2012年02月の記事一覧

世界のチェス雑誌から(163)

「Europe Echecs」2012年1月号(1/2)

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世界少年少女チェス選手権戦

 大きな試合会場

 記 ロミュアル・ドラバカ(フランスチェス連盟コーチ)

 2011年はフランスにとって何のメダルも獲得できない年になる。欧州チェス選手権戦に次いでフランス代表の子どもたちがブラジルから目的を果たせずに帰国した。

 大きな大会の世界少年少女チェス選手権戦が11月18日から26日までカルダス・ノバスで開催された。この温泉リゾート地は首都ブラジリアの南230キロに位置している。当初はリオデジャネイロで開催の予定だったが、2014年の世界サッカー大会と2016年のオリンピック競技会に備えてブラジルの巨大都市で行なわれている重要な工事を理由に最終的に変更された。

 フランスのミニ選手団
 フランスチェス連盟はフランスでの称号保持者しか派遣しないと例外的に決めていた。少数の辞退者があって選手団は最終的に9人になった(少年4人と少女5人)。それに連盟から3人のコーチ(パベル・トレグボフ、ジャン=ノエル・リフ、それに私)が同行した。団長はジャン=パプティスト・ミュロンが務めた。飛行機をサンパウロで乗り換えて約30時間の長旅のあと、大平原でのバスの「小」故障もあったが少人数の一行は無事到着した。そして我々のホテルのちょうど目の前に巨大な水上公園をまのあたりにしたときはちょっとした驚きだった。

 期待の星のビレルとセシル
 我々のメダルへの期待は当然ビレル・ベラセーヌとセシル・オセルノにかかっていた。二人とも14歳未満である。それに8歳以下の「混合」部門にはアルベール・トマシがいた。残念ながらトマシは大会の初めでつまづき(0.5/2)、奮闘したにもかかわらずコルシカの期待の星は優勝争いに加わることができなかった。彼は先日の欧州選手権戦では好成績を残していた。すぐに潜在能力を発揮するのは間違いない。ビレルは大会半ばでは 4.5/5 で自分の部門の首位にいた。セシルは 4/5 の8位で首位とちょうど1点差だった。

 ゴリャーチキナが9戦9勝

 期待は高かった。しかしセシルは6回戦から8回戦で 0.5/3 で大失速した。それからは首位争いにからめなかった。彼女の部門は 9/9 でパーフェクトを達成したロシアのアレクサンドラ・ゴリャーチキナの独壇場だった。次の試合は彼女の才能の一例である。

解説 ロミュアル・ドラバカ(フランスチェス連盟コーチ)


アレクサンドラ・ゴリャーチキナ、欧州と2011年世界のチャンピオン

A.ゴリャーチキナ – S.ハデマルシャリー
后印防御 [E17]
14歳以下女子
カルダス・ノバス、2011年、第5回戦

 この試合は14歳以下の部門での首位のアレクサンドラ・ゴリャーチキナと2位のイランのサラサダト・ハデマルシャリーとの対決である。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3

 このロシアの少女は堅実で古くからある定跡を常用している。

4…Bb7 5.Bg2 Be7 6.Nc3 Ne4 7.Bd2

 この手の主要な目的は二重ポーンができるのを避けることである。

7…O-O

 7…Bf6 という手もあり、カルポフがよく指していた。

8.d5!

 これはこの戦型での主眼の手で、b7のビショップの利き筋を遮断し自陣を広げ中央の黒のナイトを不安定にすることを狙っている。

8…exd5

 ナイトを安定させる 8…f5 の方がよく指されている。

9.cxd5 Nxd2 10.Qxd2

 ナイトとビショップの交換になって白が陣地の広さで優位に立っている。b7のビショップが閉じ込められた。

10…Re8 11.O-O Bf6 12.Rac1

 ゴリャーチキナは落ち着いて展開を続け、駒を自然な地点に配置した。

12…c5

 ポーンの形はべノニ防御を思い起こさせる。白は中央で多数派ポーンで、黒はクイーン翼で多数派ポーンになっている。

13.Rfe1 d6 14.Rcd1

 ロシア少女は多数派ポーンの背後に両ルークを配置した。

14…a6 15.a4

 白は黒の多数派ポーンの前進を阻止した。

15…Nd7 16.Qc2!

 この陣形における白のナイトの理想の地点は多くの場合c4である。そこからはd6の弱点と、多数派ポーンの進攻地点のe5とをにらむことができる。そこでゴリャーチキナはf3のナイトのためにd2の地点を空けた。

16…g6 17.Nd2 Qc7 18.Nc4 Rab8

 黒は …b6-b5 と突く用意をした。

19.Bh3

 次に Bxd7 からb6のポーンを取る手がある。

19…Bc8 20.Ne4

 黒はd6の弱点をもう少し守る必要がでてきた。そのため黒枡ビショップは対角斜筋から去らなければならない。

20…Be7

21.Qc3?!

 一見当然のように見える。白は対角斜筋を支配した。しかし実際には黒が主導権を握ることができる。ここでは 21.Ra1!? と指して …b5 突きを防ぐのが面白かった。その手に対しては 22.axb5 から Na5! がある。

21…f5! 22.Ne3 Ne5

 22…fxe4?? は 23.Be6+ Kf8 24.Qh8# で頓死する。最善手は 22…b5! 23.axb5 axb5 24.Nd2 Bf6 で、急に黒駒が活気づく。

23.Nd2 Bf6 24.Qc2 f4?!

 この手は意味もなくe4の地点を放棄した。黒はまだ 24…b5! と突かなければならなかった。

25.Ne4!

25…Bg7 26.Bxc8 Rbxc8 27.gxf4

 白がはっきり優勢である。白がポーン得で黒のナイトがあまりぱっとしない地点に押し返される。

27…Nf7 28.f5 Qe7 29.Ng3 Qg5 30.fxg6 hxg6

31.Ng2

 31.h4! Qh6 32.Kg2 のあと Rh1 から h5 がチェスソフトの示す危なげのない手順である。

31…Qf6 32.b3 Ng5

 この手は …Nh3+ を狙っている。

33.f3 b5 34.axb5 axb5 35.h4!

 時間切迫の中で指されたこの手は黒の反撃の芽を摘み取る好手である。

35…Nh3+ 36.Kh2 Nf4

 代わりに 36…Nf2 は 37.Rb1! から Rf1 で無謀にも白陣に跳びこんだかわいそうなナイトが召し取られる。

37.Nxf4 Qxf4 38.Qxg6

 黒キングは今や非常に薄くなり、白のクイーンとナイトの協力体制にしてやられる恐れがある。

38…Re5

 38…Qxh4+ は 39.Kg2 のあと Nf5 から Rh1 で黒に適当な手がない。

39.Qg4

 39.Kh3! ならすぐに決まっていた。

39…Qf8?

 39…Rf8 の方が頑強な抵抗だった。それでも釘付けをはずす 40.Kh3 で白があまり苦労なく勝ちそうである。

40.Nh5

40…Kh8?? 1-0

 40手目でついにポカが出た。黒は 41.Nxg7 で駒損になるのを待たずに投了した。優勝候補の2選手の熱戦だった。ゴリャーチキナは時間切迫で生じた混戦の中で何事にも動じず優れた戦略の理解を見せつけた。要するにこれこそ世界チャンピオンの資質である。

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(この号続く)>

2012年02月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(129)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 フィッシャーは「良い手を見つけたときはすぐに指すな。もっと良い手があるかもしれない」という金言を胸に、いつも局面から最後の一滴を絞り取るように注意を怠らなかった。次の局面ではただキングの位置で優るようにするためにビショップによる両取りを用いた。

フィッシャー対インクット
マルデルプラタ、1960年
 39…Bxe7

40.Bh6! Rxc8 41.Bxe6+ Kh8 42.Bxc8

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(128)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 今度は2駒による一直線上の両当たり、つまり串刺しの目の覚めるような例である。黒のf6とb8の黒枡は白の強力なクイーンと黒枡ビショップの簡単なえじきになった。

フィッシャー対レシェフスキー
スース、1967年
 25…dxe5

26.Nxe5!

 このあと黒は暴れたが負けに終わった。実戦の手のあとルークとクイーンが釘付けになるか(26…Rxe5 27.Bf4 Bd6 28.Rxd6!)クイーンとナイトが串刺しになる(26…Qxe5 27.Bd4)。付記するとレシェフスキーの平常心とねばり強さはこの試合の特殊な状況によってずたずたになっていた。フィッシャーは論争のために大会を途中棄権すると公言していた。そしてレシェフスキーはフィッシャーの時計が1時間に達して時間切れになるまで辛抱強く待っていた。しかしぎりぎりの所でフィッシャーは大会会場に駆けつけ、古くからの対戦相手にあいさつして時間内に初手を指した。この突然の運命の反転とフィッシャーが故意に長く待たせたのではないかという推測は、フィッシャーが1972年にレイキャビクに現れるのを画策したときに忘れることのできない心理的な自慢となっていた。

(この章続く)

2012年02月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(14)

「Chess Life」2003年3月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

シチリア防御/スヘーファニンゲン戦法(続き)

 b)10.a4 Qc7 11.Kh1 Re8

 ここでも白はビショップをd3とf3のどちらに上げるかを決める必要がある。f3の地点からはビショップの利きが対角斜筋(a8-h1)をにらむ。これは白が g2-g4 と突きたいのなら必須である。また、黒が …b7-b6 から …Bc8-b7 によってビショップを展開するのをより難しくさせる。

12.Bf3

 12.Bd3 ならビショップが黒キングの方を直接にらむが、黒も反撃の機会が得られる。12…Nb4 13.a5 Bd7 14.Qe1 Nxd3 15.cxd3 Bc6 16.Qg3 Nd7 となれば均衡のとれた局面である。

12…Bd7

13.Nb3

 これはd4でのナイト交換を避けるためである。

13…b6

 黒は白の a4-a5 突きを妨げた。

14.g4

 狙いは 15.g5 で、f6のナイトの逃げ場がない。

14…Bc8 15.g5 Nd7

 局面は混戦模様である。この局面になった試合は数多いが、最も有名なのは2000年のフランクフルト(快速)大会でのアーナンド対カスパロフ戦で、30手で引き分けに終わった。

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2012年02月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(127)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 ビショップによる両当たりは長射程でのポーンによる両当たりみたいなもので、もちろんクイーンとも似ている。次の試合は教科書に出てくるような例である。

ハースト対フィッシャー
リーグ戦、ニューヨーク、1957年
 35.Nc5

35…Rxb4!

 36.Rxb4 なら 36…Bxc5+ がある。これで黒のポーン得になる。

(この章続く)

2012年02月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(35)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 253ページ
『(両局で、いままで疑われていた白の可能性を実証した)』

英文『(demonstrating in each case White’s hitherto unsuspected potential)』

suspected なら「疑われていた」だが unsuspected は「思いもよらない」という意味である。例えば a person of unsuspected talents(思いもよらぬ才能の持ち主)というように使われる。

試訳『(両局で、いままで思いがけなかった白の可能性を実証した)』

56 フィッシャー変化 253ページ
『白がねばり強く主導権を維持する。』

英文『White maintains an enduring initiative,』

ここでの enduring は「永続的な」という意味である。原訳を「白の維持する主導権はねばり強い」と言い換えてみればそのおかしさが分かる。

試訳「白が永続的な主導権を維持する。」

56 フィッシャー変化 254ページ
『バレエダンサーのハルモニストは・・・趣味の良さを示したが』

英文『The ballet dancer Harmonist showed good sense …』

試訳「バレエダンサーのハルモニストは・・・感覚の良さを示したが」「バレエダンサーのハルモニストは・・・センスの良さを示したが」

2012年02月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(126)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 ナイトが敵陣に「軟弱な」地点を見出すと、ルークにとって特別な敵となる。

フィッシャー対シャーウィン
ニューヨーク、1962-63年
 25…Kc8

26.Nf5!

 狙いはe7の地点へ跳んでの詰みで、黒のどの駒もそこを守れないので本当に軟弱になっている。26…Re8 ならd6の地点で両取りがかかる。黒は白の次の手のあと投了しなければならなかった。

26…Rxg2+ 27.Kf1

 27…b6 のあとe7の地点での両当たりで黒ルークの守りがノックアウトされるので投了も止むを得ない。

(この章続く)

2012年02月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(125)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 フィッシャーは次の局面で窮地を脱しなければならなかった。相手にはナイトによる両当たりの筋がいくつもある。

フィッシャー対フォゲルマン
ブエノスアイレス、1960年
 38…Kc7

39.b6+

 白のビショップとh1のルークは既に両当たりになっている。黒はこのポーンを取らなければならないので、この手はしのぎのための手を稼ぐことができる。

39…Rxb6 40.Rxb6 Nxe4+ 41.Kd3 Kxb6!

 黒は二通りの両当たりがあるのでルークを維持することができる。42.Kxe2 にはもちろん 42…Nxg3+ で黒が勝つ。42.Rb1+ Ka6 43.Kxe2 には 43…Nc3+ で両当たりがかかる。試合は引き分けに終わった。

(この章続く)

2012年02月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(257)

「Chess」2011年11月号(1/1)

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サンパウロ/ビルバオ

ビルバオ 第6回戦
V.イワンチュク – H.ナカムラ

 この局面で両選手とも残り17手で既に時間に追われていた。

23.g5 Nh7

 23…Nxe4 は 24.Nxe4 Bxe4 25.Qxe4 Rac8 となって黒の難局のように見えるが、実際は持ちこたえているようである。

24.f6!? Ng6 25.fxg7+ Rxg7 26.Qxh6 Rd8 27.Bxg6 fxg6 28.Rf6 Qc8 29.Rh4 Bf7 30.Nd3

30…Kg8?

 30…Rxd3!? なら 31.cxd3 Qxc3 32.Bb4 Qxd3 となって黒が引き分けに逃げ込めそうである。

31.Bd6!

 イワンチュクがついにg7のルークを標的にして唯一の勝ち筋を見つけた。

31…e4?

 31…Re8 が最善の受けで、見えすいたわなに 32.Bxe5? と引っかかってくれれば 32…Rxe5 33.Nxe5 Qc5+ でe5のナイトが取れる。

32.Be5

 これで黒は見込みがなくなった。

32…Rd5 33.Rc6! Qf8

34.Bxg7

 自分にこれが見つけられるならイワンチュクも見つけると思うだろう。それが 34.Rc8! で、致命的なそらしである。しかし本譜の手でもやはり勝ちになる。

34…Qxg7 35.Rxe4 Rxg5+

36.Qxg5

 取るしかないが勝ちは変わりない。

36…Nxg5 37.Rc8+ Be8

 37…Qf8 なら 38.Rxf8+ Kxf8 39.Rg4 となって、この収局は黒が負ける。

38.Rcxd8+ Kh7 39.Rh4+ 1-0

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(この号終わり)

2012年02月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(124)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 次の試合ではおなじみの「家族(キング、クイーン、ルーク)チェック」がビショップも当たりになるという珍しい形で現れた。

タリ対フィッシャー
ブレッド、1959年
 34…Bxf4

35.Nd4! Qh4 36.Rxf4

 これは黒の詰みの狙いをはずすために必要である。黒のf4の地点はよく守られているように見える。

36…Rxf4 37.Ne6+ Kh8

 g8は開(あ)きチェックのために駄目で、h7は Nxf8+ のために駄目である。

38.Qd4+

 詰みを防ぐためには黒クイーンが割り込まなければならないが、38…Qf6 39.Rxf4 Qxd4 40.Rxf8+ で白の勝ちになる。

(この章続く)

2012年02月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(123)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 次の試合では両当たりに基づいた3手の手筋でクイーンを除く白駒が盤上から消えた。

ビズガイアー対フィッシャー
ニューヨーク、1960-70年
 29.Rd1

24…Qxc3! 25.Bxc3 Nxd1 26.Qd4 Nxc3

 これで黒の勝ちに終わった。

2012年02月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(162)

「The British Chess Magazine」2011年1月号(2/2)

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チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

 ジョージ・スポールディング氏の質問。

 質問 出来事を起こった順序に正確に記すと次のとおりである。

 (1)両選手とも残り時間が5分を切っていて黒の方が少なかった。

 (2)この段階で最後のポーンが盤上から消えて、両選手ともキングとルークだけになった。

 (3)引き分けの申し立ては行なわれなかった。

 (4)そして黒の旗が落ちた。

 (5)それから白が黒の時間切れによる自分の勝ちを主張した。

 (6)黒はルーク対ルークは引き分けにしかならない(ルークは素抜きなどで取られる態勢にはなっていない)という理由で引き分けを主張し反論した。

 どうすべきか。

 回答 引き分けの申し立てが行なわれていないので白の勝ちを宣告すべきである。10.2項は引き分けが認められるためには残り時間が2分を切ったときに申し立てなければならないと規定している。引き分けの申し立てが行なわれていれば引き分けになる可能性が最も大きいが、自動的に引き分けになるわけではない。

 10.2項は引き分けが認められるためには残り時間が2分を切ったときに申し立てなければならないと規定している。

 審判はその選手が素抜きに会わないことを確認するために少し指させてみるのが良いかもしれない。

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2012年02月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(122)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 ナイトは意外にも縦横斜めの多くの地点に利いているのでその両当たりは特に魔法のようである。巧みなナイト使いはマスターの印である。次の試合はナイトの魔術の最も痛快な実例の一つである。

フィッシャー対ウンツィカー
ジーゲン、1970年
 40…Kg7

 白はどうしたらナイトとgポーンの両方を救えるだろうか。

41.Nd7! c4

 41…Bxg4 は 42.f6+ Kg8 43.f7+! Kxf7 44.Ne5+ でキングとビショップの両当たりになる。

42.Kg3 黒投了

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(121)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 ポーンは敵駒への当たりによってスピードがつき、1手の無駄なく両当たりのために前進することができる。次の局面で黒はこの可能性のために有利な交換をしむけることができた。

フィッシャー対ホルモフ
ハバナ、1965年
 19.b4

19…Nd4!

 このナイトは取るわけにいかない。というのは 20.cxd4 exd4 のあと …d3 の両当たりがあるのでナイトが逃げられずそうなると黒にc4の地点に保護パスポーンができるからである。面白いことにフィッシャーは相手の二重ポーンに何度も予期せぬ苦労を強いられている。実のところ攻撃にさらされている二重ポーンと、ここでのように隣に素通し列を作り出し味方を支援する二重ポーンとでは雲泥の差がある。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(13)

「Chess Life」2003年3月号(1/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

シチリア防御/スヘーファニンゲン戦法

 今月は機動力に富むシチリア防御のスヘーファニンゲン戦法を取り上げる。

 一般的にシチリア防御は 1.e4 に対する最も機動性のある布局の一つである。世界の超一流選手の多く、例えばカスパロフ、アーナンド、トパロフ、イワンチュク、ポルティッシュらはこの戦法を黒番での常用戦法の一部にしている。シチリア防御は非常に詳細に研究されていて、その定跡は手数も長くなっている。従って今回紹介する戦型はいつもよりも手数が長い。

 黒の作戦はどういったものだろうか。それはキング翼での白の攻撃を受け切ること、bポーンとc列とを用いてクイーン翼で反撃すること、そして機会があればdポーンをd5に突いたりeポーンをe5に突いて白の中原を破壊することである。

 では白の作戦はどのようなものだろうか。それはキング翼で攻撃をかけること、強力な中原を維持すること、そしてクイーン翼での黒の反撃を食い止めることである。

 それでは評価はどうなっているだろうか。この戦法は最も活気があり手段に富み詳細に研究されている布局の一つで、白も黒も勝ちを目指すことができる。大会の最終戦で穏やかに引き分ける必要があるならばこれは正しい選択でない。一か八かにかける必要があるならばこの布局はちょうどそのために適切な機会を与えてくれる。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e6 6.Be2 a6 7.O-O Be7 8.f4 O-O 9.Be3 Nc6

 ここは白にとって黒に …b7-b5 と突かせるか、それとも 10.a4 でそれをやらせないかの分かれ道である。白には次の3戦型がある。

 a)10.Kh1
 b)10.a4
 c)10.Qe1

 順番に見ていこう。

 a)10.Kh1

 この手の意味はキングをg1-a7の斜筋からはずして嫌なチェックの可能性をなくすことである。

10…Qc7 11.Qe1 Nxd4 12.Bxd4

12…b5

 12…e5 なら 13.fxe5 dxe5 14.Qg3 でe5のポーンを釘付けにして白が良い。しかしここでもし白キングがg1の地点にいたら黒は …Be7-c5 と指せる。これはキングをg1-a7の斜筋からはずすのがなぜ役に立つのかの典型的な例である。

13.a3 Bb7 14.Qg3 Bc6

 この手はb5のポーンを守って …a6-a5 から …b5-b4 とポーンを突いていく用意をしている。

15.Rae1 Qb7 16.Bd3 b4

17.axb4

 他には 17.Nd1 があり(このナイトを Nd1-f2-g4 という経路でキング翼に移送する着想)2000年サラエボでのシロフ対モブセシアン戦では 17…bxa3 18.bxa3 Rac8 19.Nf2 Nh5 20.Qf3 g6 21.Ng4 f6 と進んで非常に難解な局面になった。

17…Qxb4 18.Ne2 Qb7 19.e5 Nh5 20.Qh3 g6 21.Ng3 dxe5 22.Bxe5 Nxg3+ 23.hxg3 Bb5

 主導権は白にあるが、1993年リナレスでのシロフ対イワンチュく戦のように黒が正確に受ければ守りきることができる。

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カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(120)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 次の局面で黒のポーンは堅固に見える。

フィッシャー対ラピケン
オクラホマシティー、1956年
 14…Rb8

15.Nxc6! Qxc6

 この捨て駒は取らなければならない。なぜなら 15…dxc4 は 16.Nxb8! と取る手が挿入手となって黒クイーンが「当たり」になるからである。

16.cxd5 Nc5 17.Qc3!

 命名の練習として最後の2手に関連する戦略を識別するのも面白いかもしれない。黒の 16…Nc5 は白クイーンを当たりにする挿入手である。17.Bxc5 Qxc5 となれば「帰還」である。つまり2駒が当たりになっていて一方が他方の取られを取り返す。ここで白の最後の挿入手で決着がつく。

17…Qd6 18.Bxc5 Qxc5 19.Qxf6

 黒クイーンは両方のナイトを守ろうとしていたが過負荷だった。

(この章続く)>

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(34)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

53 黒魔術 241ページ
『12.Ba3
12.Bd3 f5 13.Qe2 Nc6 … では、白が劣勢になる。12.Ba3 は、まだ分別がある手だ。』

英文『12.Ba3
White gets the worst of it after 12.Bd3 f5 13.Qe2 Nc6, etc. Still, this was a prudent choice.』

Still は副詞だが、文頭で接続詞的に使われるときは「それでも」の意味になる。this は近い方を指す。遠い 12.Ba3 の方を指すなら that が使われる。

試訳『・・・それでも 12.Bd3 はまだ分別がある手だった。』

53 黒魔術 243ページ
『ささいな狙いがいくつかあるが、大きな狙いが見つからない。』

英文『He has some minor threats, and a major one which cannot be met.』

and の直後には He has が省略されている。それを補うとこういう文になる。He has a major one which cannot be met. この訳は直訳すると「彼は見つからない大きな狙いを持っている」と解釈していることになる。meet(met はその過去分詞)はここでは「応じる」という意味である。

試訳「黒にはささいな狙いがいくつかと受からない大きな狙いが一つある。」

54 ナイドルフを離れたナイドルフの闇 244ページ
『フィッシャーは抑圧の中でわずかな優位を求め続け、』

英文『Fischer proceeds to exploit his slight advantage with restraint,』

「抑圧の中で」なら under restraint となるはず。

試訳「フィッシャーは自制してわずかな優位を求め続け、」

2012年02月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(119)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 布局の段階での中央の要所をめぐる戦いはポーンによる両当たりに注意を払う典型的な時期である。

ミニッチ対フィッシャー
パルマ、1970年
 13.O-O

13…Nxc5

 このナイトを取ると 14…d4 でナイトとビショップの両当たりになる。戦力得になるわけではないが中原が清算され黒駒が捌ける。そこで白は複雑化を図った。

14.dxe5 d4!

 この両当たりは支援がないが白ビショップの利き筋を一時的にせき止め、そのことにより黒が二つのナイトを活用できる。

15.Nxd4 Nxe5

 これで黒の優勢な局面になった。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(118)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ(続き)

 次の局面でも決着はつかなかったが、黒はc3の地点でのポーンによる両当たりに基づいた手筋で収局では優位に立った。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦第16局、レイキャビク、1972年
 22.Kg2

22…Rxb2 23.Kf3!

 ここでも積極防御が壊滅を防いだ。23.Rxb2 は 23…c3 で黒駒がよく働く。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(256)

「Chess Life」2011年11月号(2/2)

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2011年米国オープン
レンダーマンが決定戦を制して優勝
(続き)

ナカムラの真骨頂

 GMティムール・ガレエフが、最もわくわくさせる選手の一人による最もわくわくさせる試合の一つを解説する。

オランダ防御/レニングラードシステム (A87)
GMキダムビ・スンダララヤン(2530)
GMヒカル・ナカムラ (2848)
第112回米国オープン、第8回戦

 ナカムラが米国オープンで指した試合の中で特に精力的な1局である。

1.d4 f5 2.g3 Nf6 3.Bg2 g6 4.Nf3 Bg7 5.O-O O-O 6.b3 d6 7.Bb2 c6 8.c4 Qc7 9.Nbd2 Re8 10.Qc2 Na6

 これはレニングラードシステムでもかなり普通の局面である。両者とも調和のとれた展開をしている。黒は中央で …e7-e5 と突く用意ができている。

11.a3

 中央での仕掛けを防ぐ 11.c5 が機敏な先受けだが、白枡を弱めることにもなる。黒には次のように効果的な応手がある。11…Nb4! これでこのナイトが戦いに加われる。(11…Be6 は 12.a3 でこのナイトが身動きできない)12.Qc4+ Nbd5 13.Rac1 Kh8 この手の意味は白枡ビショップを展開したときに Nf3-g5 と来られてもg8の地点に引けるようにすることである。

11…e5 12.c5 e4!

 急に黒陣が広くなり駒が中央の最適な地点に着き始める

13.cxd6 Qxd6 14.Ne5 Be6 15.b4 Bd5 16.Ndc4 Qe6

 白がb2とg2に不良ビショップをかかえているので黒の優勢は確実である。白は防御においてはe5の地点に好形のナイトが陣取っている。黒はそれを見逃さずすぐに行動をおこす。

17.Bc1 Ng4! 18.Nxg4 Bxc4 19.Ne5 Bb3 20.Qc3 Ba4

 黒は白の中原を崩し、ここから自分のナイトを …Nc7-d5 で好所につかせる用意ができた。

21.g4?

 変化を考えるまでもなくこの手が良い手であるはずがないことは明らかである。白の駒はこの時点でまとまりがない。白は局面を開放に向かわせるがキング翼の防御をがたがたにする。白にとってもっと考えるべきことは世界最高の戦術派選手の一人と対戦しているということだった。ヒカルは現在の状況を気に入っていたはずだ。

21…fxg4 22.Bxe4 Nc7

 これは堅実で理にかなった着想である。攻撃を仕掛ける前に陣形を引き締めた。

23.f4?!

 白は見込みのない戦略を続けている。

23…gxf3e.p. 24.Qxf3 Nb5 25.Bb2 Nxd4

 黒は単純で理にかなった戦術でポーン得になった。

26.Bxd4 Bxe5 27.Bxe5 Qxe5 28.Qf7+ Kh8 29.Bd3 Re7 30.Qf6+ Qxf6 31.Rxf6 Rd8

 ヒカルは卓越した技量を見せつけ、少しある技術上の困難を克服して優勢を勝利に導く。

32.Raf1 Kg7 33.Bc4 Rdd7 34.Be6 Rd1 35.Bc4 Rxf1+ 36.Rxf1 a6!

 黒は …Bb5 を準備した。そうなれば白のe2とa3の弱点につけ込むのが容易になる。

37.Rf4 Bc2

 ヒカルはどういうわけか考えを変えた。

 38.Kf2 Be4 39.Ke3 Bd5+ 40.Kd3 g5 41.Rd4 Bxc4+ 42.Rxc4 Rd7+ 43.Ke3 h5 44.Kf3 Kf6 45.h3 Rd5 46.Rc3 Ke6 47.Re3+ Kd6

 両者のキングとルークが、攻撃または防御のためにどちらの翼に行けばもっと役に立つか決めるために見計らっている。黒は動きやすさのせいで狙いを作り出せるので明らかに局面を支配するようになる。

48.Re8 Rf5+ 49.Ke4 Rf4+ 50.Kd3 Rh4

 この巧妙な戦術で白がまた守勢になる。

51.Re3 a5!

 敵陣に二つ目の弱点を作った。

52.Kc3 axb4+ 53.axb4 b5 54.Rg3 Rc4+ 55.Kd2 Rxb4

 連結パスポーンで楽勝が約束される。

56.Rxg5 Rh4 57.Rg3 Kc5 58.Kd3 Rd4+ 59.Kc3 b4+ 60.Kb3 Kb5 61.Rg5+ c5 62.Rxh5 Re4 63.h4 Re3+ 64.Kc2 Rxe2+ 65.Kd3 Rh2 66.Rh8 c4+ 67.Kd4 c3 68.h5 c2 69.Rc8 b3 白投了

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(この号終わり)

2012年02月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(117)

第4部 手筋(続き)

第15章 フォークとナイフ

 「両当たり(フォーク)」とは二重狙いを具体化したものである。手番の防御側は自分の駒-あるいは「部下」と呼ぶべきか-のうち二つが敵駒の一つにより当たりにされている。両当たりは一般に手筋の最終手であり核心である。この定義によればどの駒でも「両当たり」にできる。ただしキングによる二重攻撃は「収局」で取り上げた。2駒が同じ筋で(ビショップ、ルークまたはクイーンにより)攻撃されているとき二重攻撃は「串刺し」と呼ばれるのが普通である。その筋上の2番目の駒がキングのときは「釘付け」と呼ばれる。本来これらはみな両当たりである。

 ポーンによる両当たりは布局でよく起こるがいつの時点でも狙いになり得る。次の局面でフィッシャーはポーン得を意図した。

バルツァ対フィッシャー
チューリヒ、1959年
 49.Nc3

49…Nxf4

 50.Kxf4 Rh4+ 51.Ke3 f4+ でポーンによる両当たりがあるのでこのナイトは取られない。しかし白は自分もナイトを捨ててこの狙いをほごにした。

50.Nxe4+!

 これで試合は引き分けに終わった。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(116)

第4部 手筋(続き)

第14章 表裏一体(続き)

 最後は二重攻撃がどのようにして手筋の中で形作られるかの例である。

レーティ作(1928年)
 白先引き分け

 状況は絶望的に見える。白キングがc6の自分のポーンを進ませるのを助けそれでも反対翼の黒の3ポーン(hポーンだけでも大変である)を見張っていられるような斜めの経路がどこにあるのだろうか。それでも白キングは二重の狙いを利用して極度に効率よく手を進めることができる。

1.Kg6 h5

 万事休すか?hポーンを取ると黒に単純にcポーンを取られるので駄目である。

2.Kxg7

 これは何だ?白キングはクイーン翼に近寄ろうとさえしていない。

2…f5 3.Kf6

 かすかな望みがわいてきた。これで白キングは黒の2個のポーンを取ることを狙い、それによって一方を進ませる。

3…f4 4.Ke6 引き分け!

 白ポーンのクイーン昇格は止められない。これらはすべてキングが心理的に縦よりも横に動くほうがゆっくりしているように思えることを示している。これはチェス選手の誰もが枡の横幅が奥行きよりも広くなるような角度で盤を見るからだろうか。

(この章終わり)

2012年02月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(161)

「The British Chess Magazine」2011年1月号(1/2)

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チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

 アラン・オームズビー氏が棋譜づけの必要でない場合の毎手時間加算方式に関する興味深い質問をよこした。

 質問 マン島での地方大会は冬の間は平日の夕方に行なわれ、90分の持ち時間に毎手10秒が加算される。加算方式の採用は指し切り方式を避けられる利点があり、試合を監視する対局しない審判がいないときは特に重要である。わずか10秒の加算の採用で大多数の試合が3時間半で(午後11時までに)終わる。これに対し30秒の加算では真夜中を過ぎる試合が何局かでることがある。しかし30秒未満の加算の採用では、残り時間が5分未満になると棋譜をつける必要がなくなる(FIDE規約の第8.4項)選手によって問題が引き起こされる可能性がある。

 両対局者が棋譜をつけていなかったので、白は50手規則による引き分けを申し立てることができなかった。

 数年前マン島選手権戦で両対局者が互角の中盤戦になった。局面は非常に閉鎖的でポーン突きによる仕掛けは不可能だった。10秒加算のもとで両対局者は残り5分未満になった。白は唯一の素通し列を支配していたが、彼のルークは侵入口がなかった。局面は完全に引き分けだった。しかし対局の状況から黒はその試合に何としても勝たなければならず、白の引き分けの申し出を拒否して自分の駒を往復させて白の悪手を期待した。約50手後(何の進展もなくポーンの動きもなく駒の取りもなかった)黒はまた引き分けの申し出を拒否し駒の往復を続けた。両対局者は棋譜をつけていなかったので白はFIDE規約9.3項によって必要とされる50手規則での引き分けを申し立てられなかった。

 私の質問は次の2点である。

 1.上記の状況で両対局者が棋譜をつけるのをやめてから審判が手を記録し、ポーンの動きも駒の取りもなく50手以上が指されているのを確認したら、この審判は試合に介入して引き分けであることを宣言すべきだったか?

 2.黒の行為は試合を汚す(FIDE規約12.1項)ことにならないか?

 回答 審判はこのような状況に介入すべきでない。ポーンの動きや駒の取りがなく50手以上経過すれば自動的に引き分けになると考えている人が多い。これは正しくない。選手は引き分けを申し立てなければならない。選手が審判のところに行って、千日手か「50手規則」によって引き分けを申し立てたいので試合を見守るよう依頼することは許される。選手はこの行動のために時計を止めてもよい。そして審判は試合の記録に努めるべきである。

 もしこれができないならばそのときは片方の指し手を記録すべきである。これもできないならば最後の手段として指を折って手数を数えるべきである。スチュアート・ルーベンは審判が最後の二つの手段に頼らなければならないならば1手か2手多く指すべきだと提唱している。私なら白と黒の手が2、3度重複して数えられても確かに50手以上になるように、あえて55手まで数えるかもしれない。

 ポーンの動きや駒の取りがなく50手以上経過すれば試合は自動的に引き分けになると考えている人が多い。これは正しくない。

 黒は何も不正なことをしていない。引き分けの申し立てを受けるのがまともではあるけれども、黒のやったことは試合を汚したとまでは言えない。しかし審判に訴えが行なわれ審判が何もしなかったなら、審判が試合を汚したとみなされても仕方がない。私なら両対局者がそれ以上審判の介入がなくても結果に合意することを期待する。これが似たような状況での私の経験である。

 ところで、試合は白がまた引き分けの申し出を拒否されたあとそれ以上指すことを拒絶し口論になった。あげくは運営委員会で紛争を解決することになったが、それはまた別の話である。

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(この号続く)

2012年02月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(115)

第4部 手筋(続き)

第14章 表裏一体(続き)

 楽しい手筋の話題に進む前に-フィッシャーの手筋は鑑賞するのが楽しい-本章の最初に出てきたのと似た「レーティ」収局をもう2題取り上げることにより二重の狙いについてもう少し詳しく要点を説明することができる。

サリチェフ作(1928年)
 白先引き分け

 登場人物の配役は同じである。白にとって問題はほとんど同じである。つまり黒ポーンに追いつくか自分のポーンをクイーンに昇格させることを狙っているが次のように実現を阻まれている。(1)黒ポーンは動いて自らを危険にさらす必要がない。(2)ビショップが白ポーンの昇格枡を守っている。例えばすぐに 1.Ke6 Bc5 2.Kf5 と動くと黒は 2…Bf8 で黒キングが現場に戻って来れるまで砦を維持することができる。ここで手筋の新しい要素が登場する。それはポーンに追いつく仕方だけでなく(白キングはすぐにポーンの正方形に入れる)、ビショップをf8に置いて難攻不落の砦を築く「黒の」狙いのくつがえし方である。白ポーンがすぐにクイーンに昇格すればもちろん黒は 1.f8=Q Bc5+ 2.Kf7 Bxf8 で自分のポーンを進ませることができる。だから前出のフィッシャーの実戦例のように、準備の手によって望みの局面を生じさせ二重の狙いを作らなければならない。ここに限っては非常に逆説的である。

1.Kf8!

 このまじないは強力である。黒の防御態勢を打ち砕くために白キングは自分のポーンの前をふさぐだけでなく黒ポーンの正方形から2手遠ざかる。

1…g5 2.Ke7 g4 3.Kd6

 白キングは黒ビショップの防御地点であるc5への当たりを追求している。しかし黒ポーンはそれにしてもずっと遠くまで進みすぎてしまったように見える。

3…Kb4 4.Kd5 Bc5

 黒ビショップは昇格枡を見張らなければならない。しかしここで白キングはビショップに対する攻撃で2手取り戻した。そして黒ポーンの正方形にまた入る!

5.Ke4 引き分け!

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(114)

第4部 手筋(続き)

第14章 表裏一体(続き)

 フィッシャーの棋風の特徴を言い表すことができるならば、それはたぶん現在のどんな他の選手よりも手に潜む多くの手筋を見つけそれらの機会をより多くとらえ正しい手順でより正確に追及することだろう。彼が一か八かで駒を切ることは(タリとは対照的に)非常に少ない。彼は手筋の余地が少なくなる閉鎖的な局面を慎重に避ける。特徴的なこととして短い一本道の手順の狙いや二重の狙いを用いてたとえ最小限でも優勢を確保する。特にクイーンの使い方が巧みでその能力を完全に発揮させる。実際棋歴の大部分において「数少ない」負けのいくつかはこれから出てくるがクイーンの回復力に依存したことに直接起因している。次の試合は彼の典型的なワンツーパンチである。

リベラ対フィッシャー
バルナ、1962年
 14.Rc1

14…Qc6 15.f3 Qb5

 初手の詰み狙いのあとクイーンが2個のビショップに二重当たりをかけることができ駒得することになった。この簡単な例は前述のレーティの局面と原則的に違いはない。どちらの場合も二重当たりの前に一本道の手順がある。以降の章では両当たり、素抜き、防御の破壊、釘付けなどの通常の種類に分けてフィッシャーの典型的な手筋を見ていく。これらの用語による類型化は何が起きているかを読者が思い描くのに役立つ。それでもフィッシャーの得意な「挿入手」は実際は一種の二重狙いにすぎない。長い目で見れば「何を狙っているかによって」手を分析することを続ければ、他の試合や他の機械的な現象(両当たり)の類推よりもずっと速くチェスの理解を向上させることになる。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(12)

「Chess Life」2003年2月号(3/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

クイーン翼ギャンビット拒否/タルタコワ戦法(続き)

c)8.Rc1

8…Bb7 9.Be2 dxc4 10.Bxc4 Nbd7 11.O-O c5

 11…Ne4 は良くなくて 12.Nxe4 Bxh4 13.d5 で白が優勢になる。

12.Qe2 a6 13.a4 cxd4 14.Nxd4

 14.exd4 は 14…Nh5 で黒に何も問題がなかった(1984年モスクワでのカスパロフ対カルポフの世界選手権戦戦第34局)。

14…Nc5 15.Rfd1 Qe8

 黒はこのあと 16…Nfe4 と指すことになれば申し分ない局面である。

d)8.Bd3

8…Bb7

 代わりに 8…dxc4 9.Bxc4 Bb7 10.O-O Nbd7 11.Qe2 Ne4 でもよい。

9.O-O Nbd7 10.Qe2 c5 11.Bg3

 これが主眼の手である。11.Rfd1 は 11…Ne4 で互角になる。この布局ではよくあることだが 12.Bg3 cxd4 13.exd4 Nxg3 14.hxg3 Nf6 15.Ne5 Rc8 16.Rac1 dxc4 17.Bxc4 Nd5 で黒に何の問題もない。

11…Ne4 12.cxd5 exd5 13.Rad1 Ndf6 14.dxc5 Nxc3 15.bxc3 Bxc5

 両者とも弱い孤立ポーンを抱えていて、これからの展望は釣り合いが取れている。

結論

 クイーン翼ギャンビット拒否のタルタコワ戦法は黒の堅実な布局である。多くの世界チャンピオンや他の一流選手たちによって用いられてきた。常用戦法の一部に加えることは有益である。

 しかし黒番で勝つ必要があるならばこの戦法を選ぶのは適切でないかもしれない。反対翼を攻め合う他の布局と違いこの布局は主に中央をめぐって展開する。大局観派で本筋の落ち着いた流れの試合を好むなら、これこそその戦法である。

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フィッシャーのチェス(113)

第4部 手筋(続き)

第14章 表裏一体(続き)

 盤上で最も単純な手筋はキングが斜めに動いてすぐに盤の両側で何らかの狙いをもつことである。盤の幾何によりキングはh列を直接かけ登るのと同じ速さでh1からe4を通ってh7へ行ける。これによりリカルド・レーティは驚くべきスタディをいくつか創作することができた。

レーティ作(1928年)
 白先引き分け

 局面を一見すれば白に二様の狙いがあることが分かる。それはポーンを突き進めることと黒のポーンを取ることである。どちらの狙いもそれぞれ黒が簡単に対処できる。1.e7 ならビショップが単純に 1…Bb5 により昇格枡を見張り、ポーンがクイーンに昇格すれば自らを犠牲にする。同様に 1.Kf7 で黒ポーンを当たりにするのも望みがなさそうである。このポーンは常に白キングより先に進む。それにもかかわらず白には「手筋」がある。たった1手で白は黒ポーンに対する当たりとビショップの守備位置のb5の地点に対する攻撃とを組み合わせることができる。

1.Ke7! g5

 白キングが黒ポーンの(ポーンから8段目まで延びる対角線で定義される)「正方形」に入ろうとしているのでこのポーンは進まなければならない。キングとポーンのそれぞれの手を読むよりも、ポーンの正方形を思い描き相手のキングがその中に入ることができるかどうかを見る方がはるかに速い。ここでそれほど明らかでないのは、ビショップの守備位置がキングの動きによって侵害されてしまうことであるが、手を追ってみよう。

2.Kd6 g4

 ポーンはまた進まなければならないが、今度はビショップがe8の地点を守るもう一つの地点、即ちh5への経路をふさいでしまっている。ここで二重の狙いを2手で遂行することができる。

3.e7

 ただし 3.Kc5 では駄目である。なぜなら 3…g3 でビショップの代替守備の経路が再び開くからである。差し迫った狙いのために次の手が必然である。

3…Bb5 4.Kc5!

 白キングは黒ポーンから遠ざかっているようにしか見えない。しかしビショップ取りと黒ポーンの正方形に入る手を見合っている。

4…Bd7 5.Kd4 引き分け

 白キングは黒ポーンに追いつき、自分のポーンを成り捨てることによりビショップを引き揚げさせる。レーティは正解手順をとおして少し詩的な控え目さでポーンを「ビショップの職に任命」した。この印象的な例は手筋の三つの特徴を強調している。(1)それぞれの手が必然ならば初手には本質的に二重の狙いが含まれている。(2)しばしば正確な手順が重要で、直接の狙い(3.e7)によって強要しなければならない。(3)最後の手は受けのない二重の狙いを突きつけている。手筋が「賭け」のときは、必然の手順は存在せず、第1の条件も当てはまらない。2番目の条件はほとんどの場合創作やスタディに必要不可欠だが、勝つための唯一の手段のときを除いて実戦の選手にはほとんど違いがない。

(この章続く)

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名著の残念訳(33)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

48 名局賞 219ページ
『・・・編集者K.F.カービーは、チェス界の特ダネや称賛記事を総括してこう書いている。』

小学館の「現代国語例解辞典」によると「特ダネ」は「新聞などの記事で、その社だけが入手した特別の情報。スクープ」という意味である。公開で行なわれるチェスの大会・試合の何が「特別の情報」だったのだろうか?

英文『K.F.Kirby summed up the astonishment and admiration of the chess world when he wrote:』

試訳『・・・編集者K.F.カービーは、チェス界の驚愕と称賛を総括してこう書いている。』

51 搾取 230ページ
『続くクイーン交換後には、白の勝勢を過小評価したらしく、』

クイーン交換は16手目で試合が終わったのは43手目である。「勝勢」とは大差の優勢なのでこんなに長くかかるはずがない。「26.b4!」に「しかし、白の勝ちは全然たやすくはないし、黒は後に防御を改善できたかもしれない」という解説があるように白が優勢だとしてもその差はほんのわずかである。他にもこのことを示唆する解説がいくつかある。

英文『After the subsequent exchange of Queens he apparently underestimates White’s winning chances』

winning chances は単に「勝つ可能性」という意味である。

試訳「続くクイーン交換後には、白の勝つ可能性を過小評価したらしく、」

52 いないいないばあ戦略 238ページ
『他の手は信頼できない!』

32.Rdd3 または 32.Rgd3 なら 32…Ne3+ からh4の白クイーンを素抜かれ、32.Kg2 なら 32…Ne3+ 33.Kh3 Qxh4+ 34.Kxh4 Nxf5+ 35.Kh4 Nxg3 で、「信頼できない」どころか脳天まっ逆さまの大逆転である。

英文『No credit for other moves!』

credit には「(大学の)単位(認定)」という意味があり、She needs ten more credits for graduate.(彼女は卒業するのにもう10単位必要だ)のように使われる(「卒業するのに信頼が必要だ」ではない)。これから転じて no credit は「無得点」というような意味で使われる。米国チェス連盟の機関紙「Chess Life」に Bruce Pandolfini の「Solitaire Chess」という棋力診断の連載があり、そこでよくこの credit が使われている。

試訳「他の手は不合格である!」

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フィッシャーのチェス(112)

第4部 手筋

第14章 表裏一体

 チェスは一度に1手しか指せない競技なので、特定の手の価値は1手では「受けきれない」狙いを持っているかという単純な式により測ることができる。これはよくある状況である。ウィットとは普通の言葉に複数の意味を込めることと定義できるかもしれない。テニスの試合ではプレッシングショットに対するディフェンダーの選択は弱いリターンか一か八かの大振りになる。フットボールではディフェンスバックはパスパターンをカバーするかランに対して防御するかを選択しなければならない。チェスではもちろん状況は理想化される。狙いが二つあれば平均的な選手でも受けの効かない方を「実行」することが予想できる。

 これは基本的なことのように思えるけれどもチェス選手はめったに自分の指し方を改善しようとすることを一顧だにしない。彼らは惰性の犠牲者である。彼らは大ざっぱな「戦略」構想を踏襲し、有名な選手の試合をまねし、はめ手や罠を探し求める。彼らは手筋は出し抜けに生じると信じているようである。

 手筋は本当は結果として受けのない両狙いになる一連の手順として定義することができる。必ずしも捨て駒である必要もなければ、戦力得になる一連の手である必要もなければ、詰みに至る攻撃である必要もない。どんな手筋でも本質的な点は相手に解決不可能な問題を突きつける局面に「至る」ということである。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(111)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段(続き)

 次の局面ではほとんどの選手(そしてコンピュータ)は 36…Qb1+ 37.Qf1 Qxa2 と指し 37…Rd1 38.Rc8 からの頓死の罠を避けるだろう。

ベルンシュテイン対カパブランカ
サンクトペテルブルク、1914年
 36.Rxc3

 ところが偉大なキューバ選手は次の手で投了に追い込んだ。

36…Qb2!

 これは私の知る限りクイーンが相手のルークとクイーンとを「両取り」にする唯一の例である。要するに両方の駒に当たりをかけ、相手はその一方しか守れない。37.Rc2 なら 37…Qb1+、また 37.Qd3 なら 37…Qa1+、そして 37.Qe1 なら 37…Qxc3 である。実戦の形としては純粋派の望めるほぼ完璧で無駄のないものだった。

(この章・部終わり)

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「ヒカルのチェス」(255)

「Chess Life」2011年11月号(1/2)

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2011年米国オープン
レンダーマンが決定戦を制して優勝

オランダ防御 (A85)
FMカジム・グラマーリ (2438)
GMヒカル・ナカムラ (2848)
第112回米国オープン、第5回戦

1.d4 f5 2.c4 Nf6 3.Nc3 g6 4.h4 d6 5.h5!?

 西半球で最高のレイティングを持つ選手に対してやる気満々の指し方である。この戦法は「いす取り遊び戦法」として知られていると聞かされたが、私が当初考えていたよりも危険なようである。

5…Nxh5 Rxh5

 この手は過去5年間で80%というとんでもない勝率をあげている。誰か知っていた?

6…gxh5 7.e4

7…c6

 ユディット・ポルガーは2010年メキシコ国立自治大学での4強快速戦でトパロフを相手に 7…Be6 と指した。その試合は彼女が勝ったけれども、布局のあとの局面はあまり威張れたものではなかった。8.Be2 Bf7 9.Bxh5 Bxh5 10.Qxh5+ Kd7 11.Nf3 Qe8

これは快速戦だったけれどもトパロフがなぜf5のポーンを取って Qb5 と指さずに 12.Qh3 と指したのかまったく理解に苦しむ。

8.Qxh5+ Kd7 9.Qxf5+ Kc7 10.Qa5+ b6 11.Qa3

 この手は新手である。それまでの白はクイーンを他の地点に動かしていた。白は戦力損だけれども交換損の代償は明々白々である。白は中央が好形でポーンが1個多く、黒はキングが万全でない。

11…e5 12.Be3

 12.d5 で …c6-c5 突きを誘うのも一つの手段で、12…c5 13.Be3 Kb7 14.O-O-O のあと黒がクイーン翼の駒をどのように配置するのかは判然としない。

12…exd4 13.Bxd4 Rg8 14.O-O-O Kb7 15.g3 h5 16.Be3 Qf6 17.Qb3 Be6 18.Nge2

 黒はなんとか駒の一部を出すことができた。しかし困難はまだ残っている。白は駒を調和よく展開しd列に強い圧力をかけていて、まもなくヒカルのキングに襲いかかる用意ができている。

18…Nd7 19.Nd4 Bh6 20.Bxh6 Qxh6+ 21.Kb1 Ne5?!

 この試合はしょせん快速戦である。ヒカルが何を見損じたかかいもく分からないが、白の当然の応手のあとナイトが退却を余儀なくされる。

22.f4 Nd7 23.Nxc6!?

 ジョージアのFMは大胆にもナイトを切ってきた。ジョージアはアトランタのある州の方で(いつもと違って)国名の方ではない。23.Qa4 は 23…Rac8 24.f5(もうちょっと思い切った手は 24.Ndb5 cxb5 25.Nxb5 a5 26.Nxd6+ Kc7)24…Nc5(24…Bf7? は 25.Ndb5 で試合終了)25.Qa3 Bd7 26.b4

で大乱戦だがともかくも白が有利のはずである。

23…Nc5!

 これは実戦的な好判断である。黒はナイトには触らないで代わりに自分の駒を戦線に出して白の戦力を自分のキングから追い払うことに専念している。23…Kxc6(白に手段が豊富にあるときには切ってきた駒は取りにくい)24.f5(24.Nb5!? Nc5 25.Rxd6+ Kb7 26.Qd1 という攻撃も成立するようである)24…Nc5(24…Rxg3 25.Qa4+ Kb7 26.Rxd6 Rc8 27.fxe6 Nc5 28.Qd1

も可能で、白は駒割は互角になったが自陣が少し散漫になっている)25.Qc2!(コンピュータの好手)25…Bf7 26.b4

白の猛攻が続く。

24.Na5+ Kc8

 24…Kb8 25.Nc6+ はたぶんヒカルの読み筋ではない。

25.Qb5 Bd7

 そしてカジムはここで妙手を見逃した。

26.Nc6

 その妙手とは 26.Bh3!! である。26…Bxh3 27.Qc6+ Kb8 28.Rxd6 Qg7 29.Qd5!

黒はほとんどが Nc6 から生じる無数の狙いに対してまったく防ぎようがない。白にとって楽しい局面である。29…Rc8 30.Nc6+ Rxc6 31.Qxc6 Bd7 32.Qd5 Qxg3 33.Qe5 Kb7 34.b4

これで白が優勢のはずである。どの程度の優勢かは別の問題である。

26…Rxg3 27.Nd5 Qe6 28.b4 Qxe4+

29.Kc1??

 これは時間に追われての悪手ではないかと思う。カジムは手に汗を握るようなチェスを指してきた。しかしヒカルは手段を尽くして受け、相手の悪手を咎めるのに容赦しない。正着を見つけるのは非常に困難だった。29.Kb2 Kb7(29…Qe8! は闇試合に突入する。コンピュータは引き分けになると言うが両対局者ともおそらく残り5分未満[または少なくともカジムはそうだった]と考えられる。30.Nf6 Qe3[30…Bxc6 は 31.Nxe8 Bxb5 32.Nxd6+ Kb8 33.Nxb5

となって、黒のa8のルークがひどいので白は悪いわけがない]31.Nxd7 Qf2+ 32.Kb1 Ra3 33.Nxa7+ R3xa7[33…R8xa7 は 34.Nxb6+ Kd8 35.Rxd6+ Ke7 36.Nd5+! Kf7{36…Kxd6 は 37.bxc5+ Qxc5 38.Qe8

となって、チェスソフトのハウディニによれば明らかに引き分けである。すごい。}37.Rf6+ Kg7 38.Rg6+!! Kh7 39.Rh6+ Kxh6 40.Qc6+ Kh7 41.Nf6+ Kg7 42.Nxh5+

となって、黒はこの奇妙な永久チェックから逃れられない]34.Nxb6+ Kd8 35.a3! Rxa3 36.Rxd6+ Ke7 37.Rd7+ Nxd7 38.Qxd7+ Kf6 39.Qd6+

となって永久チェックがかかる)30.Na5+ Kb8(最善手は 30…Kc8 31.Nc6 で引き分けになる)31.Nc6+ Bxc6 32.Qxc6

黒は有効なチェックがないので負けになる。

29…Kb7 30.bxc5 Bxc6 31,Qb2 dxc5 白投了

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(この号続く)

2012年02月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(110)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段(続き)

 レシェフスキーのようにフィッシャーは次の最下段の狙いの古典的実例2局をよく知っているのは確実だった。違いはどう見ても安全で穏やかな局面で危険を感じとることにある。

アダムズ対トーレ
ニューオーリンズ、1925年
 19…Qd7

 黒の成すべきことは最下段での詰みを防ぐことだけで、前途は非常に明るい。しかしそれは無理な注文というものだった。

20.Qc7!! Qb5

 白クイーンは見えない盾によって守られている。即ち黒のクイーンとクイーン側ルークはe8の地点の防御に必要だからである。

21.a4 Qxa4 22.Re4!

 新たな揺さぶりが来た。今度は黒のクイーンと「キング側」ルークが最下段を守らなければならない。だからこのルークを取ることはできない。

22…Qb5 23.Qxb7! 黒投了

 黒クイーンにはe8の地点を守り続けられる地点がなくなった。クイーンやルークのような強力な駒の繊細さ(第7章「がさつなクイーン」を参照)はチェスの不可解な皮肉の一つである。

(この章続く)

2012年02月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(109)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段(続き)

 弱い最下段のために「強者がどのように倒れたか」がインターゾーナル大会のこの試合に劇的に表れている。フィッシャーはこの大会から世界選手権戦まで駆け上がった。彼の宿敵のサミー・レシェフスキーはフィッシャーから番勝負を「勝ち取った」ただ一人の男としての栄誉を得ているが、1度ならず2度までも最下段の策略を見落とした。(彼のフィッシャーとの番勝負はやはり主にピアティゴルスキー夫妻の後援により実現できたが、フィッシャーが論争により棄権したとき建前としてはレシェフスキーの勝ちが宣告された。)

レシェフキー対フィッシャー
パルマ、1970年
 28.Qd7

28…Qf4!

 この手は二重の驚きである。というのはこの手は白の Qxf7+ からの詰みの狙いも防いでいるからである。以前に見たように受けの手が狙いも含んでいるときは、その狙いの威力を見逃す奇妙な心理的傾向がある。

29.Kg1?

 白は自分の攻撃が無駄手だったことを認めてクイーンをb5の地点に引くべきだった。

29…Qd4+ 30.Kh1 Qf2!

 今度は最下段を守る手段がない。31.Qg5 でも 31.Rg1 でも 31…Re1 で壊滅する。白は投了した。

(この章続く)

2012年02月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(160)

「The British Chess Magazine」2010年11月号(2/2)

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チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

団体戦における監督の役割(続き)

 要点をいくつかの図を用いて説明しよう。

 この局面はちょうどルーク同士を交換したところである。手番の白が引き分けを申し立てた。自分が大会監督だとして承認するだろうかというのが問題である。

 この局面は理論的に引き分けだけれども、白はどのようにして引き分けにするのかをやってみせなければならない。もし白が申し立てたとき数秒以上時間が残っていれば、引き分けの申し立ては却下され黒の勝ちが宣告されるべきである。

 1、2秒しか残っていなければ、キングがh1の地点に向かってできるだけそこに近くとどまるということを「すぐに」白が説明することを許してもかまわない。

 白はビショップ得で、局面が閉鎖的なので引き分けを申し立てた。何手か駒の往復がかわされていれば、引き分けが認められるべきである。しかしこの局面が現れた直後ならば、黒に勝ちが宣告されるべきである。1…Na7 2.Bf3 Nb5 3.Be2 Nxa3 なら 4.bxa3 b2 で黒が勝つ可能性がある。白がきちんと守れるかもしれないけれでも、それを証明する機会を自ら放棄した。

 同じことで、黒の引き分けの申し立ても白がh5で駒を切って2ポーンを取る可能性があるので却下されるべきである。

 ここで黒が引き分けを申し立てた。ここでは棋譜が非常に重要である。この局面は理論的に引き分けである。しかしきちんと指すことは決して容易でない。

 [編集部注 確かに容易でない。GMキース・アーケルは実戦で17回この収局になって17回勝ったと私に言っている]

 理想的には黒は50手指してから引き分けを申し立てるべきである。しかし残り時間によってはそうできないかもしれない。こういう状況のときには誰かに棋譜をとってもらうのが望ましい。しかし棋譜をとる者は指した手数を黒に知らせてはならない。そして黒は時計の旗が落ちる寸前で引き分けを申し立てる。50手以上指しているなら引き分けにするのが正しい判定であることは明らかである。もし50手に達していなくて50手までに詰めることができないことが明らかならば、引き分けにするのが正しい。10手や15手くらいしか指されていないならば、黒は相手に勝つ機会を与えていないので負けにしなければならない。同じ局面が何度も現れていることが棋譜から分かるならば、やはり引き分けにすべきである。

 この局面で白が引き分けを申し立てれば自動的に引き分けを認めるべきである。しかし白はどうやっても負けにならないので、時計の旗が落ちるまで指し続けそれから引き分けを申し立てる方がはるかに賢明である。

 白が指し続けるときはもちろん次の局面のように必ずすべての可能性を完全に熟知していなければならない。

 白はいつでも引き分けを申し立てることができ、認められるべきである。しかし白が時計の旗が落ちるまで指し続けそれから引き分けを申し立てたら、黒が白キングを詰める可能性があるので却下されるべきである。これはいかに非現実的かは関係ない。合法的な手の連続によって詰めることができるということだけが重要なのである。

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訳注 毎手時間加算方式でない場合の話のようです。

(この号終わり)

2012年02月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(108)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段(続き)

 時には最下段の弱点によりクイーンが釘付けにされる恐れのために動きが不自由になることがある。次の局面でフィッシャーの相手は単に単純化を図るだけで不利の局面を救うことができた。

フィッシャー対ドナー
サンタモニカ、1966年
 29…Qf5

 有名なピアティゴルスキー杯大会の前半で精彩を欠いたフィッシャーはいくつかの試合で優勢の局面から勝ちきることができなかった。この試合では弱い最下段のためにクイーンの交換になる相手の手筋を見落としただけでなく、「相手の」引きこもったキングにつけ込んだ手段を見つけることもできなかった。

30.Bd3? Rxc2! 31.Bxf5 Rc1

 異色ビショップの収局になるので両対局者は引き分けに合意した。30.Qb1 と指していればフィッシャーは勝つ可能性が残っていた。30…Rxc4 は黒の最下段の守りが不十分なために 31.Qb8+ と指せる。

 ところでこれはジャクリーン/グレゴール夫妻が主催した2回目の国際大会だった。二人はフィッシャー効果で大会や番勝負の開催資金が広く集まるようになる前のチェスの伝統を支えた。

(この章続く)

2012年02月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(107)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段(続き)

 驚異の全勝優勝を成し遂げた全米選手権戦の初戦でフィッシャーは自分の閉じ込められた危険な状態のキングにつけ込んだ鮮やかな手筋を許すところだった。

メドニス対フィッシャー
ニューヨーク、1963-64年
 23…Rd7

 幸いなことに相手はその手に気づかず、多くの解説者もそうだった。前述の局面のようにルークが最下段を離れたことにより次の手が生じていた。

24.Nc5!

 Qe8# があるのでこのナイトは取られない。クイーンも 24…Rxe7 25.dxe7 Re8 26.Rd8 で黒がルークを守る手段がなくなるのでやはり取られない、メドニスは次のように指して長い収局を負かされた。

24.Qg5? Qxg5 25.Nxg5 f6

 これで最下段の危険は永久になくなった。フィッシャーは11戦全勝で優勝した。

(この章続く)

2012年02月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(11)

「Chess Life」2003年2月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

クイーン翼ギャンビット拒否/タルタコワ戦法(続き)

b)8.Be2

 (1987年セビリアでのカスパロフ対カルポフの世界選手権戦第18局より)

8…Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.b4

 白はクイーン翼で少数派攻撃を始めた。

11…c5

 もっと激しい局面を望むなら 11…c6 がお薦めである。1997年ベオグラードでのローチェ対クラムニク戦では 12.O-O a5 13.bxa5 Rxa5 14.a4 c5 と進んだ。

12.bxc5 bxc5 13.Rb1

13…Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7

 この局面はカスパロフとカルポフの3度の世界選手権戦でお互い色を違えて何度も現れた。

16.Qd3

 1985年モスクワでの両者の第42局では 16.Qc2 Rfc8 17.Rfc1 Bxb5 18.Nxb5 Qc6 19.dxc5 Nxc5 20.Qf5 Qe6 21.Nfd4 Qxf5 22.Nxf5 Ne6 と進んだ。白の方が指しやすいが黒は引き分けに持ち込んだ。

16…Rfc8 17.Rfc1 Rab8 18.h3 g6?!

 この手では 18…c4 19.Qc2 Bxb5 20.Nxb5 Qa5 と指す方がよく互角の形勢である。

19.Bxc6 Rxb1

 19…Qxc6? は悪手で、20.Rxb8 Rxb8 21.dxc5 Bxc3 22.Rxc3 Nxc5 23.Qc2 Rc8 24.Nd4 のあと 25.Nb3 で黒のナイトが取られる。

20.Qxb1! Qxc6 21.dxc5 Qxc5 22.Ne2

 d5の孤立ポーンが弱いので白がいくらか優勢である。

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2012年02月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(106)

第3部 競技の名前(続き)

第13章 必殺の最下段

 私の推測では他のどんな形よりも最下段での詰みが狙われ実際に起こっている。この単純な計略の苦い経験にもかかわらずマスターやグランドマスターはそのせいで困難に陥り続け現実に詰まされている。初心者は早い段階でキングの「逃げ道」を作っておくように言われる。しかしそんな時にはいつも他にもっと火急のことがあるように見える。フィッシャー自身も弱い最下段で何度か苦杯をなめたことがある。しかし他者の誤りにつけ込むことの方が格段にうまかった。

 本書には最下段の問題が他の手筋の「オードブル」になっている例がたくさんある。次の局面ではメインディッシュになっている。

アーロン対フィッシャー
ストックホルム、1962年
 29.Rd2

29…Rxc3! 白投了

 30.bxc3 Qb1+ のあと白はルークとクイーンをさしはさむことはできるが詰みは避けられない。

(この章続く)

2012年02月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(32)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

45 過去の亡霊 205ページ
『5…Nxd5 は実戦から姿を消した。』

英文『5…Nxd5 is practically extinct.』

大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」によると
1.[動詞より後で]実際的に Try to view your situation practically. 実際的観点から自分の立場を見るようにしなさい。
2.[文修飾]実際には Practically, the task is more difficult than you think. 実際問題として、その仕事は君の考える以上に困難だ。
3.[修飾する語の前で]ほとんど He was practically self-educated. 彼はほとんど独学だった。
「実戦から」なら 5…Nxd5 is extinct in practice. となるはず。

試訳『5…Nxd5 はほぼ姿を消した。』

46 楽勝 211ページ
『あと十数手で白が勝った。』

ちょうど10手後の32手目で白の勝ちになっている。

英文『White won in ten more moves.』

例えば I need two more years. という英文なら「もう2年必要だ」という訳になる。

試訳「あと10手で白が勝った。」

47 ジンクス? 216ページ
『手損ゆえに良くない。』

英文『time-consuming and hence weaker.』

試訳「手数がかかるので緩手である。」

2012年02月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(105)

第3部 競技の名前(続き)

第12章 連結(続き)

 敵陣のh7/h2の地点におけるクイーン切りはルークが「連結態勢」にあるときはいつでも狙い筋となる。攻撃側は防御側にどんな割って入る手があるかを読んでおかなければならない。この主題の有名な実例が映画の都での「交霊会」とうまく命名された目隠しチェスに現れた。

アリョーヒン対ボロチョフ
ハリウッド、1932年
 23…e5

24.Ne6! 黒投了

 アリョーヒンは達人級の選手たちの間で流行したそっけない口調で次のように解説した。「プロブレム作家でないのでこれがまさしく『プロブレムの手』なのかは分からない。しかし効果的であることは確かである。」このナイト跳びはプロブレム愛好家たちによく分かる用語では、筋を通す(g8に利かせる)と同時に(白ルークに当たっている黒ビショップの)筋を閉じて 25.Qxh7+ から 26.Rh3# を狙っている。筋の開通と筋の閉鎖という用語は読みの助けになるだろうか。このような単純な手筋ではたぶんならない。しかし私は大会の試合の緊迫した場面では読んでいる手の理由づけがそれぞれはっきりと言葉にできれば、変化の迷路をもっと効率的に解決できることがよくあることに気づいている。選手は次のように嘆くことが多すぎる。「最初に読んだ手を指した。そして敗着だと却下した。しかしそのあとなぜ却下したのか忘れてしまった。」

(この章終わり)

2012年02月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(104)

第3部 競技の名前(続き)

第12章 連結(続き)

 フィッシャーが棋歴の初期にやはり犠牲になったキング翼攻撃でも連結の威力がよく表われている。

ウンツィカー対フィッシャー
ブエノスアイレス、1960年
 19.Qg5

 20.Qxh5+ の狙いには受けがない。なぜなら黒はh7の地点に利いている白の2駒を消しても白ルークの参戦を防ぐことはできないからである。

19…Nxd3+ 20.Rxd3 gxf6 21.Qxh5+ Kg7 22.Qg4+! 黒投了

 22…Kh7 23.Rg3 のあと二つの列での詰みの狙いのために黒はクイーンを切らなければならない。

(この章続く)

2012年02月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(254)

「Chess Life」2011年9月号(6/6)

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宿敵(続き)

見せ場と試合解説(マスターチェス7000を援用)(続き)

 米国選手権戦が翌月オクラホマ市で開催された。名局賞が9回戦の各回戦ごとに与えられ、シャバロフは第4回戦のナカムラ戦の勝利でそれを得た。これはシャバロフにとって制覇へのはずみとなり、(5-0の出だしから)7-2の成績で単独優勝した。次の局面はその対戦からで、白番のナカムラが33手目を指すところである。

 白の手番

 黒がこの試合で名局賞をもらったことは上述のとおりだが、実際このあと6手しか続かなかった。しかし私が最初にこの局面を見たとき、黒が本当にここでそんなに優勢なのかといぶかった。1972年のフィッシャー対スパスキー戦以来私は局面を分析し解説を並べてみるということを行なってきた。それで分かってきたことは解説で指摘されるべき手が指摘されていない、または指摘があっても不十分であることが実に多いということである。時には逃した機会が言及されていないので挙げられている主要な変化に論争の余地があると感じられることがある。例えばこの試合についてはオンラインで二通りの解説を見たことがある。そしてどちらもこれから私が示す変化を解説していなかった。そうするのはあら捜しをするためでなく、手段に富んだ受けの手を見て欲しいからである。GMロバート・バーンの言葉を引用すれば「ラスカーやシュタイニッツのみごとな受けは私を奮い立たせた。」

 試合は次のように続いた。

33.Rxf7 exd3 34.Rf1

 34.Rf2 の方が実戦に現われた戦術を阻止するのでもっと頑強な受けである。もっともそれでも黒が優勢である。34.Rxd7 は 34…d2 で黒の勝ちになる。

34…Rc4 35.Nc6

 35.Nf3 の方が強硬な受けだった。

35…d2 36.Ne7+ Kg7 37.Rd1 Kf7!

 ナイトが逃げれば …Bf5+ がある。

38.b3 Rc1+ 白投了

 これで黒の駒得になる。

 最初の図の局面に戻って白の最善手の 33.Rdd1 を検討してみよう。この手はどちらの解説でも取り上げられていたが私の考えでは不十分である。次の(A)と(B)はそれぞれの解説である。

 (A)33.Rdd1 Rxf1 34.Rxf1 Rc4 35.Nc6

35…Bxc6(35…e3 なら黒が優勢だが 36.b3 で白にもまだ引き分けの可能性がある)36.b3 Rc5 37.bxc6 Rxc6 38.Rf6! Kg7 39.Re6


これで白がポーンを取り戻す。

 (B)33.Rdd1 Rxf1 34.Rxf1 d5 35.Rc1

これは形勢互角である。白のナイトは理想的な地点にいて動くつもりはない。

 両者の最善の手順を見つけて局面の正しい評価に至ることは、私にとってチェスの一番の楽しみである。なぜならそれによって両対局者と解説者の読みと見落としの両方の評価が増すからである。

 宿敵関係はこれでシャバロフが2ヶ月で黒でナカムラを2回負かし2点リードした。しかしそのあとナカムラは2007年9月のマイアミオープンと2009年米国選手権戦でシチリア防御の戦型の2局を勝った。

 その2局は前述の中盤戦と収局の局面というより、難解な布局の戦法の分析になるのでこの記事の範囲を越えている。関心のある読者は http://www.chessgames.com で(他のサイトでもかまわないが)その2局を見つけるとよい。

「私が指したあと局面がもっと複雑化すればそれは試合が良い方向に向かっているということである。」-アレグザンダー・シャバロフ

対戦結果のまとめ 2004年から2009年まで8局対戦し両者とも3勝ずつあげ2局引き分けている。色別の結果も同じである。ナカムラは8局中5回白番だった。しかしナカムラは2010年の対戦で勝ち1点リードした。

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(この号終わり)

2012年02月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス3

フィッシャーのチェス(103)

第3部 競技の名前(続き)

第12章 連結(続き)

 連結「線」駒(ルーク)の威力はこの簡素な局面に顕著に現れている。

G.J.バウマ作(1966年)
 3手詰み

 このスタディの作者は布局での新手の発見と同じくらい基本的な発見をした。どちらの創造的な作品にも共通しているのは、流行が決して乗り越えられないある真実を表わしているということである。中盤戦の手筋は繰り返し現れるがこのような局面はただ一つである。

 このようなスタディにおける驚異は、少ない駒数によって大戦略が表現されることが多いということである。戦略の絶対的な不足によりその場限りの戦術でなく基本的な構想が要求される。この局面で白が最善の防御に対して唯一の手段で3手で詰めるためには、次のような構想を実行していかなければならない。

 1.初手で黒キングを「盤端」にへばりつかせなければならない。従って 1.Rf7、1.Re7、1.Rb3 または 1.Rb4 のいずれかが初手でなければならない。このうちのどれだろうか。

 2.黒の防御手段はルークが来て詰みになる地点にビショップを利かせるか、キングに隣接する黒枡の一つにビショップを割って入らせるかに限られる。

 3.上記の防御により以下がすぐに除外される。
 3a.1.Re7 Bh6!(詰みになる地点を守った)
 3b.1.Rf7 Bf4!(b8の地点に割って入る)白ルークが「二重に」利いている地点にビショップが行かなければならないのは論理の皮肉というものである。これは「手数の干渉」ということになる。e4のルークでこのビショップを取るとe8で詰ませられなくなる。f7のルークで取ると手数を損するばかりである(プロブレムでは不正解になる)。
 3c.1.Rb3 Be3! 論理は上と同じで、実際 1…Be3 の局面は二つのキングを通る斜筋で盤面を2分すれば 1…Bf4 の局面の鏡像になる。主題のこのような繰り返しはたとえ正確ではなくても「共鳴」と呼ばれる。

 4.それではなぜ 1.Rb4 はうまくいくのか。ビショップは変化3aに似て既に詰ませる地点のa3を守っているではないか。そう、しかし黒は手詰まりに陥っていて、防御に破綻をきたさなければならない。1…Bb2 は 2.Rxb2 と取られる。このスタディの核心は 1…Ka7 2.Rb3! で表面化する。ルークの連結により白はビショップの位置により詰みを選べる。3.Ra4# が狙いになっていて、2…Bd2 には 3.Ra3# 「だけ」が詰ませることができる。キングの移動によりa7の防御地点が奪われていて、2…Be3 がa列の守りにならない。

 これらの変化はこのスタディが行なっている別の「陳述」も裏打ちしている。即ちビショップは列の防御において(どんな目的にせよ)3地点でしか割って入ることができない。チェス盤が本当はいかに小さな世界であるかを見せつけているかのような作品は数多い。

(この章続く)

2012年02月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(102)

第3部 競技の名前(続き)

第12章 連結

 キングに対する攻撃は盤上の幾何により促進されることがある。利き筋が通るとルークとクイーンの直線の威力により多くの詰み筋が作り出される。そしてこの2駒の明白な特色は、詰み筋を見つけるのが容易で防ぐのは難しいということである。

 例えばクイーンとルークがbまたはg列で縦に連結すると詰みの狙いがその列だけでなくa(またはh)列でも生じる(他のポーンと駒はすべて考慮しない)。フィッシャーはそのことを身を持って「学んだ」。

フィッシャー対タリ
ブレッド、1959年
 29.Qxe2

29…Bxg2 30.Nxa6 Qa7+

 黒は白キングにビショップを取らせてg列を素通しにする。

31.Kxg2 Rg8+ 32.Kh3 Qg7 33.Bd1 Re6! 白投了

 3個目の駒の攻撃には耐えられない。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(159)

「The British Chess Magazine」2010年11月号(1/2)

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チェスの作法

国際審判 アレックス・マクファーレイン

団体戦における監督の役割

 最近団体戦におけるチーム監督の役割に関する質疑があった。ほとんどのクラブでチーム監督を選ぶのは車を持ってるから、あるいは脅して必要な人数を集める能力があるからである。このことでクラブを責めることはできない。しかし審判のいない試合でもめごとが起きたときはどうなるだろうか。それは明らかにその団体独自の規則による。しかし多くの者はチーム監督たちが連係して審判を務めるべきだと提唱している。私には管理を行なう大会幹事と残りを行なうチーム監督の両方をクラブが任命するのが妥当だと思える。経験を積んだ地元の審判を主催者が招いてチーム監督の「べしべからず集」の講習会を夕方に開催することも推奨したい。

 大会ごとに違うが一般にチーム監督の仕事をあげると次のようになる。

 ● チームを編成する。

 ● チームのメンバー表を相手チームと交換する。

 ● 結果を指定時間内に主催者に報告する。

 ● 持ち時間、ケータイに関する規則など大会独自の規則をチームメンバーに周知する。

 ● チームの結果の状況をチーム内に助言する。

 最後の項目を補足すると、監督は通常はチームのメンバーに引き分けの提案をするか受諾するか、または投了することを勧告する資格がある。これは対戦に関する状況にだけ基づいて、簡潔な情報だけを与えなければならない。対局中に口を出したりしてはならず、局面に関する情報も選手に与えてならないことはもちろんである。選手に伝えてよいのは「引き分けを提案しろ」、「引き分けを受諾しろ」または「投了しろ」である。例えばある選手から引き分け提案を受諾すべきかどうか聞かれた場合、監督は「そうしろ」、「そうするな」またはその選手にまかせると答えるべきである。大会規則は監督から会話を始めることを禁じているかもしれない。もっともチームの現在の成績を選手に伝えてその選手がヒントにするのを期待するのは許されているかもしれない。

 大会規則で当該選手の承諾なしに監督が結果に合意するのを許すのは考えられない。監督同士が対戦の終わり頃に結果のやり取りをするのはいかにやりたくて仕方のないことかもしれないけれども、通常は当該選手たちの同意がなければひんしゅくを買う。

 『監督は通常はチームのメンバーに引き分けの提案をするか受諾することを勧告する資格がある。』

 大会に指しかけまたは判定がある場合、選手は監督が交渉する機会を得るまで結果に同意しないのが賢明である。

 以前に私のクラブが障害者を多く抱えるクラブと対戦したことがあった。このチームは全試合を自分たちの地元で対戦していた。1日目の終わりで指しかけが3局あった。相手側は指し継ぐべきだとうるさかった。しかし正式にはこちらの地元でやるべき対戦でありその3人の選手は全員健常者だから我々の所に来るべきだとこちらの監督に指摘したとき、すぐに結果が合意された!!

 しかしどの監督でもいつか直面することが一つある。それはFIDEのチェス規約の10.2項と付則Dによる残り2分での引き分けの申し立てである。もしこれらを大会主催者に送らなければならないと通常は手数料が課される。ほとんどのクラブの会計では時たまの「もめごとの結果」を超えるようなことを歓迎しない。だから結果に合意したりあとくされのないように解決するのはチーム監督の手腕にかかってくる。

 大会の選手のために言えばできるだけ早い段階で申し立てするのが賢明かもしれない。それによって(長い)手順によって自分のやっていることが分かっていることを示す豊富な機会が得られる。しかし審判のいない団体戦では試合は申し立てが成されるとすぐに終わる。だから申し立てはできるだけ遅くすべきである。

 持ち時間の最後の2分で申し立てをするのは良い慣習である。このようにして引き分けを申し立てる前にまず相手に引き分けを提案するならば時間を大いに節約しみんなの(監督も含めて)手間を省くことになるかもしれない。

 『審判のいない団体戦では試合は10.2項による申し立てが成されるとすぐに終わる。』

 引き分けを申し立てる選手はその根拠を明らかにすべきである。規約による「唯一の」正当な根拠は(a)相手が通常の手段によって勝てないこと、かつ/または(b)相手が通常の手段によって勝つための努力を何もしていないこと、である。局面が最善の手順でも引き分けになること、または局面が理論的に引き分けであることという根拠だけで申し立てをするのは認められないしすべきでない。

 かつてある選手が交換得で持ち時間が13分残っていて引き分けを申し立てるのを目撃した。残り2分になるまで申し立てできないと言われて彼は両隣の選手たちから指し続けるように促されたにもかかわらず何もしないで座っていた。彼の言い分は勝勢なので引き分けを与えられるべきだというものだった。相手は反撃策があるので引き分けにしたくないと主張した。もちろん相手の勝ちが宣告された。おそらく勝ちの局面だったにもかかわらず、その選手はその局面でどう指したらよいか分かっているということを示さなかった。実際彼の(不)作為は彼がどう指したらよいか分かっていないことを示していた。この選手がどういう動機でこういう行為をとったのかはちょっとした謎のままである。

 『局面が最善の手順でも引き分けになること、または局面が理論的に引き分けであることという根拠だけで申し立てをするのは認められない。』

 相手が通常の手段により勝つことができないからという申し立てに対し引き分けが認められる理由は次のとおりである。

 (i) 申し立てをした選手の方が明らかに優勢で、相手は勝てるかもしれない反撃を行なう実際的な手段がないこと。

 (ii) 局面が引き分けになることが確かであること。

 (iii) 互角か戦力の劣る局面で引き分けを申し立てた選手がどのように引き分けにするかを完全に理解していることをはっきりと説明したこと。

 相手が通常の手段により勝とうとしてこなかったという根拠に基づく申し立てに対し引き分けを認める妥当な理由は次のとおりである。

 (i) 相手が勝とうとする姿勢を見せず、時間で勝とうとして単に駒を往復させるだけで何の進展も図らなかったこと。

 (ii) 持ち時間が2分未満の選手からの引き分けの申し出を断ってから、その相手が明らかに不利な局面にもかかわらず反撃を図ろうとしてこなかったこと。

 「2分規則」のもとでなされた引き分けの申し出を重要と考える理由のこの実例一覧を吟味すると、上記(b)の申し出の理由のすべてを含め上述のうちのいくつかは清書した棋譜またはそれに替わり得る証拠によって実証しなければならないことは明らかである。

 これらの申し立ての多くが認められるかは棋譜にかかっているので、最新の棋譜をできるだけ長く保存しておくことが肝要である。8.4項では残り5分を切った選手が棋譜を取ることを止めることを認めている(例外あり)。団体戦では5分未満になっても棋譜をつけ続けるのが賢明である。

 たぶん少し賢明でないが相手の棋譜に頼ることはできる。チーム監督または指名された他の誰かがその選手のために棋譜を取ることはかまわない。助言の嫌疑を避けるために試合が終わるまで指し手も手数もその選手に見えないようにすべきである。

 合意で結果を得ようとする際に監督たちは引き分けを申し立てた選手の棋力をいくらか考慮してもよい。これは選手たちが監督より強い場合にはさらに複雑なことになるかもしれない。大まかに言うと申し立てた選手が弱いほど上記(a)の申し立てに必要な証明の基準は高くなる。監督たちは相手の筋の通った反駁と共に、申し立て者がそれを支援する口頭での弁明も考慮に入れてよい。

 チーム監督たちだけでなく当該選手たちも結果に合意できなければ、FIDE規約の付則Dに記載された手続きに従うべきである。(両選手によって確認された)申し立ての詳細、それと元々の根拠の簡潔な説明、そして棋譜や目撃者がいればその話のような(両者からの)関係資料を大会運営者に提出すべきである。両対局者が正確だと認めれば書き直した棋譜を用いてもよい。合意がなくても部分的な棋譜(例えば白の手だけの棋譜)でも判定の過程の助けとなるかもしれない。

 『団体戦では5分未満になっても棋譜をつけ続けるのが賢明である。』

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訳注 毎手時間加算方式でない場合の話のようです。

原題『Ask the Arbiter』

(この号続く)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(101)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 フィッシャーは次の局面で急に愕然とさせられた。白は黒クイーンをg5のポーンの守りからはずさせるだけで良くそれで勝ちになった。しかしどのようにするのか。

オラウフソン対フィッシャー
ブレッド、1959年
 36…Kh7

37.Ra1! Qf4+

 黒はクイーン同士を交換して負けの収局に入らなければならなかった。37…Qxa1 と取ると 38.Qxg5 で1手詰みが受からない。37…Qd2 とかわしても 38.Rd1! で同じ狙いがもう1手しつこく続く。

 カパブランカは危険な局面を「嗅ぎとる」ことができ、相手がその危険性に気づく前に自分のキングの安全を図ることができると言われていた。しかしそれは直感または「嗅覚」の問題というよりも戦力の均衡の問題である。これまでの実戦例が示しているように、キングのいる陣地に強行侵入することは駒またはポーンを1個多く戦闘に投入する問題であることが普通である。

(この章終わり)

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