ヒカルのチェス5の記事一覧

「ヒカルのチェス」(351)

「British Chess Magazine」2014年2月号(3/3)

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ロンドン・チェスクラシック 決勝戦(続き)

 決勝2番勝負の第1局を負けるのは確かに望ましい状況でない。しかしゲルファンドの立場からすると明るい面として少なくとも第2局では白番だった。彼はナカムラに難局に陥らせることができた。しかしナカムラは本領を発揮してしのぎ切り、ロンドン・クラシックのスーパー16で優勝した。

白 B.ゲルファンド
黒 H.ナカムラ

2013年ロンドン・チェスクラシック
キング翼インディアン防御アベルバッハ戦法 [E74]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Bg5 c5 7.d5 a6 8.a4 Qa5 9.Bd2 e6 10.Nf3 exd5 11.exd5

11…Bg4

 11…Qd8 も指されているが、次の試合のように信頼度が劣る。12.O-O Bf5 13.Nh4 Bc8 14.Nf3 Bf5 15.Nh4 Bc8 16.Qc1 Ng4 17.Bg5 f6 18.Bd2 Re8 19.h3 Ne5 20.f4 Nf7 21.f5 これは2008年ノボクズネツクでのY.ヤコビッチ対F.アモナトフ戦で、白がはっきり優勢だった。

12.O-O Nbd7 13.h3 Bxf3 14.Bxf3 Qc7 15.Qc2

 ここまではすべて順当のようである。白には双ビショップがあるが黒陣は非常に堅固で、ここではもう白がどのように攻撃していくのかは難しくなっている。

15…Ne8 16.Rae1 Be5 17.Bd1 Ng7

18.f4

 18.g4!? がここでのエミル・ストフスキーの推薦手だった。番勝負の状況を考えれば確かに面白そうな手である。例えば 18…Rae8(18…f5 は 19.Ne2[もちろん 19.f4!? Bd4+ 20.Kg2 と指すこともできる]19…f4 20.Nc3! となってこのナイトが好所のe4に行く)19.Kg2! b6 20.f4 Bd4 21.Ne2 Be3 22.Ng3 Bxd2 23.Qxd2 となればキング翼での白の攻撃が有望だが、23…Qd8! で黒の守りがまだしっかりしている。

18…Bd4+ 19.Kh2 f5

 ナカムラは白のキング翼攻撃が手がつけられなくなる前に歯止めをかけることにした。しかしこの手でe6の地点がかなり弱体化し、ゲルファンドはすぐにf3にナイトを回すことによりこの地点を奪おうとする。

20.Ne2! Bf6 21.Ng1 b5!

 座して死を待ちたくない黒はクイーン翼から打って出て白のd5の支配を弱める。

22.cxb5

 キング翼にまた注意を向ける前に、手をかけてクイーン翼を固める 22.b3! の方がたぶん良かった。それならd5のポーンが強力なままで黒の反撃の迫力がいくらか劣る。

22…axb5 23.axb5 Qb7 24.Be2

24…Ra2

 たぶん 24…Ne8! が最も正確な受けだった。25.Nf3 Nc7 26.Bc4 Nb6 27.b3 Ncxd5 で白が優勢とは言えないだろう。

25.Bc3 Bxc3 26.Qxc3 Nb6 27.Nf3 Ra4

28.Ng5?!

 非常に攻めっ気の強い手だが、ナカムラは見事な読みで非常に正確に守る。

 28.Nd2! がたぶん一番可能性があった。実際黒はここでポーンの代償を示すのが難しい。例えば 28…Re8(28…Ne8 29.Nc4 Nxc4[29…Nxd5 は 30.Qc2 Rb4 31.Na5 Qb6 32.Nc6 で白が明らかに優勢である]30.b3! Ra3 31.Bxc4 Nf6 32.Re6 は白がポーン得で勝つ可能性が非常に高い)29.b3 Ra2 30.Bc4 Qf7 31.Ra1 Rxa1 32.Rxa1 となれば黒の反撃がまだ本物になっていない。

28…h6! 29.Ne6 Nxd5 30.Bf3

 30.Qg3 は 30…Nxe6 31.Qxg6+ Ng7 32.Qxd6 Rf6 となって白は 33.Qd8+ Rf8 34.Qd6 Rf6 で引き分けにするよりない。

30…Nxc3 31.Bxb7 Rb8 32.Bc6 Nxb5

33.Nc7?!

 この手のあとゲルファンドは実際にあったかもしれない勝つ可能性を失った。33.Bd5! が勝負手だが、このビショップはc6に動かした直後だけに心理的に非常に指しにくかった。それでも黒は引き分けにできるはずだが、33…Nxe6 34.Rxe6 Kg7 35.Re7+ Kh8 36.Rfe1 となれば白は少なくとも攻撃する立場で、ルークを7段目に重ねることができれば勝つはずである。もちろん黒はそれを 36…Ra7! で防ぐことができるが、37.Rxa7 Nxa7 38.Re6 でそれでもまだ白の指しやすい收局で黒は引き分けるために正確に指し続けなければならない。

33…Nxc7 34.Bxa4 Rxb2 35.Rf3 Rb4 36.Bd7 Kf7

 黒の連結パスポーンは今や交換損の代償を十分超えていて、この段階では黒の指し方は「勝ちにいく」のが普通である。もちろん番勝負の状況のためにナカムラの一番の焦点はそれでも負けを避けることにあり、いともやすやすとやってのけた。

37.g3 Kf6 38.Ra3 Rb6 39.h4 d5 40.Ra7 Nge6 41.Rea1 c4! 42.Bxe6 Nxe6 43.Rd7 Rb2+ 44.Kg1 c3

45.Re1

 45.Raa7 で詰みを狙えるが黒は 45…g5 で簡単に逃れる。

45…Rb6 46.Rxd5 c2 47.Rde5 Nd4 48.Rc5

 48.Kf2 は 48…Nb3 で白がc2ポーンのためにルークを1個まるごと失うので黒の勝ちになる。

48…Nf3+ 49.Kf2 Nxe1 50.Kxe1 Rb3

 明らかにここでは黒は負けようがない。

51.Rc6+ Kf7 52.Kf2 Rb2 53.Ke3 h5 54.Kd4 Rb3 55.Rxc2 Rxg3 56.Rc7+ Kf6 57.Rc6+ Ke7 58.Ra6 Rg1 59.Ra7+ Ke6 60.Ra6+ Ke7 61.Ra7+ Ke6 62.Ra6+ ½-½

 黒はここでは勝とうとする必要さえない。そしていずれにしても白はこの收局を引き分けにしている。ゲルファンドも頑張ったが最終的にはナカムラが強すぎた。

 大会をとおして目だったことは、ナカムラが明らかに変な疑問手を出しながら、大体において相手より早く指しているにもかかわらず決してポカを出さなかったことである。これは明らかに快速戦で非常に有利な技術で、彼がこの大会で手に負えない存在だった理由もここにある。

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(この号終わり)

2014年03月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(352)

「Chess Life」2014年3月号(1/1)

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世界チーム選手権戦

GMヒカル・ナカムラ(2786、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(2793、ロシア)
世界チーム選手権戦、アンタルヤ、2013年

 黒の手番

38…Nxb5 39.axb5 a4 40.Nc5 a3 41.Nb3 a2 42.Ke3 Kf7 43.Kd4 Ke7 44.e4 e5+ 45.fxe5 Ke6 46.Na1 fxe5+ 47.Kc3 g5 48.Kb2 gxh4 49.gxh4 Kd6 50.Nb3 黒投了

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(この号終わり)

2014年04月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(353)

「Chess」2014年3月号(1/3)

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ベイクアーンゼー

P.ハリクリシュナ対H.ナカムラ
第8回戦

29.Bh6! Qc5??

 29…Ra8 が絶対だった。

30.Nh5! Bg7 31.Bxg7 Qxa7 32.Qh6 f5 22.Ng5 1-0

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(この号続く)

2014年04月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(354)

「Chess」2014年3月号(2/3)

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チューリッヒ

V.アーナンド対H.ナカムラ
第2回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6

6.h3

 これは無害な手に見えるが理屈がないわけではない。以前にアーナンドは2013年チェンナイでのアーナンド対カールセン番勝負第7局で 6.Nbd2 Bg4 7.h3 Bh5 8.Nf1 Nd7! 9.Ng3 Bxf3 10.Qxf3 g6 11.Be3 Qe7 12.O-O-O O-O-O で黒の防御が楽だったことを知っていた。

6…Be6 7.Nc3 Qd6 8.O-O O-O-O!?

 これは新手で、米国ナンバーワンの妥協しない棋風の表れである。黒は黒枡ビショップの退避地点を用意することを拒否し、両者がポーン暴風を仕掛けることを喜んでいる。

9.a3 Nh5 10.Na4 Bb6 11.Nxb6+ axb6 12.a4! f6 13.Be3 Nf4

 黒はようやくgポーンを突く用意ができたが、白の攻撃の方が速い。

14.a5 b5

15.d4?

 世界選手権戦で見られたように現在のアーナンドは勝負所でためらうことが多い。一般的には中央で開戦することに悪いことは何もない。しかしまず 15.a6! b6 を決めておくべきで、そのあと 16.Bxf4! exf4 17.Re1 から e4-e5 が、ペーテル・レーコーを始めとする解説者たちによって指摘された正しい手順だった。

15…Nxh3+! 16.gxh3 Bxh3

 gポーンを突いていくのは遅すぎることに気づいてナカムラは駒を使って黒キングの囲いを食い破った。ここで …Qe6-g4(+) もそうだが …Bg4 から …f5 も確実な狙いである。アーナンドは戦力を返さなければならないと悟った。

17.dxe5 Qe6 18.Nd2 Bxf1 19.Qxf1 Qxe5 20.c3 Kb8 21.a6 b6

 チェスエンジンは局面の均衡がとれていると感じているようだが、実際には黒の方が攻撃という明らかな作戦を持っているので指しやすいのは確かである。

22.Qg2 Rd6 23.Nf1?!

 この手はあまりに素直で受け一方のような気がする。23.Nb3 f5 24.exf5 Qxf5 25.Nd4 ならもっとうまくナイトを使えていただろう。

23…f5 24.exf5 Qxf5 25.Ng3 Qd7 26.Qe4 Ka7 27.Kg2 h5!

 攻撃の第2波がやって来た。さすがにここまでにはチェスエンジンも白がおかしいと認識した。

28.Qf5 Qe8 29.Qe4 Qf7 30.Kh1 h4

31.Ne2?

 この手のあと白クイーンはたちまち対角斜筋を追われることになる。だから 31.Nf5 Re6 32.Qd3 と指さなければいけなかった。32…Rf6 なら 33.Nd4 Qd5+ 34.Kh2 Rhf8 35.Rg1 で当面はともかく受かっている。

31…Re8 32.Qg4 Rg6! 33.Qh3 Qd5+ 34.Kh2 Rxe3!

 ちょっとした手筋で戦力を取り戻す。

35.fxe3 Qd2 36.Qf1 Rf6 0-1

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(この号続く)

2014年04月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(355)

「Chess」2014年3月号(3/3)

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チューリッヒ


カールセン対ナカムラ戦は大激闘で、世界チャンピオンが少なからず手の見えることを見せつけた

H.ナカムラ対M.カールセン
第3回戦、二ムゾインディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.f3

 心理的に面白い瞬間である。ナカムラは対戦成績にもかかわらずカールセンを恐れていないことを示そうとしているだけでなく、カールセンにチェンナイで用いた野心的な戦型をやって来いと誘っている。

4…d5 5.a3

5…Be7

 カールセンは2013年チェンナイでのアーナンドとの番勝負第9局の 5…Bxc3+ 6.bxc3 c5 7.cxd5 exd5 8.e3 c4 9.Ne2 Nc6 10.g4 O-O 11.Bg2 Na5 12.O-O Nb3 13.Ra2 b5 14.Ng3 よりも堅固な局面に不満がない。

6.e4 dxe4 7.fxe4 e5 8.d5 Bc5

9.Bg5

 白は 9.Nf3 で 9…Ng4 10.Na4 のたたき合いを誘うことが多い。しかしナカムラはまず釘付けにする方を好んだ。

9…O-O 10.Nf3 Bg4 11.h3 Bxf3 12.Qxf3 Nbd7 13.O-O-O Bd4

 ここまでは黒の手がすべて調和がとれて本手のように感じられる。しかし白の攻撃の方が黒がクイーン翼でやれることよりも速いので、黒は望みどおりの成果をあげられない。

14.Ne2 c5 15.g4!

 15.dxc6e.p. bxc6 16.Nxd4 exd4 17.Rxd4 Qb6 で黒駒に好所を占めさせるよりもどんどんやっていった。

15…a5?!

 カールセンはキング翼の来るべき嵐の強力さを過小評価していたとあとで認めた。本誌編集長が『デイリー・テレグラフ』紙のチェス欄で指摘したように、少なくとも 15…a6!? 16.Kb1 b5 で黒が反撃の形になっていた。

16.Kb1 Ra6 17.Ng3 g6

 この手は陣形を弱めるが、カールセンは 17…Rb6 では明らかに白が 18.Rh2 Qc7 19.Nf5 でカスパロフ好みの攻撃地点にナイトを据えてくると読んでいた。

18.h4 a4 19.Rh2

 黒がb2を攻撃しないように先に軽く受けた。それに白枡ビショップはf1より良い地点が明らかにないので展開する必要がないことにも注意して欲しい。

19…Qa5 20.Bd2 Qc7 21.g5 Ne8 22.h5

 このポーン突きに手が回っては、さすがの世界チャンピオンでも切り抜けられないか?

22…Rb6 23.Bc1 Rb3 24.Qg4 Nb6 25.Be2 Nd6

26.Rdh1

 攻撃態勢の強化を続けているが、26.hxg6 fxg6 27.Rdh1 の方が 27…Rf7(27…Bxb2 28.Bxb2 Nbxc4 29.Bxc4 Nxc4 は単純な 30.Qe6+ Kh8 31.Qxg6 で咎められる)だと 28.Qe6 Kf8 29.Nf5!(29…gxf5 なら 30.g6)で白の攻撃が強力すぎるのではるかに強い手だった。

26…Bxb2!

 手の見えるのがカールセンの身上で、形勢を紛れさせる唯一の機会をとらえた。

27.Bxb2 Nbxc4 28.Bxc4 Nxc4 29.hxg6 Qb6

30.g7

 これはひどい手というわけではないが、ナカムラはもう勝ったと思っていたのかもしれない。しかし 30.gxf7+ Rxf7 31.Nh5! で即勝ちだっただろう。31…Rxb2+ なら 32.Ka1 Rxh2 33.Nf6+ である。

30…Rd8 31.Qh4 Rxb2+ 32.Ka1 Rxh2 33.Rxh2 Qg6 34.Nf5 Re8

 黒は今のところ何とか守ることができている。しかしこのようなキング翼は長いこと持たないのは確かだろう。

35.Qg4 Qb6 36.Qh3 Qg6

37.d6?

 これで優勢のほとんどを投げ出してしまった。いくつかのコンピュータはここらあたりで「+8」とさえ宣言していたし、37.Qf1 を推薦して 37…b5 38.Rxh7! Qxh7 39.Nh6+ Qxh6 40.gxf6 という巧妙な着想を示していた。そのような評価が意味するところはまったく定かでないが、人間の目に明らかな手で白が勝勢のはずであることは確かである。実際 37.Nh6+! Kxg7 38.Qd7(ペイン説)が大いに理が通っていて、38…Rf8 なら(または 38…Nd6 39.Qxd6! Qxd6 40.Nf5+)39.Nf5+ Kh8 40.Qe7 Rg8 41.Nh6 で一直線に戦力得の局面になる。

37…Nxd6 38.Nxd6 Rd8

 これがナカムラの見落としていた手で、時間切迫のため形勢が急激に悪化していった。

39.Nc4?

 39.Nc8 Kxg7 40.Ne7 Rd1+ 41.Ka2 ならまだ白の方が良かったが、本譜の手のあとは黒がもう問題ない。カールセンは受けの達人だけれども、時には悪魔のような力を持っているようだ。

39…Qxe4

40.Qh5?

 40.Ne3! Qd3(40…Rd3? は 41.Qc8+ Kxg7 42.Nf5+ Kg6 43.Qg8+ Kxf5 44.Qxh7+ Kf4 45.Rh4+ となるので良くない)41.Nf5 Qxh3 42.Rxh3 のあと何が起こるか分からないが、たぶん引き分けだろう。しかし本譜の手のあとそれが白の手からするりと逃げていった。

40…Rd3 41.Rh4

 白は何とかナイトを救うことができたが、キングはどうしようもなく露出していて、黒キングは今ではかなり安全である。

41…Qf5 42.Qe2 b5 43.Nd2 Qxg5!

 単純化により勝ちの收局にした。5ポーンは1駒にとって多すぎる。

44.Qxd3 Qxh4 45.Ne4 Kxg7 46.Qf3 Qf4 47.Qg2+ Kf8 48.Kb2 h5 49.Nd2 h4 50.Kc2 b4 51.axb4 cxb4 52.Qa8+ Kg7 53.Qxa4 h3 54.Qb3 h2 55.Qd5 e4 56.Qh5 e3 57.Nf3 e2 58.Kb3 f6 59.Ne1 Qg3+ 60.Ka4 Qg1 61.Qxe2 Qa7+ 0-1

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(この号終わり)

2014年04月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(356)

「Chess」2014年6月号(1/2)

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ガシモフ追悼記念大会

解説 マルコム・ペイン

M.カールセン対H.ナカムラ
第2回戦、スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bf5 5.Nc3 a6 6.Be2 h6 7.Bd3 Bxd3 8.Qxd3 e6 9.O-O Bb4 10.Bd2 O-O 11.Rfd1 Bxc3 12.Bxc3 Nbd7 13.b3 Qe7 14.Rac1 Rac8 15.Qe2 Ne4 16.Bb2 Rfd8 17.Ne1 Nd6 18.Ba3 f5 19.Nd3 Nf6 20.Bb4 Qc7 21.Qf3

21…dxc4

 たぶん 21…Nf7 22.cxd5 Nxd5 の方が良かった。途中 22.Qf4 なら 22…Qxf4 23.Nxf4 Re8 24.a4 g5 となる。

22.bxc4 Nf7 23.a4 a5 24.Be1! b6 25.Qg3 Qxg3 26.hxg3 Ra8 27.f3 Rdb8 28.Rc2

28…b5

 代わりに 28…Nd7 なら 29.Kf2 e5 30.c5 e4(30…b5 なら 31.axb5 Rxb5 32.Ra1 exd4 33.exd4 Nd8 34.Re2 Kf7 35.Nb2!)31.Nf4 bxc5 32.Ne6! で白が優勢である。

29.Nc5 bxc4

 これで黒はa5、c6そしてe6の弱いポーンを守らなければならない。

30.Rxc4 Nd5 31.Bd2 e5 32.e4 fxe4 33.Nxe4

33…Nb6

 黒は白ルークの行き先を過小評価していた。33…Rb6 と我慢した方が良かったかもしれない。

34.Rxc6 Nd8 35.Rg6!

35…Nc4

 カールセンは 35…exd4 には 36.Bf4! Rb7(36…Kh7! 37.Rd6 Nf7 なら戦いが続く)37.Nc5 を予定していた。

36.dxe5 Kh7 37.Rg4 Nxe5 38.Rh4 Ndf7 39.Bc3 Rb3 40.Rd5 Re8 41.Rf4 Re7 42.Bxa5 Ng6 43.Rff5 Nfe5 44.Rd1 Nc4 45.Rc1 Nxa5 46.Rxa5 Ra3 47.Rcc5 Ra2 48.Kh2 Rd7 49.Ra6 Ne7 50.g4 Rb7 51.Rb5 Rc7 52.Nc5 Rc6 53.Rxc6 Nxc6 54.Rb7 Nd4 55.Kh3 Kg8 56.Rb4 Ne2 57.g5 Ng1+ 58.Kg3 Ne2+ 59.Kg4 hxg5 60.Kxg5 Ng1 61.Rg4 1-0

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(357)

「Chess」2014年6月号(2/2)

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ガシモフ追悼記念大会(続き)

解説 マルコム・ペイン

H.ナカムラ対M.カールセン
第7回戦

26.Nxd3?!

 白は 26.Nxh5! Nxh5 27.Nxd3 cxd3 28.a5 Rb8 29.Bxh5 と指せば優勢だった。

26…Nxd3 27.Qe3 Rb7 28.Nxh5 Qh6 29.Qxh6 gxh6 30.axb5 axb5 31.Bc2!?

31…Ne5

 31…Nxb2 は 32.Rf3 で白にキング翼で動かれる。

32.Ra6 Rd8 33.Ng3 Rb8 34.Ra7 b4 35.Ne2 Bd7

 黒はポーン損だが、動けて危険な多数派ポーンがクイーン翼にある。ここでナカムラは守られていないナイトに対する狙いを見落としていた。

36.Rfa1?

 36.Kg1 b3 37.Bb1 Ra8 38.Rxa8 Rxa8 39.h3 Kg7 40.Kf2 ならまだ戦える。しかし途中 36…Bb5! と指されるとカールセンのポーンが多くの狙いを生じさせるので局面は信じられないくらい複雑である。例えば 37.Nd4 b3 38.Bb1 c3(38…Rdc8!?)39.Nxb5 c2 40.Nc3 Nd3 なら実戦的に黒が良さそうである。もっとも白は1手前で 40.Na3 Rdc8 41.Rc1 Nd3 42.Bxc2 で難を逃れることができる。

36…Bb5! 37.h3 Rdc8

 …b4-b3 と …c4-c3 の狙いは非常に強力である。ナカムラは最下段での釘付けを避けたが、それでもしのげない。

38.Kh2 c3 39.Nd4 cxb2 40.Rb1 Rc4! 41.Nxb5 Rxc2

42.Nd4

 42.Nxd6 なら 42…Rf8!(42…Nd3 43.Nxf7 Rc1 44.Nxh6+ は白のポーンが危険なので煩わしい)43.Kg3 Nd3 44.Rb7 Rc1 で黒が勝つ。

42…Rd2

 42…b3 43.Ra3 Nc4 44.Rxb3 Rxb3 45.Nxb3 Na3 でも黒の勝ちになる。

43.Nc6 Re8

44.Ra4

 44.Nxe5 も 44…Rxe5 45.Ra2 Rxe4 46.Raxb2 Rxb2 47.Rxb2 Kg7 48.g4 Rd4! 49.Kg3 Rd3+ 50.Kh4 b3 で助からない。

44…Nd3 45.Nxb4 Nf2 46.Ra2 Nd1! 47.Rxd1 Rxd1 48.Rxb2 Rxe4 49.Nc6 Kg7 50.f6+ Kxf6 51.Rf2+ Kg6 52.Nd8 Re8 1-0


ヒカル・ナカムラのスポンサーは増え続けていて、一番最近はレッド・ブルである

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(358)

「British Chess Magazine」2014年6月号(1/1)

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棋譜のデパート

解説 IMアンドルー・マーティン

 ガシモフ追悼記念大会は才能がありながら1月にたった27歳で亡くなったブガル・ガシモフを偲ぶのにふさわしいものだった。この試合は「A」グループの圧巻だった。

□H.ナカムラ
■S.マメジャロフ

ガシモフ追悼記念「A」、シャムキル、2014年
カロカン防御突き越し戦法 [B12]

1.e4

 前の回戦でナカムラはカールセンにいいところなく負けていた。だから本局にはまなじりを決して盤に向かったと思われる。

1…c6 2.d4 d5 3.e5

 白の攻勢の舞台が整った。

3…Bf5 4.Nf3 e6 5.Be2

 ショート戦法。白は争点を維持し中央が少し広いことが好機に結びつくことを期待している。

5…c5 6.Be3 Qb6 7.Nc3!?

 このような独創的な構想が突き越し戦法を新鮮なものにしている。過去20年に 3.e5 のあとどれだけ多くの進歩があったかを考えるとすごいものがある。

7…Nc6

 黒はbポーンを取りたい誘惑をこらえた。7…Qxb2 8.Qb1! Qxb1+(8…Qxc3+? 9.Bd2 +-)9.Rxb1 c4 10.Rxb7 +/- Bxc2(10…Nc6 11.Kd2 Bb4 12.Rb1 Ba5 13.Nh4 +/-)11.Nb5 Na6 12.Nd6+ +/-

8.dxc5

 この手はそれほど一般的でないが、面白いことは確かである。主流手順は 8.O-O である。

8…Bxc5 9.Bxc5 Qxc5 10.Nb5 Kf8 11.Nbd4

 ここではほとんどの人が白を持ちたいと思う。しかし黒陣が防御可能であることは確かである。白は圧力を早くかけたがそのあと控え駒を動員するのに問題があるので、f8の黒キングの不便は些細なことである。それでもd4のナイトは好形で、黒はこれと戦わなければならない。

11…Nge7 12.O-O Be4 13.Re1

13…Qb4!?

 ほかの2局では黒が別の手を指し、堅固な陣形になるようだった。2009年マルトゥーニでのS.ジガルコ対F.ベルケス戦は 13…h6 14.c3 Qb6 15.b3 Rd8(2010年タシケントでのS.ジガルコ対M.トゥロフ戦でも 15…Rc8 16.Nxc6 Nxc6 17.Bd3 Bxf3 18.Qxf3 Qc7 19.Qg3 で引き分けだった)16.Bd3 Bxd3 17.Qxd3 と進んで引き分けになった。

14.a3 Qxb2!?

 マメジャロフは引き下がらなかった。これは観戦者にとっては大歓迎だが、黒には簡明で堅実な手順があり、そのあと白にはあまり得るものがない。14…Qb6 15.Qd2 h6 16.c3 Nxd4 17.Nxd4 Nc6 =

15.Rb1 Qxa3 16.Rxb7 Bxf3 17.Nxf3

17…h6

 黒はもっと簡明な 17…Rb8! をまた拒絶した。この手は白の働いているルークを交換でなくす好手である。18.Rxb8+(18.Rc7 Qc5 は白に勧められない)18…Nxb8 19.Qd2 Qb2! 20.Qf4 Nbc6 21.c4 Qb4 22.Rc1 h6

ナカムラはこの局面で白が指せることを証明しなければならない。私には黒の方が良さそうに思える。

18.Qd2 g5?

 黒はわざわざ対決しようとしている。しかしこれはキング翼を弱めるだけで、白の注文にはまる。18…Rb8 19.Rxb8+ Nxb8 20.Rb1 Nbc6 で白にやれるものならやってみろと問う方が良かった。白がどうするのかは分からないが、h8のルークが日の目を見るまではずっと「形勢不明」のままに違いない。

19.h4! g4 20.Nd4 Qa5 21.c3 Nxd4 22.Qxd4 Nf5 23.Qd2 d4 24.Bxg4 Qxc3 25.Qe2!

 黒はルークが共に働いていないのでポーン得にものを言わせることができない。キング翼を開放したのが誤判断だった。

25…Nxh4?

 黒駒はあちこちに散らばっていてほとんど協調していない。25…Ne7 の方がねばり強いが 26.Reb1、26.Qe4 それに 26.Bh5 のどれでも白が圧倒的に良い。たぶんこの中で 26.Bh5 が一番良いだろう。26.Bh5 Rd8(26…Rc8 27.Qe4 Qc6 28.Qf4 Rh7 29.Reb1 a5 30.Bf3 Qc4 31.Rd7 Ng6 32.Qf6 +-; 26…Rg8 27.Reb1 Re8 28.Rxa7 +/-)27.Qe4 Rg8 28.Reb1 Rg7 29.Rb8 Rc8 30.Rxc8+ Qxc8 31.Qxd4 Kg8 32.Qxa7 黒陣はまったくまとまりがないので、これらのどの変化でも白は攻撃を急ぐ必要はない。

26.Bh5 Rh7 27.Qe4 +- Rc8 28.Qxh7 Qxe1+ 29.Kh2 Qxe5+ 30.g3!

 f7に対する集中攻撃に黒が耐えられない。

30…Rc7

 30…Nf3+ は 31.Kg2!(31.Bxf3 +-)31…Ne1+ 32.Kf1 Rc7 33.Rb8+ Ke7 34.Qxf7+ Kd6 35.Qf8+ Kc6 36.Be8+ Rd7 37.Bxd7+ Kxd7 38.Qc8+ Kd6 39.Qa6+ Kd7 40.Rb7+ できれいに決まる。

31.Rb8+ Ke7 32.Qxf7+ Kd6 33.Qf8+

 33.Qf8+ Kd5 34.Rb5+ で終わりである。マメジャロフはこれといって駒の連係の良くもない局面から攻撃に行って、代価を払わされた。

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(この号終わり)

2014年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(359)

「Chess」2014年8月号(1/1)

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海外ニュース

チェコ共和国

 先月号で少し報じたように、ヒカル・ナカムラはプラハで(6月7日-10日)ダビド・ナバラを 3½ – ½ で破って2014年チェズ・チェス杯の勝者となった。両者のよく知られた戦闘精神から期待できるように、4局はどれも激闘だった。ナカムラは2回の黒番でいずれもキング翼インディアン防御を用いて、2回目では幸運に恵まれて負けを免れた。一方ナバラは黒番で準スラブ防御を用いた。たぶん番勝負の分かれ目は第2局目だった。

□H.ナカムラ
■D.ナバラ

4番勝負第2局、プラハ、2014年
準スラブ防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c6 5.e3 Nbd7 6.Bd3 dxc4 7.Bxc4 b5 8.Bd3 Bd6 9.O-O O-O 10.Qc2 Bb7 11.a3 Rc8

12.Rd1

 これは現在流行しているこのメラン陣形の最新型である。本誌に以前掲載されたように2012年ロンドンでのトパロフ対カシムジャーノフ戦での 12.b4 c5! 13.bxc5 Bxf3 14.gxf3 Nxc5! 15.dxc5 Rxc5 が研究手順の成果で、捨て駒の代償が十分にあった。2013年ベイクアーンゼーでのアロニアン対アーナンド戦も負けず劣らずで、12.Ng5 c5! 13.Nxh7 Ng4! 14.f4 cxd4 15.exd4 Bc5!! で白が完敗した。

12…c5 13.Bxb5 Bxf3 14.gxf3 cxd4 15.Rxd4

 ここで形勢を眺めると白はキング翼を少し乱された代わりに戦力を得している(もちろんたった1ポーン得であるが)。しかしルークがよく働いていて、キング翼への攻撃を撃退するのに役立つかもしれない。

15…Be5

 ルークを押し戻すのは大いに納得できる。もっとも2011年バリェボでのゲオルギエフ対プレドイェビッチ戦は 15…Nd5 16.f4 N7f6 17.Qd1(17.Rc4!? の方が良いかもしれない)17…Bc5 18.Rd3 と進んだところで合意の引き分けになった。

16.Rd1 Rc5 17.Qe2 Qb8

 この手は非常に魅力的だが、17…Qc7!? の方が正確だったかもしれない。同じく 18.f4 と突いてくれば 18…Bxc3 19.bxc3 Nd5 20.Bb2 N7b6 となって、好所のナイトのおかげでポーンの代償がある程度ある。

18.f4! Bxc3 19.Bxd7 Nxd7 20.Rxd7 Bf6 21.b4!

 これがナカムラからの2回目の強力なポーン突きだった。黒は対処に大わらわである。

21…Bxa1 22.bxc5 Qc8 23.Qb5?!

 しかしこの手はナバラにポーンを取り返させ、ほとんど互角になる。代わりに 23.Rd1! が巧妙なルーク引きだった。この手に対して 23…Qxc5?! なら 24.Bd2 Qxa3 25.Qe1! Bf6 26.Bb4 で交換得になる。

23…a6 24.Qd3 Qxc5 25.Bd2 a5

26.h3

 ナカムラは急ぐことなく、d列を支配して満足である。おまけにこの手には具体的な効果があり、g4の地点を黒クイーンから奪っている。この手がなければ 26.Rb7 Bf6(または単に 26…Qh5)27.Rb5 Qc6 28.Bxa5 Qf3 で問題になるところである。

26…g6

 ナバラの希望はキングの囲いをくつろげることである。しかし 26…Bf6!? の方が良かったかもしれない。この手はd8の地点に利かし、例えば 27.Rb7 Qc6 28.Qb5 Qf3 29.Bxa5 Bh4 30.Be1 Qxh3 によって反撃が十分可能なのでほぼ均衡を保っている。

27.Rb7!

 急にaポーンが標的と化した。

27…Bf6!

 27…Qh5 は 28.Kg2 のあと適当な後続手段がないので残念ながらこれが最善の受けである。

28.Rb5 Qc6 29.Bxa5 Qf3 30.Qf1

 白はポーン得になったが、黒が暴れまわりそうなだけに明らかに勝つまではまだまだ大変である。

30…Rc8 31.Rb1 Kg7 32.Bb4 Rc2 33.Qg2 Qe2 34.Qf1

34…Qh5?

 対戦成績を五分にしたいというナバラの希望はよく分かるが、自分の陣形に照らして分不相応だった。さらには 34…Qf3 のあと白がどう指したら良いのか私には分からなかった。例えば 35.Qg2 Qe2 36.a4 なら 36…Bh4 37.Rf1 Rc4 でポーンを取り返すことができる。

35.Qd3! Rc8

 黒にとっては無念なことに 35…Ra2 には 36.Qc4 があるので、ルークを引くかさもなければe2でクイーン同士を交換しなければならなかった。

36.Kg2 Rd8 37.Qe4 Qe2 38.Rc1

 ルークは好機に7段目に飛び込む構えである。明らかに黒は自分のキングを守りながらaポーンを止めるのに苦しい戦いを強いられる。

38…h6

 この手は自分のルークを働かせた場合に Rc8 から Bf8+ が問題にならないようにした。しかしたぶん 38…Qa6 とクイーンを引いておいた方が良かっただろう。そして 39.a4 なら 39…Rb8 40.a5 h6 でなんとかaポーンをせき止めることが期待できる。

39.a4

39…Qd3?

 このあとaポーンは手がつけられなくなる。39…Qa6 も 40.Qc6 で黒がまずい。しかし規定手数にまだ達していないので 39…Rd3!? はやってみても良かったかもしれない。それなら白はクイーンとルークのどちらを突っ込ませるかを慎重に判断しなければならない。または 40.Rc7 Rd1 41.Qc4 Qxc4 42.Rxc4 Ra1 で黒ルークに絶好の位置を占めさせることになる。

40.Qxd3 Rxd3 41.a5 Rb3 42.Rc4 Rb2

 ルークが何としてもポーンの背後に回ろうとしているが、1手遅い。

43.Ba3

43…Ra2

 これはちょっとした戦術で負けになる。しかし 43…Rb8 でも 44.Ra4 Ra8 45.a6 のあと a7 から Bc5 で同じく見込みがない。

44.Ra4 Be7 45.a6! Bxa3 46.a7 1-0

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(この号終わり)

2014年08月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(360)

「British Chess Magazine」2014年8月号(1/1)

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世界ブリッツ選手権戦

IMトム・レンドル

 FIDE世界ブリッツ選手権戦は6月19日から20日にかけてドバイで開催された。世界快速選手権戦に勝利したばかりのマグヌス・カールセンは通常、快速そしてブリッツの三通りの時間制のすべてで世界チャンピオンになるつもりだった。しかし数多くの一流選手がいてはそれは生易しいことではない。事実カールセンはブリッツでは第1シードではなかった。その地位を占めていたのは早指しで名高いヒカル・ナカムラだった。ナカムラは優勝を目指して戦うと言明していた。しかし初日にベトナムの最強選手のGMレ・クワン・リェムに苦杯を喫した。

□レ・クワン・リェム
■H・ナカムラ

FIDE世界ブリッツ、2014年
シュミット・ベノニ A43

1.d4 Nf6 2.Bg5 c5 3.d5 d6 4.Nc3 g6 5.e4 Bg7 6.Bb5+ Nfd7 7.a4 O-O 8.Nf3 Na6 9.O-O Nc7 10.Re1 Nxb5 11.axb5 a6 12.Qd2 Re8 13.h3 Nb6 14.bxa6 bxa6 15.Bh6 Bh8 16.Qe2 a5 17.e5 Ba6 18.Qe4

18…e6?!

 ナカムラのこの手は大悪手というほどではないけれどもキング翼、特にf6の地点を弱めて非常に危険な手だった。これが最終的には敗因になった。

 18…Nc4 は 19.e6 f5 20.Qh4 が怖そうだが黒はいい勝負ができる。例えば 20…Ne5(20…Nxb2?! は 21.Bc1 Bf6 22.Ng5 Bxg5 23.Qxg5 Nc4 24.h4!

で白の攻撃が非常に強力)21.Ng5 Bf6

で白にはこれといった突破策がない。

19.Bg5

 ここでは 19.Qf4! がはるかに強力だった。例えば 19…Nxd5 20.Nxd5 exd5 21.Bg5 Qd7 22.Bf6

となれば、黒のキング翼に問題があることはすぐ分かる。

19…Qd7 20.Qf4 Nxd5 21.Nxd5 exd5 22.exd6 Bxb2 23.Rxa5 Rxe1+ 24.Nxe1 Bc3 25.Bf6! Bxf6 26.Qxf6

26…Bb7??

 ヒカルに考えられないようなポカが出た。しかしブリッツではこういうことはよく起こる!

 26…Re8! 27.Rxa6 Rxe1+ 28.Kh2 Re8 なら黒が引き分けにできそうだが、29.Qc3 c4 30.Qf6! h6 31.f4

で劣勢の局面のままである。

27.Rxa8+ Bxa8 28.Nd3!

 黒は白からの Ne5 の狙いになすすべがない。たぶんナカムラは時間に追われて 28.Qe7? Qxe7 29.dxe7 Bc6 30.Nd3 Kg7 31.Nxc5 Kf6

で引き分けとしか読めなかったのだろう。

28…Bc6 29.Ne5 Qe8 30.Nxc6 Qxc6 31.Qe7 1-0

 dポーンが昇格するので黒はここで投了するしかない。

 カールセンは最終戦でアントン・コロボフにも勝って 17/21 の好成績で優勝した。ヒカル・ナカムラは大会終盤でアーナンド、アロニアンそれにモロゼビッチに勝って5勝の猛突進を見せたが同点2位に終わった。

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(この号終わり)

2014年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(361)

「Chess Life」2014年11月号(1/1)

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シンクフィールド杯

解説 GMイアン・ロジャーズ

(クリックすると拡大)

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ファビアノだけが微笑を浮かべていても驚くには当たらない。世界10傑のほかの5選手はカルアナに対して一時は成すすべがなかった。

□GMヒカル・ナカムラ(FIDE2787、米国)
■GMファビアノ・カルアナ(FIDE2801、イタリア)

シンクフィールド杯第5回戦、ミズーリ州セントルイス市、2014年8月31日

28…Nf5 29.Bxf5 gxf5 30.f4?!

 ここで初めてナカムラの成り行きまかせが取り返しのつかないものになった。ナカムラがこの手に6秒以上使っていたら、生じる閉鎖的な局面のひどさに気づいたかもしれない。代わりに 30.Ne2 Rh8(30…Qxb5 31.Qc2!)31.Qd3 のような作戦でf5のポーンを攻撃するようにすべきだった。

30…g4 31.Qd3 Rac8 32.Rc1 Rc4!

33.Ne2

 白の意図していた 33.Qxf5 は 33…Nxd4! で黒の非常に有望な收局になる。

33…Nc7!! 34.Nc3?!

 これで黒の圧力が容赦のないものになる。白は 34.Rxc4 dxc4 35.Qxc4 Nxb5 36.a4 Nxd4(36…Nd6!? なら黒が安全で優勢である)37.Nxd4 Bxd4 38.Qxd4+ Qxd4 39.Bxd4+ Rxd4 40.Re7

でルーク收局に慰めを求めるべきだった。

34…Rc8 35.h3!?

 破れかぶれ。しかし白は …Ne8 から …Bd8-a5 を待っていることはできなかった。

35…gxh3 36.Kh2 Nxb5 37.Nxb5 Qxb5 38.Kxh3 Qd7 39.Kg2 b5 40.Rb1 a6

 制限時間内に規定手数に達した。カルアナが危なげないポーン得で、勝利は技術の問題のはずである。しかしここからこの大会初めてカルアナが決めそこない始める。

41.Rbc1 Qe6

 41…R8c6! で …Qc8 を狙う方がずっと簡明だった。

42.Bf2 Rxc1!?

 一貫した手だが、クイーンをd7に戻しても遅すぎることはなかった。

43.Rxe6 fxe6 44.g4!

44…fxg4?!

 「勝ちが非常に難しくなっていると感じていた」とカルアナは認めた。「そしてここでは白の Qd3-e2-d3 という捌きを見逃した。44…Bh4! 45.Bxh4 R8c3 にはまったく気づいていなかった。それならきれいに試合が終わっていた。」

45.Qe2 Kf7 46.Qd3! R1c2 47.Qh7+ Ke8

48.f5?

 48.Kf1 と指していれば黒が勝つのは非常に困難になっていただろう。特にカルアナは時間に追われていたのだから。

48…Bxd4!

 「すべてのチェックを読むのはとても大変だった」とカルアナは言った。「時間が2分ほどしか残っていなくて、ビショップ切りがポカになって負けるのが心配だった。しかしここでは勝ちのようである。」

49.Qg6+ Kd8 50.Qxe6 Rxf2+ 51.Kg3 Rc3+ 52.Kxg4 Rg2+ 53.Kf4 Rf2+ 54.Kg4 Kc7

 以降の手ではカルアナは30秒の加算時間で指していて、詰みを探すのを避け単にキングを安全にすることを心掛けた。そのあとは勝ちは自明である。

55.Qe7+ Kb6 56.Qd8+ Rc7 57.Qxd5 Bc5 58.Qd8 Kb7 59.f6 Bxa3 60.Qd5+ Kb6 61.Qd8 Bc5 62.Qb8+ Rb7 63.Qd8+ Ka7 64.Qd5 Bb6

 任務完了。

65.Kg5 Rc7 66.Kg6 b4 67.Qe6 Bd4 白投了

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(この号終わり)

2014年11月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(362)

「Chess Life」2014年12月号(1/1)

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トロムセ・オリンピアード

解説 GMイアン・ロジャーズ

ルイロペス・アルハンゲリスク戦法(C78)
□GMヒカル・ナカムラ(FIDE2787、米国)
■GMルスタム・カシムジャーノフ(FIDE2700、ウズベキスタン)

2014年チェスオリンピアード、オープン、ノルウェー・トロムセ、2014年8月9日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O b5 6.Bb3 Bc5

 新アルハンゲリスク戦法は黒が次の戦型で好形になることが発見された90年代に大流行した。

7.c3 d6

8.a4

 8.d4 もあり 8…Bb6 9.dxe5 Nxe5 10.Nxe5 dxe5 11.Qxd8+ Kxd8 12.Bxf7 Rf8 13.Bd5 Nxd5 14.exd5 Bb7 となれば互角の收局である。

8…Rb8 9.d4 Bb6 10.Na3 O-O 11.axb5 axb5 12.Nxb5 Bg4 13.Bc2 exd4 14.Nbxd4 Nxd4 15.cxd4 Bxf3 16.gxf3 Nh5 17.Kh1 Qf6 18.Be3 c5 19.e5

 この手は新手だった。もっともカシムジャーノフは詳しく研究済みで、次の数手をパッパッと指した。

19…Qe6 20.exd6 c4 21.b3

 この時点でヒカルが15分ほどしか残っていなかったのに対し、相手はさほど時間を使っていなかった。

21…c3 22.d5 Qxd6 23.Ra6 Nf4

 たぶん白の応手を見落としている。

24.Ra4!

24…Ng6

 24…Nxd5 なら 25.Bxb6 Rxb6 26.Rd4 Qb8 27.Rxd5 Rh6 28.f4! Qxf4 29.Rh5

で白の勝勢になる。

25.Qd3

 これで白がはっきり優勢になった。

25…Bc7 26.f4 Rfd8 27.Rd1 Qf6 28.Rc4 Bd6 29.Qxc3 Qxc3 30.Rxc3 Nxf4 31.Rc6 Be5 32.d6 Ne6 33.Bf5 Rxb3 34.Bb6 Rxb6 35.Rxb6 Nd4 36.f4 Bf6 37.Bh3 Ne2 38.Rb4 g6 39.d7 Kf8 40.Rc4 Nc3 41.Rd3 Ke7 42.Rc8! 黒投了

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(この号終わり)

2014年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(363)

「Chess」2015年1月号(1/3)

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チェス論評

編集長 IMマルコム・ペイン


スーパー快速に優勝したヒカル・ナカムラは正規チェスになったとき満面の笑みだった。自分のスポンサーの飲み物が大変リラックスさせてくれるのかは分からない。しかし米国ナンバーワンは盤上の初手の儀式で「キープしよう」と言いながらリラックスしていた。

 最初の週末には6人のジュニアと幾人かのクラブ選手にスーパー6の一つに挑む機会が与えられた。オリンピアはこの話でもちきりで、第1回戦で達人たちと対局する6名のジュニア選手たちは雄々しかった。イングランド・チェス連盟の今年の最高選手に選ばれたキース・アーケルに指導を受けているシーオ・スレードは、すいすい指してくるヒカル・ナカムラを長いこと苦しめた。

□H.ナカムラ
■T.スレード

スーパー快速、ロンドン、2014年
二ムゾ=ラルセン攻撃

1.b3 e5 2.Bb2 Nc6 3.e3 d6 4.Nf3 g6 5.d4 Bg7 6.dxe5 Nxe5 7.Nxe5 dxe5 8.Qxd8+ Kxd8 9.Bc4 Nh6 10.Nc3 c6 11.O-O-O+ Kc7 12.Ne4 Bf5 13.Ng5 f6 14.Ne6+ Bxe6 15.Bxe6 Rad8 16.Rxd8 Rxd8 17.Rd1 Rxd1+ 18.Kxd1 Kd6 19.Bc4 Ng4 20.Ke2 f5 21.Ba3+ Kd7 22.f3 Nf6 23.Bf7 e4 24.c4 Kc7 25.h3 exf3+ 26.gxf3 Nd7 27.Be6

27…Bf6

 27…b6! なら互角に近い。本譜は黒のポーン損になる。

28.Bg8 Bg7

 28…h6 は 29.Bh7 Ne5 30.f4 で駄目である。

29.Bxh7 Nf8 30.Bg8 b6 31.Be7 Kd7 32.Bh4 Ne6 33.Bf7 Nf8 34.f4 c5 35.Kd3 Bh8 36.Bg5 Bg7 37.h4 Kd6 38.e4 fxe4+ 39.Kxe4 a6 40.f5 gxf5+ 41.Kxf5 Nh7 42.Bf4+ Ke7 43.Bd5 Bf6 44.h5 Bd4 45.h6 b5 46.Bg8 Nf6 47.Bg5 Kf8 48.Bxf6 Kxg8 49.cxb5 axb5 50.Bxd4 cxd4 51.Ke4 1-0

 ナカムラは9½/10という驚異的な成績でスーパー快速大会に優勝した。アーナンドとクラムニクに引き分けたマシュー・サドラーだけがこの米国選手と引き分けた。それで思い出したが、ナカムラは昨年快速戦だった第5回ロンドンチェスクラシックに優勝し英国では快速戦でまだ負けなしである。

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(この号続く)

2015年01月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(364)

「Chess」2015年1月号(2/3)

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チェス論評(続き)

 米国の第一人者はジェームズ・アデア戦で魔に魅入られたように布局の落とし穴にはまった。しかし最後の独創力は驚嘆だった。

□J.アデア
■H.ナカムラ

スーパー快速、ロンドン、2014年
スカンジナビア防御

1.e4 d5 2.exd5 Qxd5 3.Nc3 Qa5 4.d4 c6 5.Nf3 Bf5 6.Ne5 e6 7.g4!

 この手があるのでスカンジナビア防御のこの戦型は疑問だと考えられている。

7…Bg6 8.h4 Nd7?

 8…Nf6 9.Nc4 Qd8 10.h5 Be4 11.Nxe4 Nxe4 12.Qd3 は白が良い。しかしたぶん黒はこれよりほかに良い手がない。

9.Nc4!

 黒は 9.h5 Nxe5(実戦では 9…Be4? も指されたが 10.Nc4 で悪い)10.dxe5 Be4 を予期していた。しかし実戦はクイーンがc3のナイトへの釘付けを維持できないのでビショップが取られる。

9…Qc7 10.h5

 黒はビショップを捨ててポーンを取った。平然と指し続けるしかない。

10…Bxc2 11.Qxc2 Ngf6 12.g5 Nd5 13.Bd2 Be7 14.Qe4 O-O-O 15.f4 Rhe8 16.O-O-O h6 17.gxh6 gxh6 18.Ne5 f5 19.Nxd5 cxd5+ 20.Qc2

 クイーンが盤上からなくなる。ここでは多くのGMが投了することだろう。

20…Nf6 21.Ba5! Qxc2+ 22.Kxc2 b6 23.Be1 Kb7 24.Ng6 Bd6 25.Kd3 Rc8 26.Be2 Ne4 27.Bf3 Rc7 28.Rh2 Rec8

 白はルーク同士を交換できれば楽なのだがそうはいかない。しかしもちろん白の勝勢である。

29.Bxe4 dxe4+ 30.Ke3 Rc1! 31.Rxc1 Rxc1 32.Bh4 Rf1

 ナカムラは …Kc6-d5 と指せれば望みが出てくる。アデアは決めに出る。

33.Be7 Rf3+ 34.Ke2 Kc7 35.Bg5!

 35.Ne5 Rxf4 36.Rh4! も交換を強要して勝ちになる。しかし途中 36.Bxd6+ Kxd6 37.Rg2 は 37…Kd5! で実戦的には黒の方が良い。

35…hxg5 36.h6 gxf4 37.h7 Rd3!!

 この手しか望みがない。意外でもないがアデアはポーンを昇格させてもすぐに勝ちにはならないことに動じなかった。

38.Nxf4?

 ここは 38.Ne5! f3+ 39.Nxf3 Bxh2 40.h8=Q Rxf3 41.Qxh2+ で白の勝ちだった。しかし 38.h8=Q は 38…f3+ 39.Kf2 Rd2+ 40.Ke1 Rxh2

で黒がまだ戦える。例えば 41.Qg7+ Kb8 42.Qg8+ Kb7 43.Qxe6 Bg3+ 44.Kd1 Rh1+ 45.Kd2 f2

となれば白は千日手にしなければならない。

38…Bxf4 39.Rh4

 39.h8=Q には 39…Rd2+ 40.Ke1 Rxh2 41.Qe8 Rh6! で黒の方が良い。すごい手があったものだ。

39…Rd2+

40.Ke1?

 まだ引き分けは手遅れでなかった。40.Kf1 Rd1+ 41.Kg2 Rd2+ 42.Kf1 がそれだが、42.Kh3?? は 42…Rh2# までとなる。

40…e3! 41.Rh3

 この手はうまい戦術を食らうが、41.h8=Q は 41…Bg3+ 42.Kf1 e2+ 43.Kg2 e1=Q+ 44.Kh3 Rh2# までとなる。

41…Bg3+!! 42.Rxg3 Rh2 43.d5 f4 0-1

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(この号続く)

2015年01月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(365)

「Chess」2015年1月号(3/3)

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国外のニュース


米国の第一人者のヒカル・ナカムラはレイティング上のライバルのレボン・アロニアンを、正規チェスの2-2の結果のあとのブリッツ16番勝負で下した。ナカムラは去年の4月以来エネルギー・ドリンク会社のレッド・ブルの支援を受けている。

米国 – レボン・アロニアンとヒカル・ナカムラはシンクフィールド杯で2局とも引き分けに終わっていた。そこで米国チェスの際立った後援者のレックス・シンクフィールドは二人をまたセントルイスに迎えて番勝負を指させた(11月21-25日)。初戦でのナカムラの布局の選択(ラゴージンに対する 5.Bg2)は無害なように思われたが、すぐに優勢になり大局観で圧倒して勝った。しかしアロニアンはすぐに反撃した。收局に入ったときにはあまり大きな優勢のようには思われなかったが、ナイトに対するビショップの優位を十分に見せつけて成績を互角にした。激闘の2引き分けのあとブリッツ戦に移り、米国の早指しの達人が9½-6½で勝った。

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(この号終わり)

2015年01月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(366)

「Chess Life」2015年1月号(1/1)

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お楽しみチェス

GMアンディー・ソルティス

2014年ベイクアーンゼー

第5問
GMヒカル・ナカムラ
GMルック・ファン・ベリー

  黒の手番

解答

44…Be5! 次の …Qf3+ が強力である。45.Qxe5 なら 45…Qg2+ 46.Kxh4 Qg4# 45.f4 Qf3+ 46.Qg3 Qh1+ 47.Qh2 このあと 47…Qxc1 48.fxe5 Qxg5 で …Qg4# と …Qxd8 の狙いがあり白が勝つ。

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(この号終わり)

2015年01月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(367)

「Chess」2015年2月号(1/3)

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第6回ロンドン・チェスクラシック

□V.クラムニク
■H.ナカムラ

第2回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 d5

 ぺトロシアン戦法。クラムニクはこの戦型で好成績を上げたが、1990年代半ばに放棄し代わりに銃剣攻撃(7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.b4)を採用し一層キング翼インディアンキラーになった。

7…a5 8.Bg5 h6

9.Be3

 これは珍しい手である。全盛期の頃のクラムニクは主流手順の 9.Bh4 をよく用いていて、そのあと例えば1994年ドイツのブンデスリーガでのクラムニク対ナン戦では 9…Na6 10.O-O Qe8 11.Nd2 Bd7 12.Kh1 Nh7 13.a3 h5 14.f3 Bh6 15.b3 Qb8 16.Qc2 Be3 17.Rae1 となって白が盤のどちらの翼でも応戦できる態勢になった。

9…Ng4 10.Bd2 f5

 ナカムラは既に熟考し始めていて、第14代世界チャンピオンが以前にこの局面を指していたことを知っていたようには思われない。2001年マインツ(同時指導対局)のクラムニク対アイダム戦では 10…Nd7 11.h3 Ngf6 12.Be3 Nc5 13.Nd2 Bd7 14.O-O Kh7?! 15.b3 b6 16.a3 Ng8 17.b4 で白がうまく指し回していた。もっとも本譜の手でもうまくいかない。だから黒は魅力的な 9…Ng4 を控えるべきだったのだろう。

11.h3 Nf6 12.exf5

 これは理解しやすい手ではないかもしれないが、白の望みは黒に何も楽しみを与えずキング翼を守らせることである。

12…gxf5 13.Qc1!

 これは新手である。もっともナカムラがもう定跡の知識が尽きたのは明らかだった。前例は1997年ジェチーンでのトゥレツェク対ヘルマンソン戦の 13.Qc2 Na6 で、白が少し指しにくかった。2007年通信戦でのヒンツ対ゾリンスキー戦では 13.Rg1 Na6 14.g4 fxg4 15.Nh2 Nh5! 16.Bxg4 Nf4 と進んだ。

13…f4

 中央で並んだポーンを突いていくのはキング翼インディアン選手の夢である。しかしここでは黒はポーンを保てない。13…e4 も 14.Nd4 でやぶへびである。そして 14…Nxd5? と取ると 15.Nxd5 Bxd4 16.Bxh6 となってキング翼が持ちそうにない。一方クラムニクは 13…Kh7 に 14.g4! を用意していて、強力な主導権を握ることになる。白の狙いは 15.g5 で、このポーンはタブーである。それでも 14…fxg4? と取ると 15.hxg4 Nxg4 16.Ng5+ Kg8 17.Ne6 Bxe6 18.dxe6 Nxf2 19.Rh2

となって、巧妙にナイトが追い詰められる。

14.g3

 白は切り崩し作業を始めた。この段階でチェスエンジンは黒に何も危険がないと見ている。しかし詳細に分析すると黒はこんな風通しの良い状態では何らかの困難に見舞われるかもしれないと明白に断定しなければならない。

14…e4 15.Nh4

 この手は中央から離れるが、黒キングからは目を離さないでいる。黒の次の手を許すのは危険そうに見えるが、クラムニクはこの段階でもまだ早指しを続けていた。だからすべて研究済みであったことは明らかである。

15…e3

 黒は突進を続けていて、15…f3? よりはずっと強い手である。この手は 16.Bd1 Kh7 17.Bc2 となって、黒のポーン陣形はきしみだす。

16.fxe3 fxg3 17.Ng6

17…Rf7

 ナカムラは彼らしくもなく残り時間で大差をつけられていて、このあたりでは問題を解決できなかった。生で見ていた当解説者は 17…g2!? 18.Rg1 Bxh3 を予想していた。19.Nxf8 Qxf8 20.Qc2 Ng4 21.O-O-O で白の方がまだ良いかもしれないが、少なくとも大乱戦でナカムラにも反撃の可能性があっただろう。

18.Qc2 Nfd7?

 ジュリアン・ホッジソンはこの手にとても批判的で、4度も英国チャンピオンになっただけあって的確だった。黒は既に展開した駒を配置換えする余裕などない。18…Na6 なら本手で、19.O-O-O Nb4 20.Qb1 Qe8 となれば何が起こってもおかしくなかった。

19.O-O-O Ne5

 この手は白の進攻してきたナイトに挑んだものだが、クラムニクはg3のポーンを無視してはるかに優る展開の活用を図り始める。

20.Rhf1! Rxf1 21.Rxf1 Bxh3

 黒はこのポーンを取って災いの種を招いたのかもしれないが、g列で強力な攻撃が待っていた。

22.Rg1

22…Qf6

 22…Qg5 でも大同小異で、23.Nf4 Bd7 24.Ne4 Qf5 25.Rxg3 となって黒キングが白の視界にしっかりととらえられる。

23.Rxg3 Nxg6 24.Rxg6 Qf7 25.Rg3 Bf5 26.e4 Bg6

 ナカムラはなんとかg列を当面ふさぐことができたが、クラムニクはここで少考して強力な再編成法を見つけた。

27.Bg4 Qf1+ 28.Nd1 Be5

 このせき止めは必須である。代わりに 28…Na6? は 29.Be6+ Kh7 30.Rxg6! Kxg6 31.e5+ Kh5 32.Qe4 と一掃され詰まされる。

29.Bh3 Qf6 30.Rg1 Kh7 31.Bf5!

クラムニクはキング翼を支配し続け、その間ずっとナカムラのルークとナイトは遠くからわびしく傍観しているしかなかった。

31…Bxf5 32.exf5 Nd7 33.Rg6 Qf7 34.Rxh6+

 ポーンを払ってさらに筋を開けた。終わりは近い。

34…Kg8 35.Rg6+ Kf8 36.Nf2 b5 37.Ng4! bxc4 38.Qxc4 Qxf5

 やむを得ない手だが、クラムニクは軽妙な手筋を用意していた。

39.Rg8+! Ke7

 これでは大きな駒損を避けられないが、39…Kxg8 では 40.Nh6+ でクイーンが落ちる。

40.Bg5+ Bf6 41.Qe2+ 1-0

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(この号続く)

2015年04月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(368)

「Chess」2015年2月号(2/3)

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第6回ロンドン・チェスクラシック(続き)

誰もが賞賛する早指し王

ロンドン・チェスクラシックのスーパー快速戦で、第1シードで早指しの鬼のヒカル・ナカムラはあまりに強かった


スーパー快速戦で優勝して8千ポンドを獲得し閉会式で満面の笑みのヒカル・ナカムラ。隣は母でプロのバイオリニストのキャロリン・ナカムラ

主催者のタオ・ボカナドとシーン・ヒューイットにとって嬉しいことに、今年のロンドン・チェスクラシックから新たに開催された「スーパー快速戦」に400名以上の選手が参加した。これはオリンピアで最初の週末に行なわれた。参加者の多くは「スーパー6」(マイケル・アダムズ、ビシー・アーナンド、ファビアノ・カルアナ、アニシュ・ギリ、ウラジミール・クラムニク、そしてヒカル・ナカムラ)の一人またはほかのスター選手の一人と対戦できるかもしれないという淡い期待を抱いて参加した。実際イングランドの最上位6人のグランドマスターが皆参加していたし、ローク・ファン・ベリー、米国の躍進著しいスター選手のダニエル・ナローディツキー、それにマイク・バスマン、ジョン・ナン、ジョン・スピールマンなどの往年のスター選手たちも皆何らかの形で感銘を与えていた。

 シード1位はヒカル・ナカムラで、この米国の早指しの達人は8½/9と突っ走って期待にそむかなかった。こんな超大物たちの中でビシー・アーナンドを半点上回ればそれだけで十分だった。両者が相まみえたときナカムラが白番で交換を強制したのは賢明だったし、アーナンドが勝とうとして局面の均衡を崩したのは全然賢明でなく転んで負けてしまったのはナカムラの手柄だった。もちろんナカムラはことさら危ない橋を渡った時もあった。先月号で見たようにジェームズ・アデア戦ではほとんどの間駒損で指さなければならなかった。そしてマシュー・サドラー戦でははるかに不利な收局を持ちこたえるために受けの妙技を強いられた。しかし全体的には彼は8千ポンドの優勝賞金に完全に値した。さらにナカムラの成績はイングランドチェス連盟始まって以来の「3」から始まるレイティングにふさわしかった。

 ナカムラの早指しは驚異的だった。早い回戦でアーロン・サマースケールを粉砕した時にはほとんど時間を使わずに收局に到達したように感じられたし(持ち時間は25分で毎手追加は10秒だった)、まったく対照的にこのイギリスのGMはほとんど時間が切れそうだった。同様に首位を行く二人が最終戦の前の回で対戦した時にも時間が大きな役割を果たした。

□F.カルアナ
■H.ナカムラ

第9回戦

 カルアナは長い捌き合いのほとんどで優勢を保持していたが、ナカムラはうまく守りこの時点までには日本生まれの米国選手は米国生まれのイタリア選手より2、3分多く時間を残していた。それが大きな役割を果たすことになった。

45…Nb3!

 ルークを積極的に働かせるために解放し、局面を不均衡にした。

46.Nxb3?

 このあと白はbポーンを取るために苦労することになる。カルアナは明らかにd2への侵入を心配していたが、冷静な 46.Rg4! で何事もなかった。46…Rd2 なら 47.Qg3 g6 48.Ne4 だし、46…Nxc5 なら 47.bxc5 e4 48.Rxe4 Rxc5 でよい。黒の最善手は 46…Nd2 47.Ne4 Nc4 だが、ここでさえ白は 48.Qa7! Rd7 49.Qc5 Nxa3 50.Rh4

と積極的にいけば問題なしで、黒が進展を図るのは意外にも困難である。

46…axb3 47.Qe3?

 よくあることだが悪手は悪手を呼ぶ。47.Qb2 と指すしか仕方がなかったようで、47…Rd3 のあと 48.h4!? か 48.Qxe5 Qxe5+ 49.Rxe5 Rd2 50.Kg3 b2 51.Re1 が相場だが、どちらにしても白がしのげたとは想像しにくい。

47…b2 48.Qe1 Rd4 0-1

 急転直下の終わりとなった。49.Qb1 と受けても 49…Rxe4 50.fxe4 Qf4+ 51.Kg1 Qc1+ までである。

成績上位者
1位 ヒカル・ナカムラ(米国)9½/10
2位 アニシュ・ギリ(オランダ)8½
3-12位 ファビアノ・カルアナ(イタリア)、ビシー・アーナンド(インド)、ウラジミール・クラムニク(ロシア)、ナイジェル・ショート(イングランド)、アレクサンドル・レンダーマン(米国)、エリック・ハンセン(カナダ)、ダニエル・ナローディツキー(米国)、ニック・パート(イングランド)、アロン・グレーンフェルド(イスラエル)、サイモン・ウィリアムズ(イングランド)8
13-21位 マイケル・アダムズ、マシュー・サドラー、ルーク・マクシェーン、ジェームズ・アデア、ローレンス・トレント(以上イングランド)、シメン・アグデスタイン(ノルウェー)、アレクサンドル・チェルニアエフ(ロシア)、ヨアン=クリスティアン・キリラ(ルーマニア)、ジョナサン・ドゥレラスー(フランス)7½

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(この号続く)

2015年05月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(369)

「Chess」2015年2月号(3/3)

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次の一手

準備運動程度

第2問 A.ギリ – H.ナカムラ
ロンドン(ブリッツ)、2014年
 白の手番

中級程度

第13問 M.アダムズ – H.ナカムラ
ロンドン(ブリッツ)、2014年
 黒の手番

解答

第2問 1.Qe6+! 1-0 次のように黒クイーンが素抜かれる。1…Kh7(1…Rxe6 なら 2.Qxf8+ から詰み)2.Nxf8+ Rxf8 3.Qg6+ Kg8 4.Rxf8+ Kxf8 5.Qxd3 ただし平凡な 1.Rxf8+ Rxf8 2.Qe6+! でもよく、2…Rf7 なら 3.Qe8+ Kh7 4.Qh8# までとなる。

第13問 1…Rxa4+! 2.bxa4(2.Kb1 の方が頑固な受けだが 2…Qb4 3.Qc1 e4! でやはり望みがない)2…Qb4 3.Qc1 Rb8 0-1 沈黙の殺し屋。白は成すすべがない。4.Qa3 なら 4…Qb1# までである。

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(この号終わり)

2015年05月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(370)

「Chess」2015年3月号(1/3)

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チェス時評

編集長 IMマルコム・ペイン

締め切り間際に・・・

 ヒカル・ナカムラはジブラルタルからの好調を維持して、チューリヒ・チェスチャレンジで早くも首位に立った。米国ナンバーワンはセルゲイ・カリャーキンとの記憶に残る試合を制して 2½/3 と突っ走っている。

H.ナカムラ – S.カリャーキン
チューリヒ、2015年
イギリス布局

1.Nf3 Nf6 2.c4 c5 3.Nc3 Nc6 4.d4 cxd4 5.Nxd4 e6 6.g3 Qb6 7.Ndb5

 この手は Nd6+ で黒の黒枡ビショップを取り除くことを意図している。

7…Ne5 8.Bf4 Nfg4

9.Qa4

 白は黒からの狙いをずうずうしく無視した。9.e3 と受けると 9…Qc6 10.h3! a6 11.hxg4 axb5 12.Rh5 Nf3+ 13.Ke2 Ng1+ となって白は引き分けにしてもよいしキングを堂々と行進させることもできる。

9…g5

 9…Qxf2+ なら 10.Kd2 Qc5 11.Ne4 で白が好調で、このあとは 11…Qc6 なら 12.Bg2 、11…Qb4+ なら 12.Qxb4 Bxb4+ 13.Kc2 で二通りの狙いがある。

10.Bxe5 Qxf2+ 11.Kd1 Nxe5 12.Nc7+ Kd8 13.Nxa8 Qd4+ 14.Kc2 Nxc4

15.e4!

 白はルーク得になっていて、15.Kb3 Nd2+ 16.Kc2 Nc4 で引き分けにすることができる。しかし当然ながら黒にやらせてみることにした。

15…Ne3+?

 カリャーキンは研究手順を思い出すことができなかったか苦境を脱する手を読んで見つけることができなかった。引き分けに至る道は長く難解である。15…Qd2+ 16.Kb3 Qxb2+ 17.Kxc4 Bg7 18.Qa5+(18.Ne2? は 18…b5+! 19.Qxb5 d5+ 20.exd5 Qc2+! 21.Kb4 Bf8+ 22.Ka5 Qd2+ 23.Ka4 Bd7

で黒の勝ちになる)18…b6 19.Qxg5+ f6

ここで 20.Qxg7 と取ると 20…Ba6+ 21.Nb5 Bxb5# までとなるので白は 20.Qb5 と指すが 20…Ba6! 21.Qxa6 f5! がしのぎの筋となる。白はルーク、ビショップそれにナイトを得しているが勝てない。このあとは 22.Rb1 Qxc3+ 23.Kb5 Qc5+ 24.Ka4 Qc2+ 25.Rb3 Qxa2+ 26.Kb4 Bf8+ 27.Kc3 Bg7+ 28.Kb4 Bf8+

が想定される。

16.Kb3 Qd2 17.a3! Qc2+ 18.Ka2 Qxa4 19.Nxa4 Nxf1 20.Rhxf1 b5

 もちろん黒は残りのすべての駒が最下段にいるのでなければうまくいっているところである。

21.N4b6! axb6 22.Nxb6 Bb7 23.Rxf7 Bc6 24.Rd1 Be7

 29…Ke8 なら 30.Rdxd7 Bxd7 31.Rxd7 で白の勝ちになる。

25.Rf3 Kc7

 ここでナカムラはあっさり終わらせる手を見つけた。

26.Nxd7! Rd8

 26…Bxd7 なら 27.Rc3+ Bc6 28.Rdc1 で勝つ。

27.Rc3 1-0

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(この号続く)

2015年05月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(371)

「Chess」2015年3月号(2/3)

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ジブラルタル・オープン

マシュー・ラン

B.アドヒバン – H.ナカムラ
第5回戦

 ナカムラは布局を彼らしく戦闘的に指してきて、アドヒバンは既に指しにくくしていた。

15.d5?

 これは大ポカで、ナカムラに6段目の連結パスポーンを贈呈した。代わりに 15.Bd2 ならまだ十分戦えた。15…cxb3(15…Nxd4 なら 16.Bxc4 Bxg2 17.Rg1 で白キングはそれほど危険でない。黒は 17…Nf3+ 18.Ke2 Nd4+ 19.Ke1 Nf3+ で引き分けにするしかない)16.Qxb3 Nxd4 17,Qc4 となれば形勢不明のようである。このあと …Nc2+ で交換損を取り戻すのは白に双ビショップと働きに優る駒という代償を与える。

15…bxc3 16.dxc6 Qxd1+ 17.Kxd1 cxb3 18.c7 Kd7 19.Ra3 b2 20.c8=Q+

 これで先手でc3のポーンを取ることができるが、ナカムラはそれでも戦力得で收局みたいな局面に持ち込む。

20…Kxc8 21.Rxc3+ Kd7

22.Bd3

 22.Rd3+ の方が受け切れそうだが、黒のbポーンをからめ取るには貴重な手数をかけなければならない。22…Bxd3(22…Ke7 には 23.Kc2 がある)23.Bxd3 Nf6 24.Kc2 Rb8 25.Rb1 Ng4 でf2のポーンが落ちる。

22…b1=Q+ 23.Bxb1 Bxb1 24.Rb3 Be4

 そして黒は大して苦労せずに勝ちにつなげた。

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(この号続く)

2015年05月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(372)

「Chess」2015年3月号(3/3)

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ジブラルタル・オープン(続き)

棋譜解説 マルコム・ペイン

H.ナカムラ – V.トパロフ
第6回戦、シチリア防御モスクワ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.Bb5+ Nd7 4.a4 Ngf6 5.Nc3 e6 6.d4 cxd4 7.Qxd4 a6 8.Be2 b6 9.O-O Bb7 10.Rd1 Qc7 11.Bg5 Be7 12.Nd2 h6 13.Bh4 Ne5 14.Nf1 Rd8 15.Bg3 O-O 16.Ne3 Rc8 17.Kh1 Rfd8 18.f3 Nh5! 19.Bf2 Nf4 20.Bf1 Nfg6

 黒駒は好所に配置されていて、ポーンによるハリネズミ陣は難攻不落のように見える。

21.Qd2 Bg5 22.Qe1 Nf4 23.Bg3 Nh5

 黒は 23…Nfg6 で千日手を打診することができた。24.Ra3 と手を変えてくれば 24…h5!? 25.Rb3 h4 26.Bf2 h3! がある。

24.Bf2 Qe7

 この手は一番弱いb6の地点を弱めた。ナカムラは抜け目がなかった。

25.Ra3! Nf4 26.Rb3 Rc6 27.Ne2 Nxe2 28.Bxe2 Rdc8 29.c3 Nd7 30.Nc2!

30…d5

 30…Nc5 でも 31.Ra3 R6c7 32.Bg3 e5 33.b4 で進展が図れる。

31.Nb4!

 31.exd5 は 31…exd5 32.Rxd5 Re6 で 33.Rxd7 Qxd7 が必然である。

31…Rc5

 31…Rd6 は 32.Bg3 Nc5 33.Bxd6 Qxd6 34.Ra3 a5 35.Nc2 となって黒の代償が不十分である。

32.exd5

32…Ra5

 黒は白にいいように指し回されていて、32…exd5 と取っても 33.Bxa6 Qxe1+ 34.Rxe1 Bxa6 35.Nxa6 Ra5 36.Nb4 Nc5 37.Ra3 Nxa4 38.Bxb6! で困る。

33.Nc6

 33.dxe6?! を避けたのは賢明である。そう取ると 33…Qxe6 と取り返されて 34.Ra3? には 34…Re5! がある。

33…Bxc6 34.dxc6 Rxc6 35.Rb4

 黒はa6とb6が弱いので、両方のルークでそれらを守る必要がある。

35…Bf6 36.Qf1!

36…Rd6

 36…Nc5? は 37.Rc4 Qc7 38.b4 で白の勝ちになる。

37.Rxd6 Qxd6 38.Bxa6 Nc5 39.Bb5 Qd2 40.Bg1 Ra8 41.Bc6 Rc8 42.Rxb6 Bd8 43.Rb5 Rxc6 44.Bxc5 Bc7 45.a5 Qc2 46.f4 f6 47.h3 Kh7 48.f5 exf5 49.Bg1 Be5 50.a6 1-0

 50…Rxa6 なら 51.Rxe5!、50…Qa4 なら 51.Qxf5+ がある。

上位成績
1 ヒカル・ナカムラ(米国)8½/10
2 デイビド・ハウエル(イングランド)8
3-11 ホウ・イーファン、ウェイ・イー(共に中国)、ニキータ・ビチュゴフ、マクシム・マトラコフ(共にロシア)、べセリン・トパロフ(ブルガリア)、デニス・ワーグナー(ドイツ)、バスカラン・アドヒバン、ペンタラ・ハリクリシュナ(共にインド)、アクセル・バッハマン(パラグアイ)7½


ヒカル・ナカムラは大会に優勝して2万ポンドの賞金を獲得し、閉会式では喜色満面だった。恋人のマリア・デ・ロサも嬉しそうである。ナカムラは次の大会のチューリヒ・チェスチャレンジに飛ぶ前にナポリで休養してジブラルタルでの奮闘の骨休みをした。チューリヒでは出だしで首位に立っている。

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(この号終わり)

2015年05月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(373)

「British Chess Magazine」2015年2月号(1/1)

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新手の衝撃

セオ・スレード

 今月はロンドン・チェスクラシックから超快速オープンの1局を取り上げる。これは最終回戦で、ヒカル・ナカムラは単独優勝を確定させるためには引き分けるだけでよかったが、相手の元世界チャンピオンのビシー・アーナンドはナカムラに追いつき追い越すためには黒番で勝たなければならなかった。

H.ナカムラ – V.アーナンド
ロンドン・チェスクラシック超快速オープン、2014年
イギリス布局 A13

1.b3 Nf6

 1…e5 が第1回戦でナカムラが対した手だった。その時彼が対局していたのはレイティングがわずか1869というコーンウォール出身の少年で、名前はセオドア・スレード…。あ、行かないで!

2.Bb2 d5 3.Nf3 e6 4.e3 Be7 5.c4

 5.d4 ならコーレ=ツーカートルト・システムに移行する。しかしこの露骨な攻撃法はアーナンドほどの実力者には全然通用しないはずだ。

5…O-O 6.d4 c5!

 布局でまたもアーナンドの佳手が出た。解説者たちはこれまで何度これを言っただろうか。それに、読者よ、忘れてならないことは「ビシー」と呼ばれる彼は周知のようにカールセンなどの格上と目されるライバルたちよりかなり年長なのである。しかしこのことは布局の研究においていささかも彼を立ち止まらせておかないようである。なぜなら彼はこの文句のない強みの成果を受け続けているからである。布局の揺るぎない専門家としてアーナンドが維持しようとしたまたは高めようとさえしたかもしれない膨大な努力を評価するためには、昨年の世界選手権戦第3局を分析するだけでよい。本譜の手は白の駒組みに対処する最も厳しい手段であり、ビシーが快速戦においてさえそのような手を指したということは自分の構想を披露することを恐れていないということを示している。

7.dxc5 Bxc5 8.a3?!

 この手は私には良くない手のように見える。白は既にポーンを5回動かし、6回目では展開で立ち遅れる危険がある。8.Nc3 または 8.cxd5 ならもっと自然だろう。

8…dxc4 9.Qxd8 Rxd8 10.Bxc4 Bd7 11.Ke2!?

 この手は非常に挑発的である。代わりに 11.O-O の方が安全で自然でたぶん客観的に良さそうである。しかし心に留めなければならないのはナカムラの試合の1局を分析しているということ、それに大会の状況である。つまりアーナンドは大会に優勝するためにはこの試合に勝たなければならないということである。最後に、言うまでもないことだが快速チェスではほとんど(!)何でも許されるということで、だから面白い手の方が「最善」手よりも心理的に優った手なのかもしれないのである。

11…Be7 12.Nbd2 Bc6 13.Rhc1!?

 私には 13.Rac1 の方が自然に思われるが、この手のあと局面の形勢はまったくの互角としか言いようがない。しかしナカムラの指した手のあとはどちらにとっても間違う可能性が高い。

13…Nbd7 14.Kf1

 ここで前手の意味が分かる。ナカムラは手動でキャッスリングしたかったのである。

14…Ne4 15.Nxe4 Bxe4 16.Bd4

 見た目には明らかに白の方が良さそうである。白のビショップは両方とも盤上を席巻し、ナイトは中央に位置し、キングは十分中央近くで働けるのと同時に非常に安全であり、c1のルークは素通し列にあって完璧である。「+/=」という声が聞こえる。しかしコンピュータは黒持ちである・・・

16…Bxf3

 チェスソフトのストックフィッシュは 16…Bc6! で黒優勢と言っている。しかし人間の観点からは(特に快速チェスの持ち時間では)、この形勢判断は奇妙という以外の何物でもないとしか言いようがない。私が主観的であるのに対して、今日では一流の選手たちが布局の新構想を見つけるためにいかに深くチェスエンジンを信頼しているかということに気づいているということを言っておかなければならない。もちろんこのことに何も目新しいことはないが、アーナンドを「スペースバー」にかける(チェスペースでスペースバーを押下することによりチェスエンジンの第1候補を選択すること)ギリの(悪)名高いやり方に耳を傾けるのは少し不快になる。皮肉なことにあるエンジンが第1選択した手を、別のエンジン(人間ということもある!)が反駁することがあるかもしれない。いずれにせよこの話題の議論は専門家に任せる。

17.gxf3 Bf6 18.Bxf6 Nxf6 19.Ke2

 この手ではc列にルークを重ねる意図で 19.Rc2!? と指すこともでき、19…Rac8 20.Rac1= となる。

19…Kf8 20.Bd3?!

 これは面白いが究極的には疑問の捌きの始まりである。

20…Rac8 21.Be4!?

 アーナンドは引き分け模様の收局にしたくないので、この手は心理的に絶妙である。

21…b6?!

 アーナンドはこう指したけれども、それでも收局に持ち込むべきだったと思う。どの変化でも有利さを保っているのだから。例えば 21…Nxe4 22.fxe4 e5 23.f4 Ke7 24.Rxc8 Rxc8 25.Kd3 g6 となれば勝ちを目指せるのは黒だけである。。

22.Bb7!

 ナカムラは2手目でクイーン翼ビショップをフィアンケットしてから、キング翼ビショップを22手目!でフィアンケットすることに突き進む。

22…Rb8

 22…Rxc1 とは取りにくかった。というのは 23.Rxc1 のあと白がc列を完全に支配しているのに対し、黒のd列の支配は白キングが侵入口をすべておさえているので意味がないからである。それに加えて盤の両側にポーンのある開放局面で白にはナイトに対しビショップがあるからである。しかしコンピュータは形勢互角だと言ってきかない・・・!

23.Bc6 Rd6 24.b4 Rbd8 25.Rc2!

 この強手には目的が二つある。黒ルークの唯一の侵入口であるd2の地点に利かすことと、c列でルークを重ねる用意である。

25…Ng8?!

 この手を評するために思いつくことのできる唯一の言葉は「不自然」である。アーナンドはビショップを強力な地点から追い出したかったのだと思うが、このナイトは既にf6の好所にいた。黒のこの不正確さは結局のところ白の方が指しやすかったということを証明している。ストックフィッシュよ、どんなもんだい?!

26.Rac1?!

 たぶん別の侵入口に利かす 26.Bb5 の方が良かった。

26…Ne7?!

 26…Rd3! の方が対処が厄介だっただろう。その場合でさえ白の最善手は 27.Ra2 かもしれず、いかに注意深く素通し列の侵入口のすべてに利かしておかなければならないかをよく示すのに役立つ。しかしいつも心に留めておかなければならないのは、結局のところこの試合は快速戦であるということである。

27.Bb5

 これで白陣は完全に安全で、ほとんど危険なしで勝ちを目指して指すことができる。

27…Rd5 28.a4 Rh5?

 この攻撃の手はビシーにしてはちょっと直接的すぎる。このポーン陣形での主眼の手は 28…g5! である。基本的な着想は白の二重ポーンの動きを制限して弱点にしようとすることである。黒の期待は駒の交換ごとにそれらのポーンが弱くなり、そのために最終的に黒の勝ちになることである。しかしこれは今のところ遠い話で、特に白にはビショップと働きに優る駒とがあるからである。それに白がc列を支配しているので駒を交換することがとてつもなく難しい。だからこの局面は動的に均衡がとれていると結論づけることができる。ここで 29.Rc7 なら黒は 29…Rd2+ 30.Ke1 Rb2 とやり返すことができほぼ互角である。

29.Rc7!+/-

 ナカムラは好機をしっかりと捕らえた。

29…Rxh2??

 それにしてもこれは敗着のポカだった。29…a5! なら黒はまだ戦えた。しかし全然楽でないことは確かで、30.bxa5 bxa5 31.Ra7 Nd5 32.Rxa5 Rxh2 33.Ra7 となってパスポーンがより危険なおかげで白が相当優勢である。

30.Rxa7!

 ナカムラはやはり容赦なかった。

30…Nd5 31.a5 bxa5 32.bxa5 Rh5 33.Rb7!

 ナカムラはあくまで正確である。

33…Nb4

 正確な手順のあとナカムラに必要なことは棺にふたをする最後の正確な一着を見つけることだけである。

34.a6?

 これは好局の唯一わずかな傷だった。34.Rcc7! がより強力な手で、攻撃が激烈になりパスポーンが突き進む用意ができる。白が完全に勝勢になるだろう。

34…Nxa6

 34…Rxb5! ならナカムラの指し方がずっと難しくなっていただろう。35.Rxb5 Nxa6 36.f4! この好手をもってしてもこの紛らわしい收局に勝てることを証明する責任はまだ白が負っている。しかしナカムラに関しては、この局面がアーナンドの楽勝を防げるからというだけで生じたのならばナカムラが大会に優勝するということなのかもしれない。

35.Bxa6

 ナカムラは賞賛すべき技術で試合を締めくくった。

35…Rf5 36.Bd3 Rf6 37.Rh1! h6 38.f4! Ra8 39.Bb1 Rc8 40.Rh5! Ra8 41.Kf1 Rc8 42.Ke2 Rd8 43.Rhb5 Ra8 44.Rb8+! Rxb8 45.Rxb8+ Ke7 46.Rg8 g6 47.Rh8 h5 48.Ra8 1-0

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(この号終わり)

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カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(374)

「Chess」2015年4月号(1/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ

(クリックすると拡大されます)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.h3 e5 7.Nde2 h5!?

 本誌で以前にこの先受けの強手にはお目にかかったことがある。

8.g3

 これが最新型である。2012年の後半ではまだ 8.Bg5 が主流で、8…Be6 9.Bxf6 Qxf6 10.Nd5 Qd8 11.Nec3 Nd7(11…g6!? の方がずっと正確かもしれない)12.Bc4 g6 13.a4 Bh6 14.a5 Rc8 15.Ba2 O-O 16.O-O Kg7 で両者とも長期的な切り札にかけることができた。これは2012年ロンドンでのアーナンド対ナカムラ戦で、非常に難解な收局になって引き分けに終わった。本誌2013年2月号のデイビド・ハウエルの解説を参照されたい。

8…Nbd7

 黒はキング翼ビショップの展開を当面差し置いた。私(リチャード・パリサー)はシロフ戦で 8…Be7 9.Bg2 b5 10.Nd5 Nbd7 11.Nec3 Bb7 12.Nxe7 Qxe7 13.Bg5 Qe6 と指した。

9.Bg5 Be7

 ここで初めて釘付けをはずすためにビショップが動いた。カルアナはこのような陣形ではありふれた着想であるけれども新手で応じた。

10.a4 Nc5 11.Bg2 Be6 12.a5 b5!?

 ナカムラはこの段階でもまだかなり速く指していて、対局前の研究で孤立aポーンができても問題にはならないと気づいていたのかもしれない。

13.axb6e.p. Qxb6 14.b3 O-O 15.O-O a5!

 フィッシャーの試合で示されたようにこのaポーンは孤立するかもしれない。しかし弱点になるというものでもなく、ここでは白のd5の支配と相殺するために黒が反撃を目指すのに役立っている。

16.Qd2

 白は落ち着いて展開を完了した。もっと直接的にいく手もあったかもしれないが、16.Nd5 Bxd5 17.Bxf6 Bxf6 18.Qxd5 h4! はあまりぱっとしないし、16.Bxf6 Bxf6 17.h4 a4! 18.bxa4 Qc6 19.a5 Bd8 も黒の反撃が好調である。

16…Rfc8 17.Rfd1

 白陣は調和がよくとれているが、そうするまでに手数がかかった。その間に黒は駒がよく動くようになり、ナカムラはここでもう待てないと決断した。

17…a4!? 18.bxa4 Bc4 19.a5!

 米国の戦術の達人はこの手を見越してポーンの代わりに十分な形勢になると判断したと思われた。

19…Qd8!

 クイーンが下がったが、当然 19…Rxa5? は 20.Bxf6! Bxf6(20…Rxa1 なら 21.Bxe7)21.Nd5 Bxd5 22.Qxa5 で悪い。

20.Bxf6 Bxf6 21.Qxd6 Qxd6 22.Rxd6

 最初は黒のポカだったと思うかもしれない。しかし黒はポーン損のうちの1個を取り戻すことになる。一流選手はいつも双ビショップを高く信頼するものである。

22…Nb7 23.Rd2 Rxa5 24.Rb1 Nc5 25.Nd5 Bd8

 黒はある時点でd5で駒交換をして異色ビショップの收局に持ち込みたいのかもしれないが、急ぎはしない。白はd5に絶好のナイトがありポーンも得しているが、どのように進展を図ることができるかを見通すことはカルアナにとって簡単どころではない。

26.h4!

 手始めの好手はh5の黒ポーンを固定することだった。

26…Ra3

 この手は次の手と相まって非常に積極的である。しかしたぶん最善でなかった。このあとナカムラがa列で楽観していたことがおいおい分かってくる。ここでは 26…g6!? 27.Nec3 Kg7 と自陣を整備した方が良かったかもしれない。

27.Nec3 Rca8 28.Rdd1

 すぐに 28.Nb5!? でc7とd6の地点をにらむ手もあっただろう。28…Ra2 とやってくれば 29.Nd6 Ba5 30.Nxc4 Bxd2 31.Nxd2 Rxc2 32.Nf3 で押し気味の局勢になる。

28…Ba5 29.Nb5 Ra2

 黒は動いていかなければならない。しかし白はまだ局面を支配している。

30.Bf3 g6

31.Ne7+?!

 ナイトをc6に持って来るのは奇異な印象を受ける。思うにカルアナは 31.Nd6 が 31…Bxd5 32.Rxd5 Rxc2 33.Bd1(33.Rxe5? は 33…Rxf2! があって駄目だが、33.Ra1!? は可能である)33…Rd2 34.Rxc5 Rxd6 35.Rxe5 Bb6 で異色ビショップのために引き分けになると考えたのだろうが、この手順でもまたは落ち着いた 31.Kg2!? でさえ実戦よりは良かった。

31…Kg7 32.Nc6

 白ナイトはe5に当たりになっているが、黒は代わりにc2のポーンを取ることができるし、何かもっと野心的なことをやることもできる。

32…Na4!? 33.Nd6

 カルアナは時間が少なくなってき始めていた。しかし 33.Nxe5? は 33…Bxb5 34.Rxb5 Nc3 で両当たりに引っかかることは見抜いていた。

33…Be6 34.Rb7 Rxc2

35.Nxe5

 35.Nxf7!? Bxf7 36.Nxe5 Rc7 37.Rxc7 Bxc7 38.Nxf7 Kxf7 39.Rd7+ という手を読めば、カルアナがここらあたりでどうして時間を注ぎ込んでいたかを評価するのは困難でない。さらには、35.Nxf7 は実際にはポーン得にもかかわらず白にとって何にもならないことは、35…Nc5! 36.Rb5(または 36.Re7 Bxf7 37.Nxe5 Kg8 38.Nxf7 Kf8)36…Bxf7 37.Rxa5 Rxa5 38.Nxa5 Ne6 から …Nd4 という手順を見れば分かる。

35…Nc5 36.Re7?!

 カルアナはこの手あたりまではきわめて野心的で、特に局面、持ち時間そして対戦相手を考えればそうだった。しかしここで初めて深淵に滑り込み始めた。36.Rbb1! で退却を命じる余裕はまだあり 36…Bc7 37.Nc6! となったとき黒は 37…Bxd6 38.Rxd6 Raa2 39.Rf1 Rcb2(b4での両当たりを避けた)40.e5 Bc4 41.Bd5 Bxd5 42.Rxd5 Ne4 と指すよりないが、これは 43.Ra5 で引き分けにしかすぎない。

36…Kf8 37.Nc6?!

 白は危険に気づかなかった。ここでも 37.Rxe6! Nxe6 38.Ndxf7 ならなんとかしのげたかもしれない。

37…Nb3

 黒はポーン損だが、白がf2に色々な問題を抱えているので黒キングの方が実際には安全である。

38.e5 Bb6

39.Rb7?

 普段はめったに乱れないカルアナが不意につぶれた。ここが 39.Rxe6! と取る最後の機会だった。そして 39…fxe6 40.Nd4! のあと 40…Bxd4 41.Bxa8 Bxf2+ 42.Kh2 Bd4+ 43.Bg2 Bxe5 44.Ne4 で引き分けに持ち込めたかもしれない。

39…Bxf2+ 40.Kg2?

 40.Kh1 Bxg3 41.Na7 なら極めて不自然で醜いが、即負けは避けられた。

40…Bc5+ 41.Kh1 Raa2 0-1

 白は素通しの2段目をどうしようもない。


沈んでいるように見えるけれども、ナカムラは第1シードのファビアノ・カルアナに勝って絶好のスタートをきった。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(375)

「Chess」2015年4月号(2/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

 ナカムラは 2½/3 でこのまま逃げ切るように思われたが、天王山の対決となった次の第4回戦では完全に圧倒され引きずり落とされた。

V.アーナンド – H.ナカムラ
第4回戦、クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7 4.Nf3 Nf6 5.Bf4 O-O 6.e3 Nbd7 7.c5 Nh5

 ナカムラの最大の敵カールセンは昨年のアーナンドとの番勝負第3局でクラムニク愛用のこの手を指さず 7…c6 と指して負け酷評された。

8.Bd3 Nxf4 9.exf4 b6 10.b4 a5 11.a3 c6 12.O-O Qc7

 このような陣形は二ムゾインディアンからも生じる(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 O-O 5.Nge2 d5 6.a3 Bd6 7.c5 Be7 8.b4 など)。そして近年は多くのグランドマスターの試合でその耐久性が示されている。黒が非常に堅固であることは疑いないが、明らかなことは白が陣地の広さの利から何かを絞り出すことができるとアーナンドがまだ信じているのがありありだということである。

13.g3 Ba6 14.Re1 Bf6

15.Kg2!?

 新手。アーナンドは急がずに陣形を少し改善する手を指し、その間黒がどのようにルークを展開するのか見るために手待ちした。ナカムラ自身も2010年アムステルダムでのナカムラ対ニールセン戦で 15.Bc2 Bc4 16.Qd2 Ra7 17.Ne5 axb4 18.axb4 bxc5 19.bxc5 Nxe5 20.fxe5 Be7 21.Rab1 Rfa8 22.Rb4 Bd8 と指して成果が得られなかった。

15…Bxd3

 ナカムラも陣形を変えるよりも手待ちで満足している。しかし 15…bxc5!? 16.bxc5 Nxc5 のあとアーナンドが何を考えていたのか見るのも面白かっただろう。そのあと 17.Bxh7+ Kxh7 18.dxc5 Rab8(18…Bxc3 は 19.Ng5+ Kg8 20.Qc2! で白が駒を取り返して優勢になる)19.Ne5 Kg8 なら黒が問題ないはずだろうが、白は 17.dxc5!? Bxc3 18.Bxh7+ Kh8 19.Bc2 と勝負手(または深く研究してきた手)を指したかもしれない。その意図は 19…g6 20.Re3 Bxa1 21.Qxa1+ Kg8 22.h4! で交換損の代わりに攻撃を非常に強力にすることである。

16.Qxd3 Rfb8 17.h4!

 白は役に立つ広さを確保した。クラムニクならあまり苦労せずに黒側を守ることができるだろうが、そうでない者はたとえナカムラのような世界級の選手にとってさえ容易でない。

17…Qa7

 黒はまだ融通性がある。しかし 17…bxc5!? 18.bxc5 a4 と強く指して少なくともb3に拠点をもたらすこともできた。

18.Ne2 g6 19.Rab1 axb4 20.axb4 Qa2

 ナカムラはa列を手に入れたが、アーナンドは黒が実際にはそれで大したことができないことを分かっている。その間に白はほかの7列で事を進めることができる。

21.Rec1!

 白はあわてて 21.b5 と突かないようにしながら圧力を強めた。そう突くと 21…bxc5(21…Rc8!? も可能で 22.Rec1 なら 22…bxc5 23.dxc5 cxb5 24.c6 Nb6)22.bxc6 c4 23.Qd1 Nb6 24.Ne5 Qa6 となって、cポーンがいつか落ちるのでたぶん黒は問題ないだろう。

21…bxc5

 21…Ra3? は 22.Qd1! で白の直前の手のために黒クイーンが動けないので非常に具合が悪いことになる。

22.bxc5 h5

 キング翼を閉鎖的にしたが、ナカムラほどの積極派の選手ならもうすでに別の布局を選んでいればと思ったに違いない。ここで 22…Ra3 は1手前よりも好機だっただろう。もっとも 23.Rxb8+ Nxb8 24.Qd1 Qb3 25.Qxb3 Rxb3 26.Ra1 で白がまだ優勢を保持したままで好調である。

23.Ne5

 ついに白が前進を図る時が来た。c6とg6の地点をにらむことにより交換を強制している。

23…Nxe5 24.fxe5

24…Bg7?

 ナカムラは判断を誤った。彼は明らかに不快さを感じていたが、24…Bd8! を見つけることができたはずだった。そして 25.Nf4 とくれば 25…Kg7 26.Qd1 Qa7 と応じる。しかしこれとてもそんなに快適な受けではない。例えば 27.Nh3 Qc7 28.Rxb8 Rxb8 29.Ra1 Rb5 30.g4! となれば黒キングに対する圧力が大きくなり始める。

25.Rb6 Rc8

 万全ではないが、25…Rxb6 26.cxb6 で白にとてつもないパスポーンを作らせるわけにはいかなかった。

26.Nc3 Qa7 27.Rcb1

 白にとって夢のような局面になっている。黒は右往左往する以外ほとんど何もできず、その間ひたすら白がクイーン翼で突破することもできず反対翼で強力な攻撃をしかけることもできないことを願うばかりである。

27…Qd7 28.R1b4!

 アーナンドは急がない。本譜の手は素通し列で三重駒のもくろみを可能にするものだが、決して実際にそうすることが必要なわけではない。

28…Bh6 29.Na4

 29.Qb1?! なら 29…Bd2! で黒の受けが楽になったところだが、このナイトは喜び勇んでb6に降下する。

29…Qd8 30.Ra6!

 これも好手だった。白は一組のルークを交換して残りの3駒の動く余地を作り、クイーン翼で黒の2個の受け駒を圧倒するのが希望である。

30…Kg7 31.Rb7 Rxa6 32.Qxa6 g5

 捨て鉢の手だが、黒は駒を1個損しているような状態ではほかに何もできないだろう。

33.Qe2!

 人間ならではの落ち着いた手。カルポフならこの手と試合全体を誇りとしただろう。代わりに 33.hxg5 Qxg5! 34.Rxf7+ Kxf7 35.Qxc8 Qg4 でもまだ勝勢だが、黒に不必要に反撃を与える必要はない。

33…g4

 言いなりだが、33…gxh4 34.Qxh5 とさせるわけにはいかなかった。そして 34…Rc7 なら 35.Rxc7 Qxc7 36.Qg4+ Kf8 37.Qxh4 となって、ポーン得でクイーンとナイトによる伝説的な攻撃態勢になる。

34.Qa6 Qg8

 ナカムラはクイーンを働かせる手段を見つけた。非凡な手だが形勢挽回には至らない。もっと頑強な受けは 34…Rc7 35.Qb6 Rc8 だが、36.Qa7 Ra8! 37.Rxf7+ Kg6 38.Qb7 Rb8 39.Qe7 Qxe7 40.Rxe7 Kf5 41.Nc3 となって、黒が持ちこたえるとは到底思えない。

35.Nb6 Rf8 36.Nd7 Qh7

 これが黒の狙い筋だったが、アーナンドはすべて掌握していた。

37.Nxf8 Qe4+ 38.Kh2 Kxf8 39.Rb8+ Kg7 40.Qc8 Kg6 41.Qh8! 1-0

 黒にとって不運にできていて 41…Qf3 42.Rg8+ Kf5 43.Qh7# までとなる。

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(この号続く)

2015年06月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(376)

「Chess」2015年4月号(3/4)

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チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

(クリックすると全体が表示されます)

H.ナカムラ – F.カルアナ
快速戦、第1回戦

 快速戦でさえ40手目が勝負の分かれ目となることがある。黒は交換損だが、白のキング翼の大きな割れ目のおかげで引き分けの可能性がないことはない。

40…Qb8?

 黒は 40…Qh8! を見逃した。これに対して 41.Qa7 とくるなら 41…Qh4 42.Rf1 Bd6 で、43.Qxb6?? は 43…Qf2! で白の方が負けてしまうので何も進展が図れない。

41.g5!

 陣地の拡張が決め手になった。

41…Bxh2 42.Rg4 Bd6 43.Rh4

 白はポーンを失ったがそれにもまして重要なことはルークが戦闘に加わったことで、カルアナはここから防御が効かなくなった。

43…h2 44.Qf1 Qa8 45.Kg2 Qb7 46.Qe1 Qa8 47.Re4 Qh8 48.Qh4 Qxh4 49.Rxh4 f6 50.gxf6+ Kxf6 51.Rh7 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

ヒカル・ナカムラ(左から5人目)は今年を派手な2大会連続優勝で飾った。最初はジブラルタル・オープン、そして今度はチューリヒ・チェスチャレンジだ。

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(この号続く)

2015年06月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(377)

「Chess」2015年4月号(4/4)

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あなたの棋力検定

GMダニエル・キング

 2013年の終わり頃のインタビューでヒカル・ナカムラはマグヌス・カールセンの一番の強敵であることを宣言した。彼にとっては残念なことに、2014年のこもごもの成績と、彼以外の特にファビアノ・カルアナとアレクサンドル・グリシュクの大活躍が彼の豪語を曇らせた。それに世界チャンピオンに対する悲惨な対戦成績も忘れるべきでない。正規の27試合でカールセンが11勝をあげ、ナカムラはただの1局も勝っていない。

 国内でも追い上げられている。ウェズリー・ソーは2014年にチェス国籍をフィリビンから米国チェス連盟に変えた。そしてその年大活躍し世界の10傑に仲間入りした。この21歳はナカムラの存在を脅かしている。

 しかし反撃が始まった。2014年12月のロンドン・チェスクラシックでナカムラは正規の試合では平凡な50%の勝率だったが、超強力な快速戦では他を圧倒した。そのあと1月にはジブラルタル・オープンで危なげなく優勝し、本号で報じられているようにそのあとすぐチューリヒ・チェスチャレンジに参加した。そこでの正規、快速そしてブリッツの組合わせは彼にうってつけだった。ブリッツでの一発勝負でアーナンドを破って優勝した。この三月初めの執筆時点では最新レイティングで世界第3位に復帰した。もっともマグヌス・カールセンにはまだ大差をつけられている。

 今回取り上げるのはジブラルタルでのナカムラの試合の1局である。大会の初戦は緊張するものである。選手の中には穏やかな布局で勝負の衝撃を和らげることを望む者がいる。そうでない者もいる・・・

 カードや紙でページをおおって一度に1行が見えるように少しずつ下げていくこと。テストは最初の図の直後から始まる。白の手のあと、次の行にある黒の手を推測する。実戦のようにできるだけ多くの手を読むこと。そうすればボーナス点が稼げるかもしれない。本稿は読者の普段の指し方をテストするものだが、単に好局として楽しむのもよい。

J.ボイノビッチ – H.ナカムラ
2015年ジブラルタル・オープン、オランダ防御

1.d4 f5 2.Bg5 c6 3.e3 Qb6 4.Nd2 Qxb2 5.Rb1

5…Qc3

 2点。悪名高いb2の毒入りポーンを取ったのは自信と野心の表れである。ナカムラはレイティングが相手より400点以上上回っていて、最初から活気のある試合にしたかった。それでオランダ防御の採用となった。ボイノビッチの選択は 2.Bg5 で迎え撃つことで-これ自体ややこしい手だが-黒のキング翼の円滑な展開を乱すことを目指した。

 ナカムラはすぐにこのビショップの早い展開の欠点につけ込み、弱体化したb2のポーンを攻撃した。もちろんこのポーンは4手目で 4.b3 または 4.Qc1 で守ることができた。しかしどちらの手も陣形を乱す。その上ポーンを犠牲にしてどうしていけないのか。私が白ならこの機会に飛びつくだろう。安っぽいポーンの代価として白は展開で大差をつけそれゆえに主導権を握る。いい取引だ!

 上図の局面でほとんどの選手は 5…Qc3 と指してきた。しかしある点では 5…Qa3(2点)の方が、白の 6.Ne2 が先手にならないので道理にかなっている。

 黒はもう注意しなければならない。5…Qxa2 は空威張りになるかもしれない。ボーナス点がもらえるから白の勝ち方を考えよ。答えは以下の行にある。

 白が 6.Bc4 や 6.Ra1 と応じれば黒はクイーンを引いて戦利品を食い逃げする。

 しかし 6.Nc4 なら勝着になる。白が Ra1 を狙っているので黒は 6…Qa4 と指さなければならない。そしてここで白には二通りの手がある。まずは 7.Qc1 で、7…d5 8.Ra1 Qb4+ 9.c3 Qb3 10.Ra3 で、ルークと小駒の代わりにクイーンが取れる。もう一つの 7.e4! の方がはるかに良い手で、ビショップをd2に引き戻す用意をしている。そのあとは 7…e6(7…fxe4 なら 8.Ra1 Qb4+ 9.Bd2 Qb5 10.Ra5)8.Bd2 b5 9.Ra1 となる。

 6.Nc4 を読んだら2点追加、7.e4 または 7.Qc1 も読んだらさらに2点追加。

6.g4

 白はなんとかしてキング翼に素通し列を作ろうとしている。そして黒は既にh5-e8の斜筋が弱体化しているのでこの手は確かに黒にとって油断のならない手である。

 6.Ne2 Qa5 7.Nf4 または 6.Bd3 g6 7.Ngf3 と指す方が好きな者もいるだろう。どちらの場合も白はキャッスリングしてから攻撃を始めるので、白キングは必ず黒キングより安全である。

6…Qa5

 1点。この手は重圧の下では一流の選手といえどもひるむことがあることを示していると思う。

 6…fxg4!(3点)が最善手である。7.Qxg4 と取ってくれば 7…Qxc2 が強欲だが良い手である。このクイーンは白駒を縛りつけているが、防御のためにするりと戻ってくることもできる。白は 7.Rb3 と指すこともできるが、7…Qa5 8.Qxg4 Nf6 で黒は展開できていて実戦の進行よりはるかに良い。

7.gxf5

7…Qxf5

 1点

8.h4

 この手は危険だった。8.Ngf3 から Bd3 というように駒を戦いに投入する方が利点が多かった。

8…Qa5

 1点。ごたごたになるのを避け、再びナイトを釘付けにする位置に戻った。8…Nf6(1点)も理にかなった手である。

9.Nh3

9…g6

 1点。これは挑発的な手で、白のhポーンに目標を与えている。もっともこのあと分かるようにナカムラにはうまい考えがあった。

 ナカムラが駒を動かそうとしないのはまったく異例である。私なら 9…Nf6 または 9…Na6 と指したかもしれないし、9…b6 から …Ba6 とさえ指したかもしれない。これらのどの手でも1点である。どの場合でも黒は猛攻をしのぐ覚悟をしなければならない。

10.Bd3

 黒は 10.h5 には 10…h6 11.Bf4 g5 でキング翼を閉鎖しておく用意ができている。

10…d6

 3点。テスト開始以来私が本当にいいと思った黒の手はこれが初めてである。b7のポーンが当たりになっているので黒はまだc8のビショップを展開することができない。しかしこのビショップは少なくとも斜筋の重要な地点に利いている。

 代わりに 10…Bg7 なら 11.h5 で問題が発生する。

 10…Nf6(1点)は 11.Nf4 d6 12.Rg1 で h4-h5 を狙われるかもしれない。

11.Qf3

 白は黒キングの周囲の危険地帯に戦力を集結させている。

11…Nd7

 3点。やっと駒が戦いに加わった。たぶん一番活動的な地点ではないが、始まりではある。

 11…Bg7 はやはりうまくない。このビショップはここでは 12.h5 でいくらか攻撃にさらされる。

12.h5

 かみつきが始まった。

12…Ndf6

 5点。この時点までにはこれがキングの安全を保証する唯一の手段になっていた。変化を少し考えてみよう。

 a)12…gxh5 13.Qxh5+ Kd8 14.Bxe7+ は黒クイーンが取られる。

 b)12…Bg7 13.hxg6 hxg6 14.Bxg6+ Kd8 15.Qf7 は黒への圧力が強すぎる。

 c)12…Ngf6 13.hxg6 hxg6 14.Bxg6+ Kd8 15.Nf4 Rxh1+ 16.Qxh1 はh列とe6に白の狙いが残る。黒はすべてを守りきることはできない。

13.hxg6

13…hxg6

 1点

14.Bxg6+

14…Kd8

 1点

15.Bf4

15…Kc7

 4点。黒はキングの小行進を完了し盤面を眺めまわしてみる頃合いである。ナカムラはキング翼を支えようとする代わりにあっさりそこを放棄して退避した。特筆すべきはナカムラが明らかに何手か前からこの着想を描き、黒がこの捌きを必要とするだけでなく実行するのが望ましいとさえ認識していたことである。控え目に配置されたクイーン翼のポーンはキングの絶好の囲いになる。黒のナイトは不如意に見えるが、実際はキング翼をまとめている。そしてポーン交換は魔法のようにh8のルークを戦いに参加させた。

16.Ng5

16…Rxh1+

 1点。良い手だが、16…Bg4(2点)の方がずっと良かった。17.Qg2 Rxh1+ 18.Qxh1 には 18…Nxd5 が読み筋で、19.Bg3 なら 19…Nc3! でg5のナイトとb1のルークが当たりになり、19.Qh8 なら 19…Ngf6 で全部守っている(ビショップはルークがf8のビショップに利くようにc8から動かなければならなかった)。

17.Qxh1

17…Bh6

 1点。白クイーンが入ってこないようにするとともに、ナイトに脅威を与えている。

18.Qh4

18…Bd7

 1点。どちらのキングの方が安全なのだろうか。

19.Bd3

 白駒のほとんどはキング翼に向けられているが、黒はある意味でその方面を見捨てたので、それらの駒はほとんど目的を見失っている。

19…Nd5

 3点。形勢が一変した。20.Bg3 は 20…Nc3 で負けるので白が困っている。

20.Ne6+

20…Bxe6

 1点

21.Bxh6

21…Nc3

 2点。ルークを僻地に追いやる。

22.Ra1

22…Qb4

 2点。これは良い作戦だが、22…Nf6(4点)の方が痛烈だっただろう。黒の狙いは …Rg8 による白キングへの決定的な攻撃である。黒がキング翼で、正確には以前に蹂躙された方面で、主導権を奪い取るのは何か詩的なものがある。

23.Kf1

23…Nxa2

 1点

 23…Nxh6(3点)の方が強手で、24.Qxh6 Qb2 25.Re1 Qxa2 となれば明らかに優勢である。c3のナイトはモンスターで、黒クイーンは白クイーンをはねつけるためにキング翼に取って返すことができる。

24.Rd1

 白は黒をもう少し閉じ込めておく機会を逃した。その手は 24.Ne4 で、24…Qb2 なら 25.Re1 Nb4 26.Bg5 と進み、黒の方が優勢なのは確かだがg8のナイトが戦いに参加していないのが気にかかる。

24…Nc3

 2点。ナイトが絶好の地点に先手で戻った。

25.Re1

25…Nxh6

 1点。この手は良い手で、単純で、実戦的である。しかし最善手ではない。ナカムラがきちんと読んでいたら、aポーンの進軍に応手がないことが見えただろう。25…a5(3点)26.Bg5 a4 27.Bxe7 a3 で、黒キングは安泰である。

26.Qxh6

26…Bd7

 1点。鉄壁の固さである。白は黒キングに迫るすべがない。

27.f3

27…a5

 3点。これは最も単刀直入な作戦である。黒は 27…Rg8(1点)と指すこともできたが、この時点では不必要に手間がかかる感じである。

28.Kf2

28…a4

 1点

29.Qg5

29…Rh8

 3点。白に自分のキングが危ういことを思い出させた。30.Qxe7 なら 30…Nd5 でd2のナイトが落ちる。

 ここでは黒に多くの選択肢があった。盤の両側を支配しているのでほとんど驚くに当たらない。どうして 29…a3(2点)で少し前からの作戦を続けないのだろうか。悪くはないのだが、白が 30.Nb3 と指すとどのようにして防御を打ち破るのかすぐには判然としない。

 私は 29…Nd5(3点)という手が大好きである。ナイトが当たりになっているので 30.Ne4 だが、それなら 30…a3 でこのポーンを止めるのが難しい。

 29…Qa5 と 29…Ra5(共に1点)も良い。もっともどちらの場合も白クイーンがh4に下がるので黒はまた考えなければならない。

30.Qg3

30…Nd5

 1点。この手は前手のときだけでなくここでも成立する。

 30…Rh3(1点)も私の好きな手で、白クイーンをずっと不利な地点に押し込める。

 30…a3(1点)でも良さそうで、31.Nb3 なら 31…Be6 がぴったりの応手となる。

31.Rd1

31…c5

 2点。白駒が受けに縛りつけられている間に、ナカムラは敵陣の急所を突く新たな手段を見つけた。

 30…a3(2点)はまだ良い手である。

32.Bc4

 代わりに 32.dxc5 は 32…Qxc5 でe3の地点が弱点になる。

32…Nc3

 1点。簡明に指した。

 32…cxd4(1点)でも勝ちだった。33.Bxd5 なら 33…dxe3+ で(まず手始めに)駒を取り返すし、33.exd4 なら黒はc4のビショップを戻すだけで良く 33…Bb5 で目的を達する。

33.Re1

33…b5 0-1

 2点。この手が最善手である。34.Bd3 なら 34…cxd4 で黒は2ポーン得で陣形もまとまっていてaポーンはいつでも前進でき、白キングは弱い。白は投げ時である。

 私にはナカムラが本気になって指していない印象を受けた。この試合は第一回戦で彼は格下と当たり、試合のほとんどの間不当に気を抜いてはいなかった。b2のポーンに食いつくときには少し面倒なことになるかもしれないことをよくわきまえていたし、その瞬間は早くやって来た。その時に少なくとも少しの手の間彼の脳は最高潮に活動し、キング翼を放棄しキングを危険から抜け出させる作戦は予期しないものだったが賢明だった。

 白はもっとうまく指せたのだろうか。そうかもしれない。ナカムラが10手目を指した局面に戻ってみよう。11.Qf3 の代わりにボイノビッチは 11.h5 と突くことができた。

 私は両者が実際にはこのhポーンを突くことができることを読めなかったのではないかと思っている。実のところ私もコンピュータ画面の片隅でチェスソフトを走らせていなかったら 11…Bxh3 12.Rxh3 Qxg5 から先を読まなかった。黒は駒得だが、13.Rxb7 のあとジレンマに陥る。白は Qb1 で駒得(…Nd7 には Rxd7 から Qb7+ がある)とh列での釘付けを利用して hxg6 と取る手を狙っている。黒は白枡ビショップをなくしているので陣形が急に危うそうに見える。

 黒はビショップを取る代わりに 11…Nd7 と指すことができる。やはり 12.hxg6 hxg6 13.Bxg6+ Kd8 は黒が良い。しかしなかなか気づきにくいのは 12.Rg1 である。この手はビショップを守り、そのことによりナイトを自由にして、黒を困らせるのに絶好のf4に行けるようにしている。ビショップがg6に行くよりナイトがg6に行く方が黒にとって危険である。

 それではナカムラは幸運だったのだろうか。いや、そうではない。彼はこのような大会に長けていて、格下の選手に対してはいつどのように勝負にでたら良いかよくわきまえている。しかし2700の相手にはこのような指し方をしただろうか。そうは思われない。

それでは点数を合計しなさい。
0~16点 ツキがなかった
17~33点 クラブの平均的な選手
34~43点 クラブの強豪選手
44~51点 FIDEマスター
52~58点 国際マスター
59~65点 グランドマスター

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(この号終わり)

2015年07月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(378)

「Chess Life」2015年4月号(1/1)

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2015年トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

 GMヒカル・ナカムラはトレードワイズ・ジブラルタル・マスターズで二度目の優勝を飾った。前回の優勝は2008年で、1月25日のツィッターでは参加の喜びを「あれから何年もたったがジブラルタルに戻ってきてとても良かった」と書いていた。

 ナカムラはクイーン翼ギャンビットに対して急戦型を指した。この戦型では黒は戦力損の代価としてギャンビット・ポーンにしがみつく。ナカムラはすぐに主導権を握り、布局を過ぎたばかりでモンスターのような進攻したパスポーン対を作り出したが、相手に立ち直らせてしまった。彼はこの大会での優勝で世界第7位に急上昇した。(ジョン・ソーンダーズ)


GMヒカル・ナカムラはジブラルタルでの優勝を足場にチューリヒに行き、即時のレイティングで2800の壁を突破して世界第3位に躍り出た。詳報は5月号で。

解説 GMイアン・ロジャーズ

クイーン翼ギャンビット受諾 (D20)
GMバスカラン・アドヒバン(FIDE2630、インド)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2776、米国)

ジブラルタル・マスターズ第5回戦、2015年1月31日

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4 b5!?

 ナカムラは「珍しい手。今年までは」と言った。「今日の定跡の進展は、誰かがある布局でうまくいくと皆が取り組むようだ。」

4.a4 c6 5.Nc3 a6!

 かつては 5…b4 が必須だと考えられていた。最近はそのあと 6.Nce2!? が黒にとって問題になってきた。

6.axb5 cxb5! 7.Nxb5 axb5 8.Rxa8 Bb7

 ナカムラは「スラブ防御にこの交換損の戦型がある」と言って有名なアロニアン対マクシェーン戦に触れた。「相手はまったく予期していなくて驚いたと思う。もっともこちらはドバイでの世界快速ブリッツ選手権戦で指したことがあった。」

9.Ra1 e6 10.Ne2!?

 ナカムラは「10.f3、10.Be2 それに 10.Nf3 は読んでいた。でも相手はほとんど即座にこの手を指した」と言った。

10…Bxe4 11.b3

 ナカムラは「白はここで間違えた。もっとも 11.Nc3 Bb4 12.Be2 Nf6 でも黒は好調だと思う」と解説した。

11…Nc6

12.Nc3?

 「これでは白は敗勢に近いと思う」とナカムラは言った。「12.bxc4! Nb4 13.Nc3 Nc2+ 14.Ke2 Nxd4+ 15.Ke3 だったらわけが分からなかった。」

「黒の勝ちか白の勝ちのどちらかだ。しかしこちらはこういくしかなかった。」ナカムラは 15…Bc5 を考えていたが 16.Nxe4! が強力な応手となることを軽視していた。「15.Ke3 のあとばからしい千日手のせいでコンピュータは形勢が 0.00 だと言いそうで嫌な予感がしていた。」とナカムラはつけ加えたが、彼の言うことはまったく正しかった。コンピュータの分析によると 15.Ke3 のあと 15…Nf6!? 16.Qxd4 Ng4+ 17.Kxe4 f5+ 18.Kd3 Nxf2+ 19.Ke3 Ng4+ で本当に引き分けになる。ナカムラが恐れていたとおりのばからしい千日手である。

12…Bb4 13.Bd2 Bxc3 14.Bxc3 b4 15.d5

 「変化の余地はない」とナカムラは言った。15.Bd2 は 15…c3 16.Be3 Nge7 となってc3のポーンの存在がとてつもなく大きい。

15…bxc3 16.dxc6 Qxd1+ 17.Kxd1 cxb3 18.c7

18…Kd7

 「とんでもないポカ」とナカムラはかなり辛辣に言った。「18…Kd7 のあとでもまだ勝ちだが、18…Ne7! なら 19.Bb5+ Kf8 20.Ke2 b2 21.Rad1 g5

となって実戦よりはるかに簡単だった。二人とも 22.Rd8+(22.Bd3 には 22…Bb7 のあと …Kg7、…Nd5 から …Rc8 があり白はc3のポーンを攻撃するのが間に合わない)22…Kg7 23.Bd3 で白がいいと考えていた。しかし共に 23…c2! を見落としていて黒が完全に勝勢だった。」

19.Ra3!

 「これで面倒なことになった」とナカムラは言った。

19…b2 20.c8=Q+ Kxc8 21.Rxc3+ Kd7 22.Bd3 b1=Q+ 23.Bxb1 Bxb1 24.Rb3 Be4 25.Rb8

25…g5?!

 「客観的にはこれで引き分けになった」とナカムラは言った。「25…Bc6 と指すべきだった。26.Ke2 Ke7 27.Rc1 Be8 28.Rc7+ Kf8 で勝つはずだ。」

26.Ke2 Ke7

27.h4?

 ナカムラは「これが敗着だ」と言った。「27.Rc1 なら 27…Kf6 28.Rcc8 Kg7 29.f3 Bf5 30.g4 Bg6 31.Re8

となってこちらは絶対駒をほぐせない。」黒にとっての問題は 31…h5 に 32.h4! hxg4 33.hxg5 という応手があって黒ナイトが自陣から出られないことである。

27…gxh4 28.Rxh4 Bc6 29.Rc4 Be8 30.Rc7+ Kd6 31.Ra7

31…Ne7!

 ナカムラは「当初の予定は 31…Nf6 32.Rxf7 Rg8 だった。しかし 33.Rxf6! Bh5+ 34.g4! Bxg4+ 35.f3 Bxf3+ 36.Kxf3 Rxb8 37.Rh6

となるとややこしいが引き分けにしかならないルーク收局だと思う」と言った。

32.Rd8+ Ke5 33.Rb7 Kf6 34.Rdb8

 ナカムラは「34.Rbb8 なら 34…Bb5+! でd8のルークが当たりになっている」と解説した。

34…Ng6 35.Rb6 h5 36.f3 Ba4

 「あとはかなり楽だった」とナカムラは言った。

37.Rxh8 Nxh8

38.Ke3 Ng6 39.Ra6 Bb3 40.Ra5 Bd5 41.Ra7 e5 42.Ra5 Be6 43.Rb5 h4 44.Rb1 Kg5 45.Rb5 f6 46.Rb7 Nf4 47.Kf2 Nh5 48.Rb6 Bf5 49.Rb8 Bg6 50.Rb4 Nf4 51.Ra4 Bf7 52.Ra7 Kg6 53.Ra1 Bd5 54.Rd1 Kg5 55.Rd2 f5 白投了

 ナカムラは「完璧とはほど遠いがうまく指せた」と語った。


GMバスカラン・アドヒバンと対局中のナカムラ

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2015年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(379)

「Chess Life」2015年5月号(1/3)

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2015年チューリヒ・チェスチャレンジ


ナカムラはチューリヒでの優勝できっちり世界の5強に復帰し、わずかな期間だが3強にも入った。

解説 GMイアン・ロジャーズ

対称イギリス布局 (A33)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2776、米国)
GMセルゲイ・カリャーキン(FIDE2760、ロシア)

2015年チューリヒ・チェスチャレンジ第3回戦、2015年2月16日

1.Nf3 Nf6 2.c4 c5 3.Nc3 Nc6 4.d4 cxd4 5.Nxd4 e6 6.g3 Qb6 7.Ndb5

 この手はほとんど 7.Nb3 に取って代わった。GMビクトル・コルチノイは1970年代にこの手で好成績をあげた。

7…Ne5 8.Bf4 Nfg4 9.Qa4!?

 アロニアンの衝撃的な着想。2008年が初めてだったが、今では研究が進んでいる。

9…g5!

 すぐ目につく 9…Qxf2+ は大乱戦になるが、白が優勢になると見られる。10.Kd2! Qb6(10…Qc5 は 11.Ne4 Qb6 12.Bh3 Nf6 13.Nec3 で黒がまずい)11.h3 g5 12.Bxg5 で白キングが意外なほど安全で、黒はナイトに問題を抱えている。

10.Bxe5 Qxf2+! 11.Kd1 Nxe5 12.Nc7+ Kd8 13.Nxa8 Qd4+ 14.Kc2 Nxc4

15.e4!

 ナカムラは「昔ならこれがいかにすごい研究手順かの話をとくとくとすることができた。しかしコンピュータのある今ではこの手順は明日からは使えないと知っている」と認めた。カールセンは2009年の試合で 15.Kb3 Nd2+ 16.Kc2 Nc4 とためらい、引き分けに甘んじた。

15…Ne3+?

 カリャーキンはこの手順を何か月も前から研究していたが、黒の防御手順の一つだけは思い出すことができなかった。15…Qd2+ 16.Kb3 Qxb2+ 17.Kxc4 Bg7(ナカムラ「黒が人間らしい手の 17…d5+ を指すことを期待していた。それなら 18.Kd3 Bg7 19.Ne2 で白の方がはるかに優勢だと思う」)18.Qa5+(ナカムラは「カリャーキンは 18.Qb3 を心配していたと言ったが、18…Qxa1 19.Bg2 Qxc3+ 20.Qxc3 b5+! 21.Kb3 Bxc3 22.Kxc3 Bb7 でたぶん黒が勝つとも指摘していた」と話した。)18…b6 19.Qxg5+ f6! 20.Qb5

20…Ba6!! 21.Qxa6 f5! これで白は引き分けが避けられない。ナカムラは「これは対局前に知っていた」と言った。「コンピュータはどの変化でも0.00と評価していた。しかし彼が研究していなければ、引き分けの一本道の手順を見つけ出すのはとてもあり得ないと考えていた。」

16.Kb3 Qd2 17.a3!

 ナカムラは「彼が 17.a3 を見落としたのかと思っていた」と言った。「というのはここで彼が長考し始めたからだ。」

17…Qc2+ 18.Ka2 Qxa4 19.Nxa4 Nxf1 20.Rhxf1 b5

 黒は戦力損の一部を取り返すが、ナカムラは積極的な指し方で優勢を維持する。

21.N4b6! axb6 22.Nxb6 Bb7 23.Rxf7 Bc6 24.Rd1

24…Be7

 「24…Ke8 には 25.Rfxd7! Bxd7 26.Rxd7 と指すつもりだった」とナカムラは言った。「なぜなら黒はルークを使うことさえできないからだ。」

25.Rf3!

 ナカムラは「当初は 25.Nc8 と指すつもりだった。しかしそのあと 25…Bc5 26.b4 Kxc8 27.bxc5 g4! で白が勝つのはそう容易でないと思った」ことを認めた。

25…Kc7

 ナカムラは「25…Rf8 なら 26.Rc3! Ke8 27.Nxd7! Bxd7 28.Rc7 で白が勝つ」と読み筋を披露した。

26.Nxd7! Rd8

 26…Bxd7 は 27.Rc3+ で負ける。

27.Rc3! 黒投了

 27…Rxd7 と取っても 28.Rdc1 Rd6 29.e5 で取り返されるので黒は投了した。

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(この号続く)

2015年07月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5

「ヒカルのチェス」(380)

「Chess Life」2015年5月号(2/3)

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2015年チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

クイーン翼ギャンビット拒否 (D37)
GMビスワーナターン・アーナンド(FIDE2797、インド)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2776、米国)

2015年チューリヒ・チェスチャレンジ第4回戦、2015年2月17日

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7 4.Nf3 Nf6 5.Bf4 O-O 6.e3 Nbd7 7.c5!?

7…Nh5

 アーナンドは2014年世界選手権戦でカールセンから 7…c6 8.Bd3 の戦型で1勝をあげた。

8.Bd3 Nxf4 9.exf4 b6 10.b4 a5 11.a3 c6 12.O-O Qc7 13.g3 Ba6

14.Re1

 バシエ・ラグラーブは少し前の週のベイクアーンゼーでのラジャーボフ戦でもっと果敢に 14.Bxa6 Rxa6 15.Qe2 Rfa8 16.b5 と指したが、何も成果があげられなかった。

14…Bf6 15.Kg2 Bxd3 16.Qxd3 Rfb8 17.h4 Qa7

18.Ne2!?

 ナカムラは「白が先に 18.Rab1 と指せばこちらは 18…axb4 19.axb4 Qa3 と指す」と解説した。アーナンドは 20.Qc2 を示したが、そのあと 20…bxc5 21.bxc5 Rxb1 22.Nxb1(22.Rxb1? Nxc5!)22…Qb4 となって「黒が全然悪くないはずだ」とナカムラが応じた。

18…g6?!

 アーナンド「相手に 18…axb4 19.axb4 Qxa1 20.Rxa1 Rxa1 と指すようお願いしているようなものだった。しかしこれは 21.b5 cxb5 22.Qxb5 Ra7 23.c6 Nf8 で白の方が良いかもしれない。あまり気にしていなかったというわけじゃない。(白に)何か手があるんじゃないかと思っていた。」ナカムラ「18…g6 と指したとたんポカだと思ってしまい、そのあと立ち直れなかった。a1での交換を選ばなかったあとは気が狂ったような感じだった。」

19.Rab1 axb4 20.axb4 Qa2 21.Rec1 bxc5 22.bxc5 h5?!

 ナカムラ「ポカだった。これでキング翼が固定されたが、あとで …f6 と打って出るのがより難しくなった。」

23.Ne5

23…Nxe5

 ナカムラ「このような收局ではナイトは全然欲しくない。いつもビショップが欲しい。」アーナンド「そう、18…g6 のあとそちらのナイトは行き場所がない。…Nf8-g6-e7 と行けなくなった。例えば 23…Bxe5 24.fxe5 Rxb1 25.Rxb1 Rb8 26.Rxb8+ Nxb8 は黒にとって何よりもやってみる価値がある。しかし 27.Nf4 Kg7 28.g4! hxg4 29.h5! で白はe6で取ることを狙ってうまくいく。」

24.fxe5 Bg7?

 アーナンド「黒は単に 24…Bd8! と引けなかったのか? 25.Nf4 Kg7 のあと 26.g4? とは突けない。26…Bxh4! と取られてf2が当たりになるからだ。」ナカムラ「そう、(キング翼を守る)余裕があるなら黒が良い。」

25.Rb6!

 アーナンド「ここでは胸が高鳴り始めた。大きな1手だと思った。」

25…Rc8

 ナカムラ「b6で取れると思っていた。しかし 25…Rxb6 26.cxb6 Qa4 のあと 27.Rb1! で白の勝ちになることに気づいた。例えば 27…Rb8 には 28.Qb3! から Nf4-d3 がある。」

26.Nc3 Qa7 27.Rcb1

 アーナンド「これで基本的に黒の負けが決まった。もっとも黒はあとでキング翼で反撃できるかもしれない。」

27…Qd7 28.R1b4 Bh6 29.Na4 Qd8 30.Ra6 Kg7 31.Rb7 Rxa6 32.Qxa6 g5 33.Qe2 g4 34.Qa6 Qg8 35.Nb6 Rf8 36.Nd7

36…Qh7

 アーナンド「36…Ra8 を予想していた。37.Qxc6 には 37…Ra2! 38.Nf6 Be3! があっておかしくしてしまうからだ。だから予定は 37.Ra7! Rxa7 38.Qxa7 Qh7(38…Kg6 39.Nf6 Qc8 40.Qa2! も黒が絶望)39.Nf6 で、黒はe4でチェックがなく、39…Qd3 40.Qb8! でちょうど白の勝ちになる。」

37.Nxf8 Qe4+ 38.Kh2 Kxf8 39.Rb8+ Kg7 40.Qc8 Kg6 41.Qh8 黒投了

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(この号続く)

2015年07月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(381)

「Chess Life」2015年5月号(3/3)

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2015年チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

名ばかりの要塞
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2844、米国)
GMビスワーナターン・アーナンド(FIDE2808、インド)

2015年チューリヒ・チェスチャレンジ快速第4回戦、2015年2月19日

 アーナンドはナイトをc5とf8に行ったり来たりさせていた。ここでも 47…Nc5 と指していたらナカムラは敵陣を突破するのにまだまだ苦労していただろう。しかしアーナンドの指した手は不注意だった。

47…Nb6?!

 に対して

48.f5!

 で白駒の働きが非常に良くなり始めた。

48…exf5

 すぐに 48…Nxa4 と取る抵抗の方が手ごわいが、49.fxe6 fxe6 50.Qg6 Nc5 51.Nd4 Re7 52.Nc6!

で黒が困っている。

49.Qxf5 Nxa4 50.Rd7! Rxd7 51.Qxd7 Nb6 52.Qb7 Bc5

 一見したところでは黒がすべてうまく治めている。しかしここで白ナイトが参戦し決定的な戦果をあげる。

53.e6! fxe6 54.Ne5 Rf8 55.Qc6 Bd4 56.Qxe6+ Kh7 57.Qd6! 黒投了

 黒は 57…Bxe5 58.Qxf8 Bf6 で新たな要塞を築こうとしても駄目である。59.Qc5! のあとチェックでナイトが取られる。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2015年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(382)

「Chess」2015年5月号(1/2)

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基本の復習

 ニック・アイベルが立ち返るのはバンチューラの局面の重要な着想

 記憶力の良い読者は本誌の2012年10月号で取り上げたバンチューラの局面を思い出すかもしれない。この巧妙な收局がまた話題になったのは嬉しい。ソファーでくつろぎながら最近のジブラルタル大会の実況の指し手を見ていると次の心躍る局面が現れた。

D.ハウエル - H.ナカムラ
ジブラルタル、2015年

 ハウエルは首位を突っ走るナカムラを相手に獅子奮迅の防御をしてきた。しかし引き分けが見えてきたここでためになる間違いをおかした。

1.Kb2?

 考え方は正しかったが、やり方が間違っていた。引き分ける手段は 1.Rd3+! Ke4(1…Ke2 は 2.Rd2+ で意味がない)2.Rc3! h4 3.Kb2 h3 でバンチューラの局面になる。これは理論的に引き分けで、あとでもっと詳しく説明する。この手順で重要なのは黒がルークの位置を改善できないということである。3…Rf1 には素抜き(4.Rc4+)があるし、3…Rd1 なら単純に 4.Rh3 でポーンを取られる。黒は 2…Ra1 で働かせようとすることもできるが、それなら白は 3.Kd2 でポーンに近づくことができ簡単な引き分けが見えてくる。防御側のキングがクイーンへの昇格枡に近づくことができると引き分けが明々白々になる。

1…h4

 自然な良い手である。

2.Rd4

 ポーンを見張った。この型の局面では背後からチェックするのは良くない。なぜならチェックされたキングが容易にh2に隠れることができるからである。横からのチェックだけが白を救うことができる。

2…Ke3?

 この手は不可解で、ナカムラがジブラルタルで指した数少ない悪手の一つである。戦いのプレッシャー、そしてたぶん疲労が影響したことは容易に想像がつく。時間が大きな要因だったとは思えない。というのはナカムラが「持ち時間の増分で指して」いたのを思い出せないからである。

 2…Kg3! でルークを …Rf1 から働かせることを狙えば黒が勝っていた。要点は防御側のルークがチェックし続けるのに必要な間隔を保っていないということである。これはルークとキングの間が2枡離れていれば十分という通常の規則に対する例外である。だから 3.Rd3+ Kf2 4.Rd2+(または 4.Rd4 h3 5.Rd3 h2 6.Rd2+ Ke3 7.Rg2 Rb1+)4…Ke3 で黒がルークを働かせることができ决まる。

 5.Rd8 は 5…Rg1 6.Rh8 Rg4 で黒がキングをg2に持ってきてポーンを突き進めることができる。5.Rc2 なら 5…Rf1 6.Rh2 Rf4 で黒の勝ちになる[訳注 6…Rf2+]。黒ポーンが横から守られるようになれば白は困難に陥る。

3.Rc4!

 黒はもう二度とルークを働かせる機会が得られない。白の危機は去った。

3…h3

 これよりましな手はない。黒ルークはポーンの守りに縛りつけられている。

4.Rc3+ Kd4 5.Rg3

 このルークは3段目にいることが大事である。これで黒は進展を図ることができない。

5…Rh2+ 6.Ka1 Rh1+ ½ – ½

 ナカムラは泣く泣く引き分けに同意するしかなかった。この收局での彼の指し手はへぼかった。マグヌス・カールセンに挑もうと真剣に考えているなら收局についてもっと勉強する必要があるだろう。私の見方ではカールセンは收局の最高の選手である。

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(この号続く)

2015年08月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(383)

「Chess」2015年5月号(2/2)

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基本の復習(続き)

 最終局面をもっと詳しく見てみよう。

 ナカムラがとことんまで指すことにしたらどうなっていただろうか。黒には勝とうとする試みが二つある。それらがどのようにくじかれるのか見てみよう。

7.Ka2 Ke4 8.Kb2 Kf4 9.Rc3 Kg4

 これがどんな教科書にも見られる典型的なバンキューラの局面である。黒はここで …Rf1 でクイーンに昇格する枡を空け、キングを横からのチェックから保護することを狙っている。

10.Rc4+!

 これが眼目の手である。白には黒キングを追い払うためのチェックの距離がある。

10…Kf5 11.Rc3

 ポーンを見張っている。

11…h2

 これが勝とうとする二番目の試みである。

12.Rh3!

 12.Rc2? では 12…Rb1+ で負けになる。クイーン対ルークの收局は公園での散歩とは違うが、本稿の範囲外である。

12…Kg4 13.Rh8 Kg3 14.Rg8+ Kf4 15.Rh8

 引き分けが確定した。重要な主眼点が出てきた。攻撃側がしたいことはクイーンへの昇格枡をふさいでいるルークの位置を改善することである。防御側は急所の場面でチェックして敵キングを追い払うことによりそれを防ぐ。

 最近の本稿は「基本の復習」への助言で締めくくるのが恒例になっていて今回もそうする。私が最初にルークとポーンの收局に興味を持ったのは、ハウエル対ナカムラ戦の終局のような局面を研究している時だった。

 白キングは隅に押し込められている。どこに前進してもチェックされるし、1.Kc2 は 1…Ra1 で素抜きのえじきになる。子どもの頃私が魅了されたのはこの素抜きだった。興味があるのは戦術だけで、大局観のあやには興味がなかった(今でも変わっていないと言われるかもしれない)。ルーク收局の良い所は戦術が決して表面のずっと下に隠れていないことである。

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(この号終わり)

2015年08月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(384)

「Chess」2015年6月号(1/4)

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ナカムラが4度目の米国選手権

G.カームスキー対H.ナカムラ
第3回戦

 白は窮地に立たされていて、ポーンを2個損しキングの薄みが目立つ。55.Nxc4 は 55…Qxd8 56.Nxb2 Bf3 でほとんど絶望なので、カームスキーは一発にかけた。

55.Nf7!? Rxc2?

 考えすぎ。ナカムラは白枡の支配を頼みにしているが、実は手段があった。55…Qc5 で白のあらゆる手段を封じた方が良かったかもしれない。56.Kxh1(56.Nxh6+ Kg7 57.Qd1 Bc6 も白に何もさせない)56…Kxf7 57.Qe2 なら黒は 57…Ke7 で陣形をまとめてあまり苦労なく勝てるはずである。

 さらには黒がすこし派手にやりたいなら 55…Kxf7!? 56.Rxd5 Bxd5 もあるかもしれない。双ビショップとパスcポーンは白クイーンの手に負えないはずである。

56.Rxd5 Bxd5 57.Qb1!

 試合開始後6時間目も終わり近くになって我々が皆見落とすような手も彼等には当然の手である。

57…Kxf7

 要塞を作ることにしたのは賢明だった。代わりに 57…Be4 は 58.Nd6 Bxd6 59.exd6 Kf7 となってパスdポーンが少し厄介そうに見えるが、陰険なコンピュータチェスはあくまで好みの「0.00」を表示する。

58.Qxc2 Kg7 59.Qd2 Bb4 60.Qd4 c3 ½ – ½

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(この号続く)

2015年08月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(385)

「Chess」2015年6月号(2/4)

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ナカムラが4度目の米国選手権(続き)


優勝者への巨大小切手に比べるとヒカル・ナカムラはかなり小さく見える。レックス・シンクフィールドとジェニファー・シャヘードが新チャンピオンのためにそれを持ってあげていて、審判長のトニー・リッチが満足げに眺めている。

D.ナローディツキー対H.ナカムラ
第5回戦、シチリア防御ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Bc4 O-O 9.Bb3 Bd7 10.h4 h5 11.Qd2

11…Qa5?!

 恐らくナカムラはナローディツキーを定跡からはずすために指したのであろうが、…Qa5 を …h5 と組み合わせるのは長い間少し疑問と考えられてきた。代わりに 11…Rc8 12.O-O-O Ne5 なら有名なソルティス戦法の主手順に至る。これはガーウェイン・ジョーンズが Quality Chess 社から出すことになっているドラゴン戦法で取り上げられる。

12.O-O-O Rfc8 13.Kb1 Ne5 14.Bg5!

 純正ソルティスからの類推で指された。白はこれでfポーンを突いていく用意ができたので、ナカムラは交換損をして局面の流れを変えることにする。

14…Rxc3!? 15.Qxc3

 15.bxc3?! Rc8 16.Rhe1 b5 で黒に確かな攻撃の可能性を与えるよりは、クイーンをなくす方が正しいはずである。

15…Qxc3 16.bxc3 a5!?

 ナカムラは白に問題を課し続けるが、それでも客観的には交換損の代償が十分でない。白がgポーンかhポーンのどちらかを失っていれば、黒は立派な代償を得ていることになるが、そうではないので白がいつかは余分のルークにものを言わせることができるはずと考えていいかもしれない。

17.a3

 代わりに 17.a4!? なら実戦で起こるように黒がc4の地点で抑え込むのを防いでいた。そして 17…Rc8 18.Kb2 Nc4+ 19.Bxc4 Rxc4 20.Ra1 となれば白乗りだが局面はまだかなり難解である。

17…Rc8 18.Kb2 Kf8

 役に立ちそうな手待ち。事実上白に作戦を見つけるよう促している。

19.Ne2?!

 これが最初のつまづきだった。セントルイスでの一般向けの優れた解説で指摘されたように、19.Rhe1 の方が自然な手で、f3-f4 から e4-e5 で列をこじ開け素通しにする。

19…Bb5

20.Nd4

 自分の間違いを認め黒も付き合ってくれることを期待した。ナローディツキーは 20.Nf4 と指すつもりだったが、20…Nh7?! で自分のクイーン翼が実際はそれほど堅固でないと気づいたのかもしれない。「ChessPublishing」のウェブサイトでドラゴン戦法の権威のクリス・ウォードが指摘したように 21.Nd5 Nxg5 22.hxg5 a4 23.Ba2 e6 24.Nb4 Rxc3! 25.Kxc3? Nxf3+

というきれいな手順がある。

20…Ba6

 もちろんナカムラは取り合わない。

21.Rhe1

 勝負手は 21.Bxf6!? Bxf6 22.a4 だった。しかしジョシュ・フリーデルのこのような決断を行うにはかなりの考慮時間が必要である。確かに白は大切な黒枡ビショップを手放したが、黒は交換損の代わりにポーンを得ていないのでナカムラがここからどのように勝ちを目指すのかはまったく不透明である。

21…Nfd7!

 ドラゴンビショップの筋を通し、さらに駒をクイーン翼に持って行く。

22.f4!?

 これは積極的な受けだが 22.a4 という堅実な選択肢もあった。黒はやはり交換損の十分な代償があるに違いないが、それ以上はなさそうである。

22…Nc4+ 23.Bxc4 Bxc4

24.f5

 黒がf列で困ることになるとは到底思われない。しかし 24.e5?! ではもちろん 24…f6 で白の残りのビショップの行き場がなくなってしまう。

24…Nc5 25.Re3 Ke8!

 ナカムラは相変わらず相手を追い立てながら、クイーン翼の好所の駒をどのように活用するのが一番良いのか決める前にさらに自陣を強化している。ナローディツキーはこの時点までに心理的に圧力を受けていたことは間違いなく、すぐにつぶれた。

26.Bf4 Na4+ 27.Kc1 Ba6

28.e5?

 白は一番の有利さである交換得を失った。ここでは 28.Rde1! Nxc3 29.e5 と指さなければならず、29…Nd5 30.exd6! Nxe3(30…Bxd4 なら 31.Rxe7+ Nxe7 32.Rxe7+ Kf8 33.fxg6 fxg6 34.Bh6+ Kg8 35.d7)31.Rxe3!(フリーデル)

となってまだまだ指す余地があっただろう。31…Bxd4?(31…Bf6 が正着)なら 32.Rxe7+ Kd8 33.Rxf7 となって白には駒損の代わりに豊富な攻めがある。

28…dxe5 29.Rxe5

 こう取らなければならない。29.Bxe5? は 29…Bh6! 30.Rde1 Rxc3 31.Kd2 Rxe3 32.Rxe3 Nb6 で困る。

29…Bxe5 30.Bxe5 Nxc3 31.Re1 gxf5

 何という突然の様変わりだろう。急に黒は2ポーン得になり白は敗北の瀬戸際である。

32.Bf6?!

 これはきれいな戦術にはまる。しかし 32.Nxf5 でも 32…Ne2+ 33.Kd2 Rc5 となってナカムラは絶対勝ちにいっただろう。

32…Ne4! 33.Nxf5 Bd3

 e列での狙いを防いでいるだけでなく、逆に白キングに対して逆襲している。

34.c3 Rc5! 35.Nxe7 Rb5 0-1

 白が詰みから逃れるには交換損するしかない。

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(この号続く)

2015年08月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(386)

「Chess」2015年6月号(3/4)

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ナカムラが4度目の米国選手権(続き)

(クリックすると全体が表示されます)

K.トロフ対H.ナカムラ
第8回戦

 局面は混沌としている。黒は花形のベノニ・ビショップを放棄したが、明らかに攻撃態勢にある。ここで 24.Rb3 Qh6 25.Qg2 なら賢明だった。しかしトロフは危険性をかなり過小評価していた。

24.Qd3? Qh6 25.Bg2

 白はキングを守るフィアンケット・ビショップを信頼している。しかしこのビショップは両方の色の枡を守ることはできない。代わりに 25.Nf3!? Qh5 26.Bg2 Rxe4 27.Bf4 で1ポーンを捨てて駒を出すのが良かったのかもしれない。

25…Qh2+ 26.Kf1 Nxf2!

 もちろんナカムラは決してこのような一発を見逃すようなことはしない。

27.Kxf2 Bh3

28.Qf1

 この手はあまり助けにならない。しかし 28.Qf3 でも 28…Ng4+ 29.Kf1 Qh1+ 30.Ke2 Qxg2+ 31.Qxg2 Bxg2 で黒が1ポーンを得し強力な主導権を維持しただろう。

28…Rxe4!

 これがナカムラの手筋の核心である。白は手足を縛られているので、黒は単純に安全な 29…Rae8 の準備をした。先頭のルークが取られるならもっけの幸いと分かっている。

29.Nxe4

 どう指しても同じようなものである。代わりに 29.Qh1 なら 29…Ng4+ 30.Kf3 Bxg2+ 31.Qxg2 Ne5+ 32.Kf2 Re2+! で白クイーンが取られる。

29…Nxe4+ 30.Ke3

 黒はこの手のあと戦力を取り返しさらにもっと得る。しかし 30.Kf3 では 30…Qxg3+ 31.Kxe4 Re8# で詰まされてしまう。

30…Bxg2 31.Qf4 Nxc3 32.Qg5+ Kf8 33.bxc3 Re8+ 34.Kf2 Bh1+ 0-1

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(この号続く)

2015年09月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(387)

「Chess」2015年6月号(4/4)

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次の一手

上級向け

第16問 C.ホールト対H.ナカムラ
米国選手権戦、セントルイス、2015年
 黒の手番

解答
1…Ne1! 2.Ne7+(2.Nh4 ならg2の地点に利いているが 2…Qg2+! 3.Nxg2 Nf3# で黒の読み筋にはまる)2…Kf8 3.Ng6+ Ke8 0-1 やはり 4.Bxf7+ Kxf7 5.Nh4 も 5…Qg2+! 6.Nxg2 Nf3# の犠牲になる。

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(この号終わり)

2015年09月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(388)

「Chess Life」2015年6月号(1/3)

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2015年米国選手権戦

FMマイク・クライン

(クリックすると全体が表示されます)

二重の弱点
GMコンラッド・ホールト(2626)
GMヒカル・ナカムラ(2881)
米国選手権戦第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2015年4月1日

解説 GMベンジャミン・ファインゴールド

21…Qxe4

 ホールトはここまでうまく指してきた。この局面では順調に優勢を確保する手段が二つあり、22.Bh5 でも 22.Ng2 でも白が好調である。

22.Bf1?

 この手はあまりに守勢である。これでナカムラは犠牲にしたポーンの代償が完全に得られる。

22…Bd3! 23.Bh3 Nc2!

 Be6+ を指させるには強い意志が必要である。しかしこの手は必然で、ナカムラはいつも自分の読みを信じている。

24.Be6+ 25.Rf7 25.Nf5??

 妥当な手ならほぼどの手でも良く、形勢は五分五分だった。しかしここでホールトは本譜の手でf2とg2の地点の守りをなくし、試合は急に終わることになる。ホールトは黒がいつか …Nxa1 と取ると思っていたのだろうが、ナカムラの読みはそれを上回っていた。

25…Ne1!!

 これですべて終わっている。白が 26.Nh4 で Qg2 による詰みを防げば、それでも 26…Qg2+ があり、続いて 27…Nf3# で詰みになる。

26.Ne7+ Kf8 27.Ng6+ Ke8 白投了

 白は …Qg2 による詰みと …Nf3+ によるクイーン取りに対処のしようがない。

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(この号続く)

2015年09月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(389)

「Chess Life」2015年6月号(2/3)

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2015年米国選手権戦(続き)


4回目の米国選手権戦優勝を飾ったヒカル・ナカムラ


セントルイス・チェスクラブ教育センター創立者のレックス・シンクフィールドと握手するナカムラ

主導権を奪取
GMダニエル・ナローディツキー(2730)
GMヒカル・ナカムラ(2881)
米国選手権戦第5回戦、ミズーリ州セントルイス、2015年4月5日

解説 GMベンジャミン・ファインゴールド

18…Kf8

 ナカムラは自分から交換損をしたが、それはドラゴンでよくある着想である。ここでは白の方が良いはずだが、ナローディツキーは本大会では調子がよくなかった。

19.Ne2?!

 このナイトはd4にいた方が良かった。

19…Bb5 20.Nd4?!

 ひょっとして白は千日手を期待していたか?ナカムラに対しては無駄だ!

20…Ba6 21.Rhe1 Nfd7 22.f4?

 これでたぶん黒の方が良くなった。最善手は 22.a4 Nc4+ 23.Ka2 で形勢は拮抗していた。

22…Nc4+ 23.Bxc4 Bxc4 24.f5 Nc5 25.Re3 Ke8 26.Bf4?

 白に疑問手・悪手が相次いで形勢は黒がはっきり優勢になった。

26…Na4+ 27.Kc1 Ba6 28.e5?

 これはポカだった。ナローディツキーは 29.Bxe5 が 29…Bh6 のために指せないことを見落としたのだろうか。

28…dxe5

 ナカムラはきれいに勝負を決めた。

29.Rxe5 Bxe5 30.Bxe5 Nxc3 31.Re1 gxf5

32.Bf6?

 しょせん負けではあるけれども白は少なくとも 32.Nxf5 と取るべきだった。そして 32…Ne2+ 33.Kd2 Rc5 34.Ng7+ Kf8 35.Ba1 Ng3 でナカムラが勝つだろう。

32…Ne4 33.Nxf5 Bd3!

 白は至るところ駒が当たりになっている。

34.c3 Rc5! 35.Nxe7 Rb5! 白投了

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(この号続く)

2015年09月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(390)

「Chess Life」2015年6月号(3/3)

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2015年米国選手権戦(続き)


当たり前となったかのように豪華なセントルイス・チェスクラブ教育センターには多くのファンが詰めかけインターネット・ストリーミングでその模様が生で伝えられた。

黒で危ない橋を渡る
GMケイデン・トロフ(2634)
GMヒカル・ナカムラ(2881)
米国選手権戦第9回戦、ミズーリ州セントルイス、2015年4月9日

解説 GMベンジャミン・ファインゴールド

14…g5

 新手。2014年にオランダのスーパーIMのベンヤミン・ボクは 14…Nf6 と指して引き分けた。ナカムラの手は局面を活気づけ、白が簡単に f4 と突けなくしている。

15.h3

 最も厳しい手は 15.f4 である。多分トロフはナカムラの研究済みと思われる乱戦に踏み込みたくなかったのだろう。15…gxf4 16.gxf4 Ng6 17.Nc4 Bd4+ 18.Kh1 Nf6 はその面白い変化の一つで、動的に均衡がとれている。

15…Qf6 16.Qh5?! Bh6!?

 意表の1手。…Qg7 から …Nf6 で白クイーンを追い払ってから …g5-g4 と突く意図で、黒に主導権がある。

17.Nd1!?

 私はトロフが指す前に解説室でこの手を指摘した。このナイトをf5、g4またはc4に行かせようとしているのだが、少し遅すぎる。

17…g4! 18.Ne3 Bxe3 19.Rxe3 Qg7 20.hxg4

20…Nxg4?

 20…Nf6! の方がはるかに強い手だった。21.Qh1 Nfxg4 22.Re2 f5 で黒に主導権がある。

21.Rc3?!

 ナカムラは 21.Re2 が最善手で白が優勢のはずだと考えていた。c3のルークは働きがない。

21…Ndf6 22.Qh1 Re5

23.Qf3?!

 23.Nc4 の方が良く、23…Nxe4!(23…Rxe4 は 24.f3! Rxc4 25.Bxc4 で白が良い)24.Nxe5 Qxe5 25.Bf4 Qd4 26.Be3 Qxd5 27.Bg2

で、エンジンの評価の0.00など関係なくいい勝負である。

23…Bd7

 ナカムラは対局後のメディアとのインタビューでこの手を厳しく批判し、「24.Rb3 で白の勝勢」と言っている。エンジンはこの評価に同意しないかもしれないが(再び0.00)、ナカムラがこの試合での指し方に満足していなかったことは理解できる。しかし結果はそうでないことを物語っている。

24.Qd3?

 この手が敗着となった。白は駒をすべてキングから遠ざける余裕はない。

24…Qh6 25.Bg2

 紆余曲折のベノニがようやくナカムラの有利に傾いた。そして彼はトロフを一撃のもとにぶっ飛ばす。

25…Qh2+ 26.Kf1

26…Nxf2!

 ナカムラの読みは非常に正確だった。

27.Kxf2 Bh3 28.Qf1

 28.Qf3 でも 28…Ng4+ 29.Kf1 Qh1+ 30.Ke2 Qxg2+ 31.Qxg2 Bxg2 で良くない。

28…Rxe4!!

 ナカムラはこれがナイト切りの核心だと言った。白キングが露出しているのと白駒がクイーン翼で働いていないので黒が勝勢である。

29.Nxe4

 29.Qh1 でも 29…Ng4+! 30.Kf3(30.Kf1? Qxh1#)30…Bxg2+ 31.Qxg2 Ne5+ 32.Kf2 Re2+! で黒の勝ちとなる。

29…Nxe4+ 30.Ke3 Bxg2 31.Qf4 Nxc3 32.Qg5+ Kf8 33.bxc3 Re8+

34.Kf2

 ほかの手はきれいに詰まされる。34.Kd3 なら 34…Bf1#、34.Kf4 なら 34…Re4+ 35.Kf5 Qh3+ 36.g4 Re5+ 37.Kf6 Re6+ 38.dxe6 Qxc3+ 39.Kf5 Qe5#。

34…Bh1+ 白投了

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(この号終わり)

2015年10月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(391)

「Chess」2015年7月号(1/2)

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FIDEグランプリ

H.ナカムラ-M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、変則dポーン

1.d4 Nf6 2.Bf4

 時に応じた変化球。ナカムラは定跡を避けてただの「チェスを指す」つもりである。

2…b6 3.c4 Bb7 4.Nc3

 4.Nf3 e6 5.e3 ならトニー・マイルズの得意だった戦型に移行する。彼はこれで多くの相手を負かし、その中にはスパスキーほどの者が2名もいる。ナカムラは代わりにマイルズとぺトロシアンのシステムの奇妙な混合形にした。

4…e6 5.a3 d5 6.e3 Bd6 7.Bg5 h6

 実戦で起こることを考えればたぶん 7…O-O の方が良い。

8.Bxf6 Qxf6 9.cxd5 exd5 10.Qa4+!

 このような局面によくあるようにこのチェックは非常に受けづらい。どの合い駒も黒にとって何らかの支障がある。

10…Kf8!?

 10…c6?? は 11.Nxd5 でポーンをかすめ取られるし、10…Nd7 は 11.Bb5 でやはり面白くない。10…Bc6 はたぶん 11.Bb5 Bxb5 12.Nxb5 が気に入らなかったのだろうが、12…O-O でそれほど悪いのか明らかでない。

11.g3 c6 12.Bg2 g6 13.Nge2 Kg7 14.O-O

14…Qd8

 黒はほぼ順調に形を整えた。もっとも 14…Nd7? 15.Nxd5 のためにクイーン翼ナイトの展開はまだできない。本譜の手のあとなら 15…Nd7 と指せるので、白は中央で仕掛けて展開のわずかな優位を生かさなければならない。

15.e4 dxe4 16.Nxe4 Re8 17.Rad1 Na6 18.N2c3 Nc7 19.Nc5!

 黒は問題を解決するのに絶えず1手遅れている。そしてこのうまい一撃で白の主導権がもっと具体的なものに変わる。

19…bxc5 20.dxc5 Nd5 21.cxd6 Qxd6 22.Ne4

 黒は黒枡が全般的に弱い。そしてc6は長期的な攻撃目標にされている。防御する側にとって困難で不快な局面だが、バシエ=ラグラーブほどの世界級の選手があと5手で負けになるとは誰も予想していなかった。

22…Qe5 23.Rc1 Nb6

 23…Re7 の方がもっと頑強だった。

24.Qb4 Rad8 25.Nc5

25…Rd4??

 本大会でここまで3連敗の心理的な痛手は大きく、フランス選手は1手で試合を失った。25…Ba8 26.Rfe1 Qg5 ならまだ苦しいが少なくとも試合は続いた。

26.Qc3 Bc8 27.Rce1 1-0

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(この号続く)

2015年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(392)

「Chess」2015年7月号(2/2)

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FIDEグランプリ(続き)


ジョババとの乱戦で何かひらめいたのか天を仰ぐナカムラ。その試合は最後には勝った。

B.ジョババ-H.ナカムラ
第8回戦

 ナカムラは終始ジョージア選手を圧倒していた。そしてここでは3ポーンも得している。もっともキングの位置が潜在的に危険なので技術的な困難が少し生じているのは当然である。試合は次のように続いた。

52.Rd8 Ne7 53.Rd7 Rc2+ 54.Kg3

 ここで最も簡明は選択肢は 54…Nc6 とナイトを動かす手で、黒が勝勢である。ナカムラは代わりにポーンを犠牲にした。

54…f4+!?

 この手は実際には何もだいなしにしないが、米国選手にとってもう少しで災いになる手始めだった。

55.Kxf4 Nf5 56.Rd8 Rf2+ 57.Ke4 Ng3+ 58.Kd3 h4??

 この手はhポーンを失うポカだった。

59.Rd4 Nf5

 59…Rh2 なら 60.Nf3。

60.Rd8

 61.Nf7 を狙っているので黒はナイトをf5からどかさなければならない。

60…Ng3 61.Rd4

 黒は千日手にしないでh4ポーンを守ることができない。

61…Rf5 62.Rxh4+ Nh5 63.Ke4 Rxg5

 黒はまだ2ポーン得だが、客観的には引き分けのはずである。オランダのGMロビン・ファン・カンペンはこれまでの経過に「びっくリ仰天」したとツイートしたが、黒は「まだ二重gポーンでいつまでも頑張ることができる」とも正しく指摘した。実際そうなったのだろうが、現実はジョババが早々とつぶれた。

64.Kd5 Rg1 65.Ke6 Rf1 66.Rh2 Rf6+ 67.Ke7 Kg8 68.Nxg6??

 「ルークとポーン」対「ルーク」の負けの收局に単純化された。白は代わりにじっと待つべきだった。

68…Rxg6 69.Rxh5 Ra6

 マルク・ドボレツキーがよく指摘するように、敵キングを段で遮断する方が列で遮断するよりもしばしばはるかに効果的である。ここがその場面で、白は黒キングによって支援されたgポーンのゆっくりした前進に対して何も受けがない。

70.Rf5 g6 71.Rf6 Ra7+ 72.Ke6 Kg7 73.Rf3 Ra5

 また黒キングを段で遮断した。

74.Rf7+ Kh6 75.Rf1 g5 76.Kf6 Ra4 77.Rh1+ Rh4 78.Rg1 Rf4+ 79.Ke5 Kg6 80.Rh1 Ra4 0-1


ヒカル・ナカムラとファビアノ・カルアナがアーナンド(去年の世界選手権戦の敗者として)と共に、来年3月に予定されている8選手による2回戦総当たりの挑戦者決定大会に進出した。近く開催されるワールドカップ(2015年9月)からもう2人が進出する。レイティングに基づいてさらに2人が進出し、最後の椅子は主催者の委員会によって選出されるワイルドカードによって占められる。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2015年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(393)

「Chess Life」2015年7月号(1/2)

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お楽しみチェス

米国流の詰ませ方

GMアンディー・ソルティス

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
IMヒカル・ナカムラ
GMセルゲイ・カリャーキン
パンプローナ、2003年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Nc6

9.O-O-O!?

 1世紀前ヨーロッパ人はアメリカ人を攻撃一辺倒だと切り捨てていた。ゲオルグ・マルコとカール・シュレヒターの二人のヨーロッパの教養人は1907年のカールスバート大会記録本で「アメリカ人のモーフィー、ピルズベリーそしてマーシャルはチェスでは性格的にハンニバルとナポレオンに当たる。彼等は戦力をものすごい速度で動員し移動させて華々しい勝利を達成した」と書いた。

 時代は変わった。ここでの攻撃のための手は交換を避ける 9.Nb3 である。実戦では白はせいぜい互角と考えられる收局に喜んで突き進んだ。

9…Qxd4 10.Qxd4 Nxd4 11.Rxd4 h6 12.Bh4 Be7 13.Be2 b5 14.Bf3 Rb8 15.Bg3 Nd7 16.Rhd1 O-O 17.Kb1 Re8 18.a4 b4 19.Na2 a5 20.Nc1 Nb6 21.b3 Bb7 22.Ne2

22…Rbc8

 黒はこの手の代わりに 22…f5、または実戦の手なら 23…Nd7 から 24…Nf6 と指した方が有望だっただろう。

23.R4d2 d5 24.e5 Bc5 25.Nd4 Ba6 26.Bf2 Nd7 27.Re1 Rc7 28.Kb2 g6 29.h4!

 白は必要ならどんな手段でも用いて当時世界最年少グランドマスターの相手を圧倒し始める。このやり方はかつては変わっていると考えられていた。そして奇妙なことにアメリカ流だと考えられていた。

 アーロン・ニムゾビッチは広く読まれている著書の『Chess Praxis』(チェス読本)で15手で不利になった試合を振り返っている。彼の改善策は「アメリカ人のモットー」と呼ばれるものを思い出すことだった。

 彼は「『悪いながらも最善を尽くせ。』あきらめるな。最悪の状況でも比較的一番良い可能性を見つけろ。相手の勝ちをできるだけ難しくしろ」と書いた。「アメリカ人はそう考える。そしてこのような考え方には一理ある!」

29…Bf8?! 30.h5! Nc5 31.hxg6 fxg6 32.g3! h5 33.Be3 Rh7 34.Rh1! Ne4

 白はここで 35.Bxe4 dxe4 36.Nc6 から Nxa5 とポーンを落とし始めることができた。実戦は代わりに黒に少しイモ手を指す機会を与えた。

35.Rg2 Bc5 36.Re1 Bxd4+? 37.Bxd4 Rc8? 38.Bxe4! dxe4 39.Bb6! Rb7 40.Bxa5 Rbb8 41.Rd2 Rc3 42.Rd6 Ra8 43.Rg1 Bd3 44.cxd3 Rxa5 45.dxe4 Rac5 46.Rg2 Re3 47.Rd4 Rcc3 48.Rxb4 Rxg3 49.Rxg3 Rxg3 50.a5 Kg7 51.Ka3 Rg1 52.Ka4 黒投了

 52…h4 53.Rc4 h3 54.Rc2 Rg2 55.Rc1 h2 56.Rh1 のあと白はキングにクイーン翼のポーンを護衛させて勝つことができる。

 ベンジャミン・フランクリンのパリ人の相手の一人が自分のキングをチェックされたままにして以来アメリカ人は独自のやり方をしてきた。フランクリンはそのキングを取った。

 「こちらではキングを取ったりしない」と米国外交官は言われた。

 「アメリカでは取る」とフランクリンは答えた。

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(この号続く)

2015年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(394)

「Chess Life」2015年7月号(2/2)

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実戦の收局

GMダニエル・ナローディツキー

次の一手

第1問 レイティング1500相当
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2775)
GMマイケル・アダムズ(FIDE2745)

ロンドン・クラシック、2014年12月13日
 白の手番

解答

 黒はh5のポーンを取れば引き分けの可能性がかなり高くなる。しかしナカムラにはそれを上回る読みがあった。38.Rg6+! Kf7 39.Rg5! Kf6 40.f4! 黒投了 ナカムラが力でねじ伏せた。41.Kg3 のあと黒ルークが取られる。

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(この号終わり)

2015年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(395)

「Chess」2015年8月号(1/1)

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第3回ノルウェー・チェス

H.ナカムラ – F.カルアナ
第3回戦

38…b5?

 ロンドン・チェスクラシックを観戦した人は目の当たりにしたかもしれないが、カルアナはブリッツが格別うまいというわけではない(通常の持ち時間の対局と比べての話)。しかし持ち時間の少ないこの局面でさえ、自陣を弱めるよりキングを中央に集結させるものと思われた。

39.axb5+ Kxb5 40.b3 g5?

 そしてこれには仰天するばかりである。黒は普通なら例えば 40…Rd8 と手待ちするところで、引き分けの可能性がかなり高い。しかしカルアナはそう指さずに白ルークのためにh列を素通しにしてやった。

41.hxg5 hxg5 42.Rh1

42…Ra7

 42…f4 でも 43.gxf4 gxf4 44.e4 で同じことになり、44…Rd4 なら 45.Rh4 である。いずれにしても黒はもう負けかもしれない。両者の陣形とルークを比べれば驚くには当たらない。カパブランカとルビンステインは墓の下で嘆いていたにちがいない。

43.Rh7

 黒ルークを縛りつけ、背後から攻撃する用意をしている。要するに黒はもう負けである。

43…f4 44.gxf4 gxf4 45.e4!

 白はf4ポーンを巻き上げるつもりである。ナカムラはここからまったく間違えなかった。

45…a4 46.bxa4+ Rxa4 47.Rxf7 Ra3+ 48.Kd2 Ra2+ 49.Ke1 Ra3 50.Ke2 Ra2+ 51.Kf3 Rd2 52.Rd7 Kc6 53.Rd5 Kb6 54.e5 Kc6 55.Rd8 Kc7 56.Rd6 1-0

 黒は手詰まりで、56…Ra2 なら 57.d4 で完全に見込みがない。57…cxd4(57…c4 58.d5 は連結2パスポーンが強力すぎる)58.Rxd4 でもう1個のポーンがまもなく落ちる。


最近ひげを生やしたヒカル・ナカムラは今や同国人になったファビアノ・カルアナとの対戦で早くも決然たる表情である。驚きの結果はカルアナの調子を狂わせ、ナカムラはレイティングを2800超にのせた。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2015年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(396)

「Chess Life」2015年8月号(1/2)

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お楽しみチェス

GMアンディー・ソルティス

コミュニケーション不能

あいまいな構想
GMコンラッド・ホールト
GMヒカル・ナカムラ
米国選手権戦第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2015年4月1日

 黒の手番

 黒は当然の 14…gxf5 を拒否して 14…Nf6 15.fxg6 Qxg6 と指した。コンピュータはせせら笑った。

 手が 16.Nf3 Nb4 17.Nh4 Qh7 と進んだときコンピュータは白が +1.00 から +1.50 ほど優勢だと言った。そのあとは 18.Kf1 Bf5 19.Kg1 Bc2 20.Qd2 Ne4 21.Nxe4 Qxe4 と進んだ。

 人間のマスターは黒の方が指しやすいので形勢も良いと思う傾向がある。しかし「指しやすさ」をプログラムに組み込むのは困難である。

 マスターは黒に代償があるとも言うだろう。その意味するところは「白は1ポーン得している。黒には潜在的な狙いがある。そして20手先までは読めないのでどちらの方が価値があるのか分からない」ということである。

 そして黒には主導権がある。マスターたちは圧力を長く維持すれば勝ちになるので、主導権は非常に重要だと言う。ガリー・カスパロフが言ったように「相手の駒を10回連続で攻撃すれば、相手は11手目で何かポカを指すだろう。」

 しかし「主導権」、「代償」それに「圧力」は機械にはあまり役立たない言葉である。なぜなら機械は11手目で決してポカを指さないからである。代わりに 22.Ng2、22.Rh3、22.Bh5 そして 22.Rh2 のような人間の見ない手を冷静に推奨してくる。(白は 22.Bf1? Bd3 23.Bh3 Nc2 24.Be6+ Rf7 25.Nf5?? Ne1! と指し負けた。)

 というわけでコミュニケーションができていない。人間は思考の多くをコンピュータ語、つまり二進数に変換できない。そして機械は変化手順を「人間語」に変換できない。

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(この号続く)

2015年11月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(397)

「Chess Life」2015年8月号(2/2)

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お楽しみチェス(続き)

GMアンディー・ソルティス

2015年米国選手権戦からの次の一手

第4問
GMダニエル・ナローディツキー
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第6問
GMケイデン・トロフ
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

解答

第4問
33…Nxf6 は 34.Nxe7 で駄目だが、33…Bd3! が良い手で、34…Rxc2+ 35.Kd1 Nf2# または 35.Kb1 Nd2+ 36.Ka1 Nb3+ からの詰みを狙っている。実戦は 34.c3 Rc5! 35.Nxe7 Rb5! と進んで、白は …Rb1# を待つことなく投了した。

第6問
28…Rxe4! 狙いは 29…Re5 から 30…Rf5+ と 29…Ng4+ 30.Kf3 Bxg2+ 31.Qxg2 Ne5+ 32.Kf2 Re2+! 29.Nxe4 Nxe4+ 30.Ke3 Bxg2 31.Qf4 Nxc3 32.Qg5+ Kf8 33.bxc3 Re8+ 34.Kf2 Bh1+ 白投了

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(この号終わり)

2015年11月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(398)

「Chess Life」2015年9月号(1/1)

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ノルウェー・チェス

GMイアン・ロジャーズ

手段はあるもの
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2802、米国)
GMヨン・ルードビグ・ハムメル(FIDE2677、ノルウェー)
2015年ノルウェー・チェス第1回戦、スタバンゲル、ノルウェー
2015年6月16日

 白の手番

 ナカムラのe6のポーンは大きな資産だが、せき止めているe7のビショップをどけるのは至難のように思われる。しかしナカムラはある手段を見つけた。

41.Be3! axb4 42.Bc5!

 42.axb4 では 42…Rc8 43.Bc5 Rc7 で黒が踏ん張れる。

42…Rd2 43.Rfe1!

 これが最後の要点で、黒は当たりになっている駒が多すぎる。43.Rf2? では 43…Bxc5 44.Rxc5 Rd1+ 45.Rf1 Rxf1+ 46.Kxf1 b3!

で形勢が逆転する。47.e7 はf7のビショップがチェックで取られる。

43…Bxc5+ 44.Rxc5 Rg2+ 45.Kf1 b3 46.Rxe4 b2 47.Re1 Rxh2 48.Rce5 Rh1+ 49.Kg2 b1=Q

 ハムメルは詰まされるまで指した。テレビ観戦者を楽しませようとしたのだろう。

50.Rxb1 Rxb1 51.e7 Ra8 52.e8=R+ Rxe8 53.Rxe8#

(クリックすると全体が表示されます)


GMナカムラはわずか半点差で同点2位の好成績の遠征だった。「嬉しくないわけがない。生活のためにチェスを指している。たいていの人はこんなに幸せでない!」

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(この号終わり)

2015年11月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(399)

「Chess」2015年10月号(1/3)

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定跡の動向

W.ソー – H.ナカムラ
シンクフィールド杯、セントルイス、2015年
キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.f3 f5 11.Be3 f4 12.Bf2 g5 13.Nd3 Ng6 14.c5 Nf6 15.Rc1 Rf7

16.Kh1

 これは先受けの手である。2011年ドルトムントでのマイヤー対ナカムラ戦では 16.a4 Bf8(16…h5 17.a5 g4 が用意していた改良手だったのかもしれない)17.a5 h5 18.cxd6 cxd6 19.Nb5 g4 20.Nxa7 Bd7 21.Qb3 g3 22.Bb6 で黒が苦戦に陥った。

16…h5

17.cxd6

 2014年ビルバオでのシロフ対バクロ戦では 17.Nb5 g4 18.cxd6 cxd6 19.Qc2!? g3?!(判断の誤り。黒はいつものようにポーンを見捨てて 19…Ne8 20.Nxa7 Bd7 と指すべきだった)20.Nc7! Rxc7 21.Qxc7 Qxc7 22.Rxc7 gxf2 23.Rfc1 Bd7 24.Rxb7 と進んで、白ルークが黒の小駒よりよく働いた。

17…cxd6 18.Nb5 a6 19.Na3

 ソーはこの新手を即座に指した。次の手もそうである。しかし機械を信頼しすぎていて、あの有名になったクラムニク対レーコーの世界選手権戦を思い起こさせる。

19…b5 20.Rc6 g4 21.Qc2 Qf8 22.Rc1 Bd7

23.Rc7?!

 ここに至るまでにはソーも相当時間を使っていた。しかし 23.Nb4 の方がはるかに強手だった。アニシュ・ギリは「ここで白の手番なら Rc6 と引く手を考える」と皮肉った。

23…Bh6 24.Be1 h4

 ナカムラは真のキング翼インディアン流に全速で突っ走り続けている。事態は既に白にとっていくらかまずくなっているが、ここでは本気で 25.Qd1 のような手でキング翼を支えることに努めなければならなかった。そして 25…h3 とくるなら形は悪くても 26.gxh3 Nh4 27.Bf1 と指す[訳注 27.Bxh4 とただ取りできるようです]。ソーの選んだ手にはキング翼インディアンの根本の理解がかなり足りないことが窺える。

25.fxg4?! f3! 26.gxf3 Nxe4!

 食い破った。

27.Rd1?

 f1でのチェックがあるのでこのナイトは取れない(27.fxe4 Rf1+ 28.Kg2 Be3 でまったく不本意な 29.Bg3 を強制される)。同様に 27.Rxd7 も 27…Rxf3! 28.Bxf3? Qxf3+ 29.Qg2 Qxd3 となって黒にとってやはりこの上ない態勢になる。30.Rd1 には驚愕の 30…Bd2!! があり、31.Bxd2 なら(または 31.Rxd2 なら 31…Nxd2 32.Bxd2 h3 で駒が完全にそっぽに行く)31…Nf4 32.Be1 Nf2+! 33.Qxf2 Qe4+ 34.Kg1 Nh3+ 35.Kf1 Nxf2 36.Bxf2 Qxg4 となって白のルークが両当たりになる。

27…Rxf3 28.Rxd7 Rf1+ 29.Kg2

29…Be3

観戦中に我が編集長が見つけた 29…h3+! 30.Kxh3 Rf2 の方がはるかに冷静だった。この手の良い点は 31.Bxf2(31.Nxf2 でも 31…Nf4+ 32.Kh4 Bg5#)31…Qxf2!! 32.Nxf2 Nf4+ 33.Kh4 Bg5# となることである。

30.Bg3

 30.Bxf1? は 30…h3+ 31.Kxh3 Qf3+ 32.Bg3 Ng5# なのでこの手は何よりもやってみる価値がある。

30…hxg3! 31.Rxf1 Nh4+ 32.Kh3 Qh6

 キングがこんな有様では白のルーク得は何の助けにもならない。

33.g5 Nxg5+ 34.Kg4 Nhf3 35.Nf2 Qh4+ 36.Kf5 Rf8+ 37.Kg6 Rf6+ 38.Kxf6 Ne4+ 39.Kg6 Qg5# 0-1

 ナカムラの力強い指し方が光った。現代のキング翼インディアンの名局としてきっと残るだろう。

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(この号続く)

2015年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(400)

「Chess」2015年10月号(2/3)

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第3回シンクフィールド杯

H.ナカムラ – L.アロニアン
第7回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.a4

 この反マーシャルはかつてカスパロフが好んで用いていた。アロニアンは自分のトレードマークとなっている手で応じた。

8…b4 9.d4 d6 10.dxe5 dxe5 11.Qxd8 Rxd8 12.Nbd2

 白の期待は黒のクイーン翼の弱点が露わになることである。しかし白だってクイーン翼に問題をいくつか抱えている。特に黒ナイトが適時にa5に来れば、またはd4に来てさえそうである。

12…h6 13.Bc4

 13.a5?! は …Na5 なんて考えをきっぱりと排除する。しかし本誌2013年11月号で見たのと同様に2015年セントルイスのカールセン対アロニアン戦でも 13…Bc5 14.Bc4 Ng4 15.Re2 Be6! 16.Be6 fxe6 17.h3 Nf6 18.Re1 Rab8 19.Nc4 Rb5 となって黒が非常に楽だった。

13…Bd6 14.a5 Re8 15.Bd3 Nd7

16.b3

 ちょうどカールセンのようにナカムラはクイーン翼の展開に少し問題を抱えている。変化するなら 16.Nb3 だが 16…Nc5 17.Nxc5(または 17.Be3 Nxd3 18.cxd3 Be6 19.Nfd2 Nb8! から …Nd7)17…Bxc5 18.Be3 Bxe3 19.fxe3 Be6 となれば黒が好調のはずである。

16…Nc5 17.Bc4 Be6 18.Bb2 f6

 黒は堅陣なのでかなり指しやすい。対照的に白は良い作戦を見つけるのがまったく容易でない。定跡ではa6とb4のポーンが分離していて「弱点」になるかもしれないとしている。しかしクイーン翼での大きな弱点はやはり白のあのa5ポーンのようである。アロニアンはここからそれを攻撃目標にしていく。

19.Bxe6+ Rxe6 20.Nc4 Rb8 21.Nfd2 Rb5

22.Ra2?!

 ひどい形だ。白ルークは守りに縛り付けられては面白くない。ナカムラは 22.Nf1! でナイトをd5に派遣するようにし、22…Nd4 には冷静に 23.Rac1 と応じておくべきだった。代わりに 22…Nb7 23.Nfe3 Nbxa5 の方が重大だが、ちょうどカールセン対アロニアン戦のように例えば 23.Red1 Nxc4 24.Nxc4 a5 25.Rd5 でポーンを取れば白は自由度や反撃が広がる。

22…Nb7 23.Rea1

 これでaポーンは安全だが、d4の空所はこれまでにもまして目立ってくる。

23…Bc5 24.Kf1 Re7 25.Ke2 Rd7 26.Nf1 Bd4 27.Nfe3 Bxe3!

 閉鎖的な局面では白のかなり不活発なビショップよりもナイトの方が有利なので、この交換は良い判断である。

28.Nxe3 Kf7 29.f3 Ke6

 黒は駒の配置を改善し続けている。黒は優勢だが、白の守勢であっても堅固な陣形に問題を突きつけようとするなら自分のナイトをうまく捌かなければならない。

30.g4 Nc5 31.Nc4 Ke7 32.Bc1 Ne6 33.Be3 Ncd4+!

 この手は確かに白の不良ビショップをなくさせるが、ほかに進展の図りようがない。

34.Kf2 Ng5

35.Bxg5?!

 これまたひどい手だが、たぶん米国ナンバーワンは中央の方へ取り返してくるとしか考えなかったのだろう。代わりに 35.Bxd4 なら 35…Rxd4 36.h4 Ne6 37.Rb2 Nf4 38.Rbb1 となって少し憂鬱だが持ちこたえているかもしれない。

35…fxg5! 36.Rd1 Ke6 37.Rd3 Rf7 38.Ra1

38…Rb8!

f3に生じさせた白の弱点の追及を続けている。38…Nxc2?! では 39.Rad1 とされて 39…Nd4 に 40.Nxe5! があるので白を解放させてしまう。

39.Rad1?

 非常に奇妙な手だが、たぶんナカムラは何か見損じが続いていたのだろう。白はじっくりと 39.Rf1 Rbf8 40.Kg3 と受けるべきだった。

39…Rbf8 40.Nxe5

 この手で当面は戦力の均衡が保てるが、局面を本当に救うことにはならない。まだ相当に悲観的な局勢だが、40.Nd2 Nxc2 41.Rc1 Nd4 42.Rc5 とやってみる方が良かった。

40…Kxe5 41.Rxd4 Rxf3+

42.Ke2

 この手のあと黒ルークがなだれ込んでくる。しかし 42.Kg1 でも 42…Rf1+! 43.Kg2(43.Rxf1? Rxf1+ 44.Kxf1 Kxd4 は自明のポーン收局である)43…R8f2+ 44.Kg3 Rxc2! で同じことである。

42…Rf2+ 43.Ke1 Rf1+ 44.Ke2 R8f2+ 45.Ke3 Rf3+ 46.Ke2 R1f2+ 47.Ke1 Rxh2 48.Rd5+

48…Kf4!

 アロニアンが最後の罠(48…Kxe4? は 49.R1d4+ Ke3 50.Rd3+ で千日手)に引っかからなかったので終わりは近い。

49.R1d4 Kxg4 50.Rc5 Rg3 51.Kf1 Rc3 0-1


米国ナンバーワンのヒカル・ナカムラにとっては最高の大会とはならなかったが、惨敗ともほど遠かった。レイティングを2点上げてトパロフとアーナンドを追い越し棋歴最高の世界第2位に到達した。

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(この号続く)

2015年12月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス5