2011年06月の記事一覧

王印防御の完全理解(119)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

f列での白の圧力

 e列が素通しで白が早期にfポーンを突いた局面は特記するに値する。これらの局面はキング翼ビショップがe2に上がるのと組み合わさって生じるのが普通である(図169)。

 図169 

 白の作戦はキャッスリングしてから、f列の開通の準備として Be2-d3 と指すことである。f列に沿った圧力は Nf3-g5 から Qd1-f3 というような手で強めることができる。白のfポーン突きを …Bc8-f5 によって止めようとするのは、何らかの単純化を引き起こすことがよくあるが(Be2-d3 のあとで)、長期的には無益である。なぜなら白はいつでも h2-h3 突きから g2-g4 突きによってfポーン突きの支援を行なうことができるからである。だから黒の対応としては通常は自分から …f7-f5 と突くようにするか、…Nf6-g4-e3 によってe3の地点を弱めることを利用して白に黒枡ビショップを切らせそのビショップがなくなれば白の攻撃の威力がほとんどなくなることを期待する。これらの二つの策略は両方一緒に用いられることもある。

(この章続く)

2011年06月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

世界のチェス雑誌から(128)

「Chess Life」2011年2月号(5/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)


ジェフリー・ション、オープン10歳以下の部門で銀メダル

 強い選手が一つの部門にたくさんいる一つの問題は同士討ちしなければならないということである。ジェフリー・ションは米国選手と総当たりみたいになって米国の総得点を損ねた。彼はいくつかの試合で優れた戦術感覚を見せてくれた。11試合9点の順位判定で2位になったのは、得点方式に何か問題があるように思われる。次の試合は彼の指しっぷりの好例である。

ルイロペス [C78]
白 ジェフリー・ション(FIDE1824、米国)
黒 ザームエル・フィーベルク(FIDE無し、ドイツ)
世界少年少女チェス選手権戦オープン10歳以下 第9回戦
ポルト・カラス、2010年10月28日

 ジェフリーの相手が米国チェス連盟(2129)とFIDE(1824)とのレイティングの差異について知っていたら、指し方が違っていたかもしれない。この鮮やかな戦術の勝ちには感心させられた。ジェフリーは最初からメダル争いをしそうだった。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O a6 5.Ba4 b5 6.Bb3 Bc5

7.Nxe5

 7.d3 も良い手である。

7…Nxe5 8.d4

8…Bxd4

 8…Nxe4 は 9.Qe2 Qe7 10.Qxe4 Nc6 11.Qxe7+ Bxe7 12.c3 O-O 13.Bf4

となって白がやや優勢である。

9.Qxd4

9…Nc6

 この手は手損になる。9…d6 なら黒の方が成績が良い。10.c3(1995年リガでのイワンチュク対アーナンド戦は 10.f4 c5 11.Qd1 Ng6 12.Bd5 Nxd5 13.Qxd5 Rb8 14.Qh5 Bb7 15.Nc3 b4 16.f5 bxc3 17.fxg6 fxg6 18.Qh3 Qe7 19.e5 Rf8 20.Rxf8+ と進んで引き分けになった)10…c5 11.Qe3 Bb7 は1990年代に黒に非常に人気があった。

10.Qd3 O-O 11.Bg5!

 これは黒を気も狂わんばかりにさせる類の釘付けである。

11…h6 12.Bh4

12…Ne5

 12…g5 ならキングの安全を犠牲に釘付けをはずすことができる。以下は 13.Bg3 Nh5 14.e5!? で白が攻勢に立つ可能性がある。

13.Qe2 d6 14.Nc3

14…Be6?!

 どうして黒は 14…Ng6!? と指さなかったのだろう。15.Bg3 Bg4 16.f3 Be6 となれば黒陣は堅固である。

15.f4

15…Nc4??

 ここでも 15…Ng6!? が唯一のチャンスだった。16.Bxf6 Qxf6 黒はそれほど悪くない。17.e5(17.f5 Bxb3 18.axb3 Ne7 は白の方が少し良い。直接咎めようとしてもうまくいかない)17…dxe5 18.f5 Bxf5 19.g4 Qb6+

16.f5! Bc8

17.Nd5?!

 白ビショップはまず 17.Bxc4! で、受けに回る可能性のある駒を消し去るべきである。

17…Ne5 18.Nxf6+ gxf6 19.Qh5 Kh7 20.Bg3 Qe7 21.Bf4 Rh8 22.Bxh6 Kg8 23.Rf4 Rh7 24.Re1 Bb7 25.Re3 Kh8 26.Rh4 Rg8 27.Bf8! 黒投了

 ジェフリーは相手の疑問手のあとみごとに主導権を活用した。

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(118)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

bポーンのギャンビット

 前の例は別としてbポーンのギャンビットはほとんどいつも白のdポーンを弱体化させる意図で指される。この目的のためには明らかに白に cxb5 と取らせることが必要である。さもないとdポーンが守られたままになる。既に述べたようにこのギャンビットは試合の色々な段階で指すことができる。

 黒にはcポーンで取らせる三通りの手段がある。一つ目として …a7-a6 突きでギャンビットを準備することができる(図166)。

 図166 

 もちろん白は …a7-a6 突きに対して a2-a4 と突くことにより簡単にこの意図に対抗することができる。

 二つ目として黒は …Nb8-a6-c7 という捌きで準備することができる(図167)。

 図167 

 ここで Nc3xb5 と取るのはナイト同士の交換によって、白が初めにポーンで取ったのと同じポーン陣形になる。

 最後に、まず白のクイーン翼ナイトを交換しおいてからギャンビットを指すことができる。この交換はほとんど常に …Nf6-e4 と指すことにより達成できる(図168)。

 図168 

 白のdポーンに対する攻撃は普通はクイーン翼の駒によって行なわれる。例えば …Nb8-a6-c7 または …Nb8-d7-b6(-f6) としておいてから …Bc8-b7(ビショップがe4に行かない場合)という具合である。時にはクイーンが …Qd7-f5 と出て圧力を強化することができる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(117)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒のe4の地点の利用

 白が Bf1-e2 から Ng1-f3 と指したときは、明らかに黒がe4の地点を利用して局面を単純化するのがもっと容易になる。これらの白の手により当然黒がe4の地点を支配することになりがちである(図161)。

 図161 

 例えばここでは黒が …h7-h6 突きによってキング翼ナイトに対する釘付けをはずしたところで、…Nf6-e4 で単純化する用意ができている。白は …Nf6-e4 を防ぎ代わりに …Bf5-e4 と指させるために(さもないと Be2-d3 とこられるので)、g2-g4 突きにより事態を紛糾させようとするときがある。

 黒が …Qd8-b6 によって釘付けをはずしたときにも同じ基本的な着想が成立する(図162)。

 図162 

 ここで白は黒のクイーン翼ビショップを Nh4 Ne4、Nxe4 Bxe4、f3 によっていじめることができる。そのあと黒の最も安全な応手は次のように白の盤端のナイトに対する逆襲を利用する。…Qxb2、Rc1 h6(わけの分からない展開になる捨て駒の …Qxd2+、Kxd2 Bxd5!? も試みられてきた)、Bxh6 Qxd2+、Bxd2 Bf6 これで黒が形勢をほとんど互角にしている。

 また白がキング翼ビショップをd3に展開しているときは、黒がe4の地点の支配を維持したいならば思い切った、棋理に背く …Bc8-f5 で対抗することができる(図163)。

 図163 

 …Bf5、Bxf5 gxf5 となったあと、黒はキング翼の乱れたポーンの代償にe4の地点を支配し駒の働きが良くなる(図164)。

 図164 

 …Ne4 のあと白は Ne2 と引いて Ne2-f4-h5 のような捌きで黒のキング翼の弱点につけ込もうとするのが普通である。

 最後に、黒には …b7-b5 突きのギャンビットで白のクイーン翼ナイトをそらすことによりe4の地点の支配を争う手段もある(図165)。

 図165 

 …b5、Nxb5(cxb5 の成行きについては次の項を参照)のあと、黒は …Ne4 でe4の地点を占拠するという目標に成功する。そのあとは戦術的狙い(…Qa5+ から …Ng3)で黒がほとんど必ずbポーンを取り返すことができる。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[67]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

ヒューブナー戦法

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 c5(図103)

 図103(白番)

 これは白に a3 と突かせたい手で、そうなれば黒は白のcポーンを既にせき止めた形でゼーミッシュ戦法に戻ることができる。しかしそうさせられるのを白が拒絶したらどうなるか?

5.Bd3 Nc6 6.Nf3 Bxc3+

 4…b6 を扱った前節でちょっと触れた 6…O-O から …d5 突きもある。黒は本譜の手で1手をかけて白に二重ポーンを作らせた。しかし自分だけ手をかけた(白はゼーミッシュ戦法でのように …Bxc3+ と取らせるための a3 と突く1手をかけていない)ことを考慮すると、ここで黒が白のcポーンを …Na5 で攻撃するのは危険すぎる。そこで黒はクイーン翼ナイトをキング翼に転じる別の作戦を選ぶことになった。この作戦は西ドイツ最強のグランドマスターのローベルト・ヒューブナーの大得意だった。

7.bxc3 d6

 黒は 8…e5 突きで中原を封鎖し、白の双ビショップの利きを最小限にする用意をした。相手が双ビショップを持ちこちらが2ナイト、またはビショップとナイトとを持っているときは局面を閉鎖的にしておかなければならない。逆にこちらが双ビショップを持っているときはポーンを犠牲にしてでも局面を開放的にするように努めなければならない。

8.e4 e5 9.d5

 もちろん 9.dxc5 または 9.dxe5 と取るのは陣形的に罪深い。白の孤立二重cポーンはどうしようもないほどむき出しになり、白は弱点を隠すためにナイトをd5に捌くことは絶対できない。例えば 9.dxc5 dxc5 10.Qc2 Be6! 11.Nd2 Na5 となって、白は Nf1-e3-d5 と捌く暇がない(グリゴリッチの研究)。

9…Ne7

 今や黒は …h6、…g5 から Ng6 で危険なキング翼攻撃をもくろんでいる。だから白はこれを防ぐために手段を講じなければならない。

10.Nh4! h6

 この手は …g5 突きの準備である。10…Ng6 は 11.Nf5 が良い手になるのでだめである。

11.f4

 白は黒が非常にもっともそうな企てにはまって 11…exf4 12.Bxf4 g5 で戦力得をしにくることを期待した。しかしこれには 13.e5! という強力な攻撃がある。

11…Ng6!

 このぶちかましの妙手は白のf列での活動を消し去る。さらに、白の最も攻撃的な駒も消去する。なぜなら 12.Nf5 は 12…Bxf5 13.exf5 Nxf4 で良くないからである。

12.Nxg6 fxg6(図104)

 図104(白番)

 黒は少なくとも互角の形勢である。白のビショップはあまりぱっとせず、二重ポーンは黒の二重ポーンより攻撃を受けやすい。ユーゴスラビアのグランドマスターのグリゴリッチは12手目直後の局面を次のように評価した。「局面は閉鎖的で、白の良いところはまったく何もない。黒は容易に自分の弱点を守れるが、白の弱点は数の上でもっと少ないということはない。」1972年世界選手権のスパスキー対フィッシャー戦では黒が白のポーンの弱点を非常に効果的に利用した。

13.fxe5 dxe5 14.Be3 b6 15.O-O O-O 16.a4 a5 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2 Qe7 20.Bc2 g5 21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 0-1

 28.Qxa4 Qxe4 で収拾がつかない。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

王印防御の完全理解(116)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒の黒枡ビショップの交換

 白が Bc1-e3 と指してキングを保護するときは、黒はe列での釘付けを利用して …Bg7-h6 により黒枡ビショップ同士を交換することができる。白は単にキャッスリングで応じeポーンは取られるままにしておくことができる(図160)。

 図160 

 このポーンを取るのはタブーである。なぜなら …Rxe3、Qd2 となると急に白が Qh6 から Ng5 で詰みが目的の攻撃を仕掛けることができるようになるからである。fxe3 と取ったあとポーン陣形が変化するので、白には e3-e4 突きで中原を強固にするだけでなく(e4-e5 突きの仕掛けの可能性にたえず注意を払うことを忘れずに)、f列に沿った攻撃の可能性が新たに加わってくる。逆に黒は例えば …Nb8-d7-e5 によってさらに単純化を図ることに努め、キング翼では …Kg7、…Ng8 から …f6 のような手で塹壕を掘ることに努める。

(この章続く)

2011年06月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(115)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒の黒枡での活動とe5の地点の重要性

 黒の観点からはe5の地点の占拠は単純化のためだけでなくd6の地点への攻撃の可能性を遮断するためにも重要である。黒は …Nb8-d7-e5 または …Nf6-g4-e5 というようにどちらのナイトでもe5の地点に捌くことができる。もちろん後者は白が先受けの h2-h3 突きを遅らせているか省いている場合にだけ可能である。 白が Ng1-f3 と指したときは黒はdポーンで取り返すのを余儀なくされる事態を避けるためにもっと他の駒でe5の地点を支えなければならない。dポーンで取り返すのは白に保護パスポーンを作らせるだけでなく、e列とh8-a1の斜筋を閉じさせてしまう。単純に …Rf8-e8 と寄るのは白に Nxe5 Rxe5、Bf4 と先手で指させて優位に立たせることもある。黒がしばしば …Nf6-h5 という手に頼るのはこのためである。この手はキング翼ビショップでe5の地点を強化するだけでなく、黒枡全般への圧力も強める(図158)。

 図158 

 ここで黒はf4の地点を支配しているので、交換の悪影響を何も気にする必要なく …Nd7-e5 によって単純化に努めることができる。黒は気楽に …f7-f5 突きを考えるかもしれない。しかしこの手にはe6の地点を恒久的に弱める欠点がある。実際白は Bg5 f6、Bd2 という捌きまでして(もちろんキャッスリングしたあとで)、黒にほとんど …f6-f5 突きの選択肢しか残らないようにしたこともある。

 明らかに白がキング翼ナイトをe2に展開したときは、黒がe5の地点を占拠するのはもっと容易になる(図159)。

 図159 

 このような局面ではcポーンが当たりになっているせいで白はキング翼ビショップが交換で取られる可能性を避けられない。しかし黒がいつもそれを急ぐわけではない。というのは中央の好位置のナイトを潜在的な不良ビショップと交換することになるからである。

(この章続く)

2011年06月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(114)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒のdポーンの弱点

 この型の中原において最も重要な陣形上の特徴の一つは既に述べたように黒のdポーンが弱点になっていることである。白がこのポーンに圧力をかける手段はキング翼ナイトをe2に展開したかそれともf3に展開したかによって違ってくる。

 白が Ng1-f3 と指しクイーン翼ビショップをh2に捌いたときは、クイーンを繰り出してd6の地点に対する圧力を増すことができる(図156)。

 図156 

 このような状況における基本的な狙いは Qf4 Ne8、Ne4 である。

 一方白が Ng1-e2 と指したときは、d6の地点に対する圧力は Ne2-g3-e4 によって増すことができる(図157)。

 図157 

 この種の作戦を実行する際の h2-h3 突きの効用は、Nge4 Nh5、Bh2(Bxd6? は …f5 で黒が戦力得する)のように進んだ場合にビショップの引き場所が用意されていることと、黒が …Nf6-g4-e5 という捌きでd6の地点に対する圧力を防ぐことから明らかである。通常は Ng3 がe4に行くのが最善である。理由は Nc3 はb5の地点を支配していなければならないためと、Nce4 は …Ne8 と引かれて白駒が黒のキング翼ポーンによりいじめられる可能性(例えば …h7-h5-h4 突き、または …f7-f5 突きから …g6-g5 突き)があるからである。

(この章続く)

2011年06月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(222)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(7/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 まずカールセンに負け、次は世界チャンピオンと引き分け、そしてついにそれまで負けなしの選手に快勝した。ナカムラは再び優勝争いに復帰した。

グリューンフェルト防御 D87
H・ナカムラ – M・バシエ=ラグラーブ
ベイクアーンゼー Aグループ 第10回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O Na5 11.Bd3 b6 12.Qd2 e5

 ここまではすべて2010年世界選手権戦第1局と同じである。トパロフは 13.Bh6 と指し最終的に勝った。しかしナカムラには一家言あって、研究で優勢を証明するために「3時間を無駄に費やした。」ついに失望してトパロフの道を放棄し、別の手本に針路を変えた。

13.Bg5 Qd7 14.Bh6 Bb7 15.Bxg7 Kxg7 16.d5 f5 17.f3

17…Rf7?!

 試合後両対局者は 17…c4 18.Bc2 f4 の方が良かったということで一致した。バシエは対局中もその変化を読んでいた。しかし 19.g3 g5 20.gxf4 gxf4 21.Kh1 Kh8 22.Rg1 Qh3 23.Nd4!

となった局面を良くないと判断していたのかもしれない。

18.exf5!

 この白の手には素晴らしい戦術の着想が込められている。18…Qxd5 には白は 19.fxg6! と取る。これは確かに 19…Rd7 でd3のビショップが落ちるが、白の攻撃が炸裂する。20.Qe3! Qxd3 21.Qxe5+ Kg8 22.Qe6+ Kh8 23.Rad1!

23…Qxd1 24.Rxd1 Rxd1+ 25.Kf2 hxg6 26.Nf4 Rg8 27.Nh5!!

(Qe5+ から Nf6+ の狙いで白の勝ちになる)27…Rd2+ 28.Ke1 Rd6(絶対手。他の手はすべて即負け)29.Qxd6 Re8+ 30.Kf2 gxh5 31.Qh6+ Kg8 32.Qxh5

白の連結3ポーンが強力である。

 実戦は次のように進んだ。

18…c4 19.Bc2 gxf5 20.Rad1

 狙いは Ng3 である。

20…f4 21.g3!

21…Qd6

 ナカムラは対局中は 21..Rg8 22.gxf4 Kh8+ 23.Kh1 Qh3 24.Rf2 Qh4

を危険がないわけではないと思っていた。そのあとは 25.Qe3! exf4 26.Qd4+ Qf6 27.Rg2

が予想され、この収局は白の方が断然良い。

22.gxf4 exf4 23.Kh1! Re8 24.Rg1+ Kf8 25.Be4 Bc8 26.Nd4

 26…Ree7 と応じると 27.Nb5 から d5-d6 突きで白の優勢はほとんど疑いようがない。しかし実戦は何もかもぶち壊した。

26…Qf6? 27.Ne6+! Bxe6 28.dxe6 Qxe6 29.Bd5 Qh3 30.Bxf7 Qxf3+ 31.Rg2 Kxf7 32.Qd7+ Kf6 33.Qg7+ 1-0

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(113)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

キャッスリングの放棄

 白は小駒を理想的な地点に配置するためにキャッスリングする権利を放棄することも試みてきた(図155)。

 図155 

 Ke1-f1 のあと白は g2-g4 突きから Kf1-g2 と上がることによってルークを結合する問題を解決することができる。キャッスリングする権利を失うことが、得られる利益に対して高すぎる代価であるかどうかはなんともいえない。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(112)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

Bf1-e2 によるキングの保護

 キング翼ビショップのe2への展開は主として Ng1-e2-g3、Nf1-f3、Bc1-g5 のいずれと組み合わされるかにより色々に解釈することができる。

 最初の場合白は Bf1-e2 によってキングを保護する前にまずナイトをg3に捌く(図152)。

 図152 

 ここでの局面は前の図の局面と非常によく似ている。白はキャッスリングのあとキング翼ビショップとクイーンがg4の地点を支配しているので、h2-h3 と突く手を省くように努めることができる(少なくとも試合の早い段階で)。その上白ナイトはg3からe4とf5の要所を支配している。

 2番目の場合白はナイトがf3にいるおかげでe5の地点をもっとしっかり支配している(図153)。

 図153 

 一方白が h2-h3 と突いているときでさえ黒はクイーン翼ビショップの展開または …Nf6-e4 による単純化に何の問題もない。

 白がクイーン翼ビショップをg5に展開した3番目の場合、Nf6 に対する釘付けは前に注意を喚起したdポーンに対する圧力のように、駒の展開の際にどの点から見ても黒の迷惑になることがある(図154)。

 図154 

 ここでの白の着想は自分のキング翼ナイトの展開に関していくらかの融通性を確保して、h2-h3 から Ng1-f3(図153のように)と指すことができるように、または状況により1手費やしてでも Be2-d3 から Ng1-e2(図151のように)と指すことができるようにすることである。

 黒は …h7-h6 突きにより(これはもちろん白が Qd1-d2 と指すより前でなければならない)、または単にクイーンを動かすことにより(通常はb6に)釘付けをはずすことができる。

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(127)

「Chess Life」2011年2月号(4/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

 スティーブンが18歳以下の部門で快走している一方で、他の子どもたちもメダル争いを演じていた。オープン10歳以下の部門では6人(!)もの有望な選手がいた。サミュエル・セビアンは大会開始時にランキング1位だった。前半は期待にたがわず6試合で 5½ 点をあげ突っ走っていた。第7回戦で優勝者のカナダのジェイソン・カオに屈し、第8回戦ではインドのバスカル・グプタに負けた。この2敗でメダルの可能性がなくなった。これらの残念な結果にもかかわらずサミュエルは何局も印象的な試合を指した。次の試合は私が特に感服した1局である。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B92]
白 サミュエル・セビアン(FIDE2105、米国)
黒 マルティン・ペトロフ(FIDE1858、ブルガリア)
世界少年少女チェス選手権戦オープン10歳以下 第9回戦
ポルト・カラス、2010年10月28日

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be2

 この「穏やかな」やり方は白を繁雑なナイドルフ定跡から遠ざけてくれる。アナトリー・カルポフやエフィム・ゲレルのようなシチリア・キラーはこの手で多くの有名な試合に勝っている。

6…e5 7.Nb3 Be7 8.O-O O-O

 ここで白の手は多岐にわたる。

9.Kh1

9…Be6?!

 この手は正確さに欠ける。9…b6!? が 9.Kh1 への最善の応手と考えられている。1997年ルツェルンでのオニシュク対ド・ファーミアン戦では 10.Be3 Bb7 11.f3 b5 12.a4 b4 13.Nd5 Nxd5 14.exd5 Nd7 15.c4 bxc3e.p. 16.bxc3 Bg5 17.Bf2 Qc7 18.c4 Rab8

と進んで黒の方が良かった。9…b5? は 10.a4! b4 11.Nd5 Nxd5 12.Qxd5 Ra7 13.Be3 Be6 14.Qd2 Rb7 15.a5

となってaポーンとbポーンが黒の気がかりである。

10.f4 Qc7

 もっと安全な手順は 10…exf4 11.Bxf4 Nc6 である。

11.f5 Bc4 12.g4!

 この手は二つの目的を成し遂げる。一つ目はd5の地点を乗っ取って黒に大きな混乱を生じさせることである。二つ目はキング翼でポーンの暴風を起こして黒を受けに苦慮させることである。

12…h6 13.g5!

 この手は単純で強力である。g列が素通しになると白は圧倒的な主導権を握る。代わりに 13.h4!? は 13…Nh7 で黒に希望がわく。

13…hxg5 14.Bxg5 b5 15.Bxc4 Qxc4 16.Bxf6 Bxf6 17.Qg4 Qc8 18.Nd5 Qd8 19.Na5!

 このクイーン翼のナイト跳ねは黒にとって非常に厄介で、駒が縛り付けられる。

19…Ra7

 19…Qxa5?? は 20.Nxf6+ Kh8 21.Qh5# で終わりになる。

20.Rg1 g6

 白の大駒がすぐに黒キングの囲いを侵略する。

21.b4

 a5のナイトを固定して鉾先をキング翼に向け直す。

21…Bg7 22.Raf1 Qc8 23.Qh4 Re8 24.f6 Bf8 25.Rf3 黒投了

 h列での詰みが避けられない。サミュエルの会心の試合である。

******************************

(この号続く)

2011年06月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(111)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

Ng1-e2 によるキングの保護

 この駒組みの背後にある構想は前項で検討したこととあまり違わない。ここでの場合も白は黒のクイーン翼の展開を混乱させることを期待していて、キャッスリングしてからクイーン翼ビショップをf4またはg5に出しそれから Ne2-g3 と指してe列を空ける(図151)。

 図151 

 ここでは h2-h3 突きは主として …Nf6-g4-e5 の捌きをさせないことに向けられている。というのはそう突かなくてもビショップが …Bc8-g4 とかかるのは f2-f3 突きで追い払えるからである。当初は黒がe5の地点を占拠するのは前よりも容易だけれども、白はいつでもその支配に f2-f4 突きで挑むことができる。時にはこのあとさらに f4-f5 と突いていくことができる(黒がすぐにe5の地点につけ込むことができないならば)。このポーン突きはキング翼攻撃の先駆けにもなるし、単にh2-b8の斜筋に沿った新たな圧力の前触れにもなる。

(この章続く)

2011年06月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(110)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

Bc1-e3 によるキングの保護

 白は Bc1-e3 でe列をふさぐことにするかもしれない。その意図はキング翼にキャッスリングしたあとこのビショップをf4またはg5に動かすことにより理想の駒組みにいたることである(図150)。

 図150 

 白がf5とg4の地点を支配しているので黒のクイーン翼ビショップの展開が制限され、そのため黒のルーク同士の連絡がより困難になる。それが今度は白が素通し列を支配しようとするのを助長し助けることになる。

 このような局面では h2-h3 突きは …Bc8-g4 と …Nf6-g4 とを防ぐだけでなく、白のクイーン翼ビショップがf4に出て …Nf6-h5 と当てられたときの引き場所を用意するので、必要不可欠である。

 また、このような局面では黒はクイーン翼での反撃(…Nb8-a6-c7、…a7-a6、…Ra8-b8、…Bc8-d7 という手段によって)を計画するのにちょうど十分な広さも持っている。しかし白はこの反撃を a2-a4-a5 突きによってまたはd6ポーンに対して圧力をかけることによって妨害することができる。だから黒の主要な目標が局面を単純化して駒をずっと自由に動けるようにすることであることは容易に分かる。そして黒はe5またはe4の地点をナイトで占拠することにより、またはあとで出てくるように …Bg7-h6 によって黒枡ビショップ同士を交換することにより、その目標を追求するのが普通である。

(この章続く)

2011年06月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[66]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

黒のクイーン翼ビショップのフィアンケット

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3(図101)

 図101(黒番)

 これはニムゾインディアンの4手目としては現代のマスターの試合の約75%で選択される手である。白は黒にキング翼ビショップをナイトと交換させるのに1手(a3 突き)をかけることをはっきり拒否する。4.e3 は Bd3、Nf3、O-O で通常の古典的展開をする用意もしている。

 これに加えて白には 5.Nge2 の選択肢もある。これは駒でc3を取り返すことを可能にし、二重ポーンから生じるかもしれない不利益を回避する。

4…b6

 黒はクイーン翼ビショップをb7に展開することにより、e4の地点をめぐる理にかなった戦いを続けている。5…c5 で中央をせき止める別策は次項で解説する。また 4…O-O 5.Bd3 c5 6.Nf3 d5 7.O-O Nc6 も黒が十分戦える。

5.Bd3 Bb7 6.Nf3

 代わりに 6.f3 は黒のクイーン翼ビショップの利きを鈍らせるが、白のキング翼ナイトから好所を奪うことにもなる。

6…Ne4

 黒はe4の地点を押さえてこの手が先手になることを期待している。というのは白のクイーン翼ナイトへの当たりがもう一つ加わり、白がe4の地点を恒久的に征服しそれと同時に二重ポーンを作らせるクイーン翼ナイトへの狙いも打ち消す Qc2 を指すことができる前だからである。これに代わり得る手は 6…O-O だが、以下は例えば 7.O-O d5 または 7.O-O c5 8.Na4 となって黒は白のcポーンを二重ポーンにする戦略を放棄しなければならなくなる。

7.O-O!

 これは非常に有望なポーンの犠牲である。

7…Bxc3

 これで白に二重ポーンができる。ここで 7…Nxc3 8.bxc3 Bxc3 とポーンの犠牲を受け入れるのは 9.Rb1 で非常に危険である。

8.bxc3 f5

 これは黒のキング翼を弱め自分のeポーンからその守りを奪うが、e4の地点の支配を強めそこにいるナイトも支えている。ここで白が二重ポーンの動的な潜在力を活用する唯一の方法は、二重ポーンを大胆に突いて犠牲にしビショップの道を開くことである。

9.d5!

 ここで黒が 9…exd5 と取れば 10.cxd5 Bxd5 11.c4 Bb7 12.Nd4 または 12.Bb2 となって、白のビショップが威力を発揮する。黒の最善の方策は次の手で危険なビショップを押さえ込もう(閉じ込めよう)とすることであるが・・・

9…Nc5

 しかし次の手のあと・・・

10.Ba3 Nba6

 この手は同僚のナイトを守った。代わりに 10…Nxd3 は 11.Qxd3 で黒がキャッスリングできなくなる。

11.Bc2(図102)

 図102(黒番)

 黒のナイトは結合して働きがなく、盤の端に取り残されている。黒陣の大きな問題は駒が白のe4の地点の支配に向けられていて、中原の支配に大きな力を持つようになった白の二重ポーンの制止に向けられていないことである。これは 6…Ne4 から 7…Bxc3 と結びついた作戦が誤っていたことを示唆している。

 11.Bc2 のあと白は二重ポーンの潜在的な機動力をフルに活用し、陣地の広さと好所の駒のための素通し列とによりかなり優位に立った。この局面から1972年ティーズサイドでのグリゴリッチ対カファーティ戦は次のように進んだ。

11…O-O 12.Nd4!

 この中央集結は重要で、黒のfポーンを間接的に狙っている。

12…Rf6

 グリゴリッチ「この攻撃は不正で、黒の状況を悪くするだけである。」

13.f3 Rh6 14.Qe2 Qf6 15.Rae1

 白はポーン中原の内側に駒を集結させた。すべては原則どおりである。

15…Re8 16.Bc1

 このビショップは黒のふらふらしているルークへの一撃を目指している。

16…g5 17.g4

 ビショップのために局面を決然と開放させた。双ビショップを持っているなら従うべき役に立つ原則である。

17…exd5 18.Nxf5 Rg6 19.cxd5 Bxd5 20.c4 Bf7 21.Nd4 Nb4 22.Bb1 Rg7 23.Bb2

 これらのビショップをよく見るとよい。たかがルークのために1個を放棄するのはもったいない。

23…Qd8 24.Qd2 a5 25.Nf5 Rg6 26.Qd4 0-1

(この章続く)

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王印防御の完全理解(109)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

理想の駒組みと h2-h3 突き

 白の理想の駒組みとは次のことを満たすものと定義することができる。(1)e4とe5の地点をしっかり支配している。(2)黒のクイーン翼ビショップの活動的な展開を防ぐ。(3)弱いdポーンに圧力をかけるか Nf6 を釘付けにする。(4)ルークが迅速にe列を占めるようにe列を空ける(図149)。

 図149 

 この理想の駒組みは白がキャッスリングしてしまうまで黒がe列の開通を遅らせた時にだけ可能である。逆に黒が正しく指せば白はe列に駒を置いてキングを黒の圧力から保護することを迫られる。

 h2-h3 突きは以降に見られるように白の作戦に頻繁に現れ、明らかに黒のクイーン翼ビショップが …Bc8-g4 によって活動的に展開するのを防ぐ目的であるが、それだけには留まらない。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(108)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

e列の開通

 あとの方の場合を別にすれば白が相手に中原で …exd5、exd5(cxd5 と取り返すのは現代べノニの中心的な中原の型に移行する)でポーン交換する選択肢を残しておくと、次のようなポーン陣形が生じることがある(図148)。

 図148 

 一般的にe列の開通は黒にとって非常に異なった二通りの手段として解釈することができる。一つは大駒の交換による単純化に通じる道としてであり、もう一つは …b7-b5 突き(…a7-a6 突きの支援があるなしにかかわらず)でcポーンを攻撃することによるdポーンの侵食の始まりとしてである。

 最初のやり方は何よりもまず引き分けの収局に向けて単純化する目的であり、相手の白枡(不良)ビショップに対してナイトを残すことができれば黒に有利な収局にさえなる。この単純化の戦略は主としてe5とe4の枡をめぐって展開される。これらの枡の占拠は素通し列での圧力によって支援されることがよくある。黒はキング翼での迅速な駒の動員により …Rf8-e8 と寄せて布局の早い段階でe列の主導権を握ることができる。そのため白は駒を展開する際に自分のキングを覆うためにe列に少なくとも1個の駒を置かなければならない。

 二つ目のやり方はもっと機動的で、基本的には白のdポーンを弱めることを目指し、時には白のaポーンとbポーンに圧力をかけるためにクイーン翼で素通し列を作ることを目指すこともある。これらの目的を達成するために黒はしばしばbポーンをギャンビットする。

 これら二つのかけ離れた作戦はいつでも、そして単純化の初期の段階のあとでさえ、…b7-b5 突き(またはギャンビット)が行なえるならば共存することもできる。しかし作戦の選択は白駒の配置によってしばしば制約を受けることは忘れてならない。

 黒の作戦にまったく反対の目的を白が追求することはもっともである。広さの優位により白は局面の単純化を避けるよう努め、…a7-a6 突きに抑止の a2-a4 突きで …b7-b5 突きの侵食を防ぐように努める。さらに黒のdポーンは潜在的な弱点なので白には陣形上の優位がある。白の長期的な構想は、弱いd6ポーンへ圧力をかけて広さの優位を慎重に助長することにより、素通しe列の支配を得ることである。

 白はいろいろな展開の仕方で自分の作戦を追求することができる。それらの作戦はそれぞれ固有の特徴を持っていて、両対局者の戦略の選択に影響を与える。従って基本的および具体的な戦略の構想を調べる前に、簡潔に白の色々な駒の配置を復習することにする。

(この章続く)

2011年06月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(107)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

正面反攻の …e7-e6

 黒が白の中原に正面反攻の …e7-e6 で挑むことにした時は、白は重大な戦略上の決断をしなければならない(図146)。

 図146 

 白は自分からe6のポーンを取ってd6の弱いポーンを具体的な標的にすることを意図するか(もっとも自分の広さの優位をいくらか犠牲にするが)、ポーン陣形の優位を維持するために静観し黒が望むならばポーン交換の権利を与えるかを選択しなければならない。後者の場合 f2-f4 と突くと白には …e6xd5 に e4-e5 突きで攻め込む可能性も生まれる(図147)。

 図147 

 この図に示される状況は黒に白のeポーン突きを迎え撃ついくつかの手段(…Nf6-g4、…Nf6-e4、…dxe5)があるので極度に流動的で、それぞれが異なった乱戦になっていく。こうなるかもしれない定跡ははっきり解明されているとはまだとても言えない。

(この章続く)

2011年06月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(221)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(6/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 第9回戦でナカムラがアーナンドを相手に形勢が怪しくなったとき、ある観戦者は「ああ、彼は2連敗をくらい脱落する」と思った。しかし米国選手は巧妙に苦境から抜け出し、この決戦(結果的には大会優勝者対準優勝者戦)で引き分けをもぎ取った。

后印防御 E21
H・ナカムラ – V・アーナンド
ベイクアーンゼー Aグループ 第9回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 b6 5.Bg5 h6 6.Bh4 g5 7.Bg3 Ne4 8.Qc2 Bb7 9.e3 d6 10.Bd3 Bxc3+ 11.bxc3 f5 12.d5 Na6 13.h4?!

13…Qf6 14.Bxe4 fxe4 15.Qxe4 Qxc3+ 16.Ke2 Nc5 17.Qg6+ Ke7 18.Rac1 Qf6 19.Qxf6+ Kxf6

 13手目の疑問の新手でナカムラは苦戦に陥った。特にg3のビショップが働いていない。「壁」のc7/d6を見つめているだけである。ナカムラは最善の受けを見つけた。

20.Rhd1! exd5 21.cxd5 Ba6+ 22.Ke1!

 この手は 22.Kd2 よりはっきり優る。22.Kd2 は確かに交換損にならないが、なおも守勢が続く。実戦の手のあと 22…Nd3+ なら強く 23.Rxd3 Bxd3 24.Rxc7 と応じて交換損の代わりに1ポーンを取り、g3の「ゾンビー」が蘇って急に(d6に対して)攻撃的にさえなる。問題は白がまだ不利なのかということである。アーナンドは同じように考えていて交換損のプレゼントを断った。

22…Rae8 23.Rc3 Re4 24.Rd4

24…Rhe8?

 この手よりも 24…Rxd4 25.exd4(25.Nxd4 は 25…Bb7! でdポーンがすぐにあるいは 26.Nc6 Bxc6 27.dxc6 Ke6! から …Kd5xc6 で落ちる)25…Re8+ 26.Kd1 Be2+ 27.Kc1 Na6 の方がチャンスがあり、白はまだ苦労しなければならない。

25.Ra3! Bc8 26.hxg5+ hxg5 27.Rxa7 R8e7

 白の得したポーンはたいした価値がない。試合は14手後に半点ずつ分け合った。

28.Kf1 Bg4 29.Nd2 Rxd4 30.exd4 Nd3 31.f3 Bf5 32.a3 Nf4 33.Bxf4 gxf4 34.Ne4+ Bxe4 35.fxe4 Rxe4 36.Rxc7 Rxd4 37.Rc6 Ke5 38.Rxb6 Rd1+ 39.Ke2 Ra1 40.Rb3 Kxd5 41.g3 引き分け

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(この号続く)

2011年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(106)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

bポーンを支える a2-a4 突き

 白が a2-a4 と突いてbポーンを守るときは、次図に見られるように黒がクイーン翼の駒を展開するのがかなり難しくなる(図142)。

 図142 

 一般的にいうと黒はクイーン翼での活動にこだわりたいか、それとも …e7-e6 突きの正面反攻に作戦を変更して白の中原への攻撃を完遂したいかによって二通りの作戦を選ぶことができる。

 最初の場合黒は遅かれ早かれ …a6xb5 と取って展開の問題を解決し、そのあとで手段を尽くしてb5の地点を攻撃することにより白のa4とb5の地点での封鎖を打ち破るようにしなければならない。この作戦の中でa5の地点におかれた黒クイーンは有益な役割を果たし、白のaポーンとクイーン翼ナイトに潜在的な釘付けをかける(図143)。

 図143 

 このような局面では白は(この図のように)クイーン翼ビショップをd2に引くか展開するかしてe1-a5の斜筋を守る必要があるだけでなく、それと同時に …Bxb5、Nxb5 Qxb5、axb5 Rxa1+ で黒がクイーンを犠牲にする可能性にも注意を払わなければならない。この可能性を考慮しおよび/またはh8-a1の対角斜筋に沿った圧力を回避するために、白は Ra1-a3 で局面を安定させる手段に頼ることも少なくない。

 黒の方は …Nf6-e8-c7 または(…Bc8-a6 と指す前に)…Nb8-a6-b4、…Bc8-a6 から …Rf8-b8 のような捌きで Bb5 に対する圧力を強めることができる。黒の別策は …a6xb5 と取るのを遅らせて、クイーンをa5に出し白のeポーンを …Qa5-b4 によって攻撃することである(図144)。

 図144 

 bポーンに対する狙いは幻想だが(…Qxb2? は Rb1 Qa3、Rb3 でクイーンが捕まる)、eポーンに対する狙いは本物である。白がeポーンを守ったあと、黒は …a6xb5 と取ることにより図143と非常によく似た局面にするか、…c5-c4 と突くことによりビショップのb5の地点の守りを妨害することができる。また、黒クイーンが非常に危ない橋を渡っていることも明らかである。というのは例えば f2-f3、Qd1-c1、Nc3-d1 によって捕獲される危険性があるからである。

 二番目の場合(黒が …e7-e6 突きで中央反撃に転じたとき)、黒はc4ポーンに対する攻撃を単に白のポーン中原と広さの優位を破壊するための第1段階としか見ていない。…e7-e6 突きの意図は白のdポーンを …e6xd5 によって弱め、それと同時にe列を素通しにすることである。これが普通は白が先に d5xe6 と取る理由である。…Bc8xe6 と取り返したあと(…f7xe6 とポーンで取り返すのはいつかは起こる e4-e5 の仕掛けにもっと弱くなる)、黒の中心的な戦略目的は …d6-d5 突きによる捌きを達成することである(図145)。

 図145 

 残っているクイーン翼の展開の問題を解決するために黒は一般にb5のポーンを取り、それからナイトをa6の地点を経由してc7かb4に捌く。

(この章続く)

2011年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

ある組織の実体

 2012全日本チャンピオンが決定してから一ヶ月以上がたちますがJCAのホームページに反映されていません。全日本チャンピオンなんてたいしたものじゃない、いつか手のすいたときに更新すればよいという意識なのでしょう。

2011年06月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 我楽多

王印防御の完全理解(105)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

ポーン取りの b5xa6

 白が b5xa6 と取ると黒はクイーン翼の列を素通しにするという目的を達成する(図140)。

 図140 

 黒が …a7-a6 と突いて準備してから …b7-b5 とギャンビットして c4xb5 a6xb5、B(N)xb5 と進んだときにも非常によく似た局面ができる。

 黒は可能なときにはa6-f1の斜筋に沿った白枡ビショップ同士の交換をほとんど常に歓迎する。これには二つの理由がある。一つは敵陣の白枡全般(特にd3の地点)を弱めるためであり、もう一つは自分の展開を促進しそれによりルークの連結を楽にするためである。

 白がb5とa6でポーンを取ったためにある程度展開で遅れをとり、そのために黒ができるだけ迅速に戦力を動員することに特に意欲的になるのは当然である(図141)。

 図141 

 図の局面は黒駒の典型的な展開を示している。可能な種々の作戦のうち黒は …Rb8-b4 と指すことによりb列と白のe列に対する圧力を増したり、弱体化したd3の地点へ自分の駒を例えば …Na6-b4、…Nf6-d7-e5、…Qa5-a6 および/または …c5-c4 によって振り向けたりできる。…c5-c4 突きは融通性と一般的な有用性のゆえにほとんどいつも黒の作戦の一部を務める。つまりこのポーンはbポーンとd3の地点を固定し、ナイトのためにc5の地点も空ける。黒がクイーン翼ナイトで …Nb8xa6 と取らなかったときは、このナイトは …Nb8-d7-b6-a4 という捌きによって白のbポーンに圧力をかけることができる。

 白の方は e4-e5 突きの達成により敵駒の調和を乱すことができないときは、できるだけうまく守り戦力の優位を収局まで持ち越すように努めるより以上のことはほとんどできない。

(この章続く)

2011年06月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(126)

「Chess Life」2011年2月号(3/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

 とてつもない重圧の下でスティーブンはただ勝ち続けた。これはもうマネーゲームである。スティーブンのアルメニア人競争相手も並走していた。二人ともほかの選手たちに信じられないような1.5点差をつけていて、一方が金メダルで他方が銀メダルが確定していた。

シチリア防御オーケリー戦法 [B28]
白 IMスティーブン・C・ジールク(FIDE2391、米国)
黒 GMバシフ・ドゥラルベイリ(FIDE2495、アゼルバイジャン)
世界少年少女チェス選手権戦オープン18歳以下 第11回戦
ポルト・カラス、2010年10月30日

1.e4 c5 2.Nf3 a6?!

 重大な対局で指すには最も信頼のおける戦法とは言い難い。

3.c3

 これは …a6 を不要不急の手のようにさせるやり方の一つである。…a6 という手はc3シチリア防御では見当はずれである。白は重要な手得をする。黒は 2…a6 で 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e5! を期待していた。3.c3 に代わるほかの手は 3.c4!? である。白はマローツィ縛りの形にして陣地の広さで優位に立つ。

3…d5 4.exd5 Qxd5 5.d4 Nf6 6.Be3!

 黒にd4のポーンを取らせることにより、Nc3 と指すことができ展開で大差をつけることができる。

6…cxd4 7.cxd4 g6 8.Nc3 Qa5 9.Qb3

 白はb7に狙いをつけることにより黒の展開を遅らせる。

9…Bg7 10.Ne5 O-O

 10…e6 なら 11.Nc4 で黒が実戦と同じような状況になるだけである。11…Qc7 は 12.Nb6 Ra7 でやはりルークの位置がひどい。

11.Nc4 Qc7 12.Nb6 Ra7 13.d5!

 黒駒は連係が悪い。

13…Bf5 14.Rc1

 白は黒クイーンを追いかけ回してだいぶ手をかせいでいる。

14…Qd8 15.Be2 Ng4 16.Bxg4 Bxg4 17.Qc4!

17…f5

 黒は愚形の手を強いられた。しかしビショップを引くのは戦力損をする。17…Bd7 なら 18.Nxd7 で白の勝ちだし、17…Bf5 でも 18.g4! がある。

18.d6+ Kh8 19.Nbd5!

 黒の両方のルークが狙われている。

19…e6 20.Nf4 Qxd6 21.Bxa7 Nc6 22.Bc5 Qe5+ 23.Be3 g5 24.Nd3 Qf6 25.O-O f4 26.Bc5 Rc8 27.Ne4 Qg6 28.f3 Bf5 29.Qb3 Bxe4 30.fxe4 Rd8 31.Qxb7 Qxe4 32.Nf2 黒投了

 この楽勝でジールクの成績は9½-1½になった。アルメニア選手が負けたので彼が2005年のアレックス・レンダーマン以来の優勝者になった。スティーブンの偉業、国際マスター称号獲得それにグランドマスター基準達成を祝福したい。

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(104)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点(続き)

黒からの側面攻撃の …b7-b5突き

 この攻撃はほとんどいつも何の準備もなしにbポーンをギャンビットする(図138)。

 図138 

 対角斜筋に敵のキング翼ビショップの利きがあるために白が b2-b3 と突いてbポーンを支えることはできない。また、白がeポーンを守れば(…b5-b4 突きの狙いに対して)、b列が素通しになって(…b5xc4)黒のクイーン翼の反撃が勢いづく。Nc3xb5 Nf6xe4 でポーンを取り合うのが白に良くないことを考えれば、白は c4xb5 とポーンを取るしかなく、次のような状況になる(図139)。

 図139 

 ここでの黒の主要な目標は …a7-a6 突きでa列とb列を素通しにすることによりクイーン翼での反撃の展望を最大にすることである。白には基本的にこのポーン突きに応じる手段が二通りある。それは b5xa6 で単にギャンビットを受諾することと、bポーンを a2-a4 突きで支えることによりクイーン翼を比較的閉鎖的な状態にしておくことである(こちらの方が実戦ではよく見られる)。

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

羽生名人が仙台で講演

河北新報2011年6月14日付け朝刊

2011年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(103)

第4章 アベルバッハ中原(続き)

4.1 戦略の着眼点

 上記の戦法に共通する戦略の着眼点はポーン陣形から導き出すことができる(図137)。

 図137 

 明らかに白は中原でかなり広さで優位に立ち、黒が消極的な指し方をすれば重要な仕掛けの e4-e5 突きを(たぶん f2-f4 突きの助けで)行なうことができ、黒は重大な事態に陥る。だから黒は積極的に動くことを迫られ、…b7-b5 突きまたは …e7-e6 突きでそれぞれ連鎖ポーンの根元と先頭とを攻撃して白のcポーンとdポーンに挑むことにより、白の広さの優位を削いでいかなければならない。時にはこれら二つの手法は両立でき、一方が他方を補完することになる。しかしこれらを指す順序は以降の戦略に重大な結果をもたらす。そのためどちらの手を先に指すかにより別個に検討していくことにする。

(この章続く)

2011年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[65]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.a3(図99)

 図99(黒番)

 この手により最も極端な形で二重ポーンができあがる。白は黒にビショップをナイトと交換させるが、二重ポーンが自分の中原の柔軟性を増進させると考えている。

4…Bxc3+ 5.bxc3 O-O

 黒は二重ポーンに対する攻撃に集中する前にキングを中央から立ち退かせた。白の中原のポーンが突進して来るかもしれないことを考えれば、これは賢明な予防措置である。黒キングは敵ポーンの進路からはずれてより安全になっている。

6.e3

 白はぜひともc4からf4に渡る広大なポーンの帯を構築したがっている。この望みの態勢を達成するには次のように二つの方法がある。(a)e3/Bd3/e4 から f4 と突く。(b)f3/e4/Bd3 から f4 と突く。どちらの方法もeポーンまたはfポーンに2手かけている。

6…c5

 この手は非常に重要である。黒は自分の攻撃の準備として白のcポーンの先頭をせき止めた。その攻撃とは …Nc6-a5/…Ba6/…Rc8(…cxd4 で白のcポーンに利きを直射させる狙いがある)…Qd7-a4 または(黒が …d6 突きを省略しているなら)…Ne8-d6 という手順である。黒の6手目は標的(白のcポーンの前部)をその位置にしっかりと固定している。

7.Bd3

 7.dxc5? は自殺行為である。ポーン得は一時的にすぎない。7…Na6 から …Qa5 で三重ポーンの先頭はすぐに落ち、白は素通し列での孤立二重ポーンという、なんとしても避けるべき弱点の一つが残される。

7…Nc6 8.Ne2

 白はfポーンの進路をふさぎたくないのでこのナイトはf3でなくこう跳ねるところである。

8…b6

 この手は …Ba6 の準備である。

9.e4

 Bg5 から e5 突きを狙われているので、黒はそうなる前に釘付けを防ぐ。

9…Ne8!

 これはカパブランカ創案の妙手である。前述の釘付けを防ぐ別の方法は 9…h6 突きだが、黒キングの前面のポーンを弱めるので避けられるものならば避けるべきである。

 このナイト引きには別の構想もある。黒の指す手は局面を閉鎖的にする希望に駆られている。それは白ビショップの活動範囲を最小限にし、白の中原ポーンが雪崩のように前進してくるのを止めるためである。本譜の手によって黒のfポーンがf5に進む道が開け、白のキング翼ビショップの働きを止め白のfポーンの進路を邪魔することになる。黒はf5のせき止めポーンを …g6 突きから …Ng7 で支援することができる。

 このような閉鎖性の強い局面では黒のナイトは白のビショップと完全に対等である。

10.O-O(図100)

 図100(黒番)

 これは両者が最も効率的な手段でそれぞれの戦略を成し遂げた理想的な局面と言えるかもしれない。

 黒も白もこの局面から鮮やかな勝利を収めてきた。そこで二重ポーンの強さと弱さを例示するためにそれぞれの手本を本手順で示すことにする。

 最初は黒が白のfポーンの前進によってなぎ倒された試合で、黒が不注意にもこのポーンを妨害し損ねた。その次は抑制のみごとな例である。黒は決して相手に攻撃の機会をつゆほども与えず、白はついにはポーンの弱点の結果として収局で屈した。

 (a)ブロンシュテイン対ナイドルフ、ブダペスト、1950年

10…d6 11.f4 Ba6?

 11…f5 突きが必須だった。

12.f5! e5

 この手は 13.d5 Na5 14.Qa4 f6 で局面全体が封鎖されることを期待した。

13.f6!

 好手。この手に対して 13…gxf6 なら 14.Bh6 Ng7 15.Ng3 で黒がひどいし、13…Nxf6 も 14.Bg5 から Bxf6 で同様にうまくない。しかし黒は長くこの変化を避けることができない。

13…Kh8

 このポーンを無視し消えることを期待したが、そうはならない。

14.d5 Na5

 こう跳ねても白のcポーンに対する攻撃はもう意味がなくなっている。

15.Ng3 gxf6

 15…Nxf6 は 16.Bg5 から Nh5 でもっと悪くなる。

16.Nf5

 黒の二重ポーンの前はナイトにとって理想的なせき止めの地点である。ここは黒にとってかなり負担になってきた。

16…Bc8 17.Qh5 Bxf5 18.exf5 Rg8 19.Rf3

 狙いは 20.Qxh7+ Kxh7 21.Rh3+ Kg7 22.Bh6+ Kh7 23.Bf8# である。

19…Rg7 20.Bh6 Rg8 21.Rh3 1-0

 (b)ボトビニク対レシェフスキー、世界選手権競技会、1948年

10…Ba6 11.Be3 d6 12.Ng3 Na5 13.Qe2 Qd7!

 この手は展開によっては …Qa4 を狙い、f5の地点に利きを及ぼすことによって …f5 突きも支援している。

14.f4

 キング翼ビショップの筋を開ける 14.e5 突きの方が強手だった。

14…f5! 15.Rae1 g6 16.Rd1 Qf7

 16…Qa4 は 17.d5 で危険すぎる。黒はキング翼の封鎖に専念している。

17.e5 Rc8

 この手はc4ポーンの攻撃にもなっている。

18.Rfe1 dxe5 19.dxe5 Ng7 20.Nf1 Rfd8

 もしすべての大駒が交換になれば自動的に白のcポーンの先頭が落ちる。

21.Bf2 Nh5 22.Bg3 Qe8 23.Ne3 Qa4

 ようやくこの手が実現した。

24.Qa2 Nxg3 25.hxg3 h5

 白の二つ目の二重ポーンを麻痺させた。

26.Be2 Kf7 27.Kf2 Qb3 28.Qxb3 Nxb3 29.Bd3 Ke7 30.Ke2 Na5 31.Rd2 Rc7 32.g4 Rcd7

 黒は陣形ではるかに優っているので白の犠牲を無視することさえできる。

33.gxf5 gxf5 34.Red1 h4 35.Ke1 Nb3

 このあとの手順は白のあがきにすぎない。

36.Nd5+ exd5 37.Bxf5 Nxd2 38.Rxd2 dxc4 39.Bxd7 Rxd7 40.Rf2 Ke6 41.Rf3 Rd3 42.Ke2 0-1

(この章続く)

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王印防御の完全理解(102)

第4章 アベルバッハ中原

主手順 - アベルバッハ戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Bg5 c5 7.d5(図136)

 図136(黒の手番) 

 この型の中原は白が決まり切った …e7-e5 突きを妨げたとき、または黒が …c7-c5 突きの方を好んだとき、多くの異なった手順で現れることがある。例えば 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 の後

 4ポーン攻撃
 - 5.f4 O-O 6.Be2(または 6.Nf3 c5 7.d5)6…c5 7.d5

 h2-h3 突きシステム
 - 5.Nf3 O-O 6.h3 c5 7.d5
 - 5.h3 O-O 6.Bg5 c5 7.d5

 その他の戦法
 - 5.Nf3 O-O 6.Be2 c5 7.d5
 - 5.Nge2 O-O 6.Ng3 c5 7.d5

 主流戦法を含めこれらの戦法はすべて 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 g6 4.Nc3 Bg7 5.e4 d6 という手順から生じることがある。白はこのあと 6.Bd3 から Nge2 と指すこともできる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(101)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図135(再掲)白の手番 

 キングが露出しているにもかかわらず駒の働きに優っているおかげで白が受かると期待しているのは誤っていないように思われる。

23.Bc4

 23.c6 は 23…b3 で黒の狙いが控え目に言っても急を要する(24…Rc2#)ことを考えればこの手はまったく当然である。

23…Ra5 24.c6

 明らかに(そして当然ながら)白はbポーンを取る前に黒のビショップを最下段に押し込むことができると思っていた。しかし予期しないショッキングなことが待ち構えていた。結果論からすると 24.Qxb4 と取る方が良かった。もっとも 24…Rxc5 25.Kd2 f4 となって黒は犠牲にした戦力を上回る代償を得る。

24…Qb8!!

 この驚愕の2度目の捨て駒で黒が重要なbポーンを維持し白の防御の希望を打ち砕く。

25.Qe2

 25.cxd7 は 25…Rc5 26.Nd2 Qa7 で急に黒の攻撃が手がつけられなくなる。

25…b3!

 決定的な攻撃が始まりbポーンが重要な役割を果たす。

26.cxd7

 24手目の意表の応手を考えれば白は最後までどうなるか見ておいた方が良いかもしれない。

26…Qb4

 27…Ra1 から 28…Qc3+ を狙っている。

27.Rd2

 27…Ra1 なら 28.Rb2 と受ける用意である。

27…e4 28.Nf4 Ra1 29.Rh3 Bc3!

 白は黒クイーンの致命的な侵入は防ぐことができたが、同じくらい致命的な黒ビショップの進入は防げなかった。

30.Bxb3

 もう受けがない(30.Rb2 なら 30…Bxb2+)。

30…Bxd2+

 白の最後の望みは 30…Qxb3? 31.Rb2! にあった。

31.Qxd2

 31.Kb2 なら 31…Qd4+ 32.Nc3 Re1 で黒の勝ちで、このあと 33.Qh5 でも 33…Bc1+ である。

31…Rxb1+ 32.Kxb1 Qxd2 33.Ne6 Rb8 34.d8=Q+ Rxd8 35.Nxd8 e3 36.Ne6 e2 37.Rh1 f4 0-1

(この章終わり)

2011年06月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(100)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図134(再掲)白の手番 

 黒の眠ったような反撃はここに来て蛇に噛まれて飛び起きたかのように元気づいた。自分が攻撃者だと思っていた白は突然無視することのできない大きな防御の問題に直面した。例えば 19.h5 なら 19…b4 20.Nb1 e4 21.h6 Be5 22.g6 Qf6 23.Rd2 e3! 24.Rc2 b3 である。

19.cxb5 a6 20.b4

 白はこの手で黒の18手目に事実上含まれていた捨て駒を受諾する用意があることを明らかにした。いずれにしても 20.b6 には 20…Rb8! があるのでクイーン翼の列を閉鎖状態にしておくことは不可能である。同様に 20.bxa6 Nxa6 も黒の素通しのa列とb列が白の危険なgポーンとhポーンに拮抗する。

20…axb5! 21.bxc5 b4 22.Nb1 Rxa2(図135)

 図135 白の手番 

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(220)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(5/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活

 第8回戦でナカムラは蹂躙された。この大会でマグヌス・カールセンの試合はむらがあった。ギリ戦では序盤でのばかげた思いつきで早々と敗勢に陥ったし、ネポムニャシチ戦でも戦術でへまをした。他の試合では何度か近年のように、即ち世界最強選手のように、指し回した。ナカムラとの試合は会心中の会心の一局だった。もちろん世界中の注目の試合だった。

シチリア防御 B92
M・カールセン – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第8回戦、2011年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be2 e5 7.Nb3 Be7 8.Be3

8…O-O(訳注 本手は 8…Be6 です。8…O-O は本局のように 9.g4 と突く選択肢を白に与えます)9.g4 Be6 10.g5 Nfd7 11.h4 Nb6 12.Qd2 N8d7 13.f4 exf4 14.Bxf4 Ne5 15.O-O-O Rc8 16.Kb1 Qc7 17.h5 Rfe8 18.Ka1 Bf8 19.Nd4 Qc5 20.g6 Nec4 21.Bxc4 Nxc4 22.Qd3

22…fxg6?!

 22…h6!? と突く方が頑強だった。

23.hxg6 h6 24.Qg3 Qb6 25.Bc1 Qa5 26.Rdf1 Ne5

 ナカムラはかなり分かり易い攻撃の第1波はしのいだが、クイーンが端に追いやられた。カールセンは次のようにキング翼で巧妙に攻めた。

27.Nd5!

 狙いはお手本のような手筋で 28.Nxe6 Rxe6 29.Qh3 Rce8 30.Bxh6! gxh6 31.Rxf8+ Kxf8(31…Rxf8 なら 32.Qxe6+)32.Qxh6+ でd5のナイトが利いているので黒キングがe7から逃げられず詰みになる。だからこのナイトを取らなければならない。

27…Bxd5 28.exd5 Qxd5 29.Bxh6!!

 ナイトを取ると 29…Qxd4 30.Be3 で Rh8+、Qh2+ から Qh7# という詰みがある。

29…gxh6 30.g7! Be7

 30…Bxg7 なら 31.Nf5 で白の勝ち。

31.Rxh6 Nf7 32.Qg6! Nxh6 33.Qxh6 Bf6 34.Qh8+ Kf7 35.g8=Q+! Rxg8 36.Qxf6+ Ke8 37.Re1+ 1-0

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(この号続く)

2011年06月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(99)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図133(再掲)白の手番 

 この手が成立する一番の理由は白がまだキャッスリングしていないことによる。白が 12.Bxf6 Bxf6 13.gxh5 で局面を開放しようとしても 13…Qe7! という応手があって頓挫する。この手はh4-e1の斜筋の弱さにつけ込んだもので、黒は 14.hxg6 Bxh4+ 15.Kd1 fxg6 16.Qh6 g5 17.Nh3 Qg7 でキング翼で一種のせき止めを構築することができる。

 必要に迫られた 11…h5 という防御の手は積極的な面も持っていることを強調しておく。というのはgポーンに当たりになっていて、白が Ng1-h3-f2 によってgポーンを守るのは間に合わないからである(前に出てきた黒の6手目の解説にある2番目の手順では白が間に合う)。

12.O-O-O

 これは必要な手だが、黒にクイーン翼での明確な反撃の目標を与えることにもなる。

12…hxg4 13.Bxf6

 こう指さないとポーン損になるので取るより仕方がない。

13…Bxf6 14.fxg4 Qd8

 黒は白に g4-g5 と突かせようとしている。そうなれば白のクイーンがh6に来れなくなる。

15.Qe1?

 白は 15.g5 から Ng1-f3 または h4-h5 と指した方が良かった。

15…Bg7 16.Nh3 f5

 黒はキング翼で守ることができるようにするために陣形をくつろげるこの手が必要である。

17.exf5 gxf5 18.g5

 18.gxf5 は 18…Bxf5 で黒の受けが楽になる。

18…b5!(図134)

 図134 白の手番 

(この章続く)

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カテゴリ: 王印防御の完全理解

王印防御の完全理解(98)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

第6局
アグザモフ対クプレイチク
全ソ連選手権戦、1981年
アベルバッハ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2

 この融通性のある手はfポーンとキング翼ナイトの将来の役割を決めないでおく。単に他の主手順に移行するかもしれないけれども、ゼーミッシュ戦法に構想的によく似た別個の戦法に至ることもあり得る。

5…O-O 6.Bg5

 Nf6 を前もって釘付けにしておくこの手は最もよく指される手で、アベルバッハ戦法を特色づけている。白駒の配置は明らかにゼーミッシュ戦法での配置とはかなり異なっているけれども、それでも両戦法の根本的な近似性は 6.Be3 e5 7.d5 Nbd7 8.g4 Nc5 9.f3 h5 のような戦法では明らかである。

 本譜の手は両戦法の違いの一つを例示している。即ちここでは 6…e5? は 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bxf6 Bxf6 10.Nd5 で成立しない。

6…Nbd7

 一般に黒がこの手を指して …e7-e5 と突く時はクイーンを動かして釘付けをはずすつもりである。代わりにすぐにビショップに進退を聞いて 6…h6 7.Be3 e5 8.d5 と指すことができる。そのあと白の攻撃はeポーンを Qd1-c2 と f2-f3 突きのどちらで守るかによって、黒の標準的な …Nb8-d7-c5 の捌きのあと二通りに分かれる。例えば(1)8…Nbd7 9.h4 Nc5 10.Qc2 c6 11.h5 cxd5 12.cxd5 g5 13.f3(13.b4?! は 13…Ncxe4 14.Nxe4 Nxd5 15.Qd2 Be6 16.g4 a5! で黒が機動力に優って優勢)13…a5 14.g4 Bd7 黒が守勢に立たされ、白がキングをキング翼の安全な所に退避させ、黒のf5の地点の弱点と不良ビショップ、それにクイーン翼における自陣の広さの優位を生かすことになる。(2)8…Nbd7 9.Qd2 Nc5 10.f3 a5 11.h4(11.Bxh6? は 11…Nfxe4! 12.fxe4 Qh4+ で黒が優勢)11…h5 白は Ng1-h3-f2、g2-g4、Be3-g5、g4xh5 の手段で局面を開放しに行けるので典型的なゼーミッシュ型局面の有望版になっている。だから黒が 8…Nbd7 9.Qd2 h5 10.f3 Nh7 のような変化で …f7-f5 突きで白の作戦を邪魔することを期待し、キング翼ナイトが釘付けにされていないことの有利さを探し求めてきたのは驚くに当たらない。

 もちろん黒は 6…c5 突きでアベルバッハ戦法を迎え撃つこともできる。これは自然な 7.d5 突きのあと次の章で取り上げる中原の型になる。

7.Qd2

 この手は …h7-h6 突きを防ぎクイーン翼キャッスリングを準備している。

7…e5 8.d5

 これでアベルバッハ戦法の基本的な構想が明らかになった。白は g2-g4 突きから h2-h4-h5 突きでポーンの暴風を計画し、黒はg5のビショップのせいでゼーミッシュ中原に典型的なキング翼の防御手段を何も実行できない。黒がこの状況を変えるには白に f2-f3 と突かせ(h5の地点の支配を取り戻すため)、キング翼ナイトに対する釘付けをはずさせることが必須である。

8…Nc5

 これは f2-f3 突きを誘う眼目の手である。

9.f3

 形の悪い受けの 9.Bf3 はg4の地点を支配し続けられない。例えば 9…a5 10.O-O-O Bd7 11.h4 h5 がそうだし、9.b4 Ncxe4 10.Nxe4 Nxe4 11.Bxd8 Nxd2 12.Bxc7 Ne4 13.f3 Nf6 14.Bxd6 という乱戦の変化はまだ実戦に現われたことがない。

9…Bd7

 この手は b2-b4 突きの狙いを防いでいる。その意味ではもっと直接的な 9…a5 突きも同じである。

 黒はまだ 9…h6 突きによってキング翼ナイトの釘付けをはずすこともできた。なぜなら 10.Bxh6? Nfxe4! 11.fxe4 Qh4+ で駒を取り返すことができ優勢になるからである。

 白に f2-f3 と突かせることに成功したあと黒の最も緊急の課題はキング翼ナイトに対する釘付けをはずすことである。通常はクイーンをe8(本局で見られる)かa5に動かしてはずす。例えば 9…a5 なら 10.h4 c6 11.g4 a4 12.h5 Qa5 13.Nh3 cxd5 14.cxd5 Bd7 15.Nf2 でねじり合いの局面になる。しかしアベルバッハ戦法では白がキングを中央に置いたまま、相手がキング翼で防御のための反撃を実行するのを防ぐ小さな成功を積み重ねてきた。

10.h4

 10.b4 Na4 11.Nxa4 Bxa4 はナイト同士の交換と白のクイーン翼へのキャッスリングの阻止が黒のはっきりした利益となる。12.b5?! でビショップを捕獲しようとしても 12…a6! と応じられる。

10…Qe8

 これは主眼の釘付けはずしだが、b5の地点の支配と白がクイーン翼にキャッスリングすることにした場合のクイーン翼での反撃にも役立つ。

11.g4

 hポーンを犠牲にするのは成立しない。例えば 11.h5? Nxh5 12.g4 Ng3 13.Rh3 Nxe2 14.Ngxe2 f5 となれは黒がはっきり優勢である。

11…h5(図133)

 図133 白の手番 

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(125)

「Chess Life」2011年2月号(2/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権(続き)

シチリア防御ベリミロビッチ攻撃 [B89]
白 IMスティーブン・C・ジールク(FIDE2391、米国)
黒 IMシュテファン・マズール(FIDE2403、スロバキア)
世界少年少女チェス選手権戦オープン18歳以下 第8回戦
ポルト・カラス、2010年10月27日

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Bc4

 非常に難解な戦いになるソージン攻撃はフィッシャーの得意戦法だった。

6…e6

 ベンコーシステムの 6…Qb6!? も本筋の手である。私は恐ろしいベリミロビッチ攻撃を避けるためにそれを用いていた。

7.Be3 Be7 8.Qe2 a6

9.O-O

 9.O-O-O!? は上述のベリミロビッチ攻撃になる。それは最も激しい逆翼キャッスリングの局面の一つである。

9…O-O

 黒は 9…Na5!? で白の白枡ビショップを警戒しておいた方が賢明だっただろう。

10.Rad1 Qc7 11.a4!?

 この手でc4のビショップにa2の「退避地点」ができた。

11…Ne5?!

 この手はそもそも継続手がないので疑問だと思う。11…Nb4 が …d5 突きの狙いがあって堅実な手のようである。黒はc4のビショップに気をつけなければならない。

12.Bb3

12…Bd7?

 黒の予定は 12…Neg4 13.Bc1(13.f4 Nxe3 14.Qxe3)13…d5 ではなかったのだろうか。もしそうならやってみるべきだった。14.g3 dxe4 15.Nxe4 Nxe4 16.Qxe4 Nf6 となれば黒は問題ない。

13.f4 Nc6

 13…Neg4 なら 14.Bc1 で黒のg4のナイトが路頭に迷う。

14.f5!

 これでビショップの威力が増し、d5の地点も支配する。

14…e5 15.Nxc6 Bxc6?!

 典型的なソージンの局面になった。白はd5の地点を支配し、黒は積極的に動く手がない。

16.Bg5

16…Ne8

 16…h6 なら 17.Bxf6 Bxf6 18.Nd5 Bxd5 19.Rxd5 となって、この異色ビショップの中盤戦は白の方が断然良い。

17.Bc1 Qd8 18.Nd5 Bxd5 19.Bxd5 Rb8 20.Be3 Bg5 21.Ba7!

21…Ra8 22.Qf2 Nf6 23.Bb6 Qe7 24.Qf3

24…Rac8

 24…Nxd5 なら 25.Rxd5 で白がd6の出遅れポーンをもぎ取ることになる。それでもこれが黒にとって最も可能性があるようである。

25.Qb3 Nd7?!

 黒にとって一番可能性があったのは 25…Nxd5 26.Rxd5 Rc6 だった。

26.Bf2 Nc5 27.Qa3 Qd7 28.a5 Qb5 29.c4 Qd7 30.b4!

 このあとb7とa6のポーンが落ちる。

30…Qa4 31.Qc3 Qb3 32.Rd3 Qxc3 33.Rxc3 Nd7 34.Bxb7

 白のビショップがクイーン翼を清掃し、白のパスポーンが駆け抜ける。

34…Rc7 35.Bxa6 Bd2 36.Rb3 Rb8 37.Bb5 Nf6 38.Bb6 Rcc8 39.Ba6 Re8 40.Rfb1 Nxe4

 黒がポーンを取り返したが、あまりにもささやかで手遅れである。

41.Rd3 Bc3 42.Rb3 Ba1 43.Bb5 Rec8 44.Ra3 Bb2 45.Ra2 Bd4+ 46.Bxd4 Rxb5 47.Re3!

 スティーブンは簡明な勝利への道を見つけた。

47…Rxb4 48.Rxe4 Rbxc4 49.a6 exd4 50.a7 Ra8 51.Re8+!

51…Rxe8 52.a8=Q Rc1+ 53.Kf2 Rc2+ 54.Kg3 Rc3+ 55.Kh4 Rce3 56.Qb7 g6 57.Ra7 Rf8 58.fxg6 hxg6 59.Qd5 d3 60.Rd7 Re2 61.Rxd6 黒投了

******************************

(この号続く)

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王印防御の完全理解(97)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図132(再掲)黒の手番 

 難解な局面ほどスパスキーが最大限の防御の可能性を引き出せる。

33…Kf7?!

 この手はキングをdポーンの守りに向かわせるためだが、先に …Qf6 として白がキング翼ビショップの位置を改善するのを妨げるべきだった。

34.Bf1! Ke7 35.Be2 Be3 36.a3 Qf4 37.Rd3 Bd4 38.Bd2 Qg3 39.Bg5+ Kf7 40.Rhd1 Qf2

 またもや白キングに対する締め付けがきつくなった。

41.R1d2 Rb7?

 勝つ可能性を残すためには黒は 41…Qe1+! 42.Bd1 Bf2 43.Re2 Qf1 として …Bg3 からhポーンをからめ取ることをまた考えるべきだった。

42.Rxd4!! exd4 43.Bd1 Qf1

 43…Qg1?! でdポーンを死守しようとするのは単に 44.Ka2 で Bxa4 から e5 突きを狙われてトラブルを招く。

44.Rxd4 Rc7 45.Ka2 Rc4 46.Rxc4 Qxc4+ 47.Kb1 Qf1 ½-½

 引き分けに終わった。黒に勝つ手段はない。例えば 48.Kc2 Qe1 49.Kc1 Ke8 50.Kc2 Kd7 51.Kc1 Kc7 52.Kc2 Kb6 53.Bd8+ Kb5 54.Be7 Kc4 55.Bg5 Qf2+ 56.Kb1! Kd3 57.Bxa4 Qxf3 58.Bb3 Kxe4 59.Ka2 となれば白キングは難攻不落の要塞に納まって安泰である。

(この章続く)

2011年06月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(96)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図131(再掲)白の手番 

 正確さを期すると実際の手順は 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3 e5 6.Nge2 c6 7.d5 O-O 8.Bg5 h6 9.Be3 cxd5 10.cxd5 a6 11.Qd2 Nbd7 12.g4 h5 だった。

 本譜の手は白がキングを中央に置いたままキング翼攻撃を始めた時に黒が通常行なう防御策である。

12.g5

 他の手は次のとおりである。(1)12.h3 Nh7 13.O-O-O(13.gxh5 なら 13…Qh4+ がある)13…h4 14.Kb1 Bf6 次に …Bg5 を意図している。(2)12.Bg5 hxg4 13.fxg4 Nc5 そして 14.h3 なら 14…Ncxe4! 15.Nxe4 Nxe4 16.Bxd8 Nxd2 17.Be7 Re8 18.Bxd6 Nc4 となる。

12…Nh7 13.h4 f6

 黒はキング翼の駒を迅速に再び働かせなければならない。というのは白に Ne2-g3 と指す余裕を与えると、擬似捨て駒の Ng3xh5 が生じるためにfポーンを突けなくなるからである。

14.gxf6 Rxf6 15.Bg2

 白はfポーンが弱いために駒の展開に問題が生じている。

15…b5 16.Nd1

 このナイトはf2の地点を目指している。そこからはキング翼にも(Nf2-h3-g5)クイーン翼にも(Nf2-d3-b4-c6)行ける。

16…Nc5 17.Nf2 Rf7!

 黒は直前の2手で白ナイトの捌きを封じ、…Bg7-f6 でhポーンを取ることを狙っている。

18.Nd3 Nxd3+ 19.Qxd3 Bf6 20.Bf2 Nf8

 fポーンとhポーンの弱さが白駒の活動性と効果を制限し、このことで黒がもう一つのナイトを戦闘に投入する余裕を得ている。

21.O-O-O Nd7 22.Kb1 Nc5 23.Qe3?

 この手は局面の微妙なバランスを崩した。白は 23.Qd2 と指して、…Bf6-g7 から …Qd8-f8 の捌きに Bf2-e3 と応じる可能性を保持しておくべきだった。

23…Bg7! 24.Ng1

 ここで 24.Qd2? は 24…Nxe4 と取られる。白は本譜の手で黒の予定の捌きに Ng1-h3-g5 と迎え撃つつもりである。

24…Qf8 25.Ka1

 白は予定の 25.Nh3? が 25…Nxe4! 26.fxe4 Bxh3 27.Rxh3 Rxf2 28.Bf3 Qc8! でポーンを損することに気づいた。

25…a5 26.Nh3 Bxh3!

 白の予定をつぶした。

27.Rxh3 Rc7 28.Rhh1 a4

 …Nb3+ を狙っている。

29.Kb1 Bh6

 黒は局面の締め付けを強めている。

30.Qe1 b4 31.Qxb4!

 非常に苦しい局面でこれが最もしのぎの可能性がある。

31…Rb8?!

 黒は 31…a3! 32.b3 Rac8 と指していれば …Nd3 の狙いで猛攻することができただろう。本譜の手は強手のように見えるが白にクイーンの犠牲で混戦に持ち込まれた。

32.Bxc5! Rxb4 33.Bxb4(図132)

 図132 黒の手番 

(この章続く)

2011年06月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[64]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4(図98)

 図98(白番)

 この布局における白の主要な大望の一つは強力なポーン中原を構築して、その背後で駒を静かに集結して攻撃できるようにすることである。1.d4 のあと白は 2.e4 と突いて目標を一部達成することを狙っている。前章では黒がおうむ返し又は石垣作りの 1…d5 でこの狙いをかわすのを見た。ここでの 1…Nf6 も同じ目的を達成するが、ポーン突きの代わりに駒の展開を用いている。2.c4 e6 3.Nc3 のあと白はまたも強力な e4 突きを狙っている。そしてまたも黒はポーンによるせき止めの …d5 突きでなく …Bb4 による釘付けでこの狙いを防いでいる。

 白のe4の地点に対する指し方はニムゾインディアン防御における黒の戦略の主題の一つになっている。そして黒はしばしばクイーン翼ビショップをb7に展開することによりこの主題を補強し急所に対して圧力を加える。

 長い目で見れば黒は白がポーンをe4の地点に進めるのを防げないかもしれないが、代償として …Bxc3 と取ることにより相手に二重ポーンを作らせることができる。ニムゾインディアン防御の創始者でグランドマスターのアーロン・ニムゾビッチは1920年代後半と1930年代前半には世界選手権挑戦候補だったが、相手に二重ポーンを作らせた局面の扱いの偉大な専門家だった。

 以前に二重ポーンの相対的な長所と短所について説明した。ニムゾインディアン防御では二重ポーンがよく現れるので、この章の4節のうち3節は黒が白陣に二重ポーンを生じさせる状況を調べる。それらを研究することにより読者はどのような二重ポーンの形が白と黒のどちらに有利に働くのかを見極めることができるようになるだろう。最後の節では白が4手目で駒でクイーン翼ナイトを守って二重ポーンになるのを避ける戦型が出てくる。

 黒が自ら双ビショップを放棄しそれにより不均衡なポーンの形も生じさせる防御法はどれも引き分けに終わりにくい激しくて動的な局面になりがちである。従ってニムゾインディアン防御は黒番で 1.d4 に対して勝ちたい大局観派の選手に受けている。

(この章続く)

2011年06月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(95)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例(続き)

 図130(再掲)黒の手番 

 白の指した手は二つの重要な戦略上の決断をしたことを示唆している。キング翼ビショップより先にキング翼ナイトを展開したことで白はキング翼でなくクイーン翼にキャッスリングする準備を明らかにした。もっともクイーンより先にキング翼ナイトを展開したことにより白はキャッスリングを急がず一時的に自分のキングを中央におきながら攻撃の用意をすることも示している。

 白は 8.Bd3 と指すことによりキング翼キャッスリングをすることもできた。その意図はc列を利用してクイーン翼で侵攻することである。例えば(1)8…cxd5 9.cxd5 Nh5 10.Nge2 f5 11.exf5 gxf5 12.O-O Nd7 13.Qd2 Nc5 14.Bc2 a5 15.a3 Bd7 16.b4 これは混戦である。(2)8…b5(9.cxb5 を誘って 9…cxd5 の応手を効果的にする。しかしこのギャンビットは 8.Nge2 や 8.Qd2 の時にはd5の地点にクイーンの利きがあるので成立しないことに注意が必要である)9.Nge2 bxc4 10.Bxc4 c5 このあと白の最も堅実な手は 11.O-O で、激戦が続く。

 最後に 8.Qd2 は g2-g4 突きの前にクイーン翼にキャッスリングすることを示唆しているが、キング翼キャッスリングの可能性もまだ残っている。次の例は白陣の融通性を強調してきた理由を明らかにしている。8.Qd2 cxd5 9.cxd5 Na6 ここから(1)10.O-O-O Bd7 11.Kb1 Nc5 12.g4 Qb8 13.Nge2 b5(2)10.Bb5 Nh5 11.Nge2 f5 12.exf5 gxf5 13.O-O

 当然のことながら上記のことがらはどれも白が 8.Bd3 または 8.Qd2 と指したときあれやこれやの公式に厳格に従うことを意味してはいない。そのような絶対的な原則は実戦には存在しない。我々の見るところそれらは論理的な基礎にはなっても広範な一般的原則にしかすぎない。

8…cxd5 9.cxd5 Nbd7

 もちろんここでは他にもいくつか代わりの手がある。その中のいくつかは(例えば 9…Ne8 や 9…Nh5)具体的に単刀直入の …f7-f5 突きを準備するもので、本局で見られる反撃とはまったく異なった反撃手段である。

10.Qd2

 ここで白が Ne2-c1 からキング翼ビショップを展開してキング翼へのキャッスリングを用意するのはまれではあるが不可能なことではない。

10…a6

 黒は …b7-b5 突きを予定することにより、白キングを中央にとどめながら白になんとかキング翼での活動をやらせようとしている。実際ここで白が 11.O-O-O?! とキャッスリングすると 11…b5 がやってきて …b5-b4 突きに対処する時間的余裕がない。例えば 12.Kb1(12.g4?! は 12…Nb6 13.Ng3 b4 で黒が優勢)12…Nb6 13.Nc1(13.Rc1 なら 13…Nc4)13…Bd7 14.Nb3 b4 15.Bxb6 Qxb6 16.Ne2 a5 で黒が優勢である。

11.g4 h5(図131)

 図131 白の手番 

(この章続く)

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王印防御の完全理解(94)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.3 実戦例

第5局
スパスキー対A・ロドリゲス
トルカ、1982年
ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3

 ゼーミッシュ戦法の当初の構想はクイーン翼を迅速に展開すること(Bc1-e3、Qd1-d2、O-O-O)と、それと同時にキング翼でポーンの暴風を準備すること(g2-g4、h2-h4-h5)だった。同様の構想は 5.h3、5.Nge2 およびアベルバッハ戦法(この戦法については第6局を参照)の変化でも見られる。

 これらのどの変化でも白の主要な構想の一つは、相手の …e7-e5 突きに呼応して d4-d5 突きで中原を閉鎖したあとキング翼での攻撃の可能性を残すことである。例えば(1)5.h3 Nbd7 6.Be3 e5 7.d5 Nc5 8.Qc2 a5 9.Nge2 Bd7 10.O-O-O a4 11.g4(2)5.Nge2 O-O 6.Ng3 e5 7.d5 c6 8.Be2 Na6 9.h4 Nc5 10.h5 cxd5 11.cxd5 a5 12.Bg5 Bd7 13.Qd2

 白はクイーン翼にキャッスリングした時はキング翼攻撃の戦略にだけ専心している。そして特に黒がc列を素通しにしている時はしばしば自陣の融通性を利用してキング翼にキャッスリングする。

5…O-O

 黒は最初に例えば 5…c6 と突くかすぐに 5…e5 と突っ掛けることによりキャッスリングを遅らせることもできる。5…e5 は 6.dxe5 dxe5 7.Qxd8+ Kxd8 となっても白に何も有利さをもたらさないことを利用している。このように横道にそれても通常は主手順に戻るだけである。

6.Be3

 これが通常の手順である。白は 6.Nge2 や 6.Bg5 のように駒の配置だけでなく手順も少し変えることもできる。

6…e5

 これが主手順で歴史的にも最も重要である。もっとも今日では 6…Nc6 の方がよく指されるようになった(この手については第7章を参照)。

 本譜の手をさしおいて 6…Nbd7 と指すと白にやや変則的な 7.Nh3 を指される可能性がある。

7.d5

 白は 7.Nge2 でもっと融通のきく中原戦略を選ぶこともできる。もっともキング翼の展開が遅れるのでキャッスリングの柔軟性は犠牲になる。白は 7.Bd3 ですべての選択肢を明らかにしないでおくことはできない。なぜなら白が中原の形を決めない時には典型的な戦術の反撃の 7…Ng4! で非常に困った事態になるからである。

7…c6

 この手はc列の開通を予定している。それはクイーン翼での反撃を追い求める黒の最も直接的な方法であるが、白にキャッスリングの意図に関する融通性の維持を助長させることにもなる。だから本譜の手は、素早い …f7-f5 を目指すことによる黒の攻撃を待ち受ける意図でc列を閉鎖しておく白の戦略に直接的に対抗する黒の重要な戦略上の選択となる。黒の自由になる色々な可能性の中で …f7-f5 突きを準備する最も普通で直接的な方法は 7…Nh5 と指すことである。そして 8.Qd2 f5 のあと色々な指し方が可能である。(1)9.O-O-O f4 10.Bf2 Bf6 黒はキング翼でうまくせき止めることができたけれでも、白は戦略の重点をクイーン翼に移すことができ、黒の不良ビショップのせいで収局はいつも白の有利になる可能性がある。(2)9.O-O-O Nd7 10.Bd3 Ndf6 11.Nge2 fxe4 12.Nxe4 Nxe4 13.Bxe4 Bf5 14.Nc3 Nf6 15.Bg5 Bxe4 16.Bxf6 Bxf6 17.Nxe4 白はポーンでe4の地点を取り返させられる事態を避けた。(3)9.exf5 gxf5 10.O-O-O Nd7 11.Bd3 Nc5 12.Bc2 Bd7 13.Nge2 Qe8 14.h3 白は 14…f4 を少しも心配する必要がない。なぜなら 15.Bxc5 dxc5 16.Ne4 となって白の申し分のない局面になるからである。

8.Nge2(図130)

 図130 黒の手番 

(この章続く)

2011年06月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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王印防御の完全理解(93)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.2 戦術の狙い所(続き)

擬似捨て駒の Ng3xh5

 白の立場から見ると局面の早い段階では頻出する戦術の主題はほとんどない。しかしキング翼の典型的なせき止めの態勢で指摘するに値する着想が一つある(図129)。

 図129 

 黒が眼目の …f6? 突きを指すと白は擬似捨て駒の Nxh5! で局面を開放することができる。…gxh5 には g6 突きで戦力を回復し、白の優勢になる。

(この章続く)

2011年06月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(219)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(4/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

減速と加速

 第4回戦でナカムラは16歳のオランダのスターのアニシュ・ギリ(前日にカールセンに勝っていた)と対戦して苦労して引き分けに持ち込まなければならなかった。次の回でも元世界チャンピオンのルスラン・ポノマリョフ相手に急いで避難港に駆け込まなければならなかった。これらの「減速」のあと着実な指し回しのアーナンドに追い抜かれた。しかしオランダのエルウィン・ラーミとヤン・スメーツに連勝して「黄色いトリコット」を取り戻すことができた。とりわけ収局が見事だった。

ニムゾインディアン防御 E32
E・ラーミ – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第6回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2 O-O 5.a3 Bxc3+ 6.Qxc3 b5 7.cxb5 c6 8.Bg5 cxb5 9.e3 Bb7 10.Nf3 h6 11.Bh4 a6 12.Bd3 d6 13.O-O Nbd7 14.Rfc1 Qb6 15.Qc7 Rfc8 16.Qxb6 Nxb6 17.Bg3 Rxc1+ 18.Rxc1 Rc8 19.Rxc8+ Nxc8 20.h3 Ne4 21.Bh2 Kf8 22.Ne1 Nd2 23.f3 f5 24.Nc2 Ke7 25.Kf2 Nb6 26.Ke2 Nb3 27.Nb4 Na5 28.Bc2 Nac4 29.Nd3 a5 30.Bg3 Nd5 31.Bf2 g5 32.g4

 収局の初めあたりでナカムラは相手の双ビショップに敬意を表して引き分けを提案した。白は双ビショップを頼りに引き分けの申し出を拒否した。しかしそのあと白は何も進展が図れず、その間にナカムラはいつのまにかポーンを前進させて図の局面になった。

32…a4!

 これで主導権はもうナカムラのものになった。主要な狙いは 33…b4! 34.Bxa4(34.axb4 なら 34…Nxb2! 35.Nxb2 a3)34…Nxb2! である。ラーミの応手はとりあえず正しかった。

33.e4! fxe4 34.fxe4 Ndb6

 そしてここで 35.d5! exd5 36.e5! dxe5 37.Nxe5 Nxe5 38.Bxb6

で双ビショップをもっとよく働かせればポーン損でも対抗できていたはずだった。しかしオランダの選手はそれが見落とし

35.e5?

と指して破滅した。

35…Be4 36.exd6+ Kxd6 37.Bg3+ Ke7

 これでb2のポーンが落ち、それと共に勝負がつく。

38.Kd1 Bxd3 39.Bxd3 Nxb2+ 40.Ke2 Nd5 41.Be4 Nc3+ 42.Kf3 b4! 43.Be1 Nbd1! 0-1

 きれいな最後だった。黒のクイーン翼のポーンのどちらかがa列で凱旋する。

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(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス2

王印防御の完全理解(92)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.2 戦術の狙い所(続き)

黒のキング翼ナイトの戦術による釘付けはずし

 黒はキング翼ナイトへの釘付けをはずすために前項と非常に似た着想を用いることができる(図128)。

 図128 

 黒は …h6 と突いて相手のビショップを下がらせることができる。白が Bxh6? と取るのは …Nxe4!、Nxe4 Qh4+ で黒の有利な単純化になる。

(この章続く)

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王印防御の完全理解(91)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.2 戦術の狙い所(続き)

不良ビショップの交換

 前章でのようにこの型の中原でも不良ビショップは黒にとって陣形上の問題である。白が f2-f3 と突いているとき、不良ビショップを交換するか活動させる戦術上の機会が黒に訪れることがある(図127)。

 図127 

 ここでは …Bh6 と指すことができる。Bxh6 には …Qh4+ で駒を取り返すことができる。もちろん白はビショップをf2に引いて交換を拒否することができる。しかしこの場合黒が不良ビショップの活性化に成功していることは明らかである。

(この章続く)

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世界のチェス雑誌から(124)

「Chess Life」2011年2月号(1/11)

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2010年世界少年少女チェス選手権

ジールクが米国チームの牽引車

11月のデンカー記念大会勝利の記憶も覚めやらぬうちに、スティーブン・ジールクがギリシャでの2010年世界少年少女チェス選手権で金メダル(そして初のGM基準)を獲得し、米国チームの大活躍を牽引した

記 GMジョン・フェドロウィッツ

 世界少年少女チェス選手権戦は10月19日から31日までギリシャのハルキディキで開催された。コーチに選ばれたのはこれで7度目で、大変楽しみであり身の引き締まる思いである。これまでコーチした選手にはGMジョエル・ベンジャミン、GMガータ・カームスキー、GMウォルター・ブラウン、それにGMニック・ド・ファーミアンらがいる。経験は実戦の後に来るものでしかない。何人ものレイティング最上位の選手が参加できず、メダルを期待できる選手は不足していた。今年の一団は経験不足だったが期待は大きかった。

 代表団は米国の歴史の中で最大だった。選手が40名、コーチが6名、それに多数の付き添いの家族で、人員はゆうに100名を超えていた。この信じられないほどの(もちろんチェス以外の)参加人数の理由の一つは試合会場のせいかもしれない。アテネからテッサロニキまで飛行機で25分、それからハルキディキまでバスで1時間半かかった。私は幸運にもモスクワからのアエロフロート便と同時刻にテッサロニキに着いたおかげですぐにホテルへ向かえた。我々の一行の他の面々はそれほど幸運でなく、3時間近く待たなければならなかった。地中海リゾートの風光明媚なポルト・カラスにはビーチ、プール、あらゆるスポーツ、おいしい料理があって来るものみんなを楽しませてくれる。こんなリラックスできる環境でチェスを指すのはこたえられない。

 筆者以外のコーチはFMアルメン・アムバルツォミアン、FIDEシニアトレーナーのマイケル・コダルコフスキー、FMアビブ・フリードマン、GMサム・パラートニク、それにIMアンドラニク・マチコジャンだった。我々はレイティングと親交の度合いによって選手を分割し、バランスが保たれるようにした。6人か7人の選手ごとにコーチが1人つき、準備の時間は各選手あたり20分から30分割り当てられた。レイティング上位の選手たちは長めの準備時間の恩恵を受けた。相手の試合の棋譜が見られれば、定跡や棋風を予測することが容易だった。そうでなければ定跡を復習したり戦略を練ったり他の実戦の場面を補強したりした。子供たちの多くは初めての参加だったので、単に心を落ち着かせることが非常に重要だった。

 コーチとしての我々の最初の務めは対局場の近くのどこかに本部を構えることだった。これは対局後の分析にとって非常に大切である。そこはチェスに加えてチームUSAに暇をつぶしたり話をしたり仲間意識を作ったり情報を交換したりする所を与えてくれる。試合を分析しているのを見ることは本当の勉強の道具になり得る。試合のどの段階でも多くの議論がある。(私の気づいた中で可能な限りいつでも静かに見ていた選手はジョシュア・コラスだった。)「団長」はいつものようにコダルコフスキーだった。彼は常に父兄や選手からのどんな心配事もよく面倒をみ、技術的な打ち合わせに出席し、みんなに情報を知らせ、誰の旅行もつつがないように図ってくれる。

 FIDEの「ゼロ容認」の規則が撤回されたのを聞いた時はほっとした。その規則とは選手が対局開始の5分前に着席していなければならないというものだった。違反した選手は不戦敗になる(過去にワールドカップでこの規則に違反したいく人かのグランドマスターがその運命にあった)。もちろんまったくばかげた話である。私はこのような大会では持ち時間が非常に長いと思った。最初の40手につき100分で、そのあと30分追加され、1手目から毎手30秒加算される。1日2局の日には特にへとへとになることがある。どんな年齢の誰でも1日で10時間のチェスはこなせない。

 この大会は世界少年少女であげた我々の最高の成績の一つだった。ほとんど誰もスティーブン・ジールクに優勝の可能性があると考えていなかった。オープン18歳以下はいつも最強の部門である。5人のグランドマスターと13人の国際マスターのいるグループでFIDEレイティング2391は29番目にすぎず、スティーブンが金メダルはおろか入賞することさえ奇跡のように思われた。しかしスティーブンはあちこちで少し幸運に恵まれて信じられないようなチェスを指した。スティーブンの4-0の出だしはまさに特別だったと言えるだろう。5回戦から7回戦は競争相手のアルメニアのサムベル・テル=サハクヤン戦を含め3連続引き分けだった。そのあと4連勝で大会を締めくくったことは特筆に値する。


最前列左から レイヤン・タギザデー、エイワンダー・リャン、アラビンド・クマール、プラビーン・バラクリシュナン、アニー・ワン
2列目左から ビニェシュ・パンチャナタム、ジョナサン・チャン、カメロン・ホウィーラー、トミー・ヒー、ジェフリー・ション
3列目左から ジョシュ・コラス、デイチー・リン、カピル・チャンドラン、アラン・ベイリン、ケサブ・ビシュワナダー
4列目左から ジャスタス・ウィリアムズ、ケイデン・トロフ、アトゥリャ・シェティー、アンナ・マトリン
最後列左から FMアルメン・アムバルツォミアン、スティーブン・ジールク、ジェフリー・ハスケル、GMジョン・フェドロウィッツ


最前列左から ジョアンナ・リュー、エミリー・ニュイェン、ラメシュ・カーブヤ
2列目左から サムリサ・パラコル、デビナ・デバガラン、ニコール・ズロチェフスキー、レーバ・シン
3列目左から マーガレット・フワ、アプルバ・ビルクド、クリストファー・ウー、アリス・ドン、マリヤ・オレシュコ、シモーヌ・リャオ
4列目左から ジェシカ・リーガム、セアラ・チャン、クローディア・ムヌズ、デイビド・エイデルバーグ
最後列左から FIDEシニアトレーナーのマイケル・コダルコフスキー、FMアビブ・フリードマン、GMセミオン・パラートニク、IMアンドラニク・マチコジャン

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(この号続く)

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王印防御の完全理解(90)

第3章 ゼーミッシュ中原(続き)

3.2 戦術の狙い所(続き)

黒の真のナイト捨て

 c列が素通しのとき、即ちdポーンがc4のポーンによって守られていないとき、目的は非常に異なるけれども前例と酷似した狙い筋が現れる。(図126)。

 図126 

 b4?! 突きに対して黒は …Ncxe4、Nxe4 Nxd5 というナイトの犠牲によって白の中原を破壊することができ、捨て駒の代わりに非常に有望な代償が得られる。

(この章続く)

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