2012年04月の記事一覧

ポルガーの定跡指南(23)

「Chess Life」2003年7月号(2/2)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

 c)3.Nf3

3…Nf6

 他には 3…c5 があり白の最善の応手は 4.d5(4.e3 なら 4…cxd4 5.exd4 のあと黒は変わった手だが 5…Be6 で好形になる)である。また 3…a6 もあり、3.Nf3 Nf6 4.Nc3 のあと険しい局面になるのを避ける手順としてよく用いられる。

4.e3

 4.Qa4+ は 4…c6 5.Qxc4 Bf5 6.Nc3 e6 7.g3 Nbd7 8.Bg2 Be7 9.O-O O-O でカタロニア布局のような局面になりどちらも指せる。

 4.Nc3 は黒が次のようにやってくれば長期的なポーンの犠牲を伴う。4…a6(白は黒が 4…c6 と指す場合に備えてスラブ防御に移行してもよいように準備しておく必要がある)5.e4 b5(「受諾」の多くの他の局面と異なり黒はこの戦型では安全にポーンを守ることができる)6.e5 Nd5 7.a4 Nxc3 8.bxc3 Qd5(b5でポーン交換になる事態に備えてa8のルークに紐をつけた)9.g3 Bb7 10.Bg2 Qd7

 複雑な局面だが 11.Ba3 のあと白には犠牲にしたポーンの代償がある。

 4.Nc3 に対して黒が 4…c5 と応じれば 5.d5 e6 6.e4 exd5 7.e5 Nfd7 8.Bg5 Be7 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 Qd8 で非常に激しく面白い局面になる。しかしクイーン翼にキャッスリングするつもりで 11.Qc2 と指せば白に好機が訪れるかも知れない。

4…e6

 他に考えられる手は 4…Bg4 5.Bxc4 e6 6.h3 Bh5 7.Nc3 で、黒はここで手を選ぶ必要がある。7…a6 は 8…Nc6 のあと …Bd6 から …e6-e5 の予定だが 8.g4 Bg6 9.Ne5 で白に主導権を与える。また 7…Nbd7 も同じく …Bd6 から …e6-e5 の着想である。

5.Bxc4 c5 6.O-O

 6.Qe2 もありクイーン交換を避けながら次の手でc5の地点でポーンを交換する考えである。対称形の局面では白は先着の利でわずかに優勢になることが多い。

6…a6

 この手は …b7-b5 から …Bb7 の準備である。ここで白には三つの選択肢がある。

 c1)7.Qe2 b5 8.Bb3

 d3に引く方が黒にとって問題が少ないと考えられている。

8…Bb7 9.Rd1

 代わりに 9.a4 もよく指されている。黒がa4でポーンを交換すれば半素通しのa列にあるa6のポーンを守るのにいくらか苦労するかもしれない。…c5-c4 はほとんどの場合勧められない。というのは中原の争点を解消するのが早すぎて、白に好きなときに e3-e4 から d4-d5 と突かせるか時にはクイーン翼で b2-b3 と突かせてしまうからである。だからたぶん 9…b4 が最善の応手である。

9…Nbd7 10.Nc3

 この局面で黒は長年に渡っていろいろな手を試してきた。そして現在の結論はクイーンをd列でのX線の狙いからはずすべきであるとなっている。

10…Qb6

 10…Qb8 や 10…Qc7 もよさそうである。実際 11.d5 のあとd5の地点で総交換になって …Qb7 と指すことになれば主手順と一致することになる。そうなればクイーンがどこからb7の地点に来たかは問題でない。

11.d5 Nxd5 12.Nxd5 Bxd5 13.Bxd5 exd5 14.Rxd5 Qb7 15.e4 Be7 16.Bg5 Nb6

 黒陣は崩れていない。白の最善手は 17.Rad1 で、黒は犠牲(d5)を受諾するのは危険すぎるので 17…f6 のあと 18…O-O でできるだけ早くキングの安全を図る方が良い。

 c2)7.a4

 この手は黒の作戦を止めるが自分のb4の地点を弱める。

7…Nc6 8.Qe2 cxd4 9.Rd1 Be7

 黒はe列での釘付けのために 9…e5 でポーンを守る余裕はなく、展開の完了を急いでキングを安全にしなければならない。

10.exd4 O-O 11.Nc3

 この手により a2-a4 突きによる弱点を伴った典型的な孤立ポーンの中盤戦になる。どちらにとっても指せる局面である。

 c3)7.dxc5

 白は収局を目指している。去年のバーレーンでのクラムニク対ディープフリッツ戦ではうまくいった。

7…Qxd1 8.Rxd1 Bxc5

 しかし人間が正しく受け辛抱強く指せば互角を維持するのに何の問題もないはずである。

結論

 クイーン翼ギャンビット受諾は私の好きな布局の一つである。非常に棋理に合った堅実な原則に基づいていて戦略上の弱点を何も生じさせない。白の選択する応手によって非常に平和的で穏やかな局面になることもあるし非常に難解で拮抗した局面になることもある。ほとんどの場合黒の指せる局面にすることができる。うまく指しこなしたいならばもっと深く研究するようにしなければならない。さらに研究を積めばどんな相手にも通用する良い武器となる。

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2012年04月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(190)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 上の例のように自分のクイーンを当たりからはずすことはいわゆる「反ZZ」で、こちらが当たりをかけるときには特に効果的になる。

フィッシャー対レシェフスキー
サンタモニカ、1966年
 19…Bxc2

20.Qd2!

 これで白は完全に駒を取り返すことができ圧倒的な局面になった。ちなみにこれはピアティゴルスキー杯大会の後半戦でフィッシャーの劇的な巻き返しの始まりになった試合で、もう少しでスパスキーの優勝を阻止するところだった。

(この章続く)

2012年04月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(189)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ZZがいつ役に立つか予期する決まり切った方法があるわけではない。十中八九は「手拍子」の手を避ける心構えの問題なのであろう。例えば次の局面でフィッシャーと対戦した戦上手の相手は黒ルークが危うい状況にいるので斜筋をこじ開けて黒クイーンを攻撃できると見通していた。

ハウレギ対フィッシャー
サンティアゴ、1959年
 24.c5

24…d5

 24…dxc5 は 25.Bxc5 でクイーンが逃げても e5 と Ng5 で捕まるので当然それを避けた。しかし白にはビショップの当たりの狙いを復活させる手段があった。

25.c6! bxc6

 黒はクイーン交換に応じることができない。なぜなら 25…Qxb4 だと白は 26.cxd7 をさしはさんでくるからである。これはZZに潜む二重狙いの明快な実例で、クイーン取りとクイーン「昇格」とを狙っている。

26.Bc5 a5

 フィッシャーは自分の方もZZで危機を逃れようとした。しかし白は単に 27.Qb3 と応じて試合に勝った。代わりに 27.Qxa5 だとさらに 27…Nb7 というZZを呼び込むことになる。

(この章続く)

2012年04月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(188)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 クイーンを素早く奔放に動かすのは、捕まる以外にも色々と困難に陥ることがある。両者のクイーンが「当たり」になっているときは手番の方のクイーンが「特攻」を仕掛けてくる可能性、つまり自分をできるだけ高く売りつける可能性を考慮に入れなければならない。実際のところクイーンがごちゃごちゃした状態にあるときは世界チャンピオンでさえ1手の手筋を見落とすことがある。

ボトビニク対フィッシャー
バルナ、1962年
 17.e5

 この超弩級の対決の収局は「ルークの間合い」「がさつなクイーン」の章でも解説した。この試合の出だしはややユーモラスで、短手数で上図の局面に到達した。ボトビニクはワシリー・スミスロフとの世界選手権再戦に備えて研究していた変化を思い出しただけのようだった。そして彼は後悔を込めて「ついにすべてが予定どおりになった。盤上になじみの局面があった。そのとき突然私が研究で見逃したことをフィッシャーがいともやすやすと盤上で見つけたことが明らかになった」と書いている。フィッシャーは「私がこの手を指したとき彼が見落としていると確信した」と書いている。

17…Qxf4!

 黒クイーンはボトビニクがいじめることを期待していたf5やh4に逃げ場を求める代わりに特攻となった。

18.Bxf4

 どちらのクイーンも自分自身を高く売りつけることができた。しかし違いは黒クイーンがZZの標的を持っていることにあった。例えば 18.Qxb6 なら 18…Qe4 19.f3 Qh4+!(先に 19…Qb4+ と指すこともできた。要は白の黒枡ビショップをどちらかへ引き出すことである)20.Bf2 Qb4+ これで黒のクイーンは無事で次に白クイーンをポーンで取ることができる。フィッシャーはご丁寧に 21…axb6!「(中央に向かって)」と取るところまで書いている。

18…Nxc5

 そして黒がポーン得のままになった。チェスが指される限りこの応酬は両者によるクイーンのZZの古典となり続けるであろう。

(この章続く)

2012年04月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(266)

「Chess」2012年1月号(5/7)

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第3回ロンドンチェスクラシック(続き)

 次の回戦では元気を取り戻したナカムラがデイビド・ハウエルと対戦した。ハウエルはうまく防戦したが26手目で失着を出した。ナカムラが余裕しゃくしゃくで指しイギリスのグランドマスターにいつもの時間切迫で自滅させた感じだった。

第5回戦
H.ナカムラ – D.ハウエル
イギリス布局

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3 Bb4 4.Nf3 Bxc3 5.bxc3 Nc6 6.Bg2 O-O 7.O-O Re8 8.d3 e4 9.Nd4 exd3 10.exd3 Nxd4 11.cxd4 d5 12.Be3

12…h6

 定跡からはずれた。12…Be6 はイギリスのIMのマイク・バズマンが1966年にヘースティングズでミハイル・ボトビニク相手に指した。12…Bf5 はごく最近ウェズリー・ソーが指した。

13.h3 b6

 結果論だがこの手は最善でないかもしれない。

14.Rc1 Qd7 15.Bf4 Bb7 16.Be5 Nh7 17.c5

 この手の結果として黒のビショップが対角斜筋で使えなくなった。当面は白のビショップも同じだが米国選手はすぐに解決策を見つけた。

17…Rac8 18.h4 Nf8 19.Kh2 bxc5

 19…Ne6 は 20.Qg4 で白がキング翼に圧力をかけてくる。

20.Bh3 Ne6 21.Rxc5 f6 22.Bf4 Qd8 23.Ra5

23…c5

 黒が 23…Ra8 24.Be3 c6 25.Qa4 のように指さなかったのは黒の陣形が発展性に乏しく白が主導権を保持するからだと思われる。ハウエルはもっと大胆な方を好んだ。

24.Rxa7 Qb6 25.Ra4 Nxd4!? 26.Qh5!?

 26.Bxc8 Bxc8 は黒に有益な交換損で、白のキング翼の弱体化した白枡につけ込むことになる。両選手とも戦力のことよりも攻撃の機会をつかむことしか眼中になかった。

26…Qc6?

 26…f5! と突いて白枡ビショップの利きを止め弱いg6の地点への侵入を防ぐ方がずっと良さそうに見える。27.Rxd4!? cxd4 28.Bxf5 とやってくるかもしれないが 28…Ra8 と受けておけば白がどのように攻撃を遂行できるのかあまり判然としない。

27.Rb1 Ra8 28.Rxa8 Rxa8

29.Bg2

 コンピュータは両選手が見落としたのも無理もない 29.Re1!! という妙手を見つけ出した。要点はこのルークがe7の地点に来て詰みに一役買うのを止める有効な手段がないということである。変化は色々あるがどれも最後には黒が完全に負けになる。例えば 29…Kf8 は 30.Bxh6! Qd6 31.Bf4 Qd8 のあと驚愕の妙手の 32.Re6!! で終わりとなる。しかし人間がこの手順を見逃したからといって誰も責められないだろう。

29…Ne6?

 いずれにしても白が優勢だがこれは白に華麗な戦術で決められた。まだしも 29…Rd8 だった。

30.Rxb7 Qxb7 31.Bxd5 Qc8 32.Bxh6!

32…Ra6

 32…gxh6 なら 33.Qg6+ Kh8 34.Qxh6+ ですぐに白が勝つ。

33.Be3 Rd6

 33…Ra3 なら 34.Qf5 Kf7 35.Bxc5 Ra5 36.d4 で白の勝ちになる。

34.Bxc5!

34…Rxd5

 34…Qxc5 は 35.Bxe6+ でクイーンが取られる。

35.Qxd5 Kf7 36.Be3 Qa6 37.Qc4 Qa8 38.d4 1-0

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(この号続く)

2012年04月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(187)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 10年後フィッシャーはラルセンを相手にシチリア防御の黒側で同じく危険に見える …Qe5 を指した。そして再びこの手が成立するのは似たような追及とかわしの可能性に基づいていた。

ラルセン対フィッシャー
番勝負、デンバー、1971年
 17.b4

17…Qe5!

 黒クイーンは明らかにすぐに捕まる危険性はない。18.Bf4 には 18…Nxe4 があるからである。しかし白がeポーンを守ったらどうなるのだろうか。

18.Rae1 Bc6!

 黒は白の不気味な布陣にもかかわらずeポーンを取るつもりで手を進めている。ここでのようにZZでの重要な考えどころは、黒が …Nxe4 と取らされたあと白クイーンが安全な地点に動くことを気にする必要がないことである。なぜなら白のc3のナイトが黒のクイーンとナイトによって当たりになっているからである。

19.Bf4 Nxe4 20.Nxe4 Qxe4 21.Bd3

 そしてこれがせいぜい白のできる「開き攻撃の」の最強のものである。というのは自分の駒が邪魔になっているからである。黒クイーンをd4またはc4の地点に行かせるわけにはいかない。フィッシャーはあとで遅ればせのだまし手で勝ちきることができた(第35章「読め!」を参照)。

(この章続く)

2012年04月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(186)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 好んでクイーンを危地に赴かせ勇敢さに見合った反撃に頼るのが近年のフィッシャーのトレードマークになってきた。前述と同じオリンピアードの予選では「無名」選手に対して彼自身そのような捌きの犠牲者となった。シチリア防御の通常の展開でエクアドルの主将は盤のど真ん中にクイーンを「展開した」。そんなことをしたらほとんどのマスターはクイーンが短命に終わるだろうと思う。

フィッシャー対ムニョス
ライプツィヒ、1960年
 16…Qe5

 ここでのフィッシャーの読みは明白な 17.Bf4 は 17…Qe6 18.Nd4 Nxe4! が起死回生のZZとなり、もっと巧妙な 17.f4 は 17…Qe6(17…Nxe4! 18.fxe5 Nxd2+ 19.Bxd2 Bxg4 さえある)18.f5 Qe5 19.Bf4 Qxc3! 20.bxc3 Nxe4 で黒の攻撃が危険になるというものだった。そこでポーンの競争が始まりやはり典型的なZZが重要な役割を果たした。

17.h4 Rfc8 18.Bf4 Qe6 19.h5 b5 20.hxg6 fxg6 21.Bh6 Bh8 22.e5 b4!

 お互いのナイトが中央の枡を争っているとき(典型的にはc3のナイトとf6のナイト)はこの種のしっぺ返しをいつも考慮に入れておかなければならない。eポーン布局では似たような状況がよく起こる。例えば白がビショップをc4に展開し e5 とポーンを突いて黒のf6のナイトを当たりにするときである。白は黒が …d5 と突き返す手を常に考えておかなければならない。いずれにしてもこの試合では黒は 22.e5 に直接応じる必要はなく先に敵キングに迫ることができた。

(この章続く)

2012年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(171)

「Chess Life」2012年2月号(4/8)

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2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 年長組の選手の一人は18歳以下オープンに出場したエリック・ローゼンだった。彼の開始順位は27位で、厳しい戦いと格上の相手が予想されたがそれに耐えた。エリックには国際マスター基準の獲得を祝福したい。9人の対戦相手のうち7人がレイティング上位者で、6-3の成績は立派の一言に尽きる。次の試合は彼の楽勝の一つである。

閉鎖型ルイロペス [C87]
FMエリック・ローゼン(FIDE2305、米国)
FMトムス・カンタンス(FIDE2338、ラトビア)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第5回戦、2011年11月22日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 d6 4.O-O a6 5.Ba4 Nf6 6.Re1

6…Be7

 シュタイニッツシステムでの黒の良い展開方法は 6…Bd7 7.c3 g6 8.d4 Bg7 である。黒は 6…b5 7.Bb3 Na5 で双ビショップを得ることもできたが、8.d4 Nxb3 9.axb3 で展開に後れをとる。

7.c3 O-O 8.h3 b5 9.Bc2 d5?!

 マーシャルギャンビットに似た奇異な手だが手損をしている。

10.d4!?

 10.exd5 Nxd5 11.Nxe5 Nxe5 12.Rxe5 c6 13.d4 の局面をマーシャルギャンビットの局面と比べるとこちらの方が白にとって良いと言わざるを得ない。

10…Nxe4 11.dxe5 f5

 11…Nc5!? は開放型ルイロペスの局面に移行することになる。

12.exf6e.p. Nxf6 13.Bg5 Bc5 14.Nbd2 Qd6 15.Nb3 Bb6 16.Nbd4 Nxd4 17.cxd4 Ne4 18.Bxe4 dxe4 19.Rxe4

19…Qg6?

 19…Bb7!? 20.Be7 Qd7 21.Bxf8 Bxe4 ならポーン損ながら黒にもまだ希望があった。

20.Qb3+ Kh8 21.Rae1 h6 22.Be7 Bf5 23.Ne5 黒投了

 黒クイーンの適当な逃げ場がない。

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(この号続く)

2012年04月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(185)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 心理的には優位はいつもこのような比較的単純な反撃を読んでいる選手の側にある。平均的な選手はクイーンを当たりにすると次のようなことを心の中で考える。「相手は何か他のことをする前にクイーンを動かさなければならない。そこでこちらは・・・。」表面的にはなんでもないような局面が、単純なZZが見落とされているとたちまちつぶれてしまうことがある。

マトフ対フィッシャー
ビンコブツィ、1968年
 15…Bxf6

16.Na4? Nc4!

 突然白の駒がどう指しても絶望的な「当たり」の状態になってしまう。(1)クイーンを取り合うと黒のナイトで白のルークが両当たりになる。(2)17.Bxc4 は 17…Qxc4 で白の両方のナイトとf1のルークが当たりになる。(3)白のクイーンが動くと 17…Qxd4 から駒交換が終わったとたん …b5 突きで白の2駒が両当たりになる。

(この章続く)

2012年04月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(184)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 次の局面でフィッシャーがポーンをくすねたのはもう少し巧妙だった。これは白クイーンに対する「しっぺ返し」により可能だった。

サボー対フィッシャー
ライプチヒ、1960年
 19…Qa5

20.Rc1? Qxa2 21.Rc2

 この手は先手をとって Ng3 から Nh5 でキング翼攻撃に向かうことを期待していた。しかしフィッシャーは次の手で黒クイーンを生かすか収局に入るかを迫った。

21…Re3!

(この章続く)

2012年04月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(22)

「Chess Life」2003年7月号(1/2)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

クイーン翼ギャンビット受諾

 今月はクイーン翼ギャンビット受諾を取り上げる。これは 1.d4 に対する非常に堅実な防御で、世界の一流選手の多くによって指されている。ちょっと名前を挙げただけでもビスワーナターン・アーナンド、ワシリー・イワンチュク、プレドラグ・ニコリッチ、ビクトル・コルチノイ、ジョエル・ローチェ、バレリー・サロフらがいる。ジョエル・ベンジャミン、ヤセル・セイラワンのような米国の一流グランドマスターたちの中にもこれを得意戦法の重要な一部としている者がいる。私も子どもの頃から指している(たいてい楽しい思い出になっている)。

 クイーン翼ギャンビットでは黒はちょうどキング翼ギャンビットのように2手目でギャンビットを受諾するか拒否するかを選択しなければならない。どちらにしても好みの問題である。受諾にも拒否にもそれぞれ支持派がいる。今月の題材はクイーン翼ギャンビット受諾の方で、1.d4 d5 2.c4 dxc4 から始まる。

 この布局では黒は2手目でポーンを得するが長く保持することはできない。それはほとんどの場合c4のポーンを守る良い方法がないからである。

黒の基本的な作戦は何か

 この布局では黒は早くも2手目で序盤の基調を決める。犠牲にされたポーンを受諾することにより黒がポーン得になるのは一時的でしかないのが普通である。白がc4のポーンを取り返す用意ができるときまでには、黒は …c7-c5 突きだけでなく …a7-a6 から …b7-b5 と突き中央で反撃する用意が整っていることが多い。

白の基本的な作戦は何か

 黒が犠牲のポーンを受諾することにより中原のe4の地点の支配を放棄するので、白は 3.e2-e4 突きですぐに中原を支配することにより攻勢に出ることを選択することができる。多くの他の戦法のように白の主要な戦闘地域は中央である。

それで評決はどうなっているか

 この布局の黒は堅実で、白が強引に攻め急ごうとすると黒に反撃の好機をもたらすことになる。どちらにとっても指せる布局である。黒としては常用戦法に加えるのに適した布局かもしれない。しかし効果をあげるためには詳細な研究が必要である。白は 2.Nf3 で c2-c4 突きを遅らせることによりこの戦法を避けただのdポーン布局を指すことができる。

 1.d4 d5 2.c4 dxc4 の始まりのあと白には主要な選択肢が三つある。それらはa)3.e3b)3.e4 そして c)3.Nf3 である。

 a)3.e3

 白はすぐにc4のポーンを当たりにした。黒はこのポーンを守る良い方法がない。3…b5 は 4.a4 で白がポーンを取り返す。例えば 4…a6 なら 5.axb5 でa6のポーンが釘付けになっているので黒は取り返せない。4…c6 でも駄目である。白は 5.axb5 cxb5? 6.Qf3! と応じることができa8のルークが守れない。4…bxa4 なら白は容易にc4とa4のポーンを取ることができ、黒のa列とc列の弱いポーンのために白の方が有利な陣形になる。

3…e5

 黒はもっと安全に 3…Nf6 のあと 4…e6 から 5…c5 と指すことができ、3.Nf3 の主手順に移行する。

4.Bxc4

 4.dxe5 Qxd1+ 5.Kxd1 Nc6 6.f4 Be6 は黒がうまくやっている。

4…exd4 5.exd4

 白には孤立dポーンがある。これは潜在的な弱点になり得る。しかし当分はこの先の中盤戦に向けて白が中原のd4とe5の地点をしっかり支配することになる。これは黒の反撃を制限するためには重要である。

5…Nf6

 5…Bb4+ 6.Nc3 Nf6 7.Nf3 O-O 8.O-O なら黒が 8…Bg4 と指すことができる。しかし1986年のマラニウク対ぺカレク戦のように 9.h3 Bh5 10.g4 Bg6 11.Ne5 Nfd7 12.f4 で事は簡単でない。9.h3 には 9…Bxf3 10.Qxf3 Nc6 と交換する方が良い。しかし 11.Be3 で白が少し優勢である。

6.Nc3

 6.Qb3 も面白い手で、黒に 6…Qe7+ 7.Ne2 Qb4+ 8.Nbc3 Qxb3 で収局に入らせる。この戦型では黒は展開で遅れたままだがポーンの形で優っている。

6…Be7 7.Nf3 O-O 8.h3

 これは …Bc8-g4 を防ぐ大切な手である。

8…Nbd7 9.O-O Nb6 10.Bb3 Nbd5 11.Re1 c6 12.Bg5 Be6 13.Ne5

 白陣は好形になっている。白の作戦は戦力得に向けた適切な戦術の機会を探しながら、中央でそしておそらくキング翼でも圧力を強めることである。黒は数多くの落とし穴にはまらないように細心の注意を払わなければならない。しかし黒がうまくやれば、そして局面を単純化して収局に持ち込むことができれば、白の孤立d4ポーンのせいで優勢は黒に転がり込む。

 b)3.e4

 これは「受諾」に対する最も直接的で野心的な手と考えられている。ここで黒には四つの選択肢がある。

 b1)3…e5

 定跡の最新の宣託によると4種類の手の中でこれが最善である。

4.Nf3 exd4

 まず 4…Bb4+ と指してから …e5xd4 と取ってもよい。

5.Bxc4

 d4のポーンを取るよりもこちらのポーンを取る方が良い。

5…Bb4+ 6.Nbd2 Nc6 7.O-O Nf6

 黒は 7…Qf6 8.e5 Qg6 でポーン得にしがみつくこともできた。しかし 9.a3 Be7 10.Re1 となって1988年のカルポフ対ティマン戦のように白にポーンの代償が十分にある。

8.e5 Nd5 9.Nb3 Nb6 10.Bb5 Qd5 11.Nfxd4 O-O

 いい勝負である(ポルティッシュ対ヒューブナー、ティルブルフ、1988年)。

 b2)3…c5

 これは私の「十八番(おはこ)の手」だった。楽しい思い出がたくさんある(3.Nf3 に対してもそうだったが1990年代に入ると相手はこの戦型の弱点を見つけ始めた)。

4.d5

 4.Nf3 は 4…Nf6 5.Nc3 cxd4 6.Qxd4 Qxd4 7.Nxd4 e5 8.Ndb5 Kd8! となったあと 9.Bxc4 a6 10.Na3 b5 でもマルコム・ペイン対スーザン・ポルガー戦(ニューヨーク、1986年)のように 9.Be3 Be6 10.Bxa7 Nbd7 11.Be3 Bb4 でも黒が指しやすい。

4…Nf6 5.Nc3 e6

 5…b5 はあまり指されないが面白い手である。

6.Bxc4 exd5 7.Nxd5 Nxd5 8.Bxd5 Be7

 ここで 9.Nf3(コルチノイが私に対して指した)でも 9.Ne2 でもd5のビショップが強力なので白が少し優勢である。

 b3)3…Nf6

 この手は白の次の手を誘っている。

4.e5

 この手はd5の地点を弱めd4のポーンを出遅れポーンにする。

4…Nd5 5.Bxc4 Nb6 6.Bb3

 6.Bd3 も面白い手である。

6…Nc6 7.Be3 Bf5 8.Nc3 e6 9.Nge2 Be7 10.a3 O-O 11.O-O

 初めは白の出遅れd4ポーンのせいで黒が優勢のように思える。しかし白は陣地が広く、そのためにカルポフが自分のいくつかの似たような局面で示したように少し優勢である。

 b4)3…Nc6

 これは最も人気のない手である。4.Nf3 Bg4 でd4のポーンにさらに圧力が加わるが 5.d5 Ne5 6.Bf4 Ng6 7.Bg3 e5 8.Bxc4 で白がポーンを取り返して少し優勢である。

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2012年04月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(183)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ルークはクイーンと組んでZZを行なうのに適している。チェスオリンピアードでフィッシャーはわずか1日おいただけでこの強力な捌きの犠牲者と受益者になった。自分のクイーンが当たりにされると選手はほとんど本能的にクイーンの逃げ場所を探すものである。しかし単純化の余裕があるときは、逆に相手のクイーンを当たりにすることにより逃げることに手をかけることなく自分のクイーンを助けることができる。次の局面でフィッシャーは劣勢なので当然ながら一か八かに賭けていた。そしてようやく攻撃らしい形になった。

グリゴリッチ対フィッシャー
ライプツィヒ、1960年
 31…Rg5

32.Re4!

 黒はクイーンが逃げると 33.Re8+ があるのでクイーンを交換しなければならない。試合はすぐに終わった。

(この章続く)

2012年04月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(182)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 第2回ピアティゴルスキー杯のフィッシャーとの第1戦目でスパスキーは同じ着想でフィッシャーのキング翼を粉砕することができた。

スパスキー対フィッシャー
サンタモニカ、1966年
 19…Qf7

20.d5! fxe4

 20…exd5 ならもちろん白はfポーンの方を取り筋が全部開通する。

21.dxe6!

 これが最初のZZである。こう取らないとdポーンが取られてしまう。

21…Qxe6 22.f5!

 ビショップが当たりになっている間に2番目の挿入手を見舞った。

22…Qf7

 黒は 22…gxf5 でg列を開けるわけにはいかない。23.Nxf5! と取られていて次に Qg3+ でクイーンを失うか詰まされるので白のビショップを取っている暇がない。白はビショップ対ナイトの収局をきれいに勝ちきった。

(この章続く)

2012年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

羽生二冠、チェスで引き分け

朝日新聞電子版2012年4月21日付け
羽生二冠、チェスで引き分け

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カテゴリ: 我楽多

フィッシャーのチェス(181)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ZZによる攻撃対象で(詰みの狙いまたはチェックに次いで)次にくる候補はクイーンである。次の局面でフィッシャーは凝り形から脱し、敵クイーンに対する当たりの挿入の狙いで自分の「不良」ビショップを交換することができた。

エバンズ対フィッシャー
ニューヨーク、1965-66年
 20.Qxc3

20…c5!

 この出遅れポーンは 21.Bxb7 cxd4 で自分自身を交換することができる。だから白は自分のキング翼のポーンの乱れを甘受しなければならない。

21.dxc5 Bxf3 22.gxf3

 これで黒はd5にナイトの絶好の拠点を得、白に「不良」ビショップを残させた。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(265)

「Chess」2012年1月号(4/7)

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第3回ロンドンチェスクラシック(続き)


アーナンド(右)対ナカムラ戦はおそらく大会随一の面白い試合だった

第4回戦
V.アーナンド – H.ナカムラ
王印防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.b4 Ne8 10.c5 f5 11.Nd2 Nf6 12.a4

12…g5

 この手は手損になるので 12…f4 か 12…Rf7 の方が普通である。

13.Nc4 h6

 前手が誤りである理由は黒がここで 13…h6 と指さなければならないからで、…h7-h5 と1手で突きたいところを2手かけて突くことになる。

14.f3 f4 15.Ba3 Ng6 16.b5

16…dxc5

 王印防御のここでの通常の手は連鎖ポーンの土台を守る 16…Ne8 であり、c5のポーンをとるのは大きな譲歩である。16…Ne8 のあと1963年のスミスロフ対チョクルテア戦では 17.a5 Rf7 18.b6 axb6 19.axb6 cxb6 20.Nxb6 Rb8 21.Nb5 から引き分けに終わった。

17.Bxc5 Rf7 18.a5 h5 19.b6

 白の作戦はクイーン翼の黒枡をすべて軟弱にしてそこを侵入の乗降口にすることである。

19…g4 20.Nb5 cxb6 21.axb6 g3

22.Kh1

 「これらの戦型はすべて非常に似かよっている。あいにくこちらが1手損で大きな違いになっている。」(ナカムラ)22.h3 でキング翼が安全になるように見えるが、実際は黒がビショップをh3で切って白の防御を崩すことになりがちである。

22…Bf8 23.d6

 これで白はc7とd5の二つの重要な地点を確保した。

23…a6 24.Nc7 Rb8 25.Na5 Kh8 26.Bc4 Rg7

 ここでチェスエンジンは白が +1.50 くらいで優勢だと言ってくるだろう。ということはアーナンドが勝勢なのか?これは正しくもあり正しくもない。サッカーの試合で一方のチームがハーフタイムで1-0または2-0とリードしているようなものである。しかしサッカーを見ている者なら誰でもそのような不利から逆転勝ちになることが多いことを知っているだろう。開放的で攻撃的な試合なら特にそうである。ここでもサッカーの試合のようだとだけ言っておこう。

27.Ne6

 コンピュータはa1のルークをa2からd2へ捌きたがる。たぶんその方が良かった。

27…Bxe6 28.Bxe6 gxh2 29.Nc4?

 アーナンドの着手が乱れ始めて、ナカムラにわずかな希望が出てきた。

29…Qe8!

30.Bd5

 30.Bh3? は 30…Qb5! でc列の浮いている2駒が当たりになるので良くない。しかしd5の地点では黒ポーンが …h4-h3 と進んでくるのをビショップがもう見張っていない。

30…h4 31.Rf2 h3

 黒のキング翼攻撃が機能し始めた。

32.gxh3 Rc8 33.Ra5 Nh4

 まだ大したことはないが局面は王印防御派の理想形になり始めている。黒はg列を完全に支配している。

34.Kxh2 Nd7

 これは奇妙なナイト引きで、ナカムラも状況の理解に苦労していることを示している。

35.Bb4 Rg3 36.Qf1 Qh5 37.Ra3

37…a5

 黒はすぐに突っかけていったが、巧妙な 37…Nxb6! もあった。38.Nxb6 なら 38…Rc1!! が派手なそらしの手筋で 39.Qxc1 Nxf3+ のあと2手で詰む。しかし白はb6のナイトを取る必要はなく戦いはまだまだ続く。

38.Be1 Rxc4 39.Bxc4 Bxd6

40.Rxa5?

 よくあるように制限時間前の最後の手が形勢の転換点になった。人間が絶対の最善手を見つけることが難しい局面で、コンピュータは 40.Rd3! Bc5 41.Be6! を示した。白の反撃は強力である。例えば 41…Bxf2 なら 42.Bxf2 で 42…Nxf3+? でも 43.Kh1! で黒の負けになる。

40…Bc5 41.Be2

 白は徹底抗戦の構えである。

41…Bxb6 42.Rb5 Bd4

 ここらあたりでカールセンは白の駄目そうな局面だと言っていた。

43.Bd1

 43.Rxb7 は 43…Nc5 44.Rb8+ Kh7 45.Kh1 となってここでコンピュータの 45…Nd3! が強烈である。46.Bxd3 なら 46…Bxf2 で黒駒がf3の地点に侵入する。

43…Bxf2 44.Bxf2 Nxf3+ 45.Bxf3 Qxf3 46.Rb1 Rg6 47.Rxb7 Nf6 48.Rb8+ Kh7 49.Rb7+ Kh6 0-1

 独りぼっちのルークが白の動かせる最後の駒だがほとんど何もできない。50.Rb6 なら 50…Nxe4 51.Rxg6+ Kxg6 52.Qg1+ Kh5 53.Bb6 Ng5 54.Qg2 e4 となって白の連結パスポーンで勝負がつく。解説者も観戦者も十分に堪能した熱戦だった。

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(この号続く)

2012年04月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(180)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ルークによるチェックの挿入手はナイトによるチェックよりもいくらか珍しい。そのためもっと意表を突くことになることがよくある。

フィッシャー対ナイドルフ
ライプツィヒ、1960年
 18…Bxc6

19.b4 Na4 20.Rd6!

 a4の黒ナイトは浮いている。20…Nxc3 には 21.Rxc6+ というZZが用意されている。これで白はルークの代わりに2駒を取ることができ、交換損ながら3ポーン得という駒割になる。

20…Kc7 21.Rxc6+ Kxc6 22.Nxa4

 しかしフィッシャーはこの難しい収局を勝ちきることができなかった。

(この章続く)

2012年04月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

JCAの間違い捜し(15)

 2012.03.25付けの「CHESS」通信1765ページ「第22回チェス誌上競技会(Ⅰ)」の第2問。「2.黒先黒勝ち(2手まで)」となっている。

 黒がビショップ損では「黒の即投了」が正解だろう。

 h5が黒ビショップの局面なら見たことがある。

 ついでながら【競技会参加のルール】のところに『第21回チェス誌上競技会は機関誌「チェス通信」に6回にわたって、全部で18題出題されます。』と書いてある。今回から「第22回」なのにまだ「第21回」を使っている。表紙やページ上方欄外ではアルファベットで「CHESS通信」と書いているのにここでは片仮名で「チェス通信」と書いている。大したことではないと考えているのだろうけれど、一流の組織ほどつまらないミスはしない。一流のチェス選手ほどつまらないミスはしないのと同じことである。

2012年04月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

フィッシャーのチェス(179)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 駒の配役はわずかに異なるがまったく同じ着想でフィッシャーは「兄弟分」のアーサー・ビズガイアーとの重大な最終局に勝つことができた。引き分けなら全米選手権戦で両者が優勝を分かち合うはずだった。フィッシャーはビズガイアーとの初対局で負けたがその後は1引き分けと13勝の成績だった。

フィッシャー対ビズガイアー
ニューヨーク、1962-63年
 23…Bd8

24.Nf5! Rxh1 25.Nd6+

 このZZチェックでナイトが要衝を占め収局で勝つのに十分な威力を発揮した。

(この章続く)

2012年04月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(170)

「Chess Life」2012年2月号(3/8)

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2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

 メダルを獲得したもう一人の年少選手はルイフェン・リーだった。私は後半戦で彼と彼の父親の布局の研究を助けた。彼の体系的な勉強方法と彼のやってきたチェスベースでの研究には感心させられた。布局の体系化と勉強の意欲は彼の上達に大いに役立つことだろう。

ルイロペス/チゴーリン防御 [C96]
ルイフェン・リー(FIDE1919、米国)
エルデムダライ・ヨンドンジャムツ(FIDE無し、モンゴル)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第1回戦、2011年11月18日

 ルイフェンはこの初戦に勝ってメダル争いのスタートを切った。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O b5 6.Bb3 Be7 7.Re1 O-O

8.h3

 このいわゆる「反マーシャル」システムは黒を通常のルイロペス戦法に向けさせる良い手段である。8.c3 d5 9.exd5 Nxd5 10.Nxe5 Nxe5 11.Rxe5 c6 12.d4 Bd6 13.Re1 Qh4 14.g3 Qh3 15.Be3 Bg4 16.Qd3 Rae8 がマーシャル攻撃の主流手順の一例である。1.e4 に対する堅実な防御を探すならこの戦法も考慮すべきである。

8…d6

 8…d5 9.exd5 Nxd5 10.Nxe5 Nxe5 11.Rxe5 Bb7 12.d3 は白のcポーンがc2にあって展開を妨げていないので白にとって改良形となる。

9.c3 Na5 10.Bc2 c5 11.d4 Nc6 12.d5 Nb8

13.Nbd2

 13.a4!? ならb5を標的にできる可能性があり黒の怪しい手順につけ込むことになる。13…Bb7(13…Bd7 なら 14.axb5 Bxb5 15.Na3 Bd7 16.Nxe5! dxe5 17.d6

)14.axb5 axb5 15.Rxa8 Bxa8 16.b4 c4

が私の最も好きなルイロペスの試合の一つである1974年ニースでのカルポフ対ウンツィカー戦で、白が大局観で何もさせずに勝った。

13…Nbd7 14.Nf1 Nb6 15,b3 h6 16.Ng3 Kh7?!

 これは感覚的に引っかかる手である。黒は Bc2 からわざわざ災難を求めている。

17.Be3

 ナイトを 17.Nh2!? と引き素早く f2-f4 と突いていくのも良い手である。

17…Re8 18.Qd2 Bf8 19.Nh2 g6 20.f4!

 原則として白は黒が …Ne5 と居座らせることができないときにこのポーンを突くのが良い。

20…exf4 21.Bxf4 Bg7

 21…Nfd7 は 22.Rf1 Qe7 23.Ng4 で白の圧力が強烈である。

22.Rad1 Ng8 23.Nf3

 この手は好機の e4-e5 突きを狙っている。

23…Bb7 24.h4!

 白は黒のキング翼をばらばらにするつもりである。

24…Nf6 25.h5 Bc8 26.hxg6+ fxg6 27.Bb1 Bg4 28.Qc2

 白は e5 突きのために力をためている。

28…Nh5 29.Nxh5 Bxh5 30.Rf1 Rf8 31.Be3

31…Bxf3?

 …Bh5 が黒陣の守りの要だった。

32.gxf3 Qh4 33.Rd2 Nd7 34.Rh2 Qg3+ 35.Rg2 Qh3 36.Rh2 Qg3+ 37.Qg2

37…Qe5?

 37…Qxg2+ 38.Rxg2 のあと白はg6の地点で黒陣をばらす可能性があるが、少なくとも黒はまだ戦える。

38.Qh3!

 この単純な二重攻撃で目的を達する。

38…Nf6 39.Bxh6 Nh5 40.f4 Qf6 41.e5 黒投了

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(この号続く)

2012年04月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(178)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 挿入チェックは戦力得するためまたは自分の位置を改善するためにナイトがよく用いる計略である。スパスキーがフィッシャーとの世界選手権戦第8局でこのごく普通の策略の一つにはまったときチェス界はあっけにとられた。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦、レイキャビク、1972年
 19.Rfd1

 白は直前の手で自分のクイーンにひもを付けることにより罠を仕掛けた。世界チャンピオンがまんまとはまったときのフィッシャーの驚きようが想像できる。

19…Nd7? 20.Nd5! Qxd2

 罠にはまらない通常の方法は …Qd8 と引いてe7のポーンを守る手である。しかし前のナイト引きでc4のビショップも当たりにさらしていた。

21.Nxe7+ Kf8 22.Rxd2 Kxe7 23.Rxc4

 そしてフィッシャーが楽勝した。

(この章続く)

2012年04月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(177)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ポーン1個を取るためだけであっても単なるチェックをさしはさむ可能性は詰みの狙いに次いで非常によくある。ポーンを損しないようにして一敗地にまみれた選手は数多い。

フィッシャー対デイ
スコピエ、1967年
 13…Qb4

14.fxe6 Bxe6

 黒はここでも次の手でもクイーン同士を交換することはできない。なぜならポーンによるチェックの挿入またはビショップによるチェックで前者の場合は2ポーン、後者の場合は1駒がそれぞれ失われるからである。

15.Bxe6 fxe6 16.Rxf8+!

 三つ目のZZで黒クイーンが当たりを止めさせられ、次の必殺のチェックが可能になった。

16…Qxf8 17.Qa4+ 黒投了

 17…b5 18.Qxe4+ のあとc6かe6の地点でのチェックで黒キングが中央に取り残される。

(この章続く)

2012年04月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(21)

「Chess Life」2003年6月号(2/2)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

フランス防御クラシカルシュタイニッツ(続き)

 B)7…Qb6

 黒はこの手でd4の地点に圧力をかけているだけでなく、b2のポーンを当たりにしている。欠点は白がすぐに攻撃を始めることができることである。

8.Na4

 ここで黒がポーン損を避ける手は一つしかない。

8…Qa5+ 9.c3

 白はチェックをさえぎりながらナイトも(クイーンで)守った。

9…cxd4

 9…c4 と突けばa4のナイトが遊び駒になるようなので黒が優勢になるように見える。しかし 10.b4 のあと白は好形になり黒はクイーン翼で反撃を行なうのが困難になる。

10.b4

 これが白の作戦の根幹である。10.Nxd4 では 10…Nxd4 11.Bxd4 b5 と応接されて黒の戦力得になる。

10…Nxb4

 この駒切りは何度も指されていて、長年の間多くの研究の主題となってきた。黒が穏やかに 10…Qc7 と引くと白は 11.Nxd4 Nxd4 12.Bxd4 で要所のd4の地点をしっかり支配したことにより優勢になる。

11.cxb4 Bxb4+ 12.Bd2 Bxd2+ 13.Nxd2

 最後の2手は必然である。ここで局面は少し決まりがついた。黒はナイトの代わりに3ポーンを得た。しかしそのうちの二つはd列で二重ポーンになっている。だからそれらは通常の価値はない。この時点で黒は攻勢的な 13…g5 と堅実な 13…b6 を選ぶことができる。

13…g5

 13…b6 なら 14.Bd3 Ba6 15.Nb2(この手は非常に大切で、15.Bxa6 だと 15…Qxa6 で白はキャッスリングが困難になる)15…Nc5 16.Bxa6 Qxa6 となる。数多くの試合で 17.Qe2 により白が優勢になっている。しかしGMギンダの推奨する 17.a4 の方がずっと良いかもしれない。

14.Rb1!

 14.fxg5 は 14…Nxe5 で中原の黒ポーンが威容を誇る。

14…gxf4

 黒はいくつかの試合で 14…a6 も試したが次のようにうまくいかなかった。15.Bd3 gxf4 16.O-O b5 17.Nb2 Nxe5 18.Rxf4 黒キングに安全な避難場所がないので白の攻撃が強力である。

15.Bb5

 白はこの釘付けでe5のポーンを守り、強力な主導権を握っている。ここで 15…Rb8 なら 16.Nc5 でショート対ティマン戦(1994年)になり、15…a6 なら 16.Bxd7+ Bxd7 17.Nb6 となる。最善は 15…Kf8 だろうが 16.Qe2 のあと私なら白の方を持つ。

 C)7…cxd4 8.Nxd4

8…Bc5

 8…Qb6 は 9.Qd2 Qxb2 10.Rb1 Qa3 11.Bb5!(11.Ncb5 は 11…Qxa2 12.Rb3 Rb8 であまりはっきりしない)で 11…Ndb8 がほぼ絶対で、12.O-O のあと f4-f5 突きで白にポーンの代償が十分にあり攻撃も有望である。

9.Qd2

 この手はクイーン翼キャッスリングの用意である。ここで黒には主要な手が二つある。

9…O-O

 9…Nxd4 なら 10.Bxd4 Bxd4 11.Qxd4 Qb6 となる。過去20年でこの戦型は一流選手の対局で盛んに指された。黒番で引き分ければ小さな成功とみなされることがよくある。もちろんビショップの差で白が少し優勢である。

10.O-O-O

 両者が逆翼にキャッスリングするときは乱戦になることが多い。どちらの攻撃が先に成功するかを見る競争になる。

10…a6 11.Kb1

 すぐに 11.h4 と突いても 11…Nxd4 12.Bxd4 b5 13.Rh3 b4 14.Na4 Bxd4 15.Qxd4 a5 で黒はあまり痛痒を感じない。

11…Nxd4 12.Bxd4 b5 13.Qe3 Qc7 14.Bd3 b4

 ルターが2001年にオフリドでのヨーロッパ選手権戦で妹のユディット相手に指したように 14…Bxd4 15.Qxd4 Bb7 16.Rhe1 Nc5 が黒の改良手となるかもしれない。

15.Qh3

 白はこの手で黒キングの上部の弱体化を促している。

15…g6 16.Ne2 a5 17.Qe3 Ba6 18.h4 Rfc8 19.h5

 白はこのあとh列を素通しにし Qe3-h3 が良い手になってくる。もちろん上記の手順はすべて必然というわけではない。黒は14手目を改良することができ、たぶん他の手もそうである。

結論

 フランス防御クラシカルシュタイニッツは活気に満ちた非常に面白い布局定跡である。どの戦型を選ぶかにより逆翼キャッスリングの攻め合いになることもあれば、白がわずかに有利な長く複雑な収局になることもある。戦型Bで見たように異例の乱戦になることさえある。しかし両者とも非常に繊細な指し方が必要である。

 フランス防御のこの戦法は人気のある布局の一つとして考えるべきである。フランス防御を指すことにするなら時間を注いでもっと深く研究すべきである。そうすれば報われる。

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2012年04月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(176)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 時にはZZでの狙いが「串刺し」の可能性から駒をよけておくための手を稼ぐ手段にすぎないことがある。例えば次の局面である。

フィッシャー対ラルセン
番勝負、デンバー、1971年
 18…d5

19.Rg3!

 この手には Rxg7+ から Rxf7+(開きチェック)の狙いで黒の2個のビショップを取る狙いがあるので、白はルークの一方を白枡から外しポーンを取り返すことができる。

19…g6 20.Bxd5 Bd6?

 この10番勝負で4-0と一方的に追い込まれていたラルセンは異色ビショップに満足できず破れかぶれの勝負に出た。

21.Rxe6 Bxg3 22.Re7 Bd6 23.Rxb7

 そして白は優勢から勝ちきった。

(この章続く)

2012年04月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(175)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 次は本質的に同じ主題だがフィッシャーは「2手詰み」の狙いで目の覚めるような勝ちを得た。

フィッシャー対ベンコー
ブレッド、1959年
 17.Qh5

17…Nxb3? 18.Qh6!

 次に 19.Nh5 とされると黒は Nf6+ は許せないのでクイーンでしかg7の地点での詰みの狙いを防げない。

18…exf4 19.Nh5 f5 20.Rad1!

 これもちょっとしたZZである。フィッシャーはf6の地点での大金の小切手を現金に替える前にルークを安全な地点に持ってきた。

20…Qe5 21.Nef6+ Bxf6 22.Nxf6+ Qxf6 23.Qxf6

 あとは白が順当に勝った。

(この章続く)

2012年04月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(174)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 ZZの特徴の本質は自分の狙われているどんなものよりも相手のもっと重要なものを狙うことにある(「同等」の価値にすぎないものを狙うZZは見つけるのがもっと難しい。この点については後出)。即詰みの狙いはもちろん究極の狙いで、ZZのためには格好の好機となる。次の局面でフィッシャーはこの二重のZZに自らはまった。

フィッシャー対R.バーン
ニューヨーク、1965-66年
 11…Bg4

12.Nxc6?

 Nxe7+ は許せないので「反射的な」応手が必要な手に思える。しかし・・・

12…Bd6! 13.h3 Bxe2!

 これが2番目のZZである。白のナイトは逃げることができるが黒は交換得することができる。

(この章続く)

2012年04月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(264)

「Chess」2012年1月号(3/7)

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第3回ロンドンチェスクラシック

クラムニクが優勝、ナカムラとマクシェーンが活躍


大会前の記者会見で勢ぞろいした出場者。左から右へデイビド・ハウエル、ルーク・マクシェーン、ミッキー・アダムズ、レボン・アロニアン、ビシー・アーナンド、マルコム・ペイン(大会委員長)、マグヌス・カールセン、ウラジーミル・クラムニク、ヒカル・ナカムラ、ナイジェル・ショート

剣によって生きる

ヒカル・ナカムラ
成績 2位
国 米国
年齢 24歳
レイティング 2758
開始順位 5位


ナカムラの「剣によって生き剣によって死ぬ」戦略は功を奏した

 ヒカル・ナカムラはコーチのガリー・カスパロフと決別したようだといううわさが飛び交う中、大会にやって来た。この師弟関係は前回のこの大会での出会いの結果出来上がった。もっともタタ製鉄ベイクアーンゼー大会での初優勝のあと数ヶ月たつまで公表されなかった。

 性格および/または研究手法の不一致を疑うべきだろう。カスパロフは自分を政治的には反体制派、チェス界では反逆児とみなしているかもしれない。しかし自分のチェスの教育に関しては彼は本流たるソ連のチェス体制の申し子であり、厳格な監督に違いない。

 カスパロフの最も傑出した才能の一つは猛烈な研究をやってのける能力である。それ自体感受性の強い年齢のときにソ連チェスの創始者のミハイル・ボトビニクの薫陶を受けた結果である。彼が1年ほどマグヌス・カールセンのコーチを務めたがやはり解消になったのも何かを示唆しているのかもしれない。正確な理由は分からないし友好的な解消だったようだが、カスパロフの推奨する研究体制がカールセンには厳格すぎたのかもしれない。カールセンは研究を自室よりも実戦で行なう方が好きである。

 似たようなことがカスパロフとナカムラの師弟関係にも起こったようで、青年のナカムラはロンドン大会の解説室で内情をかなり漏らした。ダニエル・キングとの話でナカムラはカスパロフとの研究は布局の準備では有益だったが他の面ではそうでもなかったと語った。中盤と収局についてはナカムラは「彼よりもうまい選手が他にいることは確実だが、彼は布局から優勢を得ることができてそれが彼の主たる強みになっていた」と言った。

 しかしこれらの盤外の問題はいずれもナカムラの試合に影響しなかったようである。それどころか今大会でこれまでよりも良い成績をあげた。4勝のうち2勝は2800台の首で、そのうちの一つは世界チャンピオンのビシー・アーナンドだった。彼は何十年ぶりかで現世界チャンピオンを破った米国選手になった。唯一の玉にきずは今や常習化したマグヌス・カールセン戦の負けだった。しかしこの傾向もフィッシャーがついにはスパスキーとの相性の悪さを解決したようにいつか変わるかもしれない。米国は彼のことを誇りにしてよいし、大西洋の向こうの有力者たちは彼の世界選手権への道を容易にする方法について真剣に考え始めなければならない。一つの方法としては、挑戦者決定競技会の主催国は出場者を一人選ぶ権利があるので次のその大会を招致することである。

 ナカムラはレボン・アロニアンとの第2回戦で初勝利をあげた。試合は布局から難解な戦いになった。アロニアンは交換損をして2ポーンを得た。見方によっては優勢だが磐石とはほど遠かった。そしてまもなくアルメニアのGMは優勢を確実なものにしようとして時間をほとんど使い切り、それの方が重要な要因になった。

 ナカムラはまず余分のポーンをせき止めついにはポーン損を1個に減らした。そして制限時間になるまでのどたばたでアロニアンの残りのパスポーンも包囲した。

 ヒカルは第3回戦でカールセンに負けたあとは非常に落ち込んでいた。しかし巻き返しの第一弾は解説室に顔を出すことだった。それはスポーツマンらしい行為で観戦者に高く評価された。翌日黒番でビシー・アーナンドを破ったあとほのめかしたようにこの時点で試合の作戦を変えたことがうかがえる。状況を考えればこれは快挙と呼べるものである。対戦相手は4戦連続となる2800超だった(大会でこうなったのは二人目にすぎない。モスクワの大会でのイワンチュクが最初である)。そして今回の相手は世界チャンピオンだった。

 ヒカルの最初の勇気の見せ所は王印防御を持ち出すことだった。試合は主流手順のクラシカルの戦型になった。これはお互い反対翼で攻撃することになる。黒の観点からは問題は白がしばしば中央も支配することで、ここでもそうなった。黒はキング翼でポーンが強圧的になったにもかかわらず、白駒が空所を占拠するので黒駒は自陣の1、2段目にへばりつくことが多かった。ヒカルの対局後のツイートは巧みに要約していた。「剣によって生きる者は剣によって死ぬ。心臓麻痺で死ぬ前に王印防御のこのような試合を何局指せるのだろうか」王印防御を指す選手みんなにかかわることだ。

 ビシー・アーナンドはすぐに大優勢になった。しかし王印防御のこの戦型の局面は制御が難しいことで定評がある。白が指し手を1手誤ると黒を監獄から出してしまう。それだけでなくその結果の局面の要素には黒の有利となるものが多い。これはギャンブラーの布局だが実戦では勝ち目は悪くない。黒の観点から見てナカムラは次のように総括した。「攻撃してうまくいくものならばうまくいくし、うまくいかないものならばひどい負け方をして愚か者のように見える。正着を見つける負担はすべてビシーの方にある。」

 とうとうビシーは間違えて形勢は逆転した。黒が勝つのはまだ非常に困難だったがヒカルはやるべきことに専念し得点をもぎ取った。4人の2800超との4日間の頂上対戦はようやく終わり1点勝ち越した。彼は見るからに高揚していて、前日に逆境時の彼の勇気と誠実さにひかれた解説室の観戦者たちは彼を大歓迎した。「昨日マグヌスに負けたあとこんな気分になっていた。何かわくわくするようなのを指してみたい気がして、勝とうが負けようが全然気にしなかった。だから運にまかせてやってみた。」この感情の決断を打ち明けるヒカルはとても好感が持てた。彼は選手の中の選手だ。

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(この号続く)

フィッシャーのチェス(173)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手(続き)

 次の局面は明快でささやかな例である。

フィッシャー対ファインゴールド
西部オープン、1963年
 47.Be8

 白の優位はキングの位置、広さ、そしてeポーンという具体的な攻撃目標があることによる。実際黒は手に詰まっていて、家を明け渡さない手を見つけるために白ビショップを脅かさなければならない。

47…Ke7 48.Ke5!

 しかし白キングはそれでも進入する。この手に内在する二重の狙いは(1)黒ビショップへの当たりと(2)進行が普通の手順に戻ればキングが侵入することである。

48…Bg4 49.Bg6!

 この手は見つけることは難しくないがやはりZZをよく象徴している。白ビショップがどこか安全な地点に動いて黒に …Bf3 でeポーンを守らせる「予期された」手の代わりに、白ビショップも当たりをかけた。hポーンとeポーンに対する二重の狙いで白が楽に勝つ。

(この章続く)

2012年04月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(172)

第4部 手筋(続き)

第18章 挿入手

 つづりも発音も変わっている(英語だけを話す人たちにとって)この用語は誤解されてもいる。平均的な選手は「挿入手」という意味であることを知っているが、それでも手筋の急所で起こるまれな策略として、または普通の手順中のひねりを効かせた変わった手として考えているようでもある。本当のところは略してZZと書くことにする「Zwischenzug」はチェスのまさに核心に位置している。そしてフィッシャーがそれを用いた数多くの試合はその重要性を十分に証明している。

 フィッシャーの意表を突いた手は一か八かの捨て駒、ナイトの長たらしい再配置、それに奇妙で神秘的なルークの動きのいずれであることもめったにない。彼は他の誰もが相手の狙いしか見ないときにその狙いを無視することに対して、あるいはマスターが取り返ししか念頭にないときにその取り返しを遅らせることに対して好手記号を与えられることがよくある。当たり前の「反射的な」応手を排斥することこそがZZの本質である。

 「反射的な」チェスでは相手がこちらのポーンを取れば取り返せるかをまず考える。クイーンが当たりにされればどこに逃げられるかをまず考える。3手だろうと4手だろうと詰まされそうになればその応手を考える。フィッシャーはこのたった一つの点において並の選手の何光年も先を行っている。彼の性向は刺激と反応の仕組みを自動的に問題視するようである。

 これを説明する一つの方法は、最良の防御はしばしば反撃であるということである。しかし「反撃」は通常は長期の作戦行動を意味する。ここでは突きとかわしについて語ることにする。ZZは一手だけで目的を果たす。学習者はみんな空間と力と動きについての、そして空間の優位を戦力の優位に転換することについての理論家の叱責をよく知っている。これはすべて道理にかなっている。しかしもっと基本的なのは二重狙いの着想である。ZZはそういうものである。なぜなら本質的に二重狙いを伴うからである。

(この章続く)

2012年04月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(169)

「Chess Life」2012年2月号(2/8)

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2011年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

コーレシステム [D05]
エイワンダー・リャン(FIDE1872、米国)
チェンケル・エレン・タン(FIDE無し、トルコ)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第7回戦、2011年11月24日

 この試合はエイワンダーの7連勝目で、ほぼ優勝が確定した。

1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.e3

 この局面では e2-e3 と突く前に 3.Bg5 または 3.Bf4 でビショップを出す方が良い。

3…d5 4.Bd3 c5 5.c3

 コーレシステムは人気があるが守勢の布局である。

5…Nc6 6.O-O Bd6 7.Nbd2 O-O 8.a3 b6

 黒は 8…e5!? で局面を開放するほうが少し有利である。

9.b3 Qc7 10.e4 cxd4 11.cxd4 dxe4 12.Nxe4 Nxe4 13.Bxe4 Bb7 14.Bb2 Ne7!

 ここまで黒は局面の要求する手を指している。d5の地点は素晴しい拠点になる。

15.Rc1 Qd7 16.Bb1!

 白がこの大切な攻撃用の駒を保存したのは正しかった。

16…Bd5 17.Qd3 f5 18.Rce1

18…Nc6

 18…Be4!? と指すと白にルークを切るかどうかという大きな決断を迫ることになる。しかし 19.Rxe4 fxe4 20.Qxe4 g6 21.Ng5 となればe6の地点が崩壊して白が大変良さそうである。

19.b4 a6 20.Bc2 Bxf3??

 これは「チェスの無知」による手筋の始まりで、駒を失い試合も失う。

21.Qxf3 Nxd4 22.Bxd4 Bxh2+ 23.Kxh2 Qxd4

 黒は「何でこうなったんだろう」と不思議に思っていたに違いない。

24.Rxe6 Rad8 25.Kg1 Rc8 26.Bb3 Kh8 27.Rfe1 h6 28.Qe3 Qb2 29.Rxh6+ gxh6 30.Qxh6#

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(この号続く)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(171)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 防御の破壊が手筋の終点のときそれはグランドマスターにとってさえも非常に意外性のあるものになる。次の局面での出撃はコンピュータプログラムのノースウェスタン3.5によって「見られて」いた(第35章「計算」を参照)。しかしラルセンは軽視していた。

ラルセン対フィッシャー
番勝負、デンバー、1971年
 35.g4

35…Ra8

 この手の強さは一目瞭然のaポーン当たりによって隠されている。実際にはg5のルークを攻撃している!

36.gxf5 exf5 37.Bc4

 f7の黒ルークは動きに困っているわけではない。しかしフィッシャーには彼特有の鋭い着想があった。

37…Ra4! 38.Rc1?

 コンピュータでさえこの手が無駄手だと分かっていた。白のビショップはf7の黒ルークを取らされる。

38…Bxb5! 39.Bxf7 Rxh4+

 ついにg5のルークの土台が崩された。

40.Kg2 Kxg5

 そして黒の勝ちに終わった。

(この章終わり)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(170)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 防御の破壊と密接に関連した着眼点は「過負荷の駒」である。二つの役目を担わなければならない駒は、一つ目の役目を果たさなければならないときは二つ目の役目を放棄することになる。過剰に守られているように見える局面は結局のところすべてを守るにはちょうど1手足りないことがよくある。

アセベド対フィッシャー
ジーゲン、1970年
 47.Rb2

48…Nxc3! 49.Kxc3

 白のナイトはルークも守らなければならないのでナイトでは取り返せない。

50…Ra1!

 白キングはナイトを 51.Kc2 で守ろうとすると過負荷になる(51…Rxd1)。…Bxb4+ があるのでルークでナイトを守ることもできない。だから白は投了した。上図の局面でb2、b4およびc3の地点はいずれも二重に守られているが一つずつ崩壊した。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(20)

「Chess Life」2003年6月号(1/2)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

フランス防御クラシカルシュタイニッツ

 今月はフランス防御のクラシカルシュタイニッツ戦法を取り上げる。これは次の手順で始まる。

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.e5 Nfd7 5.f4

 白のもっと堅実な選択肢は主流手順の 4.Bg5 である。しかし本稿ではもっと積極的な 4.e5 だけを取り上げる。これはシュタイニッツの昔の得意戦法で、最近の試合のカスパロフ対ラジャーボフ戦でも指された(この試合はカスパロフの故郷と同じバクー出身の15歳のGMが憧れのチャンピオンを破ったのであちこちで大見出しになった)。

 世界の最も有名な選手たち、例えばアレクセイ・シロフ、ビクトル・コルチノイ、アレックス・モロゼビッチ、エブゲニー・バレエフ、ラファエル・バガニアン、ミハイル・グレビッチ、ボリス・グリコ、そして年少のテイムール・ラジャーボフらのGMが重要な常用定跡としてフランス防御を指している。

白の基本的な作戦は何か

 白は陣地の広さで優位に立ち、正しい手順を踏めば要所のd4の地点を支配することになる。白は黒の応手によってはクイーン翼にキャッスリングしてキング翼で攻撃を開始するかもしれないし、黒の白枡ビショップがポーンの壁(d5、e6)に埋もれているので収局でじわじわと締めつけるかもしれない。

黒の基本的な作戦は何か

 黒は通常はd4の地点を攻撃することにより白の中原を切り崩そうとする。それにはaポーンとbポーンを突きさらにc列に圧力をかけることによりクイーン翼での反撃策を探すべきである。この典型的な「フランスポーン構造」によくあるように、…f7-f6 と突き、時には …g7-g5 とさえ突いて白の中原支配を弱める機会を常に探すべきである。

それで評決はどうなっているか

 フランス防御は 1.e4 に対する黒の人気の高い防御法である。黒には優れた反撃力がある。しかしc8の使いにくいビショップのように欠点もいくつかある。一つ心しておくべきことは、中盤で大乱戦になることがあること、あるいは非常に退屈な収局の戦いになることがあることである。だからどちらの事態も覚悟しておく必要がある。

 クラシカルシュタイニッツはフランス防御への対処でより積極的な手段の一つとみなされている。白は黒の反撃の可能性について注意していなければならない。特にd4とe5のポーン、それにクイーン翼ではc列に注意がいる。もし白がやりすぎて攻撃が成功しないと、多くのポーンを突いてしまっているので容易に裏目に出ることになる。

フランス防御 [C11]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMテイムール・ラジャーボフ
リナレス、2003年

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.e5 Nfd7 5.f4

 ここが今回の出発点である。5.f4 の代わりに白は 5.Nce2 と指して 5…c5 に 6.c3 を意図することもできる。

5…c5 6.Nf3 Nc6 7.Be3

 ここで黒には主要な手が三つある。A)7…a6 これは本局である。B)7…Qb6 または C)7…cxd4

 A)7…a6

 この手は 7…Qb6 や 7…cxd4 と比べると少し直接性に欠ける。黒は …b7-b5 をもくろんでいる。

8.Qd2

 この自然そうな手の目的はd1の地点をルークのために時にはナイトのために空け、クイーン翼キャッスリングを可能にし、将来 Qd2-f2 と指すことである。

8…b5 9.a3

 これは珍しい手である。カスパロフの布局研究は有名なので「研究済み」の手に間違いない。これからこの手がたくさん見られると思う。この手の意味はたぶんc5でポーン交換をしてから b2-b4 と突いてクイーン翼の黒枡をしっかり支配することである。この試合以前は最もよく指される手は 9.dxc5 Bxc5 10.Bxc5 Nxc5 11.Qf2 Qb6 だった。そのあと白の普通の手順は 12.Bd3(面白い 12.b4 も以前に指されている)12…b4 13.Ne2 a5 14.O-O Ba6

で、どちらにとっても面白い試合になる。

9…Qb6

 これはこの戦法によく出てくる手で、d4ポーンにさらに圧力をかけている。

10.Ne2

 白はd4の地点での交換を誘っていて、10…cxd4 11.Nexd4 Nxd4 12.Nxd4 となればせき止めに最良の駒でそこを占拠することになる。

10…c4

 黒は作戦を変更し中央を閉鎖した。これで白はキング翼で黒はクイーン翼で好き勝手ができる。しかし中央では白が陣地の広さで優位に立っている。

11.g4 h5

 黒は白のポーン雪崩を妨害しようとしている。しかしこれから出てくるようにあまり助けになっていない。前進を遅らせるだけである。

12.gxh5 Rxh5 13.Ng3 Rh8 14.f5

 カスパロフは仕掛けに成功し、自陣の広いキング翼を開放状態にした。主導権は白にある。

14…exf5 15.Nxf5

 ここでは黒に主要な問題が二つある。a)キングが安全な状態からほど遠いこととb)d5のポーンが弱いことである。ということは白は布局の戦いに勝利したということである。試合は黒が勝ったけれどもそれは白がこのあと悪手を出したからである。黒は改良手を探すことが絶対必要である。

15…Nf6 16.Ng3 Ng4 17.Bf4 Be6 18.c3 Be7 19.Ng5 O-O-O 20.Nxe6 fxe6 21.Be2 Ngxe5 22.Qe3

 白はこの手で安全に優勢を維持した。しかし白が 22.Bxe5 Nxe5 23.dxe5 Bc5 で捨て駒を受け入れたら黒は十分な代償があるのか疑問に思う。

22…Nd7 23.Qxe6 Bh4 24.Qg4?

 カスパロフは若い相手を「苦境から」助け出した。代わりに 24.Qxd5 なら白が明らかに優勢のままだった。

24…g5 25.Bd2 Rde8 26.O-O-O Na5

27.Rdf1?

 このポカで黒の勝勢になった。27.Kb1 ならまだ白が良かった。

27…Nb3+ 28.Kd1 Bxg3

 黒は思いがけず …Qb6-g6-b1# の狙いができたおかげで勝勢になった。

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2012年04月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(169)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 同じ大会でフィッシャーは防御を破壊する1手が見えなかったためにポーン得する機会を逃した。

フィッシャー対フィリップ
キュラソー、1962年
 27…Kf8

 フィッシャーはここで 28.Qa1 でクイーン翼に侵入しようとした。しかしちょうど反対方向に行けばすぐに勝てたかもしれなかった。

28.Qh5! Kg8

 他の手ではキング翼を食い破られる。

29.Qxg6!

 e7の守り駒が除去されて、29…hxg6 30.Ne7+ により白がクイーンを取り返して駒得になる。

(この章続く)

2012年04月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(168)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 防御を破壊する駒が当たりにならずにもっと他のことも狙っているときは、次の局面のように三重の狙いが生じる。

フィッシャー対コルチノイ
キュラソー、1962年
 13.g4

13…Bxg4!

 これはフィッシャーにはまったく思いもよらぬ手だった。彼はこれ以外のどんな防御に対しても f5 か g5 と突くつもりだった。

14.Bxg4 Nxg4 15.Qxg4 Nxc2!

 ナイトとルークの両当たりになっている。好手記号は 16.Qd1 Qxb3 17.Ra3 なら 17…Qc4! でf1のルークが当たりになっていることを見越していることによる。黒の楽勝に終わった。

(この章続く)

2012年04月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(167)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 全米選手権戦からの次の局面には雑多な手筋の主題が現れる。それはすべて連鎖ポーンの土台への攻撃によって始まった。(チェスの教科書では連鎖ポーンはその土台を攻撃すべき-防御の破壊の一手段-だと必ず教える。)

クレイマー対フィッシャー
ニューヨーク、1957-58年
 19.Qb2

19…Nxc3! 20.Qxc3 Nxd4! 21.Qb4 Ne2+ 22.Kh1 Rxc5 23.Qxc5 Bxa1

 そして黒が勝った。

 この手際のよい手順には釘付け、挿入手が登場し、最後には串刺しの狙いで 22.Kf2(22…Rxc5! 23.Qxc5 Bd4+)を防いだ。

(この章続く)

2012年04月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(263)

「Chess」2012年1月号(2/7)

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ミハイル・タリ記念大会(続き)

 ナカムラの最下位は彼の大望にとって大きな打撃だった。際立っていたのは3敗のどれも白番だったことだ。一流選手には予想できないことで、特にカスパロフと研究しているからにはなおさらだった。そもそも彼の布局の指し方は時に奇異に見えることがあった。

第7回戦
H.ナカムラ – V.イワンチュク
グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Bf4 Bg7 5.e3 O-O 6.Rc1 dxc4 7.Bxc4 Nbd7

8.Nb5

 ナカムラのこの着想は非常に異様である。イワンチュクの記憶によると2002年快速でのカルポフ対カスパロフ戦では 8.Nf3 が指されている。

8…c6 9.Bc7

 9.Nc7 は 9…Rb8 10.Bxf7+ Rxf7 11.Ne6 Qa5+ で黒の勝ちになる。

9…Qe8 10.Nc3 e5

11.dxe5

 白はおそらく 11.Bd6 と指すべきだった。それがビショップのc7出撃の顔を立てる唯一の手のようである。11…exd4 12.Bxf8 のあと 12…Kxf8 13.Qxd4 Ne4 14.Qd1 が対局後イワンチュクの示した手だった。11.Nf3 は 11…exd4 12.Nxd4 Ne5 13.Bb3 Qe7 で黒が非常に指しやすい。イワンチュクの 12…Kxf8 の代わりに 12…dxc3 と指すこともでき 13.Bxg7 cxb2 14.Rb1 Kxg7 15.Rxb2 となればほぼ互角である。また 12…Qxf8 なら 13.Qxd4 Nc5 14.Qh4 b5 15.Be2 b4 16.Nd1 Nce4(マルコム・ペイン説)で黒が有望そうに見える。

11…Nxe5 12.Be2 Bf5 13.Nf3 Nxf3+

 13…Ne4 と指すこともできる。

14.Bxf3 Rc8 15.Bg3 Ne4

16.Bxe4

 16.Nxe4 と取るのは 16…Bxe4 17.Bxe4 Qxe4 18.O-O Rfd8 となって黒のビショップの方が白のビショップより断然優っている。

16…Bxe4 17.O-O Rd8

 双ビショップとクイーン翼の多数派ポーンにより黒がはっきり優勢である。

18.Qa4 Bd3 19.Rfd1 b5!?

 この手は白を大きく圧迫することになり面白い。

20.Qa5

 黒の読み筋は 20.Qxa7 b4 21.Na4 Bc2 22.Rxd8 Qxd8 23.b3 Qd2 24.Rf1 Bd3 25.Qd7 Bc3

という変化にあり、黒の勝勢になる。

20…Rd7 21.Rd2 Qe7

 21…Qd8 でも 22.Qxd8 Rfxd8 23.Rcd1 Bf5 24.Rxd7 Rxd7 25.Rxd7 Bxd7 26.Bd6 a5

でやはり黒が明らかに優勢である。

22.Rcd1 Rfd8 23.a3 h5 24.h3 h4

25.Bh2

 25.Bc7 なら 25…Rxc7 26.Rxd3 Rxd3 27.Rxd3 Rd7 28.Rxd7 Qxd7 で実戦と似た局面になる。

25…Kh7

 このあたりではどちらも残り時間が数分程度になっていた。

26.Bc7

 26.e4 なら 26…Bh6 27.f4 g5 が面白い手で黒が優勢である。

26…Rxc7 27.Rxd3 Rxd3 28.Rxd3

28…Bf6

 イワンチュクは 28…Rd7 29.Rxd7 Qxd7 30.Qb4 が気に入らなかったが、30…Qd2 31.Qxh4+ Kg8 32.Ne4 Qd1+ 33.Kh2 Be5+ 34.g3 Bxb2 35.Qe7 Qd5

となれば黒がやはり優勢である。

29.Rd2?!

 ここは 29.Qb4 Qxb4 30.axb4 に賭けてみるしかなかったが時間切迫時には手を決めすぎるということもある(ハンガリーのGMの故ギデオン・バルツァは時間が少ないときには絶対駒を交換するなとつねづね言っていた)。29.Nd1 Rd7 30.Qd2 はここでの受け方を示唆したヤッサー・セイラワンの手だが、30…Rxd3 31.Qxd3 Kg7 で黒が優勢を保持する。

29…Rd7 30.Rc2

 この手は完全に悪手のように見えるが、ここではもう白陣はどうしようもなくなっていて、他の手も大同小異のようである。

30…Qe6 31.Qb4 a5!

32.Qf4

 32.Qxa5 なら 32…Qb3 33.Re2 Rd3 34.Ne4 Be5! で黒が勝つ。また 32.Qg4 なら 32…Qxg4 33.hxg4 でよい。

32…Kg7 33.Rc1 a4

 もう明らかに勝勢なのでイワンチュクは残りについては何も語らなかった。黒の自家薬篭中の物になっている。

34.Qb4 Rd3 35.Rc2 Qb3

 黒はもう終わりまで読みきっている。

36.Qxb3 axb3 37.Rc1 Bxc3 38.bxc3 c5

 黒は華麗な方の終局を目指した。38…b2 39.Rb1 Rd2 でも黒の勝ちである。

39.Kf1 c4 40.Ke2 Rxc3 0-1

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(166)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 次の局面ではb5のビショップに護衛が二つついている。取りが8回続いたあと黒がポーン得になる。

イェペス対フィッシャー
ハバナ、1966年
 21.Rxe1

21…Bxg4!

 この準備は以下の駒の取り合いの最中に白からe8で必殺のチェックをかけられないようにするために必要である。

22.fxg4 Bxd4 23.gxh5 Bxc3 24.Qxc3 Qxb5

(この章続く)

2012年04月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(165)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊(続き)

 今度はちょっとひねった手である。白は釘付けで戦力得することができる。それはまたたった1ポーンだがそれでも手筋である。

フィッシャー対メキング
パルマ、1970年
 18…Rxf6

19.Qxg7+! Qxg7 20.Rxf6

 これで白の勝勢である。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(168)

「Chess Life」2012年2月号(1/8)

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2011年世界少年少女チェス選手権戦

エイワンダーが金メダル、ルイフェン・リーが銀メダルを獲得

GMジョン・フェドロウィッツ

 初めて世界少年少女チェス選手権戦が南米で開催された。これまでの大会はスペイン、ギリシャ、トルコ、フランス、グルジア、それにベトナムで開催されていた。今年は11月17日から27日まで水上公園と温泉で有名なブラジルのカルダス・ノバスで行なわれた。私はアビブ・フリードマン、アルメン・アンバルツォウミアン、ゲンナジ・ザイチク、それにマイケル・コダルコフスキーと一緒に行った。

 我々は旅行でトラブルに巻き込まれないようにいつも2、3日早く出発する。JFK空港では離陸が2時間遅れて幸先の悪いスタートになった。サンパウロへ着くまでにはいくらか時間を取り戻したが接続便に間に合うのには不十分だった。サンパウロで7時間待ったあとようやくゴイアニアに到着した。そこで我々を待っていたのは小さな車だった。可哀相なアビブは後部座席に詰め込まれ我々は猛烈な土砂降りの中をカルダス・ノバスへ向けて出発した。陽気な若い運転手とはスペイン語で会話した。GMジョエル・ベンジャミンはブラジリアからカルダス・ノバスへの迎えが彼を見つけてくれずもっとひどい目にあった。疲労したグランドマスターは望まない冒険のあと本来より約10時間遅れて到着したが、ともかく無事だった。

 1年前のちょうどギリシャのハルキディキでのように過去最大の選手団となった。総勢60名以上で昨年より約20名多かった。やはり昨年のように一団は8歳以下と10歳以下(30名)とで大部分が占められ、これまでのように非常に経験の少ないチームになった。レイティングの最上位二人はエリック・ローゼン(FIDE2305)とマイケル・ビレンチュク(FIDE2219)だった。しかしそれでもメダル獲得の可能性はかなりあると思っていた。経験に富んだコーチ陣はもちろん大きな助けで、きわめて強力な一団だった。筆者と私の4人の同行者とに加えて、GMはジョエル・ベンジャミン、ニック・ド・ファーミアン、サム・パラートニク、ユーリ・シュールマン、それにIMアンドラニク・マティコジャンの支援があった。これほどのコーチ陣が来る国は想像もできない。さらにユーリ・シュールマンとショーン・スミスは「学校にチェスを」が後援したジャスタス・ウィリアムズ、ジェームズ・ブラック、ロシェル・バランタインを助けた。コーチたちは皆6名の選手を受け持ち、めいめいに20分から30分の準備時間を割り当てた。喫茶室を使わせてくれた主催者のGMダルシー・リマとテルマス・ディ・ロマ・ホテルには感謝している。コーチが10人なので大き目の部屋が必要でちょうど間に合った。我々はそこに集まって試合後の大切な分析を行なった。

 過去のチームUSAの編成のように有力なメダル争いは比較的無名の年少の子どもたちから現れた。今年も例外でなかった。ウィスコンシンのエイワンダー・リャンは8歳以下少年の部で圧勝した。出だしから7連勝をあげ1引き分けのあと最終戦でインドのラム・アラビンド.L.Nに負けた。順位判定の内容が圧倒的に良かったので最終戦を前に優勝が決まっていた。エイワンダーの試合は異なった指し方が見られる2局を選んだ。彼の第5局は大局観に基づいた指し方で、第7局は派手な戦術で勝った(相手の協力もあった)。

シチリア防御スヘーファニンゲン戦法 [B83]
エイワンダー・リャン(FIDE1872、米国)
CMマトベイ・パク(FIDE1860、ロシア)
2011年世界少年少女チェス選手権戦第5回戦、2011年11月22日

1.e4

 エイワンダーの快挙の中でこの試合が気に入っている。こんな年少の選手なのにカルポフのような大局観のセンスを発揮している。

1…c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e6 6.Be3 Be7 7.Be2 Nc6 8.O-O O-O

9.Qd2

 ボレスラフスキー戦法の典型的な戦型は 9.f4 e5 10.Nb3 exf4 11.Bxf4 Be6 である。

9…e5?!

 このポーンは白のポーンがf4にあるなら突いてよい。それなら黒のナイトがe5の地点に来ることになる。

10.Nb3 Be6 11.Rad1

 スベシュニコフ戦法のように大局的考え方で 11.Bg5!? とかかってd5の地点を押さえる方が適切だった。

11…a5!?

 黒はこのポーンをa3まで突き進めるのがよい。

12.f3

 黒の主たる狙いは 12.a4 Nb4 で …d5 突きを加速させることである。12.a3!? なら黒のa5のポーンを減速させ局面を落ち着かせる。

12…Re8?!

 黒は建設的な作戦を見つけずに指し続けている。12…a4 13.Nc1 a3 14.b3 Nb4 なら黒の反撃が有望だった。

13.Kh1 h6?!

 黒の最善手はやはり 13…a4 14.Nc1 a3 15.b3 Nb4 だった。

14.a3!

 既に解説したように黒にポーンをa3まで突かせないようにすることが大切である。

14…a4?

 a4のポーンは容易に獲物になる。

15.Nc1 Qa5 16.Nb5

 白はクイーン交換になれば黒のa4とb6の2地点が攻撃目標になるとみている。

16…Qxd2 17.Rxd2 Red8 18.Rfd1 Ne8 19.Nc3! Bf6 20.Bb5 Nd4

21.Bxe8

 21.Bxa4!? とポーンをかすめ取ってもよさそうだが、エイワンダーは安全に指す方を選んだ。

21…Rxe8 22.N1e2 Nxe2 23.Rxe2 Bc4 24.Red2 Be7 25.Nd5 Bxd5 26.Rxd5

 ここでは明らかに白が優勢である。黒のクイーン翼は強い圧力にさらされる。

26…Rec8 27.c3 Rc6 28.Rb5 Rc7 29.Rdd5 Ra6 30.Ra5!

 黒に何の代償も与えずにポーン得になることが必至である。

30…Rcc6 31.Rxa6 Rxa6 32.Rb5 Bg5 33.Bxg5 hxg5 34.Rxb7

 あとは単なる掃討作戦である。

34…g6 35.Kg1 Kg7 36.Kf2 Kf6 37.Ke3 Ke6 38.Kd3 f5 39.c4 Ra8 40.h3 fxe4+ 41.fxe4 Rf8

42.Rg7 Kf6 43.Ra7 Rb8 44.Kc2 Rb3 45.Rxa4 Rg3 46.b4 Rxg2+ 47.Kd1 Rg3 48.b5 Rxh3 49.b6 Rh7 50.Rb4 Rb7 51.a4 g4 52.a5 Kg5 53.Ke2 Rf7 54.b7 黒投了

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(この号続く)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(164)

第4部 手筋(続き)

第17章 防御の破壊

 ある駒を守っている駒を取ることは二重攻撃と定義される。これはたぶん最も直接的で最も理解しやすい手筋の形だろう。その主眼はいくつも言い表すことができるだろうが、「防御の破壊」が明快である。

 これにおけるフィッシャーのやり方には特段変わったところはない。しかし彼は主要な主題について惚れ惚れするような手順を見せつけてきた。次の局面にはそれが最も簡潔な形で現れている。

ベルリーナー対フィッシャー
西部オープン、1963年
 24.Kh1

24…Ba6!

 白のf3の守り駒を破壊する「狙い」は1個のポーンを取るだけで十分である。

35.Qf2 Bxe2 36.Qxe2 Qxe5

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(163)

第4部 手筋(続き)

第16章 開き攻撃(続き)

 バッテリーを隠している駒は動いてももっと価値ある駒を攻撃しているならば一般に取られることがないことは見てきたとおりである。この単純な事実は次の局面での手筋の基礎となっている。これはフィッシャー(そして他のほとんどすべての者)が見逃した。

ペトロシアン対フィッシャー
番勝負、ブエノスアイレス、1971年
 34.Ra2

34…Rc8?

 この手にはほとんど誰も好手記号を付けた。しかし正しく受けられると勝つことができない。黒は試合の前半で明らかにずっと優勢を保っていた。そしてここでは(34…Rc8 の代わりに)バッテリーを用いることによりdポーンを前進させることができた。

34…Rb1+ 35.Kg2 Rc1

 この手の意味は白ルークがc7の地点にいる限りdポーンをd2の地点に進ませることができるということである[訳注 この手では実際には黒が優勢にならず、やはりフィッシャーの指した手が正着のようです]。そのとき Nxd2 と取られても …Bxd2 で大丈夫である。そして …d3 のあと白ルークがc列から去れば …Rc2 が決め手になる。というわけで白は紛糾を図らなければならない。

36.Rc6+ Ke7 37.Rc7+ Ke8

 黒は慎重にd列を避けた。そこに行くとd2に進んだ黒ポーンが取られたときにチェックになる。

38.Rxh7 Ra5

 今度はdポーンが止まらない。ついでに言うとここでのように多くの効果的なバッテリーに付随するのは「帰還」と呼ばれる小さな仕組みである。上記の手順を続けると

39.Rc7 d3 40.h4 d2 41.Nxd2 Bxd2 42.Rxc1 Bxc1

黒の最後の手で「当たり」の状態から取り返しにより駒が生還して駒得になる。既出のソーベル対フィッシャー戦の最終局面では白のクイーンとナイトが両方とも「当たり」になっていたにもかかわらず同様に守られていた。このよくある手筋は1手か2手の長さだが、初学者にはなかなか気づくのが難しいようである。以降のページでもこれが出てくることを注意しておく。

(この章終わり)

ポルガーの定跡指南(19)

「Chess Life」2003年5月号(2/2)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

スラブ防御(続き)

 b)7…O-O 8.g5

8…Nh5

 8…Ne4 でポーンを犠牲にするのは、白キングがまだ原位置に留まっていて困難な事態に陥るかもしれないという期待に基づいている。しかし白は正しく指せば次のように贈物を受け取っても安全である。9.Nxe4 dxe4 10.Qxe4 e5 11.Bd2 f5 12.Qh4 e4 13.g6 Qxh4(13…hxg6 は 14.Ng5 Nf6 15.c5 のあと 16.Bc4+ で致命傷になる)14.Nxh4

黒にはポーン損に値する反撃がない。

9.Bd2

 白は 9.Be2 と指すこともできる。

9…f5!?

 ここでは 9…a6 という手もあるが 10.c5 Bc7 11.Ne2! から Ne2-g3 で白がh列を素通しにしてくる。

10.gxf6e.p. Nhxf6 11.Ng5 Qe8 12.O-O-O

 12.f4!? なら黒は 12…e5! 13.fxe5 Nxe5 14.dxe5 Qxe5 15.Nf3 Qh5 で捨て駒により猛攻する面白い機会が得られる。

12…h6 13.h4

13…Bb4!

 13…hxg5 と捨て駒を取るのは良くない。14.hxg5 Ne4 15.Nxe4 dxe4 16.Qxe4 Rf5 17.c5 Bc7 18.Bc4 となって白が攻めて勝つ。

14.Bd3 Bxc3!

 14…b6 のような穏やかな展開の手ならシロフは 15.cxd5! exd5(15…cxd5 なら 16.Nb5)16.Bh7+ Kh8 17.Ne2! から Ne2-f4-g6+ と指すつもりだった。

15.Bxc3 hxg5 16.hxg5 Ne4 17.Bxe4 dxe4 18.Qxe4 Rf5 19.Qh4

 シロフ対トルハルソン戦(レイキャビク、1992年)では白が攻めて勝った。これはこの戦法の最初の試合だった。

 c)7…dxc4

8.Bxc4

 8.e4? は 8…e5 9.g5 exd4 10.Nxd4 Ng4 11.h3 Nge5 12.Be3 Nc5 で黒が良い(アダムズ対カスパロフ、1992年、ドルトムント)。

 c1)8…b5

 8…e5 なら 9.g5 Nd5 10.Bxd5(10.Bd2 exd4 11.Qe4+ Qe7 12.Qxd4 は白が少し優勢)は白が1ポーン得になるが強力なビショップを失う犠牲を伴う。

9.Be2 Bb7

 黒のこの陣形はメラン防御の「通常の」または主流の戦法を想起させる。違いは白のgポーンがg4の地点にあることである。マラニウク対セルペル戦(ルツェルン、1993年)では 9…b4 10.Na4 Bb7 11.g5 Nd5 12.Nc5 Bxc5 13.dxc5 Qa5 14.e4 Ne7 15.Be3 Ba6 16.Bxa6 Qxa6 17.Qe2 Qxe2+ 18.Kxe2 と進んで白の楽な収局になった。

10.e4

 代わりに危険性の少ない 10.g5 Nd5 11.Ne4 Be7 12.Bd2 でも良さそうである。

10…Nxg4 11.h3 Nh6

 ナイトは両当たりにされるのでf6へは戻れなかった。

12.Rg1

 白にしっかり主導権がある(アコピアン対ルゼレ、ベルリン、1996年)。

 c2)8…b6

 カスパロフ対ディープジュニア戦第1局(ニューヨーク、2003年)。

9.e4

 次に 10.e5 で両当たりにする狙いがある。

9…e5

 ケンピンスキー対グラダルスキー戦(1994年)では 9…c5 10.g5(10.e5 は 10…Bb7 11.Be2 cxd4 12.exf6 dxc3 13.fxg7 Rg8 14.Qxh7 Nf6 で黒にいくらか反撃を許す)10…Nh5 11.Be3 O-O 12.O-O-O cxd4 13.Nxd4 Bf4 14.Rhg1 g6 15.Ncb5 Bxe3+ 16.fxe3 Qe7 17.Nc7 で白が交換得になり楽に優勢になった。

10.g5 Nh5

 10…exd4? は 11.Nxd4(ただし 11.gxf6 には 11…Qxf6!)で黒の戦力損になる。

11.Be3 O-O 12.O-O-O Qc7 13.d5

 コンケスト対カチェイシビリ戦(カルカッタ、1995年)では 13.Kb1 g6(13…exd4 14.Nxd4 Nf4? は 15.Ndb5 のために黒がナイトを働かせることができなかった)14.d5!(カスパロフの試合と同様の手法)でやはり白が優勢だった。

13…b5

 13…c5 なら上述の解説中の試合のように黒が堅固だが受けに偏した態勢になる。

14.dxc6 bxc4 15.Nb5 Qxc6 16.Nxd6

 これで白が圧倒的に優勢になり27手で勝ちきった。

結論

 スラブ防御のメラン戦法は得意戦法に加えるのによい定跡である。黒は駒を積極的に動かして働かせる機会が得られる。しかしこの戦型では両者にとって指し方が非常に激しく危険になる。きちんと理解し研究しておけば黒は積極的な指し方のできる開放的な試合に恵まれる。スラブ防御を常用戦法に取り入れるならば、特に相手に 7.g4 を指させるならば、研究と準備を怠らないようにしなければならない。ディープジュニアは正しい指し方を見つけることができずたった9手で定跡からはずれ惨敗を喫した。もっと良い指し手を見つけることは可能である。

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カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(162)

第4部 手筋(続き)

第16章 開き攻撃(続き)

 筋が開くことによる影響を見極めることはグランドマスターにとってさえいつも簡単であるとは限らない。その理由はたぶん我々が開き攻撃を攻撃の武器としてのみとらえることに慣れているからだろう。しかし筋の開通が非常に予期しがたい影響を与えることはまれではない。以下はフィッシャーが読み違いをおかした二つの典型的な例である。

フィッシャー対ラルセン
サンタモニカ、1966年
 28…b4

 戦いの最中にフィッシャーは幻影を見ていた。ルークとビショップのバッテリーは黒クイーンを攻撃することができない。というより攻撃されているのはむしろルークである(29.cxb4 d4 で黒の駒得)。唯一の適切な受けは 29.f3 bxc3 30.Qxd2 cxd2 31.Rd1 だった。代わりに・・・

29.Qh3? bxc3 30.Qh6 Ne6 白投了

 ここで初めてフィッシャーは読み筋の 31.Bf6 d4 32.Qxh7+ Kxh7 33.Rh3+ が、ルークが動いたことによりクイーンの受けの筋が通って 33…Qh6 が可能になって詰みにならないことに気づいた。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(161)

第4部 手筋(続き)

第16章 開き攻撃(続き)

 次の局面の開き攻撃は同じくらい単純な着想に基づいている。それは「単純化」である。

ペトロシアン対フィッシャー
番勝負、ブエノスアイレス、1971年
 21…Bxb4

22.d5 Bc3! 23.Bxc3 Rxc3 24.Bc2

 白駒は攻撃的な位置から追われた。代わりに 24.Ba2 なら 24…exd5 25.exd5 Ra3 と応じられる[訳注 26.Rfb1 で黒が良くないので正着は 25…a5 か 25…Rfc8 のようです]。

(この章続く)

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