2012年12月の記事一覧

ポルガーの定跡指南(58)

「Chess Life」2004年10月号(3/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

フランス防御突き越し戦法(続き)

戦型B)1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5 c5 4.c3 Nc6 5.Nf3 Qb6 6.Bd3 cxd4 7.cxd4 Bd7 8.O-O Nxd4 9.Nxd4 Qxd4 10.Nc3 a6

 この手の目的は重要なb5の地点を守ることである。

11.Qe2

 白の作戦は f2-f4-f5 と突いていくことである。

11…Ne7

 このナイトはc6の地点に行ってe5ポーンにさらに圧力をかける。

12.Kh1

 白はキングをa7-g1の釘付けからはずした。代わりに 12.Rd1 なら黒は 12…Nc6 と指して、開き攻撃の 13.Bxa6 を指させることができる。そして 13…Qxe5 14.Bxb7 Qxe2 15.Nxe2 Rb8 で有利な陣形になる。途中白は 14.Qxe5 Nxe5 15.Bxb7 Rb8 16.Bxd5 exd5 17.Re1 f6 18.f4 でポーン得することができなかった。それは 18…Bc5+ 19.Kh1 d4 20.Nb1 Kf7 21.fxe5 Rhe8 となるからである。

12…Nc6 13.f4

 ここが黒の分岐点である。

13…Nb4

 これが最も直接的なやり方である。代わりに 13…Bc5 と指すこともでき、14.a3 Ba7 15.Bd2 g6 で混戦になる。

14.Rd1

 白がビショップを助けようとして 14.Bb1 と引くのは 14…Qc4 のあと …d5-d4-d3 と突かれて良くない。

14…Nxd3

 黒は 14…Bc5 15.Bxa6 Qf2 16.Qxf2 Bxf2 17.Bb5 Bc6 でポーンを返せば非常に安全で楽な試合になる。しかし実戦の手はもっと意欲的である。

15.Rxd3 Qb6!

 白はビショップのためにc5の地点を空けながら 15…Qc4 で強力な攻撃を予定することができた。以下は黒が正確に指さないと困難に直面することになるという好例である。16.b3 Qc7 17.Bb2 Bc6 18.Rc1 Rd8 19.Qf2 Be7 20.Ne2 O-O 21.Nd4 Qd7 22.f5 exf5 23.Rg3 g6 24.Qf4 Rfe8 25.Nxf5 Bf8 26.Bd4 Re6 27.Nh6+ Bxh6 28.Qxh6 Rde8 29.Rf1 Qc7 30.Rh3 f5 31.exf6e.p. Qf7 32.Qxh7+ そして黒が投了した(スベシュニコフ対ラズバエフ、ベオグラード、1988年)。

16.Be3 Bc5

 黒のポーン得なので交換はどれも黒を助けることになる。

17.Bxc5 Qxc5

 黒が優勢である。…Bd7-c6 でc列を閉じたあと黒はクイーン翼キャッスリングさえ考えることができる。白の最善の選択は

18.f5

と指すことで、そのとき黒は

18…Bc6

と応じることができる。しかし 18…O-O-O は良くなくて白が 19.Ne4! dxe4? 20.Rc3 と応じることができる。

最終結論

 フランス防御の黒側を持って指すなら突き越し戦法への準備をする必要がある。本稿は必ずその役に立つ。フランス防御を指したいなら 6.a3 と 6.Be2 の戦型についても学んでおかなければならない。このギャンビット戦型を避けたいならば 4…Qb6 から 5…Bd7 の戦型を調べるのがよい。

 白側でギャンビット戦法が気に入っていてこの戦型だけを指すことを考えるならば、早々とポーン損になることが予想される。時おり用いるなら意表をつくよい武器となるのは確かである。しかし正確に指せば黒が良好な態勢になる。

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2012年12月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(56)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

 黒は白にすぐにdポーンを守らせるようにした。代わりに 13…Bd7 も可能で、そのあと白が 14.Be3 と指せば黒は 14…Be8 と指すことにより …Kh8 と寄らずに済むようにすることができる。この手は白がe列をせき止めて 15.Re1 がeポーン当たりにならなくなったことを利用したものである。1987年ポズナニでのベルナルド対シュミット戦では 15.Ng5!? Ne7! 16.h3 Bb8 17.Qc2 h6 18.Nf3 Nh5 = と進んだ。

14.Be3 a6

 白はd4とb2を(間接的に)守り、黒はクイーンを中央またはキング翼で働かせる用意をしている。第一弾として黒は大切な黒枡ビショップの交換を強いる Nb5 によっていじめられずにクイーンがc7の地点に行けるようにした。黒は …Qc7 と引くつもりなので …Qb6 によって成果を得る試みは失敗したように思われる。このクイーンは直接c7の地点に行って手損しないようにすべきだったのではないだろうか?いや、この場合はそうではない。b2のポーンは白が 13.a3 と1手かけなければならなかったからこそ無事なのである。また、のちの Bxh7+ をなくす 13…Kh8 と相まってb6のクイーンはd4での2回の交換を狙うことができたのである。この狙いのために白はビショップをよくある攻撃的な Bg5 でなく、やや守勢のe3の地点に展開させられた。だからここで黒がクイーンを再配置するのが最善であると考えても、…Qb6 は明らかに黒にとって有益な企てだった。

15.Rc1 Qc7

 15…Qxb2? は 16.Na4 Qxa3 17.Ra1 Qb4 18.Bd2 でまだうまくいかない。

16.h3

 この手は 16…Ng4 17.h3 Nxe3 で黒が双ビショップになるのをなくした。

16…Qf7 17.Ng5

 17.Na4 で 18.Nb6 から 19.Nxc8 を意図するのが良い作戦だった。黒が 17…Bc7 でb6の地点を守れば 18.Nc5 でナイトが好所につく。白は実際にこの捌きを実行するつもりのようだが、まずe5の地点を締めつけることにより黒が …e5 突きで解放にくるのを永久に不可能にしようとした。

17…Qe7 18.f4 Bd7

 すぐに 18…e5 と突いて捌こうとするのは 19.fxe5! Nxe5 20.Nxd5! Nxd5 21.Rxf8+ Qxf8 22.dxe5 Bxe5 23.Qh5 で失敗する。本譜の手のあとツェイトリンは 19.Qe1! で黒の次の手をなくすべきだと反省している。実戦の手は不注意だった。

19.Na4?! e5!!

 白の手番 

(この章続く)

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カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(55)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

12.Nc3

 白が前局のように 12.Bf4 Bxf4 13.Nxf4 によって黒枡ビショップ同士を交換しようとすれば、黒は千日手による早々の引き分けを気にしないなら単純かつ安全に 13…Qxb2 でbポーンを取ることができる。その引き分けとは 14.Rb1 Qxa2 15.Ng5 O-O 16.Ra1 Qb2 17.Rb1 のことで、17…Qa3 は18.Qc2! で危険である(ウールマン)。もっと冒険好きなむきには 13…O-O!? も可能で、第7局の解説に移行する。白が 12.Rb1 または 12.b3 で先にb2を守れば、黒は 12…O-O のあと 13.Bf4 に 13…Nxd4! 14.Nfxd4 e5 の計略で応じることができる。ただし 13…Bxf4 は駄目で、14.Nxf4 Nxd4 で前局の解説に移行し白は 15.Nxd4 e5 16.Nxd5! で優勢になれる。

 白は展開の優位を利用して弱いe6のポーンに圧力をかけようとすることができる。しかし 12.Re1 O-O 13.Nf4 のあと黒は単に白の狙いを無視することができる。なぜなら 13…Bd7 14.Nxe6(他の手はどれも 14…Rae8 とされて黒が好形になる)14…Rfe8 15.Bf5 となれば白が不安定な態勢になるからである。黒はナイトとビショップをどかせてクイーンをe6への攻撃に加えるだけで良い。

 本譜の手のほかに白は通常はまずクイーン翼のビショップをフィアンケットして、b2とd4のポーン、それにe5の地点を安全にしてからe2のナイトをキング翼に向かわせることを考えることもできた。12.b3(または 12.Bd2 から 13.Bc3)12…O-O 13.Bb2 Bd7 14.Ng3 のあと黒は 14…Rae8 に 15.Ne5! でゆっくりつぶされないよう注意しなければならない。セルペルはこの局面を +/- と判定している。この表決は黒にとっていくらか悲観的なように思われるが、いずれにせよ 14…Kh8! で 15.Ne5 に 15…Nxd4 を予定する方が優る。1953年ブルガリア対東ドイツのミネフ対ブリューヒナー戦では 15.Re1 Rae8 16.Bc2 Ng4! 17.Qd3(17.Bxh7 e5! ウールマン)17…g6 18.Qd2 Kg8! 19.Rad1 e5 となって黒が大いに優勢だった。

12…O-O

 12…Bd7 には巧妙な罠が仕掛けてあって 13.a3 Nxd4! 14.Nxd4 Qxd4 15.Bg6+?? hxg6 16.Qxd4 Bxh2+ で黒の勝勢になる。しかし1986年アムステルダムでのサパタ対カイフ戦のように白は 15.Nb5 で形勢不明のままにできる。

13.a3

 …Qxb2 とポーンを取られても Na4 でクイーンを捕まえることができるのでクイーン翼ビショップが自由になった。それに突き越し中原のところで既に出てきたように、より長期的には b4 突きから Na4-c5 と指す作戦もある。

 しかし白はこの手を指さずに済ませることもできる。1985年ビール・インターゾーナルでのバン・デル・ビール対ショート戦では 13.Re1 Bd7 14.Bg5(14.Be3)14…Ng4!?(14…Qxb2? は 15.Nb5! で駄目だが、単純な 14…Kh8 はよい。例えば 15.Na4 Qa5 16.a3 Nxd4!)15.Bh4(黒枡ビショップ同士を交換しようとし、16.Bxh7+ を狙う。黒の手は 15.h3? Nxf2! 16.Kxf2 Nxd4 を期待していた)15…Nh6?!(バン・デル・ビールは 15…Kh8! でdポーンを攻撃するのを推奨している。16.Bxh7 には 16…Nxh2! 17.Ng5 Qxd4 18.Qh5 Qg4、また 16.Na4 Qa5 17.Bxh7 には 17…Rxf3! 18.gxf3 Nxh2 と応じる)16.Bg3 Bxg3(16…Be7 17.Na4 Qa5 18.Bc2{18.a3 Rxf3!}18…Nf5 19.a3 Nxg3 20.hxg3 も1988年ディーレンでのネイブール対ファラゴ戦で白が明らかに優勢だった)17.hxg3 Rf6 18.Na4 Qc7 19.Rc1 Raf8 20.Nc5 +/-

13…Kh8

 白の手番 

(この章続く)

2012年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(54)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

第8局
ツェイトリン対シュルツ
ベルリン、1992年
タラシュ戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 Nf6 4.e5 Nfd7 5.c3 c5 6.Ndf3

 この手順変更は大して意味がない。たぶん白は Bd3 を遅らせることにより黒に …b6 突きを思いとどまらせたかったのだろう。というのは 6…b6 7.Be3 Ba6?!(7,,.cxd4 の方が良い)8.Bxa6 Nxa6 9.Ne2 となれば普通の手順と比べて「1手で」Bxa6 と指したことにより1手もうけたことになるからである。

6…Nc6 7.Bd3 Qb6

 8…cxd4 と取るつもりの 7…Qa5!? は白の手順の弱点を明るみに出させるかもしれない。8.Bd2 なら黒は単にクイーンをb6に引くし、8.Kf1 なら 8…b5 と突くこともできるし単に 8…b6 から 9…Ba6 と指すこともできる。

8.Ne2 cxd4 9.cxd4 f6 10.exf6

 ここでは 10.Nc3!? でポーンを犠牲にするのも面白い。10…fxe5 11.dxe5 Ndxe5 12.Nxe5 Nxe5 13.Qh5+ Nf7 14.Bb5+ Ke7 15.O-O となれば白の攻撃が強力である。しかし黒は 11…Be7 または 11…g6 で改良することができ、白のe5のポーンが少し不安になる。

10…Nxf6 11.O-O Bd6

 白の手番 

(この章続く)

2012年12月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(299)

「Chess Life」2012年12月号(3/4)

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イスタンブール・オリンピアード(続き)

 対戦はこれで互角になりすべては主将戦に委ねられた。ナカムラは一時ルーク得だったが、2段目のうるさいポーンを始末する手段を見つけられなかった。ついにはその1ポーンに他の2ポーンが加わり、彼はまだ勝勢なのかと多くの者がいぶかっていた。観戦席からこの回の一部始終を見ていたアコビアンでさえナカムラが思い描いていたきらめく着想にすぐには想到しなかった。「そうか!」アコビアンは妙着に気づいた時のことを覚えていた。

「そうか!」
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2778、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2797、ロシア)
第40回世界チェスオリンピアード、オープン部門、第9回戦
2012年9月6日

53.Ra5

 クラムニクのポーンを全部彼のビショップと同じ色に固定することから始めた。

53…f4 54.Kf1 e3 55.Ke2 Rf6

 ポーンはせき止めたがどうやってそれらを解体するか?ナカムラはまずチェックで様子を見る。

56.Ra8+ Kg7 57.Ra7+ Rf7 58.Rb7

58…Kf6

 もちろん 58…Rxb7? は 59.cxb7 Kf6 60.Bg2(60.b8=Q? は急ぎすぎで 60…f3+ 61.Kxf3 Bxb8 と素抜かれてしまう)60…Ke7 61.Bf3 Kd7 62.b8=Q で駄目である。

59.Kf3 Re7?

 この手はナカムラが事前に読んでいた驚きの終局を迎える。クラムニクが状況を良くしたかったのは当然だった(ポーンを突き進めるのを狙い、60.Bf1 ならキングをcポーンにもっと近づけることができる)。59…Kg7? は 60.Be6 で即負けとなる。59…Kg6 ならもっと頑張れるが、ナカムラはそれでもナイトを働かせ黒ポーンを監視することにより勝つことができる。

60.Rxe7 Kxe7 61.c7 e2

62.c8=N+!!

 これが勝つための唯一の手段である(62.Kxe2? f3+ 63.Kxf3 Bxc7 =)。

62…Kf6 63.Kxe2 Ke5 64.Nb6 Kd4 65.Bg2 Be1 66.Nd5 Ke5 67.Nb4 Bh4 68.Nd3+ Kf5 69.Kxd2 Kg4 70.Ke2 Bf6 71.N1f2+ Kg3 72.Bf3 Bd8 73.Ne4+ Kh4 74.Ne5

 ナカムラは決してfポーンを取らない。それは2ナイトで勝つために相手のポーンを残す必要がある時のためでもあり、ただ単に取る必要がないためでもある。

74…Bc7 75.Ng6+ Kh3 76.Ne7 Bd8 77.Nf5 Bb6 78.Kf1 Kh2 79.Bg4 f3 80.Nh4 黒投了

 クラムニクは2ナイトで詰まされるよりも投了を選んだ。

 「勝つにはあの手段しかなかった」と興奮したカームスキーが言った。「きれいだ。2ナイトのタンゴだ。」それから自分を落ち着かせて「今日はうまくいった。だが可能性については話したくない」と付け加えた。そして「劣勢の局面で長い間粘るロブソンの能力が上位2局でロシアの焦りを誘って米国チームを助けたのかもしれない」と語った。

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(この号続く)

2012年12月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フランス防御の完全理解(53)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

 騒ぎが収まって棚卸をする頃合である。クイーンと引き換えに白はルーク、中原の好所のナイト、そして動けるパスポーンを得ている。全体として白が少し有望である。

23.Rd3

 図の局面は1991年全ソ連選手権戦のクラムニク対ウリビン戦にも現れた。白はすぐにポーンを活用しようとして険しい局面で引き分けになった。23.f4 Qb6 24.f5 Qxb2 25.Rd3 Rc8 26.f6 Rc1 27.Rh3+ Kg6 28.Rg3+ Kh5 ½-½

23…Qb6 24.b3 Rc8 25.f4 Qg6 26.Re3 Qb6 27.Rd1 Qh6 28.Rf3 Qg6 29.Re1 Qb6 30.Rd3 Qb4 31.Rdd1 Qc3 32.e6 Kg8?

 黒はクイーンを働かせることに成功していて、完全に互角になるためにはルークを戦いに参加させるだけで良かった。ここでは 32…Kg6! が正着で、グレイゼロフによれば 33.f5+ Kf6 34.Rg1 Rh8! で十分反撃が効いた。

33.Kg2 Re8 34.Re2 Kf8 35.Re5 Ke7 36.Rxd5 Rh8 37.Rd7+ Kf6 38.Rf7+ Kg6 39.Nf3?

 これにより黒は引き分けに逃げることができる。白は 39.f5+ Kg5 40.Rxg7+ と指していれば勝つ可能性を維持できた。

39…Rxh2+! 40.Kxh2

 40.Nxh2 は 40…Qc2+ でルークが取られる。実戦は白キングが完全に裸になり千日手による引き分けが避けられない。

40…Qxf3 41.Rg1+ Kh6 42.Rgxg7 Qe2+ 43.Kh3 Qe3+ 44.Kh4 Qe1+ 45.Rg3 Qxe6 46.Rxb7 Qf6+ 47.Kh3 Qe6+ 48.Kh2 Qe2+ ½-½

(この章続く)

2012年12月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(52)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

16.Kh1

 1993年ロースドルフでのハイケン対グレイゼロフ戦では 16.f4 Nh3+ 17.Kh1 Qh4 18.Qd2 Nxf2+ 19.Kg2 Nxd3 20.Qxd3 Bd7 と進み形勢不明だった。激しく 16…Nf3+!? とやっていく手もあり 17.Kg2 Nh4+ 18.Kh1 e5!(ソロジェンキン対S.イワノフ、レニングラード、1989年)から 19…Bg4 となる。

16…e5!

 黒はビショップのために斜筋を開けた。

17.dxe5 Nxf3 18.Bxh7+

 おとなしい 18.Ng1 は 18…Nfxe5 のあと動的に互角になる。1994年ウィーンでのポポビッチ対キンダーマン戦では 19.Bc2 d4 20.Re1(または 20.Be4 Be6 ルブレフスキー対グレイゼロフ、ソ連、1991年)20…Be6 21.Bb3 Bd5+ 22.f3 Qd6 23.Re4 Rd8 と進んだ。

18…Kh8

 18…Kxh7 は 19.Qd3+ から 20.Qxf3 で悪い。本譜の手のあとは 19…Qh4 ですぐ黒の勝ちになる狙いがある。

19.Ng1

 白は 19…Nxg1 に 20.Qh5! と応じるつもりである。他にはグレイゼロフとサマリアンの推奨する 19.Nf4!? しかあり得ない。

19…Ncd4!

 黒は攻撃の速度を上げてきた。代わりに 19…Ncxe5? は 20.Nxf3 Bg4 21.Nxe5! Bxd1 22.Nf7+ で白の勝ちになる。

20.Nxf3 Bg4 21.Nxd4

 21.Qxd4 は 21…Bxf3+ 22.Kg1 Qg5+ から詰みになるのでこの手しかない。

21…Bxd1 22.Raxd1 Kxh7

 白の手番 

(この章続く)

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カテゴリ: フランス防御の完全理解

布局の探究(28)

「Chess Life」1991年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

2)ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 白にはナイドルフを「退治する」手法が 6.Bg5、6.f4、6.Be2 それに 6.Bc4 などいくつもある。私の統一的な手法の一環として 6.Bc4 を説明する。さらに勉強するための良い参考書としては GM John Nunn 著「Najdorf for the Tournament Player」、「Encyclopedia of Chess Openings B」そして Bobby Fischer 著「My 60 Memorable Games」がある。

6.Bc4

 これもボビー・フィッシャーの「発明」である。彼は 6.Bc4 がクラシカル戦法に対して良いならナイドルフ戦法に対しても良いはずだと考えた。そして棋歴を通してこれが-ごくわずかな例外はあったが-ナイドルフに対する彼の武器になった。白は自分のキングはキング翼にキャッスリングして黒キングへの攻撃態勢を準備する。

6…e6

 これが黒の断然信頼できる作戦である。しかし黒は最初に 6…b5 突いて 7.Bb3 のあと 7…e6 と突くこともできる。

7.Bb3 b5

 この積極的なポーン突きでナイドルフらしい戦法になる。代わりに 7…Nc6 はソージン戦法になる。7…Be7?! 8.f4 O-O はおとなしすぎて、白は展開したc4ビショップを 9.f5 突きですぐに活用することができる。

8.O-O

 白キングは安全になりキング翼ルークは戦いに動員できる。そしてこの手には欠陥がない。戦術的に正当であることの証明は 8…b4?! 9.Na4 Nxe4 10.Re1! Nf6 11.Bg5 Be7 12.Nf5! で白の攻撃がほぼ決定的と言っていいことにある(12…exf5? 13.Bxf6 gxf6 14.Qd5 で白の勝ち)。

8…Be7 9.Qf3

 これが現在白の最も人気のある作戦である。白は先にポーンの嵐を仕掛けるよりも駒で急攻しようとしている。

9…Qc7

 他に重要な手は 9…Qb6 で、10.Bg5!? O-O(10…Qxd4? は 11.e5 で良くない)11.Rad1 Bb7 12.Rfe1 Nbd7 13.Qg3 となって白の攻撃が有望になる。

10.Qg3 Nc6

 1989年全ソ連選手権戦のA.ソコロフ対ゲルファンド戦では 10…O-O 11.Bh6 Ne8 12.Rad1 Bd7 13.f4 と進んで白が少し優勢だった。

11.Nxc6 Qxc6 12.Re1 O-O 13.Bh6 Ne8 14.Nd5 Bd8 15.Re3! Qb7 16.Nf4 Kh8 17.Bg5

 白は展開に優っているので非常に強い攻撃を仕掛けることができる。例えば 17…f6? と突くのは 18.Bxe6! fxg5? 19.Ng6+! hxg6 20.Qh3# で黒が負けてしまう。ド・ファーミアンによると黒の唯一の受けは 17…Bxg5 で、白に通常の布局の優位があるとのことである。1989年全米選手権戦のド・ファーミアン対ブラウン戦は次のように進んだ。

17…Bb6?! 18.Rf3! Qxe4 19.Kf1! e5! 20.Nd5 Ba5 21.Ne7 Nc7 22.Nxc8 Raxc8 23.Be7 f5! 24.Bxf8 Rxf8 25.c3 f4 26.Qg4 b4 27.Re1 Qc6 28.Rh3 Qe8 29.Qf3 h6?(ド・ファーミアンによれば黒は 29…bxc3 30.bxc3 g6 と指すべきだった)30.Qe4! bxc3 31.Bc2 Qb5+ 32.Bd3 黒投了

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カテゴリ: 布局の探究1

フランス防御の完全理解(51)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

第7局
ティモシェンコ対グレイゼロフ
チェリャビンスク、1989年
タラシュ戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 Nf6 4.e5 Nfd7 5.Bd3 c5 6.c3 Nc6 7.Ne2 cxd4 8.cxd4 f6 9.exf6 Nxf6 10.Nf3 Bd6 11.O-O O-O

 黒はまだ …Qc7(第6局)にも …Qb6(第8局)にも決めたくない。しかしこう指したことにより白は黒枡ビショップ同士を交換することができる。

12.Bf4 Bxf4 13.Nxf4 Ne4

 他の手は・・・

 a)13…Ng4 14.Qd2! Qd6 15.g3 e5 16.dxe5 Qh6!(べインガー対ヘルトネック、ミュンヘン、1987年)17.h4! 白優勢。

 b)13…Qd6 14.g3 e5 15.dxe5 Nxe5 16.Nxe5 Qxe5 +/=

 c)13…Qb6!? 14.Rb1(14.Qd2 は 14…g6 または 14…Kh8!? と応じられる)14…Nxd4?!(14…Bd7!)15.Nxd4 e5 16.Nxd5! これで 16…Nxd5 には 17.Qh5 Nf6 18.Qxe5 と応じることができるので白優勢。

14.Ne2

 白は他にも三通りの手がある。

 a)14.Nh5 g6 15.Ng3 Nxg3 16.hxg3 Qb6 黒はほとんど問題ない。

 b)14.Qc1 Ng5 15.Nxg5 Qxg5 16.Bxh7+!? Kxh7 17.Nxe6 Qf5 18.Nxf8+ Qxf8 黒は受け切れる。

 c)14.g3 Qf6 15.h4 h6 16.Bxe4 dxe4 17.Ne5 Rd8 18.Nxc6 bxc6 19.Qc2 g5 1992年ハルキディキでのコトロニアス対ウリビン戦では形勢不明だった。

14…Rxf3!

 この手が最も有望である。黒は白のキング翼ポーンの形をめちゃくちゃにし、交換損の代わりに十分な反撃の態勢を築く。

15.gxf3 Ng5

 白の手番 

(この章続く)

2012年12月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(50)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)黒の手番 

20…Bc7!

 この手はビショップをd4のポーンに利く地点に配置することを意図していて、それと同時にb6のナイトに進退を明らかにすることを迫っている。

21.Nxd7 Qxd7 22.Rc1 Bb6 23.Qb3 Ba7

 23…Bxd4 には 24.Rxc6 がある[訳注  24…Rxf3 25.gxf3 bxc6 で黒が優勢です。従って 23…Bxd4 は成立します]。

24.Red1 Qg7 25.Qa4

 25.Qd3 も 25…g5! 26.g4 Rf4 のために良くない。

 しかしここで黒はd4の地点を越えてf2の地点を攻撃し露出させる。

25…b5! 26.Qxa6 Nxd4 27.Bxb5 Re7 28.Rc3 Nf5!

 この退却の手は気がつきにくい強手だった。これに対して白は 29.g4 と応じなければならない。もっともM.グレビッチの分析によれば 29…Nh6 30.g5 Ng4 31.Rc2 e5 から …e4 で白がひどい。実戦の手は白がたちまち負けになる。

29.Rc8 Nxg3!

 黒の戦略が勝利した。白は 30…Qh6 から 31…Qh1# の狙いを駒損によってのみ避けることができる。

30.Bd7 Rxd7 31.Qxe6+ Qf7 32.Rxf8+ Kxf8 33.Qe5 Ne4 34.Rc1 Bxf2+ 35.Kh1 Qf6 36.Rc8+ Kg7 0-1

(この章続く)

2012年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(57)

「Chess Life」2004年10月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

フランス防御突き越し戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5 c5 4.c3 Nc6 5.Nf3 Qb6 6.Bd3

 これは最も活動的で単刀直入な展開方法である。しかし白はすぐにポーンを犠牲にすることを覚悟しなければならない。はるかに堅実で大局的な手は 6.Be2 や 6.a3 である。

6…cxd4

 証文の出し遅れになる前にここでd4での交換をするのが重要である。1911年に指された古い有名な試合では 6…Bd7 7.dxc5 Bxc5 8.O-O f6 9.b4 Be7 10.Bf4 で不利な局面になった。ニムゾビッチ対サルべのその試合(カールスバート、1911年)は 10…fxe5 11.Nxe5 Nxe5 12.Bxe5 Nf6 13.Nd2 O-O 14.Nf3 Bd6 15.Qe2 Rac8 16.Bd4 Qc7 17.Ne5 Be8 18.Rae1 Bxe5 19.Bxe5 Qc6 20.Bd4 Bd7 21.Qc2 Rf7 22.Re3 b6 23.Rg3 Kh8 24.Bxh7! と進んで白の勝勢になった。

7.cxd4 Bd7

 7…Nxd4? とすぐにd4のポーンを取るのはポカで、8.Nxd4 Qxd4 9.Bb5+ で開きチェックにより黒クイーンが落ちる。

8.O-O

 8.Nc3 と指してもよい。そのあとは 8…Nxd4 9.Nxd4 Qxd4 10.O-O で主手順に戻る。

8…Nxd4

 ここでポーンを取るなら安全である。

9.Nxd4 Qxd4 10.Nc3

 この局面が今月の本稿の焦点である。白はポーンを捨てて展開で差をつけた。黒はe5の2個目のポーンの犠牲を受諾することもできるし、それを拒否して急を要する展開に集中することもできる。10.Qe2 Ne7 11.Nc3 Nc6 は黒にとって何の問題もない。

戦型A)10…Qxe5

 黒は初手からの10手で3回もクイーンを動かした。布局の原則からすれば誤りである。この場合に限っては黒が負けることはない。しかし白がポーンの代わりに十分すぎる活動性と代償を得ているのは確かである。タリ対ストールべり戦(ストックホルム、1960年)では黒が 10…Qb6 と引いたあと 11.Qg4 h5 12.Qg5 g6 13.a4 Bh6 14.Qh4 a6? 15.Bxh6 Nxh6 16.Qf6! Rf8 17.Nxd5 で苦戦に陥った。

11.Re1

 白はルークを先手で半素通し列に置いた。

11…Qb8

 黒クイーンは攻撃から逃れてまた動くしかなかった。11…Qd6 は 12.Nb5 で5回目の動きをする必要がある。元世界チャンピオンでリガの魔術師と呼ばれた故ミハイル・タリはイボ・ネイ戦(ソ連、1958年)で短手数の好局をものにした。その試合は次のように進んだ。12…Qb8 13.Qf3 Bd6 14.Qxd5 Bxh2+ 15.Kh1 Bc6 16.Qg5 Nf6 17.f4 h6 18.Qxg7 Rg8 19.Rxe6+ fxe6 20.Bg6+ Kd8 21.Qxf6+ 1-0

12.Nxd5

 この手はeポーンの釘付けを利用している。

12…Bd6 13.Qg4

 この手は黒陣を弱めさせる。

13…Kf8

 これで黒キングは中央に足止めされた。13…g6 でも欠陥があり、キング翼の一群の黒枡を弱めることになる。

14.Bd2 h5 15.Qh3

 e6ポーンの釘付けを維持した。

15…Bc6 16.Ne3 Nf6 17.Bc3

 白はポーン損だが、黒には二つの障害がある。最も明白なのはキングとクイーンの悪形である。そして二つのルークの連係がない。

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2012年12月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(49)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

 グレビッチはさしあたり自分の黒枡ビショップが交換されるのを防いだ。しかしベリヤフスキーはしつこい。

12.Nc3

 このナイトはキング翼に行くこともできる。例えば 12.Bg5 O-O 13.Rc1(13.Bh4 も可能で、黒は白の手損につけ込んで 13…e5 と突き形勢不明の孤立dポーンの局面にすることができる)13…Ng4 となれば白は 14.Ng3 でキング翼を強化することができる。そのあとの典型的な手は 14…g6(…Qg7 の意図)で、1986年全ソ連選手権戦でのスマギン対ドルマトフ戦では 15.Nh4 e5 16.Be2 Nf6 17.dxe5 Bxe5 18.b4 Bf4 19.Bxf4 Qxf4 と進んだ。カルポフはこの局面を互角としているが、ゲレルは白が優勢と言っている。

12…a6

 この手は 13.Nb5 で白がナイトを黒の優良ビショップと交換する大局的な狙いを封じている。

13.Bg5 O-O 14.Bh4 Nh5!

 黒はまたd6のビショップを盤上に残すを方策をとった。つまり白の Bg3 の意図をくじいている。

15.Re1

 1994年ニューヨークでのI.グレビッチ対クロフスキー戦では白が 15.Rc1 と指し、次のように難解な局面から優勢になった。15…g6 16.Na4 Qg7?! 17.Nb6 Rb8 18.Bxa6! Nxd4 19.Nxd4! bxa6 20.Nxc8 Rbxc8 21.Rxc8 Rxc8 22.Re1(22.Nxe6 は 22…Qe5 で良くない)22…Bb4 23.Qg4! マツロビッチはナイトをb6の地点に来させないために 16…Bd7 を推奨している。そのあとは 17.Nc5 Rae8 で黒が駒の展開を完了する。

 15.Bg3? は白の黒枡ビショップを黒のナイトと交換され、1986年ロンドンでのT.アプトン対マクドナルド戦では次のように進んで白があっけなく負けた。15…Nxg3 16.hxg3 g6 17.Qd2 Qg7 18.Qe3 Bd7 19.Rad1 Rae8 20.Bc2(20.Ne5? は 20…Bxe5 21.dxe5 d4)20…Kh8 21.Qd2 Bb8! 22.Rfe1 Ba7 23.Ba4 b5 24.Bb3 Rxf3! 25.gxf3 Nxd4 26.Qd3 Rf8 27.f4 g5!(黒の交換損の犠牲で白の中原が破壊され、ここから白キングに対する直接攻撃が始まる。a7のビショップのf2の地点に対する並外れた威力に注意されたい。28.fxg5 なら 28…Nf3+ で黒が勝つ)28.Ne2 Nxe2+ 29.Rxe2 gxf4 30.Qc3 Qxc3 31.bxc3 fxg3 0-1 黒がf2のポーンを取り白陣が壊滅する。

15…g6!

 予定どおりの作戦でクイーンの場所を空けた。クイーンにとって絶好の位置になる。

16.Bf1 Qg7 17.Na4

 15手目で引用したI.グレビッチ対クロフスキー戦のようにb6の弱点につけ込もうとしている。

17…Bd7 18.Nb6 Rae8 19.Bg3?

 これはひどい間違いだった。白は黒枡ビショップの交換のあとd4とf2のポーンが共に弱くなる。M.グレビッチは 19.Bg5 を推奨していて、19…Bc7 20.Nxd7 Qxd7 21.Bh6 Ng7 でいい勝負になる。

 読者は以降の両者の手順を15手目であげたT.アプトン対マクドナルド戦の終わりの方と比較してみるとよい。

19…Nxg3 20.hxg3

 黒の手番 

(この章続く)

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フランス防御の完全理解(48)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例(続き)

(再掲) 白の手番 

 ここで白には選択肢がある。14.Qh4 e5 15.Nf3 Nxf3+ 16.gxf3 Bf5 17.Bxf5 gxf5 18.Bg5 Qa5+ 19.Kf1 g6! 20.Bxf6 Qa6+ 21.Kg2 Qxf6 22.Qxf6+ Kxf6 は1986年ブリュッセルでのバン・デル・ビール対ティマン戦で、動的に均衡がとれていた。黒はルークの代わりにビショップとポーンを持ち、ポーンの形もはるかに良い。別の手は 14.O-O で、通常は 14…e5 15.Nf3 Nxf3+ 16.gxf3 と進む。ここで 16…e4!? が面白い手である。一方1990年ロンドンでのスタントン対マクドナルド戦では次のように進んだ。16…Nh5 17.Bxg6+! Kxg6 18.Kh1 Qh4(他の手では Rg1+ が受からない)19.Qxf8 Kh7 20.Qa3 Bh3?(魅力的な手だが 20…Bd7 のあと …d4 から …Bc6 と指す方が良く形勢不明だった)21.Rg1 Qxf2 22.Qd3+(白はここで 22.Qe3! でクイーン交換を強制するのが良かった)22…Kh8 23.Bd2(23.Qe3!)23…Rf8 24.Rg5 Rf5 25.Rag1 Rxg5 26.Bxg5 d4! 27.Qe4? Bg2+! 28.Rxg2 Qf1+ 29.Rg1 Ng3+! 30.hxg3 Qh3#

9…Nxf6

 キンズマンによると 9…Qxf6 10.O-O Bd6 11.Nf3 h6 12.Bb1 O-O 13.Qd3 Rd8 14.g3 e5! 15.dxe5 Ndxe5 16.Nxe5 Bxe5 17.Nf4 Ne7 が面白かった。白はいつでもh7の地点でチェックをかけられるが、どんなに運がよくても詰みになることはない。

10.Nf3

 1986年ロンドンでのアフェク対アグデスタイン戦では 10.O-O Bd6 11.f4!? O-O 12.Nf3 Qb6 13.Kh1 Bd7 14.a3 Rac8 15.Ne5 Be8 16.g4 Kh8 17.Be3 Ne7 18.Rc1 Rxc1 19.Bxc1 Bb5 と進んで黒が優勢だった。

10…Qc7

 黒は手順の妙で 10…Bd6 11.Bf4 となるのを避けた。ここで 11.Bf4 なら 11…Bb4+ と応じることができ面白い戦いになる。

11.O-O Bd6

 白の手番 

(この章続く)

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フランス防御の完全理解(47)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

実戦例

第6局
ベリヤフスキー対M・グレビッチ
全ソ連選手権戦、1986年
タラシュ戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 Nf6 4.e5 Nfd7 5.Bd3

 5.f4 は次章で解説する。

5…c5 6.c3 Nc6

 黒は …f6 突きで中央から仕掛けることができるように駒を展開している。局面を閉鎖的なままにしておきたいならば、代わりに 6…b6 と突いてほぼ前章の最後の2局のように(または f2-f4 突きがあるならば次章の試合のように)指すことができる。

7.Ne2

 7.Ngf3!? は 7…Qb6 8.O-O cxd4 9.cxd4 Nxd4 10.Nxd4 Qxd4 11.Nf3 と進めばコルチノイギャンビットになる。白はdポーンを犠牲にすることにより大局的に永続する圧力が得られることを期待している。黒は詰まされるわけではないが、かといって白の締めつけから自分の駒を解放することも容易でない。特にクイーンを安全な地点に行かせるのに手数を費やさなければならない。白はミルナーバリーギャンビット(前章で出てきた)よりはるかに優っていて、e5の地点をしっかりと確保しd7のナイトが黒のクイーン翼の展開を邪魔している。

 黒はそんなに協力的である必要はないが、「普通の」7…f6 の方が良いというわけではない。1991年テムズバリーリーグ戦でのG.ムーア対ハーリー戦では 8.exf6 Nxf6 9.O-O cxd4(9…Bd6 10.dxc5! Bxc5 11.b4+/- エールベスト対アンデルソン、レイキャビク、1991年)10.cxd4 Bd6 11.Nb3 O-O 12.Bg5 Qe8 13.Bh4 Qh5(13…Nh5!?)14.Bg3 Bxg3 15.fxg3! と進んで白が楽に優勢になった。

 それよりも黒としては白のかなり込み入った展開につけ込むようにする方が良く、特にd2のナイトはこれといって役に立っていない。このナイトはe2のナイトがするようにはd4の地点を守っておらず、自分の黒枡ビショップを閉じ込めている。黒は …g5!? から …g4 と突いていく着想で直接戦術的に優勢を得ようとすることができる。また …g6 と突いてビショップをg7の地点に展開してもっと戦略的に指し進めることもできる。このビショップはe5とd4の地点に圧力をかけ、…g6 突きによりできる黒の黒枡の空所に白がつけ込む立場にないことを利用している。

 7…g6!? 8.O-O(8.h4!? Qb6)8…Bg7 9.Re1 O-O 10.Nf1 のあと黒は …f6 と突くことを考えることができる。しかし1993年バートベーリスホーフェンでのアグノス対ディットマール戦では最初にd4でポーン交換することを怠り次のように破滅的なキング翼攻撃を受けた。10…f6 11.exf6 Qxf6 12.Ne3! cxd4 13.Ng4 Qe7 14.cxd4 Nxd4 15.Nxd4 Bxd4 16.Bxg6! Qc5 17.Bxh7+ Kxh7 18.Qd3+ Kh8 19.Rxe6 Nf6 20.Be3! 実際は 10…cxd4 11.cxd4 f6 12.exf6 Qxf6 13.Bg5 Qf7 14.Be3 e5 15.Bc2!? e4 16.Ng5 Qe7(キラン対ハーリー、リバプール、1995年)17.Bb3! Nf6 18.f3 exf3 19.Nxf3 なら互角だった。

7…cxd4 8.cxd4 f6 9.exf6

 この手の代わりにdポーンをギャンビットして攻撃の機会をつかむ二つの手を紹介しておく。

 a)9.f4 fxe5 10.fxe5 Nxd4 11.O-O(11.Nxd4 は 11…Qh4+ で白が非常に悪い)11…Qb6 12.Kh1 Nxe5 黒は2ポーン得だがキングがまだ中央にいて展開にいくらか支障がある。クプレイチクの次の分析手順ははっきりしない。13.Nf4 g6 14.Nb3 Nxb3 15.axb3 Bd6 16.Nh5(白はやらなければやられる)16…gxh5 17.Qxh5+ Kd7 18.Bxh7

 b)9.Nf4!? は人気のある激しい手である。黒はほとんど交換損が必然でキングを中央に置いたままにしなければならない。その一方白の中原を破壊することができ反撃が有望になる。試合は通常次のように進む。9…Nxd4 10.Qh5+ Ke7 11.exf6+ Nxf6 12.Ng6+ hxg6 13.Qxh8 Kf7

 白の手番 

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(298)

「Chess Life」2012年12月号(2/4)

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イスタンブール・オリンピアード(続き)

 第3回戦は男子と女子で運命が別れ始めた。前の回戦で大きなレイティング差に楽した男子はベネズエラ戦でも3½-½ で大勝した(今回は二つ目のクイーンを作ったのはカームスキーの番だった)。

 そのあと男子は穏やかな形で逆境に立たされた。第4回戦のインドから3回戦連続勝ち点を分けた。ナカムラは最初の2700台のGMクリシュナン・サシキラン相手に猛烈な攻撃を仕掛けた。侵入した駒の旋風により交換得になったが、奥深く進攻したルークポーンで勝つことに期待してそれを返却した。しかしインドのグランドマスターはしのげそうに見えたちょうどその時に軽率にそのポーンを取り頓死を食らった。同じインド戦でカームスキーは布局から苦心し、相手の広さの優位を克服しようとしている間いらいらしているように見えた。そして今大会唯一の負けを喫した。下位2局が引き分け米国は初の足踏みになった。

 この引き分けで米国はずっとあとまで上位チームとの対戦から遠のいた。組み合わせ的にはいくらか楽にはなったものの、次のチェコとドイツには2600台と2700台がどっさりいて難敵だった。米国はまだその8局中7局で少しレイティングが上回っていたが全局引き分けに終わり、6戦して3勝3引き分けになった。

 次の2回戦で米国は格下を圧倒し続けて軌道に乗った。まず開催国から3½-½ をもぎ取り、それからほとんどが2400台のできすぎのマケドニアチームも負かした(本大会の組み合わせは単純なスイス式でなく、チームのレイティングよりも順位判定の成績に従っていた)。

 ナカムラは 1.g3 などの非定跡形の布局に転じた。これらは彼が時おり好んで指している。チーム団長のIMジョン・ドナルドソンはトルコ戦の最中に「彼は相手よりもチェスをもっと深く理解していてそれを示す機会を欲しがっているようだ」と語った。「相手は何でもかんでも指すようで、6、7時間もかけてそれらすべてを見る気がしなかった」とはナカムラの言い分である。「これは最終的にはまったくうまくいった。」実際ナカムラは31手で詰みに討ち取った。

 チームが上向きになったところでドナルドソンは首位になるためには実力以上を出さなければならないと言った。「5位から10位のチームを見ると30ほどしかレイティングが離れていない。これは統計的には無意味だ。自分のレイティングどおり、あるいは少しだけ上の実力を発揮するだけでは十分でない。この大会でメダルを取るためにはきっと2730から2740の実力を出さなければならないだろう。」米国チームの大会前の平均レイティングは過去最高の2702で、大会終了時の実効レイティングも過去最高の2710だった。これは銅メダルを獲得した2006年と2008年の時よりも50ほど高い。GMバルージャン・アコビアンを除く全員がレイティング以上の実力を出した。

 2戦の勝利で米国チームは5勝3分けの13点になった。ナカムラは「上位国のどこともまだ対戦していない。どういう結果になるか本当に楽しみだ」と言った。彼の望みは第9回戦でかなえられた。米国にとっては初めての大一番で、最高の形で実現した。平均レイティング2769(誤字ではない)でまだ負けなしのシード1位のロシアチームが米国を待っていた。ロシアは最高16点のうち15点をあげ、個々の対局で1試合しか負けていなかった。だからなぜ両チームが組み合わされたのか。それはただ単にロシアが他のすべてと対戦済みだったからだ。これまでの5回戦の相手は中国、ハンガリー、アルメニア、アゼルバイジャンそれにウクライナという強豪ぞろいだった。つまりシード2位、3位、4位、6位、それに7位である。他の上位10位以内のチームは苦戦していて、シード5位の米国が金メダル争いを面白くする最後の可能性を持っていた。

 「この回戦は本当に重要だ」とドナルドソンが言った。「我々はいるべきところにいる。これは大会の初めから目指していたことだ。このような対戦で少しも気持ちが高ぶらなければ、血管を氷水が流れているのだろう。」そしてそれからヨーダ[訳注 スターウォーズに登場するエイリアン]と交信しながら「うまく伝達される神経過敏はそれに支配されなければ非常に役に立つ力になる。」

 過去の統計上は米国チームが芳しくなかった。オリンピアードで米国がロシアに勝ったのは1度だけだった。2008年と2010年はほとんど同じ顔ぶれで負けている。カームスキーは2年前GMアレクサンドル・グリシュクに負けていて、通算成績でも負け越していた。GMアレクサンドル・オニシュクはハンティ・マンシースクでの敗戦を含め半ダース以上の対戦でGMセルゲイ・カリャーキンに勝ったことがなかった。ナカムラは正規チェスでGMウラジーミル・クラムニクと互角の対戦成績だが白ではまだ勝ったことがなかった。ロシアのオリンピアードでの通算成績は +103 =22 -16 というものすごいものだった。おそらく最もすごいのはクラムニクのデータである。7回オリンピアードに出て64局指し1回も負けたことがなかった(初めて出場した1992年はFIDEマスターにすぎなかったが8½/9の成績で2958の実効レイティングだった)。

 ドナルドソンは好調のロブソンを四将に起用した。たぶん十代の選手なら以上のような過去のしがらみにとらわれないと期待したのだろう。彼の試合も見逃せなかった。黒番のオリンピアードルーキーの相手は五将での金メダルを獲得したスーパーGMドミトリー・ヤコベンコだった。

 米国選手はカームスキーを除いて皆黒っぽい服装だった。カームスキーはいつもの灰色の袖なしシャツを着てニューヨーク市の野球帽をかぶっていた。オニシュク、カームスキーそれにロブソンは着席しても押し黙ったままだったが、ナカムラはクラムニクとちょっと談笑した。観戦者とメディアは米国とロシアの対決見たさに主将席の回りに集まってきた。

 ナカムラは第7回戦でのキング翼インディアン攻撃を用いたがすぐに自分から前局とは異なる布局にもっていった。13手目で30分多く使っていた。g2-g3 グリューンフェルトに移行したあとナカムラは正着を探しながら天井を見るのと自分の紅茶を見つめるのとを繰り返した。クラムニクも同様に落ち着かない様子で、いつものポーズで頭をたれ両手を広げて耳のところで顔を挟んでいた。

 グリシュクも同様にどこかに手本がないかと探していた。手番のときは絶えず場内を見て回り初手からのたった6手に16分も使った。90分に毎手30秒の追加というFIDEの最近の持ち時間では永遠にも匹敵する時間の使いっぷりである。ヤコベンコは両手で知的なスーパーヒーローのように顔全体をおおい薬指と小指の間からのぞいていた。カームスキーは椅子から立ち上がり、紅茶に付けられていた個人用のパックから蜂蜜の注射を摂取して緊張を解いていた。

 試合開始から1時間くらいたった頃ドナルドソンは既に手ごたえを感じていた。彼によるとロシアはコーチとしてイスタンブールに3人のグランドマスターを連れてきていたが、米国は一人だけだった(GMユーリ・シュールマン)。そしてロシアチームは布局の準備のためにリモートアクセスのコンピュータを使っているとも言った。「彼らのスーパーコンピュータは普通の4コアのラップトップでなく32コア構成の特別製だ。この回の準備には非常に気を使ったが、彼らの研究をかわしたと思う。」米国はひそかにテキサス工科大学のコンピュータを使っていたことが大会終了後明らかになったが、ドナルドソンはそれほど強力でないと思っていた。

 最初に終了したのはオニシュク対カリャーキン戦で、盛り上がりのない引き分けだった。「こちらが勝つのは難しいと分かっていた」とオニシュクは言った。「カリャーキンの常用布局は手堅い。黒では何の危険も冒さない。」この時点でグリシュクは1時間多く使っていて、14手指し残りはわずかに12分しか残っていなかった。ナカムラは大きな決断をしなければならなかった。局面を繰り返す可能性があり、審判にドナルドソンと相談してよいかと尋ねた。ドナルドソンは「世界の5強に入る奴だ。誰が彼にどうしろと言えるものか」と回想している。

 ナカムラは雄々しくも引き分けを避けたが、それは守勢に Nb1 と引くことを意味した。そのあとまもなく彼は前進を開始した。オニシュクはチームの結果がどうなると思ったかについて話した。「客観的にはヒカルの方が形勢が悪かった。しかし今は主導権を握っている。はるかに良いのかもしれない。ガータは少し優勢だ。レイは本当に心配だ。持ち時間が2時間あれば受けきれるかもしれない。緊張感は本当に高まっている。[ヤコベンコとレイの]二人は本当に冷静に見えるが私に言わせれば緊張感はある。」

 残りの3局は5時間以上続いた。そして見物人はどの試合を見たらよいか決められなかった。GMガリー・カスパロフだけはそうでなく、たえず大股で歩きながら第1席の元生徒の試合にだけほとんど集中していた。いつもなら眉をつり上げて指された手に困惑の表情を浮かべながら立ち去るところだった。

 ロブソンが負けるのが明らかになってきたとき米国に第2席から良いニュースが届いた。グリシュクがもっと簡単に引き分けにする手段があったにもかかわらず、ルークとビショップ対ルークの収局を守ることにした。50手の防御にすべきことを始めるのに持ち時間が1分ほどで、グリシュクは早くも間違えそれからたった8手で投了した。「彼は疲労でポカをした」とかームスキーは解説した。

******************************

(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス3

フランス防御の完全理解(46)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

白が f4 と突く

 

 黒が …f6 と突く前に白が f4 と突いていると(次章のように)、exf6 と取って上図のポーン構造にするのはごくまれにしか考えられない。しかし白はe5の地点をしっかり支配していて、Ne5 のあと g4 から g5 と突いていくことによりキング翼のポーンで猛攻撃をかけることができる。もっともこの作戦は駒による攻撃と比べると遅い。だから黒は手得、それに弱体化したe4の地点とa7-g1の斜筋とを利用して素早く反撃すべきである。また白は黒枡ビショップの効果的な役割を見つけ出すのが難しい。黒が自陣の解放に成功することになれば(例えば …e5 突きによって)f4 突きによって生じた弱点は白にとって致命的になることがある。
 
(この章続く)

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カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(45)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

押さえ込みの他の手

 

 Re1 はe6に圧力をかけ黒が …e5 突きで陣形を解放しようとするのを抑える。しかし白はf2の地点を弱めることになり、黒が犠牲でこれを利用できないように注意しなければならない。

 Ng3 はh2ポーンへの斜筋攻撃をふさぎ、のちの …Bh5 による釘付けをなくし、キング翼を全般に強化する。一方このナイトはe4とf5の地点に行けないのでほとんど動けない。ときには Nh5 が可能になることもある。

 Bd2-c3(または b3 から Bc1-b2)はb2とd4の地点を強化しe5の地点に利きを加える。これにより白は確実に Ne5 と指すことができるようになるけれども、c3(またはb2)の「大ポーン」ビショップは悪形なのでその状況につけ入ることが難しい。
 
(この章続く)

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カテゴリ: フランス防御の完全理解

布局の探究(27)

「Chess Life」1991年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

1)クラシカル戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6

 これがクラシカル戦法の基本局面である。白には 6.Bg5、6.f4、6.g3、6.Be2 それに 6.Bc4 というようにいろいろ有力な手がある。

6.Bc4

 これがソージン戦法である。1930年代初め頃に2、3度用いたがうまくいかなかったソ連のマスターにちなんで名づけられた。しかし真の生みの親はロバート.J.フィッシャーである。彼は1950年代後半に優秀なシステムに育て上げた。開放試合の早い段階でキング翼ビショップの最も強力な斜筋はa2-f7であり、もろいf7の地点に狙いをつけている。既に白には直接的な狙いがある。具体的には 6…g6?! なら 7.Nxc6 bxc6 8.e5 dxe5?? 9.Bxf7+ で白の勝ちになる。ここで黒には有力な手が三つある。

6…e6

 これが主流手順で、白のキング翼ビショップの利きを短くし、キング翼の展開を完了する準備をし、d5の地点を支配している。他の手は次のとおりである。

 a)6…Bd7 黒はこれで 7…g6 でドラゴン戦法の陣形にする用意ができた。しかしもちろんすぐに 5…g6 でそうすることができた。

 b)6…Qb6 これはベンコー戦法で、主手順は 7.Nb3 e6 8.O-O Be7 9.Be3 Qc7 10.f4 a6 11.Bd3 b5 となっている。

 ソージン戦法の良い参考書としては「Encyclopedia of Chess Openings」、Harding、Botterill、Kottnauer 著「The Sicilian Sozin」、それに Wade、O’Connell 著「Bobby Fischer’s Chess Games」がある。

7.Bb3 Be7 8.Be3 O-O 9.O-O

 これがフィッシャー戦法である。代わりに 9.Qe2 から 10.O-O-O なら双方にずっと危険なベリミロビッチ攻撃になる。本譜のあとでも白の攻撃は有望だがキングは安全なままである。

9…a6

 これは黒のクイーン翼の動員を始める最良の手段である。数多くの実戦によって 9…Na5?! で白のキング要ビショップを落とすのは1手の価値がないことが示された。10.f4 b6 11.e5 Ne8 12.f5! dxe5 13.fxe6 Nxb3 14.Nc6! Qd6 15.Qxd6 Bxd6 16.axb3 となれば黒のクイーン翼の2ポーンが弱いので白の優勢な収局である。

10.f4 Nxd4 11.Bxd4 b5 12.e5!

 白は攻撃をためらっていてはいけない。12.a3?! Bb7 のあと白の望めるのは互角しかない。例えばフィッシャー対スパスキーの世界選手権戦第4局が参考になる。

12…dxe5 13.fxe5 Nd7 14.Ne4!

 白は黒が …Bc8-b7 と指す前にクイーン翼ナイトを働かせなければならない。調子の良さそうな 14.Qf3?! は 14…Nc5! でうまくいかず黒が優勢になる。

14…Bb7 15.Nd6 Bxd6 16.exd6 Qg5 17.Rf2!

 これが白がキング翼にキャッスリングする戦法の重要な局面である。白は開放的な局面で双ビショップを所有しパスポーンも敵陣深く進攻している。黒にはキング翼に形の良い多数派ポーン、それに活動的なクイーンとビショップがある。ここで黒の主な手は次のとおりである。

 a)17…e5? 白の白枡ビショップの斜筋を開けるのは自殺行為である。1981年ローンパインでのクドリン対ダールバーグ戦では 18.Bc3 Nf6 19.Qf1! で黒に満足な応手がなかった。

 b)17…Bd5?! これは白にパスポーンを守る余裕を与える。1975年ソ連でのバンギエフ対チェルニコフ戦では 18.Rd2 Bxb3 19.axb3 e5 20.Bf2! Rfc8 21.Qe2 Rc6 22.c4 となって白が明らかに優勢だった。

 c)17…a5 このクイーン翼の弱体化がどちらを利するかは不明である。1987年ソ連でのオル対ロギノフ戦は 18.a4 b4 19.Qd2 Qxd2 20.Rxd2 Rac8 21.Re1 Ba6 22.c3 Bc4 と進んでほぼ動的に互角だった。

 d)17…Rad8 これが最も棋理に合った作戦である。dポーンは中盤でも収局でも弱くなり得る。ここで 18.Qe2?! には 18…Bd5! があるのでそう指す暇はない。18.Qd2 は 18…Qxd2 19.Rxd2 Nf6! 20.Bxf6 gxf6 で互角の収局になる。1977年ニューヨーク国際大会でのH.オウラフソン対メドニス戦では24手で引き分けになり、1986年バッジャーオープンでのR.ヘンリー対メドニス戦では28手で引き分けになった。

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2012年12月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(44)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

白が Nc3 と指す

 

 白のナイトはc3の地点が好所になる。第一に(d5ポーンへの当たりにより) …e5 突きを抑える。第二に Nb5 が狙いになる(特に黒クイーンがc7にいる場合)。一番重要なのは白が Na4(b6の黒クイーンに当たりになるかもしれない)から Nc5 と指せることである。これが特に効果的なのは黒が Nb5 または b5 突きの狙いに備えて …a6 と突いている場合である(前項の「c6のナイトに対する動き」を参照)。ときには Na4-b6 も可能なことがある。注意すべきは白が喜んで Nxd7 または Nxc8 と指すことである。これは「不良」ビショップと交換することになるがe6の地点を非常に弱体化させ白が双ビショップを得ることになるからである。

 Nc3 の唯一の問題は別の効果的な作戦の Bf4 や Nf4 とまったく組み合わせられないことである。これは通常は「・・・かそれとも・・・」という問題である。
 
(この章続く)

2012年12月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(43)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

c6のナイトに対する動き

 

 黒のc6のナイトはd4のポーンを当たりにしe5の地点に利いている。だから白の駒からよくありがたくない注目を浴びるのは意外なことではない。白はこのナイトを b4-b5 突きでそこからどかせようとするかもしれない。そうなれば白のナイトがたぶんキング翼攻撃の序曲としてe5の地点に跳ねることもできるようになる。黒クイーンがc7にいる時は Rc1 がこのナイトを釘付けにして厄介になる。

 白は Bb5xc6 と取ることもできるが、普通は自分の白枡ビショップを大事にしてナイトごときのために手放すことはしたくない。例外的な状況では戦術の手順の一部としてRc1xc6 と交換損の犠牲を払うことがある。黒が …e5 と突いていて dxe5 と取れるときは特にそうである。
 
(この章続く)

2012年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

ポルガーの定跡指南(56)

「Chess Life」2004年10月号(1/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

フランス防御突き越し戦法

 前世紀にフランス防御は 1.e4 に対する最も人気のある応手の一つだった。黒の2手目の後白には主要な手が三つある。白は 1.e4 e6 2.d4 d5 のあと異なる四通りの手から選ぶことができる。

 e4ポーンを動かすのは
A)3.exd5 交換戦法、または
B)3.e5 突き越し戦法(今回はこれだけを取り上げる)
またはポーンを守るのは
C)3.Nc3 または
D)3.Nd2

 突き越し戦法で白は中央とキング翼ですぐに広さで優位に立つ。黒の反撃は通常はd4ポーンを標的にし、ときには …f7-f6 による局面の解放を目標にする。

 突き越し戦法はふたたび流行していて、世界の一流選手の多くが常用戦法に取り入れている。これを用いる有名選手にはアダムズ、アーナンド、グリシュク、シロフ、ショート、スビドレル、トパロフらがいる。この戦法はクラブ選手の間でも非常に人気がある。

白の基本的な作戦は何か

 白の白枡ビショップはd3の地点が最もよく働く。戦法によっては黒のキャッスリングが早すぎるとよくある Bxh7+ 切りの手筋が炸裂する。

 ここでもっと詳しく分析する戦法では白がd4のポーンを見捨てる。しかし黒はd4のポーンを取るために数多くの手をかけなければならない。そのあとも黒はクイーンを安全な所に退却させるためにもっと手をかけなければならない。黒キングはときにはキャッスリングのあとでさえ安全な所に行くことが難しいことが多いので通常は主要な攻撃目標になる。

黒の基本的な作戦は何か

 ここで取り上げる戦法では黒は早々と贈物のd4のポーンを得る。しかしこのポーンを取ると反動がある。黒はポーンを取ったあと陣形をまとめるのに手数をかける必要がある。黒が最優先ですべきことはキングの安全な場所を見つけることで、ときにはクイーン翼になることもある。一般に黒は駒交換をする手段をみつけるべきである。なぜなら駒交換は戦力得の黒を助けるからである。

 黒は白枡ビショップ同士を …Bd7-b5 で交換する意図で …Qb6 と指す別の作戦を採用することもできる。

それで評決はどうなっているか

 白としてはしばらくの間ポーン損でやっていく覚悟がいる。しかし活気のある試合が期待できる。黒としてはポーンの犠牲を受諾したいならば長期間受け身になる必要がある。

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2012年12月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(42)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

白が黒枡ビショップ同士を交換する

 黒枡ビショップ同士を交換するのは一般に白が有利である。というのはe5の地点の支配を直接争えないc8の「不良」ビショップが黒に残され、ほとんどの収局で白が明らかに優位に立つからである。

 

 黒のビショップはd6の地点に展開されるのが普通である。その場合白にはビショップ同士の交換を図る方法が二通りある。まず白は Bg5、Bh4 そして Bg3 と指すことができる。そうなれば黒には交換をさせるかビショップをe7の地点に引いてe5の地点の支配を手放すかの苦渋の選択がある。黒は白が Bh4 と引いたとたんに …Nh5! と指してこの作戦を未然に防ぐのが最善である。それでも白が固執して Bg3 と指せば …Nxg3 と取って双ビショップ態勢になれる。

 本書の執筆時点では別の方法が非常にはやっている。白は早期に Bf4 と出すことにより黒にほぼ交換を強いることができる。しかしことはそう簡単ではない。なぜなら(…Bxf4、Nxf4 の結果)f4の地点にナイトが残るので黒はf列ですぐに戦術の機会に恵まれるかもしれないし、クイーンがビショップの代わりにd6の地点を占めて(またはf6の地点に行って)黒枡の弱さを補うかもしれないからである。

 白は g3 と突いてf4の地点のビショップまたはナイトを支えることがある。この手はb8-h2の斜筋での圧力に対してh2のポーンを安全にすることにもなる。g3 突きの欠点はf3の地点のナイトからポーンによる支えをなくして弱めてしまうことである。
 
(この章続く)

2012年12月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(41)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

黒が …e5 と突く

 黒がすぐに戦術的に打撃をこうむることもd5の地点にできる孤立ポーン以外に陣形に弱点を抱えることもなく …e5 と突くことができれば、完全な互角かそれ以上を達成できるはずである。

 

 このポーン陣形はあとの第9章で考察する孤立dポーンの局面に似ているが、非常に重要な違いがある。白のcポーンがないのでdポーンがパスポーンになっていてせき止めるのがより難しく突き進めるのがより容易になっている。しかし黒だけでなく白もc列を活用する可能性がある。黒のfポーンがないので、黒にはf列で攻撃する可能性があり白には黒のより露出したキングに対して攻撃する機会がある。

 陣形に関してどちらにもあまり選択の余地がないので、局面の評価はまったく駒の活動性に依存する。…e5 突きのあと黒の駒は中央で強力になっていることがよくある。しかし白は素通し列で何の反撃も許さずにdポーンをしっかりせき止めることができれば、dポーンを標的に指し進めることができる。
 
(この章続く)

2012年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(40)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

黒がナイトを捌く

 

 黒は非常に独創的なナイトの使い方ができる。一つの作戦の可能性は …Ng4 で、…e5 突きの助けになるかもしれないし、h2またはf2の地点の攻撃になるかもしれないし、…Nh6 から …Nf5 でd4の地点にもっと圧力を加える意図かもしれない。c6のナイトもe7を経由してf5の地点に行ける。それによりクイーン翼ビショップがあとで …Bb5 と出られるようになる。最後に、…Ne4 も可能なことが多く、時にはポーンを犠牲にして駒の働きを良くする。例えば Bxe4 dxe4、Qxe4 ならd7の黒ビショップが …Bc6 によって絶好の斜筋を占めることになる。
 
(この章続く)

2012年12月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(297)

「Chess Life」2012年12月号(1/4)

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イスタンブール・オリンピアード

FMマイク・クライン


チームUSA男子 左からGMガータ・カームスキー、GMレイ・ロブソン、GMバルージャン・アコビアン、IMジョン・ドナルドソン、GMヒカル・ナカムラ(GMアレクサンドル・オニシュクは写っていない)

・・・してくれさえすれば

 第5シードの米国チームにとってイスタンブールでの第40回チェスオリンピアードでの立派な5位という最終順位は、わずかにメダル獲得に届かなかった「・・・してくれさえすれば」というシナリオが永遠につきまとうだろう

 大会が9回戦で打ち切られていたら米国は同点1位だったのに。2008年より前のように14回戦のままだったら大会終盤での突進を続け結果の階段を昇り続けることができたかもしれないのに。第10回戦での劣勢の収局がしのげていたら最終回戦で優勝目指して対局していただろうに。そして最後に、他チームが最終回戦で番狂わせを演じていたら米国が表彰台に立っていただろうに。

 これらのどれも起こらなかった。しかし8月下旬から9月上旬にかけてのトルコでの奮闘は確かに以前の偉業にも匹敵した。第9回戦での勝利はそれまでばく進していたロシアチームに対する米国チームのやっと2度目の勝ち点だった。主将のGMヒカル・ナカムラは降格を用いて元世界チャンピオンのウラジーミル・クラムニクにオリンピアードで初めての敗戦をみまった。GMガータ・カームスキーは副将として全回戦を指し個人別の銅メダルを獲得した。米国人として60年のオリンピアードで1度も休まなかったのは初めてだった。

 米国の男女チームはオリンピアードの序盤では好調だった。8人の米国選手は初日は8-0だった。翌日は両チームとも3½-½ だった。カームスキーは過去のいくつかのオリンピアードでは(そしてナカムラが抜け番の第1回戦でも)最高のレイティングだったが、間違って主将席に着いた。仲間と笑い合って副将席に移り難なく勝った。

 彼の席を取った男は最近なぜ世界の5強に入ったのかの理由をみせつけた。ナカムラは今大会で初の有名な頑強さを発揮した。第1回戦を休んだあとは弱体化したリトアニアチームの事実上の第一人者であるGMビドマンタス・マリサウスカス相手の白番だった。中盤戦はナカムラにとって成果が上がらなかったがマリサウスカスは互角の形勢に満足しなかった。レイティングが300以上も下で突然ポーン得になり格下は引き分けの収局を避け千日手も避けた。わずかな優勢は消え盤上に少しの間4クイーンが現れたあと試合は一見完璧な引き分けにもつれ込んだ。両者にクイーンと1ポーンがあり、両方のポーンとも最終段からは等距離で、両方のキングとも同じくらい活動的だった。どこからともなくナカムラはチェックから完全に遮蔽されたキングを利用して封鎖する手段を見つけた。マリサウスカスは最後のポーンを失ったあとキングが無人地帯で取り残されるという不運に見舞われた。敵ポーンの前にいるわけでもなく十字チェックを避けられるほど遠く離れてもいなかった。米国選手権戦で2局の100手超の引き分けと一ヵ月後のタリ記念大会でのもう1局のあとナカムラはようやく3桁手数の収局に勝った。

107手
ヒカル・ナカムラ(FIDE2778、米国)
ビドマンタス・マリサウスカス(FIDE2451、リトアニア)
第40回チェスオリンピアード、オープン、第2回戦、2012年8月29日

78.c7

 ナカムラはランダムなチェックでいくらか時間を稼いだあと、引き分けを避け果敢に戦いを続行した。

78…g1=Q 79.Qc3+ Kd1 80.Qc1+ Ke2 81.Qc4+

 ナカムラがいつ昇格させるか分からないまま1クイーンが2クイーン相手に戦うのを見るのは興味深かった。

81…Kf3 c8=Q

 ようやく。

82…Qgd4+ 83.Qc3+ Qxc3+ 84.Qxc3+ Kf4 85.Qd2+

 黒は重大な決断を迫られている。キングをクイーン翼に引き戻して引き分けを確実にすべきだろうか、それともキングにポーンを支援させることによって頑張り続けるべきだろうか。

85…Kf3

 この手自体は間違いでないが、ずっと危険な選択肢だった。黒は中盤戦の大部分で優勢だった。そしてたぶん気持ちの切り替えができていなかった。

86.Qd3+ Kf4 87.Qf1+ Kg3 88.Qd3+ Kf4 89.Qd2+ Kf3 90.Qd5+

 そして黒にこう指させる。

90…e4 91.b5 Kf4 92.Kc1 e3

 まだ十分引き分けの範囲内である。しかし無限チェックをかけ始める方が確実に楽だったようだ。白がクイーン同士を交換しても黒キングはまだbポーンの正方形の内側である。

93.Kd1 Qa5 94.Ke2

 突然白キングが黒キングよりも働いている。

94…Qc3 95.Qf7+ Ke4 96.Qe6+ Kf4 97.Qd6+ Qe5 98.Qb4+ Kf5 99.b6

99…Qh2+

 99…Ke6 なら互角だった。

100.Kxe3 Qg1+?

 テーブルベースによれば 100…Ke6 が唯一のしのぎである。しかしマリサウスカスは状況の大変転のあと明晰に考えることができなくなっていた。ナカムラ相手にこの収局を防御するのは悪夢で、これから明らかになるように一手一手が重要である。

101.Kd3 Qf1+ 102.Kd4 Qg1+ 103.Kc4 Ke6

 黒キングはポーンの前にいるか下隅のようにはるか離れた所にいたかった。実戦は代わりに中途半端で、自分のクイーンのチェックの邪魔になるだけである。

104.b7 Qf1+ 105.Kc5 Qf8+ 106.Kb5 Qf1+ 107.Qc4+ 黒投了

 オリンピアードでの最初の2局を勝ったあとGMレイ・ロブソンは対局場に残り、有線テレビ中継でのナカムラの大奮闘に引きつけられていた。勝利が見えるずっと前から先見の明のあるロブソンは、どうやるかは全然見当もつかないがナカムラが勝つ手段を見つけるだろうと予想していた。「彼は劣勢の局面から相手を圧倒することにかけては驚異的だ」とロブソンはチームメイトを評した。「2006年に[オリンピアードで]彼は強豪相手の2局でまったく負けの局面だったが1局は勝ってもう1局は引き分けだったと思う。」

 「ほぼ5回も勝たなければならなかった」とナカムラは言い、以前に4クイーンの試合を指したことがあると付け加えた(1局は2006年オリンピアードでのGMビクトル・ラーズニチカ戦で、本大会でもまた顔をあわせた)。「どうしてか分からないが、彼はいくらでも引き分けにできたのに、勝ちを目指し始めた。」

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(この号続く)

2012年12月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フランス防御の完全理解(39)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

黒が …Qb6 と指す

 

 ここはフランス防御の他の戦型ではクイーンの理想の地点となっている。実際ここでこの手に反対する明らかな理由はない。黒はd4の地点を直接攻撃し、白はビショップをc1の地点から動かしたければ …Qxb2 を心配しなければならない。さらに、…e5 突きのあとf2の地点に対する直射攻撃に基づいた戦術の策略も時々ある。

 それでもどういうわけか …Qb6 は一流どころでは …Qc7 よりも人気がない。唯一分かる欠点はこのクイーンがキング翼と自陣の2段目を守るのに少し適切でないということである。しかしフランス防御の専門家でグランドマスターのファラゴはいつも …Qc7 より …Qb6 の方を好み、自分の試合では全然なんの問題も経験しないようである。
 
(この章続く)

2012年12月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(38)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

黒が …Bh5 と指す

 

 黒は …Bd7-e8-h5 という捌きでビショップを働かせながら大事なナイトを攻撃する。その攻撃が釘付けになることもよくある。しかしこの捌きは手間がかかるうえにいつも実現可能というわけではない。また、e6のポーンが自然な守り手がいなくなったあと弱くなりすぎないように気をつけなければならない。
 
(この章続く)

2012年12月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

布局の探究(26)

「Chess Life」1991年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方

 以前の本稿(1990年8月号)で常用布局を選択する際の一般的な原則を論じた。今度はもっと具体的なことを論じる。ただしグランドマスターの最新の評価に従って自分の布局を準備する時間を必要としかつ持っているチェスのプロは対象にしていない。例えばそのような選手は白でシチリア防御に対するとき常用布局としてドラゴンにはユーゴスラビア攻撃、クラシカル戦法にはリヒター・ラウゼル戦法、ナイドルフには 6.f4、スヘフェニンゲンにはケレス攻撃(6.g4)を用意しているかもしれない。一般的にこのような常用布局に問題は何もない。唯一の欠点は白のどのシステムも特有で、そのため新しいシステムを学ぶだけでなくそれぞれのシステムについていくために膨大な努力を要することである。

 本稿では布局の勉強時間がひどく制限されている平均的な米国チェス連盟会員を対象にしている。そういう人は複数の戦法に通用するものを選ぶのが理にかなっている。あなたが白で 1.e4 と指すのが「好き」だと仮定する。あなたはシチリア防御に対して何を指すべきだろうか。

 最も大切なことは積極的な手法を選び開放試合になるように努めるべきだということである。何人もの生徒がシチリア防御に対するとき以外は 1.e4 と指すのが好きだと言ってきた。そのような「不満」は私に言わせればナンセンスである。つまり 1.e4 は積極的で攻撃的な指し方が好きな選手のためのものである。シチリア防御は黒が白の積極的な展開を無視しながら自分のキング翼の展開を遅らせるので、攻撃的な選手は黒が 1…c5 と指すのを見たとき小躍りして喜ぶはずである。シチリア防御と指すのが好きでないならば 1.e4 と指すのを止めて 1.d4 と指すべきである。これも積極的な指し方だが、攻撃のために迅速な展開を必要としない。

 それでも 1.e4 と指したいならばこの先を読んで欲しい。あなたは積極的で攻撃的な指し方が好きだが自分のキングが差し迫った危険にさらされるのは嫌だと仮定する。そのような人には Bf1-c4 でキング翼にキャッスリングする開放システムを勧める。黒の重要な4大戦法のクラシカル、ナイドルフ、ドラゴン、そしてスヘフェニンゲンに対してこのシステムがどのように働くかを見ていくことにする。当然ながら私が説明することのできるものはすべてそれそれの戦法で現在の主流手順となっていると私の考えるものである。

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2012年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フランス防御の完全理解(37)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

黒が …Qg7 と指す

 黒は …Qc7 のあと …g6 突きから …Qg7 と転回するする作戦をよく用いる。

 

 クイーンはここが絶好の地点になる。即ちd4の地点に当たりをかけ、e5の地点をにらみ、キング翼を固める助けになっている。また、…g5 から …g4 と突いてf3のナイトをどかせるのにも役立つことがある。そのようなポーンの進攻が黒キングの囲いを弱めることはわざわざ指摘する必要もない。従って黒はそのようなポーン突きを画策できるようになる前には自陣がしっかりしていなければならない。有利な状況では …g4 突きが白の中原を壊滅させたりキング翼攻撃に着手したりする先駆となることがある。
 
(この章続く)

2012年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(36)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

…Rxf3 の犠牲

 f3の白ナイトはこれから起こる戦いのために好所を占めている。即ちd4の地点を守りe5の地点に目を光らせ、好機には Ng5 または Ne5 と跳ねて突如攻撃に出るかもしれない。また、fファイルを遮断しhポーンを守るという重要な守りの役目も果たしている。

 

 従ってこの交換損の犠牲がよくある狙い筋となっていることは驚くに当たらない。そのあと …Nxd4 と取ることができれば黒は少しの戦力投資の見返りに白のポーン中原の破壊に成功したことになる。白が gxf3 と取り返すことを強いられればさらにキング翼のポーン陣形も破壊されたことになる。黒のクイーンがc7にビショップがd6にいれば、続けて …Bxh2+ と取れるかもしれない。一般に白キングの周りが薄くなれば黒は十分に反撃することができる。しかし実戦では反撃が不十分か、適切か、それとも勝勢になるかを自分の判断(または理論の知識)で決めなければならない。
 
(この章続く)

2012年12月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

ポルガーの定跡指南(55)

「Chess Life」2004年9月号(3/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スラブ防御 4…a6(続き)

戦型Ⅱ
1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 a6 5.e3 b5 6.b3 Bg4 7.Be2 e6 8.O-O Nbd7 9.h3 Bh5

 他の手は 9…Bf5 で、10.Bd3 Bb4 11.Bb2 Bxd3 12.Qxd3 O-O 13.Rfc1 となって白が少しだが長期的に広さのために優位に立つ。

10.Bb2 Bd6 11.Ne5 Bxe2 12.Nxe2 Qc7

 この手はナイトをe5から追い払う意図である。

13.cxd5 cxd5 14.Rc1 Qb8 15.Nxd7

 15.Nc6 は 15…Qb6 で黒は何も心配することがない。

15…Nxd7

 多くの試合で黒はナイトの代わりにキング(!)で取り返した。その手のあと黒は負けると決まったわけではないが、クイーンがまだ盤上に残っているので黒にとって健全な局面だとは信じがたい。

 本譜で黒はキャッスリングしさえすれば互角になるように思われる。それは正しいが手番は白なので白には主導権を握る非常に面白い好機がある。

16.e4!

 白がすぐにc列から侵入しようとした試合も何局かある。しかし 16.Rc6 O-O 17.Qc2 Rc8 となって黒は白の進攻を無効にする。

16…dxe4

 16…O-O なら白は 17.e5 で中央を固定し Ng3(または f4)-h5、Qg4 そして Rc3-g3 で非常に危険なキング翼攻撃を行なうことができる。

17.d5

 この手が狙い筋である。突然b2のビショップが目覚め生き生きとしだした。

17…O-O

 これは絶対である。17…e5 は 18.Ng3 でe4のポーンを取り返される。黒が頑強にそのポーンを 18…Nf6 で守ろうとすれば 19.Nf5 O-O 20.Rc6 Bb4 21.Rxf6! gxf6 22.Qg4+ Kh8 23.Qg7# で白の攻撃が決まる。本譜で黒が 17…exd5 と取れば 18.Bxg7 で黒キングの隠れる所がなくなる。

18.dxe6 Nc5

 代わりに 18…fxe6 なら白は 19.Ng3 ですぐにeポーンの一つを取り返す。戦力が同じになれば黒に弱いeポーンが残るので白が大局的にはっきり優勢になる。白は活動性でも優る。

 驚くのは本譜の局面が今年の重要な大会で少なくとも7回現れたことである。トリポリでの2004年世界選手権戦の最新の試合によると改良手を探さなければならないのは黒の方である(ここかもっと前で)。さもなければ黒は劣勢に立たされる。

19.Nf4! Ra7

 19…Bxf4 なら白は 20.Rxc5 fxe6 21.Qg4 Rf7 22.g3 Bd6 23.Rc6 でまたeポーンの一つを取り返して優勢になる。この手順の基になった試合で黒は 19…fxe6 と取り次の手順であっさり負けた。20.Qg4 e5 21.Ne6 Nxe6 22.Qxe6+ Kh8 23.Rc6 Bc7 24.Rfc1 Qa7 25.R1c2(25.R1c5! の方が正確である)25…Ba5?(黒は 25…Rxf2! 26.Rxf2 Rf8 27.Rcc2 Bb6 で負けを免れる好機を逃した)26.Qxe5 Rae8 27.Rxa6 1-0(サシキラン対サカエフ、コペンハーゲン、2003年)

 この試合の解説でサシキランは黒の改良手として 19…Ra7 を推奨した。彼はそのあとの 20.Qg4 と 20.Qd5 も分析し、彼の見解では終わりの局面は形勢不明とのことだった。

20.Nh5

 これはハンガリーのキッチンで「調理済み」だった。それと同時にロシアのシェフが作ったのは次の手順だった。20.Bd4 Bxf4 21.Bxc5 Bxc1 22.Bxa7 Qxa7 23.exf7+ Qxf7 24.Qxc1 h6 25.Qe3 Qd5 26.Re1 Rc8 27.Qf4 Rc2 28.Rxe4 Rxa2 29.Re5 Qd3 30.Re8+ Kh7 31.Qf8 Qd5 32.Qh8+ Kg6 33.Re3 Qd4 34.Rg3+ Kf7 35.Rf3+ Kg6 36.Qe8+ Kh7 37.Rf8 1-0(ハルロフ対レイタオ、トリポリ、2004年)この試合はアーチュ対モブセシアン戦の2試合で同じ手順が指された翌日の6月23日に指された。

20…Nxe6

 この手はモブセシアンが前日同じ相手に指した 20…fxe6 の改良を意味していた。21.Bd4 Rc7 22.Qg4 Rff7 23.b4 Nd3 24.Rxc7 Qxc7 25.Nxg7 Nxf2 26.Bxf2 Rxg7 27.Qxe6+ Rf7 28.Be3 Qc4 29.Qg4+ Rg7 30.Qf5 Bxb4 31.Rc1 Qf7 32.Qxe4 Bf8 33.Bd4 Qg6 34.Qd5+ Rf7 35.Rc8 Qh6 36.Qe5 Rg7 37.Rxf8+! Kxf8 38.Bc5+ Kf7 39.Qe7+ Kg6 40.Qe6+ Kh5 41.g4+ 1-0(アーチュ対モブセシアン、トリポリ、2004年)

21.Nf6+!

 コンピュータ技術が発達した今日ではプロ選手はみなコンピュータソフトウェアを布局の分析に役立てている。しかしあまりシリコンの友人に頼りすぎると逆効果になることがある。私はこの局面をコンピュータにチェックさせてみた。しかしコンピュータプログラムは局面を正しく評価することができなかった。コンピュータはあとで白が本当に良くなるいくつかの手しか認識できなかった。

21…gxf6 22.Qg4+ Ng5 23.Bxf6 h6 24.Rc6 Be5 25.h4 Bh2+ 26.Kh1 Qf4 27.Qh5 Nh7 28.Bd4 Rfa8 29.Rxh6 f6 30.Rg6+ Rg7 31.Qd5+ Kf8 32.Bc5+ Ke8 33.Qe6+ 1-0(アーチュ対モブセシアン、トリポリ、2004年)

結論

 戦型Ⅰでは黒は主手順を改良する数多くの手段があり対等に戦える。私の考えでは戦型Ⅱが現在のところ黒にとって重大な手順のようである。非常に最近の試合のいくつかでは白が明らかに優勢になった。私なら白のためには戦型Ⅱに目を向けることを勧める。黒はこの手順ではうまくいかないようで、改善策を模索する時機である。

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2012年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フランス防御の完全理解(35)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

e5の地点をめぐる戦い

 ニムゾビッチは著書の「My System」の中で「過剰防御」の利点をほめそやしていた。これは要所の安全を確保するためにそこを必要以上に(またはさらに多く)守ることである。彼の理論は重要な中原の地点に注目すると駒はどのような戦いになろうとその来るべき戦いに「ほとんど偶然に」適所に配置されていることになるというものである。

 同様のことはここでも起こる。もっともここでは過剰防御というわけではないが地点の支配をめぐる実際の争いが存在する。黒はすべての駒を用いて中原の要所、とりわけe5の地点、を強化しなければならない。それらの駒が …e5 突きによる解放であろうと白キングに対する攻撃であろうと、局面がのちに要求するどんな作戦にも応じられるようになるのはそれからである。
中原の重要な地点に弱点があることはほとんど功徳に値する。つまりこの場合なら黒が駒を適切な地点に配置するのに役立つからである!

 白はd4の地点を適切に守りながらe5の地点を支配しようとする。たとえ試合が終わりには黒キングに対する猛攻になろうと、例外的な場合を除いて白は第1段階として中原を征服することになる。中原での優位は攻撃成功のための前提であるというのはよく知られた一般原則である。

(この章続く)

2012年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(34)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

d4の弱点

 この議論から白のd4のポーンは孤立しているけれどもe6のポーンほど重大な障害ではないと結論づけることができる。d列はふさがっているので黒のクイーンやルークが正面から攻撃することができない。それにたぶんもっと重要なことはこのポーンの前に弱点となる地点が存在しないことである。黒は自分のポーンでd5の地点をふさいでいるのでそこにナイトを置くことができない。

(この章続く)

2012年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(33)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

e5の弱点

 孤立ポーン(前述のように出遅れe6ポーンも孤立ポーンとみなしてよい)の主要な欠点は通常は直前の地点にある。敵駒が相手のポーンによって攻撃される恐れなくその地点を占めることができる。ここでの具体的な状況ではe5の地点が白のナイトの絶好の拠点となる。

 

 黒はこのような収局にするには危険を覚悟しなければならない。e5の白ナイトは味方の中原ポーンによって閉じ込められている黒の「不良」ビショップを完全に押さえている。これらの中原ポーンはいつまでも白枡に置かれたままである。

 e5の難攻不落のナイトは中盤戦でも威力を発揮する。しかしポーン陣形を理解し駒を適切に配置する相手に対しては、白がd4の地点の安全を確保しながらe5の地点を完全に支配することは非常に難しい。

(この章続く)

2012年12月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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[復刻版]理詰めのチェス(02)

第1章 キング翼攻撃(続き)

第2局

 リュバルスキー対ソウルタンバイエフ戦でも白は釘付けを恐れてポーンを h2-h3 と突いた。そして黒はポーンを h7-h6 と突いてポーンによる攻撃で咎めた。(どうして黒のポーン突きは良くて白のポーン突きは悪いのかが明かされる。)

ジュオコ・ピアノ
白 リュバルスキー
黒 ソウルタンバイエフ
リエージュ、1928年

1.e4

 盤上の最善手!ポーンが中原を占拠し2個の駒が動けるようになった。

 偉大なフィリドールは150年前に「試合でeポーンを2枡前進させる始め方よりも勝るものはない」と喝破した。この至言は今日でも変わらない。

 他にはもう一つの初手の 1.d4 だけがただちに2個の駒を解放する。

1…e5

 カパブランカは「多分最善の応手」と評した。

 黒は中原での圧力を互角にし、自分のクイーンとビショップを動けるようにする。

2.Nf3

 この手は 2.Nc3 や 2.Bc4 のように展開する手よりも勝る。これらの手は積極性に欠ける。本譜の手はe5のポーンを攻撃しながら出てくる。このため黒の応手は制限される。

 黒は 2…Nc6 又は 2…d6 でポーンを守らなければならない。あるいは 2…Nf6 で逆襲を目指すかもしれない。

 どの手であろうと躊躇することはできない。黒は何とかして白の狙いに対処しなければならない。

2…Nc6

 疑いなく理にかなった手である。ポーンは無駄なく守られ、ナイトは一手で布局における最も理想的な地点に展開した。

3.Bc4

 素晴らしい。ビショップが重要な斜筋に展開した。黒の最弱点のf7に睨みを利かしている。

 ビショップは斜筋を遠くまで利かしている時または相手の駒を釘付けにしている(それにより無力化している)時最も力を発揮する。

3…Bc5

 別の良い手は 3…Nf6 である。どちらの手もマスターの至言に合っている。彼らの推奨し活用している至言とは次のようなものである。

『迅速に駒を出せ』
『布局では各々の駒を動かすのは一度にとどめよ』
『中原を支配するように展開を考えよ』
『駒の展開に役立つようにポーンを動かせ』
『ポーンでなく駒を動かせ』

4.c3

 白の意図は明らかである。つまり中原へのポーン突きを助けたいのである。白の次の手の 5.d4 は黒のポーンとビショップの両方に当たりになる。ポーンがただ取りにならないように黒は 5…exd4 と取らなければならない。白は 6.cxd4 と取り返して中原に強大なポーンの態勢ができる。

 これが実現できれば白の構想にも一理あることになる。しかしそのもくろみが失敗すればc3のポーンはクイーン翼のナイトが最も働く地点を奪うことになる。

4…Bb6!

 チェスは機械的に指す競技ではない。普通は序盤に同じ駒を2度動かすのは大勢に遅れる。しかし相手の狙いには展開を続けるよりも先に対処しなければならない。

 ビショップはポーンとビショップの両当たりになる白の 5.d4 の効果を削ぐために下がった。

5.d4

 黒がポーン交換をしてくれることを期待している。黒のポーンには当たっているがビショップの方には当たっていないことに注意が必要である。

5…Qe7

 ポーンを交換する代わりに(ビショップにも当たっていたらそうしなければならない所だったが)黒は別の駒を出しながらポーンを守る。このクイーンは1枡動いただけだがそれだけでも価値がある。

 最下段から離れただけでも展開といえる。

 この黒の手は単に展開してポーンを守ったというだけでなく 6…exd4 7.cxd4 Qxe4+ でポーンを得する狙いがある。

6.O-O

 キャッスリングの通常の利点(キングを安全にしてルークを動員する)に加えてこの白の手は間接的にeポーンを守っている。黒が 6…exd4 7.cxd4 Qxe4 と来れば 8.Re1 と串刺しでクイーンが取れる。

6…Nf6!

 このナイトは白のeポーンを攻撃しながら展開している。

7.d5

 ナイトを強力な地点からどかせるので気持ちの良い手である。

 この手は自然な手であるが、幾つか非難されるべき点がある。

 a) このポーンは白自身のビショップの利きをさえぎり、その動きを大きく制限してしまう。

 b) 黒のビショップの利きが大きく伸びた。その攻撃力は直接白のキングにまで及ぶ。

 c) 白のクイーン翼の駒が動きたがっているのにポーンを動かした。

 序盤では駒の展開を助けるポーンだけを動かせ。

7…Nb8

 ナイトを盤の端に行かせるよりも元の位置に戻る方が安全である。7…Na5 には白は 8.Bd3 と指し動きの不自由なナイトを 9.b4 で取る狙いがある。

8.Bd3

 eポーンを守った。もっと一貫性のある布局戦略は別の駒を展開することである。8.Nbd2 又は 8.Qe2 なら新たに駒を戦いに投入しながらポーンを守ることができた。

 序盤では同じ駒を2度動かすな。

 黒がどのようにこれらの原則の違反を咎めるのかを見るのは興味深い。他では全然当てはまらなくてもチェスの盤上では正義が勝利する。

8…d6

 このポーン突きには例外があり得ない。中原を強化しクイーン翼ビショップの道を開きeポーンを見守るクイーンの負担を軽くしている。

9.h3

 この手は黒から 9…Bg4 でf3のナイトを釘付けにされるのを防ぐためである。しかしプブリウス・シュルスはその昔「病気よりも治療の方が悪いことがある」と言った。

 キングを囲うポーンの形を乱すことにより白はキング翼のキャッスリングした陣形を構造的に弱めそして不運なルーク列ポーン自体を格好の攻撃目標としてさらけ出した。

 チェスの理論家は皆キング翼ポーンを動かさずにおくことの正しさを証言している。スタントンは100年以上前に「経験の少ない選手の場合キングがキャッスリングした側のポーンを進めるのが賢明であることはめったにない」と言ったし、ルーベン・ファインは今日「最も基本的な考え方はキングを攻撃の対象にさせてはいけないということである。キングは3ポーンが元の位置にいる時が最も安全である」と言っている。

 黒は白のこの手にどのようにつけ込んだらよいだろうか。その欠陥をあばくにはどうするのが一番良いだろうか。

9…h6!

 それは厳しく批判したのと同様の手を指すのである。

 黒がhポーンを突くことにどんな正当性があるのだろうか。

 黒はキング翼にキャッスリングしていないので防御態勢を弱めていない。黒がhポーンを突いたのは攻撃の姿勢である。釘付けを避けるための姑息な手段ではない。hポーンはgポーンがg5からg4へと進軍するための土台となる。g4の地点からは2方向、即ち白のナイトとhポーンに当たりになる。白はこのポーンを取るかこのポーンに自分のhポーンを取らせるしかない。どちらの交換になっても黒のg列が開く。黒はこの開いたg列に白キング攻撃のための兵力を整列させることができる。

10.Qe2

 いまさら展開しても手遅れだろう。

10…g5!

 銃剣の突き出しである。次の一歩はg4の地点でそこからは白の陣形の破壊をおこなう。

11.Nh2

 この手は黒の意図する進軍を防ぐ目的である。黒ポーンが進んでくれば三重に攻撃されるのに二重にしか守られていない。黒の作戦は頓挫したのだろうか。

11…g4!

 そんなことは全然ない。必要ならば黒はポーンを犠牲にして白キングの回りの防御壁をはぎ取る。

12.hxg4

 黒の狙いは 12…gxh3 の他に 12…g3 もあるのでこのポーン取りは実際上やむを得ない。

 白はなんとか当面の間g列を閉鎖することができた。

12…Rg8

 今度はg4のポーンを守る駒が二つなのに攻撃する黒の駒は三つである。明らかに白はこのポーンを 13.f3 で支えることができない。それは白キングに黒ビショップの利きが通るので不正な手である。

13.Bxh6

 指す手に困って浮いているポーンを取った。展開の遅れとキングの苦境を考えればこのポーン取りは危ない橋を渡るようなものである。もしまだ希望が残っているとすればそれは 13.Be3 のような手にかかっている。この手は新たな駒を戦闘に参加させるだけでなく、同等の力を持つ駒で対抗させて黒ビショップの圧力を無効化させる。

 本譜の手は次の警句を無視している。

 展開や陣形を犠牲にしてポーン得を図るな。

13…Nxg4

 ビショップ取りになっているので白はほうっておけない。

 白は受け切ることができるだろうか。

 14.Nxg4 と取るのは 14…Bxg4(白クイーン取り)15.Qc2 Bf3(16…Rxg2+ 17.Kh1 Qh4# の狙い)16.g3 Qh4! でh1での詰みが受からず黒の一本道の勝ちとなる。

 この手順で黒は白の釘付けのポーンの無力さを巧みに利用している。

14.Be3

 ビショップは当たりを避けながら攻撃駒の一つを撃退しようとしている。

14…Nxh2

 このナイトは駒を取ってなおルーク当たりになっているので白の応手を非常に制限している。

15.Kxh2

 15.Bxb6 axb6 としてから 16.Kxh2 なら黒は次のようにして勝つ。16…Qh4+ 17.Kg1 Rxg2+(この手が一番速い)18.Kxg2 Bh3+! これで白は 19.Kg1 Qg5+ 20.Kh2 Qg2# で詰まされるか 19.Kh2 Bxf1+ の開きチェックから 20.Kg1 Bxe2 となりひどい駒損になる。

15…Qh4+

 敵キングに通じる二つの素通しの列で黒の二つの大駒が最大限に働いている。攻撃はよどみなく進む。

16.Kg1

 白の唯一の合法手である。

16…Qh3

 次に一手詰みがある。

白投了

 どのように受けても詰みを逃れることはできない。

 17.g3 なら 17…Rh8 18.f3 Bxe3+ 19.Qxe3(19.Rf2 なら 19…Qh1#)19…Qxg3# で詰みになる。また 18.f3(クイーンの利きでg2のポーンを守った)なら 18…Bxe3+ 19.Rf2 Qxg2# でやはり詰む。

 奇妙なことに白はあれほど避けようとしていた釘付けで滅ぼされた。

2012年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(32)

第2章 e6の弱点対d4の弱点(続き)

e6の弱点

 最初に気づくのはe6のポーンの弱点である。このポーンは別のポーンによって支えられないので実戦的には孤立ポーンである。もちろん黒が …e5 と突けないならばの話であるが、突けるようにはなりそうもない。素通し列上にあるので白のクイーンとルークによって正面から攻撃される。このポーンは弱いだけでなくc8のビショップも閉じ込めている。

(この章続く)

2012年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(31)

第2章 e6の弱点対d4の弱点

 

概説

 第1章では白のポーン中原の締め付けの価値について論じた。白は e5 と突き越して陣地をかなり広げ、それによって相手の駒から動ける地点を奪いほぼd5とe6のポーンの背後に閉じ込める。白の勝つための作戦は具体的な状況にもよるが自分の駒の活動性の優位を生かして黒キングに総攻撃をかけるか、そのような直接法が適切でないならば相手に陣形的に強い圧力をかけることである。

 黒が白の作戦に断固として立ち向かわなければならないことはこれまで見てきた。…c5 と突いてd4ポーンを攻撃して白の中原支配と戦うことは当然であり、ほとんど必須でもある。別の重要なポーン突きは白の中原をさらに侵食する …f6 突きである。この章では黒が主眼の …c5 突きと …f6 突きの両方を実行した局面を分析する。白が …f6 突きに exf6 と応じ黒が駒で取り返し、…cxd4、cxd4 のポーン交換も行なわれたと仮定すると、この章で考察されるポーン陣形になる。

(この章続く)

2012年12月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フランス防御の完全理解

布局の探究(25)

「Chess Life」1991年6月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 後編

白のシステム(続き)

C)カロカン防御突き越し戦法

 1.e4 c6 2.d4 d5 のあと白にはeポーンを守る本筋の手が三とおりある。(1)3.Nc3 または 3.Nd2 で守る(2)3.exd5 で交換してしまう(3)突き越す。最後の手の 3.e5 は突き越し戦法と呼ばれる。この戦法はいつも少し一本調子だとみなされてきた。確かにeポーン突きは黒陣を窮屈にする。しかしフランス防御の時の突き越しと異なり黒の白枡ビショップは容易に展開できる。さらに黒はちょうどフランス防御の場合のようにあとで …c5 突きによって白の中原に挑むことができる。この戦法の基本となる出発点は 3…Bf5 で生じる。

 図5

 1)4.Bd3 で穏やかに指す

 黒の白枡ビショップが活動的な地点にいるので 4.Bd3 Bxd3 5.Qxd3 で交換し消去するのは理にかなっているように思われる。これの欠点は黒が 5…e6 のあと白枡の不良ビショップの負担を抱えていないので有利な「フランス防御」の陣形になっていることである。例えば 6.Nf3 Qa5+! 7.Nbd2 Qa6 で、白がクイーン同士を交換しようとしまいと完全に互角の形勢になる。白のビショップは自分の中央のポーンによって閉じ込められているので黒の残りのビショップの方が優っていることに注意することが肝要である。

 2)4.c4 で中央から動く

 パノフ攻撃の同種の手(3.exd5 cxd5 4.c4)と異なり、ここでは 4.c4 はd5の地点がしっかり黒の支配下にあるので主導権につながる見通しはほとんどない。黒の優れた防御方法は 4…e6 5.Nc3 dxc4 6.Bxc4 Nd7 である。例えば 7.Nf3 Nb6 8.Bb3 Ne7 9.O-O Ned5 10.Qe2 Be7 11.Ne4 O-O(ヨハンセン対ポーラト、ライプツィヒオリンピアード、1960年)となれば完全に互角である。

 3)タリのキング翼のポーン暴風

 1961年の世界選手権再戦でミハイル・タリは 4.h4 からキング翼のポーン暴風を始めてミハイル・ボトビニクを驚かせた。時の流れと共に白の最も効果的な手順の理解が進んだ。今日では主流手順は 4.Nc3(黒の …Be4 を防ぐ)から始まり4…e6 5.g4 Bg6 6.Nge2 となる。黒にとっては 6…Be7、6…f6 そして特に 6…c5 が最も評価されている。それでも解明が進んだとはとても言えない。ECO Bの第2版(1984年)では主手順の評価として「形勢不明」が付けられていて、今日でもまだ当てはまるようである。

 白が布局で何かしら優勢になる可能性は高い。その理由は黒の白枡ビショップを当たりにすることにより得られる手得でキング翼の陣地が広いこと、それに黒の …c5 の反撃が2手でc5の地点に来たために1手損となることによる。しかしこの戦法は恐れを知らず泥仕合の激しい攻撃に秀でた選手だけのものである。

 4)新しい穏やかな指し方はショートの 4.c3

 イギリスのGMナイジェル・ショートは最近図5の基本的な性格に非常に洗練された洞察力を発揮した。彼の考えでは黒のf5のビショップは危害を与えてくる可能性はなく、さらに黒の主眼の …c5 突きによる反撃はフランス防御と比較すると1手遅れているということである。だから白は「普通に」指し 3.e5 の結果として得られる中央の広さの優位を保持すべきである。この主題は1990年マニラインターゾーナルでのショート対セイラワン戦によく表れている。

4.c3! e6 5.Be2 c5 6.Nf3 Nc6 7.O-O

 ここでは既に「ショートシステム」の最初の優位が見てとれる。白のd4ポーンはしっかりしていて、そのため黒の反撃はいつまでも始まらない。さらにf5のビショップは黒のキング翼ナイトから要所を奪っている。1990年マニラインターゾーナルでのショート対ヤルタルソン戦では黒はまさしく「フランス流」に 7…Rc8 8.a3 c4 9.Nbd2 Nh6 と指したが、10.b3 cxb3 11.Qxb3 となって白がフランス防御の類似の戦型よりもまだちょうど1手得していた。

7…h6 8.Be3! cxd4 9.cxd4 Nge7 10.Nc3 Nc8

 見れば分かるように黒はキング翼の展開の完了に問題を抱えている。

11.Rc1 a6

 ショートによれば 11…Nb6 の方が良かった。

12.Na4 Nb6 13.Nc5 Bxc5 14.Rxc5

 図6

 白の駒組みの背景にある論理は今や明らかである。白には陣地の広さ、展開の優位、クイーン翼の主導権、キング翼での特徴的な戦い方の可能性、それに双ビショップがある。黒は黒枡に恒常的な弱点を抱えている。白の優勢は大きくはないけれども明白である。

14…O-O 15.Qb3! Nd7 16.Rc3 Qb6 17.Rfc1! Qxb3 18.Rxb3 Rfb8 19.Nd2 Kf8 20.h4! Ke8 21.g4 Bh7 22.h5! Nd8?

 黒はそんなにゆっくりしている余裕はない。ショートの推薦は 22…Kd8 で、23.f4 のあと白が広大な陣地の優位を保持する。

23.Rbc3! Nb6 24.Nb3! Na4 25.Rc7 Nxb2 26.Nc5 b5 27.g5! Nc4 28.gxh6 gxh6 29.Nd7 Nxe3 30.fxe3 Bf5 31.Kf2! Rb7 32.Nf6+ Kf8 33.Rg1! 黒投了

 もちろん「ショートシステム」について決定的な結論を下すのは早すぎる。しかし普通の布局の優勢をもたらす可能性は高いと思う。3.e5 のように中央での野心的な戦法では1手の違いは勝負に大きな影響を与えることがある。白はここではその手得があり、それにより中央で確かな優位に立っている。

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フランス防御の完全理解(30)

第1章 突き越し中原(続き)

実戦例(続き)

(再掲)黒の手番 

 白はナイトをf6の地点に侵入させる手段を見つけた・・・

18…Rc8 19.Rg3 g6 20.Nf6 Nd7!

 ・・・が、エインゴルンもこの可能性に備えていた。カスパーの試合では黒のナイトは盤端でたむろしていた。一方ここでは侵入者をf6の地点から追放するために待ち構えていた。

21.Nxd7+ Qxd7 22.Rf3 Rc7 23.Qb1 Qe8 24.h4 h5

 この手は h4-h5 と突かせないようにするためである。黒には十分反撃力があり、試合は引き分けに終わった。

25.Rg3 Bd7 26.Nf3 Nb3 27.Bxb3 cxb3 28.a5 Bb5 29.Bg5 Be2 30.Bf6 Rg8 31.Ng5 Bh6 32.Nh3 Bg4!(白のナイトを盤上から消す。この小駒はこの閉鎖的な局面で本領を発揮する駒である)33.Bg5 Bxh3 34.Rxh3 Bxg5 35.hxg5 Qd8 36.Rg3 Rc6 37.Qf1 Ra6 38.Qb5 Re8 39.c4 dxc4 40.Rc3 Rc6! 41.Rxc4 Rxc4 42.Qxc4 Qxg5 43.a6 Rc8 44.Qxb3 Rc1+ 45.Rxc1 Qxc1+ 46.Kh2 Qf4+ ½-½

(この章終わり)

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カテゴリ: フランス防御の完全理解

フランス防御の完全理解(29)

第1章 突き越し中原(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

 11…O-O-O は覇気のない無計画な手だが黒はそんな「本手」の「展開」よりも、ナイトをb6の地点にすぐに持ってくる深謀遠慮の戦略を続けた。

12.Ng5

 なぜ白は前局であれほどうまくいった作戦を避けなければならないのだろうか。それを確かめてみると、12.Bd1 Nb6 13.Rb1(13.Nf1 は 13…Nb3 14.Rb1 Nxc1! で良くない)なら白は 14.Nf1 の用意ができて 14…Nb3 には 15.Bf4 と応じることができる。しかし黒は 13…Qa4! という手を用意していて、白クイーンには行き場所がない。14.Nf1 Qxc2 15.Bxc2 Ba4! 16.Bxa4 Nxa4 でクイーンもビショップも交換になったあと黒陣は非常に楽になる。14.Qxa4 Bxa4 15.Be2? も 15…Bc2 でこの黒ビショップが非常に強力になるので白が良くならない。

12…h6 13.Nh3 Nb6 14.Nf4 O-O-O

 黒はここで初めてキャッスリングし、駒の配置がかなり改善された。

15.Nh5 Qc7 16.a4!

 このポーンはここで標的になり黒はそれを目標にすることができる。しかし白は他にどのように指せるだろうか。16.Nf1 なら 16…Nb3 だし 16.Rb1?? には 16…Ba4 と来られる。白の陣形が前局での成果と比べてなんと劣るかに注意して欲しい。前局ではビショップを無事にf4の地点に展開させることができた。

16…Bc6 17.Bd1 Kb8 18.Re3!

 黒の手番 

(この章続く)

2012年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(54)

「Chess Life」2004年9月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スラブ防御 4…a6(続き)

戦型Ⅰ
1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 a6 5.e3 b5 6.b3 Bg4 7.h3 Bxf3

 ここはたぶん 7…Bh5 8.g4 Bg6 9.Ne5 e6 10.h4 と指す方が良いだろう。2003年サントドミンゴでのナカムラ対ド・ブルーフト戦では 10…Ne4 11.Nxe4 Bxe4 12.f3 f6 13.Nxc6 Nxc6 14.fxe4 dxe4 15.Qc2 Bb4+ 16.Ke2 f5 と進んで見かけない局面になった。

8.gxf3

 白は二重ポーンができたが双ビショップの優位がある。もっと普通の 9.Qxf3 なら黒は次のようにポーンを犠牲に積極的に戦う。8…e5 9.dxe5 Bb4 10.Bd2 Bxc3 11.Bxc3 Ne4 12.Bb4 bxc4 13.bxc4 Qb6 黒には代償がある。

8…Nbd7 9.f4

 黒の …e7-e5 突きによる反撃を防ぐのが肝要である。この戦型では c4-c5 突きで局面が閉鎖的になるのが普通である。白はクイーン翼では広さの優位があり、キング翼ではg列がすでに素通しになっているので攻撃の可能性がある。しかし局面は非常に閉鎖的になるので仕掛ける手段は見当たらない。

9…e6

 たぶんすぐに 9…g6 と突く方が良い。

10.c5 g6

 黒は他の手もいくつか試みてきた。

 10…Ng8 ナイトの位置を改善する面白い捌きである。11.Bb2 Ne7 12.a4 Nf5 13.axb5 axb5 バレエフ対シロフ(ミュンヘン、1993年)。このあと白はもっと思い切って 14.Nxb5 cxb5 15.Bxb5 と指すこともできた。

 10…Be7 11.Bd3 g6 12.Bb2 Qb8 13.Qc2 Nh5 14.Ne2 Bh4 15.Ng1 Bd8 16.Nf3 a5 17.a3 Ra7 18.Ne5 Nxe5 19.dxe5 f5 20.Be2 Ng7 21.h4 h5 22.O-O-O Be7 マラホフ対ソコロフ(ロシア、2004年)。仕掛けるのが不可能ではなくても困難で、非常に閉鎖的な局面である。

 10…Ne4 11.Nxe4 dxe4 12.Bg2 f5 13.f3 exf3 14.Bxf3 Rc8 15.a4 白に主導権がある。

11.Bd3 Bg7 12.Qc2 Ng8 13.Bb2 Ne7 14.O-O-O Nf5 15.Ne2

15…Qh4?!

 ここは 15…Qe7 か 15…Qc7 から …O-O-O の方が良かった。

16.Ng1

 黒のクイーンを追い払う良い手である。

16…Qe7 17.Nf3 Nh4 18.Qe2 O-O 19.Rdg1 Bf6 20.Ng5 h6 21.Nf3 Nxf3 22.Qxf3 Kh8 23.h4 Rg8 24.Kb1

 ニールセン対フリアー戦(ヘースティングズ、2002/03年)では白が明らかに優勢だった。

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2012年12月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(28)

第1章 突き越し中原(続き)

実戦例(続き)

第5局
スベシュニコフ対エインゴルン
パルマ・デ・マヨルカ、1989年
突き越し戦法

1.e4 c5 2.c3 e6 3.d4 d5 4.e5 Qb6 5.Nf3 Nc6 6.a3 c4 7.Nbd2 Na5 8.Be2 Bd7 9.O-O Ne7 10.Re1

 この手に対してカスパーは 10…h6 と指したが、エインゴルンはもっと目的を持った手を指した。

10…Qc6!

 これはすぐに明らかになるように非常に巧妙な手である。

11.Qc2 Nc8!!

 白の手番 

(この章続く)

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フランス防御の完全理解(27)

第1章 突き越し中原(続き)

実戦例(続き)

(再掲)白の手番 

 クイーン翼では敵陣突破が不可能なのでこの手はまったく無意味である。黒がクイーンと両ナイトをこんな無力な地点に配置したので、白は組織立った作戦を戦術による猛襲に切り替えることができる。

25.Nxd5! exd5 26.e6 Re7 27.Nf4! Nb6 28.Qf3

 28.exf7!? は華々しいが危なっかしい。例えば28…Rxe2 29.Rxe2 a6 30.Ng6 Nd7 31.Nxh8 Bxa3 32.Ree1! Bf8 33.Ng6 Nc6 34.Nxf8 Nxf8 35.Bd6 となれば明らかに白が優勢である。

28…Qb5

 28…fxe6 は 29.Ng6 で白が勝つ。

29.exf7 Rxf7

 これで白が一本道で勝ちになる。

30.Nxd5! Rxf3 31.Nc7+ Kb8 32.Nxb5+ Kc8 33.Nxa7+ Kd7 34.Re5 Nc6 35.Rb5 Nxa7 36.Rxb6 Kc8 37.Re1 Nc6 38.d5 1-0

 黒のh8のルークとf8のビショップは一度も動かなかった。本局でのスベシュニコフの指し回しは白の可能性をよく表わしている。それは主に相手が指針となる作戦もなくあてのない手を指し白にほとんど好きなようにさせたからである。次は相手の戦略に抵抗するために黒がどのように協力した指し方ができるかを見ることにする。

(この章続く)

2012年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フランス防御の完全理解(26)

第1章 突き越し中原(続き)

実戦例(続き)

(再掲)黒の手番 

 白はキング翼攻撃の作戦の第1段階を完了した。ここで 18…g6 と突いてくれば 19.Nf6 と侵入してこのナイトが黒にとって悩みの種になる。

18…Na5 19.Nd2 Rc7 20.g4!

 第2段階が始まった。白はクイーン翼ナイトをe3に置き Bg3 と引き f4 と突いて f5 突きによる敵陣突破を図るつもりである。黒はこれを …g6 と突いて止めることができるが、それならば白の作戦は Bg3、Kg2、h4 から h5 と突き、…g5 突きには Rf1 から f4 突きで応じることになる。白はいつかはf7のポーンに圧力をかけ取ってしまうことを期待している。

20…Nc8 21.Bxa4 Qxa4 22.Nf1 Nb6 23.Bg3 Qb3 24.Ne3 Na4?

 白の手番 

(この章続く)

2012年12月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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