布局の探究1の記事一覧

布局の探究(1)

「Chess Life」1990年6月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段

 ずっと昔チェス選手はもっと楽で簡単だった。それは正しいやり方が一つしかなくそれがよく知られていたからだった。100年から150年前の聡明な選手たちは皆勝つためにはできるだけ早く攻撃しなければならないことを知っていた。だから 1.e4 は「明らかに」白の唯一の正着であり、同じように開放的に展開する 1…e5 は黒の唯一の正しい応手だった。そうしてお互いできるだけ迅速かつ直接的に攻撃をし合った。

 1920年代と1930年代には断然最強の手は 1.d4 で最善の応手は 1…d5 だった。しかし今では状況ははるかに難しくなっている。膨大な数の布局定跡、戦法、そして変化はすべて同じくらい信頼できることは周知のとおりである。それらのすべてを知り指すことはまったく不可能である。しかし自分が最もよく知っている好きな変化の布局定跡に到達でき、自分の好まないものがある試合に相手が誘導するのを防ぐことは、どのようにしたらできるだろうか。

 これに対する現代のマスターの常套手段は洗練された手順を用いることで、この新しい科学は現在の布局定跡で最も重要な発展を遂げている。自分の望む戦法を達成するための最も正確な手順を確立することは布局をうまく指すための絶対的な必要条件になっている。最初の5、6手はありとあらゆる手順に対処できなければならない。さもないと何度でも「だまされる」ことになる。

 最大の融通性と変幻性のある布局の手の代表は 1.c4 と 1.Nf3 で、現在のチェス界ではよく知られた事実である。しかし 1.e4 と 1.d4 からの抜け目のない移行もかなり起こり得る。まずそれらのいくつかを見ていこう。

 (『Encyclepedia of Chess Openings』シリーズは貴重な資料を提供してくれることにかけては断然際立っている。しかしその戦法を実戦に適用するには実際上問題がある。それはそれぞれの戦法に至る手順がただ一つしか与えられていないからである。もし相手が協力してくれなければどうなるのか)

1.e4

 まず 1.e4 布局で黒が用心深く初手を指さないとどれほど簡単にだまされてしまうかの醜悪な例を見せたい。黒が 1.f4 にフロムの逆ギャンビット(1…e5)で応じると白は 2.e4 と突いてキング翼ギャンビットに移行することができる。白の 1.Nf3 に黒がすぐに 1…c5 と突くと 2.e4 で標準のシチリア防御になる危険性がある。1.c4 に黒が 1…c6 と突いてスラブ防御(2.d4 d5)を目指すと 2.e4 で妨害されカロカン防御に持ち込まれパノフ攻撃(2…d5 3.exd5 cxd5 4.d4)になる公算が大きい。もちろん客観的にはこれらの布局はどれも黒にとって悪いところは何もない。しかしこれらに立ち向かう用意はしておいた方がよい。

 ほとんどいつも自分の望む戦法・変化を自分が確実に達成することを重要視すべきである。フィリドール防御のハンハム戦法(1.e4 e5 2.Nf3 d6 3.d4 Nd7)を指したいと仮定する。あいにく現代の定跡では 4.Bc4! のあと黒の完全に満足できる局面にはならないとされている。まだしもの手は 4…c6 だが 5.O-O Be7 6.dxe5! dxe5(6…Nxe5? 7.Nxe5 dxe5 8.Qh5!)7.Ng5! Bxg5 8.Qh5 g6 9.Qxg5 Qxg5 10.Bxg5 で明らかに黒の不利な収局になる。だから黒はまず 3…Nf6 と指さなければならず(そして 4.dxe5 Nxe4 5.Qd5 の対処法も知らなければならない)、4.Nc3 のあとで初めて 4…Nbd7 と指すことになる。それでやっとハンハム戦法の満足できる主手順に到達する。

 GMベント・ラルセンは 1.e4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Bc4 Nc6 4.d3 という手順のウィーン戦法を好んでいる。それでもこれに到達する途中には実際上大きな問題がある。即ち黒は 3…Nxe4! 4.Qh5 Nd6 5.Bb3 Nc6 と指すことができる。そして 6.Nb5 g6 7.Qf3 f5 8.Qd5 Qe7 9.Nxc7+ Kd8 10.Nxa8 b6 で白に非常に激しく優劣不明の混戦を強いることができる。

 これは明らかにラルセンがこの戦法に期待している洗練された戦略にまったく反している。だから彼は 2.Bc4 のビショップ布局から始め 2…Nf6 3.d3 Nc6 のあとで 4.Nc3 で望みの戦法に移行する。

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布局の探究(2)

「Chess Life」1990年6月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.e4(続き)

 シチリア防御の主流手順は 1.e4 c5 2.Nf3 から 3.d4 で始まる。しかし特に 2…d6 のあとでは白はよく先に 3.Nc3 と指す。黒はドラゴン戦法を指す予定ならば 3…g6 で差し支えない。また …d6/…Nc6 のシステムを指すつもりならば 3…Nc6 で問題ない。しかしナイドルフ戦法にしたいならここでどう指したらよいのだろうか。3…Nf6 なら白は 4.e5 で局面の様相を変えることができる。3…a6 なら白は 4.g3 で閉鎖型シチリアに移行することができる。これはGMビイアサスの用いるシステムで白は 3…a6 を無駄手にさせようとする。客観的には黒はこれらのどの場合でも問題ないが、それでも局面の様相は予定のナイドルフ戦法とは大きく異なる。

 一般にシチリア防御で早々と 2.Nc3 と指すのは閉鎖型システム(3.g3)の手始めで、その目的は早期の …d5 で黒陣がすぐに解放されるのを防ぐことである。しかし 2.Nc3 は移行の目的でも用いることができる。上述のように白はそのあと 3.Nf3 を指すことができる。選手の中には特に黒が 3…d6 を指したときに一風変わった 3.Nge2 を指す者さえいる。白の目的は普通はただ黒に考えさせることである。そのあとは白は 4.d4 で単に主手順に移行する。しかし白は 4.g3 ですぐにフィアンケットすることもできる。そのあとは白が d4 と突けるかまたは突きたいかによって局面は開放型にも閉鎖型にもなり得る。

 たとえ 2.Nc3 は閉鎖戦法で正当な目的を果たすとしても、d4の地点が黒の手中に落ちるという明らかな欠点もある。だから白の中にはそれを省略してすぐに 2.g3 と指そうという者もいる。もし黒がいつものように指せば(例えば 2…g6 3.Bg2 Bg7 4.Ne2 Nc6)、白は 5.c3! ですぐに中心的な展開の目標を達成することができる。これは白の優勢が保証されるということではなく、黒がよく気をつけて指し続ける必要があるということである。さもないと黒は簡単に思わしくない状況に追い込まれてしまう。私の考えでは黒はすぐに正面から受けて立って(2.g3 のあと)主眼の 2…d5! を指すべきである。3.exd5 Qxd5 4.Nf3 Bg4! 5.Bg2 Qe6+ 6.Kf1 Nc6 と進んだアンバランスな局面は黒が完全に満足できる。

 GMの採用した手順にはどれもいつもそれなりの理由があると覚えておくべきである。ピルツ防御での正規戦法の次の2手順を考えてみよう(1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.Nf3 Bg7)。(1)5.Be2 O-O 6.h3 と(2)5.h3 のどちらの手順も「未熟な選手」の試合では同じことのように思われる。ところがGMは2番目(5.h3)の手順だけを用いる。その理由は 5.h3 O-O 6.Be3! c6 7.a4 Nbd7 8.a5 e5?! 9.dxe5 dxe5 10.Bc4! の局面にある。

 最初に Be2 として Bc4 と指した局面と比べると白はまるまる1手得したことになっている。比較すると 5.Be2 のあとの 6.h3 には洞察力が全然ない。「h3 と指した」というだけである。

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2012年06月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(3)

「Chess Life」1990年6月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.d4

 白が 1.d4 に続けて 2.c4 と指すけれんみのない主流手順派ならばお互いの手順の入れ替えの可能性は少ない。それでも手順の入れ替えは起こる。簡単な例は1972年スパスキー対フィッシャーの世界選手権戦第3局である。1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3(2点リードのスパスキーは第1局のもっと激しい 3.Nc3 を避け 3…b6 のクイーン翼インディアン防御か 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否になれば満足だった。しかし・・・)3…c5!? そしてスパスキーは意表を突かれたことは確かで挑戦を受けて立ち 4.d5 でべノニ防御に入った。しかしフィッシャーは卓越した研究を見せつけて41手で危なげなく勝った。

 白が 2.c4 を避けると転移の可能性はかなり増す。1…Nf6 のあと白がごく普通の 2.Nf3 を指したとする。黒はどう応じるべきだろうか。もちろん 2…d5 と突くことはできるが、もっと非対称でキング翼ビショップをフィアンケットしないことを望むならどうだろうか。その場合 2…e6 が明らかに思い浮かぶ。黒は 3.c4 b6 でクイーン翼インディアン防御、そして特に現在流行している 4.g3 Ba6 戦法になることを期待する。しかし白は 3.g3 とだけ指す。白が c4 と突かなければ黒の …Ba6 の着想は何にもならない。そこで黒はクイーン翼インディアン防御の代わりに今度は 3…d5 でカタロニア布局に移行しようとする。一般的なカタロニア布局(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 または 4.Nf3)に対して黒は激しい 4…dxc4 を望む。この戦法は1970年代初めにアナトリー・カルポフが得意戦法にしていた。黒はここで 4.c4 dxc4 を期待するが白はそれに応えず 4.Bg2 と指す。黒は 4…Be7 5.O-O O-O と指すしかないが白はここで初めて 6.c4 と指す。カタラン布局での黒の選択肢は著しく狭められ 6…Nbd7 で閉鎖的な陣形を保つか 6…dxc4 と指すしかない。

 これらの手はいずれも十分指せる手ではあるけれども、戦法としては 4…dxc4 とははっきりかけ離れている。そして黒がそれらに精通していなければ困難に見舞われるのは確実である。ユーゴスラビアのGMサホビッチは1977年ニシュでの対局でこの手順を用いて私を大変不満足にさせた。というのは「こちらの条件」で布局を激しくすることを防がれたからだった。そうするためには黒は 2.Nf3 e6 3.g3 のあとどう指したらよいだろうか。簡単な答えはないが真剣に考えてみる価値のある一つの可能性は、ブロンシュテインとマイルズが試したことのある均衡を崩す 3…b5!? である。

 黒はいつもキング翼インディアン防御を指すと仮定しよう。白の初手は 1.d4 で黒は喜んで 1…Nf6 と指す。ところが白はここで 2.g3 と指す。このあと黒はキング翼インディアン防御の陣形にすることができるだろうか。手順を追ってみよう。2…g6 3.Bg2 Bg7(すべて順調)しかしここで 4.e4! d6 5.Nc3! O-O 6.Nge2 とやってくる。そして白はピルツ防御に対する現在評判のよい戦法に移行した。もちろん黒は 3…d5 でグリューンフェルト防御にできるし、2…c5 でべノニ防御の陣形を目指すこともできるし、2…d5 でカタロニア布局の陣形を目指すこともできる。しかし黒はキング翼インディアン防御を指すことを防がれている。

 以上の2例に関して私が特に強調したいのは単一防御や単一戦法の選手であることの危険性である。鋭敏な白がこのことを知れば適切な手順を用いてこちらの目的達成を防ぐことができる。そのような場合満足のいく「控え」の戦法を持てるようにしなければならない。

 以前の例で手順変更の機会は非常に早い時期に来た。しかし思慮深い選手なら布局のどんな遅い時機であろうと好機を「いつも」探している。一流GMがどのようにこれをやるのかの好例は1982年レイキャビクでのJ.ヤルタルソン対R.バーン戦に見られる。その試合はニムゾインディアン防御のある戦法で始まった。これは長い間GMバーンの得意戦法の一つだった。1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 O-O 5.Bd3 c5 6.Nf3 d5 7.O-O Nc6 8.a3 Bxc3 9.bxc3 Qc7 10.cxd5 exd5 11.Nh4 Ne7 12.g3

 普通の/正規の手は布局の本に書かれているようにすぐ 12…c4 と突く手である。しかしこれは白がビショップを正しい斜筋/枡のBc2またはBb1に引くように「強制する」。だからバーンはまず 12…Bh3! 13.Re1 と指してから初めて 13…c4 と突いた。これは白に選択の余地を与えた。白はしばらく考えて正着の 14.Bc2(+/=) の代わりに劣った 14.Bf1? を選択した。それで黒は戦略上劣ったビショップを 14…Bxf1 15.Rxf1 と交換することができ、15…Ne4 16.Bb2 f5(=/+) でもう優勢になり55手で勝った。

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2012年07月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(4)

「Chess Life」1990年6月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.c4

 「1.c4 はイギリス布局である」は本当かうそか?正解は「どちらも」である。試合の約半数は本当のイギリス布局になり、残りの半数は普通はもちろん 1.d4 布局に移行する。イギリス布局(1.c4)は一部のGMによって自分のクイーンポーン戦法に行く手段として、それと同時に相手が自分の戦法を達成するのを防ぐ手段として、ほとんど日常的に用いられる。黒が 1…e5 と応じればイギリス布局の最も本筋の主流手順になる可能性が非常に高い。しかし他の応手はどれも移行の機会がたくさんある。ここからは重要な可能性の分岐点について解説する。

 黒は 1…c5 と応じれば次のようにシチリア防御加速ドラゴン戦法に対するマローツィ縛り戦法に意図せず移行させられないように警戒しなければならない。2.Nf3 g6 3.e4! Nc6 4.d4! cxd4 5.Nxd4(「正規」の手順は 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 g6 5.c4)GMポルティッシュやGMスメイカルらの多くの著名な戦略家は白のこの局面を好んでいる。しかしもちろん白はこれを達成しようとして 1.e4 と指す「危険」をおかすことは決してない。だから彼らは 1.c4 と指し上記の移行の機会を逃すまいと目を見開いている。黒がこのようなことを起こらせたくないならば、1…c5 と指すのを控え最初に 1…g6 から 2…Bg7 と指さなければならない。しかしもちろん白は2手目か3手目で d4 と突くことにより簡単にクイーンポーン布局にできる。

 もちろん移行のほとんどははるかに劇的でなく、望みのクイーンポーン布局の局面に到達する。多くのGM(私も含めて)はカタロニア布局のいわゆる本定跡の局面を好んでいる。その局面は 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 Be7 5.Nf3 O-O 6.O-O から生じる。しかしこの普通の手順で黒は 4…dxc4 と指す選択肢がある。この戦法は前に指摘したように1970年代初めにはカタロニア布局に対するカルポフの好みの手法だった。私の考えでは「もし」白が早く d4 と突いていれば黒は早く …dxc4 と取ることによりかなり指しやすくなる。だから私は次のように d4 突きを遅らせている。1.c4 Nf6 2.Nf3 e6 3.g3 d5 4.Bg2 Be7 5.O-O O-O そしてここで初めて 6.d4 と突き、早い …dxc4 について「心配」する必要なしに望みの局面に到達する。

 白番でクイーン翼ギャンビットのタラシュ防御に対して次のようにキング翼ビショップをフィアンケットするのを好む選手は多い。1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 c5 4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 この局面は白が指しやすいと思っているが 1.d4 と指す「危険」はおかしたくない。というのはクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス防御は私にとっては穏やかに思われて、それを相手にする興味はほとんどないからである。典型的な解決策は 1.c4 から始めて移行に期待することである。1977年クラグイェバツでのメドニス対パデフスキー戦(Chess Informant 第24巻第519局)で白は次の手順で望みの局面に達した。1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.Nc3 e6 4.g3 d5 5.cxd5 exd5 6.d4 Nc6 7.Bg2 Be7 8.O-O O-O 9.Bg5

そして望みがかなって満足の白が25手で快勝した。

 1.c4 は多くのクイーンポーン布局の防御を防ぐために用いられることが非常によくある。あなたはニムゾインディアン/クイーン翼インディアンの組み合わせを指したいだろうか?東ドイツのGMボルフガング・ウールマンに対してはそんなチャンスは全然ないだろう。彼の布局の手順は決まって 1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 である。ここで 3…b6 なら 4.e4! と来るし、3…Bb4 はニムゾインディアンのように煩わしいところは何もない。釘付けもなければ攻撃目標のdポーンもなく、4.Qc2 で白の危険性のない楽な局面になる。だから黒の中心となる最も普通の手は 3…d5 で、白の 4.d4 でクイーン翼ギャンビット拒否になる。早い展開の Nf3 のためにほんのわずかの要因、つまり交換戦法(cxd5)がかなり無害になっていることを別にすれば、ウールマンのクイーン翼ギャンビット拒否に至る方法には何の不都合もない。

 グリューンフェルト防御(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5)を相手にするのが怖い者が愛用する道具は 1.c4 である。1…Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 のあと白には理にかなった二つの選択肢がある。それは(1)4.g3 g6 5.Bg2 の純粋なイギリス布局と(2)4.Nf3 g6 5.e4! Nxc3 6.dxc3! でわずかに有利な収局を目指すことである。グリューンフェルトの典型的な中盤戦のねじり合いを楽しむ黒はこの収局では非常に不満を感じるのが普通である。

 黒が最も融通性のある 1…g6 で応じたいなら白は 2.e4! で「グリューンフェルトの夢」をすべて止めさせることができる。通常これは早い d4 突きでキング翼インディアン防御になる。しかし 2…c5 3.Nf3 から 4.d4 突きでまた加速ドラゴンに移行することに注意がいる。2.e4 突きの唯一の小さな危険性は黒の 2…e5!? 突きで生じる珍しい戦法に対処する十分な定跡の知識を持っていなければならないということである。知識不足の危険性の例として1976年ブダペストでのホルモフ対サクス戦をあげることができる。ソ連のGMは 2.e4 と突くことによりサクスのグリューンフェルトを防ぎたかった。しかし対局後認めたように彼は 2…e5!? に全然なじみがなかった。そして20手ももたずに惨敗を喫した。

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2012年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(5)

「Chess Life」1990年6月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段(続き)

1.Nf3

 何といっても完璧に融通性のある布局の手は 1.Nf3 である。この手は非常にたやすく他の主要な布局(1.e4、1.d4、1.c4)に移行できる。実はほとんどの場合 1.Nf3 の意義は他の布局の中に隠れてしまう。

 しかし 1.Nf3 には三つの主要な独自の特徴がある。一つ目は黒が「純正イギリス布局」の 1.c4 e5 を用いることを妨げられることである。マスターの中にはこれを逆シチリア防御とみなし1手多くてもシチリア防御を指したくない者がいる。そこで彼らは2手目まで c4 と突くのを遅らせる。二つ目は白が単に逆キング翼インディアン防御(1.Nf3、2.g3、3.Bg2、4.O-O、5.d3)を指すことができるし、あるいは頻度はずっと少ないがニムゾビッチ式に 2.b3 から始めてこれの亜流であるクイーン翼ビショップのフィアンケットを指すことができる。そして三つ目は白は 1.Nf3 d5 2.c4 でレーティ布局を目指すことができる。しかしやはりこの手順でさえほとんどはグリューンフェルトや 1.d4 に対する他の「好ましからざる」応手の危険をおかすことなくクイーンポーン(特にクイーン翼ギャンビット)戦法に移行するために用いられる。1982年レイキャビクでのH.オウラフソン対メドニス戦で生じた主眼の移行の針路は 1.Nf3 Nf6 2.c4 c6 3.d4 d5 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 で、スラブ防御の主流手順になった。

 この主流スラブ局面に到達するために用いられる私の好きなごまかし例は1982年シカゴでの国際大会でGMローベルト・ヒューブナーがビクトル・コルチノイ相手にやってのけた。白のコルチノイは初手で 1.Nf3 と指した。1…d5 のあと白は 2.d4 でクイーン翼ギャンビットらしきものに移行した。そして 2…Nf6 3.c4 でそうなった。ここでヒューブナーは 3…dxc4 によりクイーン翼ギャンビット受諾に入ったように思われた。しかしコルチノイはすぐに 4.Nc3 と応じた。

 この手は 4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 という激しいギャンビットの手順を期待していて、コルチノイが研究してきたようだった。しかしヒューブナーは 4…c6! でその作戦を邪魔しスラブ防御に移行した。5.a4 Bf5 でスラブ防御の主流手順が続いたあとコルチノイは居心地が悪くなりヒューブナーが41手で快勝した。ヒューブナーの手順の洗練された点はコルチノイがスラブ防御の主流手順を嫌いそう指させないことを知っていたことだった。1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 のあと代わりにコルチノイは 4.e3 と指し黒に 4…Bf5 でスラブ防御に留まるか 4…Bg4 と指すかそれとも 4…e6 でメラン戦法に向かうかの選択を与えていた。

 1.Nf3 という手は遅延カタロニア布局に到達する非常に効果的な道具でもある。それにより黒が早い(つまり4手目で)…dxc4 の防御を用いるのを防いでいる。ユーゴスラビアのGMブキッチは古典防御(ここでは …d5 と …e6 を基にした防御のこと)を好む相手に対しこの手法で好成績をあげている。彼のやり方はこうである。1.Nf3 Nf6 2.g3 d5 3.Bg2 e6 4.O-O Be7 そしてここで初めて 5.c4! と突く。5…O-O 6.d4 のあとカタロニア布局の主流手順になる。さらに 5…dxc4?! のあとは白は 6.Na3! で楽々とポーンを取り返す。これは1976年マンハッタンでの国際大会のブキッチ対メドニス戦で示された。カタロニア布局主流手順の黒側につきものの消極性が好きでない人たち(私も含まれる)にこれの意味するところは、ブキッチの手順にうまく対処するために別の陣形が必要だということである。その一つの例として私は次のシステムを自分の常用布局に加えた。1.Nf3 Nf6 2.g3 d5 3.Bg2 c6 4.O-O Bg4 のあと …e6 から …Nbd7(または白の手により逆順にすることも時々ある)カタロニア布局と比べると黒のクイーン翼ビショップがずっと活発に展開されている。

 これで自分の役に立ち相手を困らせるための手順の用い方にだいぶ習熟できたことと思う。これらを思慮深くそして創造的に用いることにより非常に価値ある現代のマスターの道具を身につけることができるだろう。

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2012年07月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(6)

「Chess Life」1990年8月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

何はともあれ 得意定跡の選び方

 チェスという競技は布局から始まる。明らかにこの段階については少なくとも適切な知識を持っていなければならない。もちろんチェスでの最終的な勝利のためには収局の知識と中盤戦の戦略と戦術の知識なしには不可能である。それでもまず最初にやるべきことはやらなければならず、正しく踏み出すことは明らかに有利である。有望な若手だろうと経験豊富な年長者であろうと健全で適切な得意定跡を確立するべきである。これには二つの部分がある。一つ目は特定の定跡と戦法/変化の選択である。二つ目は-とりわけ重要でもあるが-望みの戦法を達成するための最も正確な手順を確立することである。この非常に重要な主題は「Chess Life」1990年6月号で詳細に論じた。

 選択する得意定跡は自分のチェスの興味、棋風、それに勉強法と一致しなければならない。激しい戦術が楽しく、世界中での布局定跡の進歩を追うのに時間と興味があり、記憶力に優れ、複雑な独自の分析を行なうのが好きならば、白だろうと黒だろうとナイドルフシチリアの「フィッシャーのbポーン」戦法(1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6)がお薦めである。

 もし主流手順の戦略的な指し方に興味があるならば、白にしろ黒にしろクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス防御(1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 Be7 5.Bg5)が気に入るだろう。しかし戦略にひかれながらもそれほど研究されていない舞台が好きならば、白として通例の 5.Bg5 よりも 5.Bf4 を選択するだろう。自分に忠実なときに最高の結果が得られるものである。自分の好きなものを指すのと、自分は嫌いだが相手はもっと嫌いそうなものを指すのとで、選択するならば自分の好きなものにこだわるべきである。自分の知っているもの、好きなもの、そして自信を持っているものを指すとき、実戦の結果は向上するものである。

 非常に一般化すれば激しい戦術が好きな者は 1.e4 布局を指した方がよく、これに対して戦略派は閉鎖型布局(1.d4、1.c4、1.Nf3)を選択すべきだと言うことができる。しかし自分に合った具体的な戦法や変化を選ぶことも大切である。開放試合の「本」には数え切れないほど戦略的に理にかなった布局が載っているし、閉鎖布局を激しく指す多くの手段がある。一例として長年の米国チャンピオンで歴史上の最も偉大な攻撃的選手の一人の故フランク.J.マーシャルの得意定跡を考えてみるとよい。彼の初手はいつも 1.d4 だったが、そのあとすぐに大立ち回りに移るのに何のハンディキャップにもなっていなかった。

 世界チャンピオンのガリー・カスパロフと前世界チャンピオンのアナトリー・カルポフの白番での得意定跡の移り変わりを比較してみるのも面白いかもしれない。カスパロフは攻撃的選手として有名になったときは初手はいつも 1.e4 だった。それでも20歳の誕生日より前には 1.d4 に変わっていた。1983年12月のロンドンで私は彼に「なぜ?」と聞いてみた。彼の返事は「1.d4 の方が指し手の可能性が豊富だと分かった」だった。カルポフも 1.e4 から始まって1980年代に入るまでそれに忠実だった。それでも彼の選択した戦法は決まってまったく戦略的だった。

 1989年初めのインタビューで彼は開放局面と閉鎖局面のどちらが好きかと質問された。答えは「1.e4 の方がずっと好きだが結果は 1.d4 の方が良い」だった。深い戦略はいつもカルポフの特別な強みだったのでこれは私にとって非常に納得がいった。

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布局の探究(7)

「Chess Life」1990年8月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

何はともあれ 得意定跡の選び方(続き)

 ここで非常に重要な実戦的な問題を考えてみよう。それはどのくらい多くの防御(戦法、布局)を白番と黒番で用意すべきかということである。普通は「黒番で(または白番で)別の布局を学ぶ前にどのくらい詳しく一つの布局を知るべきか」というようなことに言い換えられる。私にとってはこの種の問いは「一つの戦法を深く知るべきか、それとも二つの戦法を浅く知るべきか」と言っているように聞こえる。私の答えはいつも質の方である。つまり一つの布局を深く知る方が二つ(あるいは十)浅く知るよりずっとずっと大切である。

 それでも上達を目指す選手は一つの戦法だけを指すのは十分でない。これには理由が二つある。

 (1)相手があなたとの対戦に備えるのがあまりにも容易になる。布局で成功する大きな目標の一つは相手の意表を突くことである。逆にいつも意表を突かれて不愉快な立場になることは望まない。

 (2)定期的に戦法は理論的な問題にぶつかり、自分の信頼できる布局でなくなることがある。

 だから今の布局を十分知ったなら得意定跡を広げる時機である。そうするためには三つのやり方がある。

 (1)新しい布局システムを学ぶこと。例えば 1.e4 に対する応手がフランス防御(1…e6)ならば、これからは 1…e5 と指すのも選択肢に加えるのがよいかもしれない。あるいは 1.d4 に対して 1…d5 と応じているなら、これからはグリューンフェルト防御(1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5)も指すことにするのがよいかもしれない。このようなやり方の利点は何か新しいことを学ぶことによりチェス全般の知識が大きく増えることである。これは「頭脳拡張」法と呼べるだろう。もちろん欠点はまったく明らかで、これまでの知識をなにも直接適用できないので膨大な時間と努力が必要となることである。しかしここでも勉強時間を節約する方法はある。例えば今のところ 1.e4 e5 全体よりもカロカン防御(1.e4 c6)について知られていることがはるかに少ないので、カロカンを選ぶ方が 1…e5 を選ぶよりもずっと勉強時間が少なくて済む。

 (2)姉妹布局を学ぶこと。このやり方の重要な例は、1.d4 に対してキング翼インディアン防御(1.d4 Nf6 2.c4 g6 のあと …Bg7 から …d6)を指す者が 1.e4 に対してピルツ防御(1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6)を選ぶことで、またはもちろんその逆もある。

 戦法の実際の習得法はだいぶ違うが二つの明らかに有利な点がある。(1)既に布局の一般的な考え方を理解しているので勉強がもっと楽である。(2)布局システムへの基本的な取り組み方を理解しているので実戦は初めからもっとうまくいく。

 もっと似かよった姉妹布局の組はピルツ防御と現代防御(1.e4 g6 2.d4 Bg7)である。現代防御からピルツ防御に移行する機会はいくらもある。

 (3)付随する戦法を学ぶこと。1.e4 に対する防御としてシチリア防御ナイドルフ戦法(1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6)を指していると仮定する。これは白の考えられるすべての2手目(閉鎖戦法など)に対処する方法、3.Bb5+ に対する指し方、(4.Nxd4 でなく)4.Qxd4 と取られたときの対処法などを知らなければならないことを意味している。

 ドラゴン戦法(5…g6)も指すことにするならば、ここまでは他に何も学ぶ必要はない。

 しなければならないことはドラゴン戦法の詳細を勉強することだけである。たぶん自分のシチリア防御の知識の3分の1まで利用しているのでこれは大変な時間の節約になる。

 このようなやり方はたぶんレイティング2600のスーパーGMになりたい若い才能には十分でないだろう。しかし時間がかなり限られている職業人にとっては非常に適切である。

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2012年08月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(8)

「Chess Life」1990年8月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

何はともあれ 得意定跡の選び方(続き)

 それでは1970年代初頭に 1.d4 に対する布局の常用戦法を増すために私の用いた考え方とやり方を話そう。ボビー・フィッシャーのおかげで1972年の終わり頃には私はチェスのプロとしてだけでやっていくことが可能になっていた。その時まで 1.d4 にはキング翼インディアン防御とニムゾインディアン/クイーン翼インディアン対(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 または 3.Nf3 b6)とを指していた。そしてチェスの成績を良くするためには別の防御も必要だと結論づけた。慎重に検討した結果基本的に堅固であることと反撃の可能性をあわせ持つスラブ防御(1.d4 d5 2.c4 c6)に決めた。しかしさらに大きな問題は白の主手順である 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 に対してどう指したらよいかということだった。

 黒の「主主手順」は 5…Bf5 だったがこれから始めるのは気が進まなかった。というのはここで知っておかなければならないことが山ほどあり白は私よりよく知っていると考えたからだった。そこで私の選んだのはそれほど一般的でない 5…Bg4 で、好成績を収めた。しかし1976年頃にはこれも非常に人気が出て白に大きな改善手も発見された。そこで1977年からスミスロフの「旧式の」手の 5…Na6 に転向しまた好成績を収めた。これもすぐに非常に人気が出て白は多くの改善を行なった。そこでついに(1980年)主流手順の 5…Bf5 戦法も習得した。

 しかしその時までにはこれだけを習得すれば良かった。すべてのわき道とわきわき道はすでに分かっていた。それで今では相手と最新の定跡の状況により三つの手(5…Bg4、5…Na6、5…Bf5)のどれも指している。

 それでは開放型と閉鎖型の両方を含む広い常用布局を選んでみよう。白番で布局の勉強を嫌がらず、明快な戦略的局面を好み、盤上からクイーンの消えた局面の方がずっと気楽であると仮定する。推奨するのは次のとおりである。私はこれを「賢明な戦略的選手のための常用布局」と呼んでいる。これらの戦法とそれらから生じる収局の総合的議論は拙著「From The Opening Into The Endgame」(Pergamon Press 社発行)の中核となっている。

賢明な戦略的選手のための常用布局

 1.ルイロペス 交換戦法 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Bxc6 dxc6 5.O-O! f6 6.d4 exd4 7.Nxd4 c5 8.Nb3 Qxd1 9.Rxd1

 2.シチリア防御 ドラゴン戦法 1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Qd2 O-O 9.g4 Nxd4 10.Bxd4 Be6 11.O-O-O Qa5 12.Kb1 Rfc8 13.a3 Rab8 14.g5! Nh5 15.Nd5! Qxd2 16.Rxd2

 3.シチリア防御 加速ドラゴン 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 g6 5.c4 Nf6 6.Nc3 Nxd4 7.Qxd4 d6 8.Bg5! Bg7 9.f3! O-O 10.Qd2 Be6 11.Rc1 Qa5 12.b3 Rfc8 13.Be2 a6 14.Na4! Qxd2+ 15.Kxd2

 4.フランス防御 タラシュ戦法 1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 c5 4.exd5 exd5 5.Bb5+ Bd7 6.Qe2+ Qe7 7.Bxd7+ Nxd7 8.dxc5

 5.ピルツ防御 正規戦法 1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.Nf3 Bg7 5.Be2 O-O 6.O-O Bg4 7.Be3 Nc6 8.Qd2 e5 9.dxe5! dxe5 10.Rad1

 6.現代防御 アベルバッハ戦法 1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.c4 d6 4.Nc3 e5 5.dxe5! dxe5 6.Qxd8+ Kxd8 7.f4!

 7.キング翼インディアン防御 正規戦法 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.dxe5! dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bg5!

 8.グリューンフェルト防御 現代交換戦法 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 c5 7.Nf3 Bg7 8.Be3 から 9.Rc1

 9.クイーン翼インディアン防御 正規戦法 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Bb7 5.Bg2 Be7 6.O-O O-O 7.Nc3 Ne4 8.Nxe4 Bxe4 9.Nh4 Bxg2 10.Nxg2

 10.イギリス/レーティ布局 相互二重フィアンケット 1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.g3 b6 4.Bg2 Bb7 5.O-O g6 6.b3 Bg7 7.Bb2 O-O 8.Nc3 d5 9.Nxd5! Nxd5 10.Bxg7 Kxg7 11.cxd5 Qxd5 12.d4! cxd4 13.Qxd4+ Qxd4 14.Nxd4 Bxg2 15.Kxg2

 11.イギリス布局 アンデルソンの教科書戦型 1.c4 Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.Nf3 g6 5.e4 Nxc3 6.dxc3 Qxd1+ 7.Kxd1

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布局の探究(9)

「Chess Life」1990年10月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

フィッシャーとカルポフから布局の指し方を学ぶ

 グランドマスターは事実[棋譜]と言葉[解説]の遺産を残す。この遺産を詳しく研究すれば誰でもチェスの技量が向上する。もちろんすべてのグランドマスターが同じ強さであるわけはなく、頂点には世界チャンピオンが君臨している。このまれな集団の中でロバート.J.フィッシャーとアナトリー・カルポフが最も抜きん出た地位を占めている。本稿ではどのように彼らの知恵を利用して布局の指し方の理解を高めることができるかを説明する。

情報の宝庫

 融通無碍な棋風と人を魅了する闘争心のためにロバート.J.フィッシャーの試合は貴重な情報の宝庫である。レフ・サーヒスは無名から1980/81年と1981/82年に連続して二人同点の全ソ連チャンピオンの座に輝いてチェスの天空に突如現れたが、フィッシャーの試合はどの一手も細心の注意を払って研究したと認めている。

 フィッシャーの指したルイロペスは我々もすべて研究したと仮定しよう。フィッシャーはこの布局の誰もが認める大家だった。(フィッシャーの試合の主要な出典はフィッシャー著「My 60 Memorable Games」とWadeとO’Connell著「Bobby Fischer’s Chess Games」である。」)フィッシャーの時代によく指されたルイロペスの局面は次の手順から生じた。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3 Na5 10.Bc2 c5 11.d4 Qc7 12.Nbd2 Bd7 13.Nf1 Rfe8 14.Ne3 g6 15.dxe5 dxe5 これは1959年マルデルプラタでのフィッシャー対ショクロン戦と1959年チューリヒでのフィッシャー対ウンツィカー戦で、フィッシャーの自著本のそれぞれ第6局と第10局である。

 機械的な形勢判断では黒が展開にまさり、中原での勢力が優勢で、白の白枡ビショップは利きが短いということになる。しかしこれらのどれも大して重大でない。重要なのは黒のd5は空所となる可能性があるのに対し、d4には黒駒が行けないということである。したがってフィッシャーが何度も証明したように可能性があるのは白だけである。(注意しておくとついには手間をかけて互角に至る方法が編み出された。)

 今度はカルポフ対コルチノイの1981年世界選手権戦第8局のジオッコピアノから生じた局面を考えてみよう。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.c3 Nf6 5.d3 d6 6.Nbd2 a6 7.O-O O-O 8.Bb3 Ba7 9.h3 Be6 10.Bc2 d5 11.Re1 dxe4 12.dxe4 Nh5 13.Nf1 Qxd1 14.Rxd1 Rad8 15.Be3

 この試合は米国でテレビ中継された(公共放送協会、解説シェルビー・ライマン)。そしてここからの局面がいろいろな専門家が加わって詳細に分析された。若手と経験の少ない参加者の形勢判断は白に何も有利な点がないということで意見が一致していた(あるマスターは「白の白枡ビショップが黒の白枡ビショップより劣る」ので黒の方が優勢であるとさえ考えていた)。しかしずばり言うと(即座に把握すべきことであるが)まったく見当外れである。重要なことはただ一つで、それは白がd5の地点に行ける可能性が高いということ、それに対して黒はd4に行けないということである。従って白だけが優勢になる見通しがある。カルポフはこの収局について次のように解説している(「Chess At The Top」65ページ)。「クイーン交換で黒の形勢互角の追求はおぼつかなくなった。」

 実戦は次のように進んで白がはっきり優勢になった。15…f6 16.Bxa7 Nxa7 17.Ne3 Nf4 18.h4! Bf7 19.Ne1 Nc8 20.f3 Ne6 21.Nd3 Rd7?!(「21…Ne7 の方が良い」カルポフ)22.Bb3! Ne7 23.Nd5! Nc6 24.Ba4!(「たぶん 24.g3 から 25.f4 の方がはるかに強い手で、26.f5 で黒ナイトをe6から追い払う狙いがある」カルポフ)24…b5 25.Bc2 Rfd8 26.a4コルチノイはひどい時間切迫で(最後の10手に1分しかなかった)カルポフは非常に有望だった。しかし急ぎ過ぎて最善手を逃しコルチノイがついに80手目で引き分けに持ち込んだ。

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2012年08月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(10)

「Chess Life」1990年10月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

フィッシャーとカルポフから布局の指し方を学ぶ(続き)

戦略的に健全な作戦

 フランス防御で 1.e4 e6 2.d4 d5 のあと白はこのあとの基本的な方針を決めなければならない。戦略的に健全な手段はタラシュの 3.Nd2 である。カルポフの評価(「My Best Games」29ページ)に耳を傾けてみよう。「大切なのは白に少しだが永続的な優勢がもたらされるということである。そして私の強調するのは永続という点である。」

 黒の最も信頼できる定跡の応手は 3…c5 で、現在の主流手順は 4.exd5 exd5 5.Ngf3 Nc6 6.Bb5 Bd6 7.dxc5 Bxc5 8.O-O Nge7 9.Nb3 Bd6 となっている。1973年マドリードでのカルポフ対ウールマン戦(同書第36局)は次のように進んだ。10.Bg5 O-O 11.Bh4

 カルポフは次のように解説している。「この手の意図は単純である。この局面における白の優勢は黒が孤立dポーンを抱えていることに関連している。この弱点につけ込むためには交換により単純化すべきである。小駒を盤上から消していくが、その手始めがd5ポーンの周りの地点に利いている黒枡ビショップである。」

 時の経過とともにどうしても細かいところのいくつかは変わり、実際にゆっくりした 11.Bh4 のあと黒はバガニアン対グリコ戦で示されたとおり 11…Qb6! で互角にできる。従って白の最強の作戦は今は 10.Re1 O-O 11.Bg5 であると考えられている。しかし戦略の大方針は不変である。即ち白は黒枡ビショップ同士の交換を望み、一対の小駒の「どんな」交換でも白の利益になる。この洞察があれば白は定跡の知識がちょうどここで尽きてもいくつかの論理的な戦略手順を導き出すことができる。

 今度はこの情報を次の手順で始まる戦型にどのように適用できるかをみてみよう。3…Nf6 4.e5 Nfd7 5.c3 c5 6.Bd3 Nc6 7.Ne2 cxd4 8.cxd4 f6 9.exf6 Nxf6 10.O-O Bd6 11.Nf3 ここで白は黒の黒枡に弱点を残させる 12.Bf4 を「狙っている」。この要素は白の働きに優る白枡ビショップ、黒の弱体化したキング翼、それに弱いeポーンに加わったときには白に明らかな優勢をもたらしてくれる。従ってここでの黒の通常の応手は 11…Qc7 である。しかし代わりに1982年ニューヨーク国際(CCA3月)でのジャレッキ対レムリンガー戦では黒は別の手を指した。11…O-O?! 12.Bf4! Bxf4 13.Nxf4 Kh8 14.Re1! ここでの黒の「理性的な」手は 14…Qd6 だが、経験の劣る相手に対して黒は 14…Ng4?! を試みた。

 自分のいろいろな弱点に対して黒の得ている唯一の代償は半素通しf列である。しかし白がここで単純な 15.Qd2! で展開を完了してしまえば、黒の問題はすぐに黒自身に跳ね返ってくる。

 代わりに白は欲張って 15.Nxe6? Bxe6 16.Rxe6 と指し 16…Qc7! のあと満足な受けがなくなっていることに気づいた。ここで白の小悪は 17.Be2! Qd7! で「最善」の手段で交換損をすることである。18.Ng5? は 18…Nxf2 19.Qc2 Ne4 で駄目だが、18.Ne5 または 18.Rxc6 がある。もっと悪いのは17.g3? Qf7!、17.h3? Nxd4!、それに実戦の手である。17.Bb5? Rxf3! 18.g3 Qf7 19.Bxc6 bxc6 20.Rxc6 Nxf2 白投了

 白の基本的な問題点は最優先の目標が黒の弱いeポーンを取ることだと考えたことだった。しかし実際には彼の当初の目標は局面で黒枡を支配することだった。余得は「自然に」生じてくるものである。

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2012年08月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(11)

「Chess Life」1990年10月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

フィッシャーとカルポフから布局の指し方を学ぶ(続き)

うのみにするな

 1969年ストックホルムでの世界ジュニア選手権戦のカルポフ対アンデルソン戦はルイロペスで始まった。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.c3 d6 9.h3 Na5 10.Bc2 c5 11.d4 Qc7 12.Nbd2 Bb7

 ここでカルポフは次のように解説している(「My Best Games」82ページ)。「これはチゴーリン防御の一番古い手の一つで、現在では滅多にお目にかかれない。そのときでさえ 12…cxd4 13.cxd4 で素通しc列での反撃を用意したあとでだけ見られた。本譜で白はすぐに中原を閉鎖し、黒ビショップはd7の地点に行くのに2手損をしなければならない。手損は閉鎖的な局面では大したことがないと言われてきた。もちろん開放的な局面ではもっと高くつく。しかしこのような局面でさえ手損はすべきでない。」(強調は筆者)

 試合は次のように続いた。13.d5 Bc8 14.Nf1 Bd7 15.b3

 再びカルポフの解説に耳を傾けよう。「この手の意図は黒のナイトの動きを制限することである。一般に黒は多くの布局で特定の駒の展開に何らかの困難を抱える。例えばフランス防御やべノニ防御での黒の「問題」ビショップがそうである。本局では行き場を探している「不名誉なスペインナイト」である。本譜の手はこのナイトからc4の地点を奪っていて、黒がcポーンを突けば b3-b4 突きでこのナイトをやはり良い展望のないb7の地点に押し戻す。」(クイーン翼ナイトに関連した同様の着想がキング翼インディアン防御のユーゴスラビア戦法にも見られ、決して目新しい着想ではない)

 クイーン翼ナイトの抑止についての解説に関連した洞察の新鮮さに注目して欲しい。これは白が d5 と突いて中央を閉鎖する戦法における非常に重要な要因である。この基本を理解すればカルポフの一連の試合全体をずっとよく追うことができる。例えば1975年ミラノでのカルポフ対ウンツィカー戦である(前書第42局 12…Bd7 13.Nf1 Rfe8 14.d5)。このあとの指し手のほとんどを貫いている主題は黒のクイーン翼ナイトが決して居心地のいい場所を見つけることができず、実際黒がクイーン翼の防御にまわっているときにクイーン翼ナイトが邪魔になることがよくある。

 しかし、しかし、しかしである。以上のことすべてにもかかわらずグランドマスターのすることをうのみにすることだけはしてはいけない。チェスの棋理に本当に合っているかを確かめるようにしなければならない。間違いなくグランドマスターはチェスの原則を完璧に理解している。それにもかかわらず「GMのポカ」とも呼べる悪手の大半は、原則に対する例外が見つけられたと考えられることにより起こっている。普通の規則や規定に対する例外を探すのは人間の特質のようである。チェスでは原則に対する例外は我々がそうだと考えたがるよりもずっと少ない頻度で起こる。以下では二つの例をあげることにする。

 シチリア防御ドラゴン戦法に対するユーゴスラビア攻撃(1.e4 c5 Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Qd2 O-Oで白は1956年の初めから 9.Bc4 で圧倒的な勝率をあげ始めた。

 黒は 9…Nxd4 10.Bxd4 Be6、9…a6、9…Na5、9…Nd7 から …Nb6、9…a5 というように一連の防御全部を試したがどれも無駄だった。ようやく関心が 9…Bd7 に向いたのは約6年の壊滅的な敗北のあとだった。これこそ断然理にかなった9手目じゃないか?黒は通常の手段で小駒の展開を完了し、中央への影響力をちゃんと保持し、半素通しc列での反撃を準備している。

 しかし 9…Bd7 に関心が向いたのは他の手でうまくいったことがただ一つもなかったからにすぎなかった。明らかに黒はc4のビショップの威力に目をくらまされて、できるだけ早くそのビショップを無力にしたがっていた。展開の健全な原則が従属的な役割に引き下がっていた。

 二番目の例はシチリア防御ナイドルフ戦法からのポルガエフスキー戦法である。1961年全ソ連選手権戦でのブロンシュテイン対ポルガエフスキー戦で通常の 1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 b5 8.e5 dxe5 9.fxe5 Qc7 10.exf6 Qe5+ 11.Be2 Qxg5 のあとブロンシュテインは新手の 12.Qd3 で相手を驚かせた。

 実戦でポルガエフスキーは 12…Qh4+ 13.g3 Qxf6 と指し簡単に互角の形勢にした。しかしその後 14.Rf1 Qe5 15.O-O-O Ra7 16.Nf3! で白が優勢になることが分かった。これで約10年の間この戦法全体に暗雲が立ち込めた。ポルガエフスキー自身がすぐに 12…Qxf6 と取れば黒が全然問題ないことを発見したのはようやく1973年になってからだった。13.Rf1 Qe5 14.O-O-O Ra7 15.Nf3 のあと黒は 15…Qf4+ と指せるからである(16.Nd2 なら Qe5、16.Kb1 なら Rd7)。

 これについてのポルガエフスキーのコメントは非常に面白い。彼は自分の名著(「Grandmaster Preparation」68ページ)で次のように言っている。「チェスの不合理な論理とはこのようなものである。白の12手目の局面を初心者に見せたらきっと考えずに 12…Qxf6 と指すだろう。実際黒はポーン得になり、それによって自分のポーンの形を乱すこともない。しかし我々がこんなことに到達するにはなんと10年以上を必要としたのだった!」

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2012年08月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(12)

「Chess Life」1990年12月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

新たな布局の習得法

 1.d4 に対するあなたの防御はいつもクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法(1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 Be7)だった。全般的には満足のいく布局だったが、「格下」の相手は負かしにくかった。そこであなたは何かもっと「激しい」ものを加える必要があると決断した。私の記事の「得意定跡の選び方」(「Chess Life」1990年8月号)で説明した原則を用いることによりあなたは「ニムゾインディアン/クイーン翼インディアン対」を学ぶことにした。図1はニムゾインディアン防御(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4)の基本局面を示し、図2はクイーン翼インディアン防御(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6)の基本局面を示している。

 図1

 図2

 もちろん私の以前の講座の「布局定跡の手順 現代のマスターの常套手段」(「Chess Life」1990年6月号)で既に学んだように、もっといくつかの手順が特定の局面に到達するためによく用いられる。例えばニムゾインディアン防御は 1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.d4 Bb4 という手順で、クイーン翼インディアン防御も 1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.c4 b6 という手順でしばしば生じる。

 本稿では布局を習得しその「精通者」であり続けるための重要な過程について説明する。それは次の8段階の活動から成る。

 (1)その布局の主要な特徴を明快に言葉で過不足なく説明したものを手に入れる

 布局を学び始めるうえでの最も悪いやり方は、すぐに「重要な」手順を暗記し始めることである。そのような機械的な方法は決してうまくいかない。なぜなら記憶しておいた手順が終わるやいなや次にどうしてよいか分からず途方にくれるからである。まず布局がどういうものであるかについて「理解」することが必須である。ニムゾインディアン防御については「How to Play the Nimzo-indian Defence」(Raymond Keene、Shaun Taulbut 著)にすぐれた解説があり、クイーン翼インディアン防御なら「Understanding the Queen’s Indian Defense」(Andy Soltis、Edmar Mednis、Raymond Keene、John Grefe 著)が特にお薦めである。

 (2)それぞれの戦法について主要な特徴を明快に言葉で説明したものをできるだけ手に入れる

 もちろん白の戦法、例えばニムゾインディアン防御に対するルビーンシュタインの 4.e3 に対して何を指したいか分からないならば、黒の選択肢で高く評価されているもの全部について学ぶようにする。ニムゾインディアン防御での 4.e3 に対しては 4…b6、4…c5、そして 4…O-O のあと …c5 だけ、…d5 だけ、それに …c5 と …d5 の両方のシステムを持つものである。ニムゾビッチの 4…b6 を指したいと既に「分かっている」ならば、それの明快な言葉での説明を手に入れるだけでよい。

 言葉による説明を手に入れるには次のような情報源がある。

 (a)その分野の専門家による質の高い本。(上記の2冊の本はこの条件に合う)

 (b)チェス雑誌に掲載されるGMやIMの戦法解説記事

 (c)自分の個人トレーナーがその戦法に通じているならその人物

 戦法の本質をできるだけ深くそしてできるだけ洗練された方法で理解することが非常に重要である。可能ならばいつでも「情報源」に当たることである。それができないならばその戦法の真の専門家だけを信頼することである。

 GMレフ・ポルガエフスキーは自分の名著「Grandmaster Preparation」中のシチリア防御ナイドルフ戦法で「自分の」戦法(1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 b5)についての優れた章を書いている。彼は自分の戦法を「理解」することの大切さを次のように強調している(同書49ページ)。「何よりもまずどんな流行している戦法でもその本質や全体的な考え方を理解し、それから初めてそれを自分の常用布局に取り入れることがきわめて重要である。さもないと戦術の木で森の戦略図が隠され、方向を見失ってしまう可能性が大きい。」これですべて語りつくされている。そして「すべての」戦法について等しく当てはまる。

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2012年09月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(13)

「Chess Life」1990年12月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

新たな布局の習得法(続き)

 (3)自分の指す具体的な戦法を選ぶ

 そのシステムの「本質」に精通したあとは自分の興味、棋風、それに勉強法に最もよく合う戦法を選ぶ。新たな布局を学んでいるときは相手の戦型のそれぞれに対処する一つの戦法を用意する。一つだけを詳しく学ぶ。一つの戦法をしっかり学ぶ方が二つの戦法を中途半端に学ぶよりもはるかに良い。

 ニムゾインディアン防御とクイーン翼インディアン防御の現在の布局定跡は共に広く深く発達している。これは信頼できる情報を手に入れれば大きな自信を持って特定の選択をすることができるということである。さらに自分が選択を「しなければならない」。例えばクイーン翼インディアン防御での白の非常に重要な戦法は 4.g3 でのキング翼ビショップのフィアンケットである。グランドマスターの実戦で現在人気のある二つの応手は 4…Ba6 と 4…Bb7 である。どちらを選んだらよいか。それぞれのその後の手順は非常に異なる。選択はまったくあなたしだいである。しかし私がさらに言えることは、現在のところ 4…Bb7 よりも 4…Ba6 の定跡の方がかなり速く進歩していて、そのためついていくのが大変だということである。

 もっと答えにくい質問は、ニムゾインディアンで白が(図1から)4.Qc2 と指したら黒は何を選択したら良いかということである。時の試練を経た 4…c5 5.dxc5 O-O はゆうに30年以上もの間互角になる戦型と考えられてきたが、図3に見られるように 6.a3 Bxc5 7.Nf3 で白がはっきりと優勢になる実績をあげつつある。

 図3

 従って黒側の選手たちは新たに 4…O-O を調べるだけでなく旧来の 4…d5 に戻ってみたりしている。現時点では個人的には 4…O-O の方に信頼をおいている。それでも来年状況がどうなっているかを言うのは早すぎる。

 (4)主手順を完璧に学ぶ

 学ぶための準備は完了し今度は勉強法自体を考える時機である。基本的な教本は信頼できる著者による最新の布局の専門書か、「Encyclopedia of Chess Openings」の改訂版のどれか1冊がよい。B、CそれにD巻は改訂されていて内容も素晴らしい。しかし一般的な読者を対象とするため Encyclopedia は言葉を避け記号だけを用いている。だから他の資料であらかじめ「理解」しておくことが前提である。

 この段階ではやみくもに暗記するのでなく主手順を学ぶようにすべきである。特に布局がニムゾインディアン防御やクイーン翼インディアン防御のように本質的に戦略的なときは、丸暗記の量は比較的少ないはずである。学習者は対局中に必要に応じて思い出せるように主手順の初手からの10-16手目あたりまでを十分詳しく学ぶべきである。私は5分のブリッツ試合ですべてを思い出すのに苦労していない。

 基本的な教本として私は(1)で紹介した2冊と共に Zoltan Ribli 著の「Winning with the Queen’s Indian」も薦めている。「Encyclopedia E」(ニムゾインディアンとクイーン翼ギャンビットを含んでいる)の初版は1978年に出版されたので一部は時代遅れになっているとみなさなければならない。現在は改訂中で今年中には出版されるはずである。第2版はすぐれた内容になると確信している。

 主手順を学ぶだけでは十分でないことを強調しておく。中盤戦、そして当てはまるならば収局でも主眼の展開に関して熟知しなければならない。だから試合を初めから終わりまで研究しなければならない。あるいは少なくとも主題が布局から続いているところまでそうしなければならない。

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2012年09月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(14)

「Chess Life」1990年12月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

新たな布局の習得法(続き)

 (5)自分の戦型を最新の定跡の状況と照らし合わせる

 布局定跡の科学的研究は急速に進歩しているので、布局の本は出版されたとたんに「陳腐化」すると考えることができる。しかしあわてることはない。その本が出版されてから出てきた参考文献をチェックすればよい。現在最も役に立つ2冊の参考書は年2回刊行の「Chess Informant」と季刊の「New In Chess Yearbook」である。これらの資料を最終的な「審判」として用いるようになったら、いつも次の三つの問題の可能性をチェックしなければならない。

 (a)誤植 ほとんどの誤植はつじつまが合わないかすぐに気づくほど不自然である。それでも中には問題を引き起こすものがある。具体的には記号の「c」と「e」の入れ替わりである。典型的な例は「The Chess Player」誌(1970年代の人気雑誌)の1976年の号である。1976年オレンセでのティマン対S.ガルシア戦の解説で 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Bg5 h6 5.Bh4 c5 6.d5 d6 7.e3 g5 8.Bg3 Ne4 9.Qc2 Qf6 のあとGMティマンは次のような変化を示して黒が少し優勢とした。10.Qxe4 Bxc3+ 11.Kd1 Bxb2 12.Rb1 Bd7! 13.Bd3 Na6(図4)

 図4

 彼はそれから 14.dxe6? Bxe6 と続けた。あなたは当然 15.Qxb7 と取られたら黒は3駒が当たりになっていて一体どうするのだろうと自問するだろう。答えはティマンは 14…Bxe6? など示さなかったである。これは単純な誤植で、正しくは 14…Bc6 で黒の勝勢だった。

 (b)解説中の戦術の誤り 明白な戦術の一撃は見逃していない可能性が高い。しかし解説中の変化にそのような誤りがある可能性ははるかに高い。複雑な手順では戦術をチェックする際に注意を怠らないようにしなければならない。

 主手順を学ぶだけでは十分でないことを強調しておく。中盤戦、そして当てはまるならば収局でも主眼の展開に関して熟知しなければならない。だから試合を初めから終わりまで研究しなければならない。あるいは少なくとも主題が布局から続いているところまでそうしなければならない。

 (c)戦略の誤った判断 あなたは形勢判断と推奨手が戦法の戦略的「本質」の理解に基づいて確かに道理にかなっていることを望んでいるとする。そこで次の状況を考える。クイーン翼インディアン防御の黒側で 4.g3 に対しあなたは自分の戦型として 4…Ba6 を選択した。時は1980年秋で最新の Chess Informant(第29巻)が出た。あなたは「自分の戦法」を探して1980年トッレモリノスでのタタイ対セイラワン戦に気づいた。IMタタイの解説は次のようだった。1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2 c6 8.O-O d5 9.Qc2 Nbd7(9…Ne4!?)10.Rc1! N O-O 11.a4(図5)

 図5

11…Rc8 12.Na3 Ne4 13.Be1 f5 14.b4 Bb7 15.Qb2 a6 16.c5 b5 17.Ne5 Bf6 18.f3 Ng5 19.Bd2 Nf7 20.Bf4 Nfxe5 そしてここで白が 21.Bxe5! と指していたら白が明らかに優勢だっただろう。あなたは次のようなことに注意すべきである。

 黒は 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 のあとの特徴的な陣形のカタロニア布局拒否よりもオランダ防御のように指していた。

 IMタタイの作戦はその手順を「咎めて」いるように思える。しかしなぜ 10.Rc1、11.a4 そして 12.Na3 のような手がそんなに強力なのだろうか。

 私は1980バルセロナでのスペインのゴンサレス=メストレス戦に向けた準備でこの疑問を
自問した。私の結論は黒は図5から「眼目の」手を指すだけでよいだった。この局面は私の試合に現れ私はカタロニア布局のように 11…c5! 12.Na3 Bb7! 13.Qb2 Ne4 と指した。黒は既に完全に互角の局面にし、白のクイーンは …Bf6 を見せられてかなり間が抜けているように見える。

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布局の探究(15)

「Chess Life」1990年12月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

新たな布局の習得法(続き)

 (6)自分の布局を大会で指す前に試験する

 本の知識はもちろん結構だが実戦を指す選手はこの知識を大会で勝つために役立てたいと思うものである。だからあなたは自分の新しい布局を練習に用いるべきである。遊びの試合は自分の知識をしっかり活用するほど集中できないのでたぶん効果的でないだろう。ブリッツ試合はたぶん例外的な自己規律と学習習慣を持つ者以外は「布局を学ぶ」には速すぎるだろう。大会の持ち時間で時計を用いての練習試合はいくつかの試合で「トレーナー」として無私で務めてくれるほぼ同じくらいの棋力の友人がいれば役に立つ。

 最近の米国チェス界を考えれば最良のやり方は30分の試合で新しい布局を試すことではないかと思う。「練習」の間レイティングを危険にさらしたくなければ非レイティング大会か15分指しきりの条件の大会を探すべきである。30分の持ち時間なら十分考えられる。そして終局後は必ず試合を-少なくとも布局の段階を-注意深く分析すべきである。

 (7)自分の新しい布局を自信を持って大会で指し、家で注意深く試合を分析する

 今や自分の新しい布局を試すのに十分準備ができているので、それを指し始める。「もっとよく」準備ができるまで実地試験を遅らせても得られるものは何もない。大会で指すことは布局の理解を深めるただ一つの最良の方法である。気楽に勉強していたときには見過ごしていた可能性や考え方が実戦では理解できることだろう。

 しかし試合を真剣に復習することなく指すのは十分でない。大きな問題は試合の結果に影響されるようになることである。例えば布局の段階を過ぎたあとの局面が気に入らなくて試合に負けたとする。するとあなたの結論は「ニムゾインディアン防御は良くない。キング翼インディアン防御を学ぼう」となることがある。あなたのすべきことは一週間以内に試合を注意深く分析し本当の問題個所を見つけ出し次の試合の前に修正作業ができるようにすることである。布局がうまくいきその結果試合に勝てばこれもまた分析すべきである。たぶん相手がひどい手を指しただけであり、正しく指されればこちらが困っていたのではないか?両者ともうまく指したことを知ることも将来の試合に自信が持てるかもしれないので価値がある。

 (8)自分の指す布局の最近の進歩に遅れずついて行く

 残念ながら「一度学べばずっと学んだことになる」は布局定跡には当てはまらない。非常に多くの選手と非常に多くの大会があるので非常に多くの発見が行なわれる。だから最新の進展について行かなければならない。しかしどのようにして?

 大会に出る真剣な選手は皆「Chess Informant」を購読すべきだと思う。布局定跡に多くの時間をかけられるならば「New In Chess Yearbook」も購読すべきである。これらの本は参照するための本なので、出版は比較的間隔があいている。その上世界中の購読者を対象にしているので解説は「汎用」、つまり言葉でなく記号である。このため新構想の理解が難しい。

 米国チェス連盟の会員は無料で会員に送付される月刊「Chess Life」を利用して必ず自分の関心のある布局を用いた最新の試合を探すべきである。英語による定期刊行チェス雑誌で推奨できるのは「Inside Chess」、「New In Chess Magazine」、「Pergamon Chess」、「Chess Horizons」それに「British Chess Magazine」である。これらの一つを購読して、半年ごとに出版される Chess Informant の間に起こる進展についていけるようにするのがよい。

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2012年09月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(16)

「Chess Life」1991年2月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒

 百年以上前チェスはもっと空想的で単純な競技だった。重要だったのはできるだけ迅速に敵キングに迫ることで、他のことはほとんど取るに足らぬことだった。現代の選手は研究をよくしている同等の相手に勝つためには布局、中盤、収局、戦術、戦略などについて大量の知識を持っていなければならない。ますます「ちょっとしたことが大きな意味を持つ」と言うことができる。

 チェスの書籍であまり取り上げられてこなかった重要な戦略の概念の一つは場違いの駒に対する指し方である。普通の局面で、相手の駒の一つが場違いの駒になっているかそうさせることができるならば、このことは試合における重要な要因になる。

 盤上の駒が少なくなるにつれてたった1個の場違いの駒の重大性が増してくる。以下の議論の基礎としてキング翼インディアン防御のラルセン戦法を取り上げよう。

キング翼インディアン防御ラルセン戦法
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be3

 この手がラルセン戦法の特徴である。デンマークの有名なGMベント・ラルセンが1960年代の後半にその潜在力を立証し、現在まで擁護し続けている。

 主手順に見るように白は収局に入るのを全然いとわない。黒がこれを避ければ、白はクイーン翼キャッスリングの選択肢を保持しマルデルプラタ戦法(6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7)の長い手順-そして危険なキング翼攻撃-を回避する。

 白は 6.Be2 e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bg5 で古典戦法での収局を目指すこともできる。これから見られるようにラルセンの手はこの手順を巧妙に改良することを意図している。

6…e5

 キング翼インディアン防御における黒の反撃は論理的に黒枡、特にd4の地点が関わっている。一般に黒はキャッスリングしたあとできるだけ早く …e5 と突くのがよい。もちろん戦術的に不具合がなければの話である。従って本譜の手は常に主手順になっている。

 代わりに 6…Ng4?! は 7.Bg5! で黒ナイトが場違いになる(7…f6 8.Bc1 のあとこのナイトはh6に行くしかない)。また 6…c6 と 6…Nbd7 は主手順での収局を避ける目的であるが、黒がこの収局を恐れる客観的な理由はない。

7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nd5

 これがラルセン戦法の基本局面である。クイーン交換により白は脆弱なc7の地点を攻撃することができる。黒には理にかなった四つの応手がある。それらは 9…Nxd5 で攻め駒を取り除くこと、または 9…Na6、9…Rd7、9..,Ne8 のいずれかでc7の地点を守ることである。三通りの受けはどれも黒駒が場違いになる。

 一番気が進まないのは 9…Ne8?! である。好所にいたナイトが下がったので白は1967年スース・インターゾーナルでのラルセン対ミアグマルスレン戦のように 10.O-O-O(10.Ne7+ Kf8 11.Nxc8 Rxc8 12.O-O-O も双ビショップとd列の支配で白が良い)10…Rd7 11.Be2 c6 12.Nc3 f6 13.c5 で強力な主導権が握れる。ラルセンは危なげなく勝った。

 黒の他の三つの指し手はそれぞれ見本の試合を用いて解説する。

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2012年10月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(17)

「Chess Life」1991年2月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (1)1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be3 e5 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nd5 Nxd5
ラルセン対ヒューブナー
レニングラード・インターゾーナル、1973年

10.cxd5

 めざわりな Nd5 を切って落とすのは気持ちがよいがその陰の側面はすぐに明らかになる。即ち白のc4のポーンが中央に移り、重要な白枡ビショップに素晴らしい斜筋が開く。黒はd5の拠点にすぐに挑まなければならない。さもないと展開が完了できなくなる。さらにc列での白の圧力が非常に厄介になってくる。

10…c6 11.Bc4 cxd5

 ここにラルセンの最初の要点がある。つまりf1のビショップが1手でこの地点に来る。d5のポーンを取るのは実戦で黒に良い結果が出ていない。白ビショップが盤面全体を圧している。しかし黒には互角へのはっきりした道筋がないのではないかと思う。定跡は 11…b5 12.Bb3 Bb7 13.Rc1 a5 で良しとしている。1989年コペンハーゲンでのラルセン対C.ハンセン戦では 14.a3 a4 15.Ba2 b4 で黒に十分な局面になった。14.Bb6!? の方がもっと厳しかったのではないかと思う。というのは 14…Rd7 なら 15.a4、14…a4 なら 15.dxc6! だからである。

12.Bxd5 Nc6

 この手はクイーン翼のポーンを弱めるが 12…Na6?! はもっと悪い。13.O-O-O! Rd7 14.Kb1 h6 15.Rd2 Kh7 16.Rc1 となって1981年リエージュでのギテスク対マリアンカイ戦では白が盤上を支配した。

13.Bxc6!

 13.O-O-O は 13…Bd7 から 14…Be8 で黒に不満のない局面になる。

13…bxc6 14.O-O f5 15.Rfc1 a5 16.Rc5 a4 17.Rac1!

 白の優位はわずかではあっても確実である。駒は全部よく利いていて黒のポーンは盤上いたるところ攻撃にさらされている。白にとっては申し分のない状況で、危険を冒すことなく勝ちを目指すことができる。ラルセンはここで 17…fxe4 を黒の最善手としてあげた。

17…Rb8?! 18.Nxe5 Bxe5 19.Rxe5 Rxb2 20.h4! Rb4

 代わりに 20…Rxa2 なら白は黒の弱体化したキング翼に対し 21.Bg5! Rf8 22.Bh6 Rd8 23.Re7 Rb2 24.Rxc6! で決定的な攻撃を仕掛けることができる。本譜の手はルークを防御のために引き戻した。

21.Bg5 Rf8 22.Bh6 Rd8 23.Re7 Rxe4 24.Rg7+ Kh8 25.Ra7!

 試合の結末は非常に興味深いが、本稿の目的を越えるのでここからの解説は最小限にとどめる。

25…Kg8 26.f3 Re6 27.Rc4 Rd7 28.Rcxa4 Kf7 29.Rxd7+ Bxd7 30.Ra7?!(正着はすぐの 30.Ra8! – ラルセン)30…Rd6 31.Ra8 Ke6 32.Rh8 c5?(32…Rd4! が必要 – ラルセン)33.Rxh7 Bb5 34.Ra7 Ra6 35.Rxa6+ Bxa6 36.Kf2 Bb5 37.Ke3 Ke5 38.Bg7+ Ke6 39.Bf8 Kd5 40.Kf4 c4 41.Bg7 Ke6 42.Bc3 Bd7 43.Kg5 Kf7 44.a3! Bc8 45.a4 Bd7 46.a5 Bc8 47.Bb2 Ba6 48.h5! gxh5 49.Kxf5 黒投了

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2012年10月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(18)

「Chess Life」1991年2月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (2)9…Na6
B.トート対E.モルテンセン
テッサロニキ・オリンピアード、1988年

 これは黒の一番新しい応手である。黒は駒を展開してc7の地点を守り 10…c6 で白のナイトを追い立てることに期待をかけている。私の考えでは 9…Na6 が黒の最も信頼できる応手である。

 今のところ黒の2個の駒が場違いになっている。つまり Na6 は盤端にあり、Rd8 は離れ駒であるだけでなく Bg5 による釘付けの目標にされる可能性がある。これらの要素は一時的なので、白は優勢を望むならば迅速に打って出なければならない。

10.Rd1!

 10.O-O-O の方がもっと理にかなっているように思えるが、これには戦術的な問題がある。10.O-O-O Bg4 11.Bg5 Rd6 12.Nxf6+ Bxf6 13.Rxd6 のあと黒に挿入手の 13…Bxg5+ という手がある。黒は 10…Be6 でも1989年アールボルグでのラルセン対モルテンセン戦では 11.Nxf6+ Bxf6 12.Rxd8+ Rxd8 13.a3 で不満のないほぼ互角の形勢になった。

10…Bg4?!

 しかしここではこの手はそれほどうまくいかない。モルテンセンは代わりに 10…Be6 11.Bg5 Bxd5 12.cxd5 Nc5 13.Nd2 h6 14.Bxf6 Bxf6 15.Rc1 Be7 を推奨し、この局面を互角としている。もっとも私には白がc列での圧力で少し優勢のように思われる。

 このでの最善手は 10…Re8 のようである。そのあとは 11.Bd3 c6 12.Nxf6+ Bxf6 13.a3 から 14.c5 で白は優勢ではあってもほんのわずかである。

11.Bg5! Rxd5

 黒はこの犠牲で十分な代償を得るわけではないが、場違いのナイトとルークのせいで他にほとんど選択肢がない。代わりに 11…Rd6? は 12.Nxf6+ で負けるし、11…Nxd5?! は 12.Bxd8 Ndb4 13.Be7 で失敗する(モルテンセン)。

12.cxd5! Nxe4 13.Be7 Nd6 14.Bxa6 bxa6 15.Rc1 e4 16.Nd2 Re8 17.Rxc7! Nb5 18.Rb7 Bc8 19.Rb8 Be5 20.d6 Nxd6 21.Bxd6 Bxd6 22.Ra8

 黒の最善の応接にもかかわらず白がわずかな戦力の優位を維持している。22…e3 は 23.Ne4! で駄目なので(モルテンセン)、黒はキング翼でのポーンの暴風を狙わなければならない。

22…Bc5 23.Nc4 f5 24.O-O f4 25.Re1 e3 26.fxe3 fxe3 27.Re2 Kf7 28.h3 h5 29.Rb8 g5?

 黒は 29…Re4 で 30.b4 には 30…Be6! と応じられるようにしなければならなかった。

30.b4 Be7 31.Rxe3 Rd8 32.Ne5+ Kf6 33.Nd3?

 白は時間に追われて勝負をずっと難しくしてしまった。33.Nc6 Bd6 34.Nxd8 なら簡単な勝ちだった。

33…Bf5 34.Rxd8 Bxd8 35.Nc5? Bb6 36.Kf1 a5 37.a3 axb4 38.axb4 a5 39.Ra3 Ke5 40.Rxa5 Bxa5 41.bxa5 Kd5 42.Nb3 h4 43.Kf2 Bc8 44.Kf3 Kc4 45.Nd2+ Kb5 46.a6! Kxa6 47.Nc4 Bb7+ 48.Kf2 Bd5?

 もう少しで目標達成という所で黒はナイトによる両当たりにはまった。モルテンセンは次の手順で引き分けになるとしている。48…Ka7! 49.Ne5(49.Nd6 Bd5)49…Bc8! 50.Nf3 g4

49.Nd2! Kb6

 意図していた 49…Be6 50.Ne4 g4 は 51.Nc5+ にしてやられる。

50.Nf3 g4 51.hxg4 Be6 52.Ne5 Bd5 53.g5 Be6 54.g6 Kc5 55.g7 Kd5 56.Ng4 Ke4 57.g8=Q Bxg8 58.Nf6+ Kf4 59.Nxg8 Kg4 60.Nf6+ Kf5 61.Nd5 Kg4 62.Ne3+ 黒投了

 62…Kf4 は 63.Nf1 Kg4 64.Nh2+ Kf4 65.Nf3 Kg4 66.Nxh4! で白勝ちのポーン収局になる。

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2012年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(19)

「Chess Life」1991年2月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

中盤戦の戦略 場違いの駒(続き)

 (3)9…Rd7
リバス対ルーキン
レニングラード、1984年

 この変てこな手はずっとラルセン戦法の主流手順だった。その利点は明らかで、c7の地点を守り自身も守られているということである。さらにクイーン翼ナイトは最良の地点のc6に展開できる。白が 10.Nxe5? と取ってきても 10…Nxd5 11.Nxd7 Nxe3 で失敗に終わる。

 マスターの実戦ではありきたりの手では白に何も得るものがないことがすぐに明らかになった。例えば 10.O-O-O は 10…Nc6 11.Bd3 Ng4 12.Bc5 Nd4 で、1968年ベオグラードでの挑戦者決定番勝負競技会のタリ対グリゴリッチ戦ではここで合意の引き分けになった。

 白は優勢を目指すならd7の不格好なルークにつけ込むしかない。

10.Nxf6+ Bxf6 11.c5!

 白は自陣を広げビショップのためにc4の地点を空けた。d7のルークは味方の白枡ビショップの利きをふさいでいるので、より迅速な展開と相手よりまさる黒枡ビショップを基に優勢になることを期待している。大会での数多くの実戦により黒にはのんびりしている余裕がないことが明らかになっている。

 (a)11…b6?! 12.Rc1! c列での白の圧力が強い。

 (b)11…Rd8?! 12.Bc4! Nc6 13.Ng5!? Bxg5(IMのA.シュナピクによればたぶん 13…Rf8 としっかり守る方が良い)14.Bxg5 Rd4 15.Bd5 Nb4 16.Be3 Nc2+ 17.Ke2 Rxd5 18.exd5 Nxa1 19.Rxa1 f6 1980年バニューでのプイテル対シュミット戦では中央のポーンが強いので白がわずかだが永続的な優勢を得た。

 (c)11…Re7?!(黒ルークはc8のビショップの筋を空けたが守勢のままである)12.O-O-O Nc6 13.Bc4 Bg4 14.Bd5 Nd8 15.h3 Bxf3 gxf3 c6 17.Bc4 Ne6 18.Rd6 Bg5 19.Bxe6 Bxe3+ 20.fxe3 Rxe6 21.Rxe6 fxe6 22.Kd2 これは1980年ブゴイノでのラルセン対カバレク戦の局面である。キング翼のポーンの優位とクイーン翼での広さの優位で白が優勢で、ラルセンが41手で勝った。

 (d)11…a6?! 12.Bc4 Kg7 13.Bd5 Nc6 14.O-O-O Ne7 15.Bb3 h6 16.Bd2! g5 17.Ba4 c6 18.Ba5 1983年トルジネッツでのクネジェビッチ対ランツ戦でのように、展開の優位に加えて黒の両翼での弱い枡のために白がかなり優勢である。

 これらの例から黒はたとえ陣形の弱点をこうむっても展開を急がなければならないことが分かる。

11…Nc6 12.Bb5

 12.Bc5 には 12…Na5 と反発される。

12…Rd8 13.Bxc6 bxc6 14.Nd2

 私の考えでは優勢を得ようとするならこの手が実戦的に最も可能性がある。黒の反撃は二重ポーンを補うために洗練された迅速なものでなければならない。

 他の手はそれほど有望でない。

 (a)14.Rd1?! は1980年ゼムムでのイフコフ対ブキッチ戦のように 14…Rxd1+? 15.Kxd1 Be6 16.Kc2! となるなら素晴らしい。白のクイーン翼とキングが堅固で、黒には弱いポーンの代償がない。しかし 14…Be6! ともっと厳しい 14…Ba6! (1986年プロブディフでのバルベロ対ハリフマン戦で指された)なら黒が簡単に互角にできる。

 (b)14.O-O Rb8 15.b3 Ba6 16.Rfe1 Bg7 17.Rac1 h6 18.Nd2 Rb4 19.g4 Bd3! これは1987年フランスでのルネ対スーザン・ポルガー戦である。ここで白は 20.a3 Rbb8 21.Rc3 でほぼ互角の形勢に満足すべきだった。

 本譜に戻る。

14…Rb8!

 黒は両方のルークを働かせることが重要である。1982年マルベリャでのリバス対へブデン戦と比較すればよく分かる。14…Be6 15.Ke2 a5 16.b3 Rdb8?! 17.Kd3! Be7 18.Nc4 f6 19.Kc3 Rb5 20.a4 Rbb8 21.Rhb1 Kf7 22.b4! axb4+ 23.Rxb4 Rc8 白はクイーン翼の優秀な多数派ポーンを生かして健全なパスポーンを作り、断然優勢になった。

15.O-O-O Be6 16.b3 Be7! 17.Nb1

 黒は 17…Rb5 で白のcポーンへの当たりを狙っていた。ここで 17…Rb5?! なら 18.Nc3 Ra5? 19.b4! と応じられる。

17…f5!

 このキング翼インディアン防御につきもののポーン突きで黒は両翼で十分な反撃を確保し、白がポーンの形の優位を活用するのを防ぐ。

18.f3 Rxd1+ 19.Kxd1 fxe4 合意の引き分け

 20.fxe4 のあと形勢は「まったくの引き分け」というよりも、動的に均衡がとれているという意味でだけ互角である。戦いを好む選手ならどちら側を持っても指さない理由はない。

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2012年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(20)

「Chess Life」1991年4月号(1/1)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 前編

 我々はチェスの科学時代にいる。たぶんその最も明らかな証拠は布局の段階にあり、そこでは果てしのなさそうな発見の連続により我々の知識と理解が限りなく増している。そうであるべきであることはほとんど意外でない。なぜならこれはどの科学でも起こっているからである。だからチェスでもそうである。

 それほど気づかれていないのは多くの布局システムが過去20年の間に復活していることである。私が非常に重要だと思うのはこの「静かな成果」である。というのは長年の確立された結論を覆したからである。簡単に言うと以前に「指せない」とされた多くのシステムが、それらの長所を生かすやり方が理解できるようになったので指せるようになったのである。本稿ではこれが起こった二つの黒のシステムを調査してみる。次回以降は白のシステムについて同じことを行なう。さらにはそのような復活が成功するかもしれないときとしないときについての指針もいくつか示す。

概要

 覚えておくべき一つの最も重要な原則は黒は白ほど余裕がないということである。展開を遅らせるにせよ、キングを中央に置いたままにするにせよ、陣形を弱めるにせよ、黒は大胆さを咎められる危険性が非常に大きい。黒は作戦を遂行する際には白よりもずっと注意深くなければならない。

 これから分析する二つのシステムでは黒は何かを捨てて主導権を得る。最初のシステムは戦力と陣形で譲歩するけれども、白は一方を受け取り他方を拒否することができる。二番目のシステムはもっと現代的な布局の戦略で、戦力は与えるが陣形上の要素はずっと念頭においておく。

A.べノニシステム

 べノニの基本的なポーンの形は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 という手順から出来上がる。黒は白のdポーン突きを誘った。黒の反撃策は …e7-e6 突きでdポーンを攻撃すること、…b7-b5 突きで連鎖ポーンの土台のc4を弱めること、または黒枡ビショップをa1-h8の絶好の斜筋に展開させることかもしれない。最も確実なことは黒は試合の進行の中でこれらの着想のいくつか-または全部-を組み合わせることである。

 それでは早期に …b7-b5 と突いてdポーンの土台を弱める最も過激な作戦を遂行する手段を考察することにしよう。

1)ブルーメンフェルト逆ギャンビット

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nf3 b5

 これは古い方の手段である。もっとも同じ局面は現代的な手順の 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 c5 4.d5 b5 からも生じる。

 黒は白のd5の橋頭堡に対して二正面攻撃を仕掛ける。最初は 3…e7-e6 でこのポーンに挑戦し、次に 4…b7-b5 でその土台を攻撃する。しかしこの作戦には重大な欠点もある。それはキング翼とクイーン翼の弱点と展開の遅れである。黒はそんなに多くの欠点を抱えられる余裕はない。白は 5.Bg5! ではっきり優勢になる。

 (a)5…Qa5+ 6.Qd2! Qxd2+ 7.Nbxd2 bxc4 8.Bxf6 gxf6 9.e4 f5 10.Bxc4 Bb7 11.O-O Bh6 12.Rfe1 これは1925年モスクワでのグリューンフェルト対ラビノビッチ戦である。黒は弱点が多く展開でも遅れをとっている。

 (b)5…bxc4 6.e4! Qa5+ 7.Bd2! Qb6 8.Nc3 Ba6 9.Ne5 黒陣は混乱状態である。

 (c)5…exd5 6.cxd5 d6 7.e4! a6 8.a4 Be7 9.Bxf6! Bxf6 10.axb5 Bxb2 11.Ra2 Bf6 12.Nbd2 O-O 13.Bd3 Bb7 14.O-O axb5 15.Rxa8 Bxa8 16.Bxb5 これは1971年全ソ連選手権戦のバガニアン対K.グリゴリアン戦である。白は陣地が広くナイトが素早く動ける。黒の白枡ビショップは位置が悪くdポーンは恒久的な弱点になっている。

 ブルーメンフェルトギャンビットは大会ではもう指されることがなく、復活は期待できそうもない。黒はとても損失に耐えられない。

2)ベンコーギャンビット

 それでも土台のc4を弱める着想は棋理に合っている。必要なのは黒が受け入れることの「できる」やり方である。その答えがベンコーギャンビットである。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5!

 黒は同時に多くのことをやろうとするのではなく一つのことをうまくやることで満足する。そして1手早く主要な目標を目指し、白にキング翼で機会を与えない。例えば 4.Bg5 には 4…Ne4 とかわすことができる。

 従って白がベンコーギャンビットを「咎め」たいならば 4.cxb5 a6! 5.bxa6 と取る方が良い。5…g6 6.Nc3 Bxa6 で主手順が始まる。

 既に …b7-b5 突きのポーン捨ての利点が見てとれる。黒はa列とb列の素通しで白のクイーン翼に圧力をかけ、g7のフィアンケットビショップがそれを支援する。黒の唯一の不利はポーン損である。黒はどこにもすぐ分かるような弱点はない。だから白の主要な務めはポーン得を守りとおすことである。近いうちに積極的に指せるようになることは望み薄である。上図からの主要な手順は次のとおりである。

 (a)7.e4 Bxf1 8.Kxf1 d6 9.Nf3 Bg7 10.g3 O-O 11.Kg2 Nbd7

 (b)7.Nf3 Bg7 8.g3 d6 9.Bg2 Nbd7 10.O-O O-O

 どちらの場合も黒には十分な代償がある。詳細に興味のある読者は GM John Fedorowicz の名著の「The Complete Benko Gambit」(Summit Publishing、1990年)を参照するとよい。

 ベンコーギャンビットの手順は1948年サルトショーバーデンでスウェーデンのIMエリク・ルンディンがGMラスロ・サーボを相手に初めて指した。しかしそのあとは指す者がいなくて、1967年にGMパル・ベンコーが指し始め好成績をあげた。GMベンコーは真の開拓者になり、それにふさわしく布局名は彼の名前が付けられている。私の考えではベンコーギャンビットは時の試練に耐え続けると思う。

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2012年10月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(21)

「Chess Life」1991年5月号(1/2)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 中編

閉鎖ルイロペス主流手順

 閉鎖ルイロペスの主流手順の局面は次の手順から始まる。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3

 白の最後の手は純粋に先受けの手である。それは …Bg4 によって邪魔されることなく d2-d4 と突きたいからである。d2-d4 を防げないことは黒には明らかなはずで、問題はその対処策である。「旧主流手順」と重要な三つの代替手順をどれも現代の解釈から簡単に振り返ってみることにする。

1.主流手順 9…Na5 10.Bc2 c5 11.d4

 ほぼ1世紀の間これが「いわゆる」主流手順の局面だとみなされてきた。11…Qc7 でチゴーリン戦法になる。他に重要な手としては 11…Nc6、11…Bb7 および 11…Nd7 がある。過去20年でこの主流手順は採用が激減した。黒の問題点は単純である。それは盤端のクイーン翼ナイトが悪形であるということである。再び指されるようになるための完全に満足できる指し方はまだ見つかっていない。

2.ブレイェル戦法 9…Nb8

 才能ある若いハンガリー人マスターで布局の理論家のジュラ・ブレイェル(1894年-1921年)が70年以上前にこの手を提案したとき、あざけり以外ほとんど何の反応もなかった。好所に展開したナイトを2手損して反展開する手がどうしてまともな手であり得ようか?

 しかし物事には別の側面もあり、c6のナイトもそうである。この位置では白の中原に対する自分のcポーンの活用を妨げ、クイーン翼ビショップをフィアンケットしてもa8-h1の斜筋をふさいでいる。ブレイェルの着想は普通の 10.d4 Nbd7 の手順のあと明らかになる。a5の盤端の位置と比べるとここでのクイーン翼ナイトは中央に位置し重要なe5の地点を守るのにも支障がない。さらにcポーンの動きが自由になりクイーン翼ビショップはb7の地点から絶好の斜筋をにらむことができる。ブレイェルは閉鎖ルイロペスでは白がゆっくりと駒組みを行なうのだから、黒が2手を投資してクイーン翼の戦力の連係と位置を改善しても完全に正当化されると考えた。

 この戦法の利点は1965年頃に再発見され1970年代には「ブレイェル」は国際大会で大流行した。通常は次のように進行する。11.Nbd2 Bb7 12.Bc2 Re8 13.Nf1 Bf8 14.Ng3 g6 15.a4 c5 16.d5

 ここではブレイェルの否定的な側面も見られる。白はクイーン翼ナイトを調和良く展開し、クイーン翼ビショップは好きなように展開できるようになっているし、陣地の広さでもかなり優位に立っている。黒は反撃の見通しが立たない。私の見るところブレイェルは常に戦略的に棋理にあっているが、防御に骨が折れる。

3.スミスロフ戦法 9…h6

 この戦法は1950年代に元世界チャンピオンのワシリー・スミスロフが大会の実戦に用い、ブレイェルに取って代わられるまで 9…Na5 の重要な代替手段だった。ずうずうしい黒ならこの手を次のように言ってのけるだろう。「白が 9.h3 と突いていいのならこっちだって 9…h6 と突いていいではないか。」だが前回言ったように黒は白ができることをやれないことがよくある。この場合 9.h3 は強硬に 10.d4 と突くための前提だが、黒は白の Ng5 を気にせずに 10…Re8 から 11…Bf8 でキング翼の駒を地味に再編成するための準備をしているにすぎない。

 代表的な主手順は次のとおりである。10.d4 Re8 11.Nbd2 Bf8 12.Nf1 Bd7 13.Ng3 Na5 14.Bc2 Nc4 15.b3 Nb6

 結果はどうなったかというと、白はクイーン翼ナイトの重要な展開を円滑に完了し中原も良形で優位であるのに対し、黒は凝り形の守勢である。すぐに 9…h6 と突く手は旧式になっていて、復活しないという確信がある。

 この機会に戦法の具体的な話からちょっとの間離れて、布局とは何を達成すべきものなのかを振り返ってみようと思う。簡単に言うと布局での最も重要な三つの目標はキングの安全、駒の展開、それに中原の支配である。これらの原則は以下のような具体的な目的に定式化することができる。

 (1)キャッスリングによってキングを安全にすること
 (2)中盤での戦いに備えて駒を中央方面に展開すること
 (3)中原を(a)実際に占拠すること、または(b)駒またはポーンの短射程あるいは長射程の利きにより支配すること

 良い布局の手とはこれらの目的の少なくとも一つを増進するものである。指そうとする手がこれらのどれにも役立たないように感じるならば、良い手でない可能性が高いことを認識するのがよい。上記の指針に背いても大丈夫であるためには、はっきりした具体的な理由がなければならない。(現代の布局の指し方のもっと詳細な説明を知りたければ拙著の「How to Play Good Opening Moves」David McKay、1982年を参照されたい)

 それでは前記の三つのルイロペスの戦法が上記の原則にどのように合っているかを確認しよう。

 (1)9…Na5 には中央から遠ざかるという重大な欠点がある。ただし一部は白のキング翼ビショップをc2に追い払い自分のcポーンを中原に影響力を持つように助けることで償われている。

 (2)9…Nb8 は2手損ではあるが中央に向かっての再展開にすばらしさがある。

 (3)9…h6 は手損するだけである。

 端的に言って 9…Na5 と 9…Nb8 からの戦法はある程度指されるが、9…h6 はすたれたままになると予想される。

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2012年11月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(22)

「Chess Life」1991年5月号(2/2)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 中編

閉鎖ルイロペス主流手順(続き)

 それでも絶対的に「完全」でまだ言及されていない黒の手はないのだろうか。私は「火星から来た男」の類推を用いることができると思う。もしそのような人間が上記の原則を教えられ、チェス全般に上達し、それと共にルイロペス定跡については何も知らないとしたら、次の手を指す可能性はすごく高いのではないか。

 (4)9…Bb7!

 何という素晴しい手だろう。黒は白枡ビショップをh1-a8の絶好の対角斜筋に配置することにより円滑に小駒の展開を完了した。短期的には白陣の最も弱い個所はe4のポーンで、黒はそれに圧力をかける準備をしている。

 この戦型が完全に認められるようになったのはこの10年以内でしかない。以前は無視されるか批判されていた。だからレナード・バーデンは名著の1963年版「ルイロペス」で「9…Bb7 は 10.d4 と突かれて悪い」と書いていたし、その証明として 10…exd4 11.cxd4 Na5 12.Bc2 d5 13.e5 Ne4 14.Nc3 f5 15.exf6e.p. Bxf6 16.Nxe4 dxe4 17.Bxe4 Bxe4 18.Rxe4 c5 19.Rg4! cxd4 20.Bg5 d3 21.Bxf6 Qxf6 22.Qxd3 Qxb2 23.Qd5+ Kh8 24.Re1 Rad8 25.Rf4!(タリ対レーマン博士、ハンブルク、1974年)で「白の攻撃が非常にきつい」としていた。

 「チェス定跡百科事典C巻」の第1版(1974年)には正着の 10…Re8 すら記載されていないし、パウル・ケレスの1974年出版の「スペイン布局からフランス防御まで」(ドイツ語)でもそうである。

 執筆に関して重要な問題はこの戦型を何と呼ぶべきかということである。よくGMサロ・フロールまたはGMイゴール・ザイツェフの名前が付けられるが、私には適切だとは思われない。というのは両者とも今日では本筋と考えられる手順を用いていなかったからである。私ならGMグリゴリッチ、GMベリヤフスキー、それにGMバラショフを最もふさわしい守護聖人として推薦したい。

 本題に戻ろう。

10.d4 Re8!

 9…Bb7 の正当性を立証するのはこの手/作戦/構想である。黒は中原に向かって駒を迅速に展開することにより(e4の地点を忘れないこと)白のクイーン翼のよどみない展開を防いでいる。11.Ng5 は 11…Rf8 があるので狙いにならない。数多くの実戦の末そのほとんどが白にとって不満足で 12.Nf3 と戻るしかないことが分かった。そのあと黒は 12…Re8 と繰り返す。これは白からの引き分けの手順と考えることができ、数名のGMがアナトリー・カルポフと引き分けるために利用してきた。

 本譜に代わる手は標準的な布局の原則に背くためにうまくいかなかった。

 - 10…exd4 は 11.cxd4 で中原の支配を白にあげてしまう。
 - 10…Na5 はナイトがそっぽに行く。
 - 10…Qd7 は目的がはっきりしない。

11.Nbd2 Bf8!

 これで 9…Bb7 から始まった再編成が完了した。黒は 9…h6 に大切な1手を浪費しなかったので、白が期待のクイーン翼ナイトの捌きを続ければ 12.Nf1? exd4 13.cxd4 Nxe4 というようにe4のポーンを取ってしまうことができる[訳注 14.Rxe4 Rxe4 15.Ng5 で白が優勢になるので正着は 13…Na5 です]。白はd2のナイトを動かすことができなければクイーン翼の展開に問題が生じる。そしてクイーン翼の展開が完了できなければ布局の優位など得られない。これが上記の手順の論理的考え方であり、9…Bb7 を完全に蘇らせた。さらに 11…Bf8! の局面には黒にとって防御の「ボーナス」さえある。即ちキング翼ルークがeポーンを守っているので、クイーン翼ナイトがc6の地点から自由に動くことができる。

 このことは白枡ビショップの斜筋を通すのが重要な局面で効果を発揮する。この戦型は現在ルイロペスの主流手順になっているので定跡の進歩は膨大な量になりつつある。深く研究されている白の手は 12.a3、12.Bc2 それに 12.a4 である。

 次の積極的で、人気があり、不均衡で、私の見解では非常に議論の余地のある主流手順で探究を締めくくることにする。

12.a4 h6 13.Bc2 exd4

 ここ2、3年でこの中原を放棄するポーン取りが非常に一般的になってきた。黒は自発的に中原を明け渡すことにより反撃の可能性が得られることを期待している。純粋に戦略的な手には 13…Nb8 と 13…Qd7 がある。

14.cxd4 Nb4 15.Bb1

 「戦略の棋理」に照らせば 13…exd4 の妥当性を証明する唯一の手段は白の中原に 15…c5 突きで挑み手順の 16.d5 に 16…Nd7 と指すことである。この局面は諸刃の剣の極致でまだはっきりした結論を得ることができていない。アナトリー・カルポフは1990年カスパロフとの世界選手権戦で(第2局の惨敗のあと)第4、20、22局でこの手順に戻った。

15…bxa4?!

 カルポフらは過去2年間この手で非常にうまくいっていた。それでも私はそれについていつも疑念を抱いていた。中原を放棄し次に自分のクイーン翼のポーン形を乱していくのが、すぐには代償がないならばどうして正しい指し方であり得るのだろうか。しかしもちろんこの手には理屈がある。つまり黒は白のeポーンに圧力をかけ続けることにより白の態勢を崩すことに期待をかけている。

16.Rxa4 a5 17.Ra3 Ra6 18.Nh2!

 これは新手ではないが白の次の手と関連して正しい着想である。以前は f4 および/または Ng4 でキング翼での素早い活動の着想で指されていた。黒にはこれには十分な手段がある。

18…g6 19.f3!!

 これが 15…bxa4?! を「咎める」作戦である。e4の地点を固めることにより白は黒のどんな反撃も事前に予防し、それにより中央でのひどい劣勢とクイーン翼ポーンの分離の代償をないままにさせた。次からの手はこの着想の強力さを見せつけた。

19…Qd7 20.Nc4 Qb5 21.Rc3 Bc8 22.Be3

 白は十分に展開を果たし強みばかりあり不安な箇所はない。カスパロフは44手で快勝した。

 この戦型に関する私の最後の予言は、黒がルイロペスで防御できる限り 9…Bb7 は完全に指せる手となり続けるだろうし、15…bxa4?! と取る変化は復権する見通しがほとんどないだろう。

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2012年11月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(23)

「Chess Life」1991年6月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 後編

白のシステム

 布局における白と黒の目的がまったく違うことを認識することはとても大切である。黒は互角にしたことに満足できるが、白は先着の利を保つことに努めるべきである。これは黒のシステムの復活を語るとき、定説の「白良し」の変化の場合よりも悪くならないことを期待することを意味している。復活した白のシステムは何らかの有利に至るべきである。不利から互角に改善するのはほとんど白の価値にならない。

 以下では白のシステムの復活における最近の三つの重要な展開を分析する。

A)グリューンフェルト防御交換戦法

 グリューンフェルト防御 1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 はオーストリアのマスターで理論家のエルンスト・グリューンフェルトが国際大会の実戦で指した1922年に始まった。そもそもの最初から現在まで「退治」の最も主眼となる試みは次の交換戦法だった。

4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7

 図1

 白は強大な中原を築いた。中央のポーンがそれぞれ4段目に陣取っている。さらに黒は中央で絶対白と張り合うことができない。なぜなら黒は自分のdポーンを白のbポーンと交換したのも同然だからである。黒の基本となる戦略は通常は …c5 突きで白の中原に挑み、それから突き崩して破壊することである。そのためグリューンフェルト防御は非常に不均衡な戦いのチェスになる。

1)旧交換戦法

 半世紀以上もの間白駒の唯一の正しい展開は 7.Bc4 c5 8.Ne2 であると考えられていた。この陣形は時の試練に耐えてきた。私はこれからもずっと完全に成立し続けると予想している。とはいえこの陣形には二つの欠点もある。白枡ビショップが浮いているので黒に …Qc7 および/またはあとで …Na5 と先手で跳ねる機会を与えている。もっと重要なことは Ne2 が釘付けを心配することなくd4のポーンを守っているが防御専門の駒になっていることである。

 ナイトをf3の地点に跳ねるのは「明らかに」悪いので白は他に選択肢がないというのが金科玉条とされていた。もちろん当時の文献はこの「常識」を反映していた。たとえば1976年に出版された「Encyclopedia of Chess Openings D」の第1版は(図1から)7.Nf3 c5 に2行だけしか割り当てず、そのうち用心深い 8.Be2 に1行、他は消極的な 8.h3 に1行だけだった。今日好まれている2手(8.Be3 と 8.Rb1)は脚注さえも与えられなかった。

2)現代交換戦法

 1970年代の終わり頃に世界の一流選手たちは 7.Nf3 を調査し始めた。彼らの論点はこんな健全で普通の手がなぜ評判のように悪手ということがあるのだろうかということだった。彼らは次のような以前の試合の妥当性を問題視した。7…c5 8.Bc4?! Nc6 9.Be3 O-O 10.h3 Qa5! 11.Qd2 cxd4 12.cxd4 Qxd2+ 13.Kxd2 Rd8 14.Bd5(ビドマール対アリョーヒン、ノッティンガム、1936年)ここで 14…e6 なら黒がはっきり優勢になっていた。この探究の先頭に立っていたのが世界チャンピオンのアナトリー・カルポフだった。

 今ではもう現代交換戦法はグリューンフェルト防御に対する主流手順の一つになっている。ECO D の第2版(1987年発行)では43行もの段落になっている。7.Nf3 c5 のあと

 図2

現在の最も人気のある手順は・・・

 a)8.Be3 白はd4の地点を過剰防御しクイーン翼ルークをc1に展開する用意をした。これは最初の「高級な」変化だった。第2図からこのように指し進めるのはかなり当然のように思われる。しかしそう考えるのでさえGMたちにとっては図2が見る価値があるとまず信じることが必要だった。

 50年以上もの間我々はそう考えなかった。いったん 8.Be3 の綿密な調査が始まると早々の …Bg4 に基づいた黒の反撃は 8…O-O 9.Rc1 Bg4 またはすぐの 8…Bg4 のあと何も特別なことはないと分かるのは難しくなかった。現在は 8…Qa5 が黒の最も普通の応手になっている。

 b)8.Rb1 ここ4、5年はこれが現代交換戦法の主流手順になっている。白はこのルークを黒の黒枡ビショップの利きからはずし黒のクイーン翼に圧力をかける地点に位置づけた。このような融通性のある方針は現代の布局の指し方の精神に非常に合致している。白には直接の狙いがないので、黒は 8…O-O でキング翼の展開を完了する余裕がある。それから白は同じ目標に沿って 9.Be2 と指し黒にいろいろな作戦の選択肢を与える。最も一般的な作戦は 9…Nc6、9…b6 そして 9…Bg4 である。

 総じて研究の余地は豊富に残っている。

 この発見(つまりナイトのf3への展開が白にとって満足のいくこと)の重要性は、この局面がいくつかの布局定跡から容易に生じやすいということにある。両者とも転移の可能性について承知していなければならない。特に黒は次のよくある手順から現代交換戦法と対峙することに備えておかなければならない。

 1.d4 布局から 1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.c4 Bg7 4.Nc3 d5 5.cxd5 Nxd5 6.e4 Nxc3 7.bxc3 c5

 1.Nf3 布局から 1.Nf3 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.d4 c5

 イギリス布局から 1.c4 Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.Nf3 c5 5.d4 Nxc3 6.bxc3 g6 7.e4 Bg7

 旧交換戦法と現代交換戦法はグリューンフェルト防御に対する信頼できる手法であり続けるだろう。どちらも白が中原での優位を一貫して利用に努めることができる。

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布局の探究(24)

「Chess Life」1991年6月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 後編

白のシステム(続き)

B)ニムゾインディアン防御カパブランカ戦法

 ニムゾインディアン防御は 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 から生じる。最初の頃は白の最も人気のある応手は 4.Qc2(カパブランカ戦法または古典戦法)だった。白は二重ポーンを防ぎ重要なe4の地点を守る。これは第2次世界大戦のあとまで白の主力兵器だった。

 しかし 4.Qc2 には負の要因もいくつかある。白は小駒の展開を1手遅らせd4のポーンの守りをなくしている。バスヤ・ピルツは 4…c5 5.dxc5 O-O という手順によってこの二つの要因につけ込むことができることを示した。

 図3

 30年以上もの間ピルツ戦法は 4.Qc2 が国際大会の舞台から姿を消す主要な理由になっていた。今日の観点は1982年に出版された「Modern Chess Openings」第12版によく表れている。「狙いのないこと(e2-e4 を狙いとみなせるとしてもそれ以外に)、それに白クイーンの早すぎる展開は、白が引き分けっぽい陣形を避けたいならば、このシステムに展望がほとんどない。」

 図3から白の探検した主要な手は 6.Nf3、6.Bf4、それに 6.Bg5 だった。しかしどの場合も黒は 6…Na6! のあとの早い …Nxc5 で展開の優位により楽に互角にできることを示すことができた。代表的なのは1949年リュブリャナでのエーべ対ピルツ戦である。6.Bg5 Na6! 7.a3 Bxc3+ 8.Qxc3 Nxc5 9.Bxf6 Qxf6 10.Qxf6 gxf6 11.b4?! Na4 12.O-O-O?! a5 13.Kc2 d5! 14.e3 axb4 15.axb4 Bd7 黒は攻撃が強力で形勢も有望である。

 白の他の6手目の中で時おり指されたのは 6.a3 で、6…Bxc5 と取らせることにより黒の …Na6/…Nxc5 の作戦を防いでいる。一貫した継続手の 7.Nf3 Nc6 8.Bg58…Nd4 9.Nxd4 Bxd4 10.e3 Qa5 となって白は 11.exd4 Qxg5 で図4に進めるしかないので無害とみなされていた。

 図4

 この局面は1950年アムステルダムでのファン・スヘルティンハ対オーケリー戦に基づいて黒が良いとみなされていた。黒のクイーンは強力な地点を占めていて、白はどのようにキングを安全な所に行かせるのだろうか。

 正解は1981年にアムステルダムでラヨス・ポルティッシュと対戦した世界チャンピオンのアナトリー・カルポフによって初めて示された。11.exd4 で中央がかなり優位になり黒のクイーン翼が展開されていないままであることに注目して、彼は白が黒の唯一の切り札である活動的なクイーンをなくさなければならないと判断した。そこで彼は 12.Qd2! と指して次のように黒に気の進まない選択をさせた。

 a)クイーンを 12…Qg6 と引く。13.f3! のあと 14.Bd3 によって白は中盤戦ではっきり優勢になる。

 b) 12…Qxd2+ 13.Kxd2 とクイーンを交換する(ポルティッシュの選択)。収局は白が有利である。白は中央が強力で、陣地の広さでかなり優位で、クイーン翼の多数派ポーンが役に立ちそうである。そして中央のキングも強みになっている。

 試合は次のように続いた。13…b6 14.f3 Ba6 15.Rc1 Rac8 16.b3 Rfd8 17.Be2 Kf8 18.Rhe1 d6 19.Rc2 白の優勢が続いている。ポルティッシュは48手で引き分けに持ち込むことができた。

 GMヤセル・セイラワンが1986年にカルポフの着想を復活させていくつかの収局に快勝したとき、全世界が注目した。特筆すべき例は1987年ザグレブ・インターゾーナルでのセイラワン対Y.グリューンフェルト戦である。13…d6 14.Bd3 Bd7 15.b4! b6 16.Rhb1 Bc6 17.f3 Rfc8 18.a4! a5 19.bxa5 bxa5 20.Rb2 Kf8?! 21.Rab1 h6 22.Rb6 Ke7 23.d5! exd5 24.Bf5 Rc7? 25.Nb5! Bxb5 26.cxb5 Ne8 27.Ra6 Rca7 28.Rxa7 Rxa7 29.b6 Rb7 30.Bc8 Rb8 31.b7 Kd8 32.Rb5 Nf6 33.Rxa5 Kc7 34.Rb5 Ng8 35.Rb1 Ne7 36.a5 g5 37.Rc1+ Kd8 38.a6 Nxc8 39.Rxc8+ Rxc8 40.a7 黒投了

 13.Kxd2 のあとの収局における黒の実戦の展望は非常に思わしくないので、ピルツ戦法(5…O-O)全体が最高レベルで指せなくなった。

 上記の意味するところは 4.Qc2 が完全に復活したということである。4…c5 をまだ信頼している黒側の選手たちは 5.dxc5 のあと代わりに 5…Qc7 やすぐの 5…Na6 を模索している。

 古い 4…d5 に戻る試みもあり、融通性のある 4…O-O も深く研究されている。その場合白の最も積極的な作戦は 5.a3 Bxc3+ 6.Qxc3 である。もっと控え目な 5.Nf3 は 5…c5 と突かれ、6.dxc5 Na6! となれば黒はピルツ戦法の完全に満足できる戦型に移行したことになる。

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2012年11月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(25)

「Chess Life」1991年6月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

死者を蘇らせる 後編

白のシステム(続き)

C)カロカン防御突き越し戦法

 1.e4 c6 2.d4 d5 のあと白にはeポーンを守る本筋の手が三とおりある。(1)3.Nc3 または 3.Nd2 で守る(2)3.exd5 で交換してしまう(3)突き越す。最後の手の 3.e5 は突き越し戦法と呼ばれる。この戦法はいつも少し一本調子だとみなされてきた。確かにeポーン突きは黒陣を窮屈にする。しかしフランス防御の時の突き越しと異なり黒の白枡ビショップは容易に展開できる。さらに黒はちょうどフランス防御の場合のようにあとで …c5 突きによって白の中原に挑むことができる。この戦法の基本となる出発点は 3…Bf5 で生じる。

 図5

 1)4.Bd3 で穏やかに指す

 黒の白枡ビショップが活動的な地点にいるので 4.Bd3 Bxd3 5.Qxd3 で交換し消去するのは理にかなっているように思われる。これの欠点は黒が 5…e6 のあと白枡の不良ビショップの負担を抱えていないので有利な「フランス防御」の陣形になっていることである。例えば 6.Nf3 Qa5+! 7.Nbd2 Qa6 で、白がクイーン同士を交換しようとしまいと完全に互角の形勢になる。白のビショップは自分の中央のポーンによって閉じ込められているので黒の残りのビショップの方が優っていることに注意することが肝要である。

 2)4.c4 で中央から動く

 パノフ攻撃の同種の手(3.exd5 cxd5 4.c4)と異なり、ここでは 4.c4 はd5の地点がしっかり黒の支配下にあるので主導権につながる見通しはほとんどない。黒の優れた防御方法は 4…e6 5.Nc3 dxc4 6.Bxc4 Nd7 である。例えば 7.Nf3 Nb6 8.Bb3 Ne7 9.O-O Ned5 10.Qe2 Be7 11.Ne4 O-O(ヨハンセン対ポーラト、ライプツィヒオリンピアード、1960年)となれば完全に互角である。

 3)タリのキング翼のポーン暴風

 1961年の世界選手権再戦でミハイル・タリは 4.h4 からキング翼のポーン暴風を始めてミハイル・ボトビニクを驚かせた。時の流れと共に白の最も効果的な手順の理解が進んだ。今日では主流手順は 4.Nc3(黒の …Be4 を防ぐ)から始まり4…e6 5.g4 Bg6 6.Nge2 となる。黒にとっては 6…Be7、6…f6 そして特に 6…c5 が最も評価されている。それでも解明が進んだとはとても言えない。ECO Bの第2版(1984年)では主手順の評価として「形勢不明」が付けられていて、今日でもまだ当てはまるようである。

 白が布局で何かしら優勢になる可能性は高い。その理由は黒の白枡ビショップを当たりにすることにより得られる手得でキング翼の陣地が広いこと、それに黒の …c5 の反撃が2手でc5の地点に来たために1手損となることによる。しかしこの戦法は恐れを知らず泥仕合の激しい攻撃に秀でた選手だけのものである。

 4)新しい穏やかな指し方はショートの 4.c3

 イギリスのGMナイジェル・ショートは最近図5の基本的な性格に非常に洗練された洞察力を発揮した。彼の考えでは黒のf5のビショップは危害を与えてくる可能性はなく、さらに黒の主眼の …c5 突きによる反撃はフランス防御と比較すると1手遅れているということである。だから白は「普通に」指し 3.e5 の結果として得られる中央の広さの優位を保持すべきである。この主題は1990年マニラインターゾーナルでのショート対セイラワン戦によく表れている。

4.c3! e6 5.Be2 c5 6.Nf3 Nc6 7.O-O

 ここでは既に「ショートシステム」の最初の優位が見てとれる。白のd4ポーンはしっかりしていて、そのため黒の反撃はいつまでも始まらない。さらにf5のビショップは黒のキング翼ナイトから要所を奪っている。1990年マニラインターゾーナルでのショート対ヤルタルソン戦では黒はまさしく「フランス流」に 7…Rc8 8.a3 c4 9.Nbd2 Nh6 と指したが、10.b3 cxb3 11.Qxb3 となって白がフランス防御の類似の戦型よりもまだちょうど1手得していた。

7…h6 8.Be3! cxd4 9.cxd4 Nge7 10.Nc3 Nc8

 見れば分かるように黒はキング翼の展開の完了に問題を抱えている。

11.Rc1 a6

 ショートによれば 11…Nb6 の方が良かった。

12.Na4 Nb6 13.Nc5 Bxc5 14.Rxc5

 図6

 白の駒組みの背景にある論理は今や明らかである。白には陣地の広さ、展開の優位、クイーン翼の主導権、キング翼での特徴的な戦い方の可能性、それに双ビショップがある。黒は黒枡に恒常的な弱点を抱えている。白の優勢は大きくはないけれども明白である。

14…O-O 15.Qb3! Nd7 16.Rc3 Qb6 17.Rfc1! Qxb3 18.Rxb3 Rfb8 19.Nd2 Kf8 20.h4! Ke8 21.g4 Bh7 22.h5! Nd8?

 黒はそんなにゆっくりしている余裕はない。ショートの推薦は 22…Kd8 で、23.f4 のあと白が広大な陣地の優位を保持する。

23.Rbc3! Nb6 24.Nb3! Na4 25.Rc7 Nxb2 26.Nc5 b5 27.g5! Nc4 28.gxh6 gxh6 29.Nd7 Nxe3 30.fxe3 Bf5 31.Kf2! Rb7 32.Nf6+ Kf8 33.Rg1! 黒投了

 もちろん「ショートシステム」について決定的な結論を下すのは早すぎる。しかし普通の布局の優勢をもたらす可能性は高いと思う。3.e5 のように中央での野心的な戦法では1手の違いは勝負に大きな影響を与えることがある。白はここではその手得があり、それにより中央で確かな優位に立っている。

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2012年12月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(26)

「Chess Life」1991年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方

 以前の本稿(1990年8月号)で常用布局を選択する際の一般的な原則を論じた。今度はもっと具体的なことを論じる。ただしグランドマスターの最新の評価に従って自分の布局を準備する時間を必要としかつ持っているチェスのプロは対象にしていない。例えばそのような選手は白でシチリア防御に対するとき常用布局としてドラゴンにはユーゴスラビア攻撃、クラシカル戦法にはリヒター・ラウゼル戦法、ナイドルフには 6.f4、スヘフェニンゲンにはケレス攻撃(6.g4)を用意しているかもしれない。一般的にこのような常用布局に問題は何もない。唯一の欠点は白のどのシステムも特有で、そのため新しいシステムを学ぶだけでなくそれぞれのシステムについていくために膨大な努力を要することである。

 本稿では布局の勉強時間がひどく制限されている平均的な米国チェス連盟会員を対象にしている。そういう人は複数の戦法に通用するものを選ぶのが理にかなっている。あなたが白で 1.e4 と指すのが「好き」だと仮定する。あなたはシチリア防御に対して何を指すべきだろうか。

 最も大切なことは積極的な手法を選び開放試合になるように努めるべきだということである。何人もの生徒がシチリア防御に対するとき以外は 1.e4 と指すのが好きだと言ってきた。そのような「不満」は私に言わせればナンセンスである。つまり 1.e4 は積極的で攻撃的な指し方が好きな選手のためのものである。シチリア防御は黒が白の積極的な展開を無視しながら自分のキング翼の展開を遅らせるので、攻撃的な選手は黒が 1…c5 と指すのを見たとき小躍りして喜ぶはずである。シチリア防御と指すのが好きでないならば 1.e4 と指すのを止めて 1.d4 と指すべきである。これも積極的な指し方だが、攻撃のために迅速な展開を必要としない。

 それでも 1.e4 と指したいならばこの先を読んで欲しい。あなたは積極的で攻撃的な指し方が好きだが自分のキングが差し迫った危険にさらされるのは嫌だと仮定する。そのような人には Bf1-c4 でキング翼にキャッスリングする開放システムを勧める。黒の重要な4大戦法のクラシカル、ナイドルフ、ドラゴン、そしてスヘフェニンゲンに対してこのシステムがどのように働くかを見ていくことにする。当然ながら私が説明することのできるものはすべてそれそれの戦法で現在の主流手順となっていると私の考えるものである。

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2012年12月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(27)

「Chess Life」1991年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

1)クラシカル戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6

 これがクラシカル戦法の基本局面である。白には 6.Bg5、6.f4、6.g3、6.Be2 それに 6.Bc4 というようにいろいろ有力な手がある。

6.Bc4

 これがソージン戦法である。1930年代初め頃に2、3度用いたがうまくいかなかったソ連のマスターにちなんで名づけられた。しかし真の生みの親はロバート.J.フィッシャーである。彼は1950年代後半に優秀なシステムに育て上げた。開放試合の早い段階でキング翼ビショップの最も強力な斜筋はa2-f7であり、もろいf7の地点に狙いをつけている。既に白には直接的な狙いがある。具体的には 6…g6?! なら 7.Nxc6 bxc6 8.e5 dxe5?? 9.Bxf7+ で白の勝ちになる。ここで黒には有力な手が三つある。

6…e6

 これが主流手順で、白のキング翼ビショップの利きを短くし、キング翼の展開を完了する準備をし、d5の地点を支配している。他の手は次のとおりである。

 a)6…Bd7 黒はこれで 7…g6 でドラゴン戦法の陣形にする用意ができた。しかしもちろんすぐに 5…g6 でそうすることができた。

 b)6…Qb6 これはベンコー戦法で、主手順は 7.Nb3 e6 8.O-O Be7 9.Be3 Qc7 10.f4 a6 11.Bd3 b5 となっている。

 ソージン戦法の良い参考書としては「Encyclopedia of Chess Openings」、Harding、Botterill、Kottnauer 著「The Sicilian Sozin」、それに Wade、O’Connell 著「Bobby Fischer’s Chess Games」がある。

7.Bb3 Be7 8.Be3 O-O 9.O-O

 これがフィッシャー戦法である。代わりに 9.Qe2 から 10.O-O-O なら双方にずっと危険なベリミロビッチ攻撃になる。本譜のあとでも白の攻撃は有望だがキングは安全なままである。

9…a6

 これは黒のクイーン翼の動員を始める最良の手段である。数多くの実戦によって 9…Na5?! で白のキング要ビショップを落とすのは1手の価値がないことが示された。10.f4 b6 11.e5 Ne8 12.f5! dxe5 13.fxe6 Nxb3 14.Nc6! Qd6 15.Qxd6 Bxd6 16.axb3 となれば黒のクイーン翼の2ポーンが弱いので白の優勢な収局である。

10.f4 Nxd4 11.Bxd4 b5 12.e5!

 白は攻撃をためらっていてはいけない。12.a3?! Bb7 のあと白の望めるのは互角しかない。例えばフィッシャー対スパスキーの世界選手権戦第4局が参考になる。

12…dxe5 13.fxe5 Nd7 14.Ne4!

 白は黒が …Bc8-b7 と指す前にクイーン翼ナイトを働かせなければならない。調子の良さそうな 14.Qf3?! は 14…Nc5! でうまくいかず黒が優勢になる。

14…Bb7 15.Nd6 Bxd6 16.exd6 Qg5 17.Rf2!

 これが白がキング翼にキャッスリングする戦法の重要な局面である。白は開放的な局面で双ビショップを所有しパスポーンも敵陣深く進攻している。黒にはキング翼に形の良い多数派ポーン、それに活動的なクイーンとビショップがある。ここで黒の主な手は次のとおりである。

 a)17…e5? 白の白枡ビショップの斜筋を開けるのは自殺行為である。1981年ローンパインでのクドリン対ダールバーグ戦では 18.Bc3 Nf6 19.Qf1! で黒に満足な応手がなかった。

 b)17…Bd5?! これは白にパスポーンを守る余裕を与える。1975年ソ連でのバンギエフ対チェルニコフ戦では 18.Rd2 Bxb3 19.axb3 e5 20.Bf2! Rfc8 21.Qe2 Rc6 22.c4 となって白が明らかに優勢だった。

 c)17…a5 このクイーン翼の弱体化がどちらを利するかは不明である。1987年ソ連でのオル対ロギノフ戦は 18.a4 b4 19.Qd2 Qxd2 20.Rxd2 Rac8 21.Re1 Ba6 22.c3 Bc4 と進んでほぼ動的に互角だった。

 d)17…Rad8 これが最も棋理に合った作戦である。dポーンは中盤でも収局でも弱くなり得る。ここで 18.Qe2?! には 18…Bd5! があるのでそう指す暇はない。18.Qd2 は 18…Qxd2 19.Rxd2 Nf6! 20.Bxf6 gxf6 で互角の収局になる。1977年ニューヨーク国際大会でのH.オウラフソン対メドニス戦では24手で引き分けになり、1986年バッジャーオープンでのR.ヘンリー対メドニス戦では28手で引き分けになった。

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2012年12月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(28)

「Chess Life」1991年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

2)ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 白にはナイドルフを「退治する」手法が 6.Bg5、6.f4、6.Be2 それに 6.Bc4 などいくつもある。私の統一的な手法の一環として 6.Bc4 を説明する。さらに勉強するための良い参考書としては GM John Nunn 著「Najdorf for the Tournament Player」、「Encyclopedia of Chess Openings B」そして Bobby Fischer 著「My 60 Memorable Games」がある。

6.Bc4

 これもボビー・フィッシャーの「発明」である。彼は 6.Bc4 がクラシカル戦法に対して良いならナイドルフ戦法に対しても良いはずだと考えた。そして棋歴を通してこれが-ごくわずかな例外はあったが-ナイドルフに対する彼の武器になった。白は自分のキングはキング翼にキャッスリングして黒キングへの攻撃態勢を準備する。

6…e6

 これが黒の断然信頼できる作戦である。しかし黒は最初に 6…b5 突いて 7.Bb3 のあと 7…e6 と突くこともできる。

7.Bb3 b5

 この積極的なポーン突きでナイドルフらしい戦法になる。代わりに 7…Nc6 はソージン戦法になる。7…Be7?! 8.f4 O-O はおとなしすぎて、白は展開したc4ビショップを 9.f5 突きですぐに活用することができる。

8.O-O

 白キングは安全になりキング翼ルークは戦いに動員できる。そしてこの手には欠陥がない。戦術的に正当であることの証明は 8…b4?! 9.Na4 Nxe4 10.Re1! Nf6 11.Bg5 Be7 12.Nf5! で白の攻撃がほぼ決定的と言っていいことにある(12…exf5? 13.Bxf6 gxf6 14.Qd5 で白の勝ち)。

8…Be7 9.Qf3

 これが現在白の最も人気のある作戦である。白は先にポーンの嵐を仕掛けるよりも駒で急攻しようとしている。

9…Qc7

 他に重要な手は 9…Qb6 で、10.Bg5!? O-O(10…Qxd4? は 11.e5 で良くない)11.Rad1 Bb7 12.Rfe1 Nbd7 13.Qg3 となって白の攻撃が有望になる。

10.Qg3 Nc6

 1989年全ソ連選手権戦のA.ソコロフ対ゲルファンド戦では 10…O-O 11.Bh6 Ne8 12.Rad1 Bd7 13.f4 と進んで白が少し優勢だった。

11.Nxc6 Qxc6 12.Re1 O-O 13.Bh6 Ne8 14.Nd5 Bd8 15.Re3! Qb7 16.Nf4 Kh8 17.Bg5

 白は展開に優っているので非常に強い攻撃を仕掛けることができる。例えば 17…f6? と突くのは 18.Bxe6! fxg5? 19.Ng6+! hxg6 20.Qh3# で黒が負けてしまう。ド・ファーミアンによると黒の唯一の受けは 17…Bxg5 で、白に通常の布局の優位があるとのことである。1989年全米選手権戦のド・ファーミアン対ブラウン戦は次のように進んだ。

17…Bb6?! 18.Rf3! Qxe4 19.Kf1! e5! 20.Nd5 Ba5 21.Ne7 Nc7 22.Nxc8 Raxc8 23.Be7 f5! 24.Bxf8 Rxf8 25.c3 f4 26.Qg4 b4 27.Re1 Qc6 28.Rh3 Qe8 29.Qf3 h6?(ド・ファーミアンによれば黒は 29…bxc3 30.bxc3 g6 と指すべきだった)30.Qe4! bxc3 31.Bc2 Qb5+ 32.Bd3 黒投了

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2012年12月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(29)

「Chess Life」1991年8月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

3)ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Bc4

 7.h3 と連動するこの手はヤンサ戦法で、これを指して数年間好成績をあげたチェコのGMブラスティミル・ヤンサにちなんで名づけられた。この手は非常に流行したというわけでは決してなかったが、それでも布局での優位を得る可能性を十分与えてくれる。その主眼点はまたしても白がキングを安全なキング翼に置いて好所の白枡ビショップにより攻撃したいということである。この戦法についての最も信頼できる定跡の資料は「Encyclopedia of Chess Openings B」と最近の「Chess Informant」である。

6…Bg7 7.h3

 これは白のシステムにとって必要である。黒が …Nc6 と指した場合 Be3 でd4のナイトを守ることができる。白が 7.f3 と指さないわけはg4の地点を支配したまま手損することなくあとで f2-f4 と突きたいからである。

7…O-O 8.O-O Nc6

 これはごく普通の手である。1988年ガウスダルでのヤンサ対ペツルソン戦では 8…a6 9.Bb3 b5 10.Nd5 Bb7 11.Nxf6+ Bxf6 12.Bh6 Re8 13.Re1 と進んでやはり白がわずかに優勢を保持した。

9.Be3 Bd7

 黒は 9…Nxe4 10.Bxf7+ Rxf7 11.Nxe4 でも 9…Na5 10.Bb3 b6 11.Qd3 Nxb3 12.axb3 でも完全な互角にならない。というのは中央の要所の支配のためには白の白枡ビショップよりも黒のクイーン翼ナイトの方が大切だからである。

10.Bb3

 ここからは黒に三通りの手がある。

 (1)10…Nxd4 11.Bxd4 Bc6 12.Qd3 Nd7 13.Bxg7 Kxg7 14.Qd4+ f6 15.Kh2 Qb6 16.Qd2 中央の広さとすぐに f2-f4 と突いていく攻撃の可能性で白が少し優勢である。

 (2)10…Qa5 11.Re1! Rac8 12.Nd5 Qd8 13.Nb5! Nxd5(13…Nxe4? は 14.Nxa7! Nxa7 15.Bb6 Qe8 16.Bxa7 で黒の負けになる)14.exd5 Na5 15.Nd4 b5 16.c3 広さの優位とe列での圧力で白が少し優勢である(ヘニングズ対カペングート、ルブリン、1973年)。

 (3)10…Rc8 11.Re1! Re8?! 12.Qd2 Qa5?! 13.Nf3! a6 14.Rad1 白は積極的な展開を完了し攻撃を開始する用意ができた。1988年ガウスダルでのヤンサ対W.ワトソン戦は攻撃の仕方の模範例である。14…b5 15.Bh6 Bh8 16.Ng5 Ne5 17.f4 Nc4 18.e5! Nh5 19.Qf2 Ng7 20.g4! b4 21.Nd5 Ne6 22.f5! Nxg5 23.Bxg5 Nxe5 24.Nxe7+ Rxe7 25.Bxe7 Bc6 26.Re3 Qb6 27.Bxd6 Bf3 28.Bxe5! Bxd1 29.Bxh8 Kxh8 30.Re8+ 黒投了

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2013年01月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(30)

「Chess Life」1991年8月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

シチリア防御との戦い方(続き)

4)スヘフェニンゲン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 e6 6.Bc4

 ここか次の手あたりで黒は 6…Nc6 でソージンに、または 6…a6 でナイドルフに移行することができる。しかし私の考えでは黒は次の独自の道に踏み出すほうが楽に互角にできる。これの良い参考書は Pritchett著「The Sicilian Scheveningen」と「Encylopedia of Chess Openings B」である。

6…Be7 7.Bb3

 c4のビショップの位置は安全でない。7.O-O O-O 8.Be3 Nxe4! 9.Nxe4 d5 で白の中原が消失し白の優勢もなくなる。

7…O-O

 すぐに 7…Na6 から 8…Nc5 と指すのも良い手である。

8.O-O

 8.Be3 または 8.f4 でも黒は 8…Na6 と指す。

8…Na6!

 黒のナイトはc5の地点を目指しe4に当たりをかけ白のクイーン翼に圧力をかける。

9.f4 Nc5 10.Qf3

 ここで黒の手は大きく二つに分かれる。

 (a)10…a6 からクイーン翼で戦いを始める。1982年トルナバでのホンフィ対フォークト戦は 11.f5 Kh8(11…Qc7 12.g4 d5!? は形勢不明)12.g4 Nfd7 13.Be3 Ne5 14.Qg3 Bd7 15.Rad1 と進んだ。白は攻撃の可能性のために少し優勢である。

 (b)10…e5! で中央から反撃する。白の最善の手順はおそらく 11.Nde2 b5 12.fxe5 dxe5 13.Bg5 で、両者とも指せる形勢である。この手順は実戦で試験する価値がある。

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布局の探究(31)

「Chess Life」1991年10月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

不利な戦法の避け方

 我々のほとんどは不利とみなされている戦法をわざと指したくはないのがあたりまえである。それにもかかわらず信頼していたのを指してまもなくこちらの形勢が悪いことに急に気づくことがあまりにも多く起こるようである。なぜこのようなことが起このか、そしてどうすればそんな不快なことが起こるのを避けられるのだろうか。

 以下の原則を守れば不利な戦法を避ける可能性は大きく高まる。

 (a)その戦法が良い布局の指し方の原則(キングの安全、中央の支配、中央への駒の展開)のいくつかを無視しているようならば、疑ってみること。

 (b)その戦法が布局の精神に従っていないようならば、疑ってみること。

 (c)本に載っている定跡が(a)または(b)に照らして疑問の戦法にお墨付きを与えているならば、疑ってみること。

 上記の要点を二つの重要な定跡の例に沿って具体的に説明する。

Ⅰ シチリア防御 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5

 白の3手目の 3.Bb5 はマスターの実戦で二つの理由でよく指されるようになった。(1)白は黒の多くの戦法をはずし(2)この戦法はシチリア防御でよくある乱闘よりも本質的に戦略的になることが多い。ここで黒には多くの選択肢があるが定跡はいつも次の手順を高く評価している。

3…g6 4.O-O Bg7 5.Re1 e5

 ここで白の最もよく指される戦略的な戦法は 6.Bxc6 dxc6 7.d3 だが、次の擬似ギャンビットも重要である。

6.b4!?

 狙いは単純にc5のポーンを取ることで、黒はb4のポーンを取らなければならない。定跡では 6…Nxb4 でも 6…cxb4 でも大丈夫となっている。私はあとの方を信頼していて、いつも私の常用戦法の一部になっていた。

6…cxb4 7.a3

 図1

 これが白の犠牲の背後にある戦術的/戦略的着想である。白はポーンの代わりに非常に強力な攻撃を得るかポーンを取り返して広大な中央を築くことを期待している。黒には重要な応手が三つある。

 (A)7…bxa3?

 展開の遅れとd6の弱点のために黒はこんな欲張りをしている余裕はない。1972年ケチケメートでのカペングート対パオリ戦のように 8.Bxa3(8.Nxa3 から 9.Nc4 でもよい)8…Nge7 9.Bd6 O-O 10.Nc3 Re8 11.Bc4 a6 12.Qb1! Bf6 13.Qa2 で黒陣がすぐに厳しくなった。

 (B)7…Nge7 8.axb4 O-O

 定跡ではこれが主手順になっていて黒が全然問題ないと評価されていた。実戦では 9.Ba3、9.Bb2、それに 9.c3 が指されどれも黒がしっかり互角にしていた。しかしあとから見ると白の手はかなり雑である。

 ここは 8…O-O のあとの局面を基本から観察してみるよい時機である。b4でのポーン交換は白のaポーンが黒のcポーンと交換されたことになるので白の方が中央に比較的強い影響力を持つようになった。さらにこの交換で白に健全な7連ポーンができたのに対し、黒のポーンは二手に分かれそのためポーン同士の守り合いで劣っている。白はa列でも圧力をかけているが黒はビショップが働いていないしd6に潜在的な弱点がある。結論として白は実質的な優位を達成し黒はその代わりとなる代償がない。しかしさらに必要なことは白の優勢を確立する方法を示す手段である。その答えは1987年ルガノでのフィリポビッチ対メドニス戦に示されている。

7…Nge7 8.axb4 O-O 9.d3!

 これが黒の「不利な戦法」を戦略的に咎める手である。9…Nxb4? は 10.Ba3 があるのでやはり良くない。そして他の手ならば白は優位を確固としたものにしていく。試合は次のように続いた。9…Qc7 10.Bxc6! bxc6?!(これはa7に新たな弱点ができる。だから 10…dxc6 か 10…Qxc6 の方が良かった)11.Be3 f5 12.Nc3! f4 13.Bc1! h6 14.b5! d6 15.Ba3 c5 16.Nd2! Be6 17.Nc4 f3 18.g3 g5 19.Bb2 Ng6 20.Re3 g4 21.Ra6 Rad8 22.Qa1 Rf7 23.Qa5

 図2

 そして白が46手で勝った。ユーゴスラビアのIMが私の弱点につけ入って侵入したやり方には感服した。

 あとで本局を詳細に見直したとき 7…Nge7 からの戦法が悪くて修正がきかないことが明らかになった(前に説明した理由による)。自分の棋譜ノートを参照したところ唯一の正着は次の手であることが明らかだった。

 (C)7…b3!

 私の棋譜ノートには最初の実戦例として次の試合が載っていた。7…b3!(メンビエリェ対ポルガエフスキー、ラスパルマス、1974年)8.cxb3 Nge7 9.Bb2 O-O 10.Nc3 d6 11.h3 h6 12.Bc4 Kh7 13.d4 Nxd4 14.Nxd4 exd4 15.Nb5 Nc6 16.Qd2 Ne5 17.Bxd4 a6 18.Nc3 Qg5 形勢は互角で、26手目で引き分けになった。(19.Qxg5 hxg5 20.Bxe5 Bxe5 21.Rac1 b5 22.Bd5 Ra7 23.a4 Bd7 24.axb5 axb5 25.Ne2 b4 26.Red1 合意の引き分け)

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2013年01月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(32)

「Chess Life」1991年10月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

不利な戦法の避け方(続き)

 図1での黒の正しい対処法を「直感的に」理解したのは世界級のGMだったことはほとんど驚くに当たらない。ポルガエフスキーの 7…b3! は 7.a3 への完璧な解毒剤である。白は自分のaポーンを黒のcポーンと交換することを期待していた。ところが 7…b3! 8.cxb3 は両者のcポーン同士の交換をもたらすので、白は中央での優位が全然得られない。他の優位の可能性(素通しa列、d6の弱点につけ込む機会)も白にはなく、黒は完全な互角を期待することができる。

 1984年に出版された「Encyclopedia of Chess Openings B」の第2版にこのポルガエフスキーの試合がまだ取り入れられていないのを知って残念に思った。それでもどういうわけかB31項の脚注28に次の記載がある。『7…b3?! 8.cxb3 Nge7 9.Bb2 O-O 10.Bc4 d6 11.b4 Bg4 12.h3 Bxf3 13.Qxf3 Nd4 14.Bxd4 exd4 15.d3[白がはっきり優勢]、クワルタス対シラージ、ベルン、1976年』最終局面で白が明らかに優勢であることは確かだが、責任は正着の 7…b3! にあるのではない。原因は黒が自分から優良ビショップを白のキング翼ナイトと交換した(11…Bg4?! 12.h3 Bxf3?!)ことにより「不利な戦法」を作り出したことと、そのあと二重ポーンを受け入れることにより(13…Nd4?! 14.Bxd4 exd4)自分の問題を増したことにある。代わりに普通に 11…Be6 と指せばほぼ互角を維持していた。例えば 12.d3 h6! のあと …Kh7、…Qd7 そしてたぶん …f5 という具合である。

 以上の分析を行なったあとで私はまた 6.b4 に対する自信を持った。その機会は4ヶ月もたたない1977年後半のアンドラ国際大会で訪れた。オジバート対メドニス戦でハンガリーのマスターは 7…b3! に意表をつかれたようだった。そして10分ほど考えて積極的に指してきた。

8.Nc3?! bxc2 9.Qxc2 Nge7 10.Nd5 O-O 11.a4?!

 図3

 白のこの手は 12.Ba3 という着想を含んでいる。それでも 7…bxa3? のあとの局面と比較すると白は何手も遅れていてそのためこの手からは何も得られない。さらに黒は白の差し出した戦力を 11…Nxd5 12.exd5 e4 13.Qxe4 Bxa1 で取ることさえできる。オジバートは危険な攻撃的選手なので私は実戦的判断でそれに二の足を踏み、まずクイーン翼の展開を続けそれによって安全な局面を確保することにした。

11…d6 12.Rb1 Nxd5 13.exd5 Ne7 14.Ba3?! Nxd5 15.Qe4 Nf4

 白は失ったポーンの代償が何もなく、黒は特に問題なく勝った。

16.Qb4 Bg4! 17.Rb3 Be6 18.Rbb1 Bd5! 19.Re3 Ba2! 20.Rd1 Nd5 21.Qe4 a6! 22.Bf1 Rc8! 23.Rc3 Rxc3 24.dxc3 Nxc3 25.Qc2 このあと46手目で白投了となった。

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2013年01月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(33)

「Chess Life」1991年10月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

不利な戦法の避け方(続き)

Ⅱ スラブ防御主手順

 50年以上もの間次がスラブ防御の主手順だった。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.a4 Bf5

 黒の手の論理は明らかである。すなわち …e7-e6 と突く前に白枡ビショップを展開し、それをf5に配置することにより白が e2-e4 で強大な中原を築くのをより難しくさせるということである。1920年代から次の戦型が重要な定跡と考えられてきた。

6.Ne5 e6 7.f3 Bb4 8.e4

 図4

 白の7手目は展開を犠牲にするけれどもこの一直線のポーン突きの準備だった。黒の7手目はこれに戦術的に対処することを見越していた。

8…Bxe4! 9.fxe4 Nxe4 10.Bd2 Qxd4 11.Nxe4 Qxe4+ 12.Qe2 Bxd2+ 13.Kxd2 Qd5+ 14.Kc2 Na6 15.Nxc4

 図5

 開始早々の乱闘が終わり戦略的に最も不均衡な局面が出現した。黒はビショップの犠牲の代わりに良好な3ポーンを得ている。さらに白はキング翼の展開が遅れていて、キングも不安定に見える。従って白側の選手がこの戦型を追求し続ける気になれないことはほとんど驚くに当たらない。一流選手のチェスに関する限りこれは休止に至った。

 しかし眠っていた巨人がうなり声と共に目覚めた。前世界チャンピオンのアナトリー・カルポフが「覚醒者」の中心だった。以下は彼の功績の簡単な経過である。

 (a)1988年ヒホンでのカルポフ対トゥクマコフ戦では有力視されていた 15…Qf5+ が大胆な 16.Kc3! により受け切れることを示した。16…O-O 17.Qe5 Qf2 18.Bd3 Rad8 19.Rhf1 Qh4 20.Qe4 Qh6 21.Qe3 Qh4 22.Rf4 のあと白の駒得の方が黒のポーンよりはるかに有効だった。

 (b)1988年ティルブルフでの第4回戦のカルポフ対ヒューブナー戦では黒が 15…O-O-O 16.Qe5 f6 17.Qe3! c5 18.Be2 Nb4+ 19.Kb3 Nc6 20.Kc3 Nd4 21.Bf3 Nxf3 22.gxf3 Qd4+ でやっと互角にできた。

 (c)2、3日後の第6回戦でのカルポフ対ヤルタルソン戦では(18.Be2 の代わりに)改良された 18.Kb3! が指され白が快勝した。18…Nb4 19.Rc1 Nc6 20.Ka3 Nd4 21.Na5! e5 22.Qc3! b6 23.Nb3 Qxb3+ 24.Qxb3 Nxb3 25.Kxb3 Rd4 26.h4! Rhd8 27.Bc4 Kc7 28.h5 Rg4?(28…a6 の方が良かった)29.h6! Rxg2?!(29…g6 が絶対手だった)30.hxg7 Rxg7 31.Rcf1 Rd6 32.Rh6 e4 33.Rhxf6 h5 34.R6f4 Rd4 35.Rf7+ Rd7 36.Rxg7 Rxg7 37.Rf4 Rg3+ 38.Kc2 Rg2+ 39.Kc3 Rg3+ 40.Kd2 Rg4 41.Rf7+ Kd6 42.Ke3 a6 43.Bxa6 黒投了

 以上から分かったことはちょっと注意を払えば白キングは十分安全だということである。他方黒ポーンの形は傷はないがコンパクトでもない。だからビショップ得の白は中盤と収局で大いに有望である。

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2013年01月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(34)

「Chess Life」1991年10月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

不利な戦法の避け方(続き)

Ⅱ スラブ防御主手順(続き)

 この「自然な」結論は黒側を持つ多くの選手にパニックを起こさせ原因が図5の局面が悪いに違いないと思わせた。従って彼らはただこの局面を避けるためにいくつかの「不利な戦法」に没頭した。参考のために3例をあげる。

 (ⅰ)ティルブルフに戻ると第10回戦のカルポフ対ティマン戦では12手目で(12…Bxd2+ の代わりに)12…Qh4+? と変化した。そして 13.g3 Bxd2+ 14.Kxd2 Qe7 15.Qe3! Na6 16.Bxc4! Nb4(16…O-O-O+ 17.Ke2)17.Rad1 と進んで白の展開が図5のときよりもはるかに優る局面になった。「自分の戦法」で相手が通常の手順よりも展開で優ることができるならば、自分の戦法を疑ってみるべきである。

 (ⅱ)1988年テッサロニキ・オリンピアードでのグリーンフェルド対グランダ=スニーガ戦では図4から黒が 8…Nxe4? と指した。そして 9.fxe4 Qh4+ 10.Ke2 Bxe4 11.g3! Qh5+ 12.g4 Bd3+ 13.Kf3 Qh4 14.Bxd3 cxd3 15.Kg2! Nd7 16.Nxd3! Be7 17.Bf4 Nf6 18.Ne5 Rd8 19.h3 と進んで白の勝勢の局面になった。黒が駒の代わりに2ポーンしか得ていないのに対し、白は展開が良く 20.Nf3 の狙いがある。周知の手順で「自分の戦法」に明らかに駒の犠牲が必要になるならば、そして50年で誰もそれを指していないならば、自分の戦法を疑ってみるべきである。

 (ⅲ)1988年ガウスダルでのぺトゥルソン対メドゥナ戦では図4から黒が 8…Bg6? と指した。そして次のように粉砕された。9.Bxc4 Nbd7 10.h4! Qa5 11.Qb3 O-O-O 12.Bf4 Nxe5 13.Bxe5 h5 14.O-O! Nd7 15.Bg3 Be7 16.Rac1 Qb6 17.Nb5! e5 18.Bxf7 Kb8 19.Bxg6 cxb5 20.Bf5 Qxd4+ 21.Kh2 黒投了 GMメドゥナはスラブ防御の専門家として認められていて、5…Bf5 から 7…Bb4 と指す戦法の要点は白の e2-e4 突きをくじくことだと分かっていた。8.e4 のあと屈辱的な退却の 8…Bg6 はうまくいくわけがない。「自分の戦法」が布局の趣旨を無視することを要求するならば、疑ってみるべきである。

 図5の危機から黒を救うために不利な戦法を探すよりも黒は新しい視点で図5そのものを見てみるべきだった。ちょうどカルポフが白の可能性に必要な視点を持ち込んだように、黒も駒とポーンの正しい配置を発見する必要があった。このことがいったん認識されれば、黒の成績は向上し始めた。図5での棋理に合った対処法は1990年全ソ連選手権戦でのノビコフ対バレエフ戦で示された。

15…O-O-O 16.Qe5 f6 17.Qe3 Kb8!

 黒は 17…c5 で陣形を弱めるよりもキングの位置を改善した。

18.Kb3 e5 19.Be2 Nc5+ 20.Kb4 Ne6 21.Bf3 Qd7

 図6

 GMバレエフはこの局面を互角と評価している。すなわちいい勝負である。黒には中原への影響力、安全なキング、好所の駒がある。白は駒得だが黒陣に具体的な攻撃目標がない。現実にはうまく指す側に勝つ可能性がある。黒が62手で面白い収局に勝った。

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2013年02月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(35)

「Chess Life」1991年12月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局のはめ手 現実か幻影か

 最も人気のあるチェスの本は布局のはめ手についての本である。これは本を買う者がそのようなはめ手に陥るのを恐れているからではない。それよりも軽率な相手をはめて簡単に勝つことを期待していることの方がずっと多い。自分は落とし穴にはまらないようにし相手のへまにはつけ込むようにするために、自分の常用布局に潜むはめ手に精通しておくことが大切である。しかしこのようにして勝ちを重ねることに大きな期待をかけてはいけない。現実には布局のはめ手に実際にはまる者はそのような本の著者が読者に思い込ませるよりもはるかに少ないものである。

 それでも本当の布局のはめ手はやはりはめ手であり、知っておくことは自分の利益になる。しかし「生はんかな知識はかえって危険である」という警句は心にとめておかなければならない。おそらく同じはめ手でも局面はわずかに違っていることがあるだろう。たいした違いはないと思うかもしれないが、この違いは天と地ほど違うことがある。これは実戦の重要な主題で、ここで説明していく。棋譜はシチリア防御ドラゴン戦法を用いる。具体的な主題は「白が早く Be3 と指した。黒はそのビショップを …Ng4 でいじめることができる。黒はそうすべきだろうか」である。最初に黒キングが中央にいる例を少し見て、そのあとキャッスリングしている例を見てみる。

Ⅰ 黒キングが中央にいる

 ドラゴン戦法に行くための現代の手順は 1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 である。そして白がいくつかの主流手順に到達するための最も融通性のある手は 6.Be3 である。

 図1

 しかし黒はここで意地悪く 6…Ng4 でこのビショップを攻撃してこないのだろうか。その答は「こない」である。それに対して白は意表をつく 7.Bb5+! で強引に勝ってしまう。

 a)7…Nd7? でも 7…Bd7? でも 8.Qxg4 で黒の駒損になる。

 b)7…Nc6 は 8.Nxc6 bxc6 9.Bxc6+ Bd7 10.Bxa8 で白の交換得と1ポーン得になる。

 だから黒は 6…Ng4? 7.Bb5+! で真の布局のはめ手にはまったことになる。布局定跡の観点からはこれは重要なはめ手である。しかし実戦ではどのくらい重要なのだろうか。私は40年以上に渡って 6.Be3 を指してきたが 6…Ng4 とはまった相手は一人もいなかったと言えば十分だろう。

 しかし似たような局面でこの情報がどのように活用されるか-または誤用されるか-を理解することは重要である。図1から次のように続けよう。

6…Bg7

 白が Bf1-c4 と指すユーゴスラビア攻撃を目指すなら、通常の手順は 7.f3、8.Qd2 から 9.Bc4 である。しかしなぜすぐに次の手を指さないのだろうか。

7.Bc4

 それにはもっともな理由がある。

7…Ng4! 8.Bb5+ Kf8

 図2

 黒キングに安全な逃げ場があったので「はめ手」は失敗した。確かに黒はキャッスリングできなくなったが、白のビショップは共に変な地点に散らばっている。だからこの不均衡な局面で黒は十分に指せる。

 1)9.Bc1? Qb6 は黒が明らかに優勢である。

 2)9.Qd2 a6 10.Bc4 Nc6 は1962年ストックホルムでのショルド対ボトビニク戦で、完全に互角だった。黒は都合のよいときに …Nxe3 と取り、強力な双ビショップがキャッスリングしていないキングの代償になる。

 3)9.O-O Nxe3(ここでも白のf列での攻撃を遅らせる 9…a6!? 10.Bc4 Nc6 は可能である)10.fxe3 e6 11.Bc4 Qe7 12.Ncb5 Be5! はこの混戦の局面でも黒が問題なさそうである(13.Nf3 Kg7)。

 4)9.Bg5(これがおそらく白のもっとも理にかなった手段である)9…h6 10.Bh4 g5 11.Bg3 Qb6 12.Nde2 h5!(黒は白のビショップの悪形につけ込もうとしなければならない。さもないと自分の弱点がひびいてくる。例えば 12…Nc6? なら 13.h3)13.h4 gxh4 14.Rxh4 Nc6 15.Qd2 Nd4! 16.Nxd4 Qxd4 17.O-O-O Qxd2+ 18.Rxd2 Bf6 はほぼ互角である(リュボエビッチ対ソソンコ、オリンピアード、1978年)。

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布局の探究(36)

「Chess Life」1991年12月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局のはめ手 現実か幻影か(続き)

Ⅰ 黒キングが中央にいる(続き)

 これまでの例で黒が気をつけなければならなかったのは白のビショップがb5の地点に「チェックで」来ることである。しかしその手がチェックでないならどうなるのだろうか。この重要な疑問を調べるためにドラゴンの昔の手順を用いよう。1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6

 1930年代前半にドラゴン戦法が評価を得たときこれらが初期の手順で、古典戦型の 6.Be2 のあと初めて黒は 6…g6 でフィアンケットに構えていた。リヒター・ラウゼル攻撃の 6.Bg5 とソージン戦法の 6.Bc4 は共に恐怖のドラゴンを避けるためにわざわざ創案された。しかし白は次の手を指すこともできる。

6.Be3

 一つの見かたはこれが黒に 6…g6 で今からドラゴンに入らせる融通性のある手であるということである。しかしこの手は黒にとっても挑戦を突きつけられている。6…Ng4 はどうなるのだろうか。

 図3

 黒が 6.Be3 を「咎める」気ならこれがその手段である。他にはドラゴンを目指すなら 6…g6、スヘーファニンゲンなら 6…e6、ボレスラフスキー型の陣形なら 6…e5 がある。

 上図での白の選択肢は明らかである。すなわち当たりのビショップを動かすか、当たりを無視して展開の優位に基づいて反撃にでるかしなければならない。そこで以下の可能性がある。

 1)7.Bg5

 英国のGMマイケル・アダムズは初めてこの手の潜在力を示した。彼は一見危険そうな 7…Qb6 に簡単に 8.Bb5 Bd7 9.O-O! と応じられることを証明した。9…Qxd4 からの収局は 10.Bxc6 Qxd1 11.Bxd7+ Kxd7 12.Raxd1 で白が完全に良い(アダムズ対ミューア、ロンドン、1984年)。

 重要な変化は 7…h6 8.Bh4 g5! 9.Bg3 Bg7 だと思う。この手順には変化の余地が多くあり解明が必要である。

 2)7.Bb5

 これが従来からの手である。白の目的は黒のキャッスリングしていないキングに対して自分の戦力をすばやく動員することである。そのためにはポーンの形を崩し双ビショップをなくしてもかまわない。

7…Nxe3 8.fxe3

 白は首尾一貫している方が良い。弱気の 8.Nxc6?! は 8…Nxd1 9.Nxd8+ Kxd8 10.Rxd1 a6! となって、黒はキングが安全で双ビショップの潜在力のために少し有望になっている(フューリンゲン対メドニス、ガウスダル、1990年)。

8…Bd7 9.O-O e6

 白の展開の優位はばかにできないので黒は 9…Ne5? と指す余裕はない。そう指すと 10.Nf3! Nxf3+(10…Bxb5 は 11.Nxb5 で良くない)11.Qxf3 f6 12.e5! で白の攻撃が炸裂する。

10.Bxc6 bxc6 11.e5 Be7

 黒はやはり展開の完了を急ぐべきである。11…dxe5?! は 12.Qh5 Qe7 13.Qxe5 で白が優勢である。

12.Qh5 O-O 13.exd6 Bxd6

 図4

 白は黒の双ビショプと中央側のポーンの多さを補うために攻撃の可能性を追求しなければならない。現在のところ次が主手順と考えられている。14.Ne4 Be7 15.Rad1 Qb6! 16.Rf3 Be8 17.Rh3 h6 18.Rg3 Kh7 19.Rf1

 ここで白は 20.Rf6!! を狙っている。19…c5? なら 20.Rf6!! Bxf6 21.Nxf6+ Kh8 22.Qg5!! で決まる。見えすいた 19…f5 は 20.Rxg7+ Kxg7 21.Nxe6+ で負けるように思われる。しかし私には 21…Kh7 でそうはっきりしないように思われる。そして 22.Nxf8+ なら 22…Bxf8 で黒は 23.Qxf5+ Bg6 24.Nf6+ Kg7 25.Qd7+ Kh8 でも[訳注 25.Qe6 で白の勝勢のようです]23.Nf6+ Kh8! 24.Qxf5(24.Nxe8 なら 24…Qxe3+ から 25…Rxe8)24…Qxe3+ 25.Kh1 Qe7 でも受かっている。どちらにしても黒の方が良い。

19…Qd8

 定跡ではこれが絶対の正着である。

20.c4 a5 21.Qe5 Rg8 22.Nf3!

 22.Nxc6? Bxc6 23.Rxf7 は無理筋で、1977年パルヌでのギプスリス対トゥクマコフ戦では次のように咎められた。23…Qd1+ 24.Kf2 Qc2+ 25.Kg1 Qb1+ 26.Kf2 Bf8!! 27.Nf6+ Kh8 28.Nxg8 Rd8 29.Qc3 Qd1 30.e4 Rd2+ 31.Ke3 Qe1+ 白投了

 本譜は千日手による面白い引き分けになる。

22…f6! 23.Qxe6 Bd7 24.Qf7 Be8 引き分け

 それでは「無邪気な」6…Ng4 について何と言うことができるだろうか。指せる手だが、大量の定跡の知識が必要である。

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布局の探究(37)

「Chess Life」1991年12月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

布局のはめ手 現実か幻影か(続き)

Ⅱ 黒がキング翼にキャッスリングしている

 もちろん黒はキング翼にキャッスリングしているときは …Ng4 に対してビショップがb5でチェックをかけるのを心配する必要はない。しかし重要なことは …Ng4 と「指せる」からといってそう「指すべき」であるとは限らないことである。

 昔はドラゴン戦法の主流手順は次の古典戦法だった。

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Be2 g6 7.Be3 Bg7 8.O-O O-O 9.f4

 図5

 白はこの手で黒のキング翼に対する攻撃を始めた。状況が許せばポーンを e4-e5 または f4-f5 と突いていく構えである。黒が積極的に応じなければ白は非常に強力な攻撃態勢を作れる。しかし攻撃的な 9.f4 には欠点もある。それはg1-b6の斜筋がひどく弱体化したこと、それにg4の地点に対する白の影響力が減少したことである。したがって考えられる候補手は 9…Ng49…Qb6 である。どうなるか見てみよう。

 1)9…Ng4?!

 戦術的にはこの手には何も悪いところがない。しか戦略的には不十分な局面になる。

10.Bxg4 Bxd4

 10…Bxg4? は 11.Nxc6 で黒の戦力損になる。

11.Bxd4 Bxg4 12.Qd2! Be6 13.f5 Bc4 14.Rf3 Nxd4 15.Qxd4 Ba6 16.Nd5

 白は大きく優勢である。黒は黒枡ビショップがないのでキング翼がひどく弱くなっている。ここで白は 17.f6 を狙っていて、事実上 16…f6 と突かせてさらにキング翼を弱体化させることを強いている。そのあとは1893年ハバナでのエマーヌエル・ラスカー対ゴルマヨ戦を見られたい。

 2)9…Qb6!

 この手が現代の実戦で 9.f4 をすたれさせた。黒は 10…Nxe4! でポーン得を狙っている。一方白は大胆なクイーンの遠征を「罰する」手段を欠いている。例えば

 a)10.Nf5? Qxb2 11.Na4 Qa3 12.c3 Nxe4!

 b)10.Na4? Qb4 11.c3 Qa5 12.b4 Qc7 13.Bf3 Bd7 白のクイーン翼ががたがたである。

 c)10.e5?! dxe5 11.fxe5 Nxe5 12.Nf5 Qxb2! 13.Nxe7+ Kh8 14.Bd4 Qb4! 15.Bxe5(15.Nxc8 なら 15…Rd8!)15…Qxe7 16.Qd4 Nh5 白のクイーン翼が弱体化しているので黒がいくらか優勢である。

10.Qd3 Ng4! 11.Nd5

 図6

 この手は黒にとって危険そうに見えるが結局は互角の形勢にしかならない。同じゴールへのもっと簡明な道は 11.Bxg4 Bxd4 12.Bxd4 Qxd4+ 13.Qxd4 Nxd4 14.Bd1 である。

11…Bxd4! 12.Bxg4

 クイーンを取るのは次のように黒にしか好機がもたらされない。12.Nxb6?! Bxe3+ 13.Kh1 Bxb6 14.Bxg4 Bxg4 15.f5 gxf5 16.exf5 Ne5 17.Qg3 Kh8 18.Qh4 Bd8 よく働く3駒の方が白クイーンより強力である(ファン・デン・ボス対ランダウ、アムステルダム、1939年)。

12…Bxe3+ 13.Qxe3 Qxe3+

 13…Qxb2!? は疑問で 14.Bxc8 Raxc8 15.Rab1 Qxa2 16.Rxb7 となって白がしっかり主導権を握る。

14.Nxe3 Bxg4 15.Nxg4

 この収局は完全に互角である。

 というわけで、自分の布局の重要なはめ手は研究しておくべきである。しかし「似たような」局面で同じ主題を適用することには慎重でなければならない。はめ手の中にはめ手が潜んでいることがある。そしてそれに備えるに必要な努力は試合の他の局面に投資する方が良い。

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2013年02月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(38)

「Chess Life」1992年2月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?

 白で開放的な局面、活動的な展開、そして速攻の可能性が好きなら、初手の選択肢は明らかである。すなわち 1.e4 がそれである。しかし1990年代における選択肢は、より閉鎖的なシステム、戦力のもっとゆっくりした活動化、自分のキングの安全性の向上、それにもっと長期的な戦略の目的に基づいた指し方の方が好きな者にはかなり難しくなっている。

 1世紀前はもっと楽だった。つまり 1.d4 が唯一の正しい手だとみなされていた。1920年代の超現代派は 1.c4 と 1.Nf3 の優秀さの議論に勝った。この30年間で 1.g3 もまた完全に申し分のない布局の手としての評価を勝ち得た。だから閉鎖システムの常用布局として今では「完璧」な初手として選べる手が四つある。それらは 1.d4、1.c4、1.Nf3 および 1.g3 である。どれを選ぶべきだろうか。

 活動の早さの観点からは 1.d4 が最初に来て、次に 1.c4 と 1.Nf3、そして最後に 1.g3 が来る。読者が閉鎖的システムの現代定跡をよりよく洞察できるように、この一群の中で両端に位置する 1.d4 と 1.g3 をもっとよく考察してみよう。

 Ⅰ 1.d4

 主な特徴
 白は中原で素早く活動することを目指す。特にクイーン翼で主導権を握ることに重点をおく。

 長所
 a)白は重要なd4の地点を支配し、e5とc5の地点に圧力をかける。これらのどの地点も中央の要所である。
 b)クイーン翼ビショップとクイーンの展開のために筋が開く。
 c)次の数手で駒とポーンの適正な配置が明確に示しやすい。

 短所
 黒はただちにd4の地点が中央の目標であると告げられる。ここが互角の形勢にするために黒の克服または消去しなければならない個所である。だから黒は …c7-c5 または …e7-e5 とポーンを突くことが互角にするための主要な道具であると分かる。

  申し分のない黒の応手
 1)どんな状況でも 1…d5 または 1…Nf6
 2)以下は特別な条件で
 a)1…e6 は黒がフランス防御になってもよい場合(2.e4 d5)
 b)1…c6 は黒がカロカン防御になってもよい場合(2.e4 d5)
 c)1…g6 は黒が現代防御になってもよい場合(2.e4 Bg7)

 初手に 1.d4 を指す得失を説明するためにキング翼インディアン防御を2局分析することにする。この戦法では白の中原の優位と黒の反撃の可能性という二つの際立つ特徴がはっきり現れる。

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2013年03月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(39)

「Chess Life」1992年2月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?(続き)

 Ⅰ 1.d4(続き)

キング翼インディアン防御 [E90]
白 D.ピサ
黒 GMアレクサンドル・ボイトキーウィッツ
バレンシア、1990年

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 d6 4.Nc3 g6 5.e4 Bg7 6.Nf3

 白はこの戦法に特有なように中央でもう優位に立っている。次の手で黒のクイーン翼ビショップの展開を妨げる。

6…O-O 7.h3 e6 8.Bd3 Re8 9.O-O Na6 10.Bg5!? h6 11.Be3 Nc7 12.Qd2 Kh7?

 黒は不注意だった。12…exd5 13.exd5 と交換しておいてから 13…Kh7 と指さなければいけなかった。ここから白の強力な中原が真価を発揮することになる。

13.e5! dxe5 14.d6 Na6 15.Nxe5 Rf8 16.Nxf7! Rxf7 17.Bxg6+!!

 戦略の積み重ねが痛烈な戦術に結実した。それでもこれらの戦術が白キングの完全な安全と盤上すべてにおける完璧な駒の展開とから成り立っていることには注意を要する。このビショップには毒が含まれている。というのは 17…Kxg6?! と取ると 18.Qc2+! Kh5 19.f3! から 20.g4+ により黒キングが詰み筋に入るからである。

17…Kg8 18.Bxf7+ Kxf7 19.Bxh6

 白は2駒の代わりにルークと3ポーンを得て黒キングも裸同然にし、戦力的にも陣形的にもかなりの優位を得ている。ピサによると黒の最善の受けは 19…Bxh6 20.Qxh6 Qxd6 21.Rad1(21.Ne4!?)21…Qe5 22.Rfe1 Qh5 だった。もっとも 23.Qf4 で白の優勢は明らかである。

19…Bd7?! 20.Bxg7 Kxg7 21.Rae1 Qh8 22.Ne4! Qh4 23.Nxf6 Qxf6 24.Re3 Bc6 25.Qe2! Kf7 26.Qh5+ Kf8 27.Rfe1 黒投了

 黒は 27…Re8 28.Rg3 のあと 29.Rg6 からまもなく終わりが来るのを待たなかった。

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2013年03月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(40)

「Chess Life」1992年2月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?(続き)

 Ⅰ 1.d4(続き)

キング翼インディアン防御 [E69]
フィアンケット戦法
白 GMヘルギ・オウラフソン
黒 GMジョン・ナン
ベイクアーンゼー、1991年

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3 O-O 5.Bg2 d6 6.Nc3 Nbd7 7.O-O e5 8.e4 c6 9.b3 exd4

 白のキング翼ビショップのフィアンケットに対する古典戦法で黒はd4の地点に対する圧力を中止することを強いられる。そうしないとクイーン翼ナイトをうまく展開できないからである。黒は白の中央の優位を増した(黒陣の4段目に中原ポーンがなくなった)代償として、キング翼ビショップの斜筋が通りクイーン翼ナイトの活動の場が得られる。

10.Nxd4 Re8 11.h3 Nc5 12.Re1 Qb6 13.Be3 a5 14.Rb1 Bd7 15.Qc2 Rad8 16.Rbd1 Qc7

 白はスムーズに展開を完了し、良好な陣地の広さと中原の優位とを得ている。ここでナンは 17.Kh2 を推奨し白の優勢が続くとしている。しかしオウラフソンはそれ以上を望んだ。

17.f4?!

 白はe5の地点の支配も望んだ。しかしその結果e4ポーンとg3ポーンが根本的に弱体化した。急に黒は反撃の展望が開けた。

17…Re7! 18.Bf2 Rde8 19.Re2 Qc8 20.Kh2?!

 白は危険でも 20.g4!? h5 21.g5 Nh7 22.Kh2 f6 と指すべきだった。ナンによればそれで形勢不明である。

20…h5! 21.Bg1 h4! 22.gxh4

 気の進まない手だが、22.g4?! はもっと悪く 22…Bxg4! 23.hxg4 Qxg4 24.Rf1 Nh5 で黒が大優勢になる(ナン)。

22…Nh5 23.Rf1 Bf6 24.Rf3 Bxh4 25.a3 Bf6

 白がe4、f4、h3とキング翼全般に弱点を抱えているので、黒が優勢である。注意深く 26.Kh1! で当面の戦術を防いでいれば黒の優勢は比較的小さくできていただろう(ナン)。

26.Bf2? Nxf4!

 これで白に何の希望もなくなった。27.Rxf4 と取っても 27…Be5 28.Bg3(28.Be3 g5)28…Bxd4 となる。

27.Nxc6 Bxc6 28.Rxf4 Be5 29.Bg3 Ne6!! 30.Rh4 Bxg3+ 31.Kxg3 Nd4 32.Qd2 Nxe2+ 33.Nxe2 Qe6 白投了

 34.Qxa5 Qe5+ 35.Qxe5 Rxe5 36.Nc3 f5 で収局になっても見込みがない。

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2013年03月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(41)

「Chess Life」1992年2月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?(続き)

 Ⅱ 1.g3

 主な特徴
 白はまずキング翼の展開を完了しようとする。キング翼ビショップのフィアンケットはこの展開において必要不可欠である。

 長所
 a)駒とポーンの展開についてはほぼ完璧な融通性がある。唯一決まり切った要素はキング翼ビショップのフィアンケットである。
 b)キング翼キャッスリングでキングの早い安全が保証される。
 c)白の展開は黒の選択したポーン陣形に合わせることができる。
 d)白は自陣のどの個所も黒による速攻にさらされない。

 短所
 a)黒に非常に広範な布局システムを選択させる。
 b)白は早くから俊敏に立ち回らなければ中央が劣勢で守勢の局面に陥りやすい。

  申し分のない黒の応手
 1)1…c5
 2)1…d5
 3)1…e5
 4)1…Nf6
 5)1…g6
 6)以下は特定の条件付き
 a)1…c6 は黒が次に …d5 と突く場合
 b)1…d6 は黒が次に …c5 または …e5 と突く場合
 c)1…e6 は黒が次に …d5 または …Nf6 と指す場合

 次の2局で白がどのように指すべきかと指すべきでないかとを示す。

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2013年03月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(42)

「Chess Life」1992年2月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?(続き)

 Ⅱ 1.g3(続き)

レーティ布局 [A14]
フィアンケット戦法
白 GMアントニー・マイルズ
黒 IMアンドルー・ミューア
オーステンデ、1990年

1.g3 d5 2.Nf3

 代わりに 2.Bg2 はもちろん指せる手で、2…e5 と来るなら 3.d3 と突く。しかしGMの大部分は黒にそんなに早くそんなポーン中原を作らせない方を好む。

2…Nf6 3.Bg2 e6 4.c4 Be7 5.b3 O-O 6.Bb2 c5 7.O-O Nc6 8.e3 d4

 これは非常に意欲的な作戦である。黒は自分のdポーンを白陣内に送り込み、白のクイーン翼ビショップを中央の斜筋から遮断する。その代償は白のキング翼ビショップの威力の大きな増大である。安全でお決まりの手は 8…b6 から 9…Bb7 である。

9.exd4 cxd4 10.Re1 Re8 11.a3 a5 12.d3 Bf8 13.Ne5!

 この手は 13…e5 突きを防ぎキング翼ビショップの中央の斜筋を開けている。

13…Nxe5 14.Rxe5 Nd7 15.Rb5!? e5 16.Nd2!

 白の関心は黒のクイーン翼に対し強い圧力を保持することに加えてe4とd5の地点を支配することである。実利主義の 16.Bxb7?! Bxb7 17.Rxb7 は1ポーンのためにすべてを投げうつ。それに対して黒は 17…Nc5 で十分な代償を手に入れる。

16…Rb8 17.b4 b6 18.bxa5 bxa5 19.a4!

 白は 19.Rxb8 Nxb8 20.Rb1 でクイーン翼でのいつものわずかな優位を得るよりももっと多くを得たいと考えている。交換損の犠牲の代わりに1ポーンを得るのを選択したのは、連結パスポーンができるのとキング翼ビショップが素晴らしく強力になるからである。

19…Ba6 20.Nb3 Bxb5 21.axb5 Bb4 22.Ba3 Bxa3 23.Rxa3 Qe7 24.Rxa5 Qb4 25.Ra7 Nc5 26.Nxc5 Qxc5 27.Qa4 f5 28.Bc6!

 黒はこれまでよく守ってきた。ここで注意深く 28…Rec8! 29.Rd7 と指せば白の優位はGMマイルズによればわずかだった。あきらかにまずい手は 28…Red8?! で、29.Rc7 が 30.Bd5+ を狙い 29…Kh8 なら 30.Qa5! が強力になる。だから黒は白の強力なルークを交換によりなくしたいのだが、白のキング翼ビショップが主役となる詰み狙いの攻撃に意表を突かれることになる。

28…Re7? 29.Ra8! Rxa8 30.Qxa8+ Kf7 31.Bd5+ Kg6 32.Qa6+ Kg5 33.h4+ Kg4 34.Kg2! e4 35.f3+ Kh5 36.Kh3! g6 37.Qf6 黒投了

 37…Kh6 38.Qf8+ Kh5(38…Rg7 39.Qxc5)39.g4+ fxg4+ 40.fxg4# で詰みになる。

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2013年04月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(43)

「Chess Life」1992年2月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

遅かれ早かれ – 1.d4 か 1.g3 か?(続き)

 Ⅱ 1.g3(続き)

シチリア防御 [B20]
閉鎖戦法
白 ヤン・キービッター
黒 GMエドマー・メドニス
メス、1990年

1.g3 g6 2.Bg2 Bg7 3.d3 c5 4.e4

 白が早く e4 と突き黒も早く …c5 と突いたので、布局は閉鎖シチリア防御の1変化と考えられる。

4…Nc6 5.f4 d6 6.Nf3 e6 7.O-O Nge7 8.c3

 白のこの手と次の手は中央で望ましい d4 突きを指すつもりである。普通の閉鎖シチリアの Nc3 を省くことによって白はこの進攻の可能性を高めた。

8…O-O 9.Be3 b6 10.Nbd2?

 この手は消極的すぎる。正着は 10.d4! である。これで中央で動き始めるのは黒の方になった。

10…Ba6! 11.Qc2 d5 12.Rfd1 d4! 13.cxd4 Nxd4! 14.Nxd4 Bxd4 15.Nf1 Bxe3+ 16.Nxe3 Qd4 17.Kf2 Rad8

 黒はここから弱い出遅れdポーンに対して駒を集中させる。

18.Ke2 Rd7!

 白はここで 19.Rd2 Rfd8 20.Rad1 Nc6 21.a3 と指さなければならなかった。白陣はひどいが、黒がすぐに勝ちになる手順はない。しかし白の次の手のあとならある。

19.e5? Rfd8 20.Nc4

 予定の 20.Be4?? は 20…Qxe4 で守ったことにならない。しかし実戦の手のあと黒はe3の地点に侵入できる。

20…Nf5! 21.Bh3 Bxc4 22.Bxf5 Ba6! 白投了

 23.Be4 とは指せない。23.Bh3 には 23…Bxd3+ があるので投了は止むを得ない。

結論

 (1)1.d4 と 1.g3 はどちらが強力な手か?答え 同じ強さである。
 (2)どちらの手を指すべきか?答え 棋風によるだろう。それでも助言すべきことはある。活動的で直接的な 1.d4 の方が指しやすい。なぜなら「自然な良い」手は有利になるのが普通だからである。私の考えでは少なくともレイティング2200の「チェスの理解」がないと 1.g3 の威力を発揮できず柔軟性にあふれた手に潜む不利に陥る恐れが強い。それがこのキービッター氏の試合に起こったことである。

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2013年04月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(44)

「Chess Life」1992年4月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ゆっくり急げ 閉鎖布局を激しく指す

 一般に閉鎖布局(1.d4、1.c4、1.Nf3、1.g3)は戦略派に最も適していると確信している。しかし例外というものは必ずある。何回も米国チャンピオンになったフランクJ.マーシャルは史上最高の攻撃の達人の一人だったが、初手は 1.d4 の方を好んでいた。世界チャンピオンのアレクサンドル・アリョーヒンとガリー・カスパロフは閉鎖布局を破壊的な戦術の見せ場とすることにたけていた。今月は非常に閉鎖的な布局を激しく指す面白くて現在重要な手段について分析する。

 イギリス布局対称戦法の主手順は次の手から始まる。

1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7

 局面は完全に対称である。白の唯一の優位は手番を握っていることにある。しかし局面はまったく閉鎖的なので、「手番」の優位を何か具体的なものに変えることは容易なことではない。白の最も重要な次の手は三通りある。

 (1)5.a3 白の作戦は b2-b4 突きでさっそくクイーン翼で動くことである。ヤセル・セイラワンがこの戦法の代表的な主導者である。

 (2)5.e3 白は白枡ビショップの斜筋を開けたままナイトをe2に展開する用意をしている。これは「グランドマスター引き分け」戦法のようなものになっている。多くの試合が 5…e6 6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.d4 cxd4 9.Nxd4 Nxd4 10.exd4 d5 11.cxd5 Nxd5 12.Nxd5(12.Re1 なら試合が続く)12…exd5 13.Be3 Be6 14.Qd2 Qd7 合意の引き分け になっている。

 次回ではの立場から 5.a3 戦法を激しく指す手法と、の立場から 5.e3 戦法を激しく指す二通りの手段について考察する。

 (3)5.Nf3 今回はこれを取り上げる。

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2013年04月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(45)

「Chess Life」1992年4月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ゆっくり急げ 閉鎖布局を激しく指す(続き)

実戦的な手の 5.Nf3

 これが最も重要な手である。まず第一に白は良い展開の手を指している。絶対悪手は指していない。第二にこの局面は白が早く Nf3 と指せば容易に数多くの手順から生じる。後で引用する棋譜からちょっと拾っただけでも次のようになる。1.Nf3 c5 2.c4 g6 3.g3 Nc6 4.Bg2 Bg7 5.Nc3。1.Nf3 g6 2.c4 Bg7 3.Nc3 c5 4.g3 Nc6 5.Bg2。1.c4 c5 2.Nf3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.Nc3。

 本譜の手のあと黒は 6.d4 に対する用意ができていないなら 5…Nf6 で対称形を続けるわけにはいかない。そのあと 6…cxd4 7.Nxd4 O-O 8.O-O Nxd4 9.Qxd4 d6 はイギリス布局の周知の戦法になるし、6…O-O 7.O-O d6 はキング翼インディアン防御のユーゴスラビア戦法に転移する。

 定跡の意見では黒の戦略的に最も本筋の手は次の手である。

5…e6

 黒はこのあと ,,,Nge7、…O-O そして …d5 と指してキング翼をきれいに展開し中原に影響を及ぼす。白によるいつもの戦略的な指し方の最近の例は次の試合である。グリコ対ドルーギー、米国選手権戦、1991年 6.O-O Nge7 7.d3 d5 8.Bg5 h6 9.Bd2 O-O 10.a3 b6 11.Rb1 Bb7 12.b4 dxc4 13.dxc4 cxb4 14.axb4 Rc8 15.c5 bxc5 16.bxc5 Na5 17.Nb5 Bxf3 18.Bxf3 Rxc5 19.Nxa7 Qd7 20.Bxa5 Qxd1 21.Rfxd1 Rxa5 22.Rd7 Bd4 合意の引き分け

 ここ5年に渡って白側の選手はすぐに局面を開放する創造的な手法も探究してきた。

6.d4!?

 このポーンの犠牲の戦略的な正当性は 5…e6 と突いた結果黒陣に生じたd6の地点の一時的な弱体化である。これにつけ込むためには白は局面を開放しなければならない。この論理の正しさにもかかわらずこの犠牲はつい最近評価を得た。例えば1979年に出版された「Encyclopedia of Chess Openings A」ではたった1例しか出ていない。

6…cxd4 7.Nb5 d5 8.Qa4 Nge7 9.cxd5 Nxd5 10.Nbxd4 Bd7 11.Qd1 Nxd4 12.Nxd4 Qb6 13.Nb3 Bc6 14.O-O O-O 黒がわずかに優勢(レンジェル対ビレク、ハンガリー選手権戦、1964年)

 黒には犠牲を拒否する満足な手段がない。例えば 6…Nge7?! と 6…d6?! は 7.d5 で何の代償もなく狭小な陣形になる。6…Bxd4? も悪く 7.Nb5 Bg7? 8.Qd6 で白の勝勢になる。これで黒に残るのは 6…cxd4 と 6…Nxd4 になる。この二つの手は現在同等に重要で、実戦例を用いてそれぞれ解説する。

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2013年04月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(46)

「Chess Life」1992年4月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ゆっくり急げ 閉鎖布局を激しく指す(続き)

Ⅰ)1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.Nf3 e6 6.d4 cxd4 マイルズ対コステン、パルマ・デ・マリョルカ、1989年

7.Nb5 d5!

 この手は一般にd6の地点の問題を防止する黒の最良の手段と考えられている。7…d6?! は劣った手で、8.Nfxd4 と取られるとd6の弱点がまた目立ってくる。

8.cxd5

 白は積極的に指すように努めなければならない。すぐに 8.Nbxd4?! とポーンを取り返すのは的外れである。なぜなら 8…dxc4! 9.Nxc6 Qxd1+ 10.Kxd1 bxc6 となって、白キングの位置が良くなくて黒が既に優勢になるからである(レビン対ラグノフ、ソ連、1989年)。

8…Qa5+ 9.Qd2

 この手と 9.Nd2 のどちらでチェックを防ぐのが有望かはまだ分からない。9.Nd2 のあとは 9…Qxb5(9…exd5?! 10.Nd6+ Ke7 11.Nxc8+ Rxc8 12.O-O Nf6 13.b4! Nxb4 14.Nb3 Qa6 15.Nxd4 は白が良い[マクナブ対コールマン、英国選手権戦、1990年])10.dxc6 Ne7 11.a4 で重要な局面になる。1989年パリでのチェルニン対ヤンサ戦ではここで「グランドマスター引き分け」が合意された。1990年ロイズ銀行大会のマクナブ対ボイトキーウィッツ戦では両者が戦いを続け 11…Qb4 12.b3 Nxc6 13,Ba3 Qa5 14.O-O Bf8 15.Nc4 Qd8 16.Bxf8 Kxf8 17.Qd2 Kg7 18.Rad1 Qf6 と進んだ。ここで白は 19.Bxc6 bxc6 20.Qxd4 Qxd4 21.Rxd4 でポーンを取り返し、互角の収局が28手で引き分けになった。

9…Qxb5 10.dxc6 Qxc6 11.O-O

 これで白は 12.Nxd4 でポーンを取り返す用意ができた。そうなれば開けた局面で展開に優っているために明らかに優勢になる。黒はクイーンを動かさなければならないが、理にかなった地点が二箇所ある。

11…Qb6

 この手がはるかに最も野心的でそして危険な面を持っている。黒は貴重な得しているdポーンにしがみつくことに期待している。11…Qd6 はかなり安全な手で、黒はポーンを返すことにより陣形を引き締める用意をしている。そのあとの想定される手順は 12.Rd1 e5(12…Ne7 13.Nxd4 O-O 14.Nc6 Qc7 15.Qa5 b6! はラグノフによると形勢不明である)13.e3 Ne7 14.exd4 exd4 15.Qe2!? O-O 16.Bf4 Qd8!(16…Qe6?! 17.Qxe6 Bxe6 18.Nxd4 は白の有利な収局だった[ラグノフ対スパチェク、ベルリン、1990年])である。1990年ベルリンでのシュテルン対スパチェク戦では白がここで 17.Bg5? と悪手を指し 17…Re8 で不利になった。ラグノフは 17.Be5! が正着だと指摘し 17…Bxe5(17…Nc6?! 18.Bxg7 Kxg7 19.Nxd4!)18.Qxe5 Nc6 19.Qc5 が必然の手順でこのあと 19…Bg4 20.h3 Bxf3 21.Bxf3 の局面を互角としている。私はポーンを取り返したあと白がポーンの形が良いので少し優勢なのではないかと思う。

12.b3! Ne7 13.Ba3 Nd5?

 マイルズはこれが成立しないことを見事に見せつける。13…Bf6 も気の進まない手で、14.Rac1 から 15.Bc5 で圧力がかかり続ける。黒の最善の手順は 13…Nc6 14.Rac1 e5 15.e3 Bg4 のようである。ここまでは1991年ケルテミンデでのL.ハンセン対ヤンサ戦だが、その試合の 16.Ng5 の代わりにハンセンは 16.Bc5! Qd8 17.exd4 を白の最も有望な手順と分析している。彼は 17…e4!? を黒の最善の受けと考え、そのあと 18.Rfe1 Bxf3 19.Bxf3 f5 20.d5 Ne5 21.Bxe4! fxe4 22.Rxe4 で、犠牲にした駒の代わりに白が2ポーンを得て攻撃が非常に強力な局面になるとしている。

14.Rac1 Nc3 15.e3!

 黒は筋を閉じたままにしようとし、白は開けることに努めている。ここで 15…Qa6 16.Nxd4 Bxd4 なら白は 17.Rxc3 と 17.exd4 のどちらでも大きく優勢になる。

15…dxe3 16.fxe3

 白のポーンの犠牲の威力を見せつけるのはこの局面である。黒はキングが元位置で身動きがとれずクイーン翼は展開できていない。ここで 16…Nd5 なら白は 17.Bc5 から 18.e4 で圧力をかけ続ける。

16…Qa6 17.Bb2 Ne4 18.Qc2 Nf6

 代わりに 18…Bxb2 19.Qxb2 O-O なら 20.Ne5! f5 21.Bxe4 で黒の負けになる(マイルズ)。

19.Ng5! e5

 19…Qa5 も 20.Nxf7! Kxf7 21.Qc7+! Qxc7 22.Rxc7+ Kg8 23.Rxg7+ Kxg7 24.Bxf6+ Kg8 25.Rd1 で黒の負けになる(マイルズ)。黒は本譜の手のあと 20.Nxf7 に 20…O-O! と応じて受けの可能性をいくらかでも残すつもりである。白の次の手はそれ以上のことを望んでいた。

20.Qc5! Be6 21.Rxf6! Bxf6 22.Bf1 Rc8

 22…Qxf1+ は 23.Kxf1 Bxg5 24.Qxe5 で黒の戦力損が大きく、22…Qb6 は 23.Bb5+! Bd7 24.Bxd7+ Kxd7 25.Qd5+ で同様に悲惨になる。

23.Bb5+!

 この手は黒にすべてを忘れさせる。マイルズは精力的かつ効率的に仕上げた。

23…Rc6 24.Ne4! Be7

 24…Bg7 なら単純に 25.Bxe5! で良い。

25.Qxe5 f6 26.Rxc6! fxe5

 26…bxc6 27.Qxe6! Qxb5 は 28.Nd6+ で終わる。

27.Rxa6+ Kf7 28.Rxa7 Bd5 29.Bc4 黒投了

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布局の探究(47)

「Chess Life」1992年4月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ゆっくり急げ 閉鎖布局を激しく指す(続き)

Ⅱ)1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.Nf3 e6 6.d4 Nxd4 D.グレビッチ対ドラギー、ニューヨーク・オープン、1989年

7.Nxd4 cxd4

 ここでも 7…Bxd4?! は 8.Nb5! で黒の黒枡ビショップがg7よりも悪い位置にいるので的外れである。

 本譜の手のあと白のナイトがd6の地点を目指さなければならないことは明らかである。しかしb5とe4のどちらが経由地点として良いだろうか。

8.Ne4!

 ごく最近の実戦例によればe4のナイトの方がb5よりも安定しているので望ましい経由地点である。8.Nb5 のあとの主手順は 8…Qb6 9.Qa4 a6(10.Qb4 の狙いを阻止した)10.e3 d3! となっている。(10…Ne7 は効果が劣り、1990年ノビサド・オリンピアードでのサンタクルス対ファウラント戦は 11.Nxd4 O-O[11…Bxd4?! 12.exd4 Qxd4 13.O-O は黒の黒枡が慢性的に弱い]12.O-O と進んだ。白が有利な態勢でポーンを取り返したのに対し、黒は白枡ビショップの展開に困難を抱えている。)1989年ニューヨーク・オープンでのチェルニン対ウォルフ戦では(10…d3!)11.Qa3? Bf8! で白が明らかに苦戦に陥った。代わりに両選手は 11.O-O Ne7 を提唱している。そしてウォルフは 12.Nc3 に続けて「白は互角にすることに集中すべき」と言い、一方チェルニンは 12.Rd1 で白が全然問題ないと考えている。

8…Ne7

 この手は成立するが、それでもある意味いくらか敗北主義的である。つまり黒は何かもっと悪いことにならないようにポーンを返しキャッスリングもやめることになる。実戦で試された意味のある手は次のとおりである。

 (a)8…f5?! 9.Nd6+ Kf8 10.Qb3 Be5 11.Qa3 Kg7 12.Bf4! Bf6 13.c5 Ne7 14.O-O Nc6 15.b4! b5 16.cxb6e.p. e5? 17.Bh6+ 黒投了(D.ジョハンセン対ホークスワース、英国選手権戦、1984年)

 (b)8…Qc7 9.c5! Ne7 10.Bf4 Qa5+ 11.Bd2 Qc7 12.Nd6+ Kf8 13.Rc1 h5 14.Qa4(チェルニン対T.パラメスワラン、バンガロール、1981年)黒はクイーン翼の締めつけを全然払いのけることができず26手で負けた。

 (c)8…d6!? 9.Qa4+ Ke7 これが本手だろう。

 ⅰ)10.c5 d5 11.Nd6 Kf8 12.O-O Ne7 13.e4 dxe3e.p. 14.Bxe3 h6 15.Rad1 Kg8(マクナブ対チャンドラー、ブラックプール、1990年)白にはポーンの代償があるはずだが、黒は最終的に陣容をまとめて51手で勝った。

 ⅱ)10.Bd2 a5 11.Qa3 f5 12.Bg5+ Nf6 13.Bxf6+ Bxf6 14.Nxf6 Kxf6 15.O-O Qb6 16.Rad1 Rd8 17.e3! dxe3 18.fxe3 Qb4 19.Qd3(シュワルツマン対フェッデル、コペンハーゲン、1990年)形勢不明だが、白が36手で勝った。

9.Nd6+ Kf8 10.Nxb7 Bxb7 11.Bxb7 Rb8 12.Bg2 Kg8 13.O-O h6 14.b3 d5?!

 黒は 15.cxd5?! Nxd5 で有利になることを期待していたが、戦略的に咎められる。正着は「手動キャッスリング」を完了させる 14…Kh7 で、双ビショップの白が少し優勢である。

15.Ba3! dxc4 16.bxc4

 白のビショップは盤面のほとんどを支配し、cポーンはパスポーンになり、黒のナイトは有効な居場所がない。グレビッチは非常に参考になるやり方でこれらの要素をもとに指し手を進めていく。

16…Qd7 17.Rb1 Kh7 18.Qc2 Rb6 19.Rb3 Rc8 20.Rxb6!

 黒のナイトがc8に行けないので、白はb6のポーンが弱くなることを見越してこの交換に喜んで同意した。

20…axb6 21.Qb3 Qc7 22.Rc1 Rb8 23.Rb1! Bf8 24.Qb5 Nf5 25.Bxf8 Rxf8 26.Qc6! Qa7 27.a4!

 双ビショップの優位は弱いb6ポーンに対する圧力と共に、より働きの良い駒の優位に変わった。少なくとも白にはクイーン翼に強力なパスポーンができる。

27…Rb8 28.Be4 Ne7?!

 黒は時間に追われて白クイーンをもっと強力な地点に行かせた。グレビッチによれば 28…h5 と突くことが必要だった。

29.Qd6 Re8 30.c5! bxc5 31.Rb7 Qa8 32.Rxe7 Qxe4 33.Rxf7+! Kg8 34.Qd7 Qb1+ 35.Kg2 Qe4+ 36.Kh3 黒投了

 ここで適切な二つの質問がある。

 (1)6.d4!? のギャンビットは棋理に合っているか?

 確かなことを言うのにはまだ早すぎる。私の推測では白がポーンの代わりに十分な代償を得ていることが証明されるというところだろう。

 (2)これを指すべきだろうか?

 a)棋理に合った明快な戦略的な指し方だけが好きならば答えは「いいえ」である。

 b)十分に研究し、難解な局面になってもかまわないならば、たぶん時々という基準で、答えは「はい」である。

 たぶん相手が退屈な指し方をするならば意表を突く武器として用いるのが最も効果的だろう。

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2013年05月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(48)

「Chess Life」1992年6月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

今回は両方の側から

 前回(1992年4月号)ではイギリス布局対称戦法の普通は穏やかで戦略的で閉鎖的な主流手順の 1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.Nf3 で白がどのように著しく局面を激しくできるかを示した。白の5手目で他の重要な手は 5.a3 と 5.e3 の2手である。今回は穏やかそうな 5.a3 のあと白がどのように局面を激しくできるかと、5.e3 のあと黒がどのように対称形を避けることができるかとを解説する。

 A)1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.a3

 白はクイーン翼で b2-b4 突きによる長期的で戦略的な進攻を準備している。これが実現したとしても黒には心配すべき具体的な狙いはない。それでも白はクイーン翼で陣地を広げたことになり、閉鎖的で戦略的な布局はそのような長期的な特徴を持つものである。GMのパル・ベンコーとヤセル・セイラワンはこの戦法の中心的な専門家として長い間認められてきた。白にはまだ何も「狙い」がないので黒にはいくつかの適切な応手がある。

5…e6

 ちょうど 5.Nf3 のあとの主手順のようにこの手は20年以上に渡って高い評価を得てきた。黒はキング翼ナイトをe7に展開して …d7-d5 突きを用意し、その間キング翼ビショップの斜筋は開けたままにしておく。他には 5…a6、5…b6、5…d6 それに 5…Rb8 も良い手である。

 白の穏やかで戦略的な作戦はここから 6.Rb1 で続いていく。そのあと定跡では 6…a5 によって白のポーン突きを防ぐのが望ましいと考えられている。しかし白にはもっと野心的な可能性もある。

スミスロフ対ハートストン、ヘースティングズ、1972-73年

6.b4!?

 ちょっと見はこれはほとんど「手拍子」のようである。白はまだ Rb1 を指していないことを忘れているかのようである。しかし黒にとって事は見かけほど簡単でない。

6…Nxb4!

 この「不自然な」取り方だけがうまくいく。6…cxb4!? は劣った手で、7.axb4 と取られてどん欲も辛抱も報われない。

 1)7…Nxb4 8.Ba3 Bxc3(GMロバート・バーンの指摘のように 8…Nc6? は 9.Nb5!、8…Bf8?! は 9.d4 で、もっと悪い)9.dxc3 Nc6 10.h4 Qf6 11.Nf3! Qxc3+ 12.Nd2 f5 13.O-O Nf6 14.Ra2 Qa5 15.Qa1 Qd8 16.e4(ルネ対ユダシン、オステンド、1988年)黒の展開の遅れと黒枡の弱点のために白の攻撃の見通しはきわめて明るい。

 2)7…Nge7 8.b5 Ne5 9.c5 d5 10.cxd6e.p. Qxd6 11.Ba3 Qd8 12.Nh3 O-O 13.O-O Re8 14.Bc5 a6 ここまでは1968年ルガノ・オリンピアードでのA.ガルシア対R.バーン戦である。ここで実戦の 15.d4? の代わりにバーンの推奨する 15.Qb3! なら、展開の優位、クイーン翼での圧力、それに中央列のポーンの多さのために白が明らかに優勢だった。

7.axb4 cxb4 8.d4

 「相対的な節度」はここで白に必要なものである。8.Nb5?! Bxa1 9.Qa4 Bf6! 10.d4 は指しすぎである。それは 10…a6! 11.Nd6+ Kf8 12.Nf3 Be7! 13.Qxb4 a5 14.Qc5 f6! のためで、白には交換損とポーン損の代償が何もない。次のように1981年ボーフムでのロブロン対カバレク戦でその先がさらに示された。15.h4 h5 16.O-O Nh6 17.e4 Nf7 18.e5 Bxd6 19.exd6 b6 20.Qa3 Ba6 21.Nd2 Kg7! 黒が陣容をまとめて39手で勝った。

8…bxc3 9.e3!

 9.Nf3?! は劣った手で、9…Ne7 10.O-O O-O 11.Qb3 d5 12.c5 Nc6 13.Qxc3 Re8 14.Bf4 b5! 15.cxb6e.p. Qxb6 16.e3(16.Rfb1? Nxd4!)16…Bf8(ボボツォフ対ハートストン、ブルニャチカ・バニャ、1972年)となった。黒はきれいなパスaポーン得で、白はその代償が何もない。スミスロフの作戦により白は適切な駒配置を保ったままc3で取り返すことができる。

9…Ne7 10.Ne2 d5 11.cxd5 Nxd5 12.Ba3 Bf8!

 こう指さないと黒はキャッスリングできない。ハートストンは生じる局面を黒がわずかに優勢と評価している。タイマノフは Encyclopedia of Chess Openings A で白に犠牲にしたポーンの代償があると判断している。

13.O-O Bxa3 14.Rxa3 Bd7 15.e4 Ne7 16.Nxc3 O-O 17.Qa1 a5 18.Rb1 Nc6 合意の引き分け

 お互い実力者であることが敵対行為の中止に影響を与えたことは確かである。黒のハートストンは引き分けに満足だった。一方スミスロフはポーンの代わりに何を得ているか確信がなかった。ハートストンはさらに次のような分析を付け加えている。19.Rxb7? は 19…Nb4! で道を踏み外したルークが捕獲されるので悪手であり、19.Rd1 Nb4 20.Qc1!? の形勢は黒が少し良いと形勢不明の中間あたりである。私には白の中央列のポーンが多いことと黒陣の黒枡の弱点とにより白が正当な代償を得ているように思える。しかし黒の18手目のあとの真実に迫る唯一の方法はいく人かの一流選手に実戦で試してもらうことである。

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2013年05月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(49)

「Chess Life」1992年6月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

今回は両方の側から(続き)

 B)1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.e3

 この手の洗練された着想は 5.Nf3 や 5.a3 の戦法における黒の 5…e6 の着想と同じである。つまりナイトがスムーズにe2に展開でき白は白枡ビショップの斜筋を開けたまま d2-d4 突きを目指す。唯一の欠点は実戦的なものである。すなわち白が閉鎖的で対称の布局で非常に穏やかに指しているので、黒は対称形を保つ余裕がある。4月号で既に示されたように、互角に達する黒の最も簡明で本筋の手段は 5…e6 である。そして 6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.d4 cxd4 9.Nxd4 Nxd4 10.exd4 d5 11.cxd5 Nxd5 となって、長い目で見れば互角であってそれを超えることはない。しかし本譜の手は自分が格上または大会の状況のため勝ちたいか勝つことが必要ならば黒にとって大きな問題となる。白の作戦は戦略的に欠陥がないので、対称形からそれることは黒にとって問題となる可能性がある。非対称形の重要な手段には以下の三つがある。

 1)5…Nf6

 ナイトが「申し分のない」中央の地点に展開されたが、それでも黒の中央での連係は白とは比べものにならない。だから白は楽で危険のない優勢を期待することができる。例えば 6.Nge2 O-O 7.O-O d6 8.d4 Bd7 9.b3 a6 10.Bb2 Rb8 11.Qd2 Qa5 12.Rfd1 cxd4 13.exd4 Rfd8 14.d5 Ne5 15.Nd4 となれば広さと中央の態勢のために優勢である(マウス対タリ、ドイツ、1990年)。

 私の考えでは次の二つの手のどちらでも黒の負ける危険性は増えないで勝つ可能性が増す。

 2)5…e5(ラドゥロフ対マルティン、トレモリノス、1974年)

 白が直前の手であえてしなかったこと、つまりeポーンを2枡突くこと、を黒はやり、それにより白の d2-d4 突きを防ぎ中央を広げた。もちろん不利益は同じくらい明らかである。すなわちd5の地点の恒久的な弱体化と自分の黒枡ビショップの閉じ込めである。たとえこれまでの定跡で白の優勢が明白に示されなくても、これらの否定材料は黒陣の信頼性を大きく損ねてきた。

 手短に言うと本譜の手は今日では国際大会でほとんど見られない。

6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.a3

 b2-b4 突きを目指すのはこのような局面での常套手段で、クイーン翼を広げ黒のcポーンの中央への影響力を削ごうとする。それでも 8.b3 d6 9.Bb2 と展開するのも魅力的である。例えば 9…Bg4 10.d3 Qd7 11.Qd2 Bh3 12.Bxh3 Qxh3 13.f4!(べジョン対ポルティッシュ、マドリード、1973年)となれば、優良ビショップと中央の支配の優位とで白が少し優勢である。

8…d6 9.Rb1 a5

 このような局面でのよくある問題は、白の b2-b4 突きを防ぐために黒が …a7-a5 と突くべきかということである。普遍的な「正解」はない。しかし私の個人的な見解では、ほとんどの状況において黒は …a5 と突いていない方が対処しやすいと思う。というのは …a5 と突くとb5とb6の地点が根本的な弱点になるからである。9…Be6 と指した好例は1956年モスクワでのパッハマン対ボトビニク戦である。10.Nd5 Bf5 11.Nxe7+(11.d3!?)11…Qxe7 12.d3 e4! 13.Nf4 exd3 14.e4 Be6 15.b3 Rab8 となってほぼ互角(タイマノフ)だった。

10.d3 Rb8 11.Bd2 Bf5?!

 この白枡ビショップ同士を交換する作戦は、黒の白枡の弱さを目立たせるだけでなく、黒に恒久的に不良黒枡ビショップを残すのに役立つだけである。正着は 11…Be6 で中央に展開することで、例えば 12.Nd5 b5 13.cxb5! Rxb5 14.Nec3 で白がわずかな優勢を維持する(ラドゥロフ)。

12.Qc2 Qd7 13.Nd5 b6 14.Nec3 Nxd5 15.cxd5! Ne7 16.e4! Bh3 17.b4! Bxg2 18.Kxg2

 白の作戦の方が黒よりもはるかに成功を収めた。白のビショップの方がよく利いていて、ナイトもそうである。白のdポーンが中央の重要な領域を得たのに対し、黒のdポーンは根本的な弱点になっている。黒は自分の問題に対し何の代償もない。

18…axb4 19.axb4 f5 20.bxc5! bxc5?

 この普通の取り返しのあと白は黒のdポーンに襲いかかる。20…dxc5 21.Nb5 f4 の方が気が進まないが実戦より優る。白は 22.f3 で明らかに優勢を維持するが、局面の閉鎖性のために突破は実現が難しい。

21.Rxb8! Rxb8 22.Rb1! Qc7 23.Rxb8+ Qxb8 24.Qa4 Qd8 25.Nb5

 白の3駒はきれいに協調していて、直接の狙いは 26.Qa7 から 27.Ba5 である。黒敗れたり。

25…Qd7 26.Qa8+ Kf7

 26…Bf8 なら 27.Bh6 Qc8 28.Qa7! Bxh6 29.Qxe7 Bf8 30.Nxd6 で白の勝勢である。

27.Qb8 黒投了

 dポーンが落ちて勝負が決まった。27…Nc8 と受けても 28.Qxc8! Qxb5 29.Qe6+ Kf8 30.Qxd6+ までである。

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布局の探究(50)

「Chess Life」1992年6月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

今回は両方の側から(続き)

 B)1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.e3

 3)5…Bxc3!?(メドニス対ラルセン、ニューヨーク(WFW)国際大会、1990年)

 非常に強い選手かど素人しかこんな手を指さないだろう。黒は展開したばかりのキング翼ビショップを自発的に切り、その結果自分のキング翼を弱め、白の中央を強め、白に双ビショップの可能性を残した。これにより黒は何を達成することを期待しているのだろうか。非常に不均衡な局面をもたらす実戦的な側面を別にして、黒は白の中央のポーン集団が動きづらくなりクイーン翼ビショップの利きが狭まることを期待している。

 この局面では実戦の手は新手に近いようである。局後の検討でラルセンは「類似」の局面で白と黒の両方で同じ着想の手を指したいくつかの例を見せてくれた。さらに付け加えてこの着想が成立するのは相手が e3/…e6 と突いている場合だけで、理由はクイーン翼ビショップの展開にさしつかえるからということだった。本局とほとんど同時期に指された1990年ティルブルフでのセイラワン対アンデルソン戦では 5.a3 d6 6.e3 のあとGMアンデルソンも 6…Bxc3 と指したことは付記するに値する。黒の …d7-d6 は白の a2-a3 よりも役に立つのでその試合の黒は本局よりも少し良かった。

6.bxc3

 中央に向かって取るのは常識的だが、それでもクイーン翼ビショップを自由にするのがもっと難しくなりaポーンが孤立するので私としては嬉々としてそうしたわけではなかった(セイラワンも上記のアンデルソン戦で同じ取り返し方をした)。いずれにしても今度黒の取りに対処しなければならない時は 6.dxc3 と応じるつもりである。そのあと 6…f5 と来れば、局面の開放は双ビショップの利益になるはずなので白は 7.e4! と指す。

6…f5! 7.f4?!

 これによりクイーン翼ビショップがもっと閉じ込められることは分かっていたが、私としては …e7-e5 突きを防ぎたかった。ラルセンの考えでは 7.e4!? も正着だということである。

7…Nf6 8.Nf3 b6 9.O-O Bb7 10.d3 Na5 11.Qe2 Qc7 12.Bb2?!

 局面が閉鎖的なので黒のナイトの方が白の黒枡ビショップよりも可能性に富むし、黒のポーンの形は完璧である。これらすべてから黒が優勢である。実戦の手は無駄手で、12.Bd2 の方が良かった。

12…O-O 13.Rae1 Rae8 14.Bc1?!

 白はさらに手損した。14.Nd2 から e4 かすぐに 14.h3 の方が理にかなっている。

14…e6 15.h3 d6 16.Nh2 Bxg2 17.Qxg2 Qc6!

 白が 18.g4 からキング翼で何かを始めようとしているので、ラルセンはクイーン交換によりその機先を制した。収局になれば黒はポーンの形の良さと小駒の優位との戦略的有利さにゆっくり物を言わせることができる。

18.g4 Qxg2+ 19.Kxg2 Rf7 20.e4?!

 この楽観的なポーン突きであとに空所が残り、ナイトがg4に行けても不十分な代償である。正着は 20.Kg3 から 21.Nf3 だった。それでも黒が優勢だが、白は心配すべき弱点が減っている。実戦の手のあとラルセンは 5…Bxc3!? の着想をみごとに見せつけ、決してこちらにつけいる隙を与えなかった。

20…fxe4 21.g5 Nh5 22.Rxe4 Kf8 23.Rfe1 Rfe7 24.Kf3 d5 25.cxd5 exd5 26.Rxe7 Rxe7 27.Bd2 Rxe1 28.Bxe1 Nc6 29.Ng4 Ke7 30.Ne3 Ke6 31.Kg4 Ng7 32.Nc2 Ne7 33.Bd2 Ngf5 34.Kf3 Nc6 35.Kg4 a6 36.Kf3 Kd6 37.Be1 b5 38.Bd2 a5 39.a3 Nce7 40.Be1 Nc8 41.Bd2 Nb6 42.Be1 Na4 43.Bd2 Ke6 44.Ke2 Nb6 45.Kf3 c4 46.dxc4 Nxc4 47.Be1 Ncd6 48.Bf2 Kd7 49.Bb6 Nc4 50.Bf2 Nd2+ 51.Ke2 Ne4 52.Be1 Kc6 53.Na1 Nc5 54.Nc2 Ne6 55.Bd2 Nd6 56.Kd3 Nc4 57.Bc1 Nc5+ 58.Ke2 Nb3 59.Be3 Nd6 60.Kd3 Kd7 61.Ba7 Nc4 62.f5 gxf5 63.Bb8 Ke6 64.h4 Nc1+ 65.Kd4 f4 66.Kc5 Ne2 67.Kxb5 Kf5 68.Kc6 Nxc3 69.Nd4+ Kg4 70.h5 Kxg5 71.Ne6+ Kxh5 72.Nxf4+ Kg4 73.a4 h5 74.Nxd5 Nxd5 75.Kxd5 Nb6+ 76.Kc6 Nxa4 77.Kb5 Nc3+ 78.Kxa5 Ne2 79.Bh2 h4 80.Kb5 Kh3 81.Be5 Kg2 82.Kc4 h3 83.Kd3 Ng3 白投了

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訳注 「WFW」は「Watson, Farley & Williams」のことで、イギリスに本拠をおく投資会社の名前です。

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布局の探究(51)

「Chess Life」1992年8月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

「互角」とはどういうことか

 「Encyclopedia of Chess Openings」である戦法を調べていると手順の終わりに = という記号がついていたりする。最新の「チェス新報」の棋譜を並べているとやはり13手目に = という記号がついていたりする。本誌を開き自分の好きな布局の解説を読んでいるとグランドマスターが局面を「互角」と判定していたりする。この判断の基となる理由、どのようにこの判断に至ったか、そしていったいなぜ局面が互角とみなされるのかについて疑問に思ったことはないだろうか。

 筆者はチェスを指し始めて間もない頃よくこのような疑問を抱いたことを覚えている。今回は布局定跡の現在解明されているところを基にこれらの疑問に答えてみよう。次の二つの事実もある。(1)黒は布局の段階で互角になれば満足できる。(2)特定の戦法で多くの発見がたえず起こっている。従って現在「互角」と考えられていることが1年後に、あるいは1ヵ月後にでさえ、互角でなくなるかもしれないということがありうる。

 「布局での互角」は以下の4種類に分類することができる。

 (1)対称形互角

 対称形互角とは局面が対称で、手番が何の有利さももたらさないことを意味している。例えば以前に論じたイギリス布局の対称戦法をまた取り上げよう。1.c4 c5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.e3 e6 6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.d4 cxd4 9.Nxd4 Nxd4 10.exd4 d5 11.cxd5 Nxd5 12.Nxd5 exd5

 白には恒久的な圧力をかける手段が何もないことが分かる。例えば1972年パルマデマリョルカでのI.ビレク対F.ゲオルギュ戦では 13.Qb3 Be6! 14.Be3 Qd7 15.Rfc1 Rfc8 16.a4 h5 17.h4 Rc6 引き分けとなった。だから 12…exd5 の局面を「互角」と呼ぶのはまったく適切である。

 スラブ防御交換戦法の次の退屈な対処法も対称形互角に至る。1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.cxd5 cxd5 5.Nc3 Nc6 6.Bf4 Bf5 7.e3 e6 8.Bd3 Bxd3 9.Qxd3 Bd6 10.Bxd6 Qxd6 11.O-O O-O 12.Rac1 引き分け、A.ボイトキーウイッツ対E.トーレ、マニラ、1991年 12…Rac8 のあと対称形互角が続く。

 以上の実戦例2局から分かるように、中央での争点がなくこの争点を生じさせる可能性もなければ、対称な局面が対称形互角に至る公算は大きい。しかし白が対称な陣形から中央での活動を引き起こせれば、白が優勢を保つ見込みは明るい。レーティ布局の二重フィアンケット戦法で 1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.g3 b6 4.Bg2 Bb7 5.O-O g6 6.b3 Bg7 7.Bb2 O-O 8.Nc3 のあと 8…Nc6 で対称形を続けるのは互角になる保証がない。なぜなら白が 9.d4! で中央から仕掛けることができるからである。そして 9…Nxd4 10,Nxd4 Bxg2 11.Kxg2 cxd4 12.Qxd4 d6 のあと、白が 13.e4 で明らかに広さで有利になり、それにより通常の布局の優勢を得る。

 以前は「無害」だった戦法をさらに深く追究していくにつれて、かつて考えられていたよりも多くのことが分かってくる。フランス防御交換戦法の 1.e4 e6 2.d4 d5 3.exd5 exd5 は最近著しく評価が高くなってきた。4.Nf3 のあと白は1991年ティルブルフでのカスパロフ対V.コルチノイ戦の 4…Nf6 5.Bd3 c5 6.O-O でも 4…Bd6 5.c4 Nf6 6.Nc3 でも少し主導権がある。というのはどちらも白が黒より選択肢が多いからである。

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布局の探究(52)

「Chess Life」1992年8月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

「互角」とはどういうことか(続き)

 (2)強制互角

 強制互角はどちらも反復手順を避けることができない時に生じる。典型的な例は次のグリューンフェルト防御の1戦法である。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Bf4 Bg7 5.e3 c5 6.dxc5 Qa5 7.cxd5(7.Rc1 なら試合が続くが、形勢はほとんど互角である)7…Nxd5 8.Qxd5(他の手はすでに黒の優勢になる)8…Bxc3+ 9.bxc3 Qxc3+ 10.Ke2 Qxa1 11.Be5 Qc1!(11…Qb1? は 12.Bxh8 Be6 13.Qd3! で黒に 13…Bc4 がないので白が良い)12.Bxh8 Be6! 13.Qxb7(13.Qe4 Bc4+ 14.Kf3 Qxf1 15.Qxb7 Qd1+ 16.Kg3 Qd5 も白が何もでかしていない)13…Qc2+

 チェックの千日手が避けられない。

 (a)14.Kf3 Qf5+ 15.Ke2(15.Kg3?? Qg4#)15…Qc2+ 引き分け、ボーン対パーディー、通信戦、1945年

 (b)14.Ke1 Qc1+ 引き分け、A.ルピアン対A.アドルヤン、マニラ、1991年

 もちろん強制互角は上述のような乱戦からだけ現れるのではない。洗練された応用も可能である。非常に重要な実戦例ではジオッコピアノの昔のよく練られた戦法から白の布局の優位の可能性が奪いさられた。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.c3 Nf6 5.d4 exd4 6.cxd4 Bb4+ 7.Bd2 Bxd2+ 8.Nbxd2 d5 9.exd5 Nxd5 10.Qb3 60年以上もの間通常の応手は 10…Nce7 だった。しかし 11.O-O O-O 12.Rfe1 のあと、白にはより活動的な駒と中央の優位でわずかだが気分のよい危険のない主導権がある。

 1979年南アフリカでのA.マイルズ対V.コルチノイ戦まではそうだった。この試合で黒は自己矛盾したような 10…Na5! 11.Qa4+ Nc6!!(1953年米国オープンでのE.メドニス対B.ロジャ戦では 11…c6? 12.Bxd5! Qxd5 13.O-O で盤端のナイトが危険にさらされた)で白の作戦を無害にした。急に白のクイーン、ビショップ、それにクイーン翼ナイトの連係が悪くなり、黒には 12…Nb6 で白のビショップを切って落とす狙いができている。その上 12.Bb3 O-O のあと黒の活動的なナイトは白の孤立dポーンを脅かし始める好位置にいる。白は黒のクイーン翼ナイトの釘付けにすぐにつけ込む手段もない。例えば 12.Ne5?! は 12…O-O! 13.Nxc6 Qe8+ で主導権はもう黒のものである。

 だから白は 12.Qb3 と指すしかなく、「強制」の 12…Na5 13.Qa4+ Nc6 のあと両対局者は引き分けに合意した。

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2013年06月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(53)

「Chess Life」1992年8月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

「互角」とはどういうことか(続き)

 (3)実戦的互角

 ある局面で理論的に有利な要素が何の役にも立たない時、実戦的には互角である。恐らく最もよくある例はカロカン防御の戦略的な主流戦法(3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Bf5 または 4…Nd7)の多くから生じる。16-20手目あたりで白はd4にポーンがある結果としてまだ中央にわずかな優位を保持している。しかし黒はスムーズに展開を完了し陣形に何も弱点がなく、小駒がいくつか交換されている。だから実戦的な意味では形勢は互角である。

 局面が実戦的に互角であることはどのようにして分かるのだろうか。もちろん分析と実戦の助けによるあと知恵は偉大な教師である。しかし戦略的な布局の経験を積んだ大局に明るい強い選手もほとんどの状況で正しい判断を下す。次のイギリス布局のありふれた戦法からどのように正しい判断をするのを学ぶことができるのかを見てみよう。1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.Nc3 Nc6 4.g3 g6 5.Bg2 Bg7 6.O-O O-O 7.d4 cxd4 8.Nxd4 Nxd4 9.Qxd4 d6 10.Qd3 Bf5 11.e4 Be6 12.Bd2 a6 13.b3 Rb8 14.Rac1 Qd7

 cポーンとeポーンが4段目にあるので白が中央の広さで少し優勢である。これが白の唯一の切り札である。それでどうにかできるだろうか。見てみよう。

 (1)J.エールベスト対U.アンデルソン、レッジョ・エミリア、1991年 15.a4(15…b5 による反撃を防ぐため)15…Bh3! 16.f3 Bxg2 17.Kxg2 Rfc8! 18.Be3 Qd8 白はまだ広さの優位を保っているが、白枡ビショップ同士の交換で黒の負荷が軽くなり、残りの駒も白の策動をはね返すのにちょうどよく協力し合っている。GMエールベストはこの局面を「=」と判定している。すなわち形勢は実戦的に互角である。もちろんこれに満足できないGMエールベストは次の機会でさっそく改良手を繰り出した。

 (2)J.エールベスト対G.カームスキー、レッジョ・エミリア、1991年 15.Nd5! b5 16.Rfe1! Rb7 17.Qf1! 白は …Bh3 による交換を防ぎながら駒を活動的にした。だから優位を維持しこのあとの中盤戦でその活用に期待することができる。

 「実戦的互角」と「非互角」を分ける線はクイーン同士が早々と交換された時でさえ非常にわずかであることがある。1990年ノビサド・オリンピアードでのB.グリコ対R.シフエンテス戦では黒が3手目で珍しい手を指し白がすぐに収局に持ち込んだ。1.d4 d6 2.e4 Nf6 3.Nc3 e5!? 4.dxe5 dxe5 5.Qxd8+ Kxd8 6.Nf3 Bd6 7.Bc4

 白は少し主導権がある。黒はキャッスリングの権利を放棄し、キング翼ビショップはeポーンの守りに縛りつけられている。しかしクイーンは盤上からなくなりポーンの形は対称である。従って当然の疑問は黒がどのくらい互角に近いかである。試合は次のように続いた。

7…Ke7 8.Bg5 Be6 9.Nd5+

 9.Bxe6 Kxe6 は白がわずかな展開の優位を生かせないので実戦的に互角である。

9…Bxd5 10.Bxd5 c6 11.Bb3 h6?!

 この無駄手は重大な結果を招いた。IMシフエンテスは代わりに「11…Nbd7 =」を示した。彼の言わんとするところは実戦的互角である。12.O-O-O のあとの想定手順は次のようになるだろう。12…Nc5(12…h6?! は 13.Nh4! で黒が面白くない。例えば 13…g6 14.Bxf6+ Nxf6 15.Bxf7!)13.Bxf6+ gxf6 14.Nh4 Nxb3+ 15.axb3 Ke6 16.Nf5 Rad8 17.Rd3 Bc7! 白は絶好の位置の Nf5 で何とかできるだろうか?私にはよく分からない。もっと多くの分析が必要である。

 それはともかく黒には 11…Na6! 12.O-O-O Rad8 で実戦的互角を目指すもっと早い手段があると思う。そのあといくつかの変化では黒の Nd7 も Bd6 も浮き駒にならない。一例をあげると 13.Nh4 g6 14.Rd3 Nc5! 15.Bxf6+ Kxf6 16.Rf3+ Kg5 で黒が良い。

12.Bxf6+! Kxf6 13.O-O-O Rd8 14.Rd3!

 白が明らかに優勢である。

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布局の探究(54)

「Chess Life」1992年8月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

「互角」とはどういうことか(続き)

 (4)動的互角

 動的互角とは可能性が等しいということを意味している。一般にある局面が動的に均衡がとれていることを確認するには家でも盤上でも徹底的な考察が必要である。さらに局面が本質的に不均衡なので、新しい発見で評価が「互角」から変わる危険性が常に大いにある。それにたとえ可能性が実際に等しくても、局面の不均衡な性質のためうまく指した方が勝つことを意味している。

 この項では主に考えるべきことが本質的に戦略的な場合と戦術的な場合とを例を用いて説明する。

 (a)本質的に戦略的

 前局の局面図(1.d4 d6 2.e4 Nf6 3.Nc3 e5 4.dxe5 dxe5 5.Qxd8+ Kxd8 6.Nf3 Bd6 7.Bc4)に戻る。その時は白を持って指していたGMグリコは、約8ヵ月後の1991年米国選手権戦第1局でのW.ブラウン戦では黒を持って指していた。骨折って実戦的互角にしたくなかった彼はもっと意欲的な作戦を選んだ。

7…Be6!? 8.Bxe6 fxe6 9.Be3 Nc6!

 この手は本当の新機軸で、GMグリコは局面を「=」、すなわち動的互角と評価した。孤立二重ポーンの代償として黒はd5とf5の地点を支配し、半素通しf列が使え、重要なd4の地点を支配している。それでも私は読者に無批判でそのような二重ポーンを受け入れることのないよう注意してもらいたい。実際は1989年ハイファでのアントゥネス対L.ブルネル戦では凡庸な 9…Nbd7?! のあと黒が陣形の欠陥の十分な代償を得られなかった。

10.a3 a6 11.Ke2 Ke7 12.Rhd1 h6 13.h3 Rhf8 14.Rd3 Nh5

 ここで軽率な 15.Nh4? のために 15…Nd4+!(16.Bxd4? Nf4+)で黒が優勢になった。代わりにGMグリコは 15.g3 Nf6! で動的互角が続くとしている。d4とe4の地点に対する黒の圧力が二重ポーンの代償になっている。

 (b)本質的に戦術的

 戦術的に不均衡な重要局面はシチリア防御のリヒター・ラウゼル攻撃の次の戦型から生じる。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Bg5 e6 7.Qd2 a6 8.O-O-O h6 9.Bf4 Bd7 10.Nxc6 Bxc6 11.f3 d5 12.Qe1 Bb4 13.a3 Ba5 14.Bd2

 形勢の判断基準はシチリア防御に特有なものである。すなわち白は中央とキング翼で攻撃し、黒の可能性はクイーン翼にある。黒の 8…h6 はキング翼をポーン暴風にもろくし、白の 13.a3 はクイーン翼をポーン攻撃にさらしている。最近の実戦では白が優勢を保持できるようになった。例をあげると(a)14…dxe4?! 15.Nxe4 A.ロドリゲス対J.ノゲイラス、キューバ選手権戦、1990年(b)14…d4 15.e5! P.ウオルフ対M.ドラギー、ニューヨーク、1991年(c)14…Qe7 15.e5 Nd7 16.Kb1 Bb6 17.f4 J.ベンジャミン対B.グリコ、米国選手権戦、1991年、番勝負第2局

 しかし1991年ソ連でのI.グレク対G.セルペル戦で黒は改良した手を指した。

14…b5!

 IMセルペルはこの局面を「=」と判定した。これは明らかに動的互角を意味している。あとから考えれば本譜の手は明白に思われる。つまり黒はクイーン翼で有望なので、すぐに攻撃に突き進む。すぐに …b5 と突くことの重要な側面は、これに対して 15.e5 Nd7 16.f4 と中央を閉鎖するのは、bポーンがすでに動員されているので 16…Bb6! のあと白のクイーン翼に対しポーン暴風を開始する用意ができているので黒を手助けするだけであるということである。

15.exd5 Nxd5 16.Bd3 Rc8! 17.Kb1

 IMセルペルは 17.Qg3 に黒も 17…O-O と指すのは 18.Bxh6? が 18…Bxc3 19.bxc3 Qf6 で白のキング翼がもっと薄くなるからであると指摘している。

17…O-O 18.Nxd5 Bxd2

 ここからは 19.Qxd2?! Bxd5 で黒の攻撃の可能性が有望になり、49手で勝った。IMセルペルによると白は 19.Qe4! g6 20.Rxd2 Bxd5 21.Qe3 で、白のクイーンとルークの方がより活動的な位置にいて黒キングのポーンによる囲いがいくらかゆるんでいるので、白が動的互角を保持できるということである。

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2013年06月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(55)

「Chess Life」1992年10月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

姉妹布局

 以前の本稿(1990年8月号)で得意定跡を選ぶ際に用いる原則と方法を論じた。その時に示した考え方の一つが「姉妹布局」で、ここではこの重要な方法について詳しく述べる。

 姉妹布局とは戦略にかなり類似点があり、一方の布局が好きで理解すれば他方も好きで好成績をあげるような布局のことである。

 本稿では二組の姉妹布局について考察する。

 (1)1.e4 に対するカロカン防御と 1.d4 に対するスラブ防御

 1.e4 に対してカロカン防御(1.e4 c6 2.d4 d6)を用いてうまくいっているならば、1.d4 に対してスラブ防御(1.d4 d5 2.c4 c6)を用いるのも好きになりうまくいく可能性が大いにある(もちろん逆も同じくよく当てはまる)。戦略の類似性を簡潔にあげてみる。

 - 白が中央でポーン同士を交換すれば、…cxd5 のあと黒のポーンの形はどちらの防御も同じになる。

 - 白が中央で交換しなければ、主手順で黒は自分から …dxe4/…dxc4 により交換しなければならなくなる。これでまた中央の黒のポーンの形がどちらの防御も同じになる。

 - 黒のeポーンは最初のうちは動かないので、黒は白枡ビショップを元々の斜筋に沿って展開させることができる。

 - 主手順で黒は中央の陣地がいくらか狭い。

 しかし黒陣は常に棋理に合っていて堅固である。白によるどんな急戦にも黒は適切な反撃が期待できる。

 もちろんカロカンとスラブの具体的な手順はまったく異なっている。しかし黒の中央のポーンの形は同じであることが多い。それぞれの防御で黒が早く …Bf5 と指す主手順をとおして「姉妹関係」を明らかにしていく。

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2013年07月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(56)

「Chess Life」1992年10月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

姉妹布局(続き)

 (1)1.e4 に対するカロカン防御と 1.d4 に対するスラブ防御(続き)

 (A)カロカン防御(B19)

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Bf5 5.Ng3 Bg6 6.h4

 例えばフランス防御では黒の問題ビショップとなるクイーン翼ビショップが手際よく展開されただけでなく、白の白枡ビショップよりもよく利いている。白が通常の布局の優位を保持する可能性は4段目の重要な中原ポーンと展開における1手先行とにかかっている。

 黒のクイーン翼ビショップが強力なので白は交換によりなくすのがよいと認識されている。白はクイーン翼にキャッスリングする予定なので、本譜の手はビショップ同士の交換に先立ちキング翼の陣地の広さの優位を得る安全な手段である。

6…h6 7.Nf3 Nd7 8.h5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 e6 11.Bd2 Qc7 12.O-O-O Ngf6 13.Ne4 O-O-O 14.g3

 図1

 図1はカロカン防御の特徴的な主手順の局面である。白は引き続き少し優勢だが、黒には弱点がない。白は直前の手で Bf4 を用意している。黒はこの機会にナイト同士を交換することにより負担を軽くする。

14…Nc5 15.Nxc5 Bxc5 16.c4 Bd6 17.Bc3 Kb8 18.Qe2

 1990年ハーニンゲでのG.サクス対A.カルポフ戦では前世界チャンピオンが 18…Ka8 と指した。もっと本筋の手はすぐに 18…c5 と突いてd4のポーンに挑む手のように思える。GMカルポフはそのあと 19.dxc5 Bxc5 20.Be5 Bd6 21.Rxd6 Rxd6 22.Bxd6 Qxd6 23.Ne5 という手順を示している。ナイトの働きが優っているのとc4ポーンによる中央への影響力により白が少し優勢である。それでも黒は形が良く堅固さを保っている。しかしこの変化から分かるように白も手堅く指せば、黒の勝つ可能性は乏しい。

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2013年07月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(57)

「Chess Life」1992年10月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

姉妹布局(続き)

 (1)1.e4 に対するカロカン防御と 1.d4 に対するスラブ防御(続き)

 (B)スラブ防御(D18)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4

 積極的な 5.e4 は 5…b5 でわけの分からないギャンビットになり、「普通」の 5.e3 b5 6.a4 b4 はクイーン翼ビショップが変な地点にいかされ黒がかなり早く互角になる。だからここで取るのが適切な時機である。

5.a4

 この手によってのみ白は布局での優勢を期待できる。ポーンは簡単に取り返すことができるが、クイーン翼の弱体化と展開を後回しの1手(5.a4)の犠牲を払っている。

5…Bf5 6.e3 e6 7.Bxc4 Bb4 8.O-O O-O 9.Nh4

 図1

 これは歴史ある主手順中の多くの新構想の一つである。以前に最も一般的だったのは 9.Qe2 Nbd7 10.e4 Bg6 11.Bd3 Bh5 12.Bf4(黒は 12…e5 を狙っていた)12…Re8(また 13…e5 を狙っている)である。白が中央で優勢であるが、黒は陣形がしっかりしていて展開が完了し …e5 または …c5 突きによる中央での反撃の見通しも明るい。現在の見解は白が 13.e5 Nd5 14.Nxd5 でそのような反撃を防ぐべきであるということである。

 本譜の手の骨子は黒のクイーン翼ビショップと交換し、それにより双ビショップとe4の支配の展望を得ることである。黒はビショップを一時的にそこに置いたままにすることも、すぐにg6に引くことも、g6に引くに先立って白にキング翼を弱めさせることもできる。私は後者のやり方が反撃の可能性が大きいと思う。

9…Bg4 10.f3 Bh5 11.g4 Bg6 12.Ng2

 白の e4 突きのあと黒のクイーン翼ビショップが閉じ込められるのが明らかなので、キング翼ナイトを保持するのは魅力がある。それでもこのナイト引きには手数を要し、g2の地点はいい位置とは言いにくい。指し手が一貫していて白にとって少し有利なのは1989年ビールでのL.ポルガエフスキー対E.トーレ戦のように 12.e4 Nbd7 13.g5 Ne8 14.Nxg6 hxg6 15.Be3 Nd6 16.Be2! である。

 もちろん本譜の手のあとで白が不利ということではない。しかし黒の反撃の見通しはより明るい。この例証として1982年レイキャビクでのH.オウラフソン対E.メドニス戦をあげる。この試合ではアイスランドのGMの過剰に楽観的な指し方がスラブの堅固さにぶち当たった。

12…Nd5! 13.Qb3 a5! 14.e4 Nb6 15.Be3 Nxc4 16.Qxc4 Qe7! 17.h4?! f6! 18.h5 Bf7 19.h6 e5 20.Qe2?! exd4! 21.Bxd4 Rd8 22.Be3 g6 23.Bf4 Nd7 24.Ne3 Ne5 25.Bg3 Qc5 26.Bf2? Rd2! 27.Ned5 Qd6! 28.Bh4 Bxc3 29.Nxf6+ Kh8 白投了

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布局の探究(58)

「Chess Life」1992年10月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

姉妹布局(続き)

 (2)1.e4 に対するピルツ防御と 1.d4 に対するキング翼インディアン防御

 ピルツ防御とキング翼インディアン防御の主眼の戦略はきわめてよく似ている。すなわちキング翼ビショップをフィアンケットし、最初は …d6 で中央への手がかりを作り、そのあと白の中央の優位にd4のポーンを攻撃することにより挑む作戦である。この後の方の手順は …c5 突きまたは …e5 突きにより行なわれるのが普通である。これらの布局の本質的な類似点と相違点はそれぞれの「通常戦法」から生じる局面を比較することにより一番よく説明できる。

 (A)ピルツ防御(B08)

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.Nf3 Bg7 5.Be2 O-O 6.O-O

 図3

 (B)キング翼インディアン防御(E95)

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2

 図4

 図3と図4を比較すると以下のような特徴が明らかに分かる。

 (1)黒の陣形はどちらもまったく同じである。

 (2)図4では

 - 白のcポーンは中央の支配に役立っているが、図3ではまだc2に位置している。

 - 図3と比べると白はキング翼の展開で1手遅れている。

 以上の差異から以下の結論が得られる。

 (1)キング翼インディアン防御と比べるとピルツ防御では白の中央の優位により窒息させられる危険性が少ない。

 (2)ピルツ防御では白がキング翼インディアン防御の局面よりも展開が1手速く、さらに白の中央の広大さが劣るために攻撃目標が少ないので、黒が早く効果的な反撃を行なう可能性に劣っている。

 これらの着眼点はそれぞれの布局の特徴的な主流戦法を考えることによりよく説明できる。

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布局の探究(59)

「Chess Life」1992年10月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

姉妹布局(続き)

 (2)1.e4 に対するピルツ防御と 1.d4 に対するキング翼インディアン防御(続き)

 (A)ピルツ防御(B08)

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.Nf3 Bg7 5.Be2 O-O 6.O-O

 図3(再掲)

6…c6

 黒はキング翼インディアンより1手遅れているので、…e5 と突くのはそう容易でない。すぐに 6…e5?! と突くと 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Bg5 であまり面白くない収局になる。6…Nbd7 と準備するのは 7.e5 Ne8 8.Bg5 で黒が押しまくられて白が主導権を握る。6…c5 と突くのも 7.dxc5! dxc5 8.Be3! で黒にとってつまらない局面になる。

 本譜の手はd5の地点を守り、それにより早い 7.e5 突きに 7…Nd5! が可能になって毒気を抜いている。6…c6 に代わる手は 6…Bg4 で、7.Be3 Nc6 のあと …e5 突きを目指す。

7.h3 Qc7

 白が …Bg4 と …Ng4 を防いだので、黒はクイーンを使って …e5 と突く用意をした。

8.Bf4 Nh5

 やはり 8…Nbd7 9.e5 は白が良い。本譜の手は白のクイーン翼ビショップをh2-b8の斜筋から追い払う。もっともその代償にナイトがそっぽに行った。

9.Be3 e5 10.Qd2 Nd7 11.a4 Re8 12.Rad1 exd4

 黒は展開が遅れているので、その完了を急がなければならない。すぐに 12…Nhf6 と戻すと白は 13.d5 でd6のポーンに強い圧力をかけてくる。

13.Nxd4 Nhf6 14.f3 Nc5 15.Bc4 a6 16.b4 Ne6 17.a5!

 これは1977年ジェチーンでのV.トゥクマコフ対W.ウールマン戦で、白は典型的な広さの優位で通常の布局の優勢を得ている。

 (B)キング翼インディアン防御(E95)

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2

 図4(再掲)

6…e5

 7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Qxd8 9.Bg5 Re8 の収局は白がわずかしか優勢でないので、ここでは問題ない。

7.O-O Nbd7

 世界チャンピオンのガリー・カスパロフが好んだように 7…Nc6 8.d5 Ne7 の方が厳しい。本譜の手はピルツ防御の 6…c6 の「姉妹」作戦である。

8.Re1 c6 9.Bf1

 白は …exd4 から …Re8 でeポーンに圧力をかけられるのを想定しなければならない。ビショップをどけることによりルークが難なくこのポーンを守ることができる。

9…exd4

 これが前記のピルツの姉妹作戦である。黒は白の中央の優位をいくらか増加させて反撃を作り出す。

 他の手はこれより良くない。

 (1)9…Re8 10.d5! は白が広さで有利になり、黒のキング翼ルークは主眼の …f5 の突っかけに不適切な位置にいる。

 (2)9…a5 は黒の最も普通の作戦だが、10.dxe5! dxe5 11.Na4 で白が黒のクイーン翼の黒枡の弱点(b6、c5、d6)につけ込むことができる。

10.Nxd4 Ng4 11.h3 Qb6 12.Qxg4 Bxd4 13.Qe2 Re8 14.Bh6 Nc5 15.Qd2 Be5 16.Kh1 f5 17.Rad1 Nxe4 18.Nxe4 fxe4 19.Rxe4 Bf5 20.Re2

 これは1989年ベルリンでのK.レルナー対L.フォークト戦である。(1)c4ポーンが中央に影響力を持っているのと(2)黒のキング翼が恒久的に弱いので、白がわずかに優勢である。(黒が受けを誤って白が30手で勝った。)

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2013年07月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(60)

「Chess Life」1992年12月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の長期的犠牲

 試合の初めで黒番の選手は不利な条件を背負って指し始める。黒でうまく指すための前提は、この不利な条件に気づくだけでなくそれに対応することである。誰もが認める史上最高の布局の権威はGMロバート.J.フィッシャーである。GMロバート・バーンが私の著書の「How to Beat Bobby Fischer」の序文で述べたように、彼の見識には注意を払わなければならない。

 何年か前に彼は私の試合を検討しているときに私が黒で早まった攻撃に出ていることに気づくといつも驚いて顔を上げた。そして批評として「黒では何かを求める前にまず互角にしなければならない」と忠告した。

 黒は序盤では白ができることをやる余裕がないので、戦力を犠牲にすることにもずっと気をつけなければならないということになる。もちろんそれで勝てるならどんどんやって構わない。しかし「一般原則」においてはことのほか慎重にやらなければならない。さもないと戦力損に見合うものをしばしば何も見つけられないということになる。

 驚くには当たらないが開放試合(すなわち 1.e4 で始まる試合)では、黒が「展開のために」ポーンを犠牲にするのが最も見込みがある。典型的な例として次の2ナイト防御(C59)の手順を考えてみよう。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.Ng5 d5 5.exd5 Na5 6.Bb5+ c6 7.dxc6 bxc6 8.Be2 h6 9.Nf3 e4 10.Ne5 Bd6 11.f4 exf3e.p. 12.Nxf3 O-O 13.d4 c5 14.O-O Re8

 図1

 ここで黒は以下の理由で犠牲にしたポーンの完全な代償を得ている。

 -黒は全般的に展開で優り、キング翼ルークは唯一の素通し列を支配している。
 -白はfポーンがないのでキング翼が弱体化していて、e3の地点もそうである。
 -黒駒は …Bb7 と …Qc7 で白キングに狙いをつけるのに適した配置になっている。

 それでも閉鎖型試合(1.d4、1.c4、1.Nf3、1.g3)の領域では黒にとって早期の実りある長期的犠牲の機会は限られている。私の見るところこの30年における布局定跡の大きな進歩の一つはベンコーギャンビットである。これは黒が3手目で一見「ただで」ポーンを犠牲にし、生きてそのことを語る。このギャンビットの主眼の正当性は次の主流手順[A58]によく見られる。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.bxa6 g6 6.Nc3 Bxa6 7.Nf3 Bg7 8.g3 d6 9.Bg2 Nbd7 10.O-O O-O 11.Bf4 Qb6 12.Rb1 Qb7 13.Re1 Rfb8

 図2

 黒の代償はルークとフィアンケットされたキング翼ビショップが白のクイーン翼に及ぼしている強い圧力からきている。さらにこれらの要因により、白が得しているaポーンで実利を得ることは非常に難しい。それでも黒にはベンコーギャンビットの局面を詳細に理解しなければならないことを忠告したい。さもないと何も得られずに終わってしまうことになる

 もちろん長期的戦略のポーンの犠牲は周知の着想である。もっと詳しく紹介するのははるかに頻度の少ない種類の戦略の犠牲である。それは重要な現代の戦法で起こり、非常に興味深く珍しい局面になる。

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2013年08月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(61)

「Chess Life」1992年12月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の長期的犠牲(続き)

カタロニア布局
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 dxc4 5.Nf3 c5 6.O-O Nc6

 これはカタロニア布局の通常の手順で、白の 5.Nf3 はポーンの犠牲を伴っている。この局面はイギリス/レーティ布局からも生じることがよくある。例えば 1.c4 e6 2.Nf3 Nf6 3.g3 d5 4.Bg2 c5 5.O-O Nc6 6.d4 dxc4 という具合である。

7.Qa4 cxd4

 これが最も有力な応手である。もちろん 7…Bd7 の方が安全で、白が 8.Qxc4 で通常の布局の優位を維持する。

8.Nxd4 Qxd4

 ここでの 8…Bd7?! は安全のためには手遅れである。というのは1972年スコピエ・オリンピアードでのコボ対バスケス戦のように 9.Nxc6 Qb6 10.Nd2 Bxc6 11.Bxc6+ bxc6 12.Nxc4 Qb5 13.Qc2 Be7 14.b3 となって、黒がクイーン翼の分離したポーンの代償がないので白が明らかに優勢になるからである。

9.Bxc6+ Bd7

 1982年ルツェルン・オリンピアードでのクリスチャンセン対ラーグバ戦では 9…bxc6?! 10.Qxc6+ Qd7 11.Qxa8 Bc5 12.Nc3 O-O 13.Rd1 Qc7 14.Qf3 Bb7 15.Bf4! と進んだが、黒は交換損の十分な代償を得られなかった。

10.Rd1 Qxd1+!?

 1974年モンティーリャでのカバレク対ラドゥロフ戦では 10…Bxc6?! 11.Qxc6+ bxc6 12.Rxd4 c5(1965年マラガでのポマル対パラシオス戦では 12…Rd8 13.Rxc4 Rd1+ 14.Kg2 Kd7 15.Nc3 と進んだが良くなかった)13.Rxc4 Bd6 14.Nd2! Kd7 15.b3 となって、分離ポーンで劣勢の収局に自ら入る意味がほとんどなかった。

11.Qxd1 Bxc6

 図3

 戦力の計算ではクイーンに対し黒がルーク+ビショップ+ポーンで問題ない。しかしクイーンが他の駒と効果的に協力できる状況ではクイーンの威力のためにクイーンを持っている側が優勢であるのが普通である。さらにcポーンが非常に弱いので黒は戦力で劣勢になってしまう公算が大きい。

 だから黒は戦略的見地で、つまり局面の概略の見地で、代償を探さなければならない。それには以下のものがある。

 -白はキング翼ビショップがないのでキング翼が根本的に弱くなっている。
 -特に黒のクイーン翼ビショップ、一般的には双ビショップが白キングに対する攻撃に効果的になり得る。
 -白はクイーン翼の展開が遅れている。
 -cポーンを別にすると黒陣には弱点が無い。

 以上の要因を考慮すれば黒の目的は「白キングを攻撃すること」でなければならない。この試みの成否で図3の正しい評価が定まる。ここでは白の主眼の 12.Bg5?! と 12.Nd2 の二つを考えていく。

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2013年08月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(62)

「Chess Life」1992年12月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の長期的犠牲(続き)

Ⅰ 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 dxc4 5.Nf3 c5 6.O-O Nc6 7.Qa4 cxd4 8.Nxd4 Qxd4 9.Bxc6+ Bd7 10.Rd1 Qxd1+ 11.Qxd1 Bxc6 12.Bg5?!

 白はクイーン翼ビショップを手得になると考えて展開し 12…Be7?! を期待した。1976年オデッサでのトゥクマコフ対アリブルト戦では 13.Nd2 b5 14.a4 O-O 15.axb5 Bxb5 16.Ne4! と進んで白がわずかな優勢を保持した。しかし黒はこの戦法の神髄であるキング翼攻撃に改良手を用意していた。

12…Ne4! 13.Be3 h5! 14.f3

 これも気の進まない弱体化だが、14.Nd2 は 14…Rd8 と応じられる。

14…Nf6 15.Nd2 Rd8 16.Qc1 h4! 17.Nxc4 hxg3 18.hxg3 Rd5!

 19…Rdh5 の狙いのために白がまたキング翼を弱めさせられる。これで黒の方がわずかに有望になった。

19.g4 Be7 20.Bxa7?!

 20.g5 が最善の受けのように見える。

20…Nxg4!! 21.fxg4

 図4

 ここは勝負所である。GMゲオルガゼによると黒には考えられる選択肢が三つある。

 (1)21…Rg5? は駄目で、22.Qf4! Rh1+ 23.Kf2 Rxa1 24.Qb8+ Bd8 25.Nd6+ Kd7 26.Qc8+ Ke7 27.Nxb7! で白の勝ちになる。

 (2)21…Rh1+ は1979年ソ連でのモチャロフ対ストゥルア戦の手で、22.Kxh1 Rh5+ 23.Kg1 Rh1+ 24.Kf2 Bh4+ 25.Ke3 Bg5+ 26.Kd3 Rxc1 27.Rxc1 Bxc1 で黒が少し優勢だったが34手目で引き分けに終わった。

 (3)21…Bg5! がGMゲオルガゼの「単純な」推奨手だった。(a)22.Be3? Rd1+! 23.Qxd1 Rh1+ 24.Kf2 Bh4#(b)22.Ne3? Rc5!! 黒の勝ち(c)22.Qf1 Rd8 23.Kf2 Bf4! このあと一本道の 24.Qg1 Rh2+ 25.Qxh2 Bxh2 で黒が駒の働きが良く明らかに優勢である。

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2013年08月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(63)

「Chess Life」1992年12月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒の長期的犠牲(続き)

Ⅱ 1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Bg2 dxc4 5.Nf3 c5 6.O-O Nc6 7.Qa4 cxd4 8.Nxd4 Qxd4 9.Bxc6+ Bd7 10.Rd1 Qxd1+ 11.Qxd1 Bxc6 12.Nd2

 これが最善手である。白はクイーン翼の展開に取りかかる一方cポーンも当たりにする。黒の「普通」の類の手はせいぜいひれ伏して引き分けにしてもらわなければならない局面になるので気が進まない。

 (1)12…b5 13.a4! Be7(13…a6 14.axb5 Bxb5{14…axb5? 15.Rxa8+ Bxa8 16.Nxc4! bxc4 17.Qa4+}15.Qc2 Rc8 16.b3! c3 17.Nc4! Bb4 18.Ba3!)14.axb5 Bxb5 15.Nxc4! O-O 16.b3 Rfc8 17.Ba3! Bxa3 18.Nxa3 Ba6 19.Nc2 ヤルタルソン対H.オウラフソン、レイキャビク、1986年。そしてGMヤルタルソンによるとここで不利を最小限にとどめる黒の最善の手段は 19…Rd8 20.Qe1 Bb5 である。

 (2)12…c3?! 13.bxc3 O-O-O 14.Qb3 Bc5 15.Nf3! Ne4 16.Nd4! Rxd4!? 17.cxd4 Bxd4 18.Rb1 Bxf2+ 19.Kf1 h5 20.Bf4 H.オウラフソン対ヤルタルソン、レイキャビク、1984年。黒は犠牲にした戦力に対して十分な代償を得ていない。

 (3)12…Be7?! 13.Nxc4 O-O 14.b3 Rfd8 15.Qe1 Rac8 16.Ba3 ゴレロフ対サーロフ、ソ連、1982年。黒は少し戦力損で、それに見合うものがない。

 ということでまたしても唯一の正しい手法はキング翼攻撃である。

12…h5! 13.Nxc4

 これ手はソ連の理論家Y.ネイシュタットの推奨した改良手の始まりである。次の変化は白がhポーンを突き進めてh列を素通しにするのを防ごうとすることに関係している。

 (1)13.h4 Rd8 14.Qc2 Bc5 15.Nxc4 Ng4 16.e3 O-O ネイシュタットはこの局面を互角とみなした。明らかなことは黒の小駒が白の弱体化したキング翼を向いていることで、f3の弱点は最も目立つ。

 (2)13.h3 Rd8(13…h4?! 14.g4)14.Qc2 Bc5 15.Nxc4 Ne4 16.Ne3 Bb6 17.b4 h4!? 18.b5 Bd5 19.g4 O-O 20.Nd1 Rc8 21.Qb2 1988/89年通信戦のヨーケル対J.ウォルフ戦では黒がここで 21…Nxf2!? 22.Nxf2 f5 と勝負に出た。J.ウォルフはこの局面を「形勢不明」と的確に判定している。

13…Rd8 14.Qc2 h4 15.Bf4!

 ネイシュタットの手順の意味がここにある。クイーン翼ビショップが迅速に展開しただけでなく、キングの守りにも役立っている。

15…hxg3 16.Bxg3

 図5

 ネイシュタットはこの局面を白が少し優勢と判断し、GM A.ソコロフも Encyclopedia of Chess Openings E 改訂版でこの評価と同意見である。私の考えでは黒の攻撃の可能性は本物で、ほぼポーン半個に当たるわずかな戦力損の代償に近い。

 それでは図3の正しい評価とは何なのか。私の感じでは黒はもっと普通の手順(すなわち 7…Bd7 からの手順)よりも理論的に悪くない。だから黒で早く主導権を得ることに努める選手なら満足できるはずである。

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2013年08月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(64)

「Chess Life」1993年2月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

良いのか面白いだけなのか

 こんなシナリオを考えよう。あなたにとって興味のある戦法で強豪GMが新手を用い快勝した試合を本誌が掲載したとする。あなたは自分もその新手を用いて「自動得点」をあげられるように次の試合が始まるのが待ち遠しい。この新手を用いるべきなのだろうか。

 それは一般にその新手が本当に良い手なのか、それとも「面白い」手であるだけなのかによる。どうしたらこれを事前に見分けることができるだろうか。残念ながら先見はあと知恵よりもずっと難しい。それでも役に立つ指針はいくつかある。

 まず、自分である程度検証することである。その戦法にとって戦略的に理にかなっているだろうか。相手の応手に調査しなければならない戦術の狙い筋があるだろうか。その新手が信用できて着想を理解できるのでなければ、それを指そうとしてはいけない。それでもたった一人で真実を解き明かすのは難しいだろう。危険性を最小限にするためには(好機を犠牲にするけれども)、「創案者」が再び用いるのを待った方がよいかもしれない。1950年代と1960年代は「フィッシャー監視」が良いやり方だった。彼の全盛期だけでなくいつでもボビー・フィッシャーは布局の創造的な最高の探検家として認められていた。この調査の過程で彼は多くの面白い着想を発見し、それらを少なくとも一度は進んで試していた。それでもこれは自動的に「フィッシャーのお墨付き」を意味していたわけではなかった。例えば1962年ストックホルム・インターゾーナル第13回戦でのR.フィッシャー対E.ジェルマン戦ではペトロフ防御(C43)に対して疑問とされる古い手をあえて指した。

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.d4 exd4 4.e5 Ne4

 そしてここで普通の 5.Qxd4 の代わりにフィッシャーは 5.Qe2!? と指した。

 意表をつかれたブラジルのIMは相手に立ち向かわないで、覇気のない 5…Nc5 6.Nxd4 Nc6 7.Nxc6 bxc6 8.Nc3 Rb8 という手を指し、9.f4! Be7 10.Qf2 d5 11.Be3 Nd7 12.O-O-O のあとフィッシャーがすぐにキング翼の多数派ポーンの威力見せつけ30手で勝った。それでもフィッシャーは自分の5手目をほめず、次のペトロフ防御戦(8年後!)では 3.Nxe5 に回帰した。明らかに彼は定跡の重要な応手の 5…Bb4+ のあと白が 6.c3、6.Nbd2 またはシュタイニッツの 6.Kd1 のどれを指そうと黒が全然問題ないことを確信していた。

 従うべき原則は、強豪GMが新着想を2度用いるときは一般に自分の着想を信じているということで、あなたもかなり確かな根拠が持てるということである。たった1回ではあまり信頼すべきでない。

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2013年09月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(65)

「Chess Life」1993年2月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

良いのか面白いだけなのか(続き)

 真に才気あふれる例はもう一人の世界チャンピオン、ガリー・カスパロフの創造的頭脳から来る。それは世界選手権戦の実戦にこれまで現われた最も心躍らせる布局の構想だと思う。舞台は1985年のカルポフ対カスパロフの世界選手権戦番勝負第12、14、16、そして18局だった。

(1)A.カルポフ対G.カスパロフ
第12局、10月3日

 シチリア防御タイマノフ戦法で通常の手順の 1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nb5 d6 6.c4 Nf6 7.N1c3 a6 8.Na3 のあとカスパロフはチェスの定跡と対戦相手とに対し大胆な 8…d5!!? で衝撃を与えた。

 黒は単純に大切な中央のポーンを放り捨てることにより締めつけから脱する。9.exd5 exd5 10.cxd5 Nb4 ここでカルポフは 11.Bc4 を選択したが 11…Bg4 12.Be2?! Bxe2 13.Qxe2+ Qe7 14.Be3 Nbxd5 で黒がポーンを取り返し楽に互角にした(15.Nc2 Nxe3 16.Nxe3 Qe6 17.O-O Bc5 18.Rfe1 O-O 引き分け)。

(2)A.カルポフ対G.カスパロフ
第14局、10月10日

 カルポフのチームはまだこの新手に対応する用意ができていないことが明らかで、カルポフは 5.Nc3 でこの戦型にしなかった(32手で引き分け)。

(3)A.カルポフ対G.カスパロフ
第16局、10月15日

 カルポフは用意ができたようで第12局の 11.Bc4 を 11.Be2 に変えた。それでも 11…Bc5 12.O-O O-O 13.Bf3 Bf5 14.Bg5 Re8 15.Qd2 b5 16.Rad1 Nd3! で黒がポーンの完全な代償を得て40手で快勝した(この試合はチェス新報第40巻の最高名局賞に選ばれた)。

(4)A.カルポフ対G.カスパロフ
第18局、10月22日

 今度は手を変えたのはカスパロフの方で、それも2手目でであった。彼は1985年番勝負の優れた自著の中できわめて明快に 2…d6 の選択について解説している。「ギャンビット戦法は配当をもたらしてくれた。そして運命をもてあそびたくなかった・・・」

 カスパロフは二度と 8…d5 を指さなかった。しかし盲目的に彼に追従していた人たちはすぐに自分の無邪気さを後悔することになった。例えばカルポフ対カスパロフの番勝負終了後2ヶ月もたたない1986年のベイク・アーン・ゼーでのA.カルポフ対J.ファン・デル・ビール戦で、白は第16局の 12.O-O を改良して 12.Be3! と指し、次のようにすぐにはっきり優勢になった。12…Bxe3 13.Qa4+! Nd7 14.Qxb4 Bc5 15.Qe4+ Kf8 16.O-O 黒はポーンの代償がない。[訳注 61手で引き分け]

 再び教訓を言えば創始者を注視せよということである。さらには基本に立ち返るようにせよということである。本当に黒は 8…d5 のような手を指す余裕があるのだろうか。その確率は低い。たぶん100回に1回以下だろう。

 この長ったらしい「序文」のあと、「良い」対「面白い」の議論についてさらに3例をあげる。

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布局の探究(66)

「Chess Life」1993年2月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

良いのか面白いだけなのか(続き)

面白い手・面白い着想

 1974年の秋にGMアーサー・ビズガイアーと私はソンボルでのユーゴスラビア国際大会に招待された。他の西側選手はオランダからの若いGMヤン・ティマンと経験豊富なIMロブ・ハルトッホだけだった。重要な第4回戦の組み合わせはJ.ティマン対A.ビズガイアーだった。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 に対してGMビズガイアーがいつも 3…Nf6 と2ナイト防御を選ぶのを知っていたGMティマンは主手順の一つ(C59)に新着想を用意していた。

4.Ng5 d5 5.exd5 Na5 6.Bb5+ c6 7.dxc6 bxc6 8.Be2 h6 9.Nf3 e4 10.Ne5 Bd6 11.f4 exf3e.p. 12.Nxf3 O-O 13.d4 c5 14.dxc5 Bxc5 15.Qxd8 Rxd8 16.Bd2!?

 この手は1957/58年米国選手権戦でのE.メドニス対A.ビズガイアー戦の 16.c3 Re8 17.Kf1 Rxe2 18.Kxe2 Ba6+ 19.Kd1 Ng4 20.Kc2 Nf2 21.Rd1 Nxd1 22.Kxd1 Rd8+ 23.Bd2 Nc4 24.b4 を改良しようとしたものである。試合は白がしのぎきり40手で引き分けに終わった。

 GMティマンの作戦はできるだけ早くクイーン翼にキャッスリングすることである。局後の検討で最も印象に残ったのは、彼のこの着想の見方だった。「これは面白い着想だ。良い手だと言うつもりはないが、面白い手だ。」

16…Nc6 17.Nc3

17…Nb4?

 この露骨な手は簡単に押し返される。

18.O-O-O Bf5 19.Ne1 Ng4 20.a3! Nc6 21.Nd3 Bb6

 21…Bxd3 は 22.Bxg4 でうまくいかない。

22.h3! Ne3 23.Bxe3 Bxe3+ 24.Kb1 Nd4 25.Bg4 Bg6 26.Rhe1

 白は戦力得を確固にし難なく勝った。26…Bg5 27.Ne2 h5 28.Nxd4 Rxd4(28…hxg4 29.Ne5!)29.Bf3 Rc8 30.Re5 f6 31.Rd5 Rxd5 32.Bxd5+ Kh7 33.b4! Be3 34.c4 Kh6 35.Kb2 f5 36.Ne5 f4 37.c5 Bf5 38.Nf7+ Kg6 39.Nd6 Rc7 40.Nxf5 Kxf5 41.Bf3 g6 42.Rd5+ Kf6 43.Kc3 Re7 44.a4 黒投了

 GMティマンとIMハルトッホはホテルの同じ部屋に泊まっていた。だから第6回戦のR.ハルトッホ対A.ビズガイアー戦で上図の同じ局面がまた出現したときには大いに驚いた。GMビズガイアーは研究した改良手を出した。

17…Ng4! 18.Ne4

 もちろん 18.O-O-O?! は 18…Nf2 で交換損になる。

18…Bb6 19.h3

 19.O-O-O?! は 19…f5 から 20…Nf2 で前の解説と同じ筋にはまる。

19…Ne3 20.Bxe3 Bxe3

 白キングが中央で立ち往生し黒の双ビショップとルークがそれを掃射する用意のできている状況では、黒は犠牲にしたポーンの十分すぎる代償を得ている。C59の定跡系では黒に十分代償があるのは確かだが、ここで白が成し遂げたのは普通よりも劣る。なぜIMハルトッホは盲目的にGMティマンの着想をまねたのだろうか。いずれにせよGMビズガイアーのような天性の攻撃的選手はこの局面に対処するのに何の問題もなく、快勝を収めた。

21.Bd3 Rb8 22.b3 Nb4 23.Ke2 Bb6 24.Rhd1 Bb7 25.Nf2 Nd5 26.Re1 Ne3 27.Rg1 Re8! 28.Kd2 Nd5! 29.Nd1 Bxg1 30.Nxg1 Nf4 31.g3 Nxd3 32.cxd3 Re6 33.Nc3 Rd8 34.Nce2 Ba6 35.d4 Rde8 36.Nf4 Re3 37.g4 R3e4 白投了

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布局の探究(67)

「Chess Life」1993年2月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

良いのか面白いだけなのか(続き)

良い手・良い着想

 面白い手・着想が根本的に良いものでもある確率は、次の条件の少なくとも一つが満たされれば大いに高まる。(1)局面の重要な問題が具体的に解決される、そして(2)局面の戦略的必要性が助長される。

 1992年テル・アーペルでのV.エピシン対G.ソソンコ戦では黒がクイーン翼ギャンビット拒否の重要な戦型であるラゴージン戦法(D38)を復活させるための重大な新手を繰り出した。

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Bb4 5.cxd5 exd5 6.Nf3 h6 7.Bh4(通常の布局での優位のためには 7.Bxf6 で十分と一般に考えられている)7…g5(本局の前まではこの手は 7…c5 より劣ると考えられていた)8.Bg3 Ne4 9.Nd2! Nxc3 10.bxc3 Bxc3 11.Rc1

 黒はキング翼ビショップをどうするのだろうか。明らかに 11…Bxd4? は 12.Qa4+ で負けてしまう。11…Ba5 はキング翼で攻撃された際に遊び駒になってしまう(例えば 12.Qc2 Nc6 13.e3 O-O 14.h4)。1982年サラエボでのA.アドルヤン対B.クライカ戦での 11…Bxd2+?! 12.Qxd2 Nc6 13.h4! は黒のキング翼がすきだらけであることが露呈した。

11…Bb2!

 一件落着!これに対して 12.Rc2(そして 12.Rb1)は 12…Bxd4 と取られてしまう。12.Bxc7 Qe7 も白にとって何も得るものがない。

12.Rxc7 Na6! 13.Rc2 Bxd4 14.e3 Bg7 15.Bxa6 bxa6

 黒は完全に互角にした(試合は引き分けに終わった)。

 クイーン翼ギャンビット拒否(D37)の次の戦型から諸刃の刃の局面が生じる。

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 Be7 5.Bf4 O-O 6.e3 c5 7.dxc5 Bxc5 8.Qc2 Nc6 9.a3 Qa5 10.O-O-O(無理気味。キング翼にキャッスリングする方が安全)10…Bd7 11.g4 Rfc8 12.Kb1

 白はキング翼攻撃を続ける前にキングの安全のために一息入れた。ここで黒は 12…dxc4、12…Be8 および 12…Bf8 と応じてきたが、成功の度合いはまちまちだった。それでも攻撃の展望を促進するために黒は何をなすべきかという主要な問題は残っている。1991年リナレスでのB.ゲルファンド対A.ベリヤフスキー戦で黒が衝撃的な解答を出した。

12…b5!!

 手間暇をかけない!白には以下のような応手がある。

 (1)13.cxd5? b4! 14.dxc6 Bxc6 15.axb4 Bxb4 16.Be2 Bxc3 17.bxc3 Be4 18.Rd3 Rab8+! 黒の勝ち(GMフターチュニク)

 (2)13.Nxb5?! 黒は 13…a6(GMミハルチシン)でも 13…Ne7(GMフターチュニク)でも優勢になる。

 (3)13.g5 Nh5 14.cxb5 Nxf4 15.exf4 Ne7 16.Ne5 Be8 黒が優勢(GMミハルチシン)

 GMベリヤフスキーの着想は「チェス新報第51巻」の最も重要な新手賞に選ばれたことは注記しておく価値があるかもしれない。

13.cxb5 Ne7 14.Nd2 Qd8! 15.Nb3

 GMイワンチュクとGMフターチュニクの二人は 15.Be2 から 16.g5 と突く手を指摘した。

15…Ne4! 16.Nxc5 Rxc5 17.Be5 Nxc3+ 18.Bxc3 Bxb5

 ここでラトビアの雑誌「Šahs Baltijā」1994年第4号はGMイワンチュクの「可能性はほぼ互角」という言葉を引用している。実戦では黒が危なげなく勝った。本誌の1991年6月号25ページを参照。

 私の 12…b5!! の評価は、黒の主眼の反撃がこの手によって助長されるので「良い手」である。もちろん白はもっと早く11手目か12手目で変化することができる。いずれにせよGMベリヤフスキーの素晴らしい構想については時が来れば分かるだろう。今から1年でもっと多くのことが知られるはずである。

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2013年09月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(68)

「Chess Life」1993年5月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒は中央に向かって取るべきか

 自分か相手があるポーンで中央の方向に取るか別のポーンで中央から離れる方向に取るか決めなければならないことはしょっちゅうある。この決定は布局早々(早ければ3手目!)、中盤戦、または収局に至ってさえ、しなければならないかもしれない。中央の支配は布局の段階と中盤戦のほとんどでは非常に重要な目標なので、次の一般原則が当てはまる。他に特別な理由がない限りつねに中央に向かって取り返せ。何らかの中盤戦の後半の段階だけでなく戦力が非常に減少した収局でも、中央支配の重要性は減少し、決定は局面の具体的な必要性に基づいて行なわなければならない。しかし早い段階では取り返しは75%をゆうに超える場合において中央に向かって取る方が良い。さらに次の経験則を用いることができる。分からない時は中央に向かって取れ。

 それでも早い段階ではにとって選択が容易でないことがよくある。問題は単に、白は主導権を持って指し始め、黒は中央にだけ関心を持っていられず展開の速さ、キングの安全、そして他の重要な分野も心配しなければならないということである。本稿では黒が布局の段階でしなければならない三つの最も重要な取り返しを論じる。次稿は白の必要性と見通しについて考察する。

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2013年10月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(69)

「Chess Life」1993年5月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒は中央に向かって取るべきか(続き)

A …dxc6 対 …bxc6

  ここでの古典的な例はルイロペスの交換戦法である。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Bxc6

 図1

 (a)4…bxc6

 これは主眼の「中央に向かって」の取り返しだが、黒の展開を助長するわけではない。結果としてもたらされるものは黒が弱いeポーンを円滑に守ることが難しくなるということである。主手順は 5.Nc3 d6 6.d4 と進む。

 何が起こったかというと、白が遅延シュタイニッツ防御の 3…a6 4.Ba4 d6 5.Bxc6+ bxc6 6.d4 の手順よりも丸々1手得しているということである。開放布局早々の1手得は非常に重要な価値がある。

 黒の防御の仕事は 6…exd4 7.Qxd4 でも、1972年ブルガリア選手権戦のN.パデフスキー対ダスカロフ戦の 6…f6 7.Be3 Ne7 8.Qd3 Be6 9.O-O-O Ng6 10.h4 h5 11.Nd2 a5 12.g3 exd4 13.Bxd4 Ne5 14.Qf1 Qb8 15.f4 でも面白くなかった。白は展開で大きく優り中央が広いのではっきり優勢である。

 (b)4…dxc6

 4…bxc6 には問題があるので過去20年のマスターらの試合ではもっぱらこの手だけが用いられた。黒は自分のeポーンが白のdポーンと交換になれば、恒久的に劣ったポーン陣形になる危険性を抱えている。というのはキング翼で白が4ポーン対3ポーンで優勢なのでパスポーンが保証されるのに対し、黒のクイーン翼での優勢は静的な二重ポーンにより価値が劣っているからである。代償として黒は自分の双ビショップに目を向けなければならず、見れば分かるように2個のビショップは素通し斜筋上にある。さらに黒クイーンはd列で動けるのでeポーンを守るのが容易になっている(5.Nxe5?! は 5…Qd4 でポーンを取り返しすでに少し優勢になる)。結果として黒は白の布局での優位を通常の程度に抑えることができる。最近の重要な実戦例は1992年スベティ・ステファンでのR.フィッシャー対B.スパスキー番勝負第9局である。

5.O-O f6 6.d4 exd4 7.Nxd4 c5 8.Nb3 Qxd1 9.Rxd1 Bg4 10.f3 Be6 11.Nc3 Bd6 12.Be3 b6 13.a4 O-O-O(13…Kf7 の方が本筋と考えられる)14.a5 Kb7 15.e5! Be7 16.Rxd8 Bxd8 17.Ne4! Kc6??(17…Bd5 が必要で、18.Rd1 で白が少し優勢である)18.axb6 cxb6 19.Nbxc5! Bc8 20.Nxa6 fxe5 21.Nb4+ 黒投了

  黒はシチリア防御ロッソリーモ防御でも 1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 g6 4.Bxc6 のあと同様の決定をしなければならない。

 図2

 早い Bxc6 は1992年にガリー・カスパロフとR.フィッシャーによって用いられて共に成功を収めた。その着想はキング翼の迅速な展開と黒の二重ポーンにつけ込む機会とを組み合わせることである。それでもルイロペスの交換戦法と比較すると、黒は局面がそれほど開放的でなく、…a6 突きに1手かけてなく、中央のポーンを守るために手損する必要がないという3点で優っている。私の考えでは黒はどちらの取り返し方でも同じくらい満足である。

 (a)4…bxc6

 この取り返し方が主眼なのでGMの実戦でより多く指されている。唯一の不利益はクイーン翼ビショップの展開が1手遅れるということだが、局面が比較的閉鎖的であることにより軽減される。

 通常の 5.O-O Bg7 6.Re1 のあと重要な手順は二つある。

 6…Nf6 7.e5 Nd5 8.c4 Nc7 9.d4 cxd4 10.Qxd4 ここで1992年ドルトムントでのG.カスパロフ対V.サーロフ戦では 10…O-O? 11.Qh4 d6 12.Bh6 と進んで白がはっきり優勢になった。世界チャンピオンは代わりに 10…d5!? 11.Nc3 Ne6 で白の有利を最小限にすることを推奨している。

 6…f6!? 7.c3 Nh6 8.d4 cxd4 9.cxd4 O-O 10.Nc3 d6 11.Qa4 Qb6 12.Nd2 Nf7 13.Nc4 Qa6 これは1992年スベティ・ステファンでのR.フィッシャー対B.スパスキー番勝負第13局で、ほぼ互角だった。

 (b)4…dxc6

 この取り返しのあと黒ポーンの中央に対する影響力は 4…bxc6 よりも劣る。それでも白が d4 と突くようなことになれば、黒の二重ポーンが解消され白にキング翼の多数派ポーンができないので、dポーンでの取り返しも問題ない。このあとの考えられる手順は 5.h3 Bg7 6.d3 e5 7.Bg5 f6 8.Be3 b6 9.Qc1 Be6 10.a4 Ne7 11.Na3 Nc8 12.b3 Nd6 13.Nc4 で、GMのL.プサーヒスによれば白が少し優勢である。

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2013年10月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(70)

「Chess Life」1993年5月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒は中央に向かって取るべきか(続き)

B …exf6 対 …gxf6

 Aの状況と異なり中央に向かって取り返す …gxf6 は、キングの位置に重大な弱体化を生じさせる。黒は序盤でこう弱体化しても大丈夫なように特に気をつけなければならない。1.e4 布局と 1.d4 布局とからそれぞれ一つの状況を手短に解説する。

  1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 で始まるカロカン防御の主手順には、黒に堅実な二つの手、4…Nd7 と 4…Bf5 がある。これらは実際黒の最もよく指されている手である。しかしはるかに不均衡になり野心的な 4…Nf6 もあり、5.Nxf6+ のあと二つのまったく異なる状況になる。

 図3

 (a)5…gxf6

 ブロンシュテイン・ラルセン戦法を選択するに当たり黒はカロカン防御が互角を追求する本筋の手段として通常用いられることを「忘れて」いるように思われる。ここでは黒は素通しg列を用いて白のキング翼に圧力をかけるつもりである。自分のキングはクイーン翼に安全を見つけることになる。現在この戦型は白の攻撃の方が危険になることが多いので人気がなくなっている。それでも定跡の状況は明らかとは言いがたい。1990年フランスでのJ.フェドロウィッツ対D.ルス戦では 6.c3 Bf5 7.Nf3 Nd7 8.g3 Nb6 9.Bg2 Qd7 10.O-O Bh3 11.Bxh3 Qxh3 12.a4 Qf5! 13.a5 Nd5 14.c4 Nc7 15.Bf4 O-O-O と進んで黒の反撃が有望になった。

 (b)5…exf6

 この主眼と言えない取り返しは、得しているポーン(二重ポーン)がキングを守りビショップが両方とも既に素通し斜筋上にあるという意味で「安全」である。もちろん良いことづくめではない。白はクイーン翼で4ポーン対3ポーンの健全な多数派になっている。GMアナトリー・カルポフのような相手に黒を持って指す危険をおかすよう勧めるつもりは毛頭ない。しかし「並み」のGMたち相手ならいい勝負である。黒の展望の好例は1992年マレーシアでのW.ワトソン対J.ホッジソン戦によく表れている。

6.c3 Bd6 7.Bd3 Be6 8.Ne2 Qc7 9.Qc2 Nd7 10.c4 c5

 黒は白のクイーン翼のポーンを動けなくし黒枡を支配するために、進んで保護パスポーンを作らせる。

11.d5 Bg4 12.h3 Bxe2 13.Qxe2+ Kf8 14.O-O Re8 15.Qc2 h5 16.f4?!

 白は見通しを過大視しすぎた。正着は自分の「優良」ビショップを黒のナイトと交換する 16.Bf5! である。

16…g6 17.Qf2 f5 18.b3 Be7! 19.Bb2 Bf6 20.Bxf6 Nxf6 21.Qb2 Kg7 22.Rf3

 黒はここで 22…h4? と間違えてキング翼をひどく弱め42手で負けた。代わりにホッジソンは 22…Qd6! のあと 23…Re7 から 24…Rhe8 と指すのが良かったとしている。それで白は積極的に動く手がなく、黒は素通しe列を支配しているので優勢になる。

  トロンポウスキー攻撃の 1.d4 Nf6 2.Bg5 に対して黒の信頼度の高い応手の一つは堅実な 2…d5 で、白は必ずといっていいほど 3.Bxf6 と取ってくる。

 図4

 白は黒に恒久的に二重ポーンを負わせ、局面が閉鎖的なままなら敏捷なナイトが黒の双ビショップよりも効果を発揮できることを見せつけることに期待している。大会の実戦ではGMの大多数がgポーンで取り返す方を選んでいる。

 (a)3…gxf6

 局面が閉鎖的であることは黒キングが十分安全であることを意味する。それでも二重ポーンはいくらか扱いにくく、孤立hポーンはあとで弱点になることがある。主眼の指し方をあげると、1985年バルセロナでのフェルナンデス対S.タタイ戦では 4.e3 c5 5.c3 Qb6 6.Qb3 e6 7.Nd2 Nc6 8.Ngf3 Bd7 9.Be2 Na5 10.Qc2 cxd4 11.exd4 Bb5 12.Bxb5+ Qxb5 13.a4 Qc6 14.O-O Bd6 と進んだ。Encyclopedia of Chess Openings D ではこの局面を互角と判断している。

 (b)3…exf6

 ちょうどカロカン防御の似た局面のように、黒は中央方向の動的な二重ポーンよりも理にかなった効率的な展開を選んだ。1980年ニューヨーク(へラルディカ)国際大会でのL.アルバート対E.メドニス戦では 4.e3 Bd6 5.c4 dxc4 6.Bxc4 O-O 7.Nc3 f5 8.Nf3 Nd7 9.O-O Nf6 10.Qc2 a6 11.Rfe1 Rb8 12.Rad1 と進んで、陣地の広さで白が少しの優勢を維持した。私の考えでは積極的な 7…c5! が良く、それで完全な互角のための十分な反撃が得られる。

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2013年10月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(71)

「Chess Life」1993年5月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒は中央に向かって取るべきか(続き)

C …hxg6 対 …fxg6

 g6での取り返しが最もよく現れるのは、カロカン防御やスラブ防御などの局面である。そこではクイーン翼ビショップがg6に回り込んで、白のキング翼ナイトまたはキング翼ビショップによって取られる。圧倒的に多くの場合取り返しはhポーンで行なうべきである。fポーンで取り返すと非常に有望になる場合、またはhポーンでの取り返しがはっきり悪い場合(例えばh列での白の攻撃が決定打になったりh7の地点が守れなくなったりする場合)に限り、黒は主眼の「中央に向かって」取るのをやめるべきである。

 1 …hxg6 と取る方が良い

 好例は1974年挑戦者決定戦準決勝B.スパスキー対A.カルポフ戦第2局である。

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Bf5 5.Ng3 Bg6 6.Nf3 Nd7 7.Bd3 e6 8.O-O Ngf6 9.c4 Bd6 10.b3 O-O 11.Bb2 c5 12.Bxg6 hxg6!

 この主眼の取り返しは欠点がなく、黒の中央への影響を強化している。代わりに動機づけのない 12…fxg6? は何も利益になることを達成せず、eポーンを弱点にしてしまう。両対局者は 13.Re1 Qc7 14.dxc5 Bxc5 15.Qc2 Rfd8 16.Ne4 Nxe4 17.Qxe4 のあと引き分けで合意した。

 強豪選手でも衝動的に主眼でない取り返しをしない方が良い。1973年ペトロポリス・インターゾーナルでのV.ホルト対D.ブロンシュテイン戦は次の手順で始まった。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.a4 Bg4 6.e3 e6 7.Bxc4 Nbd7 8.h3 Bh5 9.Qe2 Bb4 10.O-O Qe7 11.e4 e5 12.d5 a5?! 13.Rd1! O-O?! 14.g4! Bg6 15.Nh4! cxd5?! 16.Nxg6

 図5

 黒の指し手は正確さを欠いていた。そして普通の 16…hxg6 17.Nxd5 Nxd5 18.Bxd5 のあと、陣地の広さと駒の働きに優るために白が少しだが危なげなく永続的な優勢になる。有名なGMは気に入らなかったようで、f列を素通しにすることにより局面をかく乱しようとした。

16…fxg6? 17.Bxd5+! Kh8

 17…Nxd5 は 18.Nxd5 で白のナイトが絶好の地点につく。

18.Bxb7 Rab8 19.Bd5 Nc5 20.Bg5!

 黒のポーン損の代償はわずかで、白が43手で勝った。

 2 …fxg6 と取る方が良い

 この取り返し方は主眼でないので、黒は実戦的に考えなければならない。状況に合った非常に具体的な理由だけがうまくいくもとである。1986/87年アデレードでのP.ファン・デル・ステレン対E.トーレ戦で、スラブ防御主手順の18手目のあとこの決断が正着となるような局面が現れた。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 Bf5 6.e3 e6 7.Bxc4 Bb4 8.O-O O-O 9.Qe2 Nbd7 10.e4 Bg6 11.Bd3 Bh5 12.Bf4 Re8 13.e5 Nd5 14.Nxd5 cxd5 15.h3 a6 16.Rfc1 Bg6 17.Qe3 Nb8 18.Bxg6

 図6

 ここでは 18…hxg6 と取り返すのが普通だが、黒のキング翼が狭小で活気のない局面になる。さらに白は二重ポーンの本質的な弱点につけ込んで、Ng5 と跳ねてクイーンをh4に進めたり適時にhポーンをh5に進めてキング翼攻撃を目指すことができる。そこでGMトーレははるか先を見通したもっと良い手を選択した。

18…fxg6!

 黒はキング翼の防御がずっとやりやすくなっている。さらに素通しのf列での攻撃の可能性もある。

19.Qb3 a5 20.Bg5 Qb6 21.Be7?! Nc6 22.Bxb4 axb4 23.Qd3 Rf8! 24.Rd1 Rf4! 25.g3 Rf5 26.Nh4 Rf7 27.Rd2 Raf8 28.Re1 Na5 29.f4 Rc7!

 f列の圧力で白がキング翼のポーンの形を弱めさせられた。そしてここで黒はクイーン翼に取って返して白の背後に侵入しようとする。

30.Nf3 Rc4 31.Rc2?

 白は時間に追われて一組のルークの交換により問題を減らそうとしたが、逆効果だった。GMトーレは最善の防御として 31.Kg2 Rfc8 32.h4 で自陣を固めることを推奨している。

31…Rfc8 32.Rec1 Qc6! 33.Rxc4 dxc4 34.Qe3 Rd8 35.Ng5 Nb3 36.Rd1 c3 37.bxc3 bxc3 38.d5 c2 39.Rc1 Qxd5 白投了

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2013年10月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(72)

「Chess Life」1993年7月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

開放試合で白は中央に向かって取るべきか

 前回は布局や中盤戦初期に中央に向かって取り返すべきか中央から遠ざかるように取り返すべきか決めなければならない難しい状況を論じた。これは黒にとってしばしば非常に繊細な決定となる。たとえ主眼の「中央に向かって」取り返したくても、例えば展開の遅れやキングの安全の問題につながるかもしれない。

 白にはそのような心配がない。白は先着の優位と共に指し始めるので、どのように取り返しても少なくともまだ互角である可能性が高い。そしてたとえ取り返しが布局定跡によって黒が完璧な手順で互角にできると判定されているかもしれなくても、生じる局面が好きで得意ならば実戦的には指すのをやめる理由はない。いずれにしても全般的な原則は不変である。他に特別な理由がない限りつねに中央に向かって取り返せ。分かっていることは白には取り返しのためにより多くの可能性があり、開放試合と閉鎖試合とではかなり違うということである。今回は開放布局のための重要な選択肢を考察し、次回は閉鎖試合の状況を論ずる。

(A)axb3 対 cxb3

 出現例が断然多いのはシチリア防御の主手順である。b3の地点で取られる駒はキング翼ビショップかd4から退却したナイトで、取る駒は黒のクイーン翼ビショップかクイーン翼ナイトである。中央への目的と長期的なポーンの形の良さのために、aポーンで取り返した方が良いことは容易に分かる。さらに白のクイーン翼ルークのためにa列が素通しになるので、黒のaポーンに対して早くから圧力がかかり、黒がクイーン翼ルークを主眼のc列へ展開するのが遅れることになる。白がcポーンで取り返せば次のようなポーン陣形ができあがる。黒のaポーンとbポーンが白のaポーンと二重bポーンを押さえ、キング翼で黒の良形の連鎖5ポーンが白の4ポーンと対峙する。正しい判断をするための考察の材料は、ドラゴン戦法のユーゴスラビア攻撃によく現れている。

(1)axb3 と取る方が良い

 白は他に理由がなければ主眼の取り返しをすべきである。ユーゴスラビア攻撃の最初の10年ほど(1954年から1964年)は、黒は白のキング翼ビショップがc4に来たあとかなり急いで交換で消そうと努めた。その手順は次のとおりである。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.Bc4 Na5 10.Bb3 Nxb3

 白には取り方が3通りある。

 11.cxb3?! は目的がなく、11…d5! 12.e5 Ne8 13.f4(13.Ndb5 a6!)13…f6! で黒が既に反撃が有望で少し優勢になる。

 11.Nxb3 は中央に陣取っていたナイトが退却し、c4の地点に何も利いていない。1961年ソ連選手権戦でのA.ギプスリス対B.グルゲニゼ戦では 11…Be6 12.O-O-O a5 13.Nd4 Bc4 14.Bh6 Bxh6 15.Qxh6 e5 と進んで黒が互角にした。

 11.axb3 この普通の取り返しのあと白ははっきり優勢を保持する。2例をあげる。

 (a)11…d5 12.e5 Nd7 13.f4 Nc5 14.Ndb5 ヘンキン対チェレプコフ、ソ連、1954年

 (b)11…a6 12.h4 Bd7 13.h5 Rc8 14.Bh6 e5 15.Nde2 Be6 16.g4 Qc7 17.Ng3 b5 18.b4 これは1965年挑戦者決定準決勝番勝負のB.スパスキー対E.ゲレル戦第8局で、白の攻撃が全開なのに黒は攻撃になっていなかった。白は25手目でキャッスリングし39手目で圧勝した。

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2013年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(73)

「Chess Life」1993年7月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

開放試合で白は中央に向かって取るべきか(続き)

(A)axb3 対 cxb3(続き)

(2)cxb3 と取る方が良い

 既に述べたように圧倒的多数の場合においてaポーンで取り返すほうが良い。しかしcポーンで取り返す方を選ぶべき状況が二つある。

 (a)防御上の理由のため

 白がクイーン翼にキャッスリングしている場合、黒が素通しa列で効果的に重砲を動員できればその攻撃が危険なものになる。これは次の戦型に見ることができる。1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.Bc4 Nxd4 10.Bxd4 Be6 11.Bb3 Qa5 12.O-O-O Rfc8 13.Kb1 Rc6 14.h4 Bxb3

 ユーゴスラビア攻撃に特徴的なように、両者はそれぞれ敵キングを追い求めている。しばしばたった1手の違いで成功したり失敗したりする。だから 15.axb3?! は完全に無謀である。なぜならすぐに 15…Ra6 か事前準備の 15…b5 のあとa列での黒の攻撃が強烈すぎて、白はあわててクイーン同士を交換して互角の収局に同意しなければならないからである(15…Ra6 6.Na4 または 15…b5 16.Nd5)。従って白は次のように取るべきである。

15.cxb3

 これで黒の攻撃を無害にすることができ、白がキング翼で明るい見通しを保持する。1961年ソ連でのA.ギプスリス対I.ネイ戦では 15…b5 16.a3! Rac8(16…b4? 17.Na2)17.b4 Qa6 18.e5 dxe5 19.Bxe5 Ne4! 20.Nxe4 Bxe5 21.h5 Qb6 22.hxg6 hxg6 23.Qg5 で白が永続的な優勢を保った。収局になればポーンの形に優る黒が優勢だろうが、この中盤の局面では攻撃の可能性に優るのは白の方である。

 (b)攻撃上の理由のため

 ちょうど axb3 と取り返すのがキャッスリングしていないクイーン翼ルークのためにa列を開くように、cxb3 と取り返すのも白のルークおよび/またはクイーンによる潜在的な侵入のためにc列を開けることがある。もちろんこの見通しは明らかでなければならない。そうでないと白には劣ったポーン陣形が残され何の見返りもない。この可能性を利用した場合として参考になるのが、1963/64年米国選手権戦でのE.メドニス対R.ワインスタイン戦で、黒の18手目の次の手がそれにあたる。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 Nc6 8.Qd2 Be6 9.O-O-O Rc8 10.Kb1 O-O 11.Nxe6 fxe6 12.Bc4 Qd7 13.Bb3 Kh8 14.h4 Na5 15.Qd3 Nh5 16.Ne2 b5 17.Bd4 e5 18.Bc3 Nxb3

 黒は長期的や短期的な負債(二重eポーン、端で死んでいるキング翼ナイトとキング翼ビショップ)を抱え込む犠牲を払って、キング翼における白の突破の見込みを最小限にした。例えば主眼の 19.axb3 という取り返しのあと黒は 19…h6 と突き、そのとき 20.g4?! と突いて来るなら 20…Nf4 21.Nxf4 Rxf4 で白のf列が弱くなり、22.g5 は 22…h5 で 22.h5 は 22…g5 と応じられてどうしようもないので白に何の見返りもない。それでも黒がキング翼に精力を傾けたために、白が別の翼に目を向ければ有望な機会が得られる。それで適切なのが・・・

19.cxb3! h6 20.Rc1! Qb7 21.Bd2!

 白が迅速にクイーン翼に戦力を動員できるので、そちらでの黒の防御は非常に大変になっている。黒は満足な作戦を立てることができない。たぶん最善は 21…Nf6 を手始めにナイトを試合に参加させることだった。

21…Rcd8 22.Ba5 Rd7 23.Rhd1! Bf6 24.Be1 e6 25.Qc2 Be7 26.Qc6! Ng7 27.Qxb7 Rxb7 28.a3! Kg8 29.Rc6

 クイーン交換でも黒の負担は楽にならなかった。特にaポーンが非常に弱くなっている。

29…Kf7 20.Ra6 Ra8 21.f4!

 黒のあちこちのポーンの弱点につけ込むために白は筋を素通しにするように努めるのが良い。

31…exf4 32.Nxf4 Rc8 33.g3 g5 34.hxg5 hxg5 35.Nd3 Rh8 36.g4 Rh3?! 37.Bf2 Rh2 38.Rxa7 Rxa7 39.Bxa7 Rg2 40.Nf2 Ne8 41.a4 bxa4 42.bxa4 Bd8 43.e5 Bc7 44.exd6 Bxd6 45.a5 Be7 46.Bb6 Nd6 47.a6 黒投了

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2013年11月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(74)

「Chess Life」1993年7月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

開放試合で白は中央に向かって取るべきか(続き)

(B)bxc3 対 dxc3

 序盤ではこの選択は前稿の黒の場合に論じたルイロペス交換戦法(1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Bxc6)と考慮点が同じである。結果としてまた二重ポーンができる。大きな違いはどちらの取り方でも白が主導権を維持する可能性が高いことが確実であるということである。言い換えると互角にするために努力しなければならないのは黒の方である。

 議論の良い対象は次のアリョーヒン防御に対する「単純な」戦法(B03)である。

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.Nc3 Nxc3

(1)4.bxc3

 白はbポーンを2個目のcポーンにすることにより中央での見通しを明るくした。もっともクイーン翼ビショップの展開の遅れとポーン陣形のいくらかの不安定さという犠牲を払っている。以下の主眼の手順にその得失が表れている。4…d6(アリョーヒン防御では白のe5の拠点に立ち向かわなければならない。だから 4…d5?! は劣っている)5.f4 g6(黒は白ほど余裕がないので、5…dxe5?! 6.fxe5 Qd5 で大攻勢に出ようとするのは次のように自分にはね返ってくる。7.Nf3 Nc6 8.d4 Bg4 9.Be2 e6 10.O-O Be7 11.Rb1 b6 12.c4 Qd7 13.c3 GMバギロフによると白が広陣のため優勢である)6.Nf3 Bg7 7.d4 O-O 8.Bd3 c5 9.O-O dxe5 10.dxe5(「中央に向かって取り返す」10.fxe5?! は白の中央が不安定すぎる。1971年スメデレフスカ=パラーンカでのN.パデフスキー対ブコビッチ戦では 10…Nc6 11.Be3 Bg4 12.Be4 Qa5 13.Qe1 Rad8 と進んで、d4の地点に対する圧力のために黒の方が有望だった。本譜の手は確かに白に悪形の二重ポーンが残されるが、代償としてキング翼で陣地が広く攻撃が有力である)10…Nc6 11.Be3 Qc7 12.Qe1 1968年バンベルクでのA.デュクシュタイン対H.ウェステリネン戦では白が少し優勢だった。

(2)4.dxc3

 白は順調な展開としっかりしたポーン陣形を確実にした。不利な面はキング翼で3ポーン対4ポーンの不利に陥って何の見返りもなくなるかもしれないことである。黒の最善のやり方は単純化を目指すことだと思う。4…d6(ここでも 4…d5?! は明らかに劣った手で、5.f4 でも 5.c4 でも白が優勢になる)5.Nf3 dxe5!(5…Nc6 も理論的には指せる手だが、6.Bb5 Bd7 7.Qe2! で白が展開で圧倒的に差をつけているため黒は細心の注意を払わなければならない)6.Qxd8+ Kxd8 7.Nxe5 Ke8 8.Be3 Nd7 9.Nf3 e5 10.O-O-O f6 11.Nd2 Bc5 12.Bxc5 Nxc5 13.Bc4 そして1974年ソ連でのリステンガルテン対V.バギロフ戦では 13…c6?! 14.f4! b5 15.Be2! exf4 と進んだとき 16.Bh5+! g6 17.Bf3 で白がはっきり優勢になれるはずだった。GMバギロフは代わりに 13…Bg4! 14.f3 Bh5(15.g4 Bf7)を推奨し、いずれ互角になるとしている。

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2013年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(74)

「Chess Life」1993年7月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

開放試合で白は中央に向かって取るべきか(続き)

(C)dxe5 対 fxe5

 開放試合ではこの選択は白が早く e5 と突き黒が …dxe5 と応じて生じるのが普通である。だから白が二重ポーンにされることはない。dxe5 は「中央から離れて」取り返すのではないことを強調しておく。というのは中央の一級のeポーンが中央の一級のdポーンによって置き換えられるからである。それでも白の中央が強化されたわけではない。強化のためには「中央に向かって」fxe5 と取り返すことが必要である。さらにはf列に沿っての白の攻撃の可能性が増すことがよくある。一般的には dxe5 は陣地の広さの優位の状況で快適な堅固さを白にもたらし、fxe5 はそれ以上を追求する意欲的な手段をもたらすと言うことができる。

 ピルツ防御に対するオーストリア攻撃の次の戦型では、取り返しの選択における現代の見方を示してくれる。

1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Nf3 O-O 6.Bd3 Nc6 7.e5 dxe5(B09)

(1)8.dxe5 Nd5 9.Bd2

 白は中央が安定し広さでも優っているので、これらの優位を積み重ねていくことを期待している。黒の前途は以下の手順に見られるように全然容易でない。

(a)9…Nxc3 10.Bxc3 Bf5 11.Bxf5 Qxd1+ 12.Rxd1 は1972年アムステルダムでのI.サボー対H.ドナー戦だが、明らかに白の有利な収局である。

(b)9…Bg4 10.Be4 e6 11.h3 Bxf3 12.Qxf3 Nd4 13.Qf2 c5 ここで 14.Na4! で 14…f6 に 15.c3! の狙いで白が優勢である(GMスエティン)。

(c)9…Ndb4 10.Be4 f5 11.Bxc6 Nxc6 12.Qe2 のあと 13.O-O-O で白が明らかに優勢である。

 私の考えでは黒は迅速に戦力を再編成して十分な反撃をひねり出さなければならない。1974年ロサンゼルス国際大会でのN.ワインスタイン対E.メドニス戦を追うことにする。

9…Ncb4! 10.Be4 Nb6 11.a3 Na6 12.Qe2 Nc5 13.O-O-O Nxe4 14.Nxe4 Qe8!

 黒はクイーンを働かせる用意をした。例えば 15.Nd4 なら 15…Qa4! 16.Be3 Qc4 で互角になる。

15.Rhe1 Be6 16.Nd4 Bd5! 17.Qf2 Qc8!

 黒は 18.Nf6+ の狙いをかわし、18…c5 突きの用意をした。白はここで 18.Nc3 でほぼ互角の形勢に満足すべきだった。攻撃しようとしたために黒にクイーン翼で押しまくられ始めた。

18.Qh4? c5 19.Nf3 f6 20.Bc3 Qc6 21.Nf2 Na4! 22.Re3 b5 23.Ng4 Nxc3 24.Rxc3 Rad8! 25.exf6 exf6 26.f5 Be4! 27.Rxd8 Rxd8 28.b4?! Bxf5 29.Ne3 Be6 30.Nd4 Qd7! 31.Nxe6 Qxe6 32.bxc5 Qa2 33.Rd3 Rxd3 34.cxd3 Qxa3+ 35.Kd2 Qxc5 36.Qe4 f5 37.Qe6+ Kf8 38.Nd5 b4 39.Qd7 Bh6+ 40.Ke2 Qc2+ 41.Ke1 Qd2+ 白投了

(2)8.fxe5

 白がこれでうまくやっていけるなら、これが文句のない取り返し方である。事実上fポーンを黒のdポーンと交換したことにより、白は中央での優位を大きく拡大した。さらに白の中央の2個の一級ポーンは、dポーンが4段目にありeポーンが5段目(黒陣側に入り込んでいる!)にあって活動的な位置にある。一方黒の中央の一級ポーン-eポーン-はまだe7の地点に留まったままである。白の目標はまず中央と広さの優位を固めてから、それを用いて黒にさらに圧力をかけることであるはずである。黒は白の中央に挑んでいかなければならない。さもないと生き埋めにされてしまうかもしれない。だから黒のキング翼ナイトにはまともそうな行き場所が5箇所あっても、そのうちの二箇所の 8…Ne8?! と 8…Nd7 は本質的に守り一方で十分な反撃の見通しがない。ほかの三箇所は次のように主眼の手順になる。

(a)8…Nd5 は「Encyclopedia of Chess Openings B」(改訂版)では高い評価を得ているが、私は信頼していない。9.Nxd5 Qxd5 10.c3 Be6 11.O-O Rad8 12.Bf4! Qd7 13.Qe1 となれば、白は中央が安全になりキング翼攻撃の見通しも有望さを保持している。1988/89年レッジョ・エミーリアでのJ.エールベスト対V.アーナンド戦では白が次のように勝った。13…Bf5 14.Bxf5 Qxf5 15.Qg3 h6 16.Rae1 Qe6 17.a3 Na5 18.Bg5! Rd7 19.Qh4! h5 20.b4 Nc4 21.Bc1 Nb6 22,Ng5 Qc6 23.e6 fxe6 24.Rxf8+ Bxf8 25.Qf2! 黒投了

(b)8…Ng4 は数多く指されているがうまくいっていない。キング翼ナイトがどうしてもスムーズに試合に戻れない。例えば 9.Be4 f6 10.h3 Nh6 11.exf6 exf6 12.Bd5+ Kh8 13.O-O Nf5 14.Re1 となると、白駒の方がよく働いていてdポーンが中央の要所を押さえている。1971年ソ連でのゴロベイ対ボリセンコ戦では黒が戦術で締め付けから逃れようとしたが、14…Ncxd4 15.Nxd4 Nxd4 16.Qxd4 c6 17.Bf4 cxd5 18.Nxd5 Bf5 19.Re7 となって白駒が盤上を支配し続けた。

(c)8…Nh5 は「試行錯誤」として知られる研究手法のおかげで最善の地点になった。9.Be2 Bg4 10.Be3 f6! 11.exf6 Bxf6 12.Ne4 Qd5 13.Nxf6+ exf6 14.O-O Rae8 15.Bh6 Ng7 のあと1980年ソ連でのカタリモフ対クズィミン戦では黒がスムーズに展開を完了した。白は唯一中央での一級ポーンを持っているので 16.c3 でわずかに優勢を保持している。

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2013年11月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(76)

「Chess Life」1993年9月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

白は中央に向かって取るべきか

 現在グランドマスターの大部分は白番のとき閉鎖布局の方を好んでいる。この大きな理由は布局から典型的な優位(例えば陣地の広さ、中央の影響力の優位、迅速な駒の展開など)を引き出すことができ、その一方で 1.e4 よりも戦術的に不意を突かれる危険性が少ないことに信頼をおいているからである。より少ない危険性で支配と容易さがより大きいことが 1.d4、1.c4 および 1.Nf3 の人気の理由である。

 白で閉鎖布局を指す快適さは、「中央に向かって取り返せ」という原則を適用する際にも自由度が増すことになる。迷うなら中央に向かって取り返せばよい。しかしどう取り返しても同じくらい良い状況は、1.e4 布局で白でも黒でも成り立つ場合よりもはるかに多い。個人の棋風がしばしば手を決める要因になる。本稿では三つの最も重要な取り返しの状況を取り上げる。

A.cxd4 対 exd4

 黒が白のd4ポーンに …c5 突きで挑み、白が c3 突きと e3 突きでd4を支えるようにしたとき、この重要な選択がよく起こる。この題材はコーレ布局(1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.e3 c5)、トーレ攻撃(1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.Bg5 c5)それにキング翼インディアン防御に対するいくつかの戦法でおなじみである。

 cxd4 が本当に「中央に向かって」取り返すのに対し、exd4 はeポーンがdポーンに置き換わるので中立的な取り返しであることを強調しておく。それでも exd4 を良しとする要因もある。キング翼インディアン防御に対するロンドン・システム(A48)の次の戦型を考えてみよう。

1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.Bf4 Bg7 4.Nbd2 O-O 5.e3 d6 6.h3 c5 7.c3 cxd4

 図1

(1)8.cxd4

 対称な中央の形にもかかわらずdポーンが白は4段目にあって黒は3段目にあるので、白が中央での影響力を増している。それでも最も重要な問題は、白が素通しc列を支配できるのかということである。クイーン翼ビショップを安全にするために1手かけたので(6.h3)、この見通しは低く布局での優位の可能性も低い。1962年バルナ・オリンピアードでのP.ケレス対F.ゲオルギュでは黒が 8…Nc6 9.Bc4 Bf5 10.O-O Rc8 11.Qe2 Na5 12.Bd3 Bxd3 13.Qxd3 Qb6 14.Rab1 Nd5 15.Bg5 h6 のあとほぼ対称の局面で互角にした。

(2)8.exd4

 白は黒にだけeポーンがある危険性を抱えても局面を非対称にした。もし黒が無事に …e5 と突くことができれば、白は中央で劣勢になる。白の戦略は …e5 突きを防ぎながら半素通しe列で圧力をかけることを目指し、d4ポーンからくる広さの優位を生かすようにするのが良い。黒は …d5 と突くべきでない。そう突くとe5の地点をひどく弱め白のクイーン翼ビショップの斜筋を通すことになるからである。

 現在のところ白が勝ちを目指して指している時はいつも、非対称の取り返しの 8.exd4 が選ばれる。典型的な手順は 8…Nc6 9.Be2 Re8 10.Nc4! Be6 11.O-O Rc8(11…Nd5?! 12.Bd2 Rc8?! は黒駒の位置を悪くするだけで、1924年ニューヨークでのD.ヤノフスキー対F.マーシャル戦では 13.Ng5 Bd7 14.Qb3 h6 15.Bf3 となって白が主導権を握った)12.Bh2(12.Ne3! の方が良い)12…Bh6 13.Re1 Na5 で、1959年ソ連でのR.ホルモフ対E.グフェルト戦では不均衡な局面でいい勝負のようだった。

 白は自分がどう取り返したいかを分かっていれば、もちろん …c5 突きに「望みの」ポーンで応じるのが良い。トーレ攻撃(A46)で考える

1.d4 Nf6 2.Nf3 e6 3.Bg5 c5

 図2

 黒はd4の白ポーンを撲滅することを狙っている。これを阻止するために白は 4.c3 または 4.e3 を選ばなければならない。さらにはどちらの手の後でも黒は 4…Qb6 で白のクイーン翼を攻撃することができる。だから白はこれにも楽に応じる自信がなければならない。その帰結は次のとおりである。

(1)4.c3 Qb6! 5.Qc2 cxd4! 6.cxd4

 白はb2の地点を守りd4の地点の支配を保持した。しかし1928年ベルリンでのF.マーシャル対S.タルタコワ戦では黒がc列で一歩先んじ 6…Nc6 7.e3 d5 8.Nc3 Bd7! 9.Bb5(9.Be2 Rc8)9…Ne4 10.O-O Nxc3 11.Bxc6 Qxc6 12.Ne5! Qa4 13.Qxc3 Rc8 14.Qd2 f6 となって楽に互角になった。

(2)4.e3

 ちょうど図1のように、何らかの優勢の希望を保ち続けるためには exd4 と取り返す必要があることがグランドマスターの実戦によって確立された。典型的な二つの応手は次のとおりである。

(a)4…cxd4

 1925年モスクワでのC.トーレ対エマーヌエル・ラスカー戦は 5.exd4 Be7 6.Nbd2 d6 7.c3 Nbd7 8.Bd3 b6 9.Nc4 Bb7 10.Qe2 Qc7 11.O-O O-O 12.Rfe1 Rfe8 13.Rad1 Nf8 と進んだ。白が広さの優位で少し優勢のはずだが、黒陣も相変わらず非常に堅固である。

(b)4…Qb6

 1990年レイキャビクでのG.カームスキー対N.ド・ファーミアン戦では 5.Nbd2! Qxb2 6.Bd3 Qc3 7.O-O と進んだ。白の展開の大きな優位がポーン損を完全に補っている。

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2013年11月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(77)

「Chess Life」1993年9月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

白は中央に向かって取るべきか(続き)

B.cxd5 対 exd5

 これは閉鎖試合で白の最も重要な「選択」問題になっている。べノニまたはキング翼インディアンシステムで、黒が …c5 または …e5 突きによって白のd4ポーンに挑み、白がポーンをd5に突いて、黒がまた …e6 または …c6 突きで白のdポーンと対決するときに起こる。おおよその取り返しの原則は次のとおりである。

 ● 1…e5 2.d5 c6 から 3…cxd5 という手順では白は中央に向かって 4.cxd5 と取り返すのが普通である。

 ● 1…c5 2.d5 e6 から 3…exd5 という手順では 4.cxd5 も 4.exd5 も通常は同価値である。

(1)最初の状況はキング翼インディアン防御ゼーミッシュ戦法(E89)の次の重要な戦型でよく説明できる。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3 O-O 6.Be3 e5 7.d5 c6 8.Nge2 cxd5

 図3

 白には取り返し方が三通りある。

(a)9.Nxd5

 この手は「指せる」けれども、9…Nxd5 10.cxd5 Bh6!(11.Bxh6 Qh4+)で二組の小駒が交換になって白陣の広さの優位の重要性が減少するので指されない。一方1961/62年ヘースティングズでのK.ロバーチュ対L.バーデン戦では 10.Qxd5?! Nc6 11.Qd2 f5 12.Nc3 Nd4 で既に主導権が黒に渡った。

(b)9.exd5?!

 この手は劣っている。その理由は黒にだけeポーンが残って、それが既に4段目の好所に位置し、あとで …f5 のあとさらにe4に進みそれにより黒のキング翼ビショップのためにa1-h8の斜筋も通る可能性があるからである。

(c)9.cxd5

 これが主眼の取り返し方で最善手である。白は中央で広さの優位を増し、素通しc列で侵入の可能性ができ、黒のキング翼ビショップを閉じ込め、自陣には何の欠陥もない。

(2)白の取り返し方により、次の手順はべノニ防御にもなればキング翼インディアン防御にもなる。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f4 O-O 6.Be2 c5 7.d5 e6 8.Nf3 exd5

 図4

 三通りの手が考えられる。

(a)9.e5?!

 これは野心的すぎて、9…Ne4! 10.cxd5 Nxc3 11.bxc3 Nd7 12.e6 fxe6 13.dxe6 Nb6 で黒が優勢になる。

(b)9.cxd5

 これが野心的な主眼の取り返し方で、べノニに移行する(べノニの手順は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.e4 g6 7.f4 Bg7 8.Nf3 O-O 9.Be2)。白は威容を誇る中原を築いた。第一級のdポーンは黒陣に食い込み、盤上で唯一のeポーンは4段目に進出し、第二級の中央のfポーンも4段目で既に e5 突きを支援する位置にいる。危険性はもちろん中央が破裂して瓦礫と化すかもしれないことである。代表的な手順は 9…Bg4 10.h3 Bxf3 11.Bxf3 Re8 12.O-O a6 13.a4 Nbd7 14.Qc2 Qc7 15.a5 c4 16.Be3 である。1991年ポートランドでのM.フラネット対R.グトマン戦ではここで黒が 16…Nc5?! と指したため 17.e5! と突かれて白がはっきり優勢になった。GMフターチュニクと国内マスターのフラネットは代わりに 16…Rac8 が正着だとしている。

(c)9.exd5

 この手は自発的にeポーンを盤上から「移動させる」ことにより白の中原への危険をすべて取り除いている。白は主導権を得るための基本構成要素として、d5にポーンを置くことにより生じる広さの優位に期待している。最近の実戦によれば黒は白に中央と広さの優位を活用させないために 9…Nh5! 10.O-O Bxc3! 11.bxc3 f5 と過激に応じる必要があることが示されている。

 参考になるのは「良い」落ち着いた指し方は互角にならないということである。例えば 9…Re8 は 10.O-O Ng4 11.h3 Ne3 12.Bxe3 Rxe3 13.Qd2 Re8 14.Bd3 Nd7 15.Rae1 Rxe1 16.Rxe1 Nf8 17.g4 で白が楽に優勢になる。白は駒がよく働き中央とクイーン翼で陣地が広い。黒はこの戦略的な不利の代償が何もない。

(2)「中立的な」取り返しの exd5 における白の展望は、1992年ベオグラードでのB.スパスキー対R.フィッシャー番勝負第26局によく現れている。その試合は次のように始まった。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 d6 4.Nc3 g6 5.e4 Bg7 6.Bd3 O-O 7.Nf3 Bg4 8.h3 Bxf3 9.Qxf3 Nbd7 10.Qd1 e6 11.O-O exd5

 図5

 中央重視の主眼の取り返しはもちろん 12.cxd5 で、べノニ型の対決になり白は中央の優位が生きることに期待して e5 突きの仕掛けを目指さなければならない。黒がこの進攻を防ぐのに良い態勢なので(dポーン、クイーン翼ナイト、キング翼ビショップ、キング翼ルーク、それにクイーンがこのために動員できる)、成功するためには多くの努力といくらかの危険をおかすことが必要で、結果は保証されるとはとても言えない。だから経験豊富なGMははるかに控え目なやり方を選ぶ。

12.exd5

 白はd5ポーンから由来する広さの優位と双ビショップの潜在的な威力に満足する。おまけに黒の反撃の可能性は無視できるほどである。

12…Ne8 13.Bd2! Ne5 14.Be2 f5 15.f4 Nf7 16.g4! Nh6 17.Kg2 Nc7 18.g5 Nf7 19.Rb1 Re8 20.Bd3 Rb8 21.h4 a6 22.Qc2 b5 23.b3 Rb7?!

 ここともっとあとでも黒は 23…b4 でクイーン翼を閉鎖すべきだった。それなら白のキング翼での主導権への対処を心配するだけでよかった。

24.Rbe1 Rxe1 25.Rxe1 Qb8 26.Bc1 Qd8 27.Ne2 bxc4?

 これが敗着になった。黒は自発的にクイーン翼を開放して、キングと双ビショップを含む白駒がそちらに侵入できるようにした。黒は 27…b4 と突いて、キング翼の防御に有効な作戦を考えるべきだった。それは簡単というわけではない。23…Rb7?!、25…Qb8 それに 26…Qd8 という黒の「水泳」にそれが見てとれる。

28.bxc4! Ne8 29.h5 Re7 30.h6 Bh8 31.Bd2 Rb7 32.Rb1 Qb8 33.Ng3 Rxb1 34.Qxb1 Qxb1 35.Bxb1 Bb2 36.Kf3

 白キングが黒のクイーン翼に移動する用意ができて、GMフィッシャーの前途は風前の灯である。そしてGMスパスキーが58手で勝った。この戦略の名局の詳細な解説は、本誌の1993年1月号の81ページに載っている。

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布局の探究(78)

「Chess Life」1993年9月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

白は中央に向かって取るべきか(続き)

C.fxg3 対 hxg3

 この重要な取り返しの問題は白のクイーン翼ビショップがg3に回り込み、黒のキング翼ビショップまたはキング翼ナイトによって交換されるときに起こる。

(1)スラブ防御の交換戦法(D13)で黒はクイーン翼ビショップの早い展開を目指すか、まずキング翼の展開に集中するかを選択できる。後者のやり方の場合重要な手順は次の戦型である。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.cxd5 cxd5 5.Nc3 Nc6 6.Bf4 e6 7.e3 Bd6 8.Bg3

 白がd6で交換しないのは、何も得がないのに黒クイーンを展開させるからである。代わりに理屈に合わないが、進んで二重ポーンを受け入れ、手損してまで黒からの交換を誘う。

8…Bxg3

 ここで白はどのように取り返すのが良いだろうか。

(a)9.fxg3?!

 この手は奇妙である。白は形の悪いeポーンを残し中央への影響力も減らしている。唯一の有利な材料の半素通しf列の生かし方も不明である。、

(b)9.hxg3

 これが正しい主眼の取り返し方である。白の中央の影響力がいくらか増し、右翼の連鎖ポーンは無傷のままで、黒がキング翼にキャッスリングすれば半素通しh列が効果的な攻撃経路になる。白が楽に布局の有利を保持していることは確かである。例えば1979年ソ連でのV.チェーホフ対カカゲルドイェフ戦は 9…Qd6 10.Bd3 Bd7 11.Rc1 Rc8 12.Bb1 h6 13.a3 O-O 14.Rh4! e5(さもないと 15.g4 から 16.g5 が強力である)15.dxe5 Nxe5 16.Nxe5 Qxe5 17.Qd4! と進んだ。

 h列での攻撃の危険性を最小限にするために、現代の定跡では白がキング翼にキャッスリングしたあとでだけ黒はg3で交換すべしとしている、だから 8…O-O のあと 9…b6 から 10…Bb7 と指す方が正確だと考えられている。

(2)しかしクイーン翼インディアン防御の諸刃の剣の戦型(E12)ではどちらの取り返し方も正しい。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.Nc3 Bb7 5.Bg5 h6 6.Bh4 g5 7.Bg3 Nh5 8.e3 Nxg3

 図6

 黒のキング翼での意欲的なポーン突きは根本的にそちらの方面の自陣を弱め、白にf列またはh列で有利な見通しをもたらすことになる。また、どちらのポーンで取り返しても白キングは十分安全なままである。

(a)9.fxg3!?

 これは棋理に反していることは明らかだが、f列で展望が開ける可能性がある。1979年リガ・インターゾーナルでのO.ロマニシン対Z.リブリ戦にそれがよく表れている。9…Bg7 10.Bd3 d6(10…Nc6 の方が安全)11.O-O Nd7 12.Bc2 Qe7 13.Qd3 a6?!(13…O-O-O の方が安全)14.Nd2 c5 15.Nde4 f5?! 16.dxc5!! Nxc5 17.Nxd6+ Kf8(17…Kd7 でも白は 18.Nxf5+! と指す)18.Nxf5! exf5?(18…Nxd3 19.Nxe7+ で収局にするしか引き分けの可能性はなかった)19.Qxf5+ Kg8 20.Nd5! Qe8 21.Rad1 Rc8 22.b4 Ne6 23.Nxb6 Rc7 24.c5 h5 25.Rd6 Rh6 26.Rxe6! 黒投了

(b)9.hxg3

 これは戦略的に欠点がなく、黒のhポーンに圧力をかけてキング翼キャッスリングを思いとどまらせる。1979年ソ連でのM.タイマノフ対L.ポルガエフスキー戦では激闘になった。9…Bg7 10.Bd3 Nc6 11.g4 Qe7 12.Qa4 a6 13.Rc1 Nb4 14.Bb1 c5 15.a3 cxd4 16.Nxd4 Nc6 17.Be4 Bxd4 18.exd4 f5 19.Bf3 fxg4 20.Bxg4 Nxd4 21.Bh5+ Kf8 22.O-O ここでGMタイマノフは黒キングが薄いので白にポーンの代償が完全にあると考えていた。試合は41手で引き分けになった。

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2013年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(79)

「Chess Life」1993年11月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

現代の布局定跡へのカスパロフの影響

 世界チャンピオンがチェスの進歩と定跡に強い影響を与えるのはごく普通である。もちろん影響の度合いは本人の関心だけでなく在位の長さと支配力で決まってくる。布局定跡の知識と影響力で傑出している二人の世界チャンピオンがGMロバート・フィッシャーとGMガリー・カスパロフであることは疑いない。二人は早くからそれを実証した。ボビー・フィッシャーは29歳で世界チャンピオンになり、カスパロフは現在30歳である。両者にはほかにも多くの類似点がある。

 1.二人とも非常に研究熱心で、定跡の探究を楽しみ、布局からできるだけ大きな有利を得ることをことのほか大切だと考えている。

 2.二人とも布局で主導権を得る見込みが大きい戦型を目指す。

 3.二人とも黒より白の方が常用布局が豊富である。

 4.二人とも白より黒で危険をおかす用意がある。だから黒での布局の方がより激しく、より諸刃の剣で、複雑である。

 5.布局で洗練された創造力のある指し方が認められているにもかかわらず、二人とも自分の名前のついた戦法がないし、まして布局名もない。

 両者の大きな違いは、フィッシャーがはるかに単純で厳しくない時代に生きていたということである。1980年代と1990年代には非常に才能のあるチェスの虫が輩出した。カスパロフは布局の段階でもうフィッシャーよりはるかにきつい相手と対戦していた。布局定跡の進歩の量と質のために、起こったことについて行くだけでも非常に困難である。カスパロフはついていっているだけでなく、自分の関係した多くのことの最先端にいる。さらには戦法の「寿命」は「指しつくされた」として見捨てられ注目が新構想に移る前にどんどん短くなっている。

 そのような状況の下で頂点に立っているためには、研究熱心、才能、好奇心、創造力と想像力を持ち合わせていることが必要なだけではない。究極の真実の探究者であるだけでなく、永久にチェスの成熟の中で成長していかなければならない。私はカスパロフが1983年12月ロンドンでの挑戦者決定番勝負準決勝でGMビクトル・コルチノイに勝利したあと彼に発した質問をよく覚えている。その質問はこうだった。「あなたは初手に 1.e4 と指すことにより強豪グランドマスターになった。それにもかかわらず20歳の誕生日を迎えるずっと前に、1.d4 に転じた。なぜ変えたのか。」ちょっと間が空いたあとこの歯切れのよい答えが返ってきた。「1.d4 の方が内容の濃い指し方の機会が多いことが分かってきた。」実際コルチノイ戦でカスパロフは 1.d4 しか指さなかった。それでも時とともに 1.e4 に戻った一時期もあり、1.c4 も常用布局に加えた。だからGMナイジェル・ショートとの番勝負開始時点でカスパロフは 1.c4、1.d4 および 1.e4 の大家で、まさに全天候型人間である。

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2013年12月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(80)

「Chess Life」1993年11月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

現代の布局定跡へのカスパロフの影響(続き)

 ここでは現代布局定跡へのカスパロフの影響が非常に大きかった多くの布局のうち二つを取り上げる。

Ⅰ.ニムゾインディアン防御

 1985年GMアナトリー・カスパロフとの世界選手権戦でガリー・カスパロフは初戦で最初の5手のうち3回も相手の意表を突いた。

 (1)1.d4 Nf6 2.c4 e6 のあとカスパロフは 3.Nc3 と指した。

 自分の名著の「New World Chess Champion」の中でカスパロフはこのありきたりの手について次のように解説している。「最近はニムゾインディアン防御を避けて 3.Nf3 か 3.g3 を指していた。」

 (2)カルポフは予想どおりの 3…Bb4 で応じたが、予想外の 4.Nf3 が来た。これは本筋の手だが、それまではつまらない手という評判だった。この時のことについてカスパロフは次のように書いている。

 「不意打ち!以前は普通に 4.e3 と指していて、カルポフはその手なら局数無制限勝負[1984年の世界選手権戦-メドニス]以前に明らかに予期していた。」

 (3)黒は最も普通の応手の 4…c5 を採用し、白は 5.g3 と指した。ここでGMカルポフは29分考え、最初の5手だけで48分を費やした。

 ここからは終局までの指し手をざっと見ていこう。

5…Ne4 6.Qd3 Qa5 7.Qxe4 Bxc3+ 8.Bd2 Bxd2+ 9.Nxd2 Qb6?!

 このあとカスパロフは黒がこんな手損をしている余裕がないことを見せつける。黒は 9…Nc6 または 9…O-O と指す方が良いが、それでも互角とはほど遠い。

10.dxc5! Qxb2 11.Rb1 Qc3 12.Qd3! Qxd3 13.exd3

 白は展開に優り、駒がよく働く地点に配置され、陣地が広いので大きく優勢である。そしてこれらの要因を見事に活用した。カルポフは苦戦を最小限にするための少しの機会を無視したあげく完膚なきまでに叩きのめされた。残りの手順をカスパロフの分析に基づいた短い解説をつけて示す。

13…Na6 14.d4 Rb8 15.Bg2 Ke7 16.Ke2(16.O-O! が強手だった)16…Rd8 17.Ne4 b6 18.Nd6 Nc7?(18…bxc5! なら引き分けの可能性があった)19.Rb4! Ne8 20.Nxe8(20.Nxc8+! が正しい取り方だった)20…Kxe8?(20…Rxe8 が正着だった)21.Rhb1 Ba6 22.Ke3 d5 23.cxd6e.p. Rbc8 24.Kd3 Rxd6 25.Ra4 b5 26.cxb5 Rb8 27.Rab4 Bb7 28.Bxb7 Rxb7 29.a4 Ke7 30.h4 h6 31.f3 Rd5 32.Rc1 Rbd7 33.a5 g5 34.hxg5 Rxg5 35.g4 h5 36.b6 axb6 37.axb6 Rb7 38.Rc5 f5 39.gxh5 Rxh5 40.Kc4 Rh8 41.Kb5 Ra8 42.Rbc4 黒投了

 カスパロフが 4.Nf3 の戦型に吹き込んだのは主導権の動的な追求だった。この重要視はポーンの良形のような静的な考慮よりもはるかに重要だった。1985年の番勝負全体でニムゾインディアン防御が6局現れ、すべてで 4.Nf3 が指された。白の成績は3勝3引き分けで、序盤に限れば白がもっと優勢だった。

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2013年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(81)

「Chess Life」1993年11月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

現代の布局定跡へのカスパロフの影響(続き)

Ⅰ.ニムゾインディアン防御(続き)

 ほかの5局では布局の段階における重要な進展は次のようであった(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 のあと)。

第7局
4…O-O 5.Bg5 d6 6.e3 Nbd7 7.Qc2 b6 8.Bd3 Bxc3+ 9.bxc3! h6 10.Bh4 Bb7 11.Nd2! g5 12.Bg3 Nh5

 ここで「不必要な妙手」の 13.Qd1 の代わりにカスパロフははるかに強い手として 13.f3! をあげている(13…f5 14.Bf2 Ndf6 15.h3 f4 16.O-O-O または 13…Nxg3 14.hxg3 Kg7 15.g4! c5 16.Nf1 Nf6 17.Ng3)。

第11局
4…O-O 5.Bg5 c5 6.e3 cxd4 7.exd4 h6 8.Bh4 d5 9.Rc1! dxc4 10.Bxc4 Nc6 11.O-O Be7 12.Re1 b6 13.a3 Bb7 14.Bg3 Rc8 15.Ba2 Bd6

 ここで清算の 16.d5 の代わりに白は 16.Bh4! または 16.Be5! と指せば主導権を持ち続けることができた[カスパロフ]。

第13局第17局
 第7局と第11局の普通の展開の結果に不満なカルポフは長期的な戦略の考え方でいくことにした。

4…c5 5.g3 Nc6 6.Bg2 Ne4 7.Bd2 Bxc3 8.bxc3 O-O 9.O-O

 白の優位は黒より優る展開の動的要因とキング翼ビショップの強力な対角斜筋とからきている。黒は白の中央に対する反撃策を見つけるべきである。

 (A)第13局 9…f5?! 10.Be3!! Nxc3 11.Qd3 cxd4 12.Nxd4 Ne4 13.c5! 黒陣に対する白の圧力が非常に強い(13…Nxc5? は 14.Nxc6 で駒損になる)。

 (B)第17局 だから 9…Na5 は改良した手である。しかし愚形の 10.dxc5?! Qc7! の代わりに 10.Bf4! と指していたら、10…Nxc3? には 11.Qc2!、10…Nxc4 には 11.dxc5! という具合に布局からの優勢が続いていただろう。

第19局

 また前の2局の布局に満足できず番勝負で負け越していたカルポフは、戦略的に非常に不均衡できつい作戦を選んだ。

4…Ne4 5.Qc2 f5 6.g3! Nc6 7.Bg2 O-O 8.O-O Bxc3 9.bxc3 Na5 10.c5 d6 11.c4!

 白は局面を開放して積極的な展開と双ビショップとを活用する用意ができた。カスパロフによると黒は 11…dxc5 とポーンを取るべきだったが、それでも 12.Ba3 または 12.Rd1 で白に十分すぎる代償がある。実戦は黒が苦労の割には報われなかった。

 11…b6?! 12.Bd2! Nxd2 13.Nxd2 d5 14.cxd5 exd5 15.e3

 よくあるように動的要素がすぐに長期的な戦略要素に変化した。つまり白には優れたビショップがあり、黒にはe5に恒久的で大きな弱点と辺地のナイトがある。カスパロフはこれらの要素を十分に利用する完全な成熟度(このとき22歳!)を見せつけた。

15…Be6 16.Qc3 Rf7 17.Rfc1 Rb8 18.Rab1 Re7 19.a4 Bf7 20.Bf1! h6 21.Bd3 Qd7 22.Qc2 Be6 23.Bb5 Qd8 24.Rd1 g5?! 25.Nf3! Rg7 26.Ne5 f4 27.Bf1! Qf6 28.Bg2 Rd8 29.e4! dxe4 30.Bxe4

 局面が開放され、白の活動力に優る戦力が黒の弱体化したキング翼につけ込むことができるようになった。

30…Re7 31.Qc3 Bd5 32.Re1 Kg7 33.Ng4! Qf7 34.Bxd5 Rxd5 35.Rxe7 Qxe7 36.Re1 Qd8 37.Ne5 Qf6 38.cxb6! Qxb6 39.gxf4! Rxd4?! 40.Nf3 Nb3 41.Rb1 Qf6 42.Qxc7+ 黒投了

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布局の探究(82)

「Chess Life」1993年11月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

現代の布局定跡へのカスパロフの影響(続き)

Ⅰ.ニムゾインディアン防御(続き)

 この試合のあとカルポフは「カスパロフの 4.Nf3」に辟易(へきえき)した。第21局では 3…d5 と指すことによってニムゾインディアンを避け、第23局では 1.d4 にすぐ 1…d5 と応じて「可能性なし」にした。

 上記の議論はガリー・カスパロフの 4.Nf3 の使用と、1985年世界選手権戦に対する影響の結果について「すべて」を物語っている。世界への影響はどうだったか。最初に来るのは数字である。4.Nf3 戦法の「布局記号」は主としてE20とE21である。1978年に出版された Encyclopedia of Chess Openings E(ECO E)初版では、E20の 4.Nf3 戦法は3行と17脚注で、E21は10行と62脚注だった。第2版(1991年出版)ではE20での記述は17行と103脚注に激増し、E21では12行と84脚注に大幅に増えた。

 科学的なチェス研究の質も大きく影響を受けた。4.Nf3 がニムゾインディアンに対する第一級の展開の手であることがカスパロフによって証明されたので、黒はよどみない効率的な展開が自分にとっても正しい作戦であることを認識し始めた。だから第13局と第17局(1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.g3 Nc6 6.Bg2 Ne4 7.Bd2)での戦略的に野心的な 7…Bxc3 がもっと単純な 7…Nxd2 8.Qxd2 cxd4! 9.Nxd4 O-O に取って代わられた。もっと重要なことは黒の最も信頼できる手順が(4…c5 5.g3 のあと)5…cxd4! 6.Nxd4 O-O 7.Bg2 d5 になったことである。黒はまんまと自分の二級の中央cポーンを白の一級の中央dポーンと交換し、キャッスリングによってキングをさっさと安全にし、7…d5 突きでさらに中央への影響力を増した。完全で健全な互角への黒の見通しは明るい。

 これらの展開についてのカスパロフの言い分はどうなっているだろうか。実は彼はもう 4.Nf3 を指さなくなっている。今は 4.Qc2 を好んでいる。これについての彼の貢献については注視していくつもりである。

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2014年01月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(83)

「Chess Life」1993年11月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

現代の布局定跡へのカスパロフの影響(続き)

Ⅱ.スコットランド布局

 スコットランド布局の始まりの局面は次の手順から生じる。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.Nxd4

 白陣は良い形だけれども、この布局は理論家からも一流選手からもあまり敬意を勝ち得ていなかった。その理由は黒の当座の展開の見通しが白と同等と判断されたので(両者ともクイーンとキング翼ビショップのための斜筋が開き、一つのナイトが展開し、黒陣のどこも圧力を受けていない、など)、黒がどこにも問題がないという認識だったからである。キング翼ギャンビットを指すことを忌避しなかったボビー・フィッシャー(3戦3勝!)でさえ一度もやらなかった。

 1990年の世界選手権戦に至る前のチェス新報第49巻の中にスコットランド布局は1局しか現れていない。それでも第14局と第16局でカスパロフが彼特有の野心的な作戦を採用したので、この番勝負以降顕著な興味がわき起こってきた。「通例」の 4…Nf6 のあと彼の選んだ手は 5.Nxc6 bxc6 6.e5 Qe7 7.Qe2 Nd5 8.c4 だった。カルポフは第14局では 8…Ba6 と応じ、第16局ではもっと控え目な 8…Nb6 に変えた。どちらも動的な戦いが待ち構えている。これは世界チャンピオンにぴったり適合していて、第16局に勝ち第14局は引き分けた。またチェス界が素早く注目した。チェス新報第50巻ではカスパロフ対カルポフ戦の2局だけだったが、第54巻までには既に12局の完全棋譜(それに多くの部分棋譜)が掲載された。その上GMカスパロフはスコッチ布局を指し続けて好成績をあげている。例えば1991年ティルブルフでのカスパロフ対カルポフ戦や1992年ドルトムントでのカスパロフ対ピケット戦である。

 もちろんスコットランド布局は厳密な科学的調査の端緒についたばかりである。創造的、理論的そして実戦的な研究が急速に続けられることが期待でき、世界チャンピオンの多くの新しい貢献が楽しみである。

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2014年01月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(84)

「Chess Life」1994年2月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

dポーン布局の激しい指し方

 一般的な原則として 1.e4 で始まる開放試合は攻撃的な選手に最適である。これは黒キングを攻撃するために最も向いている駒(クイーン、キング翼ビショップ、キング翼ナイト)の動員が、1.e4 のあとはるかに迅速に行なわれるからである。一方 1.d4 はそのあとの局面をちょっと見るだけでも、白の最初の狙いどころがクイーン翼であり、早い段階では黒キングを脅かすために注意を向けることがほとんどまたはまったく行なえないことが分かる。

 それにもかかわらず何度も米国チャンピオンになったフランクJ.マーシャルをはじめとする偉大な攻撃的選手たちは初手に 1.d4 と指す方を好んでいた。さらに白に都合のよい重要な安全にかかわる要因が一つある。それはたいてい諸刃の剣となる 1.e4 よりも、試合が閉鎖的な布局から始まるので白キングが本質的により安全である可能性が高いということである。1.d4 に対する黒の最も堅実な応手は 1…d5 で、2.c4 でクイーン翼ギャンビットになる。この名前には歴史的ないわれがあるが、この布局をあまり正確に表現していない。「ギャンビット」という言葉はポーンを犠牲にすることを指すが、黒はポーンにしがみつく余裕はない。今回は本質的に安全で堅実なクイーン翼ギャンビットの範囲内で、白がかなり激しく指すように努めることのできる重要な戦型をいくつか見ていくことにする。

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2014年01月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(85)

「Chess Life」1994年2月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

dポーン布局の激しい指し方(続き)

Ⅰ.クイーン翼ギャンビット受諾

1.d4 d5 2.c4 dxc4

 現代の指し方では黒はこのポーンにしがみつくつもりはなくて、白にポーンを取り返させる手数を利用してクイーン翼の戦力の迅速な中央への展開を準備する。

3.Nf3

 白は …e7-e5 突きに基づくどんな反撃も防ぎ、都合の良いときにポーンを取り返す用意をする。

3…Nf6

 黒はキング翼ナイトを中央への最良の地点に展開しつつ、白の e2-e4 突きを防ぐ。このあとの普通の手順は 4.e3 e6 5.Bxc4 c5 6.O-O a6 7.Qe2 b5 8.Bb3 Bb7 9.Rd1 Nbd7 10.Nc3 Qb6 で、黒は注意深く指していけばほとんど互角の形勢に持っていけるはずである。しかし白にはすぐに戦いを激化させる手段がある。

4.Nc3!?

 白の意図は 5.e4 で強力な中央を築きながらポーンを取り返すことである。これは完全に白の意中を行くので黒は許すわけにいかない。だから黒の主眼のやり方は 4…a6 または 4…c6 と突いてc4のポーンにしがみつくことをちらつかせることである。後の方の局面はスラブ防御の手順から生じるのが普通なので、別個に次のⅡで考える。

4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4

 黒がギャンビットポーンにしがみつこうとする局面でb5の地点を切り崩すのは白の常套手段である。黒はここで 7…c6 と突くことができるが、スラブ・ギャンビットの劣った戦型に思われるので私は完全には自信が持てない。すなわち 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 で、欠点なく中央に展開する 7…e6 の代わりに黒が 7…a6 と指したからである。

 7…Bb7? は 8.e6! のあと黒が取ろうと 8…f6 とかわそうとキング翼がひどい格好になるので明らかに悪い。だから黒の次の手は当然の手として受け入れられるようになった。それでも白の中央が強化されるのは避けられない。

7…Nxc3 8.bxc3 Qd5

 このクイーンの積極的な進出は40年以上に渡って黒の主手順となっている。代わりに 8…Bb7 は 9.e6! でうまくいかないのが一般的である。例えばA.ベリヤフスキー対M.ドルーギー戦(チュニス・インターゾーナル、1985年)では 9…f6 10.Be2 Qd5 11.O-O Qxe6 12.Re1 Qd7 13.Nh4 g6 14.Bg4 f5 15.Bf3 Nc6 16.Bg5! で白が圧倒的な主導権を得た。この手順はこの戦型に特徴的なものである。つまり白は黒の遅れたキング翼の展開につけ込むことを目指す。黒の考えられる改良としてW.シュミット対K.J. シュルツ戦(プラハ、1987年)に基づいて 12…Qb6!? が提案された。

9.g3 Be6?!

 この野心的な作戦はたぶん指しすぎである。9…Bb7 9.Bg2 Qd7! の方が安全だが、白が 11.Ba3、11.O-O または 11.Nh4 でポーンの十分な代償を得ていることは否定できない。

10.Bg2 Qb7 11.O-O Bd5 12.e6! Bxe6

 12…fxe6 と取るのも不十分である。13.Nh4! g6 14.Re1 Bg7 15.Qg4 O-O 16.Qxe6+ Bxe6 17.Bxb7 Ra7 18.Bg2 Bd7 19.axb5 Bxb5 20.Ba3 となって白が優勢である(GM M.グレビッチ)。

13.Ne5! Bd5

 このギャンビット戦型での白の目的は、展開での優勢を攻撃的に用いることである。だから黒の唯一展開している駒を交換でなくすことは十分満足できる。13…c6 は 14.Qh5! g6 15.Nxg6 fxg6 16.Qe5 でひどいので、黒には選択の余地がない。

14.Bxd5 Qxd5 15.axb5 f6

 15…Qxb5? は 16.Qf3 でa8とf7の両当たりでたちまち終わりとなる。15…axb5?! はちょっとましなだけで、16.Rxa8 Qxa8 17.Qg4!(すぐの 17.Qh5 には 17…Qd5 がある)17…e6 18.Qh5 g6 19.Nxg6 fxg6 20.Qe5 Rg8 21.Qxe6+ となる。

16.Ng4! Qxb5

 ここで 16…axb5 は 17.Ne3! Qb7 18.Rxa8 Qxa8 19.Qh5+ g6 20.Qxb5+ で負ける。4…a6 での手損と 5…b5 によるクイーン翼の弱体化がどのように被害をもたらしたかに注目して欲しい。

17.Qf3 c6 18.Ne3! g6 19.Ba3 Qh5 20.Qe4 e5

 チェルニン対ビジュマナビン戦、ルボフ、1987年

 ここで白は 21.Bxf8 と指し、43手で勝った。グレビッチの考えでは次の方が決定的である。

21.dxe5! Qxe5 22.Qxc4 Bxa3 23.Ng4! で白の勝ち。

 例えば 23…Qd6 24.Rad1 Qc7 25.Qe6+ Be7 26.Nxf6+ Kf8 27.Nd7+ Nxd7 28.Rxd7 で決まる。やはりこのような手順では白の大きな展開の優位が決定的な役割を果たす。

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2014年01月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(86)

「Chess Life」1994年2月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

dポーン布局の激しい指し方(続き)

Ⅱ.クイーン翼ギャンビット拒否 スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6

 スラブ防御のすぐれた着想はd5の拠点をcポーンで守り、それによりh3-c8の斜筋をクイーン翼ビショップの活動的な展開のために開けておくことにある。残念ながらこの賞賛すべき作戦はいくらかの代価を払ってしか実行できない。

3.Nc3 Nf6 4.Nf3

 ここで既に黒はキング翼ビショップをどのように展開するかという重要な実戦的問題に直面している。もちろん 4…e6 と突くことはできるが、それによってスラブ防御の目的全体が否定される。4…g6 も可能だが、黒がグリューンフェルト防御の守勢版の戦型になる。黒の「究極」の問題は望ましい 4…Bf5?! が 5.cxd5! cxd5 6.Qb3 という強手で応じられることである。だからクイーン翼ビショップを展開するためには黒は中央を放棄しなければならない。

4…dxc4

 白がこのポーンを取り返すのはとても容易でなく、スラブ防御が棋理に合っているのはこの要因による。主手順は 5.a4 から始まり、5…Bf5 のあと 6.Ne5 または 6.e3 が指されている。白がこのポーンを取り返す代価は展開の手損とクイーン翼の弱体化である。この要因により黒が最終的にほぼ互角になる。

5.e4

 スラブ・ギャンビットは白の最も攻撃的な選択肢である。重要なことは布局定跡とグランドマスターの実戦では 5.e4 のギャンビットはスラブ防御に対するよりもクイーン翼ギャンビット受諾に対する方が危険であると考えられていることである。クイーン翼ギャンビット受諾とスラブ防御の両方を指す多くのGMは、1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 のあと白が 4.Nc3 と指せばこの理由により 4…a6 でなく 4…c6 でクイーン翼ギャンビット受諾からスラブ防御に転換する。

5…b5 6.e5 Nd5 7.a4 e6!

 黒はキング翼ビショップの斜筋を開けたうえに、クイーン翼ギャンビット受諾でのように白が e5-e6 と突く不快な可能性をすべて永久に防いだ。これらの二つの要因に、黒のaポーンでなくcポーンがb5を守っているという状況が合わさって、黒の防御はかなり楽になっている。

8.axb5 Nxc3 9.bxc3 cxb5 10.Ng5 Bb7

 白には 11.Qf3 という必殺の狙いがあったが、対角斜筋にクイーン翼ビショップを展開することにより簡単に防がれた。

11.Qh5

 f7の地点に対する狙いは本物である。11…Qe7?! はばかげているし 11…Qc7? には 12.Nxe6 があるので、黒には選択肢が二つしかない。

11…Qd7

 この手の方が国際試合でよく指されるようになってきた。しかし私の考えでは黒の最も効果的は指し方は 11…g6 12.Qg4 Be7 である。私の実戦からの重要だがほとんど知られていない例はN.ポウバー対E.メドニス戦(ラムズゲート、1984年)で、13.Be2 Nd7 14.Bf3 Qc8 15.O-O Nb6 16.Ne4 a5! 17.Bg5 Bxe4! 18.Bxe4 Bxg5 19.Bxa8 Qxa8 20.Qxg5 Nd5 と進んだ。黒にはクイーン翼ルークの代わりにパスポーンととてつもないナイトがあり、少し展望に優っている。

 本譜の手のあと 12.Nxh7?! でhポーンを取るのは 12…Qd5 13.Nf6+ gxf6 14.Qxh8 b4! でうまくいかず、攻撃しているのは白でなく黒の方である。だから白はまず展開を完了すべきで、そのあと黒陣に内在する隙につけ込むように努めるべきである。黒の主要な課題はどちらにキャッスリングするのも非常に危険なのでキングの安全を確保することである。

12.Be2 h6 13.Bf3 Nc6 14.O-O Nd8 15.Ne4 a5 16.Qg4 Rh7 17.Bd1!

 黒は最後の手でキング翼ビショップを展開できるようにするとともに、17.Nd6+ Bxd6 18.Qxg7 の戦術も防いだ。そこで白はこのルークをc2から攻撃しようとする。

17…h5 18.Qe2 Bd5 19.Bc2 Rh8 20.Bg5

 白にはよく利いている小駒、安全なキング、それにe5の占拠による中央の広さの優位がある。黒は盤の両翼で戦力の協調ができない悩みがある。GMイリェスカスはこの局面を白が少し優勢と判断している。彼はここで 20…Nc6 を黒の最善手として推奨している。

20…Nb7?! 21.f4! Ra6?!

 白はキング翼でポーンの突進を始めた。黒はクイーン翼で 21…a4 により同じことをすべきである。本譜の手は手損になる。

22.h4! a4 23.Ng3 Na5 24.f5! Nb3 25.Rad1

 イリェスカス対チェルニン、パンプローナ、1991/92年

 白駒はすべて攻撃に適した位置につけていて、黒が受けきれるかは怪しい。GMイリェスカスの想定主手順は 25…a3 26.fxe6 Bxe6 27.d5 Bg4 28.Qe4! Nc5 29.Qf4! Bxd1 30.e6! で白が勝つとしている[訳注 単に 28…Bxd1 29.e6 Qa7+ で黒が悪くないようです]。

25…b4 26.fxe6 Rxe6

 黒はe6でせき止めようとしているが、白は黒にその可能性を与えない。試合は次のように進んで終わった。

27.cxb4 a3 28.Bf5 f6 29.Be3 Qf7 30.Qc2 Kd8 31.Ne2! Rb6 32.Nf4 Bxb4 33.Be4 Bxe4 34.Qxe4 Qa7 35.d5 Bc5 36.Ne6+ Rxe6 37.dxe6+ Kc8 38.Qxc4 a2 39.Bxc5 Qxc5+ 40.Qxc5+ 黒投了

 この試合を通して勝負を決した要因は黒キングの安定の欠如だった。

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2014年02月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(87)

「Chess Life」1994年2月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

dポーン布局の激しい指し方(続き)

Ⅲ.クイーン翼ギャンビット拒否 オーソドックス防御交換戦法

1.d4 d5 2.c4 e6

 オーソドックスシステムでは黒はd5の地点をeポーンで保護し、キング翼を展開し、そのあとで初めてクイーン翼ビショップをどのようにして生き返らせるかを気にかける。

3.Nc3 Be7 4.Nf3 Nf6 5.cxd5

 交換戦法では白は中央の争点を解消し、それにより黒が中央への影響力を増す。代わりに白は黒のクイーン翼に少数派攻撃を仕掛けるか、 f2-f3 から e2-e4 で手順に優勢な中央を築くことを期待する。

5…exd5 6.Bg5 c6 7.Qc2 g6

 中央のポーンの形から黒の働きの悪い小駒はクイーン翼ビショップである。本譜の手はそれをf5に展開する準備である。例えば 8.e3 Bf5 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Nbd7! となれば白の優勢はわずかである。このようなゆっくりした指し方を避けるために、白は中央で厳しく進攻することができる。

8.e4!?

 G.カームスキー対A.シロフ、ドルトムント、1992年

 白はいくらか優る展開と 7…g6 のせいで黒のキング翼が少し弱くなっていることとを利用して進んで局面を開放する。ここで黒の最も安全な応手は 8…dxe4 で、9.Bxf6 Bxf6 10.Qxe4+ となったあと最善手は矛盾しているような 10…Kf8! である。そして主手順は 11.Bc4 Kg7 12.O-O Re8 13.Qf4 Be6! 14.Bxe6 Rxe6 15.Rfe1 で、ここで黒はローチェ対オル戦(モスクワ、グランドマスター協会オープン、1989年)で初めて示されたように 15…Qd6! 16.Qxd6 Rxd6 でほぼ互角の収局を達成し、のちにL.B.ハンセン対スマギン戦(コペンハーゲン、1990年)で確かめられた。

 けれども二人の若虎は素手の喧嘩に興味があった。

8…O-O 9.e5 Ne4

 9…Nh5 なら 10.h4! で白が攻撃の可能性を保ち少し有利である(シロフ)。

10.Bh6 Re8 11.Bd3

 この積極的な展開はタリ対ルネ戦(カンヌ、1989年)のもっとゆっくりした 11.h3?! よりもはるかに強力である。その試合は黒が十分な反撃を得て互角にした。

11…Nxc3?

 GMシロフによれば早くも敗着が出た。11…Nd6!! 12.O-O Nf5 13.Bf4 Ng7 が正着で、白がわずかに優勢だとしている。

12.bxc3 c5 13.h4!

 目標は黒キングを詰ませることである!13…c4 は 14.Be2 Bf5 15.Qc1 のあと h4-h5 から Ng5 で白の攻撃がゆるまないので、黒は反撃に出ることにした。

13…cxd4 14.h5! g5!?

 白にはすでに 15.hxg6 hxg6 16.Bxg6! という狙いがあった。だから黒はできるだけキング翼を閉鎖的に保とうとしている。

15.Bxh7+ Kh8 16.Bg6! Be6

 h列が開通すると 16…fxg6 17.hxg6! Kg8 18.g7! Qc7 19.Bxg5! のように勝負が決まる。

17.Nxd4 Qc8 18.Qd2!!

 G.カームスキー対A.シロフ、ドルトムント、1992年

 GMカームスキーの指し回しは勢いと正確さで飛びぬけている。シロフは次のような黒の変化をあげている。18…Nc6 19.Bxg5 Bxg5 20.Qxg5 Nxd4 21.Qh6+ Kg8 22.Bh7+ Kh8 23.Rh3!! Bxh3 24.Bg6+ Kg8 25.Qh7+ Kf8 26.Qxf7#

18…fxg6 19.hxg6 Kg8 20.Rc1!

 攻撃に専念できるように反撃を防いだ。この試合を通して黒は最善の防御をした。代わりの防御策についてはチェス新報53(第400局)のシロフの解説を参照されたい。

20…Nc6 21.Bxg5 Qc7 22.Bxe7! Rxe7 23.Kf1!! Rae8 24.Re1 Rg7 25.Qh6 Kf8 26.Rh4! Nxd4 27.Qh8+ Rg8 28.Qf6+ Bf7 29.Qxf7+ Qxf7 30.gxf7 黒投了

 30…Kxf7 31.cxd4 で黒は2ポーン損で見込みがない。GMカームスキーの快勝だった。

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2014年02月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(88)

「Chess Life」1994年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

小駒か3ポーンか?

 ビショップもナイトも3ポーンとほぼ同じ価値があるというのはよく知られた知識である。駒割を考える一部としてこの関係は正当で活用すべきであると私も十分認めている。そこで実戦で判断を行なうために重要な疑問が出てくる。

 (1)小駒を犠牲にする代わりに3ポーンを取れることがかなり確実である。そうすべきだろうか?

 (2)予定している手は相手が小駒を犠牲に3ポーンを得ることになる。そうすべきだろうか?

 もちろん料理本のような答えはあり得ない。それでも指針として頼りにできる原則は存在する。以下がそれである。

 (1)局面が収局に近いほど(またはそうなりそうなとき)、ポーンの方が重要な戦力となる。

 (2)駒得している側が展開で遅れているならば、駒得の優位を生かすことができない可能性が高い。その場合通常はポーンを持っている側の方が有望である。

 (3)試合の早い段階ほど、駒の方が重要である公算が大きい。早い段階での指し手はポーンよりも展開の方が重視されるのが普通である。それに駒得は攻撃において容易に決定的な要素になりやすい。

 (4)開放的な局面では、普通は駒を持っている方が戦力を速く活用できるので有利である。ポーンを動員するのは本質的に手数がかかる。

 シチリア防御の開放戦型では白が小駒を犠牲に3ポーンを得る絶好の機会ができる。駒を犠牲にするのが最もよく起こる地点はb5とe6である。

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2014年02月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(89)

「Chess Life」1994年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

小駒か3ポーンか?(続き)

Ⅰ.収局に近い落ち着いた局面での良質な3ポーンは、通常はポーンを持っている方が有利である

 次の試合で成り行きを追ってみよう。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B95]
白 エドマー・メドニス
黒 D.カー
U.S.オープン、1956年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.Qf3

 激しい 6.Bg5 戦型の初期(1950年代中頃)にはこの手が普通だった。のちに 7.f4 が主流手順になった。

7…Nbd7 8.O-O-O Qc7 9.Qg3 b5?!

 9…Be7 が本手だった。

10.Bxb5! axb5 11.Ndxb5 Qb8

 (1)11…Qa5? 12.Bxf6 Nxf6 13.Rxd6! Nxe4 14.Nc7+! Qxc7 15.Rxe6+ Kd7 16.Rd1+ Nd6 17.Nb5 Qc5 18.Nxd6 Kxe6 19.Qb3+ Ke5 20.f4+! Kxf4 21.Qg3# グランキン対グトキン(ソ連、1968年)

 (2)11…Qc5? 12.Be3! Qc6 13.Nxd6+ Bxd6 14.Rxd6 Qb7 15.e5 Nh5 16.Qg4 g6 17.Rxe6+! fxe6 18.Qxe6+ Kf8 19.Bh6+ Ng7 20.Nd5 白の攻撃が厳しい。ベルネル対ベリヤフスキー(ソ連、1970年)

12.Nxd6+ Bxd6 13.Qxd6 Qxd6 14.Rxd6

 白が無傷の3連結パスポーンを持ちどこにも弱点がなく、いくらか展開に優ってさえいるので優勢である。

14…Ra6?!

 この手は白ルークを交換でなくして局面を単純化する。それは一般にはポーンを持っている方にとって有利である。おまけにクイーン翼ルークがなくなるので白がクイーン翼のポーンを動員するのがより容易になる。14…Bb7?! も良くなく、H.ファン・リームスダイク対シルバ戦(ブラジル、1978年)では白が次のようにあっさり勝った。15.Rhd1 O-O-O 16.f3 h6 17.Bh4 Ne5 18.Nb5! Nc6 19.Bf2 Kb8?! 20.Bg3! Ka8 21.R1d3! Rxd6 22.Ra3+ Kb8 23.Nxd6 e5 24.Rb3 Na5 25.Rb5 黒投了

 黒はすぐに 14…h6! でクイーン翼ビショップに「態度を聞く」のが最善である。もっとも 15.Bd2 Bb7 16.f3(ブロンシュテイン対ナイドルフ、ソ連対アルゼンチン、1954年)でも 15.Bxf6 Nxf6 16.Rhd1 Bb7 17.f3(フィヒトル対ドレザル、チェコスロバキア選手権戦、1954年)でも白が優勢を保持している。

15.Rxa6 Bxa6 16.f3 Kd8 17.Rd1 Kc7 18.Bf4+ e5 19.Be3 Re8 20.a4! Re6 21.b4

 クイーン翼のポーンは白の切り札で、その積極的な動員が準備万端整った。

21…Bc4 22.Kb2 Rd6 23.Ra1!

 原則として白はルーク同士を交換したいのだが、時機がまだ良くない。なぜなら 23.Rxd6?! Kxd6 のあと黒が 24…Bf1 から 25…Bg2 でキング翼で反撃できるからである。

23…Kb7 24.b5 Ne8 25.Ka3! f6 26.Kb4 Bf7 27.a5 Nc7 28.a6+ Kb8 29.Rd1!

 白のキングとクイーン翼が動員され黒のビショップが働いていないので、ルーク同士の交換は白の「ポーンの威力」を増大させることになる。

29…Rxd1 30.Nxd1 Ne6 31.c3 Nf4 32.Bxf4 exf4 33.Nb2 Kc7 34.c4 Ne5 35.c5 Be8 36.c6 Kb8 37.Nc4! Nxc4 38.Kxc4 g5 39.Kc5 黒投了

 ポーンが勝つ。例えば 39…Ka7 40.Kd6 Kb6 41.c7 である。

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布局の探究(90)

「Chess Life」1994年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

小駒か3ポーンか?(続き)

Ⅱ.ポーンの形に隙があるとたとえクイーンが盤上になくても小駒を得している側に反撃の可能性が十分にある

 この原則は次の試合によく表れている。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B96]
白 マルク・ツェイトリン
黒 GMレフ・ポルガエフスキー
ソ連選手権戦、1971年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Nbd7 8.Bc4

 この手は融通性のある 8.Qf3 によってほぼ取って代わられたが、それでも黒は十分敬意を表わして 8…Qb6 と応じるべきである。

8…b5?! 9.Bxe6! fxe6 10.Nxe6 Qa5

 10…Qb6? は 11.Nd5! Nxd5 12.Qxd5 で白の攻撃が強力すぎる。一例は 12…Bb7?! 13.Nc7+! Qxc7 14.Qe6+ Be7 15.Qxe7# である。

11.Nxf8 Rxf8 12.Qxd6

 ここでも白の攻撃は非常に強力で(12…b4? 13.Nd5!)、黒はクイーン交換をさせられる。

12…Qb6 13.O-O-O Qxd6 14.Rxd6

 白駒の展開はちょうど前の図と同じである。しかしポーンの配置はまったく異なり、この点は黒に有利である。一般原則として駒を得している側は盤の両翼にポーンを保持して、この場合のように相手に3連結パスポーンの潜在的な威力を与えたくない。

 定跡によればこの局面は形勢不明である。黒が完璧に指せばいい勝負と証明できても私は驚かない。しかし実戦では黒の前途はより困難である。それははるか格上の選手がこの試合に負けたという事実により証明される。

14…b4 15.Na4

 のちにマツロビッチ対トリンゴフ戦(ブルニャチカ・バニャ、1973年)では 15.Ne2 h6?!(IMクルニッチによればすぐに 15…Nc5 と指す必要がある)16.Bh4 Nc5 17.Ng3 Bb7 18.Re1 と進んで黒キングが中列で不安定なので白が成功を収めた。

15…h6 16.Bh4 a5 17.Rhd1 Ra6 18.R6d4! Rc6 19.h3 Nh5 20.f5 g5 21.Be1 Nf4?

 GMポルガエフスキーによると正着はすぐに 21…Rf7 と指す手で、ほとんどいい勝負である。f4のナイトは選手というより観客になっている。

22.R1d2 Rf7 23.Bg3 Ne5 24.Rd8+ Ke7 25.b3 Nd7?!

 黒は積極的に 25…Ba6! と指すべきだった(ポルガエフスキー)。

26.Rh8 Bb7 27.Kb2 Rcf6 28.h4!

 黒陣の切り崩しが始まった。黒が 28…Bxe4? と応じられないのは 29.Bxf4 gxf4 30.Re2 でビショップが取られるからである。

28…Rg7 29.hxg5 hxg5 30.Bf2! Rd6 31.Bd4 Bxe4 32.g3! Rf7

 32…Ng2 33.f6+! Nxf6 34.Bc5 のためにナイトは助けられない。

33.gxf4 gxf4 34.Nb6! Rxf5

 もっと詩的な負けは 34…Nxb6 35.Bc5 Nd5 36.Rh6 である。

35.Nc8+ Ke6 36.Re8+ 黒投了

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布局の探究(91)

「Chess Life」1994年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

小駒か3ポーンか?(続き)

Ⅲ.盤上にクイーンがあり両者に特に問題がないなら動的均衡が最も考えられる結果で、うまく指した方が勝つことになる

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMガータ・カームスキー
黒 GMイリア・グレビッチ
米国選手権戦、1991年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Nb3 Be7 9.Qf3 Nbd7 10.O-O-O Qc7 11.Qg3 b5! 12.Bxf6

 白のキング翼ナイトが働きのないb3の地点に「引っ込んだ」ので、b5での捨て駒は準備がいる。ここで 12…Bxf6 なら 13.Bxb5! で黒は 13…O-O と指してポーンの代償にクイーン翼での反撃に期待するのが良い。なぜなら 13…axb5? は 14.Nxb5 Qb8 15.Nxd6+ Kf8 16.e5 となって、白に駒の代わりに立派な3ポーンと強力な締め付けがあるので(グレビッチ)、黒が悪いからである。

12…Nxf6 13.e5!

 白は 13.Qxg7?! に誘惑されなかった。13…Rg8 14.Qh6 Ng4 15.Qxh7 Kf8 となれば黒の反撃が強力である(カームスキー)。代わりに白は自分の捨て駒を始めた。

13…dxe5 14.fxe5 Nd7 15.Bxb5!? axb5 16.Nxb5 Qb6 17.Qxg7 Rf8 18.Nd6+ Bxd6 19.exd6

 一段落のあと白が駒の代わりに「良質な3ポーン」を得ていて、4連結パスポーンにさえなっている。それでもこれらのポーンは白キングのいる側にあり、黒のクイーンとクイーン翼ルークが白キングを危険にさらす用意をしているので囲いとして必要である。さらに黒の小駒も「優良」である。ナイトは効果的にdポーンをせき止め、ビショップには素通しの対角斜筋がある。私の考えでは動的に均衡がとれている。

 黒は 19…Rxa2 と取ると 20.Rhe1 で 21.Rxe6+ を狙われるのでそうは指さない。白は都合のよいときにhポーンを取ることもできる。代わりに黒は自分のクイーンの位置を改善し白のクイーンを追い返す。

19…Qe3+! 20.Kb1 Qe5 21.Qg4!

 クイーン交換は黒が有利である。黒はビショップとキング翼ルークが素通しの筋が使え、eポーンがパスポーンになっていて、白はクイーン翼を動員するのが難しい。また 21.Qxh7?! も 21…Rh8 22.Qd3 Ba6 23.Qd2 Bb7! 24.Rhe1 Qxh2 で黒の戦力が活発化する(カームスキー)。

21…h5 22.Qh4 Qf6 23.Qxh5 Rh8 24.Qg4 Bb7 25.Rhe1 Qh4

 GMグレビッチによれば 25…Kf8!? 26.Rf1 Qh6 27.Qc4 Rc8 28.Qb5 Bc6 29.Qa6 Kg7 30.Rd4 Ne5! も黒の反撃が有効に決まる。

26.Qg7 Qf6 27.Qg3 Qh4?

 ここから白はみごとな駒の連係を達成し黒のクイーン翼での動きを止める。黒の正着は 27…Ra4! 28.Qd3 Rhh4 29.a3 Bc6! で、GMグレビッチは「形勢不明」と判断している。

28.Qe3 Qxh2 29.Nd4! Bd5 30.b3 Qh6 31.Qe2 Kf8 32.Nb5 Bc6 33.Nd4

 ここでは 33.Nc7! という強手があり 33…Rb8 34.Qc4 Bxg2 35.Rg1! となれば、黒キングが危ない所にいるので白の攻撃が決まる(グレビッチ)。

33…Bd5 34.Rf1 Qg6 35.g4! Re8?! 36.Nb5 Rd8 37.Nc7 Be4 38.Rf4! Nf6 39.Nxe6+! fxe6 40.Rdf1

 白は利子付きで戦力を取り戻す。その結果ルークと4パスポーン対2小駒という駒割になるが、本稿の範囲外になる。だから以降の手順は解説抜きであげておく。GMカームスキーが陣形と戦力の優位を危なげなく勝ちにつなげた。

40…Rh1 41.Rxh1 Kg7 42.Rhf1 Nd5 43.Rf7+ Kg8 44.Qd2 Qxg4 45.d7! Qh4 46.Qa5 Bxc2+ 47.Kb2! Bf5 48.R7xf5! Rxd7 49.Qa8+ Rd8 50.Rg1+ Kh7 51.Qb7+ 黒投了

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布局の探究(92)

「Chess Life」1994年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

小駒か3ポーンか?(続き)

Ⅳ.小駒を犠牲に3ポーンを得るつもりの時は、本当に3ポーンが得られることを確認せよ。チェスは無限なので周期的に思いがけない不快なことが起こる

 次の試合で白に起こったことは非常に参考になる。

シチリア防御リヒター・ラウゼル攻撃 [B67]
白 GMリュボミ-ル・リュボエビッチ
黒 GMフロリン・ゲオルギュ
ペトロポリス・インターゾーナル、1973年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Bg5 e6 7.Qd2 a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5!?

 この戦型はリヒター・ラウゼル攻撃に対する白の最も野心的で危険を伴う手法である。現在のところ布局の優位を保つ白の最も人気のある手段は 10.Bxf6 である。しかし1970年代には次のような黒を罰する乱暴な試みが繰り返し行なわれた。

10.Bxb5?! axb5 11.Ndxb5

 白にはd6を脅かす3個の攻撃駒があるが黒には守備駒が1個しかない。「常識」ではdポーンが落ちるはずである。それにもかかわらず黒には形勢を逆転させる驚くべき間接防御/反撃があった。

11…Nb4!!

 これまでの例との違いは、黒のクイーン翼ナイトがd7でなくより活動的なc6の地点にいたのですぐに反撃のために使えるということである。白には満足な応手がない。

 (1)12.e5 Nxa2+ 13.Nxa2 Rxa2 14.Kb1 Bxb5! 15.Kxa2 Qa8+ 16.Kb1 Ne4 黒が攻撃する側で、少し戦力得になっている。

 (2)12.Kb1 Nxa2! 13.Nxa2 Bxb5 白が駒損で「かつ」キングの安全度が劣る。

 (3)12.a3 Na2+! 13.Nxa2 Bxb5 14.Nc3 Bc6 15.Qe2 Qb6 白には戦力損の代償が何もない(ズコフ対ザビャロフ、ソ連、1977年)。

12.Bxf6

 出典の資料では 12.Nxd6+ Bxd6 13.Qxd6 Nxa2+ 14.Nxa2 Rxa2 15.Kb1 Ra7 16.Bxf6 gxf6 という手順になっている。しかし 15…Ra7 の代わりにすぐに 15…Qa8! で明らかに決まっているので(16.b3 Ra1+ 17.Kb2 Qa2+ 18.Kc3 Nxe4+)、GMゲオルギュが見落としたとは信じられない。だからもっと妥当と思われる手順を用いている。

12…gxf6 13.Nxd6+ Bxd6 14.Qxd6 Nxa2+ 15.Nxa2 Rxa2 16.Kb1 Ra7!

 ビショップを守りながら強力な 17…Qa8 を狙っている。白の問題は駒の代わりに2ポーンしか得ていないことで、収局は耐えられず、中盤戦では不安定なキングのために敵キングへの攻撃に専念する余裕もない。

17.Rd3 Qa8 18.b3

 18.Kc1 と逃げるのも良くない。18…Bb5 19.Ra3 Rxa3 20.bxa3 Rg8! 21.g3 Qc6!(22.Qb8+ Ke7 23.Qxg8 Bd3)デービス対ギズダブ戦(米国、1975年)では黒が自陣をまとめて楽に勝った。

18…Bb5! 19.R3d1 Bc6 20.Rhe1 Bxe4!

 このビショップは 21.Rxe4 Ra1+ 22.Kb2 Rxd1 のため安全である。このあと黒は攻撃と防御をうまく組み合わせて快勝した。

21.Qd4 Bg6 22.g4 O-O 23.h4 e5! 24.fxe5 Rc8 25.Rd2 Ra2 26.e6 fxe6! 27.Qxf6 Raxc2 28.Rxc2 Rxc2 29.Qxe6+ Bf7 30.Qxf7+ Kxf7 31.Kxc2 Qg2+! 32.Kd3 Qxg4 33.Re4 Qf3+ 34.Re3 Qd5+ 35.Kc3 Qc5+ 36.Kd3 Qb4 37.Re4 Qxb3+ 38.Kd4 Qf3 39.Ke5 Qf6+ 40.Kd5 h6 41.Kc4 Kg6 白投了

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2014年03月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(93)

「Chess Life」1994年5月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

迅速展開の伝道者

 強い選手はポール・モーフィーを賛美して最初の現代のマスターと考えている。すなわちポーン陣形、收局、戦略、戦術、そのほか何だろうとチェス全体を理解していたということである。しかしチェスの一般大衆は美しい手筋ゆえに彼を懐かしんでいる。そう、確かにモーフィーは華麗な手を指した。しかしそれらは美食のあとのデザートというだけのことである。1920年代と1930年代にアレクサンドル・アリョーヒンはまさしく手筋のために賞賛されていた。そのような「賞賛」にルドルフ・シュピールマンは「自分もアリョーヒンと同じく手筋が見えるが同じ局面にはならない」と叫んだといわれる。

 ポール・モーフィーについても同じである。彼は布局原則を深く理解していたので、戦術の一撃が可能な局面を迅速に作り上げることができた。良い布局の指し方の重要な目的の一つは、駒を中央に向かって展開させて中盤戦に備えるようにすることである。19世紀中頃の習慣となっていたようにモーフィーも白だろうと黒だろうと開放試合を指す方が好きだった。彼はすぐに迅速で目的を持った中央志向の展開を達成することに卓絶するようになった。そして布局の指し方のこの側面について多くのことを我々に教えてくれる。そこで彼の早い勝利のうちから白番2局と黒番2局の計4局を選んだ。

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2014年04月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(94)

「Chess Life」1994年5月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

迅速展開の伝道者(続き)

白で

 モーフィーの最も有名な手筋といえばたぶん次の試合に出てきた手だろう。

フィリドール防御 [C41]
白 ポール・モーフィー
黒 ブラウンシュバイク侯爵とイズワール伯爵
パリ、1858年

1.e4 e5 2.Nf3 d6 3.d4 Bg4?!

 これは同時指導対局でまだしばしば見かけるたぐいの手である。白の次の手のあと黒が釘付けを維持できないので良くない。定跡は 3…Nd7、3…Nf6 および 3…exd4 の3手である。

4.dxe5! Bxf3 5.Qxf3 dxe5 6.Bc4

 キング翼ビショップを中央の好所に展開して1手詰みを狙っている。

6…Nf6?

 黒は白の狙いには気づいていたが、致命的な二重攻撃の白の応手には気づいていなかった。6…Qf6 7.Qb3 Bc5! 8.O-O Bb6 9.a4 a5 10.Nc3 Ne7 11.Be3 Nd7 12.Rad1 なら黒は明らかに悪い「だけ」である。白が優勢である理由は開放局面で展開に大きく優っているからである。

7.Qb3! Qe7

 白がf7のポーンを取って詰ませることを狙っているので(7…Nxe4? 8.Bxf7+ Kd7 9.Qe6#)、黒はその弱点を守らなければならない。本譜の手は 8.Qxb7 Qb4+で1ポーン損の收局にとどめることを期待している。もちろんモーフィーは展開で大差をつけているのでもっと大きなことを求めている。

8.Nc3!? c6 9.Bg5

 白はクイーン翼ビショップを活動的な地点に展開し黒のキング翼ナイトを動けなくした。黒陣は危機的状況に近い。例えば 9…Qc7 10.O-O-O Bc5 は 11.Bxf7+! Qxf7 12.Rd8+ で負ける。黒は 9…Na6! で展開を図らなければならない。私の見るところ白の最善は 10.Bxa6 で黒のクイーン翼のポーン陣形を壊すことである。代わりに・・・

9…b5?

 黒チームは迅速な展開に不慣れなので、うるさいキング翼ビショップを追い払うことができると考えた。しかし・・・

10.Nxb5! cxb5 11.Bxb5+ Nbd7 12.O-O-O

 白はすでに駒の代わりに2ポーンを得ている。さらには等式の展開の側面を見なければならない。白はキングが無事にキャッスリングを済ませ、2ビショップとクイーン翼ルークとクイーンが活発に展開しているのに対し、黒はキングが中央に足止めにされ、キング翼の駒が展開していない。白はもう 13.Bxf6、13.Bxd7+ または 13.Rxd7 によりクイーン翼ナイトを取る手を狙っている。黒はクイーン翼にキャッスリングするのは自殺行為で(12…O-O-O 13.Ba6+ Kc7 14.Qb7#)、一本道の応手も少しの間持ちこたえるだけである。

12…Rd8 13.Rxd7! Rxd7 14.Rd1

 これで白のすべての駒が展開し黒を攻撃している。経理屋は黒がルーク得だと言うかもしれないが、黒はキング翼が戦いに参加していないので実質はビショップ損である。14…Qb4 は 15…Bxf6! gxf6 16.Bxd7+ で黒が平凡に負ける。次の手を指した両爵に感謝したい。

14…Qe6

 そして次の手が可能になった。

15.Bxd7+! Nxd7 16.Qb8+! Nxb8 17.Rd8#

 モーフィーの傑出した指し方を褒めるべきだろう。それでも最終局面の展開の特徴には注意して欲しい。黒はまだキング翼ルークとビショップ抜きで指していてキング翼ナイトはb8で展開されていないのに対し、白は迅速な展開のおかげですべての駒が戦いに参加した。

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2014年04月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(95)

「Chess Life」1994年5月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

迅速展開の伝道者(続き)

白で(続き)

 たぶんモーフィーの最も有名な手筋は次の試合に出てきた。

キング翼ギャンビット受諾 [C34]
白 ポール・モーフィー
黒 アマチュア
ニューオーリンズ、1858年

1.e4 e5 2.f4 exf4 3.Nf3 c6?! 4.Nc3 Bb4?!

 アマチュアのなくならない癖は敵のナイトとの交換を急いで、ナイトの不快な両当たりの危険をなくそうとすることである。しかし本局だけでなく前局でも見られる開放的な局面では、ビショップの方がより危険な小駒である。もちろん黒の前手の論理的な継続手は 4…d5 である。

5.Bc4 Bxc3?

 これはとんでもない手である。黒は白の展開を促進させ自分の黒枡をひどく弱めた。5…d6 か積極果敢な 5…d5 6.exd5 Nf6!? ならまともである。

6.dxc3! Ne7 7.Qd6! O-O 8.Bxf4 Ng6 9.Bg5 Qe8 10.O-O! Kh8

 10…Qxe5 とポーンを取ると白に素通し列ができ、例えば 11.Bb3 から 12.Rae1 または 11.Nd4 Qe5 12.Nf5 というように十分に展開できる。どちらにしても黒の終わりは近い。

11.Rae1!

 またもモーフィーの展開には感嘆させられる。まだ11手にすぎないが、彼の駒はすべて目的を持って活動的に展開され、キングは無事にキャッスリングを済ませている。これに反して黒はクイーン翼抜きで指している。このような状況では手筋は「空から降ってくる」ように現れる。

11…f6 12.e5!

 展開の優位を最大限に利用すべく、列は素通しにしなければならない。12…fxg5 は 13.Nxg5 で黒の受けは何の望みもない。例えば 13…Na6 14.Rxf8+ Qxf8 15.Re4! Nc5 16.Qxg6! hxg6 17.Rh4# は一例である。

12…f5 13.Nd4 f4 14.e6

 この手も列を素通しにする原則どおりである。GMマローツィは50年ほど後に 14.h4! h6 15.h5 hxg5 16.hxg6 g4 17.Kf2 から Rh1# の方がずっと速かったと指摘した。

14…dxe6 15.Nxe6 Bxe6 16.Rxe6 Qc8 17.Rxg6!

 ポーンを取って黒キングを裸にする交換損の駒切りは、黒のクイーン翼が参加していないのでほとんど危なくない。

17…hxg6 18.Qxg6 Qf5 19.Rxf4!

 鮮やかな手だが、黒のクイーン翼の駒が展開されていなくて白の駒がすべて(またしても!)参加しているので可能である。

19…Qxg6 20.Rxf8+ Kh7 21.Bg8+ Kh8 22.Bf7+ Kh7 23.Bxg6+ Kxg6 24.Bf4 黒投了

 黒の釘付けのナイトが取られ、白が駒得と2ポーン得になる。

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2014年04月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(96)

「Chess Life」1994年5月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

迅速展開の伝道者(続き)

黒で

2ナイト防御 [C55]
白 セオドア・リヒテンハイン
黒 ポール・モーフィー
第1回米国チェス大会、ニューヨーク、1857年

1.e4 e5

 黒駒も迅速な展開に最大限の可能性があるのでこれがモーフィーの愛用の応手だった。もし白が展開で後れをとれば、黒は素早く主導権を得る見通しがきわめて明るくなる。

2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.Bc4 Nf6 5.e5

 局面はスコットランド布局から今日でもまだ人気のある2ナイト防御の1戦型に移行した(通常の手順は 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.d4 exd4 5.e5)。モーフィーは現代ではごく普通の展開兼反撃で応じたが、当時は最先端の手だった。

5…d5! 6.Bb5 Ne4 7.Nxd4 Bd7 8.Nxc6?!

 この手は後手をひいて悪い。正着は 8.Bxc6 bxc6 9.O-O で、白が少し優勢とみられる。

8…bxc6! 9.Bd3 Bc5

 迅速で積極的な展開の手である。白は次の手で黒の圧力を弱めることを期待するが、黒には主導権を維持する中間手があった。

10.Bxe4 Qh4! 11.Qe2

 これは文句なく理にかなった手である。白は黒にポーンでe4のビショップを取り返させてクイーン翼のポーンの形を乱させたい。ありきたりの 11.O-O では 11…Qxe4 と取られて、黒が何の犠牲も払うことなく開放局面で双ビショップを得て楽に優勢になる。

11…dxe4

 「Encyclopedia of Chess Openings」の第E巻ではここで 12.O-O を推奨し、双ビショップの潜在力のために黒が少し優勢と判断している。本譜では白がすぐに黒のキング翼ビショップの威力を打ち消そうとしたが、自分のキングと展開していないクイーン翼の危うい状況に気がついていなかった。

12.Be3? Bg4!! 13.Qc4

 危険をおかさない 13.Qd2 では当たり前の 13…Rd8 でd1での詰みを狙われるので、白は反撃に打って出なければならない。

13…Bxe3!

 それでも攻撃は続く。アンディー・ソルティスとフレッド・ラインフェルドの示した手順は 14.Qxc6+ Bd7 15.Qxa8+ Ke7 16.g3 Bxf2+ 17.Kxf2 e3+ 18.Ke1(18.Kg1 e2!)18…Qb4+ 19.c3 Qxb2 20.Qxh8(20.Qe4 Qc1+ 21.Ke2 Bb5+ 22.Kf3 Qxh1+)20…Bg4 のあとe2かf2で詰みになる。注意点としてここでも白のクイーン翼は展開できていないのに対し、黒の残りの2駒は非常によく働く地点にいる。

14.g3 Qd8

 14…Qh6 15.Qxe4 Bc1 も強い指し方である。

15.fxe3 Qd1+ 16.Kf2 Qf3+! 17.Kg1 Bh3 18.Qxc6+ Kf8 19.Qxa8+ Ke7 白投了

 20.Qxh8 のあとg2かf1で詰まされる。

 最終局面で白は2ルーク得だったと考えることができるだろうか。私はそう思わない。なぜならルークもナイトも働いていないからである。展開がなされていない時は使える戦力にならない。だから数字的に名ばかりの敵「軍」は容易に決定的な要因に成り得る。

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2014年04月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(97)

「Chess Life」1994年5月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

迅速展開の伝道者(続き)

黒で(続き)

エバンズギャンビット [C52]
白 N.マラシュ
黒 ポール・モーフィー
ニューヨーク、1857年

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.b4 Bxb4 5.c3 Ba5 6.d4 exd4

 現代なら 6…d6 と突いて受ける。モーフィーは黒番のときでさえ危険が許容範囲と判断できたなら、躊躇なくより開放的な局面に向かった。

7.e5?

 白は犠牲にした戦力の代償として迅速な展開を目指さなければならない。本譜の手は展開を助長していなくて、てきめんに咎められる。7.O-O と展開するのが妥当で、それに対し定跡では 7…Nge7 が唯一の正着でいずれ互角になるのが最も可能性のある結果と考えられている。

7…d5! 8.exd6e.p. Qxd6 9.O-O Nge7!

 このようにキング翼を展開するのが適切である。

10.Ng5?

 白はこのようなナイトの襲撃から何かを期待するには展開が不足している。10.Ba3 Qf6 11.cxd4 が理にかなっていてポーンの代償がある。

10…O-O 11.Bd3

 白が新兵を投入するよりも同じ駒を再び動かすことにより攻撃しようとしていることに注意して欲しい。だからモーフィーは展開を完了し交換損の犠牲により安全に戦力の優位を得られると決断した。彼は2、3個のポーンと明らかな主導権を得ることになる。

11…Bf5! 12.Bxf5 Nxf5 13.Ba3 Qg6 14.Bxf8 Qxg5!

 14…Rxf8 と比較すると手得になる。

15.Ba3 dxc3

 黒は交換損の代わりに3ポーンを取り、ナイトが好所に位置し、クイーンがよく利いていて、…Rd8 もやがて来る。白はクイーン翼が未展開で(ここにおいても!)、黒の主導権に対処できる可能性もない。ビショップをキング翼の援軍に向かわせようとするのも不十分だが、ほかに適当な手段がない。

16.Bc1 Qg6 17.Bf4 Rd8 18.Qc2 Ncd4

 黒はちょうど盤の白側の中央の地点に入り込んだが、白は展開不足のためにここをほったらかしにしたままだった。

19.Qe4

 クイーンはここで安全な感じだが、それにもかかわらず電撃のナイト跳びに衝撃を受ける。

19…Ng3!! 白投了

 白クイーンは二重当たりになっていて、自然な 20.Qxg6 は絵のような 20…Nde2# で詰まされる!

 まとめると、ポール・モーフィーは上記の試合すべてに勝ってまったく当然である。それでも彼の華麗な手筋は、相手が開放的な局面で迅速に目的を持って展開する必要性を認識できないことにより可能となった。まだ記憶に残っているように1回は相手がキング翼を展開しなかったし、ほかの3回は相手がクイーン翼の展開を怠った。

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2014年04月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(98)

「Chess Life」1994年7月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称局面の手番の利

 手詰まりの局面の特殊で重要な例外を別にして、さもなければ手番の方が有利である。これは布局についても断然当てはまる。まったく対称で手番が白の局面のうち興味深くて重要な定跡を取り上げる。まず考察するのは開放試合、すなわち白が 1.e4 と指した試合である。閉鎖試合はそのあとで取り上げる。

 開放試合で1手ずつ対称な展開は白が大きく優勢になるに違いないと直感的に思われるかもしれない。しかし通常の状況では一般にそうならない。その理由は白が良い手を指しているならば黒もそうであり、そのため決定的なことが何も起こり得ないからである。さらには局面が本来開放的なので、黒は注意深く指しながらゆくゆくは対称をやめなければならないことを知っている。これからぺトロフ防御、4ナイト布局、そしてウィーン試合という三つの重要な布局を見ていく。次回は現在流行しているフランス防御の交換戦法を取り上げる。

ぺトロフ防御(C42)

 次の対称な手順は通常は黒の布局におけるポカとみなされている。

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 Nxe4?!

 もちろん正着は 3…d6 4.Nf3 Nxe4 である。本譜の手は全然評判ほど悪くないけれども、例えば『Encyclopedia of Chess Openings C』の初版(1974年)は白の勝勢と断定している。

4.Qe2 Qe7

 4…Nf6?? 5.Nc6+ も 4…d5? 5.d3 Nf6?? 6.Nc6+ も私の同時指導対局で遭遇した。

5.Qxe4 d6 6.d4 dxe5 7.dxe5

 7.Qxe5 は 7…Qxe5 8.dxe5 Bf5! 9.c3 Nd7 10.f4 Bc5 となって、黒が活発で有利な展開のためにポーンの十分な代償がある。

7…Nc6 8.Nc3!

 ポーンにしがみつかずに有利な展開を目指すのが、3…Nxe4? の非を明らかにする唯一の手段である。ほかの手では黒がほぼ互角の形勢になる。例えば 8.f4 Bd7 9.Nc3 O-O-O のあと …f7-f6、8.Bf4 g5!、それに 8.Bb5 Bd7 9.O-O O-O-O である。

8…Qxe5 9.Qxe5+ Nxe5 10.Bf4 Bd6 11.Bg3!

 クイーン翼ビショップが守られたので(11.Nb5? Nf3+!)、白は 12.Nb5 や 12.Ne4 が狙いになる。

11…Bd7 12.O-O-O O-O-O 13.Ne4 Bc6 14.Nxd6+ cxd6 15.f3 Rhe8 16.Rd4! Kc7 17.a4

 ここまでの手順はE.バシューコフ対V.チェーホフ戦(ソ連選手権戦第1次リーグ、1975年)である。白はポーンの形が良く双ビショップを持っているので二重に有利である。GMバシューコフが51手で勝ち切った。白の「勝ちの局面」という話はあり得ないけれども、白の優勢は明らかで指しやすい。だから欠点のない 3…d6 をさしおいて黒が 3…Nxe4?! を選ぶ正当な理由はない。

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2014年05月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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布局の探究(99)

「Chess Life」1994年7月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称局面の手番の利(続き)

4ナイト布局(C49)

 局面は通常次の手順から生じる。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5

 4ナイト試合がこの4年間に再びグランドマスターの試合で重要な客になった理由は主に二つある。一つ目はあまりに研究されたルイロペスからいくらか休止したいということに関連している。白にとって難物のマーシャルギャンビットが復活したという要因も加わっている。もう一つの理由はルビーンシュタインの「引き分け手順」の 4…Nd4 が、引き分けに関する限り効力を失ったことである。つまり 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9,Qe2 で引き分けになるが、白は控えめに 5.Ba4 と引いて黒の希望をくじくことができる。これは非常に不均衡な戦いに成り得るしそうなる。(4ナイト布局の優れた最近の本はGMジョン・ナンの『New Ideas in the Four Knights』である。)

 だからもっと戦略的な方向に試合を保つことに関心のある黒は対称形に戻っている。

4…Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5

 ここが黒にとって正念場である。白が先に攻撃を仕掛けているので黒は 7…Bg4? と対称形を続けられない。例えば

(1)8.Bxf6 gxf6(8…Qxf6? は 9.Nd5 から 10.Bxc6 で黒の駒損になる)9.Nd5 Bc5 10.Qd2(K.シュレヒター対レオンハルト、ハンブルク、1910年)白には恐ろしい 11.Qh6 の狙いがあり、黒のキング翼は既に恒久的に弱体化している。

(2)8.Nd5 Nd4 9.Nxb4 Nxb5 10.Nd5 Nd4 11.Qd2! c6 12.Nxf6+ gxf6 13,Bh4 Bxf3 14.Qh6 Ne2+ 15.Kh1 Bxg2+ 16.Kxg2 Nf4+ 17.Kh1 Ng6 18.Rg1 白の攻撃が非常に厳しい(『Encyclopedia of Chess Openings』改訂版、1981年)。実際白のすぐの狙いは 19.f4 である。

7…Bxc3 8.bxc3

 中央が開放されc3に移ったbポーンが白の中央を強化した場合、この交換で白の双ビショップが潜在的な力になる。しかし二重cポーンと外れのキング翼ビショップという代価もある。だから戦略的に不均衡な興味深い状況が生じていて、黒の完全な互角への可能性は明るく、うまく指した方が勝つ可能性が高い。

8…Qe7

 現代的な陣形組み換えが始まる。クイーン翼ナイトはe6まで旅して、釘付けをかけている白ビショップに将来の意図を表明させる。

9.Re1 Nd8 10.d4 Ne6 11.Bc1

 これは戦略的な退却で、a3に旅してdポーンの釘付けにつけ込むだけでなくあとでc1-h6の斜筋に再展開する選択肢も保持している。代わりに 11.Bh4 は 11…Nf4 で白のクイーン翼ビショップがもっと端へ寄るし、消極的な 11.Bd2 は白の選択肢を狭めるだけである。ここからは次の試合を追う。

ナイジェル・ショート対ビスワーナサン・アーナンド
リナレス、1992年

11…c5

 これが最もよく指されている主手順である。黒はd4に真剣に挑んでいるが、d5の支配を失う潜在的な欠陥もある。2番目に人気のある手は 11…Rd8 で、最近の重要な試合のJ.ナン対D.プラサド戦(マニラ・オリンピアード、1992年)では 12.Nh4 g6 13.a3 c6 14.Bf1 d5! 15.Nf5! gxf5 16.exf5 e4! 17.fxe6 Qxe6 と進んでほぼ互角のいい勝負だった。

12.a4 Rd8 13.dxe5

 これは思い切った決断である。白は自分に孤立二重cポーンを残す一方で、キング翼ビショップの見通しを良くし黒の中央での反撃を止めた。

13…dxe5 14.Qe2 Qc7 15.Bc4! h6

 黒はこれで守勢に追い込まれるはめになる。GMアーナンドはあとでもっと魅力的な針路として 15…Re8! 16.Nh4 Nf4 で「反撃」することを示唆した。

16.Nh4 Re8 17.Nf5 Nf4 18.Qf3 Bxf5?!

 黒は形勢を楽観しすぎている。戦略的にもっと理にかなっているのは 18…Be6 19.Bf1(19.Bb5 Red8)19…c4 で、互角に近い。

19.exf5 Rad8 20.a5!

 戦略的に不均衡で判断を誤りやすい局面だが、GMショートの判断の方がはるかに上回っていた。白はポーンの形がばらばら(孤立二重cポーン、二重fポーン)のように見えるが、代償はクイーン翼の主導権、開放局面での双ビショップの素晴らしい潜在力、黒ナイトの活躍する機会の不足というように十分以上である。最後まで繰り返し現れる主題は双ビショップの威力である。白はここで小さいが気持ちの良い優勢を保持していて、決して手放さない。

20…N4d5 21.Qg3 Kh7 22.h3 Re7 23.Bf1!

 この手はクイーン翼ルークをa4を通して活用する用意をしている。GMアーナンドは黒の最善の防御策は 23…c4 24.Ra4 b5 だと考えたが、25.axb6e.p. Nxb6 26.Ra1 で白がわずかな優勢を保持している。

23…Qc8?! 24.Rxe5 Rxe5 25.Qxe5 Re8 26.Qg3 c4

 黒はf5で取る用意をした。すぐに 26…Qxf5? と取ると 27.Bd3 が決定的な釘付けになる。以下は例えば 27…Re1+ 28.Kh2 Ne4 29.Bxh6! Nxg3 30.Rxe1 Kxh6 31.Bxf5 Nxf5 32.Re5 で白の勝ちの收局になる(アーナンド)。

27.Bb2 Qxf5 28.Bxc4 Ne4 29.Qf3 Qxf3 30.gxf3 Nexc3 31.Kf1!

 白のポーンは相変わらずひどそうだけれども、ビショップとルークはこの開放的な局面に理想的に適合している。白は本譜の手でe2でのチェックに基づいた反撃を防いでいる。

31…Rc8 32.Bd3+

 この手はまじないのようによく効く。それでもGMショートによれば 32.Bb3! の方がもっと恒久的な締め付けになっていた。

32…Kg8 33.Ra3 b5??

 これは劣勢の局面で人間に起こりやすい類の悪手である。ここは注意深い 33…Rc7 が良くて、34.Rb3 で白に主導権がある。

34.axb6e.p. 黒投了

 34…axb6 と取っても 35.Bf5! で、c列にルークを置いたままにすることによりc3のナイトを守ると 36.Ra8+ で詰みになる。

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2014年05月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: 布局の探究1

布局の探究(100)

「Chess Life」1994年7月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称局面の手番の利(続き)

ウィーン試合(C25)

1.e4 e5 2.Nc3 Nc6

 最も一般的な応手は 2…Nf6 である。もっともそれなら白は挑発的な 3.f4 を安全に指すことができる。対称形の本譜は戦略派によってそのポーン突きを避けるために好まれてきた。なぜなら 3.f4 exf4 4.Nf3 g5 という手順は定跡によって長い間黒が良いと考えられてきたからである。しかしGMアルナソンとGMモトワーニによる白側の最近の好成績は状況をまったく分からなくさせている。

3.Bc4 Bc5

 黒も同等の価値の高い展開をしているので、白には 4.d3 や 4.Nf3 で優勢になれる見通しはほとんどない。しかし黒の最後の2手につけ込もうとする大胆な手段がある。ここからその試合を追ってみる。

ベント・ラルセン対ラヨス・ポルティッシュ
サンタモニカ、1966年

4.Qg4! g6

 キング翼の弱体化は避けられない。4…Kf8?! でキャッスリングの権利を放棄する理由はない。おまけに一般に黒には布局初期に白と同じ類の「突飛な」振る舞いをしている余裕はない。例えば 4…Qf6? は 5.Nd5! Qxf2+ 6.Kd1 Kf8 7.Nh3 Qd4 8.d3 となって悪い。1931年のアリョーヒン対ルゴフスキー戦ではこのあと 8…Bb6 9.Rf1 Nd8 10.c3 Qc5 11.Ng5 Nh6 12.Qh5 と進んで黒が投了した(12…d6 13.Nf6!)。

5.Qf3 Nf6 6.Nge2 d6 7.d3 Bg4 8.Qg3 h6

 この手はg5での釘付けを防いだ。GMポルティッシュによると本譜の手が融通性があって良いと結論づける前に 8…Be6、8…Qd7 それに 8…Bxe2 も考えたそうだ。

9.f4 Qe7 10.Nd5 Nxd5 11.Qxg4

 今のところ白はクイーンの働きに優り、黒は小駒の展開で先行している。白が主導権を得る見通しはf列でf7をにらむ攻撃に基づいている。どちらが優っているだろうか。

11…Nf6?!

 この手は鋭い反撃の作戦を念頭に指された。しかし黒はそれを貫徹しないので、本譜の手は白に強力な攻撃態勢を整えさせるだけに終わった。ラルセンとポルティッシュの両GMは 11…Ne3 12.Bxe3 Bxe3 が最善の手順ということで一致した。そしてGMラルセンは 13.Qg3 Nd4! を想定し、「白の優勢は微細な点まで研究しなければならない」と付け加えている。GMポルティッシュは 13.f5 Qg5 14.Qf3 Nd4 15.Nxd4 exd4 16.fxg6 Qxg6 17.Rf1 Rf8 を分析し互角になるとしている。

12.Qh3! Na5?

 この手は弱点を作っているだけである。黒は作戦どおり 12…d5! 13.exd5 Nb4 と指すべきだった。そのあとの両者の最善の手順は 14.fxe5! Qxe5 15.Kd1 Nbxd5 16.Re1 O-O! で、GMポルティッシュは「大乱戦だがまだ黒も指せる」としている。

13.Bb5+ c6 14.Ba4 b5 15.Bb3 d5 16.fxe5 Qxe5 17.c3!

 この手は 18.d4 を狙い、黒クイーンを 18.Bf4 で追い払う用意もしている。加えて Rf1 で半素通しf列で攻撃する狙いもある。GMラルセンの考えではここではまだしも 17…Be7 で、18.O-O で白が大いに優勢とのことだった。

17…Nxb3 18.axb3 Bb6 19.Rf1 Bd8

 19…dxe4 なら 20.d4 Qe7 21.Bg5! で白の勝ちになる(ポルティッシュ)。

20.Bf4 Qe6

 收局は見通しが暗いが、20…Qe7 21.Nd4 の中盤戦よりはまだましである。

21.Qxe6+ fxe6 22.Nd4! dxe4

 22…Kd7 23.Be5 Rf8 なら白は 24.Ra6 で最後の駒を戦いに投入し勝ちになる。

23.Nxc6 Rh7 24.Nxd8 Rxd8 25.Ra6 exd3 26.Bxh6

 このような開放的な局面ではこのビショップの方が黒のナイトよりはるかに優るので、26.Rxe6+ か 26.Be5 でビショップを残すようにした方が勝ちが簡単だっただろう。

26…Rxh6 27.Rxe6+ Kd7 28.Rfxf6 Rxh2 29.Rd6+ Ke7 30.Rxd8 Kxf6 31.Kf2 Rh1 32.Rxd3 Rb1 33.Rd2

 黒はひどい局面から二重ポーン損「だけ」のルークとポーン收局に持って来た。たとえ黒が本当に実戦的に引き分けの可能性があっても、GMラルセンは本局の頃が指し盛りで技術的な問題を卓越した技量で克服してきた。以下の手順は本稿の範囲外なので解説は省略する。

33…Ke5 34.Kf3 a6 35.b4 Kf5 36.Ke3! Kg4 37.Kd4 Kg3 38.Kc5 g5 39.Kb6 Ra1 40.b3 Rc1 41.Kxa6 Rxc3 42.Rb2 g4 43.Kxb5 Kh2 44.Ka5 Rc8 45.b5 Ra8+ 46.Kb4 Rb8 47.Kc5 Rc8+ 48.Kd6 Rb8 49.Kc6 Rc8+ 50.Kb7 Rf8 51.b6 g3 52.Ka6 Rf2 53.Rb1 黒投了

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2014年05月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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