2011年09月の記事一覧

「ヒカルのチェス」(236)

「Chess Life」2011年4月号(12/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ラストスパート(続き)

白 GMハオ・ワン(FIDE2731、中国)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第13回戦、2011年1月30日

 19.Bf1

 布局は激しいべノニ防御で始まり-昨日の試合とははっきり対照をなすが、ナカムラは「ワン・ハオはクラムニクではない」と語った-難解な中盤戦に至った。そしてナカムラは創造的な作戦を思いついた。

19…a5!? 20.Bd2 Ne5!

 黒は喜んで交換損を受け入れてクイーン翼に連結パスポーンを作り出そうとしている。そうなればフィアンケットされたビショップに支援されて決定的な存在になるだろう。ワンはその誘いに乗らなかった。

21.Nxe5 Bxe5 22.Bc3! Bd7 合意の引き分け

 ここでナカムラは後を追うアーナンドの試合が引き分けに向かっていると正しく見てとってワンに和平を提案した。中国のグランドマスターは 22…Bd7 のあと 23.f4(23.Bxe5 なら 23…dxe5![23…Rxe5 は弱い手で 24.f4 Re8 25.e5 となる]24.d6 Qb6 となって「白が何もない」とワンが言った)23…Bxc3 24.Rxc3 a4 25.Rce3 Qb6 26.e5 Rb3

と読んではっきりした見通しが得られず、得点を折半することに同意した。

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(211)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.2 戦術の狙い所(続き)

a1-h8の斜筋と攻撃を受けやすい黒の Na5

 白のクイーン翼ビショップはほとんどいつもb2の地点に展開されるので、白はしばしばa1-h8の斜筋につけ込むことができる(黒枡ビショップ同士の交換後)。黒のクイーン翼ナイトが攻撃を受けやすいa5の地点にいるときは特にそうである。この主題の基本的な配置を見てみよう(図289)。

 図289 

 白は Bxg7 Kxg7、Qc3+ でa5の黒のナイトを取ることができる(図290)。

 図290 

 注意すべきは Na5 が Qd8 によって守られていてさえ、対角斜筋を支配するようになるのは白にとって本当に有利であることである。黒が …f7-f6 突きによって対角斜筋を守れば、f6の地点に圧力をかける可能性(d5またはe4のナイトで、あるいは g3-g4-g5 と突いていって)と黒のe6の地点の恒久的な弱体化とによって、白が明白に有利になる。

 白は単にa5の地点のナイトを取ろうとすることさえできる。白がc6とb7の地点を支配することができて(例えば Bg2 で、またはdポーンと Rb1 とで)、例えば Bc3 と Qa4 とによってa5のナイトを攻撃できることが起こりうる。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(210)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.2 戦術の狙い所

 不思議なことにユーゴスラビア中原はよく動的な戦いになる(特に中原が閉鎖されていないとき)にもかかわらず、頻出する主眼の戦術はそれほど多くない。

(この章続く)

2011年09月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(141)

「Chess」2011年6月号(6/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第3組
アロニアン 2808 3½-4½ グリシュク 2747(続き)

 快速4番勝負とブリッツ戦は正規の試合が終ったあと日をあらためて行なわれた。快速戦の持ち時間は25分と10秒の毎手加算で、必要ならば1回戦が2試合から成るブリッツ(5分と毎手3秒加算)が5回戦まで行なわれる。それでも差がつかなければ1局の一発勝負ですべてが決まる。持ち時間は白が5分で黒が4分(60手を過ぎると毎手3秒加算)、盤上引き分けは黒の勝ちになる。

 規則では選手たちは試合の間に一定の休憩時間が与えられていた。しかしこの取り決めは二組の決定戦が並行して行なわれているときに思わぬ障害に出くわすことになった。これが起こったのはクラムニク対ラジャーボフの快速戦がアロニアン対グリシュクの快速戦ほど時間がかからなかったためだった。その結果アロニアンとグリシュクがやっと4局の快速戦の中頃のとき、クラムニクとラジャーボフがブリッツ戦のために席に着いた。

 グリシュクはこの問題を記者会見の時に持ち出した。「特に審判にこの問題に対処していただきたい。一方で快速戦を対局している間に他方でバンバンバンとやるようなことはなくしてもらいたい。最終局では集中できなかったし、レボンも同じだ。レボンはしかめ面をしていたし、彼も私のしかめ面を見ることができた。もちろん10分の試合時間の選手が別の組のために30分待つ必要はないのは当然の考え方だが、このやり方には耐えられなかった。」

 両選手には同情せざるを得ない。グリシュクとアロニアンは他組の対局時計の故障による騒ぎも我慢しなければならなかったのだからなおさらである。この件についてはもっと後で話すことにする。しかし大会役員たちは選手の不満に耳を傾け、準決勝の延長戦のやり方は変更されて異なる組のブリッツによる決定戦は同時に始められることになった。

 快速戦第1局はアロニアンの白だったが、メロディーアンバーでの調子を失っていたことがすぐに明らかになった。戦型は対称形イギリス布局だったが、白はすぐに狭小で嫌な陣形に陥り、黒が両翼で白を苦しめることができた。もがいたけれどもグリシュクの締め付けをほどくことができず負けた。第2局では黒番で準スラブの少し無理気味の戦型をやってみたが、思いがけず効果的だった。正規試合の2局のようにポーン得になったが、迷ったりためらったりするための時間が少なかったのでグリシュクを押しまくり対戦成績を互角に戻した。第3局はついにアロニアンが対戦成績を有利にするように思われたが絶好の機会を逃した。

準々決勝第3組、快速戦第3局
L・アロニアン - A・グリシュク

31.Be5?

 試合終了後ピョートル・スビドレルがアロニアンの見落としを指摘した。31.Qc3! Nxd6(31…Qxa4 は 32.Nxf7! Kxf7 33.Re4 Qd7 34.c6 Qc7 35.Qc4+

ですぐに詰みになる)32.c6 Qc7 33.Re7!

から 34.c7 で2ルークの両当たりになる。しかしグリシュクがあとで言ったように、特に快速の持ち時間では「このような手を見落としたからといって誰をも批判することはできない。」

31…Nxd6 32.cxd6 Qxa4 33.Bf4 h6 34.h4 Qb5 35.Qd1 Rb7 36.Rc2 Rbd7 37.Rc7?!

 これはポーン損になるが収局は負けではない。

37…Bxd6 38.Rxd7 Qxd7 39.Qxd6 Qxd6 40.Bxd6 Rxd6 41.Re8+ Kh7 42.Re7 Kg6 43.Ra7

 さらに18手指して引き分けになった。


開始直前のアロニアン対グリシュクの延長快速戦の審判を務めるスコットランドのアレックス・マクファーレン。後で審判と選手たちの間で「騒音禁止」がちょっと問題になった。

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(この号続く)

2011年09月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(209)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点(続き)

閉鎖中原

 …e7-e5 突きから閉鎖中原が生じたあと、黒はたいていさらに …f7-f5 と突いてキング翼で活動することが多い。そのあと中原のポーン構造はペトロシアン中原を連想させる様相を帯びることがある。白のキング翼ナイトがd2にいるとき(黒のナイトがa5にいる結果)は、黒は …f7-f5 突きの戦略を適用するのが普通である。というのはそうしないと白が図70で示された手順に沿って指すことができるからである。黒の …f7-f5 突きの準備として通常は Nf6 をh5かg4に動かす(図287)。

 図287 

 ここで白が h2-h3 と突けば、ナイトの捌きにより白のキング翼を少し弱体化させたことになるので黒は喜んでナイトをh6に引いておく。

 白の観点からは中原の閉鎖によりクイーン翼での展開が楽になった(例えば b3 突きから Bb2)けれども、それでも相手のキング翼での活動に対しては何かしなければならない。それは通常は(…f7-f5 突きのあと)h2-h3 突きによって Ng4 を追い払ったあと exf5 gxf5、f2-f4(しばしば Nc3-e2 の準備を伴う)となって現れる(図288)。

 図288 

 しかしこのような作戦は、黒が先に …f5-f4 と突くことによって妨害できるかもしれないことを考えれば、自動的に行なえるわけでは断じてない。

(この章続く)

2011年09月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(208)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点(続き)

黒の中原作戦

 既に述べてきたように、黒は …b7-b5 突きで側面攻撃を始めたあとはほとんど常に …e7-e6 突きで中原での活動を実現するだけである。黒が …e7-e5 突きによって中原を封鎖しようとするのは …e7-e6 と同じことになることが多い。つまり封鎖が黒のためになることが普通なので白はクイーン翼で黒から圧力を受けているならば d5xe6e.p. と取るのが最善だからである。

 黒が …Na6-c7 と指したときは色々な理由からほとんど常にナイトでe6での取り返しを行なう。その理由とはクイーンのためにd8-a5の斜筋を空けるため、d4の地点を占拠する用意をするため(特に白が e2-e4 と突いている場合は当然である)、そして時にはf4の白ビショップをいじめるまたは防ぐためである。白のクイーン翼ビショップはeポーン突きを支援するため、またはd6ポーンの潜在的な弱点に圧力をかけるためにf4の地点に出ることがよくある(図284)。

 図284 

 相手のポーン中原に対する黒の戦略の到達点は完全に自陣を解放する …d6-d5 突きを指せるようにすることである。

 白は黒の …b7-b5 突きと …e7-e6(または …e7-e5)突きとによって生じる潜在的な弱点、即ちc6とd5の地点に加えてdポーン、を利用することによって相手の作戦につけ込むよう努めることができる。この目的のためにはキング翼ナイトをd2に引くことがある(図285)。

 図285 

 白のナイトはこの地点から迅速かつ効果的に弱点につけいることができる。b3の地点が通過地点として使えることは黒が白に b2-b3 と突かせる正当な理由にもなる(図281の解説を参照)。

 これに対して黒のクイーン翼ナイトがa5の地点にいるときは、中原攻撃は図282で示された概要に沿うのが普通である。しかし場合によっては黒がbポーンを交換する前に …e7-e6(または …e7-e5)と突くとき、白がe6とb5で交換することによって中原の全面的な解体に応じることもあり得る(図286)。

 図286 

 この型の中原(黒が …Bxe6 よりもfポーンでe6で取るのを選ぶときにも生じる)は、黒ポーンの方が中央の地点をよく支配しているので機動性の面から黒が有利である。もっとも白が b3-b4 突きで黒のクイーン翼のポーンを弱体化させる、または Ne4 によって黒の弱いdポーン(時には黒キングの囲いの周辺の弱点)につけ込む機会に恵まれるかもしれないのも事実である。白のdポーンが消えたことの一つの具体的な効果は、黒のクイーン翼ナイトがc6の地点を通って戦いに復帰する機会が得られることである。

(この章続く)

2011年09月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[80]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

両当たりトリック戦法

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nf3(図126)

 図126(黒番)

 白はこの手で、3.Nc3 から 4.f4 でポーン雪崩をもくろむよりも、普通に駒を好所に展開することで満足することを宣言している。

3…d6 4.Nc3

 もう一つのナイトも最良の地点で戦闘配置についた。

4…Nf6 5.Bc4

 これも単純な展開の手で、これまで取り上げてきたほとんどのeポーン布局で完全に好所に当たる地点である(例えばシチリア防御やキング翼ギャンビット)。白は短手数ですべての駒を中央の好所に配置できるので(例えば O-O のあと Bf4、Qd2、Rad1 などで理想的な展開になる)、ここでは白が優位に立っていると考えられるかもしれない。しかし黒の戦力の展開は巧妙で、強力な反撃を行なうことができる。白のもっと用心深い展開は 5.Be2 O-O 6.O-O だった。

5…O-O

 これで黒は …Bg4 から …Nc6 で白のdポーンに対するうるさい攻撃を狙っている。例えば白が 6.O-O と指せば、6…Bg4 7.h3 Bxf3 8.Qxf3 Nc6 9.Be3 Nd7 となる。このあと白が 10.Rad1 と指せば 10…e5 11.d5 Nd4 で黒が好調である。また 10.Ne2 ならば 10…Nde5! 11.dxe5 Nxe5 で黒が駒を取り返し優勢になる。だから白は・・・

6.h3

 釘付けを防いだ。しかし今度は両当たりのトリックが来る。これは白の中原を壊滅させるための現代防御でのよくある策略である。

6…Nxe4! 7.Nxe4

 代わりに 7.Bxf7+ は 7…Rxf7 8.Nxe4 となって、黒が次のような点で有利になる。(a)中原の多数派ポーン(b)双ビショップ(c)半素通しf列を利用しての白キングへの攻撃

7…d5

 これで黒が駒を取り返す。

8.Bd3

 8.Bxd5 と取るのは 8…Qxd5 でもっと悪い。なぜなら黒のクイーンを中原の強力な地点に展開させ、黒に双ビショップを譲り、白のdポーンに対する攻撃の可能性を黒に与えるからである。

8…dxe4 9.Bxe4

 白の非常に自然な展開の手の 5.Bc4 の結果を総括すると、白の中原が縮小したことが見てとれる。それに白のキング翼ビショップが3度も動くことを強いられ、c4よりも劣った地点に落ち着くことになった。

9…Nd7

 黒は 9…c5 10.dxc5 Qa5+ と指すこともできた。しかし 11.c3 Qxc5 12.Be3 となれば白が展開のリードを保っている。10.dxc5 に対して 10…Qc7 は黒が悪い。白はクイーンの早まった展開に関する原則をあざけって 11.Qd5 と指すことができ、黒はポーンを取り返すことが難しくなる。例えば 11…Na6 なら 12.c6! である。

10.O-O c5!

 白のdポーンをめがけてのこのポーン突き(黒枡の対角斜筋をつらぬく黒のキング翼ビショップの協力に注意されたい)は現代防御における黒の専売特許ともいうべき手である。白の中原がついに清算され、少なくとも黒にとって互角の形勢になる。

11.dxc5

 11.d5? は 11…Nf6 で白がポーンを損する。

11…Qc7

 これで黒がポーンを取り返せる。もちろん 11…Nxc5 と取ることもできる。

12.c6(図127)

 図127(黒番)

 白はポーン得を維持できないので、ポーンを返して相手に二つの孤立ポーンを作らせようとしている。しかしこれで黒の中原支配が強化され、黒の駒の動きの自由さおよびキング翼での可動多数派ポーンと相まって黒が好調になる。この局面から1972年グラースでのギズダブ対ボッテリル戦は次のように進んだ。

12…bxc6 13.Nd4 Bb7 14.c3 Nc5 15.Bc2 e5 16.Nb3

 白は黒のポーンの進攻によって押し返された。

16…Ne6 17.Qe2 Rfe8 18.Re1 f5

 主導権は黒にある。黒のキング翼ポーンの進攻はすぐに黒のクイーン翼ビショップによって支援される。このビショップは黒が …c5 と突けば働き出す。

(この章続く)

2011年09月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(207)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点(続き)

白のクイーン翼の拡大

 黒のナイトがa5にいるときはもちろん a2-a3 と突いてあるとして白が自分から b2-b4 と突いていくことができるときがある(図283)。

 図283 

 対角斜筋での黒のビショップの利きが b2-b4 突きを防ぐのに十分でないとすると、黒の通常の手段は …Qc7 と指してc4の地点に間接的に利かせておくことである。これができない場合は黒は …b7-b6 と突いてナイトの退路を作っておかなければならない。

(この章続く)

2011年09月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

名著の残念訳(13)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

12 戦場へのキャッスリング 052ページ
『グリゴリッチの大胆さと抑制にも同様の信頼が求められる。』

英文『Gligorich, too, must be given equal credit for his courage and restraint.』

give a person credit for … は「<人を>(・・・だと)認める」という意味で、例えば I gave her credit for quick thinking. という例文は「私は彼女の頭が回転の速いことを認めていた」という意味になる。受動態の原文を too を省いて(考えやすくするために)能動態にしてみると We must give Gligorich equal credit for his courage and restraint.(我々はグリゴリッチに同等の勇気と自制を認めなければならない)という意味になる。要するにほめているのである。equal は「同様の」でなく「同等の」という意味である。何と同等かというと、フィッシャーのキングの意表のキャッスリングと同等だというのである。

試訳『グリゴリッチも彼の勇気と自制が同等に評価されなければならない。』

次の「彼の手順は、局後検討で徹底的に分析されても改善されなかった。」という文は、グリゴリッチの形勢不利を改善できないということでなく、グリゴリッチの指した手を上回る良い手はない、すなわち最善手だということである。

12 戦場へのキャッスリング 056ページ
『タラッシュ博士が苦虫をかみ潰したような顔で「手損だ」と言いそうな指し方だ。』

何でこの指し方が手損になるのか分からない。

英文『Playing, as Dr. Tarrasch wryly put it, “for the loss.”』

loss は「負けること、敗北」である。

試訳「タラッシュ博士の皮肉たっぷりの口癖を借りれば「負けるために」指している。」

12 戦場へのキャッスリング 057ページ
『53 Kxb5?
これでグリゴリッチが私を追い払う番になった。』

? が付いているのでこの手は悪手である。悪手を指してなぜグリゴリッチがフィッシャーを追い払う番になるのか意味が分からない。このあとの手順でフィッシャーのキングとルークが追い払われる場面はない。

英文『53 Kxb5?
Now it’s Gligorich’s turn to let me out.』

let … out は熟語で、「・・・を(仕事などから)解放してやる」という意味である。この悪手でフィッシャーが虎口を脱した、即ち負けを免れたのである。

試訳「今度はグリゴリッチが私を助け起こした。」

前回の補足
英文『Olafsson was sure that this break was impossible, or he wouldn’t have allowed it.』

Olafsson … impossible は普通の文で、he wouldn’t have allowed it. は仮定法の主節である。普通の仮定法の文は if 文による条件節があるが、条件節がないこともよくある。しかしその場合でも主節になんらかの形で条件が含まれている。例えば I would not do such a thing.(私ならそんなことはしない)は主語の I に条件が含まれている。上記の英文の場合は or(さもなければ)に条件が含まれている。具体的には「この突破が無理だと確信していなければそれを許していなかった」ということで、実際には「この突破が無理だと確信していたので、それを許した」ということである。

2011年09月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

王印防御の完全理解(206)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点(続き)

b3とc4のポーンの弱点

 もちろんいくつかのはっきりした例外を除けば、c4の地点に対する黒の側面攻撃は白陣に構造的な弱点を発生させる。…Na6-c7 の捌き(図279を参照)と …b7-b5 突きのあと、黒の主要な目標はb6の地点で取り返したのがナイトかルークか(この場合黒は …Rb6-b4 と指す)にかかわらず白のcポーンを攻撃し白に b2-b3 と突かせることである。b2-b3 突きの準備として白はルークを対角斜筋からはずしておくことがよくある(図281)。

 図281 

 白はbポーンでc4の地点を堅く守っているけれでも、bポーンはb2の地点よりb3の地点の方が弱く黒のキング翼ビショップの利きも強くなっているので黒はそれでも戦略的に収穫を収めたと言える。

 また、黒のクイーン翼ナイトがa5の地点にいるときはb5とc4のポーンの争点は一般的にポーン交換によって解消され、白にc4の地点に構造上の弱点ができる。この点から黒は素通しのb列を利用することはもちろんだが、それに加えてc4の地点に努力の大部分を振り向ける(図282)。

 図282 

 cポーンの攻撃と防御のそれぞれの手法は次のとおりである。

 (1)…Rb4 によるこのポーンへの単刀直入の狙いを白はほとんど常に a2-a3 突きで撃退することができるが、黒の方もb3の地点を弱めることに成功している。

 (2)…Bg7-h6 によってcポーンを守っている Nd2 を取ろうとする単純な狙いを白は、f2-f4 突きで防ぐか Ncb1 による補強で対抗することができる。

 (3)…e7-e6 突き(…e7-e5 突きでもe5に黒ポーンが来れば白は特に f2-f4 と突いているならば対処しにくいことがよくあるので同様の効果が期待できる)による白の中原への間接的挑戦は dxe6 Bxe6 を誘っていて、白はほぼ Nc3-d5 により黒のクイーン翼ビショップの利きを止めるしかない。

(この章続く)

2011年09月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(205)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点(続き)

側面攻撃の …b7-b5 突き

 アベルバッハ中原と異なりユーゴスラビア中原では …b7-b5 突きがギャンビットとして指されるのはあり得ないことではないがまれである。黒のクイーン翼ナイトがb8にいるとき…b7-b5 突きを準備する普通の方法は …Nb8-a6-c7 の捌きのあと主眼の …a7-a6 突きと …Ra8-b8 寄りとから成る。白は通常はこの作戦を a2-a4 突きで迎え撃つ。その意図はもし黒が …a7-a6 と突く前に予防の …b7-b6 突きを指さなければ、a4-a5 と突いていくことである(図279)。

 図279 

 このような局面で黒はすぐに …b7-b5 と突くことがあり、axb6e.p. にはルークで取り返すこともあれば …Nf6-d7 と引いておいてナイトでb6のポーンを取り返せるようにすることもある。注意しておくと、黒はナイトのc7とd7の配置を通常の役割を逆にしてクイーン翼ナイトをd7にキング翼ナイトをc7(…Nf6-e8-c7)に配置して達成することもできる。

 一方黒のクイーン翼ナイトがa5にいるときは(図277を参照)、白が a2-a4-a5 突きによって …b7-b5 突きを防げないことは明らかである。だから白が相手の作戦どおりに c4xb5 と取りたくないならば、b2-b3 突きによってcポーンを守らなければならない。しかしこの手は黒が対角斜筋の釘付けを利用して …Nf6-e4 と指すことができるので、すぐに指すことはできない。実際のところcポーンの保護には三重の手続きが必要である。(1)Nf3-d2 によってこのポーンをすぐに守る。(2)クイーン翼ナイトを Qd1-c2 によって守る。(3)b2-b3 と突く。この間黒は …b7-b5 突きを画策することができる(図280)。

 図280 

 白はここで通常はクイーン翼ビショップをb2に上げクイーン翼ルークをb1またはe1に回すことによって展開を完了するが、黒にとってはeポーン突きに関する決定を下す時機である。従って戦略の戦いは盤面全体に及び、以降の展開は両者が争点のc4/b5とd5/e6(e5)について下す方針に大きく依存することになる。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(235)

「Chess Life」2011年4月号(11/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ラストスパート

 フランスのスターGMのマクシム・バシエ=ラグラーブは第10回戦に来るまでは負けなしだった。しかしこの20歳の走りはナカムラ戦で急に止まった。この試合でのナカムラの指し回しは大会で最も力強かった。

 翌日のやはり才気あふれる20歳のロシア選手権者のGMヤン・ネポムニアシチ戦では同じ処方で難解な中盤を完璧に処理した。

 最後の2戦は引き分けで優勝を手にした。クラムニク戦は超安全な引き分けで、中国のGMハオ・ワン戦はアーナンドが追いつきそうになるのに備えて勝ちにいく可能性を残しながら注意深く判断をして指し進めた。

ルイロペス・ベルリン防御 (C67)
白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2784、ロシア)
ベイクアーンゼー Aグループ 第12回戦、2011年1月29日

 ナカムラはクラムニク戦では全力で立ち向かうことをほのめかしていた。しかし核心に至ると慎重が勇気の大半を占めた。ナカムラの語ったところでは、事前研究時間のほとんどを 1.c4 と 1.d4 に費やしたがクラムニクの主手順に有力な対策を見つけられなかった。そこで最も退屈な定跡の一つであるクラムニクのベルリンの壁を指させることにした。この定跡はクラムニクが2000年にカスパロフから世界選手権を奪取するのに貢献した。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4

5.Re1

 これは引き分けを提案したに等しい。もうちょっとだけわくわくするような定跡の手は 5.d4 である。

5…Nd6 6.Nxe5 Be7 7.Bf1 Nxe5 8.Rxe5 O-O 9.d4 Bf6 10.Re1 Re8

 そして両選手はやらずもがなの手を10手も指して引き分けに合意した。

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(204)

第9章 ユーゴスラビア中原(続き)

9.1 戦略の着眼点

 ポーン構造を考えると両陣営の主眼とする主要な戦略をはっきりさせることができる(図278)。

 図278 

 アベルバッハ中原(図137を参照)でのように、ここでの白の基本的な構想は中央での仕掛けの e2-e4-e5 突き(必要ならば f2-f4 の支援がある)を達成することである。一方黒の反撃はc4とd5のポーンを攻撃することにかかっている。しかし黒は通常は中央でどのように指し進めるかを決めるより前に側面での …b7-b5 突きを実行する。一般的には中央での早い反撃が白のキング翼ビショップの迅速な活動になりかねないことを考えれば、黒は中央での活動を延期すべきで、状況によって単刀直入の …e7-e6 突きか多目的の …e7-e5 突きの手法をとることはもちろんである。…e7-e5 突きにはいくつかの着想が含まれている。(1)白のeポーン突きに対する先受け(2)キング翼での攻勢の開始(fポーン突きで増強される)(3)d5xe6e.p. 取りを誘うので白の中原に対する一種の挑戦

 白がこの …e7-e5 突きに対してどのように対処すべきかについてきっちりした原則を策定することは難しい。しかし一般には次のことを提示することができる。すなわち、黒がクイーン翼で強い主導権を持っているならば白はアンパッサンで取るのがよく、白が中央とキング翼で黒に対峙する用意があるとき、またはクイーン翼で立場の逆転の可能性を見通しているときは中原の閉鎖に同意するのがよい。

 このような込み入った状況の中で黒のクイーン翼ナイトの位置(a5かb8の地点にいることができる)は両者の作戦にかなりの影響を与える。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(203)

第9章 ユーゴスラビア中原

主手順 - ユーゴスラビア戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O c5 7.Nc3 Nc6 8.d5 Na5(図277)

 図277 白の手番 

 白が 9.Nd2 と指すことになることを考慮すれば、同じ局面は手順こそ違え次のようにパンノ戦法からも生じることがある。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O Nc6 7.d5 Na5 8.Nfd2 c5 9.Nc3

 同じ基本的なポーン形は他の戦型からも生じる。例えば 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O のあと

 ユーゴスラビア戦法
 - 6…c5 7.d5

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(140)

「Chess」2011年6月号(5/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第3組
アロニアン 2808 3½-4½ グリシュク 2747

 レボン・アロニアンは参加者中唯一の2800超選手として、それに全般的に絶好調で、競技会開始時点では本命とみなされていた。グリシュクがチェスとポーカーに時間を分けて二足のわらじを履くスーパーGMという評判なのでなおさらだった。第1局の大部分は予想通りに推移していた。アロニアンはポーン得し、腰を落として勝ちにいった。しかしトパロフの最終局のように勝ちが確実に思われたちょうどその時に着手が乱れた。

準々決勝第3組、第1局
L・アロニアン - A・グリシュク

47.Kb3?

 ファビアノ・カルアナは ChessBase のウェブサイトでの解説で 47.Nc2! のことを次のように言った。「即勝ちである。実際読むべき変化はない。白は Kb3 でa3のポーンを取りに行き、黒は何もすることがない!」

47…Nc5+ 48.Kxa3 Nxe4 49.Rd4 Nd6 50.Ka4 Ke6 51.Ka5 Rc5+

51.Ka6

 51.Kb6 なら1手得していた。

52…g5 53.a4 Ke5

54.Rd2?!

 このルークはもう1段下に下がったほうが良かった(黒キングにいじめられるかもしれないので)。54.Rd1 Rc4 55.Rb1 から Kb6 でaポーンを突き進めていけばよい。

54…Rc4 55.Ka5

 代わりに 55.Rb2 は 55…Kd4! で …Kb3 や(局面によっては)…Kb5 を狙われる。

55…f5 56.Rc2 Kd4 57.Rd2+ Ke5 58.Nd3+ Kf6 59.Kb6 Nc8+ 60.Kb7 Nd6+ 61.Kc7 Ne4 62.Ra2 Nc3 63.Rb2 Nxa4 64.Rb4 Rxb4 65.Nxb4 Nc5 66.Kb6 Ne6 67.Nd3 h4

68.h3

 ここで 68.c7 と突いて駒得をしない理由はなかった。

68…Ke7

69.Nc5?

 白はここで間違えた。もっとも読者の分析エンジンもこの手を指したがるかもしれない。勝つには 69.Ne5! と指さなければならなかった。黒はうまく c7 突きを止めることができない。69…Kd8 なら 70.Nf7+ Kc8(70….Ke7 なら 71.Nxg5! が強烈なおびき寄せの手筋になる)71.Nd6+ から 72.Nxf5 で白の勝ちになる。

69…Nxc5 70.Kxc5 Kd8 ½-½

 もう何もすることがない。黒は …g4 と突きポーンを交換し、引き分けの端ポーン収局になるだろう。アロニアンは再三勝つ機会があったのに勝てず、がっかりしたに違いない。

 アロニアンは第2局の黒番では引き分けに満足し、第3局の白番のためにエネルギーを温存した。その第3局では第1局のようにポーン得になったがまたも物にすることができなかった。最終第4局では黒で引き分けに甘んじた。これで決着のために快速の4局を指さなければならなくなった。


アロニアン(左)対グリシュク戦の第1局の終局間際。アルメニアのスーパーGMは勝ちを逃がしたことに気づき始める。

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(202)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.3 実戦例(続き)

 図276(再掲) 黒の手番 

 18…a4 19.b4 a3 の可能性を防ぐこの手でカルポフは序盤から優位に立った。両翼で陣地の広さをめぐる戦いに勝ち、中央のポーンはしっかり守られ、黒枡ビショップは好所で相手の黒枡ビショップを無効にしている。黒は何も明らかな間違いをしていないのにその陣形は劣勢である。

18…Ne6 19.Nxe6 Bxe6 20.Qc2 f5

 黒は全力で広さを争っている。

21.f4 Nf7 22.Kh2 fxe4 23.Bxe4 Bd7

 この手は …Rxe4 と取れることを期待した。

24.Bg2

 24.Bxg6 は 24…hxg6 25.Qxg6 Ne5 26.fxe5 Re6 で紛れる。

24…Bxc3 25.Qxc3 Qb6 26.Nd3 Bf5?!

 既に怪しい局面をだめにした。たぶんe列の支配を失わないように 26…Rxe1+ 27.Rxe1 Re8 と指す必要があっただろう。

27.Rad1 Bxd3 28.Rxd3 Qf2 29.Rde3 Rxe3 30.Rxe3 Kf8 31.Qd4!

 Re8+ の狙いが黒陣の欠陥を際立たせている。

31…Qc2 32.Qb6 Re8 33.Rxe8+ Kxe8 34.Qxb7 c5 35.Qe4+ Qxe4 36.Bxe4 Nh6 37.g4 Ng8 38.g5 Ne7 39.h4 Kf7 40.h5 Kg7 41.Kg3 1-0

 黒はゆっくりと圧殺される。例えば 41…Kf7 42.Kg4 Kg7(42…Ke6 なら 43.hxg6 hxg6 44.Bxg6)43.h6+ Kf7 44.f5 gxf5+ 45.Bxf5 Kg8 46.Be6+ Kf8 47.Kf4 Nc6 48.Kf5 Nd4+ 49.Kf6 Nxb3 50.g6 で白の勝ちになる。

(この章終わり)

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王印防御の完全理解(201)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.3 実戦例(続き)

 図275(再掲) 黒の手番 

 黒はこの局面で 11…Ng4 と指していたが、それは図261で説明されているように 12.Nce2 Nge5 13.b3 Nc5 14.Be3 で白が優勢になることが示される前だった。11…Ng4 が廃れたあと本譜の 11…Re8 が継続手として定着した。もっとも黒は 11…Ne8 もよく試みている。この手の一例は 12.Nb3 a5 13.Be3 Qb4 14.a3 Qxc4 15.Nd4 で、白は Bf1 の狙いでポーンの代償が十分ある。

11…Re8

 黒はeポーンとcポーンを攻め立てる用意をした。

12.Na4

 白が自分の中原ポーンに対する攻撃をはね返す際に経験するかもしれない難しさを次の手順に見ることができる。12.Re2 Qb4(12…Nxe4 は 13.Nxe4 Qxd4 となって、ここで 14.Nf6+ なら Nxf6 15.Qxd4 Rxe2 で黒が優勢だが 14.Be3 なら白が優勢である)13.Rc2 Nc5 14.Bd2 Qb6 15.Be3 Qc7 16.f3 a5 17.Bf2 a4 18.Rb1 これで白がいくらか優勢である。

12…Qa5

 12…Qa6 も考えられる手である。

13.Bf4 Ne5 14.b3 Nfd7 15.Bd2! Qd8 16.Bc3 Nc5 17.Nb2!

 黒は 17.Nxc5 dxc5 18.Ne2 f5 で互角の戦いになることを期待していた。これに対してカルポフの手は黒からいつもの反撃を奪い、黒を b3-b4 突きと f2-f4 突きにさらしている。

17…a5 18.a3!(図276)

 図276 黒の手番 

(この章続く)

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チェス布局の指し方[79]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御

1.e4 g6 2.d4 Bg7(図125)

 図125(白番)

 この防御手順は1960年代の初めから最強者たちの間でようやく人気が出た。元ソ連のグランドマスターのコルチノイが世界選手権挑戦者決定競技会でこれを用いて黒番でフィッシャーを破った。この頃からボトビニクのような積極的な防御システムの専門家たちによって頻繁に用いられてきた(現代防御は共著者の一人であるレイモンド・キーンの大得意戦法であり、グランドマスターのグリゴリッチとドナーを負かしたこともある)。それが現代防御と呼ばれる理由である。世界中でこの防御は異なった名前で知られている。ユーゴスラビアではピルツ、ロシアではウフィンツェフ、オーストリアではロバーチュと呼ばれている。我々としては「現代防御」と呼ぶのが簡明だと思う。

 昔はこの防御はひんしゅくを買った。ロシア生まれでフランス国籍の偉大な世界チャンピオンのアレクサンドル・アリョーヒンは1930年代に 1…g6 について次のように書いている。「この手は二流の手と考えるのが適当である。なぜなら白に中原の地点の支配を完全に明け渡しているからだ。」

 今は一流のマスターの誰もがこの防御は完全に指せると認めている。そしてフィッシャーまでもが1972年スパスキーとの世界選手権戦で用いた。

 これは非常に洗練されたシステムで、白にポーンの厚みを築くよう誘っているが、…c5 のような突き崩しの手段によってポーン構造を最終的に粉砕することを目指している。黒は特にd4の地点に圧力をかけ、全体的にはa1-h8の対角斜筋に沿って白を弱めていく作戦をとる。

 現代防御の具体的な詳細は白が普通の素朴な駒の展開(例えば両当たりトリックの戦型)で戦う戦型を分析するときに明らかになるだろう。

 これは指しこなすのが非常に難しい防御であることは強調しておかなければならない。しかしこの防御の反撃の結果は秘訣をマスターすれば非常に満足できるものとなる。その秘訣とは盤の側面から圧力をかけることにより白の出来上がった中央のポーン陣を破壊することである。現代防御に関連した一つの顕著な問題は、黒が正しく指し回すには本書の以前の章で教えようとしてきたまさにその原則にしばしば背くことが要求されるということである。しかし一般的な原則を放棄する正しい瞬間を見分けられれば、チェスを魅力的で多様性にあふれたものにする喜びの一つとなる。

 表面的には現代防御の戦略はキング翼インディアン防御の戦略に似ているかもしれない。しかし重要な違いが一つある。キング翼インディアン防御は 1.d4 に対する応手だが、現代防御は 1.e4 に対する応手である。白は 1.e4 g6 2.d4 Bg7 のあと 3.c4(キング翼インディアン防御もどきに移行する)と指すことができるが(実際しばしばそう指すが)、通常は 3.Nc3 と駒を展開する方を好む。従って現代防御では(キング翼インディアン防御でのように)黒は白の巨大なポーン中原に対処しなければならないだけでなく、迅速に展開できる白の可能性から生じる危険性にも対処しなければならない。

 黒がこの課題に立ち向かえると考えることは、チェス盤の64枡には無限の手段が秘められていることを示唆している。

 注意 黒は 1.e4 d6 2.d4 Nf6 としてから初めて …g6 と突く手順でこの防御を始めることもできるし、1…g6 のあと …d6 と突いて始めることもできる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(200)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.3 実戦例(続き)

 図274(再掲) 黒の手番 

 h2-h3 突きの基本的な着意は黒の眼目の …exd4、…Re8 および …Nc5 に対して Re1 によってeポーンを守る用意をすることである。この手を指さずに済まそうとすると戦術的に厄介な事態に巻き込まれる。例えば 9.Re1?! exd4 10.Nxd4 Ng4 11.h3 Qf6 となれば図261で詳しく説明したようなことになる。このことから本譜の手順からはずれようとしても普通は h3 突きを延期しただけのことに終わる理由が分かる。例えば 9.b3 exd4 10.Nxd4 Nc5 11.h3 Re8 12.Re1 a5 という具合である。

9…Qb6

 黒が意図を少なくともいくらか明らかにするときが来た。既に明らかになっているように黒の主要な着想はe4またはc4の地点に圧力をかけることである。最初の場合黒はキング翼ルークをe8に置き …exd4 と取ったあとクイーン翼ナイトをc5に置く。さらに黒クイーンはe7の地点から圧力を増すことがある。一方二番目の場合黒クイーンは本局のようにb6の地点に行くかa5の地点に行き、クイーン翼ナイトは …exd4 と取ったあとe5に行くことがある。実戦ではあらゆる組み合わせが起こり得るので、これらの構想は指針としてのみ扱わなければならないことは明らかである。

 本譜の手以外の有力な手を手短に考えてみよう。

 (1)9…Re8 10.b3(白は …a7-a5-a4 と突かせることもできる。例えば 10.Re1 a5 11.Qc2 exd4 12.Nxd4 Nc5 13.Be3 a4、または 10.Be3 exd4 11.Nxd4 Nc5 12.Qc2 a5 13.Rad1 Qe7 14.Rfe1 a4 という具合である)10…exd4 11.Nxd4 Nc5 12.Re1 a5 13.Rb1(13.Bb2 なら 13…a4! で 14.b4 には 14…a3 と応じて黒が有利である)13…h6(これは 14.Bf4 に 14…g5 と突くようにするためである)14.Re2 Bd7 15.Bf4 Qb6 16.Be3(16.Bxd6 なら 16…Nfxe4)16…Qc7 17.Qc2 Qc8 18.Kh2 Re5 形勢はほぼ互角である。

 (2)9…Qa5 10.Re1 exd4 11.Nxd4 Re8(11…Qc5 は 12.Nb3 Qxc4 13.Qxd6 となってどちらも指せる)12.Be3 Ne5 13.Bf1 Be6 14.Nxe6 Rxe6 15.f4(15…Nxe4 16.Nxe4 Qxe1 の狙いをかわした)形勢は白がわずかに優勢である。

 黒が …Qa5 と指すこの種の局面は次のようにカバレク戦法でも出てくる。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O c6 7.Nc3 Qa5 8.h3(奇妙なことに次の手順でペトロシアン中原に似た中原に移行することがある。8.Qd2!? e5 9.d5 c5 10.a3 Ne8 11.e4 Qd8 12.Qc2 Nd7 13.Bg5 Bf6 14.Bd2 Ng7 15.Ne1 Be7 16.Nd3 f5 17.f4 この局面は図65によく似ている)8…e5(8…Qa6 も指されている)9.e4(白は 9.dxe5 dxe5 で単純化中原にすることもできる。例えば 10.e4 Nbd7 11.a3 Qc5 12.Qe2 Qe7 13.b4 Ne8 14.Be3 Nc7 15.Rad1 Ne6 16.c5 と進む)9…exd4 10.Nxd4 ここで 10…Nbd7 と指せば上述の(2)の戦型に移行することになる。代わりに黒は白のcポーンをすぐに攻撃することもできる。例えば 10…Qc5 11.Nb3 Qb4(11…Qxc4 なら 12.Qxd6)12.Be3 a5 13.e5 dxe5 14.Bc5 Qxc4 15.Bxf8 Bxf8 16.Nxa5! これで白の戦力得になる(図269と270を参照)。

10.Re1

 これは前の手の論理的な継続手である。他には次のような手がある。(1)10.b3 exd4 11.Na4(11.Nxd4? なら 11…Nxe4)11…Qa5 12.Nxd4 d5 これは乱戦である。(2)10.d5 Nc5 11.Ne1 cxd5 12.cxd5 Bd7 13.Nd3 Nxd3 14.Qxd3 Rfc8 どちらも指せる分かれである。

10…exd4

 相手に有効な手がほとんどなくなってきているので黒は本譜の手の代わりに中原の争点の維持に努めることもできる。この場合白は第2章と第5章で分析したのと似たような他の中原を作ることができる。例えば(1)10…Ne8 11.dxe5 dxe5(11…Nxe5 は 12.Nxe5 Bxe5 13.Na4 Qb4 14.Bf1 から 15.Bd2 の狙いで応じられる)12.b3 Nc7 13.Ba3 Re8 14.Na4 Qa5 15.Bd6 Ne6 16.b4 Qd8 17.c5 白がやや優勢である。(2)10…Re8 11.d5(11.Rb1?! は疑問で、11…exd4 12.Nxd4 Ng4 13.Nce2 Nge5 のあと白は 14.b3 Nxc4 か 14.Qc2 Qb4 でcポーンを取られることに甘んじなければならない)11…Nc5 12.Rb1 a5 13.Be3 Qc7 14.Nd2 Bd7 15.Bf1 狙い筋は図74と同様である。

11.Nxd4(図275)

 図275 黒の手番 

(この章続く)

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名著の残念訳(12)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

07 プライド消滅 030ページ
『オラウフソンは、この突破が無理だと確信していたのか、それを許したつもりはなかったのか。』

英文『Olafsson was sure that this break was impossible, or he wouldn’t have allowed it.』

wouldn’t have allowed は仮定法過去だから「許さなかっただろうに」という意味で、実際は許した。or はここでは「または」でなく、「さもなければ」の意味。

試訳『オラウフソンはこの突破が無理だと確信していた。そうでなければその突破をやらせていなかった。』

09 もう一歩で 039ページ
『ヴァルター[ソ連]vsフィッシャー』

英文『Walther[Switzerland] – Fischer』

Switzerland はスイスである。

試訳「ヴァルター[スイス]vsフィッシャー」

09 もう一歩で 039ページ
『グランドマスターは最初にへまをやっても埋め合わせをする余裕があるが、・・・。本局はその実証例ゆえに記憶に残る。』

ここでのフィッシャーのように、いくらグランドマスターだって最初にへまをやったら相手が無名のマスターでも青息吐息でとても余裕などないだろう。

英文『What makes this game memorable is the demonstration it affords of the way in which a Grandmaster redeems himself after having started like a duffer;』

主文は What makes this game memorable is the demonstration である。it は demonstration のことではない。もしそうなら関係代名詞主格の which を使って demonstration which affords
となるはずである。だから it は the game を指し、demonstration と it の間に目的格の関係代名詞の which が省略されていると考えられる。affords は「もたらす、与える」の意味である。it affords を取り除いて考えると the demonstration of the way in which(そのやり方の明示)となる。in which はもちろん in the way のことである。

試訳「この試合が印象的なのは、グランドマスターが最初にへまをやったあと挽回するやり方を見せてくれるからである。」

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王印防御の完全理解(199)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.3 実戦例

第12局
カルポフ対バラショフ
モスクワ、1981年
オーソドックスシステム

1.Nf3 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 O-O 5.d4 d6 6.O-O

 この手か 6.Nc3 で白がキング翼ビショップをフィアンケットする戦型の基本的な開始局面になる。白が 6.O-O と指すか 6.Nc3 と指すかによって少し違いが生じるが、それについては本局と次局で説明することにする。

6…Nbd7

 黒はこの手でオーソドックスシステムを生じさせる …e7-e5 突きの準備をしている。他の手としては 6…c5(ユーゴスラビア戦法。第9章を参照)、6…Nc6 および 6…c6(それぞれパンノ戦法とカバレク戦法。第10章を参照)がある。

7.Nc3

 黒が …e7-e5 突きの準備をしたのとちょうど同じように、白は e2-e4 突きの準備をした。この両方のポーン突きが行なわれれば、dxe5 で中原を開放することによりまたは d4-d5 突きで中原を閉鎖することにより中原の争点を解決することは、どちらの場合もキング翼ビショップの働きが悪くなるので白にとってあまり興味がないのは当然である。黒はしばらくの間は中原の争点を維持できるが、クイーン翼ビショップを動かすことができるように遅かれ早かれクイーン翼ナイトを動かさなければならないのでd4での交換を迫られる。これが g2-g3 突きに対するオーソドックスシステムでオーソドックス中原(…exd4 でそうなる)が他の陣形よりも圧倒的に多い理由である。それにもかかわらず何らかの理由でこれまで分析していない中原の構造を白が採用することがある。

 これは例えば黒が …e7-e5 突きの準備として 6…Nc6 と指すパンノ戦法で現れることがある。そのあと具体的には 7.Nc3 e5 8.d5 Ne7 9.e4 となれば、この局面と第1章で分析したマルデルプラタ戦法から派生する局面とが似ていることはきわめて明らかである。この種の局面は一般に白の方が少し有利である。というのはいわば図21、22および23でキング翼ビショップが「正しい」位置にいて指すことができるからである。もし黒が …h6 から …f5 と突くことによりこれを防ごうとすれば、白はキング翼フィアンケットを利用して図62、63および70と同様の考え方でf5で取ってf4と突くことにより黒のキング翼での動きに反撃することができる。

 白は具体的な考えのもとに 7.Qc2 と指すことにより単純化中原にすることを選択することもできる。例えば 7…e5 8.Re1 Re8 9.dxe5 dxe5 10.e4 c6 と進める。7.Nc3 の代わりに 7.Qc2 と指す主眼点は、キング翼ルークで迅速にd列を占めるだけでなく、b4、c5 から Nbd2-c4-d6 の手段によってd6の地点を速く固定し占拠する(図195を参照)ことである。この具体的な戦法の可能性により 6.O-O と 6.Nc3 との違いが分かる(白の6手目の解説を参照)。

 当然ながら g2-g3 突きに対するオーソドックス中原へのこれらの異なった対処法は他の戦法や後で見られるようにもっとあとの段階でも起こり得る。

7…e5 8.e4

 白がこのポーン突きを怠れば黒は自分のeポーンを突き進めることによりそれにつけ込むことができる。例えば 8.b3 Re8 9.Qc2 c6 10.Rd1 e4 11.Ng5 e3 12.Bxe3? Rxe3 13.fxe3 Ng4 となれば黒が優勢である。

8…c6

 黒はかなりの頻度で 8…a6 も試みてきた。この手は白の応手によっては第2、4および5章で分析したのと実質的に似た中原を生み出すことがある。例えば(1)9.d5(単純化中原になる 9.dxe5 dxe5 も指されている)9…b5 10.cxb5 axb5 11.b4 Nb6 12.Bg5 Bd7 13.Qe2 Qe8 14.Nd2 h5 この手の意図は …Nh7 から …f5 突きである(図59を参照)。(2)9.Re1 exd4 10.Nxd4 Ne5 11.b3 c5 12.Nc2 b5 13.cxb5 axb5 14.Nxb5 Ba6 15.Bf1 d5(図145を参照)

 黒が中原のポーンを交換する決断を延期する本譜の手は長い間最もよく指されてきた。しかしそれ以前の通常の指し手は 8…exd4 9.Nxd4 Re8 10.h3 Nc5 11.Re1 a5 だった。このあとは黒は …c6 と突かずに済ませようとするかもしれないしもっとあとになってから突くかもしれない。

9.h3(図274)

 図274 黒の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(198)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.2 戦術の狙い所(続き)

f3の地点の弱点

 この戦法で白クイーンはc2の地点にいるのが普通だが、白クイーンがf3からナイトの当たりの地点にいるときは次のような単純な手筋が成立する。ここに示されている例は最も基本的な形だけれども実戦では非常に紛らわしい形になっていることは覚えておかなければならない(図273)。

 図273 

 f3の地点での両当たりのおかげで黒は白のhポーンを取ることができる。

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(234)

「Chess Life」2011年4月号(10/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

盛り返す

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMビスワーナターン・アーナンド(FIDE2810、インド)
ベイクアーンゼー Aグループ 第9回戦、2011年1月25日

 19…Kf6

 ナカムラはニムゾインディアン防御の主流手順の13手目で疑問の新手を指したあとg3のビショップが働かず苦戦の収局に陥った。しかしここで白は交換損の犠牲を差し出して打って出る。

20.Rhd1! exd5 21.cxd5 Ba6+ 22.Ke1

22…Rae8!

 22…Nd3+ は 23.Rxd3 Bxd3 24.Rxc7 となって白に反撃の余地がたくさんありg3のゾンビー状態のビショップも生き返ってくる。

23.Rc3 Re4 24.Rd4

24…Rhe8?!

 優勢を保つには 24…Rxd4 と取るのが最善だった。例えば 25.exd4(25.Nxd4 と取るのは 25…Bb7! でd5のポーンがからめ取られる。つまり 26.Nc6 Bxc6 27.dxc6 Ke6! から …Kd5 で取られる)25…Re8+ 26.Kd1 Be2+ 27.Kc1 Na6 となれば白にはまだ解決しなければならない問題がある。

25.Ra3! Bc8 26.hxg5+ hxg5 27.Rxa7 R8e7

 そして白のポーン得はたいした価値がないので14手後に引き分けが合意された。

******************************

(この号続く)

2011年09月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(197)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.2 戦術の狙い所(続き)

白のeポーンの間接防御

 白のeポーンに対する黒の主眼の圧力が、黒クイーンがe7の地点にいることにより妨げられることは非常によく起こる(図272)。

 図272 

 黒は …Nfxe4、Nxe4 Nxe4、Bxe4 Qxe4 によってe4のポーンを取ることはできない。なぜなら Bd2 と引かれて白が決定的な戦力得になるからである。

(この章続く)

2011年09月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(196)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.2 戦術の狙い所(続き)

黒クイーンの露出した位置

 黒クイーンが露出した位置にいるときにはそれに関連した多くの戦術の可能性がある。最もよく現れるのを取り上げる。

 白は黒クイーンの捕獲を狙うことができるときがある(図267)。

 図267 

 このごく普通の状況で白は Na4 と指し、もし …Qb4 と来れば(主眼の …Qa6 が好ましくない理由があるかもしれない)b3! 突きで罠にかけることができる(図268)。

 図268 

 黒は a3 突きでクイーンを取られるので …Bxa1 と取ることができない。

 別の特徴的な主眼の手筋はa3-f8の斜筋を利用するものである(図269)。

 図269 

 白が黒クイーンの危険にさらされた位置につけ込む最も確実な方法は、e5 と突き …dxe5 に対して Bc5 と指すことである。…Qxc4、Bxf8 Bxf8 となれば駒割は互角だが次の手で取り合いの締めくくりにとげが突き刺さる。Nxa5! そして …Rxa5、Qd8 で白が優勢になる(図270)。

 図270 

 白はa5、c8およびf6に対する三重当たりのおかげで戦力得になる。

 関連した手筋は次の例にも見られる(図271)。

 図271 

 見かけによらず白は c5 と突くことができる。その意図は …Qxc5 には Ne6、…dxc5 には Nb3 と応じてポーンを取り返し有利な態勢になることである。

(この章続く)

2011年09月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(139)

「Chess」2011年6月号(4/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第2組
マメジャロフ 2772 1½-2½ ゲルファンド 2733

 他に正規持ち時間の試合で決着したのはシャフリヤル・マメジャロフの試合だった。彼は「主催者推薦」枠で大会に出られたのであまり文句を言えなかった。つまり自国のチェス連盟が彼を出場させる特権のためにお金を払っていたのだ。初戦は白で有利な局面になったが、結局百戦錬磨のイスラエル選手の巧みな防御を打ち破ることができなかった。第2局では立場が逆転したが、ゲルファンドが中盤で優勢になったときはマメジャロフも受けに回った。マメジャロフの運命を決した試合は第3局だった。この試合は諸刃の剣の局面の守り方とそのあとのけりのつけ方の絶好の例だった。これまでのところこの競技会随一の試合である。


第3局。ボリス・ゲルファンド(右上)戦で敗北の瀬戸際に立たされているシャフリヤル・マメジャロフ(左上)。ビデオストリームが解説者の変化図も映している。

解説 IMリチャード・パリサー

準々決勝第2組、第3局
S・マメジャロフ - B・ゲルファンド
シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4

 マメジャロフは 1.e4 を堅持した。彼が第1局でこれを用いたときはちょっと驚きだった。

1…c5

 そして観戦者にとって嬉しかったことは、ゲルファンドが最近しばしば愛用しているペトロフ防御を避けて昔から得意にしていたナイドルフ戦法を堅持したことである。

2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

6.Bc4

 これはフィッシャーの得意とする手だった。第1局ではかなりはやりの 6.Be3 e5 7.Nf3 から白が有利になった。しかしゲルファンドは完全に互角になる最も正確な道筋を示す用意をしているに違いなかった。

6…e6 7.Bb3 b5 8.O-O Be7 9.Qf3 Qc7 10.Qg3

10…O-O!?

 黒は最も激しい手を選択した。この経験豊富なグランドマスターは明らかに相手の研究の深さを試したかった。代わりに 10…Nc6 は 11.Nxc6 Qxc6 12.Re1 Bb7 13.a3(13.Qxg7 とポーンを取る方がきつい手だがかなり危険でもある)13…Rd8 14.f3 O-O 15.Bh6 Ne8 16.Rad1

となって白が少し有利だが、黒はある程度正確に指している限りたいして問題はない。

11.Bh6 Ne8 12.Rad1

12…Bd7!

 これは役に立つ準備の手である。代わりに 12…Nc6 は 13.Nxc6 Qxc6 14.Nd5! で黒は 14…Bd8 と退却させられる。

13.f4!?

 今度はアゼルバイジャン選手が最も激しい手を選ぶ番である。白が単なる駒の戦いで満足ならば通常は 13.Nf3 か 13.a3 と指す。

13…Nc6

14.f5

 これは一貫性のある手だがたぶん最も厳しい手ではない。セルゲイ・ルーブレフスキーがこの得意の 6.Bc4 戦法で鋭い着想の手を指すときはいつでも起きて注目しなければならない。2010年寧波でのルーブレフスキー対プー・シャンチーの快速戦では 14.Nxc6!? Bxc6 15.f5 Kh8 16.f6! gxh6 17.fxe7 Qxe7 18.Qf2 Ng7 19.Qd4 Rac8 20.a3

と進んで白が大局を支配しポーン損ながらも有利に戦えた。プーは 20…Qg5! で積極的な防御に努め 21.Qxd6?(ここは 21.Rf2! が良く、21…a5 なら ChessPublishing のウェブサイトで指摘したように 22.Qxd6 Rfd8 23.Qf4 で白が優勢を保持しただろう。黒の15手目ではもっと良い手を見つけるのが困難なので、ゲルファンドは考えを異にしていたか、少なくとも収局になれば守りきれるはずだと思っていたとしか想像できない)21…Nf5! 22.Qe5+ f6 23.Qxe6 Ne3 ですぐに戦力得になった。

14…Nxd4!

 このスヘーフェニンゲン態勢での常套手段により簡単に互角になる。

15.Rxd4

15…Kh8!?

 これは新手である。もっともこのナイドルフ専門家がずっと前から研究していた構想だったのかそれとも対局中にひらめいたのかは残念ながら分からない。前例では2001年アスタナでの重要度で引けを取らないモロゼビッチ対カスパロフ戦で表向きはもっと攻撃的な 15…Bf6 が指され、16.Rd3 Be5 17.Qg4 b4! 18.f6 g6 19.Ne2 a5 20.Bxf8 Kxf8

となって …a4 突きの狙いで黒の反撃が有望になった。

16.Be3

 ビショップがおとなしく引き下がったが、恐らくマメジャロフは本筋の 16.f6!? に確信が持てなかっただけなのだろう。ゲルファンドの読みは 16…Bxf6 17.Rxf6 Qc5! に違いなく、白は両方のルークを助けることができないので 18.Bxg7+(18.Ne2!? e5 19.Rfxd6 exd4 20.Rxd7 gxh6 21.Rd5

と指すものかもしれない。ここでは白の方が良いとは明らかに言えないが、白には交換損に対する適正で長期的な代償があるのは確かで、たぶん結果として生じる開放的な局面は実戦よりもマメジャロフにもっと適していただろう)18…Nxg7 19.Qf2 Qe5

と行くしかなく、クイーンが絶好点にいてクイーン翼で進攻する用意ができているので黒が良さそうである。

16…Nf6 17.Qh3?!

 これでは黒に中原を爆破させてしまう。しかしたぶんこのような局面でのマメジャロフの経験不足が影響し始めたのだろう。よくある先受けの策略は 17.a3!? 突きである。もっとも黒は 17…a5 と突いて何か問題があるとは思われない。

17…d5!

 急に黒の駒が活気づき、白のクイーンが黒の白枡ビショップと同じ斜筋に移動したことを後悔することになった。

18.e5!?

 恐らく白の前手はこの攻撃的な着想の準備のために指されたのだろう。それは絶対確実ではないかもしれないが、18.exd5 では 18…exf5 19.Rd3 Rae8! から …Bc5 で黒が有利な要素を得て局面を支配しただろう。

18…Qxe5 19.Rh4 Rfc8

20.Kh1?!

 この手は遅く感じられる。白の白枡ビショップが働いていず白がちょうど中原のポーンを犠牲にしたことを考えれば特にそうである。重大な試練は 20.Bg5 に違いなかったが、20…Kg8(20…h6 は 21.Rxh6+! gxh6 22.Qxh6+ Kg8 23.fxe6 fxe6 24.Bxf6 Bxf6 25.Rxf6

となって黒が 25…Rf8 と指すしかなく白は強制的に引き分けにできる)21.Bxf6 Qxf6!(21…Bxf6? は 22.Rxh7 Kf8 23.fxe6 Bxe6 24.Nxd5!

で白の休眠中のビショップが息を吹き返して威力を発揮する)22.Rxh7 g6
で黒が受かっているようである。それはそうとして、23.Kh1(ここで初めて白はキングを動かして …Bc5+ から …Bd4 の着想を消す)23…Rxc3 24.bxc3 Bc6 25.Qd3 gxf5 26.Rh3

のあと状況はまだまったく不明である。

20…Rxc3!

 この一撃にマメジャロフは驚いた様子がなかったが、たぶんそのあと何かをするのがどれほど大変かを過小評価していたのであろう。

21.bxc3 Qxc3

22.Rd4?

 黒は交換損の代わりに2個の良形のポーンを得ているだけでなく、白の白枡ビショップをいくらか働かなくさせて局面をある程度支配している。それは面白いことではなかっただろうがしかし白はひれ伏して 22.Bd4! Qxh3 23.Rxh3 と指してみてもよかった。そのあと 23…a5 24.c3 Ne4 25.fxe6 Bxe6 26.Rd3

となれば黒は交換損の代わりに有望な戦いに持ち込めるが、ここで白が少しどころでなくもっと悪ければ驚くところである。

22…a5!

 痛たた。突然あのビショップが急に危機に陥った。

23.Rd3

 この手はビショップをc2に引く準備だが、中原を黒に席巻させる犠牲を払っている。代わりに 23.a4 と突く手は 23…bxa4 24.Bxa4 Bxa4 25.Rxa4 Bb4 から …Ne4 となって黒が盤上を支配しただろう。白のルークは長期的にはaポーンを止めるのにまったく適していない。

23…Qc6 24.c3 a4! 25.Bc2 e5

 Hiarcsの最新版を動作させると黒が「+1.50」だけ優勢だと言うが驚くには当たらない。白のクイーン翼は弱く、白駒はまったく連係が悪く、遅かれ早かれ黒は中原および/またはクイーン翼で突破を図ってくる。

26.Bg5 b4 27.Qh4!?

 マメジャロフはすてばちになった。しかし誰が彼を責められようか。クイーン翼は長持ちしない。

27…bxc3 28.Rh3 Kg8

29.Re1

 白にとっては残念なことに 29.Bxf6 Bxf6 30.Qxh7+ Kf8 と追及しても黒キングはe7の地点で完全に安全なのでなんにもならない。

29…e4!

 ゲルファンドはこれらのポーンを突き進め主導権を取り戻す機会だと判断した。

30.g4 Kf8!

 良い手はこの手に限らないが、チェックでh7のポーンを取られるのを防ぐのは悪い考えであるはずがない。それにゲルファンドにはこれから出てくる魅力的な後続手段が既に見えていたのではないかと思う。

31.Be3 Qc4 32.g5 Bxf5! 33.gxf6 Bxf6 34.Qh5 Bg6!

 これで万事良しである。局面を完全に支配し、ルークの代わりにa2で6個目(!)のポーンを取ることができるのだから、h3で交換損を取り戻すことなどない。

35.Qg4 Qxa2 36.Bb1 Qc4 37.Qg2 a3

 これはゲルファンドの高度に美的な指し回しの論理的な継続手である。白はaポーンを止めることはできるが、津波のように押し寄せる黒の中央のポーンを長く防ぐことはできない。

38.Ba2 Qc6 39.Rg3 Rb8 0-1

 40.Bc1 Rb2 41.Bxb2 axb2 のあと白はルーク得と交換得になっているかもしれないが、黒の得しているポーンはあまりにも多すぎる。「デイリーテレグラフ」紙の自分のコラムでマルコム・ペインは 42.Bb1 Be5 43.Rge3 f5

というこぎれいな手順を指摘した。これは「すばらしいとしかいいようがない。」実際これらのポーンを止めるすべはない。

 これでマメジャロフには最終局で超堅実なゲルファンドに黒番で勝たねばならないという非常に難しい課題が残された。彼はかなり露骨なキング翼の進攻をやってみたが、全然うまくいきそうになく、ポーンを損し引き分けにすることに成功しただけだった。それもゲルファンドが準決勝に進むには引き分けで済むからだった。

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(この号続く)

2011年09月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(195)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.2 戦術の狙い所

 第6章で分析した別のオーソドックス中原と比較すると、そこでは主眼の戦術のほとんどは黒が有利になるものだったが、ここではcポーンに対するクイーンでの黒の攻撃は控え目に言っても諸刃の剣なのでもっと均衡がとれている。

(この章続く)

2011年09月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(194)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点(続き)

白のhポーンに対する圧力

 黒は相手が具合の悪いときに h3-h4 または g3-g4 と突かせる目的でhポーンを攻撃することにより相手のキング翼を弱体化させることができるときがある(図266)。

 図266 

 この図でhポーンにすぐに圧力をかける黒の手段のすべてがはっきりと理解できるに違いない。見かけによらずこのような作戦が本当に攻撃の様相を呈するのは非常にまれなことである。

(この章続く)

2011年09月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[78]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

レニングラード戦法

1.d4 f5 2.Nf3 Nf6 3.g3 g6(図123)

 図123(白番)

 これがレニングラード戦法の特徴となる手である。この戦法は1950年代のレニングラード(今では伝統的な名前のサンクトペテルブルグに戻っている)出身の一群のマスターたちによって完成された。彼らはオランダ防御の普通の戦型では黒側に戦略の複雑さが不足していることに不満を感じていた。ここでの黒の作戦は既に …f5 と突いてある変型版キング翼インディアン防御に移行することである。しかしレニングラード戦法の欠点は次のように重大である。

 (a)当然ながら黒の早い …f5 突きは自身のキングの囲いの弱体化になる。

 (b)白は黒が …e5 突きの用意ができる前に d5 と突くことができる。これは黒が自分のe6の地点に空所を抱えることを意味する。また黒が …e5 突きに固執すれば白は dxe6e.p. で黒のポーン集団を分裂させ黒陣にもっと弱点を作らせることができる。

 (c)黒のポーンの形からするとクイーン翼ビショップは自身のポーンによって閉じ込められたあまり価値のない駒になることがよくある。

4.Bg2 Bg7 5.O-O O-O 6.c4

 この手は d5 突きを支援する準備である。

6…d6

 これは 7…Nc6 から 8…e5 と突く意図である。そうなれば黒はポーンが非常に動きやすくて満足以上の態勢になる。だから・・・

7.d5!

 重要な陣地の征服を達成した。

7…c5

 黒は作戦を全面的に変えなければならない。本譜の手で黒はクイーン翼でのポーンの進攻を図り駒の動ける余地を作ることにした。もし黒が 7…e5 と突いて、自分をひどく窮屈にさせている白のdポーンの迂回を図れば、次のように身の毛のよだつような状況に陥る。8.dxe6e.p.! Bxe6 9.Nd4(Bxb7 と Nxe6 の狙い)9…Bc8 10.Nc3 これで白が展開で大きくリードする。黒のクイーン翼ビショップは2回動くことを余儀なくされ、元の位置に戻るしかなかった。一方白のキング翼ナイトはこの機会を利用して強力な中央の地点に進出している。

8.Nc3 Na6

 意外にも今ではここがナイトの最良の地点になった。そしてc7の地点で中央に戻ることになり、…b5 突きの強行に役立つ。しかしそれでも黒陣は3手目で列挙した陣形上の欠点を考えれば満足のいくものとはほど遠い。

9.Rb1

 これは非常に良い手である。白のやりたいことはクイーン翼ビショップを黒枡の対角斜筋(a1-h8)に展開することで、このビショップと黒のキング翼ビショップとの交換を期待している。この捌きの要点は黒キングを守る駒の数量を減らすことである。白がいつかは e4 突きで中央を開放することになれば、黒の取り残されているeポーンは障害物となり、黒がキングの助けのために守り駒を移動させるのを妨げてしまう。

 しかしすぐに 9.b3? と突くのは …Ne4! でうまくいかない。そこで白はまずルークを黒のキング翼ビショップの利き筋からはずした。

9…Nc7 10.b3 a6 11.Bb2 b5 12.e3

 クイーン翼ナイトのためにe2の地点を空けた。そしてこのナイトはいつかf4の地点に行ってe6の空所を弱めるかもしれない。白はこのような状況では決して cxb5 と取ってはいけない。なぜならdポーンの大切な支えを失くして自分の連鎖ポーンを台無しにしてしまうからである。

12…Rb8 13.Ne2 Bd7(図124)

 図124(白番)

 白陣は非常に良い態勢になっている。黒の唯一の反撃場所はb列である。黒は …bxc4 でb列を素通しにできるが、黒のルークやクイーンの使える侵入口を白が守ることは簡単である。さらに、もし黒が …e5 と突いてくれば dxe6e.p. と応じて黒のd6の地点が素通し列上の弱い出遅れポーンという大きな傷となる。

 キーン対リー戦(1970年ペイントンでのイングランド対オランダ対抗戦の主将戦)ではこのあと白の戦略が完全な成功を収めるさまがまざまざと見られた。その白の作戦とはクイーン翼で黒の機会を封じ込めながら、中原でおよび黒キングに対して仕掛けていくというものである。

14.Bc3 Na8

 ここはナイトにとって最悪の地点の一つだが、黒は建設的な指し手がなくなってきている。

15.Ng5

 黒のe6の弱点を見据えている。

15…Bh6 16.h4 bxc4 17.bxc4 Rxb1 18.Qxb1 Qb6 19.Qc2

 白は黒キングへの攻撃のためにクイーンを残しておく必要がある。

19…Rb8

 ルークは所定の位置についたがそこからどこにも行き場所がない。

20.Nf4

 これでナイトが二つともe6の地点を目指している。

20…Nc7 21.e4!

 黒駒のうち四つが出遅れeポーンの不適切な側にいる今が白の打って出る好機である。

21…Bg7 22.e5 Ng4 23.exd6 exd6 24.Bxg7 Kxg7 25.Re1 Ne5 26.Nd3 Re8 27.Qc3

 またあの黒枡である。これは 9.Rb1! で始めた捌きが正しかったことを示している。

27…Kg8 28.Nxe5 dxe5 29.Rxe5 Rxe5 30.Qxe5 h6 31.d6! 1-0

(この章終わり)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(193)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点(続き)

広さをめぐる戦い

 既に述べたように黒の指し手は主としてc4の地点に対する圧力を中心に動いている。だから黒の活動は白がそのポーンを b2-b3 突きで簡単に守るのを妨げること、または少なくともあまりそうしたくないようにすることに向けられるのは当然である。かなり奇異ではあるが、黒は一方では白に b2-b3 と突かせようとし(黒枡全般で、そして特に対角斜筋で、機動性を増すために)、他方ではこのポーン突きによるc4ポーンの堅固な守りは黒の反撃から厳しさをいくらか弱める効果もある。同時に黒は白が b4 突きによりクイーン翼で陣地をさらに広げるのを警戒する必要がある。このような必要性に対処するために黒は単に主眼の …a7-a5 突きでc5の地点を守るだけに留まらず、さらに …a4 と突き進める(図263)。

 図263 

 このポーン突きにはいくつかの目的がある。(1)クイーンのためにa5の地点を空けること。(2)主眼の …Nf6-d7-e5 の捌きを想定してcポーンをなかば孤立させること。(3)白が b2-b3 または b2-b4 と突けばa列を素通しにできるようにすること。(4)黒枡の対角斜筋をさらに弱めるために …a4-a3 と突けるようにすること。白は b2-b3 と突き、それと共にクイーン翼ルークを対角斜筋からはずすことにより、これらの着想を無効にすることに努めてきた。

 キング翼の陣地の広さをめぐる戦いはもっと一方的である。白は f2-f3 突きによってeポーンを守る必要性はさらさらないので、代わりに適切な準備をしてからこのfポーンを攻撃的に用い、全般的に陣地を広げるだけでなく特に f2-f4 と突くことによってe5の地点を支配するようにすることができる(図264)。

 図264 

 f2-f4 突きがg1-a7の斜筋を弱めることから、ほとんど常に Bc1-e3 が準備として指され、既に見たようにその前に h2-h3 突きが指される。クイーン翼ビショップは時には(白がd6の地点に圧力をかけたいとき)f4も働きのある地点になることがあるけれども、一般にはe3が最良の地点である。白が f2-f4 と突いたあとeポーンを守る必要がでてくれば、ビショップを Be3-f2 と引くことにより守ることができる。白は時には敵陣に仕掛ける前に g3-g4 突きでキング翼の拡張を行なうこともある。

 いくつかの例外的な局面では黒はe5の地点の支配を維持するために、…h7-h5-h4 突きの手段によって f2-f4 突きからgポーンによる自然な支援を奪うことを目指すことができる。この目的は白に g3-g4 と突かせてfポーン突きを …g6-g5 突きで迎え撃つことができるようにしておくことである(図265)。

 図265 

 しかしこのような作戦はかなり例外的な状況でしかうまくいかないと覚えておかなければならない。

(この章続く)

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名著の残念訳(11)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

05 不愉快な義務 022ページ
『29.d6! Nd7
 aポーンが攻撃を免れた。』

aポーンは何の攻撃も受けていない。

英文『29.d6! Nd7
The Pawn is obviously immune.』

The Pawn とはいま突いたばかりのd6のポーンのことを言っている。黒が 29…Rxd6 とこのポーンを取ると 30.Rxb8 とナイトを取られる。そのことを immune((攻撃などから)免れた)と言っているのである。

試訳『黒は明らかにこのポーンを取れない。』

05 不愉快な義務 022ページ
『黒はポーンが動けなくなっていく。』

英文『He is reduced to Pawn moves.』

ここでの reduce は「((通例受身))<A(人)をB(ある状態)に>むりやりにする」という意味である。例文として He was reduced to ranks.(彼は一兵卒の身分につきおとされた)が載っている。Pawn moves は「ポーンの手」つまり「ポーンを動かす手」のことである。実際黒はこのあと4手連続ポーンを動かして投了している。

試訳「黒はポーンしか動かせなくなっている。」

06 小さな見落とし 024ページ
『だが、彼は賢明に守ったすえに裏をかこうとする。』

英文『Nevertheless, after defending sensibly, Shocron outfoxes himself.』

him でなく himself だから Shocron outfoxes himself は「ショクロンは自分自身の裏をかく」である。裏をかかれるのはショクロンである。たぶんショクロンを皮肉っているのだろう。

試訳「だが、彼は賢明に守ったすえに裏をかかれることになる。」

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カテゴリ: 名著の残念訳

王印防御の完全理解(192)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点(続き)

先受けの h2-h3 突き

 (g2-g3 突きに対する)オーソドックス中原では白はほとんど常に h2-h3 突きによってg4の地点を支配する必要がある。この手の最も明らかな目的は …Nf6-g4 を気にする必要なしに Bc1-e3 と指すことができるようにすることにあるが、他の理由でも役に立つ。白はほとんど常に Rfe1 でeポーンを守らなければならないので、f2の地点の守りが薄くなり黒は図223で説明された主眼の戦術を有利に実行することができる。次のような状況を考えてみよう(図261)。

 図261 

 黒は …Ng4 と指すことができ、Qxg4 とくれば …Bxd4 で駒が活動的になり、Nxc6 とくれば …bxc6、Qxg4 Ne5、Qe2 Be6 で優勢になる。白が …Ng4 に h3 突きで応じれば黒の主眼の戦術はもっと鮮明に現れる。黒はこの手に対して …Qf6 と応じることができ、ナイト同士の交換を強制して(白がg4のナイトを取るか Nf3 Nge5 と進むことによりそうなる)、クイーン翼ナイトをe5の地点に置き …Be6 と指すことにより展開を容易に完了することができる。

 この局面を図223の局面と比較するのは理解に役立つ(第10局の白の8手目の解説にある2番目の手順も参照されたい)。黒は(上図から)…Ng4、h3 Qb6 と指すのは避けた方がよい。というのは Nce2 Nge5、b3 Nc5 となって白の抱える問題がはるかに少ないからである。即ち白はeポーンが守られていて、ルークはf1の地点に退避することができ、黒がd3の地点に駒を進めてもかえって害になるだけなので白は落ち着いて Be3 と指すことができる。

 だから h2-h3 突きのあと黒は一般に …Ne8 と共に …Qb6 と指す(図262)。

 図262 

 このナイト引きはd6の地点を守るだけでなく、Nd4 を中央の位置からどかす目的がある(白が Nce2 と指せば …Ne8-c7-e6 の捌きからさらに移動を誘う)。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(191)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点(続き)

白のeポーンへの圧力

 フィアンケットされたビショップによって白の防御が増強されているにもかかわらず、黒は通常はe8のキング翼ルークおよびc5とf6のナイトとによってもたらされる白のeポーンへの主眼の圧力を断念することはない。以前のオーソドックスのように白に f2-f3 と突かせることはほとんど期待できないけれでも、それでも黒の圧力は白駒をある程度縛り付ける効果を持つことは確かである。

 白のキング翼ビショップがg2にいるので黒の …d6-d5 突きによる開放の実現は第6章のときよりもはるかに難しいのは間違いないけれでも、白のcおよび/またはeポーンに対する黒の圧力がこのポーン突きの達成に役立つことがあることには注意すべきである。

 既にcポーンの場合で見たように、白は時にはeポーンを犠牲にして相手のキングの周りを弱めることができる(図259)。

 図259 

 例えばここでは Qc2 でも …Nfxe4、Nxe4 Bxd4 でポーン損になるのを防げないように思える。しかし実際には Bg5 という具体的な着想がある(図260)。

 図260 

 これでのちのf6の地点でのチェックのために黒が黒枡ビショップを差し出さなければならず(…f6 と突いても Nxf6+ Bxf6、Rxe8+ Qxe8、Bxf6 でやはりそうなる)、黒キングの周りに重大な空所ができる。

(この章続く)

2011年09月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(233)

「Chess Life」2011年4月号(9/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

とんだ災難と復活

  立て続けに世界の2強と対局するのは大変な苦行で、明らかにナカムラは狙われる立場だった。ナカムラも世界中に報道されることは分かっていた大一番ではカールセンに虐殺された。多くの者は怖気づいてアーナンド戦では短手数の引き分けを目指すかもしれなかった。しかし翌日世界チャンピオンを相手にナカムラは一歩も引かずに自ら苦難に分け入った。だがそうなってもうまく挽回してしのぎきり、自信を回復することができた。

白 GMマグヌス・カールセン(FIDE2814、ノルウェー)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第8回戦、2011年1月23日

 26…Ne5

 この日はナカムラの暗黒の日だった。白の攻撃の第一波をしのいだあとナカムラはクイーンを盤端に追いやられた。そしてカールセンは決め手の派手な手筋を見つけた。

27.Nd5! Bxd5 28.exd5 Qxd5 29.Bxh6!!

29…gxh6

 29…Qxd4 とナイトを取るのは 30.Be3! Qg4 31.Rh8+! Kxh8 32.Qh2+ で詰みになる。

30.g7!

30…Be7

 30…Bxg7 と取っても 31.Nf5 でやはり負ける。

31.Rxh6 Nf7 32.Qg6! Nxh6 33.Qxh6 Bf6 34.Qh8+ Kf7 35.g8=Q+! Rxg8 36.Qxf6+ Ke8 37.Re1+ 黒投了

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(この号続く)

2011年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(190)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点(続き)

白の無防備のcポーンへの圧力

 g2-g3 突きのないオーソドックス中原と比較すると、白はeポーンを強化しているがその結果としてcポーンを無防備のままにしている。従ってc4の地点に対する圧力が黒の戦略活動の中心となるべきことは理にかなっている。黒は白のcポーンを攻撃するのによくクイーンを用い、例によって主眼の …c7-c6 突きでクイーン翼への進路を開ける(図255)。

 図255 

 黒のクイーンはb4、c5それにa6の3地点からc4の地点を攻撃できる。これらの地点ははすべてb6からでもa5からでも行くことができるので、白が黒の意図を見抜くのは難しい。しかし黒が …Qd8-b6 と指したときは、d4の地点のナイトに対する黒のクイーンとキング翼ナイトとの一斉攻撃による戦術的狙いに特に注意を払わなければならないことは明らかである。一方黒が …Qd8-a5 と指したときは白は、b2-b3 と突けないだけでなく(少なくとも一時的に)、黒が …Qa5-h5 というようにクイーンをキング翼に移動できる可能性も考慮しなければならない。g2-g3 突きのないオードドックス中原でのように、黒はe5またはb6のナイトとe6のクイーン翼ビショップとにより、cポーンに圧力をかけることもできる(図218を参照)。

 黒は一般にcポーンを攻撃することにより白に b2-b3 と突かせて黒枡での機動力を向上させようとする。しかしcポーンが黒クイーンによって狙われたら白がそのcポーンをあっさり捨ててくることがよくあることに注意を要する。というのは黒クイーンがそのポーンを取るのは危険を伴い、クイーンが安全な所に戻るのには多くの手数がかかるからである(図256)。

 図256 白の手番 

 例えばこのような局面では白は Be3 と当てることができる。その意図は …Qb4 ときてもcポーンに対する狙いを無視し代わりに a3 Qxc4、Nd4 で黒クイーンを不自由にさせることにある(図257)。

 図257 

 黒クイーンがポーンを取り安全な地点に戻るのに多くの手数を要するので、明らかに白は申し分ない代償が得られる。

 黒のdポーンが無防備の他の局面では、c4の地点への攻撃は単なるポーンの交換になることがある(図258)。

 図258 

 例えばここでは白は …Qxc4 と …Nxe4 の二つを狙われているが、Nb3 Qxc4、Qxd6 によってポーンの交換に済ませることができる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(189)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原(続き)

8.1 戦略の着眼点

 予想されることだがここでのポーン構造と第6章で分析した別のオーソドックス中原のポーン構造(図211を参照)とを比較すると類似点が多いことが分かる(図254)。

 図254 

 基本的な戦略の構想は図212で描かれたのと同じだけれども、当然ながら白のキング翼ビショップのフィアンケットはかなりの違いをもたらす。ここでは最も明らかなものから始めることにより違いを明らかにしていく。

(この章続く)

2011年09月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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Re:「将棋世界」誌に上杉FM親子の写真

 「新宿チェスクラブ掲示板」に表題の記事が載っていました。その写真は下のとおりです。

2011年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(138)

「Chess」2011年6月号(3/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第1組
トパロフ 2775 1½-2½ カームスキー 2732(続き)

 通常の持ち時間の試合は残り2局しかなく、トパロフはずっとショックから立ち直れなかった。第3局ではまたナイドルフのあまりはやっていない戦型になった。カームスキーはちょっとまずそうな局面もあったが、引き分けにするには十分だった。それでトパロフは第4局で勝たなければならない状況になった。今度はかつての絶好調の状態に戻っていて、カームスキーをあわやというところまで追い詰めたがポカが出てしまった。快速の決定戦に持ち込むのは確実に思われたが、ブルガリア選手の彼らしくないためらいで好機をつぶした。


トパロフ対カームスキー戦の第4局。カームスキーが 38…N7c6?(下図参照)と指したところで、彼の残り時間が7秒しかないところが映っている。挑決競技会のビデオストリーミングは最高の品質で、観戦者は対局の模様をはっきり見ることができた。

準々決勝第1組、第4局
V・トパロフ - G・カームスキー

38…N7c6?

 制限時間の直前の難しい局面でカームスキーは間違えた。38…Bb3 で 39.Qd8 のような手に 39…Qc8 を用意するのが正しかった。

39.Qd6!

 これで黒キングが非常に危うくなってきた。

39…Ke8 40.Nc7+ Kf7 41.Nd5 Qe2

 黒は自分のキングを守れないので敵キングを攻撃するようにした方がよい。

42.Qxf6+ Ke8 43.Qe6+ Kf8

44.Kg1?

 トパロフは攻撃的で決断力があることで定評がある。しかしここでは迷って好機をつぶした。それはともかく手順の中には難しいものがある。例えば 44.Qh6+ Kf7 45.Qh7+ Kf8 46.Qh8+ Kf7 47.Bg1!

このあと 47…Nf3+ 48.Kh1 Nxg1 49.Qf6+ からすぐに詰みになる。

44…Qd1+ 45.Bf1?

 まだ 45.Kh2 Qe2 46.Qh6+ とやり直して勝ちになる余地があった。

45…Bxd5!

46.exd5

 46.Qxd5 は 46…Qxd5 47.exd5 Ne7 48.Be2 Nxf5 49.Bxh5 Ke7

で黒が受かる。

46…Nd4!

 黒が …Nf3+ の狙いでe5のナイトを守ってたちまち自分の問題を解決した。

47.Qf6+ Kg8 48.Qxg5+ Kf7 49.Qd8 Qc2!

 巧妙にc7の地点に利かした。d4のナイトは …Nf3+ から …Qh2# があるので取られない。

50.Bg2 Qc1+ 51.Kh2 Qc2 52.Bg1 Ndf3+ 53.Kh1 Ne1

 ここでは戦術の策略でしのぎを図るのは白の番である。

54.Bf2! Qxf2 55.Qc7+ Kf6 56.Qd6+ Kf7!

 当然ながら絶対手である。

57.Qc7+ Kf6 58.Qd6+ Kf7 ½-½

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(この号続く)

2011年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(188)

第8章 g2-g3 突きに対するオーソドックス中原

主手順 - g2-g3 突きに対するオーソドックスシステム
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O Nbd7 7.Nc3 e5 8.e4 exd4 9.Nxd4(図253)

 図253(黒の手番) 

 黒は色々な局面で中原でのポーン交換を行なうことができる。例えば 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 d6 5.Nf3 O-O 6.O-O の後

 g2-g3 突きに対するオーソドックスシステム
 - 6…Nbd7 7.Nc3 e5 8.e4 c6 9.h3(または 9.b3 exd4 10.Nxd4)9…Qb6(または 9…Re8 10.Be3 exd4 11.Nxd4 あるいは 9…Qa5 10.Re1 exd4 11.Nxd4)10.Re1 exd4 11.Nxd4

 カバレク戦法
 - 6…c6 7.Nc3 Qa5 8.h3 e5 9.e4 exd4 10.Nxd4

(この章続く)

2011年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(187)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.3 実戦例(続き)

 図252(再掲)黒の手番 

 黒は Qxa5 と Rc1 の二重の狙いを突きつけられてもう終わりのように見える。しかしカスパロフは不可能と思えるような手を見つけ出した。

23…Qa8!! 24.Rc1 Nc4+! 25.bxc4 Rd7! 26.Qe8

 今や注意深く受けなければならないのは白の方である。26.Qh4? は 26…bxc4 27.Nc3 Qb7+ 28.Ka1 Qa6+ 29.Na2 Rd3 から …Be6 で黒の攻撃がきわめて危険になる。

26…bxc4 27.Nc3 Qc6

 27…Qb7+? 28.Ka1 Qa6+ 29.Na2 Rd3 は 30.Rxh7! があるのでもううまくいかない。例えば 30…Kxh7 と取ると 31.Qf7 で白の勝ちになる。

28.Kc2

 この手は 28…Rb7+ を避けるために仕方がない。

28…Rd2+ ½-½

 両選手の興味あふれる指し回しにふさわしい終局だった。29.Kxd2 Qxe8 のあと両者の戦力は均衡を保っている。

(この章終わり)

2011年09月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[77]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

6…d6 突きの流動中原

1.d4 f5 2.Nf3 Nf6 3.g3 e6 4.Bg2 Be7 5.O-O O-O 6.c4 d6(図121)

 図121(白番)

 この手でも黒はまだ …Qe8-h5 の手段によるキング翼襲撃を予定している。しかし 6…d6 突きは前節で考察した 6…d5 突きよりもかなり柔軟性がある。黒は 6…d6 突きのあと自分のポーンを剛直な形にはしない。そして特に石垣戦法のようにe5の地点を弱めるようなことはしない。…d6 突きのあといくつかの戦型では黒は …e5 突きをもくろむことさえできる。

 しかしそれでも白は自分から e4 突きを目指すことにより優勢を得ることができる。このポーン突きは黒の出遅れeポーンを攻撃する筋を開放する。

7.Nc3

 この手は明らかに最善である。ナイトを重要なe4の地点に利かせている。

7…Qe8

 もうこの手はおなじみである。

8.Re1

 これもまた e4 突きの準備である。

8…Qg6

 黒は白のもくろむ e4 突きに対する圧力を増すために作戦を変更した。e4の地点を駒で占拠してそのポーン突きを止めることもできたが、8…Ne4 9.Nxe4 fxe4 10.Nd2 d5 11.f3 e3 12.Nb1 となって黒の中原が崩壊し始める。白はすぐに中原で強力な多数派ポーンができるので、このようにナイトを安全に反展開することができる。途中で黒が 11…exf3 と取れば、12.Nxf3 で白が出遅れeポーンの前のe5の地点を支配することになる。

9.e4

 この手は気が狂ったように見えるがそうではない。うまい戦術の裏付けがあるので、白はこの戦略的に重要なポーン突きを実行することができる。しかし実際はあとで実行した方がもっと効果的だったかもしれない。

9…fxe4 10.Nxe4 Nxe4 11.Rxe4(図122)

 図122(黒番)

 黒の弱いeポーンが素通しe列で白の圧力にさらされている。そしてたぶん白のキング翼ビショップもh3の地点から圧力をかけてくる。しかし黒は駒の働きが良くて、自分から …e5 と突いて反撃し弱点をすべて消し去ることにより互角の形勢にできる。

 11…Qxe4? は成立せず 12.Nh4! で驚いたことに黒クイーンが盤の中央で捕獲されてしまう。だから黒は次のようにできるだけ迅速に展開しなければならない。

11…Nc6

 そして次の手で

12.Qe2

 白が圧力を強める。

12…Bf6 13.Bd2 e5! 14.dxe5 Nxe5 15.Nxe5 Bxe5

 形勢は互角である。

(この章続く)

2011年09月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(186)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.3 実戦例(続き)

 図251(再掲)黒の手番 

12…bxc4

 12…b4 突きなら白はゼーミッシュ戦法に特有なキャッスリングの融通性を用いることもできた。例えば 13.Nd1 c6 14.Nf2 Bd7 15.b3 Re8 16.Be2 Qe7 17.O-O となれば白が優勢である。

13.O-O-O

 これは油断のならない手である。一見したところでは白が自分の攻撃の可能性の方が優っていると考えていることを宣言しているように見える。しかし実際にはこれから出てくるように …c7-c6 突きによって黒のa5のナイトを守るのを妨げる着想が隠されている。

13…Nd7?

 黒は 14.hxg6 fxg6 15.Bh6 を期待して 15…Nc5 から …Nb3+ を狙う意図だった。しかし白の着想に意表をつかれることになる。

14.hxg6 fxg6

 14…hxg6 と取るのは 15.Bh6 で致命的な狙いを与えることになる。

15.Nb1!

 ここに白の隠された狙いがある。クイーン翼にキャッスリングしたことによりd列での圧力が強まり、黒が 13…Nd7 と指していなくても …c7-c6 と突くとポーン損になる。

15…Rb5

 15…Nb7 は 16.Bxc4 で陣形的に投了することになるので、他に選択の余地はない。カスパロフは 16.Na3 Nc5 で乱戦に引きずり込むことを期待していた。例えば 17.Kb1 なら 17…c3 18.Qxc3 Na4 という具合である。

16.b4! cxb3e.p.

 16…Nb7 は 17.Bxc4 Nb6 18.Bxb5 axb5 19.Bxb6 cxb6 となって、黒に交換損の代償がほとんどないことを考えれば同様に壊滅的な結果だろう。

17.Bxb5

 これでルークの丸得で、白は明らかに勝勢である。しかしチェスでは周知のように、一瞬の気のゆるみがすべてを台無しにしてしまうことがある。

17…c5 18.dxc6e.p.?

 単に 18.Be2 と指していれば優勢が維持できただろう。

18…axb5 19.Qd5+?

 …Na5-c4xe3 から …bxa2 の狙いに直面してクイーンをa2-g8の斜筋につけるのが自然なように思われる。しかしその手は実際には黒の狙いを防ぐのに何の役にも立たない。白はまだ本譜の手の代わりに 19.cxd7! Nc4 20.dxc8=Q Qxc8 21.axb3! Nxd2+ 22.Kxd2 と指していれば圧倒的に有利になって勝つことができたはずだった。

 実戦の手のあとカスパロフは負けを逃れる手をひねり出した。

19…Rf7 20.axb3

 白はあのクイーンでのチェックが状況を悪くしただけだったことにきわどく気づいた。20.cxd7? と取ると 20…Nc4 21.dxc8=Q Qxc8 でなんと黒の勝ちになってしまう。

20…Nf8 21.Qxd6

 これまでのジェットコースターに乗っているような形勢の移り変わりがなければ、この手は13手目が頂点に至ったとみなすことができただろう。事実白の優勢はまだ勝つのに十分のように思われる。

21…Qe8 22.Qd8 Qxc6+ 23.Kb2(図252)

 図252 黒の手番 

(この章続く)

2011年09月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(10)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

59 誤ったビショップ 270ページ
『ホルモフとは、過去1回だけ1965年にハバナとの電信対戦で、フィッシャーは(白番で)敗れていた。』

英文『Fischer (with White) had lost to Kholmov in their only previous encounter, played via telephone to Havana in ‘65.』

telephone は電話のことである。電信は telegraph である。

試訳『ホルモフとは、過去1回だけ1965年にハバナとの間の電話を介した対戦で、フィッシャーは(白番で)敗れていた。』

28 誘惑されたドロー 125ページ
『誘惑されたドロー』

何に誘惑されたのか本文を読んでもピンとこない。

英文『A peccable draw』

peccable は「過ちを犯しやすい」という意味である。実際両者ともたびたび間違えている。

試訳「悪手だらけのドロー」

28 誘惑されたドロー 125ページ
『53. Kf3?
53…Rb7?
笑ってしまうミスだ。53.Kh3! が正しく、ルーク交換後に黒のキングをg4に来させないようにする。53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4!(ルークに利かせて手損を防いだ)60…R 動く 61.Kh3! 封鎖を維持する。
 好意に返礼してしまった。』

黒の 53…Rb7? に代えるべき手が(白の)53.Kh3! だという訳になっている。支離滅裂。

英文『53.Kf3?
A comedy of errors. Correct is 53.Kh3! in order to keep Black’s King out of g4 after the exchange of Rooks: e.g. 53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4! (gaining a vital tempo by hitting the Rook), 60…R-any 61.Kh3! maintaining the blockade.
53…Rb7?
Returning the favor.』

笑ってしまうミスだ。53.Kf3? の解説を 53…Rb7? の解説に押し込んでしまっている。

試訳「53. Kf3?
 悪手もここまでくると喜劇だ。正着は 53.Kh3! で、ルーク交換後に黒のキングをg4に来させないようにする。例えば 53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4!(ルークに当てて貴重な手をかせぐ)60…R任意 61.Kh3! となれば封鎖が維持できる。
53…Rb7?
 これはお返しの悪手だった。」

王印防御の完全理解(185)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.3 実戦例(続き)

 図250(再掲)白の手番 

 白のキング翼ビショップの展開を妨げその結果としてキング翼キャッスリングを妨げるという目的を達成したあと、黒はクイーン翼で反撃を開始した。この段階で、または遅くとも 8.Qd2 Rb8 のあとで、白はどの作戦でいくかを決めなければならない。そして以下の中から選ぶことができる。(1)キング翼ナイトをd4の地点の守りから解放するために d4-d5 と突く。(2)待機策に従いながら b2-b4 突きを計画する。(3)Ne2-c1 と指して黒に …e5 突きから …Nd4 と指させる。(4)クイーン翼にキャッスリングして反対翼で攻撃を仕掛ける。

 4番目は本譜で分析するので最初の三つの例を検討しよう。

 (1)8.Qd2 Rb8 9.d5 Ne5 10.Ng3 c6 11.Be2(11.f4 は 11…Neg4 12.Ba7 Ra8 13.Bg1 h5 14.h3 Nh6 で難解な局面になる)11…b5 これは両者とも成算がある。

 (2)8.Qd2(その他の手として 8.a3 は 8…Bd7 9.b4 Re8 10.g3 b5 11.c5 a5 で互角の展望で、8.Rb1 は 8…Bd7 9.b4 b5 10.cxb5 axb5 11.d5 Ne5 12.Nd4 e6 13.dxe6 fxe6 で難解な戦いになる)8…Rb8 9.a3(9.Rb1 は 9…Bd7 10.b4 Qc8 11.b5 Na5 12.Nf4 となって白がナイトをd4の地点の支配の役目から解放することに成功する)9…Bd7 10.b4 b5 11.cxb5 axb5 12.d5 Ne5 13.Nd4 e6 この局面は 14.Be2 で白が有利であることが明らかになっている。

 (3)8.Nc1(8.Qd2 は 8…Rb8 9.Nc1 e5 10.d5 Nd4 11.N1e2 c5 12.dxc6e.p. となる。ここで黒は 12…Nxc6 と取って難解な局面にすることもできるし、12…bxc6 13.Nxd4 exd4 14.Bxd4 Qa5 と指してポーンの犠牲を展開の優位で補うこともできる)8…e5 9.d5 Nd4 10.Nb3 Nxb3(10…c5 は前のように 11.dxc6e.p. bxc6 となる)11.Qxb3 c5 12.dxc6e.p. bxc6 13.O-O-O Qe7 これは両者とも指せる分かれである。

8.Qd2 Rb8

 この局面は色々な手順によって到達できる。以前の解説にあるように白はまだ方針を決めなければならない。

9.h4

 白は敵意を明らかにした。この手は逆翼攻撃を暗示している。攻撃を開始する二つの手段の 9.g4 と 9.Bh6 はそれほど見かけない。

9…b5

 この試合が指された当時はこの手はきわめて普通だった。実際のちになって初めて黒は反撃を始める前に先受けの …h7-h5 突きに1手をかけるのを好み始めた。カスパロフ自身も白でスパスキー相手に指した試合への解説でこの手を疑問手と断言していた。今日では 9…h5 突きが標準的な応手となり、定跡の深い探求はここが開始点となっている。このあとの指し方の一例はつぎのとおりである。10.O-O-O(10.Bh6、10.Nd5 および 10.Nc1 もある)10…b5 11.Nd5(11.Nf4 と 11.Bh6 も指されている)11…bxc4 12.Nxf6+(12.g4 と 12.Bh6 も試みられてきた)12…Bxf6(12…exf6!? もある)13.g4 Nb4 14.Nc3 c5 15.Bxc4 cxd4 16.Bxd4 Qc7 展望はほぼ均衡がとれている。

10.h5 e5

 前述のカスパロフ対スパスキーの試合では 10…bxc4?! が指されたが、11.g4! と突かれて白の強烈な攻撃を目前にした黒が破れかぶれの 11…Bxg4!? に駆り立てられた。結果的には黒が勝ったが、黒の防御は困難だったはずだった。

11.d5 Na5 12.Ng3(図251)

 図251 黒の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(184)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.3 実戦例

第11局
ティマン対カスパロフ
ブゴイノ、1982年
ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3 O-O

 黒はゼーミッシュ戦法に対してほぼ何でも試してきた。だからこの時点でも代わりに 5…e5、5…c5、5…c6 それに 5…a6 が指されたことがある。時にはこれらの手は単に主手順に移行するだけのこともあるが、独自の道に行くこともできる。

6.Be3

 黒の …c5 突きを防ぐ着想から生まれたこの手はゼーミッシュ戦法で断然最もありふれた手である。注意しておくと 6.Bg5 に対して最も人気のある防御は(黒はこの章で前に触れたように 6…Nc6 または 6…c6 と指すことができるけれども)6…c5 である。この手は通常は 7.d5 e6 8.Qd2 exd5 9.cxd5 のあと現代べノニに移行する。しかし面白いのは 6.Be3 に対してさえ黒が虚をつくギャンビットの 6…c5 突きを試みてきたことである。このポーン突きはそれを防ぐのが本譜の手のそもそもの動機にもかかわらず成立するようである。

6…Nc6

 今日ではこの手は第3章で分析した歴史的にもっと重要な 6…e5 突きに取って代わった。

 重要度で3番目にくる手は 6…c6 突きである。黒はこの手で …a6 突きから …b5 突きの用意をし、白がクイーン翼にキャッスリングするのを思いとどまらせようとする。どんな展開になるのかをちょっと見てみよう。

 (1)7.Qd2 a6 8.O-O-O b5 9.Bh6 Qa5 10.Bxg7 Kxg7 11.e5 dxe5 12.dxe5 Ng8 これはほぼどちらも指せる分かれである。

 (2)7.Bd3 a6 8.Nge2(…b5 突きを防ぐために 8.a4 と突くこともできるが、黒はb4の地点を支配することができる。例えば 8…a5 9.Qd2 Na6 10.Rd1 e5 11.Nge2 Nb4 12.Bb1 Qe7 13.O-O となって黒は互角にするために恐らく …exd4 から …d5 と突く必要があるだろう)8…b5 9.O-O Nbd7 10.Qd2(10.b3 は 10…e5 11.d5 でたいていゼーミッシュ中原になる)10…bxc4 11.Bxc4 Nb6 12.Bb3 a5 この局面で黒の唯一の陣形の不利はc6のポーンである。

 過去にいくらか人気を誇ったゼーミッシュ戦法に対する別の着想は …c7-c5 と突く狙いの 6…b6 突きである。黒が 7.Bd3 c5? 8.e5 Ne8 9.Be4 のような特定の戦術にははまらないとして、試合はそれぞれが …c5 および d5 とポーンを突いたあと第4章と似たような戦略の道筋をたどるのが一般的である。

7.Nge2

 キング翼ナイトをe2の地点に展開することによって白は既に相手のd4の地点への企図に対処している。白がキング翼ナイトの展開を省略することにより逆翼キャッスリングで局面を激しくさせれば、黒は自分の作戦を実行することができるかもしれない。例えば 7.Qd2 a6 8.O-O-O Rb8(8…b5 突きも指されていて 9.cxb5 axb5 10.Bxb5 Na5 で良い結果を残している)9.h4 e5 10.d5 Nd4 11.Nge2 c5 12.dxc6e.p. bxc6 13.Nxd4 exd4 14.Bxd4 Be6 となって、双方の攻撃の激しさを考えれば白のわずかな戦力得は関係ない。

7…a6(図250)

 図250 白の手番 

(この章続く)

2011年09月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(232)

「Chess Life」2011年4月号(8/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

あまり通らない道

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMヤン・スメーツ(FIDE2662、オランダ)
ベイクアーンゼー Aグループ 第7回戦、2011年1月22日

 18…cxb4

 これは現代チェス定跡で最も激しく最も詳しく研究されている局面の一つである。衆目は 19.Be3 に集中していた。ここでイワンチュクの驚異の着想の 19…Nc5 20.Qg4+ Rd7 21.Qg7!!! は今では引き分けらしいというところまで研究されている。ナカムラはあまり思いつかない代わりの手を考え出した。

19.Bf4!? Bh6 20.Qd2 Bxf4 21.Qxf4

21…Bc6?

 長考のあとスメーツは誤った作戦を見つけ、すぐに罰せられた。ChessVibes Openings は驚くべき引き分けの手順の 21…d4! 22.Qxd4 Bxg2 23.Kxg2 Qc6+ 24.f3 Nxf6 25.Qxa7

を示した。黒は負けをまぬがれないように見えるが、25…Rd2+ 26.Rf2 Rxf2+ 27.Kxf2 Rxh2+ 28.Kg1 Rh1+! 29.Kxh1 Qxf3+

で永久チェックをかけることができる。

22.Qd4! Kb8 23.Rfe1 Rhe8 24.Re7! Qa5 25.Rxf7! Bxa4 26.Bxd5 61手目で黒投了

 これがナカムラの目指していた局面である。黒は駒得にもかかわらず相手の狙いが多すぎてすぐに駒を返し負けの収局に入らなければならなかった。

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(この号続く)

2011年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(183)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.2 戦術の狙い所(続き)

擬似捨て駒の …Nxd4

 自分のキングに対する圧力を軽減するために黒が時々用いることのできる別の戦術の主題は白がナイトをf4の地点に配置しているときに生じる(図249)。

 図249 

 ここで黒は …Nxd4 から …e5 突きで両取りをかけることができる。駒の単純化は白の攻撃力の減少をもたらすことが多いが、黒はいつも相手の突撃型の反撃を警戒していなければならない。

(この章続く)

2011年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(182)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.2 戦術の狙い所(続き)

防御のための …Bxg4 切り

 逆翼攻撃の真っ最中に黒はクイーン翼ビショップを犠牲にすることにより白のポーン暴風攻撃の勢いをそぐことがある(図247)。

 図247 

 例えばここでは …Bxg4、fxg4 Nxg4(白の重要な黒枡ビショップを取る狙いがある)とビショップを犠牲にすることにより、相手の攻撃をただちに止めそれによりクイーン翼での自分の攻撃を推し進める手数をかせぐことができる。

 この防御のためのビショップ切りは黒が先受けの …h7-h5 突きを指したあとでも行なわれることがある(図248)。

 図248 

 この例では黒が …hxg4 と取って白に h5 突きの突破をさせるのは自殺行為であることは明らかである。一方 …Bxg4、fxg4 Nxg4 とビショップを犠牲にすることによって黒は自分のキングの安全を確保するだけでなく(前図のように)攻撃のための手数を稼ぐことにもなる。

 立場を逆転させ主導権を握るこの着想は非常に効果的なので、白はビショップを取るのを辞退し素通しg列を利用して攻撃を強めることに期待することがよくある。

(この章続く)

2011年09月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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