ヒカルのチェス7の記事一覧

「ヒカルのチェス」(451)

「Chess Life」2016年6月号(3/3)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ルイロペス・ベルリン防御 (C65)
GMファビアノ・カルアナ(FIDE2794、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年3月20日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4

 局面は攻め合いの様相を呈している。白はクイーン翼にキャッスリングして速攻に期待している。黒は反対翼ですぐ攻撃できそうだがそれは幻想である。

15…Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1!

 黒の狙いをまったく無視している。ここでは変化が多いが実戦の手順だけに的をしぼる。

18…bxa2+ 19.Ka1

19…Bxf5

 白のナイトを消すのは状況を考えれば非常に自然に思われる。19…a3 は 20.b3 g6 21.Nh6+ Kh8 22.d4 となって白の主導権がとてつもなく大きくなる。

20.exf5 a3 21.b3

 黒の問題はここで良い攻撃パターンが一つもないことである。その一方でキング翼は明らかにいつまでも持ちそうにない。

21…Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2!

 この手は私の好みである。もっともコンピュータはもっとほかの方がいいと言っている。ナイトをe4に組み替えるのは自然で強力である。

23…fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

25…e4

 25…Qxd3 は 26.Qxd3 Nxd3 27.Ne4(d3のナイトが浮いていてf6での狙いもあり黒は交換損になる)27…Nf4(27…Red8 でも 28.Bg5 で白が勝つ)28.Nf6+ である。

26.Bxc5 Bxc5 27.Nxe4

 このナイトはまるでタコだ。

27…Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 黒投了

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(この号終わり)

2016年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(452)

「Chess Life」2016年7月号(1/1)

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米国選手権戦

自戦解説 GMファビアノ・カルアナ

シチリア防御スヘフェニンゲン戦法 (B80)
GMファビアノ・カルアナ(2870)
GMヒカル・ナカムラ(2861)
米国選手権戦第4回戦、ミズーリ州セントルイス市、2016年4月17日

 大会優勝は明らかに第4回戦でのナカムラ戦の勝利に負うところが大きかった。激戦になると覚悟していたが、あとでナカムラが背水の陣でこの試合に勝たなければならないと考えていたことを知った時には驚いた。大会のこんな早くにそんなことはあるはずもなかった。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5!?

 ナイドルフ戦法は長年ナカムラの常用戦法の主柱を成してきたので大して驚かなかったが、この 7…h5 というまれな戦型は予想していなかった。黒は g2-g4 突きを防いで白の攻撃を一筋縄ではいかないようにする。その一方で黒のキング翼は弱体化してキングはたぶん長い間中央に居続けるだろう。だからこの戦略にはある程度の危険性がある。

8.a4

 これは大した手ではないが私としてはなにか新機軸を打出してみたかった。主流手順は 8.Qd2 と 8.Bc4 である。

8…Nc6 9.Bc4

 9.Be2 でスヘフェニンゲン模様を目指すのもあるが、私はもっと攻撃的に指してみたかった。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5 12.Bb3 Bd7

 ここで私は長考に入った。黒は続いて …Rc8 から …Nc4 と指してくる。そして私にはどちらのビショップを交換するかの選択肢がある。b3のビショップの方がずっと大切に思えたので交換することにしたのは…

13.f4 Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3

 黒は双ビショップになったが、こちらには f4-f5 から黒の白枡の弱体化を目指す反撃策が豊富にある。

15…Qc5?!

 対局後ナカムラはこの手を反省した。対局中私には自然で強い手に感じられたが、貴重な手を損したという彼がたぶん正しいのだろう。

 黒はすぐにキャッスリングすることができた。15…O-O-O に 16.f5 と突いてくれば 16…d5 と突き返してc7のクイーンの利きがh2に通る。

16.Rad1

16…g6?!

 この手こそ本当に手損のように思われる。結局のところこちらが f4-f5 と突くのを防いでいないからである。

 私は 16…h4!? の方を気にしていた。適切な状況で …Nh5-g3(+) と指す狙いである。

17.Qe2

 この手がうまい手で、クイーンを釘付けからはずし、…Ng4 がクイーン当たりにならないようにし、e4-e5 突きと f4-f5 突きの両方を見ている。

17…O-O-O

 黒は 17…h4!? と指すべきところだろう。想定される手順は 18.e5 dxe5 19.fxe5 Nh5 20.Qf3 O-O 21.Qxb7 Ra7 22.Qe4 Ng7 で、黒にはポーンの代償がある。

18.f5

 18.e5 の方が強力だと推奨されたが、対局中はそれほどはっきりしないように思われたし、対局後でもそうである。18…dxe5 19.fxe5 Ng4 20.Rxf7 Kb8 となって白が優勢なのは疑いないけれども避けるべき落とし穴が多い。

18…e5

 18…gxf5 19.exf5 e5 は完全に成立していた。20.Bxf7 exd4 21.Qxe7 となったとき私が見落とし、たぶんナカムラも見落とした手は 21…Qe5! 22.Qxe5 dxe5 23.Nd5 Nxd5 24.Bxd5 Bxa4 で、收局は互角に近いはずである。

19.Nf3 gxf5

20.Ng5!

 ナカムラはこの手を見落としたのかもしれない。このナイトがf7に行けば効果は絶大である。

 20.exf5 は 20…h4 のあと …Nh5 から …Bc6 を狙われてわけが分からなくなる。

20…f4

 この手は大局的にみて正しいようである。f4のポーンは白を締めつける効果を発揮している。

 20…fxe4 と取るのは面白い局面になる。21.Rxf6!? これが唯一の手というわけではないが、対局中はこう指すつもりだった(21.Nd5 もある。21…Nxd5[21…Bg4 は悪手で、22.Nxe7+ Kb8 23.Qf2 Qxf2 24.Rxf2 Nh7 25.Nxh7 Bxd1 26.Nf6 e3 27.Rf1 e2 28.Re1 で白のナイトが黒のルークを圧倒している]22.Rxd5 Qb4 23.Nxf7 Rhf8 24.Nxd8 Rxf1+ 25.Qxf1 Kxd8 白が優勢かもしれないが局面はねじり合いが続く)21…Bg4 22.Qe1 Bxf6 23.Ngxe4 Qb4 24.Nxf6 Bxd1 25.Qxd1 小駒が盤上を支配しているようなのでこのような局面は白が優勢だと思っていたが、黒が戦力得なので客観的には形勢不明である。

21.Rd3

 感触の良い手である。ルークが …Bg4 の利きから逃れ、将来c3またはb3に転回する狙いがある。21.Nxf7 Bg4 22.Rf3 Bxf3 23.gxf3 も魅力的だったが少し考えてそれ以上を目指せると判断した。23…Kb8 24.Nxh8 Rxh8 はたぶん黒が問題ない。

21…Kb8

 自然な手で、実戦的には最善手だろう。

 コンピュータの勧める手は 21…Rdf8 で私は 22.Nd5(22.Nxf7 Rh7 23.Ng5 Rg7 24.Ne6 Bxe6 25.Bxe6+ Kb8 26.b4! の方がはるかに強力で黒は長くもたないと思う)22…Nxd5 23.Bxd5 で読みを打ち切っていたが、23…Qa7! で受かっているようである。もっともこのように指すには破格の勇気が必要だと思う。とりあえずの 24.Nf3!? でさえ黒にとってはいずれかなり厄介になるかもしれない。21…Bg4 は 22.Qd2 で全然黒の大義に役立たない。21…h4 は対局後解説者達が指摘していた。22.Nd5 Nxd5 23.Bxd5 Bxg5 24.Rc3 Kb8 25.Rxc5 dxc5 と進んだとき私の好みは単純な 26.h3 で、黒キングは安全とは程遠い。

22.Nxf7 h4!

 この手が要点で好手だった。急に …Nh5 から …Ng3(+) が視野に入ってきた。やはり黒枡ビショップのないことが痛切にひびいている。

23.Nxh8

 この手は正確さを欠いていた。直感どおりに争点を維持すべきだった(もっと直感に従う必要がある)。

 …d6-d5 突きを避ける 23.Qf2! の方が良かった。それでも 23…d5 なら 24.Qxc5 Bxc5 25.Nxd8 Rxd8 26.Bxd5 となって …Nh5-g3! を狙うには黒ルークはh8にいる必要がある。

23…Rxh8 24.Qf2 Qb4??

 この決定的な大悪手にはまったく驚いた。黒としてはナイト同士を交換して白ビショップをd5の拠点に残すのはどんなことがあっても許すべきでないのは明らかだからである。

 ナカムラは 24…Qa5 を指摘した。成立するが形勢は黒の方が悪い。しかし 24…d5!! と突くのが反撃の絶好の機会だった。25.Bxd5(25.Qxc5? は 25…Bxc5 26.Bxd5 Nh5! がモーリス・アシュリーのよく言うところの不意打ちの一発になる)25…Qxf2(25…Qc7!? のような手さえ注目に値するが、たぶん互角には十分でない)26.Rxf2 Bc5 27.Rff3 Bg4(ここで狙い筋の 27…Nh5 は 28.h3 Ng3+ 29.Kh2 で何ももたらさない)28.h3 Bxf3 29.gxf3 白がポーン得だが黒は引き分けるのにそう多くの問題がないはずである。

25.Nd5 Nxd5

 25…Qxe4 には素朴な 26.Nxe7 でなく 26.Nxf6! Bxf6 27.Rxd6 と来られてビショップを取られる。

26.Bxd5 Bxa4?

 黒はビショップを取られるこのポカがなかったらもっと長く指せたかもしれないが結果には変わりない。白は交換得でおまけに主導権もあるのだから。

27.Ra3!

 ナカムラの見落とした手がこれだった。ビショップは動けず、白は c2-c3 から b2-b3 でビショップが取れる。

27…h3

 27…Bb5 には 28.Qb6! が妙手となる。

28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 黒投了

 31…Bxg3 には単純な 32.Qf3! Qd2 33.Ra2 があるので投了はやむを得ない。


9回の選手権優勝者が一堂に。閉会式での3人の米国チャンピオンたち(左から右へ)GMアレクサンドル・オニシュク(2006年)、FMスニル・ウィーラマントリ(ナカムラの義父)、ヒカル・ナカムラ(2005、2009、2012、2015年)、GMアレクサンドル・シャバロフ(1993、2000、2003、2007年)

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(この号終わり)

2016年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(453)

「Chess」2016年8月号(1/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦

F.カルアナ – H.ナカムラ
パリ大会、快速戦、2016年

 両者とも快速戦の最終対局で勝とうとして全力を傾けてきた。ここで 45.Rc7! Bd8 46.Rc8 Ra2+ 47.Kg3 Bb6 はブリッツ戦だけにカルアナとしても非常に怖く見えたに違いない。しかし驚いたことにここでは白の勝勢だった。48.Ng5! Bf2+ 49.Kg2 Be3+ 50.Kh1 Ra1+ 51.Bf1!(妙手)

51…Rxf1+ 52.Kh2 Bxf4+(52…Bb6? 53.Rb8)53.Kg2 Bxg5 54.Kxf1 Kf7 55.d8=Q Bxd8 56.Rxd8

45.Re1 Kf7 46.Ng5+ Bxg5 47.fxg5 Rd6

 危険なパスポーンを手中に収めた。ここではもう勢いは明らかに黒の方に振れていた。しかし解説者たちはまだ引き分けに終わるだろうと予想していた。

48.Re5 Rxd7 49.Rxb5 Rxd3 50.Rb6 Bf3+ 51.Kh2 Be4

 黒は少し駒の働きに優り、自分から米国ナンバーワンの地位を奪った男を負かそうとするナカムラの決意にも助けられていたことは確かである。しかしもちろんまだ引き分けに終わるはずだった。

52.Bf1 Rd1! 53.Bc4+ Kg7

54.b5??

 カルアナはナカムラが巧妙に張ったクモの巣に気がつかなかった。ここは 53.Kg3 と指さなければならなかった。

54…f4

 あらま。突然白は詰みを避けられなくなった。

55.Kh3 Bf3 0-1

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(この号続く)

2016年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(454)

「Chess」2016年8月号(2/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

V.クラムニク – H.ナカムラ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 局面はナカムラがクイーンをe4からちょっと進めたところである。確かに黒はポーン損だが異色ビショップは攻撃側に有利に働くことを決して忘れてはいけない。

33.Bg3?

 Qf4 とは指せない。しかしいずれにしても時間に追われてこの局面に対処するのはたいていの者にとって至難である。それはそれとして、黒からの狙いはどうせまだないのだから白は足踏みをしてもよかった。33.Qb8+ Kh7 34.Qe5 としておけば 34…Bd5 には 35.Qf5+ Kg8 36.Qc8+ で棚ぼたの引き分けになる。33.b4 も同様の趣旨で、33…Bg6(33…Bd5?? 34.Qe8+ Kh7 35.g6# という白のわなを避けた手)には 34.Qe3 と指せる。

33…Bd5 34.Qe8+ Kh7 35.g6+ Kh6 36.Qh8+ Kxg6 37.Qe8+ Kh7 0-1

 白はチェックが尽きてg2が守れない。

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(この号続く)

2016年12月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(455)

「Chess」2016年8月号(3/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – V.トパロフ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 危険なポーンと双ビショップのある黒が優位に立っている。だから白はe8のルークを取るよりもっと何かをしたいところである。

26.Rxg7+!?

 客観的には負けになる手であるが、白は攻撃するしか助かる道は望めない。ここで黒の選択は重大である。

26…Kh8?

 逃げ方を間違えた。26…Kf8 が正解で、27.f6 Bxe2 28.Rxh7 なら冷静に 28…Kg8 29.Rg7+ Kh8 でよい。

27.Rxf7 Bxe2

 白の狙いを見逃した。しかし機械の示す唯一の助かる希望(27…Bc4 28.Rxb7 Ba6)を見つけることはブリッツ戦では不可能に近いだろう。

28.Nf6

 詰みの狙いがあるので白が交換得になる。

28…Rc7 29.Rxc7 Bxc7 30.Nxe8 Bg3

 この局面でもまだ難しそうである。しかしナカムラは一連の強手とすごい幸運のおかげで勝った。

31.e5!

 強手その1。31…Bxe5 なら 32.Re1 で危険な敵ポーンを取り除ける。

31…Bb5 32.Nd6 Bd3 33.Nxb7?

 ここでは 33.f6! が正着だった。e5のポーンはタブーだし[訳注 33…Bxe5 34.Nf7+]、33…e2 なら 34.e6! Bxd6 35.e7 Bg6 のとき白は冷静に白のeポーンを取り除けるし 36.Rc1! とさえ指せる。

33…e2 34.e6 Bxf5 35.e7 Bg6 35.b5!?

 強手その2。状況は思わしくないしこの手さえ最も正確とは言えないが、ナカムラはクイーン翼の多数派ポーンを最大限に利用しなければと認識している。

36…Kg8

 トパーロフはこの機会にキングを働かせてすぐに優位に立ち始める。

37.a4 Kf7 38.a5 Bc2 39.Nc5!

 強手その3。白は …Bd1 の狙いに対処する手段を見つけた。しかしいずれにしてもまだ負けている。

39…Kxe7 40.b6 axb6 41.axb6 Kd6 42.Rc1 1-0

 そしてここで強手その4だ。白は強手のような手にもかかわらず全面的に圧倒されてきたようだが、トパロフがポーンを8段目に進めたまま時計を押した時、ナカムラは冷静に勝ちを主張することができた(ポーンを昇格駒で置き換えないのはブリッツでは不正着手になる)。


パリ大会での紫色を基調にしたプロの戦士たちに非常にふさわしい対局場。左下のヒカル・ナカムラはレボン・アロニアン戦の対局開始を待っているところで、パリ大会で危なげなく優勝した。

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(この号続く)

2016年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(456)

「Chess」2016年8月号(4/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – M.カールセン
ルーベン大会、快速戦、2016年
ラゴージン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Bb4 5.Qa4+ Nc6 6.e3 O-O 7.Qc2 Re8 8.Bd2

8…e5

 黒の前手の意志をついだと思われる手だが、先回りして 8…Bf8 と受けた方が良かったかもしれない。

9.dxe5 Nxe5 10.cxd5 Nxf3+ 11.gxf3

 ここで黒が 11…Bxc3 と取れば 12.Bxc3 Qxd5 13.Rg1!? Qxf3 14.Rg3 Qc6 15.O-O-O で白がポーンの代償に主導権を握る。しかしカールセンの指した手よりははるかに良い。カールセンの指したポカが分かるかな?

11…Nxd5?? 12.Nxd5 Qxd5

 これではb4のビショップをただ取られるが、12…Bxd2+ でも 13.Qxd2 で白の駒得である。

13.Bxb4 Qxf3 14.Rg1 Bf5 15.Qe2 Qe4 16.Bc3 Bg6 17.Qc4 1-0

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チェスがルーペンの15世紀の市庁舎のような立派な舞台でもっと行えたらいいのだが。ここはカールセンでさえ当初その荘厳さに圧倒されているようだった。

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(この号終わり)

2017年01月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(457)

「Chess Life」2016年8月号(1/1)

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お楽しみチェス
究極のブリッツ決戦大会 次の一手

第2問
GMウェズリー・ソー
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第4問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第5問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 白の手番

解答

第2問 39…Bd4! のあと 40…a2 で黒にクイーンができる(すぐに 39…a2?? は 40.Be5)。

第4問 60…h5?? は 61.Kc5! から 62.a5! で駄目である。実戦は 60…Ke5! 61.Bh1(61.Bxh7 なら 61…g3!)61…Kd6! 62.a5 Kc7! 63.Kc5 g3 で黒が勝った。

第5問 白は 34.Nxg5 Qxd3 35.Nxd3 で勝った。しかし 34.Nh4! Qxd3 35.Ng6+! の方がはるかに速い(35…Kh7 なら 36.Nxf8+、35…Kg8 なら 36.Nxe7+)。

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(この号終わり)

2017年01月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(458)

「Chess」2016年9月号(1/1)

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ビルバオ・マスターズ
ビルバオでヒカル・ナカムラがついにマグヌス・カールセンから初勝利

M.カールセン – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Ne2 d6 3.Nbc3 a6 4.g3 g6 5.Bg2 Bg7 6.d4

 閉鎖シチリアからフィアンケット・ドラゴンまでカールセンは本当にほとんどどんな種類の局面でも指しこなす。

6…cxd4 7.Nxd4 Nf6 8.O-O O-O 9.b3

9…Nc6

 9…Bg4!? の方がもう少し厳しい感じがする。その意図は …Qc8 から …Bh3 で、10.f3 Bd7 11.Bb2 Nc6 となれば白は有利なようにc6での陣形を変えることができない。

10.Nxc6!

 普通はこのような交換は良くないとされる。しかしここでは黒が …a6 に1手かけていて、白には Bb2、Na4 そして c4 で締めつける単純で効果的な作戦がある。

10…bxc6 11.Bb2 Qa5 12.Na4 Bg4 13.Qe1!

 これに対して 13…Qxe1 なら 14.Raxe1 Nd7(e4-e5 突きが当たりにならないようにする)15.f4 Bxb2 16.Nxb2 f6 17.c4 で白が優勢になる。しかしナカムラはすぐに次の果敢な手を悔やむことになる。

13…Qh5?! 14.f3 Bh3 15.g4!? Qh6 16.Rd1 g5

 愚形になるが黒はキング翼で動く余地がなくなりかけていた。

17.Bc1 Bxg2 18.Kxg2 Qg6

19.h4?!

 カールセンにしては珍しく頭にかっと血がのぼった。彼は大会の出だしは必ずしも良くない。19.c4 なら本筋だったし、19.Nb6 から Nc4 なら局面を支配している。

19…gxh4! 20.Qxh4 d5!

 ナカムラは好機をとらえた。黒はこれで持ち直したが、カールセンはまだ現実に気づいていなかったようである。

21.g5? dxe4! 22.f4 e6!

 これで簡単に受かっている。白は世界チャンピオンかもしれないが、指し過ぎでポーン損になる。

23.c4 Rfd8 24.Rde1 Ne8 25.Nc5 Nd6 26.Qf2

 カールセンはまだ盤上の一部を抑えているが、ナカムラはゆっくりと白の切り札をそいでいくことに満足する。

26…f5 27.Bb2 Nf7 28.Bxg7 Kxg7 29.Qg3 Rd6 30.Rd1 Rad8 31.Rxd6 Rxd6 32.Qc3+ Kg8 33.Rf2 Qh5!

 白のナイトはc5の好所に居座り続けているが、キングの守りからは離れている。

34.Qh3 Qd1 35.Qe3 e5!

 必殺の反撃第二波の始まり。

36.Qg3 Rg6 37.Kh2 exf4 38.Qxf4 Qh5+ 39.Kg1 Qd1+ 40.Kh2 Qh5+ 41.Kg1 Nxg5 42.Qb8+ Kg7 43.Qe5+ Kh6 44.Qf4 Qd1+ 45.Kh2 Qd4 46.b4 Kg7 47.Qc7+ Kh8 48.Qc8+ Rg8 49.Qxf5 Nf3+ 50.Kh3 Qd6 0-1


ナカムラは黒でカールセンに勝ったあと何も危険を冒さないようになった。

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(この号終わり)

2017年01月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(459)

「British Chess Magazine」2016年9月号(1/2)

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バクー・オリンピアード

セオ・スレード

ヒカル・ナカムラ 2789
ジョン・ショー 2454

第2回戦、米国対スコットランド

 ナカムラは既に優勢だったが、相手の 20…Qd6?? のおかげで 21.Bd5! でたちまち勝ちになった。

 黒が4駒で当たりになっているビショップを 21…Bd7 と引いてe8のルークにも十分な守りを利かせれば、白はもちろん 22.Bxf7+ と指す。だから黒はe6のビショップをこれ以上守れないので投了した。GMを21手で負かすとは大したものである。

1-0


ナカムラは相手のひどいポカに乗じて短手数で2局勝った

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(この号続く)

2017年01月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(460)

「British Chess Magazine」2016年9月号(2/2)

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バクー・オリンピアード(続き)

ヒカル・ナカムラ 2789
ロベルト・マルクス 2662

第5回戦、米国対セルビア

 この均衡のとれた局面でマルクスは 21…Qd8? とポカを指し、 22.Nxg6! でもう終わりになってしまった。22…Nxg6 は 23.Qg3 Nde5 24.Bxe5 で白が利子付きで戦力を取り返し、途中 23…Kf7 なら 24.Rf1+、23…Kh7 なら 24.e5! で決まっている。


優勝した米国チーム(左から右へ)ヒカル・ナカムラ、ジョン・ドナルドソン(団長)、サム・シャンクランド、レイ・ロブソン、ウェズリー・ソー、ファビアノ・カルアナ

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(この号終わり)

2017年02月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(461)

「Chess」2016年10月号(1/3)

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2016年シンクフィールド杯

W.ソー – H.ナカムラ
第1回戦、カタロニア布局

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5 Nc6 8.Nxc6 bxc6 9.Na3

 c6のポーンを取るのは昔から白に何ももたらさないと知られている(8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7 Qxe7 でも同じ)。しかしc4に目標を定めるのは最近かなり流行している。ナカムラは強く応じた。

9…Bxa3 10.bxa3 Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8 14.Ba3!

 この手が必然というわけでは決してないが、ポーンを犠牲にするのは良さそうな手に見える。白はクイーンを強力で締めつける地点に転回させておいて、黒枡ビショップと同じことをさせるつもりである。

14…Rxd4

 この手も勝負手に違いない。2015年レイキャビクでの欧州チーム選手権でメルクミアン対フリートマン戦は 14…Rb6 15.Bc5 Rb2 16.e3 Nd7 17.Be7 Re8 18.Ba3 Rb6 19.Bc5 Rb2 20.Qc3 Qb7 21.Ba3 Rb6 22.Rad1 Nf6 23.e4 と指し回され黒が苦戦に陥った。

15.Rfb1!?

 この手は新手だった。本局とよく似ているのは2010年ブルニャチカ・バニャでのエフィメンコ対サカエフ戦の 15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5! 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(単に 19…d4!? もありそう)20.a5 b5 21.Qe7 c5 で、すぐに合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 代わりに 16…Rd5 ならソーは 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qd2 Ne4 20.Qe3 で当面黒ポーンを止め(続いて f2-f3 と突くかもしれない)、a4-a5 と一時的にポーンを犠牲にしてルークのために素通し列を作るつもりだったかもしれない。

17.Rd1

 白は争点を維持した。17.Bxb6? と取るのは 17…cxb6(17…axb6 18.Qe5 Qd8 19.Bxc6 Rd6)18.Qe5 Nd5 となって黒が交換損の代わりに非常に指しやすくなる。

17…h6?

 この手はおかしかった。しかしナカムラは陣形をゆっくり立て直す余裕が十分あると思っていたのだろう。17…Nd5!? の方がずっと積極性があり、18.e4 Nf6 となれば白はd5の地点を永久に譲るか、e4の守りに縛りつけられるか、あるいは 19.Bf1!? Nxe4 20.Rxd7! Nxc5 21.Rxf7!? Kxf7 22.Qxc5 とでもやってみなければならない。しかしa7のポーンは落ちず 22…Qd7 23.a5 Rb7 24.Qh5+ Kg8 25.Rd1 Qe7 26.Qf3 ということになれば白に2ポーンの十分な代償がないことは明らかである。

18.Rxd7!

 やっと時機到来である。

18…Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

 ソーの指し手の意味が明らかになった。黒がポーンでなだれ込むことができるようになる前にd列から攻め込もうというのである。ここで 20…Qc7 ならd6の地点に利くが、21.Rd1 Nc5 22.Qd8+ Qxd8 23.Rxd8+ Kh7 24.Bxc6 c3 25.Rd1 となってcポーンが落ち白の勝つ可能性が高くなる。

20…c5 21.Rd1 Nf6 22.Kf1!

 非常に冷静な手で、黒の 17…h6 よりはるかに役に立っている。白はキングがcポーンに十分近いのでクイーンを交換することができる。

22…Kh7 23.Qc2+ Kg8 24.Qd2 Kh7 25.Qd8! Qxd8 26.Rxd8 c3

 黒はビショップを働かせなければならない。しかしこれでも負けを免れるには十分でない。ソーは想定局面を何の問題もないと判断した。

27.Ke1 Bc4 28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3

 黒は交換損の代わりにまだ2ポーンを得ている。しかし白のキングだけが働いていて、ナカムラは引き分けにできるだけのポーン清算をすることができない。

31…a6 32.Ra8 Nd5+ 33.Bxd5

33…exd5

 この手は見事な読みのためにあっさり負けになる。しかし 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 となって負けのようである。お互いキング翼に4ポーンがあり、黒になおcポーンがあっても白の勝勢である。35…f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 Kg6 なら 38.g4!? と突けて黒のcポーンが落ちる。

34.a5! b4+ 35.Kd2

 黒のポーンは怖そうだがソーは何も恐れていない。

35…Bf1 36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 1-0

 キングの働きが勝利をもたらした。38…Bd3 39.Rb6 f5 40.Rd6 で白の簡単な勝ちである。ただし 40.Rxa6?? には 40…b2 がある。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(462)

「Chess」2016年10月号(2/3)

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2016年シンクフィールド杯(続き)

H.ナカムラ – ディン・リーレン
第9回戦、準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.Bh5 h6 6.Bh4 dxc4 7.e4 g5 8.Bg3 b5 9.Be2 Bb7 10.h4

 この反モスクワ・ギャンビットの厳しい手法は近年は現代的な 10.Qc2 にほぼ取って代わられた。しかしナカムラはまだ一定のかみつく力があることを見せつけた。

10…g4 11.Ne5 Nbd7 12.Nxd7 Qxd7 13.Be5 Qe7

14.b3!

 要着。14.Bxg4 は 14…Rg8 15.Bf3 Nd7 で陣形がほぐれて黒が好調になる。

14…cxb3 15.axb3 a6

 黒は 15…Bg7 で展開の完了を優先させることもできる。そして 16.O-O O-O 17.Bxg4(ベルレ対ファン・ベリー、ロンドン、2008年)17…Rfd8!? 18.Bf3 Nxe4 19.Bxg7 Nxc3 20.Qd2 Kxg7 21.Qxc3 Kg8 と進めば、黒は乱れた陣形がポーン得で相殺される。

16.Qc1!?

 巧妙な新手。もっとも2007年クラスノヤルスクでのトレグボフ対モティレフ戦の 16.O-O h5 17.Re1 Bg7 18.d5 でも大して悪そうには見えなかった。

16…Rg8 17.O-O Nh5

 この手は白クイーンがf4に来るのを防ぎh4のポーンを当たりにしている。しかしここからナカムラの新手の主眼点を目(ま)の当たりに見ることになる。

18.d5!!

 そらきた!

18…Qxh4?

 重要な変化は 18…exd5?! 19.exd5 Qxe5 20.Re1 で、白は1駒と1ポーンを損しているがかなりうまくいくようである。例えば 20…Be7(20…Qf4 21.Bxb5+ Kd8 22.dxc6 Qxc1 23.Rexc1 Bc8 24.Nd5 は白の攻撃がうまくいっていて非常に強力である)21.Bxb5 Qc7 22.dxc6 axb5(22…Bxc6? なら 23.Nd5!)23.Rxa8+ Bxa8 24.Nd5 Qxc6 25.Qxc6+ Bxc6 26.Nxe7 Kf8 27.Nxc6 Rg6 28.Nd4

のあとの收局は白がやや優勢である。

 もっとも本譜の手もうまくいかないので、黒は 18…f6 19.Bh2 cxd5 20.exd5 Rc8 とやってみなければならないということになり、まったくの形勢不明だろう。

19.g3 Qg5 20.dxc6! Qxe5

 白ポーンをb7に進ませるのはほとんど誰も望まないが、20…Bxc6 では 21.Nxb5 できれいに一掃されてしまう。

21.cxb7 Rb8 22.Nd5!

 さらなる一撃を見舞った。ナカムラは本局では炎と燃えていて、試合はすでに終わっているようである。

22…exd5 23.Qc8+ Ke7 24.Rxa6

 両者の大駒の働きの違いを比べてみるとよい。白の狙いは 25.Rc1 である。

24…Nxg3 25.Bxb5 Ne2+

 どうにでもしてくれという手。黒は反モスクワがうまくいかない時は滅茶苦茶になることがある。

26.Bxe2 f6 27.Re6+! Qxe6 28.Qxb8 1-0


ヒカル・ナカムラにとってはかなり期待外れの状況が続いていたが、少なくともオリンピアードではよく準備ができていたし、シンクフィールド杯ではディン・リーレンを準スラブで完璧に粉砕して上々の気分で締めくくった。

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(この号続く)

2017年02月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(463)

「Chess」2016年10月号(3/3)

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次の一手

初級向け第4問 M.バシエ=ラグラーブ対H.ナカムラ
インターネット(ブレット)、2016年

 白の手番

解答 1.Be5+ 1-0 1.Bg5! も正解。1.Be5+ のあとは 1…Nf6(1…dxe5? 2.Rf7#)2.Rxf6 Qxf6 3.Bxf6 Kxf6 4.Qxh6+ Kf7 5.Nd5 で黒は戦力損の上にキングがむき出しになっている。

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(この号終わり)

2017年02月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(464)

「Chess Life」2016年10月号(1/1)

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次の一手 米国選手権戦より

第1問
GMヒカル・ナカムラ対GMジェフリー・ショーン

 白の手番

第4問
GMヒカル・ナカムラ対GMサム・シャンクランド

 白の手番

第1問解答 32.Nf5! クイーン当たりと Nh6+ の両狙い(32…Qd7 33.Nh6#)。

第4問解答 37.Re7 でも長い目で見れば勝ちになるが 37.Qd2! Qxd2 38.Rxd2 なら 39.Ree2 から 40.Rxf2 でナイトが取れる(37…Nxd1 なら 38.Qxh6+ Kg8 39.Bd5+ R6f7 40.Bxf7+ で白の勝勢)。

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(この号終わり)

2017年03月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(465)

「Chess Life」2016年11月号(1/1)

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シンクフィールド杯

開放カタロニア(E05)
GMウェズリー・ソー(FIDE2771、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2791、米国)
2016年シンクフィールド杯第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2016年8月5日

 2015年のシンクフィールド杯でヒカル・ナカムラはキング翼インディアン防御でウェズリー・ソーをつぶした。1年で変わったことが多く、ナカムラが同僚に対して選択した布局もそうである。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5

 主手順は 7.Qa4 a6 8.Qxc4 b5 9.Qc2 Bb7 で、数え切れないほど指されている。

7…Nc6

8.Nxc6

 8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7+ Qxe7 11.Qa4 e5 12.dxe5 Qxe5 が通常の手順で、よく知られている。チェスエンジンは白の方を少し優勢としているが、異色ビショップと白のすき間のあるキング翼のために黒が互角にできる可能性が非常に高い。

8…bxc6 9.Na3 Bxa3 10.bxa3

 奇妙なポーン陣形ができあがった。黒はc列に孤立三重ポーン、a列に孤立ポーンがあり、白は1ポーン損でa列に孤立二重ポーンがある。身の毛もよだつような局面である。

10…Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8

14.Ba3

 この手はポーンをもう1個犠牲にして主導権を強める。d4のポーンはまったく気にしない。確かにあればいいポーンだが、白は犠牲にした戦力を正当化するためには活発に動く必要がある。

 14.Rd1 は以下 14…c3(14…e5 15.Qxe5 Nd5 はねじり合いになる。白は双ビショップで中央列のポーンも多いが、展開が遅れている。黒は非常に積極的に動いているが、長期的には陣形が白の有利に働くのは確かなのでそうすることが必要である)15.Qxc3 Bxe2 16.Re1 Qa6 17.Bg5 Qc4 で互角の形勢である。(ポーンが取られないように17…Rd6 と指すのは手間をかける価値がないかもしれない。どうして白に 18.Rab1 でb列を支配させるのか?)

14…Rxd4 15.Rfb1

 ここで初めて前例と別れた。抜け目のない手である。交換得になった場合白のもう一つのルークはf1よりa1にいた方が良い。これは典型的なチェスの論理に反するようだが、そのわけは白が a4-a5 から a2-a4 と突こうとしているからである。

 前例は2010年ブルニャチカ・バニャでのザハル・エフィメンコ(2689)対コンスタンチン・サカエフ(2607)戦で、15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(19…d4 も指したくなる手で、対角斜筋を開けナイトのためにd5の地点を空ける)20.a5 b5 21.Qe7 c5 22.f4 d4 23.f5 e5 24.f6 gxf6 25.g4 h6 26. Rf5 と進んで合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 私が見たかった手は 16…Rd5 だった。2ルークに対し2小駒と2ポーンの駒割は滅多に見られない。もっとも 17.Bxd5 cxd5(17…Rxb1+ 18.Rxb1 cxd5 19.Qxa6 は最下段が無防備なので黒にとって問題が大きい)18.Bxb6 cxb6 19.Qc3 は白が良すぎる。クイーン翼をのみで削るようにやっていけば、結局はルークが小駒より強くなる。

17.Rd1 h6

 これは辛抱のいい手だが、たぶん補強が必要だった。

 17…Nd5 18.e4 Nf6 は互角だが、白にポーンを突かせたのは黒のためになっている。黒のナイトがいつかはd3の地点に行ける。

18.Rxd7 Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

20…c5

 20…Nc5 21.Qd6 は白が優勢の実戦の進行にやや似ている。21…Nxa4 22.Qxc6 Qxc6 23.Bxc6 Nc5 となった時の大きな違いはそれぞれの二重ポーンが交換で解消していることである。これは黒にとって重要で、ナイトがc5に行ける。

21.Rd1 Nf6 22.Kf1 Kh7 23.Qc2+

23…Kg8

 対局後ナカムラは 23…g6 と突いてクイーンを盤上に残さなかったのを後悔しているようである。24.Qc3 Kg7 で白がどのように進展を図るか判然としない。どうやっても譲歩することになるだろう。もちろん白が優勢であるけれども 25.h4 Qc7 26.Kg1 e5 で戦いは続く。

24.Qd2 Kh7 25.Qd8

 クイーンが盤上から消えるのでソーは勝ち負けだけを目指して指すことになる。a7のポーンはすぐ目立つ弱点で、ほぼ互角の駒割にもかかわらず白がはっきり優勢である。收局ではルークが小駒を圧倒することがよくある。

25…Qxd8

 25…e5 26.Qxc8 Bxc8 27.Rd8 Be6 28.Ra8 c3 29.Ke1 は、…e6-e5 突きで白枡の支配がゆるんだので黒が実戦よりもずっと悪い。

26.Rxd8 c3 27.Ke1

27…Bc4

 27…c2 は 28.Kd2 Bxe2 29.Kxc2 Kg6 30.Rb8(黒はポーン狩りをしている暇がない)30…Ng4 31.Rb7 Nxf2 32.Rxa7 で次にb6のポーンが落ちるので良くない。

28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3 a6

32.Ra8

 たぶん 32.a5 の方が正確である。32…Bd5 33.Bxd5 Nxd5+ のとき勝つ唯一の手は 34.Kb3 である(34.Kd2 は 34…c4 35.Rd6 Nb4 となってこのナイトが奇跡的にa6ポーンの守りから追い払われない。白キングがc3に行けばナイトはa2からチェックするし、a3に行けばc2からチェックする。驚異的な要塞である)。

32…Nd5+ 33.Bxd5 exd5

 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 で白の勝ちになる。白キングが黒枡をぶらつくので黒キングは戦闘に間に合わない。

34.a5

 34.Rc8 bxa4 35.Rxc5 でも勝ちだがもっとてこずる。白は正確さを要求されるが、実戦の方はaポーンのおかげで早く終わった。代わりに 34.axb5?! axb5 35.Rc8 は 35…d4+ 36.exd4 cxd4+ 37.Kxd4 で引き分けに終わる可能性が非常に高い。

34…b4+ 35.Kd2 Bf1

 35…Bb5 36.Rc8 c4 はすべて守っているようだが、37.Rb8 から Rxb5 の狙いだけ抜けている。これはビショップが動かなければならないということで、bポーンが落ち勝負がつく。

36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 黒投了

 ナカムラは白のaポーンに対処できないと読んであきらめた。

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(466)

「Chess」2016年12月号(1/2)

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マン島国際チェス大会

解説 ベンジャミン・ボク

H.ナカムラ – B.ボク
第5回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 この f3 システムをナカムラは誰あろうカスパロフに対してさえ指している!

3…e6 4.e4 c5 5.d5 d6 6.Ne2 Bg7 7.Nec3

 白は Nb1-c3 と指していなかったのでこんな手で変化することもできる。

7…a6 8.a4

8…Nh5

 8…exd5?! は手順が悪く、9.cxd5 Nh5 に 10.g4! と突く手があり 10…Qh4+ 11.Kd2 Ng3 12.hxg3 Qxh1 13.Bb5+ で白の勝ちになる。実戦はポーンがまだc4にいるので成立しない。

9.Be3

 9.g4? にはもう見たように 9…Qh4+ 10.Kd2 Ng3 の強手がある。

9…exd5 10.cxd5 f5 11.exf5 gxf5

12.Qd2

 ここでちょっと奇妙なことが起こった。私が考えている間にナカムラが戻ってきて棋譜に 12…O-O と書き自分のビショップをつかみe2に動かしたとたんにまだ私の手番であることに気づいた!私は審判のところに行ってことを大げさにするようなことはしないことにした。しかし少なくとも 12…O-O のあとの彼の意図は分かった。

 本譜の手の代わりに 12.Be2 は 12…O-O 13.O-O のあと 13…Re8 14.Bf2(14.Qd2?? は 14…Rxe3 で黒の勝ち)14…Qg5 に対処する適当な手段が白にない。

12…O-O 13.Be2

 予想どおり。

13…Nd7

 私は単に駒を展開することにした。

14.O-O f4

 14…Ne5 は 15.Bg5 がちょっと煩わしい。15…Qe8 に 16.f4 があってクイーンをg列に持っていくのがより困難になるからである。

15.Bf2

15…Qg5

 こう指すと g4 と突かれるのは分かっていたが、白キングがまったく弱くなりきわめて危なっかしいと考えていた。

 15…Ne5 と指すこともできたが、やはり 16.Ne4 で私のクイーンがg6に行けず 16…Bf5 17.Nbc3 で白が少し優勢かもしれない。

16.g4

 16.Ne4 は 16…Qg6 17.Nbc3(17.Bh4 には 17…Ne5 18.Be7 Bh3)17…Ne5 18.Kh1 Bf5 と進む公算が大きい。黒は好調で …Rae8 または …Bh6 で圧力を強めるかもしれず …Ng3+ の狙いも出てくる。

16…Ne5 17.Kh1 Nf6 18.Rg1

18…Qg6!

 この手が指せてまったくほっとした。いろいろな捨て駒が視野に入っている。

 最初は 18…h5 と指すつもりで、19.h4 Qg6 20.g5 Qf5 21.Rg2 Nfg4! 22.fxg4 hxg4 を想定していた。白は押しつぶされてしまうだろう。しかし 19.gxh5 と取られると 19…Qxh5 20.Qxf4 Ne8 21.Qh4 Qxh4 22.Bxh4 Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Nd2 となって黒は問題ないのだが白の主導権は厄介ものである。

19.Bh4!

 黒の捨て駒に備えて 19.Qd1 と指すと予想していたが、それでも黒は 19…Nfxg4! と切り込むことができるようで 20.fxg4 f3 21.Bf1 Nxg4 で勝勢である。例えば 22.Bg3 なら 22…f2 23.Rg2 Ne3 でよい。

 また、19.Na3 なら 19…Bxg4! が黒の読み筋で、20.fxg4 Ne4 21.Qe1 Nxc3 22.bxc3 Qe4+ 23.Rg2 f3 で黒の勝ちになる。

19…h5

 最初は 19…Bxg4 と取りたくてたまらなかった。20.Qd1(20.Bxf6 なら 20…Bxf3+ 21.Bxf3 Qxg1+ 22.Kxg1 Nxf3+ 23.Kf2 Nxd2 24.Bxg7 Nxb1 25.Bxf8 Nxc3 26.bxc3 Kxf8 27.Kf3 となるが、これでも白はたぶん持ちこたえることができるだろう)20…Qh5 21.Bxf6 Nxf3 22.Rg2 Rxf6 と進んで黒が勝ちそうに見えるが、残念ながら 23.Nd2 という手があり形勢が逆転する。

20.g5

 20.gxh5 も白はあまり気乗りしなかった。20…Qxh5 21.Qxf4 Nfg4 22.Qg3(22.fxg4 は 22…Rxf4 23.gxh5 Rxh4 で黒に立派な代償がある)22…Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Qxf3 Qxh4 25.Qg3 Qh6 となって交換損の代わりに黒の攻撃が強力で、26…Be5 の狙いがある。

20…Nfg4!

 このような局面では引き下がることはできない。

21.Ne4

 21.fxg4 は 21…hxg4 で白には指す手がなく、黒は容易に駒を攻撃に投入し続けることができる。例えば 22.Na3 Qh7 23.Qe1 Bf5 のあと黒は望むなら 24…Rae8 と指せる。

21…Bf5

 最初は 21…Nxh2 を読んでいた。しかし 22.Kxh2 Qf5 23.Nf2(チェスエンジンは 23.Rg2 の方がずっと強力だとしている。23…Qh3+ 24.Kg1 Qxh4 25.Rh2 Bh3 26.Nbc3 でh列での釘付けのために黒が問題を抱える)23…Ng6 24.Bd3 Nxh4 25.Bxf5 Nxf3+ 26.Kh1 Nxd2 27.Bxc8 となって、27…Nxb1 には 28.Be6+ があるので白が駒得のままである。

22.Nf6+?

 この手のあとはどうやっても白の負けである。たぶんナカムラは私の応手を見落としたのだろう。白は何があっても 22.Nbc3 と指さなければならなかった。黒はまだ少し優勢かもしれないが局面はまだ難解なままである。

22…Rxf6! 23.gxf6 Bxf6

 白はビショップを助けようがない。

24.Nc3

 白はもう負けを認めている。24.Qe1 は 24…Re8 で黒の狙いが多すぎる(24…Nxf3 でもよいが 24…Re8 の方が簡単)。24.Be1 は 24…Bxb1 であれれ、ということになる。

24…Bxh4

 ここでは黒の勝勢は明らかである。私のしなければならないことは冷静さを保ち最後まで正確に指すことだけだったが、うれしいことにとてもうまくやり遂げることができた。

25.Raf1 Bg5 26.h4

 26.fxg4 と取っても 26…Be4+ 27.Nxe4 Qxe4+ 28.Rg2 Qxg2+ 29.Kxg2 f3+ でやはり終わっている。

26…Bh6 27.fxg4 hxg4 28.Rxf4 Qh5! 29.Rg2 Qxh4+ 30.Kg1

 30.Rh2 も 30…Qg5 で見込みがない。

30…Ng6

 ほかの手もあるが、これが最もはっきりしている。

31.Rxf5 Bxd2 32.Rxg4 Bxc3

 このような局面では勝ち方がいくつもあるが、その中の一つを追求することにした。

33.bxc3

 33.Rxh4 なら 33…Nxh4 34.Rg5+ Bg7 で黒の勝ちである。

33…Qe1+ 34.Bf1 Kg7 35.Rfg5 Qb1 0-1

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(467)

「Chess」2016年12月号(2/2)

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グランドマスター・ブリッツ勝ち抜き選手権戦

H.ナカムラ – M.カールセン
ブリッツ(5分+3秒)第3局、クイーン翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.Qc2 Bb7 6.Bg2 Bb4+ 7.Bd2 a5 8.O-O O-O 9.a3 Bxd2 10.Nbxd2 d5 11.cxd5 exd5 12.Ne5 Na6 13.Nd3 Qe7 14.e3 c5 15.dxc5 Nxc5 16.Nxc5 bxc5 17.Rac1 Rfc8 18.Rfd1 h6 19.Qf5 a4 20.Rc2 Bc6 21.Rdc1 Bd7

 ここで 22.Qd3 なら何事もなかっただろう。しかし本局が最後ではなかったがクイーンがポカで失われた。

22.Qf4?? g5 0-1

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(この号終わり)

2017年03月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(468)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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ロンドン・チェスクラシック

ヒカル・ナカムラ – ウェズリー・ソー
第8回ロンドン・チェスクラシック、第1回戦、2016年

 大会初戦でナカムラはグランドチェストーナメント総合優勝を争うソーとの重要な対局に臨んだ。しかし自分の研究手順を忘れてなすところなく負けた。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3

 グリューンフェルト防御は最高峰レベルでは人気がある。

7…c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2 e5 10.d5 Nd7 11.c4 f5 12.Bg5 Nf6

 最高峰レベルでは研究は奥深くまで行われている。この局面は前例がないにもかかわらず両対局者の研究範囲だった。

13.Ne2??

 13.Bd3 がナカムラの意図だったはずで、形勢は白がわずかに良いだろう。

13…Nxe4

 簡単な手筋だ!

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1

 戦力的には互角だが形勢は黒の方がずっと良い。黒には双ビショップがあり白キングは中央列で立ち往生している。さらには白の中央ポーンは弱い。

17…b6 18.Bb4 Ba6 19.f4 Rc8 20.fxe5 Bxe5

 ソーは単純に指しているだけで、白のc4ポーンが困ったことになっている。

21.Rf3

 代わりに 21.c5 は白キングが危うすぎる。白の問題は次の想定手順に表れる。21…bxc5 22.Rxc5 Re8 23.Rc2 Rc7 白は駒の連係がとれず黒が完全に勝勢である 24.Rd2(24.Rxc7 Bxc7 25.Rf2 Bb6)24…Rc4 25.a3 Bxh2 26.Kd1 Bb5 27.Rf3 Bf4

28.Rxf4(28.Rb2 Rxe2 29.Kxe2[29.Rxe2 Rc1#]29…Rc2+ 30.Ke1 Rc1+ Kf2 Rf1#)28…Ba4+ 29.Ke1 Rxf4

黒が交換得のうえに1ポーン得である。

21…Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4 Rd7

 ソーはdポーンに狙いをつけた。

24.a4

 24.d6 Bd4 25.Re7(25.Re2 Kf7 26.Nd5 Bxe2 27.Rxc8 Ba6 28.Rc7 Rxc7 29.dxc7 Be5

cポーンがいずれからめ取られるので同じ運命になりそうである)25…Rxe7+ 26.dxe7 Kf7 27.Rd1 Bf6

黒はeポーンをゆっくりからめ取ることができる。

24…Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8 29.Bb4 Re8 0-1

 2ポーン損でナカムラは投げ時だと判断した。ソーは才能あふれる相手に一方的に勝った。

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(この号終わり)

2017年03月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(469)

「Chess」2017年2月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック

H.ナカムラ – W.ソー
第1回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3

 グリューンフェルト防御はナカムラにとって意外だったかもしれない。しかし黒が引き分けでも大満足な時にわざわざクイーン翼ギャンビット拒否を指さなければならない理由は何もない。おまけにグリューンフェルト防御は昔からソーの得意戦法の一つだった。そしてベイクアーンゼーではエリヤノフ相手に、「究極の手」コンテストでは当のナカムラ相手に連採していた。2016年セントルイスでのナカムラ対ソー戦(ブリッツ)でははるかに激しい戦型になり 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.Nb5 Qd7 11.Kb1 Rd8 12.d5 a6 13.Nc3 Qe8 14.Qc1 Na5 15.h4 と進んで、既に白が突撃ラッパを吹き鳴らし勝ちきった。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3 c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2

 アナトリー・カルポフは白番で中央を完全に支配したままにするこのようなシステムを好んでいた。ここで黒の一番よく指される手は 9…Qa5 で、クイーン同士の交換になるかもしれない。しかしソーの好んだはるかに一般的でない手は、時にアーナンド、スビドレル、それにバシエ=ラグラーブによって用いられた変化でもあった。

9…e5!? 10.d5

 ここは勝負所のような感じだが、ナカムラは結構早く指した。2016年ビールでのスビドレル対バシエ=ラグラーブ戦(快速)では 10.dxe5 Qxd2+ 11.Kxd2 Rd8+ 12.Kc2 Bd7 13.f4 Bc6 と進み 14.Bd3?? には 14…Ba4+! があるので黒がポーンを取り返すことができた。

10…Nd7 11.c4!?

 この手は新手だが、生中継の観戦者たちはまだ両者の研究範囲なのかと疑っていた。以前は 11.Bd3 f5 12.Bg5 Nf6 13.c4 が指されていたが、ストゥパク対ライロ戦(スービック湾、2016年)では 13…fxe4 14.Bc2 Bf5 15.Ne2 h6 16.Be3 Ng4! 17.h3 Nxe3 18.Qxe3 Bf6 と進んで黒には何の問題もなかった。

11…f5 12.Bg5 Nf6

 黒の直前の2手は筋道立った手で、白は 13.Bd3 と指してストゥパク対ライロ戦に戻るしかないように思われる。しかしナカムラはまだ早指しを続けていて、早すぎるほどだった。

13.Ne2?? Nxe4!

 これは初歩的な手筋で、ナカムラはいったい何を見損じたのだろうか。明らかなことは彼の研究に穴があったに違いないということだけである。

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1 b6 18.Bb4 Ba6

 白はなんとかポーンを取り返した。しかし朗報はここまでである。黒は双ビショップを保持し、陣形的に優り、それにキングがはるかに安全である。最高峰のチェスでは試合はもうほとんど終わっていて、あとはナカムラの味わったに違いない苦悩を想像することができるだけである。

19.f4 Rc8

 白の最大の弱点であるc4に目をつけているが、20.c5 と突いてくれば 20…Rd7 21.d6 bxc5 22.Rxc5 Re8 と強引にe列に転じる用意がある。

20.fxe5 Bxe5 21.Rf3 Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4

 白は突破口を見出そうとしているが、自陣が撃破された。

23…Rd7 24.a4 Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8! 29.Bb4 Re8 0-1

 確かに異色ビショップなのだが、長くは続かない。だから早すぎる投了でなかったのは確かだ。30.Rxe8+ Kxe8 のあと 31.Bd2 でビショップ交換の3ポーン損の收局になるのを避けることができる。しかし 31…Re4+ 32.Kf2 Re2+ で結局ビショップ同士がなくなる。


ヒカル・ナカムラは同国の2選手に手痛い敗北を喫したが、それでも立派な’+1’で終えた

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(この号続く)

2017年04月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(470)

「Chess」2017年2月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第6回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6

 遅延毒入りポーン戦法は相変わらず 6.Bg5 の試金石となっている。b2を間接的に守るカルアナの応手は最高峰のレベルでは普通の選択である[訳注 9.a3 Qxb2?? 10.Na4]。

9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4

13…g5?!

 このような局面ではよくある着想で、白のキング翼のポーンの形を破壊しe5の地点の支配をもくろんでいる。しかしここでの黒陣には荷が重すぎたかもしれない。代わりの手は 13…Bb7 だが、次の回戦のナカムラ対バシエ=ラグラーブ戦で分かるようにそれでも黒にとってほとんど安泰とはいかない。

14.h4 gxf4 15.Be2 b4!?

 新手だが、互角にするのに十分というわけではない。代わりに 15…Rg8 は2016年スタバンゲルでのギリ対バシエ=ラグラーブ戦の手で、本誌2016年6月号の12ページに出ているように 16.g5! hxg5 17.hxg5 Rxg5 18.Rh8+ Rg8 19.Rxg8+ Nxg8 20.Qg2 Ngf6 21.e5! が 21…Bb7 22.Nxe6! の一発に基づいたきわめて危険な手だった。

16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5

 これが黒の読み筋だった。しかしカルアナは次の手をかなり速く指した。彼はあとで 21.Nf5 から先の局面は見えていたが、これまで見た黒の「最も惨めな局面」の一つなのであまり読んでいなかったと明かした。

19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5

 オーレ!チェスエンジンはこの手の強力さが分かるのにしばらく時間がかかるかもしれないが、クイーンの犠牲はこの上ない強手だった。白のナイトが盤の中央を支配し、黒キングはどこへ隠れるのだろうか。

21…Rb8?

 黒は白ナイトの一つを消しておかなければならなかった。21…Bxf5 22.Bxf5 Rb8 で黒は陣形が悪くてもまだまだ戦える。

22.Nxf6+ Qxf6 23.Rxd6

 悪い手ではないが白はここできれいな勝ちを逃していた。23.Nxd6+ Kf8 24.Bf5!! この軽妙手でf列が長く閉鎖されたままになるので、白がf列を支配し黒を完全に受け無しにする。例えば 24…Rg8(24…Bxf5 なら 25.Nxf5 Rd8 26.Rxd8+ Qxd8 27.Bc5+ Ke8 28.Ng7+ Kd7 29.Rd1+

と単純化して白勝ちの收局になる)25.Bc5 Be6 26.Rhf1 Kg7 27.Bxe6 Qxe6 28.Nf5+ Kh7 29.Rd6

でh6へのX線が決め手になる。

23…Be6 24.Rhd1

 カルアナは中央志向の方針を信頼した。しかし 24.Be3!? で 24…h5 25.Bg5 Qg6 26.Rhd1 から詰みを狙った方がずっと強力だったかもしれない。

24…O-O 25.h5!

 黒キングはg8にいてさえ安全とはほど遠い。白のこの手は誰が黒枡の支配者かを黒に思い起こさせている。

25…Qg5+?

 黒はg4のビショップを取るわけにいかないのでこの手はやけくその感じがする。しかしそうは言ってもマシンのように 25…Rfe8! 26.Bh4 Qh5 と卑屈に指すことのできる人間がどれだけいるだろうか。

26.Be3 Qf6 27.Nxh6+ Kh8 28.Bf5

 ここで初めてビショップがf列を閉鎖した。28.Nxf7+ Rxf7 29.Rxe6 も相当強力だっただろう。

28…Qe7? 29.b5?!

 カルアナはこの手に 29…axb5 と取ってくればその時こそf7に切り込むつもりだったに違いない。しかしすぐに 29.Nxf7+! Qxf7 30.Rxe6 Qxh5 31.Rh6+ Qxh6 32.Bxh6 とやっていけば2ビショップがとてつもなく強いので、なぜこう指さなかったのか不可解である。

29…Qe8?!

30.Nxf7+!

 ついにやった。30…Bxf7 と取ると 31.Rh6+ Kg8 32.Rg1+ で黒キングがたちまち処刑される。

30…Rxf7 31.Rxe6 Qxb5 32.Rh6+ 1-0

 32…Kg8 33.Rg1+ Rg7 34.Be6+ Kf8 35.Rh8+ Ke7 36.Rxg7 Kxe6 37.Rh6# で一巻の終わりである。

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(この号続く)

2017年04月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(471)

「Chess」2017年2月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

 初戦に続き第6回戦の負けはナカムラにとって二度目の打撃だったに違いないが、立ち直りも早く翌日には同じ戦型で雪辱した。

H.ナカムラ – M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 Bb7

 バシエ=ラグラーブは自分もナカムラもこれまで得意としていた 13…g5?! を避けた。

14.Bg2

 盤上でも通信戦でも色々な手が試されてきた。しかしこの手以外で白が対角斜筋を争うことができるとは信じがたい。

14…Rc8

 誰が黒かを考えればこの手は研究手に違いない。しかしほかの作戦も探求されてきた。

 a)2013ロードスでの欧州クラブ杯のアゴポフ対パリサー戦で私は 14…g5!? と指し、15.f5(15.h4!? は2012年フランス団体選手権戦のナイディッチュ対グリイェフ戦で指されたが、15…gxf4 16.g5 Ne5 17.Qxf4 Nh5 18.Qd2 と進み、ここで黒が 18…Nc4 からナイトを働かせたら優勢だっただろう)15…e5 16.Nb3 Rc8 17.Qe2 h5! 18.h3 Nb6 となり好調だった。

 b)14…d5!? はナイドルフ戦法の狙い筋で、アゴポフ戦の解説で書いたように時間を使って読んだ。ナカムラが指させようとしたのにラグラーブが避けたのは白の研究を警戒したのだろう。しかし2013年通信戦でのシュプレーマン対ロシェ戦では 15.e5(15.exd5 Nxd5 16.Nf5 が必殺のように見えるが実際は 16…Rc8! 17.Nxe7 Kxe7 で黒は大して悪くない)15…Ne4 16.Nxe4 dxe4 17.Qe2 Nc5 18.Kb1 Na4! 19.Be1(19.Bxe4? には 19…Bxa3!)19…O-O 20.h4 Rfd8 で黒がクイーン翼で白に対抗できた。

15.Kb1

 15.h4!? には 15…e5! と突かれ 16.Nf5?! に 16…Bxe4! と来られる。しかし本譜はキングが少し安全になったので今度こそhポーン突きがある。

15…g5

 急所の反発で、2手前よりもはるかに良いタイミングと思われる。

16.Qh3!?

 2016年テプリツェでのカンマザルプ対ソロドブニチェンコ戦では 16.f5? e5 17.Nb3 Nxe4! 18.Nxe4 Qxc2+ 19.Ka2 Bxe4 20.Qxe4 Qxf2 21.Rhf1 Qb6 となって白は2ポーンの代償が十分でなかった。一方 16.h4 はほとんど通信戦の世界でだけ試されてきた。本筋と思われるのは 16…Rg8(16…gxf4 17.g5 Ne5 18.Qxf4 Nfd7 19.Bf3 は盤面を支配している白が少なくとも少し優勢のはずである)17.hxg5(17.fxg5 Ne5 18.Qf4 hxg5 19.hxg5 Nfxg4 20.Bh4 Qd8 21.Nf3 Qb6 22.Nxe5 Nxe5 23.Bf2!? も指されていて、gポーンをくれてやって代わりに黒キングに対し長期に圧力をかける)17…hxg5 18.f5 e5 19.Nb3 で黒が戦術的にうまくいかなくなっていた。2014年通信戦でのモロゾフ対V.ポポフ戦は以下 19…Nxe4? 20.Nxe4 Qxc2+ 21.Ka2 Bxe4 22.Qxe4 Qxf2 23.Rc1 Rxc1 24.Qa8+ Bd8 25.Rxc1 Ke7 26.Rc8 と進み、白の大駒と白枡での攻撃が強力すぎる。しかし 19…a5! 20.Qe2 Bc6 がいくらか改良手順でこれまでのところ黒がだいぶ健闘している。

16…Nc5?

 これはバシエ=ラグラーブが愛用のナイドルフ戦法で研究負けした本大会2度目の不運な新手だった。

 16…Rg8? 17.e5! dxe5 18.fxe5 Nxe5 19.Bg3 Bxg2 20.Qxg2 は黒にとって非常に怖い(E.モスカレンコ対V.ポポフ、通信戦、2013年)。しかし退却気味の 16…Nh7! が通信戦で選ばれた手で、これまでのところ4局全部で引き分けになっている。黒は単にh列から圧力を抜き去り、17.f5(17.e5!? Bxg2 18.Qxg2 gxf4 19.exd6 Bxd6 20.Rhe1 Be5! は列を比較的閉鎖的なままにして黒にとって問題なさそうだし、17.Qxh6?! Bf6 18.Nxe6? fxe6 19.Qg6+ Kd8 20.Bd4 gxf4 は何も恐れるところがない)17…e5 18.Nb3 Nhf6 19.Rhe1 a5 は黒の反撃がちょうどいい時に始まる。

17.Rhe1

 この手はe4のポーンを守り、e4-e5 突きと Nf5 を準備し、17…gxf4 18.g5! Nfd7 19.g6 となることを期待している。

17…h5

18.Nf5!

 ナカムラはやらずにいられなかった。だが 18.fxg5!? Nxg4 19.Bg3 Ne5 20.Rf1 で白駒の陣容を良くする方がはるかに強力だったかもしれない。

18…Ncxe4

 明らかにこれが黒の当てにしていた手だった。黒が危機を脱するわけではないがほかに何があるだろうか。例えば 18…exf5 は 19.exf5 Bxg2(19…Nxg4 20.Bd4 f6 21.fxg5)20.Qxg2 gxf4 21.g5 Rg8 22.Bd4 Kd8 23.Bxc5 Qxc5 24.Qe2 となって、駒の見返りに白の主導権がとてつもなく大きくなり始める。

19.Bxe4 Nxe4 20.Bd4 Rg8 21.Nxe7

 急所の守り駒を取り払い黒の困難さを際立たせた。

21…Kxe7

 黒は 21…hxg4 22.Qxg4 Nxc3+ 23.Bxc3 Qxe7 といきたいところだが 24.Bb4! で具合が悪く 24…Rc6 には 25.h4 と来られる。

23.gxh5 gxf4 24.Qh4+ Kf8 25.Ka1 b4

25.Nxe4

 これでも十分だが 25.h6! の方がはるかに強烈だっただろう。25…bxc3 26.h7 e5 27.hxg8=Q+ Kxg8 28.Qh6 で黒キングの裸が命取りになる。

25…Bxe4 26.Rxe4 Qxc2 27.Ree1

 27.Rde1! bxa3(27…Rg2 28.Rxe6!)28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 なら完全に黒を粉砕していたというのがシリコンのご託宣である。しかしやはりナカムラが全部台無しにしたということではない。

27…bxa3

 27…Rg2 28.Qxf4 e5 という変化は白の駒得が最終的に物を言い 29.Qh6+ Kg8 30.Rc1 Qf5 31.Rxc8+ Qxc8 32.Rc1 Qd7 33.Bf2 bxa3 34.bxa3 となる。

28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 Rg5!

 バシエ=ラグラーブは手の見えるのが何よりも取り柄である。白がルークを取れば千日手になる。

30.Qxd6+! Kg8 31.Rg1 Qa4+ 32.Ba3

 32.Kb1!? Qc2+ 33.Ka2 Qa4+ 34.Qa3 Qxa3+ 35.Kxa3(白がクイーンをa3に引き戻す前にキングを移動させたのはこのためだった)が強手だった。

32…Rxg1?

 白を勝たせてしまった、それも格好良く。32…Kh7! 33.Rxg5 Rd8 ならまだ戦いが続いただろう。またしても黒クイーンはタブーで、代わりに 34.Rg7+! Kh6 35.Rd4 Qxd4+ 36.Qxd4 Rxd4 37.Rxf7 Kxh5 38.Bb2 なら白の勝勢のはずだが、技術的に難しい課題が少し残っていることも明らかである。

33.Rxg1+ Kh7 34.Qd3+ Kh6 35.Rg6+! Kxh5 36.Rg1 f5 37.Qf3+ 1-0

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(この号続く)

2017年04月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(472)

「Chess」2017年2月号(4/4)

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次の一手

中級向け

第15問 H.ナカムラ – V.クラムニク
ロンドン・チェスクラシック、2016年
 黒番で引き分け

解答 1…Nf7!(1…Ke8? は 2.Ke5 Nb7 3.f6 Kf8 4.Kf5 Ke8 5.e7 Kf7 6.Ke5 で黒がどうしようもない手詰まりになり失敗)2.Kg6(白は黒をステイルメイトにするしかない。2.e7+ は 2…Ke8 3.Ke6 Nh6 のあと 4.f6 Nf7 でせき止められるか 4.Kd6 Nxf5+ 5.Kxc6 Nxd4+ で全面的な清算になる)2…Nd8 3.Kf6 Nf7! 4.exf7 ½ – ½

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(この号終わり)

2017年04月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(473)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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2017年トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – ダビド・アントン・ギハロ
ジブラルタル・マスターズ、2017年2月2日

 黒陣は非常に堅固で、白が進展を図るには b4 と突くしかない。

23…Rb7

 黒は強いられてもいない時に後退を始めた。このような手の唯一の説明は恐怖心である。23…Rab8 なら b4 突きを防ぎ白をb3ポーンの守りに縛りつける。

24.Rb1 Be8

 この手は白に進攻させる。単純で直接的な最初の機会(23…Rab8)を逃したあと、ここではもっと複雑な先受けが必要だった。それは 24…Qe8! でa8のルークを守っておくことである。25.b4 axb4 26.axb4 Na6! という手順でそれが分かり、白には実戦の類似の手順中の 27.Ra3 がない。

25.b4 axb4 26.axb4 Nd7

 26…Na6 27.Ra3!

27.Nc4

 白はたった4手で着実に前進した。ここから白のやりたいことは Na5 でクイーン翼を固めたあとキング翼で f5、g4 などで前進を図ることである。

27…Nf8?!

 黒はまだ同じ調子で指し続け、事態の切迫を感じていない。27…exf4! が白のキングを少し弱め、白が f5 と突くとe5の地点を明け渡すことになるのでそれを防ぐ手段になる。黒はg列を心配したのかもしれないが、方策は十分にある。例えばコンピュータは白の手段は 28.gxf4 Nf8 29.Na5 Rba7 30.f5 しかないと言ってきかない。人間なら決して軽々しく指さない手である。その意図はf8のナイトに対する押さえ込みで、動ける枡がなくなっている。30…Qe5 31.Kh1 Kh8 32.Rg3 ナイトを出すためには黒は 32…g6 と突かなければならないが 33.fxg6 Nxg6 34.Rg1 となってナイトにはまだ圧力がかかっている(彼我のルーク同士を比べてみるだけでよい)。しかしそうではあってもこの方が黒にとっては実戦よりも良い。

28.Na5

 もう黒に …exf4 の機会を与えない意味で 28.f5 の方が正確だった。

28…Rba7

 28…exf4! と取れば 27…exf4 と取ったのと同じことになり、黒が局面の様相を変える二度目の機会だった。

29.f5

 白が押さえ込みにかかっている。

29…g6

 黒はようやく目が覚め、かく乱を図って絞殺を避けようとした。しかしすでに手遅れで、小さな疑問手を積み重ねてきた結果局面は非勢になっていた。

30.g4 h5

31.Bf3!?

 この手は黒にキング翼を閉鎖させる。しかしそれは実際は巧妙に隠されたわなだった。代わりに 31.gxh5 なら 31…g5 で、たぶんナカムラはそれを避けたかったのだろう。というのは 32.Rg3 Kh8 33.Qc1 Nh7 となると黒は当面は持ちこたえているからである。少なくともh7のナイトにはやることがある。それでも白は h4 突きとクイーン翼での作戦とを絡ませれば最終的には勝つはずである。

31…Qh7

 31…h4 32.Qf2 g5 は 33.Nc6! Bxc6 34.dxc6 で黒ナイトが永久に動けなくなるということがなければ黒が良い。実際は白が例えばビショップをd5に捌いたあとクイーン翼で進攻を始めれば黒が負ける。

32.Kh1 Qh6 33.Rc3

33…Nh7?!

 ナイトをh7に置くと白にキング翼を大きく破られる。代わりに 33…hxg4 34.Bxg4 Nh7 の方が弾力があり、35.Qf2 Ng5 36.Re3 Rb8 で黒はまだまだ戦い続けられた。

34.fxg6! Bxg6 35.gxh5 Bxh5 36.Qf2

 36.Bxh5 Qxh5 37.Rg1+ Kh8 38.Qf2 の方が黒にビショップ同士の交換を避ける機会を与えないので正確だった。しかし快速戦ではそのような細かい差異まで見通すのは困難である。

36…Bxf3+

 36…Bg6 が黒の最後のチャンスだった。もっともこれでさえ 37.Bg2 Ng5 38.Re1 Kg7 から …Rh8 の狙いに 39.Kg1! で白が大きく優勢で、a7のルークが浮くために黒はa8のルークを動かすことができず、例えば 39…Be8 には 40.h4± と突く。

37.Rxf3

 これで黒のキング翼は無防備である。ナイトとポーンが黒の両ルークをいかに麻痺させているかには驚くしかない。

37…Kh8 38.Rg1 Ra6

 白クイーンの利きからはずれた。しかし…

39.Qf1!

 それもつかの間だった。白クイーンはここからh3の地点もにらんでいる。

39…R6a7 40.Rh3 Qf4

41.Qe2

 41.Qg2! Qg5 42.Rg3 ならもっと速く勝っていた。

41…Rg8

 これは鮮やかな手筋を招いた。コンピュータによれば 41…f5 が絶対手で、42.exf5 c5 43.dxc6e.p. Qxb4 44.Nb7 という手順で白が勝つというが、人間には読めないし指せない。

42.Rxh7+! Kxh7 43.Qh5+ Qh6 44.Qxh6+ Kxh6 45.Rxg8

 あとは指さずもがなだった。

45…Ra6 46.Kg2 Rb6 47.Nc6 Ra6 48.Ne7 Ra4 49.Nf5+ Kh5 50.h4 Rxb4 51.Kh3 Rc4 52.Rh8+ Kg6 53.h5+ Kg5 54.Ng3 Rc3 55.Rg8+ 1-0

 自信のある方が勝った試合だった。これはナカムラの4度目の優勝で3連覇となった。この安定性は彼の棋風が同じ米国の超一流よりもオープン大会に向いていることの表れである。

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(この号終わり)

2017年05月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(474)

「Chess Life」2017年3月号(1/1)

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マン島 次の一手

第4問
GMヒカル・ナカムラ
GMサビーノ・ブルネッロ

 白の手番

解答 51.Kd6 Nxd8 52.Kxd7 Ne6 53.Bb3 または 51…Ndc5 52.Bxb6! axb6 53.a7

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(この号終わり)

2017年05月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(475)

「British Chess Magazine」2017年3月号(1/2)

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シャールジャFIDEグランプリ

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・グリシュク
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.Nf3 c5 2.e4

 ルイロペスのベルリン防御を避けるための工夫した手順。

2…d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 不滅のシチリア防御ナイドルフ戦法。今日では 1.e4 に対する黒の防御の二大支柱一つ(もう一つは言わずと知れたベルリン防御)。

6.Be3 Ng4

 これは依然として黒の有効な選択肢である。もっとも近年では 6…e5 の方がよく指されている。

7.Bg5 h6 8.Bh4 g5 9.Bg3 Bg7 10.h3

 10.Be2 と 10.Qd2 も重要な変化である。

10…Ne5

11.Nf5

 グリシュクは最近の対局で 11.h4 と指されたが 11…Nbc6 12.Nb3 g4 13.h5 Rb8 14.Be2 b5 とうまく応接し34手で勝った(M.バシエ=ラグラーブ(2804)対A.グリシュク(2737)、ドーハ、カタール、2016年)。11.Nf5 のあと白の手段が尽きてからは 11.f3 が主流手順になった。

11…Bxf5 12.exf5 Nbc6 13.Nd5 e6 14.fxe6 fxe6 15.Ne3

15…Qa5+

 この手は勝負手である。研究手順にとらわれずに迷宮に飛び込むグリシュクの勇気と自信には感服せざるをえない。変化としてはもっと穏やかな 15…O-O がある。

16.c3 Nf3+ 17.Qxf3 Bxc3+ 18.Kd1 Qa4+ 19.Nc2

 19.Kc1 は引き分けになるがその手順は長い。19…Bxb2+ 20.Kxb2 Qb4+ 21.Kc1 Nd4 22.Qh5+ Ke7 23.Bc4 Qc3+ 24.Kb1 Rhc8 25.Qxh6(25.Qd1 Rxc4 26.Nxc4 Qxc4 27.a3 Qb5+ 28.Ka2 Qc4+ 29.Kb2 Rc8 30.Ra2 Qb5+ 31.Ka1 Nb3+ 32.Kb2 Nd4+ 千日手)25…Rxc4 26.Qh7+ Kd8 27.Bxd6 Rb4+ 28.Bxb4 Qxb4+ これで千日手。

19…Bxb2 20.Rc1 Rc8 21.Bd3 Rf8 22.Qh5+

22…Ke7

 22…Kd7 と逃げる変化もある。

23.Qxh6 Bxc1 24.Re1

 この手は引き分けになるはずなので勝とうとした手とは言いにくい。しかしグリシュクが研究手順を思い出せないでいるのでどうでもいい。 24.Kxc1 なら 24…Nb4 25.Qxg5+ Rf6 26.Qg7+ Ke8 27.Qg8+ Kd7 28.Qg7+ Ke8 で引き分けになる。

24…Ne5 25.Rxe5

 25.Bxe5? はf2の地点が守られていないので良くない。25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+ 27.Kd2 Rxf2+ 28.Re2 Qc3+ 29.Ke3 Rf5 で黒が勝つ。

25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+

 26…Kd6 と 26…Rc5 も指されたことがありどちらも引き分けになるはずである。

27.Kd2 Rxc2+ 28.Bxc2

 興味深いことに通信戦ではここで合意の引き分けになった。彼らにとってはたやすいことで、チェスエンジンとデータベースに相談できるしエンジンが0.00を示すことがすぐに分かる。しかしグリシュクはすでに累加時間で指しており、一方ナカムラはここまで彼本来の速さで指していたのでほぼ100分(!)も多く時間が残っていた。グリシュクのブリッツでの手腕は伝説的だが、彼でさえ本局に見られるようにプレッシャーでつぶれることがある。黒の問題は白が千日手を避けてそれ以上のものを目指して指そうとすることができることにある。なにしろ白はキングがより安全だし、望めばほとんどいつでも強制的に千日手にできるので何も危険を冒さないで済む。

28…Qb4+ 29.Ke2 Qb5+ 30.Ke1 Qb4+ 31.Kf1

 これが要点で、白はキングを安全にするためにc2のビショップを犠牲にしてキング翼での進攻を開始する。

31…Qc4+ 32.Kg1 Qxc2 33.Qxg5+ Kf7 34.Qxe5

 一本道の手順がやっと終わった。そしてたとえチェスエンジンが0.00を表示しても、黒はまだその道筋を見つける必要がある。白のキング翼ポーンの進攻という単刀直入の作戦に対して時間に追われている中では容易なことではない。

34…Qd1+

 黒はポーンを取ることができた。34…Qxa2 35.Qh5+ Ke7 36.Qh7+ Rf7 37.Bd6+(37.Bh4+ は 37…Ke8 38.Qg8+ Rf8 39.Qg6+ Rf7 で千日手になる)37…Kxd6 38.Qxf7 Qb1+ 39.Kh2 Qe4! クイーンを中央に据えれば引き分けが確実なはずである。

35.Kh2 Qd5

 チェスエンジンは実戦の 36.Qc7+ を防ぐ 35…Qd7 の方が好みである。

36.Qc7+! Kg8 37.Be5 Rf7 38.Qc3

 39.Qg3+ を狙っている。

38…Kf8?!

 チェスエンジンにとってはわずかに不正確な手だが、人間にとっては大分不正確である。

 38…Rd7 の方が黒駒の連係がとれていて良かった。39.Qg3+ Kf8 40.Qg5 Qxa2! やはり白には千日手しかない。しかし黒がクイーンを中央の自キングの近くに置いたままにしたかったのは理解できる。

39.Qc8+ Ke7 40.f4

 黒は駒の連係の悪さで苦労している。f7のルークとe7のキングが邪魔し合っている。

40…Qc6 41.Qg8 Qe8?!

 41…Qd5 何もしないことがチェスエンジンのしたいことで、喜んで0.00と表示する。実戦の手の問題は黒駒の連係をさらに悪くすることである。

42.Qg3

 42.Qg5+! Kd7 43.h4 なら白が大いに優勢である。黒駒はまだぎこちなく白はgポーンとhポーンを突いていくだけである。

42…Kd8?!

 明らかに 42…Qd8 43.h4 b5 なら0.00だった。これを指摘するのはただ単に黒がコンピュータなら決して負けないのに人間ならほとんど確実に負けるということを示すためである。駒の連係の悪さと明快な作戦のないことが人間の指し方に深刻な影響を与え誤りなく指すのを不可能にさせる。

43.h4

 ポーンが進攻を開始した。

43…Rh7

 ルークは一度もキング翼の束縛から逃れることができなかった。今は白ポーンがh5に進むのを止めているが、それも長くは続かない。

44.Qg5+ Kd7 45.g4 Qc8

46.Qg6?

 勝利までもう一歩というところでナカムラは彼らしくもなくつまづいた。対局後に認めたところによると 46.h5 だと黒が千日手にできると読み違いをしていた。

 46.h5! Qc2+ 47.Kg3 Qd3+ 48.Kh4 Qf1 46.Qg6 でg5が空いて白の勝ちになる。

46…Rxh4+ 47.Kg3 Rh1!

 これでグリシュクは時間切迫でも引き分けを見つけることができる。

48.f5 Rg1+ 49.Kh2 Qc2+! 50.Kxg1 Qc5+ 51.Kg2 Qxe5 52.Qf7+ Kd6

53.Qf8+

 53.Qxe6+ Qxe6 54.fxe6 Kxe6 は引き分けのポーン收局である。

53…Kd5 54.f6 Qe4+

 白キングは周りが殺風景すぎて千日手が避けられない。

55.Kh2 Qxg4 56.Qg7 Qf4+ 57.Kh3 Qf5+ 58.Kh4 Kd6 59.Qg3+

 59.f7 は 59…Qf4+ 60.Kh5 Qf3+ で白キングが逃げきることができない。

59…Kd7 60.Qg7+ Kd6 61.Qg3+ Kd7 62.Qg7+ ½ – ½

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(この号続く)

2017年05月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(476)

「British Chess Magazine」2017年3月号(2/2)

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シャールジャFIDEグランプリ(続き)

ディン・リーレン – ヒカル・ナカムラ
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Be7 5.Bf4

 后翼ギャンビットで問題を引き起こすことを試みるならこれが白にとって一番である。

 5.Bg5 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 だと黒にはタルタコーベル戦法の 7…b6 をはじめ楽しい選択肢がある(7…Ne4 ならラスカー戦法で、クラムニクは最古の 7…Nbd7 を最近採用した)。

5…O-O 6.e3

6…c5

 ナカムラはこれまでは 6…Nbd7 と指していた。しかしたぶん 7.c5 のあとの局面がまったく気にいってなかったのだろう。だから以前の主手順の 6…c5 を研究して後ろは振り返らなかった。

7.dxc5 Bxc5 8.a3 Nc6 9.Qc2 Qa5 10.Rd1

10…Re8

 旧手順の 6…c5 の復活に結びついたのがカルポフのこの着想である。

11.Nd2 e5 12.Bg5 Nd4 13.Qb1 Bf5 14.Bd3 Bxd3!

 カルポフは 14…e4? と指したが白は 15.Bf1! と指せばほとんど勝勢だった。

15.Qxd3 Ne4

 この手は良さそうである。黒はポーンを犠牲に代償を得ることになる。

16.Ncxe4 dxe4 17.Qxe4 Qb6

18.Rb1

 18.b4 なら 18…Bf8 と引いておけばよい。18.O-O なら 18…Ne2+ 19.Kh1 Qxb2 でナイトはc3を経由して逃げる。

18…h6!

 これはナカムラの新手だった。前例は 18…f6 で、黒は問題なかった。しかしナカムラの手は問題をもっと簡単に解決する。

19.Bh4 g5 20.b4

 20.Bg3 なら 20…Rad8! で …f5 突きを狙う。白クイーンはd5でチェックできず、空きチェックがあるのでd3へ下がれない。

20…Bf8 21.Bg3 Rad8

 やはり …f5 と突く狙いがある。

22.exd4 exd4 23.Be5 Bg7

 これで黒は犠牲にしたポーンを取り戻して互角になる。

24.O-O

 24.Nf3 Bxe5 25.Nxe5 Qc7 26.O-O Rxe5

24…Rxe5 25.Qd3 Qg6 26.Rb3 g4 27.c5 b6 28.cxb6 ½ – ½

 ナカムラの研究が素晴らしかった。

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(この号終わり)

2017年05月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(477)

「Chess Life」2017年4月号(1/1)

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トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMロバート・ヘス

二ムゾ・インディアン防御 (E21)
GMロマン・エドワール(FIDE2613、フランス)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2785、米国)
マスターズ、第10回戦、ジブラルタル、イングランド、2017年1月28日

1.d4

 この初手は全然驚くに当たらない。1.e4 も 1.c4 も指すエドワールは第9回戦で伝説のナイジェル・ショートにやや変わった二ムゾ・インディアン防御で快勝していた。しかしこの試合における彼の布局選択は郷愁に触発されたというよりも慎重さによるもののようだった。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 O-O 5.Bg5

 代わりに 5.e3 は意欲で劣っても堅実である。

5…c5!

 ナカムラは戦闘意欲満々だった。もちろん 5…d5(5…h6 も同様)は自然な手であるが、白は簡明に 6.cxd5 exd5 7.e3 と指すことができ、ここで 7…c5 は複雑化するが黒の好むたぐいの戦いではない。

6.Rc1

 エドワールはポーン戦よりも駒戦の方を選んだ。

6…h6 7.Bh4

 ビショップを切るのは何の得にもならない。7.Bxf6 Qxf6 で黒は悪くない。展開で先行しているので陣地が少し狭いのを適切に補っている。

7…cxd4 8.Nxd4 d5 9.e3?

 この悪手は即座にナカムラに咎められ黒の主導権が強大になった。代わりに 9.cxd5 は 9…exd5 で黒に孤立ポーンを生じさせる目的だが、黒は 9…g5!? 10.Bg3 Qxd5 ですきの多いキング翼を犠牲に駒の動きが良くなる。この手順が指されることは非常にまれなので、一定の評価が得られる前にはさらに実戦による検証が必要である。11.e3 は本筋の手だが黒にa2のポーンをかすめ取られる。このポーン取りの決断は白が展開を完了するのですぐに恐ろしいことになるかもしれない。自分のキングの周りが薄い時には駒をキングの近くに置いておきたいのが普通で、aポーンを取るのはこの過程をさらに遅らせることになる。戦力の不均衡は実戦的には下位者に有利に働く。白の作戦は黒の作戦よりもはるかに自然になる。もし黒がかっさらわなければたとえクイーン同士が交換になっても白陣の方が伸びすぎていない分優っている。徹底的な分析が必要であるが、この種の局面はナカムラならどちらを持っても指せると想像される。

9…e5 10.Nf3

 10.Nb3 とこちらに引くのは 10…g5 11.Bg3 Nc6 で良くない。アニシュ・ギリは2016年のタリ記念大会でリー・チャオを黒でこてんぱんにした。

10…d4!

 たった1ポーンの代価にナカムラは中央を打ち破った。世界最強の一人に白で立ち向かってたった10手で自分のキングに避難所が全然ないという事態を想像してみるとよい。

11.exd4 exd4 12.Nxd4?!

 戦力得だがキングが危険にさらされている時は、多くの場合クイーン交換を誘うのが賢明である。黒は交換を避けようとすると手数がかかることがある。12.Qxd4 Qe7+ 13.Be2 g5 なら戦いが続く。途中白があくまで 13.Qe3 と交換を迫ると、黒は 13…Qxe3+ 14.fxe3 Nxe4 と白のポーン陣形を乱して大満足である。c3で駒を取ることになれば白には3個の孤立ポーンが残される。15.Be7 をおとりにすれば話は別だが、それでも黒は駒の動きが非常に良く、白は互角を維持できれば幸運である。(ルークでチェックするのは第一感だが、黒は …g7-g5 と突くのに苦労することになる。例えば 12…Re8+ 13.Be2 Qe7 14.Qd2 g5[ほかの 14…Bg4 のような手はゆっくりしすぎている。白は 15.a3 と突き黒の攻撃は頓挫する。]なら 15.Bxg5 と取ることができ、白は千日手で引き分けにできるし、駒の代わりに3ポーンを得るのみならず永続する圧力をかけることもできる。いろいろな可能性を考え合わせれば 15…hxg5 16.Qxg5 Kh8 17.O-O のような手順は白として確かに不満でない。)

12…Qb6

 これはルークのためにd8の地点を空け、白駒をさらに不調和にさせる。既に思わしい手がないエドワールは一貫性のある方の手を選んだ。

13.Nf3

 13.Nb3 とこちらに引くのは良くない。それは駒は中央にある方が良いからではなく、クイーンがd1-a4の斜筋を通って逃げるのが制約を受けるからである。さらにはこのナイトは黒が …a7-a5-a4 と突いていってナイトを仮住居から追い払うのを助長するかもしれない。一方で 13.a3 突きは黒に有利な一連の交換を招く。というのは 13…Rd8 14.Bxf6 Qxf6 15.axb4 Rxd4 16.Qf3 Qxf3 17.gxf3 Nc6 となって白はポーン得を維持できないからである。

13…Rd8 14.Qc2

 エドワールのこの手も正着である。14.Qb3 ならナカムラには巧妙な応手があった。14…g5 15.Bg3 Ne4 16.Be2 Bf5 17.O-O で少なくとも読んでいる最中には白キングがうまく逃げたように見える。キングは確かにより安全な場所を見つけたが、クイーンはそうでない。17…Nc5! でクイーンの逃げ場がなく、白は女王を助けるために戦力損をしなければならない。

14…g5 15.Bg3 Nc6 16.Bd3

 残念ながら 16.Be2 は見え見えの 16…g4 でまずいことになり白がつぶれる。今度は …Nd4 という跳び込みがある。

16…g4

17.Nh4!

 この決断は賞賛に値する。というのは大多数はナイトを端に置くのを恐れるだろうからである。しかし 17.Nd2 だと 17…Qd4 を招きd列にとてつもない圧力がかかる。たとえ白が 18.Nde4 のような手で大きな戦力損を免れたとしても困難は残る。盤に駒を配置して分析してみるとよい。

17…Bf8

 このビショップはb4に長居しすぎた。f8に引っ込んでh6のポーンを守ったが釘付けを続けることはできた。考え方は正しかったがやり方が間違っていた。17…Ba5! がやはり …Nb4 を狙い、同時に黒ナイトがe4に行けるままである。想定される 18.Qb1 Qd4 19.Be2 Ne4 20.O-O は 20…Nd2 でクイーンとルークの両当たりになる。17…Ba5 には 18.a3 が必要かもしれないが、b3の地点がゆるんで黒ナイトがそこに行けるようになる。

18.Qb1 Re8+

 白は釘付けに耐えきれないのでキングをよろけさせる。

19.Kf1 Be6 20.h3?

 あんなに強防を続けてきたエドワールに失着が出たのは残念だった。この手が無能なルークのためにh列を開けようとしているのは分かるが、反動が厳しすぎた。白には 20.Nf5 という強手があった。次はe3に戻る。最良の防御は(一時的な)攻撃であることが時たまある。

20…Nh5 21.Ne4

 ここでの 21.Nf5 は前手のせいで白に回復不可能な害をもたらす。各所に地雷があり、面白い例を一つだけあげてみる。21…Nxg3+ 22.Nxg3 Ne5 23.Nd5 Bxd5 24.cxd5 Bc5 25.Ne4 Bxf2! 26.Nxf2 g3 27.Ne4 Nc4!!

これで白陣が壊滅する。

21…Nxg3+

 21…f5?! は勝利を目前にしてころりと負けるたぐいの余計な手である。そんな必要は全然ない。

22.Nxg3 Rad8 23.hxg4 Ne5 24.Be2

24…Bxg4?!

 24…Nxg4 なら白はビショップを切らなければならない。25.Bxg4 Bxg4 は黒の得点だが、それよりもずっと良い戦術があった。白の最下段につけ込む 24…Bxc4! 25.Rxc4(25.Bxc4 は 25…Nxc4 26.Rxc4 Rd2 27.Rf4 Qxb2

で最下段での詰みのために白クイーンが取られる)25…Nxc4 26.Bxc4 Qxb2!

がそれで、白は試合を長引かせるためだけにビショップをf7で切らなければならない。黒の戦力得がものを言うはずである。

25.Bxg4??

 この手は黒を勝たせたので大悪手記号を付けなければならない。25.f3 がはるかに頑強な手で、黒が勝ちへの明快な道筋を見つけるのは難しい。そもそもあるのだろうか。

25…Nxg4 26.Qc2

 26.Qf5 は必然を遅らせるだけである。例えば 26…Qd4 27.Qf3 Nxf2! 28.Qxf2 Qd1+! 29.Rxd1 Rxd1+ で簡単に黒の勝ちになる。

26…Bb4 27.c5

 27.Nf3 は受けになっておらず、27…Rd2 で白クイーンのf2への利きを遮断される。

27…Qa6+ 28.Kg1

28…Be1

 28…Re1+ の方が白の最下段を守る最後の駒を除去するのではるかに強力だった。しかしこの時点ではもう大した問題ではなかった。

29.Rh3

 29.Ne4 は 29…Rxe4 30.Qxe4 Bxf2# で詰みになる。

29…Bxf2+ 30.Kh1 Re1+ 31.Rxe1 Bxe1 32.Nf3 Nf2+ 33.Kh2 Nxh3 34.Nxe1 Ng5 35.Qc3 Qg6 0-1

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(478)

「Chess」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

G.カームスキー – H.ナカムラ
ロンドンシステム、2017年米国選手権戦、セントルイス

1.d4 Nf6 2.Nf3

 カームスキーは旧来の手順に忠実である。今日では白はすぐに 2.Bf4 と指すことが多い。最近サイモン・ウィリアムズがチェスベース社から出した自分のDVDで扱ったのがこれである。

2…e6 3.Bf4 d5 4.e3 c5 5.c3 Nc6 6.Nbd2

6…cxd4

 この手は時機尚早でない。それは黒が次に関連した手を用意しているからである。しかし主流手順は 6…Bd6 7.Bg3 O-O であって、ここで 8.Bd3 なら普通だが最近は 8.Bb5!? が大流行で、黒がフィアンケットして速やかに展開を完了するのを防いでいる。

7.exd4 Nh5!?

 これはロンドン・チェスクラシックでのウェズリー・ソーの着想である。

8.Be3 Bd6 9.Ne5 g6 10.g4!?

 大胆な新手が出た。

10…Ng7 11.h4!

 黒のフィアンケットされたナイトとキング翼に対処するためにポーンを犠牲にする。

11…Nxe5 12.dxe5 Bxe5 13.Nf3 Bf6 14.h5

 既に白の狙いは重大になっていて、ナカムラは攻撃を受ける可能性のある方面にキャッスリングを余儀なくされた。

14…O-O 15.Qd2

15…d4!

 この判断は素晴らしかった。15…b6 だと 16.O-O-O Bb7 17.Bd4 となって黒キングの居心地があまり良くない。そこでナカムラは得したポーンを返して最後の駒を動けるようにしいくらか働くようにした。

16.cxd4

 16.Bxd4 e5! 17.Bc5 という変化もあるが、17…Bxg4 18.Bxf8 Bxf3! 19.Qxd8 Bxd8 20.Rh3 Nxh5 となって黒には交換損の代償が十分ある。

16…b6 17.hxg6 fxg6 18.Ne5 Bb7 19.Rh3 Rc8 20.Be2 Bg2 21.Rg3 Bd5 22.Rh3 Bg2 23.Rg3 Be4

 黒がキング翼で最悪の事態を乗り切ったのが明らかになった。しかし千日手を避けることはできても形勢は良いわけではない。

24.Rc1 Qd6 25.a3 Rxc1+ 26.Qxc1 Bxe5 27.dxe5 Qxe5 28.Qd2 Bd5 29.Bd4

 カームスキーがポーンを犠牲にした核心が明確になってきた。g7に逼塞(ひっそく)したナイトと比べて白の黒枡ビショップはモンスターになっていて、黒には全然有利さがない。

29…Qe4 30.f3 Qf4 ½-½

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2017年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス7

「ヒカルのチェス」(479)

「British Chess Magazine」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

ナカムラの不覚

 ナカムラは大会が始まってからずっとやや集中力を欠いていたようだった。しかしついに覚醒して本来のチェスを指し始めて対オニシュク戦では勝勢の局面になった。だが彼らしくもなく読み損じをして重大な結果を招くことになった。

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・オニシュク
2017年米国選手権戦第9回戦、セントルイス

 黒の31手目の手番でこの局面だった。

31…Rg2?!

 ここでは 31…R2h7 で局面を動的に均衡させておく方が良かった。

32.d5?!

 ナカムラは最善手の機会を逃した。実戦の手は白に取って重要な手だがナカムラの読みは正確さを欠いていたようである。

 32.Qe5! Qg7(32…Rf8 33.Qd6 Rxf7 34.Ne5 Qg8 35.d5! cxd5 36.Nxf7 Qxf7 37.Nxd5

白の勝つ可能性が非常に高い)33.Rg1 Qxe5 34.Nxe5 Rxg1 35.Rxg1 Rf8 36.Na4!

黒の問題は最下段の弱さのためにf7のポーンを取ることができないことである。36…b6 37.Rg6 Rxf7(37…Bxf7 38.Rf6)38.Nxc6+! 白はいずれ交換得になるがその前にまず重要なポーンを取る。38…Kc8(38…Kb7 39.Nd8+)39.Rg8+ Kd7 40.Ne5+ Ke7 41.Nxf7 Kxf7 42.Rg1±

これで白は勝つ可能性が十分にある。

32…cxd5 33.Nxd5?

 ここでもやはり 33.Qe5! が急所の手だが、効果は前の手の時より劣る。33…Qg7 34.Rg1 Qxe5 35.Nxe5 Rxg1 36.Rxg1 Rf8

が想定され

A)37.Ne2!? は変な感じの手だが 37…a6 38.Nd4 Ka7 39.Rg6 Bxf7 40.Rf6 Ne8 41.Rxf7(41.Rxf5 Nd6 42.Rf6 Ne4 43.Rxf7 Rxf7 44.Nxf7 b5

これは 41.Rxf7 の手順と似ている)41…Rxf7 42.Nxf7 b5 43.Nxf5 Kb6

チェスエンジンの形勢判断はまったくの引き分けだが、私には意外だった。しかしたぶん正しいのだろう。

B)37.Nxd5 Nxd5 38.Nd7+ Kc8 39.Nxf8 Bxf7 40.Rg7 Be8 41.Ne6

白は安全勝ちを目指して長いこと指すことができる。

33…Qg7!

 ナカムラの見落としたのはこの手だった。そして非常に高くついた。黒がすぐに負けないための手はこれしかないのだからなおさら意外である。さらに悪いことにはまったく形勢が逆転して勝ちにいくのは黒の方である。

 代わりに 33…Bxd5? なら 34.Rxd5 Nxd5 35.Qe5+、33…Nxd5? なら 34.Qe5+、33…Bxf7? なら 34.Nxc7 である。

34.Nc3 Qxf7 35.Qe5 Re8

 黒は2ポーン得で、優勢から最後には勝ちきった。もっとも白には負けを逃れる機会があった。まったくナカムラらしからぬ試合だった。


7局連続引き分けのナカムラ

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(この号終わり)

2017年06月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(480)

「Chess Life」2017年6月号(1/1)

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米国選手権戦

GMヒカル・ナカムラ(2867)
GMアレクサンドル・オニシュク(2747)
2017年米国選手権戦第9回戦、ミズーリ州セントルイス、2017年4月7日

 27.Nd2 の局面

27…Qf4

 オニシュクは複雑なクイーン翼ギャンビットで優位に立っているように見える。h列の支配、働きの良いクイーン、それに堅固な陣形のおかげで白の潜在的に強力な中央のポーンを十分に相殺している。しかしナカムラが証明するように事は全然明白でない。

28.e6! gxf5

 28…fxe6 と取るのは 29.fxg6 と取られてgポーン突きにどう守るのか非常に悩ましい。

29.exf7 Be6! 30.Rf1 Qxg4 31.Nf3

 白は駒の働きがポーンの代償になっている。

31…Rg2 32.d5 cxd5

33.Nxd5?

 これはナカムラらしからぬ失着だった。33.Qe5! Qg7 34.Rg1! は見つけづらい手だが、防御の難しい手でもある。白はfポーンの威力を生かしている。想定される手順は 34…Rxg1 35.Rxg1 Qxe5 36.Nxe5 Rf8 37.Nxd5!!

で、次の手順で分かるように白の代償はたんまりある。37…Bxd5(37…Nxd5 38.Nd7+! Bxd7?[38…Kc8 39.Nxf8 Bxf7]39.Rg8)38.Nd7+

33…Qg7! 34.Nc3 Qxf7

 黒はこの手で白の最後の望みを消し去り、2ポーン得である。以下はまだ難解だがオニシュクは優れた技術を見せつけた。

35.Qe5 Re8 36.Qd6 Qf8 37.Nb5 Qxd6 38.Nxd6 Rh8 39.Rh1 Rxh1 40.Rxh1 Rg8 41.Nd4 f4 42.Rh6 Bc8 43.Nxc4 Nd5 44.Kc2 Rd8 45.Rd6 Rxd6 46.Nxd6 Bh3 47.a3 Kc7 48.Ne4 a5 49.Nd2 b6 50.Kd3 Bg2 51.Nc2 Ne7 52.b4 a4 53.Nd4 Kd7 54.Ke2 Bd5 55.Nb5 Kc6 56.Nc3 b5 57.Kd3 Nf5 58.Nd1 Kd6 59.Nc3 Bc6 60.Nce4+ Ke7 61.Ng5 Kf6 62.Nge4+ Ke7 63.Ng5 Bg2 64.Nge4 Ke6 65.Nf2 Kd5 66.Nd1 Nd6 67.Nf2 Nc4 68.Nxc4 Bf1+ 69.Kc3 Bxc4 70.Nh3 Ke4 71.Kd2 Be6 72.Ng5+ Kd5 73.Nf3 Bg4 74.Nh4 Ke4 75.Ke1 Ke3 白投了


米国選手権4回優勝のGMヒカル・ナカムラはカルアナと共に決定戦進出にわずか半点及ばなかった

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(この号終わり)

2017年06月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(481)

「British Chess Magazine」2017年6月号(1/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

アレクサンドル・グリシュク – ヒカル・ナカムラ
2017年モスクワFIDEグランプリ第8回戦

18…Nf6

 白のc列での圧迫と黒のc7の出遅れポーンのために白には申し分のない代償がある。グリシュクの次の手は黒にこれらの問題をたった1手で解消させるので説明がつかない。

19.Ra6??

 19.Rac1 なら黒は長いこと苦しんだ。

19…c5

 この手は見つけにくい手だったのだろうか?

20.dxc5 Qc8

 チェスエンジンによれば 20…Rc7 の方が良かったが、実戦の手でも十分である。

21.Rc6 Rc7 22.Rxc7 Qxc7 23.c6 a5 24.Rc1 h6 ½-½

 黒にはパスbポーンができ、白は進展を図ることができない。

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(この号続く)

2017年06月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(482)

「British Chess Magazine」2017年6月号(2/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

ヒカル・ナカムラ – ピョートル・スビドレル
2017年モスクワFIDEグランプリ第9回戦

35.Re4 ½-½

 ここで引き分けを提案するとはナカムラも勇気があるものだ。「栄光は勇者に微笑む」を地でいった。実際スビドレルが受諾した時は「してやったり」という気持ちだったに違いない。

 35.Re4 Rh1 のあと白は実際は困っている。スビドレルがこれに気づかなかったとは驚くしかない。35…Rh1 はそれほどたいした手ではない。黒はこの局面からずっといつまでも指し続けることができ、もし勝てばスビドレルは同点2位になってもっとグランプリ得点が増えるので、本戦進出の可能性がずっと高まっただろう。36.Qd2(36.Kd2 は 36…a4 37.Kc2 Rh3 から38…Qf6)36…a4 37.Qc3+ Qf6! 白はb2が弱いのでクイーン交換に応じられない。しかし黒は単にキングがよけても(37…Kh7)よい。38.Re7 b5!

白は風前の灯である。

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(この号終わり)

2017年07月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(483)

「British Chess Magazine」2017年7月号(1/1)

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第5回ノルウェーチェス大会

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
第5回ノルウェーチェス大会、2017年、スタバンゲル、第9回戦

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 カルアナはナイドルフ戦法の白番で多くの問題を抱えていた。2013年から2016年の間に正規の持ち時間の試合で一流どころを相手に9敗(!)していた。興味深いことにそれらのいずれもイギリス攻撃だった。6,Bg5 に転向するとたちまち結果が良くなった。昨年はロンドンの大会でナカムラを負かし、今度はスタバンゲルでも負かした。

6.Bg5 e6 7.f4

7…Qb6

 ロンドン大会の有名な試合は次のように進んだ。7…h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 g5 14.h4 gxf4 15.Be2 b4 16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5 19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5! … 1-0(32手)F.カルアナ(2823)対H.ナカムラ(2779)、ロンドン、2016年

8.Qd3

 この手は今日では滅多に指されない。しかしカルアナにはある構想があった。

8…Qxb2 9.Rb1 Qa3 10.f5 Be7 11.fxe6 fxe6 12.Be2 Qa5 13.Bd2 Qc7 14.g4 h6

15.Rg1

 これがカルアナの新手だった。ここからナカムラの連続長考が始まった。

 ここでは 15.Qh3 が最もよく指される手だが、黒は何の問題もない。

15…Bd7

 20分の長考。

16.g5 hxg5 17.Rxg5

17…Nc6

 30分超の長考。カルアナはこの手に驚いた。というのは黒は負けないようにするためには22手目で非常に難解な手順を見つけなければならないことを知っていたからで、ナカムラが研究済みだったか対局中に読んでいたか確信はなかった。

 カルアナは 17…Rh7 を中心に研究していた。以下は想定手順の一端である。18.Bg4 Nxg4 19.e5! Rx2(19…Bxg5? 20.Qxh7)20.Qg6+ Kd8 21.Rxg4 Nc6 22.Qxg7 これは大乱戦である。17…Kf8? は 18.e5! で黒の危険が露呈する。18…dxe5 19.Qg6 Rh7 20.Ne4 白の攻撃が止まらず、チェスエンジンは次のような例をあげている。20…Nxe4 21.Qxh7 Nxg5 22.Qh8+ Kf7 23.Bh5+ g6 24.Bxg5 Qc3+ 25.Kf1 Bxg5 26.Qh7+ Ke8 27.Qxg6+ Ke7 28.Qxg5+ Kd6 29.Ne2 Qh3+ 30.Ke1 Qf5 31.Qd8 さらに 17…Rg8? は黒にg7のポーンを守る選択の余地がないことを示している。18.e5! dxe5 19.Ne4! exd4(19…Nxe4 20.Bh5+ g6 21.Rxg6 Bh4+ 22.Rg3+ Ke7 23.Qxe4 Bxg3+ 24.hxg3 白の攻め合い勝ち)20.Nxf6+ Bxf6 21.Bh5+ Kd8 22.Ba5 Nc6 23.Bxc7+ Kxc7 24.Rc5 まだ混沌としているが白が勝つはずである。

18.Rxg7 O-O-O

 18…Rxh2? でも 18…Ne5? でも 19.Qg3

19.Ncb5 axb5 20.Nxb5 Ne5 21.Nxc7 Nxd3+ 22.cxd3

22…Ng8?

 さらに21分使ってこの手が指された。だからナカムラはこの手順を研究していたわけではなく、読みで正解手順を見つけていたわけでもなかった。黒にはほかに有力な手が一つ(とてつもなく見つけるのが難しい)と実戦の手よりはましな手が一つあった。

 22…Rh7 は人間らしい手だった。23.Rxh7 Nxh7 24.Na8 Bh4+ 25.Kd1 Ba4+ 26.Kc1 Bc6 27.Nb6+ Kc7 28.Ba5 Rg8 黒にいくらか代償がある。22…Rxh2! が最善手だが 23.Rxe7 Rh1+ 24.Bf1 Rf8! を見つけるのが難しい。白は駒得を維持できない。25.Nxe6 Bxe6 26.Rc1+ Kb8 27.Bh6(27.Rxe6?! は 27…Ng4 で白が困っている)27…Rxh6 28.Rxe6 Rh1 29.Kd2 Nxe4+ 30.dxe4 Rfxf1 これは引き分けである。

23.Na8

 23.Ba5 Rxh2 24.Kd2 の方が直接的だが、カルアナの指した手でも十分である。このあとは 24…Rf8 25.Rc1 Bc6 26.Nxe6 Rff2 27.Nd4 となる。

23…Kb8

 23…Rxh2 は 24.Nb6+ Kc7 25.Nxd7 Kxd7 26.Be3 Kc8 27.Kd2 で黒は四方八方からの白の攻撃を受け切れない。27…Re8 28.Bf4 Rh8 29.Bg4 という具合。

24.Nb6 Bc6 25.Bf4

 26.Nc4 を狙っている。

25…e5

 25…Bf6 は 26.Rg2 Bc3+ 27.Kd1 で白がはっきりポーン得。

26.Bg3

 白は得しているhポーンをしっかり守った。黒には代償が全然ない。白が陣容をまとめれば黒の負けが確定する。

26…Bf6 27.Rf7 Be8 28.Rf8 Bg7 29.Rf2 Ne7 30.Bg4

 この手の狙いは Rfb2 で、そうなれば白の駒がすべて配置が良くなる。

30…Nc6 31.Rfb2 Nd4 32.Nd5 b5 33.a4 Bh6 34.axb5 Rg8 35.h3 Kb7 36.Ne7 Rf8 37.Nc6 Bxc6 38.bxc6+ Kxc6 39.Bf2

 白には詰みの狙いがあるので黒はf2のビショップを取らざるを得ない。しかしそれは必然を先延ばししただけである。

39…Rxf2 40.Kxf2 Rf8+ 41.Kg2 Be3 42.Rb8 Rxb8 43.Rxb8

 ナカムラはこの敗勢の局面で59手まで指し続けた…

1-0

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(この号終わり)

2017年07月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(484)

「Chess」2017年8月号(1/1)

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次の一手

第13問 中級向け
W.ソー – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 白の手番

第18問 上級向け
S.マメジャロフ – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 黒の手番で引き分け

解答

第13問 1.Nf6!(これでも良いが、クイーン同士の対峙を生かす 1.Nxg7! の方がはるかに強力だった。1…Rxa1 なら 2.Nxe8 Rxc1 3.Nf6 で必殺の両狙いがある) 1…Qd8 2.Qf5!? g6?(白は捨て駒の必要がなくなった。しかし 2…gxf6 でも 3.Bxf6+ Ng7 4.Qg5 Qd7 5.Rg1 でやはり交換得になる。5…Rxf2+ 6.Kg3 Qe6 7.Kxf2 Qxe3+ 8.Kg2 Qe2+ 9.Kh1 Qf3+ 10.Qg2) 3.Nxe8+ Rxa1 4.Qxf7 1-0

第18問 1…Kh2!(これは方向違いのように感じられるかもしれないが、黒のルークは理想的な位置にいて白ポーンの背後から白キングを抑止している。ナカムラは 1…Ra4?? と指したが、2.Rg1! Kh2 3.Rg4 とこられたら白キングが自由になり勝負がついていた) 2.Kf2(白ルークが横に動けば黒キングがh3に戻ってくるだけ) 2…Rh3!(ただし 2…Kh3? には 3.Kg1!) 3.Kf1(3.Ra6 は 3…Rh4 4.Kf3 Kh3 5.Ra1 Kh2 で白キングが酩酊状態) 3…Rf3+ 4.Ke2 Rf8 黒はキングをh列で上下させていれば引き分けにできる

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(この号終わり)

2017年08月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(485)

「British Chess Magazine」2017年8月号(1/1)

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2017年グランドチェスツアー・パリ大会


2017年グランドチェスツアー・パリ大会、ブリッツ第16回戦

75.Rf5

 ここでは黒の勝勢である。しかしチェスエンジンの示す「-15」ほど簡単明瞭なわけではない。

75…Kg2?

 これでは引き分けになる。

 75…f2+ 76.Kd2 Rh2!(次に …Kg1 と指し白ルークによるチェックには …Rg2 とする狙い)77.Rg5 Rh1!(手詰まりにさせた)78.Kd1 Rg1 79.Rf5 Kg2+ これで黒の勝ち。

76.Ke3 f2+ 77.Ke2

 ここであり得ないようなことが起こった。

77…f1=N??

 「ビショップはナイトより強し」だからビショップに昇格させる方が良かった。

 77…f1=B+ 78.Rxf1 Rxh5 両者とも望むならもう少し気のすむだけ指すことができる。

78.Rf2+!

 黒は完全にこの手を見落としていた。しかしそもそもナイトに昇格させて勝てると考えていたのだろうか。それともユーモアのセンスを見せたかったのだろうか。はたまた誤って別の駒をf1に置いたのだろうか。

78…Kg1 79.Rxf1+ Kg2 80.Rf2+ Kg1 81.Rf5

 何という変わりようか。敗勢の局面からこの局面だ。それでもまだ引き分けで、比較的容易である。しかし前局のカールセンの試合のように流れは明らかに白の方にある。

81…Ra3

 どうしてhポーンを進ませるのだろう。この手は全然意味がない。

 白キングが3段目を渡れなくする 81…Kg2 が最も簡明だった。

82.h6 Rh3 83.Rf6 Kh2 84.Kf2 Rh4

 前と同様に 84…Kh1 なら引き分けである。本譜は白キングが1段前に進むがそれでも引き分けである。

85.Kf3 Kh3 86.Rg6

86…Ra4?

 この手は負けになる。しかしマメデャロフは最初の機会を生かせなかった。ここからは黒が白のポーンを進ませた81手目からの繰り返しである。

 86…Kh2 なら白が何も進展を図れなかった。

87.h7?

 マメデャロフは繰り返しによりポーンを進めるが、勝ちを逃している。

 87.Rg1! Kh2 88..Rg4 で白の勝ちだった。

87…Rh4 88.Rg7

88…Rh6??

 ナカムラは白キングを進ませないことの重要性をまったく理解していなかった。

 88…Kh2 なら白が進展したにもかかわらず依然として引き分けだった。

89.Kf4 Kh4 90.Kf5 Rh5+ 91.Kg6 Kg4 92.Kf7+ 1-0

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(この号終わり)

2017年08月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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