ヒカルのチェス4の記事一覧

「ヒカルのチェス」(301)

「British Chess Magazine」2012年11月号(1/1)

 2012年9月20日から10月3日までロンドンで開催されたFIDEグランプリで、GMナカムラは途中4連敗を喫し自己最悪の最下位の成績に終わりました。

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FIDEロンドングランプリ

□ M.アダムズ
■ H.ナカムラ
ロンドン、2012年
カロカン防御カパブランカ戦法 [C19]

解説 トールバット

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nd2 dxe4 4.Nxe4 Bf5 5.Ng3 Bg6 6.h4 h6 7.Nf3 Nd7 8.h5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 e6 11.Bd2 Ngf6 12.O-O-O Qc7 13.Ne4

 白はナイトをe5の地点に据えるために一組のナイトを交換するつもりである。

13…Be7 14.Kb1 Rd8

 黒はd4の地点に圧力をかけるためにキャッスリングを控えている。

15.Nxf6+ Nxf6 16.Qe2

 この落ち着いた手は黒ルークの射程からクイーンをはずしている。

16…c5

 16…O-O?! は 17.g4 Nxg4 18.Rhg1 でg列からの白の攻撃が強くなる。そこで黒はキングの位置を決めずに待つことにした。

17.dxc5 Qxc5 18.Ne5 Rd4

 ここでは 18…O-O 19.f4 を推奨したい。いい勝負だが黒からすれば実戦よりチャンスがある。

19.f4

 e5のナイトを安定させた。

19…O-O

20.c3

 20.Be3 Rxd1+ 21.Rxd1 Qc7 22.g4 Nd5 23.Bc1 Bd6 は黒が申し分ない。

20…Ra4

 20…Re4 21.Qf3 Rd8 22.g4 は白が良い。

21.c4

 白はd5の地点を支配した。

21…Bd6

 ここは 21…b5 22.cxb5 a6 23.bxa6 Rb8 と指してみたい。ポーンの代償として黒駒の働きが良い。

22.Bc3

 白がe5の地点の支配と相まって好形になっている。

22…Bxe5 23.fxe5 Nh7

 白がd列を支配しているのと黒駒がそっぽにいるので白が大いに優勢である。

24.b3

 c4の地点を守り黒ルークを追い返す。

24…Ra6 25.Rd7

25…Ng5

 黒は 25…b5 26.cxb5 Rb6 27.Bb2 Qxb5 28.Qxb5 Rxb5 とやっても 29.Rxa7! でアダムズの勝ちになる。

26.Rhd1 Rb8

 ここでも 26…b5 が考えられるが 27.R1d4 bxc4 28.Qxc4 で白が優勢である。

27.Rd8+ Rxd8 28.Rxd8+ Kh7 29.Qc2+ g6 30.Rd7

 Qxg6+ が必殺の狙いである。これで米国チャンピオンの負けが決まった。

30…Kg8 31.hxg6 Kg7 32.gxf7 Nxf7 33.Qe2

33…Kg8

 33…Qf8 なら 34.Qg4+ Kh8 35.Qg6 Ng5 36.g4 Qf1+ 37.Kb2 Qf2+ 38.Rd2 Qf8 39.Bb4 で白が勝つ。

34.Qf3 Qf8

 34…Ng5 は 35.Qf6 Qg1+ 36.Kb2 Qxg2+ 37.Bd2 で黒の投了となる。

35.Rxb7

 35.Qxb7 Rb6 36.Qxa7! という勝ち方もある。

35…Qg7 36.Kb2 1-0

 黒は完全に動けない状態なので投了した。

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(この号終わり)

2013年01月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(302)

「Chess」2012年12月号(1/1)

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ナカムラがホーへフェーンを席巻


準優勝のセルゲイ・ティビアコフと対局中の大会優勝者のヒカル・ナカムラ

ヨーハーナーン・アフェク

 オランダの町のホーへフェーンは16回目になる世界的に有名なチェス大会を10月16日に祝った。この大会は保険会社のウニフェがスポンサーになっている。今回もすばらしい運営で、隅々まで気配りが行き届き特に参加者のもてなしと対局場の環境は格別だった。クラウングループには何年も多くの世界級の選手がそろい、その中には世界チャンピオンのスミスロフ、スパスキー、カルポフ、クラムニクだけでなくFIDE世界チャンピオンのハリフマン、ポノマリョフ、トパロフも含まれている。オランダの最強選手たちもここでアロニアンやカールセンのような超一流と対局してきた。また、世界最強の女子選手のユディット・ポルガーも10回も参加している。

 今年のクラウングループの優勝候補は当然シード1位のヒカル・ナカムラだった。しかしロンドングランプリ大会での大不振により米国の最強選手は不調で最近の強豪たちとの果てしない対決のあともしかしたら緊急の休養が必要なのではないかと見られていた。しかしナカムラは彼らしく別案を立てていた。エイラトでのヨーロッパクラブ杯の直後ホーへフェーンに降り立ち、第18水準の短い「4強戦」(4選手による2回戦総当たり)は失ったレイティングを取り戻しすぐさま世界の10傑に返り咲く絶好の機会のように思われた。

 ナカムラは真の勝利者というものはどういうものかをまざまざと見せつけた。ちょうど昨年のクラムニクと同じく白で3局勝ち黒で残りの3局を引き分けて、優勝賞金の4千ユーロを獲得し、ロンドンで失ったレイティング20点のうち5点を取り戻した。彼はオープングループも含めて対局場全体の中で唯一の無敗だった。最終戦でナカムラは引き分けるだけで優勝だったが、それでも当初の目標そのままにお手本となる戦略戦で勝ちを目指した。

キング翼インディアン攻撃
H.ナカムラ – S.ティビアコフ
第6回戦

1.e4 e6

 ティビアコフは最近 1.e4 に対する主力武器としてスカンジナビアからフランス防御に転向した。

2.d3

 米国の史上最強選手の良い常用布局となっていたものは現代の米国最強選手にとっても有効な布局になっている。

2…c5 3.Nf3 Nc6 4.g3 g6 5.d4!?

 この手損は正当性がある。局面が珍しいシチリア防御の陣形になってきたので、白は黒のいくらか弱体化した黒枡を考慮して局面を開放する。

5…cxd4 6.Nxd4 a6 7.Nxc6 bxc6 8.c4 Bg7 9.Bg2 Ne7 10.O-O

10…d6

 手ごわい応手は 10…f5!? 11.Nc3 fxe4 12.Nxe4 d5 13.cxd5 cxd5 14.Nc5 O-O だった。

11.Nc3 O-O 12.Bg5 Qc7 13.Qd2 Rb8 14.Rfd1 Rd8 15.Rac1 c5 16.b3 Bb7 17.h4 h5 18.Qd3 Bc6 19.Qe2 Be8 20.Rd3 Rdc8 21.Qd2 Rb6 22.Bf4 Be5 23.Rd1

 白は黒の主要な弱点に対してすべての重砲を集中させた。単純で効果的な作戦である。

23…Kh7

 d4の地点を目指す 23…Nc6!? は目的を達することができたかもしれないが、24.Rxd6! Qxd6 25.Qxd6 Bxd6 26.Rxd6 となってc5のポーンも弱体化する。他の受けは 23…Bd4 が考えられるが 24.Ne2 e5 25.Nxd4 cxd4 26.Bg5 でd列をふさいでも、キング翼と特に黒枡が白にとって魅力的な攻撃目標になる。

24.Kh1 Ng8 25.Be3 Bg7 26.Ne2 Rd8 27.Bf4 e5

 これが白の捌きの目的だった。黒はd列がいっそう弱くなった。それに劣らず重要なのがe5ポーンで、白はキング翼を開放し速射攻撃を仕掛けることができる。

28.Bg5 f6 29.Be3 Ne7 30.Nc3 Qc8 31.Kh2 Rc6 32.f4 Qb7 33.fxe5

 戦略の戦いは決着した。白の侵略が開始される。

33…fxe5 34.Bg5 Rd7 35.Bh3 Rdc7 36.Rf1 Bd7 37.Bg2 Bg4 38.Rxd6 Rxd6 39.Qxd6 1-0

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(この号終わり)

2013年01月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(303)

「Chess Life」2013年1月号(1/1)

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収局研究室

初歩的なポカ

GMパル・ベンコー

つまづき
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2783、米国)
GMペーテル・レーコー(FIDE2737、ハンガリー)
FIDEグランプリロンドン大会、2012年

 局面は白の勝勢だが間違えやすい。

61.Rb7?

 61.Rc7、61.a6 さらには キングのどんな前進でも勝ちだった。

61…Ke6! 62.Rg7

 ここでは 62.a6 はまったく良い手にならず 62…Rc1+ 63.Kb6 Kd6! で引き分けになる。ここまで来れば違いが分かる。61.Rc7 と指していれば黒キングは近寄る暇がなかった。

62…Rc1+! 63.Kb6 Kd6! 64.Kb7 Rb1+! 65.Kc8

65…Rh1

 黒は最善の受けをしてきた。代わりに 65…Ra1 は 66.a6! で負けになる。しかし実戦の 65…Rh1 なら 66.a6 Kc6 で引き分けになる。

66.Rg6+ Kc5 67.Kb7 Kb5 68.Rg5+ Kb4 69.a6 Rh7+ 70.Kb6 Rh6+ 71.Kb7 Rh7+ 72.Kb6 Rh6+ 73.Kb7 Rh7+ 合意の引き分け

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(この号終わり)

2013年01月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(304)

「Chess Life」2013年2月号(1/2)

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収局研究室

戦うビショップ

GMパル・ベンコー

パスポーン
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2786、米国)
GMアニシュ・ギリ(FIDE2730、オランダ)
第16回ウニフェ・クラウン、ホーへフェーン、2012年

 ナカムラはほとんど有望といえない局面から絶好の局面になった。駒は全部好所にありパスポーン候補もある(f3-f4 gxf4 でパスポーンができる)。

53.Rg7 Bd8

 c3のポーンよりもg5のポーンの方が重要である。だからもっと積極的に見える 53…Bxc3 54.Rxg5 Rh1 は良くない。

54.Kg2

 この手は慎重すぎる。54.Rg8+ Kd7 55.f4 と指せばポーンがもう走り出していた。

54…Be7 55.Rg8+ Kd7 56.Ra8 c5 57.Rg8 cxd4 58.cxd4

58…Rh7

 58…Rh4 59.Kg3 Rh1 の方が抵抗力があった。

59.f4!

 ポーンの犠牲だけれども、遅くともしないよりはましである。

59…gxf4 60.g5 Bd6 61.Bf6 Be7

 ここは 61…f3+ 62.Kxf3 Rh4 と指してみるべきだった。

62.g6 f3+ 63.Kxf3 Rh5 64.Be5 黒投了

 黒は 64…Rf5+ 65.Ke2 Bf8 66.g7 で少なくともビショップを失うので投了した。

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(この号続く)

2013年02月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(305)

「Chess Life」2013年2月号(2/2)

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収局研究室

戦うビショップ(続き)

GMパル・ベンコー

敵陣突破!
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2783、米国)
GMアニシュ・ギリ(FIDE2730、オランダ)
第1回FIDEグランプリ、ロンドン、2012年

 白の優勢は疑いない。しかし局面はやや閉鎖的である。47.Bd5 でも良さそうだが、白ははるかに強力で意表を突くきれいな敵陣突破の手を見つけた。

47.g5!! hxg5 48.h6! gxh6 49.Rxe5!! fxe5 20.f6

 これでようやく白の犠牲の主眼点が分かる。コンピュータではなかなか読めない手である。

50…Bd7

 51.Bxc5 の狙いに対してこれより他に適当な手はない。

51.f7+ Ke7 52.Bxd7

52…Kxd7(?)

 52…Kxf7 の方が良いが、それでも双ビショップが弱いb7、c5それにe5のポーンに照準を合わせているので白の勝つ可能性が十分ある。白の一番いい作戦は Bf5 から Be4 と指すことで、黒が苦境に陥る。

53.Bxc5 h5 54.f8=Q Rxf8+ 55.Bxf8

 駒得で決まりのはずだが、白は黒のパスポーンをせき止めなければならない。

55…h4 56.Bh6 g4 57.Bg5 h3 58.Bh4 Kd6 59.Bg3

 攻防に利くのでここがビショップの一番良い居場所である。さらにはポーンをせき止めてキングが自由に掃討作戦を行なえるようにしている。

59…Ke6 60.Ke2 Kd6 61.Kd2

61…Kc5

 代わりに 61…Ke6 なら 62.Kc2 で Kb3-b4-c5 を狙う。そして 62…Kf5 と来れば 63.c5 Ke6 64.c6 で勝ちになる。

62.Bxe5 Kb4 63.Kc2 Kxa5 64.Kb3 Kb6 65.Bxd4+ 黒投了

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(この号終わり)

2013年02月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(306)

「Chess」2013年2月号(1/3)

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ロンドン・クラシック

シチリア防御アラピン戦法
H.ナカムラ
M.カールセン
第7回戦

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.c3 Nf6 4.e5 Nd5 5.Bc4 e6 6.d4 cxd4 7.cxd4 d6 8.O-O Be7 9.Qe2 O-O 10.Rd1 Qc7

11.a3

 この先受けは必要な手である。もっともいずれにしても白陣はぱっとしない。一つの問題は 11.Bd3?! が 11…Ndb4 で大切な白枡ビショップを消されるか、12.Bb5 a6 13.Ba4 b5 14.Bb3 Bb7 で黒に主導権を与えることである。11.Bxd5 exd5 12.Nc3 という手もあるが、12…Be6 13.Bf4 a6 14.Rac1 Rac8 で黒陣はびくともしない。

11…Rd8 12.b4!?

 この手は 11.a3 を積極的に活用しようとしているが、控え目に言っても危なっかしい。

12…a6 13.Bd3 b5 14.h4

 ナカムラはトレードマークの攻撃を仕立て上げようとしているが、展開不足のために既に懸念される状況になっている。

14…dxe5 15.dxe5 Bb7 16.Ra2?!

 そしてこの手は決定的に創造的すぎる。16.Qe4 は 16…g6 で白を断固キング翼に寄せつけず、白枡の対角斜筋での狙いを考慮すると機械は白には情けない 17.Qe2 しかないと言っている。

16…Ndxb4!?

 ナカムラは対局後の記者会見でこの決断にあまり感心したようでもなかった。しかしこれは非常に興味深い手で、たぶん少し黒に有利な不均衡の局面になる。とは言うものの本筋の 16…Rac8 17.Rc2 a5 ではほとんど怖いところがなかった。ここでも押しまくっているのは黒の方である。なぜなら 18.Bxb5(18.bxa5 Qxa5 19.Bxb5? は軽妙な 19…Nxe5! でe2の過負荷のクイーンにつけ込まれる)18…axb4 19.axb4 Ndxb4 のあと黒の展開の優位がものを言ってくるはずだからである。

17.axb4 Nxb4 18.Rad2 Rxd3 19.Rxd3 Nxd3 20.Qxd3 Rd8 21.Qe2 Rxd1+ 22.Qxd1

 かなり一本道の手順が続いたあとは形勢判断の頃合である。黒のクイーン翼のポーンは明らかに有用な資産で、黒には双ビショップもある。実戦的には白の防御は楽でない。だからカールセンの次の手は奇妙な決断になっている。

22…Bxf3?!

 この手は大会の状況に刺激された面もあったのだろう。黒は3個目のポーンを得るが、双ビショップがなくなって勝つ可能性が減少した。クラムニクは解説で 22…b4 か、まず Bg5 を防ぐ 22…h6!? を支持していた。22…h6 のあとは 23.Be3 a5 と進みそうで、そのとき 24.Nbd2?! のような自然な手では白が急に駒の連係が悪くなって 24…a4 のあと受けに苦労する。

23.gxf3 Qxe5

 カールセンはこの時点ではまだ勝ちを目指して指していたが何かを見落としていた。 23…Bxh4 24.f4 Be7 なら安全だっただろう。

24.Qd7!

 これはしばらくぶりのナカムラの積極的な手で、黒が少し受けづらい手だった。

24…Bf8

 これはコンピュータが最初に選択した手だが、このあと注意深く守らなければならないのは黒の方である。それはともかくカールセンは当初の意図どおり 24…Qe1+!? 25.Kg2 Qxc1 26.Qxe7 h6 と指すべきだった。これは 27.Qd8+ Kh7 28.Qd3+

のあと白がナイトを展開できるようになるとして却下された。しかしそれでも 28…f5(ナイトの動きを制限するため)29.Nd2 b4 30.Nc4 Qc3 31.Qe2 Qf6 のようなことで引き分けになるはずである。

25.Be3 a5 26.Qe8!

 これで白が陣容を改善するのがたやすくないとしても黒はかなり動きが難しい。

26…h6

 これは悪手ではないとしても少し守勢の手である。黒は 26…a4 から始めて 27.Kg2 なら次のように白キングの薄みにつけ入ることを目指したほうが良かったかもしれない。27…Qf5 28.Nd2 a3 29.Nb3 a2!

30.Qa8(30.Bc5? Qxc5! 31.Nxc5 a1=Q 32.Nd7 Qa3)30…Qg6+ 31.Kh2 Qh5 32.Bc5 Qxh4+ 33.Kg2 Qg5+

そして 34.Kf1?? は 34…a1=Q+! で駒をそらされてc5のビショップを取られるので、この局面は引き分けである。

27.Kg2!

 白はキングの位置を改善して次の手を準備した。

27…a4

 27…b4?! なら白の次の手を防いだだろうが、28.Nd2 のあと黒は次にどう指すのだろうか。ポーンは止められているし、29.Nb3 からは必殺の 30.Bc5 がある。

28.Na3 b4 29.Nc4 Qc7 30.Nb6 Qe7!

 白のナイトはまたたく間に元位置からはるか遠くまで旅してきた。しかしここでもカールセンはキング翼で十分反撃できるのであまり無理をしない。

31.Qxa4 Qxh4 32.Qa8 Qe7 33.Qc8 b3 34.Nd7 b2

 カールセンは前からこの手を読んでいたに違いなかった。このbポーンは Bc5 によって黒が消し去られるのを防ぐのにちょうど十分の速さだった。

35.Nxf8 Qxf8 36.Qb7 e5 37.Qxb2

 というわけでクイーン翼のモンスターポーンは2個目と最後が落ちた。しかしこの間に黒はキング翼で要塞を築くことができた。

37…f6

38.Qc2

 38.Qb3+ は 38…Qf7 39.Qxf7+ Kxf7 40.Kg3 g5 で黒陣を崩すことができない。途中 40.f4 exf4 41.Bxf4 g5 42.Bd2 f5 でも同じである。だからナカムラはクイーンを残したが、カールセンの堅い守りを打ち破るようには全然見えなかった。

38…Qf7 39.Qf5 Kh8 40.Bd2 Kg8 41.Kg3 Kh8 42.Be3 Kg8 43.Kh2 Kh8 44.Kg2 Kg8 45.Qd3 Kh8 46.f4 exf4 47.Bxf4 Kg8 48.Qe4 Kh8 49.Be3 Kg8 50.Bd4 Kh8 51.f4 Kg8 52.Kg3 Kh8 53.Be3 Kg8 54.Bd4 Kh8 55.Be3 Kg8 56.Bd4 Kh8 ½-½

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(307)

「Chess」2013年2月号(2/3)

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ロンドン・クラシック(続き)

V.アーナンド
H.ナカムラ
第8回戦

解説 デイビド・ハウエル

 この局面も戦力が不釣合いだった。白はポーンが進攻しルークもよく働いているので勝つ可能性が高い。

41…b5 42.Rd8 Nc5 43.Rb8 Kf7 44.g6+

 この手は局後一部の観戦者によって批判された。しかし白にはまだ勝ちが残っているように見える。それはともかく 44.Rb6! の方が簡明だったかもしれない。

44…Kg7 45.Kg4 b4

46.h5?

 46.Rxb4 は黒にg6のポーンを取らせることになるので指しにくい手だが、白はかえってやりやすくなる。実際 46…Kxg6 47.Rb8 は黒にとって非常につらいはずである。

46…b3 47.Kf5 Bd6!

 急にナカムラに反撃の手段ができた。

48.Rb4?!

 48.Rb6 Bc7 が最も当然の手だが、その時 49.Rc6?? は 49…Ba5! で黒のbポーンがチェックでクイーンに昇格する。

48…a5 49.Rb6

 49.Rh4 Kh6 は黒が良さそうである。

49…a4!

 ここでは黒の勝勢になっている。

50.Rxd6 b2

 意外な手だが 50…a3! で黒の勝ちになる。白は自分のポーンを突き進めても間に合わず、変化によっては黒ポーンがb1でクイーンに昇格したときチェックになることが効いている。

51.Rb6 a3 52.Kg5 Ne4+ 53.Kf4 a2

(編集部注 先月号でマルコムが書いていたようにここで196手詰み(!)があるらしい)

54.Rb7+ Kf8 55.Rxb2 a1=Q 56.Rb8+ Ke7 57.Kxe4

57…Qe1+

 57…Qa4+ なら明らかに白のクイーンを取れるが、人間にとってはとても読めそうにない。手順は例えば次のとおりである。58.Kf5 Qc2+ 59.Kg5 Qd2+ 60.Kf5 Qd5+ 61.Kg4 Qxg2+ 62.Kf5 Qh3+ 63.Ke4 Qg4+ 64.Kd5 Qe6+ 65.Kc5 Qd6+

58.Kf3 Qc3+?

 そしてここでは 58…Qd1+ と指してみた方が良かった。

59.Kg4 Qd4+ 60.Kh3

 これでアーナンドは要塞を完成し、黒は何も進展が図れない。

60…Qd3+ 61.Kh4 Qe4+ 62.g4 Qe1+ 63.Kh3 Qe3+ 64.Kh4 Qe1+ 65.Kh3 Qe3+ ½-½

 波乱に満ちた試合だった。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(308)

「Chess」2013年2月号(3/3)

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ロンドン・クラシック(続き)

H.ナカムラ
L.マクシェーン
第9回戦

 黒のe5のナイトはトロイの木馬である。しかし白が Qd2 でd列に圧力をかける構えなので、黒に交換損を上回るものがあるかどうかはなんとも言えない。

30…c5 31.Rd6 a4

 31…Bc6 がd5の地点を抑える好例だったかもしれない。32.Qf2 なら 32…c4 33.Qd4 h4 で、白が両翼を簡単には支配し続けられないことが分かる。

32.R1d5

 この手は積極防御で、狙いも含んでいたが・・・

32…Kg7??

 黒は気がつかなかった。この時点までには 32…Bc6 が必須になっていた。そして 33.Rxe5!?(33.Rd1 axb3 34.axb3 Ra8 は黒がもっと指しやすそうだが、もちろん白はしのぐことができるはずである)33…Qxe5 34.Qxf7+ Qg7 となれば万事を掌握していただろう。

33.Qxe5+! 1-0

 あらま。33…Qxe5 34.Rxe5 Rxe5 35.Rxd7 で黒の単純な駒損である。

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「ヒカルのチェス」(309)

「British Chess Magazine」2013年1月号(1/2)

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第4回ロンドン・チェスクラシック

L.アロニアン
H.ナカムラ
2012年ロンドン・チェスクラシック、対称イギリス布局

解説 トールバット

1.c4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.g3 e5

 この積極的な手は素早い展開を目指し、d列の出遅れポーンの不利を補っている。

6.Nb5

 白はd5とd6の弱点に狙いをつけている。6.Nxc6 は 6…bxc6 7.Bg2 Bb4+ で米国チャンピオンに動き回られるかもしれない。

6…Bb4+

 迅速な動員を続けるこの手が黒の最善手である。

7.Bd2

 7.N1c3 が重要な手で、黒の作戦にとって試練になっている。白はd6の地点を押さえたままで、7…d6 8.a3 Bxc3+ 9.bxc3 O-O 10.Nxd6 Qa5 となれば黒は犠牲にしたポーンの代償がある。

7…a6

 d6に侵入できないナイトに行き先を聞いた。

8.N5c3

 8.Bxb4 は 8…axb5 9.Bd6 Qa5+ で黒が好調だろう。

8…d5

 白が Bg2 と指す前に突いた。

9.cxd5 Nxd5

 黒が弱いdポーンを清算したので互角の形勢になった。

10.Bg2 Be6 11.O-O Nb6

 このナイトは弱いc4の地点を目指していて、白は同翼のナイトの位置によって受けが阻害されている。

12.Be3 Nc4

 すでに黒に主導権がある。

13.Qc1 O-O 14.Rd1 Qc7

15.a3

 15.Nd5?! は 15…Bxd5 16.Rxd5 Nxe3 17.Qxe3 Nd4 となって、ナイトがc2に侵入する狙いがあるので黒が好調である。

15…Nxe3 16.Qxe3 Ba5

 この一手である。黒はビショップをb6に引く手を狙っている。

17.Nd2

 17.Nd5 は 17…Bxd5 18.Bxd5 Rad8 で展開に優る黒が有利である。そのあとは 19.Nc3 Nd4 20.Rac1 Bxc3 21.Rxc3 Qa5 22.Bb3 Nxb3 23.Rxd8 Rxd8 24.Rxb3

でナカムラが優勢である。

17…Bb6 18.Qf3

 18.Qg5 でも 18…Rad8 で黒が良い。

18…Rad8 19.Na4 Ba7

 黒はa4のナイトを遊び駒にさせようとしている。

20.Qc3 Rd4

 先手になっている。

21.Qc2

 21.Bxc6 bxc6 22.b4 Rfd8 も黒の方が良い。

21…f5

 黒は …e4 突きで白のビショップを封じ込める作戦である。

22.e3 Rdd8 23.b4

23…e4

 黒は作戦をつらぬいた。23…f4 24.Nc5 Bg4 でもよい。

24.Nb3 Qf7 25.Nbc5 Bd5 26.Rd2 b6

 白のポーンは攻撃に弱くなっている。

27.Rxd5

 白はこの手が最善だと判断した。しかし 17.Nxa6 Bc4 18.Rxd8 Nxd8 19.Bf1 Bb3 20.Qc8 Qf6 の方が複雑で可能性に富んでいた。

27…Rxd5 28.Nxa6 Ne5

 ナカムラがキング翼攻撃を開始した。

29.Rd1 Rfd8 30.Rxd5 Qxd5

 この手はd列からの侵入を目指している。

31.Nb2

 31.Nc7 Qd1+ 32.Qxd1 Rxd1+ 33.Bf1 Nf3+ 34.Kg2 Ne1+ 35.Kg1 Kf7 36.Nb5 Nf3+ 37.Kg2 Rd7 38.Bc4+ Kf6 39.Nac3 Ke5

ならまだ戦いが続いた。

 本譜は白の負けが決まった。

31…Qd2 32.Qc7

 32.Qxd2 Rxd2 33.Na4 Ra2 はaポーンが落ちる。そして 34.Nc7 Rxa3 35.Nb2 Ra2 36.Nb5 Rxb2 37.Nxa7 Rxb4

はもちろん黒が勝勢である。

32…Ng4 0-1

 f2の地点を守るとb2のナイトが取られるので白は投了した。

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(この号続く)

2013年03月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス4

「ヒカルのチェス」(310)

「British Chess Magazine」2013年1月号(2/2)

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第4回ロンドン・チェスクラシック(続き)

J.ポルガー
H.ナカムラ
2012年ロンドン・チェスクラシック、ルイロペス [C78]

解説 トールバット

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O b5 6.Bb3 Bc5

 このアルハンゲリスク戦法は攻勢に努めて互角以上を目指す。

7.a4

 この手はb5の地点を攻撃して黒に …Bb7 による容易な展開を許さない。

7…Rb8

 7…b4 8.Nxe5 Nxe5 9.d4 Bxd4 10.Qxd4 Qe7 は黒が好調である。

8.axb5 axb5 9.Nxe5

 9.Nc3 なら白が少し優勢だがそれだけのことである。

9…Nxe5 10.d4 Bxd4 11.Qxd4 d6

 白には双ビショップがあるが黒には何も弱点がない。

12.f4

 12.Bg5 h6 13.Bxf6 Qxf6 14.Qc3 ならポルガーが優勢である。

12…Nc6 13.Qc3 Ne7 14.Nd2

 14.Re1 もあり 14…O-O 15.e5 となれば白が指せる。

14…O-O 15.e5 Nfd5

16.Bxd5

 強力なビショップをなくすこの手は最善でなかった。16.Qf3 Bb7 17.Ne4 でキング翼の黒枡の攻撃を目指すのがよく、17…dxe5 18.fxe5 Ng6 19.Bg5 となれば攻撃が黒の脅威になる。

16…Nxd5 17.Qd4 Bb7 18.Ne4

 18.Nb3 が黒のクイーン翼を抑え、18…Ra8 19.Bd2 で白がわずかに優勢である。

18…f5

 黒はb7のビショップのために形を決めて局面を開放する。

19.Ng5 Qd7 20.Nf3

 白はナイトをすぐ引く必要はない。20.Qd3 が良かった。

20…Ra8 21.Bd2 c5 22.Qd3 c4 23.Qd4 dxe5 24.Nxe5 Qc7

 黒のビショップの方が少し優っている、と思わないだろうか?

25.Rfd1 h6 26.Be1 Rfe8 27.Bd2 Red8 28.Rxa8 Rxa8

 黒がa列を支配しているので白が少し悪い。

29.h3 Ra2 30.Rb1

 クイーンが交換になった時にbポーンが守られているようにした。

30…Nf6 31.Bb4 Be4

 白陣に圧力がかかってきた。

32.Re1

 32.Qd2 Qb6+ 33.Kh1 Nd5 は黒に交換でクイーンがf2に侵入する狙いがあるので白が壊滅する。32.Qf2 Nd5 33.Be1 c3 も白が不自由である。そこでハンガリーのGMはポーンを犠牲にすることにした。

32…Bxc2 33.g4 Qa7

34.Qxa7

 34.Bc5 Qa8 35.Qc3 Be4 36.Bd4 Nd5 37.Qd2 Ra1 は黒がだいぶ優勢である。

34…Rxa7 35.Nc6 Ra6 36.Ne7+ Kf7

37.g5

 37.Nxf5 Bxf5 38.gxf5 Nd5 39.Bd2 なら 39…b4 40.Re5 Rd6 のあと 41.Kf2 で引き分けの可能性があった。

37…hxg5 38.fxg5 Ne4 39.Nxf5 Nxg5

 白はポーン損だがg7の地点に対してまだ狙いがある。

40.Re7+ Kg6

41.Nd4

 41.Nxg7 は 41…Nxh3+ 42.Kh2 Nf4 で白が …Nd5 の狙いに直面する。

41…Bd3 42.Rb7

 42.Nxb5 は 42…Rb6 で黒が戦力得になる。

42…Nxh3+ 43.Kh2 Ng5 44.Nxb5 Rf6

 ルークが白キングの方に展開し勝負が決まる。

45.Bc5 Rf4 46.Nc3? Rg4

 これで黒キングの運命が決まった。

47.Nd1 Bf1

 破滅的な狙いの …Nf3+ がある。

0-1

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(この号終わり)

2013年03月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(311)

「Chess Life」2013年3月号(1/1)

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収局研究室

ポーン損
収局でのポーン損は望ましくはないが必ずしも致命的ではない

GMパル・ベンコー

望み!
GMレボン・アロニアン(FIDE2815、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2760、米国)
世界頭脳競技、北京、2012年

 今のところ黒は3ポーン得である。白の望みは異色ビショップにある。進展を図るためには戦力を返さなければならない時がある。

53…e4?!

 意外にも 53…Kf6! の方が良かった。そのあとは 54.Bxe5+ Kf7 55.Bd4(55.Rc8? は 55…Bxf3+ でも 55…Ra5 でも黒の勝ち)55…Ra5 56.Re5 Rxa2 で黒の勝ちになる。

54.fxe4 Bf7 55.Re7 g4

 f4ポーンを弱めるのが早すぎる。正着は 55…Rc6 で一時立ち泳ぎをすることだった。

56.a3

 どうして 56.a4 か 56.Kf2 と指して待ち続けないのだろうか。

56…Rb5 57.Rxc7 Rb3 58.Rc6+

58…Kh7

 この手は慎重すぎる。積極的に 58…Kh5 といった方がもっと勝つ可能性が高かった。そのあと 59.Bd2 ならば 59…f3+ 60.Kf2 g3+ 61.Kxg3 fxg2+ 62.Kh2 Rg3! で勝ちになる。

59.Be5?

 しかしここではもっと慎重に 59.Bd2 と指した方が良かった。

59…Re3+ 60.Kd2 Rxe4 61.Rf6

61…Bh5?

 黒はまた意表のキングを動かす手を逃した。自ら白ビショップの筋に入る 61…Kg7! が最善手だった。そのあとは 62.Bc3 Kg8 63.Rxa6 f3 64.gxf3 gxf3 65.Rf6 Re2+ 66.Kd1 Bh5

で黒の楽勝になる。しかし少なくとも 61…Bd5 と指すべきだった。

62.Bxf4 Kg7 63.Bg5 g3 64.Rxa6 Re2+ 65.Kc3 Rxg2 66.Bf4 Bf7 67.Be5+ Kf8 68.Bd6+ Ke8 69.Bc5 Rh2 70.Ra7

70…g2

 これで黒は得していた最後のポーンを失った。70…Rh7 なら盤上に残っていた。

71.Re7+ Kf8 72.Re3+ Kg7 73.Rg3+ Kf6 74.Bg1 Rh1 75.Rxg2 Rh3+ 76.Kb4 Rb3+ 77.Kc5 Rxa3

 盤上にポーンが1個だけ残ったが何の意味もない。

78.Bd4+ Ke7 79.Re2+ Kd7 80.Re3 Ra8 81.Rh3 Rc8+ 82.Kb5 Kd6

83.Kb4

 キングが盤端に追われないように 83.Rh8 の方が安全で、たぶん黒はあまり長く手数を延ばすことができなかっただろう。

83…Rb8+ 84.Ka3 Be6 85.Re3 Kd5 86.Bg7 Bf7 87.Re5+ Kc6 88.Re3 Bg8 89.Rh3 Rb7 90.Bh8 Bh7 91.Rh6+ Kd5 92.Rh5+ Ke4 93.Rh4+ Kd5 94.Rh5+ Ke6 95.Rh6+ Kf5 96.Rh4 Rb3+ 97.Ka4 Bg8 98.Rh5+ Ke4 99.Rc5 Bd5 100.Ka5 Rb8 101.Bg7 Rg8 102.Bf6 Rg6 103.Bh8 Rc6 104.Rxc6 Bxc6 合意の引き分け

 これは快速戦だが昨今の状況では世界選手権さえこのような試合で決まる可能性がある。

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(この号終わり)

2013年03月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(312)

「Chess」2013年3月号(1/1)

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ベイクアーンゼー

 ナカムラは最後の3局で半点しかあげられず6位に終わった。もっとも前半戦を考えればそれほど悪い成績ではない。滅多にあきらめないおかげで奇跡的に絶望的な局面から間一髪で2局を引き分けていた。彼は他の選手なら投げるところを指し続けることにより多くの試合を救ってきた。次の試合は中くらいの例である。

L.ファン・ベリー
ヒカル・ナカムラ

第8回戦

60…Bc2! 61.Rxc4 Bd1 62.Rf4 Rxf3+! 63.Rxf3 Bxa4

 理論どおりの要塞になった。白キングは黒キングを隅から追い出すためにはh5の地点に行く必要があるが、h5のポーンがそれを邪魔している。

64.Rf6 Be8 65.h6 Bg6 66.Rxg6 Kxg6 67.h7 Kxh7 ½-½

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(この号終わり)

2013年04月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(313)

「Chess Life」2013年4月号(1/11)


不退転のGM
ヒカル・ナカムラは今や世界の超一流選手の一人だが、ピークに達したのか?

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不退転のグランドマスター

ヒカル・ナカムラの頂点へのゆるやかな進歩

2012年は米国の現チャンピオンにとって激動の年だった。世界の11の大きな大会に参戦し、普通の人が一生に獲得するよりも多くの飛行マイルを記録した。

マコーリー・ピーターソンはチェスライフ誌の人物評のために6ヶ国の8大会で彼の後を追った。

 洞察力と戦略的思考が偉大さの指標とされるスポーツでは、プロ選手は捨て駒による詰み攻撃を読むように将来の進路を決めながら、作戦を立てて人生を歩んでいくと思われるかもしれない。

 しかしそれが誤っていることの方が驚くほど多い。

 「一般に近頃は生活のほとんどすべてで2、3週間あるいは1ヶ月より先を見ないようになっている。なぜかというと実際意味がないからだ。」

 ヒカル・ナカムラは2012年の最高の結果をあげたところで、上々の気分だった。オランダの小さな町のホーへフェーンで開催された小さな2回戦総当たりのウニフェ(旧エセント)大会で6戦4½点で1½点差をつけて優勝し、なんと2856の実効レイティングをたたき出した。

 大会参加者のたまり場となっているラータイスという店名のブラッスリー(食事もできるビヤホール)で我々の会話はすべての超一流グランドマスターのプロ生活の最もありふれた関心事の一つに向いた。それは世界選手権の追求である。

 現在のFIDEの規定ではレイティングそのもので参加資格を得られなければ、ナカムラには暫定的に2014年3月に予定されている次回の挑戦者決定大会に出るための二つの選択肢がある。一つは今年の8月にノルウェーのトロムセで開催される128選手の勝ち抜き戦のワールドカップ決勝戦に進出することで、もう一つは6回開催されるグランプリに4回出場し最も良い3回の成績で1位か2位になることである。

 いずれにしても難関である。しかし半分空席のレストランで赤ワインをちびちび飲みながらナカムラは間違いなく困難な偉業にことのほか楽天的だった。

 「人生は実際短い。これから先の何年かを心配し始めれば人生の質、つまりやろうとしていることすべての質が落ちてしまう。」

 もっともである。何でも心配しすぎるのはとっくに困難な挑戦にさらにストレスを加えることになり逆効果である。おそらくこれからの世界選手権の巡回でタイトル挑戦に進出する有望な機会が2回や3回はあるだろう。ナカムラもそうだがたいていのプロはチェスには「全盛期」というものがあると考えている。それは20代後半から30代前半あたりで、豊富な経験と知識を持つ成熟した年齢だが、元気にあふれきつい旅行日程と長時間対局に耐えスタミナが残っているほど若い頃である。

 「例えばアーナンドを見れば、タイトルは防衛したが5年か10年ほど前と同じ水準で指していないのは確かだ」とナカムラは考えを述べた。もちろん全盛期を過ぎるまではいつ全盛期であるかはまったく分からない。彼が米国選手権をひっさげ18歳でプロの道を歩み始めてからはまだほんの一瞬のようである。

 ナカムラは若干25歳でしっかりと超一流グランドマスターに名をつらね、すべての最高の大会から招待状をもらえる最も引っ張りだこの選手の一人となっている。

 「たぶん客観的に言って今が一番強いと思う[10月のFIDEレイティングで自己最高の2786を記録した – ピーターソン]。しかし自分には2年前に指していたのと何も違わない感じがする。だからうまく指しているのかそうでないのか知ったり分かったりするのは実際非常に難しいと内心思っている。非常に難しい。」

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(この号続く)

2013年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(314)

「Chess Life」2013年4月号(2/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

激動の1年

 ナカムラの2011年は大躍進で終わったが、2012年はイタリアのレッジョ・エミリアでの竜頭蛇尾で始まった。この大会はいつも折り返し点で新年のお祝いを迎えるが、ナカムラは5戦して4点という目のくらむような成績を祝うことができた。しかし優勝間際で3連敗を喫し3位に終わった。

 1週間後ナカムラは3年連続でタタ製鉄大会に参加するするためにオランダのベイクアーンゼーに舞い戻った。そして実力どおりにレボン・アロニアンと1½点差の6位になった。アロニアンは第2回戦でナカムラを破り13戦9点の立派な成績で優勝した。(2012年4月号「2012年ベイクアーンゼー大会」

 ベイクアーンゼーは2011年タタ製鉄優勝というナカムラの最大の勝利の舞台である。それは不振に終わったモスクワでのタリ記念大会のあと11月後半に関係を解消したカスパロフとの共同研究の後の最初の大会だった。

 去年の10月に話をしたとき、ナカムラはカスパロフとの研究を過去のものとしそのメリットを考察した。それは肯定一色ではなかった。

 「チェスについてもうちょっと真剣になることを学んだ。そして結局それが得られた最大のことだと思う。」

 それと同時に関係をもっと早く終わらせるべきだったとも言った。

 「ありていに言えば誰も支配者でなかったということだ。それが問題の一部だった。誰がこれとかあれとかに責任を持つのか。たぶん一緒に研究すべきことを取り上げようとする際自分がもう少し強引にすべきだった。しかし自分は主導権を取らなかったし彼の方もそうだった。コミュニケーションが、それもたくさんなければならなかった。それに一緒に研究している人たちを信頼しなければならない。」

 ベイクアーンゼーのあと主にバンクーバーで3ヶ月休息を取ったあとナカムラは立派な11戦8½点と実効レイティング2833で米国選手権をガータ・カームスキーから奪い返した。これが3度目の選手権獲得で、この年の最も重要な個人戦の結果だった。(2012年8月号「全米選手権戦」

 閉会式で後援者およびセントルイスのチェスクラブと教育センターのスタッフに感謝したあと、両親と協力者のクリス・リトルジョンと一緒に「来年連覇に戻ってくるのを楽しみにしている」と言った。

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(この号続く)

2013年05月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(315)

「Chess Life」2013年4月号(3/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

モスクワからチューリヒへ

 ちょうど3週間後ナカムラはタリ記念大会に参加するためにモスクワ行きの飛行機に乗っていた。この大会はFIDE大会と重なる可能性を避けて11月から6月に変更されていた。強豪ぞろいの参加者の中でナカムラは最下位の一つ上の順位に終わった。これは名目上は実際より悪く見えるが、実際は負けが勝ちより一つ多いだけだった。初戦でアロニアンに負けたのが尾を引き、ナカムラは勢いを取り戻すことができなかった。

 モスクワはナカムラにとって全然お気に入りの都市ではなく、そこで偉業を達成したことがまだない(もっとも2010年にはもう少しでそうなるところだった)。2週間の苦闘のあとバンクーバーに戻るのはほっとさせるものだった。遠征に半年費やす者にとって故郷と考えられる場所があるならば、ここは第二の故郷のようになっている。

 ナカムラは2012年には無理なくスケジュールできる自由時間のほとんどをそこで過ごした。彼の親友には多くのバンクーバー人がいる。ブリティッシュ・コロンビアの美しい自然を楽しみ、ゆっくりめのペースの生活をおくっている。彼に言わせれば「サイコーという以外適切な言葉がない。」

 今回の執筆のために初めて会ったのは7月の終わりのチューリヒだった。ナカムラはちょうど前日にバンクーバーから飛んできたところで、あまり眠っていなかった。

 そんなに旅行するならモスクワとビールの大会の間にカナダでたった2、3週間ほどすごすのは手間暇かける価値があるのかと私はいぶかった。リラックスするよりストレスがたまらないのだろうか。

 「良くもあり悪くもある」と彼は説明した。「しかし確かに最近は以前よりももっと盤から離れて楽しもうとするようになった。大会の間の休みに必ずしも毎日チェスを勉強しているわけではない。外に出るようにし、違った人生を歩んでいる知らない人たちに会うようにしている。」

 「休暇」(チェスのプロにはちょっと定義しづらい)の間ナカムラはほとんどどんな時間もチェスに費やす。どんなに少しのチェスの研究でもほとんどはこれから対戦するであろう特定の相手の布局の準備に集中している。たぶんちょっとした収局の研究も混ざっている。大会前のたった1週間ほどで実際研究量は増える。1日最低5、6時間が必須の濃密な大会期間中を含めても、1年では平均して1日1時間にしかならないと彼は推測している。

 チューリヒはリラックスできる非大会のチェスの催しの一つだった。ホテル・サボイのバーでバカみたいに高いコーヒーでカフェインを摂取しているとき、17人のアマチュア選手が同時対局のために1階上に心待ちに集まった。

 これがナカムラのスイス最大の都市への初めての訪問だったが、短時間だった。翌日は列車にとび乗り、義父のスニル・ウィーラマントリー(彼はなんと1968年の第1回ビール祭りに参加していた)とリトルジョンと一緒に約1時間で第45回ビール・チェス祭りに向かった。

 ビール/ビエンヌはこの国のドイツ語とフランス語の地域にまたがっていて-だから両語の名前を持っている-スイスの唯一の公式2言語使用の都市である[たいていの人はどちらか一方である]。

 ナカムラは17歳の米国チャンピオンとして7年前に一度グランドマスター大会に参加した。2012年の参加者には彼にとって難敵のマグヌス・カールセンとワン・ハオが含まれていた。カールセンは世界ナンバーワンで誰にとっても手ごわいが、ナカムラは同格のほとんどと違い本格的な持ち時間で一度も彼に勝ったことがない。

 ワンとナカムラはほんの一握りの試合しか指していないが、ビールではワンが2試合とも勝ち、この年の後半でまた勝って通算の対戦成績を4勝1敗3分けにした。

 ナカムラはカールセンとアニシュ・ギリに2引き分けでエティエンヌ・バクロとビクトル・ボロガンには2-0の完封で同点3位になり、それでも実効レイティングはまたしても2800だった。

[囲み記事]空中で
 ナカムラの総飛行時間を聞けば飛行機嫌いはかっとなるだろう。しかしナカムラは飛行を楽しみ、主にヨーロッパとニューヨーク、セントルイスまたはバンクーバー間を行き来することを楽しみ、頻繁に飛行マイルをかき集めることを楽しんでいて、100万を超えている。
 ナカムラはかつてユナイテッド航空の比較的安いドバイ行き運賃を利用してセントルイスからデンバーを経由してサンフランシスコに飛んだことがあった。そう、アラブ首長国連邦のあのドバイである。地球の反対側のドバイである。旅程はSFO(旅慣れたジェット機族は3文字の空港記号だけを使う)からDENを経由してIAD(首都ワシントン)へ、そこからさらにクリスマスの日にDBXへだった。問題はここだけだった。往復チケットは1万6千マイルになり十分に常連客の地位を増し翌年の大西洋横断ビジネスクラスへの一群の格上げを獲得したということ以外、ドバイに行った理由はなかった。ドバイ空港にいたのは3時間足らずで、帰路の便に乗って(首都ワシントンとデンバーを経由して)サンフランシスコに戻った。旅行はしめて丸二日かかった。
 筋金入りの乗客にとってさえこれはちょっとやりすぎで、ナカムラはあとでこれを「人生で断トツの憂うつなクリスマス」と呼んだ。それでもヨーロッパへのビジネスクラスは結構な特典である。時にはそれが時差ぼけのまだ残る大会の初めでちょっとした余分の景気づけとなって、まあまあと魔法のようなのとの違いとなり得るかもしれない。

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(この号続く)

2013年05月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(316)

「Chess Life」2013年4月号(4/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

お気に入りのオリンピアード

 イスタンブールでの隔年開催のオリンピアードはナカムラの4回目の出場だった。これまでにトリノ、ドレスデンそれにハンティ・マンシースクで対局していて「お気に入りに近い」と言っている。「ちょっと古参になってきたかな」と冗談を飛ばした。

 初めての眼鏡をかけているさまは老練とはいかないまでも少なくともいくらかプロらしく見えた。弱い近視なので本当は必要でないが対局ではしばしばかけている。

 イスタンブールでは大体は筋書きどおりだった。負け犬の米国チームは早々とつまづいたが、「巨悪のロシア」(ナカムラが対局前日の夜にこうツイートした)に意地の勝利をあげて巻き返しメダル争いの有力候補になった。彼がクラムニクに珍しい下位昇格で勝った重要な試合はこの年一番の見せ場だった(後出の「2012年ナカムラの最高の試合」を参照)。

 米国の金メダルの期待は第10回戦で中国に負けて消えた。GMアレクサンドル・オニシュクが中国のGMリーレン・ディンにルークとポーンの収局で精彩を欠いて引き分けることができなかったあとまもなく、ナカムラはツイッターに次のようなことを書いた。

Hikaru Nakamura @GMHikaru 9月7日
チェスのチーム戦の対局でむごくて過酷な現実はチームメートと同じ程度にしかならないということだ。

 タイミングを考えればこのコメントはツイッターでのファンとオンラインチェスの掲示板でオニシュクを少し揶揄(やゆ)したものと広く受け止められた。オニシュクは既に敗戦にしょげ返っていて、「選手としてのチェス人生で最悪の日」と呼んでいた。ナカムラはこのツイートはチームメイトに対するものでなく一般的な観察だと主張した。

 「たぶん大会の1週間前や後とは違うのだから書くときにもうちょっとよく考えてみるべきだった。・・・確かに深読みすれば人がそう思ってしまうのはよく分かる。しかしそれが自分の意図ではなかった。」

 彼は急いでオニシュクに大きな敬意を抱いていることを付け加え、チェスのプロとしてオニシュクはいずれにしてもツイッターの書き込みに注意を払わないだろうと言った。

 オニシュクはテキサス工科大学[訳注 チェスのコーチをしている]のオフィスでコメントを求められて「個人攻撃とは全然考えなかった。あの夜はヒカルからも他の誰からも何のコメントもなかったので気持ち悪かったのが真相だ」と言った。彼は大まかに言ってイスタンブールでのナカムラが言うところの前向きなチームの宥和を共有していて、何も悪感情を持っていないと言った。

 ナカムラはGMワン・ハオに引き分けて8戦して6点になり第1席の個人金メダル争いの有力候補に躍り出た。しかし最終戦でラドスラフ・ボイタシェクに黒で勝たなければならなかった。ナカムラは激しいクイーン翼ギャンビット受諾を採用したがボイタシェクはしっかり局面を支配し続け快勝した(後出の「2012年ナカムラの最悪の試合」を参照)。

 皮肉な話だが10月にナカムラが説明してくれたように、引き分けでは駄目だったけれどもポーランド相手の最終戦で対局していなかったら彼が金メダルを取っていた。米国はチームとしてメダル獲得に非常に近かったので、もちろんそんなことは現実には話しにならない。引き合わない受賞になることは言うまでもない。第1席のほとんどの選手よりも対局数が少ないことになる(8局)。(ちなみに金メダルと銀メダルを獲得したアロニアンとボイタシェクはそれぞれ10局と11局を指した。)

 第2席のカームスキーは何とか勝ち(それで金メダルを得た)、第3席のオニシュクは悲劇的な敗戦から立ち直って引き分けた。そして勝敗はレイ・ロブソンの結果にかかった。チームメイトが心配そうに見守る中レイは苦労の末に勝ち米国が5位で終わることができた。

 米国選手権の最中の5月にナカムラはオリンピアードの最後の席にロブソンを入れるために米国チェス連盟により用いられた選考基準に公に疑問を呈し、結果に不満であることを示唆していた。しかしイスタンブール後レイが立派に指したことを認めた。

Hikaru Nakamura @GMHikaru 9月9日
自分がチームにオリンピアードを切り抜けさせた。そして今日チームが自分をそうした。今日ロブソンが勝ったのは我々の将来にとって良い兆候だ。

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(この号続く)

2013年05月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(317)

「Chess Life」2013年4月号(5/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

切れた

 9月後半にFIDEグランプリシリーズに初めて登場したナカムラはこの年の最悪の成績を記録した。レッジョ・エミーリアでは3連敗を経験していたが、ロンドンでは4連敗して過去最悪の連敗の一つとなった。勝勢の局面もいくつかあったが、勝ちきれなかった。

 「ちょっとオリンピアードからの疲労感があったのは確かだ。長時間対局しもう少しで勝つというところでそのチャンスを逃してしまうと疲労がたまりにたまってしまう。」

 対局でのヒカルの表情としぐさはあからさまである。彼を見るだけで試合がどうなっているかが読み取れることが多い。彼は第7回戦で首位を走るシャフリヤル・マメジャロフと黒で対戦した。このロンドン大会で私は対局場で座って各対局机の生中継を監視するめったにない好都合な位置にいた。ナカムラはずっと苦戦で、ついにどうしようもない敗勢の局面で最初の規定手数に到達した。詰まされる寸前で彼は差し迫った敗北の現実を直視したくないかのように盤からなかば顔を背けた。マメジャロフが対局場をうろついている間、ナカムラは悄然として前かがみになり、どこで間違えたかを見つけるために時々棋譜用紙を見やっていた。このようにして何分かたったあとようやく相手にうなづいて投了の意思表示をした。

 連敗の4局目ではこれまで見た超一流の対局で最大のメルトダウンの一つを目撃した。ポカ(マイケル・アダムズ戦での 26…Rb8[後出の「2012年ナカムラの最悪の試合」を参照])を出した後、ナカムラは突然絶望的な敗勢になったことに気づいて狼狽を隠すのが困難だった。家で生中継を見ていた観戦者は、彼が顔を左手で覆ったので彼の顔を見ることができなかった。しかし私の座っている所からは完全に打ちひしがれたように見えた。

 大会後ナカムラは2011年初頭以来初めて世界10傑からすべり落ちたにもかかわらず、自分の身に起こったことすべてについてあっぱれにも平然としていた。

 「つまり、確かに切れてしまった(ポーカー用語で、[ウィキペディアによれば]選手が最適でない戦略をとり結果として通常は過激な選手になる精神的または感情的な混乱または挫折の状態)・・・それでも良い局面もあったのでまったく悪いというわけではない。大会の間ずっとこちらの方が悪かったということではない。それから悪い流れがあった。それで話の終わりだ。」

 グランプリでは最終成績は最良の三つの成績の合計なので一つの悪い結果は破滅ではない。彼はまだ二つ目の大会に出ていない。

 ナカムラがこのシリーズに参加することにしたのはたやすい決断だった。米国選手権戦の後すぐに彼を含めるという通知が舞い込み、ほとんどすぐに選手契約書にサインした。

 「経験を積むには良い機会だ。しかも世界選手権への挑戦者を決めるためにどんな方式にせよ通過するチャンスがある。指すことにはほとんど否定的な側面はない。」

 しかしグランプリの構想には過去には資金集め、選手の辞退、開催地の突然の変更などの問題があった。ナカムラはこれらをよく知っているが、開催の反復がうまくいかなくなるかもしれないことは心配していない。「率直に言ってそんなに先のことまで考える必要はないんじゃないかな。単にうまく指しちょっとしたことをきちんとやる問題だ。」

 同じことはワールドカップについても言えて、彼は6月か7月までは参加するかどうかを決めるつもりはない。

 ロンドンのあとナカムラは他のいく人かの選手たちと一緒にイスラエルのエイラートで開催された欧州クラブカップに直接向かったので休息がなかった。そこではイタリアのクラブでパードバのオビエッティベ・リサルチメントに所属した。このチームのためには4月のイタリア・チーム選手権戦でファビアノ・カルアナと共に3局指していた。

 ナカムラはイタリアのすべてが好きになって、最近はそこでもう少しプライベートな時間を過ごすようになり、イタリア語さえ勉強している。

 エイラードではほとんど格下と当たり7戦して5点をあげたが、初戦ではロシアの有望なGMドミトリー・アンドレイキンに番狂わせを食らった。

 そのようなきついスケジュールで失望も多かったことを考えれば、オランダのウニフェ大会で強力に巻き返したのは息抜きになった。そこでは各対戦者に白で勝ち黒で引き分けた。

 最後に二ヶ月のチェスづけの後ナカムラは短い休息を楽しんだ。6月から11月に変更されたルーマニアでのキング大会への招待は、チェス・クラシックのためにまたロンドンに飛ぶまでには元気を取り戻せるように辞退した。

[囲み記事]ロンドンでのおしゃべり

ロンドン・チェスクラシックでのナカムラ語録

 「どちらかというと布局は1、2の決まり切ったのを用意するのでなく、相手をもっと驚かせるようにしている。武器が多ければ多いほど相手の意表をついて自分のよく知っている局面になって、都合がいい。カールセンがあんなにすごい成績をあげているのはそのためだ。彼はほとんどどんな陣形でも得意にしている。彼は他の選手よりも構想や戦い方をずっとよく知っている。」

 「今はコンピュータがあるので一つの布局では好成績をあげられない。カルポフやカスパロフは違った。カルポフは棋歴をとおしてほとんどカロカン防御を指し、ときたまフランス防御も指して、偉大だった。カスパロフの場合はスヘフェニンゲンとそのあとは20年ほとんどナイドルフを指していた。ところが今ではもっと知っていなくてはならない。なぜならコンピュータでどんな布局でも分析でき、たぶん1日あれば十分に理解できるからだ。だからそのためチェスの様相ががらっと変わってしまった。」

 「自分はチェス960[フィッシャー・ランダムチェスとも呼ばれる]が本当に好きだ。これがチェスの未来だと思う。今は正規のチェスがまだはやっている。しかしいつかはほとんどの人がチェス960を指しているだろうと考えている。駒の配置は不規則だがそれでも棋力は存在する。今のように同じ事前研究がなく本当に純粋なチェスを指すことになるので本当に指すのが楽しい。もっとこれを指す機会があればいいと思う。」

 マグヌス・カールセンについて「心理的な面があって、ある所で彼は最善の防御を見つけ続けて乱れない。だから多くの者が少し神経質か不安になって間違いやすくなっている。」

 「マグヌスのしていることはすごいと思う。彼とクラムニクは-彼らの対局を見れば分かるが-非常に堅実に指しほとんどは壮大な定跡を避けるようにしている。自分でそうしてみれば、なぜ互角かを考えようとするのとはまったく異なってただコンピュータを起動させてこの手は互角だと言うよりも、より深い着想とより深い作戦を考えることができるようになると思う。対局中はそんな贅沢はできないのだから。自分で考えなければならない。」

 ブリッツに対する正規チェスについて「内容の方をずっと楽しんでいる。IMの棋力、もしかしたらGMの棋力まではブリッツからの方が上達できる人もいるだろう。しかしそこを過ぎるとブリッツでは決して学べないやり方で、もっともっと着想や構想を考え出すことになる。ブリッツというのはうんと速く手を見つけて戦術の視力を良くするものだ。」

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(この号続く)

2013年05月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(318)

「Chess Life」2013年4月号(6/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

チーム作り

 一ヶ月の休息の間にナカムラは別の重要なプロとしてしなければならないことについて考えることができた。それは彼の研究を助けることができ、いつかは将来の重要な大会で協力者を務めることになるかもしれない人からなるチームを編成することである。今日までナカムラはほとんどリトルジョンか自分の親だけを大会に連れて来ていた。

 ほとんどの一流選手は布局研究、実戦練習それに精神面の助言を支援してくれる他のグランドマスターを頼りにしている。ナカムラは特別で、コンピュータ援用の布局調査に熟達した無称号の選手(リトルジョン)と研究している。しかしいつかはもっと仲間が必要になると認めている。

 「今はまだその過程だ。状況がどうなるのか評価しなければならない。ロンドン[グランプリ]が終わったあと既にある程度の結論は出していて、完全に違ういろんなことをしなければならないと考えていた。しかし結局のところ後ろへ下がって全体を見回し、何が良くなかったのかを見極めようとしなければならない。」

 もちろん物事がうまくいっていない時は、最初の衝動はいつものやり方の何かを変えることがよくある。しかし4年間やってきた後では彼はすぐにはリトルジョンを代える予定はない。

 「正直言って例えばカスパロフと違ってクリスと研究することの一番難しい点は、彼が親友でもあるということだ。つまり一緒にチェスを研究しているが、彼は私の親友の一人でもあり、そのため仕事と喜びを兼ねようとする時には非常に難しい。そこには誠実さがあるために非常に難しい。しかしそうはいうもののすべてうまくいっていて、それでやっていけると思うし、クリスも回りにいることになるだろう。彼は自分の成功にとってなくてはならない。自分が2700になって以来彼はずっといる。」

 プロの選手は協力者を連れて大会にやってくるが、他にもいるし大勢のこともよくある。彼らは表舞台には登場せず極秘にされる。こちらのチームに誰がいるかを相手が知れば、こちらが指そうとするかもしれない布局について彼らがときには有効な推測ができることはスポーツの特質である。ほとんどどんな布局でも指すことで知られるナカムラのような者にとってこれは大した問題にならないと思うだろうが、それでも彼らが誰であるかもしれない(または誰でないかもしれない)ことについて彼は非常に口が重い。

 「誰にでも役割がある。クリスと研究しているが彼とだけというわけではない。一緒に研究している人たちがいて彼らはお互い知っている。皆顔を会わせたことはないが、すぐにロンドン・チェスクラシックの準備に入る」と彼は10月に私に話した。

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(この号続く)

2013年05月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(319)

「Chess Life」2013年4月号(7/11)

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不退転のグランドマスター(続き)


同格のほとんどと違いナカムラはまだ正規持ち時間のチェスでマグヌス・カールセン(右)に勝ったことがない

そんなものだ

 2013年はこれまで第75回タタ製鉄チェス大会しか指していない。公式ウェブサイトの短い「アンパッサン」ビデオのファンはベイクアーンゼーでの唯一の米国人からの決まり文句に気づかないわけがなかった。

第2回戦 「ばかみたいな指し方をしてしまった・・・少し幸運だったがうまくいった。そんなものだ。
第3回戦 「少し幸運で最後に千日手にできた。そんなものだ。
第5回戦 「ホウはプレッシャーを感じていたみたいで、21.f4 でポカを出し、その後はほとんど終わっている。だからそんなものだ。
第7回戦 「そして 30.Bd3 のあとまだ勝負だった。こちらが明らかに優勢で20時間指すつもりだ。しかしそんなものだ。それに前の回戦でちょっと不運だったので決してチャンスを逃すつもりはない。」
第10回戦 「ファビアノは不注意だっただけだと思うが、彼は手拍子で 51.Nf2 と指し、まだ受けきれるとは思うがその後は非常に難しい。だからそんなものだ。チャンスは確実にものにする。つまり3点勝ち越すということだ。少なくとも単独2位の可能性はある。」

 このあとナカムラはアロニアンに負け、そのあとカールセンにはたった31手でつぶされ、公式ウェブサイトでのコメントをやめた。1点勝ち越しの成績は単独6位がやっとで、レイティングも少し失った。

 ツィッターでのつぶやきから判断すると彼はすぐに回復し、カーニバル祭に間に合うようにイタリアに戻り、その間女流FMマリア・デ・ローザと二人で派手な衣装を着た人目を引く写真を掲載した。

 ナカムラはツィッターで(@GMHikaru)最も活動的なグランドマスターの一人で、ひと月に2、3回から1日に数回までどこででも書き込む。

 「人は物事について一定の受け取り方をするものだ。自分が書き込む-ツィッターで書き込む-ほとんどすべてを誰もが何か隠された意味があると決めてかかっている。ほとんどのときはそんなことがないのに。」

 しかし事はそれよりもっと悪い。良きにつけ悪きにつけ彼はチェス界の特別な人間になっている。ナカムラの失敗をざまを見ろと思っているようなチェスファンもいる。例えば彼が対局しているといつも、人気のある ChessBomb ウェブサイトでの見境ないコメントはヒステリーじみていたり悪意があったりすることがよくある。ナカムラは何も気にしていないようだ。

 「人が自分を悪者とみなしたいならそれでいい。そうなるだけのことだ。人が考えることを自分が変えられることは何もない。(囲み記事の「ロンドンでのおしゃべり」を参照)

 チェス選手としては奇妙に運命論者的なこの無関心の声明がどうなるかを知るのは難しい。これまで一部の者が彼にいだいてきた否定的な印象が彼の言葉の誤解や彼の性格の誤認識に基づいている限り、苦労することになるかもしれない。しかし熱狂的なチェスファンは客観性や向上心や率直さを評価しなければならない。新しい事実の前には彼らは再評価することがあり得るし、ほとんどをはるかに超えるかもしれない。要は、両側に選択があるということである。

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(この号続く)

2013年06月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(320)

「Chess Life」2013年4月号(8/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

進路

 「乗り物に乗って、旅行して、楽しむだけだ。実際できることはそれだけなのだから。」

 彼は旅行が不案内どころではない。去年だけでもイタリア、オランダ、カナダ、米国、ロシア、スイス、イギリス、トルコ、イスラエル、それに中国の大会に行っている。大会への招待を贅沢にも辞退するほど引く手数多(あまた)である。

 1月には2013年米国選手権戦をスキップし、カールセン、クラムニク、アロニアンそれにアーナンドを含む世界の10傑のうち8選手の参加するノルウェーでの新しい大会を優先することにした。これが史上最強の大会になるかもしれないことを考えると彼の決定は理解できる。しかし米国選手権戦とセントルイスのチェスクラブ・教育センターには痛手であることは確かだ。それに米国のファンの一部もきっとがっかりさせるだろう。(ナカムラはこの件についてのいくつかのインタビューの申し込みも断わった。)

 盤の陰でナカムラを強大にしているのは多くの資質である。恐れ知らず、驚異の勝つ意志、自信、それに粘り強さ。盤を離れて彼と接触する人たちにとって最もいらいらするのは、予測不能であることである。ある日彼はこの上なく率直で気さくで、次の日は別のことに気を取られて時間を割いてくれないかもしれない。それでもプロのチェスは彼のような人間をもっと必要としている。妥協しない選手、そして複雑な性格の彼は、いつどこで対局してもスポーツに対する人々の興味を活気づける才能がある。

 最高峰で結果を出すことは、もう少し先まで読むことではなく、自己認識と最高の実力や持続力を可能にする沈着さとを見つけることである。チェスは努力を要しないと感じる必要がある時はナカムラにとって重荷のように思われるときがある。その意味では将来のことを心配しない方が良いのかもしれない。

 そしてチェスを指すだけである。

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(この号続く)

2013年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(321)

「Chess Life」2013年4月号(9/11)

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不退転のグランドマスター(続き)


ナカムラは2012年の最も重要な結果となった3度目の米国選手権獲得でセントルイスにいたときテニスを数セットした。

2012年ナカムラの最高の試合

GMベン・ファインゴールド

ルーク捨て
GMヒカル・ナカムラ(2874)
GMロバート・ヘス(2710)
米国選手権戦第1回戦、セントルイス、2012年5月8日

31.Rxg7!

 ナカムラは気持ちのよい捨て駒で攻撃を締めくくった。黒のa2のクイーンとc5のルークはキングの守りに何も役立っていない。

31…Kxg7 32.Rg3+ Kf8 33.Qh7 黒投了

戦術的退却
GMヒカル・ナカムラ(2874)
GMレイ・ロブソン(2692)
米国選手権戦第3回戦、セントルイス、2012年5月10日

43.Nd5!

 ナカムラは黒がたとえチェックでクイーン昇格させても受けがないことを見越している。

43…Rg3+ 44.Kf4! Bg5+ 45.Ke5 e1=Q+ 46.Kd6

 ナカムラは 43.Nd5! と指した時にこの局面になることを読んでいて、黒が詰みの狙いに受けがないことを分かっていた。

46…Bf4+ 47.Nxf4 Rd3+ 48.Nxd3 Qg3+ 49.Ne5 黒投了

下位昇格
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2778、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2797、ロシア)
第40回チェスオリンピアード・オープン部門第9回戦、トルコ・イスタンブール、2012年9月6日

62.c8=N+!!

 これは驚異の手であるだけでなく、たぶんナカムラが2012年に指した最も重要な手である。この試合に勝ったことによりオリンピアードで米国がロシアに勝つことを確定させた(当たり前の 62.Kxe2? は 62…f3+ 63.Kxf3 Bxc7 で勝ちを逃す)。

62…Kf6 63.Kxe2 80手目で黒投了

 白は2駒得で楽に詰み狙いの攻撃に出られた。

敵陣突破
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2783、米国)
GMアニシュ・ギリ(FIDE2730、オランダ)
FIDEグランプリ・ロンドン大会第10回戦、イングランド・ロンドン、2012年10月2日

47.g5!!

 堂々の敵陣突破!

47…hxg5 48.h6! gxh6 49.Rxe5!! fxe5 50.f6

 白は 51.Bxc5 から 52.f7+ を狙っている。

50…Bd7 51.f7+ Ke7 52.Bxd7 Kxd7 53.Bxc5 65手目で黒投了

 もう少しあとでナカムラが簡単に勝った。

詰みの包囲網
GMユディット・ポルガー(FIDE2705、ハンガリー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2760、米国)
ロンドン・チェスクラシック第5回戦、イングランド・ロンドン、2012年12月6日

45…Rf4!

 収局で詰みの網を張った。

46.Nc3? Rg4! 47.Nd1 Bf1 白投了

 …Nf3+ から …Rh4# が受からない。

ルークを放置
GMアレクサンドル・グリシュク(FIDE2771、ロシア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2760、米国)
スポーツアコード世界頭脳競技・男子快速第6回戦、中国・北京、2012年12月15日

40…bxa5+!

 b8の「浮きルーク」を放置した。

41.Qxb8?

 白は 41.Kc2 なら引き分けの可能性があった。

41…Rb5+ 42.Qxb5 axb5 53手目で白投了

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(この号続く)

2013年06月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(322)

「Chess Life」2013年4月号(10/11)

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不退転のグランドマスター(続き)

2012年ナカムラの最悪の試合

マコーリー・ピーターソン

劣勢
GMマイケル・アダムズ(FIDE2722、イングランド)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2783、米国)
FIDEグランプリ・ロンドン大会第9回戦、イングランド・ロンドン、2012年10月1日

26.Rhd1

 局面は黒が非勢だが、ナカムラの次の手で完全に駄目になった。

26…Rb8? 27.Rd8+ Rxd8 28.Rxd8+ Kh7 29.Qc2+ g6 30.Rd7 Kg8 31.hxg6 Kg7 32.gxf7 Nxf7 33.Qe2 Kg8 34.Qf3 Qf8 35.Rxb7 Qg7 36.Kb2 黒投了

ビショップの侵入
GMレボン・アロニアン(FIDE2825、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2775、米国)
タリ記念大会第1回戦、ロシア・モスクワ、2012年6月8日

21.Nd5 g5?

 21…Rad8 のような手なら黒がうまくやっていた。

 残念ながらナカムラは強力な突入を見落としていた。

22.Bd7!

 これで白の戦力得になる。

22…Re6 23.Bxe6 Bxe6 24.Nxf6 Qxf6 25.Rxc6!

 アロニアンは交換得を返上して勝ちの収局に単純化した。

25…bxc6 26.Qa1 a5 27.Qxe5 Qxe5 28.Nxe5 黒が53手目で投了

ラーデクに負ける
GMラドスラフ・ボイタシェク(FIDE2717、ポーランド)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2778、米国)
第40回チェスオリンピアード・オープン部門第11回戦、トルコ・イスタンブール、2012年9月9日

42.Rc8 Bf7?

 黒は 42…Bc6 43.Rxf8+ Qxf8 で駒を交換することにより頑張ることができた。

43.Qc1

 平凡なそらしの 43.Nd7! なら黒の苦しみをすぐに終わらせていた。そのあとは 43…Qxd7 44.Qe5 Be8 45.Rc7 となるだろう。

43…Be6

 あとは掃討処理だけである。

44.Rc7 f4 45.Rxb7 g5 46.Rxa7 g4 47.Qc7 Qxc7 48.Rxc7 Rf6 49.Rg7+ 黒投了

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(この号続く)

2013年06月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(323)

「Chess Life」2013年4月号(11/11)

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「Fighting Chess with Hikaru Nakamura」
Karsten Muller、Raymund Stolze 著
232ページ、Edition Olms 発行(2013年)、29.95ドル

ただの人

我らが3期米国チャンピオンだけを取り上げた初の本

ジャマール・アブダル=アリム

 米国チェス界の問題の一つは、最強の選手たちでも弱い選手たちの指導にあまりに多くの時間を費すことである。

 この逆説的な主張は、初めてこの若い選手の棋歴に焦点を当てたといううたい文句の新刊書で米国チャンピオンのヒカル・ナカムラが語るいくつかの変わった持論の一つを表わしている。

 誰かが名指しをするときが好きな人たちのために、ナカムラは失望させることなく、コーチを副業とし彼の言うところでは結果として大会での成績不振につながっている二人の「強豪選手」をあげている。

 「彼らが大会に出て自分が言うところの悪い成績をあげたとき納得できるだろう」と、ナカムラは本書でドイツのチェス・ジャーナリストのIMゲオルギオス・ソウレイディスとの独占インタビューで言っている。「彼らはいつも教えてばかりいるから自分たちのチェスに表われるんだ。」

 教えることは弱い選手たちを上達させることには役立つかもしれない一方で、ナカムラは「弱い選手たちを教えているとき自分の能力に影響を与えることがある」というところに有毒な不都合があると言う。

 このインタビューには著者たちが「偉大な第11代世界チャンピオンのロバート・ジェームズ・フィッシャーの正統な後継者」として描く選手の精神構造を形作る思考がかいま見られる。

 これはせいぜいこうなって欲しいという文章だが-ボビー・フィッシャーは何と言っても世界チャンピオンだったがナカムラは世界チャンピオン志願者である-それでも本書は現在米国選手の中では世界で一番上にいる選手の気質を形成する諸要素を描写している。

 これらの要素には決断力と気概、決してあきらめず一見負けの局面においてさえ最善の防御を尽くす気質がある。

 それと同時にこのチェス王者が悲嘆にくれているようなところもある。例えばマグヌス・カールセンとレボン・アロニアンがそれぞれ自国のノルウェーとアルメニアで「スーパースター」と「ヒーロー」として扱われ、自分は何のファンファーレも得ていない。

 「自分が米国に戻ってもただの人にすぎない。何も特別なことはない」とナカムラはインタビューで嘆いた。

 「これらの本当に強い選手たちが自国であんなに注目を集めることにやりきれなくなることが時々ある。」

 この本自体はドイツに本拠を置く出版社の同意の限りで現実を反映している。

 言語的に変なところを大目に見ることができれば、この本はナカムラの初期のチェス生活について実際の貴重な話が満載である。

 例えばナカムラはインタビューで、負けず「嫌い」がどうして彼をまだ小さな頃に容易ならぬ選手に変えたのか、そして非常に年少のナカムラが生まれて初めての大会で4局を全敗した時のようにどのような方法で義父は彼を邁進させたのか説明している。

 本書はナカムラのキング翼インディアン好きと、どうしてかつて2600超相手でも「とんでもない」2.Qh5 を指すことに魅惑されたのかを取り上げている。

 ナカムラはどうしてコーチをつけないのか、どうしてコンピュータをあまり信用しないのかについても語っている。そして「実際には自分が完全に勝っている時に完全に負けている」といろいろなコンピュータチェスプログラムが結論づけることがよくあった事実をあげている。

 また、デジタル時代に育ったナカムラは、現代の選手が自由に使えるコンピュータと広大な知識がチェス本が役に立たなくなった理由だとも言う。本の中でそんなことを言うのはかなり奇妙ではある。

 もっともナカムラのトレーニング戦術の兵器庫から本が完全になくなっているわけではない。例えば第3章「収局技術で意気揚々」で著者らはナカムラの「技術的収局の習得と彼のマルク・ドボレツキーの名著『Endgame Manual』の知識」を論じている。

 本書中のいくつかの「テスト」は読者をナカムラがどのように実戦でいろいろな偉業を成し遂げたかを理解するのに誘っている。例えば彼がどのように要塞を突破したか、敵陣を粉砕したか、清算で優勢を実現したかなどである。

 第10章の「ナカムラの名局」は雑誌の記事を引用している。その中には2011年の第3回ロンドンクラシックで世界チャンピオンのビシー・アーナンドと対戦した試合が含まれている。その試合でナカムラは映画「The Matrix」で弾丸をかわす主役のネオに自分をなぞらえている。

 ナカムラは本書の出版に困惑しているようで、2012年5月にツイートしている。「許可なく人の試合で本を書いてもうけることができるのは本当にむかつく。」

 しかし書名には嫌悪させられる一方で、これから何年も米国選手権を席巻しそうな人間についての情報をもっと渇望しているチェス読者には大いにアピールするところがある。

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(この号終わり)

2013年07月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(324)

「British Chess Magazine」2013年3月号(1/1)

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棋力診断

ショーン・トールバット

 我々は海峡を渡ってオランダにいるところである。あなたはタタ製鉄グランドマスターAグループで、米国の最も才能が輝いている日本生まれのGMヒカル・ナカムラに対している。

 あなたの相談相手は後継と目されるマグヌス・カールセンである。

 白の5手目からを予想しなさい。特に5、16、20、26、27、28、および29手目には注意すること。

 それでは幸運を祈る。

白 M.カールセン
黒 H.ナカムラ
ベイクアーンゼー、2013年
シチリア防御カラシュニコフ戦法 B32

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 e5

 出だしはレーベンタールである。5.Nb5 a6 6.Nd6+ Bxd6 7.Qxd6 はラ・ブルドネ戦法と呼んでいいかもしれない。彼は1834年マクドネルとの終わりのない番勝負で 5.Nxc6? と取ったが、のちにシュタイニッツに批判された。19世紀には 4…e5 は全然はやらなかった。

5.Nb5

 黒はd列の弱点を補うために積極策を目指している。d6の地点を目指すこの積極的な手は3点。
 5.Nf5 は 5…d5 6.exd5 Bxf5 7.dxc6 Qxd1+ 8.Kxd1 bxc6 で互角になり2点。
 5.Nb3 は 5…Nf6 6.Bg5 h6 で互角になり1点。
 5.Nf3 は 5…Nf6 6.Bd3 d5 で黒が好調で1点。

5…d6

 これがカラシュニコフ!

6.g3

 2点。1990年ベイクアーンゼーでジョン・ナンがナイジェル・ショート相手に指した(1-0 33手)。
 6.c4 と 6.N1c3 は共に2点。

6…h5

 米国選手は …h4 で攻撃する狙いにより白の作戦を邪魔するつもりである。

7.N1c3

 3点。白は Nd5 の直接的な狙いで冷静に展開している。

7…a6

 黒は白のナイトを追い払わなければならない。7…h4 は 8.Nd5 で白が交換得する。

8.Na3

 1点。これしかない。

8…b5

9.Nd5

 2点。白はポーンによる両当たりを避け、ナカムラのクイーン翼の弱い地点、特にb6に目をつけている。

9…Nge7

 9…h4 10.Bxb5 axb5 11.Nxb5 Ra7 12.Nxa7 Nxa7 13.Be3 hxg3 14.fxg3 Be6 はたぶん白の方が良い。そこで黒は敵の-米国人が「うるさい」と呼ぶかもしれない-ナイトを無力にしようとする。

10.Bg2

 2点。冷静にまた黒のhポーンを無視した。
 10.Bg5 Qa5+(10…f6 11.Be3 は黒に多くの弱点が残る)11.Bd2 Qd8 12.Bg2 は本譜より少し良いかもしれず3点。

10…Bg4

11.f3

 2点。11.Qd3 はそれほど良くなく無得点。そのあと 11…Nxd5 12.Qxd5 Rc8 で黒が有望になる。

11…Be6

12.c3

 2点。b4の地点に利かせた。代わりに 12.Be3 は-1点-12…Bxd5 13.exd5 Nb4 で黒に反撃される。

12…h4

13.Nc2

 2点。白はナイトを配置換えする。

13…Bxd5

 黒はカールセンが Nce3 でd5を過剰防御できるようになる前に取ることにした。

14.exd5

 1点。これで白が双ビショップを持ち少し優勢である。

14…Na5

15.f4

 2点。白はキング翼ビショップでd5のポーンを守ってクイーンが出歩けるようにした。これでカールセンはe5のポーンを取る狙いができた。

15…Nf5

 15…hxg3 16.hxg3 Rxh1+ 17.Bxh1 Qd7 で …Qh3 を狙うのが最善のようで、18.Bg2 g6 で黒の満足できる局面になる。

16.g4!

 3点。16.Qg4 は 16…g6 で黒が堅固な好形になるので、ノルウェー選手は黒のナイトを追い払うことにした。

16…h3

 これは白にとって危険そうに見える。しかしカールセンは黒が白キングに迫れないことを正確に読んでいた。

17.Be4

 2点。ここがビショップの最良の地点である。

17…Nh4

 17…Qh4+ は 18.Kf1 Nh6 19.Rg1 Nb7 20.Qe2 Nc5 21.g5 Nxe4(21…Ng8 は 22.Bh1 Nd7 23.a4 で黒のクイーン翼に対する攻撃がきつい)22.gxh6 で白が少し良い。

18.O-O

 この理にかなった展開の手は2点。

18…g6

 18…Ng2 は 19.fxe5 dxe5 20.Qf3 で白がf列で好調子になる。

19.Kh1

 2点。キングを引っ込めて安全にした。(19.g5 も良い手で2点。)

19…Bg7

 19…f5?! が最も戦闘的な手だが 20.Bd3 e4 21.Be2 Bg7 22.Nd4 Bxd4 23.Qxd4 O-O 24.Qe3! で白が良い。

20.f5!

 3点。白は黒のキング翼を押さえ込もうとしている。

20…gxf5

21.gxf5

 締め付けを維持するこの取り返しは1点。

21…Ng2

 この手は決定的な間違いではないが、白の主導権を強めさせた。21…Bh6 が交換を誘って理にかなっていると思う。

22.f6!

 3点。このポーンは黒の目の上のたんこぶになる。

22…Bf8

 22…Bxf6 は 23.Qf3 Nf4 24.Bxf4 exf4 25.Qxf4 Rh4 26.Qxf6 Qxf6 27.Rxf6 Rxe4 28.Raf1 で白が良い。

23.Qf3

 2点。

23…Qc7

24.Nb4!!

 陣形の急所を占拠したこの手は4点。24.Bf5 には 24…Qc4 が最善。

24…Nb7

25.Nc6

 2点。ナイトが圧倒的な地点に来て、黒キングを中央に留まらせる。

25…Nc5

 25…Na5 は 26.Nxa5 Qxa5 27.Bf5 で白の戦力得になる。

26.Bf5!

 3点。hポーンを取る狙いである。

26…Nd7

 26…Nh4 には 27.Qxh3 が簡明で良い。

27.Bg5!!

 5点。黒ののどに刺さった骨のf6ポーンを守りきる。

27…Rg8

28.Qh5!!

 5点。これで必殺の狙いができあがる。

28…Nb6

29.Be6!!

 お見事に値する4点。d5のポーンを守りf7の地点に当たっている。これでナカムラのキングは万力(まんりき)に捕まり、白には露骨な Ne7 という狙いがある。

29…Rxg5

30.Qxg5

 この取り返しは1点。

30…fxe6

31.dxe6!

 3点。必殺の f7+ の狙いがあるので黒はここで投了した。

1-0

 ここで得点を合計する。

62+   GMの水準に近づいている
57-62 国際マスター
47-56 FIDEマスター
36-46 国内マスター/強豪
26-35 地方/県選手
16-25 クラブ選手
10-15 初心者?または家で指すか時々指す選手
0-9   自分の犬のナポレオン

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「ヒカルのチェス」(325)

「Chess」2013年6月号(1/1)

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ツーク・グランプリ

スティーブ・ギディンズ


大会最終盤での追い込みでヒカル・ナカムラは単独2位の座をつかんだ

 ナカムラは大会のほとんどの間比較的鳴りをひそめていて残り3試合の時点で指し分けという不振だったので、2位という結果は少々意外であった。しかし第9、10回戦の連勝で最後にようやく調子が出た。この2連勝目では才能あるマメジャロフのむら気な気質が最悪の形で出た。

白 S.マメジャロフ
黒 H.ナカムラ

第10回戦、スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 dxc4

 3…Nf6 は 4.e3 で黒ビショップがf5に来る主手順(それでも 4…Bf5 は 5.cxd5 cxd5 6.Qb3 で黒が 6…Bc8 と引かされるか危険をはらむギャンビットの 6…Nc6 を指させられる)を白が避けることができるので、本譜の手は白の 3.Nc3 の手順につけ込もうとする有力な手である。広く知られ定跡でも探求されているが、マメジャロフはどういうわけか研究していなかったようである。

4.e3

 ここではもうとるに足りない手になっている。4.e4 の方が重要だった。

4…b5 5.a4 b4 6.Nce2 Nf6 7.Nf3 Ba6 8.Ng3 c5 9.Bd2 e6 10.Rc1 Qd5 11.Ne5 cxd4 12.Nxc4 Nbd7

 序盤は白の大失敗だった。ポーン損でありとあらゆる問題を抱えている。

13.Be2 Rc8 14.Bf3 Qc5 15.b3 Be7 16.Ne2 d3 17.Nf4 O-O 18.Nxd3 Qf5

19.e4

 19.Nxb4 は 19…Bxc4 20.Rxc4 Rxc4 21.bxc4 Ne5 でやはりかなりひどい(22.Be2? は 22…Rd8 でたちまち黒の勝ちになる)。しかし本譜の手は明らかに読み損じによるものだった。

19…Nxe4 20.g4 Qd5 21.Qe2 f5 22.O-O Rxc4 0-1

 マメジャロフは嫌気がさして投了してしまった!23.bxc4 は 23…Bxc4 24.Nxb4 Bxe2 25.Nxd5 exd5 26.Bxe2 Nxd2 で、黒が戦力得でグランドマスターなら勝つことが期待できる局面である。しかし一流選手の中で投了するのは他にはイワンチュクくらいのものだろう。

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2013年07月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(326)

「Chess Life」2013年8月号(1/1)

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収局研究室

GMパル・ベンコー

 一方が1ポーン損の時のルーク収局は引き分けになる可能性が最も高いというのは公理みたいなものである。それでも自動的というわけではない。戦いにおいてルークまたはキングの働きが強くなければならない。劣勢の側は活発に動いていなければならない。再び誤ると恐らく致命的になる。

保護パスポーン
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2767、米国)
GMガータ・カームスキー(FIDE2741、米国)
FIDEグランプリ、スイス・ツーク大会

 白はポーン得で保護パスポーンになっているが、黒はそれを封じ込めている。

37…Rb2

 もちろん黒は守られていない根元のポーンを攻撃して、白のルークを受け一方にさせる。

38.Re3 f5

 38…Kf5 39.Kg3 f6 という態勢にする方が良い。

39.Kg3 Kf6 40.f3 gxf3 41.Kxf3 Rd2 42.Kg3 Rc2 43.a5 Ra2 44.Rd3 Rxa5 45.Rd6+ Ke7 46.Rb6 Ra2 47.Rxb4 Rd2 48.Kh4 Rg2 49.Rd4 Ke6 50.b4

 白は少し勝ちの可能性を作り出すことに成功したが、十分ではない。

50…Rg1 51.Kh3 Rg8 52.b5 Rh8+ 53.Kg3 Rg8+ 54.Kh4 Rh8+ 55.Kg5 Rg8+ 56.Kh6 Rb8

57.Ra4

 57.Rb4 は 57…Kf6 58.Kh7 Rb7+ 59.Kh6 Rb8 でまったくの互角である。

57…Rxb5 58.Kg6 Rc5 59.Ra7 Rb5 60.Rf7 Ra5 61.Rf8 Ke7 62.Rb8 Ra6+ 63.Kxf5

 白はまたポーン得になったけれども、今度はカームスキーのキングがポーンの前に来ているので局面は基本的な引き分けである。

63…Kf7 64.Rb7+ Kf8 65.Kg5 Rc6 66.f5 Ra6 67.Rb8+ Kf7 68.Rb7+ Kf8 69.Rb8+ Kf7 70.Rb7+ Kf8 合意の引き分け

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2013年08月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(327)

「Chess」2013年8月号(1/5)

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タリ記念大会

H.ナカムラ – S.マメジャロフ
第1回戦、ラゴージン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3

 米国の第一人者は最終回のモロゼビッチ戦では 4.Bg5 Bb4+ 5.Nbd2!? と指したが、5…dxc4 6.e3 b5 7.a4 c6 8.Qc2 Bb7 9.Be2 Nbd7 10.O-O O-O 11.b3 c3!(11…cxb3 は 12.Qxb3 Bxd2 13.Nxd2 a6 14.Bd3 で、2ビショップと圧力のために白の代償が申し分ない)12.Ne4 h6

となって、何の有利さもなくその後押しまくられた。

4…Bb4 5.Qa4+ Nc6 6.e3 O-O 7.Bd2

 白は黒にcポーンをふさがせることに成功した。しかしマメジャロフはここから、…c5 突きが黒の唯一の効果的な仕掛けとは限らないことを見せつける。

7…dxc4 8.Bxc4 a6 9.O-O Bd6

10.Rad1

 この手は解放のポーン突きを防げないが、いずれにしても黒は互角にできるようである。例えば2003年ドルトムントでのラジャーボフ対クラムニク戦では 10.Qc2 e5 11.dxe5 Nxe5 12.Nxe5 Bxe5 13.f4 Bd6 14.Bd3 Kh8! 15.Kh1 b5 16.Ne4 Bf5

となってさらに単純化が進み早い引き分けになった。

10…e5 11.dxe5

 11.d5 Ne7 12.e4 Bg4 13.Be2 Ng6 は黒にとってチゴーリン防御の安楽版のようである。しかし実戦は黒がかなり楽だったので、白はたぶんこちらを選択すべきだった。

11…Nxe5 12.Be2 Qe7

13.Ng5?!

 これはナカムラが白のかなりちぢこまった陣形にあまり精通していないさらなる印である。13.Qc2 で実戦のもっと鋭い版を目指した方が良かったかもしれない。13…Nfg4 が怖そうだが 14.Nxe5! Qxe5 15.f4 で受けが効く。15…Qc5 と来れば 16.b4! Qa7(16…Qxb4 なら 17.h3 Nf6 18.Nd5 で代償が素晴らしい)17.Rf3 という具合である。

13…Bf5!

 挑発的で好手だった。白ポーンがe4に来れば、標的にされるだけでなく白クイーンがもう4段目を越えて影響力を発揮できなくなる。

14.e4 Bd7 15.Qc2 h6 16.Nf3 Rfe8 17.Rfe1 Rad8

 黒はキング翼への道を作るのに先立ち、最後の駒を投入した。実際黒はそちらで攻撃を行なうことになるが、白が何をしたら良いかは皆目見当がつかない。

18.g3?

 形を崩す手だが 18.h3 でも互角にする責任は白の方にあり、18…Nxf3+ 19.Bxf3 Qe5 20.g3 Qc5 21.Be3 Qc4 22.Bg2 Be5 が黒が少しの優勢を維持する一つの簡単な手段である。

18…Neg4!

 マメジャロフは白の手の欠陥に素早くつけ入った。

19.h3

 e4ポーンが取られそうで …Bc5 も狙われているのでこれが白の対策だったが、黒はその先を読んでいた。

19…Nxf2! 20.Kxf2 Bxh3

21.Kg1

 キングがc5での重大なチェックから逃げようとしている。代わりに 21.Nd4 は 21…Bc5 22.Be3 Qe5 23.Qd3 Rxd4! 24.Bxd4 Rd8

となって、白がルーク得にもかかわらず 25.Nd5 に 25…Nxe4+ があるので受けがない。

21…Bxg3

 黒は2ビショップがキング翼を席巻していて、既に駒の代わりに3ポーンを得ていて交換得も得ようとしている。もう勝負はナカムラの方がだめである。

22.Bf1 Bxe1 23.Rxe1 Bg4 24.Bg2 Bxf3!

 単純化を図っただけでなく、主導権を保持して白が小駒を少しでも働かせるのを妨げた。

25.Bxf3 Qd6 26.Re2 Qg3+ 27.Bg2 Ng4

 ナカムラはキングを囲うポーンが全然ないために攻められっぱなしである。黒のルーク浮揚が目前で、実際マメジャロフが白を片付けるのに長くはかからなかった。

28.Nd1 Re6 29.Ne3 Rc6 30.Qb1 Qh2+ 31.Kf1 Qf4+ 0-1

 32.Ke1(32.Kg1 Rxd2!)32…Qg3+ 33.Kf1 Nh2+ が必殺のチェックになる。

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(この号続く)

2013年08月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(328)

「Chess」2013年8月号(2/5)

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タリ記念大会(続き)

 第2回戦でナカムラはあのクラムニク相手にポーン損になってしまった。しかし彼は不屈の闘志で有名で、第14代世界チャンピオンの粗雑な指し手にも助けられて形勢を逆転させることができた。

V.クラムニク – H.ナカムラ
第2回戦

 白はポーン得で、c5とe4のポーンは黒を締め付けている。進展を図るのは簡単でないが、27.Rb1 のような先受けの手から始めるのが良かっただろう。

27.h3?! Nc4!

 この足元を崩すぶちかましが、白の先受けの手を指摘した理由である。クラムニクは7段目に侵入できると思ったに違いないが、既に白は有利の全部ではないにしても大部分を失っていた。

28.bxc4 Rxa4

29.Rd7?

 bポーンは容易に守れるが、c5のちっぽけなやつはそうならない。29.Rb1 と指す方がずっと良く、29…Bf8 なら 30.Rxb7! と取り 30…Bxd6 31.cxd6 Rxc4 32.e5 で白が交換損の十分な代償を得る。

29…Rb4 30.f4 Bf8 31.Kh2 Bxc5

32.Bc1

 双ビショップを保持して主導権を取り戻したいという手だが、白は既に良くても引き分けのことを考えるべきで 32.f5!? Bxe3 33.fxe6 Rxe6 34.Rf1 で異色ビショップの単純化を目指すべきというナカムラの説がたぶん当たっている。

32…Ra8 33.f5

 33.Bd2 Rb3(意外にも 33…Rxc4? は 34.f5 Nf8 35.Rxb7 で白が実戦よりもずっと良い)34.Be1 Ra4 も圧力が増し続ける。

33…Nf8

 ルークを引き下がらせる。このナイトは自キングの見張りをし続け、ほかの黒駒が別翼に大挙して侵入できるようにする。

34.R7d3

 34.Rd8 Rxd8 35.Rxd8 Rb1 36.Bh6 Bg1+ という手順に見られるように戦術さえ白に味方しなかった。

34…Rxc4 35.Bh6 Be7 36.R1d2 b5

 この図を最初の図とちょっと比べてみるとよい。黒のクイーン翼のポーンは動ける状態で、白はもう負けと言っていいかもしれない。クラムニクは雄々しく暴れ回ったが、ナカムラは抑えることができた。

37.Rf3 b4 38.e5 gxf5 39.Rxf5 Ng6 40.Rdf2 Bf8!

 bポーンを突くのに先立ってg7の地点に利かし、交換になればルークで取り返してf7の地点に利くようにしたのは良い判断だった。

41.Bg5 b3 42.Rxf7 Rb8 43.Bf1 Rc3 44.e6

 形勢を紛れさせるにはこれしかない。

44…b2 45.Bf6 b1=Q 46.Bxc3 Qb3 47.R7f3

47…Bc5

 単純化のために戦力を少し返す。もっとも局後ナカムラが示したように 47…Qxe6 48.Re2 Qd5 49.Bg2 Bg7! もあまり苦労なく黒が勝つはずである。

48.Rb2 Qxb2+ 49.Bxb2 Rxb2+ 50.Bg2 Be7 51.h4 Re2 52.Rc3 c5 53.Kh3 Kg7 54.Bd5 Ne5 55.g4

 白はほかに指しようがないが、これでナカムラはナイトを引き戻して決定的な攻撃を始めることができる。

55…Ng6! 56.Rf3 Bd6 57.Rf7+ Kh8 58.g5 Rh2+ 59.Kg4 0-1

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(この号続く)

2013年08月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(329)

「Chess」2013年8月号(3/5)

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タリ記念大会(続き)


ヒカル・ナカムラはほかの誰よりも多く勝ちほかの誰よりも多く負けるという偉業を達成した。「負けてさえいなければ・・・」

 最初の休息日を前にしてナカムラはカリャーキンのグリューンフェルト防御を大局観であっさり粉砕して2/3で首位に加わった。その勢いは第4回戦で不運なカルアナをナイドルフで2連敗させたときも続いていた。ナカムラの連勝は次の回でロシア選手権者のドミトリー・アンドレイキンの堅実なクイーン翼インディアン防御に屈して終わった。しかしそこからまた黒番でさっそうと盛り返した。

V.アーナンド – H.ナカムラ
第6回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 g6

 このスミスロフ戦法はアーナンドにとって意外だったに違いない。モスクワでの対局にあたりナカムラはスミスロフとスパスキーの指す戦型に触発されたと認めた。

4.O-O

 簡明第一である。問題は 4.d4 exd4 5.Bg5!? だったが、イワン・ソコロフらがここで黒の新たな手段を見つけた。詳細に関心のある人はソコロフ著「The Ruy Lopez Revisited」を参照するとよい。

4…Bg7 5.c3 a6

6.Bxc6

 これは面白い判断である。6.Ba4 d6 7.d4 の方が普通で、7…Bd7 のあと最終戦のカルアナ対アンドレイキン戦に移行する。その試合は遅延シュタイニッツ防御の手順からこの局面になり、8.h3 Nf6 9.Re1 O-O 10.Nbd2 Re8 11.Bc2 Qe7 12.Nf1 Qf8 13.Ng3 Rad8 14.d5 Ne7 15.Nh2 Bh6 と進んで黒がキング翼で反撃を開始できた。

6…dxc6 7.d4 exd4 8.cxd4 Ne7 9.h3 O-O 10.Nc3 h6

11.Qb3?!

 アーナンドは古典的な布局の指し方により少し優勢になった。しかしここから当てのない指し方をし始める。11.Bf4 のあと好機に Be5 と指せば、黒は白の中央に対する十分な反撃に欠いていた。一方実戦の手はナカムラにこの重要な陣形上の着想を防ぐ余裕を与えた。

11…g5! 12.Rd1 b6 13.a4 a5

 10手目では黒の作戦はそれほど明らかでなかった。しかしここでは白が良い作戦を立てるのが課題である。ナカムラは明らかに駒をキング翼に集中しようとするところで、アーナンドはキング翼インディアン型の局面に移行する以外何も見つけられなかった。

14.Be3

 おそらくアーナンドは 14.h4?! のような過激な手段さえ考えただろう。しかし 14…g4 15.Ne5 Be6 16.Qc2 f6 17.Nd3 Qxd4 18.Nf4 Qe5 となって白にはポーンの十分な代償がない。ナカムラはすぐに 14.Ne5!? とやって来る手段も読んでいた。これも紛糾させることを期待する白の別の手段である。

14…Ng6 15.d5 c5 16.Nb5

 白は d5-d6 突きで中央を粉みじんにすることを期待している。しかし先に襲いかかるのは黒の方である。

16…g4! 17.hxg4 Bxg4

18.Bd2

 かなり守勢的な手だが、対局中も対局後もいろいろな解説者が指摘したように、アーナンドは2011年ロンドン・クラシックでナカムラに派手にうっちゃりを食らったことを思い出していたのだろう。そのときは黒は劣勢の局面から典型的なキング翼インディアン防御のキング翼攻撃で勝った。しかしここでは直接攻撃を避けようとしても白がしのげない。たぶん大きく一息入れて 18.d6!? と指すべきだったのだろう。そして 18…Bxf3 19.gxf3(19.dxc7? は 19…Qh4 20.gxf3 Qh3 で …Nh4 が必殺の狙いになる)19…Qh4 がかなり怖そうだが、白はキングをe2に退避させるのが良いかもしれない。

18…Qd7 19.Rac1

 対局後ナカムラは 19.Re1 c4!?(それでも黒は 19…c6 と行くものかもしれない)20.Qe3 f5 21.e5 Bxf3 22.e6 Qxd5 23.Nxc7 Qb7(ここで 23…Qd6!? で 24.Nb5 に 24…f4 の方が良さそうである)24.Nxa8 Bxg2 25.e7

という手順を示し、「泥試合で難解だがタリの精神にかなっている。だからこちらのように指す方が良い」と的を射た解説をした。

19…c6

 ナカムラとしては二重ポーンを解消しe4のポーンを標的にしたい。これには何も悪いところはないが、19…Rae8 20.Re1 を交換しておいてから 20…c6 とやっていった方が良かったかもしれない。

20.dxc6

 白はルークがまだd1にいるので 20.Na3!? と指した方が良かったかもしれない。そして 20…Rae8(単純に 20…Rfe8 21.Nc4 Rab8 と指すのが黒の最善の針路だろう)21.Nc4 Rxe4 22.Nxb6 Qd6 と進めば局面はかなり混沌としたままだろう。もっとも 23.Nc4 Rxc4!? 24.Qxc4 Bxf3 25.gxf3 Bd4 26.Qf1

のようなことになれば白のキング翼が危なそうである。

20…Qxc6 21.Bc3

 白陣は主として黒ビショップの強力なにらみによりどう見ても不安な状態になっていたが、単純化を図るのは結局のところキング翼の防御が崩壊することになる。

21…Bxf3 22.gxf3

22…Rad8!?

 黒は陣容の強化を続けている。22…Nf4 ならアーナンドは 23.Rd6 Qc8 24.Bd2! Ne2+ 25.Kg2 Nxc1 26.Bxc1 という大局観に基づく交換損を予定していた。そうなれば白は詰まされないどころか駒の働きが良くなる。

23.Rxd8?!

 少し厳しい指摘のようだが白は 23.Bxg7! Kxg7 24.Kf1 とやらなければいけなかったかもしれない。もちろん世界チャンピオンは途中で 23…Nf4 が怖かったのだろうが、24.Nd6! Ne2+ 25.Kh2 Nxc1 26.Qc3!

となれば、冷徹な機械は 26…Rxd6 27.Bxf8 Kxf8 28.Qxc1 で十分反撃が効くと指摘している。

23…Rxd8 24.Rd1 Rd7!

 d列の支配を争っている。ナカムラは白が盤上からルーク同士だけでなくクイーン同士を消去しにきた場合の収局を正しく見通していた。

25.Rxd7

 この手はちょっとした落とし穴を避けている。25.Bxg7? と取ると 25…Qe6! で 26.Qc2 Qh3! 27.Rxd7 Nh4 のようなタリ式の黒が全駒を犠牲に勝つことになっていたかもしれない。

25…Qxd7

26.Qd5

 白の指したかった手ではないが、…Qh3 が白からの大きな狙いになっていて、26.Bxg7 も 26…Kxg7(26…Qh3? には 27.Nd6! がある)27.Qd5 Qxd5 28.exd5 Kf6 で非勢の局面を改善することにはならない。

26…Qxd5! 27.exd5 Bxc3 28.bxc3 Ne5

 白はいいように指し回されて、ここでは黒のパスポーンとナイトが白のそれらよりいくらか優っているので白の負けの収局になっている。

29.Nd6 Kf8

30.Kh2

 この手を批判することはたやすいが、30.f4 Nd3 31.Nc8 Nxf4 32,c4 Ke8 33.Nxb6 Kd8 もほとんど似たようなことになっていただろう。ここで白は 34.d6 でナイトを助けることができるが、例えば 34…Nh5 35.Nd5 Kd7 36.Ne3 Kxd6 37.Nf5+ Ke6 38.Nxh6 Nf4

で黒がはるかに働きの良い駒のおかげで楽に勝つはずである。

 代わりに黒ナイトが先手でd2に来るのを防ぐために 30.Kh1!? としても、30…Ke7! 31.Nf5+ Kf6 32.Nxh6 Nc4 でしょせん同じことで、黒のクイーン翼のポーンがすぐにパスポーンになって勝負が決まる。

30…Ke7! 31.Nc8+

 ナイトがわなにかかるのは承知である。31.Nf5+ Kd7 32.Nxh6 にも 32…b5! という大問題がある。

31…Kd7 32.Nxb6+ Kc7 33.f4 Nf3+ 34.Kg2

34…Nd2

 不運な白馬用のおりを維持した。しかし 34…Ne1+! 35.Kf1 Kxb6 36.Ke1 c4 ならはるかに簡単に勝っていただろう。

35.Na8+ Kb7 36.d6

 アーナンドはdポーンを犠牲にしてナイトを救うことができるが、試合は救えない。

36…Kc6 37.Nc7 Kxd6 38.Nb5+ Kd5 39.Kg3 Kc4 40.Nd6+ Kxc3 41.Nxf7 c4

42.f5

 この局面を最初に見た時、42.Nd6 でとても勝てそうにないのでナカムラがポカっていると確信した。しかしこの米国人が対局後の記者会見で指摘したように、黒には 42…Kd3! 43.f5 c3 44.f6 c2 45.f7 c1=Q 46.f8=Q Qg1+ 47.Kh3(47.Kh4 Qh2+ 48.Kg4 Qg2+ は白キングに適当な枡がない)47…Qh1+ 48.Kg3 Nf1+!

というしゃれた手順があり、49.Kg4 Qg2+ 50.Kh4 Qg5+ 51.Kh3 Qh5+ 52.Kg2 Qh2+! 53.Kf3 Nd2+ 54.Kg4 Qg2+

で受けなしになる(ナカムラ)。これは長い試合の終わりでもナカムラの読みのすごさを示している。

42…Kd4 43.Nd6 Ke5 44.Nb5 Kxf5 45.f3 h5 0-1

******************************

(この号続く)

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カテゴリ: ヒカルのチェス4

「ヒカルのチェス」(330)

「Chess」2013年8月号(4/5)

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タリ記念大会(続き)

 2回目の休養日に入った時点で向かうところ敵なしの感のあるナカムラは、6戦して4½ 点で首位を走り、4点のゲルファンドとそのあとに続く3½ 点のカールセンとマメジャロフが追っていた。「Silence Therapeutics」社の支援を受ける男は第7回戦で最も近い敵との対戦で、第8回戦の天敵カールセンとの対戦を前に差を広げておきたいのはやまやまだった。

H.ナカムラ – B.ゲルファンド
第7回戦

 スベシュニコフ戦法の典型的な不均衡な局面で、黒がb3のポーンを取り返したところである。双ビショップと動けるaポーンに直面して、単純化が白の脳裏に浮かんだはずである。そして 29.Rxb3 Rxb3 30.g4! a4(30…fxg4 31.Bxe4 a4? は 32.Nb6 で不可)31.Nxf5 Bxf5 32.gxf5 a3 33.Bxe4

となれば十分反撃が効く。しかしゲルファンドは既に時間が非常に少なくなっていて、ナカムラは性格もあるのだろうがあまりにも楽観的にそれにつけ込みたがった。

29.Nb6? Rxb1 30.Rxb1 Be6 31.Bf1 Bd4

 f2-f3 突きでの単純化を防ぎながら、誰が双ビショップを持っているのかを強調した。

32.Rb5 Kf7 33.Nec4

33…Kg7!

 この手は道理に合わないように見えるかもしれないが、黒は 33…Kf6? 34.Nxa5! Nxa5 35.Rxa5 Bxc5 36.Rxc5 Rxb6

で白が引き分けに逃げるのを防がなければならなかった。

34.Nd6

 黒の最後の手のために 34.Nxa5?? は 34…Na7 35.Rb1 Bxc5 でミイラ取りがミイラになる。

34…Kf6 35.Na4?

 これまでの指し手が指しすぎだったことを認めた形だが、この手による単純化は黒をやりやすくさせるだけである。35.Kg2 の方が良く、35…Bxc5 なら 36.Rxc5 Rxb6 37.g4! でやれる。

35…e3!

 単純化、それも黒の側からで、ゲルファンドが中盤戦後半で攻撃を始める。

36.fxe3 Bxe3+ 37.Kg2 Bd5+ 38.Kh3 Rxb5 39.Bxb5 Ne5!

 白キングはかなり望ましくない地点に追いやられ、ここで黒は残りの全軍をあげて捕まえる気である。

40.Nc3?

 これはさらに輪をかけた決定的な悪手だった。40.c6? は 40…Ng4 41.c7 Bg5 のあと 42…Nf2# で詰みになるが、40.Nb6! Bf3 41.Ndc4 ならゲルファンドが 41…Nxc4 42.Bxc4 Kg5 に想到してもまだ勝負に踏みとどまることができただろう。

40…Bf3 41.Be2 Bxe2 42.Nd5+

 42.Nxe2 Bxc5 43.Nb5 a4 なら詰まされることはないが、aポーンで勝負がつく。

42…Kg5! 43.Nxe3

43…Ng4

 黒は限られた戦力にもかかわらず攻撃を続けている。43…Bf3!? 44.Ndxf5 Ng4! でも同じく決まっていた。

44.Kg2

 これは見込みのない手だが、44.Nxg4 は 44…Bf1# で詰む。

44…Nxe3+ 0-1

 45.Kf2 なら駒を取り返すことができるが、45…Nc4 46.Kxe2 Nxd6 47.cxd6 Kf6

で自明なポーン収局になるだけである。

 ナカムラは最終戦の前の試合でカールセンにまたつぶされて差を縮めることができなかっただけでなく、最終戦でモロゼビッチにも負けて地すべり的に順位を落とした。

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(この号続く)

2013年09月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(331)

「Chess」2013年8月号(5/5)

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決め手を見つけよ

中級向け問題

解答
1.Nxd5! 黒は 1…Bxd5? 2.Rxd5 Qxd5? 3.Bxe4 と指すわけにいかないので白のポーン得になる。

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(この号終わり)

2013年09月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(332)

「British Chess Magazine」2013年8月号(1/1)

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上級者のための収局

GMニック・パート

□M.カールセン
■H.ナカムラ

タリ記念大会、2013年

 両者に悪手が出た複雑な中盤戦からこの収局になった。カールセンは1ポーン損の代わりに交換得になっている。ナカムラはキングをd6に行かせることができれば、白のクイーン翼のポーンが潜在的に弱く黒が好機に …c4 と突いてbポーンをパスポーンにできる可能性が常にあるので、楽になる。

36.d6!

 収局ではキングは戦闘的な駒なので、カールセンはナカムラのキングをd6に来させたくない。彼がポーンを自分のビショップのいる色と反対の色に置いて盤上のより多くの地点を支配しようとしていることにも注意して欲しい。

36…Ne5 37.Bf1!

 黒の狙い筋の …c4 突きを止めた。

37…Bc2 38.Bb5!

 カールセンはどの手でも相手の駒の動きを制限しながら、自分の駒を働かせる最も良い手段を見つけているようである。

38…f5

 38…Bxb3 は 39.Rf5 で白ビショップがd3とd7の地点を押さえているので、c5のポーンが落ちる。

39.Kg2!

 ルークとビショップが最適の位置にいるので、白は最も働いていない駒のキングを働かせるために中央に近づける。

39…c4

 ナカムラは手段に窮して狙い筋を決行したが、カールセンは見透かしていた。代わりに 39…Kf7 は 40.Rf2 Be4+ 41.Kg3 Ke6 42,Rd2 で白駒が急所にき始める。

40.Bxc4

40…Be4+

 40…Nxc4 は 41.Rxc4 Bxb3 42.Rc8+ Kf7 43.d7 で白の勝ちになる。

41.Kg3 Nxc4 42.bxc4 Ke8

 42…b3 は 43.Rf2 Bc2 44.Re2 b2 45.d7 b1=Q 46.d8=Q+ で黒キングがすぐに詰みになる。

43.c5

43…Bc6

 43…b3 はここでも成立しない。黒が昇格をさせようとすると次のように白のクイーン昇格を防げなくなる。44.Rf2 Bc2 45.c6 b2 46.c7 Kd7 47.Rxc2

 ビショップがe4の好位置にいるので 43…Kd7 の方が理にかなっているようだが、それでも次のように白の勝ちになる。44.Rf2 b3 45.Kf4 Bc2 46.Rd2 b2 47.c6+ Kxc6 48.Rxc2+

44.Rxf5 Bxa4

 みたび 44…b3 は成立しない。しかしカールセンはそのたびに読まなければならなかっただろう。45.Rf2 Bxa4 46.Rb2 Kd7 47.Kf4 Kc6 48.Ke5 Kxc5 49.Rxb3 Bxb3 50.d7 でクイーンに昇格する。

45.Re5+

45…Kd8

 45…Kd7 でも 46.Re7+ Kc6 47.Ra7 b3 48.d7 で白が勝つ。

46.Re7 Bc6 47.Rc7 1-0

 白ポーンを止められないのでナカムラは投了した。47…Bb5 48.c6 b3 49.Rd7+ Kc8 50.Rxh7 Bxc6 51.Rd7+ Kd8 52.Rxc6 a4 53.Rb6 黒はクイーン翼のポーンをこれ以上進められない。カールセンの収局の妙技だった。

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(この号終わり)

2013年09月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(333)

「Chess Life」2013年11月号(1/1)

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2013年ワールドカップのアメリカ軍団

GMイアン・ロジャーズ


第4回戦でGMアントン・コロボフに負けて敗退

キング翼インディアン防御(E60)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2772、米国)
GMエルタイ・サファルリ(FIDE2660、アゼルバイジャン)
2013年ワールドカップ第2回戦、2013年8月14日、ノルウェー・トロムセ

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3 e6!?

 これは白の反グリューンフェルトシステムを骨抜きにしようとする最新の試みで、マクシム・バシエ=ラグラーブに対してはうまくいったが、それにしても変な手に見える。

4.Nc3 d5 5.Bg5 h6 6.Bh4 Be7 7.Qd2 Nbd7 8.Bg3

 これは 9.e4 突きの準備だが、すぐに 8.e4 と突くと 8…Nxe4! と取られる可能性がある。

8…c6

 これなら白は望みの巨大中央を築くことができる。しかし 8…O-O は 9.Qxh6 と取られてクイーン翼ギャンビットの局面で余計な …g7-g6 突きの欠陥が露呈し、8…c5 は 9.Nb5 で逆手を取られる。とは言っても本譜の手は 8…a6(または 8…dxc4 から 9…a6)で …c5 または …dxc4 から …b5 を予定するよりも劣っている。

9.e4 dxe4 10.fxe4 Bb4 11.Bd3 e5 12.a3 Ba5 13.d5 cxd5 14.cxd5 Nc5

 黒はこの戦術の着想に期待して大丈夫だと考えていたが、ナカムラの単純な応手のあとe5のポーンに問題を抱えることになる。

15.b4! Nxd3+

 15…Nb3 は 16.Qb2 Nxa1 17.bxa5 で黒がひどい。いつものことながら中盤戦では2駒はルークとポーンより優っている。

16.Qxd3 Bb6

 黒はeポーンを見捨てることにした。白キングが問題を抱えることを考えれば、思い切った、たぶん正しい実戦的な判断である。

17.Nf3 O-O 18.Nxe5 a5

 主要な変化は 18…Re8 19.O-O-O Nh5 だが、20.Nc4 のあと黒に適切な継続手がないようである。

19.b5 a4 20.Nc4 Bc5 21.O-O-O Bg4 22.Rd2

22…Qe7

 22…Rc8 には 23.Kb1 で白は大丈夫である。

23.d6 Qe6 24.Nd5! Nxd5 25.Qxd5 Rac8 26.Kb1 Qxd5 27.Rxd5

27…Be6?

 駒得の誘惑は魅力的すぎた。27…Rfd8 なら黒はまだ戦えた。

28.Rhd1! Bxd5 29.Rxd5 Bxd6

 黒はもう27手目を後悔している。これは勝負を投げた手である。それはともかく 30.d7 から 31.Bc7 が白の勝ち筋である。

30.Nxd6 Rc3 31.Kb2 Rb3+ 32.Ka2 Rd8 33.Rd4 h5 34.Bh4 Rd7 35.Bf6 Kh7 36.e5 黒投了

 早すぎる投了ではない。37.Rxa4-a8 が白の勝ちの狙い筋である。翌日ナカムラはサファルリに全然つけ入る隙を与えなかった。引き分けによって米国最強者は第3回戦に進んだ。

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(この号終わり)

2013年11月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(334)

「Chess」2013年11月号(1/6)

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シンクフィールド杯


セントルイスで満面の笑みの面々(左から右へ)レボン・アロニアン、後援者のレックス・シンクフィールド、ヒカル・ナカムラ、マグヌス・カールセン


カールセンはナカムラのサングラスを頑丈なベルリン防御で迎え撃った

ヤニス・ニシイ

 4選手の招待大会は楽しみの観点からは大きな賭けになるかもしれなかった。各回戦で2試合だけでは戦いのない引き分けは観戦者をひどく失望させることになるかもしれない。しかし主催者が4人のすぐれた強豪戦士を召集すれば、その点にはかなり自信が持てる。そのことはさっそく第1回戦から2試合とも勝負がついたことで証明され、ナカムラ対アロニアン戦では劇的な展開さえ見られた。

 世界でも最高のルイロペス専門家の一人に入るアルメニア選手は新手を繰り出したが、ナカムラの研究にはまった。ナカムラの局後感想「…Nd7 が新手だということは知っていた。しかし Nf5 とそれへの正着の …Nf6 のあと Ne7 で交換できることは分かっていたが、彼が …d5 と突くつもりだという気がしていた。」白は少し優勢になったが、アロニアンは局面の支配を取り戻しほとんど互角の形勢になった。ナカムラはそのとき引き分けを提案するつもりだったと語った。引き分けは大会規則により30手を過ぎたあとでないと提案できなかった。しかし・・・

 ここは 30…Qc6 でたちまち引き分けの握手である。しかしアロニアンは 30…Qb5?? と指してしまった。彼はクイーン交換のあと 32.Nd7 で白が交換得になることを見落としていた。黒は Nf6+ の両当たりがあるので 32…Re8 と指せない。

 アロニアンは「あれは小さな子供たちに教えてやることの一つだ。一本道の手順は何かポカをしていないか見直せと。」とコメントした。「友人たちに何度も言ってきた。穴があったら入りたい。」つまらないミスはもちろん引き分けになることを期待しているときにも起こる。しかしアロニアンがいみじくも「チェスにはいいことがある、あのようなポカで負けたあと謙虚になることだ」と言ったように、チェスは世界のナンバー2でさえほんのちょっとした集中力のゆるみが致命的になることのある競技である。

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(この号続く)

2013年11月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(335)

「Chess」2013年11月号(2/6)

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シンクフィールド杯(続き)

H.ナカムラ – G.カームスキー
第2回戦、シチリア防御カン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 a6 5.Nc3 b5 6.Bd3 Bb7 7.O-O Nc6 8.Nxc6 Bxc6 9.Re1 Qb8 10.a4 b4 11.Nd5 Bd6 12.Qh5

12…Ne7

 ここで初めて定跡からはずれた。2003年マラガでのティビアコフ対ペレス・カンデラリオ戦では黒が 12…Bxd5 13.exd5 Nf6 14.Qg5 Kf8 と指したが、白が優勢を保持した。

13.Nxe7 Bxe7 14.b3 a5

 これでカームスキーはキングが中央にいることを強いられることになる。14…O-O は危険そうだが、黒の勝負手かもしれない。例えば 15.Bb2 f6 16.Re3 g6 なら形勢不明である。

15.Bb2 Bf6

 キャッスリングするには既に手遅れである。15…O-O? には 16.Re3! で白の攻撃が炸裂する。16…f6 17.Rh3 h6 18.Rg3 Qf4 19.Qg6 Rf7 20.Rf1 で Bc1 が狙いとなる。

16.Bxf6 gxf6 17.e5

 白は布局の成果に満足できる。しかし黒陣も見かけほど悪くない。黒キングは中央で適度に安全だし、キング翼とクイーン翼の両方で反撃に出ることができる。白は少し優勢だが、それだけのことである。

17…Rg8

 17…f5 は白に 18.Bxf5 exf5 19.e6 という恐ろしい狙いがあるので、もちろん黒はそれを避けた。しかし黒は正確に指せば次のように受け切れる。19…Kd8! 20.exd7(20.Qxf7 なら 20…Kc7! 21.exd7 Kb6 22.Re6 Qf8!

で黒が受かる。また 20.exf7 なら 20…Qd6 21.Re8+ Kc7 22.Rae1 Qd5 23.f3 Rf8

で黒が優勢にさえなる)20…Kc7 21.Re7 Qg8 22.f3 Rd8 23.Qxf5 Kb6 24.Rd1 Qg6

黒がまたしのいで反攻に出る。

18.g3 Rg5 19.Qh6!

 19.Qxh7?! は 19…Rxe5 で黒がe7にキングの安全な避難所を確保し、駒も働きが良くなる。

19…Rxe5 20.Qxf6 Rh5!

 ルークが変な位置に行くが、hポーンを取らせるわけにはいかなかった。

21.Be4!?

 これは非常に強気の手である。c2のポーンが弱いのでこれでほとんどどんな収局でも白がまずくなる。しかしナカムラは黒キングの重要な守り駒の一つを交換でなくすことがその危険に値すると判断した。

21…Qd8 22.Qf3 Rc5

23.Qe3?!

 ここはビショップ同士を交換しルークを働かせるいい機会だった。23.Bxc6! Rxc6(23…dxc6 は 24.Rad1 Qg5 25.Rd6 Rd8 26.Rxc6 Qd5 27.Qxd5 Rdxd5 28.Rxc5 Rxc5 29.Re2

となって、この収局は白の勝つ可能性が高い)24.Re4! Qe7 25.Rg4 Qf8 26.Rd1

となれば白に強力な主導権がある。

23…Qe7

 これは面白い着想である。カームスキーはh7の弱点そのものをなくして自分の駒を再編成することにした。別の手は局面を単純化する 23…Re5! で、問題なく互角になるはずである。なぜなら大駒が少なくなるほど、白のポーンの形がもっと問題になり黒キングの位置がそれほど関係なくなるからである。実際 24.Qd4 Rxe4 25.Rxe4 Bxe4 26.Qxe4 h6 27.Rd1 Rc8 となれば、黒は互角に向けて十分反撃できる。

24.Bxh7!

 これは大変危険な手だが、強手でもある。白は果断にポーンを取って、白のキング翼をにらむ対抗のないc6のビショップを黒に残した。

24…f5! 25.Bg6+ Kd8 26.Rac1 Kc7

 黒キングは安全な場所を見つけた。そしてポーン得にもかかわらず、困難に陥らないように正確に指さなければならないのは白の方である。

27.Bh5

 27.c3 bxc3 28.Rxc3 Rxc3 29.Qxc3 で局面を開放的にするのはまだ早い。というのは 29…Qg5! 30.Bf7 Qg4 で、黒が白枡で有望になり白のビショップがまだ遊んでいるからである。

27…e5

 中央のポーンを進撃させるのは非常に理にかなった判断のように思われる。しかしコンピュータは …f4 突きの用意をする奇異な 27…Qd6! を示している。黒の攻撃は非常に厳しくて、黒が優勢になるのにたいして手数を要しない。28.Red1 f4! 29.gxf4 Rg8+ 30.Kf1 Bg2+ 31.Ke1 Bd5 で白陣は非常に危なそうに見える。もっともコンピュータは実際には 32.Rd3 Rh8 33.c4!

で白が優勢だと断定している。

28.f4?!

 白は過激に …f4 突きを止めたが、自分のキングの囲いをさらに弱めた。別の手は 28.c3 f4 29.gxf4 Qg7+ 30.Kf1 で、黒の攻撃は怖いがたぶんそれだけである。例えば 30…Qg2+ 31.Ke2 Rxc3 32.Rxc3 bxc3 33.Qxe5+ d6 34.Qe7+ Kb6 35.Qe3+ Kc7

となれば、白は少なくとも引き分けにでき 36.Bf7 でそれ以上を目指すこともできる。

28…Qd6 29.Rf1 exf4 30.Qxf4 Be4 31.Qf2!?

 31.Qxd6+ は 31…Kxd6 で黒は駒がよく働いているのでわずかな戦力損を十分に補っている。

31…Rc3 32.Be2

32…Kb7?

 この試合で「危機のキング」は何度も立場を変えた。そして今度はまた黒キングの番である。

 カームスキーにはもっと良い手がいくつかあった。例えば 32…Qb6 33.Bd3 Qxf2+ 34.Kxf2 d5 となれば、やはり黒駒の働きの良さがポーン損を補うし、はるかに強力な 32…Qh6! という手もある。実際対局後ナカムラはカームスキーがこの手を指していれば彼が勝っていたと言った。実際白は駒の配置の整形に苦労し、黒の攻撃は熾烈である。h6のクイーンはキング翼に圧力をかけ Bd3 を防いでいる。

33.Rcd1 Qe6 34.Bc4! d5 35.Qc5!

 これが白の狙い筋である。

35…Rd8?

 これで白の勝ちになった。35…Qc6! が好手だが白にはまだ 36.Qxd5! という好手がある。36…Rxc2 37.Rf2 Bxd5 38.Bxd5 Rc3 39.Bxc6+ Kxc6

となって、黒が苦戦だがたぶんしのげるだろう。

36.Qxa5 Rxc2 37.Rf2! Rxf2 38.Qxd8!

 冷徹な決め手である。

38…Rg2+ 39.Kf1 Rb2 40.Bxd5+ Bxd5 41.Qxd5+ Qxd5 42.Rxd5 1-0

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(この号続く)

2013年11月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(336)

「Chess」2013年11月号(3/6)

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シンクフィールド杯(続き)

 第3回戦はすぐにベンコー戦法またはサングラス・ギャンビットと呼ばれるようになった話題で持ち切りだった。ナカムラは試合会場にサングラスをかけて入ってきて、カールセンとの試合中もずっとかけていた。観戦者たちはベンコーが1959年の挑戦者決定大会でタリのいわゆる催眠にらみをはねつけるためにサングラスをかけたことになぞらえ始めた。

 私がナカムラにサングラスに注目を浴びることを予想していたかと質問すると、次のような答えが返ってきた。「そんなことはない。しかし残念ながらこのごろでは何でもないことが大げさになる。特にコメントを書けるインターネットの機能があるからだ。」彼の説明では友人の一人がスカイプでこの案を出してくれて、気分を変えるために変わったことをすることにしただけだった。ナカムラはサングラスをかけて、何としても初めてマグヌス・カールセンを負かすという決意をみなぎらせた。その試合は彼のキング翼インディアンになり 10…g5! のあと、カールセンが「泥試合」と呼んだ非常に不均衡で戦術乱れ飛ぶ試合になってとても面白かった。世界の第一人者は持ち前の正確さで非常に難解な局面を受けきり、規定手数までの最後の9手を追加時間だけで指したにもかかわらず引き分けに持ち込んだ。

 大会の折り返し点までナカムラは2½/3でカールセンに半点差をつけて首位に立ち、自分のファンと地元のメディアを喜ばせた(ナカムラはセントルイスに在住している)。そのためセントルイスKSDK放送局の楽しいインタビューをはじめ多くの注目を浴びた。

 ナカムラはアロニアン戦で指しすぎたようだ。しかし頑強な一面も見せつけ、非常に面白い試合で戦わずして負けるようなことはしなかった。

L.アロニアン – H.ナカムラ
第4回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.h3 O-O 6.Bg5 c5 7.d5 a6

 アベルバッハ戦法の珍しい戦型だが、たぶん非常に理にかなっているのだろう。

8.Bd3

 アロニアンは黒の …b5 突きを許した。自陣が堅固なので黒にクイーン翼を少し広くさせてもいいだろうという理屈である。

8…b5 9.Nf3

 9.cxb5?! axb5 10.Bxb5?! とポーン得するのは 10…Nxe4! という手筋がある。

9…Nbd7 10.O-O h6 11.Be3

 白はようやくキャッスリングが済んで、b5ポーン取りの狙いで黒に争点を解消させる。

11…bxc4 12.Bxc4 a5 13.a4

 黒が狭い陣形でクイーン翼の白枡がいくらか弱いので、白は布局から優勢になったように見える。それでも黒陣はしっかりしている。

13…Nb6 14.Bd3 Ne8 15.Re1 Nc7 16.Rc1 Na6 17.b3 Nb4 18.Bb1 Bb7

 この手は守勢に見えるけれども、黒は …e6 または …f5 で中央突破を図る気である。

19.Ne2 Rc8 20.h4!

 ついに白は広さに優る方面で攻撃を見据えたポーンの進攻を始めた。黒は …c4 突きでクイーン翼を開放するために戦力を好位置につけているけれども、自分のナイトがキング翼にいないことがすぐにひびいてくる。

20…c4

 20…h5 がコンピュータの選択である。その評価はたぶん無意味だろうけれども、白からの h4-h5 突きを防ぐのは確かに意味がある。実際 21.Ng5 Nd7!(この強手はナイトをf6に引き戻しキング翼を支える。機械は最初間違えて 21…Bb2 を推奨していたが、22.Nf4 Bxc1 23.Bxc1 で黒が詰まされる可能性が高い)22.Nf4 Nf6 となればねじり合いが続く。

21.h5!

 アロニアンはためらう必要はない。

21…cxb3

 21…c3? なら立派なパスポーンがc3に残るが、22.hxg6 fxg6 23.Nfd4 で白のナイトがe6にやって来て黒が完全に敗勢になる。21…g5 は 22.Ned4! で実戦と同じようなことになる。

22.Qxb3 g5 23.Ng3 N6xd5!

 ナカムラのこの判断は良かった。黒はどう指しても負けだろうが、実戦的に最も可能性のある手を見つけた。

24.exd5 Bxd5

25.Rxc8?

 これはひどい悪手だった。クイーンがまだ盤上に残っている場合駒は詰みに役立つのでポーンよりもずっと優る。実際 25.Qa3 なら黒はほどなく詰まされるはずである。

25…Bxb3! 26.Rxd8 Rxd8 27.Nf5 Bf8 28.Bb6 Rb8 29.Bc7 Rc8 30.Bxa5 Nc6 31.Bc3 Bxa4

 局面の決まりがついた。黒陣が非常に堅固で崩すのが難しいので、この時点までにアロニアンがしくじったことは明らかだった。白の作戦は適時に駒を返してポーンをいくつか得るようにするのが普通である。

32.Ba2 Rc7 33.Nh2 Ne5 34.Bxe5 dxe5 35.Ng4 e6

36.Ng3?!

 たぶん白は 36.Nfxh6+! Kg7 37.Nxf7 Kxf7 38.Nxe5+ Kg7 39.g4 というように捨て駒により駒を返した方が良かっただろう。白がポーン得で黒に弱点が多いので、技術的に白が勝つはずである。

36…Kg7 37.Nxe5 Ba3 38.Ne4 Rc2 39.Bb1 Rc1 40.Rxc1 Bxc1 41.Nd6 f5

 これで黒には弱点がe6とh6の二つしかなく、それらに寄りつくのは難しい。白が勝てるかどうかは何とも言えない。

42.Ndc4 Bf4 43.Nd3 Be8 44.Nxf4 gxf4

45.g3

 45.Ne5! なら 45…Bxh5 46.Nd3 f3 47.Ba2! が想定され実戦と似たような局面になるが、白はeポーンを取れるので十分勝てるだろう。

45…fxg3 46.f4 Bxh5 47.Kg2 Kf6 48.Kxg3 Be8 49.Kh4 Bb5 50.Ne5 Be8 51.Bc2 Ke7 52.Bd1 Kf6 53.Bf3

53…Ba4?

 これが敗着だった。黒はe6を守り Kh5 の進入を防ぐことのできる重要なe8-h5の斜筋からビショップをはずした。正着の 53…Kg7! 54.Bh5 Ba4 55.Kg3 Kf6 のあと白がどう進展を図るのか明らかでない。

54.Bc6! Bd1 55.Bd7 Be2 56.Ba4 Ke7 57.Bb3!

 ビショップがe6をにらむ最適の地点を見つけた。57…Bb5 は 58.Kh5 と入ってこられるので、黒はビショップをe8に戻すことができない。

57…Kd6 58.Kg3 Bh5! 59.Kf2 Bg4??

 59…Be8 60.Ke3 なら白はまだまだ大変だった。

60.Ke3 h5

 60…Bh5 ならもう少しねばれたが、61.Kd4 Be8 62.Nc4+ Ke7 63.Ke5 で長引くことはない。

61.Nf7+ 1-0

 最終戦の前の回に首位と2位の二人が対戦し、サングラスがまた登場した。カールセンをわずか半点差で追うナカムラは白で勝とうとしたが、堅い守りを崩すことができなかった。この試合でもっと激しくやっていけたと思うかとナカムラに聞いたが「とんでもない」と反発された。「ベルリン防御は優勢を勝ち取れると思えないような堅固な布局だ。だから実戦的に指すようにしただけだし、カールセンもとてもうまく守った。」

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(この号続く)

2013年11月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(337)

「Chess」2013年11月号(4/6)

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パリ・グランプリ大会

スティーブ・ギディンズ


上位者同士の1局でファビアノ・カルアナはヒカル・ナカムラ相手に激しい定跡のグリューンフェルトで不運な錯誤をしでかし、高くついた。

H.ナカムラ – F.カルアナ
第7回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 この急戦システムは筋金入りのグリューンフェルト選手たちに対して効果的な選択肢である。彼らはゼーミッシュ・キング翼インディアンに移行するのを嫌うのが普通で、そのためほかの手で泥試合模様の戦いをしなければならない。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.h4 Rd8 11.Nb5 Qd7 12.h5 a6 13.Nc3 Nxd4

14.hxg6

 ここまではすべて定跡手順で 14…fxg6 がやむなく、15.Bxd4 に 15…Bxd4 で黒が満足ということになっている。しかしカルアナは何か錯誤をおかしたに違いなかった。

14…hxg6?? 15.Bxd4 Qxd4

 違いは 15…Bxd4 だと 16.Qh6 でたちまち白の勝ちになることで、だから黒はクイーンを投げ捨てなければならない。

16.Qe1 Qxd1+ 17.Nxd1

 黒はクイーンの代わりにルークを取っただけで、たぶんカルアナはあまりのことに茫然自失となって指し続けたに違いない。

17…Na4 18.b3 Nc5 19.e5 Bf5 20.f4 a5 21.Nf3 a4 22.b4 Nb3+ 23.axb3 a3 24.Qc3 e6 25.Ne3 a2 26.Qa1 Bf8 27.Nxf5 gxf5 28.b5 c6 29.bxc6 Rdc8 30.Bc4 Rxc6 31.Nd4 Rcc8 32.Kc2 Bb4 33.g4 fxg4 34.f5 1-0

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(この号続く)

2013年12月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(338)

「Chess」2013年11月号(5/6)

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パリ・グランプリ大会(続き)

 B.ゲルファンドも同じ第7回戦でV.イワンチュクに勝ってナカムラに半点差をつけた。ナカムラは翌日自分も惑星人イワンチュクから贈り物をもらったとき自分には神がついていると感じたに違いない。

V.イワンチュク – H.ナカムラ
第8回戦

 イワンチュクはずっと少し優勢だったが、この引き分けの収局にしかできなかったので少し落胆していたのかもしれない。しかしそれは旗が落ちて時間切れ負けになったことのもっともな言い訳にはならない(0-1)。

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(この号続く)

2013年12月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(339)

「Chess」2013年11月号(6/6)

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パリ・グランプリ大会(続き)

 ウクライナ選手のこの気前よさでナカムラは単独首位を取り返し、第9回戦でも全6局の引き分けで状況は変わらなかった。しかし翌日彼は衰えを知らないゲルファンドに惨敗を喫した。二人の間に遺恨めいたものがあるのかは定かでないが、かつて若輩のナカムラがワシリー・スミスロフの試合を研究しても何も学ぶものがないとけなしているのを確かに覚えている。ゲルファンドはスミスロフチェス学校の卒業生で、昔の偉大なマスターたちにはいつもずっと敬意のある態度を表していた。たぶんこれはたまたまかもしれないが米国選手には何回か完勝していて、今回はシチリア防御の古典的なクイーン翼攻撃による名局の一つとなった。

H.ナカムラ – B.ゲルファンド
第10回戦、シチリア防御

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be3 Ng4 7,Bc1 Nf6 8.Be3 Ng4 9.Bg5 h6 10.Bh4 g5 11.Bg3 Bg7 12.h3 Ne5 13.f3 Nbc6 14.Bf2 Be6 15.Qd2 Rc8 16.O-O-O Nxd4 17.Bxd4 Qa5

18.a3

 両選手ともこの戦型にはかなりの経験がある。本譜の手は最新型で、2012年ベイクアーンゼーでのカリャーキン対ゲルファンド戦では 18.Qf2 Rc6 19.g3 O-O 20.f4 Nd7 で黒の方が良かったがその改良手とみられる。

18…O-O

 私の知る限りこれは新手で、明らかにゲルファンドは研究してきた。

19.h4 g4 20.Qf2 Rc6 21.f4 Rfc8!

22.Qg3?!

 22.fxe5? は 22…dxe5 23.Be3 Rxc3 で明らかに黒が良い。c3のルークを取るのは明らかに無理で、例えば 24.bxc3 Qxa3+ 25.Kd2 Qxc3+ 26.Ke2 Bc4+ 27.Rd3 Qxc2+ となる。

 コンピュータは最初 22.f5 の白の陣形に惚れ込んでいたが、22…Bc4 23.Bxc4 Nxc4 24,Bxg7 Kxg7 25.f6+ Kg8! 26.Nd5 Nxa3

の結果をしばらく読ませておくとだんだん評価が「互角/形勢不明」に落ちていった。たとえそうであってもたぶん白はこう指すべきだった。本譜の手のあと黒のクイーン翼での反撃はすぐに手がつけられなくなった。

22…Nd7 23.Bxg7 Kxg7 24.f5

24…Rxc3

 この古典的な交換損の犠牲でも良いが、コンピュータは 24…Ne5! 25.fxe6 Rxc3 26.bxc3 Rxc3 が客観的にはるかに強力だと指摘している。

25.bxc3 Qxa3+ 26.Kd2 Nf6 27.Qd3

27…Bc4

 この手にはもちろん抗しがたいが、コンピュータは再度はるかに強い手順を示している。27…Nxe4+! 28.Qxe4 Qxc3+ 29.Kc1 Qa1+ 30.Kd2 Qa5+ 31.Ke2 Rc4 32.f6+(32.Rd4 なら 32…Bxf5)32…exf6 33.Rd4 d5 34.Qd3 Bf5 で黒の勝ち。

28.Qd4 d5!

 e4の地点を争うだけでなく敵キングへの筋をこじ開け続けている。

29.exd5 Bxd5 30.Rg1 Be4 31.Bd3 Qa5 32.Qb4 Qc7

33.Bxe4?

 ナカムラは非常に頑強に守ってきたが、ついに間違えて簡単に負けてしまった。33.Kc1 ならまだ強硬に抵抗することができた。例えば 33…a5 34.Qd4 Rd8 35.Qc4 なら黒には 35…Qxc4 36.Bxc4 Rxd1+ 37.Kxd1 Bxf5 で明らかに有利な收局にするのと 35…Bc6 でクイーンを保持し攻撃を続けるのとの選択肢がある。

33…a5

 33…Qf4+ の方が 34.Kd3 Nxe4 35.Qxe4 Rxc3+ となるので少し正確である。

34.Qxb7 Qf4+ 35.Ke2 Rc7 36.Qb6 Nxe4 37.Qd4+ Kh7 38.c4 Rd7 39.Qe3 Ng3+ 40.Qxg3 Qxg3 41.Rxd7 Qe5+ 0-1

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(この号終わり)

2013年12月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(340)

「Chess Life」2013年12月号(1/5)

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シンクフィールド杯

記 FMマイク・クライン

 まったく互角の局面でアロニアンはどうしたことか 30…Qb5?? と指し初歩的な手筋を指させた。ナカムラは「彼がそう指したときはポカだと気がつかなかった」と最初に思ったことを話した。「彼が …Qc6 と指したなら引き分けを提案するつもりだった。彼は簡単に考えすぎたのだと思う。彼にとっては不運だったがそう確信している。」

棋譜解説 GMベン・ファインゴールド

「確信している」
GMヒカル・ナカムラ(USCF2857)
GMレボン・アロニアン(USCF2913)
シンクフィールド杯第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2013年9月9日

30…Qb5??

 両者とも引き分けだと考えていたと思う。しかしアロニアンは気を緩めるのが少し早すぎて簡単な手筋を見落とした。30…Qc6 なら簡単な引き分けだった。

31.Qxb5 axb5 32.Nd7!

 おっと。32…Rfe8 と指すところだが 33.Nf6+ でキングとルークの両当たりになる。だから白が交換得になる。

32…Rxd7 33.Rxd7 Ra8 34.Kf2 Ra6 35.g4 Nh4 36.f4 Rc6 37.Re8+ Kg7 38.Ree7 Rf6 39.Kg3 g5 40.f5

 Nh4 を端で完全に使えなくしたのがナカムラのうまいところである。

40…h5 41.Re6 黒投了

 このあと続けるとすれば 41…hxg4 42.Rxf6 Kxf6 43.Kxg4 Nxf5 44.Rxf7+ Kxf7 45.Kxf5

で、白の簡単な勝ちである。

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(この号続く)

2014年01月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(341)

「Chess Life」2013年12月号(2/5)

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シンクフィールド杯(続き)

 カームスキーは運悪く初戦から2戦連続で黒番だった。一方ナカムラはまた白番だった。両者はセントルイスでの劇的な2012年米国選手権戦以来初めての対戦だった。そのときはナカムラが大会終盤でカームスキーに勝って首位に躍り出てそのまま優勝した。

 自信ありげなナカムラは毎手30秒加算のおかげで持ち時間を増やしながら最初の12手を指した。早くも牙をむいてd5で典型的なナイト切りをやりh5に珍しいクイーンの早出をした(もっとも年少の頃の 2.Qh5 ほど変則的ではないが)。両選手は難解な中盤戦で苦心した。ナカムラは40手の規定時間までに2分で自明とはいえない9手を指した。世界最高のブリッツ選手の一人である彼は正しい道を見つけた。

 ナカムラの即座の解説ではカームスキーが動いてまた困難に陥った。彼の話では 27…e5 と 28…Qd6 がカームスキーの「たぶん間違った」所だった。彼が続けて言うには第1戦のカールセンのように白のパスhポーンがいつか悩ましくなるので動きたいのは理解できるとのことだった。数手後ナカムラは 32.Be2 と駒を方向転換して完全に自信が持てたとのことだった。

シチリア防御カン戦法(B43)
GMヒカル・ナカムラ(USCF2857)
GMガータ・カームスキー(USCF2824)
シンクフィールド杯第2回戦、ミズーリ州セントルイス、2013年9月10日

1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 a6 5.Nc3 b5 6.Bd3 Bb7 7.O-O Nc6 8.Nxc6 Bxc6 9.Re1

9…Qb8

 9…Bc5 が主手順でこの手は珍しい。以前に 9…Qb8 と指した最強選手は誰だったか。誰あろうナカムラだ!

10.a4 b4 11.Nd5 Bd6 12.Qh5 Ne7

 両選手ともこの局面までは超早指しだった。ここからは考え始める。白の方が駒の働きが良いので優勢のはずである。

13.Nxe7 Bxe7 14.b3 a5

 イアン・ロジャーズと私は実況の解説でこの手が気に入らなかった。遅くて白にうまい攻撃を始める余裕を与える。

15.Bb2 Bf6 16.Bxf6 gxf6 17.e5

 黒の指し手が難しくなった。

17…Rg8 18.g3 Rg5 19.Qh6!

 h7のポーンを取るよりもこの手の方がずっと良い。カームスキーがあっさり負けるのではと思ったが、彼は手が見えることにかけては信じられないほどだった。

19…Rxe5 20.Qxf6 Rh5 21.Be4

 たぶんナカムラは最善手を逃した。Rad1 と単純にa1のルークを中央に回せば白がはっきり優勢だろう。

21…Qd8 22.Qf3 Rc5

23.Qe3?

 23.Bxc6 Rxc6 24.Re4 なら完全に白が優勢である。本譜はほぼ互角である。

23…Qe7?

 チェスエンジンによれば 23…Re5! 24.Qd4 Rxe4 25.Rxe4 Bxe4 26.Qxe4 h6 なら互角である。しかしどういうわけか両者ともここで白が良いと考えていた。

24.Bxh7 f5 25.Bg6+ Kd8

 黒は 25…Kf8 と指すこともできた。両者とも勝とうとしている。

26.Rac1 Kc7 27.Bh5

27…e5?

 残り時間が少なくなってきてナカムラの方が時間が少なかったが冷静さを保つことができた。黒は 27…Qd6 の方が良かった。

28.f4?!

 Rac1! の顔を立てて 28.c3! と指すのはどうだったか。

28…Qd6 29.Rf1 exf4 30.Qxf4 Be4

 30…Qxf4 31.Rxf4 Be4 32.Bf3 d5 なら引き分けのはずである。しかしカームスキーは勝つことしか考えていなかった!

31.Qf2 Rc3 32.Be2

32…Kb7?

 この手は長考のあとに指されたが良くなかった。代わりに 32…Bb7 または 32…Qh6 なら動的に互角を保つはずである。

33.Rcd1! Qe6 34.Bc4! d5 35.Qc5!

 ナカムラは時間がほとんどないのに完璧に指している!

35…Rd8?

 35…Qc6 でも 36.Qxd5!! Rxc2 37.Qf7+ Kb6 38.Rf2 で白の勝ちになる。

36.Qxa5!

36…Rxc2 37.Rf2! Rxf2 38.Qxd8 Rg2+ 39.Kf1 Rb2 40.Bxd5+ Bxd5 41.Qxd5+ Qxd5 42,Rxd5 黒投了

 ナカムラは時間切迫の中でも驚くほどうまく指しここでは勝ちの收局になっている。カームスキーには結果が見えていた。

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(この号続く)

2014年01月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(342)

「Chess Life」2013年12月号(3/5)


「ボビー・フィッシャーにならなければならない、明快で単純だ」

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シンクフィールド杯(続き)

 たった2試合終了時点ですでに明暗が分かれた。ナカムラとカールセンは最も待ち望まれた対戦で、それぞれ2/2と1½/2の成績で第3回戦で当たっていた。近頃はこの二人が対局すると盤外の話題は必ずナカムラがいつカールセンの壁を破れるのかということだ。シンクフィールド杯の前の時点で彼の全戦績は勝ち無しの7敗13引き分けだった。

 両米国選手は第3回戦で時間をより有効に使った。ナカムラは本誌の長年連載の執筆者のGMパル・ベンコーに敬意を表してサングラスをかけてきた。ベンコーは1959年のGMミハイル・タリとの対局にご利益が必要だった。ナカムラが言うにはこの日はカールセンとの大一番にもまして特別な意味があった。9月11日は育ったニューヨークが攻撃を受けた12周年だったし、義父のFMスニル・ウィーラマントリーの62歳の誕生日でもあった(さらに彼が家族に重きを置く大切さについては後出のインタビュー記事を参照)。

 黒番だったけれどもナカムラは早くも主導権を握り、攻撃側に回った。実況解説に呼ばれたGMナイジェル・ショートの評価はナカムラは「並み外れた戦術家で、カールセンの強さはカルポフ流の強さ・・・。ナカムラは格下の相手には通用する戦術の打撃が通用しなかった。」カールセンが要塞のような防御を見つけたのでまたしてもこれが当てはまった。

キング翼インディアン防御フィアンケット戦法(E62)
GMマグヌス・カールセン(USCF2970)
GMヒカル・ナカムラ(USCF2857)
シンクフィールド杯第3回戦、ミズーリ州セントルイス、2013年9月11日

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3 O-O 5.Bg2 d6 6.Nc3 Nc6 7.O-O Rb8

 ナカムラは決して臆することなくカールセンに対して激しいキング翼インディアンで挑んだ。この時点で本大会の成績は2戦2勝だった。

8.Bf4 a6 9.Rc1 h6 10.b3 g5!?

 ナカムラから過激な手が飛び出した。カールセンは受けて立つ。

11.d5

 11.Bd2 と引くのはd4の地点が弱くなるし 11.Be3 と引くのは 11…Ng4 で黒が良さそうなので、カールセンはしょせん 11.d5 と突く必要がある。

11…gxf4 12.dxc6 fxg3 13.hxg3 b5!?

 ナカムラはまたも最も挑戦的な手を指した。チェスエンジンは白の方を好んでいるが、シャバロフがよく言っているように「黒の動的な潜在力は天井知らずだ!」

14.cxb5

 チェスエンジンは 14.Qd3! で黒を閉じ込めようとする方が好きである。

14…axb5 15.b4 d5 16.Qd3 Qd6

 そして本誌は筆者に「Pawn Structure Chess」の書評を書いてくれないかと言ってきた。・・・ああ・・・[編集部注 次号の書評を参照のこと]

17.Nd4 Qxb4 18.a4!

 今大会中何度も起こったことだが、チェスエンジンは人間が決して考えないような「コンピュータ」の手を示し・・・カールセンはよくそれらの手を指していた!

18…Ne4 19.Ndxb5 Nxc3 20.Nxc3 Bxc3!

 GMエドワルド・グフェルトはキング翼インディアンビショップを自分から手放すこの手を見て墓の中でひっくり返っているだろうか。しかしやはり動的な局面では読みと多くのポーンを取ることが要求される!

21.Rxc3! Bf5 22.Qxd5 Qxc3 23.Qxf5

 ナカムラは 21.Qxc3 でクイーン同士を交換する代わりに交換損をすることにしたカールセンの判断に間違いはまったくないと考えていた。

23…Rfd8 24.Bf3

 黒は交換得でも勝つのは非常に難しい。白陣は超堅固だしc6のポーンが強力である。

24…Ra8 25.Qe4 Qf6 26.Qb4 Ra7 27.Kg2 Rda8 28.Qg4+ Kf8 29.Qd7 e6 30.Rd1 Qe5 31.Rh1

31…Kg7

 31…Rxa4 ならまだチャンスがあった。ナカムラはあとでこれが勝つための最後の機会だったと語った。31…Rxa4 32.Rxh6?! Rd4! 33.Rh5 Rxd7 34.Rxe5 Rd4 でいくらか勝つ可能性がある。

32.Rb1 Rxa4 33.Rb7 R4a7 34.Qe7 Rxb7 35.cxb7 Rb8 36.Qd7 c5 37.Qc6 Kf6 38.Kh2 Ke7 39.Kg2 f5 40.Qc8 Qd6 41.e3 Kf6 42.Kh2

 ヤセル・セイラワンはナカムラがここで引き分け提案をしたことについてひどく当惑した。彼の考えでは黒の勝つ可能性が高かった。彼と私は翌日チェスクラブの外で検討したが、私も黒にその可能性があることに同意するに至った。黒にはキングが動き回りc5のポーンを突いていく着想がいくつもある。しかしナカムラはチェスエンジンのように互角にすぎないと考えた。そこで・・・

42…h5 合意の引き分け

 ナカムラには戦闘のほとんどの間形勢が良かったことが慰めだった。大会をとおして初めてカールセンは 21…Bf5 のあと目に見えるほど不安な様子だった。ナカムラにとってはそうでなく、試合のほとんどでうなずくか盤から離れていた(もっとも視線はレイバン[訳注 商標でサングラス]のせいではっきりしないままだった)。形勢に自信があるときどちらの態度も彼によくあるものだった。このような意義深い日に世界ナンバーワンに対して初勝利をあげることができていたら「本当に気分がいい」と言っただろう。

 カールセンは「まったく苦しかった」と言った。「途中で長考したときもあったが、それでも交換損を決行したときはなんとか堅固だった。」カールセンは 18…Ne4 のあとの変化はことに難しかったと言った。「無数の可能性があって全部を読むことはできなかった。」

 サングラスをかけた相手と指すのは初めてだったとも付け加えた。「彼のきまぐれについてはあまり考えなかった。人は自分自身のことを深刻に考えすぎる。特にチェス選手はそうだ。何を着るかによって相手に失礼にあたるということは全然ない。」

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(この号続く)

2014年01月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(343)

「Chess Life」2013年12月号(4/5)

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シンクフィールド杯(続き)

 順位下位の2選手にとって休養日はアロニアンを元気づけたが、カームスキーにはほとんど効果がなかった。次の回戦でも順位掲示板に変動が起きた。

 アロニアンはナカムラ戦で白だった。最近この二人が対戦すると野球以上に引き分けることができなくなっている。正規の持ち時間の試合では今大会での初戦を含めて6局連続勝負がついている。

 大会が始まってから二人ともひげを剃っていなかった。そして試合は首位者を白髪にしかねなかった。アロニアンは布局から早指しで、カールセンがナカムラのキング翼インディアン防御に対して指したよりも穏やかなシステムを選んだ。白は黒キングの囲いに穴を空け、黒に白の気をそらすことを期待して駒を犠牲に中央を清算することを促した。ナカムラはこの局面について「全然悪かった。たぶんコンピュータなら持ちこたえられるだろうが」と話した。

 ナカムラは收局に備えてクイーン翼からすべてのポーンを消し去った。そしてアロニアンはクイーン同士を交換することにより事をずっとやり難くしたが、それでも見事な腕前で初勝利をあげ、ナカムラに今大会初の負けを見舞った。「危険な指し方をしすぎた」がナカムラの感想だった。

危険がいっぱい
GMレボン・アロニアン(USCF2913)
GMヒカル・ナカムラ(USCF2857)
シンクフィールド杯第4回戦、ミズーリ州セントルイス、2013年9月13日

44…gxf4 45.g3

 ほとんどどう指しても白の勝ちになる。私としてはこのやり方は好まないが、私はアロニアンでない!

45…fxg3 46.f4 Bxh5 47.Kg2 Kf6 48.Kxg3

 これで白が勝つ「はずである」。もっとも実況解説中はイアンと私ははっきり見通すことができなかった。両選手とも難しくないと思っていたが、そんなものだろうか・・・

48…Be8 49.Kh4 Bb5 50.Ne5 Be8 51.Bc2 Ke7 52.Bd1 Kf6 53.Bf3 Ba4 54.Bc6!

 黒ビショップをe8から追い払うのは賢い。

54…Bd1 55.Bd7 Be2 56.Ba4

 アロニアンのうまい捌きのせいで黒はビショップを動かす手が尽きてしまった。ここで例えば 56…Ba6 と指すと白キングにh5から侵入される。

56…Ke7 57.Bb3 Kd6 58.Kg3 Bh5 59.Kf2

 アロニアンはキングで中央から侵入しようとしている。

59…Bg4?

 59…Be8! の方がもっと強く抵抗できた。

60.Ke3

 白は避けたのか見落としたのか分からないが 60.Nxg4! fxg4 61.Kg3 h5 62.Bc2! から Bg6 を狙って簡単に勝っていた。

60…h5 61.Nf7+! 黒投了

 61…Ke7 62.Ng5 でe6のポーンが取れる。うまい手だが、もともとはナカムラの 59…Bg4? のせいで少し簡単になっただけである。

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(この号続く)

2014年01月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(344)

「Chess Life」2013年12月号(5/5)

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ナカムラの発言録

 シンクフィールド杯が終了した2013年9月15日付け。チーム仲間のGMガータ・カームスキーが米国のチェスに行なってきた努力と貢献を評価したい気持ちに触発されて、GMヒカル・ナカムラが自分のチェス棋歴のあれやこれやについてじっくり話してくれた。

2012年チェス・オリンピアードについて

 前回のオリンピアードは我々が金メダルを取る最後の機会だったと思う。個人の世界選手権以外ではこれまでの棋歴で逃した数少ない偉業の一つだ。(2012年は)すごいことの連続だった。多くの点で自分の持っているものすべてを出した気がするし、特に対ロシア戦ではそうだ。すべてのオリンピアードの中で、たぶんこれまで参加したすべての大会の中でも、個々の試合に勝つことにあれほどの喜びを感じたことはなかった。ロシア戦に勝ったのは本当に偉業だった。ロシア戦に勝ったあとのチームの意識は記憶に残っている。ガータは(GMアレクサンドル・グリシュク戦の)難局を切り抜け、自分はウラジ(クラムニク)との長手数の收局に勝った。これまでの自分の棋歴でたぶん最高の二つまたは三つの輝かしい出来事の一つだった。

最終戦について

 不思議だがこれまでの棋歴でたぶん2回の機会しかなかった・・・言い替えると、とてもそんな機会はないと感じられるような機会があった。2006年トリノでの機会はまざまざと思い出される。あそこではイスラエル戦の前に[IM]ジョン(ドナルドソン)がやって来て「ガータの調子が良くない。彼は主将席で[GM]ボリス・ゲルファンドと指す気がしない。」と言った。そしてそのことは忘れられない。義父のスニール(ウィーラマントリ)と二人でガータの所に行って「気を楽にして注意深く指せばいいんだ。確実に指せばいいんだ。それでいい」と言った。もちろんガータは負けてしまった。自分が[GM]エミル・ストフスキーに勝ったのはとても重要だった。チームとしては負けたが、それでも自分が勝ったことで2½ – 1½ の惜敗だった。このあとチームとして少し勝って挽回して結局銅メダルを獲得した。しかし最終戦で[GMラドスラフ]ボイタシェクに自分が負けたので非常に面白くなかったとうっすらと記憶している。ほかにそのような気持ちになったと言うしかないのは、皮肉にも最近のワールドカップで[GMアントン]コロボフと対戦した時だ。だれでも対局しそれと折り合わなければならないのは明らかだ。トリノのことでちょうど思い出したのは、スニールと二人でガータに指すように説得しなければならなかったことだ。(最終戦で)実は(個人の)金メダルを取ろうと考えて席についていた。しかしそれと同時に感じていたのは、[GM]バルージャン・アコビアンにとって将来のチーム選考に出ないのでたぶんオリンピアードで米国のために指すのはこれが最後の機会だということだった。だから非常に難しい状況だったが、その日の終わりには自分はそれでも米国ナンバーワンであり自分の義務を果たさなければならなかった。あいにく自分の試合には負けてしまった。しかしガータはあの敗戦を糧に副将席で勝つ手段を見つけ出し銀メダルを獲得した。正直なところあのオリンピアード以前はたぶんあれがチームの金メダルへの最後の機会だったと思う。またやる2回目の機会が与えられたので---本当に、本当にトロムセは楽しみにしているし110パーセントの力を出すつもりだ。

トロムセに向けての準備について

 言うのは難しいが、ガータはチェス人生の終わりに近づいていると実感しているみたいだと思う。結局のところチームの様子や見通しはもっと大切だとも思う。確かに大会の前に共同研究できることは期待している。前回のオリンピアードの前は自分は大会に出ていたので全然研究しなかった。自分にとって少なくとも今回は絶好の機会だと思う。与えられた機会を生かさなかったことが思い出される。

カームスキーのほかに望ましいチームメイトについて

 これは「ドリームチーム」ではないと思う。チーム戦のことになるとすぐに全部勝ち負けで考えてしまう。ロシア、中国、アルメニアなど異なった多くのチームがいるので自分のすべてを出し切るつもりだ。それらのチームは下位席にいくにつれて強敵になるのに、米国は弱くなる。ガータと自分は世界級で調子の良い日は誰にでも勝てると思う。自分の試合に集中して勝つだけだ。我々の強みは主将席と副将席にあると思う。ガータと自分は強い選手だ。我々は長いことそうだった。ガータがいい試合をし自分もいい試合をすれば、我々は本当に無敵だ。第3席と第4席で誰かが引き分けにできる限り、我々は無敵になる。否定的な意味ではない。というのは[GM]アレックス・オニシュクと[GM]ティムール・ガレエフも強豪選手だからだ。だけどガータと自分は格が違うと思っている。二人のうちの一人がチームを引っ張れる。

シンクフィールド杯について

 大会に優勝できなかったのは本当に残念だった。多くの点ですべてをかけなければならないと感じていた。たぶん大会前よりもそうだ。店に行ったり、休息日にスーパーマーケットに行ったり、あるいは試合の前に栄養ドリンクを買いに行ったり、普通の人が自分のところにやって来たり、そうして幸運を祈ってくれる。そういうことが大きな意味を持っていた。もっと全力を尽くそうという動機づけになった。なぜならチェスはたぶんちゃんとした評価やメディアの取材を受けていないからだ。セントルイスの平均的な普通の人が自分のところにやって来て幸運を祈ってくれるということは、スポンサーを獲得したりチェスをよく知っている誰かが幸運を祈ってくれるよりもずっと意味がある。地元の人たちのために期待に応えられなかったことはちょっと残念だ。しかし必ず機会はもっとある。

米国のチェス大使になっていることについて

 人々が応援してくれることよりいい気持ちはない。確かにクラブに来たらそこの人たちが幸運を祈ると言ってくれたり好成績を期待してくれたりするのは大きな意味がある。特に米国ではそうだ。アルメニアの[GM]レボン・アロニアンやノルウェーの[GM]マグヌス・カールセンを見ると、彼らは自国の支援を受けている。ところがここ、米国は同じでない。自分は確かによく知られた名前ではない。自分は同じような支援を受けていない。名前がよく知られていないからだ。クラブに入ったときそこの人たちが近づいてきて「幸運を」とか「頑張って」とか言ってくれるのは自分にはこの上もないことだったということは言っておかなければならない。確かにヨーロッパでは同じように歓待されない。自分が米国のチェスのためにやっていることや世界の最強選手たちと戦おうとしていることを理解している人たちがいることを知ることだけでも、自分のことを見守っている選手たちがいることを知ることは大きな意味がある。過去には自分のことを見守らず否定的なことを言う人たちがいた。

マネージャーを持つことについて

 今のところその予定はない。テニスファンなのでセントルイスのジミー・コナーズの書いた「The Outsider」というこの本を読んでいた。彼の回想録を読んで強く印象に残ったことの一つは母親が彼の身の回りを取りしきり、家族の秘密を保ち、忠実さを保ったことだ。どうみてもあの忠実さ、どんな犠牲を払っても支援してくれる人たちは買うことはできない。自分の家族に相談することは痛感している。尊敬する母は今タンザニアに行ってキリマンジャロに登っている。すべてうまくいってくれれば数日で頂上に近づいているころだ。母と義父のスニールがいなければ自分は何もできなかった。何でも彼らに相談するし、婚約者ともそうだ。何でも身内にとどめようとしている。彼らの忠実さ、彼らの支援は前に進むのに計り知れないほど貴重だ。そのようにやっていくと何でもうまくいくと信頼している。

意義のあるチェス選手を持つことについて

 何か優位があるのか知らないが、チェスを理解できる誰かを雇うことは大きな意味があると言わなければならないことは確かだ。勝とうと負けようと引き分けようと、それを理解できる誰かがいることになる。多くの点で言語を選ぶのと似ていると思う。誰か言語が分からなければ彼らはそれが分からない、明快で単純だ。チェスを理解し勝負の浮き沈みを理解できる誰かがいるような感じだ。そのような誰かがいてとても幸運だ。

レックス・シンクフィールドが挑戦者決定大会を米国に持ってくる可能性について

 レックスは米国のチェスに大変な貢献をしてきた。そのことは言わなければならない。指名選択権やその類に関する限り、ただ次の大会に集中しいいチェスを指すだけだ。いいチェスが指せれば指名選択される可能性のある地位をたぶん固められるはずだ。しかしそれをやるのはFIDEで、官僚主義がはびこっていて、すべてを見通すことはとても難しい。いいチェスを指せばすべてうまくいくと信じている。世界選手権戦で指せる機会が来ることを期待している。

カームスキーについて

 自分の躍進と強豪選手になったのは大部分彼の不在の間だった。ガータは2003年か2004年にチェスに復帰した。その話は色々なことが思い出される。よく知られている話だと思う。思い出すのはニューヨークマスターズで対局していた時で、2003年だったと思う。彼は本当に自分に幸運を願ってくれた。「この大会で指している強豪選手だな、本当に頑張ってくれ」というような感じだった。当時自分はあまり強くなかったし、今の地位でないのは確かだ。彼を自分にアドバイスをくれることのできるライバルとはたぶんあまり見ていなかった。自分を激励し成功を期待してくれる誰かがいることはすごく意味がある。彼の時代がたぶん終わりに近づいていることは知っていても、彼は米国のチェスにとって偉大な存在だった。彼は非常に強かったし、彼がやめるのを見るのは本当に残念だ。だけど時代は進む。長年にわたって彼のくれた励ましやアドバイスすべてを役立てることができればと思う。

 ずっとずっと前の頃のニューヨークであれがどこにあるのかもう分からない。1993年は実際自分がチェスを始めるよりも前で、兄は既に指していて、母はサインされたチェス盤をどこかに持っている。サインは二つで、[GM]ガータ・カームスキーと[GM]ヤセル・セイラワンのものだ。ガータのサインはもういくらか消えかかっていると思う。ガータは長年米国のチェスに大きな貢献をしてきたと感じているし、それに見合う感謝を受けてきたかはよく分からない。彼は多くのことをしてくれたと思う。終わりの日には彼の業績や彼の達成したすべてが尊敬され評価されることを望んでいる。

 これは悪い意味ではない。だけど確かに彼が17、18年前[GM]アナトリー・カルポフと指していたときにいたリーグに自分はいた。彼がこの先うまくいくことを願っている。

世界選手権対オリンピアードの目標について

 自分の個人生活に何も問題がないという仮定で、世界選手権のためにこれから15年以上戦えるという気がする。世界チーム選手権とオリンピアードの金のためには最後の機会が1回あるという気がしている。今のところ自分が一番集中しているのはオリンピアードだ。

番勝負でカールセンに勝つことについて

 ボビー・フィッシャーにならなければならない、明快で単純だ。彼は番勝負の前に[GMボリス]スパスキーに勝ったことがなかった。自分自身もほとんど同じだと見ている。強くなることに集中しなければならないだけだ。そしてカールセンと番勝負を戦う機会があれば、彼と戦えるということを証明しなければならないだけだ。もしこの大会でのようにうまく指せれば、圧力をかけ続けてやるだけで最後に彼はつぶれるだろう。2局とも少し良い局面だった。勝てない理由は何もない。

カールセンとの個人的な関係について

 ジョン・マッケンローの言葉を借りれば「あまり夕食をともにしない」だ。彼は人間的にいいやつだ。だけど自分の競争相手で、彼を負かしたいと思っている。結局のところチェスは戦うスポーツだ。自分と自分の気風に忠実でいればいつか彼を負かす。

カールセンより精神的に強いかについて

 それは非常に難しい質問だ。3、4か月前なら違うといっただろう。今なら確実にそうだと言う。たぶん番勝負でなく大会で大分証明されている。自分はすべてに慣れている。今はすべてを見た。将来はもっとうまく指すのが楽しみだ。

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(この号終わり)

2014年01月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス4

「ヒカルのチェス」(345)

「Chess」2014年2月号(1/4)

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チェス論評

編集長 IMマルコム・ペイン

 ヒカル・ナカムラは文句のない優勝者だった。彼はめったに窮地に陥っているように見えず、ウラジーミル・クラムニク戦での大脱出は驚異的だった。クラムニクはナカムラが続々と繰り出した勝利への障壁を前に破綻をきたし、戦いの真っ最中に第14代世界チャンピオンはポカを出して負けてしまった。

 決勝戦は幸運は勇者に微笑むの事例となった。ナカムラはグリューンフェルト防御の急戦をひっさげてやってきた。そして形勢は黒の方が良かったはずだが、ゲルファンドは戦力の犠牲を余儀なくされた後、正確さが必要なのにそれを維持できなかった。色を代えての2戦目はゲルファンドにとって勝たなければおしまいの試合だったが、ナカムラは見事な指し回しを見せた。ロンドンチェスクラシックのウェブサイトに行き、オンデマンドのビデオライブラリから彼の局後の分析を見ることをお勧めする。

H.ナカムラ – B.ゲルファンド
決勝戦第1局、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Nf3 Bg7 5.Qb3 dxc4 6.Qxc4 O-O 7.e4 a6 8.e5 b5 9.Qb3 Nfd7 10.Ng5 Nc6

11.Nxf7!?

 幸運は勇者に微笑む。この手は疑問手だが実戦的には黒に大きな問題を突き付けている。

11…Rxf7 12.e6 Nxd4 13.exf7+ Kf8 14.Qd1

14…Nc5

 14…Ne5 15.Qxd4? Nf3+ はクイーンが取れるし、15.Be3 c5 16.f3 Bf5 17.Kf2 Kxf7 は黒の代償が豊富で優勢だと思う。

15.Be3 Bf5 16.Rc1!

 ナカムラはこの手に9分費やした。持ち時間25分の試合では長考の部類に入る。

16…Qd6 17.b4

17…Ne4

 コンピュータは 17…Rd8!! 18.bxc5 Qe5 を見つけたが、人間にとっては非常に見つけにくい手順である。このあと …Nc2+ でルーク、ビショップそれにナイトの代わりにクイーンを取る。19.Be2 Nc2+ 20.Qxc2 Bxc2 21.Rxc2 b4 22.Nd1 Qe4!

でルークとgポーンが当たりになっている。

18.Nxe4 Bxe4 19.f3 Bf5 20.Qd2 Rd8 21.Kf2 Kxf7 22.Be2

 結末は本誌15ページを参照。

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(この号続く)

2014年02月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス4

「ヒカルのチェス」(346)

「Chess」2014年2月号(2/4)

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ロンドン大会の米国のスター

ヒカル・ナカムラがスーパー16選手の快速戦で優勝

Cグループ

 スーパー16は快速レイティングでシードが決められた。これは取りも直さず第1シードはあの快速スターのヒカル・ナカムラということになった。しかし(遅指しでの)新しい世界第3位は同グループにボリス・ゲルファンドがいたのでたぶんうれしくなかっただろう。米国選手はイスラエルのグランドマスターに衝撃的な不成績を喫していた。さらにはユディット・ポルガーを圧倒して好スタートを切ったのはゲルファンドだった。ポルガーは今年やっと2回目の大会出場で、次戦でガーウェイン・ジョーンズを倒した。対照的にナカムラはジョーンズとの試合で共にチャンスを逃して引き分け、そのあとポルガーに勝った。

 これで第3回戦は本命2選手同士の対決になった。ナカムラは本大会初めての白番で 1.b3 と指し、クイーン翼を犠牲にして攻撃にかけ勝てたかもしれないが、いろいろ冒険をしたあげく引き分けに終わった。

準々決勝

 地元のファンはショートがナカムラ戦で番狂わせを演じるかもしれないと期待していた。しかし米国選手はこの頃は大局的なへまを何もしないし、閉鎖シチリア防御の黒側で次第に全局を支配していって、好手で試合を締めくくった。伝説の英国グランドマスターは次戦で激闘を挑んだが、ナカムラはわずかに悪い局面を守りとおすことができた。

準決勝

 もう一つの準決勝局はウラジーミル・クラムニクが相手のお株を奪って1手目でなく3手目だが早い b3 突きを用いた。すぐにあっさり優勢になったが、ナカムラはいつものことながら決め手を与えず引き分けに持ち込んだ。色を代えての次局は 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5!? 5.e4 Nxc3 6.bxc3 c5 7.a3 g6!? で始まったが、クラムニクは勝つ気満々のようだった。これがグリューンフェルト防御の黒の改良版であろうとなかろうと、クラムニクはまた早くも主導権を取り、ナカムラはたちまちいつものように手段をつくして受けることになった。しかし本当に交換損の收局を耐え切れるのだろうか。

H.ナカムラ – V.クラムニク
番勝負第2局

 42…Bf8! なら黒が何の紛れもなくdポーンを取っていただろう(42…Rxd7? 43.Nc5+、42…Kxd7 43.Bxh6!)。しかしクラムニクは紛れさせてしまった。

42…Kf7? 43.Nc5!

 これでdポーンが取られず、白が引き分けにできるはずである。

43…Bf8 44.Ba5 Be7 45.Bb6 Rd6 46.Ba5 Rd5 47.Bb6 h5 48.Kf3 f5 49.Kg2 Rd2 50,Ba5 Rd5 51.Bb6 f4 52.Kf3 fxg3 53.fxg3 Rd6 54.Ba5 Rd4 55.Bb6 Rd1 56.Ba5 Rd5 57.Bb6 Rd1 58.Ba5

 クラムニクはキング翼を不安定にさせようと最善をつくしたが無駄だった。今度は勝つために最後の努力をする。

58…g5!? 59.hxg5 Kg6 60.Bb6 Bxg5?

 この手のあとdポーンはクイーンにさえ成れる。60…Rd6 61.Ba5 Rd5 62.Bb6 Rd6 で千日手に同意する時機だった。

61.Ne6

61…Rd3+?

 山ほど時間がある時でさえ、そしてここでクラムニクがそうだったようにたった何十秒しか残っていない時は、ポカのあと気持ちを立て直すことは至難の業である。本譜の手は受けをより難しくしたが、冷静な 61…Be7 を指すのはそうたやすいことではなかった。この手の意味は 62.d8=Q Bxd8 63.Nxd8 Rd6 で黒が白駒を追い回し続けることができることで、例えば 64.Bc7 Rd7 65.Ba5 Rd5 66.Nc6 Rc5 である。

62.Ke4 Rd6 63.Nxg5 Rxd7 64.Nf3 Re7+ 65.Ne5+

 ナカムラは絶望的な局面から急に勝てそうな局面になって、頬をつねってみなければならなかったに違いない。黒はキングを引いて正確に指せばたぶんまだ引き分けにできただろう。しかしクラムニクは自己最悪の一つとなる放心の一手を指して、たちまち終わりになった。

65…Kf6?? 66.Bd8 1-0

 衝撃的な結末だが、西ロンドンでの日曜日のドラマは終わりどころではなかった。

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(この号続く)

2014年02月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(347)

「Chess」2014年2月号(3/4)

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ロンドン大会の米国のスター(続き)

ヒカル・ナカムラがスーパー16選手の快速戦で優勝


26歳のヒカル・ナカムラはシード1位で、ロンドン・チェスクラシックでの優勝はそれにふさわしかった

決勝戦

 スーパー16でヒカル・ナカムラは時に幸運を抜け目なく利用したと言ってもいいだろう。しかし快速チェスは質と同じくらい面白さが大事である。それに、不利な局面でも勝勢の局面でも米国選手の布局の豊富さ、意志の強さ、決してあきらめない姿勢、そして優れた技術には感服せざるを得なかった。さらには、ボリス・ゲルファンドが決勝戦第1局で墓穴を掘ったように、ナカムラは手を決して見逃さない。

H.ナカムラ – B.ゲルファンド
決勝戦第1局

 黒は踏み込んだナイトのおかげで交換損の十分な代償を得ている。ここでは 22…Rd7 とでも指しておくべきだった。

22…Qf6?

 一見この手は白クイーンが砲列線からよけるのが確実なので強い手のように見えるが、ナカムラはものすごく戦術が見えるのでここでもすぐにそれを見つけた。

23.Rxc7! Ne6 24.Rd7

 ここが問題の局面である。白は二つの大駒を救い、ほとんど代償を与えずに交換得になり、勝ち切った。

 次戦で勝たなければならないゲルファンドはナカムラのキング翼インディアン防御にアベルバッハ戦法を採用し側面を食いちぎったが、積極的だけでなく超正確な受けに会い、ナカムラが楽に引き分けた。

 マグヌス・カールセンがオリンピアにシード1位でやって来て優勝をかっさらうのに慣らされていた。しかし彼が不在の今回は新しいシード1位が来たが、それでもまたシード1位がスーパー16で優勝した。この素晴らしい優勝でナカムラが新しい世界チャンピオンとの差を詰めるのに役立つかもしれない。2014年にならないと分からない・・・

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(この号続く)

2014年02月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(348)

「Chess」2014年2月号(4/4)

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次の一手

チェスクラブ上級者向け問題


(23)G.ジョーンズ対H.ナカムラ
ロンドン(快速)、2013年
黒の手番

解答

1…e5! 2.Qxe5(2.Bxe5 は 2…Qh3 3.f3 Bxf3 で 4.Rd2 に 4…Rc1+ があるので見込みがない)そしてここで 2…Qh3? 3.Rd5! で白が立ち直り、そのあとナカムラが懸命の頑張ったにもかかわらず引き分けになった。しかし黒は 2…Re8! 3.Qb2(3.Qc5 なら 3…Qh3 4.f3 Re2)に 3…Qh3? 4.f3 でなく 3…Qg4! から 4…Qf3 で勝っていた。

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(この号終わり)

2014年03月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(349)

「British Chess Magazine」2014年2月号(1/3)

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上級者のための收局

GMニック・パート

 今月は米国のグランドマスターのヒカル・ナカムラが元世界チャンピオンのウラジーミル・クラムニクに勝った重要な試合を取り上げる。対局時に両者はマグヌス・カールセンとレボン・アロニアンに次ぐレイティング世界第3位の地位を争っていた。このあとナカムラはその地位をクラムニクから奪った。

ナカムラ – クラムニク
世界チーム選手権戦、トルコ、2013年

27.h4!

 一見したところではこの手は局面に関係なさそうなので少し意外である。しかしさらに分析すると黒は 27.Kf2 f6! でe5の強力な白ナイトを追い払おうとしていることが分かる。そして h4 の着意はg6のナイトを支えることである。

27…h5

 27…f6 28.Ng6 Kf7 29.h5 が白の読み筋である。

28.b5!

 ナイトのためにc6の地点を確保するナカムラのこの手は実に正確である。

28…Rc7 29.Nc6 Kh7 30.Rb2

 黒ナイトが身動きできなくなった。明らかにナカムラはこれが黒にとって大きな支障となることを期待している。

30…a5 31.Kf2

31…Rd7

 31…a4 は 32.Rb4 Rd7 33.Rxa4 Rd2 34.Nd4 でポーン得して白が良い。

32.Ne5 Rc7 33.Rd2!

 ナカムラは重要なb6のポーンを標的にしたので黒ナイトを解放してやった。

33…f6

 33…Nb3 は 34.Rd6 Rb7 35.Nc4 で白が勝つ。

34.Nd7 Nb3 35.Nf8+!?

 35.Rd6 が強力そうに見える。

35…Kg8 36.Rd7

36…Rxd7

 ここは 36…Rc3 37.Nxe6 Nc5 38.Rxg7+ Kh8 39.Re7 Ne4+ と積極的に防御するのがクラムニクにとって一番見込みがある。

37.Nxd7 Nd4 38.a4 Nxb5!?

 重要なb6のポーンが落ちるのでクラムニクは局面の紛糾を図る。

39.axb5 a4 40.Nc5!!

 しかしナカムラはaポーンを支配下に置く。

40…a3

 40…bxc5 は 41.b6 a3 42.b7 a2 43.b8=Q+ でチェックでクイーンに昇格して白の勝ちになる。

41.Nb3 a2 42.Ke3 Kf7 43.Kd4 Ke7 44.e4

 白の勝勢だが、ナカムラは黒に何の反撃も許さない卓越した技術を見せつける。

44…e5+

45.fxe5

 45.Kc3?? は 45…exf4 46.gxf4 g5 47.fxg5 fxg5 48.hxg5 h4 49.Kb2 h3 50.Nd4 h2 51.Nf5+ Kf7 52.Ng3 Kg6 53.Kxa2 Kxg5 54.e5 Kf4 55.e6 Kxg3 56.e7 h1=Q 57.e8=Q で引き分けになってしまう。

45…Ke6 46.Na1 fxe5+ 47.Kc3 g5 48.Kb2 gxh4 49.gxh4 Kd6 50.Nb3 1-0

 黒キングは侵入できず、ナカムラはいつでも好きな時にaポーンを取ってキングを戦いに引き戻すことができる。それでクラムニクは投了した。

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(この号続く)

2014年03月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(350)

「British Chess Magazine」2014年2月号(2/3)

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ロンドン・チェスクラシック 決勝戦

IMトム・レンドル

 本誌先月号で既報のとおり、現在世界第3位にランクされている米国のGMヒカル・ナカムラが決勝2番勝負で元世界選手権挑戦者のボリス・ゲルファンドを破って2013年ロンドン・チェスクラシックに優勝した。

白 H.ナカムラ
黒 B.ゲルファンド

2013年ロンドン・チェスクラシック
グリューンフェルト防御ロシアシステム [D97]

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Nf3 Bg7 5.Qb3 dx4 6.Qxc4 O-O 7.e4 a6 8.e5 b5 9.Qb3 Nfd7

 この局面はこれまで数多く現れた。ナカムラがグリューンフェルト防御に対し難解な手順を選択することにしたのは驚くに当たらない。しかし次の2手で比較的未踏の海に舵を切った。

10.Ng5

 10.e6 が主手順で2013年8月にゲルファンドがこの手を指されている。10…fxe6 11.Be3(11.Qxe6+ は 11…Kh8 で、危険そうな 12.Ng5 が 12…Ne5! で受かるので黒が良い)11…Nf6 12.a4 b4 13.Qxb4 Nc6 14.Qa3 Qd6 15.Be2(15.Bc4!? がわずかに改良手になっていそうである)15…Nb4 16.Rc1 Bb7 17.h3 Bxf3 18.gxf3 Nbd5 19.a5 Rfb8 20.Bd2 Qxa3 21.bxa3 Nxc3 22.Rxc3 ½-½ A.モイセエンコ対B.ゲルファンド、トロムセ、2013年

10…Nc6 11.Nxf7

 重要な変化は 11.Ne6 だが黒がまったく大丈夫なはずである。例えば 11…Na5 はたぶん最も安全な応手で 12.Nxd8(12.Qa3 fxe6 13.Qxa5 c5!)12…Nxb3 13.axb3 Rxd8 14.Nxb5 c6 15.Nc3 c5! 16.Bg5 cxd4 17.Nd5 Bb7 で少なくとも互角になっている。11.Be3 は2回指されているが 11…Na5! 12.Qd1 Nb6 で黒が好調で、2013年ミドルトンでのC.ホルト対M.モルナー戦では白が 13.h4 f6(黒が捨て駒をさせたくなければ 13…h6 の方が安全である)14.Nxh7!? Kxh7 15.h5 で攻勢に出た。しかしここで 15…Rh8! 16.Bd3 Kg8 17.Bxg6 Nac4 と応じられていたら代償に苦労しただろう。

11…Rxf7 12.e6 Nxd4! 13.exf7+ Kf8 14.Qd1 Nc5

 白は交換得かもしれないが、私はナカムラの布局に納得がいかなかった。黒駒はとりわけ活発で、f7のポーンは近い将来落ちる。またゲルファンドはかなり速く自信をもって布局を指すことができて、そのためこの段階で少し時間でリードしていた。

15.Be3 Bf5 16.Rc1 Qd6 17.b4!?

 ナカムラは自分の棋風に忠実に黒に最大限の圧力をかけている。黒は好機を逃したように見えたけれども、この段階では(特に快速戦では)難解な手順を完璧に読むのは至難の業である。だから相手に間違える可能性を与えることは重要である。ゲルファンドにとっては不運なことにまさにそれがここで起こった。

 たぶん 17.f3 が白の最も安全な手だが、それなら黒には圧力がかからなくなり 17…Rd8 18.Kf2 Kxf7 で少し優勢なはずである。

17…Ne4?

 17…Qe6! 18.bxc5 Rd8 なら …Nc2+ の狙いに適当な受けがないので黒がかなり優勢だった。例えば 19.Be2 なら 19…Nc2+ 20.Qxc2 Bxc2 21.Rxc2 b4! 22.Nd1 Qe4 23.Rc4 Qxg2 24.Rf1 a5 である。ここでさえ黒のクイーンとポーンに対しルーク、ナイトそれに
ビショップというように白が技術的には戦力得だが、黒がはるかに連係が良いことは明らかである。明らかにこの局面で指す余地がまだまだあるが、私の見るところ黒の勝つ可能性が高い。17…Nce6 は 17…Qe6 ほど強い手ではないが、盤上にもっと駒が残っていて黒がd4の重要な地点の支配を固めるのでたぶん実戦よりもまだ良い。

18.Nxe4 Bxe4 19.f3 Bf5 20.Qd2 Rd8 21.Kf2 Kxf7 22.Be2

 急に前からの黒の多くの圧力が無効になった。もちろん黒は交換損に対し1ポーンを得ているが、この時点で白が少なくとも問題ないと言っても差支えない。ゲルファンドにとって不運なことにここで勝負にかかわるような重大な見落としをしていた。

22…Qf6?

 22…Rd7 23.h4 h5 ならまだ互角で先は長かった。

23.Rxc7! Ne6 24.Rd7

 黒が単純にこの手を見落としていたように思われる。2手前までこの地点ははっきりf5のビショップの支配下にあった。今や白は完全に交換得で、ナカムラは持ち前の技量で黒に何も反撃を与えずに勝つことができた。

24…Rc8 25.Bd3

 ビショップをb3に出す 25.Bd1! の方がはるかに強力である。

25…Rc3 26.Bxf5 gxf5 27.f4 Rc4 28.Rc1 Re4 29.g3!

 ナカムラは局面を忙しくさせたくなかった。代わりに単に弱点を守り、すきをつかれないようにした。

29…h5 30.h4 Qg6 31.Bc5 Bf6 32.Re1

32…Qg4

 32…Rc4? は 33.Rxe6! Kxe6 34.Qd5# なので黒はルークを交換させなければならない。

33.Rxe4 fxe4 34.Qd1 Qf5 35.Rd5 Qh3 36.Qf1 0-1

 クイーン同士が消えた局面は特に黒の弱いポーンが白枡にあり白ルークのためにすぐに落ちるので收局は白の楽勝である。

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(この号続く)

2014年03月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス4