布局の探求2の記事一覧

布局の探究(101)

「Chess Life」1994年9月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

勇者か弱虫か

フランス防御交換戦法

 そのものずばりのフランス防御交換戦法は 1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 から生じる。

 この戦法の人気と敬意は過去1世紀半に渡って大きく変動してきた。これがフランス防御に対するポール・モーフィーの手法で、「迅速展開の伝道者」の棋風に絶妙に合っていた。ビルヘルム・シュタイニッツによって創始された防御法の向上の到来により、すぐにこの戦法は安全に引き分けるのに良いだけの張子の虎になった。この「評判」はゆうに100年以上続いた。最近になってこの交換戦法は世界チャンピオンのガリー・カスパロフが1991年ティルブルフでこれを用いて好成績をあげたことに助けられて真の復活を果たした。

 私の二つの全般的な結論/推奨は以下のとおりである。

Ⅰ.確実に引き分けるために交換戦法を指してはいけない

 展開の容易さとポーン陣形の健全さの両面で黒陣は欠陥がないので、白によるどんなひより見主義的指し方も簡単に黒の主導権に結びつくことがある。このことを以下の2例でお目にかけたい。一つは「遠い昔」からで、もう一つはごく最近からである。

 1.私は1950年代初めにニューヨーク市の高校の中で最強の選手だった。そして 1.e4 に対する唯一の防御はフランス防御だった。だから私の対戦相手の多くが交換戦法を採用したが、彼らは一度も得点をあげたことがなかった。典型的な例が次の試合である。

フランス防御交換戦法 [C01]
白 S.ダニエルズ
黒 E.メドニス
ニューヨーク市高校選手権戦、1954年

1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Bd6 5.Bd3 Ne7 6.Be3 Nbc6 7.Nc3 Bg4 8.h3 Bh5 9.g4 Bg6 10.Bxg6 hxg6 11.Qd2 Qd7 12.Bf4 f6 13.Bxd6 Qxd6 14.Nb5 Qd7 15.Qf4 O-O-O 16.O-O-O g5 17.Qd2 Ng6 18.Qc3 a6 19.Na3 Nf4 20.Rhe1 Rxh3 21.Nb1 Qxg4 白投了

 2.1990年マニラ・インターゾーナル最終戦での大一番はM.グレビッチ対N.ショート戦だった。GMグレビッチは挑戦者決定大会に進出するためには引き分けるだけでよかった。一方GMショートは勝たなければならなかった。

1.d4 e6 2.e4(GMグレビッチは一貫してdポーン選手だったけれども、交換戦法の不誠実な神は彼に常用布局を替えさせた)2…d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Bg4 5.h3 Bh5 6.Be2 Bd6 7.Ne5?! Bxe2 8.Qxe2 Ne7 9.O-O O-O 10.Bf4 Re8 11.Qg4 Bxe5!(不均衡な局面にし、優良ナイト対不良ビショップの対峙を目指す戦略の基礎を築く)12.Bxe5 Ng6 13.Bg3 Nd7 14.Nd2 Nf6 15.Qf3 c6 16.Qb3 Qb6!(自分のナイトが白のビショップに優ることに信頼をおき続ける)17.Qxb6 axb6 18.a3 Ne4 19.Nxe4 Rxe4 20.Rfd1 b5 21.Kf1 f6 22.f3 Re6 23.Re1 Kf7 24.Rxe6 Kxe6 25.Re1+ Kf7

26.Ke2(GMショートは 26.Bf2! h5 27.g4 Nf4 28.Be3! が引き分けを手に入れるためのより効果的な陣形だと指摘した)26…h5! 27.Kd3 h4 28.Bh2 Ne7 29.Bf4 Nf5 30.Bd2 b6 31.Re2 c5 32.Be3 b4! 33.axb4 c4+ 34.Kc3 Nd6 35.Re1 Ra4 36.Kd2?(36.Rb1! と指す必要がある – ショート)36…Rxb4 37.Ra1? Rxb2 38.Ra7+ Ke6 39.Rxg7 b5 40.Bf2 b4 41.Kc1 c3 42.Bxh4 Nf5 白投了

******************************

2014年05月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(102)

「Chess Life」1994年9月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

勇者か弱虫か(続き)

Ⅱ.もし簡明でほとんど対称的な局面における積極的な指し方の構想が気に入っているならば、勝ちにいくための実行可能な手段として交換戦法を考えるとよい

 白の指し方には二通りある。1.4.c4 でd5に圧力をかけることと2.迅速に展開することである。最近交換戦法が見直されてきているのでこれを強調しておくことは大切である。

  A.1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.c4 Nf6 5.Nc3 c6

 1.当たりのd5の地点を過剰に守っておくことは理にかなっている。そして2.この局面はスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 e5 4.e3 exd4 5.exd4 Nf6 からも生じることがある(そしてよく起こる!)。ほかの手を指した実戦例は

 a.5…Be7 6.Bd3 dxc4 7.Bxc4 O-O 8.Nge2 Nbd7 9.O-O Nb6 10.Bb3 c6 11.Re1 Bf5?!(このビショップはすぐにg6でむき出しになる羽目に陥る。11…Nbd5 から 12…Be6 なら普通で、白陣の方が少し広い)12.Ng3 Bg6 13.f4! Bd6 14.Rf1! Qc7 15.Kh1 h6 16.f5 白に強い主導権がある。(P.ウォルフ対A.ドレエフ、ビール・インターゾーナル、1993年)

 b.5…Bb4 6.Bd3 c5 7.Nge2 Nc6 8.cxd5 Nxd5 9.dxc5 Bg4?(紛れさせようとするのは自分にはね返る。IMタンボーンによると黒は 9…Nxc3 10.bxc3 Bxc5 で互角にできる)10.O-O Bxc3 11.bxc3 Nxc3 12.Qc2! Bxe2 13.Re1! Qd4 14.Bb2 O-O-O 15.Bf5+ Kc7?! 16.Bxc3 Bd3 17.Qc1 Qc4 18.Re4!! Nd4 19.Qf4+ Kc6 20.Bxd4 Rd5 21.Bxg7 Qxc5 22.Rc1 黒投了(M.アシュリー対A.シャバロフ、マーシャル国際大会、1993年)

6.Nf3 M.グレビッチ対P.ニコリッチ(ベオグラード、1991年)

 この試合はひどい目にあったショート戦からほぼ5ヶ月後に指され、スラブ防御の手順から生じた。

 a.6.cxd5 Nxd5 7.Bd3 Be7 8.Nf3 Bg4 9.O-O O-O 10.Re1 Nd7?!(GMスピールマンによれば 10…Bf6 の方が良い)11.Nxd5! cxd5 12.Bf4 Rc8 13.h3 Bh5 14.Bf5 Bg6 15.Bxg6 hxg6 16.Bg3 Bf6 17.Qb3 J.スピールマン対V.サロフ(リナレス、1991年)白駒の方がよく働いているのでわずかだが優勢で指しやすい。

 b.6.Bd3 Be6 7.cxd5 Nxd5 8.Nge2 Nd7 9.O-O N7f6 10.Ng3 Be7 11.Re1 O-O 12.a3 Re8 13.Bg5 h6 14.Bd2 Qb6 15.Nge2 Rad8 16.Qc2 Bf8 17.Na4 Qc7 18.Nc5 J.ベンジャミン対H.ステンゼル(ニューヨーク州選手権戦、1993年)白陣が少し広くて優勢である。

6…Bd6 7.c5

 白は局面の性格をキング翼で駒の働きが有利になるように指す局面に変えていく。

7…Be7 8.Bd3 b6 9.cxb6 axb6 10.O-O Ba6 11.Bxa6 Rxa6 12.Qd3 O-O 13.Bg5 h6 14.Bh4 Nh5 15.Bxe7 Qxe7 16.Rfe1 Qd8 17.Ne5

 黒のクイーン翼の展開が完了していないのと白駒がよく働く地点に配置されているので、白が「通常どおり」わずかに優勢である。GMグレビッチは 17…Ra7 から 18…Re7 を指摘した。

17…b5?! 18.a3! Nd7 19.Nxd7 Qxd7 20.Na2! Nf4 21.Qf3 Ne6 22.Nb4 Raa8 23.Qc3! Rac8 24.Rac1 c5 25.dxc5 Rxc5 26.Qf3 Rxc1 27.Rxc1 Rc8 28.Rd1! d4 29.h4! Rc5 30.g3 Qc8?

 GMグレビッチが指摘したように黒は 30…g5! 31.Nd3 Rd5 で中盤戦での反撃を目指さなければならず、十分受けきれる可能性がある。

31.Nd3! Rc7 32.Qd5! Qb7 33.Qxb7 Rxb7 34.Re1! Kf8 35.Re5 Nd8 36.Nb4! f6 37.Rd5 Nf7

 dポーンを自ら捨てては形勢は絶望的である。しかし 37…Ne6 ならGMグレビッチは白の勝つ手段として 38.Nd3! のあとキングをb3に小旅行させることをあげている。

38.Rxd4 Ne5 39.Kg2 Kf7 40.Nd3 Nc4 41.a4! Ke7 42.axb5 Nd6 43.Rb4 Nxb5 44.Nc5 Rb8 45.Nb3 Rb7 46.Nd4 Nd6 47.Nf5+ Kf8 48.Rxb7 Nxb7 49.h5! Kf7 50.b4 g6 51.hxg6+ Kxg6 52.Nd4 Kg5 53.b5 f5 54.f4+ Kf6 55.b6 Nd6 56.Kh3 Kg6 57.Nc6 Nb7 58.Ne5+ 黒投了

******************************

2014年06月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(103)

「Chess Life」1994年9月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

勇者か弱虫か(続き)

Ⅱ.もし簡明でほとんど対称的な局面における積極的な指し方の構想が気に入っているならば、勝ちにいくための実行可能な手段として交換戦法を考えるとよい(続き)

  B.1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Nf6

 a.4…Bg4?! 5.h3 Bh5 6.Qe2+! Qe7(6…Be7? 7.Qb5+)7.Be3 Nc6 8.Nc3 O-O-O 9.g4! Bg6 10.O-O-O f6 11.a3 Qd7 12.Nd2! f5?! 13.Nb3 Nf6 14.f3 Bd6 15.Qd2 Rhe8 ここまではG.カスパロフ対N.ショート戦(ティルブルフ、1991年)である。GMカスパロフはここで優勢を拡大する白の最も正確な手段として 16.Kb1! から 17.Bg5 を推奨している。

 b.4…Nc6?! 5.Bb5 Bd6 6.c4 dxc4 7.d5 a6 8.Ba4 b5 9.dxc6 bxa4 10.O-O Ne7 11.Qxa4 O-O 12.Nbd2! Rb8 13.a3 c3 14.bxc3 Rb6 15.Re1! Nxc6 16.Nc4 Rb5 17.Nxd6 M.チャンドラー対E.バレエフ戦(ヘースティングズ、1991-92年)今のところ白駒の方がよく働いているので、優勢につながる。

 c.4…Bd6 5.c4!? c6 6.Nc3 Ne7 7.Bd3 O-O 8.O-O dxc4 9.Bxc4 Nd7 10.Bg5 Nb6 11.Bb3 h6 12.Bh4 Qc7 13.Bxe7 Qxe7 14.Re1 G.カイダノフ対P.ニコリッチ戦(フローニンゲン、1993年)「通常の理由」(陣地の広さ、駒の働き)のために白の優勢は通常どおりである。

 (4…Nf6 の局面がなぜ非常に重要かにはもう一つの重要な理由がある。それはぺトロフ防御における次の主手順から生じることがあるし実際よく生じるからである。1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d3 Nf6 6.d4 d5)

5.Bd3

 白がキング翼の戦力を活動的な好所に展開すること「だけ」に満足しているので、黒は布局の作戦をどうしたら良いか選択することができる。現在指せると考えられている手法は四つある。

 1.5…Be7

 黒はさっさと安全に展開すればやがてはほぼ互角になるはずだと認識している。ここからは次の手順が想定される。6.O-O O-O 7.Bg5 Bg4 8.Re1 Re8 9.Nbd2 Nbd7 10.c3 h6!(白のクイーン翼ビショップにすぐに意図を明らかにさせることが重要である。I.グレク対S.ドルマトフ戦[ドルトムント、1992年]では 10…c6 11.Qc2 h6 12.Bf4! Nh5 13.Be5 Nxe5 14.Bh7+! から 15.Nxe5 で白が明らかに優勢だった)11.Bxf6(11.Bf4 Nh5 12.Be5 Nxe5 のあと白はナイトで取り返すことができず、先手で駒の働きを良くすることもできないので何も得られない)11…Bxf6 12.Qb3 Nb6 13.h3 Be6 14.Re3 Qd6 15.Rae1 c5! 16.Qa3 Be7 17.dxc5 Qxc5 18.Qxc5 Bxc5 A.コステン対Y.ピスコフ戦(ヌーオロ、1993年)では両対局者が引き分けで合意した。GMコステンは 19.R3e2 Bd7 20.Ne5 Kf8 21.Nb3 Bd6 22.Nd4 で局面は互角のままだとつけ加えている。私の考えでは黒の孤立dポーンのために白がわずかに優勢なはずである。

 2.5…Bg4

 白が「あえて」しなかったこと(ナイトの釘付け)を黒はやることにした。こんな荒っぽいことはとても信頼できない。好例はS.ホヘリ対I.グレク戦(ポルツ、1991年)である。6.O-O Be7 7.h3 Bh5 8.c3 O-O 9.Bf4 c5!? 10.dxc5 Bxc5 11.Nbd2 Nc6 12.Qc2 Rc8 13.Bf5 Bg6 14.Nb3 Bb6 15.Rad1 陣形的にはこの局面はタラシュ戦法の古典防御(1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 c5 4.exd5 exd5)に似ている。そこでは黒は孤立dポーンの正当化に一生懸命に努めなければならないが、それはここでも当てはまる。15…Ne4! 16.Bxg6 fxg6!? 17.Bh2 Qe7 18.Qd3 Rcd8 19.Nfd4! Qh4 20.Qe2!(21.Qg4! の意図)白の優勢が続いている。

******************************

2014年06月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(104)

「Chess Life」1994年9月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

勇者か弱虫か(続き)

Ⅱ.もし簡明でほとんど対称的な局面における積極的な指し方の構想が気に入っているならば、勝ちにいくための実行可能な手段として交換戦法を考えるとよい(続き)

  B.1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Nf6

5.Bd3

 3.5…c5!? G.カスパロフ対V.コルチノイ(ティルブルフ、1991年)

 この諸刃の剣のような手はGMコルチノイの独創的な頭脳から生まれた。要点は二つある。もし 6.dxc5 と取ってくれば 6…Bxc5 で黒は …Be7 や …Bd6 と指さずにc5で取り返して、貴重な1手を節約したことになる。取ってこなければ …c5-c4 と突いて白ビショップを追い返す。もちろんこの手には不都合な点もある。つまり展開が遅れ、d5のポーンが弱くなる可能性があることである。

6.O-O c4 7.Re1+ Be7 8.Bf1 O-O 9.Bg5 Bg4

 この釘付けは実際にはうまく働かない。たぶん 9…Nc6!? を詳しく研究した方が良い。H.ハムドウチ対D.コマロフ戦(カンヌ・グランプリ、1992年)では 10.Ne5 Be6 11.Nxc6 bxc6 12.b3 c5! 13.bxc4 dxc4 14.Nd2 h6 15.Bf4 cxd4 16.Bxc4 と進んで白が優勢にならなかった。

10.h3 Bxf3

 これで白は双ビショップを持ち、白枡で優位に立ち、dポーンに対し攻撃の可能性ができる。しかし 10…Bh5 と引くとS.マカリチェフ対M.ウリビン戦(ソ連選手権戦、1991年)では 11.Nc3 Nc6 12.g4! Bg6 13.Ne5 で白が強い主導権を得た。

11.Qxf3 Nc6 12.c3 Qd7

 E.ケンギス対M.グレビッチ戦(ティルブルフ、1992年)では黒が白の Bxf6 のあと働きのないビショップが残されないように、改良手として 12…Ne8!? と指した。そして 13.Bxe7 Nxe7 14.Na3! Nc7 15.Nc2 Qd6 16.g3 Rad8 17.Re2 と進んで白が少し優勢になって(e列の支配、d5の標的、王翼攻撃の可能性)、45手で勝った。チェス新報第56巻第284局を参照。

13.Nd2

 GMカスパロフによれば 13.Na3! から 14.Nc2 と指す方が良かった。

13…Rae8 14.b3?!

 GMカスパロフはこの手からの両者の指し手を厳しく批評している。彼は白の優勢を保ち拡大させるために次の危なげない手順をあげている。14.Re3! Bd8 15.Rae1 Re6!? 16.h4! Rfe8 17.Bxf6 Bxf6 18.g3 Rxe3 19.Rxe3 Rxe3 20.fxe3! dポーンが根本的な弱点になっているだけでなく、白が e3-e4 突きで強力な保護パスdポーンを作り出せる。

14…b5 15.bxc4 bxc4 16.Rab1 Bd8 17.h4?!

 GMカスパロフによればここで黒は 17…Re6!? でe列を支配するようにすればわずかに優勢にさえなれたかもしれなかった。だから白は代わりに 17.Rxe8 と指すことが必要で、17…Rxe8?! は 18.h4! で白が少し優勢になるが 17…Nxe8! なら互角である。残りの手順はGMカスパロフの記号を付けるにとどめる。完全な分析はチェス新報第53巻第243局に載っている。

17…Rxe1? 18.Rxe1 Re8 19.Rb1! h6 20.Bxf6 Bxf6 21.g3 Ne7 22.Qd1! g5?! 23.hxg5 hxg5 24.Bg2 g4 25.Nf1? Bg5 26.Rb2 Kg7 27.Qb1?! Rc8 28.Re2 Rc6 29.Re5 f6 30.Re2 Rb6 31.Qd1 Nf5 32.Re1 Nh6 33.Qe2 Kf7 34.f4?! gxf3e.p. 35.Qxf3 Rd6 36.Re5 Kg7 37.Rxd5 Rxd5 38.Qxd5 Qa4?? 39.Qb7+ Kg6? 40.Bc6! Qa5 41.Be8+ Kf5 42.Qh7+ Kg4 43.Qe4+ Kh3 44.Bd7+ f5 45.Qg2+ 黒投了

******************************

2014年06月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(105)

「Chess Life」1994年9月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

勇者か弱虫か(続き)

Ⅱ.もし簡明でほとんど対称的な局面における積極的な指し方の構想が気に入っているならば、勝ちにいくための実行可能な手段として交換戦法を考えるとよい(続き)

  B.1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Nf6

5.Bd3

 4.5…Bd6 D.グレビッチ対V.イワンチュク(ビール・インターゾーナル、1993年)

 これが黒の最も人気のある応手である。白の積極的な手をまねしても十分大丈夫と自陣を信頼している。

6.O-O O-O 7.Bg5

 重要な変化が二つある。

 1.7.h3 h6 8.Re1 Re8 9.Rxe8+ Qxe8 10.Nc3 a6 11.Be3 Nc6 12.a3 Ne7! 13.Nh4 Ng6 14.Nxg6 fxg6 15.Qf3 Qf7 16.Bf4 Bxf4 17.Qxf4 g5 18.Qe5 Be6 19.Bg6 Qxg6 20.Qxe6+ Qf7 形勢は互角で、Pe.H.ニールセン対L.B.ハンセン戦(トストルプ、1992年)では引き分けが合意された。

 2.7.Nc3 がポール・モーフィーの常用手だった。典型的な3例をあげる。

 a.7…c6 8.Bg5 h6?! 9.Bh4 Bg4 10.h3 Bxf3 11.Qxf3 Nbd7 12.Bf5 Qc7 13.Rae1 Rae8 14.Re3 Bf4 15.Re2 これはP.モーフィー対レーベンタール戦(番勝負第10局、1858年)で白が少し優勢だった。

 b.7…Bg4 8.h3 Be6?! 9.Be3(9.Bg5!)9…Nc6 10.Qd2 Qd7 11.Bf4 Rfe8 12.Rae1 Rad8 13.Ne5 Qc8 14.Bb5 Bxe5! 15.Bxe5 Nxe5! 16.dxe5 Ne4! これはP.モーフィー対ウォーカー戦(ロンドン、1859年)で互角だった。

 c.7…c5?! 8.dxc5 Bxc5 9.Bg5 Be6 10.Qd2 Nc6 11.Rad1 Be7 12.Rfe1 a6 13.Qf4 これはモーフィー対連合軍戦(パリ、1858年)で、白駒は働きが大変良く黒は孤立ポーンの代償が不十分である。

7…Bg4 8.c3 Nbd7 9.Nbd2 c5?!

 黒は勝ちを目指すために、ほとんど見返りのない孤立dポーンが残される危険をおかした。通常の手は対称形を続ける 9…c6 である。

10.Qc2 h6?!

 もっと役に立つ手は積極的な 10…Qb6 である。

11.dxc5! Nxc5 12.Bh4 Re8 13.Bb5?!

 動機のない本譜の手の代わりに普通に 13.Rfe1! で 14.Bf5 を狙えば白が少し優勢で指しやすかった。

13…Bd7 14.Bxd7 Ncxd7 15.Nd4 a6?! 16.Nf5 Bf8 17.Rad1 Qb6 18.Nb3

 典型的なタラシュ防御の局面ではb3はナイトにとってつまらない地点である。この陣形的に似た局面でも同じことが成り立つ。GMグレビッチは代わりに 18.Nf3! Bc5 19.b4 Bf8 20.Ne3 をあげて白が優勢になる可能性が高いとしている。あまりに守勢の手を指したことにより白は困難に陥るが、GMイワンチュクは好機を生かさず引き分けになった。GMグレビッチの記号だけを付けて本稿を終わることにする。完全な分析はチェス新報第58巻第300局を参照されたい。

18…Re4! 19.Bxf6? Nxf6 20.Ne3 Re5 21.Rd3 Rae8 22.Nd4 Bc5 23.g3 h5! 24.b4 Bxd4 25.Rxd4 Qe6?(25…Rxe3!)26.Qd3 g6 27.a4 Rc8 28.Rd1 Rc6 29.a5 Kh7 30.Kg2 Qc8 31.c4 dxc4 32.Nxc4 Ree6 33.Nb6 Qc7 34.Qf3 Rc3 35.Rd7 Qxd7 36.Nxd7 Rxf3 37.Kxf3 Rc6 38.Nc5 Rc7 39.Rd4 Kg7 40.h3?! Kf8 41.g4 hxg4+ 42.hxg4 Ke7 43.g5 Nd7! 44.Nxd7 Rxd7 45.Rxd7+ Kxd7 46.Ke4 Ke6 47.Kd4 Kd6! 48.f3 Kc6 49.Ke5 Kd7 引き分け

******************************

2014年06月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(106)

「Chess Life」1994年11月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6

 白の初手に煩わされることなく自分の手が指せるようになりたいだろうか。実はあるのである。それは 1…g6 である。もちろん勝ちなどを保証するものではない。それでも完璧な手を指しているという自信は持てる。1…g6 が本質的に指せる手であることは1960年代に理解されるようになり、その評判は1972年に出版されたレイモンド・キーンとジョージ・ボテリルの名著の『現代防御』によって確かなものになった。

 常にそのようだったわけではない。代表的なのはアレクサンドル・アリョーヒンによる1924年ニューヨーク国際大会の記録本の評価である。布局に関する批評で彼はエドワード・ラスカー対J.R.カパブランカ戦に現れた 1.e4 g6(?) を「冗談布局」と特徴づけている。しかし実戦の解説ではもっと抑制的で的確だった。「今日の定跡の観点からはこの手は全面的に本筋であるとみなすことはできない。というのは黒は中央における相手の展開に何も影響を与えられずに陣形を決めてしまっているからである。」

 なぜ 1…g6 は完全な手なのだろうか。それは当然の 2…Bg7 のあと、特に欠陥がなくキング翼ビショップを中央に向かって展開しキャッスリングを準備することにより、良い布局の指し方の目的を促進するからである。それにもかかわらず黒はこの防御の機微をよく理解しなければならず、そうしないと白の中央によって窒息させられてしまうことは強調しておく必要がある。白の初手が 1.e4 から 2.d4(または 1.d4 から 2.e4)の場合は特にそうである。

 「キング翼ビショップフィアンケット防御」の主要な特徴は次のとおりである。

 1.融通性が最大である。すなわちキング翼ビショップフィアンケットは白のどんな布局に対しても用いることができる。

 2.反撃指向の防御である。キング翼ビショップがd4に利いているので、黒はその地点の切り崩しを図る。通常の手段は …e5 または …c5 突きによる。

 3.黒はキング翼ナイトの展開を遅らせてキング翼ビショップの威力を増進させるようにする。

 最後の点に関連して、もし白が非常に攻撃的な陣形、つまりポーンをf4に突けば、早く …Nf6 と指すことによりピルツ防御(1.e4 d6 2.d4 Nf6)またはキング翼インディアン防御(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.e4 d6)へ移行することを好む選手が多いことはつけ加えておく。…c5 のシステムを用いるにはシチリア防御の加速ドラゴン戦法(1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 3.Nxd4 g6 または 1.e4 c5 2.Nf3 g6 3.d4 Bg7)の知識が役に立つ。

 白の申し分のない初手の 1.e4、1.d4、1.c4、1.Nf3 そして 1.g3 のそれぞれについて重要な主流手順を簡単に見ていくことにする。

 1…g6 は「完璧な手」に対して欠点がないので、ほかの手に対してもそうである。例えば 1.b3 g6 2.Bb2 Nf6 のあと黒は 3.Bxf6 exf6 を気にする必要はない。なぜなら 4…Bg7、5…O-O そして 6…f5 で形勢は既に互角だからである。

******************************

2014年07月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(107)

「Chess Life」1994年11月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6(続き)

A 1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3

 この手は激しい手順になるのでが普通である。3.Nf3 d6 ならもっと穏やかな戦いになる。黒はもっと不均衡な局面にしたいなら 3…c5 と指すことができる。しかし 4.Nc3 または 4.c4 でシチリア防御、それに 4.d5 でベノニ防御の局面になることに備えておかなければならない。

3…d6 4.f4 c6

 黒が「キング翼ビショップフィアンケット」にとどまりたいならば、本譜の手は最も本筋の手である。GMアンディー・ソルティスはこの手でかなりの好成績をあげた。黒はクイーンをクイーン翼に行けるようにし、いつか …b5 と突く用意をし、d5の地点を守った。しかし黒は白のかなり強力なキング翼の構えを無視している。だから 4…Nf6 でピルツ防御に転向するのを好む選手が多い(1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 がピルツ防御の手順である)。

5.Nf3 Bg4

 衆目の集まるd4の地点に圧力をかけた。すぐに 5…Qb6 と指すのは 6.h3! でこのクイーンが的外れになる

6.Be3 Qb6 7.Qd2

 白はここでも1手後でもbポーンを心配する必要はない。例えば 7…Qxb2?! 8.Rb1 Qa3 9.Rxb7 Nd7 10.Rb3 となれば局面の開放は展開に優り中央の広い方、つまり白に有利である

7…Bxf3 8.gxf3 Nd7 9.O-O-O Qa5

 d4が安泰なので黒は別の世界を目指さなければならない。それはa2であり、…b5 と突いてクイーン翼でのポーンの暴風である。だから白の次の手は必然である。

10.Kb1

 ここでの黒の「機械的な」手は 10…b5 だった。しかし 11.e5、11.f5 または 11.h4 から 12.h5 で白の攻撃が非常に強くなるのは否定できない。そこでJ.ポルガー対C.クラウチ戦(ヘースティングズ、1992/93年)の試合を追うことにする。

10…O-O-O!?

 黒は白キングと同じ翼にキャッスリングすることにより比較的安全な所にキングを移した。

11.Rg1 Kb8 12.Rg5 Qc7 13.d5!? Nb6?!

 ここはクイーン翼ナイトにとってつまらない場所である。IMクラウチによれば 13…Ngf6! で展開を完了することが必須だった。そして 14.e5(14.dxc6 bxc6 は黒が良いはずである)14…Nxd5 15.Nxd5 cxd5 16.exd6 exd6 17.Rxd5 Nb6! 18.Rxd6 Rxd6 19.Qxd6 Qxd6 20.Rxd6 Re8 で黒がわずかな戦力損の代償を十分得ている。

14.dxc6 bxc6 15.Qd3?!

 緩着。あとでポルガーが指摘したように 15.a4! Nf6 16.a5 Nc8 17.Na2 で白の主導権が強力である。

15…Nf6 16.Ra5 Nfd7 17.Na4?

 指しすぎ。17.Ra3! と指す好機で、形勢不明だった。ここから黒が白の駒配置の悪さにつけ込んで優勢になる。

17…Nc5! 18.Qa3

 絶対手。どう取ってももっと悪くなる。例えば 18.Nxc5? dxc5 19.Qe2 Rxd1+ 20.Qxd1 Nc4!。このあとはチェス新報第58巻第133局のIMクラウチの解説からの短評を付けておく。

18…Ncxa4 19.Rxa4 Nxa4 20.Qxa4 Ka8 21.Bc4 Rb8?

 正着は 21…e6(ク)。

22.b3! Bc3 23.Bxf7 Ba5 24.f5 gxf5 25.exf5 Rb4 26.Qa3 Rh4 27.Qb2 Rb8!? 28.c4! d5! 29.cxd5 Rxh2 30.Qc1 Qe5 31.Be6?

 正着は 31.Qxc6+ で引き分け(ク)。

31…Bc3??

 31…Bc7! で黒が優勢(ク)。

32.Bf4 Rxa2 33.Bxe5 Ra1+ 34.Kc2 Rxc1+ 35.Kxc1 Bxe5 36.dxc6 Re8 37.Rd7 h5 38.Bd5 黒投了

******************************

2014年07月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(108)

「Chess Life」1994年11月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6(続き)

B 1.d4 g6 2.c4

 もちろん白は 2.e4 で前述のeポーン布局に戻すことができる。当然ながらほとんどのdポーン選手はより閉鎖的な布局にとどまる方を好む。

2…Bg7 3.Nc3 c5

 この手は早いキング翼ビショップフィアンケットを生かすための最も激しい手段である。重要な変化は 3…d6 4.e4 で、黒には次のような手がある。

 a.4…Nf6 はキング翼インディアン防御に転移し(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6)、黒の最も堅実な手である。

 b.4…e5 は 5.dxe5! dxe5 6.Qxd8+ Kxd8 7.f4! で好ましくない收局になる。『From the Opening into the Endgame』E.メドニス著、Pergamon Press 発行、1991年改訂版を参照。

 c.4…Nd7 と 4…Nc6 は危なっかしいが、キング翼ビショップフィアンケットの精神を受け継いでいる。

4.d5 Bxc3+!? 5.bxc3 f5!

 GMロマン・ジンジハシビリが黒の作戦の思想的創始者である。双ビショップを放棄しキング翼をやや弱める犠牲を払って、白のクイーン翼に弱体化した扱いにくいポーン陣形を生じさせた。黒は白ポーンの弱体化につけ込めるように局面を閉鎖的に保ちたいと考えている。

6.h3!?(L.アルバート対D.ビゴリト、ニューヨーク・オープン、1993年)

 この手の意味は 7.g4 でキング翼を開放することである。すぐに 6.g4 と突くと 6…fxg4 7.h3 g3! と応じられる。ほかにも 6.Nf3、6.Qa4、6.h4 という手があり、どれも今のところはっきりした結論が出ていない。

6…d6 7.Nf3 Qa5 8.Qc2 Nf6 9.Bh6! Nbd7 10.e3 Nb6 11.Bd3 Bd7 12.O-O Qa4 13.Qb3!

 黒はc4に主眼の圧力をかけたが、白は完璧に守っている。黒はここで 13…O-O-O から 14…Kb8 でキングを安全にし、事態を見守るのが良かった。実戦は白にキング翼を有利に開放させてしまった。

13…Ne4?! 14.Bxe4! fxe4 15.Nd2 O-O-O 16.f3! exf3 17.Rxf3 Qa6 18.Rf7!?

 白はc4を 18.Rf4 で守ることができたが、それ以上を得る正当な理由があると考えた。

18…Ba4 19.Qb2 Nxc4?!

 19…Rd7 と守るのが適切だが、白が 20.Rf4 から 21.Raf1 でいくらか優勢である。

20.Nxc4 Qxc4 21.Rb1! Qxd5 22.Rxe7 Bc6?

 b7に侵入させるのは致命的である。しかしましな 22…Bd7 でも 23.c4 Qc6 24.Bf4 b6 25.Rd1 で黒が困っている。

23.c4 Qd3 24.Qxb7+!! Bxb7 25.Rbxb7 Rd7 26.Rexd7 Qf5 27.Rdc7+ Kd8 28.Rf7 黒投了

******************************

2014年07月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(109)

「Chess Life」1994年11月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6(続き)

C 1.c4 g6 2.Nc3 Bg7 3.g3 d6

 ここでの「機械的な」手は 4.Bg2 で、黒には 4…c5、4…e5、4…Nf6 など広範な作戦がある。

4.d4!?(L.リュボエビッチ対G.カスパロフ、テッサロニキ・オリンピアード、1988年)

 白は 4…Nf6 のあとキング翼インディアン防御に転じる用意ができている。しかし世界チャンピオンは布局を断固としてキング翼ビショップフィアンケット防御として扱うことにした。

4…c5!? 5.Be3?!

 このぎこちない守り方では優勢につながらない。GMカスパロフは次のような変化を考えていた。1)5.Nf3 Nc6 6.d5 Na5 2)5.d5 Bxc3+ 6.bxc3 Qa5 3)5.dxc5 Bxc3+ 6.bxc3 dxc5 7.Qxd8+ Kxd8 8.Be3 Nd7 そしてどの場合も「形勢不明」としていた。

5…cxd4! 6.Bxd4 Nf6 7.Nd5?!

 黒はすぐに中央での影響力を増すことになる。GMカスパロフは 7.Bg2 Nc6 8.Nf3 O-O 9.O-O が白の最善手で互角と考えていた。

7…Nbd7 8.Nf3 O-O 9.Bg2 e5! 10.Bc3

 代わりに 10.Nxf6+ Nxf6 11.Bc3 Ne4! 12.Qb3 Be6 でも黒がはっきり優勢である(カスパロフ)。

10…Nxd5! 11.cxd5 Nc5 12.O-O

 黒は …f5 からキング翼での指し方が明白なので疑いなく優勢である。これに対して黒の唯一の弱点(d6)に対する攻撃の見通しは始まったばかりである。さらに、白のクイーン翼ビショップの位置がひどいので、黒にはクイーン翼での主導権を得る可能性さえある。GMカスパロフはここでの最強手として 12…b5! 13.b3 a5 14.Nd2 f5! をあげて両翼で黒が優勢としている。このあとの手順の完全な解説は『チェス新報』第46巻第8局に出ている。

******************************

2014年07月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(110)

「Chess Life」1994年11月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6(続き)

D 1.Nf3 g6 2.g3

 ここでは 2.e4 もよく指される変化である。閉鎖的な布局の方が好きな多くのGMは通常は 2…Bg7 3.d4 d6 4.Nc3 Nf6 5.Be2 O-0 6.O-O から生じる安全で棋理に合ったピルツ防御の正規戦法を好む。

2…Bg7 3.Bg2 c5

 もちろん白の融通性のある展開をまねる 3…Nf6 も誤りのない手である。黒は重要な中央のポーンを 3…d6、3…d5 または 3…e5 と突くこともできる。

4.e4 Nc6 5.d3 d6 6.O-O e5 7.c3 Nge7

 これでレーティ布局の局面になった。黒は融通性のあるキング翼ビショップのフィアンケットとキング翼ナイトの展開を遅らせたことにより中央をしっかり押さえつけている。

8.a3(A.チェルニン対Av.ビホフスキー、ソ連、1983年)

 d4 と突くのは難しいので白はクイーン翼での進攻を準備する。

8…O-O 9.b4 cxb4

 黒はクイーン翼での反撃を準備するために中央は白に増強させた。代わりに 9…b6 なら堅実だった。

10.axb4 b5! 11.Na3 Rb8 12.Be3

 ここは勝負所である。黒は 12…f5 でキング翼で行動を起こすか、12…a5! でクイーン翼でほぼ互角の態勢を確立すべきだった。どちらの場合もいい勝負である。

12…a6?!

 黒はそのどちらもしないことにより事態を白に指図され始めた。GMチェルニンはこの好機にまんまとつけ込んだ。以下の手順に対する評価記号などはチェス新報第36巻第1局でのGMチェルニンの解説を用いた。

13.d4! exd4 14.Nxd4 Bb7 15.Rc1 Re8 16.Nb3!? Ba8 17.Qd2 Nc8 18.Rfd1 Qe7 19.Nc2 Ne5 20.Na5 Qc7 21.Bf4 Bf8 22.Ne3 Nb6 23.Qa2 Rbc8 24.Nd5 Qd8 25.h4 Na4!? 26.c4 Bxd5 27.exd5 Qf6 28.Rc2! Nd7(28…Qf5!)29.Qb3 Ndb6 30.cxb5 Nc3 31.Bg5! Qh8 32.Rf1 Ne2+? 33.Rxe2 Rxe2 34.bxa6 Rc3 35.Qd1 Ra2 36.a7 Rc8 37.Nc6 Qc3 38.Qf3 Qxf3 39.Bxf3 Re8 40.Rc1 Bg7 41.Be3 Na8 42.Ne7+ Kf8 43.Nc8 Rxe3 44.fxe3 Bh6 45.Rc3 Bg7 46.Rb3 黒投了

******************************

2014年07月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(111)

「Chess Life」1994年11月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

「機械的な」手の 1…g6(続き)

E 1.g3 g6 2.Bg2 Bg7 3.e4

 もちろん白には例えば 3.c4、3.d4、3.Nf3 など高級な手がいくつもある。

3…e5

 黒は 3…d6 から 4…Nf6 でピルツ防御を目指すことができるし、3…c5 でシチリア防御の態勢を目指すこともできる。

4.Ne2

 4.Nf3 の方が意欲的だが、それは既にDに出てきた。

4…Ne7!? 5.O-O O-O 6.d4

 黒はこのきわめて早いポーン突きにきちんと対応できる。6.c3 のようなもっとゆっくりした手の方がたぶん少し優勢になる可能性が高い。

6…exd4 7.Nxd4 d5! 8.Nc3 dxe4 9.Ndb5 Na6 10.Nxe4 Bd7

 中央のポーンが消え、Na6 を除く黒のすべての駒が好所に位置している。完全に互角になるのも間近である。

11.Nd4 h6!

 11…Nc6?! は 12.Bg5! が厄介なのでそれを気にすることなく …Nc6 と指せるようにした。

12.c3 Nc6! 13.Nxc6 Bxc6 14.Be3 Qe7

 ここまでの手順はG.フォリントス対L.レンジェル戦(ケチケメート、1972年)である。黒は互角にできていて、中盤戦に期待することができる。

******************************

2014年08月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(112)

「Chess Life」1995年1月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値

 チェスを作り上げてきた無数の人たちを私に天才であると感じさせる多くの特徴の一つは、まったく異なる二つの駒のナイトとビショップが戦力として同じ価値であるということである。ビショップは本質的に長距離駒であるのに対し、ナイトは動きのややこしい短距離の乱闘家である。優劣があるとしてある局面でどちらが有利かは、その局面のまさに具体的な詳細にほとんどかかっている。ビショップの偉大な力は一方が2個を持っているときに発揮される。チェスの用語ではこれは「双ビショップ」または「ビショップ対」と呼んでいる。一般に双ビショップは開放的な局面で有利さが大きく発揮され、ほとんどの局面で何らかの有利さがある。

 ビショップ+ナイトや2ナイトに対する双ビショップの持ち前の力は、上図の双ビショップを見ることにより良く理解できる。黒がキング翼にキャッスリングしたと仮定すると、白のビショップは黒キングの周りの要所であるf6、g6、g7、h7に利いている。さらに、並んだ双ビショップは盤上の広範な地点に利いていて、それにより敵軍を麻痺させる。自陣側ではa1、b1、e1、f1;b2、c2、d2、e2;b4、c4、d4、e4に利き、黒陣側ではa5、b5、e5、f5;a6、f6、g6;g7、h7;h8に利いている。これにより白は黒側に脅威を与えるだけでなく、自陣側を安全にしている。さらに、もし白の即刻の関心がクイーン翼にあるならば、クイーン翼ビショップをc3からe3に動かすことにより、白のビショップは黒のクイーン翼にくまなく利きを及ぼす。

******************************

2014年08月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(113)

「Chess Life」1995年1月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 もし一方が布局でのうまい指し回しの結果として開放的な局面で双ビショップを得ることができたならば、優勢になることが一般的に期待できる。その実戦例を見てみよう。

白 GMライナー・クナーク
黒 GMジョエル・ローチェ
ノビサド・オリンピアード、1990年
E42 二ムゾインディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 c5 5.Ne2 d5 6.a3 Bxc3+ 7.Nxc3 cxd4 8.exd4 dxc4 9.Bxc4 Nc6 10.Be3 O-O 11.O-O b6 12.Re1 Bb7 13.Ba2 Qd7?!

 布局の戦型の結果として白は双ビショップを得て中央も少し広い。黒は小駒が良く展開されていて孤立dポーンに対する展望もある。本譜の手はクイーンをまずい地点に置いたために白に局面を有利に開放させてしまった。正着は 13…Ne7 だった。

14.d5! exd5 15.Nxd5 Nxd5 16.Qxd5 Rad8 17.Qxd7! Rxd7 18.Rad1 Rxd1

 18…Rfd8? なら白は 19.Rxd7 Rxd7 20.Bxb6 で最下段での詰みを狙う。

19.Rxd1 Rd8 20.Rxd8+ Nxd8

 ポーンの形はかなり対称的だが、白には開放的な局面での双ビショップがある。GMクナークはこの局面を如才なく白が少し優勢と判断している。それでも実際のマスターの世界ではこのような局面はいつも決まって黒の負けになる。白は締めつけに締めつけ、黒はほんのわずかの失着が命取りになる。試合はこのあと50手も続いたが、白はずっと押し気味だった。

21.f3 Kf8 22.Kf2 Ke7 23.Bf4 Bc8 24.Bc7! Nc6 25.Bd5 Kd7 26.Bf4 f6 27.Be4! g6 28.Bd2! Kd6 29.Bc3 Ne5 30.Bc2 Bb7 31.Kg3 Ke6 32.h4! Ba6 33.a4! Bd3 34.Bd1 Bc4 35.Kf2 Bd5 36.Bc2 Bc4 37.Ke3 Bf1 38.g3 Bc4 39.f4 Nc6 40.g4! Ne7 41.Kd4 Ba6 42.Bb3+ Kd7 43.g5!

 ここでGMクナークはここまでの黒の手を何も批判することなく形勢は明らかに白が優勢と判断している。黒陣の切り崩しと白駒の新たな入口作りが迅速に続けられた。

43…Nf5+ 44.Ke4 Bb7+ 45.Kd3 fxg5 46.hxg5 Ne7 47.Bd1 Ke6 48.Bg4+ Nf5 49.Be5 Bc6 50.Bd1 Bd5?

 ここから黒のクイーン翼が防御不可能になる。50…Kd7 と指さなければならなかった。

51.Bb8 Kd7 52.Bxa7 Kc7 53.a5 bxa5 54.Ba4 Kb7 55.Bf2! Kc7 56.Be1 Kb6 57.Bc3 Ka6 58.Bf6! Kb6 59.Bd8+ Ka6 60.Bc7!

 手詰まりのため黒駒の一つが動かなければならず白キングに侵入される。

60…Bf3 61.Kc4 Be2+ 62.Kc5 Bd3 63.Bd7! h5 64.gxh6e.p. Nxh6 65.Bc8+ Ka7 66.Bxa5 Bf5 67.Bxf5 Nxf5 68.Bc3 Ng3 69.Kd5 Ka6 70.Ke6 Ne4 71.Ke5! 黒投了

 71…Nf2 72.Kf6 Nd3 73.Be5 でgポーンも落ちる。

 私の全般的なアドバイスは非常に明らかである。1.ポーンの形で優ったり敵ビショップの利きが悪いというような具体的な見返りを得ていなかったり、2.双ビショップを与えることが年月に耐えた信頼できる布局手順の一部となっているのでなければ、自発的に BxN と取って相手に双ビショップを与えることのないようにせよ。

******************************

2014年08月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(114)

「Chess Life」1995年1月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 最初の実戦例の布局はたちまち「純粋な」例に単純化された。すなわち一方の駒が2ビショップだけで、ポーンの形はほぼ対称だった。しかし大部分の場合盤上にはもっと多くの駒が残っている。そのような状況では開放的な局面でのビショップの威力は破壊的になることがある。それが次の例に表れている。

白 GMアンドレイ・イストラテスク
黒 FMゴラン・アルソビッチ
ベオグラード、1994年
B86 シチリア防御スヘフェニンゲン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bc4 e6 7.Bb3 Be7?!

 この手は白の活動的な駒の展開に対してゆっくりしすぎている。正着は 7…Nbd7、7…Nc6 および 7…b5 である。これらはすべて1993年のGMショートとの世界選手権戦でGMカスパロフにより用いられた。

8.g4! d5 9.exd5 Nxd5 10.Nxd5 exd5 11.Nf5! Bxf5 12.gxf5 d4 13.Rg1!

 11.Nf5! のあとd5とg7に対する二重攻撃で黒はこのナイトを取るしかなかった。だがg列が素通しになったことにより白の新たに得た双ビショップの威力が増した。

13…Bf6 14.Qh5!

14…O-O?

 これが本当の「飛んで火にいる夏の虫」である。白のクイーンとルークがキング翼を脅かしビショップが重要なf7とh6ににらみを利かしているので、黒キングは命の危険を冒している。GMイストラテスクによれば黒キングは 14…Qe7+ 15.Kf1 Nc6 16.Bf4 O-O-O というようにクイーン翼に逃げなければならなかった。もっとも白はもちろん 17.Qxf7 で優勢を維持している。

15.Rg3! Qe7+ 16.Kf1 Re8 17.Rh3! h6

 黒はキングが危うくてクイーン翼が展開されていないので、反撃が間に合わない。その証明としてイストラテスクは次の手順をあげている。17…Qe1+ 18.Kg2 Qe4+ 19.Kg3! Be5+ 20.f4 Qe1+ 21.Kg2 Qe4+ 22.Kf2 黒のチェックが尽きて白の攻撃が再開される。

18.Bxh6! gxh6 19.Rg3+ Bg7 20.Qg6! 黒投了

 一つのビショップが自らを犠牲に黒キングの囲いを破壊し、もう一つのビショップが重要なg6の地点にクイーンが行けるようにした。20…Qf8 でも 21.f6 で絶望なので黒はあきらめた。

******************************

2014年08月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(115)

「Chess Life」1995年1月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 もちろん双ビショップの役割はこれほど劇的である必要はないが、それでも重要である。冒頭ですでに述べたように重要な役割は対で働くことにより盤上の重要な個所を支配することである。これは次の試合によく表れている。

白 GMボスコ・アブラモビッチ
黒 IMジボスラフ・ニコリッチ
ユーゴスラビア選手権戦、1994年
B06 現代防御

1.d4 g6 2.Nf3 Bg7 3.e4 d6 4.Be2 Bg4 5.h3! Bxf3 6.Bxf3 Nc6 7.c3 e5 8.dxe5!

 現代防御ではいつものことだが、黒はd4をすぐに襲撃することを目指していた。白はそれを察して5手目、7手目それに8手目でその圧力を無効にしつつ、将来に役立つ双ビショップを得た。ここで眼目の 8…dxe5 なら白は 9.Qb3! と指して白枡に強く圧力をかける。そうなれば黒の黒枡ビショップは閉じ込められたままになるので、黒はナイトで取ることにした。しかしこれには白が中央で恒久的に優位に立つという負の結果を伴っている。

8…Nxe5 9.Be2! Nf6 10.Nd2 O-O 11.O-O Re8 12.f4 Ned7 13.Bf3 Nc5 14.Qc2 c6?!

 この手は白から目障りなc5のナイトを追い払われるだけでなくクイーン翼の陣地を拡張される。GMアブラモビッチは 14…a5 と突く方が良いと言っている。

15.b4 Ne6 16.Nb3 Qc7 17.Be3 Re7 18.Rae1 Rae8 19.a4 Nf8 20.Bf2 Ne6 21.g3

 白のビショップはうまい具合に縦に並んで中央とキング翼を守り、黒のクイーン翼に脅威を与える態勢にある。黒はどこにも反撃できる所がなく、白の中央の優位にも苦しまなければならない。そのような状況での最良の忠告はただ何もしないことである。私ならe8のルークを行ったり来たりさせることを勧める。

21…b6?! 22.Nd4 Nd8 23.Kg2 a6?! 24.Nb3 Nd7 25.Rd1 c5?! 26.bxc5 bxc5 27.Nd2!

 黒は不必要なポーン突きのためにa6とd6がひどく弱体化した。白はそれにつけ込む用意ができている。双ビショップは一貫して中央を守り好機を待っている。

27…Nb7 28.Nc4 Nb6 29.Nxb6 Qxb6 30.Rb1 Qc7 31.Rfd1 Na5 32.Qd3

 白は捌きが完了し勝負を決めにかかる。

32…c4 33.Qxd6 Bxc3 34.Qxa6 Nb3 35.e5!

 ビショップが急に活気づき 36.Bd5 を狙っている。

35…Nd2 36.Rb7 Qc8 37.Rxe7! Qxa6 38.Rxe8+ Kg7 39.Bc5! h5 40.Be7 黒投了

 このあとを続ければ 40…f6 41.Bxf6+ Kf7 42.Rd8! Nxf3(さもないと 43.Bd5+)43.R1d7+ Ke6 44.Rd6+ となるだろう。

******************************

2014年09月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(116)

「Chess Life」1995年1月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップの価値(続き)

 一流の布局では白の優勢から始まるというのが定説である。だからここまでの3局の実戦例で双ビショップを持つ白がやや優勢だった。もし一流戦法の一部として白が双ビショップを黒に譲り渡しても、白はまだ優勢である。それでも黒には双ビショップの真価の潜在力がある。それを発揮させるにはしばらく手数がかかるかもしれないが、その可能性が存在することをいつも忘れないことは大切である。このことは次の最後の実戦例に表れている。

白 IMサウディン・ロボビッチ
黒 GMエドマー・メドニス
オーステンデ、1993年
B67 シチリア防御リヒター=ラウゼル戦法

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bg5 e6 7.Qd2 a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5 10.Bxf6 gxf6

 リヒター=ラウゼル攻撃のこの激烈な手順の中で白の10手目は黒がgポーンで取り返さなければならないので現在もっとも人気がある。10…Qxf6?! には 11.e5! dxe5 12.Ndxb5! がある。本譜の手のあと白は適時に e4-e5 または f4-f5 と突いて黒の根本的な欠陥のあるポーン陣形を突き崩すことを目指す。黒はそのような狙いを警戒しなければならない。その間に双ビショップのために局面を開放する適切な時機を待つ。

11.Kb1 Qb6 12.Nce2 Na5 13.b3 Nb7 14.g3 Rc8 15.Bg2 Nc5 16.Qe3 Qc7 17.Rd2 b4 18.Rc1 a5 19.c3 Rb8 20.cxb4 Rxb4 21.Rc3 Be7 22.Nc1 Rb8 23.Nd3 Qb6 24.Nxc5 dxc5 25.Nc2 a4! 26.Bf1 axb3 27.axb3 Bc8 28.Bc4 O-O 29.g4! Rd8! 30.Rxd8+ Qxd8 31.Rd3 Qc7 32.g5?!

 白は即刻猛攻を始めた。それでも多量の研究の結果として私は黒が受けきれるし優勢になる変化さえあると結論づけていた。だから正着は 32.h4 Bb7 33.g5 でhポーンで取り返せるようにすることである。33.g5 のあとはたぶんいい勝負である。

32…fxg5 33.e5!? Bb7! 34.f5 exf5 35.e6 Rd8! 36.exf7+ Kg7 37.Rxd8 Qxd8 38.Qe5+ Kg6?!

 恐れていたのは 38…Bf6 に 39.Qxf5 だった。しかし逆説的に見える 39…Bc8! で黒は白クイーンを好所から追い払い、40.Qf3! g4! 41.Qf2 Qe7 から 42…Qe5 となれば白は引き分ければ幸運である。この手順中双ビショップは防御駒と攻撃駒として初登場している。

39.Qe6+ Bf6 40.Bd3!! Qe7! 41.f8=N+! Qxf8 42.Qxf5+ Kf7 43.Qxh7+ Qg7 44.Qf5! Qf8! 45.Qg6+ Ke7 46.Ne3 Kd8! 47.Ng4?!

 ここで白は 47.Be4 で互角の形勢に満足すべきだった。

47…Bd4!! 48.Qxg5+ Kc7 49.Qf5?

 白は引き分けになるように努めるべき時に、まだ勝ちを目指して指していた。正着は 49.Ne3! で、49…Qf3 のあと急いで 50.Qe7+! Kb6 51.Qd8+! Ka7 52.Qa5+ というように永久チェックをかけるべきだった。

49…Qe8! 50.Qf4+ Kb6 51.Qh6+ Bc6 52.Qd2 Qg8! 53.Ne3

 53.Qd1 なら 53…Qa8! 54.Kc1(54.Bf5 Bf3!)54…Bf3 55.Be2 Qa1+ 56.Kd2 Qc3# で黒の勝ちとなる。

53…Qxb3+ 54.Kc1 Bb5! 白投了

 55.Bxb5 なら 55…Bxe3 と取られる。長い間不活発だった双ビショップの勝利だった。

******************************

2014年09月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(117)

「Chess Life」1995年3月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップがすべてではない

 前回は双ビショップの価値と威力について論じた。その価値と威力は本物なので尊重しなければならない。けれどもチェスは機械的に指してうまくいくというわけではない。

 1.ビショップは最大限に力を発揮するためには安定した安全な場所が必要である。

 ビショップはどこでもナイトほど敏捷というわけではないので、快適な居場所が必要である。さもないとナイトにいたる所で負かされる危険性が大きい。準グリューンフェルト防御(D94)から生じる重要な定跡で戦略的に不均衡な次の戦法を考えてみよう。

 小駒の展開を円滑に完了し中央にほどほどの影響力を発揮できるようにするために黒は白に双ビショップを与えた。白はこれが得だったことを証明するために双ビショップに好所を見つけなければならない。それには正しい手段と誤った手段がある。

 A.正しい手段 GMレフ・アルバート対IMベン・ファインゴールド(ニューヨーク、1994年)

13.dxe5! Qxe5

 GMアルバートは 13…Nxe5! が互角を目指すもっと良い手段であると指摘している。

14.e4 Rad8 15.Bf4 Qa5 16.Bd6 Rfe8 17.Qf4 Rc8 18.Qe3 Qb6! 19.Qf4 Nc5?

 白はビショップがよく働いているので通常の有利度である。黒は 19…Qa5 で局面を繰り返して白にどうするのか問題を突きつけて満足すべきである。GMアルバートは 20.g4、20.Rd2 そして 20.Rd4 のどれでも白が指せると言っている。代わりに楽観的な本譜の手で黒は一連の戦術の一発をあびた。

20.e5! Nxb3 21.exf6! Nxa1 22.fxg7 Qxb2 23.Be5! Re7 24.Qf6 Rxe5 25.Qxe5 Nc2 26.Rb1! Qa3 27.Ne4 Rd8 28.Nf6+! Kxg7 29.Ne8+ 黒投了

 B.誤った手段 GMアレクセイ・ドレエフ対GMイェルーン・ピケット、ドルトムント、1994年

13.e4? exd4! 14.Rxd4 Rad8 15.Be3 Nc5 16.Bc2?

 白は双ビショップの好形を夢見ている。しかし前局と違いここではナイトが曲を奏でる。GMエピシンは次のようにして白が互角を保持することを示した。16.Rad1! Rxd4 17.Bxd4! Nfxe4 18.Nxe4 Nxe4 19.Bxg7 Kxg7 20.Qe3

16…Nfd7! 17.Rdd1 b5! 18.Qe2 Nb6

 白のビショップが利いていないのに対し、黒のビショップは発電所となっていてナイトは白のクイーン翼を席巻する態勢にある。白は戦略的に負けている。

19.Rxd8 Rxd8 20.Re1 Nc4! 21.Bc1 Ne6! 22.Qf1 Qc5! 23.Bb3 Nd2! 24.Bxd2 Rxd2 25.Bxe6 fxe6

 双ビショップは過去のこととなり、黒の残りの駒が盤上を支配している。試合は次のように終わった。

26.e5 Rxb2 27.Ne4 Qxe5 28.Qd3 Qd5 29.Qg3 Be5 30.f4 Bd4+ 31.Kh2 c5 32.Qh4 Rxa2 33.Qe7 h5 34.Qe8+ Kg7 35.Qe7+ Kh6 36.h4 Qf5 37.Ng3 Qxf4 38.Qxe6 Ra1 白の時間切れ負け

******************************

2014年09月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(118)

「Chess Life」1995年3月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップがすべてではない(続き)

 2.白は早い段階で双ビショップを譲り渡しても不利な結果を招かないで済ませられる可能性が黒よりはるかに高い。

 双ビショップを黒に譲る最もよくある二つの状況は、相手のポーンの形を悪くする(例えば二重ポーン)ときと、白の展開の優位を増すときである。前者の明らかな例はルイロペスの交換戦法(1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Bxc6)で、後者の好例はシチリア防御ロッソリーモ戦法の1変化(1.e5 c5 2.Nf3 d6 3.Bb5+ Nd7 4.d4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bxd7+ Nxd7 7.O-O)である。

 ほかの状況ではことのほか注意を払うべきである。もちろんあなたが戦略の天才の元世界チャンピオンならば、例外を見つけることで好成績をあげるだろう。

GMアナトリー・カルポフ対GMべセリン・トパロフ、リナレス、1994年
 黒の手番

 白は黒に双ビショップを譲り渡しているのに自身は二重ポーンを抱えている。この局面の本質は白が Qd2、Rad1 そして Ne4 という態勢をとると黒のdポーンが危なくなるということを見て取ることにある。この見通しのために黒の防御の選択肢は制約を受ける。白は現在のところ重要なe5の地点を支配していて、問題となる可能性のある地点には Rfe1 と f4-f5 でe列で圧力をかけていく。

12…Bd7?!

 黒はdポーンを安全に守りながら、どのように展開を完了するかという問題を解決しなければならない。GMカルポフの並はずれた指し回しのおかげで我々は後知恵で黒の作戦が誤っていることが分かる。12…Na5!? の方が有望に思える。

13.Qd2 Qb8 14.Rfe1 g6 15.h4! a6 16.h5! b5?!

 この手は鮮やかな戦術で咎められた。だから 16…Ra7 と受けておかなければならない。

17.hxg6 hxg6 18.Nc5! dxc5 19.Qxd7 Rc8 20.Rxe6!

 黒の読みは 20.Bxc6?! Ra7 21.Qd3 Rxc6 22.cxb5 c4 23.Qf3 Rc8 でポーンの代償がそこそこあるというものだった(カルポフ)。しかし一連のルーク切りで白は決定的な戦力と陣形の優勢を築く。

20…Ra7 21.Rxg6+! fxg6

 21…Kf8 は 22.Qh3 fxg6 23.Qh8+ Kf7 24.Bd5# で、21…Kh7 は 22.Qh3+ Kxg6 23.Be4+ f5 24.Qxf5+ Kg7 25.Qg6+ Kf8 26.Bd5 Bd8 27.Qg8+ Ke7 28.Qf7+ Kd6 29.Ne4# で詰みになる。

22.Qe6+ Kg7 23.Bxc6

 白は交換損の代わりに2ポーンを得て攻撃をしている。このあとGMカルポフは優勢を積極さと正確さで勝ちにつなげた。

23…Rd8 24.cxb5 Bf6 25.Ne4 Bd4 26.bxa6 Qb6 27.Rd1 Qxa6 28.Rxd4! Rxd4 29.Qf6+ Kg8 30.Qxg6+ Kf8 31.Qe8+ Kg7 32.Qe5+ Kg8 33.Nf6+ Kf7 34.Be8+ Kf8 35.Qxc5+ Qd6 36.Qxa7 Qxf6 37.Bh5 Rd2 38.b3 Rb2 39.Kg2 黒投了

******************************

2014年10月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(119)

「Chess Life」1995年3月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップがすべてではない(続き)

 3.双ビショップを白に譲る際には黒は、白に不快な二重ポーンを負わせることができるならばたぶんそうするのが一番良い。

 ほぼ過去50年の間次の戦型がこの条件に合っている。

フランス防御ビナベル戦法 C19
白 GMマリー・チャンドラー
黒 GMゲラルト・ヘルトネック
ドイツチーム戦、1993年

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4 4.e5 Ne7 5.a3 Bxc3+ 6.bxc3 c5

 これはビナベル戦法の主手順の発端となる局面である。白は悪形の二重ポーンを受け入れ、代償にeポーンの締めつけ効果と局面が開けた場合の双ビショップの価値とに目を向けなければならない。ボビー・フィッシャーは白側の偉大な信奉者で、1969年に次のように書いている(『My 60 Memorable Games』151ページ)。「いつかはビナベルが本筋だと認めなければならなくなるかもしれない。しかしビナベルは胡散臭い!この防御は棋理に反しているしキング翼を弱めている。」それでも白が歴史上重要な主手順、すなわち黒が …Qa5 と …Nbc6 ですぐに白の中央ポーンに圧力をかける手順に対して棋理に反していることを実証するのに約20年を要した。1991年レイキャビクでのM.チャンドラー対J.ティマン戦がその古典的な例になっている。7.Nf3 Bd7 8.a4 Qa5 9.Bd2 Nbc6 10.Bb5 O-O-O 11.O-O c4 12.Bc1! f6 13.Ba3 Rhe8 14.Re1 Nf5 15.Qd2 h5 16.h3 h4 17.Bc5 Qc7 18.Bxc6! Bxc6 19.a5 Kb8 20.Reb1! Rh8

 ここでGMチャンドラーは 21.Ra2? の代わりに 21.Qf4! Rdg8 22.Bb6! axb6 23.axb6 Qe7 24.Ra7 g5 25.Qh2 で 26.Rba1 Kc8 27.exf6 Qd6 28.Ne5 の狙いで白の勝勢としている(『チェス新報』第52巻第295局を参照)。

 このような試合のために以前の主手順がすたれただけでなく、長い間常用していたナイジェル・ショートとビクトル・コルチノイの二人も 3…Bb4 から 3…Nf6 に転向することになった。

7.a4 Qc7 8.Nf3 b6

 残る重要なビナベル愛好者のドイツのGMヘルトネックと我らがボリス・グリコは今では本譜から始まるはるかに控えめな作戦にしがみついている。黒は 9…Ba6 を狙っていて、もし白がそれを防げば単刀直入の展開とキング翼キャッスリングで満足する。

9.Bb5+ Bd7 10.Bd3 Nbc6 11.O-O h6! 12.Re1 O-O 13.Ba3?!

 これはGMナンの創案による野心的なポーンの犠牲で、以前はうまくいっていた。しかしこの試合で信頼性がかなりはっきり揺らいでいるようなので、白はもっと控えめな 13.Be3 か 13.Qd2 に戻った方が良い。

13…Na5 14.Nd2 Bxa4 15.dxc5 bxc5 16.Qg4?!

 白の最善の策は 16.Bxc5 Qxc5 17.Rxa4 である。

16…Bd7 17.Nf3 Rab8! 18.Bc1 Kh8! 19.Qh4 Ng8 20.Ng5 Bb5! 21.Bh7 Nc4 22.Bf4 Rb6! 23.Bd3 Qe7 24.Qh3 Nb2! 25.Bxb5 Rxb5 26.Reb1 Rfb8 27.Qh5 R8b7 28.Bc1 g6 29.Qh3 Kg7 30.Nf3 Nc4

 黒の勝勢の局面である。

 ビナベルは持ちこたえ黒のクイーン翼のポーンは傷がない。しかしお互い時間に追われて悪手を指し、この面白い試合は48手で引き分けになった。全手順に興味のある人はチェス新報第60巻第291局のGMヘルトネックの解説を読むとよい。

******************************

2014年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(120)

「Chess Life」1995年3月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

双ビショップがすべてではない(続き)

 4.黒は何らかの理由により双ビショップを白に譲り渡す際にはことのほか実戦的でなければならない。

 例えば中央での白の影響力が急に増すことにでもなれば、黒は白の双ビショップに対する見返りが雲散霧消しかねない。もちろん上記の指針は経験のない状況でしなければならない決断にも適用される。最新の定跡の動向に通じているなら普通のGMと同じくらい安心していられる。

クイーン翼ギャンビット受諾 D23
白 GMワシリー・スミスロフ
黒 GMローベルト・ヒューブナー
ベルデン、1983年、番勝負第13局

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.Qa4+ c6 5.Qxc4 Bf5! 6.Nc3 e6

 この重要な局面は通常はスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Qb3 dxc4 5.Qxc4 Bf5 6.Nc3 e6 から生じる。白の目標は有利な条件のときに e4 と突くことである。だから白の普通の作戦は 7.g3 のあと 8.Bg2 から 9.O-O と指していく。しかしGMスミスロフは面白い構想を用意していた。それはクイーン同士を交換して、中央の優位と双ビショップの生きる收局に持ち込むことである。

7.Qb3?! Qb6 8.Qxb6 axb6 9.Nh4

 白はもちろんクイーン交換により黒がa列を活用する機会を得ていることに気づいているが、自分の得ているものの方がもっと価値があると思っている。白は「機械的な」9…Bg6 を期待していて、それなら 10.Nxg6 と指す。

9…b5!! 10.Nxf5 exf5

 白はf5で取るしかほとんど選択の余地がなかった。それでも出来上がった局面は 7.Qb3?! と指したときに期待したのとは大きく変化している。f5の黒ポーンは白が良い条件で e4 と突くのを防いでいる。つまり …fxe4 のあと白はdポーンが孤立するのが気に入らない。しかし白は e4 と突くことができなければ、両ビショップがほとんど働かず、黒の敏捷なナイトと半素通しa列が重要な要因になってくる。明らかに白の形勢が悪い。

11.e3 Nbd7 12.Bd3 g6 13.O-O Nb6 14.Bd2 Be7 15.Rfc1 O-O 16.b3?!

 この手は黒枡を弱め、黒がa列でルークを重ねればaポーンが弱くなる。16.a3 のあと必要なら Rab1 と指すことが必要だった。

16…Ra3 17.Bxb5!?

 偉大な選手のGMスミスロフは通常のやり方ではもう間に合わないと分かっている。例えばGMカバレクは 17.Nb1 のあと 17…Ra7 18.a3 Rfa8 19.Rc2 Nbd5 20.Rca2 Bb4! という変化を示し白が収拾不可能としている。だからGMスミスロフは駒を捨てて3ポーンを取った。自分のポーンはばらばらで弱いので十分な代償とはならないことは分かっているが、しのぎに実戦的な可能性を見ていた。

17…cxb5 18.Nxb5 Raa8 19.Rc7 Nbd5 20.Rxb7 Rfc8 21.a4 Rc2 22.Be1 Rac8 23.Na7 Rc1 24.Nxc8 Rxa1 25.Nxe7+ Nxe7 26.Kf1 Ned5 27.Ke2 f4 28.a5 Kg7 29.exf4 Nxf4+ 30.Kf3 Nxg2?!

 これで白にチャンスがめぐって来た。白のパスポーンが突き進んで黒駒と交換になり、白が負けを免れるのに十分である。GMカバレクは次のような勝つ手順をあげている。30…Ne6! 31.Bc3 Rc1 32.Bb2 Rc2 33.Ba1 Ra2 34.Bc3 Nd5 35.Be1 Nec7 36.b4 Rb2 白の戦力は麻痺し黒キングの参戦が決め手になる。試合は次のように続いた。

31.Kxg2 Rxe1 32.b4 Ra1 33.Ra7 Nd5 34.b5 Ra3 35.h4 Nf4+ 36.Kh2 Rh3+ 37.Kg1 Rb3 38.b6 Ne2+ 39.Kg2 Nxd4 40.Rc7! Ne6 41.Rc8! Nf4+ 42.Kh2 Nd5 43.Rd8! Nxb6 44.axb6 Rxb6 45.Rd7 Rb3 46.Kg2 h6 47.f3 g5 48.hxg5 hxg5 49.Kg3 Kg6 50.Rd6+ f6 51.Rc6 Rd3 52.Ra6 Kf5 53.Ra5+ Ke6 54.Ra6+ Kf7 55.Ra5 Kg6 56.Ra6 Rd7 57.Kg4 Rd4+ 58.Kg3 Kf7 59.Ra7+ Kg6 60.Ra6 Rb4 引き分け

******************************

2014年11月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(121)

「Chess Life」1995年5月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

無から有を生じさせる

 以前に2回対称で開放的な布局の局面における手番の有利さについて論じた。1994年7月号では 1.e4 e5 を取り上げ、1994年9月号ではフランス防御交換戦法を取り上げた。公平を期すため今回は閉鎖的な布局を取り上げる。

 直感的には対称で閉鎖的な局面で黒が心配すべきことは多いわけがないと思われるかもしれない。なにしろ黒陣は白陣と同じくらい良いのだし局面は閉鎖的なのだから。黒が突然の詰み狙いの攻撃を気にする必要がないのは確かである。しかし現代の布局の指し方をほとんど気にする必要がないということではない。白は中盤戦にさしかかると何らかの優位に立つことを目指す。このことは開放布局と同じくらい閉鎖布局でも実感できる。グランドマスターの試合で現在特に人気のあるのはグリューンフェルト防御の次の戦法である(ECO D79)。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.g3 c6 4.Bg2 d5 5.cxd5 cxd5 6.Nf3 Bg7 これをはやらせたのはGMアナトリー・カルポフで、彼の洞察力と好成績は以前の「引き分け手順」を強力な武器に一変させた。彼が超一流GMと指した実戦3局を紹介しよう。

******************************

2014年11月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(122)

「Chess Life」1995年5月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

無から有を生じさせる(続き)

グリューンフェルト防御 [D79]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMガリー・カスパロフ
1986年世界選手権戦24番勝負第13局

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3

 3.g3 と指して何も悪いことはないけれども、カルポフは本譜の手順を好んでいる。序盤ではどちらも望みの局面に到達するのにいくつかの手順を選ぶことができる。

3…Bg7 4.g3 c6

 この手はキング翼インディアン防御(4…O-O に続いて 5…d6)にするつもりはないという黒からの合図だった。しかし代わりに 5…d5 で白の中央に挑んでいく。約30年の間これが互角に至る黒の最も正確な手段であると定跡で考えられている。イギリスのGMジョン・ナンのような「過激な」キング翼インディアンの専門家でさえこのやり方を選択している。

 参考になるのはGMカスパロフが自著の『London-Leningrad Championship Games』でこの作戦について言っていることである。「3.g3 戦法の最大の欠点は黒が対称陣形を選択することができることである。そこでは白の可能性も制限される。黒のこのような堅実な方針は番勝負では典型的なものである。」

5.Bg2 d5 6.cxd5

 ここでもカスパロフの解説(著書の13ページ)は貴重である。「奇妙なことに実戦では(6.Qb3、6.Nbd2 などほかの手があるが)この交換が白に最良の結果をもたらすことが分かっている。」

6…cxd5 7.Nc3 O-O 8.Ne5

 これが最も厳しい手である。白はe5を占拠しd5に圧力をかけている。

8…e6

 本譜の手が黒の当たり前の手になっている。e5のナイトをどかせる準備をし、8…Nc6 でポーンの弱点を生じさせる可能性を与えない。

9.O-O Nfd7 10.f4!

 この戦法に活力を吹き込んだのはこの攻撃的な手である。10.Nf3 Nc6 11.Bf4 Qb6! なら黒の互角への道ははるかに容易である。本譜の手は黒に面白くない選択を強要する。すなわち白の前進したナイトを許容すべきか、…f7-f6 でキング翼の形の弱体化を招いてもこのナイトを追い払うかである。10…Nxe5?! は魅力的でないことが明らかになっている。1986年ブリュッセルでのカスパロフ対ナン戦では次のように続いた。11.fxe5! Nc6 12.e4 dxe4 13.Be3 f5 14.exf6e.p. Rxf6 15.Nxe4 Rxf1+ 16.Qxf1 Nxd4?(16…Bxd4 17.Bxd4 Nxd4 と指さなければならず、18.Re1! e5 19.Qf6 で白が大優勢な「だけ」である)17.Rd1 e5 18.Ng5 これで黒が投了した。壊滅をもたらす Qc4+ または Bd5+ に黒は成すすべがない。

10…f6?!

 この手は大胆で時期尚早である。黒はまず 10…Nc6 でクイーン翼の展開を完了することに努めるべきだった。このあとの2局ではそう指している。

11.Nf3

 のちになって 11.Nd3! が自然な退却であることが分かってきた。このナイトはc5に跳べばクイーン翼で働くし、機会があればe5に戻ることができる。盤の両側で働く好例はR.ジンジハシビリ対J.メステル戦(レイキャビク、1990年)である。11…Nc6 12.e3 f5 13.Ne5! Ne7(13…Ndxe5 14.dxe5 も白が良い)14.b3 Nf6 15.Ba3 Bd7 16,Rc1 Re8 17.Rf2 Ne4 18.Rfc2 Nc6 19.Bf1! a6 20.Nxe4 dxe4 21.Bd6 Rc8 22.h4! Nxe5 23.dxe5 Qa5 24.h5 明らかに白が優勢だった。

11…Nc6 12.Be3 Nb6 13.Bf2 f5

 13…Bd7?! なら白は 14.e4! で中央を有利な形で開放する(カスパロフ)。

14.Ne5 Bd7

 ここでGMカスパロフは的確な分析をつけ加えている。「ここから始まる捌き合いは長引くことが確実である。白には少し主導権があるが(主としてe5とb6のナイトの強さの違いによる)、相手が辛抱強く正確ならこの局面の性格のためあまり多くを期待できない。」感心させられるのはGMカスパロフがキング翼で反撃策を見つけなければならないことに気づいているだけでなく、その実行の仕方である。他方カルポフは 16.Qe3 や 17.Rfd1 のような手で手損するのでクイーン翼で十分迅速に動けない。

15.Qd2 Nc8 16.Qe3 Kh8 17.Rfd1 Nd6 18.b3 Rc8 19.Rac1 Be8 20.Be1 Bf6 21.Na4 b6 22.Nb2 Ne4 23.Nbd3 g5!

 白はようやくクイーン翼に活発な戦力を結集し、黒は攻撃を開始した。うまく指した方が優勢になることが期待できる。

24.Nxc6 Bxc6 25.Ne5 gxf4 26.gxf4 Be8! 27.Qh3 Rg8 28.Kf1?!

 GMカスパロフが指摘しているように白は黒の攻撃の可能性を過小評価し続けている。代わりに 28.Qh6! が「少し黒を麻痺させる」と推奨し、28…Bxe5 29.fxe5 Rg6 30.Qf8+ Rg8 31.Qh6 Rg6 で引き分けになるのが両者にとって最善の手順だと分析している。

 以降の手順で黒は勝つ可能性があったがそれをものにすることができなかった。残りの手順は我々の主題から外れるので、いつものようにGMカスパロフの非常に厳密で客観的な記号を付するにとどめる。

28…Rxc1 29.Rxc1 h5! 30.Bb4?! a5 31.Ba3? Bxe5 32.dxe5 Rg4 33.Bxe4 dxe4? 34.Bd6! Rxf4+ 35.Ke1 Rg4 36.Qe3 Qg5 37.Qxg5 Rxg5 38.Rc8 Rg8 39.e3 h4?! 40.h3 a4 引き分け

******************************

2014年11月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(123)

「Chess Life」1995年5月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

無から有を生じさせる(続き)

グリューンフェルト防御 [D79]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMガータ・カームスキー
モスクワ、1992年

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3 c6 5.Bg2 d5 6.cxd5 cxd5 7.Nc3 O-O 8.Ne5 e6 9.O-O Nfd7 10.f4! Nc6

 これが黒の通常の手になっている。クイーン翼ナイトを最適の地点に展開し局面の進展を待っている。

11.Be3

 GMカルポフの布局の指し方で重要な特徴は、具体的な行動を起こす前に駒の展開を完了することである。今のところクイーン翼ビショップは「何もしない」地点にいるように見えるけれども、展開はされていてクイーン翼ルークは戦いに投入することができる。

11…Nb6

 次にクイーン翼ビショップを展開してルークがc列で対抗できるようにしている。これは黒のもっとも堅実なやり方と考えられているが、守勢のハンディキャップを負っている。重要な変化は次局の 11…f6 である。ここでも 11…Ndxe5?! は魅力的でなく、12.fxe5 f6 13.exf6 Rxf6 14.Qd2 Bd7 15.Kh1 Rxf1+ 16.Rxf1 Qe7 のあとカルポフ対ティマン戦(アムステルダム、1987年)では 17.Rd1 Rc8 18.a3 Bf6 19.Bg1 Bg5?! 20.Qe1! Nd8 21.e4! で白がはっきり優勢になった。

12.Bf2 Bd7 13.e4! Ne7

 白は13手目でキング翼ビショップのために中央を有利に開放しようとしていた。黒は要所のd5の地点を過剰に守らなければならない。

14.Nxd7!

 この逆説的に見える手は(「優良」ナイトを「不良」ビショップと交換しているのではないのだろうか)、カルポフ対カスパロフ戦(1987年世界選手権戦第1局)で初めて登場した。その目的は複数ある。黒の …dxe4 から …Bc6 で解放を図る着想を防ぎ、15.e5 で白がキング翼で陣地を拡張し、f5の地点を守る黒駒が一つ少なくなるので f4-f5 と突ける可能性が増すことである。局面が開放された場合は白の双ビショップが強力になる。局面が進行するにつれてこれらの「お楽しみ」が実際に起こるようになる。

14…Qxd7 15.e5 Rac8

 GMカスパロフは 15…Rfc8 と指して最終的に互角にした。しかしそのときはGMカルポフはc列での黒の可能性を無力にする洗練された捌きにまだ想到していなかった。

16.Rc1 a6 17.b3 Rc7 18.Qd2 Rfc8 19.g4

 白が広さで優位に立つキング翼での作戦を開始した。

19…Bf8 20.Qe3!

 『New In Chess』誌1993年第1号でのこの局面についてのGMカルポフの解説と手順は特に洞察力に富んでいる。「相手の黒枡ビショップは弱体化したa3-f8の斜筋に向けられている。当面はe7のナイトがまだ邪魔になっている。しかしそれが動けばc3のナイトが釘づけにされる危険がある。白は 20.Bh4 で、黒キングに向けて弱体化した黒枡で自分のビショップを働かせたい。しかし 20…Nc6 のあと嫌な 21…Nxd4 の狙いが生じる。これは 20.Qe3 以外に白に良い手がないということである。この手は釘付けを未然に避け、c3のナイトから守り駒をなくさないし、白駒の連係を何も損ねない。」

20…Nc6 21.f5! Ba3

 21…exf5 なら 22.gxf5 Qxf5 23.Ne2! で「白ナイトがすごい勢いでキング翼に行く」(カルポフ)。

22.Rcd1 Nb4 23.Qh6! Qe8 24.Nb1 Bb2 25.Qd2!

 白の23手目から25手目は黒にc2へルークでなくナイトで侵入「させて」いる(25…a5 26.a3)。これにより白はキング翼で自由に振る舞える。さらには黒のキング翼ビショップがキングの守りから誘い出されていることに注意がいる。

25…Nc2 26.Kh1 Qe7 27.Bg1 Nd7 28.Rf3 Qb4 29.Qh6 Qf8 30.Qg5! Qg7 31.Qd2! b6 32.Rdf1 a5 33.h4 Nb4 34.a3 Rc2 35.Qf4 Nc6 36.Bh3 Nd8 37.Be3! b5 38.R3f2!!

 黒駒が中央とキング翼の守りのためにごちゃごちゃしているので、白はギアチェンジして黒のクイーン翼での動きを止め素通しc列を乗っ取る。

38…b4 39.axb4 axb4 40.Rxc2 Rxc2 41.Rf2! Rxf2 42.Qxf2 Ba3 43.Qc2

 満足な応手がないので(43…Nb8 は 44.f6 Qf8 45.Nd2! のあと 46.Nf3 から 47.Bf1 – カルポフ)、黒は反撃を目指す。それでもカルポフは危険なのは黒キングの方であることを見せつける。

43…Nxe5!? 44.dxe5 Qxe5 45.Qc8! Qe4+ 46.Bg2 Qxb1+ 47.Kh2 Bb2 48.Qxd8+ Kg7 49.f6+! Bxf6 50.Bh6+ Kxh6 51.Qxf6 Qc2 52.g5+ Kh5 53.Kg3! Qc7+ 54.Kh3 黒投了

 投了時にGMカームスキーは「快勝」をたたえて相手を祝福した。この試合は名局賞を獲得した。黒はどこで間違えたのだろうか。GMカルポフは黒の指し手の改善策について特に何も言っていないし私にも良い考えはない。GMたちが黒の陣形にあまり信頼をおいていないことは、最高峰の試合から消えたことによって如実に示されている。

******************************

2014年11月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(124)

「Chess Life」1995年5月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

無から有を生じさせる(続き)

グリューンフェルト防御 [D79]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMヤン・ティマン
FIDE世界選手権戦24番勝負第12局、1993年

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3 c6 5.Bg2 d5 6.cxd5 cxd5 7.Nc3 O-O 8.Ne5 e6 9.O-O Nfd7 10.f4! Nc6 11.Be3 f6

 前局のように締め付けられるのを避けるためにナイトを追い払う。前の手ですぐに 10…f6?! と突くのと本譜との大きな違いは、黒が1手展開が進んでいて白のクイーン翼ビショップがe2ポーンをふさいでいるので黒が白の早い e2-e4 突きを恐れる必要がないということである。

12.Nd3 Nb6 13.b3 Bd7

 小駒の展開の完了はカルポフ対ティマン戦(挑戦者決定決勝番勝負第4局、1990年)で指された 13…Qe7?! より明らかに優っている。14.a4 Bd7 15.Bc1! Rfd8 16.e3 Be8 17.Ba3 Qf7 のあと白は 18.g4! と突いて 19.g5 で黒枡の支配を図っていれば楽に盤全体で優位を保持できていた(ティマン)。

14.Bf2 Qe7 15.Rc1 Rad8 16.Rc2 Be8 17.Rd2 Nc8 18.e3 Nd6 19.g4!

 黒は白の中央でのどんな野心も迎え撃つ態勢が整っているので、GMカルポフはキング翼で陣地を広げそれからc列で様子を見る用意をしている。黒はいつまでも警戒しなければならない。

19…Kh8 20.Qe2 f5 21.g5 Ne4 22.Rc2! Nb4?!

 黒はc列を無効にする見通しについて楽観的すぎた。特に白はクイーン翼の黒枡で圧倒的に圧力をかけようとしている。だから後知恵になるが黒は 22…Nxf2! で白の「不良」クイーン翼ビショップを始末すべきで(そしてまたも 24…Nxf2! で)、白はそれを 23.Nxe4! で防ぐべきだった(GMティマンとGMセイラワンによる分析)。

23.Nxb4 Qxb4 24.Rfc1?! Bc6?! 25.Be1 Qe7 26.Nxe4! dxe4 27.Bf1! Rc8 28.h4 h5 29.Qd2! Qd7 30.Qa5 a6 31.Bb4 Rfe8 32.Bc5?

 チェスの怖い所はほんの一瞬の不注意でそれまで営々と築き上げてきたものがすべて駄目になることがあるということである。本譜の手のあと黒は急所のc列を無効にすることができ、白の優勢の90%が消える。正着は 32.Qb6! で(33.Bxa6 を狙う)、やむを得ない 32…Ra8 のあと黒は苦境に立たされる。白は 33.a4 でもっと陣地を拡張でき(セイラワン)、好きなように最適な仕掛け方を考えることができる。

32…Bd5! 33.Bb6 Rxc2 34.Rxc2 Rc8! 35.Rxc8+ Qxc8 36.Qc5 Qxc5 37.Bxc5

 ここでは白がまだ少し優勢であることは疑いないが、決め手となるような敵陣突破はどこにもなく、黒は白キングのクイーン翼への侵入を防ぐことができる。

37…Kg8 38.Kf2 Kf7 39.Ke1 Bf8 40.Kd2 Be7! 41.Bxe7 Kxe7 42.Kc3 a5 43.a3 b6 44.b4 Kd7 45.Bb5+ Kd8 46.Bc4 Kc7 47.Bb5 Kd8 48.Ba4 Ke7 49.Bb3 Bc6 50.bxa5 bxa5 51.Bc4 Kd6 引き分け

******************************

2014年12月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(125)

「Chess Life」1995年7月号(1/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て

 布局の指し方の最も悩ましい問題の一つは、ポーンを犠牲にして展開の手を稼ぐのに適切な投資はいつの時点かということである。1ポーンは何手に相当するかと表現することもできる。『Webster’s Ninth New Collegiate Dictionary』にはチェスに関連した手数の適切な定義が載っている。「チェスにおいて手番から優勢になるのに必要な手数。」戦力の価値を用いて表すのが最良で、1ポーンは3手に値する。もちろん特別に考慮しなければならないことが出てくることは常にあるが、それでも不完全な指針は全然ないよりも優る。

 「ポーンを犠牲にしたい気分」のときは常に次の原則も心に留めておくことである。

 1.黒は「1ポーン3手」に特にこだわらなければならない。なぜなら白は先手なので常に展開で1手先行しているからである。

 2.手得は移ろいやすい。だからポーンの犠牲から確実に何か明らかに有用なものを得るようにする方が良い。その一方で「1ポーンは永久もの」である。

 3.犠牲が効果をもたらしやすいのは(a)開放局面で(1.e4 布局の局面で)、(b)展開が完了していなくてそのため展開が特に価値あるものとなることのある布局初期である。

 4.ルーク列ポーンやナイト列ポーンを犠牲にするのは中央列のポーンよりも投資の危険性が少ない。というのは布局と中盤の段階においては中央は盤上で最も重要な地点だからである。

 今回は白によるポーンの犠牲を考察し、次回は黒によるポーンの犠牲を考察する。

 次の例では犠牲が棋理に合っていることが明々白々である。

シチリア防御 [B52]
白 GMウォルター・ブラウン
黒 GMミゲル・キンテロス
ベイクアーンゼー、1974年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.Bb5+ Bd7 4.Bxd7+ Qxd7 5.c4! Qg4?

 この手はよく言っても向こうみずである。黒は 5…Nc6 や 5…Nf6 で展開を図らずに、クイーンを駆けずり回らせてポーンを取ろうとしている。

6.O-O Qxe4 7.d4!

 白がキング翼の展開を完了したのに対し、黒はキング翼にキャッスリングするのに4手かかる。さらに白は Nc3 または Re1 でまた展開で手得する。白は展開の優位を生かすためには筋を素通しにしたい。黒は展開に取り掛かりながらできるだけ閉鎖的に保つように努めるべきである。だからここでは 7…Nf6 と指すことが必要で、GMキンテロスは一ヶ月後にトレモリノスでGMオストイッチ相手にそう指した。8.Nc3 Qf5 9.Qb3 b6 10.dxc5! Qxc5 11.Be3 Qc8 12.Rfe1 となって、白は開放局面でポーンの代償に少なくとも4手得して危なげなく勝った。

7…cxd4? 8.Re1 Qc6 9.Nxd4! Qxc4?

 これは自殺行為である。黒は白にもっと展開の手得を与える状況にない。9…Qd7 が絶対だが、10.Nb5 e6 11.Bf4 のあとソコルスキー対リシツィン戦(ソ連、1948年)で黒は受けきれなかった。

10.Na3 Qc8 11.Bf4 Qd7 12.Nab5! e5

 この時点で黒はさまようクイーンを除いてどの駒も展開していない。反対に白は開放局面で少なくとも6手得している。だからGMブラウンは黒陣を爆破した。

13.Bxe5! dxe5 14.Rxe5+ Be7

 GMブラウンは(a)14…Ne7 15.Nf5!!、(b)14…Kd8 15.Qf3! という変化も読んでいた。どちらも黒は受けがない。

15.Rd5! Qc8 16.Nf5! Kf8 17.Nxe7 Kxe7 18.Re5+ 黒投了

 18…Kf8 でも 18…Kf6 でも 19.Qd6+ が必殺の手になる。GMブラウンは展開の優位の価値を絵にかいたようにみごとに見せつけた。

******************************

2014年12月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(126)

「Chess Life」1995年7月号(2/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て(続き)

 それでも姉妹戦法では白がeポーンを犠牲にする効果はかなり低めだった。今度は私の試合を俎上に載せてみよう。

シチリア防御 [B31]
白 S.ボイド
黒 E.メドニス
カンヌ、1995年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 g6 4.O-O Bg7 5.c3 Nf6 6.d4?!

 たぶん白はeポーンを犠牲にしても大丈夫だろうが、普通に 6.e5 または 6.Re1 と指せば勝ちが望めるしポーン損のハンディも負わない。

6…cxd4!

 キング翼ビショップの斜筋の威力がぐんと増すのでこの手の方が 6…Nxe4 よりも正確である。

7.cxd4 Nxe4 8.d5 Nd6 9.Bd3

 白が 9.a4 または 9.Na3 と指しても黒は 9…Nb4 と指す。

9…Nb4 10.Nc3 O-O!

 10…Nxd3 と白の何もしていないキング翼ビショップとの交換を急ぐ必要はない。ここで手の損得を考えてみよう。手番はさておき白はクイーン翼ビショップの展開に1手要するだけである。これに対して黒は2手要する。だから白はポーンの代わりに明らかに1手得している。dポーンは黒陣側に入り込んでいるので白がいくらか陣地を広く所有していることは確かだが、孤立していて潜在的な弱点となっている。さらに黒のキング翼ビショップの斜筋は素晴らしい。『チェス新報』第61巻はここで 11.Bg5!? を推奨している。しかし私には 11…h6 で黒が先手でg5の地点を守って好調のように思える。

11.Re1 b6 12.Bf4 Bb7 13.Ne5

 『チェス新報』第61巻はここで 13.Bf1 では 13…Rc8 で黒が少し優勢であると指摘している。だから本譜の手はその改良手である。黒のキング翼ビショップの利きが短くなり、13…Nxd5?! は 14.Nxd5 Bxd5 15.Bxg6 で疑問手となる。

13…Rc8 14.Bf1?

 白はこんな贅沢をしていられる形勢でない。14.a3 が絶対で、14…Nxd3 15.Qxd3 で少し陣地が広いことがポーン損を補うことに役立つ。それでも黒は展開が完了していて双ビショップの潜在力があり快適な陣形になっている。ほとんどのシチリア防御派はここで勝つ可能性の高さと通常よりも低い負ける危険のために楽しくて仕方がないだろう。

14…Rc5! 15.Nd3 Nxd3 16.Qxd3 Nc4!

 黒の勝勢になった。黒はポーン得しているだけでなく、強力な主導権を保持している。

 白がシチリア防御に対してどうしても早々とポーンを犠牲にするなら側面ポーン(ルーク列またはナイト列のポーン)を犠牲にする方がビショップまたは中央のポーンよりも良い投資となる。だから側面ギャンビット(2.b4)の方がスミス=モーラ・ギャンビット(2.d4)よりも良い取引のように思われる。特徴的な2例をあげる。

 1)側面ギャンビット [B20] 1.e4 c5 2.b4 cxb4 3.a3 bxa3?!

 3…e6! で局面を閉鎖的に保つ方が本手だと思う。例えば 4.axb4(4.d4 Nf6)4…Bxb4 5.c3 Be7 6.d4 d6 となれば黒陣は堅固である。

4.Nxa3 d6 5.d4 Nf6 6.Bd3 e5?! 7.Ne2 Be7 8.O-O Nc6 9.c3 O-O 10.Nc2 Qc7 11.Ne3 b6 12.Ba3 Rd8 13.f4

 これはドルン対S.フィッシャー戦(オーストリア、1955年)で、ポーンの代わりに白の圧力が強かった。

 2)スミス=モーラ・ギャンビット [B21] 1.e4 c5 2.d4 cxd4 3.c3 dxc3 4.Nxc3

 黒のいろいろな主手順に対して白にはせいぜい1手得しかない。さらにはcポーンがないことによりd4の地点が弱くなることがあり、d5の地点を支配する見通しも少ない。すべての主流手順で白が何の犠牲もなしに常に強い主導権を得ることを考えると、このギャンビットにおけるポーンの代償はかなり魅力に欠ける。黒の最も簡明な手順をあげておく。

4…Nc6 5.Nf3 d6 6.Bc4 e6 7.O-O Be7 8.Qe2 Nf6 9.Rd1 e5 10.Be3 Bg4 11.h3 Bh5 12.Rac1 O-O

 白はd6を集中攻撃することによりポーンを取り返す可能性がいくらかある。しかしこれにより得ることのできる最大のものはほぼ互角の形勢である。

******************************

2014年12月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(127)

「Chess Life」1995年7月号(3/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て(続き)

 ほとんどの場合1手の差でポーンの犠牲が有望であるのと効果がないのとの違いになることを強調しておきたい。以下の重要な例にこのことがよく表れている。

1)ブラックマー=ディーマー・ギャンビット (D00) 1.d4 d5 2.e4 dxe4 3.Nc3 Nf6 4.f3 exf3 5.Nxf3

 黒がキング翼ビショップを展開するのに2手かかるのに対し白はすぐに展開できるので、もともと手番であることに加えてポーンの代わりに展開で1手得している。それでも白はこのために大切な中央のポーンを犠牲にしている。さらに黒陣はあらゆる点で堅固で傷がない。現代のマスターのチェスではそんなわずかなことのためにポーンを犠牲にするのはもったいなさすぎる。だからブラックマー=ディーマー・ギャンビットはマスター級の大会ではまったく指されない。

2)トロンポウスキー・ギャンビット (A45) 1.d4 Nf6 2.Bg5 Ne4 3.Bf4 d5 4.f3 Nf6 5.e4!? dxe4!

 黒は 2…Ne4 から 3…d5 の変化を正当化したければ、白の大胆さに自分も同様の手で応じるのが良いかもしれない。5…e6 と突いて 6.e5 Nfd7 7.Be3 c5 8.c3 Nc6 9.f4 という典型的なフランス防御の窮屈な陣形を受け入れるのはほとんど意味がない。GMジョエル・ベンジャミンは白を持って1994年のモスクワ・オリンピアードでGMポポビッチとIMマリサウスカス相手に快勝した。『Inside Chess』誌1995年第4号の11ページに彼の有益な記事があるので参照されたい。

6.Nc3 exf3 7.Nxf3

 前の図と比較するとここでは白は1個よけいに駒を展開している。f4の好所にクイーン翼ビショップが来ている。このため白はクイーン翼キャッスリングをすることによりクイーン翼ルークを迅速に動員することができる。黒がキング翼ビショップを展開するのにまだ2手必要なので、白が手番であることに加えてポーンの代わりに2手得している。私の見るところではポーンの代わりに十分代償を得ている。黒の防御が万全の場合白がいつもの布局の優位を保持できるかどうかは、実戦でさらに答えを追求すべき問題である。

 黒はキング翼ビショップをフィアンケットするかf8-a3の斜筋に沿って出すかによりキング翼を展開しなければならない。順番にこの二つを取り上げる。

A)7…g6 GMジュリアン・ホッジソン対IM A.G.パンチェンコ(ベルン、1994年)

8.Bc4 Bg7 9.Qe2 O-O 10.O-O-O c6?

 10…Bg4 11.d5! から Rhe1 のあとe7に白から圧力がかかっているというGMホッジソンの指摘は正確である。それでも黒はポーン得で、思慮深く戦力得を返すことにより常に自陣を整える機会が得られる。いずれにしても本譜では筋をこじ開けることにより白の攻撃が決定的なものになる。

11.d5! cxd5 12.Nxd5 Nxd5 13.Rxd5! Qb6 14.Rb5 Qc6 15.Ne5 Qe8 16.h4!

 白の6個のどの駒も攻撃に参加する用意ができているのに対し、黒のクイーン翼はまだ展開されておらず黒クイーンは「非展開」になっている。

16…Nc6 17.h5 g5

 黒の手はもう破れかぶれである。GMホッジソンは 17…Nd4 18.Qf2! Nxb5 19.hxg6! hxg6 20.Qh4 で黒に受けがないとしている。

18.Nxc6 Qxc6 19.Rxg5 Qf6 20.Qe5! h6 21.Rg6! Qxg6 22.hxg6 Bxe5 23.Bxe5

 ここで 23…e6 なら 24.g7! Re8 25.Rxh6 f6 26.Rh8+ Kxg7 27.Rxe8 fxe5 28.Bxe6 となる。

23…Be6 24.Rxh6 f6 25.Bxe6+ Kg7 26.Bf4 Rh8 27.Rxh8+ Rxh8 28.c4 Kxg6 29.g4 Rh3 30.Kd2 a5 31.c5 a4 32.b4 axb3e.p. 33.axb3 黒投了

B)7…c6 8.Bc4 e6 GM G.バルベロ対GMエルマル・マゲラーモフ(カットーリカ、1994年)

9.O-O

 白はこの手で、キングを安全なキング翼に移し熟慮の上で駒による攻撃を行なうことを告げている。重要な変化は前局のように 9.Qe2!? である。V.ヤンサ対G.ソソンコ戦(アムステルダム、1975年)では 9…Nbd7 10.O-O-O Nb6?! 11.d5!! Nbxd5 12.Bxd5 Nxd5 13.Rxd5! cxd5 14.Nb5 と進んで白の主導権が強力だった。黒は本局のように 9…Be7 から 10…O-O と指した方が良かったのではないかと思う。

9…Be7 10.Ne5 O-O 11.Kh1

 GMマゲラーモフは手損となる本譜の手を批判し、すぐに 11.Rf3!? と指すことを示唆している。

11…Nbd7 12.Bd3 c5! 13.Nxd7 Bxd7 14.dxc5 Bxc5 15.Bg5 Be7 16.Qf3 Bc6 17.Qh3 g6 18.Rad1 Nd7 19.Bh6 Re8

 黒は楽に展開を完了し中央列に得しているポーンがある。白は迅速に黒キングに迫れなければ、ポーン損で不毛の中央を抱えることになる。GMマゲラーモフは次のような読みを披露している。(a)20.Be4 Qc8 は黒が安泰。(b)20.Ne4 Qa5 21.Bd2 Qh5 は形勢不明。

20.Bc1?!

 この手は明らかに守勢的すぎる。クイーン翼ビショップを引きたいのなら 20.Be3 が妥当である。このあとは『チェス新報』第61巻第63局のGMマゲラーモフの記号を付けるにとどめる。よくあるように黒は優勢な中央と強力な主導権を手に入れるためにポーンを返した。

20…f5! 21.Bc4 Bg5! 22.Rfe1 Bxc1 23.Rxe6 Kg7! 24.Rxe8 Qxe8 25.Rxc1 Qe5 26.Qh4 Re8 27.Rd1 Nf6 28.Be2 f4?! 29.Qf2 g5 30.Bf3! Re7 31.Kg1?! g4 32.Bxc6 g3! 33.hxg3 fxg3 34.Qf3 bxc6 35.Kf1 Rf7 36.Re1 Qg5 37.Ke2 Nh5 38.Qxc6? Rf2+ 39.Kd3 Qd2+ 40.Kc4 Qxe1 41.Qd7+ Kh6 白投了

******************************

2014年12月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(128)

「Chess Life」1995年9月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て

 前回は布局の早い段階でポーンの完全な価値を得る要件について論じ、白の例をあげた。今回は黒について同じことをしてみよう。前回からの次の2点は繰り返す価値がある。

 1.用いるべき唯一最良の戦力についての価値は1ポーンは3手の価値があるである。

 2.白は先手なので常に展開で1手先行しているので、黒はポーンを犠牲にすることについては特に実際的でなければならない。

 ここでは展開の手数の潜在的な価値を論じていくことも明らかにしておきたい。長期的な戦略については1992年12月号の『黒の長期的犠牲』を参照して欲しい。

 少なくとも過去30年間黒が展開のためにポーンを犠牲にする唯一最も人気のある戦法はルイロペスのマーシャル・ギャンビット(C89)だった。その重要な局面に達する手順は次のとおりである。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.c3

 かなりの実戦の間に白はギャンビットを避ける方が有望であることが分かってきた。例えばカスパロフ対ショート戦(世界選手権戦、1993年)では3局すべてでGMカスパロフがGMショートの誘いを 8.a4 で断った。

8…d5!? 9.exd5 Nxd5 10.Nxe5 Nxe5 11.Rxe5 c6

 基幹となるカパブランカ対マーシャル戦(ニューヨーク、1918年)で黒は 11…Nf6 と指した。この手は決して退治されたわけではないけれども、現代ではほとんど本譜の手だけが指されている。d5の地点を支えてナイトを中央に置いたままにするのが理にかなっている。

 黒はポーンの代わりに何を得たのだろうか。白はクイーン翼を展開するのに3手必要だが、黒はクイーン翼ビショップを出すのにもう1手必要なだけである。さらに黒はキング翼ビショップを先手で効果的なd6の地点に再配置し、クイーンをh4を経て攻撃に参加させる。だから黒はこの時点では2手得し、ポーンの代わりに攻撃が有望視される。白には何があるのだろうか。白はこれからの苦労に対して1ポーンを得ている。しかし覚えておくべきことは「時間ははかないが1ポーンは永久である」ということである。

 マーシャル・ギャンビットは棋理に合っているのだろうか。そのとおり。時の試練に耐えてきたし、耐え続けると予想している。理解しなければならないことは棋理に合っているということは黒の最終的に互角になる見通しが 7…d6 から 8…O-O という閉鎖戦型よりも悪くないということである。マーシャル・ギャンビットはその人気ゆえに生きている研究所としてあり続け、多くの具体的な発見が両者に見つかるだろう。

12.d4 Bd6 13.Re1 Qh4 14.g3 Qh3 15.Be3 Bg4 16.Qd3 Rae8 17.Nd2 Re6

 両者とも展開を完了し、黒はキング翼の攻撃をどう続けるかを決めなければならない。もっと激しい変化は 17…f5 18.f4 g5 である。

 やはり白の得ている「すべて」はポーン得である。それはクイーン翼なので、そちらが白の戦場としなければならないところである。

18.a4! Qh5 19.axb5 axb5 20.Ne4! Bc7 21.Bd2 Rfe8

 『チェス新報』第61第345局でアーナンドが解説した2局のアーナンド対カームスキー戦のこの戦型は重要な局面である。

 1.アーナンド対カームスキー(モナコ[快速]、1994年)22.Nc5? Rxe1+ 23.Rxe1 Rxe1+ 24.Bxe1 Nf4! 25.gxf4 Bxf4 26.h4 そしてここで 26…Bf3? 27.Bxf7+! Kxf7 28.Ne4!(28…Qg6+ 29.Ng5+)で互角の代わりに 26…Qxh4 27.Qe4 Qh2+ 28.Kf1 Qh3+ 29.Qg2 Be2+ 30.Kg1 Bh2+! と指していれば勝勢だった。

 2.アーナンド対カームスキー(サンギ・ナガル、1994年、番勝負第1局)22.Bd1!! Bxd1 23.Rexd1 f5(23…Rxe4? は 24.Qxe4! Qxd1+ 25.Kg2!! で咎められる)24.Ng5 Re2 ここで 25.Nf3? で黒から 25…R8e3!! の一発を喫して43手で引き分けになったが、25.Qxf5 か 25.Qf3 と指していれば明らかに白が優勢を保持することができた。

******************************

2014年12月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(129)

「Chess Life」1995年9月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て(続き)

ぺトロフ防御マーシャル戦法 (C42)

 ある戦法の意味するところをより深く正確に理解するのに長い時間がかかることがよくある。1910年代の初め頃米国の偉大な攻撃的選手のフランク・マーシャルは、ぺトロフ防御の主流手順のそれまで守勢だった戦法を先鋭化させることにした。

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5

 これは逆説的な対称局面の一つである。ナイトがより活動的なのは黒の方であるが、形勢は白が普通の布局の程度くらい優勢である!これは黒のナイトがe4で不安定で、白はこれにつけ込んで主導権を握ることができるからである。

6.Bd3 Bd6!?

 これがマーシャルの着想である。それ以前の10年くらい前まで黒は控えめに 6…Be7 と指すしかないと考えられていた。本譜の手の本質的な戦略上の危険は、黒が Ne4 を支えている要所のd5の地点を守るのにより困難を抱えているということである。

7.O-O O-O 8.c4

 白は主眼の圧力をかけ始め、その圧力はまさにうっとうしくなりつつある。実際黒はポーンを犠牲にする用意をしなければならない。しかしそれには正しいやり方と間違ったやり方とがある。

Ⅰ.8…Bg4?! は間違ったやり方である。

 GMマーシャルは守るつもりはなかった。代わりに自著の『My Fifty Years of Chess』に書いているように「多くの批評家に疑問を表されているにもかかわらず、ほぼ20年間持ちこたえることのできた犠牲による反撃を採用する。」

 この犠牲につきものの問題は、白がポーンを取るのに何の代価もいらないことである。

9.cxd5 f5 10.Nc3

 白は攻撃しながら展開する。黒はキング翼ナイトを楽に守ることができないので、ポーンをもう1個貢いでクイーン翼ナイトを働かせる。

10…Nd7 11.h3 Bh5 12.Nxe4 fxe4 13.Bxe4 Nf6 14.Bf5 Kh8

 黒は展開に優っていないし(白は好きなようにクイーン翼ビショップを展開することができる)白陣には何も弱点がないので、戦力損の具体的な代償がない。白はここで非常に積極的な作戦を採用した。

15.g4! Nxd5 16.Be6!

 この手はシュピールマン対マーシャル戦(ハンブルク、1910年)の 16.Qd3 Nb4 よりもはるかに強力である(マーシャルが31手で勝った)。本譜の手のあとC.H.O’D.アレグザンダー対マリソン戦(ブライトン、1938年)では 16…Bf7 17.Ng5! Bxe6 18.Nxe6 Qh4 19.Qb3!(20.Bg5 が主要な狙い)と進み白が勝った。

Ⅱ.8…c6 が正しいやり方である。

 黒はd5の地点を守りもっと有望な時機を待って動くことにする。

9.Qc2?!

 10年前まではこれが 6…Bd6 を咎める手と認められていたが、もう指されていない。9.cxd5! cxd5 10.Nc3 だけが現在わずかな優勢を保持すると信じられている。

 本譜の手のあとすべての「普通の」手(9…Re8; 9…f5; 9…Bf5; 9…Nf6)はまったくうまくいかない。それでも黒は白の直接的でいくらか「素朴な」狙いを無視することができる。

9…Na6!!

 (a)10.Bxe4 dxe4 11.Qxe4 Re8 12.Qd3 Bg4!

 ポーンの犠牲がもたらしたものを検討してみよう。

 1.黒の小駒の展開が完了し働きの良い地点に配置されている。2.黒のキング翼ルークは唯一の素通し列を支配している。3.黒には双ビショップがある。4.白は白枡が弱い。5.白のクイーン翼は展開されていない。6.黒は 13…Bxf3 14.Qxf3 Qh4 でポーンを取り返すことを狙っている。7.白は 13…Nb4 を心配しなければならないだけでなく、黒には …Nc5 によりクイーン翼ナイトを働かせる戦術的な可能性もある。

 この時点で黒は既に展開で3手得しポーンの完全な代償もある。13.Ng5 は 13…g6 で何も起こらないので、故IMボリス・コーガンは次のような主手順を推奨し黒に完全な代償があるとしている。

13.Bg5 Qd7 14.Nbd2 h6 15.Be3 f5

 (b)10.a3 Bg4! 11.Bxe4?!

 この手はリュボエビッチ対ティマン戦(リナレス、1988年)で指されたが、やはり展望がなかった。白は互角を維持するために 11.c5、11.Nbd2 または 11.Ne5 から選択すべきである。

11…dxe4 12.Ng5?!

 12.Qxe4 Bxf3 13.Qxf3 Qh4 14.h3 Qxd4 で少し不利な形勢に満足するのが正着だった。

12…Bf5 13.Nc3(13.Nxe4?? は 13…Qh4 で即負けになる。)

13…Re8 14.Re1 Bc7!

 明らかに黒が優勢である。

 黒は展開で先行し駒の働きで優り、35手目で勝った。完全な棋譜は『チェス新報』第45巻第356局を参照されたい。

******************************

2015年01月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(130)

「Chess Life」1995年9月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て(続き)

 ポーンの犠牲が棋理に合っている可能性は、それが布局の戦略主題に合致しているならば高まる。好例はグリューンフェルト防御 (D82) の次の戦型である。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Bf4 Bg7 5.e3 c5

 グリューンフェルト防御の戦略構想は …c5 突きでd4の地点を攻撃することにより反撃を成し遂げることで、それによりフィアンケットされたキング翼ビショップの斜筋を開放する。

6.dxc5 Qa5 7.Qa4+

 5…c5 が戦術的に成立することは 7.cxd5 Nxd5! 8.Qxd5 Bxc3+ 9.bxc3 Qxc3+ 10.Ke2 Qxa! 11.Be5 Qc1 12.Bxh8 Be6! で互角になることですぐに確かめられる。白は本譜の手で收局を目指している。重要な変化は 7.Rc1 だが 7…Ne4 で中盤戦に入り、黒はいずれ犠牲にした戦力を取り戻して満足できる局面になる。

7…Qxa4 8.Nxa4 Be6 9.Bxb8

 黒は 9…dxc4 を狙っていた。代わりに 9.cxd5 と取るのは 9…Nxd5 で黒のキング翼ビショップの斜筋が通ってくる。白は本譜の手で白のクイーン翼に対して用いられるかもしれない黒のクイーン翼ナイトと交換することにより局面を単純化する。

9…Rxb8 10.cxd5

 ここで黒には選択肢が二つある。

 1)10…Nxd5? はドレエフ対レーコー戦(ドルトムント、1994年)で咎められた。11.Bb5+ Kf8 12.Rc1! で黒はキング翼ルークが戦いに参加できないのでポーンの代償を得ることができなかった。『チェス新報』第61巻第501局を参照。

 2)10…Bd7! 11.Nc3 Rc8! はGMドレエフにより「黒に代償あり」と推奨されている。白はcポーンを保持できないので(12.b4? Nxd5!)、黒は1ポーン損にすぎない。白が 12.Rd1 と指したと仮定すると黒は 12…Rxc5 と応じる。形勢判断の材料は次のとおりである。(a)黒は展開で2手先行している。(b)黒には双ビショップがある。(c)黒のキング翼ビショップの斜筋は強力である。(d)キャッスリングのあと黒のキング翼ルークはd8、c8またはb8に展開できる。(e)黒は …b5 でクイーン翼攻撃を始められる。GMラリー・エバンズがよく言うように「局面は実戦の検証を必要とする。」列挙した要素に基づけば黒は完全な互角になれるだろう。

******************************

2015年01月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(131)

「Chess Life」1995年9月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手を稼ぐためのポーン捨て(続き)

 早々と中央の大切なポーンを犠牲にしたいなら、申し分のない条件でポーンが取り戻せることを確認せよ。黒がeポーンを犠牲にするクイーン翼ギャンビットから二つのギャンビットを比較してみよう。

 (1)スラブ防御ビナベルギャンビット (D10) 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 e5!?

 多くのGMは現在のところビナベルを避けて 3.Nf3 と指すのを好んでいる。

4.dxe5 d4 5.Ne4 Qa5+ 6.Bd2! Qxe5 7.Ng3!

 白の最後の2手はクイーン翼キャッスリングと共にカスパロフ対ニコリッチ戦(マニラ・オリンピアード、1992年)で初めて実戦で用いられた。その着想は黒クイーンの露出した状態につけ込むことにより中央で精力的に動き始めることである。

7…Qd6 8.Nf3 Nf6 9.Qc2 Be7 10.O-O-O O-O 11.e3! dxe3 12.fxe3! Qc7 13.Bc3

 白は展開した駒の働きに優っているので、布局での通常の有利さがある。世界チャンピオンが快勝した。『チェス新報』第55巻第372局を参照。

 (2)アルビン逆ギャンビット (D09) 1.d4 d5 2.c4 e5?! 3.dxe5 d4 4.Nf3 Nc6

 黒は大切なeポーンをくれてやって何を得たのだろうか。dポーンが白陣に食い込んでいて白を少し窮屈にしている。しかし逆に言えば潜在的な弱点でもある。手の損得で見れば白がキング翼ビショップの展開に2手必要なので、黒はせいぜい1手得である。白陣にはこれといった弱点がない。結論として、黒のポーンの代償は不十分である。

5.g3 Bg4 6.Bg2 Qd7 7.O-O O-O-O

 「通常」の指し方ではだめなので、黒は「一か八か」の攻撃に出なければならない。しかしここから黒キングが危なくなる。

8.Qb3 Bh3?

 この手はスパスキー対フォリントス戦(ソチ、1964年)で逆ねじを食わされた。黒は代わりに 8…Nge7 と指すしかないところで、9.Rd1! のあと白がはっきり優勢である。『チェス新報』第25巻第545局のコルチノイ対ベインガー戦(ベエルシェバ、1978年)を参照。

9.e6!! Bxe6 10.Ne5! Qd6 11.Nxc6 bxc6 12.Qa4 Qc5 13.Na3 Qb6 14.Bxc6 Bxa3 15.bxa3 Ne7 16.Bb5 c6 17.Ba6+ Kd7 25手目で白勝ち

******************************

2015年01月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(132)

「Chess Life」1995年11月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か

 石垣システム(または石垣戦法)は 1.d4 での白の戦型である(黒にもオランダ防御で同じ中央ポーンの形になる石垣防御がある)。白の石垣は次のような特徴的な形になる。

長所

・ 白キングは c3-d4-e3-f4 の連鎖ポーンに守られているのでどんな強襲にも安全である。

・ 白は中央の重要なe5の地点を支配していてナイトをそこに据えることができれば攻撃の跳躍台として用いることができる。

・ 進んだfポーンは中央の地点をもっと確保するのに役立っている。

短所

・ e4の地点は恒久的に弱まっている。

・ クイーン翼ビショップは味方のポーンの背後に閉じ込められていて、自由に動くことは困難である。これは石垣の最も重大な欠陥である。

 現代の布局定跡は力まかせでなく中央の要所の支配と中盤戦のためにすべての駒の動員に関心があるので、石垣には根本的に重大な欠陥がある。世紀の変わり目頃には国際大会によく登場したけれども、マスターの試合からはまったく姿を消している。しかし非マスターの試合には地盤があって、本稿ではその棋力を対象とする。全般的な要約としてGMルーベン・ファインの『Practical Chess Openings』での評価が要を得ている。「石垣戦法は黒が不注意に指せば白の攻撃が見事に決まることがある。しかし黒は自分のクイーン翼ビショップ(永遠の問題児)を閉じ込めないようにすればよく、それで十分指せる。」

******************************

2015年01月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(133)

「Chess Life」1995年11月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 1.d4 に対する黒の最も普通の応手は 1…d5 と 1…Nf6 で、順に分析する。

 A.1.d4 d5 2.e3 Nf6 3.Bd3 [D00]

 白はキング翼ビショップを最良の地点に展開し、黒がクイーン翼ビショップをf5に展開するのを妨げた。例えば 3.f4?! では 3…Bf5! で、黒に無償でe4の地点を押さえつけられる。

 黒の最も普通の3応手を取り上げる。

 (1)3…e6?!

 当たり前の手だが、黒の作戦としては最も有望さに欠ける。なぜ不必要にクイーン翼ビショップを閉じ込めるのだろうか。

4.c3 c5 5.f4 Nc6

 5…Nbd7 でも似たようなものである。スルタン・ハーン対A.ルビンステイン戦(プラハ、1931年)では黒が次のようにすぐに不利になった。6.Nf3 Bd6?! 7.Nbd2 b6 8.Ne5! Bb7 9.Qf3 h5?(自殺手。9…O-O 10.g4 Ne8 ならまともだった。白はクイーン翼のルークとビショップが参加していないので攻撃に迫力がない)10.Qg3 Kf8 11.O-O h4 12.Qh3 Rc8 13.Ndf3 Ne4 14.Bd2 Nxd2 15.Nxd2 Nf6 16.Ndf3

6.Nd2

 白はe4の地点を過剰防御することにより …Ne4 を防いでいる。ここからは F.J.マーシャル対A.ルビンステイン戦(ウィーン、1908年) の手順を追う。

6…Bd6?!

 GMマーシャルは自著の『My Fifty Years of Chess』で次のような鋭い解説を加えている。「本譜の手は黒を e4-e5 突きによる猛攻にさらすので 6…Be7 と指す方がずっと優った。本譜の手は 7…cxd4 で白にcポーンで取り返させることを狙っている。しかし白は次の手でこの狙いに対処した。」

7.Qf3! Bd7 8.Nh3 Qb6 9.Nf2 O-O-O?!

 ここでは 9…O-O が最善である。黒の5手目の解説を参照。黒キングはクイーン翼では隙が多くてそのため安全性に劣る。白は何の危険もなく強力な攻撃に出た。

10.O-O Kb8 11.e4! dxe4 12.Nfxe4 Nxe4 13.Nxe4 Be7 14.dxc5 Bxc5+ 15.Nxc5 Qxc5+ 16.Be3 Qa5 17.a4!

 GMマーシャルはここで次のように言っている。「eポーン突きの結果白は手得して展開し、双ビショップと長続きする攻撃を得た。本譜の手は b4 と突くための準備で、すぐに突くと …Qa4 と応じてくるかもしれない。」白は名高い相手を次のように危なげなく負かした。17…Ne7 18.b4 Qc7 19.Bd4 f6 20.Qf2 Nc8 21.Rfe1 Rhe8 22.Qg3! Bc6 23.b5 Bd5 24.a5 Bc4 25.b6! Qc6 26.Bxc4 Qxc4 27.Qxg7 Ne7 28.Qxf6 Nf5 29.a6! axb6 30.Qe5+ Ka8 31.axb7+ Kxb7 32.Bf2! Rd5 33.Qf6 Qc6 34.Reb1 Rb5 35.Rxb5 Qxb5 36.Qf7+ Re7 37.Qg8 Qe8 38.Qxe8 Rxe8 39.Rb1 Kc6 40.Rxb6+ 白が54手目で勝った。

******************************

2015年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(134)

「Chess Life」1995年11月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 A.1.d4 d5 2.e3 Nf6 3.Bd3 [D00](続き)

 (2)3…c5

 これは欠点のない高級な手である。白が自発的に黒の中央に圧力をかけるのを避けたので、黒が中央での主導権を奪い取る。

4.c3 Nc6!

 4…Qc7 は無駄手である。ハイェス対カパブランカ戦(ニューヨーク、1911年)では 5.f4 Bg4 6.Nf3 e6?!(6…Nc6 の方が良い)7.Qa4+! Nbd7 8.Ne5 c4 9.Nxg4 Nxg4 10.Be2 Nh6(10…Ngf6 の方が良い)11.b3! cxb3 12.axb3 a6 13.O-O Bd6 14.c4! O-O 15.c5 Be7 16.b4 と進んで白が少し優勢になった。閉じ込められたクイーン翼ビショップは相変わらず問題だが、白の広さの優位の方がもっと重要な要因である。

5.f4

 主眼のポーン突きだが、純粋派は 5.Nf3 の方が良くて「互角」だと言うかもしれない。

 しかしカパブランカ対ベルリンスキー戦(モスクワ国際大会、1925年)のように 5.dxc5? は犯罪行為である。5…a5! 6.Nd2 e5 7.Bb5?! Bxc5 8.Ngf3 Qc7 9.Qa4 O-O 10.Bxc6 bxc6 11.b3 Ba6 で、中央での優位、双ビショップ、展開の大差という黒にとって願ってもない態勢になった。

5…Bg4! 6.Nf3 e6 7.O-O

 黒のクイーン翼ビショップが連鎖ポーンの外側に効果的に展開されたので、互角を心配しなければならないのは白の方である。別の穏当な手はガンズバーグ対タイヒマン戦(モンテカルロ、1902年)の 7.Nbd2 Bd6 8.h3 Bh5 9.b3 cxd4! 10.cxd4 Rc8 11.O-O Bg6 12.Bxg6 hxg6 である。GMファインは互角の形勢と判断しているが、白はクイーン翼ビショップの使いにくさが続く。

7…Bd6 8.Qe1 O-O 9.Ne5 Bf5!

 GMルデク・パッハマンは「黒が大いに優勢である。10.Bxf5 exf5 のあと白のeポーンは恒久的に弱い」という形勢判断で解説を締めくくっている。『MCO-13』(Modern Chess Openings 第13版)は次の重要な参考棋譜をつけ加えている。10.Qe2 Bxd3 11.Qxd3 Nd7 12.Nd2 Qc7(すぐに 12…f6 と突く方が正確である – メドニス)13.Rf3 f6 13.Ng4(14.Rh3 で 14…f5 と突かせる方が良い – メドニス)14…g6 リヒター対コルン戦(プラハ、1936年)で黒が少し優勢。パッハマンと MCO の「局面」で際立っていると思うのは、どちらでも黒が展開で先行しているのに対し白の「代償」は閉じ込められたクイーン翼ビショップであるということである。

******************************

2015年04月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(135)

「Chess Life」1995年11月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 A.1.d4 d5 2.e3 Nf6 3.Bd3 [D00](続き)

 (3)3…Nc6!? タラシュ対チゴーリン戦(ヘースティングズ、1895年)

 3…c5 が本当に何の戦略上の危険もなく指すことのできる「一般的な手」なのに対し、cポーンをこんなに早くせき止めるからには納得のいく具体的な理由が必要である。その目的は 4…e5 を狙うことにより 4…Nb4 と跳ぶ手数を稼ぎ白の優良ビショップと交換することである。

4.f4 Nb4! 5.Nf3

 これが普通の手である。しかしハリー・N.ピルズベリーは大会記録誌でこの試合を解説して 5.Be2 Bf5 6.Na3 e6 7.c3 Nc6 8.Nc2 Ne4 9.Nf3 Bd6 「など」と指す方が良いと推奨した。しかし駒の展開がより完璧で積極的なのは黒の方で、白のクイーン翼ビショップは味方のポーンによって閉じ込められていることに注意がいる。

 ショウウォルター対Em.ラスカー戦(ロンドン、1899年)では 5.Bd2 Bg4 6.Nf3 e6 7.Bxb4 Bxb4+ 8.c3 Bd6 9.Nbd2 O-O 10.Qb1 c5 11.Ne5 Bh5 12.O-O Rc8 と進んで、白が不良クイーン翼ビショップの交換に成功しほぼ互角の形勢になった。もちろん黒は 5…Nxd3+ または 6…Nxd3+ で交換を防ぐこともできた。

5…Nxd3+ 6.cxd3

 このような局面での取り返し方は「永遠の問題」である。本譜の手で白はe4の地点を奪い、たぶん半素通しc列で展望が見込める。しかし不如意な二重ポーンという犠牲を払っている。しかし 6.Qxd3 と取るのはもっと手堅くても、屈辱的な互角以外に何の展望もない。例えばゴットシャル対シュレヒター戦(ミュンヘン、1900年)では 6…e6 7.O-O Be7 8.b3 O-O 9.c4 b6 10.Nc3 Bb7 11.Bb2 c5 12.Rac1 Rc8 13.Ne5 Ne4 と進んだ。

6…e6

 ファインは 6…g6 と突く方が好きで、イェーツ対シュレヒター戦(ピエシュチャニ、1912年)の 7.Nc3 Bg7 8.O-O O-O 9.Ne2 b6 10.Bd2 c5 11.Rc1 Ba6 12.Ne5 Nd7 を引用して互角としている。

7.O-O Be7 8.Nbd2

 ピルズベリーはこの手の代わりに 8.Nc3 と指すのが好きだった。実際マーシャル対タイヒマン戦(ウィーン、1908年)では 8…O-O 9.Bd2 b6 10.Ne5 Bb7 11.Rf3 c5 12.Rh3 Rc8 13.Qf3 a6 14.g4 で白の攻撃が強力だった。しかし黒は防御の必要性に無頓着だった。11…c5?! の代わりに 11…Ne8 の方が鋭敏で、12.Rh3 g6 13.Qg4 Bf6 から 14…Nd6 となる。それでもこのような局面では黒のクイーン翼ビショップだって白のクイーン翼ビショップと同様に美しくない。さらには有望でないクイーン翼ビショップのフィアンケットの代わりに、黒は本譜のように単純で直接的な 9…Bd7 の方が良いと思う。

8…O-O 9.Qc2 Bd7 10.Nb3 Ba4 11.Qc3 b6 12.Qe1 c5 13.Bd2 Bb5 14.Ne5 Nd7 15.Nc1

 白がクイーンで手損したので黒は出遅れdポーンに圧力を強めることができてわずかに優勢になった。とは言っても白の防御は長期に渡って持ちこたえる。

15…Nxe5 16.dxe5 Rc8 17.Rf2 f6! 18.Bc3 d4 19.exd4 cxd4 20.exf6 Rxf6 21.Bb4! Bc5 22.Bxc5 bxc5 23.Qd2 Qd6 24.Ne2 Rcf8 25.Raf1 Qd5 26.Ng3 e5 27.f5?

 ピルズベリーによればこれは決定的な悪手だった。27.Ne4! と指すべきで 27…Rxf4 28.Rxf4 exf4 29.Rxf4 Rxf4 30.Qxf4 で互角である。黒は本譜の手に対し交換損の犠牲でポーン横隊を作り出し勝利をもたらした。

27…c4! 28.Ne4 cxd3! 29.Nxf6+ Rxf6 30.Rc1 h6 31.Rc8+ Kh7 32.Qb4 Bc6 33.Qb8 Rxf5 34.Rh8+ Kg6 35.Rhf8 Rg5 36.R8f3 d2 白投了

******************************

2015年05月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(136)

「Chess Life」1995年11月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 B.1.d4 Nf6

 白が石垣を目指していることを黒が知っているなら(またはうすうす感ずいてさえいれば)、本譜の手は 1…d5 よりも気の利いた選択になる。そもそも白は石垣でe5の地点の制圧を目指すので、どうして黒はわざわざ初手からそこを弱める必要があるのか。たとえ黒がクイーン翼ギャンビット拒否またはスラブ防御の使い手だとしても、例えばクイーン翼ギャンビットなら 2.c4 e6 3.Nc3 d5、スラブ防御なら 2.c4 c6 3.Nc3 d5 でいつも移行することができる。

 残念ながらチェスでは絶対自分の自由にできるというようなことはほとんどなく、黒はトロンポウスキー=ルース攻撃の 2.Bg5 に備えておかなければならない。

2.e3

 もちろん黒はこれに対し 2…d5 で(A)に移行することができる。しかし私の考えでは石垣マニアは 2…e6 や 2…g6 に立ち向かう方が嫌である。

 (1)2…e6

 黒はこれによりe5を弱めることなく古典の領海に踏みとどまるつもりである。

3.f4 b6 4.Nf3 c5 5.c3 Be7 6.Bd3 Ba6!

 黒は非常にすぐれた手順を用いている。白の優良ビショップと交換したかったのだが、手得になるようにそれがまず動くまで待っていた。白の選択肢は交換するか交換させるかである。

 (a)7.Bxa6 Nxa6 8.O-O O-O 9.Qe2 Qc8 10.e4 Qb7 11.Nbd2 cxd4 12.e5(12.cxd4 Rac8 も気が進まない。白は展開でずっと遅れている。)12…Nd5 13.Nxd4 f5!(ムドロフ対ボトビニク、ソ連、1919年)展開の優位と白の「不良」ビショップのために白が既に少し優勢である。

 (b)7.O-O Bxd3 8.Qxd3 d5 9.Nbd2 O-O 10.Ne5 Qc8! 11.Rf3 Qa6! 12.Qc2 Rc8(ティパリ対ポルティッシュ、ハンガリー、1955年)黒はキング翼での白の希望をつぼみのうちに摘み取ってクイーン翼で主導権を得た。やはり展開の優位と白の劣ったクイーン翼ビショップのために黒が優勢である。

******************************

2015年05月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(137)

「Chess Life」1995年11月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

石垣か牢獄か(続き)

 B.1.d4 Nf6 2.e3

 (2)2…g6

 キング翼ビショップのフィアンケットはどんなキング翼インディアン防御の愛好者の心も愉快にさせるものだ。白の危険なキング翼攻撃の可能性は低く、中央で黒が「自分の本領」を発揮する見通しはことのほか良い。

3.f4 Bg7 4.Nf3 c5

 真のキング翼インディアン防御派は次にどう指そうか考える前にとりあえず 4…d6 から 5…O-O と指す方を好むと思う。本譜の手順を採用したのはこの手順の好局が2局あるからである。

5.c3 d6 6.Bd3

 6.dxc5 dxc5 7.Qxd8+ Kxd8 8.Ne5 Be6 は黒の中央のキングにつけ込めないので大したことがない。6.Bc4 も無害で、例えばハンホルム対アブロシン戦(郵便対局、1958-60年)では 6…O-O 7.O-O Qc7! 8.Qe2 Nbd7 9.Nbd2 e5 10.fxe5 dxe5 11.d5 e4 12.Ng5 Qe5 13.Ne6 fxe6 14.dxe6 Kh8 15.exd7 Bxd7 となって黒がやや優勢だった(白の展開されていないクイーン翼ビショップのせいで)。主手順としてヘンニネン対ラルセン戦(バーヘニンゲン・ゾーナル、1957年)の手順を追う。

6…O-O 7.Nbd2 Nd5

 GMラルセンは白の処罰に着手するのを待つことができなかった。本手の布局原則の精神にのっとっているのは 7…Nc6 あるいは 7…b6 のあと 8…Ba6 または 8…Bb7 である。

8.Ne4 cxd4 9.exd4 Bf5 10.O-O b5 11.Ng3 Bxd3 12.Qxd3 Qb6 13.f5 Nd7 14.Kh1 Rac8

 GMホルトはこの局面をいい勝負と判定している。そうは思うが、それでも白のクイーン翼ビショップの斜筋が素通しなので白が 7.Nbd2 のあとの局面にしてはうまくやっているという感じを隠せない。

******************************

布局の探究(138)

「Chess Life」1996年1月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?

 『「機械的な」手の 1…g6』と題した回で私はその手を高く評価し、布局定跡の現代における理解に基づけば「完璧な」手と呼んだ。キング翼ビショップをすぐにフィアンケットする手が黒にとって良い手ならば、クイーン翼ビショップをすぐにフィアンケットする手はどうなのだろうか。これは急速に実戦の重要な問題になってきていて、さらには定跡の情報量も急速度で増えている。最新の様相すらある。

 しかし 1…g6 には 1…b6 より明らかに優る点が二つあることは認めなければならない。

 1.キング翼にキャッスリングすることにより黒はそちらの方面にキャッスリングしてすぐにキングを安全にする態勢になる。1…b6 ではクイーン翼へのキャッスリングは一般に不適切で、キング翼へのキャッスリングは明らかに遅れる。だから黒はキングの安全度で劣る危険を冒す。

 2.黒が 1.d4 布局で白の特定の積極的な展開を嫌うならば、一般にキング翼インディアン防御に移行することができる。1.e4 布局で白のあるシステムに対するのが好きでないなら、ピルツ防御に行くことができる。1…b6 で始める戦士にとってそのような主流布局に切り換える機会はない。

 約20年前まで 1…b6 はマスター界で満足のいく布局の手としてまったく受け入れられなかった。古典派にはまだ受け入れらていないが、若手選手と危険をいとわない選手には愛好者が出て来ている。私の個人的な状況は次のとおりである。1…g6 は指したことがあり(黒番でキング翼インディアン防御とピルツ防御を指すので)、違和感は何もない。大会ではあえて 1…b6 を指すつもりはない。

 1…b6 を良しとする最大の正当な点は次の二つである。

 1.チェス的理由 クイーン翼ビショップに第一級の中央への斜筋ができ、e4のポーンにあたることによりしばしば先手になる。(1…g6 布局ではd4のポーンはすでにクイーンによって守られている)

 1.実戦的理由 1…b6 は白が主要な定跡よりも研究していない可能性が大いにある。これにより独創的で才能のある黒が相手を不案内な領域に連れ込む機会が高まる。

 この短い紹介講座では最も普通の初手である 1.e4、1.d4、1.c4 そして 1.Nf3 から重要な例を取り上げる。

******************************

2015年05月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(139)

「Chess Life」1996年1月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅰ.1.e4 b6 2.d4 Bb7
アコピアン対ミナシアン(エレバン、1994年)[B00]

3.Bd3

 白の戦略は黒が真似できないのにつけ込んで迅速にキング翼の展開を完了することであるはずだから、3.d5 や 3.f3 のような手は有望さで劣る。融通性のある本譜の手は 3.Nc3 より優るはずである。なぜなら白はcポーンを中央のために使う可能性を排除する理由はないし、さらにはd3の地点はキング翼ビショップの最良の居場所だからである。

3…Nf6

 黒には 3…f5? と突く余裕はない。なぜなら 4.exf5! Bxg2 5.Qh5+ g6 6.fxg6 Bg7(6…Nf6?? 7.gxh7+ Nxh5 8.Bg6#)7.Qf5! Nf6 8.Bh6!! Bxh6 9.gxh7 Bxh1 10.Qg6+ Kf8 11.Qxh6+ Kf7 12.Nh3 となって白の攻撃が強烈だからである(ブルーダー対ベーゲナー、郵便チェス、1982年)。

 本譜の手とほぼ同等なのは 3…e6 である(この局面はしばしば 1.d4 e6 2.e4 b6 3.Bd3 Bb7 という手順から生じる)。そのあとの主手順は 4.Nf3 c5 5.c3 で、最近の実戦例は次の2局である。

 A.5…cxd4 は早すぎるように思える。6.cxd4 Bb4+ 7.Nc3 Nf6 8.Qe2 d5 9.e5(9.exd5 Nxd5 10.Bd2 も白が優勢 – アダムズ)9…Ne4 10.O-O! Bxc3 11.bxc3 Nxc3 12.Qe3 で、黒の展開の遅れと黒枡の弱さのために明らかに白が有望だった(アダムズ対ファンデルバーレン、モスクワ・オリンピアード、1994年)。

 B.5…Nf6 6.Nbd2 Be7 は慎重な指し方である。ブライソン対マイルズ戦(モスクワ・オリンピアード、1994年)では 7.O-O d5 8.e5 Ne4 9.Qe2 Nxd2 10.Bxd2 a5 11.Rfe1 Ba6! 12.Bb5+ Bxb5 13.Qxb5+ Nd7 14.c4 dxc4 15.Qxc4 O-O でほぼ互角の形勢だった。勝負は22手で引き分けに終わった。

4.Qe2! e6 5.Nf3 c5 6.c3 d5

 この早いポーン突きは黒がフランス防御のポーン陣形と特徴的な不良クイーン翼ビショップになる危険性がある。やはり 6…Be7 と辛抱する方が良い。ゲオルギエフ対マイルズ戦(ビール、1992年)とドルフマン対マイルズ戦(ティルブルフ、1992年)の両方とも 7.O-O Nc6 8.a3 Na5 9.Nbd2 c4 10.Bc2 Qc7 11.Ne5 b5 12.f4 O-O 13.Ng4 Nxg4 14.Qxg4 Nb3! と進んだ。GMマイルズはいい勝負と判断している。

7.e5 Nfd7

 代わりに 7…Ne4 はナイトを退路のない危うい所に置く。しかし本譜の手に対しては 8.Bg5! Be7 9.h4! Nc6 10.a3 で白が効果的な黒枡戦略を開始することができた(GMアコピアン)。

8.Ng5 Be7 9.h4 cxd4 10.cxd4 Nc6 11.Be3 Nb4 12.Bb5 Bc6!

 自分の不良ビショップと白の優良ビショップの交換で黒はかなり重荷が軽くなった。

13.Nc3 Bxb5 14.Nxb5 a6 15.Nc3 h6!?

 黒はナイトにやってこいと挑んだ。そして受諾された。より安全なのは 15…b5 である(アコピアン)。

16.Nxe6! fxe6 17.a3 Nc6 18.Qh5+ Kf8 19.Qg6

19…Qc8!

 この手の意味は 20.Qxe6?! なら 20…Ndxe5! 21.Qxc8+? Rxc8 22.dxe5 d4 と応じることができるということである。白は何も急がずにまずキャッスリングによりキングを安全にし、それからf列を素通しにすることに努める。戦術に関すること全部については『チェス新報第62巻』第88局のGMアコピアンの解説を参照されたい。

20.O-O! Nd8 21.f4 Kg8! 22.f5 Nf8 23.Qg3 exf5 24.Nxd5 Qb7 25.Nxe7+ Qxe7 26.Rxf5 Qd7?

 黒は 26…Qb7! 27.Raf1 Nde6 28.Rf7 Qd5 29.Re7 Rh7! 30.Rff7 Kh8!(アコピアン)と受けるしかなく、勝敗は不明だった。

27.Rxf8+ Kxf8 28.Qf3+ Ke7 29.Qxa8 Rf8 30.d5 Rf5 31.Re1 Nb7 32.Qg8 Rf8 33.Qxg7+ 黒投了

******************************

2015年06月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(140)

「Chess Life」1996年1月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅱ.1.d4 e6
エピシン対エールベスト(ノボシビルスク、1993年)[A40]

 早い …b7-b6 システムを用いるGM軍団は 1.d4 の場合決まって 1…e6 で始まる手順を好む。それには純粋にチェス的な理由がある。次の 2…b6 を防がれることはないので黒は何の代価も払わずに少し融通性が得られるからである(例えば 2.e4 なら 2…d5 でフランス防御に移行することができる)。

2.c4 b6 3.e4

 これが最も積極的な手法である。もし黒が中央を気にしないようなら、白は取れるものを全部取る。しかし最近の国際大会では控えめな作戦の 3.a3 Bb7 4.Nc3 の方がよく指されるようになった。4…f5 5.d5 Nf6 6.g3 のあと黒は王翼ビショップを展開する手段が二つある。A.ナウムキン対レンペルト戦(モスクワ、1994年)の 6…Na6 7.Bg2 Nc5 8.Nh3 Bd6! 9.O-O Be5! は互角になった。GMナウムキンは白が 9.Bf4!? で改良できるかもしれないとしている。B.ウマンスカヤ対グラブゾバ戦(ロシア、1994年)は 6…g6 7.Bg2 Bg7 8.Nh3! O-O 9.O-O Na6 10.b4! で白が陣地が広くて明らかに優勢だった。

3…Bb7 4.Bd3

 4.Nc3 は 4…Bb4 と釘付けにされるので、本譜の手と 4.Qc2 が白の信頼できる手になっている。4.Qc2 のあとの最近の重要な実戦例はレビット対エールベスト戦(ニューヨーク、1994年)で、4…Bb4+ 5.Nd2 Qh4 6.Bd3 Qg4 7.Kf1! f5 8.f3 Qh4 9.exf5 Qxd4 と進み、ここでGMレビットは優勢を保持する手段として 10.a3(10…Bc5 11.Nb3)をあげている。

4…Nc6

 ここでも 4…f5? は無謀である。勇気のある白ならば強く 5.exf5! と取ることができ(1989年アムステルダムでのメドニス対プサーヒス戦では白は 5.d5? と突いたが 5…fxe4 6.Bxe4 Qh4 7.Qe2 Nf6 8.Bf3 Bb4+ 9.Nd2? O-O 10.a3? exd5! となって白が破滅した)、5…Bxg2 6.Qh5+ g6 7.fxg6 Bg7 8.gxh7+ Kf8 9.Bg5! Nf6 10.Qh4 Bxh1 11.Nd2! Nc6 12.Ne2 b5 13.Nf4 と進んで白の攻撃が強烈(正しく指せば決定的)だった。例えば『チェス新報』第38巻第67局のシュナイダー対ウタシ戦(ブダペスト、1984年)を参照。

5.Ne2!

 GMエピシンによればこの新手は強力だった。ソソンコ対マイルズ戦(チュニス・インターゾーナル、1985年)では 5.Nf3 Nb4 6.O-O Ne7 7.Nc3 Nxd3 8.Qxd3 Ng6 9.a3 で両対局者が引き分けに合意した。メドニス対キング戦(スタバンゲル、1989/90年)では 9.Re1 で白がわずかに優勢だった。

5…Nb4 6.O-O Nxd3 7.Qxd3 d6 8.Nbc3 Nf6 9.d5 Be7 10.Nd4 Qd7! 11.b3! c6

 気の進まない手だが普通の 11…O-O では 12.Qh3!(GMエピシン)が煩わしい。

12.dxc6 Bxc6 13.Ba3 a6 14.Rad1 Bb7 15.Qg3 Qc7 16.Rfe1 g6 17.e5

17…Nh5??

 ここは勝負所である。17…dxe5 がこの一手で、18.Bxe7 Qxe7 19.Qxe5 O-O 20.f3 で白が少し優勢である(GMエピシン)。代わりに黒は戦術に打って出て白の応手を見落としポーン損になって敗勢に陥った。

18.Bxd6! Qd7 19.Qg4 Bxd6 20.exd6 O-O 21.Na4 Rae8 22.Nc2 Qd8 23.d7 Re7 24.Qd4 Bc6 25.Nxb6 e5 26.Qc5 Re6 27.Nb4 Bxg2 28.Kxg2 Rxb6 29.Nc6 Rxc6 30.Qxc6 Qh4 31.Qf3 Qg5+ 32.Kh1 Rd8 33.c5 e4 34.Qxe4 Qxc5 35.Qe8+ Kg7 36.Qe5+ 黒投了

******************************

2015年06月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(141)

「Chess Life」1996年1月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅲ.1.c4 b6 [A10]

 黒の 1…b6 はたぶん真のイギリス布局の使い手にとってもっとも厄介な手である。彼らは通常の手順の戦略的な捌きが好きだし自分の好むdポーン布局に移行するのを好むからである。ここではそのどちらの可能性もない。代わりに 2.d4 は戦型Ⅱに移行するし、2.Nf3 Bb7 3.g3 は黒が 3…Bxf3!? 4.exf3 c5 5.d4 Nc6! でd4の地点を争って指すことができる。キング対プラスケット戦(ロンドン、1991年)の参考になる試合は 6.d5 Nd4 7.Be3 Nf5 8.Bd2 g6 9.Bc3 Bg7 10.Bxg7 Nxg7 11.f4 Nh6 12.Bh3 O-O 13.Nd2 e6 14.Nf3 Qf6 15.Rb1 d6 16.dxe6 Qe7! 17.O-O fxe6 18.Re1 Nhf5 19.Qe2 Rae8 20.Qd2 Qf6 と進んだ。ほぼいい勝負で、両者はここで合意の引き分けにした。

2.e4

 この手はセルペル対イェルモリンスキー戦(世界チーム選手権戦、ルツェルン、1993年)で指された。白は黒のクイーン翼ビショップの斜筋をさえぎってからキング翼を展開する。最初に 2.Nc3 と指しても同じことになる。

2…Bb7 3.Nc3 e6 4.Nf3 Bb4 5.Qb3

 この手は本局の前までは高く評価されていた。しかしGMイェルモリンスキーは手損となることを明らかにする。だから 5.Bd3 と展開することが必要である。もっとも黒は 5…Ne7! 6.O-O O-O 7.Re1 f5! で何の問題にも出会っていない。特に参考になる戦略上の誤りはここで 8.e5? と突く手で、ヒューブナー対マイルズ戦(バート・ラウターベルク、1977年)では 8…Ng6 9.Bf1 Bxf3! 10.Qxf3 Nc6 と進んで黒が優勢だった。

5…Na6! 6.Be2

 代わりに 6.a3 は 6…Nc5! という手筋を食らう。D.クラムリング対シュスラー戦(スウェーデン、1993年)は 7.Qc2(7.Qxb4?? は 7…a5 8.Qb5 Bc6 でクイーンが捕まる)7…Bxc3 8.Qxc3 Nxe4 9.Qxg7 Qf6 10.Qxf6 Ngxf6 11.d3 Nd6 12.Be2 Ke7 でほぼ互角だった。「安全な」6.d3 のあとリュボエビッチ対ファン・デル・ビール(アムステルダム、1988年)で黒は 6…f5! 7.exf5 Bxf3 8.gxf3 exf5 で反撃できた(『チェス新報』第46巻第9局を参照)。

6…Ne7 7.O-O O-O 8.d3 Ng6

 GMセルペルはもっときつい 8…f5!? 9.e5 f4 に注意を喚起し形勢不明としている。

9.Bd2 d6 10.a3?!

 ここでもこの手は戦術上の問題に遭遇する。すぐに 10.Qc2 ならほぼ互角の形勢のはずである。

10…Nc5! 11.Qc2 Bxc3 12.Bxc3 f5!

 黒は中央とキング翼に主導権を持っていてそのため少し優勢である。残りは記号をいくつか付けるにとどめる。完全な解説は『チェス新報』第59巻第5局のGMセルペルの解説を参照されたい。

13.exf5 Rxf5 14.d4 Ne4 15.Bd3 Ng5! 16.Nxg5 Qxg5 17.Be4 Bxe4 18.Qxe4 Re8 19.Rae1 Nf4 20.g3 d5! 21.cxd5 Nxd5 22.f4 Qg4 23.Bd2 h5 24.Qf3 Qxf3 25.Rxf3 g5! 26.Rf2 g4 27.Rfe2 Kf7 28.Rc1 Rh8? 29.Rc6! Re8 30.Kg2 Re7 31.Re1 a5 32.b4 axb4 33.axb4 Nf6 34.Re5! Rxe5 35.dxe5 Ne4 36.Be1 Kg6 37.Kf1 Kf5 38.Ke2 Rd7 39.Ke3 Rd1 40.Ke2 Rd7 41.Ke3 Rd1 引き分け

******************************

2015年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(142)

「Chess Life」1996年1月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1…b6 はいかが?(続き)

 Ⅳ.1.Nf3 b6

 黒はもちろん先に 1…Nf6 と指してから 2…b6 と突くことにより白の次の手を防ぐことができる。これは『チェス新報』の記号ではA17の型の閉鎖システムになるが、ここではまったく別の話である。

2.e4 Bb7 3.Nc3 クラムニク対エールベスト(モスクワ・オリンピアード、1994年) [B00]

3…e6

 代わりに黒は 3…c5 で疑似シチリア防御に向かうことができる。しかし本譜の手は「b6選手」にとって一番の選択肢になっている。

4.d4 Bb4 5.Bd3 Nf6

 たぶんこの手は意欲的すぎる。5…Ne7! で 6…O-O から 7…f5 と指す手は考えてみる価値があった。

6.Bg5!

 得たりやおう。黒が反撃してくるので白は中央の優位を生かすために迅速な展開が必要である。6.e5 は 6…Nd5 7.Bd2 Nxc3 8.bxc3 Be7 9.O-O c5 で、6.Qe2 も 6…d5! 7.exd5 Nxd5 8.Bd2 Nxc3 9.bxc3 Be7 でどうということもなく、黒が互角にしている。

6…h6 7.Bxf6 Qxf6 8.O-O Bxc3 9.bxc3 d5

 この手はうまくいかない。しかし 9…d6 もダウトフ対ケンギス戦(ダウガフピルス、1989年)で白の強力な攻撃を喫した。10.Nd2! e5 11.f4! exd4 12.e5 dxe5 13.fxe5! Qg5 14.Nf3 Qe3+ 15.Kh1 『チェス新報』第48巻第151局を参照。

10.exd5! Bxd5 11.Ne5 O-O 12.Qh5 Qd8 13.c4 Bb7 14.d5! Qd6 15.Rae1

 白は駒のすべてを守りの不十分な黒キングに向けている。白の攻撃の見通しのすべてについては『チェス新報』第62巻第86局のGMクラムニクの解説を参照されたい。

15…exd5 16.Qf5 g6 17.Qh3 Kg7 18.Nxf7! Kxf7 19.Qxh6 Rg8

 ここは正念場である。白は 20.Re3! で勝てる。GMクラムニクの示した主手順は 20…Nd7 21.Qh7+ Kf8 22.Rf3+ Nf6 23.Bxg6 Qe6 24.cxd5! Bxd5 25.Qh6+ Ke7 26.Re3 Ne4 27.Qh7+ Kd6 28.Bxe4 である。

20.f4? Nd7!

 白の逸機で黒はちょうど受けが間に合った。

21.f5 Rh8! 22.fxg6+ Kg8 23.Qf4 Qxf4 引き分け

******************************

2015年06月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(143)

「Chess Life」1996年3月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒

 クイーンが非常に強力であることは誰でも知っている。しかし小駒と比べて正確にはどのくらい強力なのだろうか。これを知る必要があるのは、クイーンを小駒と交換する(犠牲にする)手順(戦術)を正確に読めるようにするためである。

 クイーン対小駒の価値については誤った多くの情報がいつもあった。初心者向けのいろいろな本や小冊子が主犯である。例えばドーバー出版(株)から出版され版権が1958年と1972年になっているフレッド・ラインフェルド(全盛期には米国の最強選手の一人だった)著『How Do You Play Chess』では、ビショップとナイトの価値はそれぞれ3、クイーンの価値は9と書かれている。これは小駒3個はクイーンと同価値ということを意味している。これはそのとおりではない。

 もっと悪いのはプレスマン・トイ(株)の最近(日付不明)の小冊子の誤った情報で、それはクイーンを10点、小駒をそれぞれ3点と評価し、クイーンが小駒3個よりも価値があるとしている。これはまったくの間違いである。

 本稿ではクイーン対小駒という重要な主題についての現在の知識を伝授する。もちろんこれらの原則は通常の状況に当てはまるものである。

 1.小駒3個はクイーンよりも価値がある

 小駒3個は適度にお互い良く連係を取れる限り、クイーンより強力である。これはそのとおりである。どのようにしてそれを知っているのか。経験からである。だからクイーンを捨てて小駒3個を取ることができるなら、局面に特別な問題がない限り進んでそうすべきである。反対に小駒3個を捨てて敵クイーンを取ろうとしてはいけない。そんなことをすれば戦力損になるからである。この知識によりシチリア防御ドラゴン戦法(B73)に対する以前は重要だった白の戦法が、白が数多く負ける前に見捨てられることになった。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be2 Bg7 7.Be3 Nc6 8.O-O O-O 9.f4

 戦略的観点からは理にかなった手である(陣地の拡張、キング翼攻撃の準備)。しかし黒には互角にする戦術が十分にある。

9…Qb6! 10.Qd3 Ng4! 11.Nd5 Bxd4!

 ここでの白の最善手は 12.Bxg4! Bxe3+ 13.Qxe3 Qxe3+ 14.Nxe3 Bxg4 15.Nxg4 で、互角の收局である。もちろん白は 9.f4 と指した時にはこれをほとんど想定していなかった。だから実戦の大部分は次のように進んだ。

12.Nxb6? Bxe3+ 13.Kh1

 この手でデ・ヨング対ログマン戦(オランダ、1933年)は 13.Qxe3 Nxe3 14.Nxa8 Nxf1 15.Bxf1(または 15.Rxf1 f5)15…f5! と進んだが、白が不利な收局に逃げ道を求めるのはほとんど間尺に合わない。

13…Bxb6 14.Bxg4 Bxg4

 黒はクイーンと引き換えに明らかに大変良い小駒3個を得ている。どうして多くの選手が白で自らこの局面に入るのだろうか。私の考えでは二つの理由がある。(1)チェスの理論は小駒3個がクイーンよりも価値があるということを十分に認識していなかった。(2)白が黒のクイーン翼ビショップの位置につけ込めるという非現実的な期待があった。いずれにしてもここでまったくばかげているのはポウルセン対バイル戦(ミュンヘン、1936年)の 15.c3?! Be6 16.f5?! Ne5 17.Qg3 Bc4 で、白は何の目的もなく陣地を明け渡した。

******************************

2015年07月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(144)

「Chess Life」1996年3月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒(続き)

 ここからはドノバン対メドニス戦(マーシャルチェスクラブ選手権戦、ニューヨーク、1956年)の手順を追う。

15.f5

 白は黒のクイーン翼ビショップを捕まえることを夢見ている。しかし黒は陣形に傷がなく小駒には好所があるので、白の夢が現実化する条件は存在しない。

15…Ne5?!

 ナイトをすぐに絶好の地点に持って来ることは間違っていないように思われた。しかしこのナイトは今の地点で申し分なく、本譜の手の問題は白クイーンを好所に行かせることだった。だからクイーン翼ビショップの安全を確保することがすぐに必要だった。これは二通りの方法で行うことができる。

 (1)15…gxf5!? この手は局面をすぐに開放して、普通に(良く)位置している駒により黒が有利になることを期待している。黒駒は見かけによらず連係が十分なので、白はg列の素通しにつけ込むことができない。1939年アムステルダムでのファン・デン・ボス対ランダウ戦は次のように続いた。16.exf5 Ne5 17.Qg3 Kh8 18.Qh4 Bd8! 19.Rae1 e6 20.f6 Bf5! 黒はキング翼が安全なだけでなく、g列を用いて白を攻撃することも期待できる(これは実戦例で見ることができる)。

 (2)15…Bh5 これは融通性のある手で、ビショップをh5-e8の斜筋で引き戻す用意をし、白がh3でこのビショップを当たりにして先手を取ることのないようにしている。16.Rae1 Ne5(GMファインは『Practical Chess Openings』の中ですぐに 16…f6 と突いて互角であると書いている)17.Qh3 f6(アフーエス対リヒター戦[ベルリン、1930年]では 17…Rac8 で黒が良かった)18.Qh4 Bg4!(19.h3 に 19…g5 と突く意図)これはホロウィッツ対レシェフスキー戦(ニューヨーク、1951年)で、黒は優勢をしっかり保持した。

16.Qd2! Bh5 17.b3?

 白は戦場を読み違えた。勝負にかかわる手は 17.h3! だった。黒は 17…Nc4 より良い手がなく、白は 18.Qd3 Ne5 で千日手にするか 18.Qc3 Ne3 19.g4 Rac8 で優劣不明の局面にするかを選択することができる。

17…Kh8! 18.Qd5

 ここで 18.h3 に 18…gxf5 と応じられるのは 19.Qg5 がチェックにならないからである。

18…Rab8 19.c4 f6! 20.h3 gxf5 21.exf5 Be8 22.Rae1 Rg8 23.Re2 Bc6

 黒の小駒は白キングに殺到している。白負けたり。

24.Qd2 Rg5 25.Kh2 Rbg8 26.g4 h5 27.gxh5 Rxh5 28.Qc3 Ng4+ 29.Kg3 Ne3+ 白投了

******************************

2015年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(145)

「Chess Life」1996年3月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒(続き)

 それでは小駒3個とクイーンとの戦力的に正しい関係式は何だろうか。数学的に計算する必要性からはクイーン+ポーン=小駒3個である。コンピュータチェスのプログラムにはこのような式が必要である。しかし実際のチェスでは状況は次の原則によって複雑化している。

 2.ほかの状態が変わりないなら盤上により多くの駒を持っている側が、存在する戦力が数学的に同じ価値でもたいていの場合有望である。

 GMたちは直感的にこの原則を認識している。好例は『Inside Chess』誌1995年第22号8ページのGMミハイル・グレビッチの解説に見てとれる。M.グレビッチ対ケンギス戦(バート・ゴーデスベルク、1995年)は次のように進んだ。1.c4 b6 2.d4 Bb7 3.Nc3 e6 4.a3 f5 5.Nf3 Nf6 6.g3 Ne4 7.Bd2 Be7 8.Bg2 Bf6 9.Rc1 ここで 9…Bxd4 と取ってくればGMグレビッチはクイーン捨てを用意していた。10.Nxd4 Nxc3 11.Bxb7 Nxd1 12.Rxd1

 GMグレビッチは自戦解説で 12…c6、12…Nc6 それに 12…e5 を分析し、どの場合も白が指しやすい局面になると結論づけている。12…Na6 は一顧だにしていない。なぜなら 13.Bxa6 で白がクイーンとポーンの代わりに3個の良好な小駒を得て「明らかに」優勢になるからである。しかしそれほど明らかなのだろうか。たぶん違うかもしれないが、それでもGMたちは経験から白の見通しの方が優っていることを学んだ。その理由は単純で、この局面は通常の局面なので原則2が当てはまるからである。

******************************

2015年07月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(146)

「Chess Life」1996年3月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒(続き)

 とは言ってもこれまで述べてきたことにもかかわらず、クイーンの強力さはずば抜けている。だからクイーンとポーンとにかかわる戦力バランスを計算するときには、次の原則をいつも心に留めておかなければならない。

 3.クイーンには絶大な威力があるので、相手がポーンも得ている戦力バランスの計算では、ポーンの価値はそれぞれ1「点」より小さい。

 クイーンを8点と評価して(小駒3個(9)-ポーン1個(1)=8)計算すると、クイーンは小駒2個とポーン2個とに等しいことになる。圧倒的多数の場合クイーンはあまりに強力なのでこのようなことは成り立たない。

 しかしこのバランスが成り立たなくても、非常に面白くて重要な定跡の戦型が一つ存在する。それはキング翼インディアン防御のゼーミッシュ戦法(E87)で生じ、最も独創的なGMダビド・ブロンシュテインによって生み出された。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3 O-O 6.Be3 e5 7.d5 Nh5 8.Qd2 Qh4+ 9.g3 Nxg3 10.Qf2 Nxf1 11.Qxh4 Nxe3

 黒はこの時点でクイーンの代わりに小駒2個とポーン1個とを得ている。黒には 12…Ng2+、12…Nc2+ それに 12…Nxc4 の狙いがあるのでcポーンを取ることができ、戦力の代償にビショップ2個とポーン2個とが得られることになる。黒が本質的に不十分な戦力の代償として期待している要素は何だろうか。それらは

 ● 黒陣は8個のポーンでまとまっていて、白クイーンが黒の戦力にかみつくのは困難である。

 ● 局面はかなり閉鎖的で、やはり白クイーンがその力を見せつけるのには不利な条件になっている。

 ● 白は黒枡に根本的な問題を抱えている。特に黒はd4の地点をしっかり支配できる。

 上記局面の定跡の評価は、「白が少し優勢(+/=)」と「黒に戦力損の代償がある」との中間あたりである。しかし実戦では黒の方が指しにくいことが証明されている。黒は何か作戦を立てる時には、これに関連した微妙な差異をすべて完全に評価しなければならない。さもないと白クイーンが恐怖の的と化す。

 その一方で白は誤った指し方をしても、クイーンに将来の活躍を期待することができる。これらの要素を例示するために、まず最初の試合、次に現在の主流手順の例をお目にかけよう。すべての場合において黒の反撃の見通しは適時の …f5(場合によっては …c6)突きにかかっている。

******************************

2015年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(147)

「Chess Life」1996年3月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒(続き)

 次の手順はスパスキー対ブロンシュテイン戦(挑戦者決定アムステルダム大会、1956年)である。

12.Kf2?!

 黒の主眼の反撃は …f5 にからんでいるので白キングはここでは具合が悪い。12.Ke2 が正着だった。

12…Nxc4 13.b3 Nb6 14.Nge2 Na6 15.Rhg1 f5

 正確にはGMブロンシュテインは 7…Na6 と指してここで初めてキャッスリングした。

16.Kg2 Bd7 17.a4 Bf6 18.Qg3 Nb4 19.a5 Nc8

 定跡ではこの局面は黒の方が少し良いとされている。白がキングの動きとaポーン突きで手損したことを考えればこれは意外でない。それでも何と速く窮鼠猫を噛むことになるか注意されたい。

20.exf5 Bxf5?

 このごく普通の手が早くも問題の手だった。なぜなら黒は主導権を強めることができず、白は自分の有利に局面の開放を始めるからである。対局後GMブロンシュテインは正しい作戦は 20…Ne7! だと言った。21.fxg6? と取ってくれば 21…Nf5! 22.gxh7+ Kh8 23.Qe1 Nd3 24.Qd2 Nh4+ で黒の攻撃が決まる。

21.Ra4! Nd3 22.Rc4 Nc5 23.Ne4! Na6 24.Nxf6+ Rxf6 25.f4! e4 26.Nc3 Ne7 27.Re1 Raf8 28.b4 c6 29.Nxe4 Bxe4+ 30.Rcxe4 Nxd5 31.Re8! Nac7 32.Rxf8+ Kxf8 33.Kh1 Rf5 34.Qh4 Nf6 35.Qf2! Nb5 36.Qe2! Nd5 37.a6! bxa6 38.Qe8+ Kg7 39.Qxc6 Kh6 40.Qxa6 Nxb4 41.Qb7 Nd3 42.Re7! Nxf4 43.Rxh7+ Kg5 44.Qe7+ Kg4 45.Qe3 Kg5 46.h4+ Kg4 47.Kh2 Nh5 48.Rh6 黒投了

******************************

2015年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(148)

「Chess Life」1996年3月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン対小駒(続き)

 次にクジミン対ピケット戦(オーステンデ、1991年)では次のように進んだ。

12.Ke2 Nxc4 13.Rc1! Bd7!?

 黒の選んだ作戦はさらに戦力損をこうむってもクイーン翼ですぐに反撃を策するという非常に動的なものだった。普通の 13…Na6 14.Nd1 Nb6 15.Ne3 Bd7 についてはカスパロフ対セイラワン戦(バルセロナ、1989年)を参照されたい(29手目で引き分け)。『Inside Chess』誌の1989年第10号12ページにGMセイラワンの詳細で非常に参考になる解説が載っている。(『チェス新報』第47号の第719局にも解説がある)

14.Nd1 Nb6! 15.Ne3

 GMクジミンは形勢不明だが重要な変化の 15.Rxc7 Na6 16.Rc3!? を避けた。

15…c6!?

 15…Na6 なら上記のカスパロフ対セイラワン戦と同じになっていた。

16.Nh3 cxd5 17.exd5 Na6?

 これで白のキング翼ナイトが活躍できるようになった。正着は 17…f6! 18.Nf2 f5! でクジミンによれば「代償がある。」

18.Ng5 h6 19.Ne4 Nb4 20.Nc3?

 積極的に 20.Rhd1! Nxa2 21.Rc7 と指せば明らかに白が優勢だった。

20…e4!! 21.fxe4 Rae8

 GMクズミンによれば黒にはいい勝負に向けて十分反撃が効く。この面白い試合は次のように続いた。

22.a3 Na6 23.b4 Nc7 24.Kd2 Re5 25.Ng4 Bxg4 26.Qxg4 Nc4+ 27.Kd3 Rg5 28.Qe2 Nxa3 29.Qa2 Nab5 30.Nxb5 Nxb5 31.Rhf1 a6 32.Rf2 Rh5 33.Rf3 f5 34.exf5 Nd4 35.Rcf1 Nxf3 36.Rxf3 Rhxf5 37.Rxf5 Rxf5 38.Qc4 Kh7 39.Qe4 Be5 40.Qh4 Rf3+ 41.Ke2 Rf7 42.h3 h5 43.Qd8 b5 44.Ke3 g5 45.Qc8 Rf4 46.Qd7+ Kh6 47.Qe6+ Rf6 48.Qc8 g4 49.hxg4 hxg4 50.Qxg4 Rf4 51.Qc8 Rxb4 52.Qxa6 Kg5 53.Qb7 Kg4 54.Qc8+ Kg3 55.Qe8 Rb3+ 56.Ke4 Kf2 57.Qf7+ Ke1 58.Qh5 b4 59.Qh1+ Kd2 60.Qg2+ Kc3 61.Qf3+ Kb2 62.Qe2+ Ka1 63.Qf1+ Ka2 64.Qc4 Ka3 65.Qa6+ Kb2 66.Qe2+ 引き分け

 GMクジミンの完全な解説は『チェス新報』第53巻の第397局を見られたい。

******************************

2015年08月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(149)

「Chess Life」1996年6月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(上)

 1990年8月号では「何はともあれ 得意定跡の選び方」として一般論を説明した。そこでは布局定跡の選び方はチェスの興味、棋風そして勉強法に合わせなければならないことを強調した。もっと簡単に言えば好きな定跡、得意な定跡、そして十分に研究する時間のある定跡を指しなさいということである。はっきり言わせてもらえば米国チェス連盟の会員の大多数は積極的で「本格的な」システムを選ぶべきである。つまり目標を無理なく理解し目指すことのできるシステムである。直接的で積極的に指すためには 1.e4 が断然最適な手である。今回と次回の2回に分けて本格派の 1.e4 選手のためにいくつかの助言をする。

1.シチリア防御ナイドルフ戦法 B97
1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 白の6手目と7手目はもう40年ほどの間ナイドルフ戦法での主流手順をなしてきた。白はこのあと 8.Qf3 から 9.O-O-O と指すつもりで、中央で e5 突きから突破を図ったりキング翼で g4 突きから攻撃することを見据えている。例えばb5やe6での捨て駒を伴う戦術の機会はいくらでもある。誤解して欲しくないが白の作戦とその実行は簡単であると言っているのではない。しかしそれらは積極性があり棋理に合っている。歴史的に見ると黒の主流手順は 7…Be7 だった。7…Nbd7 や 7…Qc7 と指す戦略もあるが白も予定の陣形を構築することができる。

 それでもずっと玉にきずとなってきたのはボビー・フィッシャーの大胆な 7…Qb6!? だった(上図参照)。弱いb2の地点をすぐに攻撃することにより黒は白がクイーン翼キャッスリングに1手遅れていることにつけ込んでいる。ゆうに30年以上の間白は 8.Qd2 と迎え撃ち 8…Qxb2 に 8.Rb1 または 8.Nb3 と応じることにより 7…Qb6 を咎めようとしてきた。膨大な量の定跡体系が築かれ細かい部分は20年近いか既に20年を越している。白にポーンの代償があることは確かだが、局面はまったくの大乱戦である。訳の分からない激しい戦術が好きで抜群の記憶力を持ち布局の勉強にあり余る時間があり難解な研究が楽しいなら 8.Qd2 と指すのが良い。そうでない人には次の手を推奨する。

8.Nb3

 ナイトは脇へ寄らされたが一方的に損したわけではない。b6は黒クイーンにとって良くない地点である。というのは味方のbポーンを動けなくし、e5の地点に利いていないのですぐに1手損してc7に下がらなければならないからである。本譜の白の手にすぐにつけ込む手段はない。(1)8…Qe3+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 Nc6 11.Bf3 Bd7 12.O-O-O Be7 13.Na4! O-O-O 14.Bxf6 gxf6 15.Nb6+ Kb8 16.Nxd7+ Rxd7 17.Bh5 Bd8 18.Rhf1 Rg8 19.g3 はシュテイン対グリゴリッチ戦(ストックホルム・インターゾーナル、1962年)で、白が收局で明らかに優勢だった。(2)8…h6 9.Bxf6 Qe3+(9…gxf6 10.Qd2 または 10.Qf3 は白の有利な中盤戦になる)10.Qe2 Qxe2+ 11.Bxe2 gxf6 12.Bh5! Be7 13.O-O-O Bd8 14.Rhe1 Nc6 15.Kb1 Rg8 16.Re2 Bc7 17.Rd3 はユダシン対ドロシュケビッチ戦(ソ連、1981年)でやはり白の優勢な收局になった。

8…Be7

 この融通性のある手は現在は最も人気のある応手である。もっと攻撃的な手は 8…Nbd7 9.Qf3 Qc7 10.O-O-O b5 11.Bd3 Bb7 12.a3 Be7 13.Rhe1 h6 で、ここでカームスキー対リュボエビッチ戦(ブエノスアイレス、1994年)の 14.Qh3(『チェス新報』第62巻第399局)の代わりに 14.Bh4 g5 15.Bg3!? の方が良いだろう。

9.Qf3

 9.Qe2 と 9.Be2 もかなりの量の定跡が形成されている。しかし本譜の手には積極的で棋理に合った指し方が主手順の 7…Be7 に通ずるという有利さがある。

9…Nbd7

 ここで 9…h6?! 突きを入れるのは白がすんなりと主眼の e5 突きを指すことができるのでうまくない。カルポフ対キンテロス戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)では 10.Bh4 Nbd7 11.O-O-O Qc7 12.Bg3! b5 13.e5 Bb7 14.Qe2 dxe5?1 15.fxe5 Nh7(15…Nd5? は 16.Nxd5 Bxd5 17.Rxd5! で黒が負ける)16.Ne4! Bg5+ 17.Kb1 O-O 18.h4 Be7 19.Nd6! と進んで白がはっきり優勢になり37手で勝った。

10.O-O-O Qc7 11.Qg3

 主眼の 11.Bd3 と 11.g4 も良い手で、『チェス新報』第57巻第265局を参照されたい。

11…h6

 11…b5 の詳細については本誌1994年4月号に私の解説がある。そこで取り上げたカームスキー対グレビッチ戦(米国選手権戦、1991年)は 12.Bxf6 Nxf6 13.e5! dxe5 14.fxe5 Nd7 15.Bxb5!? axb5 16.Nxb5 Qb6 17.Qxg7 Rf8 18.Nd6+ Bxd6 19.exd6 と進んだ。GMグレビッチはここで 19…Qe3+ と指し動的な均衡に望みをつないだ(しかし51手で黒が負けた)。その後シャバロフ対マゲラーモフ戦(米国選手権戦、1991年)では黒が 19…Nc5 と手を変えた。20.Nxc5 Qxc5 21.Qf6 Ra7 22.Rhe1 Rd7 23.Qf4 Bb7 で形勢不明だが多分動的にいい勝負だろう。白が駒の代わりにいいポーンを3個持っているのに対し、黒のビショップはよく利いている。

******************************

2015年08月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(150)

「Chess Life」1996年6月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(上)(続き)

1.シチリア防御ナイドルフ戦法 B97(続き)

 このあとはエピシン対ポルティッシュ戦(レッジョ・エミーリア、1991年)の手順を追う。

12.Bxf6 Bxf6 13.e5!?

 白はほかに指しようがない。

13…dxe5 14.Ne4 exf4 15.Nxf6+ gxf6 16.Qg7 Rf8 17.Nd4

 ナイトを戦いに復帰させた。GMミハルチシンは 17.Bd3!? から 18.Rhe1 で 19.Rxe6+! fxe6 20.Bg6+ Kd8 21.Qxf8# を狙う別の作戦もあるのではないかと言っている。

17…Nb6

 クイーン翼の展開を完了させようとして戦力の一部を自ら返上する。エピシン対ぺトロシアン戦(ダウガフピルス、1989年)では黒が 17…Qa5 と指し白が 18.Bd3! で強力な主導権を保持した(38手で白の勝ち)。18…Qg5? は 19.Nxe6! で咎められる(19…fxe6? 20.Bg6+ Kd8 21.Qxf8+)。

18.Be2 Bd7 19.Qxf6 Rc8 20.Bf3 Nc4 21.Kb1 e5 22.Rhe1 Ne3 23.c3!

 23…exd4 と取ってくれば白は 24.Rxd4 Be6 25.Rxf4 と強襲する。

23…Rd8 24.Nc2!

 24.Bh5 でも 24…Bc8 25.Ne6 Bxe6 26.Rxd8+ Qxd8 27.Qxe6+ Qe7 で黒が受かっている。白は 28.Qc8+ Qd8 29.Qe6+ で千日手にするしかない。中盤戦の戦術の完全な分析については『チェス新報』第51巻第255局を参照して欲しい。

24…Nxd1 25.Bh5!? Ne3 26.Nxe3 fxe3 27.Rxe3 Bf5+ 28.Qxf5 Rd6 29.Qxe5+ Kd8 30.Qg7 Re8 31.Rxe8+ Kxe8 32.Qg8+ Kd7 33.Qxf7+ Kc6 34.Bf3+ Kb6 35.Qxc7+ Kxc7 36.Kc2 引き分け

 白がどちらの翼でも二つの連結パスポーンを作れないのでこの收局は互角である。

******************************

2015年08月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(151)

「Chess Life」1996年6月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(上)(続き)

2.シチリア防御スベシュニコフ戦法 B33

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e5

 1960年代終わりまたは1970年代初めまでの約100年あまりの間、この手は布局の悪手としか考えられていなかった。黒はd5の地点を恒久的に弱め、キング翼ビショップを閉じ込めなければならない。そしてどこに代償があるのか。何千時間もの研究のすえ黒に動的な反撃の可能性があることを示すことができたのは、シベリア出身のグランドマスターのエブゲニー・スベシュニコフだった。それ以来20年以上の間主流戦法になっている。

6.Ndb5

 積極的な指し方だけが成功につながる。ほかの変化はどれもみな物足りない。(1)6.Nxc6?! bxc6 は黒の中央を強化する。(2)6.Nf5?! は 6…d5! で足場を崩される。(3)6.Nb36.Nf3 は 6…Bb4 でさっそく釘づけにされる。(4)6.Nde2 は 6…Bc5 で積極的に展開される。本譜の手で白は気持ちの良い 7.Nd6+ を狙っている。

6…d6 7.Bg5

 やはり積極的な展開が求められる。ほかに考えられる 7.a4、7.Nd5 それに 7.Be3 は優勢につながらない。7.Bg5 の局面は 2…e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Ndb5 d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 という手順からも生じることがあり実際よくできる。しかしここでは整合性のために本譜の手順を用いることにする。

7…a6 8.Na3

 白は 8.Bxf6 gxf6 9.Na3 f5 10.Qh5 b5 11.Naxb5 で乱戦に持ち込むことができる。しかし 11…axb5 12.Bxb5 Bb7 となって捨て駒の代償が十分かどうかは判然としない。

8…b5

 意味のある継続手はこれしかない。黒は Na3 の愚形を際立たせる。

9.Nd5

 これがこの局面での棋理に合った手段である。白はd5の地点の支配を確かなものにし、a3のナイトが c3 から Nc2 で戦いに復帰できるようにし、その間黒に早い反撃の機会を与えない。はっきり異なった棋風のガリー・カスパロフとアナトリー・カルポフが採用した手もこれである。

 最も激しくいくなら 9.Bxf6 gxf6! 10.Nd5 だが、10…f5 で白ナイトがa3で遊んでいるうちに黒が中央で積極的に反撃を開始することになる。

9…Be7

 黒は急いで釘付けを解消しなければならない。そうしないと白が 10.c4 と仕掛けることができ、さらには 10.Bxf6 と取られると黒が …f5 と突くのに1手遅れることにもなりかねない。

10.Bxf6 Bxf6

 ここでは 10…gxf6?! と取る必要もなければ意味もない。つまりキング翼ビショップが働かない位置にいるので白に 11.Ne3! でd5とf5の地点を締め付けられるからである。

******************************

2015年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(152)

「Chess Life」1996年6月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(上)(続き)

2.シチリア防御スベシュニコフ戦法 B33(続き)

 ここからはカスパロフ対シロフ戦(ホルゲン、1994年)の手順を追う。

11.c3 Bb7

 この手と次の手で黒はクイーン翼の小駒の位置の改善を図る。ありきたりの 11…O-O 12.Nc2 Rb8 なら白に二通りの異なった指し方がある。

 (1)GMカスパロフの指し方 13.h4 Ne7 14.Nxf6+ gxf6 15.Bd3 d5 16.exd5 Qxd5 17.Ne3 Qe6 18.Qh5 e4?! 19.Bc2 b4 20.c4 Kh8 21.O-O-O これはカスパロフ対ローチェ戦(モスクワ・オリンピアード、1994年)で、キング翼への決定的な攻撃が視野に入っている。『チェス新報』第62巻第171局にカスパロフの解説がある。

 (2)GMカルポフの指し方 13.a3 Ne7 14.Ncb4 Bb7 15.Be2 Ng6 16.g3 a5 17.Nc2 Bxd5 18.Qxd5 Ne7 19.Qd3 d5 20.Rd1! これはカルポフ対ローチェ戦(番勝負第6局、1994年)で、白枡での眼目の支配で白が明らかに優勢である(52手で引き分け)。『チェス新報』第62巻第169局にカルポフの解説がある。

12.Nc2 Nb8 13.a4 bxa4 14.Rxa4 Nd7 15.Rb4 Nc5?!

 黒が白の応手を見落としたのは無理もない。GMカスパロフは 15…Rb8!? を指摘しているが、白は通常の布局の有利さを保持している。

16.Rxb7!! Nxb7 17.b4!

 交換損とそれに続くこの手には、白枡の支配と黒ナイトを働かせないという二つの戦略構想が含まれている。

17…Bg5 18.Na3! O-O 19.Nc4 a5 20.Bd3 axb4 21.cxb4

 白のbポーンは役に立つパスポーンであるのに対し黒のdポーンは無力なままなので、白は交換損で1ポーン得ているのも同然である。

21…Qb8 22.h4! Bh6 23.Ncb6 Ra2 24.O-O!

 白は小駒を最高度に配置し終えたので、ここで初めてキャッスリングした。

24…Rd2 25.Qf3 Qa7 26.Nd7

 カスパロフによれば(いつも変わらぬ聡明、客観的そして徹底的な解説が『チェス新報』第61巻第178局に載っているので読んで欲しい)両者の最善の手順は 26.Bb5! Nd8 27.Nd7 Ne6 28.Ne7+ Kh8 29.Nxf8 Qxe7 30.Nxe6 Qxe6! 31.Bc6 で、働きに優るビショップとパスbポーンのために白が少し優勢である。

26…Nd8?

 この手は消極的すぎた。唯一の受けは 26…Ra8! で、上記の手順に入る白の最善手は 27.N7b6! Rf8! 28.Bb5! である。

27.Nxf8 Kxf8 28.b5!

 白陣は勝ちの態勢である。それでも世界チャンピオンの積極性と正確さは実際よりもそれを容易に見せている。

28…Qa3 29.Qf5! Ke8 30.Bc4 Rc2 31.Qxh7! Rxc4 32.Qg8+ Kd7 33.Nb6+ Ke7 34.Nxc4 Qc5 35.Ra1! Qd4 36.Ra3! Bc1 37.Ne3! 黒投了

******************************

2015年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(153)

「Chess Life」1996年6月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(上)(続き)

3.アリョーヒン防御 B04

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 これが現代のグランドマスターの大部分に選ばれている積極的で妥当な戦法である。以前は過激な 4.c4 Nb6 5.f4 が主流手順だった。積極性が足りないのは交換戦法(4.c4 Nb6 5.exd6)で、性急すぎるのは 3.c4 Nb6 4.c5 である。本譜の手のあと黒の最も堅実な手は 4…Bg4 で、白は 5.Be2 で楽にわずかな有利さを保持している。

4…dxe5!?

 これは次の手と連携してGMベント・ラルセン創案の非常に意欲的な作戦となっている。

5.Nxe5 Nd7!? 6.Nf3!

 これは積極的で妥当な手である。黒は白に 6.Nxf7!? Kxf7 7.Qh5+ Ke6 8.c4 N5f6 9.d5+ Kd6 10.Qf7 とやってこいと誘っていて、訳の分からない乱戦になる。最近の実戦例はグラシス対スタブリノフス戦(リガ、1994年)で、『チェス新報』第60巻第103号に載っている。白は本譜の手で少し有利で安定した中央を保持していて、そのため通常の布局での優勢を保っている。ここからはプサーヒス対コマロフ戦(ベナスク、1995年)を追う。見られるとおりGMコマロフはたえず互角を求めて戦わなければならず、決してそこに到達することもなかった。

6…e6 7.g3! b6 8.c4 N5f6 9.Bg2 Bb7 10.O-O Be7 11.Nc3 O-O 12.Bf4 Bd6 13.Ne5 Bxg2 14.Kxg2

 白の陣地の広さの優位が続いているのに対し、黒には積極的な反撃策がない。例えば 14…c5? は 15.Nxf7 で咎められる。残りの手順は解説なしで示す。GMプサーヒスの解説は『チェス新報』第64巻第94局に載っている。

14…Qc8 15.Qf3! Re8 16.Rfd1 Nf8 17.Qc6 Ng6 18.Nxg6 hxg6 19.Be5 Ng4 20.Re1 Rb8?! 21.Nb5 a6 22.Na7! Qb7 23.Qxb7 Rxb7 24.Nc6 b5 25.c5 Nxe5 26.dxe5!! Bxc5 27.Rac1 Bf8 28.b4 f6 29.f4 g5 30.fxg5 fxe5 31.g6 Bd6 32.Rf1 Rb6 33.Rf7 e4 34.h4 e3 35.Kf3! Rf8 36.Rxf8+ Kxf8 37.h5 e2 38.Kxe2 Bxg3 39.Rf1+ Ke8 40.h6 Rxc6 41.hxg7 黒投了

******************************

2015年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(154)

「Chess Life」1996年7月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(下)

 前回は本格派の 1.e4 選手のためにシチリア防御とアリョーヒン防御での黒の戦法に対処する方策を紹介した。今回は 1…e5 とピルツ防御を取り上げて終わりとする。

4.ルイロペス反マーシャルギャンビット戦法 C88

1.e4 e5 2.Nf3

 本格派の選手にはまったく申し分のない手である。もしあなたがボビー・フィッシャーならキング翼ギャンビット(2.f4)を指せばよい。フィッシャーはそれを指して3戦3勝である。他の者にとっては弱体化したキング翼の不利がどんな有利さをも上回るかもしれない。ウィーン試合(2.Nc3)とビショップ布局(2.Bc4)では何らかの有利さを望むなら非常に洗練された戦略の理解が必要である。

2…Nc6 3.Bb5

 この手はどの点からも完璧である。白はe5のポーンに圧力を加え、キャッスリングによりキング翼の展開を完了する用意をしている。もっと積極的に見える 3.Bc4 はf7への一次元的な攻撃が容易に撃退されるので優勢になる可能性が劣る。スコットランド試合(3.d4)は世界チャンピオンのガリー・カスパロフが1990年にアナトリー・カルポフとの番勝負で用いて生き返った。彼はそれが完全に指せる戦法であることを証明したが、白がすぐにeポーンに対する圧力を取り去るので並の人間では同じようにうまくはいかないと思う。

3…a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O

 これは 8.c3 d5 9.exd5 Nxd5 10.Nxe5 Nxe5 11.Rxe5 でマーシャルギャンビットに来いという誘いである。過去30年間このギャンビットの定跡における評価は、黒に完全に代償がある黒には完全な代償がないとの間を揺れ動いてきた。今の時点での評価は後者である(この講座が読まれる時には変わっているかもしれない!)。

 1ポーンのために長く難しい防御を苦にしないし、記憶力に優れ、世界中での定跡の進歩を追うための時間と興味があり、独自に研究もするならば、このギャンビットを受諾するとよい。その他のみんなには次の手を推奨する。

8.a4!

 これがGMカスパロフが1993年にナイジェル・ショートとの世界選手権番勝負の第1、3、7局で採用した手である。白は黒に危険な反撃を与えるよりも、黒の弱体化したクイーン翼を攻撃することにより主導権を保持することを望んでいる。8…bxa4?! は黒に孤立aポーンの代償がないので、黒の選択肢は 8…Rb8、8…b4 そして 8…Bb7 である。それぞれをグランドマスターの実戦を用いて解説する。

******************************

2015年09月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(155)

「Chess Life」1996年7月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(下)(続き)

4.ルイロペス反マーシャルギャンビット戦法 C88(続き)

(A)8…Rb8 ツェシュコフスキー対ザイツェフ戦(ソ連選手権戦、1969年)

 これは素通しa列を白に明け渡す代わりに何も得られないので最も弱い手である。

9.axb5 axb5 10.c3 d5

 白がa列を支配しているのでこのギャンビットは劣っている。とはいえいつもの 10…d6 ではすぐに 11.d4 と突かれてしまう。11…Bg4?? とかかると 12.d5 でc6のナイトが取られるからである。

11.exd5 Nxd5 12.Nxe5 Nxe5 13.Rxe5 Nf6

 GMマーシャルの指した手もここへ戻る手だった。現代の手法の 13…c6 も不十分である。14.d4 Bd6 15.Re1 Rb7 16.Nd2 となって黒の代償は十分でない(GMマタノビッチ)。白のクイーン翼ルークが展開されていない現在の主流手順と比較すると、ここではそのルークが素通しa列で好所についている。

 正確な棋譜について言っておくと、実戦の手順は 8.c3 d5 9.exd5 Nxd5 10.a4!? Rb8? 11.axb5 axb5 12.Nxe5 Nxe5 13.Rxe5 だった。

14.d4 Bd6 15.Re2 b4

 代わりに 15…Ng4 なら 16.h3 Qh4 17.Nd2 Bb7 18.Nf1 で白陣がまとまる。

16.Nd2 Rb5 17.Nf1 bxc3 18.bxc3 Nd5 19.Bxd5! Rxd5 20.Ba3

 素通しa列は陣形を整えるのにも役に立つ。黒は要するにポーンの代償が何もない。そしてこの運命に甘んじるよりも戦術に訴えたがやぶへびになった。

20…c5 21.Rd2 Ba6?! 22.Ne3! Bxh2+ 23.Kxh2 Qh4+ 24.Kg1 Rh5 25.Qxh5 Qxh5 26.Bxc5 Rb8

 しょせん見込みがないが、26…Ra8 は 27.Rda2 でやはり釘付けから無事に逃れられない。

27.Rxa6 Rb1+ 28.Nf1 h6 29.Ra8+ Kh7 30.Re8 f5 31.Re5 Rc1 32.Bb4 Qg6 33.Rde2 f4 34.Re1 Rc2 35.Nh2 Qd3 36.Nf3 g5 37.Re7+ Kg8 38.Re8+ Kg7 39.R1e7+ 黒投了

******************************

2015年09月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(156)

「Chess Life」1996年7月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(下)(続き)

4.ルイロペス反マーシャルギャンビット戦法 C88(続き)

(B)8…b4 ショート対ソコロフ戦(リナレス、1995年)

 GMショートは1993年カスパロフとの番勝負第1局でこの手を指した。b5への圧力を解消し白ナイトにc3の地点を使わせないので良さそうに見える。しかし負の側面も明らかである。というのもこのポーンは白陣側にありあとで弱体化するかもしれないし(…a5 と突いて守るのは白がナイトをb3またはc4に持ってくればそのaポーンが弱点になることがあり得る)、c4の要所が白の手中に落ちるからである。全体として私は 8…b4 を信頼していない。

9.d3

 これが通常の手で、カスパロフも前述の試合でこの手を指した。しかしトパロフ対ソコロフ戦(リナレス、1995年)で指された野心的な 9.c3!? は非常に面白い手である。そして 9…d5 10.exd5 Nxd5 11.Nxe5 Nxe5 12.Rxe5 c6 13.d4 Bd6 14.Re1 Qh4 15.g3 Qh3 のあと白は守備目的のためにキング翼ビショップを 16.Bc4! から 17.Bf1 と引き戻すべきだった。そうなれば明らかに優勢になる(GMソコロフ)。

9…d6 10.a5

 b4ポーンを孤立させるとともに、a6ポーンを白のキング翼ビショップによる攻撃にもろくさせた。

10…Be6 11.Nbd2 Bxb3

 この早速の交換は白のクイーン翼ナイトを守勢のb3の地点に置かせるのに役立つが、黒も白枡が恒久的に弱くなるという犠牲を払っている。GMショートはカスパロフ戦の黒で 11…Rb8 と指したが、二度と指すことはなかった。

12.Nxb3 Re8

 スピールマン対スミスロフ戦(ビール・インターゾーナル、1993年)で黒は 12…d5 と指し最終的に互角にした。しかしGMたちは白枡がひどく弱いのに局面を開放することを信頼していなかったので追随者は現れていない。

13.d4! Nxd4 14.Nfxd4 exd4 15.Nxd4 Bf8 16.f3 c5 17.Nf5 Re6 18.Bg5 h6 19.Bh4 g6 20.Ne3 Bg7

 白の優勢は否定できない。活動的な駒が多く、中央で優勢で、白枡を支配し、d6の地点に圧力をかけている。狙い筋は 21.Nc4! に続いて 22.Qd3 から 23.Rad1 である。それなのに白はb列とc3に深刻な弱点を作って反撃を許した。

21.c3?! Rb8 22.Qd3 Qc8 23.Nc4 Qc6 24.Bg3 Ne8 25.Red1?!

 25.Nb6 か 25.Rab1 ならいくらかの優勢を保持しただろう。

25…bxc3! 26.bxc3 Rb3 27.Rac1 Qa4! 28.Ra1 Qb5 29.Rac1 Qa4 30.Ra1 Qb5 引き分け

******************************

2015年09月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(157)

「Chess Life」1996年7月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(下)(続き)

4.ルイロペス反マーシャルギャンビット戦法 C88(続き)

(C)8…Bb7 トパロフ対シー・ユン戦(キャップ・ダグド、1994年)

 この欠点のない応手で黒は小駒の展開を完了し、b5とc4への利きを維持し、a列で張り合う用意をしている。

9.d3 d6 10.c3 Na5

 チゴーリン戦法の主手順のようにこのナイトはこの地点から戦いに復帰するのが難しい。クイーン翼ナイトの再配置のためにブレイェルの手法を用いる最近の興味深い試みがゼブアゼ対ホルモフ戦(ポリチカ、1995年)に現れた。10…Nb8!? 11.Na3! Nbd7 12.Bg5 Nc5 13.Bc2 Nxa4 14.Bxa4 bxa4 15.Nc4 Bc6 16.d4 そして白が犠牲にしたポーンの代わりに強い主導権を握った。

11.Ba2 c5 12.Na3

 このような局面は正確な形勢判断が難しい。黒の方がクイーン翼で陣地が広く主導権があるのでいくらか優勢のように思われる。しかし真実は逆である。黒はクイーン翼で伸びすぎになっていて、クイーン翼ナイトは遊んでいる。これに対して白駒はクイーン翼、中央そしてキング翼での可能性のためによく連係がとれている。だから白が通常の布局の優勢を保持している。

12…Qb6?

 黒は指し過ぎである。クイーンがキング翼にいなくて困ることがすぐに明らかになる。同じく勧められないのは 12…b4 で、13.cxb4 cxb4 14.Nc4! となって白陣の方が広く見るからに優勢である。黒の最善の作戦はヒューブナー対カームスキー戦(フローニンゲン、1993年)のように 12…Qd7 から始まると思う。

13.Nh4! Bc8 14.Qf3 Be6 15.Nf5 Qb7

 黒は白の攻撃にブレーキをかけるためにポーンを犠牲にすることにした。代わりに 15…Bd8 はGMトパロフの指摘する猛攻を受ける。16.Qg3! Bxf5 17.exf5 Kh8 18.Qf3! Be7 19.g4! から 20.g5

16.axb5 axb5 17.Bxe6 fxe6 18.Nxe7+ Qxe7 19.Nxb5

 黒にはポーンの代償が何もない。その一方で連鎖ポーンの不均衡のために白の勝ちが容易どころではなくなっている。実際両者とも指し手に正確さを欠いた。以降の手順は本稿の範囲外なので、『チェス新報』第62巻第383局のGMトパロフの主要な記号を付するにとどめる。

19…Qd7 20.c4 d5 21.Qe2 h6 22.h3 Nc6 23.Rxa8 Rxa8 24.Be3 Nd4 25.Nxd4? cxd4! 26.Bd2 dxc4 27.dxc4 Ra2 28.Bb4 d3! 29.Qe3 Qa4? 30.Bc3 Qxc4 31.f3 Nd7 32.Rd1 Nc5 33.Bxe5 Qc2 34.Rd2 Qc1+ 35.Kh2 Ra1 36.Bc3 Na4 37.Rxd3 Qh1+ 38.Kg3 Rc1 39.Bd4 Qf1 40.Rd2 e5 41.Bxe5 Rc5 42.f4 黒投了

******************************

2015年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(158)

「Chess Life」1996年7月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

本格派のための 1.e4 の指し方(下)(続き)

5.ピルツ防御オーストリア攻撃 B09

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4

 この手は本格派の選手に最も適した手法である。この陣形は一見キング翼インディアン防御に対する4ポーン攻撃(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f4)に似ているように見えるかもしれないが、指し方の特徴はかなり違うことがある。4ポーン攻撃では白は中央で大模様を張っていて(特にd4の地点が弱い)展開に遅れている。だから黒の危険な反撃手段の可能性は見通しが明るい。

 しかしこれと比較して本譜の局面では白は展開で1手先行していて、黒が標的とする中央は少し小さくなっている。それにもかかわらず白には4段目に3ポーンがあり、黒は白の e5 突きで恒久的な被害を受けないよう見張っていなければならない。

4…Bg7 5.Nf3 c5!?

 これが黒の断然積極的な指し方で、白が中央を固める機会を得る前に白の中央に襲いかかる。GMヤセル・セイラワンはこれの世界第一級の大家である。型にはまった 5…O-O は白に 6.Bd3 と指す余裕を与え、黒が積極的な反撃を達成するのがより困難になる。例えば 6…Na6 7.O-O c5 8.d5 または 6…Nc6 7.O-O Bg4 8.e5 となる。

6.Bb5+

 この方が 6.dxc5 Qa5 7.Bd3 Qxc5 8.Qe2 Bg4 よりも黒にとって厄介だと思う。黒の指し方はキング翼インディアン防御の4ポーン攻撃の満足できる変化に似ている。

 本譜の手のあと 6…Nbd7? は 7.e5! で黒がすぐに苦戦に陥る(7…Ng4 8.e6! fxe6 9.Ng5)。6…Nfd7?! も 7.Be3 で白が中央でしっかり優位を保持するので十分でない。

6…Bd7 7.e5 Ng4 8.Bxd7+

 この手の方が簡明である。以前は 8.e6 fxe6 9.Ng5 Bxb5 10.Nxe6 で咎められるとされていたが、サクス対セイラワン戦(ブリュッセル、1988年)で無害になった。10…Bxd4!! 11.Nxd8 Bf2+ 12.Kd2 Be3+ でチェックの千日手により引き分けになる。

8…Qxd7 9.d5! dxe5 10.h3 e4! 11.Nxe4 Nf6 12.Nxf6+ Bxf6 13.O-O O-O

 今のところ白の方が中央が広く、黒のクイーン、ビショップそれにナイトは連係がとれていない。14.c4 と 14.Ne5 が白の通常の指し方になっている。黒は正確に指せば互角にたどり着けている。しかし1994年にGMアルトゥール・ユスーポフは非常に動的な作戦を披露し、迅速な展開で現在の局面を利用しようとした。

14.Be3! Na6

 ここからはユスーポフ対アダムズ戦(ドルトムント、1994年)の手順を追う。危険を伴う 14…Bxb2 については『チェス新報』第62巻第115局、常識的な 14…Rd8 については第62巻第115局の参考局を参照されたい。

15.Ne5 Qd6 16.Ng4! Bxb2 17.Rb1 Bg7 18.f5! Nc7

 これは以前のユスーポフ対ホルト戦(ドイツ、1994年)を改良しようという手で、その試合では 18…Nb4 19.c4 Nxa2 20.Rxb7 Nc3 と進み白の攻撃が強力だった(ただし83手で引き分け)。GMユスーポフが『チェス新報』第60巻第118局でこの試合を詳しく解説している。

19.Rxb7! Nxd5 20.f6! exf6 21.c4 h5 22.Nh6+ Kh7 23.Nf5!

 GMユスーポフはこの試合も『チェス新報』第61巻第118局で詳しく解説している。ここでも白は大きな主導権を握り、次のように勝ちきった。

23…gxf5 24.cxd5 Kg8 25.Rxf5 Qa6 26.Qb1 Rfe8 27.Bf2 Re5 28.Rb8+ Rxb8 29.Qxb8+ Kh7 30.Qb1 Kg8 31.Qb8+ Kh7 32.Qb1 Kg8 33.Rxe5 fxe5 34.Qb8+ Kh7 35.Qc7! Qxa2 36.Qxf7 Qb1+ 37.Kh2 Qg6 38.Qxa7 c4 39.Qc7 Qd3?(敗着。正着は 39…Qf5)40.d6 c3 41.d7 c2 42.Be3! Qxe3 43.Qxc2+ e4 44.Qc7! 黒投了

******************************

2015年10月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(159)

「Chess Life」1996年9月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙

 本講座の初回では「布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段」を取り上げた。それは非常に重要な科学の発達の基礎への紹介だった。現代の選手なら手順の科学的知識を用いて、指したい戦型に到達しながら相手がこちらの好まない戦型に引きずり込むのは防ぐようにするのを確実にしたいだろう。本稿では参考になる手順の妙の実戦例をいくつか分析する。その中のいくつかはマサチューセッツのスティーブン・ブルドノ氏からもらった手紙に触発されたものである。

 オランダ防御石垣戦法

 過去10年の間の主流手順は次の局面に行き着いた。

1.d4 f5 2.Nf3 Nf6 3.g3 e6 4.Bg2 d5 5.O-O c6 6.c4 Bd6 7.b3 Qe7

 第1図

 もちろん多くの異なった手順がこれと同じ局面に至る。白の初期の全般的な戦略目標は、重要な黒枡、特にe5とf4の地点を支配することである。そしてそのためには時の試練を経た二つの手法がある。

 1.8.a4 O-O 9.Ba3 Bxa3 10.Nxa3 もし望ましければa3のナイトは Nc2、Nce1、Nd3 と好所に再配置することができる。

 2.8.Bb2 O-O 9.Nbd2 このあと Ne5、Ndf3 そして適切なら Nd3。

 白の戦略の注目すべき唯一最大の要素はb1のナイトで、最も効果的な位置が明らかになるまで展開が遅らせられる。上述の変化のどちらでも白の連係の良い主眼の駒配置のために、黒はキング翼の反撃を策するのも白の圧力に対処するのも非常に困難になる。もちろん 1.d4 に対するあなたの防御がオランダ石垣しかないなら、出来るだけのことをするしかない。しかしほかの選択肢があるなら、手順の科学的知識を用いて上図よりも戦略的にもっと有望な局面にしようとするだろう。そのような可能性を二つ紹介する。

******************************

2015年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(160)

「Chess Life」1996年9月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙(続き)

A.1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 f5

 黒の出だしはクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法(2…e6)だったが、白ナイトがc3に来るやすぐにオランダ石垣に転じた。白はどう応じたらよいだろうか。実は白は理にかなったいろいろなことができる。4.Bf4、4.g3 のあと 5.Bg2 から 6.Nf3、4.g3 のあと 5.Bg2 から 6.Nh3 などなど。白ができないことは第1図の陣形に到達することである!

 実戦例としてコルチノイ対スパスキー戦(挑戦者決定最終戦、ベオグラード、1977~78年、第13局)を選んだ。この試合でコルチノイは一貫して黒枡を標的とすることに努めた。

4.g3 Nf6 5.Bg2 Be7 6.e3 O-O 7.Nge2 c6

 念のため手順について触れておくと正確には 1.c4 e6 2.Nc3 f5 3.g3 Nf6 4.Bg2 Be7 5.e3 O-O 6.Nge2 c6 7.d4 d5 だった。大事なことはもちろんこの局面でコルチノイがどう指したかである。

8.b3 Bd7 9.Bb2 Be8 10.Nf4 Bf7 11.Nd3! Nbd7 12.Qc2 Rc8 13.c5 b6 14.b4 g5?! 15.Ne2!

 白の黒枡戦略が続いている。注意することは白が黒のキング翼でのポーン暴風の危険を未然に防いでキング翼キャッスリングを控えていることである。

15…Bg6 16.h4 h6 17.hxg5 hxg5 18.Ne5! Bh7 19.f3 bxc5 20.dxc5 Nxe5 21.Bxe5 Nd7 22.Bb2 Bf6 23.Nd4 Qe7 24.f4! Rf7 25.O-O-O! a5 26.a3 axb4 27.axb4 g4 28.Bf1

 第2図

 次に 29.Bd3 とされると黒は両翼で完全に麻痺してしまう。だから黒は中央で反撃しようとするが黒枡はより一層弱くなる。

28…Bxd4!? 29.Bxd4?!

 イギリスのGMマイケル・スティーンは正しい取り返し方は 29.Rxd4 であると指摘した。なぜならあとで Qc3 と指せば白のクイーンとビショップのバッテリーが黒のキング翼を機銃掃射する形になるからである。試合はすぐに悲劇的な終わり方をした。時間に追われたコルチノイが黒ビショップがh7の地点にいることを「忘れた」からである。

29…e5 30.fxe5 Nxe5 31.Bd3 Nf3 32.Bxf5?? Rxf5 33.Qxf5?? Bxf5 白投了

 白は3手目でもっと良い手を指すことができるのだろか。ほとんどの場合その答えは「できる」である。その理由はクイーン翼ギャンビット拒否の 3.Nc3 から始まる手順が、白の常用定跡が 3…Nf6 のあと交換戦法を必要とする場合にだけ重要だからである(以降のクイーン翼ギャンビット交換戦法でさらに説明する)。そうでなければ 3.Nf3 の方が欠点がなくてもっと融通性がある。そう指せば 3…f5 と来られても 4.g3 で第1図の陣形にすることができる。

******************************

2015年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(161)

「Chess Life」1996年9月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙(続き)

B.1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 e6 4.e3 f5

 既にここまでで手順の妙が発生している。3手目と4手目で白は私が「反スラブ」手順と呼ぶのを採用した。つまり黒がスラブ防御の核心である主眼のクイーン翼ビショップの展開で満足すべき戦型に入るのを防いでいるからである。黒の 3…e6 は白にポーンを犠牲にする 4.e4!? dxe4 5.Nxe4 Bb4+ 6.Bd2!? を指させるもので、4.Nf3 にはたぶん 4…dxc4 と指すつもりだった。白は 4.e3 でそれらを避け、4…Nf6 には 5.Nf3 でメラン戦法に入ることを期待した。それにもかかわらず黒は石垣戦法で相手の意表をついた。白はここで 5.g3、6.Bg2 から 7.Nge2 でコルチノイの陣形に移行できる。あるいはeポーンが既に突いてあるのでビショップを次のように「自然に」展開することができる。

5.Bd3 Bd6

 黒は白が 6.Nge2 と指した場合に備えてd8-h4の斜筋を開けたままにしておこうとしている。しかし 5…Nf6 の方が堅実で、その時の白の最善手はe5の地点に利かせる 6.Nf3 である。ここからはドレエフ対シェルバコフ戦(ロシア選手権戦、1995年)を追う。

6.g4!? Nf6 7.gxf5 exf5 8.cxd5! cxd5 9.Qb3 Nc6 10.Bd2

 白は一貫して黒のポーン陣形の弱点、特に孤立dポーンを標的にしている。黒はそれを 10…Bc7 で守ることができたが、白の薄くなったキング翼の側面と展開の遅れとにつけ込む方を好んだ。

10…O-O!? 11.Nxd5 Nxd5 12.Qxd5+ Kh8 13.a3! Ne7 14.Qg2 Be6 15.Nf3 Rf6 16.h4! Qb6 17.Bc3 Nd5 18.Rb1 Re8 19.h5

 第3図

 形勢判断の難しい局面だが、ドレエフは 19…Qc6 20.Rg1 で「形勢不明」としている。代わりに黒は魅力的な作戦を選択したが、白に意表の手順を許し白キングは十分安全になった。『チェス新報』第65巻第73局にドレエフの詳細な解説が載っている。

19…Nxc3? 20.bxc3 Qc7 21.c4! Bxc4 22.Bxc4 Qxc4 23.Rxb7 Qc1+ 24.Ke2 Qc4+ 25.Kd1! Rf7 26.Nd2 Qa4+ 27.Ke1 Rxb7 28.Qxb7 Qxd4 29.h6! Qf6 30.Qd7 Rg8 31.Ke2 gxh6 32.Nc4 Bb8? 33.f4! Rg7 34.Qb5 Rg8 35.Rd1 h5 36.Rd7 Qa1 37.Qb7! Rf8 38.Rxh7+ Kg8 39.Rxh5 Qa2+ 40.Kf3 黒投了

 ここでも洗練された質問は「黒がスラブの手順を用いるなら、白は黒にとって比較的有利になるオランダ石垣への移行を防ぐことができるか」である。答えは「できる」だが、それなら白はスラブを防ぐことができない。反石垣の手順はやはり 3.Nf3! から始まり、3…e6 には 4.Qc2! と応じる。さらに 4…Nf6 には 5.g3 で閉鎖型カタロニアに入る。黒が代わりに 4…f5 を選ぶなら、白はまた 5.g3 で第1図の陣形を目指す。白クイーンが早くc2に展開するのは何の問題にもならない。というのはそこはオランダ石垣において一般に最良の位置だからである。閉鎖型の布局での捌きで通常重要なのは、適正に連係のとれた駒配置である。正確にいつそれぞれの駒を最良に配置するかは、それほど重要でない。

******************************

2015年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(162)

「Chess Life」1996年9月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙(続き)

 クイーン翼ギャンビット拒否交換戦法
A.1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6

 白が交換戦法の使い手と分かっているなら、本譜の見えすいた手は遅らせた方が良い。理由はすぐに分かる。

4.cxd5! exd5 5.Bg5 c6

 d5の地点に早速圧力がかかっているので、5…Bf5? は 6.Qb3! で咎められる。このあとはバクロ対イフコフ戦(カンヌ、1996年)を追う。

6.e3 Be7

 ここでも 6…Bf5 は 7.Qf3! があるので疑問である。黒は愚形の二重fポーンにさせられてしまう。

7.Qc2 Nbd7 8.Bd3 Nf8

 交換戦法では黒の白枡ビショップは白の白枡ビショップより劣る。本譜の手は手数のかかる周知の捌きの始まりで、白枡ビショップを展開し白の白枡ビショップと交換しようとする。しかし代償は手損である。白は手得を生かしてクイーン翼で強い主導権を得ようとする。

9.Nf3 Ne6 10.Bh4 g6 11.O-O O-O 12.Rab1 a5 13.a3 Ng7 14.b4 axb4 15.axb4 Bf5 16.b5! Bxd3 17.Qxd3

 第4図

 白の少数派攻撃で黒には何の代償もない弱い出遅れcポーンが残される。若いIMバクロはここで黒の最善手は 17…Nf5 または 17…Nd7 ではないかと言っている。もっともどちらの場合でも黒は引き分けに持ち込むために血のにじむような努力が必要である。代わりにGMイフコフは反撃に期待したが、一組のルークの交換は黒を攻防ともにもっと困難にさせただけだった。13歳の天才児は交換戦法の背後にある可能性を白日の下に見せつけた。

17…Ra3?! 18.bxc6 bxc6 19.Ra1! Rxa1 20.Rxa1 Nf5 21.Bg5 Nd7 22.Bxe7 Qxe7 23.Ra7 Rb8 24.Qc2 Qe6 25.h3! Nd6 26.Nd2 Nb6 27.Na4 Nxa4?! 28.Rxa4 Nf5 29.Ra6 Nxe3?!

 著名なグランドマスターは 29…Rc8 30.Nb3 で守勢に陥りたくなくて反撃に走った。しかしバクロはそれでも無益であることを完膚なきまでに示した。

30.fxe3 Qxe3+ 31.Kh1 Qxd4 32.Nf3! Qe4 33.Rxc6 Rb1+ 34.Ng1 Qe1 35.Qc5! h5 36.Rc8+ Kh7 37.Qd4 f6 38.Rc7+ Kh6 39.Qf4+ 黒投了

******************************

2015年11月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(163)

「Chess Life」1996年9月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙(続き)

 クイーン翼ギャンビット拒否・交換戦法(続き)
B.1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7!

 ティグラン・ぺトロシアンが当時世界チャンピオンだったミハイル・ボトビニクとの1963年世界選手権戦に備えて研究していたとき、自他ともに達人と認めるボトビニクの交換戦法の威力を骨抜きにする手段を見つける必要に迫られた。それ以来黒がオーソドックス戦法を目指すとき 3.Nc3 に対処する「現代」の手法は本譜の手になった。その意味は後知恵だがいたって単純である。白の Bg5 が1手遅れるので、黒はd5の地点を守ることができるし、ビショップを不満なく展開できるということである。ここで白が交換戦法に行くには1)4.Nf3 と2)4.cxd5 の2手段がある。

1)4.Nf3 Nf6 5.cxd5 exd5 6.Bg5 c6 7.Qc2 g6

 第5図

 黒の予定する 8…Bf5 に対して白はそうさせることもできるし、強引に防ぐこともできる。

a.8.e3 Bf5 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Nbd7! 黒は最も働いていない小駒を効率よく交換し、残るはわずかな不利だけである。

b.8.e4!? dxe4 9.Bxf6 Bxf6 10.Qxe4+ これは世界チャンピオンのガリー・カスパロフの攻撃的な着想である。完全に不満のない受けが最終的には見つかった。それが 10…Kf8! で、ハンセン対スマギン戦(コペンハーゲン、1990年)では 11.Bc4 Kg7 12.O-O Re8 13.Qf4 Be6! 14.Bxe6 Rxe6 15.Rfe1 Qd6! 16.Qxd6 Rxd6 と進んで互角の收局になった。

2)4.cxd5 exd5 5.Bf4 c6 6.e3

 ボトビニクは1)の手順がほとんど意味のある優位の見通しをもたらさないと認識したので、この手順をぺトロシアンとの番勝負で交換戦法に対処する手段にした。ここからは二通りのやり方がある。

(a)6…Bf5 が通常の手である。主眼の手順は 7.g4!? Be6 8.h3 Nf6 で、白は Bf5 を追い払ったがキング翼を弱めた代償を払っている。これで黒は互角への可能性が高くなるはずである。例えば 9.Bd3 c5! 10.Nf3 Nc6 11.Kf1 O-O 12.Kg2 Rc8 13.Rc1 と進んだのはコルチノイ対カルポフ戦(メラン、1981年)で、ここで 13…a6 と指せば互角だった(コルチノイ)。

(b)6…f5 はブルドノ氏の提案で、良好なオランダ石垣への適切な機会である。早い cxd5 は結局白の中央での優位を放棄し、黒のビショップの利きを広げている。この局面の適切な評価を得るためにはいくつかの実戦で試すことが必要である。私の感じでは 7.Bd3 から 8.Qc2 のあと黒のキング翼の弱点と黒枡の危なさのために、白が優勢を保持することができるはずである。これの意味するところは白は攻撃の可能性を用いるためにクイーン翼にキャッスリングする必要があるということである。

******************************

2015年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(164)

「Chess Life」1996年9月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

手順の妙(続き)

 イギリス布局(A30)からシチリア防御(B44)へ

 1.c4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 は「万人」の布局参考書ではイギリス布局の1戦型とみなされている。4…e6 と突くならそのはずである。しかしイェルモリンスキー対ド・ファーミアン戦(米国選手権戦、1995年)の進行を見てみるがよい。5.Nb5! d6 6.e4!

 第6図

 白は黒をシチリア防御タイマノフ戦法の主手順の一つに誘導した。「通常」の手順は 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 e6 5.Nb5 d6 6.c4 である。白は陣地の広さではっきり有利で、黒は眼目の …b5 突き及び/または …d5 突きによる打開策を知らないと指し方に苦しむことになる。実戦で両者は事の成り行きにいくらか戸惑ったようで、早々と引き分けに合意した。

6…a6 7.N5c3 Nf6 8.Be2 Be7 9.O-O b6 10.Be3 Bb7 11.Qb3 Nd7 12.Rd1 Rb8 13.Na3 O-O 14.f3 Re8 15.Qc2 Rc8 16.Rac1 Bf8 17.Qd2 Ba8 18.Bf2 Ncb8 19.Bf1 Qc7 20.Nc2 Ne5 21.Ne3 Nbd7 22.Ne2 引き分け

******************************

2015年11月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(165)

「Chess Life」1996年11月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損

 交換損とはルークを切ってビショップまたはナイトと交換することを意味する。ルークと小駒に関する正確な戦力比はルーク=小駒+1½ポーンである。

 もちろん半ポーンなどというものはない。しかしこの等式を用いれば、交換損をする側が見返りにポーンも得ればその結果の戦力比をもっと良く理解することができる。すなわち(1)1ポーンを得れば、犠牲にした戦力はわずか半ポーンである。(2)2ポーンを得れば戦力を犠牲にしたどころか半ポーンの戦力をしたことになる。今のところ戦力比についてだけ言っていることに留意してほしい。

 次のような結果が達成できる時には、交換損をすることを考えてみるべきである。

 (1)攻撃するに際し重要な受け駒を取り除ける。

 (2)攻撃されるに際し重要な攻め駒を取り除ける。

 (3)小駒がルークよりも働くような局面にできる。

 今回は白が交換損をする可能性を考える。次回は黒の「大義」を考える。本稿は布局の段階に重きを置いているので、序盤の段階では白は(2)を気にする必要はない。

 A.攻撃するに際し交換損をする

 攻撃は戦術的に激しく攻めたり組織的な戦略に努めたりする形で現れることがある。それらを順に考える。

1.戦術的に激しく攻める

シチリア防御ロッソリーモ戦法 [B31]
白 GMアナトリー・ルティコフ
黒 GMエブゲニー・エルメンコフ
アルベナ、1976年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 g6 4.O-O Bg7 5.c3 Nf6 6.d4!? cxd4 7.cxd4 Nxe4 8.d5 Nd6 9.Na3 Ne5?!

 白のポーン損の代償ははっきりしない。しかし本譜の手のあと白は展開で手得する。正着は 9…Nb4 である。

10.Nxe5 Bxe5 11.Re1 Nxb5?

 当然 11…Bf6 と引くところだった。

12.Rxe5 f6

13.Nxb5! fxe5 14.d6

 白は交換損をして黒の唯一展開していた小駒を盤上から消した。この小駒はきわめて重要なd6とc7の地点を守る役目も果たしていた。黒は敗勢になった。14…exd6 と取ると 15.Nxd6+ Kf8 16.Bh6+ Kg8 17.Qd5# までとなる。

14…O-O 15.Bg5! Qb6 16.dxe7 Qxb5 17.exf8=Q+ Kxf8 18.Qd6+ Kg8 19.Bh6 黒投了

 19…Kf7 と受けても 20.Rd1 で黒は 21.Qf8+ からの詰みを防げない。例えば 20…Qb6 21.Qf8+ Ke6 22.Bg5 d5 23.Qf6+ Kd7 24.Qf7+! Kc6 25.Qd5+ Kc7 26.Bd8+ Kb8 27.Qxe5+ Qd6 28.Qxd6# までとなる。このようなことは何も驚くべきことではない。なぜなら交換損をした局面で白はすべての駒を用いているのに対し、黒はクイーン翼のルークとビショップが単なる傍観者となっているからである。

******************************

2015年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(166)

「Chess Life」1996年11月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

1.戦術的に激しく攻める(続き)

 次の実戦例ではもっと複雑な状況が見られる。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B90]
白 GMボビー・フィッシャー
黒 GMミゲル・ナイドルフ
バルナ、1962年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.h3

 GMフィッシャーは1960年代初めにこの手で短かったが好成績をあげた。

6…b5!? 7.Nd5!? Bb7?!

最善手は 7…Nxe4! – フィッシャー

8.Nxf6+ gxf6 9.c4! bxc4?

 9…b4(フィッシャー)または 9…Bxe4 10.cxb5 Bg7 11.Qg4 Bg6 12.Nf5 O-O と指す方が良い – ロシア1962年版年鑑

10.Bxc4 Bxe4 11.O-O d5 12.Re1! e5

 GMフィッシャーは『My 60 Memorable Games』(第40局)でこの試合を徹底的に分析している。本譜の手のほかに変化として6手をとりあげている。そのうちの2手(12…Rg8 と 12…h5)では 13.Rxe4! を手始めに白が勝つとしている。

13.Qa4+! Nd7 14.Rxe4!

 7.Nd5!? からフィッシャーは序盤を派手に指してきた。黒の最も働いている小駒はクイーン翼ビショップだった。急所のd5とf5の地点を守り、g2の地点をにらんで攻撃の見通しもあった。白の交換損の結果黒は白枡に大きな問題を抱え、キングは不安定で、白のキング翼ビショップまたはナイトは黒のキング翼ルークよりも働く可能性を秘めている。フィッシャーがこれらの要因を見事に利用してみせた。

14…dxe4 15.Nf5! Bc5 16.Ng7+! Ke7 17.Nf5+ Ke8 18.Be3!

 白は16手目と17手目で黒のキャッスリングを防いだ。そして本譜の手で黒の残りの働いている小駒を交換によりなくす。

18…Bxe3 19.fxe3 Qb6 20.Rd1 Ra7 21.Rd6! Qd8 22.Qb3 Qc7 23.Bxf7+ Kd8 24.Be6 黒投了

 ナイドルフはこれ以上苦しみを味わいたくなかった。フィッシャーは次の手順を想定している。24…Rb7 25.Qa4 Qc8 26.Qa5+ Ke8 27.Qxa6 Kd8 28.Bxd7 Rxd7 29.Rxd7+ Qxd7 30.Qxf6+ Kc7 31.Qxe5+ Kb6 32.Qxh8 黒のキング翼ルークの唯一の役目は32手目で取られることだけであった!

******************************

2015年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(167)

「Chess Life」1996年11月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

2.組織的な戦略に努める

 グリューンフェルト防御交換戦法の主流手順(D89)は1950年に初めて登場し、ゆうに30年以上も指され続けていて次のように始まる。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O cxd4 11.cxd4 Bg4 12.f3 Na5 13.Bd3 Be6 14.d5 Bxa1 15.Qxa1 f6

 白は以下の考慮の下に完全な交換損を敢行した。

 1.黒はフィアンケットされていたキング翼ビショップがなくなったので、キング翼が恒久的に弱体化した。

 2.局面が開けてくれば白の双ビショップがチームを組んで強力な攻撃を行うことができるかもしれない。

 3.白は中央で優勢である。

 4.黒ナイトは盤端にいる。

 それにもかかわらず黒陣は全体的に健全で、「交換得は交換得」である。現在の定跡の評価は、完璧に指せば動的に互角となっている。以下の2局にはこの局面の本質がよく出ている。

 a.16.Bh6?!
 バガニアン対ムーヒン(モスクワ、1972年)

 この手はルークを働きの劣るe8に追いやる戦略上の考えなら結構だ。疑問符を付けたのは、白がキング翼を直接攻撃する意図で指しているからである。白陣はそれほど強くなく黒陣はそれほど弱くないので、無理攻めはうまくいかない。

16…Re8 17.h4?! Bf7 18.Nf4 Rc8 19.Kh1 Qc7 20.Qe1 Nc4

 黒は唯一の素通し列を支配し、盤端のナイトを戦いに復帰させた。

21.Qg3 b5 22.Re1 a6 23.e5!? Nxe5 24.Bf5 Kh8! 25.h5?

 白は欲を出して損する羽目になる。GMティグラン・ぺトロシアンによれば 25.Bxc8 Qxc8 で白の不利はほんのわずかだった。

25…g5 26.Nh3 Bxd5 27.Nxg5 e6! 28.Nxh7 exf5 29.Nxf6 Nxf3!! 30.Bg7+ Qxg7 31.Qxg7+ Kxg7 32.Nxe8+ Kf8 33.h6 Bg8! 白投了

 hポーンは止められ、白は駒の丸損に終わる。

 b.16.Rb1
 ファラゴー対ニコライーディス(ブダペスト、1994年)

 これがこの局面での現代の対処法である。白は黒キングに対する一次元的な攻撃よりも、すべての戦線での可能性を追い求める。

16…b6 17.Bh6 Re8 18.Qd4 Bf7! 19.Bb5 e5 20.Qd3

 20.Qf2 もあり、アタリク対ニコライーディス戦(ハニア、1994年)では 20…Re7 21.f4! で混戦だった。

20…Re7 21.Bd2! Nb7 22.Bb4 Nc5 23.Qd2 Qd6 24.Nc3 Be8 25.Bf1 Rc7! 26.h3 Kg7 27.a4 Bd7!

 27…a6 と突くと 28.a5! でc5のナイトが不安定になるので、黒は何も弱点を作らないようにしている。

28.Nb5 Bxb5 29.axb5 Rf8! 30.Rc1 Rff7! 31.Qe3 Rfe7 引き分け

 白が優勢だが、黒は非常に堅固で交換得にもなっている。局面を開放するのはやぶへびになる公算が大きいので、引き分けは妥当である。

******************************

2015年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(168)

「Chess Life」1996年11月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 A.攻撃するに際し交換損をする(続き)

2.組織的な戦略に努める(続き)

 この項と姉妹に当たる事例は、一方がルークを犠牲にしたように思われるがどうも交換損にすぎないような状況である。

ピルツ防御 [B09]
白 GMエドマー・メドニス
黒 GMラースロー・バダース
ブダペスト、1976年

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Nf3 O-O 6.Bd3 Na6 7.e5 Nd7 8.Ne4 Nb4?!

 黒の意欲的な作戦は失敗に終わる。8…dxe5 または 8…c5 と指すべきだった。

9.Be2 Nb6 10.c3 Bf5 11.Nfg5! d5?! 12.Ng3!! Nc2+ 13.Kf2 Nxa1 14.Nxf5 gxf5 15.Bd3!

 これが 12.Ng3!! を読んでいたときに想定していた局面である。黒の弱体化したキング翼に対し白の攻撃が非常に強力になることは明らかである。さらには黒ナイトが生還できない公算が非常に大きいので、犠牲が交換損にすぎないことはほとんど確かだと考えていた。対局中私の考えていた主手順は 15…e6 16.g4 h6 17.gxf5!! で、黒には選択肢が二つある。

(1)17…hxg5 18.f6! Bxf6 19.Qh5 Re8 20.fxg5!! Bg7 21.Ke2! Re7 22.Rf1 Kf8 23.g6 Ke8 24.h4 実戦的には白は戦力損でなくて楽勝になる[訳注 24…gxf6 で黒優勢のようなので、正着は 24.Bg5 です]。

(2)17…exf5 18.Qh5 hxg5 19.Bxf5 Re8 20.Rg1! f6 21.e6 Qe7 22.fxg5! Nc4 23.gxf6 Qxf6 24.Qh7+ Kf8 25.Rxg7 Qxg7 26.Bh6 これで詰みになる。

15…h6 16.Bxf5! e6

 16…hxg5 は 17.Qh5 Re8 18.e6! ですぐに詰む。

17.Bh7+ Kh8 18.Bb1! f5?!

 実戦的には 18…Qe7 19.Qd3 f5 20.exf6e.p. Bxf6 21.Nxe6 にかけてみるしかなかった。白は既に2ポーンを取り、攻撃が強力で、a1のナイトを取ったあとは戦力得にもなる。それでも白は本譜よりも苦労する。

19.Nxe6 Qe7 20.Nxf8 Rxf8 21.Bd3! c5 22.Be3 cxd4 23.cxd4 Nc4 24.Qxa1 Nxe3 25.Kxe3 b5 26.Qd1 a6 27.g3 Qf7 28.Qc2 h5 29.Rc1 h4 30.Qg2 hxg3 31.hxg3 黒投了

******************************

2015年12月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(169)

「Chess Life」1996年11月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換損(続き)

 B.小駒がルークよりも働ける局面にするために交換損をする

 そのような局面を生じさせるに当たっては、明らかに世界級のグランドマスターたちはその他の我々よりも手慣れている。プロチェス協会の世界チャンピオンのガリー・カスパロフによる次の試合の指し回しは最も示唆に富み参考になる。

シチリア防御スベシュニコフ戦法 [B33]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMアレクセイ・シロフ
ホルゲン、1994年

1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Ndb5 d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 9.Na3

 この手は 11.Bxf6 を伴って当節の好まれる指し方になっている。白はd5の地点を確固として支配し、黒のクイーン翼を攻撃する展望ができ、その一方で 9.Bxf6 gxf6 10.Na3 b5 から …f5 で可能となる黒の反撃の可能性を最小限にとどめている。

9…b5 10.Nd5 Be7 11.Bxf6 Bxf6 12.c3 Bb7 13.Nc2 Nb8 14.a4 bxa4 15.Rxa4 Nd7 16.Rb4!? Nc5?!

 黒はこの時点でナイトを活動的な地点に捌いたことに満足していたに違いない。しかしまざまざと覚醒させられることになる。GMカスパロフは『チェス新報』第61巻の自戦解説で 16…Rb8 を黒の最善手としている。

17.Rxb7!! Nxb7 18.b4!

 この交換損は次のような要因を基にしている。1.白はa列からd列までの重要な白枡を完全に支配することになる。2.d5の白ナイトは脅かされることなく周りを支配することになる。3.このナイトは黒のキング翼ルークよりも将来性がある。4.黒のナイトは働ける地点を見つけるのに困難を極める。5.黒のdポーンがこのようにしっかりせき止められているので、白はポーン得しているのも同然である。というのは白がクイーン翼でパスポーンを作ることが期待できるのに対し、d列からh列までの数で上回る黒のポーンは障害で止められている。それにもかかわらず上記の要因を活用することは全然たやすいことではない。カスパロフの指し方は比類ないお手本である。

18…Bg5 19.Na3! O-O 20.Nc4 a5 21.Bd3 axb4 22.cxb4 Qb8 23.h4!

 ビショップを守り一方のc1-h6の斜筋に行かせるか、d8に行かせて黒ナイトに重要な地点を使わせなくさせる。

23…Bh6 24.Ncb6! Ra2 25.O-O Rd2 26.Qf3 Qa7 27.Nd7 Nd8?

 これで黒の負けが決まった。カスパロフは両者の最善の手順をあげている。27…Ra8! 28.N7b6! Rf8! 29.Bb5! Nd8 30.Nd7 Ne6 31.Ne7+! Kh8 32.Nxf8 Qxe7 33.Nxe6 Qxe6 34.Bc6 これで白がわずかに優勢である。

28.Nxf8 Kxf8 29.b5! Qa3 30.Qf5!! Ke8 31.Bc4 Rc2 32.Qxh7! Rxc4 33.Qg8+ Kd7 34.Nb6+ Ke7 35.Nxc4 Qc5 36.Ra1! Qd4 37.Ra3! Bc1 38.Ne3! 黒投了

 独創性、力強さ、そして実行とまったく完璧だった。カスパロフの全解説は『チェス新報』第61巻第178局に載っている。

******************************

2015年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(170)

「Chess Life」1997年1月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損

 前回は交換損にかかわる基本的な要素について論じ、白の主眼となる可能性を示した。今回は黒側について論じる。交換損の可能性を論じる際に重要な考慮点は次のとおりである。

 (1)正確な戦力比はルーク=小駒+1½ポーン

 (2)交換損が正当となる理由には以下がある。

 (a)攻撃するに際し急所の守り駒を取り除く

 (b)攻撃されるに際し急所の攻め駒を取り除く

 (c)小駒がルークよりも働く可能性のある局面を作り出す

 早い段階での交換損を評価する際には黒の方が白よりも手堅くなければならないということをいつも覚えておかなければならない。これは白は通常展開で1手先行しているからである。

 主眼の布局が中盤戦初期に至った時には、交換損を決断するのはどのくらい容易だろうか。これから参考になる状況を三つ考察してみる。

 (1)決断は簡単である

シチリア防御 [B85]
白 GMロベルト・ヒューブナー
黒 GMビスワーナターン・アーナンド
ドルトムント、1996年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be2 e6 7.O-O Be7 8.f4 O-O 9.Be3 Nc6 10.Qe1 Nxd4 11.Bxd4 b5 12.a3 Bb7 13.Bd3 Nd7 14.Rd1 Qc7 15.Kh1 e5 16.Be3 Rac8 17.Qg3 Bf6 18.f5 Kh8 19.Rf2 Be7 20.Rfd2 Qa5 21.Qe1 h6 22.h3 Nf6 23.Bf2

 白はキング翼で何も成果がなかったのに対し、黒は主眼の戦場であるクイーン翼で陣地の広さ、それにクイーンとルークの働きとで有利になっている。GMアーナンドは白のクイーン翼を次のように破壊した。

23…Rxc3! 24.bxc3 Qxa3

 黒は交換損の代わりに2個のポーン得と好形になるのが確実である。だから黒は何かを犠牲にした代わりに実際は半ポーンに等しい戦力を得たと結論づけることができる。白はこの状況を受け入れて 25.Re2 のように何か理にかなったことをする代わりに、中央の形を自分で乱してあっさりと負けた。

25.c4? bxc4 26.Bxc4 Nxe4 27.Rd3 Qa4 28.Rb3 Qxc4 29.Rxb7 Qxc2 30.Bg1 Bg5 31.Rdb1 Bf4! 32.R1b3 d5 33.Rf3 Rc8 34.Rxf7 Ng5 35.Rxf4 exf4 36.Re7 f3! 白投了

******************************

2016年01月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(171)

「Chess Life」1997年1月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損(続き)

 (2)決断は必要である

アリョーヒン防御 [B04]
白 GMパトリック・ウォルフ
黒 GMニック・ド・ファーミアン
学校にチェスを・国際大会、1996年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3 dxe5 5.Nxe5 g6 6.g3 Nd7 7.Bg2 Nxe5 8.dxe5 c6 9.O-O Bg7 10.Qe2 Be6 11.b3 Qc8 12.Bb2 Bh3 13.Nd2 Bxg2 14.Kxg2 O-O 15.c4 Nc7 16.Ne4 Qf5 17.f4 Ne6 18.Qf3 h5 19.h3 Bh6 20.Rae1 Rad8 21.Rf2 h4 22.g4 Nxf4+ 23.Kh2 Qe6 24.Nc5 Qc8 25.Bc1 b6 26.Ne4 Rd3 27.Re3

 黒はポーンを得したが、代価としてナイトとビショップの配置がひどいことになっている。その日私はこの大会を見に行っていて、公開の大盤でこの局面を見た。黒陣は危なそうに見えた。例えば「普通の」27…Rxe3 は 28.Bxe3 g5 29.Nxg5 Nd3 30.Qe4 Bxg5 31.Qxd3 Bxe3 32.Qxe3 となって黒のキング翼のポーンの弱点が防御不可能になる。GMド・ファーミアンも自陣に自信が持てず、紛れを求めて疑問の 27…Nxh3? に打って出て結局負けた。しかしGMウォルフが『フロリダ・チェス』の1996年6月号で書いているように、GMイリヤ・グレビッチによって正解が示された。

27…Ne6!! 28.Rxd3 Bxc1

 黒はポーン得だったので、犠牲にしたのはポーン半個だけである。その上代償は素晴らしい。つまり黒枡の支配(特にf4の地点)、好所のナイト、白の孤立eポーンに対する攻撃の可能性である。それでも決断をする上での重要な要因は、ほかのすべてが明らかに悪すぎるのでそうすることが必要だったということである。GMのウォルフとグレビッチはこの局面を黒の方が良いと判断している。そうなのかもしれないが、私には 29.Nd2 でそれほどはっきりしないように思われる。しかし重要なことは 27…Ne6!! が黒にとって不満がないだけでなく絶対必要であるということである。

******************************

2016年01月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(172)

「Chess Life」1997年1月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損(続き)

 (3)決断には戦略の深い理解が必要である

二ムゾインディアン防御 [E58]
白 GMサミー・レシェフスキー
黒 GMティグラン・ぺトロシアン
チューリヒ挑戦者決定大会、1953年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 O-O 5.Bd3 d5 6.Nf3 c5 7.O-O Nc6 8.a3 Bxc3 9.bxc3 b6 10.cxd5 exd5 11.Bb2 c4 12.Bc2 Bg4 13.Qe1 Ne4 14.Nd2 Nxd2 15.Qxd2 Bh5 16.f3 Bg6 17.e4 Qd7 18.Rae1 dxe4 19.fxe4 Rfe8 20.Qf4 b5 21.Bd1 Re7 22.Bg4 Qe8 23.e5 a5 24.Re3 Rd8 25.Rfe1

 この局面とその後の指し手についてはGMティグラン・ぺトロシアンが、遺作の『Petrosian’s Legacy』(ぺトロシアンの遺産)の68~69ページで詳しく解説している。白は中央で優勢で、双ビショップを所有し、26.Bf3 から 27.d5 で戦略的に黒を圧倒することを狙っている。黒はこの作戦に対抗するためにはナイトをd5に据える必要がある。しかしどのようにして達成するのだろうか。ルークがc7、b7、a7など横に動けば 26.e6 という強手を招く。GMぺトロシアンはこの局面を次のように回想している。「この局面では長考していた。そして正着を見つけたとき愉快な気持がした。その手は非常に単純だったので、正しいことに疑いがなかった。」そしてその正解の手とは・・・

25…Re6!!

 この手は「一流の必要な犠牲」と呼ぶことができる。白はまずクイーン翼で出撃しようとする。しかし黒が食いついてこないと、白は犠牲を受諾するよりなかった。

26.a4 Ne7! 27.Bxe6 fxe6

 結果として白の中央での動きが止まり、ルークはe列で無用になり、黒のナイトは絶好のd5の地点に行くことになり、クイーン翼では黒にパスポーンの可能性ができた。

28.Qf1 Nd5 29.Rf3 Bd3 30.Rxd3

 30.Qf2 は 30…b4 で黒にだけ何かをする機会がある。この手と32手目でレシェフスキーはしっかりした引き分けに同意した。

30…cxd3 31.Qxd3 b4 32.cxb4 axb4 33.a5 Ra8 34.Ra1 Qc6 35.Bc1 Qc7 36.a6 Qb6 37.Bd2 b3 38.Qc4 h6 39.h3 b2 40.Rb1 Kh8 41.Be1 引き分け

 d4にある白の得しているポーンは勝つ目的には何も関係しない。

******************************

2016年01月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(173)

「Chess Life」1997年1月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損(続き)

 後半は黒が布局で交換損を無難にやってのけるのに必要な条件について集中的に検討していく。

 (3a)2ナイト防御、C58

 今よりも「ロマンチック」な時代の流行定跡がこれだった。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.Ng5 d5 5.exd5 Na5 6.Bb5+ c6 7.dxc6 bxc6 8.Qf3

 控え目な(そして私が正着はこれだけと考える)8.Be2 の代わりに、白は強引な強襲を続けている。白の3個の駒が散らばって展開しているだけなのに(クイーン、b5のビショップ、g5のナイト)、黒は交換損をすることができないのだろうか。

8…cxb5

 この手のあと主手順は次のように進む。

9.Qxa8 Qd7 10.Qf3 Bb7 11.Qe2 Be7

 代わりに 11…Bxg2 には将来性がない。ザイツェフ対ホフロフキン戦(ソ連、1954年)では 12.Rg1 Bc6 13.d3 Qf5 14.Bd2 Nb7 15.Nc3 Be7 16.O-O-O と進んで、白が展開で先行し、キングが安全で、完全に交換得になっていた。

12.d3 Nc6 13.c3 O-O 14.O-O Nd5 15.Nh3! Re8 16.Nd2 f5 17.Nb3

 GMヤーコフ・エストリンの分析はここで「白がはっきり優勢」という評価で終わっている。私も同じ意見で、交換損に1ポーン損は黒が引き換えに得たわずかな展開の優位のためには犠牲が大きすぎる。上図に戻れば黒の展開は白の展開よりもそれほど上回っていないので(f6のナイトが好所に展開しているだけで、a5のナイトは盤端で遊んでいる)、完全な交換損をするわけにいかないことが分かる。

 しかし 8.Qf3?! は本当は疑問手である。黒は傲慢に 8…cxb5? と指すべきでない。代わりに度を越さない 8…Rb8! なら黒が優勢になる。例えばジベルル対クルジスニク戦(ユーゴスラビア、1956年)では 9.Bxc6+ Nxc6 10.Qxc6+ Nd7! 11.d3 Be7 12.Nf3 O-O 13.Qe4 Rb4 14.Qe2 e4! 15.dxe4 Nc5 16.Nc3 Ba6 17.Qd1 Qa5 18.Nd2 Nxe4 と進んで黒が勝った。

******************************

2016年01月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(174)

「Chess Life」1997年1月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損(続き)

 (3b)シチリア防御ドラゴン戦法ユーゴスラビア攻撃、B76

 ユーゴスラビア攻撃の初期に発展し国際大会でまだよく見られる主流手順は次の手順から生じる。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Qd2 O-O 9.O-O-O d5 10.exd5 Nxd5 11.Nxc6 bxc6 12.Bd4 e5 13.Bc5 Be6

 ここで白には黒ルークを取る手順がいくつもある。本譜としてI.ポルガー対P.デリ戦(ケチケメート、1972年)を取り上げる。

14.Nxd5

 ルークをすぐに取る 14.Bxf8 Qxf8 でも黒に代償がある。ドラゴンビショップはクイーンそれにルークと共同してb列で白キングに強い圧力をかける。白は黒枡ビショップがないので黒のキング翼ビショップを無力にするのが非常に困難である。

14…cxd5 15.Bb5

 ここでも 15.Bxf8 はトカレフ対グフェルト戦(ソ連、1957年)で 15…Qxf8 16.Qa5 Qe7! 17.Rd3 e4 18.Rb3 d4 19.Rb5 d3! と進んで黒の方が有望だった。

15…d4 16.Bxf8 Qxf8 17.Kb1 Rb8 18.Ba4 d3! 19.cxd3?

 筋はできるだけ閉鎖しておかなければならない。19.Bb3! だけが受かる可能性がある。

19…e4 20.d4 exf3 21.gxf3?! Qa3 22.Bb3 Rxb3! 白投了

 23.axb3 のあと 23…Bf5+ が必殺の手となる。

 要するに、20年ほどの間「誰も」危険を覚悟で強欲な 14/15/16.Bxf8?! を指さなかったということだ。現代の手法は 14.Ne4 で、動的で面白い試合になる。

******************************

2016年02月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(175)

「Chess Life」1997年1月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の交換損(続き)

 (3c)キング翼インディアン防御正規戦法、E92

キング翼インディアン防御 [E92]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMガリー・カスパロフ
世界選手権戦第11局、1990年

 次の手順から生じる局面は周知の定跡形である。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.Be3 exd4 8.Nxd4 Re8 9.f3 c6 10.Qd2 d5 11.exd5 cxd5 12.O-O Nc6 13.c5

 白は孤立dポーンに対する攻撃の可能性と自分のcポーンによる締めつけ効果とにより有利と考えられてきた。しかし世界チャンピオンは大胆な手で対戦相手とチェス界とに衝撃を与えた。

13…Rxe3!! 14.Qxe3 Qf8!

 黒はここまで5分しか使っていなかった。明らかにこの交換損は「研究」で周到に用意されていた。しかしGMのゲレルとレインは著書の『カスパロフ対カルポフ、1990年』の中で「変化を具体的に読んだ結果ではなかった。この交換損は明らかに大局観に基づいている」と言及している。

 第一級の代償はキング翼ビショップによる黒枡の支配である。二番目はcポーンのぜい弱さと、中央に唯一ポーンがあることにより中央での影響力が上回ることである。目前には 15…Ng4! の狙いもある。

 もちろん交換損の正当性はとても明らかとは言えない。さもなければもっと早く見つけられていた。しかしGMカスパロフは指し口と分析に見られるように並はずれた洞察力で、非実利主義の優れた戦略家は自信をもって交換損を用いることができるということを見せつけた。

15.Nxc6

 この手は22分の考慮時間の後に指された。白は一組のナイトを交換しcポーンを守った。もっともdポーンを強化させ黒ルークのためにb列を素通しにするという代価を払っている。

 約16ヶ月後のゲルファンド対カスパロフ戦(リナレス、1992年)で白は明らかに研究してきた 15.Ncb5 Qxc5 16.Rac1 Qb6 17.Qf2 を指した。しかしGMカスパロフは 17…Bd7! 18.Rfd1 Re8! 19.Bf1 Bh6 20.Rc3 Nb4! で動的にまったくの互角であることを見せつけた。そしてみごとな指し方で61手で勝った。注意すべきは上図の局面で黒は交換損の代わりに1ポーンを得、戦力的には半ポーン損にすぎないことである。本誌の1993年3月号(10~11ページ)のGMカスパロフの素晴らしい記事と、『チェス新報』第54巻第596局の彼の分析とを読んで欲しい。

15…bxc6 16.Kh1

 あとで推奨された 16.Nd1 はオブホフ対セルゲーエフ戦(ソ連、1991年)で指されたが、黒が 16…Rb8 17.Kh1 Be6 18.Qa3 Qe7 19.Rc1 d4! 20.Qa4 Bh6 21.f4 Bd5 22.Bd3 Ng4 23.Qxd4 Bg7! 24.Qg1 Rb4 という具合に猛攻に発展した。完全な棋譜と解説は『チェス新報』第53巻第610局を参照されたい。

16…Rb8 17.Na4 Rb4 18.b3 Be6

 攻撃に出る前にまず展開を完了させた。本譜の手により黒はクイーンをb8に行かせることもできるし …Rh4 でh2の地点を脅かすこともできる。

19.Nb2 Nh5 20.Nd3 Rh4 21.Qf2 Qe7 22.g4 Bd4! 23.Qxd4 Rxh2+!

 黒はチェックの千日手にすることができる。『チェス新報』第50巻第639局にはGMカスパロフの協力者の一人であるGMアズマイパラシビリの分析が載っている。

24.Kxh2 Qh4+ 引き分け

 現執筆時点でのこの交換損の定跡における状況はどうなっているだろうか。白はこの手順を指させないということである。黒が 7…exd4 という手順を用いる時、白は 10.Qd2 を避けて注意深く 10.Bf2 と指している。『チェス新報』第66巻第518局のシポフ対アタリク戦(ギリシャ、1996年)、同第65巻第561局のゲルファンド対ファン・ベリー戦(ベイクアーンゼー、1996年)を参照されたい。黒が最初から 7…c6 と突くなら(上記ゲルファンド対カスパロフ戦[リナレス、1992年]のように)、白もこの機に乗じて 8.d5 と突いて中央を閉鎖する。例えばGMトパロフの分析による『チェス新報』第66巻第520局のサン・セグンド対トパロフ戦(マドリード、1996年)を参照せよ。

******************************

2016年02月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(176)

「Chess Life」1997年3月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃

 「数の優る」方面で戦えが世間一般の通念である。つまり働ける駒が多い、動けるポーンが多い、または両方とも多い所である。しかしチェスでは数だけが問題なのではない。質も問題であることが非常によくある。

 それが今回の標題である「少数派攻撃」である。「少数派攻撃」とはポーンが少数である側でポーンを突いていくことである。少数派攻撃の目的は相手のポーン陣形に弱点を生じさせることである。それにより相手の強み(例えばクイーン翼の多数派ポーン)は長期的な負債になる。少数派攻撃は長期的な戦略目標を促進させるだけなので、この用語は一般にキングのいない側でのポーン突きにのみ適用される。例えば両者がキング翼にキャッスリングしたら、クイーン翼でのポーン突きだけが少数派攻撃と言われる。

 「百聞は一見に如かず」なので図を見てみよう。

 このポーン構造は古典dポーン布局でよく見られる。もっともよくできるのはクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法の交換戦法からである。白には中盤戦での作戦で同等の戦略構想が二つある。

 1.優勢側での作戦 f3 から e4 と突いて中央で優勢を築く。白の作戦は通常中央とキング翼で行われる。

 2.少数派攻撃 b2-b4 から b5 と突いていく。白はクイーン翼に専念し、c列が作戦の主戦場となる。

 クイーン翼ギャンビット拒否の交換戦法はの少数派攻撃の最も重要な例で、実戦例もすべてそれから取った。読者は本誌の昨年9月号の本稿で取り上げたバクロ対イフコフ戦(1996年、カンヌ)も読み返してみるとよい。

 今回は交換戦法の最も重要な主眼の局面を四つ考察する。次回は黒の用いる少数派攻撃の最も重要な例を取り上げる。

******************************

2016年02月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(177)

「Chess Life」1997年3月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

戦場はすべてクイーン翼

クイーン翼ギャンビット拒否 [D36]
白 GMバジム・ルバン
黒 GMアレクサンドル・パンチェンコ
ロシア選手権戦、1994年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c6 5.Bg5 Nbd7 6.cxd5 exd5 7.e3 Be7 8.Bd3 O-O 9.Qc2 Re8 10.O-O Nf8 11.h3

 白の当面の有利な点は白枡ビショップの働きが優っていることである。本譜の手で黒のビショップが 11…Bg4 とかかって働いてくるのを防いでいる。黒は代わりにf5の地点でビショップ同士を交換する周知の手法を選んだ(バクロ対イフコフ戦も参照せよ)。その欠点は手数がかかることで、それにより白は半素通し列に黒の出遅れcポーンを残させる少数派攻撃の戦略目標を達成することができる。

11…g6 12.Rab1 Ne6 13.Bh6 Ng7 14.b4 a6

 黒にとって一つの「永遠」の問題はaポーンの交換を目指す(または許す)べきかということである。本局ではそうするが、次局では避ける。大部分の状況では(aポーンを)交換した方が黒のためになるように思われる。白の主導権はクイーン翼にあるので、ポーン交換は黒がaポーンを守ることを気にする必要がなくなることを意味する。

15.a4 Bf5 16.Bxg7 Bxd3 17.Qxd3 Kxg7 18.b5 axb5 19.axb5 Ra3 20.bxc6! bxc6

 黒は 20…Qa5 21.Rfc1 Bb4? で戦術に訴える状況にない。22.cxb7 Rb8 23.Ne5 で白の勝ちになる。

21.Qc2 Qa5 22.Rfc1 Bb4 23.Rb3 Rc8 24.Rxa3 Qxa3 25.Nb1!

 黒はキング翼での作戦さえ目指さなかったので、白の唯一の気がかりは適時の …c5 突きで黒がc6の弱点を清算しないようにすることである。この図の局面で 25…Qa5 なら白は 26.Nbd2! で優勢を維持する(26…c5? は 27.Nb3 で黒の負けになる)。

25…Qa6 26.Ne5! Bd6

 ここで 26…c5? は 27.Nd3 で黒が負ける。

27.Nd3 Nd7 28.Nc3 Nf6 29.Na4 h5?

 小駒をすべて交換することは白がcポーンを取ることを非常に難しくさせることに気づかないことにより、黒は戦略的に大きな間違いを犯した。GMルバンは 29…Ne4! 30.Nac5 Nxc5 31.Nxc5 Bxc5 32.Qxc5 を推奨し、白の優勢はわずかだが危険性はない。

30.Nac5 Bxc5 31.Nxc5 Qa7 32.Qd1! Qe7?

 黒はa列とc列の両方を白の大駒に明け渡す余裕はない。32…Nd7 33.Ra1 Qc7 34.Nd3! が必然で、白ははっきり優勢だが一本道の勝ちはない。

33.Qa4! Ne4 34.Qa6 Nd6 35.Nd3! Qb7 36.Qxb7 Nxb7 37.Nb4

 38.Nxd5 と 38.Rxc6 の両狙いに受けはない。このあとの「ナイトと4ポーン」対「ナイトと3ポーン」の收局は理論的に勝ちとして知られている。完全な解説は私の著書の『Practical Knight Endings』(チェス・エンタープライズ社、1993年)の63~68ページを見て欲しい。GMルバンの完全な解説は『チェス新報』第61巻第437局に載っている。

37…c5 38.dxc5 Rxc5 39.Rxc5 Nxc5 40.Nxd5 h4?! 41.f4 Ne4 42.Kf1 f5 43.Ke2 g5 44.fxg5 Kg6 45.Nf4+ Kxg5 46.Ne6+ Kf6 47.Nd4! Nc3+ 48.Kd3 Nd5 49.Nf3 f4 50.e4 Nb4+ 51.Kc3 Nc6 52.Kc4 Ke6 53.Nd4+ Ke5 54.Nxc6+ Kxe4 55.Nd4 Ke3 56.Nf3 Kf2 57.Nxh4 Kg3 58.Kd4 Kxh4 59.Ke4 黒投了

******************************

2016年02月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(178)

「Chess Life」1997年3月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

戦場はすべて盤面全体

クイーン翼ギャンビット拒否交換戦法 [D36]
白 GMアナトリー・カルポフ
黒 GMダニエル・カンポラ
サン・ニコラス、番勝負、1994年

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 O-O 7.Bd3 Nbd7 8.Nf3 c6 9.Qc2 Re8 10.O-O Nf8 11.h3 Be6

 黒はクイーン翼ビショップをこの控えめな地点に配置して小駒の展開を完了し、あとで例えば …Bxh3 を狙うことにより白のキング翼を攻撃することに役立てることができることを期待している。白は次の既定の交換により少数派攻撃の開始を急ぐ。

12.Bxf6! Bxf6 13.b4 Rc8

 黒は 13…a6 14.a4 をさしはさむことを避けることにより、盤上にaポーンを残したいと言っている。この手の具体的な意味は 14.b5 に 14…c5! と応じられるようにすることである。それでもやはり黒の最も有望な手法は、同様の局面でデンマークのGMラルス・ボ・ハンセンが用いたように(11…g6 12.Bxf6 Bxf6 13.b4 Be7)、キング翼攻撃のために 13…Be7! を手始めに小駒を再展開することである。参考のために『チェス新報』第62巻第448局のニコリッチ対ハンセン戦(ベイクアーンゼー、1995年)をGMハンセンが解説しているので読んで欲しい。

14.Na4! Rc7 15.Rac1 Be7! 16.Qb1!

 クイーン翼ルークを展開したあとGMカルポフはクイーンの位置を改善した。重要なb1-h7の斜筋に残したまま主眼のb5突きを助ける。f1のルークは防御の目的に必要となった場合に備えて自陣内に残してある。

16…Bd6 17.b5 Qf6 18.bxc6 bxc6 19.Nh2 Qh4 20.Bf5!

 この手は明らかに矛盾している。つまるところ白の白枡ビショップは黒のより働いていると前に言ったではないか。しかし白の最終目的は黒に危険なキング翼攻撃をさせないことにある。本譜の手は黒のクイーン翼ビショップを交換でなくすことによりh3への狙いをなくしてこの目的を推し進めている。

20…Qh5 21.Bxe6 Nxe6 22.Nf3! f5

 この手は危なっかしい。黒は攻撃にのめり込んで重大な弱点(例えばe5の地点)をさらけ出している。GMカルポフは『チェス新報』第62巻第447局の解説でこの局面での堅実な対処法は 22…Ng5 で、23.Nxg5 Qxg5 24.Nc5 と進めば白の優勢はほんのわずかであると指摘している。

23.Rc3! Nd8?

 手が一貫していない。良くも悪くも 23…f4 と突かなければならない。GMカルポフは 24.Re1 でも 24.e4 でも白がわずかな優勢を保持していると分析している。

24.Nc5 Bxc5 25.Rxc5 Ne6 26.Rc3 f4 27.e4! h6?!

 この手は局面のために何もしていない。27…dxe4 28.Qxe4 Qd5 が多分最善手だが、29.Re1 で白の優勢は明らかである。白の働きの良い駒は黒陣の至る所に強い圧力をかけている(29…Qxa2? なら 30.Ng5 で白の勝ち)。本譜の手のあとGMカルポフは楽々と勝った。もう何も言う所はない。

28.Re1! Rce7 29.Rxc6! dxe4 30.Rxe4 Qd5 31.Rc3 Qf5 32.Qe1 Qd5 33.Kh1! Qd6 34.Qd2 Ng5 35.Rxe7 Qxe7 36.Qxf4 Qb4 37.Nxg5! hxg5 38.Qd2 g4 39.hxg4 黒投了

******************************

2016年03月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(179)

「Chess Life」1997年3月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

白がナイトをe2に展開する

クイーン翼ギャンビット拒否交換戦法 [D36]
白 GMビクトル・ガブリコフ
黒 FMオリバー・ズッター
ベルン、1995年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 O-O 7.Bd3 c6 8.Qc2 Nbd7 9.Nge2

 白はキング翼ナイトの素早い展開を遅らせたので、ここでf3とe2のどちらへ展開するかを選択することができる。e2への展開の正当づけは二通りある。A)f3 から e4 と突いて中央を盛り上げるのがやりやすい。そしてB)黒の …Bg4 の潜在力が本質的に無害なので、白は h3 に1手費やす必要がない。しかしe2のナイトはf3のナイトより働きが劣るので、GMの実戦ではf3のナイトの方がよく指される。

9…Re8 10.O-O Nf8 11.Rab1 a5

 黒はこの手によりaポーン同士を交換する意図を表明している。11…Ne4、11…Be6、11…Nh5、11…Ng6 そして 11…Ng4 も自然な手である。どの場合でも白は布局での通常の有利さを保持している。

12.a3 Ng6 13.b4 axb4 14.axb4 Ng4 15.Bxe7 Qxe7 16.h3 Nh6?!

 これはぜいたくな作戦である。黒はd8-h4の斜筋をクイーンのために開けておくために、ナイトを恒久的に遊ばせておくつもりである。比較的劣勢の側からこういうことをするのはめったに成功しない。通常の手は 16…Nf6 で、GMガブリコフが『チェス新報』第65巻で指摘したように黒はすぐの 17.b5 を 17…c5! で撃退することができる。

17.Ng3 Qg5?

 そしてこれが敗着になった。g5のクイーンは強力に見えるけれども、このあと何も狙いがない。正着はc6の地点を守る 17…Qf6 で、18…Nh4 から 19…Bxh3 の戦術に期待をかけ 20.gxh3 なら 20…Qf3 で勝ちになる。

18.b5 Nh4 19.bxc6 bxc6 20.Nce2! Qf6 21.Rb6

 白は全面的に成功を収めている。展開は完了し、キング翼は強固になり、黒のcポーンは慢性的な弱点になり、c6とh7の両当たりでポーン得が確実になっている。黒はポーン損を甘受しなければならない。21…Bxh3? 22.gxh3 Qf3 は 23.Nf4 で成立しない。

21…Bd7 22.Bxh7+ Kh8 23.Bd3 g5 24.e4! Bxh3

 24…g4 は 25.e5! Qg5 26.hxg4 Nxg4 21.Qc1! でうまくいかない(ガブリコフ)。

25.Qxc6

 この安全第一の手は実戦的に良い選択である。クイーンを盤上から消し、ポーン得は変わらない。しかし後にGMガブリコフは 25.Rxc6! から始まるもっと確実で理論的な勝ち筋を示した。25…Re6 26.exd5! Rxc6(26…Bxg2 なら 27.dxe6 Nf3+ 28.Kxg2 Nh4+ 29.Kg1 Nf3+ 30.Kh1 g4 31.Rc8+ Ng8 32.Nf5)27.Qxc6 Qxc6 28.dxc6 Bxg2 29.Rc1

25…Qxc6 26.Rxc6 Bxg2?!

 黒はこれで戦力損がひどくなりなすところなく負ける。26…Re6 27.Rxe6 Bxe6 と指さなければならないところだが、それでも引き分けの見通しは暗い。

27.Rxh6+ Kg7 28.Rxh4 Bxf1 29.Rg4 Bxe2 30.Bxe2 dxe4 31.Rxg5+ Kf8 32.Nf5 Re6 33.Bc4 Rg6 34.Rxg6 fxg6 35.Ne3 Rd8 36.d5 Ke7 37.Bf1 Kf6 38.Bh3 Ke5 39.Be6 Kd4 40.Kg2 Rf8 41.Kg3 Kc5 42.Ng4 Kd6 43.Kg2 Rf3 44.Kf1 Ra3 45.Ke2 Rb3 46.Bf7 Rf3 47.Be6 Ra3 48.Nh6! Ke5 49.Nf7+ Kf6 50.Nd6 Ra2+ 51.Ke3 Ke5 52.Nc4+ Kf6 53.Bg4 Rc2 54.Be2 Kf5 55.d6 Ra2 56.d7 Ra8 57.Na5 黒投了

******************************

2016年03月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(180)

「Chess Life」1997年3月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

少数派攻撃(続き)

主眼の收局

白 エバンズ
黒 オプサール
ドゥブロブニク・オリンピアード、1950年

 黒が40手目を指した局面

 18歳のラリー・エバンズは1950年にユーゴスラビアのドゥブロブニクで開催されたオリンピアードの米国チームの中で高勝率をあげた(10試合で8勝2分!)。ノルウェーのハーコン・オプサールとの試合ではクイーン翼ギャンビットの交換戦法で少数派攻撃を完璧に実行した。つまり黒のcポーンを出遅れにさせ、駒交換でキング翼における黒の攻撃の可能性をなくし、それに続いて收局でc6の弱点に技術的につけ込んだ。

41.Nc5+ Kf6

 ここだけでなく後でも「ナイトの旅行」が行われ、41…Kd6 なら 42.Rd7# までとなる。ナイトは静的なポーン陣形の弱点につけ込むのが得意で、将来の(とは言っても1951年!)米国チャンピオンとグランドマスターはこれを完璧に見せつけた。

42.Nd7+ Ke6 43.Nf8+ Kf6 44.Nh7+ Ke6 45.Ng5+ Kd6

 45…Kf6? は Rf7 での詰みを防ぐために黒ナイトがe7に縛りつけられるのでもっと悪い。そしてサーバ・ブコビッチが立派な大会誌で白が勝つことを示した。46.f3! Ra2+ 47.Kf1! Ra1+ 48.Ke2 Ra2+ 49.Kd1! Rxh2 50.e4! dxe4 51.fxe4 Rh4 52.e5+ Kf5 53.Rxe7

46.Rb7 f6

 46…f5 なら 47.Rb8! から黒のキング翼に侵入して決まる。

47.Nh7 Ke6 48.Nf8+ Kf7

 48…Kd7?? はもちろんあの 49.Rd7# である。

49.Nxg6 Kxg6 50.Rxe7

 この結果白勝ちのルークとポーンの收局になる。得しているポーンは二重fポーンであっても、hポーンを取るためのおとりとして使えるので十分役に立つ。詳しい解説はGMラリー・エバンズの名著『New Ideas in Chess』を読んで欲しい。この本は1958年にピットマン社から初版が出版され、1994年にドーバー出版から再版された(71~72ページを参照)。残りの指し手は次のとおりである。

50…Kf5 51.Rc7 Rc1 52.Rc8 Kg6 53.Kg3 Rc2 54.h4 Kf5 55.Rh8 Kg6 56.f5+ Kxf5 57.Rxh5+ Kg6 58.Rh8 Kf5 59.Rg8! Rc1 60.Kg2 Ra1 61.h5 Ra7 62.Rg3 Rh7 63.Rh3 Kg5 64.Kf3 Rh6 65.Rh1! Kf5 66.Kg3 Kg5 67.Rh4 Kf5 68.Rf4+ Kg5 69.Rg4+! Kf5 70.Kh4 Rh8 71.Rg7 Ra8 72.h6 Ra1 73.Rg3 Rh1+ 74.Rh3 Rg1 75.Rf3+! Kg6 76.Rg3+ Rxg3 77.Kxg3! Kxh6 78.Kg4 Kg6 79.Kf4 Kg7 80.Kf5 Kf7 81.f3! 黒投了

******************************

2016年03月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(181)

「Chess Life」1997年6月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃

 前回は少数派攻撃の意味するところを説明し、白の最も重要な応用であるクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法の交換戦法を紹介した。簡単に復習すると、少数派攻撃とはポーンの数で劣る方の翼で自分のポーンを突き進めることである。それは本質的に戦略的な手段であり、それゆえに普通はキングのいない側でのポーン突きにだけ適用される用語である。そして最も普通の目的は相手のポーン陣形に弱点を生じさせることである。

 黒はいつも展開で白より1手遅れているので、黒の少数派攻撃は前回の白の実戦例の少数派攻撃ほど危険なものとはならない。白の少数派攻撃と異なり黒のほとんどの少数派攻撃は 1.e4 布局で起こる。その始まりの特徴的なポーン陣形は次図に示されるとおりである。

 主眼のポーン陣形

 黒はしょせん黒なので、中央で …f6 から …e5 と動く見通しは明るくない。だから …b5 から …b4 とする少数派攻撃で満足しなければならない。黒による参考になる実戦例を4局紹介する。

******************************

2016年03月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(182)

「Chess Life」1997年6月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃(続き)

(1)カロカン防御交換戦法 B13

1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5 4.Bd3 Nc6 5.c3 Nf6 6.Bf4 Bg4 7.Qb3 Qd7! 8.Nd2 e6 9.Ngf3 Bxf3! 10.Nxf3 Bd6!

 黒の7手目、9手目、そして10手目からなるシステムは交換戦法に対処する最も効果的な手段であると確信している。戦術の第一の要点は魅力的に見える 11.Ne5?! が 11…Qc7! のためにうまくいかないことである。白はキング翼ビショップとナイトの態勢が非常に悪いので互角になれば幸運である。

11.Bxd6 Qxd6 12.O-O

 戦術の第二の要点は 12.Qxb7 が 12…Rb8 13.Qa6 O-O のために何にもならないことである。例えば 14.Bb5 Rb6 15.Qa4 Ne7 16.O-O Qb8! 17.Bd3 Rxb2 18.Rab1 Rxb1 19.Rxb1 Qc7 で互角の形勢になる。

12…O-O 13.Rae1 Rab8 14.Ne5 b5

 これからの戦闘の舞台が整った。白はe5の拠点を利用してキング翼で攻撃するのに対し、黒はクイーン翼で少数派攻撃により反撃する。やはりすぐの戦術は黒にとって危険でない。15.Bxb5 は 15…Nxd4! 16.cxd4 a6 によって逆ねじを食わされ、黒が駒を取り返して良い態勢になる。

15.Re3

 このあとはセメニウク対シャカロフ戦(ソ連、1981年)の手順を追う。白は躊躇せずに攻撃を開始する。重要な変化は 15.a3 a5! をさしはさむことで(最も一貫性のある継続手。スパークス対ジーゲル戦[1996年全国高校選手権]では 15…Rfc8 16.f4 a5 17.f5 b4 18.Nxc6 Rxc6 19.cxb4!? axb4 20.fxe6 fxe6 21.a4 Rc7 22.Rf3? Qb6! で黒が優勢だった。しかし白は 22.a5! と指すのが良く、形勢は不明である)、このあとは

 (a)16.Bxb5 Na7 17.a4 Nxb5 18.axb5 Qb6 は互角。

 (b)16.Re3 Rfc8 17.Qd1 b4 18.axb4 axb4 19.Rfe1 bxc3 20.bxc3 Qd8 21.Rh3 g6 はランカ対カスパロフ戦(ソ連、1977年)で、GMカスパロフは黒が少し優勢と判断している。

 (c)16.f4 b4 17.axb4 axb4 18.Qd1 bxc3 19.bxc3 g6?! 20.Re3 Nd7 21.Qe1 Ncxe5?! 22.fxe5 はベンジャミン対クリスチャンセン戦(米国選手権戦、1981年)で、白がいくらか優勢だったが、途中(b)のように 19…Rfc8! が本筋の手だった。

15…b4 16.Qc2 Rfc8 17.Qe2 bxc3 18.bxc3 Qd8!

 このクイーンはb6またはa5で働かせることができ、局面によっては …Nxe5 が良い手となるかもしれない。この試合の詳しい分析は『チェス新報』第32巻第184局のカスパロフとシャカロフの解説を読んで欲しい。

19.Rh3 g6 20.f4 Ne7 21.Qe1?

 この手はゆっくりしすぎている。カスパロフとシャカロフは代わりに 21.g4!? Rxc3 22.Qe1 を推奨して「白に代償あり」としている。それはたぶん本当だろうが、それでも黒陣は代わりに 21…Rc7 で十分しっかりしている。

21…h5! 22.Kh1

 白がこのような手を指させられる時はいつでも、黒の少数派攻撃が成功している。このあとは黒がクイーン翼を乗っ取り難なく勝った。

22…Rb2 23.a4 Kg7 24.Rg1 Nf5 25.Qa1 Qb6 26.a5 Qb3 27.Bxf5 exf5 28.Nd3 Ra2 29.Qf1 Ne4! 30.Nc1 Qc2 31.Rf3 Rxa5 32.Qe1 Ra1 33.h3 Rxc3 34.Rxc3 Qxc3 35.Qxc3 Nxc3 36.Kh2 a5 37.Re1 a4 白投了

******************************

2016年03月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(183)

「Chess Life」1997年6月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃(続き)

(2)カロカン防御交換戦法 B13

カロカン防御交換戦法 [B13]
白 GMミゲル・イリェスカス
黒 GMビスワーナターン・アーナンド
リナレス、1994年

1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5 4.Bd3 Nc6 5.c3 Qc7!?

 世界の一流GMたちはお互い何度も対局するので、布局で優位に立つ可能性を高めるためには優れた「意表手」が必要である。本譜の手はそのような1手である。

 黒は白がクイーン翼ビショップをよく利くf4の地点に出すのをより難しくさせた。

6.Bg5

 白は3手かけてこのビショップをh2-b8の斜筋に置くのをいとわない。しかし私は手数がかかりすぎると思う。もっと効率的なのは 6.Ne2 Bg4(6…e6 7.Bf4 Bd6 8.Bxd6 Qxd6 も黒に働きの劣るクイーン翼ビショップが残される)7.f3 Bd7 8.Na3 a6 9.Nc2 e6 10.Bf4 Bd6 11.Bxd6 Qxd6 12.O-O と進んだレイン対ホフマン戦(米国、1980年)で、白がわずかに優勢だった。

6…Nf6 7.Nd2 Bg4 8.Ngf3 e6 9.Bh4 Bd6 10.Bg3 Bh5 11.Bxd6 Qxd6 12.O-O O-O

 この局面を前局でやはり黒が12手目を指した直後の局面と比較すると基本的な違いが二つしか見られない。

 (a)白のクイーンはb3でなくd1にいる。これはクイーン翼ルークが攻撃の目的のためにe1へ行けないことを意味している。

 (b)黒のクイーン翼ビショップはf3で交換されていなくてh5にいる。だから黒はこのビショップをg6に引くことができるのでキング翼の防御にもっと融通性がある。

 全体として黒は前局よりわずかに有利で楽に互角になっている。

13.Re1 Rab8 14.a4 Qc7!

 ここは勝負所である。白は黒の少数派攻撃の開始を一時的に防いでいた。14…a6 なら 15.a5! と応じて黒のクイーン翼が麻痺するからである。

15.Qb1 a6 16.Ne5 Rfe8

 ここで 16…b5 は食指が動かない。17.axb5 axb5 18.b4! となれば少数派攻撃は止められ、黒のbポーンは白のcポーンより弱くなる。だから黒はキング翼ルークをe列に回して白の f2-f4-f5 突きに対して予防措置をとった。17.Nxc6?! は 17…bxc6! 18.Bxa6 Qb6 でポーンを取り返して有利になるので恐れる必要がない。

17.h3 Bg6 18.Bxg6

 18.Nxg6?! は 18…hxg6 19.Nf3 e5! で駒の働きが良く黒が少し優勢になる(アーナンド)。

18…hxg6 19.Qd3 Nxe5 20.dxe5?

 白は局面の判断を大きく誤った。白はキング翼を攻撃することを夢見ている。しかしそのための前提条件となるものは何もない。否定的な面としてはc5への利きをなくすので黒がクイーン翼で効果的な作戦を始めることができる。さらにはe5のポーンは強さよりも弱点になる。

 正着はポーン陣形を安定なままにしておく 20.Rxe5 だった。それならGMアーナンドは 20…Rec8! のあと 21…Ne8 から 22…Nd6 と指し、いい勝負だと言っている。その場合少数派攻撃はもっと後の段階で見られたかもしれない。

 実戦の手のあと黒はすぐに有利な收局に持ち込み、そのあと白がさらにポーン陣形を弱めたことにつけ込んで危なげなく勝った。このあとの指し手は本稿の主題外なので、記号を少し付けるにとどめる。完全な分析は『チェス新報』第60巻第129局のGMアーナンドの解説を参照されたい。

20…Nd7 21.Qd4 Rec8 22.Re3 Qb6! 23.Qxb6 Nxb6 24.h4 Kf8 25.g3 Ke7 26.b3? Rc7 27.a5?! Nd7 28.c4 Rbc8! 29.Kg2 Nb8! 30.Ra4 Rd8! 31.f4 Nc6 32.Rd3 Rcd7 33.c5 f6! 34.Nf3 d4 35.exf6+ gxf6 36.Nd2 e5 37.Ne4 Rd5 38.fxe5 Rxe5 39.Nd6 Rxc5 40.Nxb7? Rc2+ 黒投了

******************************

2016年04月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(184)

「Chess Life」1997年6月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃(続き)

(3)dポーン試合 A49

dポーン試合 [A49]
白 GMボリス・イフコフ
黒 GMボビー・フィッシャー
サンタモニカ、1966年

1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 O-O 5.O-O d6 6.Nc3 d5

 これは1960年代中ごろにGMフィッシャーが得意としていた手で、いくらか野放図である。これでも十分指せそうだが、ほとんどのキング翼インディアン防御の心酔者はもっと型通りに 6…Nbd7 から …e5 突きの方がなじみがあるだろう。

7.Ne5 c6 8.e4 Be6

 GMイフコフはすぐれた大会記録本(GMカシュダン編集で1968年出版の第2回ピアティゴルスキー杯の33ページ)と『チェス新報』第2巻第53局の解説で 8…dxe4 9.Nxe4 Nxe4 10.Bxe4 Bh3 を互角への簡明な手段として推奨している。GMフィッシャーは布局でそれ以上を目指しそれ以下に終わる。

9.exd5 cxd5 10.Ne2 Nc6 11.Nf4 Bf5 12.c3 Be4?

 冒頭の図に示された主眼のポーン陣形になった。黒は少し劣勢で、12…Rc8 や 12…Qd6 のような普通の手を選ぶべきである。代わりにクイーン翼ビショップを的外れの地点に置いた。

13.Bh3? Qc7 14.Nfd3?!

 これで黒は白のナイトと交換することにより危ないビショップの顔を立てることができる。GMイフコフは 14.f3 Bf5 15.g4 Bc8 16.g5 でも 14.Nxc6 Qxc6 15.f3 Bf5 16.Bxf5 gxf5 17.Nd3 でも明らかに優勢となることを示した。本譜の手のあと黒はほぼ互角になった。

14…Bxd3! 15.Nxd3 e6 16.Bf4 Qd8 17.Re1 Re8 18.Bg2 Nd7 19.h4 h5

 黒はここで 20…b5 で少数派攻撃を開始する用意ができている。だから白は 20.a4! でそれを邪魔するのがよい。どういうわけかユーゴスラビアの著名なGMはここからの何手かの間白に突きつけられる少数派攻撃の危険性に気づかないかのようだった。

20.Bf3 b5! 21.a3 a5 22.Qe2 Rc8! 23.Bd6?

 GMパッハマンが指摘したようにここは来るべき少数派攻撃を 23.b4! で止める最後の機会で、ほぼ互角の封鎖された局面になるところだった。

23…Qb6 24.Be5?! Ndxe5 25.Nxe5 Nxe5 26.dxe5 b4 27.axb4 axb4 28.Qe3 Qxe3 29.Rxe3 bxc3 30.bxc3 Rc5

 少数派攻撃の実行が成功して所望の結果が得られた。つまりc3が根本的な弱点になった。白陣は敗けたも同然である。時間切迫も加わって抵抗らしい抵抗もしなかった。

31.Be2 Rec8 32.Ra3 Bf8 33.Rb3 Be7 34.Kg2 Bd8! 35.Ba6?! Ra8 36.Rf3? Bc7 37.Rb5 Rc4! 38.Bb7 Ra3 39.Re3 Kg7 40.Bc8 Raxc3 41.Re1 Rc2 白投了

 試合はここで指し掛けになった。白は 42.Bd7 を封じ手にしたが、再開することなく投了した。

******************************

2016年04月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(185)

「Chess Life」1997年6月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の少数派攻撃(続き)

(4)ピルツ防御 B08

ピルツ防御 [B08]
白 GMイゴール・プラトーノフ
黒 GMティグラン・ぺトロシアン
ソ連、1970年

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3 d6 4.Bc4 c6 5.Nf3 Nf6 6.O-O?!

 白は黒から有利な条件下で …d5 と突かれないよう気をつけなければならない。適切な手は 6.e5 dxe5 7.Nxe5 または 6…d5 に 7.e5 と突けるよう 6.Bb3 と引いておく手である。

6…d5! 7.exd5 cxd5 8.Be2?!

 この手は消極的すぎる。白は 8.Bd3 で黒のクイーン翼ビショップから好所を奪い 8…Nc6 には 9.h3 と突いておくべきである。

8…O-O 9.Re1 Bf5 10.Ne5 Nbd7! 11.Bf4 Rc8 12.Bd3 Bxd3 13.Qxd3 e6

 黒が 11…Rc8 からクイーン翼で動き始め、13…e6 で冒頭の図に示された主眼のポーン陣形になった。白は何も有利なところがなく、黒の少数派攻撃の可能性の毒牙を抜くことができるように駒の連係を図る最適な手段を探すべきである。第一弾として c2-c3 でc列を締め切ることができる 14.Ne2 が適切に思える。

14.Rad1?! Qb6 15.Nxd7 Nxd7 16.Bc1 Qc6! 17.Qh3?

 黒は少数派攻撃の用意ができていて、白は 17.Re2 a6 18.a4 で受けに回る必要がある。白の期待するキング翼攻撃は夢想に基づいていて、現実のものではない。

17…b5 18.a3 a5 19.Rd2?!

 ぎこちない手。正着は 19.Re2 だった。それにしてもGMぺトロシアンがなんと迅速に「無」からクイーン翼での凶暴な強襲を繰り出したものか、感服する。そう、これこそ戦略的少数派攻撃の威力である!

19…b4 20.axb4?!

 どうして黒のルークのために列を素通しにしてやるのか。20.Nb1 が絶対である。

20…axb4 21.Nd1 Ra8!

 終わりが始まった。クイーン翼ルークはa列から侵入し、必要とあればキング翼ルークはc列で働く。

22.Ne3 Nf6 23.Rd3 Ne4 24.Red1 Ra1 25.Qh4 Qb6 26.Ng4 h5 白投了

 27.Ne3 は 27…Bxd4! 28.Rxd4 Rxc1 で負けになり、27.Ne5 は 27…Bf6 28.Qh3(28.Qf4 Bg5)28…Bxe5 29.dxe5 Nxf2 と応じられる。

******************************

2016年04月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(186)

「Chess Life」1997年7月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御

 黒番で何を指したら良いだろうか。それは条件による。好き嫌い(棋風)、どのくらい布局に時間をかけられるか、そして布局に要求するのは何かという具合である。世界的地位への過程でボビー・フィッシャーの主要な武器はシチリア防御とキング翼インディアン防御だった。彼の考え方は明快で、できるだけ早く相手に戦いを挑むことが理にかなっているというものだった。さらには当時布局定跡の先導的研究者だったので、研究の第一人者であることに自信を持っていた。

 今日では彼の例にならう者には事欠かない。世界チャンピオンのガリー・カスパロフはシチリア防御とキング翼インディアン防御の研究では並ぶ者がいない。それでもGMたちの大部分は黒番のとき布局段階にフィッシャーやカスパロフたちほど多くを要求しない。彼等は中盤戦の始まりで指しやすい局面になれば満足する。本稿の目的はそのような選手たちのための布局を推奨することである。それを黒の堅実な布局と呼ぶ。

 堅実な布局には中央での影響の強さ、小駒の自由な展開、安全なキング、それに陣形の弱点はあっても最小限という特徴がなければならない。しかし今日では30年前には可能だった堅実な布局は望むべくもない。というのはその布局がどんなに堅実であっても白番では最も攻撃的な手段を追求する選手が多いからである。それでも布局が堅実であればあるほど、自陣が露骨な選手によって壊滅させられる危険性は少なくなるからである。

 今回は 1.e4 に対する二つの堅実な防御について論じる。次回は 1.d4、1.c4 および 1.Nf3 に対する防御について論じる。

 1950年に大会で指すようになった時、黒での最も堅実な布局はカロカン防御とぺトロフ防御というのがごく普通の知識だった。今日でもそれは当てはまる。

******************************

2016年04月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(187)

「Chess Life」1997年7月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

カロカン防御[B10-B19]

1.e4 c6 2.d4 d5

 カロカン防御の戦略の要点は 3.exd5 に 3…cxd5 と応じることができるので、中央での発言力を減らす危険をおかすことなく黒が白のeポーンに挑むことができるということである。非GMの試合で断然人気のある二つの主流戦法は 3.Nc3(主流手順)と 3.e5(突き越し戦法)である。これらを順に取り上げる。

(A)主流手順 3.Nc3 (B15-B19)
3…dxe4 4.Nxe4 Bf5

 この手はあらゆる点で理にかなっている。クイーン翼ビショップが中央の絶好の斜筋に先手で展開された。黒はこのあと …e7-e6 と突いてd5の地点を過剰防御しキング翼ビショップを展開する用意をする。

 25年ほど前はこの手は堅実で人気のある手段だった。例えばGMアナトリー・カルポフは1973年にボリス・スパスキーとの挑戦者決定番勝負準決勝でこの手で1勝3引き分けをあげた。現在のところGMの実戦では 4…Nd7 の方がより巧妙で複雑になることがあるので多く見られる。それでも純粋な堅実さゆえに 4…Bf5 に優るものはない。

5.Ng3 Bg6 6.h4

 この手は攻撃には当たらず、キング翼で陣地を拡張する手段である。わずかな有利を獲得する可能性が最もある。ほかの手もある。

 (1)6.Nf3 Nd7 7.Bd3 e6 8.O-O Ngf6 9.c4 Be7 10.b3 O-O 11.Bb2 Qb6 12.Bxg6 hxg6 13.Re1 Rfe8 14.Qc2 c5 15.a3 a5 16.dxc5 Nxc5 17.Rab1 Red8 18.Bd4 Qc6 これはスパスキー対ポルティッシュ戦(モントリオール、1979年)で、互角の形勢だった。

 (2)6.Bc4 e6 7.N1e2 Nf6 8.Nf4 Bd6 9.Bb3 Qc7 10.Qf3 Nbd7 11.h4 e5 12.Nxg6 hxg6 13.Be3 O-O-O 14.O-O-O exd4 15.Bxd4 Nc5 15.Bxf6 Bf4+ 17.Kb1 gxf6 いい勝負である(GMボレスラフスキーの分析)。

 (3)6.N1e2 Nf6 7.Nf4 e5 8.Nxg6 hxg6 9.dxe5 Qa5+ 10.Bd2 Qxe5+ 11.Qe2 Qxe2+ 12.Bxe2 Nbd7 13.O-O-O Bc5 14.f4 O-O 15.f5 gxf5 16.Nxf5 Rfe8 17.Bf3 g6 18.Nh6+ Kg7 19.Ng4 Nxg4 20.Bxg4 Ne5 21.Be2 f6 これはチェスコフスキー対バギロフ戦(ルボフ、1978年)で、e5のナイトが強力なのでいい勝負である。

6…h6 7.Nf3 Nd7!

 白が先手で Ne5 と指すのを防ぐことは役に立つ。しかもd7はクイーン翼ナイトの自然な居場所である。

8.h5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Qc7

 黒は Bf4 を防ぎつつクイーン翼キャッスリングの用意をした。この戦型の経験則は、黒は白と同じ側にキャッスリングすべしということである。だから白がキャッスリングするのを待ちそれから真似をするのがよい。

11.Bd2 e6 12.O-O-O Ngf6 13.Ne4

 白はこの手で最も働いていない Ng3 を戦いに投入した。これは白の主手順になっている。以前はすぐに 13.Qe2 O-O-O 14.Ne5 Nb6 15.Ba5 と動くのが好まれた。しかし 15…Rd5 16.Bxb6 axb6 17.f4 Rd8! 18.Kb1 Bd6 19.c3 Rhe8 20.Nf1 b5 21.Ne3 Bf8(22.g4 Nd5)で黒陣は相変わらず非常に堅固である。

13…O-O-O 14.g3 Nxe4 15.Qxe4 Bd6 16.c4 Rhe8 17.Kb1

 17.c5 は 17…Bf8 18.Bf4 Qa5 19.Kb1 Nf6 20.Qe5 Nd7 で何事もない。

17…c5 18.Bc3 Nf6

 黒は全戦力を中央に向けてスムーズに展開した。そして白の中央に対する反撃を始めている。完全な互角は目前である。白の応手は次のとおりである。

 (1)19.Qc2 cxd4 20.Bxd4 Bc5 21.Bxf6(21.Be5 Qc6 は黒が非常に楽である)21…gxf6 22.Nh2 f5 23.Nf3 a6 24.Qe2 Bf8! これはチャンドラー対バギロフ戦(ベルリン、1994年)で、動的に互角である。黒はe4の地点を支配し、…Bg7 のあとはa1-h8の斜筋の支配により白の優勢なポーン陣形の代償を得ている。

 (2)19.Qe2
 (a)19…Qc6? 20.Rh4! Bc7 21.Ne5 Bxe5 22.Qxe5 Rd7 23.Rc1! cxd4 24.Bxd4 b6 ここまではド・ファーミアン対アディアント戦(サンフランシスコ、1987年)で、GMアディアントの分析によると 25.Qf4! Red8 26.Bxf6 gxf6 27.Qxh6 Rd1 28.Qe3 で白が明らかに優勢になる。

 (b)19…Bf8! 20.Rh4 Kb8 21.Ne5 Ka8! 22.Qf3 cxd4 23.Rhxd4 Rxd4 24.Rxd4 Bd6 互角(25.Nxf7? Bc5!)

******************************

2016年05月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(188)

「Chess Life」1997年7月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

カロカン防御[B10-B19](続き)

1.e4 c6 2.d4 d5

(B)突き越し戦法 3.e5 Bf5 (B12)

 ここが突き越し戦法の眼目の出発点になる。フランス防御と違って黒は自分の連鎖ポーンの外へクイーン翼ビショップを展開させることができたので、歴史的にカロカン防御に対するこの突き越しは無害という評判だった。

4.Nf3!

 しかしGMナイジェル・ショートが白の本来の有望さを見せつけた1990年代初めには評価が変わり始めた。彼が明らかにしたのは黒のクイーン翼ビショップは好所に展開されたように見えるけれども白に対して何もできず、この展開と …c5 突きとに要した手数のために白が有利な中央を安全に守ることができるということだった。このため白は盤の両翼で黒を締めつける可能性が得られる。

 実際白のほかの作戦は定跡では無害とされている。

 (1)4.Bd3 Bxd3 5.Qxd3 e6 6.f4 Qa5+ 7.c3 Qa6! 白がクイーン同士を交換しようとしまいと、黒にとって形勢は完全に互角である。働きの悪いクイーン翼ビショップを消したし、…c5 と突いて有力な反撃が見込める。

 (2)4.h4 h5 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 7.Nf3 Qa5+ 8.Nbd2 Qa6 これはスパスキー対ラルセン戦(ブゴイノ、1982年)で、4.h4 h5 の挿入は無意味で黒がうまくやっている。

 (3)4.Nc3 e6 5.g4 Bg6 6.Nge2 は1980年代にGMジョン・ナンによって推奨された激しい作戦である。白はキング翼を大きく弱めたので、黒の主眼の 6…c5 から起こる乱戦を詳しく研究しておいた方がよい。

4…e6 5.Be2 c5 6.O-O

 ここからはシロフ対カルポフ戦(ラス・パルマス、1994年)の手順を追う。

 この試合でGMカルポフは白が指し手に積極性を欠けば、黒が容易に白の作戦をすべてほごにできることを示した。そこで白側は 6.Be3 を試し始めて、早く筋を開けようとしている。これまでのところ 6…Ne7 と 6…Nd7 のどちらも満足できる手ごたえを得ている。

6…Nc6 7.c3 cxd4 8.cxd4 Nge7 9.a3?!

 本局の内容に懲りて白は展開の 9.Nc3 に目を向けたが、9…Nc8! でやはり何の有利さも得られなかった。(1)ヘラーシュ対エピシン戦(マルモー、1994年)では 10.Be3 Nb6 11.Na4 Be7 12.Rc1 Nxa4 13.Qxa4 O-O 14.a3 a6 15.b4 a5! 16.b5 Nb8 17.Rc3 Nd7 18.Rfc1 Nb6 と進んで黒にとって楽な局面だった。(2)ビレラ対モレノ戦(ハバナ、1996年)では 10.Bg5 Be7 11.Bxe7 Qxe7 12.Na4 O-O 13.Rc1 Bg4! と進んで互角の形勢だった。黒は自分の「なまけ」ビショップを白のキング翼のナイトまたはビショップと交換するのは大歓迎である。

9…Nc8!

 この構想は素晴らしかった。このナイトは「反展開」されているように見えるが、a7またはb6を経由してクイーン翼で役立てることができる。それと同時にe7の地点が黒のビショップのために空いたので、黒は都合の良い時にキャッスリングすることができる。GMカルポフは本誌(1994年10月号42ページ)で黒の布局の指し方を微に入り細にわたって解説した。カロカン防御の信奉者は皆彼の教えを研究するとよい。

10.Nbd2 Be7 11.b3 a5! 12.Bb2 N8a7 13.Re1 O-O 14.Nf1 Rc8!

 クイーン翼ルークの通常の居場所はc8で、クイーンはb6である。GMカルポフは自分の手順の理由を次のように解説している。「クイーンをd8に置くことによりh4の地点に利かせ、白がキング翼で進攻するのを防いでいる。」今さらながら非常に明快である。

15.Ng3 Bg6 16.Qd2 Qb6 17.Bd1 Rc7! 18.h4 h6 19.Re2?!

 黒はクイーン翼で仕掛けていく用意ができていて、白の唯一の希望はキング翼である。GMシロフは防御を攻撃準備と組み合わせようとするが、遅きに失した。だからすぐに 19.Qf4 と指すのが当を得ていた。

19…Rfc8 20.Qf4 Nb8! 21.Re3 Nb5 22.Ne2 Nd7 23.Nh2 Rc6! 24.Ng4 Qd8! 25.Rh3 Qf8!!

 攻防ここに極まれり。GMカルポフは『チェス新報』第60巻第128局で本局を詳解している。ぜひ隅から隅まで読んでみて欲しい。黒の指し手は完璧で白にまったく付け入るすきを与えなかった。

26.a4 Na3! 27.Bxa3 Bxa3 28.Rg3 h5 29.Ne3 Bb2! 30.Ra2 Bc1! 31.Qg5 Qb4 32.Nf4?! Bxe3 33.fxe3 Rc1! 34.Nxg6 Rxd1+ 35.Kh2 fxg6 36.Qxg6 Qe7 37.Rf2?! Qxh4+ 38.Rh3 Qxf2 白投了

******************************

2016年05月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(189)

「Chess Life」1997年7月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

1.e4 に対する黒の防御(続き)

ぺトロフ防御[C42-C43]

1.e4 e5

 カロカン派の選手の方が 1…c6 ゆえに目的を遂げるのが容易である。これに対しぺトロフ防御に達するためには黒は手始めに 2.Nc3、2.Bc4、2.d4 それに野心的なキング翼ギャンビット(2.f4)を知っておかなければならない。それでも黒にはそれらのすべてに優秀な防御法がある。しかし白のほかの3手目に加えてこれらの布局について学ぶことは時間を要する。私の推測ではぺトロフ派は定跡を覚えその進歩についていくためにカロカン派よりも2倍の時間を費やす必要がある。

2.Nf3 Nf6

 黒はe5のポーンを守るよりも、白が黒に対してしたいことを白に対してすることを狙っている。もちろん白はかなり開けた局面で黒よりいつも1手先行することになる。黒にとって良い知らせは展開とポーン陣形に関して全体的に欠陥がないことである。

3.Nxe5

 25年ほど前にぺトロフ防御が大会でまたよく指されるようになって以来、本譜の手が主流手順になっている。黒が知っておかなければならないほかの手は次のとおりである。

 (1)3.Bc4 Nxe4 4.Nc3 ここで黒は 4…Nd6 や 4…Nf6、またはポーン食い逃げの 4…Nxc3 5.dxc3 f6 でも互角にできる。白の代償は不十分である。

 (2)3.Nc3 黒は 3…Nc6 と対称形に応じることができ、白に 4.Bb5 で4ナイト布局か 4.d4 でスコットランド試合かの選択肢を与える。非対称の 3…Bb4 も本筋の手で、かなり学習量が少なくて済む。

 (3)3.d4 は準主流手順である。私の推奨する主流手順の精神からすれば、黒は 3…Nxe4 4.Bd3 d5 5.Nxe5 Nd7 6.Nxd7 Bxd7 7.O-O Be7 と指し進めて差し支えない。最近の重要な実戦例はJ.ポルガー対ユスーポフ戦(ウィーン、1996年)で、8.c4 Nf6 9.Nc3 Be6 10.c5 Qd7 11.Bf4 O-O 12.Re1 Rfe8 13.h3 c6 14.b4 Bf5 15.Re5 Bg6 16.Qf3 Bd8! 17.Rxe8+ Nxe8 18.Rd1 Nc7 19.Be5 Ne6 20.Bxg6 hxg6 21.a4 Bc7 22.Bxc7 Nxc7 と進み合意の引き分けになった。黒の指し方は堅実そのものである。

3…d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4(C42)

 白はさもなくば対称形にしてわずかな有利を求めることもできる。

 (1)5.d3 Nf6 6.d4 d5 7.Bd3 フランス防御の交換戦法に移行した(1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 4.Nf3 Nf6 5.Bd3)。

 (2)5.Qe2 Qe7 6.d3 Nf6 7.Bg5 黒は白の手を侮ってはならない。しかしGMティグラン・ぺトロシアン流の 7…Qxe2+ 8.Bxe2 Be7 9.Nc3 c6 10.O-O-O Na6 から …Nc7 で互角になる。

5…d5 6.Bd3 Nc6

 GMフランク・マーシャルの大胆な 6…Bd6 はこの10年で復権して、時には黒の主流手順にさえなった。しかし「堅実な戦型」と呼ぶわけにはいかない。白側の選手たちは積極的な捨て駒で強力な主導権を得てきたからである。

7.O-O Be7 8.c4 Nb4!?

 ごく最近の実戦経験によるとこの危なそうな飛び跳ねはお決まりの 8…Nf6 よりも黒に完全な互角をもたらすことができることが分かってきた。重要な実戦例を2局紹介する。

 (1)9.cxd5 Nxd3 10.Qxd3 Qxd5 11.Re1 Bf5 12.Nc3 Nxc3 13.Qxc3 Be6! 14.Re5 Qc6! 15.Qe1 O-O-O 16.Bg5 Bxg5 17.Nxg5 Rhe8 18.Rc1 Qd7 19.Nxe6 Rxe6 20.Rxe6 fxe6! 21.Qe5 c6 22.g3 Qxd4 23.Qxe6+ Kc7 グロサル対パバソビッチ(マリボル、1996年)互角の局面である。

 (2)9.Be2 O-O 10.Nc3 Be6 11.Be3 Bf5 12.Rc1 dxc4 13.Bxc4 c6 14.Ne5 Nxc3 15.bxc3 Nd5 16.Qf3 Be6 17.Bd2 f6 18.Nd3 Qd7 19.Rfe1 Bd6 20.h3 Bf7(黒は堅実そのものである)21.Bb3 Rae8 22.Qg4 Rxe1+ 23.Rxe1 Rd8 24.Qxd7 Rxd7 25.Ne5 Bxe5 26.dxe5 fxe5 27.Rxe5 Nf6! トパロフ対イワンチュク(ノブゴロド、1996年)白には何も有利なところがない。

******************************

2016年05月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(190)

「Chess Life」1997年9月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法

 前回は黒のための堅実な布局の特徴について論じ、1.e4 に対する私の選択肢を紹介した。繰り返すと、堅実な布局は中央での影響の強さ、小駒の自由な展開、安全なキング、それに陣形の弱点はあっても最小限という特徴を備えていなければならない。今回は閉鎖型布局の 1.d4、1.c4 それに 1.Nf3 に対する私の推奨を紹介する。さらに、同じような中央の陣形をもつ防御をあえて提唱する。プロでない選手にとっては布局定跡の研究にかけられる時間は限られている。だからそのような得意戦法は研究時間を節約するとともに、関連する戦略要素をより深く理解することにつながっていく。

白が 1.d4 と指す
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

 百年ほど前の布局定跡では 1.d4 に対する最善の応手はクイーン翼ギャンビット拒否であると考えられていて、具体的な戦型は黒がd5の地点を適切に保持する戦法だった。オーソドックス戦法の絶頂期は1927年カパブランカ対アリョーヒンの世界選手権戦だった。カパブランカが黒番の17局のすべてでそれを採用したのも驚くにはあたらなかっただろう。しかし攻撃の天才のアリョーヒンは 1.d4 に対処しなければならなかった16局のうち15局で採用した。

 現在の一流GMのうち一貫して信奉してきたのはウクライナのGMアレクサンドル・ベリヤフスキーだった。ドイツの代表的なチェス雑誌『Schach』の1997年4月号でベリヤフスキーは盤上で「GMの中で最も妥協を潔しとしない」と評されている。そのとおりであるが 1.d4 に対しては堅実な布局を好んでいる。そこで実戦例として次の試合を選んだ。

******************************

2016年05月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(191)

「Chess Life」1997年9月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.d4 と指す(続き)
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

クイーン翼ギャンビット拒否 [D58]
オーソドックス、タルタコーベル戦法
白 GMレオニド・ユルタイェフ
黒 GMアレクサンドル・ベリャーフスキー
エレバン、1996年

1.d4 d5 2.c4 e6

 この手には二つの着想がかかわっている。理解しやすいのはd5の地点を守ることで、それほど理解されていないのは非対称を確立することである。スラブ防御(1.d4 d5 2.c4 c6)と異なり白は 3.cxd5 で対称形にできないので、これにより黒の勝つ見通しが増す。

3.Nc3 Be7!

 「手順の妙」(本誌1996年9月号)でなぜ普通に見える 3…Nf6 よりもこの手の方が正しい手順なのかについてかなり詳しく説明した。3…Nf6 なら白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法の有望版に行ける。しかし本譜の手ではそれが不可能で、白は 4.cxd5 exd5 5.Bf4 で満足するか、通常の小駒の展開を続けなければならない。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6

 黒がタルタコーベル戦法を目指しているなら、すぐにクイーン翼ビショップに挑戦するのが最も正確な手法である。その意味は 6.Bxf6 Bxf6 10.e4 が無害であることである。ウラジミロフ対ホルモフ戦(レニングラード、1967年)では 7…dxe4 8.Nxe4 Nc6 9.Nxf6+ Qxf6 10.Qd2 Bd7 11.Qe3 O-O-O! 12.Be2 Rhe8 13.O-O Kb8 と進み、黒は無理のない展開で互角の形勢だった。そして白がビショップを切らなければクイーン翼ビショップは働きの劣る斜筋に追いやられ、黒のhポーンは Qc2 と Bd3 のバッテリーに脅かされない。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6

 ここがタルタコーベル戦法の出発点で、過去70年にわたって黒の最も人気のある手法だった。黒に唯一ある真の戦略上の問題はクイーン翼ビショップの利きが乏しいことなので、中央に向けて理にかなった 8…Bb7 でその問題を解決することを策している。白がありきたりに手を進めれば、黒には何の問題もない。例えば 8.Bd3 Bb7 9.O-O Nbd7 10.Qe2 c5 11.Rfd1 Ne4 ならほぼ互角である。

 だから白は 7…b6 によって生じた黒のクイーン翼のわずかな弱体化につけ込むよう努めなければならない。

8.Be2

 20年以上に渡って本譜の落ち着いた手が最も人気のある手になっていて、主手順は 8…Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5 exd5 11.b4 である。中央を固定するのは二つの着想による。すなわち(1)黒のビショップの利きを減らし、(2)黒のdポーンに圧力をかけて例えば …c7-c6 のような新たなポーンの弱点を生じさせる。黒の通常の応手は 11…c5 だが、完全な互角は期待薄である。最近の実戦例のエピシン対ルゴボイ戦(サンクトペテルブルク、1996年)は 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qd2 Rfd8 17.Rfc1 Rab8 18.a4 と進んで白の圧力が続いた。

 歴史的には白の主流手順は 8.cxd5 Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Be2 だったが、数多くの研究により 14…Qb7 15.dxc5 bxc5 16.O-O Qb6 でも 14…a5 15.O-O Qa7 でも黒が捌けることが示された。どちらの場合もいい勝負である。

 本局に見られるベリャーフスキーの作戦成功により、このあと同年に世界チャンピオンのカルポフは 8.Qb3 Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 と指した。そして 11…c6 12.Bd3 Bc8 13.O-O Bg4 14.Ne2 と進んで白がわずかに優勢だった(カルポフ対ベリャーフスキー、ユーゴスラビア、1996年、1-0、62手)。カルポフは本局を『チェス新報』第68巻第403局で解説している。黒がもっと堅実に指すなら 12…Na6 13.O-O Nc7 である(ドゥルギー対オウラフソン、モスクワ、1989年)。

8…dxc4!?

 中央の形を決めることにより黒はクイーン翼ビショップに絶好の中央斜筋が得られることを保証した。もっとも白の広さの優位は少し増した。それでも黒陣はクイーン翼ビショップが 8…Bb7 9.Bxf6 から 10.cxd5 で閉じ込められるよりは指しやすいはずである。もちろん本譜の手は 8.Bd3 に対しても同じく指すことができる。どちらの場合も白は最初にキング翼ビショップを動かしてからc4ポーンを取り返すことにより手損をさせられる。

9.Bxc4

 ベリャーフスキーは 9.Ne5 Bb7 10.Bf3 なら 10…Nd5 で黒がうまく反撃できると指摘している。

9…Bb7 10.O-O Ne4 11.Bxe7

 白は 11.Bg3 でもっと難解な戦いに持ち込むことができ、それなら黒の最も正確な応手はたぶん 11…Bd6 である。

11…Qxe7 12.Nxe4 Bxe4 13.Rc1 Rd8 14.Bd3

 白はクイーン翼ルークのためにc列を素通しにし、黒の働いているビショップと交換することにより黒のクイーン翼のわずかな白枡の弱点にすぐにつけ込むことができることを期待している。ほかに有力な手としては

(1)14.Ne5 Nd7 15.Bd3 Bxd3 16.Nc6 Qe8 17.Qxd3 Nc5! 互角の形勢(ベリャーフスキー)

(2)14.Be2 c5 15.Nd2 Bd5 16.dxc5 bxc5 17.Qc2 Nd7 黒のb列での活動が孤立cポーンの代償となるはずである(ポルティッシュ対スパスキー、メキシコ、1980年、第10局)。

14…Bxd3 15.Qxd3 c5 16.Ne5

 16.Qa3 でも黒は 16…Nd7 17.Rfd1 Kf8 で圧力をはねつける。

16…Qb7 17.b4!?

 落ち着いた局面のもとでキルギスタンのGMは攻撃に打って出ることにした。その意図は 17…cxb4 18.f4 で白は中央が安定し、邪魔されずに黒のキング翼を目指すことができるというものである。しかしベリャーフスキーは注意深い指し方で白を寄せつけない。

17…cxd4! 18.exd4!?

 堅実策は 18.Rc4 Rd5 19.Rxd4 Rxd4 20.Qxd4 で、ここでベリャーフスキーは 20…Nc6 21.Qe4 Rc8 22.Rd1(22.Rc1?? は 22…Nxe5! で負ける)22…Nd8! 23.Qxb7 Nxb7 24.h4 Rc7 で互角になるとしている。

18…Nd7 19.Nc6 Re8 20.f4 Nf6

 白のナイトは確かにc6の好所を占めている。しかし全体的に黒陣はすきがなく堅固である。白はここで 21.b5 と突くべきで、私は動的に互角と判断する。

21.f5?! Qd7 22.fxe6 Rxe6 23.b5 Rae8

 急に黒駒の働きが目立ち始めた。注意深く指さなければならないのは白の方である。

24.Qf5 Qd6 25.Rcd1

 ベリャーフスキーによると白は 25.a4 Re2 26.Rf2 でほぼ互角を保持できた。

25…Re2 26.a4 a6 27.d5?

 ここが 27.Rf2 の最後の機会だった。ここから黒が優勢になった。

27…axb5 28.axb5 Rb2 29.Rde1 Rxe1 30.Rxe1 g6 31.Qf3 Kg7! 32.Ne7?! Qc5+ 白投了

 33.Kh1 なら 33…Qxe7 34.Rxe7 Rb1+ で最下段がまずいし、33.Qe3 なら 33…Qxe3+ 34.Rxe3 Rb1+ 35.Kf2 Ng4+ でナイトによる両当たりにはまる。

******************************

2016年06月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(192)

「Chess Life」1997年9月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.c4 と指す
イギリス布局に対する 1…e6(A13)

 黒はクイーン翼ギャンビット拒否で文句のない限り、1…e6 は申し分がなく最大の融通性がある。この手に対し 2.d4 なら 2…d5 だし、2.Nc3 でも 2…d5 で白は 3.d4 と突くしかない。2.e4 なら黒はフランス防御交換戦法の楽な局面に到達する(2…d5 3.exd5 exd5 4.d4)。その局面についてはサント=ロマン対シャケード戦(カンヌ、1997年)で解説した(本誌1997年6月号52ページ)。

2.Nf3 d5 3.b3

 cポーンを守ることにより …dxc4 でカタロニア布局が排除され、局面はイギリス布局の様相が濃くなる。黒は …Nf6 を遅らせているので、ここからの指し手には良い選択肢が二つある。それほど研究されていない方が好きなら次のように指してよい。

(A)3…Be7 4.Bb2 Bf6

 ここで 5.Bxf6 Nxf6 は黒が楽にキング翼の小駒の展開を完了してしまうので感心しない。マカロフ対ギオルガゼ戦(ポドリスク、1992年)で白は 5.d4 で黒のキング翼ビショップを押さえこむことにした。5…Ne7 6.Nbd2 O-O 7.e4 g6 で局面は形勢判断が難しく、55手で引き分けに終わった。この試合はマカロフが『チェス新報』第57巻第7局で解説している。その後GMギオルガゼは積極的な 5…dxc4 6.bxc4 c5! に着目した。意欲的な 7.e4?! cxd4 8.e5? は 8…Bxe5 9.Nxe5 Qa5+ でうまくいかない。

5.Qc2 Bxb2 6.Qxb2 Nf6 7.e3 O-O 8.d4 Nbd7 9.Nc3 Qe7

 黒は中央で 10…dxc4 から 11…e5 で仕掛けていく用意ができた。白はおそらく中央の争点を解消するしかなく、中央での影響力はほぼ互角になる。

10.cxd5 exd5 11.g3 c6 12.Bg2 Ne4 13.O-O Ndf6 14.b4 Bf5

 本譜の手順はプサーヒス対セルペル戦(ノボシビルスク、1993年)である。白は少数派攻撃を始めたが、黒は中央がしっかりしたまま展開が完了し、どんな危険性も最小限に抑えている。

15.Rfc1 a6 16.a4 Nxc3 17.Rxc3 Ne4 18.Rcc1 Nd6

 いい勝負になっている。

(B)3…Nf6 4.Bb2 Bd6!?

 黒の3手目はまともだが、次の手はe5の地点を争う意欲的な手段である。ここの手順はグリコ対スベシュニコフ戦(ビール・インターゾーナル、1993年)を追っている。

5.g3 O-O 6.Bg2 b6 7.O-O Bb7 8.Nc3 a6

 黒はキング翼ビショップをd6に置いたままクイーンがe7の好所に行ってもよいようにした。

9.d4 Nbd7 10.Qc2 Qe7 11.Rad1 Ne4 12.e3

 ここでスベシュニコフはe5の地点とキング翼を弱める 12…f5?! の代わりに、単純に 12…Nxc3 と取る方が良かったと言っている。確かに 13.Bxc3 Nf6 または 13…c5 でいい勝負のようである。

******************************

2016年06月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(193)

「Chess Life」1997年9月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.Nf3、2.g3 と指す
レーティ・システム (A11)

1.Nf3 d5

 黒がクイーン翼ギャンビット拒否で対処できる限り、本譜の手は完全無欠である。2.d4 には 2…Nf6、2.c4 には 2…e6 で自分の主力戦法に移行できる。

2.g3 c6!

 もちろん黒はここで 2…e6 の戦型を選ぶこともできる。しかし私はまずクイーン翼ビショップを連鎖ポーンの外に出しそれから …e6 と突くことにより黒がもっとうまくやることができると考えている。白が黒に最初から圧力をかけるのを避ける戦型を選択しているので、黒にはこれといった危険なしにもっと意欲的な陣形にする余裕がある。

3.Bg2 Bg4! 4.b3 Nd7 5.Bb2 Ngf6 6.O-O e6 7.d3 Bd6 8.Nbd2 O-O 9.c4

 両者とも小駒がよく連係を保って展開され、ポーン陣形にも弱点がない。白は中央でもっと影響力を強める必要がある。これはcポーンを2枡進めることにより成し遂げることができる。9.Qe1 から 10.e4 もあるが本譜の手の方が普通である。ここからの指し手はヒクル対M.グレビッチ戦(ジャカルタ、1996年)を追う。

9…Re8 10.Qc2 e5! 11.e4

 これは判断の分かれる手である。この手は将来の …e5-e4 をやらせないが、キング翼ビショップを殺しd4の地点を恒久的に弱めるという代価を払っている。GMグレビッチはここからその両方の要素に巧妙につけ込んだ。私ならもっと融通性のある 11.Re1 を選ぶ。

11…dxe4 12.dxe4 a5 13.Nh4 Bc5! 14.h3 Bh5

 h3 で応手を聞かれたらh5に引くかf3で交換するかのどちらかであるというのがこの戦型の大ざっばな指針である。代わりに 14…Be6?! と引くと、15.Ndf3! とされてeポーンを守る問題がすぐに起こる。もちろん白の13手目はf3での交換を防いでいる。しかし黒のクイーン翼ビショップの利きが増すという犠牲を払っている。

15.Nf5 Qb6 16.Rae1 Rad8 17.Nb1?!

 この手は 18.Nc3 から 19.Na4 と指す意図だが、その余裕はない。17.a3 と予防する方が良かった。

17…Bb4!

 ここで白は 18.Nc3 と指すべきだが、18…Nc5! で黒駒の方が働きがよくいくらか優勢である。残りの手順は記号を付けるだけにとどめる。グレビッチは『チェス新報』第68巻第6局で本局を詳しく解説している。

18.Re3?! Nf8 19.Rd3 Rxd3 20.Qxd3 N6d7 21.Na3?! Rd8 22.Bc1 Ne6 23.g4 Bg6 24.Nc2 Bc5 25.Qg3 Qc7 26.a3 Nf4 27.Re1 Nf6 28.Bf1 Qb6 29.Qf3 Ne6 30.Kg2 Nd7 31.Rd1 Ndf8! 32.Rxd8 Qxd8 33.b4 axb4 34.axb4 Be7 35.Qd3 Qc7 36.Nxe7+ Qxe7 37.c5 Nf4+ 38.Bxf4 exf4 39.f3 Qh4 40.Kg1 h5! 41.Qd2 Ne6 42.Qf2 Qf6 43.Ne1 Qc3 44.Nd3 Nd4 45.Kh1 hxg4 46.hxg4 f6! 47.Nxf4 Bf7 48.Kg2 Nc2! 49.Nh3 Ne3+ 50.Kh2 g5 51.Be2 Be6! 52.Qg3 Qxb4 53.Qd6 Kf7 54.Qc7+ Kg6 55.e5?! Qb2! 56.Ng1 Qxe5+ 57.Qxe5 fxe5 58.Kg3 Kf6 59.Kf2 Nd5 60.Bd1 Nf4 白投了

******************************

2016年06月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(194)

「Chess Life」1997年11月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?

 二重ポーンは評判が悪い。弱いというのがもっぱらのうわさだ。これにはかなりの真実がある。実際二重ポーンはポーン陣形の慢性的な弱点の表れである。ポーン構造がますます重要な役割を果たす段階に試合が進むにつれて、二重ポーンがあることはいよいよ重大な負債になる。これは二重ポーンの弱みが收局でさらに顕著になり、キングとポーンの收局では死の前兆となり得ることを意味している。

 しかし通常は布局の始めと收局との間にはかなりの隔たりがある。だから布局で相手がこちらのポーンを二重にする可能性について偏執狂になる必要はないし、相手陣に二重ポーンをこしらえる目的に躍起となる必要もない。正しい方針は次のとおりである。

 二重ポーンは代償がないなら受け入れるな。最も普通に得られる代償は中央の強化と展開の手得である。

 布局で一般に言えることだが白は黒よりも二重ポーンを受け入れる余裕がある。本稿では白が二重ポーンとなる 1.d4 布局を2局および 1.e4 布局を2局取り上げる。次回は黒の場合を取り上げる。

******************************

2016年06月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(195)

「Chess Life」1997年11月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

二ムゾインディアン防御(E20-59)
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

(A)ゼーミッシュ戦法
4.a3 Bxc3+ 5.bxc3(E24-29)

 ゼーミッシュ戦法は最も首尾一貫した作戦である。白は丸々1手損してのポーン陣形を黒に「破壊」させる。

 白の期待する代償は自分の中央が強化された(bポーンがcポーンになった)ことと、中盤戦の戦いに向けて自分の駒とポーンの最適な配置についてかなり自由が利くことである。

 それでも「ただで」1手損したことは軽々しく考えるべきでない。GMアナトリー・カルポフは1978年出版の名著『My Best Games』の自戦解説の中でこの問題を申し分なく論じていた。「閉鎖局面では1手損は大したことがないと言われてきた。もちろん開放局面ではもっと高くつく。しかしこのような局面でさえ手は損すべきでない」(82ページ)。GMたちも同じ考え方だし、アルトゥール・ユスーポフを別にしてゼーミッシュ戦法を信奉するGMはほとんどいない。

 しかしこの戦法は白が1手損をする「余裕」があることにより成立している。面白い実戦例はユスーポフ対カルポフ戦(ロンドン、1989年、番勝負第3局)である。5…c5 6.e3 O-O 7.Bd3 Nc6(E29 に転移)8.Ne2 b6 9.e4 Ne8 10.O-O Ba6 11.f4 f5 12.Ng3 g6 13.Be3 Nd6! 14.exf5 Nxc4 15.Bxc4 Bxc4 16.fxg6!? Bxf1 17.Qh5 Qe7 18.Rxf1

 たぶん白には交換損の代償があるが、それでもカルポフは61手で勝ちきった。『チェス新報』第48巻第713局にGMザイツェフの詳細な解説がある。

(B)ルビンステイン戦法
4.e3(E40-59)

 この戦法は1920年代に登場して以来ずっと「最新」である。白は二ムゾインディアン防御が退治できないことを認め、自分のキング翼を効果的に展開することに専心する。ここからは代表的な三通りの変化を分析する。

(1)4…Bxc3+ 5.bxc3(E40)
クリスチャンセン対アナスタシアン(エレバン・オリンピアード、1996年)

 ここでアナスタシアン(本対局時点でFIDE2550)は丸々1手損して白に二重ポーンを作らせた。黒はそんなことをしていることはできないはずである。クリスチャンセンは「擬似ゼーミッシュ」戦法では1手得がことのほか役に立つことを実証した。

 c3での「自発的」交換が白を利する理由にはポーン陣形もある。aポーンがa3にあればb3の地点は白ポーンによって守られていない。局面によっては、例えば黒がナイトをa5に進めたとすれば、このことは重要性を帯びることがある。

5…c5 6.Bd3 Nc6 7.Ne2 d6 8.O-O e5 9.e4 O-O 10.f3 b6 11.d5 Ne7 12.Ng3

 ゼーミッシュ型の局面で重要なことはキング翼ナイトをe2に展開することで、それによりg3から攻撃に参加できfポーンも行く手を遮ぎられない。白は陣地が広く黒に反撃策が欠けているので通常よりも布局の優勢の度合いが大きい。GMクリスチャンセンによれば黒の最善の受けは 12…Kh8 から 13…g6 と構えることだった。

12…Ng6?! 13.Nf5! Nf4

 13…Bxf5?! は良くなく、14.exf5 Ne7 15.g4 で白の先頭のfポーンが黒のキング翼を押さえつけ白のキング翼ビショップの筋が通る。これらすべてが来たるべきキング翼攻撃をはるかに危険なものにする。

14.Bc2 g6 15.Nh6+ Kg7 16.g3! Kxh6 17.gxf4 Kg7?! 18.fxe5 dxe5 19.f4!

 キング翼攻撃開始の用意ができ、黒は防御の踏ん張りが足りずあっけなく負けた。変化の詳細については『チェス新報』第67巻第622局のGMクリスチャンセンの解説を参照されたい。

19…exf4?! 20.Bxf4 Bh3?! 21.Bg5! Bxf1?! 22.e5! Nxd5 23.Bxd8 Bxc4 24.Bh4 Rae8 25.Qg4 b5 26.Re1 Bxa2 27.Qd7 Re6 28.Qxa7 Bc4 29.Qxc5 Nxc3 30.Bf5! Ra6 31.Bc8 黒投了

(2)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.Bd3 Bxc3+(E41)

 白がキング翼ナイトを早くf3に展開したので、黒はこれにつけ込んで白ナイトが場違いとなるようなゼーミッシュ型の局面を目指す。数多くの実戦によりこのような状況では黒は1手損しても構わないことが分かってきた。この戦型はドイツのGMロベルト・ヒューブナーが研究・開発したので彼の名前が付けられているのは当然である。主眼の本手順は次のとおりである。

7.bxc3 d6 8.e4 e5 9.d5 Ne7 10.Nh4 h6 11.f4 Ng6! 12.Nxg6 fxg6 13.fxe5 dxe5 14.Be3 b6 15.O-O O-O

(スパスキー対フィッシャー、レイキャビク、1972年、世界選手権戦第5局)この不均衡な局面はいい勝負である。それでもGMフィッシャーは27手で勝った。

16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5! 21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5! 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4! 27.Qc2? Bxa4! 白投了

(3)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.a3?!(E26)

 これまでの分析からこの時点での本譜の手は非常に不適切であることが明らかなはずである。6…Bxc3+ 7.bxc3 の局面は白が1手損のヒューブナー戦法か、白ナイトが場違いのゼーミッシュ戦法と考えることができる。強化された中央の代償は不十分なのでこのような状況で 6.a3 と突いてはいけない!

******************************

2016年06月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(196)

「Chess Life」1997年11月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

スラブ防御交換戦法(D13)
1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.cxd5 cxd5 5.Nc3 Nc6 6.Bf4 e6 7.e3 Bd6

 黒は 6…e6 で自らビショップを閉じ込めることにより比較的守勢の戦型を採用しているが、黒枡ビショップを効率的に交換することによりその埋め合わせになることを期待している。ここで白の本筋の手は 8.Bxd6、8.Bg3 そして 8.Bd3 の三つである。

(1)8.Bxd6

 この「反射的な」手は無害である。黒クイーンはd6に出てきて、そこからいつか …e5 と突いて仕掛けるのを支援することができ、その間に白は盤上のどの個所でも主導権を発揮する手段がない。典型的な例はパッハマン対ぺトロシアン戦(テルアビブ・オリンピアード、1964年)である。8…Qxd6 9.Bd3 O-O 10.O-O Bd7! 11.Rc1 Rac8 12.Qe2 e5(まず 12…a6 と突いてから 13…e5 と突く方が簡明である)13.Nb5 Qe7 14.Nxe5 Nxe5 15.dxe5 Qxe5 16.Nd4 g6 17.Rfd1 Bg4 黒の孤立ポーンは安泰で駒は好位置にいて完全に互角になっている。

 互角より上を目指すためには白は二重ポーンの危険を冒さなければならない。

(2)8.Bg3 O-O

 8…Bxg3?! は 9.hxg3 と取られるので劣る。こうなると白はh列での攻撃の可能性が開けてくる。だから黒は白がキング翼にキャッスリングしたのを見届けるまでこの交換を保留したい。

9.Bd3 b6! 10.Rc1 Bb7 11.O-O

 白に有効な展開の手が残っていないのに対し、黒はまだ有効な手の …Rc8 を指すことができる。

11…Bxg3! 12.hxg3 Qe7 13.Bb5 Rfc8! 14.Qa4 a6 15.Bxc6 Bxc6 16.Qb3 Qb7 17.Ne5 Rc7 18.Rc2

 局面は全くの互角で、ポルティッシュ対ウールマン戦(ハレ、1967年)では両対局者が引き分けに合意した。

(3)8.Bd3! ボトビニク対コトナウワー(モスクワ、1947年)

 これはGMボトビニクの素晴らしい戦略構想である。白は展開を続け、f4で駒を交換してみろと黒に挑んでいる。8…Bxf4 9.exf4 のあと白には孤立dポーンとかなり静的な二重fポーンが残される。白は気が狂ったのか?白の見込んでいる代償は何なのか?その答えはこうである。白は重要なe5の地点を完全に支配して …e5 の解放の考えを防ぎ、黒に残りのビショップを遊ばせることをずっと余儀なくさせる。白の代償が二重ポーンをはるかに上回ると認識したIMコトナウワーはビショップを取るのを12手目まで遅らせたが、何の好結果ももたらさなかった。

 ここで読者に注意しておきたいが、生じる局面のプラス面を活用するにはレイティング2000以上の棋力が必要である。さもないと弱そうに見える二重ポーンが本当に弱くなってしまう。

8…O-O 9.O-O b6 10.Rc1 Bb7 11.a3 Rc8 12.Qe2 Bxf4 13.exf4 Na5 14.Rc2 Nc4 15.Rfc1 a6 16.Nb1! b5 17.b3 Nd6 18.Rxc8 Bxc8 19.Ne5

 白は黒枡の支配を続け60手で勝った。

******************************

2016年07月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(197)

「Chess Life」1997年11月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

ピルツ防御オーストリア攻撃(B09)
1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Nf3 O-O 6.Bd3 Nc6

 この戦型はオーストリア攻撃(4.f4)に対する黒の最も堅実な手法である。黒にはもっと激しいやり方が二つもある。一つはすぐに 5…c5 と突く手で、本誌の1996年7月号で取り上げた。もう一つは 6…Na6 である。本譜の手はd4の地点に対する主眼の反撃をもくろんでいる。

7.O-O Bg4 8.e5 dxe5 9.dxe5 Nd5

 黒の小駒は十分に展開していて、白のcポーンを二重にする 10…Nxc3 とf3のナイトに圧力をかける 10…Nd4 を狙っている。定跡では白にはこれらの狙いを防ぐと共に布局の有利を保つ満足な手段はないことが明らかになっている。ありきたりの作戦は二つあるが(1)10.Bd2 Nd4! 11.Be4 c6! は動的に互角で、(2)10.Nxd5 Qxd5 11.h3 Be6 12.Qe2 Rfd8 13.Be4 Nd4! は引き分けになりそうでマークランド対ポルティッシュ戦(ヘースティングズ、1970-71年)で指された。

 白は自陣の広さの優位(e5のポーン!)を生かし黒の現在働いていないビショップにつけ込む手段を見つけなければならない。逆説的になるがこれは白に孤立二重ポーンを作らせることを黒に「強いる」ことを意味している。

10.h3! Nxc3 11.bxc3

 フェルナンデス対メドニス戦(バルセロナ、1980年)ではスペインのGMはここで引き分けを提案したが、それは私には渡りに船だった。さもないと黒の互角への道は容易でない。二重ポーンの代償として白はf3での釘付けをなくしd4の地点の支配を確実にした。さらには黒はビショップの好所がなく(11…Be6 なら 12.Be3! のあと 13.Nd4 が来るし、11…Bxf3?! なら 12.Qxf3 で白が双ビショップになるだけでなく陣地が広くなる)、あとで自身も二重ポーンを受け入れなくてはならない。

11…Bf5 12.Bxf5 gxf5 13.Qe2 Qd5 14.Rd1 Qc5+ 15.Qe3

 白は通常の布局の優勢のまま中盤戦か收局に行き着く。(1)15…Qa5 16.Bd2 Rad8 17.c4 Qa6 18.Qc3 e6?! 19.Be1(トラプル対バダース、トルナバ、1979年)(2)15…Qxe3+ 16.Bxe3 Rad8 17.Nd4! Nxd4 18.cxd4 e6 19.Rab1 b6 20.Rd3(マルヤノビッチ対フランコ、ブルニャチカ・バーニャ、1983年)

******************************

2016年07月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(198)

「Chess Life」1997年11月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

カロカン防御パノーフ攻撃(B13)
1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5 4.c4 Nf6 5.Nc3 Nc6

 これは次の 6…Bg4 と相まって非常に激しい戦型になる。黒は 5…e6 でd5を堅実に守る代わりに白のdポーンに目をつけた。

6.Nf3 Bg4 7.cxd5 Nxd5 8.Qb3!

 白はどんな優勢でも望むなら黒ビショップがクイーン翼から不在になっていることにつけ込まなくてはならない。ほかの手はすべて無害である。

8…Bxf3 9.gxf3

 白は積極的な展開を生かすために二重fポーンを受け入れた。クイーンがd5とb7に当たりになっていて、両方のビショップは既に斜筋が開けている。ここでも黒には中盤戦に行くか收局を急ぐかの選択肢がある。私としては黒が中盤戦に行くのは自信が持てない。9…Nb6 10.Be3 e6 11.O-O-O で白の主導権は非常に危険である。黒がキング翼にキャッスリングすれば素通しg列は攻撃にうってつけになる。

 だから黒は收局を目指すべきだと思う。その場合以下の手順が今ではほぼ必然だと考えられている。

9…e6 10.Qxb7 Nxd4 11.Bb5+ Nxb5 12.Qc6+! Ke7 13.Qxb5 Qd7! 14.Nxd5+ Qxd5! 15.Qxd5 exd5

 すごい不均衡な局面である。白には醜い二重fポーンがあるが、代償としてクイーン翼の多数派ポーンとルークの早い展開に期待している。黒は白の展開の優位を無効にし、孤立dポーンを保護し、白の弱いキング翼ポーンにつけ込むことに期待をかける。そして定跡の研究に優っている方が実戦では優勢になる。両者が最善の手を指せば動的に互角になる可能性が最も高い。しかし私の考えでは白の陣形の問題の方が重大なので完璧に指すのがもっと難しい。多くの強豪GMが白側をもって負けた。上図の局面でうまく指すには白はとりわけよく研究しておかなければならないことを強調してもしすぎることはない。

 白にはキングをクイーン翼、中央、それにキング翼のどこに置くかの選択肢がある。それらのどれもが大いに注目された。現在のところGMの大部分はキャッスリングしてキングがポーンの助けになれるようにするのを好んでいる。

 実戦例としてA.イワノフ対セイラワン戦(米国選手権戦、1992年)を取り上げる。GMイワノフは『チェス新報』第57巻第145局で詳しく解説している。重要な手についてだけ記号を付けておく。

16.O-O Ke6 17.Re1+ Kf5! 18.Be3 Be7 19.Rad1 Rhd8 20.Rd4 g5! 21.Red1 Ke6 22.Re1 Kf5 23.Red1 Ke6 24.Re1 Bc5!? 25.Bxg5+ Kf5 26.Bxd8 Bxd4 27.Rd1! Rxd8 28.Rxd4 Ke5 29.Ra4! d4 30.Kf1 Rd7 31.Ke2 Kf4 32.Kd3! Kxf3 33.Rxd4 Re7 34.Rd5 Kxf2 35.Rh5 f6 36.b4! Kg2? 37.a4 f5 38.Rxf5 Kxh2 39.a5 Kg3 40.a6! Kg4 41.Rf8! h5 42.Rb8 Re6 43.b5 Rd6+ 44.Ke4 Re6+ 45.Kd4 Rd6+ 46.Ke5 Rg6 47.b6 Kh3 48.bxa7 黒投了

******************************

2016年07月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(199)

「Chess Life」1997年12月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!

 前回(1997年11月号)では布局での二重ポーンに関連する問題について論じ、白に二重ポーンができる例を紹介した。今回は黒の二重ポーンを主題として取り上げて本稿を終わることにする。

 覚えておくべき主要な考え方は二重ポーンの代償を得なければならないということである。さもないと「ただで」弱点を抱え込むことになる。代償の最も普通の形は中央の強化と展開の手得である。いつものことながら黒はどんなに劣ったことを受け入れることにも強情でなければならない。なぜなら黒だからであり、いつも相手より1手遅れている時には早々と何かを達成するのは難しいからである。だから自分の代償についてあまりに楽観的になってはいけない。一般に期待できることは、二重ポーンがない場合よりもあることによってこれまでより悪い態勢にならないことだけである。

 次の実戦例を参考にどのような時に黒に代償があり、代償が不十分な時にはなぜなのかを説明する。

******************************

2016年07月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2

布局の探究(200)

「Chess Life」1997年12月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

シチリア防御リヒター=ラウゼル攻撃 (B60-B69)

 主流手順の出発局面に至る手順は次のとおりである。

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bg5 e6 7.Qd2

 ここから三通りの手順/変化を考える。最初の二つでは黒に代償がないが、三番目では代償がある。

(1)7…h6?! (B63)

 この黒枡ビショップに対するすぐの応手打診は1950年代後半にGMボトビニクによって推奨された。結果は芳しくなかった。最近の改良の試みでも駄目だった。そのわけはすぐに分かる。

8.Bf6 gxf6

 黒は二重ポーンを受け入れなければならない。8…Qxf6? と取るのは 9.Ndb5 Qd8 10.O-O-O でdポーンが落ちるので駄目である。しかし本譜は黒が丸々1手費やして二重ポーンを受け入れたという結果になっている。その上 7…h6 には二つの二次的欠点もある。黒のキング翼はポーンがh7でなくh6にあることにより弱体化している。それによりキング翼にキャッスリングするのは非常に考えづらく、…Bh6 による潜在的な戦術の可能性もなくなっている。これらすべてが黒にとっては重荷で、開放局面では耐えられない。典型的な手順は次のようである。

9.O-O-O a6 10.f4 Bd7 11.Kb1 Qb6 12.Nb3! O-O-O 13.Be2 Kb8

 代わりに 13…h5 はケレス対ボトビニク戦(モスクワ、1956年)で初めて指されたが改良になっていなかった。14.Rhf1 Na5 15.Rf3! Nxb3 16.axb3 Kb8 17.Na4 Qa7 18.f5! で白が断然良かった。

13.Bh5 Rh7 14.Rhf1 Bc8 15.Qe2

 白の優勢は明らかである。

 黒は縮こまっていて弱点の見返りが何もない。ここまでの手順はアルマーシ対ダムリャノビッチ戦(チャチャク、1996年)で、GMゾルターン・アルマーシは『チェス新報』第68巻第175局で本局を詳解している。

(2)7…a6 8.O-O-O h6 (B66)

 ここ数年の間この戦型は国際棋戦で盛んに指されるようになった。その理由は白のg5のビショップが下がらなければならないからである。9.Bxf6?! は 9…Qxf6 が安全で好形だし、9.Bh4 は 9…Nxe4! でポーンが犠牲になり疑問手とされる。初期の頃(40年くらい前)は 9.Bf4 が当然だと考えられていたが、今では次の手が当たり前になってきた。

9.Be3

 このビショップはここがきわめて安全である。

9…Ng4?!

 これは良さそうな手に見えるが、白には次のような戦術があった。

10.Nxc6! bxc6 11.Bc5! Qg5

 黒はこの手でやや不利な收局に入るのが最善である。11…Bb7 でも收局になるが 12.h3 dxc5 13.Qxd8+ Rxd8 14.Rxd8+ Kxd8 15.hxg4 で良くない(スミスロフ対ボトビニク、世界選手権戦、1957年)。黒は乱れたクイーン翼のポーンの代償がなかった。

12.Qxg5 hxg5 13.Be2! e5 14.h3 dxc5 15.Bxg4 c4 16.Na4! Bxg4 17.hxg4 Rxh1 18.Rxh1 Rb8

 黒はここでも二つの二重ポーンの代償がない。参考になるビートリンシュ対ブドフスキー戦(ソ連、1975年)で白は黒にクイーン翼の二重ポーンを解消させたが、そこに恒久的に分裂した弱いポーンが残る犠牲を払わせた。その試合は『チェス新報』第20巻第432局でGMアイバルス・ギプスリスが詳細に解説している。白は次のように勝った。19.c3! Rb5 20.Kc2 f6 21.f3 Be7 22.b4! cxb3+e.p. 23.axb3 Kf7 24.Nb2 Ra5 25.Na4 Rb5 26.Ra1! Rb8 27.Nb2 Rh8 28.Rxa6 Rh2 29.b4! Rxg2+ 30.Kb3 Ke8 31.Rxc6 Kd7 32.b5 Rf2 33.Nc3 Rxf3 34.Nb6+ Ke8 35.Nd5 Rf1 36.Re6 黒投了

(3)7…a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5 10.Bxf6 (B67)

 本譜の手は黒の攻撃的な戦型に対する白の対策として人気が出てきた。白はこれにより目的を二つも達成する。

 (1)白のeポーンに対する圧力がなくなった。そして(2)黒に二重ポーンができた。というのは 10…Qxf6?! は 11.e5! dxe5 12.Ndxb5! で白が明らかに優勢であることが分かっているからである。

10…gxf6

 これが 9…b5 戦型の最も普通の出発点である。白が通常の布局の優位を保っていないと考える理由は何もない。しかし黒の二重ポーンの代償は適切である。中央の地点に対する支配が増し、双ビショップは局面が開ければ潜在的な威力となり、黒枡ビショップはf8からe7、g7またはh6のいずれへでも行けるので最も融通性のある地点にいる。もちろん悪い知らせは黒の中央が本質的に不安定であるということで、ずっとe5および/またはf5突きを警戒しなければならない。状況はシチリア防御のほとんどとちょうど同じである。つまり危険も機会もある。ぴったりの例はウェイツキン対メドニス戦(リノ、1996年)である。私はその試合を『Inside Chess』誌1997年第3号4ページ(詳解)と『チェス新報』第68巻第190局で解説した。ここでは解説記号をいくつか付けるにとどめる。11.Kb1 Qb6 12.Nxc6 Bxc6 13.Bd3 b4! 14.Ne2 h5! 15.Rhf1 a5 16.c3! Rb8! 17.Nd4 Bd7 18.Bc4 Rc8 19.Qd3 bxc3 20.b3 a4 21.Qxc3 axb3 22.axb3 h4!? 23.f5! Bg7 24.Qd3 Ke7 25.fxe6 fxe6 26.e5!! Rxc4!! 27.exd6+ Kf7 28.Qxc4 Rc8! 29.Qd3 Ra8! 30.Rxf6+!? Bxf6 31.Qh7+ Kf8 32.Qxd7 Bxd4 33.Rf1+ Kg8 34.Qxe6+ Kh8 35.Qh6+ Kg8 36.Qg5+ Bg7 37.Qd5+ Kh7 38.Qe4+ Kh6! 39.Qxh4+ Kg6 40.Qe4+ Kh6 引き分け。白は千日手にするしかない。

******************************

2016年08月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探求2