2012年10月の記事一覧

布局の探究(20)

「Chess Life」1991年4月号(1/1)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 前編

 我々はチェスの科学時代にいる。たぶんその最も明らかな証拠は布局の段階にあり、そこでは果てしのなさそうな発見の連続により我々の知識と理解が限りなく増している。そうであるべきであることはほとんど意外でない。なぜならこれはどの科学でも起こっているからである。だからチェスでもそうである。

 それほど気づかれていないのは多くの布局システムが過去20年の間に復活していることである。私が非常に重要だと思うのはこの「静かな成果」である。というのは長年の確立された結論を覆したからである。簡単に言うと以前に「指せない」とされた多くのシステムが、それらの長所を生かすやり方が理解できるようになったので指せるようになったのである。本稿ではこれが起こった二つの黒のシステムを調査してみる。次回以降は白のシステムについて同じことを行なう。さらにはそのような復活が成功するかもしれないときとしないときについての指針もいくつか示す。

概要

 覚えておくべき一つの最も重要な原則は黒は白ほど余裕がないということである。展開を遅らせるにせよ、キングを中央に置いたままにするにせよ、陣形を弱めるにせよ、黒は大胆さを咎められる危険性が非常に大きい。黒は作戦を遂行する際には白よりもずっと注意深くなければならない。

 これから分析する二つのシステムでは黒は何かを捨てて主導権を得る。最初のシステムは戦力と陣形で譲歩するけれども、白は一方を受け取り他方を拒否することができる。二番目のシステムはもっと現代的な布局の戦略で、戦力は与えるが陣形上の要素はずっと念頭においておく。

A.べノニシステム

 べノニの基本的なポーンの形は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 という手順から出来上がる。黒は白のdポーン突きを誘った。黒の反撃策は …e7-e6 突きでdポーンを攻撃すること、…b7-b5 突きで連鎖ポーンの土台のc4を弱めること、または黒枡ビショップをa1-h8の絶好の斜筋に展開させることかもしれない。最も確実なことは黒は試合の進行の中でこれらの着想のいくつか-または全部-を組み合わせることである。

 それでは早期に …b7-b5 と突いてdポーンの土台を弱める最も過激な作戦を遂行する手段を考察することにしよう。

1)ブルーメンフェルト逆ギャンビット

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nf3 b5

 これは古い方の手段である。もっとも同じ局面は現代的な手順の 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 c5 4.d5 b5 からも生じる。

 黒は白のd5の橋頭堡に対して二正面攻撃を仕掛ける。最初は 3…e7-e6 でこのポーンに挑戦し、次に 4…b7-b5 でその土台を攻撃する。しかしこの作戦には重大な欠点もある。それはキング翼とクイーン翼の弱点と展開の遅れである。黒はそんなに多くの欠点を抱えられる余裕はない。白は 5.Bg5! ではっきり優勢になる。

 (a)5…Qa5+ 6.Qd2! Qxd2+ 7.Nbxd2 bxc4 8.Bxf6 gxf6 9.e4 f5 10.Bxc4 Bb7 11.O-O Bh6 12.Rfe1 これは1925年モスクワでのグリューンフェルト対ラビノビッチ戦である。黒は弱点が多く展開でも遅れをとっている。

 (b)5…bxc4 6.e4! Qa5+ 7.Bd2! Qb6 8.Nc3 Ba6 9.Ne5 黒陣は混乱状態である。

 (c)5…exd5 6.cxd5 d6 7.e4! a6 8.a4 Be7 9.Bxf6! Bxf6 10.axb5 Bxb2 11.Ra2 Bf6 12.Nbd2 O-O 13.Bd3 Bb7 14.O-O axb5 15.Rxa8 Bxa8 16.Bxb5 これは1971年全ソ連選手権戦のバガニアン対K.グリゴリアン戦である。白は陣地が広くナイトが素早く動ける。黒の白枡ビショップは位置が悪くdポーンは恒久的な弱点になっている。

 ブルーメンフェルトギャンビットは大会ではもう指されることがなく、復活は期待できそうもない。黒はとても損失に耐えられない。

2)ベンコーギャンビット

 それでも土台のc4を弱める着想は棋理に合っている。必要なのは黒が受け入れることの「できる」やり方である。その答えがベンコーギャンビットである。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5!

 黒は同時に多くのことをやろうとするのではなく一つのことをうまくやることで満足する。そして1手早く主要な目標を目指し、白にキング翼で機会を与えない。例えば 4.Bg5 には 4…Ne4 とかわすことができる。

 従って白がベンコーギャンビットを「咎め」たいならば 4.cxb5 a6! 5.bxa6 と取る方が良い。5…g6 6.Nc3 Bxa6 で主手順が始まる。

 既に …b7-b5 突きのポーン捨ての利点が見てとれる。黒はa列とb列の素通しで白のクイーン翼に圧力をかけ、g7のフィアンケットビショップがそれを支援する。黒の唯一の不利はポーン損である。黒はどこにもすぐ分かるような弱点はない。だから白の主要な務めはポーン得を守りとおすことである。近いうちに積極的に指せるようになることは望み薄である。上図からの主要な手順は次のとおりである。

 (a)7.e4 Bxf1 8.Kxf1 d6 9.Nf3 Bg7 10.g3 O-O 11.Kg2 Nbd7

 (b)7.Nf3 Bg7 8.g3 d6 9.Bg2 Nbd7 10.O-O O-O

 どちらの場合も黒には十分な代償がある。詳細に興味のある読者は GM John Fedorowicz の名著の「The Complete Benko Gambit」(Summit Publishing、1990年)を参照するとよい。

 ベンコーギャンビットの手順は1948年サルトショーバーデンでスウェーデンのIMエリク・ルンディンがGMラスロ・サーボを相手に初めて指した。しかしそのあとは指す者がいなくて、1967年にGMパル・ベンコーが指し始め好成績をあげた。GMベンコーは真の開拓者になり、それにふさわしく布局名は彼の名前が付けられている。私の考えではベンコーギャンビットは時の試練に耐え続けると思う。

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2012年10月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(374)

第7部 チェスの論理(続き)

第36章 不滅の試合(続き)

第3回ローゼンワルド大会
ニューヨーク、1956年
D.バーン – フィッシャー

1.Nf3 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.d4 O-O 5.Bf4 d5 6.Qb3 dxc4 7.Qxc4 c6 8.e4 Nbd7 9.Rd1 Nb6 10.Qc5 Bg4 11.Bg5

 ここまではほぼ互角のように見える。しかしバーンは中央が既に伸びすぎのときにもう少し圧力をかけようとした。フィッシャーの陣地はまとまりがあり、展開も十分である。だからクイーンの筋を開けるか白の弱いeポーンの支えをたたくことができさえすればよい。その答えはほとんど自明である・・・

(この章続く)

2012年10月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(373)

第7部 チェスの論理(続き)

第36章 不滅の試合

 前世紀の中頃アドルフ・アンデルセンは劇的な二つの詰み手筋でチェス界の想像力をかき立てた。それらはたちまち「常緑の局」そして「不滅の局」として名局集に入れられた(ラスカーのチェス雑誌では決定版のように解説された)。この2局は読みの深さや戦略構想よりも、最終局面のきれいさ-クイーン捨てとそれに続く小駒による珍しい詰み形-で名高い。アンデルセンが選手として強さを発揮する前にプロブレム作家として名を上げていたことは驚くに当たらない。

 その後もクイーン捨て、難解な長手数の読み、そしてプロブレムのような詰み手筋などの何千局もの名局が生まれた。しかしラスカー、カパブランカそれにアリョーヒンの時代を生きた選手たちの意見でも、タリ、スパスキーそれにボトビニクの崇拝者たちの目でも、今世紀には唯一の光輝を放つ試合が2局ある。一つは他にはもう1局しか勝てなかった大会での13歳が指した試合で、もう一つは11-0の完全優勝を成し遂げた米国チャンピオンによって指された。これらの状況は間違いなく試合にロマンチックな感慨を添えている。それでもこれらは盤上で最初に創造された時と同じ驚きとして長い間残るだろう。

 フィッシャーの2局の「不滅の」試合には他に二つの皮肉がある。それは兄弟に対して指されいずれも黒で勝ったことである。たった一つの手筋の一発でそれらが区別されるわけではない。単に戦術のエネルギーがあふれ、駒の戦いから詰みの狙いへと流れが嬉々として変わっただけである。数多くのマスターの偉大な業績を越えたレベルにこれらを置くのはこの最後の特質である。

 フィッシャーのどの本もこの2試合を欠いては完璧ではない。他でも詳細に解説されているので(フィッシャーの自著が最高である)、両対局者に最初に与えた心理的影響に関係のある手についてのみ論じることにする。

(この章続く)

2012年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(49)

「Chess Life」2004年8月号(1/4)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

ベンコーギャンビット

 私が初めてこのギャンビットに出会ったのは子供の頃の1970年代後半で、好きになった。当時ヨーロッパでは有名な川にちなんでボルガギャンビットと呼ばれていた。ヨーロッパでは布局の名の多くがそうであるように地理にちなんで名付けられる。米国では選手名にちなんで名付けられることの方がずっと多い。GMパル・ベンコーは1960年代後半にこの面白いギャンビットを広め始めた。好成績を収めたのですぐに多くの選手が彼にならい始めた。

 ベンコーギャンビットでは黒が3手目に長期的な主導権のためにポーンを犠牲にする。現在ベンコーギャンビットを好んで用いている一流選手にはイワンチュク(2004年ヨーロッパ選手権者)、ファン・ベリー、トパロフ、バレエフらの名があげられる。米国では多くの一流GMが指している。たとえばレフ・アルバート、ディミトリー・グレビッチ、ジョン・フェドロウィッツ、ウォルター・ブラウンたちである。

白の基本的な作戦は何か

 白は4手目で犠牲を受諾するか拒否するかを決めなければならない。もしこのポーンを取れば黒には代償としてクイーン翼にルークに役立つ素通し列が二つでき(a列とb列)駒の働きが良くなる。しかし白はポーン得になる。

 白の主要な作戦は適切な準備のあとで e4-e5 突きで敵陣突破を図ることである。同時に白はクイーン翼で黒の狙いに対し守る必要がある。特に黒のナイトがd3の地点に来るのを防がなければならない。

 他の選択肢は差し出されたポーンを受諾しないことである。この場合黒は反撃のためにb列しか素通しにならないのが普通である。白の主要な作戦はやはり e4-e5 突きを図ることである。

黒の基本的な作戦は何か

 黒は長期的な作戦のために喜んでポーンを捨てる。白がポーンを受諾する主流手順では黒の主要な構想は次のようになる。f8のルークをb8に回し、c5のポーンをc4に突いて …Nd7-c5 でナイトを急所のd3の地点に到達させる。…Nf6-g4(または d7)-e5 という捌きも同じ目的で、よく見られる。黒のクイーンはa5またはb6の地点に置かれるのが普通だが、時には白のd5とa2のポーンをにらんで(…Ra7 のあとで)a8の地点も好所になることがある。すべての駒を理想的な地点に配置したあと …e7-e5 による敵陣突破が良い手になるのが普通である。白のポーンがe4にいるならば時には …f7-f5 と突くことさえ考えられるだろう。

それで評決はどうなっているか

 ギャンビットが受諾されたときは主たる戦いはd3の地点になる。戦型ⅠとⅡに見られるように白が正確に指さないと黒の主導権が強くなる。しかし正しく受ければ白は持ちこたえることができる(推奨の改良手を参照)。もっとも多くの忍耐が要求される。

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2012年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(372)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 コンピュータの分野における用語は興味を持っている多くの選手を不必要に遠ざけている。「アルファベータアルゴリズム」は手に十分大きな欠陥が見つかった時に探索を途中でやめるための手続きである。それは「変化の一つでキングが詰まされてしまうならすべての変化を調べる必要はない」と言っているようなものである。「静止局面」とは両者の駒の総交換が行なわれた局面のことである。「半手」とはどちらかの手のことで、1.e4 e5 は「1手」である。(白ポーンがa2、白キングがa3にあるとすると、ポーンは6半手でa8に行ける。黒の2駒が取られる位置にあると白の5半手と黒の2半手で行ける。)プログラマーは(リービのように)「現在の技術水準はハードウェアの速度の関数としてしか進歩しない」と言うだろう。一方選手は「コンピュータは速くなることによってのみもっと強くなる」と言うかもしれない。そして言葉には多くのユーモアがある。ノースウェスタン大学のプログラムは「バナナ」または「超越」として知られる「モジュール」を用いることにより前述の手順でラルセンに対してフィッシャーの手の 37…Ra4! を見つけることができた。このモジュールは最初の水準の分析では明らかでない拠点を持つ手を探査する手段のためにプログラマーが指定するものである。コンピュータがフィッシャーのような相手に挑戦する希望を持てる前に、有能なプログラマーは自分自身の「バナナ」を見つけ出さなければならないだろう。

(この章終わり)

2012年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(371)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

プログラマー対コンピュータ
 50…Re8

51.Ra4! Re2+

 チェックする手はコンピュータが中盤戦で真っ先に検査するのが好きな手だが、収局では不当に高く評価されがちである。黒には白キングを詰める手がありそうに見える。

52.Kf1 Rd2

 この種の局面でポーンを助けるのは火事の最中に水道代に文句をつけるようなものである。52…Rb2 なら少なくとも …Kg3 が狙いとなるが、白は 53.Ra1 で万全の態勢である。黒は51手目で単純にキングをクイーン翼に回せば引き分けにできたし、ここでもルークをe8からa8に引き戻すだけで引き分けにできた。

53.a7 Rd1+ 54.Kf2 Rd2+ 55.Ke1 Re2+ 56.Kf1 Re8 57.a8=Q 黒投了

 コンピュータの近視眼的な戦術能力は一般的なチェス理論で引き分けにできるときにはそれなりの意味を持つ。ここにプログラマーの真のやりがいがある。彼らの究極の目標が人間の思考過程をまねることならば特にそうである。プラトンが統治者について言ったこと(「哲学者が統治者となるか統治者が哲学者となるまでは・・・」)は問題の核心のように思われる。チェスのマスターがプログラマーになるか、プログラマーがチェスのマスターになるまでは発想の革新は起こりそうにない。

(この章続く)

2012年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(370)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 次の試合の中盤戦と収局にはこれらの強みと弱みがよく表れている。

ラルセン対フィッシャー
 37.Bc4
番勝負、デンバー、1971年

 ラルセンは有望な局面を作り上げ、ここからは黒キングの露出した状態につけ込もうとしている。フィッシャーはこれより前に 35…Ra8 と指し明らかに白のaポーンに狙いをつけていた。この局面は前述のノースウェスタン大学のコンピュータにかけられた。そして3分で次の手が示された。

37…Ra4!

 ほとんどの選手はf7のルークのように誰でも分かる当たりにされている駒を条件反射的に動かすものである。どういうわけか彼らは釘付けの効果を見逃しがちでもある。しかしコンピュータは十分深く読めば、自身の数値評価を満たす限り奥深く潜んだ手筋の可能性を見つけ出す。ラルセンはフィッシャーの巧妙な防御を見落としただけでなく、自分の最善の応手も見逃した。

38.Rc1?

 コンピュータは最善の受けとして正確に 38.Rb4! を選び出した。ラルセンは明らかに敵キングを捕まえる独自の着想によって目が見えなくなっていた。そしてルーク同士の交換を望まなかった。

38…Bxb5!

 白のビショップは釘付けになっている。コンピュータはこの手を4分で見つけた。フィッシャーは即座だった。

39.Bxf7 Rxh4+ 40.Kg2 Kxg5

 最後の2手はそれぞれ1分で、フィッシャーの手と同じだった。

41.Bd5 b6?

 フィッシャーはここで正しく 41…Ba6 と指し収局で勝った。ここからはプログラマーが白の手を指しコンピュータはしだいに優位を失っていった。

42.Rb1

 コンピュータが黒の37手目で読んでいた同じ着想をここで見逃したのは奇妙である。それでも 42.Rb1 は並の選手には最も当たり前の手である。

42…Bc4 43.Bxc4 Rxc4 44.Rxb6 d5 45.Rb2 f4 46.Ra2 Kg4? 47.a4 f3+

 コンピュータは正しく進攻したポーンを突いたが、白ポーンはルークによってしか止められずはるかに危険であることを「理解」していなかった。白ルークは横利きで防御の役割を果たすと共にポーンの後ろで攻撃の役割を果たしている。

48.Kf2 Re4 49.a5 d4 50.a6 Re8

(この章続く)

2012年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(292)

「Peón de Rey」2012年5・6月号(1/1)

 2012年6月8日から18日までモスクワで第7回タリ記念大会が行なわれGMナカムラは10人中9位の成績に終わりました。

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第7回タリ記念大会

A.グリシュク (ロシア、2761)
H.ナカムラ (米国、2775)

シチリア防御 [B75]

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Qd2 O-O 9.g4 Nxd4 10.Bxd4 Be6 11.Nd5

 カルポフのこの手は大変有名だけれどもグリシュクにとって意外だったのは強豪レベルではほとんど探究されておらずクイーン翼キャッスリングや h4 突きの1/5ほどしか用いられていないということである。

11…Bxd5 12.exd5 Rc8

 12…Qc7 13.h4 Rac8 は実戦に戻る。

13.h4 Qc7 14.Rh2 e5 15.dxe6e.p. fxe6

 黒がこの手を指すことにしたのは実戦で白の勝率が85%にものぼることを考えれば間違った選択だった。

16.O-O-O

 1982年ロンドンでのカルポフ対メステル戦は 16.h5 Qc6 17.O-O-O Qxf3 18.hxg6 hxg6 19.Bg2 Ne4 20.Bxf3 Nxd2 21.Bxb7 と進んで白の優勢の収局になった。

16…e5N

 この新手はナカムラが対局中に考え出したものだろうが、白の着想に驚かされることになる。ここで黒が指せる手としてはキリル・ゲオルギエフのようなこの戦法の専門家の用いる 16…Nd5 である。

17.Be3 Qf7 18.Kb1

18…d5

 黒は 18…Nxg4 19.fxg4 Qxf1 でポーン得することはできるが、20.h5 で代償に白の攻撃が強くなる。

19.h5 e4

 19…Rfd8 という手もあるだろうが白が明らかに優勢であることには変わりない。

20.hxg6 hxg6 21.Be2 Qe6 22.Bd4 Rc7 23.Rdh1

 強豪同士のドラゴン戦法で白が何の危険もなくやすやすと優勢を拡大するのは記憶にない。

23…Rff7 24.a3 b6 25.fxe4 Qxe4

 キングの守りが万全で盤上もほぼ支配しているので白は敵キングに対する最終攻撃に乗り出す。

26.g5 Nh5 27.Bxg7 Kxg7 28.Bxh5 gxh5 29.Rxh5 Qc4 30.Qd1 Qe4 31.g6! Rfe7 32.R5h4 Qe5 33.Rh7+ Kg8 34.R7h5 Qe4 35.Qd2 1-0

 白の Rh8+ から Qh6+ の狙いで黒キングは生き残れない。

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(この号終わり)

2012年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(369)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 シャノンのもくろみが最初に適用されたのは1953年にA.M.チューリングによって書かれたプログラムだった。リービは「下手で当てもない指し方をした」と冷淡に言っている。チューリングの局面の評価の面白い特徴は駒の可動性を合計することだった。彼は不可解なことに各駒の動ける地点の数の平方根の合計として定義した。すでに純粋に数学的なやり方が破綻するのを見てとることができる。ほとんどのチェスの局面では重要なのは利いている枡の総数ではなくてどの枡に利いているかである。

 チューリング以後の最も重要な二つの進歩は1957年にマサチューセッツ工科大学のIBM704上で動作するバーンスタインのプログラムと、1967年に「マックハック」と呼ばれたグリーンブラットのプログラムで起こった。機械の速度とプログラミングの創意が増すにつれて、コンピュータのチェスも並の人間の実力に匹敵するようになった。現時点での最大の強みは完全な客観性である。逆に一番の弱みはすでに示唆したように本質的な近視眼である。

(この章続く)

2012年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(368)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 コンピュータの指すチェスが上手でないのは主として「どの」手を「どのくらい先まで」調べるべきかを決めるための良い判断基準を持っていないためであることはこの試合から明らかだろう。枝狩り(コンピュータがさらに「前方を見る」ことができるように「探索」の種々の段階で分析される手の数を何らかの方法により制限すること)には多くの議論があり、重要な改善点になっている。しかし大局的な手は一般に現在のコンピュータが処理できる手の深さを越えたところにある可能性に基づいている。要するに現在のチェスを指すプログラムの基本的なやり方は内部に深刻な制約があるのかもしれない。

 上述の試合の分析が行なわれたCDC6600コンピュータは毎「秒」約300万の命令を処理する。この能力は最初の全電子デジタルコンピュータ(エニアック、Electronic Numerical Integrator And Calculator)の能力をしのいでいる。エニアックは1946年に毎秒5「千」の加算を行なう性能だった。最初のデジタルコンピュータは全部機械式だった。それは78の相互接続加算器と、紙テープにあけられた穴によって制御される卓上計算機とから構成されていた。この1944年のコンピュータは現在のハードウェアの先駆けで、ハーバード・マーク・ワンとして知られ、毎秒三つの演算をすべて行なうことができた。クロード・シャノンが1948年に初めてチェスのプログラムを提案したときに使われていたコンピュータの能力は限られたものだったので、せいぜい2手か3手の先読みに基づいて手が選ばれる探索法を彼が思い描いたのは驚くべきことである。実際のところシャノンが間違った方向にコンピュータチェスの企てを立ち上げたのは、CDC社のデイビド・フォースオファーのように強いチェス選手でもある多くのプログラマーの意見である。

(この章続く)

2012年10月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

布局の探究(19)

「Chess Life」1991年2月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (3)9…Rd7
リバス対ルーキン
レニングラード、1984年

 この変てこな手はずっとラルセン戦法の主流手順だった。その利点は明らかで、c7の地点を守り自身も守られているということである。さらにクイーン翼ナイトは最良の地点のc6に展開できる。白が 10.Nxe5? と取ってきても 10…Nxd5 11.Nxd7 Nxe3 で失敗に終わる。

 マスターの実戦ではありきたりの手では白に何も得るものがないことがすぐに明らかになった。例えば 10.O-O-O は 10…Nc6 11.Bd3 Ng4 12.Bc5 Nd4 で、1968年ベオグラードでの挑戦者決定番勝負競技会のタリ対グリゴリッチ戦ではここで合意の引き分けになった。

 白は優勢を目指すならd7の不格好なルークにつけ込むしかない。

10.Nxf6+ Bxf6 11.c5!

 白は自陣を広げビショップのためにc4の地点を空けた。d7のルークは味方の白枡ビショップの利きをふさいでいるので、より迅速な展開と相手よりまさる黒枡ビショップを基に優勢になることを期待している。大会での数多くの実戦により黒にはのんびりしている余裕がないことが明らかになっている。

 (a)11…b6?! 12.Rc1! c列での白の圧力が強い。

 (b)11…Rd8?! 12.Bc4! Nc6 13.Ng5!? Bxg5(IMのA.シュナピクによればたぶん 13…Rf8 としっかり守る方が良い)14.Bxg5 Rd4 15.Bd5 Nb4 16.Be3 Nc2+ 17.Ke2 Rxd5 18.exd5 Nxa1 19.Rxa1 f6 1980年バニューでのプイテル対シュミット戦では中央のポーンが強いので白がわずかだが永続的な優勢を得た。

 (c)11…Re7?!(黒ルークはc8のビショップの筋を空けたが守勢のままである)12.O-O-O Nc6 13.Bc4 Bg4 14.Bd5 Nd8 15.h3 Bxf3 gxf3 c6 17.Bc4 Ne6 18.Rd6 Bg5 19.Bxe6 Bxe3+ 20.fxe3 Rxe6 21.Rxe6 fxe6 22.Kd2 これは1980年ブゴイノでのラルセン対カバレク戦の局面である。キング翼のポーンの優位とクイーン翼での広さの優位で白が優勢で、ラルセンが41手で勝った。

 (d)11…a6?! 12.Bc4 Kg7 13.Bd5 Nc6 14.O-O-O Ne7 15.Bb3 h6 16.Bd2! g5 17.Ba4 c6 18.Ba5 1983年トルジネッツでのクネジェビッチ対ランツ戦でのように、展開の優位に加えて黒の両翼での弱い枡のために白がかなり優勢である。

 これらの例から黒はたとえ陣形の弱点をこうむっても展開を急がなければならないことが分かる。

11…Nc6 12.Bb5

 12.Bc5 には 12…Na5 と反発される。

12…Rd8 13.Bxc6 bxc6 14.Nd2

 私の考えでは優勢を得ようとするならこの手が実戦的に最も可能性がある。黒の反撃は二重ポーンを補うために洗練された迅速なものでなければならない。

 他の手はそれほど有望でない。

 (a)14.Rd1?! は1980年ゼムムでのイフコフ対ブキッチ戦のように 14…Rxd1+? 15.Kxd1 Be6 16.Kc2! となるなら素晴らしい。白のクイーン翼とキングが堅固で、黒には弱いポーンの代償がない。しかし 14…Be6! ともっと厳しい 14…Ba6! (1986年プロブディフでのバルベロ対ハリフマン戦で指された)なら黒が簡単に互角にできる。

 (b)14.O-O Rb8 15.b3 Ba6 16.Rfe1 Bg7 17.Rac1 h6 18.Nd2 Rb4 19.g4 Bd3! これは1987年フランスでのルネ対スーザン・ポルガー戦である。ここで白は 20.a3 Rbb8 21.Rc3 でほぼ互角の形勢に満足すべきだった。

 本譜に戻る。

14…Rb8!

 黒は両方のルークを働かせることが重要である。1982年マルベリャでのリバス対へブデン戦と比較すればよく分かる。14…Be6 15.Ke2 a5 16.b3 Rdb8?! 17.Kd3! Be7 18.Nc4 f6 19.Kc3 Rb5 20.a4 Rbb8 21.Rhb1 Kf7 22.b4! axb4+ 23.Rxb4 Rc8 白はクイーン翼の優秀な多数派ポーンを生かして健全なパスポーンを作り、断然優勢になった。

15.O-O-O Be6 16.b3 Be7! 17.Nb1

 黒は 17…Rb5 で白のcポーンへの当たりを狙っていた。ここで 17…Rb5?! なら 18.Nc3 Ra5? 19.b4! と応じられる。

17…f5!

 このキング翼インディアン防御につきもののポーン突きで黒は両翼で十分な反撃を確保し、白がポーンの形の優位を活用するのを防ぐ。

18.f3 Rxd1+ 19.Kxd1 fxe4 合意の引き分け

 20.fxe4 のあと形勢は「まったくの引き分け」というよりも、動的に均衡がとれているという意味でだけ互角である。戦いを好む選手ならどちら側を持っても指さない理由はない。

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2012年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フィッシャーのチェス(367)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 ボトビニクの総括「この試合について何が言えるだろうか。M.タリは布局で年少の対戦相手の巧妙で狡猾なたくらみに思い至らなかった。そして負けを避けられなかった。R.フィッシャーの指し方は創意に富み非凡で完璧な力量だった。次の15-20年間にチェス界はM.タリとR.フィッシャーの類まれな才能の激突を目撃することになるのは疑いない。この角逐からチェスの技芸が大きな利益を得るだろう。この大闘争の見通しにおいて本局は小さな挿話にすぎない。しかしタリには若いフィッシャーの口に指を突っ込んではいけないということはもう明らかになっているに違いない。

(この章続く)

2012年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

礼節のない国・中国

2012年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(366)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

フィッシャー対タリ
 22…e5

23.fxe5!

 機械はこの手を見落とした。しかし推奨した手の 23.Qg5 はそんない悪い手というわけではなかった。23…h6 24.Qg4 d6 25.f5 のあと白は少なくともクイーンが盤上に残っていて正面からの直接攻撃に成功するかもしれない。もちろんフィッシャーの手は何も紛れがない。ここで重要なことは捨て駒の効果よりもむしろ迅速な単純化で優勢が確立することである。もちろん 23.Qxe5+ でもポーン得の収局になって十分勝てただろう。実戦は白はクイーンを与える代わりにすぐに2個目の黒ルークを手に入れ黒のポーンも全部取ってしまう。

23…Rxf6 24.exf6 Qc5 25.Bxh7 Qg5 26.Bxg8 Qxf6 27.Rhf1 Qxg7 28.Bxf7+ Kd8

 これらの比較的一本道の手順にコンピュータは両者の手を正確に当て全部で約2分を要した。

29.Be6

 しかしこの軽妙手は見逃した。d列の釘付けのためにビショップを一時的に切ることができることが「見え」なかった。

29…Qh6 30.Bxd7

 機械はまたこの手筋が見えなかった。

30…Bxd7 31.Rf7

 ここで抵抗をあきらめるべきだった。余計な16手がまだ続いた。

 コンピュータは収局が下手だという評判があるけれどもこの収局なら簡単に勝っただろう。現在のプログラムの大きな欠点は優位を遂行するのに失敗することでなく、相手の反撃を過小評価することである。記録のために残りの手順をあげておく。31…Qxh2 32.Rdxd7+ Ke8 33.Rde7+ Kd8 34.Rd7+ Kc8(コンピュータにはどちらのルークでチェックするか、キングがどの枡に逃げるかの選択の根拠が分からなかった)35.Rc7+ Kd8 36.Rfd7+ Ke8 37.Rd1 b5 38.Rb7 Qh5 39.g4 Qh3 40.g5 Qf3 41.Re1+ Kf8 42.Rxb5 Kg7 43.Rb6 Qg3 44.Rd1 Qc7 45.Rdd6 Qc8 46.b3 Kh7 47.Ra6 黒投了

(この章続く)

2012年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(48)

「Chess Life」2004年7月号(4/4)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スペイン4ナイト試合(続き)

戦型C)1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4

 これが最も堅実で古典手順となっている。

5.O-O

 5.Nd5 は 5…Nxd5 6.exd5 e4 7.dxc6 dxc6 8.Be2 exf3 9.Bxf3 O-O 10.O-O となってまったくの互角である。

5…O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3

 黒はもう「猿まね」を止めた方がよい。7…Bg4 のあと1995年のポノマリョフ対アザロフ戦では 8.Nd5 Nd4 9.Nxb4 Nxb5 10.Nd5 Nd4

11.Bxf6 gxf6 12.Qd2 Nxf3+(12…Bxf3 なら 13.Qh6)13.gxf3 Bxf3 14.Qe3 Bh5?! 15.Qh6 Bg6 16.f4 c6 17.fxe5 fxe5 18.Nf6+ Kh8 19.h4 となって黒が戦力損を避けられなかった。

8.bxc3 Qe7 9.Re1 Nd8 10.d4 Ne6 11.Bc1

 11.dxe5 は 11…Nxg5 12.exf6 Qxf6 となって黒のポーンの形の方が良い。また 11.Bh4 も 11…Nf4 で黒が良い。

11…c6

 別の作戦は 11…c5 によってポーン構造を変えることである。元世界チャンピオンの故ペトロシアンの見事な戦略の試合では白の理想的な指し回しが見られる。11…c5 12.Bf1 Qc7?! 13.d5 Nd8(13…Nf4?! 14.Bxf4 exf4 15.e5 dxe5 16.Nxe5)14.Nh4 Ne8 15.g3 Qe7 16.Nf5 Bxf5 17.exf5 Qf6 18.Qg4 Qe7 19.Bg5 Qd7 20.a4 f6 21.Bd2 g6 22.Bh3 Qxf5 23.Qxf5 gxf5 24.Bxf5 Ng7 25.Bd3 f5 26.f4 e4 27.Be2 Rc8 28.c4 Ne8 29.h3 Nf6 30.g4 fxg4 31.hxg4 Rc7 32.Kf2 h6 33.Rh1 e3+ 34.Bxe3 Ne4+ 35.Kg2 Nf7 36.Bd3 Re7 37.Rae1 Rfe8 38.Bc1 Nc3 39.Rxe7 Rxe7 40.a5 b6 41.axb6 axb6 42.Bd2 Ne2 43.c3 b5 44.Kf1 1-0(ペトロシアン対リリエンタール、モスクワ、1949年)黒の改良手段は 12…Rd8 でナイトにf8に動く余地を作ることである。

12.Bf1

 攻撃で有名なルドルフ・シュピールマンと収局の達人のアキバ・ルビーンシュタインの昔の試合(カールスバート、1911年)は白の指し方の見本であり棋風の激突である。12…Rd8 13.g3 Qc7 14.Nh4 d5 15.f4 exf4 16.e5 Ne4 17.gxf4 f5 18.exf6e.p. Nxf6 19.f5 Nf8 20.Qf3 Qf7 21.Bd3 Bd7 22.Bf4 Re8 23.Be5 c5 24.Kh1 c4 25.Be2 Bc6 26.Qf4 N8d7 27.Bf3 Re7 28.Re2 Rf8 29.Rg1 Qe8 30.Reg2 Rff7 31.Qh6 Kf8 32.Ng6+ hxg6 33.Qh8+ Ng8 34.Bd6 Qd8 35.Rxg6 Ndf6 36.Rxf6 Rxf6 37.Rxg7 1-0

 もちろん黒はいろいろな個所で別の指し方ができるが、この試合は黒の直面する一般的な危険性を考えさせてくれる。

12…Qc7

 局面は互角に近い。ここで白は主手順のように攻撃的な手法の開始を選ぶこともできるし、もっと安全に 13.g3 から 14.Bg2 のあとで f2-f4 と突く作戦を選ぶこともできる。

13.Nh4

 この作戦は g2-g3 から f2-f4 と突いてすぐに中央を争いキング翼で進攻することである。

13…Re8 14.g3 h6 15.f4 Qa5

 ねじり合いの局面だがどちらもいい勝負である。

最終結論

 スペイン4ナイト試合は常用布局の一部として、または単に意表を突く武器として用いても、白にとって有力な布局である。4…Nd4 のあと白ならばどう受けるか考えておかなければならないが、ポーン得にはなる。他の戦型では白はルイロペスに似た指しやすい局面になるかもしれなくて、ルイロペスとは異なり多量の研究を避けることができる。

 黒にとっては好みの問題になる。駒の働きのためにポーンを捨てることをいとわないならば、戦型Bを採用すべきである。戦力の損失のない局面が好みならば戦型Cがよい。

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2012年10月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(365)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

15.Ne4 Be7 16.Qd4

 コンピュータはここまでの6手をフィッシャーとまったく同じく指してきた。これは悪くなく、特に直前の5手は7分しか要しなかったことからすれば特にそうである。ボトビニク「黒のナイトと白のビショップの交換は不可避である。

16…Ra4

 この困難な局面でM.タリの指した手は最善でなかったようだ。たぶん 16…Ra5 は貴重な手を損することになった。若いR.フィッシャーにまだまだ苦労させることを考えれば 16…Qc7(!) が浮かんでくる。

 コンピュータは 16…Ra4 を予想した。

17.Nf6+ Bxf6

 もちろん 17…Kd8 は 18.Nxg8 Rxd4 19.Nxe7 から g8=Q で駄目である。

18.Qxf6

 黒キングは危険な状態にいる。白は Bh5 を狙っている。Bd3 から Bxh7、それに Qh6 から Qxh7 も嫌な狙いである。コンピュータはこれらの自明な手を指すのにそれぞれ1分かかった。黒の次の手は見つけられなかった。

18…Qc7

 19.Bh5 に 19…Re4+ から 20…d5 と反撃する用意をした。しかし 19.Bd3 なら黒は明らかに 19…Qc5 と受けるしかない。18…Re4 は 19.Qh6 で良くなかった。

19.O-O-O!

 ここでコンピュータは 19.Kd2 で「戦うキング」にしようとした。主導権の重要性は明らかに抜け落ちていた。キングを動かす手は確かにすべてのポーンを保つが、それにしてもなんという代償だろう。キャッスリングは危なそうに見えるが、すぐに大砲を黒キングが住みかとしなければならない中央に利かせることになる。ボトビニクは付け加える。「白キングはクイーン翼でまったく安全で、黒は反撃の最後の機会を失った。一時的なポーンの取り返しは無意味である。

19…Rxa2 20.Kb1

 機械はまた急所をはずして、20.Bd3!? を推奨した。

20…Ra6

 黒の悩みは 20…Ra5 ならば 21.b3! で黒クイーンが自分のルークの守りに縛り付けられ白の 22.Bh5 の狙いが受からないことである。

21.Bxb5 Rb6

 当然ながら非人間選手はこれらの手を見つけた。ここでルークは縦筋を放棄することを余儀なくされた。なぜなら 21…Ra7 なら 22.Rhe1 で Rxe6+ の狙いに対処するのが難しいからである。しかし 21.Bh5! の方が理詰めの決め手だっただろう(第3章「突進欲」を参照)。

22.Bd3 e5

 コンピュータは2分で見つけた。一撃必殺の手の舞台が整った。

(この章続く)

2012年10月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(364)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 手が進むそのたびにコンピュータがフィッシャーと同じ手を指したかどうかにかかわらず実際の局面をコンピュータのために設定した。ここから試合は次のように進んだ。

7.Ndb5! Qb8 8.Bf4

 コンピュータは前の手に15分使い、この手には14分使った。フィッシャーの手を見つけただけでなくタリの応手も見つけた。おかしなことに次の手に対してはすぐにナイトを取る手を最善手として推奨した。

8…Ne5

 8…e5 は 9.Bg5 で黒にとって満足できないだろう。

9.Be2!

 コンピュータはすぐに 9.Bxe5 と取る手を提案した。ここでナイトを取るのはほとんどの選手にとって最も自然な手ではない。実際フィッシャーが次の手でナイトを取ったとき、自戦解説で自分にとっても驚きであったらしくその手に好手記号を付けていた。

 ボトビニクの解説「この手は正確で強力である。f3の地点を守った後は 10.Qd4 の狙いが受けづらい。

9…Bc5

 この手を弱い手だと呼ぶのは難しい。なぜなら「強い」9…a6 は 10.Qd4 d6 11.O-O-O axb5 12.Bxe5 となって黒の絶望的な局面になるからである。黒はd4の地点に駒を利かせることにしたが、困難は別の翼からやってきた。

10.Bxe5!

 ここでコンピュータはこの手を引っ込め、また二重ポーンを作らせる着想の 10.Bg5 を提案した。コンピュータが18分の思考と前の手でこの手を「見た」あとでなぜここで Bxe5 を推奨しなかったのかは、多くのチェス選手を一晩中眠らせない類の謎の一つである。

10…Qxe5 11.f4 Qb8

 これらの2「半手」と白の次の手はコンピュータによって最善手と分析された。そして1分ちょうどで次の手を見つけた。

12.e5 a6

 ボトビニクは言う。「12…Ng8 と引くのは 13.Ne4 で明らかに全然良くない。

13.exf6

 ここでコンピュータは高速の「幅」の8、12、4、1、1に設定された。そしてこの手を30秒で指した。ボトビニクも同意している。「この手はポーン得し優勢な局面になる。13.Nd4 は 13…Qa7 または 13…Ng8 で弱い手になる。

13…axb5 14.fxg7 Rg8

 20秒!ここでまたコンピュータの気まぐれが現れる。コンピュータは白の14手目で考えて 14…Rg8 15.Ne4 Bb4+ が両者の最善手だと判断した。次の手では何も変わっていないにもかかわらず 15…Be7 が黒の最善手だと判断した。このぐらつきを引き起こす1半手余分の分析は明らかにコンピュータの意思決定にとって必要不可欠である。

(この章続く)

2012年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(363)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

フィッシャー対タリ
 6…Nf6

 コントロールデータコーポレーション社の6600コンピュータ[訳注 シーモア・クレイの開発したその当時の有名なスーパーコンピュータ]上で動作するノースウェスタン大学のチェスプログラムがこれから我々の使うプログラムである。当時は布局のための別個のメモリや命令はなかった。だから上図の局面を白のために「設定」した。上記のような制約があってもプログラムが 1.d4 に対して、現代のマスターの実戦でdポーン布局に対し最もよく指される 1…Nf6 で応じるのは興味深い。

 以降の5手(またはプログラミングの世界の半分で使われるように「半手」-用語についてはあとでもっと出てくる)の間、白つまりコンピュータのために探索の「幅」の拡張が行なわれた。それによってコンピュータは白の可能な8手、それらの「それぞれ」に対して黒の可能な応手の12手、さらにそれらの「それぞれ」に対して白の4手の応手、そしてまた黒の4手、次に白の1手、黒の1手、そして白の1手という具合に分析するように指示された。プログラマーならこれらの手の特別な設定の「制約」は「8、12、4、4、1、1、1」だと言うだろう。この作業が終わったときコンピュータは手だけでなく、次の7半手の間両者の最善手と考えられる手順を吐き出す。だから白の7手目を指すときコンピュータは黒の10手目までを分析した。そして出してきたものは 7.Bf4 だった。両者の「予想」手順は 7…e5 8.Ndb5 Qd8 9.Be3 Bb4 10.Bc4 Bxc3+ だった。これはまったく間違った布局というわけではないが、現代の流行形に慣れた選手たちにはいくつかの布局システムの混合のように感じられる。黒が …Qc7 と指すときにはクイーンをその斜筋(b8-h2)にずっと置くつもりである。そして黒はたとえ白に二重ポーンを作らせるとしても黒枡ビショップを切るわけにはいかない。我々はすでに問題の核心にいる。相手に二重ポーンを作らせる利点とこちらの特定の枡に生じる弱点とを相対的にどのように評価するのか。弱い枡の問題を示すのに12手を要するときに、数値評価はこの関係を適切に表わせるのだろうか。

 ボトビニクの解説「私はこの戦法にあまり詳しくなく、以前どこで指されたのかも覚えていない。しかし 6…Nf6 のあと黒が客観的に負け試合になっていることは明らかである。6…a6 が絶対手だった。

(この章続く)

2012年10月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(291)

「Chess Life」2012年8月号(8/8)

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全米選手権戦(続き)

 第4回戦はオニシュクが相手で色違いビショップのために引き分けになった。

 第5回戦は共に首位のGMグレゴリー・カイダノフに対して大きな勝利をあげた。カイダノフは守勢になり中盤戦のほとんどでナイトを行ったり来たりさせた。ナカムラはまたもキングの行進で敵陣を突破した。今回は彼のキングは8段目まで行った。カイダノフは駒が身動きできなくなり投了した。

 対局中に何度かナカムラがしかめ面をし片手を胸のところに当てるのが見られた。審判に胸の痛みを訴えたあとナカムラはすぐに手当てを受けるよう勧められた。しかし彼は引き分けを提案せずに試合を終えることにこだわった。試合終了後すぐに彼はリトルジョンに頼んで病院に連れて行ってもらった。救急処置室で長い夜を過したあと彼はたいして問題はなく試合を続けるにはさしつかえないと言った。「試合中ずっと具合が悪かった。しかし結局『自分はチェスで食っているんだ。もし死ぬならチェスを指している最中に死んだ方がいいだろう』と考えた。」チャンピオンが具合悪くなったのはこれで2年連続だった。昨年別の大会でカームスキーは早い引き分けを選んで治療のために大会会場を出た。しかし彼も問題なく試合を続けることができた。「どんな戦いでもそんなものだ」とナカムラは言った。「体調が万全ではないときでも参加して戦わなければならない。」

 休むまもなくナカムラは第6回戦でGMバルージャン・アコビアンに第7回戦でGMユーリ・シュールマンに引き分けてカームスキーに追いつかれた。ナカムラはまだ全米選手権戦でシュールマンに勝ったことがなかった(唯一の勝ちはラスベガスでだった)。しかしそれは努力が足りなかったためではなかった。彼は101手まで指し最後はキング対キングだった。

 ストリプンスキー戦ではチャンピオンが1手差で勝った。5ポーン対1ルークのわけの分からない収局は戦う者たちを魅了した。グランドマスターの過半数が対局者同士の検討を見守った。セイラワンは「白が勝っている、いや黒が勝っている、いや白が勝っている」と言った。

どちらが勝っているか?
GMアレクサンドル・ストリプンスキー (2562)
GMヒカル・ナカムラ (2775)
2012年全米選手権戦 第8回戦

63.b5 Rb8!

 ポーン群を止めるなら 63…Ra8? だがそれらを清算する可能性は高まらない。実戦の手はポーン群をそれぞれ1段進ませるので感覚的に引っかかるところがあるが、実際は黒キングを助けている。

64.g5

 64.a7 は 64…Ra8 65.b6 Kc6 66.e6 Kxb6 67.d7 Kc7 68.Kxf3 Kd6 で良くない。

64…Rxb5 65.g6

 単刀直入にポーンを進めるのも駄目である。

65…Rb8 66.a7 Ra8 67.g7 Ke6 68.Kxf3 Kxe5 69.d7

 3個のパスポーンが好位置のルークによって昇格を阻まれて無力になっている奇妙な光景である。

69…Kd6 70.Kf4 Kxd7 71.Ke5 Kc6 白投了

 ストリプンスキーはこのような惜敗のせいで初戦のポカから巻き返せず、ナカムラとの通算成績も改善することができなかった。これで全米選手権戦では白でナカムラに3連敗になった。

 第9回戦でナカムラがレンダーマンとも100手超の試合をしたときカームスキーは首位に躍り出た。その試合では52手目から91手目までポーンが前進せず駒を取ることも起こらず駒が当てもなく盤上をさまよっているようだった。最終的に引き分けになりカームスキーもセイラワン相手に猛烈な襲撃を決めて、ナカムラが大会中初めて首位を譲り両者が第10回戦で激突することになった。

 カームスキーのセイラワンとの試合は一番最初に勝負がついた。2時間ちょっとで、次の相手のナカムラより5時間早く仕事を終えた。ナカムラがレンダーマンとのマラソン引き分けを終えた後はカームスキーの定跡研究の優位が大きかった。チャンピオンは試合後の興奮から頭を冷やしたいと言って少し飲みに外出しカームスキー戦の研究はほとんどしなかった。

 「ひどくやっつけられることに慣れていなかった」とセイラワンは言った。勝ったカームスキーは7/9となりナカムラに半点差をつけて彼との第10回戦に臨むことになった。ナカムラはその試合に勝ったあと第11回戦の対セイラワン戦で 2.f4 を指し優勝を決定づけた。セイラワンはこれまで一度もその手を指されたことがないと言った。そしてまた布局で対抗策に悩んだ。持ち時間が煙のように消えていき、ナカムラの対角斜筋での攻撃に耐えられなくなったときには中盤戦を終えられなくなっていた。

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(362)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 チェスプログラムの「思考」過程を明らかにするために私の選んだ試合はボトビニクも解説している。(その解説が初めて「Chess Life」誌に掲載されたとき、米国出版界に対するボトビニクの最初の寄稿になった。)

フィッシャー対タリ
ブレッド、1961年
(M.M.ボトビニクの解説の部分は太字で示す)

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 e6 5.Nc3 Qc7

 L.パウルセン流のこの防御は近年また人気が出てきた。この捌きの明白に意図するところは白に 6.Ndb5 Qb8 とさせることにある。7…a6 8.Nd4 が必然で、すぐに 5…a6 と指したのと大体同じ局面になるが、違いは黒のクイーンがb8にいる方が有利だということである。

6.g3!

 非常に巧妙で意図を隠した着想である。白は白枡ビショップをg2に展開するつもりのように見えるが、実際は別の作戦を考えている。

6…Nf6

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(361)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 本書で当初意図したことの一つはフィッシャーと元世界チャンピオンたちをコンピュータの指し手と競わせることにより比較してみることだった。しかし何百もの試合を分析したあと、最強のプログラムでさえまともなチェスを指せそうにないのでこのような比較は無意味であることが明らかになった。しかしこの試みからある魅力的な比較が得られた。重要な局面でコンピュータにもっと時間を使わせて手の「探索」を広げることにより、フィッシャーとコンピュータの両方によって指される手の割合がかなり大きくなった。そしてこの実験から浮き彫りになったことはフィッシャーと例えばラスカーの比較でなくフィッシャーとプログラムとの思考過程だった。

 コンピュータは多くの選手(あとで出てくるがラルセンでさえ)が盲点となるような手を「読む」。コンピュータは手の選択のためにはありのままの、先入観のない、出費に見合う以上の価値を得る原理を持っている。これはよく限界にもなり強みにもなる。実際ボトビニクのプログラムはまったくの狙い志向で、狙いは最終分析では純粋な実利主義だった。彼の方式では大局観は狙いの可能性の見地で定義されていた。本書を通して見られるようにフィッシャーの棋風の一般的な特徴づけが可能ならば、彼の指し方は狙いによってまとめられた一連の戦術の実行によくなるということである。ボトビニクのプログラムは米国では知られていずこの分野で情報や研究の交流がほとんど行なわれてこなかったということは残念である。

(この章続く)

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布局の探究(18)

「Chess Life」1991年2月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (2)9…Na6
B.トート対E.モルテンセン
テッサロニキ・オリンピアード、1988年

 これは黒の一番新しい応手である。黒は駒を展開してc7の地点を守り 10…c6 で白のナイトを追い立てることに期待をかけている。私の考えでは 9…Na6 が黒の最も信頼できる応手である。

 今のところ黒の2個の駒が場違いになっている。つまり Na6 は盤端にあり、Rd8 は離れ駒であるだけでなく Bg5 による釘付けの目標にされる可能性がある。これらの要素は一時的なので、白は優勢を望むならば迅速に打って出なければならない。

10.Rd1!

 10.O-O-O の方がもっと理にかなっているように思えるが、これには戦術的な問題がある。10.O-O-O Bg4 11.Bg5 Rd6 12.Nxf6+ Bxf6 13.Rxd6 のあと黒に挿入手の 13…Bxg5+ という手がある。黒は 10…Be6 でも1989年アールボルグでのラルセン対モルテンセン戦では 11.Nxf6+ Bxf6 12.Rxd8+ Rxd8 13.a3 で不満のないほぼ互角の形勢になった。

10…Bg4?!

 しかしここではこの手はそれほどうまくいかない。モルテンセンは代わりに 10…Be6 11.Bg5 Bxd5 12.cxd5 Nc5 13.Nd2 h6 14.Bxf6 Bxf6 15.Rc1 Be7 を推奨し、この局面を互角としている。もっとも私には白がc列での圧力で少し優勢のように思われる。

 このでの最善手は 10…Re8 のようである。そのあとは 11.Bd3 c6 12.Nxf6+ Bxf6 13.a3 から 14.c5 で白は優勢ではあってもほんのわずかである。

11.Bg5! Rxd5

 黒はこの犠牲で十分な代償を得るわけではないが、場違いのナイトとルークのせいで他にほとんど選択肢がない。代わりに 11…Rd6? は 12.Nxf6+ で負けるし、11…Nxd5?! は 12.Bxd8 Ndb4 13.Be7 で失敗する(モルテンセン)。

12.cxd5! Nxe4 13.Be7 Nd6 14.Bxa6 bxa6 15.Rc1 e4 16.Nd2 Re8 17.Rxc7! Nb5 18.Rb7 Bc8 19.Rb8 Be5 20.d6 Nxd6 21.Bxd6 Bxd6 22.Ra8

 黒の最善の応接にもかかわらず白がわずかな戦力の優位を維持している。22…e3 は 23.Ne4! で駄目なので(モルテンセン)、黒はキング翼でのポーンの暴風を狙わなければならない。

22…Bc5 23.Nc4 f5 24.O-O f4 25.Re1 e3 26.fxe3 fxe3 27.Re2 Kf7 28.h3 h5 29.Rb8 g5?

 黒は 29…Re4 で 30.b4 には 30…Be6! と応じられるようにしなければならなかった。

30.b4 Be7 31.Rxe3 Rd8 32.Ne5+ Kf6 33.Nd3?

 白は時間に追われて勝負をずっと難しくしてしまった。33.Nc6 Bd6 34.Nxd8 なら簡単な勝ちだった。

33…Bf5 34.Rxd8 Bxd8 35.Nc5? Bb6 36.Kf1 a5 37.a3 axb4 38.axb4 a5 39.Ra3 Ke5 40.Rxa5 Bxa5 41.bxa5 Kd5 42.Nb3 h4 43.Kf2 Bc8 44.Kf3 Kc4 45.Nd2+ Kb5 46.a6! Kxa6 47.Nc4 Bb7+ 48.Kf2 Bd5?

 もう少しで目標達成という所で黒はナイトによる両当たりにはまった。モルテンセンは次の手順で引き分けになるとしている。48…Ka7! 49.Ne5(49.Nd6 Bd5)49…Bc8! 50.Nf3 g4

49.Nd2! Kb6

 意図していた 49…Be6 50.Ne4 g4 は 51.Nc5+ にしてやられる。

50.Nf3 g4 51.hxg4 Be6 52.Ne5 Bd5 53.g5 Be6 54.g6 Kc5 55.g7 Kd5 56.Ng4 Ke4 57.g8=Q Bxg8 58.Nf6+ Kf4 59.Nxg8 Kg4 60.Nf6+ Kf5 61.Nd5 Kg4 62.Ne3+ 黒投了

 62…Kf4 は 63.Nf1 Kg4 64.Nh2+ Kf4 65.Nf3 Kg4 66.Nxh4! で白勝ちのポーン収局になる。

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2012年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(360)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み(続き)

 今のプログラムの実力がクラスAかクラスB程度であることはかなり広く受け入れられている(米国チェス連盟のレイティング方式では上の方から「マスター」、「エキスパート」、「クラスA」、・・・という具合になっている)。平均的な選手はマクハックとして知られる何年か前のマサチューセッツ工科大学のプログラムが地方の大会で中頃のあたりの成績に終わっていたことににんまりする。またはもっと遅いマシンで動作するソ連のプログラムがスタンフォード大学のプログラムを4番勝負で難なく打ち負かしたこともそうである。あるいは毎年開催される全米コンピュータチェス選手権戦で、最初の3年間は連続して「チェス3.0」、「チェス3.5」、「チェス4.0」と呼ばれたノースウェスタン大学のプログラムが優勝したこともそうである。上達しているのである!

 ボビー・フィッシャーのような選手を何らかの純粋に数学的な基準で評価する試みには明らかに強い誘惑にかられる。ミハイル・ボトビニクは塀の両側からチェスのプログラミングの可能性を最も専門的に見ていたが、彼に負けず劣らずの権威者も今世紀の終わる前にコンピュータが世界チャンピオンになると主張している。フィッシャーのような選手はどのようにこのモンスターに立ち向かうであろうか。

(この章続く)

2012年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(359)

第7部 チェスの論理(続き)

第35章 読み

 コンピュータがチェスを指すのを見ていると、その主要な機能は道楽好きの大学生にまがい物のパチンコ機のゲームを与えている印象を受ける。作戦を練り構想を立て間違いを修正し経験から学ぶことのできる考える機械の夢は背景にあるままである。そしてこの夢はこの国と外国の何十もの大学でのコンピュータ使用時間とプログラム開発における大きな投資を続ける魅力となっている。たぶん意思決定の過程のモデルとしてみんなチェスを研究している。それにもかかわらず今日までの結果は芳しくなく一貫性に欠け好奇心の価値以外にとってはあまり有望でない。

 デイビド・リービが指摘したように、プログラマーは次の3段階からなる現実を直視しないやり方を採用してきたように思われる。「(1)規則に合ったチェスを指すプログラムを書き・・・(2)そのプログラムと試合をし・・・(3)チェスプログラミングに飽きたらやめる・・・」そして段階(2)に戻る。この分野の研究の中心となるものは個別に研究することに満足することにあるようである。20年以上前に出された基本的な提案(シャノンの提案のように手のいろいろな側面に価値を与えるために経験的な手続きを確立する)は聞き入れられなかったようである。ほとんどのチェスのマスターはプログラマーでないし、その逆も同じである。

(この章続く)

2012年10月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(47)

「Chess Life」2004年7月号(3/4)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スペイン4ナイト試合(続き)

戦型B)1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Nd4

 この戦型はポーンの犠牲を伴うが黒は駒の働きが良くなる。

5.Ba4

 5.Nxd4 は白に有利をもたらさず 5…exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 で引き分けっぽい収局になる。

5…Bc5

 5…Nxf3+ は中央での戦いを放棄するのが早すぎる。6.Qxf3 c6(6…Be7 は 7.Qg3 が不快である)7.O-O d6 8.d3 となって白が好形である。このあと 8…Be7 に 9.Nd5 が釘付けのために可能である。黒がキャッスリングしたあとの白の基本作戦はc3のナイトをe2からg3を経てf5に移すことである。

6.Nxe5 O-O

 黒は 6…Qe7 7.Nd3 Nxe4 でポーンを取り返すことができるが、8.O-O Nxc3 9.dxc3 Ne6 10.Nxc5 Qxc5 11.Be3 となって双ビショップの優位のために白が優勢である。

7.Nd3

 自然な 7.d3 なら黒は 7…d6 8.Nf3 Bg4 で釘付けにして主導権を握る。

7…Bb6 8.e5

 意外なことに通常の 8.O-O は 8…d5! で黒が好調になる。9.e5 Bg4 10.Qe1(空きチェックがあるので白は 10.f3 で黒ビショップの利きを止められない)10…Ne4 11.Nxe4 Ne2+ 12.Kh1 dxe4 で黒が優勢である。途中 9.Nxd5 は 9…Nxd5 10.exd5 Qxd5 11.Nf4 Qg5 12.d3 Bg4 で黒の攻撃が強力で形勢有利である。

8…Ne8 9.Nd5

 9.O-O は 9…d6 10.exd6 Nf6 11.dxc7 Qd6 で黒の攻撃が強力になる。

9…d6

 もっと最近の試合でも 9…c6 10.Ne3 d5 11.c3 Ne6 12.Bc2 d4 で黒がポーンの十分な代償を得た(ポトキン対アクス、2002年)。

10.Ne3

 10.O-O は 10…dxe5 11.Nxb6 axb6 でa4のビショップが浮いていて黒が良い。

10…Qg5 11.exd6 Nxd6

 黒にはポーンの代償があり駒の働きも非常に良く、白は展開が遅れている。

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2012年10月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(358)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 たぶん今から80年後にはフィッシャー対スパスキー戦のこれらのそして他の謎は熱心な歴史家によって解明されているだろう。華やかな1890年代の劇的なサンクトペテルブルク大会での有名なピルズベリー対ラスカー戦第4局がそうだった。ラスカーの妙手筋(第31章「眼目手」を参照)の免責条項を明らかにしようとする試みが最近次の局面の論争を引き起こした。白キングが中央方面に逃げようとするとこの局面になる。

ピルズベリー対ラスカー
 23…fxe6(参考図)
サンクトペテルブルク、1895-96年

 黒はいつでも …Bc3+ で白キングをf列に追いやることができるので 24…Rf8 が狙いとなっている。主手順は次のとおりである。

24.Qh3 Bc3+ 25.Kf1 Rf8+ 26.Bf3 e5 27.Qg3

 こうしないと …Bd4 に受けがない。

27…e4 28.Qf2 Qf4

 これで黒の圧力が大きい。手筋の正当性はラスカーがルーク損で指しているこのような手順にかかっている。そしてラスカーは本局を自分の最高の試合と考えていたので、未解決の事項をすべて集めて「それは成立する」ときっぱり言えるようにすることは価値がある。

(この章終わり)

2012年10月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(357)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 フィッシャー対スパスキー戦の他のいろいろな「未解決の」局面は本書の他の個所でも取り上げている(そして解決したと自負している)。特に興味津々の局面をここに取っておいた。試合中と封じ手再開後に誰もどちらが勝つか確信がなかったようである。私にはフィッシャーがポーン得にもかかわらず相手が手を繰り返し暗に引き分けを提案しているのを見て喜んだように思われる。

フィッシャー対スパスキー
 44.Qh6

 白は最下段に重大な問題を抱えている。クイーン同士が交換になれば黒はeポーンを突き進めていって楽に勝てる。白の狙いは明らかに 45.Qe3+ だが、黒は 46.Qh6 でまた手が繰り返しになることを除いては 45…Rd4 で何も恐れるものがない。実戦は次のように進んだ。

44…Qf3 45.Qh7

 たぶん白の狙いは 46.Ra7 で黒クイーンを引きあげさせることにある。さらに手が繰り返されたあと合意の引き分けになった。しかし黒は次の手で勝ちを狙ってみてもよかった。

45…Qd1!

 クロギウスはこの手に悪手記号を付けたが、黒は罠に「はまって」勝つ。

46.Rxf6+ Qxf6 47.Rxd1 Qf3!

 白は2ポーン得だけれども弱い最下段のせいでクイーンとルークがひどい制約を受けている。

48.Rb1

 白クイーンは 48.Rd6+ Rc6 49.Rxc6+ Qxc6 50.Qb1 e4 のあと自分のキングの子守を務めなければならず、ポーン競争でどちらが勝つかを見極めるのは難しくない。

48…e4 49.Qh6+ Rc6 50.Qg5 Qd3!

 そして黒は少々のチェックをしのいだあとポーンを7段目に進めて …Qxb1+ とすればよい。スパスキーがどうしても勝ちを必要とし彼と彼の「チーム」が図の局面のあたりから夜通し研究する恩恵を得ていた時に以上の可能性が存在していただけになおさら驚きである。

(この章続く)

2012年10月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(356)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 白は 41.Be7 または 41.Bd4 の方がはるかに勝ちを望める。どちらの手もbポーンをビショップで守る意図である。意見の違いについて言えば 41.Be7 の方が特に骨の折れるゴルディオスの結び目である。

41.Bd4 e5 42.Bc3 f4 43.exf4 exf4 44.Kg4 Kc5 45.Ba5! g5!

 これで白キングは進展を図れない。46.Kxg5 と取ると 46…f3 で白のポーンが取られてしまう。41.Be7 の方も参考になる。

41.Be7 e5 42.Kg5 f4 43.exf4 exf4 44.Kxf4 a5!

 この局面と実戦の負けの局面との違いはごくわずかである。実戦では白のビショップがf2にあった(黒のe4のポーンは意味がなかった)。そして黒は白のaポーンを …a5 と …Kc4 で攻撃できなかった。というのは白キングが黒キングのあとをついてきて黒キングをa4の地点に閉じ込めるからである。そしてビショップが間合いをとって(Bc5、Bd6)黒のgポーンを死ぬ運命にさせる。だから実戦ではフィッシャーは黒キングを遠ざけるためにgポーンを犠牲にしようとした。しかし白キングはそれでもb7の地点に行く余裕があった。ここではビショップがそれでも勝ちをもぎ取る。

45.Bh4 Kc5! 46.Bf2+ Kb4 47.Ke5 Kxa4 48.Kd6 Kb5 49.Kc7 Ka6 50.Bg3!

 これで黒のaポーンとgポーンを止める。

(この章続く)

2012年10月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(290)

「Chess Life」2012年8月号(7/8)

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全米選手権戦(続き)

シチリア防御ドラゴン戦法ユーゴスラビア攻撃 [B76]
GMヒカル・ナカムラ (2775)
GMレイ・ロブソン (2614)
2012年全米選手権戦 第3回戦
(続き)

 37.Ke3

37…Re1+?

 このチェックは白を助けるだけである。正着は 37…Nc3! で、そうなれば黒駒はすべて連係がよくとれている。ナイトはいくつも良い働きをしている。まず第一に …Nd5+ の両当たりのせいでe7の取りを防いでいる。また黒ルークが少しチェックをかけたあと、このナイトはポーンをe2に突き進めるのを助けるかd5に戻ってe7の地点を支え …e4-e3 突きを準備する。38.Rxa7(38.Rh7? Rg3+ 39.Kf2 Rf3+ 40.Kg1 Nd5 は黒駒の大きな活動性を示している。黒はここからもう勝ちにいくかもしれない)38…Rd1 39.Kf2 Rd3!?

白はここで強制的に引き分けにすべきだろう。40.Rh7(40.Kf1 Rd1+ 41.Kg2 Nd5 は白にとって危険かもしれない)40…e3+ 41.Kg2 e2 42.Rhxe7+ Bxe7 43.Rxe7+ Kf8 44.Kf2

44…Rh3(44…Rd1 45.Rxe2 Nxe2 46.Kxe2 も簡単な引き分けである)45.Ke1 Nxa2 46.Rxe2 Nc1 47.Rf2+ Ke8 ポーンがすべて盤上からなくなる。

38.Kf2 Rc1 39.Rh7 Rc2+

40.Kg3?

 ナカムラはこの手をほとんど即座に指したが実際は勝ちを投げ出すところだった。ここは 40.Ke3 が正着だった。40…Nc3 41.Ne5! で黒は完全に敗勢である。41…Nd1+ 42.Kf4 Rf2+ 43.Kg4 Ne3+ 44.Kh3

で白が勝っている。

40…Rc3+?

 不運なことにここでは加算時間で指していた。そして最後の1秒でこの愚かな手を指した。40…Nc3! 要点は 41.Nxe7 が 41…Be5+ のせいで狙いになっていないことで、そのためナイトを戦いに引き戻すことができる。41.Rhxe7+ たぶん最善手。(41.Rxa7 Nd5 黒はここでは何も危険なことはない。だから白は引き分けを目指すべきである。41.Nxe7?? Be5+ 42.Kg4 Rg2+ 43.Kh4 Rh2+ 44.Kg5 Rxh7)41…Bxe7 42.Rxe7+ Kf8 43.Rxa7 Ne2+(43…Nxa2 も引き分けになるはずだが 43…Ne2+ の方が簡単である)44.Kg4 Rc3!

黒は引き分けるための反撃策が十分ある。例えば 45.Ne5 Rg3+ 46.Kh4 g5+ 47.Kh5 Nf4+ 48.Kh6 e3 49.Ra4 e2 50.Re4 Rg1 51.Nf3 Rf1 52.Kxg5 Rxf3 53.c6 Nd5 54.Rxe2

これで引き分けになるはずである。

41.Kg4

 ここで完全に負けになっていることに気づいた。まともな手が何も見つけられなかったが、投了したくなかったのでただ指し続けた。

41…e3 42.Nxe7 e2

 ここで私は 43.Rb8+ のような普通の手を予想していた。そして白はe2ポーンを止めて簡単に勝つ。ナカムラがナイトの上に手を持ってくるのを見たとき私はドキドキした。そして彼をその手を指した。

43.Nd5!!

 この好手一つに好手記号を二つ付けた。43.Rb8+ Kd7 44.Nxg6+ Kc6 45.Re8 で勝つのは平凡なやり方である。

43…Rg3+ 44.Kf4 Bg5+

 44…Be5+ は 45.Kxe5 から 45…Re3+ 46.Kd6 で負けることは読んでいた。しかし盤上にビショップがあってもこれが成立するとは思っていなかった。

45.Ke5 e1=Q+ 46.Kd6

 すごい局面である。黒はクイーン得だが Rh8+ と Rb8+ の狙いに対して完全に負けになっている。局面がスタディみたいになっているのは面白いが、これはスタディではない。残念ながらこちらが負けの側になっていた。(ナカムラはカスパロフとの研究の一部がスタディになっていたのでこの局面はなんでもなかったと言った – FMマイク・クライン)

46…Bf4+

 46…Rf3 は 47.Rb8+ Bd8 48.Nc7+ で黒が詰まされる。46…Be7+ は黒駒がもう少しあったら最善手になるところだがここでは 47.Rhxe7+ Qxe7+ 48.Rxe7+ で完全に黒の負けの収局になる。

47.Nxf4 Rd3+

 47…Qd2+ は 48.Nd5 とナイトが戻って何もかも防いでいる。

48.Nxd3 Qg3+ 49.Ne5 黒投了

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(この号続く)

2012年10月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(355)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 しかし黒がこの作戦計画を実行できるかどうかはいく人もの解説者たちの間で喧々諤々(けんけんがくがく)の論争を引き起こした。ボトビニクは「もっと手ごわいのは 40…Kd5 41.Bf8 g6 だ・・・分析の結果黒は既に敗勢だと確信した」と言った。チェスが科学ならば「もっと手ごわい」というような手の特徴づけの余地がどこにあるだろうか。実際黒はこの手順で引き分けるのに苦労がほとんどいらない。

40…Kd5 41.Bf8 e5!

 これが要点である。黒はキング翼のポーンを救う必要はなく、ただ白のeポーンを交換でなくせばよい。

42.Kg5 f4 43.exf4 exf4 44.Kxf4 Kc6

 もし白のビショップがgポーンを取っていたらこの手は 44…Kc5 に変わって同じ結果になる。つまり白のaポーンが前進し局面が固まる。

45.a5 Kd7

(この章続く)

2012年10月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(354)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 だからフィッシャーは 32…Ke7 に最後の期待をかけていた。そしてほとんど必然の手順のあと(白キングはh4の地点を通ってキング翼への侵入を目指さなければならなかった)フィッシャーは封じ手のポカで次の局面をむかえた。

スパスキー対フィッシャー
 40…f4

 このポーン突きは白の最後のキング翼ポーンを交換によりなくさせるので強手のように見える。しかし黒キングをクイーン翼から1列遠ざけてもしまう。41.exf4 Kxf4 42.Kh5! で白は黒ポーンを取ってしまうことができた。なぜなら白キングがc7の地点に行く方が黒のgポーンを突き進める反撃よりも速いからである。フィッシャーにはここで引き分けにする唯一無二の可能性の 40…Kd5 があった。(ということはこれが本当なら解説者たちは前に戻って悪手記号と好手記号とを変えなければならない。フィッシャーのビショップ切りは解説者たちが烙印を押そうとした「初歩的なポカ」というよりも崇高な冒険にすぎなくなる。)

 40…Kd5 の狙いは白のキング翼の最後のポーンを自分のポーン群と交換させて黒キングに白のaポーンを攻撃する余裕を得させることである。そしてこの白ポーンをa5に進ませたあと黒キングはc8の地点に行きそこに居座る。その局面は教科書どおりの引き分けの一つである。白のビショップとキングは黒キングを隅から追い出せないだけでなくc8の地点から追い出すこともできない。これは本章の二番目の段落で述べた一般原則の副次的な事例である。

(この章続く)

2012年10月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(17)

「Chess Life」1991年2月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (1)1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be3 e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nd5 Nxd5
ラルセン対ヒューブナー
レニングラード・インターゾーナル、1973年

10.cxd5

 めざわりな Nd5 を切って落とすのは気持ちがよいがその陰の側面はすぐに明らかになる。即ち白のc4のポーンが中央に移り、重要な白枡ビショップに素晴らしい斜筋が開く。黒はd5の拠点にすぐに挑まなければならない。さもないと展開が完了できなくなる。さらにc列での白の圧力が非常に厄介になってくる。

10…c6 11.Bc4 cxd5

 ここにラルセンの最初の要点がある。つまりf1のビショップが1手でこの地点に来る。d5のポーンを取るのは実戦で黒に良い結果が出ていない。白ビショップが盤面全体を圧している。しかし黒には互角へのはっきりした道筋がないのではないかと思う。定跡は 11…b5 12.Bb3 Bb7 13.Rc1 a5 で良しとしている。1989年コペンハーゲンでのラルセン対C.ハンセン戦では 14.a3 a4 15.Ba2 b4 で黒に十分な局面になった。14.Bb6!? の方がもっと厳しかったのではないかと思う。というのは 14…Rd7 なら 15.a4、14…a4 なら 15.dxc6! だからである。

12.Bxd5 Nc6

 この手はクイーン翼のポーンを弱めるが 12…Na6?! はもっと悪い。13.O-O-O! Rd7 14.Kb1 h6 15.Rd2 Kh7 16.Rc1 となって1981年リエージュでのギテスク対マリアンカイ戦では白が盤上を支配した。

13.Bxc6!

 13.O-O-O は 13…Bd7 から 14…Be8 で黒に不満のない局面になる。

13…bxc6 14.O-O f5 15.Rfc1 a5 16.Rc5 a4 17.Rac1!

 白の優位はわずかではあっても確実である。駒は全部よく利いていて黒のポーンは盤上いたるところ攻撃にさらされている。白にとっては申し分のない状況で、危険を冒すことなく勝ちを目指すことができる。ラルセンはここで 17…fxe4 を黒の最善手としてあげた。

17…Rb8?! 18.Nxe5 Bxe5 19.Rxe5 Rxb2 20.h4! Rb4

 代わりに 20…Rxa2 なら白は黒の弱体化したキング翼に対し 21.Bg5! Rf8 22.Bh6 Rd8 23.Re7 Rb2 24.Rxc6! で決定的な攻撃を仕掛けることができる。本譜の手はルークを防御のために引き戻した。

21.Bg5 Rf8 22.Bh6 Rd8 23.Re7 Rxe4 24.Rg7+ Kh8 25.Ra7!

 試合の結末は非常に興味深いが、本稿の目的を越えるのでここからの解説は最小限にとどめる。

25…Kg8 26.f3 Re6 27.Rc4 Rd7 28.Rcxa4 Kf7 29.Rxd7+ Bxd7 30.Ra7?!(正着はすぐの 30.Ra8! – ラルセン)30…Rd6 31.Ra8 Ke6 32.Rh8 c5?(32…Rd4! が必要 – ラルセン)33.Rxh7 Bb5 34.Ra7 Ra6 35.Rxa6+ Bxa6 36.Kf2 Bb5 37.Ke3 Ke5 38.Bg7+ Ke6 39.Bf8 Kd5 40.Kf4 c4 41.Bg7 Ke6 42.Bc3 Bd7 43.Kg5 Kf7 44.a3! Bc8 45.a4 Bd7 46.a5 Bc8 47.Bb2 Ba6 48.h5! gxh5 49.Kxf5 黒投了

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フィッシャーのチェス(353)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 しかし以上のことはすべて無駄である。白は勝つためにはeポーンを盤上に残しておくだけでよい。白は 37.exf5 の代わりに単に 37.fxg4 fxg4 38.e5! と指す。黒キングは締め出される。白は前述のようにビショップをg1に持ってきて、何もかも取りまくる。黒キングに対しては白キングはビショップで手待ちができるので必ず見合いに勝つ。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(352)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目(続き)

 しかしソ連の有名なチェス雑誌「チェス」は黒がここで 32…g5 と指せば引き分けにできたと主張した。例えば 33.Kg2 g4 34.Kxh2 h3 で白キングが縛り付けられる。白は1手の差で間に合わないようである。35.f3 f5 36.e4 Ke7 37.exf5 exf5 38.fxg4 fxg4 で次の局面になる。

スパスキー対フィッシャー
 38…fxg4(参考図)

 あとは手数を数えるだけの問題である。白はキングをf1に置きビショップをe3からg1に回しキングをf4に持ってきて黒のgポーンを取る。この間に黒は(白の Be3 に対して)ポーンをb6に突きキングをd6、d5、c4に持ってきて白の2個のポーンを取らなければならない。それには両者とも8手かかる。そのとき黒キングはa3に、白キングはg4にいることになる。黒はポーンを突くためにはポーンをh2に突いて白ビショップに取らせて斜筋をそらさなければならない。これで次の局面になる。

スパスキー対フィッシャー
 47.Bxh2(参考図)

47…b5 48.Bg1 a5 49.Kf4 b4 50.Bc5 Kb3! 51.Ke3 Kc2!

 しかし 51…Kc4 は駄目で 52.Bd4 a4 53.g4 a3 54.g5 b3 55.g6 b2 56.g7 b1=Q 57.g8=Q+ でこのあとクイーンを素抜かれる。51…a4 でも 52.g4 a3 53.g5 a2 54.Bd4 Kc2 55.g6 b3 56.g7 b2 57.g8=Q でどちらのポーンがクイーンに昇格してもすぐに詰まされる[訳注 57…a1=Q で詰みがなく引き分けです]。本譜は白がクイーン昇格するとき黒もクイーン昇格するので引き分けである。白は黒のaポーンに対し「教科書」勝ちするためには1手遅い。

(この章続く)

2012年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(46)

「Chess Life」2004年7月号(2/4)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スペイン4ナイト試合(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5

 ここで黒には主要な選択肢が三つある。

戦型A)4…Bc5

 代わりに 4…a6 は 5.Bxc6 dxc6 6.Nxe5 Nxe4 7.Nxe4 Qd4 8.O-O Qxe5 9.d4 Qf5 10.Re1 で白が優勢になる。

 意外にも 4…Bd6 は見た目ほど悪くない。この手は黒のdポーンを進めなくし、そのためc8のビショップの展開が遅れる。しかし最近のいくつかの試合ではキャッスリング、…Re8、ビショップのf8への戻り、そしてdポーン突きで黒が問題のない局面になった。

5.O-O

 白は 5.Bxc6 dxc6 6.Nxe5 でポーン得することはできない。なぜなら 6…Bxf2+ 7.Kxf2 Qd4+ で黒が戦力を取り返し有利な局面になるからである。

5…O-O

 5…d6 はc6のナイトが釘付けになり 6.d4 突きを許すので良くない。

6.Nxe5

 白はこの面白い一時的な捨て駒で主導権を握ろうとしている。代わりに 6.Bxc6 dxc6 7.Nxe5 は 7…Re8 8.Nf3(8.Nd3 なら 8…Bg4 9.Qe1 Bd4 で白はe4のポーンを守りきれない)8…Nxe4 で黒がポーンを取り返す。

6…Nxe5 7.d4

 この両当たりで白は駒を取り返す。

7…Bd6

 黒は双ビショップを残そうとしている。

8.f4

 この手が白の手筋の核心である。8.dxe5 ですぐに駒を取り返すよりも意欲的である。

8…Nc6

 8…Neg4 も 9.e5 Bb4 10.exf6 Nxf6 11.f5 で白駒の動きが活発である。

9.e5

 またしても両当たり。

9…Be7 10.d5

 またf6のナイトを取り返すのを遅らせた。白は広さの優位を得るためにさらに進攻している。

10…Nb4 11.exf6 Bxf6 12.a3 Bxc3 13.bxc3 Nxd5 14.Qxd5 c6 15.Qd3 cxb5 16.f5 f6

 16…Re8 は 17.f6 g6 となって黒はキング翼の黒枡に多くの弱点を抱えることになる。

17.a4 bxa4 18.Rxa4

 白には十分な代償がある。もっとも1991年イングランドでのナン対ホッジソン戦ではこのあと白がいくつかの悪手を出して負けた。白は展開に優り駒がよく利いている。白のルークはキング翼に展開してクイーンの攻撃を助けることができ、ビショップは黒枡を支配している。

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2012年10月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(351)

第7部 チェスの論理(続き)

第34章 ゴルディオスの結び目

 チェスは芸術か科学かという議論があるときはいつも、決定的な分析に背くような何千もの局面があるという事実思い起こすことが役に立つ。そしてこれらの局面は必ずしも難解な中盤の局面やつかみ所のない布局の局面とは限らない。シェロンはかつて全編が双方にキングと2ポーンのある少数の似たような局面を主題とする本を出版したことがある。百万人に一人もその分析を理解できないことは確かだろう。

 慎重な解説者がそのような状況で好む言葉は「可能性」である。1972年世界選手権戦第1局からの次の局面でフィッシャーはたぶん自分のビショップが閉じ込められるかもしれないということは分かっていたのだろう。しかし彼は戦える可能性があることを知っていた。隅の枡にビショップが利いていないなら端ポーンとビショップは敵キングを隅から追い出すことができないというような明快な原則が成立するときはチェスは科学である。しかし色々な原則が混沌とした状態にあり、個別の場合に原則間の特定の関係が見られるときは芸術である。

スパスキー対フィッシャー
 29.b5
世界選手権戦第1局、レイキャビク、1972年

29…Bxh2 30.g3 h5 31.Ke2 h4 32.Kf3 Ke7

 ここでは誰もがフィッシャーの読みを次のように推測した。たぶん 32…h3 と指すつもりで、白キングがそのポーンをとっている間に(33.Kg4)ビショップがg1、f2そしてe1と通って逃げると。この読みの欠陥はそれでも白が Bd2 で黒ビショップを閉じ込める手が間に合うことで、実戦とほぼ同様の局面になる。

(この章続く)

2012年10月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(350)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

 この最後の可能性、即ち白の最後のポーンがクイーンに昇格する地点から黒キングが離れることができるということから初手に戻って考えてみる。白が 1.axb6 の代わりに 1.cxb6 と指していたら白の全手順は同様だが9手目だけが違ってくる。

9.a7+ Kxb7 10.a8=Q+ Kxa8 11.b7+ Ka7 12.b8=Q+ Kxb8

 これで手止まりである。何が違ったかというと黒キングが9手目で盤端を越えて逃げることができなかったということである。従って起手は 1.cxb6 ということになる(中央から離れるように取る)。

 しかし最後に(1…Kb8 の代わりに)1…g3 ではどうなるかを見てみなければならない。それでも白は手止まりの局面にできるのだろうか。

2.Kg2 Kc8 3.a6 Kb8 4.b7 Ka7 5.b6+ Kb8 6.Kh1

 6.Kf1 なら 7…f3 から …f2 で黒が勝つ。

6…f3 7.Kg1 f2+

 あとは主手順のように黒の勝ちになる。黒が最初にfポーンを突くとどうなるのだろうか。1…f3! なら 2.Kf2 が余儀なく、白ポーンが可能な限り前進したあと白はキングを引かなければならず黒が …g3 から …f2 と突ける。白キングがf1の地点にいては手止まりにならない。なんということだろう。導入手順は意味がなかった。このスタディは最初の手順の 4…Kb8 の局面を問題図として修正しなければならなかった。それなら白は既述のように引き分けにすることができる。しかし初手の惑わせる選択は失われる。最初の局面のクイーン翼の駒配置を単に変えて、黒キングをa8、黒ビショップをb7、そして白ポーンをa6、b5、c6に配置すればこのスタディの起手のジレンマは解決できる。どちらのポーンでビショップを取ったらよいか、そしてその理由は?[訳注 それでも黒勝ちのようです]

(この章終わり)

2012年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(349)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

 多くの布局の戦法は真価でなく結果ゆえに批評されてきた。勝っていたと思われる局面と、結果を変えることができたはずの序盤の些細な変化との間で、「失われた鎖」の威力について手順が絶えず再評価されている。

 創作収局の起手は理想的には最終局面のわずかな変化しだいである。詰みの状況は初手を物語っている。つまり「三つ児(ご)の魂百まで」である。次のスタディで白は明らかにどちらのポーンで取るかを迫られている。

R.バーガー作(1969年)(「The Problemist」所載)
 白先引き分け

 背景にちょっと触れればこの収局の核心が分かってくる。白が 1.c6+ と指すと 1…Kc7 2.a6 Kb8 で手番の立場に置かれる。他翼でどちらも手を捨てることができなければ手番の方が負けることは周知のとおりである。そのような局面はグレコまでさかのぼるが、長年に渡ってチェスのすご腕たちによって用いられてきた。彼らは黒ポーンがそれほど進攻していない局面でどちら側にもこだわらずに、白でそれらのポーンを全部取れることや黒でクイーン昇格できることを示している。(上記の導入手順のあと)黒の手番なら 3…g3 4.Kg2 と指すわけにいかないし 3…f3 4.Kf2 h3 5.Kg3(3…h3 でも同様)と指すわけにもいかない。しかし白の手番なら次のように負けになる。3.Kg2 g3 または 3.Kf1 h3 でどちらの場合も黒ポーンが全部6段目に到達しさらに突っ込んでくる。

 だから次の手を試してみよう。

1.axb6

 aポーンで取るべきかcポーンで取るべきかの問題は当面棚上げしておこう。このような対称の配置では違いがなさそうにも思われる。

1…Kb8

 既に見たようにどちらも盤の右側には触れられない。しかしこれはあとで確かめなければならない。

2.c6 Kc8 3.b7+ Kc7

 もちろん 3…Kb8 は 4.b6 で黒が手詰まりに追い込まれる。

4.b6+ Kb8

 それで白はどうするか。おかしなことに白はキングをh1の地点に置いて手止まりの局面を出現させることができる。ただし黒のhポーンを先に進ませることによってのみである。

5.Kf1! h3

 最初の局面の解説で …f3 は Kf2、…g3 は …Kg2 と応じられることを既に見ている。従ってこの手は絶対である。

6.Kf2!

 これも絶対である。これから現れるように白は …g3 のあとでのみ Kg1 と指せるようにしなければならない。…h2 も以下に示す変化に転移する。

6…g3+ 7.Kg1 f3

 7…h2+ なら 8.Kh1! f3 で次の手順の局面と同じになる。

8.Kh1! f2

 8…h2 でも白キングが手止まりの局面になる。ここで白が自分のポーンを全部清算できれば引き分けになる。

9.c7+ Kxb7 10.c8=Q+ Kxc8 11.b7+ Kd7!

 12.b8=N+ Kc8 で白キングが1手詰みになる。

(この項続く)

2012年10月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(289)

「Chess Life」2012年8月号(6/8)

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全米選手権戦(続き)

シチリア防御ドラゴン戦法ユーゴスラビア攻撃 [B76]
GMヒカル・ナカムラ (2775)
GMレイ・ロブソン (2614)
2012年全米選手権戦 第3回戦
(続き)

 16.e5

 この局面を以前に見たことがあるのは分かっていたが残念ながら正しく覚えていなかった。

16…Nb6

 恐らく 16…Rad8 が最善手で、それならまだ形勢不明だった。

17.h5

 白の攻撃は強力で分かりやすい。

17…dxe5 18.hxg6 hxg6 19.Qh2

19…Rxf4

 残念だがこの手しかない。19…exf4 は 20.Bd4 で白につぶされるだけである。

20.Bxf4

 20.Kb1 Nd5 は黒が良い。

20…Qxf4+ 21.Kb1

 実はf4で取ったとき完全にこの手を見落としていた。どういうわけか相手がクイーン交換してくるしかないと思い込んでいた。

21…Qxh2 22.Rxh2 Rf8

 形勢はまだみかけほど黒にとって悪くない。…Rf4 ですぐに反撃が始まる。そしてもし …e5-e4 でビショップを働かせることができるようになればやはり反撃できる。また三重ポーンはそのうちの1個を取られても二重ポーンになるだけなのでそれほど悪くない。

23.Ne4

 コンピュータは面白い 23.b3 Rf4 24.Ne2 を推奨している。その意図は 24…Rxg4 25.Rd8+ Kf7 26.Rb8 で、e2のナイトがよく働いていて黒の反撃を防いでいることにある。

23…Rf4 24.Ng5

 このナイトはc5に行ってb7のポーンを取る方が理にかなっていた。e6のポーンはまったくの役立たずだが、b7のポーンはもっとおいしそうである。24.Nc5 Rxg4 25.Nxb7 となれば白は勝つ可能性がかなりある。

24…Rxg4 25.Nxe6 Bf6

 Nxg7 を恐れるべきかどうか確信がもてなかった。このビショップは将来強力になるかもしれない。だから 25…Bf6 は理にかなっていると思う。

26.b3

 白の次に指したい手は c2-c4 で、そうなればこちらのナイトは大きな問題を抱える。そこで・・・

26…Nc8 27.c4

 27.Rd8+ Kf7 28.Nc5 Nd6 29.Rh7+ Bg7 では白に何ももたらさない。27.Rf2!? で黒のナイトを働かせないのが面白かった。27…b6(27…Nd6? 28.Rxd6)28.c4 Kf7 29.Nc7 e4 で黒はまだしのげる可能性が高い。

27…Nd6 28.c5 Nb5 29.Rd7

 このあたりでは時間に追われていた。だからナカムラはとりわけ速く指していた。念のため書くと彼は全局を通してほとんど時間を使わなかった。

29…Kf7

この手は悪手だと思っていたが、今から考えると 37…Re1+ が決定的な悪手だった。29…e4! でもたぶん受かっていた。30.Rxb7 Rg1+ 31.Kc2 Ra1! これが眼目の手である。ここで 32.Rxb5 が急所で、驚くべき手順になる。32…Rxa2+ 33.Kc1 Rxh2 34.c6 e3

35.c7(35.Nf4 は 35…Rh1+ 36.Kc2 Rh2+ で引き分けになる。37.Kd3 なら 37…Rd2+ 38.Kxe3 Rc2 で黒が少し良い)35…Rh1+ 36.Kc2 e2 37.c8=Q+ Kh7 38.Nf8+

38…Kg7(38…Kh6?? は 39.Qe8 Rg1 40.Qf7 で駄目である)39.Ne6+(39.Qe8 は黒キングがh8に逃げることができ 39…e1=Q 40.Qxg6+ Kh8 41.Rh5+ Rxh5 42.Qxh5+ Kg7 で黒が勝ってしまう)39…Kh7 40.Re5(40.Rb8 は 40…Rc1+[40…e1=Q?? 41.Qg8+ Kh6 42.Qh8+! Bxh8 43.Rxh8#]41.Kxc1 e1=Q+ 42.Kc2 Qe2+ で千日手)40…Bxe5

41.Qf8(41.Ng5+ は 41…Kg7 42.Nf3[42.Qb7 は 42…e1=Q 43.Qxe7+ Kh6 44.Nf7+ Kh7 45.Nxe5+ Kh6 46.Nf7+ Kg7 でちょうど引き分け]42…e1=Q[42…e1=N+!?]43.Nxe1 Rxe1 44.Qd7 Bd6 45.Qxa7 Re4

で引き分けに終わる)41…Bf6 42.Qf7+ Kh6 43.Nf8 e1=N+

黒はなんとかチェックをかけ続けて生き延びることができる。44.Kd2 Nf3+ 45.Ke2 Nh4 黒はg6を守り Qh7+ からルークを守っている。

 29…Rg1+ は 30.Kc2 Na3+ 31.Kb2 Nb5 32.Rxb7 e4+ のあと上述の 29…e4 の手順と同じになる。

30.Rxb7

 以下の手順は必然のようである。

30…Rg1+ 31.Kc2 Na3+ 32.Kb2 Nb1 33.Nd8+ Ke8 34.Nc6 e4+ 35.Kc2 Na3+ 36.Kd2 Nb1+ 37.Ke3(続く)

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(この号続く)

2012年10月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(348)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

フィッシャー対ペトロシアン
 36.h5

 ここでファインは「白にはもっと良い手はない」と解説している。実際にはこのポーンを突いていって勝ちになるので、もっと良い手は必要ない。

36…f4

 これはたちまち負けになった。37.Rxf4 Rxa2 38.Re4! Nxg2(黒のナイトとルークは連係が悪くて一方が他方の守りに縛り付けられる。守ろうと守るまいとナイトが取られる)39.Kg3! Ra5 40.Ne5 黒投了。解説者たちは 36…f4 がポカで引き分けを逃したと主張した。実際は進攻したポーンはそれでも突き進むことができる。

36…Rxa2 37.Rg7 f4 38.Rg5!

 ファインは 38.h6 を想定していたがそれなら 38…Ra5 で背後からこのポーンを止める。黒の防御はナイトがg4で両当たりをかけることにかかっている。白はキングが進むことができればこの可能性を避けて連結ポーンを支援することができる。一方黒はポーンを進ませることができない。ポーンが進むと取られるか、黒キングの隠れ家がなくなるので致命的なルーク交換になる。

38…Rc2 39.Nd4 Rc7 40.Kh3 Rh7 41.Kh4 b5 42.Rg6 b4 43.h6 a5 44.Rg8+

 次に Rg7+ がある。

(この章続く)

2012年10月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(347)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

 上記の変化が示すように22手目で黒にまだ勝ちがあるならば、それ以前の白の手の何かが悪いに違いない。我々としては広く賞賛された 21.f4 を見てみなければならない。というのはそれ以降の手は一本道だからである。白はクイーン翼を席巻させるわけにはいかないので 21.Ne4 と指さなければいけないように思われる。この場合黒は 22.c4 で白陣が引き締まるのでクイーン同士を交換しなければならない。しかしもう本譜に戻ることにする。

23.cxd3 Rc2 24.Rd2 Rxd2 25.Nxd2 f5 26.fxe5 Re8 27.Re1 Nc2 28.Re2 Nd4 29.Re3 Nc2 30.Rh3

 ペトロシアンの残り時間が少なくなっているのでフィッシャーはここで勝負に出ることにした。一連の手順でペトロシアンがナイトとルークを適切な地点に配置できなかったあと、フィッシャーの進攻したポーンでまた重大な局面が出現した。

30…Rxe5 31.Nf3 Rxd5 32.Rxh7 Rxd3 33.h4 Ne3 34.Rxf7 Rd1+ 35.Kh2 Ra1 36.h5

(この項続く)

2012年10月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

布局の探究(16)

「Chess Life」1991年2月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒

 百年以上前チェスはもっと空想的で単純な競技だった。重要だったのはできるだけ迅速に敵キングに迫ることで、他のことはほとんど取るに足らぬことだった。現代の選手は研究をよくしている同等の相手に勝つためには布局、中盤、収局、戦術、戦略などについて大量の知識を持っていなければならない。ますます「ちょっとしたことが大きな意味を持つ」と言うことができる。

 チェスの書籍であまり取り上げられてこなかった重要な戦略の概念の一つは場違いの駒に対する指し方である。普通の局面で、相手の駒の一つが場違いの駒になっているかそうさせることができるならば、このことは試合における重要な要因になる。

 盤上の駒が少なくなるにつれてたった1個の場違いの駒の重大性が増してくる。以下の議論の基礎としてキング翼インディアン防御のラルセン戦法を取り上げよう。

キング翼インディアン防御ラルセン戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be3

 この手がラルセン戦法の特徴である。デンマークの有名なGMベント・ラルセンが1960年代の後半にその潜在力を立証し、現在まで擁護し続けている。

 主手順に見るように白は収局に入るのを全然いとわない。黒がこれを避ければ、白はクイーン翼キャッスリングの選択肢を保持しマルデルプラタ戦法(6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7)の長い手順-そして危険なキング翼攻撃-を回避する。

 白は 6.Be2 e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bg5 で古典戦法での収局を目指すこともできる。これから見られるようにラルセンの手はこの手順を巧妙に改良することを意図している。

6…e5

 キング翼インディアン防御における黒の反撃は論理的に黒枡、特にd4の地点が関わっている。一般に黒はキャッスリングしたあとできるだけ早く …e5 と突くのがよい。もちろん戦術的に不具合がなければの話である。従って本譜の手は常に主手順になっている。

 代わりに 6…Ng4?! は 7.Bg5! で黒ナイトが場違いになる(7…f6 8.Bc1 のあとこのナイトはh6に行くしかない)。また 6…c6 と 6…Nbd7 は主手順での収局を避ける目的であるが、黒がこの収局を恐れる客観的な理由はない。

7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nd5

 これがラルセン戦法の基本局面である。クイーン交換により白は脆弱なc7の地点を攻撃することができる。黒には理にかなった四つの応手がある。それらは 9…Nxd5 で攻め駒を取り除くこと、または 9…Na6、9…Rd7、9..,Ne8 のいずれかでc7の地点を守ることである。三通りの受けはどれも黒駒が場違いになる。

 一番気が進まないのは 9…Ne8?! である。好所にいたナイトが下がったので白は1967年スース・インターゾーナルでのラルセン対ミアグマルスレン戦のように 10.O-O-O(10.Ne7+ Kf8 11.Nxc8 Rxc8 12.O-O-O も双ビショップとd列の支配で白が良い)10…Rd7 11.Be2 c6 12.Nc3 f6 13.c5 で強力な主導権が握れる。ラルセンは危なげなく勝った。

 黒の他の三つの指し手はそれぞれ見本の試合を用いて解説する。

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2012年10月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フィッシャーのチェス(346)

第33章 その理由(続き)

フィッシャー対ペトロシアン
 22.Ne4

22…Qxd3

 ペトロシアンは中盤の戦いを続ければ明らかに勝ちになることを示せる最後の機会だったのに互角の収局を選んでしまった。変化は複雑だがキング狩り、釘付けと逆釘付け、交換損の犠牲、それに最下段の詰みを含んで非常にためになるはずだった。

 勝ちに至る手順は 22…Qxa2 から始まる。将来のためにクイーン翼の白ポーンを取り切り、白が代償を得ようとしたときには切り合いの中で致命傷を与える。これには二つの主手順がある。

 1.23.Nxf6 Rxg2! 24.Kxg2 Rxc2+ 25.Kg3 Rg2+ 26.Kh4 Rxh2+ 27.Kg5 h6+ 28.Kg4 Qg2+ 29.Qg3 h5+ 30.Nxh5 f5+ 31.Kg5 Rxh5+(ファインの分析)ほとんどの選手は「何かあるに違いない」ということを知っているので 25.Kg3 からのキング狩りをわざわざ読まないだろう。この手順中 24.Nd7+ Ka7 25.Nxe5(ファイン)または 25.fxe5(コルチノイ)で逆襲しようとするのはどちらも 25…Nxc2 というプロブレムのような好手で切り返される。この手はナイトによる開き攻撃と白クイーンによる斜めからのチェックの拒否とにより戦力と攻撃を維持している。

 2.コルチノイ推奨の 23.Rd2 はもっと繁雑だが黒は次のように収局で勝ちになる。23…Rxc2 24.Rxc2 Nxc2 25.Qe2(コルチノイはここで打ち切っているがこの釘付けは無意味である)25…exf4! 26.Nxf6 Rd8! 27.Rxf4 Rd6(最下段での詰みのため白クイーンが 28.Qe5 と行けないのでこの手が可能である)28.Rf1 Qb2 29.Qf2 Qd4! この単純化で勝ちの収局になる[訳注 実際は 30.Qg3 で白の勝勢になります]。黒はポーンが多いので 27.Qe7 Rxd5 28.Nxd5 Qxd5 という手順で交換損することもできる。途中 28.Qxf7 で釘付けにしても 28…Qc4 で失敗する。

(この項続く)

2012年10月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

一歩を引くは百歩を引く

2012年10月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(345)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

フィッシャー対ペトロシアン
 17.Bd3

 ここで 17…e4 と突けば白がこのポーンを取るとe列で釘付けになって駒が取られるのでペトロシアンがきわめて簡単に勝つことができる。だから白は 18.Bf1 Bg4 19.Rb1 Ne5 20.Rb3 でハリネズミ陣防御を強いられることになる。このシナリオの信じられないような部分は 16…Bf5 を非難し 16…Rxg2 17.Bd3 が余儀ないことを示した批評家たちがここで 17…e4 で黒の勝ちになると主張したことである。一方コルチノイとフルマンは 17…e4 について言及することさえしなかった。ラスカーが1909年サンクトペテルブルク大会の記録本での序文で次のように言えた時代は去ってしまった。「用語解説は必要かつ十分であるはずである。必要な情報の提供が欠けている所はどこにもないし過剰であることもない。」

17…Bxd3 18.Qxd3 Nd4 19.O-O Kb8

 この手には 20…Qxc3 という狙いがある。白はちょうど当面の破局を避ける暇があった。

20.Kh1 Qxa3 21.f4

 白は自分の狙いを作り出さなければならない。さもないと収局でクイーン翼から負けになる。しかし次の強要手順でそれも疑問である。

21…Rc8 Ne4

(この項続く)

2012年10月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(45)

「Chess Life」2004年7月号(1/4)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スペイン4ナイト試合

 スペイン4ナイト試合は1世紀以上前から知られている。当時の最強選手たちの間で非常に流行した。現在はクラブなどでの大会でまだ非常にはやっている。スパスキー、カームスキー、ショート、ナン、シロフ、アダムズらの多くの強豪選手が意表を突く武器としてときたま用いている。

 この布局は駒を展開し中原を支配するという基本的な布局の原則に基づいている。1.e4 e5 のあと常識的な 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 に加えていろいろ異なった手順からも生じることがある。たとえばルイロペス(2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.Nc3)、ペトロフ防御(2.Nf3 Nf6 3.Nc3 Nc6 4.Bb5)、そしてウィーン試合(2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.Bb5)から到達できる。

 主手順の最初の3手のあと白はまだ異なった指し方の選択肢があり、4.d4 でスコットランド4ナイト試合に移行する。しかし本稿では 4.Bb5 だけを解説する。

白の基本的な作戦は何か

 白は初めは中原に強い圧力をかける。黒がどの戦法に決めるかによって白はそれに応じて対応しなければならない。戦型Aでは黒は即衝突に誘ってくる。白は6手目でもう両当たりに基づいた手筋を始めることができる。

 戦型Bでは黒はポーンを犠牲にし、白は「ポーンの取り逃げ」方針に従ってポーン得を守りきろうとする。戦型Cはほとんどの場合長い大局観の戦いになるが、白が好機の f2-f4 の仕掛けで開戦する選択肢もよくできる。

黒の基本的な作戦は何か

 4.Bb5 のあと白はc6のナイトを取ってからe5のポーンを取ることを狙っている。黒はこの狙いに対処しなければならない。それはいくつかの間接的な方法で行なうことができる。戦型Bでは黒はe5のポーンを犠牲にして素早く駒を動員することができる。

それで評決はどうなっているか

 開始早々(4手目)黒は針路の選択をしなければならない。戦型Bでは黒は非常に活発に動く代わりにポーンを捨てなければならない。

 黒でもっと用心深い選手は戦型Cの方を好むだろう。私は戦型Aから生じる局面の白の方が好きである。

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2012年10月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(344)

第7部 チェスの論理(続き)

第33章 その理由(続き)

フィッシャー対ペトロシアン
 15…Rhg8

 ほとんど一本道の手順でこの局面になったが、白は全戦線で問題を抱えている。キング翼へのキャッスリングは …Bh3 で交換損になるのでできない。クイーン翼はばらばらである。中央は不安定な休戦状態で、黒には白クイーンがd列から去ればdポーンを取る狙いがあるし、白クイーンがd列を去らないと白は黒の小駒を両当たりにできない。

16.Rd1

 ファインはこの手に悪手記号を付け、バーンとコルチノイは好手記号を付けた。ここでまたは前手でファインの推奨する Bd3 は 16…Bxd5 と取られてうまくいかない。17.Nxd5 Qxd2+(17…Rxd5 や 17…Qxd5 よりも良い)18.Kxd2 Rxd5 19.Ke3 Ra5 で黒がポーン得し優勢になる。16.Rd1 はフィッシャー特有の勝負手で、一義的にはクイーンを守り Bd3 を狙っている。ペトロシアンははったりをかけられた。

16…Bf5

 ペトロシアンがgポーンを取らなかったときうめき声がはるばるモスクワまで聞こえてきた。17.Bd3 はたいして狙いになっていなかった。というのは 17…Bxd5 18.Nxd5 Rxd5! が今度は 19.Bf5+ への応手になるからだった。16…Rxg2 で黒に色々な勝ち筋があるのは確かだった。ペトロシアンが読まなければならないのは 17.Ne4 のあとルークが捕まるかどうかだけだった。しかし黒は安全に 17…Rg6 と指すこともできるし(18.Qxa5 Nxa5 のあと白のビショップが当たりになっているので黒のビショップは助かる)、攻撃的に 17…Qb6 と指して …Nd4 による色々な攻撃策をもくろむこともできる。

 解説者たちが試合の論理を見失い始めたのはここである。たぶん 16…Rxg2 は勝つのに十分な手段である。それなら必要な手段でもあるのだろうか。両方の条件が成立する場合にのみ 16…Bf5 を責めることができる。あとで出てくるように 16…Rxg2 と同じくらい容易に勝つはずである。(前述のゼプラーのスタディでは 1.Bd3 は勝つための十分で必要な手だった。しかし「ローマの駒運び」の動機は必要な一つの動機にすぎなかった。従って解答は「唯一無二」だが動機はそうでなかった。)

 たぶんフィッシャーは 17.Bd3 の狙いのさりげない力に気づいていたが、解説者たちはそうでなかった。いずれにしても 16…Rxg2 は 17.Bd3 Bxd5 18.Nxd5 Rxd5 19.Kf1! と巧妙に応じられる。このキング寄りで釘付けをはずして Bf5+ を狙うと同時に黒ルークにも当たっている。

17.Bd3

(この項続く)

2012年10月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス