フィッシャーのチェスの記事一覧

フィッシャーのチェス(001)

序文
ボビー・フィッシャーの頭脳

フランク・ブレイディー

 たぶんボビー・フィッシャーの頭の働きほどチェス選手の興味をかき立てる話題は他にないだろう。過去の世界チェスチャンピオンの中には他の知的な分野での顕著な才能とチェスでの卓越した技能との間にいつも強い等式があった。たとえそれがチャンピオンたちをとっぴでわがままで社会に背を向けた頑固者として描こうとするマスコミ全般の企てだとしてもである。エマヌエル・ラスカーは著名な数学者・哲学者でありアルベルト・アインシュタインの友人だった。アレクサンドル・アリョーヒンは世界選手権を追い求める途中で中断してソルボンヌ大学で法律の学位を取得した。またいくつかの言語で多くの著作を世に出した。ミハイル・ボトビニクはエンジニアとしての業績によりソ連で上級の勲章を授けられ、コンピュータ・チェスの分野ではパイオニアとしての研究を行なった。カパブランカは外交官だった-真実は名誉職だった-がそれでも役目を果たした。エーべは数学の教師で現在は世界チェス組織のFIDEの会長である。まだまだ他の著名な選手たちをあげることができる。

 しかし一見してフィッシャーにはチェスを指す能力以外にこれといった技能はないようである。彼は当代随一のチェスの才能を持っているので過去のパターンは当てはまらない。我々は矛盾を突きつけられている。彼はどのようにしてあんなに一貫して卓越したチェスを指せるのだろうか。彼の知能は本当に世間で言われているほど高いのだろうか。彼の記憶力は見かけどおりものすごいのだろうか。彼はどのくらい多くの手が読めるのだろうか。彼の頭脳の過程はチェスを指すいわば特有の能力のやり方で働くのだろうか。

 憶測は留まるところを知らず矛盾に満ちている。チェス選手たちはフィッシャーの頭脳がどのように働いているかを具体的に認識できれば、その学んだことを自分のチェスのやり方に適用し模倣と応用により上達できるのではないかと思っている。けれどもインタビューと本の中で、ぶっきらぼうなほど実際的な性向と、ミスについて偏執狂的なほど厳格な性向以外には、彼の考え方に何もおかしな所はうかがえない。

 フィッシャーがインタビュー、調査、それに心理学者と教育専門家とによる広範な検査にさらに自分自身を委ねるようなあり得ない時機が来るまで、彼の頭脳の働きに迫る鍵として断片しかわれわれには残されていない。生命がないこともない32個のチェス駒を何時間も研究している時ボビー・フィッシャーの頭の中で実際に起こっていることは-それについては誰の頭でもよいが-たぶんきちんと資料に残し分析することは全然できないだろう。しかし我々の持っている証拠を検証してみよう。

 以前の著作で私はフィッシャーの知能指数をとてつもない天才の180台であると引用した。情報源はほかでもない高く評価されている政治学者である。彼はフィッシャーが在学中だった時のブルックリンのエラスムス高校でたまたま成績指導教官室に勤務していた。そこでフィッシャーの個人記録を調査する機会があった。だから彼の言った数値が間違いであると信じる理由は何もない。当時の他の先生たちの記憶ではずっと低い数値だったと批評する人たちもいる。しかし先生たちが誰であり記憶している数値がどんな値だったかこれまで明らかにされたことはまったくなかった。

 180という数値があり得ないとみなされるのはたぶん「チェス王者の逆説」の反映であろう。フィッシャーは知的な業績が過去のチャンピオンたちと比べて不足しているように見えていて、高い知能指数を信じられなくさせているようである。彼をほとんど「イディオ=サバン[訳注 精神医学用語で、精神遅滞者で特別な才能(記憶力や暗算や音楽など)を持っている者]」のように見ている者は多い。恐らく以下の逸話のいくつかを知れば信じない者たちの疑念が一掃されるであろう。

 1972年にレイキャビクでスパスキーと番勝負を指す前にフィッシャーは現地の雰囲気に触れるために短時日アイスランドを旅行した。ある朝アイスランドただ一人のグランドマスターで旧知のフリドリク・オウラフソンに電話した。オウラフソンと妻の二人は不在で小さな少女が電話に出た。フィッシャーは「オウラフソンさんをお願いします」と言った。オウラフソン氏の娘はアイスランド語で二人とも外出中で夕食のために夕刻までには戻ってくると答えた。フィッシャーはアイスランド語は1語も知らなかったのでおいとまの言葉を言って電話を切るしかなかった。その日のちほどフィッシャーは別のアイスランド人チェス選手(彼は英語が話せた)と話していたときオウラフソンと連絡をとろうとしたことに触れた。「電話に出たのは小さな女の子のように聞こえた」と言った。それから電話で聞こえたアイスランド語をすべて繰り返してみせた。抑揚まで完全にまねしたが、実際あまりにうまいのでそのアイスランド人は文章を一語一語訳すことができた。

 1963年にフィッシャーはニューヨーク州ポキプシー市で開催されたニューヨーク州オープン選手権戦に出場し優勝した。最終戦で私は「National Review」誌の編集次長だった故フランク・S・マイヤー氏と難しい収局を指していた。フィッシャーはトイレに行く途中私の盤の所でちょっと立ち止まり-たぶん5秒くらい-そして歩いて行った。数ヵ月後彼は当時マーシャルチェスクラブにあった私の事務所を訪れた。「最終戦のあの試合はどうなった」と彼は聞いてきた。苦労したけれど勝ったと言った。「Q-B5 と指したのか?」と尋ねてきた。どう指したか覚えていないと率直に答えた。彼はすぐにその正確な局面を並べて私が思い出すのを「助けた。」そしてもっと簡明に勝つはずだった手順を示してみせた。要は彼が局面を覚えていて私の前で分析してみせただけではないということである。彼は局面だけでなく何ヶ月も前に私の盤の横を通り過ぎたときにちらと読んだ手順も覚えていたのである。

 このような逸話はフィッシャーが何手先まで読むのか、そしてどのくらいの時間でかという憶測につながる。スピードチェス(普通は5分ずつの持ち時間)で彼と指したことのあるマスターたちは対局後の検討でフィッシャーはどんな局面でもわずか1、2秒で3、4手読んでいると断言している。彼が5秒間局面を分析すれば5、6手先まで、時にはもっと、読めることになる。時には余興で強い選手相手に時計の針を自分のは1分に相手のは10分に合わせることがある。それでも決まって時間を残して勝ってしまう。

 もっとすごいのはフィッシャーがスピード試合のほとんどの手順を覚えていられることである。1970年ユーゴスラビアのヘルツェゴビナで行なわれた非公式のスピード選手権戦の終わりに当たりフィッシャーは彼の全22局の1000手以上にもなる棋譜を記憶からすらすらと作成した。それにブリティッシュ=コロンビア州のバンクーバーでのタイマノフとの歴史的な番勝負の直前にソ連選手のバシューコフと会った時、フィッシャーは両者がモスクワで15年前に指したスピードチェスの試合を見せた。彼はその試合を一手一手思い出した。

 フィッシャーの知能指数や記憶力がどの程度だろうと、フィッシャーのチェスへの貢献を評価する上ではささいな問題である。局面と手順を記憶することにかけては彼がありありと目に浮かぶ記憶力を持っていることを我々は確かに知っている。彼が対戦相手たちの能力をはるかに上回る正確さと速さで指すことができることを我々は確かに知っている。チェスはボビー・フィッシャーの天職であり本分であり芸術であるので、他の分野での優れた能力を評価しようとするのは本当に適切なことなのだろうか。あるいは我々は彼のチェスの能力を彼の素晴しい知性の十分な証拠としてようやく認め始めることができるのだろうか。

 フィッシャーの内面についての議論は彼個人にとっては当惑の種である。彼は自分の知能指数は知らないと主張している。本当の数値を生徒に明かさないのは教育委員会の方針として実際のところ賢明である。1974年の春にフィッシャーは自分の知能指数が「天文学的」だとソ連のチェス週刊誌に伝えた友人のバーナード・ズッカーマンを酷評した。

 フィッシャーは一人の芸術家としてのそして一人の人間としての自分の言説は自分のチェスの中に存在していると信じている。それこそが本書のすべてである。それゆえに「フィッシャーのチェス」はフィッシャーの頭脳活動への根本的な取り組みとなっている。彼の知性と記憶力についての憶測は非常に興味深いけれども、彼が記憶されるのは彼の試合によってである。彼の試合はたぶん彼の頭脳を真に証明するものであり唯一それが可能なものである。

2011年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(002)

はじめに

 これから先のページにはチェスそのものを全体的に提示するためにボビー・フィッシャーのチェスを試金石として用いた。フィッシャーの試合は布局の冒険から創作収局の主題に至るまで着想に満ちているので、その試合自体がチェスの楽しさへの最良の紹介である。チェスの精通への努力を要する道において楽しむことは最も確実な推進力である。ボビー・フィッシャーの言葉では「チェスを愛しさえすれば上達できる。」

 フィッシャーについては人格と同じくらい多くのことが書かれてきたので、チェス界を含め一般の人たちは彼のチェスに目をつぶらされてきた。彼の試合はチェスの書籍で何度も何度も分析されてきた。彼は他の著者からの助力の程度は異なるが3冊の自著を出版した。それにもかかわらず彼の勝つための手法、チェスの知識のより広範な部分への独自の貢献、それにチェスの歴史に占める正当な地位はすべての出版物によって目立たなくさせられてきた。

 これまで知られているフィッシャーの750局の時計を使用した試合を研究したところによれば彼は「チェスの秘密」を何も持っていない。彼は注意深くて正確である。彼はたとえ結果が大会順位に何も影響しなくてもどの試合でも真剣である。彼はねばり強くて容易にくじけない。このような特性は才能の問題というより性格の問題である。この意味で彼の真の強さは選手としてでなく人間としての強さである。メディアがこの人間についての「アングル」を捜してとらえてきたイメージとは何と違うことだろうか。

 フィッシャーはチェス史上最も好成績を挙げた選手に違いない。彼は全試合のうち約10%で負け約30%で引き分けた。だから打率は7割5分である。実のところカパブランカは30年の棋歴で700局ほど指し、負けたのはたった35局である。しかしフィッシャーは決して安易な引き分けに応じようとしたことはなかったし、成績に応じて指し方を変えようとしたこともなかった。それにこれまでの20年の棋歴での試合はどれもが激闘だった。

 ソ連選手の中にはフィッシャーの初期の試合のせいでまだ彼に勝ち越している者が何人かいる。その一方で多くの強豪選手に一方的な成績を残している。例えばレシェフスキーに9-4、ペトロシアンに8-4、タイマノフに7-0、セイディーに6-0、シャーウィンに7-0、ビズガイアーに13-1、そしてラルセンに10-2となっている。

 フィッシャーの膨大な「作品」に適切な解説をつける試みに際し、「一人前の」選手に興味があると思われるものを求めてフィッシャーの公表されている試合の全てを注意深く調べた。広範なチェスの戦略、手筋、収局の妙手、それにチェスのプロブレムとスタディに至るまで、それらを例示したりそれらに関連する彼の試合の重要な局面を選び出した。この意味で本書は試合を垂直的でなく水平的に眺めたものである。単なるある選手の試合についてでもなければ中盤戦についてでもなく手筋についてでもなく、チェスについての本である。

 読者はほとんどどこからでも読み始めてかまわない。それによって話の筋を見失うことはない。また、駒を並べずに読み進めることができるが、1手ごとの図にうんざりすることもない。選手が身につけなければならない基本的な技術は、「駒に触れる」ことなく分析すること、これから先の局面の配置をどこも見る必要なく頭の中の目だけで見て思い描くことである。

 相手の既に知っていることを語ることにより相手の気を悪くすることの決してないようにするという原則に注意して、本文は簡潔かつ基本的なことにとどめた。この本はチェスの専門家のために書かれたものでなく、チェスの知識をいくらか持っている一般的な読者のために書かれている。それと同時に解説は十分な量を記述するようにした。多くの場合、例えば1971-1972年世界選手権戦シリーズからの重要局面の分析では、専門家にも評価してもらえるような新しい資料と解説を持ち込んだ。

 友人のフランク・ブレイディーには彼にしかできないこととして、ボビー・フィッシャーを歴史的な視点で評価するのを助けてくれるよう頼んだ。次のことだけは確かである。ボビー・フィッシャーのチェスにはパブロ・ピカソの美術やアルトゥール・ルービンシュタインの音楽と同じように広範な観衆がいて当然である。

ロバート・E・バーガー
カリフォルニア州バークレー、1975年

2011年10月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(003)

第1部 記法 – チェスの言語

 ボビー・フィッシャーがチェス・オリンピアードの歴史上有名なスパスキーとの試合(ジーゲン、1970年)に負けたとき、棋譜用紙にはいろいろな意味で事態が記録されていた。形勢が怪しくなりついには悪化するにつれてフィッシャーの荒っぽい筆跡は酔っ払いのなぐり書きになっていった。「投了」の行のところではどんな手が指されたのか判読できなかった。それでもやはりフィッシャーは特別だった。チェスの歴史において他にどんな棋譜用紙が注目されたことがあっただろうか。

 試合を一手一手それも今日ではしばしば消費時間の記録付きで再現できることは他のどんな「観戦」スポーツにも比類のないことである。大きな運動競技大会の映画、テレビ放送での即時再生、それに地元のフットボールやサッカーの試合のすぐれたルポルタージュならある。しかしどんな熱狂的なファンでもチェス選手ほど簡単に趣味の歴史に深くひたることはできない。

 当時まで米国の最も傑出していた選手のポール・モーフィーの貢献をフィッシャーが要約したときに伝統主義者はびっくりした。モーフィーは最も華麗だった(サージャント)、現代の戦略の考え方を最もよく身につけていた(ファイン)、または単に迅速な展開の効用を理解していた最初の人間といったように、誰もが解説者から聞かされていたけれども、フィッシャーはモーフィーを全時代をとおして最も「正確な」選手と呼んだからだった。これはジョー・ルイスがジャック・デンプシーを負かすことができたかという議論ではなかった。棋譜は誰もが調べられるように存在していた。おそらくモーフィーの対戦相手は20世紀の選手たちほど強くなかったのだろう。しかし強かったならばそれは推測の問題ではなかった。試合は自由に再現できたのだから。

 棋譜用紙に記録された内容は非常に完璧で反駁できないので、代数式記法対記述式記法についての議論は勃発してもつまらないことのように思われる。計測のメートル法と「イギリス」法との間の議論と若干の類似点がある。記号式は効率、変換の容易さ、広さのために洗練することができる。記述式は現在のところ英語の出版界で最も広く理解される記法であるという単純な理由で本書で用いている。

 (代数式記法の方がプロブレムとスタディにとって優れているのには理由がある。記述式での駒の初期位置から動く地点を指示する方式はことに不適切である。多くの他の活動におけるように代数式での一律性に抵抗するのにももっともな理由がある。)

 方式も時代と共に変化する。15世紀の書籍は暗号のようで、記法はほとんど現代的だった。19世紀初めのもっと悠長な時代では棋譜はほとんどシナリオのようだった。イングランドで1828年に指された通信戦は次のようだった。

 No.1 キング列ポーンをキング列の4段目に進めて始める。
 No.1 同じ。

 しかし書き方は詳しかったけれども先手番の選手は5手目の棋譜で間違いをやらかした。試合が1829年に入るにつれて先手番の選手は試合内容についての感情を棋譜に忍び込ませ始めた。交換損をした直後の取り返しで彼は次のように記録している。

 No.31 キングがクイーン翼のナイトを殺害する。

 4手後に彼はみじめなポーン突きに追い込まれる。

 No.35 クイーン側ビショップ列ポーンが1枡前に這う。

 当時の筆跡はどうであろうとフィッシャーは棋譜付けについては非常に正確だった。普通は新聞記事と同義である大衆の見方に反してボビーは訴訟好きでない。彼は局面の反復についての規則を知っている(ほとんどの選手やグランドマスターでさえ「手」の反復としばしば混同する)。そして彼はそれについて議論するのではなく利用する。1971年ペトロシアンとの挑戦者決定番勝負では重要な1試合を救ったし、1972年スパスキーとの世界選手権戦ではこの規則を注意深く当てはめることによりたぶん2局を救った。1962年キュラソーではペトロシアンに対し不適切な引き分け提案で弁明し恥ずかしい思いさえしていた。彼は棋譜と持ち時間のことで論争したことは一度もなかった。おそらく滅多に時間切迫にならないからだろう。

 伝統のように思われるかもしれないけれども英語圏では一般に簡明さのために一つの大きな譲歩をしてきた。この筆者はそれを忌み嫌うものである。それは「Kt」が長すぎるか「K」と混同しやすいという仮定で「ナイト」を「N」と略す習慣がはびこっていることである。そんな無作法な仮定をする言語は他にない。本書では最後のささやかな純粋主義のために抵抗する。

訳注 本稿の棋譜では記述式を代数式で表記しナイトを「N」と表記します。本文中で取り上げられているフィッシャーの棋譜とは次の棋譜です。

2011年10月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(004)

第2部 収局

第1章 キングの位置

 キングの位置は収局の一つの側面で、非常に普遍的な主題なので実質的にはすべての型の収局の根底をなしている。「戦うキング」の偉大な先駆者は1866年から1894年まで非公式だが広く世界チャンピオンと認められていたビルヘルム・シュタイニッツだった。彼は自分の主張の正しいことを示すために序盤でキングをうろつかせることまでした。この遺産にもかかわらずチェス選手たちは今日では、シュタイニッツの「奇行」に驚嘆した選手たちのように自分のキングを前進させることにはちゅうちょしているようである。

 ボビー・フィッシャーは自分のキングを前進させるためや相手のキングの動きを制限するためにポーンや駒を進んで犠牲にすることに優れていた。初期のある大会で彼は一見互角のような収局をキングの強力な位置によって簡単に勝てることを披露した。白はアーパド・イーロー、ついにはチェス界全体によって採用されたレイティング方式を作り上げたあの統計学者である。

フィッシャー対イーロー
ミルウォーキー、1957年
 43.Kg4

 黒キングは敵陣に侵入している。そして黒ビショップは1手で白キングを進入させないだけでなく白の中央のとりでの解体を始める。

43…Bg6 44.Kf3 Bh5+ 45.Kf2 Bd1!

 これでキングとビショップのどちらかが白ポーンを見捨てなければならない。しかし黒キングは非常に強いので 46…Bb3 47.c5 Bxd5 は全然怖くない。

46.Kg3 Be2 47.c5 Kxc5 48.Be6 Kd4 49.Bf5 Ke3 白投了

(この章続く)

2011年10月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(005)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 2年後にフィッシャーは南アメリカに遠征した。そして自分の技量に磨きをかける必要があることを悟った。このとき敗北した中の次の試合は2ポーン得の優勢が相手のキングの位置によって簡単にくつがえされた。

サンギネッティ対フィッシャー
サンティアゴ、1959年
 36…exd5

38.Rxh5! Rxh5

 38…Rg8 39.Kg5 は気が進まなかったのでフィッシャーはクイーン相手に頑張ることにした。白キングは急にキング翼でのさばりだす。

39.g7 Re5 40.g8=Q

 そして白はクイーン翼のポーンに圧力をかけて黒の防御を簡単に打ち砕いた。

(この章続く)

2011年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(006)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 途中で中止されたレシェフスキーとの重要な番勝負でフィッシャーはキングの位置につけ込める二つの機会を逃した。一つは作為によるもので、もう一つは不作為によるものだった。

レシェフスキー対フィッシャー
番勝負、ロサンゼルス、1961年
 53.Kf3

53…Rb7?

 ねじり合いでの勝ちを期待してフィッシャーは簡単な 53…Rxe3+ 54.Bxe3 55.h5 を見逃した。そうなれば黒キングは自陣の4段目を占めることができる(55.Kf4 Ra4+)。実戦では4段目を占めるのは白の方だった。

54.Re6+ Kf5 55.Re5+ Kf6 56.Rd5!

 黒はhポーンを守る必要があるので勝ちがなくなった。

56…Rb3+ 57.Kg4 引き分け

(この章続く)

2011年10月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(007)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 次の局面でフィッシャーはより活動的な白キングの隠れた手段を見落とした。白は自分のbポーンを守る余裕がある。なぜなら-ルークが交換になったあとでさえ-自分のキングが黒キングよりずっと活動的な役割を果たすからである。

レシェフスキー対フィッシャー
番勝負、ニューヨーク、1961年
 35…Rxd5

36.a4!

 これでフィッシャーはcポーンを取られることを余儀なくされ、結局負けた。次の変化でも見込みがなかった。

36…Rc5 37.Rxc5 bxc5 38.Kg3 d5 39.Kf4 d4 40.Ke4 Kg5 41.b4

 キングが中央にいるのでこのポーン突きが可能である。41…cxb4 なら 42.Kxd4 でキングが黒のポーンを見張っていられる。しかし b4 突きの前に別の用心をしておかなければならない。なぜならここで 42…Kf4 または 42…Kh4 で「黒の」キングが支配的な位置を占めて白のキング翼のポーンが落ちるからである。41.b4 の代わりに白は g3 と突いてキング翼のポーンを守っておくことができる。黒は自分のキングやポーンの位置を改善することができない。

(この章続く)

2011年10月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(008)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 フィッシャーは全盛期のラスカーやカパブランカに匹敵するような力強いキングの指し回しの「模範的な」例をまだ生み出していない。たぶんフィッシャーはもっと早く勝負を決めるのが普通だからだろう。ゴロンベクは収局の妙技はまだフィッシャーの強みになっていないと言ったことがある。これは彼の若い頃ならそうかもしれない。世界選手権を追い求める中ではタイマノフ、ラルセン、ペトロシアンそしてスパスキーたちに対して1、2回しか収局で好機を逃さなかった。次の二つの局面はフィッシャーがあの二人をしのぐ必要があるまでキングの指し回しの模範としておかなければならないだろう。最初の局面は活動的なキングが局面に及ぼす絶大な力を例示している。2番目の局面はこの力がしばしばいかに巧妙かを示している。

シュレヒター対ラスカー
番勝負、1910年
 黒の手番

 ラスカーはこの世界選手権戦10番勝負ですでに1試合を落としていたが、ここでは銃を向けられていた。彼のキングは自陣の2段目で遮断されている。白は1ポーン得していて外側パスポーンになっている。さらに悪いことには白は c4 から Kf4 でキングを戦闘に参加させることを狙っている。この憂鬱な状況でチャンピオンは最初にただキングを活動させるために2個目のポーンを捨てる。

1…Re4!

 これは白キングを遮断するもくろみの手として賞賛されてきた。しかし実際には …Rg4 でも同じことである。要はルークがaポーンの「背後」に回ることを狙っていて、白はそれを防ぐために黒キングを前進させなければならないということである。

2.Rc5 Kf6 3.Rxa5 Rc4! 4.Ra2 Rc3+ 5.Kg2 Ke5

 1ポーンを犠牲に局面は5手で入れ替わった。この犠牲はそれだけの価値がある。

6.Rb2 Kf6 7.Kh3 Rc6

 黒は 7…f4 のひどい罠にはまらなかった。8.Rb3! Rxc2 9.Rf3! で白が黒の最後のポーンをもっと有利な形で取る。代わりに 9.gxf4 は悪名高いf・hポーンの収局になって、黒は引き分けにできる。

8.Rb8 Rxc2

 これで白キングが活発に動けないので引き分けが保証される。

(この章続く)

2011年10月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(009)

第2部 収局(続き)

第1章 キングの位置(続き)

 最後に、キングを進出させる際に必要な手際のよさがもっと最近の年代ものの次の骨格図によく例示されている。

アスタロス対バン
番勝負、ウィーン、1956年
 白の手番

 初手は当然である。

1.Rh2+ Qh7!

 黒は手損を避けようとした。1…Kg7 は 2.Rg2+ Kf7 3.Rxg8 Kxg8 4.Kg2! となって白が先に4段目に到達する。これはついでながら「遠方見合いを取ること」として分析することもできる。見合いとは「こちらのキングが敵のキングと同じ色の枡にいて両者が最善の手を指すならば敵のキングがそれ以上進めなくなるような状態」(*)であるが、たとえそれがなくても白キングはキング+ポーン収局に勝つためには4段目に進出するだけでよい。

2.Kg2! 黒投了

 2…Qxh2+ と指すしかなく白にキングが先に出る手を与える。すべてはキングの位置の問題である。

(*)他の章でも別個に見合いの多くの例が現れる。

(この章終わり)

2011年11月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(010)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い

 盤上で最も力が伯仲している二つの駒はナイトとビショップだろう。しかしキングとルークの方がしばしばもっと繊細な戦いをしているようである。

 それぞれの駒の働きは非常に異なっている。しかしルークが長距離の利きを持っているところをキングは射程の短いまんべんなさで補っている。収局の本は一般に「ルーク+ポーン」収局と呼ぶ。しかしその戦いはルーク同士またはルーク対ポーンよりもルーク対キングにかかっている。この簡単な事実が「不可解な」ルーク+ポーンの収局をよく説明している。本章の題名でこの特性を強調した。なぜならそれはボビー・フィッシャーの試合で繰り返し起こったからで、彼はその研究に相当の時間を費やしていた。

 優勢側がポーンを昇格させようとしているとき、主要な防御手段はルークによって敵キングをいじめることである。キングがチェックからの隠れ場を見つけることができれば-自分のルークまたは敵キングの陰に隠れる、ポーンを犠牲にする、または敵のポーンを取らないことにより-たいてい自分の思いどおりにすることができる。キングはルークに近づくことによって反復チェックから逃れることがよくある。もちろん盤上に複数のポーンがある場合攻撃側はキングの位置がよい方、またはポーンがより先に進んでいる方である。

(この章続く)

2011年11月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(011)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 基本的なルーク+ポーン収局を取り巻く神秘的な特性は、キングが隠れ家を見つけることができるかどうかという単純な事実に注目することによりしばしばもっと合理的な分析に変えることができる。次の局面は劇的な証明である。

ドゥラス作(1908年)
 白先白勝ち

 この局面と標準の局面(白勝ち)との唯一の違いは明らかに白の2個目のポーンである。そのポーンは黒ルークがb列を守るのを妨げていて、これから見られるように黒陣の2段目の重要な地点を守っている。しかし問題は白キングの隠れ家を見つけることである。というのは動くたびにチェックで追い立てられるからである。

1.Rd6!

 目を見張るような一発だが、なぜこの手なのか?確かに次の手順で白キングはチェックを逃れている。しかし黒はこのルークを取らなければ「ならない」のだろうか、それとも他にこれといった手があるのだろうか。やはり取らなければならない。なぜなら白は 2.Kc7 を狙っているからで、ルークがc6の地点に割って入ることができる。すぐに 2.Rc6 は 2…Kd7 で受けきれるので狙いにならない。

1…Kxd6 2.Kc8 Rc1+ 3.Kd8

 これでポーンがチェックでクイーンに昇格する。2.Kc7 の狙いは別の手段でも防ぐことができる。

1…Rc1 2.Rc6! Rxc6 3.Ka7

 これでb7のポーンが黒陣の2段目で釘付けにされないのでクイーンに昇格する。

(この章続く)

2011年11月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(012)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 カパブランカはチェスの偉大な哲人の一人とのセンセーショナルな収局でこの題材を極端なまでに押し通した。

カパブランカ対タルタコワ
ニューヨーク、1924年
 34…gxf5

 このような局面を半世紀後に見て知られている勝ち手順を見つけようとするのと、実戦で勝ちを「見通して」この局面に持ってくるのとは、まったく別物である。白は2ポーンを捨ててキングを攻撃されない位置に侵入させる。

35.Kg3! Rxc3+ 36.Kh4 Rf3 37.g6! Rxf4+ 38.Kg5 Re4

 白からの最下段での狙いを考えれば3個目のポーンを取るのはやり過ぎである。しかしここで白は狙いをすべて保持したまま黒のfポーンを縦からのチェックを避けるために残しておく。

39.Kf6

 そしてほどなく白の勝ちに終わった。

(この章続く)

2011年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(013)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 フィッシャーは以上の二つの教材の要素を組み合わせて棋歴の初期に非凡な収局をものにした。

フィッシャー対ビズガイアー
ニューヨーク、1958-59年
 67…Kf5

68.Kd5 Rd3+ 69.Kc6 d5 70.b4 d4 71.Kd5!

 白キングは黒ポーンを利用して、まず黒キングを別の列に追い払い次に敵ポーンの効果を無力にすることにより、自分の防御態勢を改善する。

71…Rd1

フィッシャー対ビズガイアー
 71…Rd1

72.Rf2+ Kg4 73.Kc4

 白はここで単純なポーン競争に入ることはできない。なぜなら黒がポーンを自陣からの7段目に到達させたとき …Rb1 でお互いのポーンの取り合いにするからである。これで白はルークとポーンを手玉に取る。

73…d3 74.Kc3 Rb1 75.Rd2 以下白勝ち

(この章続く)

2011年11月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(014)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 他の駒(敵のも含めて)の陰に隠れるのは、ルークによるチェックから逃れる明白な手段である。ルークの距離の優位を無効にするのはまた別である。おそらくこれまで発表された中で最も有名な収局には(一本道の手順ということであり、ルセナの局面は除外される)、通例のキング対ルークの戦闘にちょっとした「甘味」がおまけに添えられている。

サアベドラ作(1895年)
 白先白勝ち

1.c7

 これを見つけるのは造作ない。しかしここからルークのチェックが始まる。

1…Rd6+ 2.Kb5

 キングがb7の地点に行くとルークでポーンが釘付けにされるのでそれは避けなければならない。作意からしてa列も避けなければならない(ルークにc列を明け渡すので)。そしてc列も避けなければならない(…Rd1 から …Rc1+ で「串刺し」チェックを可能にさせるので)。

2…Rd5+ 3.Kb4 Rd4+ 4.Kb3 Rd3+ 5.Kc2

 これでルークにもはやチェックも逆襲もないように見える。しかしここで最後の一矢(いっし)が出る。

5…Rd4!

 ここで白がポーンをクイーンに昇格させれば …Rc4+ でクイーンで取らせて手詰まりによる引き分けにすることができる。しかし今度はキングが偉大な格闘家であることを証明する。

6.Rc8=R! Ra4 7.Kb3

 キングが1手でルークを当たりにしながら再び詰みの狙いを作り出した。このとどめの両狙いにはもう受けがない。

(この章続く)

2011年11月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(015)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 運命の奇妙な急変により、フィッシャーの重要な試合に現れるかもしれなかった次の局面で自然は芸術のふりをする。同じ主題が再び出てくる。即ちルークのチェックを受ける際にキングが自陣の2段目に下がらなければならない。しかし次に起こることの理由と内容はこの優れた着想に新次元をもたらしている。

ボトビニク対フィッシャー
バルナ、1962年
 55.Rg4+(変化図)

55…Kc5!

 キングはc3の地点には行けない。そこへ行くとポーン競争で白ポーンがチェックでクイーンに昇格するからである。そしてb列もタブーなのは、56.Rg8 でb列での「串刺し」の狙いができるからである。しかしキングはこれからどこへ向かうのだろうか。

56.Rg5+ Kc6 57.Rg6+ Kb7 58.Rg7+ Ka6!

 決定的な一手を指したいがために、キングはb列を迂回してa3の地点を目指す。そこならチェックを避けられる。

59.Rg6+ Ka5 ・・・

 簡単そうに見える?白の選手は個別に発表した3度の分析でこの基本的な着想を見逃した。彼は当時の世界チャンピオンだった。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(016)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ルークの明らかに長い利きは駒の配置により短縮される。しかしキングは盤端によってずっと動きが制限される。次のスタディはサアベドラのスタディの主手順の繰り返しだが勝つための手順は簡単至極である。

EM.ラスカー作(1890年)
 白先白勝ち

1.f7 Rxe6+

 変化らしい変化は 1…Rc8 2.Nc7+ から 3.Ne8 である。これでまたキングが正しい間合いを保って動きさえすれば(2.Kg5 Re5+ 3.Kg4 ・・・)ルークはチェックが尽きる。しかしもし局面が1列右にずれていればキングはひどい不自由をかこつことになる。

 (h列がないものとせよ)1.f7 Rxe6+ 2.Kg5 Re1! のあと黒はg1とf1でチェックして、ポーンがクイーンに昇格しても/昇格したとき、そのクイーンを取ってしまうことができる。

(この章続く)

2011年11月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(017)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ルークが敵キングによって邪魔されない十分な間合いが取れれば、しばしば敵キングの動きを厳しく制限することができる。前述のフィッシャー対ビズガイアー戦での収局のように、キングはルークと組んで敵キングを負けの地点に押し返すことができる。エマヌエル・ラスカーはこの可能性を最も初期の創作の一つで示した(そして後述のように1930年代に入ってもスタディの発表を続けた)。ここで米国のマスターのエドワード・ラスカーと1894年から1921年まで世界チャンピオンだったエマヌエル・ラスカーとは非常に紛らわしいことを指摘しておいた方がよいだろう。二人は遠い親戚だった。長年の間ドイツと米国で親友だった。人間性と軽妙な著作の才能でも似通っていた。エドワード・ラスカーはたぶんエマヌエル・ラスカーがチェスの本質だと考える闘争心に欠けていた。それでも彼は何十年かにわたって米国チェス界の中心的な人物だった。

 ラスカーはシーソーの動きによってルークが遠くからどれだけ大きな力を及ぼすかを示してみせた。

EM.ラスカー作(1890年)
 白先白勝ち

 白の初手(と以降の手)は白キングがc7ポーンを守らなければ黒に …Rxc7 と取られることにより決まってくる。意外にも白は黒キングをa2の地点まで追い立てながらそのポーンを守ることができる。

1.Kb7 Rb2+ 2.Ka7 Rc2 3.Rh5+ Ka4 4.Kb6

 侵食が始まる。白キングがポーンを守るたびに黒ルークにチェックさせて(そうしないと白が Rxh2 と取る)敵キングをだしにして陣地を広げる。

4…Rb2+ 5.Ka6 Rc2 6.Rh4+ Ka3 7.Kb6 Rb2+ 8.Ka5 Rc2 9.Rh3+ Ka2 10.Rxh2! ・・・

 これでポーンがクイーンに昇格することになる。

 キングは至近距離で敵ルークと渡り合えることほどやり易いことはない。これが一部のルーク+ポーン収局で勝てる理由である(進攻したポーンの「狭い」側に敵ルークがいるとき)。例えばd列に白の進攻したポーンがあるとき黒ルークがd列の「狭い」側にいる場合である。何が違うかというと白キングがb列に来ることによりdポーンを失うことなくそれ以上のチェックをかわすことができるということである。要は間合いの問題である。

(この章続く)

2011年11月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(018)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 フィッシャーはこれまで重要な収局を2回指している。そこではルークがチェックを続けようとするならばルーク自身と敵キングとの間に3枡あることが大切なことを見せつけた。どちらの収局も棋歴の初期に起こった。

フィッシャー対シャーウィン
ポルトロジュ、1958年
 78.Rf3

 局面はちょうどフィッシャーが黒キングをf列で遮断することにより勝利への最後の努力を傾けたところである。そしてシャーウィンがそれに応えた。

78…Ke6? 79.Kh4! Ra8 80.g5! ・・・

 なんと微妙で、しかし基本的なことか!ポーンがg5の地点に到達しさえすれば、ルークのチェックが「あまりに至近距離」なのでキングが前進できる。キングはh5の地点に進むことができ、それからg6の地点に、そしてチェックにはh6からg7の地点に行ける。黒は次の手で引き分けにできていた。

78…Ra8!

 この違いは大きい。白キングがポーンの前に進もうとすれば縦列に沿って阻止される。そして 79.g5 と突けば 79…Ra4! でキングがまったく進めない。このような局面でよくある手の 80.g6(ポーンが支援の範囲を越える)は 80…Ra6 で白の息が切れる。

(この章続く)

2011年11月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(019)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 ほぼ1年後フィッシャーは似た局面に出くわした。キング翼の代わりにクイーン翼で、今度は銃身の反対側に立たされていた。そして相手がまたへまをした。

グリゴリッチ対フィッシャー
ブレッド、1959年
 52…Rh8

 グリゴリッチはシャーウィンが強要できたはずの同一の局面に陥った。53.Kxb5? Rb8+ 54.Ka4 Ra8+ 55.Kb3 でキングが押し戻されもうポーンを突けない局面になった。フィッシャーは 55…Rc8! 56.Rxc8 Kxc8 57.Kc4 Kb8! で優雅に引き分けを主張した。白キングがどこへ動こうと黒キングが「見合い」をとる。

 しかしグリゴリッチは黒ルークをクイーン翼から排除したままうるさいチェックを避けることができたはずだった。

53.Rc7+ Kd8 54.Rc5

 または

53…Kd6 54.Rc6+

としてから Kxb5。どちらの場合も黒は自陣の最下段から効果的なチェックをかけることができない。面白いことにフィッシャーはこの試合の詳細な分析でなぜ 53.Rc7+ が有効なのかという正確な理由を説明していない。ルーク+ポーンの収局ではある局面から別の局面に少し変わるだけでそれぞれの手の理由づけが隠されてしまう。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(020)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 どちらが盤の上方かほとんど見分けられないようにルークとポーンが配置されているときには、まさしく幻覚がおこることがある。フィッシャーを世界選手権戦に押し上げた重要なインターゾーナル大会で彼は首位が非常に危うい重大な回戦でゲレルと対戦した。このロシア選手はフィッシャーの天敵だった(まだフィッシャーに勝ち越している)。この試合ではフィッシャーの勝利への執念が報われた。激しく形勢が入れ替わったあと、引き分け提案と拒否とを織り交ぜて次の収局に至った。

ゲレル対フィッシャー
パルマ、1970年
 67.Kxf5

67…g3

 フィッシャーの指した手、それに上下逆のような盤の様相がゲレルを混乱させた。試合後彼は 68.fxg3+ から Kxf1 と指せる(まるでキングがルークのように)と思ったと語った。

68.f4 Kh3

 黒は勝機を逃した。やはりこの型の収局ではルークは敵キングをチェックできる地点にいるべきで、この場合はa1だった。キングは後回しにできた。

69.Rd3

 これで普通に 69…Kh2 70.Kg4 g2 71.Rh3+ Kg1 72.f5 Kf2 73.Rh2! となったあと黒キングにはチェックからの隠れ家がなく、白ルークは黒ポーンと刺し違える。なぜなら黒ルークも白ポーンと刺し違えなければならないからである。だから黒キングは退却しなければならない。

69…Kh4 70.Rd2

 盲人が盲人を導いているようなものだ。白は相手が最善手を指していなかったことに気づいていないで手を繰り返した。白は Rd7 と指して(再び)「ルークの間合い」をとって縦からでも横からでもチェックできるようにすべきだった。

70…Ra1 71.Ke5

 この2回目の間違いが敗着になった。71.Rd8 ならちょうど受かる。例えば 71…g2 72.Rh8+ Kg3 73.Rg8+ Kf3 74.Ke6 でまたルークを切って自分のポーンを昇格させる。

71…Kg4! 72.f5 Ra5+

 白はポーンを取られるので投了した。

(この章続く)

2011年11月12日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(021)

第2部 収局(続き)

第2章 ルークの間合い(続き)

 本書の他の所でもフィッシャーの「ルークの間合い」が用いられている別の例を見ることになるだろう。しかしキングとルークの敵対関係がいかに巧妙になりうるかを示さないままこの主題を終えることはできない。時にはルークが不適切なときにチェックをかけることがあり、時にはキングが軽率に動くことがある。次の局面で平均的な選手は白キングがどうやろうと戦場に駆けつけさえすればいいと考えて一巻の終わりにしてしまうだろう。

カスパリアン作(1946年)
 白先白勝ち

 連結パスポーンがこんなに深く突き進みこんなによく保護され、敵キングが自陣の最下段にへばりつかされていれば、どうやっても終わりのように思える。しかし白ルークが動けば黒ルークがhポーンを攻撃してくる。信じられないかもしれないが白が勝つには次の手しかない。

1.Ka2!!

 なぜこの遠慮した動きが勝着なのかを理解するためには、キングがじかにキング翼に行くとどうなるかを見なければならない。1.Kb2 なら 1…Rh3 2.Kc2 Rg3 3.Kd2 Rh3 4.Ke2 Rg3 5.Kf2 Rh3 で「手詰まり」の局面になる。

カスパリアン作(1946年)
 5…Rh3(参考図)

 要点は白キングが 6.Kg2 で黒ルークに接近すると、このキングがg列にいるということに基づいた防御手段を黒がとるということである。黒が 6…Ra3 と応じると白ルークはh列から離れることができない(普通ならそうできる)。なぜなら 6.Rb7 Ra5! でhポーンを守るために白ルークが戻らなければならないからである。hポーンが進めないのは …Rg5+ で白のキングとgポーンが両当たりになるからである。

 それよりもずっと面白いのは白キングが「三角」歩行ができないこと、即ち手を捨てられないことである。上図で 6.Kf1 は 6…Rf3+ と応じられ 6.Ke1 は 6…Re3+! と応じられる。白キングは黒枡または白枡に動かなければならない。黒ルークはそれぞれh3またはg3の地点に寄る。

 同じ処方は最初の局面にも適用できる。例えば 1.Kb1 のあと黒は 1…Rb3+ として白キングの動いた地点の色と反対の色の地点に戻る。最初に 1.Ka2 と指すことにより白は上図の局面に黒の手番で到達することが保証される。そうなれば黒はhポーンへの直接の攻撃とgポーンに対する攻撃の「可能性」とを放棄しなければならない(g5の地点でチェックがかからないため)。

 キングとルークはことほどさように天敵同士なのである。

(この章終わり)

訳注 この収局は What’s the Kasparian Position? (1) でていねいに解説されています。

2011年11月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(022)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲

 ポーンは一般にチェスにおける評価の単位と考えられている。ポーンの評価を1とするとナイトとビショップは約3、ルークは4から5、クイーンは9となる。これらの数値は(理論家によって少しずつ違うが)明らかに駒の配置によって大きく変化するものである。そして特定の駒の組み合わせは働きが増すようである。ヤノフスキーによって崇拝されフィッシャーが心底大事にする有名な「双ビショップ」は開けた局面で恐ろしい存在である。その理由は単純で、一緒だと多種多様な狙いを作り出すことができるからである。逆説的だが連係して動く2ナイトにも程度は劣っても当てはまる(第4部「手筋」の章を参照)。ポーンは大きな違いはあってもこの特性を分かち合っている。ニムゾビッチはそれを詩的に「突進欲」と表現していた。

 ポーンは前方に進むほど価値が大きくなると言えるかもしれない。重要な条件が一つある。それは簡単に攻撃されるならば価値は無意味だということである。それにもかかわらず6段目のポーンは約2の「価値」があり、7段目のポーンは3か4である。それはそのようなポーンはクイーンに昇格「しようとする」からだけでなく、クイーンに昇格することを「狙い」敵の戦力を動けなくするからでもある。未熟な選手は「欲の強い」ポーンの価値を高めることを軽視しがちである。彼らはポーンを単刀直入にクイーン枡に前進させればすぐに勝負がついてしまうときに、敵キングに対する手筋や狙いを探し続けることがよくある。

 フィッシャーはパスポーンは突くべしという金言の実例を豊富に提供してくれた。より適切には、決定的な収局の段階に至るはるか前にポーンの可能性を見越すことにより何十のもポーン昇格の手筋を可能にしていた。

(この章続く)

2011年11月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(023)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 最初は防御側の駒を進攻したポーンの進路からどのように排除するかのいくつかの例である。

フィッシャー対エーべ
ライプツィヒ、1960年
 35…Kxc3

 黒のビショップとキングは串刺しの筋に並んでいる。

36.Be5! 黒投了

 aポーンを止める手段はない。粗忽な選手なら 36.a7 Bxa7 37.Bxa7 Kd3 と指して黒のもがきを長引かせたことだろう。ところでこの試合はエマヌエル・ラスカーのあの卓抜な描写に当てはまっている。「ほとんどの熱戦は40手未満しか続かない。そのような試合は冗長なところがないので話はすぐに語り終えられる。ちいさな間違いが起こり、相手が巧妙だが精力的に有利を活用し、防御側の頑張りは最初は希望がありそうだがそれから絶望的になり最後にはむなしく終わる。」

(この章続く)

2011年11月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(024)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 すべての偉大な選手たちのようにフィッシャーは若い年齢でポーン昇格の技法をしっかり身につけていることを示した。試合のこの段階は上達途上の選手にはキング翼攻撃を同じくらい魅力的なようである。「十代の対決」でフィッシャーは相手にもポーン前進の狙いがあるので試合を正確に終わらせなければならなかった。

フィッシャー対カルドーソ
番勝負、1957年
 45…f5

 盤の両側に進攻したポーンがある場合は、たとえ犠牲を払っても防御側を過負荷にし自分と相手のどちらが先にクイーンを作るかを読むことが主題となる。

46.Bxd6+! 黒投了

 46…Bxd6 47.g7 Kf7 48.Kxd6 fxe4 49.b6 e3 50.b7 e2 のあと先にクイーンを作るのは白である。白はクイーンを2個作って即詰みにできるし、いつもの手を稼ぐ手筋の 51.g8=Q+ Kxg8 52.b8=Q+ で自分だけクイーンを作ることもできる。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(025)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 このかなり単刀直入の連係手筋から、恐らくこれまで指された中で最も劇的な昇格の手筋が連想させられる。ハリー・ネルソン・ピルズベリーはモーフィーからフィッシャーまでの米国生え抜き三羽烏の天才の二人目だが、強豪が集まった1895年のヘースティングズ大会では一番近い競争相手に半点差をつけて最終戦に入った。盤上には同数のポーンとたった2個の小駒しか残っていなくて引き分けは間近のように思われた。しかし十代を過ぎたばかりで初の国際大会に臨んだ米国選手は他の誰よりも深く局面を見通していた。

ピルズベリー対ガンズバーグ
ヘースティングズ、1895年
 26…Nb8

 もし黒のナイトがc6の地点に来て白のパスポーンを止めることができれば黒陣は安泰になる。「ポーンを見張ることにより動きを阻害されることのない唯一の駒はナイトである」-ルーベン・ファイン。そこで白はまずキング翼に空所を作らせる狙いでそらしとなるものを作り出す。

27.f5! g5

 黒のdポーンは虚弱者になる。27…exf5 28.gxf5 g5 は Nb4 でこのdポーンが落ちる。そして 27…gxf5 28.gxf5 Nc6 は Nf4 でやはり落ちる。

28.Nb4 a5

 この足元を脅かす手のあとcポーン突きを支援する考えは、どのように支援を「続ける」ことをもくろむかということほど注目に値しない。

29.c6!

 まずはナイトの「死角」に対するこのよくあるポーン突きからである。これに対して 29…axb4 は 30.c7 でポーンがクイーンに昇格できる。

29…Kd6 30.fxe6!

ピルズベリー対ガンズバーグ
 30.fxe6

 これで白ナイトは再び「保護」されている。なぜなら 30…axb4 なら 31.e7 Kxe7 32.c7 となって、また2箇所の昇格枡の「両当たり」になるからである。

30…Nxc6 31.Nxc6 Kxc6 32.e4!

 これが最後の急所である。白は敵キングが手のつけられない連結パスポーンを得て、白キングが盤をかけめぐることができる。黒は最後には白のgポーンを自由にさせる犠牲を払ってのみ自分もパスポーンを作ることができる。というのはそちら側の黒のポーンは出遅れになっているからである(白の1個が黒の2個を押さえている)。

32…dxe4 33.d5+ Kd6 34.Ke3 b4 35.Kxe4 a4 36.Kd4 h5

 黒は破れかぶれに打って出た。しかし白キングはちょうど黒のクイーン翼のポーンを止めるのに間に合い取ってしまう。

37.gxh5 a3 38.Kc4 f5 39.h6 f4 40.h7 黒投了

 ラスカーの好局の長さの金言にかなうちょうどの手数である。そして勝者に「ヘイスティングズのヒーロー」の異名をもたらすに値した劇的な内容だった。

(この章続く)

2011年11月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(026)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 ここからはあとでポーン昇格の可能性を作るために中盤戦でポーンを突いていくフィッシャーの洞察力の例を少し取り上げる。最も最初の頃の大会の一つでまだ「勝ち」試合は「勝ちきらなければならない」ことを学んでいるときに、フィッシャーは戦力が少なくなっていてもdポーンを突き進めれば勝つと確信して主眼のポーン突きを行なった。

フィッシャー対カミッロ
首都ワシントン、1956年
 27…Rxa8

28.e5 Bxc2 29.Qxc2 dxe5 30.Bxe5 Qd8 31.d6!

 そしてまもなく白が劇的な一発で勝った(「第16章 直射攻撃」を参照)。進攻したポーンは Rd1 によるd列での釘付けの可能性により間接的に守られている。

(この章続く)

2011年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(027)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 戦力を大量に犠牲にしてもポーンを7段目に進めることが価値があることがよくある。次の局面でフィッシャーはポーンをd7の地点に進めるために実際に4ポーンを喜んで捨てた。

フィッシャー対ドナー
ハバナ、1965年
 27…g5

 盤の両側でポーンが当たりになっているがフィッシャーは軽快なルークの捌きで中央進攻の余裕を得る。

28.Re5 Bd3

 一見ビショップを好所に追いやっただけのように見える。

29.c5! Rxc5 30.d6! Rxc3

 要点は黒は白に「連結」パスポーンを作らせるのでルーク同士を交換している余裕がないということである。

31.d7 gxf4 32.Rae1 Bg7

 ここから短手数で黒の負けになった。フィッシャーの犠牲の真価はいくらかましな手の 32…fxg3 33.Re8 gxh2+ 34.Kh1 に見ることができる。…Bg5 のあとルークをg列に回す手が決め手になるに違いない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(028)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 連結パスポーンは5段目や6段目に到達するときわめて危険になる。6段目の並んだパスポーンはそのうちの1個が「当たり」になっていなければ手番のルークによっても止めることができないのは周知の事実である。しかしあまり前に進んでいないでルークによって厳重に見張られているときは無力になりやすい。フィッシャーも次の局面で自分の連結パスポーンを過大に評価していて、勝てそうな試合を最後には負けてしまった。

フィッシャー対コルチノイ
キュラソー、1962年
 28…Bf5

29.c5?

 フィッシャーは平凡な 29.Ra2 を避けて激しい手で勝とうとした。そう指せば 29…Bxc2 30.Rxc2 Rxa7 31.c5 となって黒は連結パスポーンを止めるのに汲々とする。フィッシャーは奇手の 29.Bb6! を指すこともできた。以下は 29…h5(最下段での詰みを防ぐため)30.c5 Bxc2 31.b4 Bd3 32.Rd1 Bb5 33.Rd6 となって白はポーン突きを目指す。

29…Bxc2 30.c6 Rxb3!

 単純そのものである。昇格地点は今度はビショップで見張ることができる。

31.g4?

 フィッシャーは黒ビショップにf5の地点に来させまいとしてさらに迷走を重ねた。たぶんコルチノイが 31…Rc3(深く進んだポーンの背後に回る通例の受け)とはまることを期待していたのだろう。それなら 32.Bc5! で最下段詰みの狙いで黒ルークをポーンと交換できる。

31…Rg3+

 これで黒が白のgポーンを召し上げ自分の方がポーン雪崩の態勢になった。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(029)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 ルークは明らかに連結パスポーンあるいは単独パスポーンの「背後」にいるべきものである。フィッシャーはスパスキーとの1972年世界選手権戦でこの戦術のみごとな例を2回生み出した。どちらもフィッシャーが勝ったが相手の協力があってのことだった。最終局がそうだったし次の局面もそうだった。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦第10局、1972年
 40…Kf7

 黒の連結パスポーンは恐ろしそうだが白のルークによって固定されている。それでも白がどのようにしたら進展を図れるかは難しい。キングをf6の地点から下げて釘付けをはずした黒の最終手は白にキング翼での策動の余地を与えた。40…g5 と突けば防げるところだった(ポーンは突け!)。規定手数に達する最後の手で読み間違いが起きた。

41.Ke2! Rd5 42.f4! g6 43.g4

 勝利への道筋が見えてきた。d5にいる黒ルークは釘付けになる筋にいるし、キングは白ポーンによって受け一方に追いやられている。白は単純に Rb5 から Rexb4 と指していく。それが実現したとき勝利は時間の問題だった。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(030)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーの試合は突き進んだポーンから毒の最後の一滴をしぼり出すことのできる絶妙のひねりで輝いている。防御側の駒が適切に見張っている一見穏やかな局面で彼は大胆な一撃で打開を図ることに成功してきた。

フィッシャー対タイマノフ
パルマ、1970年
 41…Rd4

 白のhポーンが当たりになっているが、42.g3 または 42.h5 でも白が優勢のように思われる。しかしフィッシャーは黒がルークの一つを最下段から一時的に離したことをすぐに利用した。

42.c5! Rxh4+ 43.Kg1 Rb4

 黒は2個目のポーンをかすめとることはできない。なぜなら 43…Rxa4 44.cxb6 Rb4 45.b7! Rxb5 46.Rc8+ Kg7 47.Rxb8 Nd7 48.Rd8 となってポーン1個のために駒損になるからである。

44.Rxb4!

 もう一つのルークによる手の込んだ捌きが必要だとしても白はなんとかパスポーンが得られる。

44…axb4 45.Rc4 bxc5 46.Rxc5 Kg7 47.a5 Re8 48.Rc1!

 ポーンの背後に回るのは「自分」のルークであることを確定させた。まもなく進攻したポーンが黒の投了を余儀なくさせた。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(031)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーは7段目のポーンを活用するためならクイーンさえも捨てることでも知られている。

フィッシャー対タリ
ブレッド、1961年
 19.O-O-O

 フィッシャーは攻撃をすみやかに進めるためにルークの中央集結と引き換えにaポーンを与えた。

19…Rxa2 20.Kb1 Ra6

 20…Qa5 による攻撃は一時的である。21.b3 で詰みの狙いが消えルークが立ち往生する。

21.Bxb5

 フィッシャーは Bd3 から Bxh7 でルークを取ることに注意を向けたままである。しかしその途中で一息ついてポーンを取り返した。21.Bh5 d6 22.Rhe1 で中盤戦で決着をつけることもできた。f5 または Qh6 の狙いが受からない。

21…Rb6 22.Bd3 e5 23.fxe5!

 フィッシャーは総交換を避けg7のポーンをしっかり固定するためにクイーンを捨てた。

23…Rxf6 24.exf6 Qc5 25.Bxh7

 白が戦力得であと20手ほどで勝ちが決まった。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(032)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 当然のことながらフィッシャーはいくつかの進攻ポーンの手筋では受ける側だった。彼や他のグランドマスターは他の型の状況よりもはるかに多くクイーン昇格の複雑な状態の機微を解決するのに失敗している。主眼点のちょっとした変化と進攻ポーンとはダモクレスの剣(身に迫っている危険)からバターナイフへと変わることがあるしその逆もある。

ヤノシェビッチ対フィッシャー
スコピエ、1967年
 39…Re2

40.Nxf8 Nxf8 41.h5!

 フィッシャーはこのあと28手ももがいたが最後には進攻したポーンを駒を切って取らなければならなくなった。

(この章続く)

2011年11月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(033)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

イフコフ対フィッシャー
ザグレブ、1970年
 27…Rxc6

 ボビーは圧倒的に見える態勢を築き上げた。そして「虚弱」進攻ポーンの一つをちょうどひったくったところである。しかしそのあたりには予期しない毒牙があり伸びすぎとなるのは黒のポーンの方である。

28.Bxd4! h4

 このビショップはe3の地点ですべてを支配するのでフィッシャーはもう1個のポーンを犠牲にして単純化を図ることにした。ビショップ切りのちょっとしたおちは 28…exd4 なら白クイーンが昇格地点に利くようになるので 29.b7 でポーンが最大限に伸びることができるということである。

29.Qxe5 Qxe5 30.Bxe5 Rxb6

 あとの章に出てくるがフィッシャーはこの悲惨な局面をなんとか救うことができた。

(この章続く)

2011年11月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(034)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 両者に進攻ポーンがありルークの代わりにクイーンがそれらを支援している場合、事態ははるかに複雑になることが予想される。実際フィッシャーは初出場した全米選手権戦でこの収局の局面から20手弱の間に相手の1回に対し4回も悪手を指したにもかかわらずそれでも引き分けで終えることができた。

バーリナー対フィッシャー
ニューヨーク、1957-58年
 39.Nxa5

39…a2+?

 フィッシャーは 39…axb2 40.Kxb2 Qd4+ から …Qxd5 で単純にポーンを取って満足する代わりに相手の急所を突いた。のちに彼は一つの確信として速い勝ちをもたらしそうな複雑な手順は実戦では危険すぎると述べることになった。たとえ手数はもっと多くかかっても単純で確実な指し方をすべきである。

40.Ka1 Nc5

 …Qxa5 から …Nb3+ の狙いを受けるのは大変そうに思える。ナイトを動かすと詰まされるので特にそうである。しかし解決策はあるものである。それはありそうもないポーン突きだった。

41.b4! Nb3+ 42.Nxb3 Qxb3 43.Qe4

 クイーンにとってうれしいこの地点は3ポーンを守り詰みを防ぎポーン突きを狙っている。これは中央志向と呼ばれる。

43…Kg8 44.g6

 別の所で指摘したように絶対手はつねにより大きな影響を与えるように思われる。というのは相手には単なる受けの手のように見えるからである。白は g2-g4 突きのあと指す手がなくなるので待っていることはできない。黒はポーンをかわすことにより手詰まりの局面になることを期待するが、白ポーンが6段目に到達したことはその自我を途方もなく増大させた。

44…h6 45.Qf5! Qxd5?

 黒の手はまったく見当違いだった。45…Qd1+ 46.Kxa2 Qxd5+ から …Kg7 でaポーンを捨ててキングの安全を維持しなければならなかった。

46.Qd7!

バーリナー対フィッシャー
 46.Qd7

 白は Qh7+ から g7+ でクイーン昇格を狙っている。黒は再び 46…Qd1+ から …Qc2+ で進攻ポーンを捨てて白の進攻ポーンを始末しなければならない。その場合黒のeポーンは白のbポーンとちょうど同じくらい速い。なぜなら白キングは自分のポーンの「前」でチェックを避けなければならないからである。フィッシャーはそれでもまだ勝利の幻想をいだいていた。

46…Kf8? 47.b5 Qd1+ 48.Kxa2 Qa4+

 無駄な1手の 46…Kf8 のせいでポーンの昇格競争では白が1歩先んずることになった。それは 48…Qc2+ から …Qxg6 のあと起こる。

49.Kb2 Qb4+ 50.Kc2 Qc5+ 51.Kb3 Qd5+ 52.Ka3 e4 53.Qh7! Qd3+ 54.Ka4 Qd4+ 55.Ka5 Qa1+ 56.Kb6

バーリナー対フィッシャー
 56.Kb6

56…Qf6??

 4回目の間違いは即致命的になるはずだった。黒は次の手で正着を見つけることのできる幸運に浴した。収局で手を浪費する余裕があるのはしばしばあることではない。

57.Kc7??

 このお返しの悪手で黒に正しい手を指させることになったも同然だった。単純に 57.g7+ からeポーンを取っておけばすぐに白はクイーン同士を交換することにより勝ちのキング+ポーン収局に入るかbポーンを突き進めることになっていた。

57…Qg7+!

 これで両者にクイーンができもう争う余地がない。

(この章続く)

2011年11月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(035)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 フィッシャーの最高傑作の一つである白のキング翼攻撃と黒のクイーン翼攻撃の典型的なルイロペスの主題で次のような重要な局面が現れた。

フィッシャー対シュテイン
スース、1967年
 29…Qf8

 フィッシャーはここでビショップを温存する 30.Be4 Qxf4 31.Bxf4 で有利な収局に移行することを選択した。そこで黒が …Rxa2 と取っていれば引き分けになる可能性が高かった。フィッシャーは相手の慎重策に助けられて勝ったが、せき止め駒をおびき出すことによって進攻ポーンを最大限に活用することができたはずだった。

30.Nh4! Bxh4

 取らないと黒のキング翼がたちまち崩壊する。30…g5 は 31.Qg3 で黒キングの隠れる所がないので白は全然意に介さなくてよい。

31.Qxh4 Qxf5 31.Qe7+

 そしてさらに2回チェックしてクイーンをc7の地点に置き黒キングをg8の地点に追いやったあとポーンがe7の地点に凱旋行進をする。これはeポーン布局に特にふさわしい。

(この章続く)

2011年11月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(036)

第2部 収局(続き)

第3章 突進欲(続き)

 最後に取り上げるのは進攻パスポーンの局面の典型で、1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の不名誉な第13局である。これはあの華々しかった戦いの最終盤にすぎない。収局作家がこの局面を作ったならば面白いが実戦では起こりそうもないとチェスを指す友人みんなから言われただろう。

 長手順の試合のこの短い部分にさえ教訓が2、3ある。まず今日までどの解説者も両者が最善を尽くせば引き分けであると結論づけてきた。そしてこのことからスパスキーがもっと前に強制的に引き分けにする手を逃したのは試合の論理的な帰結に決定的ではなかったとしてきた(試合解説のこのような側面については第7部「チェスの論理」で話題にする)。このあと分かるようにフィッシャーにはまだ一本道の勝ち手順があった。第二にこの局面には昇格枡を守るルークを妨害する小駒によって用いられるいつもの策略が現れている。第三にポーンを進攻させる際にはキングの位置がいかに重要かが見られる。最後に世界選手権戦で黒の4個のポーンが一時的に7段目に到達する唯一の例である。

スパスキー対フィッシャー
世界選手権戦、レイキャビク、1972年
 59…h3

60.Be7 Rg8

 白のビショップはf8の地点に行って黒ルークの利きを邪魔しポーンの昇格に道を開くことを狙っていた。この種の収局ではどの場合でも次のような二つの戦術を見分けることが常に大切である。(1)相手が駒を犠牲にしてポーンを昇格枡に進ませる。(2)何も取られずにポーンを突き進める。ビショップ、ナイト、それにルークはどれもこの種の妨害ができるが、ビショップにはルークを閉じ込めることができるという他にはない特徴がある。

61.Bf8

スパスキー対フィッシャー
 61.Bf8

 フィッシャーはここで 61…h2 と突き、それに対して白は 62.Kc2 と指してd列で遮断を維持することができた。フィッシャーがキングにd列を越えさせるためにhポーンを犠牲にしなければならなくなったとき、正確に受けられると勝てなくなっていた。しかし単刀直入の理詰めの勝ち手順が存在するのである。その要諦は次のように要約できる。

 1.黒が勝とうとするならポーンの昇格を助けるためにキングがd列とe列を越えなければならない。

 2.白は自分のキングがc2の地点に来てしまえばルークがe列またはd列で遮断することができる。

 3.しかし 61…c3+ のあとでは黒キングがc4の地点に進入するのを防ぐために白キングはd3の地点に行かなければならない。(スパスキーのかかりつけの精神科医でグランドマスターのクロギウスは 62.Kd3 に好手の印を付けた。しかしこの手は必然手であり、黒キングがb5の地点にいてc4の地点に行くことを狙っている限りd列をふさぐことになる。)

 4.黒は余裕があればfポーンをf2の地点に進めることにより白ルークがe列にい続けることを防ぐことができる。

 従って少し読みを進めてみれば正解は一直線に決まってくる。

61…c3+! 62.Kd3 h2 63.Rf1 f4

 ちょうどうまくチェックで取られないようになっている。白ルークが最下段を離れることができないので、白キングがd3とd4を往復する、またはルークがa1、h1、f1、d1の間を往復するのはどうでもよいことである。最善の手順では白ルークがd1の地点に来る。そのとき黒はキング翼で突撃をしなければならない。

64.Rd1 f3 65.Kd4 f2 66.Kd3 Kc6! 67.Kc2

 67.Kc4 なら 67…c2 で4ポーンが自陣からの7段目に到達する。そして68.Rc1 Kd7!(後衛に深く後退した)69.Kxb4 Ke6 70.Kc3 Ke5 71.Kd3 Kf4 72.Ke2 Kg3 73.Bd6+ Kg2 74.Bxh2 Re8+ となる。

67…a1=Q!

 この転換が面白い。実戦ではフィッシャーは白ルークをd列からそらすためにhポーンの方を捨てた。

68.Rxa1 Kd5 69.Kd3 c2! 70.Kxc2 Ke4 71.Kd2 Kf3 72.Bxb4 Rxg7 黒勝ち[訳注 71.Rf1 Kf3 72.Bc5 で引き分けに終わるようです]

 フィッシャーが相手のポカによるのでなくこのようにして勝つことができていたら、この試合の全体の様相は違ったものになっていただろう。それでもポーンを全力で前へ進める第一級の例となるのは間違いないだろう。

(この章終わり)

2011年11月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(037)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走

 対局者の読みに影響を与えるものにはキングの位置、進攻ポーンそれに外側ポーンがあるが、ポーン収局にはそれらと異なる別個の分野または側面がある。私はそれを「ポーンの疾走」と呼んできた。その理由は通常の場合優勢側の特定の勝ち方でなく両者のポーンによる競争を伴うからである。つまり防御側は相手の進攻を防ぐために自分の1個または複数のポーンを突き進めることに頼ることになる。そしてその読みは危険に満ちている。

 最初の局面は典型的な場合である。白は手間ひまかけてポーンをc7の地点まで護衛するずっと前に、それだけの価値があるかどうか読んでおかなければならなかった。ここではわずか1手の差でそれに値した。

フィッシャー対カルメ
ニューヨーク、1958-59年
 51…Kf5

52.c8=Q+ Rxc8 53.Rxc8 g5 54.Kc6 g4 55.Kd5 Kf4 56.Kd4 Kf3 57.Kd3 黒投了

 57…g3 に 58.Rf8+ から Ke2 で白キングが「間に合っている」。

(この章続く)

2011年11月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(038)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 白キングを寄せつけないことができるならば黒キングは相手のルークのチェックによって自分のポーンの前に追い込まれることはない。

アリョーヒン対ボゴリュボフ
世界選手権戦第19局、1929年
 白の手番

 ポーン、ルークそれにキングの相対的な位置はフィッシャー対カルメ戦の収局と同じである。しかしここでは白も黒も最下段めがけてのそれぞれの競争を読まなければならない。

1.Rb1 Rd3+ 2.Kc6 Rd8 3.b6 Kg4?

 このあと明らかになるように黒キングはあとで白キングが戻ってくるのを妨げるためにe列に行かなければならなかった。

4.b7 f5 5.b8=Q Rxb8 6.Rxb8 f4 7.Kd5

 そして白キングが黒ポーンに追いついた。

 黒キングが(6…f4 のあとで)g4の地点の代わりにe4の地点にいるものとしよう。

アリョーヒン対ボゴリュボフ
 (参考図)

 局面は白キングが1手後れているということを除いてフィッシャー対カルメ戦とほとんど同じであ。

7.Kc5 f3 8.Rf8

 ルークでチェックしてもポーンの前に追いやることはできず、黒キングはd3の地点に行く。そしてルークがf列に戻るたびに黒キングはe2の地点に行ってポーンを守るだけである。

8…Ke3 9.Kc4 f2 10.Kc3 Ke2 11.Re8+ Kd1!

 1手の無駄もなく引き分けである。

(この章続く)

2011年11月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(039)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 つかみ所のない別のポーン競争でフィッシャーは読み損じのために優勝を逃すことになった。彼はもっと早い段階で勝つことができたはずだったし、この時点でも負けてしまうはずがなかった。

フィッシャー対レテリエル
マルデルプラタ、1959年
 46…Ke6

47.a4 Kd6 48.a5?

 フィッシャーは 48.axb5 axb5 49.g4 の明らかな引き分けに満足できずに指し過ぎの手を指してしまった。この変化との微妙な相違はa列にポーンが残っているために以下に出てくる一つの重要な変化で黒が勝つ可能性があるということである。

48…Ke6 49.g3

 フィッシャーは 49.g4 c4 50.bxc4 bxc4 のあと黒がすべてを制していることに気づいた。キング翼のポーンを清算してもなお黒キングはc8の地点に行く余裕がある。それがこの収局を引き分けにするのに必要なすべてである。[訳注 これは 51.Kd4 で白の勝ちになり、正しくは 49…Kd6 50.f5 g5 で引き分けのようです]

49…Kd6 50.f5 gxf5+ 51.Kxf5

フィッシャー対レテリエル
 51.Kxf5

51…Kd5!

 負けるかもしれないのは急に白の方になった。この巧妙なキングの前進のために白キングは黒ポーンの昇格枡から排除されたままとなる。そして黒のbポーンがチェックでクイーンに昇格するので黒は勝ちを目指すならキングに2手かける余裕がある。

52.g4 Kd4 53.g5 c4 54.bxc4 b4! 55.c5?

 フィッシャーはまだ局面の紛糾を期待していた。cポーンは敵クイーンによって取られたとき隅にいる受け側のキングが手止まりになるのでクイーン相手に引き分けになることがよくある。ここでは相手のキングが近すぎた。フィッシャーはクイーン収局では黒がクイーン同士を交換し残っているポーンを取ることを狙うことができるのでその収局の可能性を嫌った。この悪手ですべてが終わった。すべてはa6の黒ポーンの隠れた狙いのせいである。

55…b3 56.c6 b2 57.c7 b1=Q+ 58.Ke6 Qb7 59.Kd7 Kd5 60.g6 Qc6+ 61.Kd8 Qd6+ 白投了

(この章続く)

2011年12月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(040)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 観戦者をいつも喜ばせるポーンの疾走の一つの側面は逃走するポーンに追いつく小駒のあっぱれな奮闘ぶりである。レーティの有名なスタディでは(第4部「手筋」を参照)キングが縦筋でなく斜筋を選ぶことにより不可能を成し遂げた。両狙いで(通常はチェックで)手数を稼ぐ他の駒は地位の低いナイトである。

 フィッシャーは次の局面で(そして研究するための豊富な時間のあとで-試合は指しかけになっていた!)簡単な引き分けを見逃したことにより際限のない苦労に見舞われた。

エリスカセス対フィッシャー
ブエノスアイレス、1960年
 41.Nc8

41…Bc5?

 フィッシャーは自分の棋風に忠実に 41…Bxa3! 42.Nxb6 Bxb2 43.Nxc4 Bc1 による簡単な引き分け以上を追求した(「1ポーン得で盤の片側にだけポーンがあるならば十中八九は引き分けである」-ルーベン・ファイン)。

42.a4!

 ここから試合は新たな段階に入った。黒はさらに10数手ほどでキングがクイーン翼に侵入しビショップを切って止められないポーンを作ったように見えた。

エリスカセス対フィッシャー
 55…c3

56.Nh5!

 このナイトは脅威となっているポーンから遠ざかって動いたように見えるが実際はこのポーンに追いつくことのできる唯一の地点に動いている。ここで 56…c2 と来るなら 57.Nf4 でよく 57…c1=Q のあと、または 57…Kc3 なら 58.Ke4! でd3の地点を保持したあと、ナイトでキングとクイーンを両当たりにする。上図で 56.Nd7 が良くないのはこのためである。ナイトはd3とe2の両地点に到達できなければならない。

56…Kxa4 57.Nf4 b5 58.Ne2! c2 59.Nc1 黒投了

 キングとナイトは単にbポーンをb3の地点に進ませることによりこのポーンが手に負えなくなるのを防ぐことができる。白キングがc3の地点に来て …b2 には Kxc2 と取ればよい。そしてキング翼のポーンで勝負がつく。ここではナイトは実に足の長い駒になっていた。

(この章続く)

2011年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(041)

第2部 収局(続き)

第4章 ポーンの疾走(続き)

 ポーンの競争を含むスタディは豊富にある。この領域の油断できない特性を強調するために、最初の発表以来少なくとも3回修正しなければならなかったわずか6駒の収局で本章を締めくくることにする。

トロイツキー作(1908年)
 白先白勝ち

 トロイツキーの作意はcポーンに特有の着想を示すことだった。それもポーンがまだc3の地点にいるのに白クイーンが手番を握っている状況である!

1.e6 c4 2.Bc3+ Bxc3 3.e7

 局面は見込みのないように見える。しかし黒にもビショップによる「一掃」の手があり、あとで白クイーンによる重要な斜筋からのチェックをふさぐことにもなる。

3…Bf6+! 4.Kxf6 c3 5.e8=Q+ Kd2! 6.Qd8+ または Qd7+ Kc1!

 これで黒のポーンがc2の地点に進むのを防ぐ方法はない。手止まりのためにルーク列ポーンとビショップ列ポーンは、前述のフィッシャー対レテリエル戦のようにクイーン側のキングが詰ます狙いに加担できるほど十分近くにいるのでなければ、クイーンに対して引き分けとなる。

 しかしこの話はこれで終わりでない。セレズニョフ、シェロンそれにアディソンがそれぞれ小さな誤りを修正しながら何年にも渡って指摘したように、それでも白は勝つことができる。

1.Be7! Ba5 2.Bxc5 Bd8+ 3.Kg6 Ke2 4.e6

 シェロンはここで 4.Kf7 しか考えなかったが、それなら黒ビショップはどちらの斜筋へも行く余裕がある。

4…Kd3 5.Bf8!

 この手の意味は2手でビショップをf6の地点に行かせるためで、それと同時に黒が …Be7 と受けることにしたときにはf8の地点を使えるようにするためである。この可能性のために 5.Ba3 は排除される。自分のポーンの前もふさいでしまうので Be7 によって黒ビショップに挑むことができなくなるからであり、黒ビショップは位置を変える余裕ができる。

5…Ke4 6.Bg7 Be7 7.Kf7 Bb4 8.Bf8!

 これで黒ビショップはポーンの進路の封鎖を放棄しなければならない。

(この章終わり)

2011年12月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(042)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン

 どの教科書も外側パスポーンは勝ちになると教えている。教えてくれないのはそれをあらかじめ読んでおかなければならないということである。読んでいたにせよいなかったにせよベント・ラルセンがフィッシャーとの次の収局を長引かせたのはグランドマスターらしからぬ振る舞いだった。

フィッシャー対ラルセン
10番勝負第5局、1971年
 42.a5

 黒ポーンが進攻することも相手のポーン「全部」と交換になることもできない限り引き分けの望みはない。試合は次のように進んだ。
42…f6 43.a6 Kc6 44.a7 Kb7 45.Kd5 h4 46.Ke6 黒投了

 白はh列以外にポーンを維持しなければならない。そかしそれさえ気をつければあとは容易である。

(この章続く)

2011年12月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(043)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 この基本的な局面は収局のずっと前からいろいろ読んでおかなければならない基礎である。フィッシャーはこの試合より15年ほど前の試合で外側ポーンがそれほど自明でないときでもこの主題が同様に効果的であることを示した。

カルドーソ対フィッシャー
10番勝負第5局、1957年
 36…a5

 表向きは白キングが好位置にいて黒ポーンの前進もすべて押さえている。運の悪いことに手番は白である。よく調べてみると白キングは黒の …f4 突きに備えていることが分かる。そして白キングがどこへ動いてもこの急所の地点の守りを放棄することになる。キング以外を動かす手は手を数えるだけの問題である。

37.f4+ Kg4 38.Kf6 Kxg3 39.Kxf5 h4 40.Kg5 h3 41.f5 h2 42.f6 h1=Q 43.f7 Qh8

 そして白はまもなく投了した。しかしまたしても本来ほど速やかでなかった。

(この章続く)

2011年12月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(044)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 外側パスポーンが勝つという原則には例外が少しある。特に防御側のポーンが進攻しお互いのパスポーンを消し合う狙いが持てるときがそうである。次の場合は長年その例外だと考えられていた。

クモッホ対ファン・スヘルティンガ
アムステルダム、1936年
 (変化図)

 『Basic Chess Endings』(ファイン著)では 1…Ke4 で互角になると考えられていた。しかし 2.h5 f5+ のあと白は二股の狙いを作り出すことができる。ここでの狙いの一つは敵の狙い、即ちチェックで黒ポーンが進むこと、を「避けること」である。もう一つの「狙い」も単に黒ポーンを止める受けの着想である。第4部「手筋」でのレーティのスタディを参考にすれば、白がg3の地点からでもh3の地点からでもf1の地点を同じくしっかり守れることが分かるだろう。3.Kh3! が黒のポーン突きの先手にならないので(3.Kg3? は 3…Ke3! のあとポーン突きがチェックになる)、この手がf1の地点を見張ると同時に黒の狙いをくじく。この着想は世界チャンピオンのミハイル・ボトビニクによって指摘された。

(この章続く)

2011年12月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(045)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 「外側」パスポーンを作られると非常に気持ちが混乱することがよくあるので、劣勢側は本当に負けていることを確認するだけのためにもう少し指してみることがある。次の局面でフィッシャーは Ng2 でも勝てていた。しかしもっと簡明だったのは・・・

フィッシャー対メドニス
クリーブランド、1957年
 45…Kf5

46.Nxg6

 もちろんメドニスは投了すべきである。しかし彼はキングがパスポーンに縛りつけられていて
はコンピュータ相手の収局でも負けてしまうということに気づく前にもう少し指し続けた。[訳注 当時コンピュータチェスは黎明期で非常に弱かった]

(この章続く)

2011年12月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(046)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 10年後フィッシャーはもっと複雑な局面に出くわした。しかし自分のチェスの本質を特徴付けているのと同じ単純明快さで片付けた。

フィッシャー対マツロビッチ
スコピエ、1967年
 23.Ra1

 フィッシャーはこの手で、黒ビショップに対する狙いのために自分の進攻ポーンへの圧力を緩和させただけでなく、収局でパスポーンを確保することになる交換を誘った。

23…Bxd3 24.Rxa8 Rxa8 25.cxd3

 そして白の楽勝に終わった。

(この章続く)

2011年12月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(047)

第2部 収局(続き)

第5章 外側ポーン(続き)

 このような戦略の見かけの単純さは(それらがなされた後では!)初心者にすぐに希望を与える。たとえ自分の方にことがうまく運ぶ場合だけだとしても、そのような局面を楽に勝てる気がする。しかしフィッシャーを相手に次の実際の局面を自分だったらどのようにしたら勝ちに持っていくだろうか。

ゲレル対フィッシャー
ハバナ、1965年
 53.Bf3

 フィッシャーは駒を総交換すればパスbポーンを取ることができると考えたのかもしれない。しかし(前述の)ラルセンとの試合のようにたった1個残ったポーンでも勝つのに十分である。

53…Bxf3 54.Qe5+! Qxe5 55.fxe5+

 明らかにこれがチェックになることがみそであり、多くの局面に繰り返し現れる着想である。

55…Kxe5 56.gxf3 Kd6

 これで黒キングはパスポーンの正方形に入っている。しかしそのポーンは「外側」なので、白は黒のキング翼ポーンが連結するのを妨げるだけでそれらを取り切ることができる。

57.f4! 黒投了

(この章終わり)

2011年12月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(048)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ

 「く」の字形のナイトの動きとチェス選手を引きつけるナイトの奇妙な魅力については多くのナンセンス詩が書かれてきた。ナボコフの『ディフェンス』に出てくる主人公のチェスマスターは「ステッキにもたれながら、日の当たっている坂に立っているこの菩提樹のナイトの動きであそこの電柱を取ることができるなどと考えていた。」そして同じ作家の『ロリータ』のハンバート・ハンバートは窓ガラスの位置を「一番上からのナイトの動き」と描写している。ナイトの旅行とはナイトが盤上のすべての枡を一度だけ通る手順のことだが、オイラーが1759年にそれをいくつか考案して以来数学者の関心をそそってきた。ナイトがチェックをさしはさんでどのように多くの陣地を押さえることができるかは既に見てきた(第4章「ポーンの疾走」)。これらすべてのことにもかかわらず、ナイトはほとんどの中盤戦では心情的な人気者のままであり、収局ではどうしてもビショップより劣る。

 その理由は「利きの長短」である。ビショップはほとんどの開けた局面で盤の両翼を見張ることができる。クイーンとルークのようにビショップは直射攻撃でバッテリー駒として働くことができる。ビショップは敵駒を釘付けにすることができる。味方のポーンによって閉じ込められているときを除いて、ビショップは盤の片側で簡単にナイトを追い越す。

 フィッシャーの試合にはビショップ対ナイトのすぐれた戦いが豊富にある。サロ・フロールは「驚くべきことにタイマノフ、ラルセン、ペトロシアン、それにもちろんスパスキーとの試合でフィッシャーのビショップはナイトよりも強力である」と評している。ロバート・バーンはぶっきらぼうに「彼は優れたビショップ対劣ったナイトという昔からの主題を何度も何度も勝つ」と言った。

 この偏愛についてよく理解されていないことは、フィッシャーがそのような収局(またはよく言うように単純化された中盤)を求めるのは通常いくつかの他の要素があるからである。第一にビショップには多くの枡が必要である。これはとりもなおさずポーンが非常にまばらか激減していなければならないということである。第二にナイトは安全な地点(ポーンまたは小駒によって立ち退かせられない永久基地)を欠いていなければならない。第三にビショップには標的がなければならない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(049)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 これらの3条件すべてが1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦第6局ではそろっていた。この試合はどちらの選手にとっても最高の出来というべきだった。終局後に敗者が観客の拍手に加わったのは恐らくチェス史上唯一のことだった。次の局面は白番のフィッシャーがちょうど 20.e4 と突いたところである。これには特別な皮肉があり、本局は初手に e4 と突くことをずっと支持してきたフィッシャーが初めてそれと決別した証となった。(2、3度 1.b3 や 1.c4 を指したことはあったが、重大な対局では一度もなかった。彼は 1.e4 を「検証により最善手」と呼び、「原則として」1.e4 以外のどんな初手も指さないと言った。)しかしここでは e4 突きは局面を動かす意表の手で、ビショップの活動範囲を広げ黒の中央のポーンを弱めることを意図している。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦、レイキャビク、1972年
 20.e4

20…d4?

 このような自然に見える手が悪手であるということはビショップの支配力をさらに裏書きしている。保護パスポーンは 20…dxe4 でポーンを失うのと同じくらい白にとって恐れるに当たらない。どちらの場合も黒のポーンは融通性を失い黒のナイトはしっかりした地点を見つけるのが困難になる。20…Nf6 と抵抗する方が良かった。フィッシャーは次の2手で黒のナイトをしっかり固定し、典型的なフィッシャーの仕掛けを準備した。

21.f4! Qe7 22.e5 Rb8 23.Bc4 Kh8 24.Qh3!

 黒が明らかに白クイーンをbポーンの守りに縛りつけているのでこの手は気づきにくい。ビショップの優位性はこのような局面で明らかになる。黒は自分のaポーンに対する当たりに気を配らなければならない。黒は自分のeポーンを守らなければならない。黒が白のbポーンを取れるにしても Bb3 でルークが捕まってしまうかどうかを考えなければならない。そしてこの間にも黒の中央のポーンはせき止められている。これらはすべて中央にいるビショップのせいである。本章の目的にとっては考えるべきことはこれですべてである。フィッシャーはf列でルークを重ねキング翼攻撃で締めくくった。まずビショップをd3の地点に置いて詰みを狙い、最後にはビショップをc4の地点に置いて投了させた。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(050)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ビショップの「利きの長さ」は盤端でナイトを身動きできなくさせる能力によく現れている。米国オープンで名を上げた二人の若い選手は次の初歩的な局面に至った。

フィッシャー対アディソン
クリーブランド、1957年
 28…Nxe8

29.Be5!

 黒はどうすることもできない。小駒同士を交換すると白のクイーン翼のポーンが進撃できるようになる。このままでは黒のキング翼のポーンはビショップに「見張られて」いるので事実上進攻できない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(051)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 はるかに経験を積んだ数年後フィッシャーは類似の局面に遭遇した。そしてなんとへまをしてしまった。

フィッシャー対レシェフスキー
番勝負第8局、ロサンゼルス、1961年
 44…Nb8

 フィッシャーはここでルーク交換を強制して、前局のようにナイトを動けなくすることができたはずだった。

45.Rc7+ Rf7 46.Rxf7+ Kxf7 47.Bb5

 こうなればナイトは白キングによる攻撃にもろいだけでなく、ポーンの進攻ですぐに白の勝ちが決まる。フィッシャーは指しかけの研究でこの手が「見えて」いたが、どういうわけか 45.Be4? と指し引き分けにしかならなかった。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(052)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ナイトは白枡にも黒枡にも利かせることができるけれども、進攻ポーンの守りは不得意である。この場合もやはり「利きの長さ」の問題である。

ウールマン対フィッシャー
ライプツィヒ、1960年
 34.Nxe4

 ビショップもナイトも進攻ポーンを守っている。しかしビショップは防御から白のaポーンへの攻撃に切り替える用意をすることができる。これは戦術的にもっともである。なぜならもし白が自分のパスポーンを作り出そうとしても黒ビショップはそれでも遠くから自分のhポーンを守ることができるからである。一方自分のaポーンは勝つための狙いとなる。

34…a5

 白はクイーン翼の2ポーンを失わずに 35…Bb3 を防ぐことはできない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(053)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 盤上にルークも残っているときはビショップを持っている側はキングが侵入することがもっと難しくなる。しかし次の局面ではほとんどのマスターでもルークの交換に二の足を踏むだろう。

フィッシャー対タイマノフ
10番勝負第4局、バンクーバー、1971年
 42…Kd8

 黒はナイトをe7にキングをc7に置けば難攻不落の要塞ができあがるように見える。それでもフィッシャーは例によって単純化に向かった。

43.Rd3!

 そしてルーク交換と白キングの長旅のあと予想された局面になった。

フィッシャー対タイマノフ
 61.Be8

 黒は不運なことにここで手番で自分の防御態勢を乱さなければならない。

61…Kd8 62.Bxg6! Nxg6 63.Kxb6 Kd7 64.Kxc5

 これで白はビショップの代わりに3ポーンを得た。しかし重要な着眼点は黒が態勢を整える前に白がポーンを進めることができるということである。

64…Ne7

 かわいそうなナイトは最後まで足元がふらついている。白のg3のポーンを取るだけでも5手かかる。その間に白は一路邁進する。

65.b4!

 そして白の勝ちに終わった。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(054)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 盤の片側にだけポーンがある場合優勢な方は勝てないのが普通である。ナイトに対してビショップを持ち1ポーン得でもそうである。だからこの場合ルークが加わると、複雑化をもたらすかもしれないということだけで(前例とは対照的に)優勢側を利する。次の局面は近年の有名な指しかけの試合の一つである。ソ連の一団は引き分けの手順を見つけていた。肝心なときにペトロシアンは防御態勢を放棄し敗れ去った。

ペトロシアン対フィッシャー
12番勝負第6局、ブエノスアイレス、1971年
 41…Kb5

42.Ne2 Ba5

 この手の意図はルークを交換せずにaポーンを取ることである。黒はa列を「隠し」、aポーンを取ったあとはb列を隠す。最後には、ペトロシアンがルークを7段目に侵入させる間違いをしたとき、このビショップを用いて白ルークが防御のために戻るのを阻止した。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(055)

第2部 収局(続き)

第6章 利きの長さ(続き)

 ちょうど次の試合でもペトロシアンはまた絶妙のビショップ使いに遇された。ここでは両者にルークがそろっていて、ビショップの「利きの長さ」はルークとの協力の下に非常に多くの狙いを作り出すことができるので強力になっている。

フィッシャー対ペトロシアン
12番勝負第7局、ブエノスアイレス、1971年
 25.Re2

 黒は実質的に指す手がない。ナイトがd7の地点を離れれば Ree7 で7段目が破壊される。

25…g6 26.Kf2 h5 27.f4

 白は …Ne5 さえ指させないで都合のよいときにキングをd4の地点に進める用意をした。黒はこれを防ぐために破れかぶれで …d4 と突いた。それからこのポーンが取られるのを防ぐために …Nb6 で乱戦を求めた。白は7段目にルークを連ね黒は詰みが避けられなくなった。

 これらの実戦例すべてでビショップの優位性は両当たり、串刺し、釘付けなどの手筋による攻撃とほとんど関係なかった。ビショップは単に盤の両翼を「監視」していただけである。ナイトの手段は純粋に戦術的である。ナイトとビショップに関する理論と実戦との違いは、ナイトのくの字形の手筋の試みがいつ穏やかに押さえ込めるかを知ることにある。これはフィッシャーの優れた天賦の才能の一つである。

(この章終わり)

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フィッシャーのチェス(056)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン

 初心者はクイーンの強力さに魅了されやすい。実際のところもっと繊細な点に理解が至らないと普通の役者に飽きてきて他の作り事に誘惑されることがよくある。そして彼の目は戦争を文字どおりもっと模倣したものの中でももっと強力な戦力が盤上を駆けめぐるゲームに引きつけられる。

 熟達した選手でさえ大駒の交換が早々と起こった布局でクイーンがないことを「寂しく」思うものである。盤上にクイーンがないと指す余地もなくなったと感じる。彼らはフィッシャーが多くの試合で早くクイーンの交換を持ちかけるのを見ると驚きを覚える。

 もちろん何としてもクイーンの交換を避ける(「臆病者」でないという考えで)ヘボとクイーン交換を利用して有利な収局に移行できるまで待つマスターとの間には天と地ほどの違いがある。マスターは小駒を使いこなすのは通常はクイーンの捌きよりも複雑でクイーンの威力は非常に「繊細な」類の能力であることに気づいている。

 クイーンは明らかに開けた局面の方が活躍でき、2、3手でその可能性が倍加する。だから収局では一連のクイーンの動きの中で特に初手の正確さがことのほか重要になる。フィッシャーはクイーンの使い方の中で普通のマスターでは及びもつかぬほどの正確さの例を見せつけてきた。

 クイーンの配置の繊細さは二つの一般的な場合に要求される。それはクイーンが特定の地点を守らなければならないまたは攻撃しなければならないときと、相手のキングを手止まりにしてしまうのを避けなければならないときである。あとの場合クイーンは過剰殺戮に無神経なことがよくある。

 たぶん開けた局面でのフィッシャーのみごとなクイーン使いの最も有名な例は実際には指されなかった局面である。1962年ブルガリアのバルナで開催されたチェスオリンピアードではフィッシャーと当時の世界チャンピオンのミハイル・ボトビニクが初めて相まみえた。ルーベン・ファインとのいくつかの非公式対局、マックス・エーべ博士(1935年から1937年までの世界チャンピオンで現FIDE会長)との何回かの対戦、そしてケレスとレシェフスキーとの多年にわたる激闘があり、これで第2次世界大戦前の偉大なマスターたちの世代とのフィッシャーの直接対局が完了した。試合は激闘だった。本書の他の章で現れるフィッシャーの技量のいくつかの例がこの対局から採用された。見せ場は指しかけの局面でボトビニクがフィッシャーに仕掛けた巧妙な罠で頂点に達した。これでロシア選手が引き分けに逃げることができ若い米国選手の世界チャンピオンを「手玉に取る」希望を打ち砕いた。

 試合の棋譜が世界中のチェス雑誌に掲載されると、ほとんどの解説者がボトビニクにならってフィッシャーが罠にはまらなくてもこの収局は引き分けだったと主張した。しかしボトビニクの解説はうわべだけの怪しそうなものに見え始めた。彼はソ連の雑誌で2回訂正し、最後には当初の結論に戻って相手の最善の手に対しても負けはないとした。

(この章続く)

2011年12月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(057)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 フィッシャーの待望の「My 60 Memorable Games」が出版されてようやく反対側の考えが聞けた。明らかにフィッシャーは大事の前の小事として取り合おうとしていなかった。彼はボトビニクの分析の不正確な点の指摘に特に心血を注ぎながら、系統立てて両者の最善の手順をボトビニクがクイーンを作った直後の収局に煮詰めた。ボトビニクも自分の解説でこの局面に到達していて引き分けと片付けていた。フィッシャーは白の勝ちと主張した。すべてはここに帰した。

ボトビニク対フィッシャー
バルナ、1962年
 64.h8=Q(参考図)

 両者ともキングがむき出しなので明らかに一連のチェックを先にかける方が戦力得するかたちまち詰ませてしまいそうである。ボトビニクは明らかに黒ルークを蚊帳の外においておけるか黒クイーンのチェックがすぐに尽きると決めてかかっていた。例えば 64…Qd3+ なら 65.Kf4 Qd2+ 66.Kf3 で安泰だし、64…Qf5+ なら 65.Rf4 Qd5+ 66.Re4 で白ルークがチェックをかけられるようになるのでかえって黒の方が危険かもしれない。しかし「2度目」のチェックのためにいくつかの選択肢を保つクイーンのチェックが白キングを避難所から引っ張り出す。

64…Qb3+ 65.Ke2

 白キングはこの危険な退却をしなければならない。なぜなら Kf4 または Kg2 だとルークの盾がなくなり、黒ルークによりチェックされる地点に追いやられることになるからである。即ち 65.Kf4 なら 65…Qf7+、65.Kg2 なら 65…Qd5+ である。ということで 64…Qb3+ の主眼点が明らかになる。つまり黒はその地点から必要に応じて対角斜筋またはf列でチェックをかけることができるということである。

65…Qd1+ 66.Ke3 Rb1!

 黒はこの展開の手を指す余裕がある。なぜならクイーンがa4の地点に利いているし、他の唯一のチェックに対してもルークまたはクイーンがb3の地点で-チェックで-割って入ることができるからである。

67.Qf8+ Ka2

 フィッシャーはここで「・・・そして白キングは隠れ家もなくこれから雪崩のようなチェックを浴びる」と結論を下している。実際にはそんなに簡単どころではない。というのは黒ルークが釘付けになるからである。

68.Qf7+ Rb3+ 69.Ke4

ボトビニク対フィッシャー
 69.Ke4(参考図)

 それでどうする?69…Qe2+ は釘付けを解消する地点に白キングを追いやるが、引き続くチェックは明らかにこのキングによる「開き」チェックにつながる。それに白ルークを両当たりにすることはできない。

69…Qd3+ 70.Ke5 Kb2!

 2度目の「静かな」手で黒の全戦力が解き放たれる。

71.Re4!

 他に 71.Qf6 または 71.Qg7 という受けの強手もあるがやはりうまくいかない(分析は懐疑的な人の要請次第である)。

71…Qc3+!

 正確さは徹底している。キングをf4の地点に逃してはならない。だから黒はその場合に 72…Qf3+ とする余地を残しておかなければならない。白ルークは残っているポーンと協力して白キングのためにf3の地点に砦を築くことを狙っている。

72.Kf5

 72.Rd4 なら黒はこの収局全体に典型的な手段で次のように白クイーンを取る。72…Rb5+ 73.Ke4 Qc2+ 74.Ke3 Re5+ これで白キングはついにf列に追い込まれ、白のクイーンまたはルークにより致命的なチェックを受ける。

72…Qf3+ 73.Rf4 Rb5+

 これでクイーンとルークの「はしご」で白キングが7段目に追い込まれ、白クイーンが串刺しにされる。

74.Kg6 Qh5+ 75.Kg7 Rg5+ 76.Kf8 Qh8+ 77.Ke7 Rg7 黒の勝ち

 グランドマスターでさえクイーンとルークの収局の確かさに大きな疑念を抱いているので、フィッシャーの勝ちの手順が決して心から真実として受け入れられなかったのは興味深い。ラリー・エバンズはこの試合の前置きでフィッシャーは「まだ残っていたと主張する勝ち」をふいにしてしまったと言っている。(太字筆者)

(この章続く)

訳注 この試合はボトビニク著の次の本で解説されています。

「Botvinnik’s Best Games」Volume 3; 1957-1970
1986年初版、ISBN 80-7189-405-2

64.h8=Q の局面のところからは以下のように書かれています。

 『この局面の私の評価は次のようなものだった。「黒はルークがキングによって動きを制限されているので勝てない。」フィッシャーはさらに分析を続けた。64…Qb3+ 65.Ke2 Qd1+ 66.Ke3 Rb1

そしてさらに 67.Qf8+ Ka2 と続けたあと「白キングは隠れ家もなくこれから雪崩のようなチェックを浴びる」と結論を下した。しかしここにはさっそく二つの誤りがある。まず第一に私がはっきりさせたように白は 68.Qc5 で受け切ることができる。これはのちに雑誌「Shakhmaty v SSSR(1977,No.2)」でモスクワのマスターのアナトリー・クレメネツキーによって詳細に示された。そして13歳のガリー・カスパロフ(のちに世界チャンピオンになる)が図の局面で次のようなエレガントな手段で引き分けになることを見つけた。67.Rc4! Rb3+ 68.Rc3 Qe1+ 69.Kd3 Qf1+ 70.Kd2(70.Ke3? Qh3+!)70…Qxf2+ 71.Kd1

 これで本局に関する長い論争に終止符を打ったように思われる。対局時と特に分析とで頭脳の限りを尽くさなければならなかった。

 この試合と関連した出来事とを検討したあとで読者はたぶんフィッシャーの人間性が彼の偉大なチェスの才能と釣り合っていなかったことに同意するだろう。』

2011年12月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(058)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 「選択肢を保つこと」がクイーンを扱う際の標語であり、この試合に現れ次のスタディでも特別際立っている。

 おそらくチェスの歴史でサム・ロイドほどチェスで楽しんだ者はいないだろう。彼は米国の伝説的なプロブレム作家、パズル考案者、そして前世紀の二流のマスターだった。いささか予言めくが彼の旧友のダニエル・ウィラード・フリスキー教授は晩年にロイドにアイスランドのレイキャビクでチェスを協力して広めようと提案していた。「彼が私のプロブレムの本を出版する」とロイドは語った。「そして40年前に我々がしたようにまた二人で物語を書く。しかし考えてみるとすべてアイスランド語で、米国ではただ一人しか読めない言語で、その一人とは彼自身だ。」

 ロイドは初期の傑作の一つでクイーンがいかに敵の受けの可能性を予期する並外れた能力を持っているかをきっぱりと示して見せた。

サム・ロイド作(1869年)
 3手詰め

 起手の 1.Qf1 はすぐに詰みを狙う手に見向きもしないで、黒が手を指すのを待っている。次に Qxa1 と取る手さえも狙っていない。それでは3手で詰めることができないからである。ビショップは 2.Qb1 の狙い(2…g6 と突かせて 3.Qxa1#)に対処するためにいくらでも動く余地があるように見える。しかし …Bb2 には同じく Qb1 とされる。…Bc3 と …Bd4 には Qd3 がある。さらに …Be5 と …Bf6 には Qf5 と来られる。この単純だがビックリの局面の背景にある着想は、f1がそこからクイーンが2手目でa1、b1、d3それにf5に行ける盤上唯一の地点になっているということである。ついでながら 1…g3 なら 2.Ng6+ で …hxg6 に Qh3# で詰みになるのも見事である。

 プロブレム(指定された手数で詰ませるのが規定)の場合は正確な手順が絶対重要である。多くの実戦では正確な手順でなくても結果は変わらない。手を繰り返すこともできるし、相手の受けを探るために試しの手を指すこともできるし、無駄な手を指すことも一般的である。もしロイドの局面が実戦だったらほとんどの対局者は 1.Ng6+ から単純にクイーンを作るだろう。ボトビニク対フィッシャー戦は正確な時機と枡の選択が必要な点でまったくもって特別である。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(059)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンは選択肢を増やす際にこの例が示すほど攻撃的である必要はない。次を考えよう。

A.クレーマー作(1950年)
 3手詰め

 この局面の論理は明快である。クイーンはd7の地点を攻撃したいが、それと同時にその攻撃に対する二通りの受けも考慮に入れておきたい。受けとは …dxe6 と …fxe6 である。クイーンは …dxe6 にはa4からe8の斜筋でチェックする位置にいることにより対処することができる。…fxe6 にはg6のビショップを取れるようにすることにより対処することができる。だから初手は二つの条件を満たす唯一の地点に行く Qc2 でなければならない。e4の地点へは初手では行けない。信じられないかもしれないが狙いは何もない。黒は手詰まりに陥っていて、クイーンが二つの条件を維持するのと同時にd7の地点を当たりにできるように自陣の防御を弱めなければならない。1…Bh5 なら 2.Qd1!、1…a5 なら 2.Qd3! となる。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(060)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンの動きで2番目に大きな「がさつさ」はしばしば不必要な力で相手キングを威嚇して手止まりにさせてしまいがちなことである。フィッシャーは棋歴の初期にパウル・ケレスとの対局でいくつか「クイーン」にまつわる経験をした。そして手止まりの錯綜とした可能性について二重の教訓を学んだ。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 68…g2

 この大会はオリンピアードでのボトビニクとの激突の数ヶ月前で、フィッシャーの出だしは不調だった。ソ連勢の覇権はフィッシャーの言い分を額面どおり受け取れば心理の問題と同じくらい大きな違法行為の問題だった。しかし彼が星取表に表わされた結果に失望したとしても、それでも盤上では記憶に残る局面を生み出した。パウル・ケレスはボビーがそうなりたいと願う振る舞いと「格式」の模範だった。この試合の布局の段階についてのフィッシャーの解説にはケレスの棋風に対する敬意が表れている。白の必要悪の12手目についてフィッシャーは「ケレスはいつものようにポーカーフェースであたかも盤上で最も自然な手のようにこの手を指した。しかしそれは彼の最も指したくなかった手だった・・・」と書いている。そのあとフィッシャーは優勢をうっかり手放してしまうが勝つことに執念を見せた。両者に悪手が出て上図の局面になったが、それはフィッシャーが十分勝ちを期待した局面だった。彼はキングがh7の地点でチェックから逃れられると読んでいた。

69.Qb4+ Kf7 70.Qb3+ Kg7 71.Qg3+ Kh7

 ここで白に残された手段は 72.Bf5+ Qxf5 73.Qxg2 のようにビショップを捨てて進攻ポーンを取るしかないように見える。それならフィッシャーは 73…Qf4+ 74.Qg4 で1点をもぎ取る予定だった。クイーンが交換になれば黒が見合いを取ってポーン収局に勝てる。しかしケレスは別のことに気づいていた。

72.Qe5!

ケレス対フィッシャー
 72.Qe5!

 ケレスはクイーンに昇格しようとするポーンを無視しただけでなく、クイーンを「攻撃性」の少ない地点に置いた。すぐに分かることは黒にe1の地点からチェックさせてはならないということである。なぜなら 72.Qg5 だと 72…Qe1+ 73.Kh3 または 73.Kh5 Qh1+ でポーンがチェックでクイーンに昇格するからである。それにしても白は何を考えているのだろうか。

72…Qf2+

 実際にフィッシャーが指した手は 72…Qh1+ 73.Bh3 Qxh3+ で、引き分けになった。代わりに 73…g1=Q は 74.Qh5+ から Qg6+ で手止まりの局面になる。

73.Kh3 g1=Q

 華麗だが惜しいのは 73…g1=N+ 74.Kg4 Qh4+! 75.Kxh4(取らないとビショップを素抜かれる)75…Nf3+ 76.Kh5 Nxe5 77.Be8 で、黒キングはクイーン翼に侵入して攻撃することができない。

74.Bf5+ Kh6 75.Qf6+ Kh5 76.Bg6+! Qxg6 77.Qg5+! Kxg5 手止まり

 自分のキングが手止まりの状態のとき防御側のクイーンが「特攻」的性格を帯びるのはこの種の収局に特有なことである。クイーンはほとんどどこで身を犠牲にしても良さそうに思えるが、上の手順のように自己犠牲の正確な地点は決定的に重要である。

 ケレスはこの収局をスタディの形式にして発表してもよかったかもしれない。もっともそのままでもほとんど完全であるが。ケレスとラスカーは自身の試合の分析結果としてかなりの数のスタディを発表した。おそらく我々の時代でもそれほど知られていないのは、クイーン対クイーンの収局の繊細さと正確な論理を典型的に示すスタディである。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(061)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 1903年夏サンフランシスコ機械会館のチェス室である局面が出来上がった。そしてクラブの強豪たちの頭を悩ませた。

J.ドーラン作、1904年
 白先白勝ち

 まず、白は簡単に勝てそうに見えた。戦力は互角だけれども、黒の連鎖ポーンの根元は攻撃にさらされていて黒はクイーンを交換するわけにはいかない。それにもかかわらず黒キングが閉じ込められていることは最強の防御手段になっていた。つまり黒はケレス対フィッシャー戦の結末のようにクイーンが盤上に残ったまま容易に手止まりにすることができた。

 対局者の一人のジェームズ・ドーランは最終的にこの局面の機微を完全に理解し、スタディとして発表した。サンフランシスコのマスターのW.R.ラブグローブ博士は全国を回っていたハリー・ネルソン・ピルズベリーを公開対局で破って伝説の人になっていたが、完全な解を最初に見つけた。「文芸ダイジェスト」誌は1904年にこの局面を販売促進のための懸賞に取り上げた。応募中正解はただ一つだった。このスタディは世界中で評判になったので「サンフランシスコの収局」と呼んで親しまれた。

 完全な正解はいくつかの手詰まり、いくつかの手止まりの可能性、それに両者による手渡しを伴っている。主手順をざっと見ると熟達した選手でさえいくらか路頭に迷わされる。互角の局面における場合のようにここでの正しい取り組み方は指針を定めることである。

 1.黒キングがh7の地点にいるとき最下段にいる黒クイーンを白クイーンで取ることはできない。そんなことをすれば明らかに手止まりになってしまう。それほど明らかでないのは証明でいうところの系で、白クイーンが8段目にいるとき黒クイーンは「特攻」になることができ、盤上のどこでも白キングに自分を取らせることができる。だから正解に向けて最初にちょっとやってみるのは幻に終わることが多い。

1.Kd7 Qg8 2.Qd8 Qf8 3.Qe8? Qd6+ 手止まりが避けられない。

 この試行から局面についての他の事実が明らかになっていく。

 2.クイーンが交換になれば、白キングは黒キングのどの1手にも二通りの手があるので黒キングを容易に隅に追い込んでfポーンを取ることができる。

 3.白が進展を図ることができる唯一の方法は、キングがe7の地点を通ってfポーンに近づくことである。この方向でのすぐに頭に浮かぶ取っ掛かりは・・・

1.Kd7 Qg8 2.Qe8 Qf8 3.Qd8 Qd6+ 4.Ke8

 黒のfポーンとクイーンが共に当たりになっている。しかし黒は当分の間もがくことができる。

4…Qe6+ 5.Kf8

 これから何度も出てくる主題は 5.Qe7 だと 5…Qc8+ とされ 6.Kxf7 は 6…Qg8# で頓死するので白が進展を図れないということである。これは他の局面でも当然当てはまる。

 4.白クイーンがe7の地点かf7の黒ポーンに通じる斜筋にいる場合、白キングがf7のポーンを取ると黒が …Qg8+ とできる時は即詰みになるかクイーンを素抜かれるので、実際にはf7のポーンを取ることはできない。

5…Kh8 6.Qc7!

 ここは 6.Qe8 でもよい。しかし黒クイーンに自陣からの2段目でポーンを守らせてはいけない。つまり 6.Qe7 は 6…Qc8+ 7.Qe8 Qc7 8.Qxf7 Qe7+ で手止まりになってしまう。この変化から次のことが導き出せる。

 5.黒キングがh8の地点にいて黒クイーンがc7の地点からf7のポーンを守れる場合、白がf7のポーンを取ると手止まりになる。

 この変化の終わりでは黒クイーンがc7でなくb7の地点にしか行けないので黒の受けがなくなることが示される。終わりの手順を続けると・・・

6…Qd5 7.Qxf7 Qd8+ 8.Qe8 Qd7!

J.ドーラン作、1904年
 8…Qd7(参考図)

 どうしたら白は自分のキングを自由にできるだろうか。9.Qa8 は 9…Qb7! とされる。しかし白キングはちょっとした罠を避けるだけでよくそれで自由になる。

9.Qe5 Qd8+ 10.Kf7 Qd7+ 11.Qe7

 ただし 11.Kxg6 は 11…Qh7# で駄目である。これで黒のポーンが落ちる。だから 3…Qd6+ はこの手順で負けることが分かる。しかし本当は次の妙手でヒーローになれる。

3…Qc5! 4.Ke8 Kg8!

 黒はクイーンが前の手順と違って「当たり」になっていないので、キングでf7のポーンを守る余裕がある。これから別の指針を定めることができる。

 6.黒はキングがチェックされずにg8の地点に行ける限りf7のポーンを守ることができる。

 従って 2.Qe8 または 2.Qd8 ですぐに黒の最下段に侵入する着想は間違った出だしである。1.Kd7 Qg8 のあとの当初の課題に戻ろう。

J.ドーラン作、1904年
 1…Qg8

 ここでの白の課題はキングのためにe7の地点を空けることである。白クイーンがそこを空けると黒クイーンがf8の地点を占めてそこに来させない。しかし手段はあるものである。

2.Qd6!

 これが巧妙な三角法の始まりで、黒を困らせる。クイーンが次に向かうのはe5の地点で、黒キングの位置によりe7またはd6の地点に行く選択肢(またこの言葉が使われる)がある。図の局面ではすぐ行くのも含めてe5に地点に行く多くの方法がある。しかし二つのことから正確な手はこの手に限られる。第一にすぐに 2.Qe5 と指すのは 2…Qb8 3.Qd6 Qb7+ と応じられて、何手か無駄にしてしまう。第二に白クイーンがd8の地点で割り込めない手はどれも黒に 2…Qa8 3.Ke7 Kg8 という受けを与える。

2…Qf8 3.Qd5!

 ここからの白の手は正確でなければならないのでほとんどどれも好手記号を付けるに値する。代わりに例えば 3.Qd4 はうまくいかない。というのは黒クイーンがfポーンの守りに縛りつけられることなくa3の地点まで行くことができるからである。ということで本譜の手に対して黒キングが動かなければならない。

3…Kg8

 3…Kh8 の方が悪いという理由はない。隅で黒の方も小さな三角法を行なえるような気がするが、それは幻想である。白の関心は黒キングが2段目にいるのか1段目にいるのかということだけである。このことからまた一般的な分析が思い当たる。

 7.fポーンをチェックで取るのは白にとって主要な狙いである。これが直接起こり得るのは、黒キングがh7の地点にいるときに白クイーンがf7のポーンを取るときである。間接的には黒キングがh8の地点にいる場合白キングがf7のポーンを空きチェックで取ると起こり得る。

 この分析の重要性は正解の手順が進むにつれて明らかになる。

4.Qe5

J.ドーラン作、1904年
 4.Qe5

 ちょっと考えてみると次に黒キングが横か斜め上のどちらに動くかによって白クイーンがe7とd6のどちらに行くかが決まることが分かる。ほとんどのチェス選手が驚くのはこのクイーンによるちょっとした無駄足で黒がe7の地点を白キングに譲らなければならないということである。

4…Kh8 5.Qe7

 4…Kh7 だったらすぐに 5.Qd6 と応じればよい。

5…Kh7 6.Qd6!

 めぐりめぐって、今度回転木馬を降りるのは黒の方である。キングは動けないのでクイーンが去らなければならない。

6…Qa8 7.Ke7 Qb8

J.ドーラン作、1904年
 7…Qb8

 黒のfポーンの間接防御は白にとって真の試金石である。黒が代わりに 7…Qg8 とすれば 8.Qd8 によってクイーンが交換でき 8…Qf8+ にはもちろん 9.Kxf8 である。

8.Qd8

 白クイーンは何とかしてd8を通ってfポーンに近づかなければならない。直接法の 8.Qd5 は 8…Qc7+ 9.Qd7 Qc8! で何手か手損になる。8.Qc6 も 8…Qa8 9.Qe8 Qb7+ 10.Kf8 Kh8 11.Qd8 で同じ局面に行き着く。

8…Qb7+

 8…Qa8 と 8…Qc8 はもう少し簡単に負ける。白が目指しているのはキングがe8、クイーンがd7にいる局面で、7段目に沿って「橋を架け」黒クイーンに7段目に来させない効果がある。例えば 8…Qa8 は 9.Ke8 で黒は 9…Qb7 とするしかなく 10.Qd7 と指せる。[訳注 8…Qb4+ で進展がないかもしれません]

9.Kf8

 ただし 9.Ke8 は駄目で黒は 9…Kg8 で引き分けをもぎ取れる。

9…Kh8(または Qa7)10.Qd6!

 d6の地点に来るのはこれが3度目で、今度は Ke8 に対する黒の唯一の受けの …Kg8 を防ぐためである。他にfポーンを攻撃する手段はない。

10…Kh7(または Qb7)11.Ke8

 次の 12.Qd7 に対して黒は指す手がない。

(この章続く)

2011年12月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(062)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 開けた盤上でのクイーンには「階段のぼり」という独特の能力もある。初めに斜筋から次に水平に連続して適切にチェックをかけることによりクイーンは望みの目的地に「渡る」ことができる。前出のケレス対フィッシャー戦の局面ではフィッシャーは「反階段のぼり」策を用いた。それはこの凝った名前が暗示するよりもかなりありふれている。

ケレス対フィッシャー
キュラソー、1962年
 68…g2

 69.Qb4+ に対してフィッシャーはすぐに 69…Kg7 でなく注意深く 69…Kf7 を選択した。69…Kg7 は 70.Qg4+ から際限のないチェックを招く。チェックのかかる地点のうち唯一守られていない地点からの(白クイーンが利いていなければ当然c4の地点を選ぶ) 70.Qb3+ のあと黒キングは 70…Kg7 71.Qg3+ Kh7 で安息の地を見つけた。しかし既に見たようにケレスは秘策をもう一つ用意していた。

(この章続く)

2011年12月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(063)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンは斜筋と横列の「焦点」から正確にチェックすることによって永久チェックを保ち続けることがよくある。同じ大会で上記の対戦の11日前にフィッシャーはパル・ベンコー相手にポーンをひったくり見るからに圧倒的な局面になった。

フィッシャー対ベンコー
キュラソー、1962年
 19.Nxe6

 ベンコーは 19…Bxe6 と取って結局負けた。千日手を望んでいれば(またはそれが見えていれば)次の手順でそれができていた。

19…Bxb2+ 20.Kxb2 Qb4+ 21.Kc1 Qa3+ 22.Kd2

 ここまで白は逃れているように見える。22…Qb4+ とチェックをかけると 23.c3 Qb2+ 24.Bc2 Re8 となって黒は十分乱戦に持ち込める。しかし次の手ならば証明終わりと言える。

22…Qa5+

 なぜなら 23.c3 だとa2の地点からチェックがかかって(23…Qxa2+)、とたんにナイトが落ちるからである。

(この章続く)

2011年12月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(064)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 派手な「階段のぼり」は多くの古典収局で見られる。次の局面は純然たる簡潔さが意外である。

R.バーガー作、1969年
 白先白勝ち

 白クイーンがe4からh4のチェックで「接近」できれば勝てるのは明らかだろう。しかし問題はどうやって手を渡さずに(即ちチェックの連続で)e4の地点に行くかである。

1.Qd5+ Kh2

 キングの行ける所は次の三つの理由のいずれかによりh2かg2に限られる。チェックをかけられたとき Qxh1 によってクイーンを取られるのを避けるため、Ng3+ による両当たりを避けるため、そして Qg3# を避けるため。

2.Qd6+ Kg2 3.Qc6+!

 白クイーンはb7の地点に向かっている。黒は 3.Qg3+ には 3…Kf1 で大丈夫だし、最初の局面で白が空きチェックをかけても空を切るだけである。

3…Kh2 4.Qc7+ Kg2 5.Qb7+ Kh2 6.Qh7+

 これがチェックをかけてe4の地点に至る唯一の経路である。

6…Kg2 7.Qe4+ Kh2 8.Qh4+ Kg2 9.Nf4+ Kg1 10.Qe1+ Kh2 11.Qf2+

 これで次の手で詰みになる。

(この章続く)

2011年12月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(065)

第2部 収局(続き)

第7章 がさつなクイーン(続き)

 クイーンが能力をフルに発揮するには開けた場がなければならないことは明らかである。次の実戦形のスタディでは驚きの初手がそれを物語る。

B.コズドン作、1959年
 4手詰め

 黒の弱みは最下段の弱点で、クイーンで守っていなければならない。それと同時に斜筋とh列での「階段のぼり」の連続チェックも恐れるに足る。しかしどこに白の狙いがあるのだろうか。その答えは・・・黒が手詰まりに陥っているということである。

1.Re1!

 黒がe列の他の地点を避けなければならない理由は以下にあげる諸変化により明らかである。

1…h2 2.Qa2+! Kh8 3.Qxh2+ Kg8 (3…Qxh2 4.Re8#) 4.Qxb8#

 または

1…Qc8 2.Qb3+! Kh8 3.Qxh3+

 または

1…Qd8 2.Qc4+!

 黒クイーンは平凡な理由で最下段の他の列に行くわけにはいかない。

 このようなクイーンの偉業からより大きな喜びを感じるのは誰だろうか。スタディの作者か、それともフィッシャーのような選手か?本章にあげた例のうち「実戦」からのクイーンの捌きは実際には一つも起こらなかった。別の意味ではスタディと局後の検討は棋譜に書かれた手と同じくらい多く「起こる」。そして何百万もの選手の味わう究極の楽しみは、このような小さな名作を並べたり、チェスの最も強力な駒が最も敏感で繊細であることがよくあることを再発見するかもしれない幸運である。

(この章終わり)

2011年12月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(066)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み

 チェスのちょっとした予期しない楽しみの一つは、午後遅い頃の盤上に残った少しばかりの駒で詰んでしまうことがあることである。その結末は喜劇的または悲喜劇的なこともあれば息を飲むまたは腹立たしいこともある。この章で読者の参考になることは詰みの網を仕掛ける技法よりもむしろ詰みにはまるたやすさを実感することである。

 収局では進攻ポーンや他の戦力上の考慮に注意が向けられるのが普通である。次の局面でフィッシャーは7段目にポーンを確立しhポーンにも狙いをつけていた。

フィッシャー対サンチェス
サンティアゴ、1959年
 52…Bxb4

 しかし黒は直前の手で自分の苦悶を終わらせる機会を得た。

53.Bd2! 黒投了

 53…Bxd2 と取れば 54.Re7# で詰む。

(この章続く)

フィッシャーのチェス(067)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 この同じルークとナイトのチームは他の並びでも協力し、敵キングをあっさり惨殺することになる。

フィッシャー対ドゥランオ
ハバナ、1966年
 31…Rd8

32.Rh3! Bf8

 このどうということもなさそうなh6ポーンの守りは必要ではあってもf6の地点を無防備にした。

Nxa5!

 ここで黒は危険に気づきルークをc7の地点に引いた。さもないと次のように詰まされる。

33…bxa5 34.Nf6+ Ke7 35.Rb7+

 二つのルークは死をもってしても自分たちのキングを救うことはできない。

(この章続く)

2011年12月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(068)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 局面の複雑さはナイト・ルーク詰みの単純版を見えにくくすることがよくある。最も単純なのは隅で起こり、タイマノフでさえフィッシャーとの番勝負第1局で重大さを軽視していた。

タイマノフ対フィッシャー
12番勝負第1局、バンクーバー、1971年
 35…Qd7

36.Nd4

 ラルセンが指摘したように白は 36.Qg5 と指して中盤戦に留まるべきだった。白は双ビショップともうすぐ1ポーンを取れることで有望な収局になると誤った考え方をしていた。黒のナイトを考慮に入れていなかった。

36…Qd6+ 37.g3

 誤算の最初のかぎ、それはf3の地点に空所ができたことだった。

37…Qb4 38.Nc6 Qb6

 この退却には大きな心理的作用があった。39.Qxa7+ からの詰みの狙いがあるので白は黒の狙いの …Qe1 をはねつけたと信じ込んだ。また次の「透視」の手筋も自慢だった。しかし白は重大なことを見落としていた。それは白のキングが詰み筋に入るということだった。

39.Nxa7 Qxe3 40.Bxe3 Re1!

 すべて取り立てていうこともなさそうに見える。しかしビショップはf3の地点を守る地点を見つけられない。実際に白が封じた手は・・・

41.Bg4 白投了

 黒は 41…Ne5 のあと白枡ビショップを消して …Nf3 と入りdポーンを突き進める。白が白枡ビショップを別の斜筋に行かせれば典型的な隅での詰み形ができる。…Ne5 から …Nf3 による詰みに対しては受けがなく、h4 と突けば別のナイトがg4の地点に侵入する。

(この章続く)

2011年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(069)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 局面によっては限られた戦力が、創作された配置のようになっている。

フィッシャー対ペトロシアン
ブレッド、1961年
 35…Kc6

36.Kc4! 黒投了

 37.Ra7# が受からない。古きよき時代には白は36手目を指したあと黒には無意味な …Rh4+ しかないので2手詰みを「宣言」したものだった。現代の選手たちは詰みの宣言などしない。喜んで詰ませるだけである。ここに現れたルークとビショップのチームは典型的なものだが、この局面が創作問題なら多くの選手はビショップがa8の地点に行けるはずがないとけちをつけるだろう。

(この章続く)

2011年12月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(070)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 作局家でも次のフィッシャー戦の局面より基本的なものを作るのはほとんど不可能だろう。この試合は世界選手権への道における初めての大会で前途を明るくした。

ケレス対フィッシャー
ブレッド、1959年
 52…g4

53.Rc4

 ケレスのために言うとこれに代わる良い手もない。チェス選手の楽天主義には限りがない。

53…Qe5#

 クイーンが横から接触させてチェックするとキングには「逃げ」場所が2箇所しかない。ここではその2箇所が自分自身の残りの駒でふさがれている。キング対クイーンの図形配置は実戦派の選手が精通しておくべき速記文字の一つである。

(この章続く)

2012年01月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(071)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 クイーンは1枡離れた距離からでも非常に手際のよいことができる。この局面はフィッシャーがちょうど 38…Qh1# を狙ったところである。

メドニス対フィッシャー
ニューヨーク、1958-59年
 37…Qg1

 この詰みの狙いがなければ白はそう悪くない。しかしここでは投了しなければならない。なぜなら・・・

38.g4 fxg4#

 プロブレムの用語ではこれは「モデル」詰みということになる。キングの利き枡への監視は最後の枡にまで能率的だった。

(この章続く)

2012年01月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(072)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 敵キングが自身の駒によりうまい具合に囲まれているという条件で、独力で詰めることのできる駒はクイーンだけでない。

タリ対アベルキン
全ソ連選手権戦、1973年
 69.Rxa4

 ここでの唯一の問題はどちらのキングが詰まされることになるのかということである。明らかにタリは指す手に窮していた。この試合は大会の最終戦で、引き分けは翌1974年の全ソ連選手権戦の「予選免除」の権利を失うことを意味していた。確かに元世界チャンピオンにとっては考えただけでも屈辱的である。しかしカイッサ(チェスの女神)は公正さの詩的感覚を持っていた。

69…Rc4?? 70.Nd5! 黒投了

 黒は Ne7# を避けるにはルークを捨てるしかない。タリは健在なり!

(この章続く)

2012年01月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(073)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 詰み筋は最も予想されず他の手筋の方がありそうなときにも見つかることがある。次の局面は1969年カリフォルニア州での南北対抗戦というちょっとありそうもない「催し」の一つで(も)現れた。この年はこの恒例行事の最後の年で、米国での他の伝統ある対抗戦同様にしだいに消えていった。これらの大会を特徴づけた友好と大学生の奮闘によるチェスはしばしば熱戦を生んだ。南北対抗戦での本大会への非公式予選は「侮辱」試合だった。その規則は「カリフォルニア・チェス・リポーター」誌からの引用によってもっともよく伝えられる。

リビセ、アルムグレン(南)対バーガー、グロース(北)
ピズモビーチ、1969年
 31.Rc1

 『ルークを床に落としてそれがg4の地点に停止するのをうまく防いだ北の選手は、今度は相手選手、観衆、そして自分の相棒さえこれ見よがしに笑う中で長考に入った。スリボビッツがまた供される間に、そして今度はルークを手に持ったまま、その北の選手はルークを動かして勝てるに「違いない」しそれを見つけるつもりだと宣言した。これは100%信じる者がいなかったし、それ以上にあざけりがあった。ところが彼が奇妙でまれな詰みを見つけると不信は確信に変わりあざけりは拍手に変わった。

31…Rg3!! 32.Rxc7+ Kd8 33.白投了

 なぜなら 33…Bg2+ 34.Nxg2 Rh3# という詰みが防げない。』

(この章続く)

2012年01月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(074)

第2部 収局(続き)

第8章 昼下がりの詰み(続き)

 プロブレム作家がチェスの一部であるユーモアとへそ曲がりを再現できてこなかったとは思わない。サム・ロイドはたぶんもっとすごいトリックのなかでそれをやった。彼と同時代でコンサートピアニストのビルマースは、詰み筋の探求への締めくくりにふさわしい小品を作った。この作品の主眼は私にすれば正確さではなく、モデル詰みを例示することでもなく、経済的であることでもなく、解くのが難しいことでもない。非常に愉快な点は白が「友よ、好むと好まざるとにかかわらず君の回りに詰みの網をかけるぞ」と言っていることである。

R.ビルマース、1959年
 4手詰み

 初手はやはり見つけるのが難しく巧妙である。

1.Ra7! h2

 奇妙なことに黒が何をしようと-ポーンを突こうがキングをあれこれ動かそうが-白は以下の手順を指す。

2.Na5(+) – 3.Rb7(+) – 4.b4#

 詰みの網を張るかぎはルークを7段目にやって、黒キングが1手目にその方面へ逃げようとするのに備えてa7とc7の地点を守ることである。思うに実戦派の選手のための教訓は、一意専心こそが、特に敵キングを詰みの網に入れる目的のときに役立つということである。

(この章・部終わり)

2012年01月05日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(075)

第3部 競技の名前

第9章 標的はキング

 キングに対する直接攻撃はおかしなことに並のチェス選手たちの間ではそうであるべきなのに一般的でない。わずかな優位の積み重ねが詰みの逃れられない現実感を鈍らせてしまう洗練されたレベルに達してしまう選手が多すぎる。レシェフスキーはかつて挑戦者決定競技会のある試合で2手連続して1手詰みを見逃したことがある。フィッシャーの場合は似たようなチェスの盲目の例がない。たぶんめったに時間に追われないためだろう。それよりもはるかに顕著なことは自分のキングの安全を犠牲にしてもフィッシャーがキングへの直接攻撃をたえず追求することである。この点で彼はスパスキーに似ていて、ボトビニク、アリョーヒンそれにカパブランカには似ていない。

 シチリア防御がはやっているのは現代のキング翼での攻撃的な指し方の原因ないしは効果かもしれない。フィッシャーはこの不均衡な布局のどちら側も好んでいるようなので、攻撃にたけているのは当然である。棋歴の初めの頃フィッシャーはドラゴン戦法に特有なフィアンケットされた黒キングの囲いを攻めつぶしたことにより「ドラゴン殺し」の評判をとった。

フィッシャー対ラルセン
ポルトロジュ、1958年
 21…Nh5

22.Rxh5!

 これは h4 -、h5 Nxh5 へのよくある追撃手段である。

22…gxh5 23.g6

 白枡ビショップの威力で白が攻め切った。

(この章続く)

2012年01月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(076)

第3部 競技の名前(続き)

第9章 標的はキング(続き)

 白の白枡ビショップの利きが止められている場合はh列に殺到する単純な狙いが決め手になることが多い。

フィッシャー対グリゴリッチ
ブレッド、1959年
 25…Nh5

26.Rxh5! gxh5 27.Qxh5 Be8 28.Qh6!

 これはよくある策略である。Rh1 または g6 で攻撃を続ける前に黒キングが逃げられないようにした。ほどなく白が勝った。

(この章続く)

2012年01月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(077)

第3部 競技の名前(続き)

第9章 標的はキング(続き)

 フィアンケットビショップはどかすのが難しいやつだが、手段はある。

フィッシャー対プレブジャフ
バルナ、1962年
 17…e5

18.Nf5!

 18…gxf5 には単純に Bxg7 から Qg3+ とされるので黒はビショップ交換を余儀なくされた。18…Bxf5 と取るのは白のポーンが攻撃に加わってくる。

(この章続く)

2012年01月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(078)

第3部 競技の名前(続き)

第9章 標的はキング(続き)

 どちらが先に行き着くかという場合になることも多い。フィッシャーは時には自分の取り出した刃にかかって死ぬこともあった。ただし超一流の才能を持っている者に対してだけである。

フィッシャー対ゲレル
スコピエ、1967年
 19…Nxe4

20.a3?

 キングの防御における一般的な原則は、強いられない限りキングを保護しているポーンに決してふれるなということである。この手はb3の地点を弱めるが、先を見通すことは難しかった。

20…Qb7 21.Qf4

 フィッシャーの類まれな分析によれば、1手前にこの手を指せば勝っていたそうである。その手の狙いは Rh5 で、ありとあらゆる詰みの可能性がある(21…d5 なら 22.Qe5 で、黒はf6の地点に駒をさしはさんでも白に2回取られて詰みになるだけである)。

21…Ba4!

 違いは 22.Rh5 Bxb3 23.Bxg7+ Kxg7 24.Qh6+ Kxf7 というように、白の白枡ビショップを消すことにより黒キングがf7の地点に逃げることができ白の狙いを粉砕することができることである。それに白が白枡ビショップの支えを減らしたので 23.cxb3 には 23…Qxb3 が不吉の前兆になる。

22.Qg4 Bf6 23.Rxf6 Bxb3! 白投了

 黒の …Ba2+ からの詰みの狙いが受からない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(079)

第3部 競技の名前(続き)

第9章 標的はキング(続き)

 局面がますます複雑になるにつれて狙いと受けをより正確に読みきることのできる選手の方がずっと有利になる。次の局面でフィッシャーは典型的なシチリア防御のポーンの嵐に見舞われているが、自分の駒による攻撃の方が先に行き着くことを正確に見通していた。

ミニッチ対フィッシャー
ザグレブ、1970年
 16…O-O

17.Nf5

 代わりに 17.Nxe6 は 17…fxe6 18.Bxe6+ Kh8 19.Nd5 Qc4 となって黒が優勢である。黒の防御の骨子は(1)白のeポーンを攻撃し取ってしまうこと、その際(2)白キングの守り駒の一つと交換すること、そして(3)両方のルークでクイーン翼で圧迫を加えることである。以下の手順は白が攻撃を緩めることができないのでこれらの観点からきわめて分かりやすい。

17…Nc5 18.Nxe7+ Qxe7 19.h5 Bb7 20.h6 Bxe4 21.Nxe4 Nxe4 22.hxg7 Rc8!

 そして黒の攻撃で白陣がすぐに粉砕された。

 フィッシャーの初期から最近までの試合の実例で、キングに対する攻撃は思慮深く直接的だった。どこからともなく生じるような攻撃、あるいは他の目的への呼びかけとしてやって来る攻撃ははるかに痛烈であることがよくある。世界中の偉大な攻撃型選手たちが異彩を放つのはともすれば穏やかな局面でキングのよろいにきずをかぎとるこの状況である。以降の章にはフィッシャーが試合の中心人物から決して目をそらさない選りすぐった実例がある。少なくともロシア語では「王手詰み」が競技の名前である

(この章終わり)

2012年01月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(080)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング

 キングが死ぬのはどんな原因よりもまず薄さからのことの方が多い。薄さの基本的な意味の中には、キングが通常の居住地を離れ異国に避難先を求めなければならない状況がある。ボビー・フィッシャーはアリョーヒンのように詰まされるのが好きでない。しかし彼は純粋に局面を考慮して自分のキングを進んで危険にさらすことが他のどんな世界チャンピオンよりも多かった。

 最初はフィッシャーが勝つ側だった有名な実戦例である。

フィッシャー対ベンコー
ブレッド、1959年
 32…Rg8

 黒キングは裸に近い。白のやらなければならないことは黒キングに迫る方法を見つけることがすべてで、次のように行なっている。

33.a4! bxa4 34.Rb1 e5

 黒はハッチを締めようとしたがわずかに1手の差で手遅れだった。

35.Rb7+ Kd6 36.Rxg7 exf4 37.Rxg8

 黒はクイーンにひもが付いていない方が良かった。

37…f3+ 38.Kh1 Kc5 39.Rb8! 黒投了

 これは「ルークの間合い」と手詰まりの好例である。黒のキングかポーンのどちらかが他方を見捨てなければならない。[訳注 39…a3 40.Rb3 a2 41.Ra3]

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(081)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 フィッシャーのキングは次の局面で住居をなくしていた。相手は時間に追われて、勝利を決定づけることができたかもしれない単純な狙いに気づかなかった。

ビレク対フィッシャー
ストックホルム、1962年
 24…Qxc2

25.Rg8?

 薄いキングに対する中心となる考え方は自分のチェックの可能性を増すことである。この理由だけでも 25.Qe7 が浮かび上がる。f7の地点での壊滅的なチェックを避けるために黒は 25…Qc4 と受けなければならない。それならば 26.Rf3! で次に致命的な Rg3+ を狙う[訳注 27…Kh7 28.Rg3 Qg8 で黒勝ちのようなので、26.h3 が良くまったくの互角のようです]。実戦では狙いがなくなった。

25…Qf2 26.Rf8 Qxa2 27.Rf3 Kh7 黒投了

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(082)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 フィッシャーはいつもそんなに運のいい側にいるわけではなかった。「神童」を広く紹介するために設けられた特別試合で元世界チャンピオンのマックス・エーべ博士は敵を自陣に招き入れるのは危険な場合があることを実演した。

エーべ対フィッシャー
番勝負、ニューヨーク、1957年
 13.Nf4

13…Qb6 14.Bxf6 Bxf6 15.Qd3 Rfd8

 黒はキングを逃がさなければならない。15…g6 は 16.Nxg6 と切ってこられる。

16.Rae1! Nb4

 黒は白のわなにまんまとはまった。実際に現れるように白は注意深くe7の地点に逃げられないようにしていた。

17.Qh7+ Kf8

エーべ対フィッシャー
 17…Kf8

18.a3! Nxc2

 白は黒が 16…Nb4 と指した手をさかてにとった。

19.Ncxd5! Rxd5 20.Nxd5 黒投了

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(083)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 王印防御では黒はキング翼で攻撃をしかけて白の反対翼での活動とのバランスを取るのが普通である。しかし次の局面では白は吹きさらしの黒キングの状態を点検して機敏にキング翼に目を向け直した。

タリ対フィッシャー
ブレッド、1959年
 18…gxf5

19.f4

 戦術的に問題ないことが保証されるならばこれが連結ポーン横隊を無力にする手段である。ここでの戦術的な保証は 19…e4 なら黒に狙いが何もなくなりビショップが自軍のポーンによって閉じ込められるということである。

19…exf4 20.Qxf4!

 白は裸の黒キングを追っている。

20…dxc5 21.Bd3 cxb4 22.Rae1 Qf6 23.Re6!

 白は一見良さそうな 23.Bxf5+ に飛びつかなかった。それはc3のナイトがまだ当たりになっているので、黒は駒交換に応じてもよいからである。本譜は白がまたたくまに勝勢になった。

23…Qxc3 24.Bxf5+ Rxf5 25.Qxf5+ Kh8 26.Rf3!

 そして白が勝ち切った。

(この章続く)

2012年01月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(084)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 次の局面では両軍とも互角の展開なので黒陣には何も悪い所がないはずである。それでも黒キングの周りにはわずかな弱点がある。それはe7とh6の地点に敵駒の侵入する隙があるということである。

ベンコー対フィッシャー
ブエノスアイレス、1960年
 20…Nxc4

21.Nd5! Qf7

 このめざわりなナイトは取れない。取ると斜筋でキングとナイトの両当たりになる。

22.Bh6!

 このあと白は単純にg7で駒を交換し、c7の地点か …Rc8 ならe7の地点で両当たりをかける。

(この章続く)

2012年01月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(085)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 フィッシャーの世界選手権に至る前の大会における唯一の敗戦はキングが危ない位置にいたためだった。チェス界は無名選手によってあっけなく負けたニュースに驚愕した。

フィッシャー対コバチェビッチ
ザグレブ、1970年
 18.f3

 フィッシャーは危険をもてあそんでいる。黒の重火器はキング翼に結集しクイーンは策略で潮の流れを押さえ込もうとしている。

18…e3!

 これが策略の仕上げである。19…Nd5 が非常に速い手になるので白クイーンは 19.Qxe3 と取れない。そして代わりの手でも・・・

19.Bxe3 Nf8!

 これで白クイーンはキング翼をあとにして 19…Nd5 を許さなければならない。30手目でフィッシャーの投了となった。

(この章続く)

2012年01月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(086)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 世界選手権への最初の番勝負でフィッシャーはキング翼のポーンを進めたために難しい防御に立たされた。

タイマノフ対フィッシャー
10番勝負第3局、バンクーバー、1971年
 19…Kh8

 タイマノフはこの勝負所でひるみ、安全に 20.Nf3 と指した。それに対してフィッシャーは 20…Bb7 21.Rg6 Nf4 で敵の攻撃を追い払った。本当はソ連のコンサートピアニストは元気よく指すことができたはずだった。

20.Qh3

 Rxh6+ の狙いが受けにくい。20…Nf6 なら 21.Bb4 で白のすべての駒が攻撃態勢に入る[訳注 21…Qd4+ でこのビショップがただ取りされるので 21.Bc3 が正しいようです]。

(この章続く)

2012年01月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(087)

第3部 競技の名前(続き)

第10章 薄いキング(続き)

 年を経るにつれてフィッシャーはますますカパブランカ流に危険な「におい」を嗅ぎ取るようになってきたようである。近年で彼が最もキングの敗走に近くなったのは、元世界チャンピオンのペトロシアンとの世界選手権戦の試合だった。

ペトロシアン対フィッシャー
12番勝負第2局、ブエノスアイレス、1971年
 17…Qa5

 フィッシャーはしばらくの間キングの落ち着き先を先延ばしにしてきた。f5のポーンは消える運命なので今ではキングが落ち着くことは絶望的になっている。それでも白軍が得点をあげるのには精力的な指し回しを要する。

18.Qc2 f4 19.c4 fxe3 20.c5!

 ここはポーン突きがクイーン昇格の目的のためでもなければキング翼での襲撃のためでもない極めてまれな局面の一つである。目的はただ局面をほぐし敵キングを揺さぶることである。

20…Qd2 21.Qa4+ Kf8 22.Rcd1 Qe2

 22…e2 23.Rxd2 Bxh2+ 24.Kxh2 exf1=Q としても望みがない。なぜなら 25.d6 から始まる白ポーンの進攻が速すぎるからである。

23.d6! Qh5

 これでフィッシャーは自分の名高い「クイーンの転回」を完了してクイーンをキングの守りにつけた。しかし今回は役に立たなかった。

24.f4 e2?

 ここで 24…Bf6 ならまだ戦えただろう。白は狙うは敵キングであることを見せつける。敵キングは命からがら逃げなければならない。

25.fxe5 exd1=Q 26.Rxd1 Qxe5 27.Rf1! f6 28.Qb3 Kg7 29.Qf7+ Kh6 30.dxe7 f5 31.Rxf5 Qd4+ 32.Kh1 黒投了

 この試合を見るとフィッシャーが闘牛士の役割を演じ、しぶる闘牛をつついて最後には角で突かれてしまった感じがする。

(この章終わり)

2012年01月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(088)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入

 優勢な戦力を集中させることにより大抵のことにけりがつくというのはチェスの棋理である。だから攻撃側の「やり方」は防御側の戦力を減少させるか攻撃のためにもっと駒を結集させることになる。多くの場合単にあるたけの開(あ)き筋を利用して敵キングを追いかける問題になる。

フィッシャー対フォリントス
モナコ、1967年
 28…Rd4

29.Re3!

 Rg3+ から Bxf6+ で詰みに討ち取る狙いのちょっとした可能性のために黒はビショップでe4のポーンを取ってg6の地点に割って入るようにすることを強いられた。黒の大きな譲歩というほどではないが白が勝つには十分である。もし黒が 29…Rxe4 と取れるなら異色ビショップの収局になって引き分けが約束されるところだった。

(この章続く)

2012年01月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(089)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 実戦で最も人気のある攻撃の手は Qh5 である。「マスターたち」がその威力を過小評価することの多さは信じられないほどである。

フィッシャー対ウンツィカー
ライプツィヒ、1960年
 46…Qb8

47.Qh5

 黒のhポーンが受からないので、白が読まなければならないのは(Qxh7+、Qh8+、Qxg7 のあと)g6 突きがビショップを見捨てるのに値するかということだけだった。そしてその価値があった。

(この章続く)

2012年01月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(090)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 攻撃の筋を開(あ)けるにはしばしばX線透視が必要となる。即ち邪魔しているナイトとポーンを透かして見ることができなければならないし、邪魔物を強制的に取り除くことができればどうなるかを見通すことができなければならない。次の局面での缶切りはビショップとf8のルークの焦点にいるナイトが務めることになった。それでもたった4手でこのビショップとルークが白キングを脅かすようになるとはありえないことのように思われた。

タリ対フィッシャー
キュラソー、1962年
 21.g4

21…Ng3!

 どの「捨て駒」の場合でも差し出された駒を取らなければ「ならない」のか確認することが常に大切である。ここでは疑問の余地はない。ルークが当たりになっているしe2の地点での「家族チェック」の狙いもある。

22.fxg3 Qxg3+ 23.Kf1 f5

 これはルークのためにf列を開けようとしている。

24.g5 f4!

 これでビショップの斜筋が開いた。この捌きでフィッシャーは難局を引き分けにすることができた。

(この章続く)

2012年01月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(091)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 相手の受けを予想して筋の開通を準備するときは、その結果はたいてい意想外の手となる。次の局面では e5 突きが攻撃の鍵となることは明らかである。受けも …f5 突きの一手なのでこれまた明らかである。これらを考え合わせてフィッシャーは高等な「防御予知」の手を指した。専門用語を持ち出すまでもなくフィッシャーなら単に「一発」と呼んだだろうし、それで十分だった。

フィッシャー対ベンコー
ニューヨーク、1963-64年
 18…exd4

19.Rf6! Kg8 20.e5 h6 21.Ne2!

 白は黒のナイトを当たりにしたままキング攻撃の途中で一呼吸おいた。その眼目はナイトが逃げれば Qf5 で次に詰みになるということである。黒はここで投了した。フィッシャーが11-0で完全勝利した全米選手権戦の最終戦の前の回でこれは起こった。この痛快な試合は特に甘美な思い出だったに違いない。

(この章続く)

2012年01月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(092)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 戦力をひたすら集中させた効果は次の普通の局面によく現れている。白の優位はキング翼ルークを敵キングをにらむ位置に持ってくることができたことのみにある。

フィッシャー対クッパー
チューリヒ、1959年
 19…Bf6

20.Bxh6! gxh6 21.Qe3 Bg7 22.f6 Rh8 23.Rf1!

 白はビショップを取る手を急がない。なぜならここで …Bf8 と逃げるとキングの逃げ道をふさぎ Qe4+ とされるからである。まもなく黒は詰みが避けられなくなった。

(この章続く)

2012年01月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(093)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 次の局面でも黒キングが勝手気ままなことをしている。黒の大駒はすべてありもしない攻撃のために結集している。一方白は裏戸口から押し入る。

フィッシャー対メドニス
ニューヨーク、1957-58年
 31…fxe6

32.Rxe6! Bxa3

 黒は白ルークがチェックで参戦しないように(32…Kxe6 33.Qg4+ Kf7 34.Rf2+)e7の地点を空けた。

33.Nxa3 Kxe6 34.Qg4+ Ke7 35.Rf2 Re8

 黒はルークを盾にしようとしている。しかし7段目での白のクイーンとルークの整列は致命的だった(第12章「連結」を参照)。

36.Qg5+ Kd7 37.Rf7+ Kc8 38.Qf5+ Kb8 39.Qd7 黒投了

(この章続く)

2012年01月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(094)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 ここでもやはり白駒は自分のキングの守りに戻れない。

ビズガイアー対フィッシャー
西部オープン、1963年
 34.Qxc7

34…Nxh2! 35.Kxh2

 この手のあと黒のクイーンとビショップが白キングの頭上に殺到する。ねばり強い選手なら 35.Qf4 Qxf4 36.gxf4 Nxf1 37.Rxf1 Ba6 38.Rfb1 と指すだろう。アリョーヒンが言っていたように「詰まされるの本当に好きでない」。

35…Qxf2+ 36.Kh1 Bg4 白投了

(この章続く)

2012年01月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(095)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 次の均衡のとれた局面も参考になることでは劣らず、両者が詰みを見据えている。フィッシャーはたとえポーンであっても非常に重要な戦力の優位を得る。

フィッシャー対カルドーソ
番勝負、ニューヨーク、1957年
 22…b4

23.Bxg7+

 23.Qh5 で g6 を狙う方が良いという指摘もあった。23…f6 24.g6 h6 25.Be3 となれば紛れる余地がない。

23…Kxg7 24.Qh6+ Kh8 25.g6 fxg6 26.fxg6 Qc5+

 26…Rf7! でも 27.gxf7 Rf8 28.Qe6 で白の攻撃は途切れないが、攻撃力を削ごうとする面白い着想ではある。

27.R1f2 Qg5+ 28.Qxg5 Bxg5 29.Rxf8+ Rxf8 30.Rxf8+ Kg7 31.gxh7! 黒投了

 これは手荒な襲撃の最後の小節(こぶし)で、ナイトが当たりから逃げられるように必要でもある。

(この章続く)

2012年01月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(096)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 フィッシャーはまだ棋歴の浅い頃じっくりと攻撃態勢を構築するのを特に好んでいた。それはポーンをe5の地点に進ませ(f6にいる防御の黒ナイトをどかすため)、キング翼ビショップをフィアンケットしてあとで攻撃に加わらせ、クイーンをh5またはh6に置くものだった。次の2局にはフィッシャーがこのぎこちなさそうな方法で敵キングに立ち向かいどのように成功を収めたかがよく表われている。これらの局面はフランス防御またはシチリア防御で白が「キング翼インディアン」を指すときに生じるのが普通である。

フィッシャー対イフコフ
サンタモニカ、1966年
 16…Ne7

17.g4!

 アリョーヒンはかつて自分の似たようなポーン突きについて次のように言ったことがある。「このささやかなポーンはさらに進むことにより敵キングの住居に火をつけることを狙っている。そしてその邪悪なたくらみは止めようがない。」

17…Bxe4 18.Bxe4 g6 19.Qh6 Nd5 20.f5!

 ついに来た。黒は 20…Re8 と指したが fxg6 から Nxg6 で受からなかった。

(この章続く)

2012年01月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(097)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 次の局面で白のビショップが黒ポーンの城壁の眼前に飛んでいき4手ほどでそれらを瓦礫の山にしてしまうとはほとんど想像できないだろう。

フィッシャー対パンノ
ブエノスアイレス、1970年
 26…Qd8

27.Ng5 Nf8 28.Be4!

 Nxh7 のあと hxg6 から Bxg6 を止めることはできない。このビショップを取ることはできない。なぜならナイトにf6へ行く道筋を与えるからである。ジークベルト・タラシュ博士はこのような離れ業をほめちぎったことだろう。このような局面に言及しているのかどうかは分からないが冗談半分に次のように言っていた。「ルソーが脇に猫がいなければ創作できなかったのとちょうど同じように、私はキング翼ビショップがなければうまくチェスを指すことができない。キング翼ビショップがなければチェスは無味乾燥に近く、攻撃の作戦を全然考えることができない。」

(この章続く)

2012年01月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(098)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 キングに対する戦力の集中は簡単に戦力得をもたらすことがある。詰みである必要はない。次の局面はちょっと見るだけで白の大駒がまた働いていないことが分かる。b1のルークは実は標的以外の何物でもない(28.g3 がうまくいかないのはそのためで、28…fxg3 29.fxg3 Nf3+ から …Nd2 でルークとナイトの両当たりになる)。

ラルセン対フィッシャー
10番勝負第4局、デンバー、1971年
 27…Nh4

28.Qd3 Bf5

 白は自軍を引き戻そうとし黒はそれらをそぎ落としていく。

29.Kh1 f3!

 ルークの筋を通し、防御の連係を乱し、空所(f3とh3の地点)を作り出すこの手はチェス選手の理想とするところである。

30.Ng3 fxg2+ 31.Kg1 Bxe4 32.Qxe4 Nf3+ 33.Kxg2 Nd2 白投了

 やはり両当たりになった。黒はf2のポーンも取れる。

(この章続く)

2012年01月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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フィッシャーのチェス(099)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 フィッシャーが(あるいは攻撃にたけた選手なら誰でも)どこからともなく詰みの狙いをひねり出す素早さは初心者だけでなくマスターにとってもチェスの不思議の一つである。1972年のフィッシャー対スパスキーの世界選手権戦では目をみはる例がいくつも生まれた。その中でも次の試合は2年間の局後検討をものともしなかった。

フィッシャー対スパスキー
世界選手権戦24番勝負第10局、レイキャビク、1972年
 25…Qxa5

 コルチノイもボトビニクも黒の(c3から)クイーンを引いた手を酷評した。たぶん二人とも 25…c4 なら負けをまぬがれたとまだ信じているだろう。しかし 26.e5! と突けば Bxh7+ からクイーンを素抜く狙いのためにやはり 26…Qxa5 と取らされただろう(26…g6 でも 27.Re3 で)。そのあとは 27.Ng5 h6 28.Nxf7 Kxf7 29.e6+ で実戦よりも白が優勢である。

26.Bb3!

 また白枡ビショップが適所を得た。白の駒はキング翼のお決まりの弱点であるf7の地点に集中していく。

26…axb5 27.Qf4 Rd7 28.Ne5 Qc7

 黒は攻撃の駒が新たに投入されるたびにしっかり受けてきたように見える。しかしここで詰みの狙いで白が交換得になる。

29.Rbd1! Re7

 この水準の戦いでは詰みは解説の中でだけ起こる。黒のルークは過負荷になっていた。なぜなら 29…Rxd1 と取ると 30.Bxf7+ Kh8 31.Nxg6+ hxg6 32.Qh4# で型どおりの詰みになるからである。フィッシャーはここから長い収局を勝つことを余儀なくされたが黒の手助けもあって成し遂げた。それにしても図の局面から6手で白に詰ませる可能性が出てくるとはなかなか信じられない。

(この章続く)

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フィッシャーのチェス(100)

第3部 競技の名前(続き)

第11章 突破と侵入(続き)

 フィッシャーが進んで自分のキングに背負い込む危険性を考えれば、そしてこれが彼の弱点であることがおいおい出てくるが、相手を1手違いで詰ませる差でしか滅多に自分のキングに対する攻撃に屈しないということは注目に値する。しかし年少の頃には自分のキングに自衛させる危険性を学ぶ機会が若干あった。

オッテソン対フィッシャー
ミルウォーキー、1957年
 32…Rf8

33.Rxe6! fxe6 34.Qxe6+ Kg7 35.Qe5+ Kf7 36.f4!

 この手は黒クイーンを自分のキングの守りから締め出した。白はすべてを見通している。

36…Rc8 37.Nh6+ Kf8 38.Qh8+ Ke7 39.Qxh7+ Kd6 40.Qxg6+

 このあと49手目で白が勝った。

(この章続く)

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