2011年12月の記事一覧

フィッシャーのチェス(069)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 局面によっては限られた戦力が、創作された配置のようになっている。

フィッシャー対ペトロシアン
ブレッド、1961年
 35…Kc6

36.Kc4! 黒投了

 37.Ra7# が受からない。古きよき時代には白は36手目を指したあと黒には無意味な …Rh4+ しかないので2手詰みを「宣言」したものだった。現代の選手たちは詰みの宣言などしない。喜んで詰ませるだけである。ここに現れたルークとビショップのチームは典型的なものだが、この局面が創作問題なら多くの選手はビショップがa8の地点に行けるはずがないとけちをつけるだろう。

(この章続く)

2011年12月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(249)

「Chess Life」2011年9月号(1/6)

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宿敵

 チェスの一流有名選手は他のどんなプロの大会よりも賞金と栄誉を懸けて直接対決で決着をつけることがしょっちゅうある。通信チェス国際マスターのバート・ギボンズが二人の選手の棋歴をとおして記憶に残る試合を振り返る。

GMヒカル・ナカムラ
1987年生まれ、日本・大阪府出身、FIDEレイティング(2010年11月)2741(15位)

 ヒカル・ナカムラは10歳で国内マスター、13歳で国際マスター、そして15歳でグランドマスターになった。米国選手権を2度獲得し、ヨーロッパではいくつかの国際大会で優勝した。2010年にトルコで開催された世界チーム選手権戦では世界第6位の選手のボリス・ゲルファンドを撃破して第1席の金メダルに輝いた。最も輝かしい優勝は2011年のタタ製鉄大会で、アーナンド、カールセン、その他のスーパースターたちを抑えた。ブリッツ・チェスでの成績も傑出していて、オスロでの2009年BNバンク大会では当時の世界ブリッツチャンピオンのカールセンを3-1で破って優勝した。

GMアレグザンダー・シャバロフ
1967年生まれ、ラトビア・リガ出身、FIDEレイティング(2010年11月)2591(29位)

 アレグザンダー・シャバロフは元世界チャンピオンのミハイル・タリと同じ市(リガ)で生まれた。「シャバ」はタリと共に研究し、難解な局面を求めることでも知られている。GMニック・ド・ファーミアンはある局面をひどい泥仕合でシャバロフかフリッツしか指しこなせないとして、同僚GMがシャバロフに抱く敬意を表わした。シャバロフは米国選手権を2003年と2007年の2回単独獲得し、1993年と2000年は同点優勝した。そしてシカゴオープン、北米オープン、ワールドオープン及び米国オープンにも単独または同点優勝している。

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(この号続く)

2011年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(068)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 局面の複雑さはナイト・ルーク詰みの単純版を見えにくくすることがよくある。最も単純なのは隅で起こり、タイマノフでさえフィッシャーとの番勝負第1局で重大さを軽視していた。

タイマノフ対フィッシャー
12番勝負第1局、バンクーバー、1971年
 35…Qd7

36.Nd4

 ラルセンが指摘したように白は 36.Qg5 と指して中盤戦に留まるべきだった。白は双ビショップともうすぐ1ポーンを取れることで有望な収局になると誤った考え方をしていた。黒のナイトを考慮に入れていなかった。

36…Qd6+ 37.g3

 誤算の最初のかぎ、それはf3の地点に空所ができたことだった。

37…Qb4 38.Nc6 Qb6

 この退却には大きな心理的作用があった。39.Qxa7+ からの詰みの狙いがあるので白は黒の狙いの …Qe1 をはねつけたと信じ込んだ。また次の「透視」の手筋も自慢だった。しかし白は重大なことを見落としていた。それは白のキングが詰み筋に入るということだった。

39.Nxa7 Qxe3 40.Bxe3 Re1!

 すべて取り立てていうこともなさそうに見える。しかしビショップはf3の地点を守る地点を見つけられない。実際に白が封じた手は・・・

41.Bg4 白投了

 黒は 41…Ne5 のあと白枡ビショップを消して …Nf3 と入りdポーンを突き進める。白が白枡ビショップを別の斜筋に行かせれば典型的な隅での詰み形ができる。…Ne5 から …Nf3 による詰みに対しては受けがなく、h4 と突けば別のナイトがg4の地点に侵入する。

(この章続く)

2011年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(067)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 この同じルークとナイトのチームは他の並びでも協力し、敵キングをあっさり惨殺することになる。

フィッシャー対ドゥランオ
ハバナ、1966年
 31…Rd8

32.Rh3! Bf8

 このどうということもなさそうなh6ポーンの守りは必要ではあってもf6の地点を無防備にした。

Nxa5!

 ここで黒は危険に気づきルークをc7の地点に引いた。さもないと次のように詰まされる。

33…bxa5 34.Nf6+ Ke7 35.Rb7+

 二つのルークは死をもってしても自分たちのキングを救うことはできない。

(この章続く)

2011年12月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(154)

「Chess」2011年7月号(8/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準決勝第2組
グリシュク 2747 5½-4½ クラムニク 2785

 クラムニクはこの番勝負の始まりでは大本命だった。10年以上も前の輝かしい番勝負の記録があり、その中には史上最強選手と広く認められていた男に対する番勝負唯一の人間の勝利もある。だから勝利以外はほとんど考えられなかった。しかしそれにもかかわらず・・・。なぜだろう?クラムニクはここ何年か絶好調ではなかった。それに両GMの間には40点弱のレイティング差しかなかった。グリシュクに分がないとする別の理由は彼が時間の一部を使ってポーカーに情熱を注ぐのが好きな「半ば超然とした」スーパーGMという感覚があるからだろう。

 賭け率がどうであれ勝利したのはグリシュクだった。誰もがその達成方法にわくわくしたわけではなかった。戦略は白では引き分けに応じ黒では頑強に受けることによって延長戦に持ち込むことのように見えた。しかしそれは起こったことの単なる理屈づけかもしれない。グリシュクは番勝負が進むにつれて「正しいチェスを打倒する」ための「邪悪な」策略に着手するよりも実戦的なやり方を取ったのだろう。それに加えて彼が大会方式にのっとって指したことは非難するわけにいかない。クラムニクにもそれなりにチャンスがあったが単にそれらをものにできなかったということだ。

 正規試合の第4局が分岐点だった。クラムニクはグリシュクの時間切迫にかけて黒のcポーンに大きなリスクを冒した。それは報われるはずだったが 31.Nf4 を見つけることができなかった。

準決勝第2組、第4局
V・クラムニク - A・グリシュク
イギリス布局

1.Nf3 c5 2.c4 Nc6 3.Nc3 e5 4.e3 Nf6 5.Be2

 クラムニクはこの正規試合の第2局では 5.d4 と指した。

5…d5 6.d4 exd4 7.exd4 Be6 8.Be3 dxc4

9.O-O

 イワンチュクは2006年コーラス大会でのアーナンド戦で 9.Qa4 と指して負けた(両者はこの布局でこれまでに2度戦った)。本譜の手の方が本手だろう。

9…cxd4 10.Nxd4 Nxd4 11.Bxd4

11…Qa5

 11…Qd7 12.Bxf6 Qxd1 13.Rfxd1 gxf6 は2002年パンプローナでのボローガン対バリェホ戦で引き分けになったので指されなくなった。

12.Bxf6

 白は …Rd8 でビショップを釘付けにされるのを嫌った。

12…gxf6 13.Re1 Rd8 14.Qc2 Be7 15.Qe4

 クラムニクはきわめて速く手を決めていた。グリシュクは8手目と9手目で熟考したがここでは彼もかなり素早く応じた。

15…Qc5

 15…Qb6!? も考えられる。16.Bxc4 なら 16…Rd4 17.Bb5+ Kf8 18.Qf3 Rg8 で黒キングがf8の地点で安全かは見方の分かれるところである。そして黒駒も相応の働きをしている。

16.Qxb7 O-O

 黒はポーンを返して展開を完了した。黒の双ビショップと活動性が二重ポーンを補っている。

17.Ne4 Qb4 18.Qxa7 Rd7 19.Qe3 Qxb2 20.Rac1

20…Qd4

 20…Qxa2 は 21.Qh6 でもっと危険そうである。

21.Qf3

 シポフはここでは白が不利だと判定し 21.Qf4 f5 22.Rcd1 Qxe4 23.Qg3+ Kh8 24.Rxd7 Bxd7 25.Qc3+ Kg8 26.Qg3+ Kh8 27.Qc3+

と指した方がよいとした。要点は黒が 27…f6? で繰り返しを避けることができないことで、そう指すと 28.Bxc4! で白の勝つ可能性が高いということである。

21…Rc8

 グリシュクは安全策をとった。21…f5!? と指すこともできて 22.Ng3 Bg5 23.Rc2 のときに 23…Qe5!

で有望だった。しかし彼は時間が非常に少なくなっていたしこの手順は判断が難しい。

22.Ng3 Rdc7

 黒は自分の大きな資産を守った。

23.Nh5!? Kh8 24.Rcd1

24…Qb2?

 24…Qc5 ならクイーンがもっと戦場の近くにいる。要点は 25.Nxf6 c3! でcポーンがはるかに脅威になるということである。4番勝負のもう後がない最終局で時間切迫のときにそのような危険を冒すのはあまりたやすいことではない。しかし皮肉なことに黒は一つの危険を避けて二つ目のそれももっと気に入らない危険にさらされるようになる。

25.Qg3 Bf8

 白から1手詰めを狙われていた。c7のルークがただ取りになるので 25…Rg8?? と受けることはできない。25…f5 は 26.Rd2! f4! 27.Qxf4 Qc3

で黒は非常に危ない状態にあり時間不足の中で危険な手を読まなければならない。だから本譜の手でなければならない。

26.Bg4!?

 面白い。クラムニクは二つの手のうち危険の多いほうを選んだ。26.Bf3 ならもっと堅実である。もちろん彼は相手の時間不足に目をつけている。

26…c3! 27.Bxe6 fxe6 28.Nxf6

28…Bg7?

 クラブの選手の大部分はここで 28…Rg7 がひらめいたと思う。そしてこの場合はその判断の方がスーパーGMの判断より優っていた。29.Qe5 Qb7 詰みを狙われたのでこちらも詰みを狙い返す。そうだろう?時にはクラブ選手の単純な考え方の方に理の多いことがある。30.g3 c2 ポーンを突いていけ。31.Rc1 Ba3 せき止めている駒をやっつけろ。32.Nh5 Bxc1 駒を取れ。33.Rxc1 Rd8! そして最下段詰みを狙え。黒が勝勢だ。チェスは単純な競技だが、時にはこれらのスーパーGMが本来よりも難しく見せることがあるようだね。さて、まじめな話に戻って、サーシャ・グリシュクのために公正を期せば彼はあまり時間がなくて真剣に読む必要のあった手の中には101もの変化があった。すべて黒にとってうまくいくということだってある。

29.Nh5 Qb7 30.Qh4

 ここは2個目のポーンを取るのに都合が悪い。30.Rxe6?? なら 30…c2 31.Rc1 Bb2 で黒の勝ちになる。

30…Rg8

 パスポーンを突くのも都合が悪い。30…c2?? なら 31.Rd8+ でたちまち詰みになる。

31.Rd8?

 クラムニクはこの手を世界選手権の望みがついえた瞬間の一つとして回顧するだろう。このときクラムニクは40手まで約10分あった。グリシュクは2分弱だった。31.Nf4! が1手詰めとe6のポーンを狙いg2のポーンを守って、普通のクラブ選手がやはり選択したかもしれない手であり正着だった(もっとも 31.Rb1 も非常に有効である)。31.Nf4 h6 32.Rxe6 のあと黒はたぶん 32…Rgc8 とでも指さなければならない。というのは 32…c2? だと 33.Rxh6+ Bxh6 34.Qxh6+ Rh7 35.Qf6+ Rhg7 36.Ng6+ Kh7 37.Qh4+ Kxg6 38.Rd6+

ときれいに即詰みに討ち取られるからである。

31…Rc8 32.Rxg8+

 32.Nf6 の方が良いが 32…Bxf6 33.Qxf6+ Qg7 34.Rxg8+ Rxg8 35.Qxg7+ Kxg7 36.Rc1 Ra8 37.Rxc3 Rxa2 38.g3

となっておそらく勝つには至らないだろう。

32…Rxg8

 32…Kxg8 33.Qg4 c2! 34.Qxe6+ Kh8 35.Qe8+ Bf8!

は十分引き分けにできるだろうが、ここでの状況では少し危険である。

33.Nxg7 Qxg7 34.Qe4 c2

 黒は引き分けには十分できるが40手に達するまで1分未満しかなかった。

35.Rc1 Rc8 36.Qxe6 Rd8 37.Qb3 Rd2 38.Qb8+ Qg8 39.Qb2+ Qg7 40.Qb8+ Qg8 41.Qe5+ Qg7 42.Qe8+ Qg8 43.Qe5+ Qg7 44.Qe8+ ½-½


グリシュクとの正規試合最終局で 31.Nf4! を見逃したことはクラムニクにとって悪夢だった

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(この号続く)

2011年12月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(066)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み

 チェスのちょっとした予期しない楽しみの一つは、午後遅い頃の盤上に残った少しばかりの駒で詰んでしまうことがあることである。その結末は喜劇的または悲喜劇的なこともあれば息を飲むまたは腹立たしいこともある。この章で読者の参考になることは詰みの網を仕掛ける技法よりもむしろ詰みにはまるたやすさを実感することである。

 収局では進攻ポーンや他の戦力上の考慮に注意が向けられるのが普通である。次の局面でフィッシャーは7段目にポーンを確立しhポーンにも狙いをつけていた。

フィッシャー対サンチェス
サンティアゴ、1959年
 52…Bxb4

 しかし黒は直前の手で自分の苦悶を終わらせる機会を得た。

53.Bd2! 黒投了

 53…Bxd2 と取れば 54.Re7# で詰む。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(065)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンが能力をフルに発揮するには開けた場がなければならないことは明らかである。次の実戦形のスタディでは驚きの初手がそれを物語る。

B.コズドン作、1959年
 4手詰め

 黒の弱みは最下段の弱点で、クイーンで守っていなければならない。それと同時に斜筋とh列での「階段のぼり」の連続チェックも恐れるに足る。しかしどこに白の狙いがあるのだろうか。その答えは・・・黒が手詰まりに陥っているということである。

1.Re1!

 黒がe列の他の地点を避けなければならない理由は以下にあげる諸変化により明らかである。

1…h2 2.Qa2+! Kh8 3.Qxh2+ Kg8 (3…Qxh2 4.Re8#) 4.Qxb8#

 または

1…Qc8 2.Qb3+! Kh8 3.Qxh3+

 または

1…Qd8 2.Qc4+!

 黒クイーンは平凡な理由で最下段の他の列に行くわけにはいかない。

 このようなクイーンの偉業からより大きな喜びを感じるのは誰だろうか。スタディの作者か、それともフィッシャーのような選手か?本章にあげた例のうち「実戦」からのクイーンの捌きは実際には一つも起こらなかった。別の意味ではスタディと局後の検討は棋譜に書かれた手と同じくらい多く「起こる」。そして何百万もの選手の味わう究極の楽しみは、このような小さな名作を並べたり、チェスの最も強力な駒が最も敏感で繊細であることがよくあることを再発見するかもしれない幸運である。

(この章終わり)

2011年12月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(5)

「Chess Life」2002年11月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

2ナイト防御(続き)

マックス・ランゲ攻撃

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.d4 exd4

5.O-O

 代わりの重要な手は 5.e5 d5 6.Bb5 Ne4 7.Nxd4 Bd7、あるいは 5.Ng5 Ne5 6.Qxd4(6.Bb3 は 6…h6 7.f4 hxg5 8.fxe5 Nxe4 9.Qxd4 Nc5 となって黒が少し優勢である)6…Nxc4 7.Qxc4 d5 8.exd5 Qxd5 で互角の局面である。

5…Bc5 6.e5 d5

 6…Ng4 7.Bf4 O-O 8.h3 は白の方が良い。

7.exf6 dxc4 8.Re1+

 8.fxg7 と取るのは 8…Rg8 9.Bg5 Be7 10.Bxe7 Kxe7!(10…Qxe7 は 11.Nxd4 で良くない)11.Re1+ Be6 で黒が優勢になるので時期尚早である。

8…Be6 9.Ng5 Qd5

 9…Qxf6?? は 10.Nxe6 fxe6 11.Qh5+ でc5のビショップが落ちる。

10.Nc3 Qf5

 10…dxc3? は 11.Qxd5 でただ取りされる。

11.Nce4

 11.g4 は 11…Qg6 12.Nxe6 fxe6 13.Rxe6+ Kd7 14.Nd5 Rhe8 で黒の方が良い(もちろん 14…Kxe6 は 15.Nf4+ があるので駄目である)。

11…O-O-O

 黒は 11…Bb6? を避けた。以下は 12.fxg7 Rg8 13.g4 Qg6 14.Nxe6 fxe6 15.Bg5 Rxg7(15…h6 なら 16.Qf3 hxg5 17.Nf6+ Kf7 18.Rxe6 Kxe6 19.Re1+ Ne5 20.Qd5+ Kxf6 21.Qxe5+ Kf7 22.Qe7#)16.Qf3 Rf7(16…e5 17.Nf6+ Kf7 18.h4 h6 19.Ne4+ Ke6 20.h5 Qh7 21.Bf6 のあと白勝ちは1899年ロンドンでのチゴーリン対タイヒマン戦)17.Nf6+ Kf8 18.Rxe6 Kg7 19.Qh3 で白勝勢(1901年ハンガリーでのマローツィ対フォルガーチュ戦)。

 11…Bf8 としてg7のポーンを守る手もある。以下は 12.Nxf7 Kxf7(12…Bxf7 は 13.Nd6+)13.Ng5+ Kg8

14.g4(14.Nxe6? は 14…Re8 15.fxg7 Bxg7 16.Nxc7 Rxe1+ 17.Qxe1 Be5 18.Nd5 Kf7 で白が猛攻にさらされる)となりここで

 a)14…Qg6 は 15.Rxe6 gxf6 16.Qf3 で白の攻撃が順調になる。

 b)14…Qxf6? は有名なフィン対ニュージェント戦(米国、1898年)のように 15.Rxe6 Qd8 16.Qf3 Qd7 17.Re7!! で負ける。

 c)14…Qd5 は 15.Nxe6 Ne5? 16.f7+!(16.Nxc7 は 16…Nf3+)16…Kxf7(16…Nxf7 なら 17.Nxc7)17.Ng5+ Kg8 18.Rxe5! Qxe5 19.Qf3 となりデンカー対アダムズ戦では黒投了(ニューヨーク、1940年)。

12.g4

 12.fxg7 は 12…Rhg8 13.Nxe6 fxe6 14.Bh6 Bb6 で混戦になる。

12…Qe5

 12…Qd5? は 13.fxg7 Rhg8 14.Nf6 で良くない。

13.Nxe6

 13.Nf3 は 13…Qd5 14.fxg7 Rhg8 15.Nf6 Qd6 で形勢不明である。

13…fxe6 14.fxg7 Rhg8 15.Bh6 d3 16.c3

 16.cxd3 Rxd3 は黒が優勢である。

16…d2 17.Re2 Rd3

 いい勝負である。しかし白はキングの囲いのポーンが弱体化しているので注意が必要である。

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2011年12月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(064)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 派手な「階段のぼり」は多くの古典収局で見られる。次の局面は純然たる簡潔さが意外である。

R.バーガー作、1969年
 白先白勝ち

 白クイーンがe4からh4のチェックで「接近」できれば勝てるのは明らかだろう。しかし問題はどうやって手を渡さずに(即ちチェックの連続で)e4の地点に行くかである。

1.Qd5+ Kh2

 キングの行ける所は次の三つの理由のいずれかによりh2かg2に限られる。チェックをかけられたとき Qxh1 によってクイーンを取られるのを避けるため、Ng3+ による両当たりを避けるため、そして Qg3# を避けるため。

2.Qd6+ Kg2 3.Qc6+!

 白クイーンはb7の地点に向かっている。黒は 3.Qg3+ には 3…Kf1 で大丈夫だし、最初の局面で白が空きチェックをかけても空を切るだけである。

3…Kh2 4.Qc7+ Kg2 5.Qb7+ Kh2 6.Qh7+

 これがチェックをかけてe4の地点に至る唯一の経路である。

6…Kg2 7.Qe4+ Kh2 8.Qh4+ Kg2 9.Nf4+ Kg1 10.Qe1+ Kh2 11.Qf2+

 これで次の手で詰みになる。

(この章続く)

2011年12月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(26)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

33 ドロー・マスター 146ページ
『戦略的には白の勝ちだが、細々とした問題がかなり残っている。』

英文『White has a strategically won game, but the technical problems are considerable.』

technical は「細々とした」という意味にはなりそうもない。

試訳『戦略的には白の勝ちだが、技術的な問題がかなり残っている。』

36 譲り合い 162ページ
『43.Rxe5! Ne4+(黒にこれ以上の手が見つからないのが興味深い。43…Ng4+』

英文『43.Rxe5! Ne4+(it’s fascinating that Black has no better discovery; if 43…Ng4+』

discovery は discovered check のことである。

試訳「43.Rxe5! Ne4+(黒にこれより良い開きチェックがないのは白にとって幸いである。43…Ng4+」

37 ドローにしか 163ページ
『控えめな 6…e5』

英文『The sober 6…e5』

試訳「冷静な 6…e5」

2011年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(063)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンは斜筋と横列の「焦点」から正確にチェックすることによって永久チェックを保ち続けることがよくある。同じ大会で上記の対戦の11日前にフィッシャーはパル・ベンコー相手にポーンをひったくり見るからに圧倒的な局面になった。

フィッシャー対ベンコー
キュラソー、1962年
 19.Nxe6

 ベンコーは 19…Bxe6 と取って結局負けた。千日手を望んでいれば(またはそれが見えていれば)次の手順でそれができていた。

19…Bxb2+ 20.Kxb2 Qb4+ 21.Kc1 Qa3+ 22.Kd2

 ここまで白は逃れているように見える。22…Qb4+ とチェックをかけると 23.c3 Qb2+ 24.Bc2 Re8 となって黒は十分乱戦に持ち込める。しかし次の手ならば証明終わりと言える。

22…Qa5+

 なぜなら 23.c3 だとa2の地点からチェックがかかって(23…Qxa2+)、とたんにナイトが落ちるからである。

(この章続く)

2011年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(062)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 開けた盤上でのクイーンには「階段のぼり」という独特の能力もある。初めに斜筋から次に水平に連続して適切にチェックをかけることによりクイーンは望みの目的地に「渡る」ことができる。前出のケレス対フィッシャー戦の局面ではフィッシャーは「反階段のぼり」策を用いた。それはこの凝った名前が暗示するよりもかなりありふれている。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 68…g2

 69.Qb4+ に対してフィッシャーはすぐに 69…Kg7 でなく注意深く 69…Kf7 を選択した。69…Kg7 は 70.Qg4+ から際限のないチェックを招く。チェックのかかる地点のうち唯一守られていない地点からの(白クイーンが利いていなければ当然c4の地点を選ぶ) 70.Qb3+ のあと黒キングは 70…Kg7 71.Qg3+ Kh7 で安息の地を見つけた。しかし既に見たようにケレスは秘策をもう一つ用意していた。

(この章続く)

2011年12月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(248)

「Chess」2011年9月号(2/2)

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ドルトムント・シュパルカッセン(続き)

 実際ナカムラの運は大会終了が近くなるにつれて変わっていった。最終戦の前の試合ではどんじりのゲオルク・マイアーに少し幸運な勝利を収めた。それから最終戦では既に大会優勝を決めていて気楽に指しているクラムニクと対戦した。しかしそれでもクラムニクが捨て駒の代わりに得た代償を無害にするにはナカムラの知力を尽くした積極的な防御が必要だった。この両者が来たる12月にロンドンでまた対戦するのを見られる我々は非常に幸運で、今から手もみして期待している。


最終戦でヒカル・ナカムラ(右)と対局中のウラジーミル・クラムニク。クラムニクは既に大会優勝が決まっていて、この試合で自由奔放なチェスを指したが負けてしまった。

ドルトムント、2011年
V・クラムニク – H・ナカムラ

23.Nfxg5!?

 クラムニクはこの手を気の向くままに指した。

23…hxg5 24.Qxg5 Bg6

 24…Rf5 と指したいところだが 25.Qh4 でビショップを釘付けにされるのが嫌である。

25.cxd6

25…cxd6

 25…Bxe4+ は 26.Rxe4 cxd6 27.Rh4+ Kg8 28.Qh5 Rf7 29.Qh7+ Kf8 30.Rg4

となって白に犠牲にした駒の代償が十分にあるので、実戦の手の方が良い。

26.Ra7 Rc8

 26…Rf7 と受けても大丈夫である。

27.Rxe7

 恐らくこの手はやり過ぎである。27.Bd3 Rc7 28.Rea1 ならいけそうだが、28…Qd7 29.Rxc7 Qxc7 30.Ra3 でたぶん黒の方が良い。

27…Rxc4 28.f3 Rc2+ 29.Kg1 Rc8 30.Ra1 Rf7

 黒は非常に正確な読みが必要だが、ナカムラの戦術能力は定評がある。

31.Qxg6 Qxe7 32.Ng5 Kg8 33.Qh7+ Kf8 34.Ne6+ Ke8

35.Qh5

 35.Qg8+ Bf8 36.h4 なら黒は 36…Qf6! で反撃を開始し、白の防御は心もとない。例えば 37.Rf1 なら 37…e4! である。

35…Bf6 36.g4 Qb7 37.Rd1 Qa6!

 上述の変化のように黒が反撃を開始した。

38.Qg6 Ke7 39.g5 Bh8

 この一手だがぴったりである。

40.Re1 Qa3! 41.Nd4

41…Qxb4!

 チェスエンジンは 41…Rc1!? を推奨するが人間は 42.Nf5+ Rxf5 43.Qe6+ Kd8 44.Qxd6+ Kc8 45.Qe6+ のあと永久チェックにならないかと心配する。

42.Nf5+

 42.Qe6+ は 42…Kd8! 43.Re4 Qb1+ 44.Kf2 Rd7 45.Nc6+ Kc7 で黒が戦利品を得て逃れているようである。

42…Kf8! 43.Rd1

 43.Qxd6+ は 43…Qxd6 44.Nxd6 Rd8 45.Nxf7 Kxf7 で黒が勝つはずである。

43…Rc2!

44.Nd4!?

 たぶんこの手が最善である。44.Qh6+ なら黒は 44…Bg7 45.Nxg7 Qc5+! 46.Kh1 を用意していて、ここで 46… Rh2+! 47.Kxh2 Qf2+ 48.Kh1 Qf3+

というてきぱきした仕上げでクイーンと控えのルークの筋が開通し数手で詰みになる。

44…exd4! 45.Qxc2 Qc3 46.Qe4

 白はクイーン交換が避けられない。46.Qg6 は 46…Qe3+ で上述の解説のように黒が勝つ。

46…Qe3+ 47.Qxe3 dxe3 48.Kg2 Bc3 49.Kf1 Rxf3+ 50.Ke2 Rxh3 0-1


クラムニクは肉体的に他の選手より抜きん出ている。花束を持っているのが選手たちで、クラムニクの隣から右へレ・クワン・リーム、ルスラン・ポノマリョフ、アニシュ・ギリ、ヒカル・ナカムラ、ゲオルク・マイアー。

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(061)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 1903年夏サンフランシスコ機械会館のチェス室である局面が出来上がった。そしてクラブの強豪たちの頭を悩ませた。

J.ドーラン作、1904年
 白先白勝ち

 まず、白は簡単に勝てそうに見えた。戦力は互角だけれども、黒の連鎖ポーンの根元は攻撃にさらされていて黒はクイーンを交換するわけにはいかない。それにもかかわらず黒キングが閉じ込められていることは最強の防御手段になっていた。つまり黒はケレス対フィッシャー戦の結末のようにクイーンが盤上に残ったまま容易に手止まりにすることができた。

 対局者の一人のジェームズ・ドーランは最終的にこの局面の機微を完全に理解し、スタディとして発表した。サンフランシスコのマスターのW.R.ラブグローブ博士は全国を回っていたハリー・ネルソン・ピルズベリーを公開対局で破って伝説の人になっていたが、完全な解を最初に見つけた。「文芸ダイジェスト」誌は1904年にこの局面を販売促進のための懸賞に取り上げた。応募中正解はただ一つだった。このスタディは世界中で評判になったので「サンフランシスコの収局」と呼んで親しまれた。

 完全な正解はいくつかの手詰まり、いくつかの手止まりの可能性、それに両者による手渡しを伴っている。主手順をざっと見ると熟達した選手でさえいくらか路頭に迷わされる。互角の局面における場合のようにここでの正しい取り組み方は指針を定めることである。

 1.黒キングがh7の地点にいるとき最下段にいる黒クイーンを白クイーンで取ることはできない。そんなことをすれば明らかに手止まりになってしまう。それほど明らかでないのは証明でいうところの系で、白クイーンが8段目にいるとき黒クイーンは「特攻」になることができ、盤上のどこでも白キングに自分を取らせることができる。だから正解に向けて最初にちょっとやってみるのは幻に終わることが多い。

1.Kd7 Qg8 2.Qd8 Qf8 3.Qe8? Qd6+ 手止まりが避けられない。

 この試行から局面についての他の事実が明らかになっていく。

 2.クイーンが交換になれば、白キングは黒キングのどの1手にも二通りの手があるので黒キングを容易に隅に追い込んでfポーンを取ることができる。

 3.白が進展を図ることができる唯一の方法は、キングがe7の地点を通ってfポーンに近づくことである。この方向でのすぐに頭に浮かぶ取っ掛かりは・・・

1.Kd7 Qg8 2.Qe8 Qf8 3.Qd8 Qd6+ 4.Ke8

 黒のfポーンとクイーンが共に当たりになっている。しかし黒は当分の間もがくことができる。

4…Qe6+ 5.Kf8

 これから何度も出てくる主題は 5.Qe7 だと 5…Qc8+ とされ 6.Kxf7 は 6…Qg8# で頓死するので白が進展を図れないということである。これは他の局面でも当然当てはまる。

 4.白クイーンがe7の地点かf7の黒ポーンに通じる斜筋にいる場合、白キングがf7のポーンを取ると黒が …Qg8+ とできる時は即詰みになるかクイーンを素抜かれるので、実際にはf7のポーンを取ることはできない。

5…Kh8 6.Qc7!

 ここは 6.Qe8 でもよい。しかし黒クイーンに自陣からの2段目でポーンを守らせてはいけない。つまり 6.Qe7 は 6…Qc8+ 7.Qe8 Qc7 8.Qxf7 Qe7+ で手止まりになってしまう。この変化から次のことが導き出せる。

 5.黒キングがh8の地点にいて黒クイーンがc7の地点からf7のポーンを守れる場合、白がf7のポーンを取ると手止まりになる。

 この変化の終わりでは黒クイーンがc7でなくb7の地点にしか行けないので黒の受けがなくなることが示される。終わりの手順を続けると・・・

6…Qd5 7.Qxf7 Qd8+ 8.Qe8 Qd7!

J.ドーラン作、1904年
 8…Qd7(参考図)

 どうしたら白は自分のキングを自由にできるだろうか。9.Qa8 は 9…Qb7! とされる。しかし白キングはちょっとした罠を避けるだけでよくそれで自由になる。

9.Qe5 Qd8+ 10.Kf7 Qd7+ 11.Qe7

 ただし 11.Kxg6 は 11…Qh7# で駄目である。これで黒のポーンが落ちる。だから 3…Qd6+ はこの手順で負けることが分かる。しかし本当は次の妙手でヒーローになれる。

3…Qc5! 4.Ke8 Kg8!

 黒はクイーンが前の手順と違って「当たり」になっていないので、キングでf7のポーンを守る余裕がある。これから別の指針を定めることができる。

 6.黒はキングがチェックされずにg8の地点に行ける限りf7のポーンを守ることができる。

 従って 2.Qe8 または 2.Qd8 ですぐに黒の最下段に侵入する着想は間違った出だしである。1.Kd7 Qg8 のあとの当初の課題に戻ろう。

J.ドーラン作、1904年
 1…Qg8

 ここでの白の課題はキングのためにe7の地点を空けることである。白クイーンがそこを空けると黒クイーンがf8の地点を占めてそこに来させない。しかし手段はあるものである。

2.Qd6!

 これが巧妙な三角法の始まりで、黒を困らせる。クイーンが次に向かうのはe5の地点で、黒キングの位置によりe7またはd6の地点に行く選択肢(またこの言葉が使われる)がある。図の局面ではすぐ行くのも含めてe5に地点に行く多くの方法がある。しかし二つのことから正確な手はこの手に限られる。第一にすぐに 2.Qe5 と指すのは 2…Qb8 3.Qd6 Qb7+ と応じられて、何手か無駄にしてしまう。第二に白クイーンがd8の地点で割り込めない手はどれも黒に 2…Qa8 3.Ke7 Kg8 という受けを与える。

2…Qf8 3.Qd5!

 ここからの白の手は正確でなければならないのでほとんどどれも好手記号を付けるに値する。代わりに例えば 3.Qd4 はうまくいかない。というのは黒クイーンがfポーンの守りに縛りつけられることなくa3の地点まで行くことができるからである。ということで本譜の手に対して黒キングが動かなければならない。

3…Kg8

 3…Kh8 の方が悪いという理由はない。隅で黒の方も小さな三角法を行なえるような気がするが、それは幻想である。白の関心は黒キングが2段目にいるのか1段目にいるのかということだけである。このことからまた一般的な分析が思い当たる。

 7.fポーンをチェックで取るのは白にとって主要な狙いである。これが直接起こり得るのは、黒キングがh7の地点にいるときに白クイーンがf7のポーンを取るときである。間接的には黒キングがh8の地点にいる場合白キングがf7のポーンを空きチェックで取ると起こり得る。

 この分析の重要性は正解の手順が進むにつれて明らかになる。

4.Qe5

J.ドーラン作、1904年
 4.Qe5

 ちょっと考えてみると次に黒キングが横か斜め上のどちらに動くかによって白クイーンがe7とd6のどちらに行くかが決まることが分かる。ほとんどのチェス選手が驚くのはこのクイーンによるちょっとした無駄足で黒がe7の地点を白キングに譲らなければならないということである。

4…Kh8 5.Qe7

 4…Kh7 だったらすぐに 5.Qd6 と応じればよい。

5…Kh7 6.Qd6!

 めぐりめぐって、今度回転木馬を降りるのは黒の方である。キングは動けないのでクイーンが去らなければならない。

6…Qa8 7.Ke7 Qb8

J.ドーラン作、1904年
 7…Qb8

 黒のfポーンの間接防御は白にとって真の試金石である。黒が代わりに 7…Qg8 とすれば 8.Qd8 によってクイーンが交換でき 8…Qf8+ にはもちろん 9.Kxf8 である。

8.Qd8

 白クイーンは何とかしてd8を通ってfポーンに近づかなければならない。直接法の 8.Qd5 は 8…Qc7+ 9.Qd7 Qc8! で何手か手損になる。8.Qc6 も 8…Qa8 9.Qe8 Qb7+ 10.Kf8 Kh8 11.Qd8 で同じ局面に行き着く。

8…Qb7+

 8…Qa8 と 8…Qc8 はもう少し簡単に負ける。白が目指しているのはキングがe8、クイーンがd7にいる局面で、7段目に沿って「橋を架け」黒クイーンに7段目に来させない効果がある。例えば 8…Qa8 は 9.Ke8 で黒は 9…Qb7 とするしかなく 10.Qd7 と指せる。[訳注 8…Qb4+ で進展がないかもしれません]

9.Kf8

 ただし 9.Ke8 は駄目で黒は 9…Kg8 で引き分けをもぎ取れる。

9…Kh8(または Qa7)10.Qd6!

 d6の地点に来るのはこれが3度目で、今度は Ke8 に対する黒の唯一の受けの …Kg8 を防ぐためである。他にfポーンを攻撃する手段はない。

10…Kh7(または Qb7)11.Ke8

 次の 12.Qd7 に対して黒は指す手がない。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(060)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンの動きで2番目に大きな「がさつさ」はしばしば不必要な力で相手キングを威嚇して手止まりにさせてしまいがちなことである。フィッシャーは棋歴の初期にパウル・ケレスとの対局でいくつか「クイーン」にまつわる経験をした。そして手止まりの錯綜とした可能性について二重の教訓を学んだ。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 68…g2

 この大会はオリンピアードでのボトビニクとの激突の数ヶ月前で、フィッシャーの出だしは不調だった。ソ連勢の覇権はフィッシャーの言い分を額面どおり受け取れば心理の問題と同じくらい大きな違法行為の問題だった。しかし彼が星取表に表わされた結果に失望したとしても、それでも盤上では記憶に残る局面を生み出した。パウル・ケレスはボビーがそうなりたいと願う振る舞いと「格式」の模範だった。この試合の布局の段階についてのフィッシャーの解説にはケレスの棋風に対する敬意が表れている。白の必要悪の12手目についてフィッシャーは「ケレスはいつものようにポーカーフェースであたかも盤上で最も自然な手のようにこの手を指した。しかしそれは彼の最も指したくなかった手だった・・・」と書いている。そのあとフィッシャーは優勢をうっかり手放してしまうが勝つことに執念を見せた。両者に悪手が出て上図の局面になったが、それはフィッシャーが十分勝ちを期待した局面だった。彼はキングがh7の地点でチェックから逃れられると読んでいた。

69.Qb4+ Kf7 70.Qb3+ Kg7 71.Qg3+ Kh7

 ここで白に残された手段は 72.Bf5+ Qxf5 73.Qxg2 のようにビショップを捨てて進攻ポーンを取るしかないように見える。それならフィッシャーは 73…Qf4+ 74.Qg4 で1点をもぎ取る予定だった。クイーンが交換になれば黒が見合いを取ってポーン収局に勝てる。しかしケレスは別のことに気づいていた。

72.Qe5!

ケレス対フィッシャー
 72.Qe5!

 ケレスはクイーンに昇格しようとするポーンを無視しただけでなく、クイーンを「攻撃性」の少ない地点に置いた。すぐに分かることは黒にe1の地点からチェックさせてはならないということである。なぜなら 72.Qg5 だと 72…Qe1+ 73.Kh3 または 73.Kh5 Qh1+ でポーンがチェックでクイーンに昇格するからである。それにしても白は何を考えているのだろうか。

72…Qf2+

 実際にフィッシャーが指した手は 72…Qh1+ 73.Bh3 Qxh3+ で、引き分けになった。代わりに 73…g1=Q は 74.Qh5+ から Qg6+ で手止まりの局面になる。

73.Kh3 g1=Q

 華麗だが惜しいのは 73…g1=N+ 74.Kg4 Qh4+! 75.Kxh4(取らないとビショップを素抜かれる)75…Nf3+ 76.Kh5 Nxe5 77.Be8 で、黒キングはクイーン翼に侵入して攻撃することができない。

74.Bf5+ Kh6 75.Qf6+ Kh5 76.Bg6+! Qxg6 77.Qg5+! Kxg5 手止まり

 自分のキングが手止まりの状態のとき防御側のクイーンが「特攻」的性格を帯びるのはこの種の収局に特有なことである。クイーンはほとんどどこで身を犠牲にしても良さそうに思えるが、上の手順のように自己犠牲の正確な地点は決定的に重要である。

 ケレスはこの収局をスタディの形式にして発表してもよかったかもしれない。もっともそのままでもほとんど完全であるが。ケレスとラスカーは自身の試合の分析結果としてかなりの数のスタディを発表した。おそらく我々の時代でもそれほど知られていないのは、クイーン対クイーンの収局の繊細さと正確な論理を典型的に示すスタディである。

(この章続く)

世界のチェス雑誌から(153)

「Chess」2011年7月号(7/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準決勝第1組
ゲルファンド – カームスキー 延長戦(続き)


惜しかった。ガータ・カームスキーがゲルファンドとの快速戦第4局で 25.Bxf7+! と指していたら、ほとんど確実にグリシュクとの挑戦者決定決勝戦を戦うことになっていただろう。

質問 これはあなたにとって本競技会初めての延長戦だった。あなたが参加したことのある他の大会では早い回戦での延長戦ではたぶん格下の選手と対戦してかなり楽に勝つ可能性がある。この大会ではしょっぱなの延長戦ですごい相手と対戦していたが。

 「そう、それは確かで、それにグリューンフェルト防御に対し何も有力なものが見つけられなかったので、白で反グリューンフェルトの枝手順を指したがあまりぱっとしなかった。第3局では駒損をした。実際二人ともひどい日だった。だからコメントしにくい。だが第4局では緊張とうまくつきあえてうれしかった。ポカもいくつかあったが二人とも神経をすり減らす状況だった。」

準決勝第1組、快速戦第4局
G・カームスキー - B・ゲルファンド

 ここは勝負所である。番勝負の決着をブリッツ戦に持ち込むためには黒は勝たなければならなかった。この瞬間にゲルファンドの世界選手権戦の大望がかかっていた。

25.Qh5??

 カームスキーが 25.Bxf7+! Kxf7 26.Qc4+ Kf8 27.Qxc5+ Kg8 28.Qc4+ Kh8 29.Qe2

と指していたらポーン得は明らかで負けようがなかった。

25…Qc7

 これでe4のポーンが弱いので白の方が悪い。

26.Bd5 Bxd5 27.exd5 Ne4

28.Bg1?!

 これも緩手である。たぶん 28.Qe2 と指さなければならないところである。

28…Qc4 29.Raa1 Qxd5 30.Rad1 d3 31.Qf3 Rad8 32.Rfe1 Nf6 33.Qxd5 Rxd5

 今や心理的なプレッシャーは仕上げるべき黒に多くかかっている。しかし白が黒をあまり手こずらせることができないので実際は非常に能率的にやり遂げる。

34.c4 Rd7 35.Bb6 e4 36.c5 Rc8 37.h3 h5

38.Kg1

 白は激しく 38.g4 と突いていきたいのだが残念ながら黒に単純に 38…hxg4 39.hxg4 Nxg4 とこられてf2の地点で両取りがかかるのでe4のポーンには手が出せない。

38…h4 39.Bxa5

 39.b3 の方が少し良いかもしれないが、カームスキーはあきらめている感じである。

39…Rxc5 40.Bc3 Rc4 41.Bxf6 gxf6 42.b3 Rb4 43.Kf2 Rd5 44.Ke3 Rxf5 45.Rc1 Rg5 46.Rc4 Rxc4 47.bxc4 Rxg2 48.c5 Re2+ 49.Rxe2 dxe2 50.Kxe2 Kf8 0-1

質問 血の吹き出るようなチェスが指せて楽しかったか?

 「そう、それだけが希望だった。彼は非常に堅実に指すこともできたがもっと困難に見舞われていただろう。堅実すぎると激しくなったときその変化に合わせられなくなる。これは品格の問題だ。彼は正々堂々と指すことに決めそのとおりにやった。結果は幸いしなかったが長い目で見れば最善の姿勢だ。」

質問 フットボールと似ていて一方が他方を押しまくりゴールをあげると防御的になり勢いを失う・・・

 「そのとおり!」

質問 皮肉なこともあった。あなたは彼がロンドン・システム(1.d4、2.Nf3、3.Bf4)を指すこともできた快速戦第4局についてコメントしたが、もちろん彼はブリッツ戦でそれをやってきてあなたが勝ってしまった。

 「そう、それは本当だが違う。25分の試合では受ける方が楽だ。しかしブリッツ戦では布局ではあまり違いが出ない。」

質問 ということはブリッツ戦と快速戦では布局の戦略が異なるようにしている?

 「それは考慮に入れなければならない。戦略を変えなければならないとは言わないが、考慮はしなければならない。25分ではできることが5分のときにはできない。しかし彼は快速戦第4局から立ち直れなかったようにも感じられる。これともっと関連している。というのは彼がロンドン・システムを指し攻撃を仕掛けなければ彼は急にどうしたらよいか分からなくなるかもしれない。」

質問 ブリッツ戦第1局であなたはずっと局面を支配していたと思うが。非常にうまくいった試合に見えた。

 「私にもそう思える。ありがとう。検討する時間はなかったが対局中はすべてうまくいっていると感じていたし一番いい手が指せたと思う。そして第6局はもう・・・彼は困難な状況でどうしたらよいか分からなくなっていた。」

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(この号続く)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(059)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンは選択肢を増やす際にこの例が示すほど攻撃的である必要はない。次を考えよう。

A.クレーマー作(1950年)
 3手詰め

 この局面の論理は明快である。クイーンはd7の地点を攻撃したいが、それと同時にその攻撃に対する二通りの受けも考慮に入れておきたい。受けとは …dxe6 と …fxe6 である。クイーンは …dxe6 にはa4からe8の斜筋でチェックする位置にいることにより対処することができる。…fxe6 にはg6のビショップを取れるようにすることにより対処することができる。だから初手は二つの条件を満たす唯一の地点に行く Qc2 でなければならない。e4の地点へは初手では行けない。信じられないかもしれないが狙いは何もない。黒は手詰まりに陥っていて、クイーンが二つの条件を維持するのと同時にd7の地点を当たりにできるように自陣の防御を弱めなければならない。1…Bh5 なら 2.Qd1!、1…a5 なら 2.Qd3! となる。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(058)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 「選択肢を保つこと」がクイーンを扱う際の標語であり、この試合に現れ次のスタディでも特別際立っている。

 おそらくチェスの歴史でサム・ロイドほどチェスで楽しんだ者はいないだろう。彼は米国の伝説的なプロブレム作家、パズル考案者、そして前世紀の二流のマスターだった。いささか予言めくが彼の旧友のダニエル・ウィラード・フリスキー教授は晩年にロイドにアイスランドのレイキャビクでチェスを協力して広めようと提案していた。「彼が私のプロブレムの本を出版する」とロイドは語った。「そして40年前に我々がしたようにまた二人で物語を書く。しかし考えてみるとすべてアイスランド語で、米国ではただ一人しか読めない言語で、その一人とは彼自身だ。」

 ロイドは初期の傑作の一つでクイーンがいかに敵の受けの可能性を予期する並外れた能力を持っているかをきっぱりと示して見せた。

サム・ロイド作(1869年)
 3手詰め

 起手の 1.Qf1 はすぐに詰みを狙う手に見向きもしないで、黒が手を指すのを待っている。次に Qxa1 と取る手さえも狙っていない。それでは3手で詰めることができないからである。ビショップは 2.Qb1 の狙い(2…g6 と突かせて 3.Qxa1#)に対処するためにいくらでも動く余地があるように見える。しかし …Bb2 には同じく Qb1 とされる。…Bc3 と …Bd4 には Qd3 がある。さらに …Be5 と …Bf6 には Qf5 と来られる。この単純だがビックリの局面の背景にある着想は、f1がそこからクイーンが2手目でa1、b1、d3それにf5に行ける盤上唯一の地点になっているということである。ついでながら 1…g3 なら 2.Ng6+ で …hxg6 に Qh3# で詰みになるのも見事である。

 プロブレム(指定された手数で詰ませるのが規定)の場合は正確な手順が絶対重要である。多くの実戦では正確な手順でなくても結果は変わらない。手を繰り返すこともできるし、相手の受けを探るために試しの手を指すこともできるし、無駄な手を指すことも一般的である。もしロイドの局面が実戦だったらほとんどの対局者は 1.Ng6+ から単純にクイーンを作るだろう。ボトビニク対フィッシャー戦は正確な時機と枡の選択が必要な点でまったくもって特別である。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(4)

「Chess Life」2002年11月号(1/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

2ナイト防御

 今月は先月の続きでジオッコピアノに代わり 3…Nf6 と指す2ナイト防御を取り上げる。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.Ng5

4…d5

 4…Bc5 はトラクスレル戦法、時にはペンシルベニアのチェスクラブにちなんでウィルクスバリー戦法と呼ばれる。この戦法は大乱戦になるが白がよく研究しておけば優勢になるはずである。

5.exd5

5…Na5

 これが黒の最善の応手と考えられている。しかし長期に及ぶポーンの犠牲を伴う。5…Nxd5 は 6.d4!(フライドレバー攻撃と呼ばれる 6.Nxf7 Kxf7 7.Qf3+ Ke6 8.Nc3 Ncb4 は面白いが、6.d4 の方が正確である)6…exd4(6…Be7 7.Nxf7 Kxf7 8.Qf3+ Ke6 9.Nc3 Ncb4 10.Qe4)7.O-O Be6 8.Re1 Qd7 9.Nxf7 Kxf7 10.Qf3+ Kg8 11.Rxe6 Rd8 12.Bg5 Qxe6 13.Bxd8 となって白が優勢である(エーべの研究)。フリッツの好む 5…Nd4 は 6.c3 でやはり白が優勢である。

6.Bb5+ c6 7.dxc6 bxc6 8.Be2

 白は 8.Qf3 Rb8 9.Bxc6+ Nxc6 10.Qxc6+ Nd7 11.d3 Be7 で2個目のポーンを取ることができるが黒にも多くの代償がある。

8…h6 9.Nf3

 シュタイニッツ/フィッシャー戦法の 9.Nh3 もあるが 9…Bc5 で黒もポーン損の代わりに駒の働きが良い。

9…e4 10.Ne5 Bd6

 10…Qd4 11.f4 Bc5 12.Rf1 Bd6 13.c3 Qb6 も黒にポーンの代償がある。10…Qc7 も良い手である。

11.d4

 11.f4 exf3e.p. 12.Nxf3 は黒が …O-O のあと …c6-c5 から …Bb7 と指し活発に動ける。

11…exd3e.p. 12.Nxd3 Qc7

 これで白がキャッスリングに困難を抱える。

13.b3

 白はビショップのためにb2の地点を空け黒のナイトがc4の地点に来ないようにした。

13…O-O 14.Bb2 Ne4 15.Nd2

 白は局面の単純化を念頭にナイトを展開した。

15…f5

 形勢はどちらとも言えない。白はポーン得だが黒には代償がある(モロゼビッチ対ネナシェフ戦、1994年)。

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カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(057)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 フィッシャーの待望の「My 60 Memorable Games」が出版されてようやく反対側の考えが聞けた。明らかにフィッシャーは大事の前の小事として取り合おうとしていなかった。彼はボトビニクの分析の不正確な点の指摘に特に心血を注ぎながら、系統立てて両者の最善の手順をボトビニクがクイーンを作った直後の収局に煮詰めた。ボトビニクも自分の解説でこの局面に到達していて引き分けと片付けていた。フィッシャーは白の勝ちと主張した。すべてはここに帰した。

ボトビニク対フィッシャー
バルナ、1962年
 64.h8=Q(参考図)

 両者ともキングがむき出しなので明らかに一連のチェックを先にかける方が戦力得するかたちまち詰ませてしまいそうである。ボトビニクは明らかに黒ルークを蚊帳の外においておけるか黒クイーンのチェックがすぐに尽きると決めてかかっていた。例えば 64…Qd3+ なら 65.Kf4 Qd2+ 66.Kf3 で安泰だし、64…Qf5+ なら 65.Rf4 Qd5+ 66.Re4 で白ルークがチェックをかけられるようになるのでかえって黒の方が危険かもしれない。しかし「2度目」のチェックのためにいくつかの選択肢を保つクイーンのチェックが白キングを避難所から引っ張り出す。

64…Qb3+ 65.Ke2

 白キングはこの危険な退却をしなければならない。なぜなら Kf4 または Kg2 だとルークの盾がなくなり、黒ルークによりチェックされる地点に追いやられることになるからである。即ち 65.Kf4 なら 65…Qf7+、65.Kg2 なら 65…Qd5+ である。ということで 64…Qb3+ の主眼点が明らかになる。つまり黒はその地点から必要に応じて対角斜筋またはf列でチェックをかけることができるということである。

65…Qd1+ 66.Ke3 Rb1!

 黒はこの展開の手を指す余裕がある。なぜならクイーンがa4の地点に利いているし、他の唯一のチェックに対してもルークまたはクイーンがb3の地点で-チェックで-割って入ることができるからである。

67.Qf8+ Ka2

 フィッシャーはここで「・・・そして白キングは隠れ家もなくこれから雪崩のようなチェックを浴びる」と結論を下している。実際にはそんなに簡単どころではない。というのは黒ルークが釘付けになるからである。

68.Qf7+ Rb3+ 69.Ke4

ボトビニク対フィッシャー
 69.Ke4(参考図)

 それでどうする?69…Qe2+ は釘付けを解消する地点に白キングを追いやるが、引き続くチェックは明らかにこのキングによる「開き」チェックにつながる。それに白ルークを両当たりにすることはできない。

69…Qd3+ 70.Ke5 Kb2!

 2度目の「静かな」手で黒の全戦力が解き放たれる。

71.Re4!

 他に 71.Qf6 または 71.Qg7 という受けの強手もあるがやはりうまくいかない(分析は懐疑的な人の要請次第である)。

71…Qc3+!

 正確さは徹底している。キングをf4の地点に逃してはならない。だから黒はその場合に 72…Qf3+ とする余地を残しておかなければならない。白ルークは残っているポーンと協力して白キングのためにf3の地点に砦を築くことを狙っている。

72.Kf5

 72.Rd4 なら黒はこの収局全体に典型的な手段で次のように白クイーンを取る。72…Rb5+ 73.Ke4 Qc2+ 74.Ke3 Re5+ これで白キングはついにf列に追い込まれ、白のクイーンまたはルークにより致命的なチェックを受ける。

72…Qf3+ 73.Rf4 Rb5+

 これでクイーンとルークの「はしご」で白キングが7段目に追い込まれ、白クイーンが串刺しにされる。

74.Kg6 Qh5+ 75.Kg7 Rg5+ 76.Kf8 Qh8+ 77.Ke7 Rg7 黒の勝ち

 グランドマスターでさえクイーンとルークの収局の確かさに大きな疑念を抱いているので、フィッシャーの勝ちの手順が決して心から真実として受け入れられなかったのは興味深い。ラリー・エバンズはこの試合の前置きでフィッシャーは「まだ残っていたと主張する勝ち」をふいにしてしまったと言っている。(太字筆者)

(この章続く)

訳注 この試合はボトビニク著の次の本で解説されています。

「Botvinnik’s Best Games」Volume 3; 1957-1970
1986年初版、ISBN 80-7189-405-2

64.h8=Q の局面のところからは以下のように書かれています。

 『この局面の私の評価は次のようなものだった。「黒はルークがキングによって動きを制限されているので勝てない。」フィッシャーはさらに分析を続けた。64…Qb3+ 65.Ke2 Qd1+ 66.Ke3 Rb1

そしてさらに 67.Qf8+ Ka2 と続けたあと「白キングは隠れ家もなくこれから雪崩のようなチェックを浴びる」と結論を下した。しかしここにはさっそく二つの誤りがある。まず第一に私がはっきりさせたように白は 68.Qc5 で受け切ることができる。これはのちに雑誌「Shakhmaty v SSSR(1977,No.2)」でモスクワのマスターのアナトリー・クレメネツキーによって詳細に示された。そして13歳のガリー・カスパロフ(のちに世界チャンピオンになる)が図の局面で次のようなエレガントな手段で引き分けになることを見つけた。67.Rc4! Rb3+ 68.Rc3 Qe1+ 69.Kd3 Qf1+ 70.Kd2(70.Ke3? Qh3+!)70…Qxf2+ 71.Kd1

 これで本局に関する長い論争に終止符を打ったように思われる。対局時と特に分析とで頭脳の限りを尽くさなければならなかった。

 この試合と関連した出来事とを検討したあとで読者はたぶんフィッシャーの人間性が彼の偉大なチェスの才能と釣り合っていなかったことに同意するだろう。』

2011年12月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

常識で考えればわかること

2011年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

名著の残念訳(25)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

33 ドロー・マスター 145ページ
『堪え忍ぶ中盤戦の道連れに』

英文『for the duration of the mid-game』

for the duration は「非常に長い間(にわたって)」という意味。duration(期間)を endure(耐える)と同じだと思っているようである。

試訳『中盤戦の間ずっと』

33 ドロー・マスター 145ページ
『トリフノヴィッチは、互角にする作戦を念頭に置く必要があった。純粋に危険な変化など、めったに選ばないからだ。』

英文『But Trifunovich must have had some equalizing idea in mind, since he rarely chooses a genuinely risky line.』

試訳「トリフノヴィッチが危険な戦型を採用するのはまれなので何か互角にする着想を用意していたに違いない。」

33 ドロー・マスター 145ページ
『試して実証済みの 7…d5 を指すべきだった。』

トリフノヴィッチが既に 7…d5 を試して実証済みだったのだろうか?

英文『The tried and tested 7…d5 must be played.』

tried and tested は「十分に確立された」という意味。

試訳「実績のある 7…d5 を指すべきだった。」

2011年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(056)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン

 初心者はクイーンの強力さに魅了されやすい。実際のところもっと繊細な点に理解が至らないと普通の役者に飽きてきて他の作り事に誘惑されることがよくある。そして彼の目は戦争を文字どおりもっと模倣したものの中でももっと強力な戦力が盤上を駆けめぐるゲームに引きつけられる。

 熟達した選手でさえ大駒の交換が早々と起こった布局でクイーンがないことを「寂しく」思うものである。盤上にクイーンがないと指す余地もなくなったと感じる。彼らはフィッシャーが多くの試合で早くクイーンの交換を持ちかけるのを見ると驚きを覚える。

 もちろん何としてもクイーンの交換を避ける(「臆病者」でないという考えで)ヘボとクイーン交換を利用して有利な収局に移行できるまで待つマスターとの間には天と地ほどの違いがある。マスターは小駒を使いこなすのは通常はクイーンの捌きよりも複雑でクイーンの威力は非常に「繊細な」類の能力であることに気づいている。

 クイーンは明らかに開けた局面の方が活躍でき、2、3手でその可能性が倍加する。だから収局では一連のクイーンの動きの中で特に初手の正確さがことのほか重要になる。フィッシャーはクイーンの使い方の中で普通のマスターでは及びもつかぬほどの正確さの例を見せつけてきた。

 クイーンの配置の繊細さは二つの一般的な場合に要求される。それはクイーンが特定の地点を守らなければならないまたは攻撃しなければならないときと、相手のキングを手止まりにしてしまうのを避けなければならないときである。あとの場合クイーンは過剰殺戮に無神経なことがよくある。

 たぶん開けた局面でのフィッシャーのみごとなクイーン使いの最も有名な例は実際には指されなかった局面である。1962年ブルガリアのバルナで開催されたチェスオリンピアードではフィッシャーと当時の世界チャンピオンのミハイル・ボトビニクが初めて相まみえた。ルーベン・ファインとのいくつかの非公式対局、マックス・エーべ博士(1935年から1937年までの世界チャンピオンで現FIDE会長)との何回かの対戦、そしてケレスとレシェフスキーとの多年にわたる激闘があり、これで第2次世界大戦前の偉大なマスターたちの世代とのフィッシャーの直接対局が完了した。試合は激闘だった。本書の他の章で現れるフィッシャーの技量のいくつかの例がこの対局から採用された。見せ場は指しかけの局面でボトビニクがフィッシャーに仕掛けた巧妙な罠で頂点に達した。これでロシア選手が引き分けに逃げることができ若い米国選手の世界チャンピオンを「手玉に取る」希望を打ち砕いた。

 試合の棋譜が世界中のチェス雑誌に掲載されると、ほとんどの解説者がボトビニクにならってフィッシャーが罠にはまらなくてもこの収局は引き分けだったと主張した。しかしボトビニクの解説はうわべだけの怪しそうなものに見え始めた。彼はソ連の雑誌で2回訂正し、最後には当初の結論に戻って相手の最善の手に対しても負けはないとした。

(この章続く)

2011年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(055)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ちょうど次の試合でもペトロシアンはまた絶妙のビショップ使いに遇された。ここでは両者にルークがそろっていて、ビショップの「利きの長さ」はルークとの協力の下に非常に多くの狙いを作り出すことができるので強力になっている。

フィッシャー対ペトロシアン
12番勝負第7局、ブエノスアイレス、1971年
 25.Re2

 黒は実質的に指す手がない。ナイトがd7の地点を離れれば Ree7 で7段目が破壊される。

25…g6 26.Kf2 h5 27.f4

 白は …Ne5 さえ指させないで都合のよいときにキングをd4の地点に進める用意をした。黒はこれを防ぐために破れかぶれで …d4 と突いた。それからこのポーンが取られるのを防ぐために …Nb6 で乱戦を求めた。白は7段目にルークを連ね黒は詰みが避けられなくなった。

 これらの実戦例すべてでビショップの優位性は両当たり、串刺し、釘付けなどの手筋による攻撃とほとんど関係なかった。ビショップは単に盤の両翼を「監視」していただけである。ナイトの手段は純粋に戦術的である。ナイトとビショップに関する理論と実戦との違いは、ナイトのくの字形の手筋の試みがいつ穏やかに押さえ込めるかを知ることにある。これはフィッシャーの優れた天賦の才能の一つである。

(この章終わり)

2011年12月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(247)

「Chess」2011年9月号(1/2)

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ドルトムント・シュパルカッセン

 ヒカル・ナカムラは気落ちしていた。「非常に苦しい大会だった。それはアニシュ・ギリ戦から始まり、もう少しで負けるところだった。大会の中盤ではチェスをどう指したらよいのか忘れてしまった。ルスラン・ポノマリョフとウラジーミル・クラムニクに負けたのにはがっかりした。その段階でやる気を出して調子を取り戻すのが非常に困難になった。」刺激を求めて自分のツイッターファンに破れかぶれで訴えたところ心を落ち着かせてくれる言葉がいくつか返ってきた。彼は感謝の意を表わし、大会の終盤では順調に調子が上向いていった。

 第4回戦のクラムニク戦では何の変哲もなさそうな中盤の局面になった。しかしとんでもない陣形上の間違いを犯した。

ドルトムント、2011年
H・ナカムラ – V・クラムニク

25.Rb3

 25.Be3 とも指せる。もっとも 25…Rc6 で実戦と同じようになるかもしれない。

25…h5 26.Be3 Nd5

27.Bd4?

 これは陣形上のポカだった。米国選手は不良ビショップを抱えることになった。ここでは単純に 27.Bxa7 Rxc3 28.Rxb7 Ra3 と指すことができ、合意の引き分けになるかもしれない。

27…b6 28.f4

 28.Ra3 は 28…a5 29.Rb3 a4 で救いにならない。このあと 30.Rb5 Nxc3 31.Bxc3 Rxc3 32.Rxb6 Rc2

で白がポーン損になり収局で負ける。

28…Rc4 29.Kf1 Ra4 30.Rb2 Kh7 31.Kf2 Kg6 32.Rc2 Ra3 33.h3 b5 34.Rb2 a6 35.Rc2 Kf5

 白は受け一方なので、クラブのほとんどの強豪選手ならたぶん黒の最後の7、8手が自動的に分かっただろう。ここで白はきびしい選択に直面している。黒キングをe4の地点に侵入させるか、それとも自分のキングを前に進めて …b5-b4 と突かせるかである。実際はどちらも不可である。

36.Kf3 b4 37.g4+ hxg4+ 38.hxg4+ Kg6 39.Ke4 bxc3 40.Rh2

 何とかして反撃の機会を作り出そうとしているが、クラムニクは動じない。

40…Ra4 41.Rf2

 41.f5+ も 41…Kg5 でどうにもならない。

41…a5 42.Kd3

 白は手詰まりに近い。42.Rc2 なら 42…Nxf4! 43.Kxf4 Rxd4+ 44.Kf3 Rd2 45.Rxc3 Rxa2

ですぐに決着がつく。

42…c2!

43.f5+

 このポーンを取ると白が交換損か駒損になる。43.Bb2 は 43…Nb4+ 44.Kc3 Rxa2 で実戦のように黒が勝つ。

43…Kg5 44.Bb2 Nb4+ 45.Kc3 Rxa2 46.Rf1 Kxg4 47.fxe6 fxe6 0-1

 48.Rg1+ Kf3 49.Rxg7 c1=Q+ 50.Bxc1 Rc2+ はいくつかある終わり方の一つである。

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「シュパルカッセン」はドイツの貯蓄銀行で、本大会の主催者です。

(この号続く)

2011年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(054)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 盤の片側にだけポーンがある場合優勢な方は勝てないのが普通である。ナイトに対してビショップを持ち1ポーン得でもそうである。だからこの場合ルークが加わると、複雑化をもたらすかもしれないということだけで(前例とは対照的に)優勢側を利する。次の局面は近年の有名な指しかけの試合の一つである。ソ連の一団は引き分けの手順を見つけていた。肝心なときにペトロシアンは防御態勢を放棄し敗れ去った。

ペトロシアン対フィッシャー
12番勝負第6局、ブエノスアイレス、1971年
 41…Kb5

42.Ne2 Ba5

 この手の意図はルークを交換せずにaポーンを取ることである。黒はa列を「隠し」、aポーンを取ったあとはb列を隠す。最後には、ペトロシアンがルークを7段目に侵入させる間違いをしたとき、このビショップを用いて白ルークが防御のために戻るのを阻止した。

(この章続く)

2011年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(053)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 盤上にルークも残っているときはビショップを持っている側はキングが侵入することがもっと難しくなる。しかし次の局面ではほとんどのマスターでもルークの交換に二の足を踏むだろう。

フィッシャー対タイマノフ
10番勝負第4局、バンクーバー、1971年
 42…Kd8

 黒はナイトをe7にキングをc7に置けば難攻不落の要塞ができあがるように見える。それでもフィッシャーは例によって単純化に向かった。

43.Rd3!

 そしてルーク交換と白キングの長旅のあと予想された局面になった。

フィッシャー対タイマノフ
 61.Be8

 黒は不運なことにここで手番で自分の防御態勢を乱さなければならない。

61…Kd8 62.Bxg6! Nxg6 63.Kxb6 Kd7 64.Kxc5

 これで白はビショップの代わりに3ポーンを得た。しかし重要な着眼点は黒が態勢を整える前に白がポーンを進めることができるということである。

64…Ne7

 かわいそうなナイトは最後まで足元がふらついている。白のg3のポーンを取るだけでも5手かかる。その間に白は一路邁進する。

65.b4!

 そして白の勝ちに終わった。

(この章続く)

世界のチェス雑誌から(152)

「Chess」2011年7月号(6/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準決勝第1組
ゲルファンド – カームスキー 延長戦

質問 カームスキーとの延長戦の試合はレベルが低かったと言っていたようだが?彼は番勝負の勝ちを決定づけるのに快速戦の第4局の白番で引き分ければよいだけだったのに、堅実にいかずに開放シチリア防御をわざわざ指した。なぜ彼がそうしたと思うか?

答え 前の発言と同じだ。それは感情的になったせいではない。私の棋歴で一番ひどい延長戦だった。勝ち抜き戦はたくさん指したことがある。何が起こったかは分からない。あんな調子の悪い日があれば大会をおしまいにしてしまうのでよく分析しなければならない。

準決勝第1組、快速戦第2局
G・カームスキー - B・ゲルファンド

 互角の局面だが両対局者は簡単明瞭な戦術を見逃していた。19.exf5? Bxf5 19…Bxd5! で黒の勝ちだった。20.Rxd5 なら 20…Qxd5! 21.cxd5 Rxc1+ 22.Ne1 Ba5

で終わりだし 20.cxd5 でも 20…Qxc1 21.Rxc1 Rxc1+ 22.Ne1 Ba5 で同じことである。本譜の手のあと試合はだらだらと続いて31手で引き分けになった。

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(この号続く)

2011年12月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(052)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ナイトは白枡にも黒枡にも利かせることができるけれども、進攻ポーンの守りは不得意である。この場合もやはり「利きの長さ」の問題である。

ウールマン対フィッシャー
ライプツィヒ、1960年
 34.Nxe4

 ビショップもナイトも進攻ポーンを守っている。しかしビショップは防御から白のaポーンへの攻撃に切り替える用意をすることができる。これは戦術的にもっともである。なぜならもし白が自分のパスポーンを作り出そうとしても黒ビショップはそれでも遠くから自分のhポーンを守ることができるからである。一方自分のaポーンは勝つための狙いとなる。

34…a5

 白はクイーン翼の2ポーンを失わずに 35…Bb3 を防ぐことはできない。

(この章続く)

2011年12月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(051)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 はるかに経験を積んだ数年後フィッシャーは類似の局面に遭遇した。そしてなんとへまをしてしまった。

フィッシャー対レシェフスキー
番勝負第8局、ロサンゼルス、1961年
 44…Nb8

 フィッシャーはここでルーク交換を強制して、前局のようにナイトを動けなくすることができたはずだった。

45.Rc7+ Rf7 46.Rxf7+ Kxf7 47.Bb5

 こうなればナイトは白キングによる攻撃にもろいだけでなく、ポーンの進攻ですぐに白の勝ちが決まる。フィッシャーは指しかけの研究でこの手が「見えて」いたが、どういうわけか 45.Be4? と指し引き分けにしかならなかった。

(この章続く)

2011年12月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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ポルガーの定跡指南(3)

「Chess Life」2002年10月号(3/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

ジオッコピアノ(続き)

ジオッコピアノの短手数局 [C55]
白 ビクトル・クノーレ
黒 ミハイル・チゴーリン
1874年(*)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.O-O Nf6 5.d3 d6 6.Bg5

 この手は黒が既にキャッスリングしている場合にだけ効果的である。ここではまだキャッスリングしていないので黒は本局のように 6…h6 から 7…g5 でビショップを追い払うことができる。

6…h6 7.Bh4

 白は 7.Be3 と引いた方が良かった。

7…g5 8.Bg3 h5

 黒は好機をとらえてキング翼攻撃に着手した。

9.Nxg5

9…h4!

 黒は白を詰みに討ち取るために一連の捨て駒の妙手を繰り出し始めた。

10.Nxf7 hxg3!!

 黒は喜んでクイーンを捨てて攻撃を続ける。

11.Nxd8

 白は意を決してクイーンを取った。

11…Bg4

 白クイーンを当たりにした。

12.Qd2 Nd4!

 キング翼攻撃に別の駒を投入した。

13.Nc3

13…Nf3+!!

 これは白のキング翼への致命的な一発だった。14.Kh1 は 14…Rxh2# で詰む。

14.gxf3 Bxf3 白投了

 黒の狙いは 15…gxh2# だが白には受けがない。15.h3 は 15…Rxh3 から 16…Rh1#、15.Re1 は 15…gxh2+ 16.Kf1 h1=Q# である。

(*)本局にはいくらか疑義がある。ある資料ではデュボワ対シュタイニッツ戦(ロンドン、1862年)とあり、別の資料には研究手順とある。さらに別の資料にはチゴーリン対クノーレ戦(1874年、対局地不明)とある。

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2011年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(050)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ビショップの「利きの長さ」は盤端でナイトを身動きできなくさせる能力によく現れている。米国オープンで名を上げた二人の若い選手は次の初歩的な局面に至った。

フィッシャー対アディソン
クリーブランド、1957年
 28…Nxe8

29.Be5!

 黒はどうすることもできない。小駒同士を交換すると白のクイーン翼のポーンが進撃できるようになる。このままでは黒のキング翼のポーンはビショップに「見張られて」いるので事実上進攻できない。

(この章続く)

2011年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(24)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

32 事実上の優勝者 141ページ
『・・・、ほぼ申し分のない結末を迎えた。』

試合に勝ったのだから「ほぼ」でなく「まったく申し分のない結末」ではないだろうか。

英文『…, but the outcome is never really in doubt.』

試訳『結果が怪しくなることは一度もなかった。』

32 事実上の優勝者 141ページ
『結局、タリは俺<の重力圏>から脱出できなかった!』

英文『Finally, he has not escaped me!』

試訳「結局タリは私から逃れられなかった!」

32 事実上の優勝者 143ページ
『しかし、最高レベルのチェスでは、有利になるための手段は問わない。』

英文『In top-flight chess, you have to drive your advantage home unmercifully.』

「手段は問わない」どころか unmercifully(無慈悲)に指さなければならないと言っている。

試訳「最高レベルのチェスでは、無慈悲に優勢を拡大しなければならない。」

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フィッシャーのチェス(049)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 これらの3条件すべてが1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦第6局ではそろっていた。この試合はどちらの選手にとっても最高の出来というべきだった。終局後に敗者が観客の拍手に加わったのは恐らくチェス史上唯一のことだった。次の局面は白番のフィッシャーがちょうど 20.e4 と突いたところである。これには特別な皮肉があり、本局は初手に e4 と突くことをずっと支持してきたフィッシャーが初めてそれと決別した証となった。(2、3度 1.b3 や 1.c4 を指したことはあったが、重大な対局では一度もなかった。彼は 1.e4 を「検証により最善手」と呼び、「原則として」1.e4 以外のどんな初手も指さないと言った。)しかしここでは e4 突きは局面を動かす意表の手で、ビショップの活動範囲を広げ黒の中央のポーンを弱めることを意図している。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦、レイキャビク、1972年
 20.e4

20…d4?

 このような自然に見える手が悪手であるということはビショップの支配力をさらに裏書きしている。保護パスポーンは 20…dxe4 でポーンを失うのと同じくらい白にとって恐れるに当たらない。どちらの場合も黒のポーンは融通性を失い黒のナイトはしっかりした地点を見つけるのが困難になる。20…Nf6 と抵抗する方が良かった。フィッシャーは次の2手で黒のナイトをしっかり固定し、典型的なフィッシャーの仕掛けを準備した。

21.f4! Qe7 22.e5 Rb8 23.Bc4 Kh8 24.Qh3!

 黒が明らかに白クイーンをbポーンの守りに縛りつけているのでこの手は気づきにくい。ビショップの優位性はこのような局面で明らかになる。黒は自分のaポーンに対する当たりに気を配らなければならない。黒は自分のeポーンを守らなければならない。黒が白のbポーンを取れるにしても Bb3 でルークが捕まってしまうかどうかを考えなければならない。そしてこの間にも黒の中央のポーンはせき止められている。これらはすべて中央にいるビショップのせいである。本章の目的にとっては考えるべきことはこれですべてである。フィッシャーはf列でルークを重ねキング翼攻撃で締めくくった。まずビショップをd3の地点に置いて詰みを狙い、最後にはビショップをc4の地点に置いて投了させた。

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(246)

「Chess」2011年8月号(1/1)

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キングの中のキング

キング大会、2011年
M・カールセン – H・ナカムラ
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7 4.cxd5 exd5 5.Bf4 c6 6.Qc2 Bg4

 これはビショップをg6の地点に転回させる作戦だが、ちょっとおおげさなように思われる。

7.e3 Bh5 8.Bd3 Bg6 9.Bxg6 hxg6 10.O-O-O Nf6 11.f3!

11…Nbd7

 11…Nh5 と指したいところだが白に単に 12.Be5 とかわされると黒はこのビショップを捕まえるわけにはいかない。…f7-f6 突きは Qxg6+ があるので不可能だし、…Nd7 から …Nxe5 もh5のナイトが g2-g4 突きで取られることになるので無理なようである。

12.Nge2 b5 13.e4

 白は展開で先行しているので開戦に踏み切った。

13…b4 14.Na4 dxe4 15.fxe4 Qa5

16.Kb1

 16.e5 Nd5 17.e6 が魅力的だが 17…fxe6 18.Qxg6+ Kf8 19.Rhf1 N7f6 であまりはっきりしない。

16…O-O

 16…Nxe4? は 17.Qxe4 Qxa4 18.Bd6 で白が駒得する。

17.h4! Rfe8

 白の手の意図はここで黒が 17…Rac8 で反撃しようとすると 18.e5 Nd5 19.h5 で黒陣をこじ開けることができるということである。

18.e5 Nd5

 コンピュータの 18…Ng4 を信用する人間はいないだろう。h5へ跳ぶのは白のビショップが安全な所に逃げたあと g2-g4 突きでこのナイトが捕まるので駄目である。

19.h5

19…g5

 19…Nxf4 20.Nxf4 Bg5 は 21.hxg6! Bxf4 22.gxf7+ Kxf7 23.Qf5+ でキングが攻撃にさらされるので黒が負ける。

20.h6 g6

 20…gxf4 21.hxg7 N7f6!? は 22.Qf5! に気づくまでは受かっているように見える。このクイーン出によっていろいろな嫌な詰み筋が見えてくる。

21.Bc1 N7b6?!

 21…N5b6 22.Nxb6 axb6 23.b3 Nf8 でキング翼に目を配る方が良さそうである。

22.Nc5 Bxc5 23.dxc5

23…b3

 黒は状況が思わしくなくなってきたのでクイーン翼で駒の動ける余地を作ることにした。代わりに 23…Nd7 は 24.e6! で受けに窮する。24…Rxe6 と取ると 25.Nd4 と跳ばれて、ルークが縦に逃げるとc6のポーンが落ちるし 25…Rf6 は 26.Bxg5 でルークが捕まる。

24.Qxb3

 24.axb3? はもちろん 24…Nb4! でひどい。

24…Qxc5 25.Nd4!

 25.Bxg5?? はとんでもない不注意で、25…Rxe5 で両当たりになる。

25…Rxe5

 結果論だが 25…Rab8 で 26.e6 f6 を期待する方がちょっとだけ頑強だったようである。

26.Nf3

26…Re2

 26…Rf5!? 27.g4 Nc3+!

27.Nxg5 Qe7 28.Qd3

 この手は 29.h7+ を狙っていてキングがh8に行けば 30.Nxf7+! によるそらしの手筋がある(30…Qxf7 31.Qxe2)。

28…Rf8

 28…Re5 の方がよい。もっとも白のキング翼攻撃を食い止めるというより遅くさせるのに役立つだけだろう。

29.Rdf1

29…f5

 白がf7のポーンを取ったあと Qxg6+ を狙っていたので黒はほとんど選択の余地ががなかった。例えば 29…Rxg2 なら 30.Rxf7! でどの戦術も白の有利になる。

30.g4 Na4

 人間の目には黒がまったく見込みがないとはすぐには分からないが、黒はどうしようもないようである。例えば 30…Re5 なら 31.gxf5 Rexf5 32.Re1! Qd7 33.Ne6 R8f7 34.Rhg1 Ne7 35.Qxd7 Nxd7 36.Ng5

で白の戦力得になる。

31.Qd4 Qe5 32.Qxe5

 32.Qxa4?? は 32…Nc3+ 33.bxc3 Rb8+ となって白は詰みを避けるためにクイーンを差し出さなければならない。

32…Rxe5 33.gxf5 gxf5 34.Nf3

34…Re7

 この手は白を少しやり易くさせた。とはいうものの 34…Re6 でもカールセンが 35.h7+ を見つけ出したらあまり良くない。以下は 35…Kh8 36.Bh6! Rb8 37.Rfg1! でまた白の戦術の方が強力である。

35.Rfg1+ Kh7

 35…Kh8 は 36.Nh4 で白の交換得になる。

36.Rg7+ Kh8

 36…Rxg7 は 37.hxg7+ Kxg7 38.Bh6+ で1ポーンの代わりに白の交換得になるが、黒の残りのポーンはばらばらで弱い。

37.Rhg1 Rfe8 38.Nh4 Rxg7 1-0

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(この号終わり)

2011年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(048)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ

 「く」の字形のナイトの動きとチェス選手を引きつけるナイトの奇妙な魅力については多くのナンセンス詩が書かれてきた。ナボコフの『ディフェンス』に出てくる主人公のチェスマスターは「ステッキにもたれながら、日の当たっている坂に立っているこの菩提樹のナイトの動きであそこの電柱を取ることができるなどと考えていた。」そして同じ作家の『ロリータ』のハンバート・ハンバートは窓ガラスの位置を「一番上からのナイトの動き」と描写している。ナイトの旅行とはナイトが盤上のすべての枡を一度だけ通る手順のことだが、オイラーが1759年にそれをいくつか考案して以来数学者の関心をそそってきた。ナイトがチェックをさしはさんでどのように多くの陣地を押さえることができるかは既に見てきた(第4章「ポーンの疾走」)。これらすべてのことにもかかわらず、ナイトはほとんどの中盤戦では心情的な人気者のままであり、収局ではどうしてもビショップより劣る。

 その理由は「利きの長短」である。ビショップはほとんどの開けた局面で盤の両翼を見張ることができる。クイーンとルークのようにビショップは直射攻撃でバッテリー駒として働くことができる。ビショップは敵駒を釘付けにすることができる。味方のポーンによって閉じ込められているときを除いて、ビショップは盤の片側で簡単にナイトを追い越す。

 フィッシャーの試合にはビショップ対ナイトのすぐれた戦いが豊富にある。サロ・フロールは「驚くべきことにタイマノフ、ラルセン、ペトロシアン、それにもちろんスパスキーとの試合でフィッシャーのビショップはナイトよりも強力である」と評している。ロバート・バーンはぶっきらぼうに「彼は優れたビショップ対劣ったナイトという昔からの主題を何度も何度も勝つ」と言った。

 この偏愛についてよく理解されていないことは、フィッシャーがそのような収局(またはよく言うように単純化された中盤)を求めるのは通常いくつかの他の要素があるからである。第一にビショップには多くの枡が必要である。これはとりもなおさずポーンが非常にまばらか激減していなければならないということである。第二にナイトは安全な地点(ポーンまたは小駒によって立ち退かせられない永久基地)を欠いていなければならない。第三にビショップには標的がなければならない。

(この章続く)

2011年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(047)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 このような戦略の見かけの単純さは(それらがなされた後では!)初心者にすぐに希望を与える。たとえ自分の方にことがうまく運ぶ場合だけだとしても、そのような局面を楽に勝てる気がする。しかしフィッシャーを相手に次の実際の局面を自分だったらどのようにしたら勝ちに持っていくだろうか。

ゲレル対フィッシャー
ハバナ、1965年
 53.Bf3

 フィッシャーは駒を総交換すればパスbポーンを取ることができると考えたのかもしれない。しかし(前述の)ラルセンとの試合のようにたった1個残ったポーンでも勝つのに十分である。

53…Bxf3 54.Qe5+! Qxe5 55.fxe5+

 明らかにこれがチェックになることがみそであり、多くの局面に繰り返し現れる着想である。

55…Kxe5 56.gxf3 Kd6

 これで黒キングはパスポーンの正方形に入っている。しかしそのポーンは「外側」なので、白は黒のキング翼ポーンが連結するのを妨げるだけでそれらを取り切ることができる。

57.f4! 黒投了

(この章終わり)

2011年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(046)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 10年後フィッシャーはもっと複雑な局面に出くわした。しかし自分のチェスの本質を特徴付けているのと同じ単純明快さで片付けた。

フィッシャー対マツロビッチ
スコピエ、1967年
 23.Ra1

 フィッシャーはこの手で、黒ビショップに対する狙いのために自分の進攻ポーンへの圧力を緩和させただけでなく、収局でパスポーンを確保することになる交換を誘った。

23…Bxd3 24.Rxa8 Rxa8 25.cxd3

 そして白の楽勝に終わった。

(この章続く)

2011年12月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(151)

「Chess」2011年7月号(5/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準決勝第1組
ゲルファンド 2733 6-4 カームスキー 2732(続き)

 「第3局でカームスキーは 8.h3 と指してきた。ずっと昔に2、3局あるだけでこれまで誰も指さなかった。しかし局面は白にとって非常に魅力的で、圧力もかけている。真剣になったとは言わないが、この戦型を指すのは楽しい。」

 「大きな問題は布局で時間を使いすぎたことで、こちらが 15…Nbxd5 と指し彼が 16.Bd2 と指したまさにその時に 16…Nb4 17.Kb1 Qc6 と指さなければならず受けの効く局面だ。それは読んでいた。白には代償があるが黒は悪くない。しかしもう時間が少なくなってきていたのですぐに 16…Nb6 と指した。彼は1ポーンの大きな代償を得ていて、さらに白の方がずっと指しやすい局面だった。白は駒を自然な地点に展開できて、黒はキングに長期的な問題を抱えている。このキングはどこへも行けない。」

 「それから彼は多くの勝つ可能性のあるところまで陣形を改善した。しかしためらい始め Qh1 のような手をいくつか指した。たぶん争点を維持して考えさせようとしたのだろう。こちらがもう時間不足になりかけていたから。挑決のすべての試合で時間の使い方が最もまずかった。時間不足の中で主導権をもぎ取った。38…Qh5 と指していれば勝勢だった。しかしその手は直感的に抵抗があった。詳細に読めれば指せるが、読んでいる時間がなかった。ルーク収局ではこちらがほんの少しだけ良かったが、実際は今でもどうしたら相手に問題を突きつけることができるか分からない。」

準決勝第1組、第3局
G・カームスキー - B・ゲルファンド
シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be3 e5 7.Nb3 Be7 8.h3 Be6 9.Qf3

 これは比較的新しいゆえに珍しい手で、ゲルファンドを深い研究からそらそうという意図である。

9…Nbd7 10.g4 h6 11.O-O-O Rc8

 この手には …Rxc3 の狙いがある。

12.Nd5 Bxd5 13.exd5 Nb6 14.h4!

 白は完全に代償を得ている。黒キングは決して安全にならない。

14…Qc7 15.c3 Nbxd5! 16.Bd2

 16.Rxd5 は 16…Qc6 17.Bg2 e4 で黒が少し良い。

16…Nb6?

 ゲルファンドが言ったようにここでは 16…Nb4 17.Kb1 Qc6 と指して「受けの効く」局面にしなければならなかった。

17.g5 Nfd7 18.gxh6

 18.g6 O-O は黒にとって明らかに安泰ではないが少なくともキングには住みかができる。

18…gxh6 19.Kb1 Qc6 20.Qh3

20…d5

 20…Nc4 21.Bc1 Nf6 22.Rg1 でもまだ白がでかしてないように見える。

21.Be2

 この手は中途半端でこれまでの迫力ある攻撃的な指し方からはずれている。自然な 21.f4! なら 21…e4 22.Rg1(もっと穏やかな 22.Nd4 Qf6 23.Be3 でも盤上を制している)22…Qf6 23.Be3 Qxh4 24.Bd4 Rf8 25.Qe3 Nc4 26.Bxc4 Rxc4 27.Bg7

で白が優勢になる。

21…Nc4 22.Bc1 Nf6 23.Rhe1 Qe6 24.Qh2

 黒の堂々としているように見える中原は非常にもろい。今はe5ポーンが攻撃を受けている。

24…Qf5+

 24…e4 は 25.Bxc4 Rxc4 26.f3 で問題がありそうである。

25.Ka1 Kf8

 キングを比較して欲しい。実利派のコンピュータでさえここでは白が有利と言うだろう。

26.f3 Bd6 27.Qg1 Bb8

 27…b5!? はaポーンを弱めるが少なくとも反撃にはなっていて、28.Qa7 Rc7 29.Qxa6 Qd7 となれば指せそうである。

28.Bd3

28…Qh5?

 この手は評判が悪かったが、推奨された 28…Qd7 でも 29.f4! Rg8 30.Qf1 e4 31.Bxe4 Nxe4 32.Rxe4 となって白の方がはるかに良い。代わりに 28…Qe6 でも 29.Nd4 Qb6 30.Nf5 Qxg1 31.Rxg1 で問題なく白が良い。

29.Qh1?

 白は好機を逃した。29.Bxc4! Rxc4(29…dxc4 も 30.Na5 が強手となる)30.Qb6 Qf5 31.Nc5 なら黒に適当な手がなかった。例えば 31.,,Kg7 なら 32.Rg1+ Kh7 33.Qxb7

で終わりである。

29…Ba7 30.Qh3 Re8 31.Bxc4 dxc4

32.Na5

 32.Nd2 b5 33.Ne4 なら黒はルーク損も同じだった。

32…e4! 33.Nxc4 Qxf3 34.Qh2 Ng4 35.Qc7 Bf2

36.Rf1?

 この手には読み間違いがあった。代わりに 36.Nd6 Bxe1 37.Rxe1 Re6 38.Rg1 h5 39.Qd8+ Kg7 40.Qg5+ Kf8 41.Qd8+

でも、36.Rg1 Bxg1 37.Rxg1 e3 38.Bxe3 Nxe3 39.Qd6+ Re7 40.Qd8+ Re8 41.Qd6+

でも引き分けになっていた。

36…e3 37.Bxe3?

 37.Qd6+ Kg8 38.Qd7 Re6 39.Qd8+ Kh7 30.Qd3+ Qe4 なら黒は勝ちを目指して指すことになる。

37…Nxe3 38.Ne5

38…Qf5

 持ち時間が残り少なくなってゲルファンドは直感に反する手による勝ちを逃した。38…Qh5!! と指せば 39.Rxf2(39.Rd7 は 39…Qxe5 40.Rxf7+ Kg8 で白の攻撃が頓挫する。また 39.Nd7+ なら 39…Kg7 40.Nf6 Qf5 41.Nxe8+ Rxe8 だし、39.Qd6+ なら 39…Kg7 40.Rg1+ Kh7 41.Nd7 Re6 42.Qxe6 Qxd1+! で黒の勝ちになる)39…Qxd1# までだった。

39.Qc5+ Kg7 40.Qxe3 Rxe5

41.Qxf2

 引き分けに向かっている。「New In Chess」誌でヤン・ティマンは 41.Qd2 で白が勝てたかもしれないと主張し他の色々な解説者たちもそう言っていた。しかしわたしにはそうは思えない。41…Kh7 42.Rxf2 Rd8! 43.Rxf5(43.Qxd8 なら 43…Qxf2 でルーク交換になる)43…Rxd2 44.Rxf7+ Kg6 45.Rdf1 Rb5(45…Kh5 は引き分けになるはずである)46.b3 Ra5 47.a4 Re5

なら形勢互角である。

41…Qxf2 42.Rxf2 Rhe8 43.Rg1+ Kf8 44.Kb1 Re2 45.Rf4 R8e4 46.Rgf1 Re1+ 47.Kc2 R4e2+ 48.Kb3 Rxf1 49.Rxf1 Kg7 50.Rf4 Re6 51.a4 Kg6 52.Kc4 f5 53.a5 Kf6 54.Kd3 Re7 ½-½

 第4局ではカームスキーが(第2局を間一髪で逃れたあと)グリューンフェルトの研究を修正し引き分けに持ち込んだ。これで2-2になり延長戦に入った。

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(この号続く)

2011年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から3

フィッシャーのチェス(045)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 「外側」パスポーンを作られると非常に気持ちが混乱することがよくあるので、劣勢側は本当に負けていることを確認するだけのためにもう少し指してみることがある。次の局面でフィッシャーは Ng2 でも勝てていた。しかしもっと簡明だったのは・・・

フィッシャー対メドニス
クリーブランド、1957年
 45…Kf5

46.Nxg6

 もちろんメドニスは投了すべきである。しかし彼はキングがパスポーンに縛りつけられていて
はコンピュータ相手の収局でも負けてしまうということに気づく前にもう少し指し続けた。[訳注 当時コンピュータチェスは黎明期で非常に弱かった]

(この章続く)

2011年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(044)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 外側パスポーンが勝つという原則には例外が少しある。特に防御側のポーンが進攻しお互いのパスポーンを消し合う狙いが持てるときがそうである。次の場合は長年その例外だと考えられていた。

クモッホ対ファン・スヘルティンガ
アムステルダム、1936年
 (変化図)

 『Basic Chess Endings』(ファイン著)では 1…Ke4 で互角になると考えられていた。しかし 2.h5 f5+ のあと白は二股の狙いを作り出すことができる。ここでの狙いの一つは敵の狙い、即ちチェックで黒ポーンが進むこと、を「避けること」である。もう一つの「狙い」も単に黒ポーンを止める受けの着想である。第4部「手筋」でのレーティのスタディを参考にすれば、白がg3の地点からでもh3の地点からでもf1の地点を同じくしっかり守れることが分かるだろう。3.Kh3! が黒のポーン突きの先手にならないので(3.Kg3? は 3…Ke3! のあとポーン突きがチェックになる)、この手がf1の地点を見張ると同時に黒の狙いをくじく。この着想は世界チャンピオンのミハイル・ボトビニクによって指摘された。

(この章続く)

2011年12月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(2)

「Chess Life」2002年10月号(2/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

ジオッコピアノ(続き)

D)4.c3 Nf6

D1)5.d4

 これが主流手順である。他の手から先に見ていくと・・・

D2)5.d3

 この戦型は1980年代に非常に流行した。今日の定跡では黒は楽に互角にできると結論づけられている。

5…d6 6.O-O

 白が 6.b4 Bb6 7.a4 で黒のビショップを捕まえようとしてきても黒には全然危険がない。7…a5 または 7…a6 でビショップの退路が開けて問題が解決する。

6…O-O

7.Bb3

 こう引く理由は 7…Na5 でビショップと黒のナイトとの交換になるのを避けるためである。本譜の手のあと黒が 7…Na5 と指せば白は 8.Bc2 と引いて交換を避けることができる。

7…a6

 黒はビショップのためにa7の地点を空けた。

8.Nbd2 Ba7 9.h3

 9.Re1 なら黒は主導権を握るためにすぐに攻撃的に指す必要がある。9…Ng4 10.Re2 Kh8 11.h3 Nh6 12.Nf1 f5 で攻勢に立つ。

9…h6 10.Re1 Nh5 11.Nf1 Qf6

 互角の形勢である。

D3)5.O-O

 これも黒にとってあまり危険でない。黒はe4のポーンを取ってもよい。

5…Nxe4

 これで互角の局面になる。黒がe4のポーンを取りたくなければ 5…d6 6.d4 exd4 7.cxd4 Bb6 8.Nc3 O-O と指せばよくやはり不満のない局面になる。

6.d4 exd4 7.cxd4 d5 8.dxc5 dxc4

 どちらも指せる分かれである。

D1)5.d4 exd4 6.cxd4

 6.e5 なら黒は 6.d5 と突き返さなければならない。

6…Bb4+

 このチェックをさしはさめるので黒はこの戦法で互角を求めて戦うことができる。主流手順は
D1a)7.Bd2 である。他の手は・・・

D1b)7.Nc3 しかしこれはポーンを犠牲にすることになり非常に激しい戦いになる。

7…Nxe4

8.O-O Bxc3!

 白の着想は迅速な展開のために戦力を犠牲にすることである。黒は次の変化のようにキングが中央列で立ち往生しないように注意しなければならない。8…Nxc3? 9.bxc3 Bxc3 10.Ba3 これで白のビショップが黒キングのキャッスリングを防ぎ、黒キングが素通しe列で完全に露出する。黒にはいろいろな受け方があるがどれも互角にならない。

 10…Bxa1 は 11.Re1+ でたちまち負けになる。

 10…d5 の方が良いが、11.Bb5 Bxa1 12.Re1+ Be6 13.Qa4 で白の方が優勢である。

 10…d6 はa3-f8の白ビショップの利きをふさぎキャッスリングできるようにする最も理にかなった手段のように見える。しかし白にはそれでも次のように戦力得する方法がある。11.Rc1 Ba5(11…Bb4 は 12.Bxb4 Nxb4 13.Qe1+ で両当たりになり駒損する)12.Qa4 a6(12…Bg4 ならほぼ互角になる)13.Bd5 これで白の駒得になる。

この局面でコンピュータソフトのフリッツの助けを借りて好奇心をそそる面白い変化を分析してみた。13…Bb6 14.Rxc6 Bd7 15.Re1+ Kf8 16.Rxd6 cxd6 17.Bxd6+ Kg8 18.Bxf7+ Kxf7 19.Ne5+ Kf6 20.Nxd7+ Kg6 21.Qc2+ Kh6 22.Bf4+ g5 23.Re6+ Kg7 24.Be5+ Kf7 25.Qf5+ Kg8 26.Rg6+ hxg6 27.Qxg6#

9.d5

 白が 9.bxc3 とビショップを取れば黒は 9…d5 と白ビショップを当たりにして手を稼げる。ビショップが逃げたあと黒はついにキャッスリングができポーン得で優勢になる。

9…Bf6!

 9…Ne5 は 10.bxc3 Nxc4 11.Qd4 O-O 12.Qxe4 Nd6 13.Qd3 となって白にポーンの代償がある。

10.Re1 Ne7 11.Rxe4 d6 12.Bg5 Bxg5 13.Nxg5

13…h6!

 13…O-O もあるが 14.Nxh7 からの犠牲を許し 14…Kxh7 15.Qh5+ Kg8 16.Rh4 で非常に複雑な局面になる。正確に指せば引き分けに終わるだろう。

14.Qe2

 14.Qh5 なら 14…O-O で黒がすべての問題から解放される。

14…hxg5 15.Re1 Be6 16.dxe6 f6 17.Re3 c6 18.Rh3 Rxh3 19.gxh3 g6

 白はポーンの代償が十分でない。

D1a)7.Bd2 Bxd2+ 8.Nbxd2

8…d5

 これは非常に大切な手である。さもないと白が中原を全面的に支配する。

9.exd5 Nxd5

 このあと白がキャッスリングをすれば自然だが黒はd5の黒ナイトで効果的にせき止めている白の孤立d4ポーンを標的にして楽な試合運びができる。

10.Qb3

 この意欲的な手で白は千日手による引き分けを誘うことができる。

10…Na5!

 代わりに 10…Nce7 と指すと白は 11.O-O O-O 12.Rfe1 c6 13.Ne4 で駒の働きが良くなり少し優勢になる。

11.Qa4+ Nc6 12.Bb5

 12.Qb3 なら白の10手目とまた同じ局面になる。

12…Bd7 13.O-O O-O

 両者とも無事に展開を完了しここから互角の中盤戦が始まる。

最終結論

 これは白が最初から大きな優勢を達成できる布局ではない。黒が陥り易い落とし穴がいくつかある。しかし正確に指せば黒は楽に互角を達成できる。

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2011年12月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(043)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 この基本的な局面は収局のずっと前からいろいろ読んでおかなければならない基礎である。フィッシャーはこの試合より15年ほど前の試合で外側ポーンがそれほど自明でないときでもこの主題が同様に効果的であることを示した。

カルドーソ対フィッシャー
10番勝負第5局、1957年
 36…a5

 表向きは白キングが好位置にいて黒ポーンの前進もすべて押さえている。運の悪いことに手番は白である。よく調べてみると白キングは黒の …f4 突きに備えていることが分かる。そして白キングがどこへ動いてもこの急所の地点の守りを放棄することになる。キング以外を動かす手は手を数えるだけの問題である。

37.f4+ Kg4 38.Kf6 Kxg3 39.Kxf5 h4 40.Kg5 h3 41.f5 h2 42.f6 h1=Q 43.f7 Qh8

 そして白はまもなく投了した。しかしまたしても本来ほど速やかでなかった。

(この章続く)

2011年12月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

ラグラーブ氏、羽生を語る

 「将棋世界」2012年1月号に羽生二冠がフランスで仏チャンピオンのGMラグラーブに引き分けた記事が出ています。グラビアに写真があり、38ページから本文記事が掲載されています。

 GMラグラーブの感想が次のように載っていました。

 対局が終わった後、ラグラーブ氏にインタビューした。羽生の敗因について質問すると、「将棋を深く知り過ぎているからだ」と答えた。

 その説明として、「将棋は持ち駒を使うことにより複雑な局面になるため、考えることで有力な手を発見することがあるだろう。しかし、今回の途中の局面は、チェスの世界ではすでに結論が付いており、いくら考えても良い手が出ない局面だった。羽生氏はそれに気づかず持ち時間を消費して、結局、終盤の勝ち筋を発見できなかった。今回の結果は羽生氏のチェスの経験値が低かったことが原因であり、もし羽生氏が幼い頃からチェスに打ち込めば、おそらくほかの頭脳競技なら何でもそうだろうが、世界のトップクラスになれると感じた。はるか先まで早く正確に読んでいることに驚きを感じた」と話した。

2011年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

名著の残念訳(23)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

29 自爆 130ページ
『新たに用意された変化へと導くこの作戦を妨げるために』

英文『To thwart this maneuver, part of a patently prepared variation』

patently は「明白に」という意味。a patently prepared variation「明白に用意された変化」とは「(対局中でなく)明らかに事前に研究しておいた変化」という意味になる。

試訳『明らかに研究済みの変化の一部をなすこの捌きを妨げるために』

30 情熱のパフォーマンス 134ページ
『黒のキング側での攻撃のために、白が実戦的にメイトを避けられなくなってきたからだ!』

英文『Black’s K-side attack has practically been worked out to a forced mate!』

大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」によると practically は用いられる位置により意味が変わる。
1.[動詞より後で]実際的に Try to view your situation practically.
2.[文修飾]事実上、実際には Practically, the task is more difficult than you think.
3.[修飾する語の前で]ほとんど She had practically finished her meal when I arrived.
ここでは「ほとんど」の意味である。

試訳「黒のキング翼攻撃はほとんど一本道の詰みまで研究されるようになってきた!」

30 情熱のパフォーマンス 136ページ
『・・・から d6 で白に圧倒される。』

英文『… followed by d6 with tons of play.』

tons of は「たくさんの」、play は「指し手」という意味。

試訳「・・・から d6 で、指す余地がまだまだ山ほどある。」

2011年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(042)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン

 どの教科書も外側パスポーンは勝ちになると教えている。教えてくれないのはそれをあらかじめ読んでおかなければならないということである。読んでいたにせよいなかったにせよベント・ラルセンがフィッシャーとの次の収局を長引かせたのはグランドマスターらしからぬ振る舞いだった。

フィッシャー対ラルセン
10番勝負第5局、1971年
 42.a5

 黒ポーンが進攻することも相手のポーン「全部」と交換になることもできない限り引き分けの望みはない。試合は次のように進んだ。
42…f6 43.a6 Kc6 44.a7 Kb7 45.Kd5 h4 46.Ke6 黒投了

 白はh列以外にポーンを維持しなければならない。そかしそれさえ気をつければあとは容易である。

(この章続く)

2011年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(041)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 ポーンの競争を含むスタディは豊富にある。この領域の油断できない特性を強調するために、最初の発表以来少なくとも3回修正しなければならなかったわずか6駒の収局で本章を締めくくることにする。

トロイツキー作(1908年)
 白先白勝ち

 トロイツキーの作意はcポーンに特有の着想を示すことだった。それもポーンがまだc3の地点にいるのに白クイーンが手番を握っている状況である!

1.e6 c4 2.Bc3+ Bxc3 3.e7

 局面は見込みのないように見える。しかし黒にもビショップによる「一掃」の手があり、あとで白クイーンによる重要な斜筋からのチェックをふさぐことにもなる。

3…Bf6+! 4.Kxf6 c3 5.e8=Q+ Kd2! 6.Qd8+ または Qd7+ Kc1!

 これで黒のポーンがc2の地点に進むのを防ぐ方法はない。手止まりのためにルーク列ポーンとビショップ列ポーンは、前述のフィッシャー対レテリエル戦のようにクイーン側のキングが詰ます狙いに加担できるほど十分近くにいるのでなければ、クイーンに対して引き分けとなる。

 しかしこの話はこれで終わりでない。セレズニョフ、シェロンそれにアディソンがそれぞれ小さな誤りを修正しながら何年にも渡って指摘したように、それでも白は勝つことができる。

1.Be7! Ba5 2.Bxc5 Bd8+ 3.Kg6 Ke2 4.e6

 シェロンはここで 4.Kf7 しか考えなかったが、それなら黒ビショップはどちらの斜筋へも行く余裕がある。

4…Kd3 5.Bf8!

 この手の意味は2手でビショップをf6の地点に行かせるためで、それと同時に黒が …Be7 と受けることにしたときにはf8の地点を使えるようにするためである。この可能性のために 5.Ba3 は排除される。自分のポーンの前もふさいでしまうので Be7 によって黒ビショップに挑むことができなくなるからであり、黒ビショップは位置を変える余裕ができる。

5…Ke4 6.Bg7 Be7 7.Kf7 Bb4 8.Bf8!

 これで黒ビショップはポーンの進路の封鎖を放棄しなければならない。

(この章終わり)

2011年12月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(245)

「Chess」2011年7月号(1/1)

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セントルイス対決


セントルイスでのルスラン・ポノマリョフ(左)対ヒカル・ナカムラ戦の第1局。米国の超一流GMは出だしは良くなかったがしだいに盛り返して元FIDE世界選手権者との番勝負に勝った。

IMリチャード・パリサー

 セントルイス・チェス・教育センターで(5月16日から25日まで)開催された正規チェス非公式番勝負で、米国ナンバーワンで世界第7位のヒカル・ナカムラが元FIDE世界選手権者で世界第11位のルスラン・ポノマリョフ(ウクライナ)に 3½-2½ で勝った。ナカムラは番勝負の最初は苦戦し第1局に93手で破れたが、巻き返して第3局と第6局に勝った。両者は続いて4局の快速戦を指し、ナカムラが 3-1 で勝って明らかに卓越していることを見せつけた。

セントルイス6番勝負、第6局
H・ナカムラ – R・ポノマリョフ
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7

 これはカスパロフの好んだ手順で、次の手順を避けている。3…Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 Be7(近く発売される「Declining the Queen’s Gambit」でジョン・コックスは 6…Bf5!? 7.Qf3 Bg6 8.Bxf6 Qxf6 9.Qxf6 gxf6

から生じるいくらか論争のある収局を分析している)7.Bd3 O-O 8.Qc2 Nbd7 9.Nge2 Re8 10.O-O Nf8 11.f3

カスパロフは白のときこの手で圧倒的な成績をあげていた。

4.cxd5 exd5 5.Bf4 c6

6.Qc2!?

 これで第4局から離れた(私に言わせればそもそもナカムラが初手に 1.e4 を指しベルリンの壁戦法に突入した第2局の改良だった)。その第4局ではかなりおとなしい 6.e3 Bf5 7.Bd3(7.g4! こそ重大な試練である。1963年世界選手権戦第14局の名局ボトビニク対ペトロシアン戦では 7…Be6 8.h3 Nf6 9.Bd3 c5 10.Nf3 Nc6 11.Kf1 O-O 12.Kg2

のあと白がわずかに有利だった。カスパロフが保証する 8.h4!? はずっと厳しい着想である)7…Bxd3 8.Qxd3 という手順だった。ナカムラのために言うとボトビニクの眼目の作戦がまだ通用することを期待していたのは疑いなかった。しかし 8…Nf6 9.Nge2 Nh5!(ビショップを捕まえるだけでなく黒の12手目も可能にしている)10.Bxb8 Rxb8 11.f3 O-O 12.O-O f5 13.a3 a6 14.b4 Qd7 15.Rae1 Rbe8

のあとポノマリョフはきわめて楽な陣形にすることができた。

6…Bd6

 交換戦法の主手順(黒の3手目の解説を参照)で黒はしばしば手数をかけて黒枡ビショップ同士を盤上から消し自陣を楽にしようとする。ここではポノマリョフはこんなに早くビショップ同士を交換することができて嬉しかったに違いない。もっともこれでも形勢は完全には互角になっていない。

7.Bxd6

 白はこのように落ち着いて指し進めるべきである。7.Nxd5 は 7…Bxf4 で白にとって何の得にもならないことが実戦で証明されている。なぜなら 8.Qe4+ Be6 9.Nxf4 Qa5+ 10.Kd1 Nf6 11.Qc2 O-O

で黒にポーン損の代償が十分にあるからである。

7…Qxd6 8.e3

8…Qg6?!

 ポノマリョフはあとで布局をもっとゆっくりと慎重に指すべきだったと告白した。次局からの快速試合から分かるように、ナカムラはただの戦術の達人であるだけでなく最近では捌きにも同じくらい長(た)けている。たぶんウクライナ選手は心理的な角度からだけでなくこの戦法自体においても少し準備が足りなかったのだろう。黒は 8…Ne7 と指すべきで、9.Bd3 のあとヤコベンコの 9…b6 から …Ba6 か、カシムジャーノフの 9…Qf6!? から …Bf5 がある。

9.Qxg6!

 9.Qd2 Ne7 10.Nge2 も白の方が少し良いと思うが、ナカムラの単純な手にも納得できることが多い。

9…hxg6 10.b4!

 展開した駒数で1-0とリードしているので米国ナンバーワンはキング翼を急いで展開する必要がないことに思い至った。この陣形における白の主要な作戦の一つはもちろん少数派攻撃で、即刻 b2-b4 と突くのはまったく理にかなっている。さもないと黒が 10…a5 と突いて白のポーン突きを妨げてくるかもしれなかった。

10…a6

 これでしばらくは b4-b5 突きを妨げられるが、黒は本当にもうそのポーン突きを心配する必要があったのだろうか。まともに 10…Ne7 と展開できるはずで、そのとき 11.b5?! と来れば(実戦のように 11.f3 の方が良い)11…Bf5 12.f3(12.bxc6 は 12…Nbxc6 のあと …Nb4 または …Na5 で黒も反撃がしやすくなる)12…Nd7 で …c5 突きを用意して黒が十分反撃できるはずである。あとで両選手は実戦の手は最善手ではなかったようだと示唆した。生じたb6の地点の弱点は確かにあとでポノマリョフを悩ますようになった。

11.f3

11…Nd7

 ポノマリョフはこのナイトをf6の地点に持って来たがっている。いずれにしても私は白陣の方を持ちたいが、11…Ne7 と指した方が良かったのではないかと思う。実際この局面になった唯一の前例の2006年アブダビでのスツルア対ネザド戦では 12.Bd3(たぶん 12.g4!? が白としての構想だった。現代チェスの真骨頂がここにある。白はこんなに多くポーンを動かし、黒はそれでも有効な反撃策に乏しい)12…Bf5 13.e4 dxe4 14.fxe4 Bg4 15.Kf2 Nd7

となってあまりはっきりしなかったようである。白の「理想の」中原は特に …O-O-O となりそうなことを考えればここではいくらか形を決めすぎている。

12.Bd3 Ne7 13.Nge2 g5

 これは白がいつかこの突起を利用してh列をこじ開けるにしても役に立つ十分な陣地拡張である。黒が静観し守勢のままでいたら、白はきっと g2-g4 突きから h2-h4 突きで陣地を拡張しついには好機の h4-h5 突きか e3-e4 突きで列を素通しにしていただろう。

14.Kf2 Nf6 15.g4!

 白はどんな …g5-g4 突きの可能性もなくし、目指す陣地拡張を行なった。

15…Kd8 16.Kg3 Bd7

17.a4!

 これも役に立つ手である。直前の2手の顔を立てて 17.h4 と突くのはどうかと思うかもしれないが、黒も措置を講じていて 17…gxh4+ 18.Rxh4 Rxh4 19.Kxh4 のあと選択肢があり、一つは単純な 19…Kc7 でそのあとh列を占拠し、もう一つは 19…a5!? 20.b5 cxb5 21.Nxb5 Bxb5 22.Bxb5 Rc8 でc列から反撃する。どちらにしても白は局面の支配権を少し失う。それはナカムラが本局で絶対しないようなことである。

17…Nc8

 このナイトはe7の地点でほとんど働いていなかったので、ポノマリョフは働かせようとしている。17…a5 と突いてクイーン翼で反攻しようとしたら 18.b5 cxb5 19.Nxb5 Bxb5 20.Bxb5 となり、ここで 20…Rc8 としても 21.Rhc1 で白が支配を維持していただろう。

18.h3 Re8

 黒にとっては不本意なことに e3-e4 の仕掛けはまだ狙い筋となっていて、18…Nd6?! なら 19.e4 で白がいくらか優勢になる。

19.Kf2 Nd6

 一見白が押し返されたようだが、よく観察すると黒はまだまだ凝り形で反撃に乏しい(双方のビショップを比較するとよい)。一方キング翼のルークをe列に配置したことにより h3-h4 突きを自ら招いている。

20.a5!

 キング翼で急いでも意味がない。20.h4 gxh4 21.g5(21.Rxh4 なら 21…g5 22.Rh6 Ke7)21…Nh5 22.Rxh4 g6 で相手に防御壁を作らせてしまう。しかし実戦の手はまたしても分別のあるナカムラの深い読みの入った手である。白はもう b4-b5 突きには何の関心もない。この手は素通し列を作って黒に反撃を与えてしまう。そこで彼はキング翼にまた目を向ける前にまずクイーン翼を永久に閉鎖した。

20…Re7?!

 反撃力が低いときにはこのような面白くない局面を守るのは決して容易でない(黒がたとえ …b7-b6 と突けたとしてもa6とc6の地点をかなり弱めるだけである)。しかし実戦の手のあと黒はクイーン翼をほどくのに苦労することになる。ここは 20…Kc7 21.Rac1 Be6 と指すことが必要で、キング翼と中央で白に一番したくないことをやらせることになる。

21.Rac1!

 この先受けの好手が黒にとって問題である。21.Ng3 なら 21…Kc7 22.h4 gxh4 23.Rxh4 Rae8 で黒が最後の部隊を戦闘に投入できる。しかし実戦の手のあとの 21…Kc7? は 22.h4 gxh4 23.g5 のためにほとんど不可能である。ナイトが逃げれば 24.Nxd5+ がある。

21…Nfe8 22.Ng3 g6 23.h4 gxh4 24.Rxh4

24…f5

 あとから批判するのは簡単である。しかし黒には他に何があっただろうか。例えば 24…Ng7 は 25.Rh7 Ne6 で白には 26.Na4 ともっと直接的な作戦の 26.f4 との楽しい選択がある。

25.gxf5 Nxf5 26.Nxf5 gxf5 27.Rh8

 ポノマリョフがこのように完全に指し回されているのを見るのは珍しい。お互いの戦力の働きの違いだけでも比べてみるとよい。

27…Rb8 28.Na4!

 少数派攻撃全般に不可欠のこの主題はここしばらくの間予定に上っていた。そして今ナイトが来て黒の既にかなり不安定な陣形にさらに圧力が加わった。

28…Kc7 29.Nb6 Be6 30.Rf8

 これでポーン得になる。

30…Rf7 31.Rxf7+ Bxf7 32.Bxf5 Nd6 33.Bd3 Rh8 34.Rg1

34…Kd8

 34…Rh2+ は 35.Rg2 Rxg2+ 36.Kxg2 となって白がキング翼の多数派ポーンを突き進める前にキングをe5の地点に持ってくる余裕さえできる。

35.Na4!

 このナイトはb6の地点での役目を果たしたのでもっと良い拠点を目指す。

35…Nc4!?

 これはルーク交換と相まって黒にとって反撃の唯一の現実的な試みだった。しかしそれでもしのぎには役立たなかった。

36.Nc5! Rh2+ 37.Rg2 Rxg2+ 38.Kxg2

38…Kc7

 38…Nxe3+ は 39.Kf2 Nd1+ 40.Ke1 Nc3 41.Nxb7+ Kc7 42.Nc5 となってaポーンが落ちそれと共に負けも決まる。

39.Bxc4 dxc4 40.Na4 Be8 41.Nc3 b6 42.e4

 向かうところ敵なしの中央のポーン集団のすごさよ。

42…Kb7 43.Kf2 c5 44.bxc5 1-0

 全盛期のカルポフを彷彿(ほうふつ)とさせる見事な完封だった。

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(この号終わり)

2011年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(040)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 観戦者をいつも喜ばせるポーンの疾走の一つの側面は逃走するポーンに追いつく小駒のあっぱれな奮闘ぶりである。レーティの有名なスタディでは(第4部「手筋」を参照)キングが縦筋でなく斜筋を選ぶことにより不可能を成し遂げた。両狙いで(通常はチェックで)手数を稼ぐ他の駒は地位の低いナイトである。

 フィッシャーは次の局面で(そして研究するための豊富な時間のあとで-試合は指しかけになっていた!)簡単な引き分けを見逃したことにより際限のない苦労に見舞われた。

エリスカセス対フィッシャー
ブエノスアイレス、1960年
 41.Nc8

41…Bc5?

 フィッシャーは自分の棋風に忠実に 41…Bxa3! 42.Nxb6 Bxb2 43.Nxc4 Bc1 による簡単な引き分け以上を追求した(「1ポーン得で盤の片側にだけポーンがあるならば十中八九は引き分けである」-ルーベン・ファイン)。

42.a4!

 ここから試合は新たな段階に入った。黒はさらに10数手ほどでキングがクイーン翼に侵入しビショップを切って止められないポーンを作ったように見えた。

エリスカセス対フィッシャー
 55…c3

56.Nh5!

 このナイトは脅威となっているポーンから遠ざかって動いたように見えるが実際はこのポーンに追いつくことのできる唯一の地点に動いている。ここで 56…c2 と来るなら 57.Nf4 でよく 57…c1=Q のあと、または 57…Kc3 なら 58.Ke4! でd3の地点を保持したあと、ナイトでキングとクイーンを両当たりにする。上図で 56.Nd7 が良くないのはこのためである。ナイトはd3とe2の両地点に到達できなければならない。

56…Kxa4 57.Nf4 b5 58.Ne2! c2 59.Nc1 黒投了

 キングとナイトは単にbポーンをb3の地点に進ませることによりこのポーンが手に負えなくなるのを防ぐことができる。白キングがc3の地点に来て …b2 には Kxc2 と取ればよい。そしてキング翼のポーンで勝負がつく。ここではナイトは実に足の長い駒になっていた。

(この章続く)

2011年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(039)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 つかみ所のない別のポーン競争でフィッシャーは読み損じのために優勝を逃すことになった。彼はもっと早い段階で勝つことができたはずだったし、この時点でも負けてしまうはずがなかった。

フィッシャー対レテリエル
マルデルプラタ、1959年
 46…Ke6

47.a4 Kd6 48.a5?

 フィッシャーは 48.axb5 axb5 49.g4 の明らかな引き分けに満足できずに指し過ぎの手を指してしまった。この変化との微妙な相違はa列にポーンが残っているために以下に出てくる一つの重要な変化で黒が勝つ可能性があるということである。

48…Ke6 49.g3

 フィッシャーは 49.g4 c4 50.bxc4 bxc4 のあと黒がすべてを制していることに気づいた。キング翼のポーンを清算してもなお黒キングはc8の地点に行く余裕がある。それがこの収局を引き分けにするのに必要なすべてである。[訳注 これは 51.Kd4 で白の勝ちになり、正しくは 49…Kd6 50.f5 g5 で引き分けのようです]

49…Kd6 50.f5 gxf5+ 51.Kxf5

フィッシャー対レテリエル
 51.Kxf5

51…Kd5!

 負けるかもしれないのは急に白の方になった。この巧妙なキングの前進のために白キングは黒ポーンの昇格枡から排除されたままとなる。そして黒のbポーンがチェックでクイーンに昇格するので黒は勝ちを目指すならキングに2手かける余裕がある。

52.g4 Kd4 53.g5 c4 54.bxc4 b4! 55.c5?

 フィッシャーはまだ局面の紛糾を期待していた。cポーンは敵クイーンによって取られたとき隅にいる受け側のキングが手止まりになるのでクイーン相手に引き分けになることがよくある。ここでは相手のキングが近すぎた。フィッシャーはクイーン収局では黒がクイーン同士を交換し残っているポーンを取ることを狙うことができるのでその収局の可能性を嫌った。この悪手ですべてが終わった。すべてはa6の黒ポーンの隠れた狙いのせいである。

55…b3 56.c6 b2 57.c7 b1=Q+ 58.Ke6 Qb7 59.Kd7 Kd5 60.g6 Qc6+ 61.Kd8 Qd6+ 白投了

(この章続く)

2011年12月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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