布局の探求3の記事一覧

布局の探究(201)

「Chess Life」1997年12月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

カロカン防御 (B10-B19)

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Nf6!? 5.Nxf6+

 私の考えでは「典型的な」カロカン選手は安全で堅実な 4…Bf5 か 4…Nd7 の方を好むはずである。GMカルポフは若い頃は 4…Bf5 が好きだったが、現在は 4…Nd7 に傾倒している。本譜の手は-何の理由もなく-二通りの二重ポーンを受け入れる。それぞれの黒の可能性について簡潔に説明する。

(1)5…exf6 (B15)

 黒はキング翼で静的な二重ポーンを作ることにより、クイーン翼で健全な4ポーン対3ポーンの優位を自発的に白に与えた。代償として両方のビショップの容易な展開とf6ポーンのe5への利きに期待を寄せている。これは根本的な不利益の割には取るに足りないように思われる。私の思い出せる限りではFIDE世界チャンピオンのカルポフは白番のすべてで勝っている。白がどのように好局を危なげのない指し方で達成できるかの好例は西村裕之対ミルコビッチ戦(ケチケメート、1996年)で、IMスロボダン・ミルコビッチが『チェス新報』第66巻第100局で解説している。

6.Nf3 Bd6 7.Be3 O-O 8.Qd2 Be6 9.Be2 Nd7 10.c4 Re8 11.O-O Nf8 12.Rfd1 Ng6

 ここで白は 13.d5 cxd5 14.Nd4 と早まって黒に 14…Qb8! と十分な反撃を許した。IMミルコビッチは代わりに戦端を開く前に 13.Rac1! で最後の駒を戦闘に投入して d5 突きのタイミングを見計らうのが良いと言った。そうすれば白は楽に優位に立ち、黒は劣ったポーン陣形の代償がどこにも見当たらない。

(2)5…gxf6 (B16)

 これは非常に大胆な手である。黒は乱戦に持ち込む目的で自分のキング翼を根本的に弱めた。gポーンがfポーンになって中央がわずかに強化されたこととg列(そしてたぶんh列)が白キングに脅威を与える見込みとに代償を求めなければならない。黒の暗黙の考えは、クイーン翼にキャッスリングして、白が黒を捕まえる前に黒が白を捕まえようとすることにある。GMダビド・ブロンシュテインやGMベント・ラルセンのような恐れ知らずの闘士はこの戦型の信奉者に属していた。gポーンで取り返す方が 5…exf6 よりもずっと現実的に理にかなっていると思う。そう、黒ははるかに多くの危険を背負うが、潜在力もある。最近の典型的な実戦例はニールセン対ツェイトリン戦(ヘースティングズ/オープン、1994/95年)である。

6.c3 Bf5 7.Nf3 Qc7 8.g3 e6 9.Bg2 Nd7 10.Qe2 O-O-O 11.Nh4 Bg6 12.O-O Bd6 13.Rd1 Rhe8 14.a4 f5 15.b4 e5 16.d5!

 両者は見込みのある個所で攻撃している。黒はここで 16…cxd5?! でやらずもがなの危険を冒した。これに対しては 17.Bxd5 でも実戦のように 17.Rxd5 でも白の狙いが危険になってくる。後にGMミハイル・ツェイトリンは 16…c5! でクイーン翼をできるだけ閉鎖しておくように努めるのが良かったと言った。そうすれば白は非常に不均衡な局面でわずかに優勢にすぎない。

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2016年08月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(202)

「Chess Life」1997年12月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局

 矛盾しているように聞こえるかもしれないが閉鎖布局では黒には二重ポーンを受け入れることによって自分のポーン陣形を乱す必要性も潜在力もいっそう少ない。初期の段階で白は 1.e4 布局よりも迫ってこないので、どうして黒が二重ポーンを受け入れるべき必要があるのだろうか。答えはそんな必要などあるはずがないである。これを二つの実戦例で説明する。

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(1)1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 (D35)

 g1のナイトの展開を遅らせたおかげで白は 7.Bd3 で白枡ビショップを働かせる用意ができている。黒は 7…Be7 と展開してこれを甘受するしかない。しかしときどきそれに飽き足らない黒は

6…Bf5?!

と指し

7.Qf3! Bg6 8.Bxf6

とやり込められる。

 黒が中盤戦に踏みとどまろうと收局にしようと愚形の孤立二重ポーンの代償はない。

(a)8…gxf6 9.Qd1! Qb6 10.Qd2 Na6 11.Nf3 O-O-O 12.a3 Nc7 13.b4 Ne8 14.Be2 Nd6 15.Qa2!(ぺトロシアン対バルツァ、ブダペスト、1955年)黒の反撃の試みはすべてGMぺトロシアンによって防がれ、黒の見通しは暗いままである。

(b)8…Qxf6 9.Qxf6 gxf6 10.Kd2!(收局でのキングの中央志向!)10…Nd7 11.Bd3 Bd6 12.h4 h5 13.Nge2 これはゲレル対デ・グレイフ戦(ハバナ、1963年)で、白は弱点が何もなく黒の弱点につけ込む楽しみがある。

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2016年08月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(203)

「Chess Life」1997年12月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局(続き)

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(2)1.d4 d5 2.Nc3 Nf6 3.Bg5 (D01)

 この手は無害そうに見えるが白が本質を知っていればそれほど無害ではない戦法の一つである。基本的に白は黒のdポーンに従来の c4 突きで挑むのではなく、駒中心の戦いとポーン陣形を重視する。白が 4.Bxf6 で黒に二重ポーンを作らせるのを狙っているので、黒はこれにどう対処するのかを決めなければならない。注意すべきは白が 3…e6 に 4.e4 と応じてフランス防御に移行できることである。3.Nc3 に 3…Nf6 と指すフランス防御の使い手のみが 3…e6 と指すことができる。以下では三つの戦型を簡潔に解説する。

 (a)3…c6 4.Bxf6 exf6

 代わりに 4…gxf6?! は白に 5.e4! で有利に局面を開放される。本譜の手のあとはバーガー対ヘンリー戦(ニューヨーク、1983年)の手順を追う。

5.e3 f5 6.Bd3 g6 7.Nce2! Nd7 8.Nf3 Bd6 9.c4 dxc4 10.Bxc4 Qe7 11.O-O Nb6 12.Bb3 Be6 13.Nc3 Rd8 14.Qc2 O-O

 『チェス布局大成D』(1987年改訂版)はこの局面を互角と判断している。黒が二重ポーンの代償に何を得ているか私には不明である。

 (b)3…Bf5 4.Bxf6 exf6 5.e3 c6 6.Bd3 Bxd3 7.Qxd3 Bb4 8.Nge2 O-O 9.O-O Nd7 10.e4 dxe4 11.Nxe4 Re8 12.a3 Bf8 13.b4 f5 14.Nd2 a5 15.c3 g6

 この局面(レンジェル対コラーロフ、ケチケメート、1962年)も同大成で互角と判定されている。しかし白はポーン陣形(クイーン翼の無傷の多数派ポーン)の優位で少なくともいくらか優勢ではないだろうか。

 (c)3…Nbd7!

 この10年でこの完璧な手がGMたちの唯一の選択肢になってきた。その理由は簡単である。二重ポーンを受け入れる必要性がまったくない時にどうして受け入れるのかということである。実戦例としてスミスロフ対グフェルト戦(ニューヨーク・オープン、1989年)を取り上げる。

4.Nf3 g6 5.Qd3 Bg7 6.e4 dxe4 7.Nxe4 O-O 8.Nxf6+ Nxf6 9.Be2 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5 12.O-O Be6 13.Qd4 Qa5 14.a3 h6! 15.Bxf6

 GMエドワルド・グフェルトの考えではこれが白にとって最善手である。というのは 15.Bh4 なら 15…Nd5! で、15.Bf4 なら 15…Nd5! 16.Be5 f6! 17.Bg3 Bf7 から 18…e5 で、黒が中央の優位のために優勢になるからである。

15…Bxf6 16.Qe3 Bg7 17.Nd4 Bd5

 黒は双ビショップとキズのない陣形のためにわずかに展望に優る。もちろんeポーンは毒入りである。18.Qxe7?? Rfe8 19.Qd7 Bxd4 20.cxd4 Rxe2 21.b4 Qd8! で黒の駒得になる。ここでGMワシリー・スミスロフは 18.Rfd1?! と指してはっきり形勢を損じ、48手目でなんとか引き分けにした。GMグフェルトは代わりに 18.Rad1 で白の不利を最小限にとどめることを推奨している。『チェス新報』第47巻第448局にGMグフェルトの詳細な解説が載っている。

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2016年08月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(204)

「Chess Life」1998年2月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン

 前2回では二重ポーンができるのを許容できるかどうかの判断基準、または逆に相手に二重ポーンを作らせるかどうかを決める際に使う判断基準を示した。最優先の判断基準は二重ポーンにどうしても付きまとう弱点をしのぐ十分な代償を得なければならないということである。特に黒はこのことにこだわる必要がある。

 二重ポーンのあれこれを論じるための手段として、シチリア防御の人気があり定跡で重要な戦法を選んだ。

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5

 表面的にはこの手はシチリア防御に対する積極的な攻撃の開始のように見える。もっともこれがうまくいくのは 3…Qb6 や 3…Qa5 のような弱い受けに対して、または黒が例えば 3…e6 4.O-O Nge7 で単刀直入の展開をわざと避ける場合だけである。

 黒の最も普通の応手について説明する。

3…g6

 黒はキング翼の小駒を展開し、陣形に対する狙いの Bxc6 を無視している。白の方はすぐにc6での取りを決めることもできるし後にすることもできる。

(A)白が取るのを後にする
4.O-O Bg7 5.Re1

 これがかねてからの手法である。白はキング翼の戦力の展開を完了し、先へ進む前に黒がどんなやり方で来るかを見極めようとしている。黒の高級な応手は 5…Nf6 と 5…e5 の二つである。後者は二重ポーンができるので(私が指したい方の手である!)、それを取り上げる。

5…e5

 黒は近い将来の白の中央でのいかなる動きも未然に防ぎ、キング翼ナイトをe7に支障なく展開する用意をしている。白がどんな有利でも期待するならここで取らなければならない。

6.Bxc6

 黒はどちらのポーンでも容易に取り返すことができるが、どちらもいくらか不如意な二重ポーンになる。どちらで取り返した方が良いのだろうか。

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2016年08月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(205)

「Chess Life」1998年2月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(1)6…bxc6

 中央に向かって取り返すのが昔からの鉄則である。しかし私の考えではここでは意欲的すぎる。黒はeポーンを突いてしまっているのでf6とd6が潜在的な弱点になっているし、aポーンは孤立していて弱点になるかもしれず、白枡ビショップの展開は遅れている。実戦例として次の試合を取り上げる。

スミスロフ対Zsu.ポルガー(モナコ、1994年)
7.c3!

 白は展開でだいぶ先行しているので、中央を開放したい。二重ポーンの弱点に長期的な戦略でつけ込もうとするよりもGMスミスロフは動的に対処することを目指す。

7…Ne7 8.d4 cxd4 9.cxd4 exd4 10.Nxd4 O-O 11.Nc3 Bb7

 黒は …d5 と突く用意をした。確かに理にかなったやり方である。明らかにマカリチェフ対クラセンコフ戦(モスクワ、1992年)は黒にとって不満足だった。11…Rb8?! 12.Nb3! d5?! 13.Be3! dxe4 14.Bc5 Rb7 15.Nxe4 Bxb2 16.Nd4! 肉弾戦の詳細については『チェス新報』第55巻第177局を参照されたい。

12.Bg5 h6 13.Bh4 g5 14.Bg3 d5 15.exd5 Nxd5 16.Ne4! Re8 17.Nf5! Bc8 18.Nxg7 Kxg7 19.Qd4+ f6 20.Nd6 Rxe1+ 21.Rxe1

 黒の努力の結果はd5の好所のナイトとa7、c6、f5それにキング翼という具合に盤上全体に渡る恒久的な弱点である。黒陣はもちろん敗勢でないが、非常に指しにくい。実戦ではこのような局面はほとんどの場合負けになる。残りの手順は若干の形勢記号をつけて示す。GMスミスロフはこの試合を『チェス新報』第61巻第174局で詳細に解説している。

21…Bd7 22.h4! Qg8! 23.Ne4 Qe6 24.f3 Qf5 25.b4! a6 26.a3 g4 27.Nd6 Qg6 28.f4 h5 29.Rc1 Kh7 30.f5 Qg8 31.Qc5 Qb8 32.Qd4 Kg7 33.Kh2 Qb6 34.Rc5! Qd8 35.a4 Qe7 36.Rc1 Qe3 37.Qxe3 Nxe3 38.Bf2 Nd5? 39.Bc5 Rb8 40.Re1! Kg8 41.Re4 Kg7 42.Kg3 Rh8 43.Kf2 Rb8 44.g3 Kg8 45.Ke1 Kg7 46.Kd2 Kg8 47.Kd3 Kg7 48.Kc4! Ra8 49.Bf2 Kf8 50.Bc5 Kg7 51.Be3 Rb8 52.Kc5! Kg8 53.Bh6 Ra8 54.Bd2! Ra7 55.Re2! Ra8 56.b5! axb5 57.axb5 cxb5 58.Kxd5 Ra2 59.Kc5 Rb2 60.Re7 Rc2+ 61.Kb4 Bxf5 62.Bh6 黒投了

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2016年09月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(206)

「Chess Life」1998年2月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(2)6…dxc6

 本譜の手のあとの局面は黒にとって 6…bxc6 のあとの局面よりかなり指しやすい。その理由は次のとおりである。(1)黒のクイーンもd4に利いているので白が d2-d4 と突くのはもっと困難になっている。(2)たとえ白が d2-d4 と突けても黒のクイーン翼のポーン陣形は …c5xd4 のあと a7-b7-c6 となって欠陥がなくなる。(3)黒の白枡ビショップの正常な斜筋はすでに開通している。(4)黒は例えばナイトをd4に据えることにより重要なd4の地点を支配する可能性が高い。

 黒はc5のポーンが弱体化しないように気をつけるべきである。特に気をつけるべきことは …b6 と突いて守っても十分でないかもしれないことで、白は狙い筋の a2-a4-a5 突きでその地点を弱めることができる。ここからは次の試合の手順を追う。

デグラーブ対メドニス(メス、1989年)
7.d3 Qe7!

 この手には目的が二つあり(1)すぐの要点はc5とe5で起こるどんな戦術もそれらの地点を守る、または過剰に守る、ことにより防ぐことであり(2)もっと長期的にはd8の地点をナイトまたはキング翼ルークのために空けることである。

8.Nbd2 Nh6!

 半閉鎖的な局面ではナイトのために好所を見つけることが大切である。黒のナイトにとってそれはe6の地点にあたり、f7からd8を通って到達できる。

9.a4

 中央で何かが起こる見通しはないので白は局面を閉鎖的に保ってc5の地点の確保に期待することもできるし、クイーン翼で列を素通しにさせることもできる。典型的な例はヤンサ対シュナイダー戦(スカーラ、1980年)である。9.a3 f6 10.b4 cxb4! 11.axb4 O-O 12.Bb2 Rd8 13.Bc3 Nf7 14.Nc4 Be6 15.Qe2 Nd6! 16.Nxd6 Qxd6 17.Qe3 a6 18.Rab1 Rd7 19.Nd2 ここで黒は 19…Bf8?! で黒枡ビショップを遊ばせてしまう代わりに、普通に 19…Rc8 と指していたら問題なかった。

9…O-O 10.Nc4 f6 11.a5 Nf7 12.Be3 Nd8! 13.Nfd2 Ne6 14.Nb3 Rd8 15.Ra4 Bd7

 c5の地点が安全でキング翼ルークが最良の地点にいるので白枡ビショップを展開する時機である。

16.Qd2 Be8 17.Qc3 Bf7 18.Nbd2

 私はこの手の狙いが b4 突きで動く余地を作ることだと気がつかなかった。それを 18…Bf8! で防いでおくべきで、黒は陣地が広く(二重ポーンのおかげで!)好調だった。白が解放を成し遂げれば形勢が動的に均衡がとれる可能性がある。持ち時間が少なくなって両対局者は手を繰り返して引き分けにした。

18…Qc7 19.b4! cxb4 20.Rxb4 Bf8 21.Rb2 Nd4 22.Na3 Qe7 23.Nac4 Qc7 24.Kh1 Rab8 25.Ra1 Nb5 26.Qb3 Nd4 27.Qc3 Nb5 28.Qb3 Nd4 引き分け

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2016年09月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(207)

「Chess Life」1998年2月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る

 この約5年もの間すぐ取るのが白の一番の選択肢だった。きっかけは疑いなくフィッシャーが1992年にボリス・スパスキーとの番勝負でその手を用いて好結果をあげたからである(第11局は見事な勝利で、第13局は引き分け)。チェス自体の理由も明快である。白は確実に黒に二重ポーンを作らせ、すぐに黒の取り方を知ることにより自分の最良と考える陣形を選ぶことができる。しかし同様の融通性のある考え方は黒の選択にも当てはまる。c6で取り返した後白がどうくるかが分かる。全体的には研究と創造性の余地が大いにある。黒の取り返し方を(A)と同じ順で考える。

(1)4…bxc6

 GMスパスキーは2局ともこう取り返した。私はこの手が黒の最も好結果をもたらす手法だと思う。eポーンが元々の位置にいるので黒にはd6とf6の地点に弱点を抱えていない。さらには中央に向かっての主眼の取り返しで黒の中央が強化され、白が中央を開放するように指してきた場合には双ビショップを活用する見込みができる。

 ここからは実戦の手を見ていく。

シュルスキス対スビドレル(ヨーロッパ団体選手権戦、プーラ、1997年)
5.O-O Bg7 6.Re1 Nh6!

 このナイトの展開は …f6 と相まってGMスパスキーによって第13局で初めて指された。その意図はポーン陣形を堅くしまったものにして、白がポーンを突いてきても何もとっかかりを与えず無効にできることである。

7.c3 O-O 8.d4

 白は自分で中央を広げるために黒の二重ポーンと「交換」する。今ではこの局面にかなりの定跡がある。

8…cxd4 9.cxd4 d6 10.Nc3 f6

 ここまでの手はとりたてて言うこともなかった。どちらも望んだポーン/小駒の配置に達した。黒の陣形はハリネズミ陣形を模したようなものである。三段目より先には何も突きでていないが、黒陣のすべての地点は目が行き届いている。さらに黒の双ビショップは紛れもなく将来性が潜在的にある。白には妥当な作戦が多いが、以下はそのうちの二つである。

(a)11.Qa4 Qb6 12.Nd2 Nf7 13.Nc4 Qa6 14.Be3 Qxa4 15.Nxa4 f5 16.exf5(16.f3! の方が良く白が少し優勢-GMマツロビッチ)16…Bxf5 17.Rac1 Rfc8 18.Na5 Bd7 19.b3 Rab8 黒は楽に互角になっていて45手で引き分けた(フィッシャー対スパスキー、1992年、番勝負第13局)。

(b)11.b3 Bd7 12.Bb2 Nf7 13.Qc2 Rc8 14.h3 Qc7 15.Rad1 Rfe8 16.Qd2 Qa5 17.d5 cxd5 18.exd5 Bh6 19.Qd4(ルブレフスキー対スビドレル、ロシア、1996年)この試合は36手で引き分けになったが、白は陣地が広いので少し有利のはずである。

11.Be3

 白は 11.h3 と1手かけることなく白枡ビショップを中央の最良の地点に展開できれば望ましい。黒は反発し局勢は険しくなった。GMスルスキスは黒が 11…d5 や 11…f5 と中央で動くと 12.h3 と応じられ、黒が自陣側に弱点を作り出しているので白が楽に少し優勢になると指摘している。

11…Ng4!? 12.Bd2 Bd7 13.Qc2 Qb6 14.Rad1 Rac8 15.Bc1 Qb7 16.e5! fxe5 17.h3! Nh6 18.dxe5 Bxh3

 代わりに 18…Bf5 は 19.Qe2 d5 20.Be3 Kh8 のあと 21.Na4 でも 21.Bc5 でも白が危なげなく優勢になる(GMスルスキス)。

19.Bxh6 Bxh6 20.gxh3 Rxf3 21.exd6 exd6 22.Rxd6 Bf8

 22…Rxh3?! とポーンをかすめ取るのは危険すぎる。23.Ne4! とこられ 23…c5? には 24.Rd7! がある(GMスルスキス)。

23.Rd3 Rxd3 24.Qxd3 Qf7 引き分け

 両対局者とも持ち時間が少なくなっていて、半点で満足した。GMスルスキスは両者の最善の手順を 25.Ne4! Kh8! 26.b3 と示して白が少し優勢とした。本局は『チェス新報』第69巻第137局でGMスルスキスが全手順を詳細に解説している。

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2016年09月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(208)

「Chess Life」1998年2月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る(続き)

(2)4…dxc6

 この手は指せる手だが、人気では 4…bxc6 に遠く及ばない。理由はもっともである。(1)白はどちらにキャッスリングすることもできる。クイーン翼にキャッスリングすれば黒のいくらかぜい弱なキング翼を攻撃する見通しが開ける。(2)局面は閉鎖的なままになるのでキャッスリングを急ぐ理由はなく、白はまず小駒の展開を完了することができる。(3)白はキング翼にキャッスリングすることになっても、役に立たない Re1 を指さないのでA2よりも1手早くなっている。だからA2と比べると黒が動けない2重ポーンの陣形の十分な代償を得るのははるかに難しい。これらの点は次の試合によく表れている。

ユダシン対ピグソフ(ケメロボ、1995年)
5.d3!

 白は小駒の効率的な展開を始めた。5…Bg4 を恐れない理由は、6.h3 Bxf3 7.Qxf3 となり黒が二重ポーンの代償となる効果的な双ビショップを得ることが期待できなくなるからである。

5…Bg7 6.Nc3 Nf6

 中央に十分な影響力を保持するためには将来 …e5 と突くことが避けられない。この時点で黒は白がキング翼キャッスリングに甘んじて黒キングに対する危険性を減らすことをまだ期待できる。

7.Be3 Nd7 8.Qd2 h6

 ビショップ同士の交換はキング翼の黒枡を弱めることになるので、それを防ぐことは役に立つ。それでもすぐに黒はf5にできる新たな弱点を心配しなければならない。

9.O-O-O! e5 10.h4 Qe7 11.h5! g5 12.Ne2 b6 13.Ng3 Nf6 14.Nh2 Be6 15.Qc3 Qd7! 16.f3 O-O 17.Nhf1! Ne8 18.Bf2 Nc7?!

 白は直前の手で Ne3 と Ngf5 でf5の地点を占拠する意図を示していた。だから黒のナイトはd6に行くべきだった。

19.Kb1 Nb5 20.Qe1 Rfd8 21.Ne3 Nd4?!

 依然として 21…Nd6 が適切である。

22.c3 Nb5 23.Ngf5 f6

 ここが勝負所だった。GMユダシンが指摘したように、正しい手順は 24.Nxg7! Kxg7 25.g3 で、f4 突きからの攻撃が強力になる。実戦は黒が黒枡ビショップを保持できる。そうすればいつか双ビショップが防御では障壁となり攻撃では敵を悩ませる。GMユダシンはこの熱戦を『チェス新報』第65巻第164局で詳細に解説している。残りの手順は要点を記号で示すだけにする。

24.g3?! Qf7! 25.a3 Bf8! 26.Qe2 Nd6 27.f4 exf4 28.gxf4 Nxf5 29.exf5 Bd7 30.Qf3 Re8 31.Bg3 Rad8 32.fxg5 fxg5?! 33.Rhf1 Kh8 34.Ng4 Qd5! 35.Qxd5 cxd5 36.Nf6?! Re7 37.Nxd5 Rf7 38.Be5+ Bg7 39.f6 Bf8 40.Ne3 Ba4 41.Rd2 Kg8 42.d4 Be8! 43.Kc2 Ba4+ 44.b3 Be8 45.d5 b5 46.c4 bxc4 47.bxc4 Rb7! 48.Rh2 Kf7 49.Rhh1 Ba4+ 50.Kd2 Re8 51.Bc3 Bd7 52.Rhg1 Bd6! 53.Ng4 Bxg4 54.Rxg4 Be5 55.Bxe5 引き分け

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布局の探究(209)

「Chess Life」1998年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 1950年代後半から1972年ボリス・スパスキーとの世界選手権戦までの指し盛りにボビー・フィッシャーは布局に関して世界でも一流の大家と認められていた。彼の偉大な勝利の25周年に当たり、彼の得意だった布局/戦法が時の試練に耐えたかを検証することは意味のあることに思われる。この25年間に情報が大膨張したことは疑いない。これが達人の布局遺産にどれほどの影響を与えたのだろうか?かつての世界選手権戦の様相をGMフィッシャーの側から検証しよう。まずは…

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番

 スパスキーが初手に 1.d4 を指したのは第1、3、5、9局の4局である。成績は 1½ – 2½ で、その中には第1局の幸運な勝利もある。第10局まで 3½ – 6½ と負け越したので、あとは 1.e4 に転じた。

 上記の4局でフィッシャーは二ムゾインディアン防御を2局(うち1局は別手順からの転移)、ベノニ防御を1局、クイーン翼ギャンビット拒否の準タラッシュ戦法を1局指した。それらを指された順に紹介する。

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2016年10月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(210)

「Chess Life」1998年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御 [E56]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第1局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5

 この時点では布局はクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法である。

4.Nc3 Bb4

 4…Be7 なら普通である。黒は本譜の手でクイーン翼ギャンビット拒否のラゴージン戦法にもっていった。フィッシャーは1950年代からクイーン翼ギャンビット拒否をひいきにしていたが、結果はまあまあにすぎなかった。ここで白の最強の手順は 5.cxd5 exd5 6.Bg5 である。代わりにスパスキーは二ムゾインディアン防御と対する方を好んだ。

5.e3 O-O 6.Bd3 c5 7.O-O Nc6 8.a3

 1950年代から1960年代にかけてこの手がルビンシュタイン戦法の中で最も人気があった。両者とも展開が棋理にかない中央に地歩を占めている。キング翼ビショップの位置を除いてまったく対称で、黒のビショップは白陣の側に入っていていくらか不安定である。先手の利に加えてこの要素が白の通常の有利さの基礎になっている。

8…Ba5

 これは傍流手順で、主流手順は 8…Bxc3 と 8…dxc4 9.Bxc4 cxd4 である。本譜の手のあと白は 9.cxd5 exd5 10.dxc5 で通常よりも優勢の度合いを少し大きくすることができる。しかし指し分けでもタイトル防衛の有利さと避けられない「第1局目のプレッシャー」とから、スパスキーは以前に用いてうまくいった穏やかな手順を選択した。

9.Ne2 dxc4 10.Bxc4 Bb6?!

 これは気まぐれすぎる手である。10…cxd4 ならほぼ互角になる。11.exd4 には 11…h6 でe2のナイトが守勢の位置にいるために、白には孤立dポーンのもたらす陣地の広さの優位を生かす見通しがない。

11.dxc5! Qxd1 12.Rxd1 Bxc5 13.b4 Be7 14.Bb2 Bd7

 フィッシャーの選んだ手は最善手だった。以前の対局のスパスキー対クロギウス戦(ソ連選手権戦、1958年)では黒は 14…b6?! 15.Nf4 Bb7 16.Ng5 Nd8 17.Rac1 h6 18.Ngxe6! でたちまち大苦戦に陥った。

 白は上図から展開の優位を生かして(ボトビニクの指摘のように)15.e4! と指すことができ、15…Rfd8 16.e5 Ne8 17.Ng3 Nc7 18.Ne4 で広さで大きく優位に立ち楽に危なげのない優勢になるところだった。白がこの好機を逃して收局は対称かつ互角になった。

15.Rac1?! Rfd8 16.Ned4 Nxd4 17.Nxd4 Ba4 18.Bb3 Bxb3 19.Nxb3 Rxd1+ 20.Rxd1 Rc8 21.Kf1 Kf8 22.Ke2 Ne4 23.Rc1 Rxc1 24.Bxc1 f6 25.Na5 Nd6 26.Kd3 Bd8 27.Nc4 Bc7 28.Nxd6 Bxd6 29.b5 Bxh2??

 試合がこの手まで引き分けと宣告されなかった理由はただ一つ、両者とも引き分けを提案する側になりたくなかったからである。本譜の手はフィッシャーの大見損じで、ビショップが逃げることができると考えていた。すぐに生じた收局は1972年に徹底的に分析された。黒は超完璧に指せば引き分けにできるようである。しかしフィッシャーは気落ちし、受けを間違い負けてしまった。残りの手順には記号を少し付けるにとどめる。

30.g3 h5 31.Ke2 h4 32.Kf3 Ke7 33.Kg2 hxg3 34.fxg3 Bxg3 35.Kxg3 Kd6 36.a4 Kd5 37.Ba3 Ke4? 38.Bc5! a6 39.b6 f5 40.Kh4! f4?? 41.exf4 Kxf4 42.Kh5! Kf5 43.Be3! Ke4 44.Bf2 Kf5 45.Bh4! e5 46.Bg5 e4 47.Be3 Kf6 48.Kg4 Ke5 49.Kg5 Kd5 50.Kf5 a5 51.Bf2! g5 52.Kxg5 Kc4 53.Kf5 Kb4 54.Kxe4! Kxa4 55.Kd5 Kb5 56.Kd6 黒投了

結論 主流手順はまだ変わらない。第一級の 8…Bxc3 と 8…dxc4 が 8…Ba5 よりも好まれている。

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2016年10月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(211)

「Chess Life」1998年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

現代ベノニ防御 [A77]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第3局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3

 2-0とリードのスパスキーは 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否または 3…Bb4+ のボゴ・インディアン防御の比較的静穏な戦型を期待した。代わりにフィッシャーは挑戦状をたたきつけた。

3…c5 4.d5

 挑戦受諾!試合はここからベノニの荒海に入っていく。4.Nc3(4…cxd4 でイギリス布局)または 4.e3(4…d5 でクイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御)なら静海になる。

4…exd5 5.cxd5 d6 6.Nc3 g6

 ここで既にベノニの特徴的な輪郭が見られる。つまり黒のeポーンと白のcポーンが交換されているので白は中央で優位に立つ可能性がある。だから白の通常の活動領域はキング翼になり、黒はクイーン翼になる。ここで 7.e4 なら普通の手である。

7.Nd2

 このナイトの絶好の地点は一般にd2で、そこからe4ににらみを利かしc4に跳ぶこともできる。しかしこんなに早くd2にナイトを置く利点は特にない。黒が正確に応じるという逆説的な結果をもたらし、白は11目で軽率な手を指した。

7…Nbd7

 黒はクイーン翼ナイトをどこに置くかという決定を遅らせ普通に 7…Bg7 と指すべきだった。

8.e4 Bg7 9.Be2 O-O 10.O-O Re8

 この局面は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.e4 g6 7.Nf3 Bg7 8.Be2 O-O 9.O-O Re8 10.Nd2 Nbd7 からできることが最も多い。しかし現在の常識(そして1972年でもそうだった)では、クイーン翼ナイトの最良の経路はクライドマン対フィッシャー戦(ネタニヤ、1968年)やナイドルフ対フィッシャー戦(ハバナ・オリンピアード、1966年)のように 10…Na6 から 11…Nc7 である。グリゴリッチ対フィッシャー戦(パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナル、1970年)でフィッシャーは 10…Nbd7 と手を変えていて、スパスキーは図の局面を研究しているはずだった。

 ここでの正確な作戦は 11.a4! で、クイーン翼の陣地を広げ、早い …b5 突きを防いでキング翼ナイトがc4に安定した居場所を確保できるようにする。

11.Qc2 Nh5!?

 我々は結果的にこの手が勝着になったことを知っている。この大胆な手に対してスパスキーは長考したが(30分!)、局面に対応した正しい対策を見つけられなかった。のちに実戦でもっと単純な 11…Ne5! で黒がもっと容易に理論的な互角になれることが明らかにされた。

12.Bxh5 gxh5 13.Nc4 Ne5 14.Ne3 Qh4 15.Bd2

 その後正しい手順と作戦は 15.Ne2! Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Ng3! Be5 18.Bd2 であることが発見された。白キングは安全で、黒がgポーンをg6からg4へ行進させたことによりf5とh5に弱点ができている。

15…Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Bf4 Qf6 18.g3?

 本譜の手により白のキング翼の白枡に本質的な弱点が生じ、フィッシャーはダイナミックに完璧につけ込んでいく。白は 18.Bg3 と指す必要があり(18…h5?! 19.Nb5!)、形勢不明だった。たぶんいい勝負だろう。残りの手順は記号をいくつか付けて示す。

18…Bd7! 19.a4 b6 20.Rfe1 a6 21.Re2 b5! 22.Rae1 Qg6 23.b3 Re7! 24.Qd3 Rb8 25.axb5 axb5 26.b4 c4 27.Qd2 Rbe8 28.Re3 h5! 29.R3e2 Kh7 30.Re3 Kg8 31.R3e2 Bxc3 32.Qxc3 Rxe4 33.Rxe4 Rxe4 34.Rxe4 Qxe4 35.Bh6 Qg6 36.Bc1 Qb1! 37.Kf1 Bf5 38.Ke2 Qe4+ 39.Qe3 Qc2+ 40.Qd2 Qb3! 41.Qd4?! Bd3+ 白投了

結論 ベノニは生きている。黒の指し方の改良には微調整が必要なだけである。

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2016年10月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(212)

「Chess Life」1998年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御ヒューブナー戦法 [E41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第5局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.e3

 白がルビンシュタイン戦法を指したいなら正確な手順は 4.e3 が先である。黒は本譜のような手順を選ぶかもしれず、それなら白はキング翼ナイトをe2に展開したいかもしれない。

5…Nc6 6.Bd3 Bxc3+ 7.bxc3 d6

 ここがドイツのGMロベルト・ヒューブナーにちなんで名付けられたヒューブナー戦法の出発点である。この局面を戦略的に正しく扱う手法を最初に明らかにしたのは彼である。黒は 4.a3 と突かれないのに自分からビショップをc3で交換したので、まるまる一手遅れでゼーミッシュ戦法を指しているように見える。しかし戦略の重大な違いは、白はキング翼ナイトを早くf3に展開させたために、キング翼で活発に活動を始める際にfポーンを迅速に動員してeポーンを支援することができなくなっているということである。

 スパスキーは白の中央が完璧な局面を指すことにひいでていて、それをもたらしてくれる変化を選ぶ。それほどきびしくないやり方は 8.Nd2 と 8.O-O である。

8.e4 e5 9.d5 Ne7!

 ここでもゼーミッシュ戦法とヒューブナー戦法の決定的な違いがある。前者ではクイーン翼ナイトがa5に行ってc4ポーンに圧力をかけるのに対し、後者では中央とキング翼での作戦のためにそのナイトが必要である。

10.Nh4 h6! 11.f4 Ng6!!

 この手は白のキング翼での動きを完全に止めてしまう。黒は二重gポーンを受け入れ、白に保護パスdポーンを作らせるが、白のビショップ、特に白枡ビショップがほとんど働かないポーン陣形を作り上げる。その結果できる局面は定跡ではほとんど互角だが、黒の方が駒を活動させる機会が多いので指しやすい。

 スパスキーは明らかに素通し列ができるのを期待していた。11…exf4?! なら 12.Bxf4 g5? 13.e5! Ng4 14.e6 Nf6 15.O-O! で白の攻撃がすぐに止まらなくなる。

12.Nxg6 fxg6 13.fxe5?!

 この取りは遅らせて後日スパスキー対ホルト戦(ティルブルフ、1979年)で指されたようにルークを使う方が良かった。13.O-O O-O 14.Rb1 b6 15.Rb2 Qe7 16.h3 Bd7 17.f5! gxf5 18.exf5 e4 でいい勝負である。フィッシャーの素晴らしい構想に直面してスパスキーは時間を浪費しさらにポーンの弱点を作った。

13…dxe5 14.Be3?! b6 15.O-O O-O 16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5!

 フィッシャーは弱点のa4とe4のポーンに対する作戦をf列での動きと絡ませ、白が一瞬のすきを見せた時に敵陣を突破した。

21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 白投了

結論 ヒューブナー戦法は今でもそのまま通用する。フィッシャーの変化の指し方は最新である。

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2016年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(213)

「Chess Life」1998年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

クイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御 [D41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第9局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c5 5.cxd5 Nxd5

 代わりに 5…exd5 はタラッシュ防御になり、黒は中央の影響力が増すが孤立dポーンという代価を払う。本譜の手でフィッシャーは陣形にどんな根本的な弱点ができるのも避けるというこの番勝負における主眼の方針を継続している。準タラッシュ防御では黒陣は健全だが、白の中央での優位は通常より大きくなる。

6.e4

 スパスキーは自分に忠実に「大中央」を作り上げる。もっと控えめな 6.e3 が主手順とみなされている。

6…Nxc3 7.bxc3 cxd4 8.cxd4 Nc6

 フィッシャーは新手を胸に秘めていた。従来の手順は 8…Bb4+ 9.Bd2 Bxd2+ 10.Qxd2 O-O 11.Bc4 Nc6 12.O-O b6 13.Rad1 で、中央の優位のために白が通常の布局の優勢を得ている。

9.Bc4 b5!?

 これがその新手である。明らかにこのポーンは毒入りだが、まったくの1手得というわけではない。黒は多数派ポーンの動員を開始しているけれども、その影響は当分クイーン翼の弱体化となって現れる。白が狙い筋の d5 突きで中央を開放することによりこれにつけ込むことができる危険性が相当にある。ここでの白の大問題はビショップをどこに引くかである。

10.Bd3

 この手は見かけほど良くない。このビショップはe4を守りキング翼攻撃のためにh7方面をにらんでいるが、欠点の方が多い。d4のポーンは守りにくく、d5 突きはもっと困難である。以後の大会での数多くの経験により 10.Be2! なら白が本譜よりももう少し優勢を保持できることが明らかになった。一例は 10…Bb4+ 11.Bd2 Qa5 12.d5! exd5 13.exd5 Ne7 14.O-O Bxd2 15.Nxd2 O-O 16.Nb3 Qd8 17.Bf3 Nf5 18.Rc1 Nd6 19.Qd4(ユスーポフ対リブリ、モンペリエ挑戦者決定大会、1985年)である。

10…Bb4+ 11.Bd2 Bxd2+

 交換を急がずにまず 11…a6 でクイーン翼を安定させる方がわずかに良いかもしれない。

12.Qxd2 a6 13.a4

 指し過ぎの本譜の手のあと黒には十分動的な反撃がある。13.O-O ならどんな可能性にせよ白がわずかに優勢である。以下の手順には記号を少し付けておく。

13…O-O! 14.Qc3 Bb7! 15.axb5 axb5 16.O-O Qb6 17.Rab1 b4 18.Qd2 Nxd4 19.Nxd4 Qxd4 20.Rxb4 Qd7 21.Qe3 Rfd8 22.Rfb1 Qxd3 23.Qxd3 Rxd3 24.Rxb7 g5 25.Rb8+ Rxb8 26.Rxb8+ Kg7 27.f3 Rd2 28.h4 h6 29.hxg5 hxg5 引き分け

結論 準タラッシュ防御は健在である。フィッシャーの 8…Nc6 から 9…b5 は意表を突く武器として使える。

不使用 この番勝負以前のフィッシャーの主力武器はキング翼インディアン防御で、二次武器はグリューンフェルト防御だった。どちらも現れなかった。キング翼インディアン防御が現れなかった理由は三つあったと思う。(1)スパスキーは十分研究していたはずだった。(2)スパスキーはがっぷり組み合ったゼーミッシュ戦法の使い方が非常にうまかった。(3)キング翼インディアン防御には広さとクイーン翼のポーン陣形に根本的な問題がある。フィッシャーはキング翼インディアン防御を使わなくて正解だった。このことは1992年の番勝負でフィッシャーの7局のキング翼インディアン防御のうち5局が不満足な局面だったことから確認できる。

 フィッシャーはそれまでスパスキーとの2局のグリューンフェルト防御で負けており(1966年と1970年)、また白の優勢な中央と対したくなかった。1992年ではグリューンフェルト防御は現れなかった。

結論 フィッシャーの布局の基本的な選択は時の試練に耐えた。いくつかにおいて少し改良があっただけだった。

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2016年11月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(214)

「Chess Life」1998年7月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5

 チェスの世界は科学と創造の時代に入っている。布局では新しい道が探検され、以前から知られていた道は疑問に付されたり拡張されたりしている。熱心な探検者の中には強くて創造的で恐れを知らぬイギリスのグランドマスターのジュリアン・ホッジソンがいる。彼は1980年代後半に白が黒枡ビショップを早々とg5に展開するのを大前提とする得意戦法を作り上げ始めた。具体的には 1.d4 d5 2.Bg5 と 1.d4 Nf6 2.Bg5 がその布局である。

 1989/90年のスタバンゲル(ノルウェー)国際大会で彼と黒で対戦することになった時、初手にどう応じるか決めるために自分の研究ノートに当たってみた。1.d4 d5 2.Bg5 について得られた情報はほんのわずかで、自信が持てなかったので 1…Nf6 と指すことにした。

 今ではかなりの信頼できるデータがあり、白と黒の着想を簡潔に紹介することは読者の興味を引くはずだと判断した。探検の確固とした主導者は戦法にその名前を付けられてしかるべきである。それがこのホッジソン攻撃という名前である。布局コードはD00である。

 出発点となる局面は 1.d4 d5 2.Bg5 から始まる。

 歴史的に白の2手目の出撃が無害で素人っぽいとみなされてきたことはほとんど驚くにあたらない。その理由は次のとおりである。

1.白は手番を利用してd5に圧力をかけることをしていない。

2.白は「ビショップより先にナイトを展開すべし」という経験則に違反している。

3.このビショップは何も狙っていないし弱点となる可能性のある個所を攻撃してもいない。

4.このビショップは黒陣側にいていくらか不安定で、簡単に押し戻される。

 それでも多くの強豪GMたちは今ではホッジソン攻撃を用いている。どうしてだろうか?それには二つの大きな理由があると考えられる。

1.このビショップは黒のeポーンを釘付けにして黒の黒枡ビショップが自然な斜筋につくのを妨害しているので目障りである。

2.黒はこのビショップを追い返すのにやりすぎて、自陣をひどく弱めるかもしれない。

 現在のところ黒のよく指す手は5手あり、個人的な好みと評価に基づいて「最悪から最善」の順で考察していく。

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2016年11月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(215)

「Chess Life」1998年7月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 1)2…f6 GMドラガン・コシッチ対GMムラーデン・パラツ(アンツィオ、1994年)

 このビショップを追い払う欠点のない方法があるので、キング翼を弱めg8のナイトから自然なf6の地点を取り上げることはまったく必要ない。私はこの手を信用していない。

3.Bh4

 このビショップをh4-d8の斜筋に置いておくのは一貫性のある指し方だと思う。ホッジソン対ラリッチ戦(ガーンジー、1994年)では白は 3.Bf4 と指した。そして 3…Nc6 4.Nf3 Bf5 5.e3 Qd7?! 6.a3 g5 7.Bg3 h5 8.h3 e6 9.c4 Nge7 10.Nc3 Bg6 11.Bh2! Bh7 と進んだとき、白は手損の 12.Nb5?! の代わりに 12.Rc1 と指していたら明白な優勢を保持していただろう(GMボグダン・ラリッチ)。

3…Nh6 4.e3 c5

 黒はポーンを手当たり次第に突けると思っている。3手目と関連した継続手は 4…Nf5 である。もっとも 5.Bd3! Nxh4 6.Qh5+ g6 7.Qxh4 となるとキング翼の弱点の代償がどこにあるのか私には分からない。

5.dxc5 e5?!

 どうして普通に 5…e6 と突いてdポーンを安全にしないのだろうか。

6.Nc3 Be6 7.Bb5+ Kf7?!

 普通の 7…Nc6 でも 8.Qd3 から 9.O-O-O または 8.Nf3 Nf5 9.Nxe5!?(コシッチ)で白の主導権が強力になる。

8.Nf3 Be7 9.Ba4! Qa5?

 白は 10.Bb3 でdポーンを取る手を狙っていた。黒は 10.Bb3 に 10…Rd8 でクイーン翼ナイトを釘付けにすることにより対処できると期待していた。しかし入り乱れた局面ではしばしば戦術に最終決定権がある。黒は 9…Nc6 と指す必要があったが、10.Bb3 でポーン損の見返りがないままである。

10.Nxe5+! fxe5 11.Qh5+ g6

 11…Kf8 は 12.Qe8# で詰みになる。

12.Qxh6 Bxh4 13.Qxh4 Qxc5 14.O-O-O Nc6 15.Nxd5! Bxd5 16.Rxd5 黒投了

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布局の探究(216)

「Chess Life」1998年7月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 2)2…c5 GMジュリアン・ホッジソン対GMイワン・ソコロフ(フローニンゲン、1996年)

 黒のこの手も威勢がいい。もっとも少なくともキングからは遠い所でやっている。それでも黒がこんなことをやる余裕があるのかは疑問に思う。

3.dxc5! f6 4.Bh4 e5 5.e4! Be6

 これがホッジソン対ファン・ベリー戦(ホルゲンB組、1995年)の 5…dxe4 を改良しようとしたソコロフの手だった。その試合は 6.Qxd8+ Kxd8 7.Nc3 Bxc5 8.O-O-O+ Nd7 9.Nxe4 Be7 10.f4! exf4 11.Nf3 Kc7 12.Nc3! Nb6 13.a4 Bb4 14.a5! Bxa5 15.Nb5+ Kb8 16.Rd4! と進んで白が展開で大差をつけ勝勢になった。『チェス新報』第65巻第350局のホッジソンの解説をぜひ読んで欲しい(79手で白の勝ち)。

6.exd5 Qxd5 7.Qxd5 Bxd5 8.Nc3 Be6 9.Nb5!

 白は駒の働きに優り、黒の陣形上の弱点と相まって、クイーンが交換されたことにより明らかな優勢が保証されている。

9…Na6 10.f4!

 白のこの手は力強い。10…exf4 なら 11.Ne2! で白の両方のナイトが重要なd4の地点に行ける。それほど厳しくない者なら 10.Nd6+ で満足するだろう。

10…Bxc5 11.fxe5 fxe5 12.O-O-O Nf6 13.Nf3 O-O 14.Nxe5 Ne4 15.Nd4! Bxa2 16.Bxa6 bxa6 17.Rhe1!

 白はポーンの形が良く(cポーンはパスポーン!)、5個の駒は黒の散らばった駒と弱点につけ込むようによく協調している。読者は『チェス新報』第68巻第325局のホッジソンの解説を読んでみて欲しい。白は次のように勝ちを決めた。

17…Nf6 18.Bxf6! Rxf6 19.Nd7 Bxd4 20.Rxd4 Rc6 21.Ne5 Rc5 22.b4 Rc7 23.Kb2 Be6 24.c4! Rf8 25.Kc3 Bc8 26.Red1! Re7 27.Nc6 Rc7 28.Na5! Rf2 29.R1d2 Rf1 30.c5 h6 31.c6 Kf7 32.Kb2 Ke7 33.Re2+ Kf7 34.Nc4! Bf5 35.Ne3 Re7 36.Rdd2! Rb1+ 37.Ka2 Bg6 38.Rd7! Rxd7 39.cxd7 黒投了

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2016年11月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(217)

「Chess Life」1998年7月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 3)2…g6 GMイゴール・ミラディノビッチ対GMスピリドン・スケンブリス(アノ・リオシア、1997年)

 この手は正当な作戦に見える。白が黒の黒枡ビショップの正常な展開を邪魔しているので、黒はそのビショップをフィアンケットする。しかし本局は私がこれまで見たことのある唯一の重要な試合で、確かな評価は不可能である。ここから至ることのできる既知の戦型は黒のフィアンケットに対するトーレ攻撃で、1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.Bg5 Bg7 4.Nbd2 d5 5.e3 となる。しかし本局はまったく違った方向へ進む。

3.e3 Bg7 4.c3

 代わりに 4.Nf3 ならトーレの局面になるだろう。積極的な 4.c4 には黒は 4…c5 と反撃するとスケンブリスが指摘している。

4…Nd7 5.Bd3 Ngf6 6.Nd2 c5 7.f4?!

 本譜の手は積極的すぎて展開で手損をし中央の白枡を弱めているとのスケンブリスの説に同感である。7.Ngf3 なら通常の手である。

7…Qb6! 8.Rb1 Qe6! 9.Qf3 cxd4 10.cxd4 h6 11.f5

 この手で局面がかなり急迫した。11.Bxf6 Nxf6 12.Bb5+ なら普通である。

11…gxf5 12.Bxf5 Qa6 13.Bh4 Nb6 14.Ne2 Bxf5 15.Qxf5 Rc8 16.Nc3 O-O

 局面は混戦模様である。実戦でミラディノビッチは 17.Bxf6 と指したが、あまりうまくいかなかった。代わりにスケンブリスは 17.Rf1!? や 17.Qf1!? の方が優るかもしれないと指摘している。この局面が再び出現する可能性はほとんどないので、ここで止めておく。この熱戦は60手で引き分けに終わった。『チェス新報』第68巻第327局でスケンブリスが詳細に解説している。

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2016年11月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(218)

「Chess Life」1998年7月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 4)2…Nf6 3.Bxf6

 この戦型の実戦的な重要性は、この局面が 1.d4 Nf6 2.Bg5 d5 3.Bxf6 という手順からも生じるので増している。自発的に二重ポーンを受け入れるのは私の棋風と相容れないが、気にしない人にとっては問題ない。

 4A)3…exf6 GMジュリアン・ホッジソン対GMセルゲイ・ティビアコフ(フローニンゲン、1994年)

 黒はこう取り返して自分のビショップのために格好の斜筋を確保する。もっとも中央での影響力が減少するという代価を払っている(3…gxf6 と比較して)。私はこれを「快適展開」戦型と呼んでいる。

4.e3 Be6 5.g3!

 黒にはeポーンが欠けているので、白の戦略目標はc4またはe4にポーンを突いて黒のd5の中央拠点に挑むことである。黒はこれらのポーン突きを無効にするか阻止しようとする。

5…f5! 6.Bg2 c6 7.Nd2 Nd7 8.Ne2 Bd6 9.b3

 9.O-O は 9…O-O 10.c3 Nf6 11.Qc2 Ne4 12.Nf4 Bxf4 13.exf4 b6 14.Nf3 f6 となって黒が大変堅固で大したことがなかった。このアダムズ対ティビアコフ戦(番勝負第10局、ニューヨーク、1994年)は23手目で合意の引き分けに終わった。

9…Nf6 10.c4 Bb4!? 11.O-O!? Bxd2

 黒は挑戦に応じた。考えを変えて 11…dxc4 と指すこともできたが、12.Nxc4 でそれまでの指し手が無駄になり白にわずかな有利が約束される。

12.Qxd2! dxc4 13.Nf4! cxb3 14.Nxe6 fxe6 15.Rfb1 O-O 16.Rxb3

 クイーン翼の素通し列、いくらか不安定なe6-f5ポーン、白のキズのないポーン陣形、それに白駒の連係の良さは白にポーンの代償があることを意味している。残りの指し手と形勢記号でこの項を締めくくる。ティビアコフは『チェス新報』第62巻第394局で本局を詳細に解説している。

16…Qd7 17.Qb4 Rfb8! 18.Rab1 Nd5 19.Qa4 b5!? 20.Qa5 Rb6 21.Rc1 Qb7 22.a3 Ra6 23.Qe1 Qd7 24.Rc5 Rb8 25.h4! Rab6 26.h5 Qf7 27.Bf3 Rd8 28.Rb2 Rd6 29.Kg2 Nf6 30.Qb4 Nd5 31.Qe1 Nf6 32.Qb4 Nd5 33.Qa5!? Qb7 34.Qe1 Nf6 35.Rbc2 Qd7 36.Qh1!? a5?! 37.Qh4?! h6 38.Qf4 a4 39.Qe5 Ra6 40.Rc1 Rb6 41.R5c2 Nd5 42.Rc5 Nf6 43.R1c2 Nd5 引き分け

 4B)3…gxf6

 中央に向かって取り返すことにより黒はそこでの可能性を高めた。それでも展開の遅れと黒キングのいくらかの不安定という二律背反は避けられない。白はそれにつけ込むために局面の開放に努めるべきである。「微温的」態度では何にもならない。4.e3 c5 5.c3 Qb6 6.Qb3 e6 7.Nd2 Nc6 8.Ngf3 Bd7 9.Be2 Na5 10.Qc2 cxd4 11.exd4 Bb5 12.Bxb5+ Qxb5 13.a4 Qc6 14.O-O Bd6 は互角である(フェルナンデス対タタイ、バルセロナ、1985年)。

 今のところ実戦例は数少ない。4.c4 dxc4 のあとの典型的な実戦例を年代順に3局示す。

 4B1)5.e3 c5 6.Bxc4 cxd4 7.exd4 Bg7 8.Ne2 O-O 9.Nbc3 Nc6 10.Qd3! Nb4?!(ひどい手損。10…f5 11.Rd1 e5! と指すことが必要)11.Qd2 Bf5 12.O-O Rc8 13.Bb3 e6 14.Rfd1 Qe7 15.a3 Nc6 16.d5 白が優勢(ロメロ・オルメス対スンイェ・ネト、ベナスケ、1985年)

 4B2)5.Nc3 c6 6.a4 e5! 7.Nf3 Bg7 8.e4 Bg4 9.Bxc4 exd4! 10.Qxd4 Nd7 ここから 11.Qe3?! Qb6! 12.Qxb6 と進んだとき黒は 12…axb6 と取っていればわずかに優勢な收局にできた(ホッジソン対ブル、アマンテーア、1995年)。IMアルカディ・ブル は白の改善策として 11.Nh4 と 11.Be2 を示した。これならほとんどいい勝負だろう。

 4B3)5.e3 Rg8!? 6.Nc3 c6 7.Qc2 f5 8.Bxc4 Rxg2 9.Nf3 e6 10.O-O-O(メドゥナ対ブル、プラハ、1996年)ブルは黒の正着として 10…Nd7 をあげ、11.e4 や 11.Rhg1 で白に完全に代償があると考えている。

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2016年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(219)

「Chess Life」1998年7月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 5)2…h6! 3.Bh4 c6!

 私はこのやり方こそホッジソン攻撃を指す楽しさのほとんどを取り去ると考えている。黒は全然代価を払うことなく白のビショップをg5より劣る地点(このビショップにとってはe1-h4の斜筋よりもc1-h6の斜筋の方が有用である)に追いやり、本譜の手のあと 4…Qb6 で白のbポーンを脅かす用意をしている。4…Qb6 は先手になりeポーンを釘付けからはずして黒枡ビショップを本来の斜筋に沿って展開できるようにする。黒の作戦には戦略上も戦術上も欠点がない。

 グランドマスターの中には 2…c6 から 3…h6 という手順の方を好む者がいる。私には本譜の方がわずかに正確に感じられる。ビショップをf4に置く機会を白に与えないからで、すぐに 3.Bf4 は明らかに無害である。

 5A)4.Nf3 Qb6 ホッジソン対アディアント(アムステルダム、1996年)

5.b3

 こう突くとクイーン翼がいくらか弱体化する。しかし 5.Qc1 だと 5…g5!? 6.Bg3 g4 7.Ne5 Qxd4 というようにdポーンを取られる恐れがある。デュールース対ボルゲ戦(レイキャビク、1996年)では黒は中央での優位と働きに優る駒で次のようにはっきり優勢になった。8.Nd2 Nd7!? 9.c3 Qb6 10.Nxg4 h5 11.Ne5 Nxe5 12.Bxe5 f6 13.Bf4 e5 14.Be3 c5 15.f3 Be6 16.Bf2 O-O-O 17.Qc2 Kb8 18.O-O-O Ne7 19.Kb1 Bh6

 もちろん 5.Qc1 に対して 5…Bf5 と堅実に展開を図れば、まったく理にかなっていて完全に互角を目指す満足できる手段となる。特に明快な局面の方を好む者にとってはうってつけである。

5…Bf5 6.e3 e6 7.Bd3 Bxd3 8.Qxd3 Nd7 9.O-O Be7 10.Bxe7 Nxe7 11.c4 O-O 12.Nc3 Qa6

 ここを手始めにアディアントはクイーンとナイトの配置を誤った。12…Rfd8 から 13…Rac8 ならほぼ互角である。

13.Rfd1 Nb6?!

 ホッジソンは 13…Rfd8 には 14.Rac1 で互角の形勢としている。本譜で白は巧みな捌きで優勢な收局を築き見事な勝ちを収めた(『チェス新報』第67巻第449局にホッジソンの解説が載っている)。

14.Rdc1! dxc4 15.Qf1 Nd7 16.bxc4 c5 17.d5 Rad8 18.Rab1! exd5 19.cxd5 Qxf1+ 20.Kxf1 b6 21.a4 f5 22.a5 Nc8 23.Nb5! bxa5?! 24.Nc7! Rf7 25.Rb5 Ncb6 26.Rxa5 Nf6 27.Rcxc5 Rdd7 28.Rxa7 Nfxd5 29.Nxd5 Rxd5 30.Rcc7 Rxc7 31.Rxc7 Nd7 32.Nd4 Nf6 33.Ra7 g6 34.h4 f4? 35.Nc6! Rd7 36.Rxd7 Nxd7 37.exf4 Nc5 38.Ke2 Kg7 39.Nd4 Nb7 40.g4 Nd6 41.Kf3 h5 42.g5 Kf7 43.f5! gxf5 44.Kf4 Kg6 45.f3 Nb7 46.Nxf5 Nc5 47.Nd4 Nd3+ 48.Kg3 黒投了

 5B)4.e3 Qb6 アダムズ対ピケット(ベイクアーンゼー、1996年)

5.Qc1

 白のdポーンは安全だが、別の戦術の可能性が頭をもたげている。それは守られていない状態のh4のビショップである。だから黒はすぐに 5…e5!? と突くことができる[訳注 6.dxe5 なら 6…Qb4+]。5.Qc1 でなく 5.b3 なら黒にはやはり意欲的な 5…e5!? と堅実な 5…Bf5 の選択肢がある。これらのどの場合でも黒がいずれ正当な互角を期待する理由が十分にある。

 この試合はどこかでほんのわずかの進展を白が図るのも防ぐ黒のやり方を絵に描いたように完璧に見せつけてくれる。

5…Bf5 6.Nf3 e6 7.Be2 Nd7 8.Nbd2 Be7 9.Bxe7 Nxe7 10.c4 O-O 11.O-O a5!

 白がクイーン翼で陣地を広げるのを防いだ。

12.b3 Rfc8! 13.Qa3 Qd8! 14.Rfc1 Bg6 15.Qb2 c5!

 黒は中央での対等な関係を達成した。

16.cxd5 Nxd5 17.dxc5 Rxc5 18.Rxc5 Nxc5 19.Qd4 Qf6! 20.Rc1 引き分け

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2016年12月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(220)

「Chess Life」1998年9月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く

 攻撃は好きだが明快な戦略に基づいていたいなら、1.e4 に対する黒としてシチリア防御ドラゴン戦法をお勧めする。フィアンケットされたキング翼ビショップには中央で戦術の題材がいろいろとあり(特に白のd4のナイトに関するもの)、白がクイーン翼にキャッスリングすれば(人気断トツの作戦)キング翼ビショップの利きがずっと白のクイーン翼まで届く。

 しかし本稿の目的は白にも両方いい手法を示すことである。その意味するところは白が活気のある局面を保持し黒の猛襲を最小限にできるということである。40年以上に渡る最も重要な戦型はユーゴスラビア攻撃で、今日でも流行している。

 次の手順がユーゴスラビア攻撃の出発点である。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6

 両者の作戦概要ははっきりしている。

 はクイーン翼にキャッスリングし、hポーンを突き進めてh列を素通しにし、黒枡ビショップ同士を交換することにより黒のキング翼を弱体化させる。

 は自分が詰まされないうちに白キングを攻撃する必要がある。その攻撃は通常は半素通しc列を利用して行われる。

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2016年12月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(221)

「Chess Life」1998年9月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅰ.9.O-O-O [B76]
GMファン・デル・ビール対GMティビアコフ(ベイクアーンゼー、1994年)

 この明快な手が最も初期の手だった。白はキングを比較的安全な所に移し、10.h4 からh列を素通しにするように努める。これは黒がキング翼ビショップをフィアンケットするのにgポーンを突かなければならず白の h4-h5 突きにさらされるということにも助けられている。

 私の考えでは黒は白の狙いに精力的に反応する必要がある。黒を持つ選手の中にたとえ 9…Nxd4 10.Bxd4 Be6 や 9…Bd7 で指せるということを示そうという者がいても、私の評価ではそれらの手は「得るものより失うものの方が多い」。

9…d5!?

 黒を死地から引っ張り上げたのはこのポーン捨てで、1955年頃のことだった。

10.exd5

 当時も今もこの手が普通である。それでもここ2、3年は白側の選手が 10.Qe1 や 10.Kb1(10…dxe4?? は 11.Nxc6 で黒の負け)を試している。

10…Nxd5 11.Nxc6 bxc6 12.Bd4

 欲張ってはいけない。つまり 12.Nxd5 cxd5 13.Qxc5 Qc7! 14.Qxa8?(14.Qc5 Qb7 は黒に完全にポーンの代償がある)は、14…Bf5 15.Qxf8+ Kxf8 16.Rd2 h5! となって、クイーンと双ビショップが白のクイーン翼をにらんでいるので黒が優勢である。

12…e5!

 ドラゴンを指すなら初志貫徹すべきである。12…Nxc3 13.Qxc3 Bh6+ 14.Be3 や 12…Bxd4 では引き分けを目指してはいつくばることになる。

13.Bc5 Be6!

 黒枡ビショップの斜筋がふさがっているのでここで 13…Re8?! は 14.Nxd5 cxd5 15.Qxd5 で白が比較的安全にポーン得になる。これに対して本譜の手のあと 14.Bxf8?! と取るのは 14…Qxf8 と取り返されて黒に交換損の代償がいっぱいある。それらは急所の黒枡の支配、b列での有望な作戦、そして目下の 15…Bh6 の狙いである。

14.Ne4! Re8! 15.h4

 白は黒の中央での反撃を無効にし 16.h5 でh列を素通しにする用意をした。黒は次の3手のどれかでそれを防がなければならない。

 (1)15…h5 は恒久的にg5の地点を弱める。ティビアコフは 16.Kb1、16.g4 そして 16.Ng5 を白が優勢を目指すための本筋の手段としてあげている。

 (2)15…h6 はキング翼全体を恒久的に弱める。それにつけ込んだお手本がエールベスト対マリン戦である(カルカッタ、1997年)。16.g4 Qc7 17.g5! h5 18.Bc4 Red8 19.Qf2 a5 20.a4! Qb7 21.Rhe1! Rab8 22.b3 Nf4 23.Bxe6 Nxe6 24.Nf6+ Bxf6 25.gxf6 Rd5 26.Bd6 Rd8 27.Bxe5 Qb4 28.Rxd5 cxd5 29.Bb2 d4?! 30.Rxe6! fxe6 31.Qg3 Kf8 32.Kb1 Qb7 33.Qxg6 Qf7 34.Ba3+ Ke8 35.Qh6 e5 36.Qg5 Rd5 37.Qf5 Kd8 38.f4 d3 39.cxd3 Rd4 40.Be7+ Kc7 41.Qxe5+ 黒投了。『チェス新報』第69巻第213局にGMエールベストの詳細な分析が載っている。

 (3)15…Nf4 が実戦の手である。

15…Nf4

 この応手が良いとされている。黒は少し劣勢の收局を甘受してでも白の攻撃の機会を削減する気である。白が拒否する理由はない。

16.g3 Qxd2+ 17.Rxd2 Nh5 18.g4 Nf4 19.h5 Bd5 20.hxg6 fxg6!

 黒はf3の地点に対してf列で反撃策を作り出しながらh列を閉鎖したままにできることを望んでいる。20…hxg6?! は劣っていて、21.Be3! Ne6 22.Bd3! で白の攻撃が危険なものとなる(ファン・デル・ビール)。

21.Rdh2 h6 22.Rf2 Ne6 23.Be3 Rf8! 24.Nd2 Nf4 25.Bc4 Rf7 26.Rd1 Rb8 27.Bb3 a5 28.Ne4 Rbf8?!

 28…Bxb3 29.axb3 Nd5 30.Bc5 ならファン・デル・ビールによれば白の優勢はほんのわずかだった。

29.c4! Bxe4 30.fxe4 Kh7

 30…Nd3+ は 31.Rxd3 Rxf2 32.c5+ Kh7 33.Bxf2 Rxf2 34.Rd6 となって明らかに白の方が優勢である。

31.c5 Rb7?! 32.Rd6 Rc8 33.Rfd2! Rcc7 34.Ba4 Bf8! 35.Rxc6?! 引き分け

 白は残り時間が少なくて引き分けに同意した。ファン・デル・ビールは『チェス新報』第59巻第251局にGMジョン・ナンによるものとして次の決定版の分析を載せている。35.Kd1!! Bxd6 36.cxd6 Rc8 37.d7 Rd8 38.Bxc6 Rbb8 39.Bc5 これで白はほぼ勝勢である。

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2016年12月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(222)

「Chess Life」1998年9月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4

 白は 9.O-O-O の戦型で 9…d5!? のために多大の困難を抱えていたので、本譜の手が 9…d5 を防ぎf7の地点をにらむ「一石二鳥」の手として1956年に登場した。黒は白枡ビショップを展開してからc列での反撃のためにルークをc8に回すのが良い。c4のビショップが浮いているので黒は貴重な先手がとれる。

9…Bd7 10.O-O-O

A.10…Rc8 [B78]
アーナンド対カスパロフ(1995年GMA(グランドマスター協会)世界選手権戦第11局)

11.Bb3 Ne5 12.h4 h5

 ドラゴン通は1手をかけキング翼を弱めてでも白のhポーン突きを防がなければならないと断定してきた。代わりに 12…Nc4 は 13.Bxc4 Rxc4 14.h5! Nxh5 15.g4 となって攻撃の可能性があるのは白の方だけで、典型的なドラゴン選手にとっては絶対面白くない状況である。

13.Kb1!?

 カスパロフが公式戦でドラゴンを採用したのはこの試合が初めてだったので、アーナンドは当然のことながらとてつもなく複雑な戦型の 13.Bg5 Rc5 に進むのを警戒した。

 いずれにしても私の考えでは「気持ちよく」攻撃する局面にしたい者にとって本譜の手と15手目に関連した構想は大いに有効である。黒は1手損をし自分のキング翼を 12…h5 で恒久的に弱めた。一方白はキングを安全にする余裕が少しあったし攻撃も続けている。

13…Nc4 14.Bxc4 Rxc4 15.Nde2!

 この退却には目的がいくつもある。白は黒からの早い …Rxc3 の交換損を防ぎ、16.Bh6 で黒枡ビショップ同士の交換を狙っている(すぐの 15.Bh6? には 15…Rxd4! があるので駄目である)。

15…b5 16.Bh6 Qa5 17.Bxg7 Kxg7 18.Nf4

 過激な 18.g4!? は 18…hxg4 19.h5 gxf3 20.hxg6 fxg6 で形勢不明である。本譜の手は少し危険があっても主導権を発揮するという白のこれまでの指し方の精神により合致している。

18…Rfc8 19.Ncd5! Qxd2

 カスパロフはここで引き分けを提案した。アーナンドは4分考えて受諾しなかった。カスパロフは勝てそうにはとても思えずこれからの收局にいくらか不安を感じていたと言って間違いない。実際そのとおりである。e4のポーンのおかげで白は中央が広く、e7のポーンにはいくらか圧力がかかっていて、白にはあとでクイーン翼の多数派ポーンを発展させる見通しがある。

 あとでカスパロフは次のような鋭い変化を指摘した。19…b4!? 20.Nxe7 Rxc2 21.Qxd6 b3! 22.axb3 Rxb2+ 23.Kxb2 Qc3+ 24.Ka2 Rc5 25.Qxc5 Qxc5 26.Ned5 そしてこの局面を「形勢不明」と判断した。しかし実戦で彼がこの危険を冒したくなかったのは注目に値する。

20.Rxd2 Nxd5 21.Nxd5 Kf8 22.Re1 Rb8

 黒は反撃を探し続けて何も見つけられないでいる。

23.b3 Rc5 24.Nf4 Rbc8 25.Kb2 a5 26.a3 Kg7?!

 黒キングは中央に近い所にいるべきだった。26…Ke8 なら筋が通っている。もっとも 27.Re3 に黒は b3-b4 の可能性に用心しなければならず、何も見落としをしないよう注意しなければならない。

27.Nd5 Be6?

 カスパロフは反撃のきかない守勢の局面が嫌いである。これが異筋の本譜の手に打って出た説明になる。黒は控え目で注意深い 27…Kf8 と指す必要があった。

28.b4?

 ここからアーナンドの自滅が始まった。明らかに 28.Nxe7 が強手で、カスパロフの読み筋の 28…Re8 29.Nd5 Bxd5 30.b4 axb4 31.axb4 Rc4 32.Rxd5 Rxb4+ には 33.Kc3!! Rc4+ 34.Kb3 Rec8 35.Re2 Rc3+ 36.Kb2 で 37.Rxb5 または 37.Rxd6 で重要なポーンが取れる。

28…axb4 29.axb4? Rc4 30.Nb6?? Rxb4+ 31.Ka3 Rxc2!! 白投了

 32.Rxc2 Rb3+ 33.Ka2 Re3+ で黒がルークを取り返し完全に2ポーン得になる。

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2017年01月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(223)

「Chess Life」1998年9月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4 Bd7 10.O-O-O

B.10…Qa5 [B79]
ナン対ウォード(ヘイスティングズ、1997~98年)

11.h4 Rfc8 12.Bb3 Ne5

 『チェス新報 』の初版が出版された1975年でも黒はこう指すのが良いと考えられていた。しかし一番の否定面はc列での黒の反撃開始が1手遅いということである。二番目は黒のキング翼ルークがキング翼からいなくなっているということである。

13.h5! Nxh5 14.Nd5!

 黒にとって意外で不快な事態の変転である。クイーン無し中盤戦を強いられ、白にだけ攻撃の可能性があり、白は好きな時に犠牲にしたポーンを取り返すことができる。

 白のもっと野心的な作戦は黒にとって楽である。つまり 14.Bh6? Bxh6(14…Nd3+! も良い手である)15.Qxh6 Rxc3! 16.bxc3 Nf6! は黒が好条件で主眼の …Rxc3 の交換損をやってのける(既に黒が少し優勢)。代わりに 14.g4 Nf6 15.Bh6 は 15…Rxc3! 16.bxc3 Bxh6 17.Rxh6 Rc8 でほぼ互角だが、黒の選手が望んでやまないたぐいの動的な局面である。

14…Qxd2+ 15.Rxd2 Kf8 16.g4 Nf6 17.Rdh2!

 白はキング翼での圧力を強め、これからの難儀を最小限にする最良の方策について黒を五里霧中にさせた。

17…Nxd5 18.Bxd5 Nc6

 18…Rc7 に対してナンは 19.Rxh7 Rac8 20.c3 を示している。白の攻撃は危険を「伴わない」し、戦力も互角である。本譜の手は駒交換によって白の攻撃力をそぐ理にかなった目的だが、黒の攻撃の可能性を完全に殺す欠点もある。

19.Nxc6 bxc6 20.Bc4 h6

 この手は黒枡ビショップ同士の交換を実現させるが、局面を白ルークのためにさらに開放することになる。しかし 20…Be6 21.Bxe6 fxe6 では 22.Bh6 で白の優勢は変わらない(ナン)。

21.Bxh6 Bxh6+ 22.Rxh6 e6

 22…e5 は 23.Rh7 Be8 24.g5 Rd8 25.Rh8+ Ke7 26.R1h7 で良くない。そして 26…d5?! と突くと 27.exd5 cxd5 28.Rxe8+! Rxe8(28…Kxe8 でも 29.Bxd5!)29.Bxd5 で白がはっきり優勢になる(ナン)。

23.f4! Ke7 24.e5

 24.f5 も良い手である。本譜の手で白は攻撃を継続する前にさらに締めつけようとしている。

24…dxe5?!

 黒は 24…d5 で局面を閉鎖的に保った方がもっと抵抗の見込みがあったと思う。

25.fxe5 a5?!

 この手と次の手を指している余裕はない。ナンは守勢の防御の 25…Rg8 26.Rh7 Be8 27.Rf1 Rb8 の方が黒が持ちこたえる可能性があったと指摘している。しかし 28.b3 から白キングが出てくるので黒にとって嫌な局面である。

26.Rh7 a4?! 27.Rf1 Be8 28.Rf6! Ra5

 これではなすところなく負ける。しかし意図していた 28…Kd8 と逃げる手は 29.Bxe6! fxe6 30.Rxe6 Rcb8 31.Rd6+ Kc8 32.Re7 でひどいことになる。

29.Rxe6+ Kd8 30.Rd6+ Ke7 31.Re6+ Kd8 32.Rf6! Rxe5 33.Bxf7 Ke7

 33…Rc7 には最も単純な 34.Bxg6 で良い。

34.g5! Rxg5 35.Re6+ Kf8 36.Bxe8 黒投了

 最後に以下のコメントを付け加えたい。GMジョン・ナンはここ20年間で最も偉大な攻撃的選手の一人である。彼は複雑さを避けることもなければ捨て駒を避けることもしない。それでも最大の得点をあげる重要なやり方は、何の危険もなく危険な攻撃ができるならばどうして紛糾させるのか、ということである。

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2017年01月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(224)

「Chess Life」1998年10月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀

 以前の本稿である局面をより深く理解することがどのように白にとっても黒にとっても布局戦法の復活につながってきたかを話題にした。今回は戦術と洗練された戦略の機会を与えてくれる戦法を取り上げる。この戦法は現代のチェスの舞台ではほぼ完全に忘れ去られている。

 私の考えではこの戦法は「見かけより優秀」で、言い換えれば定跡での評判より優秀である。以下の事実は人気のなさを示している。『チェス新報C巻』の初版(1974年)では2行と8脚注が割り当てられていた。第2版(1981年)ではまだ同じ2行と8脚注だった。それが第3版(1997年)ではたった1行だけになった。

 これ以上気をもたせないように言ってしまうと、それはルイロペスのリガ戦法(C80)である。この名前は1906~1907年(資料によっては1907年だったり1908~1909年だったりする)に行われたベルリン対リガの通信戦からきている。通常の手順は次のとおりである。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

 この局面は黒にとってこの上なく危険そうに見え、実際そのとおりである。黒は展開が遅れ、キングが元の位置で動かないままで、両方のナイトとも釘付けにされている。(実際同時指導対局で何回かこのような局面から簡単に勝ったことがある。)しかしリガの選手たちは黒の創造的な戦術の可能性を発見し、そのことでこの戦法が(定跡で)生き延びることになった。

 白の順当な手はⅠ)8.Ne5、Ⅱ)8.c4、Ⅲ)8.Bg5、Ⅳ)8.Nxd4 の4とおりある。最後の2手がより重要で、それらに重点をおき、残りの2手は簡単に手順を示すだけにする。

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2017年01月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(225)

「Chess Life」1998年10月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅰ)8.Ne5

 白はc6のナイトに脅威を与え、e4のナイトを攻撃するためにfポーンを自由にした。だが黒にはこれぞという戦術の一発がある。

8…Bd6!

 ぴったりの受けである。8…Qf6? は 9.Nxc6 Qxf2+ 10.Kh1 Bd7 11.Nd2! bxc6 12.Nxe4 dxe4 13.Rxe4+ Kd8 14.Rxd4 Bd6 15.Bf4 c5 16.Rxd6! で黒の負けになる。

9.Nxc6

 白はチェックの千日手にしぶしぶ同意するしかない。9.Qxd4?! と取るのは 9…O-O 10.Nxc6 bxc6 11.Bxc6 Bc5 で黒が優勢になる。

9…Bxh2+! 10.Kxh2

 8.Nxd4 の場合と異なり(後述)d列がふさがったままなので 10.Kh1? は負けになる。

10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ 引き分け

Ⅱ)8.c4

 この手はe4のナイトの守りをたたくことによりそのナイトを切り崩す理にかなった着想である。『MCO(Modern Chess Openings)第12版』(1982年発行)では主手順とされていたが、ほとんど探求されていないままである。

8…dxc3e.p.

 ここからはヤネーチェク対シェフラー戦(ウィーン、1961年)の手順を追う。『ECO(Encyclopaedia of Chess Openings)』(第3版)は 8…Bb4 を改良手の候補として指摘し、9.cxd5 Bxe1 10.Qxe1 O-O 11.dxc6 Nc5 12.Qb4 という手順を示して「白が少し優勢」としている。私にはかなり形勢不明の局面に見える。

9.Nxc3 Be6 10.Nd4 Qd7 11.Nxc6 Nxc3

 11…bxc6? は 12.Nxe4 dxe4 13.Qc2 Bd5 14.Rxe4+! で白の攻撃が本当に必殺になりそうである。

12.bxc3 bxc6 13.c4

 MCO第12版はここで終わっていて「白の攻撃が強烈」としている。一方ECOのC巻(第2版)は「白に犠牲にした戦力の代償と主導権がある」としている。どちらも正しいが、13…Kd8 で究極の形勢判断はそれほど明白でない。

Ⅲ)8.Bg5

 白は黒クイーンを当たりにすることにより別の駒を先手で攻撃に繰り出した。この手はヨハン・ベルガーがリガ戦法を咎める手の追究で1909年に初めて指摘した。

8…Be7

 理にかなっているのはこの手だけである。黒は展開を進め、攻撃駒との交換は歓迎する。ほかの手はかなり劣る。

A)8…f6? は 9.Nxd4! Bc5 10.Nxc6 Bxf2+ 11.Kf1 Qd7 12.Nc3! O-O 13.Nxd5 bxc6 14.Bxc6 fxg5 15.Bxd7 となって白が大きな戦力得で決定的な形勢である(ECO C巻[第2版])。

B)8…Qd6?! は 9.c4! dxc3e.p.(9…Be6 は 10.cxd5 Bxd5 11.Nxd4 f6 12.Nxc6 bxc6 13.Nc3 O-O-O 14.Nxe4 Bxe4 15.Qg4+ f5 16.Qe2 Bd3 17.Qe3 で黒陣は滅茶苦茶である)10.Nxc3 Be6 11.Nxe4 dxe4 12.Nd4! Qd5(12…b5 なら 13.Rxe4! bxa4 14.Qxa4 Qd5 15.Re5!、12…Be7 なら 13.Bxe7 Kxe7 14.Bxc6 bxc6 15.Rxe4 でどちらもはっきり白が優勢)13.Qc2 Bd6 14.Bh4! b5 15.Nxe6 fxe6 16.Bb3 Qc5 17.Qxc5 Bxc5 18.Rac1 となって白が勝勢の收局に近い。以上の変化はどれもJ.ベルガーによる。

9.Bxe7 Kxe7

 こう取る必要があるがそんなに悪くない。c6のナイトは釘付けからはずれ、キャッスリングしないキングには適度に安全な居場所が見つかる。「自然」な 9…Qxe7?! は 10.Nxd4 O-O 11.Bxc6 bxc6 12.f3 c5 13.Nc6(13.Nb3 c4 14.Nd4 c5)13…Qd6 14.Qxd5! Nf6! 15.Qxd6 cxd6 16.Rd1! で不利な收局になる。

10.c4

 10.Bxc6 bxc6 11.Nxd4 Kf8! 12.f3 Nf6 13.Nxc6 Qd6 の局面は1921年のクラウセの分析によるとほぼ互角のいい勝負となっている。これは正しそうである。

 本譜の手で白はまた主眼のd5とe4の切り崩しを目指している。ここからはGMビクトル・コルチノイの分析手順を追う。

10…dxc3e.p. 11.Nxc3 Be6 12.Bxc6 bxc6 13.Nd4 Nxc3 14.bxc3 Qd7 15.Qg4 c5 16.Nf5+ Kd8 17.Qxg7 Re8 18.Qxh7

 コルチノイはこの局面を白が少し優勢と判断している。戦術の要点は 18…Bxf5 に 19.Rxe8+ の切り返しがあることである。

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2017年01月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(226)

「Chess Life」1998年10月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4

 ベルリン対リガ対抗戦以来これが断然の主手順となっている。その論理には非の打ち所がない。白は犠牲にしたポーンの1個を取り返し、9.Nxc6 と 9.f3 の両方を狙っている。黒は窮地に陥っているように見える。しかしリガの選手たちが独創的な戦術を用意していたのはまさにこの手に対してである。

8…Bd6! 9.Nxc6

 もう引き返すには遅すぎる。クプチク対スタイナー戦(米国、1947年[1927年?])では白は 9.Qh5?! と指した。そして 9…O-O 10.Nxc6(10.Qxd5?? Bxh2+)10…bxc6 11.Bxc6 Rb8 12.Nc3(12.Bxd5? Nf6 13.Qd1 Nxd5)12…Nf6 13.Qf3 Bxh2+ 14.Kxh2 Qd6+ から 15…Qxc6 でもっと悪い結果になった。

9…Bxh2+!

 白には選択肢が三つある。

A)10.Kxh2

 これは単純かつ明快である。黒は 10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ ですぐにチェックの千日手による引き分けにできる。

B)10.Kf1?!

 これは安全そうに見えるが、その実黒に 10…Qh4 でチャンスを与える。

 1)11.Be3?! O-O 12.Nd4 Bg4 13.Nf3 Qh5 14.Nc3(14.c3 b5 15.Bc2 Rfe8 16.Bd3 Re6 17.Be2 Rf6 も黒の攻撃が決まった[プルーン対ケレス、通信戦、1932年])14…Rad8 15.Qd3 Bxf3 16.gxf3 Qxf3 17.Nxe4 dxe4 18.Qc3 Qh3+ 19.Ke2 Qg4+ 20.Kf1 Rd5 21.Bb3 Rh5 22.f3 exf3 白投了(マローツィ対ベルガー、ウィーン、1908年)

 2)11.Nd4+ b5 12.Be3 O-O! 13.Nf3 Qh5 14.Bb3 Bg4(14…c6 も有望[レオンハルト])15.Qxd5 Bxf3 16.Qxh5 Bxh5 17.Bd5 Rae8 18.Bxe4 Rxe4 19.g3 f5 20.Nd2 Rg4 ここで 21.Kg2? f4! で黒が優勢(二ホルム対レオンハルト、コペンハーゲン、1907年)の代わりに正着の 21.Nf3 Bxg3 22.fxg3 Rxg3 でほぼ互角

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布局の探究(227)

「Chess Life」1998年10月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1

 これが主手順である。

10…Qh4

 これで白の手は自殺手だったように見える。しかし白には非常手段のしのぎの手筋がある。

11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2

 駒の取り合いが終わり棚卸しの時機である。黒は小駒2個の代わりにルーク1個とポーン2個を取って、戦力的にはポーン半個分ほど得している。しかしほかの点では白が有利である。1)黒のルークが白陣に弱点を見つけるよりも、白の小駒が黒陣に弱点を見つける方が容易である。2)黒はキング翼の多数派ポーンを動員しようとしても黒枡の差し迫った弱点のために困難を抱える。3)黒キングは素通しのd列で不安を抱えていて、すぐには安全な避難所が見つかりそうにない(14…f5?? 15.Bg5#)。

 黒はキング翼の多数派ポーンを動員するのとeポーンを守るために …f7-f5 と突く必要があるので、まずビショップを展開する必要がある。

14…Be6 15.Be3!

 白は白枡ビショップのことに注意しなければならないが、…c5 を防ぐことによりその安全を確保した。15.Nc3?! は劣った手で、黒は 15…c5! でたぶん少し優勢になる。

15…f5 16.Nc3 Ke7

 ここが洗練された收局の出発点である。重要な実戦例3局を年代順に簡潔に紹介する。

 ジークベルト・タラッシュはここで 18.Nd5+ を狙いとする 17.Rd1 を推奨した。それは90年くらい前のことで、17…c6?! なら 18.Bb6! で黒のルークがd列で活動するのを防ぐ。しかしIMのストイカとニシペアヌ(今はGM)は『チェス新報』第68巻第302局で 17…Kf7! のあと 18…Rad8 で黒が問題ないと指摘している。

ベルリン対リガ、通信戦、1906~1907年?

17.g4 g6 18.g5

 無理矢理の黒枡戦略はうまくいかない。もっとも白の本当の問題は次の手で起こる。

18…Rag8!

 黒はこれで 19…h6 でキング翼の締め付けを突破する用意ができた。エドワード・ラスカー博士は『チェスの戦略』改訂第2版(1915年)で白は 19.Rg1! で黒の意図を妨げるべきだと指摘している。

19.Bd4?! h6 20.Bf6+ Kf7 21.Bxh8 Rxh8 22.Rd1

 ここで黒の作戦の深遠な意図が明らかになった。22.gxh6 Rxh6+ 23.Kg2 は 23…c5! から 24…b5 で白のビショップが捕獲される。本譜の手でビショップは助かるが、黒にはキング翼で4対1の圧倒的な多数派ポーンができる。

22…hxg5+ 23.Kg2 Kf6! 24.Bb3

 この手で 24.Nd5+? は 24…Ke5! 25.Nxc7 Bc4 から 26…Be2 で黒キングが詰み狙いの攻撃にさらされる。そこで白はビショップの交換を急いだ。その結果生じる收局は黒チームが少し有利である。白は29手目で防御態勢を達成できたが、白チームは40手目と41手目で指し過ぎて、黒がきれいに順当勝ちを収めた。残りの手順には形勢記号をいくつか付けておくだけにする。

24…Bxb3 25.axb3 Ke6 26.b4 Rh7 27.Ne2 Rd7 28.Nd4+ Kf6 29.c3 c6?! 30.Rh1! g4 31.Rh8 Re7 32.Ne2 Rd7 33.Nd4 Re7 34.Rf8+ Kg7 35.Rd8 f4 36.Rd6 Kf7 37.Nc2 Re6 38.Rd7+! Re7 39.Rd6 Re6 40.Rd1?! Kf6 41.c4?! Re7 42.Rd4 Kg5 43.Rd6 e3!! 44.f3 e2 45.Ne1 g3 46.b5 Rh7! 47.bxc6 bxc6 48.Re6 Rh2+ 49.Kg1 Rf2 50.Nc2 Rxf3 51.Rxe2 Rd3 52.Ne1 Rb3 53.Rd2 f3 54.Nd3 a5! 白投了

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2017年02月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(228)

「Chess Life」1998年10月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ホセ・ラウル・カパブランカ対エドワード・ラスカー博士、ニューヨーク、1915年

17.g4 g6 18.Kg3!?

 キングが「活動」しだしたが、たぶん時期尚早である。ストイカとニシペアヌはすぐに 18.gxf5!? gxf5 19.Ne2 と指すのが白の小駒をより速く動員する手段であると指摘している。

18…h5!

 黒はキング翼で反撃する必要がある。

19.gxf5 h4+

 ストイカとニシペアヌは 19…gxf5 の変化を詳しく分析している。その主手順は 20.Kh4 Rag8 21.Bg5+ Kf7 22.Ne2 c5 23.c3 Rg7! 24.Nf4 Rxg5! 25.Kxg5 Rg8+ 26.Kh6(26.Kxh5? は 26…Kf6! で負ける)26…Rh8+! 27.Kg5 Rg8+ で引き分けになる。19..gxf5 後のほかの変化は『チェス新報』第68巻第302局を参照されたい。

20.Kh2 gxf5 21.Ne2 b5?

 黒にとって不運だったのはここでこのポーンを突いたことだった。1手費やして自分のクイーン翼を弱め、白の白枡ビショップをもっと良い地点に追いやることになった。ストイカとニシペアヌはすぐに 21…Rag8! と指すのが正着で形勢不明の局面と指摘している。

22.Bb3 Bxb3 23.axb3 Rhg8 24.Rd1! Rad8

 白の狙いは 25.Rd5 だった。代わりに 24…c6 は 25.Nd4 にしてやられる。

25.Rxd8 Kxd8 26.Nd4 以下略、白勝ち

 ここまでの手順はラスカーが『チェスの戦略』で取り上げていて、「f5のポーンが落ちる」と言って締めくくっている。実際 27.Nxf5 で黒には望みがない。

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2017年02月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(229)

「Chess Life」1998年10月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ニシペアヌ対デゥミトラケ、ルーマニア選手権戦、1996年

17.Bb3!?

 この新手は筋の通った着想である。すぐにgポーンを突いていくのは白のためになるのかそれほどはっきりしないので、白はまず白枡ビショップの安全を図って戦いに引き戻すことにした。

 ストイカとニシペアヌが本局を『チェス新報』第68巻第302局で詳細に解説しているので、読んでみることを勧める。以下では要点だけを示すことにする。

17…Kf7?!

 この手は手損になる。正着は 17…Bxb3 で、以下 18.axb3 Ke6 19.g4 fxg4! 20.Ra4! h5 21.Rxe4+ Kf7 22.Nd5 Rae8 23.Rb4 b5 24.Nxc7 Rc8 が両者の最善の手順でいい勝負である。

18.g4

 18.Nd5 Rac8 19.c4! の方が強い指し方だった。

18…g6?!

 黒陣を活気づかせるためには動的な反撃が唯一の手段だった。そのためには 18…fxg4! と取ることが必要で、19.Nxe4 Bxb3 20.axb3 b6 21.Ra4 h5 22.Rc4 c5 23.b4 cxb4 24.Bxb6 a5 25.Rc7+ Ke6! が想定される(ストイカとニシペアヌ)。

19.g5! Rad8 20.Ne2 Rd7?!

 ベルリン対リガ戦の戦型の中で白優勢の1局となった。黒は堅実に 20…Bxb3 21.axb3 Rd7 で不利を最小限にとどめるべきだった。

21.c4! b5?! 22.Rc1!

 黒のキング翼の多数派ポーンが動きづらいのに対し、白のルークと小駒は黒の弱点のクイーン翼に侵入する。白の勝ちに終わるまでの手順は次のとおりである。

22…Rhd8 23.Nf4! Bxc4 24.Bxc4+ bxc4 25.Rxc4 Rb8 26.b3 Rb7 27.Ne2! Ke8 28.Nc3! Kd8 29.Kg2 Rb8 30.Bf4 Kc8 31.Na4 Rf7 32.Rc6 Rb5 33.Rxa6 Kd7 34.a3 黒投了

総括

 私にはリガ戦法を完全に信頼できると言えない。しかしまだ調査しなければならない所が多い。8.Nxd4 からの主手順では白の優勢は従来からの少し/通常の優勢を超えないということに自信がある。

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2017年02月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(230)

「Chess Life」1998年12月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め

 ビショップは長射程の駒で、普通は元々の斜筋に沿って展開すべきで利きがよく通る。1.e4 布局では白にとってはかなり達成しやすい。これはキング翼ビショップの斜筋がすぐに通り、普通は d2-d4 突きも早く続いてもう一つのビショップも自由になるからである。一般によどみなく迅速な展開がeポーン布局の持ち味である。

 しかしdポーン布局では小駒の展開の速さは目的を持った本格的な中央の構築の次になるのが普通である。そして小駒はその中央の内側で良い位置を探り始めることになる。これはビショップの片方の展開が遅れることを意味することがよくある。今回は白が早く e2-e3 と突くことにより黒枡ビショップの展開を自ら遅らせるクイーン翼ギャンビット拒否戦法の重要な状況について説明する。本稿はシカゴのデイビド・グルーゼンマイヤー氏からの示唆に触発されたものである。

 起点となる局面は次の手順からできる。

1.d4 d5 2.c4

 黒は初手で白と同じ中央への影響力を目指し、白はすぐにその地点を切り崩しにかかる。実際のところ黒は 2…dxc4 と取ることにより中央の地点を「放棄」することも可能である。この戦型はクイーン翼ギャンビット受諾と呼ばれ、評価の高い布局となっている。白は容易にポーンを取り返すことができるけれども、黒は白が取り返しに手をかけることによりクイーン翼で積極的に反撃を開始することができることに期待をかけている。それでもはるかに人気のあるのは 2…e6 または 2…c6 でd5の拠点を安泰にすることである。順にこの2手を見ていくことにする。

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2017年03月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(231)

「Chess Life」1998年12月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

 本譜の手の利点はキング翼ビショップの斜筋が通ることで、欠点はクイーン翼ビショップが閉じ込められることである。白はcポーンが4段目にありd5に圧力をかけているので、明らかに中央で少し優位に立っている。だから黒としては次のような目標を設定することができる。つまり何も不利をこうむらずに1手で …c7-c5 と突くことができるなら、ほぼ互角になれる。

3.Nc3

 白はd5に圧力をかけることにより、黒がただで …c5 と仕掛けるのを難しくさせる。黒が 3…c5 と突くとタラッシュ防御になり、4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 で孤立dポーンに対する白の圧力が強くなる。

 代わりに 3.Nf3 は欠点がなく別手順の 1.Nf3 または 2.Nf3、それに 3.e3 とからも生じるので重要だが、3番目の手順は指せる手ではあってもつまらない。どうして白は黒がしなければならなかったようにクイーン翼ビショップを閉じ込めなければならないのか。3…Nf6 4.Nc3 c5 5.Nf3 Nc6 が想定され、準タラッシュ防御の無害な戦型になる。

3…Nf6

 普通の手。しかしGMたちの間では先に 3…Be7 と指し、4.Nf3 のあとで初めて 4…Nf6 と指すのが普通である。本譜の手のあと白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法のより優る型にできる。しかしこれには白にとって大きな危険性もある。ポーン交換で中央における白の優位は消滅し、黒のクイーン翼ビショップは自由になる。私の考えでは少なくともレイティング2100の選手でないと微妙な差異を白のために生かせない。

 交換戦法のほかに白の重要な選択肢は 4.e3、4.Bg5 そして 4.Nf3 の三つである。

 4.e3 は指せる手だが、それでも上述の 3.e3 で説明したのと同じ欠点がある。4…c5! 5.Nf3 Nc6 となって白が優勢になる可能性は乏しい。4.Bg5 は 3.Nc3 の 最も主眼とされる継続手である。白はd5に間接的に圧力をかけることにより、黒が …c7-c5 と打って出るのを難しくしている。黒の最も人気のある手法はタルタコワ戦法(4…Be7 5.Nf3 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 b6)である。黒陣は欠陥がないが完全に互角というわけではない。

4.Nf3

 この手は白が1~3手目で Ng1-f3 と指してもよく同じ局面になるので非常に重要である。黒はもちろんいつものように 4…Be7 と応じることができるし、4…c5 5.cxd5 Nxd5(5…exd5 はタラッシュ防御に移行する)で中央での影響力の減少をこうむっても孤立dポーンを避ける準タラッシュ防御を選択することもできる。

 しかし重要な選択肢は次の手である。

4…c6

 この局面が実戦で特に重要なわけは、約半数がスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 e6 という手順から生じるからである。

 4…c6 は見かけは消極的だが狡猾なパンチ力を秘めている。もし白が何も疑わずにいつもの 5.Bg5 を指すと、5…dxc4 6.e4 b5! に驚かされることになる。4…c6 の主眼点は白が犠牲にしたポーンを容易に取り戻せなくすることだったことが分かる。このあとの指し手はとてつもなく激しくなることがある。黒の潜在的な可能性を初めて見せつけた世界級の選手はミハイル・ボトビニクで、その戦型には当然彼の名前がつけられている。閉鎖試合の「定跡書」の中では最も複雑で攻撃的で厳しい布局となっている。

 本手順としてアセーエフ対セルゲイ・イワノフ戦(サンクトペテルブルク、1997年)を追う。7.e5 h6 8.Bh4 g5 9.Nxg5 hxg5 10.Bxg5 Nbd7 11.exf6 Bb7 12.g3 c5 13.d5 Qb6 14.Bg2 b4 15.O-O O-O-O 16.Na4 Qb5 17.a3 exd5 18.axb4 d4 19.Bxb7+ Kxb7 20.Nc3 dxc3 21.Qd5+ Kb6 22.Bf4 Rh5 23.Qxh5 cxb2 24.Rad1 cxb4 形勢互角。試合は38手で引き分けに終わった。イワノフの詳細な解説は『チェス新報』第69巻第394局を参照されたい。

 上記の試合と解説をどう判断すべきか?そう、5.Bg5 は本筋で危険があり研究を要する。ガリー・カスパロフやガータ・カームスキーのような攻撃に秀でて深く研究している者が白を持って好成績を収めてきた。とはいえ控えめに言っても万人向けの戦型ではない。

 だから黒の反撃の可能性が十分に評価されるようになって以来というもの、明らかに白を持って指すものの大部分が 5.e3 に転向した。『チェス新報』第72巻(1998年の2巻目)の主要試合の数が現在の状況をよく物語っている。5.Bg5 が3局で 5.e3 が9局となっている。ここでクイーン翼ビショップの早い閉じ込めが有効な時について次の関連した考察をつけ加えることができる。黒がc4のポーンを取ったらそのポーンを取り返すのに大変苦労する時は、早く e2-e3 と突くのが有効な変化となる。

 5.e3 が高級な選択肢である理由には別の重要な要因がある。黒にとって …c5 は主眼の突きであることが知られているので、黒はそう突くために丸々1手費やさなければならなくなる。というのはもう …c7-c6 と突いているからである。布局の早い段階の指し手ではこのような無駄はたとえ閉鎖布局であっても許されない。アナトリー・カルポフの示唆に富む明察がこの本質をよくとらえている。「閉鎖布局では手損は大したことがないとよく言われてきた。開放布局ではもっと高くつくことはもちろんだが、閉鎖布局でも手損はすべきでない。」

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2017年03月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(232)

「Chess Life」1998年12月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6

 5.e3 Nbd7 からの布局はメラン戦法と呼ばれている。最も重要な2戦型の 6.Bd3 と 6.Qc2 からの白の指し方を実戦例から取り上げる。

6.Bd3 D46

 これは白の最も積極的な手である。その作戦は単刀直入で、e2-e4 と突いてさらに黒のdポーンに挑みながらクイーン翼ビショップを開放する。これに対して黒はほぞを固めて自分から 6…dxc4 7.Bxc4 b5 と難解さに踏み込まなければならない。定跡に精通している必要があるが、最終的に互角になる見込みはきわめて大きい。しかし黒を持って指す多くの選手はより安全と感じる局面の方を好み、「同形」の展開を選ぶ。このあとはシェルバコフ対シャバノフ戦(ロシア選手権戦、1996年)の手順を追う。

6…Bd6 7.O-O O-O 8.e4! dxe4

 重要な中央のポーンを交換するのが普通の取り方である。8…dxc4 と取るのは 9.Bxc4 e5 10.Bg5 h6 11.Bh4 Qe7 12.Re1 Rd8 13.d5 Nb6 14.Bb3(サブチェンコ対シップマン、フィラデルフィア、1991年)となって白が優勢になる。

9.Nxe4 Nxe4 10.Bxe4 h6

 10…Nf6 は 11.Bc2 c5 12.Bg5 h6 13.Bh4 で釘付けが煩わしく、13…Be7 には 14.Qd3! がある。

11.Bc2 e5 12.Re1! Bb4

 一組のビショップを交換しておくのが理にかなっている。単に 12…exd4?! は不十分で、13.Qxd4 Bc5 14.Qf4 で白が展開で大きく優り陣形にも欠陥がない。

13.Bd2 Bxd2 14.Qxd2 exd4 15.Qxd4 Qb6 16.Qc3 a5 17.Rad1

 黒は展開で大きく立ち遅れている。これに対し白は絵に描いたように完璧である。展開は完了し、両方のルークは中央の素通し列に位置し、盤上の制圧はほぼ全体に渡っている。キング翼で猛攻を仕掛ける可能性が高く、自陣に弱点は一つもない。『チェス新報』第68巻第393局の解説でシェルバコフは 17…Qb4 が黒の最善手だと考えている。それでも 18.Qd3 Nf6 19.a3 Qc5 20.Re5 Qb6 21.c5 Qc7 22.Rde1 Rd8 23.Nd4 で状況は芳しくない。実戦は黒がたちまちつぶされた。

17…Nf6?! 18.Rd6! Qb4 19.Qe5! Qxc4 20.Bd3 Qg4?! 21.h3 Qh5 22.Qg3 Nd5 23.Re5 f5 24.Rg6 Rf7 25.Re8+ Kh7 26.Ne5 Rc7 27.f4! 黒投了

 白の 28.Be2! Qxe2 29.Rxh6+! Kxh6(29…gxh6 30.Qg8#)30.Rh8# の狙いに成すすべがない。

 最終盤は展開の優位の威力をみごとに示していた。黒は投了した時クイーン翼のルークもビショップもまだ戦いに加わっていなかった。

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2017年03月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(233)

「Chess Life」1998年12月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6 5.e3 Nbd7

6.Qc2 D46

 1990年代初めからアナトリー・カルポフが駆使したおかげでこの手が白の最もよく指される戦型になった。その着想はいたって簡単である。6…dxc4 からの難解な手順はここでは 7.Bxc4 が手損にならないので防がれている。その一方白クイーンの展開は役に立っている。結果として白はやや優勢の危険性のない状況で始動している。

 ここからはクラムニク対ピケット戦(ベイクアーンゼー、1998年)を追う。

6…Bd6 7.Bd3 O-O 8.O-O dxc4

 黒は中央で何らかの決まりをつける必要がある。さもないと白が適時の e3-e4 突きで好き勝手にふるまえる。一流の選手は 8…e5 9.cxd5 の黒の局面を信頼していない。

9.Bxc4 a6

 このaポーン突きはここ2年でほかの作戦をすべてかげらせた。黒はクイーン翼で陣地を拡張する用意をしながら、中央での最終的な仕掛け(…e6-e5 または …c6-c5)を白には秘密にしている。

10.Rd1 b5 11.Be2 Qc7 12.Ne4

 カルポフ対クラムニクの快速戦(モナコ、1998年)で白は中央に目を向けて 12.e4 と突き、12…e5 13.g3 Re8 14.a3 Bb7 15.dxe5 Nxe5 16.Bg5 Nxf3+ 17.Bxf3 Be5 18.Bxf6! で少し優勢になった。クラムニクはここで 18…Bxf6 に 19.Nd5! があるので 18…gxf6 と取ったがそれでも 19.Bg4! で白がわずかな優勢を保持した。

12…Nxe4 13.Qxe4 e5 14.Qh4 h6?!

 ピケットは 14…Re8 に新手を指されるのを恐れたようだった(カルポフ対アーナンド、FIDE世界選手権戦第5局、ローザンヌ、1998年)。しかし 15.Bd3 h6 16.Bc2 に 16…Be7! 17.Qg3 Bd6! で黒が簡単に互角にできる。

15.Bd2! Re8?

 黒は 15…exd4 と取らなければいけなかった。

16.dxe5 Nxe5 17.Ba5!

 前局とちょうど同じように展開に優る白がかなり優勢になった。クラムニクは決してその優勢を手放さなかった。『チェス新報』第71巻第466局のクラムニクの詳細な解説からいくつか形勢記号を拾うことにする。

17…Qb8 18.Rac1 Be6 19.Nxe5 Bxe5 20.Rxc6 Bxb2 21.Bc7! Qb7 22.Bf3 Rac8 23.Qb4 Be5 24.Rcc1 Qxc7 25.Rxc7 Rxc7 26.Qa5 Rc2 27.Qxa6 Rb8 28.Be4 Rc4! 29.Bd3 Ra4?! 30.Qc6 g6?! 31.f4 Bf6 32.f5! gxf5 33.Bxf5 Bxf5 34.Qxf6 Bg6 35.Rd2 Re4 36.h3 Rbe8 37.Qb6 b4 38.Rd4 Rxe3 39.Qxb4 h5 40.a4 Re1+ 41.Kh2 Ra1 42.Qb2 Rb1 43.Qa3 Kh7 44.a5 Ree1 45.Qf8 Rh1+ 46.Kg3 Rb5 47.Rd8 Rg5+ 48.Kf2 黒投了

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2017年03月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(234)

「Chess Life」1998年12月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

B)2…c6 D10~D19

 スラブ防御はこの手から始まるが、定跡として大いに理にかなっている。つまりクイーン翼ビショップを閉じ込めることなくd5の地点を守っている。残念ながらこの状況は主手順に見られるように一時的である。

3.Nf3 Nf6 4.Nc3 D15-D19

 この手に対して 4…Bf5?! は 5.cxd5! cxd5 6.Qb3! と応じられて、bポーンを守る正しい手段は 6…Bc8 しかなく、白が 7.Bf4 でかなり優勢の展開になる。もちろん 4…e6 なら定跡で何の問題もないが、2…c6 の意図(クイーン翼ビショップの斜筋をふさがない)はなくなる。キング翼ビショップを展開する必要があるので黒は 4…g6 から 5…Bg7 を選択してもよく、いくらか活気のないグリューンフェルト型の局面になる。だから「純正」スラブを保つためには黒は中央を放棄しなければならない。

4…dxc4 5.a4

 これが楽にポーンを取り返す唯一の手段で、主手順の戦型になる。これに対して黒が普通に展開するなら 5…Bf5?! だが白は 6.e3 または 6.Ne5 と指しどちらも少し優勢の布局になる。

 これらのどの戦型でも白のクイーン翼ビショップの迅速な展開は重要でないので、白は早く e2-e3 と突くことにより何か得することができるのだろか?二つの重要な状況を考えてみよう。

3.Nc3 Nf6 4.e3! D10

 これに対して 4…Bf5?! はやはりまずい。というのは 5.cxd5! と取られると 5…cxd5(もちろん 5…Nxd5 と取ることもできるが 2…c6 の意図を無視している)6.Qb3 となって黒は 6…Bc8 と引かなければならず 7.Nf3 で白が好調である。

 だから白は本譜の手で黒がスラブの手を指すのを妨害したことになる。そして黒は 4…e6 または 4…g6 の戦型で満足しなければならない。代わりに黒は途中で 3…Nf6 を延期して 3…e5、3…e6 それに 3…dxc4 のようなそれほど探求されていないシステムを選択することができる。しかし私にはそれらが100%本筋かについてためらいがある。

3.Nf3 Nf6 4.e3 D12

 この戦型はキング翼ナイトを1手目または2手目で展開してもよいので実戦的に重要である。しかしf3のナイトはd5の地点に何も圧力をかけていないので、黒はスラブの作戦を完遂することができる。

4…Bf5! 5.cxd5 cxd5 6.Qb3

 これが眼目の局面である。黒は 5.Nc3 e6 でも 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 でもほとんど苦労なく互角になる。

 ここからはドレエフ対バレエフ戦(ベイクアーンゼー、1995年、番勝負第2局)の手順を追う。

6…Qc7! 7.Bd2 Nc6 8.Bb5 e6 9.Bb4 Bd6 10.Qa3 Ke7! 11.Bxc6 bxc6 12.Nc3 Rhb8 13.Bxd6+ Qxd6 14.Qxd6+ Kxd6

 收局はほぼ互角のいい勝負である。両対局者はやる気満々で、戦いを続けた。バレエフは本局を『チェス新報』第62巻第407局でで詳しく解説している。

15.Na4 Nd7 16.b3 f6 17.Kd2 a5 18.Rhc1 Nb6 19.Nc5 e5 20.Ne1 Nd7 21.Ned3 Bxd3 22.Kxd3 Nxc5+ 23.Rxc5 a4 24.Rac1 Ra6 25.bxa4 Rb2 26.R1c2 Rxc2 27.Rxc2 Rxa4 28.Kc3 exd4+ 29.exd4 Ra3+ 30.Kd2 g5 31.Kc1 g4 32.Rd2 f5 33.Kb2 Ra6 34.Rd3 Ra7 35.Ra3 Re7 36.Re3 Re4 37.Kc3 c5 38.dxc5+ Kxc5 39.Kd2 Rd4+ 40.Rd3 Ra4 41.Rc3+ Kd4 引き分け

 白がクイーン翼ビショップを閉じ込めるのが意味を成すのはどんな時か?黒の通常どおりクイーン翼ビショップを早く展開するのを妨げることができるなら、白の早い e2-e3 突きは有効な手となる。

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2017年03月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(235)

「Chess Life」1999年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 本誌1998年4月号では1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の布局を回顧する手始めとして、1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局を取り上げた。今回は 1.e4 に対するフィッシャーの黒番の最初の3局を取り上げることにする。

 本稿の私の目的は二つある。一つは世界チャンピオン25周年のフィッシャーを祝福することで、もう一つはあの時以来布局に起こった重要な進展を示すことである。あの番勝負の布局すべてについて随時取上げていくようにしたい。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第7局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 この戦法はポーンが毒入りでもないのにどういうわけか「毒入りポーン」戦法と名付けられている。黒の最も野心的で危険な選択肢で、2、3手もの手数をかけてbポーンを取りに行く。この手を世に知らしめたのはフィッシャーなので、少なくとも「フィッシャーの毒入りポーン」戦法と呼んでしかるべきである。

8.Qd2

 スパスキーは白番の第3局と第5局で負けたので早く雪辱したかった。彼がシチリア防御ナイドルフ戦法全般と特にこの戦法を研究してきたに違いないことは疑いない。危険性の少ない応手を望む者は 8.Nb3 と指すことができ、本誌1996年6月号の本稿で解説した。

8…Qxb2 9.Nb3

 本局以前でも現在でも主手順の戦型は 9.Rb1 から始まる。全般的な構想は白駒に包囲されている黒クイーンの位置につけ込むことである。すぐの狙いとしては 10.a3 から 11.Ra2 がある。

9…Qa3! 10.Bd3

 このビショップにとってはうれしい地点でなく、ここからはほとんどすることがないしd列での見通しもなくなっている。スパスキーは第11局で正しい手段を見つけた。それについては次局で取り上げる。

10…Be7!

 以前の 10…Nbd7 と比べてこの新手は重要である。ビショップが展開したので黒キングの安全性が増している。

11.O-O h6! 12.Bh4?!

 フィッシャーはこの型にはまったビショップ引きについてよく研究していた。後にタリ対ザイド戦(ソ連、1973年)で攻撃の巨匠は 12.Bxf6 Bxf6 13.e5! dxe5 14.Ne4 Nd7 15.f5! exf5 16.Rxf5 Be7! 17.Bc4 Nf6 18.Rxe5 と指して十分な代償を得た(しかしそれを超えることはなかった!)。

12…Nxe4 13.Nxe4 Bxh4 14.f5

 この手と少し先の手までは変化の余地がある。しかしグランドマスターたちは本局以降それらの変化を使わなかったので、あまり有望でないと判断されているのだろう。

14…exf5! 15.Bb5+?! axb5 16.Nxd6+ Kf8!

 16…Ke7?? は 17.Nxb5 Qa6 18.Qb4+ で敗勢になる[訳注 18…Kf6 で互角のようです]。

17.Nxc8 Nc6 18.Nd6

 18.Qd7 も白にとって満足できない。18…g6! 19.Qxb7 Qa6! 20.Qxa6 Rxa6 から 21…Kg7 で黒勝勢の收局になる。

18…Rd8

 黒は戦力得を固める用意をした。しかし不均衡な局面では細心の注意を払わなければ勝ちに持っていけない。フィッシャーの指し手は安易に流れて、スパスキーはかろうじて引き分けに逃れることができた。詳しい解説は『チェス新報』第14巻第502局やこの世界選手権戦についての多くの良書を参照して欲しい。

19.Nxb5 Qe7 20.Qf4 g6 21.a4 Bg5?! 22.Qc4 Be3+ 23.Kh1 f4 24.g3 g5 25.Rae1 Qb4 26.Qxb4+ Nxb4 27.Re2 Kg7 28.Na5 b6 29.Nc4 Nd5 30.Ncd6 Bc5?! 31.Nb7 Rc8? 32.c4! Ne3 33.Rf3 Nxc4 34.gxf4 g4 35.Rd3 h5 36.h3! Na5 37.N7d6 Bxd6 38.Nxd6 Rc1+ 39.Kg2 Nc4 40.Ne8+ Kg6 41.h4! f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5?! 44.Ng7+ Kxf4 45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4 Rc1+ 48.Kh2 Rc2+ 49.Kg1 引き分け

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2017年04月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(236)

「Chess Life」1999年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第11局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Nb3 Qa3 10.Bxf6! gxf6 11.Be2!

 白の10手目と11手目は局面に対する主眼の正しい手段である。fポーンを二重にさせることにより黒のキング翼に根本的な弱点を生じさせ、キング翼ビショップはh5に行ってf7の地点に狙いをつける用意をしている。これらの要素に白の展開の優位(展開している小駒が白の3個に対し黒は無し)が加わって白には犠牲にしたポーンの代償が楽々とある。

11…h5

 すぐに白のキング翼ビショップをh5の地点に来させないようにするのは要を得ている。しかし 11…Nc6 と展開するのも同じくらい良い手である。重要な実戦例はショート対カスパロフ戦(世界選手権戦第4局、1993年)で、12.O-O Bd7 13.Kh1 h5 14.Nd1 Rc8 15.Ne3 Qb4 16.c3 Qxe4 17.Bd3 Qa4 18.Nc4 Rc7 19.Nb6 Qa3 と進み、ここでカスパロフは実戦の 20.Rae1?! の代わりに 20.Qe3 Ne7 21.Nc4 Nd5 22.Qa7 の方が良く「代償があった」と指摘した。もちろん白は 20.Nc4 Qa4 21.Nb6 と指せば引き分けにもできる。

12.O-O Nc6

 黒はショート対カスパロフ戦(リガ、1995年)のように 12…Nd7 と指してもよく、13.Kh1 h4 14.h3 Be7 15.Rad1 b6 16.Qe3 Bb7 17.f5 Rc8 18.fxe6 fxe6 19.Bg4 Qb2! 20.Rd3 f5! 21.Rb1 Qxb1+ 22.Nxb1 fxg4 23.hxg4 と進んで混戦ながらいい勝負だろう。

13.Kh1 Bd7 14.Nb1!

14…Qb4?!

 後に 14…Qb2! が良く白は 15.Nc3 と手を戻すよりないと結論づけられた。それなら黒は 15…Qa3! と引き白にまた態度を決めさせる。勝つために最も有望なのは 16.Qe3 である。タリ対ブラウン戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)で白はすぐに 14.Qe3 と指した。このねじり合いの局面はいい勝負である。紆余曲折を経てその試合は43手目で引き分けに終わった。

15.Qe3 d5?

 黒はクイーンが困難に陥っていると認識していた。しかし実戦の手はうまくいかず黒は盤上至る所で弱点を抱えてそれに対する見返りがなかった。ここでは 15…Ne7 と指さなければならなかった。

16.exd5 Ne7 17.c4 Nf5 18.Qd3 h4 19.Bg4!

 これで見え見えの …Ng3+ が防がれ、黒陣は風前の灯火である。試合は次のように終わった。

19…Nd6 20.N1d2 f5?! 21.a3 Qb6? 22.c5 Qb5 23.Qc3 fxg4?! 24.a4 h3?! 25.axb5 hxg2+ 26.Kxg2 Rh3 27.Qf6 Nf5 28.c6 Bc8 29.dxe6 fxe6 30.Rfe1 Be7 31.Rxe6 黒投了

 結論 野心的なフィッシャー毒入りポーン戦法は現在でも通用し、9.Nb3 の変化に対する彼の手法も同様である。

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布局の探究(237)

「Chess Life」1999年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

アリョーヒン防御 4…g6 戦法 [B04]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第13局、1972年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 この番勝負までフィッシャーはアリョーヒン防御を5回(1970年パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナルでの3回を含む)採用していたが、相手はいつも世界級の棋力よりずっと下だった。スパスキーにとってこの防御のために特に準備する特別な理由はなかった。

 4ポーン攻撃(4.c4 Nb6 5.f4)はアリョーヒン防御を「咎め」ようとする昔からの手法だったが、特段の成果がなかった。だから1972年当時はすでに本譜の手が現代式の手法になっていた。白は少し陣地が広いので指しやすくなり、黒にはこれといった反撃の糸口を与えない。

4…g6

 フィッシャーは既にこの二流の戦型をブラウン対フィッシャー戦(ロビニ/ザグレブ)で用いていて、大激戦の末98手で引き分けに持ち込んだ。本局でも意図した効果がいかんなく発揮された。スパスキーは対策を用意しておらず意表を突かれた。次のアリョーヒン防御(第19局)ではフィッシャーは通常の 4…Bg4 に戻った。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7 7.Nbd2?!

 黒の6手目の局面は1972年当時はそれほど分析されていなかった。それでも実戦のぎこちない手はスパスキーも気にいっていないはずだった。現代の布局定跡によると白の最も効果的な手法は、まず 7.a4 a5 と突き合ってから 8.Qe2 で作戦の用意をするか 8.Ng5 ですぐに作戦を始めるかである。

7…O-O 8.h3?!

 白の前手の唯一理にかなった点は、黒の …Bg4 に白が h2-h3 と突きf3で切ってきた時にナイトで取り返すことである。だから本譜の手は 7.Nbd2 の意図を否定している。通常の 8.O-O が適切だった。

8…a5! 9.a4?!

 黒はキング翼の展開を完了したあと、白のキング翼ビショップの位置につけ込もうとしてクイーン翼で動き出した。スパスキーの「手拍子」の応手でaポーンが弱点になった。代わりに 9.c3、9.a3 あるいはたぶん 9.Nc4 でもまだましだった。

9…dxe5 10.dxe5 Na6! 11.O-O Nc5 12.Qe2 Qe8

 この手に 13.Qb5? は 13…Qxb5 14.axb5 Bf5 から 15…a4 で受けにならないので、白はaポーンを取られるのを避けられない。

13.Ne4 Nbxa4 14.Bxa4 Nxa4 15.Re1 Nb6 16.Bd2 a4 17.Bg5 h6 18.Bh4

 白は完全に1ポーン損になっている。白の希望は黒陣に食い込んでいるeポーンのせいで中央が少し広い優位が将来のキング翼攻撃の根幹を成すことである。黒が断固とした指し方を続けていけば、白のチャンスはほんのわずかだと思う。18…Bd7 や 18…Be6 が良さそうである。残念ながら第7局のようにフィッシャーの指し方は真剣さが足りなかった。その結果としてこの番勝負の最長手数となり波乱万丈の内容となった。スパスキーが69手目でポカを出したので黒がようやく勝った。完全な解説は『チェス新報』第14巻第165局か数ある対局集のどれかを読んで欲しい。残りの指し手を解説記号付きで掲げる。

18…Bf5?! 19.g4!? Be6?! 20.Nd4 Bc4 21.Qd2 Qd7 22.Rad1 Rfe8 23.f4 Bd5 24.Nc5 Qc8 25.Qc3? e6 26.Kh2 Nd7 27.Nd3 c5 28.Nb5 Qc6 29.Nd6 Qxd6 30.exd6 Bxc3 31.bxc3 f6 32.g5 hxg5?! 33.fxg5 f5 34.Bg3 Kf7?! 35.Ne5+ Nxe5 36.Bxe5 b5 37.Rf1 Rh8?! 38.Bf6! a3 39.Rf4 a2 40.c4 Bxc4 41.d7 Bd5 42.Kg3 Ra3+ 43.c3 Rha8 44.Rh4 e5! 45.Rh7+ Ke6 46.Re7+ Kd6 47.Rxe5 Rxc3+ 48.Kf2 Rc2+ 49.Ke1 Kxd7 50.Rexd5+ Kc6 51.Rd6+ Kb7 52.Rd7+ Ka6 53.R7d2 Rxd2 54.Kxd2 b4 55.h4! Kb5 56.h5 c4 57.Ra1 gxh5 58.g6 h4 59.g7 h3 60.Be7! Rg8 61.Bf8 h2 62.Kc2 Kc6 63.Rd1! b3+ 64.Kc3 h1=Q! 65.Rxh1 Kd5 66.Kb2 f4 67.Rd1+ Ke4 68.Rc1 Kd3 69.Rd1+?? Ke2 70.Rc1 f3 71.Bc5 Rxg7 72.Rxc4 Rd7! 73.Re4+ Kf1 74.Bd4 f2 白投了

 結論 アリョーヒン防御の 4…g6 戦法は今でも通用する。

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2017年04月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(238)

「Chess Life」1999年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49]

 黒番では意欲的に指したくないなら相手の指す手をただまねしてみてはどうか。閉鎖的な布局では急戦よりもゆっくりした駒組みが普通なので魅力的な作戦になることがよくある。しかしこのやり方は 1.e4 に対しては実行が難しい。

 そもそも黒は対称になるように 1…e5 と応じなければならない。さらにその後は比較的開放的な局面になるので白は速攻する機会に恵まれる。これは黒が「自分のこと」をすれば良いというのでなく白の狙いをたえず警戒しなければならないということを意味する。過去100年以上の間黒が比較的長い間白のまねをすることができたまともな布局が一つだけあった。それが4ナイト試合である。本稿では次の手順を用いて最新の定跡の進展を紹介する。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6

 両者とも周知の「ビショップよりナイトを先に」という原則に従っていて、ナイトを最もよく働く地点に置いた。定跡および実戦におけるこの局面の重要性は、ぺトロフ防御(2…Nf6)がしばしば現れることによって高まっている。白が主手順(3.Nxe5 と 3.d4)を避けて 3.Nc3 と指した時黒は対称形の 3…Nc6 と指すしかない。

4.Bb5

 本譜の手で4ナイト試合が確定する。この布局は「慎重派のルイロペス」ともみなすことができる。白のeポーンを 3.Nc3 と守ってから初めて白枡ビショップをb5に出してe5の地点を間接的に攻撃した。これは白の圧力の強さがルイロペスよりも劣るということを意味するが、黒もある種の反撃の機会がなくなる。

 4ナイト試合の初期には黒の通常の応手は 4…Bb4 で、白が少しの優勢を保持した。しかし第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインの 4…Nd4 が白から4ナイト試合の楽しみのほとんどを奪い去った。一流選手たちは白枡ビショップをa4やc4に引くのは好結果をもたらすことができないと即断した。だから白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 と指すよりなく、ほとんど互角になった。

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2017年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(239)

「Chess Life」1999年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5(再掲)

 4ナイト試合は1990年頃まで定跡としてほとんど忘れられたままだった。それからジョン・ナンに率いられたイギリスのGMたちの情熱と創造性のおかげで、グランドマスターの関心がよみがえり現在まで続いている。4…Nd4 は 5.Ba4 でも 5.Bc4 でもそのあとの乱戦が黒にとって容易に危険なものとなることがあるので、特効薬とはなり得ないことが分かっている。だから80年以上前のように黒の主手順はやはり次の手だと考えられている。

4…Bb4

 この手は白の手とちょうど同じように申し分のない手である。黒枡ビショップがすばやく展開して最下段が空いたのでキャッスリングが可能になり、このビショップはeポーンへの攻撃に間接的に関与している。

5.O-O O-O 6.d3

 6.Bxc6 dxc6! 7.Nxe5 に飛びつくのは何にもならない。7…Bxc3 8.dxc3 Qxd1 9.Rxd1 Nxe4 10.Bf4 Bf5 11.Nc4 Rfc8 12.Ne3 Be6 13.f3 Nf6 14.c4 Nh5 15.Be5 f6 16.Bc3 Nf4 17.Re1 Re8! で互角である(マイルズ対ユスーポフ、フローニンゲン、1992年)。

6…d6 7.Bg5

 白が次に 8.Nd5 と指せばf6のナイトが釘づけにされる。黒はこの狙いにどう対処するか決めなければならない。最悪から最善の順に5種類の黒の手を考えてみよう。

A)7…h6?

 最悪の手。黒はわざわざ1手かけて自分のキング翼を破壊させる。

8.Bxf6 gxf6

 8…Qxf6? は 9.Nd5 Qd8 10.Bxc6 bxc6 11.Nxb4 a5 12.Nxc6 Qe8 13.Nxa5 または 13.Ncxe5 で少なくとも黒の2ポーン損になる。

9.Nd5 Bc5 10.Nh4! Nd4 11.Bc4 Be6 12.c3 Nc6 13.Qf3

 黒のキング翼ががたがたで白がだいぶ優勢である。

B)7…Bg4?!

 黒は対称形を続けている。この手はたぶん見かけほど悪くはないけれども、それを信用して実際に指すGMはこれまでいない。

8.Nd5

 シュレヒター対レオンハルト戦(ハンブルク、1910年)では 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5 Bc5 10.Qd2 で白がうまくいった。

8…Nd4 9.Nxb4 Nxb5 10.Nd5 Nd4 11.Bxf6 gxf6

 しかしここで 11…Bxf3? と対称形を続けるのは 12.Qd2! gxf6 13.Qh6 Ne2+ 14.Kh1 Bxg2+ 15.Kxg2 Nf4+ 16.Nxf4 exf4 17.Kh1! Kh8 18.Rg1 Rg8 19.Rxg8+ Qxg8 20.Rg1 で黒の負けとなる。同じ狙い筋は黒の13手目の解説にも出てくる。

12.Qd2 Nxf3+ 13.gxf3 Bxf3

 『チェス新報』第58巻第348局のダニルクの解説によると 13…Be6? は 14.Qh6 Bxd5 15.Kh1! Kh8 16.Rg1 Rg8 17.Rxg8+ Qxg8 18.Rg1 で黒が負ける。

14.Qe3

 ダニルクは 14.h3!? のあと 15.Kh2 から 16.Rg1 と指す方が良いと指摘している。

14…c6 15.Qxf3 cxd5

 ここまではダニルク対リビン戦(ロシア、1993年)で、ここで単に 16.exd5 と指しておけば白が少し優勢(ダニルク)だった。

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2017年05月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(240)

「Chess Life」1999年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5(再掲)

C)7…Be6

 この手は凡手ではないが、白のc3のナイトは黒のb4のビショップより価値があることを学んだところである。

8.Ne2! Ne7 9.c3 Ba5 10.Ng3 c6 11.Ba4 Ne8 12.d4

 白は中央で少し優位に立っているのと小駒の働きに優るので、通常の布局どおりの優勢である(ドゥラス対クプチク、ニューヨーク、1913年)。

D)7…Ne7

 d5の地点を過剰に守りナイトをキング翼に近づけることにより黒は 8.Nd5 の狙いから毒気を抜いた。この手は 7…Bxc3 8.bxc3 の交換と共に指されるのがほとんどである。バッハマン対マロン戦(ストックホルム、1930年)は別個の一例である。

8.Nh4 c6 9.Bc4 Ng6 10.Nxg6 hxg6 11.f4 Bc5+ 12.Kh1 Be3 13.Qf3 Bxf4 14.Bxf4 exf4 15.Qxf4 Qe7 16.Qg3

 中盤戦の始まりで白は中央での優位、半素通しf列での展望、それに黒の二重gポーンにより典型的な布局の優勢を得ている。

E)7…Bxc3 bxc3

 現代ではc3のナイトを取る手がほかのすべての手に取って替わった。黒の「不作為」黒枡ビショップを白の危険性のあるc3のナイトと交換するのは大いに意味があることが分かっている。同時に黒はただで何かを得ているわけではないことを理解していなければならない。白は局面が開ければ双ビショップの潜在力で優勢になれるし、bポーンがc3に移って中央が少し強化されたし、半素通しb列での展望もある。だから黒は用心しなければならない。最近の大会から2局を取り上げて主要な作戦を例示する助けとしたい。

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2017年05月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(241)

「Chess Life」1999年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

ヤルタルソン対ラウシス(アイスランド、1996年)
8…Ne7

 クイーン翼ナイトは 9…Ng6 から 10…h6 で釘付けをはずすためにキング翼に向かう。白の応手はこれを妨げる。

D)9.Nh4! Ng6 10.Nxg6 fxg6 11.Bc4+ Kh8 12.f3!

 これは新構想である。白はeポーンとキング翼とを安全にしてから中央とクイーン翼で動くつもりである。もっと分かりやすい 12.f4 もいい手である。アダムズ対コルチノイ戦(マドリード、1996年)では 12…Qe8 13.fxe5 でわずかな優勢を保持した。

12…Qe7 13.Rb1 b6 14.d4 Be6 15.Qd3 h6 16.Bd2 c5?!

 この手はちょっとした不注意で、黒はb6の地点を永久に弱めた。白はすぐにこの機会に飛びついた。ヤルタルソンはキング翼をふさいで事の成り行きを見守る 16…g5 を勧めている。

17.Bxe6 Qxe6 18.a4! Rac8 19.d5! Qe8 20.Qa6 Rc7 21.a5

21…Qa4?

 この手が敗着になった。白に決定的なクイーン交換を許してしまう。21…Nd7! 22.c4 g5 23.g4! と慎重に守っておくところだった(ヤルタルソン)。

22.Qb5!

 22…Qxc2?? は 23.Rb2 で負けてしまうので黒は交換に応じなければならない。

22…Qxa5 23.Qxa5 bxa5 24.Rb5 Nd7 25.c4! a4 26.Ba5 Nb6 27.Ra1 Rb7 28.Rxa4 Rfb8 29.Bxb6 axb6

 本譜の手のあと黒は完全に動きを封じられて、白キングがb5に来るやいなや絶望の形勢になる。代わりに 29…Rxb6 ならヤルタルソンは 30.Rxa7 Rxb5 31.cxb5 Rxb5 32.Ra6 Rb2 33.Rxd6 Rxc2 34.Re6 c4 35.Rxe5 c3 36.Re8+ Kh7 37.Rc8 という確実な手順で白の勝勢になるとしている。詳しい変化は『チェス新報』第68巻第287局のヤルタルソンの解説を参照されたい。終局までの手順を以下に示す。

30.Kf2 g5 31.Ra6 Kg8 32.Ke3 Kf7 33.Kd2 Ke7 34.Kc3 Kd7 35.Kb3 Kc7 36.Ka4! Rf8 37.Rb3 g4 38.Kb5 h5 39.Rba3! h4 40.Ra8 Rf7 41.fxg4 Rf1 42.Rg8 Rb1+ 43.Ka6! Rb8 44.Rxg7+ Kd8 45.Ka7 Rc8 46.Kb7 b5 47.Rb3 黒投了

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2017年05月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(242)

「Chess Life」1999年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

スミスロフ対シー・ユン(コペンハーゲン、1997年)
8…Qe7

 これは黒の断トツの手で、まずナイトで白の黒枡ビショップを追い払うための中間駅としてd8を空け、そのあとはf8のルークの好所として用いる。

9.Re1 Nd8 10.d4 Ne6 11.Bc1 c5 12.a4 Rd8

 すぐに 12…Nc7 13.Bf1 Bg4 と指してもよいが、14.h3 には本筋でない 14…Bxf3?(スパスキー対シー・ユン、コペンハーゲン、1997年)でなく 14…Bd7 と指すべきところで、白がわずかに優勢だった。

13.Bf1 Nc7 14.h3 Bd7 15.g3 b5 16.Nh4! bxa4 17.Nf5 Bxf5 18.exf5 Ncd5 19.Ra3 Qc7 20.dxe5 dxe5 21.Qe2 Rab8 22.Bg5 h6 23.Bxf6 Nxf6

 23…gxf6? は 24.Qh5 で危険すぎる。しかし本譜の手のあと白のルークは非常に強力になる。

24.Qxe5 Qxe5 25.Rxe5 Rd2 26.Rxa4 Rxc2 27.Rxc5

 ここは勝負所である。黒は 27…Rb1! 28.Kg2 Rbb2 と指してf2の地点でチェックする手を狙わなければならず(スミスロフ)、十分引き分けにできる可能性があった。実戦は白が詰み狙いの攻撃にでることができる。

27…Rbb2? 28.Rc8+ Kh7 29.Rxa7 Rxf2 30.Rxf7 h5 31.Rff8 Kh6 32.h4 Rxf5 33.Bd3 黒投了

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2017年05月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(243)

「Chess Life」1999年6月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略

 チェスの古典と見なされている本の一つはJ.R.カパブランカの『チェスの基本(Chess Fundamentals)』である。布局、中盤それに收局への貴重な洞察が豊富なのでまさしくそのとおりである。1921年に初版が出版され、1934年の再版ではカパブランカの序文が新しくなった(私の持っているのは1976年版である)。

 まぎれもなく名著である。カパブランカも気に入っていた。新しい序文では「・・・『チェスの基本』は今も13年前と同じく通用する。今から100年後も通用するだろう。・・・」と書かれていた。しかしチェスがいろいろある特徴の中でなかんずく科学であることを考慮すると、そのような主張はとても真実たり得ない。実際科学的な部分はこの13年間で既に大きく進歩していた。

 カパブランカの布局段階の扱いの中で二つの側面である基本原則と具体的な戦法を見てみることにする。

基本原則

 カパブランカは五つの原則について説明している。それらを書き連ねながら現代の知識に基づいて解説する。

 1.最も重要なことは駒を迅速に展開することである。

 これはかなり限られる。なぜなら白も黒も攻撃の速さが目標の布局定跡を選ばなければならないことを仮定しているからである。実際は布局の段階の全般的な目標は中盤戦のための用意をすることである。例えば閉鎖的な布局では駒の働きとポーンの配置が速度よりもはるかに重要である。

 2.戦力得するか動きの自由さを確保することが必須でなければ、展開が完了する前にどの駒も二度以上動かすべきでない。

 前半の部分は役に立つ原則である。問題は後半で、何が「必須」かは判断するのが難しい。このあと分かるようにカパブランカはこの原則を破ることをためらわなかった。

 3.1.e4 と 1.d4 以外の初手は大したことは達成しないので理論的にはこの2手のうち一つが最善のはずである。

 これはそのとおりではない。既に1934年までにレーティ布局(1.Nf3)が高級な初手としてしっかり確立していた。拙著の『良い布局の指し方(How to Play Good Opening Moves)』で論じたように、白の完璧な初手は 1.e4、1.d4、1.c4、1.Nf3 および 1.g3 の5手である。

 4.中央の支配は何よりも重要である。

 まったくもって正しい。

 5.ビショップより先にナイトを出せ。

 単純で役に立つ原則で、当てはまることは意外なほど多い。迷ったら従うことである。

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2017年05月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(244)

「Chess Life」1999年6月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法

 時の流れで多くの評価が変わってきたことはほとんど驚くに当たらない。しかし特に印象深いのはわざわざ何の説明や証明もせずに戦法や手順について強く意見を言うことだった。何の証明も与えられていない技術的なことについての強い言明を受け入れることは誰にとっても非常に危険である。1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 という手順で始まるフランス防御の重要定跡から実戦例を3局紹介する。

 A)3…dxe4 4.Nxe4 Nd7 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6(C10)

 ルビンシュタイン戦法(3…dxe4)は黒が劣った中央を押しつけられる一方で白は小駒を働きの良い地点に展開できるので現在では人気がない。ここからはカパブランカ対ブランコ戦(ハバナ、1913年)の手順を追う。カパブランカはこの試合を「大局観に基づいた指し方の好例」と呼んでいる(彼の本の83ページ目)。

7.Ne5

 カパブランカはこの手を次のように解説している。「この手は才能のあるベネズエラのアマ選手のM.アヤラに初めて教えられた。目的はこの戦型で黒の通常の展開となる …b6 のあとクイーン翼ビショップをb7に展開するのを防ぐことである。

 しかしそれが唯一展開された駒をまた動かす理由になるのだろうか。答えは明らかに「いいえ」である。黒がほぼ互角に達するのに必要なことは普通に単刀直入に展開することだけである。布局大成(Encyclopedia of Chess Openings)C(1981年)では次の手順を載せて互角としている。7…Be7 8.Bg5 O-O 9.Bd3 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5

 最善手は意外でもなんでもなく展開する 7.Bd3! で、主手順は次のとおりである。7…c5 8.dxc5 Bxc5 9.O-O O-O 10.Bg5 h6 11.Bh4 Be7 12.Qe2 Qc7 13.Rad1 Rd8 14.Ne5(白は展開が完了してここで初めてこの手を指す)14…b6 15.Rfe1 Bb7 16.c4 中央がより広いのと黒のキング翼に対する圧力とで白が楽に優勢になっている(GMフォークトの1994年の解説による)。

 しかし実戦はカパブランカが次のように快勝した。

7…Bd6?! 8.Qf3 c6?! 9.c3 O-O 10.Bg5 Be7 11.Bd3 Ne8?! 12.Qh3 f5 13.Bxe7 Qxe7 14.O-O Rf6 15.Rfe1 Nd6 16.Re2 Bd7 17.Rae1 Re8 18.c4 Nf7 19.d5! Nxe5 20.Rxe5 g6 21.Qh4 Kg7 22.Qd4 c5 23.Qc3 b6?! 24.dxe6 Bc8 25.Be2! Bxe6 26.Bf3 Kf7 27.Bd5 Qd6 28.Qe3 Re7 29.Qh6 Kg8 30.h4! a6 31.h5 f4 32.hxg6 hxg6 33.Rxe6 黒投了

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2017年06月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(245)

「Chess Life」1999年6月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)

 マカッチョン戦法はクラシカルの 3…Nf6 とビナベルの 3…Bb4 とを組み合わせたものである。私の考えではそのような交配がうまくいくことは滅多にない。それでもこの戦法は危険であり、白は布局定跡をよく知っていなければならない。カパブランカは著書の中で2局取り上げていて、1局は白で、もう一局は黒で指している。

 B1)カパブランカ対ズノスコ=ボロフスキー(サンクトペテルブルク、1913年)

5.exd5

 カパブランカ「この試合の当時は 5.e5 が主流だった。しかし私は本譜の手の方が強力だと考えていたし今でもそうである。」

 しかしなぜより強力なのだろうか。d5で交換することにより白は中央での優位を放棄し黒の白枡ビショップを自由にしてやっている。すなわち明らかな 5…exd5! のあと局面は交換戦法(3.exd5 exd5 4.Nc3 Nf6 5.Bg5 Bb4)に移行して、白の優位はほんのわずかである。終局までの手順は次のとおりである(形勢記号はカパブランカの解説を基にしている)。

5…Qxd5?! 6.Bxf6 Bxc3+ 7.bxc3 gxf6 8.Nf3 b6 9.Qd2 Bb7 10.Be2 Nd7 11.c4 Qf5 12.O-O-O! O-O-O 13.Qe3 Rhg8 14.g3 Qa5? 15.Rd3! Kb8 16.Rhd1 Qf5 17.Nh4 Qg5 18.f4 Qg7 19.Bf3 Rge8 20.Bxb7 Kxb7 21.c5! c6 22.Nf3 Qf8 23.Nd2? bxc5 24.Nc4 Nb6 25.Na5+ Ka8 26.dxc5 Nd5 27.Qd4 Rc8 28.c4?! e5! 29.Qg1 e4 30.cxd5 exd3 31.d6 Re2 32.d7 Rc2+ 33.Kb1 Rb8+ 34.Nb3 Qe7 35.Rxd3? Re2 36.Qd4 Rd8 37.Qa4 Qe4 38.Qa6 Kb8! 39.Kc1 Rxd7 40.Nd4 Re1+ 白投了

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2017年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(246)

「Chess Life」1999年6月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)(再掲)

 B2)ハイェス対カパブランカ(ニューヨーク、1916年)

5.e5

 この手から始まる手順はマカッチョン戦法に疑問を付す唯一の手段である。ハイェスの指し方は非常に現代風である。

 しかしカパブランカの考え方は違う。「私は 5.exd5 が最善だと思うが、本譜の手に賛成する考えは多い。しかし白が採用した戦型そのものには賛成が多いわけではない。」

 カパブランカはどちらの手順を批判しているのだろうか。実際のところハイェスは15手目まで完璧に指している。

5…h6 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3! Ne4 8.Qg4

 白の戦略は黒陣の黒枡の弱点と黒キングの不安定な位置とにつけ込むことに基づいている。現代の定跡では 8…g6 が黒の最善の受けと考えられている。カパブランカはキングの位置が悪くなっても黒枡をもっとよく支配できる別の手を選んだ。

8…Kf8 9.Bc1!?

 白は黒枡戦略を続けている。しかし現代の定跡ではすぐに 9.h4! c5 10.Rh3 と動いていくことによってしか明らかな優勢は得られないとしている。

9…c5

 カパブランカの解説「…Qa5 を見せて白の Ba3 を防いだ。白の直前の手がまったくの手損で、単に自陣を弱めただけであることが明らかになった。」

 彼の言っていることは誤りもいいところである。黒は互角にしたいならていねいに指さなければならない。

10.Bd3 Qa5?!

 ゲーザ・マローツィは 10…Nxc3 11.dxc5 Qa5 12.Bd2 Qa4 によってのみ黒が互角になることを望めるとやっとのことで見つけた。

11.Ne2 cxd4 12.O-O dxc3 13.Bxe4 dxe4 14.Qxe4 Nc6

 カパブランカはここでは非常に楽観視していた。「・・・黒の勝ち試合とはまだ言えない。しかし局面が優位に立っていることは確かで、その理由としてポーン得に加えて、白のeポーンが当たりになっている・・・」

 実際は白の展開の優位と黒キングの位置の悪さという動的な要因のために白がはっきり優勢である。

15.Rd1!

 この好手には目的がいくつもある。黒のクイーン翼の展開を妨げ、唯一の素通し列を占拠し、キング翼に転回する位置にいる。

 それなのにカパブランカは何もほめていない。「この手は戦略的には正しくない。というのは駒をクイーン翼に片寄らせることにより、黒の防御が完全に整う前に白が黒のキング翼に決然と攻撃を仕掛けることのできるかもしれない機会を失うからである。」しかし注意すべきはカパブランカが白の指し手の改良に何も触れていないことである。

15…g6

16.f4?

 白の手がおかしくなり始めたのはここからである。1907年(!)のドゥラス対オラント戦(カルロビバリ)で既に動的な指し方が現れていた。16.Bf4! Ne7(16…Kg7 は 17.Rd3 Nb4 18.Rxc3 Bd7 19.Rb3! Na6 20.Be3 Bc6 21.Qf4[黒枡戦略!]21…Qd8 22.Rd3 Qe7 23.c4![クロバンス対グリゴリアン、ソ連、1972年]で良くない。白が何の犠牲も払わずに陣地が広く駒がよく働いているのに対し、黒はf6とh6に弱点を抱えている。棋譜と解説は『チェス新報』第14巻第232局に載っている)17.Rd6! Nd5 18.Be3 Kg7 19.Qh4! Qc7 20.Rd1 b6 21.R1xd5! exd5 22.Qf6+ 白の攻撃が強力で、決まっているかもしれない。

 本譜の手の問題は白が展開のために1手損しているだけでなく、キング翼へのビショップの利きを損なっていることである。

16…Kg7 17.Be3?!

 カパブランカが白は 17.a4! から 18.Ba3 でビショップをよく利く斜筋につけるべきであると指摘しているのはどんぴしゃりである。

17…Ne7! 18.Bf2 Nd5 19.Rd3 Bd7 20.Nd4 Rac8 21.Rg3 Kh7 22.h4 Rhg8 23.h5

 この局面は判断が難しい。カパブランカは「白の攻撃は無いに等しい」と断言しているが、私には黒の指し手が難しいように思われる。しかしカパブランカは相手の以降の指し手に寛容で「25手目からはハイェスの快勝だった」と言っている。

 收局までの指し手を主にカパブランカの解説に基づいて記号を付けて挙げておく。

23…Qb4?! 24.Rh3 f5?! 25.exf6e.p. Nxf6 26.hxg6+ Rxg6 27.Rxh6+ Kxh6 28.Nf5+ exf5 29.Qxb4 Rcg8?! 30.g3 Bc6 31.Rd1 Kh5? 32.Rd6 Be4? 33.Qxc3 Nd5 34.Rxg6 Kxg6 35.Qe5 Kf7 36.c4 Re8 37.Qb2 Nf6 38.Bd4 Rh8 39.Qb5 Rh1+ 40.Kf2 a6 41.Qb6 Rh2+ 42.Ke1 Nd7 43.Qd6 Bc6 44.g4! fxg4 45.f5 Rh1+ 46.Kd2 Ke8 47.f6 Rh7 48.Qe6+ Kf8 49.Be3 Rf7 50.Bh6+ Kg8 51.Bg7! g3 52.Ke2 g2 53.Kf2 Nf8 54.Qg4 Nd7 55.Kg1 a5 56.a4! Bxa4 57.Qh3 Rxf6 58.Bxf6 Nxf6 59.Qxg2+ Kf8 60.Qxb7 Be8 61.Qb6 Ke7 62.Qxa5 Nd7 63.Kf2 Bf7 64.Ke3 Kd6 65.Kd4 Kc6 66.Qf5 黒投了

 最後に今回のちょっとした寄り道を拙著の『How to be a Complete Tournament Player』からのアドバイスを引用して締めくくりたい。「グランドマスターが口先だけでしたり言ったりすることを額面どおりに受け取ってはいけない。必ずチェスの棋理に合っていることを確認すること!

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2017年06月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(247)

「Chess Life」1999年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局

 急に初手にナイト・ポーンを突いてみたくなったらどうなるだろうか。可能性としては4手考えられるが、一番良い手から一番悪い手の順でそれぞれざっと見てみることにする。

Ⅰ)1.g3

 良い布局の指し方は中央の支配を目指し、中央に向かって駒を展開し、キャッスリングによってキングを安全にすることから成る。1.g3 はこれらの目標すべてを助長し欠陥がないので、布局の完璧な5手の一つに入ることは確かである(ほかの4手は 1.e4、1.d4、1.c4 それに 1.Nf3)。

 1.g3 は消極的に見えるけれども次に 2.Bg2 と指せば白は中央の重要なe4とd5の地点を支配し、3.Nf3 のあとはキャッスリングの用意が整う。3.Nf3 の代わりに 3.c4 から 4.Nc3 と指せば中央への影響力をもっと増すことができる。1…Nf6 または 1…d5 に対し白がすぐに 2.Nf3 と指せば、レーティ布局か逆キング翼インディアンに移行する公算が大きい。したがって理論的に 1.g3 は融通性がありかつ欠点がないことが分かる。

 実戦例として独立した戦型を参考に供する。黒はすぐに …e7-e5 と …d7-d5 を突き、白はそう指させる。約80年前なら叱られた指し方だったろうが、今はより良く知られている。さらには時の流れでこれらの手順の理解が深まっている。『チェス布局大成A』の初版(1979年)では4行と16脚注だったが、1996年版では4行と24脚注になった。世界級の戦略家のGMローマン・ジンジハシビリは 1.g3 の第一級の実践者である。

キング翼フィアンケット布局 [A00]
白 GMラリー・クリスチャンセン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ローンパイン、1981年

1.g3 e5 2.Bg2 d5 3.d3 c6

 互角を目指す観点からは本筋の展開の 3…Nf6 が最善手である。コルチノイは本譜の手でそれ以上を得ようとしている。つまり中央で優位に立ちたいのである。それはともかくリバス対イリェスカス戦(スペイン、1993年)で指されたような 3…c5?! は指しすぎである。4.e4! Nf6 5.Nc3! d4 6.Nce2 Nc6 7.f4! Bd6 8.Nf3 O-O 9.O-O Bd7 10.Kh1 Rc8 11.c3! dxc3 12.bxc3 Bg4 と進んだとき、時機尚早の 13.d4? でなく普通に 13.Rb1 または 13.h3 と指していたら白が楽に優勢になっていた。

4.Nf3 Nd7 5.O-O Bd6 6.Nc3

 もちろん 6.c4 と黒の中央に挑むのも主眼の手である。代わりにクリスチャンセンは上述の仕掛ける方を選んだ。

6…Ne7 7.e4 d4 8.Ne2 h6 9.Nd2 Nb6 10.f4!

 d4の土台を切り崩す。

10…f6 11.fxe5 fxe5 12.c3! dxc3

 戦略的には気の進まない手だが、12…c5?! では 13.a4! と突かれて黒が白枡で弱くなる(13…a5 14.Qb3)。

13.bxc3 Be6 14.Nf3 O-O 15.Be3 Rf6 16.a4

 白の優勢は大きくはないが明らかである。中央での影響力に優り、クイーン翼で圧力をかけ、孤立eポーンを標的にしている。

16…Qc7 17.a5 Nd7 18.d4 Rd8 19.Qa4 Qb8 20.dxe5?!

 この正当な理由のない圧力解消で黒が互角にすることができた。終局までの手順は次のとおりである。

20…Nxe5 21.Nxe5 Bxe5 22.Nd4 Bf7 23.Qb4 Bd6 24.Qb2 Rxf1+ 25.Rxf1 Bc5 26.Kh1 b6 27.axb6 axb6 28.Bf4 Qc8 29.Nb3 Bd6 30.Bxd6 Rxd6 31.Nd4 Rg6 32.Nf5 Nxf5 33.exf5 Rf6 34.Qxb6 Rxf5 35.Rxf5 引き分け

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2017年06月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(248)

「Chess Life」1999年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅱ)1.b3(ラーセン布局)

 これは 1.g3 のクイーン翼版である。2.Bb2 のあと白からd4とe5の地点に十分に圧力がかかる。1960年代後半と1970年代前半にベント・ラーセンは 1.b3 で好成績をあげて、その結果彼の名がつけられた。しかし定跡がとことん研究されて 1.b3 は 1.g3 よりも次の二つの理由により少し劣ることが分かってきた。

 1)キング翼キャッスリングを準備することによってキングを安全にするということに寄与しない(この布局ではクイーン翼キャッスリングは気乗りしない)。

 2)f4 突きはキングの状態が弱くなるので、e5にさらに圧力をかけることが難しい。白は何も狙っていないので、黒には 1…c5、1…d5 それに 1…Nf6 など理にかなった応手がいろいろある。最も本筋でよく指されるのは白の黒枡ビショップの潜在力を減殺させる 1…e5 で、実戦例にはこれを取り上げる。

ラーセン布局 [A01]
白 GMベント・ラーセン
黒 GMボリス・スパスキー
ソ連対全世界戦、1970年

1.b3 e5 2.Bb2 Nc6 3.c4

 クイーン翼を展開し続けるのは以前は主手順だったが、現在の定跡では白もキング翼の展開をする方が良いと考えられている。3.e3 Nf6 4.Bb5 のあとの最近の重要な実戦例を2局紹介する。

 1)4…d6 5.Ne2 g6 6.d4 Bg7 7.dxe5 Nd7 8.Bxc6 bxc6 9.f4! dxe5 10.O-O O-O 11.Ng3 f5 12.Nd2 Qe7 13.Qe2 Nb6 14.Nf3 exf4 15.Bxg7 Kxg7 16.exf4 Qxe2 17.Nxe2(スロボドヤン対ファン・デル・シュテレン、ドイツ、1998年)白はポーン陣形に優っているので、收局で楽に少し優勢になる。

 2)4…Bd6 5.Nf3 e4 6.Nh4 O-O 7.O-O Be5 8.Bxe5 Nxe5 9.f4! exf3e.p. 10.Nxf3 Qe7 11.Nc3 d5 12.Qe1 c5 13.Qh4 Ng6 14.Qg3 c4 15.Nd4!!(ミハレフスキー対アブルーフ、ラマット・アビブ、1998年)白はf列で攻撃の可能性があるので少し有望である。この熱戦については『チェス新報』第72巻第1局のミハレフスキーの解説を参照されたい。

3…Nf6 4.Nf3

 より安全で本筋の手には 4.g3、4.Nc3 それに 4.e3 がある。ラーセンはいつものように恐れることなくもっと上を望んでいる。

4…e4 5.Nd4 Bc5 6.Nxc6 dxc6 7.e3 Bf5 8.Qc2

 この手の目的は私には分からない。展開の 8.Nc3 なら何の問題もない。

8…Qe7 9.Be2 O-O-O

 ここが勝負の分かれ目だった。黒は駒を効率的、積極的、そして好所に展開してきた。それでも白がここで普通に 10.Nc3 と指していたら、私には特に悪いところは見当たらない。たぶん黒はほんのわずか優勢だろう。たぶんいい勝負だろう。代わりにラルセンは展開を無視してキング翼を弱める過ちを犯した。そしてスパスキーに鮮やかに咎められた。

10.f4?? Ng4! 11.g3? h5 12.h3 h4! 13.hxg4 hxg3! 14.Rg1 Rh1!! 15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 白投了

 18.Bxf1 と取っても 18…Bxg4+ 19.Kc1 Qe1+ 20.Qd1 Qxd1# で詰まされる。黒の一連の決定的な手筋が決まったのは、白がクイーン翼の駒の展開を怠ったからである。

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2017年07月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(249)

「Chess Life」1999年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)

 これは中途半端な手のように思われる。確かに黒枡ビショップは絶好の斜筋につくし、このポーンは副次的に中央のc5の地点に利いている。白の期待は黒がぼやぼやしてただでクイーン翼に立派なポーン陣形を築かせてくれることである。しかし残念ながらbポーンが守られていない状態なので、黒には積極策に出られる二通りの可能性がある。

A)迅速な展開を目指す
1…e5 2.Bb2 Bxb4! 3.Bxe5 Nf6 4.c4 O-O

5.Nf3

 白はできるだけ急いでキング翼の展開を目指すべきである。5.e3?! は劣っていて、5…d5 6.cxd5 Nxd5 7.Nf3 Re8 8.Be2?(8.Bb2 の方が良いが 8…Nf4! 9.Qc2 Nc6 でやはり黒が良い)8…Rxe5! 9.Nxe5 Qf6 10.f4 Nxe3(リンクビスト対ソレンフォルス、通信戦、1975年)のあと10手で黒の勝ちになった。

5…Nc6 6.Bb2 d5 7.cxd5 Nxd5 8.g3

 このあとは 9.Bg2 から 10.O-O でほぼ互角になる(『チェス布局大成A』、1966年)。

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2017年07月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(250)

「Chess Life」1999年8月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)(続き)

B)キング翼インディアン防御の優位型を目指す

ポーランド布局 [A01]
白 シドニー・バーンスタイン
黒 エドマー・メドニス
米国選手権戦、1959年

1.b4 a5!? 2.b5 e5 3.Bb2 d6 4.e4?

 高等な戦略からはこれは敗着である。そのわけは黒がいずれ重要なc5の地点を完全に支配するからである。加えてc4の地点が恒久的な穴になる。正着は 4.e3 Nf6 5.Nf3 g6 6.Be2 Bg7 7.O-O Nbd7 8.d4 O-O でいい勝負だろう。

4…Nf6 5.Nc3 g6 6.d4 Nbd7 7.Nf3 exd4 8.Nxd4 Bg7 9.g3 O-O 10.Bg2 Re8 11.O-O Nb6! 12.Rb1 Ng4 13.a4 Qg5 14.h3 Ne5

 たとえ白がうまく展開しているように見えても、c4とc5の恒久的な弱点には何も代償がない。本譜の意欲的な手の代わりに安全で本手の 14…Nf6 にはすきがない。たぶん今ならそう指すだろうが40年前はそれ以上を望んだ。しかし客観的には本譜の手には何も危険性がない。

15.Bc1

 白は 14.f4?! で駒を取れるが、15…Qxg3 16.fxe5 Bxh3! 17.Qf3 Qxg2+ 18.Qxg2 Bxg2 19.Kxg2 Bxe5 で黒が3ポーンを得て十分に代償がとれているのに対し白には弱点が残ったままである。総合すると黒がはっきり優勢である。だから白は防御態勢を整えなければならないが、長い目で見ればそれでも不十分である。

15…Qf6 16.Rb3 Ned7! 17.Nde2 Nc5 18.Ra3 Nc4 19.Ra2 Be6 20.Nd5 Bxd5 21.exd5 Re7!

 黒は唯一の素通し列を奪い取る用意ができていて、それゆえに理論的に勝ちの局面になっている。私の技量ではそれで十分だった。

22.h4 h6 23.Bd2 Nxd2 24.Qxd2 Rae8 25.Nf4 b6 26.c4 h5 27.Nh3 Qc3! 28.Qxd3 Bxc3 29.Bf3 Ne4 30.Bxe4 Rxe4 31.Rc2 Bg7 32.Nf4 Rd4 33.Rb1 Ree4 34.f3 Rxc4 35.Rbc1 Rxc2 36.Rxc2 Rxa4 37.Rxc7 Rb4 38.Rc8+ Bf8 39.Nh3 Kg7 40.Ng5 Be7 41.Ne4 f5 42.Nd2 Rxb5 43.Rc7 Kf6 44.g4 Rxd5 45.g5+ Ke6 46.Nf1 a4 47.Ne3 Rc5 48.Ra7 Ra5 49.Rb7 a3 50.Rxb6 a2 51.Nc2 Rc5 52.Nd4+ Kd5 53.Nb3 Rc3 白投了

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2017年07月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(251)

「Chess Life」1999年8月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅳ)1.g4?(グロープ攻撃)

 どうしてスイスのIMアンリ・グロープが自分の名前を明らかに劣った布局に結びつけて欲しかったのか私にはよく分からない。この手の良い面はポーンが中央に隣接したf5の地点に利いていて、g5に進めばf6の黒ナイトを追い払うことができることである。しかし悪い面は計り知れない。キング翼の極度の弱体化は未来永劫に続く。

 もちろんこれは 1.g4 をすぐに咎められるということを意味しない。実際1980年代の短い期間ながらイギリスのIMマイケル・バズマンはイギリスの一流どころを相手にこれで好成績をあげた。それは相手が彼を断固「とっちめ」なければならないと思い込んでいたためだった。棋理に合った展開と中央の態勢とに沿って指すようになって初めて、キング翼の弱点(h4、f4)が中盤戦で表面化し白は指す楽しさがなくなった。

 上等の手なら 1…c6、1…c5、1…d6、1…e6、1…e5 および 1…g6 のどれでも良い。白からの唯一のはめ手がこれである。

1…d5 2.Bg2 Bxg4?

 2…c6、2…e5、2…e6 それに 2…g6 のどれでも良い。

3.c4! c6 4.cxd5

 黒は中央のポーンが1個少なくなりその代償も不十分になる。前例が2局ある。

A)4…Nf6 5.Nc3 e5 6.dxe6e.p. Bxe6 7.d4 Nbd7 8.e4 Nb6 9.Nge2

 ケレス対ニーマン(通信戦、1934~35年)。白の優勢は明らか。

B)4…cxd5 5.Qb3 Nc6?!

 5…Qc7?! 6.Nc3! e6?? は 7.Qa4+ でビショップが取られる。まだましなのは 5…Nf6 である。

6.Bxd5 e6 7.Qxb7 exd5 8.Qxc6+ Bd7 9.Qxd5 Nf6 10.Qe5+ Be7 11.Nc3 O-O 12.d3 Bc6 13.f3 Bd6 14.Qg5 h6 15.Qh4

 フリッツ対ボゴリュボフ(ドイツ、1932年)。黒は2ポーン損の代償が十分でない。

 私は 1.g4? にどう指すか。実はまだこの手を指されたことがない。大会でも、非公式戦でも、ブリッツ戦でも、快速戦(10秒)でも。お手軽版としては「Modern Chess Openings 第12版」(1982年)に載っている次の手順が良さそうである。1…d5 2.Bg2 c6 3.h3 e6 4.d3 Bd6 5.Nf3 Ne7 6.e4 Na6 形勢は互角である。

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2017年07月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(252)

「Chess Life」1999年10月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手

 世界中で大会の開催が爆発的に増える中チェスの科学的研究全体が急速に進んでいるに違いないと考えられる。ほとんどの場合これは布局での新発見である。今回は白による新手を取り上げる。そして次回は黒による新手を取り上げる。

 『チェス新報』の発行者たちは同誌に初めて掲載された実戦の手を新手とみなしている。これは妥当な定義と思われる。

 しかし私の議論では意味のある新手に限ることにする。すなわち好手に違いないか悪手ではあり得ない手、または後日の研究のおかげで見かけよりは良い手のことである。ここではそれぞれの群から一例を取り上げる。

A)イギリス布局 A28
1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4

 4.e4 の意図は黒枡をいくらか弱める犠牲をこうむっても中央でのポーンの力を強めることである。黒の最も安全な応手は 4…Bb4 と考えられていて、かなり閉鎖的な局面になってくる。4…Nd4 の意図は白が 4.g3 と突く戦型でよく知られている。その戦型ではこことちょうど同じように黒が一組のナイトを交換することにより局面を単純化することを目指す。

 シェル対ソコロフ戦(ヘルシンキ、1992年)では黒は(4.e4 Nd4)5.Nxe5 Nxe4 6.Nxe4 Qe7 7.Bd3 Qxe5 8.O-O Ne6 9.Re1 d5 10.cxd5 Qxd5 11.Bc2 Be7 12.d3 O-O 13.Be3 c5 14.Bb3 Qf5 で互角の形勢を達成した。

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2017年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(253)

「Chess Life」1999年10月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

A)イギリス布局 A28(続き)

 しかし次の試合においては白は単純ながら強力な新手を繰り出した。

イギリス布局 [A28]
白 GMマイケル・ロード
黒 GMアレクサンドル・イワノフ
首都ワシントン、1998年

1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4 5.d3! Nxf3+

 実戦の手は白クイーンを好所に来させるが、ほかにeポーンを守る適当な方法がない。例えば 5…d6 6.Nxd4 exd4 7.Ne2 c5 では白が中央で優位に立っているのに対し黒は中央のポーン陣形のために黒枡ビショップが働かない。

6.Qxf3 d6 7.h3! Be7 8.Be3 O-O

 黒は 8…c5 と突いて白の次の手を防ぐべきだと思う。たとえ白があとでd5の地点を制する機会とクイーンが働く可能性で通常の布局の有利を保持するとしてもである。

9.d4! c6 10.Be2 Qb6

 10…Be6 で小駒の展開を完了する方が理にかなっている。黒は本譜の手で白キングがクイーン翼に不安を抱えることを期待しているようである。しかし実際はそうはならない。

11.O-O-O Qa5 12.Qg3 Re8 13.f4 Bf8?!

 黒は危険を覚悟で展開を無視し続けている。13…exd4 14.Bxd4 Be6 と指さなければいけなかった。

14.fxe5 dxe5 15.Rhf1 exd4?

 黒は反撃を夢見ているが、白の十分に展開した駒のために筋を開けるのは自殺行為である。15…Nd7 か 15…Kh8 なら受かる見込みがある。

16.Bxd4 Nxe4 17.Nxe4 Rxe4

18.Bc3!

 この軽妙手がうまい手だった。18…Qxa2 と取ってくれば 19.Rxf7! Kxf7 20.Qf3+ Kg8 21.Qxe4 で黒は次の 22.Bd3(21…g6 22.Qe5)にどうしようもない。

18…Qb6 19.c5! Qxc5 20.Rd8 g6

 20…Qe3+ はクイーン翼が展開できていないので 21.Qxe3 Rxe3 22.Bb4 で負けてしまう。

21.Bd3 Re6 22.Qc7 Re7 23.Rxf8+ Kxf8 24.Qd8+ Re8 25.Rxf7+! Kxf7 26.Qf6+ 黒投了

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2017年07月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(254)

「Chess Life」1999年10月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

 この局面は国際大会で大流行している。白はdポーンとeポーンを突くのを遅らせることにより黒が白の意図を推測するのを難しくさせながら自分の選択肢を広げたままにしている。その一方で黒はキング翼の小駒を最も働きのある地点に展開することに努めて勝つ見込みを高めている。

 上記の手順は最も一般的なものである。1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 Bb4 と 1.c4 e6 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Bb4 もよく見かける。1997年12月まで白の十分信頼できると考えられる応手は 4.Qc2 と 4.Qb3 だけだった。どちらの場合も要点は白がクイーンで取り返すことによりc3に二重ポーンができるのを避けることである。

 しかしFIDE勝ち抜き世界選手権(フローニンゲン、1997年)でチェス界は次の驚くべき新手に遭遇した。

4.g4!?

 どんな普通のチェス選手でも最初の反応は「これがチェスだって?」のはずである。正直に言うとこんな手は考えたこともなかった。ついでに言えば弱い選手が指したのなら私はたぶん「明らかに彼はまともなチェスが分かっていないな!」とでもつぶやいただろう。

 しかしレイティング2600超のGMたちがこのように指し始めると、この手には何かあるに違いなく、それが何であるかを理解するのは我々しだいである。この手の論理は次のようなものではないかと思う。3…Bb4 と指された時の白陣は中央のポーン陣形の融通性が最大になっている。だから白はdポーンにもeポーンにもあまり早く手をつけたくない。黒がすぐにキング翼にキャッスリングすることもはっきりしている。それはそうとしてまず中央を支配することなく黒キングに迫るにはどうしたらよいか?

 その答えはg列での銃剣攻撃である。白の中央は(控え目に言えば)全然開かれていないので、そこで黒の反撃が成功する危険性は最小限である(側面攻撃には中央での反撃が最善という原則を思い起こすこと)。だから白はすぐに中央で滅茶苦茶にされる心配なく側面攻撃に出ることができる。

 実のところ 4.g4!? を試す予定は私には今のところない。私の棋風には滅茶苦茶すぎる。それでも時の試練に耐える可能性は十分あると思う。

 知られている黒の応手は少なくとも5手である。主眼の2手の 4…d5 と 4…h6 は実戦の棋譜を完全に示し、ほかの3手は簡単に触れることにする。

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2017年08月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(255)

「Chess Life」1999年10月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!?(再掲)

イギリス布局 [A17]
白 GMバジム・ズビャーギンセフ
黒 GMイェルン・ビケット
ティルブルフ、1998年

4…d5

 すぐに反撃を目指すのがどの点からも主眼の指し方である。4…Bxc3 と取るのは 5.dxc3 d6 6.g5 Nfd7 7.Bg2 e5 8.Be3 Qe7 9.Nd2 f5 10.gxf6e.p. Nxf6 11.Ne4 Nxe4 12.Bxe4 Nd7 13.Qd3 Nf6 14.Bg5 Qf7 15.Bxf6(クラセンコフ対ロブロン、スービック湾、1998年)で白がはっきり優勢になった(15…gxf6? 16.c5! のあと白が36手で勝った)。クラセンコフは黒の改良手として 15…Qxf6 16.Bxh7 Be6 を指摘しポーンの相応な代償があるとしている。クラセンコフ対ボグダノフスキー戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)では 4…d6 5.g5 Nfd7 6.Qc2 Nc6 7.a3 Bxc3 8.Qxc3 e5 9.b4 Qe7 10.Bb2 Nb6 11.b5 Nd8 12.a4 Bg4 13.Bg2 Rc8?!(ボグダノフスキーは改良手として 13…a5! を指摘している)14.d4 と進み、白が展開の優位と陣地の広さで通常の布局の優勢を得た。

 そのほかにも自然な手として 4…O-O がある。この手についてロシアのGMセルゲイ・イオノフは 5.g5 Ne8 から 6…d5 に注意を喚起している。実戦による検証が必要なことは明らだが、まずキングを比較的安全な状態にしてから中央での反撃を始める着想は理にかなっている。

5.g5 Ne4 6.h4!

 ズビャーギンセフは以前に指された 6.Qa4+ Nc6 7.Nxe4 dxe4 8.Ne5 e3! 9.fxe3 Qxg5 10.Nf3 よりこの新手の方が優ると考えている。クラセンコフ対ガルシア戦(フローニンゲン、1997年)では黒が 10…Qe7? と重大な無駄手を指した(白が30手で勝った)。クラセンコフは改良手として積極的な 10…Qf6 や 10…Qh6 をあげている。

6…Nc6 7.Qc2 f5 8.gxf6e.p.

 後日の研究では 8.d3! Nxc3 9.bxc3 Bd6 10.cxd5 exd5 11.Bg2 で引き締まったポーン陣形を保つことにより通常の有利さを保持することができた。

8…Nxf6 9.a3 Bxc3 10.dxc3 Qe7 11.Bg5 Bd7 12.O-O-O

 白はまず 12.cxd5! exd5 を決めてから初めて 13.O-O-O と指すべきだった。実戦は黒のポーン取りが有効な手になった。

12…dxc4 13.h5 O-O-O 14.h6 Rhg8 15.Bh3 gxh6 16.Bh4! Rdf8 17.Nd2 Qf7 18.Nxc4 e5! 19.Bxd7+ Nxd7 20.Ne3

 この不均衡な局面はいい勝負で、黒が正着の 20…Rg6! を指せばそれが続く(ズビャーギンセフ)。しかし黒はすぐに乱れ始めた。詳細な分析は『チェス新報』第74巻第15局のズビャーギンセフの解説を参照されたい。

20…Nc5?! 21.Nd5 Nd7 22.Qd3 Qf5? 23.e4 Qe6 24.b4! Rf7?? 25.Qc4 a6 26.Nb6+ 黒投了

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2017年08月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(256)

「Chess Life」1999年10月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

イギリス布局 [A17]
白 GMブランコ・ダムリャノビッチ
黒 GMアンドレイ・ソコロフ
ユーゴスラビア、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!? h6

 f6のナイトが第一級の中央の地点を保持できるようにするのはもちろん完全に筋が通っている。しかし負の面も明らかである。キング翼のポーン陣形の弱体化は、g4-g5 突きでg列を素通しにされる危険性のためにキング翼キャッスリングが排除されることを意味する。

5.Rg1 d5

 やはりまた大いに理にかなっている。有力な変化は

 1)5…c5 6.h4 Nc6 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng8 9.g6 f5 10.a3 Ba5(シャバロフ対カークリンス、フィラデルフィア、1998年)グリコによれば白はここで 11.b4! cxb4 12.Nb5 でわずかな有利を保持できる。

 2)5…b6 6.h4 Bb7 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ne4 9.Qc2 Nxc3 10.dxc3 Bd6 11.Be3 Nc6 実戦はここで不注意な 12.Nd2?! Bh2! のために黒が少し優勢になったが(ファン・ベリー対ティマン、ベイクアーンゼー、1999年、29手で黒の勝ち)、普通に 12.O-O-O なら形勢不明かたぶん互角の局面だった。

 3)5…d6 6.h4 e5 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng4 9.Nd5 Bc5 10.d4 Bb6 11.Nxb6 axb6(ズビャーギンセフ対ベンジャミン、フローニンゲン、1997年)クラセンコフは形勢不明の局面と判断している。

6.a3 Be7 7.d4 Nbd7

 7…Ne4 も本筋で、8.Qc2 Nxc3 9.Qxc3 Nd7 10.Bg2 となった時トゥクマコフ対シュナイダー戦(ドネツク、1998年)では疑問手の 10…O-O?! のために 11.g5! と突かれる手が生じたが(実戦では白が 11.Bh1 と引いても優勢だった)、黒は冷徹に 10…c6 と指すべきだった(トゥクマコフ)。

8.cxd5 Nxd5

 8…exd5 でも 9.h4 c6 10.Qc2 Nf8 11.g5 hxg5 12.hxg5 Ng4 13.e4 dxe4 14.Qxe4 f5 15.gxf6e.p. Nxf6 16.Qe2! で白がわずかに優勢である(トゥクマコフ)。

9.e4 Nxc3 10.bxc3 c5 11.Bd3 cxd4 12.cxd4 b5!

 黒はどこかを支配する必要がある。白が中央とキング翼で広いので、唯一の領域はクイーン翼である。

13.g5 hxg5 14.Bxg5 Bxg5 15.Rxg5 Rxh2! 16.Ke2! Rh7 17.Qg1 g6 18.Bxb5 Rb8 19.a4 a6 20.Bd3 Rb2+ 21.Ke3

 白はキングが十分安全で、中央で優位に立っているためにわずかな優勢が続く。しかし局面は極端に不均衡で、どちらにとっても最善の手順を見つけるのがとてつもなく難しくなっている。詳細については『チェス新報』第73巻第15局のダムリャノビッチの分析を参照されたい。

21…Qf6 22.Rc1 Bb7 23.Rb1

 黒はここでルークを全部交換して白の中央の重要性を減殺することができる。ダムリャノビッチは 23.Qg3 からナイトをc4に捌いていく方が強い指し方だったと考えている。

23…Rxb1 24.Qxb1 Rh3! 25.Rg3 Rxg3 26.fxg3 Bc8 27.Qf1

 この手は黒を自由にさせる。 27.Qc2! Qd8 28.Qc6 a5 29.Bb5 ならまだなんとか圧力を保持できた。

27…e5! 28.Qa1 Qb6 29.Qc3 exd4+ 20.Qxd4 引き分け

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2017年08月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(257)

「Chess Life」1999年12月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手

 前回は白の「理にかなった」布局の新手を二つ紹介した。今回は黒の場合を取り上げる。

 黒は不利を背負って指し始めるので、好手の新着想を考えだすことを含めすべてがより困難である。特に 1.e4 の布局では黒は「新構想」が早々と失敗に終わらないようにことのほか注意を払わなければならない。世界級の選手による非常に理にかなった二つの重要な新手を選んでみた。

A.シチリア防御 B45
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6

 黒は無理のない融通性のある陣形を採用している。ナイトはそれぞれ最良の地点に展開し、1枡だけ進んだeポーンはd5の地点を過剰に守るとともにキング翼ビショップが展開できるようにしている。それと同時にこれからの作戦で不必要な危険を冒すのを避けるようにしている。白の最も普通の応手の 6.Ndb5 のあと黒は 6…Bb4 と指してもよいし、6…d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 でスベシュニコフ戦法に移行してもよい。

 しかし黒の展開には潜在的な欠陥がある。それは重要なe5の地点を守る配慮が足りないということである。このため白は次のような積極策をとることができる。

6.Nxc6 bxc6

 代わりに 6…dxc6?! と取るのは 7.Qxd8+ Kxd8 8.e5!(8…Nd5 には 9.Ne4、8…Nd7 には 9.f4)で展望のない收局になる。

8.e5 Nd5 9.Ne4

 白の作戦は次の3点を骨子にしている。(1)e5のポーンは黒陣を圧迫しd6の地点の潜在的な弱点を際立たせている。(2)c2-c4 突きは中央にいる黒のナイトをそっぽに追いやる。(3)黒の白枡ビショップは戦いに加わるのが難しい。まず黒の最も普通の2手を取り上げ、そのあと面白い新手を紹介する。

 (1)8…f5 は無理矢理締めつけを破るやり方だが、黒枡の弱体化と双ビショップの放棄という代価も払う。白が少しだがはっきりした優勢になるのは確かである。ツェイトリン対S.ドルマートフ戦(ソ連、1977年)は 9.exf6e.p. Nxf6 10.Nd6+ Bxd6 11.Qxd6 Qb6 12.Bd3 c5 13.Bf4! Bb7 14.O-O Rc8 15.Rfe1 と進んだ。

 (2)8…Qc7 は従来の手法である。黒は白のキング翼のポーン陣形をゆるめさせてから反撃をさぐる。主眼の実戦例にはシロフ対クラセンコフ戦(ポラニツァ・ズドルイ、1998年)がある。9.f4 Qb6 10.c4!? Bb4+ 11.Ke2 f5 12.Nf2 Ba6 13.Kf3 Ne7 14.Be3 Bc5 15.Bxc5 Qxc5 16.Qd6! Qb6 17.b3 c5 18.Be2 Rc8 19.Rhd1 Rc7 20.Ke3! 陣地の広さと黒枡の支配で白に通常の有利さがある。シロフが56手で勝った。『チェス新報』第73巻第221局にシロフの解説がある。

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2017年08月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(258)

「Chess Life」1999年12月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

A.シチリア防御 B45(続き)
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6 6.Nxc6 bxc6 7.e5 Nd5 8.Ne4
(再掲)

(3)8…Bb7!
カスパロフ対レーコー(リナレス、1999年)

 この手はペーテル・レーコーのトレーナーでハンガリー人のGMアンドラース・アドルヤーンが創案し発展させた優秀な新手である。その着想は本筋の見事さにある。黒は働いていないビショップを重要な中央の斜筋に沿って配置につける用意をしている。もちろん作戦を成功させるためには具体的な手順も必要である。以下の解説では『チェス新報』第75巻第167局のレーコーの解説のいくつかを参考にさせてもらった。

9.Be2 c5 10.O-O Qc7 11.Nd6+

 ここに 8…Bb7! の第一の真価が表れている。黒にe5のポーン取りを狙われていたが、11.c4 では 11…Ne3! 12.Bxe3 Bxe4 で互角の形勢になる。

11…Bxd6 12.exd6 Qc6 13.f3!

 白はg2での詰みに対処しなければならなかった(13.c4? Nc3!)。13.Bf3 には 13…c4! で白の白枡ビショップはほとんど働かない。本譜の手に対して黒は白の c2-c4 突きを防ぐことによりd5の強力なナイトを維持しなければならない。

13…c4! 14.Qd4 O-O! 15.Bxc4 Qxd6 16.Bb3

 2か月ほどしてスビドレル対イリェスカス戦(ドス・エルマーナス、1999年)ではいくつかの工夫があった。16.Rd1 Rfc8 17.Bd3 Qb6 18.Qxb6 Nxb6 19.a4 a5! 20.Be3 Nd5 21.Bd2 Nb6 22.b3 d5 23.Bb5 d4! 24.Bf4 Nd5 25.Be5 Rxc2 26.Bxd4 引き分け

16…Qb6 17.Rd1 Rfc8 18.Qxb6 Nxb6 19.a4

 ここでは双ビショップとクイーン翼の多数派ポーンのために白がわずかに優勢であるとみなされるに違いない。黒は中央列での優勢と半素通しc列が役に立ってくる。後知恵になるが黒の正着は白のaポーンに侵攻されるのを防ぐ 19…a5! だった。

19…d5?! 20.a5 Nc4 21.a6! Bc6 22.Bxc4 dxc4 23.Be3 Bd5 24.Ra5 Rc6

 異色ビショップはここでは白の方にだけ味方している。というのは白のビショップが黒のルークをaポーンの守りに縛りつけているのに対し、黒のビショップは何も白の脅威になっていないからである。実戦の手の代わりにレーコーは反撃を1手早める 24…f6 を指摘した。

25.Rda1 f6 26.h4 Kf7 27.Kf2 Rc7 28.Rb5 Rd8 29.Raa5 Ke7 30.Kg3 h5 31.b4! cxb3e.p. 32.cxb3 Rg8!

 局面はかなり激化した。白はクイーン翼でパスポーンを作る態勢ができている。19歳のハンガリーのGMはキング翼での反撃を見据えている。両選手とも残り時間が少なかった。レーコーは『チェス新報』第75巻第167局で以降の指し手を詳細に解説している。終局までのみごとな手順は以下のとおりである(形勢記号を少し付けておいた)。

33.Rc5 Rd7 34.b4! g5! 35.Rc2 g4 36.Kf2 g3+! 37.Ke1 e5! 38.Rd2 Rgd8 39.Rc5 Ke6 40.b5 Rb8 41.Rd3 Rbd8 42.Rd2 Rb8 43.Rd3 Rbd8 44.b6 axb6 45.Rb5 Bc4 46.Rxb6+ Kf5 47.Rxd7 Rxd7 48.a7 引き分け

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布局の探究(259)

「Chess Life」1999年12月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

B.4ナイト防御ルビンシュタイン戦法 C48
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Nd4

 第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインによって現代の大会に導入されたとき、この戦型は安全に引き分けるのに良いとみなされていた。白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 と指すしかないと決めてかかられたからだった。しかし時の流れと共に白は黒のd4のナイトを無視できることが明らかになってきた。(温故知新の 4…Bb4 の最新情報については1999年4月号の本稿を参照されたい)

5.Ba4!?(アダムズ対クラムニク、リナレス、1999年)

 このルイロペス式のビショップ引きは白に多くの新風を吹き込んだ。5…Nxf3+ 6.Qxf3 は黒にとって十分に満足できるものではないので、黒のeポーンに対する当たりは対処がそれほど容易でないことが分かる。例えば 6…Bb4 7.Ne2! O-O 8.c3 Ba5 9.d3! d5 10.Bg5 は白駒の方がずっと調和がとれている。

5…c6!

 最近の大会におけるかなりの実戦によって分かってきたことは、黒は白の白枡ビショップを働かせないようにしeポーンにはかかわらないようにすべきであるということである。簡単に言えば動的に反撃するのが正しいやり方である。

6.Nxe5 d6 7.Nd3

 この古い戦型がどれほど「新しい」かをちょっと言っておくと、初めて指されたのはモブセシアン対ラリッチ戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)である。それまでは 7.Nf3 が指されていて、7…Bg4 8.d3 d5 9.Be3 Nxf3+ 10.gxf3 Bh5! で黒が完全にポーンの代償を得ていた。

7…b5!

 私の見解ではこの手から始まる埋葬戦略が黒の最も効果的な作戦である。

8.Bb3 a5 9.a3

 このよくあるとは言い難い局面で黒の選択した手はよくある手とは言い難い。『チェス新報』第74巻第345局で解説のGMモブセシアンはほかに黒の考えられる2手を調べている。(1)9…Nxb3 10.cxb3 Be7 11.O-O O-O 12.Nf4(2)9…Ba6 10.Ba2! どちらの場合も黒はポーンの代償が十分でない。

9…d5!

 この重要な新手は黒の動的な手法の表れである。黒は白のキング翼を攻撃する準備をしているので、クイーン翼ビショップはc8-h3の斜筋に置いたままにすべきである。白が中央を開放するのは無謀である。クラムニクの分析によると 10.exd5?! Bd6! 11.O-O O-O 12.dxc6? Bxh2+! 13.Kxh2 Ng4+ 14.Kg3 Nf5+! 15.Kxg4 Qh4+ 16.Kf3 Nd4+ 17.Ke3 Re8+ のあとは即詰みになる。

 だから白は局面を閉鎖的にしておく必要がある。しかしそのためにキング翼ビショップが死んだ状態になる。

10.e5 Ne4 11.O-O Nc5

 これは堅実な作戦で、キング翼ビショップが効率的に展開できる。白のキング翼ビショップが働いていないので、黒にはポーンの代償が十分にある。クラムニクはもっと意欲的な手として 11…Qh4 と 11…h5 を指摘している。

12.Nxc5 Bxc5 13.Kh1 O-O 14.Ne2?!

 クラムニクはこの手を無駄手と批判し、14.d3 Re8 15.Bf4 と展開する手を推奨している。黒はそのあと 15…Nxb3 16.cxb3 Bd4 からの互角を選択することもできるし、15…f6!? 16.exf6 Qxf6 でそれ以上を目指すこともできる。

14…a4! 15.Ba2 f6 16.Nxd4

 GMアダムズはわずかに不利でも堅実な局面に甘んじた。16.exf6!? と実利に走るのはクラムニクの分析によると 16…Bg4!? 17.f3 Nxf3! 18.fxg7! Rf5 19.gxf3 Bxf3+ 20.Rxf3 Rxf3 で乱戦になり「形勢不明」と判断している。

16…Bxd4 17.c3 Bxe5 18.d4 Bb8 19.Bb1 Ra7!

 ポーン陣形と駒の展開はかなり似通っているが、例外は黒のクイーン翼ルークの活用が容易なことで、このため黒が少し優勢である。このあともまだいろいろな手があるが、本稿の目的とは離れるので形勢記号をいくつか添えて手順だけを示す。クラムニクは本局を『チェス新報』第75巻第298局で紹介しているので、読者は参照されたい。

20.Qf3?! g5! 21.Qh5 Qe8! 22.Qxe8 Rxe8 23.Bd3 Bg4 24.Bd2 Be2 25.Rfe1 Rae7 26.Bf5! Kg7 27.Kg1 h5 28.g3 Bd6 29.Be3 Bg4 30.Bd3 Bf3 31.Bd2 Be4 32.Bxe4 Rxe4?! 33.Rxe4 Rxe4 34.Re1 g4 35.Kg2 f5 36.f3 Rxe1 37.Bxe1 f4 38.Bd2 fxg3 39.hxg3 Kg6 40.fxg4 hxg4 41.Bf4! Be7 42.Kf2 c5 43.dxc5 Bxc5+ 44.Be3! Be6 45.Bf4 Bc5+ 引き分け

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布局の探究(260)

「Chess Life」2000年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練

 本誌1998年4月号は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキーの布局を振り返る第一歩だった。そこでは 1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局について論じた。1999年2月号では 1.e4 に対するフィッシャーの黒番を取り上げた。今回はその続きである。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B99]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第15局、レイキャビク

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Be7

 本局の開始時点でフィッシャーは3点リードしていた。だから第11局で手痛い負けを喫した過激な 7…Qb6 を避けるのはまったく賢明である。実戦的には本譜の手の後は非常に不均衡な局面で黒にも勝つ可能性が大いにある。

 戦いの戦略としてはまずある程度展開を行なっておき、そのあとで …b5 を手始めにクイーン翼で反撃に努める。

8.Qf3 Qc7 9.O-O-O Nbd7 10.Bd3

 白は小駒の展開を完了したので次にはキング翼ルークをe1に回して Nc3-d5 の狙い筋を含みに中央から作戦を始める。これは白の最も過激な作戦である。

 当時だけでなく現在でも主手順は 10.g4 b5 11.Bxf6 Nxf6 12.g5 Nd7 13.f5 で、黒は完璧に受ければ互角の形勢になる。

10…b5 11.Rhe1 Bb7 12.Qg3

 クイーンを黒の白枡ビショップの利き筋からはずすことにより白にはいつか e4-e5 と仕掛ける機会ができた。さらにはぜい弱になるかもしれないg7の地点にも「目をつけて」いる。

 すぐに 12.Nd5!? と指すこともできる。12…Nxd5(12…exd5 は 13.Nf5! があるので危なすぎる)13.exd5 Bxg5 のあとは 14.Rxe6+?!(1999年ユーゴスラビアでのミトロバノフ対ぺトロビッチ戦でうまくいかなかった)でなく、イリンチッチとぺトロビッチが『チェス新報』第75巻第247局で推奨している 14.fxg5 Ne5 15.Qh3 Bxd5 16.g6! で代償がある。

12…O-O-O

 この手はうまくいったとは言えないが、17手目と18手目には改善の可能性がある。重要な変化は 12…b4!? である。主手順は 13.Nd5! exd5! 14.exd5 Kd8 15.Qe3 Nb6 16.Nf5 Nbxd5 17.Qd4 Bf8 18.Be4 Kc8 19.Nxg7 Nxe4 20.Ne8 Qc5 21.Qxh8 Ne3 22.Re2 Nc3(コールベーヤー対トムチャク、バーデンバーデン、1987年)で、『チェス布局大成B』は「外交的に」この局面を「形勢不明」と判定している。

13.Bxf6! Nxf6

 こう取り返すしかない。13…Bxf6? と 13…gxf6? 14.Qg7(14…Rdf8 15.Nxe6!)はどちらも黒が指しように困る。

14.Qxg7 Rdf8 15.Qg3 b4 16.Na4 Rhg8 17.Qf2 Nd7

 有力な変化は 17…Qa5 18.b3 d5!? 19.e5 Ne4 20.Bxe4 dxe4 21.g3 Rd8 で、GMアイバルス・ギプスリスは形勢不明としている。

18.Kb1

 ここは勝負所である。黒はGMビクトル・コルチノイの推奨するようにすぐに 18…Nc5! 19.Nxc5 dxc5 20.Nf3 c4! と打って出なければならない。そうなれば有望な代償がある。実戦はフィッシャーが白に陣容を固めポーン得を確定させる余裕を与えた。以降の指し手は面白いが、お互い神経質になって悪手が相次いだ。詳細は『チェス新報』第14巻第507局のGMスベトザール・グリゴリッチの解説を参照して欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…Kb8? 19.c3! Nc5 20.Bc2 bxc3 21.Nxc3 Bf6 22.g3 h5 23.e5 dxe5 24.fxe5 Bh8! 25.Nf3 Rd8 26.Rxd8+ Rxd8 27.Ng5 Bxe5 28.Qxf7 Rd7 29.Qxh5? Bxc3 30.bxc3 Qb6+ 31.Kc1?! Qa5 32.Qh8+ Ka7 33.a4 Nd3+ 34.Bxd3 Rxd3 35.Kc2 Rd5 36.Re4! Rd8 37.Qg7 Qf5 38.Kb3 Qd5+? 39.Ka3 Qd2 40.Rb4 Qc1+ 41.Rb2 Qa1+ 42.Ra2 Qc1+ 43.Rb2 Qa1+ 引き分け

 結論 黒の主手順は今でも立派に通用する。12…O-O-O と 12…b4 のどちらが良いのかはもっと実戦が必要である。

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2017年08月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(261)

「Chess Life」2000年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

ピルツ防御 [B09]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第17局、レイキャビク

1.e4 d6 2.d4 g6 3.Nc3 Nf6 4.f4 Bg7 5.Nf3

 ちょっとした手順の違いはあったが(通常の 2…Nf6 でなく 2…g6)、主流手順のオーストリア攻撃(4.f4)の出発点に来た。ピルツ防御は実際のところフィッシャーの指す戦法の中では非常に珍しい。1972年の番勝負では唯一の試合で、1992年の番勝負では1局も現れなかった。

5…c5

 1972年時点で断然主流手順だったのは堅実な 5…O-O だった。しかしフィッシャーはすぐに中央で反撃することを目指しもっと動的な手を選んだ。時の経過と共にフィッシャーの手法もよく指されるようになった。

6.dxc5

 この手は本筋で堅実である。6.Bb5+ Bd7 7.e5 も同じくらい人気がありもっと乱戦になる。

6…Qa5 7.Bd3 Qxc5 8.Qe2 O-O 9.Be3 Qa5 10.O-O Bg4!

 フィッシャーは世界選手権戦のためにこの定跡に新手を用意していた。従来の 10…Nc6?! は 11.h3! と突かれて黒の白枡ビショップに好所がなくなる。それと同時に白はg4の地点を支配するのでこれまでに十分実証されているようにキング翼での展望がこの上なく良くなる。

 フィッシャーの新手は働きの劣る小駒を交換によりなくすことができるだけでなく、d4の地点に挑むことができる。金の指輪にも等しい。

11.Rad1

 スパスキーは受ける必要に迫られて完全に筋の通った手段を考え出した。それはd5の地点とd列とを支配することである。しかしこのような作戦は手がかかりすぎて、優勢に結びつくには無理がある。20年以上もの間主流手順は 11.h3 Bxf3 12.Qxf3 Nc6 13.a3 Nd7 14.Bd2 Qb6+ 15.Kh1 Nc5 16.Rab1 Nxd3 17.cxd3 f5 となっている。白はキング翼での攻撃の見通しがあるので少し優勢である。

11…Nc6 12.Bc4 Nh5 13.Bb3

 後にスパスキーは 13.Rd5 から 14.Rg5 を指摘した。本譜の手のあと黒はキング翼がいくらか弱体化するのと引き換えにクイーン翼のポーンをかすめ取る。

13…Bxc3 14.bxc3 Qxc3 15.f5

15…Nf6

 フィッシャーはナイトを中央に引き戻した。2、3か月後黒は 15…Na5 16.Bd4 Qc7 17.h3 Nxb3 18.cxb3 ですぐに白のキング翼ビショップを消去する方を選び(グリゴリッチ対ホルト、スコピエ・オリンピアード、1972年)、62手で勝った。この局面は判断が難しいままである。

16.h3 Bxf3 17.Qxf3 Na5 18.Rd3 Qc7 19.Bh6 Nxb3 20.cxb3 Qc5+ 21.Kh1 Qe5?!

 この手には異論が出た。GMロバート・バーンとIMイボ・ネイは彼等の名著の『Both Sides of the Chessboard』で 21…Rfc8 22.g4 Qe5 23.fxg6 hxg6 で黒が優勢と分析している。代わりにフィッシャーは絶好のナイトの戦略的な安全性とルークに対する好形ポーンを信頼している。終局までの手順は次のとおりである。

22.Bxf8 Rxf8 23.Re3 Rc8 24.fxg6 hxg6 25.Qf4 Qxf4 26.Rxf4 Nd7 27.Rf2 Ne5 28.Kh2 Rc1 29.Ree2 Nc6! 30.Rc2 Re1 31.Rfe2 Ra1 32.Kg3 Kg7 33.Rcd2 Rf1 34.Rf2 Re1 35.Rfe2 Rf1 36.Re3 a6 37.Rc3 Re1 38.Rc4 Rf1 39.Rdc2 Ra1 40.Rf2 Re1 41.Rfc2 g5 42.Rc1 Re2 43.R1c2 Re1 44.Rc1 Re2 45.R1c2 引き分け

 結論 5…c5 と 10…Bg4 は時の試練に耐えてきた。

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2017年09月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(262)

「Chess Life」2000年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

アリョーヒン防御 [B05]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第19局、レイキャビク

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3 Bg4

 傍流の 4…g6 はうまくいき(この第13局での貴重な勝利は本誌1999年2月号22ページを参照)、フィッシャーは主流手順に切り換えた。本譜の手はこの局面での本筋の手である。黒の目的は白の伸びすぎ気味のeポーンの土台を崩すことで、キング翼ナイトの釘付けはそのために役立つ。

5.Be2 e6 6.O-O Be7 7.h3 Bh5 8.c4 Nb6 9.Nc3 O-O 10.Be3

 白はよどみなく小駒の展開を完了し中央でかなり優位に立っている。黒は普通の手段ではうまくいかない。例えば 10…dxe5?! は 11.Nxe5 Bxe2 12.Qxe2 で白の中央が安泰で展開で優っている。一方 10…Nc6?! は 11.exd6 cxd6 12.d5! exd5 13.Nxd5 で白のポーンの形が良くしかも広い。

 黒を持って指す方は白陣の唯一弱点となる可能性はc4の地点であることを学んだ。そこで・・・

10…d5! 11.c5 Bxf3! 12.Bxf3

 白は27年以上の努力にもかかわらずフィッシャーの防御を打ち破れなかった。だから主流は 12…Nc4? を防ぐ 12.gxf3 になった。そうくれば 13.Bxc4 dxc4 14.Qa4 で貴重なポーンが取れる。12…Nc8 13.f4 Nc6 なら 14.b4 でも 14.f5 exf5 15.Bf3 でも白に通常の布局の有利さがある。

12…Nc4 13.b3!

 後には 13.Bf4 と 13.b4 が詳細に追究された。白は働いていない黒枡ビショップがなくなるのは歓迎すべきである。

13…Nxe3 14.fxe3 b6!

 フィッシャーはクイーン翼で動的な反撃を始めた。一方スパスキーは新しくできたeポーンを用いて黒の中央に挑んでいく。終局まで二人の偉大なチャンピオンの指し方は最高水準をいっている。14…Nc6 も良い手でいずれ互角になる。

15.e4! c6 16.b4 bxc5 17.bxc5 Qa5! 18.Nxd5!

 スパスキーは 18…exd5? 19.exd5 で強力なポーン横隊ができることを期待している。フィッシャーはそんなことを許す気はさらさらなく、次の手をすぐに指した。

18…Bg5! 19.Bh5!

 白のナイトは下がる所がない。そこで展開の優位を生かして黒キングに対し直接攻撃を開始した。

19…cxd5 20.Bxf7+! Rxf7 21.Rxf7 Qd2!!

 黒は反撃が必要である。21…Kxf7?? 22.Qh5+ も 21…Be3+ 22.Kh2 Kxf7 23.Qh5+ Ke7 24.Rf1 も白の勝ちになる。本譜の手のあと白はクイーンの交換を避けることができない。22.Qf3? は 22…Qxd4+ 23.Kh2 Qxe5+ 24.g3 Qb2+!(ロバート・バーン)で負けになるからである。

22.Qxd2 Bxd2 23.Raf1 Nc6

 中盤戦の乱闘が落ち着き、局面は不均衡な收局にさしかかった。両者の戦力を比較してみるにはちょうどいい頃である。黒の小駒2個に対して白にはルークと2ポーンがある。だから半ポーンほど有利である。しかし白の中央のポーン群は黒のビショップに脅かされている。

 白が最も有望なのは 24.Rc7 で、黒は注意を要する。24…Nxd4? と取ると 25.Rff7 Be3+ 26.Kh1 Bh6 27.g4 Rf8 28.Rfd7 Nf3 29.exd5 exd5 30.e6 Re8 31.Rxa7 d4 32.c6 で投了になってしまう(ファン・デル・グラフト対プリンス、通信戦、1986年)。

 黒の最も堅実な受けは 24…Nd8! 25.Re7 Nc6 で白は次のように進展が図れない。26.Rxe6 Nxd4 27.Re7 Be3+ 28.Kh1 dxe4 29.Rff7 Ne6!(バーンとネイによる)

23.exd5

 
 このあとの手もまだまだ面白いがフィッシャーは何者をも寄せつけない。詳細はバーンとネイの本か、『チェス新報』第14巻第168局を読んで欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

24…exd5 25.Rd7 Be3+ 26.Kh1 Bxd4 27.e6 Be5! 28.Rxd5 Re8 29.Re1 Rxe6 30.Rd6! Kf7! 31.Rxc6 Rxc6 32.Rxe5 Kf6 33.Rd5 Ke6 34.Rh5 h6 35.Kh2 Ra6 36.c6! Rxc6 37.Ra5 a6 38.Kg3 Kf6 39.Kf3 Rc3+ 40.Kf2 Rc2+ 引き分け

 結論 4…Bg4 は堅実な本筋の手で、12.Bxf3 のあとの黒の指し手は依然として洗練されている。

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2017年09月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(263)

「Chess Life」2000年4月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に

 初心者向けの本では布局の指し方の原則(「大ざっぱな指針」)をいくつか示すのが普通である。これらの原則の有用性は主にその本の時代と読者に対する著者の興味とによる。1999年6月号の本稿ではJ.R.カパブランカの「ビショップより先にナイトを出せ」という金言に賛意を表した。今回はこの役に立つ「大ざっぱな指針」についてもっと詳しく論じてみたい。

 明白で全般的な原則に基づく単純な事実は、布局の早い段階で4個のナイトの理想の位置(地点)は分かっているということである。これらの地点を次図に示す。

 それぞれのナイトに着目すれば以下のことが分かる。

 1.布局では中央の支配が非常に大事なので、それぞれのナイトは中央の地点を最大限支配している。すなわちc3とf6のナイトはe4とd5の地点を、c6とf3のナイトはd4とe5の地点を支配している。

 2.これらの地点からそれぞれのナイトは可能な最多の8地点を支配している。最大限の効果のために最も大切な中央の2地点が含まれている。ナイトは短射程の駒なので、できるだけ多くの働きをしなければならない。(ビショップは最高13地点に利き、ルークは14地点、クイーンは27地点に利く。)

 もちろんナイトをc3とf3、c6とf6に置くこと自体は重要でない。また、チェスでは一般的にそうなのだが、白は黒よりもナイトを理想の地点につける見通しが優っている。

 以下では閉鎖布局から2局と開放布局から1局を例として取り上げて原則と優先度について解説する。

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2017年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(264)

「Chess Life」2000年4月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

イギリス布局 [A29]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMボリス・グリコ
米国選手権戦準決勝、1999年

1.c4 e5 2.Nc3

 閉鎖布局では普通はcポーンを活用するのが望ましい。だからすぐに 1.Nc3 と指すのはその可能性が失われる欠点がある。(ここでのように)2手目で展開するのは非の打ち所がない。ついでに付言しておくとすぐに 1.Nf3 と指すのは欠点がない。早く 1.f4 と突くのはキング翼を弱める不利があり滅多に用いられないからである。

2…Nf6

 申し分なし。2…Nc6 も同じく良い手だが、白に 3.g3 から 4.Bg2 でd5の地点を支配する選択権を与えることになる。

3.Nf3 Nc6 4.g3

 ナイトがまったく申し分なく展開されたので白は次にビショップを展開すべきである。クイーン翼ビショップの展開のためには 4.d3 や 4.d4 が理にかなっている。現在のところキング翼ビショップを最初に展開する方が普通である。本譜の手はもっと多く見られる。「フィアンケットされた」ビショップが中央のe4とd5の地点をにらむことになる。5.d4 と突くための 4.e3 も良い手である。

4…Bb4

 黒枡ビショップが元々の利き筋に沿って展開できるようにeポーンが斜筋を通したので、こう指すべきである。ほかの手はA.4…Be7 は守勢すぎ、B.4…Bd6?! はdポーンをふさぎ、C.4…Bc5 は中央の斜筋につけて魅力的だが展望がほとんどない。おまけに 5.Nxe5! Bxf2+ 6.Kxf2 Nxe5 7.e4 c5 8.d4! で白が中央の広さで大きく優勢になる。

 だから黒枡ビショップをb4につけるのが圧倒的多数のGMのお気に入りになった。このビショップは都合の良い時に白のポーンを二重にする用意があるので厄介である。

5.Bg2 O-O 6.O-O Re8 7.Nd5!?

 もちろん布局の原則は「布局の早い段階では同じ駒を2度動かすな」と明言している。しかし白は 7…e4 という不快な狙いに直面していて、7.d3 は 7…Bxc3 8.bxc3 e4 で乱戦になる。

 このナイト跳ねには洗練された戦略の目的もある。それは黒の黒枡ビショップをb4で「遊び駒」と化すことである。

7…Bc5 8.d3 Nxd5 9.cxd5 Nd4 10.Nd2!

 等価交換の 10.Nxd4 は黒に取って痛くも痒くもない。本譜の手は 7.Nd5!? と似た考え方に基づいている。つまり黒のd4のナイトの将来性をなくすことである。

10…d6 11.e3 Nf5 12.Nc4 a6 13.b3 Ne7 14.Bb2

 小駒の展開の最終工程ははクイーン翼ビショップの面倒を見ることである。白はフィアンケットし、黒はビショップを斜筋につける前に待つことにした。

 白は駒の展開の融通性に優り、d5ポーンのおかげで陣地がわずかに広い。それゆえに少し優勢である。GMヤセル・セイラワンは『Inside Chess』(2000年1月号53~54ページ)でこの試合を徹底的に解説したので読んでみて欲しい。終局までの手順をセイラワンの分析を基にした記号を付けて示す。

14…b5 15.d4! exd4 16.exd4 Bb6! 17.Nxb6 cxb6 18.Re1 Bb7 19.Qh5 Qd7 20.Re2 f5?? 21.Rae1 g6 22.Qg5? Nxd5 23.g4 Rxe2 引き分け

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2017年09月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(265)

「Chess Life」2000年4月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

スラブ防御 [D19]
白 GMアレックス・イェルモリンスキー
黒 GMエドマー・メドニス
ナショナル・オープン、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 c6 3.d4 d5 4.Nc3

 GMの対局によくあることだがレーティ布局(1.Nf3、2.c4)から始まった試合が「通常の」dポーン布局に移行した。白は両ナイトを迅速に理想の地点に展開し、黒はキング翼ナイトだけを理想の地点に展開している。黒のクイーン翼ナイトはポーンがc6にいるのでそこへ行けない。

4…dxc4

 黒はスラブ防御の主手順を選んだ。このポーン取りは楽に取り返すために白は1手かけなければならないだけでなくクイーン翼を弱めなければならないことにより首肯される。

5.a4 Bf5 6.e3

 どの点からも申し分のない手。白は Bxc4 でスムーズにポーンを取り戻す。10年くらい前に元世界チャンピオンのアナトリー・カルポフが指すようになったおかげで「布局の原則に背く」6.Ne5 がほとんど同じくらい一般的になった。それでも白が 6.Ne5 を指しこなすにはより広く深い理解が必要であることに注意を喚起しなければならない。これが当を得ているのは 6.e3 が「申し分ない」のに対し、6.Ne5 は具体的な手順に基づいているからである。

6…e6 7.Bxc4 Bb4

 黒の5手目と7手目は重要な中央のe4の地点をめぐって戦いが行われることを示している。だからキング翼ビショップの好所はb4の地点しかない。

8.O-O O-O 9.Qe2

 両者のキングはキャッスリングによって安全な地点に移動した。白は本譜の手で e3-e4 突きを準備している。多くの分析により黒は 9…Ne4?! によってそれを防ぐことができないことが明らかになっている。というのは 10.Bd3! によって白の優勢の度合いが通常よりも大きくなるからである。一例は 10…Nxc3 11.bxc3 Bxc3 12.Rb1 である。

9…Nbd7!

 黒はこれぞという手が見当たらないので順当に小駒の展開を完了させた。クイーン翼ナイトの最適の位置は理論上はc6だが、d7は次善の位置に当たる。そこからは中央の一番重要なe5の地点と次に重要なc5の地点に利いている。

10.e4 Bg6

 黒には 11…Bxc3 からeポーンを取る狙いがある。

11.Bd3

 すぐに 11.e5 と突く手もある。本譜の手で白のdポーンとeポーンは中央の重要な地点すべてに利いていて、見るからに完璧なポーン中央になっている。黒は中央で反撃を図る必要があり、周知の手段は…

11…Bh5!

 狙いは 12…e5 で、12.Bf4 でこれを防げば 12…Re8 で狙いを復活させて 13.e5 と突かせる。

12.e5 Nd5 13.Ne4

 イェルモリンスキーはこの戦型を以前に指したことがあり好結果を出している。黒が通常どおり 13…Be7 と指せば白は普通に少し優勢である。しかし私はどういうわけか戦型を混同していて、引き分けるのに大いに苦労した。

13…c5?! 14.Bg5 Qa5 15.Bb5 Nb8! 16.Nxc5 Bxc5 17.dxc5 a6 18.Bd2 Qc7 19.Bd3 Bxf3! 20.Qxf3 Qxe5 21.b4 Nc6 22.Rab1 Qd4! 23.Qe4 Qxe4 24.Bxe4 Rfd8 25.b5 axb5 26.axb5 Ne5 27.Rfc1?! f5! 28.Bxd5 Rxd5 29.Be3 f4! 30.Bxf4 Nd3 31.Rc4 Nxf4 32.Rxf4 Rxc5 引き分け

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2017年09月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(266)

「Chess Life」2000年4月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

シチリア防御 [B62]
白 マルセル・マルティネス
黒 GMアレックス・イェルモリンスキー
シカゴ、1999年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6

 シチリア防御が1930年代初めに受け入れられ始めた時にはこのナイト跳ねが主流だった。理論的にはまったく申し分のない手である。cポーンが既にc5にあって重要な中央のd4の地点に利いているので、クイーン翼ナイトをこの理想的な地点に持って来ることは完全に首肯される。

 しかし時の流れはほかの手の普及ももたらした。それらは 2…d6 または 2…e6 と突くことが必要か(例えばナイドルフ戦法にするには 2…d6)、何らかの融通性のある手が必要である。

3.d4

 これが断然よく指される戦型である。白は筋を開けることにより迅速にすべての小駒を展開して黒キングに対する積極的な作戦を開始することができる。

3…cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6

 GMジョン・ナンはこの局面をまったく直観的に「クラシカル戦法」と名付けた。それは非常に重要で人気があり筋が通っていて、1930年代初めにさかのぼるからである。

 布局の原則の高度な観点からは両者とも成すべきことは全部やっている。4個のナイトは申し分のない地点にいて、ポーン陣形には欠陥がなく、両者ともビショップの展開の手順とやり方を決めることができる。白には高等な二通りのポーン突きもある。6.f4 はe5の地点に利き、6.g3 はキング翼ビショップをg2に展開することができる。

 しかし圧倒的に多いのはビショップをすぐに動かす手である。それぞれの特徴は次のとおりである。

A.クイーン翼ビショップの展開

 1.6.Bg5 は断然よく指される。すぐに黒のキング翼ににらみを利かしている。

 2.6.Be3 はそれに次ぐ戦型で、6…Ng4 から乱戦になる。

 3.6.Bf4?? と 6.Bd2?? は駒損になる。

B.キング翼ビショップの展開

 1.6.Be2 はさりげなく堅実な手である。二つの重要な斜筋に利きキング翼キャッスリングの準備になっている。

 2.6.Bc4 はボビー・フィッシャーによってよみがえり、黒のキング翼に対する危険な攻撃兵器になった。

 3.6.Bb5 は実際よりもはるかに危険である。当然の 6…Bd7 のあとは二組の小駒が交換になり白の攻撃の見通しが最小限になりそうである。

6.Bg5 e6 7.Bb5

 リヒター攻撃の従来の手法は 7.Qd2 から 8.O-O-O である。私の考えではこの方が本譜より強力である。

7…Qb6!? 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5?!

 これは大胆不敵な作戦だが準備不足で成功しない。イェルモリンスキーは着実に対処した。彼の解説は『チェス新報』第76巻第196局を参照して欲しい。終局までの手順をイェルモリンスキーの分析による記号をいくつか付けてあげておく。

9…exd5 10.exd5 a6 11.Bxc6+ bxc6 12.Qe2+ Be6! 13.Nxe6 fxe6 14.Qxe6+ Be7 15.O-O?! Kf8 16.Rfe1 Re8 17.Re3 Rg8! 18.Rae1 cxd5 19.Qf5? Rg7 20.Qxd5 Qxb2 白投了

 結論 「ビショップよりナイトを先に出せ」は簡単で役に立つ原則である。そして驚くほどよく当てはまる。もしどうしたらよいか迷ったときは従った方が良い。

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布局の探究(267)

「Chess Life」2000年6月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て

 世界チャンピオンたちは皆棋風が異なっている。それでもアレクサンドル・アリョーヒンとガリー・カスパロフとの間には多くの類似点が見受けられる。チェスへの飽くなき情熱、布局の新手のたゆまぬ探求、自分の実戦の深い分析、dポーン布局でもeポーン布局でも同等に指す棋力、そして主導権を得るための積極的な姿勢は両チャンピオンに共通する特質である。ここではカスパロフの主導権のつかみ方に的をしぼる。

 誰でもただで何かが得られたらうれしい。カスパロフが傑出しているのは主導権を得るために進んで戦力を犠牲にするところにある。

 私はよく冗談で元世界チャンピオンのミハイル・タリは3回のチェックのためにルークを犠牲にすることをためらわず、5回のチェックならクイーンを犠牲にすることをためらわないと言った。しかしカスパロフはタリとは違う。彼ははるかに実際的だ。しかし主導権を得るためにポーンを犠牲にするのは彼が定常的に払う代価である。

 4種類のポーンの突き捨てを例示し、うまくいくために必要な条件をそれぞれ説明することにする。

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2017年09月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(268)

「Chess Life」2000年6月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

中央での主眼の突き捨て
クイーン翼ギャンビット受諾 [D27]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMワシリー・イワンチュク
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 e6 4.e3 c5 5.Bxc4 a6 6.O-O Nf6 7.Bb3 Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1 O-O 11.a3

 局面は典型的な孤立dポーンの形になっている。白の影響力に優る中央と駒の積極的な展開はdポーンの孤立を補っている。実戦の手には二つの目的がある。それは …b5 から …b4 に備えて白ナイトが現在の位置にとどまることと、クイーンが …Nb4 に煩わされることなくd3に行けるようにすることである。カスパロフは白の可能性はキング翼にあると判断していた。

11…Na5 12.Bc2! b5

13.d5!

 これは重要な新手である。ありきたりの 13.Qd3 では黒に 13…Bb7 で陣形を整える余裕を与える。ソコロフ対ハンセン戦(マルメ、1998年)では 14.Bg5 g6 15.Ne5 Rc8 16.Rad1 Nc4 17.Nxc4 bxc4 18.Qh3 Nd5 19.Bh6 Re8 20.Ne4 Qb6 21.Bc1 f5 22.Nc3 Bf6 と進んで互角だった。

 この突き捨てが成立するのは黒のクイーン翼の展開が完了していないからで、白駒は迅速に黒キングへの攻撃に移れる。カスパロフは黒がd5のポーンを取った場合の簡潔な分析を示している。「13…exd5 14.Qd3 は代償あり。13…Nxd5 14.Nxd5 exd5(14…Qxd5?? 15.Qxd5 exd5 16.Rxe7 で白の駒得。e1のルークの働きに注目すること)15.Qd3 g6 16.Bh6 Re8 17.Qc3 f6 18.Nd4 白に代償あり」

 つけ加えるなら白の優勢は明らかである。

13…Nc4

 14.dxe6 は今のところ狙いになっていないので、イワンチュクはこの間にクイーン翼ナイトを中央方面に持ってきた。しかしカスパロフは不安定なナイトの揺さぶり方をやってみせた。後にクラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)で黒は 13…Re8 と変化したがうまくいかなかった。クラムニクがその試合を『チェス新報』第75巻第360局で詳解しているので参照して欲しい。

14.Qd3! Re8

 14…Nb6 の余裕はない。15.Ng5! Nbxd5(15…h6 16.Nh7)16.Nxh7 Re8 17.Nxf6+ Nxf6 18.Qh3 で白が大きく優勢になる(カスパロフ)。

15.a4!

 よくあるように白は作戦を成功させるためには盤面全体を使わなければならない。カスパロフの示すところでは一本調子の 15.Ng5?! では 15…exd5! 16.Nxh7 g6 17.Nxf6+ Bxf6 18.Rxe8+ Qxe8 19.Nxd5 Qe1+ 20.Qf1 Qxf1+ 21.Kxf1 Bxb2 でうまくいかない。

15…exd5 16.axb5 a5 17.b3 Nd6 18.Nd4 Bb7 19.f3!

 局面の様相は大きく変わった。それでも有利な要素はすべて白の方にある。中央の支配、大駒と小駒の活発な働き、黒陣の枡の支配、そして黒は白陣から締め出されている。カスパロフは順当に勝ちを収め、『チェス新報』第75巻第359局に詳細な分析を載せている。終局までの手順はいくつかの形勢記号を付けて示すにとどめる。

19…Rc8 20.Na4! Bf8 21.Bg5 g6 22.Qd2 Rxe1+ 23.Rxe1 Nde8 24.Re2! Bb4 25.Qe3 Rc7 26.Bd3 Re7 27.Qc1 Rxe2 28.Bxe2 Qe7?! 29.Qe3! Qxe3+ 30.Bxe3 Nd7 31.Nc6! Bxc6 32.bxc6 Nb8 33.Bb6 Bd6 34.Nc3 Bc7 35.Bf2?! d4 36.Nd5 黒時間切れ負け

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2017年09月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(269)

「Chess Life」2000年6月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

側面での主眼の突き捨て
二ムゾインディアン防御 [E20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMナイジェル・ショート
サラエボ、1999年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.g3

 カスパロフは1985・86年カルポフとの世界選手権戦でこの戦型を採用して大成功を収め、それ以来おりおり使っている。ショートは評価の高い防御を選んだがカスパロフはいつものことながら一歩先を行っている。

5…O-O 6.Bg2 cxd4 7.Nxd4 d5 8.cxd5 Nxd5 9.Bd2 Bxc3

 双ビショップを放棄するのを避ける 9…Nxc3 10.bxc3 Be7 の方がよく指されている。しかしショートはナイトで封鎖する面白い新手を用意していた。

10.bxc3 Nb6!? 11.Be3 Nd5!? 12.Qd2 Nd7 13.Bg5! Qc7

14.Nb5!

 すべてはポーンの突き捨てでc列を素通しにすることにより主導権を握るための確固たる作戦の一環である。カスパロフは通常の方法ではうまくいかないことを明らかにしている。2例を示すと、まず 14.e4?! は 14…N5b6 で黒のクイーンとナイトが白の割れたクイーン翼ポーンに入り込んでくる。次に 14.Bxd5?! は 14…exd5 15.Nf5 f6 16.Ne7+ Kh8 17.Nxd5 Qc6 18.Be3 Ne5! 19.O-O Nc4 20.Qd4 Rd8 21.Ne7 Rxd4 22.Nxc6 Re4 となって黒がいくらか優勢である。

14…Qc5 15.c4!! Qxc4 16.Rb1 N7b6! 17.O-O

 これが白の想定していた局面である。ポーンの代償として白にはb列とc列に活動的なルーク、黒陣の各所に利くビショップ、黒陣側の好所にいるナイトがあり、すべての駒が十分に展開している。ここで黒が 17…Bd7 と展開を完了すれば、カスパロフは 18.Rfc1 Qa4 19.Nd6 h6 20.e4! hxg5 21.exd5 exd5 22.Qxg5 Qxa2 23.h4 で白の攻撃が危険なものとなると読んでいた。しょせん危険は避けられないのでショートは困難を顧みず駒得することにした。ここから数手の間両者は秘術を尽くす。

17…h6! 18.Bxh6! gxh6 19.e4! Ne7! 20.Rfc1 Qa4 21.Qxh6 Bd7!

 21…Ng6? は負けになる手だが、その証明には31行の分析「しか」要しない。カスパロフがこの試合の分析にかけた労力は並外れている。それを参考にするとよい(『チェス新報』第75巻第466局)。

22.Rc5 Ng6 23.Rg5! Qc2! 24.Na3! Qd3! 25.h4

 カスパロフはこの手を選んだことに飽き足らず、25.Rb3! に46行の分析を費やしていた。黒の防御がより一層大変になるが、両者が最善を尽くせば引き分けが妥当な結果である。このあとは双方の時間切迫で指し手が乱れた。いずれにしても両GMは内容を誇ってよい。終局までの手順をあげておく。

25…Qxa3 26.h5? Qe7 27.e5 Be8! 28.Be4 f5 29.exf6e.p. Rxf6 30.hxg6 Qg7?! 31.Qh7+! Kf8 32.Qh4 Rc8? 33.Rh5 Bxg6 34.Rh8+ Kf7 35.Rxc8 Nxc8 36.Rxb7+ Ne7 37.Bxg6+ Qxg6 38.Qb4 Qf5 39.Qxe7+ Kg6 40.Qh7+ 黒投了

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2017年09月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(270)

「Chess Life」2000年6月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

乱戦を目指す
ぺトロフ防御 [C42]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMアレクセイ・シロフ
リナレス、2000年

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Bd6

 このマーシャル戦法はかつては廃れていたが、主要な手順が戦略的に深く理解されたことに助長されて1980年代の中頃に復活した。今ではぺトロフ防御の主流手順の一部になっている。14手目までは比較的すらすらと進む。

7.O-O O-O 8.c4 c6 9.cxd5 cxd5 10.Nc3 Nxc3 11.bxc3 Bg4 12.Rb1 Nd7 13.h3 Bh5 14.Rb5 Nb6

15.c4!?

 15.a4 のようなお決まりの手順なら黒は 15…a6 16.Rb1 Rb8 でクイーン翼を安泰にすることができ堅陣になる。だからカスパロフは積極的な本譜の手で打って出た。乱戦にはなるがかなり深く研究されていて、シロフの応手は問題がない。黒の手は決まっている。

15…Bxf3 16.Qxf3 dxc4 17.Bc2 Qd7 18.a4 g6! 19.Bd2!

 白はキング翼とb列のポーンに対して攻撃の見通しがある。この試合は第1回戦で指された。第3回戦でアーナンドはシロフに対し 19.Be3 と変化したが、シロフは用意ができていて 19…Rac8 20.Rfb1 c3! 21.a5 Nc4 で互角にした。その試合は黒のシロフが結局41手で勝った。

19…c3!

 この手には筋が通っている。つまり自分の強みとなっているもの(cポーン!)を利用してすぐに素通しとなるc列で反撃を目指すということである。以降の手順には両GMの好調さが表れている。

20.Bxc3 Rac8 21.Be4 Rc4 22.Rbb1 Rxa4 23.Bxb7 Ra3! 24.Rfc1 Qc7 25.Ra1 Rb8 26.Be4 Rb3 27.Bd2 Bh2+ 28.Kh1 Rxf3 29.Rxc7 Rxf2 30.Kxh2 Rxd2 31.Raxa7 Nc8??

 不運にもこの手にはひどい見損じがあった。31…Rxd4! 32.Rxf7 Rxe4 33.Rg7+ なら白はチェックの千日手にするしかなかった。実戦は黒がナイトを失い負けた。

32.Rab7 Rxb7 33.Rxc8+ Kg7 34.Bxb7 Rxd4 35.g4! h5 36.g5! h4 37.Rc7 Rf4 38.Bc8 Rf2+ 39.Kg1 Rf4 40.Kg2 Kf8 41.Bg4 Kg7 42.Rc5 Kf8 43.Bf3 Kg7 44.Kf2 Ra4 45.Ke3 Ra3+ 46.Kf4 Ra4+ 47.Ke5 Ra3 48.Bd5! Re3+ 49.Kf4 Rd3 50.Bc4 Rd7 51.Rc6 Re7 52.Rf6 黒投了

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2017年10月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(271)

「Chess Life」2000年6月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

総攻撃を見据えて
クイーン翼ギャンビット受諾 [D20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMビシュワーナターン・アーナンド
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4

 ずいぶん前は(20年!)この手は黒の応手のために布局の悪手だと考えられていた。そして正着は 3…e5 を防ぐ 3.Nf3 だけだとされていた。現在は白が長期のポーンの犠牲を覚悟している限り問題ないことが知られている。カスパロフにとっては全然問題ない。

3…e5 4.Nf3 exd4 5.Bxc4 Nc6 6.O-O Be6 7.Bb5 Bc5 8.Nbd2 Qd6!? 9.e5 Qd5 10.Ng5 O-O-O 11.Bc4 Qd7

 カスパロフは 11…Qxe5!? は 12.Nxe6 fxe6 13.Re1 Qf6 14.Ne4 Qf8 で形勢不明になると解説している。アーナンドは「安全」な本譜を選んだが、このあと分かるように黒にとっては全然安全でない。

12.Nxe6 fxe6

13.b4!!

 当然だ。黒キングはクイーン翼にいるのに、なぜそちらでまたポーンをくれてやって素通し列を作るのか?カスパロフは 13…Bxb4 なら 14.Qb3 Re8 15.Rb1 b6 16.Ne4 で黒が危険になると分析している。たぶんGMエリズバル・ウリラーバの指摘するように 13…Bb6?! 14.a4 d3! で列を閉鎖しておくのが取るべき策だった。

13…Nxb4 14.Qb3 Nd5 15.Ne4 Bb6 16.a4 a5 17.Nd6+! Kb8 18.Bxd5 exd5 19.Bd2!

 この手は 20.Bxa5 を狙っている。だから黒はナイトを取って運を天に任せた。

19…cxd6 20.Qxb6 dxe5 21.f4!!

 黒はポーン得だが、カスパロフは断固として盤面全体で黒陣の切り崩しを続ける。

21…Nf6 22.fxe5 Ne4 23.Bxa5

23…d3!

 ここは勝負所である。カスパロフは 24.Qd4! のあとの詳細極まる分析を示し、両者が最善を尽くせば白が勝つとしている。この分析やほかの参考になる多くの変化については『チェス新報』第75巻第348局を参照して欲しい。時間切迫から(ここでは無理からぬことだが)カスパロフは別の手を選びアーナンドは引き分けに逃げることができた。

24.e6?! Qd6 25.Qxd6+ Rxd6 26.e7 Rf6! 27.Rxf6 Nxf6 28.Rd1 Re8 29.Bb4 引き分け

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2017年10月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(272)

「Chess Life」2000年8月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン

 20年以上前デンマークのGMベント・ラーセンはシドニー・フリードのRHM出版から「hポーンの戦術的戦略的重要性」という題名の本を出版する予定だった。この本は実際には書かれることがなかったし、私もラーセンが収集したに違いない膨大な調査の情報を持ち合わせていない。それでもこの表題は重要であり、本稿で簡潔に取り上げるのにふさわしい。実戦ではhポーンはキングがキャッスリングしていようとまだ中央列に踏みとどまっていようとキングへの近さゆえにはるかに重要性を帯びている。

戦術上の重要性

 早い戦術が意味を持つにはhポーンに攻撃目標が必要で、黒が 1.e4 への防御として 1…g6 を採用した場合が重要である。

現代防御 B06

1.e4 g6 2.d4

 「血気にはやる」攻撃好きならすぐに 2.h4 と指すことができる。それに対して黒には理にかなった応手が二つある。

 1)2…h5 は 3.h5 を防いでいるがキング翼を恒久的に弱めている犠牲を払っている。リーゴ対クリスティアンセン戦(ハンガリー、1985年)では白は次の手から猛攻をかけた。3.Bc4 Nf6 4.Nc3 c6 5.e5 d5 6.exf6 dxc4 7.Qe2 Be6 8.Nh3! exf6 9.Nf4 Qd6 10.d3! cxd3 11.Nxd3 Be7 12.Ne4 Qd8 13.Nf4 O-O?! 14.Nxe6 fxe6 15.g4! そして次のように締めくくった。15…hxg4 16.Qxg4 Qa5+ 17.Bd2 Qf5 18.Qg2 Qh5 19.f3 Nd7 20.O-O-O Ne5 21.Rh3 Rad8 22.Rg1 Kg7 23.Rg3 Rxd2 24.Qxd2 Nxf3 25.Rxg6+ Kh7 26.Nxf6+! Bxf6 27.Qd7+ Kh8 28.Rxf6 黒投了 IMチェルナが『チェス新報』第40巻第144局でこの試合を詳しく解説している。

 2)2…d5! は本筋に思われる。白は展開を無視して攻撃にはやったので、中央での反撃が主眼の対処法になるからである。参考になる前例は2局ある。(a)3.h5? は的外れである。ホンフィ対バダース戦(ブダペスト、1976年)で白は何の見返りもなくポーン損のままだった。3…dxe4 4.hxg6 fxg6 5.Nc3 Nf6 6.Nh3 Nc6 7.Ng5 Bf5 8.Bb5 Bg7(b)3.exd5 Qxd5 4.Nc3 Qa5 5.h5 Bg7 6.Bc4 Nc6 ここまではデイビーズ対ズィスク戦(ブダペスト、1987年)で、『チェス新報』第43巻第141局ではここで 7.Nge2 が推奨され「形勢不明」と判断されている。そのとおりだが、実戦では白が銃剣攻撃を貫徹した。

2…Bg7

 黒が白の早い h2-h4 突きの厳しさの可能性を 2…d6 によって和らげるには(3.h4 Nf6)、「真正現代防御」の 1…g6 から 2…Bg7 という手順の最大の融通性を犠牲にすることによってのみ可能である。

3.h4!?

 私の考えではもし白が早く h2-h4 と突くつもりなら、ここがちょうど良い機会である。というのはe4とd4の並びは白にまっとうな展開を保証し、白には黒の手に対処する良い選択肢があるからである。4.h5 は本物の「狙い」で、黒の理にかなった応手は三通りある。

 1)3…c5 4.d5 h5 5.d6!?(5.Nh3 か 5.Nf3 なら普通である)5…Nf6 6.Nc3 O-O 7.Nh3 Nc6 8.Ng5 b6 9.f3 Bb7 10.Be3 Nd4! 11.Nb5 Nxb5 12.Bxb5 a6 これはムラトフ対ラズバエフ戦(ソ連、1978年)で、チェス布局大成B(1984年)では互角となっている。

 2)3…d54.e5 および 4.exd5 Qxd5 5.Be3 または 5.c3 となるが実戦での検証が必要である。

 3)3…h5 4.Bg5 d6 はホルト対キーン戦(レイキャビク、1972年)に移行する。黒はキング翼の弱さのためにずっと苦戦を強いられた。5.c3 d5 6.Nd2 dxe4 7.Nxe4 Nf6 8.Nxf6+ exf6 9.Be3 O-O 10.Bd3 Nc6 11.Ne2 Ne7 12.Qd2 Bf5 13.Bc4 Be4 14.f3 Bc6 15.Bh6 Re8 16.Kf2! Nf5 17.Bf4 GMホルトは54手で勝ちをもぎ取り、『チェス新報』第13巻第159局で詳細に解説している。

 結論 このような早いhポーン突きは私の趣味に合わないが、速攻が好きで膨大な研究をいとわない人にとっては指せる戦法である。

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布局の探究(273)

「Chess Life」2000年8月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性

 hポーンの戦略上の重要性は閉鎖布局に最もよく現れる。目的はキングを脅かすことよりも、陣地を広げること、および/または要所を支配することである。イギリス布局は中央が中心舞台でなく本質的に側面布局なのでhポーン気違いのお気に入りである。そこで二つの重要な戦型を選んでみた。見られるとおりここでも「hポーン」は弱点となる可能性のある攻撃先が必要である。それはg6やg3の地点である。

イギリス布局 [A16]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ベイクアーンゼー、1983年

1.c4 Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.g3 g6 5.Bg2 Nb6

 白の5手目の後は擬似グリューンフェルト防御の状況になっていて、黒のd5のナイトはb6に後退するかc3で交換するかを選ばなければならない。どちらも主流手順と考えられる。5…Nxc3 6.bxc3 Bg7 でも白は 7.h4!? と突いていける。

6.h4!? h6

 この応手は戦略的に正しい。白は 7.h5 と突かせてくれるのなら黒のキング翼をひどく制限することになる。一方「自動的な」6…h5 はg5の地点が恒久的な弱点として残ることになる。本譜の手のあと 7.h5 は 7…g5 と軽く受け流せる。

7.d3 Bg7

 マルサレク対サボン戦(ワルシャワ、1969年)に関連してGMエドゥワルド・グフェルトは 7…Nc6 8.h5 g5 9.f4 gxf4 10.gxf4 Rg8 を指摘し「形勢不明」とした。

8.Be3 N8d7 9.a4!?

 この攻撃的なポーン突きは当時の新手だった。セイラワンはクイーン翼で盛り上がりたがっているが、代償はb4の地点の弱体化である。以前は 9.Nf3 が指された。コルチノイは 9…a5?! でクイーン翼に根本的な弱点を作るよりも中央に目を向けた。

9…Nf6! 10.a5 Nbd5 11.Bd4!?

 白はポーン陣形をいくらか犠牲にして意欲的なやり方を続け、クイーン翼で主導権を持てるような收局を選んだ。11.Bd2 なら通常の中盤戦になりたぶん白がわずかに優勢だっただろう。

11…Nf4! 12.gxf4 Qxd4 13.Qa4+ Qxa4 14.Rxa4 Rb8 15.Nf3 O-O 16.O-O Be6 17.d4 c6

 堅実が黒に取って適切である。『チェス新報』第35巻第18局で本局を解説したGMマタノビッチは、17…Rfc8 18.Ne5 c5?! で反撃に努めるのは 19.d5 Bd7 20.Rc4 で白が優勢になると指摘している。

18.e3 Rfc8

 局面は動的に均衡がとれていて、白は広さの優位が陣形の不利を補っている。特に白のhポーンは慢性的な弱点になっている。両選手とも偉大な戦士で、最後は若い方が勝った。主にマタノビッチの解説に基づいた形勢記号を付けて終局までの手順を示す。

19.b4?! Bd7?! 20.Ne5 Be8 21.Ra2 e6 22.Ne4 Nxe4 23.Bxe4 Bf8 24.Rb1 Be7 25.Nf3 Rc7 26.Kg2 a6 27.Kg3 b6 28.Ne5 Kg7 29.Nd3 Bd6 30.Kg2! f6? 31.Rba1 bxa5 32.Rxa5 Bxb4 33.Rxa6 Be7 34.Kg3 Rb3 35.Ra7 Rxa7 36.Rxa7 Kf8 37.Ra8 Kf7 38.h5 gxh5 39.Bf3 Rb5?? 40.Rxe8! 黒投了

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2017年10月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(274)

「Chess Life」2000年8月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性(続き)

イギリス布局 [A25]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMプレドラグ・ニコリッチ
ベイクアーンゼー、1995年

1.c4 e5 2.g3 Nc6 3.Bg2 g6 4.e3 Bg7 5.Ne2 d6 6.Nbc3

 陣形の観点からはこの布局は逆閉鎖シチリア防御とみなすことができる。しかし布局での1手の差は大きな意味を持ち、単にイギリス布局と呼ぶのが最も正確である。ここで黒には 6…Nge7 や 6…f5 などいくつかの選択肢がある。しかしよく見かけるのは大胆な 6…h5!? である。

 どうしてか。結局のところ白陣はかなり迫力に欠けるのだから、どうして黒は攻勢をかける側に立ってはいけないのか。いや、黒はそうできる。それでも白は理にかなった布局の原則に沿って指してきたので、恐れる客観的な理由は何もない。実際白は安全に 7.h4 と応じることができ、通常のわずかな布局の有利を期待することができる。しかし白は「側面攻撃には中央での反撃が最良の策」という周知の原則に従うこともできる。そして選んだ手は…

7.d4! exd4

 黒はすぐに 7…h4 と突くこともできるが、白は 8.d5 と陣地を広げて通常の有利さを確保することができる。

8.exd4

 中央に向かって取り返すのが本手だが、8.Nxd4 でも良いかもしれない。このような戦型のどれでも互角にしたことを証明しなければならないのは黒である。

8…h4 9.Be3 Kf8 10.Qd2 Bf5

 本譜の手はセイラワンが『チェス新報』第62巻第21局の自戦解説で指摘しているように黒のキング翼ナイトから通常の地点(10…Nge7 から 11…Nf5)を奪っている。白はキングが容易にクイーン翼に安全な所を見つけることができるので、明らかにキング翼での安全を気にする必要はない。

11.Nf4 Qd7 12.O-O-O Re8 13.f3! g5?!

 白は好手で有利が広がった。展開に優り、中央で有利な態勢で、決定的な 14.g4 突きの狙いさえある。セイラワンは 13…hxg3 14.hxg3 Rxh1 が黒の最善の受けだと考えている。それでももちろん 15.Bxh1 で白の優勢は明らかである。

 代わりに黒はキング翼を弱めて形勢を悪化させた。

14.Nfd5 Na5 15.b3 c6 16.Nb4 hxg3 17.hxg3 Rxh1 18.Rxh1

 黒のhポーンの単騎出撃がやぶへびだったことにはほとんど疑いがない。白は盤上至る所で大いに優勢である。それでも局面はかなり閉鎖的なままで黒に迫るのはそれほど容易でない。以降の指し手は本題と特に関係ないので、いくつかの形勢判断記号を付けるにとどめることにする。セイラワンのすぐれた分析が『チェス新報』第62巻第21局に載っているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…f6 19.g4 Bg6 20.Bf1 d5! 21.c5 b6 22.Bd3 Ne7 23.Nc2 Kf7 24.Ne2! Rh8 25.Rxh8 Bxh8 26.Ng3 Bg7 27.Bxg6+ Nxg6 28.Nf5 Nb7 29.Qh2 Ne7 30.Qb8?! Nxf5 31.gxf5 Bf8 32.b4 Be7 33.Bf2 b5 34.Bg3 a5 35.Bc7 axb4? 36.Qxb7 Bd8 37.Nxb4 Bxc7 38.Kb2 Qe7 39.Qxc6 Ba5 40.Qxd5+ Kg7 41.Nc2 黒投了

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布局の探究(275)

「Chess Life」2000年10月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?

 1994年9月号の本稿ではフランス防御の交換戦法における白の可能性を論じた。dポーン布局の選手のために同様のことをするのが公平かもしれない。選んだのはスラブ防御交換戦法 D13・D14である。

 これが始まりの局面である。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5

 中央でポーンが交換されて対称な局面になった結果、白の優位は手番であることだけである。スラブ防御交換戦法を指すことをもくろんでいる人のために次の忠告をつけ加えておきたい。

 (a)それを目指すなら手順をもてあそばないですぐに 3.cxd5 と指すこと。

 もし白がこの交換を遅らせ少し後で交換スラブの良型版になれることを希望または期待して 3.Nc3 や 3.Nf3 と指すと、黒はどちらの場合も 3…dxc4 でそれを挫折させることができる。これらの戦型はかなり複雑で、不用意な白は容易に困難に陥ってしまうことがある。

 (b)確実に引き分けにする目的で交換戦法を指さないこと。

 黒陣は展開の容易さとポーン陣形の良形の観点から欠点がないので、白のどんな日和見的指し方も容易に黒に主導権が渡る可能性がある。(1994年9月号の本稿で同様のことを指摘した。)

 主手順はたいてい次のように進む。

4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4

 白陣には実にほれぼれとしてしまう。しっかりした中央、最良の地点の両ナイト、素通し斜筋上の黒枡ビショップ。もちろん黒にも潜在的に同じ可能性がある!

 従来黒が好んでいたのは 6…Bf5 だった。しかし互角への黒の道筋は骨の折れるものだった。そこで近年対称形を崩す試みがいろいろと模索された。最初に重要な変化を三つ考察し、そのあと 6…Bf5 を分析する。

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2017年10月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(276)

「Chess Life」2000年10月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

1)6…e6 (D13)

 重要で堅固な戦型だがとても魅力的とは言えない。黒は「何もかも」安全に守ったが、自分の白枡ビショップを死蔵し白の白枡ビショップには絶好の利き筋を与える犠牲を払っている。私の見立てでは黒は互角に到達するために非常に注意深く根気強い防御者でなければならない。

7.e3 Be7!

 中央のポーン陣形から白の優良ビショップは白枡ビショップになり黒は黒枡ビショップになる。これは中央のポーンと同じ色のビショップは良さそうに見えて実際はほとんどすることがないというように動ける可能性がひどく制限されるからである。だから通常の状況ではどちらも「優良」ビショップを残したがる。

8.Bd3 O-O 9.h3 Bd7 10.O-O Qb6 11.a3!

 この手は 11…Qxb2?? を 12.Na4 によって防ぎb4の地点に利かしている。黒の見通しは芳しくない。クリンガー対スミスロフ戦(パルマ・デ・マヨルカ、1989年)でオーストリアの若いGMは優勢から勝ちきるのに何の困難もなかった。クリンガーは『チェス新報』第48巻第498局で本局を解説しているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

11…Rfc8 12.Qe2 Be8 13.Rac1 Na5 14.Rc2 Qd8?! 15.Nd2 Nc6 16.Rfc1 h6 17.b4 a5 18.b5 Na7 19.Ndb1! b6 20.a4 Bd6 21.Qf3 Rab8 22.Nd2! Bxf4 23.Qxf4 Rb7 24.g4! Nh7 25.Nf3 Ng5 26.Nxg5 hxg5?! 27.Qe5 Bd7 28.e4! f6 29.Qd6 dxe4 30.Bxe4 Rbb8 31.d5 e5 32.Nd1 Rxc2 33.Rxc2 Rc8 34.Ne3 Rxc2 35.Bxc2 Nc8 36.Qb8 Qf8 37.Bf5 Qe8 38.Qc7! 黒投了

2)6…a6
ミロフ対M.グレビッチ(ポラニツァ・ズドルイ、1999年)D14

 理にかなった予防の手。すぐの 6.Bg5 の戦型で白の白枡ビショップはb5の地点が最良なので、黒はその可能性を閉ざしたが、1手の犠牲も大きい。

7.Rc1 Bf5 8.e3 Rc8 9.Be2!

 キング翼ビショップは展開する必要があるがc4、b5そしてa6には行けない。一方 9.Bd3 は優良ビショップを黒の不良ビショップと交換してしまう。だから控えめの本譜の手が正着となる。

9…e6 10.O-O Bd6

 6…a6 に1手かけたので黒は普通なら良い手の 10…Be7 を避けて、本手の戦略的に少し劣る局面を選んだ。

11.Bxd6 Qxd6 12.Na4

 GMミハイル・グレビッチは本局を解説した『チェス新報』第76巻第347局で次の本筋を指摘している。12.Qb3 Rc7 13.Na4 Nd7 14.Nc5 Nxc5 15.Rxc5 Bg4 16.Rfc1 O-O 17.Qb6 Bxf3 18.Bxf3 Rd7 19.Bd1! c列での圧力のために白には通常の優勢が保証されている。早い …a6 突きで黒のクイーン翼の黒枡が弱体化していることにも注意が必要である。

12…O-O 13.Nc5 Rc7 14.Qb3 Qe7

 黒は円滑にb7の地点を守り、中央での反撃の用意をした。グレビッチ(FIDE2543!)は並外れた正確さで最終的に互角にすることができた。

15.Rc3 Bg4 16.h3 Bxf3 17.Bxf3 e5! 18.Qa4 exd4 19.exd4 Na7! 20.Re3 Qd6 21.Qd1 Nc6 22.Rc3 Rfc8 23.Bg4 Nxg4 24.Qxg4 h5! 25.Qxh5 Nxd4 26.Rd1! Rxc5 27.Rxd4 Rxc3 28.bxc3 Rxc3 29.g3 g6! 30.Qxd5 Qxd5 引き分け

3)6…Ne4
ツェイトリン対ウェルズ(パッサウ、1998年)D13

 これが黒の断然野心的な手法である。黒は対称な戦型で既に1手遅れであるけれども同じ駒を二度動かすことにした。

7.e3!

 本手の展開がチェスの風船を破裂させる手段である。7.Nd2?! が気になるがブラト二―対ローティエ(オーストリア、1999年)戦では 7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.e4 dxe4 10.Nxe4 Bg7 11.Qd2 Qd5! でさっそく黒が優勢になった。

7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.Bb5! Bg7

 黒は 9…Qa5 でも 9…Bd7 でも 10.Qb3! と応じられるのでクイーン翼のポーン陣形の弱体化はやむを得ない。

10.Ne5 Bd7 11.Bxc6! Bxc6 12.Nxc6 bxc6 13.O-O Qa5 14.Qb3 O-O 15.Rfc1 Rfe8 16.Rab1

 白駒はクイーン翼を支配している。中央で動く黒の試みはやぶへびになるが、満足な作戦は存在しない。全容にわたる分析は『チェス新報』第72巻第346局のツェイトリンの解説を参照して欲しい。形勢判断記号をいくつか付けて終局までの手順を示す。

16…e5 17.dxe5 Bxe5 18.Bxe5 Rxe5 19.Qb7 Rae8 20.Qxc6 Qxa2 21.Ra1! Qb2 22.Rd1 Qe2 23.h3 R8e6 24.Qa8+ Re8 25.Qxa7 Rg5 26.Qd7! Ree5 27.Rd4! Ref5 28.Rf4 Kg7 29.Qa7 h5 30.Qd4+ Kh7 31.Ra8 Qe1+ 32.Kh2 黒投了

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2017年10月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(277)

「Chess Life」2000年10月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

4)6…Bf5 7.e3 e6 (D13)

 歴史的にはこれが主手順だが、黒が引き分けるために大変苦労するのでほとんど人気がなくなった。しかし白が安易に考えて指せば大きな失望を味わうだろう。

4a)8.Bd3??!
スケンブリス対トーレ(ルツェルン・オリンピアード、1982年)D14

 本局の時点でスケンブリスはまだIMだった。そしてオリンピアードでギリシャチームの主将として指していた。世界級のグランドマスターと引き分けになれば大満足と言えた。しかし何が起こったと思う?

8…Bxd3 9.Qxd3 Be7 10.h3?! O-O 11.O-O Nd7!

 黒は優良ビショップを保持していて、白が 10.h3?! で手損をしたのに乗じてf6のナイトをクイーン翼で使うために移動させた。

12.Rac1 Nb6 13.Qe2?! Rc8 14.Ne5?! Nxe5 15.Bxe5 Nc4 16.Bf4 Qa5

 白はさらに手損を重ねた。そして黒はクイーン翼で明らかに主導権を握っている。

17.b3 Ba3! 18.Rc2 Nb6 19.Nb1 Rxc2 20.Qxc2 Rc8 21.Qe2 Bb4 22.Qb2 Qa6! 23.a3 Bf8 24.Rc1 Qd3! 25.Rxc8 Nxc8 26.Nd2 Nd6 27.a4?!

 黒の駒は盤上を席巻している。白にために推奨するような良い手は何もない。それでも「不良」ビショップを黒のナイトと交換するのは絶対手だった。

27…Nf5 28.Nf3 Qd1+ 29.Kh2 Bb4 30.Ng1 a6! 31.g4 Ne7 32.Ne2 Bd2! 33.Ng1 Nc6 34.Bc7 Nb4 35.Ba5 Nc2! 36.Bxd2 Qxd2 37.Kg3 Nxe3 38.Qa3 Nd1 39.Nf3 Qxf2+ 40.Kf4 g5+ 白投了

4b)8.Qb3
セイラワン対ノゲイラス(バルセロナ、1989年)D14

 この手と 8.Bb5 が黒に取って最も厄介な手である。セイラワンは本譜の手を危険だが厳密には戦略的な武器に育て上げた。私は精神的に交換戦法に最も近いと思っている。8…Qb6 は 9.Qxb6 axb6 10.a3 で黒に孤立二重bポーンの代償が何もないので黒の応手は基本的に決まっている。

8…Bb4 9.Bb5 Qe7

 すぐに 9…O-O 10.O-O Bxc3 11.Qxc3 Rc8 と指す方がわずかに良いが、それでも黒は互角とは程遠い。

10.Ne5! Rc8 11.Nxc6 bxc6 12.Ba6 Rd8 13.a3 Bd6 14.Qb7! Qxb7 15.Bxb7 Kd7 16.Ba6! Bxf4 17.exf4 Kd6 18.b4 h6 19.h4

 白は黒枡で大きく締め付け(c5とe5の地点が最も重要)、ビショップの働きに優り、c6の地点を標的にする可能性がある。セイラワンによると黒はここで 19…g5! と突いて黒枡での締め付けの一部を食い破る必要がある。もちろん白の優勢は明らかなままであるが。実戦では黒は盤上至る所で一方的に押しつぶされた。みごとな「どのように」は次のように行われた。

19…Rb8?! 20.Rc1 Rb6 21.Be2 Ra8 22.Na4 Rbb8 23.Ba6! Nd7 24.Kd2 Nb6 25.Nb2 Nd7 26.Na4 Nb6 27.Nc5 Nc4+!? 28.Bxc4 dxc4 29.Rxc4 a5 30.bxa5 Rb2+ 31.Ke3 Rxa5 32.Ra1 Kd5 33.Rc3 f6 34.a4 Rb4 35.f3! h5 36.Rac1 Kd6 37.Rg1 Ra7 38.g4 hxg4 39.fxg4 Bh7 40.h5 Rb2 41.Kf3! Rh2 42.Re3 Bg8 43.Ne4+ Kc7 44.Nf2! Rxa4 45.Kg3 Rxf2 46.Kxf2 Rxd4 47.Kg3 Kd6 48.Ra1! 黒投了

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2017年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(278)

「Chess Life」2000年12月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か

 真の2大古典布局といえば開放試合の熱愛者のルイロペスと閉鎖的な局面の方を好む者たちのクイーン翼ギャンビットである。どちらも100年以上もの間時の試練に耐えてきた。

 今回と次回はクイーン翼ギャンビットの正反対の受諾と拒否オーソドックス防御を簡潔に見ていくことにする。「クイーン翼ギャンビット」という名称は誤称である。というのは本物のギャンビットではないからである。すなわち黒は「捨てられた」ポーンにしがみつくことはできない。

クイーン翼ギャンビット受諾

 次が通常の手順である。

1.d4 d5 2.c4 dxc4

 1…d5 で両者ともdポーンを2枡突いて強力な中央を目指しているように見える。しかし白が黒のdポーンを攻撃し始めるやいなや、黒は「ちぇっ、わざわざこれを守る気など起こらない、白のcポーンと交換してやる」ことに決める。

 黒の作戦の劇的な変更は二つの重大な結果をひき起こす。

 1.自分の第一級の中央ポーンを白の準中央ポーンと交換することにより黒は恒久的に中央が劣勢になった。布局と中盤戦初めでは盤上の最も重要な個所は中央なので、白はしばらくは通常の有利さを期待することができる。

 2.黒はクイーン翼で反撃を模索しなければならない。これにはクイーン翼のポーンを動員する必要がある。

3.Nf3

 1970年代中頃までこの自然な本手が唯一の正着とみなされていた。その論理は …e7-e5 突きによる中央での反撃を防いでいるからというものであった。それまでは 3.e4 と 3.e3 は劣った手と考えられていた。というのは 3…e5 のあと 4.dxe5 と取る手が白に何ももたらさないからである。ところが今では 3.e3 e5 4.Bxc4! でも 3.e4 e5 4.Nf3! でも白が通常の優勢を得る可能性があると分かってきた。

 それでも 3.Nf3 は実際に完全無欠の手で、最も人気のある手であり続けている。

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布局の探究(279)

「Chess Life」2000年12月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3(再掲)

3…Nf6

 白にとってとまったく同様に黒にとっても言うところのない手である。ほとんどの場合 3…a6 とすぐにクイーン翼で動いていっても本手順に合流するだけである。ほかの手も大したことはない。

 しかし黒にとってしてはならないことは欲張って 3…b5?! とポーンにしがみつこうとすることである。それは 4.a4! c6 5.e3! Qb6 6.axb5! cxb5 7.Ne5!(7.b3! cxb3 8.Qxb3 でもよく、ポーンを取り返しながら中央が絶好形になる)7…Bb7 8.b3! cxb3 9.Qxb3 で成立しない。黒はbポーンを失い展開と中央で劣勢に苦しむ、とはGMタイマノフの分析である。

4.e3

 これでやすやすとポーンを取り返すことができる。攻撃好きなら 4.Nc3 でそれ以上を目指すことができ、4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 でポーンの犠牲を策する。これはビクトル・コルチノイらが時折好んでいた。そのあとの局面はすぐに険しい乱戦になる。

 しかし 4.Nc3 をもくろむなら黒が裏をかく可能性を知っておかなければならない。つまり 4…c6 で局面はスラブ防御に変化する(1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4)。白はこれに備えておくべきである。

4…e6

 わたしはこの手からの戦型の方が黒に取って有望であるとみている。4…Bg4 と白枡ビショップの展開を図る方が魅力的に見えるかもしれないが、実際のところは黒の反撃の可能性は乏しく、中央での劣勢は長く続く。

5.Bxc4 c5!

 この手で黒の中央での反攻が始まる。これに対し白はキャッスリングでキング翼の展開を完了するのが良い。

6.O-O a6!

 クギャ拒否における黒の見通しはこの手にかかっている。好機に …b7-b5 と突いたあとはすぐに …Bb7 と構えるかもしれない。チェス布局大成D(1998年)では白の応手を8手考慮しているが、そのうちの4手は取るに足りないように思われるので無視する。残りのうち3手は簡単に取り上げ最後の1手は完全な棋譜を載せる。

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2017年11月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(280)

「Chess Life」2000年12月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6!(再掲)

 A.7.dxc5 はまったく無害というわけではない。1992年のフィッシャー対スパスキーの番勝負でボリス・スパスキーは4局でこれを用いボビー・フィッシャーは互角にするのに苦労した。一例は第18局で、7…Qxd1 8.Rxd1 Bxc5 9.Nbd2 O-O 10.a3 b5 11.Be2 Bb7 12.b4 Be7 13.Bb2 Nbd7 14.Rac1 Rfc8 15.Nb3 Rxc1 16.Rxc1 Rc8 17.Rxc8+ Bxc8 18.Nfd4 Nb8 19.Bf3 Kf8 20.Na5 と進んで黒のクイーン翼の弱点のために白の優勢はわずかだが悩ましかった。

 B.7.a4 は1960年代と1970年代が絶頂期だったが、もちろん現在でも信奉者はいる。その意図は明らかで、…b5 突きを防ぐことである。もっとも代価も否定できず、1手損しクイーン翼が弱体化する。イフコフ対ゲオルギウ戦(ハンブルク、1965年)が典型的な手順で、7…Nc6 8.Qe2 cxd4 9.Rd1 Be7 10.exd4 O-O 11.Nc3 Nb4 12.Ne5 Bd7 13.Bf4 Be8 14.Bg5 Rc8 15.Bb3 Bc6 16.Nxc6 Rxc6 17.Bxf6 Bxf6 18.d5 exd5 19.Nxd5 Nxd5 20.Bxd5 Rd6 21.Bxb7 a5 で異色ビショップのため互角が確実なはずである。

 C.7.Qe2 はほんの数年前までよく指されていた。主手順は相当深く研究されている。最近のクラムニク対トパロフ戦(FIDE世界選手権戦、1999年)では新手が披露された。7…Nc6 8.Rd1 b5 9.d5!? exd5 10.Bxd5 Nxd5 11.e4 Bd6 12.exd5+ Ne7 13.a4 b4 14.Nbd2 O-O 15.Nc4 Re8 16.Bg5 a5 17.Re1 Ba6 18.Qe4 Bxc4 19.Qxc4 Qc7 20.Bxe7 Bxe7 ほぼ互角で早々と引き分けに終わった。

 D.7.Bb3! これが現在大流行していて、勝手に好手記号を付けておいた。この洗練された着想で白は黒の …b7-b5 で当たりのビショップを引く必要がない代わりにどのように応じるか決めることができる。例えばすぐに 7…b5 と突くのは 8.a4! b4 9.Nbd2 Bb7 10.e4! cxd4 11.e5 Nfd7 12.Nc4 Nc6 13.Bg5 Qc7 14.Rc1 Nc5 15.Ba2 Ne4 16.Bh4 g5 17.Bb1!(トレグボフ対ブリネル、ポーランド、1999年)でたぶん時機尚早である。黒は盤上のあちこちに弱点を抱え、展開で大きく遅れている。白が順当に31手で勝った。『チェス新報』第75巻第357局にトレグボフの分析があるので読んでみて欲しい。

 だから黒側の選手の大部分はまず展開に集中し …b7-b5 突きは遅らせるようになった。クラムニク対カルポフ戦(フランクフルト、1999年)は次のように進んだ。

7…Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1

 黒はここで注意がいる。何といっても白は展開に優り、中央で優位に立ち、e1のルークは d4-d5 突きを支援する位置にある。黒はキングがまだ中央列にいるのできわめて危険な状況である。

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2017年11月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(281)

「Chess Life」2000年12月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

D.1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6! 7.Bb3! Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1(再掲)

 だから明白な 10…O-O は必然として、当然の 11.a3 のあと黒には理にかなった手が2手ある。

 A)11…Na5 は白ビショップを追い払いa8-h1の斜筋を通そうとしている。12.Bc2 b5 13.d5! 白は黒の白枡ビショップの活動を防ぐために積極的に動く必要がある。黒がポーン捨てを受諾するのは危険である。13…exd5 14.Qd3(カスパロフ)も 13…Nxd5 14.Nxd5 exd5 15.Qd3! も白が黒のキング翼をにらみe列を制圧する。カスパロフ対イワンチュク戦(リナレス、1999年)では黒は 13…Nc4(『チェス新報』第75巻第359局を参照)と指し、クラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)では 13…Re8(同第75巻第360局を参照)と指した。どちらにしても黒は細心の注意を払って受ける必要がある。

 B.11…b5 はナイトを中央付近に置いたままにする。ツェサルスキー対ジルバーマン戦(テルアビブ、2000年)では 12.d5?! Nxd5 13.Nxd5 exd5 14.Bxd5 Bb7 と進んで黒が好調だった。ジルバーマンは代わりの 12.Qd3 Bb7 13.Bc2 g6 14.Bh6 Re8 15.Rad1 を推奨し「主導権がある」としている。

10…Na5

 次の世界チャンピオンになるクラムニクは『チェス新報』第76巻第370局でこの手に疑問手の記号を付けていた。正着でないことはそのとおりだが、次の手の方が重大な誤りだった。

11.Bc2 b5?

 いつものカルポフならこの手でキャッスリングをするところである。しかしここでは既存の定跡を信用して報いを受けた。

12.d5!

 これが誤りの証明である。先例の 12.a3 Bb7 13.Bg5 O-O と 12.a4 b4 13.Ne4 Bb7 14.Nc5 Bxc5 15.dxc5(フィリポフ対エストラーダ・ニエト、リナレス、1998年)では互角の形勢だった。

12…b4

 この手は食指が動かないが、クラムニクは 12…exd5 13.Bg5! でも 12…Nxd5 13.Nxd5 Qxd5 14.Bd2! でも白がはっきり優勢になると指摘している。

13.Ba4+ Kf8

 気が進まないのは 13…Bd7 14.dxe6 fxe6 15.Bxd7+ も同じで、黒はeポーンを失う羽目になる。本譜の手のあとクラムニクは黒キングの位置の悪さに巧妙につけ込んだ。

14.Bf4! bxc3

 14…exd5 なら 15.Ne2、14…Nh5 なら 15.Ne2! Qxd5 16.Bc7!(クラムニク)。

15.d6 Nd5

 黒はなんとか流れを変えようとしている。15…cxb2 は 16.dxe7+ Kxe7 17.Qc2 Bd7 18.Qxb2 Bxa4 19.Qa3+ で黒キングが薄すぎる(クラムニク)。

16.dxe7+ Qxe7 17.Be5 Bb7 18.bxc3 Rd8

 クラムニクによれば 18…Nc4 19.Qd4 Nxe5 20.Nxe5 Rd8 の方が黒の防御が少しだけ楽になる。

19.Nd4

 黒の負けが決まった。19…Nxc3 なら 20.Qg4! Rg8 21.Nxe6+ Qxe6 22.Qb4+ Qe7 23.Bxc3 で黒は受けなしになる(クラムニク)。

 終局までの手順は次のとおりである。

19…Nc4 20.Bxg7+! Kxg7 21.Nf5+ exf5 22.Rxe7 Nxe7 23.Qe2! Ng6 24.Qxc4 Rd2 25.Bb3 Bd5 26.Qxa6 Rd8 27.Bxd5 R8xd5 28.h3 Ne5 29.a4 f4 30.a5 f3 31.Qb7 fxg2 32.a6 黒投了

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布局の探究(282)

「Chess Life」2001年3月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御

 この連載の前篇ではクイーン翼ギャンビット受諾を論じた。今回は対極にあるクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御を取り上げる。この名前は100年以上もの歴史的起源に由来する。つまり最善手と見なされていたがゆえに「オーソドックス」なのである。

1.d4 d5 2.c4 e6

 これはどの点からも本手である。すなわち重要なd5の拠点を守りキング翼の展開を可能にしている。しかし黒にはよく起こることだが残念ながら欠点もある。それは白枡ビショップが閉じ込められることである。これに代わる有力な手はスラブ防御(2…c6)で、クイーン翼ビショップの斜筋を開けたままにするがキング翼の展開は遅れる。さらには白枡ビショップが代償なしに好所に展開するのはそもそも容易でない。

 上記の手順は「標準版」である。手順の科学では両者とも指し始めに融通性がある。例えば『チェス新報』第77巻(2000年発行)ではD58という戦型記号に5局の全棋譜が掲載され、そのどれもが 1.d4 d5 2.c4 e6! という手順で始まっていない

3.Nc3

 d5の地点に圧力をかけるこの本筋の展開の手は白の最強手と考えられるに違いない。しかし白はよく 1.Nf3 や 1.c4 と指したり2手目に Nf3 と指したりするので、g1のナイトがb1のナイトより先に展開される局面になることも多い。

3…Be7!

 GM間では現在のところこれがクイーン翼ギャンビット拒否(オーソドックス)に到達する唯一の正着だとみなされている。どこが洗練されているのかというと、3…Nf6 では 4.cxd5! exd5 5.Bg5! c6 6.Qc2 Be7 7.e3 Nbd7 8.Bd3 O-O 9.Nf3 Re8 10.O-O Nf8 で白にとってクイーン翼ギャンビット拒否交換戦法の望ましい版になるからである。このあとは 11.Rab1(少数派攻撃の準備)または 11.h3(…Bg4 の防ぎ)で白からの圧力が厄介なものとなる。

 本譜の手は 4.Bg5 を防ぎ、d5の地点を楽に守る手を稼ぐので交換戦法を骨抜きにすることになる。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6!

 ここでも手順のあやがある。GMたちは 5…O-O 6.e3 h6 よりもすぐにこう指すのを学んだ。その理由は 7.Bxf6 Bxf6 のあと …h7-h6 突きで黒の陣形がゆるんでいるので、白はクイーン翼にキャッスリングし黒のキング翼を攻撃する戦型を選ぶことができるからというものである。本譜の手のあとなら 6.Bxf6 にさほどの利点はない。なぜなら黒はまだキングがどちらに行くか明示していないからである。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6!

 容易に分かるように黒は白枡ビショップをうまく展開できれば、楽に調和のとれた防御態勢になる。それで1920年代初めにGMサベリ・タルタコーベルはこのビショップをフィアンケットする構想を思いついた。時がたちほかの戦型もいろいろ登場したが、これが現在のところGM間でゆうに90%以上を占めている。だから模範局としてこれを選んだ。

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2017年11月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(283)

「Chess Life」2001年3月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6!(再掲)

クイーン翼ギャンビット拒否タルタコーベル戦法 [D58]
白 GMミゲル・イリェスカス
黒 GMナイジェル・ショート
パンプローナ、1999/2000年

8.Be2!

 経験という名の素晴らしいトレーナーのおかげで本譜の手が白に大人気の手になった。白は黒の次の手が 8…Bb7 であることを「知っている」ので、それに備えた。

 有力な変化を以下にあげる。

 1)8.cxd5 約50年間これが主流手順だった。その意図は黒のクイーン翼にすぐに圧力をかけることである。白の潜在力はフィッシャー対スパスキー戦(レイキャビク、1972年、24番勝負第6局)に顕著に表れている。8…Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Bb5 a6? 15.dxc5 bxc5 16.O-O Ra7 17.Be2 Nd7 18.Nd4! このあとフィッシャーが41手目で勝った。しかしその後まもなくGMゲレルが 14…Qb7! 15.dxc5 bxc5 16.Rxc5 Rxc5 17.Qxc5 Na6! で問題ないことを示した。

 2)8.Bd3 は白の展開が順調になる。しかしそれは黒も同じことである。最近の実戦例のシャバロフ対ベリャフスキー戦(ロサンゼルス、1999年)は 8…Bb7 9.O-O Nbd7 10.Bg3 c5 11.cxd5 Nxd5! 12.Rc1 N7f6! 13.Qe2 cxd4 14.exd4 Rc8 15.Ne5 Bb4! で互角だった(53手で黒の勝ち)。完全な棋譜は『チェス新報』第77巻第440局にGMベリャフスキーの解説付きで出ている。

 3)8.Qb3 はd5の地点に圧力をかけて良さそうに見える。しかしクイーンがb3に行くべきだと知っていると言うには早すぎることが分かってきた。黒は 8…Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 Re8 が堅実である。

 4)8.Rc1 はすぐにc列に圧力をかけることを目指している。しかし黒は好形なのでそれを十分無効にできる。例えばユスーポフ対カルポフ戦(ブゴイノ、1986年)は 8…Bb7 9.Be2 dxc4 10.Bxc4 Nbd7 11.O-O c5 12.Qe2 a6 13.a4 cxd4 14.Nxd4 Nc5 15.Rfd1 Qe8 16.Bg3 Nfe4 17.Nxe4 Nxe4 18.Be5 Bf6! と進んで互角だった。

 5)8.Bxf6 はGMビクトル・コルチノイの洗練された戦略構想で、白のナイトが黒のビショップより優位に立つ中央のポーン陣形を目指すものである。しかし1手早いということが分かっている。なぜなら 8…Bxf6 9.cxd5 exd5 10.Be2(10.Bd2 や 10.Bd3 もある)のあと黒は 10…Be6! と指すからである。定跡によればこの白枡ビショップはb7よりもe6の方がこれからよく働くことが明らかになっている。結果として黒は容易に互角にできる。

8…Bb7

 7…b6 の当然の継続手である。しかしここで白はコルチノイの構想を有利な状況で実行する。

9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5

 GMの試合ではこのようにポーンで取り返す手しか見たことがない。実際 10…Bxd5?! と取ると白は中央で大きく優位に立ち、黒は 7…b6 と突いてしまったせいでクイーン翼に弱点が残る。

 両者の戦略目標は次のようになる。

 1)は敏捷なナイト、ビショップ、それにクイーンがよってたかってd5の地点に圧力をかける。黒が …c7-c6 と突いて守ることを余儀なくされれば、白枡ビショップが閉じ込められクイーン翼にさらに弱点ができる。さらには中央で e3-e4 と突く仕掛けが白からの危険な攻撃の始まりになるかもしれない。

 2)は白の作戦を妨げることに努め、双ビショップと連係させていつか …c7(または …c6)-c5 突きで反撃する可能性に期待をかける。

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2017年11月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(284)

「Chess Life」2001年3月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6! 8.Be2! Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5(再掲)

11.O-O

 古きは新しきなり!この「自然な」手は1970年代と1980年代初めには普通だった。それが変わったのは1980年代のカルポフ対カスパロフの世界選手権戦で、両者により 11.b4!? が奥深く探求された。黒はすぐに 11…c5 と突いて有効な反撃をするのがより困難になると考えられていた。それにもかかわらず主流手順は長いこと 11…c5 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qc2 だった。カルポフ対カスパロフ戦(1984/85年、第39局)では 16…Rfd8 で白がわずかに優勢だった。カスパロフ対カルポフ戦(1984/85年、第42局)では 16…Rfc8 で黒が最終的に互角にした。

 それはともかく 11.O-O に戻る。この何の変哲もない佳手は新たな探求の展望を提供し続けている。

11…Qe7

 この手はどの点からも非がない。クイーンがe列を見張り、f8のルークのためにd8の地点を空けた。しかしのちにニコリッチ対ショート戦(ベイクアーンゼー、2000年)で黒は控えめな 11…c6 でも互角にした。12.Qc2 Re8 13.Rad1 Na6 14.Rfe1 g6 15.Bxa6 Bxa6 16.e4 Bg7 17.exd5 Rxe1+ 18.Rxe1 cxd5 19.Ne5 Bb7 20.Re3 Qc7

12.Qb3 Rd8 13.Rfd1 c6 14.Bf1

 この新手はピケット対ベリャフスキー戦(ブゴイノ、1999年)に初めて現れた。白はのちに中央で …c6-c5、…d5-d4 と突かれた場合の危険に備えてビショップを引っ込め、黒がクイーン翼で展開する作戦を待っている。ニコリッチ対ベリヤフスキー戦(レイキャビク、1991年)で白は 14.a4 と突いたがほとんど成果がなかった。

14…Na6

 これはショートの改良手である。上述のピケット対ベリャフスキー戦で黒は駒を有効に連係させることが全然できなかった。14…Bc8?! 15.g3! Bg4 16.Bg2 Nd7 17.Rac1 Rac8 18.Ne2! Nf8 19.h3 Bf5 20.Nf4 g6 21.Qa4! Bg7 22.b4! 黒陣に対する圧力が続いている。

15.Rd2

 この手と次の手はちぐはぐである。ピケットは 15.g3 Nc7 16.Bg2 Rab8 17.Rac1 Ne6 18.Rd2 のように展開することを示唆している。

15…Nc7 16.a4 Ne6

 ショートは 16…c5!? 17.dxc5 bxc5 18.Qxb7 Bxc3 19.bxc3 Rdb8 20.Qc6 Rb6 21.Qxa8+ Nxa8 22.Rxd5 Nc7 という戦術を指摘して、形勢不明としている。

17.a5

 白はこう突かなかった方が良かったと思う。この手はaポーンを弱め黒のクイーン翼を固めさせている。

17…b5 18.Qa2 a6 19.Rc1?

 これが敗着になった。ほぼ互角への最後の可能性は 19.Ne2! Rac8 20.Rc1 だった(ショート)。

19…c5!

 黒駒が急に元気いっぱいになった。20.g3 c4 ならまだしもだったが、白は水門を開けた。

20.dxc5? d4! 21.Nxd4 Bxd4! 22.exd4 Nxd4 23.Kh1

 白クイーンは傍観者になっているが、黒の4駒は白キングに狙いをつけている。ショートは鮮やかに締めくくった。

23…Nf3!! 24.Rxd8+

 ショートは『チェス新報』第77巻第444局で次のためになる手順をあげている。24.Rdd1 Qg5! 25.Ne2 Qh4! 26.gxf3 Qxf2 27.Bg2 Bxf3 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Kg1 Qxe2

24…Rxd8 25.c6 Bxc6 26.Ne2 Qh4! 27.gxf3 Qxf2 28.Nf4

 楽しい戦術の好きな人のためにショートは次の変化もあげている。28.Rxc6 Qxf1+ 29.Ng1 Rd1 30.Rg6 Qxf3+ 31.Rg2 Qe4! 32.b3 Rxg1+ 33.Kxg1 Qe1#

28…Bxf3+ 29.Bg2 Rd2 30.Rg1 Be4! 白投了

 次に 31…Qxf4 で黒の楽勝である。

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2017年11月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(285)

「Chess Life」2002年1月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局

 チェスの定跡はナイル川のように容赦なく進み、その跡には耕すべき畑が残される。チェスの永遠の原則に忠実である限り結果は実りあるものとなる。

 ビショップ布局(1.e4 e5 2.Bc4)は優に100年以上の歴史があるのに、この20年でやっとGMたちの高い信頼を勝ち得た。今回はこの一般に過小評価されている布局の基本原則を取り上げることにする。

1.e4 e5 2.Bc4

 初心者でさえ白の2手目の意味はすぐに理解することができる。キング翼ビショップが黒陣の最弱点であるf7の地点に狙いをつけている。

2…Nf6!

 好手記号を付けたのはまったく申し分のない手だからである。このナイトは最良の地点に位置してe4の地点に圧力をかけ、白クイーンがf3やh5の地点に来る可能性を妨害している。

 GMたちは対称形の 2…Bc5 を信頼してこなかった。というのは開放局面では相手より1手遅いということは常に危険だからである。白はアマチュアっぽい 3.Qh5 や 3.Qg4 でさえ好結果だった。

3.d3

 これが現代流の戦略である。白はキング翼ビショップとeポーンを守り、クイーン翼ビショップの斜筋を開けている。攻撃的な 3.d4!? のかなりの量の定跡が20世紀の前半から存在している。ほとんどの評価は白が捨てたポーンの代償を完全に得ることができないということである。

 本譜の手に対し布局定跡では黒の作戦として4とおり考えられている。

1)3…d5?! は開戦が早すぎる。ドルマートフ対チェーホフ戦(ソ連選手権戦、1981年)で黒は次のように報いを受けた。4.exd5 Nxd5 5.Nf3 Nc6 6.O-O Be7 7.Re1 Nb6 8.Bb3! Bg4!? 9.h3 Bh5 10.g4! Bg6 11.Nxe5 Nxe5 12.Rxe5 O-O そして実戦の 13.Nc3 でもGMチェーホフの指摘する 13.Nd2 でも黒はポーンの代償が十分でない。

2)3…Bc5 4.Nf3 d6 は対称形の穏やかな戦型で、白が通常のわずかな有利を保持している。5.c3 O-O 6.Bb3 Nbd7 7.h3 a6 8.Nbd2 Ba7 ここでボリス・ゲリファントは 9.Nf1! Nc5 10.Bc2 d5 11.Qe2 を推奨している。このあと白は g2-g4、Ng3 そして Bg5 で黒のキング翼に狙いをつける。

3)3…c6 4.Nf3 d5 5.Bb3

 表面的には黒陣はまったく順調のように見える。何といっても中央で優位に立っている。しかし別の面では中央がいくらか圧力を受け、白が展開で先行している。実際黒は極度に注意深くしなければならない。ここでは選択肢が5手ある。

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2017年11月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(286)

「Chess Life」2002年1月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局(続き)

3)1.e4 e5 2.Bc4 Nf6! 3.d3 c6 4.Nf3 d5 5.Bb3(再掲)

A.5…Nbd7

 黒はeポーンをしっかり守ったが、クイーン翼ビショップの利きをふさぎdポーンの守りを邪魔している。コンケスト対シフエンテス戦(オロト、1994年)で白はこれに次のようにつけ込んだ。6.O-O Bd6 7.exd5! Nxd5(7…cxd5?! は 8.Nc3 で黒がd5の地点に問題を抱える)8.Nbd2 O-O 9.Re1 Re8 10.Ne4 Bf8 11.Bd2 b6?(シフエンテスによれば 11…h6 と守らなければいけなかった)12.d4! Bb7 13.c4 N5f6 14.Nxf6+ Qxf6 15.dxe5 Nxe5 16.Rxe5! Rxe5 17.Bc3 Bd6 18.c5! bxc5 19.Nxe5 Bxe5 20.Qd7 白の勝ちに終わった。

B.5…dxe4

 これはホンフィ対ルカーチュ戦(ハンガリー、1975年)のように 6.Ng5 Be6 7.Bxe6 fxe6 8.Nxe4! Nxe4 9.dxe4 Qxd1+ 10.Kxd1 で望んでもいない收局になる。黒は弱い孤立eポーンの代償が何もない。

C.5…a5

 カスパロフ対バレエフ戦(リナレス、1993年)で黒はこの手で白のキング翼ビショップが厄介なことになるだろうと考えたが、全然そんなことはなかった。6.Nc3! Bb4 7.a3 Bxc3+ 8.bxc3 Nbd7 9.exd5! Nxd5(カスパロフによれば 9…cxd5?! は 10.O-O O-O 11.Re1 でもっと悪い)10.O-O O-O 11.Re1 Re8 12.c4! Ne7 13.Ng5 h6 14.Ne4 a4 15.Ba2 c5 16.Nd6 Rf8 17.c3! Ng6 18.Bb1! Nf6 19.Nxc8 Qxc8 20.Qf3 双ビショップ、中央の地点の完全な支配、それに黒陣の本質的なすき間の多さのため白に通常の有利さがあった。カスパロフが34手で勝った。『チェス新報』第57巻第299局にカスパロフの詳細な解説が載っている。

D.5…Bb4+

 この手の意図は 6…d4 で 6.Nc3 を妨げることである。しかし 6.c3 でも 6.Bd2 でも白にとって役に立つ手で有効な1手である。好例はユダシン対アルテルマン戦(イスラエル、1994年)で、6.c3 Bd6 7.Bg5 Be6 8.Nbd2 Nbd7 9.d4! exd4 10.exd5! Bxd5 11.Bxd5 cxd5 12.Nxd4 と進んだ。黒の孤立ポーンのせいで白が楽に優勢になっている。GMユダシンがそのまま67手で勝った。『チェス新報』第62巻第332局にユダシンの解説が載っている。

E.5…Bd6

アダムズ対クラムニク(ティルブルフ、1998年)

 これが 4…d5 5.Bb3 の戦型で黒の人気断トツの作戦である。難なくeポーンを守りキャッスリングの用意をしている。

6.Nc3! dxe4

 気は進まないがそれでも最善手である。代わりに 6…d4?! は白のキング翼ビショップの斜筋を通し、黒のキング翼ビショップの可能性を削ぐ。6…Be6 も 7.Bg5 でd5の地点にすぐに圧力がかかるので望ましくない。

7.Ng5 O-O 8.Ncxe4 Nxe4 9.Nxe4 Bf5 10.Qf3 Bxe4

 戦略の理解が並外れているクラムニクは双ビショップをすぐに放棄してもささいな代価だと見通していた。実際ゲオルギエフ対アルテルマン戦(レックリングハウゼン、1998年)で白は 10…Bg6 11.h4! Bxe4 12.dxe4 Nd7 13.c3 Nc5 14.Bc2 でキング翼に有益な広さを得た。

11.dxe4 Nd7 12.c3 a5!

 GMアルテルマンによると本譜の手は 12…Nc5 13.Bc2 a5 の改良で、白が少し優勢である。

13.a4

 これでは黒がクイーン翼のポーンを動員することができる。だからすぐに 13.O-O!? の方が有望で、aポーンを気にする必要はなかった。

13…Nc5 14.Bc2 b5 15.O-O Qc7 16.Rd1 Rab8 17.axb5 cxb5 18.g3 b4 19.cxb4 Rxb4 20.Bd2 Rxb2 引き分け

 21.Bxa5 で確かに互角の形勢である。しかし注目すべきは後日クラムニクが 4…d5 の作戦を避けたことである。それが次局である。

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2017年11月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(287)

「Chess Life」2002年1月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局(続き)

3)1.e4 e5 2.Bc4 Nf6! 3.d3 c6 4.Nf3 Be7

フョードロフ対クラムニク
ベイクアーンゼー、2001年

 この手からの作戦は現在黒の最も適切な方針とみなされている。白陣からはまだ脅威を受けていないので、黒は自身の落ち着いた展開を推し進める。黒が避けたいのは潜在的に攻撃の対象となるポーンの弱点である。(もちろん 5.Nxe5?? は 5…Qa5+ で白の負けになる。)

5.O-O d6

 これはe5の地点を守る最も手っ取り早い方法である。しかしマインカ対ミハルチシン戦(ドルトムントⅡ、1998年)のように 5…Qc7 6.Bb3 O-O 7.Re1 d6 8.c3 Nbd7 9.d4 b5 10.Nbd2 a5 11.Nf1 a4 12.Bc2 Re8 13.Ng3 Nb6 14.h3 g6 も理にかなっている。この局面は閉鎖ルイロペス定跡の主流手順によく似ていて、白が少し有利のはずである。

6.Bb3 Nbd7

 ここからしばらくの間クラムニクは戦力を注意深く捌くことに満足している。ゲリファント対ユスーポフ戦(ミュンヘン、1994年)ではもっと攻撃的な展開だった。6…O-O 7.c3 Bg4 8.Nbd2 Nbd7 9.h3 Bh5 10.Re1 Nc5 11.Bc2 Ne6 12.Nf1 Nd7! 13.Ng3 Bxf3 14.Qxf3 g6 全体的には黒はよくやっている。しかしこの閉鎖ルイロペス型の局面ではそれでもどうしたら完全に互角になるかを示さなければならない。

7.c3 Nf8 8.Re1 Ng6 9.Nbd2 O-O 10.d4

 黒はどんな攻撃を受けるか分からないキング翼を要塞化した。白は本譜の手で黒の中央に圧力をかけ始めた。盤上の局面はやはり閉鎖ルイロペスの様相を呈している。黒はいくらか展開で先行しているが、駒は白の方が活動的である。いずれは白のわずかな優勢が続くことになるはずである。

10…h6!?

 フョードロフによればこれは通常の 10…Qc7 に代わる新手である。その意図は白の Ng5 に煩わされないで …Re8 と指すことである。

11.Nf1 Re8 12.Ng3 Bf8 13.h3 Qc7 14.Be3

 白が滞りなく小駒の展開を完了したのに対し、黒はまだクイーン翼ビショップの処置を決めなければならない。普通に 14…Be6 15.Bxe6 Rxe6 と指すのは重要なf5の地点を白に明け渡す。だからクラムニクは短斜筋に目を向けた。

14…b6 15.Bc2

 ここは面白い瞬間である。白は黒の …Bb7 または …Ba6 に Nf5 と指せるようにe4の地点を過剰に守った。あとでフョードロフは 15.c4!? か 15.Qc2!? の方が有効だったように感じた。

15…Ba6?!

 クイーン翼ビショップは確かにここからの斜筋が素晴らしい。しかし「遊び駒」である。戦略的には 15…Bb7 の方が役に立つ。クラムニクは17手目にこのビショップをb7に戻した。

16.b3 Rad8 17.Qb1 Bb7! 18.a4

 白のクイーン翼ルークがa1に閉じ込められているので本譜の手は 19.a5 でa列を素通しにすることを期待している。しかし黒は中央で戦う用意をしている。フョードロフによれば白は 18.c4 で通常の有利を保持できた。

18…d5! 19.exd5 exd4 20.Bxd4 Rxe1+ 21.Nxe1 Nxd5 22.Bxg6 fxg6 23.Qxg6

 先の解説から局面は激変した。黒はポーンを犠牲にし、代償として戦力の連係に優っている。フョードロフは 23…Nf4! で黒に十分な代償があると考えている。例えば 24.Qg4 c5 25.Be3 Nd5 26.Rd1 Nxc3 27.Rxd8 Qxd8 28.Bxh6 Qd1! となる。

23…c5?! 24.Qe6+ Qf7 25.Qxf7+ Kxf7 26.Be5 Ne7 27.c4 Nc6 28.Bc3 Bc8

 クラムニクは白がポーン得にもかかわらず進展を図るのが困難な陣形を構築した。白はここで 29.Kf1 から 30.Nf3 で駒の動きを良くするよう努めるべきだった。代わりに白は当初の作戦を急いで黒に思う存分反撃された。

29.a5?! bxa5! 30.Bxa5 Rd7 31.Bc3 Rb7

 ここでの問題は明らかで、b3の地点が慢性的な弱点になっていて黒の双ビショップは重要な斜筋に利いている。いい勝負である。

32.Rb1 Be6 33.Rb2 Nd4

 33…a5 も良い手だが、黒は双ビショップの動ける余地を最大限広げる方を選択した。

34.Bxd4 cxd4 35.Nf3 Ba3 36.Ra2 Rxb3 37.Nxd4 Rd3 38.Nxe6 Kxe6 39.Ne4 a5 40.f3 Bb4 41.Kf2 引き分け

 aポーン、働きの良いビショップ・ルーク・キングの威力が白のポーン得を完全に相殺している。

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布局の探究(288)

「Chess Life」2002年5月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順

 閉鎖布局の中で戦略上の最も重要な発見/新手はベンコー・ギャンビットである。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5

 生みの親は要求される戦略的な深みを与えたハンガリー系米国人のGMパル・ベンコーがふさわしいと考えられる。一見何もないように見える閉鎖局面の初めで黒がポーンをまるごと犠牲にできるのは極めてまれである。それでも時の試練に耐えてきたし、これからもそうであると思われる。それと同時に、ベンコー・ギャンビットをうまく指しこなすことは大変難しいと読者に警告しておいた方が良いだろう。これは駒がすぐに直接的に動くのではなく、戦略的な機微に基礎を置いているからである。ベンコー・ギャンビットは人気があるゆえに戦型が豊富である。最も重要なのをあげると 4.Nd2、4.a4、4.Qc2、4.Nf3、それに 4.cxb5 a6 5.bxa6、5.Nc3、5.f3、5.b6、5.e3 である。そのうちもっとも本筋と思われる2戦型を考察する。

4.cxb5 a6

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2017年12月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(289)

「Chess Life」2002年5月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6(再掲)

1)白は欲張りだが注意深い

5.bxa6

 白はこの手でポーンが欲しいことを明かにした。重要な疑問は「黒は代わりに何を得るのか」ということである。その答えは簡単で、「a列とb列で白のクイーン翼に圧力をかけることができるようになる」である。しかし予想される指し方はおのずから分かるというものではなく、黒は大量の知識が必要である。

5…Bxa6

 この当たり前の取り返しが歴史的に見ると最もよく指されてきた。しかし最近 5…g6 が同等の地歩を占めるようになってきた。それは取り返しを急ぐ必要はないのだから「フィアンケット」を始める方が黒に取って融通性があるということである。

6.Nc3 g6 7.g3

 この本手の「フィアンケット」で白は黒に即席の反撃の可能性を与えることなくキング翼の展開を完了する準備に取り掛かる。7.e4 Bxf1 8.Kxf1 の方がかなり野心的で、諸刃の剣の状況になる。白は中央が強化されるが、黒は白枡ビショップの交換でa列での展開が促進される。「布局大成A」はこれを最も重要な戦型と考えていてA59を付与している。

7…Bg7 8.Bg2 d6

 黒の直前の3手はどの順序で指しても良い。

9.Nf3

 9.Nh3 も理にかなった手で、「フィアンケット」されたビショップの白枡対角斜筋を通したままナイトがf4に跳べるようにする。しかし白は安全で本筋の展開をするつもりなので、最善はこのナイトを通常の中央の地点に置くことであることが分かっている。

9…Nbd7 10.Rb1!?

 本譜の手は比較的新しい着想である。黒は直前の手で …Nb6-c4 でb列に圧力をかける用意をしたことを告げた。そこで白はb2の地点を過剰に守った。ほとんどの場合この手と 10.O-O は同じことになる。

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2017年12月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(290)

「Chess Life」2002年5月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.bxa6 Bxa6 6.Nc3 g6 7.g3 Bg7 8.Bg2 d6 9.Nf3 Nbd7 10.Rb1!?(再掲)

1a)10…Nb6

エピシン対コピロフ(ベールター、2001年)

11.b3 O-O 12.Bb2 Ra7 13.O-O

 白は直前の3手で黒の「フィアンケット」から毒牙を抜き、この手で展開を完了した。黒はポーンの代償を明らかにしなければならない。

13…Qa8 14.Nh4 Rb8 15.Re1!

 これは重要な新手だった。白は都合の良い時に e2-e4 と突く用意ができた。それまで指されていた 15.Ba1?! Nbd7! 16.Qc2 Rab7 17.Nf3 Rb4 はツェバロ対セルメク戦(セント・ビンセント、2001年)では黒の圧力が効果的だった。

15…Bc8 16.h3

 この手でも良いが、GMウラジーミル・エピシンによればすぐに 16.e4! と突く方が強力だった。

16…g5?!

 これはベンコー・ギャンビットでは異筋の手である。ベンコー・ギャンビットの重要な長所の一つは欠陥のないこじんまりしたポーン陣形で、もっともな理由がなければ損なうべきでない。エピシンは 16…Ne8! 17.Qd2 Bxc3 18.Qxc3 f6 19.e4 Rxa2 20.Ra1 Nd7 21.f4 を指摘し、陣地の広さと双ビショップで白が少し優勢としている。

17.Nf3 Nbxd5 18.Nxg5 Nxc3 19.Bxc3 Bb7 20.Bxb7 Rbxb7

 a2の地点に圧力をかけるにはこう取り返すしかない。しかし今や黒のキング翼が根本的に弱体化したのは明白である。

21.Qd3! h6 22.Bxf6 hxg5 23.Bxg5 Rxa2 24.h4

 黒の問題は明らかである。まだギャンビットしたポーン損のままで、キング翼は隙だらけである。エピシンは力強くていねいに締めくくった。

24…Qc8 25.Qf3 Raa7 26.Rbd1!

 このルークはd3に上がれば働きが増し、bポーン、中央、それにキング翼を見張ることになる。より詳しい解説は『チェス新報』第81巻第46局のIMコピロフの解説を読んで欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

26…Rb4 27.Rd3 Qb7 28.e4! Qd7 29.e5! Qe6 30.Bd2 Rd4 31.Rxd4 cxd4 32.exd6 Qxd6 33.h5 Ra2 34.Qd3 e5 35.b4 Qc6 36.h6! e4 37.Qxe4 Qxe4 38.Rxe4 Rxd2 39.Rg4 d3 40.Kg2 Rd1 41.Rxg7+ Kf8 42.Rg5 d2 43.h7 Rg1+ 44.Kxg1 d1=Q+ 45.Kg2 黒投了

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2017年12月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(291)

「Chess Life」2002年5月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.bxa6 Bxa6 6.Nc3 g6 7.g3 Bg7 8.Bg2 d6 9.Nf3 Nbd7 10.Rb1!?(再掲)

1b)10…O-O

マラハトコ対ラフマングロフ(アルシタ、2001年)

 この手の方が黒のルークを効率的に展開できるので良い手順のはずである。

11.O-O Qa5 12.Bd2 Rfb8!

 12…Nb6 は 13.b3! Qa3 14.Ne1 Bb7 15.Nc2 Qa6 16.e4(クルッパ対クリボシェイ、キエフ、2001年)で黒のクイーン翼の駒がごちゃごちゃしているので本譜の手の方が優っている。

13.Qc2

13…Qd8!

 クイーンがa列とb列でほかの駒の邪魔にならないように引っ込んだのはまったく当を得ている。13…Nb6?1 は劣っていて、14.b3 Qa3 15.Bc1 Qa5 16.Rd1 Ne8 17.Bb2 Nc7 18.e4 Bc8 19.h3 Bd7 20.Qc1! Qa6 21.Ra1 Qc8 22.Kh2 で白駒の配置のために黒が何かをするのが難しかった(クルッパ対マラハトコ、キエフ、2001年)。

14.Rfd1

 新手。しかし先受けの 14.b3 で急所のc4の地点を支配する方が的確だったようだ。

14…Nb6 15.e4

 これよりほかにdポーンを守る適当な手段がない。しかしこれでクイーン翼の黒駒が非常に活動的になった。

15…Nc4 16.Bc1 Qa5 17.b3 Ng4! 18.Na4 Bb5! 19.Bf1

 このビショップは黒の白枡ビショップと相殺にするために必要である。しかし白のキング翼が弱体化した。

19…Nce5! 20.Nxe5 Nxe5 21.Bxb5 Qxb5 22.Bb2 Nf3+ 23.Kg2 Bxb2 24.Kxf3

 黒のビショップに中央の斜筋を支配させるのは黒の利益だが、黒のナイトをd4の地点に来させない方が重要である。

24…Bf6 25.Kg2 Qa6!

 黒にはポーンの代償が完全にあり、いい勝負になっている。このあとは 26…Rb4 でクイーン翼での圧力が白の戦力得にものを言わせる望みを打ち砕くことになる。本局はベンコー・ギャンビットの威力の完璧な実戦例となった。

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2017年12月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(292)

「Chess Life」2002年5月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6(再掲)

2)白がポーンを返す

5.b6

 何も欠陥がなく黒の反撃の可能性も最小限で形の良い指しやすい局面が好きな人は本譜の手に満足するだろう。黒はa列を素通しにすることができず、白はd5が橋頭保になっているので陣地が広い。黒には本筋の戦型が三つある。

2a)5…g6

カチェイシビリ対フェルガ―(ウベダ、2001年)

 黒はキング翼の展開の完了にとりかかり、ポーンは都合の良い時に取り返す。

6.Nc3 d6 7.e4 Nbd7 8.Nf3 Bg7 9.a4 a5 10.Bb5 O-O 11.O-O Nxb6 12.Re1 Ne8 13.Bf4 f6 14.Bc6!

 それまで指されていた 14.Nd2 に対しこの新手は強力だった。白は黒のクイーン翼に侵入する用意をした。

14…Rb8 15.Nb5 Nc7

 GMカチェイシビリはこの手に対して実戦の 16.Qd2 よりも 16.Bd2! Nc4 17.Bc3 Na6 18.Qe2 の方が良く白がだいぶ優勢だったとしている。詳しい解説は『チェス新報』第81巻第45局を参照して欲しい。白が68手で勝った。

2b)5…Qxb6

ロウレイロ対ニードルマン(リオデジャネイロ、2001年)

 こう単純に取り返してもよい。しかしこのクイーンは自分ではb列であまりすることがない。

6.Nc3 g6 7.e4 d6 8.a4 Qb4 9.Bd3 Bg7 10.Nge2 e6 11.O-O exd5

 黒は危険な手順に踏み込み、白は受けて立った。

12.Nb5! axb5 13.Bd2 Qxb2 14.Bc3 Qxa1 15.Qxa1 d4 16.Nxd4! cxd4 17.Bxd4

17…Ke7?

 『チェス新報』第82巻第63局で本局を解説したダ・コスタ・ジュニアは 17…Nbd7 18.Bxb5 O-O 19.Bxd7 Bxd7 20.Bxf6 Rxa4 21.Qb2 Bxf6 22.Qxf6 Rxe4 23.Qxd6 と指すことが必要だと指摘し、白がわずかに優勢としている。大量の駒交換で白の勝つ見通しは大きく減少している。それに反してキングを中央列に置いた実戦は破滅的で、白が次のように勝った。

18.e5 dxe5 19.Qa3+ Ke6 20.Bxe5!

2c)5…e6

ジョババ対トレグボフ(オフリド、2001年)

 この意欲的な手は指せる手だが、黒の大局的な弱点のために白の通常の優勢が続く。

6.Nc3 Nxd5 7.Nxd5 exd5 8.Qxd5 Nc6 9.Nf3 Rb8 10.e4 Be7 11.Bc4 O-O 12.O-O Rxb6 13.b3 d6 14.Bf4 Be6 15.Qd3 Bxc4

 以前は 15…Nb4 や 15…Bf6 が指されていた。本譜の手のあとでもa、cそれにd列でのポーンの弱さは明白である。

16.Qxc4 Bf6 17.Rad1 Nd4 18.Nd2! Bg5 19.Bxg5 Qxg5 20.Rfe1 h6 21.Qd5!

 白には相変わらずわずかだが指しやすい有利さがある。

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GMエドマー・メドニスは2002年2月13日に肺炎で亡くなり、今回が最後になりました。