名著の残念訳の記事一覧

名著の残念訳(1)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

棋譜法 Ⅸページ
『?! : 疑わしい手
? : 疑問手
?? : 悪手』

「疑問手」とは「疑わしい手」のことをいう。だから正しくは「?! : 疑問手、? : 悪手、?? : 大悪手、ポカ」

01 フィッシャー対シャーウィン 001ページ

『シャーウィンは、序盤で重大なミスは犯さなかったが、幾度かの互角にする機会を逃した。フィッシャーは、彼ならではの妙技を驚くべき成熟さで披露しながら、わずかな優位-良好な中央と双ビショップ-を積み重ねて徐々に局面を制圧していく。一方、シャーウィンは自陣をば盤石にしようと試みるも、14歳の対戦相手の一撃(18.Nxh7)による粉砕を目の当たりにするばかり。それは、どこから生じたかも自明ではないアリョーヒンのコンビネーションを思い出させる。シャーウィンは敗北を拒否して反撃する。しかし、彼の防御はよろめくキングへの鋭い連続攻撃を受け、ついには崩壊する。』

英語の原文は全部現在形で書かれてある。それなのに日本語訳では最初の文だけが「逃した」というように過去形になっていて統一がとれていない。原文が現在形なのは臨場感を出すためのよくある手法である。しかし日本語訳の方でそれをまねして同じ効果が得られるかはまた別の話であろう。英語と日本語は大きく異なる言語なので別個に考えた方がよい。異なる例の典型的な例には学校英語の文法で習った「時制の一致」がある。他にも辞書から例をとると「Stop talking when the bell rings.(ベルが鳴ったらすぐおしゃべりをやめなさい)」がある。英語の現在形(rings)に対し日本語では「鳴ったら」と言うが、別に過去のことを言っているわけではない。ここでの文章の場合も日本語としては全部過去形に統一した方が臨場感が出ると思われる。なお、「Too little, too late」が「少しだけ、遅すぎた」という訳になっているが、大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」には「効果的にはほど遠い」という訳語が出ていた。

04 ピルニーク対フィッシャー 015ページ
『双方とも活気のない序盤の後、中盤戦では 26…bxa3 を型通りに説明できないことを除けば、フィッシャーは終盤戦まで誘導する。』

「・・・を除けば」どうだというのだろう。次の「フィッシャーは終盤戦まで誘導する」とかみ合わない。英語の原文はどうなっているのだろうか。

英文『After a lackluster opening by both sides, and a middle game that, with the exception of 26…bxa3, can scarcely be described as more than routine, Fischer pilots the game into an even ending.』

原文と比較すると訳文の誤りが見えてくる。訳文では「26…bxa3 can scarcely be described as more than routine」と考えているが、これは誤りである。まず After のあとに続くのは a lackluster opening by both sides と a middle game … routine である。そして a middle game を修飾しているのが that … routine である。with the exception of 26…bxa3 を取り除いて(前後にコンマがあるのでここは挿入句である)考えれば [After] a middle game that can scarcely be described as more than routine という骨格がはっきり見えてくる(that は主格の関係代名詞)。26…bxa3 が exception なのは本文中で 26…bxa3! というように好手の印の ! が付いていて、そのあたりの中盤戦の他の手は全部ありきたり(can scarcely be described as more than routine)なので ! が付けられていないことからつじつまがあう。
試訳『両者の面白みのない序盤と、26…bxa3 を除けばありきたりの中盤のあとで・・・』

27 レシェフスキー対フィッシャー 119ページ
『進路をはずした花火ショー』

「花火ショー」が「進路をはず」すとはどういうことだろうか。「花火ショー」が何か意志のようなものを持っているのであろうか。

英文『Sheer pyrotechnics』
Sheer には確かに「針路からそれること(名詞)」という意味があるが(ただし「進」でなく「針」)、普通は「全くの(形容詞)」という意味で使われる(sheer idiocy 全くの白痴)。pyrotechnics の方にも「才気煥発」という意味がある。

40 フィッシャー対ナイドルフ 186ページ
『ザ・ナイドルフ変化』
英文『The Najdorf Variation』
56 フィッシャー対グリゴリッチ 253ページ
『フィッシャー変化』
英文『The Fischer continuation』

一方は The をザと訳し、他方は無視したのはなぜだろうか。

47 フィッシャー対ビスガイヤー 214ページ
『ビスガイヤーは、フィッシャーに対してまずまずの局面に持ち込み続けてきたグランドマスターの一人だったが』

「グランドマスターの一人だったが」というところからすると「まずまずの局面に持ち込み続けてきた」グランドマスターが複数(数人?)いることになる。そんなばかなことがあるのだろうか(当時フィッシャーを除いて米国のチェスのトップのレベルは低かった)。

英文『Bisguier is the one Grandmaster who consistently obtains decent positions against Fischer』

the one Grandmaster を「グランドマスターの一人」と誤訳している。「グランドマスターの一人」なら one of Grandmasters でなければならない。of の次には名詞の複数形がくる。さらには one の前に the がある。辞書には the one について次のような意味が載っている。

6 ((the one)) 唯一の(強勢を置いて発音する): the one way to succeed 成功する唯一の方法

だから上記の英文は「ビスガイヤーは、フィッシャーに対してまずまずの局面に持ち込み続けてきた唯一のグランドマスターだったが」となる。

47 フィッシャー対ビスガイヤー 214ページ
『結局、フィッシャーとの数十局の対戦で、ビスガイヤーはたった1回のドローでしかポイントを上げられなかった。』

一流でもないビスガイヤーが数十局もフィッシャーと対戦するものだろうか。ちなみにフィッシャーの全局集に載っている棋譜は確か650局くらいでなかったろうか(とすると約1割がビスガイヤー戦?)。

英文『Out of something like a dozen encounters, he has squeezed but a single draw.』

dozen が数十の意味になるのは複数形で dozens of という形で使われるときである。その点からも上記翻訳は間違いである。インターネットの http://www.chessgames.com で二人の対戦を検索することができる。それによると15局で(若干の漏れがあることもある)ビスガイヤーが1ドローの他に1局勝っている。だから英文も少し間違っている(昔は棋譜データベースがなかったから仕方がない)。そして something like は成句で「およそ」という意味がある。

試訳「結局、フィッシャーとの十数局ほどの対戦で、ビスガイヤーはたった1回のドローでしかポイントを上げられなかった。」

55 フィッシャー対べドナルスキー 249ページ
『うっかり王子』

王子とは誰のことだろう。フィッシャーがそう呼ばれていたことはないからべドナルスキーのことだろうか。本文にはそれらしい言及が何もない。有名な話ならわざわざ書く必要もないだろうがそうとは思われない。こんな一流でない選手が自国でそのように呼ばれ期待されていたとも思われない。

英文『The price of incaution』

price を prince と見誤ったようである。それにしても常識的におかしいなと思いそうなものである。

01 フィッシャー対シャーウィン 001ページ
『4.g3 Nf6
 フィッシャー対イフコフ、サンタモニカ 1966 では』

日本語では 1966年 というように「年」をつけるものである。逆に英語では in year 1966 というように year をつけることはない。

フィッシャーは天国でこんな訳本がでたことをどう思っているだろうか。

名著の残念訳(2)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

22 誤った判断 099ページ
『選手権の挑戦者になってからというもの、最近のサボーの成績にはむらがあって予測ができない。』

 サボーは何の「選手権の挑戦者」になったのだろう。一般に国内選手権は挑戦制でない。そしてわざわざ言及するからには読者に周知の選手権だろう。とすると世界選手権しかない。サボーが世界選手権の挑戦者になったことなどありうるはずがない。

英文『Once a contender for the title, Szabo’s performances nowadays are spotty and unpridictable.』

contender を challenger と同じだと思って訳している。contender は「(タイトルをねらう)選手」という意味である。辞書には「the contender for the heavyweight title ヘビー級チャンピオンをねらうボクサー」という例文が出ている。

試訳「かつては世界選手権挑戦者争いに加わったが、最近のサボーの・・・」

31 最も誠実なお世辞 137ページ
『ペトロシアンに対するフィッシャー唯一の勝利であり、それはペトロシアンを無意識に模倣する棋風によって成し遂げられた。』

フィッシャーの棋風がペトロシアンを無意識に模倣する棋風だったとはへそが茶を沸かす。カルポフなら分かるが。

英文『This is Fischer’s only win against Petrosian and it is achieved through an unconscious mimicry of the latter’s style.』

latter(後者)とはペトロシアンのこと。

試訳「・・・それはペトロシアンの棋風を無意識に模倣することによって成し遂げられた。」

36 譲り合い 160ページ
『ここまでの白は一流の棋風だったが』

白番のフィッシャーは1959年に Candidates に進出し(世界チャンピオンを除く8強)一流の仲間入りをしている。結果は5位だったから超一流といっていい。それを3年後のこの大会でいまさら一流と言うのはおかしい。

英文『Up to here, White has played in excellent style,』

style を機械的に棋風と訳している。「彼の棋風はすばらしい His playing style is excellent」とは言うが、「エクセレントな棋風で指す」とは言わない。ここでの style は通常の「(行動などの)しかた」の意味である。

試訳「ここまでの白の指し方はすばらしかったが」

2011年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(3)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

25 マローツィが抑え込みにならない場合 111ページ
『この意外な発明を見て、白が我に返った。』

 「発明」とは何だろう。フィッシャーのことだから特許を申請したのだろうか。原書ではどうなっているのだろう。

英文『This unexpected “discovery” jolts White back to reality.』

局面から見て discovery とは discovered attack のことである。通常の用語ではないがフィッシャーが茶目っ気を発揮して使ったのだろう。通常の「発見」という意味でなさそうなことは ” で括ってあることから想像がつく。「発明」という意味の英語は invention である。

39 対決 177ページ
『私の崩れ去った平常心は想像するに難くない。』

主語がないが書いているボトヴィニクだろう。ボトヴィニクが自分自身の心境を「想像するに難くない」などと他人事みたいに言うものだろうか。原書で確認するしかない。

英文『The reader can guess that my equanimity was wrecked.』

英文では想像する(guess)のは読者だから何も違和感はない。

試訳「読者は私の崩れ去った平常心を想像できるだろう。」

46 楽勝 210ページ
『これは読者にとっては幸運だった。さもないと、白の19手目のような巧みな手にいつかだまされただろう。』

白の19手目(好手を示す!が付いている)のような巧みな手が相手をだます手なのか?相手がだまされなかったらどういう手になるのだろう。相手をだまそうとする手は「はめ手」と言うのではないか?いくら読み返しても考えても分からない。原書も同じなのだろうか。

英文『This is fortunate for the reader, who otherwise would be cheated of White’s scintillating 19th move.』

of を by だと思っている。who otherwise would be cheated by White’s scintillating 19th move なら確かに「さもないと、白の19手目のような巧みな手にいつかだまされただろう」でよい。辞書によると cheat of には「<人から>(物を)だましてまきあげる」という意味がある。例文として cheat a person of his money「人をだまして金をまきあげる」が載っている。この例文を受身形にすると a person is cheated of his money「人がだまされて金をまきあげられる」 となる。これと英文とを対応させると「さもないと読者はだまされて白の19手目のような巧みな手をまきあげられる」となる。要するに「白の19手目のような巧みな手を見る機会を不当に奪われる」ということであろう。

試訳「これは読者にとっては幸運だった。さもないと、白の19手目のような巧みな手を見る機会を奪われるところだった。」

我々日本人だと of でも by でもたいした違いではないように感じられるが、本当は「びょういん(病院)」と「びよういん(美容院)」くらい違うのである(英米人にはこの二つの聞き分けが難しいらしい)。

誤訳に関する本を昔から色々読んでいて(細かい技術的なことは全部忘れたが)一つだけ記憶に残っているのは「英文を正しく解釈するためには(誤訳を避けるためには)こまめに辞書を引け」という教えである。変な日本語の文になった時は知っているつもりの英語の言葉でも何か知らない意味があるのではないかと辞書で確認した方が良い。

名著の残念訳(4)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『防御には、攻撃の特徴に対応した高度な水準が求められてきた。』

英文『A rise in the standard of defense has necessitated a corresponding adjustment in the character of attack.』

necessitate は「・・・を必要とする、・・・を必然的に伴う」という意味だから、「水準が求められてきた」のは attack の方である。

試訳「防御の水準が上がったことによって攻撃の特性にもそれに応じた適応が必要になってきた。」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『華麗な手の多くは、尾ひれの付いた注釈の中にしか存在しない。』

「尾ひれ」とは何のことを言っているのだろう。前後の文章をいくら読んでも分からない。原書ではこれに対応するのはどんな言葉なのだろうか。

英文『Brilliancies often exist only as grace notes.』

どうも grace が「尾ひれ」のことらしい。grace notes は grace が形容詞で notes が名詞(の複数形)のような形をしているが、grace には名詞と動詞しかない(形容詞は graceful)。「小学館プログレッシブ英和中辞典」を見ると grace note はこれで見出しになっていて「装飾音」という意味が出ている。ジーニアス英和大辞典には「楽譜上に小型の符号で印刷されたメロディー・ハーモニーに影響を与えない音」という注釈がついている。

試訳「華麗な手の多くは、装飾音としてしか存在しない。」

11 聞こえないメロディー 049ページ
『十余りの見事で奇妙な負け筋に直面し、ベンコーは見たところつまらない変化を選ぶ。しかし、この見苦しさは棋力の副産物ではないのか?読者はだまされた気分に、勝者は欲求不満になるかもしれないが、かといって、魅惑的な手筋への誘いにまんまと引っかかる敗者の洞察力が批判されないのはどうしてか?』

つまらない変化を選んで負けることの方を評価/擁護しているように読めるが、そんなものなのだろうか。

英文『Confronted with a dozen beautiful outlandish losing variations, Benko chooses what appears to be a prosaic one. Is this “ugliness” not a by-product of skill ? Though the reader may feel cheated, and the winner frustrated, does it not argue for the perspicacity of the loser who sidestepped those seductive invitations ?』

argue に前置詞の for が付いている。小学館プログレッシブ英和中辞典によると argue for には「・・・に賛成の論を唱える」という意味がある(argue against なら「反対」)。

argue for disarmament 軍縮賛成(論)をぶつ

だから「it は敗者の洞察力に賛成しないのか?」という意味になる。問題は it が何を指しているのかということである。受験勉強のとき英文和訳では it のような代名詞は具体的なものごとに訳さずに「それ」などと訳すと減点されることがあると注意された。翻訳でも具体的に何のことをいっているのか理解しておかないと、わけのわからない訳文になることがある。普通は前の方の名詞を指すのだが、ugliness や by-product では意味がとおらない。小学館プログレッシブ英和中辞典によると it には次のような用法がある。

1((すでに言及した事物をさして))(3)((抽象的な概念、命題、事)):I hear he killed himself last night. Have you heard anything about it ? 昨夜彼が自殺したそうだが、そのことで[について]何か聞いているか。

だからあの it は「the reader may feel cheated, and the winner frustrated」の部分を指すと考えられる。

試訳「十余りのきれいでとっぴな負け筋に直面し、ベンコーは見たところつまらない変化を選ぶ。しかしこの邪悪さは棋力の副産物ではないのか?読者はだまされた気分に、勝者は欲求不満になるかもしれないが、ということは魅惑的な誘いを避ける敗者の洞察力に賛成しないということなのか。」

2011年07月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(5)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

06 小さな見落とし 024ページ
『対戦相手より1手先まで読んでいると考えてコンビネーションを放つ。』

英文『Thinking he has seen one move further than his adversary, he provokes a combination.』

provoke は「・・・を刺激して(・・・)させる」という意味だから、フィッシャーにコンビネーションをさせたので、コンビネーションを放ったのはフィッシャーの方である(39.Rxe6)。

試訳「対戦相手より1手先まで読んでいると考えてフィッシャーのコンビネーションを誘った。」

14 多すぎた新手 063ページ
『13手目に現れる新手の評価が疑わしい変化。』

英文『An innovation whose dubious merit appears on move 13.』

この訳文は An innovation appears on move 13. が骨格で、innovation を whose dubious merit が修飾していると考えているようである。しかしそうだとすると whose dubious merit という関係詞節には動詞が存在しなくなる。そんな構文はあり得ない。An innovation with dubious merit appears on move 13. か An innovation which has dubious merit appears on move 13. なら構文的には間違いはない。
この英文は本体の主語と動詞が省略されている。それを補うと次のようになる。
This(10.Be2) is an innovation whose dubious merit appears on move 13.
This is an innovation が本体で、whose dubious merit appears on move 13 が innovation を修飾している。
10.Be2 は2年ほど前にケレスが指しているのでこの時点では新手とは言えない。だから innovation は「ケレス新手(2年前にケレスの指した新手)」というほどの意味だろう(前局では 10…h6 だったので、本局の 10…b5 は新手になるはずである)。当時は新手といっても今ほど速く知れ渡ることはなかた。だから新鮮味はあったと思われる。新手は何らかの merit を収めなければ意味がないので、13.exf6!? は 10.Be2 の成否をかけた手だったはずである。

試訳「この新手の疑わしい真価は13手目に現れる。」

17 惜しい失敗 081ページ
『ほとんどのゲームで、フィッシャーはタリのように指した。しかし、心配ご無用。タリはフィッシャーのようには防御せず、唯一無二の負けない反撃を見つけるから!』

「ほとんどのゲームで」とあるが、フィッシャーはそんなに何局もタリのように指していたのだろうか?

英文『Almost all game Fischer played in Tal style. But all his trouble was in vain because Tal did not defend in Fischer style – instead he found the one and only saving counterchance!』

目的語が倒置されているので普通の順序に直して考えると Fischer played almost all game in Tal style. となる。game に複数形の s がついていないので all は一つの game の最初から終わりまですべてということである。

試訳「試合の間ほとんどずっとフィッシャーはタリのように指した。しかし彼の苦労はすべて無駄だった。なぜならタリはフィッシャーのように守らなかったからだ。代わりに唯一無二のしのぎの反撃を見つけ出した!」

2011年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(6)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

29 自爆 130ページ
『フィッシャーvsゲレル(アメリカ)』

ゲレルはいつのまにソ連からアメリカに亡命していたのだろう。

英文『29 Fischer – Geller [U.S.S.R]』

U.S.S.R を U.S.A のことだと考えたようである。ゲレル(フィッシャーの3勝5敗2分)はタリと並んでフィッシャーの憎い天敵だったのだからフィッシャーのファンなら間違えようがない。

試訳「フィッシャーvsゲレル(ソ連)」

60 チャンピオンがあいまみえて 274ページ
『フィッシャーの攻撃は華麗なピース・サクリファイス(29.Bxf5)で頂点を極めるが、ソ連チャンピオンは応じない。』

何に応じないのだろう。日本語としてはすぐ前の名詞(句)を指すはずだが、「頂点に応じない」では意味が通らない。それとも「動じない」の書き間違いか?

英文『Fischer’s prosecution of the attack is crowned by a brilliant offer of a piece(29.Bxf5) which the Soviet champion declines.』

英文だと一目瞭然である。関係代名詞 which の先行詞は offer だからピース・サクリファイスに応じなかった(29…Qf8)と分かる。英語と日本語はかけ離れた言語なので、英語では同じ名詞を繰り返さなくても日本語では適当に補わないと何のことか分からなくなることがある。

試訳「フィッシャーの攻撃は華麗なピース・サクリファイス(29.Bxf5)で頂点を極めるが、ソ連チャンピオンはサクリファイスに応じない。」

60 チャンピオンがあいまみえて 278ページ
『クモッホは、「レオニダスは、29…gxf5 で猛攻に対抗すれば有利にさえなれたかもしれない」と述べている。』

英文『Kmoch suggests that “Leonidas might even have better taken a chance and faced the storm by playing 29…gxf5.”』

take a chance を「有利になる」と解釈したようである。しかしそれなら taken a chance と faced the storm by playing 29…gxf5 の順序が逆ではないだろうか。そもそも take a chance は「機会を得る、とらえる」という程度の意味のはずである。
ここの better は副詞 well の比較級である(形容詞 good の比較級なら後ろに名詞が続くか文中にbe動詞があるはず)。might have done は「・・・してもよかった」という意味である。直訳すれば「レオニダスはもっとよくチャンスをとらえて対抗すればよかったかもしれない」となる。

試訳「クモッホは、「レオニダスは、いっそのこと 29…gxf5 で猛攻に立ち向かった方がよかったかもしれない」と述べている。」

2011年08月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(7)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 106ページ
『黒の亀のような甲羅にヒビを入れることすら難しく、成功などおぼつかない。』

フィッシャーはまったく無力のようだが?

英文『He has had the utmost difficulty cracking Black’s tortoise-like shell; even his successes are unconvincing.』

convincing は「人を納得させる」という意味だから、否定の接頭辞 un の付いた unconvincing は「人を納得させない」となる。複数の試合で成功したが納得のいくような内容ではなかったということである。「成功などおぼつかない」だとこれからいくらやっても駄目だということになり、それなら success は単数形が普通だろう(「一つの成功さえおぼつかない」という意味で)。

試訳「亀の甲にも似た黒の殻を打ち砕くのに困難を極めてきた。成功しても納得のいくものではなかった。」

24 自業自得 106ページ
『つまり、フィッシャーは生来の能力のおかげで、序盤でしばしば優位を確保しそこねる代償という罰をまたもや逃れたのである。』

「代償」とは「損害の代価を払うこと」である。例えば駒損の代償として強力なパスポーンを得るなどである。だから「序盤でしばしば優位を確保しそこねる代償」としては何か有利なことを得なければならないはずだが、それが「罰」では踏んだりけったりである。

英文『And so, once again, by virtue of his native ability, Fischer avoids the retribution that is the usual price for failing to secure an advantage in the opening.』

主文は Fischer avoids the retribution だから「フィッシャーは報いを避ける」である。関係代名詞 that の先行詞は retribution だから関係詞節は the retribution is the usual price for failing to secure an advantage in the opening ということで「その報いは序盤で優勢を確保できないことに対するいつもの代価である」という意味になる。

試訳「つまり、フィッシャーは天賦の能力のおかげで、序盤で優位を獲得できないことにつきものの報いをまたもや逃れたのである。」

25 マローツィが抑え込みにならない場合 110ページ
『本局では、ロンバディーが6手目で、フィッシャーも認める、恐るべきマローツィ抑え込み(バインド)戦形に持ち込む。』

フィッシャーは白の5手目で「白は、c4、Nc3 等でマローツィ戦形に組んで d5 を抑え込みたいのだ。しかし、これだけ手こずったあげく、白は …d5 を阻止できない。正着は使い古された Nc3 だ」と書いているので、マローツィ抑え込みを恐れていないようである。

英文『In this game, after Lombardy’s sixth move, he obtains, with Fischer’s consent, the dread “Maroczy bind.”』

英文によれば「フィッシャーの consent で」Lombardy が the dread “Maroczy bind を得るということである。フィッシャーが 5…Nc6 と指したのでマローツィ戦型になったのであり、解説にあるように 5…e5! と指していたらマローツィ戦型にはならない。つまりフィッシャーがマローツィ戦型になることに consent したのである。

試訳「本局では、ロンバルディーの6手目のあとフィッシャーが同意したことにより恐怖のマローツィ戦型になった。」

念のため書くと「戦形」は間違いで正しくは「戦型」である。

2011年08月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(8)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

45 過去の亡霊 205ページ
『シュタイニッツはオーストリアのモーフィー(両者の棋風はほとんど似ていないが)の異名を持ち、フィッシャーに多大な影響を与えた。』

棋風がほとんど似ていないのに(風貌も似ていない)オーストリアのモーフィーと異名を付けられることなどあり得るのだろうか?

英文『Steinitz, nicknamed “the Austrian Morphy” (although two styles could hardly be more dissimilar), apparently exercises a great influence on Fischer,』

シュタイニッツは元々はものすごい攻撃的な棋風だった。1872年ころ Lowenthal は次のように書いている。「Mr. Steinitz may be fairly regarded as the present occupant of the exceptional position formerly held by Mr. Morphy」しかし1873年になると棋風が positional play にほとんど変化した。だから過去においてはシュタイニッツとモーフィーの棋風がもっと違っている(more dissimilar)ことはほとんど不可能だった(could hardly)。

試訳「シュタイニッツはオーストリアのモーフィーという異名(両者の棋風はそう形容する意外ほとんど不可能なほど似ていたが)を持ちフィッシャーに多大な影響を与えた。」

各章にあるエバンズの導入文はチェスの歴史や事情に詳しくない人のために書かれたものではない。チェスに詳しい人でないと何のことを言っているのか見当がつかないことが多い。

51 搾取 230ページ
『フィッシャーはアメリカから電信でこのカパブランカ記念大会を戦った。』

英文『Fischer competed in this Capablanca Memorial Tournament by long-distance telephone,』

long-disance telephone とは文字どおり長距離電話のことである。

試訳「フィッシャーはアメリカから長距離電話を使ってこのカパブランカ記念大会を戦った。」

57 気分転換 259ページ
『ラルセンは、続く終盤戦での意外な一撃を放つために、彼にしては珍しく早期のクイーン交換に持ち込む。フィッシャーはその一撃をはね返し(13…b6)、細心の注意を払って防御し続けた。』

13…b6! の解説中にある 14.Nxa7!? がその一撃らしいが、そんなに打撃力のある手なのだろうか。ラルセンの読み筋どおりに進んでもフィッシャーの解説の 16…Rd7! で「ポーン損でも黒が十分指せる」ので大したことがなさそうである。13…b6 も「はね返し」たのではなく、その「一撃」を指させなかっただけなのだろう。

英文『Larsen, uncharacteristically, forces an early exchange of Queens so that he can spring a surprise in the resulting endgame. Fischer beats him to it(13…b6) and proceeds to defend with meticulous care.』

spring a surprise は「突然驚かす、びっくりさせる」という意味である。beat a person to it は「(人の)先手を打つ、(人を)出し抜く」という意味である。

試訳「ラルセンは彼らしくもなく早々と強制的にクイーン同士を交換して、それによってもたらされる終盤戦で意表の手を放とうとした。フィッシャーはその裏をかき(13…b6)細心の注意を払って防御を続けた。」

2011年08月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(9)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 253ページ
『フィッシャーの意外な 4.Bxc6 -エマヌエル・ラスカーのエクスチェンジ変化の復活- は、ラスカーが1914年のサンクトペテルブルグ大会でアリョーヒンやカパブランカを倒すために使われたが、その後すたれていた。白に強制的な応手を指させて互角にする方法がすぐに発見されたからである。』

英文『Fischer’s surprising 4.Bxc6, a revival of Emanuel Lasker’s Exchange Variation – the one he used at St. Petersburg in 1914 to defeat Alekhine and Capablanca, but which subsequently fell into desuetude because ways to equalize were rapidly discovered – drew from his opponent the obligatory response.』

a revival … Variation は主部の Fischer’s surprising 4.Bxc6 と同格、- で挟まれた the one … rapidly discovered は挿入句だから述部は drew from his opponent the obligatory response である。つまり Fischer’s surprising 4.Bxc6 drew from his opponent the obligatory response (フィッシャーの意外な 4.Bxc6 は相手に強制的な応手を指させた)が本体である。opponent(相手)とはもちろん白でなく黒のことである。

試訳『エマヌエル・ラスカーの交換戦法を復活させるフィッシャーの意外な 4.Bxc6 -これはラスカーが用いて1914年のサンクトペテルブルグ大会でアリョーヒンとカパブランカを負かした手だが、互角にする手段がすぐに発見されたためにすたれていた- は相手から決まり切った応手を引き出した。』

56 フィッシャー変化 253ページ
『しかし、フィッシャーの次手 <<5.O-O!>> は良くないと見なされていたし、(通例的に見える)6手目 <<6.d4>> が7手目でギャンビットに構えるための準備だったとは誰にもわからなかった。』

英文『Fischer’s next move, regarded as inferior, and his sixth (the customary follow-up) prepared no one for the gambit which he introduced on move seven.』

regarded as inferior と the customary follow-up は挿入句だからこれを取り除くと主部は Fischer’s next move and his sixth(フィッシャーの6手目と7手目)で、述部は prepared no one for the gambit である。prepare A for B には「A(人)にB(事)の覚悟[準備]をさせる」という意味がある。

試訳「良くないとみなされていたフィッシャーの次の手と(通例の継続手の)6手目が7手目でギャンビットに打って出るためであったとは誰も予期しなかった。」

60 チャンピオンが相まみえて 278ページ
『電気が復旧すると 26…Nd3? がはっきり見え、27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! 弱い黒マスへの侵入で決められるとわかった。』

英文『Then the lights came on again and I saw clearly that 26…Nd3? was crushed by 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! and White penetrates decisively on the weak dark squares.』

saw の目的語は that 26…Nd3? was crushed by 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! である。saw が過去形なのでそこは対局中のことで、penetrates が現在形なのでそこは執筆時点での考えである。

試訳「それから再び照明がつくと 26…Nd3? は 27.Bxd3! Qxd3 28.Bg5! によって粉砕されるとはっきり分かった。そして白は弱い黒マスに堂々と侵入することになる。」

2011年08月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(10)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

59 誤ったビショップ 270ページ
『ホルモフとは、過去1回だけ1965年にハバナとの電信対戦で、フィッシャーは(白番で)敗れていた。』

英文『Fischer (with White) had lost to Kholmov in their only previous encounter, played via telephone to Havana in ‘65.』

telephone は電話のことである。電信は telegraph である。

試訳『ホルモフとは、過去1回だけ1965年にハバナとの間の電話を介した対戦で、フィッシャーは(白番で)敗れていた。』

28 誘惑されたドロー 125ページ
『誘惑されたドロー』

何に誘惑されたのか本文を読んでもピンとこない。

英文『A peccable draw』

peccable は「過ちを犯しやすい」という意味である。実際両者ともたびたび間違えている。

試訳「悪手だらけのドロー」

28 誘惑されたドロー 125ページ
『53. Kf3?
53…Rb7?
笑ってしまうミスだ。53.Kh3! が正しく、ルーク交換後に黒のキングをg4に来させないようにする。53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4!(ルークに利かせて手損を防いだ)60…R 動く 61.Kh3! 封鎖を維持する。
 好意に返礼してしまった。』

黒の 53…Rb7? に代えるべき手が(白の)53.Kh3! だという訳になっている。支離滅裂。

英文『53.Kf3?
A comedy of errors. Correct is 53.Kh3! in order to keep Black’s King out of g4 after the exchange of Rooks: e.g. 53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4! (gaining a vital tempo by hitting the Rook), 60…R-any 61.Kh3! maintaining the blockade.
53…Rb7?
Returning the favor.』

笑ってしまうミスだ。53.Kf3? の解説を 53…Rb7? の解説に押し込んでしまっている。

試訳「53. Kf3?
 悪手もここまでくると喜劇だ。正着は 53.Kh3! で、ルーク交換後に黒のキングをg4に来させないようにする。例えば 53…Rxe3 54.Bxe3 h5 55.Bf4 Ra1 56.Bc7 Kf5 57.Bf4 Rb1 58.Bc7! Rh1+ 59.Kg2 Rc1 60.Bf4!(ルークに当てて貴重な手をかせぐ)60…R任意 61.Kh3! となれば封鎖が維持できる。
53…Rb7?
 これはお返しの悪手だった。」

名著の残念訳(11)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

05 不愉快な義務 022ページ
『29.d6! Nd7
 aポーンが攻撃を免れた。』

aポーンは何の攻撃も受けていない。

英文『29.d6! Nd7
The Pawn is obviously immune.』

The Pawn とはいま突いたばかりのd6のポーンのことを言っている。黒が 29…Rxd6 とこのポーンを取ると 30.Rxb8 とナイトを取られる。そのことを immune((攻撃などから)免れた)と言っているのである。

試訳『黒は明らかにこのポーンを取れない。』

05 不愉快な義務 022ページ
『黒はポーンが動けなくなっていく。』

英文『He is reduced to Pawn moves.』

ここでの reduce は「((通例受身))<A(人)をB(ある状態)に>むりやりにする」という意味である。例文として He was reduced to ranks.(彼は一兵卒の身分につきおとされた)が載っている。Pawn moves は「ポーンの手」つまり「ポーンを動かす手」のことである。実際黒はこのあと4手連続ポーンを動かして投了している。

試訳「黒はポーンしか動かせなくなっている。」

06 小さな見落とし 024ページ
『だが、彼は賢明に守ったすえに裏をかこうとする。』

英文『Nevertheless, after defending sensibly, Shocron outfoxes himself.』

him でなく himself だから Shocron outfoxes himself は「ショクロンは自分自身の裏をかく」である。裏をかかれるのはショクロンである。たぶんショクロンを皮肉っているのだろう。

試訳「だが、彼は賢明に守ったすえに裏をかかれることになる。」

2011年09月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(12)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

07 プライド消滅 030ページ
『オラウフソンは、この突破が無理だと確信していたのか、それを許したつもりはなかったのか。』

英文『Olafsson was sure that this break was impossible, or he wouldn’t have allowed it.』

wouldn’t have allowed は仮定法過去だから「許さなかっただろうに」という意味で、実際は許した。or はここでは「または」でなく、「さもなければ」の意味。

試訳『オラウフソンはこの突破が無理だと確信していた。そうでなければその突破をやらせていなかった。』

09 もう一歩で 039ページ
『ヴァルター[ソ連]vsフィッシャー』

英文『Walther[Switzerland] – Fischer』

Switzerland はスイスである。

試訳「ヴァルター[スイス]vsフィッシャー」

09 もう一歩で 039ページ
『グランドマスターは最初にへまをやっても埋め合わせをする余裕があるが、・・・。本局はその実証例ゆえに記憶に残る。』

ここでのフィッシャーのように、いくらグランドマスターだって最初にへまをやったら相手が無名のマスターでも青息吐息でとても余裕などないだろう。

英文『What makes this game memorable is the demonstration it affords of the way in which a Grandmaster redeems himself after having started like a duffer;』

主文は What makes this game memorable is the demonstration である。it は demonstration のことではない。もしそうなら関係代名詞主格の which を使って demonstration which affords
となるはずである。だから it は the game を指し、demonstration と it の間に目的格の関係代名詞の which が省略されていると考えられる。affords は「もたらす、与える」の意味である。it affords を取り除いて考えると the demonstration of the way in which(そのやり方の明示)となる。in which はもちろん in the way のことである。

試訳「この試合が印象的なのは、グランドマスターが最初にへまをやったあと挽回するやり方を見せてくれるからである。」

2011年09月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(13)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

12 戦場へのキャッスリング 052ページ
『グリゴリッチの大胆さと抑制にも同様の信頼が求められる。』

英文『Gligorich, too, must be given equal credit for his courage and restraint.』

give a person credit for … は「<人を>(・・・だと)認める」という意味で、例えば I gave her credit for quick thinking. という例文は「私は彼女の頭が回転の速いことを認めていた」という意味になる。受動態の原文を too を省いて(考えやすくするために)能動態にしてみると We must give Gligorich equal credit for his courage and restraint.(我々はグリゴリッチに同等の勇気と自制を認めなければならない)という意味になる。要するにほめているのである。equal は「同様の」でなく「同等の」という意味である。何と同等かというと、フィッシャーのキングの意表のキャッスリングと同等だというのである。

試訳『グリゴリッチも彼の勇気と自制が同等に評価されなければならない。』

次の「彼の手順は、局後検討で徹底的に分析されても改善されなかった。」という文は、グリゴリッチの形勢不利を改善できないということでなく、グリゴリッチの指した手を上回る良い手はない、すなわち最善手だということである。

12 戦場へのキャッスリング 056ページ
『タラッシュ博士が苦虫をかみ潰したような顔で「手損だ」と言いそうな指し方だ。』

何でこの指し方が手損になるのか分からない。

英文『Playing, as Dr. Tarrasch wryly put it, “for the loss.”』

loss は「負けること、敗北」である。

試訳「タラッシュ博士の皮肉たっぷりの口癖を借りれば「負けるために」指している。」

12 戦場へのキャッスリング 057ページ
『53 Kxb5?
これでグリゴリッチが私を追い払う番になった。』

? が付いているのでこの手は悪手である。悪手を指してなぜグリゴリッチがフィッシャーを追い払う番になるのか意味が分からない。このあとの手順でフィッシャーのキングとルークが追い払われる場面はない。

英文『53 Kxb5?
Now it’s Gligorich’s turn to let me out.』

let … out は熟語で、「・・・を(仕事などから)解放してやる」という意味である。この悪手でフィッシャーが虎口を脱した、即ち負けを免れたのである。

試訳「今度はグリゴリッチが私を助け起こした。」

前回の補足
英文『Olafsson was sure that this break was impossible, or he wouldn’t have allowed it.』

Olafsson … impossible は普通の文で、he wouldn’t have allowed it. は仮定法の主節である。普通の仮定法の文は if 文による条件節があるが、条件節がないこともよくある。しかしその場合でも主節になんらかの形で条件が含まれている。例えば I would not do such a thing.(私ならそんなことはしない)は主語の I に条件が含まれている。上記の英文の場合は or(さもなければ)に条件が含まれている。具体的には「この突破が無理だと確信していなければそれを許していなかった」ということで、実際には「この突破が無理だと確信していたので、それを許した」ということである。

2011年09月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(14)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

13 新しい何か 060ページ
『コトフの推奨手は 14…Qa5 15.Kb1(15.g4? には 15…Qg5! を示すのみ)』

悪手の 15.g4? を咎めるのに何種類もの手を示す必要はない。

英文『Kotov recommends 14…Qa5 15.Kb1 (he gives only 15.g4? Qg5!)』

only は「Qg5!」でなく「15.g4? Qg5!」にかかっている。自分の推薦手の 14…Qa5 に対して、それを裏付ける変化として「15.g4? Qg5!」しか示していない(15.g4? よりまともな 15.Kb1 の変化を示していない)ので only が付いている。

試訳『コトフの推奨手は 14…Qa5 15.Kb1(彼は 15.g4? Qg5! という変化しか示していない)』

15 大ぼら 070ページ
『15.Kb1?
 この激しい変化には、白が優位になる時間的余裕がない。』

「時間的余裕」とはどういうことか分からない。

英文『15.Kb1?
In this sharp variation, White has no time for such amenities.』

such(そのような)は悪手の 15.Kb1? のことを言っている。amenities は「感じのいい応接、礼儀正しい行為」という意味で、白キングをきちんともっと安全なb1の地点に移したことを言っている。

試訳「15.Kb1?
 この激しい戦法には、この手のように白キングの位置を直している余裕などない。」

16 4つのクイーン 076ページ
『19.axb4 Nc7
 黒はクイーン側を封鎖したい。白のbポーンは突破できない。』

白のbポーンは何を突破することができないのだろうか?

英文『19.axb4 Nc7
Black wants to secure a Q-side blockade. The b-Pawn won’t run away.』

run away は単に「逃げる」という意味である。黒がすぐに 19…Nxb4 と取らなくてもこのbポーンは前に進んでいって取られるのを避けることはできないということを言っている。

試訳「19.axb4 Nc7
 黒はクイーン側を封鎖したい。白のbポーンはしょせん逃げられない。」

2011年10月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(15)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

15 大ぼら 069ページ
『序盤変化で重要な13手目に、スミスロフは動かしそこねに見える手を指した。)』

スミスロフは何を「動かしそこね」たのだろうか?

英文『On move 13 of a crucial opening variation, Smyslov makes what appears to be a “lapsus manus.”』

lapsus manus とは a slip of hand のことである。たぶん将棋でいうところの「手拍子(読みの裏付けがないのに軽率に指し手を進めてしまうこと)」のことだろう。

試訳『序盤の重要な戦法の13手目でスミスロフは「手拍子」のような手を指した。』

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 085ページ
『5 Ne5 Nf6
 5…h5 6.Bc4 Rh7 7.d4 d6 8.Nd3 f3 9.gxf3 Be7 10.Be3 Bxh4+ 11.Kd2 Bg5 12.f4 Bh6 13.Nc3 だと、白がポーン損の十分な見返りを得る。時代遅れの分析だ。』

どの部分が「時代遅れの分析」なのだろうか? 5…h5 からの変化手順は別に間違っていないし、「白がポーン損の十分な見返りを得る」というのはフィッシャー自身の言葉か、少なくともフィッシャーも肯定している形勢判断である。本譜の手が 5…Nf6 なので 5…h5 が時代遅れだというなら「時代遅れの手だ」というのが正確な表現だろう。「時代遅れの手」や「時代遅れの手順」という表現はあるが「時代遅れの分析」という表現はなにかおかしい。

英文『5 Ne5 Nf6
On 5…h5 6.Bc4 Rh7 7.d4 d6 8.Nd3 f3 9.gxf3 Be7 10.Be3 Bxh4+ 11.Kd2 Bg5 12.f4 Bh6 13.Nc3 White has more than enough compensation for the Pawn. This is vintage analysis.』

vintage には「時代遅れの」という意味もあるが「古くて値打ちのある」という意味もある。例えば vintage cars(クラシックカー)というように使われる(「時代遅れの車」ではない)。

試訳「これは昔からの立派な分析だ。」「これは今でも通用する分析だ。」

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 085ページ
『18 Kh1?
 より正確には 18.Bxd6 Rf6 (18…Rg8 には 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 白の課題がほとんどなくなった。』

「ほとんどなくなった」と過去形なので本譜の 18.Kh1? のことを言っているように受け取れる(この訳書では大体において過去形は本譜の手に対して、現在形は変化の手に対してという使い分けになっている)。18.Bxd6 からの変化のことをいっているとしても白にどんな「課題」があったのか本文からは読み取れない。

英文『18 Kh1?
More accurate is 18.Bxd6 Rf6 (if 18…Rg8 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 with a little play left for White.』

英文は with があるので変化のことをいっていると分かる。本譜の方はこの悪手で白が指す手に困っているが、変化の方は白がまだ少し指す手があることを言っている。

試訳「18 Kh1?
 18.Bxd6 Rf6 (18…Rg8 には 19.Ne5!) 19.Be5 Nxe5 20.Nxe5 の方が正確で、白は少し指す余地が残っている。」

2011年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(16)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

01 少しだけ、遅すぎた 004ページ
『27. Be5+
 白は 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7 … でルーク対ビショップの二重交換得にできるが、この段階まで来るとさらなる大事件が起こりそうだと感じていた。』

この後どの手で「大事件」が起こったのだろうか?「さらなる」とあるからこれ以前にも大事件があったようだがどの手が大事件だったのだろうか?

英文『27.Be5+
White can pick off a couple of exchanges with 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7, etc. But by now I felt there was more in the offing.』

in the offing に「やがて起こりそうな」という意味があるから more を「大事件」と解釈したようである。もっと一般的には「近い未来に」という意味がある。more は「それ以上のもの・こと」という意味で、具体的には二重交換得以上の戦果が得られそうだということである。フィッシャーはそう感じたからこそ二重交換得を見送って 27.Be5+ と指したのである。

試訳『白は 27.Bh6+ Kg8 28.Bxf8 Qxf8 29.Bxb7 … でルーク対ビショップの二重交換得をもぎ取ることができるが、ここではもうそれ以上のものがこの先得られるのではないかと感じていた。』

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 086ページ
『欲張りな 12…h5 は気に留めなかった。13.Bg5 f6 14.Bc1 から Nf4 とされると、黒のキング側が台無しになる。』

英文『It doesn’t pay to be greedy with 12…h5. After 13.Bg5 f6 14.Bc1 followed by Nf4 Black’s K-side is all messed up.』

pay attention to なら確かに「気に留める」という意味だが、pay だけなら「割りに合う」という意味である。例えば It sometimes does not pay to be kind. は「親切は時に割に合わないことがある」という意味になる。それに主語が仮主語の It なので「ものやこと」のことである。「気に留める」の主語がもの/ことになることはない。

試訳「欲張って 12…h5 と指すのは割に合わない。13.Bg5 f6 14.Bc1 から Nf4 とされると黒のキング側がめちゃくちゃになる。」

18 故き定跡を温ねて新しき戦略を知る 086ページ
『17…Kh8
 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 そして 19.Nc5 には 19…Qf7 も可能(クモッホ)。』

「19…Qf7 も可能」とあるから黒の元々の19手目があるはずだが書かれていない。

英文『17…Kh8
Also good is 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 and if 19.Ne5 Qf7 (KMOCH)』

19.Ne5 とこられても 19…Qf7 で大丈夫といっているだけである。

試訳「17…Kh8
 17…Qd7 18.Bxd6 Rfe8 も良い手で、そこで 19.Nc5 なら 19…Qf7 (クモッホ)。」

2011年10月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(17)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

19 果てなき帰還 093ページ
『とりわけ良くないのは 25.Bxf5 R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4 Rg7 黒勝ち。』

普通は、ましなように見える手や強い抵抗に見える手を解説するものだが、「とりわけ良くない」手をわざわざとりあげて解説するものだろうか。

英文『No better is 25.Bxf5 R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4 Rg7 (among others) wins.』

当然ながら among others は遠く離れた No better でなく直前の Rg7 にかかっている。他にももっと強い手があるが(28…Re6 や28…Qe1+ 29.Kh5 Re6)、29…Rxh7+ を狙うこの手が分かり易くて十分だと言っている(29.Qf6 Qg3+ 30.Kh5 Qxh3+ 31.Qh4 Rxh7+)。among others には「(数ある中で)例えば」という意味もある。

試訳『25.Bxf5 も良くなくて 25… R1e2 26.Bxh7+ Kh8 27.Qf5 Rxg2+ 28.Kh4(例えば)28…Rg7 で黒勝ち。』

20 定跡の小競り合い 093ページ
『元世界チャンピオンのエーヴェ博士は、数十年にわたって定跡に関する世界的第一人者と見なされてきた。』

エーヴェ博士が第一人者なら旧ソ連のゲレル、ボレスラフスキー、ブロンシュテインらは第二人者だったのだろうか。

英文『Former World champion, Dr. Max Euwe had for decades been considered one of the world’s leading authorities on opening theory.』

one of だから第一人者の一人である。

試訳「元世界チャンピオンのエーヴェ博士は、数十年にわたって定跡に関する世界的権威の一人と見なされてきた。」

20 定跡の小競り合い 094ページ
『このちょっと気紛れっぽい手に、チェスマシンが手こずってくれるかもしれない。』

1960年にチェスマシンはまだなかったと思うが。

英文『It’s the little quirks like this that could make life difficult for a chess machine.』

machine には「機械的に働く人」という意味がある。定跡に精通したエーヴェのことを皮肉を込めて言っているのだろう。なお、ここの It’s … that … は強調構文である。

試訳「チェスを機械的に指す相手を手こずらせるかもしれないのはこのようなちょっとした気紛れである。」

2011年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(18)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

20 定跡の小競り合い 094ページ
『15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 も、圧迫されて黒が厳しい。』


こういう局面を黒が「圧迫されて」いるというのだろうか。

英文『Also difficult is 15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 with an enduring pull.』

pull はチェスでは「有利、優勢」という意味でよく with a pull という形で使われる。enduring は「永続的な」。

試訳『15…Qxb5 16.Rxb5 Kd6! 17.Rb7 f6 18.Ke2 Kc6 19.Rf7 a5 20.Be3 も黒が苦しくて、白の優勢がずっと続く。』

20 定跡の小競り合い 095ページ
『引っかかったら気を失うところだったろう。』

少し下の行で「私が少し考えて 34.Be5? と指すと」と、みごとに引っかかったことを書いている。

英文『- and almost fainted when I fell into it!』

if でなく when だから実際に引っかかった(fell into it)のである。

試訳「まんまと引っかかったときにはもう少しで失神しそうになった。」

21 キングよりクイーンをかわいがり 096ページ
『8.dxc5 Nc6
 「黒がせっせとピースを展開する間に、白は身につかない悪銭を集める夢を育んでいる」』

「悪銭身につかず」という格言ならあるが「身につかない悪銭を集める」とは具体的にどういうことをいっているのだろうか。

英文『Black rapidly develops his pieces while White nurtures his own dreams with ill-gotten gains.』

「小学館プログレッシブ英和中辞典」に「Ill-gotten goods never prosper. 悪銭身につかず」という用例が載っているのでそれを借用したようである。しかし英文は goods でなく gains で、しかも同辞典には「ill-gotten gains 不正利得」とちゃんと出ている。「不正利得」とは白のポーン得のことを指しているのだろう。

試訳「白が不正利得で夢を育んでいる間に、黒はすばやく駒を展開した。」

2011年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(19)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

21 キングよりクイーンをかわいがり 097ページ
『代わりに、白はポーンを返して(ラインを閉じたままにする)被害を最小限にする方法を目指すべきだった。』

「ポーンを返すことによりラインを閉じたままにする」のだろうか、それとも「ラインを閉じたままにすることによる被害を最小限にする」のだろうか。

英文『Instead he should be seeking to return the Pawn in the least damaging way (by keeping the lines closed).』

この英文からすると by keeping the lines closed は in the least damaging way を修飾している。

試訳『代わりに白は(筋を閉じたままにすることにより)被害を最小限にとどめてポーンを返すことを目指すべきだった。』

22 誤った判断 100ページ
『13.f4?
 白のe3とe4を弱めるこの疑問手は、うれしい誤算だった。』

「?!」でなく「?」が付いているので「疑問手」でなく「悪手」である。

英文『13.f4?
This lemon, weakning White’s e3 and c4, came as a pleasant surprise.』

lemon は「不良品、つまらない物」という意味である。surprise には「思いがけない贈物」という意味がある。

試訳「白のe3とe4を弱めるこのへぼ手は思わぬ贈物だった。」

24 自業自得 107ページ
『こうなると、ヴィナベル変化が盤石だと認めるしかないようだが、まだ疑惑はある!』

英文『I may yet be forced to admit that the Winawer is sound. But I doubt it!』

yet には「いつかは」という意味がある。

試訳「いつかはヴィナベル戦法が本手だと認めさせられるのかもしれない。しかし私はこの戦法を信用していない。」

2011年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(20)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 107ページ
『斬新なのは 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6。』

英文『More radical is 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6.』

英和大辞典でも radical に「斬新」という意味は載っていない。普通は「過激な」という意味である。9.Bb5+ は 9…Bd7 と受けさせて黒の意図していた …Ba6 という手をなくさせようという意味である。だから黒がどうしても …Ba6 と指すつもりならキャッスリングの権利を放棄してでも(過激!) 9…Kf8 と指すことになる。

試訳『初志貫徹するなら 9…Kf8!? 10.Bd3 Ba6。』

24 自業自得 108ページ
『黒には多様な防御法があるようだ。』

こういう表現だと受かる手がいろいろあるように感じられるが、実際はどの変化も黒が悪い。

英文『Black has a seeming multiplicity of defenses:』

seeming がついているので一見いろいろな受けがありそうだけど実際は受からないと言っている。ピリオドでなくコロンがついているのもそういう意味合いである。

試訳「黒には大丈夫そうな受けが一見いろいろありそうだが・・・」

24 自業自得 108ページ
『16…Nc6 17.Ng5 ここで黒のキングが九死に一生を得るのは難しい。』

英文『16…Nc6 17.Ng5 and it’s difficult for Black’s King to escape the crisscross;』


crisscross は「十文字」という意味である。Ba3 がいるのでキング翼にはキャッスリングできないし、クイーン翼にキャッスリングすると Nf7 でルークの両当たりになる(17…h6 は 18.Nxe6 Bxe6 19.Bf4 +-)。「十文字」のような攻撃を受けているが安全な所に退避できないことを言っていると思われる(「X字」攻撃と言った方が適切かもしれない)。この局面でチェスソフトの評価は白が「少し優勢/優勢」で、「九死に一生を得るのは難しい」というほど絶望的ではない。

試訳「16…Nc6 17.Ng5 ここで黒のキングが挟撃攻撃を逃れるのは難しい。」

2011年11月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(21)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

24 自業自得 108ページ
『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧制が続く。』

「圧制」とは「権力・武力などによって人の言動を押さえつけること」である。

英文『Or on 17…Nf4 18.Bg4 continues the pressure.』

試訳『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧迫が続く。』『17…Nf4 には 18.Bg4 で白の圧力が続く。』

25 マローツィが抑え込みにならない場合 110ページ
『しかし、事態の急転にやや意気消沈し、自縛的で独特の陣形に陥る。』

中盤戦では陣形が崩し崩されるので、いまさら陣形を云々するようなことはない。

英文『But somewhat discouraged by the rapid turn of events, he indulges in a unique form of self-immolation.』

a form of は「の一形態」、unique は「類のない、きわめてまれな」、self-immolation は「自己犠牲、自己否定」という意味である。

試訳「しかし、事態の急転にやや意気消沈し、類のない自分で自分を犠牲にするようなことにふける。」

26 時間がものを言う 114ページ
『マッチの第11局では、私は以下のもっと昔からある手順で優位に立った。』

ここでの第2局(偶数局)でフィッシャーが白番なのだから、第11局(奇数局)でフィッシャーが白番であるはずがない。

英文『In match game 8 I got an edge with the more traditional …』

新しい代数式の本ではこのように書かれているが古い記述式の本では確かに「In match game 11 …」と書かれている。新しい本では明らかな間違いは修正されているようである。ちなみに私の持っている古い方の本には「11」はおかしいと自分で書き込んでいた。

試訳「番勝負の第8局では、私は以下のもっと従来から指されている手順で優位に立った。」

26 時間がものを言う 114ページ
『このマッチの第4、6局では、以下のように続けた。・・・ここで白が 10.Qh4、10.Qd1 のどちらでも明らかに有利。』

英文『In the 4th and 6th games of the match I continued with … and White got a clear advantage both with 10.Qh4 and 10.Qd1 respectively.』

respectively(それぞれ)と過去形の got があるのでフィッシャーは実際にこの手を指している。

『・・・ここでそれぞれ 10.Qd1、10.Qh4 と指しどちらも明らかに白が優勢になった。』

2011年11月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(22)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

26 時間がものを言う 117ページ
『しかし、26…f5! なら単純に持ちこたえられる(27.Qh2 Kg8)。』

英文『But simply 26…f5! holds (if 27.Qh2 Kg8).』

試訳『しかし単に 26…f5! で持ちこたえられる(27.Qh2 なら 27…Kg8)』

26 時間がものを言う 117ページ
『晩年のエイブ・ターナーが』

英文『The late Abe Turner』

試訳「故エイブ・ターナーが」

27 進路を外した花火ショー 119ページ
『(良くないのは 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5)。(ボトヴィニク対アリョーヒン、AVRO 1938)』

英文『(weaker is 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5 Botvinnik – Alekhine, AVRO 1938).』

試訳「(良くないのは 10…b6 11.Nxd5 exd5 12.Bb5 ボトヴィニク対アリョーヒン、AVRO 1938年)。」

27 進路を外した花火ショー 119ページ
『白のほうが動きやすくて攻撃の見込みがあるが、孤立したdポーンの欠点は最小限に抑えねばならない。』

英文『White has the freer game and attacking prospects, but the drawback of his isolated d-Pawn should not be minimized.』

minimized 「最小限に抑えられる」の前に否定の not がある。

『白のほうが動きやすくて攻撃の見込みがあるが、孤立したdポーンの欠点は軽視すべきでない。』

2011年11月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(23)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

29 自爆 130ページ
『新たに用意された変化へと導くこの作戦を妨げるために』

英文『To thwart this maneuver, part of a patently prepared variation』

patently は「明白に」という意味。a patently prepared variation「明白に用意された変化」とは「(対局中でなく)明らかに事前に研究しておいた変化」という意味になる。

試訳『明らかに研究済みの変化の一部をなすこの捌きを妨げるために』

30 情熱のパフォーマンス 134ページ
『黒のキング側での攻撃のために、白が実戦的にメイトを避けられなくなってきたからだ!』

英文『Black’s K-side attack has practically been worked out to a forced mate!』

大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」によると practically は用いられる位置により意味が変わる。
1.[動詞より後で]実際的に Try to view your situation practically.
2.[文修飾]事実上、実際には Practically, the task is more difficult than you think.
3.[修飾する語の前で]ほとんど She had practically finished her meal when I arrived.
ここでは「ほとんど」の意味である。

試訳「黒のキング翼攻撃はほとんど一本道の詰みまで研究されるようになってきた!」

30 情熱のパフォーマンス 136ページ
『・・・から d6 で白に圧倒される。』

英文『… followed by d6 with tons of play.』

tons of は「たくさんの」、play は「指し手」という意味。

試訳「・・・から d6 で、指す余地がまだまだ山ほどある。」

2011年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(24)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

32 事実上の優勝者 141ページ
『・・・、ほぼ申し分のない結末を迎えた。』

試合に勝ったのだから「ほぼ」でなく「まったく申し分のない結末」ではないだろうか。

英文『…, but the outcome is never really in doubt.』

試訳『結果が怪しくなることは一度もなかった。』

32 事実上の優勝者 141ページ
『結局、タリは俺<の重力圏>から脱出できなかった!』

英文『Finally, he has not escaped me!』

試訳「結局タリは私から逃れられなかった!」

32 事実上の優勝者 143ページ
『しかし、最高レベルのチェスでは、有利になるための手段は問わない。』

英文『In top-flight chess, you have to drive your advantage home unmercifully.』

「手段は問わない」どころか unmercifully(無慈悲)に指さなければならないと言っている。

試訳「最高レベルのチェスでは、無慈悲に優勢を拡大しなければならない。」

2011年12月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(25)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

33 ドロー・マスター 145ページ
『堪え忍ぶ中盤戦の道連れに』

英文『for the duration of the mid-game』

for the duration は「非常に長い間(にわたって)」という意味。duration(期間)を endure(耐える)と同じだと思っているようである。

試訳『中盤戦の間ずっと』

33 ドロー・マスター 145ページ
『トリフノヴィッチは、互角にする作戦を念頭に置く必要があった。純粋に危険な変化など、めったに選ばないからだ。』

英文『But Trifunovich must have had some equalizing idea in mind, since he rarely chooses a genuinely risky line.』

試訳「トリフノヴィッチが危険な戦型を採用するのはまれなので何か互角にする着想を用意していたに違いない。」

33 ドロー・マスター 145ページ
『試して実証済みの 7…d5 を指すべきだった。』

トリフノヴィッチが既に 7…d5 を試して実証済みだったのだろうか?

英文『The tried and tested 7…d5 must be played.』

tried and tested は「十分に確立された」という意味。

試訳「実績のある 7…d5 を指すべきだった。」

2011年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(26)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

33 ドロー・マスター 146ページ
『戦略的には白の勝ちだが、細々とした問題がかなり残っている。』

英文『White has a strategically won game, but the technical problems are considerable.』

technical は「細々とした」という意味にはなりそうもない。

試訳『戦略的には白の勝ちだが、技術的な問題がかなり残っている。』

36 譲り合い 162ページ
『43.Rxe5! Ne4+(黒にこれ以上の手が見つからないのが興味深い。43…Ng4+』

英文『43.Rxe5! Ne4+(it’s fascinating that Black has no better discovery; if 43…Ng4+』

discovery は discovered check のことである。

試訳「43.Rxe5! Ne4+(黒にこれより良い開きチェックがないのは白にとって幸いである。43…Ng4+」

37 ドローにしか 163ページ
『控えめな 6…e5』

英文『The sober 6…e5』

試訳「冷静な 6…e5」

2011年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(27)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

37 ドローにしか 163ページ
『5.O-O
 無難だ。5.c3 Nc6 6.d4 で強い中央を築くのが正しい。』

「無難」とは「特にすぐれてもいないが欠点もないこと。また、間違いのないこと」という意味で、例えば「無難な出来」、「無難にやり終えた」というように使われる。だから 5.O-O は問題のない手のはずだが、それに対してなぜ 5.c3 の方が正しいと言うのだろうか。

英文『5.O-O
Harmless. Correct is 5.c3 Nc6 6.d4 with a powerful center.』

試訳『5.O-O
 当たり障りのない手。正着は 5.c3 Nc6 6.d4 で、中央が強力になる。』

37 ドローにしか 163ページ
『白は、d4 マスへ対抗するには再編成しなければならなくなった。』

英文『Now White has to regroup in order to get in d4.』

get in は他動詞で、get in d4 で「d4 と突く」ことである。5.O-O のせいで 6.c3 と突くのが1手遅れたために黒に 6…e5! と突かれたのですぐに d4 と突くことができず、d3 のあと Be3 と出してから d4 と突かなければならなくなっている。そのことを regroup と言っている。

試訳「白は d4 と突くためには陣容を再編成しなければならなくなっている。」

37 ドローにしか 164ページ
『疑問手だが、白はすでに互角を目指さなければならない状況にある。』

「疑問手」を指して互角を目指せるのだろうか?

英文『A lemon, but already White must fight for equality.』

ここでの A lemon は「欠陥品」というような意味である。本当は 7.d3 の意志をついで 8.Be3 から 9.d4 と指したいのだが変化に書かれているようにうまくいかないので泣く泣く 8.a3 と指したということである。

試訳「不本意だが、白はすでに互角を目指さなければならない状況にある。」

2012年01月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(28)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

38 推理小説 171ページ
『初期の攻撃的だった頃から、ケレスは戦略的かつ受けの棋風に切り替えてきた。それにしても、この局面は度が過ぎるというものだ。』

ケレスはここまで特に受け過ぎの手を指してきたわけではない。

英文『…But this type of position is too much even for him.』

いくら彼でも(even for him)荷が重い、手に負えないと言っている。

試訳『・・・それにしても、この局面はいくら彼でも受け切るのは大変である。』

38 推理小説 172ページ
『このナイトを隊形へ参加させる試み。』

英文『An attempt to bring this Knight toward the embattled sector.』

embattled には「戦闘隊形をとった」という意味のほかに「要塞化した」という意味もある。

試訳「黒はこのナイトを要塞化した方面に参戦させようとした。」

39 対決 175ページ
『緊張のあまり、彼のいまだ屈強な陣形が衰退し始める。』

緊張すると陣形が衰退するものだろうか?ボトビニクのような百戦錬磨の世界チャンピオンでもフィッシャーのような若造相手にそんなことになるのだろうか?

英文『Nervously, he proceeds to run his still tenable position downhill.』

ここでの run は他動詞で「・・・を(ある状態に)追いやる」という意味である。position が「・・・を」、downhill が「ある状態に」に対応する。

試訳「いらいらした彼はまだ防御可能な局面を悪化させていく。」

2012年01月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(29)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

39 対決 177ページ
『ここまでは、分析を覚えているだけでよかったが、』

英文『Up to here I had only had to remember my analysis,』

試訳『ここまでは分析を思い出すだけでよかったが、』

39 対決 182ページ
『この封じ手は読みを誤っている。』

英文『This is a mistake in analysis.』

試訳「この手は分析の誤りである。」

39 対決 182ページ
『59…Qe5! の方が狡猾。』

英文『59…Qe5! seems to do the trick:』

do the trick で「目的を達する、うまくいく」という意味。このあと「68.Ra5 seems to hold here」というフィッシャーの解説が現れるので、ここで 59…Qe5! という手が意味を持っている。

試訳「59…Qe5! が良い手のようである。」

2012年01月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(30)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

39 対決 183ページ
『その後も、ボトビニクは以下のように分析を修正し続けたが、不十分だ。』

英文『Botvinnik then went on to give a corrected analysis which, as we shall see, also falls short.』

go on to do は「続いて次に(・・・)する」という意味である。例えば He started as a clerk and went on to be a movie star. は「彼は事務員から始めて映画スターにまで登りつめた」という意味になる(「映画スターを続けた」のではない)。念のため書くと go on doing なら「・・・し続ける」という意味である。例えば He went on working till late at night. は「彼は夜遅くまで仕事を続けた」という意味である(He went on to work … だと「他のことをしていたが、次に仕事に取りかかった」の意味)。give a corrected analysis は動詞に give を使った英語特有の表現で、「修正された分析を示す」という意味である。
51…b5? の解説の文章は1ページ半にわたる長さであるがきちんと読めばストーリーがあることが分かる。まず、2番目の段落でボトビニクは「黒の最善の変化 51…Kd4! に対してもドローにできると最終的には結論した。」と言っておいて長い変化の終わりでその結論に反して「黒勝ち」と言っている。次の短い段落で「私は間違っていたのか?」と嘆いてみせている。そして次の段落で本命の修正された分析を示してやはりドローになると言っている。

試訳『ボトビニクは続いて修正版の分析を示したが、このあと分かるようにやはり不十分である。』

39 対決 183ページ
『ここでボトビニクと先を急いでも、次の局面図に至るだけだ。』

先を急いでも急がなくても次の局面図に至るが、何を言っているのだろうか?

英文『Here I break camp with Botvinnik, only to meet at the next diagram.』

break camp は「キャンプをたたむ」、with Botvinnik が加わって「ボトビニクと(一緒)のキャンプ(共同の分析)をたたむ」、そしてそれぞれの道(分析)を行っても、同じ所(次の局面図)で落ち合うことになるだけである。
ここまではボトビニクの解説にフィッシャー自身の解説をさしはさむときは[]でくくって示していたが、このあとはフィッシャーの解説だけなので必要なくなる。

試訳「ここでボトビニクの分析とは別れる。それでも次の局面図でまた出会うことになるだけである。」

39 対決 183ページ
『彼は 56…Kb4 が白にすぐドローにされることを示した。』

ボトビニクの分析とは別れたのだからドローにされる手順はフィッシャーの分析のはずである。

英文『He gives 56…Kb4 overlooking that White can obtain an immediate draw with 57.Rg7! ・・・』

overlooking の主語は He すなわちボトビニクである。だからボトビニクはドローにされる手順を示していない。

試訳「ボトビニクは 56…Kb4 を示したが白が 57.Rg7! ・・・ですぐにドローにできることを見落としていた。」

2012年01月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(31)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

39 対決 183ページ
『しかし、この不毛の荒野では、黒が回り道で勝利をもぎ取れるとするのが適切だ。』

「回り道」があるなら「本道」があるはずだが、その文章や手順はどこに書いてあるのだろうか?

英文『However, it is precisely here, in this barren wilderness, that Black can wend his way to a win.』

wend one’s way to … は「・・・へ向かう」という意味。ちなみに The American Heritage Dictionary によると wend の意味は To proceed on or along (one’s way) と出ている。proceed は「(特に停止した状態から)進みだす」という意味。

試訳『しかし黒が勝利に向かって踏み出せるのはまさに不毛の荒野のここである。』

40 ザ・ナイドルフ変化 186ページ
『序盤戦術の遅れを取りもどすにはおそすぎた。』

英文『it is too late to compensate for his earlier dilatory tactics.』

dilatory tactics は「引き延ばし戦術」という意味。7.Nd5 に対してすぐに 7…Nxe4! と取らずに3手後に不都合な状況になってから 10…Bxe4 と取ったことを言っている。

試訳「以前の引き延ばし戦術を埋め合わせるには遅すぎた。」

44 ショック療法 202ページ
『エバンズ大佐』

エバンズギャンビットの創始者のエバンズは14歳で船乗りになりのちに船長になった。

英文『Captain Evans』

試訳「エバンズ船長」

2012年01月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(32)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

45 過去の亡霊 205ページ
『5…Nxd5 は実戦から姿を消した。』

英文『5…Nxd5 is practically extinct.』

大修館書店の「ジーニアス英和大辞典」によると
1.[動詞より後で]実際的に Try to view your situation practically. 実際的観点から自分の立場を見るようにしなさい。
2.[文修飾]実際には Practically, the task is more difficult than you think. 実際問題として、その仕事は君の考える以上に困難だ。
3.[修飾する語の前で]ほとんど He was practically self-educated. 彼はほとんど独学だった。
「実戦から」なら 5…Nxd5 is extinct in practice. となるはず。

試訳『5…Nxd5 はほぼ姿を消した。』

46 楽勝 211ページ
『あと十数手で白が勝った。』

ちょうど10手後の32手目で白の勝ちになっている。

英文『White won in ten more moves.』

例えば I need two more years. という英文なら「もう2年必要だ」という訳になる。

試訳「あと10手で白が勝った。」

47 ジンクス? 216ページ
『手損ゆえに良くない。』

英文『time-consuming and hence weaker.』

試訳「手数がかかるので緩手である。」

2012年02月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(33)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

48 名局賞 219ページ
『・・・編集者K.F.カービーは、チェス界の特ダネや称賛記事を総括してこう書いている。』

小学館の「現代国語例解辞典」によると「特ダネ」は「新聞などの記事で、その社だけが入手した特別の情報。スクープ」という意味である。公開で行なわれるチェスの大会・試合の何が「特別の情報」だったのだろうか?

英文『K.F.Kirby summed up the astonishment and admiration of the chess world when he wrote:』

試訳『・・・編集者K.F.カービーは、チェス界の驚愕と称賛を総括してこう書いている。』

51 搾取 230ページ
『続くクイーン交換後には、白の勝勢を過小評価したらしく、』

クイーン交換は16手目で試合が終わったのは43手目である。「勝勢」とは大差の優勢なのでこんなに長くかかるはずがない。「26.b4!」に「しかし、白の勝ちは全然たやすくはないし、黒は後に防御を改善できたかもしれない」という解説があるように白が優勢だとしてもその差はほんのわずかである。他にもこのことを示唆する解説がいくつかある。

英文『After the subsequent exchange of Queens he apparently underestimates White’s winning chances』

winning chances は単に「勝つ可能性」という意味である。

試訳「続くクイーン交換後には、白の勝つ可能性を過小評価したらしく、」

52 いないいないばあ戦略 238ページ
『他の手は信頼できない!』

32.Rdd3 または 32.Rgd3 なら 32…Ne3+ からh4の白クイーンを素抜かれ、32.Kg2 なら 32…Ne3+ 33.Kh3 Qxh4+ 34.Kxh4 Nxf5+ 35.Kh4 Nxg3 で、「信頼できない」どころか脳天まっ逆さまの大逆転である。

英文『No credit for other moves!』

credit には「(大学の)単位(認定)」という意味があり、She needs ten more credits for graduate.(彼女は卒業するのにもう10単位必要だ)のように使われる(「卒業するのに信頼が必要だ」ではない)。これから転じて no credit は「無得点」というような意味で使われる。米国チェス連盟の機関紙「Chess Life」に Bruce Pandolfini の「Solitaire Chess」という棋力診断の連載があり、そこでよくこの credit が使われている。

試訳「他の手は不合格である!」

2012年02月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(34)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

53 黒魔術 241ページ
『12.Ba3
12.Bd3 f5 13.Qe2 Nc6 … では、白が劣勢になる。12.Ba3 は、まだ分別がある手だ。』

英文『12.Ba3
White gets the worst of it after 12.Bd3 f5 13.Qe2 Nc6, etc. Still, this was a prudent choice.』

Still は副詞だが、文頭で接続詞的に使われるときは「それでも」の意味になる。this は近い方を指す。遠い 12.Ba3 の方を指すなら that が使われる。

試訳『・・・それでも 12.Bd3 はまだ分別がある手だった。』

53 黒魔術 243ページ
『ささいな狙いがいくつかあるが、大きな狙いが見つからない。』

英文『He has some minor threats, and a major one which cannot be met.』

and の直後には He has が省略されている。それを補うとこういう文になる。He has a major one which cannot be met. この訳は直訳すると「彼は見つからない大きな狙いを持っている」と解釈していることになる。meet(met はその過去分詞)はここでは「応じる」という意味である。

試訳「黒にはささいな狙いがいくつかと受からない大きな狙いが一つある。」

54 ナイドルフを離れたナイドルフの闇 244ページ
『フィッシャーは抑圧の中でわずかな優位を求め続け、』

英文『Fischer proceeds to exploit his slight advantage with restraint,』

「抑圧の中で」なら under restraint となるはず。

試訳「フィッシャーは自制してわずかな優位を求め続け、」

2012年02月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(35)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 253ページ
『(両局で、いままで疑われていた白の可能性を実証した)』

英文『(demonstrating in each case White’s hitherto unsuspected potential)』

suspected なら「疑われていた」だが unsuspected は「思いもよらない」という意味である。例えば a person of unsuspected talents(思いもよらぬ才能の持ち主)というように使われる。

試訳『(両局で、いままで思いがけなかった白の可能性を実証した)』

56 フィッシャー変化 253ページ
『白がねばり強く主導権を維持する。』

英文『White maintains an enduring initiative,』

ここでの enduring は「永続的な」という意味である。原訳を「白の維持する主導権はねばり強い」と言い換えてみればそのおかしさが分かる。

試訳「白が永続的な主導権を維持する。」

56 フィッシャー変化 254ページ
『バレエダンサーのハルモニストは・・・趣味の良さを示したが』

英文『The ballet dancer Harmonist showed good sense …』

試訳「バレエダンサーのハルモニストは・・・感覚の良さを示したが」「バレエダンサーのハルモニストは・・・センスの良さを示したが」

2012年02月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(36)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 254ページ
『白は a3 そして Rfb1、b4 からクイーン側を突破できるかもしれないが、黒にもそれを阻止する可能性がある。』

英文『White has possibilities of breaking on the Q-side after a3 followed by Rfb1 and b4, but Black can probably prevent this expansion.』

has possibilities は「可能性がある」ことで、can は「できる」である。probably については次の本(現在は第2版が出ている)に面白い説明がある。

「科学英語のセンスを磨く」鈴木英次著、化学同人発行、1999年第1版

J.B.C と J.O.C はそれぞれアメリカ化学会発行の「Journal of Biological Chemistry(1994年)」と「Journal of Organic Chemistry(1987年)」の略記。

試訳『白は a3 のあと Rfb1 から b4 でクイーン側を突破してくる可能性があるが、黒はそれを阻止することができるはずである。』

56 フィッシャー変化 256ページ
『黒は終盤戦で踏ん張るべきだったが、』

英文『Black should hold the ending,』

「べきだった(のにそうしなかった)」なら should have となる。ここでの should は「((当然))・・・べきである」でなく「((期待・可能性))・・・のはずである、きっと・・・だろう」の意味。should についても上記本に次のような説明がある。

試訳「黒は終盤で守りきれるはずだが、」

56 フィッシャー変化 257ページ
『争点となる変化』

英文『The critical line』

試訳「重要な変化」

2012年03月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(37)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

56 フィッシャー変化 258ページ
『22.gxh3 e4
決してあきらめない!』

英文『22.gxh3 e4
Never say die!』

これより前の方に「18…Bxh3 自暴自棄!」「19…Nxe5 完全なる自暴自棄!!」とあるからグリゴリッチは完全にあきらめている。フィッシャーはグリゴリッチが投了しないのを皮肉っているのであろう。

試訳『22.gxh3 e4
あきらめが悪い!/往生際が悪い!』

56 フィッシャー変化 258ページ
『25.Qc2
地固めするタイミングだった。25.Qa6 でもはめ手になる。』

「でも」とあるからには 25.Qc2 も 25.Qc2 もはめ手のようだが、相手をどのようにはめようとしたのだろうか。そもそも 25.Qc2 は「地固め」の手のようだが。

英文『25.Qc2
Time to consolidate. 25.Qa6 also does the trick.』

do the trick は「目的を達する、うまくいく」という意味である。例えば Another turn of the pliers should do the trick. は「もう一度ペンチを回せばうまくいくはずだ」という意味になる。

試訳「25.Qc2
自陣を引き締める頃合である。25.Qa6 でもよい。」

56 フィッシャー変化 258ページ
『あるハバナの新聞によると、よくわかっていない観衆の中には、白がルークの代わりに2つのマイナーピースを得ただけではないかと思った者もいたらしい。誰も、グリゴリッチが2ピース損で指していたとは思っていなかったのかもしれない!彼は、突然不快な現実に目を覚まされた・・・。
1-0』

英文『According to a Havana newspaper, some casual spectators who had just wandered in thought White had merely won two pieces for Rook. Nobody could believe that Gligoric was playing on two pieces behind! The rude awakening came when …
25… Black resigns』

この段落は観衆の反応について書かれている。グリゴリッチが2ナイト損に気づいていないはずはない。だから rude awakening は観衆のはずである。

試訳「・・・彼らは突然事実に気づいて愕然とした!」

2012年03月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(38)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

57 気分転換 263ページ
『39.g4?
あり得ないポカ。』

何があり得ないのだろうか。

英文『39.g4?
The last blunder.』

辞書によると last には「最も・・・しそうにない」という意味がある(He is the last person to betray others. とても人を裏切るような人物ではない)。しかしここでは当てはまらない。

試訳『39.g4?
最後のポカ。』

58 不完全な名局 265ページ
『フィッシャーはうまく指して優勢な局面にしたが、実戦で正着を見つけるのはひじょうに難しい。・・・ミスが出た。・・・彼は序盤早々から勝ちを求めずに、手堅い戦略合戦に持ち込むべきだった。』

英文『Fischer played better and attained a superior position, but it was very difficult to find the right solution over-the-board… There was his mistake… He has to impose a hard positional game, playing without pretensions for a win in the very opening.』

最後の文を playing without a win in the very opening と解釈したようである。without pretensions で「もったいぶらないで」という意味である。この部分をはずすと playing for a win in the very opening「序盤早々から勝ちを求めて指す」という構文になる。There was his mistake は There is/are XX「XX がある/いる」という構文ではない。この構文の XX には定冠詞や所有代名詞のついた名詞は置けない。His mistake was there が強調のために倒置形になっているだけである。

試訳「フィッシャーはうまく指して優勢な局面にしたが、実戦で正着を見つけるのはひじょうに難しい。・・・そこに彼の誤りがあった。・・・もったいぶらずに序盤早々から勝ちを求めて指しながら、手堅い戦略合戦に持ち込むべきだった。」

58 不完全な名局 269ページ
『24.cxb3 には 24…Nxf6! がとどめとなる。強豪はそれだけでは不十分だと、タラッシュ博士は言った。戦うのも強くなければ。』

「それだけでは」とは具体的に何を指しているのだろうか。「24…Nxf6! がとどめとなる」だけでは不十分だというのだろうか。

英文『After 24.cxb3 Nxf6! is the quietus. It is not enough to be a good player, observed Dr Tarrasch; you must also play well.』

It は仮主語だから「それ」と訳すのは間違いである。真の主語は to be a good player である。

試訳「24.cxb3 には 24…Nxf6! がとどめとなる。うまい選手であるだけでは不十分だと、タラッシュ博士は言った。指すのもうまくなければならない。」

2012年03月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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名著の残念訳(39)

「ボビー・フィッシャー 魂の60局」

59 誤ったビショップ 271ページ
『ここで、黒にはルークを捨てて2つのマイナーピースを取る狙いがある。結局はポーン1つしか取れないが(それが黒の致命傷となる)。』

このあとの 14…Qxb4 で確かにポーンを1個取っている。それが何で勝った黒(フィッシャー)の致命傷なのだろうか。

英文『Black now has a shot which wins two pieces for a Rook; or, as it turns out, a lowly Pawn (which proves fatal).』

黒の「ルークを捨てて2つのマイナーピースを取る狙い」は 13.b4 の解説にあるように 12…Re6! 13.Ng5 Rxd6 14.Qxd6 Qxc3 という変化のことである。「ポーン1つしか取れない」のは本譜(実戦)の 12…Re6! 13.b4 Qa3! 14.Bc7 Qxb4 という手順である。この手順で黒が勝っている。だから黒の1ポーン得でも白にとって致命傷だったということである。

試訳『ここで、黒にはルークを捨てて2つのマイナーピースを取る狙いがある。結局はポーン1つしか取れないが(それが白の致命傷となる)。』

59 誤ったビショップ 272ページ
『私は、彼が再び見に来ても無視した。』

英文『I never noticed him looking at the game again.』

「無視した」とはどこにも書かれていない。

試訳「彼が再び見に来た気配はなかった。」

59 誤ったビショップ 272ページ
『ここからも退屈しない。』

英文『No rest for the weary.』

大修館書店「ジーニアス英和大辞典」の rest に次のような例文がある。There’s no rest of the weary. 疲れ果てていても働かなければならない。

試訳「このビショップは休めない。」

60 チャンピオンが相まみえて 280ページ
『56.f6 1-0
56…Rf4 には 57.Nd5 で決まり。不屈の闘志!』

「不屈の闘志」とは不利な側の頑張りに対する言葉であろう。

英文『56.f6 Black resings
On 56…Rf4 57.Nd5 wins the house. A stubborn fight!』

試訳「56.f6 1-0
56…Rf4 には 57.Nd5 で決まり。激闘だった!」

2012年03月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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