビド・ハウエルの解説を参照されたい。

8…Nbd7

 黒はキング翼ビショップの展開を当面差し置いた。私(リチャード・パリサー)はシロフ戦で 8…Be7 9.Bg2 b5 10.Nd5 Nbd7 11.Nec3 Bb7 12.Nxe7 Qxe7 13.Bg5 Qe6 と指した。

9.Bg5 Be7

 ここで初めて釘付けをはずすためにビショップが動いた。カルアナはこのような陣形ではありふれた着想であるけれども新手で応じた。

10.a4 Nc5 11.Bg2 Be6 12.a5 b5!?

 ナカムラはこの段階でもまだかなり速く指していて、対局前の研究で孤立aポーンができても問題にはならないと気づいていたのかもしれない。

13.axb6e.p. Qxb6 14.b3 O-O 15.O-O a5!

 フィッシャーの試合で示されたようにこのaポーンは孤立するかもしれない。しかし弱点になるというものでもなく、ここでは白のd5の支配と相殺するために黒が反撃を目指すのに役立っている。

16.Qd2

 白は落ち着いて展開を完了した。もっと直接的にいく手もあったかもしれないが、16.Nd5 Bxd5 17.Bxf6 Bxf6 18.Qxd5 h4! はあまりぱっとしないし、16.Bxf6 Bxf6 17.h4 a4! 18.bxa4 Qc6 19.a5 Bd8 も黒の反撃が好調である。

16…Rfc8 17.Rfd1

 白陣は調和がよくとれているが、そうするまでに手数がかかった。その間に黒は駒がよく動くようになり、ナカムラはここでもう待てないと決断した。

17…a4!? 18.bxa4 Bc4 19.a5!

 米国の戦術の達人はこの手を見越してポーンの代わりに十分な形勢になると判断したと思われた。

19…Qd8!

 クイーンが下がったが、当然 19…Rxa5? は 20.Bxf6! Bxf6(20…Rxa1 なら 21.Bxe7)21.Nd5 Bxd5 22.Qxa5 で悪い。

20.Bxf6 Bxf6 21.Qxd6 Qxd6 22.Rxd6

 最初は黒のポカだったと思うかもしれない。しかし黒はポーン損のうちの1個を取り戻すことになる。一流選手はいつも双ビショップを高く信頼するものである。

22…Nb7 23.Rd2 Rxa5 24.Rb1 Nc5 25.Nd5 Bd8

 黒はある時点でd5で駒交換をして異色ビショップの收局に持ち込みたいのかもしれないが、急ぎはしない。白はd5に絶好のナイトがありポーンも得しているが、どのように進展を図ることができるかを見通すことはカルアナにとって簡単どころではない。

26.h4!

 手始めの好手はh5の黒ポーンを固定することだった。

26…Ra3

 この手は次の手と相まって非常に積極的である。しかしたぶん最善でなかった。このあとナカムラがa列で楽観していたことがおいおい分かってくる。ここでは 26…g6!? 27.Nec3 Kg7 と自陣を整備した方が良かったかもしれない。

27.Nec3 Rca8 28.Rdd1

 すぐに 28.Nb5!? でc7とd6の地点をにらむ手もあっただろう。28…Ra2 とやってくれば 29.Nd6 Ba5 30.Nxc4 Bxd2 31.Nxd2 Rxc2 32.Nf3 で押し気味の局勢になる。

28…Ba5 29.Nb5 Ra2

 黒は動いていかなければならない。しかし白はまだ局面を支配している。

30.Bf3 g6

31.Ne7+?!

 ナイトをc6に持って来るのは奇異な印象を受ける。思うにカルアナは 31.Nd6 が 31…Bxd5 32.Rxd5 Rxc2 33.Bd1(33.Rxe5? は 33…Rxf2! があって駄目だが、33.Ra1!? は可能である)33…Rd2 34.Rxc5 Rxd6 35.Rxe5 Bb6 で異色ビショップのために引き分けになると考えたのだろうが、この手順でもまたは落ち着いた 31.Kg2!? でさえ実戦よりは良かった。

31…Kg7 32.Nc6

 白ナイトはe5に当たりになっているが、黒は代わりにc2のポーンを取ることができるし、何かもっと野心的なことをやることもできる。

32…Na4!? 33.Nd6

 カルアナは時間が少なくなってき始めていた。しかし 33.Nxe5? は 33…Bxb5 34.Rxb5 Nc3 で両当たりに引っかかることは見抜いていた。

33…Be6 34.Rb7 Rxc2

35.Nxe5

 35.Nxf7!? Bxf7 36.Nxe5 Rc7 37.Rxc7 Bxc7 38.Nxf7 Kxf7 39.Rd7+ という手を読めば、カルアナがここらあたりでどうして時間を注ぎ込んでいたかを評価するのは困難でない。さらには、35.Nxf7 は実際にはポーン得にもかかわらず白にとって何にもならないことは、35…Nc5! 36.Rb5(または 36.Re7 Bxf7 37.Nxe5 Kg8 38.Nxf7 Kf8)36…Bxf7 37.Rxa5 Rxa5 38.Nxa5 Ne6 から …Nd4 という手順を見れば分かる。

35…Nc5 36.Re7?!

 カルアナはこの手あたりまではきわめて野心的で、特に局面、持ち時間そして対戦相手を考えればそうだった。しかしここで初めて深淵に滑り込み始めた。36.Rbb1! で退却を命じる余裕はまだあり 36…Bc7 37.Nc6! となったとき黒は 37…Bxd6 38.Rxd6 Raa2 39.Rf1 Rcb2(b4での両当たりを避けた)40.e5 Bc4 41.Bd5 Bxd5 42.Rxd5 Ne4 と指すよりないが、これは 43.Ra5 で引き分けにしかすぎない。

36…Kf8 37.Nc6?!

 白は危険に気づかなかった。ここでも 37.Rxe6! Nxe6 38.Ndxf7 ならなんとかしのげたかもしれない。

37…Nb3

 黒はポーン損だが、白がf2に色々な問題を抱えているので黒キングの方が実際には安全である。

38.e5 Bb6

39.Rb7?

 普段はめったに乱れないカルアナが不意につぶれた。ここが 39.Rxe6! と取る最後の機会だった。そして 39…fxe6 40.Nd4! のあと 40…Bxd4 41.Bxa8 Bxf2+ 42.Kh2 Bd4+ 43.Bg2 Bxe5 44.Ne4 で引き分けに持ち込めたかもしれない。

39…Bxf2+ 40.Kg2?

 40.Kh1 Bxg3 41.Na7 なら極めて不自然で醜いが、即負けは避けられた。

40…Bc5+ 41.Kh1 Raa2 0-1

 白は素通しの2段目をどうしようもない。


沈んでいるように見えるけれども、ナカムラは第1シードのファビアノ・カルアナに勝って絶好のスタートをきった。

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(この号続く)

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后印防御の指し方(081)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 白は戦力的に互角にし、キングの安全度についてはずっと良くなっている。黒は引き分けになればうれしい。

34…Qd1+ 35.Kg2 Qxd4

 黒はポーンのことを考えているわけではない。この地点は黒クイーンにとって絶好の地点である。というのはここにいて試合の最後の数手で重要な地点に対する白からのチェックを防いでいるからである。

36.Qf8+ Qg7 37.Qc8!

 これはの勝とうとする最後の試みである。ルークを狙っているだけでなく、h3でのチェックで勝つ可能性を残している。

37…Qa7! 38.Qf8+ Qg7 39.Qc8 Qa7 40.Qf8+ 引き分け

 試合のほとんどの間黒駒の方が白駒よりよく働いていた。しかしポーン突きによってもたらされた弱点のために白が互角にする機会を得た。言い換えるとこれはこの戦型で …d7-d5 と突いて中央を黒が占拠すると何が起こり得るかという例、つまり普通よりも波乱に富むという例になっている。

(この章続く)

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后印防御の指し方(080)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

31.Bd5+!

 この手は妙手だった。黒キングがe7に寄ると白クイーンにe4かe2でチェックされたあと Bxa8 と取られる。f列も安息の地とはならない。31…Kf8 は 32.Qf5+ で白が実戦より1手もうけているし、31…Kf6 は 32.Qxh7! でf7にクイーンが来ての詰みを狙われる。

 つまり黒には1手しかない。

31…Kg7 32.Qf5!

 この手はチェックでなくても黒にとって危険である。白は 33.Qg5+ または 33.Qf7+ から始まるチェックの千日手による引き分けを狙っている。機会があればルークをかすめ取って勝ちを狙うかもしれない。両者にクイーンが残っていては黒は 31.Qxb3? のときほど迅速にポーンをクイーンに昇格できない。そして白は少なくともチェックの千日手の可能性が高い。

32…Ra6!

 これは受けの妙手である。黒はルーク得でありながら防御を考えなければならない。もしルークをa7に上げて 33.Qf7+ を防げば、白は 33.Qxg5+ Kf8(33…Kh8??? 34.Qg8#)34.Qg8+ のあと Qf7+ から Qxa7 とやってくる。また、ルークを紐付きのb8に寄せれば 33.Qf7+ がひどい手になる。33…Kh6 34.Qf8+ のあと黒はたちまち詰まされる(34…Ng7 35.Qf6+ または 34…Kh5 35.Bf7+ Kg4 36.Be6+)。

33.Qf7+ Kh6

 これで黒は白クイーンのf8からのチェックには Qf6+ がないのでナイトをさしはさんで受けることができる。

34.Qxe8

(この章続く)

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布局の探究(140)

「Chess Life」1996年1月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅱ.1.d4 e6
エピシン対エールベスト(ノボシビルスク、1993年)[A40]

 早い …b7-b6 システムを用いるGM軍団は 1.d4 の場合決まって 1…e6 で始まる手順を好む。それには純粋にチェス的な理由がある。次の 2…b6 を防がれることはないので黒は何の代価も払わずに少し融通性が得られるからである(例えば 2.e4 なら 2…d5 でフランス防御に移行することができる)。

2.c4 b6 3.e4

 これが最も積極的な手法である。もし黒が中央を気にしないようなら、白は取れるものを全部取る。しかし最近の国際大会では控えめな作戦の 3.a3 Bb7 4.Nc3 の方がよく指されるようになった。4…f5 5.d5 Nf6 6.g3 のあと黒は王翼ビショップを展開する手段が二つある。A.ナウムキン対レンペルト戦(モスクワ、1994年)の 6…Na6 7.Bg2 Nc5 8.Nh3 Bd6! 9.O-O Be5! は互角になった。GMナウムキンは白が 9.Bf4!? で改良できるかもしれないとしている。B.ウマンスカヤ対グラブゾバ戦(ロシア、1994年)は 6…g6 7.Bg2 Bg7 8.Nh3! O-O 9.O-O Na6 10.b4! で白が陣地が広くて明らかに優勢だった。

3…Bb7 4.Bd3

 4.Nc3 は 4…Bb4 と釘付けにされるので、本譜の手と 4.Qc2 が白の信頼できる手になっている。4.Qc2 のあとの最近の重要な実戦例はレビット対エールベスト戦(ニューヨーク、1994年)で、4…Bb4+ 5.Nd2 Qh4 6.Bd3 Qg4 7.Kf1! f5 8.f3 Qh4 9.exf5 Qxd4 と進み、ここでGMレビットは優勢を保持する手段として 10.a3(10…Bc5 11.Nb3)をあげている。

4…Nc6

 ここでも 4…f5? は無謀である。勇気のある白ならば強く 5.exf5! と取ることができ(1989年アムステルダムでのメドニス対プサーヒス戦では白は 5.d5? と突いたが 5…fxe4 6.Bxe4 Qh4 7.Qe2 Nf6 8.Bf3 Bb4+ 9.Nd2? O-O 10.a3? exd5! となって白が破滅した)、5…Bxg2 6.Qh5+ g6 7.fxg6 Bg7 8.gxh7+ Kf8 9.Bg5! Nf6 10.Qh4 Bxh1 11.Nd2! Nc6 12.Ne2 b5 13.Nf4 と進んで白の攻撃が強烈(正しく指せば決定的)だった。例えば『チェス新報』第38巻第67局のシュナイダー対ウタシ戦(ブダペスト、1984年)を参照。

5.Ne2!

 GMエピシンによればこの新手は強力だった。ソソンコ対マイルズ戦(チュニス・インターゾーナル、1985年)では 5.Nf3 Nb4 6.O-O Ne7 7.Nc3 Nxd3 8.Qxd3 Ng6 9.a3 で両対局者が引き分けに合意した。メドニス対キング戦(スタバンゲル、1989/90年)では 9.Re1 で白がわずかに優勢だった。

5…Nb4 6.O-O Nxd3 7.Qxd3 d6 8.Nbc3 Nf6 9.d5 Be7 10.Nd4 Qd7! 11.b3! c6

 気の進まない手だが普通の 11…O-O では 12.Qh3!(GMエピシン)が煩わしい。

12.dxc6 Bxc6 13.Ba3 a6 14.Rad1 Bb7 15.Qg3 Qc7 16.Rfe1 g6 17.e5

17…Nh5??

 ここは勝負所である。17…dxe5 がこの一手で、18.Bxe7 Qxe7 19.Qxe5 O-O 20.f3 で白が少し優勢である(GMエピシン)。代わりに黒は戦術に打って出て白の応手を見落としポーン損になって敗勢に陥った。

18.Bxd6! Qd7 19.Qg4 Bxd6 20.exd6 O-O 21.Na4 Rae8 22.Nc2 Qd8 23.d7 Re7 24.Qd4 Bc6 25.Nxb6 e5 26.Qc5 Re6 27.Nb4 Bxg2 28.Kxg2 Rxb6 29.Nc6 Rxc6 30.Qxc6 Qh4 31.Qf3 Qg5+ 32.Kh1 Rd8 33.c5 e4 34.Qxe4 Qxc5 35.Qe8+ Kg7 36.Qe5+ 黒投了

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后印防御の指し方(079)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

25.Rxb4!?

 ここは白の再度の危機だった(最初は20手目のところだった)。白は黒のb7のビショップと王翼のもろさとに基づいた巧妙な手筋で賭けに出た。当座は黒陣は狙われている地点をクイーンがすべて守っているので基本的に安泰である。白のルーク切りはクイーンをその働きからそらそうとしている。

 この手筋はたぶん失敗するはずだが、25.Qxc4+ Nd5! よりは見込みがありそうで、25…c3! や 25…Bd5 とされるどんな手よりも良いことは確かである。

25…Qxb4 26.Nxf6+ Kf7?

 これがなぜ悪手かは5手後に明らかになる。

27.Nxe8 Nxe8!

 黒は次の手でb7のビショップをe7のクイーンで守れるようにナイトで取り返した。27…Rxe8? は 28.Rb1 で白が勝つはずである。

28.Rb1 Qe7 29.Rxb7!

 やはり良い手はこれしかない。29.Qxc4+ は 29…Kf8 から 30…Nd6 ですべてが守られて黒陣が比較的安全になる。しかも駒得である。

 だから白は駒損のままでいることに応じた。しかし残りのポーンのほとんどを取って黒の勝つ可能性を無くすことに期待した。

29…Qxb7 30.Bxe4 Qb3!

 それでは前に戻り黒が26手目でキングをf7の代わりにg7に動かしていたらどうなっていたかを考えてみよう。黒キングの位置が違うだけでほかはすべて同じである。黒キングがどこにいようと白がクイーン同士を交換してルークを取り返す余裕がないのは、黒のbポーンが8段目に到達してクイーンに昇格するからである(具体的な手順は 31.Qxb3? cxb3 32.Bxa8 Nf6! から 33…b2)。しかし黒キングがg7だと白の手は実戦のようにすぐにチェックにならない(本譜での次の手を参照)。だから 31.Qd2 から Qxg5+ を狙わなければならず、31…Ra7! のあと大丈夫であることに期待することになる。

(この章続く)

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后印防御の指し方(078)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 黒の作戦を見抜くのは難しくないはずである。黒はbポーンをb5へ、そしてb4へ突き進め、続いて …Nb5! でc3を襲撃する。黒がポーンをb4まで進めたときに白がもっとひどくならないようにb4で取らされて …axb4 で黒のa列が素通しになれば、白はとても困ったことになる。黒はaポーンに対して自分の活動的なルークで圧力を増強することができるし、単にb8とc8のルークでパスcポーンを突き進めることもできる。白はこの作戦に対処する手段が必要で、それも早急に必要である。

20.e4!

 良くても悪くてもこのポーンは突かなければならない。この一時的なポーンの犠牲は黒の堅固なポーン集団に揺さぶりをかけ、黒のcポーンを危険にさらすためである。さらに白は Qc2 と Re1 で王翼攻撃を始めることができる。

20…b5 21.Qc2 dxe4

 e4のポーンは …f6-f5 で強化される。これで黒は小駒の一つでd5を占拠する用意ができた。…g7-g5 で白ナイトを追い払ったあとは、…Nd5! で圧倒的な態勢になる。

22.a4!

 白は反撃する必要があり、これが最善の手段である。明らかに 21…bxa4 は 22.Rxb7 があるので駄目である。しかし黒は自分の作戦全般に沿った強力な応手を見つけた。

22…g5!

 この手の威力は2手で明らかになる。

23.Nh5 b4! 24.cxb4 axb4

 白ナイトがまだf4にいたら、22.a4 でポーンを攻撃する白の戦略は 25.Qxc4+ で立派に実を結ぶところである。25…Nd5 なら 26.Nxd5 から 27.Qxb4 となる。しかしここではナイトがh5にいるので 25.Qxc4+ Nd5! で戦力は同じでも白の劣勢になる。黒がa4の取り残されたポーンを取れるのはほとんど確実である。しかし 26…Rac8 から …Ba6-d3 または …Nc3 で主導権が握れるときに、単なるポーン得では満足しないかもしれない。黒は …e4-e3 で王翼を攻撃し、逃げ場のないh5のナイトを取ろうとする可能性もある。

(この章続く)

2015年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(077)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 Nxe4 と取るのはまだ時期尚早である。というのは …dxe4 で白ナイトが危険にさらされ(…f7-f6!)、黒の小駒が自分のポーンにより空けられたd5の地点を占拠する態勢になるからである。d5にナイトが行けば黒にとって絶景になる。

 白は安全にc5のポーンを取る手段が見つかれば、駒が黒の浮きポーンを攻撃する絶好の態勢になる。(Nd3-f4 のための)手の余裕が少しでも得られれば好調になる。

15…Nxc3! bxc3

 白がルークで取り返せば黒は明らかに優勢になる。16…c4 から …b6-b5-b4 で、后翼のポーンの一つを昇格させる勝利への作戦が見えてくる。bポーンがb4まで行くと白ルークに当たりになるので先手で突けることになる。黒ポーンが虚弱者から巨人に変われるのが何と速いことか!

16…f6

 これは黒の白枡、特にe6とそれほではないがg6とを弱める。しかし白クイーンがa4に出かけていて白ルークも味方のポーンの内側で働いていないので、黒は気にならない。

17.Nd3 c4! 18.Nf4

 クイーンと小駒だけを考えれば白の方が優勢である。白ビショップは黒ビショップのようには味方のポーンによって制限されていないので利きが広く、ナイトはもっと見晴らしが良い。しかしルークの働きの違いによって形勢判断が変わってくる。黒の作戦はルークの支援の下に后翼ポーンを慎重に突き進めて最終的にそれらの一つをa1、b1またはc1で昇格させることである。白ルークは黒ルークよりも活動の可能性がはるかに劣るので、白が黒の作戦に対して何ができるかを見つけることは難しい。

 黒はただちに 18…a5! から 19…b5 と突き始めることができる。aポーンから突いていく必要があるのは、すぐに 18…b5? と突くと白に 19.Qa5! で后翼を封鎖されるからである。それなれば白が Rb1 から a2-a4! で反抗する前に白クイーンをどかし、后翼ポーンで押しまくるにはダイナマイトが必要になる。

18…Qd6

 用心深くdポーンをさらに守った。

19.Rb1 a5

(この章続く)

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后印防御の指し方(076)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 この交換で黒にクイーン翼で多数派ポーンができた。今は大した意味がないかもしれないが、…c5-c4 とのちの …b6-b5-b4! でこれらのポーンの威力が増す。例えば 13.Rc1 Nc7 14.Qa4 は 14…Nxc3 のあと …c5-c4 から …b6-b5 と応じて優勢になれる。その一方で白がc6をナイトで安全に占拠でき、そしてそこに踏みとどまることができれば、優位に立つ。実戦は微妙に均衡がとれている。

13.Qa4

 ここかあとでの好着想は Nd3 から Nf4! でd5への圧力を増すことである。ナイトをe5から動かすことは白のdポーンでc5のポーンを取る可能性にもつながる。

13…Nc7

 ここで黒には魅力的な応手がいくつかある。まず、白がクイーン翼でもくろんでいるどんな圧力も鈍らせるために 13…Qe8 でクイーン同士を交換しようとすることができる。しかし 13…Qe8 には 14.Bxe4! が煩わしい。それに対して 14…dxe4 は 15.Nd7! で黒の王翼ルークが捕獲される。また、14…Qxa4 15.Nxa4 dxe4 16.dxc5 はc5とe4に黒の弱いポーンができる。

 紛らわしい手は 13…Rfe8 で、ちょっとした罠が仕組まれている。13.Qa4 が何を狙っていたか見抜いていただろうか。それは 14.Nc6 ではなく、14.Nxd5! Bxd5 15.Qxa6 でポーン得することだった。しかしこれは白駒を主要な任務から遠ざけることになり、黒はたぶんポーンの代償が十分得られる。例えば 13…Rfe8 14.Nxd5 Bxd5 15.Qxa6 のあと黒には 15…cxd4 16.exd4 Qe6! で 17…f6 から 18…Bc4! または 17…Ng5 から 18…Nh3+ やビショップ同士の交換後の 18…Qd5+ などの危険な狙いができる。

 黒の選択した手はずっと安全で、ずっと有望でもある。そして后翼でのポーンによる進攻の準備を始める。

14.Rfd1 Rfe8 15.Rac1

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(373)

「British Chess Magazine」2015年2月号(1/1)

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新手の衝撃

セオ・スレード

 今月はロンドン・チェスクラシックから超快速オープンの1局を取り上げる。これは最終回戦で、ヒカル・ナカムラは単独優勝を確定させるためには引き分けるだけでよかったが、相手の元世界チャンピオンのビシー・アーナンドはナカムラに追いつき追い越すためには黒番で勝たなければならなかった。

H.ナカムラ – V.アーナンド
ロンドン・チェスクラシック超快速オープン、2014年
イギリス布局 A13

1.b3 Nf6

 1…e5 が第1回戦でナカムラが対した手だった。その時彼が対局していたのはレイティングがわずか1869というコーンウォール出身の少年で、名前はセオドア・スレード…。あ、行かないで!

2.Bb2 d5 3.Nf3 e6 4.e3 Be7 5.c4

 5.d4 ならコーレ=ツーカートルト・システムに移行する。しかしこの露骨な攻撃法はアーナンドほどの実力者には全然通用しないはずだ。

5…O-O 6.d4 c5!

 布局でまたもアーナンドの佳手が出た。解説者たちはこれまで何度これを言っただろうか。それに、読者よ、忘れてならないことは「ビシー」と呼ばれる彼は周知のようにカールセンなどの格上と目されるライバルたちよりかなり年長なのである。しかしこのことは布局の研究においていささかも彼を立ち止まらせておかないようである。なぜなら彼はこの文句のない強みの成果を受け続けているからである。布局の揺るぎない専門家としてアーナンドが維持しようとしたまたは高めようとさえしたかもしれない膨大な努力を評価するためには、昨年の世界選手権戦第3局を分析するだけでよい。本譜の手は白の駒組みに対処する最も厳しい手段であり、ビシーが快速戦においてさえそのような手を指したということは自分の構想を披露することを恐れていないということを示している。

7.dxc5 Bxc5 8.a3?!

 この手は私には良くない手のように見える。白は既にポーンを5回動かし、6回目では展開で立ち遅れる危険がある。8.Nc3 または 8.cxd5 ならもっと自然だろう。

8…dxc4 9.Qxd8 Rxd8 10.Bxc4 Bd7 11.Ke2!?

 この手は非常に挑発的である。代わりに 11.O-O の方が安全で自然でたぶん客観的に良さそうである。しかし心に留めなければならないのはナカムラの試合の1局を分析しているということ、それに大会の状況である。つまりアーナンドは大会に優勝するためにはこの試合に勝たなければならないということである。最後に、言うまでもないことだが快速チェスではほとんど(!)何でも許されるということで、だから面白い手の方が「最善」手よりも心理的に優った手なのかもしれないのである。

11…Be7 12.Nbd2 Bc6 13.Rhc1!?

 私には 13.Rac1 の方が自然に思われるが、この手のあと局面の形勢はまったくの互角としか言いようがない。しかしナカムラの指した手のあとはどちらにとっても間違う可能性が高い。

13…Nbd7 14.Kf1

 ここで前手の意味が分かる。ナカムラは手動でキャッスリングしたかったのである。

14…Ne4 15.Nxe4 Bxe4 16.Bd4

 見た目には明らかに白の方が良さそうである。白のビショップは両方とも盤上を席巻し、ナイトは中央に位置し、キングは十分中央近くで働けるのと同時に非常に安全であり、c1のルークは素通し列にあって完璧である。「+/=」という声が聞こえる。しかしコンピュータは黒持ちである・・・

16…Bxf3

 チェスソフトのストックフィッシュは 16…Bc6! で黒優勢と言っている。しかし人間の観点からは(特に快速チェスの持ち時間では)、この形勢判断は奇妙という以外の何物でもないとしか言いようがない。私が主観的であるのに対して、今日では一流の選手たちが布局の新構想を見つけるためにいかに深くチェスエンジンを信頼しているかということに気づいているということを言っておかなければならない。もちろんこのことに何も目新しいことはないが、アーナンドを「スペースバー」にかける(チェスペースでスペースバーを押下することによりチェスエンジンの第1候補を選択すること)ギリの(悪)名高いやり方に耳を傾けるのは少し不快になる。皮肉なことにあるエンジンが第1選択した手を、別のエンジン(人間ということもある!)が反駁することがあるかもしれない。いずれにせよこの話題の議論は専門家に任せる。

17.gxf3 Bf6 18.Bxf6 Nxf6 19.Ke2

 この手ではc列にルークを重ねる意図で 19.Rc2!? と指すこともでき、19…Rac8 20.Rac1= となる。

19…Kf8 20.Bd3?!

 これは面白いが究極的には疑問の捌きの始まりである。

20…Rac8 21.Be4!?

 アーナンドは引き分け模様の收局にしたくないので、この手は心理的に絶妙である。

21…b6?!

 アーナンドはこう指したけれども、それでも收局に持ち込むべきだったと思う。どの変化でも有利さを保っているのだから。例えば 21…Nxe4 22.fxe4 e5 23.f4 Ke7 24.Rxc8 Rxc8 25.Kd3 g6 となれば勝ちを目指せるのは黒だけである。。

22.Bb7!

 ナカムラは2手目でクイーン翼ビショップをフィアンケットしてから、キング翼ビショップを22手目!でフィアンケットすることに突き進む。

22…Rb8

 22…Rxc1 とは取りにくかった。というのは 23.Rxc1 のあと白がc列を完全に支配しているのに対し、黒のd列の支配は白キングが侵入口をすべておさえているので意味がないからである。それに加えて盤の両側にポーンのある開放局面で白にはナイトに対しビショップがあるからである。しかしコンピュータは形勢互角だと言ってきかない・・・!

23.Bc6 Rd6 24.b4 Rbd8 25.Rc2!

 この強手には目的が二つある。黒ルークの唯一の侵入口であるd2の地点に利かすことと、c列でルークを重ねる用意である。

25…Ng8?!

 この手を評するために思いつくことのできる唯一の言葉は「不自然」である。アーナンドはビショップを強力な地点から追い出したかったのだと思うが、このナイトは既にf6の好所にいた。黒のこの不正確さは結局のところ白の方が指しやすかったということを証明している。ストックフィッシュよ、どんなもんだい?!

26.Rac1?!

 たぶん別の侵入口に利かす 26.Bb5 の方が良かった。

26…Ne7?!

 26…Rd3! の方が対処が厄介だっただろう。その場合でさえ白の最善手は 27.Ra2 かもしれず、いかに注意深く素通し列の侵入口のすべてに利かしておかなければならないかをよく示すのに役立つ。しかしいつも心に留めておかなければならないのは、結局のところこの試合は快速戦であるということである。

27.Bb5

 これで白陣は完全に安全で、ほとんど危険なしで勝ちを目指して指すことができる。

27…Rd5 28.a4 Rh5?

 この攻撃の手はビシーにしてはちょっと直接的すぎる。このポーン陣形での主眼の手は 28…g5! である。基本的な着想は白の二重ポーンの動きを制限して弱点にしようとすることである。黒の期待は駒の交換ごとにそれらのポーンが弱くなり、そのために最終的に黒の勝ちになることである。しかしこれは今のところ遠い話で、特に白にはビショップと働きに優る駒とがあるからである。それに白がc列を支配しているので駒を交換することがとてつもなく難しい。だからこの局面は動的に均衡がとれていると結論づけることができる。ここで 29.Rc7 なら黒は 29…Rd2+ 30.Ke1 Rb2 とやり返すことができほぼ互角である。

29.Rc7!+/-

 ナカムラは好機をしっかりと捕らえた。

29…Rxh2??

 それにしてもこれは敗着のポカだった。29…a5! なら黒はまだ戦えた。しかし全然楽でないことは確かで、30.bxa5 bxa5 31.Ra7 Nd5 32.Rxa5 Rxh2 33.Ra7 となってパスポーンがより危険なおかげで白が相当優勢である。

30.Rxa7!

 ナカムラはやはり容赦なかった。

30…Nd5 31.a5 bxa5 32.bxa5 Rh5 33.Rb7!

 ナカムラはあくまで正確である。

33…Nb4

 正確な手順のあとナカムラに必要なことは棺にふたをする最後の正確な一着を見つけることだけである。

34.a6?

 これは好局の唯一わずかな傷だった。34.Rcc7! がより強力な手で、攻撃が激烈になりパスポーンが突き進む用意ができる。白が完全に勝勢になるだろう。

34…Nxa6

 34…Rxb5! ならナカムラの指し方がずっと難しくなっていただろう。35.Rxb5 Nxa6 36.f4! この好手をもってしてもこの紛らわしい收局に勝てることを証明する責任はまだ白が負っている。しかしナカムラに関しては、この局面がアーナンドの楽勝を防げるからというだけで生じたのならばナカムラが大会に優勝するということなのかもしれない。

35.Bxa6

 ナカムラは賞賛すべき技術で試合を締めくくった。

35…Rf5 36.Bd3 Rf6 37.Rh1! h6 38.f4! Ra8 39.Bb1 Rc8 40.Rh5! Ra8 41.Kf1 Rc8 42.Ke2 Rd8 43.Rhb5 Ra8 44.Rb8+! Rxb8 45.Rxb8+ Ke7 46.Rg8 g6 47.Rh8 h5 48.Ra8 1-0

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス5

后印防御の指し方(075)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

10…Ne4!

 ナイトがちょうどいいときにここに来た。ここからは黒の小駒は白の小駒よりも悪くない。

11.Bxe7

 ここで白には選択の余地がほとんどない。しかししょせんこのビショップを残したい理由はない。d列からh列までの白ポーンはどれも黒枡にあるので、このビショップをなくすことはうれしいはずである。その一方で黒の黒枡ビショップの交換はあとで黒枡をひどく弱めることになるかもしれない。

11…Qxe7 12.cxd5

 白はこれまでd5での交換を延期してきた。そしてその理由は分かりやすい。この交換のあと黒は自分のクイーンとルークのためにe列の枡のいくつかが利用できる。e5の白ナイトは今黒クイーンによって当たりにされているのでdポーンによって守らなければならない。これは …Qxe5 という応手があるために白が dxc5 と取る暇がないということを意味している。それでも白が中央で単純化しなければ、黒はもっと良いときに自分の方から …Nxc3 と …dxc4 でそれをやる。

 もし白が 12.Nxe4 と取って 12…dxe4 のあと黒の弱いeポーンにつけ込むことに期待すれば、自分のナイトから退路のd3とf3を奪ったことに気づいて失望し、13.Qc2 f6! 14.Ng4 h5! で盤の中段でナイトが捕獲されたのを見て愕然とする。

12…exd5

(この章続く)

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カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(074)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 この手は前述の釘付けを作っている(9…dxc4?? 10.Bxb7)。それに今は大したことがないかもしれないが少し手が進めが重大になってくるほかの役目も少し果たしている。

 まず、d5の地点に対する攻撃を強めている。白の小駒は黒がd5の守りを解除すればすぐにそこのポーンを取ってしまう態勢にある。例えば 9…Qc8 は后翼ビショップがこのクイーンによって守られているので 10…dxc4 で釘付けをはずすことができるが、10.Bxf6 Bxf6 11.cxd5 exd5 12.Nxd5! で軽率な悪手になってしまう。

 次に、e5のナイトは自然な守りの一部を失ったいくつかの要所に目をつけている。黒はナイトがa6に跳ねたのでb7のビショップだけでc6を見張っている。黒は白が Qa4 から Nc6 によってこの地点に侵入するのを防ぐように注意していなければならない。白がd7を占拠することにより(Qa4 のあとで、またはd5でポーンを交換してから Bh3! のあとで)、黒を混乱させるときさえ来るかもしれない。

9…c5

 やはり首尾一貫した手だが、この手を遅らせてナイトをe4に跳ねる手を優先することを考えても良いかもしれない。そうすれば局面が少し単純化する。例えば 9…Ne4 10.Bxe7 Qxe7 となる。黒のポーンがd5にいることにより前には考えられなかった新しい状況が生じている。もし白がe4のナイトを取れば、黒はポーンで取り返さなければならなくなる。そのポーンは頼みの綱となることもあれば、完全に包囲されて取られてしまうこともある。

 変化は多いが一つの典型的な手順は分析しておくのが良い。9…Ne4 10.Bxe7 Qxe7 のあと白は 11.Qa4 では何も得られない。11…c5 で 12…cxd4 や 12…Nxc3 から 13…dxc4 のような解放の手を狙われて(b7のビショップがクイーンによって守られている)、自分の中央が襲撃されるからである。黒はd4のポーン取りを白がルークか小駒で取り返さなければならないときに実行できれば、離れ駒のナイトを …Nc5! で戦いに引き戻すことができる。注意点は 9…Ne4 10.Bxe7 Qxe7 11.Qa4 c5 のあとでも黒は 12.Nc6 を恐れないということである。なぜならナイトを 12…Qd7 または 12…Qe8 で当たりにして追い払う必要があるだけで、そのあと望むならクイーン同士を交換することができる。

 この最後の変化はなぜ黒のナイトがa6が好所なのかをよく表している。このナイトが …d7-d5 のあとd7に行っていたら、黒駒は交通渋滞をきたしていただろう。そのあと白の Qa4 は Nc6 への小さな危険な狙いのために受けづらくなる。

10.e3!

 黒は …Ne4 を遅らせたので両者に4小駒がある間に早く中央に挑むことができた。…cxd4 で黒が后翼ナイトをc5に据えることができるかもしれないので、白はポーンをd4の地点の守りに加えて 10…cxd4 に 11.exd4 で黒のナイトをa6にとどまらせるようにした。

 白は本譜の手で中央にまたポーンを加える代わりに中央のポーンを交換する誘惑にかられるかもしれない。ルークをd1とc1に配置し、それから cxd5 と dxc5 により黒の弱体化した中央に立ち向かうことができる。しかし事はそれほど容易でない。例えば 10.Rc1 のあと黒はやっと 10…Ne4! と指し、11.Bxe7 Qxe7 12.dxc5 Naxc5 13.Nxe4 dxe4! で、白より先に 14…Rad8 でルークをd列に回すことができるので好調になる。一つの可能性は 14.b4 Rad8 15.Qc2 で、黒はナイトが動くとすぐにeポーンが取られる危機に直面する。しかし働きに優る大駒を用いて 15…Qg5! で 16…Qxe5 と、ルークでの白の2段目への侵入を狙いにする。

 このような変化は黒が1、2個の弱いポーンを受け入れればどれほど激しく動き回れるかを示している。

(この章続く)

2015年06月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(073)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲) 8.d5 の局面(参考図)

 有利な点 …d7-d5 突きを止め、それにより黒がe4などの中央の地点に駒を据えるのを防いでいる。自分の駒でd4の地点を占拠できることも確実にし、e2-e4 と突いて(そしてたぶん e4-e5! も)中央の地所を広く確保できるかもしれない。黒がポーンで中央に挑みたいなら、駒の動く余地がひどく不足しているので注意深く作戦を立てなければならない(8…c6?? は 9.d6! で駒損になる)。

 不利な点 …c7-c5 に白が d4-d5 と応じる状況と違い、黒はc5の地点を占拠していない。だから …Nc5 と指してe4の地点をナイトで支配できる。c5のナイトは …a7-a5 で補強して白の b2-b4 突きを阻止できる。d5のポーンは白のg2-a8の斜筋をふさぎ、黒の王翼ビショップがf6に行けば絶好の斜筋につける。

 白が 8.Bg5 のような堅実な手を好むのはもっともである。黒の手をすぐに咎めようとしているのでなく、わずかな優勢だけを得ようとしている。

8…d5

 この手はもう少し進めば分かるように 7…Na6 と呼応している。しかし 8…Ne4 も魅力的な変化で、白に黒枡ビショップ同士と一対のナイトの計二組の小駒を交換させることになる。例えば 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxe4 Bxe4 のあと黒は対角斜筋での周知の釘付けに陥ることなく 11…d5 と突く用意ができている。白は 11.Qa4 で黒の残りのナイトの遊び駒状態に乗じようとすることができるが、11…Nb4! から …c7-c5 または …Nc6(場合によっては …Nc2 さえある)で黒が問題ないはずである。

9.Ne5

(この章続く)

2015年06月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(139)

「Chess Life」1996年1月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅰ.1.e4 b6 2.d4 Bb7
アコピアン対ミナシアン(エレバン、1994年)[B00]

3.Bd3

 白の戦略は黒が真似できないのにつけ込んで迅速にキング翼の展開を完了することであるはずだから、3.d5 や 3.f3 のような手は有望さで劣る。融通性のある本譜の手は 3.Nc3 より優るはずである。なぜなら白はcポーンを中央のために使う可能性を排除する理由はないし、さらにはd3の地点はキング翼ビショップの最良の居場所だからである。

3…Nf6

 黒には 3…f5? と突く余裕はない。なぜなら 4.exf5! Bxg2 5.Qh5+ g6 6.fxg6 Bg7(6…Nf6?? 7.gxh7+ Nxh5 8.Bg6#)7.Qf5! Nf6 8.Bh6!! Bxh6 9.gxh7 Bxh1 10.Qg6+ Kf8 11.Qxh6+ Kf7 12.Nh3 となって白の攻撃が強烈だからである(ブルーダー対ベーゲナー、郵便チェス、1982年)。

 本譜の手とほぼ同等なのは 3…e6 である(この局面はしばしば 1.d4 e6 2.e4 b6 3.Bd3 Bb7 という手順から生じる)。そのあとの主手順は 4.Nf3 c5 5.c3 で、最近の実戦例は次の2局である。

 A.5…cxd4 は早すぎるように思える。6.cxd4 Bb4+ 7.Nc3 Nf6 8.Qe2 d5 9.e5(9.exd5 Nxd5 10.Bd2 も白が優勢 – アダムズ)9…Ne4 10.O-O! Bxc3 11.bxc3 Nxc3 12.Qe3 で、黒の展開の遅れと黒枡の弱さのために明らかに白が有望だった(アダムズ対ファンデルバーレン、モスクワ・オリンピアード、1994年)。

 B.5…Nf6 6.Nbd2 Be7 は慎重な指し方である。ブライソン対マイルズ戦(モスクワ・オリンピアード、1994年)では 7.O-O d5 8.e5 Ne4 9.Qe2 Nxd2 10.Bxd2 a5 11.Rfe1 Ba6! 12.Bb5+ Bxb5 13.Qxb5+ Nd7 14.c4 dxc4 15.Qxc4 O-O でほぼ互角の形勢だった。勝負は22手で引き分けに終わった。

4.Qe2! e6 5.Nf3 c5 6.c3 d5

 この早いポーン突きは黒がフランス防御のポーン陣形と特徴的な不良クイーン翼ビショップになる危険性がある。やはり 6…Be7 と辛抱する方が良い。ゲオルギエフ対マイルズ戦(ビール、1992年)とドルフマン対マイルズ戦(ティルブルフ、1992年)の両方とも 7.O-O Nc6 8.a3 Na5 9.Nbd2 c4 10.Bc2 Qc7 11.Ne5 b5 12.f4 O-O 13.Ng4 Nxg4 14.Qxg4 Nb3! と進んだ。GMマイルズはいい勝負と判断している。

7.e5 Nfd7

 代わりに 7…Ne4 はナイトを退路のない危うい所に置く。しかし本譜の手に対しては 8.Bg5! Be7 9.h4! Nc6 10.a3 で白が効果的な黒枡戦略を開始することができた(GMアコピアン)。

8.Ng5 Be7 9.h4 cxd4 10.cxd4 Nc6 11.Be3 Nb4 12.Bb5 Bc6!

 自分の不良ビショップと白の優良ビショップの交換で黒はかなり重荷が軽くなった。

13.Nc3 Bxb5 14.Nxb5 a6 15.Nc3 h6!?

 黒はナイトにやってこいと挑んだ。そして受諾された。より安全なのは 15…b5 である(アコピアン)。

16.Nxe6! fxe6 17.a3 Nc6 18.Qh5+ Kf8 19.Qg6

19…Qc8!

 この手の意味は 20.Qxe6?! なら 20…Ndxe5! 21.Qxc8+? Rxc8 22.dxe5 d4 と応じることができるということである。白は何も急がずにまずキャッスリングによりキングを安全にし、それからf列を素通しにすることに努める。戦術に関すること全部については『チェス新報第62巻』第88局のGMアコピアンの解説を参照されたい。

20.O-O! Nd8 21.f4 Kg8! 22.f5 Nf8 23.Qg3 exf5 24.Nxd5 Qb7 25.Nxe7+ Qxe7 26.Rxf5 Qd7?

 黒は 26…Qb7! 27.Raf1 Nde6 28.Rf7 Qd5 29.Re7 Rh7! 30.Rff7 Kh8!(アコピアン)と受けるしかなく、勝敗は不明だった。

27.Rxf8+ Kxf8 28.Qf3+ Ke7 29.Qxa8 Rf8 30.d5 Rf5 31.Re1 Nb7 32.Qg8 Rf8 33.Qxg7+ 黒投了

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后印防御の指し方(072)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3(続き)

(再掲)

 この手は特筆すべき手段で、中央を占拠する用意をしている。ナイトはa6で一人ぼっちで孤立していて、c5で幸せになる見通しもほとんどなさそうである。しかし 7…Na6 は一種の手待ちである。

 黒の意図は …d7-d5 から …c7-c5 である(黒はまず白の d4-d5! という応手を止めてからでなければ …c7-c5 と突くのが困難であることが多いことを覚えておかなければならない)。しかし中央をポーンで占拠することは黒に容易に不利になるような動的な戦いになるので、まず白に手を決めさせたい!それならば黒は中央で何をいつすべきか決めるのがもっと容易になる。…d7-d5 より前にナイトを動かすことにより(手順によっては黒はどのみちそこにナイトを動かすが …d7-d5 のあとからである)、黒は自分の作戦を明らかにしない。黒が …d7-d5 と突くのは今だろうかあとだろうか。全然突かないのだろうか。…c7-c5 はどうだろう。突くとしたら …d7-d5 の前だろうかあとだろうか。そもそも本当に突くのだろうか。白には分からない。しかし何か指さなければならない。

 例えば 7…d5 なら白は后翼ビショップをg5に出して Bxf6 でd5の地点の切り崩しを狙うことにするかもしれない。白は Ne5、Bxf6 から cxd5 という手筋でポーン得を図ることさえするかもしれない。しかし黒が …d7-d5 を延期すれば、白のビショップはg5が好所にいることになるのだろうか。黒が手を決めるのを拒否するのならば、白はここで手を決めるのを少し控えて代わりに一般的に役に立つ 8.Ne5 を指すべきだろうか。

 多くの戦法のようにこの戦法における戦いは手の非常に微妙な損得をめぐる戦いである。…c7-c5 や …d7-d5 や d4-d5 のような中央での重大なポーン突きが強い手になるか弱い手になるかは、以前に見られたし面白い本局でも見られるように通常はわずかな相違にかかっている。

8.Bg5

 こんなものである。8.Ne5 はこの局面ではあまり意味がないことは分かる。黒は単純に 8…Bxg2 と取って 9…Qc8 から 10…Qb7+ で対角斜筋で優位に立つことができる。そのあとは …d7-d6 で白のナイトをe5から追い払うことができる。

 8.Bg5 の方が強制力のある手で、9.Bxf6 から 10.e4 で古典的なポーン中原を築く小さな狙いを持っている。このビショップ出は黒が …d7-d5 と突いたときに中央での来たるべき戦いにも十分備えている。

 しかし …d7-d5 を完全に止める手段はあるのだろうか。白が 8.d5!? で中央をごちゃごちゃにする気があれば、それはある。その得失を考えてみよう。

 8.d5 の局面(参考図)

(この章続く)

2015年06月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(071)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例3
白 W.ブラウン
黒 B.スパスキー
ティルブルフ、1978年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3

 ここで考慮に値する歴史的な数字について補足すると、后印防御は世界選手権戦の番勝負で8局指されている(加えて1974年に事実上の世界選手権戦番勝負となったアナトリー・カルポフ対ビクトル・コルチノイ戦ではさらに5局指されている)。これらの13局で白は正規のフィアンケット戦法を10回採用した。その結果は1勝1敗8引き分けである。

4…Bb7 5.Bg2 Be7 6.O-O O-O 7.Nc3 Na6!?

(この章続く)

2015年06月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(070)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

実戦例2(続き)

(再掲)

49.Bb2! Bb6 50.Ba3+ Ke6 51.Ng5+ Kf5 52.Nxh7 e4

 白はhポーンを取ることによりポーン得になっただけでなく黒のgポーンの土台をなくした。ここで 53.Rd5+ Ke6 54.Rg5 と指せば例えば 54…Kf7 55.Rg4 から Ng5+ となってすぐに試合を終わらせることができていた。

53.g4+? Kf4!

 黒は 53…Kxg4 54.Rg3+ で白ルークにぶらつく機会を与えずに、キングを安全で有効なf4に進めた。ここで白は自分のgポーンが非常に弱くてとても王翼で勝ちに出ることができないので、別の手段を取らなければならない。

54.Rd7 Rc7 55.Rxc7 Bxc7 56.Nf6 Bd8

 これでポーンを取り返せるが、お互いのルークがないので遅ればせながら白のbポーンが收局の鍵となる。

57.Nd7 Kxg4 58.b6 Bg5?

 黒の最後の可能性は 58…Kf5 にあった。59.Nc5 なら 59…Bxb6! 60.Nxb7 e3! 61.fxe3 Bxe3 から …Ke6 でポーンをすべてなくすことができる。

59.Nc5! Nxc5 60.Bxc5 Bf4 61.b7 Bb8 62.Be3 g5 63.Bd2 Kf5 64.Kh3 Bd6 65.Bxa5 g4+ 66.Kg2 黒投了

(この章続く)

2015年06月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 后印防御の指し方