2012年07月の記事一覧

JCAの間違い捜し(16)

 今号も間違い満載の「CHESS通信」2012.07.25版

[1]1783ページ

 ここでは「1日コース」の参加者は「18名」と書いてある(「参加者22名」は2日コース)。ところが

ここでは「1日コース」の参加者は「22名」となっている。

[2]1795ページ

 正しくは「実戦的」。

[3]1797ページ

 「第22回チェス誌上競技会(Ⅲ)」の第2問「2.白先白勝ち(2手まで)」の問題。1.Bh3 と出ても 1…Bxh3 と取られて何もない。

 せめてc7に白ポーンがあれば 1.Bh3 Bxh3 2.f5 が成り立つ(1…f5 の方が厄介)。

[4]1797ページ

 同じく第3問「白先白勝ち(4手まで)」の問題。

 4手もいらない。1.Rxb2 の1手でルークの丸得になり白必勝。

 「黒先黒勝ち」なら真剣な問題になる。1…R8xb3 2.axb3 Rxd2 3.Rxd2 Bxe3+ 4.Rf2 f5

[5]1797ページ

 「7日 10日」という日付は初めて見た。JCAの内部でだけしか通用しないだろう(会員には分からないだろう)。「7月10日」の間違いでないことは明らか。

2012年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

フィッシャーのチェス(282)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

フィッシャー対ソフレフスキー
スコピエ、1967年
 14…gxf6

15.Nd5! Rfe8

 このナイトは取れない。取ると 16.Rxd5 のあと Rh5 から Qh6 の狙いに対して受けがない。これで黒は双ビショップを失った。

(この章続く)

2012年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(36)

「Chess Life」2004年3月号(3/3)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

チゴーリン防御(続き)

戦型C)3.cxd5
1.d4 d5 2.c4 Nc6 3.cxd5 Qxd5

4.e3

 d4ポーンを守る他の手段は 4.Nf3 で、4…e5 5.Nc3(または 5.dxe5 Qxd1+ 6.Kxd1 Bg4)5…Bb4 6.e3(または 6.dxe5 Bxc3+ 7.bxc3 Qa5)6…exd4 7.exd4 となって驚いたことにスコットランドギャンビットに移行する。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.c3 d5 5.exd5 Qxd5 6.cxd4 Nf6 7.Nc3 Bb4 の局面と比べると黒が 7…Nf6 と指せばまったく同じ局面になる。

4…e5

 黒は直前の2手の顔を立てるために意欲的に指し続けなければならない。

5.Nc3 Bb4 6.Bd2 Bxc3

 この局面でc3での取り返し方が二つあるが悩ましい選択である。

7.bxc3

 こう取り返すと白の中央が強化される。7.Bxc3 は 7…exd4 8.Ne2 Nf6 9.Nxd4 O-O となって白はf1のビショップの展開が困難になる。10.Nb5(10.Nxc6 の方が穏やかでたぶん優る)10…Qg5! g2の地点をにらんでいる。11.h4(白が 11.Nxc7 とポーンを取ると黒は 11…Bg4 12.Qb3 Rad8 13.Qxb7 Rd6 で十分な代償を得る)11…Qh6! 12.Be2(12,Nxc7 と取る方が良いが 12…Bg4 13.Qb3 Rad8 14.Qxb7 Rd6 となって、白が展開を完了するのが非常に困難なので黒に2ポーンの代償がある)12…Rd8 13.Qc2 Nd5

14.Rd1 Be6 15.a3 Rd7! 16.Nd4 Nxc3 17.Qxc3 Nxd4 18.Rxd4 Rad8 黒の方が指しやすい(ロゴゼンコ対モロゼビッチ、イスタンブールオリンピアード、2000年)。

7…Nf6 8.f3 e4

 他の 8…Qd6、8…O-O および 8…exd4 のような手なら白は e3-e4 または単に Bf1-d3 と指すことによりe4の地点を支配する。例えば 8…Qd6 なら 9.Bd3 O-O 10.Ne2 Re8 11.O-O となって白陣が好形になる。白陣をさらに良くする作戦の一つはビショップをd2からe1を経由してg3またはh4の地点につけることである。自然な 8…O-O なら白は 9.e4 と応じることができる。(最近の試合で黒は 9.Bd3 に対し果敢に捨て駒をした。9…exd4 10.cxd4 Nxd4 11.exd4 Qxd4 しかし2003年ベルリンでのダウトフ対ハンセン戦で両GMは 12.Be2 Nd5 13.Rc1 で短手数の引き分けに合意した。黒はビショップの代わりに2ポーンしか得ていないが白も中央列に残されたキングについて心配する必要がある)9…Qd6 10.d5 Ne7 11.c4 Nd7 12.Ne2 b6 13.Nc3 a6 14.Be2 Nc5 15.O-O f5 16.Be3 Bd7 ねじり合いの局面である。

9.c4 Qd6 10.Qb1

 白が 10.Ne2 O-O 11.Ng3 Re8 12.f4 と展開すれば黒は 12…Nxd4! 13.exd4 Qxd4 と猛攻を仕掛けることができる。

10…Bf5 11.f4

 白が 11.Qxb7 とポーンを取ってくれば黒は 11…Rb8 12.Qa6 exf3 13.gxf3 Nxd4 14.Qxd6 Nc2+ でポーンを取り返すことができる。

11…O-O 12.Ne2

 これはいくらか変わった布局の局面である。黒は既に展開を完了したが白は2、3手遅れている。しかし白には双ビショップと強大な中央がある。黒は白の Ng3、Be2 そしてキャッスリングする作戦を邪魔する手段を探す必要がある。白がこれらすべてを問題なく行なうことができれば優勢な局面になる。お薦めは 12…a5!? で、d6のクイーンの安全を確保する意図で、13.d5 Ne7 となったとき Bd2-b4 を防いでいる。

 別の面白い手は 12…h5 13.d5! Ne7 14.Bb4 Qd7 15.Nd4 Bg6 16.Be2(アブルーフ対ミラディノビッチ、イスタンブールオリンピアード、2000年)である。

結論

 白ははっきり優勢になる手順がないので、自分の棋風に最もよく合う戦型を白の三つの選択肢から慎重に選ばなければならない。黒は開放的で激しい局面が好きならばチゴーリン防御は布局のよい選択になるかもしれない。意表を突く価値を持つ利点もあり、誰も他のもっと人気のある布局ほどには研究をしていないものである。

******************************

2012年07月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(281)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 Nd5 のあとでポーンの両当たりにより敵駒を取り返すか、敵キングへの狙いのためにこのナイトが取られずにすみ、単純化のお膳立てができることがよくある。

フィッシャー対ロセット
マルデルプラタ、1959年
 18…Nd7

19.Nd5!

 …exd5 でも …Bxd5 でも戦力の得失はない。しかし白のビショップは自分のポーンの監獄から解き放たれる。例によってこのような局面ではe7でのチェックの狙いのために指し手がある程度必然である。

(この章続く)

2012年07月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(280)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 フィッシャーは最小限の利得にも敏感で、次の局面では白の白枡ビショップを交換で取って双ビショップを得た。

マリッチ対フィッシャー
スコピエ、1967年
 12.Bc2

12…Nb3! Bxb3 13.Qb6+

(この章続く)

2012年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(279)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 やはり同じ大会でフィッシャーはビショップをナイトと交換する機会をとらえて黒の中央を弱体化させた。

フィッシャー対U.ゲレル
ネタニヤ、1968年
 16…Ba6

17.Bxd5! exd5 18.e6

(この章続く)

2012年07月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(279)

「Chess Life」2012年6月号(1/1)

******************************

収局研究室

GMパル・ベンコー

ルークとビショップがクイーンを圧倒
GMレボン・アロニアン(FIDE2805、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2759、米国)
ベイクアーンゼー、2012年

 黒の手番

25…Nc3

 一見交換得になりそうだが、実際は白は大局観でクイーンを取らせた。

26.Bxc3 Rxb1 27.Rdxb1 g5

 白はクイーンの犠牲によりクイーン翼全体を支配している。そこで黒はキング翼で反撃の機会をうかがう。

28.Rb7 Ng8 29.Bxg7+ Kxg7 30.Rb5 Qg6 31.c5 dxc5

 黒は性急に不快なe6のポーンを取り除くが、そのため …Qf6 から …f5-f4 で手を作ることができなくなった。しかし実際は敗勢になっていく黒はこの時点ではそうなるようには見えなかった。

32.Rxc5 Qxe6 33.Nf3 Qd6

 33…Qb6 もある。ここではf5とg5のポーンが危なくなっている。黒はずっと受け身でいることしかできない。一方白陣は堅固である。

34.Nd4 Kh8

35.Rc6

 白は 35.Rxf5 Rxf5 36.Nxf5 Qf6 37.Ra5(37.Nd4 なら 37…e5)37…Qb6 38.Ra1 Qb2 39.Ra5 Qb6

で引き分けにするよりも陣形の優位を保つ方を選んだ。

35…Qd7 36.Rac1 f4 37.Bc8 Qa7 38.Ne6 Rf6 39.exf4 gxf4

40.Rc7

 40.Nxf4? なら 40…Rxc6 41.Rxc6 Qa1+ 42.Kg2 Qa8 43.Bd7 Nf6

で黒が勝つ。

40…Qa4?

 やはり40手目は鬼門である。40…Qb6 41.Nxf4 Rxf4 42.gxf4 Qg6+ なら永久チェックになっていた。

41.Nxf4 Rd6

 黒はルークをf4で切ることも …e7-e5 と突くこともできなかった。f4のナイトは強力な攻防の駒のままである。

42.Be6 Rd1+ 43.Rxd1 Qxd1+ 44.Kg2 Nf6 45.Rxe7

 白は2個目のポーンを取った。黒はたぶん 44…Kg7 でこのポーンを犠牲にビショップとナイトを交換して盤上の戦力を減らした方が良かった。白の勝ちはもう単なる技術の問題である。

45…Qe1 46.Rf7 Qe4+ 47.f3 Qd4 48.Kh3 Qe5

48…Qb2?! は疑問である。

49.Kh4! Qd4 50.Bg4 Qe5

 50…Qd6 なら 51.Bf5 で白の攻撃が続く。

51.Ne6!

51…h6

 51…h5 は 52.Nf4! Kg8 53.Be6 で終わる。

52.Rf8+ Ng8 53.f4 Qb2 54.Kh3 Qa1 55.Bh5 Kh7 56.Rf7+ Kh8 57.Bg6 Nf6 58.Rf8+ Ng8 59.Bf7 黒投了

 クイーンのなんとも屈辱的な経験だった。

******************************

(この号終わり)

2012年07月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(278)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 次の局面でも同じ筋で白がポーン得になった。

フィッシャー対レー
ネタニヤ、1968年
 16…Na5

17.Qxe6+ Qxe6 18.Bxd5

(この章続く)

2012年07月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(277)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 単純化で教科書どおりの勝ちになるときはためらうことはなかった。

フィッシャー対パッハマン
ライプツィヒ、1960年
 37…Ke7

38.Qxg7+ Rxg7 39.Rxg7+ Kd6 40.Rxc7

(この章続く)

2012年07月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

布局の探究(6)

「Chess Life」1990年8月号(1/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

何はともあれ 得意定跡の選び方

 チェスという競技は布局から始まる。明らかにこの段階については少なくとも適切な知識を持っていなければならない。もちろんチェスでの最終的な勝利のためには収局の知識と中盤戦の戦略と戦術の知識なしには不可能である。それでもまず最初にやるべきことはやらなければならず、正しく踏み出すことは明らかに有利である。有望な若手だろうと経験豊富な年長者であろうと健全で適切な得意定跡を確立するべきである。これには二つの部分がある。一つ目は特定の定跡と戦法/変化の選択である。二つ目は-とりわけ重要でもあるが-望みの戦法を達成するための最も正確な手順を確立することである。この非常に重要な主題は「Chess Life」1990年6月号で詳細に論じた。

 選択する得意定跡は自分のチェスの興味、棋風、それに勉強法と一致しなければならない。激しい戦術が楽しく、世界中での布局定跡の進歩を追うのに時間と興味があり、記憶力に優れ、複雑な独自の分析を行なうのが好きならば、白だろうと黒だろうとナイドルフシチリアの「フィッシャーのbポーン」戦法(1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6)がお薦めである。

 もし主流手順の戦略的な指し方に興味があるならば、白にしろ黒にしろクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス防御(1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 Be7 5.Bg5)が気に入るだろう。しかし戦略にひかれながらもそれほど研究されていない舞台が好きならば、白として通例の 5.Bg5 よりも 5.Bf4 を選択するだろう。自分に忠実なときに最高の結果が得られるものである。自分の好きなものを指すのと、自分は嫌いだが相手はもっと嫌いそうなものを指すのとで、選択するならば自分の好きなものにこだわるべきである。自分の知っているもの、好きなもの、そして自信を持っているものを指すとき、実戦の結果は向上するものである。

 非常に一般化すれば激しい戦術が好きな者は 1.e4 布局を指した方がよく、これに対して戦略派は閉鎖型布局(1.d4、1.c4、1.Nf3)を選択すべきだと言うことができる。しかし自分に合った具体的な戦法や変化を選ぶことも大切である。開放試合の「本」には数え切れないほど戦略的に理にかなった布局が載っているし、閉鎖布局を激しく指す多くの手段がある。一例として長年の米国チャンピオンで歴史上の最も偉大な攻撃的選手の一人の故フランク.J.マーシャルの得意定跡を考えてみるとよい。彼の初手はいつも 1.d4 だったが、そのあとすぐに大立ち回りに移るのに何のハンディキャップにもなっていなかった。

 世界チャンピオンのガリー・カスパロフと前世界チャンピオンのアナトリー・カルポフの白番での得意定跡の移り変わりを比較してみるのも面白いかもしれない。カスパロフは攻撃的選手として有名になったときは初手はいつも 1.e4 だった。それでも20歳の誕生日より前には 1.d4 に変わっていた。1983年12月のロンドンで私は彼に「なぜ?」と聞いてみた。彼の返事は「1.d4 の方が指し手の可能性が豊富だと分かった」だった。カルポフも 1.e4 から始まって1980年代に入るまでそれに忠実だった。それでも彼の選択した戦法は決まってまったく戦略的だった。

 1989年初めのインタビューで彼は開放局面と閉鎖局面のどちらが好きかと質問された。答えは「1.e4 の方がずっと好きだが結果は 1.d4 の方が良い」だった。深い戦略はいつもカルポフの特別な強みだったのでこれは私にとって非常に納得がいった。

******************************

フィッシャーのチェス(276)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ(続き)

 明らかにどんな相手に対しても自分の望む試合を押しつけることのできる選手はいない。しかしフィッシャーは華麗さが魅力の他の手にひかれるときでさえ手筋で単純化に持っていくのがうまかった。次の局面は代表的な例である。

フィッシャー対タイマノフ
番勝負、1971年
 19.Rfe1

19…Rxd5

 取らないと黒がむざむざポーンを取られる。

20.Rxe4+! Kd8

 興味をそそられる局面である。ポーンの数は同じだが黒キングは危うそうに見える。まずクイーン切りは可能だろうか。21.Qxd5+ Nxd5 22.Rxd5+ Kc8 23.Rc4 Kb8! 24.Rdxc5 Qb6 25.Kh1! Qxb2 26.h3! Rd8! 27.Rc7 Qb1+ 28.Kh2 Qd2 で黒はどこも大丈夫である。考えられる別の攻撃は 21.Re8+ Rxe8 22.Bxd5 Nxd5 23.Qxd5+ Kc8 24.Qf5+ Re6 25.Rd5 b6 26.Qh7! で次のように黒ポーンが落ちる。26…g6 27.f5! gxf5 28.Rxf5 早い終局が有望だったこの手順の代わりにフィッシャーはルーク・ビショップ対ルーク・ナイトの収局を選んだ。

21.Qe2 Rxd1+ 22.Qxd1+ Qd7 23.Qxd7+ Kxd7 24.Re5! b6 25.Bf1

 そして白ビショップが白枡を完全に掌握した。収局で勝つにはかなり巧妙な手順を必要としたが、この型の戦いが勝ちきるのに最も安全で確実な手段であるとフィッシャーが感じていることは明らかだった(第6章「利きの長さ」を参照)。

(この章続く)

2012年07月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(275)

第5部 着想(続き)

第27章 単純化せよ

 世界の達人選手たちに最も自然に思い浮かぶと思われる中盤戦での着想はいつも単純化の可能性だった。この意味でチェスという競技は数学の定理に似ている。証明を構成するためには複雑な問題をもっと手に負える条件に落とすことである。手筋に熟達している割にはフィッシャーは可能ならば中盤戦ではっきりしない決着をつけようとするよりもたやすくやってのけられる収局に持ち込むのが好きなようである。

(この章続く)

2012年07月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(35)

「Chess Life」2004年3月号(2/3)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

チゴーリン防御(続き)

戦型B)3.Nf3
1.d4 d5 2.c4 Nc6 3.Nf3 Bg4

4.cxd5

 この主眼の手は白にはっきりした優勢をもたらさない。最近は代わりに 4.Nc3 e6 5.Bg5 がよく指されている。その局面はdポーン布局に特有の半閉鎖的な特徴が維持される。

4…Bxf3

 すぐにポーンを取り返すのは良くない。なぜなら 4…Qxd5 のあと白は 5.Nc3 でクイーン当たりの先手で展開できるからである(あまり早くクイーンを出すなという金言を覚えておくとよい)。本譜で白にはc6のナイトを取る手とf3の黒ビショップを取る手の選択肢がある。

5.gxf3

 5.dxc6 は 5…Bxc6 6.Nc3 e6 7.e4 Bb4 となって白は 8.Bd3 のような自然な展開の手でe4のポーンを守るのが難しい(d4のポーンが浮くので)。だから最善の受けは 8.f3 で、そのとき 8…Qh4+ で白のキング翼の弱体化がさらに引き起こされる。9.g3 Qf6 10.Be3 O-O-O となれば黒の活動性に富む局面になる。

5…Qxd5 6.e3

 白には双ビショップの優位がある。しかし代償として黒はポーンの形が優っている。

6…e5

 展開に優る黒はすぐに仕掛けていくことができる。

7.Nc3 Bb4

 この釘付けの手により黒クイーンは中央に居続けられる。欠点は次の手でビショップを白のナイトと交換しなければならないことである。

8.Bd2

 釘付けをはずした。

8…Bxc3 9.bxc3

 最後の方の手はほぼ一本道だった。ここは重要な分かれ道である。このポーン形とそれを支える双ビショップで白の作戦は明白である。大きな問題はキングの安全な場所を見つけることである(b列とg列が素通しになっているので)。黒は二つの重要な問題に答えなければならない。

 a)g8のナイトをどこへ展開するか。
 b)どちらへキャッスリングするか。

 グランドマスターの実戦からいくつか例を見てみよう。

9…exd4

 他の選択肢は・・・

 9…Qd6 10.Rb1 b6 カスパロフ対スミスロフの有名な試合(1984年の番勝負から)で白はすぐに大乱戦の勝負所に突入したが両者に悪手が出た。11.f4!? この面白い一時的なポーンの犠牲により白は直接中央から進攻する。11…exf4 12.e4 Nge7 13.Qf3 O-O 14.Bxf4 Qa3 15.Be2! f5! これは非常に理にかなった手で白キングに通じる中央の列をこじ開ける。

 16.O-O fxe4? これは悪手だった(16…Ng6 17.Bxc7 Qe7 の方が良かった)。17.Qxe4 Qxc3 黒はポーン得になったがクイーンに手数をかけすぎて白の攻撃が強力になった。18.Be3!(直接 18.d5 と突くのは 18…Qd4 のために時期尚早である)18…Qa3 19.Bd3! 白の攻撃が非常に危険になってきた。19…Qd6(19…g6 は 20.Bc4+ Kg7 21.d5 から Bd4+ で白の勝ち。また 19…Rf5 は 20.Rb5! Rxb5 21.Bxb5 Qd6 22.Rc1 で黒のナイトが釘付けを逃れると駒損になる)20.Qxh7+ Kf7 21.Rb5! 攻撃に新戦力が加わった。21…Nxd4! そしてここで白は優勢を手放してしまう。22.Qe4?(白は 22.Bxd4 Qxd4 23.Rg5! なら強力な攻撃を維持できていた)22…Rad8!(22…Nxb5? は 23.Bc4+ Kf6 24.Qh4+ Kg6 25.Qg5+ Kh7 26.Qh5+ で良くない)23.Bxd4 Qxd4 白はチェックの千日手で引き分けにするしかなかった。24.Rf5+ Nxf5 25.Qxf5+ Kg8 26.Qh7+ Kf7 ½-½

 9…Nf6 この自然な展開の手はチゴーリン防御では黒のナイトにとって好所とならないことが多い。白の中央のポーンが進撃を開始すればナイト当たりの先手になるかもしれない(例えば e4-e5)。ナイトをe7に展開する別の利点は将来 …Ne7-g6(または -f5)-h4 と捌くことができるかもしれないことである。10.Bg2 O-O 11.O-O Qd6 12.Rb1 b6

 13.f4! この強手はこの防御につきものの着想である。13…e4(黒が 13…exf4 とポーンを取ってくれば 14.e4 で白が優勢になる)14.c4 白は中央を落ち着かせた。あとでg列だけでなく黒枡ビショップでa1-h8の斜筋も支配する。14…Rfe8 15.Kh1 Ne7 16.Rg1 Rad8 17.Bh3 Ng6 18.Bc3 Nh4 19.Rg3 Nf3 一見ナイトをf3にもぐり込ませて黒が成果をあげたようだが、このナイトがそこに長く留まることはできない。20.Qe2 Nh5 21.Rg2 Qh6? 22.Bg4 Qg6? 23.f5(ルシエージュ対シャルボノ、モントリオール、2001年)望みのない局面になって黒は投了した。

10.cxd4 Nge7 11.Be2

 ここで黒はどちらにキャッスリングするかを決めなければならない。どちらもありそうである。キング翼にキャッスリングする方が安全なようである。

11…O-O 12.Qb3 Qg5

 12…Qxb3?! 13.axb3 と交換するのは双ビショップと強い中原のおかげで白が収局で楽に優勢になる。

13.Qxb7 Qg2 14.Rf1 Qxh2 15.Qb5! Rab8 16.Qc5 Rfd8

 中盤の正念場になった。駒割は互角である。戦略的には白の方がはっきり良い。しかし白キングは盤の中央列で危険にさらされている。11.Be2 と 12.Qb3 の代わりに白は上述のルシエージュ対シャルボノ戦に似たもう少しおとなしい作戦を選ぶこともできる。

******************************

2012年07月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(274)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 フィッシャーは次の局面で一か八かの賭けをこらえることができなかった。これには観戦者がびっくりさせられた。観衆のためにやったのかもしれない。

コルチノイ対フィッシャー
スース、1967年
 21.Rxb8

21…Bxa4

 フィッシャーはルークでなくポーンの方を取った。心理的には正解以外のすべての応手に対してうまくいく手筋を指してみたくなるものである。例えば 22.Rxb7 なら 22…Bc6 で両取りがかかる。

22.Rxf8+ Kxf8 23.Rh2

 白はルークを展開するためには曲折を経なければならないが、黒のビショップとクイーン翼のポーンは見かけほど脅威にはならなかった。そして激闘のすえ引き分けに終わった。交換損として知られる不確実な均衡がなかったらチェスという競技は今とは違ったものになっていただろう。

(この章終わり)

2012年07月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(273)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 世界選手権戦におけるフィッシャー対スパスキーの試合の優に1/3で両選手は交換損の犠牲の代償を推し量らなければならなかった。これはフィッシャーの判断力の方が優った重要な領域の一つだった。しかし第7局では彼は指しかけの局面から交換損の犠牲の可能性を考えに入れなかったことによりあやうく負けるところだった。

スパスキー対フィッシャー
世界選手権戦第7局、レイキャビク、1972年
 40…Kg6

41.h4!

 スパスキーは長考[訳注 45分]してこの手を封じた。ほとんどの変化で h4 と突かなければならないのでこの手はいろいろな可能性を残す好手である。例えばすぐに 41.Rd5 f6 42.h4 と指すと黒はナイトによる両当たりがあるので 42…Rc2 と指すことができる。本譜で黒は手を決めなければならない。奇妙にも形勢判断については意見が大きく分かれていた。フィッシャーは勝つという自信を表わしていた。ペトロシアンは引き分けと見ていた。ブロンシュテインはスパスキーにチャンスがあると感じていた。

41…f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5(?)

 43…Kf7 なら白は 44.f5 Rxe8 45.Rd7+ Kf8 46.Rxf6+ で永久チェックに持ち込んでいただろう。しかし本譜で黒はほとんど一本道の引き分けに突入するのでフィッシャーの意図は何だったのだろうか。彼が実際に勝つ可能性は交換損の犠牲を払う 43…Rxe8 44.Rxe8 Kf5 45.Rc8 Ke4 46.Rdd8 g3 という変化で、露骨な詰みの狙いがある。実際大威張りのキングの位置を気にかけることなどほとんどなかった。

44.Ng7+ Kxf4(?)

 ここでは 44…Kg6 45.Ne8 で千日手に満足すべきだった。黒キングはすぐに面倒に巻き込まれる。

45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4

 これで引き分けが決定した(フィッシャーがチェックの千日手でそうした)。しかし白は 47.Rd3+ Kf4 48.Ng3 でまだまだチャンスがあり、当面の狙いは Ng2+ による戦力得である[訳注 …Rc1+ と …Rc2+ で千日手です]。それにしてもここまでのことがすべて夜通しの研究のあとのたった7手のことである。

(この章続く)

2012年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(272)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 次の局面ではビショップとポーンが黒の両ルークを封じ込めていて白は黒のクイーン翼を破壊することができる。

フィッシャー対サンギネッティ
マルデルプラタ、1959年
 50…Rcb7

51.Ra1 Nc2 52.Rxc2! bxc2 53.Rc1

 重大な違いは 53…Rxb6 で返礼しても1ポーンしか得られないということである。このあと白キングがb5の地点に進軍して楽勝になる。

(この章続く)

2012年07月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(278)

「Chess Life」2012年4月号(5/5)

******************************

収局研究室(続き)

GMパル・ベンコー

ポーンでの詰み狙い攻撃
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2758、米国)
GMマイケル・アダムズ(FIDE2734、イングランド)
ロンドン、2011年

 黒の手番

 激しい斬り合いの局面になっている。

36…Bxe3+?

 黒は単純化して有利な収局に持ち込むことにしくじった。36…Qb6!? 37.Qc1(37.Bxc5 は 37…Rxc5 38.Qd4 R5xc6! でもっと悪い)37…Bxe3+ 38.Qxe3 Qxe3+ 39.Rxe3 b3

が良かった。この手順中 37.Bf2 なら 37…Bxd5! 38.Nxd5 Qxc6 39.Bxc5 Rxc5 40.Qxb4 Rxd5、

また 37.Rxf3 なら 37…gxf3 38.Kf2 Re8 39.Ne6 Rxe6 40.dxe6 Bxe3+ 41.Rxe3 Re5 42.Qb3 Kg7

で良い[訳注 39.Bxc5 +-]。しかし時間切迫でこれらを読むのは酷というものである。

37.Rxe3 Qb6 38.Rfe1

38…b3?

 これで形勢が逆転した。代わりに 38…Ra5 39.Kf1 Ra1 と指して難を逃れるべきだった。

39.Qc3 Rf8 40.Ne6 b2 41.c7! 黒投了

 必殺のポーン突きである。41…b1=Q としても 42.Qxf6+! から詰みになるので黒は投了した。

******************************

(この号終わり)

2012年07月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(271)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 ルークとビショップはパスポーンを突き進めるのにことに適している。防御側のルークがそのポーンの前にいてもまったく無力である。

フィッシャー対ベルトーク
ブレッド、1961年
 30…Ne5

31.Bxb7! Nxd7 32.Rxd7 Rg8 33.c5!

 このポーンのために黒は駒を切らなければならない。

(この章続く)

2012年07月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(270)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 フィッシャーの芸術性はこのオリンピアードの試合で見せた交換損の犠牲に現れている。

グリゴリッチ対フィッシャー
ジーゲン、1970年
 43.Nf1

43…Rxh5!

 この手では先に 43…Rf2+ と指すこともできた。44.Kg3 Rxh5 45.Rxd4 Kxd4 で実戦と同じことになる。しかし実戦のポーン取りの方が見た目には楽しいことは確かである。

44.Rxh5 Rf2+ 45.Kg3 Rxf1

 そして白のキング翼のポーンがすべて落ちた。

(この章続く)>

2012年07月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

布局の探究(5)

「Chess Life」1990年6月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.Nf3

 何といっても完璧に融通性のある布局の手は 1.Nf3 である。この手は非常にたやすく他の主要な布局(1.e4、1.d4、1.c4)に移行できる。実はほとんどの場合 1.Nf3 の意義は他の布局の中に隠れてしまう。

 しかし 1.Nf3 には三つの主要な独自の特徴がある。一つ目は黒が「純正イギリス布局」の 1.c4 e5 を用いることを妨げられることである。マスターの中にはこれを逆シチリア防御とみなし1手多くてもシチリア防御を指したくない者がいる。そこで彼らは2手目まで c4 と突くのを遅らせる。二つ目は白が単に逆キング翼インディアン防御(1.Nf3、2.g3、3.Bg2、4.O-O、5.d3)を指すことができるし、あるいは頻度はずっと少ないがニムゾビッチ式に 2.b3 から始めてこれの亜流であるクイーン翼ビショップのフィアンケットを指すことができる。そして三つ目は白は 1.Nf3 d5 2.c4 でレーティ布局を目指すことができる。しかしやはりこの手順でさえほとんどはグリューンフェルトや 1.d4 に対する他の「好ましからざる」応手の危険をおかすことなくクイーンポーン(特にクイーン翼ギャンビット)戦法に移行するために用いられる。1982年レイキャビクでのH.オウラフソン対メドニス戦で生じた主眼の移行の針路は 1.Nf3 Nf6 2.c4 c6 3.d4 d5 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 で、スラブ防御の主流手順になった。

 この主流スラブ局面に到達するために用いられる私の好きなごまかし例は1982年シカゴでの国際大会でGMローベルト・ヒューブナーがビクトル・コルチノイ相手にやってのけた。白のコルチノイは初手で 1.Nf3 と指した。1…d5 のあと白は 2.d4 でクイーン翼ギャンビットらしきものに移行した。そして 2…Nf6 3.c4 でそうなった。ここでヒューブナーは 3…dxc4 によりクイーン翼ギャンビット受諾に入ったように思われた。しかしコルチノイはすぐに 4.Nc3 と応じた。

 この手は 4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 という激しいギャンビットの手順を期待していて、コルチノイが研究してきたようだった。しかしヒューブナーは 4…c6! でその作戦を邪魔しスラブ防御に移行した。5.a4 Bf5 でスラブ防御の主流手順が続いたあとコルチノイは居心地が悪くなりヒューブナーが41手で快勝した。ヒューブナーの手順の洗練された点はコルチノイがスラブ防御の主流手順を嫌いそう指させないことを知っていたことだった。1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 のあと代わりにコルチノイは 4.e3 と指し黒に 4…Bf5 でスラブ防御に留まるか 4…Bg4 と指すかそれとも 4…e6 でメラン戦法に向かうかの選択を与えていた。

 1.Nf3 という手は遅延カタロニア布局に到達する非常に効果的な道具でもある。それにより黒が早い(つまり4手目で)…dxc4 の防御を用いるのを防いでいる。ユーゴスラビアのGMブキッチは古典防御(ここでは …d5 と …e6 を基にした防御のこと)を好む相手に対しこの手法で好成績をあげている。彼のやり方はこうである。1.Nf3 Nf6 2.g3 d5 3.Bg2 e6 4.O-O Be7 そしてここで初めて 5.c4! と突く。5…O-O 6.d4 のあとカタロニア布局の主流手順になる。さらに 5…dxc4?! のあとは白は 6.Na3! で楽々とポーンを取り返す。これは1976年マンハッタンでの国際大会のブキッチ対メドニス戦で示された。カタロニア布局主流手順の黒側につきものの消極性が好きでない人たち(私も含まれる)にこれの意味するところは、ブキッチの手順にうまく対処するために別の陣形が必要だということである。その一つの例として私は次のシステムを自分の常用布局に加えた。1.Nf3 Nf6 2.g3 d5 3.Bg2 c6 4.O-O Bg4 のあと …e6 から …Nbd7(または白の手により逆順にすることも時々ある)カタロニア布局と比べると黒のクイーン翼ビショップがずっと活発に展開されている。

 これで自分の役に立ち相手を困らせるための手順の用い方にだいぶ習熟できたことと思う。これらを思慮深くそして創造的に用いることにより非常に価値ある現代のマスターの道具を身につけることができるだろう。

******************************

2012年07月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フィッシャーのチェス(269)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲(続き)

 次の局面でフィッシャーには犠牲の払い方に選択肢があった。そして当然黒枡の支配を保持する方を選んだ。

フィッシャー対サイドマン
ニューヨーク、1960-61年
 16…Nh5

17.Rxh5! Bxh5 18.Nd2

 単純な展開、それに2ポーン得で、白が優勢になった(17.Qxg4 Nxf4 18.Qxf4 f6!)。

(この章続く)

2012年07月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(268)

第5部 着想(続き)

第26章 交換損の犠牲

 ルークとビショップが組むとルーク同士とほとんど同じくらい大きな威力を発揮することはチェスの不思議さの一部である。ポーンの配置、ビショップの利き、そしてキングの位置はもちろん非常に重要である。しかし「すべてが同じならば」ナイトまたはビショップに対しルークを犠牲にすることは、特におまけに1ポーンが取れるか敵のポーンが乱されるならば、ほとんどのチェス選手が通常思うほどの意外な交換ではない。

 多くの者は「交換得をして」試合に負けたことがある。交換損の犠牲が最も行なわれそうな時機は局面が不均衡になっているときで、収局だけでなく中盤戦でもよく起こり得る。

フィッシャー対ポルティッシュ
サンタモニカ、1966年
 15…Nd3

 黒からルーク取りだけでなく …Bc5、…Bf4 それに …Nxb2 を狙われているのでここでは犠牲がほぼ必然である。フィッシャーは数手前から弱体化した黒のキング翼でいろいろな手段があることを見通しておかなければならなかった。

19.Qh6! Bf4

 これが最善の受けである。すぐに 19…Nxe1 と取ると 20.Rxe1 でfポーンを守る暇がなくなる。

20.Qxf6 Rd6 21.Qc3 Nxe1

 局面は後に白の必勝形になったがフィッシャーはそのあと見損じで勝ちを逃した。これはフィッシャーが確かな継続手なしに犠牲を放った数少ない機会の一つだった。

(この章続く)

2012年07月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(34)

「Chess Life」2004年3月号(1/3)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

チゴーリン防御

 クイーン翼ギャンビット拒否のチゴーリン防御 [D07] は白にとって意表をつかれることが多く、黒の利点になっている。というのはたとえ白が黒の布局選択を予期したとしても、白にはっきりした優勢をもたらす戦型はないからである。世界選手権戦でビルヘルム・シュタイニッツに2度挑戦した19世紀のロシアのマスターにちなんで名づけられたチゴーリン防御は一流大会ではきわめてまれな布局である。それでもその利点は分析されすぎた主要な布局を避けることにある。すでに2手目から黒は白に特定の戦型を強要する。白は適切に準備してなければ試合早々から不快な驚きに見舞われることになる。

 これを定常的に指す2大強豪選手はGMモロゼビッチとGMミラディノビッチである。この二人の若きグランドマスターのおかげでチゴーリン防御はこの10年ほどの間に復活を果たした。元世界チャンピオンのワシリー・スミスロフ、GMトニー・マイルズ、その他多くの選手もこれを意表を突く武器として試みた。

白の基本的な作戦は何か

 白は一番最初から攻撃的に中央の支配を争おうとするのが普通である。戦型AとBでは黒はビショップをf3の地点で交換し、白はgポーンで取り返す。白キングはもうキング翼に安全を求めることができないのでこの交換は白にとっていくらか危険でもある。これらの戦型で白キングは中央が比較的一番安全なのでチェスの基本原則の例外ではあるがそこに留まることが多い。代償としてに白には双ビショップの優位と強力な中原がある。白は主要な戦略として中原のポーンを突いていくようにすべきである。さらにg列が素通しになる色々な戦型では Rh1-g1 と寄って攻撃を図ることができる。もちろん黒がクイーン翼にキャッスリングすれば白はクイーン翼で(b列で)攻撃する必要がある。

黒の基本的な作戦は何か

 黒は2手目で白のd4ポーンに対しいささか異例の速攻を始める。次の2手は襲撃を続ける。黒は「序盤早くにクイーンを出すな」と「ビショップをナイトと交換するな」というようなチェスの基本原則を破ってまでも非常に積極的に動いていこうとする。多くの戦型で黒は2個のビショップを白のナイトと交換してしまう。白キングが中央に留まっているときはしばしば黒は戦術の機会をとらえて局面を開放状態にしなければならない。

それで評決はどうなっているか

 チゴーリン防御は非常に面白い戦いになる。2…Nc6 のあと白には主要な選択肢が三つある。そのどれもまったく異なった種類の中盤戦になる。しかしクイーン翼ギャンビットで通常起こるような、白がわずかな穏やかな優勢を得るはっきりした手段はないようである。白は布局で戦って優勢になりたければ危険をおかさなければならない。少しの危険とはf列で二重ポーンを甘受することとキングを中央に置いたままにすることである。

戦型A)3.Nc3
1.d4 d5 2.c4 Nc6 3.Nc3

 白はd5ポーンにもう一つ当たりをかける。

3…dxc4 4.Nf3

 4.d5 と突く手もあり 4…Ne5(4…Na5?! は 5.Qa4+ c6 6.b4 でそれほど良くない)5.f4 Nd7 6.e4 Nb6 7.a4 a5 8.Be3 e6 9.Bxb6 cxb6 10.Bxc4 Bb4 11.Nf3 Nf6 12.O-O O-O 13.dxe6 Bxe6 でいい勝負である(イワンチュク対モロゼビッチ、ニューヨーク、プロチェス協会快速戦、1995年)。

4…Nf6

 4…Bg4? は次のように白を利する。5.d5 Bxf3 6.exf3! Ne5 7.Bf4 Nd3+{7…Ng6 は 8.Bxc4 Nxf4(8…a6 は 9.Qa4+ Qd7[9…b5 は 10.Nxb5 axb5 11.Bxb5+ からすぐに詰みになる]10.Bb5 で釘付けの見事な成功例となる)9.Bb5+ c6 10.dxc6 で開きチェックのために黒が負ける}8.Bxd3 cxd3 9.Qb3 黒が著しく展開で遅れているので白がはるかに優勢である。

5.e4 Bg4 6.Be3

 ここで黒は二つの道を選ぶことができる。

6…Bxf3

 もう一つは 6…e6 7.Bxc4 Bb4 8.Qc2 O-O(8…Bxf3 は 9.gxf3 Nxd4? 10.Bxd4 Qxd4 11.Qa4+ で不可)9.Rd1 Qe7 と進む。

7.gxf3

 7.Qxf3 はd4のポーンが浮いて 7…Nxd4 と取られる。

7…e5 8.d5 Nb8!

 8…Ne7 は 9.Qa4+ Nd7 10.d6! cxd6 11.Bxc4 となって、白はポーン損ながら Qa4-b3 の狙いとd列とg列にルークを回す狙いで縦横に指せる。

9.Bxc4

 もっと直接的な 9.f4 なら黒は 9…Bd6(または 9…Nbd7!? もあるだろう)10.fxe5 Bxe5 11.Bg2 Qd6 12.Qa4+ Nbd7 13.Nb5 Qa6 と応じる。

9…Nbd7

10.Qb3 Bc5!

 黒枡ビショップ同士の交換は黒にとって助かる。

11.O-O-O

 11.Qxb7 は 11…Rb8 12.Qc6(12.Qa6 なら 12…Rxb2[訳注 13.Bxc5 Nxc5 14.Qa3 で両取りになるので正着は 12…Bxe3 13.fxe3 Rxb2])12…Rb6 13.Qa4 Rb4 14.Qa6 Bxe3 15.fxe3 Rxb2 16.Qxa7 O-O となって、黒にポーン損の代償が十二分にある。

11…Bxe3+ 12.fxe3 Rb8

 ポーンを守っておくべき頃合である。

13.d6

 さもないと黒がキャッスリングのあと …Nf6-e8-d6 によってポーンをせき止めることができ有利な態勢になる。

13…O-O

 どちらも指せる分かれである(アーナンド対モロゼビッチ、ベイクアーンゼー、2001年)。

******************************

2012年07月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(267)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 次の局面も同様に凝り形だった。

ビズガイアー対フィッシャー
ニューヨーク、1956年
 19.Bg4

 狭小な陣形では手筋が始まると「当たり」が頻発する。例えば 19…Bxe5 と取ると 20.Bxe6 Bxa1 21.Bxd7 で白が駒得になるのでうまくいかない。

19…Rxe5 20.Bb6 Qc8 21.Bxd7 Qxd7 22.Bxa5

 そして白が勝った。風評の中にはビズガイアーはフィッシャーに勝ったことがないというのがある。またこれがビズガイアーがフィッシャーに勝った最後だと言う者がいる。実際は最初だったが、これが最後となることは知るよしもない。

(この章終わり)

2012年07月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(266)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 フィッシャーが負けるのは狭小な陣形に起因することが多かった。そのような陣形は弾力性とちぢこまったボクサーの反撃とに頼っている。「余地」とも言うべき動きの自由な方の選手は、普通はフィッシャーに対してさえ狙いを先制することができる。

レシェフスキー対フィッシャー
ニューヨーク、1965-66年
 29.g4

29…Nxg4

 g5 突きに屈するのを拒んだ。しかしこのナイトは 30.Qg3 で取られる。30…Nf6 なら 31.Qg5 で Qxh6+ と Rxh6+ の狙いがある。

(この章続く)

2012年07月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(265)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 別の局面での同様の手はビショップの自由な動きが不足していた。

カルメ対フィッシャー
ミルウォーキー、1957年
 36.a4

36…Rxc4 37.bxc4 Bh8

 少年ボビーの構想はポーンで敵陣突破することだった。しかし失敗する。ビショップの枡が安全でないという単純な理由からだった。

38.Kf2 b3 39.Rc1 d5! 40.cxd5 c4 41.Rxc4 b2 42.Re1 b1=Q 43.Rxb1 Rxb1 44.Rc8+

 これが「玉に瑕」だった。ビショップが落ちるだけでなくhポーンも落ちてしまう。

(この章続く)

2012年07月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(277)

「Chess Life」2012年4月号(4/5)

******************************

収局研究室

GMパル・ベンコー

進攻ポーン
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2758、米国)
GMマグヌス・カールセン(FIDE2826、ノルウェー)
2011年タリ記念大会、モスクワ

 黒の手番

 白は序盤で1ポーンを犠牲にした(たぶん見落とした)。しかし不運なことにさらに不利をこうむる。

33…Be2!

 これで一巻の終わりである。白キングを閉じ込め自分のキングはすぐにd3の地点に来る。だから白はまたポーンを捨てることを強いられる。

34.f4 gxf3e.p. 35.Bf2 d3 36.Be1 Kg7 37.Kf2 Kf6 38.Ke3 Kf5 39.h3 h5 40.Bd2 Bf1

41.Be1

 代わりの手としては 41.h4 Kg4 と 41.Kxf3 Bxh3 がある。しかしどちらにしても黒のビショップは自由になる。そのあとはa2のポーンをビショップで攻撃して、黒キングが侵入に使える空所を作らせる。どの手順も研究に値する。

41…Bxh3 42.Kxd3 Bf1+ 43.Ke3 Kg4 44.Kf2 Bb5 45.Bc3 Bc6 46.Be5 b5 47.Bb8 a6 48.Bc7 f5 49.b3 Bd5 50.Bd6 f4!

 白は相手がもう一つパスポーンを作るのを止められなかった。ここで 51.Bxf4 と取ると 51…h4 52.Bd6 h3 53.Kg1 h2+ で黒の勝ちになる。

51.gxf4 h4 52.f5 Kxf5 53.Ke3 Kg4 54.Kf2 h3 55.Ke3 Be4 56.Kf2 Bb1 57.a3 Ba2 58.b4 Bf7 白投了

 …Bh5-…Kf5-…Bg4 で黒キングを解放すればa3のポーンが取れ三つ目のパスポーンができて白の抵抗がすべて終わる。

******************************

(この号続く)

2012年07月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(264)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 次の局面のプロブレムのような手には神秘的なものがあった。

ゲオルギュ対フィッシャー
ジーゲン、1970年
 21.Nc3

21…Bh1!

 感嘆符はショックだからかそれとも素晴しいからか?この手は引き分けを超えることは成し遂げられなかったが十分理屈に合っていた。このビショップはc6に下がると白のナイトによって動きを阻止されるのでクイーン翼には退避できなかった。そしてd3とf3は白キングがe3に進む手が先手になる。

(この章続く)

2012年07月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(263)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 枡の追求はここからの3局では純然たる幾何の問題である。しかしそれにもかかわらず眼目の手はその理由ゆえに驚くべきものがある。

フィッシャー対ダルガ
ベルリン、1960年
 26…Kc7

 この局面でフィッシャーは彼特有のぶしつけさで「問題 白先白勝ち」と書いている。新しい斜筋を見つけるためのビショップ引きはプロブレムのような感じがある。

27,Bc1!

 そして Bf4+ から Qb5 で黒は投了に追い込まれた。

(この章続く)

2012年07月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

布局の探究(4)

「Chess Life」1990年6月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.c4

 「1.c4 はイギリス布局である」は本当かうそか?正解は「どちらも」である。試合の約半数は本当のイギリス布局になり、残りの半数は普通はもちろん 1.d4 布局に移行する。イギリス布局(1.c4)は一部のGMによって自分のクイーンポーン戦法に行く手段として、それと同時に相手が自分の戦法を達成するのを防ぐ手段として、ほとんど日常的に用いられる。黒が 1…e5 と応じればイギリス布局の最も本筋の主流手順になる可能性が非常に高い。しかし他の応手はどれも移行の機会がたくさんある。ここからは重要な可能性の分岐点について解説する。

 黒は 1…c5 と応じれば次のようにシチリア防御加速ドラゴン戦法に対するマローツィ縛り戦法に意図せず移行させられないように警戒しなければならない。2.Nf3 g6 3.e4! Nc6 4.d4! cxd4 5.Nxd4(「正規」の手順は 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 g6 5.c4)GMポルティッシュやGMスメイカルらの多くの著名な戦略家は白のこの局面を好んでいる。しかしもちろん白はこれを達成しようとして 1.e4 と指す「危険」をおかすことは決してない。だから彼らは 1.c4 と指し上記の移行の機会を逃すまいと目を見開いている。黒がこのようなことを起こらせたくないならば、1…c5 と指すのを控え最初に 1…g6 から 2…Bg7 と指さなければならない。しかしもちろん白は2手目か3手目で d4 と突くことにより簡単にクイーンポーン布局にできる。

 もちろん移行のほとんどははるかに劇的でなく、望みのクイーンポーン布局の局面に到達する。多くのGM(私も含めて)はカタロニア布局のいわゆる本定跡の局面を好んでいる。その局面は 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 Be7 5.Nf3 O-O 6.O-O から生じる。しかしこの普通の手順で黒は 4…dxc4 と指す選択肢がある。この戦法は前に指摘したように1970年代初めにはカタロニア布局に対するカルポフの好みの手法だった。私の考えでは「もし」白が早く d4 と突いていれば黒は早く …dxc4 と取ることによりかなり指しやすくなる。だから私は次のように d4 突きを遅らせている。1.c4 Nf6 2.Nf3 e6 3.g3 d5 4.Bg2 Be7 5.O-O O-O そしてここで初めて 6.d4 と突き、早い …dxc4 について「心配」する必要なしに望みの局面に到達する。

 白番でクイーン翼ギャンビットのタラシュ防御に対して次のようにキング翼ビショップをフィアンケットするのを好む選手は多い。1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 c5 4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 この局面は白が指しやすいと思っているが 1.d4 と指す「危険」はおかしたくない。というのはクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス防御は私にとっては穏やかに思われて、それを相手にする興味はほとんどないからである。典型的な解決策は 1.c4 から始めて移行に期待することである。1977年クラグイェバツでのメドニス対パデフスキー戦(Chess Informant 第24巻第519局)で白は次の手順で望みの局面に達した。1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.Nc3 e6 4.g3 d5 5.cxd5 exd5 6.d4 Nc6 7.Bg2 Be7 8.O-O O-O 9.Bg5

そして望みがかなって満足の白が25手で快勝した。

 1.c4 は多くのクイーンポーン布局の防御を防ぐために用いられることが非常によくある。あなたはニムゾインディアン/クイーン翼インディアンの組み合わせを指したいだろうか?東ドイツのGMボルフガング・ウールマンに対してはそんなチャンスは全然ないだろう。彼の布局の手順は決まって 1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 である。ここで 3…b6 なら 4.e4! と来るし、3…Bb4 はニムゾインディアンのように煩わしいところは何もない。釘付けもなければ攻撃目標のdポーンもなく、4.Qc2 で白の危険性のない楽な局面になる。だから黒の中心となる最も普通の手は 3…d5 で、白の 4.d4 でクイーン翼ギャンビット拒否になる。早い展開の Nf3 のためにほんのわずかの要因、つまり交換戦法(cxd5)がかなり無害になっていることを別にすれば、ウールマンのクイーン翼ギャンビット拒否に至る方法には何の不都合もない。

 グリューンフェルト防御(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5)を相手にするのが怖い者が愛用する道具は 1.c4 である。1…Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 のあと白には理にかなった二つの選択肢がある。それは(1)4.g3 g6 5.Bg2 の純粋なイギリス布局と(2)4.Nf3 g6 5.e4! Nxc3 6.dxc3! でわずかに有利な収局を目指すことである。グリューンフェルトの典型的な中盤戦のねじり合いを楽しむ黒はこの収局では非常に不満を感じるのが普通である。

 黒が最も融通性のある 1…g6 で応じたいなら白は 2.e4! で「グリューンフェルトの夢」をすべて止めさせることができる。通常これは早い d4 突きでキング翼インディアン防御になる。しかし 2…c5 3.Nf3 から 4.d4 突きでまた加速ドラゴンに移行することに注意がいる。2.e4 突きの唯一の小さな危険性は黒の 2…e5!? 突きで生じる珍しい戦法に対処する十分な定跡の知識を持っていなければならないということである。知識不足の危険性の例として1976年ブダペストでのホルモフ対サクス戦をあげることができる。ソ連のGMは 2.e4 と突くことによりサクスのグリューンフェルトを防ぎたかった。しかし対局後認めたように彼は 2…e5!? に全然なじみがなかった。そして20手ももたずに惨敗を喫した。

******************************

2012年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フィッシャーのチェス(262)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 次の局面でも同様に枡を空けた威力はすごかった。

ナイドルフ対フィッシャー
サンタモニカ、1966年
 20…gxf4

21.e5! dxe5

 これでクイーンのf5行きを含め白の駒が中央のすべての枡に行ける。

22.Bf3 Qf8 23.Nxe5 Bb7 24.Ndc4 Rad8 25.Nc6 Rxe1+ 26.Rxe1 Re8 27.Rd1 Rc8 28.h3 Ne8 29.N6a5 Rb8 30.Qf5 Nd6? 31.Nxd6 黒投了

(この章続く)

2012年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(261)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 相手が駒の活動の余地を見つけたためにフィッシャーが負けを喫しなければならなかった例をいくつかあげる。

フィッシャー対ウールマン
ブエノスアイレス、1960年
 30.Qxh1

30…e3+! 31.Kg1

 これが最初の要点である。白がポーンを取れば黒クイーンがチェックで白陣に侵入する。

31…Rxh1+ 32.Kxh1 e2!

 また枡を飲み込んだ。このポーンはクイーンに昇格することは絶対にないが、33.Re1 Qe4 から …Qe3 で白駒を動けなくする。

(この章続く)

2012年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(33)

「Chess Life」2004年1月号(2/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

3.d4 型のペトロフ防御(続き)

3.d4 戦法Ⅱ 5…Nd7 – 7…Qh4
1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Nd7 6.Nxd7

 白はこの本手の代わりに 6.Qe2 と指すこともできる。それに対して黒はほとんどの場合ポーンを犠牲にして 6…Nxe5 7.Bxe4 dxe4 8.Qxe4 Be6 9.Qxe5 Qd7 10.Nc3 O-O-O 11.Be3 Bb4 と指し、双ビショップと展開でいくらか優っているので順当な代償を得ている。

6…Bxd7 7.O-O Qh4

 この見慣れない手は非常に意欲的な作戦の始まりである。即ち黒はクイーン翼にキャッスリングしそのあとキング翼で攻撃を仕掛けて白キングを直接標的にする。

8.c4

 白は迅速に対応して反撃を開始しなければならない。ここで局面の様相は逆翼キャッスリングにより決定づけられそれぞれのキングに対する激しい攻め合いになる。

8…O-O-O 9.c5

 ここで黒には主要な選択肢が二つある。

9…g5

 もう一つは 9…g6 である。どちらの手も黒枡ビショップをg7に展開してd4のポーンに圧力をかける準備である。10.Nc3 Bg7 11.g3 Qf6

 11…Qh3? からの乱戦は白に有利に働く。12.Nxd5 Bg4 13.Ne7+ Kb8(13…Kd7 には 14.Qa4+)14.Nc6+! これで白クイーンはチェックで当たりから逃れることができる。14…Kc8(14…bxc6 なら 15.Qb3+ Ka8 16.Bxe4)15.Nxa7+ Kb8 16.Nc6+ Kc8 17.f3 Rxd4(17…bxc6 は 18.Ba6+ Kd7 19.fxg4、17…Nxg3 なら 18.fxg4 Bxd4+ 19.Nxd4 Rxd4 20.Rf4! Rhd8 21.Rxd4 Rxd4 22.Qe1!! Rxd3 23.Bg5! で白の勝ち)18.Be3 Rxd3(18…Nxg3 なら 19.Bxd4 Bxd4+ 20.Nxd4)19.Qxd3 Nxg3 20.Bf4 そして1992年デブレツェンでのヨーロッパ団体選手権戦のイワンチュク対ローゼンタリス戦では 21.Ne7+ Kb8 22.Bxc7+ Kxc7 23.Qd6# という鮮やかな狙いのために黒が投了した。

 12.Be3

 この手は単純に展開しd4のポーンを守っている。

 12…Ng5!?(12…Bf5? は良くない。13.Nb5 a6 14.Nxc7! Kxc7[14…Qc6 15.Na8]15.Bf4+ Kd7 16.Be5 Qe6 17.Bxg7 Rhg8 18.Be5 Nxc5 19.Bxf5 Qxf5 20.g4 Qe6 21.Re1 Ne4 22.f3 Nd6 23.Qb3![23.Bg7?! Ne4 24.Bh6 g5!]23…Kc8 24.Rac1+ Kb8 25.Rc6! Ka8 26.Qb6 +- このあと短手数で白の勝ちに終わった[ハル=ズビ対レフ、イスラエル、1995年])

 13.f4 これで白の方が少し有望のようである。代わりに 13.Nxd5 なら 13…Nh3+ 14.Kg2 Bc6 15.Qg4+ Kb8 16.Qxh3 Rxd5 で黒の攻撃にはずみがつく。

10.Nc3

 10.f3 Nf6 11.Be3 もよく見かけられ、活気のある局面になる。

10…Bg7 11.g3

 いくつかの試合の結果からするとこの手の方が 11.Ne2 よりも優っている。

11…Qh3 12.Nxe4 dxe4 13.Bxe4

 これで白のポーン得になったが長く保つことはできそうもない。

13…Bb5 14.Bg2!

 14.Bxg5 も 14…Rxd4 15.Bg2 Qf5 でやはり交換損をより劣った状況でしなければならない。

14…Qf5 15.Be3! Bxf1 16.Bxf1

 白は犠牲にした交換損に対して1ポーン、双ビショップ、それに黒キングに対する猛攻という十分すぎる代償を得ている。目下の作戦は Qa4 のあと Ra1-d1-d3 で3段目でルークを活用することである。

 アーナンド対イワンチュク戦(リナレス、1993年)では白がきれいに勝った。

16…Rhe8 17.Qa4 Kb8 18.Rd1 c6 19.Rd3 Qe4 20.Ra3 a6 21.Bd3

 21.Bxa6 なら黒は捨て駒を受け付けずに 21…Rxd4! 22.Bxd4 Bxd4 で逆に捨て駒をする。

21…Qg4?

 21…Qd5! の方が良かった。

22.Rb3! Bxd4?

 これは一本道で負ける。

23.Rxb7+! Kxb7 24.Qxa6+ Kb8 25.Qb6+ Ka8 26.Qxc6+ Kb8 27.Qb6+ Ka8 28.Bb5 黒投了

3.d4 戦法Ⅲ 5…Nd7 – 7…Bd6
1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Nd7 6.Nxd7 Bxd7 7.O-O Bd6

 この手の方が流行している。

8.c4

 白は他にも二つの面白い手を試みてきた。8.Qh5 これに対する黒の最善の応手は 8…Nf6 9.Re1+ Kf8 10.Qh4 Ng4 である。黒はキャッスリングの権利を失ったのでクイーンを交換した方が得策である。もう一つは 8.Nc3 Nxc3 9.bxc3 O-O 10.Qh5 で両狙いで 10…f5 と突かせる。そうなればちょうどできたe5の地点の弱点のために白の二重cポーンは相殺される。

8…c6 9.cxd5 cxd5 10.Qh5

 10.Nxc3 Nxc3 11.bxc3 O-O 12.Qh5 f5 13.Qf3 は黒が駒を働かせるためにやはりd5のポーンを犠牲にすることができる。13…Kh8 14.Qxd5 Bc6 15.Qe6 Rf6 16.Qb3 Rg6 17.g3 Qh4 18.d5 Bxg3 19.hxg3 Rxg3+ 20.fxg3 Qxg3+ 21.Kh1 黒は永久チェックで引き分けにできる。

10…O-O

 ポーンの犠牲を払ってもキングの安全を図る方が優先度が高い。

11.Qxd5 Bc6

 明らかに黒の方が展開に優りすべての小駒が好所にいる。実戦によれば黒がポーンの代償を十分に得ている。しかし定跡の最終結論としてはまだ十分でないかもしれない。

12.Qh5 g6 13.Qh3 Ng5

 奇異な 13…Bb4 も何局か指されている。しかし白は 14.Be3 Re8 15.a3 Ba5 16.Rc1 で陣形をまとめて1ポーン得の優位を維持しているようである。

14.Qg4!

 14.Bxg5 Qxg5 15.Nc3 Rae8 も白クイーンが遊んでいるので黒に十分な反撃力がある。また 14.Qh6 は 14…Be7 15.Be3 Ne6 でd4のポーンが落ちる。

14…Ne6

 d4のポーンは守られているように見えるけれどもそうではない。黒は 15…Nxd4 を狙っていて 16.Qxd4? は 16…Bxh2+ の開きチェックで白クイーンが落ちる。

15.Bh6

 白は 15.Be3 でd4のポーンを守っても優勢になれなかった。なぜなら 15…h5 16.Qh3 Bd7 17.Qf3 Bc6 となって白は 18.Qh3 で手を繰り返さなければならないからである。1999年ラスベガスでのローチェ対ゲルファンド戦(番勝負第6局)では白は引き分けを避ける過ちを犯した。18.Qd1? Qh4 19.h3 Ng5 20.d5 Nxh3+! 21.gxh3 Qxh3 22.Re1 Bh2+ 23.Kh1 Bxd5+ 24.f3 Bf4+ 25.Kg1 Bxf3 白投了。

15…Re8 16.Nc3

16…Nxd4

 1999年のアーナンド対カルポフの番勝負では黒が2試合で 16…Bf4!? 17.Bxf4 Qxd4 18.Be4 f5 19.Qg3 Nxf4 20.Bxc6 bxc6 21.Qf3 と指した。どちらでもキングがより安全なこととポーンの形に優ることにより白がいくらか有利な局面になった。

17.Rad1 Be5

 激闘の中盤戦になった。

3.d4 戦法Ⅳ その他の戦型
1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 Nxe4

 3…exd4 4.e5 Ne4 5.Qxd4 2003年ビールでのバクロ対モロゼビッチ戦で面白い新着想が試みられた。5…f5 6.Bc4 Bc5 7.Qxc5 Nxc5 8.Bg5 Qxg5 9.Nxg5 Nc6 10.O-O Ne6 11.Nf3 b6 12.Bd5 Bb7 13.c4 O-O-O 14.Nc3 h6 15.Rad1 g5

4.Bd3 Nc6

 これはぎょっとさせられる手である。白はe4のナイトを当たりにしている。黒はポカをしたのか。どうなるか見ていこう。

5.Bxe4

 5.d5 は 5…Nc5 6.dxc6 e4 で両取りになる。

5…d5 6.Bg5!

 6.Bd3 なら 6…e4 で駒を取り返せる。

6…Qd6 7.dxe5 Qb4+ 8.Nc3 dxe4 9.a3 Qa5

 9…Qxb2 は 10.Nd5 で白が良い。

10.Nd4 Nxe5 11.Nb3

 11.O-O Bd6 12.Nxe4 でもやはり白が展開で少し有利である。

11…Nd3+ 12.Qxd3 Qxg5 13.Nxe4

結論

 ペトロフ防御は黒にとってまったく堅実で健全な布局である。近年は白にとって布局での優位を求める戦いにおいて大きな「頭痛」になってきた。だから非常に人気のある応手になってきた。3.Nxe5 と 3.d4 の2大戦型でもペトロフ防御の可能性の豊かさが見られる。今回の黒の四つの選択肢はすべて完全に異なった種類の局面になる。黒での私の推薦は戦法のⅢとⅣにもっと集中することである。さらにペトロフ防御は非常にはやっている布局なので得意戦法に取り入れるときにはもっと研究して最近の実戦も追うようにすべきである。

 試合は非常に激しく高度に戦術的になりしばしば乱戦になる局面では正確な手順が必須なので、指し方の一般的な考え方だけを示すのは難しい。正確な読みをたくさん行なう必要がある。しかし要はこの布局では黒が対等に戦えるということである。

******************************

2012年07月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(260)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 次の「枡拡張」の着想は大局観派の選手の糧(かて)になる。ポーンの犠牲はたとえ取り戻せなくても有効である。

サトルズ対フィッシャー
パルマ、1970年
 22.Nxf3

22…f4! 23.gxf4 Nxf3 24.Qxf3 Qh4!

 フィッシャーはポーン捨ての狙いである …Bf5+ を指す前に黒枡も確保した。たぶんビショップを戦闘に投入する前に …Rxf4 と指すだろう。たった1個のポーンが動いただけでクイーン、ルーク、それにビショップの枡が作られた。

(この章続く)

2012年07月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(259)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!(続き)

 この際どい局面でフィッシャーと対戦相手の両方が枡の使用の価値の劇的な例を見逃した。

イフコフ対フィッシャー
ザグレブ、1970年
 58.Rxh2

 フィッシャーはまた負け試合を救うために奮闘していた。しかしここでは敵キングをチェックで4段目から追い払う代わりに次のように指した。

58…Rd7+? 59.Kc5?

 要点はキングを戦いに参加させることである。これは 59.Bd6! Rxd6+ 60.Ke5 で成し遂げることができた。駒を取り返して勝ちのルーク+ポーン収局になる。この迂闊な手のあと白のキングは二度とキング翼に戻れなかった。

(この章続く)

2012年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(258)

第5部 着想(続き)

第25章 どうか枡を!

 チェスではどの試合でも対立の底流があり、そこでは好所を求めて小駒-ビショップとナイト-対ポーンの戦いがある。時にはこの戦いはポーンの暴風の形をとり駒が成すすべもなく踏みつけられる。時にはポーンの意表を突く犠牲で駒のために枡が空けられる。時には単にここからあそこへ行く唯一の経路の探索で、兵站学の問題である。

 芸術家としてのフィッシャーはこの局面で枡を空ける選択をしたことで明かされる。

フィッシャー対ヒメネス
ハバナ、1966年
 28…Rd7

 問題 どうやったらe7のナイトが取れるか。単刀直入に 29.Bxe7 Bxe7(29…Rxe7 は守り駒を破壊する 30.Rxf8+ のために駄目である。この手がチェックになるところがみそである)30.Rf7 で問題なさそうに見える。しかしこれには紛れる余地があり 30…b5! 31.Nc3(31.Nc5 には 31…Rxd5 という挿入手がある)31…Rxg3+! 32.Kh2(32.Kf2 には 32…Bh4 がある)32…Bd6 33.Rxd7 Rxc3+! 34.Rxd6 Rc2+ で引き分けになる。茫然とさせられる変化である。しかしフィッシャーはナイトが突入する簡明な道を見つけすべての紛れを終わらせた。

29.d6!

 これが正確な手順である。ナイトのためにb6の地点が用意される。

29…cxd6 30.Bxe7 Bxe7

 注意すべきはd6の黒ポーンのせいで黒ビショップが動きを抑えられていることで、上述の変化がみな防がれている。

31.Rf7 黒投了

 31…Re8 32.Nb6 Rc7 33.Nd5 で完全に白の駒得になる。

(この章続く)

2012年07月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(276)

「Chess Life」2012年4月号(3/5)

******************************

2012年ベイクアーンゼー大会(続き)


ナカムラ(左)と長年の協力者のクリス・リトルジョン

ヒカル・ナカムラ「アロニアンはここで最高の試合をした。最も攻撃的なチェスは優勝に値する。しかしこれは一つの大会にすぎない。もし彼がこれを続ければ恐るべき相手になる。
 アロニアンは非常に堅実な選手として知られ、あっちでもこっちでも勝っている。しかしここではもっと激しく指しそれが報われた。」

次の一手

GMボリス・ゲルファンド(FIDE2739、イスラエル)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2759、米国)

 白の手番

解答
35.Rd6 で受かるはず。しかし実戦は 35.Rc2?? Red4 白投了

******************************

(この号続く)

2012年07月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(257)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 フィッシャー対ラルセンの番勝負の結果(タイマノフ戦の6-0に続けてまた6-0)は大きなニュースになったので最終局の内容はほとんど無視されてきた。フィッシャーはポーンあさりに出て事なきを得た。

ラルセン対フィッシャー
番勝負、デンバー、1971年
 30…f5

 ラルセンはここでなんとなく 31.Qf6 と指したが、実際は次のように手をかけずに指すことができた。

31.Qg5+ Kh8 32.Qf6+

 しかしこの手ではすぐに勝つことができた。

32.Qd8+ Kg7 33.Nxf5+! Rxf5

 33…exf5 ならルークを取る前に 34.Qg5+ とチェックをさしはさむことができる。

34.Rxg4+ Kh6 35.Rh4+ Rh5 36.Qf8+!

 これで白の全軍が最終攻撃態勢に入る。フィッシャーは31手目で 31…Kf8 または 31…Kf7 と指すこともできる。31…Kf7 なら 32.Qxg4 でルークのための筋が開き、32…Rxd4 にはクイーンが先にチェックをかけることができる。また 31…Kf8 なら 32.Rff1 でついにナイトを攻撃に使うことができる。32…Rxd4 にはまたクイーンのチェックを先にさしはさむことができる。こんなことが起こっていたかもしれなかった。

(この章終わり)

2012年07月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(256)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 働いているクイーンと遊んでいるクイーンの違いは次の2手に劇的に表れている。

レシェフスキー対フィッシャー
番勝負、ロサンゼルス、1961年
 27.Bg5

27…Qxa3? 28.Qd7!

 クイーンが3駒に当たっていてたちまち勝勢になった。

(この章続く)

布局の探究(3)

「Chess Life」1990年6月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.d4

 白が 1.d4 に続けて 2.c4 と指すけれんみのない主流手順派ならばお互いの手順の入れ替えの可能性は少ない。それでも手順の入れ替えは起こる。簡単な例は1972年スパスキー対フィッシャーの世界選手権戦第3局である。1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3(2点リードのスパスキーは第1局のもっと激しい 3.Nc3 を避け 3…b6 のクイーン翼インディアン防御か 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否になれば満足だった。しかし・・・)3…c5!? そしてスパスキーは意表を突かれたことは確かで挑戦を受けて立ち 4.d5 でべノニ防御に入った。しかしフィッシャーは卓越した研究を見せつけて41手で危なげなく勝った。

 白が 2.c4 を避けると転移の可能性はかなり増す。1…Nf6 のあと白がごく普通の 2.Nf3 を指したとする。黒はどう応じるべきだろうか。もちろん 2…d5 と突くことはできるが、もっと非対称でキング翼ビショップをフィアンケットしないことを望むならどうだろうか。その場合 2…e6 が明らかに思い浮かぶ。黒は 3.c4 b6 でクイーン翼インディアン防御、そして特に現在流行している 4.g3 Ba6 戦法になることを期待する。しかし白は 3.g3 とだけ指す。白が c4 と突かなければ黒の …Ba6 の着想は何にもならない。そこで黒はクイーン翼インディアン防御の代わりに今度は 3…d5 でカタロニア布局に移行しようとする。一般的なカタロニア布局(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 または 4.Nf3)に対して黒は激しい 4…dxc4 を望む。この戦法は1970年代初めにアナトリー・カルポフが得意戦法にしていた。黒はここで 4.c4 dxc4 を期待するが白はそれに応えず 4.Bg2 と指す。黒は 4…Be7 5.O-O O-O と指すしかないが白はここで初めて 6.c4 と指す。カタラン布局での黒の選択肢は著しく狭められ 6…Nbd7 で閉鎖的な陣形を保つか 6…dxc4 と指すしかない。

 これらの手はいずれも十分指せる手ではあるけれども、戦法としては 4…dxc4 とははっきりかけ離れている。そして黒がそれらに精通していなければ困難に見舞われるのは確実である。ユーゴスラビアのGMサホビッチは1977年ニシュでの対局でこの手順を用いて私を大変不満足にさせた。というのは「こちらの条件」で布局を激しくすることを防がれたからだった。そうするためには黒は 2.Nf3 e6 3.g3 のあとどう指したらよいだろうか。簡単な答えはないが真剣に考えてみる価値のある一つの可能性は、ブロンシュテインとマイルズが試したことのある均衡を崩す 3…b5!? である。

 黒はいつもキング翼インディアン防御を指すと仮定しよう。白の初手は 1.d4 で黒は喜んで 1…Nf6 と指す。ところが白はここで 2.g3 と指す。このあと黒はキング翼インディアン防御の陣形にすることができるだろうか。手順を追ってみよう。2…g6 3.Bg2 Bg7(すべて順調)しかしここで 4.e4! d6 5.Nc3! O-O 6.Nge2 とやってくる。そして白はピルツ防御に対する現在評判のよい戦法に移行した。もちろん黒は 3…d5 でグリューンフェルト防御にできるし、2…c5 でべノニ防御の陣形を目指すこともできるし、2…d5 でカタロニア布局の陣形を目指すこともできる。しかし黒はキング翼インディアン防御を指すことを防がれている。

 以上の2例に関して私が特に強調したいのは単一防御や単一戦法の選手であることの危険性である。鋭敏な白がこのことを知れば適切な手順を用いてこちらの目的達成を防ぐことができる。そのような場合満足のいく「控え」の戦法を持てるようにしなければならない。

 以前の例で手順変更の機会は非常に早い時期に来た。しかし思慮深い選手なら布局のどんな遅い時機であろうと好機を「いつも」探している。一流GMがどのようにこれをやるのかの好例は1982年レイキャビクでのJ.ヤルタルソン対R.バーン戦に見られる。その試合はニムゾインディアン防御のある戦法で始まった。これは長い間GMバーンの得意戦法の一つだった。1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 O-O 5.Bd3 c5 6.Nf3 d5 7.O-O Nc6 8.a3 Bxc3 9.bxc3 Qc7 10.cxd5 exd5 11.Nh4 Ne7 12.g3

 普通の/正規の手は布局の本に書かれているようにすぐ 12…c4 と突く手である。しかしこれは白がビショップを正しい斜筋/枡のBc2またはBb1に引くように「強制する」。だからバーンはまず 12…Bh3! 13.Re1 と指してから初めて 13…c4 と突いた。これは白に選択の余地を与えた。白はしばらく考えて正着の 14.Bc2(+/=) の代わりに劣った 14.Bf1? を選択した。それで黒は戦略上劣ったビショップを 14…Bxf1 15.Rxf1 と交換することができ、15…Ne4 16.Bb2 f5(=/+) でもう優勢になり55手で勝った。

******************************

2012年07月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

フィッシャーのチェス(255)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 ボビーはラスカーのように相手の指しすぎを進んで誘った。しかしここではそうならなかった。

フィッシャー対パッハマン
マルデルプラタ、1959年
 27…Nd3

28.Bxd3 Rxd3 29.Qf4

 問題はクイーンの適切な引き場所がどこにもないことである。そこでフィッシャーはあることをたくらんだ。

29…g6 30.Rc5 Re6!

 これでe6のルークがg6に回って白の反撃をすべて終わらせることができるので白のナイトが取られる。

(この章続く)

2012年07月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(254)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 次の局面でフィッシャーはd6とe7での千日手に甘んじるよりもクイーンを捨ててルークとナイトを取った。

フィッシャー対ポポフ
スコピエ、1967年
 21…Nb4

22.Qxa8 Rxa8 23.Nxe6 Qb6 24.c3

 フィッシャーのビショップの利きが強いので引き分けには十分だった。しかしポーンあさりをするほどの価値はあったのだろうか。

(この章続く)

2012年07月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(32)

「Chess Life」2004年1月号(1/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

3.d4 型のペトロフ防御

 ペトロフ防御は黒にとって非常に堅固な防御である。退屈かもしれない戦型もあるが、手が広くて少し研究を要する戦型もある。ヨーロッパでは定跡名はよく国や市にちなんで名づけられるが、米国ではロシアの最初の有名なマスターのペトロフのように選手にちなんで名づけられる。ヨーロッパではこの定跡はロシア防御と呼ばれている。

 ペトロフ防御はアナトリー・カルポフが1980年代半ばにガリー・カスパロフとの世界選手権戦で常用戦法の一部として採用してから流行した。そのカスパロフでさえ両者の1984/85年の第1次番勝負の終わり頃にカルポフ相手に(黒で)指し始めた。それ以来この布局の定跡は深く研究されてきた。しかしさらなる改良や新構想の余地はまだまだある。カルポフとカスパロフに加えてスミスロフ、アーナンド、クラムニク、ハリフマンらの世界チャンピオン、イワンチュク、レーコー、シロフ、アダムズ、ユスーポフらのスーパーGMやその他の選手が常用戦法の一部として用いている。

白の基本的な作戦は何か

 3.d4 の戦型では先月号で分析した 3.Nxe5 から始まる戦型と同様に、ほとんどの場合対称的なポーン形になり、中原のd4とd5にお互いのポーンがありeポーンはなくなっている。白はいずれ対称形を崩す適当な機会を求め、c2-c4 突きで戦端を開く。戦法Ⅲでは白は別の作戦をとり、Qh5 と出ることによりd5のポーンとh7のポーンに対する狙いを絡める。

黒の基本的な作戦は何か

 黒の成すべきことは白の c2-c4 突きに応じる良い手段を用意することである。戦法Ⅰでは黒は長い一本道の手順を選ぶ。しかし現在の定跡では改良が必要である。戦法Ⅱでは黒はクイーン翼にキャッスリングして非常に攻撃的で面白い作戦に努める。戦法Ⅲでは黒は素早い展開と活動のためにポーンを犠牲にする。戦法Ⅳでは長い研究された手順を避ける二つの選択肢がある。

それで評決はどうなっているか

 ペトロフ防御のこの戦型(3.d4)に対して黒にはいくつかの異なった対処法がある。戦法ⅠとⅡは非常に激しく活気のある試合になる。しかし非常に深く研究されていて場合によっては収局にまで達する。今日では白が優勢になるようである。戦法Ⅲでは黒はしばしばd5のポーンを捨てるが代わりに相当な代償を得る。戦法Ⅳでは長い主流定跡手順を避ける選択肢とあまり知られていない領域に入る選択肢がある。

3.d4 戦法Ⅰ 5…Bd6
1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Bd6

 1990年代初めまでこの手は 5…Nd7 より人気があった。しかしこの深く研究された戦法の最近の発展によると、白は勝ちかあまり危険のない引き分けの二つの結果しかないような局面に到達する。

6.O-O O-O

 ここまではすべて対称で周知のようにそれは白に有利である。

7.c4

 仕掛けを始める時機である。

7…Bxe5

 この一見穏やかで単純な局面がこの手で様相が変わり、非常に長くて面白い手順になる。もっと堅実な 7…c6 は 8.Nc3 Nxc3 9.bxc3 Nd7 10.f4 で白が有利な局面になる。

8.dxe5 Nc6 9.cxd5

 9.f4 は 9…Bf5 で黒が良い。

9…Qxd5 10.Qc2

 10.Qf3 は 10…Bf5! で悪い。

10…Nb4

 e4のナイトが動くとチェックでh7のポーンが取られるので(10…Nc5 11.Bxh7+)動けない。本譜の手の代わりに 10…Bf5?! は 11.Nc3 Nxc3 12.Bxf5 となるのでもうそれほど良い手ではない。このあとは必然の手順である。

11.Bxe4 Nxc2 12.Bxd5 Bf5!

 これが最善手である。すぐに 12…Nxa1 と取るのは 13.Be4 Re8 14.Na3 Rxe5 15.f3 のあと白の黒枡ビショップが展開してa1の黒ナイトが取られてしまう。

13.g4!

 白は正確さを期さなければばならない。さもないと黒ナイトがa1のルークを取ったあと逃げることができるかもしれないので不利になる。

13…Bxg4 14.Be4 Nxa1 15.Bf4

 この手はルークのためにc1の地点を空けた。15.Nc3 は 15…f5 16.exf6e.p. Bh3 17.Re1 Rae8 となってa1のナイトが逃げるので劣る。場合によっては黒は …Rxe4 で交換損の犠牲を払ってa1のナイトを自由にすることができる。

15…f5

 1991年パリでのカスパロフ対ティマン戦では 15…f6 16.Nc3 fxe5 17.Be3 と進んで白がわずかだが確実に優勢だった。

16.Bd5+!

 16.Bxb7 なら 16…Nc2 で互角になる。

16…Kh8 17.Rc1

 17.Na3 は 17…Rad8 18.Bxb7 Rd1 となる。

17…c6 18.Bg2 Rfd8 19.Nd2 Rxd2

 19…h6 なら 20.h4 で白が少しの優勢を維持する。

20.Bxd2 Rd8 21.Bc3 Rd1+ 22.Rxd1 Bxd1

 ここで 23.Bf1 と指せば、よく働いている双ビショップ、e5のパスポーン、そしてa1の黒ナイトの位置の悪さのために、白が明らかに優勢を確保できた。1991年リナレスでのカスパロフ対アーナンド戦では白が正確さに欠ける 23.f4? を指し黒が負けを免れることができた。

******************************

2012年07月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(253)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 これらの例と以降の例によくある主眼点はフィッシャーのクイーンがはぐれポーンを追いかけることに手数を費やして具合の悪いことになったり遊び駒になったりすることである。次の局面でフィッシャーはポーンをひったくることに手数をかけたが、単純化を図れば重要な勝利をあげることができた。

フィッシャー対スパスキー
ハバナ、1966年
 35…Kg7

36.Qxa6 Rc8

 そして黒が反撃により引き分けにすることができた。36.Qxb8 Rxb8 37.Rd6 Rc8 38.Re3! と指していれば Rf3 の狙いがあって攻撃が全然ゆるまなかった。「ポーンは逃げない」

(この章続く)

2012年07月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(252)

第5部 着想(続き)

第24章 ポーンあさり(続き)

 フィッシャーの無名の相手は次の局面の態勢が乱れて危険な状況でフィッシャーの弱体化したキングの囲いにつけ込む機会を逸した。

ナランハ対フィッシャー
パルマ、1970年
 18…Qxf5

19.Bg5

 白は 19.Nd5 で交換得することができた。19…Nxd5 には 20.Bd3! Bf6 21.Qh6 Bg7 22.Bxf5 Bxh6 23.Bxh6 と応じることができるからである。黒は3駒が当たりになっているのに対し白は1個だけである。

19…h6

 ここでフィッシャーが圧力を緩和するためにポーンを返すことにしたのは賢明だった。

20.Bxh6 Qh7 21.Bg5 Qxh4 22.Bxh4

 そして試合は引き分けに終わった。

(この章続く)

2012年07月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス