2011年07月の記事一覧

名著の残念訳(5)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

06 小さな見落とし 024ページ
『対戦相手より1手先まで読んでいると考えてコンビネーションを放つ。』

英文『Thinking he has seen one move further than his adversary, he provokes a combination.』

provoke は「・・・を刺激して(・・・)させる」という意味だから、フィッシャーにコンビネーションをさせたので、コンビネーションを放ったのはフィッシャーの方である(39.Rxe6)。

試訳「対戦相手より1手先まで読んでいると考えてフィッシャーのコンビネーションを誘った。」

14 多すぎた新手 063ページ
『13手目に現れる新手の評価が疑わしい変化。』

英文『An innovation whose dubious merit appears on move 13.』

この訳文は An innovation appears on move 13. が骨格で、innovation を whose dubious merit が修飾していると考えているようである。しかしそうだとすると whose dubious merit という関係詞節には動詞が存在しなくなる。そんな構文はあり得ない。An innovation with dubious merit appears on move 13. か An innovation which has dubious merit appears on move 13. なら構文的には間違いはない。
この英文は本体の主語と動詞が省略されている。それを補うと次のようになる。
This(10.Be2) is an innovation whose dubious merit appears on move 13.
This is an innovation が本体で、whose dubious merit appears on move 13 が innovation を修飾している。
10.Be2 は2年ほど前にケレスが指しているのでこの時点では新手とは言えない。だから innovation は「ケレス新手(2年前にケレスの指した新手)」というほどの意味だろう(前局では 10…h6 だったので、本局の 10…b5 は新手になるはずである)。当時は新手といっても今ほど速く知れ渡ることはなかた。だから新鮮味はあったと思われる。新手は何らかの merit を収めなければ意味がないので、13.exf6!? は 10.Be2 の成否をかけた手だったはずである。

試訳「この新手の疑わしい真価は13手目に現れる。」

17 惜しい失敗 081ページ
『ほとんどのゲームで、フィッシャーはタリのように指した。しかし、心配ご無用。タリはフィッシャーのようには防御せず、唯一無二の負けない反撃を見つけるから!』

「ほとんどのゲームで」とあるが、フィッシャーはそんなに何局もタリのように指していたのだろうか?

英文『Almost all game Fischer played in Tal style. But all his trouble was in vain because Tal did not defend in Fischer style – instead he found the one and only saving counterchance!』

目的語が倒置されているので普通の順序に直して考えると Fischer played almost all game in Tal style. となる。game に複数形の s がついていないので all は一つの game の最初から終わりまですべてということである。

試訳「試合の間ほとんどずっとフィッシャーはタリのように指した。しかし彼の苦労はすべて無駄だった。なぜならタリはフィッシャーのように守らなかったからだ。代わりに唯一無二のしのぎの反撃を見つけ出した!」

2011年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(150)

第5章 単純化中原(続き)

5.3 実戦例

第9局
カルポフ対キンテロス
マルタオリンピアード、1980年
グリゴリッチシステム

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2

 はっきりと単純化中原に入る用意をする一つの方法は 6.Be3 と指すことである。例えば 6…e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nd5(c7の地点を当たりにするのはクイーン交換後の当然の継続手である)のあと(1)9…Ne8 はかなり守勢である。(2)9…Nxd5 10.cxd5 c6 11.Bc4 g5の地点が Nf3-g5 に使える可能性があるので、以降の解説で分析される似たような戦型の少し改良版になっている。(3)9…Na6 は良さでは次のルークでの受けと同じくらいだが、指される頻度では劣っている。白は 10.O-O-O または 10.Rd1 と応じることができ、10…Nxe4? には 11.Ne7+ の用意があって勝ちになる。(4)9…Rd7(最もよく指される手)10.Nxf6+ Bxf6 11.c5 Rd8(11…Nc6 12.Bb5 Rd8 13.Bxc6 bxc6 は黒のポーンが弱い)12.Bc4 Nc6 形勢はほぼ互角である。

6…e5 7.Be3

 (交換中原に至る)最も古典的な交換戦法は 7.dxe5 から生じる。次の手順は典型的なものである。7…dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bg5 Re8(この手が最もよく指されているが、9…c6 10.Nxe5 Re8 も試されてきた)10.Nd5 Nxd5 11.cxd5 c6 12.Bc4 cxd5(12…b5 13.Bb3 Bb7 も指されている)13.Bxd5 ここで黒はd4の地点の占拠を目指すことができる。例えば 13…Nc6 14.Ke2 Nb4 15.Bc4 Bg4 16.Rhc1 Nc6 17.Kf1 Bxf3 18.gxf3 Nd4 となる。あるいは黒は白枡ビショップ同士の交換を目指すこともできる。例えば 13…Na6 14.O-O-O Nc7 15.Bb3 Be6 16.Bxe6 Nxe6 17.Be3 f5 という具合である。どちらの場合も展望はほぼ互角である。明らかに Nf3-g5 を念頭においた 6.Be3 の戦型と比較すると、g5にいる白のクイーン翼ビショップがいかにタイムリーな Nf3-g5 でf7の地点に圧力をかけるのを阻害しているかに注意されたい。

 単純化中原は自然な 7.O-O のあと以下の例が示すように多くの異なった陣形から生じる。

 (1)7…Nc6 8.Be3 Re8 9.dxe5 dxe5 10.Qxd8 Nxd8(10…Rxd8 は 11.Bg5 Rd7?! 12.Bd1! h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Ba4 Rd6 15.c5 Re6 16.Nd5 Bd8 17.Rfd1 となり白が Bxc6 から Nb6 を狙う)11.Nb5(11.Nd5 Ne6 12.Ng5 Nxd5 13.cxd5 も指されている)11…Ne6 12.Ng5 Re7 13.Nxe6(13.Nxa7 Nf4 14.Bxf4 exf4 15.Nxc8 Rxc8 16.f3 Nd7 でポーンの代償のある手順も提案されている)13…Bxe6 14.f3 b6 15.a4 c6 16.a5!?(16.Nc3 なら 16…Rb7! で互角)16…cxb5 17.axb6 形勢不明である。一見穏やかな戦法でも乱戦になっていくさまが如実に見てとれる。

 (2)7…Nc6 8.Be3 Ng4 9.Bg5 f6 10.Bh4 Kh8 11.dxe5 dxe5 12.c5(12.Nd5 Ne7 はほぼ互角)12…Nh6 13.h3 Be6 14.Qa4 Qe8 15.Rad1 f5 16.Bb5 難しい局面である。

 (3)7…Nbd7 8.Be3 c6(8…h6 も有力である。例えば 9.dxe5 dxe5 10.Nd2 Nh7 11.c5 Ng5 12.b4 f5 13.f3 f4 14.Bf2 Ne6 15.Bc4 Nf6 16.Nb3 Qe8 はどちらも指せる。また 10.Ne1 Nh7 11.Qd2 Ng5 12.Rd1 も指されている)9.Qc2(9.dxe5 dxe5 10.Nd2 Qe7 11.Qc2 Nc5 12.Nb3 Ne6 13.Rfd1 Nd7 14.c5 f5 15.f3 f4 16.Bf2 g5 は難解である)9…Ng4 10.Bg5 f6 11.Bh4(11.Bd2 f5 12.exf5 gxf5 13.dxe5 dxe5 14.Ng5 Ndf6 は双方に手が豊富にある)11…Nh6 12.dxe5 dxe5 13.b4 Qe7 14.c5 Nf7 15.Rfd1 Re8 16.Bc4 Nf8 白が少し優勢である。

 (4)7…Nbd7 8.Re1(8.Qc2 c6 9.Rd1 Re8 10.dxe5 dxe5 11.Na4 b6 12.b4 Qc7 13.Bb2 Nf8 14.c5 Bg4 はほぼ互角である)8…c6(8…h6 9.Qc2 Nh7 10.dxe5 dxe5 11.Be3 Re8 12.c5 Nhf8 は注目に値する)9.Bf1 a5 10.dxe5 dxe5 11.Na4 Qe7(11…Re8 は 12.Qc2 Bf8 13.c5 Qe7 14.Be3 Ng4 15.Bg5 f6 16.Bd2 Nxc5 17.Nb6 Rb8-17…Ra7 は 18.h3 Nh6 19.Be3 のあと白に 20.Rec1 の狙いがある-18.h3 Nh6 19.Bxa5 となり、ここで黒が最善の受けの 19…Nd7 を指しても白陣の方が優位を保つ)12.Qc2 Nc5 13.Nxc5 Qxc5 14.Be3 Qe7 15.c5 Rd8 16.Bc4 Bg4 17.Nd2 Be6 18.Bxe6 Qxe6 19.Nc4 白がわずかに優勢である。

7…Qe7

 黒は 7…Ng4 と指したいところをこらえて代わりに白のeポーンを間接的に当たりにして、それにより中原の形が決まることを期待している。

8.dxe5 dxe5(図207)

 図207 白の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(149)

第5章 単純化中原(続き)

5.2 戦術の狙い所(続き)

e4のポーンの間接防御

 同じく早期のクイーン交換の戦型で次のような状況がよく生じる(図206)。

 図206 

 白のeポーンが当たりになっているが白は決して直接守る必要はなく、O-O-O または Rd1 でルークをd列に回しておくことがもきる。そのあと …Nxe4? は Ne7+ があるので成立しない。

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(227)

「Chess Life」2011年4月号(3/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

素早い出だし(続き)

白 GMレボン・アロニアン(FIDE2805、アルメニア)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第2回戦、2011年1月16日

 8.d5

 これはオランダ防御レニングラード戦法の標準的な局面だが、ナカムラはアロニアンがそれまで出くわしたことがなかったあまりはやらない作戦を用いた。

8…Na5!?

 8…Ne5 9.Nxe5 dxe5 の方がよく指されている。

9.Nd2 c5

10.Rb1

 この手は正確さが足りなかった。10.a3 b6 11.Rb1 なら白がわずかな優勢を保つことができた。

10…e5! 11.dxe6e.p. Bxe6

12.b3

 12.Nd5 Nxd5 13.cxd5 Bd7 も黒は怖くない。

12…d5 13.cxd5 Nxd5 14.Nxd5 Bxd5

15.Ba3

 15…Bxd5+ は 15…Qxd5 16.Nc4 Qe4! で良くない。

15…Bxg2 16.Kxg2 Nc6 17.Nf3 合意の引き分け

 ここでアロニアンが黒に何の問題もないことを受け入れて引き分けを提案し、すぐに合意された。

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(この号続く)

2011年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(148)

第5章 単純化中原(続き)

5.2 戦術の狙い所(続き)

d列での干渉

 白が早期にクイーンを交換する戦法では次のような局面になりやすい(図205)。

 図205 

 局面は黒が白ルークの7段目の侵入に自分のルークを合わせたところだが、ここで白が自動的に Rad1? と補強すると …Nd4+ によって咎められる。このd列での干渉の手筋によって黒が交換得になる。

(この章続く)

2011年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(147)

第5章 単純化中原(続き)

5.2 戦術の狙い所

 単純化中原は本来からして頻発する戦術の主題の豊富な基盤とはならない。しかしかなり特殊ではあるけれども次のような着想は知っておいた方がよい。

(この章続く)

2011年07月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(132)

「Chess Life」2011年2月号(9/11)

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収局研究室

2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

逃がしたチャンス

 ジェフリー・ションは健闘した。最終的に9得点をあげ同点1位/2位になった。しかし順位判定システムにより2位になった。1位になっていたはずのもう0.5点はこの収局の盤上にころがっていた。

白 カメロン・ホウィーラー(FIDE1921、米国)
黒 ジェフリー・ション(FIDE1824、米国)
世界少年少女チェス選手権戦オープン10歳以下、2010年

 黒の手番

40…Rc7

 黒は交換損に対して2ポーンのほかにあり余るほどの代償がある。問題はナイトが釘付けにされていることだが、お勧めは釘付けをはずすために 40…Rc5 と浮く手である。それでも規定手数に達するために 40…Qc4 または 40…h6 と指しておいても態勢を悪くしないので無難だった。

41.g5 Qe7

 2駒を与えてルークとポーンを取るのは最善の作戦でなかった。41…h6 の方が良かった。

42.h4 h6 43.Rxc3 Rxc3 44.Rxc3 Bxc3 45.Qxc3 hxg5 46.hxg5 Qxg5

 通常は単独のビショップで3個のポーンから引き分けをもぎ取れる。クイーンが加わってもポーンが進むにつれて永久チェックの可能性ができてくるので状況は変わらない。

47.Kh2 Qh4+ 48.Bh3 Qd4 49.Qxd4 exd4

 黒のポーンはばらばらで容易にせき止めることができる。黒はわずかな勝つ可能性さえ失った。

50.Kg3 g5 51.Kf3 Kg6 52.Ke4 Kh5 53.Kf5 d3 54.Bg4+ Kh4 55.Bd1 d2 56.Be2 f6 57.Bg4 Kg3 58.Bd1 Kh3 59.Be2 Kg3 60.Bg4 合意の引き分け

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(この号続く)

2011年07月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 世界のチェス雑誌から2

王印防御の完全理解(146)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

d5の要所

 白は特に序盤の早い段階でd列でクイーンを交換し黒にとってc7の地点がもろくいくらか守りづらいことにつけ込むことにより、d5の地点の利用に努めることができる(図201)。

 図201 

 白の作戦は黒がc7の地点への当たりにどう対処するか(…Nxd5、…Ne8、…Na6、…Rd7)によって変わってくる。しかしどの場合でも黒のクイーン翼の展開の遅れにつけ込むことができる。

 黒がd5の地点でナイト同士を交換するとき白はcポーンで取り返してc7の地点に圧力をかけ続ける。黒は当然 …c7-c6 突きによってその圧力を和らげようとする。白はdポーンを Bc4 で守ることによりこの挑戦に応じ、機会があればこのキング翼ビショップをd5の地点に置こうとする(図202)。

 図202 

 黒は単純にd5で交換するほかに …b5、Bb3 Bb7 によって争点を維持することも試みてきた。しかしこれは白のdポーンを進ませる可能性に手を貸すだけでなく、c列の敏感さを復活させクイーン翼の黒枡を弱める不利を招くことにもなりかねない。

 黒の最も一般的な手は白の意中を行きキング翼ビショップに支配的な地点を占めさせることになってもd5で交換することである(図203)。

 図203 

 白の期待はb7とf7の地点に対する圧力に加えて黒のクイーン翼の展開の遅れにより、まず素通し列を利用できるようにすることである。注意すべきは白はキング翼にキャッスリングする義務はさらさらなく、クイーン翼にキャッスリングするかもしれないし状況により中央にキングを置いたままにする(例えば実戦例第9局の白の7手目の解説を参照)かもしれないということである。

 黒は白の単刀直入な作戦の強力さを見くびらないように注意しなければならない。そして展開を完了する第1段階として白の強力なビショップを追い払うために …Nb8-c6-b4 や …Nb8-a6-c7 のような手間のかかることをしてはいけない。黒は …Bc8-e6 によってビショップ同士の交換を誘うか …Bc8-g4 で白の Nf3 を取り除きd4の地点を占めるようにすることにより、さらに単純化を図ることがある。

 図201に戻って、黒がナイトを交換する代わりに …Rd8-d7 によってcポーンを守るときは、白は自分の方からナイト同士を交換して自分のeポーンに対する当たりをなくし、そのあと c4-c5 と突いてキング翼ビショップが働くようにする(図204)。

 図204 

 このcポーン突きはキング翼ビショップのためにc4の地点を空けるだけでなく、黒のクイーン翼ナイトの展開にもっと問題が生じるようにさせる。即ち …Na6、Bxa6 でも …Nc6、Bb5(xc6)でも黒の陣形にかなりの弱点が生じる。もちろんあとの場合黒は …Nc6 と指す前にルークを動かすことにより二重ポーンを避けることはできる。図196の局面に似ていることには注意する価値がある。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(145)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

黒のキング翼ポーンの進攻

 中央の素通し列は黒にキング翼ポーンを突いていく通例の作戦を思いとどまらせるけれども、時にはポーン暴風の実行が可能なことがある。白が Be3 Ng4、Bg5 f6、Bh4 という捌きを行なったときは特にそうである(図199)。

 図199 

 白のクイーン翼ビショップがe3またはd2にいるとき白は黒に(…f5 突きのあと)ポーンによる襲撃を実行させる(f3 と突いて黒に …f4 から …g5 と指させる)か、または exf5 と応じて黒キングの囲いをかなり薄くさせるかを選択できるのが普通である。

 図の局面で白はクイーン翼ビショップを戦いに復帰させd4の弱点を支配する必要があることと、加えて …g5、Bg3 f5、exf5 Bxf5 のあと白のクイーン翼ビショップの位置があまり良くないことにより、白はしばしば f2-f3 と突いてクイーン翼ビショップをf2の地点に引くようにさせられる。そうなれば黒は古典的なキング翼でのポーン暴風に乗り出すことができる(図200)。

 図200 

 いつものように黒の攻撃は …g5-g4 突きによる仕掛けが基盤となっている。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

チェス布局の指し方[71]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

4ポーン攻撃

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f4(図110)

 図110(黒番)

 白は黒の布局の手に乗じて最も極端な方法で中央をポーンで占拠した。キング翼インディアン防御の黎明期には白によるこのような陣地の征服はほとんど勝負がついたものとみなされていた。しかし今日では白の広大なポーン中原には弱点が存在すると認められている。特に f4 突きは白キングの周りの枡を弱めている。黒は白の伸び広がった中原を …c5 突きで襲撃することができ、dポーンを進ませて …e6 突きと …b5 突きで揺さぶっていく。4ポーン攻撃はもうマスターの実戦ではあまり人気がなくなっている。しかしこのような広大な中原は黒が正確な防御によって無害にできることを示すためにここで分析する。

5…O-O 6.Be2

 6.Nf3 だと黒が 6…Bg4 から …Nc6 で白のd4の地点に圧力をかけることができるので、白はナイトよりも先にビショップを展開した。この着眼点は現代防御の章のオーストリア攻撃の節でもっと詳細に解説する。

6…c5!

 白のdポーンに対する突っ掛けは折り紙付きの手段である。白が 7.dxc5 と取れば …Nxe4 を狙いに 7…Qa5 と出て展開に優る黒が有利な態勢になる。白の最も安全な針路は次の手のように中原で陣地を広げることである。

7.d5 e6

 切り崩し作戦が始まった。白が相手に弱い出遅れdポーンを作らせることを期待して 8.dxe6 と取れば、黒は …Bxe6 から …Nc6 と応じて展開が速まり半素通しe列での白のeポーンに対する攻撃の可能性が生まれる。白は展開で後れをとっている間は局面を閉鎖的に保つよう努めた方がよい。

8.Nf3

 白が展開を完了しようとしているのは賢明である。

8…exd5 9.cxd5(図111)

 図111(黒番)

 白はこの手で中原に可動多数派ポーンを維持しようとしている。この局面で黒には非常に効果的な戦術の手段がある。それは伸張した白のポーン中原に対して、このような局面につきものの指し方である。

 黒はまず 9…b5 と突き …b4 で白のクイーン翼ナイトを当たりにして白のeポーンをただ取りにすることを狙う。9…b5 はこのポーンが二重に当たりになっているのでばかげた手に見える。しかし白はほとんどこのポーンを取ることができない。10.Nxb5 と取ると黒は単純に白のeポーンを取る。また 10.Bxb5 と取ると次のようにきれいな手筋が決まる。10…Nxe4 11.Nxe4 Qa5+ 12.Kf2(12.Nc3 は 12…Bxc3+ 13.bxc3 Qxb5 で白陣ががたがたになる)12…Qxb5 13.Nxd6 Qa6 14.Nxc8 Rxc8 白のぼろぼろの陣形と露出したキングに照らすと、黒はポーン損でも十分反撃が可能である。

 白は10手目でポーンの犠牲を拒否し、中原で自分の多数派ポーンで押しまくった方がよい。だから 10.e5 dxe5 11.fxe5 と指すべきだが、11…Ng4 で白のeポーンに対する黒の反撃は均衡を保って余りある。

 これは難解な局面で多くの研究が行なわれ、秘密を解明するには一般原則の専門書よりも具体的な分析の本が必要である。12.Bg5 Qb6 からは難解な手順が始まる。しかし黒には 12…f6 13.exf6 Bxf6 14.Bxf6 Qxf6 という手もあり-こちらを推奨する-まともな局面で黒枡で強く指せる。特に白のe3の地点は非常に弱くなっている。この手順は大局的に理にかなっていて、こんなところで難解な「定跡手順」に煩わされる必要などさらさらない。

(この章続く)

2011年07月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(144)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

d4とf4の地点の弱点

 単純化された型の中原で黒の反撃は一般に白の弱点であるd4の地点の占拠が中心となる。白はこの地点をキング翼ナイトとクイーン翼ビショップとで守るのが普通である(Nf3 と Be3)。しかしこれらの2駒はしばしば他の役割に向けられる(例えば Nf3-d2-c4 と Be3-g5-h4)。そのため黒がクイーン翼ナイトをc6の地点に展開していないときでさえd4の地点の占拠は見た目よりかなり容易である。

 黒がd4の地点を占拠する最も簡単な方法は …Nb8-c6 と跳ねて …Bc8-g4 により白のキング翼ナイトと交換することである(図197)。

 図197 

 このような着想の実現を防ぐ白の最善の策は黒のクイーン翼ビショップの展開の機先を制して h2-h3 と突くことである。

 黒がクイーン翼ナイトをd7の地点に展開したときは(…c7-c6 突きと組み合わされるのが普通である)、d4の地点につけ込むカギはこのナイトをf8かc5の地点を経由してe6の地点に移送することにある(図198)。

 図198 

 黒ナイトはe6の地点からd4にもf4にも行ける。白がキング翼にキャッスリングしたあとはf4の地点の占拠が黒にとって魅力的な地点になる。というのは白が g2-g3 と突くことによりキング翼を弱めるのはほとんど得策とならないからである。黒はキング翼ナイトを …Nf6-e8-c7-e6、…Nf6-h7-g5(または -f8)-e6、…Nf6-g4-h6-f7-g5-e6 などいろいろな経路によってe6の地点に捌くこともできる。黒のキング翼ビショップも …Bg7-f8-c5 という捌きによってd4の地点をにらむことができる。これは黒の不良ビショップが活性化するのでほとんど常に黒の戦略の成功を意味する。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

名著の残念訳(4)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『防御には、攻撃の特徴に対応した高度な水準が求められてきた。』

英文『A rise in the standard of defense has necessitated a corresponding adjustment in the character of attack.』

necessitate は「・・・を必要とする、・・・を必然的に伴う」という意味だから、「水準が求められてきた」のは attack の方である。

試訳「防御の水準が上がったことによって攻撃の特性にもそれに応じた適応が必要になってきた。」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『華麗な手の多くは、尾ひれの付いた注釈の中にしか存在しない。』

「尾ひれ」とは何のことを言っているのだろう。前後の文章をいくら読んでも分からない。原書ではこれに対応するのはどんな言葉なのだろうか。

英文『Brilliancies often exist only as grace notes.』

どうも grace が「尾ひれ」のことらしい。grace notes は grace が形容詞で notes が名詞(の複数形)のような形をしているが、grace には名詞と動詞しかない(形容詞は graceful)。「小学館プログレッシブ英和中辞典」を見ると grace note はこれで見出しになっていて「装飾音」という意味が出ている。ジーニアス英和大辞典には「楽譜上に小型の符号で印刷されたメロディー・ハーモニーに影響を与えない音」という注釈がついている。

試訳「華麗な手の多くは、装飾音としてしか存在しない。」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『十余りの見事で奇妙な負け筋に直面し、ベンコーは見たところつまらない変化を選ぶ。しかし、この見苦しさは棋力の副産物ではないのか?読者はだまされた気分に、勝者は欲求不満になるかもしれないが、かといって、魅惑的な手筋への誘いにまんまと引っかかる敗者の洞察力が批判されないのはどうしてか?』

つまらない変化を選んで負けることの方を評価/擁護しているように読めるが、そんなものなのだろうか。

英文『Confronted with a dozen beautiful outlandish losing variations, Benko chooses what appears to be a prosaic one. Is this “ugliness” not a by-product of skill ? Though the reader may feel cheated, and the winner frustrated, does it not argue for the perspicacity of the loser who sidestepped those seductive invitations ?』

argue に前置詞の for が付いている。小学館プログレッシブ英和中辞典によると argue for には「・・・に賛成の論を唱える」という意味がある(argue against なら「反対」)。

argue for disarmament 軍縮賛成(論)をぶつ

だから「it は敗者の洞察力に賛成しないのか?」という意味になる。問題は it が何を指しているのかということである。受験勉強のとき英文和訳では it のような代名詞は具体的なものごとに訳さずに「それ」などと訳すと減点されることがあると注意された。翻訳でも具体的に何のことをいっているのか理解しておかないと、わけのわからない訳文になることがある。普通は前の方の名詞を指すのだが、ugliness や by-product では意味がとおらない。小学館プログレッシブ英和中辞典によると it には次のような用法がある。

1((すでに言及した事物をさして))(3)((抽象的な概念、命題、事)):I hear he killed himself last night. Have you heard anything about it ? 昨夜彼が自殺したそうだが、そのことで[について]何か聞いているか。

だからあの it は「the reader may feel cheated, and the winner frustrated」の部分を指すと考えられる。

試訳「十余りのきれいでとっぴな負け筋に直面し、ベンコーは見たところつまらない変化を選ぶ。しかしこの邪悪さは棋力の副産物ではないのか?読者はだまされた気分に、勝者は欲求不満になるかもしれないが、ということは魅惑的な誘いを避ける敗者の洞察力に賛成しないということなのか。」

2011年07月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 名著の残念訳

王印防御の完全理解(143)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

黒のクイーン翼ポーンの配置がa7、b7、c7の場合の c4-c5 突き

 黒のクイーン翼ポーンの配置がまったく元のままのときは、白の c4-c5 突きの主要な効果は自陣がいくらか広がることと白枡ビショップの利きが延びることである(図196)。

 図196 

 この図に示されるような基本的な戦略の特徴は Be3 Ng4、Bg5 f6 のあとよく現れる。c4-c5 突きのあと白の白枡ビショップはa2-g8またはa4-e8の斜筋で相手にとって厄介な圧力をかけることができる。

(この章続く)

2011年07月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(142)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

黒のクイーン翼ポーンの配置がa7、b7、c6の場合の c4-c5 突き

 黒が …c7-c6 突きだけにとどめている時は白はbポーンの支援で c4-c5 と突くことができる(図195)。

 図195 

 これで白はきわめて重要なc4の地点を空けることとd6の弱点の固定化(あとで Nf3-d2-c4-d6 という典型的な捌きによってそこを占拠することを狙う)の目的を達した。白がクイーン翼ビショップをまだ展開していないときはb2に上がらせて黒のeポーンに圧力をかけることができる。

 黒が …a7-a5 と突いていないときは黒陣は欠陥が少なく白と対等の立場で戦うことができる。即ち敵陣の弱点につけ込むことに努め、あとで出てくるようにキング翼のポーンを突き進めるような通常の反撃策を遂行することができる。

(この章続く)

2011年07月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(226)

「Chess Life」2011年4月号(2/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ナカムラの優勝への道のり
 大会の星取表を見てナカムラが簡単に独走し下位者にまったく容赦なかったと思うかもしれない。しかし2011年タタでのナカムラの優勝への道のりは容易どころか、以下の回戦ごとの試合を見れば分かるように多くの紆余曲折があった。

素早い出だし
 最初の3回戦はナカムラにとってこれ以上はない出来だった。グリシュクの捨て駒を正確に咎め、難関の一人のアロニアンと黒で楽に引き分け、昨年のベイクアーンゼーのスターのアレクセイ・シロフに激闘の末勝った。

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMアレクサンドル・グリシュク(FIDE2773、ロシア)
ベイクアーンゼー Aグループ 第1回戦、2011年1月15日

 27.Qf3

 グリシュクは18手目で捨て駒で白キングを露出させた。ナカムラの時間が少なくなり始めたこともいくらかの代償になっている。しかしグリシュクはここで 27…Kh8 28.Nf5 bxc3 でさらに難しい局面にする代わりに、2ルークを与えてクイーンを取る手を指した。しかしその作戦はすぐに裏目に出た。

27…Rxe3? 28.Rxg7+!

28…Kxg7

 グリシュクは 28…Kh8 と寄るつもりだったのかもしれない。しかし 29.Qxf7! と取られて 29…Re2+ 30.Kg1! Re1+ 31.Kg2! R1e2+ 32.Nxe2 Rxe2+ 33.Kf1

のあと有効なチェックがないことに気づくのが遅すぎた。

29.Qg4+ Kf8 30.Rxe3 Rxe3 31.Kxe3 bxc3 32.Ke2

 対局後ナカムラは 32.Ke4 の方が強手だったとこの手を批判した。それは確かだが実戦の手でも十分である。

32…Qe5+

 ナカムラは 32…Qb4 を恐れていた。しかし 33.Qc8+ Kg7 34.Nf5+ Kf6 35.Ne3

のあと白の勝ちはもう時間の問題である。35…Qb2+ 36.Kf3 Qxa2 と指しても 37.Qc6+ で詰みがあるので黒の負けである。

33.Kd1 Qh2 34.Ne2

 黒のポーンが孤立しているのであとは白の簡単な勝ちである。

34…Qd6+ 35.Qd4 Qxd4+ 36.Nxd4 Kg7 37.Nc6 a6 38.Nb8 a5 39.a4 Kf6 40.Nc6 Ke6 41.Nxa5 Kd5 42.Kc2 黒投了

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(この号続く)

2011年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(141)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点(続き)

黒のクイーン翼ポーンの配置がa5、b7、c6の場合の c4-c5 突き

 黒がポーンを …c7-c6 および …a7-a5 と突いたときは、白の c4-c5 突きはクイーン翼ナイトの支援を受けるのが普通である(図192)。

 図192 

 この図を見ると白が黒の弱点のb6とd6の地点を支配していること、役に立つc4の地点を獲得していること、加えて黒のa5のポーンが弱くクイーン翼の展開が全般的に麻痺していることがはっきりと分かる。

 基本的に黒には白の作戦を迎え撃つ手段が二通りある。(1)白のcポーン突きを予期して Qd8-e7 から …Nd7-c5 と指すことによりナイト同士の交換を図る。(2)白に c4-c5 と突かせてそのポーンに速攻をかけて自分のaポーンと引き換えに取ってしまう。

 最初の場合白は交換に応じなければならない。さもないと自分のcポーンを突き進めることができない(図193)。

 図193 

 Nxc5 Qxc5、Be3 Qe7 のあと白はまだ c4-c5 と突くことができる。しかしナイト同士が交換されたこととそのことにより黒のクイーン翼が非常に楽に展開できるようになったことにより効果はずっと劣るものとなる。

 二番目の場合黒の目的はc5のポーンを取ることである(図194)。

 図194 

 ここでは黒の作戦の迅速で無駄のない遂行が見られる。…Ng4 のあと白はポーン交換を避けることができず Bg5 f6、Bd2 Nxc5、Nb6 Rb8、Bxa5 となる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(140)

第5章 単純化中原(続き)

5.1 戦略の着眼点

 上記の戦型から気づくように、白はさまざまな戦法と布局のいろいろな段階とで dxe5 取りを決めることができる。分析の過程で明らかになるように、黒のクイーン翼のポーン構造はこの型の中原で特に重要な関連性がある。この構造は戦略上の要素が最も豊富だが奇異なことに最も解説と理解が容易なので、まずそれから考察を始める(図191)。

 図191 

 局面は黒が …c7-c6 突きと …a7-a5 突きを決めたところである。素通しd列は別にして黒にはd6とb6の地点に形の弱点があることは一見して明らかである。これらの弱点は c4-c5 突きで固定できる。一方白はd4の地点に形の弱点があり、既に黒のeポーンによって固定されている。

 だんだん明らかになるように、c4-c5 突きはいつも白の作戦の骨子を成している。もっともその具体的な戦略上の意義は黒のクイーン翼のポーン構造によって変わってくる。

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(131)

「Chess Life」2011年2月号(8/11)

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収局研究室

2010年世界少年少女チェス選手権

GMパル・ベンコー

 金メダリストと数人の10位以内入賞者を輩出した我が国の世界少年少女チームは収局で深い読みを必要とした試合も多かった

 ギリシャのハルキディキで開催された世界少年少女チェス選手権は記録的な数の選手が参加した。80ヶ国を超える約1400人の少年少女が11回戦を戦った。我が国の入賞した選手たちの指した興味深い収局のいくつかを紹介する。

運の変転

 金メダル獲得のスティーブン・ジールクは大会開始時の順位が26位だったので大きな番狂わせだった。彼の実効レイティングは2723だった。

白 IMスティーブン・C・ジールク(FIDE2391、米国)
黒 GMニルス・グランデリウス(FIDE2500、スウェーデン)
世界少年少女チェス選手権戦オープン18歳以下、2010年

 白の手番

 戦力が不均衡な局面の形勢判断は難しいことがある。ここでは白の2個の小駒が明らかに協力していないので相手のルークと2ポーンより見劣りする。

25.h3

 25.g3 か 25.Re1 の方が先見の明があっただろう。

25…Ra5 26.Re1

26…Qxa4

 ここは 26…Rxa4 27.Qxb6 Rc8 28.Bb1 Qc6 と指した方が良かった。黒はクイーン交換を強制できて有望だっただろう。

27.Qxb6

27…Rf8

 黒はたぶん 27…Rc8 28.Ng6 Re8 29.Bxe6 で乱戦になるのを恐れていたのだろう。

28.Bb3 Qb5 29.Qe3 Qb4 30.Nf3 Rb5 31.Bc2 Qxb2 32.Qd3

32…Rfb8?

 ここは 32…g6 突きが必須だった。

33.Nd4!

33…g6

 もうこれより他にいい手がなかった。33…Re5 は 34.Qh7+ Kf8 35.Rb1 だし 33…R5b6 は 34.Qh7+ Kf8 35.Nf5 でやはり白の攻撃が圧倒的である。

34.Nxb5 Rxb5 35.Rb1 Qe5 36.Rxb5 axb5

 形勢は互角である。黒がポーンを突くのも難しいし、白のビショップも標的がない。

37.Kf1 Kg7 38.Qb3 Qc5 39.Ke2 b4 40.Qb2+ e5?

 これでビショップの利きが強力になって黒は坂道を転がり落ちた。

41.Bb3 Qb5+ 42.Ke1 Qc6 43.Kf1 Qa6+ 44.Ke1 Qc6 45.Kf1 Qa6+ 46.Kg1 Qd3 47.Qa2 Qc3

48.Kh2

 48.Bxf7? は 48…Qc1+ 49.Kh2 Qf4+ で良くない。

48…Qd4?

 48…Qc7 の方が良かった。

49.g3!

 思いがけない転換点だった。f7のポーンが動かなければならず黒キングの障壁が取り除かれる。黒の死は近い。

49…f5 50.Bg8! Kf6 51.Qf7+ Kg5 52.f4+ Kh5 53.Qxf5+ 黒投了

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(この号続く)

2011年07月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(139)

第5章 単純化中原

主手順 - オーソドックスシステム
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.dxe5 dxe5(図190)

 図190 白の手番 

 白がある時点でe5の地点でポーン交換をする戦法がいくつかある。例えば 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 の後

 オーソドックスシステム
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nbd7 8.Re1(または 8.Qc2 c6 9.Rd1 Re8 10.dxe5 dxe5)8…c6 9.Bf1 a5 10.dxe5 dxe5
 - 5.Nf3 O-O 6.Be3 e5 7.dxe5 dxe5

 グリゴリッチシステム
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O(または 7.Be3 Qe7 8.dxe5 dxe5)7…Nc6 8.Be3 Ng4(または 8…Re8 9.dxe5 dxe5)9.Bg5 f6 10.Bh4 Kh8 11.dxe5 dxe5
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nbd7 8.Be3 c6(または 8…h6 9.dxe5 dxe5)9.Qc2 Ng4 10.Bg5 f6 11.Bh4 Nh6 12.dxe5 dxe5

 h2-h3 突きの戦法
 - 5.Nf3 O-O 6.h3 e5 7.dxe5 dxe5

 アベルバッハ戦法
 - 5.Be2 O-O 6.Bg5 h6 7.Be3 e5 8.dxe5 dxe5

(この章続く)

2011年07月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(138)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図189(再掲)白の手番 

 黒は一見有望な反撃に突き進んだ。しかし思いがけない痛撃が待ち構えていた。黒が積極的な実戦の手に惚れ込んだのも無理もない。受け身の受けの 15…Re8 16.Rfe1 Rf8(これは最下段を無防備にしないために必要である。16…Rxe1+ と取ると 17.Rxe1 で白に Nb5-c7 と Nb5xd6 を狙われる)では、白は陣形の優位が大きいので 17.Nxa7 とポーン得するくらいではとても満足しないだろう。

16.Rfe1!

 決め手の 17.Nc7 を狙っている。

16…Bd7

 黒は戦力損を甘受した。他の手でもこれより良くならない。例えば 16…Rf6 なら 17.Nc7! だし 16…Na6 なら 17.gxf3 Bxh3[訳注 17…Qg5+ で引き分けになるようです]18.f4 で、どちらも白の優勢は決定的である。最後に 16…Nd7 でも 17.Nxd6(17.gxf3 は 17…Ne5 で危険である)17…Rb8 18.Qd2!(18.Qe2 は 18…Rf6 19.Qe8+ Qxe8 20.Rxe8+ Kg7 21.Nxc8 Rb2 で黒にポーンの代償が十分にある)18…Nf6 19.Nxc8 Ra3 20.Ne7+ Kg7 21.Nc6 でやはり白が勝勢である。

17.gxf3

 白キングがやや薄いにもかかわらずあとは単なる技術の問題である。

17…Qg5+ 18.Kh1 Na6 19.Nxd6 Bxh3 20.Rg1

 惜しい!20.Qh8+! なら白のこれまでの指し手にふさわしい締めくくりになっただろう。

20…Qf4 21.Rg3 Qxd6 22.Rxh3 Re8 23.Kg2

 24.Rxh7 を狙っている。

23…h5 24.Qc3 Nc7 25.Re1 Rd8 26.Rh4 Ne8 27.Rhe4 Qb8 28.Re7 Nd6

 黒は乏しい防御手段の限りを尽くした。一見白が戦力得を勝利に結び付けるにはいくらか時間がかかりそうである。しかしイフコフはほんのわずかな手で決着をつける手段を見つけた。

29.Qf6 Rf8 30.Qf4 Rd8 31.R1e6! fxe6

 31…Nf5 なら 32.Qxb8 Rxb8 33.Re8+ で白の勝ちになる。

32.Qf6 1-0

(この章終わり)

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チェス布局の指し方[70]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

古典型戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7

 代わりに 3…d5 と指せばグリューンフェルト戦法になり、白は 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 でポーン中原を築くことができ、黒はやがては切り崩すことを期待する。

4.e4 d6 5.Be2(図108)

 図108(黒番)

 これが古典型システムの真骨頂である。白は駒を迅速に中央部の好所に展開した。5.Be2 でできるだけ早くキャッスリングすることを意図し、そのあとはクイーン翼のポーンを突いていく。5.Bd3 はあまり良くない。キング翼ビショップがd3にいてもキング翼攻撃の機会がなく、黒のクイーン翼ナイトがc5の地点に来れば攻撃にさらされる。

5…O-O 6.Nf3 e5

 この手はここではほとんど例外なく指される。黒は白がd5と突いて中原を安定させることを期待している。そのとき黒はキング翼ナイトをどけてfポーンを突き、言わずと知れたキング翼ポーン雪崩を始動させる。6…Nc6 と展開するのは的外れである。7.d5 と突かれるとクイーン翼ナイトの良い逃げ場所がない。しかし 6…c5 はある手である。例えば 7.d5 e6 となって一種のべノニの局面になる。

7.O-O

 差し出された黒のポーンを取っても何にもならない。7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nxe5 Nxe4! で白の飛び出したナイトに当たりが直射する。代わりに 7.Be3 なら可能で、この自然な展開の手が米国のグランドマスターのレシェフスキーの得意な手だった。普通このような手は 7…Ng4 が見えているのであまり良くない手なのだが、ここでは黒のクイーンに当てて先手でビショップを動かすことができる。例えば8.Bg5 f6 9.Bh4 で互角である。

7…Nbd7

 この手はeポーンを支えると共に、8…exd4 9.Nxd4 Nc5 で白のeポーンに圧力をかける用意もある。だから白はこの狙いを武装解除する。代わりにカスパロフのよく指す 7…Nc6 は良い手だが非常に難解である。

8.d5 Nc5

 ナイトが先手で中央の好所に来た。白は次のようにeポーンを守らなければならない。

9.Qc2

 これで黒にクイーン翼ナイトの位置を安泰にする手が与えられる。

9…a5(図109)

 図109(白番)

 黒がこの手を指さなければ白は b4 と突いて黒ナイトを追い払いクイーン翼で陣地を広げる。そうなれば白が c5 突きを準備するのは容易になる。例えばクイーン翼ビショップをa3に置きルークをc1に回すという具合である。そして c4-c5xd6 に続いて Nb5 から Qc7 によって黒のクイーン翼に侵入する手はずが整う。黒の守られていないdポーンは白駒の攻撃目標になる。図の局面で黒にはキング翼ナイトを動かして …f5 と突く用意ができていて、それは白にとって面白くない。白はマスターの実戦に数多く現われた次のような捌きに突き進むしかない。

10.Bg5

 まずキング翼ナイトを釘付けにする。

10…h6

 黒は釘付けをはずさなければならない。

11.Be3 Ng4

 白のクイーン翼ビショップを当たりにして先手でfポーンの障害をなくした。

12.Bxc5!

 普通キング翼インディアン防御でこのようにビショップをナイトと換えるのは非常に良くない。なぜなら白は黒枡を守るのにクイーン翼ビショップが必要だからである。しかしここでは例外的な戦術の核心がある。

12…dxc5 13.h3! Nf6

 他に指しようがない。黒は10手目で釘付けをはずしたときナイトの可能な引き場所の一つを奪ってしまっている。

14.Nxe5 Nxd5

 白のナイトに直射攻撃をかけた。ポーンを取り返すにはこう指すしかない。

15.cxd5!

 中央に向かって取り返した。

15…Bxe5 16.f4 Bd4+ 17.Kh2

 黒に双ビショップを与えた代償に白には非常に強大な中原がある。この中原は Bc4 と Rae1 とによって支援することができる。白の方が少し有望と考えられるが、逆の立場の強力な議論はフィッシャーがこのような局面を黒で指して好成績をあげているということである。

(この章続く)

2011年07月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(137)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図188(再掲)黒の手番 

 この局面で黒には主要な作戦の選択肢が三つある。

 (1)10…Bf5(e4の地点を支配するための過激な手段)11.Bxf5 gxf5 12.O-O Ne4 13.Ne2 難解な局面で、黒の陣形上の不利が駒の機動性の優位によってしっかり補われている。

 (2)10…Bh6 11.O-O Bxe3 12.fxe3 Nbd7(12…Rxe3? は 13.Qd2 のあと Qh6 から Ng5 で白が詰み狙いの攻撃にでる)つかみ所のない局面で、白はしばしばf列で強力な圧力をかけることができる。

 (3)10…Nh5(…Nh5-g3 の狙い)11.O-O Nd7 12.Qd2(他に二つの変化があり 12.g4 ならは 12…Nhf6 で黒はこのあと …h7-h5 と突いていくし、12.Bg5 なら 12…f6 13.Bd2 f5 14.Ng5 でe6の地点の弱点につけ込むことになる)12…Ne5 13.Nxe5 Rxe5 黒が持ちこたえられるはずである。

10…b5!?

 主眼のポーン突きだがこの局面では滅多に見られない。黒はe4の地点を支配するためにポーンを犠牲にする。

11.Nxb5

 11.cxb5 とポーンで取ると白のdポーンがひどく弱くなるので黒は …Nb8-d7-b6 から …Bc8-b7 と指すことができる。

11…Ne4

 …Ne4-g3 の狙いと共に、ビショップの筋を開けてb2のポーンを当たりにした。

12.O-O

 白は展開を完了するためにきちんとポーンを返すことにした。他の手は危険が多い。例えば 12.Bxe4 は 12…Rxe4 13.Qc2 Bf5 だし、12.Qc2 は 12…Qa5+ 13.Nd2 a6!(この手は 13…Ng3 14.fxg3 Rxe3+ 15.Kf2 で問題を抱えるよりずっと良い)で、どちらの場合も黒に代償が十分ある。

12…Bxb2?

 後の祭りだがこの当然そうな手は悪手と見られる。たぶん 12…a6 と突かなければいけなかっただろう。例えば 13.Nc3 Nxc3 14.bxc3 Bxc3 15.Rb1 Nd7 となれば白は優勢といってもほんのわずかである。

 実戦の手のために白が黒ルークを戦いの真っ只中に有利に引きずり込むことができた。

13.Bxe4! Rxe4

 13…Bxa1 と取ると例えば 14.Qxa1 Rxe4 15.Bg5! Qd7 16.Bh6 で白の黒枡での攻撃が熾烈になる。

14.Qc2! Rxe3!

 ここは勝負どころである。14…Bxa1 とこちらを取るのは 15.Qxe4 で黒のdポーンが致命的に弱くなる。例えば 15…Bf6 なら 16.Qf4 Be7 17.Ng5 だし、15…Bg7 なら 16.Qh4! Qb6 17.Bf4 Bf8 18.Ng5 h6 19.Ne4 g5 20.Qg3 である。

15.Qxb2!

 これは平凡な 15.fxe3 Bxa1 16.Rxa1 よりもはるかに有望である。

15…Rxf3?!(図189)

 図189 白の手番 

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

名著の残念訳(3)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

25 マローツィが抑え込みにならない場合 111ページ
『この意外な発明を見て、白が我に返った。』

 「発明」とは何だろう。フィッシャーのことだから特許を申請したのだろうか。原書ではどうなっているのだろう。

英文『This unexpected “discovery” jolts White back to reality.』

局面から見て discovery とは discovered attack のことである。通常の用語ではないがフィッシャーが茶目っ気を発揮して使ったのだろう。通常の「発見」という意味でなさそうなことは ” で括ってあることから想像がつく。「発明」という意味の英語は invention である。

39 対決 177ページ
『私の崩れ去った平常心は想像するに難くない。』

主語がないが書いているボトヴィニクだろう。ボトヴィニクが自分自身の心境を「想像するに難くない」などと他人事みたいに言うものだろうか。原書で確認するしかない。

英文『The reader can guess that my equanimity was wrecked.』

英文では想像する(guess)のは読者だから何も違和感はない。

試訳「読者は私の崩れ去った平常心を想像できるだろう。」

46 楽勝 210ページ
『これは読者にとっては幸運だった。さもないと、白の19手目のような巧みな手にいつかだまされただろう。』

白の19手目(好手を示す!が付いている)のような巧みな手が相手をだます手なのか?相手がだまされなかったらどういう手になるのだろう。相手をだまそうとする手は「はめ手」と言うのではないか?いくら読み返しても考えても分からない。原書も同じなのだろうか。

英文『This is fortunate for the reader, who otherwise would be cheated of White’s scintillating 19th move.』

of を by だと思っている。who otherwise would be cheated by White’s scintillating 19th move なら確かに「さもないと、白の19手目のような巧みな手にいつかだまされただろう」でよい。辞書によると cheat of には「<人から>(物を)だましてまきあげる」という意味がある。例文として cheat a person of his money「人をだまして金をまきあげる」が載っている。この例文を受身形にすると a person is cheated of his money「人がだまされて金をまきあげられる」 となる。これと英文とを対応させると「さもないと読者はだまされて白の19手目のような巧みな手をまきあげられる」となる。要するに「白の19手目のような巧みな手を見る機会を不当に奪われる」ということであろう。

試訳「これは読者にとっては幸運だった。さもないと、白の19手目のような巧みな手を見る機会を奪われるところだった。」

我々日本人だと of でも by でもたいした違いではないように感じられるが、本当は「びょういん(病院)」と「びよういん(美容院)」くらい違うのである(英米人にはこの二つの聞き分けが難しいらしい)。

誤訳に関する本を昔から色々読んでいて(細かい技術的なことは全部忘れたが)一つだけ記憶に残っているのは「英文を正しく解釈するためには(誤訳を避けるためには)こまめに辞書を引け」という教えである。変な日本語の文になった時は知っているつもりの英語の言葉でも何か知らない意味があるのではないかと辞書で確認した方が良い。

王印防御の完全理解(136)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図187(再掲)白の手番 

 手順は異なるがアベルバッハ中原になった。白はまだどんな陣形でも選ぶことができる。前局の解説では4ポーン攻撃(この局面で白が 6.f4 と突けばそうなる)とアベルバッハ戦法(この局面なら 6.Be2 から 7.Bg5)を分析したが、ここからは白の残りの可能性を取り上げる。

 黒が中央から …e7-e6 と反攻できることを考慮すれば(側面から …b7-b5 と突いていく攻撃もある)、白は d5xe6 と取る気がないならば黒がいずれ …e6xd5 と取ってくるので自分のキングをe列でどのように保護するかを考えなければならない。そのための陣形として「Nf3、Bd3、Be3」(これは本局に現れる)、「Bd3、Nge2」、「Nge2-g3、Be2」、「Nf3、Be2」のようにいくつか考えられる。これらの陣形はほとんど常に h2-h3 突きと組み合わされる。このポーン突きは黒からの …Bc8-g4 のかかりを防ぐだけでなく、…Nf6-g4-e5 の捌きの可能性も防いでいる。以下はいろいろな可能性の例である。

 (1)6.Bd3(Bd3 から Nge2 の作戦は f2-f4 突きと組み合わされるかどうかによって様相が非常に変わる。この陣形は実際のところ本局のような手順のあとでしか指すことができない。なぜなら通常の手順の 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 のあと 5.Bd3 と指すと …e7-e5 突きで応じられる恐れがあるからである)6…O-O 7.Nge2(または 7.f4 e6-7…a6!? と突くのも面白い。例えば 8.Nge2?! b5! 9.cxb5 axb5 10.Nxb5 Ba6 で十分代償がある-8.dxe6 fxe6 9.Nge2 Nc6 10.O-O Nd4 11.Ng3 Bd7 12.Be3 Bc6 で拮抗した戦いになる)7…e6(白のビショップがeポーンを守っているので黒がすぐに 7…b5 と突いても白のナイトにただで取られてしまうだけである)8.O-O exd5 9.exd5 Ng4 黒は次に …Ng4-e5 と指す意図である。

 (2)6.Nge2((1)と対照的にこの手順は通常の 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nge2 O-O 6.Ng3 c5 7.d5 から生じるのが普通である。これはキング翼ナイトがeポーンを守っているので …b7-b5 突きのギャンビットを防ぐ利点がある)6…O-O(ここにおける手順で黒は 6…b5 7.cxb5 a6 8.bxa6 Bxa6 9.Ng3 Bxf1 10.Nxf1 と指すことによりベンコー・ギャンビットの良く知られた戦法に移行する選択肢がある)7.Ng3 e6 8.Be2(白は自分からはe6でポーンを交換せず …e6xd5 取りには e4xd5 と取り返すことにしたので、e列で自分のキングを保護しておく)8…exd5 exd5(この型の戦法すべてでそうであるが c4xd5 と取り返すと現代べノニに移行する)9…Re8 10.O-O h5 11.Bg5 Qb6 12.Qd2 Nbd7 13.a4 a6 14.Rfe1 白の方が動きが自由である。

 (3)6.Nf3 O-O 7.Be2 e6(白のゆっくりしたキャッスリングの準備に対してはこの中央での反攻の方が多く見られるが、…b7-b5 と突く側面攻撃も成立する)8.O-O(8.dxe6 Bxe6 9.Bf4 Nc6 10.Bxd6 Re8 もあり、前局の黒の6手目の解説中にある(3)に出てきた局面に似た局面になる)8…Re8(白がcポーンでd5のポーンを取り返す可能性に備えた。例えば 9.Nd2 Na6 10.a4 Nc7 で黒が主眼の …a7-a6 突きから …Ra8-b8 と指すことができるが白は役に立つ待ち合わせの手がなく早晩e6でポーン交換をしなければならない)9.h3(白はeポーンを守らないことによりcポーンでd5のポーンを取り返すことに興味がないことを明らかにした)9…Na6 10.Bg5 h6 11.Be3 exd5 12.exd5 Bf5 13.Qd2 Kh7 両者とも指せる。

 (4)6.h3(この手は布局のほとんどどの段階でも指すことができる。単純に他の戦型に移行する場合は別にして、白は以降の戦型のように小駒の理想的な地点を確保するためにキャッスリングを放棄することによりこの手に独自の意義を与えることができる。)6…O-O 7.Bg5 e6(もちろん 7…b5 と突くこともできる。例えば 8.cxb5 a6 9.a4 Qa5 10.Bd2 なら、黒の5手目の解説中の(1)と前局の白の6手目の局面を想起させる)8.Bd3 exd5 9.exd5 Nbd7 10.Nf3?! Re8+ 11.Kf1 白がキャッスリングの権利を放棄したのが正当かどうかは確定していない。

6.Nf3 O-O 7.h3

 この局面は通常は 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.h3 c5 7.d5 という手順で生じる方がずっと多い。本譜の手は白が Bf1-d3 と指すつもりであることを考えれば黒の …Bc8-g4 による釘付けを防ぐのに役立つだけでなく、…Nf6-g4 を恐れる必要なしに Bc1-e3 によってe列を保護するためにも役立つ。

7…e6

 中央の反攻の …e7-e6 突きは断然詳しく研究されている手である。もっとも 7…b5!? も考えられる手である。白はもし望めば 6.Bd3 O-O 7.h3 から Ng1-f3 という手順を採用することによりこの可能性を避けることができる。しかしこの場合でさえ黒はギャンビットを企てることができる。例えば 7…a6 8.Nf3(完全にギャンビットを止めさせる唯一の方法は 8.a4 と突くことである)8…b5!? 9.cxb5 axb5 10.Nxb5 Na6 11.Nc3 Nb4 となればポーンのある程度の代償がある。

8.Bd3

 8.dxe6 によって局面を開放的にするのは白が大切な1手を使って非展開の h2-h3 を指したことを考えれば割に合わない。

8…exd5

 黒はすぐにe列を素通しにしなければならない。さもないと白がキャッスリングして Bc1-f4(または -g5)と指して理想的な態勢を得てしまう。

9.exd5 Re8+ 10.Be3(図188)

 図188 黒の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(135)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

第8局
イフコフ対ゲオルギュー
ブエノスアイレス、1979年
h2-h3 突きのシステム

1.d4 Nf6 2.c4 c5

 しょっぱなから黒は …e7-e5 突きより …c7-c5 突きの方を好んで中央での反撃を選択した。

3.d5 g6 4.Nc3 Bg7 5.e4 d6(図187)

 図187 白の手番 

(この章続く)

2011年07月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(225)

「Chess Life」2011年4月号(1/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる

米国の最強選手が今や世界の一流選手に

GMイアン・ロジャーズ
写真 キャシー・ロジャーズ

 3年前ヒカル・ナカムラはベイクアーンゼーのグランドマスターB級大会への対局招待を断り、もっと楽なジブラルタルオープンへの参加を選んで批判されたことがあった。彼は米国チャンピオンとしては一流の大会に招待されるべきだと思っていた。それにこのティーンエージャーはオランダの海沿いの町の凍てつく天気にも気乗りがしなかった。

 2年後ナカムラはベイクアーンゼーでの一流の大会で世界の最強者たちと伍して戦い、立派な4位の成績を収めていた。

 もうナカムラは批評家によって単なるブリッツの専門家あるいはうぬぼれが才能を上回っている若者としてけなされなくなっていた。

 2010年をとおしてナカムラの成績は上昇を続けた。ロンドンクラシックとモスクワでのタリ記念では優勝者たちからわずか半点差に迫る成績で、世界の10傑に仲間入りした。しかし超一流大会での優勝には届かないままだった。

 今までは。

 2011年1月ベイクアーンゼーでの伝統の第73回大会の主催者はタタ製鉄を新スポンサーに迎え、世界のレイティング4傑を-10年ぶりに-呼び集めることができた。マグヌス・カールセン、ビスワーナターン・アーナンド、レボン・アロニアン、それにウラジーミル・クラムニクの4人である。

 これらの4強による優勝争いは熾烈になることが予想された。しかしこの一群はナカムラによって粉砕された。

 ナカムラは初戦から突っ走り、肩を並べることができたのは世界チャンピオンのアーナンドだけだった。

 第8回戦でカールセンに惨敗したあとでさえ、急にカールセン、アロニアンそれにクラムニクが一団となって迫ってきたけれどもアーナンドと共に首位に留まっていた。しかし彼が第10回戦と11回戦に勝って逃げ切りを図ったとき誰も彼と並ぶことができず、米国選手のグランドスラムにおける初優勝が決まった。

 アーナンドは結局わずか半点差でナカムラに及ばなかったが、ナカムラの優勝はとても価値があると認めた。「ナカムラはここで最高のチェスを指した。そして定跡の選択も特に優れていた。」

 今は無くなったニューヨークタイムズ紙の「ギャンビット」というブログで、ガリー・カスパロフはもっと熱烈にナカムラの優勝を米国人の記録した最高の優勝になぞらえたと引用されている。「フィッシャーは世界チャンピオンをおさえて大会に優勝したことがなかった。・・・マーシャルは1904年にケンブリッジスプリングズでラスカーを押さえた。・・・だからカパブランカを米国選手に含めなければ、ナカムラと匹敵する米国人の大会優勝は1895年ヘースティングズでのピルズベリーまでさかのぼると思う。」

 カスパロフの歴史の類推は大げさすぎるようである。近年は大会で負かすべき相手はアーナンドでなくカールセンになってきている。それに米国選手のガータ・カームスキーが厳しいワールドカップで優勝したのは2007年にさかのぼれば済む話である。それでもあの出場選手の顔ぶれで優勝するのはそれだけで偉業である。

 ナカムラ自身は自分の成績についてもっと控え目で、世界の超一流と本当に肩を並べた証とみなしている。「今年の目標はレイティング2800に届くことだった。もう半分来た。」

ナカムラの棋歴

1987年 日本の枚方市にうまれる

1989年 家族と共に米国に移り住む

1998年 米国のレイティング試合でグランドマスターに勝った米国最年少選手になる

2003年 ボビー・フィッシャーの長年の記録を破り、グランドマスター称号を獲得した米国最年少選手になる

2004年 リビアでのFIDE勝ち抜き方式世界選手権戦で第4回戦まで進出

2004年 米国選手権戦で優勝

2006年 インターネット「弾丸」(1分試合)の世界最強選手に認定される

2006年 トリノオリンピアードで米国チーム銅メダル

2008年 ジブラルタルマスターズで優勝

2009年 米国選手権戦で2度目の優勝

2009年 サンセバスティアンでピョートル・スビドレルとアナトリー・カルポフをおさえて第18水準の文化都市大会に優勝

2010年 トルコでの世界団体選手権戦で第1席の金メダルリスト

2010年 アムステルダムでのNH老練対若者大会で若者の1位

2011年 1月のFIDEレイティング表で最上位10人に入る

2011年 ベイクアーンゼーで世界最強4人をおさえて優勝

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(134)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図186(再掲)黒の手番 

 局面は非常に複雑だが、白ポーンが弱いことと黒陣にすきが無いことを考えれば白の方が危険だろう。…b7-b5 突きにより差し出されたギャンビットポーンを白がポーンで取り、その白ポーンを a2-a4 突きによって守るのは前に述べたが、そのポーン突き捨ての見事な実戦例をここに見ることができる。

19.b4!

 d5のポーンを守っても仕方がないので白は自分の弱点を解消しようとした。

19…Nxd5 20.Bd2!

 この手には 21.Rxa1 Bxa1 22.Qa2 という狙いがある。

20…Rfa8 21.bxc5 Rxf1+ 22.Kxf1 Ra1+ 23.Ke2 Nxc5 24.Qc4 e6 25.b6!

 白はポーンを捨ててクイーンを働かせようとした。

25…Nxb6 26.Qb5 Nbd7 27.Be3 Bf8 28.Nd4?!

 ここまで白は一連の正確な手で主導権をもぎ取ることができた。しかしここでナイトをクイーン翼に移そうとしたのはたぶん悪手である。カスパロフによると 28.h4 ならまだ形勢不明だった。

28…Ra2+ 29.Kf1 Ra1+

 黒は持ち時間が少なくなっていた。

30.Ke2 e5! 31.Nc6 Ra2+ 32.Kf1 Ra1+ 33.Ke2 Ra2+ 34.Kf1 Ra6 35.Bxc5 Nxc5?!

 ここは 35…Ra1+ 36.Ke2 Nxc5 と指す方が良かった。実戦の手のあと白はキングをポーンの中に隠すことができる。

36.g3 Ra1+ 37.Kg2 Ne6 38.Qb8 Rd1

 38…Kg7? には 39.Nxe5! がある。

39.Qb2 Rd5 40.Qb8 Rc5 41.Ne7+ Kg7 42.Nc8

 42.Qxd6? と取ると 42…h5! と突かれて白はしびれてしまう。一方黒は …Kh7 から …Rc7 でナイトを取ることができる。

42…Rd5 43.Qa8 Rd2 44.Nb6 Nc5

 44…d5? は 45.Qa5! Rb2 46.Nxd5 Bc5 47.Ne3 で互角の形勢になる。

45.Nc4 Rd4 46.Ne3 Be7 47.h4?!

 これはg4の地点を弱めただけだった。

47…h5 48.Nd5 Bd8! 49.Kf3

 49.Qxd8 Rxd5 で収局にしても見込みがない。また 49.Qc6 は 49…Ne4! から …Nf6 で黒に中央のせき止めを突破する、またはg4の地点を占拠する決定的な狙いができる。

49…Ne6 50.Qc6

 50.Kg2 は 50…Nc7! で単純化して黒の勝ちになる。

50…Rd2! 51.Ke3??

 難しい局面でよくありがちなポカが飛び出した。しかしいずれにしても黒がかなりの優勢を維持していただろう。例えば 51.Qxd6 なら 51…Bc7! 52.Qd7 Bb6! 53.Nxb6(他に適当な手がない)53…Rxd7 54.Nxd7 f6 だし、51.Kg2 なら 51…Bxh4! 52.Qxd6(52.gxh4? Rxd5!)52…Bf6 から …h4 と突く意図である。

51…Re2+! 52.Kd3 e4+ 53.Kc4 Rc2+ 54.Nc3 Bf6 55.Qxe4 Rxc3+ 56.Kd5 Rc5+ 57.Kxd6 Be5+ 0-1

(この章続く)

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王印防御の完全理解(133)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図185(再掲)黒の手番 

 これは一貫性のある手だが、裏付けとなる次のような戦術の読みに誤りがあった。14…Nxe4? 15.Qxe4 Bxb5 16.Bxb5 Qxb5 17.axb5 Rxa1+ 18.Ke2 Rxh1 これで一見すると黒が良さそうに見えるけれども、実際は 19.Qxe7! で白が明らかに優勢になる。例えば 19…Nf6? 20.b6! Rb1(20…Re8 は 21.Qxe8+ Nxe8 22.b7)21.b4! Nxd5 22.Qe4! で白が勝勢である。一見決め手の 22.Qxf8+? は実際は 22…Bxf8 23.b7 Nf4+! 24.Ke3 Nd5+ で引き分けにしかならない。25.Ke4? と頑張ると 25…Nxb4! 26.b8=Q d5+! で黒の勝ちになってしまう。

 しかし黒はこの落とし穴を避けることができ、釘付けのaポーンを利用してクイーンを捨ててルークと1駒とを取りそれにより危険な主導権を得ることができる。

14…Bxb5! 15.Bxb5 Qxb5 16.axb5 Rxa1+ 17.Bc1 Nxe4 18.O-O Nef6(図186)

 図186 

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(130)

「Chess Life」2011年2月号(7/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

 FIDEレイティング2216のケイデンは(サミュエル・エビアンと共に)メダル候補の一人だった。最終戦で中国のワン・イー・イェーと引き分けた結果同じ中国のウェイ・イーが1位の座を守りきった。セアラ・チャンと彼女の弟のジョナサンはこの大会の常連であるが、4回目の出場にもかかわらず成績が安定しなかった。二人とも実力の片鱗はかいま見せてくれたので将来はメダルに手が届くと思う。

 向こう何年かは汎アメリカ選手権戦だけでなく次の世界少年少女チェス選手権戦でも大いに期待できそうである。スティーブン・ジールクの優勝はもっと年少の選手たちに希望を抱かせた。米国の選手たちは大きな期待と自信を持って大会に臨むことができる。これは我々が世界の最強たちと肩を並べる途上であることを示す確かな兆候である。多くの強い子どもたちに加えてコーチ陣も強力である。我々コーチは経験豊富で布局定跡と収局の指し方にも精通している。自分の得意分野でない問題はいつでもお互い気楽に相談し合っていて、私も協力してくれた仲間に感謝している。

 主催者は円滑な大会運営に大きく貢献した。当初のいくつかの移動問題を除いてすべて及第点だった。組み合わせはいつも定刻どおりで、私の知る限り論争は1回だけだった(アビブ・フリードマンが裁定委員会に申し出たが、やり直しに4時間もかかった)。

 来年はもっと大人数でメダル有望者がもっと増えることを望む。大会は初めて南アメリカ大陸で開催される予定である。その時まで参加の見込みのあるすべての者に実戦の訓練と猛勉強をして欲しい。

年齢別の全成績と10位までの順位

オープン8歳以下
エイワンダー・リャン(8点)-9位
アラビンド・クマール、プラビーン・バラクリシュナン、レイヤン・タギザデー(7点)

オープン10歳以下
ジェフリー・ション(9点)-2位
カメロン・ホウィーラー(8点)-5位
サミュエル・セビアン(8点)-6位
ビニェシュ・パンチャナタム(8点)-9位
トミー・ヒー(7点)
ジョナサン・チャン(6½点)

オープン12歳以下
ケイデン・トロフ(9点)-2位
カピル・チャンドラン、ジャスタス・ウィリアムズ(7½点)
ジョシュア・コラス(6½点)
デイチー・リン(5½点)
クリストファー・ウー(5点)
アラン・ベイリン(5点)
ケサブ・ビシュワナダー(4½点)

オープン14歳以下
デイビド・エイデルバーグ(5½点)
アトゥリャ・シェティ(5点)

オープン18歳以下
スティーブン・ジールク(9½点)-1位
ジェフリー・ハスケル(4½点)

女子8歳以下
アニー・ワン(7½点)-6位
エミリー・ニュイェン(7½点)-9位
ジョアンナ・リュー、ラメシュ・カーブヤ(6½点)

女子10歳以下
ニコール・ズロチェフスキー(6½点)
レーバ・シン、サムリサ・パラコル(5½点)
デビナ・デバガラン(5点)

女子12歳以下
マーガレット・フワ(7½点)-10位
マリヤ・オレシュコ(6½点)
シモーヌ・リャオ、アリス・ドン、アプルバ・ビルクド(5½点)

女子14歳以下
セアラ・チャン(6½点)
クローディア・ムノズ(5点)
ジェシカ・リーガム(4½点)

女子16歳以下
アンナ・マトリン(6点)

女子18歳以下
アンジャリ・ダッタ(5点)

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(この号続く)

2011年07月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(132)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例(続き)

 図184(再掲)黒の手番 

 この局面は通常は Qd1-c1 と …Nb7-d7 とが指されていない状態で生じ、そのとき黒は …e7-e6 と …b7-b5 を選ぶことができる(…h7-h6 突きがあってもなくてもよい)。これらの余分の手が黒の選択肢をかなり狭めていることは明らかで、そのため黒は局面に合った唯一の残りの手を指すことになる。

8…b5 9.cxb5 a6 10.a4 Qa5 11.Bd2 axb5

 11…Qb4?! でeポーンを当たりにするのはここでは得策でない。なぜなら 12.f3! で黒がすぐに Nc3-d1 引きの狙いに直面することになるからである。

12.Nxb5!

 12.Bxb5 と取ると黒は Qc1 と …Nbd7 の応酬を自分の有利に変えることができる。即ち 12…Ba6 13.Nge2 Qb4! 14.f3 Ne5! と指すことにより、ポーン損に対する十分な動的代償を得ることができる。

12…Qb6 13.Qc2?!

 白としてはf3の地点を空けておいて速やかにキング翼にキャッスリングできるようにしたい。しかし白は本譜で理論上の戦いに負けたことは明らかである。というのは本局の黒の6手目の解説にある(1)の手順と比較すると黒が …Nbd7 の1手をもうけているからである。白クイーンが Qd1-c1-c2 の捌きで手損をしたことが正当化できないことはまったく明らかである。正着は 13.f3! で、両者にとって難解な局面になるはずだった。

13…Ba6 14.Nf3?!(図185)

 図185 

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(131)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.3 実戦例

第7局
アルバート対カスパロフ
ルツェルンオリンピアード、1982年
アベルバッハ戦法

1.c4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3 Nf6 4.e4 d6 5.Be2

 本局で4ポーン攻撃とアベルバッハ戦法の概要を説明する。その他の布局の戦法は以降の試合で扱う。

 解説に入る前にアベルバッハ中原を作り出す決断は基本的に黒の側にあることを指摘しておく。というのは白は4ポーン攻撃を指すことにより(多かれ少なかれ)強制することしかできないからである。実際 5.f4 O-O 6.Nf3 のあと黒は 6…c5 と指すくらいしか選択肢がない。なぜなら 6…e5? はうまくいかず 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nxe5 Re8 10.Bd3 Nxe4 11.Bxe4! f6 12.Bd5+ Kh8 13.Bf7 Rf8 14.Nxg6+ hxg6 15.Bxg6 となって白が断然優勢になるからである。

 4ポーン攻撃を含めこの型の中原になるすべての戦法でそうであるように、黒には(5.f4 O-O 6.Nf3)6…c5 7.d5 で中原が封鎖されたあと二つの進め方がある。(1)7…b5 8.cxb5 a6 9.a4(9.bxa6 は 9…Qa5 10.Bd2 Bxa6 11.Bxa6 Nxa6 12.O-O c4 となって黒にポーンの代償がある)9…Qa5(9…e6 は 10.dxe6 Bxe6 11.Be2 axb5 12.Bxb5 Na6 13.O-O Nb4 14.Kh1 Qb6 でやはり黒にポーンの代償がある)10.Bd2 Qb4 11.Qc2 c4 12.Nd1 Qc5 13.Be3 Qb4+ 14.Bd2 Qc5 互角の戦いである。(2)7…e6 8.dxe6(8.Be2 は 8…exd5 9.exd5-9.e5 は非常に難解な乱戦になる-9…Re8 10.O-O Ng4 のあと …Ne3 が狙いとなる)8…fxe6(8…Bxe6 は 9.Bd3 Nc6 10.f5 Bd7 11.O-O Ng4 で難しい局面になる)9.Bd3 Nc6 10.O-O Nd4 中盤がまだまだ続くがたぶん白の方が少し有望である。

5…O-O 6.Bg5

 アベルバッハ戦法に特有なこの手は黒がすぐに …e7-e5 と突くのを防いでいる(第6局の白の6手目の解説を参照)。

6…Nbd7

 黒がこの手を指すときは通常は次に …e7-e5 と突く意図である。もっとも本局で見られるように状況はかなり違った方向に進むこともあり得る。

 アベルバッハ中原は通常はここで黒が 6…c5 と突き白が 7.d5 と応じて出現する。それ以降の展開は黒が …h6 と突いても突かなくても反撃を …b5 突きと …e6 突きのどちらに基づかせるかにかかっている。例えば(1)7…b5 8.cxb5 a6 9.a4 Qa5(9…h6 は 10.Bd2 e6 11.dxe6 Bxe6 12.Nf3 axb5 13.Bxb5 Na6 14.O-O Nc7 15.Re1 Nxb5 16.Nxb5 d5 で黒にポーンの代償が十分にある)10.Bd2 axb5(10…Qb4 はもっと危なっかしい。例えば 11.Qc2 axb5 12.Bxb5 Ba6 13.f3 となってここで 13…c4 も 13…Nfd7?! もあるが、後者は 14.Nd1 Qd4 15.Bc3 Bxb5 16.Bxd4 cxd4 17.Ra3!? というクイーンの犠牲を伴って白が優勢である。また 10…Qb4 のあと白は 11.f3 Nfd7 12.Qc1 c4 13.Nd1 Qc5 14.Qxc4 axb5 15.Qxb5 Ba6 16.Qxc5 Nxc5 17.Ra3! と指すことができ、黒に2ポーンの代償が十分にあるかどうかはっきりしない)11.Bxb5(11.Nxb5 は 11…Qb6 12.Qb1 e6 13.dxe6 fxe6 14.Nf3 d5 で混戦になる)11…Na6 12.Nge2 Nb4 13.O-O Ba6 黒にポーンの代償が十分にある。(2)7…e6 8.Qd2 exd5 9.exd5 Qb6 10.Nf3 Bf5 11.O-O(11.Nh4 の成行きについては図162の解説を参照)11…Ne4 12.Nxe4 Bxe4 13.Rae1 Qxb2 14.Qf4 これは白が有望である。(3)7…h6 8.Bf4(8.Be3 は 8…e6-もちろん 8…b5 と突くこともできる-9.h3 exd5 10.exd5 Re8 11.Bd3 b5 12.cxb5 Nbd7 となって黒にポーンの代償がある。もちろん白は途中 9.dxe6 と取ることもできる)8…e6 9.dxe6 Bxe6 10.Bxd6(白は 10.Qd2 で黒ポーンのただ取りを拒否することもでき、10…Qb6 11.Bxh6 Bxh6 12.Qxh6 Qxb2 13.Rc1 Nc6 14.h4 で乱戦になる。黒は …e6 突きを遅らせることによりこの手順を避けることができる。例えば 8…Qb6 9.Qd2 Kh7 10.h4 e6 11.dxe6 Bxe6 となって、ここで白は 12.h5 g5 13.Bxd6 Rd8 14.Qc2 で難解な局面にしたこともあるし、12.Nf3 で Ng5+ による攻撃続行を意図したこともある)10…Re8 11.Nf3 Nc6(11…Qb6 12.Bxb8 Raxb8 も指されている)12.O-O Nd4(12…Qa5?! は 13.Nd2! Red8 14.Bf4 Ne8 15.Nd5 で白優勢のようである)13.e5 Nd7 14.Nxd4 cxd4 15.Qxd4 Nxe5 16.Bxe5 Qxd4 17.Bxd4 Bxd4 18.Rac1 Rad8 19.b3 これはポーンの犠牲を伴う手順で、実戦にしばしば現れている。

 これらの手順はすべて本質的に代表例であり、どちらにも改良手が見つかるかもしれないことは覚えておかなければならない。

7.Qc1!?

 ここでの普通の手は 7.Qd2 で、そのあと 7…e5 8.d5 Nc5 となれば白は 9.f3 と突いてeポーンを守らなければならない(第6局の9手目の解説を参照)。7.Qd2 の場合と同様に実戦の手の最も明白な意図は …h7-h6 突きを防ぐことである。もっと深い意味は 7…e5 8.d5 Nc5? 9.b4! という変化にあり、白クイーンの位置のおかげで黒はe4で取ることができずナイトを引かなければならない。これでカスパロフが実戦の …c7-c5 突きを選んだ理由が分かる。

7…c5 8.d5(図184)

 図184 黒の手番 

(この章続く)

2011年07月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[69]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7(図107)

 図107(白番)

 この防御はニムゾインディアン防御よりもさらに一歩先を行っていて、白に念願のポーン中原をいともやすやすと構築させる。黒はこの中原は実際は黒にとってそれほど恐ろしくないと信じている。

 19世紀の終わり頃と20世紀の初め頃のマスター選手は序盤の段階でc4、d4およびe4に何の妨害も受けずにポーンを並べることができれば勝ったも同然と考えていた。しかし1920年代から1930年代になるとそのような考え方はいわゆる「超現代派」マスターたち(ニムゾビッチ、レーティ、ブレイェル)によってくつがえされた。彼らは広壮なポーン中原は相手がわざと控えておいたポーンを突いてくる反撃にさらされるので敗北の種ともなりうることがあることを示した。キング翼インディアン防御はこの手の防御法に属し、ついには1940年代から1950年代にソ連のグランドマスター、とりわけボレスラフスキーとブロンシュテインによって詳細が完成された。それ以来この防御はすべての一流グランドマスターの得意戦法の中で確固とした地位を占めている。

 キング翼インディアン防御は激しい戦法で、多くの戦術の可能性や思いがけない強襲が両陣営に生まれる。クイーン翼ギャンビット拒否やニムゾインディアン防御よりかなり危険なので、どちら側のキングにも攻撃が及ぶ可能性のある激しい戦術の局面を好み、勝っても負けても面白さに異存のない選手に受けている。世界チャンピオンのガリー・カスパロフと元世界チャンピオンのボビー・フィッシャーは大得意にしている。フィッシャーは1992年のボリス・スパスキーとの復帰戦でこれを何度も用いた。

 黒の戦略は白の中原にあとから …c5 突きによって攻撃を仕掛けることに基づいている。そして d5 突きを誘って白の中原を …e6 突きと …b5 突きによって崩していく。あるいは(…c5 突きの代わりに)…e5 と突くこともあり、白が d5 突きで陣地を広げれば黒はキング翼ナイトをe8またはh5に動かして …f5 突きによるキング翼攻撃を始めることができる。このような攻撃はもし白がキング翼にキャッスリングしていれば …f5-f4 突きから …g5 突きで自動的に勝てることがよくある。

 4ポーン攻撃の節ではもし白がc4からd4とe4を通ってf4にまで及ぶポーンで誇大妄想者並みに中原を占めれば災難に見舞われることがあり得ることを目撃する。以降の節では白が既に征服した中原の陣地を固めることに専念するシステムを分析する。

(この章続く)

2011年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(130)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.2 戦術の狙い所(続き)

黒の弱体化したキング翼への攻撃

 白が d5xe6 と取り黒がfポーンで取り返したときは黒キングの囲いがいくらか弱体化する。そのため白がナイトの突っ込みに基づいた特有の攻撃でつけ込むことのできる可能性がたえずある(図182)。

 図182 

 黒は白の手番でこの種の局面に陥るのを避けなければならない。というのは黒のキング翼が白の e5 突きによって壊滅させられる恐れが多分にあるからである。例えば …dxe5、fxe5 Ne8、Nxh7! Kxh7、Qh5+(図183)

 図183 

となって、白の攻撃が強烈になりそのまま勝ちになることもよくある。

(この章続く)

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名著の残念訳(2)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

22 誤った判断 099ページ
『選手権の挑戦者になってからというもの、最近のサボーの成績にはむらがあって予測ができない。』

 サボーは何の「選手権の挑戦者」になったのだろう。一般に国内選手権は挑戦制でない。そしてわざわざ言及するからには読者に周知の選手権だろう。とすると世界選手権しかない。サボーが世界選手権の挑戦者になったことなどありうるはずがない。

英文『Once a contender for the title, Szabo’s performances nowadays are spotty and unpridictable.』

contender を challenger と同じだと思って訳している。contender は「(タイトルをねらう)選手」という意味である。辞書には「the contender for the heavyweight title ヘビー級チャンピオンをねらうボクサー」という例文が出ている。

試訳「かつては世界選手権挑戦者争いに加わったが、最近のサボーの・・・」

31 最も誠実なお世辞 137ページ
『ペトロシアンに対するフィッシャー唯一の勝利であり、それはペトロシアンを無意識に模倣する棋風によって成し遂げられた。』

フィッシャーの棋風がペトロシアンを無意識に模倣する棋風だったとはへそが茶を沸かす。カルポフなら分かるが。

英文『This is Fischer’s only win against Petrosian and it is achieved through an unconscious mimicry of the latter’s style.』

latter(後者)とはペトロシアンのこと。

試訳「・・・それはペトロシアンの棋風を無意識に模倣することによって成し遂げられた。」

36 譲り合い 160ページ
『ここまでの白は一流の棋風だったが』

白番のフィッシャーは1959年に Candidates に進出し(世界チャンピオンを除く8強)一流の仲間入りをしている。結果は5位だったから超一流といっていい。それを3年後のこの大会でいまさら一流と言うのはおかしい。

英文『Up to here, White has played in excellent style,』

style を機械的に棋風と訳している。「彼の棋風はすばらしい His playing style is excellent」とは言うが、「エクセレントな棋風で指す」とは言わない。ここでの style は通常の「(行動などの)しかた」の意味である。

試訳「ここまでの白の指し方はすばらしかったが」

2011年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(129)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.2 戦術の狙い所(続き)

h8-a1の対角斜筋の直射

 既に見たように白がe6でポーンを取ったとき、黒はd4の地点の占拠による防御に頼ることが頻繁にある。これはある眼目の戦術の存在に助けられていることがよくある(図180)。

 図180 

 一見したところでは黒はd4の地点を占拠するのに利いている駒が足りないように思える。しかし実際は …Nd4、Nxd4 cxd4 のあと白は Qxd4 と取れない。なぜなら …Qxd4、Rxd4 Nh5 となって(図181)

 図181 

対角斜筋での直射攻撃によって黒の戦力得になるからである。

(この章続く)

2011年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(128)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.2 戦術の狙い所(続き)

g3の地点の弱点

 e列が素通しのとき黒は白が先受けでよく突く h2-h3 によって生じるg3の地点の弱点につけ込むことができるときがある(図179)。

 図179 

 …Nh5-g3 のあと白はもうキング翼にキャッスリングできなくなる。この戦術的手段は黒のナイトがe4にいるときでも少し気づきにくいが可能である。

(この章続く)

2011年07月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(224)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(9/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

終幕

 最後の2回戦を残した状況はナカムラが8点で首位を走り、そのあとに7.5点のアーナンドと7点のアロニアンが続き、カールセンとクラムニクがさらに0.5点差で追っていた。ナカムラはまずは「鉄の」クラムニクとの対戦だが、もちろんクラムニクが黒なので引き分けに「説き伏せる」のは容易である。その次の相手は中国のワン・ハオだが黒で勝つのは難しい。だから2引き分けが考えられた。アーナンドの最終戦はロシアのネポムニャシチで、その前に誰もが認める超天才の16歳のアニシュ・ギリと対戦することになっていた。しかしギリは世界チャンピオン相手にそれも黒で勝負になるのだろうか。そう信じている者は少ししかいなくて、ナカムラもアーナンドが最後の2回戦で1.5点取るものと思っていた。ということは最終的に両者が1位を分け合うことを意味していた。そして世界チャンピオンと優勝を分けることは誰にとってもうれしいことだろう。しかし第12回戦では予期せぬことが起きた。アーナンドが不利になり一時は敗勢が明らかだった。

(アーナンド対ギリ戦の棋譜省略)

 これが引き分けに終わったのはナカムラにとって痛かった。ギリが勝っていれば最終戦を前にナカムラがアーナンドに1点差をつけているところだった。だから彼はまだ安心するわけにはいかなかった。ワン・ハオとの最終戦は引き分けに終わり、衆目はアーナンドの試合に向けられた。彼はネポムニャシチに勝てるだろうか(そしてナカムラに並べるだろうか)、それともできないだろうか?ナカムラには精神的圧迫が大きすぎた。そして「以前」のように対局場にたむろして興奮することなく、ホテルの部屋に引きあげ画面上で試合の経過を追った。そしてアーナンドが引き分けたとき彼は「部屋で小躍りし始めた」と打ち明けた。「これは何と言っても最高の成績だった」とナカムラは喜び「最後に米国人が超一流の大会で優勝したのがいつだったか思い出せない」と言った(そこで我々が助けてあげると2007年にワールドカップでカームスキーが優勝している)。そして真の米国人として愛国心いっぱいに「米国のチェスにとっても偉大な日だった。これで米国の多くの子どもたち、多くの人たちがチェスに夢中になることを期待する」と言った。

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(この号終わり)

2011年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(127)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.2 戦術の狙い所(続き)

白のaポーンの釘付け

 黒が白のcポーンに対して …b7-b5 突きのギャンビット攻撃を仕掛けるときは、次のような基本的な状況が生じやすい(図178)。

 図178 

 a1のルークが守られていないときは白はaポーンに対する釘付けに戦術的につけ込む相手のもくろみにいつも気をつけていなければならない。例えば上図で黒は …Bxb5、Nxb5 Qxb5、axb5 Rxa1+ で戦力得することができる。時にはこのような手筋は必ずしも戦力得するために指す必要はなく、クイーンを捨ててルークと小駒を取って強力な主導権を得るために指すことができる。

(この章続く)

2011年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(126)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.2 戦術の狙い所

 アベルバッハ型中原には頻出する戦術の着想がそう多くない。しかし起こりうるものについて以下に詳述する。

(この章続く)

2011年07月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(129)

「Chess Life」2011年2月号(6/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)


ケイデン・トロフ、オープン12歳以下の部門で銀メダル

 第9回戦でジェフリーは優勝したジェイソン・カオを負かした。これは何も考慮に値しないのか?このグループの将来のメダルの予想は危険を冒すことになるとは思わない。ジェフリー、サミュエル、カメロン・ホウィーラー、トミー・ヒーに加えてビニェシュ・パンチャナタムとジョナサン・チャンに大いに期待している。

 オープン12歳以下の部門ではケイデン・トロフが大活躍をして9点をあげた。次の1局はこの大会で私の気に入った試合でもある。コーチのアルメンの準備は傑出していて、たぶん側面ギャンビット退治の決定版だろう。黒の築いた局面はニムゾインディアン防御に似ていて、白の駒が働きの悪い位置にいる。

シチリア防御 [B20]
白 ボロディミル・ベトシュコ(FIDE2211、ウクライナ)
黒 ケイデン・W・トロフ(FIDE2216、米国)
世界少年少女チェス選手権戦オープン12歳以下 第10回戦
ポルト・カラス、2010年10月29日

1.e4 c5 2.b4

 このギャンビットにはどんな評価記号をつけたらよいのか分からない。重要な試合でどうして白はこんな手を指せるのだろうか。私の考えでは言語道断である。

2..cxb4

 2…b6 も落ち着いた良い手である。

3.a3 d5 4.exd5 Qxd5 5.Nf3

5…e6!?

 これがアルメンの準備の核心である。よくある手は 5…e5 だが、6.Bb2 Nc6 7.c4 となると混戦になってくる。

6.Bb2 Nf6 7.c4 bxc3e.p. 8.Nxc3 Qd8

 ここは白にとって重大な局面である。事態の進み方がゆっくりすぎると白の代償は干上がっていく。

9.Ne5

 代わりに 9.d4 は 9…Be7 10.Bd3 O-O 11.O-O Nbd7

となる。孤立dポーンの局面では白は攻撃の可能性がなければならない。この場合はそれが何もない。

9…Be7 10.Bb5+ Nbd7 11.O-O O-O

 黒キングが安全な所を見つけたあとは白の負けである。

12.d4 Nb6 13.Re1 Nbd5

 白は何か手段を見つけようとしているが徒労に終わった。

14.Bd3

14…Bd7

 私の好みは 14…b6!? で、15.Nc6 Qd6 16.Nxe7+ Qxe7

となればずっとよい。黒はd5の拠点を強固にし、ポーン得を確かなものにしている。

15.Ne4 Nxe4 16.Bxe4 Bc6 17.Qc2 g6 18.Nxc6 bxc6 19.Qxc6

 形勢はまだ黒が良いが、白はポーンを取り返した。

19…Rb8 20.Qc2 Bf6 21.Rab1 Qa5 22.g3 Rfc8 23.Qe2 Rb3! 24.h4 Rcb8 25.Rec1 Qb6

 黒はクイーンを一群の駒と交換する。

26.Ba1 Rxb1 27.Rxb1 Qxb1+ 28.Bxb1 Rxb1+ 29.Kg2 Rxa1 30.Qb2

 白クイーンは黒の戦力に太刀打ちできない。

30…Rd1 31.Qb8+ Kg7 32.Qxa7 Bxd4 33.Qa5 Bb6 34.Qb5 Rd2 35.a4 Rxf2+ 36.Kh3 h5 37.a5 Bc7 38.a6 Nf6 39.Qc5 Ng4 40.Qd4+ e5 白投了

 重要な状況で非常に小気味よい試合だった。

******************************

(この号続く)

王印防御の完全理解(125)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒が d5xe6 に …f7xe6 と取り返す

 黒は d5xe6 に …f7xe6 と取り返すときがある。図172に見られるような攻撃が明らかに行なわれそうな時は特にそうである。そのあとの局面は次のような特徴を帯びる(図177)。

 図177 

 ナイトでd4の地点を占めることは相変わらず黒の主要な目標の一つである。これは特に白がそれを取ると黒にパスポーンができ、しかも白のクイーン翼ナイトが当たりを逃げたあとそのパスポーンが …e6-e5 突きによって守られるからである。しかし時には白が e4-e5 突きを狙っているので、あるいは単にd4のナイトを守る必要があるので、白のナイトがd5の地点に跳ねることができる時でさえ黒は …e6-e5 突きを決めることがある。

 白の方は中央のポーンで敵陣突破する可能性に期待をかけ、Nf3-g5 および/または Qd1-e1-h4 のような手によって高めることのできるキング翼攻撃の可能性も組み合わせる。

(この章続く)

2011年07月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(124)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

eポーンとcポーンに対する黒の圧力

 黒の反撃の元となる別の要素は白の中央ポーンに対して厄介な圧力をかけられることである(図176)。

 図176 

 主眼の進出の …Qd8-b6 で黒はe4またはc4の地点に対する圧力を増すことができ、白はしばしば Nf3-d2 によって守ることを強いられる。このナイト引きにより黒にd4の地点の支配が渡り、白にクイーン翼展開の問題が生じる。さらに、白が f2-f4-f5 突きで黒のクイーン翼ビショップをe6の地点から追い払うと、黒は …Bd7-c6 でe4の地点に対する圧力を増すことができる。

 一般に黒は白が Nc3-d5 によってこの圧力に対処してくれば、d5で交換することにより自分のdポーンが隠されることになるので、願ったり叶ったりである。

(この章続く)

2011年07月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[68]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

白が二重ポーンを避ける

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2(図105)

 図105(黒番)

 これは二重ポーンを避ける唯一の方法で、マスターの実戦で流行している(cポーンが二重になるのを防ぐ他の手はまったくつまらない)。棋理の点で白の構想(cポーンを二重ポーンにせずに双ビショップを得ること)は非常に理にかなっている。しかし序盤で白クイーンがd1からc3に行くのに手数がかかるので黒には反撃策がたくさんある。

4…O-O

 クイーン翼キャッスリングはとても考えられそうにないのでこの手は妥当な手である。もちろん 4…c5 と 4…d5 も文句のない手である。

5.a3

 白が 5.e4 突きで中原進攻を急ぐのもありそうだが、よくある手筋の 5…c5! 6.d5(6.e5? cxd4)6…exd5 7.cxd5 Nxe4! 8.Qxe4 Re8 で負けてしまう。途中 7.exd5 でも 7…Re8+ で黒が優勢である。

5…Bxc3+

 もし 5…Be7 ならそれこそ本当に白は 6.e4 と突き、黒は白の中原によって押しつぶされるだろう。

6.Qxc3 b6

 ニムゾインディアン防御ではよくあることだが、黒は白のe4の地点に駒の利きを重ねて白の強力なポーン中原の形成を防ぐ。

7.Bg5

 白はナイトを釘付けにしてe4の地点に対する黒駒の影響力を減らした。

7…Bb7 8.e3

 これは展開を完了するための通常の手である。

8…d6 9.f3

 白はe4の地点の支配を主張するためには、キング翼ナイトを最良の地点に展開するのを犠牲にする覚悟である。しかしこれにより黒に動員を完了する手数をさらに与えた。

9…Nbd7

 クイーンが動けるようにキング翼ナイトを守った。黒はどうしてもfポーンを二重ポーンにさせたくなかった。

10.Bd3 c5

 白がまだ駒を出撃させている間に黒はもう白のポーン中原を攻撃する態勢になった。

11.Ne2 Rc8(図106)

 図106(白番)

 黒は白のcポーンに砲火を集中させている。それに展開が楽で、白の双ビショップに対する補償として出来合いの作戦もある。1971年英国選手権戦で指された最上位のイギリス選手同士の試合は次のように進んだ。

12.O-O h6 13.Bh4 Ba6

 cポーンに黒駒の利きがまた加わった。白は何とかしなければならない。

14.d5 Ne5 15.e4 Nxd3 16.Qxd3 e5

 完全に互角の形勢である。局面は閉鎖的で、白はもう双ビショップ態勢でなくなっている。すぐに引き分けが合意された(ホワイトリー対カファーティー、ブラックプール、1971年)。白は途中で 14.b3 と指すこともできた。しかし 14…cxd4 15.Qxd4(15.exd4? は 15…b5! でc4に当たる)15…d5 となって、カスパロフの分析によれば互角の局面である。

(この章終わり)

2011年07月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(123)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

d4の要所

 黒が白の作戦と戦うために最もよく用いられる武器であるd4の地点の占拠は、自分のdポーンを隠し陣形上の変化を誘う(図174)。

 図174 

 d列の封鎖はdポーンの弱さを減少させ、白がd4で駒を取って二重ポーンにしてもたいして優勢にならない。実際 Nxd4 cxd4、Nd5(eポーンを取られないようにするため)…Bxd5、exd5 Nd7 のあと(図175)。

 図175 

黒陣は見かけだけは乱れている。しかし実際は黒枡での反撃が強力で、二重ポーンも見かけほど弱くない。

(この章続く)

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名著の残念訳(1)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

棋譜法 Ⅸページ
『?! : 疑わしい手
? : 疑問手
?? : 悪手』

「疑問手」とは「疑わしい手」のことをいう。だから正しくは「?! : 疑問手、? : 悪手、?? : 大悪手、ポカ」

01 フィッシャー対シャーウィン 001ページ

『シャーウィンは、序盤で重大なミスは犯さなかったが、幾度かの互角にする機会を逃した。フィッシャーは、彼ならではの妙技を驚くべき成熟さで披露しながら、わずかな優位-良好な中央と双ビショップ-を積み重ねて徐々に局面を制圧していく。一方、シャーウィンは自陣をば盤石にしようと試みるも、14歳の対戦相手の一撃(18.Nxh7)による粉砕を目の当たりにするばかり。それは、どこから生じたかも自明ではないアリョーヒンのコンビネーションを思い出させる。シャーウィンは敗北を拒否して反撃する。しかし、彼の防御はよろめくキングへの鋭い連続攻撃を受け、ついには崩壊する。』

英語の原文は全部現在形で書かれてある。それなのに日本語訳では最初の文だけが「逃した」というように過去形になっていて統一がとれていない。原文が現在形なのは臨場感を出すためのよくある手法である。しかし日本語訳の方でそれをまねして同じ効果が得られるかはまた別の話であろう。英語と日本語は大きく異なる言語なので別個に考えた方がよい。異なる例の典型的な例には学校英語の文法で習った「時制の一致」がある。他にも辞書から例をとると「Stop talking when the bell rings.(ベルが鳴ったらすぐおしゃべりをやめなさい)」がある。英語の現在形(rings)に対し日本語では「鳴ったら」と言うが、別に過去のことを言っているわけではない。ここでの文章の場合も日本語としては全部過去形に統一した方が臨場感が出ると思われる。なお、「Too little, too late」が「少しだけ、遅すぎた」という訳になっているが、大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」には「効果的にはほど遠い」という訳語が出ていた。

04 ピルニーク対フィッシャー 015ページ
『双方とも活気のない序盤の後、中盤戦では 26…bxa3 を型通りに説明できないことを除けば、フィッシャーは終盤戦まで誘導する。』

「・・・を除けば」どうだというのだろう。次の「フィッシャーは終盤戦まで誘導する」とかみ合わない。英語の原文はどうなっているのだろうか。

英文『After a lackluster opening by both sides, and a middle game that, with the exception of 26…bxa3, can scarcely be described as more than routine, Fischer pilots the game into an even ending.』

原文と比較すると訳文の誤りが見えてくる。訳文では「26…bxa3 can scarcely be described as more than routine」と考えているが、これは誤りである。まず After のあとに続くのは a lackluster opening by both sides と a middle game … routine である。そして a middle game を修飾しているのが that … routine である。with the exception of 26…bxa3 を取り除いて(前後にコンマがあるのでここは挿入句である)考えれば [After] a middle game that can scarcely be described as more than routine という骨格がはっきり見えてくる(that は主格の関係代名詞)。26…bxa3 が exception なのは本文中で 26…bxa3! というように好手の印の ! が付いていて、そのあたりの中盤戦の他の手は全部ありきたり(can scarcely be described as more than routine)なので ! が付けられていないことからつじつまがあう。
試訳『両者の面白みのない序盤と、26…bxa3 を除けばありきたりの中盤のあとで・・・』

27 レシェフスキー対フィッシャー 119ページ
『進路をはずした花火ショー』

「花火ショー」が「進路をはず」すとはどういうことだろうか。「花火ショー」が何か意志のようなものを持っているのであろうか。

英文『Sheer pyrotechnics』
Sheer には確かに「針路からそれること(名詞)」という意味があるが(ただし「進」でなく「針」)、普通は「全くの(形容詞)」という意味で使われる(sheer idiocy 全くの白痴)。pyrotechnics の方にも「才気煥発」という意味がある。

40 フィッシャー対ナイドルフ 186ページ
『ザ・ナイドルフ変化』
英文『The Najdorf Variation』
56 フィッシャー対グリゴリッチ 253ページ
『フィッシャー変化』
英文『The Fischer continuation』

一方は The をザと訳し、他方は無視したのはなぜだろうか。

47 フィッシャー対ビスガイヤー 214ページ
『ビスガイヤーは、フィッシャーに対してまずまずの局面に持ち込み続けてきたグランドマスターの一人だったが』

「グランドマスターの一人だったが」というところからすると「まずまずの局面に持ち込み続けてきた」グランドマスターが複数(数人?)いることになる。そんなばかなことがあるのだろうか(当時フィッシャーを除いて米国のチェスのトップのレベルは低かった)。

英文『Bisguier is the one Grandmaster who consistently obtains decent positions against Fischer』

the one Grandmaster を「グランドマスターの一人」と誤訳している。「グランドマスターの一人」なら one of Grandmasters でなければならない。of の次には名詞の複数形がくる。さらには one の前に the がある。辞書には the one について次のような意味が載っている。

6 ((the one)) 唯一の(強勢を置いて発音する): the one way to succeed 成功する唯一の方法

だから上記の英文は「ビスガイヤーは、フィッシャーに対してまずまずの局面に持ち込み続けてきた唯一のグランドマスターだったが」となる。

47 フィッシャー対ビスガイヤー 214ページ
『結局、フィッシャーとの数十局の対戦で、ビスガイヤーはたった1回のドローでしかポイントを上げられなかった。』

一流でもないビスガイヤーが数十局もフィッシャーと対戦するものだろうか。ちなみにフィッシャーの全局集に載っている棋譜は確か650局くらいでなかったろうか(とすると約1割がビスガイヤー戦?)。

英文『Out of something like a dozen encounters, he has squeezed but a single draw.』

dozen が数十の意味になるのは複数形で dozens of という形で使われるときである。その点からも上記翻訳は間違いである。インターネットの http://www.chessgames.com で二人の対戦を検索することができる。それによると15局で(若干の漏れがあることもある)ビスガイヤーが1ドローの他に1局勝っている。だから英文も少し間違っている(昔は棋譜データベースがなかったから仕方がない)。そして something like は成句で「およそ」という意味がある。

試訳「結局、フィッシャーとの十数局ほどの対戦で、ビスガイヤーはたった1回のドローでしかポイントを上げられなかった。」

55 フィッシャー対べドナルスキー 249ページ
『うっかり王子』

王子とは誰のことだろう。フィッシャーがそう呼ばれていたことはないからべドナルスキーのことだろうか。本文にはそれらしい言及が何もない。有名な話ならわざわざ書く必要もないだろうがそうとは思われない。こんな一流でない選手が自国でそのように呼ばれ期待されていたとも思われない。

英文『The price of incaution』

price を prince と見誤ったようである。それにしても常識的におかしいなと思いそうなものである。

01 フィッシャー対シャーウィン 001ページ
『4.g3 Nf6
 フィッシャー対イフコフ、サンタモニカ 1966 では』

日本語では 1966年 というように「年」をつけるものである。逆に英語では in year 1966 というように year をつけることはない。

フィッシャーは天国でこんな訳本がでたことをどう思っているだろうか。

王印防御の完全理解(122)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

白のキング翼攻撃

 既に述べたように白はキング翼攻撃を選択することもできる。この攻撃はfポーンまたはhポーンの進攻に基づいている。両方の展開を順に見ていく(図172)。

 図172 

 d5の地点の弱点は Be6 が追い払われ Nf6 が釘付けにされたあといっそう顕著になる。この攻撃態勢はf1の地点がキング翼ルークの自然な居場所になるのでキング翼キャッスリングが普通になる。

 hポーン突きは黒がキャッスリングした囲いを事前に …h7-h6 突きで弱めたときにだけ用いられる(図173)。

 図173 

 このような局面では白は h4-h5 突きで黒に …g6-g5 と突かせることにより、または擬似捨て駒の Ng1-f3-g5+ でh列をこじ開けることにより、黒陣をさらに弱体化させることができる。後者の場合キング翼ルークはh1が最良の地点で、そのため白はクイーン翼キャッスリングを真剣に考えることになる。

 この戦略の実現と同時に、白はd6ポーンに対する圧力を維持して適当なときにそのポーンを取ってしまうことをもくろむことができる。

(この章続く)

2011年07月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(121)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

dポーンの犠牲

 白がdポーンを攻撃できる容易さ(Bf4)と黒は陣形的に劣るので消極的な防御ではほとんど見込みがないこととを考えれば、黒がdポーンを犠牲にすることにかけるべきであることはまったくもっともである(図171)。

 図171 

 捨てたポーンの代償に黒は展開でリードし駒の働きが良くなる。黒クイーンはクイーン翼で役に立つ地点を占め、クイーン翼ナイトはc6の地点からd4の地点を見張り、ルークはd列に回る。このギャンビットに決定的な評価を下すことはまだできない。というのは図の局面が多くの難解な定跡の変化の出発点であり、両陣営に改良手が頻繁に発見されているからである。

(この章続く)

2011年07月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(223)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(8/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 第11回戦でナカムラはなおも勝利を積み重ねた。

カロカン防御 B12
I・ネポムニャシチ – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第11回戦、2011年

1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5 Bf5 4.h4 h5 5.c4 e6 6.Nc3 Ne7 7.Nge2

7…Bg4

 ここでは 7…Nd7 と 7…dxc4 が普通の手として知られている。実戦の黒の手は特に、このロシア選手に不慣れなできるだけ未知の局面に引きずりこむ目的を満たしている。

8.f3 Bf5 9.Ng3 Bg6 10.Bg5 Qb6 11.Qd2 Nd7

12.a3?!

 白はクイーン翼の閉鎖の意図をつらぬくべきだった。だからすぐに 12.c5 と突き、そのあとで b4 または a3 から b4 と突く方が良かった。

12…f6 13.Be3 Qb3 14.cxd5 Nxd5 15.Nxd5 Qxd5 16.Rc1 Nb6

 ここではf6でポーンを交換してから Bd3 でビショップも交換することが考えられる。ナカムラは対局後次のように語った。「彼はここで40分長考した。そしてほぼ互角の戦いの代わりに非常に攻撃的な手を決断した。」

17.Ne2?! fxe5 18.dxe5

 「何よりもまず 18…Qxd2+ と指すつもりだった。しかしもう一度読んでみるとポーンの代わりにどんな代償が相手にあるのかはっきりしなかった。それでポーンを取った。」

18…Qxe5 19.Bd4 Qc7 20.Qg5 Bf5

 ポーンを取らせた白だけでなく黒にも多くの戦術の狙いがある。試合後ナカムラが機嫌よく示したように、ここでは例えば 21.Ng3 のあと 21…Be7 22.Qxg7 Rh7! 23.Bxb6(23.Qg8+ は 23…Kd7 でクイーンが捕まる)23…Bb4+! 24.axb4 Qxg7 という手筋が成立する。

21.g4 hxg4 22.fxg4

22…Be4

 これは手拍子で指した手だった。22…Be7! なら 23.Qxg7 Rh7 24.Qg8+ Kd7 25.Bxb6 Rxg8 26.Bxc7 Be4 27.Rh3 Kxc7 28.g5 Bf5 で大いに優勢だった。

23.Rh3 Be7! 24.Qxg7

 これは負けになる。しかし 24.Qe3 でも 24…Bd5 25.h5 O-O-O 26.Nc3 Nc4 で黒が明らかに優勢である。

24…Rh7!

25.Qe5

 25.Bxb6 には例の 25…Bb4+! がある。

25…Qxe5 26.Bxe5 Bxh4+

27.Ng3

 「27.Bg3 の方がいくらか良かった。しかし 27…Bxg3+ 28.Nxg3 Bg6 のあとこちらのナイトをd5に置けば黒が勝つはずである。」(ナカムラ)

27…Nd7! 28.Bd4 Bf3! 29.g5 Bg4 30.g6 Rh6 31.Rxh4 Rxh4

 白は44手目まで指したが、そんなに指すまでもなかった。

32.Rc3 Bf3 33.Rxf3 Rxd4 34.Bh3 Ne5 35.Rf6 Nd3+ 36.Ke2 Nf4+ 37.Ke3 e5 38.Rf7 Rd3+ 39.Ke4 Rxg3 40.Bd7+ Kd8 41.Bf5 Nxg6 42.Rg7 Rb8 43.b4 b5 44.Bxg6 Rg5 0-1

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(120)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

白が d5xe6 と取った場合

 図146のところで述べたように、白は黒の正面反攻の …e7-e6 突きに対して d5xe6 取りで応じることができる。黒は展開を速めるために通常はビショップで取り返す方を好むので、次のような状況が生じる(図170)。

 図170 

 キング翼のポーンの配置は少し異なるかもしれない。例えば釘付けに来たビショップを黒が追い払った結果h6にポーンがあるかもしれないし、白が f2-f4 と突いているかもしれない。

 白はe6のポーンを取ることによって何よりも黒のdポーンの弱さを際立たせる。そして白はそのポーンを取るつもりか、あるいはポーン取りは見せかけでキング翼で攻撃を仕掛けるかによって、二つの異なった手段に出ることができる。後者の場合白はdポーンに対する狙いを放棄したわけではなく、いわば予備としてとっておく。それは狙いは実行より強いという金言に合致する。

(この章続く)

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