2012年05月の記事一覧

フィッシャーのチェス(221)

第5部 着想(続き)

第21章 策略

 チェスには「手筋」の名に値しないある種の標準的な捌きがある。なぜならそれらはたった1手の避けようのない狙い、あるいは一本道の駒の動きにからんでいるからである。他に呼びようがないので「策略」と呼んでおく。それらは駒を捕まえたりキング翼を攻撃または弱体化したり罠の狙いで受けたりする手段である。「バカ詰め」[訳注 例えば 1.g4 e5 2.f3 Qh4#]はf2の地点の弱点を利用するそのような仕掛けで、色々な本に出ている。f2にポーンがいなくなるとe1のキングに対するh4の地点からのクイーンによるチェックはこれまた気をつけるべきよくある策略である。ここで尋ねるべき質問はg3の地点にポーンを突いてチェックをさえぎることができるかということである。もしできるならg3のポーンを取ることができる攻撃駒がもう一つあるかである。あるいはe4の地点でチェックしてh1のルークを取ることができるかである。この主題は無数の布局で生じる。

 要点は「策略」はあまり深遠なものではなく、ただ何度も何度も現れるということである。一人前の選手はそれを反射的に見抜いたり用いたりできるようになるべきである。以下はグランドマスターのチェスにしばしば生じるもののいくつかである。そして時には一流のレベルでさえ見逃されることがある。

ポルティッシュ対フィッシャー
サンタモニカ、1966年
 11.Qxe4

11…Qd7!

 これは軽妙な手である。フィッシャーはナイトをc6からa5の地点に行かせたい。いずれにしてもキング翼を …Nd7 から …Nf6 で守ることはできない。なぜなら Bg5 による釘付けが強すぎるからである。この妙手はクイーンを捕まえるよくある手段の 12.Qxa8 Nc6 によって可能になっている。これは実際には 12.Ba3 Re8 13.Bd3 f5 という前置きの手順のあと指された。白はクイーンの代わりに2ルークを得たがしだいに動きのない局面になっていった。

 28.h4

 ここでフィッシャーはルークが小駒によってよくどのように捕まえられるかを見せた。

28…Ne3!

 白は交換損を受け入れなければならずまもなく負けた。

(この章続く)

2012年05月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(176)

「The British Chess Magazine」2011年8月号(1/1)

******************************

チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

迷惑な相手

 非常によくある質問「迷惑な相手にはどうしたらよいか」。何ができるかについては迷惑の種類とそれが故意かそうでないかとによって変わってくる。

 明白な最初の行動は「審判を呼べ」である。多くの選手は苦情を申し立てることをためらう。しかしこれは何も言わずに悩まされ続けるよりもずっと良いことである。選手が相手を叱責することは勧められない。これは必ずといっていいほど事態の悪化を招く。この種の苦情を扱うのに適したチェス規約は12.6項である。

 「どんな行為でも相手の気をそらしたり迷惑をかけたりすることは禁止される。これには筋の通らないい申し立て、過度の引き分け提案、対局場で騒音を立てることが含まれる。」

 以下に迷惑の元を分類した。

 咳と鼻すすり 咳は明らかに相手の気をそらすが罰するほどのものだろうか。その選手が手を口に添えて横を向いて咳をしていればそれは許容される振る舞いで、審判が何かするのは非常に難しい。咳がのどにからんでいる場合は審判はコップ一杯の水を与えるかもしれない。最近のことだが1束のティッシュをあるGMにあげたことがあった。彼は意味を理解してその中につかえた物を吐き出した。相手の考慮中のときにだけ咳をする選手、そして特に相手が指そうとするときに咳をする選手は罰を与えるべきである。

 もし相手が意図しない行為によって本当に被害を受けたならば代償に少し時間を追加してもらえるかもしれない。追加する時間は2分が一般的だろう。時間が追加されるのはごく限られた侵害行為に対してだけである。ほとんどの違反行為には追加される時間は裁量の範囲である。ハンカチをあてて声を出したり鼻をかんだりする人には盤から離れてそうするよう求めることができる。同様にしょっちゅう鼻水を重力に逆らってすすり上げる人には審判が言ってきかせるべきである。審判はここでも音が耳障りであることを指摘しつつティッシュを与えてもよい。

 貧乏揺すり これは体の色々な部位を振動させることである。普通は脚だが体のどの部分でもよい。上半身の動きが激しくて審判の介入が当然になることはまれである。しかし脚によって引き起こされる問題には通常は二つある。そのような動きではキーキー音がしたり机が「震動」するかもしれない。どちらの場合も普通はその選手が脚を動かしたら審判がすぐに指摘するのがよい。選手は自分の行為について全然気づいていないものである。

 ガチャガチャ/カチカチ/ムシャムシャ 相手がしょっちゅうペンの頭を押してカチカチ音をさせるのはいらいらさせられるものである。これはわざとでなく神経質になってやらかすことが多い。審判に言って止めさせてもらうのがよい。大抵の選手は対局しながら飲食をする。これは普通は問題とはならない。しかし中にはチェスとピクニックの区別ができていないと思われる者もいる。ポリポリ、ガサガサ、そしてかき混ぜ音をたてる者は注意を受けるべきである。ビスケットや缶は盤から離れて開けるべきであり、紅茶やコーヒーは喫茶コーナーでかき混ぜるべきである。突き止めにくくてそのため対処もしにくいのはポケットで硬貨や鍵をガチャガチャ鳴らす観戦者である。これは時間に追われているときには特にいらいらさせられる。

 身勝手な行為 酔っ払った相手はまれである。審判のすることは酩酊の程度による。特にひどい場合は没収試合にすることもあり得る。もっと微妙な問題は衛生状態の悪い選手である。不快な臭いは注意力を乱す原因になり得る。私の経験ではこの種の苦情は対局後に訴えられるので審判にとって極めて難しい。かつて私は当該選手の友人たちに話をし、彼らは穏やかに話していた。別の機会には誰も連続して特定の個人のすぐ近くに座ることのないよう配慮した。

 しつこい引き分け提案。「和平提案」の頻度に関しては実は規定がない。引き分け提案は棋譜用紙に(=)と記入するというのが規定である。そうしないと12.6項に基づいた申し立ては認められないかもしれない。大まかに言うと引き分け提案を断られたら、局面がかなり変わるまでにあるいはその後相手からの引き分け提案を断わるまでにまた提案をするのは通常は悪い作法だと考えられる。8手ほどのうちに3回引き分け提案をしたら警告を受けると思った方がよい。そのあとの提案はもっと厳しい処罰を招く可能性がある。

 引き分けにしかなりようのない局面で指し続ける相手には誰もが閉口したことがある。それはその選手の権利であり、こちらがしょっちゅう引き分け提案をすると審判の懲罰を受けるかもしれないのは残念ながらこちらである。

 迷惑行為は非常に主観的な要素が多い。ある選手に非常に迷惑なことが他の選手にはなんでもないことかもしれない。このため審判は何らかの行動をおこす前に問題の行為を実際に見て判断したいと考えるのが普通である。大抵の場合審判の最初の行動は警告を発することである(時には試合終了後に穏やかに行うこともある)。繰り返しの問題行為がわざとだと見なされるならさらに警告が与えられるかもしれない。重大だと考えられるなら罰として没収試合が宣告されるかもしれない。

******************************

(この号終わり)

2012年05月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(220)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 最後は6手の手数で閉鎖的な局面をどのように破裂させることができるかの鮮烈な例である。

ビズガイアー対フィッシャー
ニューヨーク、1966-67年
 69.Kg1

69…Bxe4! 70.Bxe4 Ka4

 最初に侵入。

71.Bf5 Kb3! 72.Bxg4 e4

 次にポーンの進攻。白キングはhポーンを取るまで今の地点に足止めである。

73.Bxh3 Kxc3 74.g4 Kd2

 最後は手数の計算。cポーンはせいぜい4手でチェックでクイーンに昇格するので白は投了した。これはコンピュータが見つけるのを非常に苦手とする類の手順である。最終局面でパスポーンの危険性を定義することは容易でない。そして黒キングの前進の着想を見つけることはもっと難しい。

(この章終わり)

2012年05月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(219)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 「当たり」になっている駒の個数を数えることはこの典型的なフィッシャーの手筋の基礎である。この手筋でポーンを取り返し有利な収局になった。

サボー対フィッシャー
ブエノスアイレス、1970年
 17.Qd4

17…Nxd5!

 白クイーンは過負荷の状態なのでこのナイトを取ることはできない。18.Qxc5 は 18…dxc5 でルークが当たりになるのでやはり黒のナイトは取られない。

(この章続く)

2012年05月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(27)

「Chess Life」2003年9月号(2/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

シチリア防御アラピン戦法(続き)

戦型C 主流手順の 2.c3 Nf6

1.e4 c5 2.c3 Nf6 3.e5 Nd5 4.d4

 最近は d2-d4 突きを遅らせてまず 4.Nf3 Nc6 5.Bc4 と指すのが流行している。

4…cxd4 5.Nf3 Nc6

6.Bc4

 白はこの手でポーンを犠牲にする(d4の地点で取り返さない)。堅実な 6.cxd4 は 6…d6 7.Bc4 e6 8.O-O Be7 9.Qe2 O-O 10.Qe4 となって白は 11.Bd3 の狙いで攻撃を行なうが黒が注意深く守れば互角になる。

6…Nb6 7.Bb3 d5

 展開が遅れたままc3のポーンを取るのは危険すぎる。

8.exd6e.p. Qxd6 9.O-O

 白は黒にc3のポーンを取るようずっとしむけている。9.Na3 a6 10.O-O e6 11.cxd4 Be7 もよく指される手順で、互角の局面である。

9…Be6

 ここでも 9…dxc3 と取るのは危険すぎる。それは 10.Nxc3 Qxd1 11.Rxd1 a6 12.Be3 Nd7 13.Nd5 となって白に十分過ぎる代償を与える。

10.Na3

 10.Bxe6 と取るのは 10…Qxe6 11.Nxd4 Nxd4 12.Qxd4 Rd8 13.Qh4 となって黒は変な形の 13…Qe2! を指さなければならないが、白にクイーン翼の展開を困難にさせ …Rd8-d1 の狙いもできる。

10…dxc3

 10…Bxb3 は 11.Qxb3 e6 12.Rd1 Be7 13.Nb5 Qb8 14.Nbxd4 で白が優勢になる。

11.Qe2

 白は 11.Nb5 Qxd1 12.Rxd1 Rc8 13.Bxe6 fxe6 14.Nxc3 g6 15.Re1 Bg7 16.Rxe6 でポーンを取り返すことができるが、黒は 16…O-O で収局に入ってごくわずかの問題しかない。

11…Bxb3 12.Nb5 Qb8

 黒クイーンは Nb5-c7+ による両当たりを避けるためにc7の地点を守っていなければならない。

13.axb3 e5

 黒はキング翼を展開してできるだけ早くキャッスリングする必要がある。

14.bxc3

 黒は 14.Re1 で直接攻撃も行なってきた(他には 14.Bf4 Bd6 15.Rad1 もある)。1994年モスクワオリンピアードでのトーレ対イジェスカス戦では 14…Nd7 15.Bf4 Be7 16.Rad1 exf4 17.Nd6+ Kf8 18.Nxf7! Nb6 19.Nxh8 Kg8 20.Nd4 Bf6 21.Nxc6 bxc6 22.Ng6 hxg6 23.Qe6+ Kf8 24.bxc3 と進み、黒はここで 24…Qc7! 25.Rd3 Qe7 と指すべきだった。

14…Be7 15.Bg5 f6 16.Be3 Nc8

 16…O-O は不注意な手で、17.Nxa7! Rxa7 18.Bxb6 Rxa1 19.Rxa1 とされる。白はa列を支配し、クイーン翼で多数派ポーンを形成し、すべての駒が黒よりも良い位置にいるので、はっきり優勢である。

17.Nh4

 白には十分な代償がある(ベンジャミン対イリンチッチ、エレバン、1996年)。白にはポーン損の代わりの主導権があり黒クイーンはへんぴなb8の地点に追いやられているが、それでも黒が正確に守れば白の攻撃をはね返せる。

戦型D 2.c3 Nf6 のあと 5…e6 と突く

1.e4 c5 2.c3 Nf6 3.e5 Nd5 4.d4 cxd4 5.Nf3 e6

 この局面は 1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.c3 Nf6 4.e5 Nd5 5.d4 cxd4 という手順からもよく生じることがある。

6.cxd4 d6

 6…b6 は人気では劣るがしっかりした手である。

a)7.Nc3 Nxc3 8.bxc3

 この戦型では白は中央をしっかりと支配しキング翼攻撃の展望もある。だから黒は正確に指して十分な反撃力を維持しなければならない。

b)7.Bc4

 7.a3 と突いて …Nb4 を防いで Bf1-d3 を準備することもある。

7…Nb6 8.Bd3

 8.Bb5+ は 8…Bd7 で黒を手助けするだけである。8.Bb3 は 8…dxe5 9.Nxe5 Nc6 10.Nxc6 bxc6 でどちらにも孤立ポーンができるので黒には何の問題もない。

8…Bd7 9.O-O Bc6 10.Nc3 N8d7 11.Bb5 Be7 12.Bxc6 bxc6 13.exd6 Bxd6 14.Ne4 Be7 15.Qc2 Qc7 16.Ne5 Nxe5 17.dxe5 Nd5 18.Bg5 Bxg5 19.Nxg5 Qxe5 20.Qxc6+ Ke7(スマギン対J.ポルガー、ドイツ・ブンデスリーガ、2002年)

結論

 アラピン戦法は白の優秀で指しやすい布局である。シチリア防御に対してたぶん意表を突く目的で選択されることが一番多い。研究や定跡の深みにはまることを避けることができる。最も大切なことは、孤立dポーンに対する指し方やクイーン翼の多数派ポーンの活用の仕方を知るためにもう少し深く研究する必要があるということである。

******************************

フィッシャーのチェス(218)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 手数の問題は収局ではきわめてよく起こるが手筋の最中のときのように重要である。次の局面で黒はb2のポーンを3駒で攻撃し白は3駒で守っている。

メドニス対フィッシャー
ニューヨーク、1959-60年
 30.c3

30…Bc1! 31.Rg2

 黒はb2の地点を当たりにする4個目の駒を投入し、白も同じことをした。しかしここでg2のルークは過負荷になっていて、b2の地点だけでなくナイトも守らなければならなくなっている。

31…Rxb2+! 32.Rxb2 Bxb2

 このビショップは取れない。取れば駒の総交換になり黒はポーン損にもかかわらず収局で勝ちになる。保護パスeポーンが白キングの動きを縛りその間黒キングがhポーンを取りに行く。その場合でも手数は注意深く読まなければならない。というのは白は a4 と突いてキングをa3からb4に運んでc4ポーン取りを狙うことができるからである。Ka3 のあと黒はeポーンを突かなければならない。しかし白キングがこのポーンに当たりをかけるまでには黒キングはh5とf5のポーンを取ってちょうどeポーンを守ることができる。

(この章続く)

2012年05月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(217)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 同様にキングの安全の評価を楽観しすぎてフィッシャーは次の試合でもう少しで負けるところだった。この試合では相手キングに対する筋を相手よりも迅速に開けることができることにかけていた。

オウラフソン対フィッシャー
チューリヒ、1959年
 25…exf3

 ここで白は 26.Bxh6 と取りフィッシャーは必然の受けの 26…Ra7 でまた「不滅」の試合をものにした。しかし白は簡単な手筋で1ポーン得することができた。

26.Rxg7+ Kxg7 27.Bxh6+ Kh8 28.Bxf8

 そして 28…fxe2 は 29.Bxd6 で対角斜筋での詰みが残るので黒はf8のビショップを取らなければならない。この手順にはいくつかの着想がある。まず時機の問題である。白は 26.f4 で局面を膠着させたくなかったので黒は先に 25…Ra7 と手をかけておくべきだった。そしてそれから 26…exf3 なら手順の違いで実戦の局面になっていた。次に、局面の開放は通常は展開に優る側に有利であるという古くからの金言がある。25…Ra7 は白がほとんど自陣を改善できないときに黒の展開を完了することになる。最後に「手数」の問題がある。いくつかの駒が「当たり」の状態のとき、選手はコンピュータプログラマが呼ぶところの「一段落」の状態になるまで取り合いを読まなければならない。例えばここでは 28…fxe2 または 28…Qxe2 のあと白の黒枡ビショップがまたポーンを「食べる」ことができることを見通すことが重要である。

(この章続く)

2012年05月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(216)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 フィッシャーが賭けに出るのは相手の脅威を与えるポーンを進ませて弱体化させ収局での負担になることを期待(または予期)するときである。そしてそのような局面を勝とうとして、あるいは着想が正しいことを証明しようとして何回か墓穴を掘った。

ゲオルギウ対フィッシャー
ハバナ、1966年
 13.Bd3

13…Nc6 14.Ne2 Be6 15.g5!

 この試合は盤上の「客観的な」状況とはほとんど関係ないマスターのチェスの心理的プレッシャーについて明白に物語っている。ゲオルギウはここでフィッシャーに引き分けを提案した。本局はオリンピアードの最終戦の一つ前の試合で、フィッシャーは第1席の優勝の栄光を目指してペトロシアンをはっきりリードしていた。引き分けならばこの時点で彼の棋歴における偉業がほぼ確実になるところだった。フィッシャーはロシア選手たちに対して敵愾心を燃やしていた。また盤上ではりっぱな敬意を表わしてきた。即ち局面に明らかに決まりがついていないときは引き分けを受けなかった。フィッシャーは提案を受諾せず試合を続行して負けてしまった。そして1/4パーセントの差で第1席の優勝も逃した。白は h5 から g6 と突いて黒のキング翼を破壊し中央で戦術を決めて試合に勝った。フィッシャーは本当に自分が優勢あるいは互角だと思っていたのだろうか。それとも強情すぎて広い白陣の支配がもぬけの殻でないと分からなかったのだろうか。この試合の余談になるが、ゲオルギウは全50手で55分しか時間を使わなかった。たぶんフィッシャーが穏やかに指してくれることを期待したためだろう。これはそれなりに効果があったようだ。このような状況で選手たちが通常するようにフィッシャーも早指しだった[訳注 フィッシャーの消費時間は1時間32分]。

(この章続く)

2012年05月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(270)

「Chess」2012年2月号(2/4)

******************************

レッジョエミーリア(続き)

 第5回戦はイワンチュクの不満の冬の始まりだった[訳注 「不満の冬」とはシェークスピアの「リチャード三世」中の言葉]。

レッジョエミーリア、2011年12月
H.ナカムラ – V.イワンチュク

33…Rxc5!

 黒は慎重に読みを入れてポーンを取ることができると判断した。ここまでは正しい。

34.Nc4

 客観的には 34.Rxc5 Qxc5 35.Qb3 とやっていって1ポーン損でしのげるかどうかに勝負をかけた方が良かっただろう。しかし白はあえて勇敢に立ち向かうことにした。

34…Qc7! 35.Bxc5 Qxg3+ 36.Kh1 Qxh3+ 37.Kg1

37…Qg3+??

 ここがイワンチュクのこの大会における転換点だった。正着は 37…Ng4! で長い一本道の手順が続く。38.Qe2 Nh4 39.Nd2 Qg3+ 40.Kh1 Nf3! 41.Nxf3 exf3 42.Qe8+ Kh7

ここで白は 43.Rc2(43.Qe4+ は 43…g6 で何も変わらない)43…f2 のあとルークを切って 44.Rxf2 Nxf2+ 45.Bxf2 Qxf2

と指さなければならず、黒が2ポーン得のクイーン収局で勝つ。

38.Kf1 Ng4 39.Qd8+ Kh7 40.Qd5

40…Qf3+?

 イワンチュクは 40…Nh2+ 41.Ke2 のあと見つけにくい 41…Nd4+!! でまだ引き分けにできた。以下は 42.Qxd4 Qg4+ 43.Ke3 Qg3+ 44.Ke2 Qg4+ 45.Ke3 Qg3+ 46.Kxe4 Qf3+ 47.Ke5 Qf6+ =

で、白が永久チェックの手順から外れようとすれば 48.Kd5?? Qe6# の1手詰みになる。

41.Ke1 Ng3 42.Rc2 f5 43.Kd2!

43…Nf6

 43…Qf4+ は 44.Kc3 e3 45.Bd6 Ne4+ 46.Kb2 Nxd6 47.Nxd6

で白の勝ちになる。

44.Qd8 Ne2

 黒は白キングがこれ以上クイーン翼に逃亡するのを防いだ。しかしナカムラはここからキングが盤の中央にいても全く安全であることを見せつけた。

45.Ke1! f4 46.Rxe2 Qc3+ 47.Kd1 Qxc4 48.Qd4 Qb5 49.Rh2+ Kg6 50.Kc2 a5 51.Be7 Qc6+ 52.Qc5 Qa4+ 53.Kc1 f3 54.Bxf6 Kxf6 55.Rd2 g6 56.Rd6+ Kg7 57.Rd8 1-0

 これでナカムラが単独首位に立った。

******************************

(この号続く)

2012年05月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(215)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 非常に珍しいことにフィッシャーは確固たる成算もなくキング翼攻撃に打って出て防御にしてやられた。

フィッシャー対ドナー
バルナ、1962年
 23…Qa7

24.Nxh6+ gxh6 25.Rd4 f5!

 黒は手堅く勝ちきることができた。白はキング翼で優勢な戦力を集めることができなかった。

(この章続く)

2012年05月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(214)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 フィッシャーは局面に隙が多いとか防御が困難だとかいうことだけでかけに出ることは滅多にない。彼が捨て駒をするときは具体的な攻撃の可能性を見越している。全米選手権戦からの次の局面で彼はまた捨て駒をさせられているように見える。そして相手は自分が事態を支配しているかのように感じている。

フィッシャー対セイディー
ニューヨーク、1966-67年
 24…e5

25.Bxh5!

 白がナイトを引かなければならないならば黒は 25…h4 と突く暇があり 25…d5 と突く余裕さえある。そうなれば白のキング翼は非常にうすら寒くなる。

25…Nxh5 26.Rxh5 exd4 27.Bxd4

 これでフィッシャーは捨て駒の代わりに2ポーンを得ただけでなくキング翼の黒枡を確実に支配した。白は Rh6 の狙いで試合に勝った。

(この章続く)

2012年05月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(175)

「Chess Life」2012年2月号(8/8)

******************************

2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 最後は米国チーム最年少の参加選手の一人、7歳のジェイソン・メトパリーの試合である。彼は戦術の才を発揮し将来に期待を抱かせた。

シチリア防御ドラゴン戦法 [B70]
ドミトリー・ミンコ(FIDE1375、ロシア)
ジェイソン・メトパリー(FIDE無し、米国)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第5回戦、2011年11月22日

 歳のジェイソンは我々のチームの最年少選手だった。この試合で彼はロシア選手を手玉に取った。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6

 ドラゴン戦法は若い選手たちに非常に人気がある。

6.g3 Bg7 7.Bg2 O-O 8.O-O Nc6 9.Nce2 Bd7 10.h3 Rc8 11.Be3 b6 12.f4 Be6

13.Kh2

 13.Nxe6 fxe6 はほぼ互角である。

13…Na5 14.g4??

 この手はうまい戦術にはまってせっかくのポーンを取られる。

14…Bxg4!

15.f5

 15.hxg4 は 15…Nxg4+! で壊滅する。

15…Bxe2 16.Qxe2 Nc4 17.Bc1 Ne5 18.Nb5 Qd7 19.Nd4 Qc7 20.c3 Qc4 21.Qf2??

 白はg4の地点に戦術の問題を抱えていて、これで勝負がついた。

21…Neg4+! 22.hxg4 Nxg4+ 23.Kg1 Nxf2 24.Kxf2 Bxd4+ 25.cxd4 Qxd4+ 26.Ke1 Qb4+ 27.Kd1 Kg7 28.Rh1 Qd4+ 29.Ke1 Rxc1+!

 ジェイソンは正確な指し手を続けている。

30.Rxc1 Qxb2 31.Kd1 Qxg2 32.Re1 Qxa2 33.Re2 Qb3+ 34.Rec2 Qd3+ 35.Rd2 Qxe4 36.fxg6 Qxg6 37.Rcc2 Qg1+ 38.Ke2 Qg2+ 39.Kd3 Qf3+ 40.Kc4 Rc8+ 41.Kb4 Rxc2 42.Rxc2 Qe4+ 43.Kc3 h5 44.Rc1 h4 45.Rg1+ Kh7 46.Kd2 Qd4+ 47.Ke1 Qxg1+ 48.Kd2 Qg3 49.Ke2 h3 50.Kd2 h2 51.Ke2 h1=R 52.Kd2 Rh2+ 53.Kd1 Qg1#

 カルダス・ノバス市は「アーグワ・ケンテ」(ポルトガル語で「湯」)のためにブラジルの観光名所となっている。温泉浴槽は至る所にある。米国軍団のほとんどはテルマディローマ・ホテルに泊まった。安全上の理由から最良の宿泊施設はいつもすべて完備している所である(小さな子どもを地下鉄に乗せるのは良くない)。大会会場はホテルのロビーから歩いて100ヤード足らずの所だった。ホテルの通りの向こうは信じられないようなプールやウォータースライドのある広大な水上公園だった。雰囲気はいつもお祭り気分で陽気で、休養と真剣なチェスにぴったりだった。宿泊設備は素晴しくて、食事も種類に富んでいた。

 私の一つ気に入らなかったことはFIDEが11回戦を9回戦に変更したことだった。こんなに遠くまで旅行してきたのだから試合数が多いほうが良いと思う。ほとんどの部門では順位判定によって優勝が決まった。11回戦ならたいてい単独優勝になっていただろう。来年は11回戦に戻ることを期待する。

 米国チェス基金には惜しげもなく1万1千ドルを寄付してくれたことに特に感謝したい。多くのコーチと旅行費用に大いに役立った。チェスは真剣勝負だが、終われば友人や親との交流が楽しかった。私の担当の親たちは非常に真面目で協力的だった。チームでのメダルこそ取れなかったが、よく戦い好局もものにした。エミリー、ジョシュア、マイケル、アプルバ、カドヒア、ジョシア、それにベンのおかげで私の務めは楽だった。来年の大会はスロベニアのマリボルで開催される。我々の選手たちの幸運を祈り、実戦と研究に努めることを望む。皆とマリボルで会おう。

2011年世界少年少女チェス選手権戦 米国選手成績一覧

開催日 2011年11月17日-27日
開催地 ブラジル、カルダスノバス
米国選手成績
8歳以下女子 6点 カーブヤ・ラメシュ、ナオミ・バシュカンスキー、チェニ・チャオ
8歳以下オープン 7½点 エイワンダー・リャン(金メダル) 6½点 デイビド・ペン 6点 ブライアン・グー 5½点 ベン・ルード 5点 ジョシア・スティアマン、イーサン・ジュー、アイディン・トゥルグト 4½点 ジェイソン・メトパリー、アジャイ・クリシュナン 4点 アルマン・バラダラン・ホセイニ、ニュイェン・ダン・ミン
10歳以下女子 6点 アニー・ワン 5½点 エミリー・ニュイェン、キャサリン・デイビス、ディーバイナ・デバガラン 4点 セイディア・クレシ
10歳以下オープン 7点 ルイフェン・リー(銀メダル)、ティアンミン・シー 6½点 アルバート・ルー 6点 タヌイ・バスデバ、ジョン・バーク 5½点 マイケル・ワン、ボウビー・リュー、マルセル・サーボ、トーマス・クノフ 4½点 ニコラス・チェイカ 4点 グランドン・ナイディク
12歳以下女子 6½点 マリヤ・オレシュコ、アガタ・ビコフツェバ 6点 シモーヌ・リャオ 5½点 キンバリー・ディン 5点 マギー・フェン
12歳以下オープン 7点 ジェフリー・ション 6点 カメロン・ホィーラー 5½点 ケサブ・ビスワナダー、マイケル・チェン、アラン・ベイリン 5点 ジョナサン・チャン 4½点 アンドルー・タン 4点 カドヒア・ピライ
14歳以下女子 7点 セアラ・チャン 5½点 レイチェル・ゴロゴルスキー 4½点 リリア・ポティート、アプルバ・ビルクド
14歳以下オープン 6½点 ケビン・ワン、バルン・クリシュナン 6点 マイケル・ボデク 5½点 ジャスタス・ウィリアムズ、ジャロド・パマトマト、マイケル・ブラウン、トミー・ヒー 4½点 ジェイムズ・ブラック 4点 チャリン・ディン、ジョシュア・コラス
16歳以下女子 5点 ジェシカ・リーガム 4½点 ローチェル・バランタイン
16歳以下オープン 4½点 ジョン・ヒューズ
18歳以下女子 5点 エミリー・タロ
18歳以下オープン 6点 エリック・ローゼン 5点 マイケル・ビレンチュク
詳細な結果は http://www.wycc2011.com/ で見られる

コーチ陣 IMアルメン・アンバルツォウミアン、GMジョエル・ベンジャミン、GMニック・ド・ファーミアン、GMジョン・フェドロウィッツ、FMアビブ・フリードマン、FSTマイケル・コダルコフスキー、IMアンドラニク・マティコジャン、GMサム・パラトニク、GMユーリ・シュールマン、GMゲナディ・ザイチク

******************************

(この号終わり)

2012年05月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(213)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 次の局面でも黒番のフィッシャーは Qf7 からの詰みを受けなければならない。

トリンゴフ対フィッシャー
ハバナ、1965年
 18.Qf4

18…Nc6! 19.Qf7 Qc5+ 20.Kh1 Nf6

 即詰みを防ぐにはこの手しかないので好手記号は付けにくい。その読みの内容は攻撃を撃退するために駒を返さなければならないならば、18…Qxe5 19.Qxe5 Nxe5 20.Bxc8 で収局に行く(この試合の前はこれが普通だったように)よりもこの方が良いということである。

21.Bxc8 Nxe5 22.Qe6 Neg4! 白投了

 黒は …Rxc8 だけでなく …Nf2+ からの詰みさえ狙っている。

(この章続く)

2012年05月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(212)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 次の3局からは駒割が手数ほど重要でないという論点がはっきりと引き出される。3局すべてで「一本道」の防御の奇妙な心理的影響も見てとれる。

セイディー対フィッシャー
団体戦、ニューヨーク、1969年
 18.Bf1

 黒が犠牲にしたポーンの代わりに十分に展開している。フィッシャーが考えなければならなかった単純な着想は、白がc5の黒ナイトを追い払うことによりd3の地点への圧力を緩和するしか指しようがないということだった。それには Bd2 と b4 の2手かかる。だから黒は次のようにその捌きを防ぐ余裕がある。

18…Ra6 19.Bd2 Rb6! 20.Bxa5 Rxb3

 そして黒はクイーン翼で圧力をかけ続けて試合に勝った。黒ルークの見慣れない展開は一本道の防御だったので、それが攻撃の着想も持っていることに白が気づいたときにはさらに衝撃的だった。

(この章続く)

2012年05月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(26)

「Chess Life」2003年9月号(1/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

シチリア防御アラピン戦法

 今月はシチリア防御のアラピン戦法を取り上げる。この戦法が指されるのはシチリア防御の主流手順の習得に多くの時間を割きたくないと考える人が多いからである。2.c3 の主たる意図は通常の 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 のようにナイトでd4のポーンを取り返すよりも、3.d4 のあとcポーンでd4のポーンを取り返して中央を大きく占拠することにある。

 これは白の面白い布局選択である。選手たちの中にはナイドルフ、ドラゴン、スフェーファニンゲンやその他のよく知られた戦型の定跡に深く関わりたくないと考える人たちもいる。だから白でそれらを避けるのに好都合である。

 ボリス・スパスキー、ワシリー・スミスロフ、ビスワーナターン・アーナンド、ユディット・ポルガー、ルーク・ファン・ベリー、アレクセイ・シロフ、ルスラン・ポノマリョフ、セルゲイ・ティビアコフ、マイケル・アダムズそれにジョエル・ベンジャミンなどの世界の一流GMの多くがこの布局を用いたことがある。

黒の基本的な作戦は何か

 黒の主要な考え方は白に中央を独占させないことである。黒は白のeポーンを e4-e5 と前進するようにしむけるか、黒のdポーンを白のeポーンと交換して白に孤立dポーンを作らせることにより、e4/d4の並び(中央に並んだポーン)の影響を最小限にすることである。その孤立ポーンはあとで黒の攻撃目標になる。白のd4のポーンが孤立ポーンになれば陣形は黒の方が優ることになる。

白の基本的な作戦は何か

 白の希望は孤立ポーンを抱えても中原での占拠と優位を維持することである。この場合白としては盤上に駒を残してねじりあいの中盤戦になることを望んでいる。白は収局ではそれほど有利でない。一方場合によっては白がd4のポーンを別の駒で取り返すとクイーン翼で多数派ポーンを維持することになり収局で優位に立てることがある。

それで評決はどうなっているか

 これは難解で詳細に研究された定跡の主流手順を避ける白の良い選択肢である。白はあまり危険を冒さずに中盤戦を指しこなすことができる。おまけに白黒どちらにとっても他のほとんどの主流手順よりも派手な戦いがずっと少ないのが普通である。

1.e4 c5 2.c3

 この局面がアラピン戦法の出発点である。ここで黒には色々な手のうち主要な選択肢が二つある。本稿では最もよく指される 2…d5 と 2…Nf6 だけを取り上げる。もし白の観点から興味があるならば、相手に意表を突かれないように 2…e6、2…d6、2…e5 などそれほど指されない手も研究しておくのがよい。

戦型A …Bg4 とかかる 2…d5

2…d5

 この手は白が 2.Nf3 でなく 2.c3 と指しているので成立する。2.Nf3 のときに 2…d5 と突くのは 3.exd5 Qxd5 4.Nc3 でクイーンが当たりになり手損するので良くない。

3.exd5 Qxd5 4.d4 Nf6 5.Nf3 Bg4

 ナイトをすぐに釘付けにするのは攻撃的で理にかなった手である。欠点はキング翼の展開が遅れることである。

6.Be2

 これは釘付けの効果を最小限にさせる最も自然な応手である。他には 6.dxc5 Qxc5 7.Na3 もよく指される。

6…e6

 6…Nc6?! と指すのは勧められない。それは 7.h3 Bh5 8.c4 Qd6 9.d5 のように白がcポーンとdポーンを突いて少し優勢になれるからである。

7.h3

 1996年フィラデルフィアでのディープブルー対カスパロフ第1次番勝負の第3局ではコンピュータがこの 7.h3 Bh5 をさしはさまずに通常の手順を指した。そして 7.O-O Nc6 8.Be3 cxd4 9.cxd4 Bb4 10.a3 Ba5 11.Nc3 Qd6 12.Ne5 Bxe2 13.Qxe2 Bxc3 14.bxc3 Nxe5 15.Bf4 Nf3+ 16.Qxf3 Qd5 と進んで黒がわずかに有利になった。

7…Bh5 8.O-O Nc6 9.Be3

 白は 10.dxc5 でポーンを得を狙っている。10…Bxc5? はクイーン交換後駒損する。

9…cxd4 10.cxd4

 10.Nxd4 は 10…Bxe2 11.Qxe2 Nxd4 12.Bxd4 Be7 となって白は何も得られない(ティビアコフ対ローチェ、リナレス、1995年)。

10…Be7 11.Nc3 Qd6

 11…Qa5 も多くの試合で指されている。

12.Qb3

 他に面白い手としては 12.Nb5 があり 12…Qb8 13.Ne5 Bxe2 14.Qxe2 O-O 15.Nxc6 bxc6 16.Nc3 Nd5 17.Nxd5 cxd5 18.Rac1 Qb6 は黒が少し優勢だった(リュボエビッチ対カスパロフ、モスクワオリンピアード、1994年)。また 12.g4 もあり 12…Bg6 13.Ne5 O-O 14.Bf4 Qb4(14…Nd5! 15.Bg3 Qb4 の方が良い)15.a3 Qxb2 16.Na4 Qc2 17.Nxg6 Qxg6 18.Bd3 Ne4 19.f3 Qf6 20.fxe4 Qxd4+ 21.Kh2 Rad8 22.Bb5 Qxe4 23.Nc3 Qg6 24.Qb1 は白が少し優勢だった(ウェイツキン対ナン、サンフランシスコ、1995年)。

12…O-O 13.Rfd1 Rfd8 14.a3

 14.Qxb7 でポーン得するのは 14.Rab8 でb2のポーンが落ちるので一時的にすぎない。

14…a6

 難解な中盤戦の局面だが黒としては特に心配するような点はない。

戦型B …Bg4 とかからない 2…d5

1.e4 c5 2.c3 d5 3.exd5 Qxd5 4.d4 Nf6 5.Nf3 e6

6.Be2

 6.Na3 も油断のならない面白い手である。黒が平易に 6…Be7 と応じると(6…cxd4 なら 7.Nb5)、白は 7.Nb5 でわずかだが着実に優勢になるようである。7…Na6 がやむなく 8.c4 Qd8 9.Be2 となる。恐らく黒の最善手は 6…Qd8 で Na3-b5 の狙いを封じることである。白には他にも 6.Bd3 や 6.Be3 という選択肢がある。

6…Nc6 7.O-O cxd4

 今がポーン交換の時機である。7…Be7 だと 8.c4 で白がもう交換させなくする。そして 8…Qd8 9.dxc5 Qxd1 10.Rxd1 Bxc5 11.Nc3 O-O 12.a3 b6 13.b4 Be7 14.Bf4 Bb7 15.Nb5 Rad8 16.Bc7 で白にとって好都合な収局になる。白はd列を支配していて活動的な陣形になっている。

8.cxd4 Be7 9.Nc3 Qd6

 ここで白は黒がキャッスリングして一息つく前に「鉄は熱いうちに打て」を実践することができる。

10.Nb5 Qd8

11.Bf4

 ワシリー・スミスロフは1994年モナコでの女性対ベテラン大会で私の妹のユディットを相手に 11.Ne5 O-O 12.Nxc6 bxc6 13.Nc3 Qa5?!(13…Rb8 の方が良い)14.Qa4 Qb6 15.Qc4 Rd8 16.Rd1 Nd5 17.Na4 と指し優勢になった。

11…Nd5 12.Bg3

12…O-O

 ユディットはティビアコフ戦(1994年のマドリッド大会)で 12…a6 に対し 13.Nc3 O-O 14.Rc1 Nf6 15.h3 b6(15…b5! が改良手かもしれない。16.Nxb5 なら 16…axb5 17.Rxc6 Rxa2)16.a3 Bb7 17.Bd3 Rc8 18.Bb1 で Qd1-d3 を狙い快勝した。

13.Bc4 a6 14.Bxd5 axb5

 14…exd5 は 15.Nc7 Ra7 16.Qb3 Bd6 17.Bxd6 Qxd6 18.Qb6 f6 19.Rac1 で圧力が非常に強いので劣る(ローチェ対ユディット・ポルガー、リナレス、1994年)。

15.Be4

 面白い局面になっている。

******************************

2012年05月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(211)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 次の試合には漠然とした高度な「主導権」の真価が現れている。事態が複雑になると静的な局面の評価よりも主導権の評価の方が手を指し進める指針に役立つ。

ウールマン対フィッシャー
ジーゲン、1970年
 24.Rxe5

24…Bxe5 25.Nb5! a6

 フィッシャーはひどい駒損にならないうちに白キングに迫ることができるという「着想」に決断の基礎を置いて以下の駒の取り合いに持ち込んだ。

26.Nxd6! Bd4 27.Nxe8 Qxf2+ 28.Kh2 Nf4 29.Bxf4! Qxe1

 29…Qxc2 は白キングに対する攻撃がなくなって 30.d6 ですぐに決着がつくので駄目である。実戦は白が相手の攻撃を食い止めるためにナイトを捨てなければならない。

30.Qc1 Qxe8

 形勢はまだ難しかったが最終的に引き分けに終わった。

(この章続く)

2012年05月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(210)

第5部 着想(続き)

第20章 読むだけ(続き)

 手始めにフィッシャーの指し手の背後にある着想がどのように2手手筋と同じくらい具体的で明快かを明らかにしていきたい。彼がある局面の対処で特定のやり方を選ぶ理由は、変化の羅列よりも一つの文で言い表すことができる。例えば・・・

パルマ対フィッシャー
ザグレブ、1970年
 22.Bxc4

 フィッシャーは序盤で1ポーン得になった。しかしこの局面をざっと見渡すと白が引き分けかそれ以上の結果になるように思われる。白の両ルークとビショップは素通しの筋に利いている。ビショップは黒の弱い二つのポーンに当たっている。白と黒のビショップは異色ビショップになっていて、白陣には弱い黒枡がない。ほとんどの選手は黒側を持てばここで 22…d5 と突いてdポーンを「救い」白ビショップを当たりにするだろう。フィッシャーの受け取り方は「すべてを守ろうとしてもうまくいかない。試合を続けるためには反撃にかけなければならない。」

22…Re4! 23.Bxf7 Rf8!

 白ビショップに斜筋の選択を迫った。24.Bb3 はb列をふさいでしまう。そこで・・・

24.Bh5 Rxf4

 …Rh4 から …Be5 の危険な狙いによりh2のポーンが落ちるので、突然dポーンが守られている。黒のクイーン翼のポーンが滅亡する運命のように見えるけれども黒はキング翼での狙いによりこの試合に勝つことができた。

(この章続く)

2012年05月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(209)

第5部 着想

第20章 読むだけ

 着想のないチェスは無味乾燥でもっと悪いことに面白みがない。チェスに飽きた選手はたぶん能力が頭打ちになっているのだろう。彼に見える最初の手が通常彼の指す手になる。彼は手筋をすべて習得し布局定跡と収局常形を理解していると感じている。しかし大局観による指し方の巧妙さがもどかしくなっていて、すべての局面からもっと何かを引き出そうとする時間が割に合わないと感じている。そのような選手に突きつけることのできる最も辛辣な批判は「彼には何も着想がない」である。フィッシャーはよくこの描写をずばり用いていた。

 コンピュータにとって最も定義しにくいのはチェスの局面の背後にある着想である。戦術は着想ではなく、着想の実行である。この文脈における着想とはいろいろな戦術の可能性を考慮し評価することである。以降の章ではポーンの使用に対する駒の使用の評価、延びすぎとなる可能性に対する陣地の広さの価値、手損に対するポーンあさりの戦力得など、広範な分類を考えていく。

(この章続く)

2012年05月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(269)

「Chess」2012年2月号(1/4)

******************************

レッジョエミーリア

しくじりの悲劇はアニシュ・ギリの初めての超一流大会優勝で終わる

 第54回レッジョエミーリア大会がクリスマスから新年にかけて開催され、17歳のGMアニシュ・ギリがオランダ選手として初優勝を飾った。意外だったのはギリが優勝したことよりも、ナカムラがずっと突っ走っていながら最後の3戦で悲劇的な3連敗をきっして優勝を逃したことだった。これさえも超一流GMの最悪のメルトダウンではなかった。ワシリー・イワンチュクは大会中盤で放心の4連敗をきっし、その中のあきれた1局では発狂したかと思わせるほどだった。

 「ロンドンチェスクラシック人」の一人はオリンピアからの仲間がクリスマスの晩餐を楽しんでいるに違いない間にまた大会に参加した。ヒカル・ナカムラは短期間に3回連続大きな大会に参加するために北イタリアの古都にはるばるやって来た。この大会にはロンドンの大会に参加した2800超の超一流はいなかったが、それでもイワンチュクとモロゼビッチは二人とも彼よりレイティングが上なので(この大会時点での11月の順位でも、翌2012年1月の順位でも)かなり厳しい顔ぶれだった。神童のファビアノ・カルアナとアニシュ・ギリもいたし、あまり知名度はないがそれでも高いレイティングの二キータ・ビチュゴフもいた。

 ナカムラはビチュゴフ戦の快勝で第1回戦でモロゼビッチと並んだ。

レッジョエミーリア、2011年12月
N.ビチュゴフ – H.ナカムラ

31.e4?!

 白はポーン損で苦境にいるが、それでもこの手は黒のうまい清算で勝利への道を容易にさせてしまった。

31…Nf4! 32.Rxd8

 32.Bxe6? は 32…Ne2+ で破滅する。

32…Rxc4! 33.Bxf4 Kxd8 34.exf5

 34.Bxh6 なら 34…fxe4

34…Bxf5

35.Be3

 35.Bxh6 c2 36.g4 Be4 でビショップでc1のルークに紐をつけておく方がましだったが、黒はa4のポーンを取ることができ、連結3パスポーンで白を圧倒するだろう。

35…c2 36.g4 Be4 37.Bb6+ Kd7 38.Bxa5? Rd4 0-1

******************************

(この号続く)

2012年05月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(208)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 次の面白い局面でナイトはクイーン翼のポーンの守りで同じような楯の役割を果たしている。しかしそれ以上のことができたはずだった。

メキング対フィッシャー
ブエノスアイレス、1970年
 30.Qc1

 フィッシャーは彼にしては珍しい際どい捨て駒で一見膠着状態のこの局面に持ち込んでいた。白はa5のナイトのためにクイーン翼で進展を図ることができない。そしてフィッシャーは 30…Bc4 31.Qc2 Bb3 で千日手による引き分けを選んだ。その考えはルークの進入を許すような交換を黒が強いることができそうもないということだった。しかし手段はあるものである。

30…Nc4! 31.Qb1 Nd2! 32.Qc1 Bc4 33.Qa3

 33.Qc2 は実戦と似ているが 33…Bxe2 にキングで取り返さなければならず(ナイトがクイーンのe2への利きを遮断している)、34…Nc4 でルークのd2の地点への侵入が防げず黒の勝ちになる。

33…Bxe2 34.Kxe2 Nc4

 クイーンがぶらつき回ればルークを取られるのでそうできない。フィッシャーの「たら・れば」だった。

(この章・部終わり)

2012年05月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(207)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 フィッシャーがまだかなり優勢だったにもかかわらずケレスは決め手を与えず次の局面に達した。ここで彼は再び敵クイーンから身を守るやり方を披露した。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 56.Nf1

 ポール・モーフィーについてのどの本や記事も彼の「才気」、展開の重要性の理解、それに布局の鋭さを強調している。フィッシャーはモーフィーの同時代人に対する最大の強みが正確さであることを初めて指摘した。この局面でフィッシャーは正確な 56…Rxa3 を逃したことで自分自身を叱責した。この手の意味はあとで …Ra1 と指したとき黒がナイトを守らなければならないので重要な先手をかせぐことができるということである。フィッシャーはいみじくも「下手(へぼ)はチェックが見えるとチェックする」と言った。

56…Rh3+ 57.Kg1 Rxa3 58.d5 g3 59.Bd7!

 この受けの妙手は …Ra1 がもう先手にならずルークがf列に回れないので可能になった(白キングがh1にいたら …Ra1 に Kg2 が必然で、…Ra2+ から …Qf6 のあとルークがf2に行ける[訳注 56…Rxa3 57.d5 g3 58.Bd7 Ra1 59.Kg2 Ra2+ 60.Kg1 Qf6 61.Bf5 Rf2])。ビショップがここに行った意図は黒クイーンを Bf5 で遮断して黒クイーンにc5の地点でチェックさせないようにしてdポーンを突けるようにするためである。込み入っているが論理的でうまく働く。

59…Ra1 60.Bf5! Qf6

 結局引き分けに終わった(結末は第7章「がさつなクイーン」を参照)。

(この章続く)

2012年05月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(174)

「Chess Life」2012年2月号(7/8)

******************************

2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 ジェフリー・ションは7-2というみごとな成績で大会を終えた。12歳以下オープン部門で5位に入るには十分だった。それでも昨年の信じられないような9-2という成績と順位判定による2位(同点1位だった)のあとでは少し残念だったに違いない。私は彼の棋風が気に入っている。うまくてきびきびして攻撃的なチェスで研究が行き届いている。彼は年齢別を上がるにつれて毎年のように優勝争いに加わるだろう。次の試合ではジェフリーが決まり切った定跡を外して相手の意表を突いた。黒はたちまち苦境に陥って防御の機会がなかった。

ルイロペス [C77]
FMジェフリー・ション(FIDE2056、米国)
ジョシュア・ジョンソン(FIDE1862、トリニダードトバゴ)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第2回戦、2011年11月19日

 この試合でジェフリーは相手を戦術的に負かした。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.d4!?

 これは白の仕掛けることのできる多くの「はめ手」っぽい戦術の一つである。

5…b5

 この手からの黒の成績はひどい。5…exd4!? 6.e5 Ne4 7.O-O Be7 8.Nxd4 Nxd4 9.Qxd4 Nc5

なら実戦の進行よりも安全でずっと良かった。

6.Bb3 exd4 7.e5 Ng4 8.O-O Be7 9.Bf4

9…Bb7

 9…h5!? は 10.c3 g5 11.Bd2 Ngxe5 12.Nxe5 Nxe5 13.cxd4 Nc6 14.Qf3

となって、黒キングが安全でないので白に代償がある。

10.Bd5 Qb8 11.Bxc6 dxc6 12.Nxd4

 既に黒は大苦戦である。

12…Nh6 13.Bxh6 gxh6 14.e6 c5 15.exf7+ Kf8 16.Ne6+ Kxf7 17.Nxc5!

 黒キングを裸にしポーンを取り返した。

17…Rg8 18.Nxb7 Qxb7 19.g3

 この受けで黒は攻撃にも防御にも希望がなくなった。

19…Rg5 20.Nd2 Bf6 21.c3 Rd8 22.Qc2 Rg6 23.Rad1 Qc8 24.Ne4 Rdg8 25.a4 h5 26.axb5 h4 27.bxa6 h3 28.Qd3 Be7 29.a7 Kg7 30.Qd7 Qf8 31.a8=Q!

 このそらしの手筋でビショップが取れ勝ちが決まる。

31…Qf3 32.Qxe7+ Kh8 33.Ng5 黒投了

******************************

(この号続く)

2012年05月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(206)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 有名な試合でフィッシャーは深遠な防御戦略を教えられた。この試合の教訓は本書の色々な章で取り上げられている。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 26.Qe6

26…Nd5?

 この手のために白は相手の手を制限する捌きの好手を指して中盤での破局を救うことができた。ケレスはビショップをc6の地点に置くことにより黒の大駒を働かなくさせることができる。フィッシャーは 26…Nf5 で決まりをつけることができた。そのとき白駒は …Ng3 の狙いのために動きが束縛される。例えば 27.Nh2 Be3+ 28.Kh1 Ng3# である。

27.Nh2! Ne3 28.Bc6!

(この章続く)

2012年05月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(205)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 両当たりに対する防御手段の一つは攻撃されている駒の一方で他方を守ることである。別の方法は相手の手筋に「乗って」それが単純化の単なる1手段にすぎないことを示すことである。

フィッシャー対ギテスク
ライプツィヒ、1960年
 27…e4

28.Rxe4!

 フィッシャーはポーンをひったくり、それが収局で勝つための最も容易な手段であることを証明する。28…Bc6 のあと一方のルークで他方を守り(29.Ree7)、ルーク収局は楽に勝ちになる。

(この章続く)

2012年05月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(25)

「Chess Life」2003年8月号(2/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

オランダ防御現代レニングラード戦法の 7…Qe8(続き)

戦型3 8.d5

 この手の意図は黒が …e7-e5 と突いてきたらアンパッサンで取ることである。

8…Na6

 他には 8…a5 と突く手も面白い。

9.Rb1

 9.Nd4 も当然考えられる手で(e2-e4 で中央から突っかける準備)、9…Bd7(9…Nc5 なら 10.b4)10.e4 fxe4 11.Nxe4 Nxe4 12.Bxe4 Nc5 13.Bg2 a5 14.Bg5 Qf7 15.Qd2 のあと 15…e5 16.dxe6e.p. Nxe6 17.Nxe6 Bxe6 なら互角のようである。

 数年前ニュージーランドで指した次の試合には個人的に楽しい思い出がある。9.Be3 Bd7 10.Qd2 Ng4 11.Bf4 Nc5 12.h3 Nf6 13.Nd4 c6 14.Rac1 Nce4 15.Nxe4 Nxe4 16.Bxe4 fxe4 17.Kg2 Qf7 18.dxc6 bxc6 19.Bh6 c5 20.Bxg7 Kxg7 21.Nb3 Qe6 22.Rh1

22…Rxf2+! 23.Kxf2 e3+ 24.Qxe3 Rf8+ 25.Qf3 Bc6 26.Qxf8+ Kxf8 27.Rhf1 Ke8 28.Rc3 Qf5+ 29.Ke1 Qb1+ 30.Kf2 Qf5+ 31.Ke1 Qxh3 32,Nd2 Bg2 33.Rf2 Qh1+ 34.Nf1 h5 35.e3 Bxf1 36.Rxf1 Qg2 37.Rb3 Qxg3+ 46手目で相手が投了した(カー対ポルガー、ウェリントン、1988年)。

9…Bd7 10.b4 c5 11.dxc6e.p.

 11.bxc5 と取るのは戦略的に間違っている。というのは 11…Nxc5 と取られて黒ナイトがc5の地点に絶好の拠点を得ると共に白の出遅れcポーンをうまく押さえることになるからである。

11…bxc6

 クラムニク対マラニウク戦(モスクワオリンピアード、1994年)では 11…Bxc6 12.Qb3!(一見当然の 12.b5?! は 12…Bxf3 13.Bxf3 Nc5 14.Be3 Rc8 で黒陣が堅固である)12…Ne4 13.Bb2 で白が優勢だった。

12.b5

 12.Nd4 なら黒は面白いけれどいくらか危険な捨て駒の 12…Nxb4 13.Rxb4 c5 を敢行することができる。しかしそれよりも 12…Rb8 または 12…Rc8 と指す方が安全である。白のもっとおとなしい 12.a3 には黒は 12…Nc7 13.Bb2 Ne6 14.Na4 c5 15.b5 f4 16.Nc3 g5 と指して攻撃の可能性に恵まれた(アンツネス対M.グレビッチ、1994年)。

12…cxb5

 取らずに 12…Nc5 と指すこともできる。

13.cxb5 Nc5 14.a4

 代わりに 14.Nd4 は 14…Nfe4 15.Nxe4 Nxe4 16.a4 Qf7 となってどちらも指せる分かれである。

14…Rc8 15.Bb2 a6 16.Nd4 axb5 17.axb5 Nfe4

 形勢は互角である(グリーンフェルド対マラニウク、1993年)。

戦型4 1.d4 f5 2.g3 Nf6 3.Bg2 g6 4.Nh3

 この変わったナイトの展開方法は 4.Nf3 と比較した差異を黒が無視すると困難に見舞われることになる。ここでの白の着想は黒が通常どおり …Bg7、…O-O そして …d7-d6 と指した場合黒陣にできるe6の地点の弱点に(白のd5のポーンをさらに強化しながら)つけ込むことである。早く h2-h4 と突いて直接攻撃するもっと過激なやり方はこのあとの実戦例に出てくる。

4…Bg7

 意外なことに …e7-e5 で解放する作戦を急ぐためには、次のように黒の黒枡ビショップの展開を遅らせる方が良いようである。4…d6 5.Nf4 c6 6.h4 e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8+ Kxd8 9.Nd3 Nbd7 10.Bg5 Be7!

ここに違いが出る。11.Nd2 e4 12.Nf4 Ne5(エインゴルン対ドルマトフ、1990年)

5.Nf4

5…O-O

 5…c6 なら 6.h4 d6 7.Nc3 e5 8.dxe5 dxe5 9.Qxd8+ Kxd8 10.Nd3 Nbd7 11.e4 Re8 12.Bg5 h6 13.Bd2 Nb6 14.O-O-O で白が収局で少しだが着実に優勢になる(スミスロフ対オル、1993年)。

6.h4 d6 7.c3 c6 8.Qb3+ d5 9.h5 g5 10.h6 Bh8 11.Nd3 g4 12.Bf4 Nbd7 13.Nd2 e6 14.f3 Qe7 15.Qb4 Qf7 16.Bd6 Rd8 17.O-O-O b6? 18.Ne5! Nxe5 19.dxe5 Ne8 20.Qf4 Ba6 21.Ba3 Qg6 22.fxg4 Bxe2 23.gxf5 exf5 24.Bh3 Bg4 25.Nf3 Bxf3 26.Bxf5 Bxe5 27.Be6+ 黒投了(サフチェンコ対マラニウク、1989年)

結論

 現代レニングラード戦法は攻撃的で戦術派の選手にとっては黒番に向いた布局である。黒は勝ちを求めて指すことができ、相手が予期していないときは特にそうである。得意戦法の一つにこの布局を取り入れるつもりならばもっと深く学び研究することをお勧めする。

******************************

2012年05月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(204)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 フィッシャーは戦力得できるならばいつも自分のキングのかなりの危険も省みなかった。次の局面ではクイーンの代わりに3駒を得て相手の攻撃をはねつけた。

ペレス対フィッシャー
ライプツィヒ、1960年
 15.f3

15…hxg5! 16.hxg5 Bd6 17.Qe1 Ne8 18.Qh4 Kf8 19.Nf5 exf5! 20.Rde1 Qe6!

 そして収局で勝ちを収めた。

(この章続く)

2012年05月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(203)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 挿入手に対する応手はそれが来ることを見通し・・・それを避けることである。次の局面でフィッシャーは駒の取り返しが魅力的ではあったけれどもきちんと実践した。

フィッシャー対タリ
ライプツィヒ、1960年
 18…Rxg2+

 19.Kxf1 と単純に取る手はあまりにも見えすいているのでフィッシャーは再考しなければならなかった。その手はルークを当たりにしビショップを取り返し黒クイーンを当たりの状態においたままにする。しかしそのとき鮮やかな挿入手の 19…Rxh2! 20.Nxc7 Rxh7 が来て「白」の方が二重の狙いに直面することになる(…Kxc7 または …Rh1+)。だから・・・

19.Kh1! Qe5 20.Rxf1 Qxe6 21.Kxg2 Qg4+

でチェックの千日手になった。

 この試合はフィッシャーの「不滅の60局」に採用された11月1、2、3日の3局の1局目で、波乱に富んだ日々だった。

(この章続く)

2012年05月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(202)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 攻撃が吹き荒れそうなとき駒の迅速な中央集結が唯一の対抗手段となり得ることがよくある。フィッシャーはいくつかの試合でクイーンの転換で形勢を逆転させてきた。

フィッシャー対オウラフソン
ストックホルム、1962年
 19…e5

20.Qb5!

 ビショップを引くと黒にキング翼のポーンを突く余裕を与える。白クイーンはこれから盤中をかけめぐる。

20…a6

 20…Rfd8 でナイトを守るとさらに中央集結を許し 21.Qd5 Rf8 22.Rxf7! が生じる。

21.Qxd7 exd4 22.Qf5!

 これは守りも兼ねている最も基本的な勝ち方で、「優勢なときは単純化せよ」に沿っている。白は収局を簡単に勝った。

(この章続く)

2012年05月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(268)

「Chess」2012年1月号(7/7)

******************************

第3回ロンドンチェスクラシック(続き)

 カールセンは第2回戦のルーク・マクシェーン戦でポーンの犠牲がほとんど効果がなく苦戦した。しかし次の第3回戦ではヒカル・ナカムラにまた勝った。カールセンとナカムラはこの1、2年ライバル意識が激しくなってきた。そしてどの試合も身震いのするような対局になっている。とはいうものの対戦成績は今のところかなり一方的になっている。2011年はこのロンドンでの対局の前でカールセンが正規試合で3勝をあげている。いつものようにカールセンの布局の方針はあまり定跡に深入りせずに、相手を突いたり叩いたりして自分の洗練された技量を発揮させることのできる局面に持ち込むことだった。

 ナカムラはルークをどこへ配置したらよいかまったく分かっていなかった。世界ナンバーワンに必要だったのはその励ましだけで、相手のどっちつかずの態度につけ入っていった。試合後ナカムラはどこで形勢を損じたのか分かりかねていた。一方気をよくしたカールセンはサッカーの試合の観戦に急いだ。

第3回戦
M.カールセン – H.ナカムラ
ジオッコピアニッシモ

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.d3 Bc5 5.c3 d6 6.Bb3 a6 7.Nbd2 Ba7 8.Nf1 h6 9.Ng3 O-O 10.O-O Be6 11.h3

11…Qd7

 もちろんカールセンはいつもの超おとなしい試合を指している(イタリア語の布局名の意味とちょうど一致している)。たぶんナカムラはここでちょっと激しく 11…d5 と突いて事を荒立てていった方が良かっただろう。実戦の進行に見られるようにカールセンはしだいに得意とする捌きを中心とした局面に持っていった。

12.Be3

 「Be3 が指せてほっとした。」(カールセン)

12…Ne7 13.Nh4

13…Ng6

 h3 と突くときは相手が 13…Bxh3 と切ってきても大丈夫か必ず確認しておかなければならない。ここでの場合白の読み筋は 14.Bxa7 Rxa7 15.gxh3 Qxh3 16.Ng2!(16.Nf3? は 16…Ng6! で負ける)16…Ng4 17.Re1 Qh2+ 18.Kf1 Qh3 のあと 19.f3!

で勝勢になるということである。両選手ともこの手順は読んでいた。しかし実戦の手も白にわずかな優位を与えるので少し疑問である。そしてわずかな優位が時にはカールセンの必要とするすべてであることがある。

14.Nhf5 Ne7 15.Nxe7+ Qxe7 16.Bxa7 Rxa7 17.f4 c5

 「白の方が指しやすいと思う。」(カールセン)ナカムラはあとで14手目と15手目のあたりで時間を使いすぎたと認めた。ナカムラが指しにくいと感じていた印だった。

18.Bc2!?

 カールセンは 18.a4 も考えていたと言った。一方クラムニクはビショップをb3から引くことに驚きを表わした。私の分析エンジンも少し驚いていた。おそらくカールセンと他の一流選手との間のこの微妙な違いが彼の独特な棋風を形成しているのだろう。

18…b5 19.Qd2 Rb7 20.a3 a5 21.Rf2

 「この局面は黒が良いと思う。どうしてこうなったのか少し戸惑っていた。」(ナカムラ)ついでながら、負けたあと検討室に来たナカムラは褒められてよい。このような率直な感想を述べる彼は誠実である。

21…b4 22.axb4 axb4 23.Raf1 bxc3 24.bxc3 exf4 25.Rxf4 Nh7 26.d4 cxd4 27.cxd4 Qg5 28.Kh2 Nf6 29.Bd1

29…Rfb8

 「この手で負けたと思う。ちょっと変な手だった」とナカムラは検討室で嘆いた。まだどうして負けたのか全然理解できていなかった。彼は白からの交換損の犠牲を読んでいたが対局中は心配していなかった。慰めにはならないがチェスエンジンもこの局面を理解していないようである。ナカムラは 29…Ra8 で 30.h4 に 30…Qa5 でクイーン交換を求めるようにするのはどうかとも言った。29…Ng4+!? も示唆した。

30.h4 Qg6 31.Rxf6!

 これは決め手とはとても言えないが局面を紛糾させ自分の好きな展開に持ち込んでいる。白は交換損の代わりに黒のポーンを弱体化させ、黒のキングとクイーンに対し駒を用いた戦いができる。一方黒のルークはどちらも報復の効く地点に到達するにはまだ遠い。

31…gxf6

32.Qf4

 32.d5 Bd7 33.Qc3 がディープリブカの推薦手順だが「ディープカールセン」の考えは異なる。

32…Rb2

 ナカムラの直感はルークを利かせることだったが、結果論から言えば 32…Rd8 のような手で防御態勢を固めた方が良かったかもしれない。

33.Bh5 Qg7 34.Bf3

34…Ra8?

 ヒカルは時間切迫と局面のプレッシャーで手がすくみ始めた。34…Rd8 35.Nh5 Qg6 36.d5 Bc8 37.Nxf6+ なら白が優勢でも黒もまだ戦えた。

35.d5 Bc8 36.Nh5 Qf8

 36…Qg6 37.Qxd6 も黒が大苦戦である。

37.Nxf6+ Kh8

 駒割を見れば黒はまだ大丈夫だが、黒キングは非常に弱く白キングは安泰である。

38.Rc1!

 ちょっと皮肉な感じがする。相手の2ルークに対し白のルークは1個だけだが、c1のルークの方がはるかに威力がある。このルークはc7に来て Rxf7 から Qxh6+ で詰みを狙うか、Rc6 から単に Rxd6 を狙っている。

38…Kg7

 例えばa8のルークが 38…Ra6 と浮くと 39.Rxc8! から 40.Qxh6# で詰まされる。

39.e5!

 この手は対角斜筋を開けるだけでなくビショップのためにe4の地点も空けている。黒駒は働きをなくしていて終局は近い。

39…dxe5 40.Nh5+

 40.Qxe5 でもほとんど同じように勝つ。

40…Kh7 41.Be4+ 1-0

 以下は 41…Kg8 42.Qg3+ Kh8 43.Qxe5+ f6 44.Qxb2 で決まる。本局はカールセンの傑作だった。

******************************

(この号終わり)

2012年05月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(201)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 次の複雑な手筋は相手がバッテリーの覆いを取る同様の手段を読んでいたらフィッシャーにとって裏目に出るところだった。

ベンコー対フィッシャー
ニューヨーク、1966-67年
 23…Bh6

 ここでベンコーは 24.Re1 と指したが 24…Rec8! 25.Nxa8 Rc2! となって開き攻撃の狙いはルークの丸損の代償として十分だった。直接の狙いは …Bf3+ でg2のビショップを取ることである。白は 26.Rxe2 と取らなければならずフィッシャーは最終的に試合に勝った。しかし白は次の手順で勝てるはずだった。

24.Nxe8 Bxc1 25.Nc7 Bxb2 26.Rb1 Rc8 27.Nd5 Rc2 28.Ne3!

 バッテリーの「発射」駒に対する当たりですべての毒牙が抜かれる。

(この章続く)

2012年05月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(200)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 挿入手はすべて攻撃に反撃で応えるという意味で防御の手法である。以下にいくつかの着想をあげる。

ヨハンネッセン対フィッシャー
ハバナ、1966年
 25…Rxf7

26.Nf4

 この手は 27.Ng6+ を狙っているのはもちろん、明らかに相手の対角斜筋上の狙いも「帰還」で防いでいる(26…Qxg2+ 27.Nxg2)。

26…Rxf4! 白投了

 27.Bxc6 なら 27…Rxh4 28.Bxb7 Rxh3! で 29…Rxg3+ からg5のビショップを取る狙いが残っていて黒が交換得か複数ポーンの得になる。これはバッテリーを隠している駒を取ることによりバッテリーを無害にする「反開き」捌きと呼べるかもしれない。

(この章続く)

2012年05月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(173)

「Chess Life」2012年2月号(6/8)

******************************

2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 マリヤは次の試合で得意の反シチリアの武器(側面ギャンビット)を用いてうまくいった。白の展開と圧力がひどいポカを引き出した。

シチリア防御 [B20]
マリヤ・オレシュコ(FIDE1694、米国)
カラムチェティ・プリヤムバーダ(FIDE1782、インド)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第5回戦、2011年11月22日

 マリヤはアガタ・ビコフツェフと共に6½点で我々の12歳以下女子での最多得点者の一人だった。

1.e4 c5 2.b4!?

 側面ギャンビットは今日ではあまり見られないややこしい布局である。その意図は黒のcポーンをどかせて中原を支配することである。

2…cxb4 3.a3 bxa3?!

 白はこの手のあと望外の態勢になる。3…d5 でギャンビットを拒否するのが最善で、4.exd5 Qxd5 5.Nf3(5.axb4?? Qe5+ 0-1 は1984年バークレーでの全米選手権戦でのシラジ対ピーターズ戦の不運な試合だった)5…e6 6.Bb2 Nf6 7.c4 bxc3e.p. 8.Nxc3 Qd8

は昨年ギリシャで開催されたこの大会でコーチのアルメンが用意した素晴しい研究手順だった。そのベトシュコ対トロフ戦では白はポーン損に加えて孤立ポーンを抱えて全然攻撃の機会がなかった。

4.d4

4…g6

 2回戦前で白のマリヤに対しノミネルデネは次のように指してきた。4…d6 5.Nf3 Nf6 6.Bd3 e6 7.O-O(7.c3 Be7 8.Qe2 O-O 9.e5 dxe5 10.dxe5 Nd5 11.h4

なら白がキャッスリングせずにキング翼で狙いを作り出すのが少し容易かもしれない。Rh1 が Bxh7 から Ng5 の狙いに役立つかもしれない)7…Be7 8.Bxa3 O-O 9.e5 Ne8 10.Nc3

フランス防御型の局面で白は攻勢に出られる。

5.Nf3 Bg7 6.Bc4 d6 7.O-O Nf6 8.e5!?

 白は攻撃的に指さなければならない。さもないと代償が消えていく。

8…dxe5 9.Nxe5 O-O 10.Bxa3

 白の2ビショップが黒のキング翼に大きな圧力をかけていて黒の展開を難しくさせている。

10…Nc6 11.Nxc6 bxc6 12.Re1 Re8 13.Bc5 a5 14.Qf3

14…Bb7??

 黒は圧力の中でつぶれた。14…Ba6 なら受けきる可能性があった。

15.Qb3!

 この露骨な両当たりで大きな戦力得になる。

15…Ba6 16.Bxf7+ Kh8 17.Bxe8 Nxe8 18.c3 Bf6 19.Qa3 Bd3 20.Bxe7 Bxe7 21.Qxe7 Qxe7 22.Rxe7 a4 23.Na3 Nd6 24.Re6 Rd8 25.f3 Kg7 26.Re7+ Kh6 27.Rc7 Bb5

28.h4

 28.Rc1! はどうだろう。

28…Re8 29.g4 g5 30.hxg5+

 30.Nxb5!? cxb5 31.Rc6 なら黒の残存戦力が身動きできなくなる。

30…Kxg5 31.Kf2 Kf4 32.Nxb5 cxb5 33.Rd7 Re6 34.Rb1 Rh6 35.Rxd6!

 この単純化の手筋で黒のわずかな希望をつぶした。

35…Rxd6 36.Rxb5

 詰みの狙いで白ルークが黒のパスポーンの背後に回ることができる。

36…Rf6 37.Ra5 h5 38.Rxh5 a3 39.Ra5 a2 40.Rxa2 Rh6 41.Kg2 黒投了

******************************

(この号続く)

2012年05月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(199)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 2駒が同時に当たりになっているとき、そのうちの一つが自分の狙いを持って動くという受けの手段もある。次の局面ではソ連のグランドマスターで世界選手権挑戦者候補が1手の手筋を見落とした。

コルチノイ対フィッシャー
キュラソー、1962年
 31…Nxc6

32.Rc1

 当然の 32.dxc6 の代わりに白は進攻したポーンを失わずに駒を取り返そうとした。この釘付けは黒のナイトとクイーンに対する二重当たりになっている。

32…Qa7!

 黒クイーンが攻撃の筋から逃れて敵のクイーンを当たりにした。このクイーンは「帰還」によって守られている。

33.Qxa7 Nxa7

 そして黒が駒得になった。「帰還」は第16章「開き攻撃」の終わりでもっと詳しく説明した。

(この章続く)

2012年05月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(198)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために(続き)

 同じ相手はフィッシャー戦で次の局面まで優勢を保ってきたあとはるかに基本的な幻覚をおかした。

グリゴリッチ対フィッシャー
モナコ、1967年
 41…g5

42.Bxe5 dxe5 43.Nxe5

 黒のクイーンとaポーンが当たりになっているが応手は単純至極だった。

43…Qd6

 これで両方守れている。

(この章続く)

2012年05月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(24)

「Chess Life」2003年8月号(1/2)

******************************

ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

オランダ防御現代レニングラード戦法の 7…Qe8

 1980年代にIMウラジーミル・マラニウクがオランダ防御現代レニングラード戦法と呼ばれる 7…Qe8 を採用し広めた。今月はこれを集中的に取り上げる。7…Qe8 の着眼点は単純で、…e7-e5 と突くためにeポーンを補強することである。

白の基本的な作戦は何か

 白の作戦は適当なときに e2-e4 と突くことによりe列の素通しを図ることである。白がこれに成功すれば黒のe6の地点だけでなくe7のポーンが弱点となってつけ込む標的になり大きな優位に立つ。

黒の基本的な作戦は何か

 この布局における黒の着想は次のとおりである。キング翼インディアン防御において黒はしばしば …Nf6-e8 または …Nf6-h5 のあと …f7-f5 と突きナイトをf6の地点に戻さなければならない。だから2手余計にかかる。これに対して現代レニングラードでは黒が …e7-e5 と突くことができればキング翼インディアン防御に似た陣形を2手少ない手数で構築できる。黒の最終的な目標は …f5-f4 と突いてキング翼を攻撃することである。白が d4-d5 と突くことにより黒の …e7-e5 突きを防げる戦型では黒はクイーン翼に反撃を求めることが多い。

それで評決はどうなっているか

 現代レニングラードは黒の非常に意欲的な布局で激しい戦いになる可能性がある。白は主導権を維持しながら黒の動きと反撃を抑えるために正確さを要求される。この布局は他の布局ほどはよく知られていない。だから相手を驚かす効果があるかもしれない。

 世界の多くの強豪グランドマスター、例えばウラジーミル・クラムニク(初期の頃)、アルツール・ユスポフ、ミハイル・グレビッチ、エブゲニー・バレエフ、ウラジーミル・アコピアン、ウラジーミル・マラニウク、セルゲイ・ドルマトフ、それに加えて私がこの布局を黒での常用戦法の一部にしている。黒にとって活気のある布局で、反撃力もある。

 最も普通の出だしの手順は次のとおりである。

1.d4 f5 2.g3 Nf6 3.Bg2 g6 4.Nf3 Bg7 5.O-O O-O 6.c4 d6 7.Nc3

 この局面でよく指されてきた手は 7…c6 と 7…Nc6 でどちらも黒が十分指せる。しかし今日の定跡では白が少し有望とされている。

7…Qe8

 白の応手は多岐に渡る。戦型1ではあまり人気のない指し方を取り上げる。一方戦型2と戦型3では主流手順を分析する。戦型4ではそもそも黒の作戦を避けるための白の面白くて複雑な手を紹介する。

戦型1 8.Re1

 この手は e2-e4 突きの準備で、理にかなっている。

 8.e4 fxe4 9.Ng5 で一時的にポーンを犠牲にするのは次のように黒に何も問題を生じさせない。9…Nc6 10.Be3(白はd4のポーンが落ちるのですぐにe4のポーンを取ることはできない)10…Bg4 11.Qd2 Qd7 12.Ngxe4 Nxe4 13.Bxe4 Bf3 14.Bxf3 Rxf3 15.Ne4 d5(アフィフィ対ユスポフ、1985年)

 他には 8.Qb3 もやってみる価値がある。しかし次のように正確に受ければ黒が大丈夫である。8…c6 9.d5 Na6 10.Be3 Ng4 11.Bd4 e5 12.dxe6e.p. Ne5!(白に有利な黒枡ビショップ同士の交換を避けた)13.Rad1 Qxe6(カルポフ対M.グレビッチ、1989年)また 8.Nd5 も白にとって面白い着想である。

8…Qf7

 このあまり見かけない手で黒はc4のポーンを当たりにすることにより重要な1手を稼いでいる。

9.b3 Ne4 10.Bb2

 10.Nxe4 は 10…fxe4 でf3のナイトが逃げなければならずf2のポーンをチェックで取られるので白はまだe4の駒を取ることができない。

10…Nc6 11.e3 e5 12.Rc1 Nxc3 13.Bxc3 e4 14.Nd2 a5 15.a3 Bd7 16.b4 axb4 17.axb4 b5!

 この軽妙なポーンの犠牲で黒はd5などの重要な白枡を支配できる。黒の面白い局勢である(フラク対バレエフ、1990年)。

戦型2 8.b3

8…Na6

 すぐに 8…e5 と突くのも多くの試合で試されたが 9.dxe5 dxe5 10.e4 Nc6(10…fxe4 なら 11.Ng5)11.Nd5 で白が有利のようである。

9.Ba3

 カルポフのこの手(相手の作戦を未然につぶす彼特有の手)の意味は黒の主要な作戦の …e7-e5 突きによる自陣解放を防ぐことである。この手のあと黒はd6のポーンが釘付けにされているので作戦の遂行に長期的な問題を抱えることになる。9…e5 10.dxe5 のあとa3のビショップよりもf8のルークの方が大切なので黒は 10…dxe5 と取り返せない。

 9.Bb2 は自然な手でよく指されてきた。1例はカスパロフ対マラニウク戦(全ソ連選手権戦、1988年)である。いくらか手順の相違はあるが 9…c6 10.d5 Bd7 で次の局面になった。

 11.Rc1 h6(黒は …Qe8-f7 でd5のポーンを攻撃する予定なので Nf3-g5 を防ぐ必要がある)12.e3(マラニウクによればおそらく 12.Nd4 の方が良い)12…Rc8 13.Nd4 Qf7 14.Ba3 cxd5 15.Nxd5(15.cxd5 なら 15…Nc7)15…Ne4! 16.f3 Nec5 17.Nb5 Bxb5 18.cxb5 Nc7 19.Nxc7 Rxc7 20.Bxc5 dxc5 21.f4 ここで合意の引き分けになった。

9…c6 10.Qd3

 白は中原を支配し潜在的な弱点のe6の地点とe7のポーンを攻撃するためにe列を素通しにするために e2-e4 突きを準備している。

10…Rb8

 カルポフ対マラニウク戦(全ソ連選手権戦、1988年)では黒は指し手が少しおとなしすぎて白が次のようにわずかな優勢をきれいに勝利に結びつけることができた。10…Bd7 11.Rfe1 Rd8 12.Rad1 Kh8 13.e4 fxe4 14.Nxe4 Bf5 15.Nxf6 Bxf6 16.Qe3 Qf7 17.h3!(…Bg4 による釘付けの防ぎ)17…Nc7 18.Re2 Bc8 19.Ng5 Qg8 20.Qd2 Ne6 21.Nxe6 Bxe6 22.Rde1 Bd7

23.Rxe7!(e列の支配に成功したあとカルポフは大局観に基づいたこの果断な交換損で黒枡の支配による圧倒的な優勢に立った)23…Bxe7 24.Rxe7 Rf6 25.d5! Qf8 26.Re3 Kg8 27.Bb2 Rf5 28.Qd4 Re5 29.Rxe5 dxe5 30.Qxe5 Kf7 31.d6 Bf5 32.c5 h5 33.g4 hxg4 34.hxg4 Bd3 35.Bd5+ 黒投了

11.e4

 他の 11.Rfe1 のようなもっと穏やかな手なら黒は 11…b5 と指す。

11…fxe4 12.Nxe4 Bf5 13.Nxf6+ Bxf6 14.Qe3 b5 15.Rac1 Nc7 16.Rfe1 Qd7 17.Rcd1

 マイルズ対クラムニク戦(モスクワ、1989年)では黒は 17…Bg4 と悪手を指し41手で負けた。しかし 17…Qc8! と指せば混戦に持ち込めるところだった。この手には 18…Qa6 でa3とc4の二箇所をすぐに攻撃する狙いがある。

******************************

2012年05月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(197)

第4部 手筋(続き)

第19章 防御のために

 英語で出版された最初の2冊の本のうち1冊は表向きはチェスに関するものであった。1475年カクストンの「チェスの試合と指し方」がそれで、それから500年後には他のどんな表題よりもこの競技の王様に関する本が出版されている。しかしこれらのすべての書籍でも手筋や攻撃に対する防御について書かれたものは非常に少ない。グランドマスターは大抵の場合不完全な手筋の見落としを見つけることにより、ポーンを取りそれから生じる攻撃を撃退することにより、そして指しすぎの攻撃から陣形上の優位を得ることにより、弱い相手に勝つ。フィッシャーは常習的にそのような戦術で「グランドマスター」に勝ってきた。

 どんな手筋でも最終結果は二重攻撃なので、防御の成功は二重防御とでも呼べるものにある。これを明らかにするために二、三の例をあげる。

グリゴリッチ対フィッシャー
パルマ、1970年
 19…Nh5

20.Nb5

 白はこの手で気づきにくい手筋を開始した。その要点は 20…axb5 (c7とd6の地点での両当たりがあるのでほとんど必然である)21.Bxb5 のあと白に 22.Bxe8 という手と黒クイーンを捕まえる 22.Bc3 という手との二重の狙いがあることである。しかしこれには読み抜けがあった。

20…axb5 21.Bxb5 Qe5!

 攻撃されている駒の一方が他方を守った。これが二重防御の中心となる着想である。白は Bxe8 と取るしかないのでフィッシャーはルークの代わりに2駒を得る。

(この章続く)

2012年05月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(196)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 最後にZZがクイーン捨てと同じくらい劇的なものになり得る(実際そうなのだから)例を一つ。

フィッシャー対シュベーバー
ブエノスアイレス、1970年
 22…e4

23.Rxe4! Qxg3 24.Rxd4!!

 これが妙手たるゆえんは黒クイーンに安全な地点が存在しないので(24…Qc7 25.Bf4)白がこの手をさしはさむ余裕があることである。黒クイーンはルークと交換できる唯一の地点で自らを犠牲にするが、白の双ビショップと進攻したポーンは交換損を補って余りあるものとなった。この妙技は 22…e4 が黒からの狙いとなったときよりもずっと前に見通しておかなければならなかったのでよりいっそう驚嘆となった。その着想全体が、その控え目さ、限定された目的、それに地味な狙いを伴って、私の考えではフィッシャーがこれまで創造してきたすべてのものと同じくらい痛快なものである。

24…Qg4 25.Rxg4 Bxg4 26.Bxg6 以下白勝ち

(この章終わり)

2012年05月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(195)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 フィッシャーの試合にはこのような機略があふれている。1970年インターゾーナルの重要な対戦の局面で彼は「手拍子」の 13…bxc5 を避ける最初の機会をつかみ、代わりに8手連続でこのポーンを放置しその間についには白キングの敗走につながる狙いを作り上げた。

スミスロフ対フィッシャー
パルマ、1970年
 13.dxc5

13…Qf6! 14.Nc4 Nc3!

 勢いは止まらない。白クイーンが当たりになっているが逃げるのは 15.Qc1 Nxe2 16.Kxe2 Rac8! でc列に狙いを持たれてよくない。

15.Nxc3 Qxc3+ 16.Kf1 Rfd8

 一連のZZが続いている。

17.Qc1 Bxc4+ 18.bxc4 Qd3+ 19.Kg1 Rac8 20.cxb6 axb6

 黒はポーン損ながら素通し列を支配して勝勢になった。

(この章続く)

2012年05月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(267)

「Chess」2012年1月号(6/7)

******************************

第3回ロンドンチェスクラシック(続き)

 「こちらにツキが回りそうだと相手が思うなら相手はあまりうまくプレーできなくなる。順調なときは金を思い切って使うべきだ。」スチュアート・ルーベンは本号の別の所でポーカーについてこう書いている。ヒカル・ナカムラも最終戦の対ミッキー・アダムズ戦でほぼ同様のことがチェスに当てはまることを示した。イギリスのナンバーワンは悲惨な大会になっていて、最終戦のために席に着いたときたぶん唯一の楽しみはクリスマス休日だった。

 そしてナカムラはキング翼ギャンビットを指した。この時代遅れの布局が大会で前に現れたとき(ショート対マクシェーン戦)のように、最初の元気よさはヒカルがキングをh1にしまい反撃のc4突きを許したときにはすぐに慎重さに変わった。海賊のように派手な戦いが続き白はクイーン翼でポーンによる襲撃をかけアダムズは白のキング翼に両ビショップのにらみを利かせた。

 試合を終えたスーパーGMたちにガリー・カスパロフや昔の達人たちも加わってVIPルームでの観戦は素晴しい体験となった。GMのジュリアン・ホッジソンとスチュアート・コンケストがそこでの解説者だったが一度だけ観戦者にまんまとしてやられた。黒はほとんどの間試合を支配していたようだが最後には振り子が大きく白の方に傾いた。風向きが変わったことに最初に気づいたのはガリー・カスパロフだった。「38.Rfe1 で白の方が良さそうだ。」ポカが出て白が順当に勝利を収め、ナカムラが単独2位になり不運なアダムズが最下位に沈んだ。それでも最終戦の観戦者にチェスの醍醐味を与えてくれた両対局者には感謝したい。

第9回戦
H.ナカムラ – M.アダムズ
キング翼ギャンビット

1.e4 e5 2.f4

 意外な手だが、ヒカルが快速戦や米国内の小さな大会で指すことは知られている。「ナイジェル・ショートに啓示を受けた。そしてチャンスにかけてみたくなった。」(ナカムラ)ここでGMクリス・ウォードが言葉をさしはさんだ。「教えてもらえますか。他のコーチたちの勧める布局の中にあまり面白くないものが一つ、二つあるのでこれからはショートの布局のように指すんですか?」クリスが「他のコーチたち」と「ショート」という言葉をわざと強調したのは、ナカムラがガリー・カスパロフの指導を受けていることを冗談ぽく揶揄(やゆ)したからだった。事情通の観戦者たちはこの言い方に気づいて笑い、ナカムラも苦笑いした。「昨日はマグヌスに、今日はショートにならった。」

2…exf4 3.Nf3 d5 4.exd5 Nf6 5.Bc4

 これはGMジョー・ギャラガー(正真正銘のイギリス人だが今はスイス在住である)の得意とする手である。

5…Nxd5 6.O-O Be6 7.Bb3 c5

 この手が最善手で 7.Bb3 を悪手にさせようとする。(ナカムラ)

8.Kh1

 「8.Kh1 は悪手に違いないが乱戦に持ち込もうとした。8.d4 cxd4 9.Qxd4 Nc6 10.Ba4 Rc8 はどう指したらよいのかわからなかった。」(ナカムラ)

8…Nc6 9.d4 c4

10.Ba4

 10.Bxc4 は 10…Ne3 11.Bxe3 Bxc4 12.Bxf4 Bxf1 13.Qxf1 Bd6 で1ポーンを得ての交換損になる。

10…Bd6 11.b3 c3

 11…cxb3 12.axb3 は白がすぐに c4 と突いてf4ポーンの主要な守り手を脅かすことができるのであまり良くない。f4ポーンを守りとおすのがこの段階における黒の作戦の骨子である。

12.Qd3 O-O 13.Bxc6 bxc6 14.Nxc3 Re8 15.Nxd5 Bxd5 16.c4 Be4 17.Qc3

17…a5

 ナカムラはここでは黒がかなり良いがミッキーは圧力を維持できていなかったと感じていた。

18.a3 f6 19.Bb2 Ra7 20.Rad1

20…Rae7

 ナカムラはこの手を良い手と思わなかったがコンピュータはそうでもない。代わりに 20…Rb7 ならbポーンを押さえ込めるが 21.Rfe1 でe列に少し圧力がかかってくる。

21.b4 axb4 22.axb4 Kh8 23.Qb3 Rb7

 ナカムラはルークがこのように舞い戻って来れることを見落としていた。

24.Bc3 Qb8 25.b5 cxb5 26.c5 b4 27.Bd2 Bf8

 黒はポーン得だが陣形は申し分ないとはとても言えないのでポーンの活用は難しい。

28.Rde1 g5 29.Qc4!

 この手を指すのには勇気がいる。白の心配は黒が …Bd5 と指せるようにすることで、「それでほぼ勝負がつく。」しかしbポーンが進んでくるのも同じくらい怖そうである。

29…g4

 もっと分かりきった 29…b3 の方が有望そうだと結果論で言うのはたやすい。そのとき白は 30.c6 Ra7 31.Bc3 b2 32.Nd2 と活発に動かなければならない。コンピュータは派手な 32…Bxc6 33.Qxc6 Rc8 34.Qxf6+ Bg7 35.Qxg5 Rxc3

という手順を示すが、人間はかなり読まなければならないだろう。しかし実戦の手の問題は黒のキング翼のポーンの形が非常に崩れることである。

30.Nh4

 ナカムラは 30.Ne5!? と指すのが良いかもしれないと考えていた。30…Bxg2+ 31.Kxg2 fxe5 32.dxe5 f3+ となるなら引き分けになるかもしれない。

30…f3

 ここでも 30…b3 はまだ有力だった。チェスソフトのリブカはそのあと 31.c6 Ra7 32.Bc3 Qd6 33.Qxb3 Qxc6 で勝勢と判断している。

31.d5

 ナカムラはこの手を「ポカ」と断定したがおおげさすぎるかもしれない。

31…fxg2+ 32.Nxg2 Bf3

 これがナカムラの読んでいなかった手だった。そして自分自身を責めることになった。「ここでは負けて当然である。」

33.Kg1 Rc8 34.c6 Rb5

 34…Bd6 が解説者たちの指摘した手だが 35.Bf4!? で対抗できる。

35.Nf4

 ナカムラは 35.Rxf3 gxf3 36.Nf4 では黒に 36…Bd6 という手があり負けると考えていた。

35…Bc5+ 36.Be3

36…Bxe3+?

 黒が間違え始めた。両選手とも 36…Qb6 で黒が勝つと検討で一致した。例えば 37.Bxc5 Rxc5 38.Qd4 のとき 38…R5xc6! がアダムズの見逃した決め手で、黒のかなり簡単な勝ちになる。

37.Rxe3 Qb6 38.Rfe1

 急に白陣の方が堅固になり攻勢を考えられるようになった。ここでは白の方が優勢だろう。

38…b3??

 このポカは手筋の4手にしてやられる。38…Rc5?? も同様にひどくて 39.Re8+ Rxe8 40.Rxe8+ Kg7 41.Ne6+ Kf7 42.Nxc5 Kxe8 のあと 43.d6! で白の狙いが受けきれない。コンピュータの見つけられる最善手は 38…Ra5 だが黒が守勢である。

39.Qc3!

 急に黒がf6のポーンの守りに問題を抱えるようになった。

39…Rf8 40.Ne6! b2 41.c7! 1-0

  41…b1=Q なら 42.Qxf6+! Rxf6 43.c8=Q+ のあと2手詰みである。

******************************

(この号続く)

2012年05月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(194)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 布局ではこのささやかなひねりが主導権を保持するだけの時間の1目盛りを余分に得ることを意味する(「主導権」は無視できない狙いの能力にすぎないことを思い起こして欲しい)。

フィッシャー対マロビッチ
ザグレブ、1970年
 12…e5

 局面は黒がちょうど中央で突っ掛けたところである。しかし黒は1手遅れていて中央が攻撃にさらされる。

13.Ne3! Nb6

 ZZの 14.Nxd5 があるので 13…e4 とは突けない。だから黒はもっと受けに手をさかなければならない。白はこのあと 14.dxe5 Nxe5 15.Bf4 で陣形的に優位に立った。

(この章続く)

2012年05月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(193)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 次の局面で黒ビショップの運命は酷いと論外の間にあるように見える。15…Be4 は 16.f3 で取られ、15…Be6 はc7の地点での両当たりでポーンの形を乱される。

ペトロシアン対フィッシャー
ベオグラード、1970年
 15.g4

15…a6!

 ここでもしのぎの着想の「お先にどうぞ」である。

(この章続く)>

2012年05月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(172)

「Chess Life」2012年2月号(5/8)

******************************

2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 最も得点をあげた女子は女流準マスターのセアラ・チャン、マリヤ・オレシュコ、それにアガタ・ビコフツェフだった。ブラジル選手に対するセアラのペトロシアン戦法の戦いぶりを見てみよう。この試合は白に有利な陣形戦として始まったが早く c4-c5 と突いたために大乱戦になった。

キング翼インディアン防御古典戦法 [E92]
WCMセアラ・チャン(FIDE2056、米国)
ジュリア・アウボレド(FIDE1813、ブラジル)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第2回戦、2011年11月19日

1.d4 Nf6 2.c4 d6 3.Nc3 g6 4.e4 Bg7

 キング翼インディアン防御は人気のある複雑な戦法で、いくらか棋理に反するところのある布局である。

5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 7.d5

 ペトロシアン戦法は偉大な元世界チャンピオンの故チグラン・ペトロシアンにちなんで名づけられた。

7…a5 8.Bg5 h6 9.Bh4

9…Bd7

 9…g5 10.Bg3 Nh5 11.Nd2 Nf4 12.O-O と進めば白は Bg4 で陣形の差を追求するかクイーン翼で動いていくことになる。

10.Nd2 Na6 11.a3 Qe8 12.b3 Nh7 13.f3

13…g5?!

 この手は黒キングの近くの白枡を決定的に弱める。13…h5!? の方が良く 14.Rb1 Nc5 15.O-O Bh6 16.Qc2 f5 17.b4 axb4 18.axb4 Na4 19.Nb5 となれば白がやや優勢である。

14.Bf2 f5 15.exf5 Bxf5

 黒は白に正当な理由もなくe4に強力な拠点を与えた。

16.Nde4 Nf6 17.Bd3 Bg6 18.O-O Nh5

19.c5!?

 黒の指し方は積極性に欠けていたので白は争点を保っておく方が良いのではないかと私は感じた。19.Rb1! と寄ってから b3-b4 と突いて Na6 を遊び駒にするのは辛抱強いやり方である。黒はまともな作戦を見つけるのが難しい。

19…Nxc5 20.Nxc5 dxc5 21.Bxc5 e4!?

 もちろんである。黒は乱戦を図った。

22.Bb5

 22.Nxe4!? Bxa1 23.Qxa1 の方が安全で、白がまだ少し優勢だった。

22…c6 23.dxc6 Bxc3 24.cxb7 Qxb5 25.Qd5+

25…Bf7??

 黒は乱戦の中でつぶれて、大きな駒損になった。対局後の検討で 25…Kh7! が我々の関心の的だった。次のように黒の勝ちになるようである。26.bxa8=Q Rxa8 27.Qxa8 Qxc5+ 28.Kh1 Bxa1(28…e3!?)29.Rxa1 e3

26.bxa8=Q Rxa8 27.Qxa8+

 突然セアラが二つ交換得になった。

27…Be8 28.Qd5+ Bf7 29.Qd8+ Kh7 30.Qe7 Qxb3 31.Qxe4+ Kg8 32.Rad1 Nf6 33.Rd8+ Kg7 34.Bf8+ Kg8 35.Bxh6+ Be8 36.Qg6+ 黒投了

 次に Qg7 で詰む。

******************************

(この号続く)

2012年05月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(192)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 「お先にどうぞ」は次の局面でフィッシャーが白ビショップの退却のあとでナイトの落ち着き先を決めるために言うせりふである。

ラルセン対フィッシャー
モナコ、1967年
 33…f5

34.b4 b5!

 さっぱりした局面でもこのような突き合いは互角の局面とどうしようもない敗勢の局面とを分けることがよくある。

(この章続く)

2012年05月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(191)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 身分の低いポーンでもクイーンによるZZと同じくらい容易に状況をひっくり返すことがよくある。典型的には中央での要所をめぐる戦いの問題がそれである。次の局面でフィッシャーはビショップを引いて手損になることを避けただけでなく、局面を自分の有利に開放した。

フィッシャー対ポルティッシュ
ハバナ、1966年
 13…f4

14.e5!

 黒が 14…Bxe5 と取ろうと 14…fxe3 と取ろうと戦力に関する限りどっちもどっちである。

(この章続く)

2012年05月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス