ヒカルのチェスの記事一覧

「ヒカルのチェス」(157)

「64」2009年8月号(2/2)

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米国選手権戦(続き)

GMアレクサンドル・オニシュク

白 H.ナカムラ
黒 B.アコビアン
フランス防御 [C11]

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.e5 Nfd7 5.f4 c5 6.Nf3 Nc6 7.Be3 a6 8.Qd2 b5 9.h4

 このポーン突きは一流の選手たちも早くから用いたがそれでもなかなか見られる手ではない。

9…cxd4 10.Nxd4 Nxd4 11.Bxd4 Bc5 12.h5 Qb6 13.O-O-O

13…O-O

 実戦の進行から考えれば黒は 13…Bxd4 14.Qxd4 Qxd4 15.Rxd4 と指した方が良かった。ここで 15…f6 16.exf6 Nxf6

も考えられる。遠くまで進んだh5のポーンは強い存在になるかもしれないし弱点になるかもしれない。

15.Bxc5 Nxc5 16.f5!

15…Qc7

 黒は他にどうしようもなかった。白には次のように黒キングの詰みを狙う二通りの攻撃策がある。15…b4 16.Na4 Nxa4 17.f6 または 15…h6 16.f6 b4 17.Na4 Nxa4 18.Rh4!

16.Re1

 この落ち着いた手はすべての狙いを保留している。

16…exf5 17.h6 g6 18.Nxd5 Qd8 19.Nf6+ Kh8 20.Qb4 Ne6 21.Rh3

 このルークの転進はみごとである。素晴らしいナイトと黒陣の多くの弱点のおかげで形勢は白がはっきり優勢である。

21…Bb7 22.Rd1 Qc7 23.Rd6

23…Be4

 客観的にはこの手は悪手である。しかしアコビアンはf6のナイトが単純に我慢できなくなった。23…Qc5 が最も論理にかなった手だがそのあと黒は次のようにあまり望ましくない収局になる。25.Qxc5 Nxc5 26.Rc3 Ne4(25…Rfc8 なら 26.g3)27.Rc7 Nxd6 28.exd6

24.Nxe4 fxe4 25.Qxe4 Rad8 26.Rhd3 Qe7 27.Qe3

 白は駒を組み換えた。白はポーン得で、駒の働きも良く、防御も万全である。

27…Kg8 28.Rxa6 Rxd3 29.Bxd3 Qb7 30.Rd6 Qxg2 31.Bxb5 g5 32.Rd1 Qh2 33.a4 Qxh6

34.a5 Qh2 35.Bd7 Nf4 36.b4 Kg7 37.a6 Qg2 38.b5 Rd8 39.Kb2 Qa8 40.Bc6 黒投了

 ナカムラに特有な自由奔放な指し回しの力強い試合だった。

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(この号終わり)

2010年03月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(158)

「CHESS」2009年12月号(1/4)

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 表紙について

 12月8-15日オリンピアで開催されるロンドン・チェスクラシックの用意がすべて整った。

 選手の似顔絵は(左から右へ、上から下へ)ニー・フワ、ウラジミル・クラムニク、デイビド・ハウエル、マグヌス・カールセン、ルーク・マクシェーン、ナイジェル・ショート、ミッキー・アダムズそれにヒカル・ナカムラである。彼らの大部分は最近の本誌で取り上げてきた。

 だから本誌の読者は何が期待できるか分かるはずである。戦術もあれば戦略もある。

 そして特別ボーナスとしてあの伝説のビクトル・コルチノイが名誉ゲストとして出席する。

大人10ポンド
16歳未満の小人は無料

ロンドン・チェスクラシック
オリンピア 2009年12月8-15日

 ロンドンで25年ぶりの最強チェス大会

8選手による総当たり

マグヌス・カールセン世界第3位・ウラジミル・クラムニク元世界チャンピオン・ヒカル・ナカムラ「H爆弾」の米国チャンピオン・ニー・フワ中国

ナイジェル・ショート英国第1位・マイケル・アダムズ英国第2位・デイビド・ハウエル英国第3位・ルーク・マクシェーン英国第4位

 世界一流の4選手が英国の4強グランドマスターと対戦

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古豪対新鋭

ジェイコブ・アーガード

古豪対新鋭 2009年8月20-31日、アムステルダム

    ヤン・スメーツ ファビアノ・カルアナ ダニエル・ステルワヘン ホウ・イーファン ヒカル・ナカムラ 古豪組計
1 ペテル・ハイネ・ニールセン ½ 1 ½ ½ 1 ½ ½ 1 ½ ½
2 ピョートル・スビドレル ½ ½ ½ 0 ½ ½ 1 ½ 1 1 6
3 リュボミル・リュボエビッチ 0 ½ ½ ½ 1 0 1 ½ ½ 1
4 アレクサンドル・ベリヤフスキー 0 0 ½ 1 1 ½ 0 1 0 1 5
5 ルーク・ファン・ベリ ½ ½ ½ ½ ½ 0 ½ ½ ½ ½
  新鋭組計 6 5  

最終結果 古豪 27½ - 新鋭 22½

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(この号続く)

2010年03月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(159)

「CHESS」2009年12月号(2/4)

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古豪対新鋭(続き)

ジェイコブ・アーガード

白 L.リュボエビッチ(2553)
黒 H.ナカムラ(2710)

第1回戦

1.d4 f5 2.g3 Nf6 3.Bg2 g6 4.c4 Bg7 5.Nc3 O-O

6.Rb1 Nc6 7.d5 Ne5 8.b3 d6 9.Nh3 Nh5

10.Qd2 Bd7 11.Bb2 c6 12.dxc6 bxc6 13.c5!? dxc5

14.Na4

 白は 14.Rd1! の方が少し良かったかもしれない。

14…c4 15.Nc5 Bc8 16.f4 Qxd2+ 17.Kxd2 Rd8+ 18.Kc1 Ng4 19.Bxc6 Rb8

20.bxc4

 20.Bxg7 Nxg7 21.bxc4 なら黒は 21…Rb6! で反撃に期待がもてる。

20…Rb6 21.Bb5 Bh6!?

 21…e5 で互角の形勢である。

22.Bc3 e5

23.Ba5

 白は 23.e3! と指した方が良かっただろう。

23…exf4 24.gxf4 Nxf4 25.Nxf4 Bxf4+ 26.Kb2 Re8 27.Bxb6 Rxe2+

28.Ka3?!

 ここは白キングにとってまずい位置だった。28.Kb3! の方が良さそうで以下は 28…axb6 29.Rbe1 Rd2 30.Re8+ Kf7 31.Rxc8 bxc5 32.Re1

でいい勝負である。しかし実戦は賭けるならほとんどが引き分けに乗るだろう。

28…axb6 29.Rbe1

 白は非常に直接的な手を選んだ。ここでは 29.Nd7!? もあった。

29…Rxe1 30.Rxe1 Ne3!

 明らかに白はこの手を見逃していてここからポーン損の収局に入らなければならない。

31.Nd3 Nc2+ 32.Kb3 Nxe1 33.Nxf4 Bb7

 収局の指し方の指針となる2大原則は次のとおりである。

 1)常に自分の最強の駒を働かせよ。この局面ではそれはキングである。そして

 2)受けに回っている時はポーンを交換せよ。勝とうとしている時は駒を交換せよ。

 以上の指針は過度に単純化してあり、収局のすべての領域に正確に当てはまらないのは確かであるが、それでも役に立つ一般化である。実際チェスの原則に価値を見出さない選手たちが認めたいとする場合よりもはるかに多くの場合において役に立つ。(もっとも原則の価値は原則に盲目的に従うべきであるということではないということは付け加えておかなければならない。明らかにこれはばかげている。むしろ原則は頭の片隅で小さなブザーとして用いることができる。これからやろうとしていることが何であれ認知された知恵に背くならば再考するようにという警告としてである。それに原則は具体的な戦略の方向性にも用いることができる。)

34.Nd5??

 これはひどい手で、リュボエビッチはずっと非常に創造性と想像力に富んだ選手だったがチェスのより古典的な原則は完全に理解したことがないことを示している。この手は黒に一組の駒を交換させるだけでなく、クイーン翼で反撃するのに用いることのできる貴重な手数も失う。この反撃は例えば一組のポーンを交換し、クイーン翼で2個のパスポーンを作り出すために1個のパスポーンを作ることにより、またはb6のポーンを攻撃することにより達成することができる。34.Kb4!? で Bd7 から Kb5 を狙うのは面白い考えである。しかし私は 34.c5! bxc5 35.Kc4

が最も自然な手順で白が反撃できると思う。駒を少し動かして次のあまり無理のない手順で白が引き分けに持ち込めることが分かった。35…Nf3 36.a4 Nxh2 37.Ne6!? Ng4 38.Nxc5 Bc8 39.a5 h5 40.Kd5 h4 41.Kd6 h3

42.Bc6 Nf2 43.Kc7 Ba6!? 44.Nxa6 Ne4 45.Nb4 h2 46.a6 h1=Q 47.a7

驚いたことに黒はこの局面から勝つことができない。

34…Bxd5 35.cxd5

 白は駒交換の見返りにパスポーンを1個得た。しかしそれは黒キングに近くて自分の指し手を正当化するほどの価値はない。

35…Kf7 36.d6 Nf3 37.Bc4+ Ke8 38.Bb5+

38…Kf7?

 これは時間に追われて安直に指した悪手である。黒は 38…Kd8! でかなり楽に勝っていた。黒がパスポーン3個を得る見返りに白には反撃がない。一例は 39.Kc4 Nxh2 40.Kd5 f4 41.Ke4 f3 42.Ke3 h5 43.Bd3 g5 44.Kf2 h4 45.Kg1 Ng4 46.Be4 Ne5

で黒の勝ちである。

39.Bc4+ Kf6 40.Bd5!

40…Ne5

 40…Nxh2?? はもう状況が違う。白は次の手順で勝利まっしぐらである。41.Kc4 f4 42.Kb5 f3 43.Kxb6 f2 44.Bc4

これで白ポーンがクイーンに昇格する。黒には他の手順もあるがどれもうまくいかない。

41.Kb4 Ne7

42.Bg8!

 白の受けは非常に正確である。42.Kb5? は 42…Ke5! ですぐに負けになる。なぜなら 43.Bg8 Kxd6 44.Bxh7 の時黒に 44…Ne5!

という手があるからである。要点は 45.Kxb6 f4 でこのfポーンがクイーンに昇格することにある。

42…f4 43.Kb5?

 これは悪手である。fポーンが強力すぎる。43.Kc3! の方が良かった。そうすればこのキングがセンターの近くに来て黒の有利さは勝つほどではなかったかもしれない。

43…f3 44.Bd5 f2 45.Bg2 Ke6 46.Kc6 Ne5+ 47.Kc7 g5

48.a4

 48.d7 Nxd7 49.Bh3+ Ke7 は浪費である。

48…h5 49.h3

49…g4?

 自分が優勢で相手に反撃策がない局面における中核となる戦略への助言は「急ぐな」である。その意味するところは決戦の前に自分の駒を最適な地点に配置せよということである。相手が何もすることができないならばこれをじっくり行なうことができる。この局面では白がほとんどすることがないので、キングとナイトを好所に置く前にポーンを動かし始めるのはかなり軽率である。49…h4? とすぐに突くのはうまくいかない。50.Bf1! Nf7 のあと白は 51.Kxb6 Kxd6 52.a5 で十分対抗できる。黒の駒は戦う準備ができていない。以上の理由から黒の勝つ手順は次のとおりである。49…Nd7!! 50.Kc6 白は他に適当な手がない。50…Nf6 ここで白の手は一つしかない。50.Kc7 は 50…Ne8+ でたちまち終わってしまう。51.Bf1 Ke5!

黒は陣容の改善を続ける。代わりに 51…g4 はまだ引き分けに終わる。51…h4 は勝てるが不必要に長く複雑な手順を要する。

 a)52.Kxb6 も考えておかなければならない。黒は次のように単純なやり方で勝負を決める。52…Kxd6 53.a5 Nd5+ 54.Kb7(54.Kb5 Ne3)54…Nc7 55.Kb6(55.a6 は 55…Nxa6 56.Kxa6 Kc5 で白キングが遮断されているので黒が自動的に勝つ。)55…g4

突かなければならないのはhポーンでなくこのポーンである。56.hxg4 hxg4 57.Kb7 g3 58.Kb6 Nd5+ 59.Kb7 Ne3 60.a6 g2! 61.Bxg2 Nxg2 62.a7 f1=Q 63.a8=Q Qb5+ 64.Ka7 Kc7

白キングは次の手で詰まされる。

 b)52.Bg2 h4!! 黒は決戦の用意を整えた。53.Bf1 g4 54.hxg4 Kf4

あとは …Kxg4 から …h3 で黒の勝ちになる。

50.hxg4 hxg4 51.Bf1

51…Nf7

 もはやどうやっても勝ちがない。51…Kd5 は 52.Bg2+ Kc5 53.d7 Nf7 54.d8=Q Nxd8 55.Kxd8

となって白はどちら側へ駆けつけなければならなくても丁度間に合って引き分けになる。また 51…g3 は 52.Bg2 Nf7 53.d7 Ke7 54.Bf1 で黒は進展を図ることができない。例えば 54…Ke6 55.Bg2 Ke5!? 56.Kxb6 Kd6 57.Bh3

で白は十分反撃の余地がある。

52.d7 Ke7 53.Bg2 g3 54.Bf1 Nd8 55.Bh3 Ne6+ 56.Bxe6 f1=Q 57.d8=Q+ Kxe6 58.Qd6+ Kf7 59.Qxg3 Qc4+ 60.Kxb6 Qxa4 1/2-1/2

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(この号続く)

2010年03月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(160)

「CHESS」2009年12月号(3/4)

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古豪対新鋭(続き)

ジェイコブ・アーガード


ヒカル・ナカムラは中盤と終盤で勝ちを決める手を逃がした

白 H.ナカムラ(2710)
黒 L・ファン・ベリー(2655)

第2回戦

 ルーク収局に関する主要な原則は

 1)ルークを活動的にすること、そして
 2)ルークはパスポーンの後方が最良の位置で前方が最悪の位置であることを覚えておくことである。しかし「相手に危険なパスポーンを作らせるな」ということも覚えることがもっと基本的な原則かもしれない。

31…Rxb5?

 ファン・ベリーは教養のある選手で、マルク・ドボレツキーの門下生で収局の原則にも通じている。この局面で彼はルーク収局の主要な2大原則に忠実に指したがそのために相手に強力なパスポーンを作らせた。正しい方針はキングを活用しポーンの交換に努めることだった。31…Kg6 32.Rab3 Ra6 のあと私なら白陣の方が少し良いと評価するだろう。しかし実戦でそれを証明するのは簡単ではない。ちょっと考えた手順は次のように黒がちょうど良い時に反撃に転ずる。33.Rc3 Rd6 34.Rcc5 Rd4! 35.b3 Rad6

これでルークの働きが増す。そして 36.Rc3 R6d5 37.Rxd5 Rxd5 38.Rd3 Rc5 39.Ke4 Kg5

のあと黒は引き分けに持ち込める。

32.axb5 Rc4 33.Rxa5 Rb4

 黒はポーンを取り返せる。しかし大切なのはポーンの質である。

34.Kd3!

 白はほとんど役に立たないキング翼を見捨てた。

34…Rxb2 35.Kc3

 白は黒のb列の支配にいどんでいる。

35…Rxf2!

 可能性があるならこの危険そうな手しかない。黒はb列に居座ることもできたが 35…Rb1 36.Kc4 となって Kc5、b6 そして Rb5 を狙われこの間黒に反撃策がない。

36.b6

 白は喜んでbポーンを突いた。

36…Rf1 37.Rb5

 ここはルークの理想的な位置である。31手目から一本道でこの局面になった。そして黒が2番目の原則に忠実だったのは短期間で、長期的には遵守することができなかったことが分かる。

37…Rc1+

 ここがこの収局の急所である。白は多くの点で優勢である。しかし勝ちに持っていけることをまだ証明しなければならない。ナカムラはこの問題を正しく解決することができなかった。

38.Kb4?

 この手はeポーンによる反撃に対処できない。ナカムラは変化を全部読んだのに引き分けの収局に向かっているということに気づいていなかったのではないかと思う。38.Kd2? は指したい手だがやはり勝てない。黒は 38…Rc8 39.b7 Rb8 というようにルークで受けなければならない。しかし白キングははるかに遠い。代表的な手順は次のとおりである。40.Kd3 h5 41.Ke4 hxg4 42.hxg4 Kg6 43.Kd5 Kg5 44.Rb4 f5 45.gxf5 Kxf5 46.Kc6 e4

これで黒はちょうど引き分けに間に合う。勝つための手は絶妙な 38.Kd3!! だった。38…Rd1+ のあと白には勝つ手段がいくつかある。その中でも 39.Kc4!? は鮮やかな手である。39…e4 40.b7 e3 41.b8=Q e2

となった時白キングはb4よりもc4の方が良い位置である。つまり白は 42.g5! と指すことができて詰みを狙った攻撃ができる。39.Ke3! は 39…Rd8(39…Re1+ は 40.Kd2 でbポーンがクイーンに昇格する)40.b7 Rb8 41.Ke4 Kg6 42.Kd5 h5 43.Kc6 hxg4 44.hxg4 f5(44…Kg5 は 45.Rb4 で何も変わらない)45.gxf5+ Kxf5 46.Kc7

で 38.Kd2? と比較して白が1手早い。以下は 46…Re8 47.b8=Q Rxb8 48.Rxb8! e4 49.Kc6 Kf4 50.Kc5 e3 51.Re8 Kf3 52.Kd4 e2 53.Kd3

で白の勝ちになる。

38…e4!!

 この手は非常に魅力的だがファン・ベリーにとっては見つけるのがあまり難しくなかった。38…Rc8 は 39.b7 Rb8 40.Kc5 で絶望的である。

39.b7 e3 40.b8=Q e2 41.Rg5+

 これがナカムラの狙い筋だった。白はeポーンがクイーンに昇格する前に止めた。しかし・・・

41…fxg5

 41…Kh6?? は42.Qf8+ Kxg5 43.Qg7+ から 44.Qh6+ でルークを素抜いて白が勝つ。

42.Qe5+ Kf8 43.Qxe2 Rc6!

 ・・・良く知られた要塞の精巧版が出現した。両者のgポーンとhポーンはなくなるがルークがe6にいれば黒は決して負けない。ナカムラは36手も頑張ったがいかんともしがたかった。

44.Qe5 h6 45.Kb5 Re6 46.Qh8+ Ke7 47.Kc5 Ra6 48.Qc3 Re6 49.Kd5 Kf8 50.Qh8+ Ke7 51.Kd4 Rc6 52.Ke4 Ra6 53.Qc3 Re6+ 54.Kf5 Kf8 55.Qh8+ Ke7 56.Qg7 Ke8 57.h4 gxh4 58.Kf4 Ke7 59.Kf3 Rg6 60.Qh8 h3 61.Qb8 h2 62.Qb4+ Ke8 63.Kg2 h1=Q+ 64.Kxh1 Re6 65.Kg2 Rg6 66.Kh3 Re6 67.Kg3 Rg6 68.Kh4 Re6 69.Kh5 Rg6 70.Qe4+ Re6 71.Qa8+ Ke7 72.Qg8 Rc6 73.g5 hxg5 74.Qxg5+ Kf8 75.Qd8+ Kg7 76.Qd4+ Kg8 77.Qg4+ Rg6 78.Qxg6+ fxg6+ 79.Kxg6 1/2-1/2

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(この号続く)

2010年03月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(161)

「CHESS」2009年12月号(4/4)

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古豪対新鋭(続き)

ジェイコブ・アーガード

白 A.ベリヤフスキー(2662)
黒 H.ナカムラ(2710)

第3回戦

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Nd2

9…Ne8?!

 ミハイル・ゴルベフとマーク・へブデンがよく用いるこの激しい武器は長い間指されてきたがその間良い結果を収めてきたわけではない。9…a5 10.a3 Nd7 11.Rb1 f5 12.b4 Kh8 という手順の方が好まれていて、白が優勢ではないことが知られている。実戦の手順は白の攻撃がクイーン翼で邪魔されることなく突き進むので劣っている。要するに白の進攻が速すぎるのである。

10.b4 f5 11.c5 Nf6 12.f3 f4 13.Nc4 g5 14.a4 Ng6 15.Ba3 Rf7 16.a5 h5 17.b5 dxc5

18.b6!

 たぶんこの手がここでは最強手である。黒は序盤からたちまち苦戦に陥っているように見える。18.Bxc5 も指されていてやはり白が優勢のはずだが次のような愉快な実戦例もいくつかある。18…g4 19.b6 g3 20.Kh1 Nh7

21.Nb5(21.d6 Qh4 22.Bg1 Bh3 23.bxc7? Bxg2+ !! 24.Kxg2 Qh3+ !! 25.Kxh3 Ng5+ 26.Kg2 Nh4+ 0-1

フタツニク対ツビタン、ドイツ、1997年)21…Qh4 22.Bg1 Bh3!? 23.gxh3!(ツビタンはなんと次のようにこの手筋をもう1回指す機会を与えられた。23.Re1? Bxg2+ !! 24.Kxg2 Qh3+ !! 25.Kxh3 Ng5+ 26.Kg2 Nh4+ 27.Kf1 g2+ 28.Kf2 Nh3#

エピシン対ツビタン、スイス(ブリッツ戦)、1997年)23…Qxh3(23…axb6 は 24.d6! で白が優勢)24.Rf2 gxf2 25.Bxf2 axb6 26.d6!

クイーン翼の白の主導権は強固で、戦力的には損でも白の方が大いに有望だと思う。

18…g4!?

 全軍突入せよ-あの超早指しの指し方はナカムラが有名である。しかしこの局面では彼の有利になる変化は何もなかった。例えば 18…axb6 は 19.axb6 c6(19…cxb6 は 20.Qb3 Ra6 21.Rfb1 Nd7 22.Nb5 で明らかに陣形的に白が優勢)20.dxc6 Qd4+ 21.Qxd4 cxd4 22.Nd6!

で白の勝勢になる。

19.bxc7 Rxc7 20.Nb5

20…g3!?

 20…Rf7 は 21.Nbd6 で無意味である。

21.Nxc7 Nxe4!

22.Ne6?

 この手は当然のように見えるが実際は大きな見損じによるものだった。

 22.fxe4?! もやはり当然の手のようだがこれもまた最善手ではない。次のように鮮やかな一本道の手順が待っている。22…Qh4 23.h3 Bxh3 24.gxh3 Qxh3 25.Rf2 gxf2+ 26.Kxf2 Qg3+ 27.Kf1

ここで一服して有力な手を見つけるのが良い。

a)27…Qh3+ ?! このチェックは愚かである。わざわざ白キングにキング翼から立ち退かせてやることはない。それでもピョートル・スビドレル、フリッツそれに私自身(この解説の初稿で)も推奨していた。28.Ke1 Qc3+ 29.Qd2 Qxa1 30.Bd1

となって白が戦力的に得をし形も良い。黒が負けそうだしそれも惨敗しそうである。

b)27…f3! 28.Nxa8 fxe2+ 29.Qxe2 Nf4 30.Qe3 Qg2+ 31.Ke1 h4!!

これで黒の反撃は無視できない。しばらくこの局面を分析したがはっきりした結論は出なかった。白が良いのか、それとも互角なのか。それは二つの強大な軍隊がでこぼこのシーソーの上に立ってバランスをとろうとしているようなものである。

 本譜に戻って正着は2段目を守る 22.Qc2! という絶妙手である。この手はこれまでの手よりはるかに複雑である。だからはっきりしたことは何も言いたくない。しかし白が勝勢になるようである。(22…Qh4 23.h3 Bxh3 24.gxh3 Qxh3 25.Bd3 は黒がでかしていない。22…gxh2+ も 23.Kxh2 Ng3 24.Nxa8 e4 25.Bxc5 Bxa1 26.Nd6 で白の勝勢のようである。)

22…Bxe6 23.dxe6 gxh2+ 24.Kxh2 Qh4+ 25.Kg1 Ng3

 たぶんちょっと驚くかもしれないが黒にはルーク損の確かな代償がある。それは白キングに対する直接的な狙い、それに …e4 と突いてビショップの斜筋を開けると共に …e3 と突く可能性があるためである。

26.Bxc5

 こう指して何も悪いことはない。ただ白は 26.Ra2 または 26.Re1 と指すこともできて互角の戦いになる。

26…e4!

27.Ra4!

 27.Ra2 でも互角だが 27.Re1?! は良くない。27…Qg5! 28.Bf2 Bxa1 となって黒が優勢である。29.Qxa1? は 29…Nxe2+ Rxe2 30.exf3 で黒の勝勢である。

27…Rc8

 27…Qg5!? と指すのも面白かっただろう。白は 28.Bxa7! Rxa7 と指しておかなければならず、この後 29.Nd6!? または 29.Nd2 Qc5+ 30.Kh2 Nxf1+ 31.Nxf1 e3 32.Qd8+ Kh7 33.Re4

で非常に難解な局面になる。

28.Bxa7?

 この手が敗着になった。ベリヤフスキーは黒のポーン突きを見落としたに違いない。28.e7!? なら互角だった。28…Nxe7 29.Nd6! exf3(29…Rxc5? は 30.Nxe4 で急に白が良くなる。)30.Qb3+(30.Bxf3 でもよい。)30…Kh8 31.Nf7+ でチェックの千日手である。また 28.Nd6!? でも全然問題なさそうだがベリヤフスキーはまだ勝とうとしていたのではないかと思う。

28…b5!!

 ベリヤフスキーはこの手を見落としたのに違いない。29.axb6e.p. は 29…Bd4+! ですぐに詰みになるのが要点である。

29.Rb4

 29.Ra3!?(何かの時にこのルークでf3を取れるように)も可能だった。たぶんこの手に対する最強の手は 29…Rd8! で、30.Qe1 bxc4 31.Bxc4 Rc8! または 30.Qc2 bxc4 31.Bxc4 Rc8! 32.e7+(32.Re1 e3 33.Raxe3 fxe3 34.Bxe3 Ne7 は黒の駒得が大きすぎる。)32…Kh7 33.e8=Q Rxe8 34.fxe4 Ne5

で白キングの安全に良い前兆ではない。白にはいろいろと負ける手がある。

29…bxc4

 29…Rd8!? でも次のように勝ちになる。30.Qc2(30.Qe1 Bc3! もきれいである。)30…exf3 31.Rxf3 Rd1+ !! 32.Qxd1 Qh1+ 33.Kf2 Ne4#

30.Bxc4

 30.Rxc4 は 30…Rd8! 31.Qc2 Qh1+ 32.Kf2 e3+ 33.Ke1 Nxf1 34.Bxf1 Qh4+

できれいに詰まされる。

30…Qh1+?!

 ナカムラは何か勘違いして必殺の 30.e3! を指すのを止めたのではないかと思う。このあと 31.e7+ Kh8 32.Bxe3 fxe3 33.Qd8+

となった時 33…Rxd8 34.exd8=Q+ Qxd8! と戻ればよいだけのことである。

31.Kf2 e3+ 32.Bxe3 fxe3+ 33.Kxe3

33…Nxf1+

 もっと複雑だがもっとはっきり勝ちになる手順は 33…Nf5+! 34.Ke4 Qh2! 35.f4 Qxg2+ 36.Qf3 Qc2+ 37.Bd3 Qc6+

である。

34.Bxf1

 34.Qxf1 は 34…Qh4 35.Kd2 Qe7 で黒の勝ちの局面だが本譜よりは苦労させられる。

34…Qg1+ 0-1

 ここで白が投了した-がたぶん少し早すぎる。35.Ke2 Qc5 36.Qb3 Kh8 で黒の勝ちは確かだろうが白が終わりにしてしまうのにはもったいない。

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(この号終わり)

2010年04月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(162)

「L’Italia Scacchistica」2009年11月号(1/1)

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最新ニュース

マウロ・バルレッタ

 白の手番でどう指したか

ナカムラ対バシエ=ラグラーブ
サンセバスティアン、2009年

 白の手番

44.Re3! 1-0!

 黒は簡単にポーン損を回復する代わりに投了した。明らかにこれには背後に何かある。実際その先を読んでみるとルーク交換の後でbポーンとcポーンの進むのが速い。

 一例は次のとおりである。44…Rxe3 45.Kxe3 Bxg4 46.b5 Bc8 47.c4 Kf8

48.c5 Ke7 49.b6 Bb7 50.Be4 Bxe4 51.Kxe4 Kd7

52.Kf5 f6 53.b7 Kc7 54.c6 Kb8

55.Kxf6 g4 56.Ke7 Kc7 57.b8=Q+ Kxb8 58.Kd7

要は黒は相手を認めている証として投了したということなのである。さわやかな終局だった。

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(この号終わり)

2010年04月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(163)

「Chess Life」2010年1月号(1/1)

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チェスライフオンライン
1月のuschess.org

ヒカルがコーラスに参戦

 我らの誇る米国チャンピオンのGMヒカル・ナカムラが今年のコーラスのAグループに参加する(オランダ・ベイクアーンゼー、1月15日-31日)。対戦相手には世界チャンピオンのGMアーナンドと現在最高レイティング2800超のマグヌス・カールセンがいる。ナカムラは最近のブリッツ戦でカールセンを破っている。GMイアン・ロジャーズが現地から報告する。


「チェスのスター 彼らも我々と同じだ」

セントルイスからトルコへ

 米国チームは1月3日から14日までトルコのブルサで開催される世界チーム選手権戦への旅費にセントルイスのチェスクラブと教育センターから後援を受ける。チームは全員GMのナカムラ、オニシュク、シュールマン、アコビアンおよびヘスで、団長はIMドナルドソンである。ブログを含む最新情報はチェスライフオンラインで見られる。

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(この号終わり)

2010年04月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(164)

「British Chess Magazine」2010年1月号(1/3)

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ロンドン・チェスクラシック


開会式で選手たちが写真撮影のために勢ぞろい。1番目にカールセン、2番目にクラムニク、・・・なにやら前途を暗示しているような。


ヒカル・ナカムラは戦うチェスを見せてくれた。

          1 2 3 4 5 6 7 8 合計
1 マグヌス・カールセン GM ノルウェー 2801 3 1 1 3 3 1 1 13
2 ウラジーミル・クラムニク GM ロシア 2772 0 1 1 3 3 1 3 12
3 デービド・ハウエル GM 英国 2597 1 1 1 1 3 1 1 9
4 マイケル・アダムズ GM 英国 2698 1 1 1 3 1 1 1 9
5 ルーク・マクシェーン GM 英国 2615 0 0 1 0 0 3 3 7
6 ニー・フワ GM 中国 2665 0 0 0 1 3 1 1 6
7 ヒカル・ナカムラ GM 米国 2715 1 1 1 1 0 1 1 6
8 ナイジェル・ショート GM 英国 2707 1 0 1 1 0 1 1 5

ロンドン・チェスクラシック、オリンピア会議センター(英国)、2009年12月8日-15日
平均レイティング2696、第18水準、勝敗率11/28(39%)、勝ち=3点、引き分け=1点

 ヒカル・ナカムラとニー・フワはどちらも盤上の超戦士で二つの超大国、米国と中国の観衆を引き連れている。

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(この号続く)

2010年04月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(165)

「British Chess Magazine」2010年1月号(2/3)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第1回戦(12月8日)

 世界の二大超大国の代表によるもう一局はヒカル・ナカムラ対ニー・フワ戦だった。ナカムラはビショップとポーンの代わりにルークを取って勝ちそうに見えたがニー・フワは手段を尽くして引き分けに持ち込んだ。

第2回戦(12月9日)

 マイケル・アダムズ対ヒカル・ナカムラ戦はフランス防御タラシュ戦法だった。この戦法は斜めにポーン同士ががっちりとかみ合い、この英国人選手が得意なゆっくりした駒捌きができる。ヒカルは20手目までに完全に守勢に立たされた。しかし彼の陣形はかなりしっかりしたままでマイケルは最終的に1ポーン得のルーク+ポーン収局に単純化した。しかし彼のキングは具合の悪い位置にいて勝ちきることができなかった。

ビルバオ3-1-0方式
 この得点方式(勝ちが3点で引き分けが1点)はサッカーの世界ではよく知られている。しかしチェスの世界ではバスク地方の市で開催された「グランドスラム」大会で用いられたことにちなんで「ビルバオ方式」として時たま知られている。
 これが用いられていなければ最終得点はカールセン5/7、クラムニク4½、ハウエルとアダムズ4、ナカムラ3、マクシェーン、ニー・フワ、ショートが2½だった。これらの数字と表の数字を比較すると一番得したのはルーク・マクシェーンだったことが分かる。二つの3得点で彼は同点最下位から5位に上がった。

第3回戦(12月10日)

 ナカムラ対ショート戦はニムゾインディアン防御の少し風変わりな戦法で始まった。黒は手順のほとんどを「超現代派」の原則にのっとって指した。即ち白に中原の占拠を許しそれを遠くから標的にした。最後には明らかに互角のルーク+ポーンの収局になり審判が引き分けを認めた。

第4回戦(12月12日)

 第4回戦は12月11日の休息日の翌日だった。この時点での成績はカールセン7点(全勝なら9点)、クラムニク6点、ハウエル、アダムズ、ナカムラ、マクシェーン3点、ニー・フワ、ショート2点だった。第4回戦は全局が引き分けで終わり順位は変わらなかった。

 今度もまた多くの注目がマグヌス・カールセンの試合に集まった。彼はヒカル・ナカムラのe6のポーンを孤立させることに成功したが、自分の陣形が見かけほど良くないことが分かり、あまつさえ1ポーンを見捨てなければならなくなった。試合はクイーン収局になりカールセンはチェックの千日手でけりをつけた。両選手は労苦の報酬を受けた。この回の名局賞の1千ユーロを等分した。

第4回戦
□マグヌス・カールセン
■ヒカル・ナカムラ
スラブ防御 [D17]

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4

 非常に高度なレベルのチェスにおいては黒はポーン得を保持しようなどと望まない。しかし白は 5.a4 で用心しておかなければならない。さもないと黒は保持しようとしてくるかもしれない。

5…Bf5 6.Nh4

 白はこのビショップに …h7-h6(…Bf5-h7 と引ける)でb1-h7の斜筋に居続ける余裕を与えたくなかった。そこですぐさま追い払った。

6…Bc8

 ヒカルがマグヌスをまねている?読者はカールセンがクラムニク戦で二つのビショップを当初の位置に引いたのをまだ覚えているだろう。しかし上の疑問の答えはたぶん「ノー」である。この局面では当たり前の退却である。白がナイトを盤端に置くのに1手使ったので黒はビショップをc8に戻してもかまわないと判断した。機会があればナイトをh4から追い払った後でビショップをどこかもっと役に立つ地点に移動させることができる。

7.e3 e5

8.Bxc4

 8.dxe5 は次のように悪い結果になる。8…Qxd1+ 9.Nxd1(9…Kxd1 は 9…Ng4 10.Ke1 Nxe5 で黒が本当にポーン得になってしまう)9…Bb4+ 10.Bd2 Bxd2+ 11.Kxd2 Ne4+

これで黒はこのあと …Be6 と指して少し優勢になれる。

8…exd4 9.exd4 Be7 10.O-O O-O 11.Re1 Nd5 12.Nf3 Be6!?

 これはまったく普通の展開の手に見える。しかしなけなしのドル(またはノルウェーのクローネ)をはたいて賭けてもよいが、若い両選手は白の次の手の後の変化に脳漿をしぼったことだろう。

13.Qb3

 白はb7のポーン取りを狙っているだけでなくa2-g8の斜筋に沿って圧力を強めている。

13…Na6

 黒はこう指すより他にほとんど選択肢がない。13…b6 には 14.a5! が強手である。黒が例えば次のように軽率に指し続ければ 14…b5? 15.Bxd5 Bxd5? 16.Nxd5 で、e7のビショップが取られるのでクイーンでd5の駒を取り返すことができない。

14.Bd2

 b7のポーンにはしばしば毒が含まれているのでほとんどの熟練の選手は 14.Qxb7 と飛びつく前に真剣に考えるだろう。しかし一流の診断専門医のフリッツ博士はこのbポーンを食べても最悪の場合でも軽い消化不良で最良の場合は高い栄養になるとさえ考えているようである。14…Nab4 クイーンの後ろでドアがばたんと閉まるのを聞くのは全然気分がよくない。しかしさらに読んでみると 15.Bxd5 cxd5 16.Bg5!? で白のクイーンは全然危険でない。黒は双ビショップがポーン損のある程度の代償になるかもしれない。私の想像ではカールセンは布局からもっと具体的なものが欲しくてこの手順を拒絶した。

14…Nab4

 1999年4国(イギリス、ウェールズ、スコットランド、アイルランド)チェスリーグでのアーケル対ゴーマリー戦は 14…Nac7 15.a5 Rb8 で合意の引き分けになった。しかしソフィア規則は本局での「早い幕引き」を禁じている。

15.Ne4 Bf5 16.Ne5 a5 17.Nc5!?

 17.Rac1 の方がもっと堅実な手だろうが本譜の手は非常に意欲的で白の優勢な局面になっていたかもしれない。

17…Bxc5

 17…Bc8 と元の位置へまた戻るのは全然問題外というわけでもないだろうが、白は 18.Re2 で圧力を強めてくるだろう。また 17…Nc2 は非常に難解になるが 18.Nxb7 Qc7(もう少し良い手があるかもしれない)19.Bxa5! Rxa5 20.Nxa5 Nxe1 21.Naxc6

で白の勝勢になる。

18.dxc5 Qc7

19.Bxb4?!

 マグヌスは自分のオンラインブログでここからの一連の小駒交換は結果の局面を楽観的に過大評価していたことによると打ち明けていた。代わりに 19.Bxd5 Nxd5 20.Nc4 なら白がだいぶ優勢だった。

19…Nxb4 20.Qf3 Be6! 21.Bxe6 fxe6 22.Qb3 Qe7

 白は黒にe6の地点に孤立ポーンを作らせた。しかし実際にはそれにつけ込むことができないことが分かってくる。

23.Nf3 Nd5

 d5の頑丈なナイトによって白が自分の方にあると考えていたかもしれない陣形上の優位が帳消しになっているように見える。

24.Rac1 Rf4

 ここはルークにとって非常に良い地点で、…Rb4 を見据えている。

25.Ne5 Raf8 26.Nd3 Rd4 27.Rc4 Rxc4 28.Qxc4 Qf6 29.g3 Rd8 30.Kg2 Qf5 31.Nc1 Rf8

32.Qe2

 ここは白が気をつけなければならない。局後の検討でカールセンはf2の地点を守るためには 32.Re2 の方が良いと考えていたと言った。その時は込み合った控え室の誰もこの考えの大きな欠陥を見抜けなかった。しかし報道関係者が自分のコンピュータに戻って分析エンジンを働かせながらカールセンの示唆した 32.Re2 を見たときコンピュータが 32…Ne3+!!

をさっと指摘するのを見てびっくりした。白の手をみごとに咎めて黒の勝ちになる。33.fxe3 は 33…Qf1# で詰みだし 33.Rxe3 は 33…Qxf2+ でナイトの代わりにルークとポーンを取られる。翌日の試合の後マグヌス・カールセンは自分の見落としについて少し説明を用意して控え室にやって来た。前日の言葉のへまを申しわけなさそうに認め自分の言うことをマグヌス・カールセンだからと言って全面的に信用することのないように警告するユーモアのある話を少しした。

32…Nc7 33.Nd3 Rd8 34.Ne5 Rd5

 黒はしだいに形勢を主客転倒させてここでは白の非常に弱いcポーンに耐え切れないような圧力をかけている。

35.Kg1

 白は腹を決めてcポーンを取らせ駒の動きを良くすることにした。

35…Rxc5 36.Nc4 Qf8 37.Rd1 Rd5 38.Rxd5

38…exd5

 ここでの黒の大きな問題は時間切迫だった。しかしもし 38…cxd5 を見つけていたらいくらか勝つ可能性があったかもしれない。

39.Qe5 dxc4 40.Qxc7 Qb4

 黒が1ポーン得で40手目に達したが白は永久チェックをかけることができる。

41.Qc8+ Kf7 42.Qf5+ Ke7 43.Qe5+

43…Kf7

 43…Kd8 は 44.Qxg7 と取られ白はまったく安全である。

44.Qf5+ Ke7 45.Qe5+ Kf7 1/2 – 1/2

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(この号続く)

2010年04月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(166)

「British Chess Magazine」2010年1月号(3/3)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第5回戦(12月13日)

 ヒカル・ナカムラとルーク・マクシェーンとの試合は観客に関する限り期待に違わぬ好取組で実際そうなった。ルークはキング翼インディアン防御の …Na6 戦法を堅持することにした。マグヌス戦ではそれで負けたが今度は勇気が報いられた。2勝目をあげただけでなくこの回の名局賞の1千ユーロももらった。ルークの指し回しが良かったが、ヒカルの戦い振りにも多くの賞賛が与えられる。

第5回戦
□ヒカル・ナカムラ
■ルーク・マクシェーン
キング翼インディアン防御 [E94]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 7.O-O Na6

8.Be3

 第2回戦のマクシェーンとの試合でカールセンは 8.Re1 を選択した。

8…Ng4 9.Bg5 Qe8 10.c5!?

 これで局面が不均衡になり確実に型にはまったキッド(King’s Indian Defense)の試合にならなくなる。

10…exd4 11.Nd5

11…Be6

 2005年イェーテボリでのナバラ対マクシェーン戦では 11…Nxc5 12.Nxc7 Qxe4 13.Re1 Rb8 14.Bc4 Qf5 15.Be7

と進み白の勝ちに終わった。

12.Be7!?

 これもヒカル・ナカムラの思い切った勝負手だった。恐らく 12.Bxa6 Bxd5 13.exd5 bxa6 14.cxd6 cxd6 15.Nxd4 Qd7

を読んで十分でないと判断したのだろう。チェスエンジンは好みの局面のようだが白が指せる局面かどうかは怪しい。

12…Bxd5 13.Bxf8 Qxf8 14.exd5 dxc5

 黒はルークを取らせてナイトと2ポーンを得た。駒割はまったく均衡がとれている。

15.Qb3 Rb8 16.Rfe1 Qd6

17.h3

 白はクイーン翼の黒のポーン全部を警戒しなければならない。例えば 17.Bc4? は 17…b5! と突かれ 18.Bxb5 と取ると 18…c6 19.dxc6 Nc7 20.a4 a6

でビショップが取られる。17.Qa4!? がクイーン翼のポーン突きを制止するための抜け目のない手かもしれない。

17…Nf6 18.Bxa6

 この手のあと黒が少し押し気味である。たぶん白は 18.a3 のようなそれほど形を決めない手を指すべきだった。

18…Qxa6 19.Rac1 Bf8 20.Ne5 Qb6 21.Qf3 Qd6

22.g4?!

 たぶんこの手は指し過ぎである。22.Nd3!? がもっと慎重な手で黒のクイーン翼のポーンを抑止する。以下 22…b6 23.b4 Nxd5 24.bxc5 bxc5 25.Rxc5 Nf4 26.Rec1

で白が指せそうである。

22…Bh6!

 黒は重要な黒枡を握った。いつかポーンをd2の地点に進ませる夢さえある。

23.Rc2 Re8 24.Rce2 Rf8 25.Nc4 Qxd5 26.Qxf6

26…Bg7!?

 たぶんこの手はすぐに 26…Qxc4 と取る手より優る。その手は 27.Re8 とされ例えば 27…Qxa2? と欲張ると 28.g5! Bg7 29.Rxf8+ Bxf8 30.Re8

となって 31.Qe7 からの詰みに受けがない。

27.Qh4

 27.Qf4 の方が良いだろうがそれでも黒には 27…Qxc4 28.b3 Qd5 29.Qxc7 d3 30.Re7 Bc3

という手順があって勝ちになるだろう。

27…Qxc4 28.Re8 Qd5 29.Rxf8+ Bxf8 30.Re8 Kg7

31.g5

 白にとって非常に困難な状況になり始めた。31.Qd8 Qxd8 32.Rxd8 と指すこともできたが長期的には実戦と似たり寄ったりかもしれない。

31…Qd6

 これで黒はキングの防御態勢を完了しクイーン翼ポーンの進攻に注意を向けることができる。

32.Kf1 b5 33.Ke1

 白はキングを使って敵ポーンの前進を止めたがっている。

33…c4 34.Qe4 c5 35.h4 c3 36.bxc3 dxc3 37.Qe5+

 難しい決断だがたぶん最善だろう。

37…Qxe5+ 38.Rxe5 a5 39.Kd1 a4 40.a3 b4 41.Kc2

41…h6!

 この手の意味は単にキングにh7の地点を用意しビショップをg7に上げて …b3+ とできるようにすることである。

42.Rd5?

 42.Re8 Bd6 43.Ra8 の方が実戦より黒にもっと課題を与えられた。

42…hxg5 43.hxg5 Kh7

44.Rd7

 ここでの要点は 44.axb4 cxb4 45.Ra5 b3+ 46.Kxc3

とすると 46…Bb4+! で白の負けになるということである。ビショップを取るとbポーンが昇格する。

44…Bg7!

 f7のポーンを取られて自分で釘付けの形になることはbポーンをもう一枡進ませる機会に比べて物の数ではない。

45.Rxf7 b3+ 46.Kb1 Kg8 47.Ra7 Bd4 48.Rxa4

48…Kf7!

 48…Bxf2? はたった1手の差だが大違いである。49.Re4 でも 49.Rc4 でもうまくいかない。黒は進展を図ることができず白のaポーンが前進を始めるとおおごとになる。

49.Ra6

 49.Ra7+ は 49…Ke6 50.Rb7 c4 で黒の密集軍は無敵である。例えば 51.Rc7 Kd5 52.Rd7+ Ke4

で黒キングが詰みにひと役買う。

49…Be5 50.Ra4

 ルークは …c2+ から …Bf4+ という大きな狙いを止めなければならないがそのために黒キングを侵入させてしまう。

50…Ke6 51.Rh4 Kd5 52.a4 c4

53.Rh1

 53.a5 c2+ 54.Kc1 Bd6 はご臨終である。

53…c2+ 54.Kc1 c3

 黒の狙いはポーンを昇格させることでなくビショップで詰めることである。白は詰み筋の両方の斜筋を押さえることができない。

55.Rh4 Bd6 0-1

 あと2手で詰む。ルーク・マクシェーンはこの試合で1千ユーロの名局賞をもらった。恐らくキング翼インディアン防御は大丈夫なのだろう・・・

第6回戦(12月14日)

 デービド・ハウエルとヒカル・ナカムラは33手目までに盤上から駒のほとんどが飛び散ったあと引き分けた。黒番のナカムラはキング翼で反撃に努めたがハウエルは頑強に抵抗し引き分けの異色ビショップ収局になった。

 残り1試合を残しての成績はカールセン12/18、クラムニク11、マクシェーン7、アダムズとハウエル6、ナカムラ5、ショート4だった。最終戦で(ナイジェル・ショート相手の黒番)カールセンは優勝を絶対確実にするためにはまだ勝つ必要があった。ウラジミル・クラムニクがヒカル・ナカムラ相手の黒番で勝てば引き分けでは十分でないからである。だから3-1-0の得点方式の採用は大会の緊張感を最後まで維持するのに役立った。

第7回戦(12月15日)

 激闘の大会にふさわしく優勝の行方は最後の試合が終わった時に決まった。最初に終わったのはナカムラ対クラムニク戦だった。両選手は勝つために大いに努力した。クラムニクはルークを切ってビショップと2ポーンを取り白キングに対する狙いも得た。しかし米国選手は持ちこたえ両選手は最終的に手を繰り返して引き分けにした。二人ともロンドンでの最終結果にはすこし不満だろうが大会を大きく盛り上げた二人の役割は賞賛に値する。

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(この号終わり)

2010年05月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(167)

「British Chess Magazine」2010年3月号(1/3)

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コーラス バイクアーンゼー

イアン・ロジャーズ


黒づくめの服のバルージャン・アコビアンがカラフルな服のイアン・ロジャーズとヒカル・ナカムラ(右)をなじるように指さしている。たぶんちょっとうらやましかっただけ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

1 マグヌス・カールセン
gm ノルウェー 2810
0 ½ ½ ½ 1 1 ½ 1 ½ ½ 1 ½ 1

2 ウラジーミル・クラムニク
gm ロシア 2788
1 ½ 0 1 ½ ½ ½ ½ ½ ½ 1 ½ 1 8

3 アレクセイ・シロフ
gm スペイン 2723
½ ½ 0 0 ½ ½ 1 ½ 1 ½ 1 1 1 8

4 ビスワーナターン・アーナンド
gm インド 2790
½ 1 1 ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½

5 ヒカル・ナカムラ
gm 米国 2708
½ 0 1 ½ 0 ½ ½ ½ ½ 1 1 1 ½

6 セルゲイ・カリャーキン
gm ロシア 2720
0 ½ ½ ½ 1 ½ ½ ½ ½ 1 ½ ½ ½ 7

7 バシル・イワンチュク
gm ウクライナ 2749
0 ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ 1 ½ 1 7

8 ペーテル・レーコー
gm ハンガリー 2739
½ ½ 0 ½ ½ ½ ½ ½ 1 ½ 0 ½ 1

9 レイニェル・ドミンゲス
gm キューバ 2712
0 ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ 1 ½

10 ファビアーノ・カルアーナ
gm イタリア 2675
½ ½ 0 ½ ½ ½ ½ 0 ½ ½ ½ 1 0

11 ナイジェル・ショート
gm 英国 2696
½ ½ ½ ½ 0 0 ½ ½ ½ ½ 0 ½ ½ 5

12 ルーク・ファン・ベリ
gm オランダ 2641
0 0 0 ½ 0 ½ 0 1 ½ ½ 1 1 0 5

13 セルゲイ・ティビアコフ
gm オランダ 2662
½ ½ 0 ½ 0 ½ ½ ½ 0 0 ½ 0 1

14 ヤン・スメーツ
gm オランダ 2657
0 0 0 ½ ½ ½ 0 0 ½ 1 ½ 1 0

第72回コーラス バイク・アーン・ゼー(オランダ) Aグループ 2010年1月16-31日
平均レイティング2719、第19水準、持ち時間 40手1時間40分、20手50分、残り15分、毎手30秒加算

 たぶんバイク・アーン・ゼーでの成績に最も喜んでいる選手は同点4位だった。22歳のヒカル・ナカムラはグランドスラム大会に初登場だったがあけすけな米国チャンピオンはシロフの逃走を止め大会の折り返し点で首位に挑みグランドスラム出場にふさわしいことを証明した。ファン・ベリ戦での電撃攻撃は今大会中白眉の試合でもあった。

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(この号続く)

2010年05月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(168)

「British Chess Magazine」2010年3月号(2/3)

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コーラス バイクアーンゼー(続き)

イアン・ロジャーズ

第7回戦
□ヒカル・ナカムラ
■アレクセイ・シロフ
シチリア防御スベシュニコフ戦法 [B33]

1.e4 c5

 ナカムラは確かに尊大さをなくしていない。シロフが 1.e4 e5 でなくシチリア防御を自分に対して用いたのは間違いだと対局後にきっぱり言った。彼の解説は「」で示す。

2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e5 6.Ndb5 d6 7.Bg5 a6

8.Bxf6!? gxf6 9.Na3

 白の不注意な手順-8.Na3 b5 9.Bxf6 が本手-のせいで黒に通常の 9…b5 の代わりに 9…f5!? の選択肢もできた。シロフはちゅうちょなく挑戦を受けて立った。驚いたことにナカムラはこの手を研究していなかった。

9…f5

10.Nc4

 10.Bc4 b5 11.Bb3 b4 12.Qh5 は黒に 12…Ra7! が発見されるまで白がとても面白いと考えられていた。

10…Nd4 11.exf5 Bxf5 12.Ne3

12…Bg6!?

 「12…Be6 を予想していた。それなら 13.g3 Bg7 14.Bg2 Qd7 でほとんど普通のスベシュニコフの局面になる。」

13.Ncd5

13…Bh6

 「ここが最初の勝負所だった。13…f5!? 14.c3 f4 15.cxd4 fxe3

の後どうなるのかよく分からなかった。16.Nxe3 なら 16…Qa5+ 17.Qd2 Qxd2+ 18.Kxd2 exd4 となってこの収局は何もでかしていない。だから 16.fxe3 と指すつもりだったが 16…Qa5+ 17.Nc3 Bh6 となって黒には十分な反撃力があり、これなら確かにアレクセイの得意とする局面だった。」

14.c3 Ne6 15.Bd3

15…Bxe3!

 「黒が単に 15…O-O と指せば 16.Nf5 で問題なくこちらが良い。」

16.Nxe3 Qb6 17.O-O Nf4 18.Be2!

18…Rg8

 「18…Qxb2 なら 19.Qxd6!! で勝勢のはずだ。19…Nxe2+ なら 20.Kh1 Rd8 21.Qxe5+ Kd7 22.Rad1+ Kc8 23.Nd5!

となる。」

19.Bf3!

19…Nh3+?!

 「これはポカで、このあと白がはっきり優勢になった。代わりに 19…Bd3 20.Nd5 なら黒に 20…Nh3+ 21.Kh1 Qxf2!

といううまい手があるが、それでも 22.gxh3!(22.Qxd3? Qg1+!!)22…Bxf1 23.Qxf1 でd5のナイトが強力なので白が比較的容易に勝つはずだ。しかし黒は単に 19…O-O-O! と指すことができた。20.Nd5?! としても 20…Nxd5 21.Qxd5 Qxb2 でこちらが1ポーン損となるだけかもしれない。」

20.Kh1

 「20.gxh3 は 20…Bc2+ でクイーンを取られる。」

20…Nxf2+ 21.Rxf2 Qxe3 22.Bxb7!

22…Rb8

 「黒が 22…Qxf2 とルークを取れば 23.Qxd6! が強すぎる。」

23.Re2 Qb6 24.Bd5 Rg7 25.Qd2 f5

 「こちらの駒は全部良い地点にいるがポーンの形のために突破口を見つけるのはそれほど容易でない。」

26.Rf1 Kd7 27.b4 f4

28.a4!?

 「28.a3 としてから c4-c5 と突いていく考えの方が良かったかもしれない。」

28…a5 29.b5 Rd8

 「時間で30分ほどリードしていたがここで20分使った。キングをb8にルークをc5に置くひまがあれば黒の方が形勢が良くなるかもしれない。だからこちらは活発に指さなければならない。」

30.g3! fxg3 31.hxg3 Kc8 32.c4 Kb8 33.Rf6 Re7 34.Kh2! e4

35.Qc3

 「問題は 35.c5! と突くと 35…Qc7 とやってこられることだった。感覚的には絶対何か良い手があるはずだが対局中は見つけることができなかった。読んでいたのは 36.cxd6 Rxd6 37.Rxd6 Qxd6 38.Qxa5

で、38…Qxd5 なら 39.Rd2 で良いが 38…Ra7! とされると 39.Qd2 Rd7 でビショップが落ちる。」後になってナカムラはコンピュータがこの手順中 37.b6! Rxb6 38.Qxa5! を見つけたと教えられた。それなら試合終了だった。

35…Rc8 36.Re3

36…Ka7?!

 「たぶんアレクセイは何かしのげる手を考えていたのだろう。しかし形勢は思わしくなく時間も1分を切っていた。」シロフは 36…Qc5 をやってみるしかなかった。37.Qxa5 なら 37…Ra7 である。ただし 37…Qxe3?! はだめで 38.Qa8+ Kc7 39.Qb7+ Kd8 40.Rxd6+ で次の手で詰みになる。

37.Bc6 Rd8 38.c5!

38…dxc5 39.Bxe4 Rd6 40.Rxd6 Qxd6 41.Qxa5+ 1-0

 「41…Kb8 のあと 42.Rd3! と指すつもりで、黒には適当なチェックがない。」

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(この号続く)

2010年05月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(169)

「British Chess Magazine」2010年3月号(3/3)

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コーラス バイクアーンゼー(続き)

イアン・ロジャーズ

第2回戦
□ヒカル・ナカムラ
■ルーク・ファン・ベリ
シチリア防御ナイドルフ戦法 [B96]

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Nbd7 8.Qf3 Qc7 9.Bxf6!? Nxf6 10.g4

 ヒカルは「この戦型は今日ではあまり見られない。通常は白はキャッスリングしてそのあと少ししてから g4 と突く」と説明してくれた。「これはちょっとひねった手である。」

10…b5 11.g5 Nd7

 「黒が 11…b4 とやってくれば 12.Ncb5! で黒陣が嫌な目に遭う。」

12.O-O-O

 一般的な局面から珍しい形になった。黒の主手順のうち 12…Bb7 は 13.Bh3 と応じられ 12…b4 は眼目の 13.Nd5 の捨て駒を誘発する。

12…Nc5 13.a3

13…Rb8!?

 これは典型的な作戦で、黒ビショップがb7に行く前に …b4 と仕掛けるつもりである。しかし例外的な断固たる手で応じられてしまった。13…Be7 の方が穏当だった。

14.b4!

14…Nd7

 「試合前にこの手を研究していた。もし 14…Na4 と来たら 15.Ndxb5! axb5 16.Bxb5+ Rxb5 17.Nxb5 Qb6 18.Qd3

と指すつもりで、事前の研究によれば白がだいぶ優勢だと思う。この後は例えば 18…Bd7 19.Nxd6+ Bxd6 20.Rd2!」

15.Nd5!

 ここまででナカムラの時計は10分未満を示していたがファン・ベリは時間が足りなくなり始めていた。

15…exd5 16.exd5 Be7 17.Re1

17…Ne5

 「ここで彼はすぐに駒を返すことにした。しかし私は次の局面の形勢をどう判断したらよいか分からなかった。17…Nb6 18.Nc6 Nxd5! 19.Qxd5(19.Nxb8! Qxb8 20.Qxd5 Bb7 21.Bxb5+! の方がはるかに良い-ロジャーズ)19…Be6 20.Qg2 Rc8

このあと例えば 21.Nxe7 Qc3 でどうなるのか確信がもてなかった。」本譜で 17…Kf8!? も白の駒捨ての重大な試練だった。その骨子は 18.Nc6(18.Qe4 Ne5! 19.fxe5 Bxg5+ 20.Kb1 dxe5 21.Nc6 Bf4 もはっきりしない)に 18…Bb7! と応じることができ 19.Nxe7? は 19…Re8 で駒を取り返すことができない。

18.fxe5 Bxg5+ 19.Kb1 dxe5 20.Nc6

20…Bf6?!

 「20…O-O の後ルークと私は 21.Rxe5! Bf6 22.Rh5 で黒に問題があるという結論に達した。」

21.Bd3!

 ナカムラはこの手に20分以上かけた。しかしこれで黒キングに安全の地がなくなったのでそれだけのかいがあった。「最初 21.Nxb8 Qxb8 22.Bd3 で交換得できると考えていた。しかしそのあと黒はキャッスリングする必要がなく 22…Ke7! の後 …Qd6、…Bb7、…Rc8 と指せることに気がついた。黒がこのような陣形にできれば形勢はこちらがだいぶ悪い。」

21…h5

 「この手はちょっとしたポカだが 21…Rb6 でも 22.Nxe5 Bxe5 23.Qh5! で黒キングが中央列で立ち往生になる。」たぶんファン・ベリは 21…O-O とするつもりだったのだろうが 22.Rhg1! で白の攻撃がつぼにはまることに気づくのが遅すぎた。以下は例えば 22…Kh8 23.Bxh7!! Kxh7 24.Qxf6!! gxf6 25.Re4!

の後 26.Rh4# で詰みになる。

22.Rxe5+! Bxe5 23.Re1

23…Bg4!

 この手にかけるしかない。23…f6 でe5のビショップを救うのは 24.Bg6+! Kd7(24…Kf8 25.Rxe5 Bd7 26.Re7)25.Rxe5!

で筋に入る。

24.Qf4!

24…O-O!

 「24…f6 の後 25.Bg6+ と指すことができ 25…Kf8 なら 26.Rxe5 でクイーン取りの狙いがあり、25…Kd7 なら 26.Bf5+! Ke8 27.Nxe5 fxe5 28.Rxe5+ Kd8(28…Kf8 29.Bxg4+)29.Qg5+

で詰ませる。」

25.Rxe5!

25…g6?

 頑強な受けの後ファン・ベリは残り20分のうちこの手に15分使いナカムラの指す手を簡単にさせてしまった。「彼にとっては不運なことに自然な 25…Rbe8 は 26.Rxe8 Qxf4 27.Ne7+ Kh8 28.Rxf8# で頓死してしまう。彼は即負けにならない唯一の他の手を見つけた。」

 実際は 25…f5! でもしのげる。そのあと白はb8の駒取りをがまんして 26.Qg5! で攻撃を続けるのが良い。

26.Qf6!

 急に混乱に輪をかけて新しい 27.Bxg6! の狙いが加わり黒は処置なしである。

26…Rbe8 27.Ne7+ Rxe7 28.Rxe7 Qxh2 29.Bxg6! Qh1+ 30.Kb2 Qxd5

31.Bxf7+!

 「初め 31.Be4 と指すつもりだったが 31…Qd2 32.Re5 Rd8 のあと勝つ手順を見つけることができなかった。」

31…Qxf7

 31…Rxf7 は 32.Re8+ で詰みになる。

32.Rxf7 Rxf7 33.Qxa6 Kg7 34.Qxb5 Kg6 35.Qc4 Rd7 36.b5 Kg5 37.b6

37…Bf3

 「37…h4 なら 38.Qb5+ Bf5 39.Qxd7! Bxd7 40.b7 で勝ちになる。」

38.Qb5+ Rd5 39.Qb3 1-0

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(この号終わり)

2010年05月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(170)

「CHESS」2010年2月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック


ヒカル・ナカムラがどの試合でも両手の間に顔を挟みほとんど見上げないで集中する様子は本当に絵になっていた。


マルコム・ペイン、マグヌス・カールセン、ウラジーミル・クラムニク、ヒカル・ナカムラ、ニー・フワ


米国チャンピオンのヒカル・ナカムラは決勝でマグヌス・カールセンを負かしたノルウェーのブリッツ大会からやって来たばかりだ。

*  *  *  *

 米国チャンピオンのヒカル・ナカムラはクラシックでの試合を待ちかねていた。

 ロンドンへようこそ。当地で指すのは初めてですか。

 はい、ロンドンで対局するのは初めてです。二、三度ロンドンに立ち寄ったことはありましたが指す機会はありませんでした。

 楽しみにしていましたか。

 もちろんです。

 この大会ではどんな成績を期待していますか。自信がありますか。

 ウラジーミルが記者会見で言ったのと同じですね・・・つまり誰が調子が良いかということです。なぜなら7回戦しかない時は出だしが悪ければ巻き返すのは非常に難しくなります。だから誰が調子よく飛び出すかという問題で、もし僕が優勝できれば文句ないし、勝ち越しの成績で終わるだけでも満足です。

 他の参加者との対戦成績はどうなっていますか。

 実はこの大会はちょっと妙な大会で、参加選手の一部とはクラシカルな試合をしたことがありません。クラシカルな試合をしたことがあるのは4人だけです。だからほぼ半分で、一部の選手とはほとんどなじみがありません。でも勝つチャンスはあると思っていますし、どうなるか楽しみにしています。

 カールセンとクラムニクとは対局したことがありますか。

 クラムニクとは対局したことがありません。カールセンとはあります。クラシカルで2局指しました。つい最近は先週ノルウェーのブリッツ大会で指して勝ちました。だからマグヌスはよく知っていて彼とクラムニクにはチャンスがあると思っています。この二人とうまく指せれば優勝できるかもしれないと思っています。

 あなたの最近の弾丸チェスについての本を読みました。大変面白かったです。

 そうでしょう。

 チェスでは弾丸チェスが好みですか。

 成長するにつれて弾丸チェスとブリッツが好きになりました。今はクラシカルなチェスに本気になっています。それでもいろいろありますがブリッツと弾丸チェスが現在の僕の基礎になっていてだから今でも両方大好きです。

 モスクワのブリッツ大会に招かれなかったのは面白くなかったですか。

 あ、それは・・・やはり招かれたかったですね。あそこで指す機会がなかったことは非常に残念で、同時に僕だけが招かれなかったのではありませんでした。ブリッツが非常に強いのに招かれなかった選手も何人かいて、最後まで残る実力で優勝する可能性も高い何人かの選手がいない参加者では世界選手権を名乗る大会と見るのは非常に難しいのではと思います。でもノルウェーでの結果で来年は出場する機会があるのではと期待しています。

 世界舞台のチェスで抱負は何ですか。

 少なくともこれまでほとんどの最強選手と戦えることを証明したと思っています。ウラジーミルとは指していませんが彼はちょっと違うかもしれません。もし彼にひどく負かされればちょっと悲観的になるでしょう。でもマグヌスとは指したことがあり他の何人かの最強選手とも指したことがあります。だから努力して頂上に行きたいですが現在のところは堅実に指し続けてもっと強くなってどうなるか見るようにしなければならないです。

 FIDE世界選手権戦の仕組みについてはどう思いますか。

 全体的には考え方は良いです。でも一番の問題はFIDEが規則を作って自分たちの考えたのを守らないことにあると思います。そんなことをしたら対局している人たちの信頼をなくさせてしまうし信用されなくなってしまいます。たぶん将来は今のような・・・サイクルを作り上げるでしょう。すべてが決まってみんなが抜けてあちらこちらやり方を変える問題もないなら素晴らしいことです。FIDEが今回のことから得る教訓はこのようなサイクルを作って何が起ころうとそれをちゃんとやって行くことだと思います。うまくいかないようであってもやり始めなければなりません。たぶんうまく行くやり方を取り続けてくれるでしょう。

 1993年の分裂から解決しようとするまで長い時間がかかりました。

 そのとおりです。でもアーナンドの試合が予定されていてその後またクラムニクあるいは誰が挑戦者になっても試合がありその時には解決していると思います。これまでとは違ったふうになると期待すべきでしょう。

 最後に、あなたのチェスのヒーローは誰ですか。

 ここの選手たちの一人は-最近彼の試合をたくさん勉強し始めたのですが-クラムニクです。フィッシャーも米国での偉業から当然です。いろいろな点で全体的な環境が変わりました。フィッシャーがいなかったら今の米国にあるようなチェス文化はなかったと思います。だから断然フィッシャーです・・・別の選手はずっと前にさかのぼればカパブランカもです。彼の天賦の才能はものすごいと思います。コンピュータのない1920-30年代のあのレベルの試合をいくつか見ましたが感嘆させられました。だから彼の試合もよく見るようになりました。

 自分の才能はどうですか。生まれつきの才能ですか、それとも猛勉強ですか、はたまたその両方ですか。

 両方だと思います。初めてチェスを指し始めた時はひどいものでした。実際始めて指した時4局全部負けました。だから最初の頃は猛勉強だったと思います。慣れてくると試合への向きと才能があったようです。だから両方合わさったものだと思います。

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(この号続く)

2010年06月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(171)

「CHESS」2010年2月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

ロンドン・チェスクラシック、2009年12月8-15日、第18水準(2696)
[勝ちは3点、引き分けは1点]

レイティング 実効棋力
マグヌス・カールセン ノルウェー 2801 * 1 ½ ½ 1 1 ½ ½ 13 2839
2 ウラジーミル・クラムニク ロシア 2772 0 * ½ ½ 1 1 ½ 1 12 2787
3 デイビド・ハウエル イギリス 2597 ½ ½ * ½ ½ 1 ½ ½ 9 2760
4 マイケル・アダムズ イギリス 2698 ½ ½ ½ * 1 ½ ½ ½ 9 2746
5 ルーク・マクシェーン イギリス 2615 0 0 ½ 0 * 0 1 1 7 2605
6 ニー・フワ 中国 2665 0 0 0 ½ 1 * ½ ½ 6 2598
7 ヒカル・ナカムラ 米国 2715 ½ ½ ½ ½ 0 ½ * ½ 6 2643
8 ナイジェル・ショート イギリス 2707 ½ 0 ½ ½ 0 ½ ½ * 5 2592

 米国チャンピオンのヒカル・ナカムラもやはり絶好調でちょうどスカンジナビアでの快速チェス大会でカールセンを破っていた。

第1回戦

 ナカムラはニー・フワに勝つはずだったが結局引き分けに終わった。

第2回戦

 マイケル・アダムズは技術的に勝ちの収局を勝ち切れなくてヒカル・ナカムラに誕生日プレゼントを与えた。

第3回戦

ナカムラ ½ – ½ ショート

第4回戦

 第4回戦を終わってナカムラも負けなしの4位だった。

 カールセン相手に黒で最高のチェスを指したのは米国チャンピオンのナカムラだった。自陣を弱体化させはしたがその結果できた素通し列は彼にとって好都合だった。そして規定手数近くでナカムラは決断しなければならなかった。検討室に陣取っていたビクトル・コルチノイはすぐにある手を推奨した・・・ナカムラは別の手を選んだ・・・そして黒の勝つ可能性が消えてコルチノイの正しかったことが証明された。


ヒカル・ナカムラは積極果敢に指してカールセンを引き分けにとどめた。

□マグヌス・カールセン
■ヒカル・ナカムラ
第4回戦 スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 6.Nh4

6…Bc8

 ナカムラはビショップを深く引きh4のナイトの位置につけ込んで中原から突っかける用意をした。同じくらいよく指されている 6…e6 7.Nxf5 exf5 8.e3 Bb4 と挑発的な 6…Bd7!? はもっとアンバランスな局面になる。

7.e3 e5 8.Bxc4 exd4 9.exd4

 ビショップをc8に引いたのは白に孤立dポーンを作らせるためだった。しかしナイトをh4からまた展開するのに手数がかかっても白は展開で優っていて黒は互角の局面にするために正確を期さなければならない。

9…Be7 10.O-O O-O 11.Re1 Nd5 13.Nf3 Be6

 黒は教科書どおりに孤立ポーンをせき止めてキング翼攻撃を受けるのを回避した。そのため白は圧力を維持する別の方策を見つけなければならない。

13.Qb3! Na6!

14.Bd2

 bポーンはもう危険にさらされていない。14.Qxb7 は 14…Nab4 で白クイーンが …Rb8 と …Ra8 で追われて千日手にされる。15.Bxd5 cxd5 16.Bg5

で逃げ道を作ることはできるが 16…Bxg5 17.Qxb4(17.Nxg5? は 17…Rb8! 18.Nxe6 fxe6 19.Qxa7 Rf7 20.Qc5 Nd3

で黒の交換得)17…Rb8 18.Qa3 Be7 19.Qa2 Qa5

となってビショップとクイーン翼での圧力で十分な代償がある。

14…Nab4

 この手は新手だがまったく自然な手でもある。1999年4ヵ国チェスリーグでのアーケル対ゴーマリー戦では 14…Nac7 15.a5(15.Qxb7 は 15…Nb4 で応じられるが 15.Nxd5!? cxd5 16.Bd3 は楽に優位を保持し十分考慮に値した)15…Rb8 のあと合意の引き分けになったが白は 16.Ne4 でもっと指し続けた方が良かったかもしれない。

15.Ne4

 白は何かないかと探し始めた。実際ここまでの黒の指し回しは非常に論理的で黒陣はとても堅固だが白に初手からついてまわる主導権を無効にすることはできないでいる。

15…Bf5 16.Ne5 a5 17.Nc5!

17…Bxc5!

 黒は白の孤立ポーンをそのままにしておきたいかもしれないが残念ながら 17…Qc8? は次のようにどうやってもa2-g8の斜筋の強い圧力によりポーンが落ちる。18.Bxb4 axb4 19.Bxd5 cxd5 20.Qxb4 一方本命の 17…Nc2? は 18.Nxb7 Qc7 19.Bxa5 Nxa1 20.Rxa1 Qc8 21.Nxc6! Qxc6 22.Bxd5

となって白が交換損の代償を多く取りすぎる。

18.dxc5 Qc7

 白は双ビショップになり孤立dポーンは解消した。しかし黒のナイトによる堅固なせき止めは残っている。白はどう指し進めるのが最善だろうか。

19.Bxb4?!

 ルークを働かせるのはそうた易くないがカールセンは間違った方の交換をしたのではないかと思う。彼は実戦の手でわずかな優勢を保持しているが黒は常に1ヵ所の弱点のe6を覆い隠すことができる。実際あとから考えてみればレイティングの新世界一は 19.Bxd5! Nxd5 20.Nc4 と指してナイトをd6に跳ばし黒にいくらかの圧力をかければ良かったと思っているだろう。

19…Nxb4 20.Qf3 Be6!

 ナカムラはいつも頑強な受けをしようとする。この試合も確かに例外でない。

21.Bxe6 fxe6 22.Qb3 Qe7

 見た目には白が良い局面だが白のナイトは本当に黒のナイトよりそんなに良いのだろうか。それに黒にはf列から逆襲もある。

23.Nf3 Nd5 24.Rac1 Rf4

25.Ne5

 白が自分の凡庸な戦略の誤りに気づいて均衡を維持したかったらひと組のルークの交換を目指しすぐに 25.Rc4 と指すことができた。

25…Raf8 26.Nd3 Rd4 27.Rc4 Rxc4 28.Qxc4 Qf6 29.g3 Rd8 30.Kg2 Qf5

31.Nc1

 白は名ばかりの優勢を保持していてここで 31.Re4 Rf8 32.Kg1 と指せば何も問題なかった。もっとも引き分けの可能性がかなり高いが。代わりにカールセンはe6の地点を攻撃しようとしたがナカムラは次の捌きによって少なくとも同等の立場であることを証明した。

31…Rf8

32.Qe2

 白は 32.Nd3 と手を繰り返す方が良かった。

 しかし対局後カールセンは 32.Re2?? の方が良かったと言った。その手を避けたのは彼にとって幸運だった。32…Ne3+! 33.Rxe3(33.fxe3 Qf1#)33…Qxf2+ 34.Kh3 Qxe3 で黒の勝ちになる。超一流でも簡単な手筋を見落とすことがある。

32…Nc7!

33.Nd3

 33.Qe3 でも 33…Qc2 で白にとってすでにそれほど容易でない局勢である。もっともシリコンモンスターを用いての分析によると白はここで 34.Nd3! Rd8(34…Qxa4 は 35.Nf4 Qc2 36.Qe5! Rf7 37.Qd4

)35.Nf4 Qxb2 26.Re2 Qf6 37.Qb3

でまだなんとか均衡を維持することができる。

33…Rd8!

34.Ne5!

 これは受けの好手である。この手はポーンの犠牲を伴うが 34.Rd1 では 34…Qd5+ 35.f3 Qc4 で黒にやらずもがなの優勢を与えてしまう。

34…Rd5 35.Kg1 Rxc5 36.Nc4

 白はポーンを失ったが陣形が良いおかげで少し不利なだけである。

36…Qf8

37.Rd1!

 大胆不敵な手である。37.Nb6 Qe7 38.Rd1 Nd5 39.Nc4 なら黒を少し手一杯の状態にしたかもしれない。しかしカールセンはクイーンとナイトで侵入する代わりに黒の陣形を良くさせても良いと見た。

37…Rd5 38.Rxd5

38…exd5?!

 これはもう引き分けにしかならない。黒の唯一の勝つ可能性は 38…cxd5 39.Qe5 Qc5 だったが 40.Nd6 Qc1+ 41.Kg2 Qc6 42.b3

で黒がどのように進展を図るのか私には分からない。白のクイーンとナイトの連携が非常に良い。

39.Qe5! dxc4 40.Qxc7 Qb4 41.Qc8+ Kf7 42.Qf5+ Ke7 43.Qe5+ Kf7 44.Qf5+ Ke7 45.Qe5+ Kf7 ½ – ½

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(この号続く)

2010年06月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(172)

「CHESS」2010年2月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第5回戦

 ルーク・マクシェーンは米国チャンピオンのヒカル・ナカムラに勝った。試合は乱戦で、検討室でコンピュータの助けを借りてもわけが分からなかった。マクシェーンはルークを犠牲にビショップと2ポーンを得て駒交換の後クイーン翼で進攻を始めた。初めのうちはナカムラのキングとルークが局面の均衡を保っているように見えたが、軽率な手が出て相手に取って置きの手が飛び出しマクシェーンが勝ちを収めた。

□ヒカル・ナカムラ
■ルーク・マクシェーン
第5回戦 キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 7.O-O

7…Na6

 この現代的手法は15年前は現代的だったが今ではもうそれほど現代的とは思われない。実際この手自体が重要な戦法となっていて、昨夏のスタントン記念でマクシェーンが3度用いエレーナ・デンボの『Dangerous Weapons: The King’s Indian』で保証された 7…Nbd7 8.Be3 Re8!? を含めなぜ黒が他のそれほど定跡化されていない選択肢を調査しているのかを説明するのに役立つかもしれない。

8.Be3

 カールセンは第2回戦のマクシェーン戦ではもっと堅実な 8.Re1 を好んだ。

8…Ng4 9.Bg5 Qe8 10.c5!?

 ナカムラは最も激しい戦型を選んだ。これは黒のシステムにとって非常に大きな試練である。

10…exd4 11.Nd5

11…Be6!?

 この手は珍しい手で白に交換得の機会を与えている。この手がこれからもっと注目を集めるかどうかは興味のあるところである。マクシェーンは以前は 11…Nxc5 12.Nxc7 Qxe4 の方を好んでいたが2005年イェーテボリでのヨーロッパ・チーム選手権戦におけるナバラ対マクシェーン戦では 13.Re1! Rb8 14.Bc4

と進んで白の主導権が強くて黒はどうしても互角の形勢にできなかった。マクシェーンは次は2006年ブンデスリーガ(ドイツの国内団体リーグ戦)のランダ対マクシェーン戦で 11…Qxe4 としてみたが 12.Ne7+ Kh8 13.cxd6 f6 14.Nxc8 fxg5 15.Nxg5 Qf4 16.Bxg4 Qxg5 17.d7

でやはり互角の形勢にできなかった。

12.Be7?!

 これは見るからに厳しい手だが黒に交換損に対する指し方を易しくさせている。私の考えでは白は 12.cxd6 と指すべきだと思う。2007年ミンスクでのテテレフ対チホノフ戦では以下 12…Bxd5(12…cxd6? 13.Be7 Bxd5 14.Bxf8 Qxf8 15.exd5

はもう黒の取る策ではない)13.exd5 cxd6 14.Bxa6 bxa6 15.Nxd4 Qe5 16.Qxg4 Qxd4 17.Qxd4 Bxd4 18.Rad1! Bc5 19.Bf6 Rfe8 20.Rfe1

となって白が収局で十分優位に立ったが黒は何とか守りきった。

12…Bxd5 13.Bxf8 Qxf8 14.exd5 dxc5

 ナカムラがこの局面の何が気に入ったのかはよく分からない。黒の自慢は好形の2ポーンと交換損で得た黒枡での作戦行動の有望さである。見通しはほぼ拮抗しているが既に黒陣の方が明らかに指し易くなっている。

15.Qb3

 15.a3 から b2-b4 で黒ポーン集団を解体しようとしても 15…Qd6 がd5のポーンに対して先手なのでその暇がない。

15…Rb8

16.Rfe1

 この局面は以前に2009年イスラエル・チーム選手権戦のタルノポルスキー対ミッテルマン戦に現れていた。その時は白は 16.Rac1 の方を好んだが 16…Bh6 17.Rcd1 Qd6 18.Qa3?! Nf6 19.Bxa6 bxa6 20.Nd2 Qxd5

となって黒が既に十分だった。16.Nxd4! の方が手ごわいに違いないがそれでも 16…Bxd4!?(16…cxd4 17.Bxg4 Qd6 よりも活動的でたぶん強手である)17.Bxg4 Qd6 から …b5 で黒が交換損の代償を十分保持しているだろう。

16…Qd6 17.h3 Nf6

18.Bxa6

 ナイトをb4に来させないように 18.a3!? と指した方が良かったのではないかと思う。明らかにマクシェーンは 18…b5 19.Bxb5! c6(重要な継続手だが 19…Qb6!? 20.a4 Nb4 という安全策もある)20.dxc6 Nc7

で乱戦に引きずり込むことを考えていただろう。さらに続けると 21.Ng5! Nfd5 22.Qf3 Qf6 23.Qxf6 Bxf6 24.Bc4 Bxg5 25.Bxd5

となってb2のポーンが当たりになっていてもここまでの戦術は白に有利に働いて優勢であることが分かる。

18…Qxa6 19.Rac1

19…Bf8

 白の考えはたぶん 19…Qd6!? に 20.Qa3 Nd7 21.Qxa7 Qxd5 22.b3 と応じようというものだったろう。もっともそれでも黒の中原が全然束縛されていないのでまだ黒が優勢かもしれない。

20.Ne5 Qb6

21.Qf3?!

 マクシェーンの直前の2手は私の見方では少し堅実すぎて、ナカムラはそれに乗じて 21.d6! Qxb3 22.dxc7 Rc8 23.axb3(ペインの説)で互角にした方が良かったかもしれない。なぜならこの後 23…Nd5 24.Nd3 b6 25.b4

で最終的に黒ポーンの破壊に至るからである。

21…Qd6 22.g4!?

 ナカムラはキング翼とe列での反撃に期待をかけている。しかし黒は次の手で局面を支配しているのは自分であることを強調している。

22…Bh6! 23.Rc2 Re8 24.Rce2 Rf8 25.Nc4!

 d5のポーンはどのみち落ちるのでこの手にかけるのが最善である。

25…Qxd5!

 この応手は読みの入った決断である。

26.Qxf6 Bg7

 この中間手は必須で、26…Qxc4? は 27.Re8 で8段目での白の反撃が非常に危険になる。

27.Qh4?

 ナカムラはまだ8段目の黒の弱点をついて攻撃したがっている。しかしそのような手段は前の変化よりも効果がずっと劣っている。もっと強硬な受けは 27.Qf4 Qxc4 28.b3 で、当分の間黒ポーンの前進を止め 29.Re7 で反撃をもくろむことになる。

27…Qxc4 28.Re8 Qd5 29.Rxf8+ Bxf8 30.Re8 Kg7

 最下段の問題を何もかもかわし交換損の代わりの3ポーンで黒が明らかに優勢である。

31.g5 Qd6 32.Kf1!

 黒ポーンが動き出そうという今キングがクイーン翼に渡るのが唯一の受けである。

32…b5 33.Ke1 c4 34.Qe4

34…c5?

 これは確かに魅力的な手だがビショップの利きを減らして黒が大きな困難に陥ってしまう。もっと強力な構想は先受けの 34…a6! で、35.Qe5+ Qxe5+ 36.Rxe5 に 36…d3 と応じることができる。

35.h4

35…c3

 これも魅力的な手だが黒のキングとビショップが閉じ込められる状況になればクイーン無し収局を勝つのは意外なほど難しい。しかしマクシェーンにとっては 35…a5 の手順でも間違っていて 36.Qf3! b4 37.Qf6+ Qxf6 38.gxf6+ Kg8 39.b3

で白が黒駒を黙らせ少なくとも引き分けになる。さらには 35…h6 で少し陣形をくつろげようとするのは 36.Qf3! hxg5 37.hxg5 から 38.Qf6+ でほとんど違いがない。

36.bxc3 dxc3 37.Qe5+! Qxe5+ 38.Rxe5 a5 39.Kd1

 キングの働きがはるかに良いおかげでナカムラは引き分けが非常に有望である。

39…a4!

 黒はビショップを働かせたいのだが 39…Bd6 は 40.Rd5 Be7 41.Rd7 Kf8 42.Kc2 b4 43.Ra7

となってほとんど進展がない。たぶんマクシェーンの指した手が最善だろう。代わりに 39…f6 40.Re6 fxg5 41.hxg5 Kf7 でキングを解放するのは 42.Rf6+ Ke7 43.Kc2 b4 44.Ra6

でやはり引き分けにしかならない(黒のaポーンがなくなれば a2-a4 の可能性が真剣味を増す。)。

40.a3

 白は黒の …b4、…c4 そして …b3 を止めたいのだが 40.Kc2!? b4 41.Rd5 と待っていた方が良かったかもしれない。というのはそこで 41…c4?! は 42.Rd4 で黒の策動が成立しないからである。

40…b4 41.Kc2 h6!

42.Rd5?

 ナカムラは黒の構想をまったく見くびっていた。白は 42.Re8! で戦わねばならなかった。そうすれば次の想定手順のようにちょうどポーンを止めるのに間に合う。42…hxg5 43.hxg5 Bd6 44.Ra8 b3+ 45.Kxc3 Be5+ 46.Kd2 c4 47.Rxa4 c3+ 48.Kc1 Bd6 49.Kb1 c2+ 50.Kb2 Be5+ 51.Kc1(ペイン)

黒は 51…Bd6 と手を繰り返さなければならない。

42…hxg5 43.hxg5 Kh7

 突然ビショップに好所ができた。それはf7のポーンよりもずっと価値がある。

44.Rd7 Bg7! 45.Rxf7 b3+ 46.Kb1 Kg8

 ビショップが急所のc1の地点を支配するのにはしばらくかかるがそうなるのは不可避である。

47.Ra7 Bd4 48.Rxa4

48…Kf7!

 白が何もしなければ黒キングもポーンの中に分け入って盾にするかもしれない。この手は 48…Bxf2? よりもずっとずっと良い手である。48…Bxf2? なら白は 49.Re4 の後aポーンを突き進めて猛反撃することができる。

49.Ra6 Be5 50.Ra4

 これはf4の地点を押さえる最後の頑張りである。しかしキングが駆けつけて黒が簡単に勝つ。

50…Ke6 51.Rh4 Kd5 52.a4 c4 53.Rh1 c2+ 54.Kc1 c3 55.Rh4 Bd6 0-1

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(この号続く)

2010年06月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(173)

「CHESS」2010年2月号(4/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第6回戦

 ハウエル ½ – ½ ナカムラ

第7回戦

 ヒカル・ナカムラとウラジーミル・クラムニクは共に勝利を目指して戦いやはり激闘になったが永久チェックで引き分けに終わった。

□ヒカル・ナカムラ
■ウラジーミル・クラムニク
第7回戦 ニムゾインディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3

 これはニムゾに対する融通性のある手である。これに対して黒はよく 4…b6 でクイーン翼インディアンの1戦型に持って行く。しかし 4…O-O、4…c5、4…Nc6!? およびクラムニクの指した手も全部重要な選択肢である。

4…d5

 これでニムゾとクイーン翼ギャンビットの混合形のラゴージン戦法に移行する。

5.Qa4+

 これは重要な2戦型のうちの一つで、他方は 5.cxd5 exd5 6.Bg5 である。

5…Nc6 6.e3 O-O

 非常に難解な戦いが前途に待ち構えているのは既に明らかである。この最終戦にふさわしく両選手とも本当に勝ちたかった(ナカムラはこの大会でやっと初勝利をあげるために、クラムニクはカールセンに追いつくために)。cポーン突きができないように強いられたので黒は …e5 突きの捌きで反撃策を見出さなければならない。白の方は局面を支配し続けたい。さらには黒がcポーン突きができないのにつけ込んでクイーン翼にキャッスリングしキング翼攻撃を図るかもしれない。

7.Qc2

 最近の別の試合では白が次のように非常に古典的な手順に沿って展開するのが見られた。7.Bd2 a6 8.Qc2 Re8 9.a3 Bd6 10.h3 h6(両者とも手得を争っている。黒は白がビショップをf1から動かすかクイーン翼にキャッスリングした後で初めてc4のポーンを取りたい)11.cxd5 exd5 12.Bd3 Bd7 13.b4

しかし2009年ハンティマンシースクでのラズニツカ対マメジャロフ戦では以下 13…Na7! 14.Na4 b6 と進んで黒が十分に反撃できた。

7…Re8 8.Bd2

8…Bf8!?

 これはクラムニクの新手で、b4の地点を空けてナイトが行けるようにしている。ビショップが下がる時はこの戦法ではd6に行くのが普通である。しかし 8…dxc4 9.Bxc4 Bd6(9…e5 10.Qb3 は少しまずい)では 10.O-O で白が優勢になる。2007年アンドラでのヤコブセン対ソラ=プラサ戦ではすぐに 8…e5!? 9.dxe5 Nxe5 と行ったが 10.cxd5!(この試合では 10.Nxd5 Bxd2+ 11.Qxd2 Ne4 12.Qc2 Ng4

で全然わけの分からないことになった)10…Nxf3+(10…Nxd5?? は本譜と異なり 11.Nxd5 Bxd2+ 12.Qxd2 のため不可能である)11.gxf3 Bxc3 12.Bxc3 Qxd5 13.Rg1!?

で白が主導権を握れたはずだった。

9.a3 e5

10.dxe5

 こちらを取るのが正着である。10.cxd5?! は 10…Nxd4! 11.exd4 exd4+ 12.Ne2 Qxd5 となって駒を犠牲に中央側の立派な2ポーンと強い圧力を得て黒が指し易くなる。

10…Nxe5 11.cxd5 Nxd5

 ここでクラムニクの新手の核心が明らかになった。a3 と …Bf8 の挿入により黒がポーンを取り返すことができ、そのことで中原の支配を十分維持している。

12.O-O-O!

 主導権争いをしているのでナカムラは当然二重fポーンになることを恐れない。

12…Nb6!

 これは良い判断である。黒は 13.Nxd5 Qxd5 14.Bc3 の狙いに対処する必要があった。そして 12…Nxf3 13.gxf3 Nxc3 14.Bxc3 Qh4 15.Bd3 と単純化を図るのは白が黒のキング翼に対して長期的に有益な主導権を得ることになる。

13.Ne4

 白は何らかの圧力を得ようとするなら黒枡ビショップをなんとしても働かせなければならない。

13…Nxf3 14.gxf3 Qh4 15.Bc3

 最初は直前の変化とあまり変わりないように見えるかもしれない。白のビショップがc3から黒のキング翼をにらみ攻撃が非常に強力になるのが確実ではないか?しかしクラムニクはその先まで見通していてe4にナイトがいることを利用してg列をふさぐことができることに気づいていた。

15…Bf5! 16.Bd3

16…Bg6

 16…Nd5!? は 17.Nf6+ Nxf6 18.Bxf5 と来られる可能性があるので指すのに勇気がいった。しかし実際は 18…g6 で黒が大丈夫だろう。確かに 19…Bg7 で防御を強化する用意があり、19.Bd7 Nxd7 20.Rxd7 Bd6 となって対角斜筋に潜在的な弱点を抱えても十分堅固に見える。

17.f4

 クイーンをh4から容易にどかすことができないので白は攻撃を続けたいならg6のビショップを不安定にしなければならない。

17…Rad8 18.f5!?

18…Rxd3!

 これはうまい防御でクラムニクの実戦的な手である。交換損の犠牲で黒はキング翼の状況を管理下に収め相当の反撃の可能性を得た。黒が避けなければならないのは 18…Bxf5? 19.Nf6+ gxf6 20.Bxf5 で、ポーン得してもあまりに多くの攻撃の筋を与えすぎる。しかし 18…Bh5 19.Rdg1 Nd5 とするのは可能だったろう。黒陣は少し危なそうで例えば 20.Rg3 Nxc3 21.Nxc3 となったとしてクイーンとビショップが少し妙な所にいるがせいぜい形勢不明という程度かもしれない。

19.Nf6+!?

 白は 19.Qxd3!? Bh5 20.Rhg1 Rxe4 21.Bxg7 で駒損の攻めを成功させたいがあいにくなことに次のような「絶対手」の手順で黒が少なくとも形勢互角である。21…Bxd1 22.Bf6+ Rg4 23.Qxd1(23.Bxh4? には 23…Rxg1)23…Qxf6 24.Rxg4+ Bg7

19…gxf6 20.Qxd3

20…Qxf2!?

 局後の検討でクラムニクは危険すぎると感じた 20…Bh5 よりも本譜の方を気に入っていた。実際 21.Rhg1+ Kh8 22.Qd4! Qxd4 23.Rxd4 Be7 24.Rg3

となると黒陣はあまり誇れたものではない。白の両ルークはh列から攻め込むのに好位置を占めていて、b6のナイトが動くことになれば7段目に侵入するのにも好都合である。しかしそうは言っても黒が悪いわけではなく 24…Be2 25.Rh3 Bf1 26.Rh5 Be2 と千日手に誘うかもしれない。

21.fxg6 hxg6

 局面は非常にアンバランスだが、ここまでずっとそうであったようにほぼ互角の形勢である。

22.Bd4 Nd5 23.Kb1

23…c5!?

 これは勝とうとする手である。すぐに 23…Nxe3? は白に 24.Rhf1 でこのナイトの釘付けを利用されてうまくいかない。

24.Rhf1

 ナカムラにしては穏健な手である。彼なら 24.Bxc5 Bxc5 25.Qxd5 Bxe3 26.Rhf1 Qh4 27.Qxb7

と勝負に出ることを期待するかもしれないが 27…f5 の後の黒の潜在力が気に入らなかったのだと思う。b2が標的になりfポーンもうるさい存在になる。

24…Qxh2 25.Bxf6 Nxf6 26.Rxf6 Bg7 27.Qb5!

 白は足元に注意を払い駒の交換を図る時機である。

27…Bxf6 28.Qxe8+ Kg7 29.Qb5

 これでもまだこの米国選手の方が少し心もとなく見える。しかし彼は7段目に沿って十分な反撃を呼び起こすことができる。

29…Qg2 30.Rd7

30…Qe4+

 これは分別のある手である。実際 30…b6 31.Rxa7 Qe4+ と危険を冒すのは非常に勇敢な(あるいは無茶苦茶な)人のやることである。

31.Ka2 Qe6+ 32.Kb1 Qe4+ 33.Ka2 Qe6+ 34.Kb1 Qe4+ ½-½

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(この号終わり)

2010年06月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(174)

「British Chess Magazine」2010年4月号(1/1)

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世界チーム選手権戦

    平均 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 得点 勝ち点
1 ロシア 2728 3 2 3 24 15
2 米国 2629 1 3 2 3 3 3 21½ 13
3 インド 2606 1 2 3 21 13
4 アゼルバイジャン 2683 2 3 2 3 3 22 12
5 アルメニア 2662 2 2 1 3 20½ 12
6 ギリシャ 2583 1 3 3 18 8
7 イスラエル 2670 1 2 3 17 7
8 ブラジル 2587 1 ½ ½ 1 12½ 4
9 エジプト 2488 ½ 1 1 1 1 2 12 3
10 トルコ 2464 ½ 1 1 1 ½ 2 11½ 3

第7回世界チーム選手権戦、ブルサ(トルコ)、2010年1月5-13日
6人編成、4人対局番勝負、90分/40手+30分/残り、30秒加算/毎手

第5回戦
□ボリス・ゲルファンド(イスラエル)
■ヒカル・ナカムラ(米国)
キング翼インディアン防御 [E97]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7

9.Nd2 Ne8 10.b4 f5 11.c5 Nf6 12.f3 f4 13.Nc4 g5 14.a4 Ng6

15.Ba3 Rf7 16.b5 dxc5 17.Bxc5 h5 18.a5 g4 19.b6 g3

 キッドのこの周知の戦型には驚くべき対称性がある。両選手は反対翼で攻撃し、その間相手のしていることは横目で見ながら無視する。ほとんど衝立(ついたて)チェスである。

20.Kh1 Bf8 21.d6!?

 21.Bg1 が2、3のグランドマスターの試合で指されている。

21…axb6

22.Bg1

 ミハイル・ゴルベフは「Chess Today」で 22.axb6 Rxa1 23.Qxa1 cxd6 24.Rd1 Ng4!? という過激な攻め手順を推奨していて黒が良さそうである。

22…Nh4! 23.Re1

 23.hxg3!? が魅力的な手だがキングの前のポーンを取るのは非常に危険である。

23…Nxg2!?

 以降の手順はこの地点で起こることをめぐって進行する。

24.dxc7?

 このかなり形勢を悲観した手の後ナカムラは華々しい指し回しでやっつけた。白は 24.Kxg2 と取るべきで 24…Rg7 25.dxc7 Qe7 26.Nxb6 Nxe4!? 27.Qd8 Bh3+ 28.Kxh3 Rxd8 29.Bc4+ Kh8 30.Nxe4 Qxc7

という度肝を抜くような大立ち回りがある。

24…Nxe1! 25.Qxe1 g2+! 26.Kxg2 Rg7+ 27.Kh1 Bh3! 28.Bf1 Qd3!!

 序盤では衝立チェスが見られた。しかしここでは別の変種の「あげちゃうチェス」に酷似している。そこでは相手に自分の駒を取らせるように指し進める。

29.Nxe5 Bxf1! 30.Qxf1

 ヒカルがまた自分のクイーン当たりをほったらかしたまま絵に描いたように勝つ手を探している様子が想像できる。しかし残念ながら彼は現実に戻りもっと平凡なやり方で試合を決めることに満足しなければならない。

30…Qxc3 31.Rc1 Qxe5 32.c8=Q Rxc8 33.Rxc8 Qe6 0-1

 黒は駒の丸得で白には代償がない。

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(この号終わり)

2010年07月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(175)

「Chess Life」2010年3月号(1/7)


表紙について
ヒカル・ナカムラとアレグザンダー・オニシュクは個人別金メダルを獲得した。チームで最も若い方のグランドマスターのロバート・ヘスとレイ・ロブソンはチームの銀メダル獲得に奮闘した。チームの他のメンバーは元米国選手権者のユーリ・シュールマンとバルージャン・アコビアンである。IMジョン・ドナルドソンはキャプテンを務め18ページからの記事本文を書いた。

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取る取るトルコ

IMジョン・ドナルドソン

トルコでの世界チーム選手権戦でヒカル・ナカムラとアレグザンダー・オニシュクが個人金メダルに輝き米国を銀メダルに導く

 ブルサ(トルコ)のメリノス会議センターで2010年1月4日から13日まで開催された世界チーム選手権戦で米国は準優勝し、FIDEチーム戦での好成績の伝統を守った。10チームによる総当たりで第5シードの米国は6勝2敗2分で勝ち点13をあげ銀メダルを獲得した。ヒカル・ナカムラ(8戦6点)とアレックス・オニシュク(9戦6½点)はチームに大きく貢献し、それぞれ第1席と第2席で個人金メダルを獲得した。

 米国は平均年齢25歳の自国最年少チームの一つを派遣した。第1席がヒカル(22歳)、第2席がアレックス(34歳)、第3席がユーリ・シュールマン(34歳)、第4席がバルージャン・アコビアン(26歳)、第1補欠が18歳のロバート・ヘスで、第2補欠が15歳のレイ・ロブソンだった。レイはFIDEのチーム戦に出場する米国最年少選手としてボビー・フィッシャーの持っていた記録(1960年ライプチヒでの17歳)を破った。


トロフィーを持っているのはキャプテンのIMジョン・ドナルドソン
国旗の後ろに左から右へアレグザンダー・オニシュク、ヒカル・ナカムラ、ロバート・ヘス、バルージャン・アコビアン、ユーリ・シュールマン、そしてレイ・ロブソン

米国チーム個人成績

名前 棋力 席順 得点 局数 勝ち 分け 負け 勝率 相手平均 実効棋力
GMナカムラ、ヒカル 2708 6 8 5 2 1 75.0 2658 2851
GMオニシュク、アレグザンダー 2670 9 4 5 0 72.2 2643 2809
GMシュールマン、ユーリ 2624 7 0 5 2 35.7 2618 2516
GMアコビアン、バルージャン 2628 8 2 5 1 56.3 2578 2621
GMヘス、ロバート 2572 補欠1 1 2 1 0 1 50.0 2564 2564
IMロブソン、レイ 2570 補欠2 1 2 0 2 0 50.0 2548 2548

最終順位表

順位 国名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 勝点 得点 + = -
1 ロシア 3 2 3 15 24 7 1 1
2 米国 1 3 2 3 3 3 13 21½ 6 1 2
3 インド 1 2 3 13 21 6 1 2
4 アゼルバイジャン 2 3 2 3 3 12 22 5 2 2
5 アルメニア 2 2 1 3 12 20½ 5 2 2
6 ギリシャ 1 3 3 8 18 4 0 5
7 イスラエル 1 2 3 7 17 3 1 5
8 ブラジル 1 ½ ½ 1 4 12½ 2 0 7
9 エジプト ½ 1 1 1 1 2 3 12 1 1 7
10 トルコ ½ 1 1 1 ½ 2 3 11½ 1 1 7

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(この号続く)

2010年07月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(176)

「Chess Life」2010年3月号(2/7)

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取る取るトルコ(続き)

IMジョン・ドナルドソン

第1回戦
トルコ(2483) 1-3 米国(2658)
GMキバンク・ハズネダログル(2498) 0-1 GMヒカル・ナカムラ(2708)

 大会の出だしは危険な若いトルコチームを危なげなく下して順調だった。トルコチームは後で2008年銀メダルのイスラエルを破った。第1席のヒカルは黒で早々と勝ってこの大会を通しての絶好調の前触れとなった。

第2回戦
米国(2658) 3-1 インド(2639)
GMヒカル・ナカムラ(2708) 1-0 GMクリシュナン・サシキラン(2653)

第3回戦
ロシア(2719) 3-1 米国(2658)
GMアレクサンドル・グリシュク(2736) ½-½ GMヒカル・ナカムラ(2708)

 ヒカルの試合はずっと互角で、一時はアレックスの方が良かったようだが終わり頃は気をつけなければならない状態で、引き分けは順当な結果だった。

第4回戦
米国(2610) 3-1 エジプト(2514)

第5回戦
イスラエル(2684) 1½-2½ 米国(2630)
GMボリス・ゲルファント(2761) 0-1 GMヒカル・ナカムラ(2708)

 ヒカルは次の断然話題となるド派手な勝利で絶好調であることを知らしめた。

キング翼インディアン防御 /古典主流戦法 [E97]
□GMボリス・ゲルファント(FIDE2761、イスラエル)
■GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708、米国)
世界チーム選手権戦第5回戦、2010年1月9日

解説 ナカムラ

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Nd2 Ne8!?

 定跡ではこの戦型は黒が不利とされている。この戦法が初めて私の注意を引いたのは2008年にモントリオール国際大会に参加した時だった。第1回戦で親友のGMパスカル・シャルボノがこの戦法を用いて短手数で勝った。後で別の友人のFMジャック・ユースもこの戦法を指したことがあるのが分かった。そんなこんなで二人とも私にこの戦法を採用する気にさせてくれた。この次は絶対飲み物をおごってあげよう。

10.b4 f5 11.c5 Nf6 12.f3 f4 13.Nc4 g5 14.a4 Ng6 15.Ba3 Rf7

16.b5

 次の実戦は最終的に勝つことは勝ったが今もってわけが分からない。16.a5 h5 17.b5 dxc5 18.b6!(18.Bxc5 g4 は本譜に戻る)18…g4 19.bxc7 Rxc7 20.Nb5 g3 21.Nxc7 Nxe4!

ベリヤフスキー対ナカムラ、新鋭対古豪戦、2009年

16…dxc5 17.Bxc5 h5 18.a5 g4 19.Kh1 g3 20.b6 Bf8

21.d6!

 これは新手だった。初めて私の注意を引いた試合で指された手は 21.Bg1 だった。21…Nh4 22.Re1 Nxg2! 23.Kxg2 Rg7 24.Nxe5 gxh2+ 25.Kh1 Nxe4! 0-1 ルーズモン対シャルボノ、モントリオール、2008年

あの大会の間モントリオールのシャルボノの家に泊まっていなかったらこの手順に全然気がつかなかったことだろう。幸いにして気がつき、キング翼インディアンへの愛にまた火がついた。この試合の後まもなくチェスのいろいろなウェブサイトで一部の人が 21.Bxf8?? なら白の勝ちと考えていることに気がついた。実際はたちどころに負けになってしまう。21…Nxe4! 22.Nxe4 Qh4 23.h3 Bxh3

h2での詰みの狙いが受からず黒の勝ちである。

21…axb6

22.Bg1

 22.axb6 は 22…Rxa1 23.Qxa1 cxd6 24.Rd1 Ng4! 25.fxg4 Qh4 26.Bg1 hxg4

のあとすぐに …f4-f3 から …g3-g2 がやって来て黒の勝ちになるはずである。また 22.dxc7 も良くなく 22…Qxd1 23.Rfxd1 Bxc5 24.Nxb6 Bxb6 25.axb6 Rxa1 26.Rxa1 Kg7

となって黒が駒のもつれをほどくのは簡単ではないがいずれは黒が勝つはずである。

22…Nh4 23.Re1 Nxg2

24.dxc7??

 大きなプレッシャーのもとでとんでもないポカが飛び出した。24.Kxg2 なら引き分けになるが「マトリックス」を言い換えると「我々はまだ人間にすぎない」である。24.Kxg2 Rg7 25.dxc7(25.hxg3 Qd7!?[25…Rxg3+ の方が少し安全で実戦ではそれを選択していただろう。26.Kh1 Rh3+ 27.Bh2 Ng4 28.Qd5+ Kh7 29.Qf7+ Bg7 30.fxg4 Rxh2+ 31.Kxh2 Qh4+ 32.Kg2 Qg3+ 33.Kh1 Qh3+ 34.Kg1 Qg3+ 35.Kf1 Qh3+ 36.Kf2 Qg3+

どうしようもない千日手になる]26.g4 hxg4 27.fxg4 Nxg4 28.Bxg4 Rxg4+

これは大乱闘で、何がどうなっているのか分からない)25…gxh2+ 26.Kh1 hxg1=Q+ 27.Rxg1 Qxc7

まだいろいろ指す余地が残っているが形勢はほぼ互角である。

24…Nxe1 25.Qxe1

 25.cxd8=Q g2#

25…g2+!

 25…Qxc7 でも黒がだいぶ優勢だがまだまだ頑張らないといけないだろう。

26.Kxg2 Rg7+ 27.Kh1 Bh3 28.Bf1 Qd3!!

 これには度肝を抜かれただろう。この時点でボリスは長考に沈み頭を振り始めた。嵐を乗り切ったと思ったとたんもっと不快な目に合うことほど嫌なことはない。

29.Nxe5 Bxf1 30.Qxf1 Qxc3 31.Rc1 Qxe5 32.c8=Q Rxc8 33.Rxc8 Qe6 白投了

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(この号続く)

2010年07月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(177)

「Chess Life」2010年3月号(3/7)

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取る取るトルコ(続き)

IMジョン・ドナルドソン

第6回戦
米国(2658) 3-1 ブラジル(2584)
GMヒカル・ナカムラ(2708) 1-0 GMラファエル・レイタオ(2620)

 ヒカル・ナカムラはブラジルの副将のGMラファエル・レイタオを見事に下し彼に今大会唯一の負けを与えた。

第7回戦
ギリシャ(2600) 1½-2½ 米国(2658)
GMバシリオス・コトロニアス(2599) 0-1 GMヒカル・ナカムラ(2708)

 試合開始から数時間が経過し第2席から第4席が引き分けに終わってすべてはヒカルの試合にかかっていた。しかし形勢は少し悪そうで勝つ可能性はなさそうだった。彼はラスカー流の危険を覚悟の勝負手に出て、相手に時間を大量に使う代価を払わせて攻めてこさせた。これが功を奏しコトロニアスは難解な局面で時間に追われてポカを出した。

第8回戦
アルメニア(2683) 2½-1½ 米国(2658)
GMレボン・アロニアン(2781) 1-0 GMヒカル・ナカムラ(2708)

 この回戦はくしくも前の回戦と似ていた。またしても何時間も経たないうちに第2席から第4席が引き分けかそれになりそうですべては頂上対決にかかっていた。今回は事態がヒカルにとってうまくいかず、世界第5位の選手レボン・アロニアンとの死闘で今大会唯一の負けを喫した。後にガリー・カスパロフがこの試合で見せた両者の独創力と闘志をほめたたえていた。

キング翼インディアン防御 /古典主流戦法 [E99]
□GMレボン・アロニアン(FIDE2781、アルメニア)
■GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708、米国)
世界チーム選手権戦第8回戦、2010年1月12日

解説 GMベン・ファインゴールド saintlouischessclub.org の好意による

1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.c4 Bg7 4.Nc3 d6 5.e4 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7

 ナカは前のゲルファント戦の大勝利のあとでまたキング翼インディアンを採用した。

9.Ne1

 ゲルファントは 9.Nd2 と指したのでアロニアンは別の主手順を選択した。

9…Nd7 10.Nd3 f5 11.Bd2 Nf6 12.f3 f4 13.c5 g5 14.cxd6 cxd6 15.Nf2 Ng6 16.Qc2 Rf7 17.Rfc1

17…Ne8

 両対局者はここまで 9.Ne1 戦法の主手順を指してきたがここでヒカルはそれほど知られていない手を指した。17…a6 または 17…h5 の方が普通である。考え方は基本的に同じである。白はクイーン翼に圧力をかけ黒がキング翼で攻勢を強めるのを止めようとする(前のゲルファント対ナカムラ戦を参照)。

18.a4 h5

19.Ncd1

 これはアロニアンの新手だった。19.h3 が主手順である。ここから両対局者は自分の力で指しヘビー級の大局観による捌きが始まる。

19…Bf8 20.Ra3 a6 21.Qc3 Bd7 22.Qa5

 白はこれらの長い主手順では詰みの脅威が減るように常にクイーンの交換をしたがる。ヒカルはそれに応じない。

22…b6 23.Qb4 Rg7 24.Rac3 Nh4 25.h3 Be7 26.Be1 Qb8 27.Kf1 Bd8 28.Rb3 Bc7 29.Qa3 Qd8 30.Rbc3 Bb8 31.b4 Ra7

 両者とも一歩も引かず、相手の作戦を妨げようと駒の再配置に努めている。ここでアロニアンは交換損の犠牲でクイーン翼を開けさせようとした。

32.Rc6!? b5

 ヒカルはクイーン翼を閉じたままにし白にパスcポーンとd5の地点を与えない方を選んだ。しかしアロニアンはまったくしつこい。

33.axb5 axb5 34.Ra6 Rb7 35.Rcc6! Bxc6

 ヒカルは白が深入りしすぎているので苦労はあっても戦力を得した方が良いと判断した。白はクイーン翼を突破したが黒のキング翼攻撃は頓挫している。

36.dxc6 Ra7 37.Nc3 d5!?

 ナカは Bb8 をd6ポーンの背後に埋葬したくなかった。それでこいつを放り捨てて後でd6の地点を使えるようにした。

38.Nxd5 Nf5 39.exf5 Qxd5 40.Ne4 Rgc7

 時間切迫が終わって白は非常に強固な陣形になっている。ここでは 41.Qa5! が最強の手だがアロニアンはポーンを取り、既に強大になっているナイトをさらに強化することにする。

41.Nxg5 Ng7?

 世界最強の選手の一人に対して堂々と受けてきたヒカルだったがここでつまづいた。派手な手筋を見落としていた。比較的良い手は 41…Nd6 で、黒がしのげるかもしれない。

42.Rb6!!

 これは驚愕の戦術手段で、戦闘の真っ最中には見のがし易い。ヒカルはこの強手に対して最善手で応じた。ここで黒が 42…Rxa3 と指せば 43.Rxb8+ Ne8 44.Rxe8+ Kg7 45.Ne6+ Kh7 46.Nxc7 で白が勝つ。

42…Nxf5 43.Rxb8+ Kg7 44.Qb2!

44…Ra2?

 ここは 44…Ne3+ 45.Kg1 Rxc6 の方が良かった。それでも黒が負けるかもしれないが白にとっては実戦よりもずっと難しい。難解な局面で両者とも持ち時間が20分を切っているのでどちらから悪手が出てもうなずける。

45.Qb1 Rc2 45.Rxb5!

 どちらも遠くのナイトを使ってルークを守っている。

46…Qd6 47.Rb7 Kh6 48.Kg1!

 アロニアンは時間に追いまくられていたが好手を連発している。

48…Qxc6 49.Nf7+ Rxf7 50.Rxf7

 黒は戦力損がひどい。両者とも派手に戦ってきたがヒカルは 42.Rb6! の素晴らしい手筋一発から回復できなかった。

50…Ne3 51.Ra7 Qd5 52.Qa1 Nxg2 53.Qa6+ 黒投了

(GMユーリ・シュールマン)検討が済んだとき我々の注目は全部残りの2局に移った。オニシュクは大丈夫そうだったがヒカルの形勢は好転していなかった。ついに彼に好機が来た。…Nd6 スポンサーでサポーターのトーニー・リッチを始め米国チーム全員は自由対局室で「祈って」いた。「ヒカル、…Nd6!、…Nd6!」ヒカルはe8のナイトをつかみそれをg7に進めた。我々はみな落胆のため息をもらした。ナカムラが負け我々の金メダルの望みも消えた。ついでに言えば我々が最後に残ったヒカルの試合を待っていたのはこれが初めてではなかった。前の日彼はギリシャとの厳しい試合を行なっていて我々はみな彼を応援していた。その日は彼が勝った。

第9回戦
米国(2658) 2-2 アゼルバイジャン(2651)
GMヒカル・ナカムラ(2708) ½-½ GMガディル・グセイノフ(2614)

 我々はアゼルバイジャンが上位4人をぶつけてくるのではないかとある程度予想していた。しかし既に3敗(前の回のコトロニアス戦では危うく4敗目を喫するところだった)していたガシモフについては分からなかった。ヒカルと黒番では当たりたくないかもしれない。翌朝彼の名前が出場選手になかった時も我々は驚かなかった。しかし本当に驚いたのはGMテイモウル・ラジャーボフの名前がなかったことだった。ブルサで衝撃的なほど好調のシャクリヤル・マメジャロフに次いでチームの得点源だったラジャーボフはこれまで7戦して5点をあげていた。

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(この号続く)

2010年07月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(178)

「Chess Life」2010年3月号(4/7)

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2009年ロンドン

ナカムラ スーパーになる

イアン・ロジャーズ


『あれは鳥か?飛行機か?いや、あれは米国のスーパーGMだ』

 12月に米国チャンピオンのGMヒカル・ナカムラは現代の達人中の二人、クラムニクとカールセンを擁する招待8選手総当たりのロンドンクラシックで競技した時、頂点の世界を初めて味わった。

 ナカムラは初めてレイティング2700の壁を破るなど2009年はずっと好調だった。しかしロンドンクラシックは一段上でニューヨーク出身の22歳はそれを知っていた。「これは人生で最強の大会です」とナカムラはクラシックの始まる前日に認めた。「二人ほど明らかに弱い選手[地元のルーク・マクシェーンとデイビド・ハウエル]のいる異例の[スーパー大会]です。マグヌスとウラジーミルとは堅実に指して、それでどうなるか見てみたいです。」

 一番最初の記者会見からナカムラは「単なる」2700選手と世界のエリートとの差にも気づいたに違いない。記者団からのほとんどすべての質問はクラムニクかカールセン、それも後者、に向けられていた。

 クラムニクがGMガリー・カスパロフを王座から引きずりおろした所から歩ける距離のオリンピアにある500席の劇場で対局して、ナカムラはクラムニクでもその他の一人にすぎないと理解し始めることができた。

 それでもロンドン大会では評判とレイティングが示すほど自分が最強者から離れていないこともナカムラは分かっただろう。

2009年ロンドン・チェスクラシック一覧
日付 2009年12月7-15日
場所 ロンドン・ケンシントン、オリンピア会議センター
順位
優勝 マグヌス・カールセン(ノルウェー)13点
2位 ウラジーミル・クラムニク(ロシア)12点
3-4位 デイビド・ハウエル(イングランド)、マイケル・アダムズ(イングランド)9点
5位 ルーク・マクシェーン(イングランド)7点
6-7位 フワ・ニー(中国)、ヒカル・ナカムラ(米国)6点
8位 ナイジェル・ショート(イングランド)5点
勝ち=3点、負け=0点、引き分け=1点

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(この号続く)

2010年07月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(179)

「Chess Life」2010年3月号(5/7)

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2009年ロンドン(続き)

ナカムラ スーパーになる

イアン・ロジャーズ

 カールセンが首位に向けて突っ走っている間ナカムラは「並み」を相手に勝ちきることがどんなに大変なことかを味わっていた。

 第1回戦で中国のフワ・ニーを巧妙な手筋で翻弄した。

巧妙な手筋
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2715、米国)
GMフワ・ニー(FIDE2665、中国)

 フワ・ニーはナカムラが次の手を指すまで自陣がまったく安泰だと思っていたようだった。

19.Ba5!!

 これに対しフワは戦力損をしなければならないことに気づいて長考に沈んだ。指したのは結局次の手だった。

19…Qe8

 しかしそのあと

20.Bb4 Bxa4 21.Qa3

 となってf8のルークが助からなくなった。それでもフワ・ニーは収局を目指した。

21…Bxe5 22.dxe5 Bb5 23.Rfe1 d4 24.Bxf8 Qxf8 25.Qxf8+ Kxf8

 この後ナカムラに2、3の不正確な手が出て20手後に中国のグランドマスターが引き分けをもぎ取ることができた。

 翌日ナカムラは立場が逆転し、10年来のイングランドの最強選手のマイケル・アダムズ相手に必死の収局にしがみついていた。その次は元世界選手権戦挑戦者のナイジェル・ショートとの平穏な引き分けで一息ついたに違いない。

 3局で3引き分けは悪い報酬ではないが、今のチェスで最も厳しい挑戦が待っていた。カールセンとの黒番。

 試合自体はナカムラにとって刺激になった。ほとんどの間新世界最強者に圧力をかけ、その後カールセンがチェックの千日手でかろうじて逃れた。

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(この号続く)

2010年08月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(180)

「Chess Life」2010年3月号(6/7)

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2009年ロンドン(続き)

ナカムラ スーパーになる

イアン・ロジャーズ

 しかし本当の衝撃は対局後の記者会見で起こった。その解説室で両対局者が立見席だけの観衆に自分の読みを説明していた。

衝撃
GMマグヌス・カールセン(FIDE2801、ノルウェー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2715、米国)

32.Qe2

 記者会見でカールセンは 32.Re2! と指さなかったことを悔やんでいる、なぜなら 32…Qf3+ 33.Kg1 Rf4 という攻撃は 34.gxf4 Nxf4 35.Qe4 で成立しないから、と言った。ナカムラはあっさりした分析で 32.Re2 の後は白が良いかもしれないと認めた。

 実際はカールセンは 32.Re2?? と指さなくて非常に幸運だった。というのはナカムラは間髪をいれず 32…Ne3+!! を見つけて即勝ちになっていたに違いないからである。次の日カールセンは記者会見の冒頭で見落としについて陳謝し「非常に当惑している」と認めた。

 翌日カールセンはニーに勝って、盛り返してきたクラムニクに先行したままだった。しかしナカムラは超一流大会での「格下選手」が非常に危険な存在になり得ることを身をもって味わっていた。マクシェーン戦でナカムラは強烈な序盤の新手をぶつけられその後ずっと踏ん張り続けたが実を結ばなかった。追い討ちをかけるように、マクシェーンにはあとで-かなり意外だが-この勝利に対して1500ドルの名局賞が与えられた。

 ここまでにはもうナカムラは超一流大会での別の真実に気づいていた。対戦が熾烈なので1勝は非常に貴重で一方たった1敗でも順位表の最下部に押しやられる可能性がある。

 最後の2戦でナカムラは50%に戻そうと懸命に努力したがハウエルもクラムニクも勝つ可能性を与えてくれずさらに2引き分けが積み重なった。

 「結果に満足してはいないが予想したほどがっかりしてもいない」とナカムラは認めた。「最強の二人には屈しなかった。それはこれから先の大会(世界チーム選手権戦とベイクアーンゼー)に良いきざしである。1局と二つのポカを除いてはよく指した。」

 ナカムラの多くのファンは1990年ティルブルグでの超一流大会でガータ・カームスキーが衝撃的なデビューを飾ったことを再現することを期待していただろうが現米国選手権者が落胆しなかったのは適切だった。ナカムラは強豪の集まった大会で指したことはあったが自分の明らかな才能に付け加えるべき堅実さをまだ身に着けていなかった。

 さらに彼はカールセンが順位で世界最高にもかかわらず負けそうになるのをじかに見ることができた。実際最終2回戦ではカールセンの楽隊車から車輪がほとんど外れそうになった。ノルウェー選手はイングランドの長年にわたる2強のアダムズとナイジェルにもう少しで負けるところで、なんとか両方の試合を引き分けに持ち込んだ。(どちらかの試合でカールセンが負けたらGMべセリン・トパロフが世界の最高レイティング選手のままだった。)

 虎口を脱したカールセンはクラムニクをなんとかかわし世界ランキングの首位を奪うことができた。しかし彼はやはり人間で、平凡な大会になってしまうこともあり得ることも示した。そこで再びナカムラが自問するかもしれないが、首尾一貫しないカールセンがロンドンクラシックのような大会に優勝することができるならば、カールセンが最高の調子の時に自身と他の最上位グランドマスターたちにどのような希望が残っているだろうか。

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(この号続く)

2010年08月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(181)

「Chess Life」2010年3月号(7/7)

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2009年ロンドン(続き)

ナカムラ スーパーになる

イアン・ロジャーズ

 最終局の激闘の後クラムニクとナカムラは検討室に同席し読み筋を披露した。いつものようにクラムニクはすごい変化で観客をうならせた。

クイーン翼ギャンビット拒否/ラゴージン防御 [D38]
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2715、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2772、ロシア)

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 d5 5.Qa4+ Nc6 6.e3 O-O 7.Qc2 Re8

 (ク)「ナイトがc6にいるので黒の作戦は …e5 と仕掛けていくしかない。」

8.Bd2 Bf8 9.a3 e5

10.dxe5

 (ク)「戦術的に 9…e5 が成立するのは 10.cxd5 に対して 10…Nxd4!! 11.exd4 exd4+ 12.Ne2 Qxd5

で黒が猛攻できるからである。」

10…Nxe5 11.cxd5 Nxd5

12.O-O-O

 (ク)「12.Nxe5 Rxe5 13.O-O-O とやってくる手も読んでいたが 13…Bf5! 14.e4 Nxc3 15.Bxc3 Qg5+ 16.Qd2 Qxd2+ 17.Rxd2 Rxe4 18.Bd3 Rf4 19.Be5

で黒が大丈夫だと思っていた。ここでは交換損しなければならないが 19…Rxf2! 20.Rxf2 Bxd3 で黒が良いと思う。」

12…Nb6 13.Ne4

 (ナ)「これは最も攻撃的な手である。」

13…Nxf3 14.gxf3 Qh4 15.Bc3 Bf5 16.Bd3 Bg6 17.f4 Rad8

 (ク)「ここでは 18.Ng3 を予想していた。以下は 18…Bxd3 19.Rxd3 Rxd3 20.Qxd3 c6 となって私なら黒を持ちたい。」

18.f5! Rxd3!?

 (ナ)「実は 18…Bh5 と指されたらどう指したら良いか分からなかった。」

19.Nf6+! gxf6 20.Qxd3

20…Qxf2!

 (ナ)「20…Bh5 なら 21.Rdg1+ Kh8 22.Rg3 と指すつもりだった。そして 22…Bd6 とくれば 23.f4 で 24.Be1 でクイーンを捕まえる狙いがある。」

21.fxg6 hxg6

22.Bd4!

 (ク)「ほとんど 22.Rhf1 Qxe3+ 23.Qxe3 Rxe3 24.Rd8

を読んでいた。それなら 24…Rxc3+! 25.bxc3 f5 26.Rb8 Nc4 27.Re1 Kg7 28.Rxb7 Bxa3+ 29.Kc2 Bd6

と指す予定だった。変わった局面だが黒にも勝つチャンスがあると思う。」

22…Nd5 23.Kb1

 (ク)「白は 24.e4 を狙っていてこちらが 23…Qh4 と指せば白は 24.Bxa7 と取ることができる。」

23…c5

 (ク)「23…Qf3 24.Bxa7 c6 25.Bd4 Qe4 26.Qxe4 Rxe4 27.Rd3 f5

はどうだろうと思っていた。しかし白は引き分けにできると思う。」

24.Rhf1 Qxh2

25.Bxf6!

 (ク)「この手が可能だとは信じられなかった。読んでいたのは 25.Bxc5 Bxc5 26.Qxd5 Qe5 27.Qxe5 Rxe5 28.Rxf6 Rxe3 29.Rd7 Re7 30.Rxe7 Bxe7 31.Rf1 f5

だったが白が 32.Rd1! で引き分けにできると思う。例えば 32…f4(32…Kf7 33.Rd7 g5 34.Kc2 g4 35.Kd3)33.Kc2 で白キングがかけつけるのに間に合う。」

25…Nxf6 26.Rxf6 Bg7

 (ク)「勝勢だと感じていたが勝ち筋を見つけられなかった。」

27.Qb5! Bxf6 28.Qxe8+ Kg7 29.Qb5

29…Qg2

 (ク)「gポーンを突いていきたかったが 29…b6 30.Rd7 g5 31.Rxa7 g4 のあと白に 32.Ra4!

がある。30…c4 31.Rxa7 Qe2 でも 32.Ka2!

があるので勝てない。32…c3 は 33.Qb3! があるので狙いにならない。」

30.Rd7 Qe4+ 31.Ka2 Qe6+ 32.Kb1 Qe4+ 33.Ka2 Qe6+ 34.Kb1 Qe4+ 引き分け

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(この号終わり)

2010年08月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(182)

「Chess Life」2010年4月号(1/4)

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カールセンがベイクアーンゼーで優勝

ナカムラがグランドスラム初参加で活躍

GMイアン・ロジャーズ
写真 キャシー・ロジャーズ

 2010年にはベイクアーンゼーの主催者は世界ナンバーワンのGMマグヌス・カールセンや世界チャンピオンのビスワーナターン・アーナンドのような魅力的なスーパースターだけでなく米国チャンピオンのヒカル・ナカムラもグランドスラム大会に初めて招待した。

 22歳のナカムラは戦うチェスを指すことで定評があり、12月のロンドンでのスーパー大会では彼の砲火の洗礼は既に世界のエリートに入らんとする1選手を鍛えるのに役立った。

 19歳のノルウェーの天才カールセンは優勝の大本命で激闘の13回戦のあと1万5千ドルの優勝賞金を獲得したが、大会のほとんどは4選手が優勝争いをしていた。その一人がナカムラだった。

・・・・・

 しかしナカムラとカールセンはシロフの後にぴったりとついていた。米国のナカムラは第2回戦でこの大会中最も華々しい勝利をあげた。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B96]
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708、米国)
GMローク・ファン・ベリ(FIDE2641、オランダ)
ベイクアーンゼー(第2回戦)、2010年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Nbd7 8.Qf3 Qc7 9.Bxf6!? Nxf6 10.g4

 ナカムラは「この戦型は今ではあまり見られない。通常は白はキャッスリングしてから2、3手後に g4 と突く」と説明した。「これはちょっと変わった戦型である。」

10…b5 11.g5 Nd7

 「黒が 11…b4 とやってくれば 12.Ncb5! で黒陣が非常にまずくなる。」

12.O-O-O

 これは一般的な局面の変形である。ここでの黒の主流手順は 12…Bb7(13.Bh3 と応じられる)と 12…b4(眼目の 13.Nd5 の捨て駒を誘発する)である。

12…Nc5 13.a3 Rb8

 これは黒のビショップがb7へ上がるより前に …b5-b4 と仕掛けようという典型的な作戦である。しかし断固とした非定型的な反発を食らった。13…Be7 と指す方が安全だった。

14.b4!

14…Nd7

 「対局の前にこの手を研究していた。黒が 14…Na4 とくれば 15.Ndxb5! axb5 16.Bxb5+ Rxb5 17.Nxb5 Qb6 18.Qd3 といくつもりだった。研究によれば次のように白がかなり良い。18…Bd7 19.Nxd6+ Bxd6 20.Rd2!」

15.Nd5!

 ここまでナカムラの時計は10分未満しか減っていなかったがファン・ベリは時間が少なくなり始めていた。

15…exd5 16.exd5 Be7 17.Re1

17…Ne5

 「ここで彼はすぐに駒を返すことにした。しかし 17…Nb6!? 18.Nc6 Nxd5! 19.Qxd5(19.Nxb8! Qxb8 20.Qxd5 Bb7 21.Bxb5+! の方がはるかに良い-ロジャーズ)19…Be6 20.Qg2 Rc8

と来られたら形勢に自信がなかった。例えば 21.Nxe7 Qc3 はわけが分からない。」

 17…Kf8!? も白の駒捨てに対する大きな関門だった。その主眼は 18.Nc6 に対して 18…Bb7! と応じられることで 19.Nxe7? には 20…Re8 があるので駒損を取り戻せない。

18.fxe5 Bxg5+ 19.Kb1 dxe5 20.Nc6

20…Bf6?!

 「ロークと私は 20…O-O の後 21.Rxe5! Bf6 22.Rh5 で黒が困っているという結論に達した。」

21.Bd3!

 この手にナカムラは20分以上を要した。しかし黒キングの安全な場所がなくなったのでそれだけの時間をかけた価値は十分あった。「当初は 21.Nxb8 Qxb8 22.Bd3 で交換得できると考えていた。しかし引き続いて黒がキャッスリングする必要がなく 22…Ke7! から …Qd6、…Bb7、…Rc8 と指せることに気がついた。黒がこの態勢になればこちらが非常に不利になる。 」

21…h5

 「これは小さなポカである。しかし 21…Rb6 でも 22.Nxe5 Bxe5 23.Qh5! で相手のキングが中央で立ち往生する。」たぶんファン・ベリは 21…O-O と指すつもりだったのだろうが 22.Rhg1! で白の攻撃が決まることに気づくのが遅すぎた。以下は例えば 22…Kh8 23.Bxh7!! Kxh7 24.Qxf6!! gxf6 25.Re4!

から 26.Rh4 で詰みになる。

22.Rxe5+! Bxe5 23.Re1

23…Bg4!

 これは勝負手である。e5のビショップを救うことはできない。なぜなら 23…f6 としても 24.Bg6+! Kd7(24…Kf8 25.Rxe5 Bd7 26.Re7)25.Rxe5! で白の術中にはまる。

24.Qf4!

24…O-O!

 「26…f6 の後 25.Bg6+ とチェックでき 25…Kf8 なら 26.Rxe5 からクイーンを取る狙いがある。また 25…Kd7 なら 26.Bf5+! Ke8 27.Nxe5 fxe5 28.Rxe5+ Kd8(28…Kf8 29.Bxg4+)29.Qg5+

で詰みになる。」

25.Rxe5!

25…g6?

 頑強な受けのあとファン・ベリは残り20分のうち15分をこの手に使ってナカムラをやり易くさせてしまった。「彼にとっては不運なことに自然な 25…Rbe8 は 26.Rxe8 Qxf4 27.Ne7+ Kh8 28.Rxf8# でうまくいかない。ロークは即負けにならない唯一の他の手を見つけ出した。」

 (実際には 25…f5! でまだ踏ん張れる。それに対して白はたぶんb8のルークを取るのをまだ我慢して 26.Qg5! で攻撃を続けるべきだろう-ロジャーズ)

26.Qf6!

 急に 27.Bxg6! という狙いができて黒はどうしようもない。

26…Rbe8 27.Ne7+ Rxe7 28.Rxe7 Qxh2 29.Bxg6! Qh1+ 30.Kb2 Qxd5

31.Bxf7+!

 「初めは 31.Be4 と指すつもりだったが 31…Qd2 32.Re5 Rd8 のあと決め手を見つけることができなかった。」

31…Qxf7

 31…Rxf7 は 32.Re8+ で詰みになる。

32.Rxf7 Rxf7 33.Qxa6 Kg7 34.Qxb5 Kg6 35.Qc4 Rd7 36.b5 Kg5 37.b6

37…Bf3

 「37…h4 には 38.Qb5+ Bf5 39.Qxd7! Bxd7 40.b7 で白が勝つ。」

38.Qb5+ Rd5 39.Qb3 黒投了

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(この号続く)

2010年08月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(183)

「Chess Life」2010年4月号(2/4)

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カールセンがベイクアーンゼーで優勝

ナカムラがグランドスラム初参加で活躍(続き)

 第7回戦はファン待望の対戦があった。第6回戦でナイジェル・ショートに開幕からの連勝を阻止され引き分けに持ち込まれたシロフにナカムラが挑戦した。

消火
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708、米国)
GMアレクセイ・シロフ(FIDE2723、スペイン)

 37…Rd8 の局面

 ナカムラはずっと圧力をかけ続けてきた。そしてシロフの残り時間が1分未満になってナカムラのパンチが炸裂した。

38.c5! dxc5 39.Bxe4! Rd6 40.Rxd6 Qxd6 41.Qxa5+ 黒投了

 ナカムラは「41.Qxa5+ Kb8 の後 43.Rd3! と指すつもりだった。黒からチェックがかからない」と解説してくれた。

 この大きな1勝でナカムラとカールセンがシロフにわずか半点差に迫った。しかし3人とも次の2、3回戦でつまずくことになる。

 元世界選手権者のGMウラジーミル・クラムニクはナカムラとカールセンを相次いで破った。

 クラムニク戦での負けはナカムラの運命の転換点になった。たぶんどの相手も危険な存在となる超一流大会における彼の経験不足がひびいたのだろう。翌日のセルゲイ・カリャーキン戦で容易に引き分けにできるところを無理なことを始めて2連敗を喫し米国人のコーラス優勝の希望に終止符を打つことになった。

 ナカムラはシロフ、クラムニクそれにカールセンが優勝争いをするのを眺めているしかなかった。

 ナカムラはGMセルゲイ・ティビアコフとの厳しい最終戦に勝ちアーナンドと同点4位になった。それでも米国の最強者はグランドスラムへの初参加に全然満足していなかった。

 「とても満足してはいません」とナカムラは大会の閉会式で述べた。「大会の前に+2[7½/13]を提示されたらもちろん受け入れたでしょう。しかし今は違います。カールセンが2点差で優勝してくれたら良かったのにと思います。優勝からたった1点差ではとても気分が悪いです。一番出来の良かったのは断然シロフ戦ですがクラムニク戦は全然ひどかったです。」

 それでもナカムラはベイクアーンゼーで大いに大活躍した。最も重要なことは彼がこのような超一流の仲間といるのがふさわしいということを証明したことだった。ナカムラはコーラス2010に優勝することを期待しないでやって来たことを認めた。将来のグランドスラム大会では招待されたら、または招待された時は-そうあるべきだが-彼の視線はもう少し上を向いているかもしれない。

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(この号続く)

2010年09月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(184)

「Chess Life」2010年4月号(3/4)

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収局研究室

ブリッツ!

GMパル・ベンコー

オスロ2009年

 ノルウェーでも自国のブリッツ世界チャンピオンに敬意を表して10人の選手を招待してブリッツ大会が開催された。優勝決定の短い番勝負でナカムラがカールセンを 2½-1½ で破った。特筆すべきは最終局でナカムラが勝勢にもかかわらず寛大にも引き分けに同意したことである。

つまづき
GMマグヌス・カールセン(FIDE2801、ノルウェー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2715、米国)
BNバンク・ブリッツ決勝戦、ノルウェー、2009年

 黒の手番

 1ポーン得は明解なポーン収局の中でも最も簡単に勝ちになるのが普通である。そのはずだったが?

61…Ka4 62.Kf6??

 驚いたことにこの自明の手が敗着である。白は 62.Kd6 Kxa3 63.Kc6 でも 62.f4 Kxa3(62…h5 63.Kf6 は1手得したので勝ちになる)63.g4 でも勝っていた。決定的な要因はどちらが先に昇格枡に行き着くかおよび/またはチェックで昇格するかということである。

62…Kxa3 63.Kxg6 b5 64.f4 b4 65.f5 b3 66.f6 b2 67.f7 b1=Q+

68.Kxh6 Qf5 69.Kg7 Qg5+ 70.Kh7 Qf6 71.Kg8 Qg6+

72.Kf8

 不運なことに白は自分のポーンがあるためにステイルメイト狙いの 72.Kh8 が指せない。

72…Kb4 73.h4 Kc5 74.h5 Qxh5 75.g4 Qxg4 76.Ke7 Qg7 白投了

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(この号続く)

2010年09月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(185)

「Chess Life」2010年4月号(4/4)

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収局研究室

ブリッツ!

GMパル・ベンコー

オスロ2009年(続き)

弱いキング
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2715、米国)
GMマグヌス・カールセン(FIDE2801、ノルウェー)
BNバンク・ブリッツ決勝戦、ノルウェー、2009年

 黒の手番

 1ポーン損にもかかわらず駒の働きが良いので白がわずかに優勢である。

27…Qd3

 27…Qa7 の方が良かったかもしれない。

28.Qc1

 白は 28.Qxd3 cxd3 29.Rd6 でポーンを取り返すこともできたが黒のキング翼がスイスチーズのようなのでクイーンを交換したくなかった。本譜は 29.Rd6 が大きな狙いとなっている。

28…Rd8 29.Rxa6

29…Qd4?

 29…Rc7 の方が良かった。

30.Rc6 Qa7 31.Qxc4

 これで白が1ポーン得になりそのために駒の働きや陣形を損なうこともなかった。

31…Rd4 32.Qc2 Ra4 33.Re2 Qd4

34.h3

 34.g3 でも良かった。

34…Qa1+ 35.Kh2 Qe5+ 36.Ng3 Qf4 37.Rc8 Kg7 38.Qc3+ Kh6 39.f3 g5??

 これは大悪手だった。たぶん時間に追われていたのだろう。

40.Rxf8! 黒投了

若き米国チャンピオン

 幼いヒカルと知り合ったのはスペインのマヨルカ島で開催された世界少年少女選手権戦の時だった。彼と一緒に対局後の検討をしていて彼があまりにも速く変化を示すので、彼についていけるようにそして多くの隠れた手段を逃がさないようにペースを落とすよう頼まなければならなかった。

 今年の結果は他の選手も簡単に世界ブリッツ選手権戦の参加者に割って入ることができることを証明した。主催者がインターネットの試合を加味して来年の参加者の数を増やしたのはこれが理由かもしれない。

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(この号終わり)

2010年09月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(186)

「Chess Life」2010年5月号(1/3)

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チェスライフの2010年米国選手権予想

IMグレッグ・シャヘード

優勝候補たち

GMヒカル・ナカムラ
ヒカルは連覇を目指す選手権保持者であり世界ランキングも急上昇したので当然優勝候補の一人である。しかしガータ・カームスキーは容易ならぬ競争相手であり、ヒカルの成績はいつも不安定なのが泣きどころである。それでもヒカルを優勝候補の筆頭にあげたい。
決勝進出の可能性 70%、優勝の可能性 31%

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(この号続く)

2010年09月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(187)

「Chess Life」2010年5月号(2/3)

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収局研究室

2010年ベイクアーンゼー

GMパル・ベンコー

 伝統のコーラス大会はオランダで72年間開催されてきた。今年の参加選手14人のうち最終結果の上位には次の選手が入った。1位 GMマグヌス・カールセン 8½点、2-3位 GMウラジーミル・クラムニクとGMアレクセイ・シロフ 8点、4-5位 GMビスワーナターン・アーナンドとGMヒカル・ナカムラ 7½点。世界チャンピオンと同順位だったのはヒカルにとって良い結果だったがもっと上位に食い込むこともできたはずだった。若い選手たちが収局の研究にもっと注意を払うべきである理由もここにある。

双ビショップ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708)
GMセルゲイ・ティビアコフ(FIDE2662)

 黒の手番

 盤上は動的に均衡がとれているが黒は局面を楽観してポーン得に走った。その結果斜筋が開いてビショップに有利になりルークの働きが増した。

45…e4? 46.d4 Rd5 47.Rb1! cxd4 48.cxd4

48…Rxd4

 48…Bxd4 には 49.Be7 がある。

49.Ba6!

 黒キングの退路を断った。

49…Rb8 50.Rec1+ Kd7 51.Bc5 Rd5

52.Bxb6

 52.Rxb6 Rxc5 53.Rd1+ Kc7 54.Rxf6 の方がはるかに良かった。

52…Nc6

 52…Ke6 の方が良い受けだった。

53.Bc4

 53.a5 も強い手である。

53…Rd2 54.Rd1 Bc3 55.Be3 Rxb1 56.Rxb1 Rc2

57.Bb3 Re2 58.Kf1 Rb2 59.Rxb2 Bxb2 60.gxf5 gxf5 61.Bxg5 Nd4

62.Bd1

 局面が一段落した。白は両端の列にパスポーンがあるので 62.Bf6 でも良かっただろう。

62…Bc3 63.h4 Ke6 64.h5 Kf7 65.Be3 Nc6

 白は 66.a5 を狙っていた。しかしポーンを止めるのは幻想にすぎない。なぜなら盤の両側面で頑張ることはできないからである。

66.Bb3+ Kf6 67.Bd5 Ne5 68.Bb6 Kg5 69.a5 Nd7 70.Bc7

70…Nc5

 70…Bxa5 71.Bxa5 Kxh5 ならもっと長引かせることができただろう。しかし黒がポーンを交換することができたとしても双ビショップは原理的に1個のナイトに勝つはずである。

71.Bf7 Na6 72.Bd8+ Kh6 73.Bg6 Nc5 74.Bb6 Bb4

75.Bxf5 Kxh5 76.Bxe4! Nxe4 77.a6 Nd2+ 78.Kg2 Nc4 79.Bd4 黒投了

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(この号続く)

2010年10月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(188)

「Chess Life」2010年5月号(3/3)

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収局研究室

2010年ベイクアーンゼー(続き)

GMパル・ベンコー

2ナイト
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2708)
GMマグヌス・カールセン(FIDE2810)

 白の手番

 白は2ポーンの代わりに1駒を得ている。まずは危険なbポーンを捕まえようとした。

42.Rc6 Bd5 43.Rb6 Rc8 44.Nb5 Rc2+ 45.Kg3 h5!

46.Nbd4

 たぶん 46.h4!? の方が良かった。

46…Ra2

47.Ne6+

 白はポーンを交換してナイトだけが残るようなことは避けなければならない。その意味で 47.h4 または 47.Nf5 の方が賢明だった(47.Nxb3? は 47…h4+ 48.Nxh4 Ra3! となって黒が問題なく、互角の形勢である)。

47…Kf7 48.Nf4 Be4 49.Rb4 h4+ 50.Kg4 b2

51.Nd2 Ba8 52.Nc4 g5 53.Rxb2 Rxb2 54.Nxb2 gxf4

55.Kxf4 Bxg2 56.Kg4 f5+ 57.Kxf5 Bxh3+ 58.Kg5 Be6 59.Kxh4 引き分け

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(この号終わり)

2010年10月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(189)

「British Chess Magazine」2010年7月号(1/1)

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カバレク・ファイル

GMルボス・カバレク

米国選手権戦

 ヒカル・ナカムラはユーリ・シュールマンのフランス防御ビナベル戦法対策がうまくいっていなかった。そして完全に圧倒されて優勝争いから脱落した。布局はビル・フックを彷彿とさせた。フックは素晴らしい芸術派で、5月10日に84歳で死去した。英領バージン諸島のチェスオリンピアードチーム主将として17回出場した。1970年のジーゲン・オリンピアードで彼はボビーフィッシャー相手に愛用のクイーンの捌きを用いて簡単に形勢を互角にした。

2010年米国選手権戦
ヒカル・ナカムラ
ユーリ・シュールマン

フランス防御ビナベル戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4 4.e5 c5 5.a3 Bxc3+ 6.bxc3 Qa5 7.Bd2 Qa4

 このクイーンの単騎出撃がビル・フックの得意戦法だった。黒は …b7-b6 から …Bc8-a6 でビショップを交換して白枡を支配することが望みである。

8.Nf3

 ナカムラはガリー・カスパロフ創案のポーン捨てを念頭に置いている。フィッシャーは 8.Qg4 Kf8 9.Qd1 と指したが 9…b6 10.h4 Ne7 11.h5 h6 12.Rh4 Ba6 13.Bxa6 Nxa6 14.Rf4 Qd7

となってフックの指せる局面になった。しかし彼はあとでへまをしてしまいフィッシャーが28手で勝った。

8…Nc6 9.h4 cxd4 10.cxd4 Nge7 11.h5!? Nxd4 12.Bd3

12…h6!

 白の突進は止めなければならない。1992年リナレスでのカスパロフ対アーナンド戦では次のように黒のキング翼が粉砕された。12…Nec6?! 13.Kf1 Nxf3 14.Qxf3 b6 15.h6! Ba6 16.hxg7 Rg8 17.Bxa6 Qxa6+ 18.Kg1 Rxg7 19.Qf6 Rg8 20.Rxh7 Qb7

ここで白は 21.Bg5 の代わりに 21.c4! と指すことができた。以下は 21…dxc4 22.Bg5 Qe7 23.Qf3! Qc7 24.Rd1

が想定され締め付けがきつすぎる。

13.Kf1 Nxf3 14.Qxf3 b6! 15.Qg3

 白の主導権は強大なように見える。消極的な受けの 15…Rg8 では 16.Rh4 d4 17.Rg4! と応じられここで 17…Kf8? では 18.Rxg7! Rxg7 19.Bxh6

で白の勝ちとなる。しかしシュールマンは意外な手を用意していた。

15…Ba6!

 シュールマンは2ポーンを犠牲にして白枡ビショップを消去し、戦いを意のままに動かし始める。

16.Qxg7 Bxd3+ 17.cxd3 Rg8

18.Qxh6

 18.Qh7 は 18…Qg4 19.g3 Rc8 で黒の駒が全部うまく働いている。

18…Qd4 19.Re1?!

 これは新手である。しかし前例のようにルークを素通しのc列に回す方が筋が良い。ヒカルがこの戦法をここまで研究していたとは信じ難い。もし研究手順なら決め手は黒にあるので判断を誤っていたといえる。

19…Qxd3+ 20.Kg1 Rc8

21.Bg5?!

 白の最善の可能性は 21.Qe3 でクイーン交換を誘うことだった。

21…Qf5

22.f4?

 この手はクイーンを遊び駒にして致命的だった。ナカムラは 22.Bxe7 Kxe7 23.Qe3 で陣容固めに努めなければいけなかった。

22…Rc2

23.Rh2?

 この手が敗着である。白は最下段が弱くなった。ここは 23.Qf6 Qxf6 24.exf6 Nf5 25.Rh3 が最後の望みだった。

23…Qd3!

24.Qf6

 これは証文の出し遅れである。24.Bxe7 でも 24…Qd2! で詰まされる。

24…Rxg5!

 白は最後の脅威を切り捨ててとどめを見舞う用意をした。

25.Qxg5

 25.fxg5 は 25…Nf5 で、26…Qd4+ 27.Kh1 Ng3# の詰みの狙いがあり黒の勝ちになる。

25…Qd4+ 26.Kh1 Qe3! 0-1

 これがとどめとなった。27.Rxe3 は 27…Rc1+ から詰むのでこのクイーンは取れない。27.Qh4 でも 27…Rc1 で黒の勝ちである。

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(この号終わり)

2010年10月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(190)

「Chess Life」2010年8月号(1/5)

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米国チェス選手権戦

FMマイク・クライン
写真 ベツィー・ダイナコ


セントルイス・チェスクラブの快適な対局室で最後の戦いを繰り広げる決勝の4人

 カームスキーとシュールマンは第9回戦の勝局のおかげで決勝に残った他の二人のナカムラとオニシュクに差をつけた。これらの試合で決着がついたのは大会方式の「存在理由」に正当性を与えることになった。この方式はクリス・バード、IMグレッグ・シャヘードそれに女流GMジェニファー・シャヘードによって考案された(ジェニファーは大会委員長を務めるとともにGMモーリス・アシュリーと一緒に実況解説者を務めた)。大会の終わり近くで上位選手と下半分選手との対戦の代わりに最上位の4選手が最終4日間のために組み合わされた。

 第9回戦でナカムラは最上位席で白番だった。前局のあと連覇を狙うチャンピオンの発言があったので観戦者は他のなによりもこの試合を待望していた。ナカムラは一つの例外を除いて慎重に指すのが自分の戦略だと言った。

 彼は「4人の中で1局勝てる者がいれば(チャンピオンになる)」と語った。「アレックス(・オニシュク)と指す時は堅実に指す。みんなユーリ(・シュールマン)戦では勝とうとする。」

 シュールマンはあからさまな言い返しには誘い込まれなかった。彼は自虐を装うことによって受けた侮辱をそらした。にこりとして「私には分からないがそれは良い戦略かもしれない。私も同じように指す。彼にはその戦略を楽しませてやる」とだけ言った。

 第6回戦の後のナカムラの前述の発言はいくぶん予言じみていた。「首位でみんなと対戦した昨年と似た状況になった。4人による破局を待っている。最悪をかなり期待している。これまで不釣合いな相手に対して不釣合いな色だった。」それでも彼はシュールマンに対して白で、ほとんどの者が激闘を期待した。

 chess.com がスポンサーになっている1千ドルの名局賞がもらえる可能性もあり、ナカムラとシュールマンは戦術で火花を散らした。一閃の 24…Rxg5! のあと仲間の選手たちが一人また一人と自動車事故を見に来る野次馬みたいにやって来た。ナカムラはそのたびに首を横に振った。一方シュールマンは盤面から顔を上げずに興奮を隠すことに努めていた。彼は歓喜の足踏みよりもほとんど動かぬまま読みを確認していたのだ。後で彼は自分の感情を隠すことができないのでポーカーは決してするべきでないと友人たちから言われていると語った。この場合彼の対戦相手も隠すことができなかった。ナカムラは頬をぷっと膨らませ、クイズ番組の答えに窮した出場者みたいに口を片方にゆがめていた。

 「ヒカルにとってそれは戦争のようなもの、人生の最後の戦いのようなものだ」とGMアレックス・ストリプンスキーが言った。「それが彼の戦い方なのさ。」

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(この号続く)

2010年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(191)

「Chess Life」2010年8月号(2/5)

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米国チェス選手権戦(続き)

フランス防御 [C18]
GMヒカル・ナカムラ(2812)
GMユーリ・シュールマン(2666)
米国選手権戦決勝第2回戦、セントルイス、2010年5月23日
解説 シュールマン

 4人による決勝総当たり第2回戦では全員が同点で並んでいた。本局はヒカルの最後の白番で、全力で勝ちにくることが分かっていた。考えたのは彼がどんな戦略を選ぶかということだったが、私の弱点を研究してくるだろうと確信していた。私の定跡の幅は広くなく、一本道の手順を用いてくるかもしれないという予感がしていた。しかし問題はそのどれかということだった。1.e4 か、1.d4 か、それ以外か?

1.e4

 よろしい、1.e4 だった。これで今大会4局目のフランス防御だ。

1…e6 2.d4 d5 3.Nc3

 本局でヒカルが意表をつくことをやりかねないことは分かっていた。彼はいつも盤上に何か新風を吹き込もうとする。私は本局を前にして多くの異なった戦型を用意していた。私の得意のフランス防御に対する 3.Nc3 もその中にあった。ヒカルが「毒入りポーン」戦法を完全に研究しているかもしれない感じがしたので、こちらから彼を少しびっくりさせてやりたかった。

3…Bb4 4.e5 c5 5.a3 Bxc3 6.bxc3

6…Qa5!?

 ヒカルが 6…Ne7 7.Qg4 cxd4 8.Qxg7 Rg8 9.Qxh7 Qc7 10.Ne2 Nbc6 11.f4 に全研究を注いだかもしれないと気づくのはあまり難しくない。6…Qa5 は既に2度ほど指していて優勢な局面になった。

7.Bd2 Qa4 8.Nf3

 私の研究のほとんどは 8.Qb1 と 8.Qg4 に注いでいた。それらの方がヒカルの棋風に合っていると思ったからだ。一つは完全に閉鎖的な局面になり、ヒカルがよくそれを目指す(特に黒番で)。もう一つは非常に戦術的で、それもヒカルの得意な点である。

 一方ヒカルは中間の何かを指すのを望んでいた。ここで私はガータと一緒にトパロフとの番勝負に研究した手順を思い出そうとして長考に入った。ガータはトパロフ戦の2局を含め少しフランス防御をやって有望な局面になったが最初の4局の成績は0-4という厳しいものだった。

 2009年ハーンティ・マンシースクでのGMボリス・サブチェンコとのブリッツ延長戦の変化は全部思い出すことができた。しかし90分と追加30秒の持ち時間はそもそも十分なものだった。ヒカルと観戦者のほとんどは私がこの局面に不案内だとたぶん感じていただろう。実際は 12…h6! の局面に到達するためにどれが最も正確な手順かを思い出そうとしていただけだった。

8…Nc6

9.h4

 白の有力な変化は 9.dxc5 f6 10.Nd4(10.Be3)10…Nxd4 11.cxd4 Qxd4 12.Bb5+ Kf7 13.O-O

である。この局面には毒がある。

9…cxd4 10.cxd4 Nge7 11.h5 Nxd4 12.Bd3

12…h6!

 ガータと検討の面々はこの手のあと白は形勢互角だけを念頭におくべきだと感じていた。ヒカルはたぶん最初はアーナンドがこの手を指さなかったのだから最善手ではないだろうと思っていただろう。しかし彼は深く読めば読むほどこの手の良さを理解した。

 黒は黒枡ビショップをなくしたのでg7の地点の弱体化を防ぐことが重要である。白が …Nxf3+ のために Rh4?? と指す余裕がないので、黒はd4のナイトの世話をもう1手遅らせることができる。黒には白のポーンがh6に来れる時にはできなかったキング翼キャッスリングの選択肢もある。黒がキャッスリングしナイトをf5に置き白枡ビショップを交換することができれば(豪華な夢である)、絶好の態勢になる。白はすぐに動かなければならない。

 長い間 12…Nec6 が主手順だった。13.Kf1 Nxf3(13…Nf5 14.h6 g6 15.Bg5 は白に犠牲にしたポーンの十分な代償がある)14.Qxf3 Qd4(ビスワーナターン・アーナンドは 14…b6 と指したが多くのフランス防御の指し手は次の手順と同じような目に会いたくないだろう。15.h6 Ba6 16.hxg7 Rg8 17.Bxa6 Qxa6+ 18.Kg1 Rxg7 19.Qf6 Rg8 20.Rxh7 Qb7 21.Bg5

これは1992年のカスパロフ対アーナンド戦で、白が圧倒的に優勢である)15.c3 Qxe5 16.Re1(16.h6 g6)16…Qf6(16…Qd6 17.h6 g6 18.Qf6 Rg8 19.Bg5

は白に楽しみが多い)17.Qxd5 e5

これでたぶん黒は問題がない。

13.Kf1 Nxf3 14.Qxf3 b6

15.Qg3

 ヒカルが今にも 15.Qe2 と指しそうに感じられたが 15…Bd7 16.Rh3 Nf5 でぱっとせず白は互角を目指して奮闘する必要がある。

15…Ba6 16.Qxg7

16…Bxd3+

 面白い引っ掛けの 16…Rg8 17.Qh7? Qxc2 もやってみることができたがヒカルがこのようなことを間違えるとは思えなかった。

17.cxd3 Rg8 18.Qxh6 Qd4

19.Re1

 この手は新手である。これまでに指されたのは 19.Rc1 だけで 19…Qxd3+ 20.Kg1 Qe4!(20…Nf5?! は 21.Qf4 でクイーンが縦横に利いている)と進んだが形勢はたぶん互角だろう。21.g3(21.Bg5 Qxe5[黒は 21…d4!? と指すこともできるがどのみち可能性は互角に近いだろう]22.Bf6 Qe4 23.g3 Nf5 24.Qh7 Rxg3+ 25.fxg3 Qe3+ 26.Kg2 Qxg3+ 27.Kf1 Qf3+ 28.Kg1

これはチェックの千日手)21…Qxe5 22.Qf4 Qxf4 23.Bxf4 f6

これでたぶん互角の収局である。

19…Qxd3+ 20.Kg1

20…Rc8

 別の手は 20…d4 だが …Rc8 で悪いわけがないと感じていた。なにしろ最後の駒を展開し何も問題がないはずである。逆に白はhポーンにあまり頼れない。なぜならキングがまだ安全でなく駒もうまく連係していないからである。20…Qf3 は 21.Rh2 で無駄骨だろう。

21.Bg5?

 これが初めての本当の悪手だった。もっともヒカルは後でフランス防御を選んだのがそもそもの間違いだったと言っていた。彼と私は 21.Qe3 を真剣に検討した。黒がクイーンを盤上に残せば白は少なくともクイーンの位置を良くすることができる。クイーンを交換すれば一方の優位は他方の優位によってほぼ補われる。例えば 21…Qxe3(21…Qh7 22.Qh6[22.Qb3 なら黒はたぶん 22…Qc2 でクイーン交換を求める必要がある。なぜなら 22…Rc4 23.Qb5+{23.h6}23…Nc6 24.h6 はお互いチャンスがあっても白の方が良さそうだからである{24.Qa6? は 24…Qd3! で …Rxg2+ から …Rg4+ の開きチェックがある}])22.Bxe3 Nf5 23.Rc1 で戦いはまだ続く。しかしたぶん平和的に終わるだろう。

21…Qf5 22.f4 Rc2

 これで黒は 23…Qxf4! 24.Bxf4 Rgxg2+ 25.Kf1 Rcf2# という詰みを狙っている。

23.Rh2??

 唯一の受けは 23.Qf6 だった。しかしそれでは 21.Bg5 と指した顔が立たない。グレゴリー・カイダノフは「『ごめんなさい』ということは非常に重要である」と言っていたことがある。その意味は間違えた時はそれを早く認めて場合によっては駒を元の位置に戻すことも非常に大切であるということである。2手損になるかもしれないが被害はまだましである。23…Qxf6 24.exf6 Nf5 となれば白にとって厄介な局面だがまだ受かる可能性があった。

23…Qd3

 ヒカルは23手目にあまり時間を使わなかったので残り時間は私の7分に対して50分ほどだった。だから彼はこの局面で何か手はないかと探し続けた。23.Rh2 がそれほど悪い手だったので私が白の「何でもよい」可能性を探したとき見つかった最善はクイーン損のポーン収局だった。

24.Qf6

24…Rxg5

 ヒカルはこの手を見落としていた。彼は 24…Qd4+ だけを読んでいて、それなら試合はまだ続く(24…Nc6 でも勝ちだが 24…Rxg5 を選んだのはこの方が派手そうだからでなく、簡明だからである。チェスでの単純さをいつも好んでいたカパブランカはたぶん同じ手を選ぶだろう)。24…Qd4+ 25.Kh1 Rxg5 26.fxg5 Nf5 27.Rh3 Qg4 28.Rg1 Rxg2 29.Rxg2 Qxh3+ 30.Kg1 Ne3

黒はチェックの千日手にすることもできるがまだ勝ちを目指すこともできる。

25.Qxg5

 25.fxg5 でクイーンの助けを得ようとしても受からない。25…Nf5! 26.h6 Qd4+ 27.Kh1 Ng3# で詰む。

25…Qd4+ 26.Kh1 Qe3! 白投了

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(この号続く)

2010年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(192)

「Chess Life」2010年8月号(3/5)

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米国チェス選手権戦(続き)

 シュールマンはさらに書いている。

 「ヒカルは 27.Rd1(27.Qh4 Rc1)27…Rc1 28.Qg4 Qe1+ できれいに詰むのを読んで投了した。大変な試合だった。黒の指し回しが冴えていたと考える者もいるだろうし、ヒカルがたった2手の悪手でキングが捕まったと言う者もいるかもしれない。チェスの初心者には二人の初心者の試合だと言う者もいるかもしれない。なにしろ黒は序盤で駒を展開する前にクイーンを二度動かしたし白はhポーンを二度突いた。それに両者ともキャッスリングしなかったし白は最下段の詰みを見逃した。

 もちろんこの試合は現代のチェスがどのように変貌したかの単なる実例である。今では強豪選手を単純な手段で負かすことはほとんど不可能である。だから初手からどちらも時には布局の「規則」を破ってまで相手の読みをはずそうとする。

 我々の試合が終わったあと私はガータ対アレックス戦の結果を待ち始めた。アレックスは引き分けの申し出を断り負けた。この結果の意味するところは次の私とガータとの試合ですべてが決まるということである。その試合は引き分けに終わり一発勝負を指さなければならなくなった。チェス選手の多くが私にそれは公正でないシステムだと言った。私に言わせればもうあの時点でコインを投げて優勝を決めてもよかった。

 ガータと私は強豪の大会を同じ成績で通過することができた。しかし「チャンピオン」と呼べるのは一人だけである。一発勝負を好調に指していながら単純な 39…Bf6 でポーンを取り返されるのを見落としていたのは私の責任であってシステムの責任ではない。わたしはそれでもさらに戦う可能性を見つけたことを誇りに思っている。しかし忘れてならないのはガータは不利な局面をしのぐのが絶対的に優れているということである。彼が19年振りにまたチャンピオンになったのは賞賛に値する。」

*****

 元世界チャンピオンのガリー・カスパロフは第9回戦で中継に電話で参加してきてインターネットと現地の観戦者を驚かせた。彼はポーンを犠牲にしたのは1992年のアーナンド戦だと指摘した。そしてナカムラの 13.Kf1 の妥当性を疑問視した。彼は「白が狙いを本当に作り出すのは非常に難しい」と言った。「白はポーン損で、実際何も展望が見られないようである。」

 IMレボン・アルトウニアンは「シュールマンを負かそうとするとこっちが負かされる」と言った。「彼はそういう選手なんだ。」

 GMジョシュ・フリーデルは「シュールマンの方が局面を少しよく理解しているように思えた」と言い、多くの一流選手たちの感想に共鳴した。あとでいく人かのグランドマスターはシュールマン相手にビナベル戦法は選ばないと言った。ナカムラは遅まきながら同意した。彼は「最初の失敗は定跡の選択だった」と言った。「研究は100%でなかった。カスパロフの試合をお手本にした。負けなければならないとしたらカスパロフの指した手で負けた方が良かった。」

 「(大会の1週間前に)セントルイスに引っ越したので自分の地元で試合をするのは不利なような気がする。気楽すぎた。本来の実力よりずっと弱く指していた。」

 カスパロフはナカムラが世界の5本の指に入る可能性があると指摘したが、この米国最強選手の暴力団を取り締まる警官のような指しっぷりは世界の超一流相手にはそれほど効果がないかもしれないと注意を促した。「彼らはナカムラの棋風にそれほど影響されない」と彼は言った。

 世界ナンバーワンGMのマグヌス・カールセンは電話でのインタビューでナカムラを主要なライバルの一員に含めなかった。しかし「今のところナカムラにはいくらか手こずっている」ことを認めた。

 オニシュクの悪手は世界にはひびかなかったが、自分の試合と不敗連続記録と二度目の米国選手権獲得の可能性にはひびいた。彼とナカムラが負けて共に5½点のままになり、シュールマンとカームスキーが6½点になって第10回戦で直接対決するので、数字的に排除された。ナカムラとオニシュクは盛り上がりのない引き分けで同点3位に終わった。

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(この号続く)

2010年11月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(193)

「Chess Life」2010年8月号(4/5)

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米国チェス選手権戦(続き)

 豪快な棋風で知られるクリスチャンセン(4½点)はナカムラ(5点)との白番に際して「これならやれる」と言った。彼は自分の棋風に忠実に有望な攻撃態勢を整えた。彼の大会序盤からの自ら公言した呪文は「分からない時は攻撃せよ、時間を無駄にするな」だった。勝たなければならなかったが勝負所で間違えた。しかしGMアシュリーは実況中継で「(スイス式の)最終戦で勝たなければならない状況になってはだめだ」と言っていた。

豪快
GMラリー・クリスチャンセン(2657)
GMヒカル・ナカムラ(2812)
米国選手権戦第7回戦、2010年

 33…Bd1

34.Ng3

 34.Rxd5! Bxe2(34…exd5 35.Rxg6+ Kh7 36.Qf6 ははるかに悪い)35.Rd7 Qc4-黒は白が Rbb7 と侵入する前に盤上からクイーンを消すようにしなければならない。この位置はc5より優る-Be2 がクイーンに紐をつけているので Rd8+ による悪だくみは成立しない。36.Qe5!!(36.Qd6 には 36…Qf4 で Rb8 の狙いを消す。以下 37.Rd8+ Rxd8 38.Qxd8+ Kh7 で大丈夫である)36…Qf4 37.Qxe2

これで白がキング翼での圧力で中盤戦で勝てるかcポーンを使って収局で勝てるはずである。

34…Qxc3 35.Rxd5 Qxd4 36.Rxd4 Bc2 37.Rd7 Rf6 38.Nh5 Rf7

39.Rxf7 Kxf7 40.Rb7+ Kf8 41.Nf6 Bg6 42.Nd7+ Kg8 43.Ne5 Bh5

44.Re7 Re8 45.Rc7 Rb8 46.Nd7 Rb1+ 47.Kh2 Bf7 48.Nf6+ Kg7

49.Ng4 Rb5 50.Nxh6 Kxh6 51.Rxf7 Kg6 52.Rf8 Rb4 53.Kg3 Ra4

54.Rf3 Rb4 55.Re3 Kf5 56.Kf3 Rf4+ 57.Ke2 Ra4 58.g4+ Kf6

59.Kf3 e5 60.Rb3 Kg6 61.Rb6+ Kf7 62.Rh6 Rf4+ 63.Kg3 Ra4

64.f3 Rb4 65.Rh5 Kf6 66.Rh6+ Kf7 67.h4 gxh4+ 68.Rxh4 Ra4

69.Rh6 Rb4 70.g5 Rf4 71.Ra6 Rf5 72.g6+ Kg7 引き分け合意

 カスパロフと同様にアーナンドもナカムラのチェスに対する考察を語った。「彼は自分の試合を研究しなければならない。ある分野では、特に攻撃的な布局を見つけることにかけては、もう大家になっている。番勝負を指すならそれを少し控えなければならない。しかし彼は自信には事欠かない。それは確かだ。」クリスチャンセンとの試合については「ナカムラが(引き分けにする)手順を知っているのかは分からない」と言った。

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(この号続く)

2010年11月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(194)

「Chess Life」2010年8月号(5/5)

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米国チェス選手権戦(続き)

 今回の選手権戦ではいくつかのこれまで休眠中の定跡も復興した。ベノニは在庫から飛ぶように捌けた。シュリーマン防御もあったし、ナカムラはオニシュク戦でウィーンギャンビットを指した。その試合では10手目で彼のキングがd1にクイーンがe1にいた。遅れてやって来た観戦者は中継のデジタル盤が誤動作かとけげんに思ったかもしれない。

 「こんな定跡があるのかどうかは知らない」とナカムラは語った。「バンクーバー[冬季オリンピック]の試合を見ていて思いついた。・・・初心者はこの試合を見ない方が良いと思う。グランドマスターが言うことに全部背いている。」

 オニシュクはナカムラ戦のための研究はGMワシリー・イワンチュク戦のための研究と似ていると言っていた。彼は10の異なる定跡を研究し「それらのどれかになると予想した」。ナカムラとシュールマンは選手権戦のスイス式の部門でも対戦した。その試合の中盤戦ではクイーンが3個になり、なんと1個のクイーンのシュールマンの方が攻撃側だった。

 10回戦が終わったあと賞金総額1万ドルのブリッツ大会が多数のGMの気を引いた。強豪が集まったのでいく人かのGMは最後まで戦っても勝ち越すことができなかった。優勝をさらったのはナカムラだった。9戦して8½点をあげ2千ドルを獲得し、本大会に優勝できなかった埋め合わせに役立った。

セントルイス

 第7回戦の後の休日にナカムラとセントルイス在住で仲間のGMベン・ファインゴールドは監視員の椅子の上に登ってクラブの外の人間チェスを指揮した。チェスクラブの後援者のレックス・シンクフィールドは白キングの衣装を着てナカムラの指示に従い、彼の軍勢が勝利した。もっともチェスに通じた見物人は指し手が過去に指された試合と似ているという疑いを抱いた。

 ナカムラは最近高級住宅街になってきた下町の近くのアパートに引っ越した。セントルイスの市議会議長のルーイス・リードは「ワシントン通りにチェスのグランドマスターが住み着くなんて思ってもみなかった」と語った。ナカムラは「このあたりで先月の大部分を過ごした」と語った。「すごく気に入った。」

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(この号終わり)

2010年11月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(195)

「Chess」2010年10月号(1/6)

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マグヌス・カールセン
世界を征服

 マグヌス・カールセンのファッションモデルとしての経歴が本当に始動した。仕事に向かう途中のキングズクロス駅の巨大な壁面ポスターから彼がこちらを見つめるのはなんとも私を落ち着かなくさせる。ニューヨークのバスにはG-Starの衣服のための宣伝ポスターが目立っている。ニューヨーク市はマグヌスが「RAWチェスチャレンジ」で世界を相手にする舞台になった。これはこれまでの同様の催しと同じオンラインでの競技で、インターネットサーバーに極度の負荷をかけた。それでも大成功を収めた。

 試合はなかなかの好局で、TWIC((www.chess.co.uk/twic)でビデオを見ることをお勧めする。「世界」の助言者はフランスの元世界ジュニア選手権者マクシム・バシエ=ラグラーブ、米国最強者のヒカル・ナカムラ、それに史上最強の女性選手ユディット・ポルガーだった。ユディットは「世界」のジレンマを次のように言い表した。「キッチンに料理人が多すぎた。」


世界チームの助言者(左から)ヒカル・ナカムラ、ユディット・ポルガー、マクシム・バシエ=ラグラーブ


キッチンの3人の料理人 世界チームの3人は個別に一般人に推奨手を示した


勝利者に賞品授与 意気揚々のマグヌスがRAW世界チャレンジトロフィーを高く掲げる

マグヌス・カールセン対世界
RAW世界チェスチャレンジ、ニューヨーク
キング翼インディアン防御/ウールマン戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6

 この手は投票で 2…e6 をわずかに抑えた。

3.Nf3 Bg7 4.g3 O-O 5.Bg2 d6 6.Nc3 Nc6 7.O-O

7…e5

 これがウールマン戦法である。7…a6 ならパンノ戦法になる。

8.d5 Ne7 9.e4 c6

 クイーン翼を開放的にするのは白を利する。私なら …Nd7 か …Ne8 と指す。

10.a4 Bg4 11.a5

11…cxd5?

 クイーン翼を開けてはいけない!c4の地点が白の手中に落ちる。試合後カールセンとナカムラはこれが大きな間違いで …Qd7 が良かったと言っていた。

12.cxd5 Qd7 13.Be3 Rfc8

 公式サイトの解説が伝わらなくなりモーリス・アシュリーが一人語りをしていた。しかし長くは続かなかった。このようなことは1997年のディープブルー以来大きなチェスインターネット試合ではいつも起こっていた。ディープブルーの時はウェブ室にいたのでよく覚えている。

14.Qa4 Ne8 15.Nd2 Qd8 16.Qb4 Nc7

17.Nc4

 どういうわけかマグヌスは決定的な 17.f3! Bd7 18.Qxd6 を指さなかった。このクイーンは 18…Nf5 19.exf5 Bf8 20.Qxe5 のように捕まらない。

17…Na6 18.Qxb7 Rxc4 19.Qxa6 Rb4 20.f3 Bc8

21.Qe2 f5 22.Qd2 Ba6 23.Rfc1 Qb8 24.Na4 Rb3 25.Rc3 Rb4

26.Rca3!

 狙いは Nb6! からの交換得である。

26…f4 27.Bf2

 27.gxf4 exf4 28.Bxf4 は黒にいくらか反撃の機会を与えるかもしれない。

27…Bh6

28.Nb6!?

 ここは面白い瞬間で、カスパロフがマグヌスと考えが一致しなかった唯一の場面だった。ガリーは 28.g4 で全面的に押さえ込む方が良いと考えていて「それで試合終了だった」。

28…fxg3 29.Qxb4 gxf2+ 30.Kxf2

30…Bc8?

 この手では 30…Bf4 がマグヌスの推奨した手で、白キングに対していくらか狙いが持てる。30…axb6 は 31.axb6 Bb7 32.Rxa8 Bxa8 33.Bh3 で白が勝つ。

31.Rb3 axb6 32.Qxb6 Qa7 33.a6 Kf7 34.Qxa7 Rxa7 35.Rb6

 収局になれば白はパスポーンの威力で勝てる。

35…Ke8 36.Rxd6 Bf8 37.Rb6 Nxd5 38.Rb8! Bc5+ 39.Kg3 Ne7 40.Bh3 Kd8 41.Bxc8 Nxc8 42.Rc1

 カスパロフは「黒はもう投了しろ」と言ったが、それは試合が何手まで続くかモーリス・アシュリーと賭けをしていたためだった。

42…Rc7 43.Rxc5! Rxc5 44.a7 1-0

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(この号続く)

2010年11月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(196)

「Chess」2010年10月号(2/6)

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NH新星対老練

「新星」が「少しだけ若くない」に勝利
ボリス・ゲルファンドがトップの成績
ナカムラがメロディー・アンバーに進出

 8月12日から22日までアムステルダムで開催されたNHチェスチャレンジはたぶん「新星対老練」大会の方がよく知られている。この呼び名は「青年対老年」と単純に考えるべきでない。理由は単純で「老練」チームは実際には老人でないからである。5人編成の最年長選手であるリュボミル・リュボエビッチでさえ60歳の誕生日まで何ヶ月かある。他の選手は年齢の高い順からボリス・ゲルファンド(42歳)、ルーク・ファン・ベリー(38歳)、ペーテル・ハイネ・ニールセン(37歳)、それにピョートル・スビドレル(34歳)だった。スポンサー兼主催者のヨープ・ファン・オーステロムがもっと年齢の高いチームを望んでいたら、ずっとレイティングが下の方から選ばなければならなかっただろう。世界100傑で現在最年長はイングランドのナイジェル・ショートであるが、老年とはほど遠い45歳である。だらか50歳あたりのチームはかなりレイティングが低くなる。

 「新星」については主催者は選択に困らなかった。選抜されたのは20歳以下の世界第5位のファビアノ・カルアナ(18歳)、同第7位のウェズリー・ソー(17歳)、同第8位のアニシュ・ギリ(16歳)、それに同15位のデイビド・ハウエル(20歳)だった。これに比較的ベテランのヒカル・ナカムラ(23歳)が加わった。これで若年チームは2700超の選手が一人入って、同等の選手3人(ゲルファンド、スビドレル、ニールセン)相手に戦うことになった。主催者は世界最高レイティングのマグヌス・カールセンを召集しなかった。たぶん核攻撃のチェス版と考えたか、「新星」とはとても考えられない(彼がもっと高く上がれば視界から完全に消えてしまう恐れがある)からだろう。全体的にはうまくバランスのとれた大会になった。対戦は10回戦のスヘーベニンゲン方式で、それぞれのチームの選手が相手チームの選手と2回ずつ当たる。チームとしての結果は新星チームが2700超の選手が足りないにもかかわらず実力で少し上回り、3回戦が終わったところで早くも4点リードした。老練チームは10回戦のうち3回戦で勝つ健闘を見せて巻き返したが、差を挽回することができず結局24-26で負けた。老練チームの慰めは主将のボリス・ゲルファンドの大活躍で、彼は楽々と圧倒し勝った。イスラエルのスーパー・グランドマスターは40代に入っても棋力を維持していて、高い水準のチェス長寿の世界的選手としていつかコルチノイに取って代わる良い祝儀となるかもしれない。

 これで大会の終わりではなく、「新星」チームの最高得点選手には次のメロディー・アンバー大会への参加権がかかっていた。アニシュ・ギリは最終戦に入るまで若者チームの最高得点を突っ走っていたがニールセンに負けてナカムラに追いつかれブリッツによる決定戦に持ち込まれた。元気一杯の米国選手はオンラインでのブリッツ名人としての評価が揺るぎなく、速さで決着をつける時に世界で最も対戦したくない相手だろう。オランダ選手は当然0-2で負かされた。来年のざん新な快速/目隠し大会でナカムラがどのような成績を残すか興味津々である。悲しいことにNH新星対老練大会はこの第5回で最後となることが発表された。これから見るように面白い試合をたくさん生んできただけに残念である。


ヒカル・ナカムラ - たぶん誰もが快速またはブリッツによる決定戦で世界一当たりたくない選手。来年のメロディー・アンバーで彼が目隠しチェスでどれくらいの強さを発揮するかが見ものである。

2010年NHチェス大会 オランダ

称号 選手 レイテ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 結果

GM ボリス・ゲルファンド イスラエル 2739 * * ½ ½ 1 ½ ½ 1 ½ ½ 1 1 7.0/10

GM アニシュ・ギリ オランダ 2672 ½ ½ * * ½ ½ 1 0 1 ½ ½ 1 6.0/10

GM ヒカル・ナカムラ 米国 2729 0 ½ * * 0 ½ 1 ½ ½ 1 1 1 6.0/10

GM ピョートル・スビドレル ロシア 2734 ½ ½ 1 ½ * * 0 ½ ½ ½ ½ 1 5.5/10

GM ファビアノ・カルアナ イタリア 2697 ½ 0 1 ½ * * ½ 1 ½ 0 ½ ½ 5.0/10

GM ウェズリー・ソー フィリピン 2674 ½ ½ ½ ½ * * ½ ½ ½ ½ 0 ½ 4.5/10

GM デイビド・ハウエル イングランド 2616 0 0 ½ 0 * * 0 1 1 ½ 1 ½ 4.5/10

GM ペーテル・ハイネ・ニールセン デンマーク 2700 0 1 0 ½ ½ 0 ½ ½ 1 0 * * 4.0/10

GM ルーク・ファン・ベリー オランダ 2677 0 ½ ½ 0 ½ 1 ½ ½ 0 ½ * * 4.0/10

GM リュボミル・リュボエビッチ セルビア 2572 ½ 0 0 0 ½ ½ 1 ½ 0 ½ * * 3.5/10

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(この号続く)

2010年12月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(197)

「Chess」2010年10月号(3/6)

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NH新星対老練(続き)

第1回戦
□H・ナカムラ
■L・リュボエビッチ

シチリア防御

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Nb3 Bg7

7.Be2 O-O 8.O-O b6 9.f4 Bb7 10.Bf3 Qc8 11.Be3 Rd8

12.Rf2 d5 13.exd5 e6 14.d6 Nb4 15.Rd2 Bxf3 16.Qxf3 Nbd5

17.Nxd5 exd5 18.c3 Rxd6 19.a4 Qc4 20.Nd4 Re8 21.Kh1 Rd7

22.Rdd1 Rde7 23.Bg1 a6 24.Qd3 Qc8 25.Nf3 Re4 26.Bxb6

 リュボエビッチは初め敗因をbポーンが取られたせいにしていたが、局後の検討でこのあたりではまだ大丈夫だということになった。真の問題は持ち時間が非常に少なくなっていたことだった。

26…Rxf4 27.Bg1 Rfe4 28.a5 Bh6 29.Rf1

 ナカムラは黒が押し気味のこの嫌な局面から勝って第1回戦のチームの成績を互角にすることができた。

29…Qb7

 これはまったく当然の手のように見えるが、たぶん 29…Re2!? として白にb2のポーンを何とかさせる方が良かっただろう。

30.b4 Ng4 31.b5!

 白の構想には特段ひねったところは何もない。bポーンを犠牲にしてaポーンを突き進める意図である。

31…Qxb5 32.Qxb5 axb5 33.Rfb1 Be3 34.Bxe3 Nxe3 35.a6

35…Kg7

 黒はちょっとしたわなを仕掛けようとしている。しかしその前に 35…Ra8 と指す方が良かっただろう。そうすれば 36.Nd4 b4!? 37.a7!(37.Rxb4 に対して 37…Rxd4!? から 38…Nc2 が黒の狙い)37…Re7 38.Nc6 Rc7 39.Rxb4! Rxc6 40.Rb8+ Rc8 41.Rxc8+ Rxc8 42.a8=Q Rxa8 43.Rxa8+ Kg7

となった時ルークの代わりにナイトとポーンを得ているのでいくらか望みがあっただろう。

36.Nd4 b4

 わなは不発である。

37.a7!

 37.Rxb4 は 37…Nd1! 38.h3 Nxc3 39.a7 Ra8 でたぶん黒がしのげる。

37…bxc3

 37…Ra8 は 38.Rxb4 Nf5 39.Nxf5+ gxf5 40.Rb7 Kf6 41.g3 Ree8 42.Kg2 で白が急がなくても勝ちになる。

38.Rb8

38…R8e7

 これははったりである。しかし 38…c2 としても 39.Ne2 で何もひょんなことは起こらない。

39.a8=Q Ng4 40.Nf3 c2 41.h3 1-0

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(この号続く)

2010年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(198)

「Chess」2010年10月号(4/6)

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NH新星対老練(続き)

第4回戦
□P・スビドレル
■H・ナカムラ

カロカン防御

1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5 Bf5 4.h4

 これはカロカンと断固対決する手段の一つである。データベースでの頻度はかなり高いが 3.Nc3 や 3.Nf3 より多くないのは意外とすべきか。

4…h5 5.c4 e6 6.Nc3 Ne7

7.Nge2

 7.Bg5 の方がはるかに多く指されている。

7…dxc4 8.Ng3 Bg6 9.Bg5 Qb6 10.Qd2

10…Qb4

 この手は以前に伝説的選手が指したことがあるが最善手ではないようだ。この戦型を復活指せるためには黒は 10…Nd7!? のような手を考える必要があるかもしれない。

11.a3 Qb3

12.Nge4

 12.Rc1 Nd5 13.Nce4 b5 14.Be2 Nd7 15.O-O が1996年ティルブルフでのアダムズ対カルポフ戦の手順で、引き分けに終わった。スビドレルの新手の方がきつそうである。

12…Nd5

 12…Bxe4!? なら 13.Nxe4 Nd5 14.Rh3 Qa4 15.Rc1 b5 でcポーンが守れるが、白にも例えば 16.Rf3!? のようなキング翼攻撃で代償がある。

13.Rh3 Qb6 14.Bxc4 Qa5 15.Nd6+!?

 白は展開でリードしているのでこのように一気にやっていく必要はない。しかし黒枡で締め付ける方が良いと見た。

15…Bxd6 16.exd6 Nd7 17.Rc1 Nxc3 18.Rcxc3

18…Nf6

 18…O-O?1 とは指せない。例えば 19.Be7 Rfe8 20.Rhg3 となって、白には Bxe6 から Rxg6 のような強烈な狙いがある。

19.b4 Qd8?

 19…Qf5!? の方が戦えそうである。20.Rhf3 には 20…Ne4!? がある。本譜の手のあと黒は防戦一方になった。

20.Qf4

20…Kd7?

 20…Bf5 の方が良かったかもしれない。しかし 21.Rhe3 O-O 22.Rg3! で白のキング翼攻撃が厳しい。

21.Rhe3 Re8 22.b5 Qa5 23.Bxf6 gxf6 24.Kf1 Bf5 25.Be2 Rac8 26.Rc5

 ここからは一方的である。

26…Qa4 27.Rec3 a6 28.b6

 黒クイーンは敵陣で捕虜になった。

28…Bg6 29.Qxf6 e5 30.Rxe5 Rxe5 31.dxe5 Re8 32.Re3 Re6 33.Qg5 Qd4 34.Kg1

34…Be4

 白の狙いは Bxh5 で、34…Qxb6 では 35.Bc4 で決まる。

35.Qxh5 Rxe5 36.Qxf7+ Kxd6 37.Qxb7 1-0

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(この号続く)

2010年12月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス

「ヒカルのチェス」(199)

「Chess」2010年10月号(5/6)

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NH新星対老練(続き)

第7回戦
□H・ナカムラ
■L・ファン・ベリー

シチリア防御

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5

 これは常にナイドルフ戦法の最も激しい戦型とみなされているが近年は少し流行に陰りがでてきている。ナカムラは最も危険な戦型を指すことを恐れない。

6…Nbd7

 6…e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 が毒入りポーンの主手順だがファン・ベリーは眼目の戦法を指した。

7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Rb1 Qa3

10.Bxf6!

 これは毒入りポーンの主手順でも指される手だがここではほとんどこの一手である。10.Be2 は次のようにそれほど有力でない。10…g6 11.Bxf6 Nxf6 12.e5 dxe5 13.fxe5 Bh6!

14.Qd3 Ng4 15.e6? Ne3 16.exf7+ Kxf7 17.Rb3 Qc5 18.Rf1+ Kg7!

19.Ne4 Qa5+ 20.c3 Rd8 0-1 これは2009年ラスベガスでのD・フェルナンデス対L・ファン・ベリー戦で、オリンダ選手にとっては気持ちのよい思い出だが、このアムステルダムでは立場が逆転し短手数負けになる。

10…Nxf6 11.e5 dxe5 12.fxe5

12…Nd7?

 ここでは 12…Ng4 が最善手だが、白はそれでも黒クイーンをナイトで追いかけ回すことができる。例えば 13.Nd5 Qc5 14.Nb3 Qc6 15.Na5 Qd7 16.Nc4

である。しかしここで 16…e6! という手があり 17.Ndb6 Qxd2+ 18.Kxd2 Rb8 19.Be2 Nf2 20.Rhf1 Ne4+ 21.Kd3

で、白はポーン損でもいろいろ手があるけれども黒がまだ戦える。

13.Nd5!

13…Qc5

 13…Qxa2 は 14.Rb3 Kd8 15.e6! で終点となる。13…Rb8 は 14.Nc6! bxc6 15.Rxb8 できれいに咎められ、ルークとナイトのどちらを取っても1手詰みである。

14.Nb3 Qc6 15.Na5

 この実戦の局面が前の解説の局面と違うところは黒がもう 15…Qd7 と指せないことである。

15…Qc5 16.Nxb7

16…Qc6

 16…Bxb7 は 17.Rxb7 Rc8 18.Bxa6 のあと 19.Bb5 でも 19.Rxd7 でも致命的である。

17.Rb6!! 1-0

 気持ちのよい終わり方である。17…Qa4 は 18.Nc7# の1手詰みだし、17…Nxb6 は 18.Nf6+! から 19.Qd8# で詰む。

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(この号続く)

2010年12月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(200)

「Chess」2010年10月号(6/6)

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ヒカル・ナカムラ

ジャニス・ニシイが8月のNHアムステルダム大会で米国最強者にインタビュー


第1回ロンドン・チェスクラシックでのナカムラ。12月の第2回で「H爆弾」が再登場

 ヒカル・ナカムラは多くの点で、少なくともヨーロッパの観点からは「典型的なチェス選手」ではない。彼は1987年に日本で生まれ、2年後に両親と共に米国に移住した。そこはボビー・フィッシャーを輩出したにもかかわらず本物のチェス学校を創立したことがなければ、東ヨーロッパや旧ソ連圏の国々から移住してきた多くのGMたちを除くと一流の選手を生んだこともなかった。

 ヒカルは米国選手権者に2度なりFIDEの世界ランキングでは現在15位だが、世界の最強のブリッツおよび弾丸チェス選手の一人として有名である。彼は切磋琢磨する他の強豪選手の少なさや広範なチェス文化の足りなさをテクノロジーとWebを基盤とするチェスクラブで補った。実際「ニューヨークに住んでいたことで本当に助かりました。そこには非常にいっぱいチェスの活動があり、やりたければほとんど毎週チェスを指すことができました」と語っているけれどもすぐに次のようにも付け加えた。「インターネットがなければ今ほど強くなっていたかは疑問です。インターネットがあれば本を読むのに時間をかけるよりもずっと試合をしていることができます。自分はただ新世紀の申し子だと思っています。最強者にはまだ東ヨーロッパ人やロシア人が多いけれど、オランダにすんでいるアニシュ・ギリのような非常に強い選手たちがいるのも事実ですし、もちろんノルウェーにはマグヌスがいます。」

- インターネットは自分の試合にどのような影響を与えていますか。

 インターネットがなければ同じようにはなっていなかったでしょう。インターネットでは強豪選手を相手に指す機会があります。自分の身の回りにそのような機会がなければ、速く強くなることはとてもできません。今ではインターネットはみんなの役に立つと思っています。あらゆる色々な国の強い子どもたちは皆-少なくともある程度は-テクノロジーを利用できることの申し子だと思っています。

- あなたはかつてスミスロフの試合を退屈だと思うと言って非常に物議をかもしたことがありました。あなたの発言の一部に対して、あるいは盤上での指し方でも一流相手のチェスの試合で 1.e4 e5 2.Qh5 のように指したことに対して、一般に強く批判されてきました。それに対してどのように対処していますか。そして考え方の一部が変わりましたか。

 それはどこで発言したかによります。例えばインターネット・チェスクラブで言ったようなことならば、絶対あまり真剣に受け取らないで欲しいです。物事は変わりますから。そのようなことを言った時はたぶんクラムニクも退屈だと考えていた頃です。でも今は十分対局してきて、最強の選手たちとも対局しました。だから自分とは棋風が違うだけだということです。

- ということは今ではスミスロフの試合を評価しているということですか。

 スミスロフの試合を評価するとは言っていないしそうすることもありえないでしょう。でも同時に多くの人が非常に退屈だとみなしているクラムニクの試合を見るのは本当に楽しみになったということは言えます。

- あなたがインターネットについて先のように言った後ではこれは愚問かもしれませんが、あなたに影響を与えたチェスの本、あるいは特に好きなチェスの本がありますか。

 いいえ、ありません。チェスをたくさん指してきただけですし、本を読む代わりにチェスのプログラムを使ってきただけです。人生では十分本を読んできました。今さらチェスの本を読み始める必要があるとは思いません。

- 刺激を受けたチェス選手はいますか。

 もちろんフィッシャーです。フィッシャーがいなかったら米国のチェスもなかったでしょう。そういうことです。カスパロフについても同じことがある程度言えます。彼が世界チャンピオンだった時の振る舞いやどの大会でも優勝しようとする時の指し方や世界最強であることを証明しようとする時の指し方が好きです。そういう点で彼には本当に感嘆しています。

- いつプロのチェス選手になることを決めましたか。私の記憶が正しければそのために大学を中退したと思いますが確かにそうですか。

 いや、大学を中退することにした時にはもうある程度プロでした。この決断はたぶん16歳か17歳の時にして、やってみようと思いました。1年半ほどはうまくいっていましたが興味を失いほかの事をやってみたくなりました。それで半年チェスを止めていましたが戻ってきました。それからは非常にうまくいっていると思います。

- あなたのファンの中にはヨーロッパに住んでいたら今頃はもう世界チャンピオンに挑戦していると考える人がいます。米国での一流の大会の不足と、一般的にチェスの対局、トレーニングと勝負の機会、支援や人気に関して自国とヨーロッパの間の格差があなたのこれまでの棋歴にマイナスに作用していると思いますか。

 この議論はこれ以上しても仕方ないと思います。今はほとんどヨーロッパでだけ試合しています。アーナンド、カールセンそれにクラムニクと大会で対局しています。これ以上何か言うことがありますか。

- 例えばそれらの超一流の選手たちともっと経験を積むといったようなことです。彼らはあなたよりももっと一流の大会で試合をしています。

 1月にコーラスの大会に出ました。クラムニクとの試合はひどかったですが、アーナンドとカールセンとの試合は内容が良かったです。不満は何もありません。彼らと勝負になると思っています。

- トレーニングのためのチームはありますか。

 いいえ、米国に住んでいてそこにはそのような文化はありません。今の協力者との研究で満足しています。

- それは誰ですか。

 テキサス出身のマスターで、名前はクリス・リトルジョンです。

- 代わりにGMの協力者が欲しくありませんか。

 良い着想を出すのに必ずしもGMである必要はないと考えています。1500でも良い着想を持っていることはあり得ます。それからあとに私のようなはるかに強い者がいつでも試合で使えます。着想が問題なのであって棋力ではありません。

- 昨年の11月にノルウェーでのBNBankブリッツで4試合中3試合に勝ってカールセンを倒しましたね。二人のレイティング差は現在の棋力の差を正確に表わしていると思いますか。

 カールセンは通常では考えられないようなポカを他の人たちにやらせることができるようです。現在の私にはそんな才能はないと思っています。いつでも2700の選手なら彼を負かせると思いますが、今のところ現役の選手では彼が最強です。

- あなたと彼に本当に差があるとしたらそれは何だと思いますか。

 彼と真っ向勝負すれば勝てることがあると思います。それと同時に、私がゲルファンドやスビドレルと対局すればたぶん倒せないけれどカールセンなら勝てます。だから要するに三すくみなんです。カスパロフ、クラムニク、アーナンドと同じことです。アーナンドはカスパロフを倒したことは全然ないけれどクラムニクよりは上です。でもカスパロフを倒したのはクラムニクです。だから奇妙な関係になっていて、人は特定の相手にひどく分が悪いことがあるんです。

- よく変な布局を指していたことがあり、最近でも指すことがありますね。ベークアーンゼーでクラムニク相手にオランダ防御を指したのは彼の研究を避けるためですか、それとも自分の棋風に合っているからですか、あるいは良い手を見つけていたからですか。

 オランダ防御は今まで何度も指してきました。良い布局ではないと考える人もいるのは確かですが、それを指すのは私であって、これまで十分チェスを指してきてどれが戦えてどれが戦えないかは分かっています。

- 一流の大会で指すことが多くなったことを考えると、研究や得意戦法で何か変える予定ですか。

 いいえ、今のところそういうことは考えていません。よく指せていると思っています。例えば今回の大会では2点勝ち越しでなく4点勝ち越せるはずでした。でも2試合で非常に軽率なことをやってもうちょっと堅実にやるべきでした。布局や研究全般については今でもうまくやっていると思っています。何も変えるつもりはありません。

- 新星チームの中で最年長で最高レイティングであることはこの大会で何か余計なプレッシャーとなりましたか。

 そんなことはなかったと思います。そう言えるのは昨年勝てなかったのは病気がひどかったからで、今年は本当に勝ちたかったです。だからそのためにプレッシャーがあったかもしれません。でも他の選手たちと2歳や4歳年上だということは何でもないです。

- メロディー・アンバーへの出場権を争うのでなく招待されてしかるべきだと思いませんか。

 彼らはこの大会で出場権を得るチャンスをくれました。与えられたチャンスは最大限に生かさなければなりません。確かに資格でなく私を招待することもできたでしょうが、そういうことだったので状況にあわせなければなりません。

- コーラス大会でも同じようなことがあったから聞いたのですが・・・

 うーん、BグループではやりたくなくてAグループでやりたかったんです。[前の答えは彼らしくもなくそつがなかった。ここで口ごもったのは今言ったことがコーラスについて以前に言ったこととあまり一致していないことに気がついたからだった。]与えられた機会はちゃんと生かさないといけないです。・・・世界ブリッツに招待されなかったことについては不満があります。招待されるべきだったのに招待されなかったベークアーンゼーのような大会はいっぱいあります。それでもいくらかやる気が与えられました。というのは招待されない時は何とかして人にそれが間違いだと証明してみせたくなります。諸刃の剣で、できる限りのことはやるつもりでいます。

- 最終局のゲルファンドとの黒番でキング翼インディアン防御を指したのはなんとしても勝たなければならないと思っていたからですか。

 ギリは負けないと思ったので勝たなければなりませんでした。今日は勝つか負けるかだと予想していました。どういうわけか引き分けに終わりましたが結局は願ってもないことになりました。[訳注 ギリがまさかの負け]

- カスパロフはかつてチェスの未来はカールセン、カリャーキンそれにナカムラにあると言ったことがありますが・・・

 そう、2003年リナレスの後ですね。我々は皆非常に強くなりました。カリャーキンにはだいぶ勝ち越しています。でも彼はカールセンを負かすことができます。2、3回勝っていると思います。だから心理的に優位に立っていると思います。私は明らかにカリャーキンに対してそうです。マグヌスは長いことそういうことになるのは確かだと思います。カリャーキンと私もそうだと思います。どうなるかは誰にもわかりません。時間がたてば分かるでしょう。

- 目標は何ですか。いつか世界チャンピオンになってみたいですか。

 そのとおりです。そうでなければ2700のレイティングでチェスを指す理由がないでしょう。

- 非常に強いにもかかわらず世界チャンピオンになれなかったチェス選手がいく人もいます。タイトルを取るには何が必要か考えてみたことがありますか。

 いいえ、そのようなことは考えないことにしています。つまりやるしかないのです。定跡を研究し自分の試合を検討しそれでどうなっていくかです。うまくいかなければチェックし全部考え直し始めればよいのです。うまくいっている時は・・・わざわざ他のことは何も考えません。

- 一流選手の中に友人はいますか。盤上でつぶしてやろうと考えている人たちと友人になることはできると思いますか。

 一流選手はみなお互い友人のようにみえます。私はそんなことはまったく好きでないです。つまり、私の接し方はとても違います。ただ彼らを倒したいんです。もっと若かった時でも戦う相手が友人だと対局する気持ちになかなかなれないと分かっていました。

- 私にそういうふうに告白してくれたのはあなたが初めてです。多くの選手に同じ質問をしてきましたが皆友人と気楽に対局するようだし、対局相手と仲のよい間柄です。ひょっとしてたぶん率直なのはあなたぐらいです。女性と対局するのはどうですか。

 女性との対局ですか?[私が何を言いたいのか分かっているようで彼はこのように質問して笑った。]

- 男子選手の中には女性に負けると不愉快になる人がいるようです。

 もちろん不愉快になりますよ。だって女性は男性の一流選手ほど強くはないですから。だからちょうど格下の相手に負けるようなものです。

- 私が聞きたかったのは同じレイティングでも男性に負けるのと女性に負けるのとではあなたにとって違いがあるのかということです。

 もちろんもっと不愉快ですよ。精神的にずっと悪いです。

- なぜでしょうか。

 上手であるはずのない女性と対局するからです。

- でも私が聞いているのは同じ棋力の女性と・・・

 [さえぎって]いや、あなたの聞きたいことはちゃんと分かっています。でも私の言っているのはそれでも不愉快だということです。要するに女性は男性ほど強くないんです。たとえ同じレイティングだとしても同じ強さであるはずはないんです。

- そうですか。それではそれはなぜだと考えていますか。

 たぶんチェスを指す女性があまり多くないからでしょう。男性の1/5か1/10くらいじゃないですか。

- ということは生物学的なものではない?

 はい、そうではないと思います。

- 米国でチェスが盛んになると思いますか。もっと普及するようにあなたが何かできると思いますか。

 今それをやっています。セントルイス[ナカムラは最近そこに引っ越した]のチェスクラブと教育センターで活動しています。セントルイスはジュニア選手権戦と米国女子選手権戦を主催したばかりです。そこは国内の抜群のチェスクラブで、そこの既にある施設でやれることをやろうとしています。私が世界選手権戦に登場するようなことになれば事態は変わるでしょう。でも米国でチェスをはやらせようとするのはいつもやや苦戦することになります。

- でもあなたはそれでも米国に住みたがっていますね。

 そうですとも。そこが私の出身地ですから。ある場所で育てばそこから離れがたいものです。

- 生まれは日本ですね。二つの文化に属していると感じたことはありますか。

 私は米国人だと感じています。米国に来たのは2歳の時で、ここで育ちました。だからどうみても私は米国人です。確かに私は普通のコーカサス系米国人には見えませんが、自分では米国人だと思っています。

- NH「新星」の中でトップとなってメロディー・アンバーで指す権利を得ました。目隠しチェスの経験はありますか。いつもの訓練の一部ですか。そうでないならどのように準備する予定ですか。

 以前に公開の目隠しチェスをいくらかやったことがあります。具体的には初めて目隠しチェスをしたのは野口美術館で6人を相手にした時で何の問題もありませんでした。ノースカロライナでのチェス合宿での同時対局では15人の子どもを相手にしこれも全部勝ちました。しかしこれは単に15の局面を覚えているというだけで、人が非常に質の高い目隠しチェスを指せるとは必ずしも考えていません。一般に私はあまり目隠しチェスをやっていませんし、私のトレーニング法の一部ではありません。メロディー・アンバー大会の前に公開の目隠しチェスのトレーニングをする予定はありません。

- メロディー・アンバーに観戦者として行ったことがあると言っているそうですね。雰囲気全般についてどのような印象を受けましたか。

 フランス・リーグで対局していた時、まったく偶然ですが2007年のメロディー・アンバー大会に実際に立ち寄ったことがあります。そこにいたのはほんの短い時間で、快速チェス1局しか見られませんでした。でもほとんどの選手が楽しんでいるようでお祭りのような雰囲気を感じました。

- あの大会を催しのようなものとして新しく変なこと(例えばカールセンが今年指したような 1.a3)をやってみますか、それとも真剣に指す予定ですか。

 大会では好成績をあげることに努めるつもりです。でも1手目で 1.a3、b3、d3、e3、g3、h3 を指す可能性は排除しません。

- それではチェスの政治についてちょっと。FIDE会長にはイリュームジノフとカルポフのどちらを望みますか、その理由は。

 一般に私は政治のことについてはあまり意見を持っていません。でもこの質問については一家言あります。どちらの候補にも異なった持ち味がありいます。キルサンは確かに大きな大会を開催してきたし、FIDEグランプリ巡回の成功に努力しました。それでもその巡回は今破綻しているみたいで、スポンサーが不足しているのは現在のFIDE執行部の責任であることはほとんど確実でしょう。最強のプロ選手がみな傷つけられたのは確かで、チェスのスポーツとしての信用も傷ついています。それはそれとして、彼がチェスを普及させようとしたのは確かで、チェスが大好きであることは疑う余地がないでしょう。一方カルポフはFIDEのような大きな組織はもちろん、どんな組織の運営についても全然経験がありません。誰かが多くの経験がないのに組織の指導者になればいつか多くの新しい問題が発生しやすいと思います。オバマが大統領に選ばれて以来米国で問題が起こっているのを見ています。彼は立派に仕事をやっているけれども、官僚主義のせいで手に負えないような課題がたくさんあります。それと共に、もっと多くの票を得ようとせずに法的な根拠でこの選挙に勝とうとするカルポフの選挙活動にはどうしても賛成できません。

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(この号終わり)

2010年12月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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