2011年11月の記事一覧

世界のチェス雑誌から(150)

「Chess」2011年7月号(4/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準決勝第1組
ゲルファンド 2733 6-4 カームスキー 2732

 ありがたいことに鍵括弧で括られたところにまたボリス・ゲルファンド自身の感想がある。カームスキーの側から試合を見ると二度目の雪辱の機会だった。以前に世界選手権予選で自分を負かしたトパロフを下したあと、ゲルファンドとの対戦は惨敗した2007年の挑戦者決定競技会の結果の雪辱を期す機会となった。以下は試合内容についてのゲルファンドの見方である。

 「2007年の我々の対戦はかなり楽な試合だった。カームスキーは長年のチェスの実戦の中断からちょうど復帰したばかりだった。彼は支援してくれるチームもなかったし布局はどうしようもなかった。決然と戦ったが布局では何年も後れをとっていた。その対戦のあと彼は卓越した理論家のエミル・ストフスキーそれにアンドレイ・ボロキティンと立派なチームを組んだ。実際布局の研究では私を圧倒した。それは確かだ。黒番のためにストフスキーと非常によくグリューンフェルトを研究してきた。我々のチームはその戦型を詳しく研究していたが、彼の研究の方が深かったことは分かるだろう。そして白番では絶えず課題を投げかけてきた。」

 「第1局についてはカームスキーは近頃押され気味のペトロフを避けて、代わりに20年も大家だったナイドルフ・シチリアを指したことは言っておく価値がある。その試合はずっと均衡していて引き分けに終わった。」

 「第2局はカームスキーが手順を間違えこちらに勝つチャンスが訪れた。勝勢の局面だったが一本道の勝ち手順を読もうとして何かを見落とした。それからの彼の防御は素晴しくて試合は引き分けに終わった。布局で 11.Rb1 と指したとき彼は第4局のように 11…cxd4 と指さなければならなかった。しかし 11…Bd5 12.Qc2 cxd4 と指してきてそこでこちらは 13.cxd4 とポーンで取ることができた。実戦は 11.Rb1 と指したあと彼が大長考をした。彼がなかなか思い出せないでいるのは明らかだった。研究済みなのだが分析したことがなかなか思い出せずにいた。」

準決勝第1組、第2局
B・ゲルファンド - G・カームスキー
グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5

 カームスキーの協力者のエミル・ストフスキーはグリューンフェルト防御の権威である。

4.Bg5 Ne4 5.Bh4 Nxc3 6.bxc3 dxc4 7.e3 Be6

 黒はポーンにしがみついている。

8.Nf3 Bg7 9.Be2 c5 10.O-O O-O 11.Rb1

11…Bd5

 この手についてはゲルファンドの前述の言及がある。11…cxd4 の方が良い手だが 11…b6 と 11…Nd7 も指されている。

12.Qc2

 ゲルファンドは即座にこの手を指した。e3-e4 突きが狙いなので黒は選択肢がかなり限られる。

12…cxd4

13.cxd4

 黒が先に 11…cxd4 と取っていたら 12.cxd4 は覇気のない応手になっていただろう。しかしここでははるかに理にかなった手になっている。

13…b6 14.Bxc4 Nc6 15.Rfc1 Bxc4 16.Qxc4 Na5 17.Qc7 f6 18.Qxd8 Rfxd8 19.Rc7 Kf7 20.Rbc1 Ke8 21.Bg3 Bh6 22.Kf1 Rd7 23.Rxd7 Kxd7 24.Rc7+ Ke8 25.Nd2 b5 26.Ne4 a6 27.Nc3 Bf8 28.Nd5 Rd8

 ここでは白の優勢はかなり明らかのようである。しかし白は次の手で間違えた。

29.e4?!

 選択肢は他にもあるが解説者のGMセルゲイ・シポフはここで白が支配を維持するには 29.Nf4 が正しい手段だと考えていた。カームスキーは持ち時間が少なくなっているにもかかわらずここで非常に効果的な反撃を開始した。

29…f5!

 黒の作戦はルークをd7の地点にさしはさみ、それからビショップをg7の地点に据え(d4のポーンを攻撃するため)、そして最後に …e7-e6 突きでd5のナイトをこづいてd4の地点にもう一つ利きを当てることである。白はこのゆっくりだが効果的な作戦を迎え撃つのに特別何もないので落胆したに違いない。

30.f3 fxe4 31.fxe4 Rd7 32.Ke2 Bg7 33.Bf2 e6 34.Rc8+ Kf7 35.Nb6 Rb7 36.d5 exd5 37.exd5

 このdポーンは怖そうだが黒には対策がある。

37…Be5 38.Ra8 Nc4 39.Rxa6 Nxb6 40.Bxb6 Bxh2

 規定手数に達し局面は互角である。もちろんまだいくらか指す余地はあり、白は正当にそれを行使するがたぶんうまくいくとは考えていなかっただろう。

41.Kf3 Rd7 42.Ke4 Re7+ 43.Kd3 Rd7 44.Kd4 Bg1+ 45.Ke4 Re7+ 46.Kf4 Bxb6 47.Rxb6 Re2 48.g4 h5 49.Rb7+ Kf8 50.g5 h4 51.Rh7 b4 52.Rxh4 Ke7 53.Rh6 Rxa2 54.Rxg6 Rd2 55.Re6+ Kf7 56.Ke5 b3 57.Rf6+ Kg7 58.Rb6 b2 59.d6 Kg6 60.Ke6 Re2+ 61.Kd5 Rd2+ 62.Kc6 Kxg5 63.d7 Rc2+ 64.Kd6 Rd2+ 65.Ke6 Re2+ 66.Kf7 Rf2+ ½-½

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(この号続く)

2011年11月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

フィッシャーのチェス(038)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 白キングを寄せつけないことができるならば黒キングは相手のルークのチェックによって自分のポーンの前に追い込まれることはない。

アリョーヒン対ボゴリュボフ
世界選手権戦第19局、1929年
 白の手番

 ポーン、ルークそれにキングの相対的な位置はフィッシャー対カルメ戦の収局と同じである。しかしここでは白も黒も最下段めがけてのそれぞれの競争を読まなければならない。

1.Rb1 Rd3+ 2.Kc6 Rd8 3.b6 Kg4?

 このあと明らかになるように黒キングはあとで白キングが戻ってくるのを妨げるためにe列に行かなければならなかった。

4.b7 f5 5.b8=Q Rxb8 6.Rxb8 f4 7.Kd5

 そして白キングが黒ポーンに追いついた。

 黒キングが(6…f4 のあとで)g4の地点の代わりにe4の地点にいるものとしよう。

アリョーヒン対ボゴリュボフ
 (参考図)

 局面は白キングが1手後れているということを除いてフィッシャー対カルメ戦とほとんど同じであ。

7.Kc5 f3 8.Rf8

 ルークでチェックしてもポーンの前に追いやることはできず、黒キングはd3の地点に行く。そしてルークがf列に戻るたびに黒キングはe2の地点に行ってポーンを守るだけである。

8…Ke3 9.Kc4 f2 10.Kc3 Ke2 11.Re8+ Kd1!

 1手の無駄もなく引き分けである。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(037)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走

 対局者の読みに影響を与えるものにはキングの位置、進攻ポーンそれに外側ポーンがあるが、ポーン収局にはそれらと異なる別個の分野または側面がある。私はそれを「ポーンの疾走」と呼んできた。その理由は通常の場合優勢側の特定の勝ち方でなく両者のポーンによる競争を伴うからである。つまり防御側は相手の進攻を防ぐために自分の1個または複数のポーンを突き進めることに頼ることになる。そしてその読みは危険に満ちている。

 最初の局面は典型的な場合である。白は手間ひまかけてポーンをc7の地点まで護衛するずっと前に、それだけの価値があるかどうか読んでおかなければならなかった。ここではわずか1手の差でそれに値した。

フィッシャー対カルメ
ニューヨーク、1958-59年
 51…Kf5

52.c8=Q+ Rxc8 53.Rxc8 g5 54.Kc6 g4 55.Kd5 Kf4 56.Kd4 Kf3 57.Kd3 黒投了

 57…g3 に 58.Rf8+ から Ke2 で白キングが「間に合っている」。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

ポルガーの定跡指南(1)

「Chess Life」2002年10月号(1/3)

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ポルガーの定跡指南

GMスーザン・ポルガー

ジオッコピアノ

 初回はジオッコピアノ(「静かな試合」という意味)を取り上げる。これはイタリア布局としても知られ、アマチュアやクラブ選手に人気のある布局の一つとなっている。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4

 これがこの布局の重要な出発点である。ここまでの手は理にかなった展開の手で、「駒を展開し中原を支配すること」という布局の基本原則に従っている。この分岐点で黒には 3…Nf6 と 3…Bc5 という二つの主要な選択肢がある(3…Nf6 は次号で取り上げる)。

 黒には他の選択肢もあるが、それらは消極的であまり人気がなく本筋の手ではない。3…g6、3…Be7 それに 3…d6 に対しては白は 4.d4 と応じて中原を占拠する。

3…Bc5

白の4手目では異なった対処の仕方がいくつかある。四つの選択肢は・・・

A)4.b4

 これはエバンズギャンビットになる。完全に異なる布局なので今回は取り上げない。

B)4.d3

 堅実で用心深い戦法である。

C)4.O-O

 これも堅実な戦法である。

D)4.c3

 これは四つの選択肢のうちもっとも意欲的で機動力のある戦法である。この手の意図は次の手で 5.d4 と突いて中原を占拠しようということである。

 それでは堅実な二つの選択肢から先に見ていこう。

B)4.d3 Nf6 5.Nc3 d6

 自然な 5…O-O は 6.Bg5 とかかられるので時期尚早である。この釘付けは 6…h6 に 7.h4 とされるので不快である。次の鮮やかな例が示すように黒はビショップの犠牲を受け入れることができない。7…hxg5 8.hxg5 Ng4 9.g6 Nxf2 10.Nxe5 Nxd1 11.gxf7+ Rxf7 12.Bxf7+ Kf8 13.Rh8+ Ke7 14.Nd5+ Kd6 15.Nc4#[訳注 9…Bxf2+ で黒が優勢のようです]

6.Bg5

 6.O-O なら黒は 6…h6 で 7.Bg5 を避ける。

6…h6 7.Bxf6 Qxf6

 白は中央で動けるようにするために双ビショップを放棄した。

8.Nd5 Qd8 9.c3

 この手は d3-d4 突きと b2-b4 突きの両方の準備である。

9…Ne7

 黒が単に 9…O-O と指すと白は 10.b4 Bb6 11.a4 a5 12.Nxb6 で黒のクイーン翼のポーンの形を乱す。

10.d4 Nxd5

11.dxc5 Nf4 12.g3 Nh3 13.Bb5+ Kf8

 これはイワノビッチ対ゲオルギエフ戦(1987年)である。このあまりみかけない局面は互角の形勢である。

 13…Kf8 の代わりに 13…Bd7 は 14.Bxd7+ Qxd7 15.cxd6 Qxd6 16.Qxd6 cxd6 17.Rd1 Ke7 18.Ke2 となって、黒のd6の出遅れポーンのために白がわずかだが確実に優勢である。

C)4.O-O Nf6

 5.Nc3 d6 なら 6.d3 で 4.d3 に移行する。

5.d3 d6

 6.Nc3 ならB)に移行し 6.c3 ならD2)に移行する。

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原題『Opening Secrets』

2011年11月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ポルガーの定跡指南

フィッシャーのチェス(036)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 最後に取り上げるのは進攻パスポーンの局面の典型で、1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の不名誉な第13局である。これはあの華々しかった戦いの最終盤にすぎない。収局作家がこの局面を作ったならば面白いが実戦では起こりそうもないとチェスを指す友人みんなから言われただろう。

 長手順の試合のこの短い部分にさえ教訓が2、3ある。まず今日までどの解説者も両者が最善を尽くせば引き分けであると結論づけてきた。そしてこのことからスパスキーがもっと前に強制的に引き分けにする手を逃したのは試合の論理的な帰結に決定的ではなかったとしてきた(試合解説のこのような側面については第7部「チェスの論理」で話題にする)。このあと分かるようにフィッシャーにはまだ一本道の勝ち手順があった。第二にこの局面には昇格枡を守るルークを妨害する小駒によって用いられるいつもの策略が現れている。第三にポーンを進攻させる際にはキングの位置がいかに重要かが見られる。最後に世界選手権戦で黒の4個のポーンが一時的に7段目に到達する唯一の例である。

スパスキー対フィッシャー
世界選手権戦、レイキャビク、1972年
 59…h3

60.Be7 Rg8

 白のビショップはf8の地点に行って黒ルークの利きを邪魔しポーンの昇格に道を開くことを狙っていた。この種の収局ではどの場合でも次のような二つの戦術を見分けることが常に大切である。(1)相手が駒を犠牲にしてポーンを昇格枡に進ませる。(2)何も取られずにポーンを突き進める。ビショップ、ナイト、それにルークはどれもこの種の妨害ができるが、ビショップにはルークを閉じ込めることができるという他にはない特徴がある。

61.Bf8

スパスキー対フィッシャー
 61.Bf8

 フィッシャーはここで 61…h2 と突き、それに対して白は 62.Kc2 と指してd列で遮断を維持することができた。フィッシャーがキングにd列を越えさせるためにhポーンを犠牲にしなければならなくなったとき、正確に受けられると勝てなくなっていた。しかし単刀直入の理詰めの勝ち手順が存在するのである。その要諦は次のように要約できる。

 1.黒が勝とうとするならポーンの昇格を助けるためにキングがd列とe列を越えなければならない。

 2.白は自分のキングがc2の地点に来てしまえばルークがe列またはd列で遮断することができる。

 3.しかし 61…c3+ のあとでは黒キングがc4の地点に進入するのを防ぐために白キングはd3の地点に行かなければならない。(スパスキーのかかりつけの精神科医でグランドマスターのクロギウスは 62.Kd3 に好手の印を付けた。しかしこの手は必然手であり、黒キングがb5の地点にいてc4の地点に行くことを狙っている限りd列をふさぐことになる。)

 4.黒は余裕があればfポーンをf2の地点に進めることにより白ルークがe列にい続けることを防ぐことができる。

 従って少し読みを進めてみれば正解は一直線に決まってくる。

61…c3+! 62.Kd3 h2 63.Rf1 f4

 ちょうどうまくチェックで取られないようになっている。白ルークが最下段を離れることができないので、白キングがd3とd4を往復する、またはルークがa1、h1、f1、d1の間を往復するのはどうでもよいことである。最善の手順では白ルークがd1の地点に来る。そのとき黒はキング翼で突撃をしなければならない。

64.Rd1 f3 65.Kd4 f2 66.Kd3 Kc6! 67.Kc2

 67.Kc4 なら 67…c2 で4ポーンが自陣からの7段目に到達する。そして68.Rc1 Kd7!(後衛に深く後退した)69.Kxb4 Ke6 70.Kc3 Ke5 71.Kd3 Kf4 72.Ke2 Kg3 73.Bd6+ Kg2 74.Bxh2 Re8+ となる。

67…a1=Q!

 この転換が面白い。実戦ではフィッシャーは白ルークをd列からそらすためにhポーンの方を捨てた。

68.Rxa1 Kd5 69.Kd3 c2! 70.Kxc2 Ke4 71.Kd2 Kf3 72.Bxb4 Rxg7 黒勝ち[訳注 71.Rf1 Kf3 72.Bc5 で引き分けに終わるようです]

 フィッシャーが相手のポカによるのでなくこのようにして勝つことができていたら、この試合の全体の様相は違ったものになっていただろう。それでもポーンを全力で前へ進める第一級の例となるのは間違いないだろう。

(この章終わり)

2011年11月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(22)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

26 時間がものを言う 117ページ
『しかし、26…f5! なら単純に持ちこたえられる(27.Qh2 Kg8)。』

英文『But simply 26…f5! holds (if 27.Qh2 Kg8).』

試訳『しかし単に 26…f5! で持ちこたえられる(27.Qh2 なら 27…Kg8)』

26 時間がものを言う 117ページ
『晩年のエイブ・ターナーが』

英文『The late Abe Turner』

試訳「故エイブ・ターナーが」

27 進路を外した花火ショー 119ページ
『(良くないのは 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5)。(ボトヴィニク対アリョーヒン、AVRO 1938)』

英文『(weaker is 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5 Botvinnik – Alekhine, AVRO 1938).』

試訳「(良くないのは 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5 ボトヴィニク対アリョーヒン、AVRO 1938年)。」

27 進路を外した花火ショー 119ページ
『白のほうが動きやすくて攻撃の見込みがあるが、孤立したdポーンの欠点は最小限に抑えねばならない。』

英文『White has the freer game and attacking prospects, but the drawback of his isolated d-Pawn should not be minimized.』

minimized 「最小限に抑えられる」の前に否定の not がある。

『白のほうが動きやすくて攻撃の見込みがあるが、孤立したdポーンの欠点は軽視すべきでない。』

2011年11月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(035)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーの最高傑作の一つである白のキング翼攻撃と黒のクイーン翼攻撃の典型的なルイロペスの主題で次のような重要な局面が現れた。

フィッシャー対シュテイン
スース、1967年
 29…Qf8

 フィッシャーはここでビショップを温存する 30.Be4 Qxf4 31.Bxf4 で有利な収局に移行することを選択した。そこで黒が …Rxa2 と取っていれば引き分けになる可能性が高かった。フィッシャーは相手の慎重策に助けられて勝ったが、せき止め駒をおびき出すことによって進攻ポーンを最大限に活用することができたはずだった。

30.Nh4! Bxh4

 取らないと黒のキング翼がたちまち崩壊する。30…g5 は 31.Qg3 で黒キングの隠れる所がないので白は全然意に介さなくてよい。

31.Qxh4 Qxf5 31.Qe7+

 そしてさらに2回チェックしてクイーンをc7の地点に置き黒キングをg8の地点に追いやったあとポーンがe7の地点に凱旋行進をする。これはeポーン布局に特にふさわしい。

(この章続く)

2011年11月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(034)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 両者に進攻ポーンがありルークの代わりにクイーンがそれらを支援している場合、事態ははるかに複雑になることが予想される。実際フィッシャーは初出場した全米選手権戦でこの収局の局面から20手弱の間に相手の1回に対し4回も悪手を指したにもかかわらずそれでも引き分けで終えることができた。

バーリナー対フィッシャー
ニューヨーク、1957-58年
 39.Nxa5

39…a2+?

 フィッシャーは 39…axb2 40.Kxb2 Qd4+ から …Qxd5 で単純にポーンを取って満足する代わりに相手の急所を突いた。のちに彼は一つの確信として速い勝ちをもたらしそうな複雑な手順は実戦では危険すぎると述べることになった。たとえ手数はもっと多くかかっても単純で確実な指し方をすべきである。

40.Ka1 Nc5

 …Qxa5 から …Nb3+ の狙いを受けるのは大変そうに思える。ナイトを動かすと詰まされるので特にそうである。しかし解決策はあるものである。それはありそうもないポーン突きだった。

41.b4! Nb3+ 42.Nxb3 Qxb3 43.Qe4

 クイーンにとってうれしいこの地点は3ポーンを守り詰みを防ぎポーン突きを狙っている。これは中央志向と呼ばれる。

43…Kg8 44.g6

 別の所で指摘したように絶対手はつねにより大きな影響を与えるように思われる。というのは相手には単なる受けの手のように見えるからである。白は g2-g4 突きのあと指す手がなくなるので待っていることはできない。黒はポーンをかわすことにより手詰まりの局面になることを期待するが、白ポーンが6段目に到達したことはその自我を途方もなく増大させた。

44…h6 45.Qf5! Qxd5?

 黒の手はまったく見当違いだった。45…Qd1+ 46.Kxa2 Qxd5+ から …Kg7 でaポーンを捨ててキングの安全を維持しなければならなかった。

46.Qd7!

バーリナー対フィッシャー
 46.Qd7

 白は Qh7+ から g7+ でクイーン昇格を狙っている。黒は再び 46…Qd1+ から …Qc2+ で進攻ポーンを捨てて白の進攻ポーンを始末しなければならない。その場合黒のeポーンは白のbポーンとちょうど同じくらい速い。なぜなら白キングは自分のポーンの「前」でチェックを避けなければならないからである。フィッシャーはそれでもまだ勝利の幻想をいだいていた。

46…Kf8? 47.b5 Qd1+ 48.Kxa2 Qa4+

 無駄な1手の 46…Kf8 のせいでポーンの昇格競争では白が1歩先んずることになった。それは 48…Qc2+ から …Qxg6 のあと起こる。

49.Kb2 Qb4+ 50.Kc2 Qc5+ 51.Kb3 Qd5+ 52.Ka3 e4 53.Qh7! Qd3+ 54.Ka4 Qd4+ 55.Ka5 Qa1+ 56.Kb6

バーリナー対フィッシャー
 56.Kb6

56…Qf6??

 4回目の間違いは即致命的になるはずだった。黒は次の手で正着を見つけることのできる幸運に浴した。収局で手を浪費する余裕があるのはしばしばあることではない。

57.Kc7??

 このお返しの悪手で黒に正しい手を指させることになったも同然だった。単純に 57.g7+ からeポーンを取っておけばすぐに白はクイーン同士を交換することにより勝ちのキング+ポーン収局に入るかbポーンを突き進めることになっていた。

57…Qg7+!

 これで両者にクイーンができもう争う余地がない。

(この章続く)

2011年11月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(244)

「Chess Life」2011年8月号(2/2)

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収局研究室
2011年メロディー・アンバー大会(続き)

大ポカ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2774)
GMレボン・アロニアン(FIDE2808)
第20回アンバー、目隠し戦

 白の手番

 これは白の楽勝の局面である。しかし白は黒のビショップがc4の地点にいると間違って思い込んでいた。

70.Rc7?

 正しい局面を思い描いていたら詰みを狙う同じ着意の 70.Rb7 Kg8 71.Rxb5 で試合終了となっていただろう。

70…Kg8

 それでも白は 71.Rcg7+ で局面を元に戻す機会があった。しかしそうする代わりに・・・

71.Rc4?? Bxc4

 ・・・ということが起こって白は投了した。同じような見損じは他の選手にも起こった。

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(この号終わり)

2011年11月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(033)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

イフコフ対フィッシャー
ザグレブ、1970年
 27…Rxc6

 ボビーは圧倒的に見える態勢を築き上げた。そして「虚弱」進攻ポーンの一つをちょうどひったくったところである。しかしそのあたりには予期しない毒牙があり伸びすぎとなるのは黒のポーンの方である。

28.Bxd4! h4

 このビショップはe3の地点ですべてを支配するのでフィッシャーはもう1個のポーンを犠牲にして単純化を図ることにした。ビショップ切りのちょっとしたおちは 28…exd4 なら白クイーンが昇格地点に利くようになるので 29.b7 でポーンが最大限に伸びることができるということである。

29.Qxe5 Qxe5 30.Bxe5 Rxb6

 あとの章に出てくるがフィッシャーはこの悲惨な局面をなんとか救うことができた。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(032)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 当然のことながらフィッシャーはいくつかの進攻ポーンの手筋では受ける側だった。彼や他のグランドマスターは他の型の状況よりもはるかに多くクイーン昇格の複雑な状態の機微を解決するのに失敗している。主眼点のちょっとした変化と進攻ポーンとはダモクレスの剣(身に迫っている危険)からバターナイフへと変わることがあるしその逆もある。

ヤノシェビッチ対フィッシャー
スコピエ、1967年
 39…Re2

40.Nxf8 Nxf8 41.h5!

 フィッシャーはこのあと28手ももがいたが最後には進攻したポーンを駒を切って取らなければならなくなった。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(149)

「Chess」2011年7月号(3/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝についてのゲルファンドの感想(続き)

 「第3局は思いがけず好局になった・・・これまでで最もうまく指せた試合の一つだ。布局では彼がこの激しい戦型を選んだために難しい場面もあった。その戦型はモロゼビッチが2001年アスタナでカスパロフを相手に指していて、私はその試合を思い出していくらか確認した。しかしはっきりとは思い出せなかった・・・1手でもミスすれば形勢を損じるので詳細に分析しなければいけない。だから手を変えた。筋にかなっていそうな手が見えたのでそれを採用した。それが 15…Kh8 だ。実際カスパロフが 15…Bf6 でその名局を勝ったのは覚えている。私もアスタナのその大会で指していて非常に感嘆したものだ。[編集部注 2001年8月号の7ページでGMバブーリンとIMバースキーがこの試合を解説している。ゲルファンドはこの大会でカスパロフとクラムニクに次いで3位だった。]しかしこの 15…Kh8 のあとマメジャロフは自分で考え始めなければならなくなった。彼が局面を分析できることは明らかだが、開放型シチリア防御の白番での経験がほとんどなかった。」

 「だから少しうれしかった。局面はすぐにとても険しくなった。もちろん 20.Kh1 は本当にポカだった。これで黒が優勢になるのは明らかだからまったくのポカだ。技術的に勝てるか、あるいは白が持ちこたえられるかはまた別の問題だ。もちろん 20.Bg5 が眼目の手で、この手だけを読んでいた。20.Kh1 には 20…Rxc3 21.bxc3 までしか読んでいなかった。しかし今 20.Bg5 を考えると黒は何も心配することがなさそうだ。20…h6 で一本道の引き分けだ。それは試合中に読んでいた。実は躊躇していた・・・相手に多くのチェックをさせるのは良くないし、相手はいつでも引き分けに持ち込める。しかし客観的には何も心配することがないと読んだ。」

 「しかし 20…Kg8 も難解だったが局面はまずまず均衡がとれている。だから 20.Bg5 が最善で最も自然な手だった。20.Kh1 のあと 20…Rxc3 と指して明らかに優勢になった。ただはっきりさせておかなければならない・・・こちらには大優勢を目指す多くの可能性があった。しかし間違った手を指したとは思っていない。」

 「34…Bg6 も非常に気に入っている。なぜなら交換損を取り戻し駒割を回復するのは魅力的だが、g6のビショップは攻めにも受けにも参加していないh3のルークよりも良い駒だからだ。」

準々決勝、第3局
マメジャロフ - ゲルファンド

 39…Rb8

 「そして突然、これらのポーン全部が・・・実際はまったく面白いことに彼の時間が切れた。そのことが報道されたのかは知らない。彼は時間で負けたんだ。彼は40手目を指すのに9秒残っていた。どう指したら良いか考えているうちに時間が切れた。しかし 40.Bc1 と指してもこちらは 40…Qc5 のような手を指して規定手数に達していたと思う。それで局面は勝勢だ。40…Rb2! 41.Bxb2 axb2 ならきれいに決まっていた。連鎖ポーンができて単純に …Be5 と指す。信じられないほどきれいだ。2、3分の残り時間でそれを見つけられたとは思わない。試合後レボン・アロニアンに会ったが、彼は私に「40…Rb2 と指せたのに」と言った。」

******************************

(この号続く)

2011年11月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

フィッシャーのチェス(031)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーは7段目のポーンを活用するためならクイーンさえも捨てることでも知られている。

フィッシャー対タリ
ブレッド、1961年
 19.O-O-O

 フィッシャーは攻撃をすみやかに進めるためにルークの中央集結と引き換えにaポーンを与えた。

19…Rxa2 20.Kb1 Ra6

 20…Qa5 による攻撃は一時的である。21.b3 で詰みの狙いが消えルークが立ち往生する。

21.Bxb5

 フィッシャーは Bd3 から Bxh7 でルークを取ることに注意を向けたままである。しかしその途中で一息ついてポーンを取り返した。21.Bh5 d6 22.Rhe1 で中盤戦で決着をつけることもできた。f5 または Qh6 の狙いが受からない。

21…Rb6 22.Bd3 e5 23.fxe5!

 フィッシャーは総交換を避けg7のポーンをしっかり固定するためにクイーンを捨てた。

23…Rxf6 24.exf6 Qc5 25.Bxh7

 白が戦力得であと20手ほどで勝ちが決まった。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(030)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーの試合は突き進んだポーンから毒の最後の一滴をしぼり出すことのできる絶妙のひねりで輝いている。防御側の駒が適切に見張っている一見穏やかな局面で彼は大胆な一撃で打開を図ることに成功してきた。

フィッシャー対タイマノフ
パルマ、1970年
 41…Rd4

 白のhポーンが当たりになっているが、42.g3 または 42.h5 でも白が優勢のように思われる。しかしフィッシャーは黒がルークの一つを最下段から一時的に離したことをすぐに利用した。

42.c5! Rxh4+ 43.Kg1 Rb4

 黒は2個目のポーンをかすめとることはできない。なぜなら 43…Rxa4 44.cxb6 Rb4 45.b7! Rxb5 46.Rc8+ Kg7 47.Rxb8 Nd7 48.Rd8 となってポーン1個のために駒損になるからである。

44.Rxb4!

 もう一つのルークによる手の込んだ捌きが必要だとしても白はなんとかパスポーンが得られる。

44…axb4 45.Rc4 bxc5 46.Rxc5 Kg7 47.a5 Re8 48.Rc1!

 ポーンの背後に回るのは「自分」のルークであることを確定させた。まもなく進攻したポーンが黒の投了を余儀なくさせた。

(この章続く)

2011年11月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

チェス布局の指し方[88]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

イギリス布局

1.c4 c5(図141)

 図141(白番)

 イギリス布局の 1.c4 はd5の地点を側面から叩いている。白はあとからこの地点を駒で支配し席巻することを望んでいる。側面布局を扱ったこれまでの節では白の間接的な横からの圧力に黒が中原に連鎖ポーンを構築して断固対抗する戦型を見てきた。この節では黒の異なった型の応手を分析する。即ち白の手の真似である。代わりに 1…e5 も非常にありふれていて逆シチリアの型の局面になる。

2.Nc3

 白はd5への圧力を増した。

2…Nc6

 一方黒は白のd4の地点を同じやり方で扱った。

3.g3

 白のキング翼ビショップもd5の地点をにらむように展開される。d5の要所をめぐるこの指し方は白の布局の捌きの最も大事な目的と主題になっている。この目的が達成されれば中盤戦の作戦は、白駒の定められた戦略配置からまるでひとりでのように自然に生じてくる。

3…g6 4.Bg2 Bg7 5.Nf3

 キング翼ナイトのf3への自然な展開は、Nge2 を意図するもっとおとなしい 5.e3 よりも優っている。その場合黒は単に白の手をまねすることにより完全な互角を達成できる。例えば 5.e3 e6 6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.d4 cxd4 9.Nxd4 Nxd4 10.exd4 d5 11.cxd5 Nxd5 12.Nxd5 exd5 で引き分け模様の局面になる。

5…Nf6 6.O-O O-O 7.d4!

 この中原でのポーン突きにより白はいくらか優勢が約束される。なぜなら白クイーンもd5の地点と接触するからである。さらに 7.d4 突きは白が展開を完了するための筋を開けている。ビショップをすべて対角斜筋に展開する意図のもっとゆっくりした 7.b3 突きはここでは次のように悪手である。7…Ne4! 8.Bb2 Nxc3 9.Bxc3 Bxc3 10.dxc3 これで白は目に見える代償もなく二重ポーンを作らされている。

7…cxd4

 これ以上まねを続けるのは危険である。7…d5 8.dxc5 dxc4 9.Qa4 となって黒のcポーンが困った事態に陥る。例えば 9…Be6 なら 10.Ng5! でe6のビショップがよくある手段でいじめられる。黒が Nxe6 を許せば双ビショップをなくしポーンの形が乱れる。一方このビショップがe6の地点から立ち退けばcポーンが落ちる。

8.Nxd4

 これで黒は展開の完了に問題を抱えることになる。というのは 8…d6 9.Nxc6 bxc6 10.Bxc6 で白にポーンをただでくれてやることになるからである。そこで黒は次のように指さなければならない。

8…Nxd4 9.Qxd4 d6

 この手はクイーン翼ビショップを展開するためである。

10.Bg5(図142)

 図142(黒番)

 ここまでの手順は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキー戦第8局で指された。展開の自由さとd5の地点の強固な支配で白(フィッシャー)が少し有利である。以下の進行例は要所の支配という抽象的な優勢がもっと現実的で具体的なものを得るのにどのように活用できるかを示している。

10…Be6

 これはスパスキーの指した手だが、すぐに …h6 と突いて白のクイーン翼ビショップを追う方がもっと理にかなっていた。

11.Qf4

 黒は 11…Nd5 でキング翼ビショップの利き筋を通して白クイーンに当て、そのあと …Nxc3 で白にとても弱い二重ポーンを作らせることを狙っていた。

11…Qa5 12.Rac1 Rab8 13.b3 Rfc8 14.Qd2 a6 15.Be3 Rc7

 スパスキーは 15…b5 と突き 16.Ba7! で交換損になった。

16.Nd5!

 Qxa5 の狙いがある。

16…Qxd2 17.Bxd2 Nxd5 18.cxd5 Rxc1

 黒はルークが当たりになっているので先にクイーン翼ビショップを動かすことはできない。

19.Rxc1 Bd7 20.Rc7

 局面は白が優勢である。

(完)

フィッシャーのチェス(029)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 ルークは明らかに連結パスポーンあるいは単独パスポーンの「背後」にいるべきものである。フィッシャーはスパスキーとの1972年世界選手権戦でこの戦術のみごとな例を2回生み出した。どちらもフィッシャーが勝ったが相手の協力があってのことだった。最終局がそうだったし次の局面もそうだった。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦第10局、1972年
 40…Kf7

 黒の連結パスポーンは恐ろしそうだが白のルークによって固定されている。それでも白がどのようにしたら進展を図れるかは難しい。キングをf6の地点から下げて釘付けをはずした黒の最終手は白にキング翼での策動の余地を与えた。40…g5 と突けば防げるところだった(ポーンは突け!)。規定手数に達する最後の手で読み間違いが起きた。

41.Ke2! Rd5 42.f4! g6 43.g4

 勝利への道筋が見えてきた。d5にいる黒ルークは釘付けになる筋にいるし、キングは白ポーンによって受け一方に追いやられている。白は単純に Rb5 から Rexb4 と指していく。それが実現したとき勝利は時間の問題だった。

(この章続く)

2011年11月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(21)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 108ページ
『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧制が続く。』

「圧制」とは「権力・武力などによって人の言動を押さえつけること」である。

英文『Or on 17…Nf4 18.Bg4 continues the pressure.』

試訳『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧迫が続く。』『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧力が続く。』

25 マローツィが抑え込みにならない場合 110ページ
『しかし、事態の急転にやや意気消沈し、自縛的で独特の陣形に陥る。』

中盤戦では陣形が崩し崩されるので、いまさら陣形を云々するようなことはない。

英文『But somewhat discouraged by the rapid turn of events, he indulges in a unique form of self-immolation.』

a form of は「の一形態」、unique は「類のない、きわめてまれな」、self-immolation は「自己犠牲、自己否定」という意味である。

試訳「しかし、事態の急転にやや意気消沈し、類のない自分で自分を犠牲にするようなことにふける。」

26 時間がものを言う 114ページ
『マッチの第11局では、私は以下のもっと昔からある手順で優位に立った。』

ここでの第2局(偶数局)でフィッシャーが白番なのだから、第11局(奇数局)でフィッシャーが白番であるはずがない。

英文『In match game 8 I got an edge with the more traditional …』

新しい代数式の本ではこのように書かれているが古い記述式の本では確かに「In match game 11 …」と書かれている。新しい本では明らかな間違いは修正されているようである。ちなみに私の持っている古い方の本には「11」はおかしいと自分で書き込んでいた。

試訳「番勝負の第8局では、私は以下のもっと従来から指されている手順で優位に立った。」

26 時間がものを言う 114ページ
『このマッチの第4、6局では、以下のように続けた。・・・ここで白が 10.Qh4、10.Qd1 のどちらでも明らかに有利。』

英文『In the 4th and 6th games of the match I continued with … and White got a clear advantage both with 10.Qh4 and 10.Qd1 respectively.』

respectively(それぞれ)と過去形の got があるのでフィッシャーは実際にこの手を指している。

『・・・ここでそれぞれ 10.Qd1、10.Qh4 と指しどちらも明らかに白が優勢になった。』

2011年11月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(028)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 連結パスポーンは5段目や6段目に到達するときわめて危険になる。6段目の並んだパスポーンはそのうちの1個が「当たり」になっていなければ手番のルークによっても止めることができないのは周知の事実である。しかしあまり前に進んでいないでルークによって厳重に見張られているときは無力になりやすい。フィッシャーも次の局面で自分の連結パスポーンを過大に評価していて、勝てそうな試合を最後には負けてしまった。

フィッシャー対コルチノイ
キュラソー、1962年
 28…Bf5

29.c5?

 フィッシャーは平凡な 29.Ra2 を避けて激しい手で勝とうとした。そう指せば 29…Bxc2 30.Rxc2 Rxa7 31.c5 となって黒は連結パスポーンを止めるのに汲々とする。フィッシャーは奇手の 29.Bb6! を指すこともできた。以下は 29…h5(最下段での詰みを防ぐため)30.c5 Bxc2 31.b4 Bd3 32.Rd1 Bb5 33.Rd6 となって白はポーン突きを目指す。

29…Bxc2 30.c6 Rxb3!

 単純そのものである。昇格地点は今度はビショップで見張ることができる。

31.g4?

 フィッシャーは黒ビショップにf5の地点に来させまいとしてさらに迷走を重ねた。たぶんコルチノイが 31…Rc3(深く進んだポーンの背後に回る通例の受け)とはまることを期待していたのだろう。それなら 32.Bc5! で最下段詰みの狙いで黒ルークをポーンと交換できる。

31…Rg3+

 これで黒が白のgポーンを召し上げ自分の方がポーン雪崩の態勢になった。

(この章続く)

2011年11月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(027)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 戦力を大量に犠牲にしてもポーンを7段目に進めることが価値があることがよくある。次の局面でフィッシャーはポーンをd7の地点に進めるために実際に4ポーンを喜んで捨てた。

フィッシャー対ドナー
ハバナ、1965年
 27…g5

 盤の両側でポーンが当たりになっているがフィッシャーは軽快なルークの捌きで中央進攻の余裕を得る。

28.Re5 Bd3

 一見ビショップを好所に追いやっただけのように見える。

29.c5! Rxc5 30.d6! Rxc3

 要点は黒は白に「連結」パスポーンを作らせるのでルーク同士を交換している余裕がないということである。

31.d7 gxf4 32.Rae1 Bg7

 ここから短手数で黒の負けになった。フィッシャーの犠牲の真価はいくらかましな手の 32…fxg3 33.Re8 gxh2+ 34.Kh1 に見ることができる。…Bg5 のあとルークをg列に回す手が決め手になるに違いない。

(この章続く)

2011年11月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

テレビのフィッシャー伝

 20世紀の終わり頃にテレビ朝日で放送された「100人の20世紀 冷戦下の米ソ頭脳決戦 ボビー・フィッシャー」がユーチューブにアップされていることにようやく気づきました。3年近く前のアップで再生回数も約1万回なのでもう多くのチェスファンが見ているのかもしれません。

「冷戦下の米ソ頭脳決戦 ボビー・フィッシャー(1/2)」
「冷戦下の米ソ頭脳決戦 ボビー・フィッシャー(2/2)」

2011年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

「ヒカルのチェス」(243)

「Chess Life」2011年8月号(1/2)

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収局研究室
2011年メロディー・アンバー大会

GMパル・ベンコー

交換損の返却
GMレボン・アロニアン(FIDE2808)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2774)
第20回アンバー、快速戦

 黒の手番

 我らの代表はスタートからついていなくてアロニアンに逃げられた。黒は交換得したが、白陣は双ビショップが強いので見込みがないというわけでは全然ない。黒のポーンは散らばっていてパスポーンもない。

27…Bc1 28.Rc4?!

 代わりに 28.Rb4 Bxb2 29.f4 Ba3 (29…Ree8 30.Bxh7+) 30.fxe5 Bxb4 31.e6 も考えられた。

28…Bxb2

 ここでは 28…b5 29.Bxh7+ Kxh7 30.Rxc1 Re2 31.g4 Rf4 の方が実戦より優るようである。

29.f3 Ba3

 29…Ree8 の方が強手で、30.Rc7 には 30…Rf7 と応じられる。

30.Rc7 Rf7 31.Rc8+ Kg7 32.g4 Rxe4!

 黒は交換得を返した。白のルークは働いているのに黒のルークは働いていないので他の手では見通しが立たないからである。

33.fxe4 Rf4 34.Rc7+ Kg6 35.Kg2 Rxg4+ 36.Bg3 Rxe4 37.Rxb7

37…Rb4

 残念ながら 37…Bc5 には 38.Bxd6! がある。

38.Kf3 Rb5 39.Bf2 Rxd5 40.Rxb6

40…Kf5

 黒の不運は続いている。40…Rf5+ は 41.Kg3! Rxf2 42.Rxd6+ Bxd6 43.Kxf2 となって、hポーンと誤色ビショップのために理論的に引き分けで白が助かる。

41.Rb3 Ra5 42.Be1 Ra4 43.Bf2 Bc5 44.Bxc5 dxc5 45.Rb5

45…Rc4

 45…Ra3+ は 46.Ke2 Rxa2+ 47.Kd3 h5 48.Rxc5+ Kg4 49.Ke3 で1手遅いので引き分けにしかならない。

46.a4 Rc3+ 47.Ke2 Ke4 48.a5 c4 49.Rh5 Rc2+ 50.Kd1 Ra2 51.Rxh7 Rxa5 52.Kc2 c3 53.Rh4+ Kf3 合意の引き分け

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(この号続く)

2011年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(026)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 ここからはあとでポーン昇格の可能性を作るために中盤戦でポーンを突いていくフィッシャーの洞察力の例を少し取り上げる。最も最初の頃の大会の一つでまだ「勝ち」試合は「勝ちきらなければならない」ことを学んでいるときに、フィッシャーは戦力が少なくなっていてもdポーンを突き進めれば勝つと確信して主眼のポーン突きを行なった。

フィッシャー対カミッロ
首都ワシントン、1956年
 27…Rxa8

28.e5 Bxc2 29.Qxc2 dxe5 30.Bxe5 Qd8 31.d6!

 そしてまもなく白が劇的な一発で勝った(「第16章 直射攻撃」を参照)。進攻したポーンは Rd1 によるd列での釘付けの可能性により間接的に守られている。

(この章続く)

2011年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(025)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 このかなり単刀直入の連係手筋から、恐らくこれまで指された中で最も劇的な昇格の手筋が連想させられる。ハリー・ネルソン・ピルズベリーはモーフィーからフィッシャーまでの米国生え抜き三羽烏の天才の二人目だが、強豪が集まった1895年のヘースティングズ大会では一番近い競争相手に半点差をつけて最終戦に入った。盤上には同数のポーンとたった2個の小駒しか残っていなくて引き分けは間近のように思われた。しかし十代を過ぎたばかりで初の国際大会に臨んだ米国選手は他の誰よりも深く局面を見通していた。

ピルズベリー対ガンズバーグ
ヘースティングズ、1895年
 26…Nb8

 もし黒のナイトがc6の地点に来て白のパスポーンを止めることができれば黒陣は安泰になる。「ポーンを見張ることにより動きを阻害されることのない唯一の駒はナイトである」-ルーベン・ファイン。そこで白はまずキング翼に空所を作らせる狙いでそらしとなるものを作り出す。

27.f5! g5

 黒のdポーンは虚弱者になる。27…exf5 28.gxf5 g5 は Nb4 でこのdポーンが落ちる。そして 27…gxf5 28.gxf5 Nc6 は Nf4 でやはり落ちる。

28.Nb4 a5

 この足元を脅かす手のあとcポーン突きを支援する考えは、どのように支援を「続ける」ことをもくろむかということほど注目に値しない。

29.c6!

 まずはナイトの「死角」に対するこのよくあるポーン突きからである。これに対して 29…axb4 は 30.c7 でポーンがクイーンに昇格できる。

29…Kd6 30.fxe6!

ピルズベリー対ガンズバーグ
 30.fxe6

 これで白ナイトは再び「保護」されている。なぜなら 30…axb4 なら 31.e7 Kxe7 32.c7 となって、また2箇所の昇格枡の「両当たり」になるからである。

30…Nxc6 31.Nxc6 Kxc6 32.e4!

 これが最後の急所である。白は敵キングが手のつけられない連結パスポーンを得て、白キングが盤をかけめぐることができる。黒は最後には白のgポーンを自由にさせる犠牲を払ってのみ自分もパスポーンを作ることができる。というのはそちら側の黒のポーンは出遅れになっているからである(白の1個が黒の2個を押さえている)。

32…dxe4 33.d5+ Kd6 34.Ke3 b4 35.Kxe4 a4 36.Kd4 h5

 黒は破れかぶれに打って出た。しかし白キングはちょうど黒のクイーン翼のポーンを止めるのに間に合い取ってしまう。

37.gxh5 a3 38.Kc4 f5 39.h6 f4 40.h7 黒投了

 ラスカーの好局の長さの金言にかなうちょうどの手数である。そして勝者に「ヘイスティングズのヒーロー」の異名をもたらすに値した劇的な内容だった。

(この章続く)

2011年11月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(148)

「Chess」2011年7月号(2/11)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝についてのゲルファンドの感想(続き)

 「第2局で彼はメランで驚かしてきた。彼は以前にそれを指したことがなかったし、私が黒でずっと指してきた布局でもある。だからちょっと意外だった。私が選んだのは近頃最もよく指されている流行の戦型で、こちらがいくらか優勢になったあと彼がポカで1ポーンを失った。本当にあれはポカだった。なんというかポカに近かった。というのは私がポーンを取り彼が考え始めたとき、たぶんこちらが全然優勢といえないと気づいたからだ。本当に驚いた。」

準々決勝、第2局
ゲルファンド - マメジャロフ

 33.Rc3

 「そして彼はすぐに引き分けにできる 33…g4 の代わりに 33…f4 と突いてきた。エンジンが使えれば 34.Nd2 と指せて有利な収局になる。本譜で 34.h3 は白が名ばかりの優勢にすぎない。実戦ではこちらが収局で優勢だと思っていたが

 39.Bd4

39…Nb4 のあと 40…Nc6 から 41…e5 とこられるのを見落としていた。それもやはり白が名ばかりの優勢にすぎない。残念ながらこちらが1手遅れている。なぜなら彼にこの捌きがなくてこちらのキングが中央に行けば、こちらの勝つ可能性がかなり高いからだ。しかし彼は時間に追われていたしこちらも時間があまりなかった。たぶん10分かそこらだった。だからこの手順に行ったのだが残念なことにこれを見逃していた。このあとはまったくの引き分けだ。」

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(この号続く)

2011年11月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

フィッシャーのチェス(024)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 すべての偉大な選手たちのようにフィッシャーは若い年齢でポーン昇格の技法をしっかり身につけていることを示した。試合のこの段階は上達途上の選手にはキング翼攻撃を同じくらい魅力的なようである。「十代の対決」でフィッシャーは相手にもポーン前進の狙いがあるので試合を正確に終わらせなければならなかった。

フィッシャー対カルドーソ
番勝負、1957年
 45…f5

 盤の両側に進攻したポーンがある場合は、たとえ犠牲を払っても防御側を過負荷にし自分と相手のどちらが先にクイーンを作るかを読むことが主題となる。

46.Bxd6+! 黒投了

 46…Bxd6 47.g7 Kf7 48.Kxd6 fxe4 49.b6 e3 50.b7 e2 のあと先にクイーンを作るのは白である。白はクイーンを2個作って即詰みにできるし、いつもの手を稼ぐ手筋の 51.g8=Q+ Kxg8 52.b8=Q+ で自分だけクイーンを作ることもできる。

(この章続く)

2011年11月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(023)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 最初は防御側の駒を進攻したポーンの進路からどのように排除するかのいくつかの例である。

フィッシャー対エーべ
ライプツィヒ、1960年
 35…Kxc3

 黒のビショップとキングは串刺しの筋に並んでいる。

36.Be5! 黒投了

 aポーンを止める手段はない。粗忽な選手なら 36.a7 Bxa7 37.Bxa7 Kd3 と指して黒のもがきを長引かせたことだろう。ところでこの試合はエマヌエル・ラスカーのあの卓抜な描写に当てはまっている。「ほとんどの熱戦は40手未満しか続かない。そのような試合は冗長なところがないので話はすぐに語り終えられる。ちいさな間違いが起こり、相手が巧妙だが精力的に有利を活用し、防御側の頑張りは最初は希望がありそうだがそれから絶望的になり最後にはむなしく終わる。」

(この章続く)

2011年11月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

チェス布局の指し方[87]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

キング翼インディアン攻撃

1.Nf3

 これはカタロニア布局と同じ初手だが、キング翼インディアン攻撃では白は c4 と突かずに d3 から e4 と突いていく作戦をとる。

1…d5 2.g3 Nf6 3.Bg2 c5

 黒は従来のやり方で中央をポーンで占拠した。

4.O-O Nc6 5.d3(図139)

 図139(黒番)

 白はキング翼インディアン攻撃の陣形を宣言した。白の布局の手は非常に融通性があり、ここで 5.c4 または 5.d4 と突いて黒のポーン中原にすぐに圧力をかけていくこともできた。

5…e6

 黒は黒番での反カタロニア指法のようにdポーンを安泰にした。

6.Nbd2

 この手はe4のポーンを支えるためである。6.Nc3 でもそうすることができるが、黒は必要なときに …dxe4 と取ってクイーン交換に持ち込むことができる。白は攻撃のためには盤上にクイーンを残しておく必要がある。

6…Be7

 ここはビショップにとって最良の地点である。6…Bd6 は白が e4 と突いたあと両当たりの危険にさらされる。

7.e4 O-O 8.Re1 b5

 これで駒組みが整った。白は e5 突きの手段で黒のキング翼ナイトを追い払ってから h4-h5-h6 と突いていくことにより攻撃を図る。黒は白のこの戦略を白のクイーン翼めがけて自分のポーンを突いていくことにより迎撃する。

9.e5 Ne8

 もちろん 9…Nd7 と引くこともできる。

10.Nf1

 この手は少し奇異な手に見えるがしっかりした根拠がある。白には Nf1-e3-g4 または Nf1-h2-g4 という二つの着想がある。白のクイーン翼ナイトはg4の地点でhポーンの進攻を助け、黒キングに対する攻撃全般に役立つ。

10…a5 11.h4 a4 12.Bf4

 e5の急所を押さえ込んでいるポーンに利いている白駒の数に注意されたい。これは白駒の連携の証である。キング翼がばらければ非常に大きい意味を持つようになる。

12…a3

 このポーン突きで白のクイーン翼のポーン陣形に黒枡の空所が作り出された。白は bxa3 と取ると孤立aポーンがむき出しになるので明らかにそう指せない。

13.b3 Bb7(図140)

 図140(白番)

 両者ともできる限り最も効率的な方法で攻撃を実行してきた。この分かりにくい側面布局によくあるように、この局面は客観的に言ってどちら側にも有利でない。この段階で白と黒のどちらを持ちたいかは純粋に好みの問題である。例えば著名なドイツのグランドマスターのウールマンはこのよくある局面で黒が有望であると強く主張している。一方ルーマニアのグランドマスターのゲオルギュはまったく反対の立場をとっている。

 たぶん次の理由により白の攻撃の方がもっと危険であるとみなすべきだろう。白がhポーンを突けるところまで突いたあと、Bg5 で黒のキング翼ビショップを強制的になくすことができる。そうすれば白のナイトは重要な黒枡のg5とf6を占拠できる。それらのナイトはそこから黒キングをいじめることができる。黒の反対翼での襲撃は危険ではあっても白キングに対する襲撃ほどではない。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

フィッシャーのチェス(022)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲

 ポーンは一般にチェスにおける評価の単位と考えられている。ポーンの評価を1とするとナイトとビショップは約3、ルークは4から5、クイーンは9となる。これらの数値は(理論家によって少しずつ違うが)明らかに駒の配置によって大きく変化するものである。そして特定の駒の組み合わせは働きが増すようである。ヤノフスキーによって崇拝されフィッシャーが心底大事にする有名な「双ビショップ」は開けた局面で恐ろしい存在である。その理由は単純で、一緒だと多種多様な狙いを作り出すことができるからである。逆説的だが連係して動く2ナイトにも程度は劣っても当てはまる(第4部「手筋」の章を参照)。ポーンは大きな違いはあってもこの特性を分かち合っている。ニムゾビッチはそれを詩的に「突進欲」と表現していた。

 ポーンは前方に進むほど価値が大きくなると言えるかもしれない。重要な条件が一つある。それは簡単に攻撃されるならば価値は無意味だということである。それにもかかわらず6段目のポーンは約2の「価値」があり、7段目のポーンは3か4である。それはそのようなポーンはクイーンに昇格「しようとする」からだけでなく、クイーンに昇格することを「狙い」敵の戦力を動けなくするからでもある。未熟な選手は「欲の強い」ポーンの価値を高めることを軽視しがちである。彼らはポーンを単刀直入にクイーン枡に前進させればすぐに勝負がついてしまうときに、敵キングに対する手筋や狙いを探し続けることがよくある。

 フィッシャーはパスポーンは突くべしという金言の実例を豊富に提供してくれた。より適切には、決定的な収局の段階に至るはるか前にポーンの可能性を見越すことにより何十のもポーン昇格の手筋を可能にしていた。

(この章続く)

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名著の残念訳(20)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 107ページ
『斬新なのは 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6。』

英文『More radical is 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6.』

英和大辞典でも radical に「斬新」という意味は載っていない。普通は「過激な」という意味である。9.Bb5+ は 9…Bd7 と受けさせて黒の意図していた …Ba6 という手をなくさせようという意味である。だから黒がどうしても …Ba6 と指すつもりならキャッスリングの権利を放棄してでも(過激!) 9…Kf8 と指すことになる。

試訳『初志貫徹するなら 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6。』

24 自業自得 108ページ
『黒には多様な防御法があるようだ。』

こういう表現だと受かる手がいろいろあるように感じられるが、実際はどの変化も黒が悪い。

英文『Black has a seeming multiplicity of defenses:』

seeming がついているので一見いろいろな受けがありそうだけど実際は受からないと言っている。ピリオドでなくコロンがついているのもそういう意味合いである。

試訳「黒には大丈夫そうな受けが一見いろいろありそうだが・・・」

24 自業自得 108ページ
『16…Nc6 17.Ng5 ここで黒のキングが九死に一生を得るのは難しい。』

英文『16…Nc6 17.Ng5 and it’s difficult for Black’s King to escape the crisscross;』


crisscross は「十文字」という意味である。Ba3 がいるのでキング翼にはキャッスリングできないし、クイーン翼にキャッスリングすると Nf7 でルークの両当たりになる(17…h6 は 18.Nxe6 Bxe6 19.Bf4 +-)。「十文字」のような攻撃を受けているが安全な所に退避できないことを言っていると思われる(「X字」攻撃と言った方が適切かもしれない)。この局面でチェスソフトの評価は白が「少し優勢/優勢」で、「九死に一生を得るのは難しい」というほど絶望的ではない。

試訳「16…Nc6 17.Ng5 ここで黒のキングが挟撃攻撃を逃れるのは難しい。」

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フィッシャーのチェス(021)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 本書の他の所でもフィッシャーの「ルークの間合い」が用いられている別の例を見ることになるだろう。しかしキングとルークの敵対関係がいかに巧妙になりうるかを示さないままこの主題を終えることはできない。時にはルークが不適切なときにチェックをかけることがあり、時にはキングが軽率に動くことがある。次の局面で平均的な選手は白キングがどうやろうと戦場に駆けつけさえすればいいと考えて一巻の終わりにしてしまうだろう。

カスパリアン作(1946年)
 白先白勝ち

 連結パスポーンがこんなに深く突き進みこんなによく保護され、敵キングが自陣の最下段にへばりつかされていれば、どうやっても終わりのように思える。しかし白ルークが動けば黒ルークがhポーンを攻撃してくる。信じられないかもしれないが白が勝つには次の手しかない。

1.Ka2!!

 なぜこの遠慮した動きが勝着なのかを理解するためには、キングがじかにキング翼に行くとどうなるかを見なければならない。1.Kb2 なら 1…Rh3 2.Kc2 Rg3 3.Kd2 Rh3 4.Ke2 Rg3 5.Kf2 Rh3 で「手詰まり」の局面になる。

カスパリアン作(1946年)
 5…Rh3(参考図)

 要点は白キングが 6.Kg2 で黒ルークに接近すると、このキングがg列にいるということに基づいた防御手段を黒がとるということである。黒が 6…Ra3 と応じると白ルークはh列から離れることができない(普通ならそうできる)。なぜなら 6.Rb7 Ra5! でhポーンを守るために白ルークが戻らなければならないからである。hポーンが進めないのは …Rg5+ で白のキングとgポーンが両当たりになるからである。

 それよりもずっと面白いのは白キングが「三角」歩行ができないこと、即ち手を捨てられないことである。上図で 6.Kf1 は 6…Rf3+ と応じられ 6.Ke1 は 6…Re3+! と応じられる。白キングは黒枡または白枡に動かなければならない。黒ルークはそれぞれh3またはg3の地点に寄る。

 同じ処方は最初の局面にも適用できる。例えば 1.Kb1 のあと黒は 1…Rb3+ として白キングの動いた地点の色と反対の色の地点に戻る。最初に 1.Ka2 と指すことにより白は上図の局面に黒の手番で到達することが保証される。そうなれば黒はhポーンへの直接の攻撃とgポーンに対する攻撃の「可能性」とを放棄しなければならない(g5の地点でチェックがかからないため)。

 キングとルークはことほどさように天敵同士なのである。

(この章終わり)

訳注 この収局は What’s the Kasparian Position? (1) でていねいに解説されています。

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フィッシャーのチェス(020)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 どちらが盤の上方かほとんど見分けられないようにルークとポーンが配置されているときには、まさしく幻覚がおこることがある。フィッシャーを世界選手権戦に押し上げた重要なインターゾーナル大会で彼は首位が非常に危うい重大な回戦でゲレルと対戦した。このロシア選手はフィッシャーの天敵だった(まだフィッシャーに勝ち越している)。この試合ではフィッシャーの勝利への執念が報われた。激しく形勢が入れ替わったあと、引き分け提案と拒否とを織り交ぜて次の収局に至った。

ゲレル対フィッシャー
パルマ、1970年
 67.Kxf5

67…g3

 フィッシャーの指した手、それに上下逆のような盤の様相がゲレルを混乱させた。試合後彼は 68.fxg3+ から Kxf1 と指せる(まるでキングがルークのように)と思ったと語った。

68.f4 Kh3

 黒は勝機を逃した。やはりこの型の収局ではルークは敵キングをチェックできる地点にいるべきで、この場合はa1だった。キングは後回しにできた。

69.Rd3

 これで普通に 69…Kh2 70.Kg4 g2 71.Rh3+ Kg1 72.f5 Kf2 73.Rh2! となったあと黒キングにはチェックからの隠れ家がなく、白ルークは黒ポーンと刺し違える。なぜなら黒ルークも白ポーンと刺し違えなければならないからである。だから黒キングは退却しなければならない。

69…Kh4 70.Rd2

 盲人が盲人を導いているようなものだ。白は相手が最善手を指していなかったことに気づいていないで手を繰り返した。白は Rd7 と指して(再び)「ルークの間合い」をとって縦からでも横からでもチェックできるようにすべきだった。

70…Ra1 71.Ke5

 この2回目の間違いが敗着になった。71.Rd8 ならちょうど受かる。例えば 71…g2 72.Rh8+ Kg3 73.Rg8+ Kf3 74.Ke6 でまたルークを切って自分のポーンを昇格させる。

71…Kg4! 72.f5 Ra5+

 白はポーンを取られるので投了した。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(242)

「Chess」2011年5月号(4/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合(続き)

目隠し戦 第3回戦
V・イワンチュク - H・ナカムラ
ルイロペス、ベルリン防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.c3 O-O 6.O-O d5 7.Qc2 Re8 8.Bg5 dxe4 9.dxe4 h6 10.Bh4 g5

 ナカムラはビショップを追うことにした。この局面でこれまでの黒番の選手たちはもっと抑制していた。

11.Bg3 Nh5 12.Nbd2 Qf6 13.Nc4 Nf4 14.b4 Bb6

15.Nxb6

 ナカムラはこの手は悪手だと思った。15.a4 から 16.a5 が良かったそうだ。

15…axb6 16.Nd2 Be6 17.f3 h5 18.a4 Red8 19.Rae1 Ne7 20.Bf2

 イワンチュクが当てもなく指しているように見え始めた。彼のビショップは共に働きが悪い。

20…h4 21.Be3 h3 22.g3 Ng2 23.Re2 c6 24.Bd3 b5!?

25.a5

 25.axb5? は 25…Ra2 26.Qb1 Nxe3 で駒を取られる。

25…Rd7

26.Bb6?

 白は明らかに黒がd列でルークを重ねるのを防ぎたがっている。しかしこのビショップはすぐに追い出されもっと悪い運命が待ち受けている。26.Rxg2!? hxg2 27.Kxg2 Rad8 28.Be2 がチェスソフトのリブカの推奨手順で、頑強な受けに徹する。

26…Nc8 27.Bc5

 このビショップは引き下がらなければならない。白は 27.Nb3 と指したいのだが 27…Bxb3 から 28…Rxd3 で駒を取られる。

27…Qd8! 1-0

 このビショップは安全に動かすことも守ることもできない。二つの駒が最下段に下がる(一つは元の位置に戻る)珍しい手筋だった。

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(019)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ほぼ1年後フィッシャーは似た局面に出くわした。キング翼の代わりにクイーン翼で、今度は銃身の反対側に立たされていた。そして相手がまたへまをした。

グリゴリッチ対フィッシャー
ブレッド、1959年
 52…Rh8

 グリゴリッチはシャーウィンが強要できたはずの同一の局面に陥った。53.Kxb5? Rb8+ 54.Ka4 Ra8+ 55.Kb3 でキングが押し戻されもうポーンを突けない局面になった。フィッシャーは 55…Rc8! 56.Rxc8 Kxc8 57.Kc4 Kb8! で優雅に引き分けを主張した。白キングがどこへ動こうと黒キングが「見合い」をとる。

 しかしグリゴリッチは黒ルークをクイーン翼から排除したままうるさいチェックを避けることができたはずだった。

53.Rc7+ Kd8 54.Rc5

 または

53…Kd6 54.Rc6+

としてから Kxb5。どちらの場合も黒は自陣の最下段から効果的なチェックをかけることができない。面白いことにフィッシャーはこの試合の詳細な分析でなぜ 53.Rc7+ が有効なのかという正確な理由を説明していない。ルーク+ポーンの収局ではある局面から別の局面に少し変わるだけでそれぞれの手の理由づけが隠されてしまう。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(018)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 フィッシャーはこれまで重要な収局を2回指している。そこではルークがチェックを続けようとするならばルーク自身と敵キングとの間に3枡あることが大切なことを見せつけた。どちらの収局も棋歴の初期に起こった。

フィッシャー対シャーウィン
ポルトロジュ、1958年
 78.Rf3

 局面はちょうどフィッシャーが黒キングをf列で遮断することにより勝利への最後の努力を傾けたところである。そしてシャーウィンがそれに応えた。

78…Ke6? 79.Kh4! Ra8 80.g5! ・・・

 なんと微妙で、しかし基本的なことか!ポーンがg5の地点に到達しさえすれば、ルークのチェックが「あまりに至近距離」なのでキングが前進できる。キングはh5の地点に進むことができ、それからg6の地点に、そしてチェックにはh6からg7の地点に行ける。黒は次の手で引き分けにできていた。

78…Ra8!

 この違いは大きい。白キングがポーンの前に進もうとすれば縦列に沿って阻止される。そして 79.g5 と突けば 79…Ra4! でキングがまったく進めない。このような局面でよくある手の 80.g6(ポーンが支援の範囲を越える)は 80…Ra6 で白の息が切れる。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(147)

「Chess」2011年7月号(1/11)

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挑戦者決定競技会


挑決優勝者のイスラエルのボリス・ゲルファンド(トロフィーを持っている)は決勝戦で敗退したロシアのアレクサンドル・グリシュクよりも当然ながら少し嬉しそうである

カザンでボリス・ゲルファンドが優勝、彼のコメントとジョン・ソーンダーズの報告

 先月はロシアのカザンで開催された挑戦者決定競技会の準々決勝を取り上げた。残るは準決勝と決勝戦である。大会後私は優勝者のボリス・ゲルファンドとの広範な独占インタビューを行なう恩恵に浴した。インタビューそのものの前半は本号の別の記事に掲載されている。しかし特に試合に関する部分を自由に抜き出してここの記事に散りばめた。試合の解説は本誌の編集部員によるものである。

 ボリスへの私の質問のいくつかは先月取り上げたシャフリヤル・マメジャロフとの準々決勝戦に関するものだった。その試合について彼がインタビューで語ったことから始める。以下では私の質問の部分は太字にしてある。ボリスの発言は鍵括弧で囲ってある。

準々決勝についてのゲルファンドの感想

 「最初の番勝負はあとのより楽だった。たぶん準備する時間があったからだろう。約6ヵ月前から誰が相手かが分かっていた。だけど彼も用意周到に準備していた。たぶんこの番勝負を前にしてこれまでになくチェスを研究したのだろう。しかし彼は実戦派の棋風の選手だと思うし6ヵ月間試合をしなかった。すぐに指すはずの局面で多くの時間を費やしていたように感じた。少し腕前が錆びついていた。本当にそう感じた。第1局では初手で私を驚かした。もちろん彼が 1.e4 を指すことはあり得るとは考えていた。実際彼は序盤をうまく指し優勢になった。実を言えばそんなに優勢だとは考えていなかった。彼の方が有利だが少し優勢と±との間ぐらいにすぎなかったのだろう。試合後彼の応援者たちが主張していたような勝勢ではなかった。もちろんコンピュータ相手なら負かされる。コンピュータはこちらが見つけられないような手を指し、優勢を生かすことができることを立証するだろう。しかし実戦の場ではこちらがそんなにひどかったとは思わない。」

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(この号続く)

2011年11月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

フィッシャーのチェス(017)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ルークが敵キングによって邪魔されない十分な間合いが取れれば、しばしば敵キングの動きを厳しく制限することができる。前述のフィッシャー対ビズガイアー戦での収局のように、キングはルークと組んで敵キングを負けの地点に押し返すことができる。エマヌエル・ラスカーはこの可能性を最も初期の創作の一つで示した(そして後述のように1930年代に入ってもスタディの発表を続けた)。ここで米国のマスターのエドワード・ラスカーと1894年から1921年まで世界チャンピオンだったエマヌエル・ラスカーとは非常に紛らわしいことを指摘しておいた方がよいだろう。二人は遠い親戚だった。長年の間ドイツと米国で親友だった。人間性と軽妙な著作の才能でも似通っていた。エドワード・ラスカーはたぶんエマヌエル・ラスカーがチェスの本質だと考える闘争心に欠けていた。それでも彼は何十年かにわたって米国チェス界の中心的な人物だった。

 ラスカーはシーソーの動きによってルークが遠くからどれだけ大きな力を及ぼすかを示してみせた。

EM.ラスカー作(1890年)
 白先白勝ち

 白の初手(と以降の手)は白キングがc7ポーンを守らなければ黒に …Rxc7 と取られることにより決まってくる。意外にも白は黒キングをa2の地点まで追い立てながらそのポーンを守ることができる。

1.Kb7 Rb2+ 2.Ka7 Rc2 3.Rh5+ Ka4 4.Kb6

 侵食が始まる。白キングがポーンを守るたびに黒ルークにチェックさせて(そうしないと白が Rxh2 と取る)敵キングをだしにして陣地を広げる。

4…Rb2+ 5.Ka6 Rc2 6.Rh4+ Ka3 7.Kb6 Rb2+ 8.Ka5 Rc2 9.Rh3+ Ka2 10.Rxh2! ・・・

 これでポーンがクイーンに昇格することになる。

 キングは至近距離で敵ルークと渡り合えることほどやり易いことはない。これが一部のルーク+ポーン収局で勝てる理由である(進攻したポーンの「狭い」側に敵ルークがいるとき)。例えばd列に白の進攻したポーンがあるとき黒ルークがd列の「狭い」側にいる場合である。何が違うかというと白キングがb列に来ることによりdポーンを失うことなくそれ以上のチェックをかわすことができるということである。要は間合いの問題である。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(016)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ルークの明らかに長い利きは駒の配置により短縮される。しかしキングは盤端によってずっと動きが制限される。次のスタディはサアベドラのスタディの主手順の繰り返しだが勝つための手順は簡単至極である。

EM.ラスカー作(1890年)
 白先白勝ち

1.f7 Rxe6+

 変化らしい変化は 1…Rc8 2.Nc7+ から 3.Ne8 である。これでまたキングが正しい間合いを保って動きさえすれば(2.Kg5 Re5+ 3.Kg4 ・・・)ルークはチェックが尽きる。しかしもし局面が1列右にずれていればキングはひどい不自由をかこつことになる。

 (h列がないものとせよ)1.f7 Rxe6+ 2.Kg5 Re1! のあと黒はg1とf1でチェックして、ポーンがクイーンに昇格しても/昇格したとき、そのクイーンを取ってしまうことができる。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

チェス布局の指し方[86]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

カタロニア布局

1.Nf3 d5(図137)

 図137(白番)

 白の初手のあと黒がポーンで中原を占拠するのは自然な応手である。1…e5 は 2.Nxe5 で駄目なので 1…d5 が次の最善手になる。

2.c4

 この手は黒のdポーンを当たりにして、中央の位置からそらすことに期待をかけている。2…dxc4 3.e3 のあと白は(Bxc4 から d4 で)クイーン翼ギャンビット受諾の有利な型に移行できる。

2…e6

 黒は中央で地歩を譲ることを断固拒否した。

3.g3

 白はもう2、3手後に d4 と突いて一種のクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御にするつもりである。ただしキング翼ビショップはg2に展開させる。白の期待はg2のビショップが黒のdポーンに対する圧力を増すのに役立つことである。

3…Nf6

 3…dxc4 なら 4.Qa4+ から Qxc4 で白クイーンが素通しc列の好所に位置することになる。黒は自陣の要衝であるdポーンの防御に集中する方を選んだ。これで黒の駒はすべてこの地点と何らかの接点を持つように展開される。布局はこの地点の支配をめぐる熾烈な戦いになってきた。

4.Bg2 Be7

 ここでのよくある間違いは 4…Bc5 である。ここはビショップにとって好所に見えるが、実際は次の二つの理由により大きな誤りである。

 (a)このビショップはここにいると、前進して自陣を解放すべきcポーンの邪魔になる。

 (b)白はすぐに d4 と突いてビショップを当たりにして先手で展開できる。

5.O-O O-O 6.d4

 これでクイーン翼ギャンビットの局面になった。もし黒が方針を曲げて 6…dxc4 で中原の支配を放棄すれば、白は 7.Ne5 か 7.Qc2 でポーンを取り返す。あとの 7.Qc2 の場合 7…b5 は 8.a4 c6 9.axb5 cxb5 10.Ng5! でルークが落ちるので無理である。この罠にはまらないように注意しなければならない。

6…Nbd7 7.Qc2 b6

 黒のクイーン翼ビショップが通常の道筋で展開できないので、黒はb7の地点に出そうとしている。b7のビショップは黒のd5の地点にも利いている。

8.cxd5

 白クイーンのためにc列を素通しにした。

8…Nxd5!

 8…exd5 には欠点がいくつかある。

 (a)黒ビショップのa8-h1の斜筋を恒久的に閉ざす。

 (b)9.Bf4 でも 9.Ne5 でも白が主導権を握る。

 (c)最悪なのは 8…exd5 のあと白が 9.Qc6! でc6の空所につけ込んで例えば 9…Rb8 10.Bf4! で黒を困らせることができることである。本譜の 8…Nxd5 のあとの 9.Qc6 Rb8 10.Bf4 はもう狙いになっていないので黒は …Nb4 または …Bb7 で白クイーンを追い払う余裕がある。本譜の手のあと白は中央のポーンの数で優っているが、黒はよく展開ができていて互角の形勢になる可能性がある。

9.Nc3 Bb7

 もちろん 9…Nxc3 は 10.bxc3 で白の中央を強化させるので駄目である。

10.Nxd5

 これは黒のクイーン翼ビショップを当たりにすることにより中央でのポーン突きが先手になるようにするためである。なぜなら黒が 10…exd5 と取るのはやはりクイーン翼ビショップの斜筋をふさぐからである。

10…Bxd5 11.e4 Bb7 12.Bf4(図138)

 図138(黒番)

 白はcポーンを当たりにすることにより先手で駒を展開した。布局の段階が終了し白がやや有利である。本譜の手順は1971年マドリードでの西ヨーロッパ団体戦イングランド対オーストリア戦での主将戦のキーン対ロバーチュ戦をなぞっている。

12…c5

 黒は白がルークを中央列のd1とe1に配置する前に白の中原に挑む必要がある。

13.d5 exd5 14.exd5 Bf6

 黒は 14…Bxd5 とは取れない。なぜなら 15.Rad1 Nf6 16.Ng5 で Rxd5 の狙いがあり、16…g6 と守ると 17.Be5 で白の戦力得になるからである。途中 15…Bc6 は 16.Ng5 Bxg5 17.Bxc6 でやはり白が優勢になる。これらのことにより白が中原で強力なポーンを維持することができる。

15.h4

 白は Ng5 による黒キングへの攻撃を支援した。この手に対して 15…Bxd5 は 16.Rad1 でやはり白が良い。

15…Re8 16.Ng5 Nf8 17.Rad1 Bd4

 黒はパスポーンへの白の支援を断ち切った。

18.Be3! h6

 18…Bxe3 は 19.fxe3 でf7の地点に白ルークの利きが通る。

19.Ne4

 ナイトが中央の好所に陣取った。

19…Bxe3 20.fxe3 Ng6

 黒のナイトもe5の地点を目指している。そこからは決してどかされることがない。そうなれば白の強力なパスdポーンの十分な代償になる。しかしそうなることはない。まず 20…Qe7 と指すことが肝要だった。ここで白には一撃の機会がある。それは黒が既に 18…h6 突きで弱体化させた黒キングの囲いを破壊するものである。

21.Rxf7!! Kxf7 22.Rf1+ Ke7

 22…Kg8 なら 23.Nf6+! gxf6 24.Qxg6+ Kh8 25.Qxh6+ Kg8 26.Rxf6 で白の勝ちになる。

23.d6+

 パスポーンが存在感を発揮し始めた。

23…Kd7 24.Rf7+ Ne7

 24…Kc8 なら 25.Rc7+ Kb8 26.Rxb7+ Kxb7 27.Nxc5+ で白が勝つ。

25.Qa4+ Kc8

 25…Bc6 は 26.Bh3# の一手詰みである。

26.d7+!

 パスポーンが最後の一撃を見舞った。

26…Qxd7 27.Bh3 1-0

 27…Qxh3 と取っても 28.Qxe8+ ですぐに詰む。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(015)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 運命の奇妙な急変により、フィッシャーの重要な試合に現れるかもしれなかった次の局面で自然は芸術のふりをする。同じ主題が再び出てくる。即ちルークのチェックを受ける際にキングが自陣の2段目に下がらなければならない。しかし次に起こることの理由と内容はこの優れた着想に新次元をもたらしている。

ボトビニク対フィッシャー
バルナ、1962年
 55.Rg4+(変化図)

55…Kc5!

 キングはc3の地点には行けない。そこへ行くとポーン競争で白ポーンがチェックでクイーンに昇格するからである。そしてb列もタブーなのは、56.Rg8 でb列での「串刺し」の狙いができるからである。しかしキングはこれからどこへ向かうのだろうか。

56.Rg5+ Kc6 57.Rg6+ Kb7 58.Rg7+ Ka6!

 決定的な一手を指したいがために、キングはb列を迂回してa3の地点を目指す。そこならチェックを避けられる。

59.Rg6+ Ka5 ・・・

 簡単そうに見える?白の選手は個別に発表した3度の分析でこの基本的な着想を見逃した。彼は当時の世界チャンピオンだった。

(この章続く)

名著の残念訳(19)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

21 キングよりクイーンをかわいがり 097ページ
『代わりに、白はポーンを返して(ラインを閉じたままにする)被害を最小限にする方法を目指すべきだった。』

「ポーンを返すことによりラインを閉じたままにする」のだろうか、それとも「ラインを閉じたままにすることによる被害を最小限にする」のだろうか。

英文『Instead he should be seeking to return the Pawn in the least damaging way (by keeping the lines closed).』

この英文からすると by keeping the lines closed は in the least damaging way を修飾している。

試訳『代わりに白は(筋を閉じたままにすることにより)被害を最小限にとどめてポーンを返すことを目指すべきだった。』

22 誤った判断 100ページ
『13.f4?
 白のe3とe4を弱めるこの疑問手は、うれしい誤算だった。』

「?!」でなく「?」が付いているので「疑問手」でなく「悪手」である。

英文『13.f4?
This lemon, weakning White’s e3 and c4, came as a pleasant surprise.』

lemon は「不良品、つまらない物」という意味である。surprise には「思いがけない贈物」という意味がある。

試訳「白のe3とe4を弱めるこのへぼ手は思わぬ贈物だった。」

24 自業自得 107ページ
『こうなると、ヴィナベル変化が盤石だと認めるしかないようだが、まだ疑惑はある!』

英文『I may yet be forced to admit that the Winawer is sound. But I doubt it!』

yet には「いつかは」という意味がある。

試訳「いつかはヴィナベル戦法が本手だと認めさせられるのかもしれない。しかし私はこの戦法を信用していない。」

2011年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「意味のない反省」はやめよう

2011年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

フィッシャーのチェス(014)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 他の駒(敵のも含めて)の陰に隠れるのは、ルークによるチェックから逃れる明白な手段である。ルークの距離の優位を無効にするのはまた別である。おそらくこれまで発表された中で最も有名な収局には(一本道の手順ということであり、ルセナの局面は除外される)、通例のキング対ルークの戦闘にちょっとした「甘味」がおまけに添えられている。

サアベドラ作(1895年)
 白先白勝ち

1.c7

 これを見つけるのは造作ない。しかしここからルークのチェックが始まる。

1…Rd6+ 2.Kb5

 キングがb7の地点に行くとルークでポーンが釘付けにされるのでそれは避けなければならない。作意からしてa列も避けなければならない(ルークにc列を明け渡すので)。そしてc列も避けなければならない(…Rd1 から …Rc1+ で「串刺し」チェックを可能にさせるので)。

2…Rd5+ 3.Kb4 Rd4+ 4.Kb3 Rd3+ 5.Kc2

 これでルークにもはやチェックも逆襲もないように見える。しかしここで最後の一矢(いっし)が出る。

5…Rd4!

 ここで白がポーンをクイーンに昇格させれば …Rc4+ でクイーンで取らせて手詰まりによる引き分けにすることができる。しかし今度はキングが偉大な格闘家であることを証明する。

6.Rc8=R! Ra4 7.Kb3

 キングが1手でルークを当たりにしながら再び詰みの狙いを作り出した。このとどめの両狙いにはもう受けがない。

(この章続く)

2011年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(013)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 フィッシャーは以上の二つの教材の要素を組み合わせて棋歴の初期に非凡な収局をものにした。

フィッシャー対ビズガイアー
ニューヨーク、1958-59年
 67…Kf5

68.Kd5 Rd3+ 69.Kc6 d5 70.b4 d4 71.Kd5!

 白キングは黒ポーンを利用して、まず黒キングを別の列に追い払い次に敵ポーンの効果を無力にすることにより、自分の防御態勢を改善する。

71…Rd1

フィッシャー対ビズガイアー
 71…Rd1

72.Rf2+ Kg4 73.Kc4

 白はここで単純なポーン競争に入ることはできない。なぜなら黒がポーンを自陣からの7段目に到達させたとき …Rb1 でお互いのポーンの取り合いにするからである。これで白はルークとポーンを手玉に取る。

73…d3 74.Kc3 Rb1 75.Rd2 以下白勝ち

(この章続く)

2011年11月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(241)

「Chess」2011年5月号(3/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合(続き)

目隠し戦 第1回戦
H・ナカムラ - M・カールセン

 少し前に黒のビショップはf6の地点にいてe5の白クイーンを取り返していた。しかしナカムラは記憶違いをしていて黒ビショップがまだf6の地点にいると思っている。そこで・・・

44.Rc7?? Kd8??

 これまた非常に奇妙である。カールセンもちょうど同じ勘違いをしている。

45.Rd7+ Ke8 46.Rc7?? Kd8?? 47.Rf7 Ke8

48.Bg6??

 黒ビショップがf6にいるならこの手は問題ない。しかし黒は局面を正しく思い浮かべていたらぱっと取ってしまうことができた。

48…Kd8?? 49.Be4 Ke8 50.Rxb7 Rxb7 51.Bxb7 Kf8 52.Kg2 g5 53.Kf3 Kg7 54.Kg4 Bc7

 これも奇妙である。カールセンはビショップを規則に反しないで指せるようにようやくどこにいるか思い出したに違いない。

55.h4 Bb6 56.f3 Bf2 57.hxg5 hxg5 58.Kxg5 Bxg3 59.f4 Bxf4+ 60.Kxf4 ½ – ½

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(この号続く)

2011年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(012)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 カパブランカはチェスの偉大な哲人の一人とのセンセーショナルな収局でこの題材を極端なまでに押し通した。

カパブランカ対タルタコワ
ニューヨーク、1924年
 34…gxf5

 このような局面を半世紀後に見て知られている勝ち手順を見つけようとするのと、実戦で勝ちを「見通して」この局面に持ってくるのとは、まったく別物である。白は2ポーンを捨ててキングを攻撃されない位置に侵入させる。

35.Kg3! Rxc3+ 36.Kh4 Rf3 37.g6! Rxf4+ 38.Kg5 Re4

 白からの最下段での狙いを考えれば3個目のポーンを取るのはやり過ぎである。しかしここで白は狙いをすべて保持したまま黒のfポーンを縦からのチェックを避けるために残しておく。

39.Kf6

 そしてほどなく白の勝ちに終わった。

(この章続く)

2011年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(011)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 基本的なルーク+ポーン収局を取り巻く神秘的な特性は、キングが隠れ家を見つけることができるかどうかという単純な事実に注目することによりしばしばもっと合理的な分析に変えることができる。次の局面は劇的な証明である。

ドゥラス作(1908年)
 白先白勝ち

 この局面と標準の局面(白勝ち)との唯一の違いは明らかに白の2個目のポーンである。そのポーンは黒ルークがb列を守るのを妨げていて、これから見られるように黒陣の2段目の重要な地点を守っている。しかし問題は白キングの隠れ家を見つけることである。というのは動くたびにチェックで追い立てられるからである。

1.Rd6!

 目を見張るような一発だが、なぜこの手なのか?確かに次の手順で白キングはチェックを逃れている。しかし黒はこのルークを取らなければ「ならない」のだろうか、それとも他にこれといった手があるのだろうか。やはり取らなければならない。なぜなら白は 2.Kc7 を狙っているからで、ルークがc6の地点に割って入ることができる。すぐに 2.Rc6 は 2…Kd7 で受けきれるので狙いにならない。

1…Kxd6 2.Kc8 Rc1+ 3.Kd8

 これでポーンがチェックでクイーンに昇格する。2.Kc7 の狙いは別の手段でも防ぐことができる。

1…Rc1 2.Rc6! Rxc6 3.Ka7

 これでb7のポーンが黒陣の2段目で釘付けにされないのでクイーンに昇格する。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(146)

「SCHACH-MAGAZIN 64」2011年8月号(1/1)

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アマチュア選手権戦

5千人以上のチェス愛好家がすでに参加

 ドイツアマチュア選手権戦(ラマダ・カップ)は6予選のシリーズで、予選は期間が1年にも及ぶ。いくつかの評価グループでグループの最優秀者がそのつど決勝戦に進出する。決勝戦は今年は6月23日から25日までマクデブルクで開催された。そしてAグループの優勝者はこの階級別のドイツ・アマチュア選手権者になるだけでなく、ドイツ選手権戦にも進出する。しかし他の参加者たちも賞品が並べられたテーブルの上の豪華さには目を見張る。それぞれのグループでは順位に応じてたくさんの賞品を獲得する。それらの賞品の中には常にラマダ・ホテル(中心スポンサーで大会名の由来)の週末宿泊券や書籍がある。詳しい結果とシリーズの詳しい情報はインターネットサイトの www.ramada-cup.de/ で見られる。

 チェス愛好家のマティーアス・ベルント(昔ドイツチェス連盟の成績担当者として貴重な奉仕を果たした)は骨の折れる手作業で素晴しいエクセル用データを作成した。その中にはすべてが詳細に掲載されている。それはとにかくもう10年間のシリーズのほぼ数十回分のすべての大会の完全な数値データである。

 数字を調べると例えばこの10年で合計5444人の新規参加者があったことが分かる。だから「ドイツ最大の大会」という主催者の自己評価はまったく当を得ている。かなりのチェス愛好者がこのシリーズを気に入っているので再び参加し(2872人が複数回参加した)、初回からの総数が全部で17153人になっている。

 これからこの大会シリーズがもっと注目を集めることは十分根拠がある。チェス愛好家のラルフ・ムルデの解説した試合の一つでこの報告を締めくくる。この試合はシリーズの今年の(ブリュールでの)Bグループ予選大会の一つで指された。

dポーン布局 A47
□ G・オルバチュ(SKギーセン、2069)
■ 建内瑛貴[たけうち・えいき](VfSデュス、1973)

1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.Bf4 b6 4.Nbd2 Bb7 5.e3 d6 6.h3 Nbd7 7.Bd3 c5 8.O-O

 ここまでの局面は少しは知られた2002年米国選手権戦クリスチャンセン対ド・ファーミアンのブリッツ戦に現れている。

8…Qc7 9.c3 Be7

10.Qe2

 1990年のアルベルツェン博士対バステル戦(1:0、33手)では 10.Rc1 が指された。今では一様に「ロンドンシステム」と呼ばれるらしいこの Bf4 のdポーン布局では全般に手順の異同が非常に起こりやすい。コーレ陣形の感覚で 10.e4 と論理的に突いていくのも少なくとも考えられるだろう。

10…O-O 11.a4 Rfe8 12.e4 e5 13.dxe5 dxe5 14.Bh2 Bf8 15.Nc4 g6 16.Qc2 Rad8

 黒はd列を占拠した。しかしそこから直接利益を得ることはできない。白は当然それに対抗する。

17.Rfd1 Bc6 18.Nfd2 a6

 黒は …b5 と突いてべノニの陣形に持っていき、それによりクイーン翼で主導権を握ることにした。白陣はあいにくそれに比べて現在のところあまり目標が定まっていないように見える。c4 と突くために Ne3 と引く捌きもあるが、黒が …a5 と突けば局面は完全に互角である。

19.Bf1 Bh6 20.f3 b5 21.axb5 axb5 22.Na5 c4

 面白い局面になった。「キング斜筋」のg1-a7は黒のビショップのものであるし黒クイーンにも開かれている。おまけに Nd2 はよい目標になるに違いない。そのうえ黒は状況が許せばまだ …Nd7-c5-d3 と指すことができるし、状況しだいでは …Nf6-h5-f4/g3 と指すこともできる。これに対して白は黒の外壁を b2-b3 突きによって破壊する用意ができている。そうなればたぶん邪魔な Bc6 を交換してa列だけでなくb列も大駒で支配する。全体的には白の方がいくらか有利な状況だろうが、形勢としてはまったくの互角だろう。

23.b3 Ra8 24.Nxc6 Rxa1 25.Rxa1

25…Qxc6

 25…cxb3! =

26.bxc4 Qc5+?!

 26…Bxd2 27.Qxd2 bxc4 +/=

27.Kh1 Qf2 28.Rd1

 白は成行きまかせで指してきたにもかかわらずここまでは万事順調だった。Bg1 でヌミディア(今日のアルジェリアにあった古代王国)のクイーンを追い払う嫌味な可能性ともちろん cxb5 と取る可能性とで明らかに優勢だった。黒はg3でナイトでチェックをかける狙いで Bg1 をあまり気がすすまないようにした。

28…Nh5 29.Qd3??

 正着は 29.cxb5 Ra8 30.Bc4 だった。そうなれば白が非常に快調で、たぶんもう勝勢だろう。

29…Be3 -+ 30.Be2 Nc5 31.Bg1

 これはしょせん駄目だが、もう仕方がなくなっていた。

31…Nxd3 32.Bxd3 Qxg1+

 黒もユーモアのあるところを見せている。

33.Rxg1 Bxg1 34.Kxg1 Rd8 0-1

******************************

(この号終わり)

2011年11月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(010)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い

 盤上で最も力が伯仲している二つの駒はナイトとビショップだろう。しかしキングとルークの方がしばしばもっと繊細な戦いをしているようである。

 それぞれの駒の働きは非常に異なっている。しかしルークが長距離の利きを持っているところをキングは射程の短いまんべんなさで補っている。収局の本は一般に「ルーク+ポーン」収局と呼ぶ。しかしその戦いはルーク同士またはルーク対ポーンよりもルーク対キングにかかっている。この簡単な事実が「不可解な」ルーク+ポーンの収局をよく説明している。本章の題名でこの特性を強調した。なぜならそれはボビー・フィッシャーの試合で繰り返し起こったからで、彼はその研究に相当の時間を費やしていた。

 優勢側がポーンを昇格させようとしているとき、主要な防御手段はルークによって敵キングをいじめることである。キングがチェックからの隠れ場を見つけることができれば-自分のルークまたは敵キングの陰に隠れる、ポーンを犠牲にする、または敵のポーンを取らないことにより-たいてい自分の思いどおりにすることができる。キングはルークに近づくことによって反復チェックから逃れることがよくある。もちろん盤上に複数のポーンがある場合攻撃側はキングの位置がよい方、またはポーンがより先に進んでいる方である。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(009)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 最後に、キングを進出させる際に必要な手際のよさがもっと最近の年代ものの次の骨格図によく例示されている。

アスタロス対バン
番勝負、ウィーン、1956年
 白の手番

 初手は当然である。

1.Rh2+ Qh7!

 黒は手損を避けようとした。1…Kg7 は 2.Rg2+ Kf7 3.Rxg8 Kxg8 4.Kg2! となって白が先に4段目に到達する。これはついでながら「遠方見合いを取ること」として分析することもできる。見合いとは「こちらのキングが敵のキングと同じ色の枡にいて両者が最善の手を指すならば敵のキングがそれ以上進めなくなるような状態」(*)であるが、たとえそれがなくても白キングはキング+ポーン収局に勝つためには4段目に進出するだけでよい。

2.Kg2! 黒投了

 2…Qxh2+ と指すしかなく白にキングが先に出る手を与える。すべてはキングの位置の問題である。

(*)他の章でも別個に見合いの多くの例が現れる。

(この章終わり)

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