2011年10月の記事一覧

チェス布局の指し方[85]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

ニムゾビッチ=ラルセン攻撃

1.b3(図135)

 図135(黒番)

 この手はチェスの偉大な著述家でマスターのアーロン・ニムゾビッチによって散発的に用いられた。そして現代の大会で最も好成績を収めている選手の一人のベント・ラルセンが採用したことにより急激に人気が出た。

1…e5

 これが試練の応手である。この手のあと白は相手が …d5 突きで広大なポーン中原を形成するのを防ぐのが非常に困難になる。1…d5 なら 2.Bb2 で 2…e5 突きを防げる。

2.Bb2

 白は黒のeポーン当たりの先手でクイーン翼ビショップを展開した。実際黒の挑発的なeポーンに対する襲撃は白の将来の戦略における多くの主題の一つとなっている。

2…Nc6

 駒を展開することによりポーンを守るこの手が最善である。2…e4 で白のクイーン翼ビショップの利きからポーンをはずすのはつまらない。白のクイーン翼ビショップの利きへの妨害がなくなり、e4のポーンが攻撃にさらされることになる(例えば d3 や Nc3)。

3.c4

 これは黒に …d5 と突くのを思いとどまらせる手段の一つである。

3…Nf6

 黒はナイトで取り返せるのでまた …d5 突きを狙っている。

4.Nf3

 白はまだ …d5 突きを抑えると共に黒のeポーンを当たりにしている。しかしこれは黒の次の手で展開に後れをとるので非常に危険な手である。

4…e4!

 この手はここでは白のナイト当たりになっているので好手になっている。

5.Nd4

 5.Nh4 はナイトが盤端で孤立してしまう。

5…Bc5

 ビショップが展開してきたが、白は黒に二重ポーンを作らせることができる。

6.Nxc6 dxc6!!

 黒はいつ原則に背いたらよいかを知っている。黒はまず二重ポーンを誘い、そして中央から遠ざかる方に取り返した。通常はこういうやり方はばかげている。しかしここでは次のように黒に十分な代償がある。(a)自分の駒のための素通し列。(b)展開ではるかに優っている。(c)白の出遅れdポーンに対する圧力。6…bxc6 と取り …d5 と突いて中央を強化する方が普通に思われる。しかし黒は最も重要なことはクイーン翼ビショップを最高速度で出すことであることを見通している。

7.e3 Bf5 8.Qc2 Qe7 9.Be2 O-O-O(図136)

 図136(白番)

 これで白は決してdポーン突きによって自陣を解放することができなくなって黒が優位に立っている。この局面は1970年の全世界対ソ連対抗戦の第2回戦第1席の試合に現れた。ラルセンが白を持ちスパスキーが黒だった。試合は次のように続いた。

10.f4?

 この手は自分のキングの周りのポーン形を弱めた。まだキャッスリングしていないか既にキング翼にキャッスリングしている場合は自分のfポーン、gポーンまたはhポーンを2枡進めるのは非常に気をつけなければならない。10.Nc3! と展開する手が必須だった。

10…Ng4

 黒はクイーンがh4の地点に行く斜筋を開けるためにすぐにこの弱点につけ込んだ。

11.g3

 白は黒クイーンによるチェックを防いだ。

11…h5

 これはg3のポーンを強襲するいつもの手段である。ここでは防御に役立つg2の白ビショップがないので特に効果的になっている。

12.h3 h4!

 黒は2駒を犠牲にする華麗な攻撃を始めた。しかしそれが成功するのは白キングが中央に立ち往生しクイーン翼の駒が展開していないからである。

13.hxg4 hxg3 14.Rg1

 14.Rxh8 Rxh8 15.Kf1 Qh4 は明らかに白に望みがない。

14…Rh1!!

 これは天才の手である。どんな一般原則もこのような手を見つける方法を教えることはできない。この手は見えなければならない!しかし一般原則は強力な陣形を築く方法を教えることはできる。そして目の覚めるような捨て駒で勝ち試合を勝ちきるための手筋が見えるようになるのは才能と経験である。本局は終わりも素晴しかった。

15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 0-1

 途中白が 16.Rg1 と指したら黒は 16…Qh4+ 17.Kd1 Qh1 18.Qc3 Qxg1+ 19.Kc2 Qf2 20.gxf5 g1=Q で勝つ。

(この章続く)

2011年10月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(008)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 フィッシャーは全盛期のラスカーやカパブランカに匹敵するような力強いキングの指し回しの「模範的な」例をまだ生み出していない。たぶんフィッシャーはもっと早く勝負を決めるのが普通だからだろう。ゴロンベクは収局の妙技はまだフィッシャーの強みになっていないと言ったことがある。これは彼の若い頃ならそうかもしれない。世界選手権を追い求める中ではタイマノフ、ラルセン、ペトロシアンそしてスパスキーたちに対して1、2回しか収局で好機を逃さなかった。次の二つの局面はフィッシャーがあの二人をしのぐ必要があるまでキングの指し回しの模範としておかなければならないだろう。最初の局面は活動的なキングが局面に及ぼす絶大な力を例示している。2番目の局面はこの力がしばしばいかに巧妙かを示している。

シュレヒター対ラスカー
番勝負、1910年
 黒の手番

 ラスカーはこの世界選手権戦10番勝負ですでに1試合を落としていたが、ここでは銃を向けられていた。彼のキングは自陣の2段目で遮断されている。白は1ポーン得していて外側パスポーンになっている。さらに悪いことには白は c4 から Kf4 でキングを戦闘に参加させることを狙っている。この憂鬱な状況でチャンピオンは最初にただキングを活動させるために2個目のポーンを捨てる。

1…Re4!

 これは白キングを遮断するもくろみの手として賞賛されてきた。しかし実際には …Rg4 でも同じことである。要はルークがaポーンの「背後」に回ることを狙っていて、白はそれを防ぐために黒キングを前進させなければならないということである。

2.Rc5 Kf6 3.Rxa5 Rc4! 4.Ra2 Rc3+ 5.Kg2 Ke5

 1ポーンを犠牲に局面は5手で入れ替わった。この犠牲はそれだけの価値がある。

6.Rb2 Kf6 7.Kh3 Rc6

 黒は 7…f4 のひどい罠にはまらなかった。8.Rb3! Rxc2 9.Rf3! で白が黒の最後のポーンをもっと有利な形で取る。代わりに 9.gxf4 は悪名高いf・hポーンの収局になって、黒は引き分けにできる。

8.Rb8 Rxc2

 これで白キングが活発に動けないので引き分けが保証される。

(この章続く)

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

羽生二冠、チェスで仏チャンピオンと引き分け

朝日新聞電子版
羽生二冠、チェスで仏チャンピオンと引き分け

読売新聞電子版
羽生二冠・森内名人、仏チェス王者に善戦

「Behind the Scene」の「Japanese Shogi star vs European Chess star -Part2-」に棋譜が掲載されています。

2011年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

名著の残念訳(18)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

20 定跡の小競り合い 094ページ
『15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 も、圧迫されて黒が厳しい。』


こういう局面を黒が「圧迫されて」いるというのだろうか。

英文『Also difficult is 15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 with an enduring pull.』

pull はチェスでは「有利、優勢」という意味でよく with a pull という形で使われる。enduring は「永続的な」。

試訳『15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 も黒が苦しくて、白の優勢がずっと続く。』

20 定跡の小競り合い 095ページ
『引っかかったら気を失うところだったろう。』

少し下の行で「私が少し考えて 34.Be5? と指すと」と、みごとに引っかかったことを書いている。

英文『- and almost fainted when I fell into it!』

if でなく when だから実際に引っかかった(fell into it)のである。

試訳「まんまと引っかかったときにはもう少しで失神しそうになった。」

21 キングよりクイーンをかわいがり 096ページ
『8.dxc5 Nc6
 「黒がせっせとピースを展開する間に、白は身につかない悪銭を集める夢を育んでいる」』

「悪銭身につかず」という格言ならあるが「身につかない悪銭を集める」とは具体的にどういうことをいっているのだろうか。

英文『Black rapidly develops his pieces while White nurtures his own dreams with ill-gotten gains.』

「小学館プログレッシブ英和中辞典」に「Ill-gotten goods never prosper. 悪銭身につかず」という用例が載っているのでそれを借用したようである。しかし英文は goods でなく gains で、しかも同辞典には「ill-gotten gains 不正利得」とちゃんと出ている。「不正利得」とは白のポーン得のことを指しているのだろう。

試訳「白が不正利得で夢を育んでいる間に、黒はすばやく駒を展開した。」

2011年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

フィッシャーのチェス(007)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 次の局面でフィッシャーはより活動的な白キングの隠れた手段を見落とした。白は自分のbポーンを守る余裕がある。なぜなら-ルークが交換になったあとでさえ-自分のキングが黒キングよりずっと活動的な役割を果たすからである。

レシェフスキー対フィッシャー
番勝負、ニューヨーク、1961年
 35…Rxd5

36.a4!

 これでフィッシャーはcポーンを取られることを余儀なくされ、結局負けた。次の変化でも見込みがなかった。

36…Rc5 37.Rxc5 bxc5 38.Kg3 d5 39.Kf4 d4 40.Ke4 Kg5 41.b4

 キングが中央にいるのでこのポーン突きが可能である。41…cxb4 なら 42.Kxd4 でキングが黒のポーンを見張っていられる。しかし b4 突きの前に別の用心をしておかなければならない。なぜならここで 42…Kf4 または 42…Kh4 で「黒の」キングが支配的な位置を占めて白のキング翼のポーンが落ちるからである。41.b4 の代わりに白は g3 と突いてキング翼のポーンを守っておくことができる。黒は自分のキングやポーンの位置を改善することができない。

(この章続く)

2011年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(006)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 途中で中止されたレシェフスキーとの重要な番勝負でフィッシャーはキングの位置につけ込める二つの機会を逃した。一つは作為によるもので、もう一つは不作為によるものだった。

レシェフスキー対フィッシャー
番勝負、ロサンゼルス、1961年
 53.Kf3

53…Rb7?

 ねじり合いでの勝ちを期待してフィッシャーは簡単な 53…Rxe3+ 54.Bxe3 55.h5 を見逃した。そうなれば黒キングは自陣の4段目を占めることができる(55.Kf4 Ra4+)。実戦では4段目を占めるのは白の方だった。

54.Re6+ Kf5 55.Re5+ Kf6 56.Rd5!

 黒はhポーンを守る必要があるので勝ちがなくなった。

56…Rb3+ 57.Kg4 引き分け

(この章続く)

2011年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

「ヒカルのチェス」(240)

「Chess」2011年5月号(2/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合

 マグヌス・カールセンは競争相手のヒカル・ナカムラとの試合から始まった。快速戦では捨て駒で勝ち、目隠し戦では両者ともカールセンのビショップを見失うという滑稽な最後で引き分け、勝負に勝った。駒が繰り返しただ取りの状態になっていた。

快速戦 第1回戦
M・カールセン - H・ナカムラ
準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.e3 a6 5.Qc2 e6 6.Nf3 Nbd7 7.Bd2 dxc4 8.a4 c5 9.Bxc4 cxd4 10.exd4 Nb6

11.Bd3

 ここでは 11.Bb3 が指されてきたが、アンバー大会ではレイティングがかかっていないので試しにやってみるいい機会である。

11…Nbd5 12.Nxd5 Nxd5 13.O-O Nb4

 13…h6 は 14.Ne5 で白が少し優勢だが、本譜の手は楽観的なように見える。

14.Bxb4 Bxb4 15.Bxh7

15…g6

 15…Bd7 は 16.Be4 Qb6 17.Ne5 Rc8 18.Qe2 Qxd4 19.Nxf7!

で白の勝勢になる。19…Kxf7 と取ると 20.Rfd1 でd列で強烈な串刺しがかかる。しかし 20.Rad1 は誤りで、20…Bd6! 21.Rxd4 Bxh2+ で黒がチェックの千日手で逃れる。

16.Bxg6 fxg6 17.Qxg6+ Kf8

 ここまでは当然である。しかし一流GM以外の誰にとっても勝利への道は五里霧中になりそうで、狡猾なナカムラなら逃げおおせそうである。

18.Ne5 Qe7 19.Rac1 Qh7

 19…Rg8 20.Qe4 も難しい変化で、白が勝つためには極度の正確さが要求される。

20.Qg3 Ke8 21.d5

21…Bd6

 21…Rg8 なら白は 22.Ng4 Rf8 23.Rc4 と逆手にとって攻撃を続行することができる。

22.Rfe1 Bd7 23.h3 Bxe5 24.Rxe5 Rg8 25.Qe3 Rg6 26.dxe6 Bc6 27.Rxc6! bxc6 28.Qe4!

 家で座りながらこの局面を見、連れ合いがお茶を入れ、世界中がずっとこの局面を考えていると、ここで何が起こっているのか理解するのはかなり難しい。そしてそれからこれが快速の持ち時間で指されていたことを思い出す。コンピュータはあらゆる変化で白が勝つと保証している。

28…Qg7

 28…Ke7 は 29.Qxc6 Qg7 30.Re3! となってここで 30…Rg8 なら白は 31.Qc5+ Kf6 32.Rf3+ Kxe6 33.Qc6+ Ke7 34.Re3+ Kd8 35.Rd3+ Ke7 36.Rd7+ Ke8 37.Qc8#

で即詰みに討ち取る。代わりに 28…Rc8 は 29.Rg5! Rg7 30.Qxh7 Rxh7 31.Rg8+ で白がルークを取って圧倒的なポーン得になる。

29.Qxc6+ Ke7 30.Qc5+ Ke8 31.Qc6+ Ke7 32.Re3!

 カールセンは2回目の試行で正着を見つけた。

32…Ra7 33.Qc5+ Ke8 34.Qc6+ Ke7 35.Qb6!

 直前の解説はここでも当てはまる。カールセンには明らかに残酷なところがあり、最善でない手で相手をじらし、それからまるでやすやすと二度目には最善手を生み出してくる。

35…Rxg2+ 36.Kf1 Rg1+ 37.Ke2 Ra8 38.Qb7+ Kd6 39.Rd3+ Kxe6 40.Qc6+ 1-0

 40…Kf5 なら 41.Rd5+ Ke4 42.Qc4+、40…Kf7 なら 41.Rd7+ Kg8 42.Qxa8+ までである。

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(この号続く)

2011年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

フィッシャーのチェス(005)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 2年後にフィッシャーは南アメリカに遠征した。そして自分の技量に磨きをかける必要があることを悟った。このとき敗北した中の次の試合は2ポーン得の優勢が相手のキングの位置によって簡単にくつがえされた。

サンギネッティ対フィッシャー
サンティアゴ、1959年
 36…exd5

38.Rxh5! Rxh5

 38…Rg8 39.Kg5 は気が進まなかったのでフィッシャーはクイーン相手に頑張ることにした。白キングは急にキング翼でのさばりだす。

39.g7 Re5 40.g8=Q

 そして白はクイーン翼のポーンに圧力をかけて黒の防御を簡単に打ち砕いた。

(この章続く)

2011年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(004)

第2部 収局

第1章 キングの位置

 キングの位置は収局の一つの側面で、非常に普遍的な主題なので実質的にはすべての型の収局の根底をなしている。「戦うキング」の偉大な先駆者は1866年から1894年まで非公式だが広く世界チャンピオンと認められていたビルヘルム・シュタイニッツだった。彼は自分の主張の正しいことを示すために序盤でキングをうろつかせることまでした。この遺産にもかかわらずチェス選手たちは今日では、シュタイニッツの「奇行」に驚嘆した選手たちのように自分のキングを前進させることにはちゅうちょしているようである。

 ボビー・フィッシャーは自分のキングを前進させるためや相手のキングの動きを制限するためにポーンや駒を進んで犠牲にすることに優れていた。初期のある大会で彼は一見互角のような収局をキングの強力な位置によって簡単に勝てることを披露した。白はアーパド・イーロー、ついにはチェス界全体によって採用されたレイティング方式を作り上げたあの統計学者である。

フィッシャー対イーロー
ミルウォーキー、1957年
 43.Kg4

 黒キングは敵陣に侵入している。そして黒ビショップは1手で白キングを進入させないだけでなく白の中央のとりでの解体を始める。

43…Bg6 44.Kf3 Bh5+ 45.Kf2 Bd1!

 これでキングとビショップのどちらかが白ポーンを見捨てなければならない。しかし黒キングは非常に強いので 46…Bb3 47.c5 Bxd5 は全然怖くない。

46.Kg3 Be2 47.c5 Kxc5 48.Be6 Kd4 49.Bf5 Ke3 白投了

(この章続く)

2011年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

世界のチェス雑誌から(145)

「The British Chess Magazine」2011年4月号(1/1)

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次の一手

第9問 グロース対小島慎也 黒の手番
(カペルラグランド、2011年)

解答

36…Bxf2+ 37.Kh1(37.Qxf2 Rd1+)37…Be3 以下黒勝ち

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(この号終わり)

2011年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

フィッシャーのチェス(003)

第1部 記法 – チェスの言語

 ボビー・フィッシャーがチェス・オリンピアードの歴史上有名なスパスキーとの試合(ジーゲン、1970年)に負けたとき、棋譜用紙にはいろいろな意味で事態が記録されていた。形勢が怪しくなりついには悪化するにつれてフィッシャーの荒っぽい筆跡は酔っ払いのなぐり書きになっていった。「投了」の行のところではどんな手が指されたのか判読できなかった。それでもやはりフィッシャーは特別だった。チェスの歴史において他にどんな棋譜用紙が注目されたことがあっただろうか。

 試合を一手一手それも今日ではしばしば消費時間の記録付きで再現できることは他のどんな「観戦」スポーツにも比類のないことである。大きな運動競技大会の映画、テレビ放送での即時再生、それに地元のフットボールやサッカーの試合のすぐれたルポルタージュならある。しかしどんな熱狂的なファンでもチェス選手ほど簡単に趣味の歴史に深くひたることはできない。

 当時まで米国の最も傑出していた選手のポール・モーフィーの貢献をフィッシャーが要約したときに伝統主義者はびっくりした。モーフィーは最も華麗だった(サージャント)、現代の戦略の考え方を最もよく身につけていた(ファイン)、または単に迅速な展開の効用を理解していた最初の人間といったように、誰もが解説者から聞かされていたけれども、フィッシャーはモーフィーを全時代をとおして最も「正確な」選手と呼んだからだった。これはジョー・ルイスがジャック・デンプシーを負かすことができたかという議論ではなかった。棋譜は誰もが調べられるように存在していた。おそらくモーフィーの対戦相手は20世紀の選手たちほど強くなかったのだろう。しかし強かったならばそれは推測の問題ではなかった。試合は自由に再現できたのだから。

 棋譜用紙に記録された内容は非常に完璧で反駁できないので、代数式記法対記述式記法についての議論は勃発してもつまらないことのように思われる。計測のメートル法と「イギリス」法との間の議論と若干の類似点がある。記号式は効率、変換の容易さ、広さのために洗練することができる。記述式は現在のところ英語の出版界で最も広く理解される記法であるという単純な理由で本書で用いている。

 (代数式記法の方がプロブレムとスタディにとって優れているのには理由がある。記述式での駒の初期位置から動く地点を指示する方式はことに不適切である。多くの他の活動におけるように代数式での一律性に抵抗するのにももっともな理由がある。)

 方式も時代と共に変化する。15世紀の書籍は暗号のようで、記法はほとんど現代的だった。19世紀初めのもっと悠長な時代では棋譜はほとんどシナリオのようだった。イングランドで1828年に指された通信戦は次のようだった。

 No.1 キング列ポーンをキング列の4段目に進めて始める。
 No.1 同じ。

 しかし書き方は詳しかったけれども先手番の選手は5手目の棋譜で間違いをやらかした。試合が1829年に入るにつれて先手番の選手は試合内容についての感情を棋譜に忍び込ませ始めた。交換損をした直後の取り返しで彼は次のように記録している。

 No.31 キングがクイーン翼のナイトを殺害する。

 4手後に彼はみじめなポーン突きに追い込まれる。

 No.35 クイーン側ビショップ列ポーンが1枡前に這う。

 当時の筆跡はどうであろうとフィッシャーは棋譜付けについては非常に正確だった。普通は新聞記事と同義である大衆の見方に反してボビーは訴訟好きでない。彼は局面の反復についての規則を知っている(ほとんどの選手やグランドマスターでさえ「手」の反復としばしば混同する)。そして彼はそれについて議論するのではなく利用する。1971年ペトロシアンとの挑戦者決定番勝負では重要な1試合を救ったし、1972年スパスキーとの世界選手権戦ではこの規則を注意深く当てはめることによりたぶん2局を救った。1962年キュラソーではペトロシアンに対し不適切な引き分け提案で弁明し恥ずかしい思いさえしていた。彼は棋譜と持ち時間のことで論争したことは一度もなかった。おそらく滅多に時間切迫にならないからだろう。

 伝統のように思われるかもしれないけれども英語圏では一般に簡明さのために一つの大きな譲歩をしてきた。この筆者はそれを忌み嫌うものである。それは「Kt」が長すぎるか「K」と混同しやすいという仮定で「ナイト」を「N」と略す習慣がはびこっていることである。そんな無作法な仮定をする言語は他にない。本書では最後のささやかな純粋主義のために抵抗する。

訳注 本稿の棋譜では記述式を代数式で表記しナイトを「N」と表記します。本文中で取り上げられているフィッシャーの棋譜とは次の棋譜です。

2011年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

フィッシャーのチェス(002)

はじめに

 これから先のページにはチェスそのものを全体的に提示するためにボビー・フィッシャーのチェスを試金石として用いた。フィッシャーの試合は布局の冒険から創作収局の主題に至るまで着想に満ちているので、その試合自体がチェスの楽しさへの最良の紹介である。チェスの精通への努力を要する道において楽しむことは最も確実な推進力である。ボビー・フィッシャーの言葉では「チェスを愛しさえすれば上達できる。」

 フィッシャーについては人格と同じくらい多くのことが書かれてきたので、チェス界を含め一般の人たちは彼のチェスに目をつぶらされてきた。彼の試合はチェスの書籍で何度も何度も分析されてきた。彼は他の著者からの助力の程度は異なるが3冊の自著を出版した。それにもかかわらず彼の勝つための手法、チェスの知識のより広範な部分への独自の貢献、それにチェスの歴史に占める正当な地位はすべての出版物によって目立たなくさせられてきた。

 これまで知られているフィッシャーの750局の時計を使用した試合を研究したところによれば彼は「チェスの秘密」を何も持っていない。彼は注意深くて正確である。彼はたとえ結果が大会順位に何も影響しなくてもどの試合でも真剣である。彼はねばり強くて容易にくじけない。このような特性は才能の問題というより性格の問題である。この意味で彼の真の強さは選手としてでなく人間としての強さである。メディアがこの人間についての「アングル」を捜してとらえてきたイメージとは何と違うことだろうか。

 フィッシャーはチェス史上最も好成績を挙げた選手に違いない。彼は全試合のうち約10%で負け約30%で引き分けた。だから打率は7割5分である。実のところカパブランカは30年の棋歴で700局ほど指し、負けたのはたった35局である。しかしフィッシャーは決して安易な引き分けに応じようとしたことはなかったし、成績に応じて指し方を変えようとしたこともなかった。それにこれまでの20年の棋歴での試合はどれもが激闘だった。

 ソ連選手の中にはフィッシャーの初期の試合のせいでまだ彼に勝ち越している者が何人かいる。その一方で多くの強豪選手に一方的な成績を残している。例えばレシェフスキーに9-4、ペトロシアンに8-4、タイマノフに7-0、セイディーに6-0、シャーウィンに7-0、ビズガイアーに13-1、そしてラルセンに10-2となっている。

 フィッシャーの膨大な「作品」に適切な解説をつける試みに際し、「一人前の」選手に興味があると思われるものを求めてフィッシャーの公表されている試合の全てを注意深く調べた。広範なチェスの戦略、手筋、収局の妙手、それにチェスのプロブレムとスタディに至るまで、それらを例示したりそれらに関連する彼の試合の重要な局面を選び出した。この意味で本書は試合を垂直的でなく水平的に眺めたものである。単なるある選手の試合についてでもなければ中盤戦についてでもなく手筋についてでもなく、チェスについての本である。

 読者はほとんどどこからでも読み始めてかまわない。それによって話の筋を見失うことはない。また、駒を並べずに読み進めることができるが、1手ごとの図にうんざりすることもない。選手が身につけなければならない基本的な技術は、「駒に触れる」ことなく分析すること、これから先の局面の配置をどこも見る必要なく頭の中の目だけで見て思い描くことである。

 相手の既に知っていることを語ることにより相手の気を悪くすることの決してないようにするという原則に注意して、本文は簡潔かつ基本的なことにとどめた。この本はチェスの専門家のために書かれたものでなく、チェスの知識をいくらか持っている一般的な読者のために書かれている。それと同時に解説は十分な量を記述するようにした。多くの場合、例えば1971-1972年世界選手権戦シリーズからの重要局面の分析では、専門家にも評価してもらえるような新しい資料と解説を持ち込んだ。

 友人のフランク・ブレイディーには彼にしかできないこととして、ボビー・フィッシャーを歴史的な視点で評価するのを助けてくれるよう頼んだ。次のことだけは確かである。ボビー・フィッシャーのチェスにはパブロ・ピカソの美術やアルトゥール・ルービンシュタインの音楽と同じように広範な観衆がいて当然である。

ロバート・E・バーガー
カリフォルニア州バークレー、1975年

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カテゴリ: フィッシャーのチェス

チェス布局の指し方[84]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4

 これまでの章では白が先着の利を用いて 1.e4 または 1.d4 でポーン中原の構築を始めるのを目撃してきた。実際これらの自然で直接的で攻撃的な手はすべての棋力で最もよく指される手である。

 しかしこのやり方に代わって非常に巧妙で間接的な布局が存在することも事実である。これらのシステムでは白はポーンで中原の占拠にまっすぐ突き進むことはしない。それよりも側面から通常は片方のまたは両方のビショップをフィアンケットすることにより中原を監視している。さらには中原のポーン突きを控えることによって、ついには中央一帯をこの遅延によりはるかに強力に征服することを期待している。これらのシステムでは黒はポーンで中原を占拠するよう明白に誘われている。そして白は側面のポーン(特にbポーンとcポーン)をてことして用いて黒のポーンを盤の中央からそらそうとする。

 白が側面布局を用いるとき中原を無視していないことは見れば分かる。そのあたりへの注意を隠しているだけである。最後には側面から中原をにらむビショップによって支援された中原の多数派ポーンを形成することを望んでいる。可動多数派中原ポーンの望ましさに関する「第2章 ポーンの重要性」での解説と比べてみて欲しい。

 側面布局における白の戦略はキング翼インディアン防御と現代防御で黒によって用いられた戦略といくらか似ていることに気づくだろう。そしてこれらの3章を一緒に詳細に調べれば、この種の布局の白と黒の立場からの読者の理解が深まることは確かである。

 次に示すのは側面布局の先駆者の一人であるリカルド・レーティの指した試合の序盤の手である。その試合ではポーン突きを遅らせる白の戦略は完全に成功を収めた(レーティ対ルビンシュテインイン、カールスバート、1923年)。1.Nf3 d5 2.g3 これは黒の古典的直接法とは対照的な白の超現代「間接法」である。2…Nf6 3.Bg2 g6 4.c4 d4 5.d3 Bg7 6.b4 ゴロンベクはレーティについての自著で次にように書いている。「黒のdポーンはc5のポーンによる自然な支援を奪われ、ついには交換される。そのとき白は遅れたがゆえになおさら強力な力で中原を征服する。」6…O-O 7.Nbd2 c5 8.Nb3 cxb4 9.Bb2 急ぐことはない!黒のdポーンはいつかは必ず白の手中に落ちる。9…Nc6 10.Nbxd4 Nxd4 11.Bxd4 b6 12.a3 Bb7 13.Bb2 bxa3 14.Rxa3 Qc7 15.Qa1 Ne8 16.Bxg7 黒キングのそばの守り駒の一つが交換された。16…Nxg7 17.O-O Ne6 18.Rb1 Bc6 19.d4(図134)

 図134(黒番)

 白は中原で黒が手を出せない多数派ポーンを達成した。中原を雪崩のように前進させることにより黒陣を粉砕したあと白が50手目で勝った。

 側面布局はあまりにたくさんあるので余すところなく分析することはできない。ここでは次の4点に分析を限ることにする。

 1.b3 – ニムゾビッチ/ラルセン攻撃

 1.Nf3 から c4 – カタロニア/レーティ・システム

 1.Nf3 から g3 および d3 – キング翼インディアン攻撃

 1.c4 – イギリス布局

 1.Nf3 と 1.c4 の重要な利点はお互い相手に移行できるということである。だからニムゾインディアン防御の専門家にその得意の防御を指させずにクイーン翼ギャンビットを指したいならば、1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3! と指してみるとよい。3…Bb4 とかかってきても 4.d4 と指す必要はなく、3…d5 と指してくれば落ち着いて 4.d4 と指すことができる。

(この章続く)

2011年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェス布局の指し方

フィッシャーのチェス(001)

序文
ボビー・フィッシャーの頭脳

フランク・ブレイディー

 たぶんボビー・フィッシャーの頭の働きほどチェス選手の興味をかき立てる話題は他にないだろう。過去の世界チェスチャンピオンの中には他の知的な分野での顕著な才能とチェスでの卓越した技能との間にいつも強い等式があった。たとえそれがチャンピオンたちをとっぴでわがままで社会に背を向けた頑固者として描こうとするマスコミ全般の企てだとしてもである。エマヌエル・ラスカーは著名な数学者・哲学者でありアルベルト・アインシュタインの友人だった。アレクサンドル・アリョーヒンは世界選手権を追い求める途中で中断してソルボンヌ大学で法律の学位を取得した。またいくつかの言語で多くの著作を世に出した。ミハイル・ボトビニクはエンジニアとしての業績によりソ連で上級の勲章を授けられ、コンピュータ・チェスの分野ではパイオニアとしての研究を行なった。カパブランカは外交官だった-真実は名誉職だった-がそれでも役目を果たした。エーべは数学の教師で現在は世界チェス組織のFIDEの会長である。まだまだ他の著名な選手たちをあげることができる。

 しかし一見してフィッシャーにはチェスを指す能力以外にこれといった技能はないようである。彼は当代随一のチェスの才能を持っているので過去のパターンは当てはまらない。我々は矛盾を突きつけられている。彼はどのようにしてあんなに一貫して卓越したチェスを指せるのだろうか。彼の知能は本当に世間で言われているほど高いのだろうか。彼の記憶力は見かけどおりものすごいのだろうか。彼はどのくらい多くの手が読めるのだろうか。彼の頭脳の過程はチェスを指すいわば特有の能力のやり方で働くのだろうか。

 憶測は留まるところを知らず矛盾に満ちている。チェス選手たちはフィッシャーの頭脳がどのように働いているかを具体的に認識できれば、その学んだことを自分のチェスのやり方に適用し模倣と応用により上達できるのではないかと思っている。けれどもインタビューと本の中で、ぶっきらぼうなほど実際的な性向と、ミスについて偏執狂的なほど厳格な性向以外には、彼の考え方に何もおかしな所はうかがえない。

 フィッシャーがインタビュー、調査、それに心理学者と教育専門家とによる広範な検査にさらに自分自身を委ねるようなあり得ない時機が来るまで、彼の頭脳の働きに迫る鍵として断片しかわれわれには残されていない。生命がないこともない32個のチェス駒を何時間も研究している時ボビー・フィッシャーの頭の中で実際に起こっていることは-それについては誰の頭でもよいが-たぶんきちんと資料に残し分析することは全然できないだろう。しかし我々の持っている証拠を検証してみよう。

 以前の著作で私はフィッシャーの知能指数をとてつもない天才の180台であると引用した。情報源はほかでもない高く評価されている政治学者である。彼はフィッシャーが在学中だった時のブルックリンのエラスムス高校でたまたま成績指導教官室に勤務していた。そこでフィッシャーの個人記録を調査する機会があった。だから彼の言った数値が間違いであると信じる理由は何もない。当時の他の先生たちの記憶ではずっと低い数値だったと批評する人たちもいる。しかし先生たちが誰であり記憶している数値がどんな値だったかこれまで明らかにされたことはまったくなかった。

 180という数値があり得ないとみなされるのはたぶん「チェス王者の逆説」の反映であろう。フィッシャーは知的な業績が過去のチャンピオンたちと比べて不足しているように見えていて、高い知能指数を信じられなくさせているようである。彼をほとんど「イディオ=サバン[訳注 精神医学用語で、精神遅滞者で特別な才能(記憶力や暗算や音楽など)を持っている者]」のように見ている者は多い。恐らく以下の逸話のいくつかを知れば信じない者たちの疑念が一掃されるであろう。

 1972年にレイキャビクでスパスキーと番勝負を指す前にフィッシャーは現地の雰囲気に触れるために短時日アイスランドを旅行した。ある朝アイスランドただ一人のグランドマスターで旧知のフリドリク・オウラフソンに電話した。オウラフソンと妻の二人は不在で小さな少女が電話に出た。フィッシャーは「オウラフソンさんをお願いします」と言った。オウラフソン氏の娘はアイスランド語で二人とも外出中で夕食のために夕刻までには戻ってくると答えた。フィッシャーはアイスランド語は1語も知らなかったのでおいとまの言葉を言って電話を切るしかなかった。その日のちほどフィッシャーは別のアイスランド人チェス選手(彼は英語が話せた)と話していたときオウラフソンと連絡をとろうとしたことに触れた。「電話に出たのは小さな女の子のように聞こえた」と言った。それから電話で聞こえたアイスランド語をすべて繰り返してみせた。抑揚まで完全にまねしたが、実際あまりにうまいのでそのアイスランド人は文章を一語一語訳すことができた。

 1963年にフィッシャーはニューヨーク州ポキプシー市で開催されたニューヨーク州オープン選手権戦に出場し優勝した。最終戦で私は「National Review」誌の編集次長だった故フランク・S・マイヤー氏と難しい収局を指していた。フィッシャーはトイレに行く途中私の盤の所でちょっと立ち止まり-たぶん5秒くらい-そして歩いて行った。数ヵ月後彼は当時マーシャルチェスクラブにあった私の事務所を訪れた。「最終戦のあの試合はどうなった」と彼は聞いてきた。苦労したけれど勝ったと言った。「Q-B5 と指したのか?」と尋ねてきた。どう指したか覚えていないと率直に答えた。彼はすぐにその正確な局面を並べて私が思い出すのを「助けた。」そしてもっと簡明に勝つはずだった手順を示してみせた。要は彼が局面を覚えていて私の前で分析してみせただけではないということである。彼は局面だけでなく何ヶ月も前に私の盤の横を通り過ぎたときにちらと読んだ手順も覚えていたのである。

 このような逸話はフィッシャーが何手先まで読むのか、そしてどのくらいの時間でかという憶測につながる。スピードチェス(普通は5分ずつの持ち時間)で彼と指したことのあるマスターたちは対局後の検討でフィッシャーはどんな局面でもわずか1、2秒で3、4手読んでいると断言している。彼が5秒間局面を分析すれば5、6手先まで、時にはもっと、読めることになる。時には余興で強い選手相手に時計の針を自分のは1分に相手のは10分に合わせることがある。それでも決まって時間を残して勝ってしまう。

 もっとすごいのはフィッシャーがスピード試合のほとんどの手順を覚えていられることである。1970年ユーゴスラビアのヘルツェゴビナで行なわれた非公式のスピード選手権戦の終わりに当たりフィッシャーは彼の全22局の1000手以上にもなる棋譜を記憶からすらすらと作成した。それにブリティッシュ=コロンビア州のバンクーバーでのタイマノフとの歴史的な番勝負の直前にソ連選手のバシューコフと会った時、フィッシャーは両者がモスクワで15年前に指したスピードチェスの試合を見せた。彼はその試合を一手一手思い出した。

 フィッシャーの知能指数や記憶力がどの程度だろうと、フィッシャーのチェスへの貢献を評価する上ではささいな問題である。局面と手順を記憶することにかけては彼がありありと目に浮かぶ記憶力を持っていることを我々は確かに知っている。彼が対戦相手たちの能力をはるかに上回る正確さと速さで指すことができることを我々は確かに知っている。チェスはボビー・フィッシャーの天職であり本分であり芸術であるので、他の分野での優れた能力を評価しようとするのは本当に適切なことなのだろうか。あるいは我々は彼のチェスの能力を彼の素晴しい知性の十分な証拠としてようやく認め始めることができるのだろうか。

 フィッシャーの内面についての議論は彼個人にとっては当惑の種である。彼は自分の知能指数は知らないと主張している。本当の数値を生徒に明かさないのは教育委員会の方針として実際のところ賢明である。1974年の春にフィッシャーは自分の知能指数が「天文学的」だとソ連のチェス週刊誌に伝えた友人のバーナード・ズッカーマンを酷評した。

 フィッシャーは一人の芸術家としてのそして一人の人間としての自分の言説は自分のチェスの中に存在していると信じている。それこそが本書のすべてである。それゆえに「フィッシャーのチェス」はフィッシャーの頭脳活動への根本的な取り組みとなっている。彼の知性と記憶力についての憶測は非常に興味深いけれども、彼が記憶されるのは彼の試合によってである。彼の試合はたぶん彼の頭脳を真に証明するものであり唯一それが可能なものである。

2011年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: フィッシャーのチェス

名著の残念訳(17)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

19 果てなき帰還 093ページ
『とりわけ良くないのは 25.Bxf5 R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4 Rg7 黒勝ち。』

普通は、ましなように見える手や強い抵抗に見える手を解説するものだが、「とりわけ良くない」手をわざわざとりあげて解説するものだろうか。

英文『No better is 25.Bxf5 R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4 Rg7 (among others) wins.』

当然ながら among others は遠く離れた No better でなく直前の Rg7 にかかっている。他にももっと強い手があるが(28…Re6 や28…Qe1+ 29.Kh5 Re6)、29…Rxh7+ を狙うこの手が分かり易くて十分だと言っている(29.Qf6 Qg3+ 30.Kh5 Qxh3+ 31.Qh4 Rxh7+)。among others には「(数ある中で)例えば」という意味もある。

試訳『25.Bxf5 も良くなくて 25… R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4(例えば)28…Rg7 で黒勝ち。』

20 定跡の小競り合い 093ページ
『元世界チャンピオンのエーヴェ博士は、数十年にわたって定跡に関する世界的第一人者と見なされてきた。』

エーヴェ博士が第一人者なら旧ソ連のゲレル、ボレスラフスキー、ブロンシュテインらは第二人者だったのだろうか。

英文『Former World champion, Dr. Max Euwe had for decades been considered one of the world’s leading authorities on opening theory.』

one of だから第一人者の一人である。

試訳「元世界チャンピオンのエーヴェ博士は、数十年にわたって定跡に関する世界的権威の一人と見なされてきた。」

20 定跡の小競り合い 094ページ
『このちょっと気紛れっぽい手に、チェスマシンが手こずってくれるかもしれない。』

1960年にチェスマシンはまだなかったと思うが。

英文『It’s the little quirks like this that could make life difficult for a chess machine.』

machine には「機械的に働く人」という意味がある。定跡に精通したエーヴェのことを皮肉を込めて言っているのだろう。なお、ここの It’s … that … は強調構文である。

試訳「チェスを機械的に指す相手を手こずらせるかもしれないのはこのようなちょっとした気紛れである。」

2011年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

王印防御の完全理解(234)

戦法一覧

 これはかなり特殊な戦法一覧なので説明した方が役立つだろう。左側には従来の分類による戦法と枝分かれした細かい戦法を掲載した。これらの細かい戦法は一つの主戦法にまとめられているが、同じような中原の型によって別の章にもよく現れる。

 最初のパーセントの列は白の勝率、引き分け率、黒の勝率の順に並んでいる。(これらの統計は関連した戦法も加えて集計している場合もあるので参考程度の意味しかない。)次の列は戦略(Strategy)と戦術(Tactics)の順でそれらの観点から戦法の難解さの程度を表わしている。程度は1から5までの5段階である。その次の列は戦法の出現頻度(frequency)である。

(クリックすると全体が表示されます)

(完)

王印防御の完全理解(233)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.3 実戦例(続き)

 図322(再掲) 白の手番 

 これはパンノ戦法を象徴的するような結末である。決定的な本譜の手は黒のeポーンが動いていないおかげで指せるのである。白は交換得で有利であるにもかかわらず黒の圧倒的なクイーン翼の主導権を前に成すすべがない。

30.Qe3 Bxb3 31.e5

 31.Na1 には 31…Bd4 がある。

31…Bxe5 32.Na1

 32.Qxe5+ は 32…Qxe5 33.Rxe5 Bxc2 34.Rxc5 b3 でbポーンが止まらない。

32…Bd4 33.Qxe7 Qxe7 34.Rxe7 Be6 35.Nc2 b3 36.Na3 Nd1 37.Kf1 Nxf2 38.Ke2 Ng4 39.Rb7 Nxh2 40.Kd3 Ng4 41.Nb5 Be5 0-1 

(この章終わり)

2011年10月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(239)

「Chess」2011年5月号(1/4)

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メロディー・アンバー

モンテカルロ快速/目隠し大会が終了へ

 そう、ついに交通信号のライトのようにアンバー(交通信号の黄色)が赤に変わった。メロディー・アンバー大会が終了したのだ。20回目、そして最後の開催が3月にモナコで行なわれた。いつもどおり12人の参加選手による快速と目隠しの2本立ての競技会だった。相変わらず豪勢な賞金総額は最後の大会では22万7千ユーロで、この20年間にガリー・カスパロフを除く全ての一流選手を引きつけてきた。大会名は1992年に世界通信チェスチャンピオンで大会主催者のヨープ・ファン・オーステロムの娘の名前から付けられたが、その少女が今では成人し恐らく誕生日にチェス大会以外のものを望んでいるのだろう。とまあ、これは冗談だが。開会の晩餐会でメロディー・ファン・オーステロムは大会に20年間自分の名を冠してくれた両親に感謝した。大会期間の2週間モンテカルロベイホテルの会場に彼女の絵とデッサンが展示されていた。

 この大会がなくなるのは寂しい。プロのチェス界で春の訪れを告げていたし、超一流グランドマスターにとってはレイティングの損失を気にすることなく休息療法と報償になっていた。ガリー・カスパロフはこの大会に背を向けていたが、目隠し試合の部門で自分の比類ない大会記録に傷を付けたくなかったのだろう。他にもこの大会を軽蔑しちゃんとしたチェス大会にお金が使われることを望んでいる人たちがいた。それでもこの大会では独特の雰囲気が生まれ、GMたちは危険を冒したり気楽な戦法を指したりできた。周知の反目もいくらか棚上げされ、クラムニクとトパロフのような選手たちもホテルのバーで同席することはありえなくても、同じ大会で指すことに少なくとも同意していた。

 今年の大会には世界のレイティング最上位11人のうち10人の顔があった。第10位のマメジャロフだけが欠けていた。他の選手は世界第16位のボリス・ゲルファンドと、世界第43位だがすぐにもっと上昇するはずの16歳のオランダの神童アニシュ・ギリだった。

 2回戦を残して楽に優勝したのはレボン・アロニアンだった。以前には2008年と2009年に優勝していて、近年は大会の最有力選手になっていた。この大会では目隠しの部門で1位になり快速の方はマグヌス・カールセンが1位になった。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2011年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(232)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.3 実戦例(続き)

 図321(再掲) 黒の手番 

 これが普通の手である。この試合の前までは黒は Nxb5 の狙いに 11…Na5 で対処するのが通例だった。しかしそれではこのナイトがいくらか遊び駒になりやすい。例えば 12.Qc2 b4(12…Bb7 や 12…Nd7 と指すこともできる)13.Nb1 c6 14.e4 Ne8 15.Nbd2 Nc7 16.Rfd1 Nb5 17.Nf1 Qb6 18.Ne3 となれば白陣の方が中央でまとまりがある。アドルヤンは初めて …b4 突きから …Na7 で …Nb5 を目指す黒の正しい戦略を示した。しかし …b4 と突く前に …Na7 と引くのは白から b4 と突かれるので間違いであることに注意しなければならない。本譜の手の代わりに 11.d5 と突くのが理にかなっているように思われる。しかしこれでは白の中原のポーンがすぐに固定化し相手の機動性を増してしまうことになる。例えば 11…Na5(11…Na7 は 12.b4 で白がいくらか優勢である)12.Nd4(12.Rc1 は 12…e6 で白が少し具合が悪い)12…b4 13.Na4 e5 となって黒はほとんど心配するところがない。この手順にはクイーン翼ナイトに適当な逃げ場所が不足していることと、a4の地点で遊び駒になってしまう危険性とが表れている。これにより本譜の手には Nb1 と引ければ白の展開にあまり障害にならないことも明らかになる。

11…b4 12.Nb1 Na7 13.Nbd2?

 これは自然な手だがc3の弱点を目立たせる悪手である。のちにクイーン翼ナイトはc3の地点に利かせたまま Nf3-e1-d3 と捌く改良策が見つけられた。

13…c6

 ここでは黒に 13…Nb5 という有力な手もある。以下は 14.e4(14.Ne1 は 14…Bb7 15.e4 Ra8 で黒が優勢である)14…Nd7 15.Nc4 c5 で黒陣の方が有利である。

14.Ne1 Nd5!

 黒のナイトの利きがc3の地点に収束して白の13手目の不当性が明らかになる。ここで 15.e4 なら 15…Nc3 16.Bxc3 bxc3 17.Nc4 Nb5 で黒が優勢になる。

15.Nc4 Nb5 16.Qd2 Ndc3

 c3の地点の占拠でaポーンの弱さも明らかになった。

17.e3 Nxa2

 白は 18.a4 突きを狙っていた。

18.Ra1 Nbc3 19.Bxc3

 他にましな手もない。例えば 19.Bxc6 なら 19…d5 20.Ne5 Qc7 21.Ba4 Nxa4 22.Rxa2 Nc3、19.Nd3 なら 19…Qc7 20.Nxb4 Rxb4 21.Bxc3 Nxc3 22.Qxc3 c5 で、どちらも黒が明らかに優勢である。

19…Nxc3 20.Na5 c5!

 黒の強力な双ビショップとポーン得を考えればこの交換損の正しさが分かる。

21.Nc6 Qc7 22.Nxb8 Qxb8 23.Ra8 Qb6 24.Nc2 Be6 25.Rxf8+ Kxf8 26.Ra1 Bf6 27.dxc5?!

 白の最後の望みはたぶん 27.e4(28.Qh6+ の狙い)27…Kg7 28.d5 Bd7 だった。もっとも白が生き延びるのはいずれにしても困難だっただろう。

27…dxc5 28.e4 Kg7 29.Re1 Qd6!(図322)

 図322 白の手番 

(この章続く)

2011年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(231)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.3 実戦例(続き)

 図320(再掲) 黒の手番 

 クイーン翼フィアンケットは白が cxb5 と交換したあとクイーン翼ルークをすぐにc1の地点に回す用意ができていることを考慮すれば、ほとんど常に封じ込め作戦の実行の前触れとなる。もうあまり用いられることのない静的な手法(即ち a2-a4 と突いて …b7-b5 突きを防ぐこと)は別として、本譜の手の代わりに最もよく指される手を簡単に見てみよう。

 封じ込め手法 8.h3 Rb8 のあと

 (1)9.e4 b5(または 9…Nd7 10.Be3 Na5 11.b3 b5 12.cxb5 axb5 でほぼ互角)10.cxb5 axb5 11.Be3 b4(11…Na5 と 11…Bd7 も指されている)12.Ne2 ここで 12…Nxe4? と取るのははまりで 12.Qc2 で白の駒得になる。

 (2)9.Be3 b5 10.Nd2 Bd7(10…Bb7 は 11.cxb5 axb5 12.Nxb5 Na5 でねじり合いになる)11.Rc1 Na5(11…e5 は 12.dxe5 Nxe5 13.cxb5 axb5 14.b3 で白がいくらか優勢である)12.cxb5 axb5 13.b4 Nc4 14.Nxc4 bxc4 15.b5 d5 難解な局面だがたぶん白がいくらか優勢だろう。

 動的な手法 8.h3 Rb8 9.e4 b5 10.e5 のあと

 (1)10…Nd7 11.e6(11.cxb5 は 11…axb5 12.Ng5 dxe5 13.Bxc6 exd4 14.Nxb5 Rb6 で図119の解説を参照)11…fxe6 12.d5 exd5 13.cxd5(13.Qxd5+?! は 13…e6! Qxc6? Bb7 でクイーンを取られる)13…Na5(13…Na7 も指されている)14.Nd4 Ne5 15.b4 Nac4 16.f4 c5(16…Nf7 は 17.Nc6 Qe8 18.Nxb8 Bf5 19.Rf3 Qxb8 でねじり合いになる)17.dxc6e.p. Nxc6 18.Nxc6 Qb6+ 19.Kh2 Bxc3 どちらも指せる分かれである。

 (2)10…dxe5 11.dxe5 Qxd1 12.Rxd1 Nd7 13.e6 fxe6 14.cxb5 axb5 このほぼ互角の局面で白の関心は 15.Bf4 と 15.Be3 に向けられてきた。

 図320で白はそれほど一般的でない 8.Nd5 と 8.Bd2 も試してきた。

8…Rb8 9.Bb2 b5 10.cxb5 axb5 11.Rc1(図321)

 図321 黒の手番 

(この章続く)

2011年10月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(144)

「Chess」2011年6月号(9/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第4組
ラジャーボフ 2744 5½-6½ クラムニク 2772(続き)

 これでクラムニクはブリッツ試合の第2局に勝たなければならなくなった。さもないと挑戦者決定戦から脱落する。25手目で彼はなんとかポーン得した。しかし引き分けになりやすい非常に見込みのない局面だった。40手ほどの間ラジャーボフをなんとしてでも苦しめようとしたが望みがないように思われた。クラムニクは確実に消え、本命たちが全滅するところだった。しかしそのとき時計の故障のせいで運命が変わった・・・

 スコットランドの審判のアレックス・マクファーレンはそばの別の試合で審判員を務めていた。しかしもちろん隣の盤での事件を目撃していた。以下は彼の語った内容である。「アロニアン対グリシュクの延長戦第1局はもう一方の延長戦より時間がかかった。だから第2局はクラムニク対ラジャーボフ戦より10分遅れて開始された。しかしアロニアン対グリシュク戦がまだ第3局を指している間にあちらは第2局、第3局、そして第4局を終えてしまった。アロニアン対グリシュクの第4局はもう片方の対局者たちのブリッツ戦と同時に始めることに決められた。その試合を見守っているときに、リセットされた時のようなブザー音が他の時計から聞こえた。見渡すとあちらの両対局者が00を表示している時計を指さし、他の二人の審判員がすぐに現場にかけつけた。すぐに代わりの時計でビデオの表示か試合の画面から時間を設定して試合を続行すべきだと決まった。いくらか混乱はあったがこの状況としては極端ではなかった。もちろん私の方の対局を中断することを考えてもよかったのだが、実際にはそうするまでもなかった。騒ぎの間私がクラムニクに静かにするよう要請したと見られた。そのような印象を与えたのだろうか。チェスベースで発表された写真には『当事者たちが状況を協議している間審判のアレックス・マクファーレンは彼らに静かにするようにと警告している』という説明が付いていた。」


2本の手(左がクラムニク、右がラジャーボフ)が両者の画面に00を表示している時計を指し示している。審判を呼ばなければ・・・


そしてこちらは審判のアレックス・マクファーレン(右端)から別の手の合図。別の試合のために静粛にするよう要請。

準々決勝第4組、ブリッツ戦第2局
V・クラムニク - T・ラジャーボフ

60.Rc7+

 そしてクラムニクが時計を押しラジャーボフがほとんど即座に次の手で応じ、

60…Kf6

時計を押した。そのとき時計が新しく試合を始めるためのように突然00を表示した。両対局者はびっくりし、審判に助言を求めた。試合は13分ほど中断された。その間に代わりの時計がビデオの表示の正確な時間に設定され(白が21秒、黒が12秒)、両対局者には少し気持ちを落ち着ける機会になった。しかしどちらの対局者も試合を再開するのは容易ではなかっただろう。

61.Bc2 Rd4 62.Bb3 Be7

 ラジャーボフはあとでここではどう指したらよいか分からなかったと言った。しかしこの手は正着だった。

63.Bc4 Rd6 64.Kg2 Rd2+ 65.Kf3 Rd6 66.Ke4 Rd8 67.Bd5 Rd6?

 13分の中断は言うまでもなく、40手以上の強固な受けのあとラジャーボフは破滅した。

68.Rb7!

 これで手詰まりである。黒ルークはbポーンの守りを放棄しなければならない。

68…Rd8 69.Rxb6+ Rd6 70.Rb5

70…Bd8

 70…Ra6 でも 71.Rb7 でまた手詰まりが生じ、黒ルークは横に動いて Ra7 と指させなければならない。

71.Rb7 Be7 72.Ra7

 白は2ポーン目を取り勝勢になった。

72…Rb6 73.Rxa5 Rb4+ 74.Kf3 Rd4 75.Ra6+ Kg7 76.Be4 Rd6 77.Rxd6!

 ここでは異色ビショップの収局を恐れることはない。

77…Bxd6 78.a5 Bc5 79.a6 Kf6 80.Ke2 1-0

 白キングはクイーン翼に出かけて行ってaポーンを昇格枡まで護衛することができるが、黒キングはキング翼の2ポーンの守りに縛り付けられている。

 これで両対局者はさらに一組のブリッツ戦を指さなければならなくなった。しかしクラムニクは恐らく第2局での幸運な勝利によって心理的に奮起し、本来の調子に戻って収局での完璧な指し回しで第1局に勝ち、ラジャーボフの懸命の抵抗をものともせず第2局を引き分けた。これでクラムニクは準決勝に進出した唯一の優勝候補になった。

 準決勝と決勝の報告は次号に掲載する。準決勝の試合の結果を手短に知らせておく。正規試合はすべて引き分けだった。クラムニクとグリシュクは快速戦の4局もすべて引き分けた。一方カームスキーとゲルファンドはそれぞれ1局ずつ勝ち2局を引き分けた。それで準決勝はどちらもブリッツの運命に委ねられた。ゲルファンドはカームスキーに2-0で勝った。一方グリシュクはクラムニクを相手に第1局を勝ち第2局を引き分けた。ゲルファンドとグリシュクの決勝戦は途中までで1½-1½となっている(3局全部引き分け!)。詳細は次号で。

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(この号終わり)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(230)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.3 実戦例

第14局
リブリ対アドルヤン
ブダペスト、1979年
パンノ戦法

1.c4 g6 2.d4 Nf6 3.Nf3 Bg7 4.g3 O-O 5.Bg2 d6 6.O-O Nc6

 これは比較的現代のパンノ戦法に特徴的な手である。パンノ戦法は前章で見たように(図277の解説を参照)ユーゴスラビア戦法に移行することができる。

 オーソドックスシステム(6…Nbd7 のあと …e5 と突く)とユーゴスラビア戦法(6…c5)を除外すると、本譜の手に代わる主要な手はカバレク戦法の 6…c6 である。このポーン突きは 7.Nc3 に対して 7…Qa5 と出る手を用意しているが、その局面はまだ未知の部分が十分あり黒が新しい方向に漕ぎ出すことができる。…Qa5 に代わる手を注記すると次のとおりである。(1)…a6 突きから …b5 突きによるクイーン翼での反撃(2)…Bg4xf3 のあと …e5 と突くことによる単純化の捌き(3)二重の目的の …Bf5 で …Qd7 から …Bh3 により白のフィアンケットビショップとの交換を目指すか単にe4の地点の占拠を目指す。あとの場合の一例を次に示す。6…c6 7.Nc3 Bf5 8.b3(8.Ne1 Qc8 9.Qb3 Na6 10.e4 Be6 11.a4 Rb8 12.Nf3 Bh3 13.Re1 Bxg2 14.Kxg2 は白が明らかに優勢である。しかしこの手順中 8…e5 と突く方がはるかに理にかなっている。例えば 9.d5 a5 10.e4 Bg4 11.f3 Qb6+ 12.Kh1 Bd7 13.Qe2 cxd5 14.cxd5 Rc8 で白がわずかに優勢でしかない)8…Ne4 9.Bb2 Nxc3 10.Bxc3 Be4 11.Qd2 Nd7 12.Qe3 d5 13.Bh3 Bxf3 14.Qxf3 e6 15.e4 これで白の方が少し指し易い。

 6…c6 7.Nc3 Qa5 8.h3 と進んだカバレク戦法で黒は 8…e5 と突いてオーソドックスシステム(第8章を参照)にすることも多い。しかし通常は 8…Be6 と指すことによりカバレク中原に持っていく。例えば 9.d5 cxd5(9…Bd7 も指されている。例えば 10.e4 Rc8 11.Re1 cxd5 12.cxd5 Na6 13.e5 でねじり合いになる)10.Nd4 Bd7(10…dxc4!? と捨て駒に出るのも面白い。例えば 11.Bxb7 Nbd7 12.Nxe6 fxe6 13.Bxa8 Rxa8 で黒に交換損の代償が十分にありそうである)11.cxd5(白は 11.Nb3 で黒が …Rfc8 から …Qd8 という主眼の捌きを実行するのを防ぐことも試みてきた。例えば 11…Qb4 12.cxd5 Ba4 13.Qd4 Qxd4 14.Nxd4 Bd7 15.Be3 Na6 16.Rac1 Rfc8 17.Nb3 Be8 となれば互角である)11…Rc8 12.Be3(12.Nb3 と 12.e4 も指されてきた)12…Na6 13.Qd2 でほぼ互角の形勢である。

7.Nc3

 この時点で白が 7.d5 Na5 8.Nfd2(黒の 8…c5 突きを期待)と指すことによりユーゴスラビア戦法に移行しようとすると、黒は 8…c6 9.Nc3 cxd5 10.cxd5 Bd7 で互角のカバレク中原にしてしまうことができる。

7…a6

 主眼の …b7-b5 突きを準備するこの手がパンノ戦法で最も重要な戦型である。しかしカバレク戦法に関する前述の説明のように、この局面もあまり詳細に研究されていないので黒が新しい道を探すことができる。次のような可能性にも注意が必要である。即刻の 7…e5 突き(この手については第12局の白の7手目の解説を参照)。…Bg4xf3 から …e5 突きによる単純化の捌き。…Bf5 の展開のあと …Ne4 または …Qc8。あとの二つの戦型の例は次のとおりである。

 (1)7…Bg4 8.h3(もちろん 8.d5 Na5 9.Nd2 c5 でユーゴスラビア中原の型に移行することもできる)8…Bxf3 9.Bxf3 Nd7 10.e3 e5 11.d5 Ne7 12.e4 f5 これで一種のマルデルプラタ中原が生じる。

 (2)7…Bf5 8.b3(または 8.Ne1 Qc8 9.e4 Bh3 10.Nc2 Bxg2 11.Kxg2 e5 12.d5 Ne7 でやはりマルデルプラタ中原の型に移行する)8…Ne4 9.Bb2 Nxc3 10.Bxc3 Be4 11.Rc1 d5 これでほぼ互角の形勢である。

 これらの変化にはパンノ戦法のカメレオン的性格がよく現れている。

8.b3(図320)

 図320 黒の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(229)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.2 戦術の狙い所(続き)

h1-a8斜筋での直射攻撃と Nc6 の犠牲

 この直射攻撃は中原での仕掛けと組み合わされた時にだけ効果が期待できる。白はこの場合にだけキング翼ナイトを動かすことにより狙いを作り出すことができる(図318)。

 図318 

 白は cxb5 axb5、Ng5 と指して Bxc6 とe6の地点を狙う。しかし黒は Nc6 を犠牲にして dxe5、Bxc6 exd4 と応じることができる。その着想は Ne2 h6、Nf3 e5 のあと中央のポーンの厚みによって駒の代償が得られることである。一方 Nxb5 Rb6、Nxd4 Nb8! のあと(図319)、

 図319 

黒は駒を取り返し戦力の均衡を取り戻すことになる。しかしこの手順中 Nxd4 の代わりに Na7 と指すのも注目に値する。

(この章続く)

2011年10月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[83]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

擬似キング翼インディアン戦法

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.c4(図132)

 図132(黒番)

 既に見たように白は3手目でナイトを展開するのが普通である。しかし本譜の手も珍しい手ではなく、黒にキング翼インディアン防御に移行するよう誘っている。しかし黒はキング翼ナイトの展開を拒否し、代わりにキング翼ビショップとクイーン翼ナイトとによって白のdポーンに対する圧力を強めることにより、現代防御の輪郭を保つことができる。

3…d6 4.Nc3

 ここではクイーン翼ナイトを展開するのが最善である。4.Nf3 は …Bg4 とかかられて、白のdポーンに対する圧力が強まってくる。

4…Nc6

 このナイトの展開で白のdポーンが当たりになっている。これは上述した黒の作戦行動の概要と密接に関連している。4…Nf6 はキング翼インディアン防御に直接移行することになる。それでも本譜で黒が直面することになる困難を考えれば、これが推奨する針路である。

5.d5

 ナイトを当たりにするのは自然な反応である。もっとも 5.Be3 もまったく当然の手である。

5…Nd4

 ぶざまな退却の 5…Nb8 はほとんど考慮に値しない。黒は本譜の手で目標を達成し白のd4の地点を駒で占拠した(「相手の手に乗る」ことはしばしば良い指針になる)。しかしこのナイトを前進基地に維持することはひどく困難な戦いになる。

6.Be3

 ナイトへの攻撃に出た。

6…c5

 6…e5 のようにキング翼ビショップの利きを止めることなしにナイトを支えた。

7.Nge2

 白はナイト同士を交換することを希望している。7…Nxe2 8.Bxe2 となれば白駒(キング翼ビショップ)を展開させてやるために黒が3手損(…Nc6 – d4 x e2)したことになる。白は 7.dxc6e.p. Nxc6 と指すこともできたが、黒はそれ以上問題を抱えることなく展開を完了できただろう。

7…Qb6

 この場合はクイーンを早く展開させる必要がある。さもないと黒はナイトを支えることができなくなる。

8.Qd2

 白の作戦は Rd1 でナイトに対する圧力を一段と強めることである。

8…Bg4

 黒はナイトを脅かしている駒の一つを当たりにした。8…e5 突きによってナイトを支えようとしても次のようにひどい失敗に終わる。9.dxe6e.p. fxe6 10.Rd1 e5 11.Nd5 Qd8 12.Nxd4 cxd4 13.Bg5 これで白は駒がよく働いているが、黒はd4の地点に駒がいる代わりに「死点」ができてしまっている。

9.f3!(図133)

 図133(黒番)

 1973/74年ヘースティングズでのティマン対サトルズ戦はここから次のように進んだ。

9…Bxf3 10.Na4 Qa6 11.Nxd4 cxd4 12.Bxd4 Bxd4 13.Qxd4 Nf6 14.c5!! Qa5+ 15.Nc3 dxc5 16.Qe5 Bg4 17.d6

 以下は白が一本道で勝った。上図で黒の唯一のチャンスは 9…Bd7 だっただろう。しかし 10.Rd1 が黒の戦略を打ち破る手で、強制的にd4のナイトを交換させる。

(この章終わり)

2011年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(228)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.2 戦術の狙い所(続き)

eポーンの間接的守り

 白が cxb5 と取り e2-e4 と突いたときには、黒のクイーン翼ナイトが浮いていることに基づいたちょっとした罠がある(図316)。

 図316 

 黒は …b4 と突いて白のeポーンを取れるように見える。しかし実際には白はすべてを見通している。例えば Ne2 Nxe4?、Qc2(図317)。

 図317 

で白はどちらかのナイトが取れる。

(この章続く)

2011年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(16)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

01 少しだけ、遅すぎた 004ページ
『27. Be5+
 白は 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7 … でルーク対ビショップの二重交換得にできるが、この段階まで来るとさらなる大事件が起こりそうだと感じていた。』

この後どの手で「大事件」が起こったのだろうか?「さらなる」とあるからこれ以前にも大事件があったようだがどの手が大事件だったのだろうか?

英文『27.Be5+
White can pick off a couple of exchanges with 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7, etc. But by now I felt there was more in the offing.』

in the offing に「やがて起こりそうな」という意味があるから more を「大事件」と解釈したようである。もっと一般的には「近い未来に」という意味がある。more は「それ以上のもの・こと」という意味で、具体的には二重交換得以上の戦果が得られそうだということである。フィッシャーはそう感じたからこそ二重交換得を見送って 27.Be5+ と指したのである。

試訳『白は 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7 … でルーク対ビショップの二重交換得をもぎ取ることができるが、ここではもうそれ以上のものがこの先得られるのではないかと感じていた。』

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 086ページ
『欲張りな 12…h5 は気に留めなかった。13.Bg5 f6 14.Bc1 から Nf4 とされると、黒のキング側が台無しになる。』

英文『It doesn’t pay to be greedy with 12…h5. After 13.Bg5 f6 14.Bc1 followed by Nf4 Black’s K-side is all messed up.』

pay attention to なら確かに「気に留める」という意味だが、pay だけなら「割りに合う」という意味である。例えば It sometimes does not pay to be kind. は「親切は時に割に合わないことがある」という意味になる。それに主語が仮主語の It なので「ものやこと」のことである。「気に留める」の主語がもの/ことになることはない。

試訳「欲張って 12…h5 と指すのは割に合わない。13.Bg5 f6 14.Bc1 から Nf4 とされると黒のキング側がめちゃくちゃになる。」

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 086ページ
『17…Kh8
 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 そして 19.Nc5 には 19…Qf7 も可能(クモッホ)。』

「19…Qf7 も可能」とあるから黒の元々の19手目があるはずだが書かれていない。

英文『17…Kh8
Also good is 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 and if 19.Ne5 Qf7 (KMOCH)』

19.Ne5 とこられても 19…Qf7 で大丈夫といっているだけである。

試訳「17…Kh8
 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 も良い手で、そこで 19.Nc5 なら 19…Qf7 (クモッホ)。」

2011年10月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(227)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.2 戦術の狙い所(続き)

c列での直射攻撃

 この極端に単純な主題は白がb5でポーンを交換しルークでc列を占めたとき必ず現れる(図315)。

 図315 

 狙いは Nc3xb5 でポーン得することである。あまりにも見えすいているのでこの主題が実際に起こることは滅多にない。しかしそれにもかかわらず黒のナイトがc列で浮いていることは、以降の主題に見られるように常に念頭に置かなければならない要素である。

(この章続く)

2011年10月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(226)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.2 戦術の狙い所

 カバレク中原には頻出する戦術の主題はないけれども、パンノ中原には …b7-b5 突きのあと黒のクイーン翼ナイトが守られていないことに基づいた主題をいくつか見つけることができる。

(この章続く)

2011年10月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(238)

「British Chess Magazine」2011年5月号(1/1)

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チェスのテスト

IMショーン・トールバット

 あなたは最後となったモナコでのメロディー・アンバー大会における米国のグランドマスターのヒカル・ナカムラと同じ側で黒を持っている。この対局は目隠し試合で、相手はあの偉大なワシリー・イワンチュクである。黒のそれぞれの手を考えて下さい。

 テストをするには紙で文章を隠し、黒の手を考えて決めたら紙を下にずらす。得点は妥当な手のほとんどに与えられる。全部終わったら得点の合計を求めて、棋力の推定と比較する。それでは頑張って!

□ V・イワンチュク
■ H・ナカムラ

第20回アンバー 目隠し試合
モナコ、2011年
ルイロペス C65

1.e4 e5 2.Nf3

2…Nc6

 この手は2点、堅実な 2…d6 と 2…Nf6 は1点。もちろんこのような早い段階ではいくつも選択肢がある。

3.Bb5

3…Nf6

 この手堅いベルリン防御は2点。もっと一般的な 3…a6 は3点。3…d6、3…f5、3…g6 それに 3…Nge7 は1点。

4.d3

4…Bc5

 このベルリン・クラシカルは2点。堅実な 4…d6 も2点。この手は Bxc6 から Nxe5 で黒のeポーンを取る白の狙いを防いでいる。

5.c3

 白が 5.Bxc6 dxc6 6.Nxe5 とポーン得してくれば 6…Qd4 で良い。そこで白は 6…Nd4 を防ぎながら中央で行動を起こすことにした。5.O-O は 5…Nd4 6.Nxd4 Bxd4 7.c3 Bb6 で黒が満足の展開である。

5…O-O

 1点。白に戦力得の機会を与えた。他には 5…Qe7 も1点。

6.O-O

 6.Bxc6 dxc6 7.Nxe5 Re8 8.f4 Bd6 9.O-O Bxe5 10.fxe5 Rxe5 11.Qf3 なら白が好調だった。

6…d5

 この攻勢を目指す手は2点。自然な 6…d6 も2点。6…Re8 と 6…Qe7 は1点。

7.Qc2

 7.Bxc6 は 7…bxc6 8.Nxe5 dxe4 9.d4 Qd5 で黒駒の働きが活発になるので白はe4の地点を守ることにした。

7…Re8

 eポーンを守るこの手は2点。同じくe5を守る 7…Bd6 は消極的なので1点。

8.Bg5

8…dxe4

 このポーン取りは2点。8…a6 は1点。黒は自陣の展開を図るために中央の形を決めておかなければならない。

9.dxe4

9…h6!

 釘付けをはずすこの重要な手は3点。しかしビショップに進退を聞かない 9…Bg4 と 9…Bd7 は1点。ここで白がビショップをf6の地点で切ることはできるけれでも、黒クイーンがすぐに好所に来る。

10.Bh4

10…g5!

 陣地を広げるこの手は4点。ここは本局の重要な場面である。黒はキング翼に陣形上の弱点があるが、その代わり駒の働きが良い。eポーンを守る 10…Qe7 と 10…Bd6 は1点。

11.Bg3

 ナイトを犠牲に 11.Nxg5 と取るのは 11…hxg5 12.Bxg5 Qd6 13.Rd1 Qe6 となって黒が優勢である。この手順で黒が釘付けをはずすことができることを読んでいたらボーナスで1点。

11…Nh5

 この手は 10…g5 に続く当然の手で2点。eポーンを守る 11…Bd6 は1点。

12.Nbd2

 12.Bxc6 bxc6 13.Bxe5 g4 14.Nd4 Ba6 15.Rd1 Rxe5 16.Nxc6 Bxf2+ 17.Kh1 Ng3+ 18.hxg3 Rh5# を読んでいたらボーナスの2点。白がe5のポーンを取れないのでここでは黒が少し優勢である。

12…Qf6

 この手は1点。白のクイーンビショップを消して圧力を緩和する 12…Nxg3 も1点。黒はナイトを残しておく方が良いと考えた。f6のクイーンはe5のポーンを守り、イワンチュクのキング翼に圧力をかけている。

13.Nc4

13…Nf4

 e5のポーンを守るこの手は2点。13…Nxg3 は1点。本譜の手のあと白がナイトを取れば黒は取り返しの選択肢がある。

14.b4

 14.Bxf4 exf4(14…Qxf4 15.Bxc6 bxc6)15.b4 Bf8 16.e5 Qe6 は黒が良い。

14…Bb6

 2点。14…Bf8 は1点。黒は白ナイトとb6のビショップの交換を恐れない。なぜなら残りの小駒は白の小駒より働きのある地点にいるからである。

15.Nxb6

 白は 15.a4 a6 16.Bxc6 bxc6 で黒ポーンの形を乱す方が良かった。

15…axb6

 2点。15…cxb6 は0点。黒のクイーン翼ルークは半素通しa列で動けるようになった。

16.Nd2

16…Be6

 この展開の手は2点。16…Red8 は1点。

17.f3

17…h5

 この手と 17…Red8 は1点。

18.a4

18…Red8

 2点。

19.Rae1

19…Ne7!

 この大局観に優れた手は3点。黒はb5にいる白ビショップの動ける地点が少ないことに目をつけ、それを利用しようとする。

20.Bf2

20…h4

 圧力を強めるこの手は2点。

21.Be3

21…h3

 イワンチュクのキング翼を乱す目的のこの手は3点。

22.g3

22…Ng2

 3点。黒はe3とe1の地点に利くことを見越してこのナイトをg2の好所に行かせた。

23.Re2

23…c6

 ビショップを閑地に追い払うこの手は2点。

24.Bd3

 24.Bc4 は 24…Rxd2 25.Qxd2 Bxc4 26.Bxg5 Qe6 で黒の戦力得になる。

24…b5

 a列の利用を目的とするこの手は3点。

25.a5

 25.axb5 と取るのは 25…Ra2 26.Qb1 Nxe3 27.Rxe3 Rxd2 で黒の駒得になるので、白はポーンを突き進めなければならない。

25…Rd7

 d列にルークを重ねてd3のビショップを取るのが目的のこの手は2点。

26.Bb6

 26.Nb1 Rad8 27.Rd1 は 27…Bc4 がひどい。d1のルークをかばっているd3のビショップが釘付けにされている。この手を読んでいたらボーナスの1点。


26…Nc8

 2点。黒の狙いはb6のビショップと交換してからルークを重ねることである。

27.Bc5

 27.Nb1 でも 27…Nxb6 28.axb6 Qd8 29.Rd2 Ra2 で黒の勝ちになる。

27…Qd8! 0-1

 このきれいな決め手は4点。盤なしでは見つけにくい。

合計点を求めて下表と比較する。

53点-63点 グランドマスター級
48点-53点 国際マスター
43点-48点 国内マスター
33点-43点 県の強豪選手
23点-33点 クラブの強豪選手
13点-23点 クラブの選手
0点-13点 チェスが初めてならクラブに入り、この結果はあまり深刻に受け止めないこと。

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(この号終わり)

王印防御の完全理解(225)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

パンノ中原とカバレク中原の共通の着想

 最後に、中央の形が決まる前に黒がパンノ戦法とカバレク戦法の両方で実行できる布局での二とおりの着想に読者の注意を喚起しておく。一つ目は黒のクイーン翼ビショップがf5の地点に展開している必要がある(図313)。

 図313 

 パンノ戦法でも生じることがあるこのような駒配置は、白のキング翼ビショップを …Qd8-d7 から …Bf5-h3 によって交換しようとするのにも役立つし、…Nf6-e4xc3 のあと …Bf5-e4 の手段によってe4の地点を支配するのにも役立つ。

 二つ目は …Bc8-g4 とかかる準備がいる(図314)。

 図314 

 カバレク戦法でも生じることがあるこの駒配置は …Bg4xf3 の手段によって白のd4(とe5)の地点の支配を弱める目的がある。結果的にこの単純化の捌きは …e7-e5 突きの前触れとなるのが普通である。

(この章続く)

2011年10月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(224)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

主眼の捌き

 黒はルークの連結を乱さずにクイーンをd8の地点に引けるように、キング翼ルークを迅速にc列に回す(…Rfc8)ことがよくある。クイーン翼ナイトは通常はc5の地点に向けられ(時には …a7-a5 と突いて安全にしておいてから)、キング翼ナイトはクイーン翼ビショップを …Bd7-e8 で引っ込めてからd7の地点を経由してe5とc4の地点を目指す(図311)。

 図311 

 c列で進展を図るために黒はルークを重ねる必要があるだけでなく、白の邪魔なクイーン翼ナイトを立ち退かせる必要がある。そのために黒は典型的な捌きの …Nc5-a4 を用いたりbポーンを突いていくことにより達成しようとする。収局で白が …Bg7xc3 にポーンで取り返すことにより陣形を弱めざるを得ないならば、黒はそうすることもある。

 白の指し手はd4の地点を軸にしている。最初は黒クイーンを追い払うためにキング翼ナイトの通過地点(Nf3-d4-b3)として用い、それからクイーン翼ビショップで占拠(Bc1-e3-d4)してそこから相手のキング翼ビショップを無力化し e4-e5 の仕掛けの可能性を支援する。さらにg1-a7の斜筋上のクイーン翼ビショップおよび/または Nb3-a5 から得られる圧力は、黒にとって特に収局で現実の問題となることがある。最後に決して軽んずべきでないこととして、白は h3-h4 突きから Bg2-h3 によってh3-c8の斜筋の支配に努めることができる(図312)。

 図312 

 キング翼ビショップのこの新しい配置はc列での立場を逆転し中央での敵陣突破を支援するのに大いに役立つ。

(この章続く)

2011年10月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(143)

「Chess」2011年6月号(8/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第4組
ラジャーボフ 2744 5½-6½ クラムニク 2772

 テイムール・ラジャーボフはマグヌス・カールセンの辞退のおかげで挑戦者決定競技会に出られた。クラムニクは最初から本命だったが、11年前にカスパロフから王座を奪い取った時と同じくらいの強さか、そして再びオリュンポス山をよじ登る動機づけがあるのかは疑わしい。第1局はラジャーボフの白でとんだ失敗、つまりクイーン翼ギャンビット拒否のつまらない指しつくされた戦型だった。第2局ではクラムニクがカタロニア布局で相手を押しつぶそうとしたが、名ばかりの優勢を得ただけだった。第3局はお互い意欲的な手を披露するもっと面白い戦いになったが、それでも尻すぼみになって引き分けた。第4局はちょっと火花が散ったがすぐにまた静まった。

 快速の第1局はクラムニクの典型的な長い押さえ込みだったが、またしてもラジャーボフが頑強に守りきった。両者の残りの快速戦は二人とも2局単位でのブリッツ戦で決着をつけようと決めたかのように次第に早く終わるようになった。ブリッツ第1回戦の第1局はラジャーボフがうまく指し回し意表のリードを奪った。

準々決勝第4組、ブリッツ戦第1局
T・ラジャーボフ - V・クラムニク

32…exd4 33.Qg3!

 この用心は必要である。33.Nfd6 には 33…Ne5 がある。

33…Rf8 34.Ned6 dxc3 35.bxc3 Rd7 36.h4 Rf6 37.h5

37…Ne7??

 ブリッツ試合の状況では黒陣の受けはまことに困難であるが、この手は大悪手である。37…Ngf4! なら白にはこれといった手がなかった。例えば 38.Rxf4 は 38…Nxf4 39.Rxf4 Rdxd6 40.Nxd6 Rxd6

でほぼ互角である。

38.Nh6!!

38…gxh6

 38…Rxh6 は 39.Nf7+ で白の勝ちになる。

39.Qe5!

39…Nd5

 黒は処刑室へ向かう死刑囚である。代わりに 39…Rxd6 と取っても 40.Rxf6! Rd5 41.Qxe6 でやはり見込みがない。

40.Rxf6 Nxf6 41.Qxf6+ Rg7 42.Nf5 Qf8 43.Nxg7 Qc5+ 44.Kh1 Nxg7 45.Qf8+ 1-0


テイムール・ラジャーボフは不安げな様子に見えるが、実際はブリッツによる決定戦の第1局でもうすぐクラムニクに勝つところである。クラムニクは巻き返せるか?

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(223)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

カバレク中原

 カバレク戦法における特徴的なa5への黒クイーン進出のあと、黒は中原の問題を通常の …e7-e5 突き(第8章を参照)とは異なったやり方で解決に努めることができる(図309)。

 図309 

 この局面で白は h2-h3 と突くのが普通である。この手はほとんど常に e2-e4 と突くための必要で役に立つ序曲となる。そして …e7-e5 突きに代わる手として黒は …Be6 と挑発して相手の d5 突きを誘うことができる。実際問題として白は誘われるままにポーンを突くことができる。なぜなら黒が(d5 cxd5、Nd4 のあとの)…dxc4、Bxb7 の乱戦に気が進まないならば、…Bd7、cxd5 でポーンを返さなければならないからである。しかしこれは中原の形がはっきり決まり黒が遠大な作戦を立てることができることを考慮すれば、実際は黒の意中である(図310)。

 図310 

 この形はパンノ戦法またはカバレク戦法の他の戦型からも生じることがある。

 d4-d5 突きの結果として黒は明確な動的/戦略的利益を得る。つまり素通しc列、e5、c5およびc4の地点を利用する可能性、加えて黒枡の対角斜筋の開通と白枡の対角斜筋の遮断である。パンノ中原でのようにここでの黒の期待は …e7-e5 突きを避けることが自陣の引き締めに役立つことである。

 白の方は中原で確固とした広さの優位を得る。そしてそれを活用して e2-e4-e5 突き(必要ならば f2-f4 突きの支援により)で敵陣突破を図ったり、またはクイーン翼で圧力をかけることができる。以降の展開では両者とも主眼の捌きを用いることになる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(222)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

c4xb5 のあとの封じ込め

 白は …b7-b5 突きによって突きつけられる問題にもっと大局的な手法でも取り組んできた。即ちb5の地点で取ることにより、ポーンの形のささいな不利に甘んじても、代償としてc列で圧力を得、それに加えて最も重要なことは中原での着実な活動を始めるのに要する手数を得ることである(図305)。

 図305 

 この種の局面で白は一般に e2-e4-e5 と突いていく手段により、または d4-d5 と突いてd4の地点を空けることにより、あるいはその両方を用いることにより、中央での陣地を広げることに努める。ポーン交換により黒に譲った中央でのポーン数の優位は、半素通しc列での圧力により封じることができる。

 これの別の面は cxb5 axb5 の交換に続いて黒のクイーン翼攻撃が具体的な目標を得るということである。それはうるさい …b5-b4 突き(これは交換前は …b7-b5 突きの主旨がとりわけ列を開通させることを考慮すれば戦略的に魅力的でなかった)と、…Nc6-a5-c4 の捌き(これは b2-b3 突きを助長する目的で、その理由は図306の解説で明らかになる)に加えてクイーン翼ビショップをa6の地点に据えることとを組み合わせることである。このために白はc4の地点を Nf3-d2 で守ることにより少しの間b5でのポーン取りを遅らせることにするかもしれない。だから要約すると、可能性としては二つあることになる。つまり …b7-b5 突きのあと白はすぐにb5で取れるし少し遅らせることもできる。

 最初の場合白がクイーン翼ビショップをフィアンケットするかそれとも元々の斜筋に展開するかにより試合は異なった特徴を帯びる(図306)。

 図306 

 白がクイーン翼ビショップをフィアンケットしたときは黒の正しい応手は …b5-b4 突きで自陣を広げることである。これにより白のaポーンを攻撃し弱いc3の地点に圧力をかける可能性が新しく生まれる。圧力のかけ方でよくあるのは …Nc6-a7-b5 で、ナイトをc6の危うい地点からはずしcポーンの可動性を取り戻すことにもなる。…b5-b4 突きのあとクイーン翼ナイトをa5の地点に動かすのは、c4の地点が守られていてこのナイトがa列での圧力の可能性の邪魔になることを考慮すれば、少し理に合わない。しかし黒が …b5-b4 と突く前に …Nc6-a7 と指せば白は自分から b2/b3-b4 と突くことによりそのナイトを働かなくさせることができることには注意しなければならない。

 また、白がb5で交換してからクイーン翼ビショップを本来の斜筋に展開するときは、h2-h3 から e2-e4 と突いてからビショップをe3の地点に置くのが普通である(図307)。

 図307 

 ここで黒のクイーン翼での反撃はc4の地点の占拠、…b5-b4 突き、それにa6-f1の斜筋の支配に基盤をおいている。

 最後に前述したように、白は Nf3-d2 引きでc4の地点を守ることにより少しの間b5でのポーン取りを遅らせることができる。この場合c1のビショップの利きを邪魔しないためとdポーンを守るため、白はクイーン翼ビショップをe3の地点に展開しなければならない。しかし …Nf6-g4 を防ぐために h2-h3 と突く必要があるので、白は e2-e4 と突いている暇がない(図308)。

 図308 

 白にb5でとらせるためには黒は …Na5 と指さなければならない。そして cxb5 axb5、b4 Nc4、Nxc4 bxc4、b5 d5 となって、互角の形勢の複雑な局面になる。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[82]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

オーストリア攻撃

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3(図130)

 図130(黒番)

 これはこの局面で断然多く指される手である。白は駒を展開して、攻撃的な f4 突きで堂々たるポーン中原を築く選択肢を残している。

3…d6 4.f4 Nf6

 白の中央での活動の脅威を見てとった黒はできるだけ早くキャッスリングする意図でキング翼ナイトを展開した。

5.Nf3

 これはオーストリア攻撃における白の典型的な展開である。白は中央の最も攻撃的な地点に駒を集中させている。

5…O-O 6.Bd3

 6.Bc4 の方が的を射ているように見えるが、6…Nxe4 から …d5 の両取りトリックにはまる。

6…Nc6

 黒の戦略は白の広大なポーン中原を侵食することである。だからこのcポーンを邪魔する手は棋理に反するように思われるかもしれない。しかしすぐに 6…c5 と突くのは 7.dxc5! dxc5 8.e5 で失敗に終る。白が中原に強力なくさびを打ち込み、黒のcポーンは何もすることがなくてかなり無用に見える。6…Nc6 は白のdポーンに圧力をかけるもっと巧妙な手段である。黒の作戦は …Bg4 から …e5 突きで先手を取って展開を完了することである。

7.e5

 黒のキング翼ビショップの対角斜筋を遮断するために白の中原が進撃を始めた。

7…dxe5 8.fxe5

 最も積極的な 8.dxe5 は 8…Nd5 9.Nxd5 Qxd5 となって互角の形勢にしかならない。この局面は表面的には 6…c5 と突いたあとの局面に似ているかもしれないが、この場合黒は役に立たないポーンがc5にある代わりに駒を有効に展開(Nc6)していてこの違いが黒の有利に働いている。

8…Nh5!

 もちろんこれはナイトを盤の端に置く手である。しかしここは別の最優先される代償の要因があるために規則を破らなければならない状況の一つである。ナイトの他の動きはすべてこれより劣っている。大事なことは、黒は …f6 突きで白の中原を侵食したいので、白の中央のポーンへの圧力を強めるためにg4の地点をクイーン翼ビショップのために空けておくべきであるということである。だから 8…Ng4 は劣った手で、8…Ne8 もそうで黒自身の駒の動きを邪魔するだけである。最後に 8…Nd5 は 8…Nh5! なら白のdポーン当たりになる攻撃を自分で妨げてしまう。

9.Be3

 白は駒を展開してポーンを守った。

9…Bg4

 また白のdポーンを狙っている。

10.Be4

 これでクイーンがdポーンを守っている。それに圧力が強くなって耐えられなくなれば白は Bxc6 で敵の攻撃駒を消すことができる。

10…f6

 これは白の突出した中原に対する主眼のポーン突きである。黒からの圧力が頂点に達しているので白は交換に応じなければならない。

11.exf6 Nxf6!

 黒は盤央にナイトを引き戻し、12…Nxe4 13.Nxe4 Bxf3 から …Nxd4 の狙いで白のビショップへの当たりが先手になっている。

12.Bxc6 bxc6 13.O-O(図131)

 図131(黒番)

 白は手遅れになる前にキャッスリングしなければならない。この局面で黒のポーンはばらばら(白の2ポーン島に対し黒は4ポーン島)だが、黒には駒のための多くの素通しの筋、展開の良さ、それに双ビショップがある。特にこれからの指し手の可能性を考えれば形勢は互角と判定しなければならない。

13…Nd5 14.Nxd5

 他に指しようがない。

14…cxd5 15.h3 Bxf3 16.Rxf3 Rxf3 17.Qxf3 Qd6

 そして黒はこのあと …e5 と突いて弱点をすべて解消する。17…Qd6 のあとはどちらも優勢を主張することはできない。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(221)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

動的手法の中原進攻

 白の取れる別の対策は相手のクイーン翼での動きを無視して、中央に注意を集中しeポーンでの中原進攻に大きな役割を与えることである。しかしこの作戦は先受けの h2-h3 突きの準備が必要である。さもないと黒が …Bc8-g4 によって白のキング翼ナイトを釘付けにし、そのあと …e7-e5 と突いてd4の地点の支配を奪ってくる。白が自分のcポーンに対する攻撃を無視できるのは自分のeポーンの進攻によって生まれる具体的な狙いのためなので、作戦の結果の分析はすべての駒の特定の位置を考慮に入れなければならない(図302)。

 図302 

 クイーンをまず交換するかナイトをすぐに引くかによらず、黒はともかくもナイトをd7の地点に引くことにより(e8は明らかにあまりにも守勢である)eポーンについての方針を相手に決めさせることが多い。…Nd7 引きのあと白はポーンをe6に突き捨てることにするのが普通である。このポーン捨てはクイーンが交換されたかどうかによって色々な様相を帯びる。

 上図からクイーン交換の局面は …dxe5、dxe5 Qxd1、Rxd1 Nd7、e6 fxe6 で生じる(図303)。

 図303 

 このよく研究されている戦型で白の期待は黒のクイーン翼の駒の一時的な混雑とがたがたのポーン構造につけ込むことができることである。しかし予想されるようにクイーン同士の交換と比較的対称なポーン形により黒の防御はかなり容易である。

 二番目の場合 …Nd7、e6 fxe6 のあと白は d5 突きで敵陣の白枡の弱点につけ込もうとする(図304)。

 図304 

 黒は …exd5 と取ることができる。白が Qxd5+?! e6!、Qxc6? でナイトを取ると …Bb7 でクイーンを取られてしまう。cxd5 でポーンを取り返したあと白は犠牲にしたポーンの代償を戦略的に得ることができる。つまり白のcポーンが相手の圧力をかわすことができ(従ってクイーン翼の列の開通を避けることができ)、e6とc6の地点を固定して Nf3-d4 により容易に圧力をかけることができる。対照的に黒陣はe6またはc6の地点での両当たりから交換損になっても代償となる機動力が十分あることが多い。両者に多くの可能性があることを考えればこの変化は非常に多く生じる。言うまでもないが、この手順は白の中央進攻から派生する可能性のほんの一部である。しかしそれらは最も重要なものである。

(この章続く)

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名著の残念訳(15)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

15 大ぼら 069ページ
『序盤変化で重要な13手目に、スミスロフは動かしそこねに見える手を指した。)』

スミスロフは何を「動かしそこね」たのだろうか?

英文『On move 13 of a crucial opening variation, Smyslov makes what appears to be a “lapsus manus.”』

lapsus manus とは a slip of hand のことである。たぶん将棋でいうところの「手拍子(読みの裏付けがないのに軽率に指し手を進めてしまうこと)」のことだろう。

試訳『序盤の重要な戦法の13手目でスミスロフは「手拍子」のような手を指した。』

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 085ページ
『5 Ne5 Nf6
 5…h5 6.Bc4 Rh7 7.d4 d6 8.Nd3 f3 9.gxf3 Be7 10.Be3 Bxh4+ 11.Kd2 Bg5 12.f4 Bh6 13.Nc3 だと、白がポーン損の十分な見返りを得る。時代遅れの分析だ。』

どの部分が「時代遅れの分析」なのだろうか? 5…h5 からの変化手順は別に間違っていないし、「白がポーン損の十分な見返りを得る」というのはフィッシャー自身の言葉か、少なくともフィッシャーも肯定している形勢判断である。本譜の手が 5…Nf6 なので 5…h5 が時代遅れだというなら「時代遅れの手だ」というのが正確な表現だろう。「時代遅れの手」や「時代遅れの手順」という表現はあるが「時代遅れの分析」という表現はなにかおかしい。

英文『5 Ne5 Nf6
On 5…h5 6.Bc4 Rh7 7.d4 d6 8.Nd3 f3 9.gxf3 Be7 10.Be3 Bxh4+ 11.Kd2 Bg5 12.f4 Bh6 13.Nc3 White has more than enough compensation for the Pawn. This is vintage analysis.』

vintage には「時代遅れの」という意味もあるが「古くて値打ちのある」という意味もある。例えば vintage cars(クラシックカー)というように使われる(「時代遅れの車」ではない)。

試訳「これは昔からの立派な分析だ。」「これは今でも通用する分析だ。」

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 085ページ
『18 Kh1?
 より正確には 18.Bxd6 Rf6 (18…Rg8 には 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 白の課題がほとんどなくなった。』

「ほとんどなくなった」と過去形なので本譜の 18.Kh1? のことを言っているように受け取れる(この訳書では大体において過去形は本譜の手に対して、現在形は変化の手に対してという使い分けになっている)。18.Bxd6 からの変化のことをいっているとしても白にどんな「課題」があったのか本文からは読み取れない。

英文『18 Kh1?
More accurate is 18.Bxd6 Rf6 (if 18…Rg8 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 with a little play left for White.』

英文は with があるので変化のことをいっていると分かる。本譜の方はこの悪手で白が指す手に困っているが、変化の方は白がまだ少し指す手があることを言っている。

試訳「18 Kh1?
 18.Bxd6 Rf6 (18…Rg8 には 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 の方が正確で、白は少し指す余地が残っている。」

2011年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(220)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

静的手法の a2-a4 突き

 黒のクイーン翼での伸長を封じ込める一つの方法は a2-a4 突きでb5の地点の支配を取り戻すことである。この場合の黒の応手は次のようになる(図299)。

 図299 

 この種の局面ではパンノ戦法のカメレオン的性質が発揮される。すなわち状況により黒は …Na5、b3 c5 でユーゴスラビア型の戦略で応じることができるし(図300)、

 図300 

白のaポーン突きに乗じて …a5 突きで白のクイーン翼ポーンを固定したあと …e5 と突いて d5 Ne7 を誘うことによりマルデルプラタ中原の改良版を生じさせることもできる(図301)。

 図301 

 現実には白があまり a2-a4 と突かないので実戦ではこのようになる可能性はほとんど見られない。しかし我々の目的のためにはパンノ戦法の本質的に変化しやすい性質をもっとよく理解するのに役立つ。

(この章続く)

2011年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(219)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点(続き)

パンノ中原

 パンノ中原(図297を参照)に特有の作戦は、黒が一時的に中原の問題を無視して …Ra8-b8 と寄って …b7-b5 突きを準備することである(図298)。

 図298 

 本来この作戦行動の目的は浮いているcポーンを攻撃し、どのように応じてもクイーン翼の列の開通を避けることができないという問題を白に突きつけることである。

 白は黒の着想を迎え撃つ多種多様な手段を試みてきた。それらの得失をこれから概説していくことにする。

(この章続く)

2011年10月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

JCAの間違い捜し(14)

JCAのホームページで「第123回チェスネット競技会解答」と出ています(赤線で囲った所)。

更新日は「2011年10月4日(火)」となっています。

しかしその解答の所を見に行くと何も解答が書かれていません(赤線で囲った所)。

2011年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

「ヒカルのチェス」(237)

「Chess Life」2011年4月号(13/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ナカムラは語る

 優勝が決まったあとナカムラはインドからロシアまで色々なメディアといつ終わるとも知れないインタビューに応じた。以下は彼の発言の抜粋である。

 超一流の大会での初優勝はどんな感じか?

 アーナンドの試合の終わるところはホテルの自分の部屋でネットで見ていた。彼が引き分けになったときは部屋で飛び跳ね始めた。これはなんといっても自分の最高の優勝だった。米国人が最高の大会で前回優勝したのがいつだったか思い出せない。優勝して天にも昇る気分だ。優勝は米国のチェスにとってもすばらしい日だ。米国でチェスをやる子どもや大人をもっと刺激することができればと思う。

 このような大会で優勝できると信じていたか?

 米国選手権とサンセバスティアンで既に優勝していたので、一流の大会でも優勝できることを証明していた。最近は多くの大会で優勝にもう一歩のところまできていたが、最後の1、2回戦では大きな期待はずれに終わっていた。ここでは大会の終わりの方で非常にうまく指せた。モスクワとロンドンではそうでなかった。本当に自分にとっての証明になった。任務をやり遂げた。

 違いは何だったのか?

 昨年あたりにチェスにうんと真剣になった。そして結果がぐんと良くなった。それより前の十代だった2、3年は今のカールセンのようだった。あるレベルでは非常に危なっかしいことをやってもそれで何ともないで済ませられる。でも定跡に精通した強豪たちと指すようになると、いいかげんな序盤では裏目に出がちだ。。自分はまだ非常に攻撃的だと思っているが、以前やっていたのと同じようなリスクは負わない。自分の棋風では物事に冷静に対処する方法を知らなければならない。今ではずっと冷静だ。今では試合中にかっとならなくなった。その方が生きるのが楽だ。

 自分のチェス全般をどう見ているか?

 8回戦で指したほんとにまったくひどい1試合を除けばこの大会には満足している。助手のクリス・リトルジョンと自分でスメーツ[彼は2010年世界選手権戦でのトパロフ協力者の一人だった]を研究で本質的に圧倒したことには満足がいった。シロフとの第3回戦の試合は一番の自慢だ。モスクワでのように以前の大会では終盤に乱れた。でもあの試合は最後までうまく指せた

 これからあとはどうするのか?

 世界の最強者たちを押さえて優勝したので、自分がヨーロッパのチェス独占への潜在的な脅威だとみんなもう気づいているだろう。このような大きな大会に優勝することはいつも夢見ていたがこれまで実現したことはなかった。今はもっとゆとりができている。世界の最強者たちと戦えると感じている。今年の終わりまでには2800に到達したい。

 まだインターネットでブリッツを指しているのか?

 ブリッツの試合は回数を減らしている。ゆっくりとしっかりしたチェスをもっと指しいいかげんな序盤は指さないようにすることを学ばなければならなかった。どういうわけか今では多くの試合で時間に追われるようになった。たぶん短い持ち時間で指すには年を取りすぎたのだろう。毎手30秒の加算の方が自分にとってずっと楽だ。

 2、3年前にベイクアーンゼーよりジブラルタルを選んだのはなぜか?

 ジブラルタルには行ったが究極の目的はここに舞い戻ることだった。米国チャンピオンだった。だから良くても悪くてもAグループに招待されるべきだと思っていた。最初は本当はベイクアーンゼーが好きでなかったにもかかわらずこの2年で変わった。今ではここでまったく楽しんでいる。この大会は特別だ。ベイクアーンゼーでの試合に見られる熱気は気に入っている。

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(この号終わり)

2011年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(218)

第10章 パンノ中原とカバレク中原(続き)

10.1 戦略の着眼点

 この章で考察する戦法はお互い非常に異なるけれども、それでも同じ章にまとめたのは共通の特徴を共有しているからである。それは少なくとも序盤の早い段階では黒が中原でのポーン突きを省くということである。

 パンノ戦法とカバレク戦法での黒の基本的な構想は、中原での意図を明らかにする前にクイーン翼で反撃(特にc4の地点に対して)を行なうことである。特に …e7-e5 突きを避けることによって自陣がもっと堅固になるだけでなくキング翼ビショップが対角斜筋でもっと強力になることを期待している。黒が都合の良いまたは適切なときに …e7-e5 と突く(またはパンノ戦法のように …c7-c5 と突く)選択肢を残していることはもちろんである。

 本章では既にこれまでの章で分析したのと似た中原の型を生じさせやすい形よりも、パンノ戦法とカバレク戦法のもっと独自の形に目を向けることにする。

(この章続く)

2011年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(217)

第10章 パンノ中原とカバレク中原

主手順 - パンノ戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O Nc6 7.Nc3 a6(図297)

 図297 白の手番 

 この章では以下の手順も分析する。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O のあと

 パンノ戦法
 - 6…Nc6 7.Nc3 Bg4(または 7…Bf5)

 カバレク戦法
 - 6…c6 7.Nc3 Qa5(または 7…Bg4 あるいは 7…Bf5)8.h3(または 8.d5)8…Be6 9.d5

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(142)

「Chess」2011年6月号(7/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第3組
アロニアン 2808 3½-4½ グリシュク 2747(続き)

 アロニアンは初戦とほとんど同じようにかなり乱調で快速戦を終えた。しかしほめるべきは模範的な指し方をいくつか見せてくれたグリシュクだった。ビシー・アーナンドは家で観戦していたはずだが、レイティング上位者が前挑戦者のあとを追って大会から姿を消すのを見ることになった。カールセン、トパロフそれにアロニアンがいなくなって彼の選手権防衛の可能性はずっと高まった。アロニアンの落胆は大きかったに違いないが、敗北にも悪びれなかった。「延長戦は面白かった。もちろん最終局はひどかったし初戦もそうだった。しかし第2局と第3局の内容にはおおむね満足している。たぶんプレッシャーにまったく対処できなかったということだろう。正規戦でも快速戦でもサーシャ(アレクサンドルの愛称)の防御は素晴しかった。非常に苦しい局面も少しあったが彼はうまく負けをまぬがれた。」

準々決勝第3組、快速戦第8局
A・グリシュク - L・アロニアン
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 e6 4.Nc3 Be7 5.Bf4 O-O 6.e3 Nbd7 7.c5 c6 8.h3 b6 9.b4 a5 10.a3 Ba6 11.Bxa6 Rxa6 12.O-O Qa8 13.Rb1 axb4 14.axb4 Qb7 15.Qc2 Rfa8 16.Ne1

16…Bd8

 2003年レオンでのポノマリョフ対バレホ・ポンスの快速戦では 16…b5 が指され白が勝った。グリシュクはアロニアンの新手を良い手だとは思わなかった。

17.Nd3 Ra3 18.b5!

 ギャンブラーのグリシュクは仕掛けに踏み切った。

18…bxc5

 18…cxb5 は 19.Nxb5 Ra2 20.c6! で応手に窮する。

19.dxc5 Be7 20.Rfc1

 グリシュクは後にコンピュータ選択の 20.Nb4 の方が良かったと思った。もっともロシアの著名な解説者のセルゲイ・シポフはこの考えに同調しなかった。

20…g5!

 アロニアンは快速戦第1局のようにつぶされる危険性を感じたので反撃に出ることにした。

21.Bg3

 21.Bxg5? は 21…Rxc3 22.Qxc3 Ne4 で黒の思うつぼのようである。もっとも奇妙なことにコンピュータは 23.Bxe7!? Nxc3 24.Rxc3 で白がまだ有利だと考えている。

21…R8a5 22.Qd1 Bf8

 22…Nxc5 は 23.Nxc5 Bxc5 24.bxc6 Qxc6 25.Rb8+ Ne8 26.Qh5

で黒の非常に嫌な形である。

23.bxc6 Qxc6 24.Nb4

24…Qxc5

 アロニアンはクイーンを捨てる重大な決断をした。24…Qc8 では 25.c6 Nc5 26.c7 で黒陣が持ちそうもないのでこの手は仕方がない。

25.Ncxd5 Nxd5 26.Rxc5 Rxc5 27.Nxd5 Rxd5 28.Qc2 Rc5 29.Qb2 Rd3 30.Ra1 Bg7 31.Ra8+

31…Nf8

 31…Bf8 の方が良かったかもしれない。

32.Qb8

32…Rcd5

 鵜の目鷹の目のコンピュータは 32…Rd1+!? 33.Kh2 h5 34.Qb4 Rcc1 35.Bd6 h4 36.g3 Rb1

を見つけ出した。f8のナイトに白の3駒が当たっているにもかかわらず黒は生き延びるかもしれない。例えば 37.Qc5 Rbc1 38.Rxf8+ Bxf8 39.Qxg5+ Bg7 40.Qd8+ Kh7 41.Qxh4+ Kg8 42.Bb4 Rc2

なら黒はまだ生きている。

33.Qe8 h6 34.Kh2 Rd2 35.Qe7 Rd7 36.Qe8 Kh7 37.Qb8 Rb2 38.Qc8 Kg6 39.Qc1 Rdb7 40.Rd8 Nh7 41.Qd1

41…R2b3?

 もちろん快速戦でこんな局面を守りとおすことはほとんど不可能であり、黒は避けられない誤りを犯した。41…R7b3 ならもう少し長く持ちこたえたかもしれないが、それでも非常に難しそうである。

42.Qc2+!

 これでe6の地点に弱いポーンをこしらえさせた。

42…f5 43.Qc6

43…Nf8

 43…Re7 でも 44.Bd6 Rc3 45.Qa6 Rf7 46.Bb4 で見込みがない。

44.Bd6 R3b6 45.Qe8+ Rf7 46.Bxf8 Be5+ 47.g3 f4 48.Rd7 fxg3+ 49.Kg2 1-0

 本局に関する珍しい統計を一つ。これまでのところ一連の挑戦者決定戦(決勝戦への中間点)で、本局は白番の選手が勝った唯一の非ブリッツ試合である。

******************************

(この号続く)

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王印防御の完全理解(216)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.3 実戦例(続き)

 図296(再掲) 黒の手番 

 これは黒枡の斜筋の典型的な戦術利用である。ここで黒が 18…Ne3? と指すと 19.Qc3 でh8、a5それにe3の3箇所に利きが及ぶ。

18…Nxb3 19.axb3 Qb6 20.Qc3 c4+ 21.Kh1 f6 22.Bh3 Nf2+

 黒は 22…Qxb3 23.Bxg4 Qxb2 24.Be6+ Kh8 25.Qxc4 や 22…Ne3 23.Be6+ Kh8 24.Rf3 Qxb3 25.Rxe3 Qxb2 26.Rxa6 Qb1+ 27.Kg2 Rb3 28.Qd4 よりもこの手の方が見込みがあると判断した。

23.Rxf2 Qxf2 24.Be6+ Kh8 25.Qxc4 Qb6 26.Bd4 Qxb3 27.Qxb3 Rxb3 28.Rxa6

 黒が交換得だけれども、dポーンの弱点とキング翼の駒が守勢一方であることを考慮すると黒陣は非常に危なっかしい。

28…g5?

 黒はキング翼ビショップを働かせようと手拍子で指したが、事態を悪化させるだけである。代わりに 28…Rb4 と指すべきだった。29.e3 には 29…Rxd4! 30.exd4 Rd8 で得点を折半できるかもしれない。

29.fxg5 Bxg5 30.Rxd6 h5?!

 この手はdポーンを突き進める白の自然な作戦を迎え撃つのに何も寄与しない。

31.Rc6 h4 32.d6 Rb1+ 33.Kg2 Rd1 34.e3 hxg3 35.hxg3 Rxd4

 もう手遅れである。

36.exd4 f5 37.Bxf5 Rxf5 38.Rc5 Rxc5 39.dxc5 Kg7 40.c6 1-0

(この章終わり)

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王印防御の完全理解(215)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.3 実戦例(続き)

 図295(再掲) 白の手番 

 これはよく見られる局面である。白はここで 14.e3? と突くことはできない。なぜなら 14…Bf5! 15.e4 Bxd2 16.exf5(16.Nd1 は 16…Bd7 で黒がcポーンを取れる)16…Nxc4 となって、黒がポーン得となって勝てそうだからである。

 本譜に代わる白の次の手は 14.Ncb1 だが、黒はそれに対して典型的な交換損の犠牲を実行することができる。例えば 14…e5 15.Bc3 Bd7 16.Na3 Rb4!? 17.Bxb4 cxb4 18.Nab1 Qc7 となって黒に戦力損の代償がある。

14.f4

 このようにビショップの筋を止める手が通常の応手である。

14…e5

 b2の地点で主眼の交換損の犠牲を行なう最も早い手順は 14…Ng4 15.Nd1 Rxb2 16.Qxb2 Bg7 である。あとでもっと洗練されたやり方をが出てくる。

15.dxe6e.p.

 昔はここでの普通の手は 15.Rae1 だった。しかしこの手は黒にいくらか戦いのきっかけを与える。例えば 15…exf4 16.gxf4 Nh5 17.e3 Bg7 18.Nd1 Bf5 となれば、白は 19.Be4 で互角の形勢に甘んじなければならない。なぜなら 19.Qc1? は 19…Bxb2 20.Nxb2 Qf6 21.Nd1 Bd3 22.Rf2 Nxc4 23.Nxc4 Rb1 で、19.e4?! は 19…Rxb2! 20.Nxb2 Bd4+ 21.Kh1 Qh4 22.Qd3 Bd7 23.Nd1 Nxf4 で、不満だからである。

15…Bxe6 16.Nd5

 ほとんどこの一手である。

16…Bxd5

 最もよく指される手は主眼の交換損の犠牲を改良した 16…Rxb2(図292と図293を参照)である。

17.cxd5 Ng4

 黒はe3の地点での両当たりを狙っているだけでなく、…Rxb2 から …Bg7 も狙っている。次の白の応手は間違いなく相手の意表をついた。しかしいずれにしても形勢は白が良い。例えば代わりに 17…Bg7 でも 18.Bc3 Rfe8 19.e4 である。

18.Nb3!(図296)

 図296 黒の手番 

(この章続く)

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チェス布局の指し方[81]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

白が黒キングを急襲する

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3 d6 4.Be3(図128)

 図128(黒番)

 これは白の最も攻撃的な手の一つである。白は既に Qd2、O-O-O から h4 と指して黒キングを「捕らえる」ことに関心を持っていることを宣言している。

4…Nf6

 これは …Ng4 で白のクイーン翼ビショップに嫌がらせをする準備で、白はそれを防ぐ。

5.f3

 これはeポーンをさらに守る手にもなっている。それに加えて白はもくろんでいる攻撃を g4 突きで強化する用意もしている。この局面はキング翼インディアン防御のゼーミッシュ戦法と比較することができる。その戦法でも白は黒のキャッスリングしたキングに対して殲滅の強襲をたくらんでいた。

5…O-O?

 ここでは本譜にわざと劣った手を選ぶことにした。この手は、中央でまたは相手キングに対して反撃できないならば攻撃されるところにキャッスリングしてはいけないという重要な原則を逆なでするようなことをしている。ここでは黒にそのような反撃が見当たらず、そのため黒は自分の過失に手ひどい罰を受けることになる。黒は代わりに 5…c6 と突いて …b5 と突く反撃を用意すべきだった。

6.Qd2

 この手は Bh6 で黒の防御に役立っているビショップと交換する準備である。

6…c6

 黒も白キングに対するポーン突きを準備しているが、いかんせん遅すぎる。ここでは駒を展開した方がもっと防御に役立っただろう。例えば 6…Nc6 のあと …e5 と突くことになれば中央に影響を及ぼすことができる。

7.O-O-O b5 8.Bh6

 これは作戦どおりである。h列をこじ開ける h4-h5 突きとあいまって、この手はフィアンケットしたビショップによって守られているキャッスリングしたキングを襲撃する典型的な手段である。

8…b4 9.Nce2 a5 10.h4!

 ここでは黒の態勢はたぶん絶望的である。白の自動的な詰みへの攻撃に受ける手段がない。このような攻撃の技法を習得すれば誰にとってもクラブや大会で得点をあげる原動力となる。

10…Qc7 11.h5!

 このポーン突きは無理で白はまず g4 と突いておかなければならないように思われる。しかし実はそうではない。11…Nxh5 と取ってくればルークを犠牲に 12.Rxh5! gxh5 13.Qg5 で詰ませてしまう。

11…e5

 黒は中央で反撃を狙ってきたがしょせん遅すぎた。

12.Bxg7

 防御の一角を崩した。

12…Kxg7 13.hxg6 fxg6

 13…hxg6 は 14.Qh6+ Kg8 15.Qh8# で終わってしまう。

14.Qh6+ Kg8

 こう逃げるしかない。14…Kf7 は 15.Qxh7+ Nxh7 16.Rxh7+ Ke8 17.Rxc7 でたちまち白の勝ちになる。この狙い筋は本譜にも現れる。

15.dxe5

 クイーン翼ルークのためにd列を開けた。

15…dxe5 16.Nf4!!

 白は鮮やかな手でキング翼ビショップの介入を宣言した。黒は Bc4+ を防ぐには 16…Ba6 しかないが、しかし狙い筋の 17.Qxf8+! Kxf8 18.Ne6+ で完全に殺戮される。

16…exf4 17.Bc4+ Rf7

 17…Nd5 なら 18.exd5、17…Kh8 なら 18.Qxf8+ でやはり望みがない。

18.Bxf7+ Kxf7

 18…Qxf7 には 19.Rd8+ がある。

19.Qxh7+(図129)

 図129(黒番)

 19…Nxh7 と取るしかないが 20.Rxh7+ Ke8 21.Rxc7 となって、白が交換得のうえにポーン得で圧倒的な態勢になる。本局は1969年にドレスデンで開催された世界学生選手権戦のマラチ対ビョルンソン戦である。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(214)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.3 実戦例(続き)

 図294(再掲) 黒の手番 

 既に指摘したようにこの局面はパンノ戦法を経由しても到達できる。

 ここでは黒は 9…e6 突きで白の中原をすぐに攻撃することにはまったく関心がない。というのは …exd5、cxd5 の交換のあと黒のクイーン翼ナイトの位置が白のcポーンに対する圧力という「存在理由」を奪われることになるからである。これがなぜ黒が中原で反撃する前に通常 …b7-b5 突きを指すのかの説明になる。

 黒の方にはまったく異なった戦略が存在する。それは白の中原に対する反撃をすべて完全に放棄し、代わりに …e7-e5 突きからfポーンを突く手段によってキング翼での活動を追求することである。この場合黒は …b7-b6 と突くことによってクイーン翼ナイトのための退路を用意する。白は e2-e4 から f2-f4 と突くことにより中原の広さを争うのが普通である。例えば 9…e5 10.e4(他には 10.a3 b6 11.b4 Nb7 12.Nb3 Ng4 13.e4 f5 14.exf5 gxf5 15.Ra2 e4 16.Ne2 Ne5 17.Rc2 から Nf4 の着想で指すこともできる)10…Ng4 11.h3 Nh6 12.b3 f5 13.exf5 gxf5 14.Bb2 Bd7 15.Qc2 b6 16.Ne2 Qc7 17.f4 Rae8 で、形勢はほぼ均衡がとれている。

 中原を閉鎖したあとクイーン翼での攻撃とキング翼での攻撃の二つの作戦は、両方用いることもできる。たいていは白はこの混合作戦に対し、黒のキング翼での動きには e2-e4 突きと f2-f4 突きで、クイーン翼での動きには Nc3-d1-e3 の捌きで対処することが多い。例えば 9…a6 10.Qc2 e5 11.b3(もちろん b2-b4 突きを狙う 11.a3 も可能である)11…Ng4(または 11…Nh5)12.e4 f5 13.exf5 gxf5 14.Bb2 Bd7 15.Rae1 b5 16.Nd1(白の意図は h3、f4 から Ne3 である)16…f4 となればどちも指せる。

 最後に、黒が最初にクイーン翼での進攻によって2作戦をからめてくれば、白はe6とb5でポーン交換をして中原を放棄することもできる。例えば 9…a6 10.Qc2 Rb8 11.b3 b5 12.Bb2 e5 13.dxe6e.p. fxe6(13…Bxe6 と取るのは 14.cxb5 axb5 15.Nce4 Nxe4 16.Nxe4 Bxb2 17.Qxb2 となって、d6とf6の両方の弱さが目立つ)14.cxb5 axb5 15.Nce4 Bb7 16.Rad1 Qe7 となればどちらも指せる分かれである。

9…a6 10.Qc2

 白は b3 から Bb2 と指せるようにナイトを守った。黒は 10.a3 突きには 10…Qc7 によってc4に対する圧力で b4 突きを防ぐことができた。他に可能な手は 10.Rb1 と寄っておいて b3 から Bb2-a1 によってb列の支配に挑戦することである。例えば 10…Rb8 11.b3 b5 12.Bb2 bxc4(次のように風変わりな戦略がうまくいったことがある。12…h5!? 13.Qc2 h4 14.e4 bxc4 15.bxc4 e5 16.Ne2 h3 17.Bh1 Ng4)13.bxc4 e6(13…Bh6 は 14.Ba1 で難解な局面である)14.Ba1 Rb4 15.a3 Rxb1 16.Qxb1 となれば白が優勢である。

10…Rb8 11.b3 b5 12.Bb2

 この局面は長年深く研究されてきた。白の基本的な構想は Rae1、Nd1、e4 から Ne3 と指すことで、黒がb列での圧力を強めようとすれば Bc3 という手もある。これとは別に黒が早くb列を素通しにしてくれば、前述の解説にあったように Rab1 から Ba1 によって挑戦する着想がまだ有効である。

 黒はこの局面でありとあらゆることを試してきた。そして最も有望な手はbポーンの交換の前でも後でもよいが …Bh6 の手段によってc4の地点への圧力を強めることであることが確立された。この戦型の定跡は今では20手をゆうに超えている。

12…bxc4

 12…Bd7、12…e5、12…e6 それにもちろん 12…Bh6 など、他にもいくつかの手が指されてきた。

13.bxc4 Bh6(図295)

 図295 白の手番 

(この章続く)

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名著の残念訳(14)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

13 新しい何か 060ページ
『コトフの推奨手は 14…Qa5 15.Kb1(15.g4? には 15…Qg5! を示すのみ)』

悪手の 15.g4? を咎めるのに何種類もの手を示す必要はない。

英文『Kotov recommends 14…Qa5 15.Kb1 (he gives only 15.g4? Qg5!)』

only は「Qg5!」でなく「15.g4? Qg5!」にかかっている。自分の推薦手の 14…Qa5 に対して、それを裏付ける変化として「15.g4? Qg5!」しか示していない(15.g4? よりまともな 15.Kb1 の変化を示していない)ので only が付いている。

試訳『コトフの推奨手は 14…Qa5 15.Kb1(彼は 15.g4? Qg5! という変化しか示していない)』

15 大ぼら 070ページ
『15.Kb1?
 この激しい変化には、白が優位になる時間的余裕がない。』

「時間的余裕」とはどういうことか分からない。

英文『15.Kb1?
In this sharp variation, White has no time for such amenities.』

such(そのような)は悪手の 15.Kb1? のことを言っている。amenities は「感じのいい応接、礼儀正しい行為」という意味で、白キングをきちんともっと安全なb1の地点に移したことを言っている。

試訳「15.Kb1?
 この激しい戦法には、この手のように白キングの位置を直している余裕などない。」

16 4つのクイーン 076ページ
『19.axb4 Nc7
 黒はクイーン側を封鎖したい。白のbポーンは突破できない。』

白のbポーンは何を突破することができないのだろうか?

英文『19.axb4 Nc7
Black wants to secure a Q-side blockade. The b-Pawn won’t run away.』

run away は単に「逃げる」という意味である。黒がすぐに 19…Nxb4 と取らなくてもこのbポーンは前に進んでいって取られるのを避けることはできないということを言っている。

試訳「19.axb4 Nc7
 黒はクイーン側を封鎖したい。白のbポーンはしょせん逃げられない。」

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王印防御の完全理解(213)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.3 実戦例

第13局
ブラウン対ティマン
ベイクアーンゼー、1980年
ユーゴスラビア戦法

1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.c4 Bg7 4.g3 O-O 5.Bg2 d6 6.Nc3

 ここでは 6.O-O も可能で、わずかではあるがはっきりした違いが生じる。例えば 6…c5 7.d5 のあと黒は 7…b5 とギャンビットすることができ、第4章で分析した基本型を踏襲することになる(念のためにいうと本譜の手のあとでも非常に似た着想が試されてきた。例えば 6.Nc3 c5 7.d5 a6 8.O-O b5 であるが、途中白は 8.a4 と変化することもできる)。別の事例は 6…Nc6 7.d5 Na5 8.Nfd2 c5 で、白は 9.Na3 でc4の地点を過剰防衛することができる。しかしこれらの可能性は実戦ではかなりまれで、それゆえに通常は二つの手のどちらを選択しても同じことになる。

6…c5

 黒は …c7-c5 と突く意図で 6…Bg4 7.O-O Qc8 も試みてきた。例えば 8.Re1 c5 という具合である。7…Qc8 の意味は(明白な …Bh3 に加えて)白に中原の閉鎖を促して気持ちの悪い中原の争点をなくそうということである。最も有望な応手は 8.Bg5(次に 9.Bxf6 Bxf6 10.Nd5 と指す意図)のようである。例えば 8…Re8 9.Qd2 Na6 10.e4 c5 11.d5 Nc7 12.Rfe1 となれば白が少し優勢である。

 注意しておくとこの変化は 6…c5 7.O-O Bg4 という手順の後では指すことができない。なぜなら白が 8.dxc5 dxc5 9.Ne5 と指すことができ優勢になるからである。

7.O-O

 これが最も普通の手である。今日ではめったに見られないけれども歴史的に重要な別の手は 7.d5 である。例えば 7…Na6 8.O-O Nc7 9.a4 Rb8 10.e4(10.Bf4 は 10…a6 11.a5 b5 12.axb6e.p. Rxb6 13.b3 e5 14.dxe6e.p. Nxe6 となって互角の形勢である)10…a6 11.a5 Nd7 12.Bf4 b6 13.axb6 Rxb6 14.Ra2 Rb4 15.Qd3 Nb6 16.Nd2 となれば互角である。

7…Nc6

 この手は 7…cxd4 8.Nxd4 よりもよく指されている。この手のあとは黒は 8…Qa5 を試みてきたし、古いギャンビット手順の 8…Nc6 9.Nxc6 bxc6 9.Bxc6 Rb8 の改良も試みてきた。

8.d5

 この中原の閉鎖でユーゴスラビア中原ができあがる。

 8.dxc5 dxc5 が非常にはやっていたときもあった。そのあと主導権をめぐる戦いの両者の主要な目標は次のように要約できる。(1)お互いに相手のcポーンを攻撃する。(2)それぞれd4とd5の地点を占拠する。(3)キング翼ナイトを迅速に移動させてキング翼ビショップの筋を通す。この戦型の見かけの単純さにもかかわらず、局面は意外にも戦術的様相を帯びることが多い。

8…Na5 9.Nd2(図294)

 図294 黒の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(212)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.2 戦術の狙い所(続き)

黒の交換損の犠牲

 この典型的な犠牲には二つの基本的な手法がある。次の図では大局観に基づいた犠牲が行なわれる。黒の目的はクイーン翼で多数派ポーンを生じさせ、白のcポーンのもろさを増すこと(そしてもちろん黒枡を支配すること)である(図291)。

 図291 

 黒は …Rb4 と指す。そして Bxb4 cxb4 でクイーン翼に多数派ポーンができ、…Nb7-c5 から …a5-a4 突きで非常に危険な存在になる。さらに黒は半素通しのc列を用いてcポーンに非常に強い圧力をかけることができる。

 対照的に、中原が開放的なときは同じ交換損の犠牲がもっと動的な様相を帯びる(図292)。

 図292 

 ユーゴスラビア戦法の最も重要な戦型の一つから生じるこの局面は、黒の動的な交換損の犠牲の結果を評価する上できわめて重要である。黒が …Rxb2、Qxb2 Bg7 と指すと(図293)、

 図293 

h8-a1の対角斜筋を支配することになって交換損の動的な代償が十分に保証される。実戦ではこの局面は Qa3 Nxc4 または Qc1 Ng4 あるいは Qc2 Nxd5(又は …Ng4)のあと形勢不明であることが示されている。

(この章続く)

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