2015年04月の記事一覧

后印防御の指し方(038)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲)

 白は小駒同士の交換を避けることができない。ナイトの良い引き場所がないのは無論だが、もしあったとしても黒ナイトをe4のこんな絶好の地点に置いたままにさせたくはない。このあとのナイト同士の交換は黒を楽にさせるだけだし、さらにそのあと可能な白枡ビショップ同士の交換もそうである。しかし黒は一組の小駒同士の交換だけからさえ利益を得る。というのは后翼ナイトをf6に捌いて、e4の地点をめぐる戦いに参加させることができるからである。ナイトをe4に捌きそのあとナイト同士を交換すれば、まずe4の地点を占拠し次に白駒をそこからそらすことにより白の e2-e4 突きを防ぐことになる。

8.Qc2

 この手は黒が何をしようとたとえナイトをe4に置いたままにしようと役に立つ手である。c2のクイーンはe4の地点に影響を与え、それと同時にc3の地点に利いて二重ポーンを避けている(…Nxc3 のあと)。

 7.Nc3 のように白は攻勢と堅実の間の中道を進んでいる。危険と隣り合わせで複雑な 8.Bd2!? は、ありきたりの本譜の手に代わり魅力のある指せる手と考えられている。しかし 8.Nxe4 Bxe4 は退屈すぎるとみなされている。その理由を考えてみよう。

 8.Nxe4 Bxe4

(この章続く)

2015年04月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(134)

「Chess Life」1995年11月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 A.1.d4 d5 2.e3 Nf6 3.Bd3 [D00](続き)

 (2)3…c5

 これは欠点のない高級な手である。白が自発的に黒の中央に圧力をかけるのを避けたので、黒が中央での主導権を奪い取る。

4.c3 Nc6!

 4…Qc7 は無駄手である。ハイェス対カパブランカ戦(ニューヨーク、1911年)では 5.f4 Bg4 6.Nf3 e6?!(6…Nc6 の方が良い)7.Qa4+! Nbd7 8.Ne5 c4 9.Nxg4 Nxg4 10.Be2 Nh6(10…Ngf6 の方が良い)11.b3! cxb3 12.axb3 a6 13.O-O Bd6 14.c4! O-O 15.c5 Be7 16.b4 と進んで白が少し優勢になった。閉じ込められたクイーン翼ビショップは相変わらず問題だが、白の広さの優位の方がもっと重要な要因である。

5.f4

 主眼のポーン突きだが、純粋派は 5.Nf3 の方が良くて「互角」だと言うかもしれない。

 しかしカパブランカ対ベルリンスキー戦(モスクワ国際大会、1925年)のように 5.dxc5? は犯罪行為である。5…a5! 6.Nd2 e5 7.Bb5?! Bxc5 8.Ngf3 Qc7 9.Qa4 O-O 10.Bxc6 bxc6 11.b3 Ba6 で、中央での優位、双ビショップ、展開の大差という黒にとって願ってもない態勢になった。

5…Bg4! 6.Nf3 e6 7.O-O

 黒のクイーン翼ビショップが連鎖ポーンの外側に効果的に展開されたので、互角を心配しなければならないのは白の方である。別の穏当な手はガンズバーグ対タイヒマン戦(モンテカルロ、1902年)の 7.Nbd2 Bd6 8.h3 Bh5 9.b3 cxd4! 10.cxd4 Rc8 11.O-O Bg6 12.Bxg6 hxg6 である。GMファインは互角の形勢と判断しているが、白はクイーン翼ビショップの使いにくさが続く。

7…Bd6 8.Qe1 O-O 9.Ne5 Bf5!

 GMルデク・パッハマンは「黒が大いに優勢である。10.Bxf5 exf5 のあと白のeポーンは恒久的に弱い」という形勢判断で解説を締めくくっている。『MCO-13』(Modern Chess Openings 第13版)は次の重要な参考棋譜をつけ加えている。10.Qe2 Bxd3 11.Qxd3 Nd7 12.Nd2 Qc7(すぐに 12…f6 と突く方が正確である – メドニス)13.Rf3 f6 13.Ng4(14.Rh3 で 14…f5 と突かせる方が良い – メドニス)14…g6 リヒター対コルン戦(プラハ、1936年)で黒が少し優勢。パッハマンと MCO の「局面」で際立っていると思うのは、どちらでも黒が展開で先行しているのに対し白の「代償」は閉じ込められたクイーン翼ビショップであるということである。

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2015年04月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(037)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲) 7…d5 8.Ne5 Na6 の局面

 これでd5でのポーン交換(9.cxd5 exd5)から 10.Qa4 のあと黒は 10…Qe8! と指すことができ好調である。クイーン同士の交換は弱点を守るのが容易になり展開で少し有利になるので恐れる必要がない。白はまだ后翼ビショップの本当に良い地点が見つかっていない。ポーン同士の交換の代わりに 9.Bg5 c5 または 9.b3 c5 と指せば黒が中盤戦で有利な立場になる。

 既に見たように黒は后印防御の色々な個所でこの種のポーン陣形を目指すことができる。しかしここでの7手目では黒がどの駒も不利な地点に早まって行かせることをなくそうとすることができる。この要点は 7…Ne4 に代わる 7…Qc8 を考える際に思い浮かぶ。もし白が 8.Qc2 で e2-e4 突きを意図すれば、黒は 8…c5 で中央の取り分を得ようとしなければならない。cポーンを突くのは白クイーンがd列にいないので d4-d5 突きを支援できないので、今が最も適切である。しかし黒はここで 8…d5 と突こうとすべきでない。なぜなら 9.cxd5 exd5 でc8のクイーンがいくらかおかしな位置になるからである。白は后翼ビショップを動かしたあと Rac1 でc列ににらみを利かせることができ、そうなれば黒クイーンが愚かに見える。同様の状況は 7…Qc8 8.b3 d5 9.cxd5! exd5 10.Bb2 Nbd7 11.Rc1 でも生じ白が好調になる。

 しかし 7…Qc8 には役に立つことがあり過小評価すべきでない。この手は白が対角斜筋でb7のビショップの守られていない状態につけ込むことのできる戦術のあやをすべてなくしている。例えば 8.d5 exd5 9.Nh4? は 9…dxc4 で単なるポーン損になる。そして上述のように 8.Qc2 には 8…c5! で黒が絶好の態勢になる。9.e4? は黒の捌きが防ごうとしていた手だが、9…cxd4! と応じられてcポーンを取られる。白は 9.b3 cxd4 10.Nxd4 と指す方が良いが、黒が 10…Bxg2 11.Kxg2 Nc6! から …d7-d5 で見通しが明るくなる。

 白が(7…Qc8 のあとの)…c7-c5 を待ち受けるなら、8.Qc2 でなく 8.b3 でクイーンを本拠のd1に置いておくのが最善である。それでも 8…c5 なら 9.d5! で白駒に素晴らしい視界が開け、黒駒の視界を厳しく制限することになる(黒は既に d5-d6 突きの狙いに直面している)。

 それでは本譜の 7…Ne4 の利点について考察しよう。

(この章続く)

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后印防御の指し方(036)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲) 浮きポーン

 d5とc5のポーンはほかのポーンによって支えられることができずにそこにとどまり、c1とd1のルークや色々な小駒によって中盤戦の大部分の間攻撃にさらされるので、浮いていると言われる。黒はいったんそのような浮きポーンを持つことになれば、有利な形で消去することは難しい。状況によってはそれらの一つを強力なパスポーンに変えることができるかもしれないが(…d5-d4 のあと …c5-c4 から …d4-d3)、そういうことはまれである。黒が一般に直面する絶え間ない危険はポーンが動けなくなりせき止められることである。例えば …d5-d4 と突くと白は駒、理想的にはナイトをc4にはめ込むことができる。そこの駒は見通しが素晴らしく、黒がポーンをもっと先に突くのを止める。黒が代わりにcポーンを突けば、白は早速小駒でd4を占める。(白はこのポーン陣形ではd4の地点を支配できるようにするためだけによく b2-b3 から Bb2 で后翼ビショップをフィアンケットする。)

 黒陣はポーンの弱点の存在する局面を指すことに慣れて嫌がらない選手の手にかかれば強力になることがあるけれども、通常は代償のない恒久的な標的を避けるのが賢明である。代償として戦力を始め多くの形をとることができるが、この種の局面では黒の代償はより大きい動きの自由度の形をとるのが普通である。もし黒の動きが制限されれば、それは通常はポーンの弱点(浮きポーン)の代償が十分でないことを暗示している。

 それでは 7…d5 に戻る。

 白は黒の動きを 8.Ne5! で制限しようとすることができる。もし 8…Nbd7 9.cxd5 exd5 と進めば黒は …c7-c5 でe5の白ナイトを揺さぶる手があって堅実そうに見える。しかしここで 10.Qa4! によって 11.Nc6 を狙われると黒の動きの自由は本当におかしくなる。黒はもし良好な后翼ビショップがそのナイトと刺し違えることを強いられれば、后翼ビショップがなくなって弱点になった后翼の白枡に敵に自由に出入りさせることになる。白はb7、c6、a6そしてb5を意のままに占拠できるようになる。黒は 11.Nc6 を止めることができるが、その選択肢は不快なものばかりである。10…Nb8 は愚形で手損の退却だし、10…Nxe5 11.dxe5 Ne8 は自分のポーンを 12.Rd1 から 13.e4 の攻撃にさらす。

 7…d5 8.Ne5 のあとの局面の正しい対処法は逆説的な 8…Na6! である。

 7…d5 8.Ne5 Na6 の局面

(この章続く)

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后印防御の指し方(035)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲)

 白は(7…d6 のような)無頓着な手には 8.Qc2! と応じることができ、もし許されるなら 9.e4 と突いていく。そして黒が不注意に展開すればすぐに達成することができる(例えば 7…Nc6 8.e4!)。最後に、ここで黒が …c7-c5 突きの着想を復活させれば、白がちょうど前述のように迎え撃つ態勢になっていることを見ることになる。すなわち 7…c5 8.d5! exd5 9.Nh4 から cxd5 であの素晴らしいポーン中原になる。

7…Ne4

 この手は初めて見たときは奇妙な印象を受ける。黒は既に展開された駒をまた動かすことにより2手かけて、最下段から離れて登場したばかりの駒(白の后翼ナイト)と交換する。この捌きはほとんど黒の展開を助けることにならない(黒の后翼ナイト、さらに言えば后翼ルークはどうしたのか)。また、このナイト跳ねは白枡の対角斜筋をふさぐことにより、白がある時点ですぐにビショップ同士の交換になる危険なしにナイトをf3から動かすことを可能にさせている。実際b7の黒ビショップが守られていないのでe4の黒ナイト自身が釘付けになるかもしれない。

 しかしこれらは実際の問題でなく理論的な難点である。このナイト跳ねは真に融通性がありこれまでの手と首尾一貫していて、このあと出てくるように黒にとって大きな利益がある。まず、形を決める 7…d5 から始めてほかの手を考察していこう。

 7…d5 はマスターのチェスでこの5年間によく指されるようになり、特に世界チャンピオンのアナトリー・カルポフによって採用されてからそうなった。この手は前述したもっと早い 5…d5 突きに似ていて、5…d5 のあとの局面が 7…d5 のあとの局面と同じになることもある。どちらの場合も黒は …c7-c5 で敵の中央を清算する用意をしている。(黒がこのような布局で …c7-c5 と突きたいときは、白がdポーンを突くのを防ぐために通常は先に …d7-d5 と突くべきであることを覚えておくとよい。)

 4ポーンがすべて突かれると(白は初手から d2-d4 と c2-c4 を指し、黒は …e7-e6 と …b7-b6 に支えられてあとで …d7-d5 と …c7-c5 と突く)、いろいろな型の中央ポーンの形ができ、最も難しいものにはあの有名な「浮きポーン」がある。中央ポーンがすべて駒で取り返されれば中央に完全にポーンがなくなり、取り返しの一つがポーンで行われれば中央にたった1個のポーンが残る。しかし浮きポーンができるためには白の cxd5 には …exd5、dxc5 には …bxc5 と取り返しが行われなければならない。するとポーンの形は次のようになる。

 浮きポーン

(この章続く)

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后印防御の指し方(034)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲) 7.d5 の局面

 7…exd5 8.Nd4 で白ナイトはg2-b7の斜筋を開けると共にf5の地点を目指す。黒は 8…Nc6 でギャンビットを拒否することができ、白は 9.cxd5 でポーンを取り返すことができる。そして 9…Nxd4 10.Qxd4 c5! で、白はクイーンを引こうと 11.dxc6e.p. と取ろうと中央での優位がほとんど消える。しかし白は 11.Qd2 から Nc3 そして b2-b3 から Bb2 で后翼ビショップをフィアンケットしていくらか優勢を保持する。

 いつものようにギャンビットへの最大の挑戦は受諾することである。7…exd5 8.Nd4 のあと黒はc4のポーンを取るわけにいかないが、后翼の展開を完了したいならば何とかして駒を再編成しなければならない。このための最良の手段は 8…Bc6! である。もし白がナイトでこのビショップを取ってくれば、中央の強力な駒を守勢の駒と交換したことになる。もっと良い手は 9.cxd5 Bxd5! 10.Bxd5 から 11.Nf5 や 11.e4 で、そのあと黒の王翼、特にg7の地点への攻撃が見込める。f5とd5の白ナイト、g7の地点をにらむb2またはc3のビショップ、そして例えばd4のクイーンを想像するのはたやすい。白の攻撃の可能性がポーン損に値するかどうかは指す人の技量にかかっている。

 白は 8.Nh4 の方がもっと良いかもしれない。このナイトはやはりf5を目指すが、8…Bc6 は 9.cxd5 で追い返せる。より自然な 8.Nd4 に対する 8.Nh4 の主要な利点は、白クイーンによるd5への直接的でさえぎるもののない圧力である。もし黒がポーン得を保つために 8…c6 と突けば、9.cxd5 Nxd5 10.Nf5 となって、后翼の展開に克服できないことはないけれども深刻な問題を抱えることになり、白は可能性が大きく広がる。しかしこのギャンビット戦型は比較的新しいので両者には改良の余地がいっぱいある。8.Nh4 は1980年にレフ・ポルガエフスキーが挑戦者決定大会番勝負でビクトル・コルチノイ相手に指して成功して注目を集めたばかりである。

 中央での戦略のまったく反対側に位置するのは 7.Re1 である。この手は手待ち方針をほとんどの選手がやろうとするよりもさらに一歩進めている。このおとなしい手の大きな利点はいつか e2-e4 と突く準備をし、その間ずっと黒の攻撃的な動きを待ち受けることである。例えば 7…Ne4 は 7.Nc3 に対してなら意味があるが、白のルーク寄りのあとではc3で取る手がないので意味がない。黒は魅力的な 8.Nfd2 で不快な釘付けに陥るかもしれないし、陣地を広げ同じくらい魅力的な 8.d5!(今度はギャンビットでない)で劣勢の局面に陥るかもしれない。

 戦術の要点もある。7.Re1 のあと黒はいくつもの穏やかな手で「パス」できる。その中でも 7…d6 はたぶん最も役に立つ手である。しかしこのポーン突きは白に何の代価を払う必要もなく 8.Nc3 と指させる不利益がある。そして黒は何事もなかったかのように指せば 7.Re1 の真価が現れる。8…Ne4(e2-e4 を止めるため)9.Qc2 Nxc3 のあと突然 10.Ng5! という手が飛び出す。この手はこの種の局面では危険になってくることがよくあり、h7での詰みとb7のビショップ取りを狙っている。白は一時的に駒損になっているけれども 10…Bxg5 11.Bxb7 で戦力得になる。そして 7.Re1 のいい所は黒が 10…Nxe2+ と取るわけにいかないことで、ルークを寄ってなければ白が困ったことになっていた(11.Qxe2 Bxg2!)。

 しかしさりげない 7.Re1 に対する良い手段が二つある。黒は「ただ」の手を使って 7…Qc8 とビショップを守ることができるし、中央で 7…d5 で事を決することもできる。どちらの手もまったく理にかなっている。7…d5 8.cxd5 exd5 9.Nc3 のあと黒には幸いにも 9…c6 のあと …Nbd7、…Qc7 そして …Rfe8 と指す堅実な防御と、危険な 9…c5!? との二つの選択肢がある。あとの手はどちらかが有利に乱戦に対処できるほど展開する前に、局面を開放することによりいつもいくらかの活気を注ぎ込むことになる。9…c5 10.dxc5 bxc5 のあとポーン陣形の主要な特徴はかの有名な「浮きポーン」で、これについてはあとで取り上げる。

 本譜の 7.Nc3 のあと白は中央で仕事に取り掛かる用意ができている。

(この章続く)

2015年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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后印防御の指し方(033)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲)

 これは両者が避けようとしていた局面である!白にはこれ以上「パス」、すなわち形を決めない手がなく、黒もそうである。ここでは h2-h3 や a2-a3 のようなあまり意味のないつまらない手を指すか、作戦を明らかにしなければならない。

7.Nc3

 ようやくナイトが出て来て、それと共に 8.Qc2! から e2-e4 という陣形上の狙いも出てきた。白は最初に 7.Qc2 と指しそれから Nc3 と指すこともできる。この可能性については実戦例1で解説する。ここでは7手目での最も極端な変化について考察しよう。それらは超攻撃的な 7.d5 と超慎重な 7.Re1 である。

 もちろん最初の手の方が危険な手で、変わったギャンビットになる。ほとんどのギャンビットは相手に手損させるか弱点を受け入れさせるために戦力をくれてやる。ここでは黒は実際には白より多くの駒を展開していて、特に目立った問題もない。だから 7.d5 のギャンビットには別の目的がある。その主要な着想は中央を大きく支配していることを活用すること、特にd4の地点を使うこと、そして黒の后翼ビショップの斜筋を遮断することによりe4の地点への黒の影響力を減らすことである。

 7.d5 の局面

(この章続く)

2015年04月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(367)

「Chess」2015年2月号(1/3)

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第6回ロンドン・チェスクラシック

□V.クラムニク
■H.ナカムラ

第2回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 d5

 ぺトロシアン戦法。クラムニクはこの戦型で好成績を上げたが、1990年代半ばに放棄し代わりに銃剣攻撃(7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.b4)を採用し一層キング翼インディアンキラーになった。

7…a5 8.Bg5 h6

9.Be3

 これは珍しい手である。全盛期の頃のクラムニクは主流手順の 9.Bh4 をよく用いていて、そのあと例えば1994年ドイツのブンデスリーガでのクラムニク対ナン戦では 9…Na6 10.O-O Qe8 11.Nd2 Bd7 12.Kh1 Nh7 13.a3 h5 14.f3 Bh6 15.b3 Qb8 16.Qc2 Be3 17.Rae1 となって白が盤のどちらの翼でも応戦できる態勢になった。

9…Ng4 10.Bd2 f5

 ナカムラは既に熟考し始めていて、第14代世界チャンピオンが以前にこの局面を指していたことを知っていたようには思われない。2001年マインツ(同時指導対局)のクラムニク対アイダム戦では 10…Nd7 11.h3 Ngf6 12.Be3 Nc5 13.Nd2 Bd7 14.O-O Kh7?! 15.b3 b6 16.a3 Ng8 17.b4 で白がうまく指し回していた。もっとも本譜の手でもうまくいかない。だから黒は魅力的な 9…Ng4 を控えるべきだったのだろう。

11.h3 Nf6 12.exf5

 これは理解しやすい手ではないかもしれないが、白の望みは黒に何も楽しみを与えずキング翼を守らせることである。

12…gxf5 13.Qc1!

 これは新手である。もっともナカムラがもう定跡の知識が尽きたのは明らかだった。前例は1997年ジェチーンでのトゥレツェク対ヘルマンソン戦の 13.Qc2 Na6 で、白が少し指しにくかった。2007年通信戦でのヒンツ対ゾリンスキー戦では 13.Rg1 Na6 14.g4 fxg4 15.Nh2 Nh5! 16.Bxg4 Nf4 と進んだ。

13…f4

 中央で並んだポーンを突いていくのはキング翼インディアン選手の夢である。しかしここでは黒はポーンを保てない。13…e4 も 14.Nd4 でやぶへびである。そして 14…Nxd5? と取ると 15.Nxd5 Bxd4 16.Bxh6 となってキング翼が持ちそうにない。一方クラムニクは 13…Kh7 に 14.g4! を用意していて、強力な主導権を握ることになる。白の狙いは 15.g5 で、このポーンはタブーである。それでも 14…fxg4? と取ると 15.hxg4 Nxg4 16.Ng5+ Kg8 17.Ne6 Bxe6 18.dxe6 Nxf2 19.Rh2

となって、巧妙にナイトが追い詰められる。

14.g3

 白は切り崩し作業を始めた。この段階でチェスエンジンは黒に何も危険がないと見ている。しかし詳細に分析すると黒はこんな風通しの良い状態では何らかの困難に見舞われるかもしれないと明白に断定しなければならない。

14…e4 15.Nh4

 この手は中央から離れるが、黒キングからは目を離さないでいる。黒の次の手を許すのは危険そうに見えるが、クラムニクはこの段階でもまだ早指しを続けていた。だからすべて研究済みであったことは明らかである。

15…e3

 黒は突進を続けていて、15…f3? よりはずっと強い手である。この手は 16.Bd1 Kh7 17.Bc2 となって、黒のポーン陣形はきしみだす。

16.fxe3 fxg3 17.Ng6

17…Rf7

 ナカムラは彼らしくもなく残り時間で大差をつけられていて、このあたりでは問題を解決できなかった。生で見ていた当解説者は 17…g2!? 18.Rg1 Bxh3 を予想していた。19.Nxf8 Qxf8 20.Qc2 Ng4 21.O-O-O で白の方がまだ良いかもしれないが、少なくとも大乱戦でナカムラにも反撃の可能性があっただろう。

18.Qc2 Nfd7?

 ジュリアン・ホッジソンはこの手にとても批判的で、4度も英国チャンピオンになっただけあって的確だった。黒は既に展開した駒を配置換えする余裕などない。18…Na6 なら本手で、19.O-O-O Nb4 20.Qb1 Qe8 となれば何が起こってもおかしくなかった。

19.O-O-O Ne5

 この手は白の進攻してきたナイトに挑んだものだが、クラムニクはg3のポーンを無視してはるかに優る展開の活用を図り始める。

20.Rhf1! Rxf1 21.Rxf1 Bxh3

 黒はこのポーンを取って災いの種を招いたのかもしれないが、g列で強力な攻撃が待っていた。

22.Rg1

22…Qf6

 22…Qg5 でも大同小異で、23.Nf4 Bd7 24.Ne4 Qf5 25.Rxg3 となって黒キングが白の視界にしっかりととらえられる。

23.Rxg3 Nxg6 24.Rxg6 Qf7 25.Rg3 Bf5 26.e4 Bg6

 ナカムラはなんとかg列を当面ふさぐことができたが、クラムニクはここで少考して強力な再編成法を見つけた。

27.Bg4 Qf1+ 28.Nd1 Be5

 このせき止めは必須である。代わりに 28…Na6? は 29.Be6+ Kh7 30.Rxg6! Kxg6 31.e5+ Kh5 32.Qe4 と一掃され詰まされる。

29.Bh3 Qf6 30.Rg1 Kh7 31.Bf5!

クラムニクはキング翼を支配し続け、その間ずっとナカムラのルークとナイトは遠くからわびしく傍観しているしかなかった。

31…Bxf5 32.exf5 Nd7 33.Rg6 Qf7 34.Rxh6+

 ポーンを払ってさらに筋を開けた。終わりは近い。

34…Kg8 35.Rg6+ Kf8 36.Nf2 b5 37.Ng4! bxc4 38.Qxc4 Qxf5

 やむを得ない手だが、クラムニクは軽妙な手筋を用意していた。

39.Rg8+! Ke7

 これでは大きな駒損を避けられないが、39…Kxg8 では 40.Nh6+ でクイーンが落ちる。

40.Bg5+ Bf6 41.Qe2+ 1-0

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス5

后印防御の指し方(032)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲) 9.Ng5 の局面

 白の陣形上の狙いは 10.Nxd5 である。黒はd5で2度取ることができないので(10…Bxd5 11.Bxd5 Nxd5?? 12.Qxh7#)、白にその地点をで占拠させなければならない。そのあと黒の残りのdポーンはd7にとどまろうとd6に進もうと、半素通し列で露出し白ルークの射程に入る。狙いが陣形上のものである理由はこれである。それに対処する 9…g6 は Qxh7 の可能性をなくし白にポーンでd5で取らせる。これはのdポーンが標的になるので中央の状況をかなり変えることになる。例えば黒は …d7-d6 のあと …Na6-c7 および …Nd7 と指すことができる。白のdポーンは絶えず攻撃にさらされ、黒の王翼ビショップは …Bf6 のあと斜筋がきれいに通るのに対し、白のg2のビショップはd5のポーンによって邪魔される。

 だから白が Qc2 から e2-e4 と突く陣形上の作戦はもう少し待った方が良い。キャッスリングしてからの方が強力で、中央での作戦はe1かd1の王翼ルークにより支援することができる。

 黒はそれを狙われた時のために備えなければならない。e4とd5の支配をめぐる戦いで …Bb4 の可能性を放棄したので(既にビショップを動かしているので、また動かすのは貴重な手を損することになる)、別の構想を探さなければならない。そうして見つけることができるのは 6…Ne4! で、要所を占拠し …Nxc3 で白のポーンを二重にすることを狙う。そのような二重ポーンは黒が …d7-d6、…Nc6-a5 から …c7-c5 と指せば予備に …Rc8 と …Ba6 もあるので中盤戦で取られるのは必至である。そうなれば白には二印防御の短所だけがあり長所は何もない。

 6.Nc3 Ne4! のあとの白の選択肢は 7.Nxe4、7.Qc2 それに 7.Bd2!? の3手になる。両者がキャッスリングしたあとそれぞれをある程度詳しく分析してみる。O-O と …O-O を加えてもそれぞれの手の選択に大きな影響は与えない。

6…O-O

(この章続く)

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カテゴリ: 后印防御の指し方

后印防御の指し方(031)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲)

 このビショップの展開は理想的な手待ちで、手の内を何も明らかにしない。黒はまだ中央でのポーンの動きを明らかにすることも后翼ナイトを展開することも急がない。ここ数手のうちに …c7-c5、…Nc6、…Qc8 またはそのほかの手を指す好機が訪れるかもしれない。しかし黒は白が何か手を決めるまでは自分は決めないようにするのが良い。

6.O-O

 この手も当たり障りのない手である。后印防御で白がクイーン翼にキャッスリングするのは非常にまれである。だからここで O-O することにより多くの選択肢を放棄することにはならない。もし 6.b3 や 6.Nbd2 のような手を指せばさすがに選択肢を減らすことになるだろう。そのあと黒は完全に 6…c5! と突く正当性が得られる。この手は5手目よりもここでの方がずっと強力である。戦術上の要点は 6.b3 c5! に自然な手の 7.d5 が咎める手にならないことである。なぜなら 7…exd5 8.Nh4 に 8…Ne4 で 9…Bf6! や 9…Bxh4 が狙いとなるからである。

 しかしほかの手として 6.Nc3 も考えられる。白はこれまで …Bb4 があるのでこの自然な展開の手を避けてきた。しかしここでは黒は 5…Be7 に1手使ったので 6.Nc3 に 6…Bb4 と応じるのは意味がない。さらに白は布局の6手目や7手目あるいはもっと後でも Nc3 と指すといつでも陣形的に大きく優位を目指すことになる。その局面には中央で d4-d5 と突くか Qc2 から e2-e4 と突く狙いが現実にある。

 しかし白が理想の中央を築くには2手かかる(Qc2 とeポーン突き)。6…O-O 7.Qc2 のあと黒は中央でちょっかいを出す機会がある。白が Qc2 と指した時dポーンへの支援が減ったので …c7-c5 突きに弱くなっているのが普通である。だからここで 7…c5! と突くのが適切である。8.d5! exd5 9.Ng5 のあと白はh7で詰ませる可能性があり新たな陣形上の狙いもある。

 9.Ng5 の局面

(この章続く)

2015年04月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 后印防御の指し方

布局の探究(133)

「Chess Life」1995年11月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 1.d4 に対する黒の最も普通の応手は 1…d5 と 1…Nf6 で、順に分析する。

 A.1.d4 d5 2.e3 Nf6 3.Bd3 [D00]

 白はキング翼ビショップを最良の地点に展開し、黒がクイーン翼ビショップをf5に展開するのを妨げた。例えば 3.f4?! では 3…Bf5! で、黒に無償でe4の地点を押さえつけられる。

 黒の最も普通の3応手を取り上げる。

 (1)3…e6?!

 当たり前の手だが、黒の作戦としては最も有望さに欠ける。なぜ不必要にクイーン翼ビショップを閉じ込めるのだろうか。

4.c3 c5 5.f4 Nc6

 5…Nbd7 でも似たようなものである。スルタン・ハーン対A.ルビンステイン戦(プラハ、1931年)では黒が次のようにすぐに不利になった。6.Nf3 Bd6?! 7.Nbd2 b6 8.Ne5! Bb7 9.Qf3 h5?(自殺手。9…O-O 10.g4 Ne8 ならまともだった。白はクイーン翼のルークとビショップが参加していないので攻撃に迫力がない)10.Qg3 Kf8 11.O-O h4 12.Qh3 Rc8 13.Ndf3 Ne4 14.Bd2 Nxd2 15.Nxd2 Nf6 16.Ndf3

6.Nd2

 白はe4の地点を過剰防御することにより …Ne4 を防いでいる。ここからは F.J.マーシャル対A.ルビンステイン戦(ウィーン、1908年) の手順を追う。

6…Bd6?!

 GMマーシャルは自著の『My Fifty Years of Chess』で次のような鋭い解説を加えている。「本譜の手は黒を e4-e5 突きによる猛攻にさらすので 6…Be7 と指す方がずっと優った。本譜の手は 7…cxd4 で白にcポーンで取り返させることを狙っている。しかし白は次の手でこの狙いに対処した。」

7.Qf3! Bd7 8.Nh3 Qb6 9.Nf2 O-O-O?!

 ここでは 9…O-O が最善である。黒の5手目の解説を参照。黒キングはクイーン翼では隙が多くてそのため安全性に劣る。白は何の危険もなく強力な攻撃に出た。

10.O-O Kb8 11.e4! dxe4 12.Nfxe4 Nxe4 13.Nxe4 Be7 14.dxc5 Bxc5+ 15.Nxc5 Qxc5+ 16.Be3 Qa5 17.a4!

 GMマーシャルはここで次のように言っている。「eポーン突きの結果白は手得して展開し、双ビショップと長続きする攻撃を得た。本譜の手は b4 と突くための準備で、すぐに突くと …Qa4 と応じてくるかもしれない。」白は名高い相手を次のように危なげなく負かした。17…Ne7 18.b4 Qc7 19.Bd4 f6 20.Qf2 Nc8 21.Rfe1 Rhe8 22.Qg3! Bc6 23.b5 Bd5 24.a5 Bc4 25.b6! Qc6 26.Bxc4 Qxc4 27.Qxg7 Ne7 28.Qxf6 Nf5 29.a6! axb6 30.Qe5+ Ka8 31.axb7+ Kxb7 32.Bf2! Rd5 33.Qf6 Qc6 34.Reb1 Rb5 35.Rxb5 Qxb5 36.Qf7+ Re7 37.Qg8 Qe8 38.Qxe8 Rxe8 39.Rb1 Kc6 40.Rxb6+ 白が54手目で勝った。

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2015年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

后印防御の指し方(030)

第2章 王翼ビショップのフィアンケット 本手順 アンディー・ソルティス(続き)

(再掲) 9.Qc2! の局面

 白は安全に e2-e4 と突くことができれば好形になれ、黒の中央での進攻を恐れる必要はない。9…c5 にはやはり 10.d5! と応じることができる(10…exd5 11.Nh4!)。さらにこの種の局面では黒は …d7-d5 と突きたいと思わない(特に1手かけて …d7-d6 と突いたあとでは)。黒は黒枡ビショップが交換されると、残りのビショップが自分のd5のポーンによって動きを制限される中盤戦に入ることを避けなければならない。代わりに中央で黒枡でポーン陣形を築くように努めるべきである。それを達成するための手段は 9…Qe7! から e6-e5! 突きである。それに対して白が通常は自分のためになる d4-d5 突きを指せば、自分のg2のビショップの効果を低めてしまうことになる。言い換えるとこの種の局面ではどちら側がd5の地点をポーンで占拠しようと自分のフィアンケットビショップの利きを制限することになる。

 カパブランカの 5…Bb4+ を終える前に、面白い落とし穴を一つ指摘しておく。それは黒の理にかなった指し方から生じる。6.Bd2 Bxd2+ 7.Qxd2 O-O 8.Nc3 のあと黒は 8…Ne4 でもう一組の小駒を交換したいと考えるかもしれない。これはあとで考察する主手順のある着想と酷似している。しかしここでの 8…Ne4 は 8.Qc2! という手があるために疑問である。その要点は 9…Nxc3(唯一の一貫性のある手。9…f5 は陣形を弱める)のあと白が 10.Ng5! でh7での詰みと Bxb7 とを狙って戦力得することができるということである。黒の最善手は 10…Ne4 と引き戻す手だが、白は 11.Bxe4 Bxe4 12.Qxe4 Qxg5 13.Qxa8 というようにe4で2回取ることにより戦力得になる。このささやかな罠を覚えておくとよい。

 それでは主手順の 5…Be7 に戻ろう。

(この章続く)

2015年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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