世界のチェス雑誌からの記事一覧

世界のチェス雑誌から(62)

「British Chess Magazine」2009年12月号(1/3)

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世界ジュニア選手権戦

ジョン・ソーンダーズが大会の模様を報告しサム・コリンズが棋譜を解説する。

 今年の世界ジュニア(20歳以下)選手権戦の開催地は開会間近になってマルデルプラタからプエルト・マドリンに変更された。どちらもアルゼンチンの都市だが前者が首都に非常に近いのに対し後者は非常に遠い。ブエノスアイレスから900マイル(約1440キロ)ほど南にありほとんどの参加者にとってはさらに移動が必要だった。プエルト・マドリンは1860年代にパタゴニアに移住したウェールズ人たちによって建設された(「マドリン」とは古いウェールズ語で「狐」の意味である)。そしてまだウェールズと多くの関連がある。例えば地元の旗はアルゼンチンの水色と白色の縞の背景に赤いドラゴンが載っている。

 迷信深い人は父親がウェールズの血筋を引くデービド・ハウエルにとってこのようなことは吉兆だとみるかもしれない。昨年は勝てばこの名高いタイトルを勝ち取る二人目の英国人になる最終戦で破れた。しかし今年の選手権はもっと厳しいものになることが予想された。それは他の参加者をはるかにしのぐ最高レイティング2718の選手のマクシム・バシエ=ラグラーブの存在や、カールセンのように年齢制限のないタイトルにもうすぐ照準を定めようとしている者がいるためだった。有利な点はハウエルに2700超のレイティングのナイジェル・ショートが道中の協力者として付き添ったことだった。

 ハウエルの出だしは着実で2連勝の後4引き分けだった。それからもう2勝して首位へ近づいた。この時点で上位の成績はバシエ=ラグラーブとジカルコが6½/8で首位を並走し、ハウエル、イトゥリサガ、リー・チャオそしてポポフが6点で続いていた。第9回戦でハウエルはバシエ=ラグラーブと黒で対戦した。この重大な試合でハウエルはフランス選手のルイロペスに対して珍しいバード防御(3…Nd4)を用いた。しかしこの試みは裏目に出た。たちまち守勢に追い込まれて負けた。この敗戦にがっかりしたハウエルは次の2局も落として優勝争いから完全に脱落した。もっともその後の2局を勝って大会を終えた。

 バシエ=ラグラーブは堂々と進撃していったがねばり強いベラルーシ選手のセルゲイ・ジガルコをどうしても振り切ることができなかった。両者の成績は10½/13という非常に立派なもので実効レイティングは2800に近かった。順位判定の結果バシエ=ラグラーブの優勝と決まった。ハウエルには必ず来年がある。トニー・マイルズの1974年世界ジュニア選手権優勝の再現の可能性がもう1回残っている。

世界ジュニア選手権戦
プエルト・マドリン 2009年10月22日-11月3日
スイス式13回戦

1 マクシム・バシエ=ラグラーブ g フランス 2718 10½
2 セルゲイ・ジガルコ g ベラルーシ 2646 10½
3 ミハル・オルシェブスキー g ポーランド 2544 9
4 イワン・ポポフ g ロシア 2582 9
5 アレックス・レンダーマン m 米国 2542 9
6 ドミトリ・アンドレイキン g ロシア 2649
7 ユー・ヤンイー g 中国 2509
8 アベティク・グリゴリヤン g アルメニア 2515
9 ギオルギ・マルグベラシビリ m グルジア 2509
10 エドワルド・イトゥリサガ g ベトナム 2605 8
11 マクシム・ロートシュテイン g イスラエル 2623 8
12 リー・チャオ・B g 中国 2617 8
13 デービド・ハウエル g 英国 2624 8
14 ファルコ・ビンドリヒ g ドイツ 2516 8
15 ダニエーレ・ボカトゥーロ m イタリア 2510 8
16 ヨアン=ツリスティアン・チリラ g ルーマニア 2504 8
17 エムレ・カン m トルコ 2455 8

世界女子ジュニア選手権戦

1 スワミナータン・ソウミャ wg インド 2297
2 デイシ・コリ・テッヨ wm ペルー 2361
3 ベトゥル・セムレ・イルディズ wm トルコ 2224
4 シャオウェン・チャン wm 中国 2391 9
5 ミランダ・ミカゼ wm グルジア 2317

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(この号続く)

2010年03月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(63)

「British Chess Magazine」2009年12月号(2/3)

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世界ジュニア選手権戦(続き)

解説 サム・コリンズ

世界ジュニア選手権戦
白 レイ・ロブソン
黒 マクシム・バシエ=ラグラーブ

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B96]

 世界ジュニア選手権は最上位10選手の平均年齢が下がってきているのでますます奇妙な大会になっている。私が最後に参加したのは2002年のゴアでの大会で、優勝はレボン・アロニアンだった。彼がタイトル獲得で得た自信は最高峰への躍進の大きな刺激となったと言えるかもしれない。

 サッカーファンなら現在アイルランドの選手がフランス人をほめることがどんなに難しいか分かるだろうが、この大会でバシエ=ラグラーブの戦いぶりが素晴らしかったことは言っておかなければならない。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 白は一直線に最も激しい主流戦法を目指している。ナイドルフとグリューンフェルトは彼の黒番の時の基盤となる防御である。

6.Bg5

 この手は以前は白の疑問とされてきた局面でコンピュータプログラムが詰みを発見し始めて近年復活してきた。

6…e6 7.f4

7…Qc7

 バシエ=ラグラーブは次の回戦のオルシェウスキー戦で白でこの局面になった。そして 7…Qb6 に対して 8.Qd3 という面白い手を指した。これは少し変わった毒入りポーン戦法で、ラジャーボフがラウソンをつぶしたことがある。バシエ=ラグラーブの試合は次のように進んだ。8…Nc6(売られたけんかを …Nc6 ではぐらかすのは黒が …Qb6 と指した後いつもある手だが、一貫性の点からいうとなぜクイーンをb6に進めたのにポーンを取るのを止めるのか理解しがたい)9.Bxf6 gxf6 10.Nb3 Bd7 11.O-O-O O-O-O 12.Be2

12…Rg8(12…h5 が Bh5 を防ぐ受けの常套手段である。たぶん黒は Qh3 でhポーンに電撃攻撃をかけられるのを気にしたのであろう。通常ならこの役割はルークがになうが3段目に上がるのに手数がかかる。いぜれにせよバシエ=ラグラーブはここからキング翼に圧力をかけるお手本を見せてくれる)13.Qh3 Na5 14.Kb1 Nxb3 15.axb3 Rg7 16.f5 Qa5 17.Rhf1 Be7 18.Rf4 Rdg8 19.g3 Kb8 20.Rh4 Rh8 21.Bc4!

スヘーファニンゲンの陣形でe6の地点が崩壊すれば黒が負けになる。オルシェウスキーは2ポーンを与えて交換得をする変化に行くが白は中央を制圧して一方的な試合にしてしまう。21…Qd8 22.fxe6 fxe6 23.Bxe6 f5 24.Rh6 Bg5 25.Bxd7 Bxh6 26.Bxf5

(ここではもう黒の敗勢だと思うがそれでも受けには問題が多い)26…Qf6 27.Nd5 Qg5 28.Nf4 Re7 29.Rxd6 Bg7 30.Rd5 Qf6 31.Nd3 Qb6 32.Qh4 Rc7 33.Qf4 Ka7 34.Qf2 Qxf2 35.Nxf2 h6 36.Nd3 1-0

8.Qf3 b5 9.Bxf6 gxf6 10.a3

10…Nc6

 アリスメンディとモレノがギャンビット社から出した『ナイドルフの完全理解』という好著で(2004年に出版されたので今では少し古くなっているが、そもそもすべてのナイドルフ本は発売される時には古くなっているものである)著者たちはこの局面で 10…Bb7 を推奨していた。バシエ=ラグラーブは意欲的な構想を描いていてキングとクイーンで中央のすべての要所を確保することを目指している。

11.Nxc6 Qxc6 12.f5 Qc5

13.O-O-O

 13.fxe6 fxe6 14.Qxf6 Rg8 は黒に十分な代償がある。このあと黒は次のように自信のある収局に持ち込むことができる。15.O-O-O Qe3+(15…Bg7 はもっと意欲的である)16.Kb1 Be7 17.Qd4 Qxd4 18.Rxd4 Bd7

これで白は黒の双ビショップ、よく利いている駒および良い陣形に対してポーン得を活用する可能性がほとんどない。

13…Bb7 14.Be2 h5

15.Kb1

 15.fxe6 Qg5+ 16.Kb1 fxe6 は黒が良さそうだが白も 17.Qf2 からb6の地点に侵入するロブソンの捌きを試みることができる。

15…Ke7

 黒はキングの不安をものともせず中央の要塞を確保した。もちろんキング翼へのキャッスリングは問題外なので黒の選択肢はこの手かクイーン翼へのキャッスリング(適当な準備のあとで)に限られている。

16.Rhf1 Qe5 17.fxe6

 何でここでポーンを交換しなければならなかったのか私には分からない。

17…fxe6 18.Qf2 Rd8 19.Qb6 Rd7

 ロブソンはこれから中央の崩壊と引き換えにクイーン翼に侵入しようとする。

20.Nxb5

20…Bxe4!?

 これは黒の勝負手である。20…axb5 は 21.Bxb5 Bxe4 22.Bxd7 Kxd7

となってちょっと見には黒が圧倒的に良さそうに見える。しかし白は次のようにさらに駒を捨てて敵が陣容を固めるのを防ぐことができる。23.Rd4! Ke8(23…f5?? 24.Qa7+ Ke8 25.Rb4、23…d5 は 24.Ra4 で白の勝勢になる)24.Rxe4!!(24.Qa7 は 24…d5 ではっきりしない)24…Qxe4 25.Rxf6

これで白は十分チェックの千日手にできる。

21.Nd4 Rb7 22.Qxa6 Bg7

 黒陣は威容を誇っているが問題はポーン損をはね返せるかである。私はできると思う。

23.Rfe1

 23.Bf3 は怪物ビショップとの交換を狙う筋の通った手である。23…Rhb8 24.b4 Rb6 25.Qa7+ R6b7 26.Qa4 となれば白の24手目の変化手順よりも優っている。もっとも白陣が十分強固であるとは思われない。

23…Rhb8

24.Bb5??

 ロブソンはコンピュータを使っても難解な局面で自爆してしまった。24.b4 Rb6 25.Qa7+ R6b7 のあと 26.Qa4 は 26…Rc7 で白キングが強い圧力にさらされるので白は同じ手を繰り返すのが良い。

24…Rxb5

 黒の応手は単刀直入である。黒はジェイコブ・アーガードがよく言うようにクイーンの代わりにトラック1台分のおもちゃを手に入れる。

25.Nc6+ Bxc6 26.Rxe5 Rxb2+ 27.Ka1 R2b6

28.Qd3

 e6のポーンを取っておく方がまだやる気のある手だが勝敗は変わらない。

28…dxe5 29.Qd6+ Kf7 30.g4 hxg4 31.Qc7+ Kg6 32.h4 gxh3e.p. 33.Rg1+ Bg2 0-1

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(この号続く)

2010年03月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(64)

「British Chess Magazine」2009年12月号(3/3)

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世界ジュニア選手権戦(続き)

解説 サム・コリンズ

世界ジュニア選手権戦
白 ダリウス・スビルツ
黒 セルゲイ・ジガルコ

オランダ防御石垣戦法 [A84]

 同点優勝のバシエ=ラグラーブと対照的にジガルコははるかに出たとこ勝負の棋風である。前者は主流手順を深く研究して対局に臨み全然負けそうな感じがない。しかし後者はあまり研究されていない局面を選び形勢不明のどちらが勝ってもおかしくない収局でしばしば勝っている。

1.d4 d5 2.c4 e6

 ジガルコは第10回戦でスラブの手順で同じ陣形を戦っている。2…c6 3.Nf3 e6 4.e3 Bd6 5.Bd3 f5

6.O-O Nf6 7.b3 Qe7 8.Bb2 O-O 9.Nc3 Ne4 10.Ne2 Nd7 11.Ne5

(白はこのようにして陣形を変えることにより、有利さを得ようとする試みをやめた)11…Nxe5 12.dxe5 Bc5 13.Bd4 Ba3!

(もちろん黒は黒枡ビショップの交換を避ける)14.Rb1 b6 15.Bb2 Bxb2 16.Rxb2 Bb7 17.f3 Nc5

18.Nd4 Rad8 19.b4 Nxd3 20.Qxd3 dxc4 21.Qxc4 Rd5!

(白に対角斜筋をしぶしぶ弱体化させる)22.f4 Rc8 23.Rd2 c5 24.bxc5 bxc5 25.Nb3 Rxd2 26.Nxd2 Bd5 27.Qc3 Qb7

(d5のビショップの威力で黒が優勢である)28.Nc4 Rb8 29.Rc1 h6 30.Qc2 Qa6 31.h3 Rb4

32.Nd6!(ここから恐怖の逆襲が始まる)32…Qa3?(32…Kh7 なら黒が優勢なままだった)33.Qxc5 Qxa2 34.Rc2 Rb2 35.Qc8+ Kh7 36.Ne8 Qb1+ 37.Kh2 Rb8

(ここから白は強制的に引き分けにできるが、たぶん時間切迫のためやりそこなった)38.Nf6+! Kg6(38…gxf6?? は 39.Rc7+ Kg6 40.Qd7 で白の勝ち)39.Qc7?? gxf6 40.exf6 Qb7 41.Qd6 Rc8 白投了

オルシェブスキー対ジガルコ、世界ジュニア選手権戦、2009年

3.Nc3 c6 4.e3 Bd6 5.Bd3 f5

 非常に人気のある石垣オランダ防御の陣形になった。白は単刀直入にe4の地点をめがけて指し進めるがうまくいくとは思われない。

6.Nge2 Nf6 7.f3 O-O 8.Qc2 Kh8 9.Bd2 Qe7 10.O-O

10…dxc4!

 この手はポーンの形を変える面白い決断である。10…Nbd7 は 11.c5 とされて白が都合のよい時にb5突きとe4突きを狙えるので不正確である。

11.Bxc4 Nbd7 12.Bd3 Nb6 13.e4 fxe4

14.Nxe4!

 14.fxe4 は陣形の広さを利用しようとする典型的な間違いである。石垣戦法の陣形で白がe4突きの準備をしたあとf6のナイトはg4の地点に来れるので非常に危険な存在になる。14…e5 15.dxe5 Bc5+ 16.Kh1 Ng4

で黒は白に対して危険な攻撃を始める。以前に白で非常に似た状況で負けたことがあるのでこのパターンは脳裏に焼きついている。

14…Nxe4 15.fxe4 Rxf1+ 16.Rxf1 e5 17.dxe5 Bxe5 18.Ng3 Qd6 19.Bc3 Be6

20.Nf5!?

 黒にけんかを売った形だがうまくいくとは思えない。20.Bxe5 Qxe5 ならほぼ互角だろうが黒が中央をしっかり支配しているので私なら黒を持ちたい。

20…Bxh2+ 21.Kh1 Bxf5 22.Rxf5

 白の双ビショップがよく利いているのでポーンの代償はある程度ある。しかしジガルコの受けは正確だった。

22…Nd7 23.Rf7? Ne5 24.Rxg7 Kxg7 25.Kxh2 Kg6 26.Bxe5 Qxe5+ 27.Kh1 Rd8

 黒は交換得の優位を難なく勝利に結びつける。

28.Be2 Kg7 29.Qb3 Qxe4 30.Qxb7+ Kh8 31.Qf7 Qh4+ 32.Kg1 Qd4+ 33.Kh1 Qxb2 34.Qe7 Qa1+ 35.Kh2 Qd4 36.Bd3 Qd6+ 0-1

 この試合は特に好局というほどではないがジガルコがこの大会で素晴らしい結果を得たのはこのような堅実で職人的な技巧のおかげである。

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(この号終わり)

2010年03月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(65)

Olympiad United! Dresden 2008(1/8)

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収局の逸機

チェスの終盤の指し方はますますくじ引きのようになっていくのだろうか

ジェイコブ・アーガード

ルーク対ポーン雪崩

 私と同じスコットランドの第一人者のジョナサン・ラウソンは最初の10回戦を主将として自信たっぷりにエネルギッシュに指した。彼の指し回しは冴えていたが最終的な出来は数値的には良くなかった。しかしこれはすべて一つの小さな不運のせいだった。それははるか格下の選手との優勢なルーク収局に負けたことだった。最終盤でルークが3個の連結パスポーン雪崩を相手にすることになったがそれはキングの駆け戻るのが間に合ってどうかという際どい状況だった。

□ ジョナサン・ラウソン (2596)
■ 小島慎也 (2272)
スラブ防御 [D11]

1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 c6 4.e3 Bg4 5.h3 Bxf3 6.Qxf3 e6 7.Bd3 Nbd7 8.O-O Bd6 9.Rd1 O-O 10.Nc3 Qe7 11.Qe2 dxc4 12.Bxc4 e5 13.d5 e4 14.dxc6 bxc6 15.Qc2 Rad8 16.Bf1 Rfe8 17.Bd2 h5 18.Ne2 c5 19.Bc3 Nb6 20.Nf4 Bxf4 21.exf4 Nfd5 22.Bd2 Nb4 23.Bxb4 cxb4 24.Rxd8 Rxd8 25.Re1 Rd4 26.h4 f5 27.g3 Qd6 28.Rc1 Rd2 29.Qb3+ Qd5 30.Qxb4 Kh7 31.Rc5 Qd6 32.Rb5 Qxb4 33.Rxb4 Nd5 34.Rb7 e3 35.fxe3 Nxe3 36.Re7 Nxf1 37.Kxf1 Rxb2 38.Rxa7 Kh6 39.Ra6+ g6 40.Ra7 Rc2 41.a4

 白は1ポーン得しているが黒はルークの働きが非常に強くg3の白ポーンの弱さと相まって引き分けに持ち込むのはそれほど難しくないはずである。しかし黒のここからの15手はこの収局をあまりよく理解していないみたいで、白はがぜんやる気になった。

41…Rc1+ 42.Kf2 Rc2+ 43.Ke1 Rg2 44.a5 Rxg3 45.a6 Ra3 46.Kd2

46…Ra1?!

 46…Ra4 の方がもっと理にかなっていてすぐに引き分けに終わるだろう。実戦の手は黒がaポーンを見張っているか白のキング翼のポーンを根こそぎにするか明らかに決めかねている。

47.Kc3

47…Ra5

 この手は一体何だろうか。どうして4段目に行かないのだろうか。確かに 47…Ra4 48.Kb3 Rxf4? なら 49.Ra8 Kg7 50.a7 で白が勝つ。しかし 48…Ra1 でなんともない。

48.Kb4 Ra1 49.Kb5 Rb1+ 50.Kc5

50…Ra1

 ここは 50…Rc1+ の方が普通である。この試合をチームで研究した時にキングをf8やg8にやって勝てないものかとあらゆることを試した。しかし黒は必ず1手の差でこの収局から助かるのだった。

51.Kb6 Rb1+ 52.Kc7 Rc1+ 53.Kb8 Ra1 54.Ra8

54…Ra4??

 方針としてはこれしかないがやり方が悪い。黒はキング翼の2個のポーンを取ってルークに対して3個のパスポーンで引き分けにするしかない。しかしこの手のように無駄手を指している暇はない。正しい手順は 54…Rb1+ 55.Ka7 Rb4 で、白キングが自分のaポーンの邪魔になっていて次のように黒が1手違いで引き分けにできる。56.Rh8+ Kg7 57.Rc8 Rxf4 57.Kb6 Rxh4! 黒はポーンが全部必要である。59.Kb5!

最も難しいのはもちろんこのようにキングを寄せてくる手である。59…Rh1 60.a7 Ra1 61.a8=Q Rxa8 62.Rxa8 h4 63.Kc4 g5 64.Kd4 g4 65.Ke3 h3

これで黒は簡単に引き分けにできる。白キングがg5に来て黒キングを詰ませる狙いが実現できない限り白が勝つ手段はない。これが引き分けへの唯一の手段というわけではないが最も容易で論理的だと思われる。

55.Ra7?

 55.a7!(まず 55.Kb7 として同様の手順で進めるのも可能)55…Kg7 56.Kb7 Rb4+ 57.Ka6 Ra4+ 58.Kb6 Rxf4 59.Re8

55…Rxf4 56.Rc7 Rxh4 57.a7 Ra4 58.Rc4

58…Rxa7!

 この手のあと問題を解決しなければならないのは白の方である。黒は 58…Rxc4 59.a8=Q Re4

で要塞を築くこともできた。hポーンを取り除いた局面はテーブルベースによると引き分けである。hポーンがあっても何も不利益になりそうにないのでこれも引き分けの収局としてよいだろう。

59.Kxa7 Kg5 60.Kb6 h4 61.Kc5 h3 62.Rc2 Kf4 63.Kd4 g5

64.Rc1?

 この手はひどかった。たぶん時間加算の絶えざる重圧のせいだろう。現在のチェスの状況は選手にとって悪い方向に進んでいる。30手以前の引き分け禁止という新しい規則と共に選手には別のレベルのプロ根性が要求されている。しかし審判たちはいまだに無能で(少なくともオリンピアードでは)、この持ち時間の加算もばかげている。時間加算には問題点が多いが最も明らかなのは次の二つである。一つ目は選手から責務を取り去ってしまうことである。以前は選手は自分の時間を好きなように用いることができた。これはハラハラするような時間切迫になることもあったが徹底的に読むこともできた。二つ目は選手たちが大きな緊張にさらされることである。持ち時間不足は何時間も続く。私とアグデスタインとの試合は後でお目にかけるように約60手も続いた。20分追加は1時間追加の場合のような興奮を静める機会を選手に与えない。私の知る唯一の利点は審判と主催者が棋譜を正したり時間切迫の面倒をみる問題をほとんどなくすことである。最近のオリンピアードでは収局の水準が落ちたことは明らかである。それはチェスにとって破滅的である。本譜で正着は 62.Rf2+! だった。他の大会ならブリッツでもジョナサンはすぐにこう指しただろう。64…Kg4 のあと白には引き分けにする手がたくさんある。例えば 65.Ke3 f4+ 66.Ke2 Kg3 67.Rf3+ Kg2 68.Rf2+

などである。

64…h2

 これで黒の勝勢である。

65.Rf1+ Kg3 66.Rxf5 h1=Q 67.Rxg5+ Kf4

 ジョナサンは雄々しく戦ったが40手後には必然に屈せざるをえなかった。

68.Rc5 Qd1+ 69.Kc4 Ke4 70.Kb5 Qb3+ 71.Kc6 Kd4 72.Rb5 Qe6+ 73.Kc7 Kc4 74.Rb6 Qe7+ 75.Kc6 Qc5+ 76.Kb7 Kd5 77.Rb3 Qc6+ 78.Kb8 Kc4 79.Rb1 Qe8+ 80.Ka7 Qd7+ 81.Ka6 Qe6+ 82.Ka7 Qf7+ 83.Ka6 Qg6+ 84.Rb6 Qe8 85.Rh6 Kc5 86.Kb7 Kb5 87.Rb6+ Kc5 88.Rh6 Qd7+ 89.Ka6 Qb5+ 90.Ka7 Kc4 91.Rh4+ Kb3 92.Rh6 Qc5+ 93.Kb7 Kb4 94.Ka6 Qg5 95.Rb6+ Ka4 96.Kb7 Qc5 97.Rb1 Qd5+ 98.Ka7 Qf7+ 99.Rb7 Qf6 100.Rh7 Kb5 101.Rb7+ Kc5 102.Rc7+ Kd6 103.Rh7 Kc6 104.Kb8 Qd6+ 105.Ka8 Qa3+ 106.Kb8 Qb3+ 107.Ka7 Qa2+ 0-1

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 「Behind the Scene」の「Dresden Dream(10) -Rowson vs Kojima-」に小島選手の自戦解説があります。

(この本続く)

2010年03月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(66)

Olympiad United! Dresden 2008(2/8)

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ヨーロッパのチェス侍
セルビア人の日本コーチ体験

ヨシプ・アシク


日本男子チーム 左から小島慎也、ミハイロ・ストヤノビッチ、上杉晋作、佐野富、野口恒治


馬場雅裕選手

 オリンピアードの試合会場で彼をつかまえるのは簡単ではなかった。グランドマスターのミハイロ・ストヤノビッチは「自分の」盤の隣に立ってじっと試合を見ているので彼の隣に「邪魔するな」という看板が掲げてあるかのようだった。日本チームの監督兼トレーナーとしてこのセルビア人は完全に自分の選手たちに献身し、責任を持ってほとんどの時間を男子と女子チームに注いでた。やっとインタビューする機会が持てた時ストヤノビッチは「我々の選手たちはこうする」「我々の選手たちはああする」というような表現を繰り返し用いた。私と彼が二人とも日本人だったら何もおかしくないが実際はセルビア人なのである。良い監督というものは自分のチームと同じように考えたり感じたりしなければならないものならば、そう、確かに31歳のストヤノビッチは本当に立派に務めを果たした。「プロとしての責務は別にしても彼らの一員のように感じていたし、彼らが喜び結果を誇れるように全精力を傾けた」とストヤノビッチは自分のオリンピアードの使命について説明した。「ドレスデンでの我が日本代表たちは一枚岩でお互い支えあい、私は彼らの国の代表として光栄に思っていた。彼らのチームと関わる前は日本人の性向についてあまり知らなかった。しかし彼らの好意や率直な態度に好成績へ自分の最大限の能力を傾ける動機づけを強くかき立てられた。我々は一杯研究したが自由時間も一緒に過ごした。ドレスデンでは我々がいつも集団で一緒にいるように見えただろう。」チームの目標と個人ごとの期待については彼は何と言っているだろうか。「男子チームの一番の優先課題は勝ち点で50%以上を達成することだった。それは達成された(勝ち点11で、順位はルクセンブルクより二つ下の77位)。しかしそれだけでなく女子チームがEグループで男子チームがDグループでオリンピアードの「小」メダルを確保することもできた。残念ながら最終戦では大敗を喫して男女合わせて8試合でわずか半点しか取れなかった。それでもどの選手も大会中は全力を尽くし日本代表チームに選ばれたことが正当であることを完全に証明した。男子チームはみな若く、今回のメンバーのうち2年前のトリノに出ていたのは小島慎也選手だけだった。」[訳注 佐野富選手も出ていました。]

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(この本続く)

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世界のチェス雑誌から(67)

Olympiad United! Dresden 2008(3/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験


日本チームの主将の小島慎也

もはや「第三世界」のチェスではない

 だからチェスの「第三世界」の国々のうち日本が急速かつ継続的に発展途上にあることは疑いない。一つの理由はストヤノビッチのようなトレーナーが知恵と知識を進んで共有してくれるためであるが、技術の急速な進歩の方がはるかに影響が大きい。「10あるいは15年前は可能でなかったが今日では世界中の選手たちがあらゆる種類のチェスの情報に接することができる。このことはドレスデン・オリンピアードでの我々の試合から最も明らかである。例えば日本対ボツワナの全試合で最も最新かつ流行しているチェスの定跡が用いられた。もちろん私は日本選手たちの使用する定跡は知っていたが、アフリカ選手たちが同様によく研究していたのにはとても驚かされた。今回のオリンピアードでは意外な結果が多かったが今日では当たり前のことに過ぎないと思う。チェスの世界はすでに変貌を遂げていて、もはや「第三世界」と伝統的なチェス強国との間に質の差は存在しない。実際違いがあるとすれば微妙な差でしかない。」セルビアのグランドマスターは2008年の11月に初めて日本チームの監督としてデビューした。しかし彼自身のトレーナーとしての経験はもっと前にさかのぼる。ストヤノビッチは2006年のトリノ・オリンピアードでセルビアとモンテネグロの女子チームを訓練した。そして2007年のクレタ島でのヨーロッパ団体選手権ではセルビアの男子チームの準備を担当した。彼は分析能力と親しみやすい態度を高く評価されているが、自国の最強選手の一人でもある。実際2007年7月のレイティング一覧では2601でセルビアの第2位だった。自国のために指す機会がなかった唯一の理由はその期間に国際団体競技会がなかったためだった。そこで彼は新たな挑戦を探して「日の昇る国」で新しい任務を見つけた。「私の選手たちと準備を始めたのはオリンピアードの二ヶ月くらい前だった。我々のトレーニングはヨーロッパから日本へインターネットを介して長距離で行なわれた。各選手に代表的な試合の棋譜を送るよう言いそれによって彼らの棋風を考察した。それで彼らの長所のみならず短所も把握することができた。それからオリンピアードの2、3週間前に東京に行き日本の最大の大会の「ジャパンオープン」を観戦した。そこで私の選手たちの対局を見ることができた。これによってお互いより良く知り合うことができた。」

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(この本続く)

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世界のチェス雑誌から(68)

Olympiad United! Dresden 2008(4/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験


セルビア人コーチの回りに集まった日本女子チーム (左から)若林久子、内田成美、岩城理恵、中川笑子、コーチのミハロ・ストヤノビッチ

ドレスデンに向けての準備

 「日本のオリンピアード選手が大会の1年以上前から選抜されていたということを聞いて驚いたことにも言及しておかなければならない。まる1年たてば多くのことが変わる可能性があるからこれは奇妙に思えた。しかしそれは純粋なアマチュアがどういうものであるかということを忘れていたためだった。そして結局他に仕方がないことに気づいた。早期の選抜はまったく実際的な理由によるもので、選手たちは少なくとも1年前から雇用者や教授から特別な休暇の許可を得るために職場や大学に届け出なければならないのだった。選手の一人は実際オリンピアードの前に仕事を辞めたことも言っておいた方がよいだろう。しかし誤解して欲しくないが彼はずっと前から仕事を変えるつもりでいて、ちょうどいい時に決断しただけである。」日本滞在中ストヤノビッチは男子チームの全員が日本独自の盤上競技である将棋の経験者であることに気づいた。これは貴重な情報だった。「将棋はチェスに似ているが9x9の枡目の盤で指される競技で、将棋を知っているということは日本選手たちが手を読むことに習熟しているということでそれが大いに役立つことになった。この長所を彼らの強い伝統の勤勉さと結びつければチェスを研究することにもいかに熱心になるかが分かってくる。主将の小島選手のレイティングは2300以下で、これはヨーロッパではアマチュアのレベルとみなされる。しかしレイティングの数値はいつも決定的な真実を明らかにしてくれるとは限らない。そして小島選手は二人のよく知られたグランドマスター、即ちカタールのモハマド・モディアーキとスコットランドのジョナサン・ラウソンを負かしてそのことを証明した。三将の佐野選手もグランドマスターを負かした。相手はルーマニアのレベンテ・バイダだった。実は日本ではいまだに将棋が最も盛んな盤上競技で、高額の賞金の大会がチェスよりも数多くある。しかし私の全体的な印象ではチェスは日本人にとってやりがいのあるもので人気も高まっていくだろう。日本チェス協会代行で故ボビー・フィッシャーの親密な知人だった渡井美代子は功績が大きい。」ここでドレスデンでの日本チームの活躍ぶりを紹介しておこう。小島慎也選手(レイティング2272、10戦4点、実効レイティング2306)はオリンピアードの前半戦で素晴らしい成績をあげた。非常に深い定跡の研究は高い集中力と正確な読みと相まって相手にとって手ごわい存在になり多くのグランドマスターから一目置かれる存在になった。大会の終わりに近づくにしたがって強豪相手との試合の経験不足のために成績は振るわなくなった(ボツワナのレイティング2247のイグナティウス・ニョブブとドイツのレイティング2541のGMライナー・ブーマンに負けた)。それでも最終成績は非常に立派なものだった。第2回戦のカタール戦では非常に難解な局面になった。それぞれの解説でこの試合を振り返る。

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(この本続く)

2010年04月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(69)

Olympiad United! Dresden 2008(5/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験

□ モハマド・アル=モディアーキ (2559)
■ 小島慎也 (2272)
シチリア防御 [B30]
(解説 ミハイロ・ストヤノビッチ、小島慎也)

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5

 これはGMモディアーキの得意戦法だが小島も十分研究していた。

3…Nf6 4.Bxc6

 白はすぐにナイトを取って黒の二重ポーンに対する長期的な優位を得て指し進める考えである。この方針は多くの半閉鎖的な局面では双ビショップがあまり有効に働かないという重要な原理に基づいている。

4…dxc6 5.d3 Bg4 6.Nbd2 e6

 黒は自然な陣形で応じている。

7.h3 Bh5

8.O-O

 二人の強豪グランドマスターがGMパベル・トレグボフに対して 8.g4 と指し次のように共に負けている(!)。2004年セルジー・ポントワーズ快速戦でのフレシネ対トレグボフ戦では 8…Bg6 9.Nc4(2004年インターネット・ブリッツでのボローガン対トレグボフ戦では 9.Ne5 Bd6 10.Ndf3 Qc7 11.Nxg6?! hxg6 12.g5 Nh5 13.Qe2 Bf4

と進みキング翼の白ポーンが弱いので黒が優勢だった)9…Qc7! 白からの Bf4 を防いだ 10.Nfe5 Nd7 11.Bf4 Nxe5 12.Bxe5 Qd7

と進んで黒が良かった。また 8.Nf1?! なら2008年オルディクスでのクシュベントナー対トレグボフ戦のように 8…c4! で黒が有利である。「ロシアのGMトレグボフがこの局面を指している棋譜が少しあったので詳しく研究していた」(小島)

8…Be7 9.Qe1 Nd7

 黒はどちらにでもキャッスリングできるようにしている。

10.b3

10…e5

 ここは 10…O-O 11.Bb2 Qc7 が良かった。「白は少し良いだけである。」(小島)

11.Bb2 Qc7

12.g4

 この手は諸刃の剣である。白は当初から強い圧力をかけている。その反面自分のキングを薄くしている。12.Qe3 の方が堅実で Nc4 を見ている。「12…b5 13.a4 O-O で何も問題ない。」(小島)

12…Bg6 13.Nc4 f6 14.Nh4

14…O-O-O

 「14…Nf8!? でナイトの位置をすぐに改善することはできた。しかしキングを中央に残しておくのが嫌だった。15.f4 exf4 16.e5 がその理由である。」(小島)

15.Bc1

 白は新たにキング翼で進攻しようとしている。しかし黒の応手を過小評価していた。代わりに 15.Qa5 Qxa5 16.Nxa5 Nf8 17.Nf5 Rd7! ならほぼ互角の形勢である。「彼が f4 突きを狙っているのは分かっていた。しかし白は展開が足りないので黒は十分に対応できる。」(小島)

15…Nf8 16.f4

16…Bf7!?

 この手は攻撃に効いている Nc4 を取り除いてしまうつもりである。「16…Ne6 も読んだが止めてしまった。しかし実際は 17.f5 Nd4 18.fxg6 Nxc2 19.Qc3 Nxa1 20.Kg2 Qd7!

で黒が良かった。」(小島)

17.fxe5 Bxc4 18.bxc4

18…fxe5!

 黒が 18…Qxe5 でキング翼のしまったポーンの形を保とうとすると白は 19.Bf4 Qd4+ 20.Kg2 で Nf5、Qa5 または Rb1 を狙って優勢になる。実戦の手の後は Be7 がよく働いている。

19.Rf7

 この手は怖そうに見えるが実際はどうということもないことが分かってくる。

19…Ne6 20.Nf5 Rd7

21.Qg3

 21.Nxg7 は 21…Nxg7「代償があるので 21…Nd4 と指すかもしれない。」(小島)22.Rxg7 Bh4! 23.Rxd7 Qxd7 24.Qe3(24.Qc3 は 24…Rf8 で白の方が悪い)24…Rf8

で黒に強い主導権がある。

21…Bf6 22.Rxd7 Qxd7

23.Be3??

 この手は自然な手だが白は駒損することを見落としていた。代わりに 23.g5 は 23…Bd8(「23…g6?! とは指せない。以下 24.gxf6 gxf5 25.exf5 Nd4(25…Qd4+ は 26.Qe3 Rg8+ 27.Kh2 で白がはっきり良い)26.Qg7 で白が少し良い」(小島))24.Bb2(24.Qxe5 は 24…Bc7 25.Qb2 Rf8 から …g6 の狙いで白が困る)24…Nf4 25.Qg4 Bc7

から …Rf8 の狙いで黒の方が非常に良い。

23…g6!

24.Nh6

 24.Nh4 は 24…Nd4 で白は …Ne2 あるいは …Bxh4 から …Nf3 の狙いをかわせない。

24…Nf4! 25.Re1 Bg5

 ナイトが捕まり小島は決定的な優勢を勝利に導いていく。

26.Bxc5

26…Bxh6

 「対局中は 26…b6 27.Bd6! Qxd6!(27…Re8 は 28.c5 Bxh6 29.d4!)28.Nf7 Qe7 29.Nxh8 Bh4

で決まっていることが読めなかった。」(小島)

27.Bxa7 Bf8 28.Qe3?

 敗勢の局面でポカが飛び出した。

28…Bb4! 29.Kh2 Bxe1 30.Qxe1 Qc7 31.Qb4 Ne6

 これでf列からクイーンとルークが侵入できる。

32.Bb6 Qf7 33.Qa5 Rf8 34.Qa8+ Kd7 35.Qxb7+ Kd6 36.Qa6 Qf4+ 37.Kg2 Qd2+ 38.Kg3 Qe1+ 39.Kh2 Qe2+

40.Kh1

 40.Kg3 は 40…Rf3+ 41.Kh4 g5+ 42.Kh5 Rxh3# で詰む。

40…Rf1+ 41.Bg1 Qf2 42.c5+ Nxc5 0-1

棋譜解説者たち


小島慎也 レイティング2272、1988年生まれ、日本、主将


ミハイロ・ストヤノビッチ GM、レイティング2535、1977年生まれ、セルビア、日本男子・女子チームのコーチ

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 「Behind the Scene」の「Dresden Dream(3)」に小島選手の自戦解説があります。

(この本続く)

2010年04月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(70)

Olympiad United! Dresden 2008(6/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験

 三将の上杉晋作(レイティング2222、10戦5点、実効レイティング2342)は創造性あふれるチェスを指した。彼はあらゆる型の局面をよく理解している。第7回戦のアイルランドとの試合では21手目で面白い局面になった。

□ 上杉晋作 (2222)
■ サム・コリンズ (2412)
シチリア防御 [B70]
(解説 ミハイロ・ストヤノビッチ)

1.Nf3 c5 2.g3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 g6 5.Bg2 Bg7

6.Nb3 Nf6 7.Nc3 d6 8.O-O O-O 9.e4 Bg4 10.f3 Be6

11.f4 b5 12.Nd5 Rc8 13.Kh1 Re8 14.a4 a6 15.axb5 axb5

16.Be3 Nd7 17.c3 b4 18.Ra4 bxc3 19.bxc3 Ncb8 20.c4 Nc5 21.Nxc5 dxc5

 白は陣地が広く展開も優っているがそれをどのように生かしていくのだろうか。

22.f5!

 ここが陣形の急所である。22.e5 も強手だが上杉選手は直接攻撃を好んだ。

22…Bd7 23.Ra7

23…Rf8?!

 f7の地点は守る必要がなかった。もちろん 23…Nc6?? は 24.Rxd7 と取られるので大悪手だが、23…e6! なら 24.fxe6 Bxe6 25.Ne7+ Qxe7 26.Rxe7 Rxe7

となって駒数が少なくなっているので引き分けに終わる可能性が濃厚である。

24.Bf4!

24…Bd4?

 24…Kh8 の方が良かった。

25.f6!

25…exf6

 25…e6 は 26.Ne7+ Kh8 27.Nxc8 で白が勝つ。

26.Bxb8 Kg7 27.Bxc7 Rxc7 28.Rxc7 1-0

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(この本続く)

2010年04月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(71)

Olympiad United! Dresden 2008(7/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験

 佐野富(レイティング2111、9戦4.5点、実効レイティング2307)は非常にチームに貢献してくれて、堅実で論理的なチェスを指した。それは第3回戦のルーマニアとの試合によく表れている。

□ レベンテ・バイダ (2582)
■ 佐野富 (2111)
イギリス布局 [A05]
(解説 ミハイロ・ストヤノビッチ)

1.Nf3 Nf6 2.g3 d5 3.Bg2 c6 4.O-O Bf5 5.d3 h6

6.b3 e6 7.Bb2 Be7 8.Nbd2 O-O 9.Re1 Bh7 10.e4 Nbd7

11.Qe2 a5 12.a4 Nc5 13.Red1 Rc8 14.Ne1 Qc7 15.e5 Nfd7

16.Nf1 Rb8 17.d4 Na6 18.c4 Nb4 19.Ne3 Rfe8 20.f4 Nb6

21.Bc3 Ra8 22.g4 f6 23.Bxb4 axb4 24.a5 Nd7 25.cxd5 cxd5 26.f5

 双方とも時間不足の中で白は危険だが黒にとって嫌な手を指した。局面は黒が危なそうに見えるが実際は黒の方が良くて佐野選手はそれを素晴らしい指し回しで実証する。チェスエンジンもここからの10手を全く同じ手順で指し進めている。

26…fxe5!

 これは中原の争点を解消する最善の方法である。

27.fxe6 Nf6!

28.Rac1?!

 客観的に見て 28.Nxd5 Nxd5 29.Bxd5 exd4 と指す方が形勢は少し悪くても白にとって良かった。この後 30.Rxd4 には 30…Bc5 がある。

28…Qd6!

 28…Qxa5 は 29.dxe5 で黒は時間不足もかかえているので良くない。

29.g5?!

 この判断も疑問である。ポーンを犠牲にしても黒陣は揺るがない。

29…hxg5 30.dxe5 Qxe5 31.Nf3 Qf4!

32.Rd4

 32.Nxd5 は 32…Nxd5 33.Rxd5 Qxc1+ でだめである。

32…Be4!

 クイーンを敵陣に置いておくのが良い。

33.Nd2 Rxa5 34.Nxe4 dxe4 35.Rdc4 Bd6 36.Nf1 b6!

 この手はc列を守る準備である。

37.Kh1 Bc5

 黒は初めて不正確な手を指した。37…Rxe6 が強い手だった。

38.Bxe4

 白は 38.Ng3 を見逃した。その意図はナイトでe4のポーンを取って異色ビショップの戦いに持ち込もうということである。

38…Nxe4 39.Qxe4 Qf6!

 白キングが弱いので黒はまた勝勢になった。

40.Re1 Qf2!

 黒は非常に正確な手で規定手数に達した。

41.Rxc5

 41.Ng3 は 41…Ra2 で終わりである。

41…bxc5 42.e7 Ra7 43.Qc4+ Qf7 44.Qxc5 Raxe7 0-1

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(この本続く)

2010年05月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(72)

Olympiad United! Dresden 2008(8/8)

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ヨーロッパのチェス侍(続き)
セルビア人の日本コーチ体験

 日本女子チームのコーチも担当していたので主将の中川笑子(レイティング1860、11戦5.5点、実効レイティング1756)の試合を紹介したい。彼女はすぐれた指し回しと局面の深い理解力でみごとに5勝をあげた。その中から第9回戦の中国台湾との試合をとりあげる。

□ 中川笑子 (1860)
■ エルサ・ウィー・チュン・ユエ (1612)
ニムゾインディアン防御 [E38]
(解説 ミハイロ・ストヤノビッチ)

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2 c5 5.dxc5 Na6 6.a3 Qa5

7.Bd2 Nxc5 8.Nf3 d6 9.Rc1 Bxc3 10.Bxc3 Qa4 11.Qxa4+ Nxa4

12.Bxf6 gxf6 13.b4 Rg8 14.g3 b6 15.Bg2 Bb7 16.O-O Rc8 17.Nd2!

 ナイトを交換すると黒の弱いf6、f7またはh7のポーンに対する攻撃が容易になるので白が有利である。

17…Bxg2 18.Kxg2 Rg4 19.Rc2!

 この手は好手である。白はまず Rfc1 で黒の反撃を制限する。そうすれば Nd2 が自由に動ける。

19…b5?

 チェスの戦略の重要な原則の一つは「自分の不利なところで戦うな」である。19…Ke7 なら黒は少し不利なだけだった。それに対して白は 20.Rfc1、Nb3、e3、Nd4、f4、Kf3 と陣形を整えた後 b5 または Nb5、さらには f5(どれにするかは相手の手による)として優勢である。

20.Rfc1 bxc4 21.Nxc4!

 これで黒が大いに困っている。

21…Rd4?

 ここで 21…Ke7 は 22.Ne3 Rxc2 23.Rxc2 から 24.Rc7+ が残る。だから最善手は 21…Rd8 だった。以下 22.Ne3 Rd4 23.Rc7 Rd7 24.Rc8+! Ke7 25.R1c7

のあと Rxd7+ から Ra8 または Rh8 を狙って白が優勢である。ただしすぐに 25.Rh8 は 25…Rd2 26.Kf3 Ra2 で黒が引き分けにできる可能性が高くなる。

22.Nxd6+ Rxd6 23.Rxc8+

 あとは中川選手が大きな駒得を生かして勝ちを決めた。

23…Rd8 24.Rxd8+ Kxd8 25.Rc4 Nb6 26.Rh4 Ke7 27.Rxh7 Nc4

28.a4 a5 29.bxa5 Nxa5 30.Rh4 f5 31.Rb4 Kd6 32.h4 Ke7

33.Kf3 Kf6 34.Ke3 Nc6 35.Rb5 Kg6 36.a5 f6 37.a6 Na7

38.Rb7 Nc6 39.a7 Nxa7 40.Rxa7 e5 41.f3 Kh5 42.Rh7+ Kg6 43.Rh8 Kg7 44.Ra8 Kg6 45.g4 1-0

 日本は多くの分野で急速に地位を向上させてきた国なので、今度は「ヨーロッパの侍チェス」の生徒から何を期待できるだろうか?

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(この本終わり)

2010年05月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(73)

「Chess Life」2010年2月号(1/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦

サムリサとタヌジが銀メダル

トルコでのチェス物語

フェドがちょっと経験不足の少年少女チームの成績について報告する
GMジョン・フェドロウィッツ

 私は5年連続で世界少年少女選手権戦のコーチの一人という楽しい役目を務めた。今年の大会は11月11日から23日まで2年ぶり2度目のトルコのアンタルヤで行なわれた。ケメル市(ここにホテルがある)は非常に風光明媚で空港から車で1時間半である。2年前は車で移動中とても暗かったので風景を見逃した。山々と地中海の眺めでチェスにとってこれ以上はないリラックスした良い雰囲気だった。

 リムラ・ホテルは何もかも備わった複合施設である。チームUSAの部屋は全部近接していた。そのため検討のための集合が非常に楽だった。2年前と同じようにコーチは皆試合後にロビーに集まって検討を行なった。我々はこれは学習過程の非常に重要な一部と考えている。主催者が速報を定期的に発行するので欠陥を早急に補修することが必要だった。別の利点は大会会場がすぐ近くだったことである。文字どおり部屋から100フィートで、バスに乗るためにあくせくすることがなかった。時差ぼけはいつも要因となるがこのぼんくらな筆者と違って我々の子どもたちは大丈夫だった。なにしろ私は残り2試合になるまで時差に適応できなかった。もっとも試合前の予習と試合後の分析ごとに起床していたが。

 今年のチームは最近では最も経験の少ないチームの一つだった。これは多くの上位選手やメダルを争える選手が学校のカレンダーとかち合ったことに責任がありそうだ。(米国からは58選手分が招待された。)。我々はこれを前向きに新たなやりがいのある挑戦ととらえた。今年は25人の子どもにコーチが5人でちょうど割り切れた。私の5人の生徒はアレック・ゲッツ、アンドルー・ン(16歳以下オープン)、デイビド・アデルバーグ(14歳以下オープン)、バルン・クリシュナン(12歳以下オープン)それにアリシャ・チョーラだった。

 アレックとアンドルーは強豪ぞろいの部門で最も厳しかった。デイビドは昨年のベトナムではメダル争いをして思いがけない番狂わせだった。今年も8回戦が終わったところで6点をあげて再びメダルの可能性があった。しかし残念ながら最後の3局を負けてしまった。バルンは黒番の準備に問題があった。これを直せば来年は健闘するだろう。アリシャの出だしはゆっくりだったが最後は本当にすごい勢いだった。来年はメダル争いに加わるだろう。

 それでは好成績者と未来の世界チャンピオン候補の試合を見ていこう。最初の試合はタヌイが華々しい戦術で銀メダルをもぎ取った。昨夏の汎アメリカ少年少女では私はコーチでなかったのでタヌジに会ったことがなかった。私が知っていたのは彼が楽に自分の部門で優勝したということだけだった。彼は若さに似合わず大局観と戦術の感覚に優れていて、性格も良く、チェスも大好きである。こやつは注目に値する。チェスでの大活躍が期待できる。

チームUSA成績

女子8歳以下
サムリサ・パラコル 8½点
アリシャ・チョーラ、ライザ・ビーニャ、アニー・ワン 7点
女子10歳以下
シモーン・リャオ 7点
女子12歳以下
セアラ・チャン 7½点
女子14歳以下
アリーナ・カッツ 7½点
アンナ・マトリン 6½点
女子16歳以下
ダリアン・ロビンソン 5½点
女子18歳以下
アビー・マーシャル 6½点
オープン8歳以下
タヌジ・バスデバ 8½点
ウィンストン・ゼン 5点
オープン10歳以下
デイチー・リン 7½点
トミー・ヒー 7点
ジョナサン・チャン 6½点
オープン12歳以下
ジャロッド・パマトマト 7½点
アーサー・チェン 7点
ダニエル・グレビッチ、マイケル・ブラウン、バルン・クリシュナン 6½点
オープン14歳以下
デイビド・アデルバーグ、スチュアート・フィニー 6点
ダニエル・ロゾフスキー 5½点
オープン16歳以下
アレック・ゲッツ 6点
アンドルー・ン 5½点


トルコで元気いっぱいの子どもたち
(左から)ダリアン・ロビンソン、アビー・マーシャル、アンドルー・ン、スチュアート・フィニー


米国の銀メダリスト
(左から)サムリサ・パラコル、タヌジ・バスデバ

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(この号続く)

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世界のチェス雑誌から(74)

「Chess Life」2010年2月号(2/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

GMジョン・フェドロウィッツ

フランス防御 [C10]
□ FMタヌジ・バスデバ
■ ハマザー・アミエル
世界少年少女チェス選手権第11回戦、2009年

1.e4

 この試合はこんな幼い子どもの試合[訳注 8歳以下の部の対局]とは信じられないすごい内容だった。最初タヌジの捨て駒は無理筋だと思った。しかし分析エンジンは私が誤っていたことを証明した。

1…e6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Nd7

5.Bd3

 黒の堅固な陣形に対する白の最善の手順は 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6 7.c3 c5 8.Ne5 で、攻撃の機会が多い。

5…Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6 7.Nf3

7…Be7?!

 黒が守りに片寄った手を指していると白の主導権が大きくなっていく。7…c5 と中原に突っかけるのが絶対だった。

8.Qe2 O-O 9.Bg5 c5 10.dxc5 Qa5+?! 11.Bd2 Qxc5 12.O-O-O

 この反対キャッスリング形の局面では白の攻撃の方が強力である。

12…Bd7 13.Ne5 Rfc8 14.Bc3

14…Be8

 白の Nxd7 から Bxh7+ の狙いに備えるために黒は1手かけなければならない。

15.Bd4!

 この軽手で …Rxc3 の意図を防ぎ黒の動きを難しくさせた。

15…Qa5

 もちろん 15…Qxd4?? なら 16.Bxh7+ である。

16.Kb1

 ここで黒がどうしたらよいかは判然としない。

16…b5

 16…Nd5!? は危険を伴うがそうでない手などない。

17.g4

17…h6?

 黒はポーン暴風への原則に背いた。受ける方面を弱めてはいけない。17…Nd5!? から …Nb4 を狙えばまだ戦えた。

18.h4 Nd5

 黒は …Nf4xd3 でd3の大切なビショップを消す手を狙っている。

19.Qe4! Nf6 20.Qf3 Bd6 21.Qh3

 g5 突きに本腰を入れると共に …Bxe5 から …Bc6 の狙いをかわした。

21…Nd7 22.Nxd7 Bxd7 23.g5 h5 24.Qf3 e5 25.Qxh5 exd4

26.Qh7+ Kf8 27.Rhe1 Be6 28.Qh8+ Ke7 29.Rxe6+

29…Kxe6

 29…fxe6 なら黒が受かるかもしれないと考えていた。しかし 30.Qxg7+ Kd8 31.Be4! でd4とa8の両当たりで白の攻撃が続く。パスポーンもできている。

30.Qxg7 Be5 31.Bf5+!

31…Kxf5

 31…Kd6 は 32.Qxf7 で 33.Qd7+ または 33.Qe6+ に対する受けがない。

32.Qxf7+ Kg4 33.Rg1+ Kh3 34.Qf3+ 黒投了

 黒はタヌジの攻撃をそらすようなことを何もしなかった。

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(この号続く)

2010年05月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(75)

「Chess Life」2010年2月号(3/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

GMジョン・フェドロウィッツ

 もう一人の銀メダリストはサムリサ・パラコルで、堅実で格調高い指し方を見せた。彼女が負けたのは金銀を獲得した中国の強い二人組だけだった。勝っても負けても落ち着いた態度だった。この年齢の部門(8歳以下)では駒がただ取られの状態だったり頓死が頻発するがサムリサにはそういうことがなかった。この第8回戦でロシア選手に勝ってメダル争いに加わった。

シチリア防御/加速ドラゴン戦法 [B34]
□ サムリサ・パラコル
■ イリーナ・ガルスティアン
世界少年少女チェス選手権戦第8回戦、2009年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4

4…d6

 黒は Nc3 とさせるために 4…Nf6 と指すのが普通である。

5.Nc3

 白ナイトがまだb1にいる場合は 5.c4!? でマローツィ縛りの形にすることができ陣形の広さの優位が確保される。

5…g6 6.Bb5 Bd7 7.O-O Bg7 8.Nxc6 bxc6 9.Bc4 Nf6 10.Be3 O-O

11.Qd2

 ドラゴン/ソージンの陣形では 11.Bb3 がお決まりの手でc4にいるビショップを浮き駒にさせないようにする。

11…Nxe4!?

 双ビショップを得るために切り込んだ。

12.Nxe4 d5

13.Bxd5[訳注 13.Nc5!]13…cxd5 14.Qxd5 Bf5 15.Qxd8 Rfxd8

16.Ng3 Bxc2 17.Rac1 Bd3 18.Rfd1 Bxb2 19.Rc7

 黒は非常にうまく指してきたがここで間違えた。

19…Ba6

 黒は 19…a5! 20.Rxe7 a4 と指す方が良かった。それなら白のa2のポーンが負担になる。

20.Rxd8+ Rxd8 21.h3 Bf6 22.Rxa7 Bc4 23.a4 Rd1+ 24.Kh2

24…Ra1?

 ここは 24…h5! の方が良かった。黒キングは空気穴が絶対必要である。これなら引き分けも可能だった。

25.Bh6!

 サムリサは相手の失着にとびついた。急転直下で黒が負けになった。

25…Bd5 26.Rd7 e6 27.Rc7 Bb7 28.Rxb7 Be5

29.Re7[訳注 29.f4!]29…f5

 黒の最下段の弱点は高くついた。

30.Rxe6 Re1 31.Rc6 f4 32.Nh1 f3+ 33.g3 Re2 34.a5 Bd4

35.Rc8+ Kf7 36.Rf8+ Ke7 37.Rxf3 Ra2 38.Bf8+ Ke6 39.Bh6 Rxa5

 このあと掃討作戦が続き最後は62手目で詰みに仕留めて白が勝った。

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(この号続く)

2010年06月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(76)

「Chess Life」2010年2月号(4/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

GMジョン・フェドロウィッツ

 ジャロッド・パマトマトは残り3回戦までは絶好調だった。しかし残りの試合で1引き分けしかあげることができなかった。それでも見事な活躍で次の試合はクイーン無し中盤で攻撃が冴えていた。若い選手の多くはクイーンがなくなるとやる気がなくなるがこの試合にはそんな気配は微塵もなかった。

スラブ防御 [D12]
□ ジャロッド・パマトマト(FIDE2029)
■ ジャクシリク・ヌルラノフ
世界少年少女チェス選手権戦第4回戦、2009年

解説 フェドロウィッツ、パマトマト

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bf5 5.Nc3 e6 6.Nh4!?

 これで白が双ビショップになり少し優勢である。

6…Bg6 7.Qb3

 7.Nxg6 hxg6 8.Qe2!? から g2-g3 と突く変化もある。

7…Qb6 8.Nxg6 hxg6 9.cxd5 exd5 10.Bd3 Bd6 11.h3 Qxb3 axb3

 クイーン交換後ジャロッドは相手を圧倒した。

12…Nbd7 13.Bd2 O-O 14.O-O Rfe8 15.f3 Bb4 16.Rfe1 a6 17.Re2

17…Nb6?!

 このナイトは場違いである。17…Nf8!? なら必要な時にd4に圧力をかけることができる。

18.Kf2 Rad8 19.Rc1 Re6 20.h4 Ree8 21.g4 Kf8 22.Rh1 a5

23.h5! gxh5 24.g5 Ng8 25.Rxh5 g6 26.Rh7 Re7 27.Rh3 Ree8

28.Kf1 Re7 29.Reh2 Bxc3 30.bxc3 a4 31.bxa4 Nxa4 32.Bc1 Ke8

33.c4!?

 白の最も正確な手順は 33.Rh8 Kd7 34.Rc2 b5 35.e4 である。

33…Nb6 34.Rh8 Kd7 35.c5 Na8 36.e4 Nc7 37.Bf4

 白の双ビショップが強力であるのに対し黒の駒は右往左往している。

37…dxe4 38.Bxe4

 38.fxe4 の想定手順は 38…Ne6 39.Be3 f5 40.exf5 Nxc5 41.dxc5 Rxe3 42.Bc4 Re5

43.R2h7+ Kc8 44.fxg6 Rf5+ 45.Ke2 Rxg5 46.Be6+ Kb8 47.Bxg8 Rxg6 48.Bf7 Rg2+

である。

38…Ne6 39.Be5 Nxg5 40.Rb2 Ke6 41.Bb1 Red7 42.Re2 Nxf3 43.Bg7+ Kd5 44.Ba2# 1-0

 白は「クイーン無し」中盤で創造的な攻撃の機会を見いだした。

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(この号続く)

2010年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(77)

「Chess Life」2010年2月号(5/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

GMジョン・フェドロウィッツ

 我々の最も経験豊富な選手の一人がエイリーナ・カッツである。今回が4回目の参加(最初は2006年グルジアのバトゥーミ)で着実な上達をみせた。父のマイケル(ビバ・トラブゾン)は素早い機転と陽気な人柄で私をたえず楽しませてくれた。エイリーナは少しつきがあれば8½点取れていた。しかし立派以上の7½点に甘んじなければならなかった。次の試合で堅牢なフランス防御ビナベル戦法の局面から相手をつぶした。このような堅固な局面は指し方が非常に難しいが彼女はよく理解していてウズベク選手の不正確な手に乗じて簡単に勝った。

フランス防御 [C19]
□ エイリーナ・カッツ(FIDE2001)
■ エレナ・ベルボバ
世界少年少女チェス選手権戦第3回戦、2009年

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4 4.e5 Ne7 5.a3 Bxc3+ 6.bxc3 c5 7.Nf3 Nbc6

8.Bd3

 ここでのニック・ド・ファーミアンの好みは 8.a4 である。局面検索するとフィッシャーやスパスキーあたりの勝局がたくさん出てくる。

8…c4

 黒は局面を融通性のあるままにしておいた方がよい。実戦は黒のビショップが大きなポーンのようになった。黒は 8…Qa5 9.Bd2 f6 が普通で難しい定跡になる。

9.Be2 O-O?!

 クイーン翼を固定したのだから黒キングはそちらを目指した方がよい。

10.O-O f6 11.exf6 Rxf6 12.Bg5 Rf8 13.Ne5 Nxe5 14.dxe5 Qc7 15.Bxe7!

 ビナベル戦法では白の黒枡ビショップは負債になってくる。

15…Qxe7 16.Qd4

16…Qg5?

 黒の苦心の手だが、16…Bd7 からこのビショップをg6に転回するのが唯一の防御の可能性だった。

17.f4 Qg6 18.Rf2 b6 19.Raf1 Bb7 20.h3 Rf7 21.Kh2 Raf8

22.g4 Bc8 23.Bd1 h6 24.h4 Qh7 25.Kg3 g6 26.Kh2 Bb7 27.Qe3 Rd7 28.f5!

 この決め手のポーン突きでたちまち決着がつく。

28…exf5 29.gxf5 Rxf5 30.Bg4! Rxf2+ 31.Qxf2 Rd8 32.Be6+ 黒投了

 d8のルークがチェックで取られる。

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(この号続く)

2010年06月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(78)

「Chess Life」2010年2月号(6/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

GMジョン・フェドロウィッツ

 長足の進歩を見せているもう一人の選手はデイチー・リンである。私は彼の棋風が好きだし彼が 1.d4 を指すことも気に入っている。これは他の子供たちにとってやりにくいのである。私の見るところ若い選手たちは皆 1.e4 に対してはよく準備しているが 1.d4 に対してはそうでない。1.d4 のチェスの指し方はそれほど戦術的でなく戦略の理解をもっと必要とする。次の試合は白がニムゾインディアンの Qc2 戦型を指しこなしている典型的な例である。リンは最終戦の前のこの試合に勝って立派な成績を残すことができた。

ニムゾインディアン防御/古典戦法 [E32]
□ デイチー・リン(FIDE1742)
■ ニコライ・ゴリコフ(FIDE1875)
世界少年少女チェス選手権戦第10回戦、2009年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2

 この手はどの棋力の選手にも人気がある。白のこの戦法は二重ポーンを避け、e2-e4 で中原を支配できる公算が大きい。

4…O-O 5.Nf3

 5.a3 Bxc3+ 6.Qxc3 b6 7.Bg5 Bb7 8.e3 では白は展開の遅れを双ビショップで補うことに期待をかける。

5…b6?!

 5…c5!? の方が良い。このように中原に突っ掛けておけば白の e4 突きから勢いを削ぐことになる。そのあと 6.dxc5 Na6 7.a3 Bxc3+ 8.Qxc3 Nxc5 となれば黒も一人前である。

6.e4!

 5手目で指すよりもはるかに強力になっている。

6…d5 7.e5 Ne4 8.Bd3

8…f5?!

 この手にはぞっとさせられる。8…Bb7!? 9.O-O Bxc3 10.bxc3 Nd7 11.Nd2 の方が黒にとって望ましいがそれでも白が優勢である。

9.exf6e.p. Nxf6 10.O-O

 攻撃の可能性とe6に標的があり、白が盤面の支配者となっている。

10…Bxc3 11.bxc3

 黒キングの薄みと出遅れeポーンのせいでデイチーがさらに優勢になっている。

11…Qe8?

 黒はキング翼で反撃に出ようとしたが出鼻をくじかれる。

12.Ba3!

 この目ざとい手で白が戦力得になる。

12…c5

 12…Rf7 は 13.Ne5 でルークが捕まる。

13.dxc5 dxc4 14.Bxc4 Qe7 15.Ng5 bxc5 16.Rae1! Kh8 17.Bxe6 Qb7 18.Bxc5

18…Bxe6

 ルークが逃げれば Nf7+ で片付く。

19.Bxf8 Nbd7 20.Rxe6 Nxf8 21.Re3

 デイチーは大きな戦力得なのでゆっくり指している。

21…Qd5 22.Ne4 Qf5 23.Qa4 Ng4 24.Rf3 Qe5 25.Ng3 Nf6 26.Qc6 Rd8 27.Qb7 h5?

28.Rf5 Qe6 29.Nxh5 Rd7 30.Qf3 Rd6 31.Nxf6 gxf6 32.Qg4 Nh7 33.h3 Qxa2

34.Rc5 Qf7 35.Rc8+ Nf8 36.Re1 Kh7 37.Qb4 Re6 38.Rxe6 Nxe6 39.Qh4+ 黒時間切れ負け

 時間が切れなくても黒は絶望の形勢である。

 またしてもトルコチェス連盟主催のこの大会は素晴らしかった。89カ国から1500名あまりの選手が参加したそうである。2年前の経験からどんなに大変か分かっている。この規模の開催がこんなにスムーズにいくのは極めてまれである。それは旅行で疲れた大勢の代表たちの出迎えとホテルへの迅速なチェックインで始まった。これには大変感謝している。組み合わせはすべての試合が終わった1時間後くらいに発表され対戦相手の試合はインターネットで見ることができた。レストランは広々として料理は豊富にありサービスは素晴らしかった。

 終わりに同僚でコーチのGMサム・パラトニク、IMアルメン・アムバートソウミアン、FMアビブ・フリードマン、それにFIDEトレーナーで団長のマイケル・コルダノフスキーに感謝したい。我々はチェスで大きな成果を挙げただけでなくこの子供たちと一緒に頑張るのは非常に楽しかった。シーメン・フィラトフと彼の母のアンナにも感謝したい。うわさでは来年の開催地はギリシャ、2011年はリオデジャネイロ、2012年はまたアンタルヤである。将来の世界少年少女の全選手たちへ十分な準備と実戦、それに幸運を祈る。来年さらなる活躍を期待している。

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(この号続く)

2010年06月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(79)

「Chess Life」2010年2月号(7/7)

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2009年世界少年少女チェス選手権戦(続き)

女子スターの次世代

 世界少年少女に行けないことがどんなにつまらないことかに気付いたのはスーツケースから中身を出しお土産のマグネットを冷蔵庫に貼り旅行の日々と感謝祭の夕食から一息ついたあとだった。コーチのサム・パラトニクと実際の対局から2週間の間にチェスについて多くのことを学んだ。人がどのような服装をしてどんな料理を食べ試合のためにどんな準備をするのか観察するのはとても楽しかった。何でもありである。文化に触れる以外にチームの仲間意識も懐かしいし、若い選手、特に女子のあふれる才能を目撃したのも懐かしい。

 今回は私にとって二度目の世界少年少女で、メダルを狙っていた。第1局は勝った。第2回戦の組み合わせを見て最上位席で対局することが分かった。きつい試合には備えていたがこんなに早くとは。相手は2400のロシア選手。中盤戦はずっと悪かったが何とかごまかして難しい収局に持ち込んだ。たぶん彼女の方がまだ形勢が良かった。試合は二人とも30秒の加算だけで指すようになるまで続いた。私には少なくとも引き分け、もしかしたら勝つ可能性もあった。残念ながら局面の判断を誤り5時間目の終わりで投了した。

 この負けのあと私の成績は取り立てていうこともなかった。でも米国チームの活躍には興奮した。チームに強い女子選手の多いことには大いに喜んだ。サムリサ・パラコルは大スーパースターだった。実力と強い精神力で女子8歳以下で銀メダルを取った。彼女の両親はサムリサが2回戦で負けたあとメダルが本当に欲しかったので落ち込んでいたと言っていた。彼女は決然と気を取り直し巻き返した。アニー・ワンも素晴らしかった。彼女のレイティングには頭が下がる。アリーナ・カッツは大会をとおしてずっと冷静だった。最上位席で対局中も落ち着き払っていた。シモーン・リャオとダリアン・ロビンソンは準備と試合に全力を傾けた。二人とも潜在的な力と将来性が大いにある。

 今回の女子チームの打ち込みようと才能にはとても勇気づけられた。それは女の子がもっとチェスを指すようになれば数も増え男子と女子の成績の差も縮まると思うから。それにしてもこの子たちは今はまだ小さいけれど5年か10年かもっと経てばみんな今の私と同じ年頃になる考えると愉快である。絶対見届けたい。

 この大会と春の高校全国大会で少年少女チェスとはずっとお別れである。だから悲しくてちょっと妙な気持ちである。コロンブスの初心者部門での完勝からアンタルヤの世界選手権での試合までとてつもない旅だった。今18歳で来年は大学進学である。大学でもチェスはずっと指し続けていたい。でももし中断したとしてもいつかまたきっと戻って来るだろう。チェスには世界少年少女で果たせなかった大きな目標がある。ずっと希望を持っていたい。

アビー・マーシャル

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(この号終わり)

2010年06月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(80)

「Chess Life」2010年6月号(1/1)

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青少年
2010年トロフィーズプラス オールアメリカチーム

毎年恒例の米国最強青少年選手たちの発表

 米国チェス連盟は晴れてトロフィーズプラス社後援の2010年オールアメリカチームを発表する。43名のチームメンバーは12月11日から13日にかけてテキサス州ダラスで開催された2009年全国12学年別選手権戦で紹介された。2010年オールアメリカチームのメンバー各位にはチームのジャケットとバッジが贈られた。

 オールアメリカチームは18歳以下の最優秀な選手たちを表彰するために1987年に創設された。このチームは若いチェス選手の獲得できる国内最高の名誉の一つで、その年度の年齢、レイティングおよび活躍度に基づいて選ばれる。いわば全体協議のスポーツチームの選出過程に似ている。今年の候補は2009年1月1日現在の年齢と2008年7月1日から2009年6月30日までの大会後の最高レイティングとに基づいて選ばれた。この賞は「シーズンオフ」の選考なので各年代の必要最低レイティングは米国チェス連盟スタッフと同連盟青少年委員会によって毎年見直される。

 オールアメリカチームはアイオワ州テンプルトンのトロフィーズプラス社の後援を受けていて今年で6年連続である。この賞の支援に加えてトロフィーズプラス社の社主のドイル・エンゲレン氏は大会終了後のトロフィーの発送だけでなく全国大会のトロフィーも提供してくれている。米国チェス連盟は今年のオールアメリカチームの後援により青少年チェスの一翼を担っているトロフィーズプラス社を誇りとしている。トロフィーズプラス社のウェブサイトの www.trophiesplus.com をぜひ訪れて欲しい。

 米国チェス連盟は今年のオールアメリカチームのメンバー全員に対してこの名誉ある賞の授与を祝福する。以下に13歳以上のチームメンバーの経歴を掲載する。13歳未満のチームメンバーの経歴は http://main.uschess.org/content/view/9789/319/ または「Chess Life for Kids」2010年4月号(米国チェス連盟会員限定で uschess.org でPDF形式で見られる)で見ることができる。


FMダニエル・ナローディツキー、13歳、2383
カリフォルニア州、フォスター市
コーチ GMレフ・プサーヒス、リション=レ=ザイオン(イスラエル)
チェス活動歴 2007年FIDEマスター、2007年世界少年少女12歳以下チャンピオン、カリフォルニア州青少年チャンピオン3期、全国青少年チャンピオン2期、著書「Mastering Positional Chess」が2010年3月に発売
趣味など 読書、地理、バスケットボール、著作


グレゴリー・ヤング、13歳、2249
カリフォルニア州サンフランシスコ
チェス活動歴 2007年全国第9学年同点優勝、2008年ジュニア選抜同点優勝
趣味など 数学、科学、バスケットボール、コーラス、ドラマ


GMレイ・ロブソン、14歳、2553
フロリダ州セミノール
チェス活動歴 史上最年少米国人グランドマスターで現在世界最年少グランドマスター、16歳以下世界ランキング第6位、2009年サムフォード奨学金授与、2009年米国ジュニア招待チャンピオン、2009年汎アメリカ20歳以下チャンピオン
趣味など スポーツ全般と読書


パーカー・チャオ、14歳、2342
ニューヨーク州ニューヨーク
コーチ GMアレックス・ストリプンスキー
チェス活動歴 2009年ニューイングランドマスターズで国際マスター基準を獲得、2005年第3回スーパー全国第9学年で同点優勝、2007年フォックスウッズ2200未満で1位
趣味など クロスカントリー、テニス、数学、科学


FMコンラッド・ホールト、15歳、2315
カンザス州ウィチタ
チェス活動歴 2008年米国候補生チャンピオン、2008年全国高校ブリッツチャンピオン、2008年ワールドオープン2200以下同点1位、2009年FM
趣味など ピアノ、コンピュータプログラミング


FMマイケル・リー、15歳、2385
ワシントン州ベルビュー
コーチ GMヒカル・ナカムラ
チェス活動歴 2009年ワールドオープンで国際マスター基準獲得、全国チャンピオン3度(2008年第9学年、2005年6年生、2003年4年生)、2005年からオールアメリカチームのメンバー
趣味など 数学、科学、読書、ピアノ、ベルビュー・フィルハーモニックオーケストラとサマミッシュオーケストラで演奏


FMビクター・シェン、15歳、2306
ニュージャージー州エジソン
コーチ GMジョエル・ベンジャミン
チェス活動歴 6度目のオールアメリカチームのメンバー、2009年汎アメリカ選手権16歳以下金メダル、国際マスター基準1回獲得
趣味など 数学、英語、トラック競技、ピアノ


FMスティーブン・ズィールク、15歳、2333
カリフォルニア州キャンベル
コーチ マイケル・エイグナー、GMメリクセット・カチヤン
チェス活動歴 2009年極西部オープンで2700実効レイティング、2008年ワールドオープン2200以下で3位、2007年ワールドオープン2000以下で2位、2001年ワールドオープン1400以下で優勝
趣味など テコンドーで黒帯二段、読書、プログラミング


IMマーク・アーノルド、16歳、2473
ニューヨーク州ニューヨーク
コーチ GMユーリ・シュールマン
チェス活動歴 2007年米国ジュニアチャンピオン
趣味など 野球、バスケットボール、スポーツエージェント志望


FMジョン・ダニエル・ブライアント、17歳、2449
テキサス州リチャードソン
チェス活動歴 2007年アメリカオープン2位、2009年西部州オープン2400以下優勝


GMロバート・ヘス、17歳、2605
ニューヨーク州、ニューヨーク
コーチ GMミロン・シェル
チェス活動歴 2009年米国選手権戦準優勝、2009年第4回スーパー全国大会第12学年優勝、2009年スパイス春季招待大会優勝、2008年フォックスウッヅオープン同点優勝
趣味など 数学、歴史、スポーツ競技/観戦、ガールフレンドや友人との付き合い


IMサム・シャンクランド、17歳、2482
カリフォルニア州オリンダ
チェス活動歴 2008年世界少年少女選手権戦銅メダル、2008年カリフォルニア州チャンピオン、2008年と2009年の米国選手権戦に進出
趣味など サッカー、ラクロス、テニス


FMダニエル・イェーガー、17歳、2400
テキサス州リチャードソン
チェス活動歴 2008年高校チャンピオンデンカー大会優勝、2008年全国高校生チャンピオン


IMダニエル・ルードウィグ、18歳、2543
フロリダ州オコイー
チェス活動歴 2008年米国マスターズチャンピオン、2004年米国候補生チャンピオン

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(この号終わり)

2010年07月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(81)

「British Chess Magazine」2010年6月号(1/16)

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キルサン・イリュームジノフFIDE会長から祝福されるチェス世界チャンピオンのビスワーナターン・アーナンド

編集長の言葉

 今月号は主にソフィアでのタイトル保持者ビスワーナターン・アーナンドと挑戦者べセリン・トパロフとの世界選手権戦をお伝えする。この番勝負は多くの点でたいへん面白かった。幸いにもいったん試合が始まったあと盤外の問題はまったく何もなかった。だから無数の観戦者たちはひたすらチェスに集中することができた。べセリン・トパロフがいわゆる「ソフィア規則」(即ち対局者同士の合意の引き分けを認めない)にあくまで従うと言った時は少し波風が立った。しかし歴代チャンピオンの中でも最も温厚と目されるアーナンドが取り合わなかったので問題にならなかった。

 トパロフのために公平を期せば、必然の帰結に従ってチェスを指す彼の潔癖な手法は観客にとって理想的な選手となっていた。彼にとっては残念なことに、この原則に厳格な彼の姿勢は自分にだけ害をもたらした。例えば最終局の中盤の初めでは指し続けるよりも千日手にした方が良かったのは確かだった。しかしもちろん彼はその時は知るよしもなかった。それで番勝負が決まることになったのは不運だったが彼は自分の無念を潔く受け入れた。

 勝者にとっては精進が報われたわけで、タイトルの見事な防衛に対してビシー・アーナンドを祝福するばかりである。円熟した(21世紀のチェス選手にとって)40歳での防衛はそれ自体が偉業で、同等の年齢で自分より若い選手の殺到にあらがうことのできた他の例を探せばボトビニクまでさかのぼらなければならない。特筆すべきは彼の次の挑戦者候補は既にレイティングで自分を追い越していて頂上で待っている。他の誰でもないマグヌス・カールセンで、まだ2、3ヶ月は十代のままである。両者による番勝負は垂涎(すいぜん)の見もので、ロンドンで行なわれることに期待をかけている。

 しかし当分は唯一の真の王者のビスワーナターン・アーナンドにただ敬意を表することにしよう。世界選手権戦とチェス界一般の状況を当欄で長年の間嘆いてきたが、今や一人のそれも唯一のチャンピオンをいただくこと、チャンピオンが番勝負によって決められたこと、それにタイトル保持者がまことにそれにふさわしいことに夢ではないだろうかと自分の頬をつねってみなければならない。すべてが素晴らしいことばかりで、完璧にするためにもう一つだけ要望するのは少しばかり面映い。それは試合数を4局増やして16番勝負にすることである。欲張りすぎではないはずである。

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(この号続く)

2010年07月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(82)

「British Chess Magazine」2010年6月号(2/16)

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世界選手権戦

本誌編集長のジョン・ソーンダーズがソフィアでのアーナンド対トパロフ戦について報告する


政治の話-シルビオ・ダナイロフ(左)はヨーロッパチェス連合の会長に立候補しアナトリー・カルポフはFIDE会長に立候補している


ソフィアの記者室-ChessVibes.com のペーター・ドガース(左)とキャシー・ロジャーズ、後方はGMロバート・フォンテーヌ


誇らしげなインド代表団-左からS・S・ガングリー、ハンス=ワルター・シュミット、ビシー・アーナンド、アルーナ・アーナンド、ルスタム・カシムジャーノフ、ラドスラフ・ボイタジェク


ソフィアのオランダ人-ペーター・ドガース(右)がチーム・トパロフのヤン・スメーツ(左)とエルウィン・ラミと話している

      1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12  
ビスワーナターン・アーナンド インド 2787 0 1 ½ 1 ½ ½ ½ 0 ½ ½ ½ 1
べセリン・トパロフ ブルガリア 2805 1 0 ½ 0 ½ ½ ½ 1 ½ ½ ½ 0

 タイトル保持者のビスワーナターン・アーナンド(インド、40歳)と挑戦者のべセリン・トパロフ(ブルガリア、35歳)との2010年世界選手権戦はそもそもが異例だった。きちんとした挑戦者選出周期の最終結果として出てきたのではなかったのでその存在理由について何か話しておいた方が良いだろう。話は2006年トパロフとクラムニクとのいわゆる統一戦から始まった。2006年統一戦の規定の一つは勝者が2007年世界選手権競技会へ参加するということだった。しかし敗者にはこの8選手の大会への参加枠がなかった。

 だからべセリン・トパロフがメキシコ大会を傍観していなければならなかったのは不満やるかたなかった。そこではアーナンドがクラムニクをおさえて優勝し彼からタイトルをもぎ取った。その結果でもチェス界にはまだ少し不満が残っていた。それは王座が(ほぼ)あまねく好まれていた番勝負でなく大会方式で移動したことだった。

 二つの認知された欠陥(メキシコでのトパロフの不在と最適ではない方式によるアーナンドの戴冠)を埋め合わせるためにFIDEは最終的に二様の解決策を提示した。アーナンドは前任者のクラムニクとの番勝負で防衛戦を行なうことが必要とされた。一方トパロフに(彼の管理担当者によるFIDEへの働きかけの後で)前FIDEワールドカップ優勝者のガータ・カームスキーとの番勝負が与えられた。その勝者がアーナンド対クラムニク戦の勝者への挑戦権を獲得することになっていた。

 経過はそういうことだった。FIDEが計画を入念に作り上げたとは言えない。だから皆が感謝されてしかるべきである。これで4月24日からブルガリアのソフィアで始まる予定の番勝負が過去2、3年の選手権戦の締りのつかない部分を結び合わせることを意味していた。もちろん締りのつかない部分全部ということではない(それを望むのは過酷だろう)。既に名前の出た以外の超一流選手たちは不満を抱きおよび/あるいは現行の世界選手権戦周期に関して次に何が起こるのか当惑してるかもしれない。しかしそれについて語るのは別の機会にしなければならない。

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(この号続く)

2010年07月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(83)

「British Chess Magazine」2010年6月号(3/16)

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世界選手権戦(続き)

番勝負の規定

 番勝負は中央軍人クラブで行なわれた。これはブルガリア人の称する「解放」(即ちオスマントルコから解放された時)の後の1895年に建設された壮麗なビルであらゆる文化的催しに使われている。主催委員会の会長はブルガリア首相のボイコ・ボリソフ、主審はパナキオティス・ニコロポウロス(ギリシャ)、そして副審はベルナー・シュトゥーベンフォル(オーストリア)が務めた。2日の対局日ごとに休日が設けられ、決定戦になった場合は最終局の後に2日間予定されていた。色は開会式の時にくじで決められ6局が終わったあと逆になった(つまり第6局で白だった者が第7局でも白になる)。持ち時間は40手2時間、30手1時間、以降は15分で61手目からは1手につき30秒が加算された。

試合前の予想

 試合前の予想は見事に拮抗していたようだった。トパロフが有利だと考える物知りもいれば(レイティングがわずかに高い、地元の有利さ、5歳年少)、アーナンドが有利だと考える者もいた(経験に優る、番勝負で堅実な実績、リスクを犯すことが少ない)。実のところ誰も本当に何を予想すべきか知らなかった。2選手はこれ以上ないくらいほぼ力量が均衡していた。一つ確かだと思われることは退屈な試合にはならないということだった。トパロフがいることだけでそれは確実だった。彼は(もう)世界最強の選手ではないかもしれないが世界で最も楽しませてくれる選手といううたい文句がある。

噴火による混乱

 番勝負の前にして多くの者が抱いていたに違いない一つの小さな心配は2006年エリスタでのトイレ事件のような盤外でのごたごただった。これは実際には起こらなかったが、アイスランドの火山噴火の影響でビシー・アーナンドのソフィアへの到着が遅れた時はそうなりそうだった。地質学上の出来事によって巻き上げられた火山灰の雲によってアーナンドはフランクフルト(マドリードからソフィアへ向かう彼の飛行機がここで足止めを食った)からブルガリアへ飛行機で来れず陸路を移動することを余儀なくされた。ハンス=バルター・シュミットとアルーナ・アーナンドによって率いられたアーナンド一行はオーストリアからハンガリーまではスムーズに旅行できたが、ルーマニア領内の移動はもっと困難を極めた(ビザのいざこざと道路事情の悪さのため)。

 旅は40時間を要した。この著者はジブラルタルからロンドンまで同時期に道路でなく鉄道とフェリーによってだが47時間のへとへとになる旅を経験したので同情できる。彼らは開会式の7日前に着くつもりだったがその予定よりも3日遅れてようやく4月20日に到着した。それでアーナンド一行は当然番勝負の3日の延期を申し入れた。大会役員はこの要請にはいくらかの同情を寄せたが3日の延期は長すぎると感じ1日の延期しか認めなかった。そして両陣営の不満にもかかわらずこれが最終的な取り決めになった。

権威者の支援

 アーナンドの分析チームはクラムニク戦で編成したのと同じだった。グランドマスターのペーテル・ハイネ・ニールセン、ルスタム・カシムジャーノフ、スーリヤ・ガングリー、それにラドスラフ・ボイタシェフだった。これは少なくとも番勝負の前と最中にアーナンドが認めたものだった。番勝負が始まってから少したってきらめくような超一流グランドマスターの三強から研究の助力と番勝負中の連絡を受けているとのニュースが飛び込んできた。その三人とはマグヌス・カールセン、ガリー・カスパロフ、それにウラジーミル・クラムニクである。マグヌス・カールセンはメロディーアンバー大会の後2、3日アーナンドの練習相手を務め、カスパロフは番勝負の前と間にインターネット電話で布局定跡についての質問に答え、クラムニクも遠方からアーナンドの序盤作戦(特に自分のカタロニア定跡)について専門家としての助言を行なった。現世界チャンピオンは文句のつけようのない世界チャンピオンとして二人の前保持者から支援を受けられたことに恵まれたことを考えなければならないのは確かだろう。もっとも、自分の地位を継ぐことになると広くみなされている若者から同様の支援を受けた日を悔やむことになるかもしれない。

 トパロフも人間の支援を受けていた。イワン・チェパリノフ、ヤン・スメーツ、エルウィン・ラーミ、それにリブカの専門家のイリ・ドゥフェクである。しかしコンピュータの能力のことになればトパロフがアーナンドに明らかな差をつけていたことが明らかになった。ブルガリア政府は彼に最高性能の8192プロセッサのIBM「ブルージーン/P」スーパーコンピュータを使わせた。トパロフチームは既存のチェス分析プログラムをこの途方もないハードウェア構成で動作するように適合させるソフトウェアチームの助けも確保した。

 両チームの成否を単に最終結果に基づいて軽々と断言することは差し控えたい。だんだん分かるように、トパロフは白番でかなりの優位を得たがタイトル奪取に必要な得点に変えることができなかった。

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(この号続く)

2010年07月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(84)

「British Chess Magazine」2010年6月号(4/16)

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世界選手権戦(続き)

第1局 4月24日

 昔の24番勝負の時代には時々1、2局ほど探りを入れて相手の序盤作戦を調べたものだった。しかし今日のわずか12番勝負ではそんな余裕はない。トパロフの初手は 1.d4 だった。彼は定跡の「オールラウンドプレーヤー」なので別に驚くには当たらない。しかしアーナンドがグリューンフェルトを選んだのはたぶんちょっと顰蹙(ひんしゅく)ものだろう。彼は去年何局か重要な試合で指したのでまったく新しい試みというわけではなかった。しかし物知りはたぶんスラブかニムゾの方がもっと堅実かもしれないと思っただろう。

 選択された戦型は激しい展開になりトパロフがキング翼攻撃のために駒を結集させた。アーナンドはトパロフのナイトを盤端に追いやったが自分の方に何も悪さをすることができないと読んでいたに違いない。もしそうなら残念ながら彼は間違っていた。なぜならそのナイトはアーナンドンの陣形に穴をこじ開け白ルークが押し寄せて息の根を止めたからだった。

ここまでの結果 トパロフ1点 アーナンド0点

第1局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

グリューンフェルト防御 [D87]

 お互いの初手は選手権の番勝負においてはことさら重要である。トパロフはリナレスでの対局をできるだけ参考にならないようにした。そこでは 1.e4 を2回、1.c4、1.Nf3、1.d4 をそれぞれ1回指した。

1.d4 Nf6 2.c4 g6

 最近何ヶ月かのアーナンドは 2…e6 と指しその後はニムゾかスラブに移行するようになっていた。しかし11月のタリ記念大会ではグリューンフェルトも指していた。

3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O Na5 11.Bd3 b6

12.Qd2

 2006年モレリア/リナレスでのトパロフ対スビドレル戦は 12.Rc1 e5 13.dxc5 Be6 14.c4 bxc5 15.Bxc5 Re8 16.Be3 と進み白の勝ちに終わった。ブルガリアのトパロフが 12.Rc1 と指したらアーナンドはどう指すつもりだったのか知りたいものだ。

12…e5

13.Bh6!?

 13.dxc5 Be6 14.Rfd1(14.cxb6 Nc4 15.Bxc4 Qxd2 16.Bxd2 Bxc4 17.Rfe1 axb6 は2008年ドイツでのカインツ対フルムボルト戦で、ポーンを犠牲に黒が優勢になった)14…Qc7 15.cxb6 axb6 は最高峰での対局で少し実戦例があるが、駒の働きが良いという点で黒に犠牲にしたポーンの相応の代償があることが示されているようである。しかし予想されるようにトパロフはポーンをもらうより与える方が好きである。実戦の手は白の成績の方が良いという事実に基づいていてたぶん実戦的な判断だったろう。

13…cxd4

 2008年世界ジュニア選手権戦のリー・チャオ対ハウエル戦では 13…f6 14.Bxg7 Kxg7 15.f4 cxd4 16.cxd4 Bg4 17.dxe5 Bxe2 18.exf6+ Rxf6 19.Qxe2 と進み白が勝った。

14.Bxg7 Kxg7 15.cxd4 exd4

16.Rac1

 手順はあまり重要でなさそうに見える。しかしトパロフと助手のチェパリノフは共に以前カームスキー戦でここですぐに 16.f4 と指していた。チェパリノフは勝ったがトパロフは2009年2月の世界選手権予選で米国グランドマスターとあたり初戦で引き分けていた。2010年モスクワでのナイェル対サファルリ戦は 16…f6 17.f5 Bd7 18.Nf4 Nc6?! 19.Bb5 Ne5 20.Qxd4 g5 21.Ne6+! Bxe6 22.Qxd8 Rfxd8 23.fxe6 Ng6? 24.Rac1 Rac8 25.e5! と進み黒が急に窮地に陥った。

16…Qd6

 2008年フォロスでのカリャーキン対カールセン戦は 16…Bb7 17.f4 Rc8 18.Rxc8 Qxc8 19.f5 Nc6 20.Rf3 Ne5 21.Rh3 Rh8 22.f6+ Kg8 23.Qh6 Qf8 24.Qxf8+ Kxf8 25.Nxd4 と進み引き分けになった。アーナンドは新手を指した。

17.f4 f6 18.f5

18…Qe5

 ここまでの手はすべて2、3分でパッパッと指し進められた。だから誰にも二人が研究手順をたどっていることが明白だった。明らかに 16…Qd6 の骨子はクイーンをこの地点にとどめることで、そこにいればクイーンは白ポーンがさらに前進する危険を取り除きe4のポーンに圧力をかける見込みがある。黒は白ナイトがキング翼で脅威となるのを 18…g5!? で止めることができた。

19.Nf4

19…g5!?

 普通のチェスの試合なら 19…Bd7 の方が自然で局面の抑制が効いたままだっただろう。しかしもちろんこの試合は通常の試合ではない。両陣営のグランドマスターとコンピュータのチームが徹底的に分析している。実戦の手は危険が一杯だった。アーナンドはまだ自分の研究手順を追っているがこの局面はトパロフの定跡研究にはまっている。それはつまり彼はコンピュータエンジン群がこれらの局面で見通していたことを利用することができるということである。

20.Nh5+!

 ヘリのこのナイトはぼやけていないのは確かである。このナイトの展望はブルガリアのコンピュータの分析によって光り輝いているのが確信できる。

20…Kg8 21.h4

21…h6

 これは絶対手である。21…gxh4?? は 22.Qh6 Rf7 23.Rf4 で白が勝つ。

22.hxg5 hxg5 23.Rf3

23…Kf7??

 この手は誰からも非難され実際そのとおりだった。しかしここでは黒がどんな手を指そうと難しい局面に立たされる。例えば 23…Bd7 は 24.Nxf6+!? Qxf6 25.e5! Qxe5

26.Qxg5+(26.Be4!? は典型的なコンピュータの魔法の一端だが、たぶんぱっと見えるポーン取りよりも良くはないだろう)26…Kf7(26…Qg7 は 27.Qh4 で白が勝つ)27.Qg6+ Ke7 28.f6+ Kd8 29.Qg7! Qd6 30.Bf5

となって黒がまだしのぎのめどがたたない。分析エンジンのストックフィッシュはここでは白が捨てた駒に対して十分すぎる代償を得ていると判定している。

 しかし 23…Bd7 24.Nxf6+ の後 24…Rxf6!? 25.Qxg5+ Kf7 26.Qh5+ Ke7

がアーナンドのチームが予定していた手順かもしれない。アーナンドは後になってまだ研究範囲だったが手順を間違えて1手早く …Kf7 を指したことを認めた。もちろんこんな激しい局面での記憶間違いは即座に報いがくる。

24.Nxf6!

24…Kxf6

 24…Qxf6 は 25.Rh3 Kg8 26.e5 で白の楽勝である。

25.Rh3

 トパロフは即座にこの手を指して席をはずした。h列でこのルークに対抗できるものはない。白は単に定跡研究室で既に用意してある手順を思い出し吐き出すだけでよく、勝負がついている。

25…Rg8

 25…Qf4 は 26.e5+! Kxe5 27.Re1+ Kf6 28.Qe2 で負ける。

26.Rh6+ Kf7 27.Rh7+

27…Ke8

 27…Rg7 は 28.Rxg7+ Kxg7 29.Qxg5+ Kf8 30.Qd8+ Qe8 31.Qxd4

となって白が意のままに勝てる。

28.Rcc7 Kd8 29.Bb5!

 最終攻撃に向けてきれいに全部の駒を動員した。

29…Qxe4

 29…Qxb5 は 30.Qxd4+ Bd7 31.Rhxd7+ ですぐに詰みになる。

30.Rxc8+ 1-0

 30…Kxc8 31.Qc1+ Nc6 32.Bxc6 Qe3+ 33.Qxe3 dxe3 34.Bxa8 で白の勝ちである。チャンピオンにとってはひどい初戦だった。挑戦者にとってはただで1点をもらったようなものだった。

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(この号続く)

2010年08月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(85)

「British Chess Magazine」2010年6月号(5/16)

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世界選手権戦(続き)

第2局 4月25日

 驚くほどのことでもないがアーナンドは第1局の破局の後で衝撃を受けているようだと書きたてられた。しかし第2局ではその片鱗も見せずアーナンドが勝った。スポーツ界の二つの決まり文句が心に浮かんだ。テニスでは「自分のサーブがブレークされたらすぐにブレークバックせよ。」そしてサッカーでは(決まり文句というよりは症候群だが)「得点を入れたばかりのチームはすぐにゴールを割られやすい。」

 チャンピオンが「すぐにブレークバック」を達成したやり方は興味深かった。彼はクラムニクの十八番(おはこ)のカタロニア布局を用いポーンを犠牲にする戦型で早期にクイーン交換にもっていった。客観的には観戦のチェス好きや彼らのコンピュータを納得させる戦型ではなかったが、判明した重要な要素は守勢の局面をトパロフが明らかに不快と感じていることだった。ついに彼はしびれを切らして暴れてきた。しかし自陣を大きく乱すことになりアーナンドがしかるべく勝ちを収めた。

ここまでの結果 アーナンド1点 トパロフ1点

第2局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

カタロニア布局 [E04]

1.d4

 アーナンドは2008年にクラムニクと番勝負を戦うまではたまにしか 1.d4 を用いなかった。しかしそれ以来採用することがずっと多くなった。「ここぞという時のために保持している」と言えるかもしれない。

1…Nf6 2.c4 e6

 トパロフは2009年は 2…g6(とキング翼インディアンの陣立て)をかなり頻繁に指していたがリナレス以降はこれに転向している。

3.Nf3 d5

 トパロフはリナレスでのアロニアン戦では 3…c5 と指したが不満足な局面になった。

4.g3

 この記事の初めの方を読んでいればアーナンドが秘密の顧問団の中にカタロニア布局の世界最高峰の権威であるウラジーミル・クラムニクを擁していたことを知っているだろう。しかしもちろんこの時点ではアーナンドのチーム以外の誰もこのことを知らなかった。

4…dxc4 5.Bg2 a6

 トパロフは2006年のクラムニクとの番勝負の第3局(引き分け)で 5…Nc6 と指していた。その番勝負の第1局(トパロフの負け)では 5…Bb4+ と指していた。たぶん彼はかつてのライバルの助力を感じ取ってこの番勝負では違う手を指すことにしたのだろう。

6.Ne5

 アーナンドは2007年のゲルファンドとのブリッツ戦で 6.O-O と指していた。

6…c5 7.Na3 cxd4

 8…b5 を含みとする 7…Ra7!? は1970年代にベリヤフスキーが初めて指して以来数局指されているが非常に良い成績をあげている。しかしトパロフはポーンの犠牲を受けることにした。

8.Naxc4 Bc5

 2局続けて黒がギャンビットの戦型を指し黒の得したポーンがd4にいる。

9.O-O O-O 10.Bd2 Nd5

 黒はg2のビショップのにらみを鈍らせるように指していてたぶん …b5 と突くつもりである(あるいは Ba5 の狙いに …b6 と応じられるようにしたのだろう)。

11.Rc1 Nd7 12.Nd3

 この局面は強豪のチェスに8局現れ黒の4勝4引き分けという結果が残っている。だから白にとってあまり有望に思われない。しかしたぶんビッシー(と彼の「電話友人」のウラジ)は異なる見方をしていたのだろう。

12…Ba7 13.Ba5

 いく人かの解説者(チェスベースのために書いていたアニシュ・ギリも含めて)はこの手は疑問で 13.Qb3 の方が良いと考えていた。

13…Qe7 14.Qb3 Rb8

15.Qa3!?

 ほとんどの解説者はこの新手は疑問手だろうと考えた。客観的には彼らはたぶん正しい。しかしトパロフのような「主導権選手」に対して用いるべき主観的な心理作戦としては大いに意味がある。

 この局面になった唯一の前例は2008年米国選手権戦のグリコ対シュールマン戦で、次のように進んだ。15.Nce5 Nxe5 16.Nxe5 Qf6 17.Nd3 b6 18.Bb4 Rd8 19.Bxd5 Rxd5 20.Rc7 Bb7 21.Be7 Qf5

ここで白は 22.Rxb7! Rxb7 23.Qc4 と指す機会を見逃した。23…Rc5 が余儀なく 24.Bxc5 bxc5 25.b4 となって白が非常に有望に見える。実際には白は悪手を指して負けてしまった。15.Rfd1 が理にかなった手のように見える。アニシュ・ギリはこれが最善手だと考えていた。

15…Qxa3 16.bxa3 N7f6

 16…Nc5 が交換により黒の問題を楽にし白の15手目をこけおどしにする良い手段だった。

17.Nce5

17…Re8

 この手は …b6 から …Bb7 としてc6の地点を守る準備である。すぐに 17…b6 と指すのは 18.Bb4 Re8(18…Nxb4 は 19.Nxb4 でd4のポーンが簡単に落ちる)19.Nc6 Rb7 20.Bd6 で白が優勢になる。

18.Rc2

 アニシュ・ギリはもっと攻撃的な 18.g4!? はどうかと考えていた。18…g5 を誘えれば黒のキング翼が弱体化するかもしれない。

18…b6

 アニシュ・ギリは 18…Bd7!? を推奨していた。もっとも短期的には黒のポーンの形を乱すことになる。以下は 19.Nxd7 Nxd7 20.Bxd5 exd5 21.Rb1

となって黒はどのみちbポーンを突かざるを得ない。しかし白がそれにつけ込む手段が少なくなっているとは主張できるかもしれない。

19.Bd2 Bb7 20.Rfc1

20…Rbd8

 黒は理想的にはc列でルークを対峙させたいのだがまだ無理である。20…Rec8?? 21.Rxc8+ Rxc8 22.Rxc8+ Bxc8 23.Nc6 でa7のビショップが取られる。

21.f4 Bb8 22.a4

22…a5

 ほとんどの評者は黒のポーンを攻撃にもろくするこの手を非難した。代わりに一つの融通性のある手は 22…Bd6!? で、別の手は 22…Rc8 23.Rxc8 Rxc8 24.Rxc8+ Bxc8 25.Nc6 Bc7 26.Nxd4

で、ポーン得を放棄するが黒を楽にし 26…Bd7 で黒がわずかに優勢になる。トパロフは多くの他の攻撃好きな選手のようにおとなしく守ることに不安を感じるようで最善の手を選ぶことができなかった。

23.Nc6 Bxc6 24.Rxc6 h5

 黒は Bf3 から g4-g5 とやってくる手に対して用心した。そうなれば白がd5を取ってb6も取る良い態勢になる。アニシュ・ギリは 24…h6 の方がもっと慎重な手だと考えていた。

25.R1c4

25…Ne3?

 この手は頭に血が上ったか辛抱が足りないように見える。受身の防御に信頼をおくのを嫌がるトパロフの気質はここでは高くついた。コンピュータエンジンは 25…Ba7!? 26.Bf3 Ng4!? のようなことを勧めている。黒は弱そうな地点がいくつかあっても持ちこたえることができる。すぐに 25…Ng4 と指すこともできる。

26.Bxe3 dxe3 27.Bf3!

 客観的にはすぐに 27.Rxb6 といくのも同様に良い手である。しかし老練なアーナンドはbポーンを取る前に相手からもっと陣形上の譲歩を期待した。それがこの抑制された(そして抑制した)手で、21手目と22手目に呼応している。彼の期待は正当にかなえられた。

27…g6?!

 黒はたぶんこの機会にhポーンを見限って代わりに 27…Nd7 28.Bxh5 と指すべきだった。しかしトパロフは一時的な判断力の喪失から回復していなかった。

28.Rxb6

 トパロフはここで長考に沈んだ。その間に彼はやっと非常にまずい事態になっていることに気づいたに違いない。

28…Ba7 29.Rb3 Rd4 30.Rc7 Bb8 31.Rc5

31…Bd6

 31…Rxa4?? は 32.Bc6 でルークの丸損になる。

32.Rxa5 Rc8 33.Kg2

 自陣を引き締めるこのようなちょっとした手がこの番勝負の特徴になった。そんなことは当たり前かもしれない。しかしアーナンドは明らかに優勢な局面で攻撃にはやる相手から衝動的な手を引き出すためにこういう手を指すようである。

33…Rc2 34.a3

34…Ra2?

 またしてもトパロフの直感は相手に戦いを思い起こさせるが、この局面ではもっと慎重さが本当に必要だった。例えば 34…Nd5!? が良い受けのようである。

35.Nb4! Bxb4

 35…Ra1 は 36.Nc2 とされるし 35…Rxa3 は 36.Rxa3 Bxb4 37.Ra8+ で戦力損をするだけである。

36.axb4 Nd5 37.b5!

 アーナンドは勝ちを決める単純な強制手順を読んでいるのでポーンを取り返させた。

37…Raxa4 38.Rxa4 Rxa4 39.Bxd5 exd5 40.b6 Ra8 41.b7 Rb8 42.Kf3 d4 43.Ke4 1-0

 一見したところでは名局ではないが、相手を快適な状況から守勢の局面に誘い出すアーナンドの才能と、ニムゾビッチ式原則のクラムニク式適用とは、非常に印象的だった。

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2010年08月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(86)

「British Chess Magazine」2010年6月号(6/16)

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世界選手権戦(続き)

第3局 4月27日

 アーナンドはグリューンフェルトをお蔵入りにし、超一流グランドマスターたちが愛用するdポーン防御のスラブを取り出した。トパロフは例によって急戦の戦型に行こうとしたがアーナンドは穏やかな傍型に持って行った。これは最近亡くなった元世界チャンピオンのワシリー・スミスロフによって晩年に最初に提唱されたものだった。後には2006年カルミキアでのトパロフとの番勝負でクラムニクによって採用された。そのためこの戦型に「エリスタ局面」という新しい名前が付けられた。

 実際は「穏やか」というのはこの傍型を描写するのに正しい言葉ではない。「怠惰」というほうが近い。というのは黒がまったく受け一方の陣形を受け入れ白がやってくることを何でも受け流そうとするからである。結局トパロフがほとんど進展を図れず面白みのないルーク+ポーンの収局で同形三復に同意した。

ここまでの結果 アーナンド1½点 トパロフ1½点

第3局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

スラブ防御 [D17]

1.d4 d5 2.c4 c6

 出グリューンフェルト、入スラブ。スラブは今や超一流グランドマスターの 1.d4 に対する主力防御盾になった。

3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 6.Ne5 e6 7.f3

7…c5

 これはトパロフにとって意外、あるいは失望でさえあったかもしれない。アーナンドは以前はかなり急戦の 7…Bb4 の戦型を選んでいた(もっとも公正さのために言えば10年間負けていなかった)。

8.e4 Bg6

 これはワシリー・スミスロフによって晩年の最後の方の1990年代に提唱された手である。もっと最近では彼の精神的後継者のウラジーミル・クラムニクによって新しい形をまとい採用された。

9.Be3 cxd4 10.Qxd4

 第2局のようにクイーンが早くも退場した。10.Bxd4 では白が大したことができないが、実戦の手は小駒の戦いの観点からはもう少しましである。

10…Qxd4 11.Bxd4 Nfd7 12.Nxd7 Nxd7 13.Bxc4

13…a6

 1999年マルベラのP・クラムリング対スミスロフ戦では 13…Rc8 14.Ba2 a6 15.Ke2 Nb8 と進み引き分けに終わった。

14.Rc1

 トパロフは2006年のクラムニク戦の第6局でこの局面になった。その試合は 14.Ke2 Rg8 15.Rhd1 Rc8 16.b3 Bc5 と進み引き分けに終わった。

14…Rg8!?

 アーナンドはクラムニクのエリスタの手と(前述の説明を参照。「チーム・アーナンド」はこの手を「エリスタ局面」と称した)クラムニクがよく引き分けを得ていたかなり守勢の作戦に忠実なままだった。クラムニクは黒での「超低姿勢」と呼べるかもしれない権威だが(彼の「ベルリン防御」は良く知られた例である)、この棋風が現世界チャンピオンにぴったり合うかどうかは不明である。Rg8 の骨子は単にgポーンを守ってf8のビショップが動けるようにすることである。g8のルークとg6のビショップは共に遊んでいて、この危なっかしい戦略が完全に正しいかどうかはこれからにかかっている。

15.h4 h6 16.Ke2 Bd6 17.h5 Bh7 18.a5!?

18…Ke7

 白の手に「面白い」という印がつけられている理由は、もっと明らかな応手の 18…Bb4!? に対してトパロフが 19.Na4 Bxa5 20.Nc5 を考えていたかもしれないからだった。そうなれば黒キングがいくらか圧迫を受け白にはポーン損の代償がある。代わりにアーナンドは明らかにもっと堅固なことを好んでいた。

19.Na4 f6 20.b4

20…Rgc8

 またしてもアーナンドは誘惑に乗らない。20…Bxb4?! は白の有利に局面が開放される。例えば 21.Rb1 Bxa5 22.Rxb7 Rgb8 23.Bc5+ Kd8 24.Rxb8+ Rxb8 25.Bd6

から 26.Bxe6 で白が優勢になる。

21.Bc5

 21.Nc5!? も可能だが 21…Bxc5 22.bxc5 Nxc5 23.Ba2 Nd7 24.Bb2 Bg8 25.Ba3+ Ke8

となって白の有利を生かす具体的な手段がないようである。

21…Bxc5 22.bxc5 Rc7 23.Nb6 Rd8

24.Nxd7

 アニシュ・ギリはトパロフが黒の取れない 24.Bd5!? のような何か紛らわしいことを考え出すのではないかと予想していたと述べた。問題はその手が何も狙いを持たず黒が 24…Ne5 または 24…Nb8 という手でも自陣を引き締めることができることである。

24…Rdxd7 25.Bd3

25…Bg8

 ノルウェーのホテルの部屋から playchess.com を通して観戦しコメントしていたガリー・カスパロフは黒の守勢気味の手よりも 25…f5!? を支持していた。

26.c6

26…Rd6!

 黒は 26…bxc6 27.Rc5 Rb7 と指すよりも実戦の手で局面をわずかによく支配し続けている。

27.cxb7 Rxb7 28.Rc3 Bf7

29.Ke3

 29.Rhc1!? は大胆である。以下 29…Bxh5(たぶん 29…Be8 の方が良い)30.Rc7+ Rxc7 31.Rxc7+ Rd7 となりここで 32.Rc8 で難解な戦いが続く。

29…Be8 30.g4 e5 31.Rhc1 Bd7 32.Rc5 Bb5

 この後のゆるんだポーンの形につけ込む手段はないことが明らかになってくる。だからこれが引き分けを確定した手と言えるだろう。

33.Bxb5 axb5 34.Rb1 b4

35.Rb3

 35.Rc4 は 35…Ra6 36.Rbxb4 Rxb4 37.Rxb4 Rxa5 で実戦と似た局面になる。

35…Ra6 36.Kd3 Rba7 37.Rxb4 Rxa5 38.Rxa5 Rxa5 39.Rb7+ Kf8 40.Ke2 Ra2+ 41.Ke3

 トパロフは番勝負の前に引き分けの提案はしないと宣言していたので両対局者は千日手に持ち込まなければならない。

41…Ra3+ 42.Kf2 Ra2+ 43.Ke3 Ra3+ 44.Kf2 Ra2+ 45.Ke3 Ra3+ 46.Kf2 ½-½

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(この号続く)

2010年08月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(87)

「British Chess Magazine」2010年6月号(7/16)

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世界選手権戦(続き)

第4局 4月28日

 またしてもカタロニア布局で第2局と同じ結果になった。トパロフは2006年のクラムニクとの番勝負第1局で用いたのと同じ戦型を指した。しかしアーナンドのチームが辛辣なものを用意していたことがすぐに明らかになった。アーナンドは素晴らしい新構想を披露し(不利どころではないヘリのナイトがかかわっていた)、またしてもポーンを捨てて有意義な代償を得た。トパロフは守勢の局面で全然居心地が良さそうに見えなかった。世界チャンピオンは他のナイトも盤端で捨て苦もなく1点を得た。これでアーナンドが初めてリードを奪い状況は挑戦者にとって急に厳しそうになった。

ここまでの結果 アーナンド2½点 トパロフ1½点

第4局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

カタロニア布局 [E04]

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 dxc4 5.Bg2

5…Bb4+

 トパロフは第2局では 5…a6 と指したが本局では2006年エリスタでのクラムニクとの番勝負第1局で指した戦型に戻った。もちろんあの有名な試合に負けたのは布局のせいではなかった。あれは面白くない記憶だろうが、どちらかと言えば本局の方がもっと嫌な記憶だろう。

6.Bd2 a5

7.Qc2

 2010年コーラスでのカールセン対クラムニクでは 7.Nc3 O-O 8.a3 Be7 9.Qa4 と進み黒の勝ちに終わった。

7…Bxd2+

 7…Nc6 8.Qxc4 Qd5 が堅実との評判だがトパロフは2006年の「事件現場」を再訪することに決めた。

8.Qxd2

 2006年までは 8.Nbxd2 が標準的だった。そんな時ボイトキーウィッツが初めてこの手を指し、2、3ヵ月後にクラムニクがトパロフ戦で採用した。クイーンでの取り返しは同じ駒を二度動かすなという布局の「基本原則」に反しているように見える。しかし現代チェスは独断的であるよりも実戦的になってきている。

8…c6 9.a4 b5

10.Na3!!

 これは単なる新手というだけでなく、トパロフが予想していなかった素晴らしい新構想の手である。8.Qxd2 と指す元々の理由は犠牲にしたポーンを Qg5 から Qxb5 で取り返すことだった。しかし 10.Na3 はその考え方を覆した。ポーンを取り返す代わりに白はこのナイトを使ってクイーン翼の黒ポーンを動けなくし、トパロフをほぼ押さえ込んだ。前述のクラムニク対トパロフ戦では 10.axb5 cxb5 11.Qg5 O-O 12.Qxb5 Ba6 と進み、以降の10局あまりのグランドマスターの試合でもそうだった。エリスタ以来白はこの戦型で2勝1敗(他は引き分け)の成績だった。しかし素晴らしい 10.Na3 は将来もう少し見られるだろう。

10…Bd7

 10…Ba6 と指すこともできるが 11.Ne5 Nd5 12.Nxc6! で白が優勢になる。

11.Ne5

11…Nd5

 これはカタロニアビショップを鈍らせるつもりのおなじみの手だが、d列から進攻する白の作戦を加速させるのにしか役立たなかった。ここでは 11…Ra6!? が見込みのある手で、12.Nxd7 Qxd7 13.Qg5 O-O 14.axb5 cxb5 15.Qxb5 Qxb5 16.Nxb5 Nc6!? 17.Bxc6 Rxc6 18.Rxa5

で白に犠牲にしたポーンを取り返させさらにポーンを取らせるが 18…Rb6 から 19…Rfb8 で十中八九しのげるだろう。

12.e4 Nb4 13.O-O O-O 14.Rfd1

14…Be8

 この手は悪そうに見える。しかし正直なところこの局面でどう指したらよいのかは非常に難しい。黒はナイトを追い払いたいのだが 14…f6 15.Nxd7 Qxd7 16.d5 はポーンの形が大きく崩れて白が有利になる。例えば 16…e5 17.Qe2! cxd5 18.exd5 bxa4 19.d6 N8c6 20.Qxc4+ Kh8 21.Rac1 Ra6 22.Qb5

で白がはっきり優勢である。

15.d5!

 恐るべき超一流グランドマスターを追い詰めてこれからどうするか。まずはこれ、d列から進攻し列を素通しにすることである。

15…Qd6

 15…exd5 は 16.exd5 cxd5 17.axb5 となって黒の堂々とした構えが揺らぎ中央列の2ポーンもたちまち落ちる。

16.Ng4

16…Qc5

 e4-e5 の狙いをかわしカタロニアビショップを封じ込めるために 16…e5 と指せば白は 17.Ne3 と指して圧力をかけ続け 18.Nf5 を準備する。

17.Ne3 N8a6?!

 アニシュ・ギリはこれは悪手ではないかと感じ、代わりに 17…Nd3!? を推奨していた。もっとも「非常に非常に危険」な手だと認めていた。たぶんこれはもっと積極的にいくべき時に慎重になってしまったトパロフらしからぬ失敗の例だろう。17…Nd3 を良しとする一つの望ましい点は黒が弱いキング翼を守るために駒を呼び戻す(e5を通って)機会が得られることである。

18.dxc6 bxa4 19.Naxc4 Bxc6 20.Rac1

20…h6?!

 20…Qe7 21.Nxa5 Bb5 が黒にとって非常に融通性のある指し方に思えるが形勢は白がわずかに優勢である。

21.Nd6! Qa7?

 これから起こることを予測すれば黒はクイーンをキング翼においたままにする方法を見つけることが必要だった。アーナンドは 21…Qg5! を推奨しそれに対して 22.f4 は黒が 22…Qe7 で陣容を再編成しキング翼攻撃の最悪の事態を避けることができる。しかしそれでも白がかなり優勢である。

22.Ng4!

22…Rad8?

 対照的にトパロフはレーダーがまったく働いていなかった。この手ではたちまち勝負がついてしまう。22…Rfd8 も良くない。22…h5 にはアーナンドは 23.Ne5 といくつもりだった(もっとも 23.Nf6+! gxf6 24.e5! の方が良さそうである)。22…f6!? が最善かもしれないが白は 23.Rc4! から e4-e5 と応じることができる。22…Nc5!? も 23.Rc4 から厳しいキング翼攻撃で応じられる。

23.Nxh6+!

 これも非常に素早く本能的に指された。

23…gxh6 24.Qxh6

24…f6

 24…Qe7 も 25.e5 Bxg2 26.Rc4! で終わりである。

25.e5!

25…Bxg2

 黒は 25…Qg7 26.Qxg7 Kxg7 27.Bxc6 fxe5 28.Bxa4 で駒を返すことができるがポーン損でこの収局は負けである。

26.exf6 Rxd6

 アーナンドの栄光の2ナイトの最後を消してトパロフは苦い満足感を味わったかもしれないが焼け石に水である。26…Qh7 27.Qg5+ Kh8 28.Rc4! Rg8 は 29.Nf7+! Qxf7 30.Rh4+ Qh7 31.Rxh7+ Kxh7 32.Qh5#

できれいに詰まされる。

27.Rxd6

27…Be4

 27…Qh7 は 28.Qg5+ Kh8 29.Rd4! で前の解説と同じように白が勝つ。

28.Rxe6 Nd3

 やっと黒の遊んでいた二つのナイトの一つが生き返ったが狙いが単純で簡単に受けられる。

29.Rc2 Qh7 30.f7+ Qxf7 31.Rxe4 Qf5 32.Re7 1-0

世界チャンピオンの堂々たる試合だった。10.Na3 のような素晴らしい新機軸を見つけることと(たぶんアーナンド自身でなく彼のチームの一人が見つけたのだろう)その後ずっと正着を続けることはまったく別物である。この点においてインド人チャンピオンはまさにそれをやってのけた。

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(この号続く)

2010年08月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(88)

「British Chess Magazine」2010年6月号(8/16)

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世界選手権戦(続き)

第5局 4月30日

 アーナンドは第3局と同じくクラムニクから啓示を受けた戦型を用い、前回よりも危なげなく再び引き分けに押さえた。本局での大きな出来事は約30分の停電だった。この停電は現地全体に及んでいて、世界を何が起こったのか分からない(いわば)闇に陥れた。それから機転の利くジャーナリストが携帯電話を使うことを思いつき本部にニュースを流した。

ここまでの結果 アーナンド3点 トパロフ2点

第5局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

スラブ防御 [D17]

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 6.Ne5 e6 7.f3 c5 8.e4 Bg6

 アーナンドは無責任な編集長が名づけてみたかった「スミスロフ/クラムニクひれ伏し」戦型、またはチーム・アーナンドが名づけたエリスタ局面にまた行くことにした。後で分かったことだがチームが全員一致で選択したことではなくカシムジャーノフが異議を唱えていた。

9.Be3 cxd4 10.Qxd4 Qxd4 11.Bxd4 Nfd7 12.Nxd7 Nxd7 13.Bxc4 a6 14.Rc1 Rg8 15.h4 h5

 またしても盤上で最初に手を変えるのがチャンピオンの特権のようである。アーナンドは第3局では 15…h6 と指した。

16.Ne2

 トパロフはh5のポーンに目をつけている。このポーンはナイトがf4に来ると攻撃にさらされる。

16…Bd6 17.Be3

 ここで現地の停電が発生し照明と通信が完全に途絶えた。対局者は闇の中で席に着いたままだった。15分ほどして電気が復旧して試合が再開された。

17…Ne5 18.Nf4

18…Rc8

 18…Nxc4 19.Rxc4 は黒にとって少し危険である。もちろんこのナイトの方が白の白枡ビショップより働きが少し良いし黒が白駒の攻撃にさらされるからである。

19.Bb3 Rxc1+ 20.Bxc1 Ke7 21.Ke2 Rc8 22.Bd2 f6!

23.Nxg6+

 黒はうまく窮屈な状態から抜け出しつつある。23.Bxe6 は 23…Rc2 から黒に反撃される。

23…Nxg6 24.g3

24…Ne5

 24…Bxg3?? は 25.Rg1 Nf4+ 26.Kd1 で白の勝ちになる。

25.f4 Nc6

26.Bc3

 26.Be3 は 26…Na5 で黒が互角以上の形勢になる。

26…Bb4 27.Bxb4+ Nxb4 28.Rd1 Nc6 29.Rd2 g5 30.Kf2 g4

 これはh5のポーンが攻撃にもろくなり観戦のグランドマスターたちをちぢみあがらせた(手を決めすぎているので)。しかしアーナンドは具体的な変化を読んでいて安心していた。

31.Rc2 Rd8 32.Ke3 Rd6 33.Rc5

 ここは重大な岐路で、黒は白からのh5のポーン取りに対する狙いに対処する断固たる処置が必要である。

33…Nb4 34.Rc7+

 34.Bc4 は 34…Nc2+ 35.Ke2 Nd4+ 36.Kf2 Rc6 で受かる。

34…Kd8 35.Rc3 Ke7 36.e5

36…Rd7

 36…fxe5 は 37.fxe5 で白キングにg5への道が開ける。

37.exf6+

 37.a5 は 37…f5 38.Ke2 Nc6 39.Ba4 Rd5 40.Bxc6 bxc6 41.Rxc6 Rxa5 で互角の形勢である。

37…Kxf6 38.Ke2 Nc6

39.Ke1

 この手が指された時まゆをひそめる者がいた。ほとんどの岡目八目は 39.Bc2 の方が良いと思ったが大差ないようである。

39…Nd4 40.Bd1

 ここではどちらかといえば黒の方が良いが優勢を拡大する具体的な手段はない。

40…a5 41.Rc5 Nf5 42.Rc3 Nd4 43.Rc5 Nf5 44.Rc3 ½-½

 トパロフにとっては非常に不甲斐ない試合で、白番で奮起する必要がある。

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(この号続く)

2010年09月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(89)

「British Chess Magazine」2010年6月号(9/16)

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世界選手権戦(続き)

第6局 5月1日

 アーナンドは3度目のカタロニア布局を指したが今回はトパロフが引き分けにすることができた。実際はアーナンドのナイトが安全な厩舎(きゅうしゃ)を求めて盤上のあちこちを飛び跳ねて一時はトパロフがもう少しで勝ちそうに見えた。しかし番勝負の前半は穏やかに終わった。

ここまでの結果 アーナンド3½点 トパロフ2½点

第6局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

カタロニア布局 [E04]

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 dxc4 5.Bg2

5…a6

 トパロフは2敗目をもたらした 5…Bb4+ を避けることにした。

6.Ne5 c5 7.Na3 cxd4 8.Naxc4 Bc5 9.O-O O-O

10.Bg5

 アーナンドは第4局で指した 10.Bd2 とは違う手を指した。

10…h6 11.Bxf6

11…Qxf6

 トパロフは6回目で初めて新しい手を指す光栄に浴した。もっとも必ずしも研究していた手というわけではなかった。2004年ビールでのレーツキー対パンチャナターン戦は 11…gxf6 12.Nd3 Be7 13.Qd2 Kh7 14.Rac1 Ra7 15.Qf4 Nc6 16.Bxc6 bxc6 17.Qe4+ Kg7 18.Qg4+ Kh7 19.Qe4+ f5 20.Qxc6

と進みほぼ互角の形勢で引き分けに終わった。

12.Nd3 Ba7 13.Qa4

13…Nc6

 13…b5? は 14.Qc2 bxc4 15.Qxc4 でa8のルークが落ちる。15…Nc6? としても 16.Qxc6 Rb8 17.Qc7 で駒損がひどくなる。

14.Rac1 e5

 14…Bd7 15.Nd6 Ne5 16.Qa5 Nxd3 17.exd3 e5 は均衡のとれた局面になる。

15.Bxc6

 アーナンドはまたも布局を取り仕切っていてぱっぱっと自信たっぷりに手を指し進めていた。しかし今回は相手を受けに回らせることができずトパロフがこれまでよりもかなりうまくねじり合いを乗り切ることができた。

15…b5

 15…bxc6 16.Ncxe5 c5 17.Rc2 Bh3 18.Rfc1 は黒の弱いポーンに対して白がうまく立ち回っている。

16.Qc2 Qxc6 17.Ncxe5 Qe4 18.Qc6 Bb7 19.Qxe4 Bxe4

 第1局以来初めてトパロフが布局をまともに乗り切ったとみなすことができるかもしれない。

20.Rc2 Rfe8 21.Rfc1 f6 22.Nd7

 第4局であんなにもうまく白のナイトを使いこなしたアーナンドは今度は広範な運動で報いる。実に13手連続のナイト使いである。

22…Bf5 23.N7c5 Bb6 24.Nb7 Bd7 25.Nf4 Rab8 26.Nd6 Re5 27.Nc8 Ba5 28.Nd3 Re8 29.Na7

 アーナンドは危険な生き方をしているように見える。しかしまたもや馬術のコツを編み出した。

29…Bb6 30.Nc6

30…Rb7

 30…Bxc6 31.Rxc6 Rxe2 は何ももたらさない。一例は 32.Kf1 Rd2 33.Rc8+ Rxc8 34.Rxc8+ Kh7 36.Rc6

で 35…Rxd3?? は 36.Ke2 でルークが捕まるので指せない。

31.Ncb4 a5 32.Nd5 a4 33.Nxb6 Rxb6 34.Nc5 Bf5 35.Rd2 Rc6 36.b4 axb3 37.axb3 b4!?

 トパロフの勇気には敬服しなければならない。ほとんどの選手が引き分けに同意しそうな局面でポーン損して戦おうとしている。

38.Rxd4 Rxe2 39.Rxb4 Bh3 40.Rbc4 Rd6

41.Re4

 41.b4 Rdd2 42.Rh4 なら 42…Bf5 43.Rf4 のあと千日手に落ち着く。

41…Rb2 42.Ree1

 この手は必要というよりむしろ退嬰的だがそれでも引き分けにするには十分である。

42…Rdd2 43.Ne4 Rd4 44.Nc5 Rdd2 45.Ne4 Rd3 46.Rb1 Rdxb3 47.Nd2 Rb4 48.f3

 ナイトはまだ取られる心配がない。

48…g5 49.Rxb2 Rxb2 50.Rd1

 白は守勢の構えだが黒はそれにつけ込むことができない。

50…Kf7 51.Kf2 h5 52.Ke3 Rc2 53.Ra1 Kg6 54.Ra6 Bf5 55.Rd6 Rc3+ 56.Kf2 Rc2 57.Ke3 Rc3+ 58.Kf2 Rc2 ½-½

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(この号続く)

2010年09月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(90)

「British Chess Magazine」2010年6月号(10/16)

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世界選手権戦(続き)

第7局 5月3日

 番勝負の後半に入り色の並びが反転したのでアーナンドは2局連続の白番になった。トパロフはまた難関のカタロニアに対したが今回は中盤戦で主導権を得るために今年初めにイワンチュクによって初めて用いられた積極的な交換損に打って出た。試合は激戦になった。アーナンドは戦力の優位がものをいいそうだったが指し手を見失った。それからトパロフに難しい問題を突きつけられたが正しい応手を見い出した。後でコンピュータを好きなだけ使ったところチャンピオンが見逃した勝ち筋を見つけ出した。しかし実戦の観点からは本局は面白い試合で、両選手の戦いの才能をよく反映していた。

ここまでの結果 アーナンド4点 トパロフ3点

第7局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

カタロニア布局/ボゴインディアン防御 [E11]

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Bb4+

 トパロフは破局に終わった第4局の時よりも早くこの手を指すことにした。

5.Bd2 Be7 6.Bg2 O-O 7.O-O c6 8.Bf4

8…dxc4

 トパロフは2005年ドルトムントでのクラムニク戦では 8…b6 と指し、同じ相手との2006年世界選手権戦第10局では 8…Nbd7 と指していた。どちらも負けたので今度は傍系の戦型を指してきた。

9.Ne5 b5!?

 今年に入るまで傍流の 8…dxc4 が指された数少ない実戦ではおなじみの(そしていくらか決まり切った)9…Nd5 が主流だった。しかし本譜の手の方がはるかに面白い。

10.Nxc6 Nxc6 11.Bxc6

11…Bd7

 技術的な話だがこの手で初めて前例を離れた。イワンチュクは2010年ニースでのメロディー・アンバー大会目隠しチェス部門のゲルファント戦で 11…Ba6 と指していてその試合は引き分けに終わった。

12.Bxa8 Qxa8

 これが冒頭で言及した局面である。黒は交換損の代わりに展開の優位とポーンの形の良さを得た。

13.f3 Nd5 14.Bd2 e5

 トパロフはアーナンドに一服する暇を与えない。

15.e4 Bh3

16.exd5

 白はビショップをルークと交換した得を下取りに出して、ポーンを与えて駒得をすることにした。これはおそらく最善だろうが絶対明白というわけではない。コンピュータの一つの示唆は 16.Rf2 Nc7 17.dxe5!?(17.Be3 は問題で 17…exd4 18.Bxd4 Rd8 19.Rd2 Bg5!

となってたぶん形勢互角である)17…Bc5 18.Qe2 Rd8 19.Nc3

だが、19…Rd3 で楽に互角になるように思われる。

16…Bxf1 17.Qxf1 exd4 18.a4 Qxd5 19.axb5 Qxb5 20.Rxa7 Re8

21.Kh1

 この手の後トパロフが長考に沈んだので彼の研究の終わりに到達したことは明らかだった。聞いたところではカスパロフはアーナンドの21手目に賛成しなかったそうである。たぶん彼はコンピュータ推奨の 21.Kg2!? でちょっとした戦術に引っ掛けることを念頭に置いていたのであろう。21…Qc6(21…Qxb2?? 22.Qxc4 でここで 22…Qxb1 は 23.Rxe7 で負け)22.Qd1 Bf8 23.h4 で戦いはまだまだ続く。

21…Bf8!?

 この手は非常に意欲的だがたぶん賢明ではない。代わりに 21…Qxb2 のあと奇妙にも白はまだ 22.Qxc4 と指すことができた(もちろん 22.Qe1 の方が良いがそれでも 22…h6 23.Na3 c3! 24.Bf4 d3 25.Rxe7 Rxe7 26.Qxe7 d2

で黒は問題なく、白はチェックの千日手にしなければならない)。黒はチェックで 22…Qxb1+ と指せるけれども 23.Kg2 Qb2 24.Rxe7 Qxd2+ 25.Kh3 Rf8

で引き分けに終わる可能性が最も高い。

22.Rc7 d3 23.Bc3 Bd6 24.Ra7 h6

25.Nd2?

 カスパロフはこの手が気に入らなかった。そして白は 25.Qh3!? で勝ちにいくべきだと考えていた。もっともまだまだ色々な手が残っていることは明らかである。

25…Bb4!

 この巧妙な手はチャンピオンにいくつもの問題を突きつけている。

26.Ra1!

 アニシュ・ギリはこれが負けないための唯一の手と考えていて彼は正しかった。26.Bxb4? は 26…Qxb4 27.Ne4 で、ここで黒には長い一本道の手順がある。27…f5! 28.Nc3 Qxb2 29.Qa1 Qxa1+ 30.Rxa1 d2 31.Kg2 Re3 32.Nd1 Re2+ 33.Kf1 Re1+ 34.Kf2 Kh7

白は遅かれ早かれナイトを差し出さなければならない。

26…Bxc3 27.bxc3 Re2 28.Rd1

28…Qa4

 28…Qe5 は 29.Nxc4 Qxc3 30.Nd6 Qc2 31.Ne4 Rxh2+ 32.Kg1 Re2

で引き分けのようである。

29.Ne4 Qc2

30.Rc1!

 どうしてもh2のポーンを守りたくなるがそれはひどいポカである。30.Qg1?? f5! 31.Nd6 Rxh2+! 32.Qxh2 Qxd1+

黒はクイーンを交換してdポーンを昇格させる。

30…Rxh2+ 31.Kg1 Rg2+ 32.Qxg2 Qxc1+

33.Qf1

 33.Kh2? は非常に悪い手で 33…f5! とされると白はc3のポーンを取らせるか …d3-d2 を何とかしなければならない。

33…Qe3+ 34.Qf2 Qc1+ 35.Qf1 Qe3+ 36.Kg2

 白は勝ちを目指して指す余裕があると判断したがそれほど真剣ではない。

36…f5 37.Nf2 Kh7 38.Qb1 Qe6 39.Qb5 g5 40.g4 fxg4 41.fxg4 Kg6

42.Qb7

 強力なコンピュータがいったんこの局面を分析する十分な時間を与えられたらアーナンドが 42.Qa4! で(恐ろしく難しい)妙技を見逃していたことが分かった。例えば 42…Qc8 43.Qd1 Qe6 44.Kf1! Qf6 45.Qe1 Kf7 46.Kg2 Kg7 47.Nd1 Qc6+ 48.Kg1 Qb6+ 49.Nf2 Qd6 50.Qe4!

これで白は進展が図れる。

42…d2

 これは必須である。さもないと白はクイーンを交換して本当に勝ってしまう。

43.Qb1+ Kg7 44.Kf1 Qe7 45.Kg2 Qe6 46.Qd1 Qe3 47.Qf3 Qe6 48.Qb7+ Kg6 49.Qb1+ Kg7 50.Qd1 Qe3 51.Qc2 Qe2 52.Qa4 Kg8 53.Qd7 Kf8 54.Qd5 Kg7 55.Kg3 Qe3+ 56.Qf3 Qe5+ 57.Kg2 Qe6 58.Qd1 ½-½

 ようやく同形三復で試合が終わった。

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(この号続く)

2010年09月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(91)

「British Chess Magazine」2010年6月号(11/16)

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世界選手権戦(続き)

第8局 5月4日

 第3局と第5局に続き13手目までに本局もクイーンなしスラブになった。狭小な陣形でアーナンドは明らかな中間手を見逃しトパロフが番勝負を互角に戻しそうに見えた。しかし彼は最も厳しい手に気づかず試合は異色ビショップの収局にもつれ込んだ。岡目八目のほとんどはアーナンドが引き分けに持ち込めるはずと思っていた。54手目までは彼がそうしそうに見えた。その時彼はビショップを行ける地点のうちほとんど唯一悪手になる所に指した。トパロフはすかさずこの好機をとらえたちまち番勝負が互角になった。チャンピオンはこの試合で疲労の兆候を示し始めたと想像する者がいた。たぶん40歳という年齢が彼にのしかかり始めたのだろう。

ここまでの結果 アーナンド4点 トパロフ4点

第8局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

スラブ防御 [D17]

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 6.Ne5 e6 7.f3 c5 8.e4 Bg6 9.Be3 cxd4 10.Qxd4 Qxd4 11.Bxd4 Nfd7 12.Nxd7 Nxd7 13.Bxc4

13…Rc8

 アーナンドの方から手を変えた。第3局と第5局では 13…a6 と指していた。

14.Bb5 a6 15.Bxd7+ Kxd7

16.Ke2

 2008年英国選手権戦でのゴードン対A・レジャー戦は 16.O-O-O Ke8 17.Bb6 Be7 と進み互角だった。

16…f6 17.Rhd1 Ke8

18.a5

 これは新手である。2007年ボロネジでのボチャロフ対アモナトフ戦は 18.Bb6 Bc5 19.Bxc5 Rxc5 20.Rd6 Ke7 21.Rad1 Be8 と進みほぼ互角だった。また、2008年ロシアでのマレティン対アモナトフ戦は 18.Rc1 Rc6?! 19.Na2 Rxc1 20.Nxc1 Be7 21.Bb6 e5 22.Nd3 Bf7? 23.Rc1! と進み白が勝った。

18…Be7 19.Bb6 Rf8 20.Rac1

20…f5?!

 これは作戦負けとなる最初の疑問手だった。黒はたぶん 20…Rf7!? で陣形をほぐし 21…Bb4 から 22…Rd7 を目指すべきだった。

21.e5 Bg5 22.Be3

22…f4?

 これはひどい見損じだった。22…Bxe3 23.Kxe3 Ke7 24.Nd2 でも白が優勢だが本譜はもっと黒が悪い。

23.Ne4! Rxc1 24.Nd6+ Kd7 25.Bxc1

 白はどさくさに紛れてナイトの絶好の地点を確保した。この水準のチェスではこのような陣形上の優位は勝ちに結びつけることができるしそうなるはずである。

25…Kc6 26.Bd2 Be7 27.Rc1+ Kd7

28.Bc3?!

 これはかなり働きの劣る手である。少なくとも一人の解説者はモニター画面にこの手が映し出されたのを見たとき中継エラーだと思った。最善手は 28.Bb4 で、主眼は 28…Bxd6 に 29.Rd1 と応じることができ明らかに優勢になることである。実戦でも同じ小手筋が出るが白ビショップは働きの劣る地点にいる。

28…Bxd6 29.Rd1 Bf5 30.h4 g6

 チャンピオンからまた疑問手が飛び出した。たぶん …h6 から …g5 を想定していたのだろうが試合は新しい方向に進む。

31.Rxd6+ Kc8 32.Bd2 Rd8 33.Bxf4 Rxd6 34.exd6

 異色ビショップの収局になったが白はポーン得に加えて陣形的にかなり有利である。

34…Kd7 35.Ke3 Bc2 36.Kd4 Ke8 37.Ke5 Kf7 38.Be3 Ba4 39.Kf4 Bb5 40.Bc5 Kf6 41.Bd4+

41…Kf7

 この手についてはオンライン上でだいぶ議論された。それは黒がここで 41…e5+!? 42.Bxe5+ Ke6 と指してdポーンを監視できるようにし防御の融通性をいくらか確保できるようにすべきかどうかということである。グランドマスターたちはそれで引き分けには十分かもしれないが確信はもてないということだった。

42.Kg5 Bc6 43.Kh6 Kg8 44.h5 Be8 45.Kg5 Kf7 46.Kh6 Kg8 47.Bc5 gxh5 48.Kg5 Kg7 49.Bd4+ Kf7 50.Be5 h4

 ここら辺ではアーナンドがかなり意外にも引き分けに持ち込むのではないかというのがもっぱらの評判だった。

51.Kxh4 Kg6 52.Kg4 Bb5 53.Kf4 Kf7 54.Kg5

54…Bc6??

 これは突拍子もないポカだった。このビショップはb1-h7の斜筋に行ける必要があるがアーナンドはそうできない地点にビショップを置いた。試合後アーナンドはしょせんどう指しても負けになると思っていたと語った。しかし 54…Ke8 55.f4 Kd7 56.g4 Bd3 57.f5 exf5 58.gxf5 h6+!

のあと白は何も進展が図れないようである。

55.Kh6!

 トパロフはこれを見逃さずチャンスをものにした。

55…Kg8 56.g4! 1-0

 早すぎる投了と考えた観戦者がいるかもしれないがそうではない。要点は黒ビショップが過負荷になっていることである。56…Bb5 57.g5 Be8 58.f4 Bd7 59.Bg7! Be8 60.b4 Bc6 61.g6 hxg6 62.Kxg6

これで白キングは敵キングを押さえながらe7の地点に行ける。

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(この号続く)

2010年09月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(92)

「British Chess Magazine」2010年6月号(12/16)

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世界選手権戦(続き)

第9局 5月6日

 アーナンドはカタロニアを放棄しかなり平凡でよく知られたニムゾインディアンの戦型を採用した。またしてもクラムニク直伝の戦法があるのかと思われたが突然方向を変えてレフ・プサーヒスが初めて指した手を採用した。その後クイーンを切ってルーク2個を取ったが戦力の不均衡にもかかわらずしばらくは穏やかな道筋に落ち着きそうに見えた。しかしトパロフはしだいに形勢を損じキングがアーナンドの一方のルークによって最下段に閉じ込められた。これでインド選手の勝ちになるかと思われたが彼は妙なことにキングを自由にさせた。

 それで物語の終わりでは全然なかった。アーナンドがまたも黒キングを取り囲んだ。しかし今度は勝利はかなり怪しくトパロフはついにチェックの千日手による受けを見つけた。

 紆余曲折に富む試合だったがアーナンドにとっては勝てる機会を逃がしたわけで白番は残りあと1局だけとなった。

ここまでの結果 アーナンド4½点 トパロフ4½点

第9局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

ニムゾインディアン防御 [E54]

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3

 今日はカタロニアでなかった。たぶん第8局の精神的衝撃のあとアーナンドはポーンの犠牲の代わりのつかみ所のない駒と再び対面したくなかったし新機軸も持ち合わせていなかったのだろう。

3…Bb4 4.e3 O-O 5.Bd3 c5 6.Nf3 d5 7.O-O cxd4 8.exd4 dxc4 9.Bxc4 b6 10.Bg5 Bb7 11.Re1 Nbd7 12.Rc1 Rc8

13.Bd3

 この時点までアーナンドはまたしてもクラムニクの模倣路線に入っているように見えた。ここでチャンピオンとしての前任者は 13.Qb3 と指し、2000年ロンドンでの世界選手権戦第10局でカスパロフを破った。カスパロフは 13…Be7 と指したが以降の定跡の進展によると 13…Bxc3 が改良手となっているようである。

13…Re8 14.Qe2 Bxc3 15.bxc3 Qc7 16.Bh4 Nh5 17.Ng5

 これがプサーヒスの指した手で、白のいくらか不確かな戦型に生気を与えた。

17…g6 18.Nh3

 これは新機軸の手である。2000年トルシャブンでのプサーヒス対ヒラルプ・ぺルソン戦では 18.Qd2 Bd5 19.f3 と進み引き分けに終わった。

18…e5 19.f3

19…Qd6

 黒は1手早くここで 19…exd4 と指して同じ手順でポーン得することができた。例えば 20.Qxe8+ Rxe8 21.Rxe8+ Kg7 22.Bf2 dxc3 23.Bd4+ Nhf6 24.Bxc3 Qc5+

となれば形勢は不明である。

20.Bf2 exd4 21.Qxe8+ Rxe8 22.Rxe8+ Nf8 23.cxd4 Nf6 24.Ree1 Ne6 25.Bc4 Bd5 26.Bg3 Qb4 27.Be5!?

27…Nd7!

 27…Bxc4 は 28.Bxf6 で黒枡ビショップをf6にねじ込ませて白のチャンスをいくらか高めてしまうだろう。

28.a3 Qa4 29.Bxd5 Nxe5

30.Bxe6

 30.dxe5 Qd4+ 31.Nf2 Qxd5 は互角である。

30…Qxd4+?!

 30…Nd3!? が互角を維持するもっと良い手かもしれない。

31.Kh1 fxe6 32.Ng5 Qd6

33.Ne4

 33.Nxe6!? は 33…Qxa3 で、コンピュータはここから 34.f4! Nd7 35.Rc8+ Kf7 36.Ng5+ Kf6 37.Rc7 という手順を見つけていて白が優勢である。しかし本譜も非常に有望である。

33…Qxa3 34.Rc3 Qb2 35.h4

35…b5?!

 ここは 35…a5 の方が良かったようである。トパロフはこの仕損じのあと窮地に陥った。

36.Rc8+ Kg7 37.Rc7+ Kf8 38.Ng5 Ke8 39.Rxh7 Qc3

40.Rh8+?

 観戦者たちはアーナンドが規定手数前にトパロフのキングを最下段から逃がしてやったことを信じられなかった。代わりに 40.Re4 b4 41.Rxa7 b3 42.Rb7 b2 43.Kh2 Qc1

としてここで 44.Ra4 なら勝ちが確実だった。

40…Kd7 41.Rh7+ Kc6 42.Re4 b4 43.Nxe6 Kb6 44.Nf4

 白の少し前の比較的容易な勝ちの可能性は消え去ったがそれでもアーナンドは戦いを続ける巧みな手段を見い出した。

44…Qa1+ 45.Kh2 a5 46.h5!

 ルークの筋を通すのがそれである。

46…gxh5 47.Rxh5 Nc6 48.Nd5+ Kb7 49.Rh7+ Ka6 50.Re6 Kb5 51.Rh5

 アーナンドが勝ちの局面をまた作り出すために難解な手順をひねり出したので観戦者たちのコンピュータがまた色めきたった。しかしトパロフが断固として抵抗したのでこのあとどう指し進めるのかはまったく不明である。

51…Nd4 52.Nb6+ Ka6 53.Rd6 Kb7

54.Nc4?

 悲しいかな、またやり損じて白の勝つ可能性を非常に難しくさせた。54.Nd5! が詰みの網を絞りすぐに勝ちになるはずである。これに対して 54…Nxf3+ なら 55.gxf3 Qb2+ 56.Kh3 Qb1 57.Re5 Qh1+ 58.Kg4 Qg2+ 59.Kf4 Qh2+ 60.Kf5 Qh7+ 61.Kg4

で白がすぐにチェックから逃げ切る。

54…Nxf3+! 55.gxf3 Qa2+ 56.Nd2 Kc7

57.Rhd5?!

 57.Rhh6 の方が動き回れる。

57…b3 58.Rd7+ Kc8 59.Rd8+ Kc7 60.R8d7+ Kc8 61.Rg7 a4 62.Rc5+ Kb8 63.Rd5 Kc8

64.Kg3?

 これで白の勝つ最後の機会がついに消えた。64.Rdd7! が正着だった(もちろん62手目でも指せた)。以下は 64…a3 65.Kg3 Qa1(65…Qxd2 66.Rxd2 b2 は 67.Rh2 で次の手で詰みになり負ける)66.Rc7+ Kb8 67.Rb7+ Ka8 68.Nxb3

で勝ちになる。

64…Qa1!

65.Rg4

 65.Rdd7!? は 65…Qe1+! 66.Kf4 b2! 67.Rc7+ Kd8! 68.Rgd7+ Ke8 69.Re7+(他に良い手がない)69…Qxe7 70.Rxe7+ Kxe7 71.Nb1! Kd6!

で引き分けになる。

65…b2 66.Rc4+ Kb7 67.Kf2 b1=Q 68.Nxb1 Qxb1 69.Rdd4

 黒の次の2手は絶対だが見つけるのは特に難しくない。

69…Qa2+ 70.Kg3 a3 71.Rc3 Qa1 72.Rb4+ Ka6 73.Ra4+ Kb5

74.Rcxa3 Qg1+ 75.Kf4 Qc1+ 76.Kf5 Qc5+ 77.Ke4 Qc2+ 78.Ke3 Qc1+

79.Kf2 Qd2+ 80.Kg3 Qe1+ 81.Kf4 Qc1+ 82.Kg3 Qg1+ 83.Kf4 ½-½

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(この号続く)

2010年09月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(93)

「British Chess Magazine」2010年6月号(13/16)

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世界選手権戦(続き)

第10局 5月7日

 アーナンドの研究チームは本局のためにグリューンフェルトの修復を間に合わせていた。そしてアーナンドは通常ポーン捨てを伴う流行っていない戦型を指した。しかしトパロフはこれに対する用意ができていなかったようで試合をゆるやかな流れに誘導した。アーナンドが楽に互角の形勢にしたとたんにちょっとした落とし穴にはまって相手に双ビショップによる優勢の収局に入らせた。しかしアーナンドは以降は間違えずついに難なく引き分けに持ち込んだ。

ここまでの結果 アーナンド5点 トパロフ5点

第10局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

グリューンフェルト防御 [D87]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5

 アーナンドは第1局の災難にもかかわらずまたグリューンフェルトを試した。おそらく彼の定跡チームが彼の満足のいくようにまた修復したのだろう。

4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O

10…b6!?

 アーナンドは第1局で 10…Na5 と指した。本譜の手は非常に挑発的な戦型になる可能性がある。

11.Qd2

 11.dxc5 Qc7!? が1980年代の短い期間にチェコのグランドマスターのヤンサ、スメイカルおよびフタツニクによって提唱されたポーン犠牲の戦型だった。しかし明らかにトパロフは改良または洗練を恐れてか自信をもって立ち向かう気にならなかった。

11…Bb7 12.Rac1 Rc8 13.Rfd1 cxd4 14.cxd4 Qd6

 これは新手である(データベースの低レイティング選手同士の不明瞭な1局を除く)。黒は 15.e5 Qd7 を誘おうとした。そうなればd5の地点を確保することができる。しかし白はその手に乗らない。

15.d5 Na5

 15…Ne5 という手もありそうである。

16.Bb5 Rxc1 17.Rxc1

17…Rc8

 すぐに 17…e6 と突く方が良いかもしれない。

18.h3?!

 18.Rxc8+ Bxc8 19.Nd4 がアーナンドの17手目の逸機を咎める良い手段だったかもしれない。

18…Rxc1+ 19.Qxc1 e6

 トパロフが彼らしくもなく最も激しい戦型を回避したのでアーナンドはきわめて順調に互角の形勢に進んできた。しかし戦いはまだまだこれからである。

20.Nf4 exd5 21.Nxd5 f5 22.f3 fxe4 23.fxe4 Qe5 24.Bd3

24…Nc6?!

 24…Bxd5 25.exd5 Qxd5 26.Qc8+ Bf8 27.Bf1

は白にポーンの十分な代償があるが黒もたぶん大丈夫だろう。黒は 24…Bc6 または 24…Qa1 と指してもよかった。実戦の手はちょっとした失着である。

25.Ba6!

25…Nd4?

 黒はいっそのこと 25…Bxa6 26.Qxc6 Qa1+ 27.Kf2 Qxa2+ 28.Kg3 Qa3!

で局面に決まりをつけるべきだった。以下は例えば 29.Qa8+ Qf8 30.Qxa7 Be5+ で引き分けに落ち着く。

26.Qc4! Bxd5 27.Qxd5+ Qxd5 28.exd5

 白には双ビショップがあるので順当ならば勝ちになる。

28…Be5 29.Kf2 Kf7 30.Bg5 Nf5 31.g4 Nd6 32.Kf3 Ne8 33.Bc1 Nc7 34.Bd3 Bd6

35.Ke4 b5 36.Kd4 a6 37.Be2 Ke7 38.Bg5+ Kd7 39.Bd2 Bg3 40.g5 Bf2+

41.Ke5

 この手は手損になるので 41.Ke4 の方が正確だった。それでも 41…Bc5 で受かる。

41…Bg3+ 42.Ke4 Ne8 43.Bg4+ Ke7

44.Be6?!

 この不正確な手で黒の受けが楽になった。44.Bc3 Nd6+ 45.Kf3 Bh4 46.Bf6+ Ke8

なら局面をしっかり支配していた。もっともそれでも黒は守り切ることができるだろう。

44…Nd6+ 45.Kf3 Nc4!

46.Bc1

 46.Kxg3 Nxd2 47.Kf4 Nc4 は楽に引き分けになる。48.Bg8 a5 で白がh7のポーンを取れば黒はビショップを取ることができる。もっともそれでも局面は次のように相変わらず引き分けである。49.Bxh7 Kf7 50.h4 Kg7 51.Bxg6 Kxg6 52.Ke4

46…Bd6 47.Ke4 a5 48.Bg4 Ba3 49.Bxa3+ Nxa3 50.Ke5 Nc4+ 51.Kd4 Kd6 52.Be2 Na3

53.h4

 53.Bd3!? ならナイトを押さえ込むが黒は正確を期せば危険はない。53…b4 54.h4 a4 55.h5!? gxh5 56.Bxh7 b3 57.axb3 axb3 58.g6

白のgポーンが止められないように見えるが一つだけそうできる手段がある。58…Nc2+ 59.Kc3(59.Ke4 なら 59…Nb4 でよい)59…Ne3

53…Nc2+ 54.Kc3 Nb4 55.Bxb5 Nxa2+ 56.Kb3 Nb4 57.Be2 Nxd5 58.h5 Nf4 59.hxg6 hxg6 60.Bc4 ½-½

 報道によるとアーナンドはスペイン語の1語(たぶん「tablas」だろう)で引き分けを申し入れトパロフは受諾を審判に伝えたそうである。これはトパロフが自ら課した「ソフィア規則」に合致している。それは相手と直接引き分けの提案や受諾をしないで審判を介して意思を伝えるということである。もちろんこれはアーナンドには当てはまらず、ソフィア規則はそもそも適用されていないのでアーナンドが直接トパロフに申し入れてはいけない理由もなかった。

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(この号続く)

2010年10月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(94)

「British Chess Magazine」2010年6月号(14/16)

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世界選手権戦(続き)

第11局 5月9日

 やっと試合が 1.d4 以外で始まった。アーナンドはイギリス布局を選択し、かつてヤン・ティマン戦で故トーニー・マイルズに勝利をもたらした戦型を用いた。アーナンドは序盤から優勢になったがトパロフは応分に迎え撃った。形勢はゆっくりとブルガリア選手の方に傾き始めアーナンドはついにポーンを差し出さなければならなくなった。しかし世界チャンピオンはポーン損しても十分に指し回すことができ引き分けにはそれで十分だった。

 世界チャンピオンはうまく危機をしのいだが最後の白番はこれで終わった。彼は延長戦の快速試合に焦点を合わせ始めたかもしれない。

ここまでの結果 アーナンド5½点 トパロフ5½点

第11局
□ ビスワーナターン・アーナンド
■ べセリン・トパロフ

イギリス布局 [A29]

1.c4

 本局は 1.d4 で始まらなかった唯一の試合である。

1…e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 d5 5.cxd5 Nxd5 6.Bg2 Nb6 7.O-O Be7 8.a3 O-O 9.b4 Be6 10.d3 f6 11.Ne4

 11.Bb2 の方がもっとよく指されているが本譜の手は良い成績をあげている。

11…Qe8

 これは新機軸の手である。11…Qd7 が通常の手で1984年ティルブルグでのマイルズ対ティマン戦では 12.Bb2 a6 13.Qc2 Bh3 14.Nc5 と進み故イギリス人グランドマスターが完勝した。

12.Nc5 Bxc5 13.bxc5 Nd5 14.Bb2 Rd8 15.Qc2 Nde7

 黒は d3-d4 突きに目を光らせている。

16.Rab1 Ba2 17.Rbc1 Qf7 18.Bc3 Rd7 19.Qb2 Rb8 20.Rfd1 Be6 21.Rd2 h6 22.Qb1 Nd5 23.Rb2

23…b6

 23…Nxc3 24.Rxc3 はb7のポーンを守るのが非常に難しくなる。例えば 24…Nd8? には 25.c6! がある。

24.cxb6

 c列での白の圧力は何でもないことが明らかになってくる。だからたぶん 24.Bd2 の方が正確だっただろう。

24…cxb6 25.Bd2 Rd6 26.Rbc2 Qd7

27.h4

 27.Qb5 Nde7 28.Be3 Bd5 は黒が鉄壁である。

27…Rd8 28.Qb5 Nde7 29.Qb2 Bd5 30.Bb4 Nxb4 31.axb4 Rc6 32.b5 Rxc2 33.Rxc2 Be6

 白の序盤の主導権は雲散霧消したのでアーナンドは白番の最後の正規の試合で新しい方針を打ちたてようとした。しかし彼の陣形はどんどん悪化していった。

34.d4 e4

 34…exd4?! は 35.Rd2 Nf5 36.e4 で確実にポーンを取り返せて白が少し優勢なので実戦の手の方が良い。

35.Nd2 Qxd4 36.Nxe4 Qxb2 37.Rxb2 Kf7 38.e3 g5 39.hxg5 hxg5

30.f4 gxf4 31.exf4 Rd4 42.Kf2 Nf5 43.Bf3 Bd5 44.Nd2 Bxf3 45.Nxf3 Ra4

 黒は弱いb5のポーンに狙いをつけている。

46.g4 Nd6 47.Kg3 Ne4+ 48.Kh4 Nd6 49.Rd2!?

 これは勝負手である。b5のポーンは取られるが敵キングを最下段に追いやって十分に反撃が効くとみている。

49…Nxb5 50.f5

50…Re4

 50…a5 は 51.Rd7+ Ke8 52.Rb7 Rb4 53.Rxb6 Nd4!? 54.Rxf6 Nxf3+ 55.Kh5 a4 56.Ra6

で引き分けになりそうである。たぶん 50…Rf4!? 51.Kg3 Rb4 52.Rd7+ Ke8 53.Rh7 a5

が最善かもしれない。もっとも、白は 54.Rh8+ Kf7 55.Rh7+ Kg8 56.Rd7!

と指してまだキング翼で鋭い反撃を行なうことができる。

51.Kh5 Re3 52.Nh4

52…Nc3

 この手のあと白が主導権を得た。代わりに 52…Rg3!? は 53.Ng6 Rh3+ 54.Nh4 Rh1 55.g5 fxg5 56.Kxg5 Rg1+ 57.Kf4 Kf6

となってまだまだこれからだが、たぶん黒が勝つには至らないだろう。

53.Rd7+ Re7 54.Rd3 Ne4 55.Ng6

55…Nc5

 55…Rc7 は 56.Kh6 Nc5 57.Re3 となってすぐに Nh8+ からチェックの千日手で引き分けにされる。

56.Ra3

 56.Nxe7!? Nxd3 57.Nc8 Nf4+ 58.Kh6 でも白が大丈夫のようである。

56…Rd7 57.Re3 Kg7 58.g5 b5 59.Nf4 b4 60.g6 b3 61.Rc3

61…Rd4

 61…b2?? は 62.Rxc5 b1=Q 63.Ne6+ から詰みになる。

62.Rxc5

 62.Ne6+!? Nxe6 63.Rc7+! はきれいなステイルメイトの終局になる。

62…Rxf4 63.Rc7+ Kg8 64.Rb7 Rf3 65.Rb8+ Kg7 ½-½

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(この号続く)

2010年10月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(95)

「British Chess Magazine」2010年6月号(15/16)

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世界選手権戦(続き)

第12局 5月11日

 クイーン翼ギャンビットのラスカー防御は堅実だが一般的にはあまり面白くない。中盤戦の初めを見て本局の引き分けを予想しても責められないだろう。トパロフは同じ手を繰り返す機会があったが頑固なまでに「どんなことがあっても戦い抜く」という自分の試合方針にこだわった。あとから考えればこの方針を愚か又はバカ正直と批判するのはたやすいがこれが彼に多くの優勝をもたらしてきたのは疑いない。しかし番勝負においてはもっと柔軟である必要があるだろう。

 千日手をはねつけたトパロフはナイトの捌きに走った。それは無駄手に終わりアーナンドが手得を生かしてトパロフのポーン中原を攻撃した。ここで運命が訪れた。さまよえるナイトをポーンを守る地点に引き戻す代わりにトパロフは軽率にポーンを交換した。これでアーナンドのクイーンとビショップがa8-h1の斜筋を押さえることができた。動機が何であってもこれは世界選手権戦の歴史においてほとんど類を見ないトパロフの愚行だった。こんな手はほとんどのアマチュア選手でも指す気にならないだろう。

 アーナンドは相手が発狂したのではないかと思ったとあとで語った。勝利への手順は間違え易いところがないわけでもなかったが、アーナンドの実力の選手にとっては簡単な道のりだった。トパロフのキングは当然ながら野外に引きずり出され破滅するまで追い回された。これは番勝負の意外な結末で、地元のファンにとっては非常に残念な結果だったに違いない。

ここまでの結果 アーナンド6½点 トパロフ5½点

 これでアーナンドがタイトル防衛に成功し引き続き世界チェス選手権者の座を維持した。彼には大いに祝福を送りたい。そして敬服すべき面白い戦いを見せてくれた雄々しい挑戦者には健闘をたたえたい。

第12局
□ べセリン・トパロフ
■ ビスワーナターン・アーナンド

クイーン翼ギャンビット拒否/ラスカー防御 [D56]

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 Be7 5.Bg5 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 Ne4 8.Bxe7 Qxe7 9.Rc1 c6

10.Be2

 トパロフは2、3年前の取るに足らない早指し大会でレイティング2300台の選手相手に 10.a3 と指したことがあった。しかしアーナンドは恐らく世界選手権戦でその手をまた指すことを期待してはいなかっただろう。ここでは 10.Bd3 が圧倒的によく指されているがトパロフはアーナンドがグリシュク相手に黒で指しているのを知っていただろう。グリシュクが 10.Be2 と指していたのでその手順をたどりたかったのかもしれない。

10…Nxc3 11.Rxc3 dxc4 12.Bxc4 Nd7 13.O-O

13…b6

 13…e5 14.Bb3 Re8 が2009年モスクワ・ブリッツ大会のグリシュク対アーナンド戦だった。2009年MTelマスターズでのトパロフ対カールセン戦は 14…Rd8 だった。どちらの試合も引き分けに終わった。

14.Bd3 c5 15.Be4 Rb8 16.Qc2

16…Nf6

 16…Bb7 17.Bxb7 Rxb7 18.Rc1 は白が文句なく勝っている。

17.dxc5 Nxe4 18.Qxe4 bxc5 19.Qc2

 19.b3 Bb7 は2008年にグランドマスターの試合で2局指されどちらも引き分けに終わった。

19…Bb7

20.Nd2

 黒をもって指す多くの選手はcポーンが取られそうなほど弱いので形勢を悲観するだろう。しかしアーナンドはその埋め合わせに活動的に指し回すことに自信をもっていた。20.Rxc5?! は 20…Bxf3 21.gxf3 Rxb2! で黒が少なくとも互角の形勢である。

20…Rfd8 21.f3 Ba6

22.Rf2

 22.Rc1 の方が正着かもしれない。しかし 22…Rd5 から …Rbd8 で黒も十分に指せるだろう。

22…Rd7 23.g3 Rbd8 24.Kg2 Bd3 25.Qc1 Ba6

26.Ra3

 ここは重大な岐路である。トパロフは 26.Qc2 で手を繰り返すことができた。なぜそうしなかったのか?つまるところこの局面はほとんどの基準に照らしても互角である。一つの一般的な見方は彼が短時間の方の試合に秀でているとみなされている相手との早指しの延長戦を恐れたということである。別の見方は彼が本来非妥協主義者で、引き分け提案は行なわずどの試合も自然な帰結まで戦い抜くということを選手権戦前に明言していたからだということである。三つめの見方はもちろん、アーナンドが 26…e5!? と手を変えるかもしれないので必ずしも試合が千日手で終わらないということである。

26…Bb7

27.Nb3

 c4に腰を下ろす目的のこのナイトの捌きはかなり手数がかかる。デイリー・テレグラフ紙に執筆しているマイケル・アダムズはすぐに 27.e4 と突いて黒のビショップの利きを止める方が良いと考えていた。それでも黒は 27…f5 と指すことができ、28.Qe1!?(28.Rxa7 fxe4 29.Nxe4 Bxe4 30.Rxd7 Bxf3+ 31.Rxf3 は互角になる)28…fxe4 29.Nxe4 c4 となれば両者とも不満のない分かれのように見える。

27…Rc7 28.Na5 Ba8 29.Nc4 e5

30.e4

 30.Rd2 e4 31.f4 Rd3 なら非常に手堅い。ここで 32.Ne5 なら黒は 32…f6!? と応じるかもしれず、以下 33.Nxd3 exd3+ 34.Kf2 Qe4

となればチェックの千日手による引き分けになる。

30…f5!

 黒のビショップのために対角斜筋をこじ開けようとするこの手は当然で良い手である。しかしこの手を指す時アーナンドはまさかそのとおりになるとは期待できるはずもなかった。

31.exf5??

 このおぞましい決断は規定手数までまだ40分も残っている時に3分の考慮で成された。マイケル・アダムズは重大なときにトパロフが危機感を喪失したという意見を述べた。たぶんトパロフの自負心も責任の一端にあるだろう。なぜなら正着の 31.Nd2 は27手目で去った地点にナイトを戻すことを意味するからで、ここまでの手が無駄手であったことを認めることになるからである。31.Nd2 のあと白陣は受かっている。例えば 31…fxe4 32.Nxe4 Bxe4 33.fxe4 Rd4 34.Qe3 Qd6 35.Qf3 Rd2 36.Rc3

で白には黒のd列支配を恐れる理由が特にない。なぜなら黒陣にも弱点がいくつかあり代償として標的にできるからである。

31…e4

 観戦者たちがトパロフの 31.exf5? に驚かされたとしたら彼の次の手には本当にあっけにとられたことだろう。

32.fxe4??

 これはたちまち負けになる。31.exf5 は確かにトパロフ陣に大きな打撃を与えたけれども、白が正気に戻るのに間に合っていたら 32.Re3 exf3+ 33.Kg1 Qf7 のような手を指しよろめきながらも頑張っていただろう。もっともf3のポーンは大きな悩みの種のままであるが。

32…Qxe4+ 33.Kh3

 これは戦力を損せず明白な詰み筋を与えない唯一の手である。しかし黒には一手詰みとナイト取りを狙う明白な手があった。

33…Rd4 34.Ne3

 観戦中の大家たちはここで逆向き分析のやり方を用いて、トパロフの31手目と32手目のポカ2連発は黒の次の強力だが明白というわけでもない手を見落としたからではないかと推測した。この理論はあとでトパロフ自身によって確認されたが、それでも黒の指すかもしれない色々な手を詳細に読まずにキングがそんな身の毛もよだつ野ざらしの場所にいる局面をどのように評価していたのか見当がつかない。しかしこれが実際に起こったことである。この強豪選手の比類のない分析能力がどういうわけかプレッシャーで壊れていた。

34…Qe8!

 これこそ最善手だが勝つための唯一の手ではないようだ。34…g5!? でも勝てそうである。

35.g4 h5

 勝つための絶対手だがほとんどのクラブ選手でもこのような主眼の切り崩しの手を見つけることができるので感嘆符は付けないでおく。

36.Kh4

 36.g5 は明らかなクイーンの舞い戻りの 36…Qe4 があるので駄目である。そうなっては詰み狙いの攻撃に対しもう防ぎようがない。

36…g5+

 実戦の手はたぶん人間にとっては一番明快な勝利への道である。しかしコンピュータの推奨する 36…Qd8+ の方が優るかもしれない。アーナンドは恐らく色々な受けの手があるのでこの手を避けたのだろう。

37.fxg6e.p,

 37.Kxg5 は 37…Rg7+ 38.Kh4 hxg4 で早くお仕舞いになる。

37…Qxg6

38.Qf1

 トパロフは最善手を見つけた。この手はf列でのチェックに多くの期待がもてる。代わりに 38.h3 は単純に 38…hxg4 39.Nxg4(39.hxg4 は 39…Rh7+ 40.Kg3 Qd6+ で次の手で詰む)39…Rh7+ 40.Kg3 Rxh3+! からあと2手で詰む。

38…Rxg4+ 39.Kh3

39…Re7

 他にもいくつも良い手があるが全部が勝ちになるというわけではない。例えば 39…Rg7? と重ねる手は …Rg3+ からの詰みがあって魅力的だが、40.Rf8+ Kh7 41.Qf5! という手があって黒の勝つ可能性が消えてしまう。

40.Rf8+

40…Kg7

 チェスにおける最も典型的なジレンマの一つは規定手数の最終手に選択肢があるがどちらを指すべきか分からない場合である。しかしアーナンドはここではキングをどちらに逃げても勝つので気楽である。40…Kh7 は 41.Rh8+(39…Re7! と 39…Rg7? との違いは 41.Qf5 の後で分かる。本譜の場合 41…Rxe3+! 42.Rxe3 Bg2# で黒が勝てる)41…Kxh8 42.Qf8+ Qg8 43.Qxe7 Bg2+ 44.Nxg2 Qc8!

で黒の勝ちになる。これはちょっと読むのにややこしそうなので、アーナンドは 40…Kg7 の方を選択したのだろう。

41.Nf5+ Kh7

42.Rg3

 42.Nxe7 は 42…Rh4+! 43.Kxh4 Qg4# の2手詰みになる。

42…Rxg3+ 43.hxg3 Qg4+ 44.Kh2 Re2+ 45.Kg1 Rg2+ 46.Qxg2 Bxg2

47.Kxg2

 47.Rf7+ は 47…Kg6! 48.Rg7+ Kxf5 49.Rxg4 hxg4 50.Kxg2 Ke4 51.Kf2 Kd3

で簡単な白勝ちのキング+ポーン収局になる。

47…Qe2+

 長い一本道の手順が終わったが、アーナンドは規定手数に達する所まで読むのが苦にならなかっただろう。手数はもう少し続くが、選手権防衛が目の前に迫っても世界チャンピオンには懸念するようなことが何もない。

48.Kh3 c4

 これは正確な手である。48…Qxb2 は正確さで少し劣っていて、49.Kh4 で白に一縷の望みを与える。

49.a4 a5 50.Rf6

50…Kg8

 黒は勝ちを逃がすことのないようにhポーンにこだわってさらに保険をかけた。50…Qxb2 は 51.Rh6+ Kg8 52.Rxh5 c3 53.Nd4 となってまた白に要塞の態勢を築く可能性が少し出てくる。

51.Nh6+ Kg7 52.Rb6 Qe4 53.Kh2 Kh7

 白はキングやナイトが動くと戦力損を招くので手詰まりの状態に近い。

54.Rd6 Qe5 55.Nf7

 55.Rb6 は 55…Qd4 でルークが過負荷になりb2のポーンがチェックで落ちる。

55…Qxb2+ 56.Kh3 Qg7 0-1

 このあとは 57.Nd8 Qg4+ 58.Kg2 c3 ですべて終わりである。チェス王者ビシー・アーナンドに栄えあれ!

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(この号続く)

2010年10月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(96)

「British Chess Magazine」2010年6月号(16/16)

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世界選手権戦(続き)

総括

 軍隊の将軍については戦争で以前の戦いで通用したのと同じ戦術を用いる誤りを犯すことがあるということが時折言われる。ビシー・アーナンドは厳密にはそのようなことをしなかった。番勝負は2007年ボンでのクラムニクに対する勝利とは酷似していない。しかし時には2006年エリスタでの同じ相手に対するクラムニクの勝利を再現させようとしているかのようだった。「模倣は最も誠実なお世辞なり」と言われる。だからウラジーミル・クラムニクは敬意と受け取るのがよいだろう。しかし両者の間には重大な違いがありそうである。アーナンドの柔軟さとトパロフの予想し易さ。番勝負の勝負所でアーナンドはクラムニク式の手と手法を用い相手を翻弄し衝動的な応手を誘った。

 アーナンドはカスパロフ以後の時代の主敵二人に対して番勝負で勝利したので、過去および現在のチャンピオンの中の前列に加えられるかもしれない。彼のチェスは完全無欠とは言えないしとんでもない悪手も少し見られた。しかし重大な岐路では相手より優っていた。最後に付け加えると彼が5歳年長であることは助けにこそなっても障害にはならなかった。ついでながら、1961年にボトビニクがタリに勝って以来彼は世界選手権戦に勝った初めての40歳超の選手になった。

 トパロフは番勝負に負けて大いに失望しているに違いない。特に地元で開催されただけになおさらである。初戦で労せずしてあげた勝利のあと布局定跡の優位は激しくアーナンドの有利に揺れた。ブルガリア選手のデジタル腕力がインド選手の人間脳のネットワークにひどく見劣りした。以降の少しの試合でトパロフは黒番では不愉快な狭小陣形の局面に、白番ではわずかに優勢の(しかしいくらか無害の)局面になった。

 これからどうなるのか。次の世界選手権戦は2012年に、たぶんロンドンで、開催予定である。そして多くの人が世代の対決、アーナンド対カールセン戦、を待ち望んでいるだろう。もちろん再戦も十分あり得る。クラムニクとトパロフはアーナンドとの2度目の対決を狙う有力候補である。見逃してはならない重要なことは番勝負がチェスの王者を決める方式としてまた確立されたこと、そして皆の認める絶対者は誰であろうとただ一人であることである。

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(この号終わり)

2010年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(97)

「Schach Magazin 64」2010年9月号(1/4)

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ロシアとスロベニアが金メダル

2010年世界ジュニア選手権優勝はディミトリー・アンドレイキンとアンナ・ムズィチュク

 世界ジュニア選手権戦(20歳以下)は1951年に始まり、それ以来若い選手にとって最高の大会になっている。

 この大会に出られた者はたいてい成人しても成功を収めてきた。ボリス・スパスキー(1955年優勝)、アナトリー・カルポフ(同1969年)、ガリー・カスパロフ(同1980年)およびビスワーナターン・アーナンド(同1987年)は世界チャンピオンになったし、ユスーポフ、セイラワン、アロニアンおよびマメジャロフ(最も知名度のある名前だけをあげた)のような強豪はジュニア選手権者から棋歴が始まった。去年優勝したマクシム・バシエ=ラグラーブは既に世界の一流に仲間入りしている。

 ドイツも2回優勝している(1995年ロマーン・スロボディアンと2005年エリーザベト・ペーツ)。しかしたいていはソ連または独立国家共同体からの代表が優勝してきた。ポーランドのホトバで開催された今年も何も変わっていない。確かに女子ジュニアチャンピオンのアンナ・ムズィチュクはスロベニアから出場したが生まれはウクライナである。男子は二人のロシア選手が同点1位になったがアンドレイキンが順位判定で上回り優勝者になった。

男子メダリスト
ディミトリー・アンドレイキン(ロシア、2650)10.0点
サナン・シュギロフ(ロシア、2610)10.0点
ダリュース・スビルツ(ポーランド、2492)9.0点

ジュニア選手権戦優勝のアンドレイキン(写真 キャシー・ロジャーズ)

女子メダリスト
アンナ・ムズィチュク(スロベニア、2527)11.0点
オルガ・ギリヤ(ロシア、2376)10.5点
ロウト・パドミニ(インド、2275)10.0点

ブンデスリーガ(ドイツ国内団体リーグ戦)でのアンナ・ムズィチュク(写真 O・ボリク)

 ドイツからのメダル獲得者はいなかった。一番順位が良かったのはファルコ・ビンドリッヒ(10位)とメラニー・オーメ(15位)だった。20歳で現ドイツ名人の二クラス・フッシェンベトには厳しい結果で61位に終わった。

 これから3局採り上げる。第1局は-根本の理解のために-布局に関する部分を詳しく説明する必要がある。

 大会優勝者とインド選手との試合でよくある布局定跡の 1.c4 e6 2.d4 d5 3.Nf3 Nf6 のあと 4.e3 という手が指された。この手は遠慮しているように見え、Bg5 の後でも Bf5 の後でも突けるのになぜ白はクイーン翼ビショップを閉じ込めるのかと問いただしたくなるところである。実際シュタイニッツ、ラスカー、カパブランカそれにアリョーヒンのような達人たちもこのように指したことがあるということはこの手の正当性を物語っている。結局のところビショップの一方(Bf1)の筋がすぐに通り、もう一方はあとでb2に展開することができる。

 とりわけこの手には利点も一つある。それは白が 4.Bg5 dxc4 5.Nc3 Bb4 6.e4 c5 という激しい変化を避けられるということである。これはすぐ戦いになるのでチェスプログラムが本領を発揮する。アンドレイキンは序盤にあまり時間をかけずにできるだけ早く大局観に基づいた指し方をしようとする選手に属する。これは非常に実戦的な立場であり、どうしても勝利を期するという態度でもある。しかし戦術的な戦いで出し抜くことは黒の場合よりも白の場合の方がはるかに容易なはずである。長く大局観に基づいた局面に経験豊富な年長世代の選手たちはそれゆえに、激しい戦術を阻止するのがより難しい 1.e4 から始まる開放的な試合よりも、閉鎖的な試合の方が白でも黒でもはるかに良い成績を収めている。

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(この号続く)

2010年11月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(98)

「Schach Magazin 64」2010年9月号(2/4)

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ロシアとスロベニアが金メダル(続き)

クイーン翼ギャンビット [D37]
D・アンドレイキン(ロシア、2650)
P・ネギ(インド、2615)

1.c4 e6 2.d4 d5 3.Nf3 Nf6 4.e3 Be7 5.Nc3 O-O 6.a3 b6

7.cxd5 exd5 8.b4 c5 9.bxc5 bxc5 10.dxc5 Bxc5 11.Be2 Nc6 12.O-O

12…Bf5

 12…d4 は 13.Na4 と応じられるので時期尚早である。

13.Bb2 Rb8 14.Na4 Be7 15.Rc1

15…Na5

 15…Qd7 の方が堅実に思われる。

16.Be5 Rc8 17.Rxc8 Bxc8 18.Nc3 Be6 19.Nd4

 陣形は白の方が優っているが黒は 19…Nd7 20.Bf4 Nb6 でc4の地点を目標にしていれば白の優位を最小限に抑えることができていたであろう。しかし実戦は

19…Qc8?

だったのでこのような均衡した局面では思いがけない手筋を誘発した。

20.Bxf6 Bxf6 21.Nxe6

21…Qxe6

 21…fxe6 と取るのは 22.Nxd5 exd5(22…Rd8 23.Nxf6+)23.Qxd5+ Kh8 24.Qxa5 で2ポーン損になる。

22.Nxd5 Be5 23.Qd3 Nc6 24.Rd1 Ne7

25.g3 Nxd5 26.Qxd5 Qe7 27.a4 Bc7 28.Qc6 Rd8 29.Rb1

29…Rb8?!

 ネギはどんどん交換して異色ビショップによる引き分けの可能性に期待をかけた。しかし彼はそこでの妙手筋を見落としていた。ここは 29…Rd6 30.Qb7 Rb6 31.Rxb6 axb6 と指す方が良かった。この場合でも引き分けが確実というわけではないがその可能性は大きいだろう。

30.Rxb8+ Bxb8 31.Qc8+ Qf8 32.Qb7

 この手は Bc4 から Bxf7+ を狙っている。

32…a5

 32…Kh8 33.a5 h6 34.Bc4 f6 の収局ならまだ楽しみがあるが実戦は黒がはっきりと敗勢になった。

33.Qb6

33…g6

 33…Qb4 でも 34.Qd8+ Qf8 35.Qxa5 でaポーンが取られる。

34.Qxa5 Qe7 35.Qd5 Qd6 36.Qxd6 Bxd6 37.a5 f6 38.f4 Kf7

39.a6 Bc5 40.Kf2 Ke7 41.Kf3 Ba7 42.e4 Kd6 43.Bc4 1:0

 ここまで来たら白の勝ちはもう明白である。43…Bb8 44.Bg8 h6 45.Bf7 g5 46.Kg4 gxf4 47.gxf4 Ke7 48.Bd5 Ba7 49.Kf5 Bb8 50.Kg6

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(この号続く)

2010年11月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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世界のチェス雑誌から(99)

「Schach Magazin 64」2010年9月号(3/4)

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ロシアとスロベニアが金メダル(続き)

 アンドレイキンは圧倒的に優勢のまま押し切って勝った。しかしほんのわずかの差で銀メダルに甘んじたサナン・シュギロフが3歳年下であることを考慮に入れれば、仲間のロシア選手たちがシュギロフの方が才能があると言っていることに納得するだろう。彼の棋風はアンドレイキンとまったく反対で非常に派手である。

ルイロペス [C78]
S・シュギロフ(ロシア、2610)
A・ドゥロルム(フランス、2455)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O b5 6.Bb3 Bb7

7.c3 Nxe4 8.d4 Na5 9.Bc2 exd4 10.b4 Nc4 11.Bxe4 Bxe4 12.Re1 d5 13.Qxd4

 ここでは長い間 13.Nxd4 が指されてきた(どちらにせよ危険を伴う)。シュギロフは最新の手を選んだ。

13…Bd6?

 2002年に創造性豊かなスウェーデンのGMヨニー・へクトルが 13…Be7 14.Qxg7 Kd7 と指して皆を驚かせた。黒キングはクイーン翼に逃れ、…Rg8 で素通し列を利用して白キングを攻撃した。この変化に対する最終的な結論はまだ出ていない。しかし改良しようとした実戦の手はすぐに明らかになるように何も改良になっていなかった。

14.Qxg7 Kd7 15.Rxe4! dxe4 16.Qg4+

16…Kc6

 ここで違いが分かる。ビショップがe7にいれば黒は 16…Ke8 と指せた。なぜなら 17.Qxe4 には 17…Qd1+ があるからである。しかし本局では 17.Qxe4+ がチェックになる。だから黒キングはクイーン翼に行くことにした。

17.Qxe4+ Kb6 18.Na3 Nxa3

19.Be3+!

 19.Bxa3 は 19…Qe8 で黒に何の問題もない。しかしシュギロフにはこの決め手があった。

19…c5 20.Rd1

 狙いは Rxd6+ から bxc5+ である。

20…Rc8 21.bxc5+

21…Bxc5

 21…Rxc5 は 22.Bxc5+ Kxc5 23.Ne5 で Qc6 と Qe3 の両方の詰みの狙いがあり黒の負けになる。

22.Rxd8 Rhxd8 23.g3

 駒割が回復して白の優勢が明らかになった。

23…Bxe3 24.Qxe3+ Rc5 24.Nd4 Nc4 25.Qh6+ Rd6 26.Qxh7 Rd7 27.Qh6+ Rd6 28.Qh7

29…Ne5

 また 29…Rd7 と指せば白は実戦のように Qh8 と指すだろう。

30.Qh8 Nc6 31.Qf8 Rd7 32.Nxc6

32…Kxc6?

 32…Rxc6 の方がまだましだがそれでも 33.Qe8 Rdd6 34.Qe3+ から h4 で白が大優勢である。

33.Qc8+ Rc7 34.Qxa6+ 1-0

 黒はやる気を消って投了した。

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(この号続く)

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世界のチェス雑誌から(100)

「Schach Magazin 64」2010年9月号(4/4)

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ロシアとスロベニアが金メダル(続き)

 女子のジュニア選手権者の試合も載せないわけにはいかない。

シチリア防御 [B22]
A・ムジチュク(スロベニア、2527)
E・パブリドゥ(ギリシャ、2182)

1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.c3 d5 4.exd5 Qxd5 5.d4 Nf6

6.Na3 Qd8 7.Nc2 cxd4 8.Ncxd4 Be7 9.Bd3 h6 10.O-O O-O

11.Qe2 a6 12.Bf4 Bd7 13.Rad1 Qc8 14.Ne5 Ba4 15.b3 Be8

 黒は …Ba4-e8 の捌きで白陣に弱点(c3)を作らせた。あいにく白はそれを全然気にする必要がなかった。

16.Ng4!

 16…Qxc3 に対しては 17.Be5 Nbd7(17…Nxg4 なら 18.Qxg4 Bg5 19.f4 Nd7 20.Bxg7 Kxg7 21.fxg5 h5 22.Qe4! Rh8 23.g6)

で白の攻撃が決まる)18.Nf5 Qb4 19.Nxe7+ Qxe7 20.Bd6

で白の交換得になる(20…Qxd6 は 21.Bh7+ でクイーンが取られる)。

16…Nxg4 17.Qxg4 f5 18.Qe2 Rf6 19.Nxf5! Bf8 20.Nd6 Bxd6 21.Bxd6

21…Nc6

 21…Qxc3 には 22.Be5 があるのでc3のポーンは相変わらずタブーである。

22.Rfe1 Bf7 23.Be5

 白は1ポーン得で陣形もはっきり優っている。だからムジチュクほどの棋力の選手でなくても勝てる。

23…Nxe5 24.Qxe5 Qc6 25.Be4 Qb6 26.Qd4 Qc7 27.c4 Rf8

28.Rd2 Qa5 29.Bxb7 Bh5 30.f3 Qg5 31.Re5 Qg6 32.Be4 Rxf3 33.Bxf3 Bxf3

34.Re1 Qg5 35.Rf2 Rf4 36.Qd2 Qg4 37.h3 Qg3 38.Re3 1-0

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(この号終わり)

2010年11月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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