2011年08月の記事一覧

世界のチェス雑誌から(137)

「Chess」2011年6月号(2/9)

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挑戦者決定競技会(続き)

準々決勝第1組
トパロフ 2775 1½-2½ カームスキー 2732

 競技会開始時の本命の一人はブルガリアのスターで元FIDEチャンピオンのべセリン・トパロフだった。対戦相手のガータ・カームスキーに対しては2009年に 4½-2½ で破ってビシー・アーナンドとのタイトルマッチに進んでいたので、準々決勝を通過するのは確実と見られていた。懸念材料は成績とレイティングが昨年あたりから少し下り坂ということで、一方ガータ・カームスキーの方はほぼ安定した調子だった。第1局は激闘だった。トパロフが交換損の代わりに1ポーンを得たが、最終的に引き分けに落ち着いた。第2局はトパロフの白で、勝ちを目指すものと見られていた。しかしいつもと違って彼の研究手順には大きな穴があることが判明して、カームスキーの痛烈な指し回しにたじたじとなった。トパロフは盛り返すことができず、米国に帰化したカームスキーが早くも番勝負で思いがけないリードを奪うことができた。


カームスキーとの第2局で追い詰められたトパロフ(左)

解説 IMリチャード・パリサー

準々決勝第1組、第1局
V・トパロフ - G・カームスキー
グリューンフェルト防御

1.Nf3 Nf6 2.c4

 トパロフはこの面白い手順を選んだ。かつて2009年の番勝負では 1.d4 と指していた。しかしカームスキーのグリューンフェルトを打ち破ることができずあとで 1.e4 に変えていた。明らかにブルガリア人選手は今日までの間グリューンフェルトの主手順に突破口を見い出せなかった。しかしカームスキーがグリューンフェルトの陣形にこだわるならば、巧妙なよくある手順によって-もしもだが-白の選択肢が増えることを期待している。

2…g6 3.Nc3 d5

 カームスキーは米国ナンバーワンとしてはナカムラに取って代わられたかもしれない。しかし彼の経験はトパロフにとって常に油断のならない相手になってきた。今回もグリューンフェルトの主手順の定跡の戦いから手を引くことを拒否した。忘れてならないのはカームスキーの協力者のエミル・ストフスキーは長い間この布局の主要な信奉者であるということである。

4.cxd5 Nxd5

5.Qb3!?

 詳しく研究されている定跡手順の 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.d4 c5 8.Rb1 は近年黒にとって問題ないとされていて、トパロフの好むところではない。代わりに中央のポーンを突く前に黒ナイトを追い返す方を選んだ。勝たなければならない状況に立たされた第4局ではもっと珍しい手の 5.Qc2!? を選んだ。この手は一見なんでもないように見えるが、黒がどのように駒を展開したら良いかはそれほど明快でない。5…Bg7(5…c5?! は 6.Nxd5 Qxd5 7.e4! で早くも白がしっかりと主導権を握る。しかしたぶん黒は 5…Nc6!? とした方が良いかもしれない。6.d4 なら 6…Ndb4 である)6.e4 Nb6 7.d4 となれば白は中原に2ポーンを並べるという目的を達成している。そして 7…O-O 8.Be3 Bg4 9.Ne5! Bxe5 10.dxe5 Nc6 11.h3 Be6 12.Rd1 Qc8 13.f4

で白が楽に優勢になった。もっとも勝負はいくらか劇的な乱闘のあと引き分けに終わった。

5…Nb6 6.d4 Bg7

7.Bf4

 この手が悪いとはとても言えないが、7.e4!? もあると思う。7…Bxd4?!(眼目の 7…Bg4 は 8.d5 c6 で根拠をぐらつかせることを期待しているが、それでも 8.Ng5! O-O 9.h3 で互角には十分でないかもしれない)8.Nxd4 Qxd4 9.Be3 Qd8 10.Rd1 Bd7 11.Be2

はポーン損でも十分やれるだろう。黒はキング翼が弱く、展開が制約を受け、頃合を見計らった Nd5 も狙われている。

7…Be6 8.Qa3 Nc6!?

 カームスキーはトパロフの選択した初手に少しはめられたのかもしれないが、賢明にも以前に指したことがあり少し研究したに違いない指し手を堅持することにした。代わりに2010年ハンティマンシースク・オリンピアードでの強豪同士のイワンチュク対バシエ=ラグラーブ戦では別の 8…O-O が指された。そして 9.e3 N8d7 10.Rd1 a5 11.Ng5! Bd5 12.e4 Bc4 13.h4 Bxf1 14.Kxf1

となって白が早くもはっきり有利になった。

9.O-O-O?!

 この手は紛れもなくチーム・トパロフの研究の所産で、評価記号は少し辛いかもしれないが私はとにかくこの手が気にいらないのである。急に黒の小駒の利きが目立つようになり、aポーンを活用することによりカームスキーが迅速にかなりの反撃を図ることができるようになった。以前にイワンチュクはカームスキー戦でもっと自重した 9.e3 の方を選んだ。その試合(2009年イェルムク)は 9…a5 10.Be2(のちにカームスキーは2009年オフリートでのヨーロッパ・クラブカップ大会のエリャーノフ戦で 10.Bb5 と指され、10…O-O 11.Bxc6 bxc6 12.Qc5 Nd5 13.Be5 Nxc3 14.Qxc3 Bd5! 15.Bxg7 Kxg7 16.O-O Bxf3 17.gxf3 Qd5

と進んで黒は十分に反撃ができ、実際まもなく引き分けになった)10…Nb4! 11.O-O!? c6(これはまともな手だが、11…Nc2 12.Qc5 Nxa1 のあと例えば 13.Nb5 Nd5 14.Nxc7+ Nxc7 15.Bxc7 Qd5 16.Bb5+ Kf8

は本当に白が交換損の代わりに十分な代償を得ているのだろうか)12.Ng5 Bd5 13.Rfc1 h6 14.Nge4 Nc4 15.Nxd5?

(いかにイワンチュクでもこの手は無茶である)15…Nxa3 16.Nc7+ Kf8 17.bxa3 Nd5 18.Nxd5 cxd5 19.Nc5 b6 20.Bc7 Qe8 21.Bxb6 Kg8

と進み、白はクイーンの代償が十分でなかった。だから 9.e3 を改良したいというトパロフの願望はよく分かる。しかし残念ながら彼の選択は私でも分かるようにうまくいかなかった。

9…Nd5!

 カームスキーは最も働いていない小駒を迅速に改善した。ここからの彼の2、3手は強く印象に残る。以前のカームスキーとの対局からトパロフは相手を熟知していると思われたが、この試合から見る限りそうではないようである。勝負の世界に戻って以来カームスキーの「ファーストサーブ」は特に強いということはなかった。得意の捌きと大局観の技量に物を言わせるために、不均衡でかなり未踏の局面に分け入っていくことがよくあった。もちろんこの番勝負のためにストフスキーと何日も研究したことだろう。しかし私の考えではトパロフはこんな早い段階で未知の戦いに踏み込むよりも定跡の差し手争いに突き進んだ方がずっと良かっただろう。

10.Bg3 Bh6+

11.e3

 白としては 11.Kb1?! と寄ってeポーンを2枡突く選択肢を残したいのだが、11…Bf5+! 12.Ka1?!(1ポーンを捨てて 12.e4 Nxc3+ 13.Qxc3 Bxe4+ 14.Ka1 と指す方が良い)12…Ndb4 のあとc2の地点の弱点が目立つ。このあと 13.Ne1 は 13…Bc2! で白駒いじめが続く。

11…a5!

 b4の地点に便利な拠点が確保された。これでちょうど前述のイワンチュク対カームスキー戦のように白クイーンがa3の地点で少しのけ者になり始めた。トパロフは研究で何を見逃した、あるいは過小評価したのだろうか、それともまだ研究手順の中なのだろうか?

12.h4!?

 これは非常に積極的な手である。しかしトパロフのような攻撃的な選手が 12.Kb1 Nxc3+ 13.Qxc3(13.bxc3!? は 13…Bf5+ 14.Bd3 Bxd3+ 15.Rxd3 e6 で黒陣が十分な態勢になり、白のクイーン翼の弱点がいつかまた悩みの種となるかもしれない)13…Nb4 14.a3(14.Bc4 Bf5+ 15.Kc1 なら千日手にならないが、15…O-O 16.a3 Nd5 17.Qb3 Nb6 18.Bd3

のあと黒に 18…a4 19.Qc2 Qd5!? と白枡で締め付けられたら白は本当に優勢を云々できるのだろうか?)14…Bf5+ 15.Ka1 Nc2+ 16.Ka2 Nb4+!

で黒に早々と引き分けにされるのに満足するとは思われない。

12…Ncb4

13.h5?!

 この手が指し過ぎであることは確かで、形勢は白が完全に悪い。ここでは 13.Ng5! で黒駒を乱す方が良い方針だった。13…Bg4(13…Qd7 はもっと堅実で、14.Nxe6 Qxe6 15.Bc4 c6 でほぼ互角である)14.f3!? Nxe3 15.fxg4 Nxd1 16.Qa4+! c6 17.Qxd1 f6 18.Kb1

で乱戦になる。しかしビショップがc4とe5に来れば白は交換損でも十分戦えるはずである。

13…c6

 これは色々な目的を持った好手である。黒は白枡での締め付けを強め好機の …b5 突きの可能性を作りながら、白が次に何をするのかを見ている。もちろんaポーンはタブーである。13…Nxc3?! 14.bxc3 Nxa2+? 15.Kd2 でナイトが Ra1 で捕まる。

14.hxg6 hxg6

15.Rd2

 これはかなり指し難い手である。しかしあえて言うとトパロフはまともな作戦に詰まって、c2の地点での危険な可能性を避けたかっただけである。たぶんここでも 15.Ng5!? と指すのが良かっただろう。もっとも今度は 15…Bf5 16.Bc4 f6! 17.Nge4 Kf7 となって、…b5 突きの狙いのある分私なら黒を持つ。

15…f6!

 黒は冷静に有用な地点を支配し、…Kf7 の余地を作りつつ白のキング翼ナイトの動きを制限した。

16.Ne4

 このナイトはc5の地点を目指してはいない。もっとも白はこのようにして少なくとも当面は …b5 突きをなくしている。代わりに 16.Be2 Kf7 17.Rh4 は白のキング翼の駒の働きを良くする適切な手段に見える。しかし 17…b5! 18.Ne4 g5! 19.Rh2 g4 で黒がすばやく主導権をしっかり握ってしまう。なぜなら 20.Ne1 Nxa2+ 21.Qxa2 Nxe3 22.Qb1 Nc4 23.Rxh6 Rxh6

は、キングがはるかに安全でルークがh1の地点に侵入する態勢なので黒の方がいくらか優勢に違いないからである。

16…b6 17.Be2

17…Qc8!

 これは先受けであるとともに、相手の手を消すのに役立っている。カームスキーは 17…Kf7 と指したかっただろうが、そうすると 18.Rxh6! Rxh6 19.Neg5+! fxg5 20.Nxg5+ で白が望外の暴れ方ができる。20…Kf6? 21.Be5+! Kxg5

は明らかに黒の好むところではないだろう。

18.Rh4 Kf7

 もうキングが安全にf7の地点に行ける。トパロフは駒の連係がかなり良くないので、全面的に撤退を行なう。

19.Rd1

19…g5!

 全面的にトパロフを圧倒したカームスキーは今が打って出る頃合だと判断した。もっとも冷静な 19…Bf5!? 20.Nc3(20.Nfd2 Qe6 21.Rdh1 Kg7 は白の改良になっていない。20.Ned2 c5! も同様である)20…Qe6 にもひかれたに違いない。実際実戦の手よりも劣るとは思われない。急にe3の地点に露骨な一撃が出現し、21.Nd2 Nc2! 22.Qb3 a4 のあと白の危険な状態が続く。23.Qc4 b5 24.Qc5 Ncb4 25.e4 Nxc3 26.bxc3 Bxd2+ 27.Kxd2 Rxh4 28.Bxh4 Na6

でついに何かが(a2かe4の地点で)落ちる。

20.Rh2 g4

 黒は白駒を押し返し、20…Nxa2+ 21.Qxa2 Nc3 の筋もうまく避けた。22.Qxe6+! Qxe6 23.Nxc3 となると白がクイーンを犠牲に3駒を得てわけの分からない局面になる。

21.Nfd2 c5!

 中央自体だけでなく両翼でも非常に効果的に駒を動員することにより中央を制圧したカームスキーは、局面を解放することによりグリューンフェルトの本来の威力を存分に見せつける。

22.dxc5

 これはトパロフが好き好んで指すような手ではないが、22.Nc4 cxd4 23.Kb1 Kg7!(d6の地点からのチェックをかわした)24.Rxd4 b5 では白の余命がいくばくもない。

22…f5 23.Rxh6

 白はこう指すよりなかった。しかしこの決死の交換損でも白は助からない。白は陣形が非常に悪いのでナイトの安全な逃げ場所は 23.Nc3 しかないが、そうすると 23…Qxc5 24.Kb1 Bg7 で機銃掃射のようなビショップを単純だが非常に効果的に用いることにより、白陣が破壊される。

23…Rxh6 24.Ng5+ Kf8 25.Nxe6+ Qxe6 26.Bc4

 トパロフはc列をふさぎようやくビショップを働かせることにより自分の狙いを作り出すことに期待をかけている。しかしカームスキーは慌てふためくような人間ではなく、落ち着いて試合を締めくくった。

26…Rc8 27.Bf4 Rf6 28.e4

 これは一発逆転を期待した最後のあがきである。代わりに 28.Kb1 は 28…Rxc5 でc4のビショップを狙われ、29.Qb3 Qc6 30.a3(または 30.Be2 Nxf4 31.exf4 Qxg2)30…a4 31.Bxd5 Nxd5 で白の絶望の局面になる。

28…Rxc5! 29.exd5 Qxd5

 白はこのような活発な軍勢を前にして戦力得を長く保つことができないのですぐに勝負がつく。実際トパロフがこれ以上苦難を続けないようにここで投了しても誰も驚かないだろう。

30.b3

 これで黒がクイーン翼に侵入することになるが、30.Qb3 b5 31.Kb1 bxc4 32.Qc3 Qd3+ でも明らかにまったく絶望である。

30…Qd4 31.Be3 Qc3+ 0-1

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(この号続く)

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カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(181)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.2 戦術の狙い所

 色々な戦略の場合と同様にここでの戦法には、特に逆翼キャッスリングの戦型において、戦術にあふれた中盤によくなるので、戦術の体系化にはなじまない(読者は実戦例を参照することによりこのことを検証してみるとよい)。しかし以下の例はきわめてよく生じる二つの主題を紹介している。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(180)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点(続き)

黒が …a6 と …c6 で …b5 突きを準備する

 ゼーミッシュ戦法に対する黒の別の作戦は、白がクイーン翼にキャッスリングするのを思いとどまらせるために …a6、…c6 および …b5 突きによってすぐにクイーン翼で反撃を始めることである。黒は一般に …e7-e5 突きで中原に挑む前に、時にはキャッスリングする前であっても、この反撃を実行する(図244)。

 図244 

 この戦型は前の …Nc6 とはほとんど正反対といっていいほど異なっている。そのときは黒は白をクイーン翼にキャッスリングさせるために Nge2 と指させようとした。ところがここでは逆に黒は白にキング翼キャッスリングを促そうとしている。黒の明示にもかかわらず白はクイーン翼にキャッスリングしようとすることはできるけれども、a4 突きによって相手のクイーン翼の拡張を押さえても押さえなくても通常はキング翼にキャッスリングすることに決める(図245)。

 図245 

 この種の局面では両者はどちらかがe5にポーンを突いたときのなりゆきにたえず注意を払わなければならない。白は相手のクイーン翼での進攻に b3 と突くことによって、あるいは単に放っておいてc4のポーンを取ってきたらc6の黒ポーンに圧力をかけることを見込んで対処することができる。

 黒は一般に …Nbd7 のあと …bxc4、Bxc4 Nb6、Bb3 a5 と指すことにより自分の展開の問題を解決しようとする(図246)。

 図246 

 黒は白のキング翼ビショップの退却の仕方に合わせて自分のクイーン翼ビショップをa6かe6に展開し、自分の中原の支配全般、特にe5の地点を …Nfd7 と指すことにより強化しようとする。

 ポーンの形の柔軟性を考えれば、いろいろな戦略の可能性をこれ以上概説しようとするのは実際的でないのは理解できるだろう。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[76]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

石垣戦法

1.d4 f5 2.Nf3(図119)

 図119(黒番)

 この手によって永続的な陣形上の主導権が約束され、それゆえに 2.e4 よりも信頼できる。

2…Nf6 3.g3

 この手は白のキング翼ビショップを展開する最良の方法である。キング翼方面への黒の予想される攻撃に対する予防措置として白キングの囲いを強化するだけでなく、キング翼ビショップを好所につけて後日の e4 突きの支援にもなる。

3…e6

 別の展開の 3…g6 は後の節で解説する。

4.Bg2 Be7 5.O-O

 この手を遅らせても意味がない。白はクイーン翼にキャッスリングする態勢にない。

5…O-O 6.c4

 白はキングが安全なので中央でさらに陣地を広げた。

6…d5

 この手が石垣という名前の由来である。黒は中央一帯をd5/e6/f5というポーンの三角形(石垣)でせき止め、白のe4の地点を支配している。黒の論理は中央を固定しているので安心して白キングに対して側面での行動を開始することができるというものである。しかしこの黒の論理には以下のように不合理なところがある。

 (a)中央は完全に落ち着いているわけでもなければ、黒が本当に白のe4の地点を支配しているわけでもない。白が適当な時機に f3 突きから e4 突きを行なうことができれば、黒は退却を強いられe6の出遅れポーンも大きな弱点になるかもしれない。

 (b)白がクイーン翼ビショップを黒のキング翼ビショップと交換することができれば、黒は黒枡が悲惨なほど弱くなり、白駒はこれらの黒枡を利用して黒陣にやすやすと侵入できる。たとえこの交換がなくても黒は黒枡が非常に弱い。特にe5とf4の地点がそうで、白駒の安住の地となりかねない。

 (c)黒のポーンは白枡を支配しているように見えるが、自分のクイーン翼ビショップの利きをひどく妨げてもいる。もし収局になればこれは大きな問題になるかもしれない(次の節では 6…d6 を詳しく調べる)。

7.b3

 7.Nbd2 のあと Ne5-d3 および N2f3 と指すのも非常に良い作戦である。白はそのようにしてもうポーンによって守ることのできない黒のe5の地点を支配する。

7…c6

 白枡の石垣陣が完成した。

8.Nc3 Qe8

 黒は白キングの攻撃のために自軍を増強する用意をした。…Qe8-h5 はこの攻撃の鎖におけるよくあるつなぎ手である。

9.Ne5 Nbd7 10.Nd3!(図120)

 図120(黒番)

 これは妙手とも言うべき手である。黒駒は展開に支障をきたしているので、白はどんな駒の交換も避けている(例えば 10.Nxd7? Bxd7)。駒を交換すると黒の窮屈な陣形が楽になるかもしれない。さらにこのナイトは中央のd3の絶好点ですべての重要な黒枡(c5/e5/f4)に目を光らせている。

 もう白の優勢は明らかであると言ってもさしつかえない。そして1970年ソンボルでのヒューブナー対マリオッティ戦では白がこの上ない正確さで優勢を生かしていった。

10…Ne4

 これが黒の作戦である。

11.Bb2 Bd6 12.e3 g5

 黒の「攻撃」が続いている。実際はこの擬似攻勢の手は黒枡における黒の麻痺を悪化させている。

13.f3

 黒が白のe4の地点を支配しているのが幻想だったことを如実に示した。

13…Nxc3 14.Bxc3 Nf6 15.Qe2 Qh5

 黒はできる限りの攻撃をしている。

16.Bb4!

 きわめて重要な黒枡ビショップ同士の交換が達成できた。これで黒は陣形的に負けた!

16…Bxb4 17.Nxb4 a5 18.Nd3 b6 19.Ne5

 ナイトが黒枡に侵入した。

19…Qe8 20.Qd2 h6 21.e4!

 この遅れたポーン突きはその分威力を増している。白は簡単にポーンを取り戻せる。

21…fxe4 22.fxe4 dxe4 23.Qe2 Bb7 24.Bxe4 Rd8 25.Bg2 Rd6 26.Rf2 Qd8 27.Qd3

 黒陣は弱点だらけのがたがたにされた。ここで 27…Rxd4 ならば 28.Qg6+ が必殺の手になる。もし黒が 27…Qe8 で白クイーンの侵入を防げば 28.Raf1 Kg7(28…Nd7 なら 29.Rf7!)29.Ng4 Nd7 30.Rxf8 Nxf8 31.Qe3(e5での決め手のチェックを狙う)31…Ng6 32.Nf6 Qe7 33.Nh5+ Kh7 34.Be4 で、黒は収拾がつかない。実際黒は形勢を悲観して白の27手目のあと戦うことなく勝負をあきらめた。

 米国の偉大なマスターのピルズベリーは19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて活躍したが、あるとき熱狂的なチェス好きの医者と話に及んだ。医者はピルズベリーがポーン構造の長所と短所を見分ける速さにびっくりしていた。

 そこでピルズベリーは医者にポーン構造はすべての陣形の骨格であると言った。そしてちょうど医者が一目で病気の骨格の欠陥を認識することができるように、チェスマスターは弱点まみれの黒陣を見ればすぐに負けであると片付けるものだと説明した。ここでの状況は次のように細かく分析することができる

 (a)黒のgポーン突きは白に攻撃目標を提供する(例えば h4 突きによって)。さらに黒のgポーンの背後の枡(f6/g6)はすべてポーンで守られず、白駒が吸い寄せられる真空地帯になる。既に白のクイーンとナイトは黒のg6の地点をにらんでいる。

 (b)黒の出遅れ孤立eポーンの前にしっかりと根を下ろした白のナイトの不可侵性をよく見ることである。白の唯一の弱点は素通し列上のdポーンだが、黒は自分の弱点の守りに汲々としているので白の弱点につけ入っている暇がない。もし黒のgポーンがg7に、そしてhポーンがh7にあったら、黒の唯一の陣形の欠陥はeポーンで、引き分けにできる可能性があるだろう。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(179)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点(続き)

逆翼攻撃

 図240に戻って、白はd4の地点の大局的機微について無視することにし、代わりにキング翼攻撃を企てることによって局面を激しくすることもできる。機会が得られれば白は標準的な攻撃手段の Qd2、h2-h4-h5 を指す。そして黒が …Nxh5 と取ってくれば g4 突きから Bh6 と指し、取らなければ hxg6 から Bh6 と指す。このような作戦は当然白がクイーン翼にキャッスリングすることを意味する。

 黒は通常はキング翼での先受けをしようとしまいと、…a6、…Rb8 から …b5 のような手によってクイーン翼での反撃を策する。もっとも今日では白の h4 突きに …h5 と突いてこのhポーンがさらに進むのを防ぐのが普通である(図243)。

 図243 

 …b7-b5 突きに続いて黒は …Nc6-a5 で白のcポーンに対する圧力を強めることができる。しかし …b5xc4 と取る方がもっと多い。その意図は …Nc6-b4 と指して(…Nd3+ の狙い)、自分のcポーンが自由に進めるようにしその結果クイーンがd8-a5の斜筋を通って攻撃に加われるようにすることである。…e7-e5 突きも時々黒の作戦に含まれることがある。その目的は予想される白の中央での進攻を防ぐことと、Ne2 をf4の地点に来させないことである。

 白の方は黒キングの防御を弱める三つの主要な手段がある。(1)g2-g4 突き(黒の …h7-h5 突きのあと筋を空けるためにほとんど常に犠牲として指される)(2)Bh6 による黒のフィアンケットビショップとの交換(この手は黒の …h7-h5 突きを防ぐのにも役立つ)(3)Nc3-d5 による黒のキング翼ナイトとの交換

 この逆翼攻撃の急戦調の局面では、試合の結果がたった一手に左右されることがあるので、上記のすべての着想の有効性が局面の具体的な特徴に大きく依存していることを理解するのはたやすい。だからこの戦法を実戦で用いたい人は具体的な定跡手順も研究した方が良い。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

名著の残念訳(9)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 253ページ
『フィッシャーの意外な 4.Bxc6 -エマヌエル・ラスカーのエクスチェンジ変化の復活- は、ラスカーが1914年のサンクトペテルブルグ大会でアリョーヒンやカパブランカを倒すために使われたが、その後すたれていた。白に強制的な応手を指させて互角にする方法がすぐに発見されたからである。』

英文『Fischer’s surprising 4.Bxc6, a revival of Emanuel Lasker’s Exchange Variation – the one he used at St. Petersburg in 1914 to defeat Alekhine and Capablanca, but which subsequently fell into desuetude because ways to equalize were rapidly discovered – drew from his opponent the obligatory response.』

a revival … Variation は主部の Fischer’s surprising 4.Bxc6 と同格、- で挟まれた the one … rapidly discovered は挿入句だから述部は drew from his opponent the obligatory response である。つまり Fischer’s surprising 4.Bxc6 drew from his opponent the obligatory response (フィッシャーの意外な 4.Bxc6 は相手に強制的な応手を指させた)が本体である。opponent(相手)とはもちろん白でなく黒のことである。

試訳『エマヌエル・ラスカーの交換戦法を復活させるフィッシャーの意外な 4.Bxc6 -これはラスカーが用いて1914年のサンクトペテルブルグ大会でアリョーヒンとカパブランカを負かした手だが、互角にする手段がすぐに発見されたためにすたれていた- は相手から決まり切った応手を引き出した。』

56 フィッシャー変化 253ページ
『しかし、フィッシャーの次手 <<5.O-O!>> は良くないと見なされていたし、(通例的に見える)6手目 <<6.d4>> が7手目でギャンビットに構えるための準備だったとは誰にもわからなかった。』

英文『Fischer’s next move, regarded as inferior, and his sixth (the customary follow-up) prepared no one for the gambit which he introduced on move seven.』

regarded as inferior と the customary follow-up は挿入句だからこれを取り除くと主部は Fischer’s next move and his sixth(フィッシャーの6手目と7手目)で、述部は prepared no one for the gambit である。prepare A for B には「A(人)にB(事)の覚悟[準備]をさせる」という意味がある。

試訳「良くないとみなされていたフィッシャーの次の手と(通例の継続手の)6手目が7手目でギャンビットに打って出るためであったとは誰も予期しなかった。」

60 チャンピオンが相まみえて 278ページ
『電気が復旧すると 26…Nd3? がはっきり見え、27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! 弱い黒マスへの侵入で決められるとわかった。』

英文『Then the lights came on again and I saw clearly that 26…Nd3? was crushed by 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! and White penetrates decisively on the weak dark squares.』

saw の目的語は that 26…Nd3? was crushed by 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! である。saw が過去形なのでそこは対局中のことで、penetrates が現在形なのでそこは執筆時点での考えである。

試訳「それから再び照明がつくと 26…Nd3? は 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! によって粉砕されるとはっきり分かった。そして白は弱い黒マスに堂々と侵入することになる。」

2011年08月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

王印防御の完全理解(178)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点(続き)

待機策

 この方策は黒が …e5 または …b5 と突くのを余儀なくされる前に指せる手が限られている(…a6、…Rb8、…Re8、…Bd7)ということに基づいている。この間に白は標準的な Qd2 から b2-b4 と突く(a3 と突いたり Rb1 と寄ったりして準備する)のが一般的である。このポーン突きにはさらに b4-b5 と突いて黒の作戦を邪魔する狙いが生まれるかもしれない。

 既に述べたように黒が …e5 と突けば白は d5 と突いてナイトをe7の地点に引かせることができ、ナイトでd4の地点を占拠する黒の作戦を帳消しにすることに成功する。一方黒が …b5 と突けば白の主要な構想は cxb5 axb5、d5 Ne5、Nd4 でb5に黒の弱いポーンを残すことである(図242)。

 図242 

 このような状況では黒は一般にbポーンを犠牲にして …e6 突きで局面を開放的にすることにし、自分の展開の優位と白のキャッスリングしていないキングを利用することに努める。

(この章続く)

2011年08月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(177)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点(続き)

白が …Nd4 と跳ばせる

 白がキング翼ナイトを動かしたとき(通常はc1の地点に)、黒は …e7-e5 と突き白が d4-d5 突きで中原を閉鎖したあとd4の地点を占拠することができる(図241)。

 図241 

 白は Nc1-b3(Nc1-e2 もある)によって Nd4 に挑む。そして黒はナイト同士を交換しないならば …c5 突きによってd4のナイトを守り、dxc6e.p. bxc6、Nxd4 exd4、Bxd4 でポーンを犠牲にするつもりである。白が黒枡ビショップを失っていないし図238のようにクイーン翼にキャッスリングしていないにもかかわらず、黒には白がキング翼ナイトに手数をかけたことによるポーンの代償がある。

(この章続く)

2011年08月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(231)

「Chess Life」2011年4月号(7/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

地元勢を踏みつぶす

 オランダのエルウィン・ラーミとヤン・スメーツは順位の底の方を占めると見られていた。しかし二人とも世界の強豪相手に経験が豊富な実力ある選手たちである。彼らに対するナカムラの戦略は完璧だった。ラーミ戦では一直線に収局を目指し、スメーツ戦では定跡の戦いに持ち込んだ。

白 GMエルウィン・ラーミ(FIDE2628、オランダ)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第6回戦、2011年1月21日

 32.g4

 収局に入ったときナカムラは引き分けを提案した。しかし双ビショップのラーミは試合を続けることにした。それ以来白は全面的に圧倒されて、32…a4! のあとラーミは重大な事態になっていることにきづいた。33…b4! 34.Bxa4(34.axb4 Nxb2!)34…Nxb2!! が迫っている。

33.e4! fxe4 34.fxe4 Ndb6

35.e5

 白はポーン損になる。しかし白が 35.d5! exd5 36.e5! dxe5 37.Nxe5 Nxe5 38.Bxb6

という手段を見つけていたら双ビショップが本領を発揮するようになるので黒は勝てそうもなかった。

35…Be4 36.exd6+ Kxd6 37.Bg3+ Ke7

 これで白のbポーンが助からず、それと共に勝敗も定まる。

38.Kd1 Bxd3 39.Bxd3 Nxb2+ 40.Ke2 Nd5 41.Be4 Nc3+ 42.Kf3 b4 43.Be1 Nbd1 白投了

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(この号続く)

2011年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(176)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点(続き)

d4の地点をめぐる戦い

 上述の考察から …Nc6 という手がd4の地点の支配をめぐる戦いの始まりの合図であることが理解できるだろう。その戦いではこれから見られるように黒は好機を待って …e7-e5 と突き、相手の d4-d5 突きに …Nc6-d4 と応じられるようにする(いくつかの特殊な場合にはポーンを犠牲にすることもある)(図236)。

 図236 

 黒はまだ …e5 突きを狙ってはいない。なぜなら d5 Nd4、Nge2(黒枡ビショップを手放す犠牲を払ってポーン得するのは白にとってほとんど常に高い代価を支払うことになることが実戦で証明されている)となってナイト同士の交換を余儀なくされ、不利なゼーミッシュ中原に戻るだけだからである。

 白の方は展開の完了にいくらか問題を抱えている。というのは Bd3 から Nge2 と指すことによりキャッスリングの融通性を維持しようとすると、例えば Bd3 e5!、d5 Nd4、Nge2 Nd7 と応じられ(図237)

 図237 

中央に居座った黒の強力なナイトが白にとって問題となるからである。

 一方白が最初に Qd2 から O-O-O と指すことによってキング翼での選択肢を保留しようとすれば、黒は(白がクイーン翼にキャッスリングしたあと)…e5 と突くことができ、d5 Nd4、Nge2 のあともうナイト同士を交換する必要がない。なぜならほぼ強制的に …c5、dxc6e.p. bxc6、Nxd4 exd4、Bxd4 でポーンを捨ててb列を素通しにし有望になるからである(図238)

 図238 

 このポーンの犠牲は白が黒枡ビショップを手放す必要がなかったにもかかわらず、黒が白キングに対する攻撃にかなり期待できるので成立する。

 図236に戻ると、白が先に d4-d5 と突くのは黒にe5の地点を譲ることになる。黒のナイトはe5の地点から …c6、…a6 および …b5 突きで白の中央ポーンへの攻撃を強めることができる(図239)

 図239 

 付記すると黒は …c7-c5 突きでアベルバッハ中原を形成することも考えることができる。

 これまでのことをすべて考慮すると、黒のd4の地点の占拠を迎え撃つ白の最も自然な手段はキング翼ナイトをe2の地点に展開することであることが明らかになる(図240)

 図240 

 この展開の背後にある論理は単純である。それはもしここで黒が …e5 と突いてくれば白は d5 と応じることができ、黒はナイトをe7の地点に引くことによりゼーミッシュ中原を受け入れざるをえないということである。だからこの場合d4の地点を支配しようとする黒の作戦は明らかにうまくいかない。それでも黒には重要な利点がある。それは白がe2のナイトを動かすと …e5 と突かれるので動かすことができないということで、その結果として明らかに非常に重要なことであるが、白がキング翼にキャッスリングできなくなっている。これはつまり白がキャッスリングについての融通性を保持するのを防いで黒がクイーン翼での反撃(…a6、…Rb8、…b5-これは図90でc列の開通に対する応接と構想的に同じである)を策することができるということである。

 図240で概説した状況では白はd4の地点の問題を3とおりの方法で解決に努めることができる。(1)Ne2 を動かすことによりキング翼の展開の障害にならないようにする。もっともこれで黒が …e5 突きから …Nd4 と指すことができる。(2)黒が …e5 と突かなければならなくなるよう期待して待機の方針を採り、そのとき d5 突きで …Ne7 と引かせる。(3)キング翼ナイトをe2に置いたまま Qd2、O-O-O から h4 と指すことにより逆翼攻撃に突き進む。

 本書の執筆時点でこれらの三つの選択肢の相対的な利点は適切には判断できない。そこで以下ではそれらの基本的な根底をなす戦略の説明にとどめることにする。

(この章続く)

2011年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(175)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原(続き)

7.1 戦略の着眼点

 この型の中原を根底から支える戦略の主眼を読者が最も手っ取り早く理解する方法は、既に分析したいくつかの局面を再び考えてみることである。手始めに図90はゼーミッシュ戦法に対する主手順の出発点になっている。その戦型での黒の展望は必ずしも常に完全に満足のいくものではなかった。それはc列の開通に対して白が振る舞える融通性(図93の解説を参照)によるものであった。この時点で白にとっての黒枡ビショップの重要性を思い起こすために図98を参照することも有益であろう。最後に、図90に戻って黒のクイーン翼ナイトがb8でなくd4にいるものと想像すれば、6…Nc6 の根拠となる戦略構想が理解できてくる。

(この章続く)

2011年08月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(136)

「Chess」2011年6月号(1/9)


左上から時計回りにべセリン・トパロフ(ブルガリア、2775)、ウラジーミル・クラムニク(ロシア、2785)、レボン・アロニアン(アルメニア、2808)、シャフリヤル・マメジャロフ(アゼルバイジャン、2772)、ガータ・カームスキー(米国、2732)、テイムル・ラジャーボフ(アゼルバイジャン、2744)、アレクサンドル・グリシュク(ロシア、2747)、ボリス・ゲルファンド(イスラエル、2733)

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挑戦者決定競技会

カザン流!しかしこれまでのところあまり魔法はなし

記 ジョン・ソーンダーズ

 タタールスタン共和国の首都カザンで5月3日から27日まで開催されたFIDE世界選手権挑戦者決定番勝負は始まる前からマグヌス・カールセンの不参加のために「プリンスなきハムレット」となることが約束されていた。本誌の原稿締め切り時点の第2「幕」(準決勝)の終わりまでには主要な登場人物が全然いないハムレットのようなものになった。脇役のローゼンクランツとギルデンスターンが意外にもまだ健在で、中央の舞台に踊り出て決勝戦を争うことになった。

 シェークスピアのおぞましい悲劇のような殺戮戦が多発したということでないことはもちろんである。4番勝負の準々決勝(それが四つ)、そして4番勝負の準決勝が二つなのに、正規持ち時間の24局中勝負がついたのはたった2局だった。6番勝負の決勝戦はしょっぱなから3試合連続引き分けだった。だから本号の印刷時点で27局中勝負がついたのは2局ということになる。

 何が良くないのか-方式かそれともグランドマスターたちか?たぶん両方少しずつなのだろう。1960年代からの10/12番勝負の挑戦者決定戦を覚えている我々はもう何年もがっかりさせられていて、こんな情けないほど不十分なミニ番勝負に幻滅して首を横に振らざるを得ない。始まるやいなや終わってしまい、「ドタバタ試合」で勝敗が決まったり、非美的なブリッツのくじで決まったりする。こんな時代に権力者たちが世界チャンピオンを決めるのに12番勝負で十分と考えているわけで、それすらも適切だとは思えない。

 嘆きはこのくらいにして現実を見ていこう。


挑決準々決勝第2回戦の試合開始を待つ選手たち

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(この号続く)

2011年08月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(174)

第7章 ゼーミッシュ戦法現代中原

主手順 - ゼーミッシュ戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3 O-O 6.Be3 Nc6(図235)

 図235(白の手番) 

 この主流戦法に加えて、以下の戦型も考慮に入れる。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 の後

 ゼーミッシュ戦法
 - 5.f3 O-O 6.Bg5 Nc6
 - 5.f3 c6 6.Be3(または 6.Bg5 a6)6…a6

(この章続く)

2011年08月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(173)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.3 実戦例(続き)

 図234(再掲)白の手番 

 黒が黒枡から白を致命的に麻痺させるのが局面の流れにふさわしい。ナイト対ビショップ収局が白にとってわずかな生き残りの可能性もないことを考えれば、白は容赦なく手詰まりに陥る。

36.b5 Kg8!

 36…b6 は駄目で、37.a5 Qxa5 38.Qg5 で白がまだ希望が持てる。

37.Kh2 b6 38.Kg2

 ここでの 38.a5 は単純に 38…bxa5 と応じられる。

38…h6 39.Kh2 g5 40.Kg2 Ng6 41.e5 Nf4+ 42.Kf3 Qxe2+ 43.Kf3 Qxe2+ 44.Qxe2 Nxe2 45.exd6 Nd4+ 0-1

 45.Ke4 には 45…Nb3 で黒の勝ちである。

(この章終わり)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[75]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

スタントンギャンビット

1.d4 f5 2.e4(図117)

 図117(黒番)

 スタントンギャンビットは19世紀中頃に活躍したイギリスの偉大なマスターのハワード・スタントンにちなんで名づけられた。これはオランダ防御に対する最も攻撃的な応手である。黒の初手は展開に何も寄与していないので、白は自分の展開の効率を最高にするためにポーンを犠牲にしてもかまわないと考えている。しかしこのギャンビットはせいぜい互角の形勢しかもたらさない。2.Nf3 の方が良い手で、以降の3節で考察する。

2…fxe4

 黒は受諾することによってのみ白のギャンビットを検証することができる。(黒の4手目の解説も参照)

3.Nc3

 この手は展開しながら黒の前の方のeポーンを当たりにしている。

3…Nf6

 同様に黒も展開しながら得したポーンを守った。

4.f3

 これで本当のギャンビットになる。白はポーンを取り返す望みをすべて放棄し、迅速に展開して黒キングを素早く攻撃することにかけた。4.Bg5 と指すこともでき、4…Nc6 5.d5 Ne5 6.Qd4 Nf7 が最善の応接である。

4…exf3

 黒は 4…e3 か 4…Nc6 で自発的にポーンを返すこともできた。しかしそのような手は白のギャンビットの正しさを検証することにはならない。

5.Nxf3

 5.Qxf3 も可能だが自分のキング翼ナイトからf3の地点を奪ってしまう。f3の地点はこのナイトの最も自然な展開先である。

5…g6

 この手はキングの囲いを強化している。そして …Bg7 からすぐに …O-O でキングを隅にしまい込む準備にもなっている。そうなれば素通しのe列とf列での白の圧力からずっと遠ざかることになる。

6.Bf4

 この展開は良い手で、Qd2 から O-O-O の準備にもなっている。

6…Bg7 7.Qd2 O-O

 両者とも作戦どおりに指し進めている。

8.O-O-O

 反対翼キャッスリングはいつでも非常に激しい戦いになる。白は Bh6 から h4-h5 のように指し、たぶんもっとポーンを犠牲にして黒キングに肉薄する。一方黒は …d5、…c5 そして …Qa5 と指すことにより自分の可能性を温存し、g7のビショップで白キングの砦に圧力をかけつつルークのためにc列を素通しにすることに努める。

 この局面での間違った作戦はすぐに 8.Bh6 と指すことで、1953/54年ヘースティングズでのブロンシュテイン対アレグザンダー戦では 8…d5 9.Bxg7 Kxg7 10.O-O-O Bf5 11.Bd3 Bxd3 12.Qxd3 Nc6 と進んだ。白は戦力損なのに多くの駒を交換しすぎる誤りを犯した。12…Nc6 のあと黒はポーン得で陣形もしっかりしていて、試合に勝ちを収めた。本譜の 8.O-O-O は駒の早すぎる交換を避けているのでもっと強手になっている。

8…d5

 黒は中原に足場を築いた。これは絶対必要だが自分のe5の地点を弱めていて、白は次の手ですぐにそこを占拠した。

9.Ne5 Nbd7(図118)

 図118(白番)

 黒はe5の拠点にいる白ナイトに挑んだ。この局面では白は陣地が広く駒の働きも活発である。おまけに Bd3 から h4 突きで攻撃することもできる。しかし代わりに黒は中央にポーンが1個多くあるので展望はほぼ互角である。だがこのことは試合が引き分けに終わりそうであることを意味していない。意味しているのは局面が非常に不均衡なのでどちらにも同等の勝つ機会があるということである。9手目までの局面はブロンシュテイン対アレグザンダー戦を改良しようというロシアの研究手順である。

 スタントンギャンビットは黒が間違えれば白が攻撃で圧倒することができるが、黒が正確に受ければ白にはあまり優勢が約束されないと結論づけなければならないだろう。しかしこのあと分析する大局観に基づいた指し方よりも、心理面で大きな有利さがある。オランダ防御を指す者は白キングを攻撃したがっている。犠牲にしたポーンの代償として相手が攻撃側になれて、自分が難しい受けに回らなければならないならば、明らかに心理的に面白くないだろう。だからこちらを攻撃したがっている誰かを動揺させるためにはスタントンギャンビットを試してみるとよい。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(172)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.3 実戦例(続き)

 図233(再掲)白の手番 

 ここは勝負どころである。黒は 16.Qxd6 Qxd6 17.Rxd6 Nxe4 18.Nxe4 Bxa1 19.Bf6 Bxf6 20.Nxf6+ Kf8 21.Nxe8 Kxe8 によって互角になる単純化を誘っている。それと同時にナイトを釘付けからはずすことにより主眼の捌きの …Nf6-d7-e5 で白のcポーンへの圧力を増すことも狙っている。また、a7-g1の斜筋に沿った副次的な狙いも考慮に値する。例えば 16…Qb6+ 17.Be3(17.Kh1 なら 17…Qxb4 18.Bxf6 Bxf6 19.Nd5 Qb2[訳注 このあと 20.Rab1 Qd4 21.Rb4 で白が勝勢なので、正着は 17…Nh5 でほぼ互角のようです])17…Qxb4 18.Rab1 Qa5 19.Rxb7 Nd7 で激しい戦いになる。

16.Rab1?

 b6の地点からのチェックを気にした白は …Nf6-d7-e5 の捌きの強力さを過小評価した。いくらかの優勢を維持するには一つの手段しかなかった。それは 16.Rac1! で、16…Nd7(ここでの 16…Qb6+ はうまくいかず、17.Kh1 Qxb4 18.Bxf6 Bxf6 19.Nd5 Qb2 20.Rc2 で白の勝ちになる)17.Nd5! cxd5 18.cxd5 Qb6+ 19.Be3 Bh6 20.Bxb6 Bxd2 21.Rxd2 となれば白が陣形的に明らかに優勢である。

16…Nd7 17.Nd5

 黒のナイトの捌きに対して白は明らかにこの戦術的応手に期待をかけていた。しかしこの応手には欠陥があり、白はしだいに不良ビショップ対優良ナイトの収局にはまっていった。

17…cxd5 18.cxd5 Bg4!

 黒はd列を閉鎖したままにするうまい手段を見つけた。

19.h3

 19.fxg4 と取るのは 19…Rxe4 でもっと悪い。

19…Bxf3 20.gxf3 Ne5

 この手のあと黒がいくらか優勢のように思える状況になった。そしてこのことが白にすぐに影響を及ぼした。

21.Kg2?!

 ここは 21.Rbc1 の方が良くて、21…Qb6+ 22.Be3 Qd8 で黒が少し優勢なだけだった。

21…f5 22.Rbc1 Qd7 23.Be3?

 白は自分の苦境の深刻さを正しく認識できなかった。そして実戦の消極的な手で黒に陣形の優位から恒久的な優勢を獲得させた。ここは 23.f4 Nf7 24.exf5 Qxf5 25.Bg4 のようなもっと積極的な受けが必要だった。

23…fxe4 24.fxe4 Qe7

 白はひ弱なeポーン、吹きさらしのキング、それに黒枡全般の弱点で悩んでいる。一方黒は絶好のせき止め地点のe5を完全に支配している。

25.Bg5 Bf6

 この手で優良ナイト対不良ビショップの収局の亡霊が出てきた。

26.Bf4 Nf7 27.Bd3 Bg5

 悪夢がいよいよ現実になってきた。

28.Re1 Bxf4 29.Qxf4 Ne5 30.Be2 Rac8 31.Rxc8

 31.Bg4 は駄目で、31…Rxc1 32.Rxc1 Nd3 33.Be6+ Qxe6 で黒が勝つ。

31…Rxc8 32.Rc1 Rxc1 33.Qxc1 Kg7

 グランドマスター同士の対局ではあとは本当に単なる技術の問題である。

34.Qe3 Qh4 35.a4

 これで黒がきれいな手詰まりの局面を作ることができる。しかし白はしょせん負けである。例えば 35.Bf1 なら 35…Kf6(狙いは …Qg5+ で、そうなれば白は形ばかりの抵抗しかできなくなる)36.Qe2 Qf4 で、白はこのあとの …h7-h5-h4 と突いてくる手に対処できない。

35…Qe1!(図234)

 図234 白の手番 

(この章続く)

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名著の残念訳(8)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

45 過去の亡霊 205ページ
『シュタイニッツはオーストリアのモーフィー(両者の棋風はほとんど似ていないが)の異名を持ち、フィッシャーに多大な影響を与えた。』

棋風がほとんど似ていないのに(風貌も似ていない)オーストリアのモーフィーと異名を付けられることなどあり得るのだろうか?

英文『Steinitz, nicknamed “the Austrian Morphy” (although two styles could hardly be more dissimilar), apparently exercises a great influence on Fischer,』

シュタイニッツは元々はものすごい攻撃的な棋風だった。1872年ころ Lowenthal は次のように書いている。「Mr. Steinitz may be fairly regarded as the present occupant of the exceptional position formerly held by Mr. Morphy」しかし1873年になると棋風が positional play にほとんど変化した。だから過去においてはシュタイニッツとモーフィーの棋風がもっと違っている(more dissimilar)ことはほとんど不可能だった(could hardly)。

試訳「シュタイニッツはオーストリアのモーフィーという異名(両者の棋風はそう形容する意外ほとんど不可能なほど似ていたが)を持ちフィッシャーに多大な影響を与えた。」

各章にあるエバンズの導入文はチェスの歴史や事情に詳しくない人のために書かれたものではない。チェスに詳しい人でないと何のことを言っているのか見当がつかないことが多い。

51 搾取 230ページ
『フィッシャーはアメリカから電信でこのカパブランカ記念大会を戦った。』

英文『Fischer competed in this Capablanca Memorial Tournament by long-distance telephone,』

long-disance telephone とは文字どおり長距離電話のことである。

試訳「フィッシャーはアメリカから長距離電話を使ってこのカパブランカ記念大会を戦った。」

57 気分転換 259ページ
『ラルセンは、続く終盤戦での意外な一撃を放つために、彼にしては珍しく早期のクイーン交換に持ち込む。フィッシャーはその一撃をはね返し(13…b6)、細心の注意を払って防御し続けた。』

13…b6! の解説中にある 14.Nxa7!? がその一撃らしいが、そんなに打撃力のある手なのだろうか。ラルセンの読み筋どおりに進んでもフィッシャーの解説の 16…Rd7! で「ポーン損でも黒が十分指せる」ので大したことがなさそうである。13…b6 も「はね返し」たのではなく、その「一撃」を指させなかっただけなのだろう。

英文『Larsen, uncharacteristically, forces an early exchange of Queens so that he can spring a surprise in the resulting endgame. Fischer beats him to it(13…b6) and proceeds to defend with meticulous care.』

spring a surprise は「突然驚かす、びっくりさせる」という意味である。beat a person to it は「(人の)先手を打つ、(人を)出し抜く」という意味である。

試訳「ラルセンは彼らしくもなく早々と強制的にクイーン同士を交換して、それによってもたらされる終盤戦で意表の手を放とうとした。フィッシャーはその裏をかき(13…b6)細心の注意を払って防御を続けた。」

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王印防御の完全理解(171)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.3 実戦例(続き)

 図232(再掲)黒の手番 

 黒の主要な目的は黒枡で活動できるようにすることで、e4とc4のポーンに圧力をかけることにより白に f2-f3 および b2-b3 と突かせるように努めていく。もちろん白が非常に寛大ならば …d6-d5 と突く仕掛けの可能性にも気を配る。白の作戦は黒の弱いdポーンへの攻撃を軸に進めていくことである。

10…Qe7

 黒はd6のポーンを守りe4の地点に圧力をかけ始めた。

11.Bg5 Nc5 12.f3 Re8

 代わりに 12…Qc7 も指されている。例えば 13.b4 Ne6 14.Nxe6 Bxe6 15.Bf4 Ne8 15.c5 Be5 16.Bxe5 dxe5 で面白いことに単純化中原へ移行する。

 実戦の手のあと白は 13.Qd2 とは指せない。なぜなら黒が白クイーンの過負荷につけ込んで狙い筋の 13…Nfxe4! でどの変化でも優勢になるからである。

13.b4

 白は決然と形を決めてきた。この手はc4の地点とh8-a1の対角斜筋を弱めている。13.Kh1 と寄って Qd2 と指すことができるようにすることも考えられる。

13…Ne6 14.Nxe6 Bxe6 15.Qd2

 15.c5? は 15…dxc5 16.e5 Bf5 とされて駄目である。

15…Qc7(図233)

 図233 白の手番 

(この章続く)>

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王印防御の完全理解(170)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.3 実戦例

第10局
フターチュニク対ナン
エービク、1983年
オーソドックスシステム

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3

 オーソドックス中原は時々アベルバッハ戦法経由で到達することがある。例えば 5.Be2 O-O 6.Bg5 Nbd7 7.Qd2 c6 8.Nf3 e5 9.O-O exd4 10.Nxd4 Nc5 11.Bf3 Qb6 という具合である。

5…O-O 6.Be2 e5 7.O-O

 白はキャッスリングの前でも後でもこの時点で Bc1-e3 と指すことによってグリゴリッチシステムを選ぶことができる。白のキャッスリングの有無によらず黒はオーソドックス中原を生じさせることができ、解放のための …d6-d5 突きの達成を目指すことが多い。例えば(1)7.Be3 exd4(7…h6 と突いて …Ng4 を狙うのは面白い手待ちである。その根拠は自然な 8.h3 突きのあと黒が 8…exd4 9.Nxd4 Re8 10.Qc2 Qe7 でe4の地点に厄介な圧力をかけることができることにある。というのは 11.f3 突きは黒のキング翼の黒枡を弱めるからである)8.Nxd4 Re8 9.f3 c6 10.Qd2(これはクイーン翼ビショップを守ってeポーンでd5での交換をできるようにするためである。10.O-O は次の(2)の戦型に移行する)10…d5 11.exd5 cxd5 12.O-O dxc4 13.Bxc4 a6 黒は完全に陣形で互角になった。もっともまだ展開で追いつかなければならない。(2)7.O-O c6 8.Be3 exd4 9.Nxd4(9.Bxd4 は 9…Re8 10.Qc2 Qe7 11.Rfe1 Nbd7 となって黒がc5とe5の地点を利用していくことができ、十分指せる)9…Re8 10.f3 d5 11.cxd5 cxd5 12.Qb3 dxe4 13.Bc4 Rf8 14.Rad1 Qe7 15.fxe4 Nc6 形勢はほぼ互角である。

7…Nbd7

 ここで黒がすぐに …d6-d5 と突いて中原を清算しにいくのは危険である。例えば 7…exd4 8.Nxd4 Re8 9.f3 c6 10.Kh1 d5(10…Nbd7 の方が良く、11.Nc2 Nb6 12.Bg5 h6 13.Bh4 Be6 14.b3 となって図230の局面になる)11.cxd5 cxd5 12.Bg5! dxe4 13.Ndb5! Qxd1 14.Raxd1 Na6 15.fxe4! で白の狙いが受からない。グリゴリッチシステムの類似の戦型と比較してクイーン翼ビショップの手得が大きな意味を持っていることに注意して欲しい。

8.Qc2

 オーソドックスシステムの基本指定局面は 8.Re1 c6 9.Bf1 a5(9…Ng4 は 10.h3 exd4 11.Nxd4 となって後述の戦型(2)に移行する)10.Rb1 exd4 11.Nxd4 Re8(同じ局面は別手順の 8.Re1 c6 9.Bf1 exd4 10.Nxd4 Re8-10…Ng4 についてはこのあとの変化を参照-11.Rb1 a5 からも生じる。この手順中白は 11.Bf4 Nc5 12.Qc2 Ng4 13.Rad1 と指すこともでき少し優勢である)このあと黒は例えば 12.f3 d5 または 12.Bg5 h6 13.Bf4 Nc5 14.f3 d5 で解放の …d6-d5 突きの作戦を続けることができる。

 重要な別の作戦は黒枡での積極的な活動を目指す 8.Re1 c6 9.Bf1 exd4 10.Nxd4 Ng4 である。ここからは例えば

 (1)11.Qxg4 Bxd4 12.Qg3 Nf6 13.Qd3 Qb6 14.Be3 Bxe3 15.Rxe3 Ng4 16.Re2 Qc5 17.Rd2 Rd8 18.Rad1 Be6 19.Qg3 Ne5 双方とも指せる分かれである。

 (2)11.h3 Qb6 12.hxg4(12.Nce2 は 12…Nge5 13.b3-13.Qc2 は 13…Qb4 で良くない-13…Nc5 で黒が有利である。例えば 14.Ng3? Ned3! 15.Bxd3 Bxd4 で黒が勝つ)12…Qxd4(12…Bxd4 は 13.Be3 Bxe3 14.Rxe3 Qc5 15.Be2 Qe5 16.Qd2 Nf6 17.g5 Ne8 18.Rg3 で白がいくらか優勢である)13.Be3(13.Bf4 と 13.g5 も可能である)13…Qe5 14.Qd2 Qe7 15.Rad1 Ne5 16.f3 Be6 17.b3 Rad8 どちらにも有利になる可能性がある。

8…c6

 黒はb5の地点の支配を相手の手に渡さないように注意しなければならない。例えば 8…a5?! は 9.Rd1 exd4 10.Nxd4 Nc5?! 11.Ndb5 で白が陣形的にはっきり優位に立つ。

9.Rd1 exd4

 黒は中原の形を決めオーソドックス中原を生じさせた。争点を維持するのは白に他の中原を生じさせる機会を与える。例えば 9…Qe7 10.d5 ならペトロシアン中原になるし、9…Re8 10.dxe5 dxe5 なら単純化中原になる。

10.Nxd4(図232)

 図232 黒の手番 

(この章続く)

2011年08月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(230)

「Chess Life」2011年4月号(6/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ずぶとさ(続き)

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMルスラン・ポノマリョフ(FIDE2744、ウクライナ)
ベイクアーンゼー Aグループ 第5回戦、2011年1月20日

 30…Qd4

 この試合には主導権を得ようとするナカムラの感覚がよく現れている。黒の狙いの …d6-d5 突きを目前にして白陣は既に憂慮すべき状態になっている。しかしナカムラは 31.Ne5! Bxe5 で打って出た。ポノマリョフはポーン得の安全策を選んだ。31…dxe5! 32.Rd1 exf4 33.Rxd4 Rxd4 とクイーンを捨てて有利な陣形を築く危険を犯す気にはならなかった。

32.fxe5 Qxe5 33.Ng4 Qg7 34.Rd1

 ナカムラは受けに回るよりも黒ポーンに対して圧力をかけ、ポノマリョフは難しい決断を迫られた。

34…h5

 ここでの 35…d5 には 36.c5! がある。

35.Nf2 Qe5 36.Re1 Qd4 37.Rd1 Qe5 38.Re1 Qf5 39.Be4 Qc5 40.Qb2 Qg5 41.Bd3 e5 42.Ne4 Qe7 43.Rf1 Kg7 合意の引き分け

 規定手数がすぎて陣形がほぼまとまったにもかかわらず、ポノマリョフはまだ圧力にさらされていて、引き分け提案に逃げ込んだ。ポーン損の代わりに漠然とした狙いしかないのでナカムラには拒否する理由がなかった。

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(この号続く)

2011年08月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(169)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所(続き)

白の擬似捨て駒の Nd5 跳ね

 既に述べたように白は自分自身の狙いを作り出すことよりも、主に陣形の優位を強固にし相手の戦術の狙いを防ぐことに関心がある。しかし白にも黒のクイーン翼ビショップがe6の地点にいることに基づいた、色々な態勢で非常によく起こる狙い筋が一つある(図231)。

 図231 

 ここで白は Nd5 と指すことができる(黒が取ってくれなくても効果的な手である)。なぜなら …cxd5、exd5 で通常は有利な態勢で駒を取り返すことができるからである。一つ注意すると、この擬似捨て駒はe7にクイーンがいる代わりに例えばd7にナイトがいる場合も実行することができる。その場合 Nd5 cxd5、cxd5 となって黒ビショップの逃げ場がない。

(この章続く)

2011年08月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(168)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所(続き)

h8-a1の対角斜筋

 対角斜筋は黒の実行できるかもしれない戦いのほとんどの中心部分に存在するだけでなく、最も単純な直射攻撃から最も衝撃的で想像力に富んだ大局観によるクイーン捨てまでの戦術の手段を含むことができる(図230)。

 図230 

 ここで黒は …Nxe4!!?、Bxd8 Nxc3、Qd2 Raxd8 と指した。クイーンの代わりに小駒2個とポーン1個しか得ていないにもかかわらず、このあと中原を解放し …c5 突きから …d5 突きによりさらに駒を活躍させることにより優勢を勝ち得た。(読者がこれを信じないのはまったく自由だが、実際に起こったことである!)

(この章続く)

2011年08月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(135)

「JAQUE」2010年10-11月号(1/1)

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オリンピアードのチク・タク・ティクス

白 ディエゴ・バレルガ(FIDE2508)
黒 中村龍二(FIDE2187)
ハンティマンシースク(第1回戦)、2010年9月21日

 白の手番

解答

詰み手順は一本道である 1.Bxh6! Bxh3 1…gxh6 2.Qxh6# 2.Be3+ Kg6 3.Qg5+ Kh7 4.Qh5# 1-0

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(この号終わり)

2011年08月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(167)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所(続き)

黒の擬似aポーン捨て

 黒がaポーンへの当たりを放置しているように見えることがたびたびある。しかし実際は白がそれを取っても戦力得にならず、陣形の観点から黒に歓迎されることになる(図229)。

 図229 

 白が Bxa7 と取ると黒は …b5 と突いて白のビショップとcポーンを両当たりにしてポーンを取り返す(そして有利になることが多い)。

(この章続く)

2011年08月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(166)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所(続き)

d4とf4の駒に対する両当たり

 この狙い筋は非常にありふれていて色々な状況で起こり得るので、白はd4とf4の地点の駒がしっかり守られているように特に注意を払わなければならない(図227)。

 図227 

 ここで白がうかつに f4? と突くと …Nxf4!、Rxf4 Bxd4+、Rxd4 Qe5 で戦力損に陥る(図228)。

 図228 

 黒は面白い両当たりで利子付きで戦力損を取り戻す。時には黒クイーンがf6の地点から似たような両当たりをかけることができる。

(この章続く)

2011年08月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[74]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御

1.d4 f5(図116)

 図116(白番)

 オランダ防御は黒番で攻撃的に指したい選手に非常に人気がある。この戦法の主要な目標は敵キングへの攻撃である。黒の初手は早くもキング翼で陣地を広げている。そして黒は通常はこの広さを生かして …e6/…Nf6-e4/…Be7 または …d6/…O-O から …h6 と …Qe8-h5 のような捌きを実現する。黒はそれからgポーンを突いていって白のh2の地点を叩き壊すことをもくろむことができる。この作戦の採用により黒は圧倒的な勝利を数多く収めてきた。しかし黒の初手はいくつかの原則に背いている。(a)…f5 突きはどの駒も展開していないばかりか、展開の助けにもなっていない。(b)fポーンを突くと黒キングの囲いを弱める。白は正しく指せば、ちょうどよい時機にe4にポーンを突き中原を開放し黒の弱点をすべてさらけ出させることにより優勢を勝ち取ることができるはずである。

 白はすぐにe4の地点をめがけて素早い展開のためにギャンビットをすることもできるし、穏やかに駒を展開して後日e4へポーンを突いていくことを目指すこともできる。後者のやり方がより効果的であると考えられる。オランダ防御は黒陣を弱めているのでポーンを犠牲にして有利さを求める必要はない。

 これまで分析してきた多くの戦型はチェスの思想の発展で一定の歴史的な段階を経てきた。だからキング翼ギャンビットやジュオッコピアノは現代の大会ではたまにしか見られないし、もっと洗練されたルイロペスに取って代わられている。クイーン翼でもニムゾインディアン防御やキング翼インディアン防御が通常のクイーン翼ギャンビット拒否よりもあとの歴史の舞台で発展してきた。しかしオランダ防御にはそのような誇るべき知的な伝統がない。というのはチェスの思想の具体的な段階を表現していないからである。この防御は自陣に弱点を抱えることを恐れない攻撃的な選手にいつも好まれてきた。

 まず白のギャンビットの戦型から分析する。

(この章続く)

2011年08月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(165)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所(続き)

d2の白クイーンの過負荷

 黒がキング翼ナイトに対する釘付けに …Qa5 と出て白ビショップを当たりにするときは、白はクイーンが過負荷になるために Qd2 と応じることができないことがしばしばある(図226)。

 図226 

 …Nxe4! のあと白は戦力損をしないために fxe4 Bxd4、Qxd4 Qxg5、Qxd6 で望ましくない単純化を受け入れなければならない。面白いことにこの手順で黒の機動力が陣形上の優位に転換される。

(この章続く)

2011年08月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

名著の残念訳(7)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 106ページ
『黒の亀のような甲羅にヒビを入れることすら難しく、成功などおぼつかない。』

フィッシャーはまったく無力のようだが?

英文『He has had the utmost difficulty cracking Black’s tortoise-like shell; even his successes are unconvincing.』

convincing は「人を納得させる」という意味だから、否定の接頭辞 un の付いた unconvincing は「人を納得させない」となる。複数の試合で成功したが納得のいくような内容ではなかったということである。「成功などおぼつかない」だとこれからいくらやっても駄目だということになり、それなら success は単数形が普通だろう(「一つの成功さえおぼつかない」という意味で)。

試訳「亀の甲にも似た黒の殻を打ち砕くのに困難を極めてきた。成功しても納得のいくものではなかった。」

24 自業自得 106ページ
『つまり、フィッシャーは生来の能力のおかげで、序盤でしばしば優位を確保しそこねる代償という罰をまたもや逃れたのである。』

「代償」とは「損害の代価を払うこと」である。例えば駒損の代償として強力なパスポーンを得るなどである。だから「序盤でしばしば優位を確保しそこねる代償」としては何か有利なことを得なければならないはずだが、それが「罰」では踏んだりけったりである。

英文『And so, once again, by virtue of his native ability, Fischer avoids the retribution that is the usual price for failing to secure an advantage in the opening.』

主文は Fischer avoids the retribution だから「フィッシャーは報いを避ける」である。関係代名詞 that の先行詞は retribution だから関係詞節は the retribution is the usual price for failing to secure an advantage in the opening ということで「その報いは序盤で優勢を確保できないことに対するいつもの代価である」という意味になる。

試訳「つまり、フィッシャーは天賦の能力のおかげで、序盤で優位を獲得できないことにつきものの報いをまたもや逃れたのである。」

25 マローツィが抑え込みにならない場合 110ページ
『本局では、ロンバディーが6手目で、フィッシャーも認める、恐るべきマローツィ抑え込み(バインド)戦形に持ち込む。』

フィッシャーは白の5手目で「白は、c4、Nc3 等でマローツィ戦形に組んで d5 を抑え込みたいのだ。しかし、これだけ手こずったあげく、白は …d5 を阻止できない。正着は使い古された Nc3 だ」と書いているので、マローツィ抑え込みを恐れていないようである。

英文『In this game, after Lombardy’s sixth move, he obtains, with Fischer’s consent, the dread “Maroczy bind.”』

英文によれば「フィッシャーの consent で」Lombardy が the dread “Maroczy bind を得るということである。フィッシャーが 5…Nc6 と指したのでマローツィ戦型になったのであり、解説にあるように 5…e5! と指していたらマローツィ戦型にはならない。つまりフィッシャーがマローツィ戦型になることに consent したのである。

試訳「本局では、ロンバルディーの6手目のあとフィッシャーが同意したことにより恐怖のマローツィ戦型になった。」

念のため書くと「戦形」は間違いで正しくは「戦型」である。

2011年08月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(164)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.2 戦術の狙い所

 オーソドックス中原では白が基本的に陣形で優位に立ち黒がそれを積極的に駒を働かせて埋め合わせようとすることを考えれば、眼目の戦術の着想はほとんどが黒の側にあることは驚くに当たらない。従って予想されるように戦術のほとんどは黒枡で生じる。

(この章続く)

2011年08月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(163)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

d5とb5の要所

 理由はなんにせよ黒が …c7-c6 と突かないことにしたとき、白はd5の地点をクイーン翼ナイトの強力な中央の基地として用いることができる。これはとりわけ黒がクイーン翼ナイトをc6の地点に展開する戦型で起こる(図224)。

 図224 

 白ナイトの位置はd6の地点に予防の圧力をかけることにより(例えばd列に大駒を重ねる)…c7-c6 と突く気を起こさせないようにして間接的に守ることができる。このような局面でのクイーン翼ポーンの硬直性を考えれば、黒は …f7-f5 突きでキング翼に反撃を求めるのが一般的である。このポーン突きは黒が …c7-c6 と突いているときはほとんど指されることがない。

 黒のクイーン翼ポーンは …c7-c6 突きの前に …a7-a5 と突いているときはなおさら動きにくい。というのは Nd4-b5 と跳ばれるとd6の地点への圧力のせいで …c7-c6 と突けないからである(図225)。

 図225 

 ここでも黒の唯一の反撃の望みは …f7-f5 突きである。白ナイトが交換されるか追い払われる可能性があった前の図とは対照的に、ここでの黒陣は明らかに見劣りする。なぜなら Nb5 を追い払うのが困難なのでc7の地点の守りに縛り付けられるからである。

(この章続く)

2011年08月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(229)

「Chess Life」2011年4月号(5/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ずぶとさ

 第4回戦の相手は前日に21手でカールセンを撃破した16歳のオランダの人気者アニシュ・ギリで、ナカムラは夢から現実に引き戻された。引き分けへの必死の戦いが最後には成功した。次の回はほんの少しだけましだった。元FIDE勝ち抜き世界チャンピオンのルスラン・ポノマリョフがうまく指し回したが、ナカムラは形勢を混沌とさせまたかろうじて引き分けを得た。

白 GMアニシュ・ギリ(FIDE2686、オランダ)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第4回戦、2011年1月18日

 14.O-O

 ナカムラはかろうじて虎口を脱した。ニムゾインディアン防御のロマニシン戦法でのギリの指し方は決め手を欠いていて、ここで黒が 14…Be6! 15.Bxd6 Rfd8 と指していれば混戦になっていただろう。代わりにナカムラは守勢の 14…Rd8? を指し 15.Bb4 Qb6 16.a4! Na5 17.Rfd1 Be6 18.Bxa5 Qxa5 19.Bxb7 Rab8 20.Bd5

と進んで若いオランダ選手がゆうゆうとポーン得した。しかしナカムラはチャンスを最大限に生かして最終的に引き分けの型の1ポーン損ルーク収局に持っていき50手後に得点を折半した。

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(この号続く)

2011年08月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(162)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

d4の要所

 白は最も早い段階からd4の好所に駒(通常はキング翼ナイト)を据える。これは明らかに黒が黒枡で活動するうえで邪魔になる。黒はキング翼ビショップとナイトとを協力させて Nd4 をどかせるときがある(図222)。

 図222 

 …Ne6 のあと白は戦略上の種々の理由で(例えばd5の地点の支配を維持するのが重要なため)Nd4 をもう一つのナイトで支えるのが難しい。白が交換に応じようと Nd4 を引こうと黒は黒枡での活動を強めるという目的を達成する。

 黒は戦術の手段を用いて Nd4 を悩ますことができる(図223)。

 図223 

 図の局面は周知の戦法の出発点である。黒は …Ng4 と指すことにより Qxg4 Bxd4 または h3 Qb6、hxg4 Qxd4(…Bxd4 でもよい)で Nd4 の撲滅に成功する。

(この章続く)

2011年08月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(161)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

黒のdポーンの弱点

 クイーン翼にキャッスリングしキング翼で攻撃を仕掛けるいくつかの例外的な戦型(主にアベルバッハ戦法から生じる)は別として、白は主眼の …c7-c6 突きにより弱体化した黒のdポーンに圧力をかけることに専念するのが普通である。この目的を達成するための白の標準的な要領は次のようにまとめられる。(1)d5の地点の支配を失わない(Be2-f3 と Nd4-c2-e3 のような捌きは珍しいことではない)(2)d列に圧力をかけ、クイーン翼ビショップで(ほとんど常にf4の地点から)その圧力を増す好機に絶えず気を配る(3)局面の単純化は黒の機動力を減少させdポーンの弱さを増大させるので恐れない(4)b2-b4 突きから b4-b5 または c4-c5 突き、あるいは同様に f2-f4 突きから f4-f5 または e4-e5 突きのように、絶えずポーンを突く機会を狙う

 次図はこれらの一般的な構想を具体的に実行に移す例である(図220)。

 図220 

 白は次のようにdポーンに対して強い圧力をかけることができる。b4 Ne6(すぐに取り上げるようにこのナイト引きは最も積極的で最も理にかなっている)、Nxe6 Bxe6、Bf4 Rd8、c5 Ne8(図221)。

 図221 

 黒がこのような情けない状況に追い込まれるのはまれであるが、両者ともこのようなことが起こり得るということは知っておく必要がある。

(この章続く)

2011年08月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(134)

「Chess Life」2011年2月号(11/11)

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収局研究室

2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

優良ナイト

 ケイデン・トロフも9点を獲得したが、受賞したのは銀メダル「だけ」だった。この収局には彼の熟練の技が見られる。

白 CMバハップ・サナル(FIDE2170、トルコ)
黒 ケイデン・W・トロフ(FIDE2216、米国)
世界少年少女チェス選手権戦オープン12歳以下、2010年

 黒の手番

44…Nd6!

 このナイトは攻防に効くので将来大きく役立つ。駒割は互角だが形勢はそうでない。白のd5のポーンが弱みになっている。

45.Re2

 ビショップを動かすとポーンを突かれ …Re5 が強手となるのでこう指すしかない。

45…Kc7

 補強としての黒キングの進出に対して白からの治療法はない。

46.Kc2 Kb6 47.b3 cxb3+ 48.Kxb3 Kc5 49.Kc2 Kc4 50.Re1 a5

 黒は性急にポーンを取って優秀なナイトをなくすようなことはしない。代わりに徐々に陣形を強化している。

51.Bg2 e4 52.Rd1 Nf5 53.Bf1+ Kc5 54.Rb1

54…Nd6

 これでも白の反撃の可能性を防ぐには十分である。しかし 54…Kxd5 55.Rb5+ Kc6

も …Ne3+ の狙いが残っていてよかった。

55.c4 Re5 56.Rb8 Rxg5 57.Ra8 Rg1 58.Be2 Rg2 59.Kd1 Kd4 60.Rxa5 Ke3 61.c5

 白は一息ついた。しかし問題は今度は詰みの包囲網に入っていることである。

61…Nf5 62.Bc4 Nd4 63.Ke1 Rd2 64.Be2 Rxe2+ 65.Kf1 Nf3 白投了

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(この号終わり)

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王印防御の完全理解(160)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

c5とe5の要所

 既に述べたように黒は黒枡全般を戦いの基盤とすることができる。しかしその中でもc5とe5の地点は特に重要である。これらの地点は黒の最も前方の拠点になっていて、そこを占拠することにより白にポーンの形を弱めさせることがよくある(b2-b4 突きと f2-f4 突きはそれぞれc4とe4のポーンを弱める)。さらにc5とe5の地点は必要ならば …a7-a5 突きと(もっとまれだが)…g6-g5 突きとにより安全にすることができる(図219)。

 図219 

 これらの地点の占拠は通常はナイトによって行なわれる。クイーン翼ナイトはd7かa6の地点を経由してc5の地点に行き、キング翼ナイトはd7かg4の地点を経由してe5の地点に行く。もっともこれらの役割は自由に決めたり、あるいは交換したりすることさえできる。従ってここでの解説はあくまでも一般的指針にすぎない。

(この章続く)

2011年08月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(159)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

白のcポーンに対する圧力

 黒は白のcポーンに対しても非常に似た目的で圧力をかけることができる(図218)。

 図218 

 ここでの目的は白に b2-b3 と突かせて、黒枡全般の弱点と特にh8-a1の弱点とを増大させることである。白が b2-b4 と突いているときは(恐らくc5の黒ナイトを追い払うため)、cポーンに対する圧力はずっと効果的になることはきわめて明らかである。白のcポーンに圧力をかける作戦(例えば …Bc8-e6 と …Nb8-d7-b6)は包囲網を破る …d6-d5 突きの助けにもなることは言うまでもない。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[73]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3(図114)

 図114(黒番)

 これがゼーミッシュ戦法の骨子となる手で、1920年代にドイツのマスターのフリッツ・ゼーミッシュによって作り上げられた。5.f3 は白の展開のために何もしていないしキング翼ナイトからf3の地点を奪っているので非常におかしな手に思えるかもしれない。しかし 5.f3 には多くの利点があり、6人の世界チャンピオン-アリョーヒン、ボトビニク、ペトロシアン、タリ、スパスキー、カルポフ-によって愛用された。この手は白の中原を強化し、Be3 から Qd2 のような手を準備している。白の作戦はクイーン翼にキャッスリングして黒キングの方面をキング翼のポーンの進攻と Bh6 の加勢の可能性とで襲撃することである。5.f3 は自分のeポーンを反撃に対して強化するだけでなく、g4 突きの準備にもなっている。このgポーン突きはhポーンをh5に突くのを助ける。白がh列を素通しにし黒のキング翼ビショップを交換でなくすことに成功すれば、黒キングに対する攻撃が決定的なものになるのはほとんど確実である。白がこの厳しい戦略をみごとに成功させた多くの例は本譜の解説中に見られる。

5…O-O

 黒キングをキング翼にキャッスリングするのを遅らせる利点はほとんどない。黒がクイーン翼にキャッスリングする手はずを整えることは非常に難しい。

6.Be3

 ここはビショップの最適の展開場所である。白は Qd2 から O-O-O の用意をしている。f3のポーンは黒が …Ng4 でe3のビショップをいじめるのを防いでいることに注意されたい。このクイーン翼ビショップがg5に行けば黒から …h6 突きで追われるし、6手目でf4の地点に出れば黒に …Nc6 で …Nxd4 から …e5 突きの両当たりを狙われる。

6…e5

 これはキング翼インディアン防御において黒が中原で行動を起こす際の常用の手段であるが、代わりに 6…Nc6 も非常に良い手である。例えば1992年ベオグラードでのスパスキー対フィッシャー戦では 7.Nge2 a6 8.h4 h5! 9.Nc1 Nd7! 10.Nb3!? a5! 11.a4 Nb4 12.Be2 b6 から …c5 突きを狙う進行になった。

7.d5

 この手は中原で陣地をいくらか広げるだけでなく、中原を閉鎖して意図する黒キングへの側面攻撃に対する黒の反撃を最小限に抑える。側面攻撃を予定している時は中原を閉鎖するのはいつでも良い考えとなる。

7…Nh5

 黒は …f5-f4 から …g5 突きによる典型的なキング翼のポーンの暴風を準備している。しかしカスパロフは自分の試合で 7…c6 から …cxd5 としてから初めて …Nh5 とする手順をとっている。これはc列を素通しにして白がクイーン翼にキャッスリングするのを思いとどまらせるためである。

8.Qd2 f5 9.O-O-O

 白は作戦の前半を実行した。

9…Nd7 10.Bd3

 ビショップが中央の好所に出て戦いに加わり、黒キングの方面もにらんでいる。

10…Ndf6

 黒の作戦は白のeポーンに圧力をかけることで、白が exf5 で中原を放棄し黒に可動多数派ポーンを形成させてくれるかもしれないことを期待している。しかしこれは黒にとってかなり危険な作戦である。なぜなら多数派ポーンはgポーンの支援がなく、特に白枡にかなりすきが出ることもあるからである。キング翼インディアン防御では黒は常に白による白枡への侵入に非常に注意していなければならない。黒の最も用心深いやり方は 10…f4 と突いてキング翼の封鎖に努め、そちらでの白の攻撃の可能性を最小限にすることだった。しかしキング翼が完全に封鎖されれば、白はキングをb1に寄せ Rc1 から c5 と突くことによりクイーン翼での進攻を図ることができただろう。

11.exf5 gxf5

 もちろん黒が駒でf5を取り返すのは大きな戦略上の誤りである。例えば 11…Bxf5? なら白は 12.Nge2 と応じ、いつかはe4の地点に駒を据え、それで黒のキング翼ビショップの利きが永久に無効になる。白がe4の地点に駒を据えればその駒は黒のfポーンによってどかすことができず黒のeポーンをせき止めることにもなる。そして黒のキング翼ビショップが閉じ込められて、通常白が陣形の上で戦略的に勝ったとみなされる。

12.Nh3!(図115)

 図115(黒番)

 ここで白には前述した黒陣の白枡の弱点につけ込む Ng5-e6 という強力な狙いがある。さらにはルークをg列に回して g4 とポーンを突いて黒キングに通じる列を素通しにする可能性もある。これらの可能性を考慮すると白がかなり優勢であると結論づけなければならない。1970年ジーゲンでの世界チーム選手権戦のポルティッシュ対グリゴリッチ戦はこの局面から次のように進んだ。

12…c6

 黒は 12…f4 13.Bf2 Bxh3 で白に孤立二重ポーンを作らせることもできた。しかし 14.gxh3 のあと黒には白のキング翼ビショップに立ち向かえる白枡ビショップがなく、白が例えば Bf5-e6+ によって白枡を完全に支配することになる。さらに白にはg列でも危険な狙いができる可能性がある。

13.Rhg1 cxd5 14.cxd5 Kh8 15.Kb1 Bd7 16.Ng5 Qe7 17.Bb5 Bc8

 もちろん黒は白枡ビショップを交換させるわけにはいかない。なぜなら白のナイトが自由にe6の地点に行けるようになるからである。6段目に居座った無敵のナイトは勝利を保障したも同然であることがよく知られている。

18.Bc4

 どのみち白のキング翼ナイトはe6の地点にやって来て、黒はそれと自分のビショップを交換しなければならず、そこに白の危険なパスポーンができる。白は陣形の上で既に戦略的に勝利を収めている。

(この章終わり)

2011年08月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(158)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

白のeポーンに対する圧力

 黒が …d6-d5 突きで陣形の弱点を解消しようとするよりも、黒枡での動的な可能性に基づいて指すことにしたときは、最も普通の戦略作戦の一つは白のeポーンに圧力をかけることで、通常は両方のナイトとe列上での大駒の助けを伴う(図216)。

 図216 

 黒の目的は相手に f2-f3 と突かせて黒枡の支配と黒枡での攻撃の可能性を強めることである。白がほとんど常にキング翼にキャッスリングすることを考えれば、f2-f3 突きのあとa7-g1の斜筋が非常に注意を要するものとなる。さらに黒は f2-f3 突きのあと白のキング翼ビショップ(通常はe2の地点にいる)の動きが制限されることを利用して、…Nf6-h5 によるキング翼攻撃(例えば …Bg7-e5 と …Qd8-h4 とで)を仕掛けることができるときがある。もし何らかの理由で白が h2-h3 突きも行なっているときは、白のキング翼での黒枡の弱点は容易に想像できるように簡単に致命的になることがある。

 同様の戦略の着想は …d6-d5 突きを容易にするのにも用いることができる(図217)。

 図217 

 白はd5の地点を支配しているが、黒はeポーンに対する圧力を用いて f2-f3 突きのあと(クイーン翼ビショップが浮いているので)または Qd1-c2 のあと(図213の解説で触れた危険性に注意)、中央突破を図ることができる。

(この章続く)

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名著の残念訳(6)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

29 自爆 130ページ
『フィッシャーvsゲレル(アメリカ)』

ゲレルはいつのまにソ連からアメリカに亡命していたのだろう。

英文『29 Fischer – Geller [U.S.S.R]』

U.S.S.R を U.S.A のことだと考えたようである。ゲレル(フィッシャーの3勝5敗2分)はタリと並んでフィッシャーの憎い天敵だったのだからフィッシャーのファンなら間違えようがない。

試訳「フィッシャーvsゲレル(ソ連)」

60 チャンピオンがあいまみえて 274ページ
『フィッシャーの攻撃は華麗なピース・サクリファイス(29.Bxf5)で頂点を極めるが、ソ連チャンピオンは応じない。』

何に応じないのだろう。日本語としてはすぐ前の名詞(句)を指すはずだが、「頂点に応じない」では意味が通らない。それとも「動じない」の書き間違いか?

英文『Fischer’s prosecution of the attack is crowned by a brilliant offer of a piece(29.Bxf5) which the Soviet champion declines.』

英文だと一目瞭然である。関係代名詞 which の先行詞は offer だからピース・サクリファイスに応じなかった(29…Qf8)と分かる。英語と日本語はかけ離れた言語なので、英語では同じ名詞を繰り返さなくても日本語では適当に補わないと何のことか分からなくなることがある。

試訳「フィッシャーの攻撃は華麗なピース・サクリファイス(29.Bxf5)で頂点を極めるが、ソ連チャンピオンはサクリファイスに応じない。」

60 チャンピオンがあいまみえて 278ページ
『クモッホは、「レオニダスは、29…gxf5 で猛攻に対抗すれば有利にさえなれたかもしれない」と述べている。』

英文『Kmoch suggests that “Leonidas might even have better taken a chance and faced the storm by playing 29…gxf5.”』

take a chance を「有利になる」と解釈したようである。しかしそれなら taken a chance と faced the storm by playing 29…gxf5 の順序が逆ではないだろうか。そもそも take a chance は「機会を得る、とらえる」という程度の意味のはずである。
ここの better は副詞 well の比較級である(形容詞 good の比較級なら後ろに名詞が続くか文中にbe動詞があるはず)。might have done は「・・・してもよかった」という意味である。直訳すれば「レオニダスはもっとよくチャンスをとらえて対抗すればよかったかもしれない」となる。

試訳「クモッホは、「レオニダスは、いっそのこと 29…gxf5 で猛攻に立ち向かった方がよかったかもしれない」と述べている。」

2011年08月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(157)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

…d6-d5 突き

 このポーン突きはあまりにも色々な戦法と試合の段階で起こるので、多種多様な可能性を分類するのは無駄である。代わりに要点をまとめて作った次の局面を用いて基本的な構想を解説することにする(図213)。

 図213 

 …d6-d5 突きの基本的な目的はd6の弱いポーンを盤上から消し、相手のポーン中原を解体して陣形上の互角を達成することにある。この例では cxd5 cxd5、exd5 Nxd5 で生じる。この場合ポーン構造は完全に対等になる。もっとも中原が開放されると展開に優る側があらゆる戦術の機会を用いやすくなる。戦術によって解決するそのような試みとは別に、白が黒のポーン突きに対処するために用いてきた戦略の手法ははっきりと二つに区別することができる。一番目はeポーンが孤立することを受け入れることである。この図では cxd5 cxd5、f3 dxe4、fxe4 でそうなる(図214)。

 図214 

 このような状況では白はf列に、特にf6とf7の地点に圧力をかけようとするのが普通である。

 第二の方法はd6とc7の弱点につけ込もうとすることに基づいている。先の局面では cxd5 cxd5、Bf4 dxe4、Ndb5 で生じる(図215)。

 図215 

 先の局面とそれに付随した手順は実際の戦法に現れたものではないけれども、それでも …d6-d5 突きがもたらす主要なものを要約できたのではないかと考えられる。

(この章続く)

2011年08月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(156)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点(続き)

…c7-c6 突き

 このポーン突きは黒の作戦の骨子を成し、重要な三つの目的に役立っている。その目的とは白がd5の地点を使うのを防ぐこと、…d6-d5 突きによる解放を準備すること、そして …Qd8-b6 によるクイーンの出撃で黒枡での動きを活発にできるようにすることである(図212)。

 図212 

 白のdポーンがなくなったことは白のc5とe5の地点の支配を弱めただけでなく、黒枡全般も弱めている。本質的にオーソドックス中原における黒の二つの主導的な戦略原則はこの図にはっきりと現れている。それは自分の弱いdポーンをなくすという陣形的なものと、重要な黒枡の斜筋を用いるという機動的なものである。これらの着想は両方とも典型的な戦略活動に含まれているので、互いに排他的なものでないことは確かである。

(この章続く)

2011年08月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

「ヒカルのチェス」(228)

「Chess Life」2011年4月号(4/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

アルハンゲリスクの新構想

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMアレクセイ・シロフ(FIDE2722、スペイン)
ベイクアーンゼー Aグループ 第3回戦、2011年1月17日

 14…Qd7

15.Na3!?

 ルイロペスのアルハンゲリスク戦法はシロフの十八番(おはこ)だが、その激しい戦型でナカムラが新手を出した。これまでは 15.c4 が指されていた。

15…Nexd5!?

 いかにもシロフらしい手である。しかしナカムラは対策を立ててきていて、次の手を指すのにほとんど時間を使わなかった。

16.h3 Bh5 17.exd5 e4 18.Bg5! Bxf3! 19.Qd2!

 この妙手のあとシロフはポーン損の収局に入るしか成すすべがなかった。

19…e3 20.Bxe3 Bxe3 21.fxe3!

21…Be4

 21…Bxd5 にも同じく 22.Rxf6! がある。

22.Rxf6! Bxc2 23.Rf4 Bg6 24.Nc4 Ra8 25.Na5 Rfe8 26.Ra3 Be4 27.c4 g5 28.Rf1 g4 29.h4 Qe7 30.Qf2 Bg6 31.b4 h5 32.Rc3 Qe5 33.Rb3 Qe4 34.Rc3 Qe5 35.Rfc1 Be4 36.Qf4 g3 37.Qxe5 Rxe5 38.Ra3 Kg7 39.Rf1 Ree8 40.Rfa1 Re5 41.Nb3

 白が楽に勝つはずだったが、散々苦労した挙句やっとそうなった。

冷静沈着な手

 ここでシロフは苦境を脱する戦術を見つけたと思って次のように指した。

41…Rxa3 42.Rxa3 Bxd5!

 というのは 43.cxd5 なら 43…Rxe3! で白が指す手に窮するからである。しかしナカムラは冷静に応じた。

43.Nd2!! Be6 44.e4

 ポーンを取り返してポーン得に戻り、ゆっくりと93手で勝ちきった。

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(この号続く)

2011年08月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(155)

第6章 オーソドックス中原(続き)

6.1 戦略の着眼点

 上述の手順から見てとれるように黒は多様な戦法で布局の色々な時点で …e5xd4 と交換することができる。…e5xd4 取りのあとこれらの戦法にはどれも明らかに数多くの異なった戦略要素が存在する。しかし最も重要なものを抽出すると次のようになる(図211)。

 図211 

 (1)e列が素通しになったあとのeポーンのある程度の弱体化

 (2)黒のc5とe5の地点の利用

 (3)白のd4とd5の地点の利用(または黒が …c7-c6 と突いたときのd6ポーンに対する圧力)

 (4)白陣の広さ。b2-b4 突きと f2-f4 突きで両翼で拡大可能

(この章続く)

2011年08月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(154)

第6章 オーソドックス中原

主手順 - オーソドックスシステム
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O exd4 8.Nxd4(図210)

 図210(黒の手番) 

 黒はオーソドックス中原を特徴付ける …e5xd4 取りを多くの異なる状況で行なうことができる。例えば 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 の後

 オーソドックスシステム
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nbd7 8.Re1(または 8.Qc2 c6 9.Rd1 exd4 10.Nxd4)8…c6 9.Bf1 a5(または 9…exd4 10.Nxd4)10.Rb1 exd4 11.Nxd4
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O c6 8.Re1 exd4 9.Nxd4

 グリゴリッチ戦法
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.Be3 exd4 8.Nxd4
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O c6 8.Be3 exd4 9.Nxd4(または 9.Bxd4)

 アベルバッハ戦法
 - 5.Be2 O-O 6.Bg5 Nbd7 7.Qd2 c6 8.Nf3 e5 9.O-O exd4 10.Nxd4

(この章続く)

2011年08月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(133)

「Chess Life」2011年2月号(10/11)

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収局研究室

2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

進攻ポーン

白 ジェフリー・ション(FIDE1824、米国)
黒 ビクトル・ハリング(FIDE1893、スロバキア)
世界少年少女チェス選手権戦オープン10歳以下、2010年

 黒の手番

 e7のポーンが勝負を決める。

36…Nc6

 36…Nd7 37.Qh5 Nf6 の方が手数がかかるが 38.Qxa5 でしょせん負けである。

37.Qe6

 37.Ng6+ でもよい。

37…Nxe7

 他に適当な手がない。37…d3 は 38.Ng6+ Kh7 39.Nf8+ Kh8 40.Qg6!

で白の勝ちになる。

38.Qxe7! Qxe7 39.Ng6+ Kg8 40.Nxe7+

 白の駒得になって、黒のポーンを取りきるのはほとんど心配ない。

40…Kf7 41.Nc6 a4 42.Nxd4 a3 43.Kf1 a2 44.Nb3 Ke6 45.Ke2 g5 46.f4 Kf5 47.Kf3 h5 48.h3 Ke6 49.fxg5 Kd5 50.g6 Ke6 51.Kf4 黒投了

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(この号続く)

2011年08月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(153)

第5章 単純化中原(続き)

5.3 実戦例(続き)

 図209(再掲)黒の手番 

 黒が大きな誤りを犯さず妥当なやり方で守ってきたように見えるのにもかかわらず、白は素通し列の支配とd6の弱点のおかげで絶対的な優勢に立っている。この局面はこの見かけによらない戦法に対して単調直入の受け以上のものが必要になることがよくあることの明白な警鐘となっている。

26…Qc4

 黒は単純化の方針を続けているが、この手は残りの駒の守勢を際立たせるだけである。

27.Qb3 Qxb3 28.axb3 Kf8

 黒はクイーン翼を封鎖している余裕はない。なぜなら白が反対翼で主導権を握ることができるからである。例えば 28…a6 29.Rd6! Kg7 30.f4(Nb6-c4 の意図の 30.Na4 も良い手である)30…Re8 31.Kf3 で白がはっきり優勢である。

29.b5 Ke7 30.Ra2!

 カルポフの指し手の正確さは絶賛ものである。

30…Ne8 31.b6 a6 32.Nb1

 このナイトはd6の地点を目指している。

32…Ng7 33.Nd2 Ne6 34.b4 Rd8 35.Nc4 Rd4 36.Nd6 Rxb4

 36…Nd8 で受け一方に守るのは単に 37.Rb2 で結局は見込みがない。

37.Nxb7 Rb5 38.h4 h5

 38…Nxc5 は 39.Nxc5 Rxc5 40.Rb2 でたちまち負けになる。

39.Kf2 Kd7?

 非勢の局面で敗着が出た。

40.Nd6 Rxc5

 40…Rb1 でも助からない。41.Nxf7 Nxc5 42.Nxe5+ で例えば 42…Kc8 43.Rc2 となり黒の敗勢である。

41.Rb2 1-0

 41…Rb5 42.Nxb5 axb5(42…cxb5 なら 43.Rc2)43.Ra2 f6 44.Ra7+ Kc8 45.Ke3 でこの収局は黒の絶望である。

(この章終わり)

2011年08月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(152)

第5章 単純化中原(続き)

5.3 実戦例(続き)

 図208(再掲)黒の手番 

 一見したところ白が少し優勢のように見えるけれども、客観的にいうと実際は白は布局から何も得られていない。もっとも黒は実際そのとおりであることを示すためにはまだ洗練された受けが必要である。例えば 18…h5! がそれで、…Kh7 から …Bh6 によって黒枡ビショップ同士を交換することによりd4の地点の支配を目指す(同じ着想の 18…Qf8 も可能である)。それに対して白が 19.Bg2?! と指せば 19…Ng4 20.Rd7 Qb4 で白が何らかの混乱をきたす。キンテロスは別の経路を選んで黒枡ビショップ同士を交換しようとした。しかしそれは手数がかかりすぎるやり方だった。

18…Bf8?! 19.Bg2!

 白クイーンがg4の地点に利いているので、白は黒の働いているナイトと交換する目的のためだけでなくf2-f3 突きで白枡の安泰を図る目的のためでも、キング翼ビショップをh3の地点に覗かせることができる。

19…Qe8 20.Bh3 Bb4

 たぶんポーンを犠牲にしてでももっと積極的な防御に努めた方が良かっただろう。例えば 20…Bc5 21.Bxe6 Bxe3 22.Bd7 Nxd7 23.Rxd7 Bd4 24.Rxb7 となればビショップがよく働いているのでいくらか望みがある。

21.f3 Qe7 22.Kg2 Bc5 23.Bxc5 Nxc5 24.b4 Ne6 25.Bxe6 Qxe6 26.c5(図209)

 図209 黒の手番 

(この章続く)

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チェス布局の指し方[72]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

フィアンケット戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3(図112)

 図112(黒番)

 これは高度に大局的な戦型で、白が慎重に事を構えるつもりであることを示唆している。白は全速力でキング翼キャッスリングの用意をし、ポーン中原をすぐ構築するのは控えている。駒の展開を済ませてから初めてポーンで中原一帯を支配するつもりである。

4…O-O 5.Bg2 d6 6.O-O Nbd7

 黒は …e5 突きで中原に突っ掛ける用意をした。6…c5 と 6…Nc6 も非常によく指される手である。

7.Nc3

 この展開の手はe4の地点を支配しeポーンを突く準備をしている。

7…e5

 黒は …Re8 から …c6 のような捌きを意図している。そうなれば中原でポーンを突ける態勢になり、…e4 突きで貴重な陣地をいくらか広げることができる。白はそれを許すことはできない。

8.e4 c6

 ここでの黒の戦略は白のdポーンを攻撃してd5に進ませ中原を安定させることである。そのあとはいつものようにキング翼ナイトをどけてfポーンを突き、お決まりのキング翼攻撃を仕掛けていく。もちろん黒はできるなら …exd4 と取るのを避けたい。なぜなら白に駒で中原を支配させることになるからである。

9.h3

 白の希望はe3の地点にビショップを展開させることである。しかし今この手を指すと黒は …Ng4 と当ててくる。これはよくある筋で、この場合白にとって非常にやっかいである。

9…Qb6

 黒は白のdポーンにさらに圧力を加えた。白はここで次のようにこの圧力をかわした。

10.d5(図113)

 図113(黒番)

 10.dxe5 dxe5 と指すのは誤りである。なぜなら自分のd4の地点に空所ができるのに、黒のd5の地点はc6のポーンによって守られているからである。代わりの難解な手は1992年ドルトムントでのヒューブナー対カスパロフ戦の 10.c5!? dxc5 11.dxe5 Ne8 で、どちら側も指せる。

 10.d5 突きのあと黒の最善は 10…c5 で中原を閉鎖することで、そのあと …f5 突きによる側面からの襲撃を準備できる。一方白は a3、Rb1 から b4 で攻勢をとろうとする。この局面での形勢は互角である。

 あまり良くないのは

10…Nc5

である。というのは

11.Re1

(eポーンを守った)

11…Bd7

次の手があるからである。

12.Rb1

 中原はまだ流動的で、そのため黒が安全に …f5 突きを用意するのは難しい。おまけにc5の地点にあるのがポーンでなくナイトなので、白はほとんど邪魔されずに b4 と突ける可能性がある。形勢は白が少し優勢である。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(151)

第5章 単純化中原(続き)

5.3 実戦例(続き)

 図207(再掲)白の手番 

 一般にe5の地点でポーンを取り合ったあとにできる単純化中原は、陣地を広げる d4-d5 突きで中原を閉鎖するよりも(最初の3章で取り上げた内容から類推されるように)かなり積極性に欠けるということが言える。それにもかかわらずこの手段には見かけよりももっと毒が含まれている。というのは黒が素通しd列、弱点のd5の地点、それに弱点になる可能性のあるd6の地点での相手の活動を無力化するのは簡単なことではないからである。従って黒は正確に守り、クイーン翼を極度に弱めないように注意を払わなければならない。同時にもし可能ならば不良ビショップをf8-c5の斜筋で働かせるとともに、相手のd4の弱点(なんといっても黒の反撃の核心をなす)につけ込むように駒を捌かなければならない。

9.O-O

 白は 9.Nd5 Nxd5 10.cxd5 と指すこともできる。10…Qb4+ ときても 11.Nd2 Qxb2 12.O-O で白が良い。

9…c6

 黒はd6の地点を弱める犠牲を払ってd5の地点を守った。カルポフはここで極めて単純で自然な作戦を開始した。その作戦は単純化中原を正当化する構想の潜在的な強力さと油断のならない特質を際立たせている。

10.Qc2 Bg4 11.Rfd1 Na6 12.Rd2 Bxf3 13.Bxf3 Nc5 14.Rad1 Ne6

 黒も同じくらい自然な手で応じ、ナイトをe6の地点に捌くことによりd4とf4の地点に目配りするだけでなくd8の地点も守り、白のd列の支配に対抗できるようにした。

15.g3

 黒の白枡ビショップがなくなったので、白はこのようにしてf4の地点を守るのを意に介さない。

15…Rfd8 16.Rxd8 Nxd8

 ルークはaポーンを守っていなければならない。

17.Rd2 Ne6 18.Qd1(図208)

 図208 黒の手番 

(この章続く)

2011年08月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解