ヒカルのチェス6の記事一覧

「ヒカルのチェス」(401)

「Chess」2015年10月号(3/3)

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セントルイスからの收局名局

H.ナカムラ – A.グリシュク
シンクフィールド杯、2015年

 強力なeポーンと詰みの狙いのために黒はf5で2回交換しなければならない。

60…Bxf5+ 61.Qxf5 Qxf5+ 62.Rxf5 Kg7

 この手もほぼ必須である。しかしここで白はルークを侵入させる前にビショップでのチェックを狙う。

63.Bg3 h6 64.Be5+ Kh7 65.Rf7+ Kg6 66.Rf8 Kh7 67.Bf4!

 黒のナイトはまだ動けない。そしてポーンが落ち始める。

67…a5 68.Bxh6! a4 69.Be3 a3 70.Bxc5 a2 71.Bd4

 aポーンはこれ以上進めず、ここからグリシュクはナイトを行ったり来たりさせることに頼らなければならなかった。

71…Nc7 72.Ba1 Ne8 73.c5 Nc7 74.c6 Ne8 75.Kh4!

 最後の駒が戦いに参加する。

75…Nc7 76.Kh5 Ne8 77.c7! 1-0

 ナカムラは相変わらず正確で、最後の駒をジグソーパズルにはめた。77…Nxc7 78.Rf7+ から詰みになる。

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(この号終わり)

2015年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(402)

「British Chess Magazine」2015年10月号(1/1)

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棋譜のデパート

IMアンドルー・マーティン

 1989年にキング翼インディアン防御についての本を書いたが、その時でさえ局面の完全な理解なくしてマル・デル・プラタ戦法と戦う愚を警告しておいた。25年前には多くの定跡が蓄積されていた。今日ではどうだろうか。

□W.ソー
■H.ナカムラ

第3回シンクフィールド杯、2015年
キング翼インディアン防御マル・デル・プラタ戦法 [E99]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.f3 f5 11.Be3 f4 12.Bf2 g5 13.Nd3 Ng6 14.c5 Nf6 15.Rc1 Rf7

 ここまでは主流手順の一つである。ここで白の選択肢は 16.a4 か本譜の手である。白は自分のキングの天井が陥没する前に、クイーン翼で何か成果をあげ黒を守勢に立たせることができるかどうかが問題である。ソーは見るからに快速戦のように手を進めてきた。彼の新構想がこの先にある。

16.Kh1 h5 17.cxd6

 2014年ビルバオでのA.シロフ対E.バクロ戦でシロフはソーよりも適切な瞬間にd6で交換した。17.Nb5 g4(17…a6!? 18.Na3 g4 19.Nc4 は形勢不明)18.cxd6 違いは白が Qc2 でc7に侵入できるということである。18…cxd6 19.Qc2 g3 20.Nc7! この戦型の非常に面白い実戦例になった。20…Rxc7 21.Qxc7 Qxc7 22.Rxc7 gxf2 23.Rfc1± 1-0(46手)

17…cxd6 18.Nb5

 18.Qc2!? もある。

18…a6 19.Na3

 19.Na7 Bd7 20.Qb3 g4 は2015年リガでのG.キャルタンソン対V.コバレフ戦で、このあと 21.Rc3 g3 22.Bg1 のようにこの戦型の典型的な局面になった。22…gxh2 23.Bf2 h4 24.Qxb7 Nh5 でたぶん黒の方が良いだろう。

19…b5!

 この手は白のクイーン翼攻撃を遅らせる。白がa3のナイトを転進させる手数を利用してナカムラは敵キングの打倒に向かう。

20.Rc6

 白は本当に何かを狙っているのだろうか。白はどういう狙いを狙おうとしているのだろうか。

20…g4 21.Qc2 Qf8 22.Rc1 Bd7 23.Rc7

 ソーは完全に黒の攻撃を過小評価しているように見える。白には本手が 23.Nb4 と 23.Rb6 の二通りあった。

23…Bh6 24.Be1 h4 25.fxg4 f3

 この種の手は何も目新しいものではないが、それでも引きつけられる。ナカムラはポーンをくれてやって駒で黒陣を撃破する。

26.gxf3 Nxe4

27.Rd1?

 27…Rxf3 と指させるのは良くない。

 27.Rxd7 でも 27…Rxf3! の強手が成立する。28.Nf2(28.Bxf3 は 28…Qxf3+ 29.Qg2 Qxd3 30.Rd1 Bd2!! 31.Bxd2 Nf4

から白キングが詰まされる)28…Rxf2 29.Bxf2 Nxf2+ 30.Kg1 Nh3+ 31.Kh1 e4 32.Rf1 Nf2+ 33.Kg1 Be3 34.Qc3 Bc5 -+

 だから 27.Nc5! が良い。たぶんこれがいくらかでも紛れさせる唯一の機会だった。27…dxc5 28.Rxd7 Rxd7 29.Qxe4 Bxc1 30.Qxg6+ Rg7 31.Qe6+ Qf7 32.Qc6

もちろんこれでも黒の方が断然良い。

27…Rxf3! 28.Rxd7

 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Qg2 Bxg4 -+。

28…Rf1+ 29.Kg2

29…Be3!

 すごい手で白陣に乱入した。細かいことを言えば 29…h3+ 30.Kxh3 Rf2 が一番良くて、白を瞬殺する。31.Bxf2 Qxf2 32.Nxf2 Nf4+ 33.Kh4 Bg5# こんな終わり方があろうとは。

30.Bg3

 白には受けがなかった。30.Bf2 でも 30…Rxf2+ 31.Nxf2 Qxf2+ 32.Kh1 Bf4 33.Bf1 Qe3 で …Nf2 を狙われて白はどうしようもない。

30…hxg3 31.Rxf1 Nh4+ 32.Kh3 Qh6

 してやったり。あとは黒キングを詰めるだけである。

33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6

37…Rf6+!

 巧みな手だが、これが唯一の手段ではない。37…Nf7 でも 38.Kf5(38.Rxf7 Qg5#)38…Nh8+ 39.Ke6 Qf6# の3手詰みになる。

38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5# 0-1

 観戦者の喜ぶチェスだった。ナカムラの攻撃が冴えわたったが、9.Ne1 の戦型をめぐる激しい戦いが続くのは間違いない。

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(この号終わり)

2015年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(403)

「Chess Life」2015年11月号(1/3)

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お楽しみチェス

GMアンディー・ソルティス

なぜチェスが好きか

準スラブ防御ボトビニクシステム [D44]
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2800、米国)
GMアニシュ・ギリ(FIDE2674、オランダ)
2014年ロンドン・チェスクラシック、スーパー快速オープン、ロンドン

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 e6 5.Bg5 dxc4 6.e4 b5 7.e5 h6 8.Bh4 g5 9.Nxg5 hxg5 10.Bxg5 Nbd7 11.g3 Bb7 12.Bg2 Qb6 13.exf6 c5 14.d5 O-O-O 15.O-O b4 16.Rb1!

16…Qa6 17.dxe6 Bxg2 18.e7 Bxf1! 19.Qd5!

 ここで 19…Bh6! 20.Bxh6 Bd3! なら受かっていたかもしれない。

19…Bxe7?! 20.fxe7 Rdg8 21.Ne4! Bd3 22.Nd6+ Kc7 23.Bf4 Kb6 24.Re1! Qxa2 25.Nxf7 Qa4

26.b3! Qxb3 27.Qxd7 Qc3 28.Bc7+ Kb7 29.Nd6+ 黒投了

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(404)

「Chess Life」2015年11月号(2/3)

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2015年シンクフィールド杯

解説 GMロバート・ヘス

キング翼インディアン防御 [E99]
GMウェズリー・ソー(FIDE2779、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2814、米国)
第3回シンクフィールド杯第6回戦、2015年8月29日

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.f3 f5 11.Be3 f4 12.Bf2 g5

 両者は序盤の手をブリッツ戦みたいに飛ばしてきた。明らかにまだ研究の範囲内である。ナカムラはおそらく世界で最もよくキング翼インディアン防御(王印防御)を理解している選手である。だからウェズリーは自分のしていることがどういうことか分かっていた。マクシム・バシエ=ラグラーブは第4回戦でナカムラの王印防御を避けたが、それは賢明な方針だった。

13.Nd3 Ng6 14.c5 Nf6 15.Rc1 Rf7 16.Kh1 h5

17.cxd6

 17.Nb5 の方が正確である。重要な相違点は 17…a6 18.Na3 のあとに現れる。つまり黒は本譜と違い …b7-b5 と突くわけにいかない。

17…cxd6 18.Nb5

 ここらあたりでナカムラは初めて熟考した。黒はすぐに …g4 と突くことができるが、a7のポーンを取らせることになる。ナカムラは妥協して白のクイーン翼での動きを遅らせるために自分のクイーン翼のポーン陣形を弱体化させることにした。

18…a6

 18…g4 は 19.Nxa7 Bd7(19…g3 20.Rxc8 Rxc8 21.Nxc8 gxf2 22.Na7 Qa5 23.Nb5 Qxb5 24.Nxe5 は白が非常に良さそうである)20.Qb3 Ne8 21.Nb5 Qg5 となって、本譜と比べて白が1ポーン得していてクイーン翼を突破できる可能性がより高い。

19.Na3 b5

 黒は白ナイトをb6に侵入させるわけにはいかなかった。

20.Rc6

 20.Nb4 も魅力的だったに違いないが、c6のナイトが白にとって実際にどれだけ役に立つかあまり判然としなかった。

20…g4 21.Qc2

21…Qf8

 これは大変賢い手である。黒はビショップをc8-h3の斜筋に置いておく必要があり、…Bc8-Bd7 と指す唯一の手段はd6の地点を守っておくことである。クイーンは近い将来もうg5の地点に行くことができないけれども、f列には駒が集積している。実戦の進行から分かるように、クイーンとルークのバッテリーは多大な危害を与えることができる。これに反して 21…Bb7 22.Bb6 Qf8 23.Rc7 という手順では白は少なくとも黒の攻撃駒のいくつかと交換することができる。

22.Rc1 Bd7 23.Rc7?

 この手は話にならない悪手ということではない。それよりもむしろソーはクイーン翼に圧力をかけ続ける必要があった。c7のルークは具体的な狙いが何もない。だから白は局面を支配するために交換損をするのがごく当たり前のことである。例えば 23.Nb4 Bxc6 24.dxc6 なら代償が本当にある。黒は白枡ビショップがなくなれば攻撃に迫力がなくなり、白は陣地が広がる。24…Qc8 25.c7 Ne7 26.Bh4 ともなれば白に交換損の代償が明らかにある。23.Rb6 も考えられる手で、d6とa6のポーンに圧力をかけ続ける。

23…Bh6 24.Be1 h4

25.fxg4

 白は餌に飛びついた。しかしこれはまさに自ら災いを招くことになる。白はナイトを戦いに引き戻す頃合いだった。というのは攻撃の結果から判断すると、ここでの 25.fxg4 は良くなかったことが明らかだからである。最善の受けは 25.Nb1 で、25…Bg5(いつものことながら 25…h3 は考えておかなければならない)26.Nd2(26.fxg4 に 26…f3? は駄目で[26…Nxe4 が良く、27.Bf3{27.Kg1 Nf6 28.Nd2 e4 29.Nf2 f3 30.Bxf3 exf3 31.Qxg6+ Rg7 32.Qd3 fxg2}27…Ng3+ 28.hxg3 hxg3 29.Nd2 e4{29…Qh6+ 30.Kg1 Qh2+ 31.Kf1 Nh4 32.Bf2 gxf2 33.Nxf2 b4 34.Rc6 Re8 白のもろい陣形はいつか崩壊するかもしれない。しかし当座は戦力が互角で、黒の攻撃はあまり強力に見えない。白は白枡でせき止めを構築することを模索することができる}30.Nxe4 Qh6+ 31.Kg1 Re8 32.Ndf2 gxf2+ 33.Nxf2 Ne5 黒が押し気味である]27.gxf3 Nxe4 28.Rxd7 Rxd7[28…Rxf3 なら 29.Nd2 で、進路変更のナイトが救援に来る!]29.fxe4 Bxc1 30.Qxc1 小駒3個がルーク2個をまもなく席巻する)26…h3 27.gxh3 g3 28.Bf1 Qh6 29.Rxd7 Rxd7 30.Qc6 Rdd8 31.Qb7 となれば白は少なくともまだ大丈夫である。

25…f3 26.gxf3 Nxe4

27.Rd1

 形勢は既に白にとってかなり絶望的なので、この手には悪手の記号を付ける気にさえなれない。白にはほかの手もあったがそれらのどれでも結果を変えるには至らない。27.Rxd7 Rxf3 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Qg2 Qxd3 30.Rd1 は形勢を紛れさせるいい試みだが、黒には 30…Bd2!! という冷静沈着な妙手があり、31.Bxd2 Nf4 32.Be1 Nf2+! 33.Qxf2 Qe4+ 34.Kg1 Nh3+ 35.Kf1 Nxf2 36.Bxf2 Qxg4 となって白のルークが取られる。すごい手順があったものだ。

27…Rxf3 28.Rxd7 Rf1+ 29.Kg2

29…Be3

 変化の 29…h3+ 30.Kxh3 Rf2!!

も信じられないような手順である。黒は詰みのためならすべてをなげうつ(30…Rg1 31.Bh4 Qf2 は私が解説中に見つけた自慢の変化だが、ほかの手順ほどすごくはない)。31.Bxf2 Qxf2 32.Nxf2 Nf4+ 33.Kh4 Bg5#

30.Bg3 hxg3 31.Rxf1

 これで白は完全にルークの丸得である。白にとって残念なことにそれを生かすことができないうちに詰まされる。

31…Nh4+ 32.Kh3 Qh6 33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6

37…Rf6+

 私としては 37…Nf7 38.Kf5 Nd4+ 39.Kg6 Nh8# という終局を見たかった。

38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5#

(クリックすると全体が表示されます)


セントルイスでは世界最強選手たちの激闘にもかかわらず仲間意識ともいうものができていた

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(この号続く)

2016年01月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(405)

「Chess Life」2015年11月号(3/3)

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收局 ルーク・ビショップ・gh対ルーク・fgh

解説 GMジム・タルジャン

 下図は2014年トロムセ・オリンピアードでのGMシャフリヤル・マメジャロフ対GMヒカル・ナカムラ戦の33手後である。最終戦の主将戦は最終順位にきわめて重大だった。

 トロムセで米国チームの監督を務めたIMジョン・ドナルドソンは帰国後まもなく、マメジャロフ対ナカムラ戦で両者が見落とした黒の引き分ける妙手を私に見せてくれた。この実戦例を検討するのは、以前にマスターの試合に現れているしこれからも現れるはずなので、読者の興味を引くことと思う。この收局の構成は一方がルーク、ビショップ、それにg・hポーン、他方(防御側)がルーク、それにf・g・hポーンからなっている。もちろん対称形でポーンがクイーン翼にある可能性もある。しかしほとんどの場合キング翼で起こる。キング翼にキャッスリングすることが多いことと、キャッスリングしたキングを守るキング翼ポーンが收局まで生き残れることが多いこととを考えれば、驚くには当たらない。

 上図の收局になる数手前から始めよう。

 マメジャロフは序盤から優勢だった。そしてここでは 29.Rb7 か単に 29.exd4 かというように非常にうれしい選択がある。彼は本稿での收局になる手を選んだ。

29.Rxa7 dxe3

 29…Nc5 は 30.Bd5! d3 31.Bxf7+ Kf8 32.Bh5 と来られて食指が動かない。

30.Rxd7! Rxd7 31.a7 exf2+ 32.Kxf2 Rxa7 33.Rxa7

 そしてこの局面である。白はここから一見難なく短手数で勝った。しかしこのあと分かるようにこの局面はまだ指す余地がある。

 黒は陣形の弱体化をできるだけ避けながら最下段での詰みを防がなければならない。白はf7のポーンをルークとビショップとで攻撃するが、黒はちょうどルークをf6に回してf7の標的をすぐ守ることができる。そこで少し手を進めてみよう。

33…g6 34.Ke3 Rb6 35.Bd5 Rf6

 そしてここから白はどのようにして勝つのか。実戦の手を追う前に私の考える要点を概説しよう。

 ルークがないとすると、黒は白のgポーンを交換でなくし白にhポーンと誤ビショップだけを残させるのでなければ、一般に見込みがない。だから白はルーク同士の交換を迫って黒ルークを追い回すことができる。

 黒は一般にポーン突き、特にgポーンやhポーン突きを避けるべきである。ここでは黒は隅に要塞をこしらえている。黒のポーンが動くと、白は侵入とルークの強制交換がより容易になり簡単に勝つはずである。(これはキャッスリングしたキングの囲いを弱めるなという基本に合致している。)

 白がルークを7段目に置いてf7のポーンを攻撃すれば、ここでのように黒はルークをf列に置いて守らなければならない。白がルークをf列に転じてf7のポーンを攻撃すれば、黒はできるならルークを7段目に引き戻すか、fポーン突きに従わなければならない。白ビショップは中央のd5に居るのが望ましく、g2のポーンを守り、f7のポーンを攻撃し、b7またはa2などほかの地点への移動をにらむ。白キングはビショップおよびルークと協力する。手詰まりも視野にある。白がルーク、ビショップ、それにキングをうまく切り回せば、黒ルークはすぐにどこにでも駆けつけるというわけにはいかず、いずれは圧倒され、最小限でも黒はfポーン突きに応じなければならない。

 以下がこの局面で白が勝つためのゆっくりだが組織的な手段の概要である。g2のポーンはd5のビショップによって守られるようにそこに置いておく。hポーンをh3に突くのは構わない。白ポーンは必要最小限の戦力によって守られるようにする。(白ポーンを原位置に近い所に置いておくのも、黒がポーン交換を考えることさえ難しくさせる。白の両方のポーンを交換でなくしルーク対ビショップとルークの收局を守るのが黒の一番の希望である。黒のほかの希望は白のビショップと誤色hポーンの收局に持ち込むことである。)ビショップとルークの利きをf7に集中させ、たぶんキングもe7またはe8に置く。ルーク交換を狙うことにより黒ルークを圧倒し、いつかは黒がfポーンを突かなければならないようにする。そのあと局面は新たな段階に入るが、fポーン突きにより弱体化した地点に侵入して白にとってはうれしいことにそれまでよりも容易なものとなる。

 しかし白には別の勝ち方があり、それはうまくゆけば手数と労力が少なくて済む。つまり次のポーン收局が白の勝ちであることを利用するものである。

 白先なら次のように指す。

1.Kd5!

 1.Ke5? では駄目で、1…Ke7 で黒キングが見合いを取り白キングを寄せつけず引き分けになる。

 しかし 1.Kd5! なら黒キングはいずれ自分のポーンから引き離されg8に行くことになる。面白いことに防御側が昇格枡を支配しているほかのほとんどの1ポーン局面と違って、黒はここでは引き分けにすることができない。本当か?ポーンを1段ずつ下げて白ポーンをg4、黒ポーンをg5に置くと、黒はポーンを失ってもまだ引き分けにできる。ポーンを1段ずつ上げて白ポーンをg6、黒ポーンをg7に置いても、黒キングが隅で手止まりになってやはり引き分けになる。(gポーンやhポーンの場合の話で、それより中央のポーンには当てはまらない。)引き分け(ポーンがa列またはh列の場合だけ黒が引き分けにできる)でなく負けになるのはこのポーン配置(白ポーンが5段目で黒ポーンが6段目)に限った唯一の(私に言わせれば驚くべき)特異性である。これはもっと複雑な收局の一つの可能性として常に出てくるので、絶対知っておかなければならない。

 白はこの二つの手法を組み合わせることができる。黒がfポーンを突くことに応じないならば、適切なときにキングとポーンの勝ちの收局に移行するぞと脅す。しかしこれから見られるように、すべて正確に時機を見計らなければならない。もし白がgポーンを突き進めて時機を早まれば、黒はポーンをすべて交換して理論的に引き分けのルークとビショップ対ルークの收局に逃げることができるかもしれない。

 マメジャロフは単刀直入に手を進めた。ポーンをg5まで進め、ルークをf7で切ってキングとポーンの勝ちの收局に持ち込んだ。しかし複雑な所はほとんどない。hポーンはまだ交換されていない。

36.g4 h6

 代わりに 36…Kg7 と指すこともでき、37.g5 とさえ突かせることになる。

37.Ke4 Kg7 38.h4 Rf1 39.Rb7

 どういうわけか白は決定的な g4-g5 突きを指す前に1手待った。(あるいは規定手数の1手前でタイミングを見計らって40手目を指すつもりだったのか)ここから試合は急転直下終わった。

39…Rf2 40.g5 hxg5 41.hxg5 Re2+

 投了前の気休めのチェック。

42.Kd4 黒投了

 42…Rd2+ 43.Kc5 Rc2+ 44.Kd6 Rf2 45.Rxf7+ で上図白勝ちのキングとポーンの收局になるので黒は投了した。

 しかし終わりの方の手でたぶん時間切迫でどんな見落としがあったか分かるか?白のこのやり方はhポーンがこの状態ではこんなにうまくいくはずもない。黒の40手目に戻ろう。

40…Rf5!

 ジョン・ドナルドソンが私に指摘したように、ナカムラはここで絶好の機会を逃した。41.Rxf7+ は勝ちにならない。

41.Rxf7+ Rxf7 42.Bxf7 Kxf7 43.Kd5(43.Ke5 でも 43…hxg5 44.hxg5 Ke7 で引き分け)43…Ke7! 44.Ke5

 44.gxh6 なら白はポーンがh列にしか残らないので、黒はキングをh8に行かせて引き分けにできる。g6のポーンを取られることさえ気にする必要がない。

44…h5!

 単純でしてやったり、と思わないか?hポーンがくっついていることは白キングがどのように近づくかにかかわらず、見合いを取るのに必要な間合いを黒に与えてくれる。引き分けである。

 だから 40…Rf5 のあと白は 41.Rxf7+ の手段が勝ちにならないことに気づいたとき、ほかの手段を見つけなければならない。しかしもうポーンを突いてしまっているので手遅れで、ポーンが全部交換でなくなってルークとビショップ対ルークの收局になってしまう。ドナルドソンは 41.Be6 Rf1 42.Kd5 Rd1+ 43.Kc5 hxg5 44.hxg5 Rg1 45.Rxf7+ Kh8 という変化をあげている。黒は白の最後のポーンを消去しキングがこんなにひどい地点に行っても、ルークとビショップ対ルークの收局を守り切るはずである。

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(406)

「British Chess Magazine」2015年11月号(1/1)

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アマ向きの布局

ピート・タンバッロ

 セントルイスでの今年の米国選手権戦は期待以上の面白い試合が多かった。ナカムラ対オニシュク戦で2ナイト防御が指されるのを見るのはまったく予期していなくて、ルイロペスやシチリアから離れたのは良かった。定跡が興味深かったが、最後に思いがけずしくじったオニシュクにはほとんど慰めにならない。

□H.ナカムラ
■A.オニシュク

2015年米国選手権戦、2ナイト防御 [C44]

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.Bc4 Nf6 5.e5 d5 6.Bb5 Ne4 7.Nxd4

 この手に対して堅実な選手は決まって 7…Bd7 と指すが、それならそもそもなぜ2ナイト防御を指すのだろうか。ジンジハシビリはこのことを 7…Bd7 8.Bxc6 bxc6 9.O-O Bc5 10.f3 Ng5 11.f4 Ne4 12.Be3 Qb8 13.Nc3 Qxb2 14.Nxe4 dxe4 15.Qd2 という手順で強調し、理由を示すことなく白が優勢とした。しかし 15…Rd8 または 15…Qb4、あるいは 15…Qa3 という手でさえ黒が問題なく指せるように思われる。もっとも f5 のあと f6 または d6 を絶えず狙われて黒は神経を使わされる。

7…Bc5!? 8.Be3 O-O 9.Nxc6 bxc6 10.Bxc5 Nxc5 11.Bxc6 Rb8 12.O-O Rxb2 13.Qxd5

 『チェスライフ』誌の記事の内外でこの局面についての騒ぎがやかましかった。『Chess Openings for White, Explained』の書評で、私は白が優勢というジンジの分析は少し楽観的であると指摘しておいた。第2版では分析が一部改訂されたが、局面の評価には何も変更がなかった。アレクサンドル・オニシュクは独自の道を行くがそれも問題ない。他には 13…Qe7 14.Nc3 Rxc2 15.Qd4 Ne6 16.Qd3 Rb2 17.Nd5 Qc5 18.Rac1 Qd4 19.Qf5 Kh8 20.Rcd1 Qh4 と 13…Rxc2 14.Na3 Qxd5 15.Bxd5 Re2 も互角になる。

13…Qxd5 14.Bxd5 Rxc2 15.Na3 Re2

16.Rac1

 16.f4 Be6 17.Bf3 Rb2 =(17…Rxa2 18.Rxa2 Bxa2 19.Ra1 Be6 20.Nb5 Nd3 21.g3 c5 22.Rxa7 Rd8 23.Nd6 Rb8 24.Be4 ±)18.g3(18.Rfc1 Nd3 19.Rxc7 Nxf4 黒が少し優勢)18…Rd8 19.Rfc1 Rd3 互角の形勢。

16…Nd3

 16…Ne6 =。

17.Rxc7 Be6 18.Bb3

 18.Bxe6 なら 18…fxe6 19.Nb5 Rxa2 20.Nd4 Rf7 =。

18…a5!?

 たぶん勝とうと頑張った。変化はあるがどれも引き分け気味は明らか。18…Bxb3 19.axb3 Nxe5 20.Rxa7 Rb8 21.Rb1 g6 22.Kf1 Ra2 23.Nb5 Rxa7 24.Nxa7 Kg7 白はbポーンがパスポーンになっているが、黒に完全に見張られ拘留される。

 18…Nxe5 19.Rxa7 Nc6 20.Ra4 Bxb3 21.axb3 Rb8 22.Rb1 g6 23.b4 Rxb4 = 黒はここで最下段での詰みの狙いを利用している。

19.Ra7

 19.f4 は 19…a4 20.Bxa4 Bd5 21.Rc2 Re4 22.Bc6 Bxc6 23.Rxc6 Nxf4 で黒に問題がない。

19…Bxb3 20.axb3

20…Rxe5?!

 もっと楽な手が二つあった。20…Nxe5 21.Rxa5 g6 = または 20…Rb8 21.Nc4 Nxe5 22.Nxa5 g6 =。

21.Nc4! Rb5 22.Rb1 Nc5

 両者ともgポーンを1枡突いてそれからもう少し指し始めるべきだった。黒の …Nc5 は見かけは魅力的だけれども、黒が引き分けを達成するのをより難しくさせる。

23.Nxa5! Re8

 ここで両者はようやく一時停止して逃げ道を作った。

24.g3 g6

 これで問題は白がポーンをb8まで送り届けることができるかということである。18手目の解説と対照的にここでは黒がより守勢に立たされているので守るのがもっと難しくなっている。

25.b4 Nd3 26.Nc6 Re2 27.Rd7

27…Nxf2??

 ポカ。ナイトが戻ってきて2ルークを両当たりにする危険性が見えていなかった。イタタタタ!

 代わりに黒は 27…Rb6 28.Rxd3 Rxc6 29.b5 Rb6 30.Ra3 Re5 31.Ra5 と指すことができた。白ポーンは進攻し守られているが、どうということもない。黒は白キングを遮断できそうなので、白キングは何の助けにもならない。

28.Nd4! Nh3+ 29.Kh1

 逆に行くのは致命傷になる。29.Kf1 Rf2+ 30.Ke1 Re5+ 31.Kd1 Re8 32.b5 Rxh2 33.b6 Nf2+ 34.Kc2(34.Kc1 Nd3+ 35.Kd1 Re1#)34.Ne4+ 35.Kc1 Nc3 36.Nf3 Rh1+ 37.Kc2 Nxb1

29…Nf2+ 30.Kg2 Nd1+ 31.Nxe2 1-0

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(407)

「Chess」2015年12月号(1/2)

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棋力診断

GMダニエル・キング

Y.ペルティエ – H.ナカムラ
ヨーロッパクラブ杯、スコピエ、2015年
キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.b4 a5 10.Ba3 b6

 ここから開始

11.bxa5

 3点。クイーン翼をできるだけ速く開けるのが最良の方針である。うまくゆけば黒がキング翼で攻撃する機会を得る前に、黒をクイーン翼での防御に専念させることができる。

 11.Nd2 も立派な手で、ナイトをb3に回してクイーン翼での活動を助ける用意をするだけでなく、黒がナイトをh5で使うのを防ぐ。しかし残念ながら大きな欠陥がある。それは 11…axb4 12.Bxb4 c5! 13.dxc6e.p. Nxc6 で、ビショップが下がれない。これが突然成立するのはd2のナイトが白クイーンの利きをさえぎっていて Bxd6 と指せなくなっているからである。勿論白は 14.a3 でこのビショップを助けることができるが、黒はいつでも重要な黒枡ビショップを取ることができるので楽である。

11…Nh5

 これは策のある手である。黒はa5でどのように取り返すかについて白を疑心暗鬼にさせておく。

12.Nd2

 3点。これはいくつかある候補手の一つである。11…Nh5 の局面は公式戦でゆうに100局以上指されていて、大部分は 12.Re1(3点)だった。このルークはビショップがナイトで当たりにされた場合のためにビショップがf1に下がれる余地を作っている。じかし実際は黒は通常 12…f5 と突き戦いが続いていく。

 12.Bb4(2点)は黒にクイーン翼で決断をさせる。12…bxa5 13.Ba3 となるが 13…Nf4 のあと白ビショップを取って黒が十分反撃できる。

 12.Nb5(1点)もa3のビショップが守られているので黒に決断させる。12…Rxa5 13.Bb4 Ra6 となるが、白のクイーン翼の展開はあまり速く進まない。

 12.g3(2点)はナイトをf4に来させないようにする。

12…Nf4

13.axb6

 6点。ポーンは釘付けにされていたんじゃないのか?そのとおり、しかし…

 ペルティエが指すのを10年間待っていた手はこれだった。待つだけの価値はあった。

 13.Nb3(1点)は少し指されているが、原則として黒が白枡ビショップを取ったならあまり多くの問題を抱えるとは思わない。

 同じことは 13.Nb5(1点)にも当てはまる。クイーン翼でうまくいくまでには手数がかかりすぎる。

13…Rxa3

14.Nb5

 2点。これが最善手で、代わりに 14.bxc7 は 14…Qxc7 15.Nb5 Qc5 16.Nxa3 Qxa3 で黒が自由になり白が苦戦する。

14…Ra5

 よくあることだが新手のショックが悪手を誘う。両選手は対局後 14…Ra8 と指す方が良かったと一致した。しかし黒はその局面でも危機を脱していないことは確かである。

15.bxc7

 1点

15…Qd7

16.a4

 4点。白は捨て駒の代わりに十分な代償があることを証明したいのなら、クイーン翼のポーンの前進をすぐに始めることが絶対必要である。

 その点で 16.Nb3 は遅すぎる。16…Rxb5 17.cxb5 Qxc7 18.a4 f5 となって黒の反撃が強力である。

16…Ba6

 黒が上述と同じように 16…Rxb5 17.cxb5 Qxc7 18.a5 ですぐにcポーンを消去しようとすれば、白がポーンの前進で1手得していることが大きな違いになることは明らかである。

17.Nb3

 3点。黒が一段落の機会を得る前にたたき続けることが重要である。

 c4の地点を空ける 17.c5 も面白そうだがそんなことをするまでもない。17…dxc5 と取られるとポーンを突き進めるのがより難しくなる。

17…Bxb5

 ここは白にとって勝負所である。取り方が3とおりあるがどれが最善だろうか。

18.cxb5

 3点。この手が最善手である。ルーク取りは魅力的かもしれないが、実戦の手が断然最強でポーンが進むのを助ける。

 代わりに 18.Nxa5 は 18…Ba6 から …Qxc7 でクイーン翼のポーンが動けない。

 18.axb5 はもっと悪い。18…Rxa1 19.Nxa1 Qxc7 となって黒の駒得がすぐにものを言う。

18…Qxc7

19.Nxa5

 2点。状況によってはルークを取る前にルークにもっと圧力をかける方が面白いかもしれない。しかしクイーンがe2の地点の守りに縛りつけられているので単に取るのが最善である。

19…Qxa5

 ここ数手のたたき合いのあと局面は再び一段落した。在庫調査をして局面に何が残っているかを見てみよう。白は少なくとも帳簿上はルークと2ポーン対小駒2個の戦力得になっている。当面これらのポーンは役に立っていない。だから白は黒のルークはもちろん小駒がクイーン翼での防御に加わる前にポーンを動かさなければならない。

20.g3

 3点。ペルティエは簡明化を追求している。f4のナイトは目障りな駒なので追い払ってしまおう。

 私はナイトから逃げる 20.Bc4(2点)はどうだろうかと考えていた。実戦よりは複雑だがそれでも効果的である。もし 20…Ra8 なら 21.g3 Nh5 22.Qe1 Nc8 23.Qxa5 Rxa5 24.Rfc1 で、ルークがc6に行けばせき止めがすぐに壊れる。また、20…f5 なら 21.Qe1 Qc7 22.Qb4 で、ポーンが前進する用意ができる。

20…Nxe2+

 客観的には 20…Nh3+ 21.Kg2 Ng5 の方が優ることはないが、もっと複雑で、ペルティエはこの交換で安堵したのではないかと思う。局面から霧が晴れつつある。

21.Qxe2

 1点。ナイトがいなくなっただけでなく 20.g3 でキングの逃げ道もできた。非常に順調である。

21…Bh6

22.Rfb1

 3点。最も単刀直入で、かつ最善手である。

 直前の黒の手は白が Qe1 と指すのを防いでいた(…Bd2 があるため)。だから 22.Ra2(1点)にも一理ある。しかし 22…f5 で黒の反撃が嫌味である。

22…Rb8

23.b6

 6点。妙手。もし黒がどちらかの小駒で、しかし特にビショップで、クイーン翼を封鎖できれば、形勢は逆転する。ペルティエの機敏な指し回しで黒は堅固な防御態勢を構築する望みがない。

 黒ルークがf列を離れたので、この局面では 23.Ra2(2点)と指す動機づけが強まる。それでもやはり相手に動く余地を与えておくことはない。

23…Rxb6

24.Rxb6

 1点

24…Qxb6

25.a5

 2点。白は1ポーンの犠牲でルーク同士を交換することに成功し(小駒はルーク無しでは効果的に働かない)、主導権を取り戻した。

25…Qc5

26.Ra4

 1点。これは注意深い手で、たぶんクイーンをc5から追い払う用意をしている(黒が 26…Nc8 と指せば 27.Rc4)。

 26.a6(1点)と突いて何も悪いことはない。それでも 26…Nc8 のあと封鎖は破らなければならない(ルークをb7まで捌きクイーンと一緒にf7の地点をにらめばうまくいくはず)。

26…Kg7

27.a6

 1点

27…Nc8

 白はまだ封鎖を破らなければならない。そして小さな落とし穴に気をつけなければならない。

28.Rc4

 1点

 28.Qc4 と答えたら得点を半減せよ。28…Be3 で黒がすっかり回復する。29.fxe3 とビショップを取ると 29…Qxe3+ で千日手になる。だから白は 29.Qxc5 Bxc5 として收局で勝つようにしないといけないが、容易でないことは確かである。

28…Qb5

 26…Kg7 と指したのはこのためである。ナカムラは策略でねばっている。

29.Qa2

 1点。ナイトが当たりのままなので主導権を保持している。

 29.Rc2(1点)も良い手である。

29…Nb6

 29…Na7 ならどうなるか。3手ほど前に書いた方針がとても役に立つ。30.Rc7 Qb6 31.Rb7 Qd4 32.Qe2 から Qf3 が決め手になる。黒は盤の両側を同時に守ることができない。

30.Rc6

 4点。この局面で勝つ手段はいくつもあるが、この手が最も簡明である。

 30.a7(1点)でも勝つが、それでも手の込んだ手順を少し見つけなければならない。30…Nxc4 31.a8=Q Nd2 ここで 32.Q8a6 を見つけることが必要で、黒は 32…Qb4 で踏ん張る。途中 30…Bd2!? も対処に迷う手である。難解な戦いの終わりでこんな騒動を引き起こす必要はない。

30…Na4

31.a7

 2点。これもまた最も簡明な手である。

 31.Rxd6 は 31…Nc3 32.Qc2 Ne2+ 33.Kg2 Nd4 で紛糾すること確実である。この局面を2、3手後の実戦と比べてみよ。

31…Qa5

32.Kg2

 3点。これが私の最初に思いつく手である。黒のやれる唯一の不意打ちは最下段でのチェックである。だからその問題を取り除こうということである。

 32.Rc4(1点)でも勝つが、32…Qe1+ 33.Kg2 Nb6 34.a8=Q Nxa8 35.Qxa8 Be3 で紛れる余地がある。白は 36.Qa2 と守るがビショップがc5に据えられればその局面を勝つのは容易でない。

 32.Rc7(1点)もちょっと集中力が必要だが勝つだろう。

32…Qxa7

33.Rc4

 1点。何のごたごたもなくナイトを取り上げる。

33…Bg5

34.Qxa4

 1点。34.Rxa4 も同じ。

34…Qb7

35.Rb4

 2点。黒クイーンが白陣の背後で反撃策を見つけるのを防いだ。

 35.Qb4 は1点。黒は 35…Qa6 でまだのたくる。35.Qc6 Qb2 も同じ。

35…Qc7

36.Qc6

 1点。終わりが見えてきた。ナカムラは交換を断らなければならないが、クイーンが盤端に追いやられる。

36…Qa7

37.Qxd6

 1点。代わりに 37.Rb7 は 37…Qd4 で少し長引く。

37…Be7

38.Qxe5+ 1-0

 1点。そしてここでナカムラは 38…f6 39.Qb8 で戦力損が縮まらないので投了することにした。

判定
 0-16点 不運
17-33点 クラブの平均的な選手
34-43点 クラブの強豪選手
44-51点 FIDEマスター
52-57点 国際マスター
58-63点 グランドマスター


対局後のナカムラのツイッター「短期間に対局過多になると悪いことが起こりがちだ」

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(この号続く)

2016年01月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(408)

「Chess」2015年12月号(2/2)

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海外ニュース

H.ナカムラ – レ・クワン・リエム
大富豪チェス大会決勝戦第1局(快速)、2015年
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Bg5 h6 5.Bxf6 Qxf6 6.Qb3

 ナカムラは持ち時間の短い試合では自分がはるかに強いことを信じて主流手順をはずした。そしてここから黒はたちまちクイーンで手損を重ねる。

6…c6 7.e3 Qe7?! 8.Nbd2 Qb4 9.Qc2 Nd7 10.a3 Qa5 11.Be2 dxc4 12.O-O Be7 13.Nxc4 Qc7 14.b4

 白は黒を締め上げ押し込めている。無理なく優勢で、ここから局面を支配しながらしだいに圧力を強めていく。

14…O-O 15.Rac1 Rd8 16.Qb3 a6 17.Bd3 Nf6 18.Bb1 Bd7 19.e4 Be8 20.e5! Nh7 21.Qe3 b6 22.Rfd1 a5?

 反撃の手がかりを得ようとするのは理解できるが、白は一挙に攻めかかる。

23.d5! Rxd5

 23…exd5 は 24.Nxb6 Rab8 25.Nxd5 と、c列での釘付けを単刀直入に利用される。しかし黒は 23…cxd5!? 24.Nxb6 Qb7 25.Nxa8 Rxa8 26.bxa5 Rxa5 で白の読み筋を少し技術的に妨害した方が良かったかもしれない。

24.Rxd5 exd5 25.Nxb6 Rd8

 最初はこれで黒がそれほど悪くないように見える。しかし白は単にa5のポーンを取るよりもはるかにすごいことができる。

26.Nxd5!

26…Qb7

 これで白は2ポーン得になる。しかし 26…Rxd5 では 27.Qe4 で詰みとd5のルーク取りの両狙いがある。

27.Nxe7+ Qxe7 28.bxa5 Ra8 29.a6!

 このポーンは上述の狙い筋のために取られない。そしてナカムラはここから手早く締めくくった。

29…Nf8 30.Bd3 Ne6 31.Nd4 Nxd4 32.Qxd4 Rd8 33.Qc3 c5 34.Bf1 Rd5 35.Qa5 Bc6 36.a7 Ba8 37.Rb1 Kh7 38.Rb8 c4 39.Qa6 Rd2 40.Rxa8 Qc5 41.Rh8+ Kxh8 42.a8=Q+ 1-0


ヒカル・ナカムラは鋼鉄の意志が報われてラスベガスで優勝した。

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(この号終わり)

2016年02月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(409)

「Chess Life」2015年12月号(1/3)

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ワールドカップ

 第3回戦が終わったところで勝ち残っている選手は16人に絞られ、著名選手も何人か消えていた。その中には8人のシード選手中たった二人のロシア人のウラジーミル・クラムニクとアレクサンドル・グリシュクが含まれていた。

 米国の3人の選手はみな4回戦に進んだが、ナカムラのヤン・ネポムニシーとの試合は名局で、両選手とも1局目に負けながら次の試合を勝って互角にした。

名局
GMヤン・ネポムニシー(FIDE2705、ロシア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2814、米国)
ワールドカップ第3回戦、バクー、アゼルバイジャン
2015年9月19日

 黒の手番

 ネポムニシーは生き残るためにはこの試合に勝たなければならなかった。ナカムラが 40…N8b6! と指していたら第4回戦進出にたいして手数はかからなかっただろう。

 代わりにナカムラの指した手は…

40…e4? Rd2!!

 黒はd列を開放して損害を招いた。

 試合は次のように続いた。

41…Rxd1 42.Rxd1 Nxe3+ 43.Kb1!

 しかしここで黒にとって致命的なのは素通しc列であることが明らかになった。ナカムラは投了を余儀なくされた。

43…Qd6 44.Rdc1 Nd5 45.Rc6 Qh2 46.R6c2 Qf4 47.dxe4 Qxe4 48.Ka1 Nce7 49.Qb7 Re3 50.b6 Re1 51.bxc7 Rxc1+ 52.Rxc1 Nc8 53.Rd1 黒投了

 次にブリッツ2局が指され、ナカムラは1局目を負けたがやり返して1-1に持ち込んだ。それで勝負はハルマゲドンに持ち越された。

 決定戦のハルマゲドンでナカムラは黒で、楽に勝った。しかし対局後解説者のセルゲイ・シポフがナカムラが両方の手でキャッスリングしたという目撃情報をネポムニアシチに伝えて議論が持ち上がった。

 敗退を避けるのに必死なネポムニシーは公式に抗議を提出してナカムラの反則行為を罰するよう求めた。駒を動かす時はすべて片手で行わなければならない。実はこれは初めてではなくナカムラはこの番勝負で「両手で」キャッスリングしていた。

 さらにあとで裁定委員会で明らかになったことだが、対局の様子をスローモーションで再生したところ、ナカムラはハルマゲドンの試合でもルークを先に動かしていた。これもFIDEの規則では不正になる。この違反行為はささいなことだったので普通のスピードではほとんど見分けがつかなかった。だからネポムニシーや審判たちを見抜けなかったと責めたり、ナカムラを「不正行為」で責めたりするのはばかげている。付記すると、ナカムラが慣れ親しんできた米国チェス連盟規約では「キャッスリングする時キングとルークのどちらを先につかんでもよい」と規定している。

 ネポムニシーはナカムラが最初につかんだ駒と違う駒を動かしたとも訴えたが、これは勘違いで、ナカムラは駒を動かしたあと通常は時計を押す前だがときには押した後に駒の位置を直す(良くない作法である)迷惑な癖を持っていた。

 ネポムニシーの訴えはその時に申し立てなかったということで却下されたが、4人(!)の審判が見守っていてそのうちの一人でも気づき時計を止め罰を与えるべきだったと指摘したのはもっともだった。

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(この号続く)

2016年02月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(410)

「Chess Life」2015年12月号(2/3)

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ワールドカップ(続き)

 米国勢の挑戦は大会前の優勝候補で第2シードのヒカル・ナカムラが今大会絶好調のGMパブロ・エリャーノフとの対戦で精彩を欠いて負け準々決勝(第5回戦)での最初の敗退者になったときに終わった。

ナカムラの進撃終わる
GMパブロ・エリャーノフ(FIDE2717、ウクライナ)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2814、米国)
ワールドカップ第5回戦、バクー、アゼルバイジャン
2015年9月23日

 黒の手番

 黒陣は守勢ではあっても堅固である。そして 19…Rd8 20.Rac1 Bxc5 21.dxc5(21.Qxc5 でも黒の応手は同じ)21…Na6 と指せば白の優勢は最小限だった。

 ナカムラは双ビショップを残す方にこだわったが

19…Na6?!

のあと撃破された。

20.Nxb7! Qxb7 21.Bxc6 Qc7

 黒は 21…Qa7 でクイーン交換を避ければa5のポーンを取られる(もっともその方が実戦的には良かったかもしれない)。

22.Bxa8 Qxc3 23.bxc3 Rxa8 24.Nc6 Bd8 25.Nxd8 Rxd8 26.f3

 戦力的には黒は全然悪くない。多くの局面でビショップとナイトはルークと2ポーンに対して対抗できる。

 しかしここでは黒の小駒は働きのない地点にいて、エリャーノフは白が勝勢に近いと判断していた。

26…Rc8 27.Ra3 Bg6 28.Kf2 Rb8 29.Rd2 f6

 この手は引き分け提案と共に指された。エリャーノフにとってはきっと驚きだっただろう。

30.Raa2 Rb3 31.Rab2! Rxc3 32.Rb5 Bc2 33.Rxa5 Nc7 34.Ra7 f5 35.a5

 ナカムラは白の多くの狙いに対して受けようがなく、23手後に投了した。

 ナカムラは次の対局で全然勝てるような感じがなく、すぐにバクーを後にした。

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(この号続く)

2016年02月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(411)

「Chess Life」2015年12月号(3/3)

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2015年の15大局面

GMイアン・ロジャーズ

第14局 ナカムラのハンマーパンチが炸裂
GMウエズリー・ソー(FIDE2779、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2814、米国)
2015年シンクフィールド杯第6回戦、ミズーリ州セントルイス
2015年8月29日

 黒の手番

 2015年シンクフィールド杯からの最も華々しい手。ナカムラは既に2ポーンを犠牲にしていて、ここで火に油を注ぐ。

26…Nxe4!! 27.Rd1?!

 ここから後はハンマーパンチの連続だった。しかし後日の分析によるとましな 27.Rxd7 でも 27…Rxf3! で黒が優勢になるし、27.fxe4 は 27…Rf1+ 28.Kg2 Be3! で …h3+ から …Qh6+ を狙われて白の負けになることが明らかになった。

27…Rxf3! 28.Rxd7 Rf1+ 29.Kg2 Be3! 30.Bg3 hxg3! 31.Rxf1 Nh4+ 32.Kh3 Qh6!

33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3! 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6 Rf6+! 38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5#

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(412)

「British Chess Magazine」2015年12月号(1/1)

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棋譜のデパート

IMアンドルー・マーティン

□A.ストゥコピン
■H.ナカムラ

大富豪オープン、ラスベガス、2015年
フランス防御マカッチョン戦法 [C12]

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Bb4 5.e5 h6 6.Bh4

 白がこのまれな手を指したピルズベリー対ラスカー戦の時代に戻った。この戦型に毒針があることは間違いなく、ストゥーコピンはナカムラのすきをつくことを期待したのかもしれない。

6…g5 7.Bg3 Ne4 8.Nge2

 両者とも陣形に問題を抱えているのでいい勝負である。

8…h5

 黒は 8…f5 9.f3 Nxg3 10.hxg3 でも指せそうで、形勢はまったくの不明である。10…Bd7(10…b6 11.a3 Bf8 12.g4!)11.a3 Bxc3+ 12.Nxc3 Nc6 13.f4(13.g4 fxg4 14.Bd3 gxf3 15.Qxf3 Qe7 16.Bg6+ Kd8 17.O-O-O も形勢判断が難しい)13…g4 14.Qd2 Qe7 15.Nd1 O-O-O = V.オニシュク対S.ボルコフ、アル・アイン、2014年

 8…c5 ならいつものフランス防御の応手で、9.a3 Bxc3+ 10.Nxc3 Qa5 11.Qd3 Nc6 12.dxc5 Bd7 13.O-O-O Nxc3 14.Qxc3 Qxc3 15.bxc3 Rc8 16.f3 Na5 となって黒陣はしっかりしている。

9.f3 Nxg3 10.hxg3 Bd7 11.Qd2 Be7

12.g4?!

 この手がf1のビショップの大義の助けになるのかは分からない。だからたぶん 12.f4 の方が良かっただろう。それでも黒の黒枡ビショップは潜在的に強力である。12.f4 c5 13.dxc5 Nc6 14.Nd4 Nxd4 15.Qxd4 Rc8 16.O-O-O Bxc5 17.Qd3 Qc7 18.Be2 h4 は2010年FICGS電子メールでのD.フラーチェク対J.キッパー戦だが、黒の方がわずかに優勢である。

12…h4!

 私なら黒の方を持ちたい。e7の強力なビショップのおかげで黒の可能性の方が大きい。白が自分の有利になるように局面を開放するのに苦労するのに対し、黒は …c7-c5! ですぐに反撃を開始できる。

13.g3 c5 14.gxh4

14…Nc6

 ナカムラがどうして 14…Rxh4 15.Rxh4 gxh4 16.f4 と指さなかったのかは理解に苦しむ。たぶん 16…Nc6 17.dxc5 Qa5 18.O-O-O O-O-O が気に入らなかったのだろう。

15.Qe3?

 白は 15.h5 でh列をふさがなければならない。そうしなかったのでたちまち苦戦に陥った。

15…Qb8! 16.O-O-O

 ここで 16.h5 は 16…a6 で白の中央が崩壊寸前になる。

16…cxd4 17.Nxd4 Qxe5 18.Qxe5 Nxe5 19.h5 a6 20.Bd3 Bc5

 黒はポーンを取り返し、中央のポーンを好きなように突き進める楽な作戦がある。白はほとんどすることがないので黒は余裕がある。

21.Nce2 O-O-O

 21…Kf8 22.c3 Kg7 の方がもっと効果的だったかもしれない。

22.c3 Rdg8 23.Bc2 Rh6 24.Rhe1 Rf6 25.Ng1 Nc6 26.Rf1 Kc7 27.Kb1 Ne5 28.a4 Kd8

 この手までの10手ほどの間黒は巧妙に圧力をかけて白がいかにどうしようもないかを示す意図で捌いてきた。白は均衡を保つためだけに指し続けるのは非常に面白くないものである。

29.b3 Ke7 30.Nge2 b5! 31.b4

 31.axb5 と取るのは 31…Bxb5 32.Nxb5(32.Rfe1 Nxf3 33.Nxf3 Rxf3 34.Nd4 Bxd4 35.cxd4 Rc8 36.Rd2 Rg3 -+)32…axb5 でf3のポーンが落ちるのを見るばかりである。

31…Bxd4 32.Nxd4 bxa4 33.Rde1 Kd6 34.Kb2 Bb5 0-1

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(この号終わり)

2016年03月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

「ヒカルのチェス」(413)

「Chess Life」2016年1月号(1/4)

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第2回大富豪チェス大会

FMアリサ・メレヒナ

 ベトナムの第一人者のリエムは5連勝し第6回戦でナカムラと引き分けて、「大富豪の月曜」決定戦に進出する一群の先頭に立った。大会の最終日には上位4人が快速戦を戦って優勝者を決め、残りの選手たちは第8回戦と第9回戦を戦う。

引き分けだって?

 第6回戦が終わって首位のリエムのすぐあとに8人のグランドマスターが5/6で続き、その中にはナカムラとルーク・マクシェーンがいて両者は第7回戦で対戦した。「大富豪の月曜」に進出する戦いでは対局者間にゲーム理論の状況ができ上がった。そのようなパズルに対する通常の解は選手たちが協力することである。チェスではこれは引き分けることにほかならない。

 大富豪チェスでは対局者たちが30手より前に引き分けに合意することを許さないという規則を導入していたにもかかわらず、ナカムラとマクシェーンはモーリスが「水も漏らさぬ」と考えた規則の数少ない抜け穴の一つを見つけたようだった。両者はナイドルフ・シチリア(6.Be3)の9手目でにっちもさっちもいかない状況に陥った。いろいろな理由で二人とも手を変えたくなかった。GMデイビド・スマードンは経済の観点からこの状況を分析して、実際は両選手が引き分けを回避することが経済的な利益に沿うと結論づけた(彼の分析は www.davidsmerdon.com/?p=1757 を参照)。

 スマードンによるとナカムラは決定戦でソーとカルアナと対決するよりも優勝する可能性が高かったし、マクシェーンはナカムラを含めた決定戦のための決定戦を避けるために指し続けるべきだった。しかし対局後の両者のインタビューによれば両者とも指し続ける方が危険が大きいと確信していた。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B90]
GMルーク・マクシェーン(2797)
GMヒカル・ナカムラ(2884)
第2回大富豪チェスオープン第7回戦、ネバダ州ラスベガス
2015年10月11日

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be3 Ng4

 マクシェーンはこの大会の第5回戦でヤクビエッチの 5…e5 に勝っていたので、それを知っているナカムラはその戦型に行きたくなかった。

7.Bc1

 激しい手順の 7.Bg5 h6 8.Bh4 g5 9.Bg3 もあるけれども、マクシェーンは危険をとることに気が進まなかった。そして次のように語っていた。「自分のやっていることは分かっていなければならない。このような局面に行くつもりなら、そして自分のしていることが分かっていないなら、とんでもない。向こう見ずな危険をおかすことは自分にとって必ずしも必要ない。Bc1 と指したが引き分けを期待していなかったことは確かだ。8.Be3 と指したとき彼がまた 8…Ng4 と指すかは全然見当がつかなかった。」

7…Nf6 8.Be3 Ng4 9.Bc1 合意の引き分け

 ナカムラによるとここでの唯一受け入れられる非「疑問」手はナイトをf6に引くことである。

 定跡の観点からの正しい方針に関係なく、この引き分けは大会規則に対する直接的な挑戦だった。モーリス・アシュリーは戦うチェスを助長するために設けられた反引き分け規則を選手が出し抜くことに明らかにがっかりしていた。大富豪チェスの前提は激烈なチェスを見せることであるが、それが手早いグランドマスター引き分けで、またはアシュリーが呼ぶように「試合のキズ」で無効にされた。

 大富豪チェスに特有の規則では、対局者は制限手数をかわすために30手までに手を繰り返してはいけないが、詰みや戦力損につながる場合は指し続けることを強制されない。しかしFIDEの規則ではこのような状況での引き分けは許容されている。解決策はどちらの規則を原則とするかだった。

 これは試合そのものよりも込み入った問題になった。試合は全体で12分しか続かなかったが、妥当さの判定には90分以上かかった。アシュリーは判定を下す前に本大会の主任審判で国際審判のフランシスコ・グアダルーペ、世界中の審判、当該選手、それに選手代表の意見を聞いた。

 モーリスは個人的には引き分けを憎悪していたが、結局は認めた。彼がこの問題について強く感じていたのはこうだった。「チェスのプロは手短な引き分けがこのスポーツに計り知れない害となることに気づかなければならないと思う。スポンサーと観戦者を遠ざけ、最良でも臆病、最悪では選手による共謀の感じさえある。ナカムラとマクシェーンのような二人の一流の闘士がしたことが問題でなく、大会の状況でこれが最善だと考えたことが問題なのでもない。私はテレビ・プロデューサー、関心を持つ政治家、それに平均的な愛好家に話したことがあるが、彼等は皆チェスが対局者の好きなときに打ち切ることができることに対し、真のスポーツと呼べるという考えに目を白黒させるか嘲笑する。」

 主催者のエイミー・リーはこう付け加える。「私はチェスを指さないが、このようなことがスポーツで起こることがあるなら、大金を拠出することに興味を持つスポンサーはいなくなることは想像に難くない。」

 選手の立場からカルアナは次のように言った。「すべての選手が高い参加費を払い旅費と宿泊費を自分で払わなければならない大会では、さっさと引き分けにすべきでないとはどの選手にもとても言えない。特に大会の状況を考えたときに引き分けが戦略的に得策ならば。」

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(この号続く)

2016年03月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(414)

「Chess Life」2016年1月号(2/4)

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第2回大富豪チェス大会(続き)

 6/7の3人のグランドマスター、レ、アレックス・レンダーマン、それにヤンイー・ユーが準決勝に進出した。GMエブゲニー・バレエフはGMサム・シャンクランドとの優勢の試合を勝っていれば4人目の準決勝進出者になり、ナカムラは9手目引き分けの賭けが功を奏さず準決勝進出を逃すところだった。
 しかしバレエフは引き分けに終わったため、ナカムラとマクシェーンを含む5½/7の9人のグランドマスターと共に、最後の席を争うことになった。この一団の中にはソー、いくつか引き分けに甘んじてきたカルアナ、それに第3回戦での不戦敗から盛り返したカームスキーがいた。イスラエルのGMギル・ポピルスキーが辞退してU2550賞金の決定戦に自動的に回ったので人数は9人に減った。選手は米国チェス連盟のレイティングにより4人の組と5人の組に分けられた。

 ナカムラは有利な組に入った。カルアナはソーと同じ組で、ナカムラはカームスキー、バレエフ、それにセルゲイ・アザロフと対戦することになった。盤上の優勢はまたもや奇妙な事態の変化で消えた。カームスキーは決定戦の2局目のナカムラ戦でポカでビショップを丸損した。しかしナカムラは勝ちきれず引き分けに落ち着いた。カームスキーは引き分けににっこりし、ナカムラは思わぬ事態の「急転」に信じられないというように頭を振っていた。

急転直下

GMヒカル・ナカムラ(2884)
GMガータ・カームスキー(2752)
第2回大富豪チェスオープン(準決勝進出決定第2局)、ネバダ州ラスベガス
2015年10月11日

 黒の手番

24…Rxb2? 25.Rxb2 Qxb2 26.Rb1!

 黒は 26.f4 とくると読んでいたのだろう。それなら 26…f6 27.fxe5 fxe5 28.Qe3 Rxf1+ 29.Bxf1 Nf6 で黒が駒の代わりに3ポーンを得て好調である。

26…Qa3 27.f4 f6 28.Rxb7 Nd3 29.Nf3 Ra8 30.Kh2 Nxf4 31.g5 Nh5 32.gxf6+ Nhxf6 33.Rb1 Nh6 34.Qxc4 Nf5 35.Nd4 Ne3 36.Qb4 Qxb4 37.Rxb4 Rc8 38.Nc6 Nxg2 39.Kxg2 Nxd5 40.Nxd5 Rxc6 41.Rb7 Rc5 42.Nf4 Kf7 43.h4 引き分け合意

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(この号続く)

2016年03月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(415)

「Chess Life」2016年1月号(3/4)

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第2回大富豪チェス大会(続き)

 しかし幸運はまだナカムラの方にあった。同じ組の決定的な最終戦でバレエフもまたポカをしてクイーンが捕まる手順に行かなければならなかった(ビショップが取られるのを避けるため)。ナカムラは11手で勝って、本大会2番目に短い手数の試合になった。

dポーン布局 [D02]
GMエブゲニー・バレエフ(2664)
GMヒカル・ナカムラ(2884)
第2回大富豪チェスオープン(準決勝進出決定第3局)、ネバダ州ラスベガス
2015年10月12日

1.Nf3 d5 2.d4 c6 3.Bf4 Qb6 4.b3 Nf6 5.e3 Nh5 6.Bg5 h6 7.Bh4 Nd7

8.Ne5? Nxe5 9.Qxh5

 9.dxe5 は 9…Qb4+ でビショップを取られる。

9…Ng4 10.Bg3 g6 11.Qh4 Bg7 白投了

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(この号続く)

2016年03月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(416)

「Chess Life」2016年1月号(4/4)

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第2回大富豪チェス大会(続き)

 月曜の最後の席への最終局はナカムラ対ソー戦になった。二人は快速戦で30局以上対局しているのでなじみの対局になった。2局引き分けのあと最終局の色は硬貨投げによって決められることになった。ナカムラは裏を選び、幸運はまたも彼の上に微笑むことになった。彼は白を選びソーを「今大会最高の試合」で破った。

イギリス布局フロール=ミケナス・システム [A18]
GMヒカル・ナカムラ(2884)
GMウェズリー・ソー(2829)
第2回大富豪チェスオープン(準決勝進出決定第8局)、ネバダ州ラスベガス
2015年10月12日

1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.e4 d5 4.cxd5 exd5 5.e5 Ne4 6.d4 Nc6 7.Bb5

 ソーは布局を手早く指してきたが、ここで手順を考えているかのように熟考した。

7…Be7 8.Nge2 O-O 9.O-O Bf5 10.Be3

10…Na5

 代わりに白の弱い白枡と変な所にいる白枡ビショップにつけ込む 10…Nb4 なら狙いがもっと多かった。

11.Nxe4 Bxe4 12.Ng3 a6 13.Bd3 Bxd3 14.Qxd3 Nc4 15.Bc1 f6 16.b3 Nb6 17.e6

 白は勝ちにいった。g3のナイトは働く余地が大いにあり、f5の拠点を目指す。

17…Qd6

 この手は白にe6のポーンを支えさせるだけで、Nf5 を誘っているに等しい。

18.Re1 g6 19.Bh6 Rfe8 20.f4

 黒の一連の手は支離滅裂で、駒が麻痺状態に陥った。

20…Kh8 21.f5 g5 22.Nh5 Rg8 23.h4

 白は容赦なく攻めたてる。

23…g4 24.Rf1 Qd8 25.Qe2 Qe8 26.Nf4 Bd6 27.Rae1 c6 28.e7 Nc8 29.Qe6 Bxe7 30.h5 b5

 黒は重圧につぶされた。白はここから果断な手でh列をこじ開けることができた。

31.Ng6+ hxg6 32.hxg6 Ra7 33.Kf2 g3+ 34.Kf3 Rxg6 35.fxg6 Qxg6 36.Qxc8+ Kh7 37.Rh1 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(417)

「British Chess Magazine」2016年1月号(1/2)

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第7回ロンドン・チェスクラシック

解説 GMルーク・マクシェーン

マグヌス・カールセン – ヒカル・ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック、2015年、第7回戦

 カモのナカムラに対してさんざん苦労したあげくカールセンにやっと突破口が開けた。白がもう一組のポーンを交換する代価を払ってついにキングをg7に侵入させた局面から始める。このような開けた局面の收局では双ビショップが有利であることは周知のことである。しかし不安定なナイトでさえ厄介な駒で、両選手の頭はきっと変化を読むことでくらくらしていたことと思う。

62…f6 63.Be4 Nf2 64.Bb1

 圧力を一段と強めるだけでも手を繰り返すのはカールセンにとって楽しい。

64…Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7 Nd3

67.Kxf6!

 67.Bd6 なら黒の受けは容易である。67…Nxf5+ 68.Kxf6 Nxd6 69.Bc6+ Kd8 70.cxd6 Nb2! で引き分けになりそうである。一例をあげると 71.Ke6 Nc4 72.a4 a5 73.Kd5 Ne3+ 74.Kc5 Nf5 75.Bb5 Nh6 76.Kb6 Nf7 77.d7 Ne5。

67…Nxf4 68.Ke5

68…Nfe2!

 簡単に終わらせなかったところはさすがナカムラである。どうしても 68…Nxf5 69.Kxf5 Nd3 と指したいところだが、白は巧みな駒捌きで勝ちになる。70.c6 Kd8 71.Bxa6 Nc5 72.Bb5 Kc7 73.Ke5 Nb3 74.Kd5 Na5 と進んだとき白はキングに手損をさせなければならない。75.Kc5 Nb3+ 76.Kc4 Na5+ 77.Kd5 Nb3 78.Ba4! aポーンをもっと早く進ませなかったところが急所である。78…Nd2 79.Bc2 ですぐにaポーンが進撃できる。

69.f6?

 この手は悪手ではないかと思う。しかし理解はできる。ポーンを進めてナイトから遠ざけ、ポーンの前はビショップが利いているから、悪い考えではないように思われる。しかしすぐに 69.c6 と突く方が強力だった。これに対して 69…Kd8 なら 70.f6 で勝つし、69…Nb5 なら 70.Bxa6 Ned4 71.Bxb5 Nxb5 72.a4 となって、ポーンが多すぎてナイト1個では対処しきれない。だから 69…Nxc6+ 70.Bxc6+ となるだろうが、マグヌスは勝ちの局面かどうか判断できなかったのではないかと思う。確かに簡単でない。エンジンに分析させても最終的にナイトに何も邪魔されずに白キングがクイーン翼に行けることが分かるのにしばらく時間がかかった。

69…a5 70.a4

 黒ポーンがa5にあるので 70.c6 には70…Nb5 で黒には何の問題もない。

70…Kf7 71.Bd5+

71…Kf8?

 敗着。71…Kg6! が思いもよらない手だった。しかしfポーンのそばに居続けることにより白キングにナイトに近づくことができなくさせている。72.c6 Nxc6+ 73.Bxc6 Kf7! 74.Bd5+ Kf8 で、69.c6! の局面と微妙に違う收局になる。この局面は本質的に引き分けである。Kc5-b6 に対して黒は Nc3xa4 と切って Kf8-f7xf6 と応じるからである。

72.Ke4! Nc2

 白駒が中央のすべての白枡に利いているのでこの手しかない。72…Ke8 とやり過ごすのは 73.Ke3 で両方のナイトが動けなくなり Bc4 ですぐにどちらかのナイトが取られる。

73.c6 Nc3+ 74.Ke5

74…Nxa4

 74…Nxd5 と取るのは 75.Kxd5 Nb4+ 76.Kd6 Nxc6 77.Kxc6 でこのポーン收局は黒が1手間に合わなくて負けになる。

75.Bb3!

 ついに不運な馬のどちらかが取られる。

75…Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 1-0

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(この号続く)

2016年04月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(418)

「British Chess Magazine」2016年1月号(2/2)

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第7回ロンドン・チェスクラシック(続き)

解説 GMペンタラ・ハリクリシュナ

アニシュ・ギリ – ヒカル・ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック、2015年、第8回戦

1.Nf3

 ギリはよくこの手で指し始めるが、それは必ずしもレーティ布局を指したいからではなく、1…d5 に 2.d4 と応じてカタロニア布局に入り、1…c5 には 2.e4 で喜んでeポーン布局に転じるためである。さらに本局に勝ちにいくために素直に 1.e4 と突きたくなかったのはこのロンドン大会でベルリン防御が風土病になっていたからだった。

1…d5 2.g3 Nf6 3.Bg2 e6 4.O-O Be7

5.d3

 しかしカタロニア布局で最近新構想を見つけたにもかかわらず本局ではその主流手順を指す気がなかった。新構想の中には昨年バクーでのワールドカップで周到な研究で名高いペーター・レーコーをさえ驚かせたものがあった。ナカムラがその手順に新手を用意していることを彼が恐れたことは想像にかたくなく、ナカムラが最近エリャーノフ戦で負けた試合を見ればなおさらである。2015年バクーでのエリャーノフ対ナカムラ戦は 5.d4 O-O 6.c4 dxc4 7.Qc2 a6 8.a4 Bd7 9.Qxc4 Bc6 10.Bg5 Bd5 11.Qc2 Be4 12.Qc1(ギリ対レーコー戦では 12.Qd1 c5 13.dxc5 Bxc5 14.Nbd2 Bc6 15.Ne5 Bxg2 16.Kxg2 Be7 17.Rc1 Nbd7 18.Nxd7 Qxd7 19.Nf3 Qxd1 20.Rfxd1 と進み白が46手で勝った)12…h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Rd1 a5 15.Nbd2 Bh7 16.Nb3 c6 17.Qc3 Be7 18.Nc5 Qc7 19.Ne5 Na6 20.Nxb7 Qxb7 21.Bxc6 Qc7 22.Bxa8 Qxc3 23.bxc3 Rxa8 24.Nc6 Bd8 25.Nxd8 Rxd8 26.f3 Rc8 27.Ra3 と進み、最終的には白が勝った。

5…O-O 6.Nbd2 c5

 6…Nc6!? は一見奇異に思えるけれども、アロニアンと協力者のサルギシアンは何回か指したことがある。実際よく読んでみるととても面白い手で、長い定跡の戦いを避ける立派な手段であることが分かった。それでも白はわずかだが永続する圧力を維持すべきだと思う。2015年スコピエでのギリ対アロニアン戦は 7.e4 dxe4 8.dxe4 e5 9.Nc4 Qxd1 10.Rxd1 Nxe4 11.Nfxe5 Nxe5 12.Nxe5 Nf6 13.Nc4 c6 と進み40手で引き分けた。

7.e4 Nc6

8.Re1

 これは紛らわしい手順である。白が先に e4-e5 と突いたら黒は …Qc7 と指さなかっただろう。多くの試合は 8.e5 Nd7 9.Re1 b5 10.Nf1 b4 と指されていて、なじみのチェス用語の「形勢不明」と言い表すことができる。

8…Qc7

 私は 8…b5!? が正しい手順だと思う。子供の時白がビショップをf4に出していずれ Nd5 と指すのが普通だからクイーンをc7に展開しないようにと教わった。想定される手順は 9.exd5(9.a4 b4 10.exd5 Nxd5 11.Nc4 Bb7 ∞)9…Nxd5(9…exd5 10.a4 bxa4 11.Rxa4 +/= 途中 10…b4 なら白には 11.d4!? という手があって好形になる)10.Ne4 Bb7 11.c3 a6 12.a4 b4 2015年バクーでのスビドレル対カリャーキン戦では黒が負けたけれども、ここでは黒も指せる形で、負けたのは布局のせいではない。

9.Qe2 b5 10.a4

 クイーンがc7とe2にいて 10.e5 と突く手が面白い。ギリがそう指さなかったわけはのっぴきならない戦いに誘い込まれるかもしれないからとしか思えない。例えば 10…Nd7 11.Nf1 a5 12.h4 b4 13.Bf4 a4 14.a3 Ba6 15.Ne3 である。ギリは優勢になるだけでなく盤上をしっかり支配し続けるのが好きなのである。

10…b4 11.exd5 exd5 12.Nb3 Re8 13.Bf4

13…Qb6

 私ならクイーンが当たりにならないので 13…Qd8 と指したい。14.Qd2(14.Ne5 Nxe5 15.Bxe5 Bg4 16.Qd2 Be6 17.d4 Ne4 18.Qd1 c4 19.Bxe4 dxe4 20.Nc5 Bd5 =/+)14…Bf5 ∞

14.a5 Qb5 15.Qd2 Be6

 15…a6?! 16.Re2 Bd7 17.Rae1 Bf8 18.Ne5 Be6 =

16.a6!

 ナカムラはこの手に意表を突かれたに違いない。

16…Bf8

 どうしてa6のポーンを取りにいかなかったのか。16…Bc8?! と引くと 17.Rxe7! という派手な手があって白にチャンスが生まれる(穏やかな 17.Bg5! Bxa6 18.Nh4! でもそうである)。このあとは例えば 17…Rxe7 18.Bd6 Re8(18…Re6 19.Bxc5 Bxa6 20.Nbd4 Nxd4 21.Nxd4 Qxc5 22.Nxe6 +/=)19.Bxc5 Bxa6 20.Nfd4 Nxd4 21.Bxd4 Bc8 +/=

17.Ne5 Nxe5 18.Bxe5 Nd7 19.Bf4 Qb6

 19…Rac8!? なら 20.c4 dxc4 21.Rxe6 fxe6 22.dxc4 Qxc4 23.Na5 Qd4 24.Qe2 Qf6 ∞ で形勢不明の局面になる。

20.c3

 代わりに 20.c4 なら黒はc3で取らざるを得なかった。20…dxc4 と取ると 21.Bxa8 c3 22.bxc3 Rxa8 23.c4 で白が有利だからである。だからそもそもなぜ白は 20.c3 と突いたのだろうか。

20…Rac8 21.Qc2

21…d4

 黒はあとで …h6 と突かなければならない。だからすぐに突いてもかまわなかったかもしれない。

22.Nd2 h6 23.h4 dxc3 24.bxc3 bxc3?!

 最善手は 24…Nf6! 25.Bb7(25.Nc4 Bxc4 26.Rxe8 b3!![26…Nxe8 27.dxc4 b3 28.Qb2 +/=]27.Qb2 Rxe8 28.dxc4 Nh5 =/+)25…b3 26.Qb1 b2 27.Ra3 Nh5

25.Qxc3 Nf6 26.Nc4

26…Qd8

 26…Qb4 は 27.Qc2 Bxc4 28.Rxe8 Rxe8 29.Qxc4 Re1+ 30.Rxe1 Qxe1+ 31.Bf1 Ng4 32.Qa2 h5 となって、機械は互角の形勢だと言っているが、私には白が少し良さそうに思える。

27.Bb7 Nd5 28.Qd2 Nxf4 29.Qxf4 Qxd3 30.Ne5 Qd6 31.Rad1 Qc7 32.Nc6

 これがナカムラの見落とした手だと思う。この手がなければ黒には受け切る可能性が相当あったことだろう。

32…Qxc6 33.Bxc6 Rxc6 34.Qa4 Rec8 35.Rd8 c4 36.Rxc8 Rxc8 37.Rxe6!

 黒は駒の連係が悪いので完全に敗勢である。

37…fxe6 38.Qd7 Rc5 39.Qxe6+ Kh7 40.Qf7 Bd6 41.h5 Rg5 42.Kg2 c3 43.f4 1-0

 ギリの好局だった。白はゆっくり圧力を強めビショップを効果的に使った。ほとんどの間エンジンは黒がうまくやっていると判断していた。しかし盤上では現れる局面のほとんどが黒にとって指しにくいものだった。


ナカムラは正規チェスでまだカールセンに勝ったことがない

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(419)

「Chess」2016年2月号(1/2)

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チェス評論

編集長 IMマルコム・ペイン

A.グリシュク – H.ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック第1回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4 5.d4 Nd6 6.Bxc6 dxc6 7.dxe5 Nf5 8.Qxd8+ Kxd8 9.h3 Ke8 10.Nc3

 この局面は今月号の27ページと36ページにも出現しているのでぜひ見られたい。

10…Be6 11.g4 Ne7 12.Nd4 Bd7 13.Kh2 c5 14.Ndb5 Kd8 15.Be3 a6 16.Na3 b6 17.Ne4 h5 18.Kg3 hxg4 19.hxg4 Bc6 20.Ng5 Ke8 21.f4 f5 22.Rad1 g6 23.Ne6 fxg4!!

24.Nxc7+ Kf7 25.e6+

 25.Nxa8? と取ると 25…Nf5+ 26.Kxg4 Rh4+ 27.Kg5 Bh6# というきれいな詰みがある。白の手は黒駒を先手で最下段から離れさせただけだった。

25…Kg8 26.Kxg4 Ra7 27.Rd7!

 戦い続けるにはこう指すしかない。グリシュクはここまででいつものようにひどい時間切迫に陥っていた。

27…Nf5!

 27…Bxd7 は 28.exd7 Nc6 29.Nd5 でd7ポーンが生きているので白がうまくやっている。

28.Bf2

 絶対手。

28…Nh6+ 29.Kg3 Nf5+ 30.Kg4 Be7 31.Rfd1 Nh6+ 32.Kg3 Nf5+ 33.Kg4

33…Nh6+

 ここでは 33…Rh5!! という手があった。狙いは 34.Nc4 Nh6+ 35.Kg3 Bh4+ 36.Kh3 Bxf2# である。白は 34.Rxe7 Nxe7 35.Rd8+ Kh7 と指さなければならないだろうが、36.Rd7 Bxd7 37.exd7 Nc6 38.Ne6 Rd5 で黒が交換損を返して勝ちになる。途中 36.Ne8 は 36…Ng8!! が見落としやすい手で、唯一の勝つ手段である。

34.Kg3 Rh7 35.Nc4 Nf5+

 35…Bxd7 36.Rxd7 は白が少し良さそうである。

36.Kg4 Nh6+ 37.Kg3 Nf5+ 38.Kg4 Nh6+ ½-½

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(この号続く)

2016年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

「ヒカルのチェス」(420)

「Chess」2016年2月号(2/2)

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第7回ロンドン・チェスクラシック

M.カールセン – H.ナカムラ
第7回戦

 ナカムラは最初のうちは劣勢の收局をよくしのいでいたが、不運なf6ポーン突きにカールセンがとびかかった。

66.Bxb7! Nd3

 66…Nxf5+? は 67.Kxf6 Nd4 68.c6 で一巻の終わりになる。しかし本譜の手なら黒が持ちこたえているように見える。67.Bd6 なら 67…Nxf5+ 68.Kxf6 Nxd6 69.Bc6+ Kd8 70.cxd6 Nb2 で持ちこたえる可能性が確実にある。しかしカールセンは強手を見つけた。

67.Kxf6!! Nxf4 68.Ke5 Nfe2

69.f6?

 黒は駒得だがナイトのもつれがひどい。ここで 69.c6! と突けばカールセンは妙手の掉尾を飾っていただろう。69…Nf3+ なら 70.Ke4 Ng5+ 71.Ke3 Nc3 72.c7 だし 69…Nxf5 なら 70.Kxf5 Nd4+ 71.Ke5 で決定的な両当たりになっている。

69…a5! 70.a4 Kf7 71.Bd5+

71…Kf8?

 なんと 71…Kg6! なら引き分けだったようだ。対局後カールセンが指摘したように 72.Be4+ Kf7 73.c6 Nxc6+ 74.Bxc6 Kf8 で白はこれ以上どうしようもない。

72.Ke4! Nc2 73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3 Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2016年04月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(421)

「Chess」2016年3月号(1/2)

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ジブラルタル・オープン大会

H.ナカムラ – A.グプタ
第9回戦

 形勢はほぼ均衡を保っている。グプタは交換損の代償にポーンと主導権を得たが、どのようにしたら代償を生かせるだろうか。

23…Na4

 白キングめがけて新たな駒を繰り出したがナカムラにうまくとがめられた。ここでは大切な攻め駒を交換してしまうことになるけれども 23…Bxf1 24.Rxf1 exf3 が最善だったかもしれない。

24.Nf4 Qd6 25.Nxd3 exd3 26.Bxd3!

 これが眼目の手で、黒は完全に戦力損になる。

26…Qb6

 26…Qxd3 なら 27.Qe6+。

27.Bc2 1-0

 次は Bb3+ がある。

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(この号続く)

2016年05月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(422)

「Chess」2016年3月号(2/2)

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ジブラルタル・オープン大会(続き)

 優勝決定戦の4局でもバシエ=ラグラーブとナカムラは決着をつけることができなかった。しかし一番勝負のそれも黒番とあっては米国選手に賭けない手はない。ナカムラは実戦的な指し方がさえわたり、最後は相手の見損じで終わった。

M.バシエ=ラグラーブ – H.ナカムラ
優勝決定戦一番勝負

 優勝のためには引き分けるだけでよい黒は余裕綽々である。これがバシエ=ラグラーブの捨て身の指し方の要因になったのかもしれない。

39.Qxd6!?

 チェスベースがいみじくも言ったように「白の攻撃は幻である」。

39…Qxe1+ 40.Kg2 Qc3

 これで黒枡は完全に守られている。

41.Ne5 Qc7 0-1

 ナカムラはやっとのことで2連覇を成し遂げた。


ジブラルタルの生中継は大会期間中なんと百万人の視聴者を集めた。

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(この号終わり)

2016年05月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(423)

「Chess Life」2016年3月号(1/2)

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ロンドン・チェスクラシック

ジョン・ソーンダース

スラブ防御 [D11]
GMマグヌス・カールセン(FIDE2834、ノルウェー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2793、米国)
ロンドン・チェスクラシック第7回戦、ロンドン、2015年12月11日

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bg4 5.h3 Bh5 6.cxd5

 「交換スラブだって?」我々のほとんどはこの手を見た時そう思っていたに違いない。しかしそれと同時にカールセンが好調な時に無味乾燥な局面でどうすることができるのか皆で目撃することになった。彼はこれまで長い間本調子でなかったからだ。

6…cxd5 7.Nc3 e6 8.g4 Bg6 9.Ne5 Nfd7 10.Nxg6 hxg6 11.Bg2 Nc6 12.e4 dxe4 13.Nxe4 Bb4+ 14.Nc3 Nb6 15.O-O

15…O-O

 黒は 15…Nxd4!? 16.Bxb7 Rxh3 と指すこともできるが、たぶん少し危険だろう。

16.d5 exd5 17.Nxd5 Bc5 18.Nc3 Bd4 19.Qf3 Qf6 20.Qxf6 Bxf6

 多くの人が引き分けになると思い始めていたことだろう。

21.Bf4 Rad8 22.Rad1 Bxc3

 残りのビショップをナイトと交換するのは危うい。しかしそれは対局後だから言えることであって、その時は良さそうな手に見えた。

23.bxc3 Na4 24.c4 Nc3 25.Rd2 Rxd2 26.Bxd2 Ne2+ 27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4 Rd7 32.Bc5 Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 というわけで收局の基本的な構図ができ上がった。2ナイトに対し2ビショップは黒の防御陣に何らかの弱点がある場合に限り有利である。たとえ弱点があっても我々弱者には見えない。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5 gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5 Ke7 45.Bf4 a6

 「不要な手」(カールセン)

46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5

 これでカールセンの作戦の輪郭が明らかになってきた。hポーンを黒のgポーンと交換し、キングをg7に行かせてf7のポーンに圧力をかけるのがそれである。しかしそれなら黒ナイトがお互いを守り、しかも狙いを少し作り出すことができるのではないか?まだ勝てる作戦には見えない。

52…Nf6 53.h6 Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+

 ん・・・繰り返しで引き分けか?

56.Kh4

 いや、まだまだ。

56…gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4

60.Be4

 60.Bxb7? と取ると 60…Nxf5+ 61.Kh7 Nxd6 62.cxd6 Kd7 63.Bxa6 Kxd6 で簡単に引き分けになる。

60…Nf2 61.Bb1

 進展を図るにはこの手しかない。もちろんfポーンは保持しなければならない。

61…Ng4 62.Bf4 f6

 たぶん悪手だろう。いずれにせよカールセンはそう思った。しかしナカムラは受けを見つけるのに苦労していて、正着を見つけるのは非常に難しくなり苦悶はナカムラの顔にありありと出ていた。

63.Be4 Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7!

66…Nd3!

 ナカムラは最善の受けを見つけた。代わりに 66…Nxf5+ と取る手は 67.Kxf6 Nd4 68.c6 Nxc6 69.Bxc6+ Kd8 70.Ke6 Nd3 71.Bd6 で見込みがない。

67.Kxf6!

 カールセンは残りたった2分の考慮時間(と30秒の毎手加算)で再燃焼した。駒を捨ててfポーンの進路を空け、黒の2ナイトも麻痺させている。しかし無数の変化も読んでおく必要があった。

67…Nxf4

 67…Nxc5 は 68.Bd5! で黒は応手に窮する。

68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+

71…Kf8?

 ナカムラが悪手の方を選んだので解説室では観戦していたノルウェー人の一団から歓声が上がった。71…Kg6! ならカールセンが勝てるかどうかはまったく予断を許さなかった。ここまでうまく守ってきたのにナカムラにとっては悲劇だった。チェスエンジンはカールセンが勝つ手段は一つしかないとのご託宣だった。はたして彼は見つけることができるだろうか。

72.Ke4!!

 やった!72.Kd6? はハズレで、e2のナイトを守りから解放してやることになる。72…Nc3! 73.c6 Nxc6+ 74.Bxc6 Kf7 75.Bd5+ Ke8 となって白は勝てない。

72…Nc2

 72…Ke8 は 73.Ke3 でナイトが完全に麻痺してしまう。73…Kf8 74.Bc4 Ke8 75.Bxe2 Ne6 76.Bh5+ Kd8 77.c6 で白の勝ちになる。

73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3!

 駒を取り返す非常に気持ちのよい手である。

75…Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 黒投了

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(この号続く)

2016年05月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(424)

「Chess Life」2016年3月号(2/2)

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実戦的收局

GMダニエル・ナローディツキー

第2問 レイティング2000レベル
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2786)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2793)
世界チーム選手権戦、2013年

 白の手番

解答

 3.Nxb6 は悲劇的必然とつい決めてかかりやすいが、真実のかけらもない。39.axb5! a4 40.Nc5!! ナイトとパスポーンの関係はどうなんだ?40…a3 40…bxc5 は 41.b6 a3 42.b7 a2 43.b8=Q+ でクイーン昇格がチェックになる 41.Nb3 ポーンがしっかり止められ勝負がついた 41…a2 42.Ke3 Kf7 43.Kd4 Ke7 44.e4 e5+ 45.fxe5 Ke6 46.Na1 fxe5+ 47.Kc3 g5 48.Kb2 gxh4 49.gxh4 Kd6 50.Nb3 黒投了

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(この号終わり)

2016年05月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(425)

「Chess」2016年4月号(1/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ

H.ナカムラ – L.アロニアン
仮順位付けブリッツ

18.Bxh6!

 時に水爆とあだ名される男はけっして一発を逃さない。

18…Nxc3

 黒はこれにより戦力損を避けられる。18…gxh6? と取ると 19.Bxd5 Qxd5? 20.Nf6+ で大損になる。

19.Nxc3 gxh6 20.Ne4

 アロニアンにとっては不運なことにこのナイトは戻ってくることができ、ぼろぼろのキング翼の防御は白の攻撃的な次の手で一層ぼろぼろに見える。

20…Be7 21.Nh2!

21…Nd4?

 黒にも拠点があるが、ここから自陣が崩壊する。最後のチャンスは 21…Qf5 22.Ng4 Qg6 23.Re3 Kf8 で頑強に守ることだった。

22.Ng4

 気づいてみれば両方の浮いているポーンをうまく守ることができなくなっている。終わりは近い。

22…Kg7 23.Nxe5 Qf5 24.Ng3 Qg5 25.Nxf7 Qg6 26.Nxd8 Bxd8 27.Rxe8 1-0

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(この号続く)

2016年06月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(426)

「Chess」2016年4月号(2/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.シロフ – H.ナカムラ
第2回戦

 黒は不均衡な局面のフランス防御突き越し戦法に対しわずかな優勢を保ってきた。しかし 36.Rh1 なら大方の見るところ引き分けだろう。例えば 36…d4 37.Qf2 Qg7 38.Rxh4 Qxe5 35.Rh5 である。代わりにシロフはクイーン翼の早くからの制圧を生かす手段を見つけた。しかし反対翼での黒の手段を過小評価していた。

36.Rxc5? bxc5 37.a5 h3+ 38.Kg3?

 白は黒ポーンを突き進ませるわけにはいかない。しかし 38.Kh2 Rb4 はなおさら悪い。39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって黒の攻撃が白のクイーン翼での切り札をはるかに上回る。

38…h2! 0-1

 39.Kxh2(39.Qc1 Qh8 40.Qh1 Qxe5 も同じく見込みがない)39…Qh6+ で次に空きチェックで白クイーンを素抜かれるので投了はやむを得ない。

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(この号続く)

2016年06月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(427)

「Chess」2016年4月号(3/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.ギリ – H.ナカムラ
第6回戦(ブリッツ)

40.Nf3

 これでは釘付けされて動きにくくなる。40.Bxf5 Nxf5 41.Qe2 の方がはるかに強手で、41…Nxd4 と取ってくるなら(41…Qxd4 なら 42.Qxe6)42.Qh5 Nf5 43.Nf3 で黒ビショップを取ることができる。

40…Be4 41.Rg2

 これで黒は単にf4のポーンを取るか(そうすべき)、それ以上を求めて指すことさえできる。白は 41.Rf1 Ng6 42.Kg1 で釘付けをはずした方が良かったかもしれない。

41…Ng6!? 42.Kg1?

 これは完全につぶれる。ギリは 42.f5 exf5 43.Bh5 を見つけなければいけなかった。それなら白の方がまだ好調だった。

42…Nxf4 43.Rd2? Nxh3+ 0-1

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(この号続く)

2016年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(428)

「Chess」2016年4月号(4/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

V.アーナンド – H.ナカムラ
第9回戦(ブリッツ)

 黒は強引にキング翼攻撃を仕掛けようとしたせいでかなり苦戦に陥っている。実際白の次の手からは一つの結果しか想像できない。しかしこれはブリッツ戦であることをやはり思い起こすべきである。

22.f6! gxf6 23.Nxg4 Qxg4 24.Qxf6?!

 この手は一発を食らう。だから 24.Bh6 と指す方が良かった。

24…Bxg3! 25.Kh1

25…Bh4!?

 この手は危険だが、ナカムラは 25…Qh4 26.Qxh4 Bxh4 27.Bh6 Ng6 28.Bxf8 Rxf8 で交換損の局面を引き分けにしようとするよりも、局面を活気あるままにしておきたかった。

26.Bxh7+! Kxh7 27.Qh6+ Kg8 28.Rg1

 これで黒はクイーンを失うが、代わりにルークとナイトを得て戦いを続行することができる。少なくとも当面は。

28…Qxg1+ 29.Kxg1 Ng6

30.Bf4

 30.Bg5! の方が簡明で強力だった。30…Bxg5 なら 31.Qxg5 Rae8 32.h4 でよい。

30…Bf6 31.Be5?!

 これは黒に要塞のようなものを作らせるお手伝いだった。代わりに 31.Rf1 なら白にまだ勝ちがあったはずだった。31…Bg7 なら 32.Qg5 Nxf4 33.Qxf4 Rae8 34.Qc7 でよい。

31…Bxe5 32.dxe5 Rae8

33.Kh1?!

 ここで白は 33.h4! を見つけ出す必要があり、勝利を収めていただろう。例えば 33…Nxe5 なら 34.Kh1 Re6 35.Qg5+ Kh7 36.Rg1 Ng6 37.h5 Rh8 38.Qf5! Kg7 39.Rg2! で結局黒ナイトは助からない。

33…Rxe5 34.Rg1 Rfe8 35.Rxg6+

 はるかに危険な 35.h4!? も可能だったが、アーナンドは何度も勝ちを逃してきたことを悟って引き分けでけりをつけた。

35…fxg6 36.Qxg6+ Kh8 ½-½

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(この号終わり)

2016年06月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(429)

「British Chess Magazine」2016年3月号(1/3)

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ジブラルタル・マスターズ

ヒカル・ナカムラ – ロベルト・べリン
第1回戦

 黒がちょうど目の上のたん瘤のc5ポーンを取ったところだが、次の手が待っていた。

26.e6! Nxe6 27.Bxg7+! Kxg7 28.Qb2+ Kg8 29.Rxc5 Nxc5 30.Qb6 Bh5 31.Rd4 Nd7 32.Qxb7 Ne5

33.Rb4 Nf3+ 34.Kh1 Ne1 35.Qxc6 Bf3+ 36.Kg1 Be4 37.Be2 Nf3+ 38.Bxf3 Bxf3 39.Rb7 1-0

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(この号続く)

2016年07月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(430)

「British Chess Magazine」2016年3月号(2/3)

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ジブラルタル・マスターズ

ヒカル・ナカムラ – アブヒジェート・グプタ
第9回戦

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Be3 Bg7 7.Nc3 O-O 8.Qd2 e5 9.d5 c6 10.h4 cxd5 11.exd5 N8d7 12.h5 Nf6 13.hxg6 fxg6 14.O-O-O Qd6

 この局面では 13…Bd7 が通常主手順とされている。

15.Kb1 Bf5+ 16.Ka1

16…Rac8

 この手で前例を離れた。黒は2015年ハイデラバードでのサシキラン対ウェイ・イー戦でのように白の g2-g4 突きを止めるために1手をかけたくなかった。

17.g4 Rxc3

 これは黒の研究手だと言っても差支えないだろう。黒の構想は最終的に黒枡ビショップの斜筋上の邪魔ものをすべて取り除き、いつかa1の敵キングまで利きが届くようにすることである。

18.Qxc3

 交換損に応じるのは最も自然な応手に見える。結果論になるが、客観的には白は 18.gxf5 と取った方が良かったのかもしれないが、もちろんこんな重大な試合でひるむようなヒカルではなく、挑戦を敢然と受けて立った。18.gxf5 に対して想定される手順は 18…Rc7(実戦的には私なら 18…Rxe3!? 19.Qxe3 gxf5 と指したい。そうすればg7の強力なビショップには対抗する相手がなく、敵のキング翼に長期的に攻撃の可能性が見込める)19.fxg6(19.Bd3 も可能)19…hxg6 20.Bh6 Nh5(私の考えでは黒は 20…Nfxd5 21.Bxg7 Rxg7 22.Nh3 と局面を開放すべきでなく、代わりにただ白のdポーンを盤上に残しておくべきである)21.Bxg7 Kxg7 で、黒はうまくやっているかもしれないが押し気味なのはまだ白の方である。

18…Rc8 19.Qe1

 19.Qa5 Bc2 20.Rc1 Nfxd5 21.Bh6 Bxh6 22.Rxh6 Nb4 は白が大変危険そうである。19.Qd2 も実戦の 19…Bc2 でなく 19…Rc2 20.Qe1 Bd7 21.Bd3 Rxb2 22.Kxb2 Ba4 で駄目そうである。

19…Bc2 20.Rc1

20…e4?

 この手はd4への利きをなくし、もっと重要なことはa1-h8の斜筋への利きをなくす。実際この斜筋の支配がこの局面の急所で、黒が戦力を犠牲にした後では特にそうである。代わりに 20…Nfxd5! なら黒はどの変化でも反撃できそうで、試合は難解な戦いが続き三通りの結果のどれになっても不思議でない。以下に少し変化をあげるが、もちろんこれですべてというわけではない。

a)21.Bh6
 a1)21…Bh8!? 22.Rh2(22.Qd2 Qc5 23.Rh2 Nb4 24.a3 N6d5 は黒が良い)22…Nb4 23.a3 e4
 a2)21…Bxh6!? 22.Rxh6 Nb4 は白キングがちょっと不安になり始める。例えば 23.a3 a5! 24.Rh2 Qd5 25.axb4 axb4 はきれいな詰みになる。

b)21.Qd2 e4!

c)21.Rh2 Nb4 22.a3 e4! 23.Qxb4 Qxh2 は黒が好調である。

21.Bd4!

 白は急所の斜筋を支配し、黒が抱いたかもしれない攻撃の可能性に終止符を打った。そして戦力得を勝ちに結び付けた。

21…Qxd5 22.Bc3

22…Bd3

 22…exf3 なら 23.Nxf3 Be4(23…Qxf3 24.Rxc2)24.Rd1 Qc6 25.Nd4 で受かり白が戦力得を維持している。

23.Nh3 Na4 24.Nf4 Qd6 25.Nxd3 exd3 26.Bxd3 Qb6 27.Bc2 1-0

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(この号続く)

2016年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(431)

「British Chess Magazine」2016年3月号(3/3)

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次の一手

8)H.ナカムラ – M.ムジチュク
トレードワイズ・ジブラルタル・オープン

 白の手番

解答
白はまだポーンが全部残っている。黒はナイト得だがポーンが3個少ない。1.d6! Bxd6 2.Qxg6+! 2.cxd6 は 2…Qxc4 で黒の勝勢になる。2…Kh8 3.Qxh6+ Nh7 3…Kg8 は 4.g5 Bg3(4…Nh7 5.g6 Ndf6 6.gxh7+ Kh8 7.Qg7#)5.gxf6 Nxf6 6.Qg6+ Kh8 7.Qxf6+ で白が勝つ。4.Ng5 Ndf6 5.Rdf1 1-0

 黒は大きな戦力損でしか詰みを防げない。

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(この号終わり)

2016年07月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(432)

「Chess」2016年5月号(1/5)

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世界選手権挑戦者決定大会

S.カリャーキン – H.ナカムラ
第2回戦、クイーン翼インディアン防御

1.d4

 カリャーキンは昔からの 1.e4 派だが、「自分はベルリン市民だ」と主張できるのがJFKだけではない今日では、もっぱらその初手だけに頼ることのできる一流選手はいない。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2

7…d5

 主流手順は 7…c6 で、私の知る限り手堅くて立派な手であるが、本譜の手も最近人気が出ているようである。

8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3 Nbd7 11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8 13.Ne5 Bb7 14.Bc1 Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3 a6 17.Ne2 c5?!

 これは確かに黒がずっと指したくてたまらなかった手だが、ここではうまくいかない。

18.dxc5 Nxc5

 18…bxc5 は 19.Nc4 で、このような局面での典型的なはまり手である。

19.Nd3 Nce4 20.Rac1 Rc8 21.Qb1

 黒駒は表向きはよく働いているように見える。しかしそれは当てにならない。白は長い目で見れば孤立dポーンにつけ込むのにうってつけの態勢で、ここでは大局的に黒は非勢である。

21…Qe7 22.Bd4 Rxc1 23.Rxc1 b5 24.b4 Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1 Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

 ここは勝負所である。黒は苦戦していて局面の流れを変える手段を見つけようと懸命だった。ここでナカムラはその手段を見つけたと思った。棋力を向上させたい読者はこの局面を読みの力のテストとして用いるのが良いかもしれない。ここで黒はg3のポーンを取ることができるだろうか?本誌の常連の寄稿家がよく言うように、答えは次の行にある。

29…Nxg3??

 この手はポカだが、それが分かるには少し先まで読まなければならない。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

 ここまでは黒の読み筋だった。駒を取り返しポーンも得した。残念ながらここで典型的なしっぺ返しがくる。

34.Rc7

 痛っ!b7とf7が両当たりで、黒は駒損になる。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1 1-0

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(この号続く)

2016年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

「ヒカルのチェス」(433)

「Chess」2016年5月号(2/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

H.ナカムラ – P.スビドレル
第3回戦、スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 e6 6.e3 c5 7.Bxc4 Nc6 8.O-O cxd4 9.exd4 Be7 10.Qe2 O-O 11.Rd1 Nb4 12.Bg5 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Ne4 b6 15.Ne5 Bh4 16.g3 Be7 17.Nc3 Bf6 18.d5 Qc7 19.d6 Qc5 20.Ng4 Bxc3 21.bxc3 Nc6 22.Rab1 a6 23.d7 Bb7 24.Bd3 Rfd8 25.Qe4 Kf8

 この局面はかなり滅茶苦茶のように見える。しかしびっくり仰天したことはスビドレルがここまでほとんど時間を使わず、明らかにまだ研究手順の範囲内だったことである。前世代のほとんどのGMは途方もないd7ポーンと風通しのよい黒キングとを考慮して、黒陣に一瞥もしなかっただろう。しかしコンピュータ時代ではすべてが具体的で、シリコン獣はここで黒に何の問題もないことを示していた。

26.Qh7?! h5 27.Ne3 Ne5!

 突然白はかなりの困難に陥った。クイーンがそっぽに行っていてキングは熱にさらされている。進退窮まり「-2」に陥る見通しが目前に迫ってナカムラは獅子奮迅の奮闘を始めた。それでも…

28.Be4 Bxe4 29.Qxe4 Ra7 30.Nd5 Ng4 31.Ne3 Nf6 32.Qb4 Qxb4 33.Rxb4 Nxd7 34.Rxb6 Nxb6 35.Rxd8+ Ke7 36.Rd4 a5 37.Nc4 Nd5 38.Rd3 Rc7 39.Nxa5 Nxc3 40.Kg2 Nxa4

 收局に到達したが、筆者を含めたほとんどの観戦者は黒が勝つはずと考えていた。この局面でナカムラが 41.h4 と突かなかったとき私はさらに確信を強めた。なぜなら白がこの手を指せればポーンが4対3の純粋なルーク收局は通常は引き分けに終わることが知られているからである(もっとも純粋なナイト收局は多かれ少なかれ勝ちになると考えられている)。しかし実戦は次のように進んだ。

41.Ra3 Nc3 42.Nb3 g5!

 ルーク同士かナイト同士の交換で勝ちの知られている局面になるので、この局面は黒の勝ちになるのは確かだと私は思った。しかしナカムラは戦い続ける面白い手段を見つけた。

43.Nd2 f5 44.h3 Kf6 45.g4!?

 これは面白い決断だった。f4の地点を弱めh3に弱いポーンを残すのはかなりの危険を伴う。しかしその一方でたぶんナカムラは普通に指したのではどのみち負けてしまうので、ポーンを少し捨てるのはやってみる価値があると感じていたのだろう。最善手を指せば引き分けるとは信じにくいが、スビドレルは進展を図る手段が分からなかった。

45…Nd5 46.gxf5 Kxf5 47.Nf1 Nf4+ 48.Kg3 Rc1 49.Ne3+ Kg6 50.Kh2 Rb1 51.Ng2 Rb2?!

 この手は勝つ可能性をほとんどなくしてしまう。黒はナイトを残しておかなければならなかったが、本当に勝てるかどうかははっきりしない。

52.Nxf4+ gxf4 53.Kg1 e5 54.Ra5 Re2 55.h4 f3 56.Kh2 Rxf2 57.Kg3 Re2 58.Kxf3 Re1 59.Ra8 Rh1 60.Ke4 Rxh4+ 61.Kxe5 Rb4 62.Rg8+ Kh7 63.Rg1 Kh6 64.Kf5 ½-½

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(この号続く)

2016年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(434)

「Chess」2016年5月号(3/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

 第6回戦のアロニアン対ナカムラ戦は7時間以上かかった。アロニアンがさえた指し回しでナカムラを下したが、終局はスキャンダルとは言わないまでもだいぶ物議をかもした。

 アロニアンはずっと優勢で、とっくに勝っていたかもしれない。しかしとうとうこの局面に到達し客観的には 74…Ra4 で引き分けである。この場面の生中継は一見の価値がある(ユーチューブで簡単に見つけることができる)。ナカムラはしばらく考えてから手を伸ばし、動かすつもりであるかのようにはっきりと自分のキングをつかんだが、すぐにそれを離した。

 それから両対局者の間で聞き取れない言葉のやり取りがあり、アロニアンの憤慨した身振り手振りのいくつかが続いた。アロニアンの態度は明らかに「おい、それはないだろ」というようなことを言っていることを示していた。そして管理者が二人に近づいてきてナカムラに話しかけ、敗着となる 74…Kf8 を指した。

 ナカムラは先にキングに触ったかどうか聞きキングを動かす手を回避しようとしているようだった。アロニアンはビデオからもっともなことに、ナカムラがキングを動かすように主張し審判も同意した。ナカムラの反応は少し指して投了した時握手を拒否してさっさと立ち去り、義務の対局後の記者会見にも出ないことだった。このことのために後日賞金の10%を没収された。

 アロニアンはこの出来事を話題にすることを拒んだ。しかし次の第7回戦後の奇妙なインタビューでナカムラはこともあろうに「あれは大したことじゃない…たぶんキングに1秒か2秒触ったんだろう」と言った。そしてキングに触ったのは故意か偶然かと聞かれて何とでもとれる「たぶんその中間だろう」と答えた。そして困惑したのは「レボンはチェスのことを問題にするのじゃなくてあの時彼のちょっと言ったことからすると個人間の問題にしようとしているように感じられたことだ」とも言った。

 なにはともあれ残念な出来事で、ナカムラは「マイナス2」になり優勝の望みはもうほとんどなくなった。

役者ナカムラ

 上図の局面で黒は引き分けるためにはルークをa4に動かす必要があったが

ナカムラは明らかに 74…Kf8 と引くつもりで自分のキングに触った。

 アロニアンは駒の位置を直したというナカムラの言い訳に、そんな風には受け取れないというそぶりをした。

 ナカムラのオスカー賞級のとぼけた顔つき。審判が呼ばれて、ナカムラは結局自分のキングを動かさざるを得なかった。

 ナカムラは即刻投了し、相手と握手をせず対局後のインタビューにも出席せずに対局場を立ち去った。この行為で賞金の10%に相当する約2千ポンドの罰金を科せられた。

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(この号続く)

2016年08月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(435)

「Chess」2016年5月号(4/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第8回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4 Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1 bxa2+ 19.Ka1

 敵ポーンを自分のキングの前に置いておく手段は周知の防御手段である。そしてここではうまくいった。黒は敵キングに対する筋を素通しにすることができない。その一方で反対翼ではf6ポーンが敵ポーンとぶつかっているので白がg列を素通しにすることができる。

19…Bxf5 20.exf5 a3 21.b3 Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2 fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

 好手。ルークを単にg5の当たりの位置からはずし、Bxc5 から Ne4 を狙っている。

25…e4

 あきらめの心境。

26.Bxc5 Bxc5

 26…exd3 は 27.Qg4 で白が勝つ。

27.Nxe4 Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 1-0

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(この号続く)

2016年08月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(436)

「Chess」2016年5月号(5/5)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

H.ナカムラ – V.アーナンド
第12回戦、イギリス布局

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5 e4 6.Nh4 O-O 7.Bg2 d6 8.a3 Bc5 9.O-O Re8 10.e3 g5!?

 この手は客観的には成立するが、相手が早指しできて明らかにまだ研究範囲なので危うい方針だった。

11.b4 Bb6 12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Nd4?

 盤上での閃きで指したようだが、単なる悪手だった。コンピュータの 13…Ne5 でかなり形勢不明である。もっともナカムラは後でこの局面を詳細に研究済みだと認めた。

11.d3 gxh4 12.dxe4 Ne6 13.dxe6 Rxe6

 黒陣はガタガタである。そしてナカムラは簡単にかたをつけた。

17.e5 hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 h5 21.Rad1 Rh6 22.Rd5 Qe7 23.Qc4 Bg4 24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0

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(この号終わり)

2016年08月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(437)

「Chess Life」2016年5月号(1/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇

GMイアン・ロジャーズ

フランス防御突き越し戦法 (C02)
GMアレクセイ・シロフ(FIDE2682、ラトビア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
チューリヒ・チェスチャレンジ第2回戦、2016年2月13日

1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5 c5 4.c3 Nc6 5.Nf3 Qb6 6.a3 Nh6 7.b4 cxd4 8.Bxh6 gxh6 9.cxd4 Bd7 10.Ra2 Rg8 11.h3 h5 12.g3 h4 13.g4 Be7 14.Be2 f6 15.b5 Nd8 16.Qd3 Rg7 17.Nc3 Nf7 18.O-O h5 19.Na4 Qd8 20.exf6 Bxf6 21.Nc5 hxg4 22.hxg4 b6 23.Nxd7 Qxd7 24.Kh1 Rc8 25.Rc2 Rxc2 26.Qxc2 Nd6 27.Ne5 Bxe5 28.dxe5 Ne4 29.Kg2 Nc5 30.Rh1 Qe7 31.Qc1 Rh7 32.Qe3 Qg7 33.Rc1 Qf8 34.a4 Rf7

 シロフはもう残り2、3分しか残っていなかったのに対し、ナカムラは20分くらい残っていた。

35.f3?!

 この手は慎重すぎた。白は 35.a5! で 36.axb6 から 37.Ra1 を狙うのが良かった。シロフは 35…h3+!? を恐れたに違いないが、36.Kg1! h2+ 37.Kg2! で、すぐにh2のポーンを Rh1 でからめ取ることができる。

35…Rf4! 36.Rxc5?

 白はパニックに陥った。36.Rh1 Qh6 37.Qf2 なら均衡を保っていたはずだった。

36…bxc5 37.a5 h3+!

38.Kg3?

 38.Kxh3? と取れないことは 38…Qh6+ 39.Kg2 Rxg4+ 40.Kf2 Rg2+ から明らかだったが、シロフにとっては 38.Kh2! でも事態はもっと厳しかった。38…Rb4 39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって白ポーンが何かできるよりも前に黒の攻撃がやってくる。

38…h2! 白投了

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(この号続く)

2016年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(438)

「Chess Life」2016年5月号(2/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

欠陥のため引き分けへ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2801、ロシア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第3回戦、2016年2月14日

 ナカムラは窮地に立たされていたが、クラムニクの圧力を強める手段には思わぬ欠陥があった。

35…f5?!

 ここは 35…Rg2+! 36.Kh3 Ra2! 37.Nc4 Ng2! と指す方が良く少なくとも1ポーンが取れる。

36.Nc4! f4+ 37.Kh3 Rf2 38.Nxe5 Nf1

 これがクラムニクの読み筋だったが、ナカムラは黒の交換得のあと全くの形勢不明であることまで見通していた。

39.Rxf1! Rxf1 40.Kg2 Ra1 41.Ng6 Ra2+ 42.Kg1 Ra1+ 43.Kg2 Ra2+ 44.Kg1

44…Kf7?

 勝利への細い道筋は考えにくい 44…Ra7! 45.Nxf4 Rf7 46.Nxh5 g6! 47.Ng3 Rxf3 48.Kg2 Rf4 49.Kh3 Kh7 という手順にあった。

ここで白には適当な手がなく1ポーンをあきらめなければならない。そのあと手数はかかるが黒の勝ちは確実である。

45.Nxf4 g6 46.Ng2! Kf6 47.Kh2 Ke5 48.Kg3

 これで白には何も問題がないが、クラムニクはなかなかあきらめきれない。

48…Ra1 49.Nf4 Kd4 50.Kg2 Ra2+ 51.Kg3 Ra1 52.Kg2 Ra8 53.Kf2 Ra6 54.Ne2+ Ke5 55.Kg3 Rf6 56.Kf2 Rf8 57.Kg3 Rf7 58.Kf2 Ra7 59.Kg3 Ra8 60.Nf4 Rg8 61.Ne2 g5 62.hxg5 Rxg5+ 63.Kh4 Rg2 64.Ng3 Rh2+ 65.Kg5 h4 66.f4+ Ke6 67.Nf5 h3 68.Kg4 Rh1 69.Ng3 Rh2 70.e5 Rf2 71.Ne4 Rg2+ 72.Kxh3 合意の引き分け

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(この号続く)

2016年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(439)

「Chess Life」2016年5月号(3/3)

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ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

ルイロペス・ベルリン防御(C65)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMレボン・アロニアン(FIDE2746、アルメニア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第5回戦、2016年2月15日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 Be6 7.O-O Bd6 8.d4 Nd7 9.dxe5 Nxe5 10.Nxe5 Bxe5 11.f4 Qd4+ 12.Kh1 Bd6 13.Qe2 O-O-O 14.f5 Bd7 15.Nf3 Qa4 16.b3 Qa5 17.Bd2 Bb4 18.Bxb4 Qxb4 19.Qf2 b6 20.Ng5 Qe7 21.f6 gxf6 22.Qxf6 Qxf6 23.Rxf6 Be8 24.Nxf7 Bxf7 25.Rxf7 Rd2 26.Rc1 Rg8 27.Rg1 Rxc2 28.Rxh7

 形勢はナカムラの優勢だったが、ここでは正確に指せば時間で少し負けていてもアロニアンが反撃で十分引き分けにできたはずだった。しかしギリはブリッツでナカムラと対戦することの問題を次のように説明した。「厄介な相手だ。たぶん彼のポカのせいでこちらの勝勢になっているのに認めようとしない。まるで何事もなかったように指してくる。そして彼は1手ごとに3秒増す。彼は1秒で指すのにこちらは4秒か5秒で指す。」

28…Rxa2?

 28…Rg4!! なら白のgポーンを十分長く押しとどめて形勢を持ちこたえさせる。白が h3 と突いてこのルークをどかそうとすれば …Rxe4 から …Re2 で厄介なことになる。

29.g4! Ra5

 これでは白ポーンが止まらないが、29…Rf8 30.g5 Rff2 ではhポーンがh2に居続ければ何の狙いもなく、白はgポーンを突き進め続けることができる。

30.h4 Re5 31.g5 Rxe4 32.g6 Ree8 33.h5 a5 34.g7 Kb7 35.Rh6 Re5 36.Rh8 Rxg7 37.Rxg7 b5 38.Rg3 c5 39.h6 Rh5+ 40.Kg2 c4 41.bxc4 b4 42.Rh3 Rg5+ 43.Kf3 b3 44.Kf4 a4 45.Kxg5 黒投了

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左から右へ(括弧内は最終得点)GMヒカル・ナカムラ(10½)、GMアニシュ・ギリ(5½)、GMアレクセイ・シロフ(3½)、GMビスワーナターン・アーナンド(10½)、GMウラジーミル・クラムニク(9½)、GMレボン・アロニアン(5½)

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(この号終わり)

2016年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(440)

「British Chess Magazine」2016年5月号(1/4)

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世界選手権挑戦者決定大会

GMニック・パート

セルゲイ・カリャーキン – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2 d5 8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3

10…Nbd7

 カリャーキン自身はこの挑戦者決定大会で黒でカルアナ、ギリそして当のナカムラ相手に3局とも 10…Re8 と指してすべて引き分けに終わった。

11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8

 ここでは …Rc8 から …c5 と突く方が自然な作戦に思われる。

13.Ne5 Bb7 14.Bc1

 カリャーキンがビショップをb2に振り向け直したのはこの局面の優れた理解の表れだった。

14…Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3

 16.Nb5 もあり、16…Bf8 17.Rac1 c5 18.dxc5 bxc5 19.e3 となれば少し優勢である。

16…a6 17.Ne2

17…c5?!

 大局観の争いの局面で攻撃型の選手の直面する問題はしばしば早まって打って出るということで、それがここで起こった。挑戦者決定大会がすべてに優先するのだから、キング翼インディアン防御やオランダ防御のような切るか切られるかがナカムラにもっとふさわしかったのではと思う。客観的には 17…c6 が望ましく、黒は少し劣勢であっても堅実だった。

18.dxc5

 18.Nc4!? は魅力的に見える。そのあと 18…Bf8 19.dxc5 Nxc5 20.Nf4 Rc8 21.Qf5 Nce4 22.Bxf6 Nxf6 23.Nxd5 Bxd5 24.Bxd5 と進めば白はポーン得になる。それでも勝ちにつなげるのはそれほど容易でない。

18…Nxc5

 代わりに 18…bxc5 と取るのは 19.Nc4! Be7 20.Rd2 で黒の中央が圧力で崩壊しそうだから良くない。しかし本譜では黒には孤立dポーンが残された。この局面では一般的に白の希望は二組の小駒を交換して黒の動きを押さえdポーンの弱点を際立たせることである。これに対して孤立dポーンの側は駒をすべて盤上に残すことを目指すべきである。

19.Nd3 Nce4

 カリャーキンはゆっくり自陣を整備してしだいに駒の働きを良くしながら、陣形の優位で優勢になれることを期待している。

20.Rac1 Rc8 21.Qb1 Qe7 22.Bd4 Rxc1

 この交換は白を利するはずだが、白からc8で交換することができるので黒としては避けることが難しいだろう。ここで私が黒ならもちろん自分からこのような交換はしたくない。

23.Rxc1 b5 24.b4

 たぶん黒は …b6-b5 でなく …Nd7 と指すべきだったろうが、どのみちdポーンがd5で立ち往生しているので白枡ビショップは働かない。

24…Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1

 カリャーキンは当たり障りのない指し方をしていて、一本道の手順に入らずに圧力を強めて相手の悪手を待とうとしている。

26…Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

29…Nxg3??

 これはとんでもないなポカだったが、どのみちナカムラは重圧を受けていた。代わりに 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 なら黒はまだ苦戦だが少なくとも致命傷は負っていなかった。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

34.Rc7!

 f7とc7の両当たりになっている。ナカムラほどの実力者がこんな手を見落とすことがあるとは驚くしかない。しかしやはり彼はゆっくりした受けに大局観を発揮するような選手ではなく、着眼は攻撃に向きがちである。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1

 38…Rxf2 と取っても 39.Bxd3 Rf3 40.Bc2 と白に強硬にこられて、黒はポーンを多く取り返すのが困難である。例えば 40…Rxg3+ 41.Kf2 Rxa3 42.Bxf5+ Kg8 43.Bg6 Kf8 44.Rf7+ Kg8 45.Re7

となって Re8 での詰みが避けられない。全体的にカリャーキンが大局観で危なげなく勝った。


カリャーキンはナカムラに勝って好調な出だしとなった。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(441)

「British Chess Magazine」2016年5月号(2/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMアンドルー・マーティン

ヒカル・ナカムラ – ビシー・アーナンド
世界選手権挑戦者決定大会第12回戦、モスクワ、2016年

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5

5…e4

 アーナンドはすぐに局面を険しくした。ここではポーンをくれてやることもできる。5…O-O!? 6.Nxb4 Nxb4 7.Nxe5(7.d3 の方が慎重な手で双ビショップに期待する)7…Qe7 8.d4 d6 9.Nf3(9.Nd3 d5 10.cxd5 Qe4 11.f3 Nxd3+ 12.Qxd3 Qxd3 13.exd3 Nxd5)9…Bf5 黒は十分な代償を得ている。

6.Nh4

 ナイトが挑発的に端に跳ねた。白は適時に f2-f3 または d2-d3 と突いて戦いに引き戻すつもりである。…g7-g5 と突かれてこのナイトが簡単に取られるのにも注意しなければならない。既に非常に奇妙な局面になっている。

6…O-O 7.Bg2 d6

 7…Re8 8.O-O d6 9.d3 exd3 10.Qxd3 Nxd5 11.cxd5 Ne5 なら黒がしっかりしていてやれそうである。

8.a3

 8.Nxf6+ Qxf6 9.Bxe4 Re8 はナカムラの事前研究では危険すぎるようだったに違いない。確かに黒駒の動きが非常に良い。
(a)10.Bg2 Bg4
(b)10.Bf3 Bh3
(c)10.Bxc6 bxc6 11.O-O Bg4 12.f3 Bh3 13.Rf2 Qd4! 14.Ng2(14.Qc2 Rxe2;14.d3 Bc5)14…Bxg2 15.Kxg2 Bc5 16.Rf1 Qxc4

8…Bc5 9.O-O Re8 10.e3!?

 これは新手で、明らかにコンピュータによる研究の成果だった。白は黒に …g7-g5 と突く手を与え、黒はそう突く。

10…g5

 これはアーナンドの自信たっぷりの手で、どちらが支配者なのかを見せつけようとしている。10…Be6 でも良さそうである。11.Nxf6+ Qxf6 12.Bxe4 Bxc4(12…g5 13.Ng2(13.Qf3 Qxf3 14.Nxf3 Bxc4 15.d3 Rxe4 16.dxc4 Rxc4 17.Nxg5 Ne5)13…Bxc4)13.Bxh7+ Kxh7 14.Qc2+ Kg8 15.Qxc4 g5∞ どちらでも黒は布局の課題を解決しているようである。

11.b4 Bb6

 11…gxh4 と取る手もありそうで、その意味は 12.bxc5(12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Ne5 14.bxc5 Bg4)12…dxc5 でd5のナイトが当たりになっているということである。13.Bb2 Nxd5 14.cxd5 Qxd5 15.d3 h3! 16.Bxe4 Rxe4 17.dxe4 Qxe4 18.f3 Qxe3+ 19.Kh1 Bf5 20.Qe1 Qxe1 21.Raxe1 c4 -/+

12.Bb2 Nxd5

 12…Ne5 は 13.Nxf6+ Qxf6 14.f4! で急に白の方がうんと良くなる。14…exf3e.p. 15.Nxf3 Nxf3+ 16.Qxf3 Qxf3 17.Bxf3 c6 18.a4 a5(18…a6)19.b5

13.cxd5

13…Nd4!?

 明らかにアーナンドは白の強硬策と正面から渡り合うために長考していた。13…Nd4 もやはり好戦的な手法だった。黒は強制的に対角斜筋をふさごうとしている。ナカムラは 13…Ne5 が事前研究の焦点で、14.f4! を考えていたと語った。怖そうな手だが、14…Nc4! 15.Bc3 gxh4 16.Qe2 Nxe3 17.dxe3 Qe7= となりそうである。だから結局 13…Ne5 の方が良かったいうことになるだろう。

14.d3!

 14.Bxd4 Bxd4 15.exd4 gxh4 16.Qc2 f5 17.Rac1 Qf6 18.Qxc7 f4 は主導権が入れ替わるので、とても白の望むところではない。

14…gxh4 15.dxe4 Ne6 16.dxe6 Rxe6 17.e5!

 これは非常にいい手である。黒キングは周りが薄いので防御が心もとない。

17…hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 +/-

 局面が一段落して白の優勢が明白となった。そしてナカムラがそのまま勝った。

20…h5

 20…Bg4 は単純に 21.Bxb7! と応じられる。ポーンを取らないという手はない。21…Rad8(21…Re8 22.Qc3 f6 23.Bg2)22.Qc3 f6 23.Rac1 +/-

21.Rad1 Rh6

 21…Be6 22.Qc3 Kh7 23.Rxd6 cxd6 24.Bxb7 Rg8 25.Qd3+ Bf5(25…Kh6 26.Qxd6 h4 27.Kg2)26.Be4 +/- も 21…Kf8 22.Rxd6 cxd6 23.Qd3 Qg6 24.Be4 f5 25.Bg2 a5 26.Rd1 axb4 27.axb4 Ke7 +/- もアーナンドとしては指しきれなかったようである。しかしルークをそっぽへ行かせるのは負けを早めた。

22.Rd5! Qe7 23.Qc4

23…Bg4

 23…Be6 24.Qf4 Rg6 25.Rxh5。23…c6 24.Re5 Be6 25.Qf4 Rg6 26.Be4。

24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0


ナカムラはアーナンドの世界選手権再々挑戦の望みををくじいた

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(この号続く)

2016年09月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(442)

「British Chess Magazine」2016年5月号(3/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ヒカル・ナカムラ – べセリン・トパロフ
世界選手権挑戦者決定大会第7回戦、モスクワ、2016年

1.Rg5!

 もちろん 1.Rxd1? は駄目で、1…Ng4+ 2.Kh3 Nxf2+ 3.Kh2 Qh3+ 4.Kg1 Qg2# までとなる。1.Re4 も(なんとしても …Ng4+ を止めるため)1…Nxe4 2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 Nf6 4.h5 Nxh5 5.Qxf7 Nf6 -/+ で悪い。

1…Ne4

 もちろんここでの 1…Ng4+ は 2.Rxg4 で負けになる。

2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 1-0

 これで 3…Qf1 は 4.Qxf3 で詰みの狙いにならない。

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(この号続く)

2016年09月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(443)

「British Chess Magazine」2016年5月号(4/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年

1.Rg3! e4

 黒は誘いのすきに引っかからなかった。1…Qxd3 2.Qxd3 Nxd3 3.Ne4 で 4.Rxd3 と交換得の 4.Nf6+ の両狙いがある。

2.Bxc5 Bxc5

 2…exd3 には 3.Qg4! でビショップ同士の交換からg7のポーンを取る狙いがある。

3.Nxe4

 3.Rdg1 Bf8 4.dxe4 でも良い。

3…Bd6 4.Rh3 Be5 5.d4 Bf6 6.Rg1 Rb8 7.Kxa2 Bh4 8.Rg4

8…Qd5

 8…Be7 には 9.Rxg7+ の強手があり 9…Kxg7 10.Qg4+ Kh8 11.Qh5 Bh4 12.Rxh4 Qe7 13.f6 で勝勢になる。

9.c4 1-0

 b3ポーンに対する狙いを消す一方 9…Qxf5 には単に 10.Rgxh4 で勝ちになる。

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(この号終わり)

2016年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(444)

「Chess」2016年6月号(1/5)

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究極のブリッツ決戦

IMマルコム・ペイン

 セントルイスでの二日間の試合の模様は素晴らしい実況生中継で放映され、カスパロフは直感が全然鈍っていないことを見せつけた。ポカをしたのは実戦からちょっと遠ざかっていたためだった。全18試合で3個のナイトをポカで失ったが、それでもウェズリー・ソーに続いて3位だった。

成績 ナカムラ 11/18、ソー 10、カスパロフ 9½、 カルアナ 5½

H.ナカムラ – G.カスパロフ
究極のブリッツ決戦、セントルイス、2016年、現代ベノニ防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 これはグリューンフェルト防御を避けるための流行の手順で、カスパロフはその戦いを避けベノニに持って行く。

3…c5 4.d5 d6 5.Nc3 e6 6.e4 Bg7 7.Nge2 exd5 8.cxd5 a6 9.a4 Nbd7 10.Ng3 h5 11.Be2 h4 12.Nf1

12…Nh5

 これはいかにもカスパロフらしい手である。何よりもまず駒を働かせることが最優先で、キャッスリングさえも後回しである。12…O-O 13.Bg5 h3 と指すこともできた。

13.Be3 f5 14.exf5 gxf5 15.Nd2

 15.f4!? と 15.g4!? もある手である。

15…Ne5

 15…O-O 16.f4 Re8! 17.Bxh5(17.Nc4 なら 17…Nb6 18.Nxb6 Rxe3!?)17…Rxe3+ の方がずっと良かったかもしれない。

16.f4 Ng4 17.Nc4 O-O 18.O-O

18…Ng3!?

 黒は 18…Nxe3 19.Nxe3 Re8(19…Qe7 20.Bxh5 Qxe3+ 21.Kh1 Bd7 も黒が良さそうである)20.Nxf5 Bxf5 21.Bxh5 Bd4+ で手がいろいろあり優勢である。しかしカスパロフは捨て駒の誘惑に抗しきれなかった。

19.hxg3 hxg3 20.Bxg4 fxg4 21.Ne4!

 この手はナイトを犠牲にしてg3のポーンを取る用意である。代わりに 21.Re1 は 21…Qh4 22.Ne2 Qh2+ 23.Kf1 Qh1+ 24.Bg1 Bd4 となって、たとえコンピュータが好んでもかなりひどそうである。ブリッツではこれはほとんど自殺行為に等しい。

21…Qh4 22.Nxg3 Qxg3 23.Qe1!

 クイーンは交換しなければならない。23.Nxd6?? は 23…Qxe3+ 24.Kh2 Rf6 で負けてしまう。

23…Qxe1 24.Raxe1 Bd7?!

 24…Rf6 が最善手だった。25.Nb6 なら 25…Rb8 で黒が良い。

25.Nxd6 Bxa4 26.Bxc5 b6 27.Ba3

 白は 27.Bxb6 Rfb8 28.Bc5 Rxb2 を避けた。

27…Bb3

28.Kh2

 28.f5!? Bxd5 29.Rf4! と指すのも強い手だった。ここでカスパロフは反撃に転じる。

28…Bxd5 29.Kg3 b5 30.Rd1 Ba2!? 31.Kxg4 Rab8

 クイーン翼ポーンを突き進める黒の作戦はブリッツでは指しやすい。それと比べると白ポーンは動きにくそうだが形勢はまだナカムラの方が良い。

32.Bc5 b4 33.Rd2 a5 34.Ra1 b3

35.Re1?

 35.Rad1 なら黒はa2で生き埋めのビショップを嘆くところだった。

35…Rxf4+!

 何年ものブランクにもかかわらずカスパロフは相変わらず鋭い。

36.Kxf4 Bh6+ 37.Kg4 Bxd2 38.Re7 Bb4 39.Bxb4 Rxb4+ 40.Kg5 Bb1 41.Ra7 a4 42.Ne8 Kf8 43.Nf6 Rd4 44.g4 Rd2 45.Rxa4 Rxb2 46.Rb4 Kf7 47.Nd5 Rd2 48.Rb7+ Kf8 49.Rb8+ Kf7 ½-½

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(この号続く)

2016年10月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(445)

「Chess」2016年6月号(2/5)

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米国選手権戦

ジョン・ヘンダーソン

F.カルアナ – H.ナカムラ
第4回戦、シチリア防御・ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5 8.a4 Nc6 9.Bc4

 シチリア防御の本手順の9手目でもう未知の海に入った。a4 と …h5 の突き合いがあるソージンもどきになっている。しかしどちらがその余分の1手を有効に生かせるだろうか。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5

 11…Na5 とこちらに跳ねる手もあったが、ナカムラはたぶんカルアナが単純に 12.Bd3 と引いてから Nb3 と指してくるのを恐れたのだろう。このナイトは少なくともe5から中央の拠点を占拠し白が Bd3 でビショップを温存する考えを否定している。

12.Bb3 Bd7 13.f4

 布局でfポーンを2回突くのはカルアナの非常手段のように見える。しかし事実はナカムラに …Rc8 から …Nc4 で楽に互角にさせるわけにはいかなかったので、これが最善の選択だった。そのために思い切った手段が必要で、カルアナがすぐに正しい戦略変更をしたことは褒められる。

13…Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3 Qc5!

 これはシチリア防御らしい好手である。クイーンを黒枡で働かせて白のクイーンとナイトを釘付けにしている。

16.Rad1 g6?!

 この手は疑問手に見えるだけでなくはっきり疑問手である。もしシチリア防御の権威のフィッシャーとカスパロフが我々に教えたことがあったとすれば、シチリア防御では黒は精力的に指す必要があるということだった。だから切ったはったをやる必要がある。代わりにエンジンは 16…O-O-O でキングを保護しルークを結合しd7のビショップを守る(白の狙い筋の e5 突きからd列で空き攻撃の可能性があった)ことを要求していた。

 しかし人間の側も激しくいくらか一本道の 16…Ng4!? 17.Qd3 Bf6(安全策は 17…Rd8 18.h3 Nf6 19.Rfe1 O-O 20.Qf3! で、陣地の広い白が少し優勢である)18.e5! dxe5 19.Nxe6! Bxe6 20.Bxe6 を要求していた。局面は難解でどちらに転ぶか分からないが、シチリア防御のこんな激しい戦型に典型的なように、駒の大量交換になり緊張が緩和されることがよくある。20…Rd8 21.Bd7+ Kf8 22.Qf3 Qc7 23.Bf5(23.Bxg4 は 23…hxg4 24.Rxd8+ Bxd8! 25.Qxg4 Rh4! で良くなく、やはり局面が落ち着くと引き分けに向かう)23…exf4 24.Nd5 Qe5! 25.Nxf6 Rxd1 26.Rxd1 Nxf6 27.Qxb7 Qxf5 28.Rd8+ Ne8 29.Qb4+ Kg8 30.Rxe8+ Kh7 31.Qe4 Qxe4 32.Rxe4 Rd8 33.Kg1 Rd2 34.Rc4

ですぐに引き分けになる。

17.Qe2 O-O-O 18.f5!

 これでソージンビショップもどきはb3-f7の斜筋の開通を得て活気づく。

18…e5 19.Nf3 gxf5 20.Ng5 f4

 ナカムラが試合を続けるにはこれしかない。急に白の小駒がすべて生気を得たので一手でも間違えれば終わってしまう。

21.Rd3

 この手はルークを …Bg4 の釘付けの狙いから外しただけでなく、Nd5 から Rc3 も狙っている。

21…Kb8

 その通り、Rc3 の狙いにナカムラもびびった。しかしナカムラは戦力損の十分な代償を得られるだろうか?

22.Nxf7 h4 23.Nxh8 Rxh8 24.Qf2

24…Qb4?

 24…Qa5! なら黒がもっと抵抗できただろう。実戦と同じく 25.Nd5 なら 25…Nxe4! 26.Qb6(26.Qe2?? は Ng3+! 27.hxg3 hxg3+ 28.Kg1 Qd8! で白が詰まされる)26…Bd8! で黒の勝ちになる。代わりに白は 25.Qe1 と指さなければならず、黒はしのげるだけの十分な代償があるようである。クイーンがb4に行った間違いはすぐにナカムラにはね返る。

25.Nd5 Nxd5 26.Bxd5 Bxa4

 良くない手だが、少なくとも当座は Rb3 という大きな狙いを防いでいる。

27.Ra3!

 しかし今度はカルアナはこれを見つけた。単に c3 から b3 でビショップを取る手を狙っている。

27…h3 28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 1-0

 ここでは白はルークの丸得になっているので、ナカムラは投了した。そしてそれと共にタイトル連覇ができなくなったことを認めた彼のボディーランゲージも見られた。


レッド・ブルのCMに出ている男がファビアノ・カルアナ戦で投了しそれと共に米国選手権防衛の希望がほとんどついえたことをボディーランゲージは余すところなく物語っていた。

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(この号続く)

2016年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(446)

「Chess」2016年6月号(3/5)

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米国選手権戦(続き)

ジョン・ヘンダーソン

H.ナカムラ – V.アコビアン
第7回戦、ぺトロフ防御

1.e4 e5

 アコビアンは得意のフランス防御を回避した。おそらくナカムラの十分研究した手順にはまるのを恐れたのだろう。しかし地雷原にはまり込むことになるとは知るよしもなかった。

2.Nf3 Nf6

 2000年ロンドンでのクラムニク対カスパロフの世界選手権戦でベルリンの「壁」防御が復活するまでは、ぺトロフ防御が攻撃的な相手の出鼻をくじくために黒番の選手の採用していた恐るべき引き分け手段だった。そしてそれはベルリン防御以前の1990年代後半に私がベイクアーンゼーとリナレスでの多くの最高峰大会の記者室で耐えていたように、ペンキが乾くのを眺めている退屈さのチェス版だった。今日ではぺトロフ防御はベルリン防御と比べるとシチリア防御ナイドルフ戦法の方にずっと近い。

3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Be7 7.O-O Nc6 8.c4 Nb4 9.Be2 O-O 10.Nc3 Bf5 11.a3 Nxc3 12.bxc3 Nc6 13.Re1 Re8

 ここでは1990年代後半に戻ったも同然だった。この手まではぺトロフ防御の良く知られ実戦で指されてきた手順である。

14.Ra2!?

 実はこの珍しい手はナカムラとサム・シャンクランドが2014年トロムセ・オリンピアードの期間に深く研究していたものだった。そして実際シャンクランドは嬉しくてたまらずナカムラの後を追って対局場の「告白部屋」に行った。ナカムラの告白によるとシャンクランドと研究した「爆弾」にアコビアンがやって来たということだが、シャンクランドによると自分の分析をナカムラが全部盗んだとウインクして主張した。

14…Na5 15.cxd5 Qxd5 16.Rb2 c6

 これがここでの最善の応手のようである。2014年米国選手権戦でのシャンクランド対ロブソン戦でロブソンは 16…a6 と指したが、17.Ne5 Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Nc6 21.Qb2 Nxe5 22.Rxe5 Rxe5 23.Rxe5

と進んで白が優勢だった。もっとも試合は30手で引き分けに終わった。しかし 19.Rbe2 の代わりに 19.Ra2!? なら白がもっと有望かもしれないとの指摘がある。

17.Ne5!

 ナイトがe5を占拠するのはこの焦点のはっきりしない局面で黒にとって最も厄介な手である。代わりに 17.Qa4 は 17…Qd8 18.c4 Bf6 19.Be3 b6 となって黒が好調で、2007年エリスタでのカシムジャーノフ対ゲルファント戦では黒が52手で勝った。

17…Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Be6

 すぐに 20…f6? は 21.Nc4! の一発で負ける。だからアコビアンはまず 20…Be6 と指した。

21.Be4

21…Rad8?!

 ここが勝負所だったかもしれない。アコビアンはルークを中央に配置する手を選んだ。たぶん 21…f6 はナカムラの強烈な攻撃にしてやられるかもしれないと恐れたのだろう。しかしe5のナイトは圧倒的な拠点で途方もない駒になるので、21…f6 は最善の選択肢かもしれない。だから問題は 21…f6 に対して白にはどんな手があるのかということである。

 22.Qb1(22.Nf3 と引き下がれば 22…Bf7 でe列でルークの総交換が余儀なく、黒がポーン得の收局になる)22…fxe5 23.Bxh7+ Kf8(黒が戦力得にしがみつきたいならこれが最善の手のようである。23…Kh8 は 24.Bg6 Nc4 25.Bxe8 Rxe8 26.Qxb7 Bd5 27.dxe5 Qe6 28.f4 a5 29.Rf2!

となって、白がポーンをf5に突いてキング翼を広げる手を狙う。しかし長期的には黒のパスaポーンへの対処が悩みの種になるだろう)24.dxe5 Qc5 25.Bg6 Kg8

となれば、私には引き分けのために戦う以外白にどんな手があるか分からない。

22.Qb1!

 これで黒は圧倒的なナイトを絶好のe5の拠点から決してどかせることができなくなった。そしてこれがアコビアンにとって多くの頭痛の種となる。

22…g6 23.f4 c5

 アコビアンは圧倒的なe5のナイトの土台をなんとかして揺さぶろうとしなければならない。

24.f5 cxd4?

 アコビアンのこの手には批判的な者が多かった。しかし彼はナカムラのナイトをe5からすぐに追い払う適切な応手を指さなかったあとはたぶんもう引き返せなくなっていたのだろう。そしてほかの手もどれもあまり良くないことにも気づいていたのだろう。例えば 24…Bb3 ならナカムラにはキング翼の急襲の見込みが出てくる。25.Bd3! Qc7(受けづらい Nc4! を避けようとする 25…Rf8? は 26.fxg6 hxg6 27.Re3! から Rg3 が来れば黒キングに対する攻撃が決まる)26.Qc1! からクイーンがh6に行って攻撃が決まる。ふむふむ…アコビアンが突然ナカムラの狙い筋に気づいた時の彼の胸中をたぶん想像できるだろう。

25.fxe6 Rxe6 26.Nxf7!

 黒陣は壊滅した。アコビアンはたぶん以前に勇気を出してこのナイトをe5の拠点から 21…f6 で追い払わなかったことで自分を叱責していたことだろう。

26…Kxf7 27.Bd5

 もっと辛辣な手は 27.Qa2! だったがナカムラの手も同様に速く勝つ。

27…Qxd5 28.Rxe6 dxc3 29.R6e5 Qd4+ 30.Kh1 b6

 もちろんアコビアンのキングがf7の荒地でうろうろしている危険な状態でなければ、收局で勝つのに十分な戦力がある。しかしここでは收局の見通しはただのとっぴな夢想にすぎない。

31.Qa2+ Kg7 32.Re7+ Kh6 33.Qf7

33…Nc4

 黒にはもう受けがない。33…Rh8 なら 34.Rd7 で黒クイーンが要のg7の守りから追い払われ、34…Qc4 35.Qg7+ Kg5 36.Re5+ Kg4 37.Qf6 ですぐに詰む。

34.Qxh7+ Kg5 35.R7e6 Qd3 36.h4+ Kf4 37.Qh6+ 1-0

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(この号続く)

2016年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(447)

「Chess」2016年6月号(4/5)

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次の一手 上級向け

第18問 H.ナカムラ – V.トパロフ
モスクワ、2016年
 白の手番

第19問 P.スビドレル – H.ナカムラ
モスクワ、2016年
 黒の手番で引き分け

解答

第18問 1.Qxb8!(白は差し出された駒を取ってさらに絶対手を2回見つけなければならない。さもないと戦力損するだけである。つまり 1.Qc2? は 1…Rxd1! で 2.Rxb8 なら 2…Qh3+! で詰まされてしまう)1…Rxd1 2.Rb1!(h列での詰みを防ぐ)2…Qd7 3.Rg5(そしてこの手でg4での決定的なチェックに対処する。黒は成すすべがない)3…Ne4 4.Rxd1 Qxd1 5.Qf4 1-0

第19問 1…Rae8(絶対手。黒は全ての駒を助けることはできず、永久チェックの態勢を作らなければならない)2.Qxb6(2.Bc3 なら試合はまだまだ続くことになるが、2…axb4 3.axb4[3.Bxb4 は 3…R8e6 で白にとって黒のキング翼の態勢が危険である。続いて 4.Qd5 なら 4…h5]3…R8e6 4.Qd5 Kh7!? 5.Rad1 f5 で黒の反撃はばかにできない。実際エンジンはお好みの「0.00」を表示する)2…Rh4! 3.gxh4(e列が黒の支配下なので白は引き分けを甘受しなければならない)3…Qg4+ 4.Kh1 Qf3+ 5.Kg1 Qg4+ 6.Kh1 Qf3+ 7.Kg1 Qg4+ ½-½

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(この号続く)

2016年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(448)

「Chess」2016年6月号(5/5)

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戦略の一口講座 双ビショップ

GMダニー・ゴーマリー

M.カールセン – H.ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック、2015年

24…Nc3

 ナイトはここでは根なし草で簡単に追い払われる。黒は自陣に重大な弱点がないけれども、じっくり圧力を強めるという白の作戦に積極的に対抗していく作戦がない。

 24…Rfe8!? と指すことはできる。その意図は …Nc5 のあと …Nd4 から …b6 で黒枡「封鎖」のようなものをこしらえることだろう。しかし問題はひどく遅くて、双ビショップの機動性のためにそんなぜいたくな手を指せないことが多いことである。25.Be3! が典型的な応手で、c6のナイトを取ってa7のポーンを取るのが狙いで(25.Rxd8 Rxd8 26.Rb1 Rd7 27.Be3 も白がわずかに優勢)、25…Nc3 26.Rxd8 Rxd8 27.a3 で実戦とほとんど同じく白がわずかな有利を維持している。

 注意すべきは 24…Nc5? で、25.Bd6 のためにポカになる。

25.Rd2! Rxd2 26.Bxd2 Ne2+

 双ビショップの強さと支配の広さの好例は、26…Nxa2?? 27.Bxc6! bxc6 28.Ra1 でa2のナイトが捕まる手順で確認できる。

27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4! Rd7

32.Bc5!

 なんとしても双ビショップは維持しなければならない。32.Bxc6 bxc6 33.Bxa7 Rxa7 34.Rxd1 Rxa3 は互角にしかならない。

32…Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 これで純粋な2ビショップ対2ナイトの局面になった。局面が開放的であることを考えれば明らかに白の方が有利である。しかしこのような局面では少しずつゆっくりと圧力を強めていく忍耐力と能力とが要求される。カールセンはそのような資質を豊富に持っている。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5!

 この手には目的が二つある。一つは黒の …Ke6 と指す可能性を防ぐことで、そのあと …Nd5 とやってくれば白にとって厄介なことになるかもしれない。そしてもう一つはg7ポーンを「凍結」することである。もっともこのポーンはずっと後で標的になる。

41…gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5

44…Ke7

 すでに防御は極度に難しくなっていて、どの手も精密機械のように予測通りでやる気満々のカールセンと対する心理的圧迫は神経をすり減らす。

 代わりに 44…f6+ なら 45.Kf4 Nc7 46.a4 で、白が敵陣突破できるかは明白でないけれどもカールセンは弱点を探していろいろ策をめぐらしただろう。

45.Bf4 a6 46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5 Nf6 53.h6! Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+ 56.Kh4! gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4 60.Be4 Nf2 61.Bb1 Ng4 62.Bf4

62…f6?

 62…Ne2 の方が見込みがあった。もっともここでも互角への「明快な」手段はない。人間選手がこのような局面を守るのは非常に難しい。防御の観点から目指すべきものがないということが分かっているので抵抗する力が必然的に萎えるからである。これに対し攻撃側の選手はずっと探索し続けることができる。62…Ne2 なら

 a)63.Bd2 Ng3! 64.Bc2 Nh5+ 65.Kh8!(キングが隅に行くのはおかしく見えるが、圧力は強まり続ける)65…Ngf6 66.Ba4+ Nd7 67.c6 bxc6 68.Bxc6 白は新たに黒のaポーンという標的を得た。その一方でこの変化では戦力がさらに減っていて、理論的には黒の引き分けの可能性が増すはずである。一つの可能性は2ビショップ対1ナイトの收局で、理論的には勝ちだが実際に勝つのは不可能に近い。

 b)63.Bc7 Nc3 64.Bc2 Ne3 65.Bd3 Ncd5 66.Be5 やはり黒は当面持ちこたえているが、盤上の防御は極度に難しいままである。

63.Be4!

 これで黒は支えきれない。

63…Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7! Nd3 67.Kxf6 Nxf4 68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+ Kf8 72.Ke4 Nc2 73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3 Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 1-0

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(この号終わり)

2016年11月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

「ヒカルのチェス」(449)

「Chess Life」2016年6月号(1/3)

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世界選手権挑戦者決定大会

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの見損じ?
GMセルゲイ・カリャーキン(FIDE2760、ロシア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年3月12日

 29.h4

 局面は黒の非勢である。白はd4でのせき止めがうまくいっていて、d5にもいくらか圧力をかけている。黒がd4の地点で局面を単純化すれば、b7に働きの悪いビショップが残される。そして白がナイトをc5に据えることにでもなれば、白に大局上の大きな優位を与えずに黒がそのナイトを取り除くのは不可能になる。例えば 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 33.Nc5 となれば、黒陣は私がこれまで出会った中で一番かっこいいというものではないが、持ちこたえる可能性はある。しかしナカムラの選んだ手は…

29…Nxg3??

 この手は即負けになる。ナカムラはカリャーキンがこの手を見逃したと思ったのだろうか。ナカムラが見損じたのだろうか。真相はまったく闇の中である。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+

 黒がこの一発に期待していたのは明らかだった。キングとナイトの両当たりになっていて、白がナイトをf2に引けばc1のルークが落ちる。しかし事はそれほど簡単でない。

33.Qf2! Qxd3 34.Rc7

 突然終わってしまった。手順の終わりで両当たりをかけているのは白の方である。そしてただで駒得になる。勝負がついた。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2016年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス6

「ヒカルのチェス」(450)

「Chess Life」2016年6月号(2/3)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの悲劇
GMレボン・アロニアン(FIDE2786、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第6回戦、モスクワ、2016年3月17日

 74.Rd7

 黒は1ポーン損だがかつてある達人はルーク收局はすべて引き分けであると喝破した。マキシム・バシエ=ラグラーブが「chess.com」で徹底した詳細な分析をとおして証明したようにこの局面も例外でない。その詳細で読者をうんざりさせることはしないで何が起こったかだけを書く。ナカムラはルークを動かせば受かっていた。e2でもa5でも良さそうで、たぶんa6でも大丈夫だろう。キングを動かすのは致命傷になる。時間に追われたナカムラは明らかに動かすつもりでキングをつまんだ。「ジャドゥーブ(直します)」と言おうとしたが、アロニアンに審判を呼ばれてしまった。審判はナカムラにキングを動かさせた。そして絶望的な局面になった。

74…Kf8 75.Kf6 Ra6+ 76.Rd6 Ra8 77.h5 Kg8 78.f5 Rb8 79.Rd7 Rb6+

80.Ke7

 ここは 80.e6 fxe6 81.Rd8+ Kh7 82.fxe6 でも構わない。

80…Rb5 81.Rd8+ Kh7 82.Kf6 Rb6+ 83.Rd6

 83.Kxf7 Rf6+! 84.Ke7! Rxf5 でも白の勝ちだがそんなことをする必要はない。

83…Rb7 黒投了

 ナカムラにとっては悲劇と言うしかない。大会前半でナカムラの精神力はなえた。

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(この号続く)

2016年11月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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