2014年09月の記事一覧

[復刻版]理詰めのチェス(29)

第3章 チェスのマスターが自分の読みを解説する(続き)

第29局

 マーシャル対タラシュ戦はあまり知られていない名局である。本局は攻撃の天才と受けの達人の対決となった。大局観で指す手法が優勢となっていき継続的な陣地の獲得が白を壁際に追い詰めた。タラシュによる陣形上の優位の着実な積み重ねに対して相手の攻撃はすべて無意味にさえ見える。

クイーン翼ギャンビット拒否
白 マーシャル
黒 タラシュ
ニュルンベルク、1905年

1.d4

 クイーンポーン布局は早く陣形上の優位を得る目的で指されるけれどもマーシャルは攻撃を仕掛ける最良の手段は 1.d4 で指し始めることであると考えていた。彼がそう考えた一つの理由はキングポーン布局が手筋の乱れ飛ぶ大立ち回りの試合に至るとはもはや限らないことにあったのかもしれない。白が初手に 1.e4 と指していた昔の時代は応手はほとんど自動的に 1…e5 だった。それから白は 2.f4 でポーンを差し出しそれを取ってくれることを当てにしキング翼ギャンビットの興奮に喜んで飛び込んでいくことができた。黒はこのポーンを取りそれに頑強にしがみついて戦力で優位に立ったが手損を招いて受け身に立たされた。数多くの敗戦の後でしだいに黒番の選手たちは栄光の犠牲になることに飽きてきた。彼らはもっと分別のある対応をするようになり用心深くなった。そして 1…e6 や 1…c5 や 1…c6 で応じるようになった。これらはいずれも早い段階での直接的な接触を避けるものである。その結果攻撃的な選手は 1.e4 で指し始めながら不案内な道筋に連れ込む「変則」防御と向き合うことになった。そして攻撃を始めたくてたまらない時に系統だった計画が必要な込み入った局面に煩わされた。主導権が白にあるはずなのにここではそれがもぎ取られているのである。やる気満々の 1.e4 に対するに相手が単刀直入に 1…e5 と応ずる必然性がないならばどのようにしてギャンビット(たとえせいぜい向こうみずなだけであっても)が指せるだろうか。

 1.d4 で指し始めれば白はどのような防御法に対してもほんのわずかとはいえ有利が得られる。そしてそれと共に有望な攻撃の機会を保持することもできる。

1…d5

 これは間違いなく最強の応手の一つである。黒は中原における圧力を固定させ、白が 2.e4 で中原での地歩を強化するのを防ぎ、味方の二つの駒の筋を開けて戦いに参加させた。

2.c4

 白はポーンを差し出して(ただし付帯条件付きである)黒に中原を放棄するよう誘った。

2…e6

 ポーンを取るのは完全に理にかなっているし、少なくとも負けになるとは証明されていない。しかしポーン得を維持できないことが分かるのにどうして中原を放棄するのだろうか。実際 2…dxc4 は中原ポーンを側面ポーンと交換することに等しく割に合わない取引である。

 本譜の手の後黒のdポーンはしっかり支えられている。3.cxd5 ときたら黒はポーンで取り返し中原にポーンを維持する。

 確かに黒のクイーン翼ビショップは自分のeポーンによって閉じ込められて展開が困難になっている。そしてこれがこの防御の欠点である。しかしもし黒の最初の2手が良い手なら、そしてその2手が恐らくクイーン翼ギャンビットに対する最善の応手ならば、この布局はこの上なく強力であると評価することができ、それこそが多くの選手が白番の時はいつもためらうことなく 1.d4 と指す理由なのである。

3.Nc3

 この手はキング翼ナイトを先に展開するよりもいくらか厳しい。理由は中原のd5の地点にすぐにもっと圧力が加えられるからである。

3…Nf6

 タラシュは我々のほとんどが本能的に指すこのナイト跳ねに異議を唱えていた。確かにf6はほとんどいつもキング翼ナイトの最も働く地点である。ナイトはそこから中原での出来事に強い影響を与え、大いに自由に動くことができ、攻撃と防御に最適に位置している。しかしタラシュは白が次の手で黒のナイトに対して行なうことのできる釘付けの強力さを恐れていた。そこで彼は 3…Nf6 の代わりに黒が白の中原にすぐに 3…c5(クイーンポーン試合ではいつかは突かなければならない)で立ち向かうと共にc列を開けて自分の大駒が利用できるようにすることを推奨していた。

 それではなぜ自分で非難していた手をタラシュが指したのかと読者は問うかもしれない。彼の説明によるとこの試合は世界の一流のマスターの一人(マーシャルは最近ラスカー、シュレヒター、ピルズベリー及びヤノフスキーを抑えて一局も負けないでケンブリッジ・スプリングズ大会で優勝していた)との番勝負の初戦で、正統的な道筋からあまり早くそれたくなかったということである。

4.Bg5!

 もちろんこの一手である。なぜならビショップがナイトに不快な圧力をかけるからでもあり相手が煩わしいと思う手を指すのは良い方針だからでもある。もしタラシュがナイトの釘付けが迷惑と考えるならばナイトを釘付けにして彼を不安にしてやれ。

4…Nbd7

 これはビショップのわずかな視界をナイトがさえぎることになり具合が悪いように見える。しかし駒はお互いの通り道から簡単によけることができるものである。ナイトの居場所はこの地点でありc6ではない。c6の地点はcポーンの邪魔になる。このポーンはいずれc5に進むのでそれを妨げてはいけない。このポーンは大したものではないようだけれども中原の所有を争うには大きな力を持っている。

 黒の 4…Nbd7 にはタラシュによって考案された軽率な者のためのささやかな落とし穴が含まれている。もし白が黒の釘付けにされたナイトの無力な状態につけ込んで 5.cxd5 exd5 6.Nxd5 でポーンをかすめ取ろうとすれば、黒は 6…Nxd5(強引に釘付けをはずす)7.Bxd8 でクイーンを見捨て 7…Bxb4+ 8.Qd2 Bxd2+ 9.Kxd2 Kxd8 で別の駒を投じてクイーンを取り返す。

 教訓は序盤でポーンあさりに行くなということである。

5.e3

 このようなポーンの動きは無駄手ではない。開放のためにポーンが動かなければビショップは決して地面から離れることはできない。だからこれは駒を展開する過程の一部である。

 白は本譜の手で一度に二つの斜筋を開いた。一つはキング翼ビショップのためでもう一つはクイーンのためである。キングポーンはポーン中原をさらに支えるのにも役立っている。

5…c6

 黒も自分のポーン中原を補強しクイーンにクイーン翼への出口を与えた。

6.Qc2

 通常は小駒を先に展開するのが普通であり、その手順は大体次のとおりである。

 まずナイト、一般的にはc3/f3/c6/f6に、いずれにしても中央に向けて展開する。

 次はビショップを(必要なポーン突きの後で)展開して重要な斜筋を制するか敵のナイトを釘付けにする、

 これらの後でクイーンが登場する番である。もしクイーンが戦闘に加わるのが早過ぎれば敵の小駒によっていじめられる危険性があり、ことによっては包囲されて取られてしまうこともある。

 最後にルークの出番である。ルークはキャッスリングの後でe1、d1又はc1へ回り半素通しの中央列を占めることになる。これらの列は中央でポーンが交換された後は完全に素通しになる可能性がある。

 この展開方法は決して決まり切ったやり方と考えるべきではない。チェスでは慣例にせよ原則にせよ推奨手順にせよ何事も厳格に守らなければならないというものではない。どの一手にせよ一連の手順にせよその価値は具体的な局面に則してのみ考えることができる。それは対局している試合の作戦に適合していなければならず、相手の応手によって調整しなければならない。多くのことが相手のすることや自分のさせられることによって変わってくる。6手目にクイーンを展開したり60手目にキャッスリングしたりしても構わないことがあるのもこのためである。

 実戦の局面で黒は 6…Qa5 から 7…Bb4 でナイトを釘付けにし圧力を強めて反撃を行なうかもしれないことをほのめかしていた。だから白は本譜の手の代わりに 6.Nf3 で(銀行に預金するように)別の小駒を動員する方が当を得ていたかもしれない。この手は迅速なキャッスリングか又はさらにd2に移動してc3のナイトに対し予想される圧力を無効にすることを念頭においている。

6…Qa5

 この手には色々な目的がある。クイーンはナイトへの釘付けをはずしただけでなく、白のナイトを釘付けにして反撃を開始し、ビショップをb4にかからせることによって圧力を強めることを狙っている。おまけに魅力的なのは不注意な相手を引っ掛けるちょっとした罠をふくんでいることである。これには時おり序盤を惰性で指すエキスパート級の選手も引っ掛かるかもしれない。この罠はなにげなくビショップをd3に展開するとはまり、7…dxc4 と取られると両方のビショップが当たりになり、8.Bxf6 cxd3 でクイーンが当たりになるのでビショップを見捨てなければならない。

 ここで言っておいた方が良いのはタラシュは見え見えのはめ手でマーシャルを引っ掛けることを期待していたわけではないということである。マスター級の選手たちは自分の陣形を傷つけるような罠を仕掛けることはない。自然な展開の進行において罠が現れるなら別である。しかし貴重な手を損する危険を犯してわざとそうすることはあり得ないことである。

7.cxd5

 白は自分のビショップに対する敵クイーンの間接的な当たりを無効にし、自分の大駒のためにc列を素通しにした。

7…Nxd5

 タラシュは中原にポーンを維持するために 7…exd5 と取り返す予定だった。しかしここでクイーン翼の駒の展開をこれ以上遅らせることは危険かもしれないと気がついた。片方ではクイーン翼ナイトによってクイーン翼ビショップが閉じ込められていて、このナイトはキング翼ナイトを支えるためにそこにいなければならない。もしクイーン翼ビショップを展開させようとすれば …b6 の後クイーンの退路が閉ざされてしまう。

 しかしマスター級の選手なら戦略に柔軟性を持たせなければならない。つまり現在の局面が要求することに合致していなければならない。タラシュは強力な中原ポーンを渇望していたのだろう。しかし展開の必要性を無視する気はなかった。そこでかつてニムゾビッチが言っていた次のような言葉に耳を傾けた。「中原を放棄することは理に合わないとみなしてはいけない。幸せがほんの短い間しか続かなかったからといって幸せでなかったことにはならない。いつも幸せでいることはできない。」

 本譜に戻ってナイトは白の釘付けにされたナイトに圧力を加え、浮いているビショップを 8…Nxc3 9.bxc3 Qxg5 で取る狙いを復活させた。

8.Nf3

 タラシュは「狙われているビショップを守らなければならないという不安にかられて白は敗着を指した」と言っている。

 これはチェスでは正確な着手の時期がいかに大事かという興味深い例である。通常の展開の手は本来強力な手のはずなのだが、漠然とした似たような局面でなく現在目の前にある局面ではその手が有効なのかどうかという問題に関しては二次的なことになってしまう。

 このナイトがf3の非常に重要な地点を占めると共にビショップを守っているという事実にもかかわらずその展開は早過ぎたか遅過ぎたかのどちらかである。白は釘付けにされたナイトの問題については何もしていない。ここが圧力をかけられている所であり、危険が差し迫っている所である。

 本譜の手の代わりに 8.e4 で黒のナイトを追い払いその行き先を決めさせるのがよりぴったりだった。そして 8…Nxc3 と取ってくれば 9.Bd2 Oa4 10.Qxc3 で不安定な状況が解消される。

8…Bb4

 黒はナイトへの攻撃を三重にした。狙いは 9…Nxc3 10.bxc3 Bxc3+ から 11…Bxa1 ですぐに勝つことである。

 白はどのようにこの狙いに対処したら良いであろうか。自然な 9.Rc1 ならナイトが適切に守られている。つまり三重に攻撃されているが三重に守っている。しかし黒は釘付けにされた駒の能力に関する奇妙な事情につけ込んでいく。釘付けにされた駒は動くに動けないだけでなく守る能力も失っているのである。この局面をチェスの言葉に翻訳すると 9.Rc1 なら 9…Qxa2 となる。このポーン取りはちょっと見たところではびっくりさせられるが、ナイトの防御の能力が幻であること、即ち存在しないことに気がつけば明白な手である。わざわざこの状況を強調するのはそれが重要なことだからである。それを知り見分け応用することにより(チェスの)王国が崩壊した。

 たかがみすぼらしいaポーンを取るのにこんなに大騒ぎするものだろうか?取った後どうなるか見てみよう。

 9.Rc1 Qxa2 の後黒の手法は簡明さの点で古典的なものである。黒は次に …Bxc3+ と指し白がポーンで取り返した後クイーンを交換する。黒は1ポーン得になるがこの程度の優勢では詰みにもっていけない。黒は戦力の優位を増大させて敵キングを捕まえられるくらい十分なものにしなければならない。そしてこれは自分のポーンの一つをクイーンに昇格させることによってのみ成し遂げられる。そこで黒は最も適切な候補を選び、この場合はa列のパスポーンがそれで、機会あるごとに突き進めていく。ポーンの前進は一歩進むごとに敵に重大な問題を突きつける。白はこのポーンの針路をそらすか完全にせき止めなければならない。いずれにしてもそうするために1個または複数の駒をはりつけなければならない。防御はポーンをたえず監視していなければならないために重荷となる。それと同時にキングに対する不意の攻撃にも備えなければならない。よくある状況は駒を犠牲にしてこのポーンを取らなければならないか、最終的に負けにつながる過程である駒交換をさらに許すかである。

 このような長期的な作戦は正確な手順には基づかない。それはこのような特質の局面を勝ち切る技法の全般的な構想を表している。

9.Kd2

 これはキャッスリングの権利を失うので好んで指す手ではないが戦力損を避けるにはこうするしかない。

9…c5!

 「これは核心を突いた」とタラシュは言った。これに伴うポーン交換でc列がこじ開けられ不運なナイトがさらに危うくなる。

10.a3

 白は好んで事態を危機に至らしめている。代わりに 10.e4 は 10…cxd4 11.exd5(11.Nxd4 なら 11…Nxc3 12.bxc3 Qxg5+ で、最初から不運な運命のようだった浮きビショップを黒が取る)11…dxc3+ 12.bxc3 Qxd5+ で黒がポーンを得し勝勢になる。

10…Bxc3+

 タラシュは単純化を図り、交換得に伴う難儀を避けた。例えば 10…cxd4 は 11.axb4 dxc3+ 12.Qxc3 Qxa1 13.Qxg7 Rf8 14.e4 Nxb4 15.Bb5 Qxh1 16.Qf6 で詰みになる。実際は黒は15手目で 15…Qa5 と指せば助かるが、害の少ない方法で優勢を維持できる時にこのような乱戦にわざわざ足を突っ込むことはない。

11.bxc3

 白はこう取り返すしかない。

11…cxd4

 黒はc列を開ける良い仕事を続けた。

12.exd4

 ここでも白は取り返し方の選択権がない。cポーンは釘付けになっているし、12.Nxd4 は 12…Nxc3 Qxc3 13.Qxg5 で咎められて黒のポーン得になる。

12…N7b6

 白の釘付けのナイトはいなくなったがポーンによって置き換わった。そしてこのポーンが釘付けになっている。このポーンは標的として好都合である。そこで黒はこれに砲火を向ける。黒はこのポーンを 13…Na4 または 13…Bd7 から 14…Rc8 でたたくことを狙っている。

13.Bd3

 ようやく別のキング翼の駒が日の目を見た。

13…Bd7

 黒は 13…Na4 でcポーンに襲いかかることができる。しかしまず展開を完了しそれから全ての駒でこのポーンを標的にする方を好んだ。「おまけにポーンは逃げ出さない」とタラシュはニムゾビッチを出し抜いて言う。

14.Rhc1

 白は展開と防御を同時に行なわなければならない。もし一瞬の猶予が得られれば 15.Ke2、16.Bd2 および 17.c4 によって釘付けのcポーンを解放することができる。

14…Rc8

 しかし黒は一瞬たりとも休まない。このルークは絶好の素通し列を支配し、動けないcポーンにすぐに圧力を付け加えた。

15.Qb3

 黒を 15…Na4 16.Qxb7 Rxc3 17.Rxc3 Qxc3+ 18.Ke2 の変化に誘い反撃を試みようとした。

15…O-O

 タラシュの考え方はこうである。「最初にキングを戦いから遠ざけもう一方のルークを戦場の近くに持って来よう。」

16.Ke2

 黒は白が守りに召集する駒よりも多くの駒でこのポーンを攻撃できるので、このポーンが落ちることは明らかである。そこで白はこのポーンを見捨てキングの早逃げを図ることにより手を稼いだ。

16…Rxc3

 最初の戦力得であると共に敵陣に突入した。

17.Rxc3

 17.Qb2 でルーク交換を避けるのは黒に素通し列の支配を保持させてしまう。

17…Qxc3

 ナイトで取るよりもこの手の方がはるかに良い。黒の構想は唯一の素通し列の戦略的に重要な拠点を占拠するか、クイーンの交換を図ることである。両方のクイーンがなくなれば黒はポーン得なので局面の単純化は黒に有利に働く。

18.Qb1

 白は退却を余儀なくされたが、このクイーン引きには 19.Bxh7+ でポーンを取り返す狙いが込められている。

18…h6

 これはポーンを助ける最も単純な方法で、最下段で不意にチェックをかけられた際のキングの逃げ道にもなっている。

19.Bd2

 ビショップが押し戻されたがこの手にも狙いがある。

19…Qc7

 クイーンが仕方なく絶好の橋頭堡のc3から去ったが急所のc列には留まっている。注意すべきはクイーンがc7の地点を選んだ理由で、c6はビショップの動きの邪魔になりc8はルークの動きの邪魔になる。

 黒の狙いは 20…Nf4+ で、白のビショップの一つをこのナイトと交換させることになる。

20.Kf1

 皆家に帰るのか?

20…Nc4

 これは新たな作戦の始まりで、黒は駒を敵陣に侵攻させた。これにより急所の地点を支配し、白駒の活動性を制限することにより白の動きを束縛する。

21.Bc1

 白は双ビショップを保持したいならここへビショップを引くしかない。

21…Ba4

 そしてこれで白クイーンの活動を狭めた。

22.Qa2

 白はc列のナイトを2駒で当たりにした。これは狙いというよりもクイーンをキング翼に転回させる手数を稼ぐための便利な手段である。白の唯一の可能性はもちろん何らかの反撃を策することである。受け身の指し方では座して死を待つだけである。

22…Rc8

 これでナイトを守ると同時にc列の支配を揺るぎないものにした。

23.Qe2

 白は次に 24.Qe4 と指して紛れを求めようとしている(狙いは 25.Qh7+ Kf8 26.Qh8+ Ke7 27.Qxg7)。これに対して 24…Nf6 なら 25.Qh4 で 26.Bxh6 を狙い、キング翼で攻勢に立つことができるかもしれない。

23…Nc3!

 この手は白が模索したかもしれない反撃の開始の考えを中止させただけでなく、白クイーンを当たりにして移動をたった一箇所だけに限定した。黒が盤上を制圧した効果はこれほどの威力がある。

24.Qe1

 恐ろしいナイトがクイーンの逃げ場所のうち7箇所を押さえているのでここが唯一の避難所である。

24…Na5

 これは明らかに 25…Nb3 でさらに白陣深く侵入する意図である。それにより黒は手始めに交換得となる。

25.Bxh6

 絶望に駆られた白は乱暴に打って出た。

 この状況は 25.Bd2 でも救われない。なぜなら 25…Nb3(ナイトがクイーンだけでなく今度はルークの動きも制限する)26.Bxc3 Qxc3 27.Rd1(27.Qxc3 は 27…Rxc3 28.Rd1 Nc1 で黒が交換得か駒の丸得になる)27…Nc1 で白のルークとビショップが当たりになっているので黒が戦力を得することになる。

25…Nb3

 黒はこのビショップを取っても勝つだろうが、不必要にキングをさらすことはない。本譜の手の方が簡明であり、ここまでのクイーン翼での捌きと一貫性がある。

26.Bd2

 白は無力なルークを救うことができない。そこでポーン損を取り戻したことに満足しなければならない。

26…Nxa1

 交換得はナイトの巧みな跳梁の極致だった。

27.Qxa1

 白はこちらのナイトを取らなければならない。27.Bxc3 では 27…Qxc3 でルークの丸損になってしまう。

27…Bb5!

 これは単純化の見せ場である。黒は敵の抵抗力を減らすために駒の交換を図った。盤上に駒が少なくなればそれだけ白からの紛れの余地が少なくなり黒の戦力上の優位がものをいうようになる。黒が盤上の支配をゆるめることなくこのような交換を図っていることに注意されたい。

28.Bxb5

 白はこんなものである。28.Bxc3 は 28…Bxd3+ から 29…Qxc3 で駒損になるし 28.Qxc3 も 28…Qxc3 29.Bxc3 Bxd3+ から 30…Rxc3 で同じである。

28…Nxb5

 この取り返しの後黒の狙いは 29…Qc4+ 30.Ke1 Nc3 で、e2での詰みを防ぐために 31.Bxc3 が必然で以下は 31…Qxc3+ 32.Qxc3 Rxc3 で初歩的な勝ちの局面になる。

29.g3

 白はキングのためにg2の地点を用意した。そこならキングの露出が減りビショップがf4に出た際の支えにもなる。

29…Qc6!

 クイーンが白の前の手で弱体化した白枡に飛びついた。ナイト当たりになっているのでクイーンは先手でさらに白陣に侵入することができる。

30.Kg2

 ナイトが例えばe5に跳ねれば 30…Qh1+ でクイーンを素抜きにされる。一方 30.Ke2 とナイトを守るのは 30…Qe4+ 31.Be3 Rc2+ 32.Nd2(32.Kd1 は 32…Nc3+ で黒勝ち)32…Nc3+ 33.Ke1 Qh1+ で次の手で詰みになる。

30…Rd8

 ルークが絶好の標的の孤立ポーンのいるd列に陣取った。

31.Be3

 ナイトが釘付けにされて役立たないのでビショップでdポーンを守った。

31…Qe4

 クイーンが敵陣深く急所に侵入した。

32.Qb2

 他の駒がお互い守り合っているので白はクイーンをなんとかして働かせようとした。

 クイーンは急いで空き列を占拠しようとしなかった。それは 32.Qc1 Nxd4 33.Bxd4 Rxd4 となって 34…Rd3 の狙いがひどいからである。

32…Rd5!

 これが眼目の手である。自分のナイトを守っただけでなく 33…Rf5 34.Qe2 Nxd4! でクイーンを当たりにしつつ3駒で白のナイトを当たりにして勝つ狙いである。白は至る所釘付けにされているので受けようがない。

33.a4

 ナイトを追い払ってdポーンの脅威にならないようにした。

33…Nd6

 ナイトは立ち退いたがちゃんとbポーンを守っている。

34.Bf4

 こうしないと黒が 34…g5 として 35…g4 又は 35…Rf5 又はその両方を狙ってくる。

34…Nf5

 またもやdポーンに襲いかかった。

35.Be3

 白は 35.Qxb7 と取っている余裕はない。35…Nxd4 と取られるとクイーンがナイトの守りに戻れない。

35…Nxe3+

 この手は 35…e5 からの攻撃よりも簡明である。本譜の手の後さらに2駒が盤上から消え、その上ポーンも落ちる。

36.fxe3

 白は取り返す一手である。

36…Qxe3

 これでナイトに対する釘付けはなくなるがこのナイトはdポーンを守るために動けない。

37.g4

 白は 37.Qxb7 とは取れない。それは 37…Qe2+ とされてキングがナイトの守りから離れなければならず駒損になってしまう。本譜の手は黒が 37…Rf5 で圧力を増すのを防いだ。

37…f5

 黒は局面を開けた状態にしてもかまわない。黒キングの方が白キングよりも露出による被害が少ない。この手の狙いはもちろん 38…fxg4 で、たちまち黒の勝ちになる。

38.g5

 代わりに 38.h3 なら 38…fxg4 39.hxg4 Qf4 40.g5 Qg4+ 41.Kf2 Rf5 となって、42…Qxf3+ と 42…Qxg5 の二つの狙いが受からない。

38…Qe4

 またもやナイトを釘付けにした。

39.Qc3

 白は注意深く 39.Qxb7 を避けた。そう指すと 39…f4 とされて 40…Qe2+ でナイトを取られるか 40…Rxg5+ でポーンを取られる。

39…f4

 すぐに 39…e5 はだめで、40.g6 で頓死を狙われる。

40.Qc8+

 白が 40.g6 としたら 40…Rg5+ でgポーンの生涯が終わる。

40…Kh7

 クイーンからこれ以上チェックがかからないようにした。

41.Qc3

 ナイトとdポーンの守りに戻った。

41…e5!

 最終段階として白の中原の破壊が始まった。

 この手は 41…Rxg5+ よりも強力である。その手の後は 42.Kf2 Rh5 43.h4 となって白に 44.Ng5+ の狙いがある。

 本譜の手の狙いは次に 42…Rxd4 と指すことで、そうなれば黒には以下のような成果が得られる。

 黒が白の中原を壊滅させた。

 43…Rd3 ですぐに黒の勝ちになる。

 (上述で不十分ならば)黒は中央に2個の連結パスポーンが保証される。

42.h4

 マーシャルは 42.dxe5 が 42…Rd3 で駒損になることを読んでいて、ちょっとしたわなを仕掛けた。

42…Rxd4

 黒は次に 43…Rd3 でクイーンをナイトの守りから遮断してその2駒を両当たりにするつもりである。

43.g6+

 これはわなの一つである。黒が 43…Kxg6 と取れば白は 44.Qb3 と応じる(チェックの千日手をかけようとしているように見える)。黒の 44…Rd3 の後白は 45.Qe6+ でなく 45.Qxd3 とルークを取り 45…Qxd3 なら 46.Nxe5+ から 47.Nxd3 でクイーンを取り返す。

43…Kh6

 黒はこのわなをかわした。

44.Kh2

 そこで白は別のわなを仕掛けた。今度は 44…Rd3 なら 45.Qxe5 Qxf3 46.Qg5# で頓死である。

44…Qe2+

 白は受けがない。45.Kg1 なら 45…Rd1+ 46.Ne1 Rxe1+ で黒の勝ちである。また 45.Kh3 なら 45…Rd3 で今度こそかわいそうなナイトを釘付けにして白の最後の抵抗の火を消す。

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チェスの基本(089)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

29.2ルークとポーンの難解な收局

 布局だけでなく收局を学ぶ最良の方法はマスターの試合を勉強することだという考えに沿って、2ルークとポーンの收局をもう二つあげる。これらの收局は既に述べたようにあまり一般的ではない。著者は幸いにも普通よりも多くこれらの收局を指している。既にあげた收局(例56と例57)を次の收局と注意深く比較し分析することにより、初学者はこれらの場合に従うべき正しい手法の考え方を間違いなく習得することができる。それらのやり方はどの場合でもいくらか似かよったところがある。

例60

 本局は1910年のニューヨーク州選手権戦でのR.カパブランカ対クレイムボルグ戦である。

(この章続く)

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チェスの基本(088)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

28.1ルークとポーンの收局(続き)

例59(続き)

 (再掲)

 敵キングが白ポーンと2列隔たっていて白ルークによって遮断されていて、しかもこのポーンが黒ルークによって縦からチェックされる前に4段目に進むことができるので、この局面は白の勝ちである。この最後の条件は非常に重要である。なぜならもし黒ルークが図の局面でh8にいて黒の手番だとしたら、チェックをかけ続けるか適当なときにf8に位置することにより白ポーンの前進を防ぐことができるからである。

 なぜこの局面が白の勝ちかを説明したので、正確な手順は初学者の勉強にまかせる。

 一見単純な收局からいくつかの最も珍しく難解な收局を分析できたことは、初学者の心に收局のすべての種類、特にルークとポーンの收局によく慣れる必要性を強く印象づけたはずである。

(この章続く)

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布局の探究(117)

「Chess Life」1995年3月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップがすべてではない

 前回は双ビショップの価値と威力について論じた。その価値と威力は本物なので尊重しなければならない。けれどもチェスは機械的に指してうまくいくというわけではない。

 1.ビショップは最大限に力を発揮するためには安定した安全な場所が必要である。

 ビショップはどこでもナイトほど敏捷というわけではないので、快適な居場所が必要である。さもないとナイトにいたる所で負かされる危険性が大きい。準グリューンフェルト防御(D94)から生じる重要な定跡で戦略的に不均衡な次の戦法を考えてみよう。

 小駒の展開を円滑に完了し中央にほどほどの影響力を発揮できるようにするために黒は白に双ビショップを与えた。白はこれが得だったことを証明するために双ビショップに好所を見つけなければならない。それには正しい手段と誤った手段がある。

 A.正しい手段 GMレフ・アルバート対IMベン・ファインゴールド(ニューヨーク、1994年)

13.dxe5! Qxe5

 GMアルバートは 13…Nxe5! が互角を目指すもっと良い手段であると指摘している。

14.e4 Rad8 15.Bf4 Qa5 16.Bd6 Rfe8 17.Qf4 Rc8 18.Qe3 Qb6! 19.Qf4 Nc5?

 白はビショップがよく働いているので通常の有利度である。黒は 19…Qa5 で局面を繰り返して白にどうするのか問題を突きつけて満足すべきである。GMアルバートは 20.g4、20.Rd2 そして 20.Rd4 のどれでも白が指せると言っている。代わりに楽観的な本譜の手で黒は一連の戦術の一発をあびた。

20.e5! Nxb3 21.exf6! Nxa1 22.fxg7 Qxb2 23.Be5! Re7 24.Qf6 Rxe5 25.Qxe5 Nc2 26.Rb1! Qa3 27.Ne4 Rd8 28.Nf6+! Kxg7 29.Ne8+ 黒投了

 B.誤った手段 GMアレクセイ・ドレエフ対GMイェルーン・ピケット、ドルトムント、1994年

13.e4? exd4! 14.Rxd4 Rad8 15.Be3 Nc5 16.Bc2?

 白は双ビショップの好形を夢見ている。しかし前局と違いここではナイトが曲を奏でる。GMエピシンは次のようにして白が互角を保持することを示した。16.Rad1! Rxd4 17.Bxd4! Nfxe4 18.Nxe4 Nxe4 19.Bxg7 Kxg7 20.Qe3

16…Nfd7! 17.Rdd1 b5! 18.Qe2 Nb6

 白のビショップが利いていないのに対し、黒のビショップは発電所となっていてナイトは白のクイーン翼を席巻する態勢にある。白は戦略的に負けている。

19.Rxd8 Rxd8 20.Re1 Nc4! 21.Bc1 Ne6! 22.Qf1 Qc5! 23.Bb3 Nd2! 24.Bxd2 Rxd2 25.Bxe6 fxe6

 双ビショップは過去のこととなり、黒の残りの駒が盤上を支配している。試合は次のように終わった。

26.e5 Rxb2 27.Ne4 Qxe5 28.Qd3 Qd5 29.Qg3 Be5 30.f4 Bd4+ 31.Kh2 c5 32.Qh4 Rxa2 33.Qe7 h5 34.Qe8+ Kg7 35.Qe7+ Kh6 36.h4 Qf5 37.Ng3 Qxf4 38.Qxe6 Ra1 白の時間切れ負け

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2014年09月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

チェスの基本(087)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

28.1ルークとポーンの收局(続き)

例59(続き)

 それでは最初の局面に戻って 1.f6 Rd6 2.Rc7+ のあと黒が引き分けるには 2…Kd4 が唯一の手であることに気づかずに 2…Kb6 と指したとしよう。それが次の局面である。

 ここからの最善の手順は次のようになるだろう。

1.f7 Rg6+(最善)2.Kf1 Rf6 3.Re7! Kc5(最善)

 白は 4.Re6+ を狙っていた。

4.Ke2 b3(最善)

 代わりに 4…Kc4 なら 5.h4 でも 5.Ke3 でも白の勝ちになる。特に最後の手は楽勝になる。

5.Re3 b2(最善)6.Rb3 Rxf7 7.Rxb2 Rh7 8.Rd2 Rxh2 9.Ke3

(この章続く)

2014年09月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(086)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

28.1ルークとポーンの收局(続き)

例59(続き)

 (再掲)

 ここでほかに考えられる手は(a)…Rg6+ と(b)…Rf6 である。それらを検討する。

(a)1…Rg6+ 2.Kf3 Rf6+ 3.Ke3 Re6+

 3…b3 なら 4.Rh5+ で白の勝ちになる。黒キングが下がれば 5.Rh6 だし、上がれば 5.Rh4+ から 6.Rf4 でよい。

4.Kd3 Rf6

 4…Rd6+ なら 5.Ke4 で白が勝つ。

5.Rh5+ K下がる 6.Rh6 白勝ち

(b)1…Rf6 2.Rg7! Kc4

 2…b3 なら 3.Rg3 で白ルークがbポーンを取るか、f3に行って勝ちの收局になる。

3.h4 b3 4.Rg4+ K動く 5.Rg3

 白ルークがbポーンを取るか、f3に行って勝ちの收局になる。

(この章続く)

2014年09月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェスの基本

お楽しみチェス(2)

「Chess Life」1989年9月号(2/4)

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お楽しみチェス

GMアンディー・ソルティス

秘密はどのくらい秘密か
チェスの一つのやり方はいつも謎のままだった
閉じたドアの向こうでは何が行なわれているのか
(続き)

2ナイト防御 [C58]
白 アーノルド・デンカー
黒 サミュエル・レシェフスキー
番勝負、ニューヨーク、1948年

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.Ng5 d5 5.exd5 Na5 6.Bb5+ c6 7.dxc6 bxc6 8.Qf3 Qc7 9.Bd3 h6 10.Ne4 Nd5 11.Nbc3 Nf4 12.O-O Be7 13.Ng3! g6 14.Re1 O-O

 現代の布局の本でこの試合は見かけたことがないだろう。それらの本のほとんどが 9.Ba4 しか載せず、黒が優勢になると解説している。今日の本に見つからない理由は、レシェフスキーを来たるべき世界選手権大会に向けて準備させる一連の練習試合の最初だったからだ。

15.Bf1 Ne6 16.d3 Nd4 17.Qd1 Kh7 18.Nce2 Ne6 19.Qd2! Bg5 20.Qc3 Bf6 21.f4! Nb7 22.f5 Ng5 23.Qd2 gxf5 24.h4

 旧現米国チャンピオンたちはここからひどい時間不足に陥り駒が乱れ飛んだ。

24…Qb6+ 25.d4 f4 26.hxg5 Bxg5 27.Ne4 Bh4 28.g3 Rg8 29.Kh1 Bf5 30.Bg2 Rg4! 31.dxe5 Rag8 32.Nxf4 Bxg3 33.Nxg3 Rh4+! 34.Nh3 Rxg3 35.Re3 Rxe3 36.Qxe3 Qxe3 37.Bxe3 Bxh3 38.Bf2 Bxg2+ 39.Kxg2 Re4 40.Rd1! Na5 41.Rd7 Kg6 42.Rxa7? Nc4 43.a4 Rxe5 44.b4 Ne3+ 45.Bxe3 Rxe3 46.Ra6 Rc3 47.b5 Rxc2+ 48.Kf3 Kf5 49.b6 Rc3+ 50.Ke2 Rb3 51.a5 Rb2+ 52.Kd3 h5 53.Ra7 h4 54.Rxf7+ Kg6 55.Rf1 h3 56.Rh1 h2 57.Kc3 黒投了

 デンカーがレシェフスキーに真剣勝負で勝ったのはこれが初めてだった。そして第2局のグリューンフェルト防御でも勝った。そしてそこで番勝負は中止になった。第3局が始まる前にホーラス・ランサム・ビゲローが『ニューヨークポスト』紙の自分のコラムに第1局の棋譜を載せて、デンカーの回想では気落ちしていたレシェフスキーが公表されたことを理由に番勝負を中止させたためだった。

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2014年09月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: お楽しみチェス1

チェスの基本(085)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

28.1ルークとポーンの收局

 読者はたぶんこれまでに2ルークとポーンの收局が非常に難解なこと、そして1ルークとポーンの收局にもそれが当てはまることに気づいているだろう。2ルークとポーンの收局はそれほどありふれているわけではない。しかし1ルークとポーンの收局は盤上に出現する收局の中で最も普通の種類である。しかしよく出現するけれども完璧に習得している者は少ない。この收局はしばしば非常に難解になり、ときには一見非常に単純そうだけれども実際はとてつもなく複雑なことがよくある。次の例は1909-10年のマンハッタン・チェスクラブ選手権戦でのマーシャル対ローゼンタール戦である。

例59

 この局面でマーシャルには 1.Rc7+ という簡単な勝ちがあった。しかし指した手は 1.f6 で、そのために黒に引き分けの可能性を与えた。彼にとっては幸運なことに黒は引き分けにする手が見えず、まずい指し方をして負けてしまった。黒は状況が分かっていたら 1…Rd6 で引き分けていただろう。

1.f6 Rd6!

 ここで白には(a)2.f7 と(b)2.Rc7+ がある。

(a)2.f7 Rd8! 3.Rh5+ Kc4

白は最終的にルークで黒ポーンを取らなければならない。あるいは

(b)2.Rc7+ Kd4! 3.f7 Rg6+!

この手は非常に重要である。3…Rf6 では 4.Re7 で白の勝ちになる。

4.Kf1 Rf6 5.Rb7 Kc3

白は最終的にルークでポーンを取るか、永久チェックで引き分けにしなければならない。

 この收局でほかに何もなければ大した価値がないことになるところである。しかし非常に面白い手順がある。1.f6 Rd6 2.f7 のあと黒が 2…Rd8 が引き分ける唯一の手であることに気づかなかったとする。そして次の局面をもとに考える。

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(084)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

27.安全な局面に潜む危険性

例58

 前述の文章の良い証明は同じ大会(ハバナ、1913年)でのマーシャル対クプチク戦2局のうちの1局に現れた收局でよく見て取れる。

 上図の局面でマーシャル(白)が大苦戦していることは明らかである。ポーンを取られるだけでなく、陣形もかなり悪い。実際に起こったように何かまったく予期しないことでも起こらなければ望める最良のものは引き分けだった。黒が負けた理由は、ポーン得で形勢が良く安全な局面だと確信していたので、極端に不注意になり実際に存在する危険を考えなかったこと以外にあり得なかった。どのようになったのかを見てみよう。

1.g4 Rxa2

 間違いが始まった。これがその最初である。黒は何の危険もなくポーンを取ることができると考え、何かもっと良い手がないかと考えてみなかった。正着は 1…Rf2+ だった。2.Kg3 なら 2…Rxa2 と取るし、2.Ke4 なら 2…Re5+ のあと …Rxa2 と取る。

2.Rd1 Ra4+

 間違いその2。そして今回は敗着になってもおかしくない重大な間違いだった。正着は 2…f5 で白のポーンの形を崩すと同時に黒キングの空き場所を作る手で、実際すぐに危険に陥ることになる。

3.Rd4 Raa5

 間違いその3。そしてこれが致命傷になった。最善手は 3…Rga5 だった。本譜の手のあとは受けがなかった。黒の負けが決まった。これは一見単純な收局でさえ注意深く指さなければならないことを見せつけている。黒はほとんど勝ちの局面からわずか3手で負けに転落した。

4.Rdd8 Rg7

 4…f5 なら 5.Rh8+ Kg6 6.Rcg8+ Kf6 7.Rxh6+ Rg6 8.g5+ Ke7 9.Rhxg6 fxg6 10.Rg7+ Ke8 11.Rxg6 で白の楽勝になる。

5.h4 h5 6.Rh8+ 黒投了

 投了はやむを得ない。6…Kg6 と逃げても 7.gxh5+ Rxh5 8.Rxh5 Kxh5 9.Rh8+ Kg6 10.h5# までとなる。

(この章続く)

2014年09月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(083)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

26.別の翼への急襲(続き)

例57(続き)

 (再掲)

28.b5

 この手は緩手で、黒にまだ戦う機会を与えた。この收局で白はほとんどの選手にありがちなように、状況が難しくて慎重な指し方が必要なときは最善手を指していたが、局面が圧倒的に良くなったように感じると努力を緩めて、何も誇れない結果になった。正着は 28.Rg7 だった。

28…axb5 29.axb5 Rf8! 30.Rg7 Ra8+ 31.Kb4 cxb5 32.Kxb5 Ra2 33.c6+ Kb8 34.Rxh7 Rb2+ 35.Ka5 Ra2+ 36.Kb4 Rxf2

 黒は最後の機会を逃した。36…Rb2+ で白に千日手を避けるために 37.Kc3 とさせれば引き分けになっていただろう。読者に注意しておくと相手は当時非常に若くて経験が不足していた。だから彼の敢闘精神は高く評価しなければならない。

37.Re7 Rxf4

 37…Rb2+ から …Rh2 と指す方がまだ可能性があった。

38.h6! Rxd4+ 39.Kb5 Rd1 40.h7 Rb1+ 41.Kc5 Rc1+ 42.Kd4 Rd1+ 43.Ke5 Re1+ 44.Kf6 Rh1 45.Re8+ Ka7 46.h8=Q+ Rxh8 47.Rxh8 Kb6 48.Kxe6 Kxc6 49.Kxf5 Kc5 50.Ke5 黒投了

 この收局は緩手を指すのはなんとたやすいことか、そしてマスターの試合でさえ悪手が出て機会が失われることがいかに多いかを示している。また優勢の局面で戦力の優位が大したことがない限り、いかに強い選手でもたった1手にさえ注意を緩めることはできないことを示している。

(この章続く)

2014年09月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェスの基本

[復刻版]理詰めのチェス(28)

第3章 チェスのマスターが自分の読みを解説する(続き)

第28局

 タラシュ対ミーゼス戦は早まった攻撃をタラシュが巧みに咎めたことで名高い。タラシュは布局で手得しそれが収局に持ち込まれた。あとはクイーン翼の多数派ポーンをパスポーンに変える技法を明快に見せつけるだけだった。

中央反撃試合
白 タラシュ
黒 ミーゼス
イェーテボリ、1920年

1.e4

 100年以上前に書かれた『冬の夕べのためのチェス』という楽しい本の中でアグネルは 1.e4 が 1.d4 より優るという面白い議論を持ち出している。彼は次のように言っていた「1.d4 ではクイーンに2枡、クイーン翼ビショップに5枡が利用可能になる。しかるに 1.e4 ではクイーンに4枡、キング翼ビショップに5枡が利用可能になる。だから初手としては 1.e4 が最も望ましい手だということが分かるだろう。この手が望ましい理由がもう一つある。このポーンは盤の中央の一角を占める。e4とd4にポーンが並びポーンと駒によって支援されれば最良の戦闘態勢とみなされ全力を挙げて維持しなければならない。」

1…d5

 黒は最初の一手から中原における白の領分を根こぎにかかった。黒は主導権を得るためなら進んでいくらかの危険を冒すつもりである。しかしクイーンがポーンを取り返すことによってあまりに早く戦闘に加わるという危険性がある。また黒はポーンの形が劣ったものになるという危険性もある。

2.exd5

 この手が最も簡明で黒に楽をさせない。代わりに 2.e5 または 2.Nc3 とするのは退嬰的な手で黒は全然苦労がいらない。

2…Qxd5

 黒はクイーンで取るのを避けて 2…Nf6 と指すこともできる。しかし 3.d4 Nxd5 4.c4 Nf6 5.Nf3 Bg4 6.Be2 となって白の中原が好形で展望もはるかに白が良い。

3.Nc3

 ナイトがクイーン当たりの先手で展開した。

 黒の防御法の欠陥の一つはクイーンが敵の小駒にいじめられるが逆に困らせることができないことである。例えばクイーンは紐付きのナイトを取るぞとおどすことができない。それはクイーンとナイトの交換になってしまうからである。ナイトはクイーンが紐付きであろうとなかろうと当たりをかけ取るぞとおどすことができる。

3…Qa5

 白キングに通じる斜筋に圧力をかけるこの手は不面目な退却の 3…Qd8 よりも好ましい。しかしどちらの場合も黒は新たな駒を展開させる代わりにクイーンの動きに2手かけたことになる。

 初心者は可能ならばいつでもチェックをかけるのが好きである。ここでは次のようなことになる。3…Qe5+ 4.Be2 Bg4 5.d4 Qe6 6.Be3 Bxe2 7.Ngxe2 これで白は3駒が活動しているのに対し黒は1個である。それもその1個は悪形のクイーンである。

4.d4

 さらにまた中原を占有した。このポーンはd4を占め、e5とc5の地点を攻撃し、その上クイーン翼ビショップを解放する働きもしている。

4…e5

 そしてさらにまた黒は白の中原になぐりかかってきた。

5.Nf3!

 5.dxe5 には黒が 5…Bb4 としてくるのでこの手の方がずっと良い。

 白は狙い(6.Nxe5)と駒の展開を兼ねた手を指している。

5…Bb4

 黒はポーンを守らずに釘付けのナイトへの攻撃を強めた。5…exd4 と取るのは 6.Qxd4 で白の展開を速めるだけなので黒は好まなかった。

6.Bd2

 チェスはとても簡単なこともある。白は三つ目の駒を戦いに投入し同時にナイトに対する重圧を緩和した。

 一方では白は 7.Nxe5 を狙っていて黒はそれを 6…Nc6 で防ぐことはできない。それは 7.d5 Nd4 8.Nxe5 で白がポーンを得する。黒はどのように白の狙いに対処するのだろうか。

6…Bg4

 解答はもう一つの釘付けである。明らかに黒はありきたりの防御には興味がない。その意味では通常の展開に興味がないと言える。黒は駒を端から急いで出して戦わせたがっている。もしこのような戦略が棋理に合っているならば展開の原則はすべてどうなってしまうのであろうか。マスターの用いるそういった金言は彼の最大の武器である。

 これまで黒は次のような行為によって適正な展開を支配する慣例を破ってきた。

 a)黒はあまりにも早くクイーンを戦いに投入した。

 b)黒は序盤で同じ駒を2度動かした。

 c)黒はナイトよりも先にビショップを展開した。

 d)黒は自分の展開を完了する前に攻撃を始めた。

 問題はこのようなことをして黒は無事に済むのだろうかということである。

7.Be2

 白は展開を続ける。別の駒を出してキング翼ナイトに対する釘付けをはずした。8.Nxe5 の狙いがもっと強烈になった。

7…exd4

 黒は白が優勢の局面になるこのポーン取りを指さざるをえない。しかし黒は他に何ができるだろうか。eポーンを 7…Nc6 で守れば 8.a3 で具合が悪い。例えば 8…Bd6 と引くと 9.b4 Qb6 10.Na4 でクイーンが取られる。また 8…Bxc3 なら 9.Bxc3 Qd5 10.dxe5 で白がポーン得になる。

8.Nxd4

 このポーン取り返しでg4のビショップが当たりになる。

8…Qe5

 黒はe2のビショップを釘付けにし、浮いているd4のナイトを当たりにした。黒が 8…Bxe2 と指さなかったのは 9.Qxe2+ で白がまた手得するからである。

9.Ncb5!

 急に白が攻撃的になった。この手で浮いているナイトを守り、b4のビショップを当たりにし、10.Nxc7+ Qxc7 11.Bxg4 でポーン得を狙っている。これらはすべてもっと駒交換することに向けられていて、そうなれば展開が速まりもっと白が手得する。

9…Bxe2

 黒は一連の駒交換を強いられ、これまで展開した駒がすべて盤上から消えることになる。

10.Qxe2

 この取り返しで黒のクイーンが釘付けにされクイーン交換が避けられなくなった。

10…Bxd2+

 ビショップもまた盤上から消えなければならない。代わりに 10…Qxe2+ は 11.Kxe2 Bd6(cポーンを守るため)12.Nxd6+ cxd6 13.Nf5 で白のポーン得になる。

11.Kxd2

 この取り返しは白を利する。それは収局に向けてキングが中央に近づき、ルークの展開のために最後の障害が取り除かれるからである。これでルークは中央の重要な空き列に行くことができる。キングはクイーンが盤上から消えれば危険にさらされない。それに黒はクイーンの消えるのを防ぐ手段がない。

11…Qxe2+

 この交換を遅らせるのは危険である。白には 12.Nxc7+ でルークを取る狙いがある。

12.Kxe2

 白はもちろんキングで取った。中央のナイトは動かしたくないのである。

 タラシュ自身もここでは白が勝勢であると考えていた。白はキングで1手、それぞれのナイトで2手ずつ、全部で5手得である。

12…Na6

 このナイトは愚形だがcポーンを守りクイーン翼キャッスリングを容易にしている。代わりに 12…Kd8 は黒のクイーン翼ルークが出て来るのに苦労する。

13.Rhe1!

 これは黒のキング翼の展開を防ぐ上で非常に効果的である。もし黒が 13…Ne7 で展開を図れば 14.Kf3 でそのナイトに釘付けがかかりキングがその守りに縛り付けられる。また 13…Nf6 なら 14.Kf3+ Kf8 で咎められ黒のキング翼ルークがずっと閉じ込められる。

13…O-O-O

 黒キングは原位置に留まり白のルークによっていじめられるのを避けて逃亡した(と同時にルークを動員した)。果たして黒は困難をなんとか切り抜けたのであろうか。

14.Nxa7+!

 これは驚きの手筋である。しかし手筋というものは常に優勢な局面を確保した側に現れるものである。手筋は偶然に現れるものではなく、秩序だった組織的な指し回しの論理的な帰結である。

 一見するとこのポーン取りは無筋のように思われる。なぜならすぐに両方のナイトが当たりになり、その一つは明らかに取られる運命である。

14…Kb8

 キングが一つのナイトを当たりにしルークがもう一方のナイトを当たりにしている。ナイトはどのようにして逃げるのだろうか。もし 15.Nab5 なら 15…c6 で駒が取られ、15.Ndb5 なら 15…c6 でやはり同じである。お互いを守り合っている二つのナイトは一方をポーンで攻められるとお手上げである。

15.Nac6+!

 これが要点である。白は2ナイトの代わりにルークと2ポーンを得る。これは公平な交換ではない。しかしいずれ分かるように考慮すべきことは戦力以外にもあるのである。

15…bxc6

 黒は取るしかない。代わりに 15…Kc8 は1ナイトの代わりにルークとポーンを取られてしまう。

16.Nxc6+

 これは一連の手筋の続きである。

16…Kc8

 ナイトをとるためにキングをこう寄らなければならない。

17.Nxd8

 黒の最も危険な駒を取り除いた。このナイトが取られた後は白の残る駒は2個で黒は3個である。しかし白の二つの駒は活動的なルークで、盤上を動き回る。一方黒の駒は、二つが隅に取り残され残りの一つは盤端にへばりついている。

17…Kxd8

 黒はクイーン翼で白の狙いをかわしながらキング翼でなお駒を動員する仕事がある。クイーン翼でポーンの数は白の3対1である。そしてポーン交換の後は2対0になる。

 黒はクイーン翼で2個の連結パスポーンの前進に直面しなければならないかもしれない。

18.Rad1+

 白はさらに手得を重ねた。白ルークがチェックで素通し列を制し黒キングが砲火をかわすために1手かけなければならない。

18…Ke8

 18…Kc8 なら 19.Kf3(狙いは 20.Re8+ Kb7 21.Rdd8 で駒得)19…Nf6 20.Re7 Rf8 で、白は 21.g4 でキング翼での攻撃を行なうこともできるし、21.a3 から 22.b4 でクイーン翼でポーン横隊を行進させることもできる。

19.Kd3+

 キングが黒の乱れたクイーン翼に向かった。黒の防御は難しい。

19…Ne7

 黒はしぶしぶといった感じでやっとキング翼ナイトを展開した。しかし他の手では負けてしまう。19…Kf8 は 20.Kc4(即詰みの狙いがある)20…g6 21.Rd8+ Kg7 22.Kb5 でナイトが取られる。また 19…Kd8 は 20.Kc4+ Kc8 21.Re8+ Kb7 22.Rdd8 でg8のナイトが落ちる。

20.Kc4

 キングがルークの通り道を空けクイーン翼ポーンの支援の用意をした。

20…h5

 変なルークの展開方法だが他にどんなやり方でルークを隅から出すことができるだろうか。

 黒は 21.Kb5 による侵入を 21…Rh6 から 22…Rb6+ で撃退する用意をした。

21.Rd3

 そこで白はこの方針を断念し、e列にルークを重ねて釘付けのナイトを取る意図を明らかにした。

21…Nb8

 ナイトがc6に行って仲間を助けるために引き下がった。

22.Rde3

 ルークが圧力を倍増させてナイトを取る構えを見せた。

22…Nbc6

 釘付けのナイトを助けるにはこれしかない。

23.b4

 白は守っているナイトを突っついて追い払いもう一つのナイトを取る用意をした。

23…f6

 黒はこれでc6のナイトに新たな居場所を用意した。これで 24.b5 には 24…Ne5+ でルークの利きをさえぎることができる。その後このナイトがe5の地点を追われたらg6に下がってe7のナイトを守ることができる。

24.f4!

 これでナイトをe5の地点に来れなくし 25.b5 の狙いを復活させた。

 局面は黒の負けのように見える。しかしミーゼスは巧みに釘付けとその恐怖から逃れただけでなく誰もがはまるような巧妙なわなを仕掛けた。

24…Kf7!

 それでも白が駒得をしようとすれば次のようにはまる。25.b5 Na5+ 26.Kb4 Nd5+27.Kxa5 Ra8# これで頓死してしまう。

25.a4

 白はこの落とし穴を避け、すべての収局を支配する次のような簡明な戦略を推し進めた。

 それはパスポーンを突き進めることである。

25…Rb8

 一時的に白の二つのポーンの進軍を止めた。白は 26.a5 とは指せない。それは26…Rxb4+ でポーンを2個取られてしまう。また 26.b5 は 26…Na5+ 27.Kc5(27.Kb4 は 27…Nd5+ で頓死の筋に入るのでだめである)27…Nb7+ 28.Kc4(b4やd4に行くのは黒のもう一つのナイトにチェックされて交換損になる)28…Na5+ となり、キングは退却するかチェックの千日手を許すしかなく何も進展が図れない。

26.c3

 これは簡明で強硬な手である。白はbポーンを守りaポーンを突き進める用意をした。

26…Rd8

 27.a5 を止める手段はないので黒は素通し列で反撃しようとした。

27.Rd3!

 この手は強引だが必須の手である。白はこの列でルークを対抗させなければならない。黒はルークを交換するか、さもなくば自分のルークをどかして白にd列を完全に明け渡さなければならない。

 初心者が痛い目にあって学ぶことの一つは列であろうと斜筋であろうと枡であろうと陣地のどの一部もその支配をめぐって争わなければならないということである。重要な地点や領域の所有を確保するためにはしばしば駒の交換を申し出ることが必要となる。そのような申し出は退屈な局面になることを恐れたりそのような戦略がスポーツマンらしくないとして避けるようなことがあってはならない。戦力的に優勢な選手が華麗に勝ちたいために煮え切らない態度をとったり退屈でスポーツマンらしくないとして交換を避けるのは相手を拷問にかけていることになる。勝ちは最も速く効果的な方法で達成しなければならない。

27…Rxd3

 この列を明け渡しても黒のルークは他の列で何の展望も開けない。そこで黒は交換した。

28.Kxd3

 白は黒の2駒に対し1駒だけとなってしまった。しかし白の単騎のルークはその大きな活動性で黒の2ナイトを上回っている。黒のナイトは安全を確保するためにお互いに絶えず連絡を保っていなければならない。

28…Ke8

 白のパスポーンの前に立ちはだかるためにキングがクイーン翼に急いだ。

29.a5

 このポーンが1枡動くたびに黒の危険度が増す。このポーンを見張るために駒が張り付けられるので黒は反撃のことなど考えている暇がない。

29…Kd7

 黒はaポーンにさらに近づき、この間にナイトを釘付けからはずした。

30.a6

 これでキングの小旅行を中止させた。30…Kc8 は 31.b5 で罰せられ黒はナイトの一つを失わなければならない。二つのナイトをお互いの守りに支え合わせるのは理想的な配置ではないことにあらためて注意されたい。

30…Nd5

 このナイトはここを経由してクイーン翼へ行こうとしている。そして白の浮いているfポーン当たりにもなっている。

31.Ra1!

 狙いをつぶす一つの方法はそれを無視してもっと急を要する狙いで対抗することである。白の狙いは 32.a7 で、黒はナイトを切らなければならなくなる。

31…Na7

 このポーンはせき止めなければならない。31…Nxf4+ は 32.Ke4 Nxg2 33.a7 Nxa7 34.Rxa7 となって白の勝ちは易しい。

32.g3

 クイーン翼で活動を続ける前にキング翼のポーンの態勢を安定させた。

32…c6

 この手には白のbポーンの前進をもっと難しくさせることとキングのためにc7の地点を空けることの二つの目的がある。

33.Ra4!

 「この収局では白のどの1手も感嘆符を付けるのに値する。」この試合の黒側を持って指したミーゼスは熱狂的に叫んだ。

 白の着想はbポーンを守っておいてから、中央に頑張っている黒のナイトを 34.c4 で追い出せるようにすることである。

33…Nb6

 ナイトはそれを待つことなくルークに襲いかかった。

34.Ra5

 ルークは場所を変えたが黒のhポーン当たりになっているので手損にはなっていない。

34…g6

 hポーンを救うにはこれしかない。代わりに黒はナイトをd5にさしはさむこともできるが、白は 35.Kc4 から 36.Kb3 とし(bポーンを守るため)37.c4 でナイトをどかせて浮いているhポーンを取ることができる。

35.c4

 永久にナイトがd5に来れないようにした。

35…Nbc8

 黒は良い手がなくなってきた。36.c5+ があるので 35…Kd6 とは指せない。また 35…f5 でキング翼を締めるのも後で白にe5から侵入されるのでだめである。

36.Ra1

 これはちょっと意外な手である。白はこれ以上のクイーン翼ポーンの捌きを後回しにし、キングとルークをもっと攻撃的な位置につけようとしている。キングはd4からc5に行き、ルークは素通しのe列に回り最終的には6段目か7段目に侵入する。そうなると黒はキング翼のポーンに対する白ルークの狙いを撃退しなければならないだけでなく、クイーン翼での白ポーンの危険な前進を食い止めなくてはならなくなる。

36…Nd6

 黒はじっと受けに回るしかない。

37.Kd4

 この間に白はキングをc5の地点に近づけた。

37…Ndc8

 黒が 37…Kc7 と指して 38.Kc5 に対し 38…Ne4+ と応じる用意をすれば白は 38.Re1(致命的なe7でのチェックの狙い)38…Kd7 39.Kc5 Ndc8 40.b5 で侵入を果たす。

38.Kc5

 キングが絶好の地点に位置した。白は 39.b5 から 40.b6 ですぐに終わらせる用意が整った。

38…Kc7

 もちろん 38…Nd6 は 39.Rd1 でナイトを釘付けにされるのでだめである。その後のきれいな手順は 39…Nac8 40.Rxd6+ Nxd6 41.a7 で、このポーンは止められない。

39.Re1

 ルークがe6またはe8に侵入してキング翼のポーンを荒らす構えである。

39…Nb6

 代わりに 39…Kd7(ルークをe6とe8に来させないため)なら 40.b5 cxb5 41.cxb5 Kc7 42.Re6 となって白は好きなように勝つことができる。

40.Re7+

 ようやくルークが敵陣に突入した。

40…Nd7+

 もちろん 40…Kb8 はだめで、白は 41.Rb7+ で片方または両方のナイトを取ってしまう。しかし本譜のチェックの挿入手は白をまだてこずらせるように見える。例えば 41.Kd4 なら 41…c5+ 42.bxc5 Nc6+ でルークがタダ取りされてしまう。

41.Rxd7+!

 鮮やかな決め手である。41…Kxd7 と取っても 42.b5 cxb5 43.cxb5 Nc8(43…Kc7 なら 44.b6+)44.b6 から 45.a7 で何の紛れる余地もない。

41…投了

 布局での手得からもたらされた有利を活用する技法のみごとな実例だった。

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チェスの基本(082)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

26.別の翼への急襲(続き)

例57(続き)

 (再掲)

13…Kb7

 黒は唯一の機会を逃した。13…Rb8 なら引き分けになっていただろう。

14.Ra3 Rg8 15.Rh3 Rg7 16.Ke2 Ka6 17.Rh6 Re7 18.Kd3 Kb7

 黒はeポーンを守るためにキングを下がらせた。そうすればルークが使えるようになる。しかしこの手とは関係なく白のあとの緩着で黒にまた引き分けの機会が巡ってくる。

19.h4 Kc8 20.Rh5

 この手は黒に素通し列を支配させないためである。

20…Kd7 21.Rg5 Rf7 22.Kc3 Kc8

 白がキングをb4からa6に進める構えを見せているので、黒はキングをその方面にとどまらせなければならない。

23.Kb4 Rf6 24.Ka5 Kb7 25.a4 a6 26.h5 Rh6

 黒は白の指す手を傍観しているしかない。本譜の手は白ルークを動けなくしているが、たった1手の間にすぎない。

27.b4 Rf6

 黒の指せるほかの手は 27…Ka7 だけで、白は 28.Rg7 と指せるし 28.b5 と突くことさえできる。

(この章続く)

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チェスの基本(081)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

26.別の翼への急襲(続き)

例57(続き)

 (再掲)

 上図の局面から次のように進んだ。

1.Re4 Rfe8

 この手は白の捌きに追随する意図と、白に素通し列を支配させないためである。

2.Rae1 Re6 3.R1e3 Rce8 4.Kf1 Kf8

 黒は白が攻撃の端緒を開く所ならどこでもその近くにいられるようにキングを盤の中央に持って来たかった。そのような收局ではキングは盤の中央部にいるべきなので、少なくとも一般原則ではこの手はうなずける。結局のところ黒は白のやることにならう以外は何もしていない。その上何かもっと良い手を指摘するのも難しい。例えば 4…d5 と突くと 5.Rg4+ から Ke2 で黒は非常に不愉快な状況になる。また 4…f5 なら 5.Rd4! Rxe3? 6.fxe3 Rxe3 7.Kf2 Re7 8.Ra4 で白が黒のaポーンを取り、キング翼で黒の3ポーンが白の2ポーンによって止められているのでクイーン翼で白が事実上パスポーン得になる。

5.Ke2 Ke7 6.Ra4 Ra8

 初学者は同じ捌きで黒が前局の收局と似たような局面に陥ったことに注意すべきである。

7.Ra5!

 この手には色々な目的がある。事実上黒の唯一2枡進めるdポーンを除くすべてのポーンを固定している。特に黒のfポーンが進むのを防いでいて、それと同時に自分のfポーンをf4からf5へ進める狙いを持っている。この狙いによりほとんど黒に …d5 突きを余儀なくさせていて、すぐに明らかになる理由により白の待ち望むところである。

7…d5 8.c4! Kd6

 明らかにこう指すしかない。このポーンを助ける唯一のほかの手は 8…dxc4 だが、黒のポーンがすべて孤立し弱くなる。代わりに 8…d4 は 9.Re4 Kd6 10.b4! Re5 11.Ra6 で絶望的な形勢になる。

9.c5+ Kd7 10.d4 f5

 これは …Rh6 の狙いでルーク交換を強要するので見るからに強手である。しかし実際は何にもならない。一番可能性があるのは 10…Rg8 だった。

11.Rxe6 fxe6 12.f4

 ここまでの白の指し手は完璧だった。しかしこの手は緩着だった。黒にaポーンかcポーンを放棄させる 12.Ra6 が正着だった。

12…Kc8 13.Kd2

 この手も良くなかった。13.Ra3 が正着で、13…Rb8 なら 14.b3 Kb7 15.b4 Ka8 16.Rb3 で勝つ可能性が非常に高い。実際は勝勢だと思う。

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

布局の探究(116)

「Chess Life」1995年1月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 一流の布局では白の優勢から始まるというのが定説である。だからここまでの3局の実戦例で双ビショップを持つ白がやや優勢だった。もし一流戦法の一部として白が双ビショップを黒に譲り渡しても、白はまだ優勢である。それでも黒には双ビショップの真価の潜在力がある。それを発揮させるにはしばらく手数がかかるかもしれないが、その可能性が存在することをいつも忘れないことは大切である。このことは次の最後の実戦例に表れている。

白 IMサウディン・ロボビッチ
黒 GMエドマー・メドニス
オーステンデ、1993年
B67 シチリア防御リヒター=ラウゼル戦法

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bg5 e6 7.Qd2 a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5 10.Bxf6 gxf6

 リヒター=ラウゼル攻撃のこの激烈な手順の中で白の10手目は黒がgポーンで取り返さなければならないので現在もっとも人気がある。10…Qxf6?! には 11.e5! dxe5 12.Ndxb5! がある。本譜の手のあと白は適時に e4-e5 または f4-f5 と突いて黒の根本的な欠陥のあるポーン陣形を突き崩すことを目指す。黒はそのような狙いを警戒しなければならない。その間に双ビショップのために局面を開放する適切な時機を待つ。

11.Kb1 Qb6 12.Nce2 Na5 13.b3 Nb7 14.g3 Rc8 15.Bg2 Nc5 16.Qe3 Qc7 17.Rd2 b4 18.Rc1 a5 19.c3 Rb8 20.cxb4 Rxb4 21.Rc3 Be7 22.Nc1 Rb8 23.Nd3 Qb6 24.Nxc5 dxc5 25.Nc2 a4! 26.Bf1 axb3 27.axb3 Bc8 28.Bc4 O-O 29.g4! Rd8! 30.Rxd8+ Qxd8 31.Rd3 Qc7 32.g5?!

 白は即刻猛攻を始めた。それでも多量の研究の結果として私は黒が受けきれるし優勢になる変化さえあると結論づけていた。だから正着は 32.h4 Bb7 33.g5 でhポーンで取り返せるようにすることである。33.g5 のあとはたぶんいい勝負である。

32…fxg5 33.e5!? Bb7! 34.f5 exf5 35.e6 Rd8! 36.exf7+ Kg7 37.Rxd8 Qxd8 38.Qe5+ Kg6?!

 恐れていたのは 38…Bf6 に 39.Qxf5 だった。しかし逆説的に見える 39…Bc8! で黒は白クイーンを好所から追い払い、40.Qf3! g4! 41.Qf2 Qe7 から 42…Qe5 となれば白は引き分ければ幸運である。この手順中双ビショップは防御駒と攻撃駒として初登場している。

39.Qe6+ Bf6 40.Bd3!! Qe7! 41.f8=N+! Qxf8 42.Qxf5+ Kf7 43.Qxh7+ Qg7 44.Qf5! Qf8! 45.Qg6+ Ke7 46.Ne3 Kd8! 47.Ng4?!

 ここで白は 47.Be4 で互角の形勢に満足すべきだった。

47…Bd4!! 48.Qxg5+ Kc7 49.Qf5?

 白は引き分けになるように努めるべき時に、まだ勝ちを目指して指していた。正着は 49.Ne3! で、49…Qf3 のあと急いで 50.Qe7+! Kb6 51.Qd8+! Ka7 52.Qa5+ というように永久チェックをかけるべきだった。

49…Qe8! 50.Qf4+ Kb6 51.Qh6+ Bc6 52.Qd2 Qg8! 53.Ne3

 53.Qd1 なら 53…Qa8! 54.Kc1(54.Bf5 Bf3!)54…Bf3 55.Be2 Qa1+ 56.Kd2 Qc3# で黒の勝ちとなる。

53…Qxb3+ 54.Kc1 Bb5! 白投了

 55.Bxb5 なら 55…Bxe3 と取られる。長い間不活発だった双ビショップの勝利だった。

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カテゴリ: 布局の探求2

チェスの基本(080)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

26.別の翼への急襲(続き)

例57

 收局で駒の活動性に優ることが優勢につながることが現れている別の好例は、1913年ハバナ・マスターズ大会で指されたカパブランカ対クプチク戦である。本局の全棋譜と解説は大会記録本で見ることができる。

 上の局面で白の唯一有利な点は素通し列を占拠していることと手番を握っていることで、主導権が約束されている。クイーン翼でポーンが連結されていることも少し有利で、黒はaポーンが孤立ポーンになっている。前の收局のように正しい進路は、ルークを上にあげて少なくとも一つのルークが一方の翼から反対の翼へ移動できるようにし、それにより黒のルークを自由に動けないようにすることである。「一般的な理論」の章でこれが何を意味するかは既に述べている。それによると – 相手を困らせよ。相手に大駒を用いてポーンを守らせるようにせよ。相手に弱い箇所があればもっと弱くさせるかどこかよそに別の弱点を作らせれば、相手陣はいずれ崩壊する。相手が弱点を持ちそれをなくすことができるなら、どこかほかに別の弱点を作らせるようにせよ。

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

韓国と東ティモールの違いは

2014年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

チェスの基本(079)

第1部

第5章 收局の戦略(続き)

26.別の翼への急襲

 「一般的な理論」の章で既に述べたように、勝つための手段としてまず片翼を攻撃し、駒の動きが相手より優るとして他翼に迅速に攻撃を移動して相手が攻撃に耐える十分な戦力を集めることのできる前に敵陣を突破することがある。中盤戦の原則は時としていくらか似たようなやり方で收局にも適用できるときがある。

例56

 上図の局面から黒の私は次のように指した。

1…Re4+ 2.Re2 Ra4 3.Ra2 h5

 この手の意味はすぐに見られるように …h4 と突いて先を見据えて白のキング翼のポーンを固定することである。白がキングをb3にやって弱い孤立2ポーンを助けてルークを解放したがっていることは黒には明らかである。だから黒はルークの動きやすさから優勢を引き出すために、適当なときに攻撃をキング翼に移す作戦を立てた。

4.Rd1 Rda5

 この手はルークをa列に移動させて白の両ルークを縛りつけるためである。

5.Rda1 h4 6.Kd2 Kg7 7.Kc2 Rg5

 黒は攻撃をキング翼に移し始めた。

8.Rg1

 これが大悪手で、敗着になった。白は 8.Kb3 と指すべきだった。そうすれば 8…Raa5 9.f3 となるが、g3に黒キングのための侵入口ができ最終的に勝利につながるかもしれない。

8…Rf4

 …Rb5+ があるので白キングはb3に上がれない。

9.Kd3 Rf3+ 10.Ke2

 10.gxf3 は 10…Rxg1 から …Rh1 で黒が勝つ。

10…Rxh3

 このあと短手数で黒の勝ちになった。

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

お楽しみチェス(1)

「Chess Life」1989年9月号(1/4)

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お楽しみチェス

GMアンディー・ソルティス

秘密はどのくらい秘密か
チェスの一つのやり方はいつも謎のままだった
閉じたドアの向こうでは何が行なわれているのか

 チェスが実際に指さない人たちを魅了するのは間違いない。その理由の一端はチェスでは普通とされることの多くが、指さない人にとっては奇妙で謎めいているからだと思う。我々にとっては当たり前のこと、例えば封じ手、12歳の神童、目隠しチェス、郵便チェスなどはほかの人にとっては驚きの的である。

 しかしチェスのある奇妙なやり方は我々すべてにとっても謎のままである。それは「秘密の番勝負」である。

 いつ閉じたドアの向こうで最初の番勝負が行なわれたかを言うのは困難である。それはたぶん今でもまだ秘密だろう。しかし強豪選手たちはだいぶ前から極秘の番勝負を行なってきた。それは通常は実戦の練習をすることだったり布局の新構想を試すためである。

 そのような番勝負の最初の一つは別の理由で秘密にされてきた。1908年1月にフランク・マーシャルとダビド・ヤノフスキーは、ヤノフスキーの後援者だったレオナルドゥス・ナルドゥスのフランスの邸宅に短週間雲隠れした。二人がそこでしていたことは、イギリスの雑誌『ザ・フィールド』が試合の棋譜を掲載するまで世の中に知られなかった。その番勝負はヤノフスキーが5勝3分け2敗で勝った。

 ではなぜ秘密にされていたのか。自宅にフランスの記者が押し寄せるのをナルドゥスが望まなかったためだ。

 このことから秘密の別の基準が浮かび上がる。つまり「秘密はどのくらい秘密か」ということだ。番勝負の詳細が何も明かされていない場合もある。あるいはごくわずかの情報が明るみに出ていることもある。例えば1972年の世界選手権戦のあとアナトリー・カルポフがうわさを認めたところでは、ボビー・フィッシャーの挑戦を受けるボリス・スパスキーの準備に役立つように番勝負の相手をしていた。そのときカルポフが結果について言ったことは「負けなかった」ということだけだった。

 選手の中にはそのような番勝負の目的が勝敗を争うことではなく自分の長所と短所を見つけることなら、結果をもらすことは恥ずべきことではなくても公正でないと言う者がいる。公にすることは番勝負を中途で打ち切る根拠になるとみなされてきた。

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チェスの基本(078)

第1部

第5章 收局の戦略

 次はまた收局に戻らなければならない。その重要性は私のヤノフスキーとの試合(例53)を分析した読者にとっては明らかであろう。普通の戦法(ルイロペス)の一つのどうと言うこともない布局のあと、相手は交換損を持ちかけることにより急に事態を面白くしてきた。私はもちろん受諾した。そのあとは難解な戦いが続き、相手の巧妙な捌きによって可能になった非常に危険な攻撃に対し守勢に立たなければならなかった。最終的には交換損を返して駒のほとんどを交換し明らかに優勢な收局に持ち込むことができた。しかしその收局は当初の見込みほど簡単ではなかった。そしてついにはたぶん1手の緩着のために勝ちを見つけるのが非常に困難になった。私が收局の弱い選手だったらたぶん引き分けに終わりそれまでの努力がすべて無駄になっていただろう。残念なことにそれが收局に弱い大多数の選手にとって非常によくあることである。一流のマスターでも時にはそういう失敗を免れない。ついでながら注意を喚起すると、過去60年の世界最強者は皆並はずれて收局に強かった。モーフィー、シュタイニッツ、それにラスカー博士は在位中この方面において並ぶものがなかった。

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(077)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評(続き)

例55(続き)

 (再掲)

 (代わりに 40…Rh6 は 41.Ng1 Qxg3 42.Qg2 と防がれる。だから黒は白クイーンを防御から引き離そうとした。)鮮やかな手だし、攻撃の最善の手段である。

41.Qxc4

 (最善の受けは 41.Rxf5 だった。しかし黒がクイーン対ルークとナイトの駒割になる。)

41…Bxd3

 (42.d6+ があるのでやはり 41…Rh6 は成立しない。)

42.Rxf6

 (42.Qxd3 ならついに 42…Rh6 で黒が勝つ。)

42…Bxc4 43.Nf4 e2!

 (黒クイーンは逃げられないが、白はそれを取っている暇がない。)

44.Rg1 Qf1 白投了

 きれいに決めた。

(この章終わり)

2014年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(076)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評(続き)

例55(続き)

 (再掲)

 (白ルークに対する隠れ攻撃により再び 38.Bxe4 を防いでいる。だから白はルークに紐をつける。)38.Nf4 なら 38…e2! 39.Nxe2 Rxe2+ 40.Rxe2 Be4+!! 41.Bxe4(最善)41…Rxf1 で白が負ける。

38.Rbb1 Qh6 39.Qc2

 (まだ取るわけにはいかないルークに当たりを追加し、h2のポーンを守る用意をした。)白が代わりにルークやビショップを取るとたちまち詰まされる。

39…Qh3+ 40.Kh1 Rxc4!!

(この章続く)

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[復刻版]理詰めのチェス(27)

第3章 チェスのマスターが自分の読みを解説する(続き)

第27局

チェホベル対ルダコフスキー戦は知られざる名局である。この試合ではキング翼攻撃とクイーンポーン布局で論議してきた主題がみごとに融合している。黒は …c5 で捌くことを怠った。この状況に相手はすぐにつけいった。c列を支配するチェホベルは敵のcポーンを押さえつけそれからせき止めた。黒をクイーン翼に張り付けて白は突然攻撃をキング翼に転じて、中原は言うに及ばず両翼の防御に相手を走らせた。黒は …g6 と突いてf6とh6の黒枡を弱体化させることを強いられた。白クイーンは弱い枡の一つに飛びついた。それからキング翼での一連の詰みの狙いを始めてクイーン翼にいるクイーンを取って頂点に達した。

クイーン翼ギャンビット拒否
白 チェホベル
黒 ルダコフスキー
モスクワ、1945年

1.d4

この手は他のどんな手よりも布局における優勢を与えてくれる。

二つの駒がすぐに解放され、1.e4 の場合と同様に中原をポーンが占めた。しかし 1.d4 には次のように余得もある。

dポーンは守られていて急に攻められても安全である。

白はキングポーン布局でよく現れるようなfポーンへの狙いにさらされていない。白のc5の地点の支配は黒がキング翼ビショップをそこへ展開して白の弱いfポーンを攻撃するのを不可能にしている。

1…d5

これは白が次の手で 2.e4 と指して中原を独占するのを防ぐ最も単純な手段である。

2.c4

これはクイーン翼ギャンビットの眼目の手である。この融通無碍なcポーンは多くのことを行なっている。それらのうちの三つは黒の中原を亡き者にすることに関係している。

このポーンは自身を交換に供して、黒の中原ポーンの代わりに側面ポーンを受け入れるように誘っている。

このポーンは適当な時期が来れば黒のdポーンを取ってその中原を破壊することを狙っている。

このポーンは黒のdポーンに絶えず圧力をかけて黒がその保護に忙殺されるようにしている。

以上のことに加えてcポーン突きは白の大駒の便宜のためにc列を自由にし空けておくことを保証している。またクイーンがクイーン翼に出る道も開け放っている。

2…e6

黒は自分の中原ポーンの立場を強化した。白が 3.cxd5 と取ってきた場合はポーンで取り返して中原にポーンを維持する用意をした。これはクイーン翼ビショップの利きを制限するにしても黒の最も安全な防御である。

3.Nf3

これは黒のdポーンへの攻撃にさらに圧力を増す 3.Nc3 ほど厳しくはないけれどもやはり素晴らしい手である。どちらの手もクイーンポーン布局に特に当てはまる次のような勧告に従っている。

できるだけ迅速にすべての駒を展開せよ。

カパブランカは「序盤における主要な原則は迅速で効率的な展開である」と言っている(強調部分はカパブランカによる)。

3…Nf6

黒のナイトが中原に向かって跳ね、e4の地点を攻撃し、d5の地点をさらに厳重に保護した。

まずキング翼のナイトを動員するのは良い方針である。というのはキャッスリングを可能にするために2個の駒を展開するだけでよいからである。

4.Bg5

これは強力な手である。ビショップが展開されて敵のナイトに抑止的な働きが加えられた。この手には当面は何も脅威がない。白はただ「狙いを狙っている」だけである。

4…Be7

これはナイトへの釘付けをはずす適正な方法である。未熟な選手はよくいらだって 4…h6 5.Bh4 g5 6.Bg3 としてビショップを追い払おうとする。それは荒っぽい行動の結果としてキング翼のポーンの形を悪くしただけである。

5.e3

白はポーン中原を強化しキング翼ビショップを自由にした。

5…O-O

黒はクイーン翼の駒の展開作戦を明らかにする前にキングを安全地帯に移した。黒のクイーン翼ナイトはd7に行くかもしれないし、白の中原への攻撃の後ならばたぶんc6に行くだろう。

6.Nc3

白にはそのような問題はない。白のクイーン翼ナイトはcポーンやc列の開放を邪魔しないでc3に行ける。このナイトはc3で中原の支配争いに積極的に参加できる。

6…Nbd7

このナイトは決してcポーンが動く前にc6の地点に展開してはならない。cポーンはc5に進んで中原の同等の権利を争うのもc6に1枡だけ進んで黒自身の中原を支えるのも自由でなければならない。しかしこのポーンを …Nc6 で邪魔してはいけない。

6…Nbd7 という展開はちょっと見た感じよりも強力である。黒陣は当面は窮屈だがこのナイトは …c5 または …e5 で捌き白の中原を攻撃するのを支援する用意をしている。

7.Qc2

ここは白クイーンにとって絶好の地点である。このクイーンはc2の地点からいくつかの方向に強力な影響を及ぼしている。それは半素通しのc列に対してであり、中原では黒が 7…Ne4 で捌くのを防いでいる。駒交換を強制し圧力を払いのけようとするこの企ては次のように咎められる。(7…Ne4 の後)8.Bxe7 Qxe7 9.cxd5 Nxc3(9…exd5 なら 10.Nxd5 で白が即勝つ)10.Qxc3 exd5 11.Qxc7 Qb4+ 12.Qc3 これで白のポーン得になる。

7.Qc2 の別の働きはルークのためにd1の地点を空けたことである。黒クイーンと同じ列にルークがいると相手が中原で戦線突破を図るのをくじくことになる。中原でのポーン交換はd列での障害物のいくつかを取り払いルークの圧力を強める。この圧力はd列の敵クイーンまで到達する。

7…c6

この手は中原をしっかりと支えクイーンにクイーン翼への出口を与える。これで十分なように見えるが、中原に争点を発生させて中原の支配を争うもっと攻撃的な 7…c5 の方が適切だったかもしれない。…c5 突きの遅れの危険性は二度とこのポーン突きの好機が黒に訪れないかもしれないということである。

8.Bd3

白は5個目の駒を黒のキング翼に向けて展開し、自分のどちらの翼へもキャッスリングできる用意を整えた。

8…dxc4

黒はこのポーンをとる前に白がキング翼ビショップを動かすのを待っていた。さもないとこのビショップがポーンの取り返しと展開を同時に行なうことになる。d5の地点を空けた黒の意図はナイトをその枡に跳ばしていくらかの駒交換を行ない窮屈な陣形をくつろげることである。

そうはいっても黒は営々として築き上げたポーン中原を放棄してしまった。

9.Bxc4

白はポーン交換の結果に満足である。筋が開いて駒の活動性が増した。

9…Nd5

明らかに白にビショップ交換を迫った。

10.Bxe7

この手は 10.Bf4 Nxf4 11.exf4 でdポーンが孤立ポーンになるよりも安全である。ポーン自体はあまり危険にさらされないがその直前の地点のd5は大変危険である。その地点は黒駒により無期限に占拠される危険性がある。孤立ポーンの前の地点に陣取った駒は決して相手のポーンによって追い払われることがない。

10…Qxe7

クイーンを戦いに参加させるこの取り方が正しい取り返しである。ナイトで取るのは後ろ向きの展開である。

11.O-O

キングがより安全な隠れ家を見つけルークがお互いに連絡できるようになった。

簡明で単刀直入な展開の結果の白陣はみごとである。

11…b5

黒はビショップに当てて下がらせることにより自分のビショップの展開の手を稼ごうとした。

12.Be2

ビショップは引き下がったがd3へではない。そこは 12…Nb4 と両当たりをかけられて黒にナイトをビショップと交換させてしまう。このビショップは後でd3またはf3へ出れば素晴らしい攻撃の可能性が開けるので白は保持したいのである。

12…a6

この手はcポーンが自由に白の中原を攻撃できるようにbポーンを守る通常の捌きである。黒は 13…c5 と指すことができればまだ立派に戦える。

13.Ne4!

攻撃の火ぶたが切られた。クイーンがcポーンに当たりをかけナイトがそのポーンのc5への前進を制止している。白の構想はこのポーンがc5に進む(クイーンポーン布局における必須の捌きである)のを永久に押さえつけ、それから駒をc5の地点に据えて黒を完全にバリケードで押さえ込むことである。

13…Bb7

黒は別の駒を展開させてcポーンを守った。

14.Ne5!

これは非常に素晴らしい戦略である。白は駒をc5の地点に据える前にこの地点を守る黒駒の一つのd7のナイトを取り除くつもりである。

もし白がすぐに 14.Nc5 と指すと 14…Nxc5 15.Qxc5 Qxc5 16.dxc5 となってポーンがc5の地点を占めてしまう。これでは駒がその地点を占める場合の効果が得られない。c5のポーンは動きがとれず相手をほとんど抑止することができない。しかし駒ならばその力をあらゆる方向に及ぼしそのあたり一帯の敵の動きをひどく制限する効果がある。

14…Rac8

黒はまた一つ駒を展開して2個の駒で攻撃されているポーンを守った。

黒は 14…Nxe5 15.dxe5 と交換したくなかった。そうなれば白は残りのナイトをd6に据えクイーンをc5に配置して黒を完全に窒息させることができる。

15.Nxd7

c5の地点を警護していた駒の一つを取り除いた・・・

15…Qxd7

・・・そして他の駒をc5の地点の警護からそらした。

16.Nc5!

白はこの地点を占めて戦略的な意味で優勢を決定的にした。後は局面の優位を活用しそれを実際に勝利に結びつけることである。勝利を達成するこの過程こそチェスの醍醐味の一つである。

16…Qc7

クイーンとビショップの両当たりなのでクイーンはビショップのそばを離れない。

17.Rfd1

マスターたちの実戦によってルークは素通し列を支配している時に最も効果を発揮することが明らかになっている。

素通し列がない時はどうするのかって?その時は半素通し列か素通しになりそうな列にルークを置くと良い。

それもなさそうな時はどうするのかって?その時はルークは中央に回して中央の列に圧力をかけるのが良い。

どのみちルークは展開しなければならないのである。

17…Rcd8

この手にはいろいろな理由がある。

ルークはc6のポーンがこのルークの動きを妨げている(そしてこのポーンが生き返る見込みもほとんどない)間はc列にいても将来性がない。

ルークはビショップのためにc8の地点を空けた。ビショップはいつまでもb7の地点にいるわけにはいかない。そこにいるとビショップはcポーンのために動きを妨げられクイーンもビショップの守りに縛り付けられる。

18.Rac1

白の 19.Nxb7 Qxb7 20.Qxc6 でポーンを取る狙いは付随的であり、c列での圧力を強めるという戦略構想に比べれば副次的である。

18…Bc8

黒は 19.Nxb7 の狙いをかわしクイーンをビショップの見守りの仕事から解放した。これで黒は 19…e5 突きで反撃に乗り出すことができる。

19.Qe4!

クイーンが中央の絶好の地点に進出した。そこでクイーンは 19…e5 を防ぎ(ポーンが取られてしまうだけである)キング翼攻撃のためにその方面に転進する用意をしている。

19…Nf6

キャッスリングした陣形の最良の守り駒であるナイトがf6の地点に戻り、たまたまだがクイーン当たりになっている。

他の手なら白は 20.Bd3 で 21.Qxh7# を狙うことができた。そうなればナイトの退却か黒のキング翼ポーンの一つを進ませて弱体化を強いることができる。

20.Qh4

クイーンがナイトの当たりを避け、キングに対する攻撃を始めるためにキング翼に転進した。

20…Qa5

黒はクイーン翼で反撃を試みた。とはいってもほとんどは相手の注意をそらすためである。黒がキング翼の防御を強化しようとしてもできることはほとんどない。どのポーンを動かしても陣形をゆるめて抵抗力を弱めるだけである。黒がもくろんでいた中原での 20…e5 突きは控えめに言っても危ない。なぜなら 21.Qg3 と釘付けにする応手が厄介だからである。

21.a3

白は最も簡単な方法でaポーンを救いクイーンをb4に来させないようにした。

21…b4

黒は次に 22…bxa3 で白のクイーン翼を乱すことを期待した。

22.a4

白は敵クイーンを自陣に踏み込ませるような交換を避けた。

22…Nd7

黒は居座る白ナイトを払いのけようとした。このナイトは(アラビアンナイトで)シンドバッドの肩にしがみついた老人のように黒のクイーン翼を死ぬほど絞めつけている。黒が傍観していれば白は 23.Bd3 から 24.g4(詰みを防いでいるナイトをどかせる目的)で攻撃を推し進める。やむを得ない受けの 24…h6 の後白は 25.g5 でポーン交換を強制しg列を空ける。そして白はキングをh1に寄せてルークを素通し列にまわして攻撃を行なう。これに対し黒は長く持ちこたえることができない。

23.b3

aポーンを守りナイトの負担を軽くした。

23…Nxc5

他にもっと良い手はほとんどありそうにない。23…e5 は指したい手だが 24.Nxd7 Bxd7 25.Rc5 Qc7 26.Rxe5 で白がポーンを得する。

24.Rxc5

ナイト交換の結果白は別の駒でc5の地点を置き換えた。そしてこの駒は局面の支配を維持している。

24…Qb6

この手は 24…Qc7 よりも優っている。24..Qc7 に対する攻撃は次のようになる。25.Rdc1 Bb7(cポーンとaポーンを守るため)26.a5(26…a5 を防いでbポーンを孤立させるため)この後白は 27.R1c4 から 28.Rxb4 または 27.Bf3 から 28.d5 と指す。

25.Rdc1

空き列にルークを重ねるとその列(及び相手)に対する圧力は倍以上になる。白のとりあえずの狙いは 26.Rxc6 である。

25…Bb7

ビショップが両方の白枡のポーンを守ったがほとんど動くことができない。

駒の動きやすさの問題は興味深い。駒の捌ける余地が大きい方が優勢であるとは必ずしも成り立たないが、例外を除いて我々の実戦では良く当てはまる。束縛されずに自由に動ける駒がその周辺ではるかに力を発揮するだけでなく敵の活動も支配し制限するのはもっともである。これに加えて盤上の他の地点にも容易に移動することができ、自由に動きまわれることの特性から得られる優位を見ることができる。

両者が駒を動かすことのできる全ての手を比較してみよう。手の価値は良い、悪い、どちらでもないにかわわらず評価しない。明らかにしたいのは駒の動ける範囲である。

キング キング
クイーン 12 クイーン
ルーク(c1) ルーク(f8)
ルーク(c5) 11 ルーク(d8)
ビショップ ビショップ
合計 42 合計 17

なんと白駒の効率は黒駒の250%である。動き(結果的に攻撃力)にこれほど大きな違いがあると黒はどれだけ長く戦いを続けられるだろうか。

26.a5

このポーン突きは黒のbポーンを孤立させるためと、ついでにクイーンを2段目に押し込めるためである。

26…Qa7

代わりに 26…Qc7 なら白はキング翼での作戦を再び始めることもできるし、クイーン翼で 27.Bf3 Rd6 28.R1c4 から 29.Rxb4 でポーン得を目指すこともできる。ポーンを取っても白の攻撃力が減少することもないし局面の支配がゆるむこともない。

27.Bd3!

クイーン翼の形が固定されたので白は注意をキング翼に向けた。次の手で詰みがある。黒は簡単にこの狙いを防ぐことができる。しかしそれはキングの回りのポーンの一つを突いて構造的、永続的かつ修復不可能な弱点を作ることによってのみ可能である。

27…g6

27…h6 は 28.Qe4 で 28…g6 が余儀なく2個のポーンが浮き上がる。そこから白は 29.Rh5 Kg7(29…gxh5 は 30.Qh7#、また 29…Kh7 は 30.Qf4 で白勝ち)30.Qe5+ f6(30…Kh7 なら 31.Qg5 が絶妙の二重釘付けで白の勝ち)31.Qg3 g5(31…f5 なら 32.Qe5+ Kh7 33.Qc7+ Kg8 34.Rxh6 で白勝ち)32.Rxh6! Kxh6 33.Qh3+ Kg7 34.Qh7# で勝つ。

白が一連の手筋を延々と読みたくないならばもっと簡明な手段は圧力を維持しそれをさらに強めることである。例えば 27…h6 28.Qe4 g6 の後 29.Rh5 の代わりに白は 29.h4 と突き 30.h5 で黒のポーンを破壊することを狙うこともできた。白ポーンの前進を止めるために黒が 29…h5 と応じれば白はルークでhポーンを取ることもできるし、30.g4 hxg4 31.h5 で破壊を続けることもできる。

実戦の手で黒は黒枡が弱点となって自陣に空所ができた。

28.Qf6!

クイーンが黒の 27…g6 突きによって作られた空所に安全にもぐり込んだ。空所とはf6やh6のような地点で、隣のポーンの前進によって発生する。ここはもはやポーンによって見張られていないので弱い地点であり、敵の駒の侵入を受け易い。このような駒はやすやすと空所の一箇所に居座ることができ敵ポーンにより邪魔されないことが分かっている。

クイーンがキング翼の急所の地点にもぐり込んだので白の作戦は簡明さの点で古典的なものである。白はhポーンをh4、h5、h6と突いていき Qg7# で詰みに討ち取る。ポーンがh5まで進んだ後黒が取ってくれば即座に報いとしてルークで詰まされる。

28…Rd6

黒はd8の地点を空けてクイーンがその地点に戻り白クイーンに対抗できるようにした。チェスの言葉で言えば 29.h4 Qa8 30.h5 ならば30…Qd8 とすることで、白クイーンは詰みの狙いを放棄して去らなければならない。

29.Qe7

白は浮いているルークに当たりをかけて黒が増え続ける狙いを払いのけるのに手一杯になるようにした。黒は盤上の異なった個所に三つの問題を抱えている。

a)キング翼では詰みを監視しなければならない。

b)クイーン翼では白の締め付けから自身を解放しなければならない。

c)中間では離れ駒を助けなければならない。

29…Rfd8

代わりに 29…Qb8 なら 30.Be4 Rc8 31.h4 Qc7 32.Qf6 Qd8 33.Qxd8 R(どちらのルークでも)xd8 34.Bxc6 または 34.R1c4 で白の容易な型どおりの勝ちになる。

30.h4

白はポーンをh6にクイーンをf6に持ってきて詰み形にする狙いを復活させた。

30…R8d7

黒は敵クイーンを自陣内から追い出さなければならない。ただし最下段とd8の地点は自分のクイーンが利用できるようにしたいので 30.R6d7 とは指さない。

31.Qf6

詰みの脅威が切実な問題になってきた。

31…Qa8

黒クイーンは下がることによってのみ救援に駆けつけることができる。

黒が 31…Rd5 で 32.h5 を止めようとしても白はまず 32.Be4 でルークを立ち退かせてポーン突きを達成する。

32.Be4!

すぐ 32.h5 と突くのは 32…Qd8 と応じられてだめである。本譜の手の後(32…Rd5 の防ぎにもなっているが)黒が 32…Qd8 と指せば白は平凡ではあってもクイーンを交換しcポーンを取って簡単に勝ちになる。

32…Qe8

黒は白が早まって 33.Bxc6 と取ってくれることを期待した。その場合は 33…Bxc6 34.Rxc6 Rxc6 35.Rxc6 Rxd4 でポーンを取り返しまだまだ戦える。

33.h5!

ポーンが1段ずつ進むたびに黒キングの危険度が増していく。このポーンは黒陣のもう一つの空所であるh6を目指していてそこにしっかりと居座ろうとしている。

33…Rd8

ルークが下がってcポーンにクイーンの守りが加わるようにした。

黒が両翼での狙いをかわすのに忙殺されているということは白の次の手の鍵である。その手は黒に解決できない問題(最も対処の難しい問題)を突きつける。

34.Bxc6

一見きちんと守られているポーンを取り払った。しかし手順を見れば分かるようにポーンを守っている駒の一つは働き過ぎになっている。即ちクイーンはこの地点(c6)とd8のルークを守らなければならないだけでなくキングに対する詰みの狙いにも警戒していなければならない。

34…Bxc6

黒はこのビショップを取らなければならない。さもないと2個の駒が当たっているので戦力損になる。

35.h6!

これは挿入手、つまり即詰みの狙いの中間手である。

35…Kf8

35…Qf8 という受けには一本道の勝ちがある。36.Rxc6(狙いは 37.Rxd6 Rxd6 38.Rc8 Qxc8 39.Qg7#)36…Qxh6 37.Rxd6 Rxd6 38.Rc8+ で黒はクイーンを犠牲にしなければならない。

36.Rxc6

白は駒を取り返した。そして 37.Rxd6 Rxd6 38.Rc8 Qxc8 39.Qh8+ でクイーンを取る手を狙っている。

36…Rxc6

黒には選択の余地はあまりない。36…Qd7(37.Rxd6 に 37…Qxd6 と応じるため)なら 37.Rc7 Qe8 38.Qg7# となる。

37.Rxc6

白はルークを取り返し 38.Rc7 で7段目を制圧する用意をした。そうなれば黒キングが逃げられなくなり再びクイーンによる詰みの狙いが生じる。

37…Rd7

37…Qxc6 でも助からない。白は次のように勝ちの収局に持ち込むことができる。38.Qxd8+ Qe8 39.Qd6+ Kg8 40.Qxa6 Qe7(さもないと 41.Qb7 ですぐに白の勝ちになる)41.Qb6 これで白のパスポーンが止まらない。

38.Rc8!

白はただ取りのルークでクイーンを攻撃した。十分にみごとな締めくくりだが最善手を追究する人や枝葉末節にこだわる人は白が華麗な 38.Qg7+ Ke7 39.Rxe6+! Kxe6 40.Qe5# を見逃したと指摘するかもしれない。多くの選手はマスターが見逃したものを見つけることに大喜びする下級者によって実戦よりも速い勝ちやきれいな勝ちがあったことを指摘されたことがある。しかしマスターがもっと短い手順を見つけなかった理由はそもそもそれを探そうとしなかったからである。マスターが勝ちを決めた手は最後の手筋を開始する前にその結果を事前に見通し完全に読み切っていた手である。一連の強制手順がうまく行けば勝つための他の手順を探すことに時間をかける理由は全然ない。手筋を読むのには時間がかかるものであり、急いで敢行された短手数の手段には見損じがあることが判明するかもしれない。だから教訓は次のとおりである。最も簡明に勝ちを決める手を指せ。華麗な手はアリョーヒンとケレスに任せておけ。

38…Qxc8

もちろん 38…Rd8 としても 39.Rxd8 で何にもならない。

39.Qh8+

白がクイーンを取り勝ちが決まる。

白の指し回しは絶妙で、一度も試合の鉄壁の支配を緩めなかった。特筆すべき特徴はb4の勇敢なささやかなポーンを除いて黒の駒もポーンも自陣からの4段目を越えたものがなかったという状況である。

2014年09月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: [復刻版]理詰めのチェス

チェスの基本(075)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評(続き)

例55(続き)

 (再掲)

26…cxd5

 (白がビショップをg4を経てe6に潜り込ませようと狙っているので、ここでこの交換が必要だと思った。白がcポーンで取り返せば、ビショップ同士をを交換してクイーン翼の2対1のポーンに期待するつもりだった。eポーンで取り返すのは白が激しいキング翼攻撃にさらされるかもしれないので予想していなかった。)ここでの黒の判断は誤っていると思う。黒の期待どおりに白がcポーンで取り返したら黒は最悪のポーンの形になっていた。なぜならクイーン翼で白によく守られたパスポーンができるからである。黒の唯一有利な点は位置の悪いナイトに対しビショップが絶好の位置にいることと、上述のような局面ではいつもビショップの方がナイトより強力であるということである。黒は 26…Bc8 と指すことによりこれらすべてを防ぐことができたしそうすべきだった。というのはもし白が 27.Qg3 と応じれば黒は 27…cxd5 と取ることができ、白が 28.cxd5 と取り返すのは 28…Bxf2+ で交換損になるからである。

27.exd5 e4 28.g3 e3

 この手は気に入らない。何かのときのためにとっておき 28…f5 と突く方が良かっただろう。そのあとは必要に応じてクイーンをd7、f7またはそのほかのどこかに配置してから、時が来れば …g5 から …f4 と突いていく。本譜の手はc5の強力なビショップの利きをふさぎ、白陣を本来よりも安全にすることになる。この手自体は非常に強力だが孤立ポーンになり効果的な次の手がない。このようなポーン突きは原則として駒の協力が得られるときだけ行うべきである。

29.f4 Bc8 30.Nf3 Bf5 31.Rb2 Re4 32.Kg2 Qc8 33.Ng1 g5

 (34.Bf3 と来れば 34…gxf4 35.Bxe4 Bxe4+ で黒の攻撃が決まる。)

34.fxg5 fxg5 35.Rf1 g4

 35…Rh6 と指す手もあった。白は 36.Kh1 と指すしかないだろう。実戦の局面は明らかに黒の勝勢で、あとは正着を見つけるだけの問題である。ここからのトーマス卿の最終攻撃は非の打ちどころがなかった。

36.Bd3 Rf6 37.Ne2 Qf8

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(074)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評(続き)

例55(続き)

 (再掲)

15.d5

 (白は 15.Rfd1 と指して中央の破壊はあとに残す方が良いかもしれない。こちらのビショップにとってはc5の地点が好所になるので相手にこのポーン突きをやらせたかった。)白はこのポーン突きによってこの局面を真に理解していないことを露呈した。白の唯一の優位は黒のクイーン翼ビショップがまだ展開していないことにあった。だから黒のビショップが出てくるのを防ぐ作戦を立てるべきだったし、それが無理ならば黒にビショップを出すためにポーンの形を弱めさせるようにすべきだった。そのために考えられる手は3手あった。第一は威圧するような地点にいる白ビショップを現位置にとどまらせるために 15.a4 と突く手である。これには 15…Qc7 と応じてくるだろう。第二はどちらかのルークをd1に回して 16.dxe5 Bxe5 17.Nxe5 Qxe5 18.Bxf7+ を狙うことである。この手には 15…Bg4 と応じてくるだろう。第三は 15.h3 と突いて …Bg4 を阻止し、そのあとどちらかのルークをd1に回すことにより前述の Bxf7+ を防ぐために黒に …b5 と突かせてクイーン翼のポーンを弱めさせることである。だから白は 15.h3 と突くことにより望みの目的を達していただろう。本譜の手は白ビショップの利きをふさぎ黒の展開を容易にさせている。このあと白は守勢に立たされ、残りの進行の興味は主に黒の指し手と攻撃の仕方に集まることになる。

15…Qc7 16.Bd3

 (この手は黒のクイーン翼の展開をもっと楽にさせたので悪手だと思われる。現在のところ黒は …b6 と突けない。そう突くと白に dxc6 から Bd5 という手を与える。)

16…b6 17.c4 Bb7 18.Rfc1

 (次に Rab1 から c5 と突くつもりである。しかし黒がどのみち指すビショップをc5に出す手を指させるだけである。)

18…Be7 19.Rc2 Bc5 20.Qb2 f6

 (たぶん …f5 を含みに 20…Rfe8 と指す方が良かった。)このあたりの黒の指し方はぬるい。厳しさに欠け攻撃の作戦がはっきり定まっていないようである。もちろんここらは試合の中で最も難しい局面である。このような場合は成功を約束するような全体に渡る作戦を立てなければならない。それと共に自由な手段で実行できるような作戦でなければならない。この局面の様相からすると黒が一番有望なのは、白の中央に対する攻撃に戦力を集中しそのあと白キングを直接攻撃することである。だから黒は 20…Rae8 で …f5 突きを狙うべきである。もし白がこの作戦を打ち負かすことができれば、というよりむしろ防ぐことができれば、黒は白駒の一部をキング翼に固定したあと迅速にクイーン翼での攻撃に移行しルークのために素通し列を作るべきである。そうすればルークが活動を始めれば双ビショップの大きな威力のために優勢になるはずである。

21.Rab1 Rad8 22.a4 Ba6 23.Rd1

 (白はルークの動きで明らかに手損をした。)

23…Rfe8 24.Qb3

 (この手は Nh4 と Be2 のあとクイーンを反対翼に転回するためである。)

24…Rd6 25.Nh4 g6 26.Be2

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

布局の探究(115)

「Chess Life」1995年1月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 もちろん双ビショップの役割はこれほど劇的である必要はないが、それでも重要である。冒頭ですでに述べたように重要な役割は対で働くことにより盤上の重要な個所を支配することである。これは次の試合によく表れている。

白 GMボスコ・アブラモビッチ
黒 IMジボスラフ・ニコリッチ
ユーゴスラビア選手権戦、1994年
B06 現代防御

1.d4 g6 2.Nf3 Bg7 3.e4 d6 4.Be2 Bg4 5.h3! Bxf3 6.Bxf3 Nc6 7.c3 e5 8.dxe5!

 現代防御ではいつものことだが、黒はd4をすぐに襲撃することを目指していた。白はそれを察して5手目、7手目それに8手目でその圧力を無効にしつつ、将来に役立つ双ビショップを得た。ここで眼目の 8…dxe5 なら白は 9.Qb3! と指して白枡に強く圧力をかける。そうなれば黒の黒枡ビショップは閉じ込められたままになるので、黒はナイトで取ることにした。しかしこれには白が中央で恒久的に優位に立つという負の結果を伴っている。

8…Nxe5 9.Be2! Nf6 10.Nd2 O-O 11.O-O Re8 12.f4 Ned7 13.Bf3 Nc5 14.Qc2 c6?!

 この手は白から目障りなc5のナイトを追い払われるだけでなくクイーン翼の陣地を拡張される。GMアブラモビッチは 14…a5 と突く方が良いと言っている。

15.b4 Ne6 16.Nb3 Qc7 17.Be3 Re7 18.Rae1 Rae8 19.a4 Nf8 20.Bf2 Ne6 21.g3

 白のビショップはうまい具合に縦に並んで中央とキング翼を守り、黒のクイーン翼に脅威を与える態勢にある。黒はどこにも反撃できる所がなく、白の中央の優位にも苦しまなければならない。そのような状況での最良の忠告はただ何もしないことである。私ならe8のルークを行ったり来たりさせることを勧める。

21…b6?! 22.Nd4 Nd8 23.Kg2 a6?! 24.Nb3 Nd7 25.Rd1 c5?! 26.bxc5 bxc5 27.Nd2!

 黒は不必要なポーン突きのためにa6とd6がひどく弱体化した。白はそれにつけ込む用意ができている。双ビショップは一貫して中央を守り好機を待っている。

27…Nb7 28.Nc4 Nb6 29.Nxb6 Qxb6 30.Rb1 Qc7 31.Rfd1 Na5 32.Qd3

 白は捌きが完了し勝負を決めにかかる。

32…c4 33.Qxd6 Bxc3 34.Qxa6 Nb3 35.e5!

 ビショップが急に活気づき 36.Bd5 を狙っている。

35…Nd2 36.Rb7 Qc8 37.Rxe7! Qxa6 38.Rxe8+ Kg7 39.Bc5! h5 40.Be7 黒投了

 このあとを続ければ 40…f6 41.Bxf6+ Kf7 42.Rd8! Nxf3(さもないと 43.Bd5+)43.R1d7+ Ke6 44.Rd6+ となるだろう。

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チェスの基本(073)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評(続き)

例55(続き)

 (再掲)

 (黒の防御法の目的の一つは …Ne4 で白のクイーン翼ナイトを二重に当たりにして …dxc4 と取ることである。この狙いに対処するには 7.Nd2 が強い受けだろう。)黒の防御法にはこのほかにも好ましい理由が二つある。第一に、ほかの防御ほど多くは指されていないのでよく知られていないことである。そして第二に、白のビショップとナイトに対して黒が双ビショップを持つことになり、一般には優位に立つことである。

7.Bxf6 Nxf6 8.a3 Ne4 9.Qb3 Be7

 このビショップはd6に据えるべきで、ここは理にかなった地点ではない。布局では手の損得は非常に重要で、それゆえに展開にはことのほか注意を払い駒が最適の地点に配置されるようにすべきである。

10.Bd3 Nxc3 11.bxc3 dxc4 12.Bxc4 Bf6

 (白ナイトをe5に来させたくなかった。eポーンを弱めるので …f6 と突いてどかすわけにはいかない。)12…Bd6 と指しても同じ結果になるだろう。ということはこのビショップを最初からd6に展開すべきとした私の以前の指摘が実証されることになる。

13.O-O

 代わりに 13.e4 から e5 と突いてから O-O とキャッスリングする手もあった。そうすれば白は主導権を握るがポーンの形をかなり弱めるので、敵キングに対する猛攻にすべを賭けることを強いられるかもしれない。ここは試合の分岐点で、選手の気性と棋風で試合の方向が決まるのはこのような局面である。

13…O-O 14.e4 e5

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

チェスの基本(072)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

25.対局者の読みと批評

 自戦解説を少ししてきたので今度はジョージ・トーマス卿の好局を詳解し分析してみる。彼はイングランドを代表する選手の一人で、対戦相手はF.F.L.アレグザンダー、試合は1919年から1920年の冬にかけて開催されたロンドン・チェスクラブ主催の市選手権戦である。初学者にとって興味深いのはトーマス卿が私の依頼に応じて快く解説を書いてくれて私が適当に解説を付け加えることを了解してくれたことだろう。トーマス卿の解説は括弧の中に入れるので、私の解説とは区別できる。

例55

 白はF.F.L.アレグザンダー、黒はジョージ・トーマス卿である(戦型はクイーン翼ギャンビット拒否)。

1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 e6 4.Nc3 Nbd7 5.Bg5 c6 6.e3 Qa5

(この章続く)

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カテゴリ: チェスの基本

ポルガーの定跡指南(144)

「Chess Life」2006年6月号(6/6)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

コーレ=ツーカートルト戦法[D05](続き)

C)…Nc6 から …Bd6 の戦型
1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.e3 c5 4.Bd3 d5 5.b3 Nc6 6.O-O Bd6 7.Bb2 O-O 8.Nbd2(続き)

C1)8…b6

 9.Ne5(ここやコーレのほかの多くの場面で 9.c4 と指すとまったく異なる型の中盤戦になる)

 9…Bb7(ここでの 9…Nb4 は黒がでかしていない。10.Be2 Qc7 11.a3 cxd4 12.exd4 となって、12…Nxc2? は 13.Rc1、 12…Qxc2? は 13.Qxc2 Nxc2 14.Ra2 でナイトを取られるので、黒はナイトを引かなければならない)10.a3

 (10.f4 もある)10…Rc8 11.f4 Ne7 12.Qf3 b5(…c5-c4 と突く意図)13.Bxb5 cxd4! 14.Bxd4 Rxc2 15.Qd1 Rc8 16.Bd3(16.Bxa7? Qa5)16…a5 局面は均衡がとれていて黒は不満がない。

 私の考えでは途中 13.dxc5 Bxc5 14.b4 Bb6 15.Bd4 と指すのも1局かもしれない。

C2)8…Qe7 9.Ne5 cxd4 10.exd4 Ba3

 この手順は長い間黒の本筋と考えられていた。しかし近年白に新構想が見つかり黒の頭痛の種になっている。たぶん代わりに 10…Qc7 で 11.f4 に 11…Nb4 と指す方が良いだろう。

11.Bxa3

 11.Qc1 Bxb2 12.Qxb2 と指すこともできる。

11…Qxa3 12.c3

 有名なボゴリュボフ対カパブランカ戦(ニューヨーク、1924年)は 12.Ndf3 Bd7 13.Nxc6 Bxc6 14.Qd2 Rac8 15.c3 a6 16.Ne5 Bb5 17.f3?(17.c4)17…Bxd3 18.Nxd3 Rc7 19.Rac1 Rfc8 20.Rc2 Ne8 21.Rfc1 Nd6 と進み、黒が比類ない巧みさでc3の弱い白ポーンにつけ込む方法を見せつけた。

 黒はここでいろいろな手を試したが、最終的な評価を下せるにはもっと実戦の結果が必要である。

12…a5

 黒の最善の策は反撃することである。ほかの手ではどうなるかを見てみよう。

 2004年フランスでのアベルジェル対バラン戦は黒が早々と敗勢になり51手で終了した。12…Nxe5 13.dxe5 Nd7 14.Re1! Nc5(14…Qb2 15.Re3 Qxc3? 16.Bxh7+)15.Bc2 Bd7 16.Re3 Bc6? 17.b4 Ne4(17…Nd7 18.b5 Bxb5 19.c4、17…Na6 18.b5、17…Na4 18.b5)18.Bxe4 dxe4 19.b5 Bxb5(19…Be8 20.Nxe4)20.c4 1-0

 次の2局で白の攻撃は 12…Bd7 13.f4 のあと好調になった。13…Qd6 14.Qf3 Rac8 15.Qh3 g6 16.Rac1 a6 17.Qh6 Ne7 18.Ndf3 Nf5 19.Bxf5 exf5 20.Ng5 Be6 21.Rf3 Rfe8 22.Nxh7! Nxh7 23.Rh3 Qc7 24.Qxh7+ Kf8 25.Re1 Ke7 26.Nxf7 Kf6 27.Ng5 1-0(エバンズ対ゴメス、1999年)

 もう1局は 13…Rac8 14.Rf3 g6 15.Qe1 Kg7 16.Rh3 Be8 17.Ndf3 Rh8 18.Qd2 Ne7 19.g4 Qa5(19…h5)20.Rc1 Bb5 21.Bb1 h5 22.Ng5 Rcf8 23.f5(ホイ対ダニエルセン、デンマーク、1995年)

 驚いたことに 12…Qb2 13.Rc1 Qxa2 14.f4 のあとポーン損にもかかわらず色々なソフトウェアプログラムが白の方が良いと判断している。次の試合が示すようにキング翼での攻撃の進展のおかげで白に十分な代償があるのは確かである。14…Qa5 15.Rf3 g6 16.Rh3 Nxe5 17.fxe5 Ne8 18.Nf3 f6 19.Qe1 Qc7 20.Qh4 Qg7 21.exf6 Nxf6 22.Ne5 Nh5(22…Bd7 23.Rf1 Rac8 24.Rhf3)23.Rf1 Rxf1+ 24.Bxf1 Bd7? 25.Rf3 Rf8 26.Rxf8+ Kxf8 27.g4 Nf4(27…Nf6 28.Qxf6+)28.Qg5 1-0(ザイラー対グネーゲル、ドイツ、1995年)

13.f4 a4

 試合は次のように続いた(アベルジェル対ルッツ、2004年)。

14.Rc1 axb3 15.axb3 Qe7 16.Rf3 Bd7 17.Rh3 g6 18.Qe1 Nh5 19.Qe3 Nxe5 20.fxe5 f5 21.exf6e.p. Rxf6 22.Rf3

 白が少し優勢だった。黒は途中で 14…Qxa2 とポーンを取ることができた。白は 15.Rf2 axb3 16.Nxb3 でポーンの代償が十分あるが、たぶんそれ以上はない。

結論

 白でコーレ=ツーカートルト戦法を指したいのなら、これまでの資料を学べば準備ができる。覚えておくべきことはこれまでの資料をすべて暗記するよりも、戦術の色々な主題と戦略の作戦を念頭におくことの方が大事だということである。黒では私ならC)を採用する。

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ポルガーの連載講座はこの号で終了しています。

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チェスの基本(071)

第1部

第4章 一般的な理論(続き)

24.戦場からの駒の遮断(続き)

例54(続き)

 (再掲)

 局面をざっと見みれば、白が実質的にビショップ損であることが分かる。ポーンを1個犠牲にしなければこのビショップを自由にできないが、たぶんそれですらだめだろう。少なくともポーン損に加えて手損もこうむる。黒はここからクイーン翼に全精力を傾けるが、実質的にビショップ得なので結果に疑問の余地はない。残りの手順からはこのような試合に勝つのがなんと容易であるかが見て取れるだろう。

16.Kg2 a5 17.a4 Kf7 18.Rh1 Ke6 19.h4 Rfb8

 キング翼に注意を払う必要はさらさらない。なぜならポーンを交換しh列を素通しにすることにより白が得るものは何もないからである。

20.hxg5 hxg5 21.b3 c6 22.Ra2 b5 23.Rha1 c4

 もし白が差し出されたポーンを取れば、黒は …bxc4 のあと …Rb4 ですぐに取り返す。

24.axb5 cxb3 25.cxb3 Rxb5 26.Ra4 Rxb3 27.d4 Rb5 28.Rc4 Rb4 29.Rxc6 Rxd4 白投了

(この章続く)

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